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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】光スプリッタ
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/02 20060101AFI20250109BHJP
   G02B 5/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B5/00 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538116
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-08-14
(86)【国際出願番号】 EP2022086994
(87)【国際公開番号】W WO2023118144
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】2118765.3
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】323003137
【氏名又は名称】トゥルーライフ オプティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴィアエン,ソフィー
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルコフ,アンドリー
【テーマコード(参考)】
2H042
2H199
【Fターム(参考)】
2H042AA03
2H042AA16
2H042AA26
2H199CA02
2H199CA12
2H199CA29
2H199CA30
2H199CA34
2H199CA42
2H199CA49
2H199CA59
2H199CA68
2H199CA83
(57)【要約】
本開示は、拡張現実システムに提供されるような走査プロジェクタシステムのための光スプリッタに関する、光スプリッタは、入力側と、離隔して対向する出力側とを備え、入力側は少なくとも1つの入力光ファセットを備え、出力側は2つ以上の出力光ファセットを備え、少なくとも1つの入力光ファセットは、光源からの入力光信号を受けるように構成され、2つ以上の出力光ファセットは、入力光信号に応じて出力光信号を出力するように配置され、各出力光ファセットは光路を規定し、光路はそれぞれ異なる屈折力を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査プロジェクタシステムのための光スプリッタであって、
前記光スプリッタは、
入力側と、
離隔して対向する出力側と、
を備え、
前記入力側は少なくとも1つの入力光ファセットを含み、
前記出力側は2つ以上の出力光ファセットを含み、
前記少なくとも1つの入力ファセットは、光源から入力光信号を受けるように配置され、
前記2つ以上の出力ファセットは、前記入力光信号に応じて出力光信号を出力するように配置され、
各々の前記出力ファセットは、光路を規定し、
前記光路はそれぞれ異なる屈折力を有する、
光スプリッタ。
【請求項2】
請求項1に記載の光スプリッタであって、
各々の前記2つ以上の出力光ファセットは、それぞれ屈折力を有し、
各々の前記少なくとも2つ以上の出力ファセットの前記屈折力が異なる、
光スプリッタ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光スプリッタであって、
前記出力ファセットは、一次元に配列される、
光スプリッタ。
【請求項4】
請求項1または2に記載の光スプリッタであって、
前記出力ファセットは、二次元に配列される、
光スプリッタ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項以上に記載の光スプリッタであって、
各々の前記少なくとも2つ以上の出力ファセットの前記屈折力は、各々の前記出力ファセットの曲率半径によって規定され、
各々の前記曲率半径は異なる、
光スプリッタ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項以上に記載の光スプリッタであって、
各々の前記少なくとも2つ以上の出力ファセットの前記屈折力は、各々の前記出力ファセットの曲率半径によって規定され、
各々の前記ファセットは、異なる曲率中心を有する、
光スプリッタ。
【請求項7】
請求項5および6に記載の光スプリッタであって、
前記出力ファセットの湾曲は、凹状および凸状の少なくとも一方である、
光スプリッタ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の光スプリッタであって、
前記入力側は、2つ以上の入力光ファセットを含む、
光スプリッタ。
【請求項9】
請求項8に記載の光スプリッタであって、
各々の前記2つ以上の入力光ファセットは、それぞれ屈折力を有する、
光スプリッタ。
【請求項10】
請求項9に記載の光スプリッタであって、
各々の前記少なくとも2つ以上の入力ファセットの前記屈折力が異なる、
光スプリッタ。
【請求項11】
請求項8に記載の光スプリッタであって、
前記入力光ファセットは、一次元に配列される、
光スプリッタ。
【請求項12】
請求項8に記載の光スプリッタであって、
前記入力光ファセットは、二次元に配列される、
光スプリッタ。
【請求項13】
請求項8に記載の光スプリッタであって、
各々の前記少なくとも2つ以上の入力ファセットの前記屈折力は、各々の前記入力ファセットの曲率半径によって規定され、
各々の前記曲率半径は異なる、
光スプリッタ。
【請求項14】
請求項8に記載の光スプリッタであって、
各々の前記少なくとも2つ以上の入力ファセットの前記屈折力は、各々の前記入力ファセットの曲率半径によって規定され、
各々の前記ファセットは、異なる曲率中心を有する、
光スプリッタ。
【請求項15】
請求項1~14のいずれかに記載の光スプリッタであって、
容積のある多角形の透明な構造を有する、
光スプリッタ。
【請求項16】
請求項1に記載の光スプリッタであって、
各々の前記出力光ファセットは、異なる焦点距離を有する、
光スプリッタ。
【請求項17】
仮想網膜ディスプレイのための走査プロジェクタシステムであって、
前記走査プロジェクタシステムは、
