(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】T細胞受容体、その製造方法、及び使用
(51)【国際特許分類】
C07K 14/725 20060101AFI20250109BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20250109BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20250109BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250109BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20250109BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250109BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20250109BHJP
A61K 35/17 20250101ALI20250109BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250109BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20250109BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20250109BHJP
【FI】
C07K14/725 ZNA
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N5/10
A61K38/17
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/17
A61P35/00
A61P37/04
C12N5/0783
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024540916
(86)(22)【出願日】2022-12-29
(85)【翻訳文提出日】2024-07-04
(86)【国際出願番号】 CN2022143567
(87)【国際公開番号】W WO2023131053
(87)【国際公開日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】202210005890.X
(32)【優先日】2022-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524255106
【氏名又は名称】蘇州系統医学研究所
【氏名又は名称原語表記】SUZHOU INSTITUTE OF SYSTEMS MEDICINE
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 貴登
(72)【発明者】
【氏名】程 洪成
(72)【発明者】
【氏名】邱 雅静
(72)【発明者】
【氏名】許 悦
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA02
4C084NA14
4C084ZB09
4C084ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
T細胞受容体の構築及びその使用を提供する。T細胞受容体のα鎖及びβ鎖の細胞内定常領域部位の突然変異を利用して、TCR抗原信号が活性化された後のT細胞受容体の分解を阻害し、細胞の表面のTCRレベルを維持し、TCR-T細胞療法の効果を高める。該方法は、様々なTCR-T細胞療法に適している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TCR α鎖とTCR β鎖を含む、単離されたT細胞受容体又はその断片であって、
前記TCR β鎖は、TCR β鎖可変領域とTCR β鎖定常領域を含み、前記TCR β鎖定常領域は、順に連結されたTCR β鎖細胞外定常領域、TCR β鎖膜貫通領域、及びTCR β鎖細胞内定常領域を含み、前記TCR β鎖細胞内定常領域は、
(1)野生型TCR β鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのリジンがアルギニン又はアラニンに突然変異した突然変異TCR β鎖細胞内定常領域、又は
(2)SEQ ID NO:10で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる突然変異TCR β鎖細胞内定常領域から選択される、ことを特徴とするT細胞受容体又はその断片。
【請求項2】
前記野生型TCR β鎖細胞内定常領域は、
(1)ヒト、マウス又は他の哺乳動物種に由来する野生型TCR β鎖細胞内定常領域、又は
(2)SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:47又はSEQ ID NO:48で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる野生型TCR β鎖細胞内定常領域から選択される、ことを特徴とする請求項1に記載の単離されたT細胞受容体。
【請求項3】
前記TCR α鎖はTCR α鎖定常領域を含み、前記TCR α鎖定常領域は、順に連結されたTCR α鎖細胞外定常領域、TCR α鎖膜貫通領域、及びTCR α鎖細胞内定常領域を含み、前記TCR α鎖細胞内定常領域は、
(1)ヒト、マウス又は他の哺乳動物種に由来する野生型TCR α鎖細胞内定常領域、
(2)SEQ ID NO:3で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる野生型TCR α鎖細胞内定常領域、
(3)(1)又は(2)に記載の野生型TCR α鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのセリンがアラニンに突然変異した突然変異TCR α鎖細胞内定常領域、又は
(4)SEQ ID NO:4で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる突然変異TCR α鎖細胞内定常領域から選択され、
任意選択で 、前記TCR α鎖は、TCR α鎖可変領域をさらに含む、ことを特徴とする請求項1~2のいずれか1項に記載の単離されたT細胞受容体。
【請求項4】
TCR α鎖とTCR β鎖を含む、単離されたT細胞受容体又はその断片であって、
前記TCR α鎖は、TCR α鎖可変領域とTCR α鎖定常領域を含み、前記TCR α鎖定常領域は、順に連結されたTCR α鎖細胞外定常領域、TCR α鎖膜貫通領域、及びTCR α鎖細胞内定常領域を含み、前記TCR α鎖細胞内定常領域は、
(1)野生型TCR α鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのセリンがアラニンに突然変異した突然変異TCR α鎖細胞内定常領域、又は
(2)SEQ ID NO:4で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる突然変異TCR α鎖細胞内定常領域から選択される、ことを特徴とするT細胞受容体又はその断片。
【請求項5】
前記野生型TCR α鎖細胞内定常領域は、
(1)ヒト、マウス又は他の哺乳動物種に由来する野生型TCR α鎖細胞内定常領域、又は
(2)SEQ ID NO:3で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる野生型TCR α鎖細胞内定常領域から選択される、ことを特徴とする請求項4に記載の単離されたT細胞受容体。
【請求項6】
前記TCR β鎖はTCR β鎖定常領域を含み、前記TCR β鎖定常領域は、順に連結されたTCR β鎖細胞外定常領域、TCR β鎖膜貫通領域、及びTCR β鎖細胞内定常領域を含み、前記TCR β鎖細胞内定常領域は、
(1)ヒト、マウス又は他の哺乳動物種に由来する野生型TCR β鎖細胞内定常領域、
(2)SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:47又はSEQ ID NO:48で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる野生型TCR β鎖細胞内定常領域、
(3)(1)又は(2)に記載の野生型TCR β鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのリジンがアルギニン又はアラニンに突然変異した突然変異TCR β鎖細胞内定常領域、又は
(4)SEQ ID NO:10で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる突然変異TCR β鎖細胞内定常領域から選択され、
任意選択で、前記TCR β鎖はTCR β鎖可変領域をさらに含む、ことを特徴とする請求項4~5のいずれか1項に記載の単離されたT細胞受容体。
【請求項7】
前記単離されたT細胞受容体は、ポリペプチド系抗原、脂質系抗原、又は多糖系抗原を認識する、ことを特徴とする前記請求項のいずれか1項に記載の単離されたT細胞受容体。
【請求項8】
前記単離されたT細胞受容体は、腫瘍抗原、微生物抗原、又は自己抗原を認識する、ことを特徴とする前記請求項のいずれか1項に記載の単離されたT細胞受容体。
【請求項9】
前記単離されたT細胞受容体は、BCMA、CA9、CTAG、CCL-1、CSPG4、EGFR、EPG-2、EPG-40、FCRL5、FBP、OGD2、GPC3、GPRC5D、HER3、HER4、HLA-A1、HLA-A2、LRRC8A、CMV、MUC1、MUC16、MART-1、NCAM、PRAME、PSCA、PSMA、ROR1、TPBG、TAG72、TRP1、TRP2、VEGFR、VEGFR2、WT-1、MAGE-A1/A3/A4/A6/A10/C2、gp100、CEA、NYESO-1、AFP、MART-1、HERV-E、HER2、LMP1/2、BRLF-1、BMLF-1、HPV-16E6/E7、KRAS G12D、KRAS G12V、TP53 R175H、β-GlcCer、eLPA、LPE、CA199、CA72-4、又はCA125のうちの1種又は複数種の抗原、好ましくはMAGE-A1/A3/A4/A6/A10/C2、gp100、CEA、NYESO-1、AFP、MART-1、HERV-E、HER2、LMP1/2、BRLF-1、BMLF-1、HPV-16E6/E7、KRAS G12D、KRAS G12V、TP53 R175H、β-GlcCer、eLPA、LPE、CA199、CA72-4、又はCA125のうちの1種又は複数種の抗原を認識する、ことを特徴とする請求項8に記載の単離されたT細胞受容体。
【請求項10】
前記TCR β鎖可変領域は、
(1)SEQ ID NO:17で示されるアミノ酸配列に含まれる3つの相補性決定領域CDRを含むTCR β鎖可変領域、
(2)SEQ ID NO:25で示されるアミノ酸配列に含まれる3つの相補性決定領域CDRを含むTCR β鎖可変領域、
(3)SEQ ID NO:18で示されるアミノ酸配列のCDR1、SEQ ID NO:19で示されるアミノ酸配列のCDR2及び/又はSEQ ID NO:20で示されるアミノ酸配列のCDR3を含むTCR β鎖可変領域、
(4)SEQ ID NO:26で示されるアミノ酸配列のCDR1、SEQ ID NO:27で示されるアミノ酸配列のCDR2及び/又はSEQ ID NO:28で示されるアミノ酸配列のCDR3を含むTCR β鎖可変領域、
(5)SEQ ID NO:17で示されるアミノ酸配列を含むか、又は当該アミノ酸配列からなるTCR β鎖可変領域、又は
(6)SEQ ID NO:25で示されるアミノ酸配列を含むか、又は当該アミノ酸配列からなるTCR β鎖可変領域から選択される、ことを特徴とする前述請求項のいずれか1項に記載の単離されたT細胞受容体。
【請求項11】
前記TCR α鎖可変領域は、
(1)SEQ ID NO:13で示されるアミノ酸配列に含まれる3つの相補性決定領域CDRを含むTCR α鎖可変領域、
(2)SEQ ID NO:21で示されるアミノ酸配列に含まれる3つの相補性決定領域CDRを含むTCR α鎖可変領域、
(3)SEQ ID NO:14で示されるアミノ酸配列のCDR1、SEQ ID NO:15で示されるアミノ酸配列のCDR2及び/又はSEQ ID NO:16で示されるアミノ酸配列のCDR3を含むTCR α鎖可変領域、
(4)SEQ ID NO:22で示されるアミノ酸配列のCDR1、SEQ ID NO:23で示されるアミノ酸配列のCDR2及び/又はSEQ ID NO:24で示されるアミノ酸配列のCDR3を含むTCR α鎖可変領域、
(5)SEQ ID NO:13で示されるアミノ酸配列を含むか、又は当該アミノ酸配列からなるTCR α鎖可変領域、又は
(6)SEQ ID NO:21で示されるアミノ酸配列を含むか、又は当該アミノ酸配列からなるTCR α鎖可変領域から選択される、ことを特徴とする前述請求項のいずれか1項に記載の単離されたT細胞受容体。
【請求項12】
以下の特徴のうちの1つ又は複数を含む、前述請求項のいずれか1項に記載の単離されたT細胞受容体。
(1)前記TCR α鎖細胞外定常領域は、ヒト、マウス又は他の哺乳動物種のTCR α鎖細胞外定常領域に由来する。
(2)前記TCR α鎖細胞外定常領域は、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO:1のアミノ酸配列と比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の突然変異を有するアミノ酸配列、又はSEQ ID NO:1のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性を有するアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる。
(3)前記TCR α鎖膜貫通領域は、ヒト、マウス又は他の哺乳動物種のTCR α鎖膜貫通領域に由来する。
(4)前記TCR α鎖膜貫通領域は、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO:2のアミノ酸配列と比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の突然変異を有するアミノ酸配列、又はSEQ ID NO:2のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性を有するアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる。
(5)前記TCR β鎖細胞外定常領域は、ヒト、マウス又は他の哺乳動物種のTCR β鎖細胞外定常領域に由来する。
(6)前記TCR β鎖細胞外定常領域は、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO:7のアミノ酸配列と比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の突然変異を有するアミノ酸配列、又はSEQ ID NO:7のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性を有するアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる。
