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特表2025-501233創傷特徴をマッピングするためのシステム及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】創傷特徴をマッピングするためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0536 20210101AFI20250109BHJP
【FI】
A61B5/0536
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539502
(86)(22)【出願日】2022-12-13
(85)【翻訳文提出日】2024-06-28
(86)【国際出願番号】 IB2022062138
(87)【国際公開番号】W WO2023126731
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】63/266,192
(32)【優先日】2021-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/407,913
(32)【優先日】2022-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524062087
【氏名又は名称】ソルベンタム インテレクチュアル プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】チュー チーチエ
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン エム.ケネディ
(72)【発明者】
【氏名】サダフ チャークハビ
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー ジー.ジン
(72)【発明者】
【氏名】ハワード エム.カプラン
(72)【発明者】
【氏名】ケビン ティー.レディ
(72)【発明者】
【氏名】ショーン シー.ドッズ
(72)【発明者】
【氏名】ドーン ブイ.ムイレス
(72)【発明者】
【氏名】エリアス ウィルケン-レスマン
(72)【発明者】
【氏名】リンジー エル.ハインズ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ ディー.カールソン
(72)【発明者】
【氏名】デーン デミールゲーツ
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA06
4C127GG10
4C127GG16
4C127HH13
(57)【要約】
創傷床の創傷特徴をマッピングし、更に電極又は接続性能の劣化を検出するためのシステム及び方法が提供される。電気測定値は、創傷床の外側の創部周囲組織に電気信号を印加する電極のアレイから収集される。電気測定値は、創傷床のインピーダンスマップを生成するために処理され、臨床メトリクスの空間分布を伝達するマップに変換される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷床の創傷特徴を取得する方法であって、前記方法は、
電極のアレイを介して、前記創傷床の外側の創部周囲組織に1つ以上の電気信号を印加することと、
前記電極のアレイに機能的に接続された回路を介して、前記電極のアレイから電気測定値を収集することと、
プロセッサを介して、前記収集された電気測定値を処理して、前記創傷床の1つ以上のインピーダンスマップを生成することと、
前記1つ以上のインピーダンスマップを、前記創傷床の臨床メトリクスの空間分布を表す1つ以上の組織特性マップに変換することと、を含む方法。
【請求項2】
前記1つ以上のインピーダンスマップを1つ以上の組織特性マップに変換することが、前記電気測定値を、前記創傷床の前記臨床メトリクスに関連する物理的に測定された創傷データに相関させることによって較正モデルを取得することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記較正モデルを取得することは、測定された相対コンダクタンス値を創傷深さの値に相関させることによって較正曲線を取得することを更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記較正モデルを使用することによって、前記1つ以上のインピーダンスマップを1つ以上の組織特性マップに変換することを更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ以上のインピーダンスマップは、1つ以上のサンプリング周波数における導電率、抵抗率、コンダクタンス、抵抗、リアクタンス、キャパシタンス、インダクタンス、インピーダンスの大きさ、インピーダンス位相角、複素インピーダンス、又はこれらの組み合わせの空間マップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上の組織特性マップは、創傷深さ、肉芽組織厚さ、上皮被覆率、バイオフィルム厚さ、バイオバーデン、感染レベル、又は創傷床の治癒段階の空間マップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
グラフィックユーザインターフェース(GUI)を介して、前記1つ以上の組織特性マップ及びシステムの状態を表示することと、前記GUIを介して、ユーザからシステム構成パラメータを受信することと、を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記1つ以上の組織特性マップから前記創傷床の体積を決定することを更に含み、前記創傷床は、1つ以上の皮下特徴を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記1つ以上の組織特性マップに基づいて、創傷断面積、総感染レベル、バイオフィルム体積、バイオフィルム被覆面積、肉芽組織の総体積、平均肉芽組織厚さ、平均創傷深さ、創傷長さ、創傷幅、総上皮被覆パーセンテージ、平均上皮厚さ、又は総上皮体積を含む組織特性の少なくとも1つを決定することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記1つ以上の組織特性マップに基づいて組織特性を示す情報を出力することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
創傷床の創傷特徴を取得するシステムであって、前記システムは、
前記創傷床の外側の創部周囲組織に1つ以上の電気信号を印加するように構成された電極のアレイと、
前記電極のアレイに機能的に接続され、前記電極のアレイから電気測定値を収集する回路と、
プロセッサと、を含み、前記プロセッサは、
前記収集された電気測定値を処理して、前記創傷床の1つ以上のインピーダンスマップを生成することと、
前記1つ以上のインピーダンスマップを、前記創傷床の臨床メトリクスの空間分布を表す1つ以上の組織特性マップに変換することと、から構成される、システム。
【請求項12】
前記プロセッサは、前記1つ以上の組織特性マップに基づいて創傷情報を示す情報を決定するように更に構成され、前記創傷情報が、創傷深さ、肉芽組織厚さ、上皮被覆率、バイオフィルム厚さ、バイオバーデン、感染レベル、及び前記創傷床の治癒段階のうちの1つ以上を含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
創傷床に適用するためのデバイスであって、前記デバイスは、
前記創傷床の周囲に配置され、前記創傷床の外側の創部周囲組織に1つ以上の電気信号を印加するように構成された電極のアレイと、
前記電極のアレイに機能的に接続され、前記電極のアレイから電気測定値を収集する回路と、
ユーザから命令を受信し、前記収集された電気測定値に基づいて情報を表示するためのユーザインターフェースと、を備えるデバイス。
【請求項14】
前記回路は更に、
前記収集された電気測定値を処理して、前記創傷床の1つ以上のインピーダンスマップを生成することと、
前記1つ以上のインピーダンスマップを、前記創傷床の臨床メトリクスの空間分布を表す1つ以上の組織特性マップに変換することと、から構成される、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
(対応記載なし)
【請求項16】
前記創傷床の前記1つ以上のインピーダンスマップは、アルゴリズム的に推定され、非創傷組織のベースライン測定を必要とせず、前記創傷床の前記1つ以上のインピーダンスマップが、周波数差EIT(fdEIT)、測定スケール特徴(MSF)、ベストホモジニアス(BH)推定量、データ駆動推定量、又はこれらの組み合わせを使用してアルゴリズム的に推定される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記創傷床の前記1つ以上のインピーダンスマップは、算術平均、レンジ、ミッドレンジ、電極ベースの平均レンジ、電極ベースの平均ミッドレンジ、又はこれらの組み合わせを含む測定スケール特徴(MSF)を使用してアルゴリズム的に推定される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
創傷床の創傷特徴を取得する方法であって、前記方法は、
電極のアレイを介して、前記創傷床の外側の創部周囲組織に1つ以上の電気信号を印加することと、
