(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】核燃料被覆およびそのような被覆の製造方法
(51)【国際特許分類】
G21C 3/06 20060101AFI20250109BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20250109BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G21C3/06 210
C23C14/06 N
C23C14/14 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538958
(86)(22)【出願日】2022-12-26
(85)【翻訳文提出日】2024-08-08
(86)【国際出願番号】 EP2022087846
(87)【国際公開番号】W WO2023126387
(87)【国際公開日】2023-07-06
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】593128105
【氏名又は名称】フラマトム
【氏名又は名称原語表記】FRAMATOME
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】ビショフ,ジェレミ
(72)【発明者】
【氏名】バルブリ,ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ビュシャナン,カール
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA27
4K029BA07
4K029BA43
4K029BA58
4K029BB02
4K029BC01
4K029BC02
4K029CA05
4K029CA06
4K029DC03
4K029DC34
4K029DC39
(57)【要約】
本発明は、核燃料被覆において、被覆は、純ジルコニウムまたはジルコニウム含有合金でできた基板(14)および基板(14)の表面(14B)を覆う多層保護コーティング(16)を用いて生産され、保護コーティング(16)は、純クロムでできた主層(18)と単数または複数の付加層(20)とを有し、各付加層(20)は、純クロム、または、クロムさらに酸素および/または窒素でできた材料と、場合によっては存在する不可避不純物とでできている、核燃料被覆に関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核燃料被覆において、被覆が、純ジルコニウムまたはジルコニウム合金でできた基板(14)、および基板(14)の表面(14B)を覆う多層保護コーティング(16)を用いて製造され、保護コーティング(16)が、純クロムでできた主層(18)と単数または複数の付加層(20)とを有し、各付加層(20)が、純クロム、または、クロムさらに酸素および/または窒素で構成される材料と、場合によっては存在する不可避不純物とでできている、核燃料被覆。
【請求項2】
少なくとも1つの付加層(20)が、純クロム、酸化クロム、窒化クロムもしくは酸窒化クロムまたはこのような材料の組合せでできている、請求項1に記載の被覆。
【請求項3】
少なくとも1つの付加層(20)が、酸素原子および/または窒素原子でドープされた金属クロム、または酸素原子および/または窒素原子が埋め込まれた金属クロムでできている、請求項1または2に記載の被覆。
【請求項4】
主層(18)と、酸素および/または窒素を含有する付加層(20)との間に介在する遷移層(22)を含み、遷移層(22)が、酸素原子および/または窒素原子でドープされた金属クロム、または酸素原子および/または窒素原子が埋め込まれた金属クロムでできている、請求項1から3のいずれか一つに記載の被覆。
【請求項5】
遷移層(22)が、主層(18)から付加層(20)に向かって徐々に増加する酸素原子の濃度を有し、かつ/または、主層(18)から付加層(20)に向かって徐々に増加する窒素原子の濃度を有する、請求項4に記載の被覆。
【請求項6】
隣接した付加層(20)との境界面における遷移層(22)の酸素原子の濃度が、隣接した付加層(20)の酸素原子の濃度と実質的に等しく、かつ/または、隣接した付加層(20)との境界面における遷移層(22)の窒素原子の濃度が、隣接した付加層(20)の窒素原子の濃度と実質的に等しい、請求項4または5に記載の被覆。
【請求項7】
主層(18)の厚みが、3μm~30μmである、請求項1から6のいずれか一つに記載の被覆。
【請求項8】
各付加層(20)の厚みが、10nm~5μmである、請求項1から7のいずれか一つに記載の被覆。
【請求項9】
付加層(20)が、主層(18)の上に位置する、請求項1から8のいずれか一つに記載の被覆。
【請求項10】
付加層(20)が、主層(18)の下に位置する、請求項1から9のいずれか一つに記載の被覆。
【請求項11】
核燃料被覆の製造方法において、製造方法が、
- 純ジルコニウムまたはジルコニウム合金でできた基板(14)の提供、および
- 基板(14)の表面(14B)上への多層保護コーティング(16)の被着であって、保護コーティング(16)の被着は、物理蒸着による純クロムでできた主層(18)の被着および単数または複数の付加層(20)の被着を含み、各付加層(20)は、純クロム、または、クロムさらに酸素および/または窒素で構成される材料と、場合によっては存在する不可避不純物とでできている被着、
を含む、核燃料被覆の製造方法。
【請求項12】
付加層(20)が、純クロム、酸化クロム、窒化クロムもしくは酸窒化クロムまたはこのような材料の組合せでできている、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
付加層が、酸素原子および/または窒素原子でドープされた金属クロム、または酸素原子および/または窒素原子が埋め込まれた金属クロムでできている、請求項11または12に記載の製造方法。