(7)前記TCR β鎖膜貫通領域は、ヒト、マウス又は他の哺乳動物種のTCR β鎖膜貫通領域に由来する。
(8)前記TCR β鎖膜貫通領域は、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO:8のアミノ酸配列と比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の突然変異を有するアミノ酸配列、又はSEQ ID NO:8のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性を有するアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる。
【請求項13】
前記TCR α鎖定常領域及びTCR β鎖定常領域は、
(1)前記TCR α鎖定常領域は、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなり、前記TCR β鎖定常領域は、SEQ ID NO:12のアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなるもの、
(2)前記TCR α鎖定常領域は、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなり、前記TCR β鎖定常領域は、SEQ ID NO:12のアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなるもの、又は
(3)前記TCR α鎖定常領域は、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなり、前記TCR β鎖定常領域は、SEQ ID NO:11のアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなるものから選択される、ことを特徴とする前述請求項のいずれか1項に記載の単離されたT細胞受容体。
【請求項14】
シグナルペプチドをさらに含み、前記シグナルペプチドは、TCR α鎖可変領域及び/又はTCR β鎖可変領域とシグナルペプチド-可変領域構造を形成する、前述請求項のいずれか1項に記載の単離されたT細胞受容体。
【請求項15】
前記シグナルペプチドは、ヒト成長ホルモンシグナルペプチド、CD8αシグナルペプチド又は免疫グロブリンシグナルペプチドである、ことを特徴とする請求項14に記載の単離されたT細胞受容体。
【請求項16】
前述請求項のいずれか1項に記載の単離されたT細胞受容体又はその断片をコードする、単離された核酸又はその断片。
【請求項17】
請求項16に記載の単離された核酸又はその断片を含む、核酸構築物。
【請求項18】
請求項17に記載の核酸構築物を含む、ベクター。
【請求項19】
発現ベクター又はcrisper遺伝子編集ベクター、好ましくはレトロウイルスベクターである、請求項18に記載のベクター。
【請求項20】
請求項17に記載の核酸構築物、又は請求項18~19のいずれか1項に記載のベクターを含む、工学的細胞。
【請求項21】
T細胞、例えばヒトT細胞である、請求項20に記載の工学的細胞。
【請求項22】
工学的細胞の生産方法であって、
請求項17に記載の核酸構築物又は請求項18~19のいずれか1項に記載のベクターを用いて宿主細胞への形質転換又は形質導入を行うステップ(1)と、
適切な培地にて宿主細胞を培養するステップ(2)と、
培地又は細胞から工学的細胞を単離して精製するステップ(3)と、を含む、生産方法。
【請求項23】
(1)抗原刺激中のT細胞受容体の分解阻害、
(2)腫瘍に対する殺傷効果の提供、又は腫瘍の成長阻害、
(3)T細胞の増殖能維持、及び
(4)抗腫瘍免疫薬及び細胞の調製のうちの1つ又は複数の用途における、前記請求項のいずれか1項に記載の前記単離されたT細胞受容体又はその断片、核酸又はその断片、核酸構築物、ベクター又は工学的細胞の使用。
【請求項24】
T細胞受容体の改変方法であって、
野生型TCR β鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのリジンをアルギニン又はアラニンに突然変異するステップ(1)、及び/又は
野生型TCRα鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのセリンをアラニンに突然変異するステップ(2)を含む、T細胞受容体の改変方法。
【請求項25】
(1)前記野生型TCR β鎖細胞内定常領域は、請求項2に記載の野生型TCR β鎖細胞内定常領域から選択される、及び/又は
(2)前記野生型TCR α鎖細胞内定常領域は、請求項5に記載の野生型TCR α鎖細胞内定常領域から選択される、ことを特徴とする請求項24に記載のT細胞受容体の改変方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、T細胞受容体の分野に関し、具体的には、改変されたT細胞受容体の構築及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍は、人間の健康と生命を深刻に脅かしており、人間の死の主な原因の1つであり、その発生率は年々増加している。従来のがん治療法は、外科的治療を主とし、放射線療法と化学療法を補助とする。従来の治療法と比較して、腫瘍免疫療法は、免疫系を標的とし、腫瘍に対する全身反応を刺激するものである。さらに、臨床データは、腫瘍免疫療法が特定の腫瘍タイプの患者の予後を大幅に改善できることを示している。抗原特異的T細胞の養子移入は腫瘍免疫療法の主要な方法の1つであり、血液腫瘍及び固形腫瘍の治療のために研究されている。これは、主に、様々な腫瘍抗原を認識できるT細胞表面のT細胞受容体に基づいており、それによって腫瘍細胞の殺傷と除去を実現する。
【0003】
現段階でさらに研究が進められているT細胞養子療法には、主にCAR-T細胞療法とTCR-T療法が含まれる。このうち、CAR-Tは、特定の腫瘍抗原を認識する抗体の抗原結合部分がインビトロでCD3-ζ鎖に結合してキメラタンパク質を形成し、遺伝子導入によってこのキメラタンパク質を患者のT細胞にトランスミッションし、患者のT細胞にキメラ抗原受容体を発現させるものである。患者のT細胞が「再コード化」されると、多数の腫瘍T細胞が生成され、それによって腫瘍殺傷作用が果たされる。TCR-T療法では、T細胞は、標的細胞の表面にある主要組織適合性複合体(MHC:Major Histocompatibility Complex)によって提示される抗原を、その表面のTCRで認識し、それによって標的細胞を直接攻撃して殺傷する。これは、天然のTCRに基づいた、又はTCRの弱い変改により開発されたT細胞治療技術である。腫瘍細胞の表面上の主要組織適合性複合体分子によって提示される腫瘍エピトープを認識する能力があるため、より幅広い適用可能性がある。
【0004】
TCR-T細胞療法の標的は、T細胞の表面に発現する抗原TCRに依存し、TCRはT細胞の表面にある受容体であり、非共有結合を介してCD3に結合してTCR-CD3複合体を形成し、MHCによって提示される抗原を認識して結合することによってT細胞を活性化し、T細胞の分裂と分化を促進する。CARとは異なり、ほとんどのTCRはα鎖とβ鎖で構成されるヘテロ二量体であり、α鎖とβ鎖の両方に抗原結合領域、定常領域、及び膜貫通ドメインが含まれている。これらのα鎖とβ鎖は、各鎖の所定の領域内に位置する保存システイン残基間のジスルフィド結合によって共有結合している。CAR-T療法と比較して、TCR-Tは、ほとんどの細胞内抗原を標的とすることができ、表面抗原に限定されないものではなく、つまり、TCR-Tは、ほとんどの腫瘍抗原を標的としており、特に腫瘍細胞の細胞内抗原を認識することができる。したがって、T細胞受容体による腫瘍の認識範囲は、抗体医薬品や抗体に依存して腫瘍を認識するCAR-Tの範囲よりも広い。さらに、CAR-Tは固形腫瘍の治療において欠陥があり、TCR-T技術はこの問題を解決すると期待されている。
【0005】
現在、TCR-Tによる腫瘍治療の効果を改善又は強化するために、様々なTCR-T最適化及び改良方法がある。これらの方法は、主に、T細胞が腫瘍抗原に結合する「プローブ」であるTCRを改変することにより、腫瘍細胞に対するT細胞の認識プロセスを強化し、腫瘍細胞に対するTリンパ球の親和性を向上させ、これにより、もともと腫瘍認識能力を持たなかったT細胞が効率よく腫瘍細胞を認識して殺傷することができるようにするものである。具体的には、次のものが含まれる。
【0006】
(1)外因性TCRの発現を増加させ、TCR-Tの抗腫瘍効果を強化する。a.TCR定常領域のマウス化:遺伝子工学的手法を使用してTCR定常領域をマウス化することで、内因性及び外因性のTCRミスマッチを軽減又は防止し、外因性TCRの優先的なペアリングを促進し、それによってT細胞表面抗原の発現レベルを向上させ、TCR-Tの抗腫瘍効果を高める。b.TCR定常領域システイン挿入法:システインをTCR α鎖とβ鎖の定常領域に導入することにより、外因性TCRの優先的なペアリングを促進し、外因性TCRの表面発現レベルを向上させ、内因性TCR鎖とのミスマッチを減少させる。この方法により、腫瘍反応性T細胞の有効性と安全性を向上させることができる。c.TCR膜貫通領域への疎水性突然変異の挿入:TCRα鎖の膜貫通領域の疎水性を高めることでTCRの安定性を向上させ、T細胞表面でのTCR発現を向上させ、それにより細胞親和性と抗腫瘍TCR活性を向上させる。
【0007】
(2)外因性TCRの腫瘍抗原への親和性を向上させる。合成T細胞受容体及び抗原受容体法(STAR:synthetic T cell receptor and antigen receptor):抗体の抗原結合領域のVHとVLをそれぞれTCRαβ定常領域に挿入することで、CARの高い親和性とTCR複合体の高いシグナル伝達能を併せ持ち、TCR-Tの抗腫瘍効果を高める。
【0008】
修飾TCR-T細胞養子療法は、転移性黒色腫やその他の悪性腫瘍の治療で良好な結果を達成しているが、腫瘍の治療には依然として多くの限界がある。
【0009】
(1)T細胞の機能不全:a.腫瘍微小環境内での継続的な抗原刺激は、PD-1、Lag-3、CD39やTIM-3などの阻害性受容体の発現向上など、CD8+T細胞の枯渇を引き起こす。b.低酸素及び低pHの腫瘍微小環境は、IFN-γ、TNF-αなどの炎症誘発性サイトカインの分泌レベルの低下、T細胞の増殖及び自己複製能力の低下、代謝活動障害など、T細胞エフェクター機能の進行性の喪失を引き起こす。
【0010】
(2)T細胞表面のTCRの発現レベルが低下する。腫瘍微小環境における抗原刺激により、CD8+T細胞表面での外因性TCRの発現が低下し、又は分解が促進され、腫瘍細胞を攻撃するのに十分なTCR-T細胞が存在しなくなる。
【0011】
(3)治療毒性は臨床治療中に存在する。現在、TCR-Tが標的とする抗原には腫瘍組織が存在することはほとんどないため、治療中に腫瘍を標的とした腫瘍外毒性が発生する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のTCR-T細胞療法のいくつかの技術上の欠点に対して、本願の目的は、分解を阻害することができるT細胞受容体を提供し、TCR-T細胞の抗腫瘍効果を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様では、本願は、T細胞受容体(TCR)の単離されたTCR α鎖又はその断片を提供し、前記TCR α鎖は、TCR α鎖定常領域を含み、前記TCR α鎖定常領域は、順に連結されたTCR α鎖細胞外定常領域、TCR α鎖膜貫通領域、及びTCR α鎖細胞内定常領域を含み、前記TCR α鎖細胞内定常領域は、突然変異TCR α鎖細胞内定常領域であり、前記突然変異TCR α鎖細胞内定常領域は、野生型TCR α鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのセリンがアラニンに突然変異したものである。
【0014】
別の態様では、本願は、T細胞受容体(TCR)の単離されたTCR β鎖又はその断片を提供し、前記TCR β鎖は、TCR β鎖定常領域を含み、前記TCR β鎖定常領域は、順に連結されたTCR β鎖細胞外定常領域、TCR β鎖膜貫通領域、及びTCR β鎖細胞内定常領域を含み、前記TCR β鎖細胞内定常領域は、突然変異TCR β鎖細胞内定常領域であり、前記突然変異TCR β鎖細胞内定常領域は、野生型TCR β鎖細胞内定常領域のうちの少なくとも1つのリジンがアルギニン又はアラニンに突然変異したものである。
【0015】
別の態様では、本願は、前述の何れかに記載のTCR α鎖及び/又はTCR β鎖を含む、単離されたT細胞受容体又はその断片を提供する。
【0016】
別の態様では、本願は、1種又は複数種のT細胞受容体、例えばF5-WT TCR、F5-SA TCR、F5-KR TCR又はF5-dMUT TCR、例えば1G4-WT TCR、1G4-SA TCR、1G4-KR TCR又は1G4-dMUT TCRを提供する。
【0017】
別の態様では、本願は、前述の何れかの単離されたTCR α鎖又はその断片、TCR β鎖若しくはその断片、又はT細胞受容体若しくはその断片をコードする、単離された核酸又はその断片を提供する。
【0018】
別の態様では、前述の何れかの単離された核酸又はその断片を含む、本願は、核酸構築物を提供する。
【0019】
別の態様では、本願は、前述の何れかの核酸構築物を含む、ベクターを提供する。
【0020】
別の態様では、本願は、前述の何れかの核酸構築物又はベクターを含む、工学的細胞を提供する。
【0021】
別の態様では、本願はまた、本願の前述の何れかのTCR核酸構築物がT細胞で産生するTCR複合体を提供する。
【0022】
別の態様では、本願は、TCR-T細胞のインビトロ培養における機能検出を提供する。
【0023】
別の態様では、本願は、
(1)抗原刺激中のT細胞受容体の分解阻害、
(2)腫瘍に対する殺傷効果の提供、又は腫瘍の成長阻害、
(3)T細胞の増殖能維持、及び
(4)抗腫瘍免疫薬及び細胞の調製のうちの1つ又は複数の用途における、前述の何れかの単離されたTCR α鎖又はその断片、TCRβ鎖又はその断片、T細胞受容体又はその断片、核酸又はその断片、核酸構築物、ベクター又は工学的細胞の使用を提供する。
【0024】
別の態様では、本願による突然変異TCR-T細胞療法は、単独で使用される、他の療法と併用されるか、又はPD-1/PD-L1抗体、サイトカイン療法若しくは放射線療法と化学療法と併用される。
【0025】
別の態様では、本願は、
野生型TCR β鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのリジンをアルギニン又はアラニンに突然変異するステップ(1)、及び/又は
