(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】衝撃推進システム
(51)【国際特許分類】
B64G 5/00 20060101AFI20250109BHJP
F03H 99/00 20090101ALI20250109BHJP
【FI】
B64G5/00
F03H99/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538968
(86)(22)【出願日】2022-12-27
(85)【翻訳文提出日】2024-08-26
(86)【国際出願番号】 FR2022052510
(87)【国際公開番号】W WO2023126613
(87)【国際公開日】2023-07-06
(32)【優先日】2021-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524240641
【氏名又は名称】ワルパ(ワールド・アドバンス・リサーチ・プロジェクト・エージェンシー)
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ジェネスト,ジャン-フランソワ
(57)【要約】
本発明は、1対の平行な長手方向の管(100)を備えるモータを備える推進システムであって、各長手方向の管は、第1の端部(10)および第2の端部(11)を備え、流体を充填した内部体積(12)を画定する、推進システムに関する。各長手方向の管(100)は、
-内部体積の中で長手方向に動くように構成され、推進器(201)にしっかりと固定された発射体(200)と、
-内部体積(12)の中で第1の端部から発射体を発射するための機構であって、推進器(201)が、発射体(200)の並進運動を回転運動に変換するように配列された機構と、
-内部体積(12)の中での発射体(200)の回転を遅くするための、第2の端部に配列された機器と、
-発射体(200)を第1の端部に向けて戻すための機器と、
-熱放散機器と
を備え、長手方向の管の推進器は、互いに逆方向に回転する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の平行な長手方向の管(100)を備えるモータを備える推進システムであって、各前記長手方向の管(100)は、第1の端部(10)および第2の端部(11)を備え、流体を充填した内部体積(12)を画定し、
-前記内部体積(12)の中で長手方向に動くように構成された発射体(200)であって、推進器(201)に、前記発射体と前記推進器の間に自由度がまったくなくしっかりと固定された発射体(200)と、
-前記内部体積(12)の中で前記長手方向の管(100)の前記第1の端部(10)から前記発射体を発射するための機構であって、前記推進器(201)が、前記発射体(200)の並進運動を回転運動に変換するように配列された機構と、
-前記長手方向の管(100)の前記第2の端部(11)に位置決めされた、前記内部体積(12)の中での前記発射体(200)の前記回転運動を制動するための機器と、
-前記発射体(200)を前記長手方向の管の前記第2の端部(11)から前記第1の端部(10)に向けて戻すための機器と、
-熱放散機器と
を備え、
前記発射体(200)を発射するための前記機構および前記発射体(200)を戻すための前記機器は、少なくとも1つの電源により電力を供給され、
2つの前記長手方向の管(100)の中に位置する前記発射体の前記推進器(201)は、互いに逆方向に回転する推進システム。
【請求項2】
各前記長手方向の管(100)は、前記内部体積(12)の中で前記発射体を保持するための機器(300)を備える、請求項1に記載の推進システム。
【請求項3】
前記発射体を保持するための前記機器(300)は、前記発射体(200)と前記長手方向の管(100)の間で伸展する少なくとも1つの接続アーム(301)を備える、請求項2に記載の推進システム。
【請求項4】
保持するための前記機器(300)および前記発射体(200)は、枢動接続により接続される、請求項2または3に記載の推進システム。
【請求項5】
各前記長手方向の管(100)は、前記内部体積(12)の中で前記発射体を並進状態で誘導するための機器(400)を備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の推進システム。
【請求項6】
前記発射体(200)を並進状態で誘導するための前記機器(400)は、前記発射体を保持するための前記機器(300)と協働する、請求項5、および請求項2~4のいずれか一項に記載の推進システム。
【請求項7】
同じ電源は、前記発射体(200)を発射するための前記機構、および少なくとも1つの前記長手方向の管(100)の前記発射体(200)を戻すための前記機器に電力を供給するように構成される、請求項1~6のいずれか一項に記載の推進システム。
【請求項8】