【請求項14】
付加層(20)が、物理蒸着によって被着される、請求項11から13のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項15】
付加層(20)が、中性ガスとさらに酸素および/または窒素とを含有する二元または三元の混合ガスで構成される雰囲気中で実施される物理蒸着によって被着される、請求項11から14のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項16】
主層(18)と付加層(20)との間に介在する遷移層(22)の形成を含み、遷移層(22)が、酸素原子でドープされたクロムでできている、請求項11から15のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項17】
遷移層(22)が、主層(18)から隣接した付加層(20)に向かって徐々に増加する酸素原子の濃度を有する、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
主層(18)の厚みが、3μm~30μmである、請求項11から17のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項19】
各付加層(20)の厚みが、10nm~5μmである、請求項11から18のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項20】
少なくとも1つの付加層(20)が、主層(18)の後に被着される、請求項11から19のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項21】
少なくとも1つの付加層(20)が、主層(18)の前に被着される、請求項11から20のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項22】
請求項11から21のいずれか一つに記載の方法によって得ることができる核燃料被覆。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核燃料を格納するように意図された核燃料被覆(以下「被覆」とも呼ばれる)、より詳細には核燃料棒被覆、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核分裂性物質を含む核燃料は、概して、核燃料の分散を防止する封止された被覆の中に格納される。
【0003】
軽水炉内または重水炉内で使用される核燃料集合体は、概して、核燃料棒の束を含んでおり、各々の核燃料棒は、核燃料を格納する管状被覆を含み、被覆は、その両端部の各々においてそれぞれのプラグで閉じられている。
【0004】
核燃料集合体の被覆は、例えばジルコニウムまたはジルコニウム合金でできている。このようなジルコニウム合金は、原子炉内の正常な使用条件下で高い性能を有する。
【0005】
しかしながら、これらの合金は、例えば冷却材喪失事故(すなわちLOCA)中などの重大事故条件の間に、特に温度の観点から見たその限界に到達し得る。
【0006】
このような事象の間には、原子炉の炉心での温度が800℃超に達する可能性があり、冷却用流体は、本質的に水蒸気の形態である。
【0007】
上記によって、核燃料棒の被覆の急速な劣化が、詳細には水素放出および被覆の急速な酸化を伴ってひき起こされる可能性があり、これが被覆の脆弱化、さらには破裂、ひいては被覆の外への核燃料の放出につながる。
【0008】
クロム製の保護コーティングで覆われたジルコニウム合金製の基板を含む被覆を提案することが可能である。
【0009】
このようなクロム保護コーティングは概して、正常な条件下および事故条件下で被覆の耐性を高める。しかしながら、このようなクロム保護コーティングの耐摩耗性は比較的低い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的の1つは、正常な条件下および事故条件下で改善された挙動を示すと同時に、改善された耐摩耗性を示す被覆を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このために、本発明は、核燃料被覆において、被覆は、純ジルコニウムまたはジルコニウム合金でできた基板および基板の表面を覆う多層保護コーティングを用いて製造され、保護コーティングは、純クロムでできた主層と単数または複数の付加層とを有し、各付加層は、純クロム、または、クロムさらに酸素および/または窒素で構成される材料と、場合によっては存在する不可避不純物とでできている、核燃料被覆を提案する。
【0012】
純クロムでできた付加層、またはクロムさらに酸素および/または窒素、詳細には酸化クロム、窒化クロム、酸窒化クロムもしくはこれらの化合物の組合せでできた材料で構成される付加層、または酸素および/または窒素でドープされたクロムでできた付加層を付加することにより、純クロムでできた主層で覆われた被覆の性能が、より具体的には、付加層が主層の上に位置するか主層の下に位置するかに応じて、耐摩耗性、耐スクラッチ性、および/または核分裂生成物および他の腐食生成物に対する透過性、基板による水素吸収および水素化に対する耐性という観点から、さらに向上する。
【0013】
特定の実施形態によると、被覆は、個別にまたは技術的に可能な全ての組合せの形で考慮される、以下の任意の特徴のうちの単数または複数を含む:
- 少なくとも1つの付加層は、純クロム、酸化クロム、窒化クロムもしくは酸窒化クロムまたはこのような材料の組合せでできている;
- 少なくとも1つの付加層は、酸素原子および/または窒素原子でドープされた金属クロム、または酸素原子および/または窒素原子が埋め込まれた金属クロムでできている。;
- 被覆は、主層と、酸素および/または窒素を含有する付加層との間に介在する遷移層を含み、遷移層は、酸素原子および/または窒素原子でドープされた金属クロム、または酸素原子および/または窒素原子が埋め込まれた金属クロムでできている;
