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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】防食コーティング
(51)【国際特許分類】
   C23C 26/00 20060101AFI20250109BHJP
   C09D 5/10 20060101ALI20250109BHJP
   C09D 183/06 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C23C26/00 A
C09D5/10
C09D183/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536187
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-07-04
(86)【国際出願番号】 EP2022086846
(87)【国際公開番号】W WO2023118042
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】2114189
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】317015995
【氏名又は名称】エヌオーエフ メタル コーティングス ヨーロッパ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100227352
【弁理士】
【氏名又は名称】白倉 加苗
(72)【発明者】
【氏名】オリビエ バレイル
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ファヨール
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ ミレー
(72)【発明者】
【氏名】ダビド モレル
(72)【発明者】
【氏名】モルガーヌ ヌビー
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン ケルベラント
【テーマコード(参考)】
4J038
4K044
【Fターム(参考)】
4J038DL051
4J038HA216
4J038KA05
4J038KA06
4J038MA08
4J038NA03
4J038PC02
4K044AB05
4K044BA10
4K044BA12
4K044BA21
4K044BB01
4K044BB11
4K044BC01
4K044BC02
4K044CA53
(57)【要約】
本発明は、防食コーティングの接着係数の値を増加させるための亜鉛フレークと酸化亜鉛との粉末状混合物Zn/ZnOの使用であって、亜鉛フレークが、亜鉛フレークと酸化亜鉛との混合物の60~99%、より具体的には亜鉛フレークと酸化亜鉛との混合物の70~95%を占めることを特徴とする、使用に関する。本発明はまた、防食コーティングを得るため及びそれを適用するための方法、並びに防食コーティング自体及びコーティングで被覆された基材に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防食コーティングの接着係数の値を増加させるための亜鉛フレークと酸化亜鉛Zn/ZnOとの粉末状混合物の使用であって、前記亜鉛フレークが、前記亜鉛フレークと酸化亜鉛との混合物の60~99%、より具体的には前記亜鉛フレークと酸化亜鉛との混合物の70~95%を占めることを特徴とする、使用。
【請求項2】
防食コーティング用の液体化合物であって、
- 15~30質量%のZnと、
- 0.5~10質量%のZnOと、
- 5~15質量%のシラン結合剤と、
- 25~50質量%の水と、
- 10~30質量%の少なくとも1つの有機溶媒と、
- 任意で添加剤と、を含むことを特徴とし、
百分率が、前記液体化合物の総質量に対するものである、液体化合物。
【請求項3】
前記化合物の総質量に対して0.5~4質量%の三リン酸二水素アルミニウムを更に含むことを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の化合物を製造するプロセスであって、以下の連続するステップ:
(a)水中でシラン結合剤を製造するステップと、
