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特表2025-501129方向転換バルブの故障予測システムおよび故障予測方法、方向転換バルブの故障検査システムおよび検査方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】方向転換バルブの故障予測システムおよび故障予測方法、方向転換バルブの故障検査システムおよび検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/003 20190101AFI20250109BHJP
【FI】
G01M13/003
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538362
(86)(22)【出願日】2023-08-30
(85)【翻訳文提出日】2024-06-20
(86)【国際出願番号】 KR2023012853
(87)【国際公開番号】W WO2024053923
(87)【国際公開日】2024-03-14
(31)【優先権主張番号】10-2022-0112023
(32)【優先日】2022-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウォン、ヨウン シク
(72)【発明者】
【氏名】リー、ジュン ホ
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AA01
2G024BA27
2G024CA30
2G024DA15
2G024FA02
(57)【要約】
本発明の方向転換バルブの故障予測システムは、ピストンロッドを備えたシリンダーと連通し、上記シリンダーに供給される作動流体の供給方向を転換することにより、上記ピストンロッドの動作方向を転換する複数個の方向転換バルブの動作時間を設備稼動経過時間にわたって繰り返し検出し、それぞれの方向転換バルブ別に複数個の動作時間データを取得するデータ取得部と、上記動作時間データに基づいて方向転換バルブの故障を代弁し得る複数個の統計的劣化指標の劣化指標値を計算する劣化指標値計算部と、各方向転換バルブに対して計算された上記統計的劣化指標の劣化指標値を大きさによって序列化し、上記序列化された劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有する方向転換バルブに対して所定スコアを付与し、上記所定スコアの合計を基準として故障予想方向転換バルブを判定する判定部と、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンロッドを備えたシリンダーと連通し、前記シリンダーに供給される作動流体の供給方向を転換することにより、前記ピストンロッドの動作方向を転換する複数個の方向転換バルブの動作時間を設備稼動経過時間にわたって繰り返し検出し、それぞれの方向転換バルブ別に動作時間データを取得するデータ取得部と、
前記動作時間データに基づいて前記方向転換バルブの故障を代弁する複数個の統計的劣化指標の劣化指標値を計算する劣化指標値計算部と、
各方向転換バルブに対して計算された前記統計的劣化指標の劣化指標値を大きさによって序列化し、前記序列化された劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有する方向転換バルブに対して所定スコアを付与し、前記所定スコアの合計を基準として故障予想方向転換バルブを判定する判定部と、を含む、方向転換バルブの故障予測システム。
【請求項2】
前記データ取得部は、前記方向転換バルブの動作信号によって前記ピストンロッドが前進を開始するのにかかる第1時間、前記方向転換バルブの動作信号によって前記ピストンロッドが後進を開始するのにかかる第2時間、前記第1時間および前記第2時間の合算時間のうちいずれか1つ以上を前記方向転換バルブの動作時間として選択してデータを取得する、請求項1に記載の方向転換バルブの故障予測システム。
【請求項3】
前記データ取得部は、前記第1時間および前記第2時間をそれぞれ別個の独立的な1つの動作時間データとみなし、
1つの前記シリンダーに備えられた前記ピストンロッドの1回往復動作時に前記第1時間および前記第2時間の2つの動作時間データを取得する、請求項2に記載の方向転換バルブの故障予測システム。
【請求項4】
前記統計的劣化指標は、各方向転換バルブの動作時間データの平均、標準偏差、第1四分位数、中位数、第3四分位数、歪度および尖度からなるグループから選択される2つ以上である、請求項1に記載の方向転換バルブの故障予測システム。
【請求項5】
各方向転換バルブの動作時間データの平均、標準偏差、第1四分位数、中位数、第3四分位数、歪度および尖度からなるグループから選択される1つ以上と、
前記グループから選択される1つ以上の統計的劣化指標の変化値を前記統計的劣化指標とする、請求項1に記載の方向転換バルブの故障予測システム。
【請求項6】
前記統計的劣化指標の劣化指標値は、前記方向転換バルブが一定期間繰り返し使用された後の特定時間区間の間動作した各方向転換バルブの動作時間データに基づいて計算される、請求項1に記載の方向転換バルブの故障予測システム。
【請求項7】
前記データ取得部は、複数個の単位時間区間からなる検査対象期間において、各単位時間区間別に各方向転換バルブの動作時間データをグルーピングして個別の動作時間データ群にし、
前記劣化指標値計算部は、各動作時間データ群に対して各方向転換バルブの劣化指標値を計算する、請求項1に記載の方向転換バルブの故障予測システム。
【請求項8】
前記判定部は、前記検査対象期間のうち、所定の単位時間区間だけ動作した後の特定単位時間区間の動作時間データ群に対して計算された終期劣化指標値を各方向転換バルブに対して序列化し、前記序列化された終期劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有する方向転換バルブに対して所定スコアを付与し、前記所定スコアの合計を基準として故障予想方向転換バルブを判定する、請求項7に記載の方向転換バルブの故障予測システム。
【請求項9】
前記判定部は、前記検査対象期間のうち、所定の単位時間区間だけ動作した後の特定単位時間区間の動作時間データ群に対して計算された各終期劣化指標値を平均した平均終期劣化指標値を各方向転換バルブに対して序列化し、前記序列化された平均終期劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有する方向転換バルブに対して所定スコアを付与し、前記所定スコアの合計を基準として故障予想方向転換バルブを判定する、請求項7に記載の方向転換バルブの故障予測システム。
【請求項10】
前記検査対象期間のうち初期の単位時間区間の動作時間データ群に対する初期劣化指標値、または初期の単位時間区間の動作時間データ群に対して求められた初期劣化指標値の平均値から、前記終期劣化指標値を差し引いた差値を方向転換バルブの故障を代弁する追加的な統計的劣化指標として導入する、請求項8に記載の方向転換バルブの故障予測システム。
【請求項11】
前記検査対象期間のうち初期の単位時間区間の動作時間データ群に対する初期劣化指標値、または初期の単位時間区間の動作時間データ群に対して求められた初期劣化指標値の平均値から、前記平均終期劣化指標値を差し引いた差値を方向転換バルブの故障を代弁する追加的な統計的劣化指標として導入する、請求項9に記載の方向転換バルブの故障予測システム。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の方向転換バルブの故障予測システムと、
前記判定部によって故障予想方向転換バルブと判定された方向転換バルブの空気漏れの有無を測定する検査部と、を含む、方向転換バルブの故障検査システム。
【請求項13】
ピストンロッドを備えたシリンダーと連通し、前記シリンダーに供給される作動流体の供給方向を転換することにより、前記ピストンロッドの動作方向を変更する複数個の方向転換バルブの動作時間を設備稼動経過時間にわたって繰り返し検出し、それぞれの方向転換バルブ別に複数個の動作時間データを取得する段階と、
前記方向転換バルブの故障を代弁する複数個の統計的劣化指標を選択し、前記動作時間データに基づいて前記選択された統計的劣化指標の劣化指標値を計算する段階と、
それぞれの劣化指標値を各方向転換バルブに対して大きさによって序列化する段階と、
前記序列化された劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有する方向転換バルブに対して所定スコアを付与し、前記所定スコアの合計を基準として故障予想方向転換バルブを判定する段階と、を含む、方向転換バルブの故障予測方法。
【請求項14】
前記複数個の統計的劣化指標のうち選択される1つ以上の統計的劣化指標の変化値を故障予想方向転換バルブ判定のための追加的な統計的劣化指標として導入する、請求項13に記載の方向転換バルブの故障予測方法。
【請求項15】
