(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】電磁鋼板絶縁被膜組成物、電磁鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 22/00 20060101AFI20250109BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C23C22/00 B
C21D8/12 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537967
(86)(22)【出願日】2022-12-21
(85)【翻訳文提出日】2024-06-21
(86)【国際出願番号】 KR2022020911
(87)【国際公開番号】W WO2023121272
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0185155
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム, ジョンウ
(72)【発明者】
【氏名】ハ, ボンウ
(72)【発明者】
【氏名】イ, ドンギュ
(72)【発明者】
【氏名】ノ, テヨン
【テーマコード(参考)】
4K026
4K033
【Fターム(参考)】
4K026AA03
4K026AA22
4K026BA03
4K026BA08
4K026BB05
4K026CA16
4K026CA18
4K026CA23
4K026CA39
4K026DA02
4K033AA01
4K033AA02
4K033DA02
4K033QA01
4K033QA02
4K033RA03
4K033RA04
4K033SA04
4K033TA03
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、高絶縁性、高温耐熱性、耐食性、密着性及び顧客会社での再コーティング性など高機能性を有する電磁鋼板絶縁被膜組成物、電磁鋼板、及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明の電磁鋼板用絶縁被膜組成物は、固形分100重量部に対して、樹脂に無機ナノ粒子が置換された有/無機複合体30ないし60重量部、金属リン酸塩15ないし45重量部、カオリン10ないし40重量部、無機分散剤1ないし10重量部、及び炭素構造体0.1ないし5重量部含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分100重量部に対して、
樹脂に無機ナノ粒子が置換された有/無機複合体30ないし60重量部、
金属リン酸塩15ないし45重量部、
カオリン10ないし40重量部、
無機分散剤1ないし10重量部、及び
炭素構造体0.1ないし5重量部含むことを特徴とする電磁鋼板用絶縁被膜組成物。
【請求項2】
前記樹脂に無機ナノ粒子が置換された有/無機複合体は、前記樹脂25ないし45重量部、及び前記無機ナノ粒子5ないし15重量部含むことを特徴とする請求項1に記載の電磁鋼板用絶縁被膜組成物。
【請求項3】
前記樹脂は、エポキシ系樹脂、エステル系樹脂、メラミン系樹脂、シロキサン系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、エチレン系樹脂及びウレタン系樹脂の中から選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の電磁鋼板用絶縁被膜組成物。
【請求項4】
無機ナノ粒子は、平均粒径が10ないし50nmであることを特徴とする請求項1に記載の電磁鋼板用絶縁被膜組成物。
【請求項5】
前記無機ナノ粒子は、SiO
2、Al
2O
3、TiO
2、MgO、ZnO、CaO、及びZrO
2のうち1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の電磁鋼板用絶縁被膜組成物。
【請求項6】
前記金属リン酸塩は、Al、Mg、Ca、Co、Mn、Zn、Zr及びFeのうち1種以上の金属を含むことを特徴とする請求項1に記載の電磁鋼板用絶縁被膜組成物。
【請求項7】
前記金属リン酸塩は、Alリン酸塩を含み、Mg、Ca、Co、Mn、Zn、Zr及びFeのうち1種以上の金属リン酸塩を含むことを特徴とする請求項1に記載の電磁鋼板用絶縁被膜組成物。
【請求項8】
前記無機分散剤は、二酸化チタン(TiO
2)、硫酸バリウム(Ba
2SO
4)、炭酸カルシウム(CaCO
3)、二酸化ケイ素(SiO
2)及びタルク(3MgO・4SiO
2・H
