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特表2025-501087繊維製品の耐グリース性及び耐油性を向上させる方法
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  • 特表-繊維製品の耐グリース性及び耐油性を向上させる方法 図1
  • 特表-繊維製品の耐グリース性及び耐油性を向上させる方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】繊維製品の耐グリース性及び耐油性を向上させる方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/14 20060101AFI20250109BHJP
   D21H 13/18 20060101ALI20250109BHJP
   D21H 23/10 20060101ALI20250109BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20250109BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20250109BHJP
   C08L 79/02 20060101ALI20250109BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
D21H21/14 Z
D21H13/18
D21H23/10
B65D65/40 D
C08L1/02
C08L79/02
C08L101/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536989
(86)(22)【出願日】2022-12-01
(85)【翻訳文提出日】2024-06-19
(86)【国際出願番号】 FI2022050804
(87)【国際公開番号】W WO2023118646
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】20216325
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518361011
【氏名又は名称】ケミラ・オーワイジェイ
【氏名又は名称原語表記】Kemira Oyj
【住所又は居所原語表記】Energiakatu 4,FI-00180 HELSINKI,Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】クヴィスト マーカス
(72)【発明者】
【氏名】プットネン サミ
(72)【発明者】
【氏名】ストレンゲル キンモ
(72)【発明者】
【氏名】ロバートセン リーフ
(72)【発明者】
【氏名】ヒエタニエミ マッティ
【テーマコード(参考)】
3E086
4J002
4L055
【Fターム(参考)】
3E086AA21
3E086AB01
3E086BA04
3E086BA15
3E086BA18
3E086BB01
3E086BB02
3E086BB05
3E086BB71
3E086BB74
3E086CA01
3E086CA11
3E086CA22
4J002AA032
4J002AA033
4J002AB011
4J002AB044
4J002BG123
4J002BG124
4J002BQ002
4J002CM054
4J002FA041
4J002FB261
4J002FD202
4J002FD203
4J002FD204
4J002GK01
4J002GK02
4J002HA09
4L055AA03
4L055AC06
4L055AF09
4L055AG34
4L055AG40
4L055AG47
4L055AG72
4L055AG84
4L055AG87
4L055AG89
4L055AG99
4L055AH01
4L055AH11
4L055AH16
4L055AH24
4L055BD13
4L055BF06
4L055CJ06
4L055EA31
4L055EA32
4L055EA34
4L055FA19
4L055GA05
4L055GA48
(57)【要約】
成形繊維製品の耐グリース性及び耐油性を改善する方法が提供される。この方法は、合成ポリマー成分及びカチオン性ポリマー成分を含む組成物を繊維原料に導入し、繊維原料を熱成形することを含む。成形繊維製品、及び、成形繊維製品の耐グリース性及び耐油性を改善するための組成物の使用も提供される。繊維成形品の製造方法も提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形繊維製品の耐グリース性及び耐油性を向上させる方法であって、
セルロース系繊維を含む繊維原料を得ることと;
前記繊維原料に組成物を導入することと;
を含み、前記組成物は
・ アクリルアミドと少なくとも1つのアニオン性モノマーとのコポリマーであり、1-60mol%のアニオン性を有する、合成ポリマー成分と;
・ カチオン性ポリマー成分と;
を含み、前記合成ポリマー成分と前記カチオン性ポリマー成分とは、pH2.8で測定した場合に0.05~1meq/g、pH7.0で測定した場合に-0.2~-3meq/gの電荷密度を前記組成物に与え、
前記方法は、実施形態によっては、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物を前記繊維原料に導入することと;
前記繊維原料を成形することと;
を含む、方法。
【請求項2】
ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキザール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物が前記繊維原料に導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記繊維原料に顔料が導入される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記繊維原料はシートに形成される、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記シートが3次元製品に形成される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記繊維原料が3次元製品に成形される、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記繊維原料が湿潤成形され、前記湿潤成形された繊維原料が3次元製品に成形される、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記成形が、湿潤形成、湿潤成形、真空形成、真空成形、押出形成、押出成形、熱形成、乾式成形、熱プレス、熱プレス乾燥、ホットモールディング、熱プレス成形、熱成形、又はこれらの組み合わせを含む、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物と、前記組成物とが、前記繊維原料に順次導入される、請求項1から8のいずれかに記載の方法、
【請求項10】
ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物は、前記組成物を前記繊維原料に導入する前に、前記繊維原料に導入される、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記組成物が前記繊維原料に導入され、それに続いて、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物が前記繊維原料に導入される、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記合成ポリマー成分及び前記カチオン性ポリマー成分が前記繊維原料に順次導入される、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記合成ポリマー成分を導入する前に、前記カチオン性ポリマー成分が前記繊維原料に導入される、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記カチオン性ポリマー成分を導入する前に、前記合成ポリマー成分が前記繊維原料に導入される、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記合成ポリマー成分と、前記カチオン性ポリマーと、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド、デンプン、又はこれらの混合物とが、順次、前記繊維原料に導入される、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記合成ポリマー成分と前記カチオン性ポリマー成分とが前記繊維原料に順次導入され、その後にポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物が前記繊維原料に導入される、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキザール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物が前記繊維原料に導入され、続いて前記合成ポリマー成分と前記カチオン性ポリマーとが前記繊維原料に順次導入される、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記合成ポリマー成分が前記繊維原料に導入され、続いてポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物が前記繊維原料に導入され、その後に前記カチオン性ポリマー成分が前記繊維原料に導入される、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記カチオン性ポリマー成分が前記繊維原料に導入され、続いてポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物が前記繊維原料に導入され、その後に前記合成ポリマー成分が前記繊維原料に導入される、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記組成物は、前記繊維原料の乾燥重量に基づいて、5~50kg/t、好ましくは15~35 kg/t、より好ましくは20~30kg/tの量で導入される、請求項1から19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物が、前記繊維原料の乾燥重量に基づいて1~8kg/t、好ましくは2~6kg/t、より好ましくは2~4kg/tの量で導入される、請求項1から20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記組成物と、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物とを前記繊維原料に導入する前に、前記繊維原料のpHを、pH値5~9、好ましくは7~8に調整する、請求項1から21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記組成物と、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物とを前記繊維原料に導入する前に、前記繊維原料の導電率を、0.05mS/cm~6mS/cm、好ましくは0.1mS/cm~1mS/cmに調整する、請求項1から22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
好ましくは、前記組成物と、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物とを前記繊維原料に導入する前に、糊付け剤、フィックス剤、又はこれらの混合物を前記繊維原料に導入する、請求項1から23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
アニオン性基とカチオン性基の両方を有する両性ポリマー及び/又は相互浸透性ポリマーネットワーク材料が、好ましくは前記組成物の代わりに前記繊維原料に導入され、ここで前記両性ポリマー及び/又は前記相互浸透性ポリマーネットワーク材料が前記電荷密度を提供する、請求項1から24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
組成物を含む成形繊維製品であって、前記組成物は、
・ アクリルアミドと少なくとも1つのアニオン性モノマーとのコポリマーであり、1-60mol%のアニオン性を有する、合成ポリマー成分と;
・ カチオン性ポリマー成分と;
前記合成ポリマー成分と前記カチオン性ポリマー成分とは、pH2.8で測定した場合に0.05~1meq/g、pH7.0で測定した場合に-0.2~-3meq/gの電荷密度を前記組成物に与え、
前記組成物は、実施形態によっては、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物と;
実施形態によっては顔料と;
を含み、
請求項1から25のいずれかに記載の方法で製造される、組成物。
【請求項27】
食品パッケージ、食品サービス品、飲料パッケージ、商品パッケージ、好ましくはオーブン可能トレイ、電子レンジ可能トレイ、クラムシェルボックス、その他の食品ボックス、スープカップ、生肉及び鶏肉トレイ、皿又はカップ蓋を含む、請求項26に記載の成形繊維製品。
【請求項28】
組成物の使用であって、前記組成物は、
・ アクリルアミドと少なくとも1つのアニオン性モノマーとのコポリマーであり、1-60mol%のアニオン性を有する、合成ポリマー成分と;
・ カチオン性ポリマー成分と;
前記合成ポリマー成分と前記カチオン性ポリマー成分とは、pH2.8で測定した場合に0.05~1meq/g、pH7.0で測定した場合に-0.2~-3meq/gの電荷密度を前記組成物に与え、更に、
前記組成物は、実施形態によっては、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物を含むと共に、
実施形態によっては、成形繊維製品の耐グリース性及び耐油性を向上させるために、顔料を含む、
組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の開示事項(以下、本開示という)は、一般に、繊維製品の耐グリース性及び耐油性を向上させる方法に関する。限定するものではないが、本開示は、特に、繊維原料を成形することによって繊維製品の耐グリース性及び耐油性を向上させる方法に関する。
【背景】
【0002】
このセクションは、有用な背景情報を説明するが、ここで説明されている技術が技術水準を示していることを認めている訳ではないことに注意されたい。
【0003】
使い捨てのプラスチック容器や包装材による汚染は蔓延しており、世界の景観を傷つけ、繊細な生態系とそこに生息する生命体を脅かしている。使い捨ての容器は、発泡スチロールや発泡ポリスチレン(EPS)包装、持ち帰り容器、ボトル、薄いフィルムバッグ、光分解プラスチックペレットなどの形で、水路から海へと移動している。プラスチック汚染を削減するための持続可能な解決策が勢いを得ている。しかし、これを継続的に採用するには、これらの解決策が環境に良いだけでなく、性能とコストの両面からプラスチックに対して競争力を持つことが必要である。
【0004】
背景を簡単に説明すると、紙パルプの成型品(繊維成型品)は、1930年代から容器やトレイなどのパッケージに使われてきたが、化石燃料由来の発泡プラスチック包装が登場した1970年代には衰退した。紙パルプは、古い新聞紙や段ボール箱、その他の植物繊維から製造することができる。今日、成形パルプ包装は、電子機器や家庭用品、自動車部品、医療製品に広く使用されており、電子部品やその他の壊れやすい部品を輸送する際のエッジ/コーナープロテクターやパレットトレイとしても使用されている。
【0005】
セルロース繊維をベースとする包装製品は、生分解性で堆肥化可能であり、化石燃料由来のプラスチックとは異なり、海洋に移行しない。しかし、現在知られている繊維技術は、肉や鶏肉、調理済み食品、製造済み食品、電子レンジで温められる食品、ホットコーヒーなどの飲料容器の蓋としての使用には適していない。特に、オイルや水、蒸気、及び/又は酸素バリアを選択的にスラリーに組み込むこと、及び/又は1つ以上のバリア層を、完成した包装製品の表面の全部または一部に選択的に適用することは、面倒で時間がかかり、コストも高くなる。
【0006】
成形パルプの用途によって、また容器の種類に応じて、オイル、グリース、水、水蒸気、酸素および/またはその他の気体や液体のバリア性が必要とされる。適切なスラリー薬品の使用は、プロセス効率、機械的特性、バリア性、及び/又は表面コーティング性の向上をもたらし、その結果、成形パルプ製品の製造を、平面ボードから製造される製品に対してより競争力のあるものにすることができる。
【摘要】
【0007】
第1の捉え方によれば、本発明は、成形繊維製品の耐グリース性及び耐油性を改善する方法を提供する。この方法は、
