(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-22
(54)【発明の名称】機械学習に基づく多性能協調最適化ハイエントロピー合金成分の設計方法
(51)【国際特許分類】
G16C 60/00 20190101AFI20250115BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20250115BHJP
C22C 1/02 20060101ALI20250115BHJP
G06N 3/126 20230101ALI20250115BHJP
C22C 30/00 20060101ALN20250115BHJP
【FI】
G16C60/00
G06N20/00
C22C1/02 503N
G06N3/126
C22C30/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023512027
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2023-02-15
(86)【国際出願番号】 CN2022141087
(87)【国際公開番号】W WO2024098522
(87)【国際公開日】2024-05-16
(31)【優先権主張番号】202211401459.3
(32)【優先日】2022-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523054540
【氏名又は名称】広東海洋大学
【氏名又は名称原語表記】GUANGDONG OCEAN UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.1 Haida Road, Mazhang District Zhanjiang, Guangdong 524000 China
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】文成
(72)【発明者】
【氏名】田玉▲ワン▼
(72)【発明者】
【氏名】徐▲ウィ▼坤
(72)【発明者】
【氏名】黎華鋒
(57)【要約】
本発明は、機械学習に基づく多性能協調最適化ハイエントロピー合金成分の設計方法を開示する。この方法では、ハイエントロピー合金成分-性能初期データセットを作成し、データクリーニングを行い、クリーニングされたデータを標準化処理し、ハイエントロピー合金性能訓練セットを取得し、ハイエントロピー合金性能訓練セットによりハイエントロピー合金各性能を予測するベースモデルを確定し、成分検索空間内のハイエントロピー合金の各性能の期待改善(EI)値を確定し、成分検索空間における合金性能EI値のパレートフロントを確定し、クラスター分析によりEI値パレートフロントのクラスター中心を取得し、EI値に対応するハイエントロピー合金及びそれに関連する成分情報を確定し、このハイエントロピー合金を製造し、製造されたハイエントロピー合金の各目標性能に対して特性評価試験を行い、試験データが要求を満たさない場合、前記試験データに応じてハイエントロピー合金成分-性能初期データセットを更新する。本発明は、ハイエントロピー合金の多性能協調最適化の効率的な成分設計を実現することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械学習に基づく多性能協調最適化ハイエントロピー合金成分の設計方法であって、
ハイエントロピー合金のヒストリカルデータ情報に基づいてハイエントロピー合金成分-性能初期データセットを作成するステップと、
前記ハイエントロピー合金の各性能パラメータに対してデータクリーニングを行い、クリーニングされたデータを標準化処理してハイエントロピー合金性能訓練セットを得るステップと、
前記ハイエントロピー合金性能訓練セットにより、ハイエントロピー合金の各目標性能に対して複数の機械学習モデルをそれぞれ訓練し、順にハイエントロピー合金の各性能を予測するベースモデルをスクリーニングして確定するステップと、
前記ベースモデルにより成分空間内で検索して得られたハイエントロピー合金の各性能の期待改善(EI)値を確定するステップと、
最適化されるハイエントロピー合金性能訓練セットにおけるハイエントロピー合金の目標成分の検索空間を確定し、ハイエントロピー合金の各性能のEI値を目標として遺伝的最適化検索を行い、検索成分空間における合金性能EI値のパレートフロントを確定するステップと、
前記EI値のパレートフロントに対してクラスター分析を行い、スクリーニングしてEI値に対応するハイエントロピー合金及びそれに関連する成分情報を得るステップと、
真空アーク溶解炉溶解法により前記EI値関連成分情報に対応するハイエントロピー合金を製造するステップと、
