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特表2025-501269アンチセンスオリゴヌクレオチド及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】アンチセンスオリゴヌクレオチド及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20250109BHJP
   A61K 31/712 20060101ALI20250109BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20250109BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
C12N15/113 130Z
C12N15/113 ZNA
A61K31/712
A61K48/00
A61P19/02
A61P35/00
A61P3/10
A61P25/00
A61P25/16
A61P25/28
A61P25/14
A61P13/12
A61P11/00
A61P9/00
A61P9/10
A61P1/16
A61P31/12
A61P17/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539674
(86)(22)【出願日】2022-12-28
(85)【翻訳文提出日】2024-08-20
(86)【国際出願番号】 US2022082445
(87)【国際公開番号】W WO2023129939
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】63/294,835
(32)【優先日】2021-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506198263
【氏名又は名称】財團法人生物技術開發中心
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】ライリー, イング・シュアン
(72)【発明者】
【氏名】リュウ, チア・ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ワング, チ・タング
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ, ペイ・イー
(72)【発明者】
【氏名】ウー, チャング・フシアン
(72)【発明者】
【氏名】ラム, キング
(72)【発明者】
【氏名】サン, ウェイ・ティング
(72)【発明者】
【氏名】ヤング, カイ・チェン
(72)【発明者】
【氏名】フワング, ハング・ジャン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA01
4C084ZA02
4C084ZA16
4C084ZA45
4C084ZA59
4C084ZA75
4C084ZA81
4C084ZA89
4C084ZA96
4C084ZB26
4C084ZB33
4C084ZC35
4C084ZC52
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA02
4C086ZA16
4C086ZA36
4C086ZA45
4C086ZA59
4C086ZA75
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZA96
4C086ZB26
4C086ZB33
4C086ZC35
4C086ZC52
4C086ZC54
(57)【要約】
チオレドキシンドメイン含有タンパク質5(TXNDC5)mRNAの転写を低減可能な新規の1本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)がここに開示される。TXNDC5の上方制御に関連する疾患を処置するのに適した医薬品を製造するための、ここに開示されたような1本鎖ASOの使用も開示される。したがって、開示されるASO分子を含む薬学的組成物及び開示された1本鎖ASO分子を被検体に投与することを介してTXNDC5媒介性疾患に罹患している被検体を処置する方法が提供される。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオレドキシンドメイン含有タンパク質5(TXNDC5)mRNAの翻訳を阻害する1本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)であって、前記1本鎖ASOは、約16~21ヌクレオチド長であり、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14のいずれかに少なくとも80%の配列同一性を有するデオキシリボヌクレオチド配列を備える、1本鎖ASO。
【請求項2】
少なくとも1個のロックド核酸(LNA)分子、2’-糖修飾、修飾ヌクレオチド間結合、修飾核酸塩基又はそれらの組合せを備える請求項1に記載の1本鎖ASO。
【請求項3】
少なくとも1個の2’-フルオロ糖、2’-O-メチル糖又は2’-O-メトキシエチル糖を備える請求項2に記載の1本鎖ASO。
【請求項4】
6個のLNA分子を備える請求項2に記載の1本鎖ASO。
【請求項5】
10個の2’-O-メトキシエチル糖を備える請求項2に記載の1本鎖ASO。
【請求項6】
少なくとも1個のホスホロチオエートヌクレオチド間結合を備える請求項2に記載の1本鎖ASO。
【請求項7】
少なくとも1個の5-メチルシトシンを備える請求項2に記載の1本鎖ASO。
【請求項8】
チオレドキシンドメイン含有タンパク質5(TXNDC5)の上方制御を通じて媒介される被検体における疾患を処置する方法であって、TXNDC5 mRNAの転写を抑制するように有効量の請求項1に記載の1本鎖ASOを前記被検体に投与するステップを備える方法。
【請求項9】
前記1本鎖ASOは、少なくとも1個のロックド核酸(LNA)分子、2’-糖修飾、修飾ヌクレオチド間結合、修飾核酸塩基又はそれらの組合せを備える、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記1本鎖ASOは、少なくとも1個の2’-フルオロ糖、2’-O-メチル糖又は2’-O-メトキシエチル糖を備える、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記1本鎖ASOは、6個のLNA分子を備える、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記1本鎖ASOは、10個の2’-O-メトキシエチル糖を備える、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記1本鎖ASOは、少なくとも1個のホスホロチオエートヌクレオチド間結合を備える、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記1本鎖ASOは、少なくとも1個の5-メチルシトシンを備える、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記疾患は、老化、関節炎、癌、糖尿病、神経変性疾患、線維症、アテローム性動脈硬化症、白斑及びウイルス感染からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
前記癌は、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、大腸癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、肺癌、多発性骨髄腫、非小細胞肺癌、膵臓癌、前立腺癌、腎臓癌及び子宮癌からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記神経変性疾患は、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病及びプリオン病からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記線維症は、肺線維症、腎線維症、肝線維症及び心筋線維症からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記被検体はヒトである、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は2021年12月29日に出願された米国仮特許出願第63/294835号の優先権及びその利益を主張し、その全体が参照によりここに取り込まれる。