入力光信号を提供する光源と、
前記光源からの前記入力光信号を反射的に走査するように配置された走査ミラーと、
請求項1~15に記載の光スプリッタと、
を備え、
前記光スプリッタは、前記走査ミラーの光路内に配置され、
前記走査ミラーは、第1の角度位置と第2の角度位置との間で回転するように配置される、
走査プロジェクタシステム。
【請求項18】
請求項17に記載の走査プロジェクタシステムであって、
前記光スプリッタの前記入力側は、前記走査ミラーによって反射的に走査された前記入力光信号を受けるように配置され、
前記光スプリッタの前記出力側は、前記入力光信号の前記角度位置に応じて前記出力光ファセットの1つから出力光信号を出力するように配置される、
走査プロジェクタシステム。
【請求項19】
請求項17に記載の走査プロジェクタシステムであって、
前記光源は、レーザダイオードまたは発光ダイオードのRGB光源のアレイである、
走査プロジェクタシステム。
【請求項20】
仮想網膜ディスプレイであって、
請求項16~19に記載の走査プロジェクタシステムと、
ホログラフィック光学素子と、
を備え、
前記走査プロジェクタシステムは、前記ホログラフィック光学素子上に複数の射出瞳を投影するように配置され、
前記ホログラフィック光学素子は、前記複数の射出瞳をユーザの眼に向けるように配置される、
仮想網膜ディスプレイ。
【請求項21】
請求項20に記載の仮想網膜ディスプレイを備える拡張現実眼鏡であって、
前記ホログラフィック光学素子は、前記眼鏡のレンズ内またはレンズ上に配置される、
拡張現実眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は光スプリッタに関し、特に、拡張現実ディスプレイシステムなどの仮想網膜ディスプレイプロジェクタシステムにおけるアイボックス拡大のための光スプリッタに関する。
【背景技術】
【0002】
ウェアラブル(またはヘッドマウント)ディスプレイなどの拡張現実(AR:Augmented reality)ディスプレイを使用すると、ユーザは表示内容を閲覧しながら、外部環境を見ることもできる。表示内容はテキストメッセージや指示グラフィックなどの電子メッセージであり、ユーザの外部環境のビューに重ねて表示される。ARディスプレイを使用すると、ユーザは、従来のグラフィック表示のように見えるものを、目の前の視界に浮かぶ仮想画像の形態で見ることができる。ARディスプレイは、スマートグラスの形態を取ることができ、スマートグラスを装着したユーザに対して仮想画像を表示することができる。こうしたARディスプレイシステムでは、通常、ホログラフィック光学素子(HOE:holographic optical elements)を用いて、仮想網膜ディスプレイプロジェクタからの光をユーザの眼に向ける。HOEは通常、スマートグラスの1つ以上のレンズ内またはレンズ上に設けられる。
【0003】
拡張現実ディスプレイ、より一般的には望遠鏡や双眼鏡など眼の近くで使用する光学デバイスにおいて、アイボックスの概念とは、デバイスまたはディスプレイによって提供される画像をユーザが見ることができる、眼の位置の範囲のことである。この概念は拡張現実ディスプレイの分野において周知であり、たとえば米国特許第9,958,682号に記載されている。米国特許第9,958,682号は、嵩張る高価な光学部品を追加することなく、瞳複製によってより大きいアイボックスを提供することの相対的利点について議論している。
【0004】
米国特許第9,958,682号に記載される光スプリッタは、光スプリッタの出力側において複数のファセットを使用する。光スプリッタはホログラフィック光学素子と連動して、複数の複製された瞳をユーザの眼に向ける。しかし、この構成の問題点は、複数の複製された瞳に送られる画像の解像度が瞳ごとに異なることである。これは、複数の複製された瞳が、移動する仮想プロジェクタビームのセットから生じるものであり、追加の光学部品がなければ適切にユーザの眼に焦点合わせされないためである。
【0005】
この問題点に対処するために、液体レンズなどの追加の光学部品を使用することが公知である。解決策としての液体レンズが正しく機能するためには、視線追跡を行ってレンズの屈折力を動的に調整する必要がある。ユーザの瞳の位置が検出され、ユーザの眼への光線経路は複数の仮想プロジェクタ位置のうちの1つによるものであることが分かる。それに応じてレンズの屈折力が調整され、使用される特定の複製された瞳に対する解像度が向上する。液体レンズの屈折力を調整し、光スプリッタによって生成される仮想プロジェクタ位置ごとに異なる屈折力を提供するためには、視線追跡が必要である。さらに、すべての複製された瞳の収差を補正するために単一の光学素子が用いられるため、液体レンズは、プロジェクタシステムの収差を補正するのに最適ではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、上記の課題を踏まえ、走査プロジェクタシステムのための光スプリッタが提供される。光スプリッタは、入力側と、離隔して対向する出力側と、を備え、入力側は少なくとも1つの入力光ファセットを含み、出力側は2つ以上の出力光ファセットを含み、少なくとも1つの入力ファセットは、光源から入力光信号を受けるように配置され、2つ以上の出力ファセットは、入力光信号に応じて出力光信号を出力するように配置され、各々の出力光ファセットは、光路を規定し、光路はそれぞれ異なる屈折力を有する、光スプリッタ。
【0007】
2つ以上の出力光ファセットは、それぞれ屈折力を有し、各々の少なくとも2つ以上の出力ファセットの屈折力が異なる。出力ファセットは、一次元に配列、または二次元に配列される。
【0008】
各々の少なくとも2つ以上の出力ファセットの屈折力は、各々の出力ファセットの曲率半径によって規定され、各々の曲率半径は異なる。各々の少なくとも2つ以上の出力ファセットの屈折力は、各々の出力ファセットの曲率半径によって規定され、各々の出力ファセットは、異なる曲率中心を有する。出力ファセットの湾曲は、凹状および凸状の少なくとも一方である。
【0009】
