(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】等速ジョイントにて使用するためのポリウレア/カルシウムスルホネートコンプレックスのグリース組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/06 20060101AFI20250109BHJP
C10M 177/00 20060101ALI20250109BHJP
C10M 115/08 20060101ALN20250109BHJP
C10M 115/10 20060101ALN20250109BHJP
C10M 101/02 20060101ALN20250109BHJP
C10M 113/00 20060101ALN20250109BHJP
C10M 139/00 20060101ALN20250109BHJP
C10M 125/10 20060101ALN20250109BHJP
C10M 137/10 20060101ALN20250109BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20250109BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20250109BHJP
C10N 70/00 20060101ALN20250109BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20250109BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20250109BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
C10M169/06
C10M177/00
C10M115/08
C10M115/10
C10M101/02
C10M113/00
C10M139/00 Z
C10M125/10
C10M137/10 A
C10N10:04
C10N10:12
C10N70:00
C10N30:00 Z
C10N40:04
C10N50:10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539930
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-07-01
(86)【国際出願番号】 CN2022141050
(87)【国際公開番号】W WO2023125235
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】202111675531.7
(32)【優先日】2021-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524246621
【氏名又は名称】ランクセス・スペシャルティ・ケミカルズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ダボ・リウ
(72)【発明者】
【氏名】シャオロン・リ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・ワン
(72)【発明者】
【氏名】リアンフイ・ジャン
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104AA13C
4H104AA26B
4H104BA07A
4H104BE13B
4H104BG06B
4H104BH07C
4H104BJ07C
4H104CD01A
4H104CD04A
4H104CJ02A
4H104DA02A
4H104FA02
4H104FA06
4H104JA01
4H104LA20
4H104PA03
4H104QA18
(57)【要約】
本出願は、等速ジョイントで使用するためのポリウレア/カルシウムスルホネートコンプレックスのグリース組成物に関する。本発明は、チキソトロピー性を有する潤滑グリース及びその調製方法を開示する。潤滑グリースは、ポリウレア/高塩基数カルシウムスルホネートコンプレックス増粘剤と、方解石の形態のコロイド状に分散された炭酸カルシウム固体粒子、ホウ酸カルシウム又はホウ酸カルシウムコンプレックスと、炭素数12~24の脂肪酸のカルシウム石鹸と、有機モリブデン化合物と、抗酸化剤とを含む。上記成分は油相媒体中に均一に分散されている。潤滑グリース中の高塩基数カルシウムスルホネートの含有量は、22重量%未満である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(a)~(d):
(a)基油、
(b)増粘剤、
(c)有機モリブデン化合物、及び
(d)抗酸化剤
を含む、等速ジョイントのためのポリウレア/カルシウムスルホネートコンプレックスのグリース。
【請求項2】
前記成分(a)が混合された鉱油及び合成油である、請求項1に記載のグリース。
【請求項3】
前記成分(a)が鉱油である、請求項1に記載のグリース。
【請求項4】
前記成分(a)が合成油である、請求項1に記載のグリース。
【請求項5】
前記グリースが、
油性媒体70重量%以上と、
前記油性媒体に均一に分散された、以下:
方解石の形態で結晶性炭酸カルシウムの微粒子を含むカルシウムスルホネートコンプレックス増粘剤22重量%未満、
ポリウレア増粘剤 0.5~6.5重量%、
ホウ酸カルシウム又はホウ酸カルシウムコンプレックス0.05~3重量%、
C
12~24脂肪族脂肪酸のカルシウム石鹸0.5~3.5重量%、
有機モリブデン化合物0.1~1重量%、
抗酸化剤0.5~2重量%、及び
石灰又は石灰からの水酸化カルシウム又はグリースの調製中反応で消費されなかった水酸化カルシウム0~3重量%と、
を含み、
