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特表2025-501456表面上にイオンを堆積させるための装置および方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-22
(54)【発明の名称】表面上にイオンを堆積させるための装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/04 20180101AFI20250115BHJP
   H01J 49/16 20060101ALI20250115BHJP
   H01J 49/06 20060101ALI20250115BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20250115BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20250115BHJP
   H01J 37/26 20060101ALI20250115BHJP
   G01N 1/42 20060101ALI20250115BHJP
   G01N 27/624 20210101ALI20250115BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
G01N23/04
H01J49/16 500
H01J49/06 600
H01J49/04 680
H01J37/20 E
H01J37/26
G01N1/42
G01N27/624
G01N1/28 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533793
(86)(22)【出願日】2022-12-10
(85)【翻訳文提出日】2024-07-02
(86)【国際出願番号】 US2022081328
(87)【国際公開番号】W WO2023108163
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】63/288,478
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/291,441
(32)【優先日】2021-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524211733
【氏名又は名称】イオン ディーエックス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【弁理士】
【氏名又は名称】松野 知紘
(72)【発明者】
【氏名】ベナー,ダブリュ.ヘンリー
(72)【発明者】
【氏名】アギュイラー,ベン
【テーマコード(参考)】
2G001
2G041
2G052
5C101
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA11
2G001CA03
2G001HA13
2G001JA14
2G001LA01
2G001MA01
2G001MA02
2G001NA19
2G001PA17
2G001QA01
2G001QA02
2G001RA10
2G001RA20
2G041CA02
2G041DA05
2G041EA03
2G041EA05
2G041FA12
2G052AB18
2G052AD32
2G052AD52
2G052EB08
2G052EB13
2G052FD06
2G052FD07
2G052GA33
2G052JA08
5C101AA04
5C101FF16
5C101FF47
(57)【要約】
クライオ電子顕微鏡による検査のための試料を調製するための装置および方法が記載されている。溶液中のタンパク質分子などの関心対象の分子は、エレクトロスプレーされ、単一荷電の気相イオンに変換される。タンパク質イオンの特定の立体配座(単数または複数)は、イオン移動度フィルタの手段として選択され、分子の高次構造を保存する目的でサブeVの運動エネルギーでクライオEMグリッド上に堆積される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クライオEMによる検査のための試料を調製するための装置であって、
(a)エレクトロスプレーイオン源と、
(b)エレクトロスプレー液滴およびイオン上の電荷を還元させる手段と、
(c)イオンの混合物から特定の立体配座を有するイオンを選択するように構成された移動度フィルタと、
(d)イオン含有空気の露点および温度を制御するように構成された加湿器と、
(e)イオン集束ファンネルと、
(f)クライオEMグリッド用ホルダと、
(g)堆積したイオンの立体配座を保存するように構成された冷却台座と、
(h)堆積したイオンを保護するためのチャンバと、
(i)堆積したイオンまたは粒子を液体窒素中に移動させるための手段と、
を備える、装置。
【請求項2】
エレクトロスプレー液滴およびイオン上の電荷を還元させる当該手段が、210ポロニウム源を備え、
アルファ粒子が210ポロニウムからエレクトロスプレー液滴およびイオンに放出される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
エレクトロスプレー液滴およびイオン上の電荷を還元させる当該手段が、約20eV未満のエネルギーを持つ電子源を備え、
当該電子がエレクトロスプレー液滴およびイオン内に放出される、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
堆積したイオンまたは粒子を液体窒素中に移動させるための手段が、ピンセットを備える、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置であって、
(a)エレクトロスプレーイオン源と、
(b)エレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子上の電荷を還元させる手段と、
(c)イオンおよび粒子の混合物から特定の立体配座またはサイズを有するイオンおよび荷電粒子を選択するように構成された移動度フィルタと、
(d)イオン含有または粒子含有ガスの露点および温度を制御する手段と、
(e)イオンおよび荷電粒子の水和を制御する手段と、
(f)イオンおよび荷電粒子集束デバイスと、
(g)イオンおよび荷電粒子の運動エネルギーを制御する手段と、
(h)イオンまたは荷電粒子が堆積される基材用のホルダと、
(i)基材上にイオンおよび荷電粒子を堆積させる手段と、
(j)収集表面の温度を制御する手段と、
(k)堆積したイオンまたは荷電粒子を保護するように構成されたチャンバと、
(l)堆積したイオンまたは荷電粒子を補助分析デバイスに移動させるための手段と、
(m)堆積したイオンまたは荷電粒子を凍結保護剤で保存する手段と、
を備える装置。
【請求項6】
エレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子上の電荷を還元させる当該手段が、210ポロニウム源を備え、
アルファ粒子が210ポロニウムからエレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子に放出される、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
エレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子上の電荷を還元させる当該手段が、約20eV未満のエネルギーを有する電子源を備え、
当該電子がエレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子に放出される、請求項5に記載の装置。
【請求項8】
イオン含有または粒子含有ガスの露点を制御する当該手段が、水蒸気の供給源の加熱または冷却に基づいて水蒸気を添加または除去するように構成された露点コントローラを備える、請求項5に記載の装置。
【請求項9】
イオン含有または粒子含有ガスの温度を制御する当該手段が、ガス流の温度を検知するように構成された温度コントローラを備える、請求項5に記載の装置。
【請求項10】
イオンおよび荷電粒子の水和を制御する当該手段が、水蒸気をイオンおよび荷電粒子上に凝縮させることに基づいてイオンおよび粒子を水和させるように構成された加湿器を備える、請求項5に記載の装置。
【請求項11】
イオンおよび荷電粒子の運動エネルギーを制御する当該手段が、質量流量コントローラまたは圧力コントローラまたは電場発生器、またはそれらの任意の組合せを備える、請求項5に記載の装置。
【請求項12】
運動エネルギーを制御する当該手段が、低い運動エネルギーを有するイオンおよび荷電粒子を生成するために物理的距離、ガス密度、およびガス速度を使用し、電気駆動電極間の分離がイオンエネルギーに影響を及ぼし、より高いガス密度がイオン速度、したがってイオンエネルギーを低下させ、イオン含有および粒子含有ガスの速度がイオン運動エネルギーに直接影響を及ぼす、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
基材上にイオンおよび荷電粒子を堆積させる当該手段が、イオンファンネルを備える、請求項5に記載の装置。
【請求項14】
収集表面の温度を制御する当該手段が、温度コントローラを備える、請求項5に記載の装置。
【請求項15】
堆積したイオンまたは荷電粒子を補助分析デバイスに移動させるための当該手段が、ピンセットを備える、請求項5に記載の装置。
【請求項16】
堆積したイオンまたは荷電粒子を凍結保護剤で保存する当該手段が、冷凍源を備える、請求項5に記載の装置。
【請求項17】
当該移動度フィルタが、ナノ微分型移動度分析器を備える、請求項5に記載の装置。
【請求項18】
後続の分析のために試料を表面上に堆積させるためのシステムであって、
(a)エレクトロスプレー源と、
(b)210ポロニウム源であって、アルファ粒子が210ポロニウムからエレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子に放出される、ポロニウム源、または約20eV未満のエネルギーを有する電子源であって、当該電子がエレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子に放出される、電子源と、
(c)ナノ微分型移動度分析器を備える移動度フィルタ、
(d)イオンおよび粒子の流れストリームの温度および露点を制御するように構成された温度コントローラおよび露点コントローラであって、温度制御がガス流温度の検知に基づき、露点制御が水蒸気の供給源の加熱または冷却に基づいて水蒸気を添加または除去することによって提供される、温度コントローラおよび露点コントローラと、
(e)水蒸気をイオンおよび荷電粒子に凝縮させることに基づいてイオンまたは粒子を水和させるように構成された加湿器と、
(f)所定数のイオンまたは粒子を堆積させるのに必要な時間を最小にするようにイオンおよび荷電粒子の流束を増加させるように構成されたイオンファンネルと、
(g)低い運動エネルギーを有するイオンおよび荷電粒子を生成するために、物理的距離、ガス密度、およびガス速度を使用して運動エネルギーを制御するように構成された質量流量コントローラまたは圧力コントローラまたは電場発生器、またはそれらの任意の組合せであって、電動電極間の分離がイオンエネルギーに影響を及ぼし、より高いガス密度がイオン速度を低下させ、したがってイオンエネルギーを低下させ、イオンおよび粒子含有ガスの速度がイオン運動エネルギーに直接影響を及ぼす、質量流量コントローラまたは圧力コントローラまたは電場発生器、またはそれらの任意の組合せと、
(h)収集表面を支持するように構成されたホルダと、
(i)イオンおよび荷電粒子を収集表面に当たるように誘導するために電場、ガス密度およびガス速度を使用および制御するように構成されたイオン堆積デバイスと、
(j)収集表面ならびに収集されるイオンおよび粒子が収集されている間にそれらの温度を制御するように構成されたオプションの温度コントローラと、
(k)収集されるイオンおよび粒子が収集された後にそれらの温度を制御するように構成されたオプションの温度コントローラと、
(l)収集された粒子をホルダから貯蔵容器の補助分析器具内に移動させるための移送ステージまたは器具と、
(m)収集された粒子が代替の分析デバイスに移送される際に、収集されたイオンおよび粒子の温度を制御するように構成されたオプションの温度コントローラと、
(o)回収された粒子を液体窒素デュワー瓶などの長期貯蔵容器に移送するための移送ステージまたは器具と、
を備える装置。それらが収集される間、それらが収集される間。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1項に記載の装置を使用してクライオEMによる検査のための試料を調製することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、全体が参照により本明細書に組み込まれる、2021年12月10日に出願された米国仮特許出願第63/288,478号の優先権およびその利益を主張する。本出願はまた、全体が参照により本明細書に組み込まれる、2021年12月19日に出願された米国仮特許出願第63/291,441号の優先権およびその利益を主張する。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発に関する記載
該当なし
【0003】
著作権保護の対象となる資料の通知