2O)のうち1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の電磁鋼板用絶縁被膜組成物。
【請求項9】
前記無機分散剤は、平均粒子が0.05ないし10μmであることを特徴とする請求項1に記載の電磁鋼板用絶縁被膜組成物。
【請求項10】
前記炭素構造体は、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、及びグラフェンのうちの1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の電磁鋼板用絶縁被膜組成物。
【請求項11】
電磁鋼板基材と、
前記電磁鋼板基材の表面上に位置する絶縁被膜と、を含み、
前記絶縁被膜は、樹脂に無機ナノ粒子が置換された有/無機複合体30ないし60重量部、金属リン酸塩15ないし45重量部、カオリン10ないし40重量部、無機分散剤1ないし10重量部、及び炭素構造体0.1ないし5重量部含むことを特徴とする電磁鋼板。
【請求項12】
前記絶縁被膜は、厚さが1ないし10μmであることを特徴とする請求項11に記載の電磁鋼板。
【請求項13】
電磁鋼板基材を準備するステップと、
前記電磁鋼板基材の表面に請求項1ないし請求項10のうちのいずれか一項に記載の絶縁被膜組成物を塗布するステップと、
前記絶縁被膜組成物が塗布された電磁鋼板基材を熱処理するステップと、を含むことを特徴とする電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁鋼板絶縁被膜組成物、電磁鋼板、及びその製造方法に係り、より詳細には、電磁鋼板絶縁被膜組成物内の成分及び成分比を調節して絶縁性、高温耐熱性、耐食性、密着性及び顧客会社での再コーティング性を向上させた電磁鋼板絶縁被膜組成物、電磁鋼板、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁鋼板は、変圧機、モータ、電気機器用素材に用いられる製品であって、機械的特性など加工性を重要視する一般炭素鋼とは異なり、電気的特性を重要視する機能性製品である。要求される電気的特性としては、鉄損が低いこと、磁束密度、透磁率及び占積率が高いことなどがある。
電磁鋼板は、方向性電磁鋼板と無方向性電磁鋼板とに区分される。
方向性電磁鋼板は、2次再結晶と呼ばれる異常結晶粒成長現象を用いて、Goss集合組織({110}<001>集合組織)を鋼板全体に形成させ、圧延方向の磁気的特性に優れた電磁鋼板である。無方向性電磁鋼板は、圧延板上のあらゆる方向に磁気的特性が均一な電磁鋼板である。
無方向性電磁鋼板は、圧延板上のあらゆる方向に磁気的性質が均一な鋼板であって、モータ、発電機の鉄芯、電動機、小型変圧機などに幅広く用いられている。特に無方向性電磁鋼板は、電気損失の低減のための低鉄損化(冷蔵庫、工場用モータ)、小型/高効率化のための高磁束密度化(真空掃除機用モータなど)及び高出力のための周波数の増加に対応する極薄化(OA機器、電気自動車駆動モータ)等のための高級化に進んでいる傾向にある。
【0003】
このような高級化していく無方向性電磁鋼板で、効率的なエネルギー利用の面で、高絶縁性のためには厚い絶縁被膜(厚膜)は必須である。例えば中型及び大型電動機、発電機及び変圧機用に用いられる無方向性電磁鋼板は、鋼から形成された積層体がパンチングされた状態で用いられる場合、層間電流損失を最小化させるために高い水準の絶縁性を提供する絶縁被膜を要求する。このような高い水準の絶縁性は、応力除去焼鈍(Stress-Relief Annealing、SRA)処理などの熱処理後にも要求されることもある。
また、高級の無方向性電磁鋼板は、シリコン含有量が高いため、素材の硬度増加により、スリッティング(Slitting)及び打抜(Punching)加工時に、スリッター(Slitter)と金型(Press)に多くのストレス(Stress)を与えるという加工性が劣るという問題があるので、厚膜による被膜形成が要求される。
一方、無方向性電磁鋼板の絶縁被膜形成用絶縁被膜溶液は、大別すると、無機、有機、有-無機複合コーティング溶液の3種類があり、無機コーティング溶液をまず塗布した後、有機コーティング溶液をコーティングする方法も研究されている。
無機系コーティング溶液は、リン酸塩などのような無機物を主成分として、高温耐熱性、溶接性、積層性などに優れた被膜を形成することができ、EIコア用に用いられている。しかし、絶縁被膜の硬度が高いため、打抜時に金型の損傷が有機物含有被膜材より速いため、打抜加工性には有利でない絶縁被膜溶液である。
