(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ハッチンソンギルフォードプロジェリア症候群の新規アッセイ及び新規治療方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
G01N33/53 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539898
(86)(22)【出願日】2022-12-29
(85)【翻訳文提出日】2024-08-26
(86)【国際出願番号】 IB2022062870
(87)【国際公開番号】W WO2023126868
(87)【国際公開日】2023-07-06
(32)【優先日】2021-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524246377
【氏名又は名称】ザ プロジェリア リサーチ ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100181906
【氏名又は名称】河村 一乃
(72)【発明者】
【氏名】ゴードン,レスリー ビー.
(72)【発明者】
【氏名】ハムレン,サラ
(72)【発明者】
【氏名】グッドソン,ロバート
(57)【要約】
本明細書には、プロジェリンを高感度で検出できるが、野生型ラミンAを検出しない、新たに開発されたイムノアッセイが記載されている。また、新たに開発されたイムノアッセイの、プロジェリアの診断、予後、及び治療のための新規方法への適用についても記載される。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体におけるハッチンソンギルフォードプロジェリア症候群(Hutchinson-Gilford progeria syndrome:HGPS)の予後のための方法であって:
被検体からの試料を提供すること;
定量的イムノアッセイにより試料中のプロジェリン濃度を定量することであり、ここで定量的イムノアッセイはプロジェリンを検出するが、野生型ラミンAタンパク質を検出しないこと;及び
試料中のプロジェリン濃度をHGPS陽性コントロールと比較することであり、ここで試料中のプロジェリン濃度がHGPS陽性コントロールのプロジェリン濃度未満であることは、被検体の平均余命の延長を示すこと、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記試料は、血漿、血清、尿、及び唾液から選択される液体試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
定量的イムノアッセイは:
試料を、野生型ラミンAとプロジェリンとの両方に結合する捕捉抗体と接触させて、捕捉されたラミンAと捕捉されたプロジェリンとの混合物を得ること;
捕捉されたラミンAと捕捉されたプロジェリンとの混合物を試料から分離すること;
捕捉されたラミンAと捕捉されたプロジェリンとの混合物を、検出可能な標識を含むプロジェリン特異的検出抗体と接触させ、それにより検出抗体と捕捉されたプロジェリンを結合させるが、捕捉されたラミンAを結合させないこと;
捕捉されたラミンAとの混合物から検出可能な標識を分離すること;及び
検出可能な標識を検出し、かつそれにより試料中のプロジェリンの量を定量すること、
を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
コントロールは、より早い時点にて同一の被検体から得られる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
定量的イムノアッセイの定量下限は59pg/mlである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
定量的イムノアッセイの定量上限は30,000pg/mlである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
被検体はHGPSの治療を受けた後、前記方法を1回以上繰り返すことをさらに含み、ここで治療後のプロジェリン濃度の減少が平均余命の延長を示す、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
治療後のプロジェリン濃度の減少は35~62%である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
プロジェリン濃度の減少が大きいほどより長い平均余命の延長を示す、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
ハッチンソンギルフォードプロジェリア症候群(HGPS)の治療の有効性を決定するための方法であって:
HGPSの治療薬の投与前に採取される、被検体からの治療前試料を提供すること;
定量的イムノアッセイにより治療前試料中のプロジェリン濃度を決定することであり、ここで定量的イムノアッセイはプロジェリンを検出するが、野生型ラミンAタンパク質を検出しないこと;
HGPSの治療薬の投与中又は投与後に採取される被検体からの治療後試料を提供すること;
定量的イムノアッセイにより治療後試料中のプロジェリン濃度を決定すること;及び
治療前のプロジェリン濃度と治療後のプロジェリン濃度とを比較することであり、ここで治療後の試料のプロジェリン濃度の有意な減少は、治療が有効であることを示すこと、
を含む、前記方法。
【請求項11】
治療前試料及び治療後試料は、血漿、血清、尿、及び唾液から選択される液体試料である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
最初の治療後試料の後の時点で被検体から採取される1つ又は複数の追加の治療後試料を提供することをさらに含み、ここでプロジェリン濃度の継続的な減少又はさらなる減少は、治療の有効性の継続を示す、請求項10又は請求項11に記載の方法。
【請求項13】
定量的イムノアッセイは:
試料を、野生型ラミンAとプロジェリンとの両方に結合する捕捉抗体と接触させて、捕捉されたラミンAと捕捉されたプロジェリンとの混合物を得ること;
捕捉されたラミンAと捕捉されたプロジェリンとの混合物を試料から分離すること;
捕捉されたラミンAと捕捉されたプロジェリンとの混合物を、検出可能な標識を含むプロジェリン特異的検出抗体と接触させ、それにより検出抗体と捕捉されたプロジェリンを結合させるが、捕捉されたラミンAを結合させないこと;
捕捉されたラミンAとの混合物から検出可能な標識を分離すること;
検出可能な標識を検出し、かつそれにより試料中のプロジェリンの量を定量すること、
を含む、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
定量的イムノアッセイの定量下限は59pg/mlである、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
定量的イムノアッセイの定量上限は30,000pg/mlである、請求項10~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
治療はファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤を含む、請求項10~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤はロナファルニブである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
被検体におけるハッチンソンギルフォードプロジェリア症候群(HGPS)の治療のための方法であって:
被検体からの試料を提供すること;
定量的イムノアッセイにより試料中のプロジェリン濃度を定量することであり、ここで定量的イムノアッセイはプロジェリンを検出するが、野生型ラミンAタンパク質を検出しないこと;
試料中のプロジェリン濃度をHGPS陽性コントロールと比較することであり、ここで試料中のプロジェリン濃度は、被検体がHGPSを有することを示すこと;及び
被検体がHGPSを有する場合、被検体にプロジェリン濃度を低下させるHGPSのための治療薬を投与すること、
を含む、前記方法。
【請求項19】
定量的イムノアッセイの定量下限は59pg/mlである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
定量的イムノアッセイの定量上限は30,000pg/mlである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
HGPSの治療は、被検体にファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤を投与することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤はロナファルニブである、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年12月29日に出願された米国仮特許出願第63/294,418号の優先権を主張するものであり、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本開示は、プロジェリンを高感度で検出できるが、野生型ラミンAを検出しない、新たに開発されたイムノアッセイ、及びプロジェリアの診断、予後、及び治療のための新規方法に関する。
【0003】
政府の支援の承認
本発明は、米国食品医薬品局から授与された助成金番号1U01FD006886-01による政府支援の一部を受けて行われた。政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【背景技術】
【0004】
ハッチンソンギルフォードプロジェリア症候群(Hutchinson-Gilford progeria syndrome:HGPS)は、超希少であり(有病率1800万~2000万人に1人)、一様に致死的である早老症である。性別、民族、地域に偏りはない。罹患率には、発育不全、全身性脂肪異栄養症、脱毛症、骨形成不全、及び進行性動脈硬化症などが挙げられ、平均14.6歳で主に心不全により死亡する。
【0005】