野生型TCRα鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのセリンをアラニンに突然変異するステップ(2)を含む、T細胞受容体の改変方法を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本願では、T細胞受容体のα鎖及びβ鎖細胞内定常領域のユビキチン化修飾部位の突然変異を利用して、TCR抗原シグナル活性化後のT細胞受容体の分解を阻害し、細胞表面のTCRレベルを維持する。この方法は、様々なTCR-T細胞療法に適用できる。
【0027】
一方、抗原刺激後、WT TCR細胞(野生型TCR細胞)と比較して、SA TCR、KR TCR、及びdMUT TCR細胞は、細胞表面のTCR発現がより多く、インビトロ培養の過程で、SA TCR、KR TCR、及びdMUT TCR細胞は、セントラルメモリーT細胞への分化表現型を示し、インビトロ枯渇モデルにより、WT TCRと比較して、KR TCRとdMUT TCR細胞の枯渇レベルがより低く、この表現型の変化は、SA TCR、KR TCR、及びdMUT TCR細胞内の健康なミトコンドリア状態のおかげであり、この結果、インビトロで培養された突然変異体TCR-T細胞がより低いミトコンドリア膜電位とROSレベルを示した。一方、本願では、マウス移植腫瘍-T細胞養子モデルにより、WT TCRよりもKR TCR及びdMUT TCR細胞に強い抗腫瘍効果があることや、dMUT TCR突然変異体群ではマウスの脾臓及び血液中にはTCR-T細胞がより多く存在するのに対し、腫瘍組織には、KR TCR及びdMUT TCR細胞数の割合が顕著に増加していることを明らかにした。細胞表現型に関しては、SA TCR、KR TCR、及びdMUT TCR群では、マウスの脾臓にはセントラルメモリーT細胞がより多く蓄積され、腫瘍組織にはdMUT突然変異TCR-T細胞がより低いT細胞枯渇表現型及び増殖能を示した。したがって、KR TCR及びdMUT TCR細胞は、TCR-T細胞を同量導入した療法では、より優れた腫瘍増殖阻害の潜在力を示している。
【0028】
理解されるように、本願は、TCR細胞内定常領域のアミノ酸の突然変異によって、TCRの分解を阻害するだけでなく、TCR-T細胞療法の効果も高め、固形腫瘍に限定されず、血液腫瘍又はリンパ腫であってもよい腫瘍の成長を効果的に阻害することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】抗原刺激は細胞表面TCRの分解を促進する。(A)K562-NYESO-1を接種した担癌マウスでは、1G4-TCR-T細胞を導入してから12日後、脾臓及び腫瘍中のTCR-T細胞表面TCRの発現を検出する。(B)インビトロ機能実験はすべてヒト初代T細胞上で行った。1G4-TCR-T細胞をインビトロで培養し、それぞれK562-NYESO-1及びK562-MART-1細胞とそれぞれ12時間共インキュベートし、TCRの分解を検出する。(C)活性化したF5-TCR-T細胞をインビトロで培養し、CD3抗体刺激12時間後、TCRの分解を検出する。(D)活性化した1G4-TCR-T細胞をインビトロで培養し、CD3抗体刺激12時間後、TCRの分解を検出する。
【
図2】突然変異によるTCRのダウンレギュレーション及び分解の阻害結果を示す図である。インビトロ機能実験はすべてヒト初代T細胞上で行った。(A)分解が阻害されたTCR突然変異の模式図。(B)突然変異後の1G4-TCRのヒト初代T細胞での発現。(C)インビトロで活性化された各突然変異F5-TCR-T細胞をCD3抗体刺激12時間後、各TCRの分解を検出する(「R」はCD3抗体刺激なし、「S」はCD3抗体刺激あり)。(D)インビトロで活性化された各突然変異1G4-TCR-T細胞をCD3抗体刺激12時間後、各TCRの分解を検出する(「R」はCD3抗体刺激なし、「S」はCD3抗体刺激あり)。(E)インビトロで活性化された各突然変異1G4-TCR-T細胞をCD3抗体で様々な時間だけ刺激し、各TCRの発現を検出する。
【
図3】突然変異による1G4-TCR-T細胞のインビトロ機能への影響を示す図である。インビトロ機能実験はすべてヒト初代T細胞上で行った。(A)インビトロで活性化されたTCR-T細胞について、CD45ROとCD27をメモリーT細胞分化指標とし、フローサイトメトリー検出を行った。(B)活性化した1G4-TCR-T細胞について、メモリーT細胞分化指標CD62Lを検出する。(C)インビトロで活性化された1G4-TCR-T細胞について、メモリーT細胞分化指標TCF-1を検出した。(D)インビトロ枯渇モデルを用いて、各突然変異体TCR-T細胞枯渇分子LAG-3の発現を検出する。(E)インビトロ枯渇モデルを用いて、TCR-T細胞枯渇の重要な転写因子TOXの発現を検出する。(F)インビトロ枯渇モデルを用いて、突然変異体TCR-Tサイトカインの産生を検出する。
【
図4】各突然変異1G4-TCR-T細胞のミトコンドリア機能状態を比較した図である。インビトロ実験はすべてヒト初代T細胞上で行った。(A)各TCR-T細胞のインビトロ活性化12日後、細胞内のミトコンドリア数を検出する。(B)突然変異後の1G4-TCR-T細胞内のミトコンドリア膜電位の変化を検出する。(C)インビトロで活性化された1G4-TCR-T細胞について、その細胞内ミトコンドリアのROS産生レベルを検出する。(D)各TCR-T細胞のインビトロ活性化12日後、2-NBDG処理後、FACSフローサイトメトリー分析により、TCR-T細胞のグルコースの取り込みを検出する。(E)Bodipy FL C16の取り込み実験により、各突然変異群のTCR-T細胞の細胞外脂肪酸の利用効率を検出する。
【
図5】各突然変異1G4-TCR-T細胞の抗腫瘍効果を比較した図である。(A)1G4-TCR-T細胞を接種したK562-NYESO-1 NSG担癌マウスについて様々な時点での腫瘍サイズを統計した図である。K562-NYESO-1 NSG担癌マウスにT細胞を導入した後、12日目に各突然変異群の腫瘍組織の重量(B)を検出し、また、担癌マウスの血液(C)、脾臓(D)及び腫瘍組織(E)中に導入されたTCR-T細胞の割合を検出する。
【
図6】マウスにおける1G4-TCR-T細胞の機能に対する突然変異の影響を示す図である。(A)NSG担癌マウスの脾臓では、CD45ROとCD27をメモリーT細胞分化指標とし、各突然変異群に対してフローサイトメトリー検出を行った。(B)NSG担癌マウスの腫瘍組織内で、各突然変異群のメモリーT細胞分化指標CD62Lの発現を検出する。(C)NSG担癌マウスの腫瘍組織内で、各突然変異群のメモリーT細胞分化指標CCR7の発現を検出する。(D)NSG担癌マウスの腫瘍組織内で、各突然変異群の枯渇T細胞PD-1
+TIM-3
+二重陽性細胞の割合を検出して統計した図。NSG担癌マウスの腫瘍組織内の各突然変異群のTCR-T細胞の免疫抑制分子PD-1(E)、TIM-3(F)、LAG-3(G)、及びCD39(H)の発現を検出する。(I)NSG担癌マウスの腫瘍組織内で、各突然変異群の転写因子TOXの発現を検出する。(J)NSG担癌マウスの腫瘍組織のIFN-γ
+陽性CD8
+T細胞の割合を検出する。(K)NSG担癌マウスの腫瘍組織のIFN-γ
+TNF-α
+二重陽性TCR-T細胞の割合を検出する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
一態様では、本願は、T細胞受容体(TCR)の単離されたTCR α鎖又はその断片を提供し、前記TCR α鎖はTCR α鎖定常領域を含み、前記TCR α鎖定常領域は、順に連結されたTCR α鎖細胞外定常領域、TCR α鎖膜貫通領域、及びTCR α鎖細胞内定常領域を含む。任意選択で、前記TCR α鎖は、TCR α鎖可変領域をさらに含む。
【0031】
いくつかの実施形態では、前記TCR α鎖定常領域及びそれに対応するTCR α鎖細胞外定常領域、TCR α鎖膜貫通領域、並びにTCR α鎖細胞内定常領域は、それぞれヒト、マウス又は他の哺乳動物種の野生型T細胞受容体(TCR)の定常領域に由来する。
【0032】
いくつかの実施形態では、前記TCR α鎖細胞内定常領域は、ヒト、マウス又は他の哺乳動物種に由来する野生型TCR α鎖細胞内定常領域、例えばSEQ ID NO:3で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる野生型TCR α鎖細胞内定常領域である。
【0033】
いくつかの実施形態では、前記TCR α鎖細胞内定常領域は、突然変異TCR α鎖細胞内定常領域であり、前記突然変異TCR α鎖細胞内定常領域は、野生型TCR α鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのセリンがアラニンに突然変異したものであり、例えばヒト、マウス又は他の哺乳動物種の野生型TCR α鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのセリンがアラニンに突然変異した突然変異TCR α鎖細胞内定常領域に由来する。
【0034】
いくつかの実施形態では、前記突然変異TCR α鎖細胞内定常領域は、野生型TCR α鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのセリンがアラニンに突然変異したものであり、前記野生型TCR α鎖細胞内定常領域は、SEQ ID NO:3で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなるもの、例えばSEQ ID NO:3で示されるアミノ酸配列の1つ又は2つ(全部)のセリンがアラニンに突然変異した突然変異TCR α鎖細胞内定常領域である。
【0035】
いくつかの実施形態では、前記突然変異TCR α鎖細胞内定常領域は、SEQ ID NO:4で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる。
【0036】
いくつかの実施形態では、前記TCR α鎖はTCR α鎖可変領域を含み、前記TCR α鎖可変領域は、1種又は複数種の抗原を結合して認識することができ、この抗原には、ポリペプチド系抗原(例えば、NYESO-1、AFP、及びMART-1)、脂質系抗原(例えば、β-GlcCer、eLPA、及びLPE)、及び多糖系抗原(例えば、CA199、CA72-4、及びCA125)が含まれるが、これらに限定されない。
【0037】
いくつかの実施形態では、前記抗原は、腫瘍抗原、微生物抗原、又は自己抗原、例えばBCMA、CA9、CTAG、CCL-1、CSPG4、EGFR、EPG-2、EPG-40、FCRL5、FBP、OGD2、GPC3、GPRC5D、HER3、HER4、HLA-A1、HLA-A2、LRRC8A、CMV、MUC1、MUC16、MART-1、NCAM、PRAME、PSCA、PSMA、ROR1、TPBG、TAG72、TRP1、TRP2、VEGFR、VEGFR2、WT-1、MAGE-A1/A3/A4/A6/A10/C2、gp100、CEA、NYESO-1、AFP、MART-1、HERV-E、HER2、LMP1/2、BRLF-1、BMLF-1、HPV-16E6/E7、KRAS G12D、KRAS G12V、TP53 R175H、β-GlcCer、eLPA、LPE、CA199、CA72-4、又はCA125のうちの1種又は複数種の抗原である。
【0038】
いくつかの実施形態では、前記抗原は、腫瘍抗原、例えばMAGE-A1/A3/A4/A6/A10/C2、gp100、CEA、NYESO-1、AFP、MART-1、HERV-E、HER2、LMP1/2、BRLF-1、BMLF-1、HPV-16E6/E7、KRAS G12D、KRAS G12V、TP53 R175H、β-GlcCer、eLPA、LPE、CA199、CA72-4、又はCA125のうちの1種又は複数種である。前記抗原は、細胞表面抗原、又は細胞内抗原であってもよい。
【0039】
いくつかの実施形態では、前記TCR α鎖可変領域は、SEQ ID NO:13で示されるアミノ酸配列を含み、又は当該アミノ酸配列からなり、腫瘍抗原MART-1を認識し、あるいは、SEQ ID NO:21で示されるアミノ酸配列を含み、又は当該アミノ酸配列からなり、腫瘍抗原NYESO-1を認識する。
【0040】
いくつかの実施形態では、前記TCR α鎖可変領域は、相補性決定領域(CDR)、例えばCDR1、CDR2、CDR3を含む。前記相補性決定領域は、SEQ ID NO:13で示されるアミノ酸配列、又はSEQ ID NO:21で示されるアミノ酸配列に含まれる。
【0041】
いくつかの実施形態では、前記TCR α鎖可変領域は、SEQ ID NO:14で示されるアミノ酸配列のCDR1、SEQ ID NO:15で示されるアミノ酸配列のCDR2、及びSEQ ID NO:16で示されるアミノ酸配列のCDR3を含み、腫瘍抗原MART-1を認識し、又は、SEQ ID NO:22で示されるアミノ酸配列のCDR1、SEQ ID NO:23で示されるアミノ酸配列のCDR2、及びSEQ ID NO:24で示されるアミノ酸配列のCDR3を含み、腫瘍抗原NYESO-1を認識する。
【0042】
いくつかの実施形態では、前記TCR α鎖細胞外定常領域は、ヒト、マウス又は他の哺乳動物種に由来するTCR α鎖細胞外定常領域である。
【0043】
いくつかの実施形態では、前記TCR α鎖細胞外定常領域は、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO:1のアミノ酸配列と比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の突然変異を有するアミノ酸配列、又はSEQ ID NO:1のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性を有するアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる。
【0044】
いくつかの実施形態では、前記TCR α鎖膜貫通領域は、ヒト、マウス又は他の哺乳動物種に由来するTCR α鎖膜貫通領域である。
【0045】
いくつかの実施形態では、前記TCR α鎖膜貫通領域は、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列、又はSEQ ID NO:2のアミノ酸配列と比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の突然変異を有するアミノ酸配列、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性を有するアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる。
【0046】
いくつかの実施形態では、前記TCR α鎖定常領域は、SEQ ID NO:5 又はSEQ ID NO:6のアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる。
【0047】
一態様では、本願は、T細胞受容体(TCR)の単離されたTCR β鎖又はその断片を提供し、前記TCR β鎖は、TCR β鎖定常領域を含み、前記TCR β鎖定常領域は、順に連結されたTCR β鎖細胞外定常領域、TCR β鎖膜貫通領域、及びTCR β鎖細胞内定常領域を含む。任意選択で、前記TCR β鎖は、TCR β鎖可変領域をさらに含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、前記TCR β鎖定常領域及びそれに対応するTCR β鎖細胞外定常領域、TCR β鎖膜貫通領域、及びTCR β鎖細胞内定常領域は、それぞれ、ヒト、マウス又は他の哺乳動物種の野生型T細胞受容体(TCR)定常領域に由来する。
