(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-22
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用シリコンアノードおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1395 20100101AFI20250115BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20250115BHJP
H01M 4/64 20060101ALI20250115BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20250115BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20250115BHJP
H01M 4/70 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
H01M4/1395
H01M4/66 A
H01M4/64 A
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/70 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531597
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-07-23
(86)【国際出願番号】 EP2022086925
(87)【国際公開番号】W WO2023118095
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】102021134516.2
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524003563
【氏名又は名称】ノルクシ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ライヒマン、ウドー
(72)【発明者】
【氏名】クラウゼ - バーダー、アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ヌーベール、マルセル
(72)【発明者】
【氏名】ラウシュ、サハール
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017BB06
5H017DD01
5H017EE01
5H017EE04
5H017EE05
5H017EE06
5H017HH03
5H050AA19
5H050BA17
5H050CB11
5H050FA15
5H050GA02
5H050GA24
5H050HA04
(57)【要約】
本発明は、リチウム電池用のシリコンアノードの製造方法であって、シリコンで作られた活性層を基板、好ましくは銅上に堆積させ、その後にその活性層にラピッドアニールプロセスを施す、方法に関するものである。本発明の目的は、リチウム電池用のシリコンアノードを製造するための堆積層内の応力を最小限に抑えることができ、既存の製造プロセスに容易に統合できる方法を提供することである。これは、活性層を付ける前のプロセスによって基板表面が構造化されるか、基板表面がプロセスによって非構造化状態で改質されるか、または活性層が、フォトリソグラフィーおよびその後の物理的堆積プロセス(好ましくはスパッタリングまたは蒸着)およびアニールプロセス(好ましくはラピッドアニールプロセス)によってその製造中に構造化されてセグメントが形成されることによって達成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム電池用シリコンアノードを製造する方法であって、シリコンの活性層(11)を基板(10)、好ましくは銅上に堆積させ、その後に前記活性層をラピッドサーマルアニール(12)にかける、前記方法において、
前記活性層(11)を付ける前に、基板表面をプロセスによって構造化(17)することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記基板表面は、レーザによって構造化されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基板表面は、エンボス加工、圧延加工、またはスタンピング加工によって構造化され、それによって前記活性層の厚さの領域に最大20μmの高さの変化を生成することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記基板表面は、フォトリソグラフィーとそれに続く物理的堆積、好ましくはスパッタリングまたは蒸着によって構造化されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
