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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】地熱抽出器
(51)【国際特許分類】
   F03G 4/00 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
F03G4/00 501
F03G4/00 511
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538032
(86)(22)【出願日】2022-12-19
(85)【翻訳文提出日】2024-08-21
(86)【国際出願番号】 US2022053312
(87)【国際公開番号】W WO2023121994
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】63/292,055
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522453418
【氏名又は名称】ジェイテック エナジー,インク
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】ロニー ジー ジョンソン
(57)【要約】
地熱抽出器は、伝熱流体と、伝熱流体供給導管とを含む。伝熱流体は、その飽和圧力以上の圧力において液体状態で供給導管内に維持される。地熱抽出器は、伝熱流体戻り導管と、それに結合される地熱源と、供給導管から戻り導管へ伝熱流体のフローを制御するように構成された少なくとも1つのフロー制御バルブと、戻り導管に結合される外部負荷とをさらに含む。伝熱流体が液体状態で戻り導管に供給されるにつれて、伝熱流体は地熱源から戻り導管に供給される熱によって戻り導管内で気化する。気化した伝熱流体は、戻り導管から外部負荷に供給される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝熱流体と、
伝熱流体供給導管であって、前記伝熱流体がその飽和圧力以上の圧力において液体状態で前記伝熱流体供給導管内に維持される、伝熱流体供給導管と、
伝熱流体戻り導管と、
該伝熱流体戻り導管に結合される地熱源と、
前記伝熱流体供給導管から前記伝熱流体戻り導管への前記伝熱流体のフローを制御するように構成された少なくとも1つのフロー制御バルブと、
前記伝熱流体戻り導管に結合される外部負荷と、
を備え、
前記伝熱流体が液体状態で前記伝熱流体戻り導管に供給されるにつれて、前記伝熱流体は前記地熱源から前記伝熱流体戻り導管に供給される熱によって前記伝熱流体戻り導管内で気化し、
気化した前記伝熱流体が前記伝熱流体戻り導管から前記外部負荷に供給される、地熱抽出器。
【請求項2】
前記伝熱流体は、水である、請求項1に記載の地熱抽出器。
【請求項3】
前記外部負荷は熱負荷であり、前記熱負荷に供給される前記気化した伝熱流体は液体状態に凝結して戻され、それによりその凝結潜熱を放出する、請求項1又は2に記載の地熱抽出器。
【請求項4】
前記伝熱流体供給導管に結合され、前記地熱源の温度において前記伝熱流体の蒸気圧以上の圧力で前記伝熱流体を前記少なくとも1つのフロー制御バルブに供給するように構成された液相伝熱流体ポンプをさらに備える請求項1から3のいずれか一項に記載の地熱抽出器。
【請求項5】
前記伝熱流体戻り導管の内容物を監視する少なくとも1つのセンサと、
前記少なくとも1つのセンサ及び前記少なくとも1つのフロー制御バルブに結合されたコントローラであって、前記液体状態の前記伝熱流体が前記地熱源から伝導される熱によって前記伝熱流体戻り導管内で気化されるように、かつ前記伝熱流体戻り導管内での液体の蓄積が防止されるように、前記少なくとも1つのフロー制御バルブを作動して前記伝熱流体戻り導管への液体状態の前記伝熱流体のフローを所定の速度に調整するように構成されたコントローラと、
をさらに備える請求項1から4のいずれか一項に記載の地熱抽出器。
【請求項6】
前記外部負荷は、発電用負荷である、請求項1に記載の地熱抽出器。
【請求項7】
前記発電用負荷は、電気化学熱-電気コンバータである、請求項6に記載の地熱抽出器。
【請求項8】
前記電気化学熱-電気コンバータは、
水素チャンバと、
前記伝熱流体戻り導管に結合され、該伝熱流体戻り導管からの前記気化した伝熱流体を受容するように構成された作動流体チャンバであって、前記気化した伝熱流体は前記作動流体チャンバを流通する作動流体である、作動流体チャンバと、
前記水素チャンバに結合されて該水素チャンバに水素を供給し、前記作動流体チャンバに結合されて該作動流体チャンバから作動流体を受容する凝縮チャンバと、
複数の膜電極アセンブリであって、各膜電極アセンブリがアノード、カソード、及び該アノードと該カソードの間に挟まれたプロトン導電膜を備える、複数の膜電極アセンブリと、
を備え、
前記膜電極アセンブリの前記アノードは、前記水素チャンバ内に配置され、前記凝縮チャンバから供給される水素のフローに曝露され、
前記膜電極アセンブリの前記カソードは、前記作動流体チャンバ内に配置され、該作動流体チャンバ内を流れる前記作動流体に曝露される、請求項7に記載の地熱抽出器。
【請求項9】
前記膜電極アセンブリが、電気的に直列接続された、請求項8に記載の地熱抽出器。
【請求項10】
前記気化した伝熱流体は、等温又は略等温条件下で前記凝縮チャンバ内で凝結する、請求項8に記載の地熱抽出器。
【請求項11】
前記作動流体は前記膜電極アセンブリの前記カソードを順次通過し、前記作動流体は、その気化潜熱を各膜電極アセンブリに漸次かつ順次放出し、それにより前記作動流体の定温又は略定温の凝結を近似しながら発電する、請求項9に記載の地熱抽出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年12月21日出願の米国仮出願特許第63/292055号の優先権を主張し、その開示の全体が参照によりここに取り込まれる。
【背景技術】
【0002】
地熱エネルギーは、非再生可能資源の放出及び消費を削減するその可能性のために関心が高まっている。廃油井などの地熱エネルギー源は容易に利用可能な熱源を提供し、それは、風力及び太陽光発電システムがそうであるようにエネルギー貯蔵のためのバッテリが必要となるという制約を有さない。地熱エネルギーは、連続的であり、バッテリ貯蔵を必要としない。
【0003】