製造されたハイエントロピー合金の各目標性能に対して特性評価試験を行い、試験データが必要を満たさない場合、前記試験データに基づいてハイエントロピー合金成分-性能初期データセットを更新するステップと、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記ハイエントロピー合金のヒストリカルデータ情報に基づいてハイエントロピー合金成分-性能初期データセットを作成するステップにおいて、具体的に、耐火ハイエントロピー合金に対して文献調査を行い、Al、Ti、V、Zr、Cr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wの10種類の通常元素を含むハイエントロピー合金成分-性能初期データセットを作成し、合金成分、高温降伏強度及び室温圧縮塑性性能を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ハイエントロピー合金の各性能パラメータに対してデータクリーニングを行い、具体的に、報告された合金性能の異常値、欠損値を削除し、同一成分について異なる文献によって報告された性能データに対して、各報告値の相対誤差を確定し、前記相対誤差が誤差閾値よりも小さい重複値做を平均処理し、前記相対誤差が誤差閾値よりも大きい重複値を削除処理し、最終の合金性能値を取得し、前記合金性能は、高温降伏強度及び室温塑性を含み、クリーニングされた合金性能値を正規化処理し、複数のサンプルを含む高温降伏強度訓練データセット及び複数のサンプルを含む室温塑性訓練データセットを確定することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ハイエントロピー合金性能訓練セットにより、ハイエントロピー合金の各目標性能に対して複数の機械学習モデルをそれぞれ訓練し、順にハイエントロピー合金の各性能を予測するベースモデルをスクリーニングして確定するステップにおいて、具体的に、前記高温降伏強度訓練データセット及び室温塑性訓練データセットに対してN群に均等に分割し、第1群データを用いて機械学習モデルを訓練フィッティングし、残りのN-1群の訓練データを予測してその性能予測値を取得し、実際値と予測値の第1二乗平均平方根誤差を確定し、さらに第2群から第N群データに対して同じ予測操作を順に実行し、予測した第2二乗平均平方根誤差を取得し、前記第1二乗平均平方根誤差、第2二乗平均平方根誤差に基づいて各機械学習モデルの交差検証誤差を確定し、前記交差検証誤差が最小の機械学習モデルは、それぞれ合金高温強度及び室温塑性性能を予測するためのベースモデルであることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ベースモデルにより成分空間内で検索して得られたハイエントロピー合金の各目標性能の期待改善(EI)値を得るステップにおいて、具体的に、前記合金性能訓練セットに対してブートストラップ法によりリサンプリングしてM群のリサンプリングデータセットを取得し、各群のリサンプリングデータセットに含まれるサンプルの数は、いずれも訓練セットの数と同じであり、各群のリサンプリングデータセットによりそれぞれベースモデルを訓練し、M個の性能予測ベースモデルを取得し、前記M個の性能予測ベースモデルにより成分空間内で検索して得られたハイエントロピー合金に対して性能予測を行い、M個の予測値を取得し、性能予測値の平均値μ及び分散σを確定し、算式:
【数1】
により合金性能の期待改善(EI)値を確定し、ここで、μ
*は、訓練セットにおける合金性能の最適値を示し、φは、確率密度関数を示し、Φは、確率分布関数を示すことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
最適化されるハイエントロピー合金性能訓練セットにおけるハイエントロピー合金目標成分の検索空間を確定するステップにおいて、具体的に、前記合金性能訓練セットにおける合金構成元素の種類に応じて、Al、Ti、V、Zr、Cr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wの種類の元素からなるハイエントロピー目標成分の探索空間を確定し、検索合金に3-6種類の元素が含まれるように限定し、合金における各元素のモル含有量が35%以下5%以上であり、含有量の可変ステップサイズは1%であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ハイエントロピー合金の各性能のEI値を目標として遺伝的最適化検索を行い、検索成分空間におけるEI値のパレートフロントを確定するステップにおいて、具体的に、前記ハイエントロピー合金の目標成分の検索空間において、遺伝的検索を1回実行するたびに、1つの合金EI値のパレートフロントを取得し、前記遺伝の検索をN回実行し、N個のパレートフロントを取得し、N個のパレートフロント合金に対して非支配ソーティングを行い、最終的に遺伝的検索される合金性能のEI値のパレートフロントを確定することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記合金性能EI値のパレートフロントに応じてクラスター分析を行い、スクリーニングして性能EI値に対応するハイエントロピー合金及びそれに関連する成分情報を得るステップにおいて、具体的に、K平均クラスタリング法により合金性能EI値のパレートフロントをクラスター分析し、エルボー法により最適なクラスター中心の数を確定し、この数を用いて合金性能EI値のパレートフロントに対してクラスタリング及びスクリーニングを行い、EI値に対応する合金及びそれに関連する成分情報を得ることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
試験データが必要を満たした場合、設計を終了させ、多性能が協調最適化されたハイエントロピー合金が得られるステップをさらに含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