(b)ステップ(a)の水溶液を、亜鉛フレークと酸化亜鉛Zn/ZnOとの粉末状混合物を含む溶媒含有溶液に添加して溶解させるステップであって、好ましくは、前記亜鉛フレークが、前記亜鉛フレークと酸化亜鉛との混合物の60~99%、より具体的には前記亜鉛フレークと酸化亜鉛との混合物の70~95%を占める、添加して溶解させるステップと、を含む、プロセス。
【請求項5】
粉末状亜鉛が、1μm~40μmの粒子サイズを有することを特徴とする、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
防食コーティングを用いて金属基材を腐食から保護するプロセスであって、以下の連続するステップ:
(a1)前記基材に請求項2又は3に記載の液体化合物を適用するステップと、
(b1)ステップ(a1)のコーティングされた前記基材を乾燥させるステップと、
(c1)ステップ(b1)の前記コーティングされた基材を焼成するステップと、を含む、プロセス。
【請求項7】
請求項6に記載のプロセスから得ることができる化合物の少なくとも1つの層でコーティングされた基材。
【請求項8】
前記基材が、固定手段であり、好ましくは、ボルト、ねじ、クリップ、セッティング、クランプ、リベット、又はサスペンションアームなどの固定物品からなるリストから選択されることを特徴とする、請求項7に記載の基材。
【請求項9】
前記コーティングの厚さが5μm~15μm、好ましくは8μmプラス又はマイナス3μmであることを特徴とする、請求項2又は3に記載の液体化合物を乾燥させ、次いで焼成することによって得ることができる防食コーティング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された特性、特にコーティング後の基材の改善された接着特性を有する、金属部品のための防食コーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術では、例えばクロム、アルミニウム、亜鉛、シラン又はモリブデンを含む活性成分を使用する様々な防食コーティングが知られている。
【0003】
このようなコーティングは、例えば、特許文献、中国特許公開第111893468号、同第112280040号、国際公開第0238686(A2)号、欧州特許第3040445号、中国特許公開第105524505号に開示されている。
【0004】
しかしながら、これらの様々なコーティングは、非常に異なる表面特性を有する。
【0005】
自動車分野では、電気自動車の開発が急増している。自動車製造業者にとっての困難は、車両の重量の増加である:ディーゼルエンジンは約100kgの重量であるのに対して、電気自動車用の標準バッテリは250~500kgの重量であり、少数のモデルは1トンを超える。車両の電力消費は、その重量と相関しており、同等の距離では、重い車両は、軽い車両よりも多くのエネルギーを必要とする。したがって、この分野では、車両の全重量を低減するための解決策が必要とされている。可能な解決策は、車両内のねじ及びボルトのサイズ及び重量を低減することである。所与の車両において、全てのM12標準サイズのねじ及び全てのM12標準サイズのボルトをM8基準ねじ及びボルトで置き換えることにより、車両の全重量を少なくとも1kg低減することができると評価することができる。しかしながら、標準サイズよりも小さいねじ及びボルトを使用することは、アセンブリにおける接着の損失に起因して、構造の弱化をもたらす。これが、この解決策が最新技術ではない理由である。
【0006】
したがって、金属基材間の接着を増加させるために当該金属基材上に適用することができるコーティングが必要とされている。
【0007】
また、このコーティングが金属基材に防食特性を与える必要もある。
【0008】
また、このコーティングは、コーティングされた金属基材に黒色の外観を与える必要がある。
【0009】
本発明の目的は、従来技術と比較して多くの利点及び改善された技術的特徴を有する解決策である。
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的はまた、防食コーティングの接着係数の値を増加させるための亜鉛フレークと酸化亜鉛との粉末状混合物(「Zn/ZnO粉末」とも呼ばれる)の使用であって、亜鉛フレークが、亜鉛フレークと酸化亜鉛との混合物の60~99%、より具体的には亜鉛フレークと酸化亜鉛との混合物の70~95%を占めることを特徴とする、使用に関する。
