(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】Al-Mn複合ナノ結晶及びその製造方法と使用
(51)【国際特許分類】
B22F 9/24 20060101AFI20250109BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20250109BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20250109BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20250109BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20250109BHJP
B22F 1/06 20220101ALN20250109BHJP
【FI】
B22F9/24 Z
A61K39/00 H
A61P37/04
A61K39/39
B22F1/00 N
B22F1/00 R
B22F1/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024540049
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2024-06-28
(86)【国際出願番号】 CN2022102747
(87)【国際公開番号】W WO2023123959
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】202111633153.6
(32)【優先日】2021-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524247721
【氏名又は名称】広東粤港澳大湾区国家納米科技創新研究院
【氏名又は名称原語表記】THE GBA NATIONAL INSTITUTE FOR NANOTECHNOLOGY INNOVATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】陳 春英
(72)【発明者】
【氏名】王 亜玲
(72)【発明者】
【氏名】趙 宇亮
【テーマコード(参考)】
4C085
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085AA38
4C085EE01
4K017AA02
4K017AA06
4K017BA01
4K017BA10
4K017BB01
4K017BB07
4K017CA03
4K017CA07
4K017DA09
4K017FB01
4K018BA08
4K018BA20
4K018BB01
4K018BD10
(57)【要約】
Al-Mn複合ナノ結晶及びその製造方法と使用が提供される。該Al-Mn複合ナノ結晶の製造方法は、アルミニウム塩溶液、マンガン塩溶液及びアニオン性助剤溶液を混合して混合物を得、前記混合物のpHが5.5~8.5になるように調整する工程1と、前記混合物を加熱して反応させ、得られた固体生成物を洗浄してAl-Mn複合ナノ結晶を得る工程2と、を含む。前記製造方法によって得られたAl-Mn複合ナノ結晶及び前記Al-Mn複合ナノ結晶はワクチンアジュバント、医薬組成物、薬物送達用キャリア、又は免疫原性組成物の製造に用いられれば、従来のアルミニウムアジュバントが体液性免疫と細胞性免疫を同時に活性化できないという技術的課題を効果的に解決できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム塩溶液と、マンガン塩溶液と、アニオン性助剤溶液とを混合して混合物を得、前記混合物のpHが5.5~8.5になるように調整する工程1と、
前記混合物を加熱して反応させ、得られた固体生成物を洗浄してAl-Mn複合ナノ結晶を得る工程2と、を含むことを特徴とする、Al-Mn複合ナノ結晶の製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウム塩溶液の溶質が、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、及び酢酸アルミニウムからなる群より選択される一種又は複数種であり、
前記アルミニウム塩溶液の溶媒が、醋酸ナトリウム溶液、生理食塩水、水、及びエタノールからなる群より選択される一種又は複数種であり、
前記マンガン塩溶液の溶質が、塩化マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、及び酢酸マンガンからなる群より選択される一種又は複数種であり、
前記マンガン塩溶液の溶媒が、水、生理食塩水、及びエタノールからなる群より選択される一種又は複数種であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記アニオン性助剤溶液の溶質が、有機酸塩又は/及びアミノ酸であり、
前記アニオン性助剤溶液の溶媒が、水、生理食塩水、及びエタノールからなる群より選択される一種又は複数種であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記有機酸塩が、クエン酸又は/及びサリチル酸であり、
前記アミノ酸が、システイン、シスチン、チロシン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸からなる群より選択される一種又は複数種であることを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記混合物においては、前記アルミニウム塩溶液のアルミニウム元素と前記マンガン塩溶液のマンガン元素とのモル比が1:(0.05~1)であり、前記アニオン性助剤の濃度と金属イオン総濃度(ただし、金属イオン総濃度は前記アルミニウム塩溶液と前記マンガン塩溶液の濃度との合計である)との比が(0.1~10):1であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
工程2においては、前記加熱反応を60℃~130℃とし、前記加熱反応の時間を0.5~20hとすることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法によって製造されたAl-Mn複合ナノ結晶を含むことを特徴とする、Al-Mn複合ナノ結晶。
【請求項8】
ワクチンアジュバント、免疫増強剤、医薬組成物、薬物送達用キャリア、又は免疫原性組成物の製造における、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法によって製造されたAl-Mn複合ナノ結晶及び請求項7に記載のAl-Mn複合ナノ結晶の使用。
【請求項9】
請求項7に記載のAl-Mn複合ナノ結晶と抗腫瘍疾患の治療薬とを含むことを特徴とする抗腫瘍用医薬組成物。
【請求項10】
抗原と請求項7に記載のAl-Mn複合ナノ結晶とを含むことを特徴とするワクチン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年12月28日に中国国家知識産権局に出願された中国特願番号第202111633153.6号、発明名称「Al-Mn複合ナノ結晶及びその製造方法と使用」の出願に基づく優先権を主張するものであり、その全内容を援用により本願に組み込む。
【0002】
本出願は、ワクチン技術分野に属し、特に、Al-Mn複合ナノ結晶及びその製造方法と使用に関する。
【背景技術】
【0003】
アルミニウム塩アジュバントは、従来のワクチンアジュバントの中で最も多く使用されており、最も安全な免疫アジュバントであり、例として硫酸アルミニウムカリウム、リン酸アルミニウム及び水酸化アルミニウムが含まれる。その中でも、水酸化アルミニウムアジュバントが最も広く用いられている。現在、アルミニウムアジュバントの免疫刺激メカニズムについて、主に「リザーバー」効果、貪食促進、炎症誘発経路NLRP3の活性化などの解釈がある。市販の水酸化アルミニウムアジュバントは通常、1~10μmサイズの低結晶性ベーマイトであり、T細胞介在免疫をほとんどないで体液性免疫を活性化することが一般である。これは、水酸化アルミニウムアジュバントによって吸着された抗原の提示様式に関連している。ミクロンオーダーの水酸化アルミニウムアジュバントが抗原を吸着した後に、アルミニウムアジュバントは通常、例えば樹状細胞(DC細胞)などの抗原提示細胞の細胞膜に結合し、脂質ラフト形成を誘導し、下流経路の活性化を引き起こし、細胞におけるその提示抗原の運命を影響することができないが、抗原は、リソソーム経路によって処理された後に、主要組織適合性複合体II(MHC-II)を通じて提示され、主要組織適合性複合体I(MHC-I)を通じて交差提示されない。しかし、最新の研究によると、より一般的な病態の要求に対処するには、体液性免疫を引き起こして病原性微生物を中和する抗体を産生する必要があるだけでなく、T細胞介在免疫によりウイルス、細菌、又は異常な生理反応を排除し、かつ記憶T細胞を生成して身体を予防及び保護する必要もあることが示された。そのため、予防ワクチン保護の要求を満たすために、新型アルミニウムアジュバント処方又は複合アジュバントが求められている。