有機系コーティング溶液は、有機物を主要成分として打抜性の面で非常に優れている。また、膜の厚さを高くしても密着性が良好であるので、層間絶縁性が高く要求される大型鉄芯に多く用いられる。有機被膜の溶接性は、溶接時に樹脂分解ガスが発生して良好な特性を示すことができない。
このような理由ため、耐熱性、絶縁性などを重視して、リン酸塩、クロム酸塩などの無機物系の打抜加工性欠点を補完した有機物と無機物を同時に用いる有-無機複合コーティング溶液が開発された。このような絶縁コーティング溶液を用いて形成させた被膜の場合には、無機物の特性である高温耐熱性と有機物の潤滑性の効果を同時に満足し、表面外観もキレイである。
有-無機コーティング溶液を用いた絶縁被膜組成物として、アルミニウムリン酸塩、無機微粒ケイ酸塩とアクリル樹脂を含む絶縁被膜組成物が知られている。しかし、この絶縁被膜組成物は、金属リン酸塩を用いて、リン酸塩に存在する遊離リン酸によって被膜のスティッキー(sticky)性及び遊離リン酸塩析出の問題が発生し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的とするものは、電磁鋼板絶縁被膜組成物、電磁鋼板、及びその製造方法を提供することである。具体的には、高絶縁性、高温耐熱性、耐食性、密着性及び顧客会社での再コーティング性など高機能性を有する電磁鋼板絶縁被膜組成物、電磁鋼板、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の電磁鋼板用絶縁被膜組成物は、固形分100重量部に対して、樹脂に無機ナノ粒子が置換された有/無機複合体30ないし60重量部、金属リン酸塩15ないし45重量部、カオリン10ないし40重量部、無機分散剤1ないし10重量部、及び炭素構造体0.1ないし5重量部含むことを特徴とする。
【0006】
樹脂に無機ナノ粒子が置換された有/無機複合体は、樹脂25ないし45重量部、及び無機ナノ粒子5ないし15重量部含む。
【0007】
樹脂は、エポキシ系樹脂、エステル系樹脂、メラミン系樹脂、シロキサン系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、エチレン系樹脂及びウレタン系樹脂の中から選択される1種以上を含む。
【0008】
無機ナノ粒子は、平均粒径が10ないし50nmである。
【0009】
無機ナノ粒子は、SiO2、Al2O3、TiO2、MgO、ZnO、CaO、及びZrO2のうち1種以上を含む。
【0010】
金属リン酸塩は、Al、Mg、Ca、Co、Mn、Zn、Zr及びFeのうち1種以上の金属を含む。
【0011】
金属リン酸塩は、Alリン酸塩を含み、Mg、Ca、Co、Mn、Zn、Zr及びFeのうち1種以上の金属リン酸塩を含む。
【0012】
無機分散剤は、二酸化チタン(TiO2)、硫酸バリウム(Ba2SO4)、炭酸カルシウム(CaCO3)、二酸化ケイ素(SiO2)及びタルク(3MgO・4SiO2・H2O)のうち1種以上を含む。
【0013】
無機分散剤は、平均粒子が0.05ないし10μmである。
【0014】
炭素構造体は、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、及びグラフェンのうちの1種以上を含む。
【0015】
本発明の一実施例に係る電磁鋼板は、電磁鋼板基材と、電磁鋼板基材の表面上に位置する絶縁被膜と、を含み、絶縁被膜は、樹脂に無機ナノ粒子が置換された有/無機複合体30ないし60重量部、金属リン酸塩15ないし45重量部、カオリン10ないし40重量部、無機分散剤1ないし10重量部、及び炭素構造体0.1ないし5重量部含む。
【0016】
絶縁被膜は、厚さが1ないし10μmである。
【0017】
本発明の一実施例に係る電磁鋼板の製造方法は、電磁鋼板基材を準備するステップと、電磁鋼板基材の表面に絶縁被膜組成物を塗布するステップと、絶縁被膜組成物が塗布された電磁鋼板基材を熱処理するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、クロムを含まずに、溶液安定性に優れている。
また、本発明によると、高温耐熱性、耐食性、密着性及び顧客会社での再コーティング性にいずれも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例に係る電磁鋼板の断面の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
第1、第2及び第3等の用語は、多様な部分、成分、領域、層及び/又はセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これら用語は、ある部分、成分、領域、層又はセクションを他の部分、成分、領域、層又はセクションと区別するためにだけ使用される。したがって、以下で述べる第1部分、成分、領域、層又はセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層又はセクションとして言及されることがある。