【0011】
本発明の目的はまた、防食コーティングのための液体化合物、好ましくはスラリーであって、
- 15~30質量%、好ましくは22~28質量%のZnと、
- 0.5~10質量%、好ましくは8~10質量%のZnOと、
- 5~15質量%、好ましくは10~11質量%のシラン結合剤と、
- 25~50質量%、好ましくは30~40質量%の水と、
- 10~30質量%、好ましくは20質量%の少なくとも1種の有機溶媒と、
- 任意で添加剤と、を含み、
百分率が、液体化合物の総質量に対するものである、スラリーを含むことを特徴とする液体化合物に関する。
【0012】
本発明の目的はまた、本発明による化合物であって、以下の連続するステップ:
(a)水中でシラン結合剤を製造するステップと、
(b)ステップ(a)の水溶液を、Zn/ZnO粉末を含む溶媒含有溶液に添加して溶解させるステップと、を含む、化合物を製造するプロセスにも関する。
【0013】
本発明の目的はまた、以下の連続するステップ:
(a)水中でシラン結合剤を製造するステップと、
(b)ステップ(a)の水溶液を、Zn/ZnO粉末を含む溶媒含有溶液に添加して溶解させるステップと、を含む製造プロセスによって得ることができる防食コーティング用液体化合物にも関する。
【0014】
本発明の目的はまた、防食コーティングであって、以下の連続するステップ:
(a1)当該基材に本発明による液体化合物を適用するステップ、
(b1)ステップ(a1)のコーティングされた基材を乾燥するステップ、及び
(c1)ステップ(b1)のコーティングされた基材を焼成するステップを含む、防食コーティングで金属基材を腐食から保護するプロセスに関する。
【0015】
したがって、本発明の目的は、防食コーティングであって、以下の連続するステップ:
(a1)当該基材に本発明による液体化合物を適用するステップ、
(b1)ステップ(a1)のコーティングされた基材を乾燥するステップ、及び
(c1)ステップ(b1)のコーティングされた基材を焼成するステップを含む、防食コーティングを用いて金属基材を腐食から保護するためのプロセスによって得ることができる化合物の少なくとも1つの層でコーティングされた基材に関する。
【0016】
したがって、本発明の目的は、本発明による液体化合物を乾燥し、次いで焼成することによって得られる防食コーティングに関し、コーティングの厚さが5μm~15μm、好ましくは8μmプラス又はマイナス3μmであることを特徴とする。
【0017】
本発明の目的は、より具体的には、特にボルト、ねじ、クリップ、セッティング、クランプ、リベットなどの固定手段に本発明による防食コーティングを含む車両、及び当該車両のアセンブリプレートなどのそのような固定手段を必要とする物品に関することができる。実際、好ましくは、アセンブリプレート上へのコーティングの適用は、同様のコーティングでコーティングされているか否かにかかわらず、別のプレートと接触している当該プレートの接着を増加させて、当該コーティングされたプレートが他のプレートに対して移動するリスクを軽減することを可能にする。
【0018】
定義
「防食コーティング」とは、本発明の文脈において、防食コーティングのプロセス、又は防食コーティングのための製品のいずれかであると理解されるべきであり、製品は、この文脈におけるプロセスから得られる。コーティングの目的は、処理された物品の表面の防食性を改善することである。したがって、得られたコーティングは、酸化剤との化学反応によって処理された物品の変質を低減する。
【0019】
「亜鉛フレークと酸化亜鉛との粉末状混合物(Zn/ZnO粉末とも呼ばれる)」とは、本発明の文脈において、亜鉛粉末及び液体化合物により暗い色合いを与えるために酸化亜鉛で強化された亜鉛フレーク粒子であると理解されるものとする。
【0020】
本発明の文脈において、「接着係数」は、「界面における摩擦係数」とも呼ばれ、2つのコーティングされた金属プレート間の摩擦係数の測定方法を指す。摩擦係数μは、T=μFに従って摩擦条件を特徴付け、式中、Tは、部品を別の部品上で摺動させるのに必要なニュートン単位の並進力であり、Fは、部品間のニュートン単位の圧力である(例示のために図3を参照)。したがって、2つの部品間の所与の圧力Fに対して、並進のために適用するために必要な力Tが大きいほど、摩擦係数は大きくなる。