セルロース系繊維を含む繊維原料を得ることと;
前記繊維原料に組成物を導入することと;
を含み、前記組成物は
・ アクリルアミドと少なくとも1つのアニオン性モノマーとのコポリマーであり、1-60mol%のアニオン性を有する、合成ポリマー成分と;
・ カチオン性ポリマー成分と;
前記合成ポリマー成分と前記カチオン性ポリマー成分とは、pH2.8で測定した場合に0.05~1meq/g、pH7.0で測定した場合に-0.2~-3meq/gの電荷密度を前記組成物に与え、
前記方法は、実施形態によっては、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物を前記繊維原料に導入することと;
前記繊維原料を成形することと;
を含む。
【0008】
第2の捉え方によれば、本発明は、組成物を含む成形繊維製品を提供する。前記組成物は、
・ アクリルアミドと少なくとも1つのアニオン性モノマーとのコポリマーであり、1-60mol%のアニオン性を有する、合成ポリマー成分と;
・ カチオン性ポリマー成分と;
前記合成ポリマー成分と前記カチオン性ポリマー成分とは、pH2.8で測定した場合に0.05~1meq/g、pH7.0で測定した場合に-0.2~-3meq/gの電荷密度を前記組成物に与え、
前記組成物は、実施形態によっては、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物と;
実施形態によっては顔料と;
を含み、ここで前記成形繊維製品は、本発明による方法で製造される。
【0009】
第3の捉え方によれば、本発明は、組成物の使用を提供する。前記組成物は、
・ アクリルアミドと少なくとも1つのアニオン性モノマーとのコポリマーであり、1-60mol%のアニオン性を有する、合成ポリマー成分と;
・ カチオン性ポリマー成分と;
前記合成ポリマー成分と前記カチオン性ポリマー成分とは、pH2.8で測定した場合に0.05~1meq/g、pH7.0で測定した場合に-0.2~-3meq/gの電荷密度を前記組成物に与え、更に、
前記組成物は、実施形態によっては、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物と;
実施形態によっては、成形繊維製品の耐グリース性及び耐油性を向上させるために、顔料を含む。
【0010】
驚くべきことに、合成ポリマー成分とカチオン性ポリマー成分、例えばカチオンデンプン(カチオン化デンプン,cationic starch)成分とを含む組成物であって、特別な電荷密度を有する組成物を含有する成形繊維製品(例えば熱成形された繊維製品)が、優れた耐油性を有することが、いま見出された。驚くべきことに、この組成物は、繊維製品中でオイルバリアとして作用することが見出された。また、この組成物は、繊維製品中でグリースバリアとしても作用すると考えられる。
【0011】
この組成物は、オリーブオイルに対する優れた耐油性を与えることが判明した。すなわち本組成物は、本組成物を含まない成形繊維製品と比較して、浸透時間及び取り込みに対する耐性を与えることが判明した。また、耐グリース性も獲得していると考えられる。
【0012】
また、驚くべきことに、この組成物と、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン(PAAE)、グリオキザール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物とを含む成形繊維製品は、耐油性が向上していることが判明した。また、耐グリース性も向上していると考えられる。
【0013】
ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物を上記組成物と一緒にすると、上記組成物及びポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド又はこれらの混合物を使用しない成形繊維製品と比較して、成形繊維製品(例えば熱成形された繊維製品)の耐油性が60分も向上することが見出された。また、耐グリース性も向上していると考えられる。
【0014】
合成ポリマー成分とカチオンポリマー成分を含む組成物を含有する成形繊維製品は、グリース成分及び油脂成分を捕捉し、グリースバリア及び油脂バリアとして作用すると考えられる。この点、いかなる理論にも束縛されることはない。
【0015】
本発明の繊維製品は、少なくとも部分的に生分解性で堆肥化可能であり、好ましくは大部分が生分解性で堆肥化可能であり、より好ましくはほぼ全部が生分解性で堆肥化可能であり、最も好ましくは生分解性で堆肥化可能である。
【0016】
また、驚くべきことに、耐油性及び耐グリース性を有する繊維製品を、簡便かつ低コストな方法で製造することができることが見出された。耐グリース性及び/又は耐油性を有する繊維製品は、セルロース系繊維を含む繊維原料に、合成ポリマー成分及びカチオン性ポリマー成分を含む組成物であって、特殊な電荷密度を有する組成物を含有する繊維原料を導入し、当該繊維原料を成形(例えば熱成形)することによって、製造することができることが見出された。実施形態によっては、成形前に、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物を導入する。
【0017】
驚くべきことに、上記組成物を多量に(繊維原料の乾燥重量に基づいて5~50kg/tなど)繊維原料に導入することにより、製造された成形品が、高い耐油性を有することが見出された。耐油性は、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキザール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物を追加で繊維原料に導入すると、更に増大する。また、耐グリース性も向上していると考えられる。
【0018】
更に驚くべきことに、上に述べた成形繊維製品((例えば熱成形された繊維製品)は、改善された曲げ剛性(bending stiffness)を有することが見出されている。なぜなら、驚くべきことに、上記組成物、又は上記組成物とポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物とを含んでいない成形繊維製品と比較して、改善された引張曲げ剛性(tensile bending stiffness)を有することが見出されている。改善された比引張強さ(tensile index)及び引張曲げ剛性は、成形繊維製品の厚さを減少させうるので、成形繊維製品の単位面積当たりの質量を減少させることを可能しうる。
【0019】
単位面積当たりの厚さと質量を減らすことができるので、繊維製品の重量を減らすことができるだろう。従って、繊維原料のコストを削減することができるだろう。
【0020】
また、上記組成物、又は上記組成物とポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物とを、ボードの製造工程の繊維原料に添加することで、ボードに耐グリース性及び耐油性が付与されると考えられる。
【0021】
また、上記組成物を繊維原料に点火する前に、顔料及び/又は他の添加剤を上記組成物に添加することにより、成形繊維製品の光沢、平滑性、塗工性及び/又はバリア性が改善されることも見出されている。
添付の特許請求の範囲は保護範囲を定義するものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】熱プレス乾燥及び(厚さ方向の)熱成形後の2次元成形繊維製品(400g/m2)の40℃におけるオリーブオイル耐性を示す。本発明の方法で使用した組成物(組成物B)を採用した場合と、比較組成物Aを採用した場合とが示されている。
図2】熱成形された2次元繊維製品又は繊維シートを示す。
図3】湿潤成形され熱成形された3次元繊維製品を示す。
【詳細説明】
【0023】
第1の捉え方によれば、本発明は、成形繊維製品の耐グリース性及び耐油性を改善する方法を提供する。この方法は、
セルロース系繊維を含む繊維原料を得ることと;
前記繊維原料に組成物を導入することと;
を含み、前記組成物は
・ アクリルアミドと少なくとも1つのアニオン性モノマーとのコポリマーであり、1-60mol%のアニオン性を有する、合成ポリマー成分と;
・ カチオン性ポリマー成分と;
前記合成ポリマー成分と前記カチオン性ポリマー成分とは、pH2.8で測定した場合に0.05~1meq/g、pH7.0で測定した場合に-0.2~-3meq/gの電荷密度を前記組成物に与え、
