(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】抗菌システム及び方法
(51)【国際特許分類】
A01N 41/10 20060101AFI20250109BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20250109BHJP
A01N 59/08 20060101ALI20250109BHJP
A01N 59/00 20060101ALI20250109BHJP
C02F 1/50 20230101ALI20250109BHJP
【FI】
A01N41/10 Z
A01P3/00
A01N59/08 A
A01N59/00
C02F1/50 510C
C02F1/50 520K
C02F1/50 520J
C02F1/50 532E
C02F1/50 532H
C02F1/50 540D
C02F1/50 540B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537917
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-08-20
(86)【国際出願番号】 EP2022087037
(87)【国際公開番号】W WO2023118172
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518361011
【氏名又は名称】ケミラ・オーワイジェイ
【氏名又は名称原語表記】Kemira Oyj
【住所又は居所原語表記】Energiakatu 4,FI-00180 HELSINKI,Finland
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】コラリ マルコ
(72)【発明者】
【氏名】シメル ヤッコ
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011AA02
4H011AA03
4H011BA06
4H011BB07
4H011BB18
4H011DA13
(57)【要約】
(a)式Iによる抗菌化合物
【化1】
及び
(b)安定化塩素化合物を含む抗菌システムであって、
上記化合物が、別個の化合物であるか、又は単一の組成物を構成し、
式中、R1、R2、及びR3が独立して、水素原子;ハロゲン原子;ヒドロキシ基;アミノ基;1~4個の炭素原子を有するアルキルアミノ基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、ハロアルキル基、若しくはアルコキシ基;又は1~10個の炭素原子を有するアシルアミド基を表し、
Aが、2-チアゾールアミン;2-プロペンニトリル;2-プロペン酸;1~4個の炭素原子を有する、2-プロペン酸のアルキルエステル若しくはヒドロキシアルキルエステル;又は-CHCHCONR5R6基(ここで、R5及びR6は、水素原子、1~4個の炭素原子を有するアルキル又はヒドロキシアルキルを独立して表す)を表し、
安定化塩素化合物が、活性塩素と、アンモニウム、尿素、カルバメート、及びジメチルヒダントインから選択される窒素系反応物との間の反応の反応生成物を含む、システム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)式Iによる抗菌化合物
【化1】
及び
(b)安定化塩素化合物を含む抗菌システムであって、
前記化合物が、別個の化合物であるか、又は単一の組成物を構成し、
式中、R1、R2、及びR3が独立して、水素原子;ハロゲン原子;ヒドロキシ基;アミノ基;1~4個の炭素原子を有するアルキルアミノ基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、ハロアルキル基、若しくはアルコキシ基;又は1~10個の炭素原子を有するアシルアミド基を表し、
Aが、2-チアゾールアミン;2-プロペンニトリル;2-プロペン酸;1~4個の炭素原子を有する、2-プロペン酸のアルキルエステル若しくはヒドロキシアルキルエステル;又は-CHCHCONR5R6基(ここで、R5及びR6は、水素原子、1~4個の炭素原子を有するアルキル又はヒドロキシアルキルを独立して表す)を表し、
前記安定化塩素化合物が、活性塩素と、アンモニウム、尿素、及びジメチルヒダントインから選択される窒素系反応物との間の反応の反応生成物を含む、システム。
【請求項2】
式(I)において、
R1が、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、又は第三級ブトキシ基を表し、
R2及びR3が、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、第三級ブトキシ基を独立して表し、
Aが、2-プロペンニトリルを表す、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
式(I)において、
R1が、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、第三級ブトキシ基、又はアミノ基を表し、
R2及びR3が、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、第三級ブトキシ基を独立して表し、
Aが、-CHCHCONR5R6基(ここで、R5及びR6は、水素原子、1~4個の炭素原子を有するアルキル又はヒドロキシアルキルを独立して表し、好ましくは、R5及びR6は水素原子を表す)を表す、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
式(I)による前記化合物が、3-[(4-メチルフェニル)スルホニル]-2-プロペンニトリル、3-フェニルスルホニル-2-プロペンニトリル、3-[(4-フルオロフェニル)スルホニル]-2-プロペンニトリル、3-[(4-トリフルオロメチルフェニル)スルホニル]-2-プロペンニトリル、3-[(2,4-ジメチルフェニル)スルホニル]-2-プロペンニトリル、3-[(3,4-ジメチルフェニル)スルホニル]2-プロペンニトリル、3-(3,5-ジメチルフェニル)スルホニル-2-プロペンニトリル、3-[(2,4,6-トリメチルフェニル)スルホニル]-2-プロペンニトリル、3-(4-メトキシフェニル)スルホニル-2-プロペンニトリル、3-[(4-メチルフェニル)スルホニル]プロパ-2-エンアミド、3-[(4-メチルフェニル)スルホニル]プロパ-2-エン酸、及び任意のそれらの異性体からなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