前記電極のアレイに機能的に接続された回路を介して、前記電極のアレイから電気測定値を収集することと、
1つ以上の電極又は接続性能を定量化することと、
プロセッサを介して、前記収集された電気測定値を処理して、前記創傷床の1つ以上のインピーダンスマップを生成することであって、前記プロセッサが、1つ以上の電極又は接続性能の劣化をアルゴリズム的に補償することと、
前記1つ以上のインピーダンスマップを、前記創傷床の臨床メトリクスの空間分布を表す1つ以上の組織特性マップに変換することと、を含む方法。
【請求項19】
前記1つ以上の電極又は接続性能は、電圧-電流相反に基づく試験を実行することによって検出される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
1つ以上の電極又は接続性能の劣化をアルゴリズム的に補償することは、前記1つ以上の電極又は接続性能に対応する電気測定値に重みパラメータを適用することを含む、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
スマート創傷被覆材及び他のウェアラブルセンサは、創傷治癒を監視するために使用される。治癒を監視する能力は、改善されたヘルスケア及び改善された患者転帰をもたらし得る。治癒の監視は、現在の治療プログラムが有効であるかどうか、又は現在の治療プログラムへの変更が行われるべきかどうかを判定するために使用されてもよい。
【発明の概要】
【0002】
開放創傷空隙及び/又は皮下特徴空隙を含む創傷床の治癒を非侵襲的に測定/監視する(例えば、マッピング及び/又は定量化を介して)ことが望まれている。1つの態様では、本開示は、創傷床の創傷特徴を取得する方法を提供する。本方法は、センサ(以下、電極として例示される)のアレイを介して、創傷床の外側の創部周囲組織に電気信号を印加することと、電極のアレイに機能的に接続された回路を介して、電極のアレイから電気測定値を収集することと、を含む。本方法は、プロセッサを介して、収集された電気測定値を処理して、創傷床の1つ以上のインピーダンスマップを生成することと、1つ以上のインピーダンスマップを、創傷床の臨床メトリクスの空間分布を表す1つ以上の組織特性マップに変換することと、を更に含む。
【0003】
別の態様では、本開示は、創傷床の創傷特徴を取得するシステムを提供する。システムは、創傷床の外側の創部周囲組織に電気信号を印加するように構成された電極のアレイと、電極のアレイに機能的に接続されて電極のアレイから電気測定値を収集する回路と、収集された電気測定値を処理して創傷床の1つ以上のインピーダンスマップを生成し、1つ以上のインピーダンスマップを創傷床の臨床メトリクスの空間分布を表す1つ以上の組織特性マップに変換するように構成されたプロセッサと、を含む。
【0004】
別の態様では、本開示は、創傷床に適用するためのデバイスを提供する。デバイスは、創傷床の周囲に配置され、創傷床の外側の創部周囲組織に電気信号を印加するように構成された電極のアレイと、電極のアレイに機能的に接続され、そこから電気測定値を収集する回路と、ユーザから命令を受信し、収集された電気測定値に基づいて情報を表示するユーザインターフェースと、を含む。いくつかの場合において、デバイスは、診断又は監視デバイスである。いくつかの場合において、デバイスは被覆材である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】1つの実施形態による、例示的な創傷測定システムを示す概略図である。
図2A】1つの実施形態による、創傷測定システムによって試験される組織部位の概略上面図である。
図2B図2Aの組織部位の概略側面図である。
図2C図2A図2Bの組織部位に適用される創傷測定システムを示す概略図である。
図3A】1つの実施形態による、較正モデルを生成する方法の流れ図である。
図3B】1つの実施例による、較正モデルにおける測定導電率対組織深さの変化のプロットである。
図4】1つの実施例による、創傷及び創傷体積推定値のトポグラフィマップを生成する方法の流れ図である。
図5】1つの実施例による、創傷治癒データを生成する方法の流れ図である。
図6】1つの実施例による、8電極デバイスの線図である。
図7A】実施例1についての創傷の進行中の相対導電率及びトポグラフィマップの図である。
図7B】実施例1についての創傷の進行中の相対導電率及びトポグラフィマップの図である。
図7C】実施例1についての創傷の進行中の相対導電率及びトポグラフィマップの図である。
図8A】実施例3についてのEITマッピング及び比較方法を用いた創傷体積測定のグラフである。
図8B】実施例3の創傷の相対導電率及びトポグラフィマップの図である。
図9】創傷の組織模倣ファントム(TMP)上に配置された8電極デバイスの光学画像(A)と、2つの異なるベースライン推定方法(B及びC)を使用するTMP創傷モデルのEITマップと、を示す。
図10A】TMP創傷モデルのそれぞれの非創傷及び創傷の光学画像(A1及びB1)と、ベースライン推定法を使用するTMP創傷モデルのEITマップ(A2及びB2)と、を示す。
図10B】TMP創傷モデルのそれぞれの非創傷及び創傷の光学画像(A1及びB1)と、ベースライン推定法を使用するTMP創傷モデルのEITマップ(A2及びB2)と、を示す。
図11】TMP創傷モデル(A)と、8電極デバイス(B)と、TMP創傷モデル上に配置された8電極デバイス(C)と、fdEIT法を使用するTMP創傷モデルのEITマップ(D)と、に関する光学画像を示す。
図12】TMP創傷モデルのEITマップ(A)と、シミュレートされた電極故障を有するTMP創傷モデルのEITマップ(B)と、シミュレートされた電極故障を補正するためのアルゴリズムを使用するTMP創傷モデルのEITマップ(C)と、に関する画像を示す。
【0006】
図示される実施形態の以下の説明では、本開示が実践され得る種々の実施形態が例証として示される、添付図面を参照する。本開示の範囲から逸脱することなく、実施形態を利用することができ、構造上の変更を行い得ることを理解されたい。図面は必ずしも縮尺通りではない。図中で使用される同様の番号は、同様の構成要素を指す。しかしながら、所与の図における構成要素を指すための番号の使用は、同じ番号でラベル付けされた別の図における構成要素を限定することを意図するものではないことが理解されよう。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書で使用される場合、「インピーダンス」という用語は、「実数」及び「虚数」量と呼ばれるものを含む複素量である電気特性を指し、例えば、Z=R+iXであり、式中、Zはインピーダンスであり、Rはいわゆる実数成分であり、抵抗であり、Xはいわゆる虚数成分であり、リアクタンスである。加えて、本明細書では、抵抗Rの数学的逆数である「導電率」という用語が使用される。「相対導電率」という用語は、測定された又はアルゴリズム的に推定された何らかのベースライン値に対する導電率を指す。
【0008】
「電気測定値」(複数可)という用語は、1つ以上の周波数における、導電率、抵抗率、複素インピーダンス、インピーダンスの大きさ、キャパシタンス、インダクタンス、アドミタンス、インピーダンス位相角、リアクタンスなどの電気特性の測定値(複数可)を指す。
【0009】
「インピーダンスマップ」という用語は、マップ(複数可)又は他の好適なデータ構造の形態で存在し得る、1つ以上の電気測定値の空間分布の表現(複数可)を指す。
【0010】
「組織特性マップ(複数可)」又は「臨床メトリクス」という用語は、例えば、創傷縁部/境界、創傷深さ情報(例えば、x座標及びy座標に対する深さを有する創傷のトポグラフィマップ)、肉芽組織の存在、肉芽組織の厚さ、創傷治癒段階(例えば、止血、炎症、増殖、リモデリング段階など)、上皮被覆率、上皮層厚さ、バイオマス、バイオバーデン、感染レベル、感染タイプ、壊死組織、治癒組織などを含む組織特性のうちの1つ以上の空間分布の表現(複数可)を指す。組織特性は、マップ(複数可)又は他の好適なデータ構造の形態で存在し得る。いくつかの場合において、組織特性表現又はマップは、治癒メトリクスを含んでもよい。
【0011】
「治癒メトリクス」という用語は、組織特性データに対して実行される計算を表す創傷のグローバル評価(複数可)を指す。治癒メトリックは、創傷長さ、創傷幅、創傷深さ(例えば、最大、最小、平均など)、創傷面積、創傷体積、肉芽組織厚さ(例えば、最大、最小、平均など)、総上皮被覆率(例えば、新しい上皮で覆われた創傷床のパーセント)、上皮厚さ(例えば、最大、最小、平均など)、総バイオバーデン、バイオフィルム厚さ(例えば、最大、最小、平均など)、バイオフィルム量などを含み得る。
【0012】
図1は、1つの実施形態による、例示的な創傷測定システム100を示す概略図である。図示される実施形態では、創傷測定システム100は、デバイス102及びコンピューティングデバイス106を含む。いくつかの場合において、デバイス102は、診断デバイス又は監視デバイスである。いくつかの場合において、デバイス102は被覆材である。デバイス102は、例えば、有線接続又は無線接続によって、コンピューティングデバイス106に通信可能に結合され得る。コンピューティングデバイス106は、ディスプレイ218、出力221、及びユーザインターフェース228のユーザ入力222に結合された処理回路216を含んでもよい。いくつかの実施例では、ディスプレイ218は、1つ以上のディスプレイデバイス(例えば、モニタ、PDA、携帯電話、タブレットコンピュータ、任意の他の好適なディスプレイデバイス、又はこれらの任意の組み合わせ)を含んでもよい。例えば、ディスプレイ218は、生理学的情報、及び創傷測定システム100によって決定された上皮組織特性を示す情報を表示するように構成され得る。