【0021】
自動車及び機械構造の分野では、摩擦係数は、適用された締め付けトルク及び結果として生じるねじのひずみを関連付けるので、ねじ留めされたアセンブリにおける重要なパラメータである。ねじ込み式システムでは、摩擦係数が高すぎると、ねじとナットとの間の締め付け不足をもたらす。この現象は、いずれか又は両方の固定物品上のある種の潤滑剤による摩擦係数の好適な変化によって相殺することができる。しかしながら、潤滑化が多すぎると、締め付け過ぎをもたらし、使用時に連結部の破損をもたらす可能性がある。
【0022】
本発明の文脈において、摩擦係数の測定は、規格EN1090-2「Execution of steel structures and aluminum structures-Part 2:Technical requirements for steel structures」付録G(EN 1090-2:2008(F)-付録G)に従って、2つのコーティングされた金属プレートの間の界面で行われる。2つのコーティングされたプレートは、いくつかの固定物品のおかげで互いに対して固定され、圧力Fを受ける。プレートの一方は「固定プレート」と呼ばれ、他方のプレートは「可動プレート」と呼ばれる。並進力Tを可動プレートに適用されて、固定プレートに対する移動を観察し、次いで2つのプレート間の接着係数μを算出する(図4参照)。次に、カテゴリは、測定された摩擦係数の値に従って表面処理に割り当てられ:カテゴリAはμ≧0.50に対してであり、カテゴリBは、0.40≦μ<0.50に対してであり、カテゴリCは0.30≦μ<0.40に対してであり、カテゴリDは0.20≦μ<0.30に対してである。比較すると、別の鋼表面上の鋼表面の摩擦係数は約0.20であり、グリースを塗った鋼表面上のグリースを塗った鋼表面の摩擦係数は約0.10である。更に、自動車分野においても同様の規格が策定されており、本発明の目的はこれらの規格を予測することを可能にするものである。
【0023】
「シラン」とは、本発明の文脈において、少なくとも1つのSi-C結合を有する少なくとも1つのケイ素原子を含む有機化合物であると理解されるものとする。シランにおいて、ケイ素原子との結合は、Si-C結合に加えて、一般的にSi-O、Si-Si又はSi-H結合、より有利にはSi-O結合である。有利には、シランは、少なくとも1つのSi-O官能基、好ましくは少なくとも2つのSi-O官能基、より好ましくは少なくとも3つのSi-O官能基を含む。
【0024】
「添加剤」とは、本発明の文脈において、意図される用途又は目的に従って付加的な技術的効果を可能にする化合物であると理解されるものとする。そのような添加剤は、典型的には、レオロジ剤、特に湿潤剤、界面活性剤、pH調整剤、塩、超可塑剤、増粘剤、顔料、着色剤、又は付加的な抗酸化剤であり得る。
【0025】
「溶媒含有溶液」とは、本発明の文脈において、溶媒ベースの配合生成物であると理解されるものとする。
【0026】
「得ることができる」とは、本発明の文脈において、本発明のプロセスから得られる生成物が、1つ又はいくつかの他のプロセスによっても得ることができると理解されるものとする。
【0027】
特定されない場合、百分率は、考慮される組成物(又はより一般的には製品)の総質量に対して表される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】標準ねじ3によって互いに連結された第1のプレート1、第2のプレート2、標準サイズのナット4A、及び通性ワッシャ4Bを有する最新技術を示す。
図2】第1のプレート5、第2のプレート6を示し、両方とも本発明によるコーティング7でコーティングされ、標準サイズ未満のねじ8及び標準サイズ未満のナット9A及び通性ワッシャ9Bによって互いに連結されている。
図3】摩擦係数の測定プロセスの実装形態を示す。摩擦係数μは、T=μFに従って摩擦条件を特徴付け、式中、Tは、部品を別の部品上で摺動させるのに必要なニュートン単位の並進力であり、Fは、部品間のニュートン単位の圧力である。
図4】摩擦係数の測定のプロセスの実装形態を示し、「固定プレート」と呼ばれるプレート10と、「可動プレート」と呼ばれるプレート11とを備える。測定プロセスの実装形態によるプレートは、「試験片」と呼ぶこともできる。並進力Tを可動プレート11に適用して、固定プレート10に対する移動を観察し、次いで2つのプレート間の接着係数μを算出する。固定プレート10及び可動プレート11は、固定手段12(いずれにしても並進Tを可能にする)によって一緒に保持される。
