IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビーエーエスエフ コーポレーションの特許一覧

特表2025-501236潜在収量に基づく作物収量モデリング
<>
  • 特表-潜在収量に基づく作物収量モデリング 図1
  • 特表-潜在収量に基づく作物収量モデリング 図2
  • 特表-潜在収量に基づく作物収量モデリング 図3
  • 特表-潜在収量に基づく作物収量モデリング 図4
  • 特表-潜在収量に基づく作物収量モデリング 図5
  • 特表-潜在収量に基づく作物収量モデリング 図6
  • 特表-潜在収量に基づく作物収量モデリング 図7
  • 特表-潜在収量に基づく作物収量モデリング 図8
  • 特表-潜在収量に基づく作物収量モデリング 図9
  • 特表-潜在収量に基づく作物収量モデリング 図10
  • 特表-潜在収量に基づく作物収量モデリング 図11
  • 特表-潜在収量に基づく作物収量モデリング 図12
  • 特表-潜在収量に基づく作物収量モデリング 図13
  • 特表-潜在収量に基づく作物収量モデリング 図14
  • 特表-潜在収量に基づく作物収量モデリング 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】潜在収量に基づく作物収量モデリング
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/02 20240101AFI20250109BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
G06Q50/02
A01G7/00 603
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539518
(86)(22)【出願日】2022-12-30
(85)【翻訳文提出日】2024-08-14
(86)【国際出願番号】 US2022054339
(87)【国際公開番号】W WO2023129712
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】63/295,546
(32)【優先日】2021-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505470786
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルッソ,ジョセフ,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】グリム,ジェフリー,ウェイン
(72)【発明者】
【氏名】シュレーゲル,ジェイ,ウェズリー
(72)【発明者】
【氏名】スペンサー,ジェフリー,トーマス
【テーマコード(参考)】
5L050
【Fターム(参考)】
5L050CC01
(57)【要約】
本開示の実施形態は、栽培期における作物収量を決定、計算、又はシミュレートするシステム及び方法に関する。特定の実施形態では、モデルは、栽培者が、自らの栽培期に適した作物の品種を選択しており、自らの農場を最適に管理していると仮定した特定の圃場の環境上の制限を反映した潜在収量から開始する。特定の実施形態では、出発潜在収量にペナルティとして適用される環境ストレス要因を考慮することにより、栽培期末収量が予測され、作物収量モデルが、植物のストレス要因の主要カテゴリを分類することにより、栽培期後潜在収量、栽培期中潜在収量、及び栽培期末潜在収量をシミュレートする。これらのストレス要因は、動的な入力セットを使用して潜在収量を追跡し、ペナルティを課すために使用される。作物収量モデルは、作物フェノロジーモデルと併せて働いて、作物の発育の様々な生物季節学的段階に関する過去の平均値の特定を助ける。
【選択図】図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培期における作物収量を決定、計算、又はシミュレートする方法であって、前記方法が、
ユーザのデバイス、データベース、又はセンサからの入力を受信することであって、前記入力が、作物の種類、前記作物の植え付け日、及び栽培される前記作物の地理的位置を含む、受信することと、
前記作物の前記種類、前記植え付け日、前記地理的位置、及びフェノロジーモデルに少なくとも部分的に基づいて、理想の作物潜在収量を計算することと、
前記栽培期において発生が予測される、又は発生が観測される発育ストレス及び事象ストレスに少なくとも部分的に基づいて、ストレスモデルを計算することと、
前記理想の作物潜在収量に前記ストレスモデルを削減ペナルティとして適用することによって、実際の作物収量を計算することと、
前記実際の作物収量を、
表示のための前記ユーザのデバイス、
更なるモデリングのため、若しくは前記作物に適用するための推薦される薬剤を生成するための別個のコンピューティングデバイス、又は
前記作物を収穫又は処理するためのツールを動作させるように適合されたデバイス
のうちの1つ以上に送信することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記理想の作物潜在収量を計算するために利用される複数のパラメータを計算すること、又は読み出すことであって、前記複数のパラメータが、気象条件、土壌特性、及び作物の成熟に必要な作物固有の成長度日を表し、前記複数のパラメータが、少なくとも部分的に作物の前記種類、前記作物の植え付け日、及び地理的位置から、過去の気象及び作物の観測値と組み合わせて導出される、計算すること、又は読み出すことを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記理想の作物潜在が、前記地理的位置に関して、発育ストレス、環境ストレス、及び事象ストレスを含まずに計算される最大潜在収量を表す作物潜在収量を日付の関数として表すプロファイルとして計算される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記植え付け日、作物の品種、推定出芽日、及び度日積算モデルに基づいて、前記作物の植物発育段階を決定、計算、又はシミュレートすることによって、前記フェノロジーモデルを計算することを更に含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記栽培期において予測される放射損失条件、極端な温度条件、及び水分損失条件に少なくとも部分的に基づいて、発育ストレスを計算することを更に含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
結実損失モデル及び登熟損失モデルに少なくとも部分的に基づいて、事象ストレスを計算することを更に含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
土壌水分モデル及び草冠発育損失モデルに少なくとも部分的に基づいて、事象ストレスを計算することを更に含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記作物の処理に使用可能な農業機械を制御する直接又は間接制御パラメータとして、前記実際の作物収量を少なくとも部分的に使用することを更に含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記計算された実際の作物収量に基づいて、前記作物を収穫又は処理するための前記ツールをデバイスに動作させることを更に含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
栽培期における作物収量を決定、計算、又はシミュレートするシステムであって、前記システムが、
メモリデバイスと、
前記メモリデバイスに動作可能に結合されたプロセッシングデバイスを備え、
前記プロセッシングデバイスが、
ユーザのデバイス、データベース、又はセンサからの入力を受信し、前記入力が、作物の種類、前記作物の植え付け日、及び栽培される前記作物の地理的位置を含み、
前記作物の前記種類、前記植え付け日、前記地理的位置、及びフェノロジーモデルに少なくとも部分的に基づいて、理想の作物潜在収量を計算し、
前記栽培期において発生が予測される、又は発生が観測される発育ストレス及び事象ストレスに少なくとも部分的に基づいて、ストレスモデルを計算し、
前記理想の作物潜在収量に前記ストレスモデルを削減ペナルティとして適用することによって、実際の作物収量を計算し、
前記実際の作物収量を、
表示のための前記ユーザのデバイス、
更なるモデリングのため、若しくは前記作物に適用するための推薦される薬剤を生成するための別個のコンピューティングデバイス、又は
前記作物を収穫又は処理するためのツールを動作させるように適合されたデバイス
のうちの1つ以上に送信する
ように構成される、システム。
【請求項11】
前記プロセッシングデバイスが、前記理想の作物潜在収量を計算するために利用される複数のパラメータを計算し、又は読み出し、前記複数のパラメータが、気象条件、土壌特性、及び作物の成熟に必要な作物固有の成長度日を表し、前記複数のパラメータが、少なくとも部分的に作物の前記種類、前記作物の植え付け日、及び地理的位置から、過去の気象及び作物の観測値と組み合わせて導出されるように更に構成される、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記理想の作物潜在が、前記地理的位置に関して、発育ストレス、環境ストレス、及び事象ストレスを含まずに計算される最大潜在収量を表す作物潜在収量を日付の関数として表すプロファイルとして計算される、請求項10又は11に記載のシステム。
【請求項13】
前記プロセッシングデバイスが、前記植え付け日、作物の品種、推定出芽日、及び度日積算モデルに基づいて、前記作物の植物発育段階を決定、計算、又はシミュレートすることによって、前記フェノロジーモデルを計算するように更に構成される、請求項1~12のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
前記プロセッシングデバイスが、前記栽培期において予測される放射損失条件、極端な温度条件、及び水分損失条件に少なくとも部分的に基づいて、発育ストレスを計算するように更に構成される、請求項10~13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
前記プロセッシングデバイスが、結実損失モデル及び登熟損失モデルに少なくとも部分的に基づいて、事象ストレスを計算するように更に構成される、請求項10~14のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項16】
前記プロセッシングデバイスが、土壌水分モデル及び草冠発育損失モデルに少なくとも部分的に基づいて、事象ストレスを計算するように更に構成される、請求項10~15のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項17】
前記プロセッシングデバイスが、前記作物の処理に使用可能な農業機械を制御する直接又は間接制御パラメータとして、前記実際の作物収量を少なくとも部分的に使用するように更に構成される、請求項10~16のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項18】
前記システムが農業機械に組み込まれる、請求項10~17のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項19】
プロセッシングデバイスによって実行されると、前記プロセッシングデバイスに請求項1~9のいずれか1項に記載の方法を実行させる命令を符号化した非一時的コンピュータ可読媒体。
【請求項20】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法を実行するように構成されたオンボードプロセッシングデバイスを備える、作物を収穫又は処理するためのツール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年12月31日に出願された米国仮特許出願第63/295,546号の優先権の利益を主張するものであり、同米国仮特許出願の開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、作物収量をモデリングする計算技法に関する。
【背景技術】
【0003】
農業では、所定の農産物の生産量すなわち収量を最大化することが望ましい。作物の発育及び収量をシミュレートする技法が数多く存在する。しかしながら、栽培期における特定の環境ストレスが考慮されていない場合、モデル精度が低下することがある。更に、モデルは、植え付け条件の変動性、並びに気候及び気象パターンの変化から生じる基礎的前提の変化を考慮していないことが多い。
【0004】
ここで、本開示のより十分な理解を助けるために、添付の図面を参照する。添付の図面では、同様の要素は同様の数字を用いて参照される。これらの図面は、本開示を限定するものとして解釈されるべきではなく、例示のみを意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】本開示の実施形態による、例示的なシステムアーキテクチャを示す。
【0006】
図2】本開示の実施形態による、例示的なコンピュータシステムを示すブロック図である。
【0007】
図3】本開示の実施形態による、作物フェノロジーモデルを示すグラフである。
【0008】
図4】本開示の実施形態による、圃場レベルの作物フェノロジーモデリングを示すフロー図である。
【0009】
図5】50%コホートのトウモロコシ植え付け日と冬の気候指数との間の関係を示すプロットである。
【0010】
図6】本開示の実施形態による、圃場レベルの作物フェノロジーモデルにおいて使用される様々な式の入力及び出力を示すフロー図である。
【0011】
図7】本開示の実施形態による、植物発育段階をシミュレートする方法を示すフロー図である。
【0012】
図8】遺伝的な潜在から出発して潜在収量がどのように計算されるかを示すプロットである。
【0013】
図9】積雪深別に気温と冠温度との間の関係を示すプロットである。
【0014】
図10】理想の植え付け日と成熟日との間における最大晴天放射の分布を示すプロットである。
【0015】
図11】植え付け遅延が潜在収量に与える影響を示す。
【0016】
図12】土壌水収支を示す図である。
【0017】
図13】例示的な作物係数曲線を示すプロットである。
【0018】
図14】低耐寒性、中耐寒性、及び高耐寒性を有する冬小麦品種の最低生存温度を示す。
【0019】