【0049】
いくつかの実施形態では、前記TCR β鎖細胞内定常領域は、ヒト、マウス又は他の哺乳動物種に由来する野生型TCR β鎖細胞内定常領域、例えばSEQ ID NO:9で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる野生型TCR β鎖細胞内定常領域、例えばSEQ ID NO:47で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる野生型TCR β鎖細胞内定常領域、例えばSEQ ID NO:48で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる野生型TCR β鎖細胞内定常領域である。
【0050】
いくつかの実施形態では、前記TCR β鎖細胞内定常領域は突然変異TCR β鎖細胞内定常領域であり、前記突然変異TCR β鎖細胞内定常領域は、野生型TCR β鎖細胞内定常領域のうちの少なくとも1つのリジンがアルギニン又はアラニンに突然変異したもの、例えばヒト、マウス又は他の哺乳動物種に由来する野生型TCR β鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのリジンがアルギニン又はアラニンに突然変異した突然変異TCR β鎖細胞内定常領域である。
【0051】
いくつかの実施形態では、前記突然変異TCR β鎖細胞内定常領域は、野生型TCR β鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのリジンがアルギニン又はアラニンに突然変異したものであり、前記野生型TCR β鎖細胞内定常領域は、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:47又はSEQ ID NO:48で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなるもの、例えばSEQ ID NO:9で示されるアミノ酸配列の1つ、2つ又は3つ(全部)のリジンがアルギニン又はアラニンに突然変異した突然変異TCR β鎖細胞内定常領域、例えばSEQ ID NO:47又はSEQ ID NO:48の1つ又は2つ(全部)のリジンがアルギニン又はアラニンに突然変異した突然変異TCR β鎖細胞内定常領域である。
【0052】
いくつかの実施形態では、前記突然変異TCR β鎖細胞内定常領域は、SEQ ID NO:10で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる。
【0053】
いくつかの実施形態では、前記TCR β鎖はTCR β鎖可変領域を含み、前記TCR β鎖可変領域は、1種又は複数種の抗原を結合して認識することができ、この抗原には、ポリペプチド系抗原(例えば、NYESO-1、AFP、及びMART-1)、脂質系抗原(例えば、β-GlcCer、eLPA、及びLPE)、及び多糖系抗原(例えば、CA199、CA72-4及びCA125)が含まれるが、これらに限定されない。
【0054】
いくつかの実施形態では、前記抗原は、腫瘍抗原、微生物抗原、又は自己抗原、例えばBCMA、CA9、CTAG、CCL-1、CSPG4、EGFR、EPG-2、EPG-40、FCRL5、FBP、OGD2、GPC3、GPRC5D、HER3、HER4、HLA-A1、HLA-A2、LRRC8A、CMV、MUC1、MUC16、MART-1、NCAM、PRAME、PSCA、PSMA、ROR1、TPBG、TAG72、TRP1、TRP2、VEGFR、VEGFR2、WT-1、MAGE-A1/A3/A4/A6/A10/C2、gp100、CEA、NYESO-1、AFP、MART-1、HERV-E、HER2、LMP1/2、BRLF-1、BMLF-1、HPV-16E6/E7、KRAS G12D、KRAS G12V、TP53 R175H、β-GlcCer、eLPA、LPE、CA199、CA72-4、又はCA125のうちの1種又は複数種の抗原である。
【0055】
いくつかの実施形態では、前記抗原は、腫瘍抗原、例えばMAGE-A1/A3/A4/A6/A10/C2、gp100、CEA、NYESO-1、AFP、MART-1、HERV-E、HER2、LMP1/2、BRLF-1、BMLF-1、HPV-16E6/E7、KRAS G12D、KRAS G12V、TP53 R175H、β-GlcCer、eLPA、LPE、CA199、CA72-4、又はCA125のうちの1種又は複数種である。前記抗原は、細胞表面抗原、又は細胞内抗原であってもよい。
【0056】
いくつかの実施形態では、前記TCR β鎖可変領域は、SEQ ID NO:17で示されるアミノ酸配列を含むか、又は当該アミノ酸配列からなり、腫瘍抗原MART-1を認識し、あるいは、SEQ ID NO:25で示されるアミノ酸配列を含むか、又は当該アミノ酸配列からなり、腫瘍抗原NYESO-1を認識する。
【0057】
いくつかの実施形態では、前記TCR β鎖可変領域は、相補性決定領域(CDR)、例えばCDR1、CDR2、CDR3を含む。前記相補性決定領域は、SEQ ID NO: 17で示されるアミノ酸配列、又はSEQ ID NO: 25で示されるアミノ酸配列に含まれる。
【0058】
いくつかの実施形態では、前記TCR β鎖可変領域は、SEQ ID NO:18で示されるアミノ酸配列のCDR1、SEQ ID NO:19で示されるアミノ酸配列のCDR2、及びSEQ ID NO:20で示されるアミノ酸配列のCDR3を含み、腫瘍抗原MART-1を認識し、又はSEQ ID NO:26で示されるアミノ酸配列のCDR1、SEQ ID NO:27で示されるアミノ酸配列のCDR2、及びSEQ ID NO:28で示されるアミノ酸配列のCDR3を含み、腫瘍抗原NYESO-1を認識する。
【0059】
いくつかの実施形態では、前記TCR β鎖細胞外定常領域は、ヒト、マウス又は他の哺乳動物種に由来するTCR β鎖細胞外定常領域である。
【0060】
いくつかの実施形態では、前記TCR β鎖細胞外定常領域は、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列、SEQ ID NO:7のアミノ酸配列と比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の突然変異を有するアミノ酸配列、又はSEQ ID NO:7のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性を有するアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる。
【0061】
いくつかの実施形態では、前記TCR β鎖膜貫通領域は、ヒト、マウス又は他の哺乳動物種に由来するTCR β鎖膜貫通領域である。
【0062】
いくつかの実施形態では、前記TCR β鎖膜貫通領域は、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列と比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の突然変異を有するアミノ酸配列、又はSEQ ID NO:8のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性を有するアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる。
【0063】
いくつかの実施形態では、前記TCR β鎖定常領域は、SEQ ID NO:11 又はSEQ ID NO:12のアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる。
【0064】
別の態様では、本願は、単離されたT細胞受容体又はその断片を提供し、前記T細胞受容体は、前述の何れかのTCR α鎖及び/又はTCR β鎖を含む。
【0065】
いくつかの実施形態では、前記T細胞受容体は、前述の何れかのTCR α鎖を含み、前記TCR α鎖細胞内定常領域は、
(1)ヒト、マウス又は他の哺乳動物種に由来する野生型TCR α鎖細胞内定常領域、
(2)SEQ ID NO:3で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる野生型TCR α鎖細胞内定常領域、
(3)(1)又は(2)に記載の野生型TCR α鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのセリンがアラニンに突然変異した突然変異TCR α鎖細胞内定常領域、又は
(4)SEQ ID NO:4で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる突然変異TCR α鎖細胞内定常領域から選択される。
【0066】
いくつかの実施形態では、前記T細胞受容体は、前述の何れかのTCR β鎖を含み、前記TCR β鎖細胞内定常領域は、
(1)ヒト、マウス又は他の哺乳動物種に由来する野生型TCR β鎖細胞内定常領域、
(2)SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:47又はSEQ ID NO:48で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる野生型TCR β鎖細胞内定常領域、
(3)(1)又は(2)に記載の野生型TCR β鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのリジンがアルギニン又はアラニンに突然変異した突然変異TCR β鎖細胞内定常領域、又は
(4)SEQ ID NO:10で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる突然変異TCR β鎖細胞内定常領域から選択される。
【0067】
いくつかの実施形態では、前記T細胞受容体は、前述の何れかのTCR α鎖及びTCR β鎖を含み、前記TCR α鎖細胞内定常領域と前記TCR β鎖細胞内定常領域は同時に野生型ではいけない。例えば、TCR α鎖細胞内定常領域が前述の何れかの野生型TCR α鎖細胞内定常領域である場合、TCR β鎖細胞内定常領域は、前述の何れかの突然変異TCR β鎖細胞内定常領域であり、TCR α鎖細胞内定常領域が前述の何れかの突然変異TCR α鎖細胞内定常領域である場合、TCR β鎖細胞内定常領域は、前述の何れかの野生型又は突然変異TCR β鎖細胞内定常領域である。
【0068】
いくつかの実施形態では、本願は、単離されたT細胞受容体又はその断片を提供し、前記T細胞受容体は、TCR α鎖とTCR β鎖を含み、前記TCR β鎖は、TCR β鎖可変領域とTCR β鎖定常領域を含み、前記TCR β鎖定常領域は、順に連結されたTCR β鎖細胞外定常領域、TCR β鎖膜貫通領域、及びTCR β鎖細胞内定常領域を含み、前記TCR β鎖細胞内定常領域は、
(1)野生型TCR β鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのリジンがアルギニン又はアラニンに突然変異した突然変異TCR β鎖細胞内定常領域、又は
(2)SEQ ID NO:10で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる突然変異TCR β鎖細胞内定常領域から選択される。
【0069】
さらに、前記野生型TCR β鎖細胞内定常領域は、本願の前述の何れかの野生型TCR β鎖細胞内定常領域、例えば、
(1)ヒト、マウス又は他の哺乳動物種に由来する野生型TCR β鎖細胞内定常領域、
(2)SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:47又はSEQ ID NO:48で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる野生型TCR β鎖細胞内定常領域から選択される。
【0070】
さらに、前記TCR α鎖はTCR α鎖定常領域を含み、前記TCR α鎖定常領域は、順に連結されたTCR α鎖細胞外定常領域、TCR α鎖膜貫通領域、及びTCR α鎖細胞内定常領域を含み、前記TCR α鎖細胞内定常領域は、本願の前述の何れかの野生型TCR α鎖細胞内定常領域又は突然変異TCR α鎖細胞内定常領域、例えば、
(1)ヒト、マウス又は他の哺乳動物種に由来する野生型TCR α鎖細胞内定常領域、
(2)SEQ ID NO:3で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる野生型TCR α鎖細胞内定常領域、
(3)(1)又は(2)に記載の野生型TCR α鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのセリンがアラニンに突然変異した突然変異TCR α鎖細胞内定常領域、
(4)SEQ ID NO:4で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる突然変異TCR α鎖細胞内定常領域から選択され、
さらに、前記TCR α鎖はTCR α鎖可変領域を含む。
【0071】
いくつかの実施形態では、本願は、TCR α鎖とTCR β鎖を含む、単離されたT細胞受容体又はその断片であって、前記T細胞受容体は、前記TCR α鎖は、TCR α鎖可変領域とTCR α鎖定常領域を含み、前記TCR α鎖定常領域は、順に連結されたTCR α鎖細胞外定常領域、TCR α鎖膜貫通領域、及びTCR α鎖細胞内定常領域を含み、前記TCR α鎖細胞内定常領域は、
(1)野生型TCR α鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのセリンがアラニンに突然変異した突然変異TCR α鎖細胞内定常領域、
(2)SEQ ID NO:4で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる突然変異TCR α鎖細胞内定常領域から選択される、ことを特徴とする単離されたT細胞受容体又はその断片を提供する。
【0072】
さらに、前記野生型TCR α鎖細胞内定常領域は、本願の前述の何れかの野生型TCRα鎖細胞内定常領域、例えば、
(1)ヒト、マウス又は他の哺乳動物種に由来する野生型TCR α鎖細胞内定常領域、
(2)SEQ ID NO:3で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる野生型TCR α鎖細胞内定常領域から選択される。
【0073】
さらに、前記TCR β鎖はTCR β鎖定常領域を含み、前記TCR β鎖定常領域は、順に連結されたTCR β鎖細胞外定常領域、TCR β鎖膜貫通領域、及びTCR β鎖細胞内定常領域を含み、前記TCR β鎖細胞内定常領域は、本願の前述のいずれかの野生型TCR β鎖細胞内定常領域又は突然変異TCR β鎖細胞内定常領域、例えば、
(1)ヒト、マウス又は他の哺乳動物種に由来する野生型TCR β鎖細胞内定常領域、