本特許文書の資料の一部は、米国および他の国の著作権法に基づく著作権保護の対象となり得る。著作権の所有者は、特許文書または特許開示のいずれかによる、米国特許商標庁の公的に入手可能なファイルまたは記録に見られるような複製物に異議を唱えないが、それ以外のすべての著作権を留保する。著作権者は、37C.F.R.§1.14に準拠する権利を含むがこれに限定されない、本特許文書を秘密に保持させることに関するいかなる権利も放棄しないものとする。
【0004】
A.技術分野
【0005】
本開示の技術は、概して、表面上に分子および粒子の試料を調製することに関し、より具体的には、クライオEMによる検査のための試料を調製することに関する。
【背景技術】
【0006】
B.参考文献
【0007】
以下の刊行物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0008】
1.Badu-Tawiah、AK、C Wu、およびRG Cooks、分析化学、2011年第83号第2648~2654頁。
【0009】
2.Baker E S、BH Clowers.F Li、K Tang、AV Tolmachev、DC Prior、ME Belov、およびRD Smith、米国質量分析学会誌、2007年第18(7)号第1176~1187頁。
【0010】
3.Belov ME、BH Clowers、DC Prior、WF Danielson III、AV Liyu、BO Petritis、およびRD Smith、分析化学、2008年第80(15)号第5873~5883頁。
【0011】
4.Benesch JLP、BT Ruotolo、DA Simmons、NP Barrera、N Morgner、L Wang、HR Saibil、およびRobinson CV、2010年、構造生物学誌第172号第161~168頁。
【0012】
5.Blake TA、Z Ouyang、JM Wiseman、Z Taka’ts、AJ Guymon、S Kothari、およびCooks RG、2004年、分析化学第76号第6293~6305頁。
【0013】
6.Chaudhary A、FH van Amerom、およびRT Short、科学機器レビュー、2014年第85(10)号第105101頁。
【0014】
7.Clowers B H、YM Ibrahim、DC Prior、WF Danielson III、ME Belov、およびRD Smith、分析化学、2008年第80(3)号第612~623頁。
【0015】
8.RG Cooks、D.Snyder、AS Basu、およびW-P Peng、2021年、米国特許商標庁第11,037,777号。
【0016】
9.Deng ZT、N Thontasen、N Malinowski、G Rinke、L Harnau、S Rauschenbach、およびK Kern、2012年ナノレター第12号第2452~2458頁。
【0017】
10.Earlら、構造生物学における最新オピニオン、2017年第46号第71~78頁。
【0018】
11.Fernandez de la Mora、J.、S Ude、およびBA Thompson、バイオテクノロジージャーナル、2006年第1号第988~997頁。
【0019】
12.Gologan B、JM Wiseman、およびRG Cooks、2006年Laskin JおよびC Lifshitz C編、「Principles of mass spectrometry applied to biomolecules」、ニュージャージー州ホーボーケン、ジョンワイリーアンドサンズ社出版。
【0020】
13.Hogan、Jr.、CJ、EM Kettleson、B Ramaswami、DR Chen、およびP Biswas、分析化学、2006年第78号第844~852頁。
【0021】
14.Johnson、GE、D Gunarantne、およびJ Laskin、質量分析レビュー、2016年第35号第439~479頁。
【0022】
15.Julian RR、SR Mabbett、Jarrold MF、米国質量分析学会誌、2005年第16(10)号第1708~1712頁。
【0023】
16.Kaufman、SL、JW Skogen、FD Dorman、F Zarrin、およびKC Lewis、分析化学、1996年第68号第1895~1904頁。
【0024】
17.Kim T、AV Tolmachev、R Harkewicz、DC Prior、G Anderson、HR Udseth、およびRD Smith、分析化学、2000年第72(10)号第2247~2255頁。
【0025】
18.Mikhailov VA、TH Mize、JLP Benesch、およびRobinson CV、2014年、分析化学第86号第8321~8328頁。
【0026】
19.Ouyang Z、Z Takats、TA Blake、B Gologan、AJ Guymon、JM Wiseman、JC Oliver、VJ Davisson、およびRG Cooks、2003年、サイエンス第301号第1351~1354頁。
【0027】
20.Page JS、AV Tolmachev、K Tang、およびRD Smith、米国質量分析学会誌、2006年第17(4)号第586~592頁。
【0028】
22.Rinke、G.、S Rauschenbach、L Harnau、A Albarghash、M Peuly、およびK Kern、ナノレター、DOI 10.1021/nI502122j。
【0029】
22.Tang K、AA Shvartsburg、HN Lee、DC Prior、MA Buschbach、F Li、AV Tolmachev、GA Anderson、およびRD Smith、分析化学、2005年第77(10)号第3330~3339頁。
【0030】
23.Tata、A.、C Salvitti、およびF Pepi、国際質量分析ジャーナル、2020年第450号第116309頁。
【0031】
24.Wang PおよびJ Laskin、2008年、応用化学国際版第47号第6678~6680頁。
【0032】
25.Volny M、WT Elam、BD Ratner、およびF Turecek、2005年、分析化学第77号第4846~4853頁。
【0033】
26.Walton、BL、WD Hoffmann、およびGF Verbeck、国際質量分析ジャーナル、2014年第370号第66~74頁。
【0034】
27.Wyttenbach T、PR Kemper、およびMT Bowers、国際質量分析ジャーナル、2001年第212(1~3)号第13~23頁。
【0035】
C.背景の考察
【0036】