【0002】
本開示は、疾患の処置に関する。より具体的には、本開示は、チオレドキシンドメイン含有タンパク質5(thioredoxin domain containing protein 5:TXNDC5)mRNAの発現を阻害する1本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)の使用によって疾患を処置することに関する。
【背景技術】
【0003】
チオレドキシンドメイン含有タンパク質5(TXNDC5)は、そのチオレドキシン活性を触媒し、それを小胞体におけるシャペロンとして作用可能とするタンパク質ジスルフィド異性化酵素である。TXNDC5の上方制御された発現は、癌、糖尿病、関節炎、神経変性疾患、臓器線維症関連疾患(例えば、肺線維症、腎線維症、肝線維症及び心筋線維症)及び白斑を含む種々のタイプの疾患と関連していることが確認されている。
【0004】
転写後遺伝子サイレンシング技術、特に、アンチセンスオリゴヌクレオチド(すなわち、ASO)の、様々な生物における特定の遺伝子の発現をノックアウトするツールとしての新たな使用により、現在では、機能的遺伝子を系統的にサイレンシングすることによって細胞シグナル伝達経路におけるタンパク質相互作用をマッピングし、それにより、無数の疾患に対する治療法を開発する新規の方法を提供することが可能となる。広範な研究及び実験の後、本研究の発明者らは、TXNDC5のプレmRNA又はmRNAを標的とし、TXNDC5のRNAレベルを減少させ、同様にTXNDC5タンパク質レベルを低下させることができる短いオリゴヌクレオチド分子を同定した。アンチセンス分子は、種々の作用機序:RNaseHを通じたmRNAの分解、リボソームサブユニット結合の立体障害、mRNAの成熟の変化、5’-キャップ形成阻害、翻訳の停止を通じて標的配列に作用し得る。したがって、これらの同定された短い核酸分子は、TXNDC5の過剰発現に関連する疾患を処置し、それにより、そのような処置を必要とする被検体において、それに関連する症状を軽減又は最小化するための医薬品の開発に有用である。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、疾患、特に、TXNDC5の上方制御に関連する疾患の処置又はそれに対する予防のための1本鎖核酸に向けられる。
【0006】
したがって、本発明の一態様はTXNDC5 mRNA発現を低減させる単離された1本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)に向けられ、当該ASO分子は約16~21ヌクレオチド長であり、SEQ ID NO:(配列番号)1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14のいずれかに少なくとも80%の配列同一性を有するデオキシリボヌクレオチド配列を備える。
【0007】
本開示の好適な実施形態によると、上記ASO分子は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14のいずれかに少なくとも90%の配列同一性を有するデオキシリボヌクレオチド配列を備える。
【0008】
本開示の実施形態によると、上記ASO分子は、少なくとも1個のロックド核酸(LNA)分子、2’-糖修飾、修飾ヌクレオチド間結合又はそれらの組合せを備える。本開示のいくつかの実施形態では、ASO分子は、6個のLNA分子を備える。本開示の他の実施形態では、ASO分子は、10個の2’-糖修飾を備える。
【0009】
他の態様では、本開示は、TXNDC5の上方制御を通じて媒介される疾患に罹患している被検体を処置する方法に向けられる。方法は、TXNDC5遺伝子の転写を抑制するように治療上有効量の本発明のASO分子を被検体に投与するステップを備える。
【0010】
本開示の実施形態によると、本発明のASO分子は、TXNDC5 mRNA発現を低減させる1本鎖オリゴヌクレオチドである。上記ASO分子は、約16~21ヌクレオチド長であり、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14のいずれかに少なくとも80%の配列同一性を有するデオキシリボヌクレオチド配列を有する。
【0011】
本開示の実施形態によると、ASO分子は、少なくとも1個のLNA分子、2’-糖修飾、修飾ヌクレオチド間結合又はそれらの組合せを備える。いくつかの実施形態では、ASO分子は、6個のLNA分子を備える。他の実施形態では、ASO分子は、10個の2’-糖修飾を備える。
【0012】
本開示の実施形態によると、TXNDC5の過剰発現に関連する疾患は、老化、関節炎(例えば、関節リウマチ)、癌、糖尿病(例えば、II型糖尿病)、神経変性疾患、線維症、白斑及びウイルス感染からなる群から選択される。好適な一実施例では、被検体は、肺線維症、腎線維症、肝線維症又は心筋線維症などの臓器線維症に罹患している。
【0013】
他の態様では、本開示は、TXNDC5の過剰発現に関連する疾患を処置、予防又は改善するための薬学的組成物に向けられる。薬学的組成物は、本発明のASO分子及び薬学的に許容可能な担体を含む。
【0014】
本発明の1以上の実施形態の詳細を、以下の付随する説明において説明する。発明の他の特徴及び有利な効果が、詳細な説明から、及び特許請求の範囲から明らかとなる。
【0015】
本発明のこれら及び他の特徴、態様及び有利な効果は、以下の説明、添付の特許請求の範囲及び添付の図面を参照してより深く理解されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A図1Aは、本発明のいくつかの実施形態による、ウェスタンブロット分析を介したTGF-β誘導の有り又は無しでのTXNDC5及び線維症関連タンパク質の発現パターンにおける本ASO-MOE又はASO-LNAの効果を示し、本ASOはDCB11111128235である。
図1B図1Bは、本発明のいくつかの実施形態による、ウェスタンブロット分析を介したTGF-β誘導の有り又は無しでのTXNDC5及び線維症関連タンパク質の発現パターンにおける本ASO-MOE又はASO-LNAの効果を示し、本ASOはDCB11111128255である。
図1C図1Cは、本発明のいくつかの実施形態による、ウェスタンブロット分析を介したTGF-β誘導の有り又は無しでのTXNDC5及び線維症関連タンパク質の発現パターンにおける本ASO-MOE又はASO-LNAの効果を示し、本ASOはDCB1111128252である。
図1D図1Dは、本発明のいくつかの実施形態による、ウェスタンブロット分析を介したTGF-β誘導の有り又は無しでのTXNDC5及び線維症関連タンパク質の発現パターンにおける本ASO-MOE又はASO-LNAの効果を示し、本ASOはDCB1111128266である。
図1E図1Eは、本発明のいくつかの実施形態による、ウェスタンブロット分析を介したTGF-β誘導の有り又は無しでのTXNDC5及び線維症関連タンパク質の発現パターンにおける本ASO-MOE又はASO-LNAの効果を示し、本ASOはDCB1111128265である。
図1F図1Fは、本発明のいくつかの実施形態による、ウェスタンブロット分析を介したTGF-β誘導の有り又は無しでのTXNDC5及び線維症関連タンパク質の発現パターンにおける本ASO-MOE又はASO-LNAの効果を示し、本ASOはDCB1111128238である。
図1G図1Gは、本発明のいくつかの実施形態による、ウェスタンブロット分析を介したTGF-β誘導の有り又は無しでのTXNDC5及び線維症関連タンパク質の発現パターンにおける本ASO-MOE又はASO-LNAの効果を示し、本ASOはDCB1111128279である。
図1H図1Hは、本発明のいくつかの実施形態による、ウェスタンブロット分析を介したTGF-β誘導の有り又は無しでのTXNDC5及び線維症関連タンパク質の発現パターンにおける本ASO-MOE又はASO-LNAの効果を示し、本ASOはDCB1111128280である。
図1I図1Iは、本発明のいくつかの実施形態による、ウェスタンブロット分析を介したTGF-β誘導の有り又は無しでのTXNDC5及び線維症関連タンパク質の発現パターンにおける本ASO-MOE又はASO-LNAの効果を示し、本ASOはDCB1111128281である。
図2A図2Aは、本発明の一実施形態による、ブレオマイシン(BLM)によって誘導された肺線維症を有するマウスの、肺機能のコンプライアンス因子である肺機能における本ASO-MOEの効果を示す。