【0004】
アルミニウムアジュバントは長期使用中の安全性及び便利性の優勢、並びに抗原や、分子アジュバントキャリアとしての便利性を持っているので、アルミニウム塩と分子アジュバントの組み合わせによって形成された新規なアジュバントは、新型アジュバントの開発の主な傾向になっている。例えば、アルミニウム塩と3M-052、CpG及びTLRアゴニストから形成される複合アジュバントは、ワクチンの抗体価や細胞免疫能力の向上において、更なる優勢を示している。しかしながら、分子アジュバントの前調製や、アルミニウムアジュバントとのコンパウンディングには手順が多くて、新型アジュバントの有効性に非常に影響しやすい。したがって、製造に便利であること、キャリア及び抗原の徐放性、並びに高安全性の特徴を有するアルミニウムアジュバントを開発することは、細胞免疫の欠如におけるアルミニウムアジュバントの不足を補うことができる。また、製造や生産が簡単の新型複合アジュバントは、より実用的価値がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、従来のアルミニウムアジュバントが体液性免疫と細胞性免疫を同時に活性化できないという技術的課題を効果的に解決できるAl-Mn複合ナノ結晶及びその製造方法と使用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願の一側面は、アルミニウム塩溶液、マンガン塩溶液及びアニオン性助剤溶液を混合して混合物を得、前記混合物のpHが5.5~8.5になるように調整する工程1と、前記混合物を加熱して反応させ、得られた固体生成物を洗浄してAl-Mn複合ナノ結晶を得る工程2と、を含むAl-Mn複合ナノ結晶の製造方法を提供する。
【0007】
具体的には、工程1において、酸性・アルカリ性調整剤で前記混合物のpHを調整する。前記酸性・アルカリ性調整剤はアルカリ溶液又は/及び酸溶液であってもよい。前記アルカリ溶液及び前記酸溶液は通常のpH調整溶液であり、前記アルカリ溶液の濃度が0.01~1mol/Lであり、好ましくは0.05~0.6mol/Lである。前記アルカリ溶液は、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、及びリン酸ナトリウム水溶液のうちの一種又は複数種である。前記水酸化ナトリウム水溶液の濃度は0.05~1mol/Lであり、好ましくは0.3~0.6mol/Lである。
【0008】
具体的には、前記混合物のpHを調整するのは、その範囲内で得られたAl-Mn複合ナノ結晶は晶型が滅菌でも変化しないほど安定であるためである。
具体的には、前記リン酸ナトリウム水溶液のリン酸塩は、Na2HPO4及び/又はNa3PO4である。
【0009】
具体的には、工程1において、前記アルミニウム塩溶液と前記マンガン塩溶液と前記アニオン性助剤溶液との溶質の合計と前記アルカリ溶液の溶質とのモル比は1:(1~6)である。例えば、前記アルミニウム塩溶液と前記マンガン塩溶液と前記アニオン性助剤溶液の溶質の合計と前記アルカリ溶液NaOHとのモル比は1:(1~6)である。好ましくは、前記アルミニウム塩溶液と前記マンガン塩溶液と前記アニオン性助剤溶液の溶質の合計と前記アルカリ溶液の溶質とのモル比は1:(2~4)である。例えば、前記アルミニウム塩溶液と前記マンガン塩溶液と前記アニオン性助剤溶液の溶質の合計と前記アルカリ溶液NaOHとのモル比は1:(2~4)である。
具体的には、工程1において、前記混合物のpH値は5.5~8.0である。好ましくは、前記混合物のpH値は6.0~7.0である。
【0010】
具体的には、工程1において、前記アルミニウム塩溶液、前記マンガン塩溶液及び前記アニオン性助剤溶液の混合方法としては、溶液を滴下しながら撹拌する方法である。前記アルミニウム塩溶液、前記マンガン塩溶液及び前記アニオン性助剤溶液の滴下速度は2~15mL/分であり、好ましくは3~8mL/分である。前記混合時の撹拌速度は50~1000rpmであり、好ましくは300~800rpmである。前記混合時の撹拌時間は1.5~10hである、好ましくは1~5hである。
【0011】
具体的には、アルカリ溶液で前記混合物のpH値を調整する際に、前記アルカリ溶液の滴下速度は0.5~10mL/分であり、好ましくは1~4mL/分である。
【0012】
具体的には、工程2において、未反応の各遊離イオンや脱着アニオン性助剤を除去するためにNaCl溶液で遠心洗浄し、そしてNaCl溶液で再溶解・分散させる。湿熱滅菌により121℃で30~60分滅菌した後、分注してAl-Mn複合ナノ結晶を得る。Al-Mn複合ナノ結晶は、冷藏(2~8℃)で保存することができる。ここで、前記遠心洗浄の遠心回転数を2000~10000gとし、前記遠心洗浄の遠心時間を1~100分とし、前記遠心洗浄の洗浄回数は2~5次とする。好ましくは、前記遠心洗浄の遠心回転数を4000~8000gとし、前記遠心洗浄の遠心時間を5~20分とし、前記遠心洗浄の洗浄回数を2~3とする。
【0013】
具体的には、前記NaCl溶液の濃度は0.1%~1.5%である。好ましくは、前記NaCl溶液の濃度は0.15%~0.8%である。
【0014】
別の実施例において、前記アルミニウム塩溶液の溶質は、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、及び酢酸アルミニウムからなる群より選択される一種又は複数種である。前記アルミニウム塩溶液の溶媒は酢酸ナトリウム溶液、生理食塩水、水、及びエタノールからなる群より選択される一種又は複数種である。具体的には、前記アルミニウム塩溶液の溶媒の濃度は0.01~1mol/Lであり、前記酢酸ナトリウム溶液の濃度は0.03~0.07mol/Lである。
【0015】
別の一実施例において、前記マンガン塩溶液の溶質は塩化マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガンからなる群より選択される一種又は複数種であり、前記マンガン塩溶液の溶媒は水、生理食塩水及びエタノールからなる群より選択される一種又は複数種である。
別の一実施例において、前記アニオン性助剤溶液の溶質は有機酸塩又は/及びアミノ酸であり、前記アニオン性助剤溶液の溶媒は、水、生理食塩水、及びエタノールからなる群より選択される一種又は複数種である。
【0016】
具体的には、前記アニオン性助剤溶液によれば、アニオン性助剤と金属イオン(アルミニウムとマンガン)との配合作用を十分に実現できる。混合物中の前沈殿物では、加熱処理により混合物中の前沈殿物の均一な成長及び結晶の形成が促進され、滅菌安定性が向上する。そして、遠心沈殿、洗浄、及び滅菌が行われた後に、Al-Mn複合ナノ結晶が得られる。
【0017】
具体的には、前記アニオン性助剤は、ポリヒドロキシル基、カルボキシル構造を含有し、リン元素を含む有機物である。本出願におけるアニオン性助剤は、アルミニウムイオン及びマンガンイオンのいずれとも、安定な配合物を形成することができ、理想的な補助剤であり、Al-Mn複合ナノ結晶の粒径のサイズ及び分布を安定化及び調節するために用いられる。
【0018】
別の一実施例において、前記有機酸塩は、クエン酸又は/及びサリチル酸であり、前記アミノ酸は、システイン、シスチン、チロシン、アスパラギン酸及びグルタミン酸からなる群より選択される一種又は複数種である。
【0019】
別の一実施例において、前記混合物における前記アルミニウム塩溶液中のアルミニウム元素と、前記マンガン塩溶液中のマンガン元素とのモル比は1:(0.05~1)である。好ましくは前記アルミニウム塩溶液中のアルミニウム元素と前記マンガン塩溶液中のマンガン元素とのモル比は1:(0.1~0.5)である。前記アニオン性助剤の濃度と金属イオンの総濃度との比は(0.1~10):1である。好ましくは、前記アニオン性助剤の濃度と金属イオンの総濃度との比は(0.3~3):1である。ここで、前記金属イオンの総濃度は、前記アルミニウム塩溶液と前記マンガン塩溶液の濃度との合計である。
【0020】
具体的には、前記アルミニウム塩溶液の濃度は0.01~1mol/Lであり、好ましくは0.03~0.07mol/Lである。前記マンガン塩溶液の濃度は0.001~1mol/Lであり、好ましくは0.003~0.05mol/Lである。アニオン性助剤溶液の濃度は0.01~0.5mol/Lであり、好ましくは0.05~0.5mol/Lである。
【0021】
別の一実施例において、工程2では、前記加熱反応を60℃~130℃とし、前記加熱反応の時間を0.5~20hとする。
【0022】
本出願の第2の側面は、前記製造方法により製造されたAl-Mn複合ナノ結晶が含まれるAl-Mn複合ナノ結晶を提供する。