近年、クライオ電子顕微鏡(cryogenic electron microscopy:cryo-EM)は、単一分子、特にタンパク質の構造を調査するためのより受け入れやすい方法となっている。受け入れの増加は大いに、ハードウェアおよびソフトウェアの改善に起因する。クライオEMの分解能は、X線結晶構造解析に必要とされるようなタンパク質結晶を生成する必要なしに、X線結晶構造解析の分解能に匹敵し始めている。クライオEMによる検査のための試料を調製する方法の改善は、低温電子顕微鏡の開発に遅れており、1980年代に最初に開発された方法からほとんど変化していない。クライオEM調査用の試料を調製するための典型的な方法は、数回の手動ステップに従う。まず、タンパク質を精製し、適切な水性緩衝液に移す。次に、少量の試料含有緩衝液をクライオEMグリッド上にピペットで移し、その後、液体の大部分をブロッティングペーパー片に液体を吸収させることによって除去し、タンパク質分子がグリッド表面に付着し、水の薄膜で覆われるようにする。最後に、結晶氷ではなくガラス質の氷が形成されるように水膜を十分な速さで凍結させるために、湿潤グリッドを寒剤に急速に押し込む。ガラス質の氷は、クライオEMによる検査の関心対象の分子を固定する。押し込みステップは実施するのが最も困難であり、正しく実施されないと、試料調製の失敗の最も頻繁な原因となる。試料をより効率的かつより再現性よく調製するために改善が必要である(Earl)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
本開示に記載の装置および方法は、その後の分析のためにイオンおよび荷電粒子を表面上に堆積させる新しい方法を提供する。本開示に記載の技術は、ソフトランディングと呼ばれる方法で表面上にイオンおよび荷電粒子を堆積させる手段を提供する。
【0038】
ソフトランディングとは、イオンまたは荷電粒子の分子立体配座がランディングプロセス中に変化することなく、ランディングプロセスによって弱く会合した分子複合体または凝集した粒子が破壊されることもなく、イオンが表面上に十分ソフトにランディングされることを可能にする状態を指す。ソフトランディングの概念は、衝突の瞬間におけるイオンまたは粒子の運動エネルギーが、分子または粒子に損傷を与えるには不十分な量のエネルギーであることを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0039】
本開示に記載の技術と、イオンおよび粒子を表面上にソフトに堆積させるための以前の手法との間の大きな違いは、大気圧で行われる技法に関するものである。この新しい技術は、イオンまたは荷電粒子による高速衝突によって容易に損傷を受ける、薄い炭素膜またはグラフェンの膜などの脆弱な薄膜にイオンをランディングさせる手段を提供する。ソフトランディング手法は、クライオEM試料を調製するために一般的に行われるような、分析対象分子を凍結したガラス質の水氷の中に懸濁させる一般的な手法の代替を提供する。
【0040】
本明細書に記載の技術のさらなる態様は、本明細書の以下の部分で明らかにされ、詳細な説明は、限定を課すことなく、技術の好ましい実施形態を完全に開示することを目的とする。
【0041】
本明細書に記載の技術は、例示のみを目的とする以下の図面を参照することによってより完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】収集表面上に移動度選択イオンまたは荷電粒子を堆積させるためのデバイスを構成する主要な構成要素の図である。挿入図は、nDMAの動作をより詳細に示している。
図2】収集表面上に移動度選択イオンまたは荷電粒子を堆積させるために使用される構成要素の詳細図である。
図3】イオンまたは荷電粒子の電流を検出および記録する目的でイオンおよび荷電粒子を収集するために使用されるイオン検出器である。
図4】加湿器の設計を説明する図である。
図5】イオン集束ファンネルの設計を説明する図である。
図6】イオン集束電極を構成する円形ワイヤリングを固定するのに有用な円形基部および傾斜アームの図である。
図7】イオン集束ファンネルの設計のさらなる詳細である。図7のデバイスは、円筒形ケージ(中央)の内側にある。端面図は、図6のアームの構造を示す。
図8A図6のデバイスからのアームでワイヤリングを固定するための手段を示す、図6のデバイスのさらに詳細な図である。
図8B図7および図8Aのデバイスのさらなる詳細である。
図9】イオンまたは電荷粒子が堆積される基材を保持するための固定具の図である。
図10A】基材の温度を測定しながら基材を冷却するための手段の図である。
図10B】LN2ブローオフガスを生成するための方法およびデバイス、ならびにブローオフガスを基材ホルダに誘導するための手段の図である。
図10C】液体LN2ブローオフガスを生成する目的で液体窒素に熱を供給するための電気回路図である。
図11】イオンまたは荷電粒子収集器の位置を示す図7のデバイスのさらなる図である。
図12】収集基材上に堆積したイオンまたは荷電粒子保護に有用な2つの部分からなる円筒形チャンバの図である。
図13】nDMAの出口とイオン集束ファンネルへの入口との間の接続の図である。曲線は、ガスの分岐流を表す。
図14】イオン集束ファンネル内のイオン軌道(実線)の図である。点の線は、異なる時間におけるイオンの位置を表す。小さな正方形は、イオン集束ファンネル内の電極を構成する円形ワイヤの位置を表す。ガス速度、電極リングに印加される電圧(最大リングから最小リングの順に列挙されている)、ならびにイオン分子量および電荷の条件が、図と共に列挙されている。
図15】イオン集束ファンネル内のイオン軌道(実線)の図である。点の線は、異なる時間におけるイオンの位置を表す。小さな正方形は、イオン集束ファンネル内の電極を構成する円形ワイヤの位置を表す。ガス速度、電極リングに印加される電圧(最大リングから最小リングの順に列挙されている)、ならびにイオン分子量および電荷の条件が、図と共に列挙されている。
図16】イオン集束ファンネル内のイオン軌道(実線)の図である。点の線は、異なる時間におけるイオンの位置を表す。小さな正方形は、イオン集束ファンネル内の電極を構成する円形ワイヤの位置を表す。ガス速度、電極リングに印加される電圧(最大リングから最小リングの順に列挙されている)、ならびにイオン分子量および電荷の条件が、図と共に列挙されている。
図17】イオン集束ファンネル内のイオン軌道(実線)の図である。点の線は、異なる時間におけるイオンの位置を表す。小さな正方形は、イオン集束ファンネル内の電極を構成する円形ワイヤの位置を表す。ガス速度、電極リングに印加される電圧(最大リングから最小リングの順に列挙されている)、ならびにイオン分子量および電荷の条件が、図と共に列挙されている。
図18】イオン集束ファンネル内のイオン軌道(実線)の図である。点の線は、異なる時間におけるイオンの位置を表す。小さな正方形は、イオン集束ファンネル内の電極を構成する円形ワイヤの位置を表す。ガス速度、電極リングに印加される電圧(最大リングから最小リングの順に列挙されている)、ならびにイオン分子量および電荷の条件が、図と共に列挙されている。