入力側は、2つ以上の入力光ファセットを含む。各々の2つ以上の入力ファセットは、それぞれの屈折力を有し、各々の少なくとも2つ以上の入力ファセットの屈折力が異なる。入力ファセットは、一次元に配列、または二次元に配列される。各々の少なくとも2つ以上の入力ファセットの屈折力は、各々の入力ファセットの曲率半径によって規定され、各々の曲率半径は異なる。各々の少なくとも2つ以上の入力ファセットの屈折力は、各々の入力ファセットの曲率半径によって規定され、各々のファセットは、異なる曲率中心を有する。光スプリッタは容積のある多角形の透明な構造を有し、出力光ファセットは、それぞれ異なる焦点距離を有する。
【0010】
また、仮想網膜ディスプレイのための走査プロジェクタシステムが提供される。走査プロジェクタシステムは、入力光信号を提供する光源と、光源からの入力光信号を反射的に走査するように配置された走査ミラーと、実施形態による光スプリッタと、を備え、光スプリッタは、走査ミラーの光路内に配置され、走査ミラーは、第1の角度位置と第2の角度位置との間で回転するように配置される。光スプリッタの入力側は、走査ミラーによって反射的に走査された入力光信号を受けるように配置され、光スプリッタの出力側は、入力光信号の角度位置に応じて出力ファセットの1つから出力光信号を出力するように配置される。光源は、レーザダイオードまたは発光ダイオードのRGB光源のアレイである。
【0011】
さらに、ウェアラブル仮想網膜ディスプレイも提供される。仮想網膜ディスプレイは、走査プロジェクタシステムと、ホログラフィック光学素子と、を備え、走査プロジェクタシステムは、ホログラフィック光学素子上に複数の射出瞳を投影するように配置され、ホログラフィック光学素子は、複数の射出瞳をユーザの眼に向けるように配置される。
【0012】
さらに、仮想網膜ディスプレイを備える拡張現実眼鏡が提供される。ホログラフィック光学素子は、眼鏡のレンズ内またはレンズ上に配置される。
【0013】
本開示の特徴を詳細に理解できるように、実施形態を参照してより具体的に説明する。実施形態のいくつかを添付の図面に示している。ただし、添付の図面は典型的な実施形態のみを示しているため、本発明の範囲を限定するものではないことに留意されたい。図面は本開示の理解を容易にするためのものであり、必ずしも縮尺通りに描かれているわけではない。請求される主題の利点は、添付の図面と併せて明細書を読むことで、当業者には明らかになるであろう。添付の図面では、同様の要素を示すために同様の参照番号を使用しており、以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】走査プロジェクタシステムにおいて使用される実施形態による光スプリッタを示す概略図である。
図2図2aは、実施形態による光スプリッタを示す上面図である。 図2bは、実施形態による光スプリッタを示す端面図である。 図2cは、実施形態による光スプリッタを示す斜視図である。 図2dは、実施形態による光スプリッタを示す斜視図である。
図3図3aは、実施形態による光スプリッタを示す上面図である。 図3bは、実施形態による光スプリッタを示す斜視図である。 図3cは、実施形態による光スプリッタを示す斜視図である。
図4図4aは、実施形態による光スプリッタを示す上面図である。 図4bは、実施形態による光スプリッタを示す斜視図である。 図4cは、実施形態による光スプリッタを示す斜視図である。
図5a】走査プロジェクタシステムにおいて使用される実施形態による光スプリッタを示す概略図である。
図5b】実施形態による光スプリッタをホログラフィック光学素子と共に使用する、図5aの走査プロジェクタシステムの出力を示す光路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施形態による走査プロジェクタシステム100が図1に概略的に示される。概観すると、走査プロジェクタシステム100は、光源102と、少なくとも1つの走査ミラー104と、光スプリッタ106とを含む。光源102は任意の好適な光源であってもよく、例として、平行光ビームを生成するレーザダイオードまたはLEDなどの低電力RGB(赤色、緑色、青色(red,green,blue))光源の配列を含んでもよい。平行ビームは、たとえば約1mmのビーム径を有してもよく、それに応じて少なくとも1つの走査ミラー104の反射表面積が定められてもよい。光源102は走査ミラー104の入力側に配置されて、光ビームを走査ミラー104上に向ける。光スプリッタ106は、走査ミラー104によって反射された光ビームを受けるように、走査ミラー104の出力側に配置されてもよい。少なくとも1つの走査ミラー104は、チップ-チルトミラーとしても公知である二次元走査ミラーであってもよい。あるいは、2つの一次元走査ミラーが存在して、一方の走査ミラーが水平方向に走査し、他方の走査ミラーが鉛直方向に走査してもよい。走査ミラーは、任意の適切な微小電気機械システム(MEMS:micro electrical mechanical)ミラーであってもよい。説明を簡潔かつ容易にするために、本明細書に記載の実施形態は二次元タイプの走査ミラーを示しており、本開示による発明の概念が同様に適用可能であることは、当業者には理解されよう。光スプリッタ106は、走査ミラー104の出力側に配置されて、走査ミラー104を介して光源102からの光ビームB(または入力光信号)を受ける。
【0016】
光スプリッタ106は光学的に透明な構造体であり、入力側108において光源102からの入力光ビームBを受け、その入力光ビームBを屈折させて複数の出力ビームレットB、B、B(または出力光信号)にする。光スプリッタは、隙間を空けて離隔した光学的に透明な構造体、または異なる別個の隣接する光学構造体で形成されてもよい。
【0017】
走査ミラー104は、最大角度位置と最小角度位置の間の回転角の範囲θにわたって回転するように配置されている。この範囲は、走査ミラーの機械的な偏向の範囲として公知である。たとえば、回転角の合計範囲は30度であってもよい。図示の例において、回転角の範囲は水平面内にあるが、本説明は鉛直面にも適用される。走査ミラー104が平面の鏡面である場合、最大光反射角は、走査ミラー104の投影面の範囲を規定する機械的な偏向角の範囲の角度の2倍である。したがって、入力光ビームBは、走査ミラー104の投影面の範囲にわたって走査してもよい。
【0018】