図5】規格NF EN 20273によるM12固定具に対応する直径13.5mmであり得る開口部13を有するC45E+N(降伏点≧430MPa)で作られた鋼試験片の上面図を示す。試験片は、長さA及び幅Bを有する。A及びBは等しくてもよく、例えば100mmに等しくてもよい。試験片は、試験片の縁部の近くに少なくとも1つの開口部14を備えることができる。好ましくは、試験片は、開口部13の直径よりも小さい直径を有する4つの開口部14を含む。更に、試験片は傾斜角を有することができ、各傾斜は、それぞれ長さA及びBから値C及びDを後退させることによって作られる。C及びDは等しくてもよく、例えば6mmに等しくてもよい。
図6図5に示すC45E+N(降伏点≧430MPa)製の鋼試験片の側面図であり、当該試験片は厚さEを有する。
図7】静止試験片15と可動試験片16とからなる一対の試験片15、16の適用力(引張/圧縮)の原理を示す図である。垂直圧縮力と呼ばれる圧縮力F1、F2が、これら2つの試験片の間の接触ゾーンZに対して垂直にこの対の試験片に適用され、一方、牽引力又は圧縮力Tが、この接触ゾーンZの平面に対して平行に適用される。ロードセル17は、圧縮力F1、F2を観察及び/又は記録することを可能にする。場合によっては、2つの試験片15、16を保持するために支持スリーブ18を使用することができる可能性がある。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の文脈において、並びに本発明のプロセス、組成物、コーティングされた基材及びコーティングの文脈において、亜鉛及び酸化亜鉛の粉末を使用することは、いくつかの利点を有する。
【0030】
一方で、本発明のコーティングは、それが適用される表面を外部酸化剤との化学反応から保護することを意味する、防食の固有の特性を有する。
【0031】
他方で、本発明のコーティングは、0.5以上の接着係数を提供しながら、支持体(基材とも呼ばれる)への優れた接着性を有する。例えば、本発明のコーティングは、0.6以上、0.7以上の接着係数を有する。
【0032】
したがって、この接着特性からの技術的利点は、アセンブリを固定することであり、したがって、固定デバイス(例えば、ねじ/ナットセット)の寸法の低減である。1つ又はいくつかの固定手段によって一緒に保持される2つの部品のアセンブリにおいて、2つの部品間の低い接着係数は、組み立てられた部品の移動をもたらし、それは、例えば、ねじの緩み、又はより深刻には、固定システムへの損傷をもたらし得る。したがって、2つの組み立てられた部品間の高い接着係数は、アセンブリを保持するための固定ゾーンにおけるひずみの必要性を低減することを可能にする。プレート間のこの増加した接着は、当該固定手段の機械的特性を維持し、アセンブリの必要な安定性を維持しながら、使用される固定手段の寸法を低減する機会を与える。したがって、アセンブリにおいて、例えば、M8サイズのねじによって置き換えられたM12サイズのねじ(図1及び図2参照)など、標準と比較して同等のクラスの鋼を有するより小さいサイズのねじ及びナットの使用が考慮され得る。このようにして、固定具の重量及び/又は数が低減され、そのような固定具が車両に使用されるとき、車両の総重量が低減される。したがって、重量を低減することは、燃料消費を低減すること、そのような燃料の燃焼からの温室効果ガス(COなど)の排出を低減すること、又は車両の速度を増加させることを意味する。しかしながら、電気泳動などの自動車産業のこれらの古典的な防食保護技術は、接着係数が小さすぎるコーティングを生成する。本発明のコーティングは、コーティングされた金属基材に耐腐食性及び増加した接着係数を与えることによって、この欠点を解決することを可能にする。
【0033】
接着係数を増加させるための粉末状亜鉛の使用
本発明の使用は、亜鉛フレークと酸化亜鉛との粉末状混合物(「Zn/ZnO粉末」とも呼ばれる)を必要とし、当該Zn/ZnO粉末は、防食コーティングのための液体化合物中に含まれ得、亜鉛フレークが、亜鉛フレークと酸化亜鉛との混合物の60~99%、より具体的には混合物の70~95%を占めることを特徴とする。
【0034】