地熱システムが熱を供給する熱負荷は、住宅用及び/若しくは商業用/工業用の暖房並びに/又は発電のためのものであり得る。水流ループは、熱抽出のための非常に一般的かつ普及した方法である。閉ループ液体システムは重力によって駆動され得るものであり、加熱液体と未加熱液体の密度の差が、循環を促進する浮力を生成する。この場合、結果として得られる流量及びそれに伴う熱抽出量は、ポンプの使用によって高められる場合がある。しかし、水流ループの大きな欠点は、単位質量流量あたりの抽出熱量が限られ、伝熱が起こる温度が漸減することである。
【0004】
地熱エネルギー資源からの発電は、通常は従来の蒸気タービン又はバイナリプラントの使用を通じて実現される。従来の蒸気タービンは、150℃を超える流体を必要とする。この高温の高圧流体(例えば、水)が「フラッシュされて(flashed)」タービンを駆動して発電する蒸気を生成する。しかし、水の熱力学的性質によって、この種の発電機の用途は、高温地熱資源に限定されてしまう。
【0005】
中温及び低温の地熱源が、それらの広範な利用可能性のために関心の対象となる。歴史的には、そのような熱源の課題は、実用的なシステムに対するコスト/経済的要件を満たすことの困難性であった。例えば、低温地熱源から引かれる水は、タービンを駆動するのに充分な圧力で充分な水蒸気をフラッシュさせる充分なエネルギーを含んでいない場合がある。したがって、このようなシステムでは、充分な熱を抽出して動作要件を満たすのに必要となるレベルの高い水流量を生成するためには、大量のポンプパワーが必要となる。しかし、水に保持される熱エネルギーは、より一層低い沸点を有する二次流体(サーマルオイル又はシリコーン系オイル)に伝達される。二次流体は、タービンを駆動するのに充分な蒸気及び圧力を生成するように「フラッシュ」される。一般に有機ランキンサイクル(ORC;Organic Rankine Cycle)といわれるこのプロセスによって、75℃の低温流体からの電力生成が可能となる。
【0006】
しかし、所与の質量流量において熱源からコンバータに伝達される熱量は、水の比熱によって制限される。大量のポンプパワーが必要であることによって抑制されることに加えて、水が吸熱及び放熱するにつれて漸減勾配温度の変化が起こる。熱がコンバータに伝達されるのにつれて伝熱水は冷えるため、コンバータに結合された熱の温度が地熱源温度よりも大幅に低くなり得ることから、システム効率は最適値未満となる。したがって、地熱を熱源からコンバータに結合するのに使用される水の流量(ポンプ消費パワー)と温度変化との間のバランスが取られなければならない。
【0007】
熱抽出は、浮力によって駆動される水流を用いて強化可能である。熱輸送は、地表への戻りフローを蒸気形態とするのに充分な圧力レベルにおいて地熱源温度で蒸発する特殊な作動流体を用いて向上可能である。熱伝達率は、作動流体の位相変化によって高められる。しかし、これらの流体は、高価でありかつ多くの熱抽出の状況での使用には実用的ではない有機液体又はその他の材料である。
【0008】
したがって、地熱源からの熱を効率的かつ実用的に抽出する改善された方法及びシステムを提供することが望まれる。
【発明の概要】
【0009】
概略として、一実施形態は、伝熱流体と、伝熱流体供給導管とを含む地熱抽出器を備える。伝熱流体は、その飽和圧力以上の圧力において液体状態で伝熱流体供給導管内に維持される。地熱抽出器は、伝熱流体戻り導管と、伝熱流体戻り導管に結合される地熱源と、伝熱流体供給導管から伝熱流体戻り導管への伝熱流体のフローを制御するように構成された少なくとも1つのフロー制御バルブと、伝熱流体戻り導管に結合された外部負荷とをさらに含む。伝熱流体が液体状態で伝熱流体戻り導管に供給されるにつれて、伝熱流体は地熱源から伝熱流体戻り導管に供給される熱によって伝熱流体戻り導管内で気化する。気化した伝熱流体は、伝熱流体戻り導管から外部負荷に供給される。
【0010】
一態様では、伝熱流体は、水である。
【0011】
他の態様では、外部負荷は熱負荷であり、熱負荷に供給される気化した伝熱流体は液体状態に凝結して戻され、それによりその凝結潜熱を放出する。
【0012】
他の態様では、液相伝熱流体ポンプが、伝熱流体供給導管に結合され、伝熱流体を熱源の温度において伝熱流体の蒸気圧以上の圧力で少なくとも1つのフロー制御バルブに供給するように構成される。
【0013】
他の態様では、少なくとも1つのセンサが伝熱流体戻り導管の内容物を監視し、コントローラが少なくとも1つのセンサ及び少なくとも1つのフロー制御バルブに結合される。コントローラは、液体状態の伝熱流体が地熱源から伝導される熱によって伝熱流体戻り導管内で気化され、かつ伝熱流体戻り導管内での液体の蓄積が防止されるように、少なくとも1つのフロー制御バルブを作動して伝熱流体戻り導管内への液体状態の伝熱流体のフローを所定速度に調整するように構成される。
【0014】
他の態様では、外部負荷は、発電用負荷である。さらに他の態様では、発電用負荷は、電気化学熱-電気コンバータである。さらに他の態様では、電気化学熱-電気コンバータは、水素チャンバと、伝熱流体戻り導管に結合されて伝熱流体戻り導管からの気化した伝熱流体を受容するように構成された作動流体チャンバであって、気化した伝熱流体は作動流体チャンバを流通する作動流体である、作動流体チャンバと、水素チャンバに結合されて水素を水素チャンバに供給し、作動流体チャンバに結合されて作動流体を作動流体チャンバから受容する凝縮チャンバと、複数の膜電極アセンブリとを含む。各膜電極アセンブリは、アノード、カソード、及びアノードとカソードの間に挟まれたプロトン導電膜を含む。膜電極アセンブリのアノードは、水素チャンバ内に配置され、凝縮チャンバから供給される水素のフローに曝露される。膜電極アセンブリのカソードは、作動流体チャンバ内に配置され、作動流体チャンバ内を流れる作動流体に曝露される。
【0015】
他の態様では、膜電極アセンブリは、電気的に直列接続される。
【0016】
他の態様では、気化した伝熱流体は、等温又は略等温条件下で凝縮チャンバ内で凝結する。
【0017】
他の態様では、作動流体は、膜電極アセンブリのカソードを順次通過する。作動流体は、その気化潜熱を各膜電極アセンブリに漸次かつ順次放出し、それにより、作動流体の定温又は略定温の凝結を近似しながら発電する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る地熱抽出システムの模式図であり、動作前モードにある。
図2図1に示す地熱抽出システムの模式図であり、熱を熱負荷に供給する動作モードにある。
図3】本発明の実施形態に係る地熱抽出システムの図であり、分散フラッシュ制御バルブを有する単一の坑を用いて水蒸気を生成して膨張タービンを駆動する。