全てのパーセンテージが、前記グリースの全重量に対する重量%である、請求項1から4のいずれか一項に記載のグリース。
【請求項6】
前記成分(b)がポリウレア/カルシウムスルホネートコンプレックス増粘剤である、請求項1に記載のグリース。
【請求項7】
前記C
12~24脂肪族脂肪酸のカルシウム石鹸がC
12~24ヒドロキシ脂肪酸のカルシウム石鹸を含む、請求項5に記載のグリース。
【請求項8】
前記C
12~24ヒドロキシ脂肪酸のカルシウム石鹸がヒドロキシステアリン酸のカルシウム石鹸を含む、請求項7に記載のグリース。
【請求項9】
前記ポリウレア増粘剤が、ジイソシアネートと1種又は複数のアミン含有化合物との反応によって得られる、請求項5に記載のグリース。
【請求項10】
前記ジイソシアネートが4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネートを含む、請求項9に記載のグリース。
【請求項11】
前記1種又は複数のアミン含有化合物が、オクチルアミン、ステアリルアミン、又はシクロヘキシルアミンの1種以上を含む、請求項9に記載のグリース。
【請求項12】
前記成分(c)がモリブデンジ-チオホスフェートである、請求項1から4のいずれか一項に記載のグリース。
【請求項13】
前記成分(d)がジアルキルジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、及び2-ナフトールの内の1種又は混合物である、請求項1から4のいずれか一項に記載のグリース。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載のポリウレア/カルシウムスルホネートコンプレックスのグリースを調製する方法であって、前記方法が、
密封した反応器内で、高圧下で加熱しながら、過塩基性カルシウムスルホネート、基油、12-ヒドロキシステアリン酸等のC
12~24脂肪酸、水、ドデシルベンゼンスルホン酸、ホウ酸、及び炭素数1~7のカルボン酸類を混合する工程と;
前記反応器を排気し、加熱して、水及び揮発物を除去する工程と;
その後、追加の基油、ジイソシアネート、及び1種又は複数のアミンを添加し、加熱して、ポリウレア/カルシウムスルホネートコンプレックス増粘剤の形成及び揮発物の除去を行う工程と;
その後、追加の基油及び/又は添加物を添加することによって前記グリースの最終特性を調整した後、任意の追加処理を行う工程と
を含む、方法。
【請求項15】
方解石の形成後であってポリウレア形成成分の添加前に、約280°F(約138℃)の温度で、追加のヒドロキシステアリン酸及び/又はホウ酸、水、及び適切な量の石灰が、任意選択で添加され、混合される、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、一般に、等速ジョイントにて使用するためのポリウレア/カルシウムスルホネートコンプレックスのグリース組成物に関する。本質的に方解石の形態のコロイド状に分散された炭酸カルシウムの固体粒子、炭素数12~24の脂肪酸のカルシウム石鹸、ホウ酸カルシウム又はホウ酸カルシウムコンプレックス、有機モリブデン化合物、及び油性媒体を含む、高性能チキソトロピー性ポリウレア/過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックスのハイブリッドグリースが提供される。入手可能な過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックスのグリースよりも、各硬さグレードの過塩基性カルシウムスルホネート濃度が低く、例えば、295以下の混和ちょう度(worked cone penetration)を有する、22重量%未満の過塩基性カルシウムスルホネートを含む本発明のグリースが提供される。
【背景技術】
【0002】
腐食抑制、チキソトロピー性グリース、又はグリースのような過塩基性カルシウムスルホネート組成物は、様々な要求の厳しい用途における使用において、よく知られている。このようなグリース又はグリースのような組成物は、単独で、又は他の成分と組み合わせて使用することができ、一般に、優れた極圧特性及び耐摩耗性、高い滴点、機械的安定性、塩水噴霧及び耐水腐食性、高温での熱安定性、及びその他の望ましい特性を示す。
【0003】
グリースは、混和ちょう度範囲に基づいて評価又は等級分けされる。本発明の目的において、ちょう度(cone penetration)は、ASTMちょう度試験(D217)によって測定される。ちょう度は、規定の条件下で標準円錐がグリースに沈む深さ(10分の1ミリメートル単位)である。ちょう度の値が高いほど、円錐がサンプルに深く沈んでいるため、グリースが柔らかく、基油含有量が多いことを示す。例えば、グレード0という名称で売られているグリースは、355~385のちょう度値を有し、310~340のちょう度範囲を有するものは、グレード1と指定され、最も広く販売されているグリースは、265~295のちょう度値範囲を有し、グレード2と指定される。
【0004】
米国特許第6,919,301号は、基油中にカルシウムスルホネートコンプレックス(calcium sulfonate complex)の増粘剤と、第2の増粘剤成分とを含むグリース組成物を開示している。第2の増粘剤のグリースの組成は、ポリウレアの増粘剤成分及びコンプレックス金属石鹸である。この発明で増粘剤として使用されるカルシウムスルホネートコンプレックスは、カルシウムスルホネートを必須成分として含み、(a)炭酸カルシウム、(b)カルシウムジベヘネート、ジステアリン酸カルシウム、ジヒドロキシステアリン酸カルシウム等の高級脂肪酸カルシウム塩、(c)酢酸カルシウム等の低級脂肪酸カルシウム塩、及び(d)ホウ酸カルシウムからなる群から選択されるカルシウム塩(カルシウム石鹸)を含む。第2の増粘剤として使用されるポリウレアは、ジウレアである。