(2)SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:47又はSEQ ID NO:48で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる野生型TCR β鎖細胞内定常領域、
(3)(1)又は(2)に記載の野生型TCR β鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのリジンがアルギニン又はアラニンに突然変異した突然変異TCR β鎖細胞内定常領域、
(4)SEQ ID NO:10で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる突然変異TCR β鎖細胞内定常領域から選択される。
【0074】
さらに、前記TCR β鎖は、TCR β鎖可変領域を含む。
【0075】
いくつかの実施形態では、前記T細胞受容体は、SEQ ID NO:3で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる野生型TCR α鎖細胞内定常領域、及び/又はSEQ ID NO:10で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる突然変異TCR β鎖細胞内定常領域を含む。
【0076】
いくつかの実施形態では、前記T細胞受容体は、SEQ ID NO:4で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる突然変異TCR α鎖細胞内定常領域、及び/又はSEQ ID NO:9、SEQ ID NO:47又はSEQ ID NO:48で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる野生型TCR β鎖細胞内定常領域を含む。
【0077】
いくつかの実施形態では、前記T細胞受容体は、SEQ ID NO:4で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる突然変異TCR α鎖細胞内定常領域、及び/又はSEQ ID NO:10で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる突然変異TCR β鎖細胞内定常領域を含む。
【0078】
いくつかの実施形態では、前述の何れかのT細胞受容体は、前述の何れかのTCR α鎖可変領域及び/又はTCR β鎖可変領域を含む。前記TCR α鎖可変領域及び/又はTCR β鎖可変領域は、1種又は複数種の抗原を結合して認識することができ、この抗原には、ポリペプチド系抗原(例えば、NYESO-1、AFP、及びMART-1)、脂質系抗原(例えば、β-GlcCer、eLPA、及びLPE)、及び多糖系抗原(例えば、CA199、CA72-4、及びCA125)が含まれるが、これらに限定されない。前記抗原は、腫瘍抗原、微生物抗原、又は自己抗原、例えばBCMA、CA9、CTAG、CCL-1、CSPG4、EGFR、EPG-2、EPG-40、FCRL5、FBP、OGD2、GPC3、GPRC5D、HER3、HER4、HLA-A1、HLA-A2、LRRC8A、CMV、MUC1、MUC16、MART-1、NCAM、PRAME、PSCA、PSMA、ROR1、TPBG、TAG72、TRP1、TRP2、VEGFR、VEGFR2、WT-1、MAGE-A1/A3/A4/A6/A10/C2、gp100、CEA、NYESO-1、AFP、MART-1、HERV-E、HER2、LMP1/2、BRLF-1、BMLF-1、HPV-16E6/E7、KRAS G12D、KRAS G12V、TP53 R175H、β-GlcCer、eLPA、LPE、CA199、CA72-4、又はCA125のうちの1種又は複数種の抗原であってもよく、好ましくはMAGE-A1/A3/A4/A6/A10/C2、gp100、CEA、NYESO-1、AFP、MART-1、HERV-E、HER2、LMP1/2、BRLF-1、BMLF-1、HPV-16E6/E7、KRAS G12D、KRAS G12V、TP53 R175H、β-GlcCer、eLPA、LPE、CA199、CA72-4、又はCA125のうちの1種又は複数種である。前記抗原は、細胞表面抗原、又は細胞内抗原であってもよい。
【0079】
いくつかの実施形態では、前述の何れかのT細胞受容体は、前述の何れかのTCR β鎖可変領域、例えば、
(1)SEQ ID NO:17で示されるアミノ酸配列に含まれる3つの相補性決定領域CDRを含むTCR β鎖可変領域、
(2)SEQ ID NO:25で示されるアミノ酸配列に含まれる3つの相補性決定領域CDRを含むTCR β鎖可変領域、
(3)SEQ ID NO:18で示されるアミノ酸配列のCDR1、SEQ ID NO:19で示されるアミノ酸配列のCDR2及び/又はSEQ ID NO:20で示されるアミノ酸配列のCDR3を含むTCR β鎖可変領域、
(4)SEQ ID NO:26で示されるアミノ酸配列のCDR1、SEQ ID NO:27で示されるアミノ酸配列のCDR2及び/又はSEQ ID NO:28で示されるアミノ酸配列のCDR3を含むTCR β鎖可変領域、
(5)SEQ ID NO:17で示されるアミノ酸配列を含むか、又は当該アミノ酸配列からなるTCR β鎖可変領域、又は
(6)SEQ ID NO:25で示されるアミノ酸配列を含むか、又は当該アミノ酸配列からなるTCR β鎖可変領域を含む。
【0080】
いくつかの実施形態では、前述の何れかのT細胞受容体は、前述の何れかのTCR α鎖可変領域、例えば、
(1)SEQ ID NO:13で示されるアミノ酸配列に含まれる3つの相補性決定領域CDRを含むTCR α鎖可変領域、
(2)SEQ ID NO:21で示されるアミノ酸配列に含まれる3つの相補性決定領域CDRを含むTCR α鎖可変領域、
(3)SEQ ID NO:14で示されるアミノ酸配列のCDR1、SEQ ID NO:15で示されるアミノ酸配列のCDR2及び/又はSEQ ID NO:16で示されるアミノ酸配列のCDR3を含むTCR α鎖可変領域、
(4)SEQ ID NO:22で示されるアミノ酸配列のCDR1、SEQ ID NO:23で示されるアミノ酸配列のCDR2及び/又はSEQ ID NO:24で示されるアミノ酸配列のCDR3を含むTCR α鎖可変領域、
(5)SEQ ID NO:13で示されるアミノ酸配列を含むか、又は当該アミノ酸配列からなるTCR α鎖可変領域、又は
(6)SEQ ID NO:21で示されるアミノ酸配列を含むか、又は当該アミノ酸配列からなるTCR α鎖可変領域を含む。
【0081】
いくつかの実施形態では、前述の何れかのT細胞受容体のTCR α鎖可変領域及びTCR β鎖可変領域は、
(1)前記TCR α鎖可変領域がSEQ ID NO:13で示されるアミノ酸配列に含まれる3つの相補性決定領域CDRを含み、前記TCR β鎖可変領域がSEQ ID NO:17で示されるアミノ酸配列に含まれる3つの相補性決定領域CDRを含むもの、
(2)前記TCR α鎖可変領域がSEQ ID NO:21で示されるアミノ酸配列に含まれる3つの相補性決定領域CDRを含み、前記TCR β鎖可変領域がSEQ ID NO:25で示されるアミノ酸配列に含まれる3つの相補性決定領域CDRを含むもの、
(3)前記TCR α鎖可変領域がSEQ ID NO:14で示されるアミノ酸配列のCDR1、SEQ ID NO:15で示されるアミノ酸配列のCDR2、及びSEQ ID NO:16で示されるアミノ酸配列のCDR3を含み、前記TCR β鎖可変領域が、SEQ ID NO:18で示されるアミノ酸配列のCDR1、SEQ ID NO:19で示されるアミノ酸配列のCDR2、及びSEQ ID NO:20で示されるアミノ酸配列のCDR3を含むもの、
(4)前記TCR α鎖可変領域がSEQ ID NO:22で示されるアミノ酸配列のCDR1、SEQ ID NO:23で示されるアミノ酸配列のCDR2、及びSEQ ID NO:24で示されるアミノ酸配列のCDR3を含み、前記TCR β鎖可変領域が、SEQ ID NO:26で示されるアミノ酸配列のCDR1、SEQ ID NO:27で示されるアミノ酸配列のCDR2、及びSEQ ID NO:28で示されるアミノ酸配列のCDR3を含むもの、
(5)前記TCR α鎖可変領域が、SEQ ID NO:13で示されるアミノ酸配列を含むか、又は当該アミノ酸配列からなり、前記TCR β鎖可変領域が、SEQ ID NO:17で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなるもの、又は
(6)前記TCR α鎖可変領域が、SEQ ID NO:21で示されるアミノ酸配列を含むか、又は当該アミノ酸配列からなり、前記TCR β鎖可変領域が、SEQ ID NO:25で示されるアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなるものから選択される。
【0082】
いくつかの実施形態では、前記T細胞受容体は、前述の何れかのTCR α鎖細胞外定常領域及び/又はTCR β鎖細胞外定常領域を含む。
【0083】
いくつかの実施形態では、前記T細胞受容体は、前述の何れかのTCR α鎖膜貫通領域及び/又はTCR β鎖膜貫通領域を含む。
【0084】
いくつかの実施形態では、前記T細胞受容体は、前述の何れかのTCR α鎖定常領域及び/又はTCR β鎖定常領域を含む。例えば、前記TCR α鎖定常領域及びTCR β鎖定常領域は、
(1)前記TCR α鎖定常領域が、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなり、前記TCR β鎖定常領域が、SEQ ID NO:12のアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなるもの、
(2)前記TCR α鎖定常領域が、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなり、前記TCR β鎖定常領域が、SEQ ID NO:12のアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなるもの、又は
(3)前記TCR α鎖定常領域が、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなり、前記TCR β鎖定常領域が、SEQ ID NO:11のアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなるものから選択される。
【0085】
別の態様では、本願は、F5-WT TCR、F5-SA TCR、F5-KR TCR又はF5-dMUT TCRを含む、1種又は複数種のT細胞受容体F5-TCRを提供する。前記F5-TCR可変領域は、腫瘍抗原MART-1を認識し、前記F5-TCR α鎖可変領域は、SEQ ID NO:13のアミノ酸配列であり、前記F5-TCR β鎖可変領域は、SEQ ID NO:17のアミノ酸配列であり、
さらに、前記F5-WT TCR α鎖定常領域は、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列であり、F5-WT TCR β鎖定常領域は、SEQ ID NO:11のアミノ酸配列であり、
さらに、前記F5-SA TCR α鎖定常領域は、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列であり、F5-SA TCR β鎖定常領域は、SEQ ID NO:11のアミノ酸配列であり、
さらに、前記F5-KR TCR α鎖定常領域は、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列であり、F5-KR TCR β鎖定常領域は、SEQ ID NO:12のアミノ酸配列であり、
さらに、前記F5-dMUT TCR α鎖定常領域は、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列であり、F5-dMUT TCR β鎖定常領域は、SEQ ID NO:12のアミノ酸配列である。
【0086】
別の態様では、本願は、1G4-WT TCR、1G4-SA TCR、1G4-KR TCR又は1G4-dMUT TCRを含む、1種又は複数種のT細胞受容体1G4-TCRを提供する。前記1G4-TCR可変領域は、腫瘍抗原NYESO-1を認識し、前記1G4-TCR α鎖可変領域は、SEQ ID NO:21のアミノ酸配列であり、又は、前記1G4-TCR β鎖可変領域は、SEQ ID NO:25のアミノ酸配列であり、
さらに、前記1G4-WT TCR α鎖定常領域は、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列であり、1G4-WT TCR β鎖定常領域は、SEQ ID NO:11のアミノ酸配列であり、
さらに、前記1G4-SA TCR α鎖定常領域は、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列であり、1G4-SA TCR β鎖定常領域は、SEQ ID NO:11のアミノ酸配列であり、
さらに、前記1G4-KR TCR α鎖定常領域は、SEQ ID NO:5のアミノ酸配列であり、1G4-KR TCR β鎖定常領域は、SEQ ID NO:12のアミノ酸配列である。
【0087】
さらに、前記1G4-dMUT TCR α鎖定常領域は、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列であり、1G4-dMUT TCR β鎖定常領域は、SEQ ID NO:12のアミノ酸配列である。
【0088】
別の態様では、前述の何れかのTCR α鎖、TCR β鎖又はT細胞受容体は、さらにシグナルペプチドに結合され、前記シグナルペプチドは、TCR α鎖可変領域及び/又はTCR β鎖可変領域とシグナルペプチド-可変領域構造を形成する。
【0089】
いくつかの実施形態では、前記シグナルペプチドは、ヒト成長ホルモンシグナルペプチド、CD8αシグナルペプチド、免疫グロブリンシグナルペプチドから選択される。
【0090】
いくつかの実施形態では、前記シグナルペプチドは、SEQ ID NO:29及び/又はSEQ ID NO:30のアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる。
【0091】
いくつかの実施形態では、TCR α鎖シグナルペプチドアミノ酸配列は、SEQ ID NO:29のアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる。
【0092】
いくつかの実施形態では、TCR β鎖シグナルペプチドアミノ酸配列は、SEQ ID NO:30のアミノ酸配列を含むか、又は前記アミノ酸配列からなる。
【0093】
本願の前述の何れかのTCR α鎖、TCR β鎖又はT細胞受容体を形成する上記の各部分は、互いに直接連結されてもよく、リンカー配列を介して連結されてもよい。リンカー配列は、GGGS、GGGGS、GSGSA、及びGGSGGなどのモチーフが1~5個繰り返して隣接して連結された配列であり、その長さは3~25アミノ酸残基である。
【0094】