- 遷移層は、主層から付加層に向かって徐々に増加する酸素原子の濃度を有し、かつ/または、主層から付加層に向かって徐々に増加する窒素原子の濃度を有する;
- 隣接した付加層との境界面における遷移層の酸素原子の濃度は、隣接した付加層の酸素原子の濃度と実質的に等しく、かつ/または、隣接した付加層との境界面における遷移層の窒素原子の濃度は、隣接した付加層の窒素原子の濃度と実質的に等しい;
- 主層の厚みは、3μm~30μmである;
- 各付加層の厚みは、10nm~5μmである;
- 少なくとも1つの付加層は、主層の上に位置する;
- 少なくとも1つの付加層は、主層の下に位置する。
【0014】
本発明はさらに、核燃料被覆の製造方法において、製造方法は、純ジルコニウムまたはジルコニウム合金でできた基板の提供、および、基板の表面上への多層保護コーティングの被着であって、保護コーティングの被着は、物理蒸着による純クロムでできた主層の被着および単数または複数の付加層の被着を含み、各付加層は、純クロム、または、クロムさらに酸素および/または窒素で構成される材料と、場合によっては存在する不可避不純物とでできている被着、を含む、核燃料被覆の製造方法に関する。
【0015】
実施形態例によると、製造方法は、個別にまたは技術的に可能な全ての組合せの形で考慮される、以下の任意の特徴のうちの単数または複数を含む:
- 少なくとも1つの付加層は、純クロム、酸化クロム、窒化クロムもしくは酸窒化クロムまたはこのような材料の組合せでできている;
- 少なくとも1つの付加層は、酸素原子および/または窒素原子でドープされた金属クロム、または酸素原子および/または窒素原子が埋め込まれた金属クロムでできている;
- 付加層は、物理蒸着によって被着される;
- 付加層は、中性ガスとさらに酸素および/または窒素とを含有する二元または三元の混合ガスによって形成される雰囲気中で実施される物理蒸着によって被着される;
- 製造方法は、主層と付加層との間に介在する遷移層の形成を含み、遷移層は、酸素原子でドープされたクロムでできている;
- 遷移層は、主層から隣接した付加層に向かって徐々に増加する酸素原子の濃度を有する;
- 主層の厚みは、3μm~30μmである;
- 各付加層の厚みは、10nm~5μmである;
- 少なくとも1つの付加層は、主層の後に被着される;
- 少なくとも1つの付加層は、主層の前に被着される。
【0016】
本発明はさらに、上記で定義された通りの方法によって得ることができる核燃料被覆に関する。
【0017】
本発明および本発明の利点は、単に非限定的な例として提供されている以下の説明を、添付図面を参照しながら読むことによって、さらに良く理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】核燃料棒の長手方向の断面概略図であり、核燃料棒の被覆を示している。
【
図2】核燃料棒の被覆の軸方向から見た概略図である。
【
図3】核燃料棒の被覆の軸方向から見た概略図である。
【
図4】核燃料棒の被覆の軸方向から見た概略図である。
【
図5】核燃料棒の被覆の軸方向から見た概略図である。
【
図6】核燃料棒の被覆の軸方向から見た概略図である。
【
図8】物理蒸着により基板上にコーティングを被着するための設備の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、軽水炉、詳細には、加圧水型原子炉(PWR)または沸騰水型原子炉(BWR)、「VVER」原子炉、「RBMK」原子炉または重水炉、例えば「CANDU」原子炉において使用するように意図された核燃料棒2を示す。
【0020】
核燃料棒2は、長手方向軸Aに沿って延びたロッド形状を有する。
【0021】
核燃料棒2は、核燃料を格納する被覆4を含む。被覆4は、管状であり、長手方向軸Aに沿って延在している。被覆4は、その各端部でそれぞれのプラグ6によって封止されている。
【0022】
核燃料は例えば、被覆4の内部で軸方向に積重ねられ、各々のペレット8が核分裂性物質を含むペレット8のスタックの形態である。ペレット8のスタックはまた、「核分裂性カラム」とも呼ばれる。
【0023】
核燃料棒2は、被覆4の内部でペレット8のスタックとプラグ6の1つとの間に配設された、ペレット8のスタックを他方のプラグ6に向かって押すためのばね10を含んでいる。ペレット8のスタックと、ばね10が圧迫するプラグ6との間には、空の空間またはプレナム12が存在する。
【0024】
図2は、核燃料を格納するように意図された核燃料棒2の被覆4の軸方向から見た図を示している。
【0025】
被覆4は、保護コーティング16を備えた基板14を含む。
【0026】
被覆4は、管状であり、長手方向軸Aに沿って延在している。
【0027】
これに対応して、基板14は、管状であり、長手方向軸Aに沿って延在している。基板14は、管である。
【0028】
基板14は、例えば8mm~15mm、より具体的には9mm~13mmの外径、および/または1m~5m、より具体的には2m~5mの長さを有する。
【0029】
基板14は、例えば純ジルコニウムまたはジルコニウム合金でできている。
【0030】
「純ジルコニウム」という表現は、少なくとも99重量%のジルコニウムを含む材料を指し、「ジルコニウム合金」という表現は、少なくとも95重量%のジルコニウムを含む合金を指す。ジルコニウム合金は、例えばM5、ZIRLO、E110、HANA、N36、ジルカロイ-2およびジルカロイ-4などの公知の合金のうちの1つから選択される。
【0031】
基板14は、核燃料を収容するための空間を画定する、被覆4の内部に向けられた内側表面14Aを有する。
【0032】
基板14は、被覆4の外部に向けられるように意図された外側表面14Bを有する。外側表面14Bは、内側表面14Aの反対側にある。
【0033】
内側表面14Aはここでは、管状形状の基板14の内側に向けられた表面であり、外側表面14Bは、管状形状の基板14の外側に向けられた表面である。