リチウム電池用シリコンアノードを製造する方法であって、シリコンの活性層(11)を基板(10)、好ましくは銅上に堆積させ、その後に前記活性層をラピッドサーマルアニール(12)にかける、前記方法において、
前記基板表面および/または活性層を、プロセスによって非構造化方法で改質することを特徴とする、方法。
【請求項6】
非構造化改質は、ラピッドサーマルアニール(12)によって、またはエッチングによって、または化学堆積によって、または高凝集性材料の物理的堆積とそれに続く凝集のためのラピッドサーマルアニール(12)によって行われ、それによって前記活性層の厚さの範囲で最大20μmの高さの変化が生成されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
リチウム電池用シリコンアノードを製造する方法であって、シリコンの活性層(11)を基板(10)、好ましくは銅上に堆積させ、その後に前記活性層をラピッドサーマルアニール(12)にかける、前記方法において、
前記活性層(11)は、前記活性層の製造中に、フォトリソグラフィーと、その後の物理的堆積、好ましくはスパッタリングまたは蒸着と、アニール、好ましくはラピッドサーマルアニール(12)とによってセグメントに構造化(18)されることを特徴とする、方法。
【請求項8】
前記活性層(11)は、10μm~5mmのサイズを有するセグメントに構造化されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記活性層(11)は、セグメントに構造化され、前記セグメント間の距離が2μm~10μmであることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~4または請求項5~6または請求項7~9に記載の方法のいずれかに従って製造されるリチウムイオン電池用シリコンアノードであって、
前記シリコンアノードは、基板(10)を備え、前記基板(10)の上にシリコンの活性層(11)が配置され、前記活性層は、層厚が少なくとも1μm~最大20μm、好ましくは少なくとも2μm~15μm、特に好ましくは少なくとも4μm~10μmであり、面積被覆率が85%を超えることを特徴とする、シリコンアノード。
【請求項11】
前記活性層(11)は、実質的に、非晶質または半結晶質シリコンの一部および/またはシリサイドの一部および/またはシリコン中の1種以上の金属の固溶体の一部および/または前記一部の混合物から形成されていることを特徴とする、請求項10に記載のシリコンアノード。
【請求項12】
前記基板(10)は、銅、銅を有する合金、ニッケル、アルミニウム、炭素、および/または鋼から形成されていることを特徴とする、請求項10に記載のシリコンアノード。
【請求項13】
請求項1~9に記載のリチウムイオン電池のシリコンアノードの製造方法の使用。
【請求項14】
請求項10に記載のシリコンアノードを備える電池セル、特にリチウムイオンセル。
【請求項15】
請求項14に記載の少なくとも1つの電池セルを備える電池、特にリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池用のシリコンアノードを製造するための複数の方法であって、シリコンから作られた活性層を基板、好ましくは銅上に堆積させ、その後に活性層をラピッドサーマルアニールにかける、方法に関するものである。
【0002】
本発明はまた、リチウムイオン電池のシリコンアノードの製造のための本発明に係る方法の使用、シリコンアノード自体、ならびに電池セルおよびリチウムイオン電池におけるシリコンアノードの使用に関するものである。
【背景技術】
【0003】
電池は、電気化学的エネルギー貯蔵庫であり、一次電池と二次電池に区別される。
【0004】
一次電池は、化学エネルギーが不可逆的に電気エネルギーに変換される電気化学電源である。したがって、一次電池は、充電できない。対照的に、二次電池は、蓄電池とも呼ばれ、発生する化学反応を逆転させることができるため、繰り返し使用できる充電可能な電気化学エネルギー貯蔵庫である。充電時には電気エネルギーが化学エネルギーに変換され、放電時には化学エネルギーが電気エネルギーに変換される。
【0005】
「電池」という用語は、相互接続されたセルの総称である。セルは、2つの電極、電解質、セパレータ、およびセルハウジングからなるガルバニックユニットである。
図1は、放電プロセス中のリチウムイオンセルの例示的な構造と機能を示している。セルの構成要素について以下に簡単に説明する。
【0006】
各々のLiイオンセルは、2つの異なる電極(充電状態で負に帯電する電極と、充電状態で正に帯電する電極)から構成される。エネルギーの放出中、つまり放電中は、イオンが負に帯電した電極から正に帯電した電極に移動するため、正に帯電した電極はカソード(正極)、負に帯電した電極はアノード(負極)と呼ばれる。電極はそれぞれ、電荷コレクタ(コレクタとも呼ばれる)と、そこに付けられた活物質から構成される。電極間には、必要な電荷交換を可能にするイオン伝導性電解質と、電極の電気的絶縁を保証するセパレータが存在する。