2つの前記長手方向の管(100)の各々を平行な対応する枢動軸を中心に独立に枢動させるように構成された傾動機器を備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の推進システム。
【請求項9】
複数対の平行な前記長手方向の管(100)を備え、前記対は、互いに平行に配列される、請求項1~8のいずれか一項に記載の推進システム。
【請求項10】
宇宙船であって、請求項1~9のいずれか一項に記載の推進システムを備える宇宙船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進システムに関し、より具体的には衝撃推進システムに関する。
【0002】
詳細には、本発明は、衛星などの宇宙船を装備する宇宙分野での用途を意図する。
【背景技術】
【0003】
今日まで宇宙推進は、作用反作用の原理に基づいている。概略的には、作用反作用の原理は、推進の観点から孤立系での運動量保存により反映される。典型的には、宇宙船からガスを所与の運動量で排出する場合、ガスの絶対値と同じ絶対値およびガスの方向と反対方向を有する運動量は、当該宇宙船に伝達される。そのような場合、運動量を宇宙船から外に放出しなければならないので、物質を消費して前進する必要がある。推進システムの効率は、単位が秒の比推力と呼ばれる量により測定される。しかしながらこの量は、すべてを表しているわけではない。実際は、現在、モータの比推力が320秒継続する化学推進を用いて6トンの通信衛星を静止トランスファ軌道(いわゆる「GTO(geostationary transfer orbit)」軌道とも呼ばれる)から静止軌道(いわゆる「GEO(geostationary orbit)」軌道とも呼ばれる)に配置するために8日間を必要とし、3トンの燃料が当該衛星に搭載される。モータの比推力が1,500秒の電気推進を用いると、8カ月間を必要とするが、400kgの燃料(一般に、キセノン)しか搭載されず、衛星の質量は4トン未満になる。
【0004】
換言すれば、現在の電気推進システムは、高い比推力を有するが推力は低く、その結果、任務にかかる時間は非常に長くなり、所与の任務のための燃料の質量が化学推進システムを用いるよりもはるかに小さいので、発射費用はより小さくなる。
【0005】
その上、衛星が、なんであれ所定の位置に配置されると、衛星の軌道は平面を描く。平面変更は、燃料を過剰に消費するので、現在は考慮できない。
【0006】
他方では、極軌道にあり、したがって移動する衛星の耐用年数は、一般に5年であり、この耐用年数は、搭載された燃料を消費するのに必要な時間に相当する。
【0007】
最後に、宇宙ごみの数がより多くなっているので、回避操作の回数は増大し、その結果、低軌道にある衛星の耐用年数は、低減する可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述の欠点を克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、本発明は、1対の平行な長手方向の管を備えるモータを備える推進システムを提供し、各長手方向の管は、第1の端部および第2の端部を備え、流体を充填した内部体積を画定する。各長手方向の管は、
-内部体積の中で長手方向に動くように構成され、推進器にしっかりと固定された発射体と、
-内部体積の中で発射体を前記長手方向の管の第1の端部から発射するための機構であって、推進器が、発射体の並進運動を回転運動に変換するように配列された機構と、
-長手方向の管の第2の端部に位置決めされた、内部体積の中で発射体の回転を制動するための機器と、
-発射体を長手方向の管の第2の端部から第1の端部に向けて戻すための機器と、
-熱放散機器と
を備える。
【0010】
発射体を発射するための前記機構および発射体を戻すための前記機器は、少なくとも1つの電源により電力を供給される。
【0011】
各長手方向の管は、自身の内部体積の中に発射体および発射体にしっかりと固定された推進器を備える。
【0012】
「しっかりと固定された」ことにより、発射体と推進器の間に自由度がまったくないことを理解されたい。
【0013】
2つの長手方向の管の中に位置する発射体の前記推進器は、互いに逆方向に回転する。このように、推進器が回転するとき、2つの同一であるが反対方向の運動モーメントが生まれ、事実上相殺される。
【0014】
そのような推進システムは、衝撃推力推進システムである。発射するための機構により発射体の長手方向の管の中で発射体が発射されるたびに、長手方向の管の第2の端部に向かう運動量を発射体に与える。上述の作用反作用の原理に従って、衝撃の間、長手方向の管に、したがって推進システムに反対方向の運動量を与える。
【0015】
有利には、本発明による推進システムは、流体の粘度のおかげで発射体の並進運動を回転運動に一部変換できるようにする。回転運動の一部分は、流体の粘度に起因して熱に変換され、別の部分は、制動機器の性質に応じて熱または電気エネルギーに変換される。このように、回転に変換された部分は、システムの長手方向の全運動量の釣合いに干渉しない。