光スプリッタ106の入力側108は、投影面の範囲で走査ミラー104からの入力光ビームBを受けるように配置されている。光スプリッタ106は、入力光ビームBを屈折させて複数の出力ビームレットB、B、Bとする。これらの出力ビームレットは、出力側110から光スプリッタ106を出る。このようにして、光スプリッタは走査ミラーの光路に配置される。光スプリッタ106の出力側110は、複数の出力ビームレットB、B、Bを発する複数の光ファセット112、114、116を含む。図示の例では、3つの光ファセット112、114、116が入力光ビームBを分岐させてそれぞれの出力ビームレットB、B、Bにするが、光ファセットの数は、入力ビームの入力角に応じて、入力ビームBを分岐させて対応する整数nの出力ビームレットにする、任意の正の整数nであってもよい。
【0019】
上述の走査プロジェクタシステム100などの走査プロジェクタシステムのアイボックスは、プロジェクタから出る射出瞳の形状によって決まる。こうした走査プロジェクタシステムは、小さい射出瞳を使用することが通常であり、その射出瞳は典型的に1mmから0.5mmの面積を有してもよい。実施形態によるプロジェクタシステム100において、アイボックスのサイズを大きくするには、単一のアイボックスのサイズを大きくするのではなく、射出瞳を複製してユーザに対する可視のアイボックスの数を増加させる。これによる利点は、ユーザの視線が中央のアイボックスの位置から逸れるとユーザの眼が中央位置から離れる方に移動することにより、ユーザの視線が中心を外れた場合に、複製され空間的に分離された別のアイボックスがユーザに可視となる、という点である。この概念は、以下の図5bを参照して説明される。複製される射出瞳の数、すなわち空間的に分離されたアイボックスの数は、出力ビームレットBの数に対応し、ビームスプリッタ106の出力側110における光ファセットの数に対応する。
【0020】
幾何学的には、出力ビームレットB、B、Bの各々は、空間的に分離された仮想プロジェクタ位置V、V、Vから発せられるように見える。具体的には、光スプリッタ106は、入力ビームBを分割または複製してそれぞれのビームレットB、B、Bにしており、出力ビームレットBは実質的に仮想プロジェクタ位置Vから発せられる。出力ビームレットBは、実質的に仮想プロジェクタ位置Vから発せられ、出力ビームレットVは実質的に仮想プロジェクタ位置Vから発せられることになる。特定のビームレットは、走査ミラー104によって走査される入力ビームBの角度に依存することとなる。言い換えると、仮想プロジェクタ位置V、V、Vは、それぞれのビームレットB、B、Bの光路を規定する。ビームレットB、B、Bの各々は、中間焦点面x-x上に集束される。
【0021】
使用時、光スプリッタ106は入力側108において入力光ビームBを受ける。光ビームBは、走査ミラー104によって合計角度範囲θを走査でき、その範囲は光スプリッタ106の入力側に光ビームBが入射し得る利用可能な角度の範囲に対応する。光ビームBの入射角(合計角度範囲θのサブセットとしての)に基づいて、光スプリッタからの出力ビームレットは、B、B、Bのうちのいずれか1つとなる。走査ミラー104が範囲θを走査する際に、ビームレットB、B、Bのうちいずれか1つが、光スプリッタ106のそれぞれの出力ファセットから徐々に出てくる。このように、光スプリッタ106は、走査ミラー104の走査角度に基づいて一度に1つのアイボックスを複製する。走査ミラーが光スプリッタ106の入力側108の水平面(図1に示されるページの平面)を走査することは、当業者であれば理解されよう。走査ミラー104が二次元走査ミラーであり、かつ光スプリッタがファセットの二次元配列を含む場合、走査ミラーは、言及された水平方向と、鉛直方向(図1に示されるページの平面に対して垂直)とを走査するように配置される。
【0022】
図2a、図2b、図2c、および図2dは、実施形態による光スプリッタ206の概略図を示す。概観すると、光スプリッタ206は、入力側および対向する出力側を有する、概して容積のある多角形の構造を有し、その入力側208は少なくとも1つの光ファセットを含み、出力側210は多角形構造の側部を構成する2つ以上の隣接する出力ファセット212、214、216を含む。図2a~2cの実施形態に関し、光スプリッタ206の入力側208は、走査ミラーから角回転範囲θにわたって入力光ビームを受けて、その入力光ビームを光スプリッタ206にインカップリングするように配置された単一の平面入力ファセットを含む。
【0023】
光スプリッタ206の出力側210は、入力光ビームから分割された対応する複数のビームレットB、B、Bを、光スプリッタ206からアウトカップリングするように配置された複数の出力光ファセット212、214、216を含む。図2a~2cの例においては、3つの出力ファセット212、214、216が線形配列として配置されている。しかし、出力ファセットは任意の数であってもよく、二次元のn×m配列(ここでnおよびmは正の整数であり、n=1かつm>2である)または円形配列として配置されてもよいことは、当業者であれば理解されよう。出力ファセットの数は、特定の用途で必要な複製アイボックスの数および幾何学的配置に応じて選択することができる。上述のとおり、各々の出力光ファセットは、対応する仮想プロジェクタ位置V、V、Vを規定し、それによって光スプリッタを通る対応する光路を規定する。
【0024】
出力光ファセット212、214、216のうち2つ以上は屈折力を有するまたは付加してもよく、これに関して出力光ファセット212、214、216の各々は屈折力をもたらす湾曲した表面を有してもよい。湾曲した出力ファセット212、214、216の構成によって、対応する数の仮想プロジェクタ位置V、V、Vによって規定される光路に屈折力が導入される。隣接する光ファセットの屈折力は異なっており、この相違によって1つの出力光ファセットから隣接する出力光ファセットへの屈折力が大きくなる。反対に、同じ光ファセットを出発点とすると、相違によって1つの光ファセットから次の光ファセットへの屈折力が小さくなる場合がある。
【0025】
具体的には、屈折力は第1の出力光ファセット212から第2の出力光ファセット214に向けて大きくなり、第3の出力光ファセット216において最大になってもよい。反対の場合には、屈折力は第1の出力光ファセット212から第2の光ファセット214に向けて小さくなり、第3の光ファセット216において最小になってもよい。屈折力が大きくなる場合の非限定的な例として、第1の出力光ファセットの屈折力は+10ジオプター(m-1)、第2の出力光ファセットの屈折力は+30ジオプター(m-1)、第3の出力光ファセットの屈折力は+100ジオプター(m-1)であってもよい。