【0007】
カソードは、例えば、アルミニウムコレクタに付けられた混合酸化物から構成される。
【0008】
Liイオン電池のアノードは、コレクタとしての銅箔と、活物質としての炭素またはシリコンの層から構成することができる。充電プロセス中に、リチウムイオンが還元され、グラファイト層またはシリコン層にインターカレートされる。
【0009】
アノードの活物質としてのシリコンは、室温でのLi15Si4相の蓄電容量が約3579mAh/gであり、従来の炭素系材料(例えば、蓄電容量が372mAh/gのグラファイト)と比較して高い。
【0010】
電池の容量は、活性層、より正確にはSi層の厚さによって決まる。電池においては、活物質の電気伝導性をできるだけ高く設定する必要がある。半導体としてのシリコンは、導電性グラファイトとは対照的に、単に導電性が低い。したがって、シリコンには、電気伝導性を高める高ドーピングまたは構造が必要である。
【0011】
使用される電極材料がシリコンである場合、対応するエネルギー貯蔵庫の充電および放電中に可動イオン種(リチウム)のインターカレーションおよびデインターカレーションの際に、ホストマトリックスの体積が時々かなり変化(体積収縮および体積膨張)するという課題がある。体積変化は、グラファイトの場合は約10%であるが、シリコンの場合は約400%である。シリコンを使用すると、電極材料の体積変化により、内部応力、亀裂形成、ホストマトリックス(シリコン)の活物質の粉砕が起こり、最終的には電極が完全に破壊される。
【0012】
従来の活物質は、通常、バインダー層内の粒子の形で銅箔に塗布され、乾燥される。このプロセスでは、活物質が柔軟な接着剤によって電流コレクタ上に固定されるため、応力が生じない。柔軟な接着剤は、電池の動作中に活物質の体積が膨張したときに電流コレクタにかかる応力を補償し、永続的な電気接触を保証する。柔軟性が確保されないと、活物質は粉砕され、電力接触が失われ、電池の容量が低下する。接着剤を活物質の不活性成分として使用した結果として、エネルギー密度が低下する。
【0013】
活性層の接着性は、ラピッドサーマルアニールを使用することで向上され得る。「ラピッドサーマルアニール」という用語は、特にフラッシュランプアニールおよび/またはレーザアニールを意味するものと理解される。フラッシュランプアニールは、0.3~20msのパルス持続時間またはアニール時間と、0.3~100J/cm
2のパルスエネルギーで実行される。レーザアニールでは、エネルギー密度0.1~100J/cm
2を生成するために、局所加熱点の走査速度によってアニール時間を0.01~100msに設定する。ラピッドサーマルアニールで達成される加熱勾配は、10
4~10
7K/sの方法に必要な範囲内にある。フラッシュランプアニールでは、この目的のために可視波長範囲のスペクトルを使用するが、レーザアニールでは、赤外線(IR)から紫外線(UV)のスペクトル領域内の個別の波長が使用される。シリコンの活性層を基板、好ましくは銅上に堆積させ、その後、その活性層をラピッドサーマルアニールにかけると、これにより、従来製造されたアノードの場合にはこれまで観察されなかった、シリコンと銅箔の非常に強力な接着が生成される。通常、電池の動作中は体積膨張/収縮の結果として、活物質は、柔軟な接着剤によって電流コレクタ上に保持されるか、または単に粉砕されるが、ラピッドサーマルアニールによって製造されたアノードの場合には、これは当てはまらない。しかしながら、強力な接着力により、電池の動作中に基板、つまり電流コレクタが反り、これは、層スタックの側面図で明確な蛇行構造(プライ構造の波状性)によって示される(
図2を参照)。
【0014】
したがって、別の課題は、アノードが平面箔基板上に製造される場合、このように片面がコーティングされた箔が、製造後にスタック構造に応じて、箔に向かって、またはコーティングされた側に向かって、湾曲を示すことである。原因は、堆積およびアニール後に形成された層の内部応力である。電池は通常、積み重ねられた箔/層の様々なプライから構築される必要があるため、これにより、電池の製造はより困難になる。「プライ(ply)」という用語は、Si電極の層構造または層スタックの異なる層を意味するものと理解される。本出願では、「プライ(ply)」と「層(layer)」という用語は、同義語として使用される。平坦化には機械的な力が必要であるため、湾曲は、製造の妨げとなる。
【0015】
真空プロセスまたは温度プロセスで層を付けると、層と基板の膨張係数および密度が異なる結果として、内部応力の蓄積を引き起こす。特にラピッドサーマルアニールの使用により、基板または電流コレクタに対して形成された層が強力に接着する結果、銅箔が反り、この反りによりアノードとしての処理および動作が妨げられる。
【0016】
