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特表2025-501229自動化操作に適した発酵ブロスからの菌体収集方法
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  • 特表-自動化操作に適した発酵ブロスからの菌体収集方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】自動化操作に適した発酵ブロスからの菌体収集方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/02 20060101AFI20250109BHJP
   C12N 1/14 20060101ALI20250109BHJP
   C12N 1/16 20060101ALI20250109BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C12N1/02 ZNA
C12N1/14 A
C12N1/16 G
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539490
(86)(22)【出願日】2022-12-29
(85)【翻訳文提出日】2024-07-22
(86)【国際出願番号】 CN2022143490
(87)【国際公開番号】W WO2023125831
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】202111660921.7
(32)【優先日】2021-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518330176
【氏名又は名称】ウーシー バイオロジクス アイルランド リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】至 岩
(72)【発明者】
【氏名】陳 暁悦
(72)【発明者】
【氏名】周 偉昌
(72)【発明者】
【氏名】陳 智勝
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA26X
4B065AA77X
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA30
4B065BD50
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、細菌または真菌の発酵培養ブロスから菌体を回収する方法を開示し、当該方法は、以下のステップを含む:a)細菌または真菌の発酵培養で得られる発酵培養ブロスと、カルボキシル化キトサンとを混合し、混合物を得る;任意的に、b)混合物にアルギン酸ナトリウム溶液を加え、均一に混合する;及びc)沈殿し、菌体沈殿物または発酵培養ブロスの上清を得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップを含むことを特徴とする細菌または真菌の発酵培養ブロスから菌体を回収する方法:
a)細菌または真菌の発酵培養で得られる発酵培養ブロスと、カルボキシル化キトサンとを混合し、混合物を得る;
b)混合物にアルギン酸ナトリウム溶液を加え、均一に混合する;
及びc)沈殿し、菌体沈殿物または発酵培養ブロスの上清を得る。
【請求項2】
ステップb)が省略されることを特徴とする請求項1に記載される方法。
【請求項3】
さらにステップc)の後に、菌体を回収する、あるいは、発酵培養ブロスの上清を回収するステップd)を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載される方法。
【請求項4】
前記の細菌は、バチルス、大腸菌、乳酸桿菌、ラクトコッカスから選ばれ、好ましくは大腸菌或枯草菌である;前記の真菌は、以下から選ばれる:酵母、好ましくはパン酵母、飼料酵母、醸造酵母、ピキア酵母である;カンジダ;カビ、より好ましくはリゾプス、アスペルギルス、最も好ましくは醸造酵母とピキア酵母であることを特徴とする請求項1又は2に記載される方法。
【請求項5】
添加されるカルボキシル化キトサンの量は、発酵培養ブロスの1%-32%重量、好ましくは1-16%重量、より好ましくは4%-8%重量、最も好ましくは8%重量であることを特徴とする請求項1又は2に記載される方法。
【請求項5】
ステップb)に混合されるアルギン酸ナトリウムの量は、発酵培養ブロスの0%-16%重量、好ましくは0%-8%重量、より好ましくは0%又は8%重量であることを特徴とする請求項1に記載される方法。
【請求項6】
発酵培養ブロスに添加されるカルボキシル化キトサンとアルギン酸ナトリウムは、それぞれに発酵培養ブロスの8%重量であり、好ましくは、発酵培養ブロスは、大腸菌とピキア酵母発酵培養ブロスであることを特徴とする請求項1に記載される方法。
【請求項7】
発酵培養ブロスに添加されるカルボキシル化キトサンは、発酵培養ブロスの8%重量であり、好ましくは、発酵培養ブロスは、大腸菌とピキア酵母発酵培養ブロスであることを特徴とする請求項2に記載される方法。
【請求項8】
前記のカルボキシル化キトサンは、アミノ基(-NH)、又はヒドロキシル基(-OH)、又はアミノ基(-NH)とヒドロキシル基(-OH)がカルボキシル化基に修飾されたキトサンであり、ただし、前記のカルボキシル化基は、1-3個のカルボキシル基に置換されたC1-C6直鎖または分岐鎖の炭化水素基、好ましくは3個のカルボキシル基を含み、より好ましくは2個のカルボキシル基を含み、最も好ましくは1個のカルボキシル基を含む;前記の直鎖または分岐鎖の炭化水素基は、好ましくは、1-6個の炭素原子を有するであることを特徴とする請求項1又は2に記載される方法。
【請求項9】