特定の実施形態では、本発明による当該使用の当該防食コーティングは、基材の防食コーティングである。有利には、当該基材は機械部品である。
【0035】
特定の実施形態では、当該基材は、0.5超、好ましくは0.6以上、又は0.7以上の接着係数を必要とする機械部品、例えばアセンブリプレートである。
【0036】
特定の実施形態では、当該基材は、いくらかの摩擦を受けるか、又はいくらかの摩擦を受けるように設計された金属部品である。
【0037】
特定の実施形態では、当該基材は固定手段であり、好ましくは、ボルト、ねじ、クリップ、セッティング、クランプ、リベット、又はサスペンションアームなどの固定物品からなるリストから選択される。
【0038】
液体化合物
したがって、本発明の目的の1つは、防食コーティングのための液体化合物の配合に使用するための、1μm~40μmの粒子サイズを有する粉末状亜鉛を含む液体化合物に関する。
【0039】
優先的には、本発明による防食コーティングのための液体化合物は、22~28質量%のZn、18~27質量%のZn、19~26質量%のZnを含み、百分率は化合物の総質量に対するものである。
【0040】
より優先的には、本発明による防食コーティングのための液体化合物は、25質量%から前後4質量%のZnを含み、百分率は化合物の総質量に対するものである。
【0041】
優先的には、本発明による防食コーティングのための液体化合物は、6~14質量%のZnO、7~13質量%のZnO、8~12質量%のZnO、9~11質量%のZnOを含み、百分率は化合物の総質量に対するものである。
【0042】
優先的には、本発明による防食コーティングのための液体化合物は、8質量%から前後3質量%のZnOを含み、百分率は、化合物の総質量に対するものである。
【0043】
一実施形態では、本発明による防食コーティングのための液体化合物は、
- 15~30質量%のZn、22~28質量%のZn、18~27質量%のZn、19~26質量%のZn、20~25質量%のZnを含み、百分率は化合物の総質量に対するものであり、
- 0.5~10質量%のZnO、1~10質量%のZnO、2~10質量%のZnO、3~10質量%のZnO、4~10質量%のZnO、5~10質量%のZnO、6~10質量%のZnO、7~10質量%のZnO、8~10質量%のZnO、7~9質量%のZnOを含み、百分率は化合物の総質量に対するものである。
【0044】
優先的には、本発明による防食コーティングのための液体化合物は、20~45質量%の混合物Zn/ZnO、23~42質量%の混合物Zn/ZnO、25~40質量%の混合物Zn/ZnO、27~38質量%の混合物Zn/ZnO、29~36質量%の混合物Zn/ZnOを含み、百分率は化合物の総質量に対するものである。優先的には、本発明による防食コーティングのための液体化合物は、10%から前後3%のシラン結合剤(添加量)を含み、百分率は、化合物の総質量に対するものである。
【0045】
有利には、シラン結合剤は、ガンマ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン又はガンマ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランである。
【0046】
一実施形態では、防食コーティングのための液体化合物は、
(a)水中で当該シラン結合剤を製造するステップと、
(b)ステップ(a)の水溶液を、亜鉛フレークと酸化亜鉛とのZn/ZnO粉末状混合物を含む溶媒含有溶液に添加して溶解させるステップであって、好ましくは、亜鉛フレークが、亜鉛フレークと酸化亜鉛との混合物の60~99%、より具体的には、亜鉛フレークと酸化亜鉛との混合物の70~95%を占める、添加して溶解させるステップと、によって得ることができる。
【0047】
優先的には、本発明による防食コーティングのための液体化合物は、31%から前後5%の水を含み、ここで百分率は化合物の総質量に対するものである。
【0048】
好ましくは、本発明による化合物のタイプは主に水性である。しかしながら、化合物は、有機溶媒、好ましくは水溶性の有機溶媒によって濃縮することができ、これは、水溶液の様々な成分の溶解度を増加させることを可能にする。
【0049】
優先的には、本発明による防食コーティングのための液体化合物は、20%から前後5%の有機溶媒を含み、百分率は化合物の総質量に対するものである。