ここで使用される専門用語は、単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は、文句がこれと明確に反対の意味を示さない限り複数形態も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、ステップ、動作、要素及び/又は成分を具体化し、他の特性、領域、整数、ステップ、動作、要素及び/又は成分の存在や付加を除外するものではない。
ある部分が他の部分の「の上に」又は「上に」あると言及する場合、これは、直に他の部分の上に又は上にあるか、その間に他の部分が存在する可能性がある。対照的にある部分が他の部分の「真上に」あると言及する場合、その間に他の部分が介在されない。
異なって定義してはいないが、ここに使用される技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一な意味を有する。通常使用される辞典に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に合致する意味を有するものと追加解釈され、定義されない限り理想的又は非常に公式的な意味に解釈されない。
【0021】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施例について本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳しく説明する。しかし、本発明は、色々な異なる形態で具現することができ、ここで説明する実施例に限定されない。
【0022】
本発明の一実施例に係る電磁鋼板用絶縁被膜組成物は、固形分100重量部に対して、樹脂に無機ナノ粒子が置換された有/無機複合体30ないし60重量部、金属リン酸塩15ないし45重量部、カオリン10ないし40重量部、無機分散剤1ないし10重量部、及び炭素構造体0.1ないし5重量部含む。
【0023】
本発明の一実施例に係る電磁鋼板用絶縁被膜組成物は、組成物内の成分及び成分比を調節して絶縁性、高温耐熱性、耐食性、密着性及び顧客会社での再コーティング性を向上させることができる。
【0024】
以下、本発明の一実施例に係る電磁鋼板用絶縁被膜組成物成分を具体的に説明する。
【0025】
本発明の一実施例に係る電磁鋼板用絶縁被膜組成物は、固形分100重量部に対して、樹脂に無機ナノ粒子が置換された有/無機複合体30ないし60重量部含む。
【0026】
有/無機複合体は、樹脂と無機ナノ粒子とからなり、樹脂の機能基のうちの一部又は全部に無機ナノ粒子が置換され、樹脂及び無機ナノ粒子が結合された状態で組成物内に存在することがある。無機ナノ粒子を樹脂に結合させず、単独で添加する場合、無機ナノ粒子同士が凝集して、分散が行われないこともある。
【0027】
有/無機複合体内の樹脂は、絶縁被膜に絶縁性を付与して絶縁被膜と鋼板基材の密着性を付与する役割を果たし、無機ナノ粒子は、金属リン酸塩の浸漬(precipitation)や凝集(agglomeration)現象を防止し、応力除去焼鈍(Stress relief Annealing)後の表面特性をより優れるように発現することに寄与する。
【0028】
有/無機複合体は、絶縁被膜組成物は、固形分100重量部に対して、30ないし60重量部含む。有/無機複合体が過度に少なく含まれる場合、前述した絶縁性、密着性などを適切に確保することが難しい。逆に、有/無機複合体が過度に多く含まれる場合、相対的に金属リン酸塩の添加が減って、高温耐熱性などを確保することが難しいこともある。より具体的に、有/無機複合体は、絶縁被膜組成物は、固形分100重量部に対して、35ないし55重量部含む。本発明の一実施例で、重量部とは、成分の重量間の相対的な比率を示す。固形分とは、絶縁被膜組成物内で溶媒など揮発分成分を除いた残りの成分の重量を意味する。
【0029】
樹脂は高分子化合物を意味し、モノマーと対比される概念である。電磁鋼板用絶縁被膜組成物の固形分100重量部に対して、樹脂は25ないし45重量部含んでもよい。樹脂が少なく含まれる場合、絶縁性、密着性などを適切に確保することが難しい。逆に、樹脂が過度に多く含まれる場合、高温耐熱性、耐食性を適切に確保することが難しい。より具体的に、樹脂は、25ないし35重量部含んでもよい。
【0030】
具体的には、樹脂は、エポキシ系樹脂、エステル系樹脂、メラミン系樹脂、シロキサン系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、エチレン系樹脂及びウレタン系樹脂の中から選択される1種以上を含んでもよい。より具体的に、エポキシ系樹脂、エステル系樹脂、メラミン系樹脂、及びアクリル系樹脂のうち1種以上を含んでもよい。ここで、エポキシ系とは、例えば主鎖内にエポキシ基又はエポキシ基から由来する基が存在することを意味する。
【0031】
無機ナノ粒子は、絶縁被膜組成物の浸漬(precipitation)や凝集(agglomeration)現象を防止し、応力除去焼鈍(Stress relief Annealing)後の特性をより優れるように発現することに寄与する。電磁鋼板用絶縁被膜組成物の固形分100重量部に対して、無機ナノ粒子は、5ないし15重量部含んでもよい。無機ナノ粒子が少なく含まれる場合、分散性、高温耐熱性などを適切に確保することが難しい。逆に、無機ナノ粒子が過度に多く含まれる場合、密着性を適切に確保することが難しい。より具体的に、無機ナノ粒子は、25ないし35重量部含んでもよい。 無機ナノ粒子は、平均粒径が10ないし50nmであってもよい。無機ナノ粒子は、SiO2、Al2O3、TiO2、MgO、ZnO、CaO、及びZrO2のうち1種以上を含んでもよい。より具体的に、SiO2、Al2O3、及びTiO2のうち1種以上を含んでもよい。
【0032】
電磁鋼板用絶縁被膜組成物の固形分100重量部に対して、金属リン酸塩は、15ないし45重量部含む。
【0033】
本発明の一実施例で用いられる金属リン酸塩は、Mx(H2PO4)yの化学式で表されるものであって、高温耐熱性を確保する役割を果たす。
【0034】
金属リン酸塩は、Al、Mg、Ca、Co、Mn、Zn、Zr及びFeのうち1種以上の金属を含んでもよい。例えば、Alを含むリン酸塩は、第1リン酸アルミニウム(Al(H3PO4)3)であってもよい。より具体的に、金属リン酸塩は、Alリン酸塩を含み、Mg、Ca、Co、Mn、Zn、Zr及びFeのうち1種以上の金属リン酸塩を含んでもよい。
【0035】
金属リン酸塩は、金属水酸化物(Mx(OH)y)又は金属酸化物(MxO)とリン酸(H3PO4)の反応を用いて製造することができる。
例えば、85重量%の遊離リン酸リン(H3PO4)を含むリン酸水溶液を100重量部基準にして、金属水酸化物(Mx(OH)y)又は金属酸化物(MxO)をそれぞれ投入し、80ないし90℃で6ないし10時間反応させると、それぞれの金属リン酸塩を得ることができる。
【0036】
電磁鋼板用絶縁被膜組成物の固形分100重量部に対して、カオリン10ないし40重量部含む。カオリン(kaolin、Al2Si2O5(OH)4))は、クレー(clay)とも称し、体質顔料の役割を果たす。カオリンは、絶縁被膜の耐食性を向上させる役割を果たす。カオリンが過度に少なく含まれると、耐食性が劣ることがある。カオリンが過度に多く含まれると、絶縁被膜の密着性が劣ることがある。より具体的に、カオリンは、20ないし35重量部含まれてもよい。
【0037】
電磁鋼板用絶縁被膜組成物の固形分100重量部に対して、無機分散剤1ないし10重量部含む。無機分散剤は、前述したカオリンを組成物内に適切に分散させる役割を果たす。カオリンが適切に分散しないとき、カオリンによる耐食性を確保することが難しいこともある。無機分散剤が過度に少ないと、耐食性が劣ることがある。無機分散剤が過度に多いと、絶縁被膜の密着性が劣ることがある。
【0038】
カオリンは、平均粒子が0.2ないし0.8μmであってもよく、板状結晶形態のカオリンを用いてもよい。
【0039】
無機分散剤は、二酸化チタン(TiO2)、硫酸バリウム(Ba2SO4)、炭酸カルシウム(CaCO3)、二酸化ケイ素(SiO2)及びタルク(3MgO・4SiO2・H2O)のうち1種以上を含んでもよい。より具体的に、二酸化チタン(TiO2)を含んでもよい。
【0040】
無機分散剤は、平均粒子が0.05ないし10μmであってもよい。無機分散剤は、その種類によって形態が異なってもよい。例えば、硫酸バリウムの場合、棒柱形、二酸化チタンの場合、球形、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素の場合、無定形、タルクの場合、板状結晶、塊状などの形態を用いてもよい。例えば、二酸化チタンの場合、平均粒子が50ないし100nmの球形を用いてもよい。
【0041】