大腸菌の株は、E.coli TOP10、E.coli JM109、E.coli HB101、E.coli DH5α、E.coli BL21(DE3)、及び、E.coli DH10B、E.coli JM110、E.coli MC1061、E.coli MG1655、E.coli Stbl2、E.coli Stbl3、E.coli T-Fast、E.coli XL1 Blue、E.coli Rosetta 2(DE3)などを含む他の大腸菌K株とB株の誘導菌株、あるいは酵母の株は、醸造酵母(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア酵母(Pichia pastoris)を含むことを特徴とする請求項4に記載される方法。
【請求項10】
前記のステップd)の回収は、培地を注ぎ出すか、自動ロボットアームを使用して培地を注ぎ出して菌体又は培地上清を得、磁気ビーズでDNA/RNA又はタンパク質を吸着し、DNA/RNA又はタンパク質を洗浄し、好ましくは、注ぎ出すこと、より好ましくは、培地上清を手動的に注ぎ出すまたは自動ロボットアームで培地上清を注ぎ出すことを特徴とする請求項3に記載される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学工学後処理の技術分野に属し、特に自動化操作に適した細菌および真菌の発酵ブロスから菌体を収集する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2021年の世界で最も売れた医薬品トップ30のうち、24品目はバイオ医薬品である。バイオ医薬品の研究開発のスピードと成功は、タンパク質の構造、インビトロおよびインビボの活性研究に対応するタンパク質サンプルを、迅速に得ることができるかどうかと密接に関係する。現在、哺乳動物細胞における一過性の発現プロセスは、研究用のタンパク質を得る主な方法である。このプロセスに必要なプラスミドDNAの量は、一般的に、ミリグラムからグラムレベルであり、かつ初期段階の候補分子ライブラリーのサイズに応じて、生産する必要があるタンパク質サンプルの数は、一般に、数十から数千の範囲にあり、それに対応して、必要なプラスミドDNAの量も数万から数千のオーダーになる。バイオ医薬品の研究開発が加速する過程には、タンパク質の生産に必要なプラスミドDNAを、いかに迅速に大量に入手する問題の解決は、急務となる。
【0003】
細菌を例にとると、大腸菌は、現代のバイオテクノロジーにおいて重要な遺伝子工学用宿主細菌であり、明確な遺伝的背景、速い増殖速度、簡単な遺伝子操作、および生産プロセスの容易なスケールアップという利点を持ち、実験室または工業規模でのプラスミドDNA、組換えタンパク質、酵素、その他の生物学的製品の生産に広く使用される。大腸菌を宿主細胞として用いてプラスミドDNAを生産する場合、培地から大腸菌細胞を回収し、そして大腸菌細胞から所要のプラスミドDNAを抽出する。発酵ブロスから大腸菌細胞を回収する一般的な方法はとしては、高速遠心分離と膜濾過法がある。高速遠心分離は、通常、研究室のマイクログラムからミリグラムレベルでのプラスミドDNAの調製に使用され、バッチで処理されるサンプルの数は限られ、かつ多くの人工作業が必要となるため、スループットと規模を拡大することが困難になる;膜濾過法は、一回で大量の試料を処理できるため、同一試料を大量に処理する場合に適するが、膜の目詰まりや破損、汚染などのリスクがあり、消耗品のコストも高くなり、多サンプルかつハイスループットな処理を実現することが困難である。さらに、遠心分離法と膜濾過法は、どちらも多くの人工作業に依存し、バッチで処理されるサンプルの数が増加すると、それに応じて、設備や人員の投資も倍増する必要がある。したがって、ハイスループットかつ自動化された処理に適した大腸菌菌体の収集方法を確立することが急務である。
【0004】
化学凝集は、培地から細菌細胞を分離するために使用でき、遠心分離や膜濾過に代わる低コストの代替手段である。公開された中国特許(CN109439584A)は、キトサンとアルギン酸ナトリウムが凝集によって大腸菌発酵ブロスを濃縮し、菌体濃縮効果を達成できることを示す。しかし、この方法は、大腸菌細胞の回収についてのみ研究され、菌体の完全性、生成物、そしてより重要なことにその後のプラスミド回収に対する沈降効果の影響は研究されなかった。
【0005】
キトサンは、直鎖アミノ多糖であり、熱アルカリ溶液中でキチンを脱アセチル化して調製され、その化学名は、β-(1,4)-2-アミノ-2-デオキシ-D-グルカンであり、分子式は(C6H11NO4)n、構造式は以下の通りである:
【化1】
【0006】
キトサンは、水や有機溶媒には溶けなく、希酸溶液には溶ける。キトサンは、水に不溶性であるため、その使用プロセスが複雑になるため、菌体の凝集収集への応用は広く実現されていない。
【0007】
したがって、当分野では、操作が簡単で、その後のプラスミド生産の収量に影響を与えず、かつ遠心分離機や膜濾過に依存せず、自動化できる菌体の収集方法を開発する必要があり、これは、プラスミドDNAのハイスループット自動調製と、後期バイオ医薬品の研究開発に必要なタンパク質の迅速な生産にとって非常に重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、発酵および培養された細菌および真菌細胞の菌体を、それらのプラスミドDNAおよびRNAの完全性を維持しながら回収するため、ならびにタンパク質および核酸生成物を抽出するための改良された高効率の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、細菌または真菌の発酵培養ブロスから菌体を回収する方法を提供し、当該方法は、以下のステップを含む:
a)細菌または真菌の発酵培養で得られる発酵培養ブロスと、カルボキシル化キトサンとを混合し、混合物を得る;