【0050】
本発明の有利な実施形態では、化合物は、例えばグリコールエーテル、特にモノプロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びジプロピレングリコールからなる有機溶媒を必要とする。
【0051】
本発明の目的は、より具体的には、防食コーティングのための液体化合物であって、
- 22~28質量%のZnと、
- 7~9質量%のZnOと、
- 5~15質量%、好ましくは10~11質量%のシラン結合剤と、
- 25~50質量%、好ましくは26~40質量%の水と、
- 10~30質量%、好ましくは20質量%の少なくとも1つの有機溶媒と、
- 任意で少なくとも1種の添加剤と、を含み、
百分率が、液体化合物の総質量に対するものである、液体化合物に関する。
【0052】
好ましくは、言及された添加剤はレオロジ特性を改善し、それは化合物のより容易な配合を可能にする。非限定的な例として、添加剤は、
- 湿潤剤、例えば脂肪アルコールのアルコラート、
- pH調整剤、例えばアルカリ金属酸化物又は水酸化物、有利にはリチウム及びナトリウム、周期表のIIA及びIIB族の金属、例えばストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム及び亜鉛の酸化物又は水酸化物、又は上記金属の炭酸塩又は硝酸塩から選択されるpH調整剤、
- 三リン酸二水素アルミニウムなどのリン酸塩、
- アルカリケイ酸塩などの、有機又は無機のいずれかの塩、
- アクリルコポリマー又はエトキシ化アルコールなどの界面活性剤、
- 増粘剤、特にセルロース誘導体、特にヒドロメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、キサンタンガムからの増粘剤、又はポリウレタン型若しくはアクリル型などの会合性増粘剤の中から選択することができる。
【0053】
一実施形態では、本発明による組成物は、0.5~4質量%の三リン酸二水素アルミニウムを更に含むことができ、百分率は、化合物の総質量に対するものである。
【0054】
好ましくは、本発明による組成物は、2質量%±1質量%の三リン酸二水素アルミニウムを含むことができ、百分率は化合物の総質量に対するものである。したがって、三リン酸二水素アルミニウムは、防食剤として作用することができる。
【0055】
一実施形態では、本発明による組成物は、0.5~4質量%のモリブデン塩、特に酸化モリブデンMoOを含むことができ、百分率は化合物の総質量に対するものである。
【0056】
好ましくは、本発明による組成物は、2質量%±1質量%のモリブデン塩、特に酸化モリブデンMoOを(特に化合物中に導入された状態で)含むことができ、百分率は化合物の総質量に対するものである。
【0057】
したがって、酸化モリブデンMoOは、防食剤として作用することができる。
【0058】
液体化合物の製造プロセス
本発明の目的はまた、上記の化合物を製造するプロセスであって、以下の連続するステップ:
(a)水中でシラン結合剤を製造するステップと、
(b)ステップ(a)の水溶液を、亜鉛フレークと酸化亜鉛との粉末状混合物(「Zn/ZnO」粉末とも呼ばれる)を含む溶媒含有溶液に添加して溶解させるステップであって、好ましくは、亜鉛フレークが、亜鉛フレークと酸化亜鉛との混合物の60~99%、より具体的には、亜鉛フレークと酸化亜鉛との混合物の70~95%を占める、添加して溶解させるステップと、を含む、プロセスに関する。
【0059】
一実施形態では、本発明によるプロセスは、粉末状亜鉛が、1μm~40μm、1μm~35μm、1μm~30μm、1μm~25μm、1μm~20μm、1μm~15μm又は1μm~10μmの粒子サイズを有することを特徴とすることができる。
【0060】
したがって、本発明の目的は、上述の実施形態で説明したような製造プロセスによって得ることができる防食コーティングのための液体化合物に関する。
【0061】
金属基材を腐食から保護するプロセス
本発明の目的はまた、防食コーティングの形成によって金属基材を腐食から保護するプロセスであって、以下の連続するステップ:
(a1)当該基材に本発明による液体化合物を適用するステップと、
(b1)ステップ(a1)のコーティングされた基材を乾燥させるステップと、
(c1)ステップ(b1)のコーティングされた基材を焼成するステップと、を含む、プロセスに関する。