【0034】
保護コーティング16は、基板14の外側表面14Bを覆っている。保護コーティング16の機能は、基板14の外側表面14Bを外部環境から保護することである。保護コーティング16がないと、被覆14の外側表面14Bは、外部環境に曝露されることになる。
【0035】
保護コーティング16は、多層である。保護コーティング16は、複数の積重ねられた層を有する。
【0036】
保護コーティング16は、主層18および単数または複数の付加層20を含む。
【0037】
主層18は、純クロムでできている。
【0038】
「純クロムでできている」とは、少なくとも99重量%のクロムを含む材料でできていることを意味する。材料の残りは、不可避不純物からなる。
【0039】
各付加層20は、主層18の上または主層18の下に位置する。主層18の上に位置する各付加層20は、基板14の反対側にある、主層18の側に位置する。主層18の下に位置する各付加層20は、主層18と基板14との間に位置する。
【0040】
保護コーティング16は例えば、主層18の上に位置する単数または複数の付加層20を有する。主層18は、基板14と、主層18の上に位置する各付加層20との間に位置する。
【0041】
保護コーティング16は例えば、主層18の下に位置する単数または複数の付加層20を有する。主層18は、基板14と、主層18の下に位置する各付加層20との間に位置する。
【0042】
好ましくは、保護コーティング16の表面層は、付加層20である。保護コーティング16の表面層は、保護コーティング16の最外側層である。このような表面層は、外部環境と接触状態にある。
【0043】
各付加層20は、純クロム、または、クロムさらに酸素および/または窒素で構成される材料と、場合によっては存在する不可避不純物とでできている。
【0044】
好ましくは、クロムさらに酸素および/または窒素と、場合によっては存在する不可避不純物とで構成される各付加層20の材料は、最大1重量%の不純物、好ましくは最大0.5重量%の不純物を含む。
【0045】
不純物の存在は例えば、付加層20の材料を得るのに使用される基材の中の不純物の存在に起因している可能性がある。
【0046】
例えば、各付加層20は、純クロム、酸化クロム、より具体的にはCr2O3もしくは非晶質酸化クロム、窒化クロム、酸窒化クロムもしくはこれらの材料の組合せでできているか、または酸素原子および/または窒素原子でドープされた金属クロムでできているか、または酸素原子および/または窒素原子が埋め込まれた金属クロムでできている。
【0047】
酸素原子および/または窒素原子でドープされた金属クロム材料、または、酸素原子および/または窒素原子が埋め込まれた金属クロム材料とは、クロムでできた材料であって、その原子が、クロムの結晶構造に従って配置され、酸素原子および/または窒素原子が、このクロムの結晶構造に挿入され、より具体的には、この結晶構造中のクロム原子を置換する材料を意味する。
【0048】
酸素原子および/または窒素原子のドーピングは例えば、付加層20の物理蒸着の間に実施されることができる。
【0049】
酸素原子および/または窒素原子の埋め込みは概して、例えば物理蒸着によって実施されるクロム被着の後に実施される。
【0050】
基板14および保護コーティング16の層の厚みは、保護コーティング16が被着される基板14の表面、ここでは外側表面14Bに対して垂直にとられる。
【0051】
基板14は、例えば0.4mm~1mmの厚みを有する。
【0052】
主層18は、例えば基板14の厚みよりも厳密に薄い厚みを有する。
【0053】
主層18は、例えば3μm~30μmの厚み、より具体的には5μm~20μmの厚みを有する。
【0054】
好ましくは、各付加層20の厚みは、主層18の厚みよりも厳密に薄い。
【0055】
各付加層20の厚みは、例えば10nm~5μmである。
【0056】
図2~
図6において、基板14の厚みおよび保護コーティング16のさまざまな層の厚みは、図面を明瞭に保つために、縮尺どおりに示されていない。
【0057】
任意に、保護コーティング16は、単数または複数の遷移層22を含み、各遷移層22は、主層18と、主層18の上または主層18の下に位置する付加層20との間に介在する。各遷移層22は、一方の側で主層18と接触しており、もう一方の側で、主層18の上または主層18の下に位置する付加層20と接触している。
【0058】
各遷移層22は、酸素原子および/または窒素原子でドープされた金属クロム、および/または酸素原子および/または窒素原子が埋め込まれた金属クロムでできている。
【0059】
各遷移層22の材料は、酸素原子および/または窒素原子でドープされた金属クロム、または酸素原子および/または窒素原子が埋め込まれた金属クロムと、場合によっては存在する不可避不純物とからなる。
【0060】
遷移層22の材料は、遷移層22の材料が、クロムの結晶構造を有しかつ酸素原子および/または窒素原子を含む金属クロムであるという点で、酸化クロム、窒化クロムまたは酸窒化クロムとは異なる。遷移層22の酸素原子および/または窒素原子は、遷移層22の金属クロムの結晶構造の中に分散される。
【0061】
遷移層22の酸素原子の濃度は、単位体積当たりの原子総数に対する酸素原子の数である。酸素原子の濃度は、例えば、材料中の酸素原子のパーセンテージとして表される。
【0062】
同様に、遷移層22の窒素原子の濃度は、単位体積当たりの原子総数に対する窒素原子の数である。窒素原子の濃度は、例えば、材料中の窒素原子のパーセンテージとして表される。
【0063】
有利には、隣接した付加層20との境界面における遷移層22の酸素原子の濃度は、この付加層20の酸素原子の濃度に実質的に等しい。
【0064】
遷移層22に隣接した付加層20がCr2O3でできている場合、この付加層20との境界面における遷移層22の酸素原子の濃度は、例えば60%である。
【0065】