【0005】
米国特許第6,919,301号におけるカルシウムスルホネートコンプレックスは、以下のように基油中で合成された。高塩基価を有する過塩基性カルシウムスルホネートをジアルキルジフェニルエーテルに添加し、混合物を50℃で十分に撹拌した。これにホウ酸、酢酸、ベヘン酸、ステアリン酸、水、及び水酸化カルシウムを添加し、混合物を80~95℃に加熱することで、水を蒸発除去した。次に、この混合物に二酸化炭素を導入して炭酸カルシウムを生成した。得られた混合物を赤外分光計で分析し、882~886cm-1のピークで炭酸カルシウムが安定化していることを確認した時点で二酸化炭素の導入を終了した。更に、基油中でジウレアを合成した。上記操作により得られた混合物を60℃まで冷却し、4,4‘-ジフェニルメタンジイソシアネートを混合物に添加して完全に溶解させた。その後、シクロヘキシルアミン及びジアルキルジフェニルエーテルを添加して撹拌した。その後、混合物を100℃で60分間保持し、次いで混合物を150℃まで加熱してジウレアの生成反応を停止させた。その後、混合物にアミン抗酸化剤及びスルホン酸系防錆剤を添加し、粉砕及び脱ガス処理を行ってグリース組成物を得た。
【0006】
米国特許第6,919,301号に開示された発明は、耐熱性、耐水性、潤滑寿命、酸化安定性、及び生分解性に優れたグリース組成物に関する。当該発明は、自動車、鉄道車両、電動機、製鉄機械等に好ましく用いられる転動装置に関する。しかしながら、グリース組成物が高速高温環境下で優れた性能を発揮するためには、増粘剤が、25~75質量%のポリウレアと75~25質量%のコンプレックス金属石鹸とを含むことが好ましい。この発明における高ポリウレア含有量は、適切な添加剤を加えなければ、調製されたグリースの優れた耐荷重性、高温性能、及び優れた機械的安定性を確保することが困難である。そのため、研究は、多量の添加剤なしに、優れた性能を維持しながら、調製されたポリウレア/カルシウムスルホネートコンプレックスのグリースの総増粘剤含有量を減らすことに焦点を当てている。グリースのグレードと転動装置で使用される必要な適用特性を低下させることなく、第2の増粘剤ポリウレアの割合を全増粘剤の5質量%未満に減らすことに関する研究には、継続的な関心が寄せられている。
【0007】
米国特許第4,560,489号は、ホウ酸カルシウムで改質された過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックスのグリースを開示し、これは、広義には、(1)方解石の形態の炭酸カルシウムの微粒子を含む、油、特に鉱油中の過塩基性カルシウムスルホネートと;(2)ホウ酸とカルシウム化合物(例えば、水酸化カルシウム又は炭酸カルシウム)との反応によって形成される生成物、おそらく、グリース又はグリース組成物全体における、ホウ酸カルシウム、又は混ざり合った、又は何らかのコンプレックス(complex)であるホウ酸カルシウムと;(3)水酸化カルシウム/炭酸カルシウムと石鹸形成脂肪族モノカルボン酸又は脂肪酸、好ましくは石鹸形成ヒドロキシ脂肪酸、例えば12-ヒドロキシステアリン酸から形成される生成物と、の組合せとして定義される。米国特許第4,560,489号のグリースは、優れた特性を有するが、265~295の混和ちょう度を得るためには、グリースは、約40~45重量%の過塩基性カルシウムスルホネートを含まなくてはならない。過塩基性カルシウムスルホネートの含有量が38重量%以下の場合、比較的柔らかく、一般に望ましくないグリースが得られる。
【0008】
上記に加えて、これらのグリースの調製における灰分含有量とコストの削減にも研究の焦点が当てられている。したがって、グリースのグレードを下げることなく、過塩基性カルシウムスルホネートの含有量を減らす研究に大きな関心が寄せられている。
【0009】
米国特許第5,308,514号は、米国特許第4,560,489号のグリース成分に類似しているが、グリースの各グレードの過塩基性カルシウムスルホネートの濃度がより低い、油性媒体中に分散された、過塩基性カルシウムスルホネートと、方解石の形態のコロイド状に分散された炭酸カルシウムの固体粒子と、ホウ酸カルシウムと、炭素数12~24の脂肪酸のカルシウム石鹸とを含む、高性能の過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックスのグリースを開示している。過塩基性カルシウムスルホネートの濃度がかなり低いグリースを提供しているが、265~295の混和ちょう度を有するグリースを得るためには、依然として23~28重量%の過塩基性カルシウムスルホネートが必要である。そのため、過塩基性カルシウムスルホネートの濃度が低いグリースが依然として求められている。ポリウレアグリースは灰分含有量がはるかに低く、総合的な性能が良好であることが知られているが、ポリウレアグリースは機械的安定性に劣る傾向がある。過塩基性カルシウムスルホネートと複合したポリウレアは、多量の余分な添加剤なしに、機械的安定性を増加し、灰分含有量を減少させ、優れた総合的な性能を発揮するのに適した選択肢である。
【0010】
米国特許第6,037,314号は、(a)基油と、(b)ウレア増粘剤と、性能を改善するために必要とされる特定の添加剤、即ち(c)少なくとも1つの有機モリブデン化合物と、(d)石油スルホネートのカルシウム塩、アルキルアリールスルホネートのカルシウム塩、サリチル酸塩のカルシウム塩、フェネートのカルシウム塩、酸化ワックスのカルシウム塩、石油スルホネートの過塩基性カルシウム塩、アルキルアリールスルホネートの過塩基性カルシウム塩、サリチル酸塩の過塩基性カルシウム塩、フェネートの過塩基性カルシウム塩、及び酸化ワックスの過塩基性カルシウム塩からなる群から選択される少なくとも1つのカルシウム塩と、