【0023】
具体的には、前記Al-Mn複合ナノ結晶の滅菌前後のpH値は5.5~8.5であり、前記Al-Mn複合ナノ結晶の粒径は20~5000nmで安定している。前記Al-Mn複合ナノ結晶は、ウシ血清アルブミンへの吸着率が1.6mgを超え、このように得られたAl-Mn複合ナノ結晶製品は分散性及び安定性に優れている。
【0024】
本出願の第3の側面は、前記製造方法によって得られたAl-Mn複合ナノ結晶、及びワクチンアジュバント、免疫増強剤、医薬組成物、薬物送達用キャリア、又は免疫原性組成物の製造における前記Al-Mn複合ナノ結晶の使用が開示されている。
【0025】
具体的には、本出願で提供されるAl-Mn複合ナノ結晶は、自然免疫及び/又は獲得免疫を改善するためのワクチンアジュバント及び免疫増強剤の製造に使用される。いくつかの実施形態においては、前記Al-Mn複合ナノ結晶はI型インターフェロン、γインターフェロンの発現を刺激することにより、自然免疫及び/又は獲得免疫が改善され、免疫バランスが調節される。別のいくつかの実施形態においては、Al-Mn複合ナノ結晶によれば、抗原提示を促進し、抗体産生レベルを上昇させて自然免疫及び/又は獲得免疫を改善することができる。別のいくつかの実施形態においては、Al-Mn複合ナノ結晶は免疫調節剤と併用、組み合わせ、又は連続投与されることにより、複数の免疫経路の活性化が促進され、自然免疫及び/又は獲得免疫が改善される。また、本出願に係るAl-Mn複合ナノ結晶は、腫瘍予防及び/又は、細菌感染や、真菌感染、ウイルス感染、寄生虫感染、腫瘍、自己免疫病などの疾患治療のために用いられる免疫増強剤として使用することができる。
【0026】
また、本出願に係るAl-Mn複合ナノ結晶は、医薬組成物として自己免疫性病の治療に使用することもできる。ただし、前記自己免疫病は、関節リウマチ、1型糖尿病、乾癬、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症から選択される。より具体的には、本出願に係るAl-Mn複合ナノ結晶は医薬組成物の成分として用いられる場合、医薬組成物は、Al-Mn複合ナノ結晶と予防/治療剤を含み、この両方が必要な対象物とともに投与され、混合、連続投与、及び修飾変性によって小分子や、ポリペプチド、抗体などの免疫調節剤、抗体薬物、又はポリペプチド類薬物とを組み合わせることができる。
【0027】
具体的には、前記薬物送達用キャリアには、Al-Mnナノ結晶と、液体、固体又は一般的に使用されている薬物助剤及び/又は任意の補助成分の一種又は複数種と組み合わせた組成物を含む。薬物助剤としては、薬学的に許容されるエマルジョン剤、マイクロエマルジョン剤、溶液剤、懸濁液、シロップ剤、不活性希釈剤、湿潤剤、乳化剤及び分散剤が挙げられる。
【0028】
本出願の第4の側面は、前記Al-Mn複合ナノ結晶と抗腫瘍疾患の治療薬とを含む抗腫瘍用医薬組成物を提供する。
【0029】
具体的には、固形腫瘍及び非固形腫瘍の治療における抗腫瘍用医薬組成物の応用を提供する。前記固形腫瘍としては、肺がん、胃がん、乳がん、肝臓がん、膵臓がん、皮膚がん、口腔がん、食道がん、悪性黒色腫、頭頸部がん、肉腫、胆管がん、膀胱がん、腎臓がん、大腸がん、胎盤絨毛がん、子宮頸がん、卵巣がん、精巣がん、子宮がん、白血病などが挙げられる。前記非固形腫瘍としては、神経膠腫、血腫などが挙げられる。
【0030】
具体的には、前記抗腫瘍疾患の治療薬は、抗腫瘍ための小分子、ポリペプチド、及び抗体系薬剤であり、例えば、PD-L1抗体、トラスツズマブ、メトホルミン(Met)、パクリタキセル、ドキソルビシン、シスプラチン、アスパラギナーゼ、リツキシマブ、ゲフィチニブ、トリプトレリン、ドセタキセル、ドキソルビシン、及びフルオロウラシルのうちの一種又は複数種である。
【0031】
本出願の第5の側面は、抗原と前記Al-Mn複合ナノ結晶とを含むワクチン組成物を提供する。
【0032】
具体的には、前記ワクチン組成物は、タンパク質ワクチン又は/及び不活化ワクチンであり、例えば、インフルエンザワクチン株組換え抗原、B型肝炎組換え抗原である。また、前記ワクチン組成物は、水痘帯状疱疹ウイルス組換えタンパク質ワクチン、新型コロナウイルスサブユニットタンパク質ワクチン、又は新型コロナウイルス不活化ワクチンであってもよい。
【0033】
具体的には、前記ワクチン組成物中の抗原は、ウイルス、細菌、寄生虫、及び腫瘍新抗原に由来する。例えば、前記ウイルスは、DNAウイルス及びRNAウイルスから選択される。好ましくは、前記ウイルスは、コロナウイルス科、ヘルペスウイルス科、ラブドウイルス科、フィロウイルス科、オルトミクソウイルス科、パラミクソウイルス科、ピコルナウイルス科、ヘパドナウイルス科、フラビウイルス科、パピローマウイルス科、ポックスウイルス科、及びレトロウイルス科からなる群より選択される。より好ましくは、前記ウイルスは、新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス、水疱性口内炎ウイルス、ワクシニアウイルス、HIV、及びHBVからなる群より選択される。例えば、前記細菌はグラム陽性菌及びグラム陰性菌から選択される。好ましくは、細菌は、肺炎球菌、インフルエンザ菌、サルモネラ菌、髄膜炎菌、表皮ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌、クレブシエラ・ニューモニエ、クレブシエラ・オキシトカ、エンテロバクター・クロアカ、シトロバクター・フレウンデー、緑膿菌、及びアシネトバクター・バウマニ、結核菌、及びヘリコバクター・ピロリからなる群より選択される。
【0034】
より具体的には、前記ワクチン組成物中の抗原は、インフルエンザウイルス、α又はβコロナウイルス(例えば、新型コロナウイルス及び変異株)、肝炎ウイルス(例えば、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス)、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、HPVウイルス、脳炎ウイルス(例えば、日本脳炎ウイルス)、ムンプスウイルス、風疹ウイルス、破傷風菌、百日咳菌、ジフテリア菌、らい菌、結核菌、髄膜炎菌、肺炎双球菌、及びそれらが任意に組み合わせた活化ウイルス/細菌形態、弱毒生ウイルス/細菌形態及びサブユニットタンパク質、組み換えタンパク質又はキメラタンパク質などの多種な形態の抗原に由来する。
【0035】
具体的には、本出願に用いられる水は、超純水又は/及び注射用水であってもよい。
マンガンは、人間の成長、代謝、神経機能、抗酸化防御過程に不可欠な微量元素である。アルミニウムとマンガンの2つの無機元素を組み合わせて複合アジュバントを形成すれば、アルミニウムアジュバント自体による「リザーバー」効果、貪食の促進、及び炎症誘発経路NLRP3の活性化作用が保持されるし、Mn2+を介した自然免疫及び獲得免疫が補完されるし、体液性免疫及び細胞性免疫がともに感染性病原体を抵抗するという要望も満たされる。また、本出願の製造方法によれば、サイズ均一なかつ形態制御可能なAl-Mn複合ナノ結晶を調製することができる。
【0036】
このように、本出願には、プロセスが簡単で、組成が均一で、構造が安定し、滅菌後に長期保存でき、使用が便利である、ワクチンアジュバントとして使用できるアルミニウム-マンガン複合ナノ結晶が開示される。当該Al-Mn複合ナノ結晶によれば、体液性免疫及び細胞性免疫を同時に活性化することができ、感染性細菌又はウイルスの予防に対していっそうよい免疫バリアが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、本出願の実施例1で提供されたAl-Mn複合ナノ結晶(AlMn-001)の透過型電子顕微鏡画像である。
【
図2】
図2は、本出願の実施例2で提供されたAl-Mn複合ナノ結晶(AlMn-002)の透過型電子顕微鏡画像である。
【
図3】
図3は、本出願の実施例3で提供されたAl-Mn複合ナノ結晶(AlMn-003)の透過型電子顕微鏡画像である。
【
図4】
図4は、本出願の実施例1~3で提供されたAl-Mn複合ナノ結晶のXRD結果を示す図である。
【
図5】
図5は、本出願の実施例1~3で提供された異なる割合Al-Mn複合ナノ結晶のDC活性化効果を示す図である。
【
図6】
図6は、本出願の実施例3で提供されたAl-Mn複合ナノ結晶(AlMn-003)又は市販のアルミニウムアジュバントを抗原と結合させた後のDC細胞エンドサイトーシスの蛍光イメージング画像である。
【
図7】
図7は、本出願の実施例3で提供されたAl-Mn複合ナノ結晶(AlMn-003)又は市販のアルミニウムアジュバントとOVA抗原とを併用してマウスに筋肉内注射した後の抗体価の実験結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、本出願の実施例1~3で提供されたAl-Mn複合ナノ結晶を新型コロナRBD組換えタンパク質抗原と配合して免疫化したマウスの抗体価の結果を示す図である。