設計された合金の多性能が同時に最適化及び改善された要求を満たすか又は予算の上限に達するまで、ハイエントロピー合金成分-性能初期データセットにおけるそれぞれのハイエントロピー合金をそれぞれ設計するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料設計技術分野に属し、具体的には、機械学習に基づく多性能協調最適化ハイエントロピー合金成分の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
経済と社会の急速な発展に伴い、金属材料の性能に対する要求は絶えず改善されている。単一主要素設計に基づく伝統的な金属合金システムは絶えず改善されており、性能開発は飽和する傾向があり、高性能金属材料の開発、設計、応用にはボトルネックがある。台湾の学者Ye Junweiは、2004年に多元合金組成設計の概念を提案した。このように定義されたハイエントロピー合金は、金属材料の設計に豊富な探索空間を提供し、合金組成の選択と性能調整の自由度を大幅に向上させる。近年の研究により、ハイエントロピー合金は、高温強度、低温靭性、熱安定性、耐食性などの多くの面で従来の合金材料よりも優れており、幅広い用途の見通しがあることが示されている。
【0003】
しかし、ハイエントロピー合金の組成システムは複雑で、伝統的な試行錯誤の材料設計方法に依存しており、その迅速かつ正確な組成設計要件を満たすことは困難である。一方、エンジニアリング用途向けのハイエントロピー合金の研究開発では、通常、複数の特性を相乗的に最適化する必要がある。合金設計は、全ての性能が全面的に最適化できないという問題に直面しており、新しい高性能合金材料の研究開発の効率が低く、周期が長く、コストが高くなる。そのため、広い組成空間でのターゲット材料の探索をいかに加速し、高性能合金材料の効率的な設計手法を開発するかは、金属合金の分野、さらには材料設計の分野全体でブレークスルーを急ぐ必要がある技術的課題となっている。
【0004】
近年、材料遺伝的工学の台頭により、材料の研究開発に新たなパラダイムが生まれ、材料設計において機械学習に代表されるデータ技術がますます重要な役割を果たしている。機械学習方法は、既存の材料データ情報に基づいて、材料組成、プロセスなどと目標性能との間に暗黙の関係を確立し、既存の材料データ情報に基づいて隠れた材料法則と知識を掘り起こすことで、材料特性を迅速かつ正確に予測できるため、材料組成の設計が加速される。現在、機械学習方法によりハイエントロピー合金の成分及び性能設計を指導することが報告されている。
【0005】
例えば、中国特許CN113870957Aには、機械学習に基づく共晶型ハイエントロピー合金成分の設計方法及び装置が開示されている。機械学習モデルを訓練することにより、共晶形成に対して大きな影響を有する重要な元素及びそれに強く関係する元素を予測し、これに基づいて元素含有量を調整し、共晶型ハイエントロピー合金を予測して共晶型ハイエントロピー合金の成分を得る。
【0006】
中国特許CN114678086Aには、低活性化ハイエントロピー合金設計の機械学習方法が開示されている。分類モデルと回帰モデルを訓練することにより、BCC相構造を有する低活性化特性のFe-Cr-V-W-Mn系ハイエントロピー合金成分を予測する。
【0007】
優れた硬さ特性を持つハイエントロピー合金を予測及び検索するための従来方法に存在する、時間がかかり、労働集約的で不正確な問題を解決するために、中国特許CN112216356Aには、機械学習に基づくハイエントロピー合金の硬さ予測方法が開示されており、中国特許CN115061435Aには、ハイエントロピー合金の硬さを迅速に予測するための機械学習方法及びその製造プロセスが開示されている。
【0008】
中国特許CN114464274Aには、機械学習に基づいて遺伝的アルゴリズム特徴スクリーニングを改善するハイエントロピー合金の硬さ予測方法が開示されている。機械学習モデルを訓練し、遺伝的アルゴリズムを改良し、ハイエントロピー合金の硬さとの関連度が高い特徴組み合わせをスクリーニングすることにより、硬さの予測精度を向上させ、硬さ必要に応じるハイエントロピー合金成分の設計を指導する。
【0009】
しかし、これまでに報告された機械学習手法は、通常、限られた合金空間内の特定のハイエントロピー合金系向けに設計されており、高次元の複雑な組成空間で目的の合金を迅速に検索することは困難である。一方、報告された方法は、主に単一目標性能の最適化のための材料組成設計を目的としており、多目標性能の共同最適化設計の要求下でのハイエントロピー合金組成設計の問題を解決することはできない。
【0010】
以上より、ハイエントロピー合金成分の巨大空間及び多性能協調最適化が求められる材料設計の問題に対して、材料遺伝子工学の考え方に基づいて、機械学習技術によりデータ駆動型で多性能要求に向けるハイエントロピー合金成分の新しい設計方法を設計する必要がある。
【発明の概要】
【0011】
上記の事情に鑑みて、本発明の主な目的は、機械学習に基づく多性能協調最適化ハイエントロピー合金成分の設計方法を提供することにある。
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明の技術的手段は、以下の通りである。
【0013】
本発明の実施例は、機械学習に基づく多性能協調最適化ハイエントロピー合金成分の設計方法を提供する。この方法は、