(e)チオホスフェートと、を含む、等速ジョイントのためのポリウレアグリース組成物を開示する。これらのポリウレアグリースは、等速ジョイントのための潤滑用途に適合させるために追加の添加剤を必要とする。
【0011】
米国特許第4,902,435号は、ポリウレア増粘剤及びカルシウム石鹸増粘剤の両方と、性能を改善させるためのリン酸三カルシウム及び炭酸カルシウムを含む添加剤パッケージとを用いる、ハイブリッド増粘剤系を有するグリースを開示する。この明細書で使用されているカルシウム石鹸増粘剤は、単純なカルシウム石鹸又はカルシウムコンプレックス石鹸であるが、これらは、非晶質炭酸カルシウムが方解石の形態に変換される過塩基性カルシウムスルホネートから調製される、米国特許第5,308,514号及び米国特許第4,560,489号のカルシウムスルホネートコンプレックス石鹸ではない。過塩基性カルシウムスルホネートは、米国特許第4,902,435号で、添加剤パッケージの炭酸カルシウム成分の可能な供給源として言及されている。同様のグリースが、米国特許第5,084,193号で開示されている。
【0012】
過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックスのグリースは優れた特性を持っているが、カルシウムスルホネート、カルシウム石鹸、その他の必要な材料の量による灰分含有量が多くの用途には多すぎる。灰分含有量がはるかに低く、多くの良好な性能特性を有するポリウレアグリースが知られているが、機械的安定性に乏しい傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第6,919,301号
【特許文献2】米国特許第4,560,489号
【特許文献3】米国特許第5,308,514号
【特許文献4】米国特許第6,037,314号
【特許文献5】米国特許第4,902,435号
【特許文献6】米国特許第5,084,193号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックスのグリース中の過塩基性カルシウムスルホネートの一部をポリウレア増粘剤に置き換えることで、チキソトロピー性の高性能ポリウレア/過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックスのグリースを形成できることが分かった。これらのチキソトロピー高性能ポリウレア/過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックスのグリースはいずれも、米国特許第5,308,514号の過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックスのグリースの優れた性能及びポンピング特性を有しながら、ポリウレアグリースと比較して、灰分含有量が大幅に低減され、機械的安定性が大幅に向上している。
【0015】
本発明の高性能チキソトロピー性ポリウレア/過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックスのハイブリッドグリースは、以下の成分(a)~(d):(a)基油と、(b)増粘剤と、(c)有機モリブデン化合物と、(d)抗酸化剤と、を含む。例えば、本発明の高性能チキソトロピー性ポリウレア/過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックスのハイブリッドグリースは、ポリウレア/過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックス増粘剤に加えて、方解石の形態のコロイド状に分散された炭酸カルシウムの固体微粒子、ホウ酸カルシウム又はホウ酸カルシウムのコンプレックス、及び炭素数12~24の脂肪酸のカルシウム石鹸を含み、好ましくはヒドロキシ脂肪酸の石鹸を、油性媒体、例えば、鉱油及び合成油の混合物、鉱油、合成油、又は他の潤滑油等の1つ以上の不揮発性油に均一に分散させたものを含み、グリースは、22重量%未満、典型的には20重量%以下の過塩基性カルシウムスルホネートを含む。好ましい実施形態では、グリースは、295以下の混和ちょう度を有する。本発明のグリースは、過塩基性カルシウムスルホネートの一部をポリウレア増粘剤で置き換えたため、当技術分野の過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックスのハイブリッドグリースよりもホウ酸塩及びカルシウム石鹸の含有量が少なく、灰分含有量が更に低下している。本発明のグリースは、優れた耐摩耗性、耐荷重性、低温/高温特性、及び優れたグリース漏れ防止性能も有する。
【0016】
例えば、好ましい一実施形態では、本発明は、22重量%未満の過塩基性カルシウムスルホネートと、少なくとも70重量%の油、典型的には少なくとも75重量%又は80重量%の非揮発性油とを含む、グレード2のグリース、即ち、265~295の混和ちょう度を有するグリースを提供する。
【0017】
本発明のグリースは、既知の方法のバリエーションを使用して作製される。例えば、1つの方法は、米国特許第5,308,514号と同様の方法で、油性媒体において、非晶質炭酸カルシウムを含む過塩基性カルシウムスルホネートと、水と、少なくとも一部がカルシウム石鹸を形成できる、脂肪酸、好ましくは炭素数12~24のヒドロキシ脂肪酸を含む変換剤と、アルキルベンゼンスルホン酸と、ホウ酸との混合物を加熱して、非晶質炭酸カルシウムを方解石に変換する工程と、米国特許第4,902,435号と同様の方法でポリイソシアネート及び1種又は複数のアミン含有化合物を添加してポリウレアを形成し、その後処理して所望のグレードのグリースを調製する工程と、を含む。他の代替方法についても以下で説明する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の高性能、チキソトロピー性ポリウレア/過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックスのハイブリッドグリースは、
油性媒体70重量%以上、例えば、70~90重量%又は70~85重量%と、
前記油性媒体中に均一に分散された、以下:
方解石の形態で炭酸カルシウムの微粒子を含む、過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックス増粘剤22重量%未満、例えば、8~21重量%、
ポリウレア増粘剤0.5~6.5重量%、
ホウ酸カルシウム又はホウ酸カルシウムコンプレックス0.05~3重量%、
C12~24脂肪族脂肪酸のカルシウム石鹸0.05~5重量%、例えば、0.5~3.5重量%、
有機モリブデン化合物0.1~1重量%、
抗酸化剤0.5~2重量%、及び
石灰又は石灰からの水酸化カルシウム又はグリースの調製中反応で消費されなかった水酸化カルシウム0~3重量%と、
を含み、全てのパーセンテージは、前記グリースの全重量に対する重量%である。
【0019】
多くの実施形態では、本発明のグリースは、
油性媒体を75~85重量%又は80~85重量%、
方解石の形態で炭酸カルシウムの微粒子を含む過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックス増粘剤を21重量%未満、例えば、8~20重量%又は10~19重量%、
ポリウレア増粘剤を0.8~4.8又は5重量%、
ホウ酸カルシウム又はホウ酸カルシウムコンプレックスを0.1~3重量%、
C12~24脂肪族脂肪酸のカルシウム石鹸を0.8~3.5重量%、
有機モリブデン化合物を0.1~1重量%、
抗酸化剤を0.5~2重量%、及び
石灰又は石灰からの水酸化カルシウム又はグリースの調製中反応で消費されなかった水酸化カルシウムを0~3重量%
含む。
【0020】
C12~24脂肪族脂肪酸のカルシウム石鹸の少なくとも一部は、炭酸カルシウムから方解石への変換中にin situで形成され、好ましくは、C12~24脂肪族脂肪酸のカルシウム石鹸の全ては、グリースの調製中の過塩基性カルシウムスルホネートの処理中にin situで形成される。1超の種類のカルシウム石鹸が存在してもよい。即ち、異なる脂肪酸のカルシウム石鹸が存在してもよい。好ましくは、C12~24脂肪族脂肪酸のカルシウム石鹸は、ヒドロキシC12~C24脂肪酸、特に12-ヒドロキシステアリン酸のカルシウム石鹸を含む。また、グリースの調製中の過塩基性カルシウムスルホネートの処理中に、ホウ酸カルシウム種がin situで形成されることがより好ましい。幾つかの実施形態では、グリースは、1~7個の炭素原子を有する短鎖有機酸のカルシウム塩も含むことができる。
【0021】
様々な一般的な補助成分、例えば、抗酸化剤フェニルアルファナフチルアミン及びその他の添加剤が、本発明のグリースに、一般的に使用されるレベルで組み込まれることが多い。
【0022】
グリースは、一般的な方法に従って、調製される。当該方法は、1)水、12-ヒドロキシステアリン酸等のC12~24脂肪酸、及び典型的には、非晶質炭酸カルシウムを、アルコール、低級脂肪族カルボン酸類、ケトン等の方解石炭酸カルシウムに変換し、炭酸カルシウム結晶形態に変換するのに有用な他の化合物を含む変換剤の存在下で、油性媒体、例えば、基油中で非晶質炭酸カルシウム出発材料を含む過塩基性カルシウムスルホネートを加熱する工程と、2)ホウ酸のカルシウム塩及びC12~24脂肪酸が形成される工程と、3)イソシアネート化合物及び1種又は複数のアミン含有化合物をポリウレアに変換する工程と、を含む。好ましい実施形態では、過塩基性カルシウムスルホネート出発材料から出発してグリースを調製する際に、全てのホウ酸カルシウム及びC12~24脂肪族脂肪酸のカルシウム石鹸がin situで形成される。
【0023】
通常、方解石の形成中に加熱される混合物は、アルキル基に12~40個の炭素原子を含むモノアルキルベンゼンスルホン酸及び/又はジアルキルベンゼンスルホン酸も含み、多くの場合、混合物にはホウ酸も含む。
【0024】
幾つかの実施形態では、方解石が形成された後に、任意選択でホウ酸及び水とともに追加のC12~24脂肪酸を添加する。その場合、得られた混合物は加熱され、添加された材料がホウ酸のカルシウム塩及びC12~24脂肪酸のカルシウム石鹸に変換される。
【0025】
多くの場合、方法で使用されるホウ酸及び/又はC12~24脂肪酸の全てを、方解石形成を受ける混合物に導入することが便利である。方解石形成工程中にホウ酸及びC12~24脂肪酸の全てが存在する場合、ホウ酸カルシウム及びカルシウム塩を調製するための追加工程は必要なく、上記1)及び2)の生成物は単一の手順中に形成される。典型的に、ポリウレアは、1)及び2)の生成物の形成後に形成される。追加の基油又は添加剤等の追加成分を添加することができ、最終グリースの混練や粉砕等の他の方法工程を使用することができる。
【0026】
本発明のグリースの調製に有用な過塩基性カルシウムスルホネートは、当該技術分野で用いられる任意の技術によって調製することができる。米国特許第4,560,489号に記載されるように、典型的に、これらの材料は、中性カルシウムスルホネート又はスルホン酸、油性媒体、即ち、多くの場合鉱油を含む基油、消石灰、及びメタノール等の炭酸化促進剤を炭酸化温度まで加熱し、所望のTBNを有する過塩基性スルホネートを生成するのに十分な二酸化炭素を加えることによって製造することができる。0.55~0.6のCO2/Ca(OH)2のモル比によって、本発明のグリースの製造のための優れた出発材料を生成する。
【0027】