【0016】
所与の時点で、発射体は、第2の端部に向けて非ゼロの並進速度を有する。したがって、発射体は、流体分子に遭遇し、推進器は、並進エネルギーの一部分を発射体の回転エネルギーに変換する。移動が終わると、長手方向の管の第2の端部で、発射体は、もはや並進速度を有しない可能性があるが、回転速度を有する。運動量保存の原理を適用すれば、運動モーメントもまた保存されなければならない。それにもかかわらず、推進器および発射体を始動させるのは、長手方向の管自身ではなく長手方向の管の内部体積の中に含まれる流体である。したがって、並進運動量を保存するが、すなわち非可動であるが、非ゼロの角運動量を伴うシステムが得られる。したがって、孤立系での運動量保存の原理は、システムが孤立していないのでこの場合、適用されない。
【0017】
それに加えて、各長手方向の管では、内部体積の中で発射体が移動する間に生まれた熱は、熱放散機器を用いて排出される。したがって、熱放散機器を使用することにより、推進システムは孤立系のように機能しないことが証明される。
【0018】
長手方向の管(体積、長さ)、発射体の質量、および発射体に加わる衝撃は、各長手方向の管の中で発射体の並進運動が長手方向の管の第2の端部で停止するように所定の大きさに作られる。
【0019】
有利には、発射体を戻すための機器は、発射体を再度発射するために長手方向の管の第2の端部から第1の端部に向けて戻すことができるようにする。
【0020】
有利には本発明による推進システムは、完全に受動的で散逸性の反応質量を用いる推進システムであり、各発射体およびその推進器は、反応質量の役割を果たし、これらが配列された長手方向の管の内部体積の中で自由に受動的に動くように構成される。推進器は、前記推進器を含む長手方向の管の内部体積の中に含まれた流体との受動的で散逸性の相互作用を介して、発射体の並進運動を回転運動に変換するように配列される。
【0021】
特定の実施形態では、本発明は以下の特性を満たし、以下の特性は、別個に、または技術的に動作可能な、以下の特性の組合せの各々で実装される。
【0022】
本発明の特定の実施形態では、発射体と長手方向の管の間の接触を回避するために、各長手方向の管は、内部体積の中で発射体を保持するための機器を備える。
【0023】
本発明の特定の実施形態では、発射体を保持するための機器は、発射体と長手方向の管の間に伸展する少なくとも1つの接続アームを備える。
【0024】
本発明の特定の実施形態では、長手方向の管の中で発射体が移動する間に発射体の回転を邪魔しないために、保持するための機器および発射体は、枢動接続により接続される。
【0025】
本発明の特定の実施形態では、発射体を誘導するために、各長手方向の管は、内部体積の中で発射体を並進状態で誘導するための機器を備える。
【0026】
本発明の特定の実施形態では、発射体を並進状態で誘導するための機器は、発射体を保持するための機器と協働する。
【0027】
本発明の特定の実施形態では、同じ電源は、発射体を発射するための前記機構、および少なくとも1つの長手方向の管の発射体を戻すための前記機器に電力を供給するように構成される。
【0028】
本発明の特定の実施形態では、推進システムは、2つの長手方向の管の各々を平行な対応する枢動軸を中心に好ましくは約90°反対方向に独立に枢動させるように構成された傾動機器を備える。この傾動機器は、発射体が長手方向の管の第2の端部に到達するとそれだけで活動化されて、発射体を戻すための機器により長手方向の管の第1の端部に向けて発射体が戻るのを加速させる。
【0029】
特定の構成では、推進システムの推力を同じ方向で増大させるために、前記推進システムは、複数対の平行な長手方向の管を備え、対は、互いに平行に配列される。
【0030】
本発明はまた、本発明の実施形態の少なくとも1つによる推進システムを備える輸送手段、詳細には宇宙船に関する。そのような推進システムを装備した宇宙船は、従来の化学推進システムまたは電気推進システムを装備した宇宙船と比較して、所与の軌道に関して宇宙船の移動時間が低減され、燃料消費がまったくない。
【0031】
本発明は、図を参照して行う、単に限定しない例として示す以下の記述を読むとよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明のある実施形態による、1対の長手方向の管を備えるモータを備える推進システムを例示する。
【
図2】長手方向の管の中にある発射体の変形実施形態を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0033】
これらの図では、明確にするために、図面は、特に指定のない限り同一単位で測れるように描かれていない。
【0034】
本発明は、推進システムに関する。
【0035】
一般に、この推進システムは、限定されないが、任意の輸送手段、詳細には航空、宇宙、鉄道、自動車、または海事の分野の輸送手段に装備できる。