式(I)による前記化合物が、3-[(4-メチルフェニル)スルホニル]-2-プロペンニトリル、3-フェニルスルホニル-2-プロペンニトリル、3-[(4-トリフルオロメチルフェニル)スルホニル]-2-プロペンニトリル、3-[(2,4,6-トリメチルフェニル)スルホニル]-2-プロペンニトリル、3-(4-メトキシフェニル)スルホニル-2-プロペンニトリル、及び3-[(4-メチルフェニル)スルホニル]プロパ-2-エンアミド、並びに任意のそれらの異性体からなる群から選択され、前記化合物が、好ましくは3-[(4-メチルフェニル)スルホニル]-2-プロペンニトリルである、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記安定化塩素化合物が、活性塩素源と、アンモニウム塩及び尿素から選択される窒素系反応物との間の反応の反応生成物を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記安定化塩素化合物が、モノクロラミンを含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
工業プロセス水を処理する方法であって、前記方法が、(i)ある量の式Iによる抗菌化合物
【化2】
及び
(ii)ある量の安定化塩素化合物を、前記工業プロセス水に投与することを含み、
式中、R1、R2、及びR3が独立して、水素原子;ハロゲン原子;ヒドロキシ基;アミノ基;1~4個の炭素原子を有するアルキルアミノ基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、ハロアルキル基、若しくはアルコキシ基;又は1~10個の炭素原子を有するアシルアミド基を表し、
Aが、2-チアゾールアミン;2-プロペンニトリル;2-プロペン酸;1~4個の炭素原子を有する、2-プロペン酸のアルキルエステル若しくはヒドロキシアルキルエステル;又は-CHCHCONR5R6基(ここで、R5及びR6は、水素原子、1~4個の炭素原子を有するアルキル又はヒドロキシアルキルを独立して表す)を表し、
前記安定化塩素化合物が、塩素と、アンモニウム、尿素、及びジメチルヒダントインから選択される窒素系反応物との間の反応の反応生成物を含む、方法。
【請求項9】
微生物、好ましくは細菌の増殖を低減又は防止することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
バイオフィルムの形成を低減若しくは防止すること、及び/又は形成されたバイオフィルムを低減若しくは除去することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記微生物が、メイオサーマス(Meiothermus)、デイノコッカス(Deinococcus)及び/又はシュードキサントモナス(Pseudoxanthomonas)の属に属する細菌である、請求項9又は請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記工業プロセス水が、冷却水又は繊維材料を含む水を含む、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記工業プロセス水が、セルロース系繊維材料を含み、紙、板紙、パルプ、ティッシュ、成形パルプ、不織物、又はビスコースを製造するための装置、好ましくはパルプ、紙、又は板紙を製造するための装置と接触して循環する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記工業プロセス水の温度が、少なくとも40℃、好ましくは少なくとも50℃である、請求項8から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
投与される前記抗菌化合物の量が、活性化合物として計算され、かつ前記工業プロセス水の体積に基づいて、0.01~100ppm、好ましくは0.01~10ppm、より好ましくは0.01~2ppmの範囲である、請求項8から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
投与される前記抗菌化合物の量が、活性化合物として計算され、かつ前記工業プロセス水の体積に基づいて、0.01~1ppm、好ましくは0.01~0.5ppm、より好ましくは0.05~0.2ppmの範囲である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記工業プロセス水に投与される前記安定化塩素化合物の量が、活性塩素として計算され、かつ前記工業プロセス水の体積に基づいて、0.1~5ppm、好ましくは0.1~2ppm、より好ましくは0.1~1ppmの範囲になる、請求項8から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記抗菌化合物が、前記工業プロセス水に連続的に投与される、請求項8から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
各化合物が、前記工業プロセス水の異なる場所で添加される、請求項8から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記安定化塩素化合物が、ショートループ及びヘッドボックスを避けた場所で、パルプ、紙、又は板紙を製造するための装置に投与される、請求項8から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記抗菌化合物及び前記安定化塩素化合物が、請求項2から7のいずれか一項に記載のとおりである、請求項8から20のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業プロセス水を処理する方法、細菌などの微生物の増殖を低減又は防止する方法、並びにそのためのシステム及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌などの微生物は、例えば、工業プロセスで使用される装置又は機械が水系に接触する場合に、問題を起こし得る。水中の細菌は、自由浮遊形態(時としてプランクトン性として知られる)で存在し得るか、又は表面に会合したバイオフィルムの形態であり得る。特に、バイオフィルムは、細菌塊だけでなく、細菌によって形成される保護シース又はフィルムを含むため、除去が難しくなり得る。
【0003】