図19】イオン集束ファンネル内のイオン軌道(実線)の図である。点の線は、異なる時間におけるイオンの位置を表す。小さな正方形は、イオン集束ファンネル内の電極を構成する円形ワイヤの位置を表す。ガス速度、電極リングに印加される電圧(最大リングから最小リングの順に列挙されている)、ならびにイオン分子量および電荷の条件が、図と共に列挙されている。
図20】イオン集束ファンネル内のイオン軌道(実線)の図である。点の線は、異なる時間におけるイオンの位置を表す。小さな正方形は、イオン集束ファンネル内の電極を構成する円形ワイヤの位置を表す。ガス速度、電極リングに印加される電圧(最大リングから最小リングの順に列挙されている)、ならびにイオン分子量および電荷の条件が、図と共に列挙されている。
図21】イオン集束ファンネル内のイオン軌道(実線)の図である。点の線は、異なる時間におけるイオンの位置を表す。小さな正方形は、イオン集束ファンネル内の電極を構成する円形ワイヤの位置を表す。ガス速度、電極リングに印加される電圧(最大リングから最小リングの順に列挙されている)、ならびにイオン分子量および電荷の条件が、図と共に列挙されている。
図22】イオン集束ファンネル内のイオン軌道(実線)の図である。点の線は、異なる時間におけるイオンの位置を表す。小さな正方形は、イオン集束ファンネル内の電極を構成する円形ワイヤの位置を表す。ガス速度、電極リングに印加される電圧(最大リングから最小リングの順に列挙されている)、ならびにイオン分子量および電荷の条件が、図と共に列挙されている。
図23】イオン集束ファンネル内のイオン軌道(実線)の図である。点の線は、異なる時間におけるイオンの位置を表す。小さな正方形は、イオン集束ファンネル内の電極を構成する円形ワイヤの位置を表す。ガス速度、電極リングに印加される電圧(最大リングから最小リングの順に列挙されている)、ならびにイオン分子量および電荷の条件が、図と共に列挙されている。
図24】示されている電圧がイオン集束ファンネルの出口リングに印加されている間に記録された、トシリズマブイオンの2つのイオン移動度スペクトルである。
図25】示されている電圧がイオン集束ファンネルの出口リングに印加されている間に記録された、トシリズマブイオンの2つのイオン移動度スペクトルである。
図26】示されている電圧がイオン集束ファンネルの出口リングに印加されている間に記録された、トシリズマブイオンの2つのイオン移動度スペクトルである。
図27】示されている電圧がイオン集束ファンネルの出口リングに印加されている間に記録された、トシリズマブイオンの2つのイオン移動度スペクトルである。
図28】示されている電圧がイオン集束ファンネルの出口リングに印加されている間に記録された、トシリズマブイオンの2つのイオン移動度スペクトルである。
図29】イオン集束ファンネルに印加される電圧の関数としてのM+、M2+および2M+ピークの移動度ピークの高さを示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
A.序論
【0044】
本開示は、すべて大気圧で行われる以下のステップを使用してイオンおよび粒子を表面上に堆積させるための装置および方法を記載する。1)タンパク質分子またはナノ粒子の混合物などの分析対象物質の溶液sを、エレクトロスプレーの手段によって気相のイオンまたは荷電粒子に変換する。2)イオンおよび粒子の混合物から、微分型移動度分析器(DMA)によって、所定の電気移動度を有するイオンおよび粒子が選択される。3)移動度選択イオンおよび粒子は、水和を制御するために湿度制御ガスに曝露される。4)イオンおよび荷電粒子は、イオン集束チャンバを通過するように誘導され、そこでそれらはチャンバの中心線に沿って集中され、さらに低い衝突速度で基材上にランディングするように誘導される。5)水蒸気、熱または冷却への曝露によってイオンの立体配座および粒子の形状を変化させる。および6)冷凍によってイオンの立体配座および粒子の形状を維持する。
【0045】
本開示に記載の技術は、以前の設計に対する改善を提供する。真空中で生成されるイオンビームの生成と比較して、開示の装置を大気圧で動作させることによって、イオンが収集器に当たるときにイオンエネルギーを制御するための真空チャンバおよび減速レンズの必要性が排除されるという大きな改善が達成される。DMAによってイオンまたは粒子の混合物から特定の電気移動度のイオンまたは粒子を選択することは、特定の立体配座または形状を有するイオンおよび荷電ナノ粒子を分析する手段を提供する。以前の報告では、DMAではなく質量分析に基づくシステムを使用して、イオンまたは粒子をそれらの分子質量に従って選択した。開示の技術の1つの用途は、低温電子顕微鏡によるその後の検査のための試料の調製である。クライオEMの要件は、同じ立体配座を有するがクライオEMグリッド表面上でランダムに配向されているタンパク質分子の画像を収集および分析することである。したがって、クライオEMグリッドなどの収集表面上にほぼ同一の立体配座を有する多数の分子を選択して堆積させる能力は、クライオEM画像の品質を改善し、高品質の分子構造を明らかにするために処理する必要がある分子画像の数を減らす。本デバイスにおけるイオン集束の使用は、移動度選択イオンの大部分をクライオEMグリッド上に堆積させる手段を提供し、したがって、クライオEMグリッド上に必要な数の分子を堆積させるのに必要な時間を最小限に抑える。低エネルギー堆積プロセスは、歪んでいないタンパク質をクライオEMグリッドにランディングさせ、したがって、衝突損傷を防ぐ手段を提供する。これらの利点の組合せにより、本明細書に記載のソフトランディングデバイスが概念化される。粒子が表面に当たるように向けられると、粒子は収集表面から跳ね返って失われる可能性がある。開示のソフトランディング技術を粒子を収集するプロセスに適用することにより、堆積プロセスのより良好な制御が可能になる。本開示では、「イオン(ion)」または「イオン(複数)(ions)」という用語はまた、「粒子(particle)」、「粒子(複数)(articles)」、「ナノ粒子(nanoparticle)」および「ナノ粒子(複数)(nanoparticles)」の概念を指し、包含する。
【0046】