少なくとも1つの遷移層22、より具体的には各遷移層22は、好ましくは、遷移層22の厚みに応じて、主層18から隣接した付加層20に向かって、好ましくは徐々に増加する酸素原子の濃度を有する。
【0066】
好ましい実施形態において、遷移層22に隣接した付加層20は酸化クロムCr2O3でできており、遷移層22の酸素原子の濃度は、主層18から隣接した付加層20に向かって、好ましくは徐々に、0%の値から最大60%の値まで増加する。
【0067】
加えて、または選択肢として、隣接した付加層20との境界面における各遷移層22の窒素原子の濃度は、この付加層20の窒素原子の濃度と実質的に等しい。
【0068】
遷移層22に隣接した付加層20が窒化クロム(CrN)でできている場合、付加層20との境界面における遷移層22の酸素原子の濃度は、例えば50%である。
【0069】
少なくとも1つの遷移層22、より具体的には各遷移層22は、好ましくは、遷移層22の厚みに応じて、主層18から隣接した付加層20に向かって、好ましくは徐々に増加する酸素原子の濃度を有する。
【0070】
好ましい実施形態において、遷移層22に隣接した付加層20は酸化クロムCrOでできており、遷移層22の酸素原子の濃度は、主層18から隣接した付加層20に向かって、好ましくは徐々に、0%の値から最大50%の値まで増加する。
【0071】
一特定実施形態例において、少なくとも1つの遷移層22、より具体的には各遷移層22は、好ましくは、遷移層22の厚みに応じて、主層18から隣接した付加層20に向かって、好ましくは徐々に増加する酸素原子の濃度および窒素原子の濃度を有する。
【0072】
各遷移層22の厚みは、例えば10nm~1μmである。
【0073】
図2に示されているように、一実施形態例において、保護コーティング16は、主層18および主層18の上に位置する付加層20を有し、遷移層22が、主層18と付加層20との間に介在している。
【0074】
主層18は例えば、基板14のすぐ隣にある。主層18は、基板14と接触している。主層18は、基板14の上に直接被着されている。
【0075】
付加層20は、例えば純クロム、酸化クロムおよび/または酸窒化クロム、または、酸素および/または窒素でドープされた金属クロム、または、酸素原子および/または窒素原子が埋め込まれたクロムでできている。一特定実施形態において、付加層20は、酸化クロム、好ましくはCr2O3または非晶質酸化クロムでできている。
【0076】
付加層20は、好ましくは、保護コーティング16の表面層(すなわち外部環境と接触状態にある層)である。
【0077】
保護コーティング16はここでは、主層18、主層18の上に位置する付加層20、および、主層18と付加層20との間に介在する遷移層22で構成されている。
【0078】
図3~
図6で示されているように、別の実施形態が検討されることができ、これらの図中では、類似の要素に対する参照番号が繰り返されている。
【0079】
図3に示されている被覆4は、付加層20が主層18の上に直接塗布されているという点で、
図2に示されている被覆とは異なる。付加層20は、主層18と接触している。被覆4は、主層18と主層18の上に位置する付加層20との間に遷移層22を有しない。
【0080】
保護コーティング16は例えば、主層18と、主層18の上に位置する付加層20とで構成される。
【0081】
図4に示されている被覆4は、付加層20が主層18の下に位置しているという点で、
図2に示されている被覆とは異なっており、遷移層22が、付加層20と主層18との間に介在している。
【0082】
付加層20は、例えば基板14の上、ここでは基板14の外側表面14Bの上に直接被着されている。
【0083】
保護コーティング16は、例えば付加層20、付加層20の上に位置する主層18、および付加層20と主層18との間に介在する遷移層22で構成されている。
【0084】
図5に示されている被覆4は、主層18が付加層20の上に直接塗布されているという点で、
図4に示されている被覆とは異なる。付加層20は、主層18と接触している。被覆4は、付加層20と付加層20の上に位置する主層18との間に遷移層22を有しない。
【0085】
保護コーティング16は、例えば基板14の外側表面14Bの上に被着された付加層20と、付加層20の上に位置する主層18によって構成される。
【0086】
図6に示されている被覆4は、保護コーティング16が、主層18の下に位置する付加層20および主層18の上に位置する付加層20を有するという点で、
図2に示されている被覆とは異なる。任意に、遷移層22が、主層18と、主層18の下に位置する付加層20との間に介在している。同じく任意に、遷移層22が、主層18と、主層18の上に位置する付加層20との間に介在している。
【0087】
保護コーティング16は、例えば主層18と、主層18の下に位置する付加層20と、主層18の上に位置する付加層20とで構成され、遷移層22が、主層18と主層18の下に位置する付加層20との間に介在しており、遷移層22が、主層18と主層18の上に位置する付加層20との間に介在している。
【0088】
図7に示されているように、一実施形態例において、保護コーティング16は、少なくとも1つの、複数の隣接した付加層20のグループを有する。グループの各付加層20は、保護コーティング16の層のスタック内の隣の層と接触している。
図7において、3つの隣接した付加層20が示されている。
【0089】
好ましくは、別の付加層20と隣接した各付加層20は、この別の付加層20の材料とは異なる材料でできている。一実施形態において、純クロムでできた付加層20に隣接しているのは、クロムさらに酸素および/または窒素と場合によっては存在する不可避不純物とで構成される材料、より具体的には、酸化クロム、窒化クロム、酸窒化クロムでできた材料、酸素原子および/または窒素原子でドープされた金属クロム、または酸素原子および/または窒素原子が埋め込まれた金属クロムでできた別の付加層20である。
【0090】