図4a】本発明の実施形態に係る地熱抽出システムの上面断面図であり、システムは同心管熱抽出器を有し、分散フラッシュフロー制御バルブを利用する。
図4b図4aに示す地熱抽出システムの側面断面図である。
図5】本発明の実施形態に係る地熱抽出システムの模式断面図であり、外部負荷は電気化学熱-電気コンバータの形態の発電用負荷である。
図6】電気化学熱-電気コンバータの拡大図による、図5に示す地熱抽出システムの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好適な実施形態の以下の詳細な説明は、添付図面に関連して読まれると、より深く理解されることになる。本発明を説明する目的のため、図面では現在好適な実施形態を示す。ただし、本発明は、図示される正確な配置及び手段に限定されないことが理解される。
【0020】
一態様において、本発明は地熱システムに関し、その地熱システムは低温から中温の熱源に基づいて動作し、従来の地熱システムと比較して向上した効率及び費用対効果を有する。本発明の抽出器は、熱源において伝熱流体、好ましくは水をフラッシュ蒸発させる。水及び他の液体の気化熱は、一般に、所与の流体の比熱よりも大幅に大きい。このように、そのプロセスによって、より大量の熱が所与の質量流量において抽出されることが可能となる。結果として得られる蒸気は熱負荷に供給され、そこではその蒸気が凝結されて、水蒸気がその潜熱を放出する温度が地熱源の温度と同じ又はほぼ同じとなるように、大きな温度損失なしに(すなわち、等温的又は略等温的に)その潜熱を放出する。また、地熱源からの水蒸気の輸送は、非常に限定的な圧力損失で行われ得る。
【0021】
図1~2を参照すると、一実施形態では、本発明の地熱抽出器は、熱源4、伝熱流体供給導管16、伝熱流体戻り導管10及び1以上のフロー制御バルブを備える。導管10、16は、標準的な鋼製の油坑井配管から作製され得るが、他の同様の材料が使用されてもよい。伝熱戻り導管は、任意選択的に、水蒸気が配管内を上昇する際に周囲の土によって水蒸気が冷却及び凝結されるのを回避するように断熱される。伝熱流体供給導管16及び伝熱流体戻り導管10は、好ましくは、地中にかつ地面を通じて形成された単一の又は別個の坑又は試掘孔内に延在する。したがって、供給導管16及び戻り導管10の各々の一部分は、好ましくは、地下に位置し、各導管16、10の他の部分は地上に位置する。坑は、鉛直方向、水平方向、又は鉛直及び水平方向を組合せた方向に延在し得る。
【0022】
一実施形態では、各坑は廃坑井であり、好ましくは廃油坑井である。ただし、当業者には、本発明は廃坑井に限られないことが理解されるはずである。坑は、他のタイプの廃坑であってもよいし、具体的に本発明の熱抽出システムを構築する目的のために、温泉などのような地熱源付近に積極的に形成されてもよい。
【0023】
熱源4は、好ましくは温泉などのような地熱源である。熱源4は、好ましくは、戻り導管10に熱を供給するように構成されるように戻り導管10に結合される。熱源は、約50℃~約600℃以上の範囲であり得る。廃油井については、温度範囲は、約50℃~約250℃の低い温度範囲であり得る。
【0024】
図1~2を参照すると、本発明の地熱抽出器は、好ましくは、戻り導管10からの液体を除去するように構成されたポンプ12、伝熱流体の供給源に結合されたポート14、戻り導管10と流通する外部負荷18、凝縮器42及びコントローラ32をさらに備える。図1~2の実施形態では、外部負荷18は、熱負荷である。
【0025】
特に、抽出器は、好ましくは、供給導管16から戻り導管10への伝熱流体の供給を制御する少なくとも1つの流体フロー制御バルブ26を備える。この種のバルブを、ここではフラッシュフロー制御バルブ26という。より好ましくは、抽出器は、供給導管16から戻り導管10への伝熱流体の供給を制御する第1及び第2のフラッシュフロー制御バルブ26を備える。フラッシュフロー制御バルブ26は、供給導管16の地下の長さに沿う離隔位置に設けられる。フラッシュフロー制御バルブ26の分布は、好ましくは、水蒸気生成を最適化するように選択される。
【0026】
熱抽出器は、好ましくは、ポンプ12と戻り導管10の間に配置されて、ポンプ12によって戻り導管10から除去される流体のフローを調整する流体フロー制御バルブ8をさらに備える。抽出器は、好ましくは、伝熱流体供給ポート14と伝熱流体供給導管16の間に配置されて供給源からポート14を介した供給導管16への伝熱流体のフローを調整する流体フロー制御バルブ11をさらに備える。抽出器は、好ましくは、伝熱流体供給導管16と伝熱流体戻り導管10の間に配置されて戻り導管10から供給導管16への流体のフローを調整する第3の流体フロー制御バルブ30をさらに備える。
【0027】
伝熱流体は、好ましくは、気化可能な液体である。熱は坑周辺の地下水層によって又は周囲の固体の土によって地下配管に伝導され得るため、好ましくは、伝熱流体は水である。ただし、アンモニア、フッ化炭素、有機流体などのような他の可能な作動流体が使用され得る実施形態もあり得る。
【0028】
抽出器が動作のために準備される第1のモードでは、図1に示すように、最初に流体フロー制御バルブ8、11が開放され、流体フロー制御バルブ30及びフラッシュフロー制御バルブ26が閉じられる。図1の準備構成では、ポンプ12が作動されて、伝熱流体戻り導管10に存在する実質的に全ての液体を除去する。伝熱流体が、伝熱流体供給導管16に供給される。より具体的には、図1に示す動作前モードでは、最初に流体フロー制御バルブ8が開放され、ポンプ12が作動されて、液体を伝熱流体戻り導管10から引いて伝熱流体戻り導管10を伝熱液体の蒸気圧以下の圧力とする。圧力は、使用中の作動流体に応じたものとなり得る。除去された液体は、廃棄されてもよい。坑は、ドリル掘削が完了して井戸が「完成」された時は空であってもよく、この場合、液体を坑に供給するだけでよい。伝熱流体戻り導管10は、好ましくは、ポンプ排出されて完全に又はほぼ完全に乾燥状態となる(すなわち、完全に又はほぼ完全に液体がない)。伝熱流体戻り導管10が低圧状態とされると、バルブ8は閉じられ、それにより、確実に伝熱流体戻り導管10が低圧状態を維持する。さらに、図1の動作前モードでは、この段階では液体状態である伝熱流体が供給源ポート14から伝熱流体供給導管16に供給可能となるように、最初に流体フロー制御バルブ11は開放される。これは、戻り導管10のポンプ排出の前、後及び/又はそれと同時に行われ得る。流体フロー制御バルブ11は、伝熱流体供給導管16が液体状態の伝熱流体で充分に満たされた後に、重力下の流体密度によって生成された結果として得られる圧力が坑の底部の高温側液体の蒸気圧を超え得るように閉じられる。蒸気圧及び流体密度は、選択された流体に応じたものとなり得る。