図2B図2Bは、本発明の一実施形態による、ブレオマイシン(BLM)によって誘導された肺線維症を有するマウスの、肺機能の抵抗因子である肺機能における本ASO-MOEの効果を示す。
図2C図2Cは、本発明の一実施形態による、ブレオマイシン(BLM)によって誘導された肺線維症を有するマウスの、肺機能のエラスタンス因子である肺機能における本ASO-MOEの効果を示す。
図3図3は、本発明の一実施形態による、ブレオマイシン誘導性線維症マウスにおける圧力-容積曲線を示す。
図4図4は、本発明の一実施形態による、BLM誘導性線維症マウスにおける線維化領域の低減における本ASO-MOEの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付図面との関連で以下に与えられる詳細な説明は、本実施例の説明としてのものであり、本実施例が構成又は利用され得る唯一の形態を示すものではない。その説明は、本発明の機能及び実施例を構成して動作させるためのステップの配列を説明する。ただし、同一又は同等の機能及び配列が、異なる実施例によっても実現され得る。
【0018】
1.定義
便宜上、本開示の文脈において採用される特定の用語をここにまとめる。特に断りのない限り、ここで用いられるすべての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同様の意味を有する。
【0019】
用語「核酸」は、DNA、RNA及びそのようなDNA又はRNAの変異体又は類似体を包含する2個以上のヌクレオチドの共有結合によって形成される分子として定義される。用語「核酸」及び「ポリヌクレオチド」は、ここでは互換可能に用いられる。用語「オリゴヌクレオチド」は、20個のヌクレオチドなどの25個未満のヌクレオチドからなる核酸として定義される。
【0020】
ここで用いられるアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)は、プレmRNA又はmRNA配列に相補的であり、RNAレベルを低減させ、それによりタンパク質レベルを低減させ得る1本鎖DNA又はRNAをいう。本開示の好適な実施形態によると、TXNDC5 mRNA(NCBI参照配列:NM_030810.4)の337~356位、670~689位、675~694位、862~881位、879~898位、1003~1022位、1007~1026位、1278~1297位、2864~2883位、2865~2884位、2868~2887位及び2873~2892位での核酸塩基に相補的なASOが生成され、TXNDC5 mRNAの下方制御をもたらす。
【0021】
ここで用いられるように、核酸の「配列」は、核酸を構成するヌクレオチドの順序をいう。本出願の全体を通じて、核酸は、5’末端及び3’末端を有するものとして指定される。特に断りのない限り、1本鎖核酸の左側末端は5’末端であり、1本鎖核酸の右側末端は3’末端である。
【0022】
ここで用いられる用語「ロックド核酸(LNA)」は、核酸のいくつかのヌクレオチドがロックド核酸モノマー(すなわち、2環式ヌクレオチド又はその類似体)である核酸をいう。LNAヌクレオチドのリボース部分は、2’-酸素及び4’-炭素を接続する追加的な架橋で修飾される。この架橋は3’-エンド(ノース)コンフォメーションにおいてリボースを「ロック」しており、それはA型二本鎖において見られることが多い。これらのLNAモノマーは、特に、国際公開第2001/25248号、国際公開第2003/006475号及び国際公開第2003/095467号に記載されており、それぞれの引用刊行物の開示は、参照によりここに取り込まれる。
【0023】
用語「相補的」は、塩基対合規則によって関連付けられるポリヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチドの配列)をいう。例えば、配列「A-G-T」は、「T-C-A」の配列に相補的である。ハイブリダイゼーションが2個の1本鎖ポリヌクレオチドの間の逆平行構成において生じる場合、ポリヌクレオチドを相互に「相補的」として記載する。
【0024】
ここで同定される任意のヌクレオチド配列に対する「パーセント(%)配列同一性」は、配列をアライメントさせ、必要に応じてギャップを導入して最大パーセントの配列同一性を達成した後の、特定のヌクレオチド配列中のヌクレオチド残基と同一である候補配列中のヌクレオチド残基のパーセントとして定義され、保存的置換を配列同一性の部分として考慮しない。パーセント配列同一性を決定する目的のためのアライメントは、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR社)ソフトウェアなどの公的に入手可能なコンピューターソフトウェアを用いて、当分野の技術範囲内にある種々の態様において達成され得る。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアライメントを達成するのに必要な任意のアルゴリズムを含む、アライメントを測定するための適切なパラメータを決定し得る。ここでの目的のために、2個のヌクレオチド配列の間の配列比較をNation Center for Biotechnology Information(NCBI)によってオンラインで提供されるコンピュータープログラムBlastn(nucleotide-nucleotide BLAST)によって実施した。所与のヌクレオチド配列Aの所与のヌクレオチド配列Bに対するパーセント配列同一性(代替的に、所与のヌクレオチド配列Bに対して特定の%ヌクレオチド配列同一性を有する所与のヌクレオチド配列Aと表現され得る)は、以下の式:
X/Y×100%
によって計算される。ただし、Xは配列アライメントプログラムBLASTによってそのプログラムのA及びBのアライメントにおいて同一の一致としてスコアリングされたヌクレオチド残基の数であり、YはA又はBのいずれか短い方のヌクレオチド残基の総数である。
【0025】
ここで用いられるように、用語「処置する」若しくは「処置している」又は「処置」は、防止的(例えば、予防的)、治癒的又は緩和的処置をいう。ここで用いられるように、用語「処置している」は、特定の疾患、障害及び/又は状態の1以上の症状又は特徴の発症を部分的又は完全に軽減し、改善し、救済し、遅延させ、その進行を阻害し、その重症度を低減し及び/又はその発生率を低減させる目的で、本開示のASOを、医学的状態、状態の症状、状態に続発する疾患若しくは障害又は状態に対する素因を有する被検体に適用又は投与することをいう。処置は、疾患、障害及び/若しくは状態の徴候を示さない被検体並びに/又は疾患、障害及び/若しくは状態に関連する病態の発症のリスクを減少させる目的で、疾患、障害及び/若しくは状態の初期徴候のみを示す被検体に施され得る。処置は、用語がここで定義されるように、1以上の症状又は臨床マーカーが低減される場合、一般に「有効」である。代替的に、処置は、疾患の進行が低減又は停止される場合、「有効」である。すなわち、「処置」は、単に疾患の症状の改善又はマーカーの減少だけでなく、処置無しで予想されることになる症状の進行又は悪化の中断又は減速も含む。有益又は所望の臨床的結果は、検出可能であるか検出不可能であるかに関わらず、1以上の症状の軽減、疾患の程度の減少、疾患の安定化した(すなわち、悪化していない)状態、疾患の進行の遅延又は減速、疾患の状態の改善又は緩和及び(部分的であるか全体的であるかに関わらず)寛解を含むが、これらに限定されない。
【0026】
ここで用いられるように、用語「有効量」は、所望の応答をもたらすのに十分な成分の量をいう。ここで用いられるように、用語「治療上有効量」は、上記で定義されるように、治療上の所望の「有効な処置」をもたらす薬剤(例えば、本ASO)の量をいう。具体的な治療上有効量は、処置されている特定の状態、患者の身体的状態(例えば、患者の体重、年齢又は性別)、処置されている哺乳類又は動物の種類、処置の継続期間、(それがある場合には)併用治療の性質及び採用される具体的処方などの因子により変化することになる。治療上有効量は、治療上有益な効果が化合物又は組成物の任意の毒性又は有害な効果を上回る量でもある。
【0027】
ここで用いられるように、用語「被検体」又は「患者」は、健常被検体と比較してTXNDC5の調節不全な発現、特に、TXNDC5の上方制御を有し、本発明の方法を受けるヒト又は非ヒト動物をいう。用語「被検体」又は「患者」は、一方の性別が具体的に示されていない限り、雄及び雌の双方の性別をいうことを意図している。非ヒト動物の例は、すべての脊椎動物、例えば、霊長類、イヌ、げっ歯類(例えば、マウス又はラット)、ネコ、ヒツジ、ウマ又はブタなどの哺乳類並びに鳥類、両生類などの非哺乳類を含む。
【0028】
