(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-21
(54)【発明の名称】外部励磁同期電動機に関する設定電流の最適化された指定
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20250114BHJP
H02P 21/00 20160101ALI20250114BHJP
【FI】
H02P27/06
H02P21/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024542063
(86)(22)【出願日】2022-12-13
(85)【翻訳文提出日】2024-09-12
(86)【国際出願番号】 EP2022085543
(87)【国際公開番号】W WO2023134940
(87)【国際公開日】2023-07-20
(32)【優先日】2022-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516128728
【氏名又は名称】プライメタルズ・テクノロジーズ・ジャーマニー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンネス・ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】クヌート・グライヘン
(72)【発明者】
【氏名】クラウス・レーエ
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505BB02
5H505DD03
5H505DD06
5H505EE30
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ26
5H505LL22
5H505LL24
(57)【要約】
設定値決定装置(10)は、瞬時回転速度(n)と加えられるべき設定トルク(M*)との積を通じて与えられる外部励磁同期電動機(1)の要求電力(P)が、電力(P)に関する最大値(Pmax)を超えているかを検査する。設定値決定装置(10)は、一方の場合において、電流ベクトル(i)に関する第1の最適化問題(O1)を、他方の場合において、第2の最適化問題(O2)を設定してリアルタイムで解く。第1の最適化問題(O1)を解くために、設定値決定装置(10)は電流ベクトル(i)を決定し、電流ベクトル(i)は、モータ電流(I)の界磁形成成分(Id)及びトルク形成成分(Iq)と励磁電流(Ie)とを含み、これによって、設定トルク(M*)が得られ、同期原動機(1)の損失が最小化される。他方の場合では、設定値決定装置(10)は、結果として生じる実トルク(M)が最大化されるように電流ベクトル(i)を決定する。すべての場合において、設定値決定装置(10)は、境界条件を考慮し、当該境界条件によると、モータ電流(I)の大きさが最大でモータ電流(I)に関する最大値(Imax)に到達し、励磁電流(Ie)の大きさが最大で励磁電流(Ie)に関する最大値(Iemax)に到達し、モータ電圧(U)の大きさが最大でモータ電圧(U)に関する最大値(Umax)に到達する。設定値決定装置(10)は、決定された電流ベクトル(i)を、設定値として電流制御装置(9)に指定し、電流制御装置(9)はコンバータ装置(8)を対応して作動させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁巻線(6)及びモータ巻線(3)を有する外部励磁同期電動機(1)の運転方法であって、
-設定値決定装置(10)は、同期電動機(1)の瞬時回転速度(n)及び前記同期電動機(1)によって加えられるべき設定トルク(M
*)を受信し、
-前記励磁巻線(6)に供給される励磁電流(Ie)に関する最大値(Iemax)、前記モータ巻線(3)に供給されるモータ電流(I)に関する最大値(Imax)、前記モータ電流(I)を駆動するモータ電圧(U)に関する最大値(Umax)、及び前記同期電動機(1)の電力(P)が前記設定値決定装置(10)に知られており、
-さらに、前記励磁巻線(6)及び前記モータ巻線(3)の抵抗値(Re、R)が前記設定値決定装置(10)に知られており、
-前記設定値決定装置(10)は、瞬時回転速度(n)と加えられるべき設定トルク(M
*)との積を通じて与えられる前記同期電動機(1)の要求電力(P)が、電力(P)に関する最大値(Pmax)を超えているか否かを検査し、
-前記設定値決定装置(10)は、前記要求電力(P)が前記電力(P)に関する最大値(Pmax)を超えない場合、電流ベクトル(i)に関する第1の最適化問題(O1)を設定してリアルタイムで解き、及び/又は、前記要求電力(P)が前記電力(P)に関する最大値(Pmax)を超える場合、電流ベクトル(i)に関する第2の最適化問題(O2)を設定してリアルタイムで解き、
-前記電流ベクトル(i)は、前記モータ電流(I)の界磁形成成分(Id)、前記モータ電流(I)のトルク形成成分(Iq)、及び前記励磁電流(Ie)に関してそれぞれ1つの成分を有し、
-前記設定値決定装置(10)は、前記第1の最適化問題(O1)を解く範囲内で、前記励磁巻線(6)及び前記モータ巻線(3)で生じる損失(V)が最小化されるように前記電流ベクトル(i)を決定し、
-前記設定値決定装置(10)は、前記第1の最適化問題(O1)の範囲内で、補足的な条件として、前記励磁電流(Ie)及び前記モータ電流(I)に基づいて生じる前記同期電動機(1)の実トルク(M)が前記設定トルク(M
*)に一致することを考慮し、
-前記設定値決定装置(10)は、前記第1の最適化問題(O)の範囲内で、さらに第1の一般境界条件を考慮し、前記第1の一般境界条件によると、
‐‐前記モータ電流(I)の大きさが最大で前記モータ電流(I)に関する最大値(Imax)に到達し、
‐‐前記励磁電流(Ie)の大きさが最大で前記励磁電流(Ie)に関する最大値(Iemax)に到達し、
‐‐前記モータ電圧(U)の大きさが最大で前記モータ電圧(U)に関する最大値(Umax)に到達し、
-前記設定値決定装置(10)は、前記第2の最適化問題(O2)を解く範囲内で、結果として生じる前記同期電動機(1)の実トルク(M)が最大化されるように前記電流ベクトル(i)を決定し、
-前記設定値決定装置(10)は、前記第2の最適化問題(O2)の範囲内で補足的な条件として、前記モータ電圧(U)の大きさが前記モータ電圧(U)に関する最大値(Umax)に等しいことを考慮し、
-前記設定値決定装置(10)は、前記第2の最適化問題(O2)の範囲内で、さらに第2の一般境界条件を考慮し、第2の一般境界条件によると、
‐‐前記モータ電流(I)の大きさが最大で前記モータ電流(I)に関する最大値(Imax)に到達し、
‐‐前記励磁電流(Ie)の大きさが最大で前記励磁電流(Ie)に関する最大値(Iemax)に到達し、
-前記設定値決定装置(10)は、前記第1の最適化問題(O1)又は前記第2の最適化問題(O2)を解くことによって決定された前記電流ベクトル(i)の成分を、コンバータ装置(8)に関する電流制御装置(9)に設定値として指定し、これによって、前記電流制御装置(9)が前記コンバータ装置(8)を作動させ、前記コンバータ装置(8)は前記励磁巻線(6)に前記励磁電流(Ie)を供給し、前記モータ巻線(3)に前記モータ電流(I)を供給する、運転方法。
【請求項2】
前記設定値決定装置(10)が、前記第1の最適化問題(O1)を解く範囲内で、
-まず、前記第1の一般境界条件を考慮せずに前記電流ベクトル(i)を暫定的に決定し、
-次に、暫定的に決定された前記電流ベクトル(i)が前記第1の一般境界条件を満たすか否かを検査し、
-暫定的に決定された前記電流ベクトル(i)が前記第1の一般境界条件を満たす場合には、暫定的に決定された前記電流ベクトル(i)を電流ベクトル(i)として使用し、それ以外の場合は、以下の第1の特別境界条件のうち少なくとも1つを考慮して前記電流ベクトル(i)を決定し、前記第1の特別境界条件によると、
‐‐前記モータ電流(I)の大きさは前記モータ電流(I)に関する最大値(Imax)に等しく、
‐‐前記励磁電流(Ie)の大きさは前記励磁電流(Ie)に関する最大値(Iemax)に等しく、
‐‐前記モータ電圧(U)の大きさは前記モータ電圧(U)に関する最大値(Umax)に等しく、
-前記第1の一般境界条件のいずれが満たされていないかに応じて、前記第1の特別境界条件のいずれを考慮するかを決定することを特徴とする、請求項1に記載の運転方法。
【請求項3】
前記設定値決定装置(10)が、暫定的に決定された前記電流ベクトル(i)が前記第1の一般境界条件を満たすか否かを検査する範囲内で、
-まず、前記モータ電流(I)の大きさが最大で前記モータ電流(I)に関する最大値(Imax)に達し、前記励磁電流(Ie)の大きさが最大で前記励磁電流(Ie)に関する最大値(Iemax)に達するか否かを検査し、
-その後で初めて、前記モータ電圧(U)の大きさが最大で前記モータ電圧(U)に関する最大値(Umax)に達するか否かを検査することを特徴とする、請求項2に記載の運転方法。
【請求項4】
前記設定値決定装置(10)が、第2の最適化問題(O2)を解く範囲内で、
-まず、第2の一般境界条件を考慮せずに前記電流ベクトル(i)を暫定的に決定し、
-次に、暫定的に決定された前記電流ベクトル(i)が前記第2の一般境界条件を満たすか否かを検査し、
-暫定的に決定された前記電流ベクトル(i)が前記第2の一般境界条件を満たす場合には、暫定的に決定された前記電流ベクトル(i)を電流ベクトル(i)として使用し、それ以外の場合は、以下の第2の特別境界条件のうち少なくとも1つを考慮して前記電流ベクトル(i)を決定し、前記第2の特別境界条件によると、
‐‐前記モータ電流(I)の大きさは前記モータ電流(I)に関する最大値(Imax)に等しく、
‐‐前記励磁電流(Ie)の大きさは前記励磁電流(Ie)に関する最大値(Iemax)に等しく、
-前記第2の一般境界条件のいずれが満たされていないかに応じて、前記第2の特別境界条件のいずれを考慮するかを決定することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の運転方法。
【請求項5】
前記設定値決定装置(10)が、暫定的に決定された前記電流ベクトル(i)が第2の一般境界条件を満たすか否かを検査する範囲内で、
-まず、前記モータ電流(I)の大きさが最大で前記モータ電流(I)に関する最大値(Imax)に達するか否かを検査し、