高レベルの細菌増殖は、工業プロセスにおいて極めて問題となり得る。例えば、パルプ、紙、及び板紙の製造で使用される工業プロセス水は、特に細菌増殖の問題に影響を受けやすい。これらのプロセスは、セルロース繊維及びデンプンなどの微生物の栄養素を含有する水を使用し、微生物が繁茂できる温度で稼働される。また、製造プロセスにおいて、同じプロセス水を数回再循環させることも一般的である。処理されないままであると、紙及び板紙製品は欠陥のあるものになり得、クリーニングのために定期的な中断期間が必要となる。したがって、微生物の問題を管理することが望ましく、これは、殺生物性物質をプロセス水に添加することによって達成されている。
【0004】
ハロゲン化化合物は、有効なバイオサイドであることが示されている。ハロアミン及び二酸化塩素は、細菌細胞の成分を酸化させるそれらの能力を理由として、微生物抑制のための有効な化学物質である。ハロアミン及び二酸化塩素は、比較的安価であり、十分に高い濃度では、両方のプランクトン性細菌レベルを最小限に抑えることができ、システム表面上でのバイオフィルムスライム形成を防止することができる。
【0005】
これらのバイオサイドは有効であるが、活性塩素などの活性ハロゲンの存在は、金属表面上に腐食の問題を生じさせることが見出されている。製紙業においては、これらの問題が、気相又は水と気相との界面で主に生じている。この問題に対する1つの解決策が、特許文献1に提示されている。ここでは、ハロゲン化ヒダントインが、ハロアミンと組み合わせて使用された。しかしながら、ハロゲン化ヒダントインは高価であり、それら自体が活性ハロゲンを含有するため、なおも腐食の問題にいくらか寄与し得る。
【0006】
したがって、腐食の問題を最小限に抑えると同時に、例えば、紙及び板紙の製造で使用される工業循環水システムにおいて、微生物の有効な抑制を提供することが依然として求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【0008】
第1の態様では、本発明は、(a)式Iによる抗菌化合物
【0009】
【0010】
及び
(b)安定化塩素化合物を含む抗菌システムを提供し、
上記化合物は、別個の化合物であるか、又は単一の組成物を構成し、
式中、R1、R2、及びR3は独立して、水素原子;ハロゲン原子;ヒドロキシ基;アミノ基;1~4個の炭素原子を有するアルキルアミノ基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、ハロアルキル基、若しくはアルコキシ基;又は1~10個の炭素原子を有するアシルアミド基を表し、
Aは、2-チアゾールアミン;2-プロペンニトリル;2-プロペン酸;1~4個の炭素原子を有する、2-プロペン酸のアルキルエステル若しくはヒドロキシアルキルエステル;又は-CHCHCONR5R6基(ここで、R5及びR6は、水素原子、1~4個の炭素原子を有するアルキル又はヒドロキシアルキルを独立して表す)を表し、
安定化塩素化合物は、活性塩素と、アンモニウム、尿素、カルバメート、及びジメチルヒダントインから選択される窒素系反応物との間の反応の反応生成物を含む。抗菌化合物及び安定化塩素化合物は、別個に、逐次的に、又は同時に使用されてもよい。
【0011】
第2の態様では、本発明は、工業プロセス水を処理する方法を提供し、上記方法は、(i)ある量の式Iによる抗菌化合物
【0012】
【0013】
及び
(ii)ある量の安定化塩素化合物を、上記工業プロセス水に投与することを含み、
式中、R1、R2、及びR3は独立して、水素原子;ハロゲン原子;ヒドロキシ基;アミノ基;1~4個の炭素原子を有するアルキルアミノ基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、ハロアルキル基、若しくはアルコキシ基;又は1~10個の炭素原子を有するアシルアミド基を表し、
Aは、2-チアゾールアミン;2-プロペンニトリル;2-プロペン酸;1~4個の炭素原子を有する、2-プロペン酸のアルキルエステル若しくはヒドロキシアルキルエステル;又は-CHCHCONR5R6基(ここで、R5及びR6は、水素原子、1~4個の炭素原子を有するアルキル又はヒドロキシアルキルを独立して表す)を表し、
安定化塩素化合物は、活性塩素と、アンモニウム、尿素、カルバメート、及びジメチルヒダントインから選択される窒素系反応物との間の反応の反応生成物を含む。抗菌化合物及び安定化塩素化合物は、別個に、逐次的に、又は同時に投与されてもよい。上記化合物は、同じ工業プロセス内の同じ場所又は異なる場所で、上記工業プロセス水に投与されてもよい。
【0014】
工業プロセス水を処理する方法によれば、細菌などの微生物の増殖が低減又は防止され得る。そのような増殖は、遊離のプランクトン性微生物、又はバイオフィルムなどの構造体中に存在する微生物の増殖であり得る。これは、既存の微生物を死滅させること又は新しい微生物の増殖を停止させることによって生じ得る。このようにして、バイオフィルムの形成も低減又は防止され得、既存の形成されたバイオフィルムは、例えば、微生物がプランクトン性になり、その後に死滅されるようなバイオフィルムの溶解によって、低減又は除去され得る。
【0015】
驚くべきことに、本発明に係る抗菌化合物及び安定化塩素化合物の組み合わせは、わずか少量の安定化塩素化合物を同時に使用することで、バイオフィルムに対して有効な作用をもたらすことが見出された。このことは、工業装置又は設備への使用において、上記抗菌システムでは、より少ない活性塩素で済むため、腐食が低減されることを意味する。より少ない活性塩素の生成により、より安全な作業環境ももたらされ、安価な安定化塩素化合物が、効果的に使用され得る。
【0016】
理論により拘束されることを望むものではないが、抗菌化合物の存在は、バイオフィルムの形成を防止し、バイオフィルムの溶解を促進すると考えられる。安定化塩素化合物は、その化合物が低濃度であっても、プランクトン性微生物に対して特に有効である。バイオフィルムに対して有効であるために以前は必要であった高濃度の安定化塩素化合物は、抗菌化合物の存在下では必要ない。
【0017】
抗菌化合物は、構造式Iを有する。この式では、R1、R2、及びR3は、独立して、ベンゼン環のオルト、メタ、及びパラの位置の置換基である。
【0018】
有利には、R1は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、若しくは第三級ブトキシ基を表し、及び/又は
R2及びR3は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、第三級ブトキシ基を独立して表し、及び/又は
Aは、2-プロペンニトリルを表す。
【0019】