ハイエントロピー合金のヒストリカルデータ情報に基づいてハイエントロピー合金成分-性能初期データセットを作成するステップと、
前記ハイエントロピー合金の各性能パラメータに対してデータクリーニングを行い、クリーニングされたデータを標準化処理してハイエントロピー合金性能訓練セットを得るステップと、
前記ハイエントロピー合金性能訓練セットにより、ハイエントロピー合金の各目標性能に対して複数の機械学習モデルをそれぞれ訓練し、順にハイエントロピー合金の各性能を予測するベースモデルをスクリーニングして確定するステップと、
前記ベースモデルにより成分空間内で検索して得られたハイエントロピー合金の各性能の期待改善(EI)値を確定するステップと、
最適化されるハイエントロピー合金性能訓練セットにおけるハイエントロピー合金の目標成分の検索空間を確定し、ハイエントロピー合金の各性能のEI値を目標として遺伝的最適化検索を行い、検索成分空間における合金性能EI値のパレートフロントを確定するステップと、
前記EI値のパレートフロントに対してクラスター分析を行い、スクリーニングしてEI値に対応するハイエントロピー合金及びそれに関連する成分情報を得るステップと、
真空アーク溶解炉溶解法により前記EI値関連成分情報に対応するハイエントロピー合金を製造するステップと、
製造されたハイエントロピー合金の各目標性能に対して特性評価試験を行い、試験データが必要を満たさない場合、前記試験データに基づいてハイエントロピー合金成分-性能初期データセットを更新するステップと、
を含む。
【0014】
上記の実施形態では、前記ハイエントロピー合金のヒストリカルデータ情報に基づいてハイエントロピー合金成分-性能初期データセットを作成するステップにおいて、具体的に、耐火ハイエントロピー合金に対して文献調査を行い、Al、Ti、V、Zr、Cr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wの10種類の通常元素を含むハイエントロピー合金成分-性能初期データセットを作成し、合金成分、高温降伏強度及び室温圧縮塑性性能を含む。
【0015】
上記の実施形態では、前記ハイエントロピー合金の各性能パラメータに対してデータクリーニングを行い、具体的に、報告された合金性能の異常値、欠損値を削除し、同一成分について異なる文献によって報告された性能データに対して、各報告値の相対誤差を確定し、前記相対誤差が誤差閾値よりも小さい重複値做を平均処理し、前記相対誤差が誤差閾値よりも大きい重複値を削除処理し、最終の合金性能値を得る。前記合金性能は、高温降伏強度及び室温塑性を含む。クリーニングされた合金性能値を正規化処理し、複数のサンプルを含む高温降伏強度訓練データセット及び複数のサンプルを含む室温塑性訓練データセットを確定する。
【0016】
上記の実施形態では、前記ハイエントロピー合金性能訓練セットにより、ハイエントロピー合金の各目標性能に対して複数の機械学習モデルをそれぞれ訓練し、順にハイエントロピー合金の各性能を予測するベースモデルをスクリーニングして確定するステップにおいて、具体的に、前記高温降伏強度訓練データセット及び室温塑性訓練データセットに対してN群に均等に分割し、第1群データを用いて機械学習モデルを訓練フィッティングし、残りのN-1群の訓練データを予測してその性能予測値を取得し、実際値と予測値の第1二乗平均平方根誤差を確定し、さらに第2群から第N群データに対して同じ予測操作を順に実行し、予測した第2二乗平均平方根誤差を取得し、前記第1二乗平均平方根誤差、第2二乗平均平方根誤差に基づいて各機械学習モデルの交差検証誤差を確定し、前記交差検証誤差が最小の機械学習モデルは、それぞれ合金高温強度及び室温塑性性能を予測するためのベースモデルである。
【0017】
上記の実施形態では、前記ベースモデルにより成分空間内で検索して得られたハイエントロピー合金の各目標性能の期待改善(EI)値を得るステップにおいて、具体的に、前記合金性能訓練セットに対してブートストラップ法によりリサンプリングしてM群のリサンプリングデータセットを取得し、各群のリサンプリングデータセットに含まれるサンプルの数は、いずれも訓練セットの数と同じであり、各群のリサンプリングデータセットによりそれぞれベースモデルを訓練し、M個の性能予測ベースモデルを取得し、前記M個の性能予測ベースモデルにより成分空間内で検索して得られたハイエントロピー合金に対して性能予測を行い、M個の予測値を取得し、性能予測値の平均値μ及び分散σを確定し、算式:
【数1】
により合金性能の期待改善(EI)値を確定し、ここで、μ
*は、訓練セットにおける合金性能の最適値を示し、φは、確率密度関数を示し、Φは、確率分布関数を示す。
【0018】
上記の実施形態では、最適化されるハイエントロピー合金性能訓練セットにおけるハイエントロピー合金目標成分の検索空間を確定するステップにおいて、具体的に、前記合金性能訓練セットにおける合金構成元素の種類に応じて、Al、Ti、V、Zr、Cr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wの種類の元素からなるハイエントロピー目標成分の探索空間を確定し、検索合金に3-6種類の元素が含まれるように限定し、合金における各元素のモル含有量が35%以下5%以上であり、含有量の可変ステップサイズは1%である。
【0019】