屈折力が小さくなる場合の非限定的な例として、第1の光ファセットの屈折力は+100ジオプター(m-1)、第2の光ファセットの屈折力は+30ジオプター(m-1)、第3の光ファセットの屈折力は+10ジオプター(m-1)であってもよい。前述の例では、屈折力に対して正符号を用いることによって、正または凸状の湾曲した光ファセット表面を示している(光スプリッタを通って伝搬する光の方向から考えた場合)が、屈折力に対して負符号を用いて負または凹状の湾曲した光ファセット表面を示される場合もある(光スプリッタを通って伝搬する光の方向から考えた場合)ことは、当業者であれば理解するだろう。
【0026】
さらに、屈折力は変動し得るものであり、ビームレットに対する屈折力の大きさが、入力ビームや適用するもの(たとえば拡張現実スマートグラスなど)の特定の性質に応じて、また、その他のビームレットに加算/減算する必要がある屈折力の差分に応じて正または負となる可能性がある。実際、屈折力の差がたとえば+40、+0、-40ジオプターになるように、凸状もしくは凹状の湾曲または平面の光ファセット表面が任意に組み合わされてもよいことは、当業者であれば理解するだろう。上述のような構成例等は、二次元に配列された出力光ファセット、すなわち隣接する出力光ファセット間に屈折力の差が存在する出力光ファセットにも適用される。
【0027】
ホログラフィック光学素子をARに適用する場合、中間焦点面x-xを光スプリッタにより近づけて、ホログラフィック光学素子から遠ざけるには、より大きな正の集束力が必要であることは、当業者であれば理解するだろう。一方で、中間焦点面x-xをホログラフィック光学素子により近づけて、光スプリッタから遠ざけるには、より大きな負の屈折力が必要である。屈折力の差を適切に選択することによって、中間焦点面の位置をホログラフィック光学素子の位置に対して一致させることができ、アイボックスの形状、すなわちアイボックス内の複数の複製された瞳の間隔に合わせることができる(図5b参照)。
【0028】
屈折力の差を適切にするために、各出力光ファセットが異なる曲率半径を有してもよい。任意選択で、各ファセットが入射ビームに対して異なる曲率中心(言い換えるとファセットの傾斜)を有してもよく、かつ、または各々のファセットが異なる曲率半径および異なる曲率中心の両方を有してもよい。この場合の曲率半径は、それぞれのファセットの湾曲部の頂点から曲率中心までの距離によって定められ、ここでは、頂点はそのファセットの光軸上に位置する。上記は、光スプリッタ全体で屈折率が一定であることを想定している。実際には、各々のファセットが楕円形であってもよいし、自由曲率でさらに収差を制御できるようにしてもよい。任意選択で、異なる曲率半径または曲率中心ではなく、光スプリッタ全体で屈折率の差を利用することによって、必要な屈折力の差を求めることが可能であってもよい。この屈折率の差は、分布型の(graded)屈折率であってもよい。具体的には、光スプリッタ材料の屈折率が仮想プロジェクタ位置V、V、Vの各々に対応して異なっていてもよく、これによって、対応する仮想プロジェクタ位置V、V、Vから発されるビームレットの各々に関する屈折力の差が規定されてもよい。
【0029】
図2bおよび図2cは、実施形態の例による光スプリッタの出力側210の端面図および斜視図をそれぞれ示す。この例において、出力側210は、1×3配列として配置された3つのファセット212、214、216で構成される。瞳複製の必要数および位置に応じて、出力側210に任意の数のファセットを設けてもよいことは、当業者であれば理解するだろう。たとえば、図2dの斜視図に示されるとおり、6つの瞳複製が必要な場合、光スプリッタ206の出力側210は、出力ファセットの2×3配列として配置されてもよい。したがって、出力光ファセットは、二次元n×m配列として配置されてもよく、ここでnおよびmは正の整数であり、n>2かつm>2であることは、当業者であれば理解するだろう。
【0030】
図2a~2cに示される1×3配列の場合、各々のファセットは、隣接するファセットのそれぞれの端点同士と繋がる端縁または端点を含んでもよい。この実施形態例において、ファセット212の1つの端点は、ファセット214の第1の端点と隣接することとなる。ファセット214の第2の端点は、ファセット216の端点と隣接することとなり、この概念は、たとえば図2dの2×3配列の例などの任意の数のファセットに適用されてもよい。これに関して、端点は明確な線/境界でなくてもよく(特に、隣接するファセットの曲率半径が類似しているが同一でない場合、または曲率中心が類似しているが同一でない場合であってもよい)、別個の異なる瞳を複製するファセット同士の交線を規定する、出力側における出力ファセットの外部端縁を単に規定するものであってもよい。これに関して、各々のファセットが別個の異なるアイボックスを規定する(上述のとおり、光スプリッタの入力側における入力ビームBの入射角に依る)ことは、当業者であれば理解するだろう。
【0031】
さらに、図2aに示される光スプリッタを見ると、個々の出力側ファセット212、214、216は凹状であってもよいが、出力表面210全体の形状も概して凹状の輪郭であってもよい。別の構成として、出力表面全体の形状は概して凸状の輪郭であってもよいが、個別に凹形状のファセット212、214、216がなおも保持されてもよい。その逆も当てはまり、個々のファセット212、214、216は凸状であってもよく、出力表面210全体の形状も凸状または凹状の輪郭であってもよい。さらに、個々の出力ファセット212、214、216は、凹状、凸状、および平面の少なくとも1つの組み合わせであってもよく、出力表面210全体の形状も出力ファセットの個々の湾曲にかかわらず、凸状または凹状の輪郭であってもよい。
【0032】
図3aおよび図3bは、実施形態による光スプリッタ306の概略図を示す。概観すると、光スプリッタ306は、入力側および出力側を有する概して容積のある多角形の構造を有し、その入力側308および出力側310は、概して多角形構造の側部を構成するファセット型構造を有する。出力側310は、上述の図2a~2cの構成または図2dの構成と一致した構成であってもよい。図2a~2cの配置とは異なり、図3aおよび図3bの構成については、入力側308は、走査ミラーから角回転の範囲θにわたって入力光ビームを受け取って、その入力光ビームを光スプリッタ306内にインカップリングするように配置された湾曲入力ファセットを含む。入力側は、屈折力をもたらすよう円形に湾曲されても、楕円形に湾曲されても、自由形態で湾曲されてもよく、凹状または凸状であってもよい。上述の図2dの配置と同様に、出力側310の出力光ファセットは、図3cに示されるとおりの二次元のn×m配列として配置されてもよい。