HGPSは、プロジェリンと呼ばれる核膜タンパク質ラミンAの有毒なスプライスバリアントを産生するLMNAの変異によって引き起こされる散発性常染色体優性疾患である(De Sandre-Giovannoliら;Erikssonら)。症例の90%はc.1824C>Tの点変異によって引き起こされる古典的HGPSであり、残りの10%はイントロン11のスプライセオソーム認識配列内の一塩基変異によって引き起こされる非古典的HGPSである(Gordonら、2018;Gordonら、2014)。プロジェリンタンパク質はドミナントネガティブ様式で作用する;これはプロジェリンが存在し、かつ正常なラミンA量の相対的な低下がないことであり、これにより疾患が生じるのである(Scaffidiら)。これを裏付けるように、ラミンAを欠損したマウスは正常な表現型を示す(Fongら)。プロジェリンの用量の影響は、ヘテロ接合型プロジェリン発現マウスとホモ接合型プロジェリン発現マウスにおける段階的な疾患の重症度及び寿命の短縮、並びにプロジェリン標的治療を受けたHGPSマウスにおける寿命の延長を示すマウス研究によって裏付けられる(Benedictoら、Cabralら)。症例報告では、軽度と重度の早老症罹患患者の線維芽細胞培養で発現したプロジェリンの量がそれぞれ低い、及び高いことが報告されている(Barら;Hisamaら)。
【0006】
ラミンAとは異なり、プロジェリンは亜鉛メタロプロテアーゼの切断部位を欠くため、持続的にファルネシル化されたままであり、核内ラミナの一部として長期的に取り込まれ、そこに蓄積して細胞障害を引き起こす。in vitro、マウスモデル、及びヒトを対象とした研究では、ファルネシル化を阻害することにより、HGPSの表現型が遅延及び/又は逆転することが証明されている。HGPSの小児を対象とした臨床試験では、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(farnesyltransferase inhibitor:FTI)であるロナファルニブによる治療により、心血管、骨、聴覚、及び体重の改善がみられ(Gordonら、2012)、平均で推定2.5年の生存期間延長に関連することが実証された。これらのエビデンスを総合して、ロナファルニブは初めてFDAに承認されたHGPSの治療用薬物となった。
【0007】
現在のところ、HGPSの検証済みバイオマーカーは存在しない。プロジェリンは病気の原因となるタンパク質であるため、最適なバイオマーカー候補である。プロジェリンタンパク質は、ヒトの剖検組織及び皮膚生検で免疫蛍光法又はELISA法を用いて検出されているが、これらの方法は臨床試験で使用するには感度又は定量性が不十分であり、また、一連の患者試料を得るためには組織検出は実行不可能である。イムノアッセイアプローチの限界が以前から認められていたため、近年、標的質量分析法を用いたイムノ検出の代替法が開発されてきた(Camafeitaら)。しかし、その臨床的有用性もまた制限がある可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Bar DZ,ら,J Med Genet.2017;54:212-216
【非特許文献2】Benedicto Iら,Cells.2021;10
【非特許文献3】Cabral WAら,Aging Cell.2021:e13457
【非特許文献4】Camafeita Eら,Int.J.of Molec.Sci.2022,3,11733
【非特許文献5】De Sandre-Giovannoli Aら,Progress in molecular and subcellular biology.2006;44:199-232
【非特許文献6】Eriksson Mら,Nature.2003;423:293-297
【非特許文献7】Fong LGら,The Journal of Clinical Investigation.2006;116:743-752
【非特許文献8】Gordon LBら,PNAS.2012;109:16666-16671
【非特許文献9】Gordon LBら,Circulation.2014;130:27-34
【非特許文献10】Gordon LBら,JAMA.2018;319:1687-1695
【非特許文献11】Hisama FMら,American Journal of Medical Genetics Part A.2011;155A:3002-3006
【非特許文献12】Scaffidi Pら,Nature Medicine.2005;11:440-445
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、治療有効性を評価するために、HGPSの小児から縦断的に得ることができる生物学的材料から、高感度で特異的な様式でプロジェリンを検出する方法が引き続き必要とされている。現在進行中の研究(オンラインgrantome.com/grant/NIH/U01-FD006886-01を参照)では、プロジェリンをバイオマーカーとして検証することを目標としているが、プロジェリンの高感度検出が診断又は予後の目的に利用できること、あるいは、所定のHGPS治療に対するプロジェリンにおける患者の変化をモニターするのに十分な感度があることは、これまで実証されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
概要
本明細書に記載されるのは、被検体におけるハッチンソンギルフォードプロジェリア症候群(HGPS)の予後のための方法であり、以下の工程:被検体からの試料を提供する工程;定量的イムノアッセイを用いて試料中のプロジェリン濃度を定量する工程であって、ここで定量的イムノアッセイはプロジェリンを検出するが、野生型ラミンAタンパク質を検出しない、前記工程;及び試料中のプロジェリン濃度をHGPS陽性コントロールと比較する工程であって、ここで試料中のプロジェリン濃度がHGPS陽性コントロール中のプロジェリン濃度未満である場合、被検体における平均余命(life expectancy)の延長を示す、前記工程、を含む。
【0011】
記載された方法の特定の実施形態では、試料は血漿、血清、尿、及び唾液から選択される液体試料である。
【0012】
他の特定の実施形態では、記載の方法で使用するための定量的イムノアッセイは、以下の工程:野生型ラミンA及びプロジェリンの両方に結合する捕捉抗体と試料を接触させて、捕捉されたラミンA及び捕捉されたプロジェリンの混合物を得る工程;捕捉されたラミンA及び捕捉されたプロジェリンの混合物を試料から分離する工程;捕捉されたラミンAと捕捉されたプロジェリンの混合物を、検出可能な標識を含むプロジェリン特異的検出抗体と接触させることにより、検出抗体と捕捉されたプロジェリンを結合させるが、捕捉されたラミンAは結合させない工程;捕捉されたラミンAとの混合物から検出可能な標識を分離する工程;及び検出可能な標識を検出することにより、試料中のプロジェリンの量を定量する工程、を含む。
【0013】
記載の方法の特定の実施形態では、コントロールは同じ被検体の以前の時点のものである。
【0014】
いくつかの実施形態において、定量的イムノアッセイの定量下限は59pg/mlである。他の実施形態では、定量的イムノアッセイの定量上限は30,000pg/mlである。さらに他の実施形態では、定量的イムノアッセイの定量範囲は59pg/ml~30,000pg/mlである。
【0015】
特定の実施形態において、記載の方法は、被検体がHGPSの治療を受けた後に、その方法を1回以上繰り返すさらなる工程を含み、治療後のプロジェリン濃度の減少、さらなる減少、又は維持された減少は、平均余命の延長を示す。
【0016】
特定の実施形態では、プロジェリン濃度の減少は35~62%である。
【0017】
さらに他の実施形態では、プロジェリン濃度の減少が大きいほど平均余命の延長が大きくなる。
【0018】
また、本明細書には、ハッチンソンギルフォードプロジェリア症候群(HGPS)の治療有効性を決定するための方法が記載され、前記方法は以下の工程:HGPSに対する治療薬の投与前に採取される、被検体からの治療前試料を提供する工程;定量的イムノアッセイにより治療前試料中のプロジェリン濃度を決定する工程であって、ここで定量的イムノアッセイはプロジェリンを検出するが、野生型ラミンAタンパク質は検出しない、前記工程;HGPSに対する治療薬の投与中又は投与後に採取される、被検体からの治療後試料を提供する工程;定量的イムノアッセイにより治療後試料中のプロジェリン濃度を決定する工程;及び治療前のプロジェリン濃度と治療後のプロジェリン濃度を比較する工程であって、ここで治療後試料中のプロジェリン濃度が有意に減少している場合、治療が有効であることを示す、前記工程、を含む。
【0019】
特定の実施形態において、治療前試料及び治療後試料は、血漿、血清、尿、及び唾液から選択される液体試料である。
【0020】
他の実施形態において、本方法は、最初の治療後試料の後の時点で被検体から採取される1つ又は複数の追加の治療後試料を提供することをさらに含み、ここで、プロジェリン濃度の継続的又はさらなる減少は、治療の有効性の継続を示す。
【0021】
特定の実施形態では、定量的イムノアッセイは、野生型ラミンA及びプロジェリンの両方に結合する捕捉抗体と試料を接触させて、捕捉されたラミンA及び捕捉されたプロジェリンの混合物を得る工程;捕捉されたラミンA及び捕捉されたプロジェリンの混合物を試料から分離する工程;捕捉されたラミンAと捕捉されたプロジェリンとの混合物を、検出可能な標識を含むプロジェリン特異的検出抗体と接触させ、それにより検出抗体と捕捉されたプロジェリンとを結合させるが、捕捉されたラミンAは結合させない工程;捕捉されたラミンAとの混合物から検出可能な標識を分離する工程;検出可能な標識を検出し、それにより試料中のプロジェリンの量を定量する工程、を含む。
【0022】
いくつかの実施形態において、定量的イムノアッセイの定量下限は59pg/mlである。他の実施形態では、定量的イムノアッセイの定量上限は30,000pg/mlである。さらに他の実施形態では、定量的イムノアッセイの定量範囲は59pg/ml~30,000pg/mlである。
【0023】
記載された方法の特定の実施形態では、HGPSの治療にはファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤が含まれ、これは特定の実施形態ではロナファルニブである。
【0024】
さらに、本明細書に記載されるのは、被検体におけるハッチンソンギルフォードプロジェリア症候群(HGPS)の治療のための方法であって、前記方法は、被検体からの試料を提供する工程;定量的イムノアッセイを用いて試料中のプロジェリン濃度を定量する工程であって、ここで定量的イムノアッセイはプロジェリンを検出するが、野生型ラミンAタンパク質は検出しない、前記工程;試料中のプロジェリン濃度をHGPS陽性コントロールと比較する工程であって、ここで試料中のプロジェリン濃度は、被検体がHGPSを有すること(場合)を示す、前記工程;及び被検体がHGPSを有する場合に、プロジェリン濃度を低下させるHGPSのための治療を被検体に投与する工程、を含む。
【0025】
いくつかの実施形態において、定量的イムノアッセイの定量下限は59pg/mlである。他の実施形態では、定量的イムノアッセイの定量上限は30,000pg/mlである。さらに他の実施形態では、定量的イムノアッセイの定量範囲は59pg/ml~30,000pg/mlである。
【0026】