ここで特に断りがない限り、本開示において採用される科学的及び技術的用語は、一般的に当業者によって理解及び使用される意味を有するものとする。文脈によってそれ以外が要求されない限り、単数形の用語はその複数形を含むものとし、複数形の用語は単数形を含むものとすることが理解される。具体的には、ここで及び特許請求の範囲で用いられるように、単数形「a」及び「an」は、それ以外を文脈が明示しない限り、複数の参照を含む。
【0029】
発明の広い範囲を説明する数値範囲及びパラメータは概数であるものの、特定の実施例で説明される数値は可能な限り正確に報告される。ただし、いずれの数値も、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的にもたらされる所定の誤差を本来的に含む。また、ここで用いられるように、用語「約」は、所与の値又は範囲の10%、5%、1%又は0.5%内を一般に意味する。あるいは、用語「約」は、当業者によって考慮される場合の平均の許容標準誤差内を意味する。有効な/効果的な実施例以外においても、又は明示の断りがない限り、ここに開示されるその材料の量、継続時間、温度、動作条件、量の比率などに対するものなどの数値範囲、量、値及びパーセントのすべては、すべての事例において用語「約」によって変更されるものとして理解されるべきである。したがって、逆のことが示されない限り、本開示及び添付の特許請求の範囲で記載される数値パラメータは、所望のように変化し得る概数である。少なくとも、各数値パラメータは、報告される有効桁数を考慮してかつ通常の四捨五入技術を適用して少なくとも解釈されるべきである。
【0030】
2.本アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)
本開示は、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)分子の使用による、上方制御されたTXNDC5に関連する疾患を処置するための新規の解決策に向けられる。したがって、最も広い態様では、本発明はTXNDC5 mRNAなどの標的遺伝子の少なくとも一部分に相補的な1本鎖デオキシリボ核酸に関し、宿主細胞にトランスフェクションされた場合、上記1本鎖デオキシリボ核酸は標的遺伝子mRNAの発現を抑制可能である。
【0031】
本発明の1本鎖デオキシリボ核酸又はASO分子は、約16~21ヌクレオチド長であり、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14のいずれかに少なくとも80%の配列同一性を有するデオキシリボヌクレオチド配列を備える。本開示の好適な実施形態によると、上記ASO分子は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14のいずれかに少なくとも90%の配列同一性を有するデオキシリボヌクレオチド配列を備える。特定の好適な実施形態では、上記ASO分子は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14と100%同一なデオキシリボヌクレオチド配列を備える。本開示のASOは、16、17、18、19、20又は21ヌクレオチド長などの16~21ヌクレオチド長であり得る。いくつかの好適な実施例では、本開示のASOは、20ヌクレオチド長を有する。他の好適な実施例では、本開示のASOは、16ヌクレオチド長を有する。
【0032】
3.修飾ASO
代替的に又は追加的に、本ASOは、ヌクレオチド間結合、糖部分又は核酸塩基への置換又は変更を導入するなどして、その骨格核酸塩基での修飾(例えば、置換)又はその糖環での修飾を含み得る。いくつかの実施形態では、本ASOの核酸は、1個以上のLNA分子と組み合わせたDNA分子で構成される。他の実施形態では、本ASOの核酸は、1個以上の2’-糖修飾(例えば、2’-O-メトキシエチル置換)と組み合わせたDNA分子で構成される。修飾ASOは、例えば、増強された細胞取込み、増強された核酸標的に対する親和性、ヌクレアーゼ存在下での増加された安定性又は増加された阻害活性などの望ましい特性のために、天然型よりも好ましいことが多い。
【0033】
(i)修飾ヌクレオチド間結合
RNA及びDNAの天然に生じるヌクレオチド間結合は、3’から5’へのホスホジエステル結合である。修飾ヌクレオチド間結合を有するオリゴヌクレオチドは、リン原子を保持するヌクレオチド間結合及びリン原子を有しないヌクレオチド間結合を含む。代表的なリン含有ヌクレオチド間結合は、ホスホジエステル、ホスホトリエステル、メチルホスホネート、ホスホロアミデート及びホスホロチオエートを含むが、これらに限定されない。リン含有及び非リン含有結合体の調製の方法は公知である。
【0034】
特定の実施形態では、本ASOは、1個以上のホスホロチオエート結合などの1個以上の修飾ヌクレオチド間結合を備える。
【0035】
(ii)修飾糖部分
本ASOは、任意選択的に、糖類が修飾された1個以上のヌクレオシドを含み得る。特定の実施形態では、本ASOは、化学的に修飾されたリボフラノース環部分を備える。化学的に修飾されたリボフラノース環の例は、限定されることなく、置換基(例えば、5’-又は2’-置換基)の付加、ロックド核酸(LNA)を形成する非ジェミナル環原子の架橋、R、R及びRが独立してC1-12アルキル、保護基又はそれらの組合せであるリボシル環酸素原子のS、N(R)又はC(R)(Rでの置換を含む。
【0036】
化学的に修飾された糖の例は、2’-F-5’-メチル置換ヌクレオシド又は2’-位での更なる置換を有するリボシル環酸素原子のSでの置換を含む。
【0037】
代替的な実施例によると、化学的に修飾された糖は、LNA分子の5’-置換を含む。LNAの例は、限定されることなく、4’リボシル環原子と2’リボシル環原子の間の架橋を備えるヌクレオシドを含む。特定の実施形態では、ここでは、本ASOは、1個以上のLNAヌクレオシドを含み、架橋は式:4’-(CH)-O-2’(LNA)、4’-(CH)-S-2、4’-(CH)-O-2’(LNA)、4’-(CH)2-O-2’(ENA)、4’-C(CH)2-O-2’、4’-CH(CH)-O-2’及び4’-CH(CHOCH)-O-2’、4’-CH-N(OCH)-2’、4’-CH-O-N(CH)-2’、4’-CH-NR-O-2’、4’-CH-C(CH)-2’及び4’-CH-C(=CH)-2’のうちの1個を備え、Rは独立してH、C1-12アルキル又は保護基である。前述のLNAの各々は、例えばα-L-リボフラノース及びβ-D-リボフラノースを含む種々の立体化学的糖構成を含む。
【0038】
特定の実施形態では、ヌクレオシドは、リボシル環を糖サロゲートで置換することによって修飾される。そのような修飾は、限定されることなく、リボシル環の、以下の式
【化1】
のうち1個を有するものなどのモルホリノ環、シクロヘキセニル環、シクロヘキシル環又はテトラヒドロピラニル環などの(DNA類似体ということもある)サロゲート環系による置換を含む。
【0039】
他の多数のビシクロ及びトリシクロ糖サロゲート環系もまた、本ASOへの組込みのためにヌクレオシドを修飾するのに用いられ得ることが当技術分野で公知である。
【0040】
したがって、本ASOは、完全にDNA分子で構成されることもあれば、少なくとも1個の修飾ヌクレオチドと組み合わせたDNA分子で構成されることもある。いくつかの実施形態では、本ASOは、2’-O-、4’-CメチレンビシクロヌクレオシドモノマーなどのLNA分子と組み合わせたDNA分子で構成される。核酸中にLNAモノマーを有することの1つの有利な効果は、核酸の安定性が改善されることであり、したがって、本発明のASOは、プロテアーゼ(エンドヌクレアーゼ及びエキソヌクレアーゼ)に対するASOの耐性を増加させ、それにより生物学的サンプルにおいてその循環半減期を増加させるなどして、もたらされる分子の安定性を増加させるように、標準的なDNAオリゴヌクレオチドへのLNAモノマーの組込みを含み得る。一般に、本発明の1本鎖ASOは、鎖中のヌクレオチドの総数に基づいて、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%又は30%のLNAモノマーを含み得る。特定の実施形態では、本発明のASOは、鎖中のヌクレオチドの総数に基づいて、少なくとも約25%、30%、40%、50%又は60%のLNAモノマー、好ましくは約40%のLNAモノマー、より好ましくは約60%のLNAモノマーを含むことになる。本発明の一実施形態では、本発明のASOは、完全にDNA分子で構成され、1本の鎖は配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14のいずれかに、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%などの少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を備える。本発明の他の実施形態では、本発明のASOは、LNA分子と組み合わせたDNA分子で構成され、1本鎖ASOは少なくとも約30%のLNA分子と組み合わせたDNA分子で構成される。本発明の一実施形態では、1本鎖ASOは少なくとも1個のLNAモノマーを備える。他の実施形態では、1本鎖ASOは6個のLNAモノマーを備える。