【0033】
図4aおよび図4bは、実施形態による光スプリッタ406の概略図を示す。概観すると、光スプリッタ406は、入力側および出力側を有する概して容積のある多角形の構造を有し、その入力側408および410は、概して多角形構造の側部を構成するファセット型構造を有する。出力側410は、上述の図2a~2cの構成と一致した構成であってもよい。図2a~2cの構成とは異なり、図4aおよび図4bの実施形態にでは、入力側408は、走査ミラーから角回転の範囲θにわたって入力光ビームを受け取って、その入力光ビームを光スプリッタ406内にインカップリングするように配置された複数の湾曲入力ファセット418、420、422を含んでもよい。入力ファセットはn×m配列として配置されてもよく、ここでnおよびmは正の整数であり、n=1かつm>2であるか、またはn>1かつm>2である。各々の入力ファセットは円形に湾曲されても、楕円形に湾曲されても、自由形態で湾曲されてもよい。入力光ファセットは、出力側410のファセットと同様の方式で配置されてもよく、すなわち入力ファセットはファセットの配列として配置されてもよく、各々のファセットは屈折力を有してもよく、ファセットは各々が異なる屈折力を有するように個別に凹状または凸状であってもよいことは、当業者であれば理解するだろう。入力表面は、入力ファセット418、420、422の個々の湾曲にかかわらず、全体的な輪郭の凸状または凹状の形状を規定してもよい。上述の図2dおよび図3bの構成と同様に、出力側410の出力光ファセットは、図4cに示されるとおりの2次元のn×m配列として配置されてもよい。
【0034】
したがって、上記の説明によると、入力側および出力側の光ファセットは、薄く、互いに近接して機能するレンズ表面と考えられ、そのようなレンズ表面の屈折力は各表面の屈折力の和に等しくなる。入力光ファセットおよび出力光ファセットは、仮想プロジェクタ位置によって規定される光路を共有するときに協働すると考えられ得る。より具体的には、湾曲した入力側を有する図3a~3cの実施形態に関しては、出力側ファセット312、314、316の各々に関連する合計屈折力PTotalは、各個々の出力側ファセットの屈折力Poutと、湾曲した入力側の屈折力Pinとの和に等しくなる。言い換えると、図1の例のように、仮想プロジェクタVおよびビームレットBに関連する屈折力は、入力側108および出力ファセット112の屈折力に等しくなる。これは、出力ファセット114に対する仮想プロジェクタVおよびビームレットBに関連する屈折力にも当てはまり、以下同様に特定の出力ファセットに関するそれぞれの仮想プロジェクタV、ビームレットBの各々に対しても当てはまる。同様に、湾曲したファセット入力側を有する図4a~4cの実施形態に関しては、出力側ファセット412、414、416の各々に関連する合計屈折力PTotalは、各個々の出力側ファセットの屈折力Poutと、入力側ファセット418、420、422の各々の屈折力Pinとの和に等しくなる。言い換えると、図1の例のように、仮想プロジェクタVおよびビームレットBに関連する屈折力は、入力側ファセットおよびそれぞれの出力ファセットの屈折力に等しくなる。これは、各々が入力側ファセットおよび出力ファセットのそれぞれの対である仮想プロジェクタVおよびビームレットBに関連する屈折力にも当てはまり、以下同様に入力および出力側ファセットの特定の対に関するそれぞれの仮想プロジェクタV、ビームレットBの各々にも当てはまる。
【0035】
実施形態によれば、光スプリッタ106、206、306、406は、光学ガラス(例、BK-7)、アクリル、または蛍石などの任意の適切な光学材料で形成されてもよい。光スプリッタの最大の厚さ(入力側から出力側までの)は、数ミリメートル(mm)および典型的には2~10mm、好ましくは約3~5mmの範囲内となる。光スプリッタは、入力側と出力側との間に空隙を有してもよい。光スプリッタは光学材料の組み合わせで形成されてもよく、この場合、入力側が1つの材料で形成され、出力側が別の材料で形成される。同様に、入力側は出力側と同じ材料で形成されてもよいが、屈折率が異なってもよい。
【0036】
本明細書に記載されるように、光スプリッタに屈折力を適用することによって、複製された瞳はユーザの眼に適切に焦点合わせされた一連の移動位置(仮想プロジェクタ位置など)から生じるため、アイボックス間で画像品質が均一となり、それにより解像度が改善される。加えて、こうした屈折力を選択してアイボックスの特定の収差を補正することによって、解像度が向上する。液体レンズやそれに関連する問題を伴わず、このような改良が可能である。
【0037】
図2a~2d、図3a~3c、および図4a~4cに関して上述されたタイプの光スプリッタ206、306、406は、図1に示されるタイプの走査プロジェクタシステムに含まれてもよい。図5aは、図3aおよび図3bに関して上述されたタイプの光スプリッタ306を使用した走査プロジェクタシステムを示す。適用対象の特定の状況に応じて、かつ記載される本発明の概念と一致して、本明細書に記載される任意の光スプリッタが使用されてもよいことは、当業者であれば理解するだろう。入力および/または出力ファセットが配列の各方向でファセットが2より多い(たとえば3×3など)二次元配列である場合、走査ミラーは二次元走査ミラーであり得る。入力側のファセットの数は、出力側の光ファセットの数と等しくなり得る。反対に、入力側のファセットの数が出力側の光ファセットの数と等しくないこともある。
【0038】