上記の実施形態では、ハイエントロピー合金の各性能のEI値を目標として遺伝的最適化検索を行い、検索成分空間におけるEI値のパレートフロントを確定するステップにおいて、具体的に、前記ハイエントロピー合金の目標成分の検索空間において、遺伝的検索を1回実行するたびに、1つの合金EI値のパレートフロントを取得する。前記遺伝の検索をN回実行し、N個のパレートフロントを取得する。N個のパレートフロント合金に対して非支配ソーティングを行い、最終的に遺伝的検索される合金性能のEI値のパレートフロントを確定する。
【0020】
上記の実施形態では、前記合金性能EI値のパレートフロントに応じてクラスター分析を行い、スクリーニングして性能EI値に対応するハイエントロピー合金及びそれに関連する成分情報を得るステップにおいて、具体的に、K平均クラスタリング法により合金性能EI値のパレートフロントをクラスター分析し、エルボー法により最適なクラスター中心の数を確定し、この数を用いて合金性能EI値のパレートフロントに対してクラスタリング及びスクリーニングを行い、EI値に対応する合金及びそれに関連する成分情報を得る。
【0021】
上記の実施形態では、前記方法は、試験データが必要を満たした場合、設計を終了させ、多性能が協調最適化されたハイエントロピー合金が得られるステップをさらに含む。
【0022】
上記の実施形態では、前記方法は、設計された合金の多性能が同時に最適化及び改善された要求を満たすか又は予算の上限に達するまで、ハイエントロピー合金成分-性能初期データセットにおけるそれぞれのハイエントロピー合金をそれぞれ設計するステップをさらに含む。
【0023】
従来技術と比較して、本発明に係る成分設計方法によれば、高次元成分空間における目標合金の快速検索を実現できるとともに、ハイエントロピー合金の多性能を協調改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
ここで説明する図面は、本発明をさらに理解するためのものであり、本発明の一部である。本発明の模式的実施例及びその説明は、本発明を解釈するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0025】
【
図2a】本発明の合金高温強度性能予測のモデル性能評価図である。
【
図2b】本発明の合金室温塑性性能予測のモデル性能評価図である。
【
図3】本発明で設計された合金多性能協調最適化と既存合金性能との比較図である。
【
図4】本発明で設計された合金の室温力学性能試験曲線である。
【
図5】本発明で設計された合金の高温力学性能試験曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の目的、技術的手段及び利点をより明確にするために、以下、図面及び実施例を参照しながら本発明をさらに詳しく説明する。以下の具体的な実施例は、本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明を限定しない。
【0027】
本明細書において、「含む」、「含有」との用語又は他の変形は、非排他的包含を意味し、つまり、一連の要素を含む過程、物品又は装置は、それらの要素のみならず、明確に列挙されていない他の要素、或いはこの過程、物品又は装置が固有する要素をさらに含むことを意図している。それ以上の制限がない場合、「1つの・・・を含む」との用語で限定される要素は、この要素を含む過程、物品又は装置に含まれる他の要素を排除しない。
【0028】
本発明の実施例は、機械学習に基づく多性能協調最適化ハイエントロピー合金成分の設計方法を提供する。
図1に示すように、この方法は、以下のステップを含む。
【0029】
S1:ハイエントロピー合金のヒストリカルデータ情報に基づいてハイエントロピー合金成分-性能初期データセットを作成する。
【0030】
具体的には、耐火ハイエントロピー合金に対して文献調査を行い、Al、Ti、V、Zr、Cr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wの10種類の通常元素を含むハイエントロピー合金成分-性能初期データセットを作成し、合金成分、高温降伏強度及び室温圧縮塑性性能を含む。
【0031】
S2:前記ハイエントロピー合金の各性能パラメータに対してデータクリーニングを行い、クリーニングされたデータを標準化処理し、ハイエントロピー合金性能訓練セットを得る。
【0032】
具体的には、報告された合金性能の異常値、欠損値を削除し、同一成分について異なる文献によって報告された性能データに対して、各報告値の相対誤差を確定し、前記相対誤差が誤差閾値よりも小さい重複値做を平均処理し、前記相対誤差が誤差閾値よりも大きい重複値を削除処理し、最終の合金性能値を得る。前記合金性能は、高温降伏強度及び室温塑性を含む。クリーニングされた合金性能値を正規化処理し、複数のサンプルを含む高温降伏強度訓練データセット及び複数のサンプルを含む室温塑性訓練データセットを確定する。
【0033】
いくつかの実施例において、前記誤差閾値は10%である。
【0034】
いくつかの実施例において、前記高温降伏強度訓練データセットは、140個のサンプルを含み、前記室温塑性訓練データセットは、50個のサンプルを含む。
【0035】
S3:前記ハイエントロピー合金性能訓練セットにより、ハイエントロピー合金の各目標性能に対して複数の機械学習モデルをそれぞれ訓練し、順にハイエントロピー合金の各性能を予測するベースモデルをスクリーニングして確定する。