記載された方法の特定の実施形態では、HGPSの治療にはファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤が含まれ、これは特定の実施形態ではロナファルニブである。
【0027】
上記及びその他の目的、特徴、及び利点は、添付図を参照しながら進む以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、プロジェリン特異的SMCイムノアッセイの概略図である。1.ラミンA/C捕捉抗体は、重鎖非特異的領域で磁性微粒子(円形)に結合している;2.プロジェリン含有溶液をウェルに添加し、プロジェリンをラミンA/C抗体捕捉抗体の抗体結合部位に結合させる;3.蛍光標識したプロジェリン特異的検出抗体を添加し、プロジェリンに結合させる;4.溶出- 磁性微粒子からのプロジェリン+Fl(蛍光標識化)プロジェリン特異的抗体を化学的に分離する;及び5.蛍光標識(長方形)のレーザー検出を用いて単一分子を計数する。
【
図2】
図2は、プロジェリンアッセイの分析性能を示す。曲線の適合度は、10回のアッセイの連続実行で作成されたプロジェリン検量線の逆補間を用いて作成した。A.定量の全範囲。B.定量範囲の下限。
【
図3】
図3は、非HGPS患者と未治療の臨床試験患者との血漿プロジェリン量を示す。各記号は、個々の患者の量と年齢の比較を表す。Y軸は対数スケールである。A.非HGPS患者(N=69)=三角形。B.未治療のHGPS患者(N=74)=円形。これはHGPS患者と同じ年齢範囲内にあるパネルAに示されている非HGPS患者=三角形と共に表示される。
【
図4A】
図4は臨床試験患者の血漿プロジェリン量を示す。現地治験施設来院回数及び治療時間と平均±SEMプロジェリンとの比較。BCHへの試験来院は、異なる試験について来院1回後の様々な時期に行われた。来院1回の患者はすべて治療に対してナイーブ(naive)であった。A.ロナファルニブ(Lonafarnib)で治療された、ProLon1(N=25)。
【
図4B】B.ベースラインから来院5回までトリプル療法(triple therapy)により治療されその後ロナファルニブ単剤療法に切り替えた3剤試験患者(N=13)(来院6、7;N=10)。
【
図4C】C. ProLon2 ロナファルニブ単剤療法(N=26)。
【
図4D】D.長期継続治療(N=13)。上下のボックスの端はそれぞれ75分位と25分位との四分位数(IQR)範囲を表す。横線は中央値、ボックス内の×は平均値を表す。下ヒゲ及び上ヒゲは、Q1-1.5×IQR及びQ3+1.5×IQRを表す。
*p<0.05;
**p<0.01、
***p<0.001、
****p<0.0001;NS,p>0.05。各来院は関連した来院と比較される。
【
図5】
図5は、プロジェリン量が生存期間と関連していることを示す。時間依存的ジョイントモデリングを使用して、血漿プロジェリン値の低下と共に死亡リスクは徐々に減少した(p<0.0001)。死亡リスクの変化(y軸)と、0から65,000pg/mLの観察されたプロジェリンの減少の範囲におけるすべての値(x軸)。実線は死亡リスクの減少率(%)であり、破線は95%信頼区間(CI)である。N=74人の被検体(単一試料により治療されていない9人、及び未治療ベースラインと複数の療法中(on-therapy)の試料によって治療される65人)。
【
図6】
図6は、プロジェリン量が生存期間と関連していることを示す(p=0.0008)。血漿中のプロジェリンが減少すると死亡リスクが減少する。生存の予測にプロジェリンを用いた時間依存Coxモデルであり、年齢と性別で調整。死亡リスクの変化(y軸)と、0~65,000pg/mLの観察されたプロジェリンの減少の範囲におけるすべての値(x軸)。実線は死亡リスクの減少率(%)であり、破線は95%信頼区間(CI)である。N=74人(単一試料によって治療されていない9人、未治療ベースラインと複数の療法中の試料とによって治療される65人)。
【
図7】
図7は、平均余命の延長の程度は、血漿プロジェリンの低下及び療法期間の延長と段階的に関連していることを示す。cRMSTに基づく動的モデリングを使用して、血漿プロジェリンの3つの選択された変化について、治療期間(x軸)に対する平均余命(y軸)の増加を示す(ベースラインと療法中の複数の試料によるN=65の被検体)。
【発明を実施するための形態】
【0029】
詳細な説明
用語
特に説明がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。単数形の用語「a」、「an」、「the」は、文脈で明確に別段の指示がない限り、複数形の参照語を含む。同様に、「または(or)」という言葉は、文脈で明確に別段の指示がない限り、「及び」を含むことを意図している。さらに、核酸又はポリペプチドについて与えられたすべての塩基サイズ又はアミノ酸サイズ、及びすべての分子量又は分子質量値は概算であり、説明のために提供されていることを理解されたい。本開示の実施又は試験には、本明細書に記載したものと類似又は同等の方法及び材料を用いることができるが、好適な方法及び材料を以下に記載する。「e.g.(例えば)」という略語は、ラテン語の「exempli gratia」に由来し、本明細書では非限定的な例を示すために用いられる。したがって、「例えば(e.g.)」という略語は、「例えば(for example)」という用語と同義である。米国で確立された定義と一致して、用語「comprise(含む)」は「include(含む)」を意味し、用語「comprise essentially of(本質的に含む)」又は「consisting essentially of(から本質的になる)」は、記載された組成物又は方法の活性成分又は工程が、明示的に引用された成分又は工程のみを含むことを示す。さらに、米国で確立された定義と一致して、所定の成分を「comprise(含む)」組成物は、他の実施形態において、その成分から「本質的になる」こともできる。同様に、所与の一連の工程を「comprise(含む)」方法は、他の実施形態において、明示的に示された一連の工程から「本質的になる」こともできる。
【0030】
矛盾が生じた場合は、用語の説明を含む本明細書が優先される。すべての材料、方法、及び例は例示であり、限定を意図するものではない。
【0031】
HGPSの予後の方法(Prognostic Method)
臨床的に適切な生物学的マーカーの開発は、HGPSの小児及び若年成人に対する効果的な治療法を特定し、実施するために不可欠である。しかし、これまでのところ、このようなバイオマーカーの同定は、臨床試験での有用性を高めるには感度又は定量性が十分でなかった免疫学的手法のために妨げられてきた。さらに、連続した患者試料を得るためのこのようなバイオマーカーの組織における検出は不可能であった。イムノアッセイアプローチには限界があるため、免疫検出に代替法が標的質量分析法を使用して開発されたが(Camafeitaら)、その臨床的有用性にも限界があり得る。本明細書に記載の研究は、プロジェリンがHGPSの定量可能なバイオマーカーであることを立証し、プロジェリン濃度がこの普遍的に致死的な疾患に対する新しい治療法を直接評価するために使用できることを示している。さらに記載の研究はまた、血漿プロジェリンの患者の生存との定量的な関係も実証し、患者の生存を予後(予後判定)(prognose)するための定量的な方法を初めて可能にした。
【0032】
したがって、本明細書では、被検体から容易に得られる液体試料(例えば、血漿、尿、及び唾液)中のプロジェリンを選択的に定量する、新しく開発されたイムノアッセイについて記載する。この開発されたイムノアッセイにより、HGPSの治療有効性を決定するため、及び患者の生存の相対的な期間を予後することができるための両方にも使用できる、被検体におけるHGPSの予後の方法の開発が可能になった。
【0033】
HGPS治療の有効性を決定するために、記載された方法は、HGPS治療を受ける前に被検体からの試料を提供すること;この治療前試料中のプロジェリン濃度を定量的イムノアッセイを用いて定量すること;被検体がHGPS治療を受けた後に被検体から採取される試料を提供すること;この治療後試料中のプロジェリン濃度を定量的イムノアッセイを用いて定量すること;及び治療後試料中のプロジェリン濃度を治療前試料中のプロジェリン濃度と比較すること、を含む。この比較に基づき、治療後の試料のプロジェリン濃度が治療前の試料のプロジェリン濃度より有意に低ければ、治療の有効性を示す。
【0034】
特定の実施形態において、記載の方法は、治療薬の投与後の単一の時点で被検体から採取した試料中のプロジェリン濃度を定量するために使用される。他の実施形態では、記載の方法は、治療の初回投与後の、及び特定の実施形態では治療の継続投与中の、連続した時点で被検体から採取される長期的試料においてプロジェリンを定量するために使用することができる。プロジェリン濃度を複数の時点にわたって定量するこれらの方法では、最初に測定した時点の後のプロジェリンの濃度からさらにプロジェリン濃度が減少した場合、あるいは減少したプロジェリン濃度が長期にわたって維持される場合に、所与の治療が有効であるとみなされる。
【0035】
前述のように、記載の方法の実施形態は、HGPS患者の生存の相対的な長さを決定するために使用することができる。このような実施形態は、被検体からの試料を提供すること;定量的イムノアッセイで被検体中のプロジェリン濃度を定量すること;及び試料中のプロジェリン濃度を、HGPS陽性被検体を示すコントロールの濃度と比較すること、を含む。この比較に基づき、被検体のプロジェリン濃度がコントロールのプロジェリン濃度より低いことは、被検体の平均余命の延長を示す。
【0036】
記載の方法で使用する試料には、被検体から直接又は間接的に得ることができ、そこから細胞又は細胞外タンパク質を検出できるあらゆる試料が含まれる。このような試料には、全血、血漿、血清、涙、粘液、唾液、尿、喀痰、組織、細胞(線維芽細胞、末梢血単核球、又は筋肉細胞など)、臓器、及び/又は組織、細胞(線維芽細胞、末梢血単核球、又は筋肉細胞など)、又は臓器の抽出物が含まれるが、これらに限定されない。試料は、当業者によく知られた方法を使用して採取又は取得される。特定の実施形態では、記載の方法で使用するための試料には、血漿、血清、尿、又は唾液などの液体試料が含まれる。さらに他の特定の実施形態では、被検体から採取され、記載の方法で使用するために提供される試料は、血漿試料である。
【0037】