請求項13または14に記載の方向転換バルブの故障予測方法によって故障予想方向転換バルブと判定された方向転換バルブを検査する段階と、
検査によって故障が発見された方向転換バルブを取り替える段階と、を含む、方向転換バルブの故障検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向転換バルブの故障を予測するためのシステムおよび方法に関するものである。
【0002】
また、本発明は、上記故障予測システムおよび予測方法により故障が予測された方向転換バルブを検査して取り替える方向転換バルブの故障検査システムおよび検査方法に関するものである。
【0003】
本出願は、2022年9月5日付の韓国特許出願第10-2022-0112023号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は、本明細書の一部として含まれる。
【背景技術】
【0004】
近年、充放電が可能な二次電池は、ワイヤレスモバイル機器のエネルギー源として広範囲に使用されている。また、二次電池は、化石燃料を使用する既存のガソリン車、ディーゼル車などに起因する大気汚染などを解決するための方案として提示されている電気自動車、ハイブリッド電気自動車などのエネルギー源としても注目されている。したがって、二次電池を使用するアプリケーションの種類は、二次電池の長所によって非常に多様化しており、今後は今より多くの分野と製品に二次電池が適用されると予想される。
【0005】
このような二次電池を製造するためには、構成品である正極、負極の製造のために集電体上に活物質をコーティングして圧延する工程、電極タブを形成するノッチング工程、正極-分離膜-負極を積層および/またはフォールディング(Folding)して電極組立体を製造する電極組立体製造工程、電極タブと電極リードを溶接する溶接工程、電極組立体をスタック用に切断する工程、出荷前に特性付与のための充放電工程など数多くの細部工程が行われる。上記各工程時には、材料や各細部装置あるいは他のシステムを稼動するために様々な種類のアクチュエータが使用される。
【0006】
アクチュエータとは、機器などの可動体を駆動するための装置であって、モーター、シリンダーなどを含む。上記アクチュエータのうちシリンダーは、円筒形のシリンダー本体と上記シリンダー本体内に収容されて先端にピストンを備えたピストンロッドとを備え、上記シリンダー本体内でのピストンロッドの直線移動で可動体に駆動力を付与する。一方、上記ピストンロッドの直線移動は、外部から供給される作動流体の圧力(油圧または空圧)によって行われ得る。すなわち、作動流体供給源から上記シリンダー本体に作動流体(オイルまたは空気など)を供給すると、供給された作動流体の圧力によって上記ピストンロッドが直線移動をするものである。このとき、ピストンロッドの直線移動方向は、作動流体の供給方向を転換することによって変更し得る。上記作動流体の供給方向を転換するための装置として方向転換バルブが使用される。
【0007】
方向転換バルブとは、流路上に配置されて作動流体の流れ方向を転換するバルブである。方向転換バルブは、具体的には、作動流体が流入または排出される流路が形成された複数個のポート、上記複数個のポートが設置され、上記複数個のポートの流路と連通する内部流路が形成されたケース、上記ケースの内部流路に配置され、複数個のポートを閉鎖または開放し、内部流路の一部を遮断することによって作動流体の流れ方向を制御するスプール、および上記スプールが上記ケースの内部流路内を移動し得るように上記スプールに駆動力を印加するスプール駆動部で構成される。方向転換バルブは、上記ポートを介して上記作動流体供給源および上記シリンダー本体と連通して流路を形成し、上記スプールは、作動流体が上記流路に沿って流れるときに一部のポートを閉鎖し、内部流路の一部を遮断して作動流体の流れ方向を決定する。
【0008】
もし、このようなシリンダー、ピストンロッドおよび方向転換バルブの作動に異常があれば、可動体を設定値の通りに移動させることができないので、工場生産ラインの作動異常、製造品の不良発生が引き起こされる。特に、上記シリンダー、ピストンロッドおよび方向転換バルブのうちいずれか1つに深刻な作動異常が発生すると、工場の製造システムの一部または全部が作動中断(Break down)される事態が発生し得る。
【0009】
工場製造システムの作動中断を防止するために、シリンダーの故障発生前にシリンダー故障の予測を試みたことがある。しかしながら、作動流体の流れ方向を転換する方向転換バルブで故障が発生した場合に、シリンダーが正常であっても故障シリンダーと判定されるエラーが発生した。したがって、工場製造システムの作動中断をより根本的に防止するためには、方向転換バルブの故障発生前に方向転換バルブの故障兆候または異常兆候を予め把握する必要がある。
【0010】
従来は、個別のバルブに印加された開閉動作信号回数と実際のバルブの開閉回数を比較してバルブの異常を検出した。(特許文献1)しかしながら、バルブの開閉は、バルブが異常発生または故障などにより動作が遅れても行われ得る。すなわち、開閉回数を介してバルブの異常を検出および予測する場合に誤差が発生し得る。したがって、バルブの作動異常または故障を代弁し得る因子または指標を選択し、上記因子または指標に基づいて故障の発生を予測し得る技術が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】日本公開特許第2013-168131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような課題を解決するために案出されたものであり、方向転換バルブの故障を代弁し得る統計的劣化指標を選定し、その劣化指標に基づいて方向転換バルブの故障発生前に故障の有無を予測し得る方向転換バルブの故障予測システムおよび予測方法を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、上記故障予測システムおよび予測方法により故障が予測された方向転換バルブを検査して取り替える方向転換バルブの故障検査システムおよび検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明の方向転換バルブの故障予測システムは、ピストンロッドを備えたシリンダーと連通し、上記シリンダーに供給される作動流体の供給方向を転換することにより、上記ピストンロッドの動作方向を転換する複数個の方向転換バルブの動作時間を設備稼動経過時間にわたって繰り返し検出し、それぞれの方向転換バルブ別に複数個の動作時間データを取得するデータ取得部と、上記動作時間データに基づいて上記方向転換バルブの故障を代弁し得る複数個の統計的劣化指標の劣化指標値を計算する劣化指標値計算部と、各方向転換バルブに対して計算された上記統計的劣化指標の劣化指標値を大きさによって序列化し、上記序列化された劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有する方向転換バルブに対して所定スコアを付与し、上記所定スコアの合計を基準として故障予想方向転換バルブを判定する判定部と、を含む。
【0015】
具体的な例として、上記データ取得部は、上記方向転換バルブの動作信号によって上記ピストンロッドが前進を開始するのにかかる第1時間、上記方向転換バルブの動作信号によって上記ピストンロッドが後進を開始するのにかかる第2時間、上記第1時間および上記第2時間の合算時間のうちいずれか1つ以上を上記方向転換バルブの動作時間として選択してデータを取得し得る。
【0016】
より具体的な例として、上記データ取得部は、上記第1時間および上記第2時間をそれぞれ別個の独立的な1つの動作時間データとみなし、1つの上記シリンダーに備えられた上記ピストンロッドの1回往復動作時に上記第1時間および上記第2時間の2つの動作時間データを取得し得る。
【0017】
一つの例として、上記統計的劣化指標は、各方向転換バルブの動作時間データの平均、標準偏差、第1四分位数、中位数、第3四分位数、歪度および尖度からなるグループから選択される2つ以上であり得る。
【0018】
他の例として、各方向転換バルブの動作時間データの平均、標準偏差、第1四分位数、中位数、第3四分位数、歪度および尖度からなるグループから選択される1つ以上と、上記グループから選択される1つ以上の統計的劣化指標の変化値を上記統計的劣化指標とし得る。
【0019】
一つの例として、上記統計的劣化指標の劣化指標値は、上記方向転換バルブが一定期間繰り返し使用された後の特定時間区間の間動作した各方向転換バルブの動作時間データに基づいて計算され得る。
【0020】
具体的な例として、上記データ取得部は、複数個の単位時間区間からなる検査対象期間において、各単位時間区間別に各方向転換バルブの動作時間データをグルーピング(grouping)して個別の動作時間データ群にし、上記劣化指標値計算部は、各動作時間データ群に対して各方向転換バルブの劣化指標値を計算し得る。
【0021】