代わりに、R1は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、第三級ブトキシ基、若しくはアミノ基を表し、及び/又は
R2及びR3は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、第三級ブトキシ基を独立して表し、及び/又は
Aは、-CHCHCONR5R6基(ここで、R5及びR6は、水素原子、1~4個の炭素原子を有するアルキル又はヒドロキシアルキルを独立して表し、好ましくは、R5及びR6は水素原子を表す)を表す。
【0020】
好ましくは、式Iによる化合物は、3-[(4-メチルフェニル)スルホニル]-2-プロペンニトリル、3-フェニルスルホニル-2-プロペンニトリル、3-[(4-フルオロフェニル)スルホニル]-2-プロペンニトリル、3-[(4-トリフルオロメチルフェニル)スルホニル]-2-プロペンニトリル、3-[(2,4-ジメチルフェニル)スルホニル]-2-プロペンニトリル、3-[(3,4-ジメチルフェニル)スルホニル]2-プロペンニトリル、3-(3,5-ジメチルフェニル)スルホニル-2-プロペンニトリル、3-[(2,4,6-トリメチルフェニル)スルホニル]-2-プロペンニトリル、3-(4-メトキシフェニル)スルホニル-2-プロペンニトリル、3-[(4-メチルフェニル)スルホニル]プロパ-2-エンアミド、3-[(4-メチルフェニル)スルホニル]プロパ-2-エン酸、及び任意のそれらの異性体からなる群から選択される。これらの化合物のうち、式Iによる化合物が、3-[(4-メチルフェニル)スルホニル]-2-プロペンニトリル、3-フェニルスルホニル-2-プロペンニトリル、3-[(4-トリフルオロメチルフェニル)スルホニル]-2-プロペンニトリル、3-[(2,4,6-トリメチルフェニル)スルホニル]-2-プロペンニトリル、3-(4-メトキシフェニル)スルホニル-2-プロペンニトリル、及び3-[(4-メチルフェニル)スルホニル]プロパ-2-エンアミド、並びに任意のそれらの異性体からなる群から選択されることがより好ましい。上記化合物が、3-[(4-メチルフェニル)スルホニル]-2-プロペンニトリルであることが特に好ましい。
【0021】
本発明での使用に適した抗菌化合物及びそれらの合成は、国際公開第2019/042984号及び国際公開第2019/042985号にも記載されている。
【0022】
安定化塩素化合物は、活性塩素と、アンモニウム、尿素、及びジメチルヒダントインから選択される窒素系反応物との間の反応の反応生成物を含む。上記反応は周知であり、典型的には、安定化塩素化合物が使用のために新たに調製されるように、その場(in situ)で行われる。これは、安定化塩素溶液が、限定された貯蔵安定性を有するためである。
【0023】
アンモニウムは、典型的には塩形態で供給され、好ましい窒素系反応物である。好ましいアンモニウム塩は、硫酸アンモニウム、臭化アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、及び塩化アンモニウムである。塩素は、典型的には次亜塩素酸塩などの活性塩素源の形態で供給される。好ましい活性塩素源は、次亜塩素酸ナトリウムである。
【0024】
上記反応は、通常、希釈水の存在下で、反応物を単純に混合することによって実施される。アンモニウム及び尿素の場合、高すぎる濃度で塩素と混合すると、溶液中の安定化塩素化合物が劣化し得る。したがって、形成された安定化塩素化合物の生成物が、500~10,000mg/lの活性塩素濃度を有するように、反応物を希釈することが好ましい。活性塩素の窒素に対するモル比は、等モル比に近いほど安定化塩素溶液が安定するため、およそ1:1であることが好ましい。混合は、アルカリ条件下で行われることも好ましい。例えば、アンモニウムと次亜塩素酸塩を混合すると、モノクロラミン(MCA)が形成される。1:1のモル比(活性塩素対窒素)で、pH9.0、5,000mg/lの活性塩素の最終濃度まで水で希釈すると、モノクロラミンが1時間超にわたって安定する安定化塩素溶液が生じる。しかしながら、窒素に対してより高い活性塩素の比率及びpH7未満で混合すると、例えば、望まないジクロラミンの形成をもたらし得、また安定化塩素溶液の安定性にも影響を及ぼし得る。
【0025】
ジメチルヒダントインから作製される安定化塩素化合物は、通常、次亜塩素酸ナトリウムとの反応を要する(米国特許第6,429,181号公報を参照のこと)。このようにして、モノクロロ-5,5-ジメチルヒダントイン(MCDMH)が形成され得る。この反応も、混合することによって実施される。しかしながら、希釈水は必要ない。例えば、15%の次亜塩素酸塩及び15%のジメチルヒダントイン(水中)を直接混合することが可能である。混合比も重要でない。活性塩素が過剰に供給される場合、モノクロロ-5,5-ジメチルヒダントインの量は、利用可能なジメチルヒダントインの量に単純に限定される。過剰な活性塩素は、安定化せずに遊離の活性塩素として残るだけである。ジメチルヒダントインは、比較的高価であるため、最も好ましくない窒素系反応物である。
【0026】
抗菌化合物及び安定化塩素化合物の特に有用な組み合わせは、3-[(4-メチルフェニル)スルホニル]-2-プロペンニトリル及びMCA(モノクロラミン)である。
【0027】
本発明の方法は、様々な工業プロセスに適用可能である。これらのプロセスの多くは、微生物に栄養を提供する成分を含有するプロセス水を使用する。加えて、多くの工業プロセスは、少なくとも40℃又は少なくとも50℃などの高い温度で稼働し、これはまた、微生物の増殖を促進し得る。プロセス水中に存在する微生物は、バイオフィルム状に増殖し得、生物付着及び微生物腐食(microbiologically influenced corrosion、MIC)としても知られる生物腐食を引き起こし得る。微生物バイオフィルムは、表面上での伝導性熱伝達を低減させ得、水力学システムを詰まらせ得、結果としてエネルギー損失を生じ、生産縮小及び生産停止を伴い得る。
【0028】
工業プロセス水に見出される典型的な細菌としては、メイオサーマス(Meiothermus)、デイノコッカス(Deinococcus)、及び/又はシュードキサントモナス(Pseudoxanthomonas)が挙げられる。MICはまた、例えば、硫酸還元細菌(Sulphate-reducing bacteria、SRB)、硫酸還元アーキア(sulphate-reducing Archae、SRA)、酸生成細菌、メタン細菌、又は鉄酸化細菌によって引き起こされ得る。プロテオバクテリアは、冷却水のバイオフィルムから見出される主要な微生物群である。