【0036】
本発明について、推進システムを衛星などの宇宙船の中に据え付けることを意図する好ましい適応分野の1つという特定の背景で記述する。しかしながら、推進システムを任意の他のタイプの輸送手段の中に配置する可能性を排除するものは何もない。
【0037】
図1は、本発明の好ましい実施形態による推進システムを概略的に例示する。
【0038】
推進システムは、モータ500を備える。当該モータは、少なくとも1対の長手方向の管100を備える。
【0039】
本明細書の残りの部分では、
図1に例示するようにモータが1対の長手方向の管を備える好ましい事例で推進システムについて記述する。
【0040】
有利には、2つの長手方向の管100を互いに平行に配列する。
【0041】
好ましくは、2つの長手方向の管100は類似し、互いに独立している。
【0042】
各長手方向の管100は、2つの長手方向の端部を、いわゆる第1の端部10および第2の端部11を備える。各長手方向の管100は、その長手方向の両端部で密閉するように閉じられ、密封され、閉鎖される。
【0043】
有利には、2つの長手方向の管100は、同じ方向に位置決めされ、それらの第1の端部11は、同じ側に配列される。
【0044】
図1の例では、長手方向の管100の第1の端部11は、
図1では左側に位置する。
【0045】
好ましくは、各長手方向の管100は、
図1に例示するように円形横断面を有するが、さらにまた任意の他の横断面形状を、たとえば正方形、長方形、楕円形などを、本発明をこのように限定することなく有してよい。
【0046】
好ましくは、各長手方向の管100は、炭素材料から作られる。
【0047】
各長手方向の管100は、流体が展開する中空の内部体積12の範囲を定める。
【0048】
好ましくは、流体は粘性流体である。
【0049】
好ましい実施形態では、流体は、空気などのガスである。
【0050】
他の実施形態では、流体は、ニュートン流体であっても非ニュートン流体であってもよい。流体は、機械的応力の影響を受けて自身の挙動を修正しないとき、いわゆるニュートン型であることを想起されたい。
【0051】
他の実施形態では、流体は、磁界または電界の作用を受けて粘性が変化する流体であってよい。これらの流体は、それぞれいわゆるMR(magnetorheological)流体またはER(electrorheological)流体である。
【0052】
各長手方向の管100は、自身の内部体積12の中に発射体200を備える。当該発射体は、長手方向の管100の中で長手方向に動くように意図され構成される。
【0053】
好ましくは、各長手方向の管100の発射体200は同一である。
【0054】
第1の変形形態では、
図1に例示するように、各発射体200は、たとえば閉じた、中空の、または固体の円筒の形をとる。たとえば、各発射体200は、円形、正方形、長方形、楕円形などの横断面を、本発明をこのように限定することなく有してよい。発射体は、長手方向の管の長さよりもはるかに短い長さを有する。
【0055】
一実施形態では、
図1に例示するように、長手方向の管100およびその発射体200は、同じ横断面を有する。
【0056】
発射体の第2の変形形態では、
図2に例示するように、長手方向の管100が円形横断面を有するとき、各発射体200は、壁が長手方向の管100の内面13に近接して位置し、かつ端部が開口した環状で中空の円筒の形をとってよい。このように、発射体100の質量は、長手方向の管100の周縁部の付近に分布する。
【0057】
有利には、各発射体200は、推進器201にしっかりと固定される。
【0058】
しっかりと固定されることにより、発射体200と推進器201の間に自由度がまったくないことを理解されたい。換言すれば、推進器201が回転すると、それにより発射体が回転する。推進器201が自身で回転すると、推進器201が発射体をそれ自身で回転させる。
【0059】
発射体200およびその推進器201は、両方とも長手方向の管の内部体積12の中に配列されることを理解されたい。したがって、長手方向の管と同数の推進器および発射体が存在する。
【0060】
各発射体200およびその推進器201は、推進器の回転軸202、結果的に発射体の回転軸が当該長手方向の管100の旋回軸14に平行に、またはその旋回軸14と一致するように、長手方向の管100の中に配列される。好ましくは、推進器201の回転軸202は、
図1に例示するように、当該長手方向の管100の旋回軸14と一致する。
【0061】
一実施形態では、第1の変形形態による発射体では、
図1に例示するように、発射体200の推進器201は、発射体200の対応する各長手方向の管100の中で、同じ側かつ発射体の一方の端部に位置する。
【0062】
好ましくは、
図1に例示するように、各長手方向の管100の中で、発射体200は、当該長手方向の管100の第1の端部10に面しており、推進器201は、当該長手方向の管100の第2の端部11に面している。