【0029】
図2は、地熱抽出システムの動作モードの実施形態を示す。動作時に、伝熱流体は、その液体形態で熱源に接触し、その後にフロー制御バルブによってフラッシュ蒸発されて高レベルの単位質量流量あたりの熱抽出を実現し、それにより熱を熱負荷18に供給する。
【0030】
より具体的には、図2を参照すると、動作時には、流体フロー制御バルブ8、11は閉じられた状態であり、フラッシュフロー制御バルブ26及び流体フロー制御バルブ30は開放される。フラッシュフロー制御バルブ26が開位置であることによって、制御された量の伝熱流体が液体形態で伝熱流体供給導管16から伝熱流体戻り導管10に移動可能となる。フラッシュフロー制御バルブ26の動作は、伝熱流体戻り導管10への伝熱液体のフローを制限するように調整されるので、伝熱流体戻り導管10は伝熱液体で溢れることはない。
【0031】
蒸気戻り導管10に移動された伝熱液体は地熱源4によってフラッシュ蒸発又はフラッシュ気化され、それは周囲の高温の土又は液体によって、導管との密な接触において実現される。気化温度は、圧力に依存し、伝熱流体/液体の物理特性である。バルブ26は、熱が導管10に供給されて全ての液体を蒸発させて大量の液体を導管10内部に蓄積させない速度に釣り合う速度で導管10への液体を調節し、それにより、水蒸気の圧力によって水蒸気が導管10を上昇することになる。
【0032】
伝熱液体は、好ましくは、熱が熱源4によって戻り導管10に供給される速度を考慮して、連続的な気化、より具体的には連続的なフラッシュ気化が戻り導管10内で維持可能となるような速度でフラッシュフロー制御バルブ26を介して供給導管16から伝熱流体戻り導管10に供給される。熱伝達率は、導管10の周囲の岩石又は周囲の液体の地熱特性に応じて変動する。したがって、気化潜熱は、熱源4から抽出され、選択される伝熱流体/液体の材質の物理特性であり得る。伝熱液体の気化熱は、伝熱流体の比熱よりも大きい。このように、地熱抽出器は、所与の質量流量において大量の熱を抽出するように構成される。
【0033】
結果として得られる気化した伝熱流体(例えば、伝熱流体が水である場合には水蒸気)は、戻り導管10内を鉛直上向きに外部負荷18に向けて移動する。外部負荷18が熱負荷である図1~2の実施形態では、好ましくは、熱負荷18は凝縮器42を備え、又は熱負荷18に凝縮器42が設けられる。気化した伝熱流体は、熱負荷18において凝結して、大幅な温度損失なしに(すなわち、等温又は略等温条件下で)その潜熱を放出する。すなわち、気化した伝熱流体は、熱負荷18において凝結して地熱源の温度と同じ又はほぼ同じ温度のその潜熱を放出する。伝熱流体の凝結熱は発電のための熱負荷18に供給され、凝結した伝熱流体は開放した流体フロー制御バルブ30を介して伝熱流体供給導管16に戻される。凝結熱は、システム内で使用される伝熱流体の物理特性である。システムは、周囲の土及び液体(例えば、水)によって導管10に伝導されることになる利用可能な熱及び速度に基づいてサイズ取りされる。
【0034】
この態様での潜熱の輸送メカニズムとしての使用は、地熱抽出及び発電のための大幅に高められた性能を与える。一実施形態では、伝熱流体は、好ましくは、熱負荷18における凝結温度が坑下部の気化温度と同様となるように、地熱抽出システムの全体を通じて飽和状態とされる。
【0035】
あるいは、他の実施形態では、熱源4の温度、戻り導管10への熱伝導率及びフラッシュフロー制御バルブ26を通じた流体流量に応じて、熱負荷18に到達する気化した伝熱流体は過熱され得る。この場合、熱負荷18における凝結温度は、戻り導管10内の蒸気柱の重力荷重に起因する坑下部でのより高い圧力のために、坑下部の気化温度よりも若干低いだけである。圧力の差は、戻り導管10内の蒸気柱の比較的低い密度のために比較的小さい。
【0036】
このように、本発明に係る地熱抽出システムでは、地熱源4からの気化した伝熱流体の輸送(すなわち、それが戻り導管10内でフラッシュ気化される場合)は、最小の圧力損失で行われる。したがって、気化した伝熱流体は、地熱源4の温度と同様の温度でその潜熱を放出する。
【0037】
一実施形態では、本発明に係る地熱抽出システムは、コントローラ32及び1以上のセンサ34を含む。コントローラ32は、好ましくは、各フラッシュフロー制御バルブ26及び各センサ34に結合される。一実施形態では、コントローラ32は、流体フロー制御バルブ8、11及び30のうちの1以上にも結合される。図1~2に示すセンサ34は、伝熱流体戻り導管10の内容物を蒸気及び液体について監視する。センサ34から受信された監視データに基づいて、コントローラはフラッシュフロー制御バルブ26を作動させて(i)バルブ26を開位置として、熱が熱源4から戻り導管10に供給される速度と一致する液体が気化可能な所定の速度で、戻り導管10への伝熱液体のフローを可能として調整し、又は(ii)バルブ26を閉位置として、戻り導管10への伝熱液体のフローを阻止し、それにより戻り導管10内での伝熱液体の蓄積を防止する。
【0038】
当業者には、センサが本発明に係る地熱抽出システム内の他の導管及び位置において利用されてシステム及びその構成要素の種々のパラメータを監視し得ることが理解されるはずである。当業者には、コントローラ32はシステムの他のフロー制御バルブ8、11、30、ポート14及び/又はポンプ12、17に結合され得ることも理解されるはずである。例えば、一実施形態では、システムは、所定の低圧状態が動作前モード時に実現される場合にコントローラ32がトリガされて流体フロー制御バルブ8を閉じかつ/又はポンプ12の動作を終了させるように、更なるセンサを戻り導管10内に含んで導管10の圧力を監視する。一実施形態では、システムは、供給導管16が所定レベルまで伝熱液体で充填されると、コントローラ32がトリガされて流体フロー制御バルブ11を閉じてポート14からの伝熱液体の供給を停止するように、センサを伝熱流体供給導管16内に含んで供給導管16の液体内容物を監視する。コントローラ32はまた、流体フロー制御バルブ30に結合されて、それぞれ動作前モード及び動作モードについて必要に応じて、それを閉状態と開状態との間で移動させ得る。
【0039】