これらの応力は、例えば、圧力、ガス、基板温度、電力、層材料、反応などのプロセスパラメータを変更することでプロセスによって調整できる。このようにして、層の圧縮応力と引張応力を組み合わせて、最終的に緩和された層を生成することができる。これには、正確に1つの製造プロセスに対して応力管理を正確に調整する必要があり、わずかな変化に対してこれを繰り返す必要がある。箔の両面をコーティングすることは可能であるが、箔全体にさらに大きな応力がかかり、電池の動作中に破れる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明の目的は、リチウム電池用シリコンアノードを製造するための堆積層における応力を最小限に抑えることができる方法を提供することである。これらの方法は、既存の製造プロセスに統合することが容易である必要があり、アノード構造の堆積層における応力管理を正確に制御できる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的は、独立請求項1に記載された第1の方法によって達成される。リチウム電池用シリコンアノードの製造方法であって、シリコンの活性層を基板、好ましくは銅上に堆積させ、その後、活性層をラピッドサーマルアニールにかけ、活性層を付ける前に、基板の基板表面をプロセスによって構造化する、方法。
【0019】
本発明に係る方法の一実施形態では、基板表面は、レーザによって構造化される。
【0020】
本発明に係る方法の別の一実施形態では、基板表面は、エンボス加工、圧延加工、またはスタンピング加工によって構造化され、それによって最大20μmの範囲内の高さの変化を生成することができる。構造化は、追加の層が基板表面に堆積されるか、または付けられる前に実行される。
【0021】
本発明に係る方法のさらなる一実施形態では、基板表面は、フォトリソグラフィーとそれに続く物理的堆積、好ましくはスパッタリングまたは蒸着によって構造化される。
【0022】
基板の表面の構造化は、応力管理を簡素化し、それによって二次元的に互いに接続されていない分離されたセグメントを生成する技術的な手段である。微細構造化により、層の応力は、個々のセグメントで遮断される。その結果、製造後の箔/基板の処理が大幅に簡素化される。さらに、この構造化により、電池の動作中に蛇行構造が制御されて縮小され、これにより活物質の微視的剥離が大幅に減少する。構造化が十分に細かい場合、すなわち10μm未満、好ましくは1μm~5μmである場合、構造化によって生じるセグメント化により、活物質を粉砕することなく、リチウムインターカレーション時の活物質の体積膨張をさらに補償することができる。文献に記載されている製造されたプライ構造では、アモルファスシリコンを使用した場合、破壊された層の亀裂のサイズがマイクロメートルのオーダーになる。本発明に係る方法により、亀裂の正確な制御が可能である。
【0023】
レーザ、エンボス加工、圧延加工、スタンピング加工による規則正しい構造化は、特に大規模生産に適している。
【0024】
この目的は、独立請求項5に記載の第2の方法によっても達成される。リチウム電池用のシリコンアノードの製造方法であって、シリコンの活性層を基板、好ましくは銅上に堆積させ、その後、その活性層をラピッドサーマルアニールにかけ、基板表面および/または活性層を、プロセスによって非構造化方法で改質する、方法。
【0025】
非構造化改質表面は、同様に二次元的に互いに接続されていない分離された表面セグメントが存在する粗面であると理解される。
【0026】
本発明に係る方法の一実施形態では、非構造化改質は、ラピッドサーマルアニールによって、またはエッチングによって、または化学堆積によって、または高凝集性材料の物理的堆積とそれに続く凝集のためのラピッドサーマルアニールによって行われ、それによって最大20μmの高さの変化が生じる。高さの変化は、活性層の厚さの範囲内にある。「高凝集性材料」という表現は、原子間または分子間の結合力が十分に強く、クラスターまたは凝集体が形成される物質を意味するものと理解される。
【0027】
例えば、この方法の一実施形態では、銅基板の表面上に銀の薄い層が堆積される。ラピッドサーマルアニール、特にフラッシュランプアニールの結果、銀層が凝集して粒子/滴/クラスターを形成し、銅箔の非構造化粗面化が生じる。その後、箔は、通常通りさらに処理することができる。
【0028】
このようにして生成された高さの変化により、その後に堆積される活性層を、このように改質された基板上の異なるサイズの領域に分割することが可能になる。このようにして、基板に対する活性層の良好な接着特性を維持しながら、活性層内の応力を大幅に低減することができる。
【0029】
この目的は、独立請求項7に記載の第3の方法によっても達成される。リチウム電池用のシリコンアノードの製造方法であって、シリコンの活性層を基板、好ましくは銅上に堆積させ、その後、前記活性層をラピッドサーマルアニールにかけ、活性層は、活性層の製造中に、フォトリソグラフィーと、その後の物理的堆積、好ましくはスパッタリングまたは蒸着と、アニール、好ましくはラピッドサーマルアニールとによってセグメントに構造化される、方法。
【0030】