前記方法は、実施形態によっては、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物を前記繊維原料に導入することと;
前記繊維原料を成形することと;
を含む。
【0024】
前記組成物の前記合成ポリマー成分と前記カチオン性ポリマー成分とは、当該組成物に電荷密度を与える。
【0025】
実施形態によっては、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン(PAAE)、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物が、前記繊維原料に導入される。好ましくはポリアミドアミンエピクロロヒドリンが前記繊維原料に導入される。
【0026】
実施形態によっては、前記繊維原料に顔料が導入される。実施形態によっては、前記組成物を前記繊維原料に加える前に、前記繊維原料に前記顔料が導入される。
【0027】
実施形態によっては、前記組成物を前記繊維原料に加えた後に、前記繊維原料に前記顔料が導入される。実施形態によっては、前記組成物を前記繊維原料に加えると同時に、前記繊維原料に前記顔料が導入される。
【0028】
実施形態によっては、前記顔料と前記組成物は混合物として繊維原料に導入される。
【0029】
実施形態によっては、前記顔料は、タルク、カオリンクレー、炭酸カルシウム、又はこれらの混合物を含む。
【0030】
成形、すなわち成形ステップ又は成形プロセスは、本願の技術分野で知られている任意の適切な方法とすることができる。
【0031】
実施形態によっては、成形は、湿式成形、湿式成形、真空成形、真空成形、押出成形、押出成形、熱成形、乾式成形、熱プレス、熱プレス乾燥、熱成形、熱プレス、熱成形、又はこれらの組み合わせを含み、好ましくは熱成形、より好ましくは熱プレス、熱プレス乾燥又は熱成形を含む。
【0032】
実施形態によっては、前記繊維原料はシート状に成形される。
【0033】
実施形態によっては、前記繊維原料はシート状に成形される。好ましくは熱成形されてシートになる。
【0034】
本願において、用語「シート」とは、長さ及び幅よりも小さな厚さを有する物品を意味する。
【0035】
本願において、「2次元製品」という用語は、もともと平面形状に作られ、長さ及び幅よりも小さい厚さを有する2次元製品を意味する。2次元製品は、3次元製品へと折り畳まれ又は曲げられ得る。
【0036】
本願において、用語「3次元製品」「3D製品」は、3つの次元を有する製品を意味する。
【0037】
本願において、シートは3次元製品とはみなされない。
【0038】
実施形態によっては、シートは3次元製品に成形される。
【0039】
実施形態によっては、繊維原料は3次元製品に成形される。
【0040】
実施形態によっては、発泡体を含む又は含まない繊維原料が、真空成形又は押出成形され、湿式プレス及び/又は真空の助けによる水切り、無拘束式及び/又は拘束式の乾燥、1つ又は複数の方向への圧縮、ポリマー含浸、ポリマーラミネート、ポリマーコーティング又はこれらの組み合わせにより、0.1mm~10mm、好ましくは0.3mm~2mmの厚さを有する2次元シートへと成形される。実施形態によっては、2Dシートは更に、3次元製品へと熱成形(すなわち乾式成形)され、好ましくは5cm~50cmの長さ及び幅、2cm~20cmの深さ、0.1mm~2mmの壁厚を有する3D製品となる。
【0041】
実施形態によっては、繊維原料は湿潤成形され、湿潤成形された繊維原料は3次元製品に成形される。
【0042】
実施形態によっては、ヒートプレス、ホットプレス、ホットプレス乾燥、熱成形又は熱成形における金型の温度は、100℃~400℃、好ましくは130℃~200℃である。
【0043】
実施形態によっては、ヒートプレス、ホットプレス、ホットプレス乾燥、又は熱成形において、繊維原料又は2次元又は3次元繊維製品に加えられる機械的圧力は、0.1bar~1000bar、好ましくは20barまでであり、製造技術、装置及び繊維成形品の用途に応じて、ヒートプレス、ホットプレス、ホットプレス乾燥、又は熱成形中に圧力が変化することがある。
【0044】
実施形態によっては、成形は、3次元製品への成形であり、熱形成、熱プレス、熱成形、密度を上げるための湿式若しくは乾式成形及び/又は湿式若しくは乾式形成、又はこれらの組み合わせである。
【0045】
実施形態によっては、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物と、前記組成物とは、繊維原料に順次導入される。好ましくは、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物は、前記組成物を繊維原料に導入する前に、当該繊維原料に導入される。
【0046】
実施形態によっては、前記組成物を繊維原料に導入し、その後に、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物を前記繊維原料に導入する。
【0047】
実施形態によっては、前記合成ポリマー成分と前記カチオン性ポリマー成分を、繊維原料に順次導入する。好ましくは、前記カチオン性ポリマー成分は、前記合成ポリマー成分を前記繊維原料に導入する前に、前記繊維原料に導入される。
【0048】
実施形態によっては、前記合成ポリマー成分を繊維原料に導入した後、前記カチオン性ポリマー成分を導入する。
【0049】
実施形態によっては、前記合成ポリマー成分、前記カチオン性ポリマー成分、及びポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド、デンプン、又はこれらの混合物を、順次、繊維原料に導入する。
【0050】
実施形態によっては、前記合成ポリマー成分と前記カチオン性ポリマー成分を繊維原料に順次導入し、その後にポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物を前記繊維原料に導入する。
【0051】
実施形態によっては、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキザール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物を繊維原料に導入し、続いて前記合成ポリマー成分と前記カチオン性ポリマー成分を前記繊維原料に順次導入する。
【0052】
実施形態によっては、前記合成ポリマー成分を繊維原料に導入した後、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物を前記繊維原料に導入し、その後、前記カチオン性ポリマー成分を前記繊維原料に導入する。
【0053】
実施形態によっては、前記カチオン性ポリマー成分を繊維原料に導入した後、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物を繊維原料に導入し、その後、前記合成ポリマー成分を前記繊維原料に導入する。
【0054】
実施形態によっては、前記組成物は、主に合成ポリマー成分に由来するアニオン性基と、主にカチオン性ポリマー成分(例えばカチオンデンプン成分)に由来するカチオン性基の、両方を含む。前記組成物の正味電荷は、当該組成物の調製時、貯蔵及び/又は輸送時、また使用中に遭遇する様々なpH値においても最適な挙動を提供するように、注意深く選択される。
【0055】
実施形態によっては、本発明の合成ポリマー成分及びカチオン性ポリマー成分(例えばカチオンデンプン成分)は、pH2.8で測定した場合、0.1~0.5meq/g、好ましくは0.15~0.3meq/gの電荷密度を有する組成物を提供する。また、pH7.0で測定した場合は-0.4~2.0meq/g、好ましくは-0.5~-1.5の電荷密度を有する組成物を提供する。本発明のある実施形態によれば、前記組成物は、pH7.0で測定した場合に、-0.3~3.0meq/g、好ましくは-0.4~3.0meq/g、より好ましくは-0.5~3.0meq/gの電荷密度を有してもよい。pH<3.5における規定電荷密度は、組成物の容易な取り扱いを提供するのに適しており、pH>3.5における電荷密度は、カチオン性ポリマー成分及び繊維と原料中の充填剤との両方に効果的な相互作用を提供するべく、アニオン性電荷の存在を保証するのに十分である。
【0056】
好ましい実施形態では、前記組成物はpH5.5で既にアニオン性正味電荷を有し、好ましくはpH5.0で既にアニオン性正味電荷を有し、より好ましくはpH4.5で既にアニオン性正味電荷を有する。
【0057】