一実施形態では、伝熱流体導管16は、ポンプ17を含み得る。ポンプ17は、伝熱流体導管16内の昇圧を補助し得る。より具体的には、ポンプ17は、伝熱流体導管16に結合されて、伝熱液体を熱源4の温度での流体蒸気圧以上の圧力でフラッシュフロー制御バルブ26に供給し得る。結果として、導管16内の液体の望ましくない散発的な気化が回避され得る。
【0040】
図3を参照すると、本発明に係る地熱抽出システムの代替の実施形態が示される。システムの各種構成要素に付した符号であって図1~2のものと同じものは同じ構成要素を示すため、それらの構成要素の詳細な説明は繰り返さない。
【0041】
図3のシステムは、特に、熱抽出のための単一坑の構成、例えば、廃坑井において使用されるように構成される。図3のシステムでは、伝熱流体戻り導管10及び伝熱流体供給導管16は、同心管構成3において構成される。ただし、非同心構成も同様に使用され得る。好ましくは、伝熱流体供給導管16は内管として構成され、伝熱流体戻り導管10は外管として構成される。ただし、当業者には、内管及び外管を逆構成としたものが利用され得ることが理解されるはずである。
【0042】
好ましくは、両導管16、10は、単一の坑内に鉛直方向に所定の深さだけ延在し、そして横方向に屈曲されて横方向、すなわち、略水平方向に所定の距離だけ延在する。必要な深さ/距離は、蓄熱体の特性に応じたものとなり得る。例えば、間欠泉は地面の直下である場合が多いが、通常の油坑井の深さは約5000~約20000フィート以上となり、深さでの水平距離は約5000~約20000フィート以上となり得る。したがって、熱は、所定の深さにおいて(すなわち、導管10、16が概ね水平に配向される場合に)熱源4から抽出される。同心管構成3及びより具体的には伝熱流体供給導管16には、その横方向長さに沿って離隔した位置において複数のフラッシュフロー制御バルブ26が設けられる。フラッシュフロー制御バルブ26は、好ましくは、蒸気生成のために、所定の深さにおいて同心管構成3の長さに沿って熱源4からの熱の利用可能性と一致する位置に(すなわち、熱源4によって生成される熱の使用を最適化するように)分散される。
【0043】
図3では、地熱抽出システムは、蒸気、より具体的には水蒸気を供給してタービン44を駆動するように構成される。水蒸気は、図1~2に関して上述したように、伝熱流体導管16、伝熱流体戻り導管10、熱源4及びバルブ8、11、26、30の動作によって生成される(すなわち、伝熱液体が供給導管16から戻り導管10に移動されるにつれて、それが戻り導管10内でフラッシュ気化されて蒸気を生成する)。そして、生成された水蒸気は戻り導管10を通じて移動し、膨張タービン44に供給される。その後、水蒸気が凝縮器42に入り、そして凝結流体が、開放した流体フロー制御バルブ30を通じて伝熱流体供給導管16に戻される。
【0044】
図4a及び4bを参照すると、同心管構成3の図が示され、例えば、それは図3のシステムにおける同心管構成3として使用され得る。図4a~4bに示すように、好ましくは比較的高圧である伝熱流体供給導管16が内管として構成され、比較的低圧である伝熱流体戻り導管10が外管として構成される。内管(伝熱流体供給導管)16は、内管16から外管10(すなわち、蒸気戻り導管10)への液体伝熱流体の放出を制御するような態様で、その長さに沿って分散された複数のフラッシュフロー制御バルブ26を含む。図1~3に関して上述したように、伝熱液体は、戻り導管10に導入されると、熱が地熱源4から蒸気戻り導管10に伝導されるにつれて蒸発する。
【0045】
一実施形態では、熱抽出器は、気化した流体から供給導管16内に含まれる液相への伝熱を制限するために、供給導管16と戻り導管10の間に、例えば、供給導管16の外部の少なくとも一部分の周りに巻かれた断熱材28の層を備えていてもよい。一実施形態では、熱抽出器は、蒸気が地表に戻る際に、戻り導管10の鉛直部分において気化流体から低温の周囲への熱損失を制限するために、戻り導管10の外面の少なくとも一部分に沿って断熱材(不図示)を備えていてもよい。
【0046】
図5~6を参照すると、外部負荷が発電用負荷である実施形態が示される。より具体的には、図5~6の実施形態では、発電用負荷は、電気化学熱-電気コンバータ(電気化学コンバータ)43であり、図1~4のシステムのような本発明に係る地熱抽出器に接続される。図5~6の実施形態では、電気化学コンバータ43は、図3~4に示すタイプの地熱抽出器に結合される。電気化学コンバータ43は、地熱抽出器によって生成された蒸気、より具体的には水蒸気を電力に変換するように構成される。上述したような地熱抽出器の構成要素に加えて、電気化学コンバータ43は、ハウジング45内に構成された複数の膜電極アセンブリ48、より具体的にはバイポーラ膜電極アセンブリ48を備える。
【0047】
膜電極アセンブリ48は、電気的に直列接続される。各膜電極アセンブリ(MEA)48は、第1の電極50、第2の電極54、及び電極50、54の間に挟まれたプロトン導電膜52を備える。電極50、54の一方がカソードであり、電極54、50の他方はアノードである。以下、電極50をカソードといい、電極54をアノードという。
【0048】
一実施形態では、図6に示すように、MEA48の直列体はエンクロージャ60によって結合されてもよく、その一部分はプロトン導電膜52によって形成される。MEA48のアノード(電極)54を備えるエンクロージャ60内の領域は第1のチャンバ56であり、カソード(電極)50を備えるエンクロージャ60とハウジング45の間の領域は第2のチャンバ36である。第1のチャンバ56を、ここでは水素チャンバ又はアノードチャンバという。第2のチャンバ36を、ここでは作動流体チャンバ又はカソードチャンバという。
【0049】
電気化学コンバータ43は、ここでは凝縮器ともいうガス分離チャンバ(凝縮器)40をさらに備え、それは水素及び水38を含む。電気化学コンバータ43は、作動流体を利用する。好ましくは、作動流体は、地熱抽出器から供給される。
【0050】
導管33は、凝縮器40を水素チャンバ56に結合する。導管33はエンクロージャ60とは別個の構成要素であってもよく、それはエンクロージャ60に結合され、又は導管33はエンクロージャ60の延長であってもよい(すなわち、エンクロージャ60と一体であってもよい)。作動流体チャンバ36の第1の端部、すなわち、入口は、戻り導管10からの気化した伝熱流体が作動流体チャンバ36の第1の端部に供給されるように、伝熱流体戻り導管10に結合される。作動流体チャンバ36の第2の端部、すなわち、出口は、作動流体32のフローが作動流体チャンバ36から凝縮器40に供給されるように、凝縮器40に結合される。