過塩基性カルシウムスルホネートは、約6~40、例えば10~36の金属比を有することができる。概して、基油は、鉱油からよく知られた精製手順で得られる油、又は鉱油から誘導できる油である。鉱油系基油は、天然又は合成の特性のものであり得、鉱油中のカルシウムスルホネートの割合は、例えば15~45%のように可変であることができる。約10~20%のナフサと、鉱油及び中性カルシウムスルホネートの様々な割合を含む半原油の未濾過鉱油組成物は、仕込み原料(charge stock)として容易に使用できる。
【0028】
カルシウムスルホネートの製造に有用な適切なスルホン酸は油溶性であり、直鎖又は分岐鎖アルキルベンゼン、例えばアルキル基が主に12~40個の炭素原子を含むモノアルキルベンゼンとジアルキルベンゼンの混合物、一般にはそのようなアルキル基の混合物、をスルホン化することによって製造できる。スルホン酸は、通常、水酸化カルシウムとの反応によってカルシウムスルホネートに変換される。
【0029】
完成したグリースの油性媒体含有量、例えば、非揮発性鉱油又は他の非揮発性潤滑油は、存在する全ての非揮発性油、即ち、元の過塩基性カルシウムスルホネート組成物の一部として導入された油と基油の合計量を含む。当技術分野で有用な任意の基油を使用することができ、1超の潤滑油を使用することもできる。有用な基油の例としては、鉱油、ナフテン油、パラフィン油、芳香族油、又はポリアルファオレフィン(PAO)、シリコン油、これらのいずれかの流体のフッ素化又はポリフッ素化誘導体、又はそれらの組合せ等の合成油が挙げられる。例えば、基油は、鉱油と合成油の混合物であってもよい。更に、精製された溶剤抽出水素化脱脂基油及びそのような基油の組合せが多くの場合使用される。基油の粘度は、100°F(38℃)で50~10,000SUS、例えば100°F(38℃)で200~2,000SUS又は300~1500SUSの範囲に及ぶことができる。
【0030】
本発明のポリウレア増粘剤は、ジウレア及び高級オリゴマーウレアを含む。ジウレア増粘剤が好ましい。ジウレア化合物は、1種以上のモノアミンとジイソシアネート化合物、又は1種以上のジアミンとモノイソシアネート化合物との反応によって得られるものを含み、一般にジイソシアネートから調製されるジウレアが好ましい。
【0031】
ジイソシアネート類の代表的な例としては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、及びヘキサンジイソシアネートが挙げられる。モノイソシアネート類の代表的な例としては、ヘキシルイソシアネート、デシルイソシアネート、ドデシルイソシアネート、テトラデシルイソシアネート、ヘキサデシルイソシアネート、フェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、及びキシレンイソシアネートが挙げられる。
【0032】
モノアミンの代表的な例としては、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、エイコシルアミン,ドデセニルアミン、ヘキサデセニルアミン、オクタデセニルアミン、オクタデカジエニルアミン(octadeccadienylamine)、これらの異性体、アニリン、置換アニリン、トルイジン、ナフチルアミン、置換ナフチルアミン、ベンジルアミン、及び置換ベンジルアミンが挙げられる。
【0033】
高級オリゴマーウレア化合物は、ジアミン又はトリアミンと、ポリイソシアネート、典型的にはジイソシアネート化合物との反応によって得られるものが挙げられる。
【0034】
ジアミンの代表的な例としては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、ドデカンジアミン、ヘキサデカンジアミン、シクロヘキサンジアミン、シクロオクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジアニリンメタン、及びジトルイジンメタンが挙げられ、トリアミンの代表的な例としては、アミノエチルピペラジン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、及びN-メチルジエチレントリアミンが挙げられる。
【0035】
好ましいウレア増粘剤の例としては、オクチルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、及び多くの場合その混合物等の脂肪族アミンと、ジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネートとの反応によって得られるものが挙げられる。
【0036】
本発明で有用な炭素数12~24のカルシウム石鹸形成脂肪酸は、ドデカン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、12-ヒドロキシステアリン酸を含む。ヒドロキシ脂肪酸、特にヒドロキシステアリン酸は、非置換脂肪酸よりもグリースに高い増粘性を与えるため好ましい。
【0037】
カルシウム石鹸を形成するC12~24脂肪酸及びホウ酸に加えて、方解石の形成に有用な変換剤は、(他の多くのものの中でも)水;アルコール;低級脂肪族カルボン酸類、ケトン;アルデヒド;アミン;リン酸;アルキル及び芳香族アミン;特定のイミダゾリン類;アルカノールアミン;四ホウ酸を含むその他のホウ素酸;メタホウ酸;及びそのようなホウ素酸のエステル;並びに二酸化炭素そのもの、又は水と組み合わせた二酸化炭素を含む。
【0038】
本発明のグリースの調製には、適切な塩形成酸(コンプレックス形成酸)も使用することができ、これには、スルホン酸、塩酸、オルトリン酸、ピロリン酸、亜硫酸、ホウ酸等の無機酸、及びギ酸、酢酸、プロピオン酸、吉草酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、及びベンゼンスルホン酸等の炭素数1~7の有機酸を含む。しかしながら、ホウ酸及びホウ酸形成剤は、最良のグリース特性を提供するので好ましい。