【0063】
別の実施形態では、第2の変形形態による発射体では、
図2に例示するように、発射体の推進器201は、発射体の対応する長手方向の管100の中で、発射体を形成する円筒の内側に位置する。したがって、発射体100は、流れをあまり乱さない。
【0064】
有利には、1対の長手方向の管の長手方向の管100の中に位置する発射体200の推進器201は、互いに逆方向に回転し、すなわち、反対方向に回転する。このように、推進器201が回転するとき、2つの同一であるが反対方向の運動モーメントが同時に生み出され、運動モーメントの合計は、ほぼゼロである。このように、偶数の長手方向の管100および記述するような推進器の構成を伴う推進システムを装備する宇宙船は、推進中に不均衡にならない。
【0065】
推進器201の効率、すなわち発射体200の並進運動を回転運動に変換する推進器201の能力は、詳細には長手方向の管の中に含まれる流体に、および当該長手方向の管の内部体積内の圧力に依存する。
【0066】
本発明の限定しない実施形態では、推進器201は、航空機の推進器タイプ、航空機のターボジェットエンジンの低圧圧縮機推進器タイプ、遠心圧縮機推進器タイプなどの推進器であってよい。
【0067】
改善された実施形態では、推進器は、可変ピッチ推進器である。好ましくは、電子装置または機械的装置は、詳細には推進器の羽根のピッチ角を修正することによりピッチを調節するように構成される。
【0068】
好ましくは、各長手方向の管100は、発射体を当該長手方向の管の内部体積12の中に保持するための機器300を備える。有利には、そのような保持するための機器300は、長手方向の管100の内面13から距離を置いて発射体200の位置決めを維持できるようにし、その結果、発射体200および/またはその推進器201は、モータの回転中に当該内面に接触する。
【0069】
好ましくは、発射体を保持するための機器300は、1対の長手方向の管100の両方の管で同一である。
【0070】
保持するための機器300の実施形態では、当該保持するための機器は、少なくとも1つの接続アーム301を、好ましくは複数の接続アーム301を備える。各接続アーム301は、剛性があり、発射体200と長手方向の管100の間で伸展する。各接続アーム301は、発射体200の側に位置する第1の端部302、および長手方向の管100の側に位置する第2の端部303を備える。
【0071】
好ましくは、保持するための機器300が複数の接続アーム301を備える場合、これら複数の接続アーム301は、同じ平面内に配列される。
【0072】
図1に描く限定しない実施形態では、保持するための機器300は、互いに対して120°に配列された3つの接続アーム301を備える。そのような接続アームの数および配列は、長手方向の管がたとえば円形横断面を有するときに、特に適している。
【0073】
図に示さない別の実施形態では、保持するための機器は、互いに対して90°に配列された4つの接続アームを備える。そのような接続アームの数および配列は、長手方向の管がたとえば正方形または長方形の横断面を有するときに、特に適している。
【0074】
好ましくは、保持するための機器300は、発射体200の回転軸を中心とする発射体200の回転を妨害しないように発射体200に接続される。換言すれば、保持するための機器および発射体は、単一自由度の接続により接続される。この単一自由度は、回転自由度であり、発射体の回転軸を中心とする発射体の回転を可能にする。接続は枢動接続である。
【0075】
一実施形態では、保持するための機器は、少なくとも1つの軸受(図示せず)を介して発射体に接続される。
【0076】
一実施形態では、保持するための機器300が同じ平面内に配列された複数の接続アーム301を備える場合、接続アームの第1の端部302は、単一の軸受を介して発射体200に接続される。
【0077】
好ましくは、各長手方向の管100は、発射体を並進状態で誘導するための機器400を備える。有利には、そのような並進状態で誘導するための機器400は、長手方向の管100の中で長手方向の2つの端部10と11の間で発射体200が長手方向に動くのを保障できるようにする。有利には、当該並進状態で誘導するための機器400は、発射体を保持するための機器300と協働する。
【0078】
好ましくは、並進状態で誘導するための機器400は、1対の長手方向の管100の両方の管で同一である。
【0079】
並進状態で誘導するための機器400の実施形態では、図に例示するように、並進状態で誘導するための機器400は、長手方向の管100の中で、内面13の範囲に形成された少なくとも1つの長手方向の溝401を備える。
【0080】
好ましくは、長手方向の管100は、接続アーム301と同数の長手方向の溝401を備える。各アーム301の第2の端部303は、対応する長手方向の溝401の中で滑る、なめらかに滑る、または転がるように構成される。
【0081】