【
図9】
図9は、本出願の実施例3で提供されたAl-Mn複合ナノ結晶(AlMn-003)又は市販のアルミニウムアジュバントAlumをH1N1-HA抗原と配合したものをマウスに筋肉内注射した後の抗体価の実験結果を示す図である。
【
図10】
図10は、本出願の実施例3で提供されたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003をH1N1 HA抗原と配合して免疫した後の56日目でのマウス脾臓細胞におけるIFN-γの発現結果を示す図である。
【
図11】
図11は、本出願の実施例3で提供されたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003をH1N1-HA抗原と配合して免疫した後の56日目でのマウス脾臓細胞におけるサイトカインの結果を示す図である。
【
図12】
図12は、本出願の実施例3で提供されたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003をH1N1-HA抗原と配合して免疫した後の56日目でのマウスの脾臓及び肺における記憶B細胞の割合を示す図である。
【
図13】
図13は、本出願の実施例3で提供されたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003をH1N1-HA抗原と配合して免疫した後の56日目でのマウスの脾臓における記憶T細胞の割合を示す図である。
【
図14】
図14は、本出願の実施例1で提供されたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-001を免疫増強剤として生体の抗腫瘍効果を高めた結果を示すグラフである。ただし、3つの図は、左から右に、それぞれ
図14A、
図14B、
図14Cである。
【
図15】
図15は、本出願の実施例2で提供されたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-002を免疫増強剤として生体の抗遠位腫瘍効果を高めた結果を示すグラフである。
【
図16】
図16は、本出願の実施例3で提供されたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003を免疫増效剤として生体の抗肝癌効果を高めた結果を示すグラフである。
【
図17】
図17は、本出願の実施例1で提供されたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-001を免疫増強剤として生体の抗転移腫瘍効果を高めた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本出願において、従来のアルミニウムアジュバントが体液性免疫と細胞性免疫を同時に活性化できないという技術的欠陥を解決するために、Al-Mn複合ナノ結晶及びその製造方法と使用を提供する。
【0039】
以下、本発明の技術案について、本発明の実施例を合わせてより明確に、全面に説明するが、述べる実施例は、本発明の実施形態の一部だけであり、すべての実施形態ではないことが明らかである。当業者が本発明における実施形態に基づき、創造的な労働なしに得た他のすべての実施例は、本発明の保護範囲に包含されるものとする。
以下の実施例で使用される原材料又は試薬は、市販されているか又は自家製である。
【実施例】
【0040】
実施例1
本出願の実施例には、以下の工程を含む具体的な製造方法により製造されたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-001を提供した。
【0041】
(1)AlCl3・6H2Oを秤量し、0.01mol/LのNaAcに溶解し、アルミニウムイオン含有量が1mol/Lになるようにアルミニウム塩溶液を調製した。MnCl2・4H2Oを秤量し、注射用水に溶解し、マンガンイオン含有量が0.1mol/Lになるようにマンガン塩溶液を調製した。サリチル酸を秤量し、純水に溶解し、アニオン性助剤溶液が0.05mol/Lになるように調製した。NaOHを秤量し、注射用水で溶解し、NaOH含有量が0.1mol/Lになるようにアルカリ溶液を調製した。
【0042】
(2)まず、アルミニウム塩溶液とマンガン塩溶液を、同じ体積で混合して混合溶液を得た。混合溶液30mLを10mL/分の速度でサリチル酸溶液50mLに加えた。そして、1000rpmの速度で、3時間撹拌し、配合反応が十分に起こるようにし、混合物を得た。
【0043】
(3)室温で回転数を600rpmに調整して撹拌し、12mL/分の速度でアンモニア溶液30mLを加えた。滴下終了後、混合物のpH値を7.6に調整し、温度を100℃に上げて1時間加熱した。
【0044】
(4)室温まで冷却し、遠心機にて6000gの回転数で20分間遠心分離し、得られた固体生成物を0.5%塩化ナトリウム溶液で2回洗浄した。また、6000gで10分間遠心分離し、0.5%塩化ナトリウム溶液に再溶解してAl-Mn複合ナノ結晶を得、AlMn-001と表記する。その後、121℃で30分間湿熱滅菌した後、分けて包装した。
【0045】
(5)Al-Mn複合ナノ結晶を長期間冷蔵して(2~8℃)保管した。
図1を参照すると、
図1は、本出願の実施例1で調製されたAl-Mn複合ナノ結晶の透過型電子顕微鏡(FEI 公司、型番Tecnai G2 20S-TWIN)によって測定されたAl-Mn複合ナノ結晶のサイズ及びモルフォロジーを示すものである。
図1から、本出願の実施例1で調製されたAl-Mn複合ナノ結晶は、幅30~120nm、長さ50~300nmの薄シート状ナノシートが堆積された複合粒子であることが分かた。
実施例2
【0046】
本出願の実施例において、以下の工程を含む具体的な製造方法により製造されたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-002を提供した。
【0047】
(1)Al(NO3)3・6H2Oを秤量し、0.01mol/LのNaACに溶解し、アルミニウムイオン含有量が0.4mol/Lになるようにアルミニウム塩溶液を調製した。Mn(SO4)2・4H2Oを秤量し、注射用水に溶解し、マンガンイオン含量が0.1mol/Lになるようにマンガン塩溶液を調製した。グルタミン酸を秤量し、純水に溶解し、濃度が0.20mol/Lになるようにアニオン性助剤溶液を調製した。KOHを秤量し、注射用水で溶解し、KOH含有量が0.5mol/Lになるようにアルカリ溶液を調製した。
【0048】
(2)まず、アルミニウム塩溶液とマンガン塩溶液を、同じ体積で混合して混合溶液を得た。混合溶液40mLを30mLのグルタミン酸水溶液を含む容器に加え、室温下で回転数が800rpmの撹拌速度で7時間反応させ、複合反応が十分に起こるようにし、混合物を得た。
【0049】
(3)回転速度を500rpmに調整して撹拌し、次に溶液のpHが8.5になるように水酸化カリウム溶液を6.9mL/分の速度で加え、温度を80℃に調整し、そして反応を7時間維持した。
【0050】
(4)室温まで冷却し、遠心機にて6000gの回転数で20分間遠心分離し、得られた固体生成物を0.5%塩化ナトリウム溶液で2回洗浄した。また、6000gで10分間遠心分離し、0.5%塩化ナトリウム溶液に再溶解してAl-Mn複合ナノ結晶を得、AlMn-002と表記する。
【0051】
(5)その後、121℃で30分間湿熱滅菌した後、分けて包装した。Al-Mn複合ナノ結晶を長期間冷蔵して(2~8℃)保管した。
図2を参照すると、
図2は、本出願の実施例2で調製されたAl-Mn複合ナノ結晶の透過型電子顕微鏡(FEI 公司、型番Tecnai G2 20S-TWIN)によって測定されたAl-Mn複合ナノ結晶のサイズ及びモルフォロジーを示す。
図2から、本出願の実施例2で調製されたAl-Mn複合ナノ結晶は、幅20~70nm、長さ30~100nmの薄シート状ナノシートが堆積された複合粒子であることが分かた。
実施例3
【0052】
本出願の実施例において、以下の工程を含む具体的な製造方法によりAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003を提供した。
【0053】
(1)酢酸アルミニウムを秤量し、0.01mol/LのNaACに溶解し、アルミニウムイオン含有量が0.5mol/Lになるようにアルミニウム塩溶液を調製した。MnCl2・4H2Oを秤量し、注射用水に溶解し、マンガンイオン含有量が0.1875mol/Lになるようにマンガン塩溶液を調製した。クエン酸を秤量し、濃度が0.1mol/Lになるようにアニオン性助剤溶液を調製した。水酸化ナトリウムを秤量し、注射用水で溶解し、含有量が0.2mol/Lになるようにアルカリ溶液を調製した。
【0054】