b)混合物にアルギン酸ナトリウム溶液を加え、均一に混合する;及び
c)沈殿し、菌体沈殿物を得る。
【0010】
本発明の別の態様では、上記方法のステップb)が省略され、したがって、この態様では、細菌または真菌の発酵培養ブロスから菌体沈殿物または発酵培養ブロスの上清を収集する方法を提供し、当該方法は、以下のステップを含む:
a)細菌または真菌の発酵培養で得られる発酵培養ブロスと、カルボキシル化キトサンとを混合し、混合物を得る;及びc)沈殿し、菌体沈殿物または発酵培養ブロスの上清を得る。
この態様の好ましい実施形態では、ステップc)の後に菌体を回収するステップd)も含む。
【0011】
具体的な実施形態では、細菌は、バチルス、大腸菌、乳酸桿菌、ラクトコッカスから選ばれ、好ましくは大腸菌或枯草菌である;前記の真菌は、以下から選ばれる:酵母、好ましくはパン酵母、飼料酵母、醸造酵母、ピキア酵母である;カンジダ;カビ、より好ましくはリゾプス、アスペルギルス、最も好ましくは醸造酵母とピキア酵母である。
【0012】
一つの好ましい実施形態では、前記の細菌は、大腸菌、及び/又は前記の真菌はピキア酵母である。
【0013】
具体的な実施形態では、ステップa)に混合されるカルボキシル化キトサンの量は、発酵培養ブロスの1%-32%重量、好ましくは1-16%重量、より好ましくは4%-8%重量、最も好ましくは8%重量である。
【0014】
具体的な実施形態では、ステップb)に添加されるアルギン酸ナトリウムの量は、発酵培養ブロスの1%-16%重量、好ましくは1%-8%重量、より好ましくは4%-8%重量、最も好ましくは8%重量である。
【0015】
別の具体的な実施形態では、発酵培養ブロスに添加されるカルボキシル化キトサンとアルギン酸ナトリウムの量は、それぞれ、発酵培養ブロスの8%重量であり、あるいは、発酵培養ブロスに添加されるカルボキシル化キトサンの量は、発酵培地の8%重量であり、且つアルギン酸ナトリウムを添加しない。一つのより好ましい実施形態では、発酵培養ブロスは、好ましくは、大腸菌発酵培養ブロスとピキア酵母発酵培養ブロスから選ばれる。
【0016】
もう一つの好ましい実施形態では、添加されるカルボキシル化キトサンとアルギン酸ナトリウムとの質量の比は、1:4-4:1、好ましくは1:2-2:1、より好ましくは1:1である。
【0017】
具体的な実施形態では、カルボキシル化キトサンは、アミノ基(-NH)、又はヒドロキシル基(-OH)、又はアミノ基(-NH)とヒドロキシル基(-OH)がカルボキシル化基に修飾されたキトサンであり、ただし、前記のカルボキシル化基は、1-3個のカルボキシル基に置換されたC1-C6直鎖または分岐鎖の炭化水素基、好ましくは3個のカルボキシル基を含み、より好ましくは2個のカルボキシル基を含み、最も好ましくは1個のカルボキシル基を含む;前記の直鎖または分岐鎖の炭化水素基は、好ましくは、1-6個の炭素原子を有する。
【0018】
別の具体的な実施形態では、大腸菌の株は、E.coli TOP10, E.coli JM109, E.coli HB101, E.coli DH5α, E.coli BL21(DE3)、および他の大腸菌K株とB株の誘導菌株を含む。好ましい実施形態では、酵母の株は、醸造酵母(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア酵母(Pichia pastoris)を含む。
【0019】
別の具体的な実施形態では、ステップd)の回収は、培地を注ぎ出すか、自動ロボットアームを使用して培地を注ぎ出して菌体を得、物理的または化学的方法を使用して菌体を破壊し、菌体内のDNAまたはRNAを放出し、磁気ビーズでDNAまたはRNAを吸着し、洗浄液でDNAまたはRNAを洗浄し、精製する;好ましくは、注ぎ出すこと、より好ましくは、培地を手動的に注ぎ出すまたは自動ロボットアームで培地を注ぎ出す。
【0020】
この態様の具体的な実施形態では、菌体を得た後、タンパク質を菌体から抽出することもできる。
【0021】
さらに別の好ましい実施形態では、ステップd)で回収された培地の上清は、培地を注ぎ出すか、または培地を自動ロボットアームによって注ぎ出すこと得られ、その後、上清中のDNA、タンパク質、または小分子代謝産物を精製する。
【0022】
さらに別の態様では、大腸菌発酵培地は、LBブロス培地から選ばれ、酵母発酵培地は、YPD培地から選ばれる。
【0023】
したがって、本発明の細菌および真菌の発酵培養の菌体を回収する方法の利点は次のとおり:
1.水溶性カルボキシル化キトサンとアルギン酸ナトリウムの使用が、発酵ブロス中の菌体を効果的に沈降させ、操作が簡単で、コストが低く、遠心分離や膜濾過が不要である。
2.発酵ブロスを、カルボキシル化キトサンおよびアルギン酸ナトリウムで処理した後、発酵上清を注ぎ出して除去し、沈降した菌体を得る。当該プロセスは、ロボットアームを使用して自動化できる。
(3)沈降によって得られた菌体は、比較的分散し、凝集してフロックを形成することがないため、菌体の溶解とその後の細胞内プラスミドDNA、RNA、およびタンパク質の抽出に役立つ。
(4)発酵ブロスをカルボキシル化キトサンおよびアルギン酸ナトリウムで処理した後、発酵上清を注ぎ出すことによって直接分離することもでき、当該上清を、その後の生化学的分離プロセスに使用して、目的の生成物を得ることができる(タンパク質、アルコール、酸、エステル、ケトンなどの生物学的代謝産物を含むが、これらに限定されない)。
【0024】
様々な実施形態の追加の特徴および利点は、以下の明細書で部分的に説明され、かつ部分的には、これらは明細書によって明らかになるか、または様々な実施形態の実践によって知ることができる。様々な実施形態の目的および他の利点は、明細書および添付の請求の範囲で特に指摘された要素および組み合わせによって実現および達成される。