図15】本開示の実施形態による、栽培期における作物収量をシミュレートする方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書では、作物潜在収量をシミュレートするための作物収量モデルの実施形態を説明する。特定の実施形態では、モデルは、栽培者が、自らの栽培期に適した作物の品種を選択しており、自らの農場を最適に管理していると仮定した特定の圃場の環境上の制限を反映した潜在収量から開始する。栽培期末収量が、環境ストレス要因を考慮することによって予測され、環境ストレス要因はペナルティとして出発潜在収量に適用される。特定の実施形態では、作物収量モデルは、植物のストレス要因の主要カテゴリを分類することにより、栽培期後潜在収量、栽培期中潜在収量、及び栽培期末潜在収量をシミュレートする。これらのストレス要因は、動的な入力セット(例えば、気象、土壌、及び農場管理活動)を使用して潜在収量を追跡し、ペナルティを課すために使用される。作物収量モデルは、作物フェノロジーモデルと併せて働いて、作物の発育の様々な生物季節学的段階に関する過去の平均値の特定を助ける。本明細書における実施形態は、有利なことに、農家が、栽培期後潜在収量、栽培期中潜在収量、及び栽培期末潜在収量をよりよく推定することを可能にし、新しいデジタルビジネスモデルを開発し、栽培者の圃場活動のリスク/リワードの閾値を確立することができるようにする。
【0021】
特に、作物収量は、面積当たりの質量の単位、例えば、1ヘクタール当たりのキログラムの単位、又は1エーカー当たりのポンドの単位で測定される、農業圃場における播種された植物群からの収穫されたバイオマスであると見なすことができる。
【0022】
以下、植物発育を記述するフェノロジーモデルと、作物フェノロジーモデルを利用する作物収量モデルとをより詳しく論じる。
【0023】
本開示に関連して使用される「薬剤」などの用語は、限定されるものではないが、除草剤、防カビ剤、殺虫剤、殺ダニ剤、軟体動物駆除剤、殺線虫剤、殺鼠剤、忌避剤、殺菌剤、殺生物剤、毒性緩和剤、補助剤、植物生長調節剤、肥料、ウレアーゼ阻害剤、脱窒阻害剤、硝酸化成抑制剤、バイオ除草剤、バイオ防カビ剤、バイオ殺虫剤、バイオ殺ダニ剤、バイオ軟体動物駆除剤、バイオ殺線虫剤、バイオ殺鼠剤、バイオ忌避剤、バイオ殺菌剤、生物学的殺生物剤、生物学的毒性緩和剤、生物学的補助剤、生物学的植物生長調節剤、生物学的ウレアーゼ阻害剤、生物学的脱窒阻害剤、若しくは生物学的硝酸化成抑制剤、又はそれらの任意の組み合わせを含む、作物を処理するために使用可能な任意の物質、材料、又は微生物を指す。
【0024】
一般的システム実施形態
ここでは、本明細書で説明される実施形態の例示的な実施態様を説明する。図1は、本開示の実施形態による、例示的なシステムアーキテクチャ100を示している。システムアーキテクチャ100は、データストア110と、ユーザデバイス120A~120Zと、モデリングサーバ130とを含み、システムアーキテクチャ100の各デバイスはネットワーク105を介して通信可能に結合される。システムアーキテクチャ100のデバイスのうちの1つ以上が、図2に関して後述する一般化されたコンピュータシステム200を使用して実施され得る。システムアーキテクチャ100の各デバイスは単なる例示であり、更なるデータストア、ユーザデバイス、モデリングサーバ、及びネットワークが存在してもよいことを理解されたい。
【0025】
一実施形態では、ネットワーク105は、パブリックネットワーク(例えば、インターネット)、プライベートネットワーク(例えば、ローカルエリアネットワーク(LAN)又はワイドエリアネットワーク(WAN))、有線ネットワーク(例えば、イーサネットネットワーク)、無線ネットワーク(例えば、802.11ネットワーク又はWi-Fiネットワーク)、セルラーネットワーク(例えば、ロングタームエボリューション(LTE)ネットワーク)、ルータ、ハブ、スイッチ、サーバコンピュータ、及び/又はそれらの組み合わせを含み得る。ネットワーク105は単一のネットワークとして示されているが、ネットワーク105は、スタンドアロン型ネットワークとして、又は互いに協力して動作する1つ以上のネットワークを含んでもよい。ネットワーク105は、通信可能に結合されている1つ以上のデバイスの1つ以上のプロトコルを利用してもよい。ネットワーク105は、他のプロトコルに変わってもよいし、他のプロトコルからネットワークデバイスの1つ以上のプロトコルに変わってもよい。
【0026】
一実施形態では、データストア110は、短期メモリ(例えば、ランダムアクセスメモリ)、キャッシュ、ドライブ(例えば、ハードドライブ)、フラッシュドライブ、データベースシステム、又はデータを格納することができる別のタイプのコンポーネント若しくはデバイスのうちの1つ以上を含み得る。データストア110はまた、複数のコンピューティングデバイス(例えば、複数のサーバコンピュータ)にもわたり得る複数のストレージコンポーネント(例えば、複数のドライブ又は複数のデータベース)を含み得る。特定の実施形態では、データストア110はクラウドベースであり得る。システムアーキテクチャ100のデバイスのうちの1つ以上が、パブリックデータ及びプライベートデータを格納する自身のストレージ及び/又はデータストア110を利用し得、データストア110は、プライベートデータにセキュアなストレージを提供するように構成され得る。特定の実施形態では、データストア110は、データのバックアップ又はアーカイブの目的で使用され得る。
【0027】
ユーザデバイス120A~120Zは、パーソナルコンピュータ(PC)、ラップトップ、携帯電話、スマートフォン、タブレットコンピュータ、ネットブックコンピュータなどのコンピューティングデバイスを含み得る。ユーザデバイス120A~120Zは、「クライアントデバイス」又は「モバイルデバイス」とも呼ばれ得る。個々のユーザは、ユーザデバイス120A~120Zのうちの1つ以上に関連付けられ得る(例えば、ユーザデバイス120A~120Zのうちの1つ以上を所有し得る、及び/又は動作させ得る)。ユーザデバイス120A~120Zのうちの1つ以上はまた、異なる位置にいる異なるユーザによって所有及び利用され得る。本明細書で使用される場合、「ユーザ」は一個人として表され得る。しかしながら、本開示の他の実施形態は、「ユーザ」が、1組のユーザ及び/又は自動化されたソースによって制御されるエンティティであることを包含する。例えば、会社又は政府組織におけるコミュニティとして結びついた1組の個人ユーザが、「ユーザ」と見なされ得る。
【0028】
ユーザデバイス120A~120Zは、それぞれ1つ以上のローカルデータストアを利用し得、データストアは、内部デバイス又は外部デバイスであり得、それぞれ短期メモリ(例えば、ランダムアクセスメモリ)、キャッシュ、ドライブ(例えば、ハードドライブ)、フラッシュドライブ、データベースシステム、又はデータを格納することができる別のタイプのコンポーネント若しくはデバイスのうちの1つ以上を含み得る。ローカルデータストアはまた、複数のコンピューティングデバイス(例えば、複数のサーバコンピュータ)にもわたり得る複数のストレージコンポーネント(例えば、複数のドライブ又は複数のデータベース)を含み得る。特定の実施形態では、ローカルデータストアは、データのバックアップ又はアーカイブの目的で使用され得る。
【0029】
ユーザデバイス120A~120Zは、ユーザインターフェース122A~122Zをそれぞれ実装し得、ユーザインターフェース122A~122Zは、それぞれのユーザデバイスが他のユーザデバイス、データストア110、及びモデリングサーバ130との間で情報を送受信することを可能にし得る。ユーザインターフェース122A~122Zのそれぞれが、グラフィカルユーザインターフェース(GUI)であってもよい。例えば、ユーザインターフェース122Aは、モデリングサーバ130によって提供されるコンテンツ(例えば、ハイパーテキストマークアップ言語(HTML)ページなどのウェブページ)にアクセスし、コンテンツを読み出し、コンテンツを提示し、及び/又はコンテンツをナビゲートし得るウェブブラウザインターフェースであり得る。一実施形態では、ユーザインターフェース122Aは、ユーザがユーザデバイス120Aを使用して他のユーザデバイス、データストア110、及びモデリングサーバ130との間で情報を送受信することを可能にするスタンドアロン型アプリケーション(例えば、モバイル「アプリ」など)であってもよい。
【0030】
一実施形態では、モデリングサーバ130は、デジタルコンテンツが読み出され得る1つ以上のコンピューティングデバイス(ラックマウントサーバ、ルータコンピュータ、サーバコンピュータ、パーソナルコンピュータ、メインフレームコンピュータ、ラップトップコンピュータ、タブレットコンピュータ、デスクトップコンピュータなど)、データストア(例えば、ハードディスク、メモリ、データベース)、ネットワーク、ソフトウェアコンポーネント、及び/又はハードウェアコンポーネントを含み得る。特定の実施形態では、モデリングサーバ130は、ユーザデバイス120のいずれかによってコンテンツ又はコンテンツに関連する情報を読み出し/アクセスするために利用されるサーバであり得る。特定の実施形態では、更なるモデリングサーバが存在し得る。
【0031】
特定の実施形態では、モデリングサーバ130は、作物潜在収量をシミュレートする作物収量モデリングコンポーネント140を実装し得る。作物収量モデリングコンポーネント140の機能については、図3図15に関して後でより詳細に説明する。
【0032】
図1では、データストア110、ユーザデバイス120A~120Z、及びモデリングサーバ130のそれぞれが、単一の異種の構成要素として示されているが、これらの構成要素は、単一のデバイスで一緒に実装されてもよいし、一緒に動作する複数の異なるデバイスの様々な組み合わせでネットワーク化されてもよい。特定の実施形態では、モデリングサーバ130の機能の一部又は全部が、ユーザデバイス120A~120Zのうちの1つ以上、又はモデリングサーバ130の制御下にある他のデバイスによって実行され得る。
【0033】
図2は、(例えば、本明細書で論じる方法論のうちのいずれか1つ以上をマシンに実行させるための)1セットの命令が実行され得るコンピュータシステム200の例示的な形態をしたマシンの図式表現を示している。代替的な実施形態では、マシンは、LAN、イントラネット、エクストラネット、又はインターネットにおいて他のマシンに接続され得る(例えば、ネットワーク化され得る)。マシンは、クライアントサーバネットワーク環境におけるサーバ若しくはクライアントマシンとして、又はピアツーピア(又は分散型)ネットワーク環境におけるピアマシンとして動作し得る。マシンは、パーソナルコンピュータ(PC)、タブレットPC、セットトップボックス(STB)、携帯情報端末(PDA)、携帯電話、ウェブアプライアンス、サーバ、ネットワークルータ、スイッチ若しくはブリッジ、又はそのマシンによって取られるべき動作を指定する1セットの命令(シーケンシャル又はそれ以外)を実行することができる任意のマシンであり得る。更に、単一のマシンのみが示されているが、「マシン」という用語は、本明細書で論じる方法論のうちのいずれか1つ以上を実行する1セットの命令(又は複数セットの命令)を個別又は共同で実行するマシンの任意の集合体も含むと解釈されるものとする。コンピュータシステム200の構成要素の一部又は全部は、データストア110、ユーザデバイス120A~120Zのうちの1つ以上、及びモデリングサーバ130などのシステムアーキテクチャ100のデバイスのいずれかによって利用され得る、又はいずれかの例示であり得る。
【0034】
例示的なコンピュータシステム200は、プロセッシングデバイス(プロセッサ)202、メインメモリ204(例えば、読み取り専用メモリ(ROM)、フラッシュメモリ、シンクロナスDRAM(SDRAM)又はラムバスDRAM(RDRAM)などのダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)など)、スタティックメモリ206(例えば、フラッシュメモリ、スタティックランダムアクセスメモリ(SRAM)など)、及びデータストレージデバイス220を備え、これらはバス210を介して互いに通信する。
【0035】
プロセッサ202は、マイクロプロセッサ、中央処理ユニットなどの1つ以上の汎用プロセッシングデバイスを表す。より詳細には、プロセッサ202は、複合命令セットコンピューティング(CISC)マイクロプロセッサ、縮小命令セットコンピューティング(RISC)マイクロプロセッサ、超長命令語(VLIW)マイクロプロセッサ、若しくは他の命令セットを実装するプロセッサ、又は命令セットの組み合わせを実装するプロセッサであってもよい。プロセッサ202はまた、ASIC、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、ネットワークプロセッサなどの1つ以上の専用プロセッシングデバイスであってもよい。プロセッサ202は、本明細書で論じる動作及びステップを実行するための命令226を実行するように構成される。
【0036】
コンピュータシステム200は、ネットワークインターフェースデバイス208を更に備え得る。コンピュータシステム200はまた、ビデオディスプレイデバイス212(例えば、液晶ディスプレイ(LCD)、陰極線管(CRT)、又はタッチスクリーン)、英数字入力デバイス214(例えば、キーボード)、カーソル制御デバイス216(例えば、マウス)、及び信号発生デバイス222(例えば、スピーカ)を備え得る。
【0037】
パワーデバイス218は、コンピュータシステム200又はその構成要素のうちの1つ以上に電力を供給するために使用されるバッテリの電力レベルを監視し得る。パワーデバイス218は、電力レベルの指示、コンピュータシステム200又はその構成要素のうちの1つ以上のシャットダウンまでの残り時間ウィンドウ、電力消費率、コンピュータシステムが外部電源又はバッテリ電力を利用しているか否かのインジケータ、及び他の電力関連情報を提供する1つ以上のインターフェースを提供し得る。特定の実施形態では、パワーデバイス218に関連する指示は、リモートでアクセス可能であり得る(例えば、ネットワーク接続を介してリモートバックアップ管理モジュールにアクセス可能であり得る)。特定の実施形態では、パワーデバイス218によって利用されるバッテリは、コンピュータシステム200のローカル又はリモートの無停電電源(UPS)であり得る。このような実施形態では、パワーデバイス218は、UPSの電力レベルに関する情報を提供し得る。
【0038】
データストレージデバイス220は、本明細書で説明される方法論又は機能のいずれか1つ以上を具現化する1つ以上のセットの命令226(例えば、ソフトウェア)が格納されたコンピュータ可読記憶媒体224を備え得る。命令226はまた、コンピュータシステム200、メインメモリ204、及びプロセッサ202によるその実行中に完全に又は少なくとも部分的にメインメモリ204内及び/又はプロセッサ202内に常駐し得る。コンピュータシステム200、メインメモリ204、及びプロセッサ202もまた、コンピュータ可読記憶媒体を備える。命令226は、更に、ネットワークインターフェースデバイス208を介してネットワーク230(例えば、ネットワーク105)を介して送受信され得る。
【0039】