(2)まず、アルミニウム塩溶液とマンガン塩溶液を、同じ体積で混合して混合溶液を得た。混合溶液10mLを50mLのクエン酸溶液を含む反応器に加え、室温下、1200rpmで1時間混合して配合反応を十分に起こさせ、混合物を得た。
【0055】
(3)次に、10mLの水酸化ナトリウム水溶液を16.9mL/分の速度で滴下し、溶液のpHを9に調整し、温度を60℃に上昇させ、12時間反応を維持した。
【0056】
(4)室温まで冷却し、遠心機にて8000gの回転数で10分間遠心分離し、得られた固体生成物を0.5%塩化ナトリウム溶液で3回洗浄した。また、8000gで10分間遠心分離し、0.5%塩化ナトリウム溶液に再溶解してAl-Mn複合ナノ結晶を得、AlMn-003と表記する。
【0057】
(5)その後、121℃で30分間湿熱滅菌した後、分けて包装した。Al-Mn複合ナノ結晶を長期間冷蔵して(2~8℃)保管した。
図3を参照すると、
図3は、本出願の実施例3で調製されたAl-Mn複合ナノ結晶の透過型電子顕微鏡(FEI 公司、型番Tecnai G2 20S-TWIN)によって測定されたAl-Mn複合ナノ結晶のサイズ及びモルフォロジーを示すものである。
図3から、本出願の実施例3で調製されたAl-Mn複合ナノ結晶は、幅20~100nm、長さ30~200nmの薄シート状ナノシートが堆積された複合粒子であることが分かた。
実施例4
【0058】
本出願の実施例には、実施例1~実施例3で得られたAl-Mn複合ナノ結晶の理化学的性質の測定結果を提供する。具体的に、以下の測定試験が含まれる。
以下の検出方法は、任意のMn:Alモル配合比でのAl-Mn複合ナノ結晶の理化学的性質の測定に適用できる。
【0059】
(1)水和粒径及び電位の特性評価
実施例1、実施例2及び実施例3で調製したAl-Mn複合ナノ結晶を超純水で100~200倍で透明・無色になるまで希釈したものをZeta電位サンプルセルに800μL採取し、試験を行った。
【0060】
(2)X線回折(XRD)特性評価
Al-Mn複合ナノ結晶を遠心管に装入し、凍結乾燥後、固体粉をガラスサンプル台の窓に均一に充填し、またスライドで押し固め、凸部を平らにスプレッドし、粉末が凹状窓全体に充満しかつスライドガラスの上面と面一になるようにした。サンプル台をX線回折装置に置いて、ソフトウェアでパラメータを設定し、スキャンした。
結果を
図4に示す。
図4から、本出願の実施例1~実施例3で得られたAl-Mn複合ナノ結晶サンプルに含まれるマンガンは四酸化三マンガン結晶型であり、アルミニウムはAlO(OH)結晶型であることが分かた。
【0061】
(3)Al-Mn複合ナノ結晶の消化定量
本出願の実施例1~3で得られたAl-Mn複合ナノ結晶を超純水で10倍に希釈したものを100μL採取し、50mLポリテトラフルオロエチレン消化ボトルに入れ、2~3mLのMOSグレード濃硝酸を加え、電気加熱プレート上で温度を90℃に上げ、2mLのMOSグレード過酸化水素を滴下して溶液を透明にした。その後、温度を毎回10℃ずつ上げてから20分間保持するという勾配で160℃まで上げ、0.5mLの溶液が残るまでゆっくりと蒸発させた後、取り出し、室温まで冷却し、3gに定容した。MOSグレード硝酸で3%洗浄溶液を調製し、標準サンプルで検量線を作成し、誘導結合プラズマ質量分析装置を使用して検出定量を行った。
【0062】
(4)吸着率:
吸着率は、Al-Mn複合ナノ結晶のウシ血清アルブミンへの吸着効果によって計算された。
被験試料溶液の調製:
被験試料を適量取り、0.85%~0.90%塩化ナトリウム溶液でアルミニウム含有量が1mg/mLになるように希釈し、pH値を6.0~7.0に調整して被験試料溶液とした。なお、同じ種類で異なるバッチのAl-MnアジュバントのpH値は、異なる試験バッチ間の一貫性を確保するために、固定値に調整する必要がある。
ウシ血清アルブミン(単に、「BSA」ともいう)溶液:
ウシ血清アルブミンを適量取り、0.85%~0.90%塩化ナトリウム溶液で10mg/mL溶液を調製し、pH値を被験試料溶液のpH値と一致するように調整した。
測定方法:
15mL遠心管5本を準備し、それぞれにウシ血清アルブミン溶液(10mg/mL)0.08mL、0.16mL、0.4mL、0.8mL、1.2mLを加え、4.0mLになるように0.85%~0.90%塩化ナトリウム溶液を追加し、よく混合した後、各管にそれぞれ被験試料溶液1.0mLを加え、よく混合し、各管のウシ血清アルブミン量をそれぞれ0.8mg、1.6mg、4mg、8mg、12mgにし、各管のアルミニウム元素含有量が1mgであった。
前記の各管を室温で1時間放置(その間10分ごとに1回激しく振る)した後、5000gで10分間遠心分離して上清を採取した。各管の上清中の遊離牛血清アルブミン含有量をローリー法(通則0731の第2法)又はその他の適切な方法により測定し、各管の吸光度値を記録してタンパク質含有量を算出した。各管の吸着率(A)は、牛血清アルブミンの総量に対応する各管上清中の遊離牛血清アルブミン含有量に基づいて算出した。計算で、上清液の体積は5mlとした。
吸着率=(総BSA量-上清BSA量)÷総BSA量×100。
結果評価:
BSA含有量が0.8mg、1.6mgである2管の上清タンパク質は未検出とすべきであり、すなわち吸着率は90%以下にならないべきである。また、BSA含有量が4mg、8mg、12mgである各管の吸光度値は、全体的にますますに増加していく傾向があるべきであり(吸光度値が判定できない場合は、上清タンパク質含有量を検出して全体的な増加傾向を判定する必要がある)、吸着率は合格として評価される。
【0063】
(5)24時間沈降率:
希塩酸又は水酸化ナトリウム溶液で被験試料のpH値を6.0~7.0に調整し、被験試料を水でアルミニウムが5mg/mLになるように希釈した。被験試料のアルミニウム含有量が5mg/mLより低い場合、pHを調整した後に9g/Lの塩化ナトリウム溶液で1mg/mLまでに希釈した。被験試料のアルミニウム含有量が1mg/mLより低い場合、適当な時間放置し、上清液を捨ててアルミニウム含有量が1mg/mLになるようにした。少なくとも30秒間振とうし、25mLの溶液をメスシリンダー又は目盛り付き比色管に取り、24時間放置した。析出した上清液の量に応じて、次の式に従って被験試料の沈降率を計算した。沈降率(%)=上清体積/25×100%。
【0064】
以上の実施例において、ナノ粒度及び及Zeta電位分析装置(malvern社から購入、型番Zetasizer Nano ZS)を使用して水酸化アルミニウムアジュバントの水和粒径及び表面電荷を測定した。誘導結合プラズマ発光分光(ICP-OES、PerkinElmer社から購入、型番PerkinElmer Optima 5300DV)を使用してAl-Mn複合アジュバント的アルミニウム含有量及びマンガン含有量を測定した。また、吸着度及び沈降状態は、(中国薬局方)(2020版)を参照して測定した。前記の実験結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
本出願の実施例には、以下のように、実施例1~実施例3で調製したAl-Mn複合ナノ結晶のBMDC活性化能力の比較を提供した。
【0067】
本出願の実施例1~3で調製されたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-001、Al-Mn複合ナノ結晶AlMn-002、Al-Mn複合ナノ結晶AlMn-003のBMDC活性化効果を評価した。
【0068】
未成熟BMDCを6ウェルプレートに5×105細胞/ウェルで接種し、金属イオン総濃度50μg/mlの市販のアルミニウムアジュバントAlum(Invivogen社から購入、CAS:21645-51-2)、実施例1で得られたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-001、実施例2で得られたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-002、実施例3で得られたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003を各群3個ずつ並行して24時間培養した後、細胞を収集し、そして抗CD11c、抗CD80及び抗CD86フロー染色液で細胞を染色した。BMDCs表面の共刺激因子CD80及びCD86の発現レベルをフローサイトメトリーで測定した。
【0069】
図5から、本発明の実施により得られたAl-Mn複合ナノ結晶の樹状細胞に対する活性化能力はMn比率の増加とともに増加し、かつAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003の樹状細胞に対する活性化能力は市販のアルミニウムアジュバントの約2倍であることが分かた。これは、本出願で得られたAl-Mn複合ナノ結晶が樹状細胞に対するより優れた活性化能力を有することを示している。
実施例6
【0070】