この目的を達成するための本実施形態では、基板表面は、構造化または粗面化されず、むしろ活性層自体が構造化される。
【0031】
本発明に係るこの方法の一実施形態では、活性層は、10μm~5mmのサイズを有するセグメントに構造化される。これには、このようにして製造された活性層から形成されたアノードが、全体として、アノードの全領域ではなく、局所的にのみ応力を受けるという利点がある。
【0032】
本発明に係る方法の別の一実施形態では、活性層は、セグメントに構造化され、セグメント間の距離が2μm~10μmである。利点は、活性層における応力の低減に加えて、電池の動作中または動作前のリチウムインターカレーションによる活性層の局所的な膨張を制御でき、箔に対する応力の広範な作用が回避されることである。
【0033】
本発明に係る方法のうちの1つによって製造されるシリコンアノードは、基板を備え、基板の上にシリコンおよび/またはシリコンベースの成分の活性層が配置され、その活性層は、層厚が少なくとも1μm~最大20μm、好ましくは少なくとも2μm~15μm、特に好ましくは少なくとも4μm~10μmであり、面積被覆率が85%を超え、したがって15%以下の低い気孔率を有する。
【0034】
十分な電池容量のために、シリコンの想定貯蔵密度が2000mAh/gの場合、電池製造に使用する層の厚さは少なくとも4μm~10μmの範囲が望ましい。
【0035】
従来技術では、炭素と接着剤、いわゆるバインダーに囲まれたシリコン粒子が滑らかな表面に塗布され、層が規定の気孔率を持つようにして、リチウム化が起こったときにシリコンが応力を受けることなく膨張できるようにするのが一般的である。バインダーを使用しない場合、純シリコン層では、粗い表面による接着のみが存在する。これにより、体積膨張が発生したときに応力を補償するために、層構造内に十分な空洞がもたらされる。従来技術によれば、15%~80%の気孔率が使用される。本発明に係る方法によって、純シリコンアノードは、面積被覆率が85%を超える場合でも、リチウム化プロセスおよび/または脱リチウム化プロセス中に基板との電気的接触を失うことなく、シリコンが応力を受けることなく基板上で膨張できるように改質および調製することができる。
【0036】
本発明に係るシリコンアノードでは、活性層は、実質的に、非晶質または半結晶質シリコンの一部および/またはシリサイドの一部および/またはシリコン中の1種以上の金属の固溶体の一部および/またはそれらの一部の混合物から形成される。活性層の異なる形態的に形成された部分には、構造的に崩壊することなく等方的に膨張できるナノ構造化シリコンと、アモルファスシリコンに永続的に隣接し、安定した電気的接触を保証する安定した導電性フレームワーク構造の両方が存在するという利点がある。
【0037】
本発明に従って製造されるシリコンアノードの一実施形態では、基板は、銅、銅を有する合金、ニッケル、アルミニウム、炭素、および/または鋼から形成される。
【0038】
本発明に係る方法は、方法の請求項に記載されているように、リチウムイオン電池のシリコンアノードを製造するために使用するのが有利である。
【0039】
請求項10に記載のシリコンアノードを電池セル、特にリチウムイオン電池内に設置して使用することも有利である。
【0040】
電池セルは、次いで、少なくとも1つの電池セルを有する電池内に有利に搭載することができる。
【0041】
以下、本発明を例示的実施形態に基づいてさらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】放電プロセス中のリチウムイオンセルの例示的な構造と機能。
【
図2a】リチウムがインターカレートされたときの3D体積膨張による層スタックの蛇行形成の概略図。
【
図2b】本発明に係る構造化を行わない場合の層の反りのイメージ。
【
図3】リチウムイオン電池の層スタックの一次元膨張の強制。
【
図4a】本発明に係る製造方法の変形例に係るリチウムイオン電池の層スタック内の応力を低減するための事前構造化基板表面の概略図(Liインターカレーション前)。
【
図4b】本発明に係る製造方法の変形例に係るリチウムイオン電池の層スタック内の応力を低減するための事前構造化基板表面の概略図(Liインターカレーション後)。
【
図5a】本発明に係る製造方法の変形例に係るリチウムイオン電池の層スタック内の応力を低減するための構造化活性層の概略図であり、活性層の構造化プロセスを表す。
【
図5b】本発明に係る製造方法の変形例に係るリチウムイオン電池の層スタック内の応力を低減するための構造化活性層の概略図であり、左:Liインターカレーション前、右:Liインターカレーション後である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