【0062】
乾燥ステップ(b1)は、60℃~100℃の温度で行うことができる。
【0063】
焼成ステップ(c1)は、300℃~350℃の温度で行うことができる。
【0064】
好ましくは、ステップ(a1)の前に、金属基材の洗浄ステップを成し遂げることができる。洗浄ステップは、金属基材を洗浄溶液、好ましくはアルカリ溶液に浸漬し、金属基材を当該洗浄溶液から抽出し、当該金属基材をすすぎ、乾燥させることからなる。
【0065】
したがって、本発明の目的は、上記のように金属基材を腐食から保護するためのプロセスによって得ることができる化合物の少なくとも1つの層でコーティングされた基材に関する。
【0066】
有利には、本発明のコーティングされた基材は、当該基材が、0.5以上、好ましくは0.6以上、又は0.7以上の接着係数を必要とする機械部品、例えばアセンブリプレートであることを特徴とすることができる。
【0067】
特定の実施形態では、コーティングされた基材は、ボルト、ねじ、クリップ、セッティング、クランプ、リベットなどの固定手段、又はサスペンションアームなどの固定物品である。
【0068】
有利には、本発明による防食コーティングは、上述したような固定手段の一部、例えば、別の部品の固定手段と接触するように設計された部品に適用される。
【0069】
このような接触部は、例えば、ボルト又はねじのねじ山とすることができる。
【0070】
防食コーティング
したがって、本発明の目的は、本発明による液体化合物を乾燥し、次いで焼成することによって得られる防食コーティングに関し、コーティングの厚さが5μm~15μm、好ましくは10μmプラス又はマイナス3μmであることを特徴とする。
【0071】
乾燥ステップは、60℃~100℃の温度で行うことができる。
【0072】
焼成ステップは、300℃~350℃の温度で行うことができる。
【0073】
以下、非限定的な例として、添付の図面を参照して本発明を実行する方法を説明する。
【実施例
【0074】
実施例1:本発明による「液体化合物A」の式
【0075】
【表1】
【0076】
実施例2:従来技術による「液体化合物B」の式
【0077】
【表2】
【0078】
実施例3:界面における摩擦係数の測定
鋼試験片は、C45 E+N(降伏点≧430MPa)で作られる。13.5mmの開口直径は、規格NF EN 20273によるM12固定具に対応する(図5参照)。適用された最小予荷重は42 500Nである。
【0079】
3つのタイプの試験片を製造する(図5参照)。
- 7~9μmの厚さを有する、液体化合物Bから作られた固体コーティングでコーティングされた試験片。化合物B及び液体化合物Bから固体コーティングBを得るプロセスは、国際公開第02/38686号パンフレットの表2に記載されている。
- 7~9μmの厚さを有する、液体化合物Aから作られた固体コーティングAでコーティングされた試験片。
- 15~20μmの厚さで電気泳動によってコーティングされた試験片。
【0080】
試験片を調節された力で互いに押し付け、試験台で保持する。試験片の一方は静止しており、他方の試験片は可動である。可動試験片に負荷を適用し、2つの試験片の間の界面における摩擦係数を測定する(図6参照)。
【0081】
得られた結果を以下の表に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
結果は、構成1がより劣った結果を有し、界面における摩擦係数が約0.064であることを示す。参考までに、非コーティング鋼に対する非コーティング鋼の摩擦係数は、文献によれば約0.2である。2つの基材の少なくとも1つの上に液体A又はB化合物からの固体コーティングを適用することは、構成2~5によって示されるように、この値を0.4を超えて増加させることを可能にする。
【0084】
最良の結果は、液体化合物Aからの固体コーティングでコーティングされた固定試験片に関連付けられた液体化合物Aからの固体コーティングでコーティングされた可動試験片を有するシステムについて得られる。
【0085】
これらの結果は、アセンブリ物品上に本発明による固体コーティングを使用することが、高い摩擦係数を有するシステムをもたらし得ることを示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】