一実施形態では、命令226は、図1に関して及び本開示全体を通して説明されるように、作物収量モデリングコンポーネント140のための命令を含む。例えば、作物収量モデリングコンポーネント140は、モデリングサーバ130又はユーザデバイス120A~120Zによって実施され得る。例示的な実施形態では、コンピュータ可読記憶媒体224は単一の媒体であると示されているが、「コンピュータ可読記憶媒体」又は「機械可読記憶媒体」という用語は、1つ以上のセットの命令を格納する単一の媒体又は複数の媒体(例えば、集中型データベース若しくは分散型データベース、並びに/又は関連するキャッシュ及びサーバ)を含むように解釈されるべきである。「コンピュータ可読記憶媒体」又は「機械可読記憶媒体」という用語はまた、マシンによる実行のための1セットの命令を格納、符号化、又は搬送することが可能であり、本開示の方法論のうちのいずれか1つ以上をマシンに実行させる任意の一時的媒体又は非一時的媒体を含むと解釈されるものとする。したがって、「コンピュータ可読記憶媒体」という用語は、限定されるものではないが、ソリッドステートメモリ、光媒体、及び磁気媒体を含むと解釈されるものとする。
【0040】
フェノロジーモデル
圃場規模の作物フェノロジーモデル(本明細書では「作物フェノロジーモデル」又は「フェノロジーモデル」とも呼ぶ)が、栽培期における植物発育段階をシミュレートするために使用される。特に予測として、植物の段階の知識は、化学物質を適用する時期及び他の作物発育に応じた管理の決定に役立つ。作物フェノロジーモデルは、ユーザの圃場位置、植え付け日、及び品種情報(すなわち、1つ以上の作物の種類)と共に、ロバストな圃場規模の意思決定ツールとして機能する。特定の実施形態では、フェノロジーモデルは、3つの異なるシナリオ、すなわち、過去、栽培期前、又は栽培期中のシナリオの下で実行され得る。フェノロジーモデルは、様々な気象データ入力(過去、予測、長期予測、及び気候学)のブレンドを使用して、ユーザの所望のシナリオに基づいてフェノロジーの結果を生成し得る。
【0041】
フェノロジーモデルの特定の実施形態は、栽培期における植物の発育及び成長をシミュレートするために、植え付け後の日数ではなく温度を利用する。植物には、その日々の生理学的プロセスを行うための熱的要件がある。これらの要件は気温によって定義され得る。植物は、気温の上限と下限との間で生存し、機能することができ、これらの限界の間のどこかで最適に成長する。作物の種類ごとに、その気温よりも高い気温で栽培期において測定可能なバイオマス蓄積量が観測されるという固有の基準気温がある。この基準気温から1日の平均気温を差し引いたものが、植物の発育及び成長のための熱量の尺度とされる。この減算の結果は、「成長度日」又は「成長度単位」と呼ばれる。作物の発育及び成長を追跡するために、1日の成長度日が栽培期にわたって積算される。
【0042】
特定の実施形態では、フェノロジーモデルは、植え付け段階と収穫段階との間の気候学的に導出された積算度日を使用する。しかしながら、出芽前の作物は、気温ではなく土壌温度に応じて成長する。したがって、本明細書で説明される実施形態は、作物の種類固有の係数を用いた1つ以上の一般式を利用し、この一般式は、作物の発芽及び出芽をよりよくシミュレートするために播種深度における土壌温度を使用する。土壌温度出芽関数を使用することにより、度日積算手法単独の場合と比べてより正確な所定の栽培期におけるシミュレーションが可能となる。
【0043】
特定の実施形態では、出芽と開花との間、及び開花と成熟との間の両方で、度日に対して調整が行われる。出芽と開花との間における積算度日に対する調整は、作物の発育に対する光周期及び日長の影響を考慮する。この調整は、冬季に休眠を経る種類の作物にとって特に重要である。開花と成熟と間における積算度日に対する調整は、等結果性を考慮する。本明細書で使用される場合、「等結果性」とは、開花の段階までに作物の発育が大幅に遅延したことに起因して登熟期間が早まる(度日が不十分である)ことを指す。成長度日及びその調整の導出については、後で詳述する。光周期及び等結果性の調整を利用することにより、植物の発育に関連する生理学的プロセスをより現実的にシミュレートすることができる。
【0044】
特定の実施形態は、気候学的フレームワークを利用する。多くの国では、作物の品種及びその発育特性に関するデータがほとんど又はまったくない。したがって、本明細書における実施形態は、作物の成長段階の過去の観測値及び気候学的な気温の記録を利用するフレームワークを企図するものである。このフレームワークは、気候学的指数に基づいて主要な生物季節学的段階の日付を計算するために作物の種類固有の係数を用いた一般関数をもたらす。これにより、成熟に必要な日数に関する度日の要件を、世界中のどこでも気候学的に決定することができる。気候学的フレームワークは、ユーザが提供した品種の成熟までの日数の妥当性を評価するための重要なレファレンスを提供し、更に、作物が栽培期において最適な発育を達成しているか否かの判定に関する決定を可能にする。
【0045】
生物季節学的段階の積算度日への割り当ては、作物成長度によって間接的に実現される。作物成長度は、後でより詳しく論じるように、積算度日を段階間の度日の総数で除算することにより計算される。作物成長度は、積算度日を成熟までの度日の合計に対して正規化することによって、作物フェノロジースキーム(例えば、BBCH生物季節学的スキーム)を成長度日に関連付ける必要性を軽減する。
【0046】
1.フェノロジーモデル概説
特定の実施形態では、フェノロジーモデルは、植物成長の生物季節学的段階を動的にシミュレートする物理的決定論的モデルである。モデルは、作物の種類によってパラメータ化された一連の一般式で機能し、作物と栽培地域との両方でモデルを迅速にスケーリングすることができる。特定の実施形態では、モデルは、まず作物成長度を計算する。作物成長度の計算は、異なる生物季節学的スキームへの対応を柔軟なものにすることができる独自の手法である。植え付けと出芽との間の期間は土壌温度モデルを利用して成長度を計算し、出芽と成熟との間の期間は積算度日を利用する。成長度、積算度日、及びBBCH生物季節学的スキームへのマッピングについては、図3に関してより詳しく論じる。図4は、本開示の実施形態による、作物フェノロジーモデルの高度な概要を示すフロー図である。
【0047】
特定の実施形態では、作物成長度(CGF)が、0.0から3.0の範囲にあるように定義され、作物の成長は、3つの期間、すなわち、植え付けから作物出芽(0~1.0)、出芽から成熟(1.0~2.0)、及び成熟から収穫(2.0~3.0)に分割される。植え付けと作物出芽との間の期間において、作物成長度は、播種深度における土壌温度の5日間の移動平均を追跡する関数に依存する。土壌温度モデルは、植え付けと出芽との間の合計日数を提供する。そして、この期間の成長度は、植え付け日からの現在の日数を、出芽に到達するまでの合計日数で除算する式を使用して決定される。特定の実施形態では、出芽の日付に到達するまで、気象条件及び土壌温度が変化するにつれて、この成長度は動的に変化する。
【0048】
特定の実施形態では、まず出芽と成熟との間の成長度が、1日の季節積算度日を、その期間を定義する生物季節学的段階間の気候学的に導出された総積算度日で除算したものを使用して計算される。そして、出芽と成熟との間の作物成長度は、1.0から2.0へと段階的に増加する。
【0049】
次に、成長度を実証する例を説明する。図3に示すデータに基づけば、出芽と成熟との間に必要な積算度日の数は2400(この例では、2700から植え付けと出芽との間の積算300を差し引いたもの)である。栽培期の毎日、1日の度日が計算され、積算される。出芽の翌日に10の度日があった場合、成長度は1.0+10/2400、つまり1.0042となる(出芽と成熟との間で成長度は1.0から2.0に増加することに留意されたい)。その次の日に15の度日が発生した場合、ここでは、成長度は1+25/2400、つまり1.0104となる。
【0050】
同様に、成熟と収穫との間の期間における作物成長度が、1日の季節積算度日を、その期間を定義する生物季節学的段階間の気候学的に導出された総積算度日で除算したものを使用して計算され得る。そして、成熟と収穫との間の作物成長度は、2.0から3.0へと段階的に増加する。
【0051】
最後に、例えばBBCHコードによって列挙される生物季節学的段階は、作物成長度に関連付けられる。成長度とBBCHとの間の変換(又はマッピング)は、作物にも地域にも依存する。BBCHコードをトウモロコシの成長度にマッピングする例は、以下のとおりであり得る:
植え付けでは、BBCH0を成長度0にマッピング
発芽では、BBCH5を成長度0.5にマッピング
出芽では、BBCH9を成長度1.0にマッピング
第一葉では、BBCH11を成長度1.02にマッピング
九葉期では、BBCH19を成長度1.24にマッピング
柱頭の完全出現では、BBCH65を成長度1.55にマッピング
乳熟初期では、BBCH73を成長度1.66にマッピング
ブラックレイヤー(成熟)では、BBCH89を成長度2.0にマッピング
収穫では、BBCH99を成長度3.0にマッピング
【0052】
BBCHをデフォルトの作物フェノロジースケールとして選択したが、当業者には理解され認識されるように、他のフェノロジースケール(例えば、ISUスケール)を成長度に容易にマッピングすることもできる。
【0053】
図3は、更に、成熟までの日数(DTM)の概念を示している。本明細書で使用される場合、DTMは、作物が植え付けの日から成熟に到達するまでに必要な時間の量として日数で定義され得、気候的に正常な季節の場合に、植え付けと成熟との間の総積算度日が、成熟に関する品種固有の閾値に到達する時点を示す。DTMは、作物の種類、品種、及び栽培地域に応じて変化し、DTMは、通常、種子製造業者によって報告される。報告されない場合、DTMを過去の観測値から導出することもできる。DTMは作物の品種に必要な積算度日を決定するため、生物季節学的段階の正確なシミュレーションには正しいDTMを利用することが重要である。間違ったDTM又は不正確なDTMは、モデルがシミュレートする作物の発育が速すぎたり遅すぎたりする結果に繋がって、栽培期における処理の時期又は他の段階固有の圃場活動の計画が複雑になり得る。
【0054】
2.気候学的計算
特定の実施形態では、作物フェノロジーモデルは、作物の種類と栽培地域との両方によって迅速にスケーリングされ得、これは基礎となる気候学的バックボーンに起因し得る。大規模な地理的データセットを組み合わせることによって、長期にわたる作物固有の植え付け、出芽、成熟、及び収穫の記録と、同じ年数及び同じ規模の気象データとの間に関係を構築することができる。そのようなデータセットの例として、米国農務省内の全米農業統計局(NASS)によって提供された作物統計データセットがある。米国の州ごとに、所定の作物の植え付け日、出芽日、成熟日、及び収穫日の年次観測が公開されている。これらの日付は、最も有効な日付又は「平均的な」日付を中心とした日付の範囲又は分布として提示されている。本明細書では、平均的な日付は、実際の植え付け日のそれぞれの分布における位置づけを示すため、「50%コホート」日と呼ぶ。平均的な日付は、気象データとの関係を構築するために使用される。ドイツ気象局(DWD)も独国について同様の統計値を提供している。これらの気候学的計算は、赤道から北及び南に24度を超える緯度に対して有効であることに留意されたい。特定の実施形態では、熱帯地方に対して異なる気候学的手法が使用される。
【0055】
2.1 年率、冬の気候指数、及びジェネリック50%コホート関数
作物フェノロジーと気象データとの間の関係は、2段階で定義され得る。まず、過去の最低気温データ及び最高気温データから2つの気候学的指数が策定される。これらの指数は、世界中の気候学的環境における勾配を定義するために使用され得る。本明細書では、2つの指数を「年率」及び「冬の気候指数」と呼ぶ。1月1日と12月31日との間の期間を使用して、年率(RATIO)は、気候学的に最も暖かい1日の気温(TMPXH)(単位℃)から、気候学的に最も寒い1日の気温(TMPNH)(単位℃)を差し引いたものを、気候学的に最も暖かい1日の気温(TMPXH)(単位℃)で除算したものとして計算され得る。特定の実施形態では、気候学的に最も暖かい気温及び最も寒い気温は、それぞれ30年間の1日の最高気温及び最低気温のデータを調和フィッティングすることによって導出される。年率(RATIO)の式は以下のように定義される。
RATIO=(TMPXH-TMPNH)/TMPXH,℃ 式1
【0056】
北半球における10月1日と3月31日との間の期間を使用して、冬の気候指数(WCI)は、気候学的な冬の1日の最高気温(WTMPXH)(単位℃)から、気候学的な冬の1日の最低気温(WTMPNH)(単位℃)を差し引いたものを、気候学的な冬の1日の最高気温(WTMPXH)(単位℃)で除算したものとして計算され得る。気候学的な冬の1日の最高気温及び最低気温は、それぞれ30年間の1日の冬の最高気温及び最低気温のデータを調和フィッティングすることによって導出される。南半球については、WCI計算の日付の範囲は、4月1日から9月30日までである。冬の気候指数(WCI)は、以下のように定義される。
WCI=(WTMPXH-WTMPNH)/WTMPXH,℃ 式2
【0057】
作物フェノロジーデータと気象データとの間の関係を導出するための第2のステップは、観測された各作物固有の生物季節学的段階の平均日付と、気候指数のうちの1つとを関連付ける関数を作成することである。結果として得られる関数は、指数のうちの1つによって定義された各気候学的環境における50%の圃場について、作物固有の生物季節学的段階(PSDATE50%)が出現する日を決定するために使用される。特定の実施形態では、関数における係数(PSDATEA、PSDATEB、PSDATEC、PSDATED)の値は、作物ごと、及び生物季節学的段階ごとに独自である。
【0058】
年率(RATIO)を利用する特定の実施形態では、
PSDATE50%=PSDATEA-PSDATEB/(1.0+EXP(PSDATEC*(PSDATED-RATIO))),DOY 式3
であり、冬の作物指数(WCI)を利用する特定の実施形態では、
PSDATE50%=PSDATEA-PSDATEB/(1.0+EXP(PSDATEC*(PSDATED-WCI))),DOY 式4
であり、上式で、
PSDATE50%は、ある段階における平均又は50%コホート日であり、
PSDATEAは、ある段階における最も遅い植え付け日であり、
PSDATEBは、ある段階における最も遅い植え付け日と最も早い植え付け日との間の差分であり、
PSDATECは、ある段階における曲線の傾きを決定する単位なしのスカラーであり、
PSDATEDは、RATIO又はWCIの単位なしの最小値である。
【0059】
この関数から導出された曲線の一例を図5に示す。図5は、トウモロコシの平均又は50%コホート植え付け日とWCIとの間の関係を示している(関数は実線で描かれ、観測された生物季節学的データは点で描かれている)。特定の実施形態では、平均又は50%コホート日とRATIO及びWCIとを関連付ける式は、すべての作物の種類で同じであり、係数は作物の種類ごとに異なる。
【0060】
2.2 50%コホート植え付け日
以下の式は、50%コホート植え付け日(PLDATE50%)の通日(DOY)をRATIO又はWCIのいずれかの関数として計算する。