【0051】
図6を参照すると、電気化学コンバータ43は、動作モードで示される。動作時に、凝縮器40からの水素34は、水素チャンバ56に、より具体的にはMEA48の直列体のアノード54に供給され、それにより、MEA48の高分圧状態又は側を形成する。水素34がアノード54上を通過するにつれて、プロトンがプロトン導電膜52を通じてカソード50に導電され、電子が負荷58に送給される。同時に、地熱抽出器によって生成された作動流体32、より具体的には水蒸気は、地熱抽出器の戻り導管10から作動流体チャンバ36に、より具体的にはMEA48の直列体のカソード50に供給され、それによりMEA48の低分圧状態又は側を形成する。放出されたプロトン及び電子は、カソード50内で低圧状態の水素に還元され、一方、この生成された水素は作動流体(水蒸気)32のフロー内に放出される。
【0052】
より具体的には、水素が圧力差の下で各MEA48間を移動するにつれて、電流が外部負荷58を通じて流れ、水素がアノード54内で酸化され、プロトンがプロトン導電膜52を通じてカソード50まで通過し、電子が負荷58を通じてカソード50に送給されるにつれて水素に還元して戻される。結果として得られる水素は、動作流体チャンバ36内に放出される。戻り導管10から作動流体チャンバ36に入る作動流体32、好ましくは水蒸気には実質的に水素がないことから、水素の圧力差がMEA48間に生成される。したがって、カソード50が作動流体チャンバ36内のガス流からの膨張熱を抽出するにつれて、水素は、高圧導管である水素チャンバ56から、低圧導管である作動流体チャンバ36に膨張する。作動流体チャンバ36では、生成された水素が、地熱抽出器からのガス流32と混合し、それにより、その分圧を低減する。
【0053】
一方、水素の圧力差によって、各MEA48間に電圧差が生じる。水素は、電極52内で酸化される。MEA48によって生成された電圧は、ネルンストの式によって与えられる。その電圧は、温度に対して線形であり、水素の圧力比の対数関数となる。その電圧は、ネルンストの式を用いて計算される(J.H.Hirschenhofer,D.B.Stauffer,R.R.Engleman,and M.G.Klett,Fuel Cell Handbook,Fourth Edition,p.2-5,1999)
【数1】
なお、VOCは開回路電圧であり、Rは一般気体定数であり、Tはセル温度であり、Fはファラデー定数であり、Pは高圧側の圧力であり、Pは低圧側の圧力であり、圧力比はP/Pである。
【0054】
一実施形態では、作動流体、より具体的には水蒸気が、過熱蒸気として又は飽和状態で作動流体チャンバ36に供給され得る。飽和蒸気状態の場合、その凝結熱がその減少する分圧下でMEA48に対して放出されるにつれて、作動流体32は凝縮器40内で凝結して液体又はミスト46となる。水蒸気の凝結熱が消費されるにつれて、MEA48を通じた水素の膨張熱が電力に変換される。残留水蒸気は、残留凝結熱の除去によってガス分離チャンバ40内で凝結される。一方、矢印34によって示すように水素ガス39が水素チャンバ56に供給されるにつれて、ここでは水38として液体状態にある作動流体は自己分離し、流体フロー制御バルブ30を通じて伝熱流体供給導管16に供給される。図1~2に関して上述したように、液体作動流体を昇圧状態で伝熱流体供給導管16に供給するためにポンプ17が含まれてもよい。
【0055】
電気的に接続されたMEA48の直列体は、単一のMEAと比較して電力出力を最大化するという有利な効果を与える。凝縮器40に結合された作動流体チャンバ36の出口に対して(蒸気戻り導管10からの入力に対応する)作動流体チャンバ36の入口から流れるガス流(作動流体)32に水素が混合するにつれて、水素は分圧上昇し、それによりMEA48の圧力比を低減する。圧力比が最大となる作動流体に接触した直列体における最初のMEA48において生成された電圧は、水素分圧比が最小となる作動流体に接触した直列体における最後のMEAの電圧よりも高い。直列接続の電圧を追加すると、MEA48を通じた所与の量の水素伝導に対する出力電力がより高くなる。一方、単一のMEAに発生する電圧では、全体の発電は少なくなる。これは、MEAの出口付近の低い圧力比が入口付近の高い圧力比を平衡させるためである。誘起された端部間電圧差の下で単一の電極が電流を内部的に導通させるにつれて、エネルギーが失われることになる。水素が単一のMEAの長さに沿う水蒸気フローに連続的に混合するにつれて、MEA電圧は低くなり、水素の平均圧力差に基づくことになる。これに対して、本発明におけるような電気的に接続されたMEA48の直列体では、その直列体における各MEA48は、その直列体に沿う任意の所与の地点において発生する平均ピーク圧力差において動作する。また、熱抽出及び減圧に伴って水蒸気がMEA直列体に流れる際の水蒸気品質の変化は、最大エネルギー変換のための略定温の凝縮発電プロセスを近似し得る。
【0056】
したがって、図5~6の実施形態によると、各MEAにおける水素圧力差の下で生成された電圧が、所望の電圧出力を生成するように相互に加えられる。水素が各MEAを通じて膨張するにつれて、水素が作動流体の凝結熱を消費することによって電力を生成するので、気化した流体は略等温条件下で凝結する。複数のMEAは、作動流体がその気化潜熱を直列体における各MEAに漸次かつ順次放出させた状態で、気化した作動流体がカソードを順次通過するように直列体を形成し、それにより、定温の凝縮プロセスを近似しながらの発電となる。
【0057】
本発明によって達成可能な有利な結果を、従来のシステムによって達成される結果と比較して以下に説明する。
【0058】
従来のシステムの例として、チェナ・ホット・スプリングス発電所は、現在までに世界の最も低温の地熱発電所の1つである。チェナ発電所は、華氏164度という低温の流体を用いて発電する。チェナ発電所は、研究及び企業提案において参照されることが多く、将来の低温地熱電力開発を展望するベンチマークとして参照される。伝熱流体、特に水が、華氏164度の温度の地熱源(すなわち、温泉)から供給される。熱が有機ランキンエンジンサイクルに伝達されて発電するにつれて、水温は漸減勾配において華氏130度まで低減される。熱はわずか華氏147度の平均温度でランキンエンジンサイクルに投入され、それは変換効率に悪影響を及ぼす。したがって、システムでは、210kWの電力を生成するのに必要な2.58MWHEATの熱をランキンエンジンに伝達させるために、毎分530ガロンの非常に高い流量の水が必要となる。
【0059】