前記組成物のpH値が<3.5である場合、組成物の電荷密度は主に、カチオンデンプン成分などのカチオン性ポリマー成分のカチオン性基に由来する。pH値>3.5における前記組成物の電荷密度は、主に合成ポリマー成分のアニオン性基に由来する。前記合成ポリマー成分は、pH7で-0.3~-7meq/g、好ましくは-0.5~-5meq/g、より好ましくは-1~-3meq/g、更に好ましくは-1~-2meq/gの電荷密度を有することができる、すなわちpH7でアニオン性である。
【0058】
実施形態によっては、前記組成物のpH値は3.5未満であってもよい。また、前記組成物のp製造中、輸送中及び/又は保存中の乾燥固形分含量が5~30重量%、好ましくは10~20重量%、より好ましくは12~17重量%の範囲であってもよい。酸性のpH値<3.5では、ポリマー成分のアニオン性基は酸の形をしている。pH値が低下すると、合成ポリマー成分のアニオン性基とカチオン性ポリマー成分との相互作用が低下する。例えば、pH値が3.2未満では、合成ポリマー成分のアニオン性基は、帯電したカチオン性ポリマー成分との間の相互作用をほとんど受けないか、全く受けない。これにより、高固形分であっても、組成物の調製や取り扱いが容易な低粘度が得られる。組成物の固形分含量が高いことは、同じ量の活性成分でも少ないスペースしか必要としないため、貯蔵及び輸送の観点から経済的である。前記組成物のpHは、酸の添加によって値<3.5に調整することができる。
【0059】
実施形態によっては、前記組成物を繊維原料に添加する準備ができたとき、それは水で希釈され、3.8~6.0、好ましくは4~5.5の最終pH値を有してもよい。また、希釈後において、10重量%未満、好ましくは5重量%未満、より好ましくは0.5~4.5重量%未満の乾燥固形分含量を有してもよい。典型的には、前記組成物は最終pHで、すなわち添加時のpHで、カチオン電荷とアニオン電荷の両方を示すことがある。pH>3.5における規定電荷密度は、カチオン性ポリマー成分だけでなく、原料中の繊維及び/又は充填剤の両方との効果的な相互作用を提供するのに十分である。更に、組成物が固形分の含有量が10重量%未満である場合、抄紙機又は板紙抄紙機のウェットエンドで原料と効果的に混合され得ることが観察されている。固形分が5%未満であることは、デンプン成分が非分解デンプンを含む場合に特に好ましい。
【0060】
実施形態によっては、前記組成物は、該組成物の乾燥重量から計算して、10~90重量%、好ましくは30~70重量%、より好ましくは40~60重量%の合成ポリマー成分と、10~90重量%、好ましくは30~70重量%、より好ましくは40~60重量%のカチオン性ポリマー成分(カチオンデンプン成分など)とを含む。ある好ましい実施形態において、合成ポリマー成分とカチオン性ポリマー成分(例えばカチオンデンプン成分)との比は、乾燥重量で40:60~60:40である。合成ポリマーとカチオン性ポリマー成分との比は、前記組成物が繊維原料のpHで正味アニオン性であるように選択される。
【0061】
前記組成物が含む合成ポリマー成分は、アクリルアミドと少なくとも1種のアニオン性モノマーとのコポリマーであってもよい。このコポリマーは直鎖状(linear)であっても架橋(crosslinked)していてもよい。前記合成ポリマーは、溶液重合、分散重合、乳化重合、ゲル重合又はビーズ重合などの任意の適切な重合法によって調製されうる。実施形態によっては、前記組成物の合成ポリマー成分は、アクリルアミドと、少なくとも1種のアニオン性モノマーとの重合によって調製される。このアニオン性モノマーは、不飽和モノカルボン酸若しくはジカルボン酸又はこれらの塩、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、又はこれらの混合物から選択される。合成ポリマー成分は、好ましくは、アクリルアミドとアクリル酸の溶液重合によって調製される。
【0062】
合成ポリマー成分が架橋されている場合、架橋剤が重合に使用されるが、モノマーの量は100~1000mg/kg、好ましくは100~500mg/kgである。適切な架橋剤には、例えば、メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジビニルエーテル、ジ(エチレングリコール)ジビニルエーテル、トリ(エチレングリコール)ジビニルエーテルがある。しかしメチレンビスアクリルアミドが好ましい。
【0063】
実施形態によっては、合成ポリマー成分は、全く架橋されないか、わずかに架橋されるだけである。このような実施形態では、モノマーの量が0.25~100mg/kg、好ましくは0.5~10mg/kg、より好ましくは0.75~5mg/kgの架橋剤を重合に使用する。
【0064】
合成ポリマー成分は、3~40mol%、好ましくは5~18mol%、より好ましくは9~15mol%のアニオン性を有してもよい。アニオン性は、合成ポリマー成分中の、アニオン性モノマーに由来する構造ユニットの量に関する。合成ポリマー成分のアニオン性は、原料中の繊維や充填剤その他の成分と、上記組成物との結合(binding)を最適化するように選択される。アニオン性モノマーに由来するユニットの量が少なすぎる場合、上記組成物は所望のアニオン性正味電荷を示さず、所望の結合効果が得られない。一方、アニオン性モノマーに由来するユニットの量が多すぎる場合、所望の効果を誘発するのに必要な投与量が少なすぎることになる。
【0065】
実施形態によっては、本発明の合成ポリマー成分は、好ましくは溶液重合によって調製され、300000g/mol以上、好ましくは500000g/mol以上の重量平均分子量MWを有してもよい。好ましくは、合成ポリマー成分の重量平均分子量は、300000-1000000g/mol、より好ましくは400000-1000000g/mol、更により好ましくは500000-900000g/molであってもよい。合成ポリマー成分の平均分子量は、組成物中で最適な機能を提供するために、注意深く選択される。平均分子量が大きすぎる場合、有用な固形分含量では組成物の粘度が高くなりすぎてしまい、適切な粘度にしようとすると、固形分含量が低くなりすぎることが観察されている。
【0066】
実施形態によっては、合成ポリマー成分は、まず断熱ゲル重合、続いて乾燥、続いて溶媒中でのビーズ重合(bead polymerisation)又は水性塩媒体中での乳化重合又は分散重合を行うことによって得られる。また合成ポリマー成分は、2000000-18000000 g/mol、好ましくは4000000-10000000 g/molの範囲の平均分子量MWを有する。
【0067】
本願では、「平均分子量」という値は、ポリマー鎖長の大きさを表すために用いられ、またポリマーの重量平均分子量を示す。平均分子量の値は、ウッベローデキャピラリー粘度計(Ubbelohde capillary viscometer)を用い、25℃の1N NaCl中で既知の方法で測定した固有粘度の結果から算出される。選択するキャピラリーは適切であり、本願の測定では、定数K=0.005228のウッベローデキャピラリー粘度計を使用した。そして平均分子量は、Mark-Houwinkの式[η]=K-Maを用いる既知の方法で、固有粘度の結果から計算される。ここで[η]は固有粘度、Mは分子量(g/mol)、Kとaは、次の文献にポリアクリルアミドについて記載されているパラメータである。

Polymer Handbook, Fourth Edition, Volume 2, Editors:J. Brandrup, E.H. Immergut and E.A. Grulke, John Wiley & Sons, Inc., USA, 1999, p.VII/11。
【0068】
従って、パラメータKの値は0.0191 ml/gであり、パラメータaの値は0.71である。使用条件のパラメータに与えられた平均分子量の範囲は490000-3200000 g/molであるが、この範囲外でも分子量の大きさを記述するために同じパラメータが使用される。低平均分子量、典型的には約1000000g/mol以下のポリマーの場合、平均分子量は、温度23℃,ポリマー濃度10%で、ブルックフィールド粘度測定(Brookfield viscosity measurement)を用いて測定される。分子量[g/mol]は、式1000000 * 0.77 * ln(粘度[mPas])から計算される。実際には、ブルックフィールド粘度が測定でき、計算値が1000000 g/mol未満であるポリマーについては、計算値が許容されるMW値であることを意味する。ブルックフィールド粘度が測定できない場合、又は計算値が1000000 g/molを超える場合は、上記のように固有粘度を使用してMW値を決定する。