【0061】
RATIOを利用する特定の実施形態では、
PLDATE50%=PLDATEA-PLDATEB/(1.0+EXP(PLDATEC*(PLDATED-RATIO))),DOY 式5
であり、WCIを利用する特定の実施形態では、
PLDATE50%=PLDATEA-PLDATEB/(1.0+EXP(PLDATEC*(PLDATED-WCI))),DOY 式6
であり、上式で、
PLDATEAは、最も遅い植え付け日であり、
PLDATEBは、最も遅い植え付け日と最も早い植え付け日との間の差分であり、
PLDATECは、曲線の傾きを決定する単位なしのスカラーであり、
PLDATEDは、RATIO又はWCIの単位なしの最小値である。
【0062】
上述のパラメータPLDATEA、PLDATEB、PLDATEC、及びPLDATEDは、作物ごとに異なり得る。
【0063】
3.ユーザ固有の圃場規模の計算
特定の実施形態では、作物フェノロジーモデルが異なる空間規模で稼働される場合、又は品種の特性若しくは植え付け慣行の知識が限られている場合に、上記の気候学的関数が様々な役割を果たす。ここで、気候学的関数の役割を、作物の品種及び植え付け日についての完全な説明が提供される圃場規模のフェノロジーモデルの実施形態について論じる。
【0064】
3.1 用語
特定の実施形態では、作物フェノロジーモデルを圃場規模で実行するために、ユーザ(例えば、栽培者)は、最低限、作物の種及び品種の選択と植え付け日とに関する情報を提供する。選択された品種は、種子製造業者によって報告されることもあれば報告されないこともある、遺伝学的に表現された生理学的特性(例えば、熟度評価、抗病性、耐倒伏性、耐干性など)を有する。生物季節学的モデリングに重要な特性の1つに成熟までの日数(DTM)があり、これは、作物が植え付け後に成熟に到達するのに必要な日数である。DTMは、栽培期の長さの尺度である。そのため、DTMは、特定の実施形態では、ユーザが所定の地理的地域において典型的又は平均的な日付(過去の植え付け慣行から決定されるようなもの)を中心とした日々の範囲において作物を植え付けるという仮定で導出される。
【0065】
作物は、暦日ではなく季節の気象条件にしたがって発育するため、特定の実施形態では、DTMは、度日などの環境尺度に変換される。成熟までの日数によって定義される期間にわたって度日を加算又は積算することは、栽培期にわたって作物に利用可能な熱量の尺度として解釈され得る。
【0066】
植え付け日が既知であると仮定すると、特定のDTMに関する積算度日は、特定の実施形態では、過去の気象データから導出され得る。積算度日は、植え付け日とDTMによって定義された成熟日との間の1日の気候学的な度日の加算に対応し得る。気候学的な度日は、それまでの10年間の過去の気温の記録から導出され得る。ユーザ植え付け日が異なればDTMの開始及び終了の暦日が変わるため、同じ日数にわたる必要な積算度日も変わり得る。同じDTMについて、特定のユーザ植え付け日から積算される度日の数は、過去の慣行に基づく平均的な植え付け日から積算される度日の数とは異なり得る。換言すれば、ユーザ植え付け日は、特定の品種のDTMを定義するために種子製造業者が行った研究試験における植え付け日とは異なり得る。適切な品種及び植え付け日を選択することは、ある位置での栽培期における潜在収量を最大化するために重要である。植え付けが早すぎたり遅すぎたりすると、品種の遺伝学的に表現された環境要件とのミスマッチが生じ、潜在収量が減少し得る。
【0067】
ある品種のDTMがユーザの地理的位置及び植え付け日に関して適切であったとしても、栽培期においては、ある生物季節学的段階のシミュレートをされ、観測された日付に差異が生じる可能性がある。気温以外の変数が発育に影響することもある。条間及び植え付け間隔、播種深度、及び生長調整剤の適用などの管理上の決定が、作物の生物季節学的段階の季節の進行の差異に寄与することもある。更に、圃場内の植物の発育は通常不均一であるため(すなわち、同じ日に異なる段階が生じる)、観察プロトコルは、圃場全体の代表的な段階を決定する上で大きな役割を果たす。これらの様々な要因に起因するフェノロジーモデルの出力における逸脱を考慮するために、特定の実施形態は、シミュレーションと観測との間の潜在的に大きな逸脱を考慮するために、「バイオフィックス」ファクタを利用し得る。バイオフィックスファクタは、シミュレートされた生物季節学的段階に置き換わる、ユーザが入力した観測値であり得る。このような実施形態では、作物フェノロジーモデルは、ユーザが入力した段階を取り込み、必要な度日のリアルタイム較正を、観測日まで、及び観測日の後まで実行し得る。較正の最終結果は、栽培期の残りの期間において、より正確なシミュレートされた段階となる。
【0068】
上述のように、作物成長度は、特定の実施形態では、3つの期間、すなわち、植え付けから出芽(0~1.0)、出芽から成熟(1.0~2.0)、及び成熟から収穫(2.0~3.0)に対応するように定義される。第1の期間は、種子の発芽、根の成長、及び地表での第一葉の出芽までを含む地下部の植物の成長を追跡する。第2の期間は、地下部の根の伸張と、茎の伸長及び葉の増加、開花、並びに着果及び果実肥大を含む地上部の植物の成長との両方を示す。第3の期間は、地上部の葉が乾燥して落葉し、地下部の根系が細く縮んで枯死することを特徴とする。第1の期間の作物の発育は、主に、熱(土壌温度)と土壌水分(発根深度における有効水分)の関数である。第2の期間の作物の発育は、主に、光(入射太陽放射)、熱(気温)、及び土壌水分(発根深度における有効水分)の関数である。第3の期間の作物の発育は、熱(気温)と草冠水分(降水に起因する湿潤)の関数である。
【0069】
作物の発育及び成長は、栽培期において、地上の環境と地下の環境とで異なる影響を受ける。したがって、特定の実施形態では、生物季節学的段階のシミュレーションは、3つの成長度期間のそれぞれについて異なる手法を利用する。特定の実施形態では、第1の期間の生物季節学的段階(植え付けから出芽まで)が土壌温度でシミュレートされる。特定の実施形態では、第2の期間の段階(出芽から成熟まで)は、積算度日数でシミュレートされる。特定の実施形態では、第2の期間の必要とされる度日積算は、植え付けと成熟との間のDTMの合計度日から、植え付けと出芽との間の第1の期間の合計度日を差し引いたものである。特定の実施形態では、第3の期間の段階(成熟から収穫まで)は、過去の慣行及び気象データから導出された積算度日でシミュレートされる。
【0070】
第1の期間における積算度日は、2つの手法を使用して推定され得る。特定の実施形態では、第1の手法は、上述の気候学的関数を利用する。度日積算は、気候学的に決定された50%コホート植え付け日と出芽日との間の日々について計算され得る。DTMの植え付けから成熟までの度日から、気候学的な植え付けから出芽までの度日を差し引いて、出芽と成熟との間の度日積算(DDMATとも呼ばれる)を導出することができる。
【0071】
特定の実施形態では、第2の手法は、まず、ユーザが入力した植え付け日を利用し、土壌温度に基づいて関数を実行して、出芽日を計算することである。次に、過去10年間のそれぞれの気温データを使用して、ユーザが入力した植え付け日と計算された出芽日との間で度日が計算される(異なる実施形態では、年数が異なり得ることに留意されたい)。最後に、全10年間にわたるユーザ植え付け日と計算された出芽日との間の計算された度日の平均を取る。第1の手法と同様に、DTMの植え付けから成熟までの度日から、植え付けと出芽との間の10年間の平均度日積算を差し引いて、DDMATすなわち出芽と成熟との間の度日積算を導出する。この第2の手法は、ユーザ植え付け日が、品種のDTMを定義するために使用される平均日を中心とした日数の範囲内にあることを仮定していることに留意されたい。ユーザ植え付け日が範囲外にある場合、DDMATが不正確となり、栽培期における生物季節学的日付のシミュレーションにエラーが生じ得る。
【0072】
3.2 ユーザ作物出芽日
特定の実施形態では、ユーザ出芽日(UEMDATE)は、ユーザ植え付け日(UPLDATE)の後の季節の土壌条件によって決定される。出芽までの日数は、播種深度における土壌温度によって決定され得、出芽(EM)関数を用いて計算され得る。特定の実施形態では、作物の出芽とは、植え付けと第一葉が土壌表面を突破するときとの間の日数を指す。作物の出芽は、例えば、播種深度における土壌温度の5日間移動平均(5dST)に依存する。出芽(EM)の式は、現在の季節の気象条件に基づいて、出芽に必要な日数を定義する。出芽に必要な日数は、年によって最小(Min)日数と最大(Max)日数との間で変動するが、これは以下のパラメータ、すなわち、出芽までの最小日数、出芽までの最小日数と最大日数との間の差分、シグモイド曲線の形状を決定する単位なしスカラー、植え付け深度における土壌温度、出芽までの最大日数に対応する基準土壌温度、及び観測された土壌温度と基準土壌温度との間の差分を正規化する係数の関数である。
【0073】
土壌温度の5日間移動平均は、植え付け後、日を追うごとに変化し、特定の実施形態では、出芽に必要な日数は動的に計算され得る。温暖な土壌温度を有する一連の日々によって出芽までの日数は短くなる一方、一連の低温の土壌温度によって日数は長くなる。特定の実施形態では、出芽までの必要な日数は、植え付けからの積算日数とともに毎日動的に計算される。出芽は、植え付け後の積算日数が、土壌温度出芽(EM)関数から決定された必要な日数以上となった日に発生したと見なされ得る。
【0074】
出芽までの日数の動的な計算を説明する例として、播種深度における土壌温度の5日移動平均が、植え付けの翌日に低温であったと考える。低温の土壌温度では、出芽までの日数は15日と計算される。植え付けから4日目(積算4日)には土壌が温暖になり、出芽までの日数の新たな計算は12日である。植え付けから8日目(積算8日)には土壌は温暖になり続け、新たな計算では10日となる。その後2日間にわたって、土壌の温暖化は進まなかった。植え付けからの積算日数が10日に達し、これは出芽に必要な日数と一致するため、その日(UEMDATE)に出芽する。
【0075】
出芽日は植え付け後に動的に計算され得るため、作物成長度も動的に導出され得る。特定の実施形態では、作物成長度は、植え付けと出芽との間の期間について0~1.0の範囲にあり、植え付け後の積算日数を、シミュレーションされた出芽に必要な日数で除算したものとして計算され得る。必要な日数は日々変化し得るため、作物成長度は、植え付け後に続く日々で非線形に変化し得る。
【0076】
植え付けと出芽との間の作物成長度の動的性質を説明するための例として、先の例における植え付け後の積算日数及び出芽までの日数の計算の同じ進行を使用する。作物成長度の計算は、植え付け日に0に設定される。出芽までの必要日数を植え付け後1日目に15と計算すると、成長度は1/15すなわち0.07となる。必要日数を植え付け後4日目に12と計算すると、成長度は4/12すなわち0.33となる。必要日数を植え付け後8日目に10と計算すると、成長度は8/10すなわち0.8となる。必要日数を植え付け後10日目に10と計算すると、成長度は10/10すなわち1.0となり、出芽の発生を示す。出芽日は、植え付け日後10日目である。表1は、この概念を更に例示する。
【表1】
【0077】
3.3 ユーザ作物成熟日(春作物)
特定の実施形態では、春作物又は冬作物の作物成熟日は、所定の季節について、出芽後、積算がDDMATによって定義された品種要件以上になる日まで、1日の度日を加算することにより決定される。冬作物のDDMATは、冬季における成長の鈍化によって複雑になり得る。DDMATの冬季の成長鈍化又は「休眠」の調整については、後でより詳しく論じる。
【0078】
春作物及び冬作物のいずれの場合も、種子製造業者は、通常、ある季節の長さ(植え付けから成熟まで)を定義するDTMしか公開せず、出芽日は土壌環境に起因して年ごとに大きく変わるため、ユーザは品種のDDMATにめったに気付かない。したがって、DDMATは、特定の実施形態では、過去の植え付け慣行又はユーザから報告された植え付け日のいずれかから導出される。ユーザ植え付け日は、調査研究からDTMを決定するために使用された日付の範囲外であることがあるため、最善の手法として過去の慣行が選択されることがある。
【0079】
特定の実施形態では、ユーザ作物成熟日(UMATDATE)の導出は3つの計算を含む。第1の計算は、ユーザが報告したDTM(UDTM)の積算度日である。この計算は、UDTMの開始日(植え付け日)及び終了日(成熟日)を確立した後に行われ得る。気候学的手法を使用して、開始日は50%植え付け日(PLDATE50%)であり、終了日は植え付け日にDTMの成熟までの日数を加算した後の日(CMATDATE)である。そうすると、UDTMの積算度日は、開始日(PLDATE50%)と終了日(CMATDATE)との間の気候学的な1日の度日を加算したものに対応する。
UDTM=Σ(CMATDATEとPLDATE50%と間の度日),度日 式7
【0080】
第2の計算は、UDDMATの積算度日、すなわち報告されたユーザ品種の出芽から成熟までの日数を決定する。UDDMATの積算度日は、UDTMの積算度日から、気象学的な植え付け日(PLDATE50%)と出芽日(EMDATE50%)との間の積算度日を差し引くことにより計算される。
UDDMAT=UDTM-Σ(EMDATE50%とPLDATE50%との間の度日),度日 式8
【0081】
UDDMATは、ユーザが報告したDTMと、その品種の植え付け日が過去の慣行にしたがったという仮定とに基づく、出芽と成熟との間の必要な積算度日を表す。
【0082】
ユーザ成熟日(UMATDATE)を導出するための第3の最後の計算は、ユーザ出芽日(UEMDATE)に、積算度日によって定義される期間の等価日数でUDDMATを加算することである。
UMATDATE=UEMDATE+UDDMAT(日),DOY 式9
【0083】
ユーザ成熟日(UMATDATE)の計算を用いて、作物フェノロジーモデルは、任意の地理における任意のユーザ植え付け日及びDTMについて、生物季節学的段階の圃場規模のシミュレーションを提供し得る。上述の計算は春作物に当てはまることに留意されたい。冬作物の発育は、冬季における休眠によって複雑になるため、後で詳しく論じる。
【0084】
特定の実施形態では、1日の成長度が、1日の度日積算をUDDMATで除算して計算することにより、出芽日と収穫日との間で計算される。成長度の積算は、1.0(UEMDATE)から開始し、2.0(UMATDATE)で終了する。その後、積算成長度(AGF)が、関連する作物フェノロジースケール(例えば、BBCHスケールでは9から89まで)にマッピングされる。
【0085】
3.4 ユーザ作物成熟日(冬作物)
特定の実施形態では、冬作物のユーザ作物成熟日(UMATDATE)の導出は、成長が鈍化する冬の期間を除いて春作物と同様である。より高緯度では、温度低下及び日照時間の減少に起因して、低温の冬季においては作物の発育が遅れる。本明細書では、成長の鈍化するこの期間を「休眠」と呼び、その長さは作物の光周期及び日長に対する感受性によって決定される。特定の実施形態では、作物フェノロジーモデルは、以下のように定義される休眠(DORM)関数を使用して、光周期感受性(R)及び日長(L)を考慮する:
DORM=1-0.002*R*(20-L,単位なし 式10
上式で、
DORMは単位なしのスカラーであり、
0.0002は、時間-2を単位とする係数であり、
は、単位なしのスカラーとしての光周期感受性であり、
は、時間を単位とする日長である。
【0086】
DORMは、出芽と開花との間の生物季節学的段階間の作物の発育速度に対する光周期感受性及び日長を考慮する。DORMの範囲は、1(発育の遅れなし)と0(完全な発育の中断)との間である。特定の実施形態では、冬作物の温度由来の1日の最適発育度日(DOPT)に、1日の休眠関数値(DORM)を乗算して、1日の実際の発育度日(DACT)が導出される。
【0087】
DACTは、作物の光周期感受性及び圃場位置における日長によって決定される、所定の日の度日が実質的に減少することによる発育の鈍化を反映する。度日が少ないと、休眠を経験しない作物と同じ発育ペースを達成するためには、冬季においてより多くの日数を必要とすることになる。DACTは、以下のように定義される。
DACT=DOPT*DORM,度日 式11
【0088】
冬作物のユーザ作物成熟日を計算するために、UDDMATは、特定の実施形態では、栽培期における休眠を考慮するように調整される。春作物については、UDDMATは、ユーザDTMと、その品種の植え付け日が過去の慣行にしたがったという仮定とに基づく、出芽日と成熟日との間の必要な積算度日である。休眠がなければ、UDDMATは以下のように、ユーザ出芽日と成熟日との間のDOPT度日の和に対応する。
UDDMAT=Σ(UEMDATEとUMATDATEとの間のDOPT度日),度日 式12
【0089】
休眠がある場合、UDDMATは、特定の実施形態では、2つの和を含む。1つ目の和は、ユーザ出芽日と開花日との間の実際の発育(DACT)度日であり、2つ目の和は、ユーザ開花日と成熟日との間の最適発育(DOCT)度日である。UDDMATDは、休眠に関して調整されたUDDMATに対応する。
UDDMATD=Σ(UEMDATEとUFLDATEとの間のDACT度日)+Σ(UFLDATEとUMATDATEとの間のDOPT度日),度日 式13
【0090】
UDDMATDの導出により、冬作物のユーザ作物成熟日(UMATDATE)が、以下のように、ユーザ出芽日(UEMDATE)に、積算度日によって定義される期間の等価日数でUDDMATDを加算することによって計算される。
UMATDATE=UEMDATE+UDDMATD(日),DOY 式14
【0091】
3.5 ユーザ作物成熟日及び等結果性
ユーザ開花日と成熟日との間の度日は、等結果性に関して更に調整され得る。特定の実施形態では、作物フェノロジーモデルは、開花と成熟との間の毎日の度日要件を発育の遅れにしたがって含めることにより、等結果性を考慮する。特定の実施形態では、このように含めることは3つのステップで実現される。第1のステップは、作物の作物成長度(CGF)が1.5以上となった暦日から、気候学的に導出された成熟日(MATDATE)までの残りの度日(DACC)を計算することである。
DACC=Σ(CGF1.5の日付とMATDATEとの間の度日),度日 式15
【0092】
第2のステップは、気候学的に導出されたCGFが1.5の日と成熟日(MATDATE)との間の積算度日(DCLI)を計算することである。
DCLI=Σ(CGF1.5の日付とMATDATEとの間の度日),度日 式16
【0093】
第3のステップでは、DCLIがDACCよりも大きい場合、開花時の発育が著しく遅れていることに起因して、作物の成熟に到達するのに予測される度日は十分ではない。DCLI/DACCの比率は「アクセラレータ」(ACC)と呼ばれるスカラーであり、その値は1.0よりも大きいように制約される。DACCには、CGFが1.5の日とMATDATEとの間の積算度日(ADACC)を調整するために、アクセラレータ比率が乗算される。
ADACC=ACC*DACC,度日 式17
【0094】
特定の実施形態では、栽培期中の作物の1日の度日が、CGFが1.5に達した日の後の毎日、アクセラレータによって増加される。1日の度日を含めることによって、栽培期中の作物は、成熟日までの度日の積算を増加又は促進する。CGFが1.5と成熟との間に作物の発育を早めることを、等結果性と呼ぶ。
【0095】
3.6 ユーザ作物収穫日
春作物及び冬作物のいずれの場合も、種子製造業者は特定の作物品種(例えば、作物の種類)の成熟から収穫までの日数をめったに公開しない。成熟と収穫との間の期間の長さは、ユーザ植え付け日、品種の選択、及び栽培期に優勢な気象条件に応じて変わり得る。その結果、植え付けと出芽との間の期間と同様に、成熟と収穫との間の期間の度日積算は、例えば、10年間の過去の平均気温を使用して気候学的に導出され得る。この度日積算の導出は、作物が所定の位置での過去の慣行と矛盾しない日付の範囲内で植え付けされたと仮定する。50%コホート成熟日(MATDATE50%)と50%コホート収穫日(HRVDATE50%)との間の気候学的に導出された積算度日(DDHRV)は以下のとおりである。
DDHRV=Σ(MATDATE50%とHRVDATE50%との間の度日),度日 式18
【0096】
ユーザ作物収穫日(UHRVDATE)は、ユーザ成熟日(UMATDATE)までに積算度日によって定義された期間のDDHRVを等価日数で加算することによって計算される。
UHRVDATE=UMATDATE+DDHRV(日),DOY 式19
【0097】
特定の実施形態では、1日の成長度が、1日の度日積算をDDHRVで除算して計算することにより、成熟日と収穫日との間で計算される。成長度の積算は、2.0(UMATDATE)において開始し、3.0(UHRVDATE)において終了し、BBCHコードの積算成長度(AGF)への品種マッピングに基づいて、89から99のBBCH範囲に及ぶ。
【0098】
図6は、モデルの各段階における様々な入力及び出力を説明するために上で説明され、定義されたモデリングパラメータ及び連立式を利用する圃場レベルの作物フェノロジーモデルを示すフロー図600である。
【0099】
図7は、本開示の実施形態による、植物の発育段階をシミュレートする方法700を示すフロー図である。方法700は、ハードウェア(例えば、回路、専用ロジック、プログラマブルロジック、マイクロコードなど)、ソフトウェア(例えば、ハードウェアシミュレーションを行うためにプロセッシングデバイス上で実行される命令)、又はそれらの組み合わせを含むプロセッシングロジックによって実行され得る。特定の実施形態では、方法700の1つ以上の要素は、例えば、モデリングサーバ(例えば、モデリングサーバ130の作物収量モデリングコンポーネント140)によって実行され得る。
【0100】
ブロック710において、プロセッシングデバイス(例えば、モデリングサーバ130のプロセッシングデバイス)は、ユーザのデバイス(例えば、それぞれのユーザインターフェース122A~122Zを介して、ユーザデバイス120A~120Zのうちの1つ以上)からの入力を(例えば、ネットワーク105を介して)受信する。特定の実施形態では、入力は、1つ以上の作物の品種(例えば、1つ以上の作物の種類の識別子)、及び作物の栽培される地理的位置を含む。
【0101】
特定の実施形態では、入力は、作物の植え付け日を指定しない。他の実施形態では、ユーザ入力は、実際の植え付け日又は植え付け予定日を指定する。特定の実施形態では、地理的位置は、国、州/行政区、市、又は町などの地政学的位置として指定される。特定の実施形態では、地理的位置は、緯度及び経度又は全地球測位システムの範囲によって指定される。特定の実施形態では、位置情報は、ユーザが直接位置を入力する必要がないように、デバイスから直接取得される(例えば、入力時のデバイスの位置)。
【0102】
ブロック720において、プロセッシングデバイスは、指定された地理的位置における年間気候指数(式1)又は冬の気候指数(式2)のいずれかの値に基づいて、作物の植え付け日を計算する。特定の実施形態では、気候指数モデルは、気候指数の関数として、作物の種類に関して過去の植え付け日をモデリングすることによって生成される。
【0103】
ブロック730において、プロセッシングデバイスは、植え付け日及び土壌温度モデルに基づいて出芽日を計算する。特定の実施形態では、プロセッシングデバイスは、作物の種類に関して播種深度における土壌温度をシミュレートする。特定の実施形態では、プロセッシングデバイスは、土壌温度モデルに基づいて、作物の植え付け日から、出芽を表す作物の予定成長度に到達するまでの日数を推定することによって、出芽日を計算する。
【0104】
ブロック740において、プロセッシングデバイスは、植え付け日、出芽日、及び度日積算モデルに基づいて、作物の植物発育段階を成長プロファイルとして決定/計算(例えば、シミュレート)する。特定の実施形態では、プロセッシングデバイスは、度日積算モデルを使用して成熟までの作物の生物季節学的発育をシミュレートして、特定の位置及び特定の栽培期において生物季節学的段階に到達する日付を決定する。積算度日の予定数は、(例えば、データストア110から読み出され得る)過去の作物成熟データに基づいて決定される。特定の実施形態では、プロセッシングデバイスは、予測日数及び出芽日に基づいて、作物の成熟日を計算する。特定の実施形態では、プロセッシングデバイスは、冬作物の光周期感受性を反映するように冬季の成長度日を調整する。
【0105】
特定の実施形態では、プロセッシングデバイスは、成長プロファイルを、表示のためのユーザのデバイスに送信する。特定の実施形態では、プロセッシングデバイスは、成長プロファイルを、更なるモデリングのため、又は作物に適用するための推薦される薬剤を生成するための別個のコンピューティングデバイスに送信する。特定の実施形態では、プロセッシングデバイスは、成長プロファイルを、作物を収穫又は処理するためのツールを動作させるように適合されたデバイスに送信する。
【0106】
作物収量モデリング
本開示の特定の実施形態は、環境ストレス及び圃場規模での作物の発育に影響を与え得る管理慣行に基づいて、所定の栽培期における栽培期末潜在収量のシミュレーションを提供する作物収量モデルに関する。化学処理の時期及び農場での管理決定は、作物ストレスが発生することが知られている期間になされ得る。ストレスの時期及び作物収量への影響の大きさの知識は、栽培者にとって強力な意思決定ツールをもたらし得る。
【0107】
特定の実施形態では、作物収量モデルは、ユーザ(例えば、作物栽培者)の環境上の制約(例えば、その地域の土壌及び気候を考慮したもの)を反映した潜在収量から開始し、ユーザが栽培期に適した作物の品種を選択し、その農場で最適な仕方で管理を行ったと仮定する。環境ストレス要因が発生すると、ストレス事象の大きさ及び時期に応じて栽培期末収量は減少する。図8は、遺伝的な潜在収量から開始し、様々な減算ペナルティを適用することによって予測される潜在収量で終了することにより、潜在収量がどのように計算され得るかを示すプロットである。例えば、特定の実施形態では、作物収量モデルは、可能な限り最大の収量から開始し、ストレスが発生すると、その影響が可能な限り最大の収量から差し引かれる。ストレスとしては、例えば、環境ストレス、発育ストレス、及び事象ストレスが挙げられる。図8は、ストレスがかかる例示的な順序を示している。ストレスとしては、例えば、環境ストレス、発育ストレス、及び事象ストレスが挙げられる。モデルは、様々なシナリオ、すなわち、過去、栽培期前、及び栽培期中のシナリオの下で実行され得る。
【0108】
1.モデル入力
特定の実施形態では、作物収量モデルに対するユーザ入力としては、位置、植え付け日、作物の種類、品種の成熟までの日数(DTM)、土性分類が挙げられる。提供されたユーザ入力に基づいて、表2に列挙されるものなどの他のパラメータがモデル入力として識別され、シミュレーションを実行するために読み出され得る。
【表2】
【0109】
特定の実施形態では、作物収量モデルは、表3に列挙される様々なパラメータなどの気象入力データを利用する。ユーザ入力から、日長(ユーザの位置及び日付に基づくもの)、最大晴天全入射太陽放射(ユーザの位置に対するもの)、実際の晴天全入射太陽放射(雲量に基づく任意の日に受けた量)、及び開水面蒸発量を含む、導出された気象変数が計算され得る。直接の及び導出された気象入力に加えて、導出された土壌温度及び1日の積算成長度日が計算され得る。
【表3】
【0110】
特定の実施形態では、作物収量モデルは、「理想」の作物収量シナリオと「実際」の作物収量シナリオとの間を区別する。「理想の」作物収量は、ユーザの位置の制限(例えば、気候学的特性及び土壌に影響される特性)に関連する以上の発育に対する制限のない、所定の作物の種類及び品種に関する最大潜在収量に対応する。これらの制限を超えて、「実際の」作物収量は、作物の発育及び潜在収量に影響を与える事象ストレス(例えば、冬枯れ、霜/凍結事象)と併せて、栽培期全体を通した発育ストレス(例えば、熱、土壌水分、放射)からもたらされる。
【0111】
特定の実施形態では、作物の発育は、(フェノロジーモデルの実施形態に関して上述したように)ユーザ定義又は予測された植え付け日、及び成熟までの日数(DTM)の形態の品種情報を考慮する。DTMは、地域の気候学に基づいて、作物が成熟に到達するのに必要な成長度日の数(DDMAT)に変換され得る。特定の実施形態では、作物の出芽は土壌温度に基づくものであり得、出芽から成熟までの作物の発育は、成熟の値に到達するまで、度日の日ごとの積算に基づき得る。「実際の」作物に関する土壌温度及び気温は、現在の季節の観測値に基づき得る。
【0112】
植え付け日と導出された成熟に到達するまでの成長度日はまた、「理想の」作物をモデリングするために使用され得る。特定の実施形態では、「理想の」作物の発育は、1日の度日及び土壌温度の積算された気候学的平均(例えば、10年平均)に基づくものであり、作物の発育は、栽培期における平均的な気象条件を表すものであり、特定の年の条件ではない。これにより、「理想の」作物は、特定の季節に起こり得る気象の変動に影響されないようにすることができる。理想の作物の出芽は過去の平均土壌温度によって決定され、実際の作物は単一の季節の土壌温度によって決定されるため、「理想の」作物の出芽は「実際の」作物とは異なり得る。特定の実施形態では、「理想の」作物は、出芽から成熟への到達に進行するのに、DTM値によって示される気候学的度日によって定義される実際の作物と同じ数の積算度日を必要とする。「理想の」作物と「実際の」作物との間における、出芽と成熟との間の生物季節学的段階の日付の差異は、過去の期間と単一の季節の期間の度日の積算の差分に起因する。
【0113】
成長度(CGF)又はCGFにマッピングされた別の成長段階スケールの値(例えば、BBCH値)を通して作物フェノロジーを監視することに加えて、作物の発育もまた、「理想の」作物及び「実際の」作物の両方に使用され得る、出芽後に開始する葉面積指数(LAI)を使用して監視され得る。特定の実施形態では、作物の種類ごとに、過去の観測値によって決定された最大LAI値がある。モデル内では、度日積算が、成熟に到達するのに必要な積算度日の総数(DDLAI)の、定義された作物固有の割合に到達したときに、最大LAI値が発生する。毎日、LAI割合は、1日の度日積算(すなわち、「実際の」作物の場合は栽培期中のもの、「理想の」作物の場合は10年間の気候学的なもの)をDDLAIで除算したものに基づいて計算される。