一つの例として、上記判定部は、上記検査対象期間のうち、所定の単位時間区間だけ動作した後の特定単位時間区間の動作時間データ群に対して計算された終期劣化指標値を各方向転換バルブに対して序列化し、上記序列化された終期劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有する方向転換バルブに対して所定スコアを付与し、上記所定スコアの合計を基準として上記故障予想方向転換バルブを判定し得る。
【0022】
他の例として、上記判定部は、上記検査対象期間のうち、所定の単位時間区間だけ動作した後の特定単位時間区間の動作時間データ群に対して計算された各終期劣化指標値を平均した平均終期劣化指標値を各方向転換バルブに対して序列化し、上記序列化された平均終期劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有する方向転換バルブに対して所定スコアを付与し、上記所定スコアの合計を基準として故障予想方向転換バルブを判定し得る。
【0023】
他の例として、上記検査対象期間のうち初期の単位時間区間の動作時間データ群に対する初期劣化指標値、または初期の単位時間区間の動作時間データ群に対して求められた初期劣化指標値の平均値から、上記終期劣化指標値を差し引いた差値を方向転換バルブの故障を代弁し得る追加的な統計的劣化指標として導入し得る。
【0024】
別の例として、上記検査対象期間のうち初期の単位時間区間の動作時間データ群に対する初期劣化指標値、または初期の単位時間区間の動作時間データ群に対して求められた初期劣化指標値の平均値から、上記平均終期劣化指標値を差し引いた差値を方向転換バルブの故障を代弁し得る追加的な統計的劣化指標として導入し得る。
【0025】
本発明の他の側面として、方向転換バルブの故障検査システムは、上記方向転換バルブの故障予測システムと、上記判定部によって故障予想方向転換バルブと判定された方向転換バルブの空気漏れの有無を測定する検査部と、を含む。
【0026】
本発明の別の側面として、方向転換バルブの故障予測方法は、ピストンロッドを備えたシリンダーと連通し、上記シリンダーに供給される作動流体の供給方向を転換することにより、上記ピストンロッドの動作方向を変更する複数個の方向転換バルブの動作時間を設備稼動経過時間にわたって繰り返し検出し、それぞれの方向転換バルブ別に複数個の動作時間データを取得する段階と、上記方向転換バルブの故障を代弁し得る複数個の統計的劣化指標を選択し、上記動作時間データに基づいて上記選択された統計的劣化指標の劣化指標値を計算する段階と、それぞれの劣化指標値を各方向転換バルブに対して大きさによって序列化する段階と、上記序列化された劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有する方向転換バルブに対して所定スコアを付与し、上記所定スコアの合計を基準として故障予想方向転換バルブを判定する段階と、を含む。
【0027】
具体的な例として、上記複数個の統計的劣化指標のうち選択される1つ以上の統計的劣化指標の変化値を故障予想方向転換バルブ判定のための追加的な統計的劣化指標として導入し得る。
【0028】
本発明の別の側面としての方向転換バルブの故障検査方法は、上記方向転換バルブの故障予測方法によって故障予想方向転換バルブと判定された方向転換バルブを検査する段階と、検査によって故障が発見された方向転換バルブを取り替える段階と、を含む。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、方向転換バルブで実際に故障が発生する前に故障の有無を予め予測して故障発生可能性が高い方向転換バルブを事前に取り替えることができる。したがって、故障と予想される方向転換バルブを予め除去することにより、工場や製造システム全体が中断される状況(Break down)を防ぎ得る。
【0030】
また、シリンダーの故障を予測する前にシリンダー駆動の原動部となる方向転換バルブの故障を予測することにより、シリンダーの故障判断時に発生する判定誤差を減らし得る。また、シリンダーの故障予測時の動作時間データよりはるかに短い動作時間データを有する方向転換バルブの故障を予測することにより、故障予想判定にかかる時間を大幅に短縮し得る。
【0031】
また、本発明により、方向転換バルブの故障を代弁し得る動作時間以上を統計的に計算して方向転換バルブの異常をより正確に予測し得る。
【0032】
また、本発明により、点検の対象となる方向転換バルブの数量を大幅に減らし得るので、メンテナンスに必要とされる人員、作業量、作業時間が大幅に短縮される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】方向転換バルブにより作動流体の供給方向を変更してピストンロッドが直線運動することを示す概略図である。
図2】方向転換バルブの故障発生箇所を示す概略図である。
図3】正常方向転換バルブと非正常方向転換バルブの累積動作時間分布を示すグラフである。
図4】本発明の故障発生予測の概念を説明するブロック図である。
図5】本発明の一実施形態に係る方向転換バルブの故障予測システムを示す概略図である。
図6】方向転換バルブの動作時間データがグルーピングされて統計的に視覚化された状態を示すグラフである。
図7】本発明の一実施形態に係る方向転換バルブの故障予測システムによる故障予測メカニズムを示す概略図である。
図8】方向転換バルブの動作時間に基づいた統計的劣化指標の例を示す概略図である。
図9】本発明の一実施形態の変形例に係る方向転換バルブの故障予測システムによる故障予測メカニズムを示す概略図である。
図10】本発明の他の実施形態に係る方向転換バルブの故障予測システムを示す概略図である。
図11】統計的劣化指標の変化を示す概略図である。
図12】本発明の他の実施形態に係る方向転換バルブの故障予測システムによる故障予測メカニズムを示す概略図である。
図13】本発明の他の実施形態に係る方向転換バルブの故障予測システムによる故障予測メカニズムを示す概略図である。
図14】本発明に係る方向転換バルブの故障検査システムを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明について詳細に説明する。その前に、本明細書および特許請求の範囲に使用された用語や単語は通常的または辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者が彼自身の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義し得るという原則に基づいて本発明の技術的な思想に合致する意味と概念として解釈されるべきである。
【0035】
本出願において、「含む」や「有する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品、またはこれらの組み合わせが存在することを指定しようとするものであって、1つまたはそれ以上の他の特徴、数字、段階、動作、構成要素、部分品またはこれらを組み合わせたものの存在または付加可能性を予め排除しないものとして理解されるべきである。また、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「上に」あるとする場合、これは他の部分の「真上に」ある場合のみならず、その中間に別の部分がある場合も含む。逆に、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「下に」あるとする場合、それは他の部分の「真下に」ある場合のみならず、その中間に別の部分がある場合も含む。また、本出願において「上に」配置されるということは、上部のみならず下部に配置される場合も含むものであり得る。
【0036】
図1は、方向転換バルブにより転換された作動流体の供給方向に応じてピストンロッドが方向を転換して直線運動することを示す概略図である。
【0037】
図1の(a)および図1の(b)を参照すると、方向転換バルブ10は、作動流体供給源30およびシリンダー20と連通して、作動流体供給源30からシリンダー20に供給される作動流体の供給方向を変更する。上記作動流体はオイルまたは空気であり得、上記作動流体供給源30は、流体貯蔵タンクまたはポンプなどであり得る。方向転換バルブ10は、作動流体が流入または排出される流路111が形成された複数個のポート11、上記複数個のポート11が設置され、上記複数個のポート11の流路と連通する内部流路121が形成されたケース12、上記ケースの内部流路121に配置され、複数個のポートを閉鎖または開放し、内部流路の一部を遮断することによって作動流体の流れ方向を制御するスプール13、および上記スプール13が上記ケース12の内部流路121内を移動し得るように上記スプール13に駆動力を印加するスプール駆動部15を備える。上記スプール13は、遮蔽のためにパッキング14をさらに備え得る。
【0038】