【0069】
この組成物は、合成ポリマー成分に加えて、カチオン性ポリマー成分、例えば天然由来のカチオンデンプン成分を含む。実施形態によっては、このカチオンデンプン成分は、カチオン性の未粉デンプンである。本明細書において、これは、カチオン化のみによって修飾されたデンプンであって、非分解かつ非架橋のデンプンを意味する。実施形態によっては、カチオンデンプン成分はデンプン単位を含み、その少なくとも70重量%、好ましくは少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、更に好ましくは少なくとも90重量%、場合によっては更に好ましくは少なくとも95重量%が、20000000g/molを超える平均分子量MWを有し、好ましくは50000000g/mol以上、より好ましくは100000000g/mol以上、場合によっては200000000g/mol以上のような平均分子量MWを有する。カチオンデンプン成分が分解していない場合、デンプン分子の長さは良好な三次元ネットワーク効果をもたらし、合成ポリマー成分だけでなく、繊維原料の他の成分、例えば繊維及び/又は無機充填材、ならびに繊維原料に別途添加されたカチオン強力剤(cationic strength agent)との適切な相互作用をもたらす。
【0070】
カチオンデンプン成分は、ジャガイモ、ワキシーポテト、米、トウモロコシ、ワキシーコーン、小麦、大麦、サツマイモ又はタピオカからのデンプンであってもよい。好ましくは、前記カチオンデンプン成分は、ワキシーコーンスターチ及び/又はワキシーポテトスターチである。ある好ましい実施形態によれば、カチオンデンプン成分はアミロペクチン含量が70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上、時には更に好ましくは95%以上である。
【0071】
カチオンデンプン成分は水溶液の形態を有し、これはデンプンが、例えば調理によって水に溶解したことを意味する。調理は60~135℃の温度で行ってもよい。
【0072】
デンプンは任意の適切な方法でカチオン化することができる。好ましくは、デンプンは、2,3-エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド又は3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル¬トリメチルアンモニウムクロリドを用いてカチオン化されるが、2,3-エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドが好ましい。また、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリドのようなカチオン性アクリルアミド誘導体を用いて、デンプンをカチオン化することも可能である。
【0073】
前記カチオンデンプン成分は、0.025~0.3、好ましくは0.03~0.16、より好ましくは0.045~0.1の置換度を有することができる。置換度はデンプンのカチオン化度に対して相対的なものである。定義されたような比較的高いカチオン性を有するカチオンデンプンが、上記組成物に使用するのに好ましい。
【0074】
ある好ましい実施形態では、前記組成物はカチオン性合成ポリマーを含まない。
【0075】
上記組成物は、合成ポリマー成分とカチオン性ポリマー成分、例えばカチオンデンプン成分との混合物である。上記組成物の成分は、該組成物を繊維原料に添加する前によく混ぜてもよい。すなわち上記組成物は単一の溶液として原料に添加される。本明細書では、合成ポリマー成分とカチオン性ポリマー成分との混合物は、既存の合成ポリマー成分とデンプン成分とのブレンド又は組み合わせとして理解される。両成分は、混合時には溶液又はコロイドの形をしている。言い換えれば、上記混合物は、カチオン性ポリマー成分の存在下で合成ポリマーのモノマーを重合させ、それによってデンプングラフトを形成することによって得られる組成物をカバーすると解釈してはならない。
【0076】
実施形態によっては、上記組成物は、カチオン性ポリマー成分、例えばカチオンデンプン成分を合成ポリマー成分の溶液に(好ましくはpH<3.5で)混合することによって調製することができる。混合時のpHが4.5より高い場合、特に組成物の固形分含量が12重量%を超える場合、ゲル形成の危険性がある。
【0077】
合成ポリマー成分は、デンプン成分と混合される際、水溶液又は懸濁液の形態になることがある。
【0078】
実施形態によっては、カチオンデンプン成分のようなカチオン性ポリマー成分の溶液とポリマー成分の溶液とは、これら2種の溶液の固形分濃度がいずれも12重量%未満、好ましくは10重量%未満であれば、原料に添加する前に混合してもよい。好ましくは、カチオン性ポリマー成分と合成ポリマー成分とは、ポリオニック錯体の形成を保証するために、組成物を繊維原料に添加する前に、互いに相互作用させられる。
【0079】
実施形態によっては、本発明の組成物は現場で調製してもよい。すなわち、合成ポリマー成分及びカチオン性ポリマー成分は、使用現場まで、乾燥品であってもよいし、別々に輸送してもよい。使用現場では、合成ポリマー成分及びカチオン性ポリマー成分は、任意に溶解及び/又は希釈され、混合により水性組成物に調製される。この場合、輸送中や保存中に組成物が劣化するリスクが低減される。特に、カチオンデンプン成分は、微生物学的分解に弱く、分解されれば性能を失うだろう。
【0080】
上記組成物は、固形分含量が高い(例えば10重量%超の)貯蔵溶液として調製又は貯蔵される場合、pH値は3.5未満、好ましくは3未満にされる。低いpHは、合成アニオン性ポリマー成分とカチオン性ポリマー成分との混合を改善し、所望の粘度を有する均質な組成物を提供することが観察されている。ある好ましい実施形態において、上記組成物は、pH3.0及び14重量%の固形分含量において、ブルックフィールド粘度が10000mPas未満、好ましくは8000mPas未満、より好ましくは6000mPas未満である。実施形態によっては、上記組成物の粘度は、pH3.0、固形分14重量%において、2000~10000mPas、好ましくは2500~6500mPasの範囲である。粘度値は、ブルックフィールドDV-I+、小型サンプルアダプター、20スピンドル31、最大回転数を用いて室温で測定した。pH3.5未満で固形分含量の高い組成物の粘度は、工業プロセスにおける組成物の適切な取り扱いに適しており、例えば、組成物のポンピング及び混合による希釈を可能にする。
【0081】
一般に、組成物はpH値約3.8以上からアニオン性の正味電荷を有する。カチオン性ポリマー成分と合成ポリマー成分との相互作用から生じるポリオニック錯体は、pH約3.2ですでにかなりの程度形成される可能性がある。pHが3.5未満で固形分含量が高い(例えば10重量%超)組成物を水で希釈すると、組成物のpHは添加された水と同時に変化する。あるいは、塩基の添加によって組成物のpHを調整してもよい。通常、組成物は繊維原料に添加される前に水で希釈され、希釈又は塩基の添加によってpHが調整される。それによって、pH値が3、好ましくは少なくとも3.5、より好ましくは3.5~4.0を有する組成物溶液が得られる。組成物のpHがpH5を超えると、組成物の正味電荷はアニオン性になる。pH7では、組成物の正味電荷は常にアニオン性である。
【0082】
実施形態によっては、アニオン性基とカチオン性基の両方を有する両性ポリマーを、好ましくは前記組成物の代わりに、繊維原料に導入する。この両性ポリマーは、pH2.8で測定した場合に0.05~1.5meq/g電荷密度を与え、pH7.0で測定した場合には、-0.2~-3meq/gの電荷密度を与える。
【0083】
実施形態によっては、IPN(Interpenetrating Polymer Network,相互浸透性ポリマーネットワーク)材料を、好ましくは前記組成物の代わりに、繊維原料に導入する。このIPN材料は、pH2.8で測定した場合に0.05~1.5meq/g電荷密度を与え、pH7.0で測定した場合には、-0.2~-3meq/gの電荷密度を与える。
【0084】
実施形態によっては、アニオン性基とカチオン性基の両方を有するポリマー、好ましくは両性ポリマー及び/又は相互浸透性ポリマーネットワーク材料が、好ましくは組成物の代わりに、繊維原料に導入される。ここで、両性ポリマー及び/又は相互浸透性ポリマーネットワーク材料は、上記の電荷密度を提供する。
【0085】
実施形態によっては、前記組成物は、繊維原料の乾燥重量に基づいて、5~50kg/t、好ましくは10~35 kg/t、より好ましくは15~30kg/tの量で導入される。