【0013】
デバイス102は、任意のタイプの構造であってもよい。いくつかの実施例では、デバイス102は、可撓性裏当て材と、患者14の皮膚に接着するための接着剤と、電極130とを含む包帯を含んでもよい。いくつかの実施例では、デバイス102は、電極130を含む発泡体被覆材を含んでもよい。いくつかの実施例では、デバイス102は、例えば、接着剤を介して組織に添着される、又は物理的に定位置に保持される、材料を含んでもよい。他の実施例では、デバイス102は、診断パッチ、例えば、電極130のいずれかを含む材料であってもよい。いくつかの実施例では、創傷測定/監視のため、デバイス102と組織部位150との間に配置された滅菌生理食塩水含有ガーゼ、ゲルなどの追加の材料を患者14に適用することができる。
【0014】
デバイス102は、電極130のアレイを含む。デバイス102が試験される創傷床に配置されると、電極のアレイは、信号発生器から組織部位150の外側の創部周囲組織部位152に電気信号を印加することができる。組織部位150は、創傷組織又は創傷床、例えば、上皮層及び/又は皮下組織への創傷を有する組織に対応し得る。組織部位150は更に、あざを有する組織、発疹を有する組織、感染を有する組織などに対応してもよい。組織部位150は更に、観察可能な開放創傷が存在しない場合に、創傷の再発又は発症について監視される(例えば、一般的な組織の健康、治癒組織の保存、皮弁及び移植片などの再建組織又はドナー組織の生存率、浮腫、静脈性下腿潰瘍(VLU)、又は褥瘡(PU)について監視する)必要がある、最近治癒した又は現在損傷していない組織に対応し得る。創部周囲組織部位152は、創傷床を越えて特定の距離(例えば、4cmなどの数センチメートル)まで延在する皮膚の領域、又は創傷床から延在する周囲の皮膚として定義され得る、創部周囲領域内の組織に対応し得る。いくつかの実施例では、追加の材料は、薬剤などの治療を含んでもよく、及び/又は少なくとも部分的に導電性であってもよく、電極130と創部周囲組織部位152との間の導電性を向上させてもよい。
【0015】
1つ以上の信号発生器は、電極130のアレイに電気的に接続され得、交流電気信号(例えば、電気波形)を生成するように構成され得る。電気信号は、正弦波、方形波、パルス波、三角波、のこぎり波などであってもよい。信号発生器は、1kHz~2kHz、2kHz~4kHz、4kHz~55kHz、55kHz~120kHzを含む任意の周波数で1つ以上の周波数を含む電気信号を生成するように構成されてもよい。いくつかの実施例では、信号発生器は、上記の例示的な範囲よりも大きくても小さくてもよい周波数範囲の電気信号を生成するように構成され得る。いくつかの実施例では、電気信号発生器は、約85kHz(例えば、85kHz±10kHz)などの所定の周波数で電気信号を生成するように構成されてもよい。図示の実施例では、信号発生器は電気信号を生成するように構成されている。
【0016】
図1の描写された実施形態では、デバイス102は、処理回路116及びメモリ124を更に含む。いくつかの実施形態では、デバイス102は、電気信号をコンピューティングデバイス106に転送することなく電気信号を処理し得る。例えば、処理回路116は、組織部位150に近接する創部周囲組織側152に印加される電気信号を検出するための信号モニタを更に含んでもよい。他の実施形態では、電気信号、又は電気信号に対応する情報は、例えば、デバイス102とコンピューティングデバイス106との間の有線又は無線接続によって、処理のためにコンピューティングデバイス106に転送されてもよい。
【0017】
メモリ116及びメモリ224は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読取り専用メモリ(ROM)、不揮発性RAM(NVRAM)、電気的消去可能プログラマブルROM(EEPROM)、フラッシュメモリなど、任意の揮発性又は不揮発性媒体を含み得る。メモリは、記憶デバイス又は他の非一時的媒体であってもよい。メモリは、例えば、創傷監視などの生理学的監視に対応する基準情報又は初期化情報を記憶するために、処理回路216又は処理回路124によって使用されてもよい。いくつかの実施例では、処理回路216又は処理回路124は、生理学的測定値又は電気信号から以前に受信したデータを、後の検索のためにメモリ内に記憶してもよい。いくつかの実施例では、処理回路は、上皮組織特性を示す情報などの決定された値、又は任意の他の計算された値を、後の検索のためにメモリ内に記憶してもよい。
【0018】
図2Aは、1つの実施形態による、創傷測定システム200によって試験される組織部位の概略上面図である。図2Bは、図2Aの組織部位の概略側面図である。図2Cは、図2A図2Bの組織部位に適用される創傷測定システム200を示す概略図である。図2A図2Bの実施例に示されるように、組織部位150は開放創傷組織に対応する。創部周囲組織部位152は、開放創傷組織150を取り囲む領域に対応する。開放創傷組織150に隣接又は接続された皮下創傷組織154は、創部周囲組織部位152の下にあり、したがって肉眼では見ることができない。創傷床の総体積は、目に見える開放創傷組織150と、見えない皮下特徴154(例えば、トンネル及び皮下組織剥離)に関連する体積との両方を含む。従来の臨床方法(例えば、定規ベースの測定又は写真ベースの測定を使用する)が創傷体積を正確に決定することは困難である。従来の臨床方法は、時に創傷体積のかなりの部分を含み得るこれらの見えない皮下体積を説明できない場合が生じるからである。
【0019】
創傷測定システム200は、創部周囲組織部位152に配置された電極210のアレイを含む。電極210のうちの1つ以上は、皮下創傷組織154の上方に配置されてもよい。図2Cに示される実施例では、電極210aは、皮下創傷組織154の真上に配置される。電極210のアレイは、基板20によって支持される。図示された実施例では、基板20は、開放創傷組織150を実質的に覆う中心部分202と、中心部分202の周辺部204とを含む。電極210のアレイは、被覆材周縁204の内側表面上に配置される。
【0020】
いくつかの実施例では、開放創傷上に追加の電極を配置することができることを理解されたい。いくつかの実施例では、電極は、創部周囲組織のみに、又は開放創傷及び創部周囲の両方に存在することができる。いくつかの実施例では、創部周囲内に存在する電極は、(i)敏感な開放創傷組織に接触する必要がないため侵襲性が低く、(ii)無傷の創部周囲組織との電気的インターフェースが、治癒するにつれて時間に対して変化する開放創傷組織よりも安定している可能性が高いという点で望ましい。
【0021】
いくつかの実施例では、電極は、4プローブ測定のために提供され、2つの電極は、電流ソース用のものであり、2つの電極は、電圧測定用であり、電極の最小数は、4である。いくつかの実施例では、マッピング結果を得るために8つ以上の電極が提供される。より多くの数の電極は、より高い分解能及び精度を可能にし得る。
【0022】
創部周囲組織に対して創傷を取り囲むパターンでの電極アレイの配置を可能にするために、任意の好適な形式の電極デバイスを使用することができることが理解されるべきである。いくつかの実施例では、電極アレイは、例えば、陰圧閉鎖療法(NPWT)被覆材のドレープ上などの被覆材の周縁上に配置することができる。いくつかの実施例では、電極アレイは、非被覆材診断デバイスに統合されることができる。1つの実施例では、可撓性回路基板は、複数の電極が接続されることができるスナップコネクタで装飾され得る。1つの実施例では、デバイスは、創傷床と相互作用することができる金属製ピン電極の内側配列、又は創傷を取り囲む創部周囲組織と相互作用する複数の金属製ピン電極を有する可撓性プリント回路基板(PCB)を含んでもよい。同様の構成は、リジッドPCBフォーマットにおいても実装することができる。これらの電極は、創傷床内、創傷床外、又はその両方に配置することができる。
【0023】
再び図2Cを参照すると、システム200は、電極210のアレイに電気的に接続された電子機器構成要素220を更に含む。電子機器構成要素220は、各種の制御回路、プロセッサ、メモリ、電源などを含んでもよい。例えば、電子機器構成要素220は、図1に示されるような処理回路116、メモリ124、処理回路216、及びメモリ224のうちの1つ以上を含んでもよい。
【0024】
電子機器構成要素220は、電極210のアレイを介して創部周囲組織に電気信号を印加し、電極210のアレイから電気測定値を収集し、収集された電気測定値を処理して創傷床(例えば、開放創傷組織150及び皮下創組織154)の1つ以上のインピーダンスマップを生成し、インピーダンスマップを創傷床の臨床メトリクスの空間マップに変換するように構成される。取得された創傷床情報は、ディスプレイ、ユーザ入力、及び出力を含み得る、ユーザインターフェース230を介して出力されることができる。後に詳述するように、1つ以上のインピーダンスマップは、非創傷組織を表すベースラインマップを含むこともできる。
【0025】