記載の方法において、試料を「提供すること」には、タンパク質を検出する免疫学的方法において使用するために、被検体から試料を収集し、かつ処理するための当該技術分野で知られている任意の方法が含まれる。特定の実施形態において、試料は、被検体から採取された直後に、記載のイムノアッセイに提供される。他の実施形態では、試料は、数日、数週間、数ヶ月、又は数年の短期及び長期の保存のために、凍結などによって保存される。タンパク質含有試料の収集及び保存の方法は、当該技術分野において標準的であり、よく知られている。同様に、特定の実施形態では、プロジェリンは、試料の大規模な前処理を追加することなく、記載の定量的イムノアッセイを用いて検出される。あるいは、試料は、本明細書に記載のイムノアッセイによるタンパク質の検出を可能にするために十分な処理が行われる。このようなタンパク質の抽出及び濃縮の手順は、すべての試料に必要というわけではないが、検出されるシグナルを増加させるために、記載の方法に試料を提供する前に必要に応じて行うことができる。
【0038】
本明細書に記載の予後の方法は、被検体から採取した試料(複数可)中のプロジェリンを選択的に検出するが、該タンパク質の野生型(非変異体)形態であるラミンAは検出しない定量的イムノアッセイを使用することによりプロジェリンを定量する。定量的イムノアッセイは、比較源(例えば、病歴的なコントロール又は被検体からのより早い時点のもの)からの試料中のプロジェリン濃度の差を、ピコグラム/mlの範囲で検出するのに十分な感度を有していなければならない。例えば、定量的イムノアッセイは、10,000pg/ml、5,000pg/ml、4,000pg/ml、3,000pg/ml、2,000pg/ml、1,000pg/ml以下の差を検出できる必要がある。特定の実施形態では、定量的イムノアッセイの定量下限は59pg/mlである。別の実施形態では、定量的イムノアッセイの定量上限は30,000pg/mlである。
【0039】
イムノアッセイは当技術分野でよく知られており、タンパク質の野生型と変異型との間を特異的に区別するために適合することができ、記載のとおりピコグラムのスケールで標的タンパク質を定量するのに十分な感度を有する任意のイムノアッセイであれば、記載の方法での使用に適合することができることが理解されよう。記載の方法において使用され得るイムノアッセイの特に非限定的な例としては、ラジオイムノアッセイ(RIA)、免疫組織化学、共焦点顕微鏡を伴う又は伴わない免疫蛍光組織化学、及び酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)及び関連非酵素的技術、並びにフローサイトメトリー関連方法論が挙げられる(例えばCoxら,“Immunoassay Methods”in Assay Guidance Manual,Markossianら,編,Eli Lilly and Co.,2019年更新を参照)。特定の実施形態では、イムノアッセイは典型的な「サンドイッチアッセイ」又はその派生法であり、目的の抗原が抗体によって試料から最初に捕捉され、次に抗原を特異的に認識し、かつ検出可能な標識に結合される第2の抗体によって検出される。
【0040】
記載の方法で使用するイムノアッセイは、ラミンAとプロジェリンとを特異的に認識する抗体を用いる。このような抗体はモノクローナル又はポリクローナルであり得る。記載の方法において使用するための抗体の特定の例には、インタクト(無傷)な免疫グロブリン、及びFab’断片、F(ab)’2断片、一本鎖Fvタンパク質(「scFv」)、及びジスルフィド安定化Fvタンパク質(「dsFv」)などの当該技術分野において十分に知られているバリアント及びその一部が含まれる。
【0041】
特異的な構造又は分子配列以上に、記載の方法で使用するための抗体は、ラミンAとプロジェリンとに特異的に結合できる必要があり(捕捉抗体)、又はプロジェリンには特異的に結合するがラミンAには結合しない必要がある(検出抗体)。「特異的に結合する」及び「特異的結合」という用語は、特異的結合剤と標的分子種とが混在する他の分子種に結合するよりも優先して標的分子種に結合する抗体の能力を指す。特異的結合剤は、標的分子種に特異的に結合できる場合その標的分子種を特異的に認識することをいう。
【0042】
ラミンA及びプロジェリンのアミノ酸配列は当技術分野で知られている(NCBIアクセッション番号NP_733821.1(ラミンA)及びAAR29466.1(プロジェリン)にてオンラインで入手可能)。ラミンAは664個のアミノ酸のポリペプチドで、その切断型バリアントであるプロジェリンは614個のアミノ酸である。したがって、プロジェリンを特異的に認識するがラミンAを認識しない記載の方法で使用する抗体又はその断片は、プロジェリンには存在するがラミンAには存在しないC末端アミノ酸を認識するように設計されている。このような抗体の特定の非限定的な例は、ラミンAの欠失領域をわたるプロジェリンのアミノ酸604と611との間のエピトープを認識する。記載の方法で使用する抗体は市販されている。
【0043】
記載の方法で使用するための検出抗体は、プロジェリンを特異的に認識するがラミンAを認識又は結合しない抗体に直接的又は間接的にコンジュゲートすることができる任意の検出可能な化合物又は組成物を含む検出可能な標識にコンジュゲートされる。記載の方法で使用するための検出可能な標識の具体的な非限定的な例としては、放射性同位体、酵素基質、補因子、リガンド、化学発光剤又は蛍光剤、ハプテン、酵素が挙げられる。このような標識を検出する方法も同様に標準的である。
【0044】
特定の実施形態において、記載の定量的イムノアッセイは、以下の工程を含むサンドイッチ型イムノアッセイである:(a)野生型ラミンAとプロジェリンの両方に結合する捕捉抗体と試料を接触させ、捕捉されたラミンAと捕捉されたプロジェリンの混合物を得る工程;(b)捕捉されたラミンAと捕捉されたプロジェリンの混合物を試料から分離する工程;(c)捕捉されたラミンA及び捕捉されたプロジェリンの混合物を、検出可能な標識を含むプロジェリン特異的検出抗体と接触させて、それにより捕捉されたプロジェリンは検出抗体と結合するが捕捉されたラミンAは結合しない工程;(d)検出可能な標識を捕捉されたラミンAとの混合物から分離する工程;および(e)検出可能な標識を検出して、それにより、試料中のプロジェリンの量を定量する工程。
【0045】
上記の方法の工程(b)のように、複合体混合物から所与の標的タンパク質を分離するための様々な方法が当技術分野で知られている。特定の実施形態では、捕捉抗体は、磁性粒子、ポリスチレンビーズ(アフィニティタグでコーティングすることもできる)、培養皿のウェルなどのような、しかしこれらに限定されない個体基質に付着させる。このような基質を使用することにより、標的タンパク質(この例ではラミンAまたはプロジェリン)は、捕捉抗体によって特異的に認識され結合される場合に基質に結合する。次いで、捕捉された抗体-タンパク質-基質は標準的な方法で、かつ基質の性質に従って、残りの試料成分から分離することができる。例えば、捕捉抗体が磁性粒子にコーティングされている特定の実施形態では、捕捉された抗体-タンパク質-基質複合体を磁場によって固定することができ、一方、タンパク質の抗体への非特異的結合を防ぐように十分にストリンジェントな条件下で試料の残りを洗い流すことができる。別の例示的な実施形態では、捕捉抗体は96ウェル培養プレートなどの培養プレートの底に貼り付けられ、それによって捕捉された抗体-タンパク質複合体がプレート上に残り、これにより試料の残りを洗い流すことが可能にする。
【0046】
同様に、捕捉された抗体-タンパク質複合体に検出抗体が結合し(上記の工程(c))、かつ非特異的な検出抗体の結合を制限する条件下で過剰の検出抗体が洗い流された後に、結合した検出可能な標識を分離する様々な方法(工程(d))が、記載の方法の範囲内で可能である。特定の実施形態では、検出抗体-プロジェリン-捕捉抗体複合体から分離される部分は、検出抗体-プロジェリンサブ複合体である(
図1に描かれている分離工程4と同様)。他の実施形態では、除かれるのは標識を伴う抗体のみであり、一方で、さらに他の実施形態では、結合した複合体から分離されるのは標識のみである。特定の実施形態では、ポリペプチド複合体の1つ又は複数の部分を切断する酵素的手段によって、標識は分離される(抗体-プロジェリン、抗体の一部として、又は抗体から離れたものとしてであるかを問わず)。他の実施形態では、複合体から標識を放出する非酵素的手段によって分離される(抗体の一部として、又は抗体-プロジェリン複合体としてであるかを問わず)。
【0047】
HGPSに対する治療の有効性を決定することにおいて、治療薬の投与前と治療薬の投与後の被検体のプロジェリン濃度を決定する。特定の実施形態では、有効性は治療薬の投与後の単一の時点で決定される。他の特定の実施形態では、有効性は治療薬の投与後又は投与中の複数の時点で決定される。例えば、試料は、治療薬の投与後又は治療の継続中に、数週間、数ヶ月、さらには数年にわたり、被検体から採取することができる。特定の実施形態では、試料は、治療薬の投与後又は投与中に、2、4、6、8、10、12か月ごと及びその間の増分ごとに被検体から採取される。別の実施形態では、治療期間中又は治療終了後、半年又は1年ごとに試料を採取する。
【0048】
HGPSに対する治療の有効性は、治療薬の投与後又は投与中にHGPSの濃度が有意に減少したことを検出する記載の方法によって示される。有意な減少とは、統計的に有意な減少である場合もあるが、本方法では統計的に有意な減少である必要はない。治療の有効性を示すプロジェリン濃度の有意な減少には、検出された投与前のプロジェリン濃度から最大10%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、あるいはそれ以上の減少が含まれる。特定の実施形態では、プロジェリン濃度の減少は、投与前のプロジェリン濃度より少なくとも35%~65%低いことであると決定される。
【0049】
治療の初回投与後、複数の時点で被検体から試料を採取し、プロジェリン濃度を決定するこれらの実施形態では、治療の有効性は、記載のとおりプロジェリン濃度のさらなる減少、又は治療薬の投与後、最初の時点で採取した試料から決定される減少したプロジェリン濃度の維持のいずれかによって決定することができる。このような実施形態では、検出されるプロジェリン濃度のさらなる減少は、最初の減少よりも少ない可能性があることが理解されよう。このようなさらなる減少は、1%~10%程度に少ない可能性があるが、上述のとおりそれを超過する場合もあり得る。
【0050】
HGPSに対する治療の有効性を決定する方法は、被検体におけるプロジェリンの発現又は蓄積を変化させると予想される任意の治療の有効性をモニターするために用いることができる。HGPSの潜在的な治療法は、プロジェリン量を変化させることを目的とし、様々な作用機序を用いて開発されている、又は現在開発中であり(Maciciorらによるレビュー)、遺伝子編集(Koblanら)、RNAベース療法(Erdosら、及びPuttarajuら)、ラミンAとの相互作用、オートファジーの速度、及びプロジェリンタンパク質の翻訳後プロセシングを標的とする小分子を含む。特定の実施形態において、本方法は、HGPSを有する被検体にロナファルニブなどのファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤を投与した場合の有効性をモニターする。