【0025】
特に明記しない限り、本発明で使用される試薬、細胞、および機器は、一般に市販されており、公的に入手可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、遠心分離により回収した菌体から抽出したプラスミドDNA(レーン1)と、カルボキシル化キトサンにより回収した菌体から抽出したプラスミドDNA(レーン2)のアガロースゲル電気泳動パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
ここで、以下の実施例に記載される本発明のいくつかの実施形態を詳細に参照する。しかしながら、それらは、本発明をそれらの実施形態に限定することを意図したものではないことを理解されたい。逆に、本発明は、添付の請求の範囲によって定義される本発明に含まれるすべての置換、修正、および均等物を網羅するものとする。
【0028】
本明細書の具体的な実施例に使用されるカルボキシル化キトサンは、アミノ基(-NH)、又はヒドロキシル基(-OH)、又はアミノ基(-NH)とヒドロキシル基(-OH)がカルボキシル化基に修飾されたキトサンであり、ただし、前記のカルボキシル化基は、1-3個のカルボキシル基に置換されたC1-C6直鎖または分岐鎖の炭化水素基、好ましくは3個のカルボキシル基を含み、より好ましくは2個のカルボキシル基を含み、最も好ましくは1個のカルボキシル基を含む;前記の直鎖または分岐鎖の炭化水素基は、好ましくは、1-6個の炭素原子を有する。カルボキシル化キトサンは、水溶性に優れる。現在市販されるカルボキシル化キトサンの種類は、例えば、アラジン試薬社製のカルボキシル化キトサンがあり、「カルボキシル化キトサンの合成と水溶液からのカドミウム(II)、鉛(II)、銅(II)の吸着特性」(Synthesis of carboxylated chitosan and its adsorption properties for cadmium (II), lead (II) and copper (II) from aqueous solutions )(K. L. Lv, Y. L. Du, C. M. Wang;. Water Sci Technol 1 July 2009; 60 (2):467-474. doi:https://doi.org/10.2166/wst.2009.369)等の文献に記載の方法に従って調製することができる。
【0029】
本明細書に記載される細菌および真菌の発酵細胞培養は、発酵培地を媒介として使用し、適切な条件下で細菌および真菌細胞を培養し、所要の目的産物を増幅および生産する当分野の技術を含む。本明細書の発酵培養は、実験室レベルであってもよく、工業生産レベルであっても良い。
【0030】
本明細書で使用される「細菌」という用語は、グラム陽性菌およびグラム陰性菌を含むが、これらに限定されなく、特に発酵培養に一般的に使用される細菌、例えばバチルス、大腸菌、乳酸桿菌、ラクトコッカスなどであり、好ましくは、大腸菌、枯草菌である。本明細書で使用される「真菌」という用語には、真核性の胞子形成微生物を含むが、これらに限定されなく、酵母、好ましくはパン酵母、飼料酵母、醸造酵母、ピキア酵母など;カンジダ;カビ、例えばリゾプス、アスペルギルスなどである。好ましくは、醸造酵母とピキア酵母である。
【実施例1】
【0031】
実施例1 大腸菌細胞の抽出と解析
【0032】
1、試薬
LBブロス培地(Sangon Biotechnology、A507002):10g/Lトリプトン、10g/L NaCl、5g/L 酵母抽出物;キトサン溶液:1.5gのキトサン(アラジン試薬、C105799)を100mLの1%酢酸溶液(FISHER、A35-500)に溶解して、1.5%キトサン酢酸溶液を調製した。
カルボキシル化キトサン溶液:カルボキシル化キトサン(アラジン試薬、C105800)1.5gを超純水100mLに溶解し、1.5%カルボキシル化キトサン水溶液を調製した。
アルギン酸ナトリウム溶液:アルギン酸ナトリウム(アラジン試薬、S100127)1.0gを超純水100mLに溶解し、1%アルギン酸ナトリウム水溶液を調製した。
細菌再懸濁液:50mMグルコース(滬試、10010518)、25mMトリス-HCl(pH8.0)(滬試、30188336)、10mM EDTA(pH8.0)(滬試、10009717)。
溶解溶液:0.2mol/L NaOH(滬試、10019718)、1%(m/V)SDS(滬試、30166428)。
中和溶液(100mL):60mL 5M酢酸カリウム(滬試、30154518)、11.5mL氷酢酸(FISHER、A35-500)、28.5mL蒸留水。
RNase A:10mg/mL(Yisheng Biotech、10405ES03)。
pUC19プラスミド:Thermo Scientific SD0061
大腸菌Top10菌株:TIANGEN CB104
【0033】
pUC19プラスミドの配列は以下のとおり:
1.pUC19 DNA配列
>pUC19(配列番号1)