-その後で初めて、前記励磁電流(Ie)の大きさが最大で前記励磁電流(Ie)に関する最大値に達するか否かを検査することを特徴とする、請求項4に記載の運転方法。
【請求項6】
前記設定値決定装置(10)が、損失(V)として、銅損(VK)のみを考慮することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の運転方法。
【請求項7】
設定値決定装置(10)に関するコンピュータプログラムであって、コンピュータプログラムは、前記設定値決定装置(10)によって処理可能なマシンコード(12)を含み、前記設定値決定装置(10)による前記マシンコード(12)の処理は、前記設定値決定装置(10)に請求項1から6のいずれか一項に記載の運転方法を実行させる、コンピュータプログラム。
【請求項8】
外部励磁同期電動機(1)の励磁電流(Ie)及びモータ電流(I)に関する設定値を決定するための設定値決定装置(10)であって、設定値決定装置(10)が動作中に請求項1から6のいずれか一項に記載の運転方法を実行するような請求項7に記載のコンピュータプログラム(11)でプログラムされている、設定値決定装置(10)。
【請求項9】
駆動部であって、
-駆動部は、励磁巻線(6)及びモータ巻線(3)を備えた外部励磁同期電動機(1)を有し、
-駆動部は、コンバータ装置(8)を有し、前記コンバータ装置(8)は、励磁電流(Ie)を供給するために前記励磁巻線(6)に接続され、モータ電流(I)を供給するために前記モータ巻線(3)に接続されており、
-駆動部は、電流制御装置(9)を有し、前記電流制御装置(9)は前記コンバータ装置(8)を作動させ、
-駆動部は、請求項8に記載の設定値決定装置(10)を有し、
-前記設定値決定装置(10)は、同期電動機(1)の瞬時回転速度(n)と前記同期電動機(1)によって加えられるべき設定トルク(M
*)とを受信するための入力部を有し、
-前記設定値決定装置(10)は、前記モータ電流(I)の界磁形成成分(Id)の値及び前記モータ電流(I)のトルク形成成分(Iq)の値及び励磁電流(Ie)の値を指定するために、前記電流制御装置(9)に接続されている、駆動部。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励磁巻線とモータ巻線とを有する外部励磁同期電動機の運転方法に基づいており、
-設定値決定装置は、同期電動機の瞬時回転速度と、同期電動機によって加えられるべき設定トルクとを受信し、
-設定値決定装置は、励磁巻線に供給されるべき励磁電流とモータ巻線に供給されるべきモータ電流とに関するそれぞれの設定値を決定し、
-設定値決定装置は、決定された設定値を設定値として、コンバータ装置に関する電流制御装置に指定し、これによって、電流制御装置がコンバータ装置を作動させ、コンバータ装置は励磁巻線に励磁電流を供給し、モータ巻線にモータ電流を供給する。
【背景技術】
【0002】
本発明はさらに、設定値決定装置に関するコンピュータプログラムに基づいており、コンピュータプログラムは、設定値決定装置によって処理可能なマシンコードを含み、設定値決定装置によるマシンコードの処理は、設定値決定装置に当該運転方法を実行させる。
【0003】
本発明はさらに、外部励磁同期電動機の励磁電流及びモータ電流に関する設定値を決定するための設定値決定装置に基づいており、設定値決定装置は、設定値決定装置が動作中に当該運転方法を実行するようなコンピュータプログラムでプログラムされている。
【0004】
本発明はさらに、駆動部に基づいており、
-駆動部は、励磁巻線及びモータ巻線を備えた外部励磁同期電動機を有し、
-駆動部は、コンバータ装置を有し、コンバータ装置は、励磁電流を供給するために励磁巻線に接続され、モータ電流を供給するためにモータ巻線に接続されており、
-駆動部は、電流制御装置を有し、電流制御装置はコンバータ装置を作動させ、
-駆動部は、このような設定値決定装置を有し、
-設定値決定装置は、同期電動機の瞬時回転速度と同期電動機によって加えられるべき設定トルクとを受信するための入力部を有し、
-設定値決定装置は、モータ電流の界磁形成成分の値及びモータ電流のトルク形成成分の値及び励磁電流の値を指定するために、電流制御装置に接続されている。
【0005】
近年、外部励磁同期電動機(EESM)の使用が急増している。これは、動作範囲全体にわたる高い効率と、始動時の高いトルクとによるものである。特に、永久磁石同期電動機(PMSM)に対するさらなる利点は、入手可能性の低い材料、特にレアアースが不要であることにある。さらに、励磁電流によって調整可能であるロータの磁束は、エネルギー効率が高く柔軟な方法で所望のトルクを得ることを可能にする、付加的な自由度を示している。
【0006】
EESMのトルクの制御は一般に、界磁方向の座標で行われる。このためには、モータパラメータ、コンバータデータ、及び瞬時回転速度に依存して、達成すべきトルクの指定から設定電流を計算する必要がある。これらの設定電流に関する条件は、特に、要求されるトルクが可能な限り最良の方法で得られ、さらに、生じる損失が可能な限り少ないことにある。計算は1制御サイクル内に完了しなければならないので、リアルタイム性を有していなければならない。例えばコンバータ装置の使用可能な最大電圧及びモータ内の最大電流などの物理的な制約を順守する必要があり、したがって、計算の際に考慮する必要がある。
【0007】
先行技術では、モータ電流の電流成分、すなわち界磁形成成分及びトルク形成成分と励磁電流とは、部分的に互いから独立して決定される。加えられるべき設定トルクは電流フィルタに供給され、電流フィルタはフィルタリングを用いて、モータ電流のトルク形成電流成分(一般にq電流と呼ばれる)の設定値を決定し、当該設定値を電流制御装置に指定する。さらに、モータ電圧の最大値及び現在のモータ電圧が、弱め界磁制御装置に供給される。当該弱め界磁制御装置は一方で、励磁電流の設定値を決定し、当該設定値を電流制御装置に指定する。さらに、弱め界磁制御装置は、モータ電流の界磁形成成分(一般にd電流と呼ばれる)に関する暫定的な設定値を決定する。同期電動機の瞬時回転速度を基に、特性曲線を利用して、モータ電流の界磁形成成分に対する設定値の補正値が決定される。モータ電流の界磁成分に対する最終的な設定値は、当該補正値をモータ電流の界磁形成成分に関する暫定的な設定値に加算することによって決定される。モータ電流の界磁形成成分に関する最終的な設定値は、再び電流制御装置に指定される。
【0008】
EESMに対する他のアプローチも、この問題を解決することに取り組んでいる。しかしながら、つねに部分問題が解決されるに過ぎない。さらに、これらの解決策はリアルタイム性を有していない。他の先行技術の方法は、基本回転速度範囲(弱め界磁なしで作業可能な範囲)のみを考慮し、弱め界磁範囲では、すなわち高い回転速度では、弱め界磁制御装置に関する特性曲線を使用する。したがって、これらの方法では、予め記録しておかねばならない特性曲線が必要となる。加えて、モータ電流と励磁電流とは、互いから独立して考慮されるので、得られる解は準最適である。
【0009】
瞬時回転速度及び要求されるトルクに依存して最適な動作点を見つけるために、オフラインで最適化された電流に関するルックアップテーブルを使用することも、先行技術では同様に知られている。しかしながら、この解決策には、極めて大量の測定データと、ある程度の準備とが必要である。このようにして作成されたモータ電流及び励磁電流に関するルックアップテーブルは、実行時の柔軟性に欠け、機械のパラメータが変更された場合には完全に適合させる必要がある。さらに、ルックアップテーブルを高精度に、モータパラメータに依存して用いる場合、ルックアップテーブルは非常に多くのメモリを必要とする。
【0010】
特許文献1からは、励磁巻線及びモータ巻線を有する外部励磁同期電動機の運転方法が知られている。当該運転方法では、設定値決定装置が、同期電動機の瞬時回転速度と同期電動機によって加えられるべき設定トルクとを受信する。励磁巻線に供給される励磁電流に関する最大値、モータ電流を駆動するモータ電圧に関する最大値、同期電動機の電力、励磁巻線及びモータ巻線の抵抗値が、設定値決定装置に知られている。設定値決定装置は、電流ベクトルに関する最適化問題を設定し、リアルタイムで当該問題を解く。電流ベクトルは、モータ電流の界磁形成成分、モータ電流のトルク形成成分、及び励磁電流に関してそれぞれ1つの成分を有する。設定値決定装置は、最適化問題を解く範囲内で、励磁巻線及びモータ巻線で生じる損失が最小化されるように、電流ベクトルを決定する。設定値決定装置は、励磁電流及びモータ電流に基づいて生じる同期電動機の実トルクが設定トルクに一致するように電流ベクトルを決定する。設定値決定装置は補足的な条件として、励磁電流の大きさが最大で励磁電流に関する最大値に達し、モータ電圧の大きさが最大でモータ電圧に関する最大値に達することを考慮する。設定値決定装置は、コンバータ装置のための電流制御装置の決定された電流ベクトルの成分を設定値として指定し、これによって、電流制御装置はコンバータ装置を作動させ、コンバータ装置は励磁巻線に励磁電流を供給し、モータ巻線にモータ電流を供給する。
【0011】
先行技術の手順では、すべての動作状態においては外部励磁同期電動機の最適な運転につながらない。特に、弱め界磁と、これに対応するモータ電流の界磁形成成分に関する設定値に対する補正値の決定は、一般に、外部励磁同期電動機の回転速度が限界回転速度を超えている場合にのみ行われる。
【0012】
PMSMに関しては、最適な運転モードを決定することができる手順が存在する。しかしながら、EESMにおける問題の複雑さと解決可能性は、PMSMにおけるよりも著しく大きい。これは、最適解を求めるための決定論理にも当てはまる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】独国特許出願公開第102014223014号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】O. Haala, B. Wagner, M. Hofmann and M. Marz, “Optimal current control of externally excited synchronous machines in automotive traction drive applica-tions”, International Journal of Electrical and Computer Engineering、volume 7 (2013), pp.1133-1139.