上記スプール駆動部15は、ソレノイドコイルと上記ソレノイドコイルによって可動する可動プランジャーであり得る。または、ソレノイドコイルおよび可動プランジャーによって開閉されてスプールに高圧流体を供給するパイロットバルブであり得る。両者はいずれも、ソレノイドコイルで発生した磁場によって可動プランジャーが直線運動をするという点で同一である。ただし、前者は可動プランジャーが上記スプール13に直接連結され、可動プランジャーの直線運動により上記スプール13が動作し、後者は可動プランジャーがパイロットバルブを開放するときに、パイロットバルブを介して流入した高圧流体の圧力によって上記スプール13が動作するという点で差がある。上記スプール駆動部15は、上記ケース12の一端または両端に配置され得る。スプール駆動部15がケース12の一端にのみ配置される場合に、スプリングなどの弾性体(図示せず)をケース12の他端に配置し得る。この場合、制御部によって自動または手動で発せられるオン動作信号によって上記スプール駆動部15がオン(on)状態になったときに、上記スプール13は上記弾性体の加圧力に抵抗し、上記弾性体側に移動し得る。逆に、上記スプール駆動部15が制御部などのオフ(off)動作信号によってオフ状態になると、上記弾性体の復元力によって上記スプール13はスプール駆動部15側に移動し得る。上記動作信号は、制御部がソレノイドコイルに印加する電気信号である。
【0039】
図1の(a)は、5つのポート11a-11eを備える方向転換バルブ10の動作によりピストンロッド21が前進運動することを示す概略図である。まず、スプール駆動部15に動作信号を印加することにより、スプール13を上記内部流路121上で左側に移動させる。スプール駆動部15は、自動化により遠隔で作動されるか、または機器の点検またはメンテナンスのために作業者が直接作動させ得る。スプール駆動部15が遠隔で作動される場合に、上記動作信号は、工程制御部(図示せず)を介して上記スプール駆動部15に加わる遠隔信号であり得る。作業者が直接作動させる場合に、上記動作信号は、作業者のバルブ電源on/off動作であり得る。一方、スプール13の移動が完了すると、作動流体はスプール13によって流れ方向が規制され、第4ポート11dから第2ポート11bに向かって流れることになる。作動流体が第2ポート11bを介して供給され、ピストンロッド21を左側に加圧することによりピストンロッド21が前進運動する。本発明における方向転換バルブの動作時間とは、動作信号の開始から作動流体の供給方向を転換し、直線運動し得る油圧をピストンロッドに提供するために作動流体が十分に供給されるまで転換された作動流体の供給方向を維持することを意味する。
【0040】
本明細書における方向転換バルブの動作時間または動作にかかる時間は、スプール駆動部に印加される動作信号の開始から、スプールが駆動され、ピストンロッドの方向が転換され得るようにする十分な油圧をピストンロッドに伝達するまでかかる時間を意味する。
【0041】
図1の(b)は、5つのポート11a-11eを備える方向転換バルブ10の動作によりピストンロッド21が後進運動することを示す概略図である。まず、スプール駆動部15に動作信号を印加して、スプール13を上記内部流路121上で右側に移動させる。スプール13の移動が完了すると、作動流体はスプール13によって流れ方向が規制され、第4ポート11dから第1ポート11aに向かって流れることになる。作動流体が第1ポート11aを介して供給され、ピストンロッド21を右側に加圧することによりピストンロッド21が後進運動する。
【0042】
上記スプール13の左右側運動は一つの例示に過ぎず、方向転換バルブの設計に応じてスプール13の左側移動時にピストンロッド21が後進運動をすることもできる。また、図1の(a)および図1の(b)で、説明の便宜のために5つのポート11a-11eを備えた方向転換バルブ10を基準として説明したが、本発明が必ずしもこれに制限されるものではない。
【0043】
図2は、方向転換バルブ10の故障発生箇所を示す概略図である。
【0044】
図2に示されたように、方向転換バルブ10の主な故障原因は、(1)ポート11の破損による作動流体の漏れ(leak)、(2)スプール13のパッキング14の劣化による作動流体の漏れ、(3)シリンダー20または作動流体供給源30と方向転換バルブ10の締結不良による作動流体の漏れ、(4)ケース12の破損による作動流体の漏れなどに区分し得る。上記のような漏れが発生しても、方向転換バルブの転換動作(または開閉動作)は行われ得る。しかしながら、上記のように作動流体の漏れが発生すると、ピストンロッド21を移動させるための圧力を達成するために、作動流体が追加的に供給されなければならない。したがって、スプール駆動部15に動作信号を印加しても、作動流体が追加的に供給されるまでピストンロッド21は移動を開始しない。すなわち、方向転換バルブ10の動作劣化は、ピストンロッド21の動作開始の遅延で表現され得る。
【0045】
図3は、正常方向転換バルブと非正常方向転換バルブの動作時間分布を示すグラフである。
【0046】
図3の(a)は、所定時間の間、正常方向転換バルブの動作時間を測定して当該動作時間が測定された回数を示すグラフである。図示されたように、正常方向転換バルブの場合に、正常範囲(約0.2秒~0.5秒)で正規分布曲線が現れる。これに対し、図3の(b)は、所定時間の間、非正常方向転換バルブの動作時間を測定して当該動作時間が測定された回数を示すグラフである。図示されたように、非正常方向転換バルブの場合には、正常範囲から外れた範囲(約0.5秒超)で非正常分布を示す。このように、方向転換バルブの動作時間は方向転換バルブの動作劣化と密接な関係がある。本発明は、このような方向転換バルブの動作時間を方向転換バルブの故障を代弁し得る因子として選定し、後述するように、上記方向転換バルブの動作時間データに基づいて統計的劣化指標およびその劣化指標値を計算し、この劣化指標値を用いて故障予想方向転換バルブを予測することを特徴としている。上記統計的劣化指標は、方向転換バルブの故障を代弁し得る動作時間データに基づいたものであるので、同様に方向転換バルブの故障を代弁し得る。このような点で、単に開閉回数のみで方向転換バルブの故障を診断する従来の技術とは差がある。
【0047】
図4は、本発明の故障発生予測の概念を説明するブロック図である。
【0048】
図4の(a)に示されたように、方向転換バルブの部品(parts)は故障発生前に異常症候が現れる。このような異常症候から部品の故障を予測し得ないと、結果として故障が発生し、この場合に工場の製造システムの一部または全部が作動中断(BM:Break down)する事態が発生し得る。作動中断後に部品を取り替えることは非常に非経済的であり、製造効率を低下させることである。
【0049】
一方、本発明は、図3の(b)に示されたように、方向転換バルブ部品の異常症候の発生時に、本発明特有の方向転換バルブの故障予測アルゴリズムを用いた方向転換バルブの故障予測システムまたは方向転換バルブの故障予測方法によって予め異常症候を感知し得る。すなわち、故障発生前に予め方向転換バルブの故障を予測し、方向転換バルブ部品の異常の有無を点検して問題となる部品を取り替えることができるので、従来のようなシステム作動中断を防止し得る。本発明の技術的思想は、方向転換バルブの故障の有無を診断するか、または故障の原因を分析するのではなく、方向転換バルブの故障発生前に故障が予想されるか、または故障の可能性が高い方向転換バルブを予め予測することにある。したがって、現在としては故障方向転換バルブではない正常方向転換バルブであっても、故障予想方向転換バルブと判定され得る。このような点で、故障を診断するか、または方向転換バルブの正常の有無のみを判断する技術とは差がある。
【0050】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0051】
(第1実施形態)
図5は、本発明の一実施形態に係る方向転換バルブの故障予測システムを示す概略図である。
【0052】
本発明の方向転換バルブの故障予測システム100は、ピストンロッド21を備えたシリンダー20と連通し、上記シリンダー20に供給される作動流体の供給方向を転換することにより、上記ピストンロッド21の動作方向を転換する複数個の方向転換バルブ10の動作時間を設備稼動経過時間にわたって繰り返し検出し、それぞれの方向転換バルブ10別に複数個の動作時間データを取得するデータ取得部110と、上記動作時間データに基づいて方向転換バルブ10の故障を代弁し得る統計的劣化指標の劣化指標値を計算する劣化指標値計算部120と、各方向転換バルブ10に対して計算された劣化指標値を大きさによって序列化し、上記序列化された劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有する方向転換バルブ10を故障予想方向転換バルブ10と判定する判定部130と、を含む。
【0053】