【0029】
処理される工業プロセス水は、任意の産業で使用される任意の装置又は設備からの水に関係し、工業循環水を含む。工業製造プロセスで使用される水、配管を通って循環し得る冷却水として使用される水、並びに石油及びガス産業で使用される水が含まれる。微生物の抑制を必要とする石油及びガス産業での水の例としては、噴射水、破砕流体、タンク貯蔵、パイプライン、及び静水圧試験水が挙げられる。
【0030】
代わりに、又は加えて、本発明の抗菌システムは、冷却水システムに添加されてもよく、その冷却水システムは、工業製造プロセスとは別個の回路にあってもよい。典型的には、そのような冷却水システムは、工業製造プロセスからのプロセス水又は装置と接触する熱交換器と接触する循環水を含む。冷却水システムは、水供給の温度並びに工業プロセス又は装置が冷却される温度に応じて、広範囲の温度で稼働し得る。5℃~50℃以上の範囲の温度が見出される。多くのそのようなシステムは、少なくとも30℃などの高い温度で稼働する。
【0031】
紙、板紙、パルプ、ティッシュ、成形パルプ、不織物、ビスコースなどの製造など、繊維材料を含む工業製造プロセスは、本発明に係る処理に特に適している。工業プロセス水は、好ましくは、少なくとも水、天然由来のセルロース系繊維材料、微粉及び/又は繊維断片を含む。プロセス水はまた、デンプンを含んでいてもよい。セルロース系繊維材料は、通常、軟材、硬材、又は非木材源、例えば、竹、わら、若しくはケナフ、又はそれらの任意の混合物に由来する。好ましくは、セルロース系繊維材料は、リグノセルロース系繊維材料に由来する。より好ましくは、セルロース系繊維材料は、リグノセルロース系繊維である。セルロース系繊維材料は、任意の適したメカニカル、ケミメカニカル、若しくはケミカルパルピングプロセス、又はそれらの任意の組み合わせ、又はそれ自体が既知である任意の他の適したパルピングプロセスに由来してもよい。セルロース系繊維材料はまた、再生板紙、紙、又はパルプに由来する繊維材料を含んでいてもよい。例えば、セルロース系繊維材料は、硬材に由来し、0.5~1.5mmの長さを有するか、及び/又は軟材に由来し、2.5~7.5mmの長さを有するセルロース系繊維を含んでいてもよい。プロセス水はまた、フィラー及び/又はコーティングミネラルなどの無機ミネラル粒子;ヘミセルロース;リグニン;並びに/又は溶解した及びコロイド状の物質を含んでいてもよい。プロセス水はまた、製紙用添加物、例えば、デンプン、サイズ剤、無機若しくは有機凝集若しくは凝塊剤、様々な長さ及び/若しくは電荷の天然若しくは合成ポリマー、染料、光学的光沢剤、又はそれらの任意の組み合わせを含んでいてもよい。
【0032】
1つの構成では、工業製造プロセスは、天然由来のセルロース系繊維材料を含むプロセス水を有し、パルプ及び/又は紙及び/又は板紙製造プロセスであり、プロセス水は、高温及び/又は高流量を示す。したがって、本発明に係る抗菌システムは、パルプ及び/又は紙及び/又は板紙製造システムに添加又は投与される。これらのプロセスにおけるプロセス水は、高流量及び高せん断速度をしばしば示し、これは、微生物のストレスに起因するプロセス表面でのバイオフィルムの形成を誘導し得る。例えば、紙及び板紙作製環境では、流量は、通常、1m/sより高く、更には10m/sを超え、通常、1~20m/s又は1~10m/sであり得る。本発明に係る抗菌システムは、これらの要求の厳しい条件において特に有効であることが観察されており、微生物の増殖及びプロセス表面でのバイオフィルムの形成を低減したり、防止したりするために、一般的に全プロセスを通じて使用されてもよい。
【0033】
天然由来のセルロース系繊維材料を含む工業製造プロセスは、パルプ及び/又は紙及び/又は板紙製造プロセスであってもよく、その水性環境のpHは5~9、好ましくは7~8.5の範囲である。
【0034】
本発明の1つの構成では、本発明の抗菌システムは、セルロース系繊維材料を含むプロセス水を有する工業製造プロセス(これは、紙及び/又は板紙製造プロセスである)において、特に、紙又は板紙作製プロセスのショートループで添加されてもよい。典型的な紙及び板紙作製プロセスでは、パルプストックをヘッドボックスに入れると、ヘッドボックスがパルプストックを形成セクションの移動ワイヤー上に分配し、その上で、連続的な紙ウェブが形成される。ここでは、抄紙/板紙機のショートループ又はショート循環セクションは、当技術分野での慣例として、形成セクションのワイヤーピットで回収され、再使用のためにヘッドボックスに戻される、パルプストックからの余剰水の少なくとも一部を再循環及び再利用する製造システムの一部と理解される。
【0035】
代わりに、又は加えて、本発明の抗菌システムは、セルロース系繊維材料を含むプロセス水を有する工業製造プロセス、例えば、パルプ及び/又は紙及び/又は板紙製造プロセスにおいて、プロセスの任意の場所におけるプロセス水に添加されてもよく、例えば、循環水タンク、循環水タワー、濾過水タワー;澄明又は混濁濾液貯蔵タンク;パルパー;パルパーの上流/下流の水流;損紙システム及びその中の容器の上流/下流のプロセス水流;ワイヤーピットの上流/下流のピットプロセス流;抄紙機ブレンドチェストの上流/下流のチェストプロセス流;清水タンク;温水タンク及び/又はシャワー水タンクが挙げられる。
【0036】
代わりに、又は加えて、本発明の抗菌システムは、セルロース系繊維材料を含むプロセス水を有する工業製造プロセス(これは、紙及び/又は板紙製造プロセスである)において、紙又は板紙作製プロセスのロングループにおける任意の場所に添加されてもよい。ここでは、抄紙/板紙機のロングループ又はロング循環セクションは、当技術分野での慣例として、余剰水及び損紙を取扱う製造システムの一部と理解される。回収水の大部分は、ショートループを出て、ロングループに注入される。これには、再使用のために回収水から有用な繊維を捕捉するためのセーブオール;マシンシャワーなどで使用される濾過水のための貯蔵タンク;及びパルプ工場からパルプを抄紙/板紙機へ取り込むための希釈水などとして使用される再循環水のための貯蔵タンクが含まれる。ロングループの一部は、上記機械からの湿潤及び乾燥紙リジェクトの取扱いのための損紙システムである。この材料は、再パルプ化され、パルプストックの一部として再使用される。
【0037】
抗菌化合物及び安定化塩素化合物は、乾燥粉末などの固体として、又はより好ましくは液状で、プロセス水に添加されてもよい。化合物は、連続的に又は定期的に投与されてもよい。1つの構成によれば、一方又は両方の化合物は、1日当たり3~45分で6~24回、好ましくは1日当たり10~30分で12~24回、プロセス水に定期的に投与されてもよい。