【0041】
代替的に、本発明の1本鎖ASOは、2’-O-メトキシエチル(2’-O-MOE)修飾糖などの少なくとも1個の2’-糖修飾と組み合わせたDNA分子で構成されてもよい。一般に、本発明の1本鎖ASOの個々の鎖は、鎖中のヌクレオチドの総数に基づいて、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%又は30%の2’-糖修飾を含み得る。特定の実施形態では、本発明の1本鎖ASOは、鎖中のヌクレオチドの総数に基づいて、少なくとも約25%、30%、40%、50%又は60%の2’-糖修飾、好ましくは約40%の2’-糖修飾、より好ましくは約50%の2’-糖修飾を含むことになる。本発明の一実施形態では、本発明の1本鎖ASOは、完全にDNA分子で構成され、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14のいずれかに対して、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%などの少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を備える。本発明の他の実施形態では、本発明の1本鎖ASOは1個以上の2’-糖修飾と組み合わせたDNA分子で構成され、デオキシリボ核酸の鎖は少なくとも20%の2’-糖修飾と組み合わせたDNA分子で構成される。本発明の一実施形態では、1本鎖ASOは、1個の2’-O-MOE修飾糖のみを備える。他の実施形態では、1本鎖ASOは、10個の2’-O-MOE修飾糖を備える。
【0042】
(iii)修飾核酸塩基
化学的に修飾されたヌクレオシドも、標的核酸へのその結合親和性を高めるように本ASOに含まれ得る。核酸塩基(又は塩基)の修飾又は置換は、機能的に交換可能であるが、天然に生じる又は合成の修飾されていない核酸塩基とは構造的に区別可能である。天然核酸塩基及び修飾核酸塩基の双方は、水素結合に関与可能である。そのような核酸塩基修飾は、アンチセンス化合物へのヌクレアーゼ安定性、結合親和性又は他の何らかの有益な生物学的特性に影響を与え得る。修飾核酸塩基は、5-メチルシトシン(5-me-C)などの合成及び天然の核酸塩基を含む。5-メチルシトシン置換を含む特定の核酸塩基置換は、標的核酸へのアンチセンスオリゴマーの結合親和性を増加させるのに特に有用である。
【0043】
したがって、本1本鎖ASOは、5-メチルシトシン、5-ヒドロキシメチルシトシン;キサンチン;ヒポキサンチン;2-アミノアデニン;アデニン及びグアニンの6-メチル及び他のアルキル誘導体;アデニン及びグアニンの2-プロピル及び他のアルキル誘導体;2-チオウラシル;2-チオチミン;2-チオシトシン;5-ハロウラシル;5-ハロシトシン;5-プロピニルウラシル及び5-プロピニルシトシン並びにピリミジン塩基の他のアルキニル誘導体;6-アゾウラシル、6-アゾシトシン及び6-アゾチミン;5-ウラシル;4-チオウラシル;8-ハロ、8-アミノ、8-チオール、8-チオアルキル、8-ヒドロキシル及び他の8-置換されたアデニン及びグアニン;5-ハロ、特に5-ブロモ、5-トリフルオロメチル及び他の5-置換されたウラシル及びシトシン;7-メチルグアニン;7-メチルアデニン;2-F-アデニン;2-アミノアデニン;8-アザグアニン;8-アザアデニン;7-デアザグアニン;7-デアザアデニン;3-デアザグアニン並びに3-デアザアデニンなどの少なくとも1個の修飾核酸塩基と組み合わせたDNA分子で構成され得る。一般に、本発明の1本鎖ASOは、鎖中のヌクレオチドの総数に基づいて、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%又は30%の修飾核酸塩基を含み得る。特定の実施形態では、本発明の1本鎖ASOは、鎖中のヌクレオチドの総数に基づいて、少なくとも約25%、30%、40%、50%又は60%の修飾核酸塩基、好ましくは約40%の修飾核酸塩基、より好ましくは約50%の修飾核酸塩基を含む。本発明の一実施形態では、本発明の1本鎖ASOは、完全にDNA分子で構成され、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14のいずれかに対して、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%などの少なくとも90%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を備える。本発明の他の実施形態では、本発明の1本鎖ASOは、5-メチルシトシン(例えば、少なくとも20%の5-メチルシトシン)と組み合わせたDNA分子で構成される。本発明のいくつかの実施形態では、1本鎖ASOは、1個の5-メチルシトシンのみを備える。他の実施形態では、1本鎖ASOは、10個の5-メチルシトシンを備える。
【0044】
4.本ASOを生成する方法
現在、遺伝子サイレンシング研究のために、上記の化学修飾の有無に関わらず、長いdsDNAの化学合成又はDNaseIIIファミリー酵素による消化を含むASOを生成する種々の方法が存在する。これらの方法は、その後リポフェクション、エレクトロポレーション又は他の技術により細胞に直接導入される核酸のin vitro調製を伴う。
【0045】
本発明のASO分子を、当技術分野で周知のプロトコルを用いるin vitro調製及び/又は化学合成によって取得した。例えば、本発明の1本鎖核酸は、有機化学の当業者に公知である核酸化学の重合技術を用いて生成され得る。一般に、ホスホロアミダイトアプローチの標準的なオリゴマー化サイクルが用いられることもあるが、H-ホスホネート化学作用又はホスホトリエステル化学作用などの他の化学作用が用いられることもある。本ASO分子は、被検体に直接、又はリポソームなどの送達ビヒクルを介して送達され得る。さらに、本ASOは、薬学的に許容可能な製剤を与えるために、適切な担体及び/又は希釈剤とともに処方され得る。核酸分子を送達する方法は、本技術分野において公知であり、リポソーム中の封入、イオントフォレシス又は生分解性ポリマー、ヒドロゲル若しくはシクロデキストリンなどの他の小胞への取込みを含むが、これらに限定されない。
【0046】
本発明で用いられるすべてのASO分子を表1に列挙する。本発明の修飾ASO(すなわち、ASO-LNA又はASO-MOE)を、表1に列挙されたように対応するASOを少なくとも1個のLNA分子又は2’-MOE修飾糖で修飾することによって取得した。表2は本発明の修飾ASO分子を列挙する。
表1.本ASOのデオキシリボヌクレオチド配列
【表1】


表2.ASO-LNA又はASO-MOEのデオキシリボヌクレオチド配列
【表2】
【0047】
したがって、本発明のさらなる態様は、老化、関節炎(例えば、関節リウマチ)、癌、糖尿病(例えば、II型糖尿病)、神経変性疾患、肺線維症、腎線維症、心筋線維症、肝線維症、アテローム性動脈硬化症、白斑及びウイルス感染などのTXNDC5の上方制御に関連する疾患の処置のための医薬品の製造のための、本発明の1本鎖デオキシリボ核酸の使用に関する。本発明の1本鎖ASOによって処置され得る癌の例は、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、大腸癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、肺癌、多発性骨髄腫、非小細胞肺癌、膵臓癌、前立腺癌、腎臓癌及び子宮癌を含むが、これらに限定されない。本発明の1本鎖ASOによって処置され得る神経変性疾患の例は、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病及びプリオン病を含むが、これらに限定されない。好適な一実施例では、本発明の1本鎖ASOは、肺線維症、腎線維症、肝線維症又は心筋線維症の処置のための医薬品の製造のためのものである。
【0048】