電磁鋼板用絶縁被膜組成物の固形分100重量部に対して、炭素構造体0.1ないし5重量部含む。炭素構造体は、絶縁被膜の耐食性を向上させる役割を果たし、同時に鋼板基材に存在するクラックなどの欠陥を除去する役割を果たす。炭素構造体が過度に少なく含まれる場合、前述した役割を適切に果たせにくいこともある。炭素構造体が過度に多く含まれる場合、絶縁被膜の密着性、絶縁性が劣ることがある。より具体的に、電磁鋼板用絶縁被膜組成物の固形分100重量部に対して、炭素構造体0.1ないし1重量部含んでもよい。
【0042】
炭素構造体は、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、及びグラフェンのうちの1種以上を含んでもよい。より具体的に、カーボンブラックを含んでもよい。
【0043】
前述した成分以外に絶縁被膜組成物は塗布を容易であり、成分を均一に分散させるために溶媒を含んでもよい。溶媒の量は特に制限しないが、固形分全体100重量部に対して、50重量部ないし500重量部含んでもよい。
【0044】
図1は、本発明の一実施例に係る電磁鋼板100の断面の概略図を示す。
図1に示されるように、本発明の一実施例に係る電磁鋼板100は、電磁鋼板基材10及び電磁鋼板基材10上に位置する絶縁被膜20を含む。
【0045】
電磁鋼板基材10は、一般的な無方向性又は方向性電磁鋼板を制限なしに用いてもよい。本発明の一実施例では、電磁鋼板基材10上に特別な成分の絶縁被膜20を形成することが主要構成であるので、電磁鋼板基材10に対する具体的な説明は省略する。
【0046】
絶縁被膜20の厚さは、1ないし10μmであってもよい。絶縁被膜20の厚さが過度に薄い場合、適切な絶縁性を確保することが難しい。絶縁被膜20の厚さが過度に厚い場合、占積率が低くなることがある。本発明の一実施例では、薄い厚さの絶縁被膜20を形成しても適切な絶縁性を確保することができる。より具体的に、絶縁被膜20の厚さは2ないし5μmであってもよい。
【0047】
絶縁被膜20は、前述した絶縁被膜の組成物内の固形分成分及び含有量比を維持することができる。具体的に、絶縁被膜20は、絶縁被膜の全体100重量部に対して、樹脂に無機ナノ粒子が置換された有/無機複合体30ないし60重量部、金属リン酸塩15ないし45重量部、カオリン10ないし40重量部、無機分散剤1ないし10重量部、及び炭素構造体0.1ないし5重量部含む。
【0048】
また、絶縁被膜20の構成については、絶縁被膜組成物に関連して詳細に説明したので、重複する説明は省略する。
【0049】
本発明の一実施例に係る電磁鋼板の製造方法は、電磁鋼板基材を準備するステップと、電磁鋼板基材の表面に絶縁被膜組成物を塗布するステップと、絶縁被膜組成物が塗布された電磁鋼板基材を熱処理するステップと、を含む。
【0050】
まず、電磁鋼板基材を準備する。電磁鋼板基材10は、一般的な無方向性又は方向性電磁鋼板を制限なしに用いてもよい。本発明の一実施例では、電磁鋼板基材10上に特別な成分の絶縁被膜20を形成することが主要構成であるので、電磁鋼板基材10の製造方法に対する具体的な説明は省略する。
【0051】
次いで、電磁鋼板基材の表面に絶縁被膜組成物を塗布する。絶縁被膜組成物については、前述したので、具体的な説明は省略する。
【0052】
次いで、絶縁被膜組成物が塗布された電磁鋼板基材を熱処理する。熱処理温度は、300ないし750℃であってもよい。温度が過度に低いと、被膜形成に長時間がかかり、白化現象が発生し得る。温度が過度に高いと、亀裂による耐熱性、耐ブルーイング性が低下することがある。
【0053】
以下、本発明の好ましい実施例、これに対比される比較例、及びこれらの評価例を記載する。しかし、下記の実施例は、本発明の好ましい一実施例であるだけで、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
【0054】
実施例
重量比で、3.15wt%のシリコン(Si)を含有し、板厚さ0.27mm無方向性電磁鋼板(150*50mm)を空試片にして、その上に表1にまとめた絶縁被膜組成物溶液をバーコーター(bar coater)及びロールコーター(roll coater)を用いて各々準備された空試片に6μm被膜が形成されるように塗布した後、温度範囲約400℃の乾燥炉で30秒間維持した後、空気中でゆっくり冷却した。下記の方法で絶縁被膜を評価して、表2にまとめた。
【0055】
表面状態は、コーティング及び硬化以降に表面縞模様及び欠陥発生程度によって評価した。表面縞模様及び欠陥発生が全くない場合、非常に優れる(◎)、表面縞模様及び欠陥発生が殆どない場合、優れる(○)、表面縞模様及び欠陥発生が一部存在する場合、普通(△)、及び表面縞模様及び欠陥発生がひどく発生した場合を劣る(×)と示した。
【0056】