本発明で言及される方向転換バルブ10の動作時間は、上記方向転換バルブ10の動作信号によって作動流体の供給方向が転換され、ピストンロッド21が前進を開始するのにかかる第1時間、上記方向転換バルブ10の動作信号によって作動流体の供給方向が転換され、ピストンロッド21が後進を開始するのにかかる第2時間、上記第1時間および第2時間の合算時間のうち1つ以上を含む。図2に図示したように、方向転換バルブ10の動作が劣化すると、ピストンロッド21が前進または後進を開始する第1時間および第2時間はもちろん、第1時間および第2時間の合算時間もすべて遅れる。したがって、上記第1時間、第2時間それぞれはもちろん、その合算時間または第1時間と合算時間の組み合わせまたは第2時間と合算時間の組み合わせなどもすべて劣化指標値計算の基礎となる動作時間データとし得る。本実施形態では計算の便宜のために、上記第1時間と上記第2時間をそれぞれ別個の独立的な1つの動作時間データとして扱った。すなわち、方向転換バルブによってピストンロッド21が前進を開始する時間と後進を開始する時間は通常ほぼ同様であるので、ピストンロッド21の1回往復動作時に得られる上記第1時間データと第2時間データをそれぞれ別個のデータとみなした。これにより、1つのピストンロッド21の往復動作時に2つの動作時間データを取得し得る。例えば、故障予測対象方向転換バルブが50個であると仮定すれば、各シリンダーのピストンロッドが往復運動するために方向転換バルブが2回動作しなければならないので、各ピストンロッドの往復動作時に100個の動作時間データを得ることができる。すなわち、本実施形態では、第1時間と第2時間をそれぞれ1つの統計的データとみなして故障予想方向転換バルブを判定する。もちろん、第1時間または第2時間のうち1つのみを動作時間データとして取得して故障を予測し得る。ただし、両者のデータをすべて取得する場合には、ピストンロッド21の往復運動に関する方向転換バルブの動作をすべて包括するデータを含むことになるので、方向転換バルブの故障判定をより厳密に行い、故障予測性をより高めることができるという長所を有する。
【0054】
動作時間データは例えば、図5に図示されたように、シリンダー20ハウジングの始端部と終端部に設置されたセンサーS1、S2によって取得され得る。終端部に設置されたセンサーS1は、ピストンロッド21が前進端に到達したことを感知する。同様に、ピストンロッド21が前進端から離脱したことを感知する。始端部に設置されたセンサーS2は、ピストンロッド21が後進端に到達したことを感知する。同様に、ピストンロッド21が後進端から離脱したことを感知する。上記センサーは、シリンダーの内側または外側に設置され得る。上記センサーは例えば、ピストンロッド先端のピストンの位置をスイッチのオン/オフで表すリミットスイッチであり得る。
【0055】
上記データ取得部110は、スプール駆動部15に動作信号が印加されたときから、上記センサーS1、S2がピストンロッド21の離脱を感知するときまでの経過した時間を動作時間データとして取得し得る。例えば、スプール駆動部15に動作信号が印加されたときから、始端部に設置されたセンサーS2のピストンロッド離脱感知信号が発生するときまで経過した時間を第1時間とし得る。また、スプール駆動部15に動作信号が印加されたときから、終端部に設置されたセンサーS1のピストンロッド離脱感知信号が発生するときまで経過した時間を上記第2時間とし得る。方向転換バルブは、設備稼動経過時間にわたって持続的に動作する。シリンダーの往復運動は、方向転換バルブの動作によって行われる。したがって、上記データ取得部110は、1つのシリンダーが往復運動するときに、その往復運動の回数だけ上記第1時間および上記第2時間をデータとして取得し得る。本発明は、各方向転換バルブの動作時間を相対比較して故障予想方向転換バルブを判定するものであるので、上記動作時間データは、各方向転換バルブ別に複数個が取得される。このために、上記データ取得部110は、データ収集装置とデータを保存するデータベースとを備え得る。
【0056】
上記動作時間データは、各方向転換バルブ別に設備稼動経過時間にわたって複数個が取得される。例えば、1つのシリンダーが1時間に1,800回往復するのであれば、1時間に3,600個の動作時間データを得ることができ、3時間に10,800個、そして24時間経過時に86,400個のデータを得ることができる。また、方向転換バルブが30日にわたって繰り返し動作するのであれば、86,400×30個の動作時間データを得ることができる。このように多くのデータを一度に使用して統計的な指標を計算するのであれば、処理しなければならないデータ量が過度に多くなる。この場合、故障予測のためのアルゴリズムまたはプログラムに大きな負荷がかかって迅速に故障を判定し得ない。さらに、故障予測対象方向転換バルブの数が多くなると、データの処理量がさらに増加し、上記のような問題がより大きくなる。
【0057】
したがって、故障予測のためのデータ取得時、そしてそれを用いた劣化指標値の計算時には、いわゆるグルーピング(grouping)技法を使用する。グルーピングとは、データ数を縮小するための統計的技法の一つであって、データを対象別、期間別、あるいは特性別にグルーピングし、それを一つのデータ(群)とみなすことにより、処理しなければならないデータ量を減らすことをいう。
【0058】
図6は、方向転換バルブの動作時間データがグルーピングされ、統計的に視覚化された状態を示すグラフである。図6の(a)を参照すると、方向転換バルブの動作時間データは1時間当たり3,600個であり、3時間稼動する場合は10,800個となるが、図6の(b)のようにグルーピングをした場合は、3つのデータ群にグルーピングし得る。図6の(a)のように、方向転換バルブの動作時間に関する全体データを示すとその傾向性を明確に把握し得ないが、図6の(b)のように、データをグルーピングして視覚的に示すと設備稼動経過時間に応じた動作時間データの変化を一目で把握し得るという長所がある。また、例えば、標準偏差、第1四分位数などの統計的指標を図6の(a)のように全体のデータ個数に基づいて計算する場合は、上述したように、データの処理量または演算量が増加する。しかしながら、図6の(b)のように、各時間別に1つのデータ群毎に標準偏差などの統計的指標を計算し、3つのデータ群の標準偏差値を平均すれば、全体のデータ個数に相応する標準偏差値をデータの処理量を大幅に低減しながら求めることができる。
【0059】
図6では、1時間を単位時間として1時間の間取得された動作時間データを1つのデータ群にした。しかしながら、グルーピングされるデータ群を取得するための基準となる単位時間は、3時間、8時間、24時間あるいはそれ以上になることもある。例えば、24時間の複数の時間を1つの単位時間区間として規定し、各単位時間区間毎に動作した方向転換バルブの動作時間データをグルーピングして1つのデータ群にし得る。この場合、1つのデータ群は、24時間の設備稼動経過時間にわたって繰り返し動作した1つの方向転換バルブの動作時間データのグループとなる。このような方式で1週間、数週間、または1ヶ月などの特定の検査対象期間にわたって複数個のデータ群を求めることができる。例えば、工場で30日間稼動した方向転換バルブの故障を予測するために、1日(24時間)を単位時間区間としてデータ群を取得すると、上記データ取得部は各方向転換バルブに対して30個のデータ群を取得し得る。
【0060】
図7は、本発明の一実施形態に係る方向転換バルブの故障予測システム100による故障予測メカニズムを示す概略図である。
【0061】
上記図面は、検査対象期間を30日としたときの合計n個の方向転換バルブV1~Vnに対して動作時間データ群を取得したことを示している。すなわち、この場合は、1日(24時間)を単位時間区間とし、30個の単位時間区間からなる検査対象期間(30日)において、各単位時間区間別に各方向転換バルブの動作時間データをグルーピングして動作時間データ群を取得したことを示している。したがって、V1などの各個別の方向転換バルブに対して30個の動作時間データ群が得られ、そのデータ群は上記データ取得部に収集され保存される。
【0062】
図5を再び参照すると、本発明の方向転換バルブの故障予測システム100は、上記動作時間データに基づいて方向転換バルブの故障を代弁し得る複数個の統計的劣化指標の劣化指標値を計算する劣化指標値計算部120を備える。
【0063】
統計的劣化指標は、各方向転換バルブの動作時間データの平均、標準偏差、歪度、尖度、第1四分位数、中位数、第3四分位数、歪度変化、尖度変化などが挙げられるが、これに限定されるものではない。複数個の方向転換バルブが同一時間の間動作しても、様々な原因によって故障症候を示す方向転換バルブの発生傾向は異なる。このような方向転換バルブに対して上記のような統計的劣化指標を測定し、相対的に劣化する方向転換バルブを選択し得る。すなわち、本発明は、個別の方向転換バルブの性能や動作時間を絶対的に比較するものではなく、各方向転換バルブの動作時間データとそれに基づいた統計的劣化指標を比較して、故障が発生すると推測される方向転換バルブを故障予想方向転換バルブと判定するものである。例えば、特定方向転換バルブの動作時間が平均より長くなるのであれば、性能が劣化して故障予想方向転換バルブと判定される可能性が高くなる。その他の動作時間データの標準偏差、歪度、尖度などの他の統計的劣化指標において、特定方向転換バルブが他の方向転換バルブと差を示すのであれば、同様に故障予想方向転換バルブと判定される可能性が高い。