【0036】
具体的には、モデル入力は、ハイエントロピー合金の各構成元素の含有量であり、モデル出力は、ハイエントロピー合金の各目標性能である。
【0037】
高温降伏強度訓練データセット、室温塑性訓練データセットに対して、それぞれ複数の機械学習モデルを訓練し、ハイエントロピー合金の各構成元素の含有量を機械学習モデルの入力とし、高温強度及び室温塑性性能を機械学習モデルの出力とし、各機械学習モデルの平均二乗誤差指標パラメータパラメータを得る。
【0038】
前記高温降伏強度訓練データセット及び室温塑性訓練データセットに対してデータをN群に均等に分割する。第1群データを用いて機械学習モデルを訓練フィッティングし、残りのN-1群の訓練データを予測してその性能予測値を取得し、実際値と予測値の第1二乗平均平方根誤差を確定し、さらに第2群から第N群データに対して同じ予測操作を順に行い、予測した第2二乗平均平方根誤差を得る。
【0039】
いくつかの実施例において、Nは10であり、つまり、前記高温降伏強度訓練データセット及び室温塑性訓練データセットに対してデータを10群に均等に分割する。第1群データを用いて機械学習モデルを訓練フィッティングし、残りの9群の訓練データを予測してその性能予測値を取得し、実際値と予測値の二乗平均平方根誤差を確定し、さらに第2群から第10群データに対して同じ予測操作を順に行い、予測した二乗平均平方根誤差を取得し、最終的に機械学習モデルの交差検証誤差を得る。誤差が最小のモデルは、合金高温強度及び室温塑性性能の予測ベースモデルである。
図2a及び
図2bに示されるのは、それぞれ合金高温強度及び室温塑性性能予測モデルの性能評価図であり、高温強度予測ベースモデルはSVRモデルであり、室温塑性予測ベースモデルはGRモデルである。
【0040】
前記機械学習モデルは、サポートベクターマシン(SVR)、K近傍法(KNN)、ガウス回帰(GR)、ニューラルネットワーク(NN)及びカーネルリッジ回帰(KRR)の5種のうちの少なくとも1種を採用する。
【0041】
S4:前記ベースモデルに基づいて成分空間内検索して得られたハイエントロピー合金の各性能の期待改善(EI)値を確定する。
【0042】
具体的には、前記合金性能訓練セットに対してブートストラップ法によりリサンプリング(resampling)してM群のリサンプリングデータセットを得る。各群のリサンプリングデータセットに含まれるサンプルの数は、いずれも訓練セットの数と同じである。各群のリサンプリングデータセットによりそれぞれベースモデルを訓練し、M個の性能予測ベースモデルを得る。前記M個の性能予測ベースモデルにより成分空間内で検索して得られたハイエントロピー合金に対して性能予測を行い、M個の予測値を取得し、性能予測値の平均値μ及び分散(Variance)σを確定し、算式:
【数2】
により合金性能の期待改善(EI)値を確定し、ここで、μ
*は、訓練セットにおける合金性能の最適値を示し、φは、確率密度関数を示し、Φは、確率分布関数を示す。
【0043】
いくつかの実施例において、訓練セットに対してブートストラップ法によりリサンプリングして1000群のリサンプリングデータセットを取得し、各群のリサンプリングデータセットに含まれるサンプルの数は、いずれも訓練セットの数と同じであり、各群のリサンプリングデータセットによりそれぞれベースモデルを訓練し、1000個の性能予測ベースモデルを取得し、この1000個のベースモデルにより成分検索空間内での合金に対して性能予測を行い、1000個の予測値を得る。この予測が正規分布に従うと想定する場合、計算して合金の各性能の予測値の平均値μ及び分散σを得る。算式:
【数3】
により計算して、合金の高温強度及び室温塑性性能のEI値を得る。ここで、μ
*は、訓練セットにおける合金性能の最適値を示し、φは、確率密度関数を示し、Φは、確率分布関数を示す。
【0044】
S5:最適化されるハイエントロピー合金の目標成分の検索空間を確定し、ハイエントロピー合金の各性能のEI値を目標とし、遺伝的最適化検索を行い、検索成分空間における合金性能EI値のパレートフロントを確定する。
【0045】
具体的には、前記合金性能訓練セットにおける合金構成元素の種類に応じて、Al、Ti、V、Zr、Cr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wの種類の元素からなる高次元成分探索空間を確定し、検索合金に3-6種類の元素が含まれるように限定し、合金における各元素のモル含有量が35%以下5%以上であり、含有量の可変ステップサイズは1%である。
【0046】
前記ハイエントロピー合金の目標成分の検索空間において、遺伝的検索を1回実行するたびに、1つの合金EI値のパレートフロントを取得する。前記遺伝の検索をN回実行し、N個のパレートフロントを取得する。N個のパレートフロントに係る全ての合金に対して非支配ソーティングを行い、最終的に遺伝的検索される合金性能のEI値のパレートフロントを確定する。
【0047】
いくつかの実施例において、NSGA-II非支配ソーティング遺伝的アルゴリズムにより目標成分検索を実行し、初期集団数500、遺伝的進化代数20、集団交叉率0.8、集団変異率0.02を選択し、初期集団をランダム化することにより遺伝的最適化検索を100回実行し、100個の合金高温降伏強度及び室温塑性性能のEI値のパレートフロントを取得し、100個のパレートフロントに係る全ての合金に対して非支配ソーティングを行い、最終的に成分空間におけるハイエントロピー合金性能のEI値のパレートフロントを確定する。