したがって、TXNDC5の上方制御を通じて媒介される疾患の処置又はそれに対する予防のための薬学的組成物が提供される。薬学的組成物は、有効成分として少なくとも1個の本発明の1本鎖デオキシリボ核酸及び薬学的に許容可能な担体を含む。任意選択的に、薬学的組成物は、いくつかの例を挙げると、糖尿病の処置のための抗糖尿病薬、癌の処置のための化学療法剤、関節炎の処置のための非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、線維性肺疾患のためのニンテダニブ又はピルフェニドンなどの抗線維症治療薬などの上記疾患の処置を促進するのに適した他の薬剤をさらに含み得る。
【0049】
本発明の核酸は、水、PBS、生理食塩水、油又は脂肪酸などの適切な分散媒体に懸濁され得る。結果として調製された薬学的組成物は、非経口的に、吸入スプレーによって、局所的に、経直腸的に、経鼻的に、口腔に又は膣内に投与され得る。ここで用いられるように、用語「非経口的」は、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑膜内、胸骨内、くも膜下、肝内、病巣内及び頭蓋内注入又は点滴技術を含む。好適には、組成物は、筋肉内、腹腔内又は静脈内に投与され、最も好適には、組成物は、筋肉内に投与される。一実施例では、本発明の組成物は、被検体の一本の肢(すなわち、腕又は脚)における部位から筋肉内に注入される。注入に適した身体部分は、以下の、放出される核酸の選択、性別、年齢、体重を含む被検体の個人的状態並びに/又は現在及び以前の病状などに基づいて選択される。熟練した医師であれば、過度な実験無しに、注入に適した身体部分を決定し得る。本発明の組成物の滅菌注入可能な形態は、水性又は油性懸濁液であり得る。これらの懸濁液は、適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を用いて、当技術分野で周知の技術により処方され得る。滅菌注入可能な調製物はまた、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液として、非毒性の非経口的に許容可能な希釈剤又は溶媒中の滅菌注入可能な溶液又は懸濁液であり得る。採用され得る許容可能なビヒクル及び溶媒の中には、水、リンゲル液、リン酸緩衝液及び等張塩化ナトリウム溶液(すなわち、生理食塩水)がある。さらに、滅菌固定油は、溶媒又は懸濁媒体として慣例的に採用される。この目的のために、合成モノ又はジグリセリドを含む、任意の凡庸(bland)な固定油が採用され得る。オレイン酸及びそのグリセリド誘導体などの脂肪酸は、オリーブ油又はヒマシ油などの天然の薬学的に許容可能な油と同様に、特にそのポリオキシエチル化されたものにおける注入剤の調製に有用である。これらの油溶液又は懸濁液はまた、乳濁液及び懸濁液を含む薬学的に許容可能な剤形の処方に一般的に用いられるカルボキシメチルセルロース又は同様の分散剤などの長鎖アルコール希釈剤又は分散体を含み得る。Tweens、Spansなどの他の一般的に用いられる界面活性剤及び薬学的に許容可能な固体、液体若しくは他の剤形の製造において一般的に用いられる他の乳化剤又は生物学的利用能増強物質も、処方の目的で用いられ得る。必要とされる用法は、投与経路の選択、処方の性質、被検体の疾患の性質、被検体の体重、体表面積、年齢及び性別、他の投与される薬剤並びに主治医の判断に依存する。適切な用法は、0.15、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4及び1.5mgの核酸/Kg体重などの0.15mg~1.5mgの核酸/Kg体重であり、好ましくは0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1及び1.2mgの核酸/Kg体重などの0.3mg~1.2mgの核酸/Kg体重であり、より好ましくは0.5、0.6、0.7、0.8、0.9及び1.0mgの核酸/Kg体重などの0.5mg~1.0mgの核酸/Kg体重である。種々の投与経路の異なる効率の観点から、必要とされる用法の変動が予想される。当業者は、関連因子を容易に評価し、この情報に基づいて意図する目的のために用いる用法を決定し得る。
【0050】
本発明はまた、TXNDC5の上方制御を示す被検体を処置する方法を特徴とし、上記方法は、本発明の1本鎖デオキシリボ核酸又は本発明の組成物をそれを必要とする被検体に投与するステップを備え、追加的な医薬品(例えば、癌の処置のための化学療法剤)を被検体に投与するステップをさらに備える。ここでの被検体は、ヒト及び非ヒト動物をいう。好適な実施例では、被検体はヒトである。一実施例では、被検体は、肺線維症と診断されている。他の実施例では、被検体は、癌と診断されている。さらに他の実施例では、被検体は、関節リウマチと診断されている。被検体は、本発明の方法及び/又は組成物を受ける前に、医療処置を受けていてもよい。癌の場合、医療処置は、腫瘍を有する患者に一般的に適用される外科手術、化学療法又は放射線療法をいい、したがって、遺伝子治療の抗腫瘍効果を増補するために、癌と予め診断された被検体は、本発明の方法及び/又は組成物を受ける前に、それと同時又はその後に、他の抗腫瘍療法も受け得る。一実施例では、被検体は肺線維症を有し、本発明の方法及び/又は組成物を受ける前にピルフェニドン又はニンテダニブで処置されている。
【0051】
以下の実施例は、本発明の特定の態様を説明し、本発明の実施の際に当業者を補助するように提供される。これらの実施例は、いかなる態様においても発明の範囲を限定するものとして決してみなされるべきではない。
【実施例
【0052】
材料及び方法
細胞培養
初代成体ヒト肺線維芽細胞(HPF-a)(ScienCell社、米国、カリフォルニア州)を、2%のウシ胎児血清(FBS)、1%の線維芽細胞増殖補助物(FGS)及び1%のペニシリン/ストレプトマイシン溶液を補足した線維芽細胞培地で培養し、95%O/5%COを含む加湿環境中で37℃で維持した。
【0053】
本ASOの生成
ヒトTXNDC5 mRNAを、本ASOの調製のための標的配列として用いた。具体的には、本開示のASOを、それぞれ337~356位、670~689位、675~694位、862~881位、879~898位、1003~1022位、1007~1026位、1278~1297位、2864~2883位、2865~2884位、2868~2887位及び2873~2892位での標的配列を用いて調製した。
【0054】
本開示のASOのすべてを、Eurogentecから取得し、又はAKTA OligoPilot10Plus合成機を用いることによって合成した。ASOを、逆相HPLC又はIEXHPLCによって精製した。ASOの純度をUPLCによって分析した。ASOの特性評価は、MOLDI-TOF又はLC-HRMSによって分析された。
【0055】
さらに、ASOをロックド核酸(LNA)分子(以下、「ASO-LNA」)又は2’-O-メトキシエチル糖(以下、「ASO-MOE」)修飾を含む修飾ASOの調製のために独立して用いた。各修飾ASOを、装置マニュアル中に記載された手順に従うMOSS Expedite装置プラットフォームにおいて1nmolのスケールで合成した。
【0056】
HPF-a細胞を本ASOでトランスフェクションするステップ
HPF-a細胞を、1×10個/ウェルの密度で6ウェルプレート中で維持及び培養し、TransIT-X2(Mirus Bio社、米国)を活用して上記の本ASOでトランスフェクションした。具体的には、本ASO含んだプラスミド及びTransIT-X2を、無血清のOpti-MEM(Thermo Fisher Scientific社、米国)中で混合し、1mLの培地あたり0.4~60nMのASO及び3.3μLのTransIT-X2の最終濃度でHPF-a細胞培養培地に添加し、さらに24時間インキュベーションした。細胞中のヒトTXNDC5 mRNA ASOのトランスフェクションを、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)分析によるRNAレベル又は免疫ブロットアッセイによるタンパク質レベルのいずれかの、ヒトTXNDC5 mRNA遺伝子発現の検出によって確認した。
【0057】
定量的RT-PCR(qRT-PCR)