【0064】
上述した統計的劣化指標のうち、標準偏差は平均値を中心にデータの散布度を示す特性値である。第1四分位数は、データを低い値から高い値に整列した後に4等分したときに最下部から1/4位置にある値をいう。中位数と第3四分位数は、データを低い値から高い値に整列した後に4等分したときに最下部からそれぞれ1/2位置および3/4位置にある値をいう。
【0065】
図8は、方向転換バルブの動作時間に基づいた統計的劣化指標の例を示す概略図である。図8の(a)には、上述した第3四分位数、中位数、第1四分位数および平均の関係が示されている。図8の(b)の上側グラフに示されたように、歪度は正規分布曲線を基準としてデータの非対称性を示す指標であり、尖度は図8の(b)の下側グラフに示されたように、正規分布曲線を基準としてデータの高低を示す尺度である。以上の統計的劣化指標は、各方向転換バルブの動作時間データに基づいて所定のコンピューティングプログラムによって劣化指標値に数値化されて計算され得る。方向転換バルブの動作時間は、方向転換バルブの劣化や故障または故障症候を反映または代弁し得る因子であるので、その動作時間に基づいて計算された上記統計的劣化指標も方向転換バルブの故障を代弁し得る。本発明の劣化指標値計算部は、所定のコンピューティングプログラムを備えているので、図7のような各単位時間区間の各動作時間データ群に対して個別の方向転換バルブの統計的劣化指標の劣化指標値を計算し得る。
【0066】
一方、本発明では、少なくとも複数個の統計的劣化指標を用いて故障予想方向転換バルブを判定する。故障判定のための基礎となるデータをいくら多く保有しているとしても、1つの統計的劣化指標を比較して故障を判定する場合には故障予測確率が低下するしかない。したがって、動作時間データに基づいた統計的劣化指標のうち2つ以上の複数個の統計的劣化指標を選択して劣化指標値を計算する。統計的劣化指標の選択時には、可能な限り統計的特性が異なる指標を選択することがよい。例えば、平均、標準偏差、第1四分位数、中位数、第3四分位数などのデータの数量的変化を示す指標のうち1つ以上を選択し、歪度、尖度などのデータの非対称性または変化の推移を示す指標のうち1つ以上を選択すれば、故障発生予測に対する正確性をより高めることができる。
【0067】
図5を再び参照すると、本発明は、上記統計的劣化指標の劣化指標値に基づいて故障予想方向転換バルブを判定する判定部130を含む。判定部130は、複数個の方向転換バルブを相対比較するために、各方向転換バルブに対して計算された上記統計的劣化指標の劣化指標値を大きさにより序列化する。また、序列化された劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有する方向転換バルブに対して所定スコアを付与し、その所定スコアの合計を基準として故障予想方向転換バルブを判定する。
【0068】
例えば、複数個の対象方向転換バルブの同一設備稼動経過時間にわたって動作した動作時間データの標準偏差値、歪度値を各方向転換バルブに対して求めてランキングを付与し得る。上記ランキングのうち上位値を有する方向転換バルブの標準偏差値と歪度値に対して、例えば1点のスコアを付与し、標準偏差値と歪度値に対してすべてスコアが付与された、すなわち2点のスコアを有する方向転換バルブを故障予想方向転換バルブと判定し得る。ただし、これは一例に過ぎず、選択される統計的劣化指標の種類、上位値を選定する基準、スコアの大きさなど具体的な判定条件は評価される方向転換バルブの特性、設備運転条件、工場稼動条件などの様々な原因を考慮して多様に選択して決定し得る。すなわち、上記判定部による細部的な故障予想アルゴリズムはいくらでも調整し得る。
【0069】
図7を再び参照すると、上記判定部130は、V1~Vnの複数個(n個)の方向転換バルブに対して取得した各30個の動作時間データ群の統計的劣化指標に基づいて故障予想方向転換バルブを判定し得る。このとき、検査対象期間である30日全体の各方向転換バルブの全体動作時間データによって計算された統計的劣化指標の劣化指標値を序列化し、所定スコアを付与して故障予想方向転換バルブを判定し得る。
【0070】
しかしながら、この場合は上述したように、処理すべきデータの量が幾何級数的に増えることになるので、システムに過度な負荷がかかり、迅速な計算が困難である。また、30日全体の動作時間データを各方向転換バルブに対して比較することは、非効率的であるのみならず、故障予想信頼性を低減させ得る。すなわち、方向転換バルブの故障は、一定期間繰り返し使用した後に発生することが通常的である。したがって、検査対象期間のうち初期の単位時間区間に属する動作時間データ群に基づいて計算された劣化指標値によって故障予想方向転換バルブを判定することは、故障発生可能性が大きくないという点で非効率的である。少なくとも一定期間または所定の単位時間区間だけ動作した後の特定(単位)時間区間の間動作した各方向転換バルブの動作時間データに基づいて故障予想方向転換バルブを判定することが合理的である。すなわち、図7に図示されたように、例えば、29日間動作した後の30日目の1日間動作した方向転換バルブの動作時間データに基づいて故障予想方向転換バルブを判定し得る。この場合は、すべての方向転換バルブが同一期間(29日)の間使用されたので、各方向転換バルブの劣化傾向が明確になり、したがって、終期である30日目の1日間計算された劣化指標値(以下、終期劣化指標値という)を比較すれば、各方向転換バルブの劣化程度または故障発生可能性を確実に把握し得るのである。このような側面で、図5に示されたように、本実施形態の方向転換バルブの故障予測システム100のデータ取得部110は、複数個の単位時間区間のうち少なくとも一定期間使用した後の終期のデータを取得する必要があり、劣化指標値計算部120もこの終期データ(群)に基づいて終期劣化指標値を計算し、判定部130も上記終期劣化指標値を各方向転換バルブに対して序列化して故障予想方向転換バルブを判定するのである。ただし、本発明において「終期」、「終期劣化指標値」とは、一定期間繰り返し使用された後の最終の単位時間区間(例えば、図7で30日目の単位時間区間)やその単位時間区間の動作時間データ群(D30)に基づいて計算された劣化指標値に限定されるものではない。図7を参照すると、例えば、27日間方向転換バルブが動作した後のD28、D29、D30のうちいずれか1つの動作時間データ群に基づいて劣化指標値を計算し得る。この場合は、28日、29日、30日のうち選択されるいずれか1つが終期となり得、その選択された終期のデータ群に基づいて計算された劣化指標値が終期劣化指標値となる。すなわち、本実施形態でいう終期とは、一定期間または所定の単位時間区間の間方向転換バルブが使用(動作)された後の特定時間区間または特定単位時間区間であればよく、必ずしも一定期間使用直後の最終単位時間区間を意味するものではない。また、使用される「一定期間」も検査または故障予想の目的や方向転換バルブの特性などによって自由に選択し得る。図7では、29日間に方向転換バルブが使用されたことを前提としたが、それより長いかまたは短い期間使用した後の方向転換バルブの故障を予測することも可能である。
【0071】
また、終期は必ずしも単一の単位時間区間のみを意味するものではない。
【0072】
図9は、本発明の一実施形態の変形例に係る方向転換バルブの故障予測システムによる故障予測メカニズムを示す概略図である。図9を参照すると、27日間方向転換バルブが動作した後の28日、29日、30日間のD28、D29、D30の動作時間データ群に基づいてそれぞれ計算した終期の劣化指標値を平均し、その平均の終期劣化指標値を故障予想方向転換バルブ判定のための劣化指標値として採用し得る。したがって、図9の例では、厳密には終期は3日間となり、故障予測のための劣化指標値は3日間の各動作時間データ群に基づいて計算された各劣化指標値を平均した平均終期劣化指標値となる。図7のように、単一の単位時間区間またはその単一の動作時間データ群に基づいて計算された終期劣化指標値で故障を予測することよりは、複数個の単位時間区間または動作時間データ群に基づいて計算された平均終期劣化指標値で故障を予測することが、統計的あるいは数学的なデータの信頼性の面でより有利であり得る。
【0073】
図7を再び参照すると、29日間方向転換バルブが使用(動作)された後に、30日目の方向転換バルブ動作時間データに基づいて取得された動作時間データ群に対して、統計的劣化指標として標準偏差A、歪度Bを選択し、その標準偏差値、歪度値の劣化指標値を各方向転換バルブに対して求める過程を示している。このとき、D30は、30日目の24時間の間動作した方向転換バルブの動作時間データ群であって、上述したように、86,400個のデータがグルーピングされたものである。このD30の動作時間データ群に基づいて、標準偏差値、歪度値を各方向転換バルブに対してそれぞれ求めて序列化し得る。