【非特許文献2】D. Schroder, “Elektrische Antriebe: Regelung von Antriebssystemen”, Springer-Verlag, 2009.
【非特許文献3】H. Eldeeb, C. M. Hackl, J. Kullick, and L. Horlbeck, “Analytical solutions for the optimal reference currents for MTPC/MTPA, MTPV and MTPF control of anisotropic synchronous machines”, Proc. 2017 IEEE International Electric Machines and Drives Conference (IEMDC), 2017, pp.1-6.
【非特許文献4】T. Englert and K. Graichen, “Optimal setpoint computation for constrained torque control of PMSMs”, Proc. 2018 European Control Conference (ECC), 2018, pp.2671-2677.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、外部励磁同期電動機を最適な方法で運転できる可能性を創出することにある。特に、同期電動機の損失を最小化すべきである。解決策は、リアルタイムで実行可能でなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本課題は、請求項1の特徴を有する運転方法によって解決される。運転方法の有利な実施形態は、従属請求項2~6の対象である。
【0017】
本発明によると、外部励磁同期電動機の運転方法が創出され、当該運転方法では、
-設定値決定装置は、同期電動機の瞬時回転速度及び同期電動機によって加えられるべき設定トルクを受信し、
-励磁巻線に供給される励磁電流に関する最大値、モータ巻線に供給されるモータ電流に関する最大値、モータ電流を駆動するモータ電圧に関する最大値、及び同期電動機の電力が設定値決定装置に知られており、
-さらに、励磁巻線及びモータ巻線の抵抗値が設定値決定装置に知られており、
-設定値決定装置は、瞬時回転速度と加えられるべき設定トルクとの積を通じて与えられる同期電動機の要求電力が、電力に関する最大値を超えているか否かを検査し、
-設定値決定装置は、要求電力が電力に関する最大値を超えない場合、電流ベクトルに関する第1の最適化問題を設定し、第1の最適化問題をリアルタイムで解き、及び/又は、要求電力が電力に関する最大値を超える場合、電流ベクトルに関する第2の最適化問題を設定し、第2の最適化問題をリアルタイムで解き、
-電流ベクトルは、モータ電流の界磁形成成分、モータ電流のトルク形成成分、及び励磁電流に関してそれぞれ1つの成分を有し、
-設定値決定装置は、第1の最適化問題を解く範囲内で、励磁巻線及びモータ巻線で生じる損失が最小化されるように電流ベクトルを決定し、
-設定値決定装置は、第1の最適化問題の範囲内で、補足的な条件として、励磁電流及びモータ電流に基づいて生じる同期電動機の実トルクが設定トルクに一致することを考慮し、
-設定値決定装置は、第1の最適化問題の範囲内で、さらに第1の一般境界条件を考慮し、第1の一般境界条件によると、
‐‐モータ電流の大きさが最大でモータ電流に関する最大値に到達し、
‐‐励磁電流の大きさが最大で励磁電流に関する最大値に到達し、
‐‐モータ電圧の大きさが最大でモータ電圧に関する最大値に到達し、
-設定値決定装置は、第2の最適化問題を解く範囲内で、結果として生じる同期電動機の実トルクが最大化されるように電流ベクトルを決定し、
-設定値決定装置は、第2の最適化問題の範囲内で補足的な条件として、モータ電圧の大きさがモータ電圧に関する最大値に等しいことを考慮し、
-設定値決定装置は、第2の最適化問題の範囲内で、さらに第2の一般境界条件を考慮し、第2の一般境界条件によると、
‐‐モータ電流の大きさが最大でモータ電流に関する最大値に到達し、
‐‐励磁電流の大きさが最大で励磁電流に関する最大値に到達し、
-設定値決定装置は、第1の最適化問題又は第2の最適化問題を解くことによって決定された電流ベクトルの成分を、コンバータ装置に関する電流制御装置に設定値として指定し、これによって、電流制御装置がコンバータ装置を作動させ、コンバータ装置は励磁巻線に励磁電流を供給し、モータ巻線にモータ電流を供給する。
【0018】
つまり、関連するすべての電流(界磁形成成分、トルク形成成分、励磁電流)に関して、均一化された解決がなされる。これによって、加えられるべき設定トルクが得られるあらゆる運転状態において、同期電動機を最小限の損失で運転することができる。加えられるべき設定トルクが得られないあらゆる運転状態では、同期電動機のトルクを加えられるべき設定トルクに可能な限り近づけるように同期電動機を運転することができる。
【0019】
したがって、本発明に係る解決策は、適切な最適化問題を解くことによって、モータ電流及び界磁電流を決定することに基づいている。
【0020】
第1の最適化問題は、少なくともリアルタイムで、現在利用可能な大量生産に適したハードウェアでは、その一般性において一括して解くことができない。したがって、第1の最適化問題を効率的に解くためには、好ましくは、第1の最適化問題を解く範囲内で、設定値決定装置が、
-まず、第1の一般境界条件を考慮せずに電流ベクトルを暫定的に決定し、
-次に、暫定的に決定された電流ベクトルが第1の一般境界条件を満たすか否かを検査し、
-暫定的に決定された電流ベクトルが第1の一般境界条件を満たす場合には、暫定的に決定された電流ベクトルを電流ベクトルとして使用し、それ以外の場合は、以下の第1の特別境界条件のうち少なくとも1つを考慮して電流ベクトルを決定し、第1の特別境界条件によると、
‐‐モータ電流の大きさはモータ電流に関する最大値に等しく、
‐‐励磁電流の大きさは励磁電流に関する最大値に等しく、
‐‐モータ電圧の大きさはモータ電圧に関する最大値に等しく、
-第1の一般境界条件のいずれが満たされていないかに応じて、第1の特別境界条件のいずれを考慮するかを決定する、と規定されている。
【0021】
つまり、解析的に解決可能であるか、又は少なくとも数値近似的に解決可能である部分問題への区分が行われる。解析的に解決不可能である場合には、効率的な数値最適化が用いられ、わずか数回の反復で最適動作点に到達する。決定木に基づいて、いずれの部分問題を実際に解決し、その解を使用するかが決定される。この手順によって、特に決定の複雑さが大幅に軽減され、リアルタイム性が保証され得る。
【0022】
好ましくは、設定値決定装置は、暫定的に決定された電流ベクトルが第1の一般境界条件を満たすか否かを検査する範囲内で、
-まず、モータ電流の大きさが最大でモータ電流に関する最大値に達し、励磁電流の大きさが最大で励磁電流に関する最大値に達するか否かを検査し、
-その後で初めて、モータ電圧の大きさが最大でモータ電圧に関する最大値に達するか否かを検査すると規定されている。
【0023】
この手順は、単純で処理が容易な決定木を用いて、正しい解、つまり電流ベクトルを迅速にもたらす。
【0024】
第2の最適化問題を効率的に解くために、好ましくは、設定値決定装置は、第2の最適化問題を解く範囲内で、
-まず、第2の一般境界条件を考慮せずに電流ベクトルを暫定的に決定し、
-次に、暫定的に決定された電流ベクトルが第2の一般境界条件を満たすか否かを検査し、
-暫定的に決定された電流ベクトルが第2の一般境界条件を満たす場合には、暫定的に決定された電流ベクトルを電流ベクトルとして使用し、それ以外の場合は、以下の第2の特別境界条件のうち少なくとも1つを考慮して電流ベクトルを決定し、第2の特別境界条件によると、
‐‐モータ電流の大きさはモータ電流に関する最大値に等しく、
‐‐励磁電流の大きさは励磁電流に関する最大値に等しく、
-第2の一般境界条件のいずれが満たされていないかに応じて、第2の特別境界条件のいずれを考慮するかを決定する、と規定されている。
【0025】
これによって、特に決定の複雑さが大幅に軽減され、リアルタイム性が保証され得る。
【0026】
好ましくは、設定値決定装置は、暫定的に決定された電流ベクトルが第2の一般境界条件を満たすか否かを検査する範囲内で、
-まず、モータ電流の大きさが最大でモータ電流に関する最大値に達するか否かを検査し、
-その後で初めて、励磁電流の大きさが最大で励磁電流に関する最大値に達するか否かを検査する、と規定されている。
【0027】
この手順は、単純で処理が容易な決定木を用いて、正しい解、つまり電流ベクトルを迅速にもたらす。
【0028】