本出願の実施例には、以下のように、Al-Mn複合ナノ結晶が抗原を吸着した後の細胞取り込み効果を提供する。
DC2.4細胞を、37C、5%CO2の湿潤環境で、10%(v/v)FBSを含むRPMI 1640培地を使用して培養した。細胞及び構築されたナノワクチン(10mg/L濃度のFITC標識抗原分子と25mg/L濃度のAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003又は100mg/Lの市販のアルミニウムアジュバントAlum(Invivogen社から購入、CAS:21645-51-2)Alumとの混合液)をそれぞれ8時間、24時間インキュベートした。その後、細胞を洗浄し、Lysotracker Redで標識し、固定して蛍光顕微鏡(Perkin Elmer Spinning Disc共焦点顕微鏡、60倍オイル含浸レンズ)により観察し、UltraVIEW VoXソフトウェアを使用して画像を得た。
【0071】
図6に示すように、
図6は、本出願の実施例3で調製したAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003又はアルミニウムアジュバントAlumと抗原とを結合した後のDC細胞エントーシスの蛍光イメージング画像である。
【0072】
実験結果、
図6に示すように、本出願の実施例3で得られたAl-Mn複合ナノ結晶は、市販のアルミニウムアジュバントの4分の1の量しか使用しなかった場合でも、市販のアルミニウムアジュバントAlumよりも多くの抗原を細胞内部に連れて運ぶことができた。これは、本出願で得られたAl-Mn複合ナノ結晶がより優れたワクチンキャリア効果を有することを示している。
実施例7
【0073】
本出願の実施例には、以下のように、実施例1~実施例3で得られたAl-Mn複合ナノ結晶の免疫増強効果関係の検証試験を提供する。具体的試験には、以下が含まれる。
【0074】
実施例1~実施例3で得られたAl-Mn複合ナノ結晶では、Mn:Alのモル比が異なっていた。異なるMn/Alのモル比のAl-Mn複合ナノ結晶をそれぞれOVA抗原と併用してマウスに注射し、産生した特異的抗体価を測定した。具体的方法は以下の通りである。
【0075】
実験動物:Balb/Cマウス、6-8週齢、5匹/群、雌。
対照群:市販のアルミニウムアジュバントAlum(Invivogen社から購入、CAS:21645-51-2)。
投与量:OVA抗原(オボアルブミンOVAが上海源叶生物科技有限公司から購入、CAS:9006-59-1)を10μg/マウスとし、Al-Mn複合アジュバントを50μg/100μL/マウスとし、アルミニウムアジュバントを50μg/100μL/マウスとした。
実験群:(1)AlMn-001(Mn/Al=0.1)、(2)AlMn-002(Mn/Al=0.25)、(3)AlMn-003(Mn/Al=0.375)。
免疫化レジメン:前記の各薬剤を抗原と同じ体積で混合し、筋肉内注射し、3週間間隔で3回の注射でマウスを免疫化した。マウスを群分けで免疫化した後、19日目、35日目及び56日目に眼窩血を採取した。血清中の抗体価をELISA法で測定した。
【0076】
実験結果、
図7に示すように、実施例1~実施例3で得られた異なるMn/Alモル比を有するAl-Mn複合ナノ結晶群では、1回の注射でマウスを免疫した後、すぐに効果を発揮しただけでなく、用量効果関係の間に明らかな正の相関関係も有した。2回の免疫投与後も、用量効果関係は依然として明らかであった。これは、Al-Mn複合ナノ結晶がOVAワクチンの体液性免疫増強に明らかな効果を有することを示している。
実施例8
【0077】
本出願の実施例には、以下のように、実施例1~3で得られたAl-Mn複合ナノ結晶が新型コロナウイルスSARS-CoV-2RBD組換えサブユニットタンパク質抗原の免疫保護効果を強化する試験を提供する。具体的試験には、以下が含まれる。
実験動物:Balb/Cマウス、6~8週齢、5匹/群、雌。
投与量:抗原を10μg/マウスとし、市販のアルミニウムアジュバントAlum(Invivogen社から購入、CAS:21645-51-2)を100μg/100μl/マウスとし、AlMn-003Al-Mn複合ナノ結晶を100μg/100μl/マウスとした。
実験群:(1)新型コロナウイルスのスパイクタンパク質RBD(単に、「RBD抗原」ともいう。Sino Biological公司から購入、商品番号40592-V08H4);(2)市販のアルミニウムアジュバントAlum+RBD;(3)実施例1~3で得られたAl-Mn複合ナノ結晶+RBD、すなわちAlMn-001+RBD、AlMn-002+RBD、及びAlMn-003+RBD。
免疫化レジメン:(1)群を用いてマウスを免疫した。他の2つの群には市販のアルミニウムアジュバントAlum又は実施形態3で得られたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003を抗原と同じ体積で混合してマウスを免疫した。マウスは、免疫群に従って最初の免疫後3週目に免疫補強され、2回目の注射免疫後14日目に眼窩から採血され、血清中の抗体価が測定された。
【0078】
実験結果、
図8に示すように、抗体価は依然としてAl-Mn複合ナノ結晶中のマンガンの割合の増加とともに増加し、市販のアルミニウムアジュバントの抗体価よりも高かった。Al-Mn複合ナノ結晶は、新型コロナウイルスサブユニットタンパク質抗原に対して良好な免疫増強能力も有した。
実施例9
【0079】
本出願の実施例には、実施例3で得られたAl-Mn複合ナノ結晶によりインフルエンザサブユニットワクチンの防御効果を高める試験を提供する。具体的試験には、以下が含まれる。
調製されたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003をアジュバントとして使用し、インフルエンザH1N1 HA抗原と組み合わせてマウスに注射し、生成された特定のIgG、IgM抗体価を測定した。具体的方法は以下の通りである。
【0080】
実験動物:Balb/Cマウス、6~8週齢、10匹/群、雌。
投与量:H1N1 HA(Sino Biological公司から購入、商品番号40731-V07H)抗原を5μg/マウスとし、市販のアルミニウムアジュバントAlum(Invivogen社から購入、CAS:21645-51-2)を100μg/100μl/マウスとし、AlMn-003Al-Mn複合ナノ結晶を100μg/100μl/マウスとした。
実験群:(1)H1N1 HA抗原;(2)市販のアルミニウムアジュバントAlum+H1N1 HA;(3)実施例3で得られたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003+H1N1 HA;
免疫化レジメン:(1)群を用いてマウスを免疫した。他の2つの群には市販のアルミニウムアジュバントAlum又は実施形態3で得られたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003を抗原と同じ体積で混合してマウスを免疫した。マウスは、群分けに従って最初の免疫後3週目に免疫され、2回目の免疫後2週目に眼窩から採血され、血清中の抗体価が測定された。
【0081】
血清中の抗体価は、マウス血清中のワクチン誘導IgG及びIgMレベルを評価するために、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって測定された。簡単に説明すると、96ウェルマイクロタイトレーションプレートをH1N1 HAでプレコートし、4°Cで一晩インキュベートし、2%BSAで37°Cで2時間ブロッキングした。その後、連続希釈したマウス血清を96ウェルプレートに加え、37°Cで1時間インキュベートした後、PBSで4回洗浄した。結合した抗体を、HRPに複合したヤギ抗マウスIgGと37°Cで1時間反応させた。PBSで4回洗浄した後、基質としての3,3’,5,5’-トラメチルベンジジン(TMB;Sigma)をプレートに加え、0.05%H2SO4を加えて反応を終止させた。450nm及び630nmにおける吸光度をELISA(Tecan,San Jose,CA)で測定した。
【0082】
図9は、本出願の実施例3で調製されたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003又は市販のアルミニウムアジュバントAlumとH1N1 HA抗原を併用してマウスに3週間の間隔で筋肉内注射し、2回目の免疫後2週目に生成された特異的抗体の力価の分析結果を示す。
【0083】
実験結果、
図9Aに示すように、本出願の実施例3で得られたAl-Mn複合ナノ結晶は、市販のアルミニウムアジュバントと比べて、免疫応答をより良く増強し、Al-Mn複合ナノ結晶により生成された抗体価がアルミニウムアジュバントの104倍であった。
【0084】
実験結果、