これに対して、図1~6の地熱抽出器のような本発明に係る地熱抽出器であれば、2.58MWHEATの地熱は、3048メートルの垂直坑井に水蒸気を上方に流すことによって生成可能である。坑上部の水蒸気密度が一定であるという最悪のシナリオを想定すると、水蒸気を坑上部に移動させることが必要となる坑の底部での圧力は水圧よりも高くなければならない。華氏164度の飽和水蒸気は、約0.25kg/mの密度を有する。したがって必要な圧力(ρ×g×hによって計算される)は、0.0075MPa(すなわち、0.25kg/m×9.8m/s×3048m)となる。華氏164度での飽和水蒸気圧は0.04MPaであり、これは結果として水蒸気を坑井上部に押し上げるのに充分な圧力より高い。華氏164度において、水の気化熱は2319kJ/kgである。このように、本発明は、2.58MWHEATを地表に戻すために、従来のシステムによって必要とされるような530gal/minの水流を必要とするのではなく、17gal/min(すなわち、2580kWHEAT/2319kW.sec/kg×60sec/min×1gal/3.79kg)しか必要としないことになる。さらに、本発明の地熱抽出器では、伝熱温度は、漸減勾配上にあるのとは対照的に、基本的には一定であり、これは一方では全体のシステム効率及び純電力出力を向上することに対する追加の利点をもたらす。
【0060】
当業者には、上述した実施形態に対して、その広範な発明のコンセプトから逸脱することなく変更がなされ得ることが分かるはずである。したがって、本発明は開示される特定の実施形態に限定されず、後続の特許請求の範囲によって規定されるような本発明の主旨及び範囲内の変形例を包含することが意図されていることが理解される。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2024-08-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝熱流体と、
伝熱流体供給導管であって、前記伝熱流体がその飽和圧力以上の圧力において液体状態で前記伝熱流体供給導管内に維持される、伝熱流体供給導管と、
伝熱流体戻り導管と、
該伝熱流体戻り導管に結合される地熱源と、
前記伝熱流体供給導管から前記伝熱流体戻り導管への前記伝熱流体のフローを制御するように構成された少なくとも1つのフロー制御バルブと、
前記伝熱流体戻り導管に結合される外部負荷と、
を備え、
前記伝熱流体が液体状態で前記伝熱流体戻り導管に供給されるにつれて、前記伝熱流体は前記地熱源から前記伝熱流体戻り導管に供給される熱によって前記伝熱流体戻り導管内で気化し、
気化した前記伝熱流体が前記伝熱流体戻り導管から前記外部負荷に供給される、地熱抽出器。
【請求項2】
前記伝熱流体は、水である、請求項1に記載の地熱抽出器。
【請求項3】
前記外部負荷は熱負荷であり、前記熱負荷に供給される前記気化した伝熱流体は液体状態に凝結して戻され、それによりその凝結潜熱を放出する、請求項1又は2に記載の地熱抽出器。
【請求項4】
前記伝熱流体供給導管に結合され、前記地熱源の温度において前記伝熱流体の蒸気圧以上の圧力で前記伝熱流体を前記少なくとも1つのフロー制御バルブに供給するように構成された液相伝熱流体ポンプをさらに備える請求項1又は2に記載の地熱抽出器。
【請求項5】
前記伝熱流体戻り導管の内容物を監視する少なくとも1つのセンサと、
前記少なくとも1つのセンサ及び前記少なくとも1つのフロー制御バルブに結合されたコントローラであって、前記液体状態の前記伝熱流体が前記地熱源から伝導される熱によって前記伝熱流体戻り導管内で気化されるように、かつ前記伝熱流体戻り導管内での液体の蓄積が防止されるように、前記少なくとも1つのフロー制御バルブを作動して前記伝熱流体戻り導管への液体状態の前記伝熱流体のフローを所定の速度に調整するように構成されたコントローラと、
をさらに備える請求項1又は2に記載の地熱抽出器。
【請求項6】
前記外部負荷は、発電用負荷である、請求項1に記載の地熱抽出器。
【請求項7】
前記発電用負荷は、電気化学熱-電気コンバータである、請求項6に記載の地熱抽出器。
【請求項8】
前記電気化学熱-電気コンバータは、
水素チャンバと、
前記伝熱流体戻り導管に結合され、該伝熱流体戻り導管からの前記気化した伝熱流体を受容するように構成された作動流体チャンバであって、前記気化した伝熱流体は前記作動流体チャンバを流通する作動流体である、作動流体チャンバと、
前記水素チャンバに結合されて該水素チャンバに水素を供給し、前記作動流体チャンバに結合されて該作動流体チャンバから作動流体を受容する凝縮チャンバと、
複数の膜電極アセンブリであって、各膜電極アセンブリがアノード、カソード、及び該アノードと該カソードの間に挟まれたプロトン導電膜を備える、複数の膜電極アセンブリと、
を備え、
前記膜電極アセンブリの前記アノードは、前記水素チャンバ内に配置され、前記凝縮チャンバから供給される水素のフローに曝露され、
前記膜電極アセンブリの前記カソードは、前記作動流体チャンバ内に配置され、該作動流体チャンバ内を流れる前記作動流体に曝露される、請求項7に記載の地熱抽出器。
【請求項9】
前記膜電極アセンブリが、電気的に直列接続された、請求項8に記載の地熱抽出器。
【請求項10】
前記気化した伝熱流体は、等温又は略等温条件下で前記凝縮チャンバ内で凝結する、請求項8に記載の地熱抽出器。
【請求項11】
前記作動流体は前記膜電極アセンブリの前記カソードを順次通過し、前記作動流体は、その気化潜熱を各膜電極アセンブリに漸次かつ順次放出し、それにより前記作動流体の定温又は略定温の凝結を近似しながら発電する、請求項9に記載の地熱抽出器。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0050
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0050】
導管33は、凝縮器40を水素チャンバ56に結合する。導管33はエンクロージャ60とは別個の構成要素であってもよく、それはエンクロージャ60に結合され、又は導管33はエンクロージャ60の延長であってもよい(すなわち、エンクロージャ60と一体であってもよい)。作動流体チャンバ36の第1の端部、すなわち、入口は、戻り導管10からの気化した伝熱流体が作動流体チャンバ36の第1の端部に供給されるように、伝熱流体戻り導管10に結合される。作動流体チャンバ36の第2の端部、すなわち、出口は、作動流体62のフローが作動流体チャンバ36から凝縮器40に供給されるように、凝縮器40に結合される。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0051