好ましくは、設定値決定装置は、損失として銅損のみを考慮する。銅損への限定は、確かに単純化ではある。しかしながら、銅損が全損失の大部分(少なくとも70%、しばしば80%以上)を占めており、さらに同期電動機は通常、鉄損に比べて銅損が特に優勢である基本回転速度範囲で運転されるので、この単純化は正当化される。
【0029】
本課題はさらに、請求項7の特徴を有するコンピュータプログラムによって解決される。本発明によると、設定値決定装置によるコンピュータプログラムの処理によって、設定値決定装置は本発明に係る運転方法を実行する。
【0030】
本課題はさらに、請求項8の特徴を有する設定値決定装置によって解決される。本発明によると、設定値決定装置は、本発明に係るコンピュータプログラムでプログラムされており、これによって、設定値決定装置は、動作中に、本発明に係る運転方法を実行する。
【0031】
本課題はさらに、請求項9の特徴を有する駆動部によって解決される。本発明によると、冒頭に述べた種類の駆動部において、設定値決定装置は、本発明に係る設定値決定装置として構成されている。
【0032】
上述した本発明の特性、特徴及び利点、並びにこれらがどのようにして得られるかについては、図面に関連してより詳細に行われる以下の実施例の説明に関連してより明確になり、より理解しやすくなる。この際、以下が概略的に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1によると、駆動部は、外部励磁同期電動機1を有する。同期電動機1は、内部にモータ巻線3が配置されたステータ2を有する。モータ巻線3には、コンバータ4を介してモータ電流Iが供給される。モータ巻線3は一般に三相巻線として形成されている。したがって、モータ電流Iは、三相系のa相、b相、c相を含んでいる。同期電動機1はさらに、共回転する励磁巻線6を備えたロータ5を有している。励磁巻線6には、さらなるコンバータ7を介して、励磁電流Ieが供給される。励磁電流Ieは一般に直流である。コンバータ4及びコンバータ7は共にコンバータ装置8を形成する。コンバータ装置8は、電流制御装置9によって作動する。
【0035】
駆動部はさらに、設定値決定装置10を有している。設定値決定装置10は、電流制御装置9に、設定値として、モータ電流Iの界磁形成成分Id及びトルク形成成分Iqと励磁電流Ieとを指定する。界磁形成成分Idとトルク形成成分Iqとは共に、モータ電流Iの設定値を形成する。2つの成分IdとIqとは、局所的に、互いに対して90°回転している。つまり、モータ電流Iは、設定値決定装置10におけるモータ電流Iの内部処理及び電流制御装置9への設定値の指定に関する限り、ベクトル変数であり、(共回転の)dqシステムでは、関係
【0036】
【0037】
が適用される。
【0038】
上記の設定値Id、Iq及びIeの指定に基づいて、電流制御装置9は、コンバータ7が励磁巻線6に励磁電流Ieを供給し、コンバータ4がモータ巻線3にモータ電流Iを供給するように、コンバータ装置8を作動させることができる。共回転のdqシステムからabcシステムへの変換は、当業者にはよく知られており、詳細に説明する必要はない。
【0039】
設定値決定装置10は、本発明の実際の中心的な対象である。設定値決定装置10は、コンピュータプログラム11でプログラムされている。コンピュータプログラム11は、設定値決定装置10によって処理され得るマシンコード12を含んでいる。設定値決定装置10によるマシンコード12の処理に基づいて、設定値決定装置10は、以下においてまず
図2に関連して、次に他の図を付加的に参照して、さらに詳細に説明する運転方法を実行する。
【0040】
図2によると、設定値決定装置10には、ステップS1において、値Imax、Iemax及びUmaxが知らされる。上記の値Imax、Iemax及びUmaxは、例えば、コンピュータプログラム11によって決定されていてよいか、又は駆動部の運転開始の際に一回限りで決定され得る。必要に応じて、駆動部の状態、例えば同期モータ1の動作温度の関数として、動的にも決定され得る。
【0041】
値Imaxはモータ電流Iの大きさに関する最大値である。値Iemaxは励磁電流Ieの大きさに関する最大値である。値Umaxは、モータ電流Iを駆動するモータ電圧Uの大きさに関する最大値である。モータ電圧Uに関する最大値Umaxは、例えば、コンバータ4の入力側のDCリンク電圧など、コンバータ4の供給電圧によって決定され得る。
【0042】
モータ電圧Uは、共回転のdqシステムにおいて、モータ電流Iと同様に、d成分及びq成分を有し、これらの成分は、以下において界磁形成電圧成分及びトルク形成電圧成分Ud及びUqと呼ばれる。モータ電流Iと同様に、関係
【0043】
【0044】
が適用される。
【0045】
設定値決定装置10にはさらに、ステップS2において、モータ巻線3の抵抗値Rと励磁巻線6の抵抗値Reが知らされる。値R、Reは、同様に、コンピュータプログラム11によって決定されていてよいか、又は駆動部の運転開始の際に一回限りで決定され得る。
【0046】
今や与えられている変数に基づいて、モータ電圧Uの成分Ud、Uqと励磁電圧Ueと、及びモータ電流Iの成分Id、Iqと励磁電流Ieとは、互いに関連付けられ得る。なぜなら、これは、定常運転の場合、
【0047】
【0048】
が近似的に適用されるからである、
【0049】
方程式(3)から方程式(5)において、ωは電気角周波数である。Ld及びLqは、d軸及びq軸におけるモータ巻線3の自己インダクタンスである。Lmは励磁巻線6の相互インダクタンスである。
【0050】
方程式(5)からはまた、最大励磁電圧Ueが励磁電流Ieと直線関係にあるので、最大励磁電圧Ueを詳細に考慮する必要がないことが間接的に明らかである。したがって、最大値Iemaxは、先に生じた制限(励磁電流Ie又は励磁電圧Ue)に対応するように決定されていてよい。
【0051】
方程式(3)から方程式(5)では、モータ電流I及び励磁電流Ieの経時的変化に基づいて生じる影響は考慮されていない。これは、これらの変化とその結果生じる影響とが小さいので許容される。さらに、方程式(3)から方程式(5)では、抵抗R、Reは経時的に一定であると仮定される。しかしながら、場合によっては生じ得る温度依存性又は駆動部の別の状態への依存性は、問題なく考慮され得る。
【0052】
モータ巻線3の自己インダクタンスLd、Lq及び励磁巻線6の相互インダクタンスLmは、モータ電流Iの成分Id、Iq及び励磁電流Ieに依存する。必要な場合には、モータ巻線3の自己インダクタンスLd及びLqと励磁巻線6の相互インダクタンスLmとの具体的な値は、設定値決定装置10内のルックアップテーブルに格納することができる。
【0053】
設定値決定装置10にはさらに、同期電動機1の電力Pに関する最大値Pmaxが知らされる。同期電動機1の電力Pに関する最大値Pmaxを設定値決定装置10に明確に指定することが可能である。代替的に、設定値決定装置10が、ステップS3において、関係
【0054】
【0055】
に従って、最大値Pmax自体を決定することも可能である。
【0056】
ステップS4において、設定値決定装置10は、同期電動機1の瞬時(機械)回転速度nと、同期原動機1によって加えられるべき設定トルクM*とを受信する。設定トルクM*の指定方法は任意のものであり得る。当該方法は、本発明の対象ではない。瞬時回転速度nの指定方法も、本発明の対象ではない。例えば、駆動部は、同期原動機1の実際の動作状態に基づいて回転速度nを決定する決定ブロック13を有することができる。代替的に、回転速度nの代わりに電気角周波数ωを決定し、電気角周波数ωから回転速度nを算出することもできる。電気角周波数ωを決定し、電気角周波数ωから回転速度nを算出するための適切な手順は、当業者に広く知られている。さらに、以下では、設定トルクM*が正の値を有すると仮定する。設定トルクM*が負の値であれば、符号に影響を与えるのみで、界磁形成成分Id、トルク形成成分Iq、励磁電流Ieの大きさは変化しないであろう。
【0057】
ステップS5において、設定値決定装置は、同期電動機1の瞬時要求電力Pを決定する。同期電動機1の瞬時要求電力Pは、瞬時回転速度nと加えられるべき設定トルクM*との積によって与えられる。
【0058】
ステップS6において、設定値決定装置10は、瞬時要求電力Pが最大値Pmaxを超過するか否かを検査する。要求電力Pが最大値Pmaxを超過しない場合、設定値決定装置10はステップS7に移行する。ステップS7において、設定値決定装置10は、電流ベクトルiに関して第1の最適化問題O1を設定し、リアルタイムで解く。これに対して、要求電力Pが最大値Pmaxを超過する場合、設定値決定装置10はステップS8に移行する。ステップS8において、設定値決定装置10は、電流ベクトルiに関して第2の最適化問題O2を設定し、リアルタイムで解く。
【0059】