図9Bに示すように、発明の実施例3で得られたAl-Mn複合ナノ結晶は、市販のアルミニウムアジュバントと比べて、IgMレベルが高く、Al-Mn複合ナノ結晶による抗体価がアルミニウムアジュバントの3倍であった。
【0085】
その後の実施例10~13の測定には、実施例9における異なるワクチンで免疫化されたマウスを使用した。免疫後56日目、5匹マウスを安楽死させ、脾臓及び肺組織を採取し、細胞懸濁液を調製してワクチンの免疫学的有効性を評価するための試験に供した。
実施例10
【0086】
本出願の実施例には、実施例3で得られたAl-Mn複合ナノ結晶及び市販のアルミニウムアジュバントAlumでマウスを免疫した後のELISPOTによる抗原特異的IFN-γのT細胞試験を提供する。具体的試験は以下が含まれる。
1)ELISPOTのプレートをanti-IFN-γ抗体(5μg/ml)で4℃で一晩プレコートした。
2)10%FBSを含むRPMI1640培地を室温で2時間密閉した。
3)実施例9で免疫後の56日目でのマウスの脾臓を200メッシュガーゼですりつぶして単一細胞懸濁液を調製し、ウェルあたり5×105個の細胞を加え、5%CO2、37℃のインキュベーターで24時間インキュベートした。
4)ビオチン化anti-IFN-γ抗体を加え、室温で2時間インキュベートした。
5)HRP架橋化アビジンを添加し、室温で1時間インキュベートした。
6)Immunospot Analyzer ELISPOT readerボードを使用して、Immunospotソフトウェア(v.3.0)でIFN-γ分泌細胞(IFN-γ spot-forming cells,SFC)の数を読み取た。
【0087】
実験結果、
図10に示すように、AlMn-003Al-Mn複合ナノ結晶により、T細胞のγ-IFN分泌が促進され、促進されたγ-IFNの分泌量が市販のアルミニウムアジュバントAlumよりも多かった。市販のアルミニウムアジュバントAlum群は、T細胞のγ-IFN+分泌を促進し、H1N1 HA抗原群に対するPBMC割合が43.5%であった。AlMn-003Al-Mn複合ナノ結晶群は、H1N1 HA抗原群の73%であった。これは、AlMn-003Al-Mn複合ナノ結晶による細胞免疫反応を刺激する効果が優れていることを示している。
実施例11
【0088】
本出願の実施例には、実施例9で収集された、異なるワクチンで免疫化後56日目でのマウスの脾臓組織から抽出された脾臓細胞について、細胞内因子を測定した試験を提供する。具体的試験には、以下が含まれる。
フローサイトメトリーは、2μg/mlタンパク質(H1N1 HAタンパク質)で刺激されたマウス由来の脾臓細胞を使用して、多色細胞内サイトカイン染色アッセイによって行われた。DMSOは、陰性対照(バックグラウンド)として使用された。Golgistop(BD Biosciences)及びBrefeldin A(Sigma)の存在下で、1000万個の細胞を37°C、5%CO2で6時間インキュベートした。活性染料(Invitrogen)としてDAPI-live/dead、抗体として抗CD3、抗CD4、抗CD8、抗CD69、抗CD134及び抗CD137を使用して細胞内サイトカイン染色の測定を行うことで、表面染色のために細胞生存(Biolegend)を評価した。細胞の透過処理を行い、抗IL-2、抗IL-4、抗IFN-γ及び抗TNF-α抗体(Biolegend)で染色した。BD LSR Fortessa(BD Biosciences)により、少なくとも10万~20万個のリンパ球を収集し、FlowJoソフトウェア(Tree Star, Ashland,OR)によって分析した。抗原特異的反応が少なくともバックグラウンドの3倍より大きくて、バックグラウンドより少なくとも0.05%以上高くなった場合は、サンプルは陽性と定義される。
【0089】
図11に示されるように、脾臓中の細胞因子うちのIL-2、IL-4、TNF-α及びIFN-γのレベルが高く、IL-4のレベルがIL-2よりも高かった。なお、IL-2はTh1因子に属し、IL-4はTh2因子に属する。これは、本出願に係るAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003がマクロファージの貪食能力を向上できるIFN-γ因子の分泌を促進でき、またAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003もT細胞の分化、CD8CTLの成熟を促進できることを示している。
実施例12
【0090】
本出願の実施例には、実施例9における異なるワクチンで免疫化後の56日目でのマウスの脾、及び肺記憶B細胞のレベルの試験を提供する。具体的試験には、以下が含まれる。
【0091】
B細胞は、高親和性抗体を産生し、免疫記憶を生成し、抗原提示細胞として機能し、サイトカイン(CCL22、CCL17、IL-2、IL-4、IL-6、IFN-γ、TNF-α、GM-CSF、IL-10、TGF-β1、IL-35を含む)を分泌するものである。記憶B細胞及び血漿B細胞は、例えば免疫グロブリン(Ig)、IgM、IgG和IgEなどの抗体を産生することができる。記憶B細胞の寿命が長く、抗原に再び遭遇するまで休眠状態をしている。抗原に再び遭遇すると、記憶B細胞はその抗原に対する抗体を産生することができる。外来抗原に再曝露されると、記憶B細胞は、再活性化し、抗体を分泌できる形質細胞に分化する。IgGホモ抗体はこれらの形質細胞から分泌され、特定の外来抗原に対して高い親和性を有する。これらのIgG抗体は、ウイルス抗原及び細菌抗原を効果的かつ迅速に中和し、免疫記憶(特に、記憶B細胞及び記憶Tリンパ球からのもの)を含む二次免疫応答の一部となる。
【0092】
そのため、本出願には、実施例3で得られたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003アジュバントとH1N1 HA抗原を配合して免疫したマウスについて、56日目での記憶B細胞レベルを評価した。
【0093】
実施例3で得られたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003とH1N1 HA抗原とを配合して免疫したマウスに対して、56日目での記憶B細胞レベルを測定し、その結果を
図12に示す。記憶B細胞フローの結果によると、Al-Mn複合ナノ結晶群では、脾臓及び肺でより多くの記憶B細胞が誘導され、抗再感染能力が良好であった。
実施例13
【0094】
本出願の実施例には、実施例9における異なるワクチンで免疫化後の56日目でのマウスの脾臓記憶T細胞レベルの試験を提供する。具体的試験には、以下が含まれる。
【0095】
本出願には、記憶CD4+T及びCD8+T細胞が防御免疫の重要な構成要素であり、記憶T細胞応答を効果的に誘導することが慢性感染症に対するワクチンの主な目的であることを考慮して、H1N1 HAワクチンによる免疫後56日目にマウスの記憶T細胞の表現型を調べた。
【0096】
実施例3で得られたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003をH1N1 HA抗原と配合して免疫したマウスに対して、56日目でのCD4+T及びCD8+T細胞レベルを測定した。実験結果を
図13に示す。フローの結果によると、脾臓におけるCD4+T、CD8+T細胞中の記憶T細胞(Tcm)がAl-Mn複合ナノ結晶群で増加した。
実施例14
【0097】
本出願の実施例には、実施例1で得られたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-001の免疫増效剤としての抗腫瘍効果を提供する。具体的には、以下が含まれる。
【0098】
マウスは、体重に応じて無作為にブランク対照群(Ctrl)、OVA対照群、OVAとAlMn-001(ALMN-001-OVA)、及びOVAと市販のアルミニウムアジュバント群(Alum-OVA)という4つの群に分けられた。実験設計に従って、マウスを3回(7日ごとに1回)免疫した後、メラノーマB16-OVAを皮下接種して同所性腫瘍モデルを確立した。
図14Aから14Cに示すように、
図14Aは各群のマウス体重の変化、14Bは各群のマウス腫瘍体積の変化、14Cは各群のマウスの生存率を示している。
図14Aに示すように、各群のマウス体重の変化が大きくなかった。
図14Bに示すように、20日目で、対照群では、マウスの平均腫瘍サイズが1982mm
3であり、市販のアルミニウムアジュバント免疫群では、腫瘍の成長がある程度に抑制され、平均腫瘍サイズが734.9mm
3であったが、本出願に係るAlMn-001を使用すれば腫瘍の成長が効果的に抑制され、免疫マウスの平均腫瘍サイズが201.7mm
3であった。