別の態様では、本願は、前述の何れかの単離されたTCR α鎖若しくはその断片、TCR β鎖若しくはその断片、又はT細胞受容体若しくはその断片をコードする、単離された核酸又はその断片を提供する。
【0095】
いくつかの実施形態では、野生型TCR α鎖定常領域をコードする核酸配列は、SEQ ID NO:31の核酸配列を含むか、又は前記核酸配列からなる。
【0096】
いくつかの実施形態では、野生型TCR β鎖定常領域をコードする核酸配列は、SEQ ID NO:32の核酸配列を含むか、又は前記核酸配列からなる。
【0097】
いくつかの実施形態では、SA TCR α鎖定常領域をコードする核酸配列は、SEQ ID NO:33の核酸配列を含むか、又は前記核酸配列からなる。
【0098】
いくつかの実施形態では、KR TCR β鎖定常領域をコードする核酸配列は、SEQ ID NO:34の核酸配列を含むか、又は前記核酸配列からなる。
【0099】
いくつかの実施形態では、F5-TCR α鎖可変領域をコードする核酸配列は、SEQ ID NO:35の核酸配列を含むか、又は前記核酸配列からなる。
【0100】
いくつかの実施形態では、F5-TCR β鎖可変領域をコードする核酸配列は、SEQ ID NO:36の核酸配列を含むか、又は前記核酸配列からなる。
【0101】
いくつかの実施形態では、1G4-TCR α鎖可変領域をコードする核酸配列は、SEQ ID NO:37の核酸配列を含むか、又は前記核酸配列からなる。
【0102】
いくつかの実施形態では、1G4-TCR β鎖可変領域をコードする核酸配列は、SEQ ID NO:38の核酸配列を含むか、又は前記核酸配列からなる。
【0103】
いくつかの実施形態では、F5-WT-TCRをコードする核酸配列は、SEQ ID NO:39の核酸配列を含むか、又は前記核酸配列からなる。
【0104】
いくつかの実施形態では、F5-SA-TCRをコードする核酸配列は、SEQ ID NO:40の核酸配列を含むか、又は前記核酸配列からなる。
【0105】
いくつかの実施形態では、F5-KR-TCRをコードする核酸配列は、SEQ ID NO:41の核酸配列を含むか、又は前記核酸配列からなる。
【0106】
いくつかの実施形態では、F5-dMUT-TCRをコードする核酸配列は、SEQ ID NO:42の核酸配列を含むか、又は前記核酸配列からなる。
【0107】
いくつかの実施形態では、1G4-WT-TCRをコードする核酸配列は、SEQ ID NO:43の核酸配列を含むか、又は前記核酸配列からなる。
【0108】
いくつかの実施形態では、1G4-SA-TCRをコードする核酸配列は、SEQ ID NO:44の核酸配列を含むか、又は前記核酸配列からなる。
【0109】
いくつかの実施形態では、1G4-KR-TCRをコードする核酸配列は、SEQ ID NO:45の核酸配列を含むか、又は前記核酸配列からなる。
【0110】
いくつかの実施形態では、1G4-dMUT-TCRをコードする核酸配列は、SEQ ID NO:46の核酸配列を含むか、又は前記核酸配列からなる。別の態様では、本願は、前述の何れかの単離された核酸又はその断片を含む核酸構築物を提供する。
【0111】
いくつかの実施形態では、前記核酸構築物は、前記核酸に動作可能に連結された1つ又は複数の調節配列をさらに含む。例えば、宿主細胞において転写活性を示すプロモータ配列、宿主細胞において認識され転写を停止し、コード配列の3’末端に動作可能に連結された転写ターミネーター配列、宿主細胞の翻訳に重要なコード配列の5’末端に動作可能に連結されたプリアンブル配列などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0112】
別の態様では、本願は、前述の何れかの核酸構築物を含むベクターを提供する。
【0113】
いくつかの実施形態では、前記ベクターは、発現ベクター又はcrisper遺伝子編集ベクター、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。
【0114】
いくつかの実施形態では、前記レトロウイルスベクターの構築は、複製開始部位、5’-LTR、3’-LTR、及び前述のいずれかの核酸配列又は核酸構築物を主に含む。
【0115】
通常、プロモータをT細胞受容体をコードする核酸配列に作動可能に連結し、核酸構築物を発現ベクターに組み込むことで、T細胞受容体をコードするポリヌクレオチド配列の発現を達成する。本願のT細胞受容体をコードする核酸配列は、多くのタイプのベクターにクローニングされ得る。例えば、プラスミド、ファージ、動物ウイルスなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0116】
適切な発現ベクターは、生体において機能する1つ又は複数のプロモータ配列、複製開始点、適切な酵素切断部位、及び選択可能なマーカーを含む。
【0117】
適切なプロモータは、これらに連結された任意のポリヌクレオチド配列の高レベル発現を駆動することができる、即時型初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモータ、伸長因子-1a(EF-1a)、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモータ、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ロングターミナルリピート(LTR)プロモータなどの構成的プロモータ配列を含むが、これらに限定されず、また、ポリヌクレオチド配列の発現が予想される場合に開き、発現が予想されない場合に閉じるための、メタロチオネインプロモータやテトラサイクリンプロモータなどの誘導性プロモータを含むが、これらに限定されない。
【0118】
選択可能なマーカーは、ウイルスベクターを介して感染した細胞集団中の選択的に発現する細胞の同定を容易にするために、マーカー遺伝子及びレポーター遺伝子を含む。適切なマーカー遺伝子としては、抗生物質耐性遺伝子、neo遺伝子などが含まれるが、これらに限定されない。適切なレポーター遺伝子としては、β-ガラクトシダーゼ、緑色蛍光タンパク質遺伝子、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0119】
別の態様では、本願は、前述の何れかの核酸構築物又はベクターを含む工学的細胞を提供する。
【0120】
いくつかの実施形態では、前記工学的細胞は、被験者から得られる初代細胞である。いくつかの実施形態では、被験者は、哺乳動物被験者、例えばヒトである。
【0121】
いくつかの実施形態では、工学的細胞は、T細胞、好ましくは、ヒトT細胞である。
【0122】
いくつかの実施形態では、工学的細胞は、NK細胞、NKT細胞、マクロファージ、γδT細胞、人CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、又はCD4+ T/CD8+ T細胞の混合細胞集団である。
【0123】
通常の組換えDNA技術により、本願のTCR核酸構築物又は前記核酸構築物を含むベクターを利用して、TCR又は前記TCRを含む工学的細胞を発現又は生産することができる。通常、前記方法は、
本願のTCR核酸構築物又は前記核酸構築物を含むベクターを用いて適切な宿主細胞への形質転換又は形質導入を行うステップ(1)と、
適切な培地にて宿主細胞を培養するステップ(2)と、
培地又は細胞から本願の工学的細胞又はTCRを単離して精製するステップ(3)と、を含む。
【0124】
様々な核酸配列又はベクターを工学的細胞に導入する方法は、現在、物理的方法、化学的方法、及び生物学的方法によって目的遺伝子を宿主細胞に導入できることが当分野でよく知られている。
【0125】
いくつかの実施形態では、本願は、宿主細胞への目的配列の導入にはレトロウイルスを使用する。レトロウイルス感染法は、ヒト又はマウス由来の初代細胞を感染させるために現在非常に広く使用されている方法である。本願のいくつかの実施形態では、様々な突然変異TCR核酸配列をレトロウイルスベクターに構築した後、好ましいウイルスエンベロープタンパク質又はキャプシドタンパク質でパッケージングすることによってウイルス粒子を生成する。次いで、組換えウイルス粒子を宿主又はインビトロ培養細胞に送り、宿主細胞での目的遺伝子の発現を達成する。
【0126】
上記のウイルス粒子は、TCR核酸配列、レトロウイルスベクター、及びパッケージングタンパク質の核酸配列を含む。
【0127】
別の態様では、本願はまた、本願の前述の何れかのTCR核酸構築物がT細胞で産生するTCR複合体を提供する。
【0128】
別の態様では、本願は、インビトロ培養におけるTCR-T細胞の機能検出を提供する。具体的には、TCR-T細胞の記憶表現型の検出、インビトロ枯渇モデルにおけるTCR-T細胞の枯渇表現型の検出、及びTCR-T細胞のミトコンドリア表現型の検出が含まれる。上記のTCR-T細胞記憶表現型とミトコンドリア表現型の検出は、ヒト初代T細胞の活性化後に細胞フローサイトメトリーを使用して検出された。上記の突然変異TCR-T細胞枯渇検出では、インビトロで構築された枯渇モデルが使用される。具体的には、CD3抗体を使用して、様々な突然変異を持つTCR-T細胞をインビトロで複数回刺激し、次に、フローサイトメトリーによって枯渇関連分子の発現を検出する。
【0129】
別の態様では、本願は、
(1)抗原刺激中のT細胞受容体の分解阻害、
(2)腫瘍に対する殺傷効果の提供、又は腫瘍の成長阻害、
(3)T細胞の増殖能維持、及び
(4)抗腫瘍免疫薬及び細胞の調製のうちの1つ又は複数の用途における、前述の何れかに記載の単離されたTCR α鎖又はその断片、TCRβ鎖又はその断片、T細胞受容体又はその断片、核酸又はその断片、核酸構築物、ベクター又は工学的細胞の使用を提供する。
【0130】
一方、本願による突然変異TCR-T細胞療法は、単独で使用される、他の療法と併用されるか、又はPD-1/PD-L1抗体、サイトカイン療法若しくは放射線療法と化学療法と併用され得る。上記の治療法は、単独使用や併用の場合、使用量と頻度が、疾患の特性や疾患の重症度などの様々な要因によって決定される。理論的には、本願によるTCR-T細胞療法は、低用量で複数回使用することができ、上記の用量範囲は104~109細胞/kgである。本願によるTCR-T細胞の養子治療方法は、国際的に認められた養子技術に従って実施され、本明細書の一実施例では、5×106個のTCR-T細胞を尾静脈注射することにより実施される。則として、T細胞療法と併用されるものは、腫瘍組織又は感染部位に直接注射できる。
【0131】
別の態様では、本願は、
前述の何れかの野生型TCR β鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのリジンをアルギニン又はアラニンに突然変異するステップ(1)、及び/又は
前述の何れかの野生型TCRα鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのセリンをアラニンに突然変異するステップ(2)と、を含む、T細胞受容体の改変方法を提供する。
【0132】
本願の開示をより容易に理解するために、以下のいくつかの用語が定義される。
【0133】
T細胞受容体(TCR)はT細胞の表面に存在する分子であり、ペプチド-MHC複合体を認識する。いくつかの実施態様では、前記TCRは完全又は全長TCRである。いくつかの実施態様では、本願は、全長TCRよりも小さいが、MHC分子の特定の抗原ペプチド、すなわちMHC-ペプチド複合体との結合を保持するTCR断片を提供する。いくつかの実施態様では、TCRはα及びβ鎖からなるヘテロ二量体である。いくつかの実施態様では、TCRは1本鎖TCR(scTCR)であってもよい。
【0134】
「可変領域」又は「可変ドメイン」という用語は、TCRα又はβ鎖のドメインであり、TCRと抗原-MHC複合体との結合に関与する。天然TCRのα鎖及びβ鎖の可変領域は、一般的に同様の構造を有し、各構造領域は、4つの保存フレーワーク領域(FR)及び3つの超可変領域又は相補性決定領域(CDR)を含む。このうち各可変領域のCDR3は、加工された抗原の認識を担う主要CDRである。単一のTCRα鎖可変領域又はTCRβ鎖可変領域は、ペプチド-MHC複合体への結合を与えるのに十分であり得る。
【0135】
いくつかの実施態様では、本願のTCRα鎖は、ヒトTCRα鎖、ヒト化TCRα鎖、キメラTCRα鎖、又はマウス由来TCRα鎖であり得ることが理解されるべきである。本願のいくつかの実施態様では、TCRα鎖は、キメラTCRα鎖であり、ヒト及びマウスに由来する配列など、複数の種に由来する配列を含む。例えば、ヒトTCR定常領域をマウス対応物と交換することで、ヒトT細胞の機能及び発現レベルを改善することができる(例えば、Daniel Sommermeyer et al., J Immunol. 2010 Jun 1;184(11):6223-31.,参照。これは、参照として本明細書に組み込まれている)。したがって、TCRは、ヒト由来の可変領域及びマウス由来の定常領域を含むことができる。
【0136】
同様に、いくつかの実施態様では、本願のTCRβ鎖も、ヒトTCRβ鎖、ヒト化TCRβ鎖、キメラTCRβ鎖、又はマウス由来TCRβ鎖であってもよい。キメラTCRβ鎖は、ヒト及びマウスに由来する配列など、複数の種に由来する配列を含む。
【0137】
本願に記載のTCR α鎖定常領域及び/又はTCRβ鎖定常領域は、順に連結された細胞外定常領域、膜貫通領域、及び細胞内定常領域を含み、細胞外定常領域は、TCR α鎖とTCRβ鎖ヒンジ領域を含んでもよく、TCR α鎖TCR β鎖ジスルフィド結合の形成に関与する。膜貫通領域も定常領域に属し、その作用はTCR α鎖、TCRβ鎖の細胞膜アンカー及びCD3サブユニットとの相互作用に関与し、TCR-CD3複合体を形成することを含む。細胞内定常領域の可能な作用は、TCRシグナル伝達後、TCR-CD3複合体のコンホメーション変化及びシグナル伝達に関与することを含む。
【0138】
「抗原」という用語は、細胞表面分子又は、細胞内でMHC分子又はMHC-like分子によって提示され、抗体又はT細胞受容体(TCR)によって結合され得る分子を意味し、ポリペプチド系抗原(例えば、NYESO-1、AFP、及びMART-1)、脂質系抗原(例えば、β-GlcCer、eLPA、及びLPE)、又は多糖類抗原(例えば、CA199、CA72-4及びCA125)を含むが、これらに限定されない。前記抗原は、腫瘍抗原、例えば、腫瘍細胞関連抗原(TAA:Tumor-associated antigen)、又は腫瘍特異的抗原(TSA:Tumor specific antigen)であってもよい。
【0139】
「単離された」という用語は、本明細書に記載のα鎖、β鎖、T細胞受容体や核酸のように、天然状態から移動されたか、又は他の方式で人為的に操作された材料を意味する。単離された材料は、その天然状態において通常付随する成分をほぼ又は実質的に有していなくてもよく、又は、その天然状態において通常付随する成分とともに操作されて人工的な状態にあることができる。単離された材料は、天然、化学的に合成された、又は組み換えられた形態であってもよい。単離された材料はまた、代替的に、富化された、部分的に精製された、又は精製された形態であってもよい。
【0140】