イオンは、表面に低速でぶっつかると、ソフトにランディングする。表面誘起解離は、現行技法とは反対の手法であり、イオンの運動エネルギーが表面に激突したときにイオンを断片化するのに十分であるように、イオンを高速で表面にぶっつかるように導くプロセスである。Johnsonによるソフトランディング方法論および応用のレビューは、低エネルギー、一般に200eV未満の運動エネルギーでイオンを堆積させる以前の試みを記載している。報告された一連の展開は、より低い運動エネルギー衝突の調査を明らかにしている。質量分析計の真空環境に基づくソフトランディング手法を使用したタンパク質の堆積は、GologanらならびにWangおよびLaskinによって報告された。堆積させた後無傷で回収したエレクトロスプレーにより多重荷電されたタンパク質イオンは、生物学的活性を保持していることを示した(Volnay、2005年、Ouyangら、2003年、Blakeら、2004年)。Dengは、堆積したタンパク質イオンの電荷状態が堆積したイオンの構造に影響を及ぼすことを報告した。彼らは、低電荷状態が堆積したときには小型のシトクロムCの構造を観察し、より高電荷のシトクロムCのイオンが堆積したときにはスパゲッティ状のストリングを観察した。Beneschらは、ソフトランディングをGroELの大きなマクロイオンに拡張し、総じて、GroEL複合体の形状が衝突を生き延びたことを報告した。しかし、Michailovらは、質量分析計の真空中で表面上にタンパク質を堆積させることは困難であり、100eV未満の低温衝突速度を必要とすると指摘している(Rinkeら)。Waltonらは、サブeVエネルギー領域におけるイオンの堆積を記載した。大気圧で行われたイオン堆積を報告している刊行物はごくわずかであり、そのような堆積が記載されているとき、それらはイオン集束の条件を含んでいない(Tata、Badu-Tawiahら)。本開示に記載の技術は、湿度および温度の制御された条件を有するガスによって運ばれるイオンを、タンパク質の三次および四次構造が堆積中に損傷を受けないように、以前に報告されたよりもはるかに低いエネルギーで収集表面にぶっつかるように誘導する。本開示に記載の技術は、数meV未満のイオンエネルギーに相当する堆積速度でクライオEMグリッド上にイオンを堆積させる手段を提供する。
【0047】
B.例示的な実施形態
【0048】
1.気相分子イオンの生成
【0049】
本開示に記載の装置を操作するための1つのモードは、クライオEMによる分析のためのタンパク質を選択することから始まる。抗体分子は、開示の装置によって処理される例示的な材料である。本開示に記載の技術において使用される電荷還元形態のエレクトロスプレーイオン化は、エレクトロスプレーされた抗体を単一荷電の気相抗体イオンに変換することができる。電荷還元エレクトロスプレープロセスは、エレクトロスプレー質量分析の当業者によって典型的に行われるものとは異なる試料調製の要件を呈する。電荷還元プロセスにより、エレクトロスプレー液滴によって運ばれる電荷が低レベルまで還元される。低レベルの電荷は、液滴の分裂、すなわち、液滴が徐々に小さな液滴に静電的に分割され、最終的にほぼ無水のタンパク質イオンが形成されることを妨げる。エレクトロスプレー液滴中に不揮発性の緩衝塩が存在するとき、不揮発性の塩は分析対象分子の表面に薄いコーティングを形成し、分析対象イオンのサイズを予想よりも大きくする。本発明では、分子量スピンフィルタを使用して試料から不揮発性塩を効率的に除去し、試料を酢酸アンモニウム溶液などの揮発性緩衝液に交換することによって、塩のコーティングが最小限に抑えられる。分子量カットオフスピンフィルタを使用したスピン濾過、例えば試料をAmiconスピンフィルタ(PN UFC510096)に数回通過させることは、塩含有量をマイクロモル濃度以下に減少させるなど、試料中の塩含有量を許容レベルまで十分に減少させる。25~200mM酢酸アンモニウム水溶液などの揮発性緩衝液の使用に伴うスピンフィルタリングは、汚染されていないほぼ無水の単一荷電気相イオンを生成する手段を提供する。
【0050】
電荷還元エレクトロスプレー用の試料を調製することは、さらに、1~50ug/mLなどの低い分析対象濃度の使用を必要とする。不揮発性塩の存在が塩殻でイオンを汚染するのとちょうど同じように、液滴中の2つ以上の分析対象分子の存在により、液滴が蒸発するにつれて分析対象分子が合体され、分析対象分子の二量体および三量体などのクラスタが形成される。比較的高い分析対象濃度の使用によって生成される二量体、三量体および任意の多量体は、人工凝集体と呼ばれる。これらは、試料溶液がエレクトロスプレーされる前には試料溶液中に存在しないため、人工と呼ばれる。人工多量体の検出は、それらの存在が、液滴が蒸発する前に抗体分子が溶液中で既に凝集していたという誤った結論をもたらし得るので、問題となる。このため、人工二量体等の形成を防ぐためには、比較的低濃度の抗体を分析する必要がある。
【0051】
一次エレクトロスプレー液滴のサイズもまた、液滴サイズが増大するにつれて、2つ以上の抗体分子が液滴内に閉じ込められる確率が増大するので、人工二量体の形成に影響を及ぼす。エレクトロスプレー液滴サイズは、粘度、導電率、表面張力および試料送達速度に関連する。希酢酸アンモニウム溶液の粘度および表面張力は、イソプロピルアルコールまたはアセトニトリルなどの有機液体を試料に添加することによって修正することができる。有機溶媒の添加は、有機溶媒が例示的な抗体の立体配座を歪める可能性があるので望ましくない。試料の導電率は、酢酸アンモニウムの濃度と共に増加する。200mM酢酸アンモニウム水溶液は、エレクトロスプレーされると25mM酢酸アンモニウム水溶液よりも小さい液滴を生成し、したがって、より高い酢酸アンモニウム濃度は、人工二量体の形成などなしに、より高い抗体濃度を分析することを可能にする。より低い試料流率もまた、より高い流率よりも小さい液滴を生成するが、エレクトロスプレーは非常に低いまたは非常に高い流率では安定せず、したがって、安定したエレクトロスプレーを生成するためにすべての条件を調整する必要がある。100mM酢酸アンモニウム溶液を300nL/分でエレクトロスプレーすると、250nmの平均直径を有する液滴が生成され、人工凝集体の形成を最小限に抑えながら、約1マイクロモルの高濃度の分析対象の濃度の分析が可能になる。
【0052】
本開示に記載の装置の概略図が図1に示される。酢酸アンモニウムの希薄溶液に溶解した抗体などの試料溶液102が、エレクトロスプレーイオン源104を用いてエレクトロスプレーされる。好ましいエレクトロスプレーイオン源は、単一荷電イオンを生成する電荷還元源である。イオンは、ナノ微分型移動度分析器(nDMA)106に誘導される。挿入図106aにおいて詳細に示されている、nDMAとラベル付けされたnDMAは、一定の移動度のイオンを加湿器を通過するように誘導し、その後イオンをイオン集束デバイスに導入する手段を提供する。多くの異なるタイプの加湿器およびイオン集束デバイスが前述されていることを理解されたい。本明細書では、イオン含有ガスストリームまたは粒子含有ガスストリームの水蒸気含有量および温度を制御するのに使用するための加湿器を指すことが多い。ガスストリームを加湿するための代替実施形態の一例は、バブラーである。ガスストリームの温度を制御する手段の代替実施形態の一例は、高温チューブの低温チューブである。イオン集束ファンネルとすることができるが、任意のタイプのイオン集束デバイスがファンネル状デバイスの代わりに使用されてもよい。本開示に記載のように、イオン集束ファンネルは、集束ファンネルの出口端部に配置されたクライオEMグリッドなどの収集表面に向かってイオンを効率的に誘導する目的で、イオンがファンネルを通過するときに、集束ファンネルの中心線に向かってイオンを集中させる。クライオEMグリッド以外の収集表面が使用されてもよく、イオン集束の使用から利益を得られる。クライオEMまたはクライオEMグリッドへの頻繁な言及は、試料を分析するための例示的な用途またはその後の例示的な分析方法を示すために使用される。イオン集束を提供するための代替実施形態の一例は、Photonis Inc社製の抵抗ガラスなどの電気抵抗性シリンダまたはチューブ、またはポリウレタンなどの帯電防止プラスチックで製造されたシリンダまたはチューブである。