【0114】
特定の実施形態では、冠温度は、植物の冬越しの生存率を決定するために使用される、冬作物の変数である。本明細書で使用される場合、冠温度とは、植物の生長点、すなわち根組織と茎組織との間の界面に隣接する土壌の温度を指す。モデルでは、ほとんどの一年生作物について、この深度は2cmと仮定され得る。特定の実施形態では、冠温度を計算する関数は、積雪深及び気温を入力として使用する。冠温度は、発芽と成熟との間で計算され得る。
【0115】
図9は、積雪深の関数としての気温と冠温度との間の関係を示している(図2は、Zheng et al.,“The APSIM-Wheat Module(7.5 R3008),”2015,apsim.infoからのものである)。特定の実施形態では、冠温度関数は、気温を冠温度に関係付ける積雪深勾配(SDS)を表す直線の勾配を計算することにより、図9に示す関係を使用する。
【0116】
2.環境ストレス及び品種の制限
上述のように、「理想の」作物は、ユーザの位置に関連するもの以外(例えば、理想的ではない土壌は、潜在収量が減少することになり、その位置は緯度に起因して栽培期が短いなど)、いかなる環境ストレスの影響も受けない。「理想の」作物と同じ植え付け日から開始して、「実際の」作物は、栽培期において発生するストレスを考慮した後、より少ない潜在収量を実現する。特定の実施形態では、「実際の」作物の収量は「理想の」作物の収量よりも少ない。
【0117】
「理想の」作物は、「実際の」作物の重要なレファレンスとなり得る。まず、「実際の」作物の発育は、「理想の」作物の発育に対して調整され得る。つまり、「理想の」作物を参照することにより、栽培期において実際の作物の発育が早いか遅いかを判定することができる。次に、「理想の」作物は、実際の作物ストレスによってバイオマスが減少する前に、バイオマスを毎日増加させる。
【0118】
特定の実施形態では、「実際の」作物は、部分収量損失を仮定して機能する。つまり、ストレスがなければ、部分収量損失は0である。積算ストレス又は極端なストレスがある場合、部分収量損失は1.0に到達し得る。出芽から開始して、理想の作物によって定義される毎日の地上部の最大成長がある。所定の日にストレスがあれば、最大成長は、何らかの割合で減少する。本明細書では、この減少を部分収量損失と呼ぶ。1日単位で、この損失の範囲は、0から1.0までであり得る。特定の実施形態では、1日の部分損失が栽培期全体を通して加算されて、季節の部分収量損失が決定される。1.0からこの季節の部分収量損失を差し引いて、実際の部分収量が計算され得る。「実際の」部分収量に、「植え付け遅延」潜在収量が乗算されて、実際の絶対収量が導出される。植え付け遅延収量については、後でより詳しく論じる。
【0119】
特定の実施形態では、収穫時潜在収量は、品種の選択に依存するため、実際の絶対収量は相対的な過去の平均収量(例えば、最低10年間)に対して正規化される。相対収量は、比較的良好な栽培期であれば1.0を上回り、又は比較的劣悪な栽培期であれば1.0を下回る割合として、栽培者に報告され得る。相対収量に、農場の過去から決定された平均収量を乗算して、栽培者の現地の実際の絶対収量が導出され得る。
【0120】
2.1 遺伝的な収量
特定の実施形態では、遺伝的な収量(GENYLD)は、選択されたハイブリッドの理論上の最大収量値に関連する度日の最大数に応じて設定される。これは、すべての気象条件、土壌条件、生理学的条件、及び管理条件が完璧であり、いかなるストレスもない(つまり、管理された温室環境で見られる条件)ことを仮定している。選択された作物について、トン/ヘクタール及びブッシェル/エーカー単位の遺伝的な収量を、以下の表4に列挙する。
【表4】
【0121】
2.2 土壌に影響される収量
特定の実施形態では、土壌に影響される収量(EDYLD)は、作物の成長及び発育に理想的でない土壌に関する遺伝的な収量の調整である。特定の実施形態では、土性だけが遺伝的な収量を減少させる。遺伝的な収量に、土壌に影響される収量の割合を乗算して、土壌に影響される収量が導出される。土壌に影響される収量の割合は、土性に関する土壌適性評価の関数である。例示的な土壌に影響される収量の割合を表5に示す。土壌に影響される収量の割合は、作物の種類によって変わり得る。
【表5】
【0122】
2.3 生物季節学的収量
すべての位置には、(上記の「理想の」作物に関連付けられない)作物フェノロジーモデルに関して上述したように、冬の気候指数(WCI)又は気候年率(RATIO)のいずれかに基づく理想の植え付け日、出芽日、及び成熟日がある。生物季節学的収量(PHENYLD)もまた、栽培者がその位置に最適な品種、つまり、栽培期の長さを最大化し、光合成に利用可能な太陽放射をフルに活用する品種を選択したと仮定している。特定の実施形態では、理想の植え付け日及び出芽日によって、この最適な品種が北半球において6月21日(南半球では12月21日)に花序に到達することができる。これに関連して、モデルは、夏至を中心としたときの出芽日と成熟日との間で発生し得る最大晴天放射(MCSRC)の総積算を考慮する。図10は、理想の植え付け日と成熟日との間における最大晴天放射の分布を表現したものであり、花序が6月21日に発生している。積算晴天放射の総量は、ユーザの緯度及び経度の関数であり、この曲線の下の面積で表される。特定の実施形態では、生物季節学的収量(PHENYLD)は、任意の年の所定のハイブリッド及び位置における最大潜在収量であり、土壌に影響される収量(EDYLD)及び最大晴天放射(MCSR)の関数として計算され得る。図11に生物季節学的収量を表すグラフを示す。曲線は、1日の潜在収量増分を表し、曲線下の面積は季節の潜在収量である。図11のパネル(a)は、生物季節学的収量の進展を示している。
【0123】
2.4 植え付け遅延収量
特定の実施形態では、植え付け遅延収量(PLDYLD)は、ほとんどの植え付け日が、出芽と成熟との間の期間が最も日が長い日(北半球では6月21日)を中心とするという結果をもたらさないという事実を考慮する。PLDYLDもまた、栽培者が適切な品種を選んだか否かを考慮する。図11のパネル(b)は、理想の品種の植え付けの遅延が潜在収量に対して与える影響、及び作物が成熟に到達しない場合の潜在的な影響を実証している(曲線は右にシフトし、大きさが減少している)。栽培者には、より栽培期の短い品種を植えるという選択肢があり、その場合、図11のパネル(c)の左にシフトした曲線で示すように、上で論じた理想の植え付け日は適切ではないことになり得る。このシナリオでは、栽培期の短い品種の植え付けの遅延は、図11のパネル(d)で6月21日にシフトして戻った曲線によって示されているように、6月21日を中心にするようになり、光合成能力を最大化することができるようになるため、有益である。
【0124】
特定の実施形態では、PLDYLDは、ユーザ植え付け日とシミュレートされた成熟日(選択された品種によって異なる)との間の1日のシミュレートされた晴天放射(SIMCSR)に基づいて計算される。
SIMCSR=Σ(植え付け日と成熟日との間の1日のMCSR),MJ/m 式20
【0125】
生物季節学的収量と植え付け遅延収量とは、いずれも放射積算を計算するのに同じ式を使用し得るが、放射積算期間の違いのために、2つの異なる結果をもたらし得る。生物季節学的収量は、最善の植え付け日及び品種の選択に基づく、理論的にその位置の最高収量である。実際の植え付け日は光合成のための放射を最大化するのに最適な日付ではないため、ほとんどの場合、植え付け遅延収量は生物季節学的収量の値よりも小さい。植え付け遅延収量を生物季節学的収量に対して比較することにより、他のすべての条件(植えた品種を含む)が同じである状態で、植え付け日を選択したことに起因する収量の損失が評価され得る。
【0126】
この時点で、モデルの議論は、植え付け日、品種の選択、及びユーザの位置の地理的制限を考慮している。これらの収量の制限により、「理想の」作物収量が予測される。「実際の」作物収量を得るために、「理想の」作物収量は、以下に論じるストレス要因を受ける。
【0127】
3.発育ストレス
特定の実施形態では、発育ストレスは、日ごとに計算され、現在の日付のみの収量進展に影響する。特定の実施形態では、すべての発育ストレスが出芽と成熟との間で日ごとに計算され、最終的な栽培期末の収量損失を得るために、栽培期を通して積算される。特に記載のない限り、式はすべての作物の種類に適用される。
【0128】
3.1.発育光
出芽後、作物の草冠は、雲量に応じて、異なるレベルの入射太陽放射を受ける。作物がその放射をどのように利用するかはその成長段階に依存する。特定の実施形態では、特定の日の潜在収量は、1日の最大晴天入射太陽放射(SRSX)(ユーザの位置に依存)及び草冠の葉面積指数(LAI)の関数である。「実際の」作物の収量は、実際の1日の入射太陽放射(SRST)及び草冠LAIによって決定される閾値の関数である。1日の草冠LAIのその最大値LAI(MAXLAI)に対する比率の関数としての、最大潜在収量を決定するための太陽放射閾値(SRT)の計算。いくつかの作物のMAXLAIを表6に列挙する。
【表6】
【0129】
特定の実施形態では、実際の1日の入射太陽放射(SRST)が閾値以上である場合、モデルによれば、作物のその日の潜在収量は最大限に進展する。SRSTが閾値よりも小さい場合、実際の収量は潜在値よりも小さくなる。特定の実施形態では、発育光収量損失は、割合として、太陽放射閾値(SRT)及び実際の日照(SRST)を使用して次のように計算される。
1日の発育光収量損失=(SRT-SRST)/SRT 式21
上式で、SRST≦SRTである。
【0130】
特定の実施形態では、発育光収量は、1日の発育光収量損失の積算によって決定される。
発育光収量=1-Σ(1日の発育光収量損失) 式22
【0131】
3.2 発育熱
出芽後、作物は、1日に過度に高い気温にさらされることがある。これには、作物の出芽と成熟との間において、定義された1日の最低温度閾値(TMN)又は最高温度閾値(TMX)のいずれか(又は両方)を超える温度を含み得、その結果、収量の損失となる。本明細書では、この高温への曝露を、作物モデルにおいて発育熱(Dev Heat)収量損失と呼ぶ。特定の実施形態では、1日の最低温度(TMN)及び1日の最高温度(TMX)の両方に対する2組の作物固有の温度閾値が定義される。各組の一方の閾値は、発育熱ストレスが開始する温度を定義し、他方の閾値は、最大の発育熱ストレスが発生する時を定義する。1日のTMN及びTMXが発育熱ストレスの開始の閾値よりも低い場合、発育熱ストレスは示されない。1日のTMN温度又はTMX温度が最大発育熱ストレスの閾値を超える場合、最大レベルの発育熱ストレスが適用される。TMN及びTMXが熱ストレスの開始と最大との間の閾値に含まれる場合、1日の発育熱ストレスは、開始温度閾値及び最大温度閾値によって定義された温度範囲の間のTMN又はTMXの関数として計算される。(作物ごとに条件文として実装された)作物固有の温度閾値を超える場合、定義された発育熱(Dev Heat)収量が使用される。定義された温度範囲外では、作物固有の発育熱収量損失は、各作物に対して定義された最低(TMNF)及び最高(TMXF)温度割合式の関数として計算され得る。
【0132】
3.3 発育土壌水分
出芽後、作物の根は永久萎凋点から圃場容量までの範囲にある様々なレベルの土壌水分を経る。特定の実施形態では、特定の日における特定の発根深度(作物の発育に伴って深くなる)に対する最大有効水分が、潜在土壌水分であると見なされる。(図12に示す)1日の土壌水収支から計算された実際の有効水分は、最大値以下である。1日の土壌水収支は、有効降水量に起因する根への水の利用可能性、及び実際の作物の蒸発散量に起因する水の損失を考慮する。有効降水量及び蒸発散量の計算の仕方の詳しい説明については、以下に記載する。
【0133】
特定の実施形態では、特定の日の潜在収量は潜在土壌水分の関数であり、実際の収量は実際の土壌水分の関数である。土壌水分の不足に起因する収量損失(実際の土壌水分が潜在値以下である場合)は、式23にしたがって計算され得る。以下に、土壌水分の不足があるか否かを判定するための式(「水収支手法」と呼ばれる)を示し、図12に示すプロセスを概説する。式は2つのセクション、すなわち、図の土壌地表線より上に提示されるものと、土壌地表線より下に提示されるものとに分割される。
1日の発育土壌水分収量損失=1-実際の有効水分/潜在有効水分 式23
【0134】
特定の実施形態では、割合としての発育土壌水分収量の1日の増分は、損失割合から以下のように計算される。
発育土壌水分収量=1-Σ(1日の発育土壌水分損失) 式24
【0135】
特定の実施形態では、水収支手法では、土壌への降水量を加算し、蒸発量及び作物の蒸散量を減算して、1日の利用可能な土壌水分を計算する。土壌の蒸発と作物の蒸散とを組み合わせたものは、一般に「蒸発散量」と呼ばれる。
【0136】
特定の実施形態では、計上された利用可能な土壌水分は、土性及び作物固有の根域深度から決定され、上限値(圃場容量)と下限値(最大不足)との間で変動する。また、最大不足を示す値の前に、作物ストレスの開始を示す中間値もある。利用可能な水分が下限値(最大不足)以下に低下すると、作物は回復不能な損傷を受ける(図12)。
【0137】
3.3.1 地上部の計算
有効降水量
一定量の降水量が地表に到達し得るが、土壌有効水分を補充するのは、その総量のほんの一部のみである。これを「有効」降水量と呼ぶ。土壌表面に到達する降水量は、作物草冠密度及び植生表面の蒸発率の関数である。草冠による遮断及び葉からの蒸発後に土壌に入る降水量は「有効」降水量と呼ばれ、特定の実施形態では、総降水量と草冠によって遮断される降水量との間の差分である。
【0138】
蒸発散量
特定の実施形態では、作物係数は、栽培期における作物の発育及び蒸発散量のその後の変化を反映するために潜在蒸発散量を調整するために使用されるスケーリング係数である。作物係数は、土壌及び作物の両方の蒸発率が開水面蒸発にスケーリングされ得ると仮定する(後述)。つまり、土壌層又は作物草冠のいずれかが、開水面に等しい速度で大気中に水を輸送する場合、作物係数は1.0に設定される。作物草冠構造に結合された土壌における有効水分は、0から1.0を超える作物係数を実現し得る。
【0139】
作物係数曲線は、図13に示すように、作物のバイオマス積算を模倣する。特定の実施形態では、曲線を定義するために6つの係数が使用される。1つ目の係数は、播種時の休耕土壌に等しい植え付け作物係数(CCPL)である。2つ目の係数は、栄養生育期の開始に対応する出芽作物係数(CCEM)である。3つ目の係数は、栄養生育期の終了及び最大葉面積指数、並びに生殖期の開始を示す生殖作物係数(CCRP)である。4つ目の係数は、生殖期の終了及び果実肥大の開始を示す開花作物係数(CCFL)である。5つ目の係数は、果実肥大の終了又は成熟に対応する成熟作物係数(CCMT)である。6つ目で最後の作物係数は、栽培期の終了を示すが、土壌表面に枯死物質が存在することを示す収穫(CCHV)である。作物係数に関連付けられた値は作物によって異なり、図13に示す値は説明のみを目的とするものであることに留意されたい。