電気インピーダンストモグラフィ(EIT)は、連続的な2次元(2D)又は3次元(3D)空間内の電気インピーダンスの空間分布を測定及び決定するために使用される。典型的には、インピーダンス測定値は、連続2D/3D空間内に疎に分布する電気接点から取得され、その連続2D/3Dのインピーダンスマップは、空間に対する有限要素モデル(FEM)の逆問題を解くことによって再構成される。本明細書に説明される創傷監視用途では、創傷組織及び近傍組織の抵抗/導電プロファイルを空間的にマッピングするために、電極のアレイが、創部周囲組織上の創傷床の周囲に配置される。
【0026】
創傷床のEITマッピングを実施するための電子機器は、電極210と、制御及びデータ取得の測定のためのマイクロコントローラと、電源としての低雑音精度電流源と、雑音フィルタリング及び信号増幅のためのアナログデジタル(ADC)前置増幅器と、電流供給及び電圧測定のために電極を切り替える入力/出力マルチプレクサと、を含み得る。
【0027】
インピーダンスマップは、単一の周波数又は複数の周波数で取得され得る。いくつかの実施形態では、インピーダンスは、異なる推定方式を通して確立された異なるベースラインに関して測定され得る。ベースラインは、創傷前の組織を表す導電率値のマップを指し得る。相対導電率は、ベースラインマップから減算された組織の現在の導電率マップを指し得る。
【0028】
いくつかの実施例では、非創傷組織のベースライン測定は、非創傷組織のバックグラウンド導電率を捕捉する均一測定と、創傷組織の導電率を捕捉する不均一測定と、を含んでもよい。ベースラインの推定のための方法は、例えば、周波数差EIT(fdEIT)、測定スケール特徴(MSF)、ベストホモジニアス(BH)推定量、データ駆動型推定量、又はこれらの組み合わせを含み得る。データ駆動型推定量は、データベース参照を使用する機械学習及び深層因果学習方法を含むことができる。有用なデータベース参照は、患者履歴又は患者人口統計に基づくことができる。
【0029】
代替として、非創傷組織のベースライン測定を必要としない方法を使用して、創傷組織の導電率マップを再構築することも可能である。生体組織は特有の周波応答を有し得るので、fdEIT再構成法によって創傷床のインピーダンス分布を画像化することができ、創傷組織上の少なくとも2つの周波下で測定が行われる。第1の周波数(すなわち、基準周波数)での測定は、ベースライン測定のためのプロキシとして機能することができ、第2の周波数(すなわち、測定周波数)での測定は、不均一測定として働く。
【0030】
導電率マップを再構築する際に、異なる方法を使用することができる。例示的な方法は、1ステップガウス-ニュートン(GN)法及び反復全変動(TV)法を含み、それぞれの場合において、好適なハイパーパラメータを適用する。ハイパーパラメータは、異常と背景との間のコントラストの程度を最適化するために発見的に決定することができる。この発見的選択は、任意の所定の戦略に基づく自動選択に置き換えることができることに留意されたい。1ステップGN法は、異常の形状及びサイズの許容可能な品質を有するリアルタイム再構成結果を提供することができる。反復法であるTV法は、GN法と比較して計算的に遅い傾向があるが、位相特徴のより高い分解能を提供することもできる。
【0031】
更なる代替として、ベースライン測定推定技術を適用して、非創傷組織の均一な導電率分布を計算することができる。次いで、TdEITは、推定されたベースライン測定値及び不均一測定値を取得して、創傷床の導電率マップを再構成することができる。例えば、最良均質近似又は事前定義されたMSFのいずれかを使用して、ベースライン測定値を推定することができる。n個の電極を有するEITシステムでは、ベースライン測定値Uベースラインは、隣接するシミュレーションパターンの設定下でのn(n-3)個の電圧測定値のベクトルを表す。
【0032】
1つの実施形態では、Uベースラインは、以下のステップによって推定される。最初に、創傷床及び電極配置の幾何形状を反映する有限要素モデル(FEM)が生成される。第2に、シミュレートされたベースライン測定値Uが、均一な導電率分布を有するFEMから得られ、ベースライン導電率σ=1である。第3に、不均一測定値Umeasが創傷床から取得される。最後に、Uは、ベースライン測定値を推定するために比率パラメータμによってスケーリングされる。したがって、ベースラインベクトルは以下のように表される。
【0033】
【数1】
ベースライン推定のためにBH法を使用する場合、比率パラメータμを以下のように表すことができる。
【0034】
【数2】
ベースライン推定にMSF演算子を使用する場合、比率パラメータμを以下のように表すことができる。
【0035】
【数3】
式中、fは、測定値を特徴値にマッピングする特徴演算子として定義される。例示的なMSF演算子は、算術平均、レンジ、ミッドレンジ、電極ベースの平均レンジ、及び電極ベースの平均ミッドレンジを含む。それぞれの数学的表現を以下に示す。
【0036】
【数4】
【0037】
いくつかの実施形態では、新しいインピーダンスマップは、所与の周波数におけるインピーダンスマップから、及び異なるベースライン推定方式から生成されたマップから、算術的に計算され得る。測定されたインピーダンスは、個人の組織部位ごと、例えば、同じ患者及び/又は動物上の異なる組織位置ごとの電気的特性の変動、異なる時間における組織特性の変動、並びに個人ごと、例えば、患者ごと及び/又は動物ごとの変動のために変動し得る。例えば、組織の電気的特性は、組織の構成要素と厚さ、組織含水量及び/又は組織水和、測定時の周囲相対湿度などに基づいて変化し得る。加えて、組織の電気的特性は、どの特定の組織型がその位置に存在するかに依存し得る。例えば、変化は、筋対脂肪蓄積組織について、及び創傷組織、非創傷、十分に上皮化された組織対それらの中に様々なタイプ及び量の治癒組織を有する開放創傷領域(例えば、創傷床における異なる量の肉芽組織充填及び/又は創傷床の上の異なる程度の上皮被覆)の場合について観察される。
【0038】
得られたインピーダンスマップを使用して、創傷境界及び他の創傷特徴を決定することができる。いくつかの実施形態では、創傷組織インピーダンスのマップは、治癒の定量的メトリクスに変換されることができる。換言すれば、EITを介して取得されたインピーダンス(例えば、コンダクタンス又は抵抗)の空間マップは、例えば、創傷形状、深さ、サイズ(例えば、面積又は体積)、肉芽組織の量、上皮被覆率、創傷段階などの治癒の定量的マップに変換することができる。
【0039】
いくつかの実施形態では、1つ以上のインピーダンスマップは、較正モデルを使用してインピーダンスマップを較正することによって、臨床メトリクスの空間マップに変換されることができる。臨床メトリクスは、z軸が創傷床の深さ方向に対応するデカルト座標系(x,y,z)における(x,y)座標に対する様々な創傷情報データを含むことができる。例示的な臨床メトリクスは、創傷深さd(x,y)、肉芽組織厚さt(x,y)、上皮被覆率c(x,y)、バイオフィルム厚さt(x,y)、バイオバーデン(すなわち、所与の量の材料中に見出される汚染生物の数)b(x,y)、感染レベルi(x,y)、治癒段階(例えば、炎症、増殖、又はリモデリング段階)指標h(x,y)などを含み得る。
【0040】
いくつかの実施形態では、較正モデルは、インピーダンスマップを臨床的メトリクスの物理的に測定された創傷データに相関させることによって得ることができる。一般に、較正モデルは、様々な位置(x,y)におけるインピーダンスと臨床メトリックとの間の関係を記述する。例えば、1つの較正モデルは、インピーダンス関連特性(例えば、導電率)と創傷深さd(x,y)との間の関係を記述することができる。物理的に測定された臨床メトリクス、例えば、この場合、創傷深さに相関させることによって、インピーダンスマップが生成された後、較正モデルは、測定されたインピーダンスマップを創傷深さのマップに変換するために使用されることができる。同様に、インピーダンス関連の特性を、例えば、創傷深さ、創傷長さ、創傷幅、創傷面積、創傷体積、創傷トポグラフィー、肉芽組織厚さ、上皮被覆率、バイオフィルム厚さ、バイオバーデン、感染レベル、治癒段階(例えば、止血、炎症、増殖、又はリモデリング段階)などを含む対応する臨床メトリクスに相関させることによって、様々な較正モデルを生成することができる。測定されたインピーダンスマップを、対応する臨床メトリクスのマップに変換するため、生成された様々な較正モデルを使用することができる。
【0041】
図3Aは、1つの実施形態による、較正モデルを生成する方法300の流れ図である。310において、較正創傷床又は創傷床モデルが選択され、較正されるべき創傷メトリックの多様な表現を含み得る(例えば、インピーダンスマップを創傷サイズに較正するために、異なる創傷サイズを含む創傷又は創傷モデルが、強い較正を生成するために必要とされる)。320において、図1のシステム100及び図2のシステム200などの創傷測定システムが、較正創傷床から電気信号を収集するために使用される。例示的な電気信号は、図2Cに示されるように、創傷床の外側の創部周囲組織上に配置された電極のアレイから測定される電圧(例えば、振幅及び/又は位相)を含む。330において、収集された電気信号に基づいて、電気インピーダンストモグラフィ(EIT)の方式の下で、電気インピーダンスの空間分布からインピーダンスマップが決定される。1つの実施例では、インピーダンスマップは、測定された電圧を使用して、電気インピーダンストモグラフィ(EIT)の方式の下で再構成される相対導電率のマップであってもよい。340において、例えば、創傷深さ、肉芽組織厚さ、上皮被覆率、バイオフィルム厚さ、バイオバーデン、感染レベル、治癒段階(例えば、炎症、増殖、又はリモデリング段階)などのような、決定されるべき1つの特定のタイプの臨床メトリクスに関連するグラウンドトゥルースデータを測定することができる。例えば、較正創傷床についてのグラウンドトゥルース創傷深さデータは、例えば、定規又はカメラベースのデバイスなどの任意の好適な手段によって測定することができる。350において、較正モデルは、330におけるインピーダンスマップと、340における測定されたグラウンドトゥルースデータと、を相関させるために作成される。例えば、図3Bに示されるように、較正曲線301は、同じ較正創傷床について、測定導電率の変化を測定された組織深さに相関させることによって作成される。インピーダンス関連特性のデータ及び臨床メトリックのグラウンドトゥルースデータが較正創傷サンプルについて得られるとき、それらの間の関係は、例えば機械学習などの様々な較正方式を通して抽出され得ることを理解されたい。360において、較正モデルが出力され、後の検索のために電子機器構成要素220に記憶され得る。