【0074】
図9を再び参照すると、この例では、27日間方向転換バルブが使用(動作)された後に、28~30日目の方向転換バルブ動作時間データに基づいて取得された各動作時間データ群D28、D29、D30に基づいて統計的劣化指標として標準偏差A、歪度Bを選択し、各動作時間データ群に対して計算された標準偏差値、歪度値を再平均した平均終期劣化指標値を各方向転換バルブに対して求める過程を示している。上記平均終期劣化指標値を各方向転換バルブに対して序列化し、そのうち所定範囲以上の上位値を有する方向転換バルブに対して所定スコアを付与し、その所定スコアの合計を基準として故障予想方向転換バルブを判定し得る。
【0075】
図5および図7の故障予測メカニズムに基づいて故障予想方向転換バルブを判定する具体的な一例を説明する。
【0076】
下記表1は、歪度、尖度、第1四分位数、第3四分位数、標準偏差の5つを統計的劣化指標として採択し、29日間稼動した29個の方向転換バルブに対して30日目の終期劣化指標値を計算して序列化したものを示したものである。
【0077】
表2は、序列化された終期劣化指標値のうち、上位25%(7等)以上の方向転換バルブに1点のスコアを付与したものを示したものである。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
表2において、上記スコアの合計が2点以上となる方向転換バルブを故障予想方向転換バルブと判定した。この場合、1番、2番の方向転換バルブが故障予想方向転換バルブと判定される。したがって、上記方向転換バルブは故障の可能性があるので点検する必要がある。
【0081】
上記例では、上位25%に対して1点のスコアを付与し、合計2点以上のスコアとなる方向転換バルブを故障予想方向転換バルブと判定した。しかしながら、上位値の%数値、付与されるスコア点数、故障予想方向転換バルブの判定基準となるスコア合計は変更され得る。したがって、本発明の故障予測システムで方向転換バルブの故障を予測する場合にも、様々な場合の数の故障予知アルゴリズムが導出され得る。重要なことは、本発明によると、複数個の動作時間データに基づいて複数個の統計的劣化指標を選択し、それより各劣化指標値を導出し、その値を序列化し、所定スコアの合計で故障予想方向転換バルブを判定し得るということである。したがって、このような故障予測システムまたは故障予測方法の範疇内であれば、統計的な信頼性を高めるために細部的な故障予知アルゴリズムはいくらでも変更可能である。
【0082】
(第2実施形態)
図10は、本発明の他の実施形態に係る方向転換バルブの故障予測システム200を示す概略図である。
【0083】
本実施形態は統計的劣化指標として、標準偏差、歪度、尖度などの個別の統計指標に加えて、例えば平均の変化値、歪度や尖度の変化値を追加的な統計的劣化指標として導入したという点が第1実施形態と異なる。
【0084】
すなわち、故障予想方向転換バルブを判定するための劣化指標値のうち平均値以外に平均がどれほど変化したか、あるいは歪度や尖度の劣化指標がどれほど変化したかということも方向転換バルブの動作劣化と密接な関連がある。したがって、このような統計的劣化指標の変化値を新しい統計的劣化指標として既存の統計的劣化指標と共に劣化指標値を求めるのであれば、故障予測の信頼性をさらに高めることができる。
【0085】
図11は、このような統計的劣化指標の変化を示す概略図である。図11の(a)は歪度が変化することを、図11の(b)は尖度が変化することを示している。本実施形態において、故障予想のための複数個の統計的劣化指標を選択するときに、通常の統計的劣化指標のうち1つ(例えば、標準偏差)またはそれ以上を選択し、統計的劣化指標の変化値(例えば、歪度変化値)のうち1つまたはそれ以上を新しい統計的劣化指標として選択し得る。
【0086】
統計的劣化指標の変化値を新しい統計的劣化指標に追加するためには、その劣化指標の変化前後の値を知らなければならない。このために、本実施形態の故障予測システム200のデータ取得部210は、各方向転換バルブに対して少なくとも初期の動作時間データと終期の動作時間データをすべて取得する必要がある。
【0087】
図12および図13は、図10の実施形態に係る方向転換バルブの故障予測システムによる故障予測メカニズムを示す概略図である。
【0088】
図12に示されたように、30日の検査対象期間のうち初期である第1日目の動作時間データ群D1に基づいて、例えば標準偏差A、歪度Bの統計的劣化指標を選択し、その劣化指標値を計算し得る。また、29日間方向転換バルブが使用された後の30日目の終期の動作時間データ群D30に基づいて標準偏差A、歪度Bの統計的劣化指標を選択し、その劣化指標値を計算し得る。それに加えて、D1のデータ群に基づいた歪度値とD30のデータ群に基づいた歪度値をそれぞれ求め、その差値を歪度変化値とし、この歪度変化値Cを標準偏差、歪度の劣化指標と共に新しい統計的劣化指標とし得る。
【0089】
すなわち、図10および図12によると、終期である30日目の標準偏差A、歪度Bと、1日目と30日目の歪度値差である歪度変化値Cの3つのパラメータを劣化指標値として劣化指標値計算部220でこれらを計算する。判定部230は、この3つの劣化指標値を序列化し、序列化された値のうち所定範囲以上の上位値を有する方向転換バルブに対して所定スコアを付与し、所定スコアの合計を基準として故障予想方向転換バルブを判定し得る。
【0090】
一方、統計的劣化指標の変化値を計算するための基礎となる初期データ群または初期データ群に基づいて計算される初期統計的劣化指標値は、単一の単位時間区間やそれに基づいた初期統計的劣化指標値に限定されない。
【0091】
図13を参照すると、例えば1日から7日まで、一週間の7つの単位時間区間の動作時間データ群D1~D7を初期劣化指標値計算のための基礎データとし得る。この場合は、D1~D7のデータ群に対してそれぞれ劣化指標値(例えば平均、歪度)を求め、その劣化指標値を平均した初期劣化指標値の平均値を初期劣化指標値とする。そして、29日使用後の30日目の終期劣化指標値(平均、標準偏差A、歪度値B)を求め、上記初期劣化指標値の平均値から終期劣化指標値を差し引いた差値(例えば、平均の変化値または歪度の変化値C')を追加的な統計的劣化指標として導入し得る。
【0092】
また、この場合、図9と同様に、上記差値を求める基準となる終期劣化指標値も単一の単位時間区間に基づいたものであるのみならず、複数個の単位時間区間の複数個の動作時間データ群に基づいた平均終期劣化指標値を採択し得る。したがって、検査対象期間のうち初期の単位時間区間の動作時間データ群に対する初期劣化指標値、または初期の単位時間区間の動作時間データ群に対して求められた初期劣化指標値の平均値から、終期劣化指標値または平均終期劣化指標値を差し引いた差値を方向転換バルブの故障を代弁し得る追加的な統計的劣化指標として導入し得る。
【0093】
図10および図13の故障予測メカニズムに基づいて故障予想方向転換バルブを判定する具体的な一例を説明する。
【0094】
第1実施形態における一例と同様に、歪度、尖度、第1四分位数、第3四分位数、標準偏差の5つを統計的劣化指標として採択し、29日間稼動した29個の方向転換バルブに対して30日目の終期劣化指標値を計算して序列化した。
【0095】
一方、本例では、初期の7日間の単位時間区間の歪度、尖度、平均を平均した値を初期劣化指標値として計算し、30日目の歪度、尖度、平均値(終期劣化指標値)との差値(絶対値)を求めて、その歪度変化、尖度変化および平均変化を新しい統計的劣化指標とし、その劣化地表値を上記5つの統計的劣化指標の劣化指標値と共に序列化して表3に示した。
【0096】
表4は、このような差値を含む合計8つの序列化された終期劣化指標値のうち、上位25%(7等)以上の方向転換バルブに1点のスコアを付与したものを示したものである。
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
表4において、上記スコアの合計が3点以上となる方向転換バルブを故障予想方向転換バルブと判定した。この場合、1番の方向転換バルブが故障予想方向転換バルブと判定される。したがって、上記方向転換バルブは故障の可能性があるので点検する必要がある。
【0100】
本発明の故障予測システム100、200のデータ取得部110、210は、上述したように、データ収集装置とデータを保存するデータベースとを備え得る。上記データ取得部110、210は、データをグループ別にグルーピングするための所定の統計プログラムを備え得る。上記劣化指標値計算部120、220は、所定のコンピューティングプログラムを備えて選択された統計的劣化指標あるいは統計的劣化指標の差値を演算し得る。上記判定部130、230は、計算された劣化指標値を序列化して所定スコアを付与し、その合計を求めて故障予想方向転換バルブを判定するために、データ読取装置、解析装置、および演算装置などを備え得る。あるいは、上記データ取得部110、210、劣化指標値計算部120、220および判定部130、230は、CPUなどの演算装置、ハードディスクなどの記憶装置を含むハードウェアを所定のソフトウェアで制御することにより実現されるコンピューティング装置であり得、互いに通信可能に設定される。