【0051】
開示の方法の特定の実施形態は、HGPSを有する被検体における相対的な平均余命の予後を対象とする。前述のとおり、被検体からの試料中のプロジェリン濃度が低いことは平均余命の延長に相関する。記載の予後の方法は、被検体の試料中のプロジェリン濃度をHGPS陽性コントロールと比較するものである。当該技術分野で一般的に理解されているように、コントロールとは参照標準である。したがって、HGPS陽性コントロールは、被検体の既知又は以前に決定されたプロジェリン濃度であり得、あるいは過去の平均値から求めることができる。特定の例では、HGPS陽性コントロールは、人生のより早い時点、又はHGPS治療を受ける前の時点における、(本方法の試料が提供される)同じ被検体からの試料の決定されたプロジェリン濃度である。他の例では、HGPS陽性コントロールは、1人以上の既知の他の(被検体でない)HGPS陽性個体から決定されたプロジェリン濃度である。特定の実施形態において、HGPS陽性コントロールは、HGPS患者の過去のベースラインとして記録されるような、HGPS陽性被検体からの試料において決定されるプロジェリンの平均濃度である。
【0052】
臨床現場においてプロジェリンを正確に決定することは、HGPSの効果的な診断、予後、及び治療にとって重要な側面である(例えばBenedictoら;Cabralらを参照)。記載のイムノアッセイを用いることで、HGPS陽性コントロールと比較して、被検体のプロジェリン濃度がより減少していることが、相対的な平均余命の延長を定量的に示していることを初めて示すことができる。上述の治療有効性の決定方法と同様に、相対的減少は統計的に有意である必要はないが、上述のように、コントロールからの減少は最大10%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、あるいはそれ以上とすることができる。特定の実施形態では、プロジェリン濃度の減少は、コントロールより少なくとも35%~65%低いことと決定される。予測寿命が延長する。
【0053】
HGPS治療の有効性を決定するための方法と同様に、特定の実施形態において、本明細書に記載の予後の方法は、被検体(患者)が診断される後の単一の時点にて採用することができる。他の実施形態では、本明細書に記載の方法は、患者の経過及びプロジェリン濃度の経時的変化をモニターするために用いることができる。このようなモニタリングでは複数の時点を使用することができ、例えば、診断及び治療開始後数か月、数年、又はそれ以上(およびその間の任意の時点)が、患者からの試料中のプロジェリンの濃度を測定するのに適した時点となり得る。
【0054】
HGPSの治療のための方法
本開示では、プロジェリンはHGPSのバイオマーカーとして立証される。HGPSと診断された患者はプロジェリン濃度の有意な上昇を有することだけでなく、HGPSの特定の治療を受けた患者ではプロジェリン濃度が有意に減少すること、プロジェリン濃度の減少は平均余命の延長と相関することが示された。したがって、本明細書には、HGPSを有する被検体の治療の方法が記載される。このような方法では、HGPSを有することが疑われ得る被検体、又はHGPSを有することが疑われ得ない被検体から試料が提供される。試料中のプロジェリン濃度は上記のとおり決定され、HGPS陽性コントロールと比較され、HGPS陽性コントロールは、HGPSを有することが知られている1人以上の個体からのプロジェリン濃度であり得る。試料中のプロジェリン濃度が、被検体がHGPSであることを示す場合(例えば、プロジェリン濃度がHGPS陽性コントロールのプロジェリン濃度と類似、同等、又はそれを超過するため)、被検体に、プロジェリン濃度を低下させるHGPSのための治療が提供される。
【0055】
前述のとおり、広範囲の様々な作用機序を用いてプロジェリン量を変化させるためのHGPSに対する複数の治療が開発中である。記載されている治療はいずれも、立証されれば本方法で使用可能である。現在までに承認されている唯一の治療は、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤のロナファルニブの使用である。
【0056】
ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(Farnesyltransferase inhibitor:FTI)は、ファルネシル基をピロリン酸ファルネシルから所与の標的タンパク質に転移するファルネシルトランスフェラーゼの能力を阻害する化合物類である。FTIは、プロジェリンへのファルネシルの付加を阻害するために使用することができ、それによってプロジェリン又はプレラミンAと、核膜の内膜(inner nuclear envelope)との異常な結合を防ぐことができる。FTIは一般的に3つのグループに分けることができる:(1)CAAXモチーフを持つ、あるいはそれを模倣したテトラペプチド(Brownら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.89:8313-8316、1992;Reissら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.88:732-736,1991;Goldsteinら,J.Biol.Chem.266:15575-15578,1991);(2)ファルネシルピロホスフェート(farnesyl pyrophosphate:FPP)のアナログ(Gibbsら,J.Biol.Chem 268:7617-7620,1993);及び(3)テトラペプチド又はFPPのいずれにも似ていない構造を有する阻害剤(Liuら,J.Antibiot.45:454-457,1992;Miuraら,FEBS Lett.318:88-90,1993;Omuraら,J.Antibiot.46:222-228,1993;Van Der Pylら,J.Antibiot.45:1802-1805,1992)。後者のカテゴリーの阻害剤は、一般的に最初の2つのカテゴリーに比べて活性が低い。例として、FTIのロナファルニブ(Zokinvy(登録商標))は非ペプチド模倣型FTIであり、FTI-277はペプチド模倣型FTIである。本明細書に記載の方法で使用するFTIの別の非限定的な例としては、R115777(チピファルニブ、Zarnestra(登録商標))が挙げられる。FTIの開発及び化学的性質は十分に文書化されており、当業者に知られている。現在までのところ、ロナファルニブはHGPSの治療における使用が承認された唯一のFTIであるが、本明細書で提供される方法においては、すべてのカテゴリーのFTIを使用することができると考えられ;かつ特定のFTIを選択することは、通常の当業者の技量の範囲内である。いくつかの実施形態では、ゲラニルゲラニルトランスフェラーゼIと比較して、ファルネシルトランスフェラーゼに対してより選択的である阻害剤化合物を選択することが有益である。他の実施形態では、FTase及びGGTase Iの両方を阻害するという点で二重選択的である阻害剤化合物を選択することが有益であり得る。FTIの選択性基準を決定するための考慮事項には、二重特異性FTIに対してFTase特異的FTIにより毒性が低くなる可能性が含まれる(これらに限定されない)が、有効性と毒性との両方は特定の化合物及び特定の患者によって異なる可能性がある。当業者であれば認識できるように、他の考慮事項、例えば薬理学的及び医学的な考慮事項が適用されることもある。
【0057】
特定の例では、ロナファルニブなどのFTIは、115mg/m2~150mg/m2/dayの容量範囲で投与され、例えば約115mg/m2、120mg/m2、125mg/m2、130mg/m2、135mg/m2、140mg/m2、145mg/m2、150mg/m2などで投与される。当業者であれば、FTIに典型的な他の投与量の範囲が本開示に包含されることを理解できよう。
【0058】
本明細書に記載の方法で使用するための治療(治療薬)(treatment)は、一般的に、薬学的に許容される担体及び/又は薬学的賦形剤に含まれる。「薬学的に許容される」という用語は、連邦政府又は州政府の規制機関によって承認されるか、又は動物、より特にヒトに使用するために米国薬局方又は他の一般に認められた薬局方に記載されていることを意味する。「担体」という用語は、療法でともに投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はビヒクルを指す。
【0059】
医薬賦形剤の例としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセリン、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。特定の治療には、必要に応じて、少量の湿潤剤、乳化剤、又はpH緩衝剤も含有され得る。本明細書に記載の方法で使用するための治療は、溶液、懸濁液、乳剤、錠剤、丸薬、カプセル剤、粉末剤、徐放性製剤などの形態をとることができる。経口製剤には、医薬品等級のマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的な担体を含めることができる。
【0060】
他の医薬組成物の実施形態は、当業者に知られ得るとおり、従来の薬学的に許容される対イオンを用いて調製される。
【0061】
治療用調製剤は、治療上有効な量の少なくとも1つの有効成分、好ましくは精製された形態の有効成分を、患者に適切に投与できるよう、適切な量の担体と共に含有するであろう。この配合は投与様式に適したものでなければならない。
【0062】
本開示の併用療法は、ヒトへの静脈内投与に適合した医薬組成物として、日常的な手順に従って製剤化することができる。一般に、静脈内投与用組成物は、滅菌等張性水性緩衝液中の溶液である。必要に応じて、該組成物はまた、可溶化剤、及び注射部位の痛みを和らげるためのリドカインなどの局所麻酔薬を含むことができる。
【0063】
様々な実施形態における成分は、例えば、錠剤、丸薬、粉末、液体溶液、又は懸濁液などの固体、半固体、及び液体の剤形、又は、懸濁液、又は活性剤の量を表示するアンプル又はサシェなどの密封容器に入った乾燥凍結乾燥粉末又は水を含まない濃縮物として、別々に、又は混合して単位剤形で供給される。指示された薬剤の1つ以上が輸液によって投与される場合、滅菌された医薬品グレードの水又は生理食塩水を含む輸液ボトルを用いて調剤することができる。
【0064】
任意の特定の被検体に対する具体的な投与量のレベル及び投与回数は様々であり得、特定の化合物の活性、その化合物の代謝安定性及び作用時間、年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食事、投与様式及び投与時間、排泄速度、薬剤の組み合わせ、治療を受ける受給者の状態の重症度など、様々な要因に依存するであろう。
【0065】