【0042】
図4は、1つの実施例による、創傷深さ及び創傷体積推定値のトポグラフィマップを生成する方法400の流れ図である。410において、測定は、電極のアレイを介して、創傷床を少なくとも部分的に囲む創部周囲組織に電気信号を印加することによって開始する。420において、図1のシステム100及び図2のシステム200などの創傷測定システムが、創傷床から電気信号を収集するために使用される。例示的な電気信号は、図2Cに示されるように、創傷床の外側の創部周囲組織上に配置された電極のアレイから測定される電圧(例えば、振幅及び/又は位相)などのインピーダンス関連の特性を含む。430において、収集された電気信号に基づいて、電気インピーダンストモグラフィ(EIT)の方式の下で、電気インピーダンスの空間分布からインピーダンスマップが決定される。1つの実施例では、インピーダンスマップは、測定された電圧を使用して、電気インピーダンストモグラフィ(EIT)の方式の下で再構成される相対導電率のマップであってもよい。440において、435からの較正モデル及びインピーダンスマップに基づいて、1つ以上の特定のタイプの臨床メトリクスに対する空間マップが生成される。特定のタイプの臨床メトリクスは、例えば、創傷深さ、肉芽組織厚さ、上皮被覆率、バイオフィルム厚さ、バイオバーデン、感染レベル、治癒段階(例えば、炎症、増殖、又はリモデリング段階)などを含んでもよい。使用される較正モデルは、図3Aに示されるような300の方法によって得ることができる。例えば、図3Bの較正曲線301を使用して、相対導電率マップを創傷深さマップに変換することができる。450において、創傷体積推定値は、様々な部位における創傷深さの値の積分によって、決定された創傷深さマップに基づいて取得される。460において、創傷深さマップ及び創傷体積推定値は、図2Cのユーザインターフェース230などのユーザインターフェースを介して出力され得る。
【0043】
図5は、1つの実施例による、創傷治癒データを生成する方法500の流れ図である。510において、測定は、電極のアレイを介して、創傷床を少なくとも部分的に囲む創部周囲組織に電気信号を印加することによって開始する。520において、図1のシステム100及び図2のシステム200などの創傷測定システムが、創傷床から電気信号を収集するために使用される。例示的な電気信号は、図2Cに示されるように、創傷床の外側の創部周囲組織上に配置された電極のアレイから測定される電圧(例えば、振幅及び/又は位相)を含む。530において、収集された電気信号に基づいて、電気インピーダンストモグラフィ(EIT)の方式の下で、電気インピーダンスの空間分布からインピーダンスマップが決定される。1つの実施例では、インピーダンスマップは、測定された電圧を使用して、電気インピーダンストモグラフィ(EIT)の方式の下で再構成される相対導電率のマップであってもよい。540において、545からの較正モデル及びインピーダンスマップに基づいて、1つ以上の特定のタイプの臨床メトリクスに対するマップが生成される。特定のタイプの臨床メトリクスは、例えば、創傷深さ、肉芽組織厚さ、上皮被覆率、バイオフィルム厚さ、バイオバーデン、感染レベル、治癒段階(例えば、止血、炎症、増殖、又はリモデリング段階)などを含んでもよい。臨床メトリクスのマップに基づいて計算することができる創傷体積以外の他の治癒データとしては、例えば、創傷のトポグラフィマップが特定の深さ未満になる場合の創傷断面積の計算、バイオバーデン及び/又は感染レベルを空間的に積分することによる感染の総レベル、バイオフィルムの厚さを積分することによるバイオフィルム体積、治癒段階のマップを積分して総創傷面積で除算することによる治癒段階Xにおける創傷のパーセントが挙げられる。550において、創傷治癒データは、臨床メトリクスのマップ上で計算を実行することによって抽出される。例示的な創傷治癒データは、創傷体積、創傷体積対時間、創傷体積閉鎖速度、創傷面積、創傷面積対時間、創傷面積閉鎖速度、肉芽組織の量、肉芽組織増殖速度、上皮被覆率、上皮形成速度、感染レベル、感染リスク評価スコアなどを含み得る。560において、創傷治癒データは、図2Cのユーザインターフェース230などのユーザインターフェースを介して出力され得、創傷治癒データは、本明細書で創傷治癒の段階を示す情報として使用することができる。他の創傷情報は、創傷深さ、肉芽組織厚さ、上皮被覆、バイオフィルム厚さ、バイオバーデン、及び感染レベルを含むことができる。
【0044】
EITマッピングで使用される電極は、いつでも劣化又は故障する可能性がある。電極の全てが名目上動作している場合であっても、不適切な設置又は不利な環境条件は、組織表面から電極への電気/イオン導電経路を確立するために使用される接着剤接続性を劣化させ得る。電極又は接続性能の劣化は、接触インピーダンスの増加に起因して不正確な信号読取値を生成する可能性があり、したがって、EITを用いて再構成された導電率マップの忠実度を劣化させる。有利なことに、電圧-電流相反原理は、これらの劣化又は故障した電極を識別し、EITマッピング結果を補正するための試験を提供することができる。
【0045】
電圧-電流相反は、電極の励起及び測定対を用いて取得されるデータが、理想的な条件下で、電極対を反転させることによって得られるデータと同等であることを提供する。劣化又は故障した電極の場合、影響を受けた測定値は、一般に、電圧-電流相反原理に従わない。誤った電極が励起対の一部であるとき、電極接触インピーダンスが定電流源の最大外部負荷に達する場合、より少ない電流が電極を通って流れる。誤った電極が測定対の一部であるとき、差動増幅器の1つの入力が浮動しているので、一貫性のないデータが取得される。これらのシナリオでは、電圧-電流相反原理が破られる。
【0046】
電圧測定のための相反誤差Vは、電圧-電流相反に基づいて、測定された電気測定値を予測された電気測定値と比較することによって得られる。相反誤差eは、次のように定義することができる。
=(V-V
式中、Vは、Vの相反測定値を表す。
【0047】
式中、Vが、電極a及び電極b間の電圧差になるのは、電極c及び電極dから電流を供給するときである。次に、Vが電極c及び電極d間の電圧差になるのは、電極a及び電極bから電流を供給するときである。劣化又は故障した電極からの誤った測定値を用いてEITマップを適切に再構成するために、重みパラメータσは、この相反に基づいて、以下のように、EIT再構成アルゴリズムに誤差を導入することができる。
【0048】
【数5】
式中、τは経験的に決定することができる無単位定数である。
【0049】
有利なことに、重みパラメータは、電極性能及び/又は接続性能の変動をアルゴリズム的に補償することを可能にする。相反誤差が0の場合、この重みパラメータは1に等しいので、重み付け効果は適用されない。この方式では、大きな相反誤差eは、誤った電極からの測定値がEITマッピング結果に与える悪影響が小さくなるように、1より小さい値に対応する。各電極の劣化状態を追跡するために、各電極に対応する全ての測定値の平均重み値σsは、以下のように計算することができる。
【0050】
【数6】
式中、
【0051】
【数7】
は、電極iの平均重量であり、Nは、電極iを含む測定の数である。
【0052】
被覆材、創傷床の創傷特徴を取得するシステム、及び創傷床の創傷特徴を取得する方法である様々な実施形態が提供される。実施形態1~10、実施形態11~13及び実施形態14~15のいずれかを組み合わせ得ることを理解されたい。
【0053】
実施形態1は、創傷床の創傷特徴を取得する方法であって、方法は、
電極のアレイを介して、創傷床の外側の創部周囲組織に1つ以上の電気信号を印加することと、
電極のアレイに機能的に接続された回路を介して、電極のアレイから電気測定値を収集することと、
プロセッサを介して、収集された電気測定値を処理して、創傷床の1つ以上のインピーダンスマップを生成することと、
1つ以上のインピーダンスマップを、創傷床の臨床メトリクスの空間分布を表す1つ以上の組織特性マップに変換することと、を含む方法。
【0054】
実施形態2は、1つ以上のインピーダンスマップを1つ以上の組織特性マップに変換することが、電気測定値を、創傷床の臨床メトリクスに関連する物理的に測定された創傷データに相関させることによって較正モデルを取得することを更に含む、実施形態1に記載の方法である。
【0055】
実施形態3は、較正モデルを得ることは、測定された相対コンダクタンス値を創傷深さの値に相関させることによって較正曲線を取得することを更に含む、実施形態2に記載の方法である。
【0056】