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0051】
図6を参照すると、電気化学コンバータ43は、動作モードで示される。動作時に、凝縮器40からの水素64は、水素チャンバ56に、より具体的にはMEA48の直列体のアノード54に供給され、それにより、MEA48の高分圧状態又は側を形成する。水素64がアノード54上を通過するにつれて、プロトンがプロトン導電膜52を通じてカソード50に導電され、電子が負荷58に送給される。同時に、地熱抽出器によって生成された作動流体62、より具体的には水蒸気は、地熱抽出器の戻り導管10から作動流体チャンバ36に、より具体的にはMEA48の直列体のカソード50に供給され、それによりMEA48の低分圧状態又は側を形成する。放出されたプロトン及び電子は、カソード50内で低圧状態の水素に還元され、一方、この生成された水素は作動流体(水蒸気)62のフロー内に放出される。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0052
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0052】
より具体的には、水素が圧力差の下で各MEA48間を移動するにつれて、電流が外部負荷58を通じて流れ、水素がアノード54内で酸化され、プロトンがプロトン導電膜52を通じてカソード50まで通過し、電子が負荷58を通じてカソード50に送給されるにつれて水素に還元して戻される。結果として得られる水素は、動作流体チャンバ36内に放出される。戻り導管10から作動流体チャンバ36に入る作動流体62、好ましくは水蒸気には実質的に水素がないことから、水素の圧力差がMEA48間に生成される。したがって、カソード50が作動流体チャンバ36内のガス流からの膨張熱を抽出するにつれて、水素は、高圧導管である水素チャンバ56から、低圧導管である作動流体チャンバ36に膨張する。作動流体チャンバ36では、生成された水素が、地熱抽出器からのガス流62と混合し、それにより、その分圧を低減する。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0053
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0053】
一方、水素の圧力差によって、各MEA48間に電圧差が生じる。水素は、電極50内で酸化される。MEA48によって生成された電圧は、ネルンストの式によって与えられる。その電圧は、温度に対して線形であり、水素の圧力比の対数関数となる。その電圧は、ネルンストの式を用いて計算される(J.H.Hirschenhofer,D.B.Stauffer,R.R.Engleman,and M.G.Klett,Fuel Cell Handbook,Fourth Edition,p.2-5,1999)
【数1】
なお、VOCは開回路電圧であり、Rは一般気体定数であり、Tはセル温度であり、Fはファラデー定数であり、Pは高圧側の圧力であり、Pは低圧側の圧力であり、圧力比はP/Pである。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0054
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0054】
一実施形態では、作動流体、より具体的には水蒸気が、過熱蒸気として又は飽和状態で作動流体チャンバ36に供給され得る。飽和蒸気状態の場合、その凝結熱がその減少する分圧下でMEA48に対して放出されるにつれて、作動流体62は凝縮器40内で凝結して液体又はミスト46となる。水蒸気の凝結熱が消費されるにつれて、MEA48を通じた水素の膨張熱が電力に変換される。残留水蒸気は、残留凝結熱の除去によってガス分離チャンバ40内で凝結される。一方、矢印64によって示すように水素ガス39が水素チャンバ56に供給されるにつれて、ここでは水38として液体状態にある作動流体は自己分離し、流体フロー制御バルブ30を通じて伝熱流体供給導管16に供給される。図1~2に関して上述したように、液体作動流体を昇圧状態で伝熱流体供給導管16に供給するためにポンプ17が含まれてもよい。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0055
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0055】
電気的に接続されたMEA48の直列体は、単一のMEAと比較して電力出力を最大化するという有利な効果を与える。凝縮器40に結合された作動流体チャンバ36の出口に対して(蒸気戻り導管10からの入力に対応する)作動流体チャンバ36の入口から流れるガス流(作動流体)62に水素が混合するにつれて、水素は分圧上昇し、それによりMEA48の圧力比を低減する。圧力比が最大となる作動流体に接触した直列体における最初のMEA48において生成された電圧は、水素分圧比が最小となる作動流体に接触した直列体における最後のMEAの電圧よりも高い。直列接続の電圧を追加すると、MEA48を通じた所与の量の水素伝導に対する出力電力がより高くなる。一方、単一のMEAに発生する電圧では、全体の発電は少なくなる。これは、MEAの出口付近の低い圧力比が入口付近の高い圧力比を平衡させるためである。誘起された端部間電圧差の下で単一の電極が電流を内部的に導通させるにつれて、エネルギーが失われることになる。水素が単一のMEAの長さに沿う水蒸気フローに連続的に混合するにつれて、MEA電圧は低くなり、水素の平均圧力差に基づくことになる。これに対して、本発明におけるような電気的に接続されたMEA48の直列体では、その直列体における各MEA48は、その直列体に沿う任意の所与の地点において発生する平均ピーク圧力差において動作する。また、熱抽出及び減圧に伴って水蒸気がMEA直列体に流れる際の水蒸気品質の変化は、最大エネルギー変換のための略定温の凝縮発電プロセスを近似し得る。
【手続補正8】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図5
【補正方法】変更
【補正の内容】
図5
【手続補正9】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図6
【補正方法】変更
【補正の内容】
図6
【国際調査報告】