各長手方向の管100は、発射体(図示せず)を発射するための機構を備える。発射体を発射するための当該機構は、発射体を始動させて発射体を長手方向の管100の中で発射するように、発射体200に推力を加えるように構成される。
【0082】
好ましくは、発射体を発射するための機構は、長手方向の管100の第1の端部10に配列される。したがって、発射体200は、長手方向の管100の中で第1の端部10から第2の端部20に向けて動く。
【0083】
好ましくは、発射体を発射するための機構は、1対の長手方向の管100の両方の管で同一である。
【0084】
一実施形態では、発射体を発射するための機構は、電磁石を備えてよい。
【0085】
別の実施形態では、発射体を発射するための機構は、カタパルトまたは圧縮ばねのタイプの機械システムを備えてよい。
【0086】
発射体を発射するための機構が圧縮ばねである実施形態では、発射体は、あらかじめ圧縮されていた当該圧縮ばねが伸展することにより長手方向の管の中で発射される。
【0087】
好ましくは、少なくとも1つの電源(図示せず)は、各長手方向の管100の中で発射体を発射するための機構を活動化するように構成される。有利には、当該少なくとも1つの電源は、宇宙船に据え付けられたソーラーパネル、または当該宇宙船に搭載されたバッテリーに接続される。
【0088】
このように、各長手方向の管100で、発射体を発射するための機構は、有利には開始衝撃を所定の速度で発射体100に加えるように構成される。長手方向の管100の第2の端部11に向けた運動量または運動エネルギーはこの場合、当該発射体に加えられる。この衝撃が加えられたとき、等しい運動量が反対方向で長手方向の管100に加えられる。発射体200が長手方向の管100の中で前進する間、推進器201の羽根は、発射体200を制動する抵抗、および推進器201を駆動する揚力を受け、したがって、発射体200は回転状態になる。推進器201のおかげで、長手方向の管100の中での発射体200の並進運動は、このように回転運動に漸次変換される。発射体200のこの回転運動は、熱を生み出しながら、長手方向の管100の中で発射体200の並進運動を漸次制動する。
【0089】
推進器201の各羽根は、形状抵抗および摩擦抵抗を有する。流体の粘性に関係する摩擦抵抗は、周知の流体力学の法則に従う動きを可能にする。特定の実施形態では、推進器の羽根は、摩擦抵抗を最大にするように設計される。外側に解放される熱を発生させ、システムを非孤立にし、それにより全運動量を非保存にするのはこの摩擦である。
【0090】
推進器が可変ピッチ推進器である実施形態では、対応する電子装置または機械的装置は、長手方向の管の中で発射体が動く間にピッチを調節するように構成され、摩擦を最大にできるようにする。
【0091】
換言すれば、各長手方向の管100で、発射体200の初期並進運動エネルギーは部分的に、一方では回転運動エネルギーに、他方では熱に変換される。長手方向の管の中で発射体が動く過程が終わると、宇宙船に伝達された運動量に相当するものとして事実上得られるのは、「自然に」生み出されるこの回転運動エネルギーの部分である。
【0092】
長手方向の管100は、発射体200の並進運動が、長手方向の管100の第2の端部11に近接して、当該第2の端部の最も近くで、発射体200または発射体200の推進器201が当該第2の端部11に接触することなく停止するように、長さが所定の大きさに作られる。
【0093】
詳細には、長手方向の管100の長さは、発射体の質量に、発射体を発射するための機構が発射体200に加える衝撃に、発射体が動いている流体環境の中での推進器の効率に、および流体の粘度に依存し、この粘度は、温度などのパラメータに、さらにまた流体の本質に依存する電磁界、電界、または磁界のような外部で調整されるパラメータに依存することがある。この長さの算出は、当業者の理解の及ぶ範囲にある。
【0094】
一実施形態では、各長手方向の管は、4mの範囲内の長さ、50cmの範囲内の直径を有し、発射体の質量は、1キログラムの範囲内である。発射体の発射速度は、400km/時~500km/時の範囲内である。
【0095】
すでに記述したように、長手方向の管100ごとに、発射体200に加えられた衝撃に従って、流体の摩擦が原因で、発射体が動く間に当該長手方向の管の中に熱が生まれる。
【0096】
有利には、各長手方向の管100は、熱放散機器(図示せず)を備える。
【0097】
好ましくは、熱放散機器は、1対の長手方向の管100の両方の管で同一である。
【0098】
一実施形態では、熱放散機器は、フィン型放熱器である。
【0099】
推進システムを宇宙船に具備する好ましい用途では、長手方向の管100ごとに、対応する熱放散機器は、黒体放射だけを介して何もない空間と交換できる。したがって、熱放散機器は、有利には光子を放出するように構成され、これらの光子は運動量を有する。
【0100】