実施形態4は、較正モデルを使用することによって、1つ以上のインピーダンスマップを1つ以上の組織特性マップに変換することを更に含む、実施形態2又は実施形態3に記載の方法である。
【0057】
実施形態5は、1つ以上のインピーダンスマップは、1つ以上のサンプリング周波数における導電率、抵抗率、コンダクタンス、抵抗、リアクタンス、キャパシタンス、インダクタンス、インピーダンスの大きさ、インピーダンス位相角、複素インピーダンス、又はこれらの組み合わせの空間マップを含む、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法である。
【0058】
実施形態6は、1つ以上の組織特性マップは、創傷深さ、肉芽組織厚さ、上皮被覆率、バイオフィルム厚さ、バイオバーデン、感染レベル、又は創傷床の治癒段階の空間マップを含む、実施形態1~5のいずれか1つに記載の方法である。
【0059】
実施形態7は、グラフィックユーザインターフェース(GUI)を介して、1つ以上の組織特性マップ及びシステムの状態を表示することと、GUIを介して、ユーザからシステム構成パラメータを受信することと、を更に含む、実施形態1~6のいずれか1つに記載の方法である。
【0060】
実施形態8は、1つ以上の組織特性マップから創傷床の体積を決定することを更に含み、創傷床が1つ以上の皮下特徴を含む、実施形態1~7のいずれか1つに記載の方法である。
【0061】
実施形態9は、1つ以上の組織特性マップに基づいて、創傷断面積、総感染レベル、バイオフィルム体積、バイオフィルム被覆面積、肉芽組織の総体積、平均肉芽組織厚さ、平均創傷深さ、創傷長さ、創傷幅、総上皮被覆パーセンテージ、平均上皮厚さ、又は総上皮体積を含む組織特性の少なくとも1つを決定することを更に含む、実施形態1~8のいずれか1つに記載の方法である。
【0062】
実施形態10は、1つ以上の組織特性マップに基づいて組織特性を示す情報を出力することを更に含む、実施形態1~9のいずれか1つに記載の方法である。
【0063】
実施形態11は、創傷床の創傷特徴を取得するシステムであって、システムは、
創傷床の外側の創部周囲組織に電気信号を印加するように構成された電極のアレイと、
電極のアレイに機能的に接続され、電極のアレイから電気測定値を収集する回路と、
プロセッサと、を備え、プロセッサは、
収集された電気測定値を処理して、創傷床の1つ以上のインピーダンスマップを生成することと、
1つ以上のインピーダンスマップを、創傷床の臨床メトリクスの空間分布を表す1つ以上の組織特性マップに変換することと、から構成される、システム。
【0064】
実施形態12は、プロセッサは、1つ以上の組織特性マップに基づいて創傷治癒の段階を示す情報を決定するように更に構成されている、実施形態11に記載のシステムである。
【0065】
実施形態13は、1つ以上の組織特性マップ及びシステムの状態を表示し、ユーザからシステム構成パラメータを受信するためのグラフィックユーザインターフェース(GUI)を更に含む、実施形態11又は12に記載のシステムである。
【0066】
実施形態14は、創傷床に適用するためのデバイスであって、デバイスは、
創傷床の周囲に配置され、創傷床の外側の創部周囲組織に電気信号を印加するように構成された電極のアレイと、
電極のアレイに機能的に接続され、電極のアレイから電気測定値を収集する回路と、
ユーザから命令を受信し、収集された電気測定値に基づいて情報を表示するためのユーザインターフェースと、を含むデバイス。
【0067】
実施形態15は、実施形態14に記載のデバイスであって、回路は更に、
収集された電気測定値を処理して、創傷床の1つ以上のインピーダンスマップを生成することと、
1つ以上のインピーダンスマップを、創傷床の臨床メトリクスの空間分布を表す1つ以上の組織特性マップに変換することと、から構成される、デバイス。
【0068】
実施形態16は、創傷床の1つ以上のインピーダンスマップは、アルゴリズム的に推定され、非創傷組織のベースライン測定を必要とせず、創傷床の1つ以上のインピーダンスマップは、周波数差EIT(fdEIT)、測定スケール特徴(MSF)、ベストホモジニアス(BH)推定量、データ駆動推定量、又はこれらの組み合わせを使用してアルゴリズム的に推定される、実施形態1~10のいずれか1つに記載の方法である。
【0069】
実施形態17は、創傷床の1つ以上のインピーダンスマップは、算術平均、レンジ、ミッドレンジ、電極ベースの平均レンジ、電極ベースの平均ミッドレンジ、又はこれらの組み合わせを含む測定スケール特徴(MSF)を使用してアルゴリズム的に推定される、実施形態16に記載の方法である。
【0070】
実施形態18は、創傷床の創傷特徴を取得する方法であって、方法は、
電極のアレイを介して、創傷床の外側の創部周囲組織に1つ以上の電気信号を印加することと、
電極のアレイに機能的に接続された回路を介して、電極のアレイから電気測定値を収集することと、
1つ以上の電極又は接続性能を定量化することと、
プロセッサを介して、収集された電気測定値を処理して、創傷床の1つ以上のインピーダンスマップを生成することであって、プロセッサが、1つ以上の電極又は接続性能の劣化をアルゴリズム的に補償することと、
1つ以上のインピーダンスマップを、創傷床の臨床メトリクスの空間分布を表す1つ以上の組織特性マップに変換することと、を含む方法。
【0071】
実施形態19は、実施形態18の方法であり、1つ以上の電極又は接続性能は、電圧-電流相反に基づく試験を実行することによって検出される。
【0072】
実施形態20は、1つ以上の電極又は接続性能の劣化をアルゴリズム的に補償することは、1つ以上の電極又は接続性能に対応する電気測定値に重みパラメータを適用することを含む、実施形態18又は実施形態19に記載の方法である。
【実施例
【0073】
これらの実施例は、単に例示の目的のためであり、添付の特許請求の範囲を限定することを意味しない。
【0074】
周方向電極デバイス
図6に示す8電極デバイスを、柔軟で可撓性のある基板上に作製した。電極は、3M RED DOT 2360電極(3M Company,St.Paul,MN)であった。このデバイスは、UV硬化性シリコーン封止材保護層と、硬化したシリコーン封止材に埋め込まれた電極を有する、電気リード及び接点として機能するようにレーザエッチングされ銀でブレード加工されたウレタンフィルムと、を含んだ。
【0075】
電気インピーダンストモグラフィ(EIT)ハードウェア及び方法
シミュレートされた創傷環境のEITマッピングを実装するために使用された電子機器は、制御及びデータ取得の測定のためのマイクロコントローラと、電源としての低雑音精度電流源と、雑音フィルタリング及び信号増幅のためのアナログ-デジタル変換器(ADC)前置増幅器と、電流供給及び電圧測定のために電極を切り替える入力/出力マルチプレクサと、を含んだ。電流供給及び電圧測定のための電極の切り替えは、CD74HC4067マルチプレクサ(Texas Instruments,Dallas,TX)を使用して制御した。Keithley 6221電流源(Keithly Instruments,Solon,OH)によって、20kHzの周波数(0.1mAから2mAまで調整可能な振幅)を有する交流電流をシミュレートされた創傷に供給した。電極対からの電圧測定値を、適切な抵抗器/電位差計フィードバック配置を有するINA 128計装増幅器(Texas Instruments)を使用して約17倍に増幅した。蛍光灯安定器(例えば、50kHz)及び電力線雑音(例えば、60Hz)などの周囲電磁干渉を減衰させるために、増幅された信号は、31.2kHzのカットオフ周波数を有するローパスフィルタによってフィルタリングされ、続いて、4.8kHzのカットオフ周波数を有するハイパスフィルタによってフィルタリングされた。フィルタリングされた信号は、最終的に1.65Vでバイアスされ(INA 111 AP増幅器、Texas Instruments)、マイクロコントローラの12ビット3.3V ADC入力ポートに供給される前に、INA 128計装用増幅器によって約12倍に増幅された。Electrical Impedance Tomography and Diffuse Optical Tomography Reconstruction Software(EIDORS)v3.9スクリプトをMATLAB(登録商標)(Mathworks,Natlick,MA)で使用して、EIT再構築マップを解いた。測定された電圧から導電率分布を再構築するための逆ソルバーとして、1ステップガウス-ニュートン逆モデルを採用した。逆モデルのハイパーパラメータ及びバックグラウンド値は、組織模倣ファントム(TMP)モデルの導電率に基づいて手動で設定された。
【0076】
シミュレートされた皮下特徴のない創傷の組織模倣ファントム(TMP)
創傷の無傷皮膚組織及び肉芽組織の電気的特性(すなわち、誘電特性及び導電特性)をシミュレートするために、組織模倣ファントム(TMP)創傷モデルをゼラチンベースのプロキシ組織構造として調製した。
【0077】
人工無傷皮膚組織を、水(230g)、ゼラチン(34.1g)、塩化ナトリウム(1.4g)、植物油(75.0g)、及び洗浄剤(40.0g)の混合物として調製した。
【0078】
人工肉芽組織を、水(230g)、ゼラチン(34.1g)、塩化ナトリウム(1.2g)、植物油(15.0g)、及び界面活性剤(40.0g)の混合物として調製した。
【0079】