【0038】
抗菌化合物及び安定化塩素化合物は、単一の組成物として添加されてもよいが、より典型的には、それらは別個に又は逐次的に添加される。それらは、単一の組成物として又は同時に別個の成分としてのいずれかで、同時に添加されてもよい。代わりに、それらは、別個の成分として逐次的に添加されてもよい。別個の成分としての添加は、プロセス水の同じ場所又は異なる場所でなされてもよい。どのように成分が添加されるにせよ、複合効果を実現するためには、両方がプロセス水に投与される必要がある。
【0039】
抗菌化合物は、バッチ式で又は連続的にプロセスに投与されてもよい。好ましくは、上記化合物が、バイオフィルムの形成が起こりやすいプロセスの全ての部分に達するような様式で、プロセスの1~3つの投与点で、連続的に投与される。これらの部分としては、ブレンドチェスト、ショートループ、ヘッドボックス、ワイヤーピット、循環水タンク若しくはタワー、セーブオール、濾過水タンク若しくはタワー、清水タンク、温水タンク、及び/又はシャワー水タンク、好ましくは、ショートループ、循環水タンク若しくはタワー、濾過水タンク若しくはタワー、及び/又はシャワー水タンクが挙げられる。
【0040】
安定化塩素は、バッチ式で又は連続的にプロセスに投与されてもよい。好ましくは、それは、システムのいくつかの投与点、特に腐食をより受けにくい場所に投与され、好ましくは、ショートループ及びヘッドボックスを避ける。これらの場所としては、パルパー、パルプタンク若しくはタワー、ブレンドチェスト、マシンチェスト、循環水タンク若しくはタワー、濾過水タンク若しくはタワー、清水タンク、温水タンク、及び/又はシャワー水タンク、セーブオール、回収繊維タンク、損紙パルパー、湿潤損紙タンク若しくはタワー、及び/又は乾燥損紙タンク若しくはタワー、好ましくは、ブレンドチェスト、マシンチェスト、循環水タンク若しくはタワー、濾過水タンク若しくはタワー、損紙パルパー、湿潤損紙タンク若しくはタワー、及び/又は乾燥損紙タンク若しくはタワーが挙げられる。
【0041】
両方の化合物がバッチ式でプロセスに投与されてもよく、両方の化合物が連続的にプロセスに投与されてもよく、又は一方の化合物がバッチ式で、他方が連続的に投与されてもよい。
【0042】
原理上、上記化合物は、プロセスのほぼ任意の点で添加されてよく、プロセス全体の微生物及び/又はバイオフィルム形成の抑制を維持するために、特に再循環プロセス水に添加されてもよい。更に、又は代わりに、上記化合物は、原材料の流れに添加されてもよい。例えば、一方又は両方の化合物は、プロセスの原材料として使用されるセルロース系繊維材料、例えば、リグノセルロース系繊維材料に添加されてもよい。
【0043】
腐食は、これらの工業環境、例えば、多くの鋼のグレードが、気相又は水相と気相との間の界面で活性塩素又は他のハロゲンの作用を受けやすい抄紙機における懸念事項である。ハロゲンが促進する電気化学的プロセスはまた、界面での腐食に寄与し得る。水面レベルより上にある、抄紙機の多くの構成要素は、より軟らかい鋼材料で形成されている。そのような腐食は、ショートループにおいて、特に問題である。本発明によれば、これらの問題は最小限に抑えられる。これは、投与される安定化塩素化合物の量が、抗菌化合物の存在のおかげで最小限に維持され得るためである。
【0044】
安定化塩素化合物は、活性塩素として計算され、かつプロセス水の体積に基づいて、0.1~5ppm、好ましくは0.1~2ppm、より好ましくは0.1~1ppmの範囲の量となるように投与されてもよい。通常、プロセス水に投与される量は、システムにおけるプロセス水の体積、及び連続投与の場合には、プロセス水への安定化塩素化合物の流量に基づいて計算されてもよい。計算される量は、水の供給が清浄である場合、プロセス水において測定される量に対応するはずである。安定化塩素化合物からの活性塩素を最初に消費する量の有機物又は化学化合物などの物質をプロセス水の供給が含有する場合、計算される量は、プロセス水において測定される量に対応しない。この場合、プロセス水の体積に基づいて、活性塩素として上記で計算される量を達成するように、より多い量の安定化塩素化合物が使用される必要がある。
【0045】
投与される抗菌化合物の量は、活性化合物として計算され、かつプロセス水の体積に基づいて、0.01~100ppm、0.01~50ppm、0.01~40ppm、又は0.01~20ppm、好ましくは0.01~10ppm、より好ましくは0.01~2ppmの範囲である。好ましくは、投与される抗菌化合物の量は、活性化合物として計算され、かつプロセス水の体積に基づいて、0.01~1ppm、好ましくは0.01~0.5ppm、より好ましくは0.01~0.3ppm、なおより好ましくは0.05~0.2ppmの範囲である。
【0046】
一般に、本発明に係る抗菌システムは、生物静力学的量又は殺生物量でプロセス水に添加されてもよい。生物静力学的量とは、微生物又はバイオフィルムの活性及び/又は増殖・成長を少なくとも防止したり、抑制したりするのに十分な量を指す。殺生物量とは、微生物又はバイオフィルムの活性及び/又は増殖・成長を低減したり、プロセス水中に存在する微生物のほとんど又は全てを死滅させたりすることができる量などの、より効果的な作用を指す。
【0047】
本発明は、工業循環水などの工業プロセス水を処理するための、上で定義したような抗菌システムの使用を更に提供する。
【0048】
本発明は、工業プロセス水における微生物の増殖を低減又は防止するための、上で定義したような抗菌システムの使用を更に提供する。
【0049】
本発明は、バイオフィルムの形成を低減若しくは防止する、及び/又は形成されたバイオフィルムを低減若しくは除去するための、上で定義したような抗菌システムの使用を更に提供する。
【0050】
本発明は、工業プロセス水における微生物、好ましくは細菌の増殖を低減又は防止する方法を更に提供する。
【0051】
本発明は、工業プロセス水において、バイオフィルムの形成を低減若しくは防止する、及び/又は形成されたバイオフィルムを低減若しくは除去する方法を更に提供する。
【0052】
ここで、本発明を、添付の図面を参照しながら、単なる例として、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】本発明で使用される化学化合物の腐食効果を示す棒グラフである。
【
図2】本発明で使用される化学化合物の腐食効果を示す更なる棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0054】