GAGATACCTACAGCGTGAGCTATGAGAAAGCGCCACGCTTCCCGAAGGGAGAAAGGCGGACAGGTATCCGGTAAGCGGCAGGGTCGGAACAGGAGAGCGCACGAGGGAGCTTCCAGGGGGAAACGCCTGGTATCTTTATAGTCCTGTCGGGTTTCGCCACCTCTGACTTGAGCGTCGATTTTTGTGATGCTCGTCAGGGGGGCGGAGCCTATGGAAAAACGCCAGCAACGCGGCCTTTTTACGGTTCCTGGCCTTTTGCTGGCCTTTTGCTCACATGTTCTTTCCTGCGTTATCCCCTGATTCTGTGGATAACCGTATTACCGCCTTTGAGTGAGCTGATACCGCTCGCCGCAGCCGAACGACCGAGCGCAGCGAGTCAGTGAGCGAGGAAGCGGAAGAGCGCCCAATACGCAAACCGCCTCTCCCCGCGCGTTGGCCGATTCATTAATGCAGCTGGCACGACAGGTTTCCCGACTGGAAAGCGGGCAGTGAGCGCAACGCAATTAATGTGAGTTAGCTCACTCATTAGGCACCCCAGGCTTTACACTTTATGCTTCCGGCTCGTATGTTGTGTGGAATTGTGAGCGGATAACAATTTCACACAGGAAACAGCTATGACCATGATTACGCCAAGCTTGCATGCCTGCAGGTCGACTCTAGAGGATCCCCGGGTACCGAGCTCGAATTCACTGGCCGTCGTTTTACAACGTCGTGACTGGGAAAACCCTGGCGTTACCCAACTTAATCGCCTTGCAGCACATCCCCCTTTCGCCAGCTGGCGTAATAGCGAAGAGGCCCGCACCGATCGCCCTTCCCAACAGTTGCGCAGCCTGAATGGCGAATGGCGCCTGATGCGGTATTTTCTCCTTACGCATCTGTGCGGTATTTCACACCGCATATGGTGCACTCTCAGTACAATCTGCTCTGATGCCGCATAGTTAAGCCAGCCCCGACACCCGCCAACACCCGCTGACGCGCCCTGACGGGCTTGTCTGCTCCCGGCATCCGCTTACAGACAAGCTGTGACCGTCTCCGGGAGCTGCATGTGTCAGAGGTTTTCACCGTCATCACCGAAACGCGCGAGACGAAAGGGCCTCGTGATACGCCTATTTTTATAGGTTAATGTCATGATAATAATGGTTTCTTAGACGTCAGGTGGCACTTTTCGGGGAAATGTGCGCGGAACCCCTATTTGTTTATTTTTCTAAATACATTCAAATATGTATCCGCTCATGAGACAATAACCCTGATAAATGCTTCAATAATATTGAAAAAGGAAGAGTATGAGTATTCAACATTTCCGTGTCGCCCTTATTCCCTTTTTTGCGGCATTTTGCCTTCCTGTTTTTGCTCACCCAGAAACGCTGGTGAAAGTAAAAGATGCTGAAGATCAGTTGGGTGCACGAGTGGGTTACATCGAACTGGATCTCAACAGCGGTAAGATCCTTGAGAGTTTTCGCCCCGAAGAACGTTTTCCAATGATGAGCACTTTTAAAGTTCTGCTATGTGGCGCGGTATTATCCCGTATTGACGCCGGGCAAGAGCAACTCGGTCGCCGCATACACTATTCTCAGAATGACTTGGTTGAGTACTCACCAGTCACAGAAAAGCATCTTACGGATGGCATGACAGTAAGAGAATTATGCAGTGCTGCCATAACCATGAGTGATAACACTGCGGCCAACTTACTTCTGACAACGATCGGAGGACCGAAGGAGCTAACCGCTTTTTTGCACAACATGGGGGATCATGTAACTCGCCTTGATCGTTGGGAACCGGAGCTGAATGAAGCCATACCAAACGACGAGCGTGACACCACGATGCCTGTAGCAATGGCAACAACGTTGCGCAAACTATTAACTGGCGAACTACTTACTCTAGCTTCCCGGCAACAATTAATAGACTGGATGGAGGCGGATAAAGTTGCAGGACCACTTCTGCGCTCGGCCCTTCCGGCTGGCTGGTTTATTGCTGATAAATCTGGAGCCGGTGAGCGTGGGTCTCGCGGTATCATTGCAGCACTGGGGCCAGATGGTAAGCCCTCCCGTATCGTAGTTATCTACACGACGGGGAGTCAGGCAACTATGGATGAACGAAATAGACAGATCGCTGAGATAGGTGCCTCACTGATTAAGCATTGGTAACTGTCAGACCAAGTTTACTCATATATACTTTAGATTGATTTAAAACTTCATTTTTAATTTAAAAGGATCTAGGTGAAGATCCTTTTTGATAATCTCATGACCAAAATCCCTTAACGTGAGTTTTCGTTCCACTGAGCGTCAGACCCCGTAGAAAAGATCAAAGGATCTTCTTGAGATCCTTTTTTTCTGCGCGTAATCTGCTGCTTGCAAACAAAAAAACCACCGCTACCAGCGGTGGTTTGTTTGCCGGATCAAGAGCTACCAACTCTTTTTCCGAAGGTAACTGGCTTCAGCAGAGCGCAGATACCAAATACTGTTCTTCTAGTGTAGCCGTAGTTAGGCCACCACTTCAAGAACTCTGTAGCACCGCCTACATACCTCGCTCTGCTAATCCTGTTACCAGTGGCTGCTGCCAGTGGCGATAAGTCGTGTCTTACCGGGTTGGACTCAAGACGATAGTTACCGGATAAGGCGCAGCGGTCGGGCTGAACGGGGGGTTCGTGCACACAGCCCAGCTTGGAGCGAACGACCTACACCGAACT
【0034】
2.方法:
2.1少量大腸菌発酵ブロスのカルボキシル化キトサン沈降処理