活性層11を電流コレクタ2、10に直接付けて、ラピッドサーマルアニール12を施すと、基板/電流コレクタ2、10への接着性が非常に高くなる。シリコンアノードの部分的に段階的なスタック構造の結果として、活性層11は粉砕されず、電力接続は永続的に維持される。しかしながら、接着力が強いため、活性層11の応力が電流コレクタ10に伝わり、その応力は、製造後に箔が膨らむという形で現れる。ここで、初めて観察され、蛇行構造に対応する電流コレクタ2、10の波形が、活物質の大きな体積膨張により、電池の動作後に発生する(
図2)。
【0044】
層または層スタックの波形、つまり蛇行は、以下で述べる対策によって層構造を単なる一次元膨張に強制することによって打ち消すことができる(
図3)。この目的に適した対策としては、より厚いまたはより硬い銅基板10を使用すること、製造中にシリコンの活性層11を事前充電または事前リチウム化すること、銅基板10のすぐ近くに高剛性フレームワークを付けること、銅基板10の剛性を支えるために十分に緩やかな構造にすること、または形成中に生成されたアノードに十分な圧力をかけることが挙げられる。「形成」という用語は、完成した電池セルの最初の充電および放電を意味するものと理解される。これらの選択肢の前提条件は、活性層11の基板10上の十分に強力な接着が確保されるように、層スタックの製造中にフラッシュランプまたはレーザによるラピッドサーマルアニール12を使用することである。このラピッドサーマルアニール12がなければ、活性層11は、基板10から簡単に剥離されてしまう。
【0045】
リチウムイオン電池用シリコンアノードの層スタックの蛇行に対抗する別の手段は、電流コレクタ、すなわち銅基板10を事前に構造化して、活性層11をセグメント化し、このセグメント化によってアノード領域の応力を分散および制御することである(
図4)。
図4aは、表面が微視的に粗面化/事前構造化された構造化基板表面10の概略図を示す。これは、例えば、圧延加工、エンボス加工、スタンピング、またはリソグラフィーによって規則正しい方法で実行できる。このようにして、400nm~10μmの範囲の高さの変化を実現できる。構造化は、例えばブラッシングまたはエッチングによって、あるいはシリコン11を堆積する前に銅基板表面10上に粒子を電気堆積または凝集させることによって、無秩序な方法でも実行できる。基板表面の構造化が活性層の構造化に直接マッピングされることが有利である。
【0046】
このように構造化された層構造にリチウム14がインターカレートされると、Si層11は、構造化の結果として形成された複数の平面15内で膨張する(
図4b)。その結果、モノリシックに構築された層とは対照的に、層スタック内の総応力が分散されて消散するため、層スタック内で反り(蛇行)がもはや発生しなくなる。
【0047】
これにより、ラピッドサーマルアニール処理12で処理および製造されたシリコンアノードのスタック構造における電流コレクタ2、10にかかる応力を軽減するための可能な解決策が初めて提供される。
【0048】
図5aは、請求項7に記載の本発明に係る方法に従って製造された/製造することができる構造化活性層11であって、表面が微視的に粗面化された/粗面化される構造化活性層11の概略図を示している。本発明によれば、これは、例えば、シリコン11と銅10の接着および/または反応を妨げる機能層16を付けることによって達成することができる。適切な機能層16は、例えば、タングステン、炭素、または銀(液滴)で構成され得る。Siと機能層16との反応がない領域では、Si11が分離され、Siの構造化された活性層18が残る。この層は、フォトリソグラフィーとそれに続く物理的堆積によって基板10(銅)上の一部の領域に堆積され、その後、シリコンの活性層11が堆積される。「一部の領域」という表現は、機能層16が銅基板10の表面全体に付けられていないことを意味する。機能層16によってSiとCuの接着が防止される領域では、その後の製造プロセスでSiが分離され、リチウムイオン電池の層スタック内の構造化された活性層18が保持される。
【0049】
このように構造化された層構造にリチウム14がインターカレートされると、Si層11は、垂直方向と水平方向の両方に膨張する(15)ことができるようになる(
図5b)。その結果、非構造化層構造とは対照的に、層スタック内の総応力が分散されて消散するため、層スタック内の反り(蛇行)がもはや起こらなくなる。
【0050】
基板表面の構造化と活性層の構造化の両方により、層構造の応力が有利に低減され、同時に、電池動作のための活物質の微視的剥離も大幅に低減される。
【符号の説明】
【0051】
1 リチウムイオン電池
2 アノード側のコレクタ
3 固体電解質界面(SEI)
4 電解質
5 セパレータ
6 導電性中間相
7 カソード、正極
8 カソード側のコレクタ
9 アノード、負極
10 銅基板
11 活性層
12 ラピッドサーマルアニール(例えば、フラッシュランプアニール)
13 基板と活性層間のラピッドサーマルアニール後の反応領域
14 リチウムインターカレーション
15 リチウムインターカレーション後の膨張方向
16 一部の領域に施された機能層
17 構造化された基板表面
18 構造化された活性層
【国際調査報告】