本発明の「野生型」とは、天然に存在するアミノ酸配列若しくはコード核酸配列、又は天然に存在するアミノ酸配列若しくはコード核酸配列と比較して少なくとも90%~100%の同一性を有する、又は天然に存在するアミノ酸配列若しくはコード核酸配列と比較して1~10個又は1~5個以下のアミノ酸突然変異(特に保存的アミノ酸置換)を有するが、その領域と同一又は類似の活性及び/又は機能を依然として有することを意味することが理解されるべきである。
【0141】
「野生型」とは、本願の対応する突然変異又は突然変異の組み合わせのテンプレートとして導入され、例えば、「ヒト、マウス又は他の哺乳動物種属に由来する野生型」とは、天然ヒト、天然マウス若しくはラット、又は他の哺乳動物種属の当該領域のアミノ酸配列又はコード核酸配列を有するか、又は当該アミノ酸配列若しくはコード核酸配列からなることをいう。ヒト、マウス又は他の哺乳動物種属に「由来する」領域は、天然のヒト、天然のマウス若しくはラット、又は他の哺乳動物種属の当該領域のアミノ酸配列又はコード核酸配列と実質的に同一であり、例えば、天然に存在するアミノ酸配列若しくはコード核酸配列と比較して少なくとも90%~100%の同一性を有するか、又は天然に存在するアミノ酸配列若しくはコード核酸配列と比較して1~10個又は1~5個以下のアミノ酸突然変異(特に保存的アミノ酸置換)を有するが、かつ、その領域と同一又は類似の活性及び/又は機能を依然として有する領域も包含する。
【0142】
「突然変異」という用語は、1つ又は複数のアミノ酸又は核酸の置換、欠失、又は付加を意味すると解することができる。例えば、アミノ酸の保存的置換であってもよく、保存的アミノ酸置換は、当技術分野で知られており、特定の物理的及び/又は化学的性質を有するアミノ酸の1つが、同じ化学的又は物理的性質を有する別のアミノ酸に交換されるアミノ酸置換を含む。例えば、前記保存的アミノ酸置換は、酸性アミノ酸が別の酸性アミノ酸(例えば、Asp又はGlu)を、非極性側鎖を有するアミノ酸が別の非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、Ala、Gly、Val、He、Leu、Met、Phe、Pro、Trp、Valなど)を、塩基性アミノ酸が別の塩基性アミノ酸(Lys、Argなど)を、極性側鎖を有するアミノ酸が別の極性側鎖を有するアミノ酸(Asn、Cys、Gin、Ser、Thr、Tyrなど)を置換するなどであってもよく、前記保存的置換は、例えば、極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、及び/又は関連する残基の両親媒性の類似性に基づいて行われてもよい。
【0143】
本願のTCR α鎖細胞内定常領域及び/又はTCR β鎖細胞内定常領域の「突然変異」に関連する場合、それはアミノ酸の置換であることが好ましい。例えば、突然変異TCR α鎖細胞内定常領域とは、野生型TCR α鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのセリンがアラニンに置換されたものを意味する。突然変異TCR β鎖細胞内定常領域とは、野生型TCR β鎖細胞内定常領域の少なくとも1つのリジンがアルギニン又はアラニンに置換されたものを意味する。
【0144】
配列間の同一性の計算は以下のように行う。
【0145】
2つのアミノ酸配列又は2つの核酸配列の同一性パーセンテージを決定するために、前記配列は、最適なアライメントのためにアライメントにかけられる(例えば、第1及び第2アミノ酸配列又は核酸配列の一方又は両方にギャップを導入したり、比較のために非相同配列を棄却したりすることができる)。1つの好ましい実施態様では、比較のために、アライメント対象となる参照配列の長さは、参照配列の長さの少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、60%、さらに好ましくは少なくとも70%、80%、90%、100%である。次に、対応するアミノ酸位置又は核酸位置のアミノ酸残基又は核酸を比較する。第1配列中の位置が、第2配列中の対応する位置にある同じアミノ酸残基又は核酸によって占められている場合、前記分子はこの位置で同じである。
【0146】
2つの配列間の配列比較及び同一性パーセンテージの計算は、数学的アルゴリズムを用いて実行されてもよい。好ましい実施態様では、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセンテージは、(http://www.gcg.comで入手可能な)GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムに組み込まれたNeedlema及びWunsch((1970) J.Mol. Biol. 48:444-453)アルゴリズムにより、Blossum 62マトリックス又はPAM250マトリックスと、ギャップウェイト16、14、12、10、8、6又は4及び長さウェイト1、2、3、4、5又は6とを使用して決定される。さらに別の好ましい実施態様では、2つの核酸配列間の同一性パーセンテージは、(http://www.gcg.comで入手可能な)GCGパッケージ内のGAPプログラムにより、NWSgapdna.CMPマトリックスと、ギャップウェイト40、50、60、70又は80及び長さウェイト1、2、3、4、5又は6とを使用して決定される。特に好ましいパラメータのセット(及び特に明記されていない限り使用されるべきパラメータのセット)は、ギャップペナルティ12、ギャップ延長ペナルティ4、及びフレームシフトギャップペナルティ5のBlossum 62スコアマトリックスを採用する。
【0147】
2つのアミノ酸配列又は核酸配列間の同一性パーセンテージは、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれているE.Meyers及びW.Millerアルゴリズム((1989) CABIOS, 4:11-17)を使用して、PAM120加重剰余テーブル、ギャップ長ペナルティ12、及びギャップペナルティ4を使用して決定することができる。
【0148】
追加的に又は代替的に、本明細書に記載の核酸配列及びタンパク質配列は、例えば、他のファミリーメンバー配列又は関連配列を同定するために、共通のデータベースに対する検索を実行するための「クエリ配列」として使用されてもよい。
【0149】
当技術分野で知られているように、本明細書で交換して使用することができる「ヌクレオチド」又は「核酸」とは、任意の長さの核酸鎖を意味し、DNA及びRNAを含む。核酸は、デオキシリボ核酸、リボ核酸、修飾された核酸又は塩基、及び/又はそれらの類似体、又はDNAやRNAポリメラーゼによって鎖に組み込まれ得る任意の基質であってもよい。
【0150】
本明細書に記載の核酸配列は、本明細書に記載のヌクレオチド配列に基づいてプライマーを設計し、PCR増幅法により得ることができるか、又は、熟練者がPCR増幅のためにcDNAライブラリーを作製することにより得ることができる。
【0151】
本願において、「野生型」と「WT」とは交換して使用することができる。「SA」とは、α鎖細胞内定常領域のアミノ酸配列の少なくとも1つのセリンがアラニンに突然変異したものをいう。「KR」とは、β鎖細胞内定常領域のアミノ酸配列の少なくとも1つのリジンがアルギニンに突然変異したものをいう。「dMUT」とは、α鎖細胞内定常領域の「SA」突然変異とβ鎖細胞内定常領域のアミノ酸配列の「KR」突然変異が同時に存在することを意味することが理解されるべきである。
【0152】
本明細書においてF5-TCRとは、腫瘍抗原MART-1を認識することができるTCRのクラスを意味し、それに含まれるF5-WT TCR、F5-SA TCR、F5-KR TCR、及びF5-dMUT TCRは、α鎖細胞内定常領域又はβ鎖細胞内定常領域における突然変異に基づいて異なるように分割された同じTCR α鎖可変領域及びTCR β鎖可変領域を有することが理解されるべきである。
【0153】
同様に、本願における1G4-TCRとは、腫瘍抗原NYESO-1を認識することができるTCRを意味し、それに含まれる1G4-WT TCR、1G4-SA TCR、1G4-KR TCR、又は1G4-dMUT TCRは、同じTCR α鎖可変領域及びTCR β鎖可変領域を有し、α鎖細胞内定常領域又はβ鎖細胞内定常領域における突然変異の違いに応じて区別される。
【0154】
「ベクター」は、宿主細胞に1つ又は複数の関心のある遺伝子又は配列を送達することができ、好ましくは宿主細胞において前記遺伝子又は配列を発現させることができるものを意味する。ベクターの例としては、ウイルスベクター、プラスミド、コスミド又はファージベクターが含まれるが、これらに限定されない。
【0155】
「宿主細胞」という用語は、外因性核酸が導入された細胞を指し、これらの細胞の子も含む。
遺伝子クローニング操作において、設計された適切な酵素切断部位は、発現されたアミノ酸配列の両端に1つ又は複数の無関係な残基を導入し、かつ目的配列の活性に影響を与えないことが理解されるべきである。例えば、NotI、BamHI、XhoIなどの酵素切断部位が含まれるが、これらに限定されない。
【0156】
融合タンパク質を構築するため、又は宿主細胞膜上に自動的に局在化する組換えタンパク質を得るため、又は組換えタンパク質の発現を促進するためには、アミノ酸断片を組換えタンパク質のN-末端、C-末端、又は、シグナルペプチド、リーダーペプチド、2Aペプチド、末端伸長などを含むがこれらに限定されないタンパク質内の適切な領域に追加できることが理解されるべきである。
【0157】
構築された組換えタンパク質を精製するために、構築されたタンパク質のアミノ末端又はカルボキシル末端は1つ又は複数のタンパク質タグを含むことが理解されるべきである。このタンパク質タグには、例えば、FLAG、HA、c-Myc、Poly-Hisなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0158】
上記の実施例(実施形態)はすべて例示的なものであり、特許請求の範囲に含まれる可能性のあるすべての実施形態を含めるために使用されるものではないことが理解されるべきである。本開示の範囲を逸脱することなく、上記実施例に基づいて様々な変形及び変更が加えられてもよい。同様に、上記実施例の様々な技術的特徴は、明示的に説明されていない可能性のある本願の別の実施例を形成するために任意に組み合わされてもよい。したがって、上記した実施例は本願のいくつかの実施形態を表現しただけであり、本願の特許の保護範囲を制限するものではない。
本願の配列表及び注
【0159】
【0160】
F5-TCR、及び1G4-TCRをそれぞれ構築した。F5-TCRは、F5-WT TCR、F5-SA TCR、F5-KR TCR、及びF5-dMUT TCRを含み、1G4-TCRは、1G4-WT TCR、1G4-SA TCR、1G4-KR TCR、及び1G4-dMUT TCRを含む。
【0161】
前に述べたように、各F5-TCR又は1G4-TCRは、それぞれTCRα鎖とTCR β鎖を含み、TCRα鎖は、それぞれヒト成長ホルモンシグナルペプチド、TCRα鎖可変領域、TCRα鎖細胞外定常領域、TCRα鎖膜貫通領域、TCRα鎖細胞内領域が順に連結されたものであり、TCRβ鎖は、それぞれヒト成長ホルモンシグナルペプチド、TCRβ鎖可変領域、TCRβ鎖細胞外定常領域、TCRβ鎖膜貫通領域、TCRβ鎖細胞内領域が順に連結されたものである。TCRα鎖とTCRβ鎖は、F2Aペプチドを介して直列に連結されている。以上の各TCRα鎖とTCRβ鎖のアミノ酸又はヌクレオチド配列は、本願の前述の実施形態に記載されたとおりである。
【0162】
以上のアミノ酸配列及びTCRα鎖細胞内定常領域では、セリンがアラニンに突然変異し、TCRβ鎖定常領域では、リジンがアルギニンに突然変異したアミノ酸配列は、すべてコドン最適化後に塩基配列に変換され、会社が合成した(GenScript)。
【0163】
前記F5-WT TCR、F5-SA TCR、F5-KR TCR、及びF5-dMUT TCR、並びに1G4-WT TCR、1G4-SA TCR、1G4-KR TCR、及び1G4-dMUT TCRの全長ヌクレオチド配列は、それぞれSEQ ID NO:39~46に記載の通りである。
【0164】
本願におけるすべてのTCRの塩基配列は、最終的に酵素切断、T4リガーゼによる連結によってpMSGV-LNGFR-P2Aベクターにクローニングされた。
実施例2.レトロウイルスのパッケージング及び調製方法
【0165】
実施例1で構築されたTCR発現ベクター(pMSGV-TCR)を、エンベローププラスミドpHIT60/RD114とともにHEK293T細胞に共トランスミッションし、レトロウイルスをパッケージングした。具体的には、パッケージング系の割合は、MSGV-TCR:pHIT60:RD114=2:2:1.3である。OPTI-DMEM培地にて均一に混合し、TransIT293-Mirusトランスフェクション試薬(Mirusbio #MIR 2700)15.9μlを加え、ピペッティングにより均一に混合した後、室温で25分間静置し、HEK293T 細胞培養皿に上記混合リポソーム液を加え、37℃のインキュベータに容れて48h培養した。その後、ウイルス液を採取し、0.22μmろ過膜でろ過し、-80℃の冷蔵庫に保管した。
実施例3.ヒト初代突然変異TCR-T細胞の調製及び培養方法
【0166】
ヒト初代T細胞の培養:ヒト初代T細胞は、商業化会社(ALLCELLS)から購入した。初代T細胞を培養するための完全培地は、5%のヒト血清(Gemini #100-512)、二重抗体(Gibco #15140-122)を含むRPMI-1640培地(Hyclone #SH30809.01)及び1xGlutMAX(Gibco #35050-061)を含み、また、培地に100U/mlのrhIL-2(PeproTech #200-02)も加えた。上記の完全培地1mlを用いてヒト初代T細胞を再懸濁させ、1μg/ml hCD3(Biolegend #317347)と1μg/ml hCD28抗体(Biolegend #102121)で被覆された24ウェルプレート(Nest #702001)に加え、37℃のインキュベータに入れて48時間培養した後、ウイルス感染実験を行った。
【0167】
レトロウイルスによるヒト初代T細胞の感染:24ウェルプレートに再懸濁させたヒト初代T細胞750μlをEPチューブ(Axygen #MCT-105C)に吸引し、2500rpmで5分間遠心分離し、上清を捨て、対応するウイルス液500μl(すなわち、突然変異TCRレトロウイルス)を用いてT細胞を再懸濁させ、Polybrene(SANTA CRUZ #SC-134220)0.75μlを加え、均一にピペッティングし、対応する24ウェルプレートに加えた。そのときの感染系は750μlであった。30℃、2500rpmで90分間遠心分離した後、24ウェルプレートから上清500μlをEPチューブに吸引し、2500rpmで5分間遠心分離し、上清を捨て、T細胞完全培地750μl(1.25倍のrhIL-2)を24ウェルプレートに加え、37℃のインキュベータに入れて24時間培養した。翌日、2回目のウイルス感染操作を行い、具体的なステップは前述の操作と同じあった。感染完了後のヒト初代T細胞には1~2日ごとに新鮮なRPMI-1640完全培地を補充した。
実施例4.細胞フローサイトメトリー分析方法
【0168】