有利には、複数の隣接した付加層20からなるグループは、2つの別の付加層20の間に介在する、少なくとも1つの、純クロムでできた付加層20を有し、2つの別の付加層20の各々は、クロムさらに酸素および/または窒素と場合によっては存在する不可避不純物とで構成される材料、より具体的には、酸化クロム、窒化クロム、酸窒化クロムでできた材料、または酸素原子および/または窒素原子でドープされた金属クロム、または酸素原子および/または窒素原子が埋め込まれた金属クロムでできている。
【0091】
このような場合、純クロムでできた各付加層20の両側に位置する2つの別の付加層20は、同じ材料または異なる材料でできている。
【0092】
一実施形態において、2つの別の付加層20の各々は、クロムおよび酸化物で構成される材料、例えば酸化クロム、またはクロムおよび窒素で構成される材料、例えば窒化クロムでできている。
【0093】
一特定実施形態において、純クロムでできた付加層20は、窒化クロムでできた2つの別の付加層20の間に介在している。
【0094】
一実施形態において、複数の隣接した付加層20からなるグループは、別の付加層20と交互に配置された、少なくとも1つの、純クロムでできた付加層20を含み、別の付加層20の各々は、クロムさらに酸素および/または窒素と場合によっては存在する不可避不純物とで構成される材料、より具体的には、酸化クロム、窒化クロム、酸窒化クロムでできた材料、または酸素原子および/または窒素原子でドープされた金属クロム、または酸素原子および/または窒素原子が埋め込まれた金属クロムでできている。
【0095】
純クロムでできた単数または複数の付加層20と交互に配置される別の付加層20は、同じ材料または少なくとも2つの異なる材料でできている。
【0096】
一特定実施形態において、隣接した付加層20からなるグループは、純クロムでできた単数または複数の付加層と、窒化クロムでできた別の付加層20とを交互に含んでいる。
【0097】
保護コーティング16は、主層18の上に位置する、そのような隣接した付加層20のグループ、および/または主層18の下に位置する、そのような隣接した付加層20のグループを含み得る。
【0098】
次に、
図8を参照して、被覆4の製造方法について説明する。
【0099】
製造方法には、基板14を得るステップが含まれる。基板14が管である場合、それは、例えば、基板14の直径よりも大きな直径を有する管状ブランクから、ピルガー圧延によって公知の方法で得られ、ブランクは、その直径が徐々に減少し、かつその長さが徐々に増加するように変形され、その後、適切であれば、基板14を得るために所望の長さに切断される。
【0100】
製造方法は、次に、物理蒸着によって基板14の外側表面14B上に主層18を被着するステップを含む。
【0101】
図8に示されているように、主層18の物理蒸着は、例えば、物理蒸着設備26のチャンバ24内の制御された雰囲気下で行われ、より具体的には、例えばアルゴンなどの中性ガスからなる希薄大気下で実施される。
【0102】
中性ガスは、基板14上に保護コーティング16の層を被着する段階中に酸化現象を防止するように選択される。
【0103】
物理蒸着は、例えばスパッタリングまたは蒸発によって実施される。
【0104】
一実施形態例において、主層18は、スパッタリングによる物理蒸着によって被着される。
【0105】
このために、基板14およびクロムでできたターゲット28がチャンバ24内に置かれ、チャンバ内に例えばアルゴンなどの中性ガスからなる希薄大気が生成され、希薄大気内に電場が生成され、荷電粒子(電子、イオンなど)を含有するプラズマの生成につながり、これらの粒子は電場の作用下でターゲット28上に析出し、ターゲット28から原子を脱離させ(すなわち、ターゲット28はスパッタリングを受け、このためスパッタリングなる用語が用いられる)、ターゲット28から脱離した原子はその後、基板14上に被着させられる。
【0106】
物理蒸着設備26は、チャンバ24、チャンバ24の内部に配設されるターゲット28、チャンバ24内に希薄大気を生成するようにチャンバ24に流体的に連通された入口を有するポンプ30、ターゲット28に接続された発電機32、任意に、基板14に接続された発電機34、および例えば中性ガス(例えばアルゴン)、酸素および/または窒素を供給するための、チャンバ24に流体的に連通されたガス供給装置36を含む。
【0107】
好ましくは、物理蒸着は、マグネトロンスパッタリングによって実施される。このような場合、好ましくは少なくともターゲット28の近くで磁場が生成される。
【0108】
磁場の提供により、ターゲット28に到達する荷電粒子の軌道をより良く制御することが可能となり、こうして、主層18のより良く制御された被着速度、より具体的には、より速い被着速度につながる。
【0109】
磁場は、例えば、
図3で例示されている通りの単数または複数の永久磁石38によって、および/または単数または複数の電磁石によって生成される。
【0110】
製造方法は、同じく物理蒸着による、少なくとも1つの付加層20の被着を含む。
【0111】
各付加層20の被着は、例えば、主層18の物理蒸着と同じ物理蒸着設備26内で実施される。
【0112】
各付加層20の被着は、例えば、主層18の物理蒸着を実施するのに使用されるのと同じ物理蒸着技術を用いて実施される。
【0113】
各付加層20の被着は、スパッタリングによる物理蒸着によって、より具体的にはマグネトロンスパッタリングによって実施される。
【0114】
各付加層20の被着は、主層18の被着と同じ技術を使用して実施されるが、必要に応じて、酸化クロム、窒化クロム、酸窒化クロム、またはそれらの組み合わせの付加層を形成するために、中性ガスに加えて、酸素および/または窒素を含む制御された雰囲気中で実施される点で異なる。
【0115】
酸素ガスおよび窒素ガスは、例えば、ガス供給装置36によってチャンバ24の中に供給される。
【0116】
一実施形態において、酸素のみが、中性ガスに加えて制御された雰囲気中に供給される。制御された雰囲気は、中性ガスおよび酸素を含有する二元の混合ガスである。これにより、酸化クロムの付加層20を得ることが可能である。