【0048】
S6:前記合金性能EI値のパレートフロントに応じてクラスター分析を行い、スクリーニングしてEI値に対応するハイエントロピー合金及びそれに関連する成分情報を得る。
【0049】
具体的には、K平均クラスタリング法により合金EI値のパレートフロントをクラスター分析し、エルボー法により最適なクラスター中心の数を確定し、この数を用いて合金性能EI値のパレートフロントに対してクラスタリング及びスクリーニングを行い、EI値に対応する合金及びそれに関連する成分情報を得る。
【0050】
クラスター分析前に、パレートフロント面上の目標性能EI値を対数変換し、その後、正規化処理し、その後、クラスター中心の数の変化に伴う群内平方和(即ち、各サンプルポイントからそのクラスター中心までの距離の二乗和)の変化を計算する。クラスター中心の数の変化に伴って群内平方和の下降が非常に遅い場合、クラスター数のエルボーが現れる。エルボーに対応するクラスター中心の数Kは、実際に採用されるクラスター中心の数である。K値で性能EI値のパレートフロントに対してクラスタリング及びスクリーニングを行い、EI値に対応する合金及びそれに関連する成分情報を得る。
【0051】
S7:真空アーク溶解炉溶解法により前記EI値関連成分情報に対応するハイエントロピー合金を製造する。
【0052】
具体的には、前記ハイエントロピー合金を合成、製造するステップは、以下の通りである。
ステップ1:純度が99.9%よりも高い金属を合金製造原料として使用し、金属原料表面を研磨して表面の酸化皮膜を除去し、超音波洗浄し、乾燥ボックスに入れて乾燥させる。
ステップ2:スクリーニングされる合金成分に応じて、その構成元素のモル含有量に基づいて必要な金属原料の質量をそれぞれ計算し、さらにステップ1で超音波洗浄された金属原料の重量を測り、使用まで保存する。
ステップ3:非消耗真空アーク炉により合金を製錬し、金属原料を低融点から高融点の順序で炉内の溶解槽に順に入れ、サンプル室を真空引きし、高純度アルゴンガスを導入して保護する。
ステップ4:非消耗真空アーク炉の溶接機電源をオンにし、アークを発生後、予め燃焼室に置かれたチタンスポンジを溶融し、炉内脱酸を行う。
ステップ5:合金を5-8回繰り返して精錬し、毎回製錬した後、合金を冷却して裏返し、ハイエントロピー合金鋳塊を得る。
【0053】
S8:製造されたハイエントロピー合金の各目標性能に対して特性評価試験を行う。
【0054】
S9:設計された材料の性能が必要を満たすか否かを評価し、満たした場合、設計を終了させ、多性能が協調最適化されたハイエントロピー合金が得られ、満たさない場合、S10を実行する。
【0055】
S10:新しい合金成分、性能情報をハイエントロピー合金成分-性能初期データセットにフィードバックする。
設計された合金が多性能同期最適化と改善の要求を満たすか又は予算の上限に達するまで、S4-S9を繰り返し、多性能協調最適化ハイエントロピー合金成分設計の閉ループ経路を実行する。
【0056】
実施例1
本発明の実施例は、機械学習に基づく多性能協調最適化ハイエントロピー合金成分の設計方法を提供する。
図1に示すように、以下のステップを含む。
【0057】
S1:耐火ハイエントロピー合金に対して文献調査を行い、Al、Ti、V、Zr、Cr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wの10種類の通常元素を含む耐火ハイエントロピー合金データセットを作成し、合金成分、1000℃高温降伏強度及び室温圧縮塑性性能を含んだ。
【0058】
S2:報告された合金性能の異常値、欠損値を削除し、同一成分について異なる文献によって報告された性能データに対して各報告値の相対誤差を計算し、誤差が10%未満の重複値を平均処理して最終の合金性能値とし、誤差が10%よりも大きい重複値を削除処理した。クリーニングされた合金性能値を正規化処理し、140個の合金サンプルを含む高温降伏強度訓練のデータセット及び50個のサンプルを含む合金室温塑性の訓練データセットを確定した。
【0059】
S3:高温強度性能訓練セット及び室温塑性性能訓練セットに対してサポートベクターマシン(SVR)、K近傍法(KNN)、ガウス回帰(GR)、ニューラルネットワーク(NN)及びカーネルリッジ回帰(KRR)の5種類の機械学習モデルを訓練し、ハイエントロピー合金の各構成元素の含有量をモデル入力とし、高温強度及び室温塑性をモデル出力とし、グリッド検索方法を採用して平均二乗誤差指標パラメータにより各モデルパラメータを最適化し、確定された最適パラメータモデルを訓練セットに用いて訓練した。
【0060】
さらに、2つの訓練セットに対してそれぞれデータを10群に均等に分割し、独立して以下のモデル評価操作を実行した。第1群データを用いて機械学習モデルをフィッティングし、残りの9群の訓練データを予測してその性能予測値を取得し、実際値と予測値の二乗平均平方根誤差を計算し、さらに第2群から第10群データに対して同じ予測操作を順に行い、予測した二乗平均平方根誤差を取得し、最終的に機械学習モデルの交差検証誤差を得た。誤差が最小のモデルは、合金高温強度及び室温塑性性能の予測ベースモデルであった。
図2a及び