電流ベクトルiは、3つの成分、すなわち、モータ電流Iの界磁形成成分Id及びトルク形成成分Iqと励磁電流Ieとを含んでいる。したがって、第1又は第2の最適化問題O1、O2の解は、設定値決定装置10が電流制御装置9に設定値として指定する値である。この指定はステップS9で行われる。
【0060】
設定値決定装置10が第2の最適化問題O2を解いた場合に、上位装置(図示せず)にメッセージを出力するように、
図2の手順を補足することが可能である。これによって、要求された設定トルクM
*が供給され得ないことを上位装置に知らせることができる。
【0061】
第1の最適化問題O1を解く範囲内で、
図3に係る設定値決定装置10は、生じる損失Vが最小化されるように電流ベクトルiを決定する。本発明の範囲内では、励磁巻線6及びモータ巻線3で生じる銅損VKのみが考慮される。実際には、銅損VKはその他の損失よりも著しく大きいので、その他の損失、特に鉄損は無視することができる。
【0062】
銅損VKは、関係
【0063】
【0064】
の形において優れた近似で設定され得る。第1の最適化問題O1の範囲内で、設定値決定装置10は、補足的な条件として、同期電動機1の実トルクMが設定トルクM*に対応するという第1の最適化問題O1の基本的前提条件を考慮する。実トルクMは、励磁電流Ie及びモータ電流Iの成分Iq、Idによって決定される。優れた近似で、
【0065】
【0066】
が生じる。Zは同期電動機1の極対数である。
【0067】
さらに、設定値決定装置10は、第1の最適化問題O1の範囲内で、第1の一般境界条件を考慮する。第1の一般境界条件によると、
-モータ電流Iの大きさが最大でモータ電流Iに関する最大値Imaxに到達すること、
-励磁電流Ieの大きさが最大で励磁電流Ieに関する最大値Iemaxに到達すること、
-モータ電圧Uの大きさが最大でモータ電圧Uに関する最大値Umaxに到達すること、が求められる。
【0068】
数学的には、第1の最適化問題O1は、次のように定式化できる:
【0069】
【0070】
以下が考慮される:
【0071】
【0072】
実トルクMは、電流ベクトルiの成分に複雑に依存し、さらに不等式(10)~不等式(12)に係る非線形制約を考慮しなければならないので、第1の最適化問題O1を解くことは自明な課題ではない。第1の最適化問題O1を解くための正確な手順は、
図4との関連において以下に詳細に説明される。
【0073】
図4は、設定値決定装置10が第1の最適化問題O1を解く範囲内で電流ベクトルiを決定する際の具体的な手順を示している。
【0074】
図4によると、設定値決定装置10は、まず、ステップS11において、電流ベクトルi=i1を決定する。電流ベクトルi1は、第1の一般境界条件を考慮することなく、設定値決定装置10によって決定される。つまり、設定値決定装置10は、確かに、第1の最適化問題O1を方程式(9)に従って方程式(13)を考慮して解く。しかしながら、設定値決定装置10は、同時に、不等式(10)~不等式(12)を考慮せずに最適化問題O1を解く。
【0075】
実際には、ステップS11は、例えばラグランジュアプローチを使って正確に解析的に解決され得る。この解法は文献から知られている。純粋な例として、非特許文献1を参照することができる。非特許文献2も挙げられる。この解法は、回転速度n又は電気角周波数ωに依存しない。当業者の間では、この解法は電流あたりの最大トルク(MTPC)として知られている。
【0076】
ステップS11で決定された解は暫定的なものに過ぎない。設定値決定装置10が電流ベクトルi=i1を最終的な電流ベクトルiとして採用する前に、設定値決定装置10は、まず、ステップS12において、モータ電流Iの大きさが最大でモータ電流Iに関する最大値Imaxに達したか否かを検査する。この条件が満たされる場合、設定値決定装置10は、次に、ステップS13において、励磁電流Ieの大きさが最大で励磁電流Ieに関する最大値Iemaxに達したか否かを検査する。
【0077】
ステップS12における検査がすでに否定的である場合、すなわち電流ベクトルi1に関して、モータ電流Iの大きさがモータ電流Iに関する最大値Imaxよりも大きい場合、設定値決定装置10はステップS14において電流ベクトルi=i2を決定する。設定値決定装置10は、方程式(13)を考慮して方程式(9)を解くことによって、従来と同様に電流ベクトルi2を決定する。しかしながら、設定値決定装置10は、付加的に第1の特別境界条件
【0078】
【0079】
も考慮して、方程式(9)を解く。当該境界条件に基づいて、方程式(9)で最小化される項は明らかに簡略化され得る。これは、成分R(Id2+Iq2)が方程式(14)によると定数であり、値RImax2を有し、したがって最小化の範囲内では無視することができるからである。結果として、抵抗Reも定数係数に過ぎないので、無視することができる。したがって、(完全な)銅損VKを最小化する代わりに、項Ie2を最小化すれば十分である。厳密に言えば、励磁電流Ieの大きさを最小化すれば十分である。さらに、方程式(14)に基づいて、界磁形成成分Idの値を用いてトルク形成成分Iqの大きさを決定することができるので、結果において変化させる必要のある変数が1つ少なくなる。実際には、ステップS14は、同様にラグランジュアプローチによって解析的に解決され得る。
【0080】
電流ベクトルiがステップS12の検査には合格するが、ステップS13の検査には合格しない場合、設定値決定装置10は、ステップS15において、電流ベクトルi=i3を決定する。設定値決定装置10は、方程式(13)を考慮して方程式(9)を解くことによって、従来と同様に電流ベクトルi3を決定する。しかしながら、設定値決定装置10は、付加的に第1の特別境界条件
【0081】
【0082】
も考慮して、方程式(9)を解く。
【0083】
ステップS15は、解として永久励磁同期機のMTPC軌跡を有する。この解は文献から知られている。純粋な例として、非特許文献3を参照することができる。また、非特許文献4も参照可能である。
【0084】
電流ベクトルi=i2を決定する手順と同様に、電流ベクトルi=i3を決定する際にも、方程式(9)の範囲内で最小化されるべき項を明らかに簡略化することができる。なぜなら、成分ReIe2は、方程式(15)によると定数であり、ReIemax2の値を有し、したがって最小化の範囲内では無視され得るからである。結果として、係数3R/2も、定数係数に過ぎないので、無視され得る。したがって、(完全な)銅損VKを最小化する代わりに、項Id2+Iq2を最小化すれば十分である。さらに、方程式(15)に基づき、変化させる必要がある変数が1つ少なくなる。なぜなら、励磁電流Ieの大きさが固定されているからである。したがって、励磁電流Ieは、+Iemax又は-Iemaxの値のみを有し得る。
【0085】
ステップS14及びS15の電流ベクトルi=i2及びi=i3も暫定的なものに過ぎない。設定値決定装置10が電流ベクトルi=i2又は電流ベクトルi=i3を最終的な電流ベクトルiとして採用する前に、設定値決定装置10はステップS16又はS17において、それぞれ残存する電流条件が満たされているか否か、すなわち電流ベクトルi=i2の場合に不等式(11)が満たされているか否か、又は電流ベクトルi=i3の場合に不等式(10)が満たされているか否かを検査する。一方では電流ベクトルi=i2が不等式(11)を満たさない場合、又は他方では電流ベクトルi=i3が不等式(10)を満たさない場合、設定値決定装置10は、ステップS18において、電流ベクトルi=i4を決定する。設定値決定装置10は、方程式(13)を考慮して方程式(9)を解くことによって、従来と同様に電流ベクトルi4を決定する。しかしながら、設定値決定装置10は、同時に、方程式(14)及び方程式(15)に係る条件を考慮して方程式(9)を解く。
【0086】
ステップS18の解は(ほぼ)自明である。なぜなら、結局のところ、界磁形成成分Idのみを変化させればよいからである。これによって、トルク形成成分Iqは、その符号を除いて固定されている。励磁電流Ieも同様に、その符号を除いて固定されている。
【0087】
ステップS11からS18までの実施形態に対する代替案もあり得る。特に、ステップS12及びS13の検査を逆の順序で実施し、これによって、電流ベクトルi=i2ではなく電流ベクトルi=i3を優先的に決定することが可能である。さらに良いのは、ステップS12の検査とS13の検査とが組み合わされた手順である。当該実施形態において、電流ベクトルi=i1が2つの検査のうち一方のみに合格しなかった場合、設定値決定装置10は、2つの電流ベクトルi=i2及びi=i3を決定し、2つの電流ベクトルi=i2及びi=i3に関して、それぞれ他の検査に合格するか否かを検査する。つまり、設定値決定装置10は、電流ベクトルi=i2が不等式(11)の条件を満たし、電流ベクトルi=i3が不等式(10)の条件を満たすか否かを検査する。電流ベクトルi=i2も電流ベクトルi=i3もそのそれぞれの検査に合格した場合、設定値決定装置10は電流ベクトルiとして、2つの電流ベクトルi=i2及びi=i3のうち、銅損VKが小さい方を選択する。2つの電流ベクトルi=i2及びi=i3のうちの一方のみがその検査に合格し、2つの電流ベクトルi=i2及びi=i3のうちの他方がその検査に合格しなかった場合、設定値決定装置10は電流ベクトルiとして、2つの電流ベクトルi=i2及びi=i3のうちのその検査に合格した方を選択する。2つの電流ベクトルi=i2及びi=i3の両方がそれぞれの検査に合格しなかった場合、設定値決定装置10は、電流ベクトルi=i4の決定を継続する。