「含む(comprise)」という用語は、本明細書及び特許請求の範囲を通じて使用される場合、「含む(include)又はからなる(consist of)」を意味する。この用語は、少なくともこの用語に続く特徴が含まれることを意味し、明示的に記述されていない他の特徴が含まれることを排除しない。この用語はまた、この用語に続く特徴のみからなる実体も意味し得る。
【0055】
実験手順
材料及び方法
抄紙機のバイオフィルムで一般的に見出される微生物種であるメイオサーマス・シルバヌス(Meiothermus silvanus)(エクマンJ(Ekman J)、工業微生物学及びバイオテクノロジージャーナル(Journal of Industrial Microbiology & Biotechnology)、34巻、p.203-211)、及び抄紙機の環境で一般的に見出される別の種であるシュードキサントモナス・タイワネンシス(Pseudoxanthomonas taiwanensis)(デジャルダン,E&ボーリュ,C(Desjardins,E & Beaulieu,C)、工業微生物学及びバイオテクノロジージャーナル(Journal of Industrial Microbiology & Biotechnology)、30巻、p.141-145)の純粋培養物を使用して、バイオフィルムの形成を防止するための様々な化学物質の有効性を調べた。
【0056】
バイオフィルム試験は、ペグ蓋を備える96マイクロウェルプレートのウェル(Thermo Fischer Scientific Inc.、米国)を使用して、繊維を含有する合成抄紙機水SPW(synthetic paper machine water)(ペルトラ他(Peltola,et al.)、工業微生物学及びバイオテクノロジージャーナル(J.Ind.Microbiol.Biotechnol.)、38巻、p.1719-1727により調製)で行った。各ウェルに高流をもたらす回転振盪(150rpm)を用いて、プレートを45℃でインキュベートした。
【0057】
3-[(4-メチルフェニル)スルホニル]-2-プロペンニトリル(以下、化合物Aと呼ぶ)、Kemira製、純度>98%E異性体。
【0058】
2,2-ジブロモ-3-ニトリロプロピオンアミド(以下、DBNPAと呼ぶ)は、Kemira Oyjから入手した(Fennosan R20、20%の活性成分)。
【0059】
次亜塩素酸ナトリウム溶液は、Kemira Oyjから入手した(15%の活性成分)。活性塩素は経時的に分解するため、溶液中の活性塩素の量を、各実験の前に測定した。
【0060】
モノクロラミン(MCA)は、最初に希釈水をボトルに、次いで、既知量の活性塩素を含む次亜塩素酸ナトリウム溶液を添加することによって、新たに調製した。混合後、1.0%の活性塩素を含むMCA水溶液となるように、等モルの希硫酸アンモニウム溶液を添加した。
【0061】
バイオフィルム試験
ペグ蓋を備える96マイクロウェルプレートのウェルに、SPWを充填し、純粋細菌培養物を播種した。バイオフィルムを、試験対象のいずれの化学化合物も添加せずに、回転振盪(150rpm)を用いて、45℃で24時間成長させた。
【0062】
試験を開始してから24時間後、ウェルを空にし、SPWの新しい溶液に、純粋細菌培養物を播種し、異なる量の試験対象の化学化合物とともに加えて、元のペグ蓋を元の配置に戻した。更に24時間後、ウェルを空にし、ペグ上のバイオフィルム量を定量化した。
【0063】
形成されたバイオフィルムの定量化
ペグ表面上に形成されたバイオフィルムの量は、200μlの1%クリスタルバイオレット(Merck Millipore KGaA、ドイツ)のメタノール溶液を、清浄な96ウェルプレートの各ウェルに添加し、バイオフィルムを含むペグ蓋をその上に配置することにより、染色溶液で定量化した。3分後、ウェルを空にし、ウェル及びペグを水道水で3回すすいだ。最後に、ペグ蓋を清浄な96ウェルプレートに配置し、付着したクリスタルバイオレットをエタノールに溶解し、595nmの吸光度を測定した。
【0064】
実施例1~2に示される全ての百万分率(ppm:parts per million)の量は、活性成分としてのものである。影響値は、化学物質を添加しない場合との比較に基づいて、バイオフィルムの低減パーセンテージとして計算する。正の値は、バイオフィルムの量の低減を示す一方、負の値は、バイオフィルムの量の増大を示す。
【0065】
表1は、SPW中、45℃及び150rpm(高混合)、化合物Aの存在及び非存在下での、メイオサーマス・シルバヌス(Meiothermus silvanus)のバイオフィルムに対する次亜塩素酸ナトリウムの投与の効果を示す。バイオフィルムを染色し、吸光度測定により定量化した。投与量は、活性成分として示されている。
【0066】
【0067】
表2は、SPW中、45℃及び150rpm(高混合)、化合物Aの存在及び非存在下での、シュードキサントモナス・タイワネンシス(Pseudoxanthomonas taiwanensis)のバイオフィルムに対する次亜塩素酸ナトリウムの投与の効果を示す。バイオフィルムを染色し、吸光度測定により定量化した。投与量は、活性成分として示されている。
【0068】
【0069】
表1及び表2は、化合物Aの存在及び非存在下で、メイオサーマス・シルバヌス(Meiothermus silvanus)及びシュードキサントモナス・タイワネンシス(Pseudoxanthomonas taiwanensis)それぞれのバイオフィルムの形成を低減及び防止する、塩素含有バイオサイドである次亜塩素酸ナトリウムの能力を実証している。試験条件は、紙又は板紙作製プロセス条件(合成抄紙機水、高温、繊維あり、高流)を模倣した。塩素含有バイオサイドである次亜塩素酸ナトリウムは、それ自体では、8又は16ppmまでの投与量においても、許容可能なバイオフィルム低減の有効性に達するほど効果はなかった。許容可能な又は顕著なバイオフィルム低減の有効性に達するために、次亜塩素酸ナトリウムは、化合物Aの存在下で、4又は8ppmの活性化合物の投与量を必要とした。
【0070】
〔実施例2〕
表3は、SPW中、45℃及び150rpm(高混合)、化合物Aの存在及び非存在下での、メイオサーマス・シルバヌス(Meiothermus silvanus)のバイオフィルムに対するMCAの投与の効果を示す。バイオフィルムを染色し、吸光度測定により定量化した。投与量は、活性成分として示されている。
【0071】
【0072】
表4は、SPW中、45℃及び150rpm(高混合)、化合物Aの存在及び非存在下での、シュードキサントモナス・タイワネンシス(Pseudoxanthomonas taiwanensis)のバイオフィルムに対するMCAの投与の効果を示す。バイオフィルムを染色し、吸光度測定により定量化した。投与量は、活性成分として示されている。