図2bに示されるのは、それぞれ合金高温強度及び室温塑性性能予測モデルの性能評価図であり、高温強度予測ベースモデルをSVRモデルとし、室温塑性予測ベースモデルをGRモデルとして選択した。
【0061】
S4:合金の高温強度及び室温塑性の目標性能に対して、以下の操作によりそれぞれ目標性能の期待改善(EI)値を計算した。訓練セットに対してブートストラップ法によりリサンプリングして1000群のリサンプリングデータセットを取得し、各群のリサンプリングデータセットに含まれるサンプルの数は、いずれも訓練セットの数と同じであり、各群のリサンプリングデータセットによりそれぞれベースモデルを訓練し、1000個の性能予測ベースモデルを取得し、この1000個のベースモデルにより成分検索空間内での合金に対して性能予測を行い、1000個の予測値を得た。この予測が正規分布に従うと想定する場合、計算して各目標性能の予測値の平均値μ及び分散σを得た。算式:
【数4】
により計算して、合金の高温強度及び室温塑性性能のEI値を得た。ここで、μ
*は、訓練セットにおける合金性能の最適値を示し、φは、確率密度関数を示し、Φは、確率分布関数を示す。
【0062】
S5:訓練セットにおける合金構成元素の種類に応じてAl、Ti、V、Zr、Cr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wの10種類の元素からなる高次元成分探索空間を確定し、検索合金に3-6種類の元素が含まれるように限定し、合金における各元素のモル含有量が35%以下5%以上であり、含有量の可変ステップサイズは1%であった。
【0063】
S4で確定された合金性能EI値の計算方法に従い、NSGA-II非支配ソーティング遺伝的アルゴリズムにより目標成分検索を実行し、初期集団数500、遺伝的進化代数20、集団交叉率0.8、集団変異率0.02を選択し、初期集団をランダム化することにより遺伝的最適化検索を100回実行し、100個の合金高温強度及び室温塑性性能のEI値のパレートフロントを取得し、100個のパレートフロントに係る全ての合金に対して非支配ソーティングを行い、成分空間におけるハイエントロピー合金性能のEI値のパレートフロントを確定した。
【0064】
S6:S5で確定されたハイエントロピー合金性能のEI値のパレートフロントに対して、K平均クラスタリング法により分析し、「エルボー法」によりクラスター中心の数を確定した。具体的には、パレートフロント面上の目標性能EI値を対数変換し、その後、正規化処理し、その後、クラスター中心の数の変化に伴う群内平方和(即ち、各サンプルポイントからそのクラスター中心までの距離の二乗和)の変化を計算した。クラスター中心の数の変化に伴って群内平方和の下降が非常に遅い場合、クラスター数のエルボーが現れた。エルボーに対応するクラスター中心の数Kは、実際に採用されるクラスター中心の数であった。K値で性能EI値のパレートフロントに対してクラスタリング及びスクリーニングを行い、EI値に対応する合金及びそれに関連する成分情報を得た。
【0065】
S7:S6でスクリーニングされた目標合金を合成、製造した。ステップは、以下の通りである。
ステップ1:純度が99.9%よりも高い金属を合金製造原料として使用し、金属原料表面を研磨して表面の酸化皮膜を除去し、超音波洗浄し、乾燥ボックスに入れて乾燥させた。
ステップ2:スクリーニングされる合金成分に応じて、その構成元素のモル含有量に基づいて必要な金属原料の質量をそれぞれ計算し、さらにステップ1で超音波洗浄された金属原料の重量を測り、使用まで保存した。
ステップ3:非消耗真空アーク炉により合金を製錬し、金属原料を低融点から高融点の順序で炉内の溶解槽に順に入れ、サンプル室を真空引きし、高純度アルゴンガスを導入して保護した。
ステップ4:非消耗真空アーク炉の溶接機電源をオンにし、アークを発生後、予め燃焼室に置かれたチタンスポンジを溶融し、炉内脱酸を行った。
ステップ5:合金を6回繰り返して精錬し、毎回製錬した後、合金を冷却して裏返し、ハイエントロピー合金鋳塊を得た。
【0066】
S8:S7で製造されたハイエントロピー合金を機械加工して試験サンプルを得た。1000℃高温強度及び室温塑性の性能試験をそれぞれ行い、新たに製造された合金の成分及び目標性能データ情報を得た。さらに初期データセットにフィードバックして2つの目標性能の反復協調最適化を行った。
【0067】
前記の実施ステップに従って3回の反復実験により設計して製造された2種類の耐火ハイエントロピー合金の情報は以下の通りであった。
設計合金A-Mo0.14Nb0.28Ta0.2Hf0.15Zr0.23
設計合金B-Mo0.2Nb0.26Ta0.19Hf0.16Zr0.19
【0068】
図3は、本発明の方法により設計された耐火ハイエントロピー合金の高温強度及び室温塑性を示し、従来の合金性能と比較して、顕著に高い多性能協調最適化効果を示している。
図4は、2つの設計合金A及びBの室温力学性能曲線を示す。
図5は、2つの設計合金A及びBの高温力学性能曲線を示す。
図4,5から分かるように、合金Aの室温塑性は35.7%、1000℃高温降伏強度は894MPaであり、合金Bの室温塑性は30.5%、1000℃高温降伏強度は974MPaであり、本発明に係るハイエントロピー合金に対する多性能協調最適化設計の高効率を示している。
【0069】
以上の説明は、本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明の保護範囲を限定しない。
【国際調査報告】