【0088】
ここで決定された電流ベクトルiは、電流ベクトルi1、i2、i3又はi4のいずれであるかに関係なく、不等式(10)及び不等式(11)の電流制限を満たしている。しかしながら依然として、不等式(12)に従う電圧制限も満たされていることは保証されていない。したがって、設定値決定装置10は、ステップS19において、決定された電流ベクトルiに関して、電流ベクトルiが不等式(12)に係る条件を満たすか否かを検査する。つまり、設定値決定装置10は、モータ電圧Uの大きさが最大でモータ電圧Uに関する最大値Umaxに達するか否かを検査する。
【0089】
電流ベクトルiがステップS19の検査に合格した場合、設定値決定装置10は、ステップS11~S18の処理によって決定された電流ベクトルiを用いる。その他の場合には、設定値決定装置10は、ステップS20において、電流ベクトルi=i5を決定する。設定値決定装置10は、方程式(13)を考慮して方程式(9)を解くことによって、従来と同様に電流ベクトルi5を決定する。しかしながら、設定値決定装置10は、同時に条件
【0090】
【0091】
を考慮して方程式(9)を解く。
【0092】
電流ベクトルi=i5を決定するために、電流ベクトルi=i5を数値的に計算する必要があってもよい。このために、当業者には様々な決定方法が利用可能である。
【0093】
例えば、直線探索法又は多次元ニュートン法を用いた勾配法で、電流ベクトルi=i5を解くことは可能である。しかしながら、これらの方法の場合、時間を多く要しすぎるという危険性が存在する。しかしながら、電流ベクトルi=i5に関する最適化問題の構造に基づいて、解析的な部分解を決定することが可能であり、したがって、非常に効率的な数値法を導き出すことができる。
【0094】
このような方法の例として、励磁電流Ieの不動点反復が挙げられる。この場合、最適化問題の必要な一次最適性条件は、ラグランジュアプローチ
【0095】
【0096】
を用いて決定される。Laはラグランジュ関数である。λ1及びλ2はラグランジュ乗数である。R’、M’、U’は3×3行列であり、抵抗R、Re、生成されたトルクM、電圧成分Ud、Uq、及び励磁電圧Ueを用いて、顧慮されるべき境界条件(方程式(13)及び方程式(16))と組み合わせて決定され得る。勾配
【0097】
【0098】
は少なくとも条件
【0099】
【0100】
を満たさなければならない。当該条件は、モータ電流Iの成分Id、Iqの関数として励磁電流Ie及びラグランジュ乗数λ1、λ2を計算するために使用され得る。具体的には、関数
【0101】
【0102】
が存在する。
【0103】
この関数の解はラグランジュ乗数λ1及びλ2に依存しない。
【0104】
同様に、これは、トルクM(方程式(13))及びモータ電圧U(方程式(16))に関する境界条件にも適用され得る。モータ電流Iの界磁形成成分Id及びトルク形成成分Iqは、励磁電流Ieの関数として、関数
【0105】
【0106】
及び
【0107】
【0108】
として計算され得る。
【0109】
関数fIe、fId、fIqに基づいて、反復解法が、不動点反復の形
【0110】
【0111】
で定式化され、ここでkはそれぞれの反復ステップである。反復規則の不動点は最適電流ベクトルi=i5となり、ラグランジュ乗数λ1及びλ2は解析的に計算され得る。
【0112】
反復は、リアルタイム性を保証するために、適切な時点で中止される。中止の基準は、例えば、最大回数の反復が実行されること、又は結果がわずかに変化するのみであることにある。適切な出発点を使用することによって、実際の解が非常に少ない反復ステップで得られる。出発点は、例えば、設定値決定装置10によって電流制御装置9に最後に出力された励磁電流Ieであってよい。しかしまた、他のアプローチも可能である。
【0113】
代替的に、関数のゼロ点を決定するために一次元の方法を使うこともできる。これらの方法は非常に効率的である。この場合、方程式(19)は自明ではない解を有さなければならないと仮定される。その結果、行列
【0114】
【0115】
はカーネルを有し、行列の行列式は0の値を有さなければならない。これによって、式(24)をλ1又はλ2に分解することができる。例えば、λ1はλ2の関数として表現され得る。この結果、最適な電流ベクトルi=i5の解が得られる。なぜなら、電流ベクトルi=i5は、勾配方程式を満たすために、行列のカーネルでなければならないからである。つまり、
【0116】
【0117】
が有効でなければならない。
【0118】
ここで、i(λ2)は長さ1の電流ベクトルであり、したがって、電流ベクトルi=i5の「方向」、すなわち電流ベクトルi=i5の3つの成分の比を決定する。長さILは、方程式(13)及び方程式(16)の条件によって決定される。なぜなら、
【0119】
【0120】
及び
【0121】
【0122】
が有効でなければならないからである。
【0123】
方程式(26)及び方程式(27)をIL2に従って解き、等化することによって、方程式
【0124】
【0125】
が得られる。
【0126】
方程式(28)では、λ2のみが未知である。したがって、方程式(28)は最初から、λ2に従って解決され得る。とは言え、方程式(28)に関して、解析的な閉形式解は知られていない。しかしながら、ゼロ点、すなわちλ2の具体的な値を決定するために、一般に知られているゼロ点決定方法、例えばニュートン法又は二分法を使用することができる。
【0127】
方程式(28)を数値的に解決した後、モータ電流Iの成分Id、Iq及びλ1を解析的に算出することができる。やはり、計算ステップで得られた最適値を前もって初期解として使用することができる。
【0128】
自明のことながら、他の解決方法を用いることもできる。
【0129】
説明した手順の範囲内で、求められた解が許容電流範囲内であることが保証されなければならない。この事実を検証するために、方程式(13)(方程式(8)と併せて)、方程式(14)、方程式(16)を解析的に解くことができる。これによって、維持しなければならない励磁電流Ieの最小値と最大値とが算出される。算出された最小値が0より小さい場合は、値が0に引き上げられる。算出された最大値が最大励磁電流Imaxより大きい場合、算出された最大値の代わりに最大励磁電流Imaxが用いられる。電流ベクトルi=i5の励磁電流Ieがこのようにして決定された動作範囲の外にある場合は、算出された最小値が最適解となる。これによって、電流制限が守られ、すべての制約を満たし、同時に要求されるトルクM*を提供する有効な解がつねに求められることが保証される。
【0130】
第2の最適化問題O2を解く範囲内で、設定値決定装置10は、同期電動機1の実トルクMが最大化されるように、すなわち実トルクMが設定トルクM
*に可能な限り近づくように、
図5に従って電流ベクトルiを決定する。損失V、特に銅損VKは、第2の最適化問題O2を解く範囲内では考慮されない。
【0131】
第2の最適化問題O2の範囲内で、設定値決定装置10は、補足的な条件として、方程式(16)が満たされていることを考慮する。これは、内容的には、同期電動機1の実トルクMが最大化されるように、コンバータ4を可能な限り作動させるという試みに対応する。
【0132】
さらに、設定値決定装置10は、第2の最適化問題O2の範囲内で第2の一般境界条件を考慮する。これらの境界条件によると、
-モータ電流Iの大きさが最大でモータ電流Iに関する最大値Imaxに達すること(不等式(10))、及び
-励磁電流Ieの大きさが最大で励磁電流Ieに関する最大値Iemaxに達すること(不等式(11))が求められる。
【0133】
したがって、数学的には、第2の最適化問題O2は以下のように定式化できる:
【0134】
【0135】
ここで、設定値決定装置10はさらに、方程式(16)と不等式(10)及び不等式(11)とを考慮する。第2の最適化問題O2を解くための正確な手順は、
図6に関連してより詳細に説明される。
【0136】
図6は、設定値決定装置10が第2の最適化問題O2を解く範囲内で電流ベクトルiを決定する際に用いる具体的な手順を示している。
【0137】