図1の構成と同様に、光源502からの光は、走査ミラー504によって光スプリッタ306の入力側308へと反射される。複数の出力ファセット312、314、316を含む光スプリッタ306の出力側310は、入力光ビームBからの対応する複数の出力ビームレットB、B、Bをアウトカップリングするように配置される。光スプリッタ306は、光スプリッタ306の入力側における入力ビームBの入射角に応じて、出力ビームレットB、B、Bのうちの1つをアウトカップリングする。これは仮想プロジェクタ位置V、V、Vに対して示される。具体的には、走査ミラー504が仮想プロジェクタ位置Vに対応する第1の角度であるときは、光スプリッタ306の出力側310の光ファセット312から出力ビームレットBが出射される。同様に、走査ミラー504が仮想プロジェクタ位置VまたはVに対応する後続の角度にあるときは、入力ビームBの角度に応じて、光スプリッタ306の出力側310の光ファセット314または316から出力ビームレットBまたはBが出射される。出力ビームレットBは、入力側および出力側ファセット312に関連する屈折力により、中間焦点fに集束する。同様に、出力ビームレットBは、入力側および出力側ファセット314に関連する屈折力により、中間焦点fに集束する。さらに、出力ビームレットBは、入力側および出力側ファセット316に関連する屈折力により、中間焦点fに集束する。出力側ファセット312から出現するビームレットBの焦点距離fは、出力側ファセット314から出射されるビームレットBの焦点距離fよりも小さくてもよい。出力側ファセット314から出射されるビームレットBの焦点距離fは、出力側ファセット316から出射されるビームレットBの焦点距離fよりも小さくてもよい。言い換えると、f<f<fである。あるいは、特定の用途に応じて、出力側ファセット312から出射されるビームレットBの焦点距離fは、出力側ファセット314から出射されるビームレットBの焦点距離fよりも大きくてもよい。出力側ファセット314から出射されるビームレットBの焦点距離fは、出力側ファセット316から出現するビームレットBの焦点距離fよりも大きくてもよい。言い換えると、f>f>fである。このように、焦点距離は1つのファセットから次のファセットへと単調増加するか、または単調減少する。
【0039】
上記の例に従い、第1の出力光ファセットの屈折力が+10ジオプター、第2の出力光ファセットの屈折力が+30ジオプター、第3の出力光ファセットの屈折力が+100ジオプターである場合、対応する焦点距離はそれぞれ10mm、30mm、および100mmとなる(なお、図5aは縮尺どおりに描かれていない)。したがって、入射入力ビームに応じて、それぞれの出力ビームには正味の屈折力の差が生じる。その結果として、出力光ファセットのうち1つを通るビームレットが受ける屈折力に応じた分だけ、中間焦点面の焦点が移動可能となる。このように、たとえば液体レンズなどの光学部品を追加することなく、特定のホログラフィック光学素子設計およびアイボックス複製形状に合わせて光スプリッタが最適化できる。たとえば、屈折力を利用せず、1つのビームレットが(ホログラフィック光学素子から)40mmの焦点距離を有してもよい。4ジオプターでは、およそ5mmの焦点移動となってもよい。
【0040】
したがって、入力側の屈折力(図2a~2dの構成の場合は0であってもよい)と、出力側ファセットの屈折力との組み合わせによって決まる屈折力によって、光スプリッタにおける入力ビームの入射角に応じて特定のビームレットの焦点距離を変更できることは、当業者であれば理解するだろう。そうすることで、液体レンズがなくても、各々のアイボックスに対するビームレットの視準が改善される。これは、液体レンズなどの公知の解決法に対する明確な利点を有する。なぜなら、液体レンズに入射するビームレットの角度に応じて液体レンズの焦点距離を調節するのに、高価で複雑な制御電子部品が不要となるためである。
【0041】
実施形態による光スプリッタを含む図1および図5aに関して、上述のタイプの走査プロジェクタシステムは、たとえばスマートグラス、ヘッドマウントディスプレイ、およびヘッドアップディスプレイなどの拡張現実(AR)システムに使用されてもよい。ARシステムは当該技術分野において周知であり、典型的に走査プロジェクタシステムを含み、使用するときにホログラフィック光学素子(HOE)に画像を投影し、そこから画像がユーザの眼に送られる。HOEは、ARシステムのレンズ内またはレンズ上に配置されてもよく、レンズは眼鏡フレームなどのフレームに装着されてもよい。フレームは、プロジェクタシステムを支持することもでき、プロジェクタシステムは眼鏡フレームのアームなどのフレームに装着または収容され得る。プロジェクタは、HOEを含むレンズに対して位置合わせされ、画像をユーザの眼に向けることができる。
【0042】
実施形態によるプロジェクタシステムから出力ビームレットB、B、Bがホログラフィック光学素子(HOE)に入射される様子を示す概略図を図5bに示す(図5aと同様、縮尺どおりに描かれていない)。図5aに示される光源502および走査ミラー504からの入力光ビームBの入力角に応じて、空間的に分離された射出瞳510、520、および50nがユーザの眼に投影される。走査ミラー504が仮想プロジェクタ点Vに対応する位置にあるとき、ビームレットBはファセット312から光スプリッタを出て、焦点fに集束する。次いでビームレットBはホログラフィック光学素子(HOE)に入射し、射出瞳位置510に向けられる。同様に、走査ミラー504が仮想プロジェクタ点Vに対応する位置にあるとき、ビームレットBはファセット314から光スプリッタを出て、焦点fに集束する。次いでビームレットBはホログラフィック光学素子(HOE)に入射し、射出瞳位置520に向けられる。同様に、走査ミラー504が仮想プロジェクタ点Vに対応する位置にあるとき、ビームレットBはファセット316から光スプリッタを出て、焦点fに集束する。次いでビームレットBはホログラフィック光学素子(HOE)に入射し、射出瞳50nの位置に向けられる。各々のビームレットが受ける屈折力が異なるため、これらのビームレットは、光スプリッタから異なる焦点距離で集束する。言い換えると、光スプリッタの各々の出力ファセットは、異なる焦点距離を有する。このように、入力光ビームBの入力角に基づいて、画像解像度を低下させることなく、かつ、液体レンズなどの追加の光学素子を必要とすることも、それに付随する問題もなく、ユーザの眼における瞳複製を実現できる。
【0043】
なお、添付の図面に示される光ファセットの湾曲は、例示の目的のために誇張されており、(本文または図面に記述されていない限り)寸法を推測するものではないことに留意されたい。
【0044】
本開示の特定の好ましい態様は、独立請求項に記載されている。従属請求項および/または独立請求項の特徴の組み合わせは、請求項に記載されているとおりに組み合わせるのではなく、適宜組み合わせることができる。
【0045】