【0039】
本発明の一実施形態では、ポリウレア/過塩基性カルシウムスルホネートコンプレックスのグリースは、以下:
1)密封した高圧反応器内で、例えば、250°F(121℃)超、例えば、270~300°F(132~148℃)の温度、高圧下、例えば、20~25psi(140~170 kPa)で加熱しながら、過塩基性カルシウムスルホネート、基油、12-ヒドロキシステアリン酸等のC12~24脂肪酸、水、界面活性剤ドデシルベンゼンスルホン酸、ホウ酸、及び酢酸等の炭素数1~7のカルボン酸を混合する工程と;
2)反応器を排気し、加熱して、水及び揮発物を除去する工程と;
3)その後、追加の基油、ジイソシアネート、及び1種又は複数のアミンを添加して、加熱して反応を起こし、揮発物を除去する工程と、
4)その後、余分な基油及び/又は添加物を添加することによってグリースの最終特性を調整した後、任意の追加の処理工程を行う工程と、
を含む手順に従って調製される。
【0040】
例えば、22重量%未満の過塩基性カルシウムスルホネートを含むグレード2のグリースは、以下の方法によって形成することができる。34重量部の非晶質炭酸カルシウムを含む過塩基性カルシウムスルホネート(400TBN)と66部の混合した鉱油及び合成油との混合物に、1~6部、例えば、2~2.5部の界面活性剤ドデシルベンゼンスルホン酸;0.5~5部、例えば、1~3.5部の12-ヒドロキシステアリン酸;1~7部、例えば、2.5~5部の水;及び0.05~3.5部、例えば、0.1~3部のホウ酸を添加する。圧力反応器で混合した後、0.1~1部、例えば、0.4~0.7部の酢酸を添加し、得られた混合物を250~270°F(121~132℃)の温度まで加熱し、20~25psi(140~170 kPa)の圧力を発生させ、非晶質炭酸カルシウムを方解石に変換する。方解石の形成は、880及び705cm-1でIRにおける方解石のピークの出現によって監視される。方解石の形成が完了すると、通常は追加の混合油を追加する。混合油は、鉱油及び合成油の混合物である基油である。この場合、約35~45部の油から、濃厚な反応混合物に、その後8~15部、例えば、9~12部の4,4-ジフェニルメタンジイソシアネートを添加し、4~8部、例えば、5.5~6.4部のシクロヘキサンアミン及び3.7~7,例えば、4.4~5.4部のオクトデシルアミンを添加した。約280°F(138℃)まで加熱を行い、水分と揮発分を除去し、その後250°F(121℃)未満に冷却する。必要に応じて、抗酸化剤フェニルアルファナフチルアミン及びモリブデンジ-チオホスフェート等の追加成分を添加し、追加の油を添加して、グリースを目的のNLGIグレードに調整する。滑らかで均質なグリースを得るために、生成物を混錬又は粉砕することができる。「部」は、成分の重量による相対量を指す。
【0041】
上記の方法で様々な成分のレベルを調整して、様々なレベルのカルシウムスルホネート、ホウ酸カルシウム、カルシウム脂肪酸石鹸、及びポリウレア増粘剤を含むグリースを得ることは、当技術分野の平均的な実施者の能力の範囲内である。
【0042】
或いは、本発明のグリースは、方解石の形成後及びポリウレア形成成分の添加前に、追加のヒドロキシステアリン酸及び任意選択で石灰を添加し、約280°F(138℃)の温度で混合することを除いて、上記方法と同様の方法によって調製することができる。この代替工程中に、追加のホウ酸及び/又は水を添加することができる。あまり好ましくない方法では、方解石への変換はホウ酸なしで実行され、グリースで使用される全てのホウ酸がこの代替工程間で添加される。
【0043】
特定の場合では、ポリウレア形成前のどの段階でも石灰又はCa(OH)2を反応混合物に添加することができるが、多くの場合、これは行われない。多くの場合、出発物質である過塩基性カルシウムスルホネートの炭酸化後、又は非晶質炭酸カルシウムから方解石への変換後に、遊離した分散石灰又は水酸化カルシウムが存在することがある。
【0044】
上記のパーセンテージは、参照されるグリース、反応混合物又は組成物の総重量に対する重量%で表される。
【0045】
多くの市販のカルシウムスルホネートグリースと同様に、本発明のグリースは、添加剤なしでも、良好な極圧性と耐摩耗性、高い滴点、良好な機械的安定性、塩水噴霧及び耐水性、高温での熱安定性、及びその他の望ましい特性を特徴としている。重要なことに、本発明のグリースは、市販のカルシウムスルホネートグリースよりも、灰分含有量がはるかに低いため、低灰分グリース製品が望まれる自動車及びその他の産業における高速用途を含む、幅広い用途で有用となる。
【0046】
本発明のグリースは、接触する金属及び/又はエラストマープラスチック間の潤滑剤としての一般的な使用に非常に適している。これらは、ポリウレアグリース等の他の高温グリースと同等、又は多くの場合それを上回る性能を有する多目的グリースであり、特に高負荷状況の環境で効果的である。可能な用途の限定的な選択肢としては、重い衝撃荷重、フレッティング、振動運動、及び製鉄所等での高温を受ける、CVジョイント、前輪駆動ジョイント、ユニバーサルジョイント、及び軸受けを含む。本発明のグリースは、際立った耐摩耗性、耐荷重性、低温/高温特性、及び優れたグリース漏れ防止性能を有する。更に、本発明のグリースは、非毒性であり低コストの材料から好都合に調製される。
【実施例】
【0047】
(実施例A1)