図6によると、設定値決定装置10はまず、ステップS31において、電流ベクトルi6として電流ベクトルiを決定する。設定値決定装置10は、第2の一般境界条件を考慮することなく電流ベクトルi6を決定する。つまり、設定値決定装置10は、方程式(16)を付加的に考慮して、方程式(29)に従って第2の最適化問題O2を解く。不等式(10)及び不等式(11)を設定値決定装置10はステップS31において考慮しない。
【0138】
ステップS31は、実際には、例えばラグランジュアプローチを用いて正確に解析的に解決され得る。この解法は、電流ベクトルi2及びi3の決定に類似している。
【0139】
ステップS31で決定された解は暫定的なものに過ぎない。設定値決定装置10が電流ベクトルi6を最終的な電流ベクトルiとして採用する前に、設定値決定装置10は、まずステップS32において、モータ電流Iの大きさが最大でモータ電流Iに関する最大値Imaxに達しているか否かを検査する。
【0140】
電流ベクトルi=i6がステップS32の検査に合格しなかった場合、設定値決定装置10は、電流ベクトルiをステップS33において電流ベクトルi7として決定する。ステップS34において、設定値決定装置10は再び方程式(29)を解く。しかしまた、設定値決定装置10は、付加的に、方程式(16)だけでなく、方程式(14)も考慮する。
【0141】
次に、設定値決定装置10はステップS34において、今決定された電流ベクトルiが、電流ベクトルi6又はi7であるかに関係なく、励磁電流Ieが不等式(11)を満たす、すなわち励磁電流Ieの大きさが最大で励磁電流Ieに関する最大値Iemaxに達するという条件を満たすか否かを検査する。
【0142】
電流ベクトルiがステップS34の検査に合格した場合、設定値決定装置10は、検査の基となった電流ベクトルi、すなわち電流ベクトルi=i6又は電流ベクトルi=i7を用いる。電流ベクトルiがステップS34の検査に合格しなかった場合、設定値決定装置10は、ステップS35において、電流ベクトルとして電流ベクトルi8を決定する。ステップS35において、設定値決定装置10は、再び方程式(29)を解く。しかしながら、設定値決定装置10は、付加的に、方程式(16)だけではなく方程式(15)も考慮する。
【0143】
電流ベクトルi=i2及びi=i3の場合の手順と同様に、電流ベクトルi=i7及びi=i8を決定する際にも、トルク形成成分Iqの大きさは界磁形成成分Idの値を用いて決定され得るか、又は励磁電流Ieの大きさが固定されているので、変化させる必要がある変数が1つ少なくなる。
【0144】
ステップS35では、さらなる最適化問題を解かなければならない。この最適化問題は、方程式(16)に従う電圧制限を守りつつ、励磁電流Ieの最大値IemaxでトルクMを最大化する。この最適化問題は、永久磁石同期機に関して知られており、解析的な解を有する。この解の軌跡は、文献ではMTPV(電圧当たり最大トルク)と呼ばれ、例えば、すでに挙げた非特許文献3及び非特許文献4から知られている。解の軌跡は、1:1で採用され得る。
【0145】
ステップS35は、実際には、例えばラグランジュアプローチを用いて正確に解析的に解決され得る。
【0146】
ステップS36において、設定値決定装置10は、電流ベクトルi=i8に関して、モータ電流Iの大きさが最大でモータ電流Iに関する最大値Imaxに達したか否かを検査する。電流ベクトルiがステップS36の検査に合格した場合、設定値決定装置10は、ステップS35で決定された電流ベクトルi=i8を用いる。電流ベクトルiがステップS36のテストに合格しなかった場合、設定値決定装置10は、ステップS37において電流ベクトルi=i9を決定する。電流ベクトルi9の決定の範囲内で、設定値決定装置10は再び方程式(29)を解く。しかしまた、設定値決定装置10は、付加的に、方程式(16)だけではなく方程式(14)も考慮する。
【0147】
この最適化問題は、永久磁石同期機に関しては知られており、解析的な解を有する。解は、例えば非特許文献3及び非特許文献4から知られている。
【0148】
図6の実施形態においても、手順の変更が可能である。この変更は、
図4の実施形態における変更に類似している。特に、ステップS32の検査とS34の検査とを逆の順序で実施し、電流ベクトルi=i7ではなく電流ベクトルi=i8を優先的に決定することが可能である。さらに良いのは、ステップS32の検査とS34の検査とを組み合わせた手順である。当該実施形態において、電流ベクトルi=i6が2つの検査のうち一方のみに合格しなかった場合、設定値決定装置10は、2つの電流ベクトルi=i7及びi=i8を決定し、電流ベクトルi=i7及びi=i8の両方に関して、それぞれ他の検査に合格するか否かを検査する。つまり、設定値決定装置10は、電流ベクトルi=i7が不等式(11)の条件を満たすか否かと、電流ベクトルi=i8が不等式(10)の条件を満たすか否かとを検査する。電流ベクトルi=i7と及び電流ベクトルi=i8の両方がそれぞれの検査に合格した場合、設定値決定装置10は、電流ベクトルiとして、2つの電流ベクトルi=i7及びi=i8のうち、より高い実トルクMを供給する方を選択する。2つの電流ベクトルi=i7及びi=i8のうちの一方のみがその検査に合格し、2つの電流ベクトルi=i7及びi=i8のうちの他方がその検査に合格しなかった場合、設定値決定装置10は、電流ベクトルiとして、2つの電流ベクトルi=i7及びi=i8のうち、その試験に合格した方を選択する。電流ベクトルi=i7及びi=i8の両方がそれぞれの検査に合格しなかった場合、設定値決定装置10は、電流ベクトルi=i9の決定を継続する。
【0149】
図4の電流ベクトルi1~i4及び
図6の電流ベクトルi6~i9は解析的に、したがって非常に効率的に計算され得る。電流ベクトルi5に関しては、数値解のみが可能であるが、この解も非常に高速に計算できるので、電流ベクトルi5もリアルタイムに決定され得る。2つの最適化問題O1、O2を、状況(電流制限及び電圧制限の順守、一方の電流制限のみの順守、他方の電流制限のみの順守など)に応じて解かれる複数の部分問題に分割することによって、特に電流ベクトルiを決定するためのリアルタイム性が得られ、電流ベクトルiは、モータ電流Iの界磁形成成分Idとトルク形成成分Iqとの両方、及び励磁電流Ie、したがってすべての関連電流を含む。
【0150】
本発明は多くの利点を有する。例えば、本発明に係る方法は任意のEESMで使用され得る。多くの費用を要して予め記録又は計算されていたモータ電流I及び/又は励磁電流Ieに関するルックアップテーブルは不要である。重大な単純化も行われない。モータパラメータが知られてさえいればよい。これによって、本発明に係る方法は、新しい同期電動機1にも迅速に適応し得る。EESMの1つの部分動作範囲(特に基本回転速度範囲)のみを考慮し、次に動作限界を順守するために弱め界磁制御装置を用いる方法と比較して、本発明に係る方法は、すべての動作範囲がエネルギーが最適化された方法で考慮されるという利点を提供する。実際の最適動作点の算出によって、同じ電力でより大きなトルクが得られるか、又はより少ない電力で同じトルクが得られる。すべての電流及び電圧の制限を考慮することによって、同様に、高い回転速度におけるトルク挙動も改善される。本発明に係る運転方法は、すべての外部励磁同期電動機1において設定及び適用され得る。また、既存の駆動部に装備することも可能である。先行技術による解決策に対して、電気エネルギーの節約は少なくとも3%、最大10%に達する可能性がある。
【0151】
本発明を、好ましい実施例を通じて詳細に図示し、説明してきたが、本発明は、開示された例によって限定されるものではなく、特許請求の範囲内において、本発明の保護範囲から逸脱することなく、当業者によって、他の変型例が導出され得る。
【符号の説明】
【0152】
1 同期原動機
2 ステータ
3 モータ巻線
4、7 コンバータ
5 ロータ
6 励磁巻線
8 コンバータ装置
9 電流制御装置
10 設定値決定装置
11 コンピュータプログラム
12 マシンコード
13 決定ブロック
a、b、c 相
i、i1~i9 電流ベクトル
I モータ電流
Id 界磁形成成分
Ie 励磁電流
Iq トルク形成成分
Imax 最大値(モータ電流)
Iemax 最大値(励磁電流)
M 実トルク
M* 設定トルク
n 回転速度
O1、O2 最適化問題
P 電力
Pmax 最大値(電力)
R 抵抗(モータ巻線)
Re 抵抗(励磁巻線)
S1~S37 ステップ
U モータ電圧
Ue 励磁電圧
Ud、Uq モータ電圧の成分
Umax 最大値(モータ電圧)
ω 電気角周波数
【手続補正書】
【提出日】2024-11-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁巻線(6)及びモータ巻線(3)を有する外部励磁同期電動機(1)の運転方法であって、