【0053】
本開示における例示は、流体の流れおよび流れの方向を示すために実線の矢印を使用する。破線の矢印は、図中の構成要素を識別する役割を果たす。再び図1を参照すると、液体試料は、内径50μm×外径220μmの溶融シリカキャピラリ(Trajan Scientific社製、PN062444)などのキャピラリチューブによってエレクトロスプレーイオン源に誘導される。エレクトロスプレーイオン源で生成される電荷還元エレクトロスプレーイオンはnDMAに誘導される。移動度選択イオンまたは荷電粒子は、温度および湿度制御デバイス108を通ってさらにイオンまたは粒子集束ファンネル110に誘導され、そこでそれらはホルダ114によって支持されている収集表面112上に堆積される。図1の挿入図106aは、nDMAの動作を示す。イオンまたは荷電粒子116の混合物は、nDMAの外壁の内側に沿って環状空間に誘導される。イオンまたは荷電粒子は、クリーンなシースガス118の流れと合流し、その後、円筒形の内側部材120に供給される電圧によって供給される電場にさらされる。挿入図は、内側部材に印加される固定電圧の結果を示す。一定の移動度122のイオンは、出口チューブ124を通過するように誘導される。
【0054】
図2は、本開示に記載の技術の一実施形態を詳細に示す。キャピラリチューブ1は、エレクトロスプレーイオン源2に液体試料を送達する。液体試料は、分析対象分子を含む。例示的な試料は、100nm酢酸アンモニウムに溶解した抗体である。好ましいキャピラリは、Trajan Scientific社(オーストラリア)製のPN062462などの、外径220μm×内径50μm、長さ30cm未満のポリイミドコーティング溶融シリカキャピラリである。キャピラリチューブ1には、その入口に、圧力をかけてキャピラリチューブ1を通って試料を移動させるマイクロ流体ポンプに接続されたシリンジポンプまたはオートサンプラなどの加圧試料源が設けられている。キャピラリチューブ1にはまた、エレクトロスプレーを発生させる目的で、電源1bからの電圧と、1aを流れる液体試料とを接続する電気的接続部1aが設けられている。好ましい実施形態では、電気的接続部は、ステンレス鋼製マイクロ流体ユニオン(例えば、IDEX Healthcare社製)である。時には、キャピラリが詰まった後にエレクトロスプレーキャピラリ1を新しいキャピラリと交換する必要がある。高電圧接続部1aには2kVなどの高電圧が供給されるため、キャピラリを交換する際に高電圧を除去することは安全要件である。万が一キャピラリが交換されている間に1aから高電圧が除去されていない場合、高電圧源1bから高電圧接続部1aに至る高圧電線に電流制限抵抗器およびブリードダウン抵抗器が設置される。電流制限抵抗器とブリードダウン抵抗器との組合せ1cを図2の1cの拡大図に示す。1c内の各電気抵抗は、5kV、1Mオームの抵抗である。1cは、1aに高電圧が供給されている間に1aが操作者によって触れられた場合、高電圧にさらされる可能性を減少させるが排除はしない。
【0055】
エレクトロスプレー製造の当業者は、キャピラリ1の出口端上の先端が安定したエレクトロスプレーの形成を可能にすることを知っているであろう。キャピラリ1上の先端は、エレクトロスプレーイオン源2内の中心位置に保持される。エレクトロスプレーイオン源2は、ニューヨーク州グランドアイランドのNRD LLC社製のモデルP-2042ヌクレオスポットなどの放射性ポロニウム210の小さな密閉源を含む。ポロニウム210原子の崩壊によって放出されるアルファ粒子は、エレクトロスプレー液滴の近傍に双極性空気イオンの雲を生成する。ポロニウム210アルファ粒子によって生成された双極性空気イオンは、エレクトロスプレー液滴によって運ばれる電荷と相互作用し、液滴上の電荷を低レベルに還元させ、その結果、液滴の既知の割合がボルツマン電荷分布によって予測される単一の電荷を運ぶ。単一荷電イオンを生成することの重要性については後述する。エレクトロスプレーイオン源2の設計は、Kaufmanら、Fernandezら、およびHoganらによって記述された設計など、エレクトロスプレー液滴およびイオン上の電荷を還元させるように設計された以前のイオン源に従う。本開示に記載の技術は、Kaufmanら、Fernandezら、およびHoganらの研究に対する改善を提供する。本開示に記載の技術の好ましい実施形態では、乾燥空気の加圧源が設けられた質量流量コントローラ3aは、1.5Lpmの乾燥空気をイオン源2に供給する。加圧COの供給が設けられた第2の質量流量コントローラ3bは、0.2LpmのCOをイオン源2に供給する。空気とCO-とを組み合わせた流れをエレクトロスプレーイオン源2に導入することは、エレクトロスプレーイオン源2の本体を通ってキャピラリ1の先端から放出されるエレクトロスプレー液滴を運ぶ手段を提供し、液滴は、エレクトロスプレーイオン源2を通って移動する際にガスおよび空気のイオンと相互作用する。質量流量コントローラの使用は、Kaufmanら、Fernandezら、およびHoganらによって以前に記述されたエレクトロスプレーイオン源2に供給されるガスのより良好な制御を達成する。質量流量コントローラは、特に圧縮空気の供給が空気圧縮機によって供給されるとき、圧縮機によって送達される圧力が経時的に一定ではなく、圧縮機ポンプのオンオフサイクル中に上昇および下降するため、以前に記述されたロータメータに比べて、これらのガス流率のより安定した制御を提供する。
【0056】
引き続き図2を参照すると、Dino-LiteモデルAD4113TL、www.dinolite.com、などのビデオカメラがイオン源2に取り付けられ、試料がエレクトロスプレーされている間にテイラーコーンを検査する手段としてエレクトロスプレーキャピラリチューブ1の端部の先端に焦点が合わせられている。エレクトロスプレーイオン形成の当業者は、テイラーコーンの安定性を検査する能力の有用性を理解するであろう。テイラーコーンは、エレクトロスプレーキャピラリの先端から出て来る尖った形状の液体を表す。テイラーコーンのライブインタイムビデオ画像により、安定したテイラーコーン、すなわち安定したイオン電流を生成する目的で、ちらつかないテイラーコーンを生成する手段として、オペレータがテイラーコーンを検査し、試料に供給される電圧を調整できるようになる。本開示に記載の技術におけるビデオカメラの実装形態は、ビデオカメラでテイラーコーンの画像を高倍率で検査することができるため、Kaufmanら、Fernandezら、およびHoganらによって記述された装置に対する改善である。本開示に記載の技術の好ましい実施形態では、エレクトロスプレーイオン源2におけるテイラーコーンを視覚化するために、Dinolite(www.microscopes.com)モデルAD4113TLカメラが使用される。