【0073】
【0074】
表3及び表4は、化合物Aの存在及び非存在下で、メイオサーマス・シルバヌス(Meiothermus silvanus)及びシュードキサントモナス・タイワネンシス(Pseudoxanthomonas taiwanensis)それぞれのバイオフィルムの形成を低減及び防止する、安定化塩素化合物であるMCAの能力を実証している。試験条件は、紙又は板紙作製プロセス条件(合成抄紙機水、高温、繊維あり、高流)を模倣した。安定化塩素化合物であるMCAは、それ自体では、低投与量において、許容可能なバイオフィルム低減の有効性に達するほど効果はなかった。同様に、化合物Aも、それ自体では、低投与量において、許容可能なバイオフィルム低減の有効性に達するほど効果はなかった。しかしながら、有意なバイオフィルム低減の有効性に達するために、化合物Aの存在下で、MCAは、0.5又は1ppmの活性化合物の投与量しか必要としなかった。この結果は、化合物A及びMCAの組み合わせが、有効な抗バイオフィルム有効性のために、低投与量で使用され得ることを示す。
【0075】
抗バイオフィルム有効性に関する結果は、驚くべきものであり、重要である。比較的低い濃度では、次亜塩素酸ナトリウムなどの化合物は、バイオフィルムに対して効果がない。ベンゼンスルホニル化合物である化合物Aの存在は、このバイオサイド化合物の効果を増加させるが、SPWにおいて高度に有効であるためにはあまり十分ではない。より高い濃度の次亜塩素酸塩が企図される場合、更に高いレベルの活性ハロゲンの存在は、工業装置に対して高い腐食作用を有すると予想される。低濃度では、化合物Aもまた、抗バイオフィルム剤としては効果がない。しかしながら、驚くべきことに、低濃度の化合物Aと低濃度のMCAとの組み合わせは、バイオフィルムに対して効果があった。少量の活性塩素の使用しか必要としないため、このことは、活性塩素によって媒介される腐食のレベルを有意に低減させるという理由で、工業プロセスにおけるバイオフィルムの抑制に重要である。同様の効果は、MCA以外の安定化塩素化合物及び化合物A以外の式(I)のベンゼンスルホニル化合物から得られ得る。
【0076】
〔実施例3〕
(腐食試験)
この実施例では、抗菌化合物及び安定化塩素化合物を、腐食試験に供する。
【0077】
腐食試験は、ASTM G31-72に準拠して行った。還流冷却器を備える容積2Lのガラス反応器を、気圧下で使用した。反応器を、55℃の温度の水浴に浸した。アルカリ性上質紙抄紙機からの1.5Lの白水を、各反応器に添加した。試験は、反応器において、撹拌することなく、7日間の期間にわたって、二重に(in duplicate)行った。試験は、化合物A、MCA、及び白水のみを含む参照物のサンプルを用いて実施した。2つのステンレス鋼グレード:AISI 304及びAISI 316Lを、試験で使用した。
【0078】
試験の前に、適切な鋼グレードのクーポンを研磨して、金属表面から不動態被膜を除去した。研磨後、クーポン表面を、超音波浴で10分間、エタノールを用いて清浄にし、最後に脱脂し、アセトンを用いて乾燥させた。クーポンは、同じ日に計量し、使用した。
【0079】
試験の完了後、クーポンを、ブラシを用い、洗浄洗剤及び熱水を使用して洗浄した。次いで、それらを脱イオン水で洗い流し、5%HClの超音波浴で10分間、酸洗いした。
【0080】
上記試験方法によれば、腐食は、均一腐食の質量損失として計算される。
【0081】
試験される各化学物質に対して、3つの試験クーポンを各反応器に置いた。1つは液相に完全に浸漬し、1つは液相に半浸漬し、1つは気相に置いた。試験される化学物質を、0.08ppmの化合物A及び総活性塩素として4ppmのMCAの最終濃度になるように、水に投与した。化学物質は開始時に添加され、1日当たり1回又は2回、本試験の間に再投与された。合計で、化合物Aは6回投与され、MCAは9回投与された。投与量の目標は、現実的な使用条件、すなわち、プロセス水における化学物質のレベルの変動をもたらすショック投与量に一致させることであった。
【0082】
結果
高品質鋼316Lグレードでは、7日の試験時間にわたって、いずれのサンプルにおいても、腐食は観察されなかった。
【0083】
304グレードでは、1つの処理のみで軽度の腐食が観察された。MCAで処理した反応器においては、半浸漬したクーポンが軽度の腐食を示した。しかしながら、化合物Aで処理した反応器のいずれにおいても、また処理していない参照物においても、腐食はなかった。これらの結果は、
図1の棒グラフにまとめられている。これは、55℃で7日間実行した二重試験反応器(duplicate reactors)からの結果の平均を示す。
【0084】
〔実施例4〕
(腐食試験)
この実施例では、実施例3で述べた試験を、ステンレス鋼グレード304を用いて継続した。実施例3と同じセットアップを使用し、製紙工場からの新しいプロセス水を用いて、化学物質の濃度は10倍増加させた。そのような高い投与量は、工業的実施における現実的な投与量よりもはるかに高いが、より高い投与量を使用して、腐食の増加が予想される、化学物質とのより長い接触期間を模倣した。
【0085】
これらの試験では、化合物A及びMCAの組み合わせを、0.08ppmの化合物A及び総活性塩素として4ppmのMCAの現実的な低投与量でも試験した。
【0086】
結果
結果を
図2に示す。これは、55℃で7日間実行した二重試験反応器(duplicate reactors)からの結果の平均を示す。
【0087】
化合物Aで処理した全ての反応器において、鋼クーポンの腐食率は、プロセス水のみを用いた反応器と同様に低かった。MCA濃度を10倍増加させると、腐食が増加した。MCAで処理した反応器において、半浸漬したクーポンは、化合物Aで処理した反応器において半浸漬したクーポンよりも10.5倍高い腐食を示した。MCAで処理した反応器において、気相にあったクーポンは、化合物Aで処理した反応器における気相のクーポンよりも2.5倍高い腐食を示した。半浸漬したクーポンにおけるより高いレベルの腐食は、気液界面での電気化学的プロセスに起因する。
【0088】
少ないMCA投与と化合物Aとの組み合わせは、プロセス水のみと比較して、同様に低い腐食率を示した。
【0089】
これらの結果は、バイオフィルムの処理のために有効なレベルの安定化塩素化合物(例えば、MCA)及びベンゼンスルホニル抗菌化合物(例えば、化合物A)が、工業装置で使用される種類のステンレス鋼に著しい腐食を引き起こさないことを示唆する。
【国際調査報告】