【0140】
特定の実施形態では、毎日、図13に示す曲線に基づいて作物係数(CC)が計算される。例えば、作物の発育が出芽と生殖との間にある場合、1日の作物係数値は、度日の1日の積算を出芽と生殖との間の度日の総数で除算したものを使用して、それらの値の間で補間される。
【0141】
特定の実施形態では、蒸発関連プロセスは、一連のステップ及び係数を使用して、土壌蒸発量及び作物蒸発散量の両方を計算する、食糧農業(FAO)スキームにしたがう。まず、開水面蒸発量(EOWT)が、気象データ入力から導出された変数として提供される。EOWTに、例えば0.8の固定係数を乗算して、次のように基準作物蒸発散量(EVRT)を導出する(この場合は、気象観測所の標準的な植被である背の低い草である)。
EVRT=0.8*EOWT,mm 式25
【0142】
特定の実施形態では、潜在蒸発散量を決定するために、EVRTに1日の作物係数(CC)を乗算することによって、作物についてEVRTを調整する必要がある。これにより、作物の発育に基づいて基準蒸発散量を調整することができる(成長初期フェーズにおける低いレートから、生殖と成熟との間の期間においては可能な限り高いレートまで)。
EVPT=CC*EVRT,mm 式26
【0143】
特定の実施形態では、実際の蒸発散量(EVAT)は、まず実際の蒸発散量が1日の最大潜在蒸発散量限度以下になるようにスケーリングする比率(EVAT2EVPT)を計算し、次にその比率に潜在蒸発散量(EVPT)を次のように乗算することによって導出される。
EVAT=EVPT*(EVAT2EVPT),mm 式27
上式で、EVAT2EVPT比率は、降水関連プロセス後の利用可能な土壌水分及び圃場容量を上回る最大有効水分に基づいてモデリングされる。
【0144】
3.3.2 地下部の計算
特定の実施形態では、土壌水収支変数は、絶対値又は相対値として提示される。絶対値の場合、最小ストレス値及び最大ストレス値に対する、有効水分の減少又は増加(mm単位)を追跡することができる。利用可能な土壌水分のこの変動は、1日及び積算の土壌水分の不足に移行され得る。
【0145】
特定の実施形態では、作物収量モデルにおける土壌水分の計算は、栽培期内の任意の日付における表面から発根深度までの単一の土壌層のためのものである。この手法は一般に「水桶」と呼ばれる。この呼称は、地表からの深さに関係なく、根域内のすべての水分が作物に直ちに利用可能であることを強調するものである。
【0146】
特定の実施形態では、作物の段階に応じて栽培期を通して根域を調整するために、フェノロジーモデルが使用される。植え付けから開始して、根域は、播種深度から作物の種類ごとに定義される最大値まで着実に増加する。根域によって、作物に利用可能な最大土壌水分が決まる。
【0147】
特定の実施形態では、作物を植え付ける前に、モデルは、土性に基づいて、土壌での蒸発によって失われ得る所定量の水分を貯蔵することができる露出土壌を仮定する。この所定の水分の量は、土壌の容水量に基づいて、根域に貯蔵され得る最大水分の割合として計算される。例えば、土壌の容水量が土壌深度1mm当たり0.18mmの水分である場合、100mmの土壌では土壌での蒸発に利用可能な水分は18mmになる。特定の土壌に貯蔵される水分の量は、土性及び他の物理的特性によって異なる。
【0148】
植え付け後、1日目に作物が利用可能な土壌水分は播種深度であり、通常は25.4~50.8mm(1~2インチ)の範囲にある。例えば、0.18の容水量と仮定すると、土壌深度25.4mmには、有効水分の4.572mm(土壌25.4mm×水0.18mm/土壌1mm)がある。根が成長すると、それに応じて利用可能な土壌水分が増加する。栽培期が進行するにつれて、利用可能な土壌水分は最大発根深度(根域)によって定義される作物固有の最大値に到達する。例えば、小麦の最大発根深度は508mmである。土壌1mm当たり0.18mmの容水量と仮定すると、根域の最大有効水分は91.44mm(土壌508mm×水0.18mm/土壌1mm)になる。
【0149】
特定の実施形態では、栽培期の各時点において、圃場容量における有効水分の量(AWFC)が、土性(利用可能な容水量又はAWHC)及び発根深度(CRD)に基づいて計算される。
AWFC=AWHC*CRD,mm 式28
【0150】
特定の実施形態では、実際の利用可能な土壌水分は、環境内で同時に発生する降水量及び蒸発関連プロセスによって決定される。収量モデルでは、これらのプロセスは加算的に反復的に考慮される。したがって、利用可能な土壌水分の1日の計算サイクルは、次のように前日の最終総水分量から開始する。
AWT1=AWT3t-1,mm 式29
【0151】
次に、有効降水量が利用可能な土壌水分に次のように加算される。
AWT2=AWT1+EPCP,mm 式30
【0152】
有効降水量が圃場容量より大きい場合、滞水が発生する。滞水は、降雨事象後の土壌表面に、ある量の残存水分がある短期的な事象である。滞水は、土壌表面に最大水分深度(PONDMX)が発生するまで可能である。特定の実施形態では、この最大値は25.4mmである。滞水に起因する最大水分量(PONDMX)を圃場容量の有効水分(AWFC)に加算して、圃場容量を超える最大有効水分(AWFCX)が次のように導出される。
AWFCX=AWFC+PONDMX,mm 式31
【0153】
利用可能な土壌水分(AWT2)が圃場容量を超える最大有効水分(AWFCX)よりも多い場合、潜在滞水量を超過しており、残りの水分は流出分(runoff)と見なされる。
RUNOFF=AWT2-AWFCX,但し、AWT2>AWFCX,mm 式32
【0154】
それ以外の場合、AWT2がAWFCX以下であるとき、降水関連プロセス後の土壌水分の収支を表す。
【0155】
実際の蒸発散量は、降水関連プロセスを次のように考慮した後、利用可能な土壌水分から差し引かれる。
AWT3=AWT2-EVAT,mm 式33
【0156】
特定の実施形態では、利用可能な土壌水分(AWT2)が実際の蒸発散量よりも小さい場合、有効水分AWT3は0に設定される。ここで、利用可能な土壌水分の毎日の計算サイクルが完了し、最終的なAWT3が翌日の計算の開始点となる。
【0157】
特定の実施形態では、実際の蒸発散量の潜在蒸発散量に対する比率(EVAT/EVPT)は、土壌水分に起因する収量に対する発育ストレスを計算するために使用される、実際の土壌水分の潜在土壌水分に対する比率に等しいと見なされる。
【0158】
4.事象ストレス
4.1 冬枯れ
冬作物及び多年生植物は、長期間の低温において冬季における低温関連ストレスに耐える必要があり、そうでないと冬枯れの影響を受けやすくなる。特定の実施形態では、「耐寒性日数」の積算が最低生存温度の計算に入力され、それが冬枯れ収量損失の計算への入力となる。
【0159】
特定の実施形態では、作物の発育が、定義された作物固有の初期栄養生育状態(冬小麦及び冬大麦の場合は三葉期(BBCH13)など)に到達したときに耐寒性日数が積算される。特定の成長段階後の各日において、任意の日の冠温度(上述)が9℃以下である場合、その日は耐寒性日としてカウントされる。
【0160】
冬作物の最低生存温度は年ごとに極めて動的である。最低生存温度は、作物の低温順化だけでなく、積雪、そしてある程度まで土壌水分にも依存する。図14は、低耐寒性、中耐寒性、及び高耐寒性を有する冬小麦品種の最低生存温度を示している。1インチ(25.4mm)の土壌温度が、最低生存温度曲線に重ねられている(出典:マニトバ州農業気象プログラム)。特定の実施形態では、通日及び耐寒性日数(CHD)が、シミュレートされた最低生存温度曲線への入力となる。
【0161】
冬枯れは、冠温度が最低生存温度まで下がる、又はこれを下回ると発生する。特定の実施形態では、冠温度が最低生存温度以下の場合に冬枯れ日数(WKD)がカウントされる。積算冬枯れ日数によって、冬季における低温ストレスのレベルが決まる。冬枯れ収量(WYL)は次のように表され得る。
WYL=1-Σ(1日の冬枯れ収量損失) 式34
また、積算WKD、1日の冠温度(CROWNT)、及び1日の最低生存温度(MST)の関数として計算され得る。
【0162】
4.2 春又は秋の霜/凍結
出芽後、秋に植え付けた冬作物か春に植え付けた作物かを問わず、作物の葉が霜又は凍結にさらされることがあり、結果として、作物が成熟に到達するまで収量損失となり得る。特定の実施形態では、作物が霜/凍結事象によって影響を受ける場合、収量損失の計算は作物の種類に依存する。特定の実施形態では、トウモロコシ及び大豆の霜/凍結収量損失は、表面土壌温度の関数である葉への損傷を考慮して計算される。特定の実施形態では、若い苗が経験する放射熱損失をより適切に表現することから、表面土壌温度(ST0A)を使用している。他のすべての作物については、収量損失は、1日の最低気温と、収量損失に関して定義された作物固有の温度閾値とを使用して、モデリングされ得る。春又は秋の霜/凍結は収量損失事象と見なされ得、残りの栽培期を通して存続する。春又は秋の霜/凍結は、作物成長度1.0と2.0と(出芽と成熟と)の間で懸念され、収量の損失の程度は作物固有の関数及び閾値によって定義される。
【0163】
4.3 地表水損失
出芽後、作物が土壌を飽和させるような大雨事象を経験することがある。飽和した土壌は、酸素が根に到達するのを妨げるため、収量が減少する。飽和した土壌を考慮するため、土壌水収支は表層水の滞留を考慮する。地表水の存在は、土壌水分が圃場容量(AWFC)よりも大きいことを示す。
【0164】
地表水損失は、有効水分が土壌圃場容量(AWFC)と、特定の実施形態では25.4mmに設定される定義された最大滞水深度(PONDMX)との間にあるときに発生する。出芽段階と生殖段階との間の所定の日に、土壌水収支が地上部での限界を超えた場合、その日が飽和水日として示され得る。特定の実施形態では、第1の生殖成長段階までに積算飽和水日が16日を超えた場合、生殖と成熟との間の1日の収量増分が75%減少する。この収量損失は、作物が成熟するまでの残りの栽培期を通して存続され、次のように表され得る。
地表水損失収量=1-地表水損失 式35
【0165】
4.4 草冠損失
「実際の」(シミュレートされた)作物が、生殖前に「理想の」(気候学的な)作物よりも早く発育した場合、「実際の」作物草冠はその全潜在バイオマスに到達せず、したがって潜在収量が減少する。この収量の減少は、「理想の」作物の成長段階間隔に対して、出芽と生殖段階との間の期間が短くなった(十分に光合成できない)ことに起因して、晴天太陽放射が減少することに起因する。特定の実施形態では、草冠収量損失は、「理想の」作物期間の積算晴天放射束に対する、短縮された「実際の」作物期間の積算晴天放射束の関数である。特定の実施形態では、1日の気象観測値は、「実際の」作物の成長段階の発育を変化させ得る予測された1日の気象予測に置き換わるため、「実際の」作物の出芽と生殖との間の成長期間の積算晴天放射は毎日更新され得る。草冠収量は、次のように表現され得る。
草冠収量=1-Σ(1日の草冠収量損失) 式36
【0166】
4.5 結実損失
実際の作物が開花段階に土壌水分ストレスと併せて極端な暑さを経験した場合、結実不良(種子数の減少)が起こり、結果として収量が減少する。特定の実施形態では、この収量減少は2つのステップで計算される。第1のステップでは、1日の最高気温の3日移動平均が、例えば、成長度段階1.45から1.55(開花開始直後から約50%開花まで)の間の毎日計算される。毎日、3日間の平均気温が作物固有の最高気温閾値(TMXT)と比較され、これが熱ストレスの開始を示す。
【0167】
第2のステップでは、季節の残りの結実収量損失が、最高気温の割合(TMXF)及びその期間の3日間の利用可能な平均土壌水分(AW3DA)の関数として計算され得る。最高気温の割合は、閾値を超える気温に対する1度当たりの熱ストレスの程度を定義する作物固有の除数を使用して、TMXTを超える気温を0~1の範囲にスケーリングするストレス指数である。
【0168】
特定の実施形態では、結実収量の1日の増分が計算され、1.45~1.55(開花初期から50%開花)の作物成長度期間にわたって積算され、その季節において結実収量を計算するために使用される。
結実収量=1-Σ(1日の結実収量損失) 式37
【0169】
4.6 登熟損失
実際の作物の発育が理想の作物よりも遅い場合、登熟するための炭水化物の転流の時間が不十分である。十分な結実(種子の数)があり得るが、すべての種子の平均サイズは潜在的なサイズよりも小さい。特定の実施形態では、理想の作物が生殖段階(例えば、成長度=1.5)に到達すると、登熟損失の評価が開始される。「理想の」作物が成長度1.5に到達した日に、「実際の」作物の発育が「理想の」作物の発育と比較される。その日に、「実際の」作物の成長度が「理想の」作物の成長度より低い場合、登熟損失があることになる。
【0170】
特定の実施形態では、登熟損失は、2つのステップで決定される。まず、「理想の」作物成長度が1.5であり(早期開花)、且つ「実際の」作物成長度に先行する日において、積算「理想の」作物収量割合(Σ(理想の作物収量)に対する積算「実際の」作物収量割合(Σ(実際の作物収量))の登熟損失比率(SFLR)が以下のように計算される。
SFLR=Σ(実際の作物収量)/Σ(理想の作物収量) 式38
上式で、収量積算期間は、理想の作物については、出芽と早期開花(成長度=1.5)との間の期間であり、「実際の」作物については、出芽の日付から「理想の」作物が早期開花に到達する日付までの期間である。「実際の」作物の成長度が「理想の」作物の成長度より高い場合、SFLRは1.0に設定される。
【0171】
特定の実施形態では、登熟収量損失は、以下のように、単純に1.0と登熟損失比率(SFLR)との間の差分である。
登熟収量損失=1.0-SFLR 式39
【0172】
割合としての登熟収量の1日の部分増分は、損失割合から以下のように計算される。
登熟収量=1-登熟収量損失=SFLR 式40
【0173】
図15は、本開示の実施形態による、栽培期における作物収量を決定/計算(例えば、シミュレート)する方法1500を示すフロー図である。方法1500は、ハードウェア(例えば、回路、専用ロジック、プログラマブルロジック、マイクロコードなど)、ソフトウェア(例えば、ハードウェアシミュレーションを行うためにプロセッシングデバイス上で実行される命令)、又はそれらの組み合わせを含むプロセッシングロジックによって実行され得る。特定の実施形態では、方法1500の1つ以上の要素は、例えば、モデリングサーバ(例えば、モデリングサーバ130の作物収量モデリングコンポーネント140)によって実行され得る。
【0174】
ブロック1510において、プロセッシングデバイス(例えば、モデリングサーバ130のプロセッシングデバイス)は、ユーザのデバイス(例えば、それぞれのユーザインターフェース122A~122Zを介して、ユーザデバイス120A~120Zのうちの1つ以上)からの入力を(例えば、ネットワーク105を介して)受信する。特定の実施形態では、入力は、作物の種類(例えば、1つ以上の作物の種類の識別子)、作物の植え付け日、及び作物の栽培される地理的位置を含む。