【0117】
一実施形態において、窒素のみが、制御された雰囲気中に供給される。制御された雰囲気は、中性ガスおよび窒素を含有する二元の混合ガスである。これにより、窒化クロムの付加層20を得ることが可能である。
【0118】
一実施形態例において、酸素ガスおよび窒素ガスが、中性ガスに加えて制御された雰囲気中に供給される。制御された雰囲気は、中性ガス、酸素および窒素を含有する三元の混合ガスである。これにより、酸化クロム、窒化クロムおよび/または酸窒化クロムを含有する付加層を得ることが可能である。
【0119】
一実施形態において、中性ガスのみが、制御された雰囲気中に供給される。これにより、純クロムの付加層20を得ることが可能である。
【0120】
保護コーティング16の層は、基板14に最も近い層から最も遠い層へと順次被着される。
【0121】
主層18の下に位置する各付加層20は、主層18の前に被着され、かつ/または主層18の上に位置する各付加層20は、主層18の後に被着される。
【0122】
主層18および各付加層20の被着の後で、被覆4は、外側表面14Bが保護コーティング16によって覆われた基板14を有する。
【0123】
適切な場合、製造方法は、各遷移層22の形成を含む。
【0124】
各遷移層22は、例えば、チャンバ24内の雰囲気中にガス状の酸素を導入しながら、物理蒸着によってクロム層を被着させることによって作製される。
【0125】
主層18の上への遷移層22の形成は、例えば、主層18の被着後に、チャンバ24の雰囲気中にガス状の酸素を導入しながらクロムの物理蒸着を継続することによって実施される。
【0126】
好ましくは徐々に増加する酸素原子の割合を有する遷移層22を生成するために、チャンバ24の雰囲気中の酸素の割合は、例えば、経時的に、好ましくは徐々に増加または減少する。
【0127】
一変形形態において、チャンバ24の雰囲気の中にガス状酸素を導入する代わりに、制御された雰囲気中に酸素を放出することによって分解または蒸発する酸化生成物を導入することが可能である。
【0128】
一変形形態において、遷移層22は、遷移層22に所望される厚みに対応する厚みまで物理蒸着によってクロムを被着した後、クロム層中に酸素のイオン注入を行うことによって得られる。
【0129】
各物理蒸着(主層18の被着、各付加層20の被着、および、適切な場合、各遷移層22の被着)は、直流の密度で(すなわち、ターゲット28に対し直流の電流を印加することによって)、またはパルス電流の密度で(すなわち、パルスを含むパルス電流を印加することによって)実施可能である。
【0130】
マグネトロンスパッタリングによる各物理蒸着は、以下の技術のうちの1つ、または以下の技術のうちの少なくとも2つの組合せにしたがって実施可能である:直流(DC)マグネトロンスパッタリング、直流パルス(またはDCパルス)マグネトロンスパッタリング、大電力パルスマグネトロンスパッタリング(HiPIMSまたはHPMS)、2極マグネトロンスパッタリング(MSB)、デュアルマグネトロンスパッタリング(DMS)、アンバランスドマグネトロン(UBM)スパッタリング。
【0131】
マグネトロンスパッタリングを用いた物理蒸着による保護コーティング16の被着が好ましいものの、本発明はこのような被着技術に限定されない。
【0132】
一変形形態として、保護コーティング16の各層は、別の技術、例えば蒸発による物理蒸着、より具体的にはアークによる物理蒸着、またはコールドスプレーによる物理蒸着によって被着され得る。
【0133】
基板14上にクロムの主層18を付加することは、被覆されていない純ジルコニウムまたはジルコニウム合金でできた被覆4と比べて、被覆4の耐摩耗性を向上させるのに役立つ。
【0134】
純クロム、または、酸化クロム、窒化クロム、酸窒化クロムもしくはこのような化合物の組合せで構成される材料でできた付加層20、または酸素および/または窒素でドープされたクロムでできた付加層をさらに付加することにより、被覆4の性能を、より具体的には、耐摩耗性、耐スクラッチ性、および/または核分裂生成物に対する透過性の観点から、さらに改善することができる。
【0135】
物理蒸着によって被着される各付加層20は、制御された方法で被着され、選択された厚み、より具体的には、所望の性能を得るのに十分な厚みを伴うことができる。
【0136】
主層18の上に付加層20を加えることにより、主層18に比べて硬度が増すため、耐摩耗性および耐スクラッチ性を向上させることができる。耐摩耗性は、フレッチングに対する被覆4の傷つきやすさを抑える。耐スクラッチ性は、核燃料棒2を核燃料集合体のグリッドスペーサーを通して挿入する際に、被覆4の外側表面に傷が付くリスクを抑える。
【0137】
主層18の上または主層18の下に位置する各付加層20は、より具体的にはそれがCr2O3を含む場合、被覆の内側から来るトリチウムのような核分裂生成物または外側表面から来る水素のような腐食生成物の、被覆4を通しての透過を制限する役割を果たす。
【0138】
水素はジルコニウム合金でできた基板14の脆弱性を増す可能性があり、トリチウムは原子炉の炉心内を循環する冷却液を汚染する可能性がある。
【0139】
主層18の上に位置し、酸化クロム、特にCr2O3を含有する付加層20はまた、原子炉の炉心に挿入される前であっても黒色を呈することがあり、原子炉の過渡段階中、より具体的には原子炉の起動時の熱伝達に有利となり得る。
【0140】
主層18の下、基板14と主層20との間に位置する付加層20は、高温、典型的には1330℃を超える温度でのCr-Zr共晶の形成を低減することができる。LOCA発生時の被覆の耐性が向上する。
【0141】
ジルコニウム合金被覆上の酸化物の自然形成が、被覆表面で水の存在に曝されてから数日で起こることに留意すべきである。例えば、核燃料棒のジルコニウム合金被覆上の酸化物の自然形成は、原子炉の炉心の中に核燃料集合体を挿入してから約5日後に起こる。こうして被覆上に形成される酸化ジルコニウムの厚みは急速に100nm程度に達し、ジルコニウム合金基板を迅速に保護する。