【0086】
実施形態によっては、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド又はこれらの混合物は、繊維原料の乾燥重量に基づいて、乾燥重量として1kg/t~8kg/t、好ましくは2kg/t~6kg/t、より好ましくは2kg/t~4kg/tの量で導入される。
【0087】
実施形態によっては、前記デンプンは、天然デンプン、調理済みデンプン、未調理デンプン、カチオンデンプン、天然化学修飾デンプン、物理修飾ポリマーグラフトデンプン、酵素修飾デンプン、アニオンデンプン、両性デンプン、架橋デンプン、プレゲル化デンプン、膨潤デンプン、若しくは顆粒デンプン、又はこれらの混合物を含む。
【0088】
実施形態によっては、デンプンは、繊維原料の乾燥重量に基づいて、乾燥重量として1kg/t~100kg/tの量で導入される。
【0089】
実施形態によっては、カチオンデンプンは、繊維原料の乾燥重量に基づいて、乾燥重量として4 kg/t~20kg/tの量で導入される。
【0090】
実施形態によっては、非イオン性デンプンが、繊維原料の乾燥重量に基づいて、乾燥重量として1kg/t~100kg/tの量で導入される。
【0091】
実施形態によっては、前記組成物と、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物とを繊維原料に導入する前に、当該繊維原料のpHをpH値5~9、好ましくは7~8に調整する。
【0092】
実施形態によっては、前記組成物と、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物とを繊維原料に導入する前に、前記繊維原料の導電率を、0.1mS/cm~3mS/cm、好ましくは0.1mS/cm~1mS/cmに調整する。実施形態によっては、70%の酢酸カルシウム、20%の硫酸ナトリウム、10%の炭酸水素ナトリウムからなる物質で導電率を調整する。
【0093】
実施形態によっては、前記組成物と、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物とを繊維原料に導入した後又は導入する前に、糊付け剤(サイジングケミカル)、フィックス剤、湿潤強度増強剤、水切り助剤又はこれらの混合物を前記繊維原料に導入する。
【0094】
実施形態によっては、前記組成物と、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物とを繊維原料に導入する前に、糊付け剤、フィックス剤、湿潤強度増強剤、水切り助剤、又はこれらの混合物を前記繊維原料に導入する。
【0095】
実施形態によっては、前記組成物と、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物とを繊維原料に導入した後に、糊付け剤、フィックス剤、湿潤強度増強剤、水切り助剤又はこれらの混合物を前記繊維原料に導入する。
【0096】
実施形態によっては、繊維原料に糊付け剤を導入する前に、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物を前記繊維原料に導入する。
【0097】
実施形態によっては、糊付け剤、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド、デンプン、又はこれらの混合物を同時に、しかし別々に、繊維原料に導入する。
【0098】
実施形態によっては、糊付け剤、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド又はこれらの混合物を、混合物として繊維原料に導入する。
【0099】
実施形態によっては、前記糊付け剤は、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニルコハク酸無水物(ASA)、ロジン又はこれらの混合物を含む。
【0100】
実施形態によっては、AKD、ASA、ロジン又はこれらの混合物、及びポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物は、混合物として繊維原料に導入される。好ましくは、前記組成物を前記繊維原料に導入する前に導入される。
【0101】
実施形態によっては、AKD、ASA、ロジン又はこれらの混合物、及びポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物は、混合物として繊維原料に導入される。好ましくは、前記組成物を前記繊維原料に導入した後に導入される。
【0102】
実施形態によっては、AKD、ASA、ロジン、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレートポリアクリルアミド、デンプン、又はこれらの混合物は、混合物として繊維原料に導入される。好ましくは、前記組成物を前記繊維原料に導入する前に導入される。
【0103】
実施形態によっては、AKD、ASA、ロジン、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレートポリアクリルアミド、デンプン、又はこれらの混合物は、混合物として繊維原料に導入される。好ましくは、前記組成物を前記繊維原料に導入した後に導入される。
【0104】
実施形態によっては、AKD、ASA、ロジン又はこれらの混合物は、繊維原料の乾燥重量に基づいて0.1~4%、好ましくは0.5~1.5%の量で導入される。
【0105】
実施形態によっては、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド又はこれらの混合物は、繊維原料の乾燥重量に基づいて、乾燥重量として1~8kg/t、好ましくは2~4kg/tの量で導入される。
【0106】
実施形態によっては、前記フィックス剤、前記水切り助剤又はこれらの混合物は、硫酸アルミニウム(ALS)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDACMAC)、カチオン性ポリアクリルアミド(CPAM)又はこれらの混合物を含む。
【0107】
実施形態によっては、前記湿潤強度増強剤は、ポリアミドエピクロロヒドリン(PAE)、グリオキサレート化ポリアクリルアミド(GPAM)、デンプン又はこれらの混合物を含む。実施形態によっては、前記湿潤強度増強剤は、糊付け剤の添加後であるが、前記組成物を繊維原料に添加する前に添加される。
【0108】
実施形態によっては、セルロース系繊維を含む繊維原料が得られる。この繊維原料のコンシステンシー(濃度)は0.1%-10%、好ましくは、好ましくは0.2%-1.0%、より好ましくは0.2%-0.5%である。
【0109】
実施形態によっては、前記セルロース系繊維を含む繊維原料は、天然繊維、合成繊維又はこれらの混合物を含む。前記繊維は、好ましくは植物由来の繊維であり、リサイクルされたもの、化学的及び/又は機械的な広葉樹及び針葉樹パルプ、サトウキビ(バガスなど)、竹、大麦、小麦、トウモロコシ、オート麦、大麦、米、ライ麦、トマト、ソルガム、ナタネ、パーム油植物、亜麻、麻、ラミー、綿、ケナフ、ジュート、バナナ、大麻、泥炭、ミズゴケ、又はこれらの混合物を含む。
【0110】
実施形態によっては、前記カチオン性ポリマー成分は、ヒドロキシプロピル化デンプン、ナノセルロース、ミクロフィブリル化セルロース、リグノセルロースベースの誘導体、キトサン、アルファグルカン、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリ乳酸、カチオンデンプン又はこれらの混合物などのデンプン誘導体を含み、好ましくは、カチオンデンプン、キトサン、ナノセルロース、ミクロフィブリル化セルロース、リグノセルロースベースの誘導体又はこれらの混合物を含む。
【0111】
第2の捉え方によれば、本発明は、組成物を含む成形繊維製品を提供する。前記組成物は、
・ アクリルアミドと少なくとも1つのアニオン性モノマーとのコポリマーであり、1-60mol%のアニオン性を有する、合成ポリマー成分と;
・ カチオン性ポリマー成分と;
前記合成ポリマー成分と前記カチオン性ポリマー成分とは、pH2.8で測定した場合に0.05~1meq/g、pH7.0で測定した場合に-0.2~-3meq/gの電荷密度を前記組成物に与え、
前記組成物は、実施形態によっては、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物と;
実施形態によっては顔料と;
を含む。
【0112】