【0175】
特定の実施形態では、プロセッシングデバイスは、理想の作物潜在収量を計算するために利用される複数のパラメータを計算する、又は読み出す。特定の実施形態では、複数のパラメータは、気象条件、土壌特性、及び作物の成熟に必要な作物固有の成長度日を表し、複数のパラメータは、少なくとも部分的に作物の種類、作物の植え付け日、及び地理的位置から、過去の気象及び作物の観測値と組み合わせて導出される。
【0176】
特定の実施形態では、入力は、作物の植え付け日を指定しない。他の実施形態では、ユーザ入力は、実際の植え付け日又は植え付け予定日を指定する。特定の実施形態では、地理的位置は、国、州/行政区、市、又は町などの地政学的位置として指定される。特定の実施形態では、地理的位置は、緯度及び経度又は全地球測位システムの範囲によって指定される。特定の実施形態では、位置情報は、ユーザが直接位置を入力する必要がないように、デバイスから直接取得される(例えば、入力時のデバイスの位置)。
【0177】
ブロック1520において、プロセッシングデバイスは、作物の種類、植え付け日、地理的位置、及びフェノロジーモデルに少なくとも部分的に基づいて、理想の作物潜在収量を計算する。特定の実施形態では、理想の作物潜在が、地理的位置に関して、発育ストレス、環境ストレス、及び事象ストレスを含まずに計算される最大潜在収量を表す作物潜在収量を日付の関数として表すプロファイルとして計算される。特定の実施形態では、プロセッシングデバイスは、植え付け日、推定出芽日、及び度日積算モデルに基づいて、作物の植物発育段階をシミュレートすることによって、フェノロジーモデルを計算する。フェノロジーモデルは、例えば、方法700にしたがって計算され得る。
【0178】
ブロック1530において、プロセッシングデバイスは、栽培期において発生が予測される、又は発生が観測される発育ストレス及び事象ストレスに少なくとも部分的に基づいて、ストレスモデルを計算する。特定の実施形態では、プロセッシングデバイスは、栽培期において予測される放射損失条件、極端な温度条件、及び水分損失条件に少なくとも部分的に基づいて、発育ストレスを計算する。特定の実施形態では、プロセッシングデバイスは、結実損失モデル及び登熟損失モデルに少なくとも部分的に基づいて、事象ストレスを計算する。特定の実施形態では、プロセッシングデバイスは、土壌水分モデル及び草冠発育損失モデルに少なくとも部分的に基づいて、事象ストレスを計算する。
【0179】
ブロック1540において、プロセッシングデバイスは、理想の作物潜在収量にストレスモデルを削減ペナルティとして適用することによって、実際の作物収量を計算する。
【0180】
特定の実施形態では、プロセッシングデバイスは、実際の作物収量を、表示のためのユーザのデバイスに送信する。特定の実施形態では、プロセッシングデバイスは、成長プロファイルを、更なるモデリングのため、若しくは作物に適用するための推薦される薬剤を生成するための別個のコンピューティングデバイスに送信する。特定の実施形態では、プロセッシングデバイスは、成長プロファイルを、作物を収穫又は処理するためのツールを動作させるように適合されたデバイスに送信する。
【0181】
本明細書で説明される実施形態は、いかなる特定の用途又は環境での使用にも限定されるものではなく、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなしに、開示された実施態様に変更を加えることができることを理解されたい。本明細書では、特定の目的のための特定の環境における特定の実施態様に関連して本開示を説明してきたが、当業者であれば、その有用性はこれに限定されるものではなく、本開示は、任意の数の目的のために任意の数の環境で有益に実施され得ることを認識されよう。
【0182】
説明を簡単にするために、本開示の方法は、一連の動作として描かれ、記載される。しかしながら、本開示にしたがった動作は、様々な順序で及び/又は同時に且つ本明細書に提示及び記載されない他の動作と一緒に行われ得る。更に、すべての例示された動作が、開示された主題にしたがった方法を実施することを必要とされ得るとは限らない。加えて、当業者は、方法が代替的に状態図又は事象を介した一連の相互関連状態として表され得ることを理解し、認識するであろう。加えて、本明細書で開示される方法は、このような方法を実行するための命令をコンピューティングデバイスに輸送及び転送することを助けるために、製品上に格納することが可能であることを理解されたい。本明細書で使用される場合、「製品」という用語は、任意のコンピュータ可読デバイス又は記憶媒体からアクセス可能なコンピュータプログラムを包含することが意図されている。
【0183】
上記の説明では、多数の詳細が記載されている。しかしながら、本開示の恩恵を受けた当業者には、これらの具体的な詳細がなくても本開示を実施し得ることが明らかなはずである。場合によっては、本開示を不明瞭にすることを避けるために、周知の構造及びデバイスが、詳細にではなくブロック図の形式で示される。
【0184】
詳細な説明のいくつかの部分は、コンピュータメモリ内のデータビットでの動作のアルゴリズム及び記号式表現の観点から提示されていることがある。これらのアルゴリズム的説明及び表現は、仕事の本質を他の当業者に最も効率的に伝えるためにデータ処理分野の当業者により使用される手段である。アルゴリズムは本明細書では及び一般に、所望の結果に繋がる自己矛盾のない一連のステップであると考えられる。これらのステップは、物理数量の物理的操作を必要とするものである。必ずしもそうである必要はないが、通常、これらの数量は、記憶、転送、結合、比較、及び他の方法での操作が可能な電気信号又は磁気信号の形態を取る。時に、主に慣例を理由として、これらの信号をビット、値、要素、シンボル、文字、条件、数等と呼ぶことが時に便利なことが判明している。
【0185】
しかしながら、これらの用語及び同様の用語のすべてが、適切な物理数量と関連付けられるべきであり、それらの数量に適用される単に好都合なラベルであることに留意されたい。特に別段の記載のない限り、上述の議論から明らかなように、本明細書全体を通じて、「構成する」、「受信する」、「変換する」、「生起させる」、「ストリーミングする」、「適用する」、「マスキングする」、「表示する」、「読み出す」、「送信する」、「計算する」、「生成する」、「加算する」、「減算する」、「乗算する」、「除算する」、「選択する」、「解析する」、「最適化する」、「較正する」、「検出する」、「格納する」、「実行する」、「分析する」、「決定する」、「可能にする」、「識別する」、「変更する」、「変換する」、「集約する」、「抽出する」、「実行する」、「スケジューリングする」、「シミュレートする」などの用語を利用した議論は、コンピュータシステムのレジスタ及びメモリ内の物理的(例えば、電子的)量として表現されたデータを、コンピュータシステムのメモリ若しくはレジスタ、又は他のそのような情報記憶、伝送、若しくは表示デバイス内の物理的量として同様に表現された他のデータに操作及び変換するコンピュータシステム又は同様の電子コンピューティングデバイスの動作及びプロセスを指すことを理解されたい。
【0186】
本開示はまた、本明細書における各動作を実行するための装置、デバイス、又はシステムに関する。この装置、デバイス、又はシステムは、必要とされる目的に向けて特に構築されてもよく、又はコンピュータに格納されたコンピュータプログラムにより選択的にアクティブ化若しくは再構成される汎用コンピュータを含んでもよい。このようなコンピュータプログラムは、限定されるものではないが、フロッピーディスク、光ディスク、コンパクトディスク読み取り専用メモリ(CD-ROM)、及び光磁気ディスクを含む任意のタイプのディスク、読み取り専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、EPROM、EEPROM、磁気カード若しくは光カード、又は電子命令を格納するのに適した任意のタイプの媒体などのコンピュータ可読記憶媒体又は機械可読記憶媒体に格納され得る。
【0187】
「例」又は「例示的」という用語は、本明細書では、例、実例又は例示として役立つことを意味するために用いられる。「例」又は「例示的」として本明細書に記載される任意の態様又は設計は、他の態様又は設計よりも好ましい又は有利であると必ずしも解釈されない。むしろ、「例」又は「例示的」という語の使用は、具体的な様式で概念を提示することが意図される。本出願で用いる場合、「又は」という用語は、排他的な「又は」よりもむしろ包括的な「又は」を意味することが意図される。すなわち、特に明記しない限り又は文脈から明らかでない限り、「Xは、A又はBを含む」は、自然な包含的配列のいずれかを意味することが意図される。すなわち、XがAを含む;XがBを含む;又はXがA及びBの両方を含む場合、「Xは、A又はBを含む」は、前述の例のいずれの下でも満たされる。加えて、本出願及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、冠詞「a」及び「an」は、別段の指定のない限り、又は文脈から単数形を指すことが明らかでない限り、一般に、「1つ以上(one or more)」を意味するように解釈される。本明細書全体にわたり、「実施形態」又は「一実施形態」への言及は、実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造、又は特性が少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体にわたって様々な箇所での語句「実施形態」又は「一実施形態」の出現は、必ずしもすべてが同じ実施形態に言及するわけではない。更に、図面の特定の要素を参照するために使用される「A~Z」の表記は、要素の特定の数を限定することを意図されていないことに留意されたい。よって、「A~Z」は、特定の実施形態において要素うちの1つ以上が存在すると解釈される。
【0188】
本開示は、本明細書に記載の特定の実施形態によってその範囲を限定されるものではない。実際、本明細書及び添付の図面を読めば、本明細書で説明されたもの以外に、本開示の他の様々な実施形態及び修正形態が当業者には明らかになるはずである。よって、そのような他の実施形態及び修正形態は、本開示の範囲に含まれることが意図されている。更に、特定の目的のための特定の環境における特定の実施形態に関連して本開示を説明してきたが、当業者であれば、その有用性はこれに限定されるものではなく、本開示は、任意の数の目的のために任意の数の環境で有益に実施され得ることを認識されよう。したがって、以下に記載される特許請求の範囲は、本明細書に記載される本開示の全範囲及び趣旨を、かかる特許請求の範囲が権利を有する均等物の全範囲と併せて考慮して解釈されるものとする。
【0189】
本発明を以下の実施形態によっても表すことができる。
実施形態1:
栽培期における作物収量を決定、計算、又はシミュレートする方法であって、本方法が、
ユーザのデバイス、データベース、又はセンサからの入力を受信することであって、入力が、作物の種類、作物の植え付け日、及び作物の栽培される地理的位置を含む、受信することと、
作物の種類、植え付け日、地理的位置、及びフェノロジーモデルに少なくとも部分的に基づいて、理想の作物潜在収量を計算することと、
栽培期において発生が予測される、又は発生が観測される発育ストレス及び事象ストレスに少なくとも部分的に基づいて、ストレスモデルを計算することと、
理想の作物潜在収量にストレスモデルを削減ペナルティとして適用することによって、実際の作物収量を計算することと、
実際の作物収量を、
表示のためのユーザのデバイス、
更なるモデリングのため、若しくは作物に適用するための推薦される薬剤を生成するための別個のコンピューティングデバイス、又は
作物を収穫又は処理するためのツールを動作させるように適合されたデバイス
のうちの1つ以上に送信することと
を含む、方法。
実施形態2:
理想の作物潜在収量を計算するために利用される複数のパラメータを計算すること、又は読み出すことであって、複数のパラメータが、気象条件、土壌特性、及び作物の成熟に必要な作物固有の成長度日を表し、複数のパラメータが、少なくとも部分的に作物の種類、作物の植え付け日、及び地理的位置から、過去の気象及び作物の観測値と組み合わせて導出される、計算すること、又は読み出すこと
を更に含む、実施形態1に記載の方法。
実施形態3:
理想の作物潜在が、地理的位置に関して、発育ストレス、環境ストレス、及び事象ストレスを含まずに計算される最大潜在収量を表す作物潜在収量を日付の関数として表すプロファイルとして計算される、実施形態1又は2に記載の方法。
実施形態4:
植え付け日、作物の品種、推定出芽日、及び度日積算モデルに基づいて、作物の植物発育段階を決定、計算、又はシミュレートすることによって、フェノロジーモデルを計算することを更に含む、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
実施形態5:
栽培期において予測される放射損失条件、極端な温度条件、及び水分損失条件に少なくとも部分的に基づいて、発育ストレスを計算することを更に含む、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
実施形態6:
結実損失モデル及び登熟損失モデルに少なくとも部分的に基づいて、事象ストレスを計算することを更に含む、実施形態1~5のいずれか1つに記載の方法。
実施形態7:
土壌水分モデル及び草冠発育損失モデルに少なくとも部分的に基づいて、事象ストレスを計算することを更に含む、実施形態1~6のいずれか1つに記載の方法。
実施形態8:
作物の処理に使用可能な農業機械を制御する直接又は間接制御パラメータとして、実際の作物収量を少なくとも部分的に使用することを更に含む、実施形態1~7のいずれか1つに記載の方法。
実施形態9:
計算された実際の作物収量に基づいて、作物を収穫又は処理するためのツールをデバイスに動作させることを更に含む、実施形態1~8のいずれか1つに記載の方法。
実施形態10:
栽培期における作物収量を決定、計算、又はシミュレートするシステムであって、本システムが、メモリデバイスと、メモリデバイスに動作可能に結合されたプロセッシングデバイスであって、プロセッシングデバイスが、実施形態1~9のいずれか1つに記載の方法を実行するように構成される、プロセッシングデバイスとを備える、システム。
実施形態11:
プロセッシングデバイスによって実行されると、プロセッシングデバイスに実施形態1~9のいずれか1つに記載の方法を実行させる命令を符号化した非一時的コンピュータ可読媒体。
実施形態12:
実施形態1~9のいずれか1つに記載の方法を実行するように構成されたオンボードプロセッシングデバイスを備える、作物を収穫又は処理するためのツール。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【国際調査報告】