【0142】
対照的に、コーティング上の水の存在下でのクロム保護コーティング上の酸化クロムの自然形成は遅く、例えばジルコニウム合金の10倍から20倍遅く、被覆が原子炉の炉心内で使用されるとすぐにコーティングを保護するには不十分である。原子炉内で500日経過した後にのみ、100nmの酸化クロムの厚みに達する。
【0143】
少なくとも1つの付加層を含む保護コーティングは、被覆の製造の間に被着される。
【0144】
被覆の製造中に少なくとも1つの付加層を含む保護コーティングを被着することにより、原子炉炉心での被覆の使用開始時から保護が提供される。
【0145】
したがって、クロム保護コーティングのクロム層の被着が、クロム層のコーティングの被着中の酸化現象を防止するため、一般に不活性媒体(アルゴンなどの希ガスを含む)中で実施されることに留意すべきである。
【符号の説明】
【0146】
14 基板
14A 内側表面
14B 外側表面
16 保護コーティング
18 主層
20 付加層
22 遷移層
【手続補正書】
【提出日】2024-09-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核燃料被覆において、被覆が、純ジルコニウムまたはジルコニウム合金でできた基板(14)、および基板(14)の表面(14B)を覆う多層保護コーティング(16)を用いて製造され、保護コーティング(16)が、純クロムでできた主層(18)と単数または複数の付加層(20)とを有し、各付加層(20)が、純クロム、または、クロムさらに酸素および/または窒素で構成される材料と、場合によっては存在する不可避不純物とでできている、核燃料被覆。
【請求項2】
少なくとも1つの付加層(20)が、純クロム、酸化クロム、窒化クロムもしくは酸窒化クロムまたはこのような材料の組合せでできている、請求項1に記載の被覆。
【請求項3】
少なくとも1つの付加層(20)が、酸素原子および/または窒素原子でドープされた金属クロム、または酸素原子および/または窒素原子が埋め込まれた金属クロムでできている、請求項1または2に記載の被覆。
【請求項4】
主層(18)と、酸素および/または窒素を含有する付加層(20)との間に介在する遷移層(22)を含み、遷移層(22)が、酸素原子および/または窒素原子でドープされた金属クロム、または酸素原子および/または窒素原子が埋め込まれた金属クロムでできている、請求項
1に記載の被覆。
【請求項5】
遷移層(22)が、主層(18)から付加層(20)に向かって徐々に増加する酸素原子の濃度を有し、かつ/または、主層(18)から付加層(20)に向かって徐々に増加する窒素原子の濃度を有する、請求項4に記載の被覆。
【請求項6】
隣接した付加層(20)との境界面における遷移層(22)の酸素原子の濃度が、隣接した付加層(20)の酸素原子の濃度と実質的に等しく、かつ/または、隣接した付加層(20)との境界面における遷移層(22)の窒素原子の濃度が、隣接した付加層(20)の窒素原子の濃度と実質的に等しい、請求項4または5に記載の被覆。
【請求項7】
主層(18)の厚みが、3μm~30μmである、請求項
1に記載の被覆。
【請求項8】
各付加層(20)の厚みが、10nm~5μmである、請求項
1に記載の被覆。
【請求項9】
付加層(20)が、主層(18)の上に位置する、請求項
1に記載の被覆。
【請求項10】
付加層(20)が、主層(18)の下に位置する、請求項
1に記載の被覆。
【請求項11】
核燃料被覆の製造方法において、製造方法が、
- 純ジルコニウムまたはジルコニウム合金でできた基板(14)の提供、および
- 基板(14)の表面(14B)上への多層保護コーティング(16)の被着であって、保護コーティング(16)の被着は、物理蒸着による純クロムでできた主層(18)の被着および単数または複数の付加層(20)の被着を含み、各付加層(20)は、純クロム、または、クロムさらに酸素および/または窒素で構成される材料と、場合によっては存在する不可避不純物とでできている被着、
を含む、核燃料被覆の製造方法。
【請求項12】
付加層(20)が、純クロム、酸化クロム、窒化クロムもしくは酸窒化クロムまたはこのような材料の組合せでできている、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
付加層が、酸素原子および/または窒素原子でドープされた金属クロム、または酸素原子および/または窒素原子が埋め込まれた金属クロムでできている、請求項11または12に記載の製造方法。
【請求項14】
付加層(20)が、物理蒸着によって被着される、請求項1
1に記載の製造方法。
【請求項15】
付加層(20)が、中性ガスとさらに酸素および/または窒素とを含有する二元または三元の混合ガスで構成される雰囲気中で実施される物理蒸着によって被着される、請求項1
1に記載の製造方法。
【請求項16】
主層(18)と付加層(20)との間に介在する遷移層(22)の形成を含み、遷移層(22)が、酸素原子でドープされたクロムでできている、請求項1
1に記載の製造方法。
【請求項17】
遷移層(22)が、主層(18)から隣接した付加層(20)に向かって徐々に増加する酸素原子の濃度を有する、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
主層(18)の厚みが、3μm~30μmである、請求項1
1に記載の製造方法。
【請求項19】
各付加層(20)の厚みが、10nm~5μmである、請求項1
1に記載の製造方法。
【請求項20】
少なくとも1つの付加層(20)が、主層(18)の後に被着される、請求項1
1に記載の製造方法。
【請求項21】
少なくとも1つの付加層(20)が、主層(18)の前に被着される、請求項1
1に記載の製造方法。
【請求項22】
請求項1
1に記載の方法によって得ることができる核燃料被覆。
【国際調査報告】