上記の本ASOでトランスフェクションした細胞のトータルRNAを、製造業者の指示(ZYMO Research社、米国)に従ってDirect-zol(商標)RNA MiniPrepキットを用いて単離した。100ngの量のDNase処置トータルRNAを、TaqMan(商標)アッセイプローブセット(hTXNDC5:Hs01046710_m1(FAM);hGAPDH:Hs03929097_g1(VIC))を含む4×TaqMan(商標)Fast1-step master mix(Thermo Fisher Scientific社、米国)を有する20μLの反応物におけるファーストストランドDNA合成のための鋳型として使用し、ファーストストランドDNA合成を、以下の、50℃で5分間、95℃で20秒間、95℃で15秒間に続けて60℃で1分間のサイクルを40回繰り返すプログラムを実行するApplied Biosystems7500Fast装置において行った。各個々の転写産物の発現レベルを、コントロール遺伝子GAPDHに対して正規化し、コントロールサンプルの平均発現値に対して表した。
【0058】
免疫ブロットアッセイ
HPF-a細胞の24時間のトランスフェクション後、細胞を無血清培地に交換し、10ng/mlのTGFβ1(Pepro Tech社、米国)で48時間処置した。HPF-a細胞を2×サンプル緩衝液(BioRad Laboratories社、米国)を用いてホモジナイズし、続けて95℃で10分間煮沸した。タンパク質サンプルを10%のSDS-PAGEゲルにおいて分画し、PVDF膜に移行させ、そしてブロッキング緩衝液(Visual Protein社、台湾、BP01-1L)によってブロッキングした。膜を、COL1A1(1:500、OriGene社、米国、TA309096、ヒト種用)、フィブロネクチン(1:2000、BD Biosciences社、米国、610077)、TXNDC5(1:15000、Proteintech社、米国、19834-1-AP)、αSMA(1:1000、Abcam社、英国、ab5694)、β-アクチン(1:1000、Millipore社、ドイツ、MAB1501)に対する1次抗体とともに4℃で一晩インキュベーションした。ブロットを、HRP標識抗マウス又は抗ウサギIgG2次抗体(1:5000、Cell signaling Technology社、米国、7076、7074)及びSuperSignal West Pico又はFemto化学発光基質(Thermo Fisher Scientific社、米国、34080、34094)を用いて現像した。タンパク質バンドの検出を、ChemiDoc MPシステム(BioRad Laboratories社、米国)を用いて行った。タンパク質バンド強度定量化分析を、ImageLabソフトウェアバージョン5.2.1を用いて行った。
【0059】
ブレオマイシン誘導性肺線維症動物モデル
8~9週齢のオスのC57BL/6マウスを購入後1週間検疫した。マウスを、各ケージに5匹で一定の温度及び湿度での個別的換気ケージシステム中で飼育した。部屋を12時間の明/12時間の暗サイクル(07:00の点灯、19:00の消灯)として、室温を55±10%の湿度で22±2℃とした。動物には、げっ歯類のペレット餌及び水を自由に摂取させた。動物実験をNational Institute of Health(NIH) Guidance for the Care and Use of Laboratory Animalsにおける倫理規則に従って行った。
【0060】
肺線維症を誘導するために、マウスに(滅菌生理食塩水に溶解した)ブレオマイシンを3U/Kg体重の用量で気管内注入した。偽薬群のマウスには、同じ容積の滅菌生理食塩水のみを注入した。ブレオマイシン誘導の7日後、マウスを無作為に5個の群に分割し、ビヒクル溶液、ニンテダニブ、配列番号73(すなわち、DCB1111128235)、配列番号14(すなわち、DCB1111128279)又は配列番号82(すなわち、DCB1111128281)の本修飾ASOを同じ試験日に投与した。各群を6匹のマウスから構成した。ニンテダニブを、最終容積の10%のジメチルホルムアミド(DMF)を含むPBSに、6mg/mLの最終濃度に溶解し、60mg/kg体重(mpk)で強制経口投与(PO)によって1日に1回(QD)で14日間投与した。本修飾ASO(すなわち、DCB1111128235、DCB1111128279又はDCB1111128281)の各々を、TruboFect Transfection試薬(Thermo Scientific社、米国、マサチューセッツ州)に溶解し、0.2mg/kg体重(mpk)で気管内点滴によって1週間に2回(BIW)で2週間投与した。ビヒクル群中のマウスには、同一容積のTruboFect Transfection試薬のみを注入し、これらをコントロール群とした。試験を疾患誘導後21日目に終了し、肺機能を特定し、肺組織を採取し、分析まで適切に保存した。
【0061】
肺機能試験
肺機能を、flexiVentシステム(Scireq社、カナダ、ケベック州、モントリオール)を用いて評価した。マウスを気管切開し、150回/分の呼吸数、10ml/kgの換気容積及び2~3cmのHOの呼気終末陽圧で換気した。深部膨張摂動を、吸気容量を推定するのに用いた。圧力-容積ループを、一定の増加圧力に続いて定期的な減少圧力によって生成した。空気抵抗、コンプライアンス及びエラスタンスを含む他の肺機能パラメータを、SnapShot-150を用いて測定した。なお、コンプライアンスは肺の伸縮する能力を反映する因子であり、空気抵抗は肺の気道を通る気体の単位流量を生成するのに必要な肺内圧力の変化を反映し、口と肺の肺胞の間の圧力差を空気流量で除したものである因子であり、エラスタンスは肺を膨らませるのに必要な圧力を反映する因子である。
【0062】
病理学的評価
マウスの左肺を緩衝ホルマリン中に固定し、パラフィン中に包埋した。切片(5μm)をヘマトキシリン・エオシン染色又はピクロシリウスレッド(Abcam社、英国、ケンブリッジ州)で染色した。ピクロシリウスレッド染色による線維化領域の測定を、ImageJソフトウェアを用いて定量化した。
【0063】
実施例1 本ASOによるTXNDC5 mRNAの転写の阻害
HPF-a細胞を、指定されたASOで処置し、そして、TXNDC5 mRNAの発現を「材料及び方法」の章に記載された手順に従ってqRT-PCRによって測定した。結果を表3にまとめ、30nMで50%を超える指定されたASOのTXNDC5 mRNA発現阻害活性を以下のように格付けする:+++は50%未満のTXNDC5 mRNAレベルであり、++は70%~50%のTXNDC5 mRNAレベルである。
表3.本ASOを介したヒトTXNDC5 mRNAのin vitro阻害
【表3】

【0064】
表3にまとめたデータによると、処置後、「材料及び方法」に記載された手順に従って調製されたすべてのASOのうち、表3に列挙されたように、それらのうちの26個は50%を超えるTXNDC5発現を抑制することにおいて有効であり、それらのうちの41個は70%~50%であるTXNDC5 mRNAレベルでTXNDC5 mRNAの転写を中程度に抑制した。残りのASO(すなわち、表3に列挙された69個のASO以外のASO)は、処置後、70%より大きく維持されたTXNDC5 mRNAレベルでTXNDC5 mRNAの転写を軽度にしか抑制できなかった(データ不図示)。
【0065】
実施例2 本修飾ASOによるTXNDC5 mRNA及びTGF-β誘導性線維症関連タンパク質の阻害
本実施例では、2’-O-メトキシエチル修飾糖(すなわち、ASO-MOE)又はLNA分子(すなわち、ASO-LNA)を有するASOは、表1のASOに「材料及び方法」の章に記載された手順に従って由来し、TXNDC5 mRNAの転写発現レベル及び形質転換成長因子ベータ(TGF-β)誘導性線維症関連タンパク質に対するそれらのそれぞれの効果を調べた。結果を表4及び図1にまとめる。
【0066】
表4のデータが示すように、すべてのASO-MOEは60nM以下のIC50でTXNDC5 mRNAの転写を順調に抑制可能であり、DCB1111112238(配列番号75)、DCB1111112240(配列番号76)及びDCB1111112277(配列番号79)は10nM未満のIC50で最も強い阻害効果を示した。ASO-LNAに関しては、TXNDC5 mRNAの転写を抑制することにおいて、ASO-LNAのIC50がASO-MOEのものよりも小さかったように(配列番号3(すなわちDCB1111128003)及び配列番号4(すなわちDCB1111128004)について、それぞれ+++対++)、一般に、対応するASO-MOEよりも強力であった。
表4.本ASO-MOE又はASO-LNAによるTXNDC5 mRNAのin vitro阻害
【表4】

TXNDC5 mRNA発現阻害活性のIC50は、+++を10nM以下のIC50、++を10nM~20nMのIC50レベル、+を20nM~60nMのIC50レベルとして格付けされる
【0067】