実施形態によっては、前記成形繊維製品は、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物を含む。
【0113】
実施形態によっては、前記成形繊維製品は顔料を含む。
【0114】
実施形態によっては、前記成形繊維製品は、熱成形された繊維製品であり、好ましくは熱プレス、熱プレス乾燥、熱プレスされた繊維製品又は熱成形繊維製品である。
【0115】
実施形態によっては、前記成形繊維製品中の繊維の量は、前記成形繊維製品の乾燥重量を基準として、50wt.%-99wt.%、好ましくは80wt.%-97wt.%、より好ましくは90wt.%-97wt.%である。
【0116】
実施形態によっては、前記成形繊維製品中の前記組成物の量は、前記成形繊維製品の乾燥重量に基づいて、0.5wt.%~10wt.%、好ましくは1.5wt.%~3wt.%である。
【0117】
実施形態によっては、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物の前記成形繊維製品中の量は、前記成形繊維製品の乾燥重量を基準として0.05wt.%~0.8wt.%、好ましくは0.2wt.%~0.4wt.%である。
【0118】
実施形態によっては、前記成形繊維製品中の顔料の量は、前記成形繊維製品の乾燥重量に基づいて、0.01wt.%~5wt.%、好ましくは0.5wt.%~4wt.%である。
【0119】
実施形態によっては、前記成形繊維製品は、糊付け剤、フィックス剤、又はこれらの混合物を含む。
【0120】
実施形態によっては、前記成形繊維製品は、糊付け剤、フィックス剤、水切り助剤又はこれらの混合物を含む。実施形態によっては、前記成形繊維製品中の糊付け剤、フィックス剤、水切り助剤又はこれらの混合物の量は、前記成形繊維製品の乾燥重量に基づいて、0.1wt.%~5wt.%、好ましくは0.5wt.%~2.5wt.%である。
【0121】
実施形態によっては、前記成形繊維製品は、食品パッケージ、食品サービス物品、飲料パッケージ、飲料サービス物品、商品パッケージ又は商品サービス物品を含み、好ましくは、オーブン可能トレイ、電子レンジ可能トレイ、クラムシェルボックス、その他の食品ボックス、スープカップ、生肉・鶏肉トレイ、皿又はカップ蓋などの食品サービス・包装物品である。
【0122】
実施形態によっては、前記成形繊維製品は、本発明の方法で製造される。
【0123】
第3の捉え方によれば、本発明は、組成物の使用を提供する。前記組成物は、
・ アクリルアミドと少なくとも1つのアニオン性モノマーとのコポリマーであり、1-60mol%のアニオン性を有する、合成ポリマー成分と;
・ カチオン性ポリマー成分と;
前記合成ポリマー成分と前記カチオン性ポリマー成分とは、pH2.8で測定した場合に0.05~1meq/g、pH7.0で測定した場合に-0.2~-3meq/gの電荷密度を前記組成物に与え、更に、
前記組成物は、実施形態によっては、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物を含むと共に、
実施形態によっては、成形繊維製品の耐グリース性及び耐油性を向上させるために、顔料を含む。
【0124】
実施形態によっては、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物が、熱成形繊維製品の耐グリース性及び耐油性を改善するために、前記組成物に加えて使用される。
【0125】
実施形態によっては、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキザール化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物と、前記組成物とに加えて、顔料が、熱成形繊維製品の耐グリース性及び耐油性を向上させるために使用される。
【0126】
実施形態によっては、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、グリオキサレート化ポリアクリルアミド、デンプン又はこれらの混合物と、前記組成物と、前記顔料とに加えて、糊付け剤、湿潤強度増強剤、フィックス剤、水切り助剤又はこれらの混合物が、熱成形繊維製品の耐グリース性及び耐油性を向上させるために使用される。
〔実施例〕
【0127】
本発明による例1
【0128】
まず、0.3~0.5%のコンシステンシーを持つ繊維原料に、0.1~0.3%(乾燥重量)のAKDを添加する。この繊維原料は、100%バーチのクラフトパルプから作られた。次に、0.3~0.5 %(乾燥重量)のポリアミドエピクロロヒドリン(PAAE)を繊維原料に添加する。次いで、分子量300~900kDaの少なくとも1つの合成アニオン性ポリマーと、カチオン性ポリマーとを含む組成物(組成物B)を、1~3%(乾燥重量)、繊維原料に添加する。繊維原料に各薬剤を添加した後、次の薬剤の添加及び真空形成前に、乱流条件下で少なくとも1分間混合する。
【0129】
例2、比較例
【0130】
例1と同じ方法と薬品を使用して、2次元成形品製品/シートの調製と特性の測定を行った。しかし、組成物Bの代わりに、比較用の組成物Aが用いられた。比較用組成物Aは、分子量300~700kDaのアニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーの混合物である。
【0131】
2次元(2D)成形品/シートの準備
【0132】
例1及び例2で説明した化学薬品を繊維原料に導入した後、繊維原料を、200~500mBarの真空下、直径10cmの平面円形で、200~400ミクロンの開口部を有する成形ワイヤーに対して、ダイナミックドレナージアナライザー(Dynamic Drainage Analyzer,DDA)を用いて、乾燥度20~30%まで真空成形する。次に、乾燥重量200~800g/m2の湿潤2D成形品/シートを、94~99%の乾燥度に達するまで、130~200℃の金属板の間でホットプレス乾燥し、0.2~0.8 mmの厚さに熱成形する。熱プレス乾燥及び熱成形された2次元繊維成形品/シートを図2に示す。
【0133】
2次元繊維成形品は、0.5g/cm3~1.5g/cm3、好ましくは1.0~1.2g/cm3の密度及び0.1~1.2mm、好ましくは0.2~0.8mmの厚さにホットプレス及び/又は熱成形することができる。
【0134】
3次元(3D)成形品の準備
【0135】
化学薬品を繊維原料に導入した後、吸引型(サクションモールド)付き3D成形ワイヤーを繊維原料に浸漬し、200~400ミクロンの開口部を持つ3Dワイヤーから、最大900mBarの真空下で、繊維原料を引き抜き、成形する。成形された3次元成形品は繊維原料から引き上げられ、真空吸引アシストにより液体成分の除去を行い、湿潤成形された3次元製品の乾燥度が平均33%になるまで続けられる。湿潤成形された3D成形品は、次に加熱されたカウンターモールド(130~200℃)に移され、ホットプレス乾燥され、0.2~1.2mm厚、最終乾燥度94~96%に熱成形される。乾燥した3D繊維成形品を図3に示す。
【0136】
3D成形品は、肉厚が0.1 mm-1.2mm(例えば0.5mm-0.8mm)、長さ5cm-50cm、幅5cm-50cm、深さ2cm-20cmに、ホットプレス乾燥され、熱成形されることができる。
【0137】
耐油・耐グリース試験
【0138】
油脂試験は、ASTMF119-82:2015規格に基づく試験方法を用いて実施した。グリース試験は、規格TAPPIT559:2012に基づく試験方法を用いて実施した。
【0139】
図1から分かるように、本発明による、湿潤成形及び(厚み方向の)熱成形された成形品(2D成形品/シート)(組成物B)は、ゼロ試験(セルロース系繊維を含む繊維原料のみ、化学薬品無添加)及び比較用組成物Aと比較して、向上した耐油性を示す。
【0140】
上の説明により、特定の実装形態および実施形態の非限定例を用いて、発明者によって現在考えられている、本発明を実施するための最良の形態の完全かつ有益な説明を提供した。しかしながら、当業者には明らかであるように、上述の実施形態の詳細は本発明を限定するものではなく、本発明の特徴から逸脱することなく同等の手段又は様々な実施形態の組み合わせを用いて、他の実施形態に実装することができる。
【0141】
さらに、以上に開示した例示的実施形態の特徴は、対応する他の特徴を用いることなく用いられてもよい。然るに、以上の説明は、本発明の原理を説明するための例に過ぎず、それを限定するものではないと捉えるべきである。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
図1
図2
図3
【国際調査報告】