試薬グレードのゼラチン及び塩化ナトリウム(純度99%)は、VWR USA(Radnor,PA)から入手した。植物油は、CRISCO純植物油(B&G Foods(Parsippany-Troy Hills,NJ)から入手)であった。洗剤は、IVORY Ultra Concentrated Dish Washing Liquid Soap(Procter and Gamble Company(Cincinnati,OH)から入手)であった。所与の人工組織を調製するために、ゼラチンを100gの脱イオン水と混合し、混合物を水浴中で80℃に加熱した。次いで、混合物をホモジナイザーで撹拌しながら35℃に冷却した。次に、残りの脱イオン水、塩化ナトリウム、及び洗剤を添加した。得られた混合物が28℃に達したら、混合しながら植物油を添加した。
【0080】
全てのTMP創傷モデルは、約28℃の注入可能温度を維持するために植物油中で混合した直後に、最初に人工無傷皮膚組織を9×9cmペトリ皿に1.2cmの深さまで注入することによって構築した。混合物を一晩冷却してゼラチンを硬化させた。得られた生成物をベースライン測定のための非創傷組織のTMPとして使用し、TMPモデル0とした。TMP創傷モデルについては、円筒形パンチ/カッター(直径6cm)を使用して、TMPモデル0の中心に深さ1.2cmの空洞を作製した。次いで、追加の人工無傷皮膚組織を深さ0.3cmまで空洞に注入することによって、シミュレートされた創傷のベースを作製した(深さ0.9cmの開放端空洞を残す)。組織を一晩硬化させた。この構築物をTMPモデルAとし、開放型非肉芽創のTMPモデルとして用いた。
【0081】
部分的に肉芽化しシミュレートされた創傷のTMPモデルを、以下の手順によって調製した。TMPモデルAの空洞を人工肉芽組織で0.3cmの深さまで充填し、組織を一晩硬化させて、TMPモデルBとして識別され部分的に肉芽化したTMP創傷モデルを得た。
【0082】
完全に肉芽化しシミュレートされた創傷のTMP創傷モデルを、以下の手順によって調製した。TMPモデルAの空洞を0.6cmの深さまで人工肉芽組織で充填し、組織を一晩硬化させた。このモデルは、TMPモデルCとして識別される完全に肉芽化したTMP創傷モデルとして機能し、種々の程度の上皮化を有する更なるTMP創傷モデルを調製するための基礎としても機能した。
【0083】
部分的に上皮化しシミュレートされた創傷のTMP創傷モデルを、以下の手順によって調製した。円形カウンターモールド(直径4cm)を、TMPモデルCの肉芽組織表面の中心の連続部を覆うように配置し、周辺肉芽組織表面の一部を露出させた。無傷の皮膚組織混合物をカウンターモールドの周りに添加し、空洞開放部の表面(すなわち、ファントムの上面とほぼ同じ高さ)まで空洞を充填した。硬化後、カウンターモールドを除去し、TMPモデルDとして識別される部分的に上皮化したTMP創傷モデルを残した。
【0084】
完全に上皮化しシミュレートされた創傷のTMP創傷モデルを、以下の手順によって調製した。TMPモデルCの残りの空洞を、空洞の上面(すなわち、ファントムの上面とほぼ同じ高さ)まで無傷の皮膚組織混合物で充填し、無傷の細胞組織を一晩硬化させて、TMPモデルEとして識別される完全に上皮化した創傷モデルを得た。
【0085】
シミュレートされた皮下トンネル特徴を有する創傷の組織模倣ファントム(TMP)
皮下特徴を有する創傷を生成するために、非肉芽創傷モデル(TMPモデルA)を使用した。ファントム材料を、スプーン形状のスパチュラ(Bel-Art SP Scienceware Stainless-steel Sampling Spoon and Spatula,ThermoFisher Scientific,Waltham,MA)を使用して創部周囲領域の下から掘削して、皮膚ファントムの上面の下にあり、図8Bに示されるように主空洞から延在する2つのシミュレートされた皮下トンネル特徴を生成した。これらのトンネル特徴は、シミュレートされた創傷の総体積を約70%増加させ、ペトリ皿の表面付近及び/又は表面に位置していた。この構築物をTMPモデルFとした。
【0086】
シミュレートされた皮下特徴のないオフセンター創傷の組織模倣ファントム(TMP)(TMPモデルG)
オフセンターTMP創傷モデルは、約28℃の注入可能温度を維持するために植物油中で混合した直後に、最初に人工無傷皮膚組織を9×9cmペトリ皿に1.2cmの深さまで注入することによって構築した。混合物を一晩冷却してゼラチンを硬化させた。次に、図9Aの写真画像に示されるように、円筒形パンチ/カッター(直径6cm)を使用して、各ファントムの中心から少し離れたところに深さ1.2cmの空洞を作成した。空洞は、ファントムの上面から底面まで延在する中空チャネルであった。ペトリ皿と接触しているゼラチンがファントムの底面を形成し、露出したゼラチン表面がファントムの上面を形成した。空洞は、シミュレートされた創傷領域として機能した。この構造をTMPモデルGとした。
【0087】
シミュレートされた皮下トンネル特徴を有するオフセンター創傷の組織模倣ファントム(TMP)(TMPモデルH)
スプーン形状のスパチュラ(Bel-Art SP Scienceware Stainless-steel Sampling Spoon and Spatula)を使用してファントムの底面から無傷のファントム材料を掘削することによって、TMP Model G(上記)に皮下トンネル特徴を追加した。この結果、ファントムの上面の下に位置し、主空洞からファントムの内部に延在する単一の大きなトンネル特徴が得られた。完成したTMPの底面の写真画像を図10Cに示す。この写真画像では、トンネル領域の視覚化を助けるために、トンネル領域の外周に沿って画像上に点線を重ね合わせた。元の空洞+掘削されたトンネル領域は、シミュレートされた創傷領域として機能した。この構築物をTMPモデルHとした。
【0088】
TMPのEITマッピング
TMPモデルA~TMPモデルFの相対導電率のインピーダンスマップとして、EITマップを作成した。8電極デバイス(上述)は、従来の剛性プリント回路基板(PCB)及び真鍮ピン電極と一緒に使用された。8つの電極の位置及び間隔並びにTMPの形状に基づいて、有限要素モデルを生成した。この電極デバイスをTMPモデル0及TMPモデルA~TMPモデルF上に配置して、測定される創傷ファントムの相対導電率の空間マップを取得して作成した。EITマップにおいて、空隙空間を有する領域は、より暗い色(黒から灰色)で視覚的に表される、より低い測定導電率を有し、人工組織で充填された領域は、より明るい色(明るい灰色から白)で表される、より高い測定導電率を有した。
【0089】
実施例1.シミュレートされた治癒の段階を通して進行するTMPモデルのEITマッピング
TMPモデルA~TMPモデルEとして調製した創傷ファントムを使用して、相当な治癒を伴わない比較的新鮮な創傷(TMPモデルA、肉芽組織なし、創傷炎症段階)から、それぞれ部分的な(いくらかの)肉芽組織及び完全な肉芽組織を有するTMPモデルB及びTMPモデルC(創傷増殖段階)まで、そして最後に、それぞれ部分的な(いくらかの)上皮被覆及び完全な上皮被覆を有するモデルD及びモデルE(創傷リモデリング段階)に至る、創傷治癒の進行をシミュレートした。「電気インピーダンストモグラフィ(EIT)ハードウェア及び方法」に記載された方法に従った。TMPモデル0をベースライン測定に使用して、TMPモデルA~TMPモデルEに対するEITマップを構築した。TMPモデルA~TMPモデルEのEITマップ(図7A図7C、「EITマップ行」)は、肉芽組織なしファントム(TMPモデルA)から完全上皮化ファントム(TMPモデルE)へと連続的に進行する暗い(黒色、灰色)領域の減少を示した。図7A図7Cにおいて、肉芽組織のないファントムのEITマップは、空洞を表す大きな黒色領域を有していたが、完全な上皮化マップのマップは、黒色領域のない白色から明るい灰色の色合いであった。これは、EITマップを使用して、創傷治癒の異なる段階を含む、創傷治癒の変化を視覚的に表すことができることを実証した。
【0090】
実施例2.EITデータに基づく創傷サイズ及び創傷閉鎖の推定
図7A図7Cの相対導電率のEITマップは、物理的に測定された創傷深さの値に経験的に相関した。較正モデル/曲線を作成するために、数十の創傷ファントム(異なる空洞直径及び深さを有する)からのEITマップデータが収集された。これにより、136,488個のデータポイントが得られた(各創傷ファントムについて、各EITマップ内のすべてのピクセルがデータポイントとして機能した)。データポイントをx/y軸上にプロットし、創傷深さをx軸に、導電率の変化をy軸にとった(例えば、図3Bを参照)。較正曲線は、最小二乗線形フィッティングによって生成した。較正曲線を使用して、例えば、EITマップ上のピクセル値を取得し、そのピクセルを深さの値に変換することによって、各部位における相対的な導電率を創傷深さに相関させた。
【0091】
較正曲線をEITマップ(この例では、図7図7Cの「EITマップ」の行における相対導電率対(x,y)座標の値)に直接適用して、それらをシミュレートされた治癒の異なる段階における創傷の輪郭マップ(この例では、図7A図7Cの「EITベースの創傷輪郭マップ」の行における組織又は創傷深さ対(x,y)座標の値)に変換した。これらの輪郭プロットは、創傷ファントムの体積形態を捕捉した。
【0092】