本開示の治療用化合物及び組成物は、治療期間を通じてほぼ同じ用量で、漸増用量レジメンで、又は負荷用量レジメン(例えば、負荷用量が維持用量の約2~5倍)で投与され得る。いくつかの実施形態において、用量は、治療される被検体の状態、疾患又は状態の重症度、療法に対する明らかな応答、及び/又は当業者によって判断される他の因子に基づいて、治療の過程で変更される。いくつかの実施形態では、薬物による長期治療が企図されている。
【0066】
いくつかの実施形態では、治療有効量の治療用化合物又は組成物を含む医薬調製剤の持続的局所放出が有益であり得る。徐放性製剤は当業者に知られている。一例として、ビス(p-カルボキシフェノキシ)プロパン-セバシン酸又はレシチンの懸濁液などのポリマーを用いて、持続的局所放出を行うことができる。
【0067】
以下の実施例は、特定の特徴及び/又は実施形態を説明するために提供される。これらの実施例は、本開示を記載の特定の特徴又は実施形態に限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0068】
実施例1:方法
1分子カウント(Single Molecule Counting:SMC(商標))プロジェリンイムノアッセイ
血漿プロジェリン検出のためのSMC超高感度イムノアッセイを立ち上げた。全体として、このアッセイは、磁性微粒子上にコートされた抗ラミンA捕捉抗体と、蛍光タグにコンジュゲートした抗プロジェリン特異的検出抗体とによるサンドイッチイムノアッセイ形式を採用し、96ウェルプレートで実施した(
図1)。プロジェリン結合検出抗体を溶出し、共焦点レーザーを用いて1分子として読み取った。
【0069】
プロジェリン測定用のSMCアッセイは、捕捉抗体と検出試薬とでコートした磁性微粒子(magnetic microparticle)(MP)がプロジェリンアッセイに特異的であったこと以外は、以前の記載のとおりであった(Toddら)。簡潔には、プロジェリン捕捉抗体(マウスMab抗ラミンA+C、クローン:131C3 Abcam、アミノ酸残基319~566間のエピトープ、ラミンA、C及びプロジェリンに共通)を25μg抗体/mg MPでMP上にコートした。試料はMP-捕捉抗体に暴露され、分析対象物に特異的に結合した後、未結合の物質を除去するためにプレートを1回洗浄した。次に、蛍光標識されたプロジェリン特異的検出抗体(マウスMab、クローン:13A4、Millipore製、ラミンAの欠失領域をわたるプロジェリンのアミノ酸604~611間のエピトープ)をアッセイ緩衝液中で2,000 ng/mLに予め希釈し、次いで0.2μmフィルター(MilliporeSigma)で濾過し、ウェルに加えた。その後プレートを4回洗浄し、未結合の検出抗体を除去した。その後、プレートに結合した非特異的検出抗体の溶出を防ぐために、すべてのMPを最初の96ウェルアッセイプレートから新しいプレートに移した。その後、プロジェリン結合検出抗体を独占所有権のあるグリシン緩衝液を用いたpHシフトにより溶出し、新しいプレートに移し、Erenna Immunoassay Systemソフトウェア(SgxLink(商標))を用いてSMCにより検出した。SgxLinkから得られた生のシグナルデータ及び補間データはエクセルに転送され、そこで複製(replicate)ウェルについて精度を計算した。生シグナル及び補間値の許容仕様は、精度及び回収の偏り≦20%であった。
【0070】
EMD標準希釈液(トリス緩衝液とキャリアタンパク質との独占使用権のある混合物(emdmillipore.com)を含む合成血清ベースの溶液)中で希釈した組み換えプロジェリン(Abcam 93918)の12ポイントの標準曲線を、各プレートで3連(triplicate)に行った。標準曲線は、未知試料中のプロジェリン濃度を測定するために使用した。予想されるプロジェリンが標準曲線のダイナミックレンジに収まるように、試料は標準希釈液で希釈した。報告されたプロジェリン及びSDはすべて希釈補正される。すべての試料は、3連と指定がない限り、2連で試験した。
【0071】
バックグラウンドに2標準偏差を加えた値以下のシグナルは不検出(not detected:ND)と報告した。定量下限(LLoQ)は、上から下へ、標準曲線上の最も低い点として予め定義され、これは期待値の20%以内に回収され、かつ変動係数(coefficient of variation:CV)の割合(%)が20%以下であった。
【0072】
高値、中値、低値のアッセイ間で同様のプロジェリン定量を保証するため、同じ内因性血漿のアッセイ間品質管理(quality control:QC)セットを各プレートで2連(duplicate)にアッセイした。内因性血漿プロジェリンは、古典的なpG608G,c.1824 C>T変異を有するヒトLMNA遺伝子を発現するHGPSのホモ接合トランスジェニックマウスモデルから得られる(Murtadaら)。このマウス血漿には高レベルのプロゲリンが含まれており、貴重なヒトHGPS血漿貯蔵を使用せずにQC生成を可能にした。アリコートを正常ヒト血漿で希釈し、-80℃で保存した。QCプレートの許容性パラメータは、アッセイ開発中の最初の24回のQC実行の平均±20%として固定した。高QCと中QCの平均プロジェリンはそれぞれ188,206±10,580pg/mL(%CV=5.6)と19,513±1,235pg/mL(%CV=6.3)であった。低QCは常にLLoQ未満であった。臨床試験試料用の1:25希釈のプロトコルを反映させるため、QCは濾過され、アッセイが実施される同日に25倍に希釈した。臨床試験試料プレート(N=39)における高QCおよび中QCのアッセイプロジェリンの平均は、それぞれ7,303±609pg/mL(%CV=3.8)、755±90pg/mL(%CV=5.7)であった。したがって、高QCと中QCは常に分析測定範囲内に収まった。
【0073】
有効な実行では、標準曲線から算出される定量下限が59pg/mL以下であり、コントロールが確率された高および中のQCの20%以内であることが必要とされた。
【0074】
最終的なアッセイ条件が確立されると、プロジェリン量がアッセイの定量限界内に収まることを確認するため、補間濃度が定量上限超過(upper limit of quantitation:ULoQ)の試料、又は%CVが20%超過の試料は、適切な希釈を用いて再試験した。さらに、標準曲線のLLoQ(599pg/mL)を満たさないプレート、又はQC(高および中。低い管理はLLoQ未満をともなう)が平均及びSDの20%から外れたプレートはいずれも、繰り返し行った。
【0075】
希釈直線性
希釈の直線性は、一連の希釈における希釈補正プロジェリン値を先行の希釈のプロジェリン値で割ることによって計算し、百分率で表した:
DL(希釈直線性)=[実測値]B/[実測値]A
*100。式中、Bはより高い希釈の希釈補正値であり、Aは先行の希釈系列の希釈補正値である。
【0076】
凍結融解検体の安定性
-80°Cで凍結した血漿試料を室温(RT)で15分間解凍し、十分に混合した後、この研究用に3つの追加のアリコートを作成するために分注した。その後、追加の凍結融解試験に供するためにすべてのアリコートを-80℃で再凍結した。試験の当日、割り当てられたアリコートを、最大4回の凍結融解サイクルとして15分間室温まで解凍及び-80℃で再凍結を行った。最終的に解凍した試料を希釈し、3連で評価した。すべての試料は同じ日に試験した。凍結融解試料の安定性は、凍結融解サイクル2及び5での差の割合(%)が±20%(業界標準)であれば合格とした。
【0077】
凍結融解サイクル3、4、5における各試料のサイクル2との差の割合(%差)は、以下の式を用いて算出した:
【数1】
【0078】
天然プロジェリンと組み換えプロジェリンの検出
健康な非HGPS血漿試料(市販品)を標準希釈液中で50倍に希釈し、次いで10体積%の標準希釈の1,000pg/mLを生成する組み換えプロジェリン、または1,000pg/mLのプロジェリンを送達するように設計されたHGPl110のいずれかをスパイク(添加)した。実際のプロジェリンのスパイクの計算値は、緩衝液スパイク試料HGPl110のコントロール値から決定し、1,019pg/mLであった。
【0079】
スパイク回収率(%)=(スパイクした試料のプロジェリン(pg/mL)-内因性プロジェリン(pg/mL)/期待されるプロジェリンのスパイク(pg/mL)。
【0080】
ロナファルニブ干渉アッセイ
ロナファルニブ原薬(API)(バッチ番号MK-6336-000R025)は、PRF細胞・組織バンクから入手した。HGPS血漿に、ジメチルスルホキシド(DMSO)又はDMSO 7.92μg/mLに溶解したロナファルニブのいずれかを2μL添加した。干渉率(%)=[(スパイクした試料の平均濃度-コントロールの平均濃度)/コントロールの平均濃度]×100。
【0081】
ヒト臨床データ及び試料
ヒト臨床データは、The PRF International Progeria Registry、Diagnostics Program、及びMedical and Research Database(progeriaresearch.orgからオンラインで入手可能)から入手した。HGPS血漿及び血清は、PRF細胞・組織バンク(The PRF Cell and Tissue Bank)(progeriaresearch.orgからオンラインで入手可能)から入手した。臨床試験試料は、インフォームド・コンセント又はBCH臨床試験委員会の承認を得て、ボストン小児病院(BCH)から該バンクに提供された。試験試料は、トラフ(trough)試料として治療投与直前の朝に空腹状態で採取したが、ただし、トラフ時に、及びその後のトラフ後の指定された時間に採取したpK試料を除く。非試験試料は、採取時間の規制はなかった。いくつかの非HGPS健常ヒト血漿試料はProMedDxから入手した。HGPS及び非HGPS血漿試料のIDには、HGPl及びNPlの接頭辞をそれぞれ付けた。
【0082】
HGPS患者は、LMNA遺伝子にプロジェリンを産生する変異があることが遺伝学的に確認されていた。古典的HGPS(c.1824C>T)患者からの試料は主分析に提供され、非古典的HGPSの比較はサブグループ比較に用いた。
【0083】
血漿の単離のため、血液をヘパリンナトリウム(ヘパリン又はCPT(商標)バキュテイナのいずれか)に採取し、4℃で1500xgで15分間遠心分離するか、又はK2EDTAに採取し、室温(RT)で1300gで10分間遠心分離した(すべてBD Biosciences)。血清を単離するために、血液を室温で60分間(±10分間)凝固させ、その後、室温で1100xgで10分間遠心分離した。すべての試料をアリコートし、-80°Cで保管し、EMD Milliporeに分析用のドライアイスで送った。
【0084】