-設定値決定装置(10)は、同期電動機(1)の瞬時回転速度(n)及び前記同期電動機(1)によって加えられるべき設定トルク(M
*)を受信し、
-前記励磁巻線(6)に供給される励磁電流(Ie)に関する最大値(Iemax)、前記モータ巻線(3)に供給されるモータ電流(I)に関する最大値(Imax)、前記モータ電流(I)を駆動するモータ電圧(U)に関する最大値(Umax)、及び前記同期電動機(1)の電力(P)が前記設定値決定装置(10)に知られており、
-さらに、前記励磁巻線(6)及び前記モータ巻線(3)の抵抗値(Re、R)が前記設定値決定装置(10)に知られており、
-前記設定値決定装置(10)は、瞬時回転速度(n)と加えられるべき設定トルク(M
*)との積を通じて与えられる前記同期電動機(1)の要求電力(P)が、電力(P)に関する最大値(Pmax)を超えているか否かを検査し、
-前記設定値決定装置(10)は、前記要求電力(P)が前記電力(P)に関する最大値(Pmax)を超えない場合、電流ベクトル(i)に関する第1の最適化問題(O1)を設定してリアルタイムで解き、及び/又は、前記要求電力(P)が前記電力(P)に関する最大値(Pmax)を超える場合、電流ベクトル(i)に関する第2の最適化問題(O2)を設定してリアルタイムで解き、
-前記電流ベクトル(i)は、前記モータ電流(I)の界磁形成成分(Id)、前記モータ電流(I)のトルク形成成分(Iq)、及び前記励磁電流(Ie)に関してそれぞれ1つの成分を有し、
-前記設定値決定装置(10)は、前記第1の最適化問題(O1)を解く範囲内で、前記励磁巻線(6)及び前記モータ巻線(3)で生じる損失(V)が最小化されるように前記電流ベクトル(i)を決定し、
-前記設定値決定装置(10)は、前記第1の最適化問題(O1)の範囲内で、補足的な条件として、前記励磁電流(Ie)及び前記モータ電流(I)に基づいて生じる前記同期電動機(1)の実トルク(M)が前記設定トルク(M
*)に一致することを考慮し、
-前記設定値決定装置(10)は、前記第1の最適化問題(O)の範囲内で、さらに第1の一般境界条件を考慮し、前記第1の一般境界条件によると、
‐‐前記モータ電流(I)の大きさが最大で前記モータ電流(I)に関する最大値(Imax)に到達し、
‐‐前記励磁電流(Ie)の大きさが最大で前記励磁電流(Ie)に関する最大値(Iemax)に到達し、
‐‐前記モータ電圧(U)の大きさが最大で前記モータ電圧(U)に関する最大値(Umax)に到達し、
-前記設定値決定装置(10)は、前記第2の最適化問題(O2)を解く範囲内で、結果として生じる前記同期電動機(1)の実トルク(M)が最大化されるように前記電流ベクトル(i)を決定し、
-前記設定値決定装置(10)は、前記第2の最適化問題(O2)の範囲内で補足的な条件として、前記モータ電圧(U)の大きさが前記モータ電圧(U)に関する最大値(Umax)に等しいことを考慮し、
-前記設定値決定装置(10)は、前記第2の最適化問題(O2)の範囲内で、さらに第2の一般境界条件を考慮し、第2の一般境界条件によると、
‐‐前記モータ電流(I)の大きさが最大で前記モータ電流(I)に関する最大値(Imax)に到達し、
‐‐前記励磁電流(Ie)の大きさが最大で前記励磁電流(Ie)に関する最大値(Iemax)に到達し、
-前記設定値決定装置(10)は、前記第1の最適化問題(O1)又は前記第2の最適化問題(O2)を解くことによって決定された前記電流ベクトル(i)の成分を、コンバータ装置(8)に関する電流制御装置(9)に設定値として指定し、これによって、前記電流制御装置(9)が前記コンバータ装置(8)を作動させ、前記コンバータ装置(8)は前記励磁巻線(6)に前記励磁電流(Ie)を供給し、前記モータ巻線(3)に前記モータ電流(I)を供給する、運転方法。
【請求項2】
前記設定値決定装置(10)が、前記第1の最適化問題(O1)を解く範囲内で、
-まず、前記第1の一般境界条件を考慮せずに前記電流ベクトル(i)を暫定的に決定し、
-次に、暫定的に決定された前記電流ベクトル(i)が前記第1の一般境界条件を満たすか否かを検査し、
-暫定的に決定された前記電流ベクトル(i)が前記第1の一般境界条件を満たす場合には、暫定的に決定された前記電流ベクトル(i)を電流ベクトル(i)として使用し、それ以外の場合は、以下の第1の特別境界条件のうち少なくとも1つを考慮して前記電流ベクトル(i)を決定し、前記第1の特別境界条件によると、
‐‐前記モータ電流(I)の大きさは前記モータ電流(I)に関する最大値(Imax)に等しく、
‐‐前記励磁電流(Ie)の大きさは前記励磁電流(Ie)に関する最大値(Iemax)に等しく、
‐‐前記モータ電圧(U)の大きさは前記モータ電圧(U)に関する最大値(Umax)に等しく、
-前記第1の一般境界条件のいずれが満たされていないかに応じて、前記第1の特別境界条件のいずれを考慮するかを決定することを特徴とする、請求項1に記載の運転方法。
【請求項3】
前記設定値決定装置(10)が、暫定的に決定された前記電流ベクトル(i)が前記第1の一般境界条件を満たすか否かを検査する範囲内で、
-まず、前記モータ電流(I)の大きさが最大で前記モータ電流(I)に関する最大値(Imax)に達し、前記励磁電流(Ie)の大きさが最大で前記励磁電流(Ie)に関する最大値(Iemax)に達するか否かを検査し、
-その後で初めて、前記モータ電圧(U)の大きさが最大で前記モータ電圧(U)に関する最大値(Umax)に達するか否かを検査することを特徴とする、請求項2に記載の運転方法。
【請求項4】
前記設定値決定装置(10)が、第2の最適化問題(O2)を解く範囲内で、
-まず、第2の一般境界条件を考慮せずに前記電流ベクトル(i)を暫定的に決定し、
-次に、暫定的に決定された前記電流ベクトル(i)が前記第2の一般境界条件を満たすか否かを検査し、
-暫定的に決定された前記電流ベクトル(i)が前記第2の一般境界条件を満たす場合には、暫定的に決定された前記電流ベクトル(i)を電流ベクトル(i)として使用し、それ以外の場合は、以下の第2の特別境界条件のうち少なくとも1つを考慮して前記電流ベクトル(i)を決定し、前記第2の特別境界条件によると、
‐‐前記モータ電流(I)の大きさは前記モータ電流(I)に関する最大値(Imax)に等しく、
‐‐前記励磁電流(Ie)の大きさは前記励磁電流(Ie)に関する最大値(Iemax)に等しく、
-前記第2の一般境界条件のいずれが満たされていないかに応じて、前記第2の特別境界条件のいずれを考慮するかを決定することを特徴とする、
請求項1に記載の運転方法。
【請求項5】
前記設定値決定装置(10)が、暫定的に決定された前記電流ベクトル(i)が第2の一般境界条件を満たすか否かを検査する範囲内で、
-まず、前記モータ電流(I)の大きさが最大で前記モータ電流(I)に関する最大値(Imax)に達するか否かを検査し、
-その後で初めて、前記励磁電流(Ie)の大きさが最大で前記励磁電流(Ie)に関する最大値に達するか否かを検査することを特徴とする、請求項4に記載の運転方法。
【請求項6】
前記設定値決定装置(10)が、損失(V)として、銅損(VK)のみを考慮することを特徴とする、
請求項1に記載の運転方法。
【請求項7】
設定値決定装置(10)に関するコンピュータプログラムであって、コンピュータプログラムは、前記設定値決定装置(10)によって処理可能なマシンコード(12)を含み、前記設定値決定装置(10)による前記マシンコード(12)の処理は、前記設定値決定装置(10)に請求項1から6のいずれか一項に記載の運転方法を実行させる、コンピュータプログラム。
【請求項8】
外部励磁同期電動機(1)の励磁電流(Ie)及びモータ電流(I)に関する設定値を決定するための設定値決定装置(10)であって
、請求項7に記載のコンピュータプログラム(11)でプログラムされている、設定値決定装置(10)。
【請求項9】
駆動部であって、
-駆動部は、励磁巻線(6)及びモータ巻線(3)を備えた外部励磁同期電動機(1)を有し、
-駆動部は、コンバータ装置(8)を有し、前記コンバータ装置(8)は、励磁電流(Ie)を供給するために前記励磁巻線(6)に接続され、モータ電流(I)を供給するために前記モータ巻線(3)に接続されており、
-駆動部は、電流制御装置(9)を有し、前記電流制御装置(9)は前記コンバータ装置(8)を作動させ、
-駆動部は、請求項8に記載の設定値決定装置(10)を有し、
-前記設定値決定装置(10)は、同期電動機(1)の瞬時回転速度(n)と前記同期電動機(1)によって加えられるべき設定トルク(M
*)とを受信するための入力部を有し、
-前記設定値決定装置(10)は、前記モータ電流(I)の界磁形成成分(Id)の値及び前記モータ電流(I)のトルク形成成分(Iq)の値及び励磁電流(Ie)の値を指定するために、前記電流制御装置(9)に接続されている、駆動部。
【国際調査報告】