pUC19プラスミドを含むTop10大腸菌株を、LB培地で一晩培養して、大腸菌発酵ブロスを取得し、サンプルを採取して、OD600を測定した。当該発酵ブロス1mLを6回採取し、カルボキシル化キトサンの沈降実験に用いられた。さまざまな量のカルボキシル化キトサン溶液を、1mLの発酵ブロスに加え、ボルテックスして混合した;次に、対応する量のアルギン酸ナトリウム溶液を加え、ボルテックスして混合し、30分間放置した。ブランク対照として、さらに1mlの発酵ブロスを採取した。対照群とカルボキシル化キトサン処理群のOD600を検出した。カルボキシル化キトサンおよびアルギン酸ナトリウムの添加量を表1に示した。沈降前後のOD600に基づいて、沈降率を計算した;沈降率=(元のサンプルのOD600-沈降後のサンプルのOD600)/元のサンプルのOD600。
【0035】
2.2少量サンプルのカルボキシル化キトサン沈降処理がプラスミドDNA抽出に及ぼす影響
方法2.1によって調製された対照群のサンプルと実験群1、2、および3のサンプルの大腸菌菌体に対して、異なる処理方法を適用した。具体的なプロセスは以下の通りである:(1)対照群:菌液を3500gで1分間遠心分離し、発酵上清を除去して菌体を得た;(2)実験群:沈降した発酵ブロスの上清をピペットで吸い取り、遠心管の底に沈殿した菌体を得た。250μLの菌体再懸濁液と1μLのRNase Aで菌体を再懸濁し、250μLの溶解溶液を加え、穏やかに転倒して均一に混合して菌体を溶解し、350μLの中和溶液を加え、穏やかに転倒して均一に混合した。12,000gで遠心分離した後、上清を回収し、適量の磁気ビーズを加え、均一に混合し、磁気ビーズが上清中のDNAを吸着した。次に、磁石を使用して磁気ビーズを吸着し、上清を除去した。次に、70%エタノールを加えて磁性ビーズを2回洗浄し、エタノールを乾燥させ、50μLの超純水で磁性ビーズを溶出してプラスミドDNAを取得し、分光光度計を使用して、プラスミドDNA濃度を検出し、プラスミドDNA収量を計算した。
【0036】
2.3大量大腸菌発酵ブロスにおけるカルボキシル化キトサンとキトサンの沈降効果の比較
【0037】
150mLのLB培地を、2つの250mL三角振盪フラスコに加え、pUC19プラスミドを含むTop10大腸菌株を一晩培養し、大腸菌発酵ブロスを取得し、サンプルを採取して、OD600を測定した。カルボキシル化キトサン沈降群に、実験室規模のテストで最適な凝集剤の使用量として、8%カルボキシル化キトサンと8%アルギン酸ナトリウムを添加した;公開特許(CN109439584A)に記載される凝集剤の好ましい添加量として、4%キトサンと2%アルギン酸ナトリウムをキトサン沈降群に添加した。2群の実験の添加プロセスと操作は、次のとおり:
カルボキシル化キトサン群:12ml(添加量8%)のカルボキシル化キトサン溶液を振盪フラスコに加え、手動で30秒間水平に振り、次に、同体積のアルギン酸ナトリウム溶液(添加量8%)を加え、手動で30秒間水平に振った。低温で4時間放置し、大腸菌菌体を完全に沈降させ、その後、上清を採取し、OD600を測定し、沈降率を計算した。
キトサン群:6ml(添加量4%)のキトサン溶液を、振盪フラスコに加え、シェーカー上で120~150rpmで、2~3分間速く均一に混合し、次に、3ml(添加量2%)のアルギン酸ナトリウム溶液を加え、シェーカー上で50~60rpmで2~5分間ゆっくりと均一に混合した。低温で4時間放置し、大腸菌菌体を完全に沈降させ、その後、上清を採取し、OD600を測定し、沈降率を計算した。
手動注ぎ出しにより、振盪フラスコから上清をゆっくり注ぎ出し、メスシリンダーを用いて残った菌液の体積を測定し、培養上清の除去率を算出した。沈降率=(元のサンプルのOD600-沈降後のサンプルのOD600)/元のサンプルのOD600;培養上清の除去率=(培養体積-沈降後の菌液の体積)/培養体積。
【0038】
2.4大量サンプルのカルボキシル化キトサンとキトサン沈降処理がプラスミドDNA抽出に及ぼす影響
プラスミドDNA抽出試験には、カルボキシル化キトサンとキトサン沈殿後に得られた濃縮菌液を使用し、対照群として、一晩培養した大腸菌液150mLを3500gで10分間遠心分離して回収した菌体を使用した。キトサン処理後に残った菌液の体積が多いため、きれいに注ぎきれない培地を電動ピペットを使用して慎重に除去し、最終的な濃縮菌液の体積を、カルボキシル化キトサン処理群と同じにした(約10ml)。対照群を遠心分離して得た菌体に、10mlの菌体再懸濁液を加え、凝集せずに菌体を完全に再懸濁した。次に、対照群と実験群の菌液に、10μLのRNase Aを加え、10秒間水平に振盪し、次に、10mLの溶解溶液を加え、30秒間水平に振盪し、菌体を溶解し、次に12μLの中和溶液を加え、30秒間水平に振盪した。振盪フラスコ中の中和溶液を50ml遠心管に移し、3500gで10分間遠心分離し、上清を回収し、適量の磁気ビーズを加え、均一に混合し、磁気ビーズが上清中のDNAを吸着した。次に、磁石を使用して磁気ビーズを吸着し、上清を除去した。その後、70%エタノールを加え、磁性ビーズを2回洗浄し、エタノールを十分に蒸発させた後、1000μLの超純水で、磁性ビーズを溶出させ、プラスミドDNAを得た。分光光度計を使用して、プラスミドDNA濃度を検出し、プラスミドDNA収量を計算した。アガロースゲル電気泳動を使用して、プラスミドのバンドとスーパーコイル状態を観察した。アガロースゲル電気泳動の実験手順については、「分子クローニング実験ガイド第4版」(Molecular Cloning:A Laboratory Manual (Fourth Edition), Michael R. Green, Joseph Sambrook, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2012)を参照する。
【0039】
2.5大量サンプルのカルボキシル化キトサン単独処理が菌体沈降とプラスミドDNA抽出に及ぼす影響
150mLのLB培地を、2つの250mL三角振盪フラスコに加え、pUC19プラスミドを含むTop10大腸菌株を一晩培養し、大腸菌発酵ブロスを取得し、サンプルを採取して、OD600を測定した。実験群に、実験室規模のテストで最適な凝集剤の使用量として、8%カルボキシル化キトサンを添加した;同体積の超純水を対照群に加えた。2群の実験の添加プロセスと操作は、次のとおり:
実験群:振盪フラスコに、12ml(添加量8%)のカルボキシル化キトサン溶液を加え、手動で30秒間水平に振盪し、低温で静置し、大腸菌菌体を完全に沈降させ、4時間および6時間の時点で、それぞれ上清を採取し、OD600を測定し、沈降率を計算した。
対照群:振盪フラスコに12mlの超純水を加え、手動で30秒間水平振盪し、低温で静置し、4時間および6時間の時点で、それぞれ上清を採取し、OD600を測定し、沈降率を計算した。
手動注ぎ出しにより、振盪フラスコから上清をゆっくり注ぎ出し、メスシリンダーを用いて残った菌液の体積を測定し、培養上清の除去率を算出した。沈降率=(元のサンプルのOD600-沈降後のサンプルのOD600)/元のサンプルのOD600;培養上清の除去率=(培養体積-沈降後の菌液の体積)/培養体積
【0040】
3.実験結果と解析
3.1少量の大腸菌発酵ブロスに対するカルボキシル化キトサンの沈降効果
方法2.1で説明したように、大腸菌菌液の一晩培養物1mLの菌体沈降効果に対する、異なる添加量のカルボキシル化キトサンとアルギン酸ナトリウムの使用の影響を、表1に示した。ある範囲内では、カルボキシル化キトサンおよびアルギン酸ナトリウムの添加量が増加するにつれて、菌体沈降率は上昇傾向を示した。カルボキシル化キトサンとアルギン酸ナトリウムの添加量が、それぞれ8%と8%の場合、最良の菌体沈降効果は、93.5%に達した。2種類の凝集剤の添加量をさらに増やしても、沈降効果はそれ以上向上せず、低下傾向にあった。したがって、その後の研究では、8%のカルボキシル化キトサン添加および8%のアルギン酸ナトリウム添加を沈降条件として使用した。
【表1】
【0041】
3.2カルボキシル化キトサンおよびアルギン酸ナトリウムで菌体を沈降することが少量プラスミドサンプルの抽出に対する影響
プラスミドミニプレップテスト用に、上記で得られたカルボキシル化キトサンとアルギン酸ナトリウム実験群1、2、および3から得られた沈降された菌体を選択し、遠心分離によって収集された菌体を対照として使用し(方法2.2のように)、結果を表2に示した。対照群のプラスミド収量は、9.4μgで、実験群3では8%カルボキシル化キトサンとアルギン酸ナトリウムを使用して細胞を沈殿させることが、14.5μgの最高のプラスミド収量を得、対照群の1.5倍である;さらに、菌体の沈降率の増加に伴い、プラスミド収量は直線的な向上傾向を示した。対照群と実験群で小規模に抽出されたプラスミドDNAのA260/A280は、どちらも1.8~2.0であり、RNAやタンパク質の汚染はなく、さらなる研究に使用できる。少量の条件下での菌体の沈降によって収集されたプラスミド収量は、菌体の遠心分離よって得られたプラスミド収量よりも著しく高く、カルボキシル化キトサンまたはアルギン酸ナトリウムは、プラスミド収量に一定の促進効果を与える可能性がある。
【表2】
【0042】
3.3大量の大腸菌発酵ブロスに対するカルボキシル化キトサンとキトサンの沈降効果
本研究の方法2.1の小規模抽出によって得られた適切なカルボキシル化キトサン沈降菌体の最適条件:8%添加量のカルボキシル化キトサンとアルギン酸ナトリウム及び公開された特許出願(CN109439584A)で報告されるキトサンおよびアルギン酸ナトリウムによる菌体沈降の最適条件:4%添加量のキトサンと2%添加量のアルギン酸ナトリウムを採用し、一晩培養した150mLの大腸菌菌体の沈降実験を行い、結果を表3に示した。表3からわかるように、元の発酵ブロスのOD600が近いの場合、キトサンによる菌体の沈降率は、カルボキシル化キトサンによる菌体の沈降率よりわずかに高く、それぞれ98.4%と92.7%であった。しかし、培養上清を直接に注ぎ出して除去した場合、カルボキシル化キトサン群の培地除去率は、キトサン群よりもはるかに高く、それぞれ93%、62%であった。直接注ぎ出すことにより培養上清を除去した後、カルボキシル化キトサン処理群に残った菌液体積は、わずか10.5mlであった。沈降後の培地除去率が高いため、カルボキシル化キトサンの沈降後のサンプルを自動ロボットアームを使用してバッチで自動的に処理でき、菌体沈降後の下流の自動操作全体のシステム統合に寄与する。
【表3】
【0043】
3.4大量サンプルのカルボキシル化キトサンとキトサン沈降処理がプラスミドDNA抽出に及ぼす影響
3.3で得られた沈降された大腸菌菌液からアルカリ溶解法により調製したプラスミドDNAの収量を調べた。遠心分離により収集した菌体を用いて、対照としてプラスミドDNAを調製した。キトサン群の沈降処理後の菌液体積が多かったので、ピペットを使用して手作業で残った培地を除去し、最終的な菌液体積を約10mLまで減らした。次に、10μLのRNase Aを菌液に加え、水平に振って均一に混合した後、アルカリ溶解溶液を加えて菌体を溶解した。次いで、2.4に記載の方法に従って、プラスミドDNAを抽出し、抽出により得られたプラスミドDNAの収量を表4に示した。
【表4】
【0044】
表4の抽出結果から、カルボキシル化キトサン沈降によって収集された菌体のプラスミド抽出によって得られたプラスミド収量と、遠心分離によって収集されたものとが、それぞれ330.5μgと324.5μgで、あまり違いがないことがわかる。キトサンでの沈降が菌体のプラスミド抽出効率を大幅に低下させ、プラスミド収量はわずか37.2μgで、これは、カルボキシル化キトサン処理群の約11%である。沈降した菌体の溶解処理中に、キトサンとアルギン酸ナトリウムが、大腸菌に大きな綿状の細菌塊を形成させ、均一に分散させることが困難であり、さらにアルカリ溶解中に不十分な溶解を引き起こすことが目視観察により判明した。カルボキシル化キトサンとアルギン酸ナトリウムで沈降されて得た大腸菌は、繊細な外観をして、手動で振盪した後、素早く分散して均一に分散することができ、後のアルカリ溶解に影響を与えることがない(結果は表示されない)。したがって、キトサンとアルギン酸ナトリウムでの菌体沈降が、発酵ブロス内の菌体を除去し、発酵上清を収集する場合に適するが、カルボキシル化キトサンおよびアルギン酸ナトリウムでの菌体沈降が、発酵上清を収集するために使用できるだけでなく、その後の菌体の処理にも使用でき、たとえば、菌体内の生物産物(プラスミドDNA、RNA、細胞内タンパク質など)を抽出する。