本開示の範囲には、本開示に関連するかどうか、または本開示によって対処される問題のいずれかまたはすべてを軽減するかどうかに関係なく、明示的または暗黙的に開示されたあらゆる新規な特徴または特徴の組み合わせ、またはその一般化が含まれる。出願人は、本出願または本出願から派生する出願の審査中に、かかる特徴に対して新たな請求項が作成される可能性があることをここで述べるものとする。特に、本請求項を参照すると、従属請求項の特徴は独立請求項の特徴と組み合わせることができ、また、それぞれの独立請求項の特徴は、請求項に列挙された特定の組み合わせだけではなく、任意の適切な方法で組み合わせることができる。
【0046】
別々の実施形態の文脈で説明されている特徴は、単一の実施形態で組み合わせることもできる。逆に、簡潔さのため、単一の実施形態の文脈で説明されているさまざまな特徴は、別々に、または任意の適切なサブコンビネーションとすることもできる。
【0047】
「含む」という記載は、他の要素またはステップを除外するものではなく、単数の記載は、複数を除外するものではない。請求項中の参照符号は、請求項の範囲を限定するものではない。
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図4c
図5a
図5b
【手続補正書】
【提出日】2024-08-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査プロジェクタシステムのための光スプリッタであって、
前記光スプリッタは、
入力側と、
離隔して対向する出力側と、
を備え、
前記入力側は少なくとも1つの入力光ファセットを含み、
前記出力側は2つ以上の出力光ファセットを含み、
前記少なくとも1つの入力ファセットは、光源から入力光信号を受けるように配置され、
前記2つ以上の出力ファセットは、前記入力光信号に応じて出力光信号を出力するように配置され、
各々の前記出力ファセットは、光路を規定し、
前記光路はそれぞれ異なる屈折力を有する、
光スプリッタ。
【請求項2】
請求項1に記載の光スプリッタであって、
各々の前記2つ以上の出力光ファセットは、それぞれ屈折力を有し、
各々の前記少なくとも2つ以上の出力ファセットの前記屈折力が異なる、
光スプリッタ。
【請求項3】
請求項に記載の光スプリッタであって、
前記出力ファセットは、一次元に配列される、
光スプリッタ。
【請求項4】
請求項に記載の光スプリッタであって、
前記出力ファセットは、二次元に配列される、
光スプリッタ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項以上に記載の光スプリッタであって、
各々の前記少なくとも2つ以上の出力ファセットの前記屈折力は、各々の前記出力ファセットの曲率半径によって規定され、
各々の前記曲率半径は異なる、
光スプリッタ。
【請求項6】
請求項に記載の光スプリッタであって、
各々の前記少なくとも2つ以上の出力ファセットの前記屈折力は、各々の前記出力ファセットの曲率半径によって規定され、
各々の前記ファセットは、異なる曲率中心を有する、
光スプリッタ。
【請求項7】
請求項に記載の光スプリッタであって、
前記出力ファセットの湾曲は、凹状および凸状の少なくとも一方である、
光スプリッタ。
【請求項8】
請求項に記載の光スプリッタであって、
前記入力側は、2つ以上の入力光ファセットを含む、
光スプリッタ。
【請求項9】
請求項8に記載の光スプリッタであって、
各々の前記2つ以上の入力光ファセットは、それぞれ屈折力を有する、
光スプリッタ。
【請求項10】
請求項9に記載の光スプリッタであって、
各々の前記少なくとも2つ以上の入力ファセットの前記屈折力が異なる、
光スプリッタ。
【請求項11】
請求項8に記載の光スプリッタであって、
前記入力光ファセットは、一次元に配列される、
光スプリッタ。
【請求項12】
請求項8に記載の光スプリッタであって、
前記入力光ファセットは、二次元に配列される、
光スプリッタ。
【請求項13】
請求項8に記載の光スプリッタであって、
各々の前記少なくとも2つ以上の入力ファセットの前記屈折力は、各々の前記入力ファセットの曲率半径によって規定され、
各々の前記曲率半径は異なる、
光スプリッタ。
【請求項14】
請求項8に記載の光スプリッタであって、
各々の前記少なくとも2つ以上の入力ファセットの前記屈折力は、各々の前記入力ファセットの曲率半径によって規定され、
各々の前記ファセットは、異なる曲率中心を有する、
光スプリッタ。
【請求項15】
請求項1~4のいずれかに記載の光スプリッタであって、
容積のある多角形の透明な構造を有する、
光スプリッタ。
【請求項16】
請求項1に記載の光スプリッタであって、
各々の前記出力光ファセットは、異なる焦点距離を有する、
光スプリッタ。
【請求項17】
仮想網膜ディスプレイのための走査プロジェクタシステムであって、
前記走査プロジェクタシステムは、
入力光信号を提供する光源と、
前記光源からの前記入力光信号を反射的に走査するように配置された走査ミラーと、
請求項に記載の光スプリッタと、
を備え、
前記光スプリッタは、前記走査ミラーの光路内に配置され、
前記走査ミラーは、第1の角度位置と第2の角度位置との間で回転するように配置される、
走査プロジェクタシステム。
【請求項18】
請求項17に記載の走査プロジェクタシステムであって、
前記光スプリッタの前記入力側は、前記走査ミラーによって反射的に走査された前記入力光信号を受けるように配置され、
前記光スプリッタの前記出力側は、前記入力光信号の前記角度位置に応じて前記出力光ファセットの1つから出力光信号を出力するように配置される、
走査プロジェクタシステム。
【請求項19】
請求項17に記載の走査プロジェクタシステムであって、
前記光源は、レーザダイオードまたは発光ダイオードのRGB光源のアレイである、
走査プロジェクタシステム。
【請求項20】
仮想網膜ディスプレイであって、
請求項16~19のいずれかに記載の走査プロジェクタシステムと、
ホログラフィック光学素子と、
を備え、
前記走査プロジェクタシステムは、前記ホログラフィック光学素子上に複数の射出瞳を投影するように配置され、
前記ホログラフィック光学素子は、前記複数の射出瞳をユーザの眼に向けるように配置される、
仮想網膜ディスプレイ。
【請求項21】
請求項20に記載の仮想網膜ディスプレイを備える拡張現実眼鏡であって、
前記ホログラフィック光学素子は、前記眼鏡のレンズ内またはレンズ上に配置される、
拡張現実眼鏡。
【国際調査報告】