380gの半合成油中280gの過塩基性カルシウムスルホネート(400TBN)、11gの界面活性剤ドデシルベンゼンスルホン酸、12gの12-ヒドロキシステアリン酸、25gの水、及び2gのホウ酸を圧力反応器で混合した。3gの酢酸の添加後、反応器を密封し、250~270°F(121~132℃)に加熱し、20~25psi(140~170 kPa)の圧力を発生させた。1時間後、赤外線で確認したところ、非晶質炭酸塩の濃縮と方解石への変換が完了し、反応器を排気し、260°F(127℃)に加熱した。次に、反応混合物を160°F(127℃)まで冷却した後、220gの混合油と8gの4,4-ジフェニルメタンジイソシアネートを添加し、続いて4gのシクロヘキサンアミン及び4.2gのオクトデシルアミンを添加した。得られた混合物を加熱し、ジウレア増粘剤を形成し、水を除去し、反応物を280°F(138℃)で除去した(stripped)後、生成物を250°F(121℃)未満に冷却し、19gのフェニルアルファナフチルアミン及び5gのモリブデンジ-チオホスフェートを添加し、約130gの混合基油を添加し、生成物を、20.0%の出発過塩基性カルシウムスルホネートを含み、265~295のちょう度を有する、グレード2のグリースに調整した。混合基油は、鉱油と合成油との混合物であった。
【0048】
(実施例A2)
添加した4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、シクロヘキサンアミン、及びオクトデシルアミンの量をそれぞれ1.2倍に増加し、追加の油を添加し、最終グリース硬さを調整した以外は実施例A1の手順を繰り返し、17.5%の出発過塩基性カルシウムスルホネートを含む、グレード2のグリース硬さを得た。
【0049】
(実施例A3)
基油を半合成油(例えば、鉱油と合成油との混合物)の代わりに、完全に鉱油であった以外は実施例A1の手順を繰り返し、19.7%の出発過塩基性カルシウムスルホネートを含むグレード2のグリースを得た。
【0050】
(実施例A4)
基油を完全に鉱油にし、添加した4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、シクロヘキサンアミン、及びオクトデシルアミンの量をそれぞれ1.2倍に増加し、追加の油を添加し、最終グリース硬さを調整した以外は、実施例A1の手順を繰り返し、17.1%の出発過塩基性カルシウムスルホネートを含む、グレード2のグリース硬さを得た。
【0051】
(比較例)
(比較例B1)
380gの混合油中280gの過塩基性カルシウムスルホネート(400TBN)、11gの界面活性剤ドデシルベンゼンスルホン酸、12gの12-ヒドロキシステアリン酸、及び25gの水を圧力反応器で混合した。3gの酢酸の添加後、反応器を密封し、250~270°F(121~132℃)に加熱し、20~25psi(140~170 kPa)の圧力を発生させた。1時間後、赤外線で確認したところ、非晶質炭酸塩の濃縮と方解石への変換が完了し、反応器を排気し、105gの混合油を添加して200°F(93℃)に冷却した。この混合物に、9.7gの追加の12-ヒドロキシステアリン酸を添加し、得られた混合物を15分間混合した後、25gの水中10.5gの石灰及び25gの水中12.1gのホウ酸を添加した。次に、反応混合物を280°F(138℃)で混合し、約90gの混合油、例えば鉱油と合成油との混合物等で硬さをグレード2に調整し、200°F(93℃)未満に冷却し、4.4gのフェニルアルファナフチルアミン及び1.2gのモリブデンジ-チオホスフェートを添加し、23.8%の出発過塩基性カルシウムスルホネートを含むグレード2のグリースを得た。
【0052】
(比較例B2)
CVJの用途のための市販品のポリウレアグリースを比較例に使用した。
【0053】
(比較例B3)
CVJの潤滑用の市販のモリブデンジスルフィドリチウムグリースも別の比較例として使用した。
【0054】
上記実施例からのグリースを対応する試験にかけた。結果を次の表(Table 1)に示す。
【0055】
【0056】
上記の試験データから、実施例A1及びA2のポリウレア/カルシウムスルホネートグリースは同様の性能を有することが分かる。実施例A1及びA2は両方とも、鉱油と合成油の混合物である半合成油である基油を含む。実施例A1の過塩基性カルシウムスルホネートの濃度と比較して、グリースの収率が高く、移動性を改善するための過塩基性カルシウムスルホネートの濃度が低い(及び灰分含有量が低い)、実施例A2が調製された。実施例A3、A4でも同様の傾向が見られた。即ち、実施例A3の過塩基性カルシウムスルホネートの濃度と比較して、グリースの収率が高く、移動性を改善するための過塩基性カルシウムスルホネートの濃度が低い(及び灰分含有量が低い)、実施例A4が調製された。実施例A1、A2及び実施例A3、A4に示されるように、ポリウレア含有量が増加すると、過塩基性カルシウムスルホネートの濃度が低下する傾向がある。更に、鉱油と合成油との混合物を基油として含んだ実施例A1、A2は、鉱油を基油として含んだ実施例A3、A4よりも低温特性に優れている。
【0057】
比較例B1の純粋なカルシウムスルホネートグリースと比較して、実施例A1~A4は、カルシウムスルホネート増粘剤含有量が低く、ホイールベアリングの漏れが少なく、溶接点が高い。実施例A1~A4のグリースは、自動車の等速ジョイント用途により適している。また、実施例A1~A4のグリースは、比較例B2のポリウレアグリースよりも良好な機械的安定性、摩擦及び摩耗性能、低温及び極圧性を示した。比較例B3のモリブデンジスルフィドリチウムグリースと比較して、実施例A1~A4のグリースは、より良好な機械的安定性、摩擦及び摩耗性能、極圧特性及び高温特性を有することが示される。
【0058】
調製したポリウレア/カルシウムスルホネートコンプレックスのグリースは、純粋なカルシウムスルホネートグリースと比較して増粘剤含有量を減少させた。調製したポリウレア/カルシウムスルホネートコンプレックスのグリースは、市販の主要なCVJグリースよりも優れた特性を示し、自動車用等速ジョイントの潤滑に適した選択肢となる。
【国際調査報告】