有利には、各長手方向の管100の熱放散機器は、光子放出が推進システムの運動量、したがって宇宙船の運動量の増大を促進する方向で行われるように配列される。
【0101】
有利には、この光子放出は、それによって推進システムが孤立系とみなせないことを保障する。
【0102】
すでに記述したように、長手方向の管100ごとに、発射体200を発射した後に、発射体200の並進移動は、長手方向の管100の第2の端部11で停止する。この第2の端部11で、発射体200は、回転しているだけであり、所与の速度で、自身で回転する。
【0103】
有利には、各長手方向の管100は、発射体の回転を制動するための機器(図示せず)を備える。
【0104】
好ましくは、制動するための機器は、1対の長手方向の管100の両方の管で同一である。
【0105】
いくつかの実施形態では、制動するための機器は、電磁ブレーキまたは機械ブレーキを備える。
【0106】
各長手方向の管の中で発射体の回転を制動することにより、逆方向の寄生回転運動モーメントが生まれる。それにもかかわらず、一次近似として互いに逆方向に回転させ制動する手法で、推進器を伴う発射体が内側で回転する1対の長手方向の管を備える推進システムのモータは、回転運動モーメントが事実上相殺するので、推進システムで、したがって宇宙船で、何らかの結果を招くことはない。
【0107】
すでに記述したように、長手方向の管100ごとに、発射体200を発射した後に、発射体200の並進移動は、長手方向の管100の第2の端部11で停止し、次いで発射体200の回転は制動される。
【0108】
有利には、各長手方向の管100は、当該長手方向の管100の第1の端部10に向けて発射体を戻すための機器(
図1に示さず)を備える。
【0109】
好ましくは、発射体を戻すための機器は、1対の長手方向の管100の2つの管で同一である。
【0110】
発射体を戻すためのこの機器は、発射体を発射するための機構を介して必要に応じて再度発射するために、長手方向の管100の第2の端部11に位置する発射体200を第1の端部10に戻すように構成される。
【0111】
好ましくは、発射体を戻すための機器は、横軸の管の中で発射体の発射速度よりも遅い一定速度に発射体200を戻すように構成される。有利には、発射体200を一定速度で第1の端部10に向けて戻すことにより、推進システムで、したがって宇宙船で、寄生運動量を事実上まったく生み出さないようにできる。
【0112】
いくつかの実施形態では、発射体を戻すための機器は、電磁石、またはウォームギヤ機器を備えてよい。
【0113】
一変形形態では、発射体200が長手方向の管100の第1の端部10に向けて戻るのを加速させるために、推進システムは、傾動機器(
図1に示さず)を備えてよい。そのような傾動機器は、2つの長手方向の管100の各々を平行な対応する枢動軸を中心に90°の範囲内の角度で、しかしながら反対方向に、独立に枢動させるように構成される。その後、各長手方向の管100の発射体200は、本明細書で上記に記述する対応する戻し機器を用いて、対応する長手方向の管100の第1の端部10に向けて、したがって反対方向に戻される。対応する長手方向の管100の第1の端部10に向けた各発射体200の戻りは、一方では生まれた運動量が相殺するので、他方では生まれた運動量が、衝撃の間に長手方向の管の旋回軸で発射体に加えられた運動量に、したがって、衝撃の間に長手方向の管に、結果的に推進システムに伝達された反対方向の運動量に寄生しないので、より迅速に行うことができる。
【0114】
好ましくは、少なくとも1つの電源(図示せず)は、各長手方向の管100の中で発射体を戻すための機構を活動化するように構成される。
【0115】
当該少なくとも1つの電源は、宇宙船に据え付けられたソーラーパネル、または当該宇宙船に搭載されたバッテリーに接続される。
【0116】
一実施形態では、共通電源は、発射体を発射するための機構を活動化するように、かつ長手方向の管の発射体を戻すための機器を活動化するように構成される。
【0117】
したがって、記述するように本発明による推進システムは、連続推力推進システムではなく衝撃推力推進システムである。
【0118】
2つの長手方向の管100の中で発射体200を発射するたびに、発射体に加えられた運動量と等しいが反対方向の運動量が長手方向の管に、したがって推進システムに加えられる。
【0119】
好ましくは、宇宙船の不均衡を回避するために、2つの長手方向の管の中での発射体200の発射は、同期して行われる。
【0120】
衝撃の頻度への依存性、すなわち各長手方向の管100の中での発射体200の発射頻度への依存性は、推進システムの単位時間あたりの平均推力によって決まる。
【0121】
詳細には、衝撃の頻度は、戻し機器を用いて長手方向の管100の第2の端部11から第1の端部10に戻すために各長手方向の管100の中で発射体200が費やす時間、すなわち発射体200を戻す、選択されたタイプの戻し機器に依存する。
【0122】