細胞フローサイトメトリー分析技術は、BD LSR Fortessa機器(BD Bioscience)を用いて検出するものである。細胞表面分子の検出:2×105個の細胞を96ウェルU底プレートに吸引し、1800rpmで5分間遠心分離した後、上清を捨て、FACS緩衝液(2%血清1×PBSを含む)で調製したフローサイトメトリー抗体を加え、氷上で光を避けて25分間染色し、FACS緩衝液で1回洗浄し、フローサイトメータで検出した。
【0169】
サイトカインの染色:2×105個の細胞を96ウェルU底プレートに吸引し、1800rpmで5分間遠心分離した後、上清を捨て、FACS緩衝液(2%血清を含む1×PBS)で調製したフローサイトメトリー抗体を加え、氷上で光を避けて25分間染色し、FACS緩衝液で1回洗浄し、パラホルムアルデヒド固定液(Biolegend #420801)で細胞を20分間固定し、FACS緩衝液で1回洗浄し、透過化緩衝液(Invitrogen #00-8333-56)で調製したサイトカインフローサイトメトリー抗体を加え、氷上で光を避けて25分間染色し、FACS緩衝液で1回洗浄し、フローサイトメータで検出した。
【0170】
転写因子の染色:2×105個の細胞を96ウェルU底プレートに吸引し、1800rpmで5分間遠心分離した後、上清を捨て、FACS緩衝液(2%血清を含む1×PBS)で調製したフローサイトメトリー抗体を加え、氷上で光を避けて25分間染色し、FACS緩衝液で1回洗浄し、FOXP3転写因子固定液(Invitrogen #00-5523-00)で細胞を20分間固定し、FACS緩衝液で1回洗浄し、透過化緩衝液で調製したサイトカインフローサイトメトリー抗体を加え、氷上で光を避けて25分間染色し、FACS緩衝液で1回洗浄し、フローサイトメータで検出した。フローサイトメトリーデータは、FlowJo softwareソフトウェア(Tree Star)を使用してデータ分析を行った。
実施例5.抗原刺激によるTCRの分解
【0171】
インビボ腫瘍抗原刺激によるTCR発現のダウンレギュレーションに関する実験:K562-NYESO-1を接種した担癌マウスについて、1G4-TCR-T細胞を導入してから12日目に、脾臓及び腫瘍中のTCR-T細胞表面のTCR発現を検出した。
図1(A)に示すように、腫瘍組織では、腫瘍抗原刺激はTCR発現のダウンレギュレーションを引き起こした。インビトロ標的細胞抗原刺激によるTCRのダウンレギュレーション及び分解に関する実験:1G4-TCR-T細胞とK562-NYESO-1標的細胞又はK562-MART-1非標的細胞を1:1比で24ウェルプレートに混合し、37℃のインキュベータで12時間共インキュベートし(なお、具体的な時間は実験によって決定される。)、細胞を吸引してフローFACS検出を行った。TCRのダウンレギュレーションの検出は、染色T細胞表面のTCRによって測定され、一方、TCR分解レベルの分析は、細胞の固定及び透過化後の染色細胞内のTCRによって検出された。その結果、
図1(B)に示すように、標的細胞抗原刺激は、TCRのダウンレギュレーション及び分解を促進した。hCD3抗体刺激によるTCRのダウンレギュレーション及び分解に関する実験:活性化後の1G4-TCR-T細胞とF5-TCR-T細胞を再懸濁させた後、hCD3抗体で被覆された24ウェルプレートに加え、37℃のインキュベータで12時間共インキュベートし(なお、具体的な時間は実験によって決定される。)、細胞を吸引してフローFACS検出を行った。TCRのダウンレギュレーションの検出は、染色T細胞表面のTCRによって測定され、TCR分解レベルの分析は、細胞の固定及び透過化後の染色細胞内のTCRによって検出された。
図1(C、及びD)に示すように、インビトロCD3抗体刺激は、ヒト化T細胞におけるTCRのダウンレギュレーション及び分解を促進した。各突然変異TCRの発現比較実験:活性化後の各突然変異1G4-TCR-T細胞を再懸濁させた後、FACS染色により異なるTCRの発現を検出した。
図2(B)に示すように、各突然変異TCRは、野生型TCRと比較して、その発現に明らかな差がなかった。hCD3抗体刺激による各突然変異TCRのダウンレギュレーション及び分解の比較実験:活性化後の1G4-TCR-T細胞とF5-TCR-T細胞を再懸濁させた後、hCD3抗体で被覆された24ウェルプレートに加え、37℃のインキュベータで実験に必要な時間だけ共インキュベートした。TCRのダウンレギュレーションの検出は、染色T細胞表面のTCRによって測定され、TCR分解レベルの分析は、細胞の固定及び透過化後の染色細胞内のTCRによって検出された。その結果、
図2(C、及びD)に示すように、WT TCRと比較して、突然変異群では、SA TCR、KR TCR、及びdMUT TCRは、より多くのT細胞膜滞留を示し、抗体刺激によるダウンレギュレーション及び分解に顕著に抵抗することができ、これは、dMUT TCR群では、特に明らかである。図(E)に示すように、hCD3抗体刺激による様々な時点での表面のTCR発現を検出する実験により、他の群と比較して、dMUT TCRは、最も強い分解抵抗力を持つことが示された。
実施例6.T細胞のインビトロ機能検出及び枯渇モデルの構築
【0172】
T細胞のインビトロ機能検出:インビトロで活性化されたヒト初代T細胞に各突然変異1G4-TCRレトロウイルスを感染させた後、RPMI-1640完全培地でT細胞を12日間培養し、2×10
5個の細胞を96ウェルプレートに吸引してフローFACS検出を行った。検出指標は、CD62L、TCF1、CD27、及びCD45ROなどのT細胞記憶分子の発現である。その結果、
図3(A~C)に示すように、WT TCR群と比較して、SA TCR、KR TCR、及びdMUT TCR-T細胞では、CD27
+CD45RO
+(セントラルメモリーT細胞)の割合が有意に増加し、突然変異群は、メモリーT細胞に分化する傾向が強く、また、T細胞記憶分子であるCD62LとTCF1の発現が上昇し、特にdMUT TCR-T細胞が最も顕著であった。
【0173】
T細胞のインビトロ枯渇モデルの構築:インビトロで活性化されたヒト初代T細胞を各突然変異1G4-TCRレトロウイルスで感染させてから48時間後、T細胞を取り出し、2500rpmで5分間遠心分離し、完全培地でTCR-T細胞を再懸濁させ、2μg/ml hCD3抗体があらかじめ被覆された24ウェルプレート(1ウェル当たり10
6個の細胞)に入れ、さらにTCR-T細胞を48時間刺激し、その後、上記のステップを2回繰り返した。培養終了後、TCR-T細胞を採取してフローサイトメトリー検出を行った。このインビトロ枯渇モデルの構築は、当分野で知られている関連文書(Santosha A. Vardhana et al., Nat Immunol. 2020 Sep;21(9):1022-1033.)を参考にしており、検出指標は、枯渇関連分子のPD-1、TIM3、LAG-3、TOXなどやサイトカインTNF-α及びIFN-γである。その結果、
図3(D~F)に示すように、枯渇関連分子のLAG-3及びTOXの発現は、KR TCR-T細胞とdMUT TCR-T細胞において明らかに減少し、また、より多くのdMUT TCR-T細胞はサイトカインTNF-α及びIFN-γを産生し、以上より、KR TCR-T細胞とdMUT TCR-T細胞はT細胞枯渇の発生により抵抗できることを示唆した。
実施例7.T細胞のミトコンドリア機能検出及び代謝分析
【0174】
ミトコンドリア指標の検出:インビトロで活性化されたヒト初代T細胞を各突然変異1G4-TCRレトロウイルスに感染させた後、T細胞をRPMI-1640完全培地で12日間培養し、2×10
5個の細胞をEPチューブに吸収し、MitoTracker Green(Invitrogen #M7514)を加えて染色し、最終濃度を50nMとし、37℃で光を避けて1時間染色した後、フローFACS検出を行った。その結果、
図4(A)に示すように、WT TCR細胞と比較して、各突然変異TCR-T細胞では、ミトコンドリアの数に明らかな変化はなかった。ミトコンドリア膜電位の検出方法としては、2×10
5個の細胞をEPチューブに吸引し、TMRE(Invitrogen #T669)を加えて染色し、最終濃度を200nMとし、37℃で光を避けて1時間染色した後、フローFACS検出を行った。その結果、
図4(B)に示すように、WT TCR細胞と比較して、SA TCR、KR TCR、及びdMUT TCR-T細胞、特にdMUT TCR-T細胞では、べミトコンドリア膜電位が有意に低下した。ミトコンドリア活性酸素の検出方法としては、2×10
5個の細胞をEPチューブに吸引し、MitoSOX(Invitrogen #M36008)を加えて染色し、最終濃度を5μMとし、37℃で光を避けて1時間染色した後、フローFACS検出を行った。
図4(C)に示すように、WT TCR細胞と比較して、SA TCR、KR TCR、及び突然変異TCR-T細胞では、ミトコンドリアROSの産生は有意に減少した。上記実施例の結果を総括すると、各TCR突然変異は、T細胞内のミトコンドリアの数に影響しないが、突然変異TCR細胞、特にdMUT TCR-T細胞では、ミトコンドリアはより健全な状態を示し、これは、dMUT TCR-T細胞のインビトロ培養中に記憶性表現型を示し、T細胞の枯渇に抵抗することと関連している。
【0175】
代謝関連指標の検出:突然変異1G4-TCRレトロウイルスに感染したヒト初代T細胞を、37℃のインキュベータにおいてRPMI-1640完全培地中で12日間インビトロ培養し、2×10
5個の細胞をEPチューブに吸入し、2500rpmで5分間遠心分離し、上清を捨て、その後、無グルコース・無血清培地を用いてT細胞を再懸濁させ、24ウェルプレートに入れ、最終濃度50μMの2-NBDG(Invitrogen #N13195)あるいは1μMのBodipy FL C16(Invitrogen #D3821)で細胞を処理し、37℃で光を避けて30分間染色した後、フローFACS検出を行った。フローサイトメータで検出する前に、実験の要件に応じて他の標識分子で標識してもよい。
図4(D、及びE)の結果により、WT TCR細胞と比較して、SA TCR、KR TCR、及びdMUT TCR-T細胞では、グルコースの摂取量は明らかに低下し、細胞外脂肪酸の摂取には明らかな変化がなかった。
実施例8.突然変異TCR-T細胞の抗腫瘍機能の検出
【0176】
突然変異TCR-T細胞の抗腫瘍実験は、4~8週齢の免疫不全NSGマウスで行った。突然変異TCR-T細胞が野生型TCR-T細胞より優れた抗腫瘍効果を有することを確認するために、まず、8×105個のK562-NYESO-1細胞をNSGマウスの右後肢の腋窩に皮下接種し、標的細胞がマウスの皮下で約8~12日間成長した後、ノギスを使用して腫瘍体積を測定した。具体的には、腫瘍体積が80mm3~120mm3の場合、各突然変異1G4-TCRを感染させた5×106個のヒト初代T細胞をNSGマウスの尾静脈に注射した。次に、腫瘍体積を2日ごとに測定し、約14日後(具体的な操作時間は、実験の現象によって決定される。)、NSGマウスの血液、脾臓及び腫瘍組織を採取した。まず、腫瘍組織の重量を量り、次に赤血球溶解溶(Biolegend #420301)を使用して、マウスの血液及び脾臓中の赤血球を溶解した。マウスの腫瘍組織を粉砕し、次にPercoll密度勾配遠心分離(Cytiva #17089110)に供し、マウスの血液、脾臓及び腫瘍組織から、尾静脈を通じて導入したヒト初代T細胞を収集し、フローサイトメトリー染色によって分析した。
【0177】
具体的な結果を
図5及び6に示す。まず、
図5(A)では、腫瘍成長体積を統計したところ、WT TCR群と比較して、KR TCR-T細胞及びdMUT TCR-T細胞を導入した実験群では、腫瘍成長速度が大幅に遅くなることが判明した。腫瘍組織の重量を量った結果、
図5(B)に示すように、KR TCR-T細胞及びdMUT TCR-T細胞を導入した実験群では、腫瘍重量が大幅に減少した。また、この実施例では、担癌NSGマウスの脾臓、血液及び腫瘍組織中の導入CD8
+TCR-T細胞の割合を計算した。その結果、
図5(C~E)に示すように、マウスの脾臓及び血液において、dMUT TCR-T細胞の割合は、WT TCR-T細胞と比較して、有意に増加した。一方、マウスの腫瘍組織において、WT TCR-T細胞と比較して、KR TCR-T細胞とdMUT TCR-T細胞の割合が有意に増加した。これは、NSGマウス養子免疫モデルにおいて、KR TCR-T細胞とdMUT TCR-T細胞がより強い抗腫瘍持続性を有することを示した。さらに細胞表現型を分析したところ、
図6(A)に示すように、野生型TCR-T細胞と比較して、脾臓中のSA TCR、KR TCR、及びdMUT TCR-T細胞におけるCD27
+CD45RO
+(セントラルメモリーT細胞)の割合が有意に増加していることが明らかになった。また、腫瘍組織中のTCR-T細胞の分析を通じて、
図6(B、及びC)に示すように、WT TCR-T細胞と比較して、dMUT TCR-T細胞はより高いT細胞記憶分子CD62L及びCCR7を発現していることが判明した。
図6(D)は、腫瘍組織において、SA TCR、KR TCR、及びdMUT TCR群におけるPD-1
+TIM-3
+二重陽性細胞の割合が、WT TCR群よりも有意に低下したことを示す。さらに、阻害分子PD-1、TIM-3、LAG-3、CD39の蛍光強度を検出することにより、
図6(E~H)に示すように、WT TCR-T細胞と比較して、突然変異群のTCR-T細胞では、阻害分子の発現が大幅に低下していることが判明した。また、
図6(I)に示すように、枯渇に重要な転写因子TOXの発現がdMUT TCR-T細胞では大幅に減少していることがわかった。以上より、上記は、インビボ抗腫瘍モデルにおいて、突然変異群のTCR-T細胞がT細胞枯渇の発生に抵抗できることを示していた。また、腫瘍組織におけるTCR-T細胞によるサイトカインの産生を検出した結果、
図6(J、及びK)に示すように、養子KR TCR-T細胞群及びdMUT TCR-T細胞群において、IFN-γ
+CD8
+細胞の割合が明らかに上昇した。このことから、KR TCR細胞とdMUT TCR-T細胞はより強い抗腫瘍効果を有し、CD8
+KR TCR-T細胞とCD8
+dMUT TCR-TにおけるTNF-α
+IFN-γ
+二重陽性細胞の割合が高いことが示された。KR TCR-T細胞は、WT TCR細胞よりも多くのサイトカインを産生するが、dMUT TCR-T細胞よりはサイトカインの産生が少ないことを示した。これは、dMUT TCR-T細胞が腫瘍組織においてより強力なエフェクター機能を持っていることを示していた。
【0178】
T細胞養子免疫療法では、患者の限られたT細胞を集めてTCR-T細胞を大量に増殖させることも、養子治療後に腫瘍患者がT細胞機能の持続性低下とT細胞枯渇の発生に直面することも、現在のTCR-T細胞療法が直面する課題である。本願による突然変異TCR-T細胞の改変方法、特にdMUT TCR-Tの改変により、TCR-T細胞がインビトロで増殖されて腫瘍モデルに再注入した後、より持続的な抗腫瘍効果を示すことを可能にし、T細胞の枯渇の発生にも抵抗することができる。これは、dMUT TCR突然変異によって改変されたTCR-T細胞が臨床生産及び治療において持続的かつ効率的な抗腫瘍機能を達成すると期待されることを示唆していた。
【配列表】
【国際調査報告】