絶縁性は、Franklin Insulation Testerによって測定されており、この測定器は、単板試験法装置であって、一定の圧力と一定の電圧下で電磁鋼板の表面絶縁抵抗を測定する装置である。電流の範囲は0~1,000Ampであり、絶縁測定方法は、測定試験片1枚を全電極の接触子が接触するようにplateの上に置いた後、加圧装置によって300psi(20.4atm)となるように圧力を加える。試験圧力になったとき、すべり抵抗器を調整して電圧0.5V下で電流計の目盛りを読む。それぞれの試験溶液に対して5枚を評価した。絶縁抵抗値が100Ω・cm2/lamination以上の場合、非常に優れる(◎)、60Ω・cm2/lamination以上の場合、良好(○)、40Ω・cm2/lamination以上の場合、普通(△)、40Ω・cm2/lamination未満の場合、不良(×)と示した。
【0057】
耐食性は、5%、35℃、NaCl溶液に8時間浸し、試片のサビ発生の有無を評価した。さび発生面積が2%以下の場合、非常に優れる(◎)、5%以下の場合、優れる(○)、30%以下の場合、普通(△)、及び50%以下の場合は、不良(×)と示した。
【0058】
高温耐熱性は、IEC60404-12の連続定格(Continuous rating、180+30℃、2500h)評価で行っており、高温耐熱性評価の前/後の絶縁抵抗、密着性(Cylindrical mandrel bending)及び占積率変化程度を評価した。連続定格評価後の絶縁抵抗、密着性及び占積率の変化程度が5%未満の場合、非常に優れる(◎)、10%未満の場合、優れる(○)、30%未満の場合、普通(△)、30%以上の場合は、劣る(×)と区分した。
【0059】
密着性は、試験した試片を5、10、20、30ないし100mmφの円弧に接して180°曲げる時に被膜剥離がない最小円弧直径として示したものである。ここで最小円弧直径が5mmΦ以下の場合、非常に優れる(◎)、10mmΦ以下の場合、優れる(○)、20mmΦ以下の場合、普通(△)、20mmΦ超過の場合は、劣る(×)と区分した。
【0060】
再コーティング性は、実施例の溶液で塗布した試片のコーティング層上に2次コーティング溶液である比較例1を塗布及び乾燥後、2次コーティング層の表面状態及び1次コーティング層との密着性を評価した。
【0061】
溶液安定性は、溶液を一週間放置する間、沈澱発生の有無を確認する方法で調査しており、未発生を良好(O)、発生を不良(×)と示した。
【0062】
絶縁特性は、ASTM A717国際規格に従って、Franklin測定器を活用してコーティング上部を測定した。
【0063】
炭素凝集体は、圧延垂直方向と垂直する断面をTEMイメージ及びcarbon EDS mappingイメージとして分析して、10ないし500nm粒子が1個以上Aggregateされたものを炭素凝集体と判定し、空いている空間を気孔と判定した。
【0064】
【0065】
【0066】
表1に示されるように、有/無機複合体、金属リン酸塩、カオリン、無機分散剤、炭素構造体が適切に含まれた実施例は、表面状態、絶縁性、耐食性、高温耐熱性、密着性及び再コーティング性にいずれも優れていることが確認できる。これに対し、カオリン、無機分散剤、炭素構造体を適切に含んでいない比較例は、表面状態、絶縁性、耐食性、高温耐熱性、密着性及び再コーティング性のうちの1以上が劣ることが確認できる。
【0067】
本発明は、実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態に製造することができ、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態に実施できるということを理解するはずである。したがって、以上で記述した実施例は、あらゆる面で例示的なものであって、限定的ではないものと理解しなければならない。
【符号の説明】
【0068】
100:電磁鋼板
10:電磁鋼板基材
20:絶縁被膜
【手続補正書】
【提出日】2024-06-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0066
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0066】
表1及び2に示されるように、有/無機複合体、金属リン酸塩、カオリン、無機分散剤、炭素構造体が適切に含まれた実施例は、表面状態、絶縁性、耐食性、高温耐熱性、密着性及び再コーティング性にいずれも優れていることが確認できる。これに対し、カオリン、無機分散剤、炭素構造体を適切に含んでいない比較例は、表面状態、絶縁性、耐食性、高温耐熱性、密着性及び再コーティング性のうちの1以上が劣ることが確認できる。
【国際調査報告】