同じ方向の、推進システムの推力はまた、各対が互いに平行に配列されすべての長手方向の管が同じ方向にある長手方向の管100の対の数を増大させることにより増大させることができる。
【0123】
図示しない特定の実施形態では、詳細には推進器201の効率を改善するために、各長手方向の管100は、流体の粘度を修正するための機器、および/または流体の温度を修正するための機器、および/または流体の圧力を修正するための機器を備えてよい。
【0124】
一実施形態では、すべての方向で推力を作り出すために、少なくとも1対の長手方向の管を、当該少なくとも1対の長手方向の管を所望の推力方向と反対の一方向に配向するように構成された多軸システムに搭載する。
【0125】
いくつかの実施形態では、長手方向の管の中で発射体200の回転を制動するための機器が寄生運動モーメントを生み出すので、推進システムを備える宇宙船は、宇宙船を均衡させることを意図する運動量を宇宙船内で生み出すように構成された慣性ホイールを備えてよい。
【0126】
互いに平行に配列された所与の数の対の長手方向の管を備える推進システムでは、推進システムはその結果、2つの方法で構成できる。すなわち、
a)すべての対の長手方向の管100のすべての発射体200は、同期して発射され、この場合、推力は増大する。詳細には、衝撃の頻度は、各長手方向の管の中で長手方向の管の第1の端部から第2の端部まで動き、かつ戻し機器を用いて長手方向の管の第2の端部から第1の端部まで戻るために発射体が費やした時間に依存する、
b)または各対の長手方向の管100の発射体200は、連続して発射され、この場合、推力は、すべての対の長手方向の管のすべての発射体が同期して発射される場合よりも小さいが、衝撃の頻度は増大する。
【0127】
選択された構成は、推進システムを使用する輸送手段に、および詳細には輸送手段が行う操作に依存することがある。
【0128】
宇宙の分野で好ましい用途で推進システムを使用する場合、そのような推進システムを装備する宇宙船は、たとえば軌道周回操作など、いくつかの操作のために高推力構成(構成a))を、およびたとえば「分散」環境(エアロキャプチャ(aerocapture)を促すことを求める大気を伴う惑星、非対称な惑星の近傍での重力加速度など)での操作などといった他の操作のために、より小さいがより高頻度の推力構成(構成b))を使用できる。
【手続補正書】
【提出日】2024-08-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の平行な長手方向の管を備えるモータを備える推進システムであって、各前記長手方向の管は、第1の端部および第2の端部を備え、流体を充填した内部体積を画定し、
-前記内部体積の中で長手方向に動くように構成された発射体であって、推進器に、前記発射体と前記推進器の間に自由度がまったくなくしっかりと固定された発射体と、
-前記内部体積の中で前記長手方向の管の前記第1の端部から前記発射体を発射するための機構であって、前記推進器が、前記発射体の並進運動を回転運動に変換するように配列された機構と、
-前記長手方向の管の前記第2の端部に位置決めされた、前記内部体積の中での前記発射体の前記回転運動を制動するための機器と、
-前記発射体を前記長手方向の管の前記第2の端部から前記第1の端部に向けて戻すための機器と、
-熱放散機器と
を備え、
前記発射体を発射するための前記機構および前記発射体を戻すための前記機器は、少なくとも1つの電源により電力を供給され、
2つの前記長手方向の管の中に位置する前記発射体の前記推進器は、互いに逆方向に回転する推進システム。
【請求項2】
各前記長手方向の管は、前記内部体積の中で前記発射体を保持するための機器を備える、請求項1に記載の推進システム。
【請求項3】
前記発射体を保持するための前記機器は、前記発射体と前記長手方向の管の間で伸展する少なくとも1つの接続アームを備える、請求項2に記載の推進システム。
【請求項4】
保持するための前記機器および前記発射体は、枢動接続により接続される、請求項2に記載の推進システム。
【請求項5】
各前記長手方向の管は、前記内部体積の中で前記発射体を並進状態で誘導するための機器を備える、請求項1に記載の推進システム。
【請求項6】
前記発射体を並進状態で誘導するための前記機器は、前記発射体を保持するための前記機器と協働する、請求項5または請求項2に記載の推進システム。
【請求項7】
同じ電源は、前記発射体を発射するための前記機構、および少なくとも1つの前記長手方向の管の前記発射体を戻すための前記機器に電力を供給するように構成される、請求項1に記載の推進システム。
【請求項8】
2つの前記長手方向の管の各々を平行な対応する枢動軸を中心に独立に枢動させるように構成された傾動機器を備える、請求項1に記載の推進システム。
【請求項9】
複数対の平行な前記長手方向の管を備え、前記対は、互いに平行に配列される、請求項1に記載の推進システム。
【請求項10】
宇宙船であって、請求項1に記載の推進システムを備える宇宙船。
【国際調査報告】