図14Cに示すように、対照群におけるマウスの最長生存期間は26日であり、市販のアルミニウムアジュバント群における免疫マウスの最長生存期間は43日であったが、AlMn-001免疫群におけるマウスは65日目でまだ一部が生存しており、群内の他のマウスの生存期間も明らかに延長された。この結果から、アルミニウムアジュバントを予め使用すれば腫瘍の成長がわずかに抑制されてマウスの生存率がわずかに向上するのに対して、AlMn-001を予め使用すれば、腫瘍の成長を大幅に抑制し、マウスの生存率を大幅に向上させ、生存期間を大幅に延長することが図れることが示される。AlMn-001は、生体の抗原性腫瘍効果を高めるための腫瘍免疫効果増加剤として使用できる。
実施例15
【0099】
本出願の実施例には、実施例2で得られたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-002をPD-L1抗体と併用して乳癌遠位腫瘍を抵抗する試験を提供する。具体的試験には、以下が含まれる。
【0100】
100μLの4T1細胞(1×105)をBalb/cマウスの右後肢に接種し、同所腫瘍としてマークした。平均腫瘍体積が100mm3に達したとき、マウスを無作為に対照群(Ctrl)、AlMn-002群、PD-L1抗体群(米国Biolegend社から購入、catalog:124329,clone 10F.9G2)、AlMn-002-PD-L1抗体の併用群という4つの群に分けた。尾静脈により(AlMn-002 100μg/次/マウス)を注射した。0日目として記録し、それぞれ1日目、3日目、5日目に各群のマウスに対して対応する治療を行った。各群のマウスの腫瘍の体積を2日ごとに記録した。10日目に、5×104個の4T1細胞をマウスの左後肢に接種し、遠位腫瘍として記録した。両側の腫瘍の体積を25日目まで記録し続けた。
【0101】
この結果を
図15に示す。
図15は、Al-Mn複合ナノ結晶AlMn-002とPD-L1抗体との併用による乳癌遠位腫瘍に対する治療効果を示した。
図15から、Al-Mn複合ナノ結晶AlMn-002とPD-L1抗体との併用は、既存の腫瘍の成長を明らかに抑制できただけでなく、新しい腫瘍の成長も明らかに抑制できたことが分かった。
実施例16
【0102】
本出願の実施例には、実施例3で得られたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003とメトホルミン(Met)との併用による抗肝臓癌腫瘍試験を提供する。具体的試験には、以下が含まれる。
【0103】
100μLのHepG2細胞(1×105)をBalb/cマウスの右後肢に接種した。平均腫瘍体積が100mm3に達したとき、マウスを無作為に対照群(Ctrl)、AlMn-003群、メトホルミン(Met、meilunbio公司から購入、CAS:657-24-9)群、AlMn-003-Met併用群という4つの群に分けた。尾静脈により(AlMn-003 100μg/次/マウス)を注射した。0日目として記録し、それぞれ1日目、3日目、5日目に各群のマウスに対して対応する治療を行った。各群のマウスの腫瘍の体積を2日ごとに記録した。
【0104】
この結果を
図16に示す。
図16は、肝臓癌腫瘍モデルに対するAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-003とMet抗体との併用の治療効果を示した。
図16から、肝臓癌腫瘍モデルに対して、Al-Mn複合ナノ結晶AlMn-003とMet抗体との併用が腫瘍の増殖に明らかに阻害効果を持っていることが分かった。
実施例17
【0105】
本出願の実施例は、実施例1で得られたAl-Mn複合ナノ結晶AlMn-001が転移性腫瘍の成長を阻害する試験を提供する。具体的試験には、以下が含まれる。
【0106】
マウス4T1乳がんモデルを確立した。担癌マウスをランダムに3つの群にした。それぞれに(1)生理食塩水、(2)パクリタキセル(上海吉至生化科技有限公司から購入、CAS:33069-62-4)、及び(3)AlMn-001-パクリタキセルを腫瘍内に注射した。各群では、2日ごとに1回の治療を行い、治療を3回行った。10日目に、肺転移を誘発するため、4×10
5個の4T1細胞を含む100μLのPBSを尾静脈に注射した。28日目に、マウスを殺し、肺組織を摘出した。この結果を
図17に示す。
図17は、AlMn-001とパクリタキセルとを併用して肝臓癌転移を治療した効果(最左端がブランク対照群、中間がパクリタキセルのみ群、再右端がAlMn-001とパクリタキセルとの併用治療群)を示す。その結果、ブランク対照群マウスの肺の上には転移腫瘍病変がいっぱいに成長し、パクリタキセルのみで治療したマウスの肺の上には一定数の転移腫瘍病変が見られたが、AlMn-001を使用して治療したマウスの肺の上にはほとんど腫瘍が見られなかった。この結果は、AlMn-001が免疫増強剤として使用され、生体の抗転移効果を高めることができることを示している。
【0107】
このように、本出願に係るAl-Mn複合ナノ結晶は、市販のアルミニウムアジュバントと同様の使いやすさを有し、市販のアルミニウムアジュバントよりも低い濃度で、より優れたDC細胞活性化効果、より優れた抗原提示効果、より優れた抗原細胞取り込みの促進、及びリソソーム脱出効果を有し、同時に体液性免疫及び細胞性免疫を活性化することができる。さらに、腫瘍免疫治療の効果を強力に増加する能力も有し、免疫治療効果を向上させるための併用免疫療法剤の送達システムとして使用することができる。
【0108】
以上の記載は、本発明の好適な実施形態に過ぎなく、なお、当業者にとって、本発明の原理から逸脱することなく、いくつかの改善及び修正を行い得、これらの改善及び修正も本発明の保護範囲に含まれたものとみなされることに留意する必要がある。
【手続補正書】
【提出日】2024-06-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム塩溶液と、マンガン塩溶液と、アニオン性助剤溶液とを混合して混合物を得、前記混合物のpHが5.5~8.5になるように調整する工程1と、
前記混合物を加熱して反応させ、得られた固体生成物を洗浄してAl-Mn複合ナノ結晶を得る工程2と、を含むことを特徴とする、Al-Mn複合ナノ結晶の製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウム塩溶液の溶質が、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、及び酢酸アルミニウムからなる群より選択される一種又は複数種であり、
前記アルミニウム塩溶液の溶媒が、醋酸ナトリウム溶液、生理食塩水、水、及びエタノールからなる群より選択される一種又は複数種であり、
前記マンガン塩溶液の溶質が、塩化マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、及び酢酸マンガンからなる群より選択される一種又は複数種であり、
前記マンガン塩溶液の溶媒が、水、生理食塩水、及びエタノールからなる群より選択される一種又は複数種であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記アニオン性助剤溶液の溶質が、有機酸塩又は/及びアミノ酸であり、
前記アニオン性助剤溶液の溶媒が、水、生理食塩水、及びエタノールからなる群より選択される一種又は複数種であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記有機酸塩が、クエン酸又は/及びサリチル酸であり、
前記アミノ酸が、システイン、シスチン、チロシン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸からなる群より選択される一種又は複数種であることを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記混合物においては、前記アルミニウム塩溶液のアルミニウム元素と前記マンガン塩溶液のマンガン元素とのモル比が1:(0.05~1)であり、前記アニオン性助剤の濃度と金属イオン総濃度(ただし、金属イオン総濃度は前記アルミニウム塩溶液と前記マンガン塩溶液の濃度との合計である)との比が(0.1~10):1であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
工程2においては、前記加熱反応を60℃~130℃とし、前記加熱反応の時間を0.5~20hとすることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法によって製造されたAl-Mn複合ナノ結晶を含むことを特徴とする、Al-Mn複合ナノ結晶。
【請求項8】
ワクチンアジュバント、免疫増強剤、医薬組成物、薬物送達用キャリア、又は免疫原性組成物の製造における
、請求項7に記載のAl-Mn複合ナノ結晶の使用。
【請求項9】
請求項7に記載のAl-Mn複合ナノ結晶と抗腫瘍疾患の治療薬とを含むことを特徴とする抗腫瘍用医薬組成物。
【請求項10】
抗原と請求項7に記載のAl-Mn複合ナノ結晶とを含むことを特徴とするワクチン組成物。
【国際調査報告】