分析のため、試料は5分未満で完全に解凍し、軽く混合し、標準希釈液で希釈した後、フィルタープレートウェル(MilliporeSigma MSBVN1210)に移した。分析に必要な患者血漿体積は、200μl又は100μl(非HGPS 1:1及び1:2)及び8μl(HGPS1:25)であり2連作成した。試料を入れたフィルタープレートを10分間遠心分離し、試料をフィルターに通した。その後、濾液を記載の方法で評価した。
【0085】
研究の薬剤の投与量及び投与
臨床試験研究試料は、ProLon1(Gordonら、2014;Gordonら、2012)、トリプル療法(Gordonら、2016)、ProLon2(Gordonら、2018)の頭文字をとった3つのカテゴリーに分けられ、ボストン小児病院においてオープンラベル単施設試験として順次実施した(既報の研究の詳細を参照)。すべての臨床試験において、患者にロナファルニブ(Schering-Plough Research Institute又はMerck&Co,Inc.又はEiger Biopharmaceuticals)をカプセル又は液体懸濁液で12±2時間ごとに経口投与した。ロナファルニブの投与量は150mg/m2であったが、ただしProLon1の最初の4ヵ月間は115mg/m2であったことを除く。
【0086】
トリプル療法試験では、経口プラバスタチン(プラバコール、Bristol-Meyers Squibb)とゾレドロン酸(ゾメタ、Novartis,Inc)をロナファルニブと共に投与した。
【0087】
試料の盲検化及び採用基準(inclusion criteria)
アッセイの開発が確立されると、すべての試料をEMD Milliporeの技術スタッフによって盲検化された様式で評価した。繰り返し試料には異なるランダムなID番号を割り当てた。HG又はnonHGの接頭辞のないIDの割り当ては、分析のために提出され、HG及びnonHGの識別子に変換した。
【0088】
縦断的分析への採用には、試料セットにはベースラインと試験終了時の療法中の血漿試料を必要とした。ロナファルニブの投与量を比較するため、ProLon1の採用には、ベースラインの治療前、4ヵ月(投与量115mg/m2)、及び試験終了時の試料(投与量150mg/m2)を必要とした。pK分析に含めるため、試料セットには少なくとも1つのトラフ血漿試料及び1つのトラフ後血漿試料を必要とした。
【0089】
統計分析
データ要約は主に記述的なものであり、試料セット間の比較には、対応のあるスチューデントのT検定、2標本のT検定、及びピアソン相関を用いた。記述統計には、標本数、平均値、及び標準偏差が含まれる。統計的有意水準は両側p<0.05とした。多重比較の調整は行わなかった。
【0090】
血漿プロジェリン濃度と生存との間の関係を評価するため、ベースライン時の年齢と性別との両方に対して調整した2つの分析を行った。1つ目は、時間依存の勾配パラメタリゼーションを持つジョイントモデルを実装し、これによりプロジェリンの変化を調整しながら、プロジェリンの現在値が生存に及ぼす影響を評価した。2つ目は、プロジェリンを時間依存の共変量として扱い、時間依存Coxモデルを実装した。ベースライン直後に患者はプロジェリン量に影響を及ぼすと予想される治療を開始したため、ベースラインのプロジェリンのみによる生存アウトカムの評価は偏りのため実施しなかった。
【0091】
プロジェリンの減少及びロナファルニブ療法の期間と関連した平均余命の伸びを定量化するために、条件付き制限平均生存時間(cRMST)に基づく一連のランドマーク時点を利用した動的モデル(Dafni、2011)を提案するYangら(2021)の方法論を利用した。この分析では、ベースライン時の性別及び年齢についても調整した。
【0092】
記述統計にはエクセルを使用した。時間依存的CoxモデルにはSASバージョン9.4を使用し、ジョイントモデリング及びcRMST動的モデルにはそれぞれRバージョン4.0.2のJMパッケージとdynpredパッケージとを用いた。
【0093】
実施例2:HGPS特異的血漿プロジェリンアッセイ
本実施例では、血漿試料中のプロジェリンを特異的かつ高感度に検出するためのイムノアッセイの開発と立証について説明する。
【0094】
血漿プロジェリン検出のための定量アッセイの開発及び立証
標準曲線及び報告範囲:SMCプロジェリンイムノアッセイ標準曲線を作成し、かつ信頼できる報告範囲を決定するために、組み換えプロジェリンを30ng/mLになるように緩衝液にスパイクし、2倍の段階で連続希釈し、30,000~29pg/mLの標準曲線を作成した(
図2、パネルA及びB)。シグナルはSGXLinkソフトウェアで補間した。ダイナミック検出範囲は59pg/mL(LLoQ)~30,000pg/mL(ULoQ)であった。(測定される濃度)/(期待される濃度)の平均値は100%(範囲95%~106)であり、59pg/mL~30,000pg/mLまで直線応答(R
2=0.9987)を観察した。その結果、すべての試料はこの範囲に収まるように標準希釈液で希釈した。具体的には、非HGPS試料は1:1又は1:2で評価し、HGPS試料は1:25で希釈する際にULoQ未満であった。
【0095】
希釈直線性:HGPSの様々な試料希釈により血漿プロジェリンを一貫して測定するアッセイの能力を評価するため、ヒトHGPS血漿試料(N=3)をアッセイ緩衝液中で5倍、25倍、及び125倍希釈にて3連で定量した(表1)。すべての患者試料は、試験したすべての希釈液で定量可能であり、最終のプロジェリンは15,835pg/mL~50,610pg/mLの範囲であった。希釈の平均直線性は98.2%であった(範囲92~110)。非HGPS血漿(N=4)は、LLoQ超過を維持するために、無溶媒(neat)に対して1:2の直線性について評価した。
【0096】
【0097】
アッセイ内及びアッセイ間の変動:SMCプロジェリンイムノアッセイの精度を、複数日に複数回反復して、実行内(アッセイ内(intra-assay))及び日々(アッセイ間(inter-assay))の血漿試料を確実に定量化するために決定した。アッセイ内変動(表2)は平均7%(範囲1~16)のCVを示し、アッセイ間変動(表3)は平均12%(範囲7~18)のCVを示した。さらに、各臨床試験試料プレート(N=39)に対して2連で実行した高QCおよび中QCから、優れたアッセイ内精度が実証された。希釈補正した平均高QC値は182,593±15,229pg/mLのプロジェリンでCVは3.8%であり、中QC値は18,880±2,260pg/mLのプロジェリンでCVは5.8%であった。
【0098】
【0099】
HGPS特異的血漿プロジェリンアッセイの評価:ラミンAの交差反応性及び試料の凍結融解の完全性
プロジェリンアッセイはラミンAと交差反応しない:アッセイにおけるプロジェリンとラミンAの検出の間の潜在的な交差反応性を評価するために、ヒト組み換えラミンAを含むものとヒト組み換えプロジェリンを含むものの2つの12ポイントの試料曲線を、各曲線に0pg/mLの緩衝液のみのアンカーポイントをもつ、10,000pg/mLから開始して9.8pg/mLまで2倍連続希釈するSMCプロジェリンイムノアッセイにて3連で実行した。このアッセイでは、ラミンAに対する交差反応は検出されなかった。プロジェリンの回収範囲は、試験された様々な濃度で期待値の97~111%であり、R2=0.9991であった。したがって、プロジェリンの定量を競合又は干渉するラミンAの存在によってシグナルが生成されることはなかった。
【0100】
天然プロジェリンと組み換えプロジェリンのスパイクの回収及び検出:天然プロジェリンと比較して組み換えプロジェリンを測定するアッセイの能力を評価するために、いずれかを、スパイクを受ける前に標準希釈液で50倍に希釈される3つの異なる健康な非HGPSドナー血漿試料にスパイクした。天然プロジェリンおよび組み換えプロジェリンの両方は、期待される範囲内で同様のプロジェリン回収率を示し、平均回収率はそれぞれ96±6%と120±15%であった(表4)。
【0101】
【0102】
凍結融解の安定性:本研究で示される試料は、分析前に凍結されている。オフサイトアッセイを実施するため、凍結前試料のみが臨床試験で定期的に評価されると予想される。4回の凍結融解サイクルによる凍結融解分析では、プロジェリン間に差はみられなかった(すべてp<0.05)。
【0103】
古典的遺伝子型と非古典的遺伝子型
HGPSの古典型と非古典型はともにプロジェリン産生型であり;古典型は内部スプライス部位の最適化によるものであり、非古典型は正準スプライス部位の非最適化によるものである。古典的遺伝子型(G608G、c.1824C>T;N=74)の小児のデータを、非古典的HGPS患者試料(LMNA c.1822G>A、p.G608Sx2、c.1968+1G>A、c.1968+2T>A、c.1968+5G>C)(N=5;平均±SD=28,402±11,601pg/mL)と比較した。ベースラインの療法離脱時(off-therapy)のプロジェリンを古典的患者試料と比較すると(N=74、平均±SD=33,249±12,299pg/mL)、すべての非古典的患者のプロジェリン量は古典的患者の量の範囲内に収まり、全体的な差は検出されなかった(p=0.39)。同様に、療法によるベースラインから研究終了時までのプロジェリンの減少(40.3~57.5%)は、古典的な患者の範囲内であり、研究終了時の値は古典的な患者と差がなかった(p=0.85)。
【0104】
プロジェリン定量におけるヘパリンナトリウム単離した血漿、K2EDTA単離した血漿、及び血清の間の類似性
このアッセイが様々な血液採取チューブの種類にわたってプロジェリン検出に適しているかどうかを評価するために、同じ患者の同じ採血(N=3患者)からヘパリンナトリウム(血漿)、K2EDTA(血漿)を含み、かつ抗凝固剤を含まない(血清)チューブに採取した血液の比較分析を3連で実施した。ヘパリンナトリウム血漿とEDTA血漿ではp=0.98であり、ヘパリンナトリウム血漿と血清ではp=1.00であり、EDTAと血清ではp=0.97であった。
【0105】
未治療患者における血漿プロジェリン検出
非HGPS血漿:非HGPS血漿(N=69;39M(男性)、30F(女性))を評価した(
図3、パネルA)。この試料セットは、LMNA±ZMPSTE24変異分析を用いてHGPS又は非HGPSのプロジェロイドラミノパチー(progeroid laminopathy:PL)について評価した33人のドナー、変異について評価されたものの32人の健康な親族、及び市販で購入した健康なコントロールからの4個の血漿試料からなる。HGPS又はPLについて評価されたドナーの中には、プロジェリン産生変異を持つものはいなかった。全体の平均プロジェリンは351±251pg/mL(範囲=ND-1534)であった。ドナーの平均年齢は23.3±18.7歳(範囲0.2~71.3)であった。ドナーの年齢とプロジェリンとの間に相関はなかった(r=0.3、p=0.81)。
【0106】
HGPSの薬物ナイーブ(naive(治療未経験))患者における血漿プロジェリン:治験薬投与開始前のベースラインでHGPS患児の血漿プロジェリンのプロファイルを評価した(