TGF-βは、線維症関連タンパク質の発現を誘導することが知られており、したがって、ASO-MOEの存在下又は非存在下での、TXNDC5並びにフィブロネクチン、I型コラーゲン及びα-平滑筋アクチン(α-SMA)を含む線維症関連タンパク質の発現を、免疫ブロット分析によってそれぞれ測定した。結果を図1に示す。
【0068】
TGF-β(10ng/mL)がフィブロネクチン、I型コラーゲン及びα-SMAを含む線維症関連タンパク質の発現を増強することになり、この増強されたタンパク質発現がDCB11111128235(図1A)、DCB11111128255(図1B)、DCB1111128252(図1C)、DCB1111128266(図1D)、DCB1111128265(図1E)、DCB1111128238(図1F)、DCB1111128279(図1G)、DCB1111128280(図1H)、及びDCB1111128281(図1I)を含む本ASO-MOEによって用量依存的に有意に抑制されたことは図1A図1Iのデータから明らかである。
【0069】
実施例3 本ASO-MOEは、肺線維症の進行を減少させた
本ASOのin vivoの機能を特定するために、「材料及び方法」の章に記載された手順に従って、ブレオマイシン(BLM、3U/Kg体重)の気管内点滴によって肺線維症を誘導した。そして、線維症マウスを無作為に5個の群(6匹/群)に分割し、ビヒクル群中の動物にはPBS(気管内、2週間)を注入し、ASO群中の動物には本ASO-MOE(配列番号73又は14)又はスクランブルASO(配列番号82)(すべて気管内投与経路による、0.2mg/Kg)を7、10、14及び17日目に注入し、一方で、ニンテダニブ群中の動物にはニンテダニブの用量(60mg/Kg、14日間)を毎日注入した。また、偽薬群中の健常動物(すなわち、非線維症マウス)は処置を受けなかった。コンプライアンス(肺の伸縮する能力を反映する因子)、空気抵抗(肺の気道を通る気体の単位流量を生成するのに必要な肺内圧力の変化を反映し、口と肺の肺胞の間の圧力差を空気流量で除したものである因子)及びエラスタンス(肺を膨らませるのに必要な圧力を反映する因子)を含む指定された日における種々の因子を特定するために、肺機能をFlexiVentシステムを用いて評価し、動物を21日目に屠殺して線維化領域の特定のための肺サンプルを採取した。結果を図2図3及び図4に示す。
【0070】
本ASO-MOE又はニンテダニブで処置有り又は無しでのコンプライアンス、抵抗及びエラスタンスの変化を示す棒グラフである図2を参照する。データは、動物を本開示のASO-MOEで処置した場合、コンプライアンスがビヒクルコントロールのものと比較してはるかに高く(図2A)、抵抗及びエラスタンスが独立してビヒクルコントロールのものと比較してはるかに小さかったことを明らかに示す(図2B及び2C)。さらに、圧力-容積ループにおけるASO-MOE(配列番号73又は14)の効果は、ニンテダニブ(60mg/Kg)のものよりも有効であった(図3)。これらのデータは、本ASO-MOE(配列番号73又は14)で処置した線維症マウスがビヒクルコントロール群及びスクランブルASO群(DCB1111128281、すなわち配列番号82)のものと比較して(コンプライアンス、抵抗、エラスタンス及び圧力-容積ループを含む)肺機能の改善を示すことを示した。
【0071】
肺組織中のBLM誘導性線維化領域を低減させることにおける本ASO-MOEの効果に関して、配列番号73(DCB1111128235)の本ASO-MOEがBLM誘導性線維化領域を低減可能であり、その効果はニンテダニブのものよりも強力であることが分かった(図4)。
【0072】
まとめると、本発明における知見は、老化、関節炎、癌、糖尿病、神経変性疾患、肺線維症、白斑及びウイルス感染などのTXNDC5の調節不全からもたらされる疾患及び/又は障害が、アンチセンスオリゴヌクレオチド、特にTXNDC5 mRNAの発現を妨害するアンチセンスオリゴヌクレオチドを、そのような処置を必要とする被検体(例えば、ヒト患者)に導入することによって処置され得るという提案を支持する。
【0073】
実施形態の上記説明は例示としてのみ与えられること及び種々の変形が当業者によってなされ得ることが理解されるはずである。上記仕様、実施例及びデータは、発明の例示的実施形態の構造及び使用の完全な説明を与える。発明の種々の実施形態がある程度の特殊性で又は1以上の個別の実施形態を参照して上述したが、当業者であれば、本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく開示の実施形態に対して多数の変更を行うことができるはずである。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図2A
図2B
図2C
図3
図4
【配列表】
2025501269000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-08-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオレドキシンドメイン含有タンパク質5(TXNDC5)mRNAの翻訳を阻害する1本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)であって、前記1本鎖ASOは、約16~21ヌクレオチド長であり、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14のいずれか一つであるデオキシリボヌクレオチド配列を備え、前記配列番号14の前記1本鎖ASOは6個のロックド核酸(LNA)分子を備える、1本鎖ASO。
【請求項2】
前記配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13の前記1本鎖ASOは、少なくとも1個のLA分又は2’-糖修飾を備える請求項1に記載の1本鎖ASO。
【請求項3】
少なくとも1個の2’-フルオロ糖、2’-O-メチル糖又は2’-O-メトキシエチル糖を備える請求項2に記載の1本鎖ASO。
【請求項4】
前記配列番号13の前記1本鎖ASOが、6個のLNA分子を備える請求項2に記載の1本鎖ASO。
【請求項5】
前記配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12の前記1本鎖ASOが、10個の2’-O-メトキシエチル糖を備える請求項2に記載の1本鎖ASO。
【請求項6】
チオレドキシンドメイン含有タンパク質5(TXNDC5)の上方制御を通じて媒介される被検体における疾患を処置する医薬品の製造のための1本鎖ASOの使用であって前記1本鎖ASOは、約16~21ヌクレオチド長であり、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14のいずれか一つであるデオキシリボヌクレオチド配列を備え、前記配列番号14の前記1本鎖ASOは6個のロックド核酸(LNA)分子を備える使用。
【請求項7】
前記配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13の前記1本鎖ASOは、少なくとも1個のLA分又は2’-糖修飾を備える、請求項に記載の使用
【請求項8】
前記1本鎖ASOは、少なくとも1個の2’-フルオロ糖、2’-O-メチル糖又は2’-O-メトキシエチル糖を備える、請求項に記載の使用
【請求項9】
前記配列番号13の前記1本鎖ASOは、6個のLNA分子を備える、請求項に記載の使用
【請求項10】
前記配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12の前記1本鎖ASOは、10個の2’-O-メトキシエチル糖を備える、請求項に記載の使用
【請求項11】
前記疾患は、老化、関節炎、癌、糖尿病、神経変性疾患、線維症、アテローム性動脈硬化症、白斑及びウイルス感染からなる群から選択される、請求項に記載の使用
【請求項12】
前記癌は、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、大腸癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、肺癌、多発性骨髄腫、非小細胞肺癌、膵臓癌、前立腺癌、腎臓癌及び子宮癌からなる群から選択される、請求項11に記載の使用
【請求項13】
前記神経変性疾患は、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病及びプリオン病からなる群から選択される、請求項11に記載の使用
【請求項14】
前記線維症は、肺線維症、腎線維症、肝線維症及び心筋線維症からなる群から選択される、請求項11に記載の使用
【国際調査報告】