加えて、EITベースの創傷輪郭マップは、臨床医が患者創傷を監視するときに使用するデータを抽出するために使用された。例えば、EITベースの創傷輪郭マップを使用して、深度対x座標及びy座標の値を積分することによって、シミュレートされた創傷の空隙体積を計算した(表1)。「真のファントム創傷体積」は、a)TMPモデルを秤量し、TMPモデルの空隙体積を脱イオン水で満たし、c)TMPモデルを再秤量して、加えられた重量を決定し、d)加えられた重量を水の密度に基づいて体積に変換することによって、順次重量測定法で決定した。EITで計算されたTMPモデルA~TMPモデルEの体積は、対応する測定された「真のファントム創傷体積」と厳密に一致した。
【0093】
【表1】
N/A=適用不可、計算のベースとなった初期創傷体積
【0094】
実施例3.トンネル特徴部を有する創傷ファントムのマッピング及び体積推定
2つの掘削された皮下トンネル特徴を有する創傷ファントム(TMPモデルF)を、実施例1に記載されるようにEITを使用してマッピングした(図8A及び図8B)。皮下トンネル特徴の位置は、EITマップにおいて、より暗い色(暗い灰色及び黒色)で示されるように、より低い導電率の領域としてEITマップによって識別された。「体積マップ」画像(図8B)(実施例2に記載されたものと同一の較正方法を使用して計算された)では、空隙体積の細長い領域(皮下創傷構成要素をシミュレートする)が、トンネル領域内のファントムの開放部の上部及び下部から延在する。この創傷輪郭トポグラフィマップは、開放創傷体積及び覆われた皮下体積の両方を含む、ファントム創傷空間全体の物理的輪郭を非常によく重ね合わせた。
【0095】
ファントムの空隙体積は、3つの異なる方法によって決定された。方法1では、定規を使用して、開放空隙の深さ及び直径を測定し、測定値に基づいて、円筒形空隙空間を仮定して、空隙体積を計算した(すなわち、体積=深さx pi x半径)。この方法は、創傷の体積を測定するために臨床医によって使用されることが多く、皮下特徴の体積を測定しない欠点を有する。方法2では、実施例2に記載の方法に従って、水を用いて真体積を測定した。真体積法は、皮下特徴の体積を測定することを含む。方法3では、EITに基づく体積計算を行った。TMPモデルFの空隙体積は、EITベースのマッピングによって21.4cm、真体積測定法によって21.2cm、及び定規測定法によって12.6cmであると決定された。
【0096】
実施例4.アルゴリズム的に計算されたベースライン推定を使用した創傷ファントムのマッピング。
「電気インピーダンストモグラフィ(EIT)ハードウェア及び方法」に記載された方法に従った。8電極デバイスを、KAPTONポリイミドフレキシブルプリント回路基板(PCB)から調製した。デバイスは、電子リード線及び3M RED DOT 2560電極(3M Company)が取り付けられたスナップコネクタを備えていた。8つの電極の位置及び間隔並びにTMPの形状に基づいて、有限要素モデルを生成した。電極デバイスをTMPモデルG(図9A)の上面に配置して、測定される創傷ファントムの相対導電率の空間マップを取得して作成した。1ステップガウス-ニュートン法を用いて導電率マップを再構築し、ハイパーパラメータを0.3に設定した。
【0097】
実際のベースライン測定を使用する代わりに、BH及びMSF3ベースライン測定推定方法を独立して適用して、シミュレートされた非創傷領域の導電率分布を計算した。MATLAB(登録商標)のElectrical Impedance Tomography and Diffuse Optical Tomography Reconstruction Software(EIDORS)v3.9スクリプトを推定に使用した。より低い導電率のオフセンターのシミュレートされた創傷位置は、再構成されたマップにおいて正確に表示された(図9A図9C)。個々のEITマップ(BH法を使用した図9B及びMSF3法を使用した図9C)において、空洞領域は、より暗い色(黒から灰色)で視覚的に表される、より低い測定導電率を有し、人工組織で充填された領域は、より明るい色(明るい灰色から白)で表される、より高い測定導電率を有した。EITマップ画像の周辺の8つの小さな暗色領域は、電極の位置配置から生じたことに留意されたい。
【0098】
実施例5.アルゴリズム的に計算されたベースライン推定を使用した(皮下トンネル特徴を有する及び有さない)創傷ファントムのマッピング。
TMPモデルG(すなわち、シミュレートされた皮下トンネル特徴を伴わないTMPモデル)及びTMPモデルH(すなわち、シミュレートされた皮下トンネル特徴を伴うTMPモデル)が、MSF4ベースライン測定推定方法と一緒に使用されたことを除いて、実施例4の手順に従った。より低い導電率のオフセンターのシミュレートされた創傷位置は、再構成されたマップにおいて正確に表示された(図10B及び図10D)。
【0099】
TMPモデルGのEITマップにおいて、空洞領域は、より暗い色(黒から灰色)で視覚的に表される、より低い測定導電率を有し、人工組織で充填された領域は、より明るい色(明るい灰色から白)で表される、より高い測定導電率を有した。図10Aの画像A1は、TMPモデルGの上面の写真画像であり、図10Aの画像A2は、TMPモデルGのEITマップである。
【0100】
TMPモデルHの場合、EITマップは、空洞及び皮下トンネル特徴領域(すなわち、測定導電率がより低い領域)の両方を包含する暗色(黒から灰色)の有意により大きい領域を示したが、人工組織で充填された領域(すなわち、測定導電率がより高い領域)は、より明るい色(明るい灰色から白色)を有した。図10Bの画像B1は、TMPモデルHの底面の写真画像であり、図10Bの画像B2は、TMP-HのEITマップである。EITマップ画像の周辺の8つの小さな暗色領域は、電極の位置配置から生じたことに留意されたい。更に、図10A及び図10Bの破線は、TMPモデルの空洞及びトンネル領域の外周の視覚化を助けるために、撮像後に追加されたことに留意されたい。
【0101】
実施例6.fdEIT法を使用した創傷ファントムのマッピング
「電気インピーダンストモグラフィ(EIT)ハードウェア及び方法」に記載された方法に、TMPモデルA(写真画像の図11A)及び実施例4に記載の電極デバイスを用いて従った。電極デバイス(写真画像の図11B)をTMPモデルA(写真画像の図11C)の上面に配置して、測定される創傷ファントムの相対導電率の空間マップを取得して作成した。1ステップガウス-ニュートン法を用いて導電率マップを再構築し、ハイパーパラメータを0.8に設定した。2.5kHz及び40kHzの周波数でAC電流源を用いて捕捉された2つの測定値を利用するfdEIT法を使用した。均一ベースライン測定値は2.5kHzで捕捉され、不均一測定値は40kHzで捕捉された。再構成されたEITマップ(図11Dの画像)において、TMPモデルAの中心の空洞の領域は、より暗い色(黒から灰色)で視覚的に表される、より低い測定導電率を有し、人工組織で充填されたTMPモデルAの領域は、より明るい色(明るい灰色から白)で表される、より高い測定導電率を有した。
【0102】
実施例7.電極接続性劣化の検出及び電極重み付けパラメータの適用による劣化した電極性能のアルゴリズム的補償
生理食塩水で満たされたタンクファントムが、組織の電気的特性及び応答をシミュレートするための人工プロキシ構造として使用された。タンクファントムは、内径90mm、壁高さ14mm、壁厚2mmの円筒形プラスチックタンクからなっていた。8個の金属ワニクリップ(BU-30 Series,Mueller Electric Co.,Akron,OH)を垂直壁に固定し、円筒形タンクの周囲に沿って均一に分布させた。タンク内の各ワニクリップの一部が部分的に沈むまで、タンクを水で満たした。次いで、塩(NaCl)を添加して、イオン導電性媒体として機能する生理食塩水を生成した。各ワニクリップは電極として機能した。直径20mm、高さ16mmの円筒状の非導電性プラスチックディスクを、タンクファントムの中心からわずかにずれた位置で生理食塩水中に部分的に沈めた。「電気インピーダンストモグラフィ(EIT)ハードウェア及び方法」に記載された方法を使用して、ファントムのEITマップをベンチマーク参照マップとして生成した(画像の図12A)。非導電性プラスチックディスクの位置に対応するマップ内の領域は黒から暗い灰色であり、ディスクを取り囲む生理食塩水の残りの領域は明るい灰色であった。
【0103】
以下の方法を使用して、故障した電極からの誤った信号をシミュレートした。単一のEITマップを再構築するために、隣接するシミュレーションパターン(8電極システム)に基づいて40回の電圧測定を行った。最初の5つの電圧測定値は手動で0電圧にリセットされ、シミュレートされたエラー信号からのEITマップが生成された(画像の図12B)。誤った電極測定値の導入は、EITマップの右上周辺に位置する明るい白色のアーチファクト領域の出現をもたらした。EITマップにおけるこのアーチファクト領域は、ファントムの右上周辺部が高導電性材料を含まなかったので、マッピングされているファントムを忠実に表さなかった。シミュレートされた電極故障に対するEITマップの補正は、相反誤差をアルゴリズム的に計算し(e)、重みパラメータ(σ)を、上記の式及び方法で説明したように各電極測定値に対して適用することによって行われた。計算において、τ(タウ)を0.03に設定した。補正されたEITマップ(画像の図12C)は、重量調整された電極測定値から作成された。補正されたマップにおいて、図12Bで観察されたアーチファクト領域は除去されたが、プラスチックディスクに対応する黒色から暗い灰色の領域は維持された。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11
図12
【国際調査報告】