図3、パネルB)。平均プロジェリンは全体で33,249±12,299pg/mL(N=74)であり、女性は33,237±11,797(N=37)であり、男性は33,285±13,035(N=37)であった。プロジェリンと性別との間に関連はみられなかった。HGPSの平均プロジェリンは非HGPSの95倍増加した(p<0.0001)。個々の試験では、治療ナイーブのプロジェリンのベースライン平均値は、ProLon1(N=26)では27,572±7,542pg/mLであり、トリプル療法(N=13)では31,464±16,958pg/mLであり、ProLon2(N=35)では38,154±11,546pg/mLであった。ProLon1又はProLon2とトリプル療法を比較した場合、プロジェリンに有意差はなかったが(それぞれp=0.44及び0.12)、ベースライン値はProLon2の方がProLon1より高かった(p<0.0001)。年齢と性別を一致させたコントロールからなるサブグループ比較でも、HGPS(プロジェリン=34,512±14,432pg/mL、N=25)と非HGPSコントロール量(プロジェリン=377±226pg/mL、N=13、p<0.0001)の間に非常に有意な差があることが示された。
【0107】
血漿プロジェリンと年齢:ほとんどの患者は、BCH試験施設で臨床試験薬の投与直前に単一のベースライン試料を提供したが、一部の患者は、BCH試験の提供前に国立衛生研究所(NIH)臨床センターで実施された自然史研究(natural history study)の一環として血液試料も提供した(Meridethら);したがって薬物療法の影響を受けずプロジェリンの長期評価が可能となった。これらの試料をその後、PRFの細胞・組織バンク(PRF Cell and Tissue Bank)に提出した。NIH研究の血液試料は臨床試験試料と同様に処理された。平均採血間隔は1.6±0.5年(範囲0.9~2.3)であった。初回及び追跡時の血漿プロジェリン(N=13)の平均は、それぞれ29,221±7,772pg/mLと33,272±11,959pg/mLであり、時間の経過に伴うプロジェリンの有意差は認められなかった(p=0.14)。
【0108】
実施例3:HGPS治療の有効性を決定するための血漿プロジェリンアッセイ
この実施例では、開発されたプロジェリンイムノアッセイを、FTIロナファルニブなどのHGPSの治療有効性の決定に用いる可能性を検討する。
【0109】
外因性ロナファルニブはプロジェリンアッセイを干渉しない:血漿プロジェリンの変化が血漿プロジェリン量に対するロナファルニブ療法の影響を真に反映しているかどうかを評価するため、ロナファルニブ自体がプロジェリンアッセイの測定値を干渉するかどうかを評価した。臨床試験中にロナファルニブで治療されたHGPSの小児における薬物動態試験から決定されたCmaxは2.64μg/mLであったため(Gordon、2012)、血漿試料にはCmaxの3倍である7.92μg/mLのロナファルニブをスパイクした。平均プロジェリンは、コントロールの条件と比較して、DMSO中のロナファルニブでスパイクしても影響を受けなかった(p=0.198;表5)。
【0110】
【0111】
ロナファルニブ療法によるプロジェリンの変化:ProLon1は、HGPSを有する小児にロナファルニブを投与した最初の臨床試験であり、トリプル療法及びProLon2とはいくつかの相違点があった。患者は4ヵ月ごとに試験施設を訪れ、合計2.2±0.1年間(7回来院)採血を受けた。これに対し、トリプル療法では6ヵ月ごとに合計3.5±0.2年間(5回来院)であり、ProLon2ではベースライン+試験終了時の2.4±0.6年間に採血を受けた(2回来院)。さらに、ProLon1の患者は115mg/m
2で4ヵ月間治療を開始し、その後150mg/m
2に増量した。トリプル試験及びProLon2の両方は、患者を150mg/m
2で開始した。試料数は個々の研究及び来院によって異なる;研究来院間の比較には、一致した血漿セットのみが含まれる。プロジェリンの変化を、別個の、しかし連続した試験内と試験間で比較した(
図4、パネルA~D)。全体として、療法中の血漿プロジェリンの平均は、ベースラインの未治療時から38%減少し、32,726±12,659から20,211±10,190pg/mLとなった(p<0.0001)。
【0112】
ロナファルニブ療法によるProLon1プロジェリンの変化:平均プロジェリンは、115mg/m
2のロナファルニブを用いた投与期間中の4ヵ月目に、ベースラインから48%減少した(N=25、p<0.0001、
図4、パネルA)。ロナファルニブの用量が150mg/m
2であった残りの5人の患者の各来院について、ベースラインからの平均減少率は50~62%であった(N=22~25人、すべてp<0.0001)。重要なことは、115mg/m
2の投与から150mg/m
2の投与に移行した後4ヵ月の8ヵ月目の試験来院で、プロジェリンが有意に近いレベルまでさらに減少したことであり(N=25、p=0.06)、その後の4回の試験来院では、ロナファルニブを115mg/m
2投与を超えて150mg/m
2投与する間にプロジェリンが有意に減少した(N=22~25人、すべてp<0.05)。8ヵ月目の150mg/m
2の来院での平均プロジェリンと、それ以降の同投与量の来院での平均プロジェリンとの間に有意差は認められなかった(N=22~25人、すべてp≧0.05)。この用量応答により、115mg/m
2よりも150mg/m
2投与の方が漸増的ではあるが有意な利益を検出するアッセイの能力が実証される。
【0113】
ロナファルニブ+プラバスタチン+ゾレドロン酸療法(トリプル療法)によるプロジェリンの変化:6ヵ月後の最初の療法中(on-therapy)の試験来院では、平均プロジェリンはベースラインから41%減少した(N=13、p=0.0018;
図4、パネルB)。その後、平均プロジェリンはベースラインから35~47%有意な減少を維持した(N=12~13人、3~5回来院、p=0.0015~0.0058)。
【0114】
正式なトリプル療法期間が終了した後、プラバスタチンとゾレドロン酸とは中止され、10人の患者がさらに4.1±0.5年間のロナファルニブ単剤療法の延長を完了した(範囲3.41~4.65;
図4、パネルB)。これら10人の患者では、連続したトリプル療法と治療中(on-treatment)のロナファニブ単独療法の延長試験来院の間に、平均プロジェリンに有意差はみられなかった(p=0.99)。
【0115】
ロナファルニブ療法によるProLon2プロジェリンの変化:平均プロジェリンは投与期間中、ベースラインから36.7%減少した(N=26、p<0.0001;
図4、パネルC)。
【0116】
プロジェリンに対するロナファルニブの長期療法の効果:13人の被検体のサブグループは、ProLon1、トリプル療法試験、及びトリプル試験のロナファルニブ単剤療法延長試験の一部として、治療を中断することなくロナファルニブによる治療を継続した(
図4、パネルD)。これは、平均9.8±0.5年(範囲9.0~10.3年)のロナファルニブ継続治療を構成する。平均プロジェリンは、115mg/m
2を使用する投与期間中、4ヵ月目にベースラインから48%減少した(p<0.0001)。その後のすべての時点において、150mg/m
2投与中にベースラインからの平均減少は56~74%の範囲であった(p<0.0001)。150mg/m
2の最初の時点(0.66年の時点#3)と比較すると、時点5、8、及び9は有意に低く(p<0.05)、他のすべての時点(4、6、7、10~13)は時点#3と同様であった(p≧0.05)。
【0117】
薬物動態研究によるプロジェリンの日内変動:ロナファルニブ投与量115mg/m2及び150mg/m2のProLon1(Gordon、2012)及びトリプル療法(Gordon、2016)期間中、pK研究のためにトラフ時及び投与後1、2、4、6、8時間に血漿を採取した。これらの各試料セット内で、プロジェリンは、150mg/m2のProLon1及びトリプル療法で投与後の量とトラフ量との間に有意な変化を示さず、プロジェリンは日内変動を実施しないことを示している(すべてp≧0.05)。ProLon1の115mg/m2のロナファルニブ投与量の場合、平均プロジェリントラフは投与後1時間と同程度であったが(p=0.2647)、投与後2、4、8時間よりも有意に低く、平均で約3,000pg/mLの差があった(すべてp<0.05)。
【0118】
実施例4:プロジェリン量は生存と強い関連がある
この実施例では、血漿プロジェリンが生存の予測バイオマーカーとして機能するのに適しているかどうかを評価する。第1に、プロジェリン測定値の変化に対する死亡リスクの変化を、これら2つの測定値を関連付けるジョイントモデルから直接推定した。療法の実施の有無、療法の期間、又は追跡期間にかかわらず、血漿試料のある全患者を含めた(N=74、2022年4月1日現在、死亡26人、生存47人)。プロジェリン量は死亡リスクと有意に関連していた(p<0.0001;
図5)。例えば、血漿プロジェリンが1,000pg/mL減少すると死亡リスクが6.3%減少し(95%CIは4.7~7.8%)、一方、血漿プロジェリンが10,000pg/mL減少すると死亡リスクが47.6%減少する(95%CI:38.4~55.4%)。プロジェリンは、療法の期間、療法の期間の2乗、性別、及びベースライン時の年齢の関数としてモデル化した。ジョイントモデルでは療法の期間について調整した。縦断的共変量(プロジェリン)の潜在的な測定誤差を考慮しない標準的な時間依存Coxモデリングを用いた追加分析、並びに療法中(on-therapy)の血漿試料が少なくとも1つある患者のみを用いたサブグループ分析で、同様の結果が得られた(
図6、表6)。
【0119】
【0120】
次に、ロナファルニブ治療期間と血漿プロジェリンの変化の程度による平均余命の変化との間の関係を評価した(
図7、表7)。この分析には、療法前のベースライン及び治療中の少なくとも1回のプロジェリン測定を受けた患者の試料が含まれた(N=65人の患者)。血漿プロジェリンの減少の程度と、プロジェリン量が低い状態で過ごす時間の両方によって平均余命は徐々に改善した。
図4には、治療が10年間にわたる療法中のプロジェリン減少の代表的な3つの広範囲な例(1,000、10,000、15,000pg/mL)がグラフ化されている。3つの例すべてで患者の寿命が延長した。
【0121】
【0122】
【0123】
開示された本発明の原理が適用され得る多くの可能な実施形態を考慮すると、図示された実施形態は本発明の好ましい例に過ぎず、本発明の範囲を限定するものとして捉えられるべきではないことを認識すべきである。むしろ、本発明の範囲は以下の特許請求の範囲によって定義される。したがって本発明者らは、これらの請求項の範囲及び精神に含まれるすべてのものを発明として主張する。
【国際調査報告】