【0045】
プラスミドDNAのA260/A280試験結果(表2)とアガロースゲル電気泳動で示されるプラスミドスーパーコイル比の結果(図1)によれば、カルボキシル化キトサン法を使用した菌体の収集は、抽出されたプラスミドDNAの品質に影響を与えないこともわかる。
【0046】
3.5大量サンプルのカルボキシル化キトサン単独処理が細菌沈降とプラスミドDNA抽出に及ぼす影響
カルボキシル化キトサンを単独で使用した場合の大腸菌菌体の沈降およびプラスミドDNA抽出収量に対する影響を調査した。カルボキシル化キトサンを含まないサンプルを、沈降効率の対照およびプラスミド収量の対照として使用した。結果は、表5に示した。
【表5】
【0047】
表5からわかるように、4時間の沈降後に実験群の菌体沈降率は、80.5%に達し、これは、4時間の沈降後のカルボキシル化キトサンおよびアルギン酸ナトリウムの菌体沈降率92.7%よりも低かった(表3)。ただし、6時間の沈降後に8%のカルボキシル化キトサンを単独で使用すると、カルボキシル化キトサンとアルギン酸ナトリウムを組み合わせて4時間の沈降を行った場合と同じ菌体沈降効果(95.2%)を達成できる。カルボキシル化キトサンを単独で使用した場合の沈降時間は、2種類の凝集剤を使用した場合よりも2時間長くなるが、試薬の添加プロセスが簡素化され、自動運転中のアルギン酸ナトリウムの高粘度によって引き起こされる不精確な液体の添加やパイプラインの閉塞のリスクも回避され、より大きな応用価値をもたらす。
【0048】
また、処理しようとする大腸菌の菌液体積やバッチサイズを大きくする必要がある場合、遠心分離法も膜ろ過法も、バッチ処理サンプル数が限られ、手作業が多く、自動化が困難であり、かつ遠心分離機や膜ろ過装置も相応に増加する必要があるので、コストが増加するなどの問題が生じる。本発明の沈降法は、1~2種類の凝集剤を添加するだけでよく、低温条件下での重力沈降により菌体と発酵培地の分離が可能であり、方法が簡単であり、低コストであり、自動化スケールアップバッチ処理が容易に実現でき、遠心分離法や膜ろ過法に比べて優れる。
【0049】
4.結果のまとめ:
上述したように、本発明者は、予想外にも、水溶性カルボキシル化キトサンおよびアルギン酸ナトリウムの使用、またはカルボキシル化キトサン単独の使用により、遠心分離または膜濾過を回避し、操作が容易で、大腸菌発酵ブロス中での菌体の沈降を効果的に達成できることを発見した。大腸菌発酵ブロスを凝集剤で処理した後、注ぎ出すことにより発酵上清を除去し、沈降した菌体を得ることができる。当該プロセスは、ロボットアームを使用して自動化できる。本発明の沈降方法で沈降させ得られた菌体は、比較的分散し、凝集してフロックを形成することがないため、菌体の溶解とその後の細胞内プラスミドDNA、RNA、およびタンパク質の抽出に役立つ。
【0050】
本明細書に記載の精神または範囲から逸脱することなく、本明細書に記載のさまざまな実施形態にさまざまな修正および変更を加えることができることは、当業者には明らかである。したがって、様々な実施形態は、本教示の範囲内の様々な実施形態の他の修正および変形を網羅することを意図する。
【実施例2】
【0051】
実施例2 ピキア酵母菌体の沈降
【0052】
1、試薬
YPD培地:1%酵母抽出物(Thermo Scientific、LP0021B)、2%ペプトン(Thermo Scientific、LP0042B)、2%デキストラン(Sinopharm Reagent、63005518)。
カルボキシル化キトサン溶液:カルボキシル化キトサン(アラジン試薬、C105800)1.5gを超純水100mLに溶解し、1.5%カルボキシル化キトサン水溶液を調製した。
【0053】
2.方法
ピキアパストリスGS115株を、4mlのYPD培地で培養して、ピキアパストリスGS115発酵ブロスを得、サンプルを採取してOD600を測定した。さまざまな添加量のカルボキシル化キトサン溶液を、発酵ブロスに加え、ボルテックスして混合し、4℃で放置した。カルボキシル化キトサンを添加しない発酵ブロスをブランク対照とした。対照群とカルボキシル化キトサン処理群のOD600を、1時間ごとに検出した。沈降前後のOD600に基づいて、沈降率を計算した;沈降率=(元のサンプルのOD600-沈降後のサンプルのOD600)/元のサンプルのOD600。
【0054】
3.結果
方法のセクションで説明したように、異なる添加量のカルボキシル化キトサンを使用した場合の、4mLのピキアパストリス液の菌体沈降効果に対する影響を、表6に示した。
【表6】
【0055】
ある範囲内では、カルボキシル化キトサンの添加量が増加するにつれて、菌体沈降率は上昇傾向を示した。カルボキシル化キトサンの添加量が8%である場合、最良の細菌沈降効果は、94.2%に達した。カルボキシル化キトサンの添加量をさらに増やしても、沈降効果はさらに改善されなかった。
【0056】
当該実施例は、カルボキシル化キトサンが、ピキアパストリスの細胞沈降に良好な効果を持ち、ピキアパストリスの菌体収集または沈降後の培養上清の収集に使用でき、その後のタンパク質精製やその他の用途に用いられる。
図1
【配列表】
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【国際調査報告】