【0101】
また、本発明は、上述した方向転換バルブの故障予測システムなどを用いる方向転換バルブの故障予測方法を提供する。
【0102】
具体的には、ピストンロッドを備えたシリンダーと連通して上記シリンダーに流体を供給し、上記流体の供給方向を転換することにより、上記ピストンロッドの動作方向を変更する複数個の方向転換バルブの動作時間を設備稼動経過時間にわたって繰り返し検出し、それぞれの方向転換バルブ別に複数個の動作時間データを取得する段階と、上記方向転換バルブの故障を代弁し得る複数個の統計的劣化指標を選択し、上記動作時間データに基づいて上記選択された統計的劣化指標の劣化指標値を計算する段階と、それぞれの劣化指標値を各方向転換バルブに対して大きさによって序列化する段階と、上記序列化された劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有する方向転換バルブに対して所定スコアを付与し、上記所定スコアの合計を基準として故障予想方向転換バルブを判定する段階と、を含む。
【0103】
上記複数個の動作時間データを取得する段階において、方向転換バルブの動作信号によってピストンロッドが前進を開始する第1時間、方向転換バルブの動作信号によってピストンロッドが後進を開始する第2時間、またはその合算時間を動作時間データとして取得し得る。このとき、データの処理量を減らすために検査対象期間が複数個の単位時間区間からなる場合には、各単位時間区間別に各方向転換バルブの動作時間データをグルーピングして個別の動作時間データ群を取得し得る。
【0104】
その後、上記動作時間データに基づいて方向転換バルブの故障を代弁し得る複数個の統計的劣化指標を選択する。このような統計的劣化指標としては、例えば、各方向転換バルブの動作時間データの平均、標準偏差、第1四分位数、中位数、第3四分位数、歪度および尖度などが挙げられる。統計的劣化指標を選択すると、選択された統計的劣化指標の各劣化指標値を計算する。この場合、動作時間データが上記のようにグルーピングされて個別の動作時間データ群となった場合に、各動作時間データ群に対して各方向転換バルブの劣化指標値を計算し得る。
【0105】
次に、計算されたそれぞれの劣化指標値を各方向転換バルブに対して大きさによって序列化する。劣化指標であるので、序列化された劣化指標値のうち上位値を有する方向転換バルブが故障予想方向転換バルブである可能性が高い。
【0106】
その後、上記序列化された劣化指標値のうち所定範囲以上の上位値を有する方向転換バルブに対して所定スコアを付与し、上記所定スコアの合計を基準として故障予想方向転換バルブを判定する。
【0107】
故障予想方向転換バルブの判定時にその基礎となる劣化指標値は、方向転換バルブが一定期間繰り返し使用された後の特定時間区間の動作時間データに基づいて計算されることが好ましい。このとき、検査対象期間が複数個の単位時間区間からなる場合に、検査対象期間のうち、所定の単位時間区間だけ動作した後の特定単位時間区間の動作時間データ群に対して計算された終期劣化指標値、または特定単位時間区間の動作時間データ群に対する終期劣化指標値の平均値を序列化し、故障予想方向転換バルブの判定のための基礎とし得る。
【0108】
一方、上記複数個の統計的劣化指標のうち選択される1つ以上の統計的劣化指標の変化値を故障予想方向転換バルブの判定のための追加的な統計的劣化指標として導入し得る。このとき、上記変化値を求めるために、検査対象期間のうち初期の単位時間区間または動作時間データ群に対して計算された初期劣化指標値または初期の単位時間区間または動作時間データ群に対して計算された初期劣化指標値の平均値から、上記終期劣化指標値または終期劣化指標値の平均値を差し引いた差値を上記統計的劣化指標の変化値として導入し得る。
【0109】
図14は、本発明に係る方向転換バルブの故障検査システム1000を示す概略図である。
【0110】
上記方向転換バルブの故障検査システムは図示されたように、データ取得部110、210、劣化指標値計算部120、220、および判定部130、230で構成された本発明の方向転換バルブの故障予測システム100、200を含む。また、上記方向転換バルブの故障予測システム100、200の判定部130、230と連結され、上記判定部によって故障予想方向転換バルブと判定された方向転換バルブの空気漏れの有無を測定する検査部300が上記方向転換バルブの故障検査システム1000に備えられる。
【0111】
上記検査部300は、例えば超音波音響カメラであり得る。超音波音響カメラは、人には聞こえない超音波を測定してガスの漏れと電気アークをリアルタイムで撮影し得る産業用カメラである。空気の漏れ地点に生成される超音波エネルギーをセンサーアレイで検出し、その漏れ部位を検査対象部位の可視光線イメージを背景に表示するので漏れ地点を迅速に感知し得、JPEGイメージやMP4の動画形式で保存することもできる。
【0112】
本発明はまた、上記方向転換バルブの故障予測方法を含む方向転換バルブの故障検査方法を提供する。上記検査方法は、上記のような方向転換バルブの故障予測方法によって故障予想方向転換バルブと判定された方向転換バルブを検査する段階と、検査によって故障が発見された方向転換バルブを取り替える段階とを含む。
【0113】
本発明により、故障予想方向転換バルブと判定された方向転換バルブのみを上記検査部で検査することになると、方向転換バルブの点検時間が大幅に短縮され、方向転換バルブの点検に必要とされるコストと人員を大幅に減らし得る。
【0114】
<実施例>
負極、正極の2タイプのバイセル(Bi-Cell)と分離膜を共に交互にフォールディング(Folding)するフォールディングユニットを稼動するシリンダーおよび上記シリンダーに結合され、上記シリンダーの作動方向を転換する複数個の方向転換バルブに対して、本発明の方向転換バルブの故障予測システムで故障予想方向転換バルブを判定した。また、実際の方向転換バルブの故障数も評価した。
【0115】
表5の実施例1は、合計29個の方向転換バルブに対して評価日時(評価次数)を異にして判定した結果である。表6の実施例2は、2回目の結果を参照して細部的な評価条件(上位%の選定条件など)を修正補完したアルゴリズムにより判定した結果である。
【0116】
<実施例1>
【表5】
【0117】
表5において、過検率、未検率、検出率は下記の式で表される。
【0118】
過検率=(全体推薦数-全体推薦数のうち実際の故障数)/総点検数
未検率=(全体故障数-推薦された故障数)/総点検数
検出率=全体推薦数のうち実際の故障数/全体推薦数
【0119】
上記表5に示されたように、2次評価の場合に、1次と比べた過検率は減少したが、未検率および検出率は増加した。そのため、3次評価時に上位%の選定条件を変更して3次評価を進めた。また、3次評価で故障として推薦されたバルブを全数調査して修理など措置し、同じアルゴリズムで4次評価を進行して判定した。
【0120】
<実施例2>
【表6】
【0121】
上記表2に示されたように、補完したアルゴリズムで評価した3次、4次の場合に、未検率は0%であり、過検率は25%以下を達成した。したがって、補完アルゴリズムで方向転換バルブの故障を評価する場合に、点検数量および点検時間を大幅に短縮し得る。
【0122】
以上の説明は、本発明の技術思想を例示的に説明したものに過ぎず、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、本発明の本質的な特性から逸脱しない範囲で多様な修正および変形が可能であろう。したがって、本発明に開示された図面は本発明の技術思想を限定するためのものではなく説明するためのものであり、このような図面によって本発明の技術思想の範囲が限定されるものではない。本発明の保護範囲は特許請求の範囲によって解釈されるべきであり、それと同等な範囲内にあるすべての技術思想は本発明の範囲に含まれるものとして解釈されるべきである。
【0123】
一方、本明細書で上、下、左、右、前、後のような方向を示す用語が使用されたが、このような用語は説明の便宜のためのものに過ぎず、対象となる事物の位置や観測者の位置などにより変わり得ることは自明である。
【符号の説明】
【0124】
10:方向転換バルブ
11:ポート
11a:第1ポート、11b:第2ポート、11c:第3ポート、11d:第4ポート、11e:第5ポート
111:流路
12:ケース
121:内部流路
S1、S2:センサー
100、200:方向転換バルブの故障予測システム
110、210:データ取得部
120、220:劣化指標値計算部
130、230:判定部
300:検査部
1000:方向転換バルブの故障検査システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11(a)】
図11(b)】
図12
図13
図14
【国際調査報告】