【0057】
2.一定の電気移動度を有するイオンの選択
【0058】
イオン源2で生成されたエレクトロスプレー液滴は、エレクトロスプレーイオン源2を通って移動する際に蒸発する。各液滴によって運ばれる電荷は、液滴が蒸発するにつれてエレクトロスプレー液滴によって運ばれる分析対象分子に移動する。蒸発により、気相分析対象イオンが形成される。気相分析対象イオンは、出口チューブ4によってエレクトロスプレーイオン源2から導出される。出口チューブ4は、図1の挿入図に示されているように、分析対象イオンがそれらの電気移動度に従って分離されるナノDMA5にイオンを誘導する。
【0059】
好ましい実施形態では、nDMA5はナノDMA(TSI Inc社製、モデル3085)である。nDMA5は、25psigの乾燥空気源と、nDMA5上の「シース流」とラベル付けされたポートに20Lpmの空気を供給するように設定されている質量流量コントローラ6(例えば、カリフォルニア州モンテレーのSierra Instruments社製)によって供給される空気とのシース流で動作する。nDMAはオプションで、一定のサイズのイオンまたは荷電粒子がnDMAを通って誘導され得るイオンまたは荷電粒子サイズの範囲を選択するために、5~40Lpmの範囲のシース流など、20Lpm以外のシース流で動作することができる。5Lpmのシース流は、nDMAが40Lpmのシース流で動作している際にnDMAを通して誘導される粒子およびイオンの範囲よりも小さい選択可能な粒子およびイオンのサイズの範囲を提供する。
【0060】
微分型移動度分析器の実務の当業者は、イオンおよび荷電粒子のフィルタとして微分型移動度分析器を動作させる概念を理解するであろう。本開示に記載の技術では、モデル3085は、はるかに広い範囲のサイズを有するイオンの集団から狭い範囲のサイズを有するイオンを選択する手段を提供する。モデル3085の動作条件は、直径が約2nm~200nmの間のイオンのサブセットを選択する手段を提供する。「イオンのサブセットを選択する」という用語は、シースガス流の状態およびnDMA5の内側部材に印加される電圧を指す。例えば、20Lpmのシース流が使用され、180ボルトがnDMAの内側部材に印加されると、直径7nm近くの単一荷電イオンがnDMAを通って透過する。20Lpmのシースガス流の使用およびnDMAの内側部材への180ボルトの印加は、単一荷電アルブミンイオンがnDMAを通過することを可能にする動作条件である。「移動度選択イオン」という用語は、イオンのサブセットを選択する目的でnDMAを通過するように向けられるイオンを表す表現である。
【0061】
nDMA5によって選択することができる粒子またはイオンのサイズの正確な範囲は、nDMA5の製造業者によって提供される。シース流に加えて、イオン含有ガスの流れがnDMA5に供給される。エレクトロスプレーイオン源2は、エレクトロスプレー源2からチューブ4によってnDMA5に誘導されるイオン含有ガスの流れを供給する。ガス流は、nDMA5から移動度選択イオンを運び出す。
【0062】
移動度選択イオンは、2つの異なる技法を使用して本デバイスのnDMA5において生成される。第1の技法では、nDMA5の内側部材に印加される電圧は、ランピング電圧である。ランピング電圧の一例は、nDMA5の内側部材に印加される0ボルトから始まり、数分の期間にわたって10kVまで上昇する電圧である。ランピングの間、nDMA5の内側部材に印加される電圧が増加するにつれて、移動度がますます低くなるイオンはnDMA5を通って誘導される。図24図28に示すように、ランピング電圧は移動度スペクトルを生成するために用いられる。ランピング電圧はまた、一定の移動度を有するイオンをクライオEMグリッドなどの収集表面に誘導するのに必要な電圧を決定するのにも有用である。ランピング時間またはランピング電圧に対する移動度スペクトルのピークの位置に注目することにより、ピークが記録された間にnDMA5の内側部材に印加された電圧を推定することが可能である。第2の技法では、nDMA5の内側部材に印加される電圧は、固定電圧である。固定電圧は、一定の移動度を有するイオンを収集表面に長時間にわたって誘導するのに有用である。固定およびランピング電圧は、National Instruments社製USB-611モジュールを駆動するカスタマイズされたソフトウェアによってnDMA5に供給される。611モジュールは、アナログ信号を介してBertan社製モデル255などの高電圧電源に接続される。モデル255からの出力は、nDMA5の内側部材に接続される。
【0063】
nDMA5に供給される流入シース流と、nDMA5から流出する流出シース流との流率のバランスをとることが好ましい。流れのバランシングは、バルブ7によって達成される。バルブ7は、nDMA5から移動度選択イオンを運ぶガスの流れに流れ制限を提供する。好ましい実施形態では、バルブはSwagelok社製モデルSS-1RS4-Aバルブである。調整バルブ7は、nDMA5を通過するシースガスの流入流と流出流とのバランスをとる手段を提供し、一方、nDMA5は、nDMA5を通るシース流を確立するのに質量流量コントローラで動作する。バルブ7の調整は、流量計によって示されるガス流率を見ながら行う。流量計によって示される流率が質量流量コントローラ6によって確立された流率に等しくなった後、流率は均等にバランスをとられていることが理解され得る。質量流量コントローラ6は、第三者のソフトウェアによって制御することができないTSI Inc社製モデル3080によって供給される再循環流と比較して、カリフォルニア州モンテレーのIonDX社から入手可能なカスタムソフトウェアによって容易に調整される。
【0064】
nDMAの製造業者は、閉回路再循環ブロワ(モデル3080)に基づいて流入と流出シースガス流のバランスをとる手段を提供する。再循環ブロワの使用は、一定の体積流率のシースガスをnDMAに導入し、次いで、等しい体積流率のガスをnDMAから引き出す。モデル3080によって供給されるシースガスの再循環流は、40Lpmもの大きさのシース流を供給するには不十分である。モデル3080によって供給される再循環シース流は、nDMAを通して室内空気を再循環させる。モデル3080および再循環ブロワを使用して行われた実験の過程で、エレクトロスプレーイオン源によって供給されるガスの流れとシースガスの流れとの部分的な混合により、シース流に水蒸気が蓄積する。本開示に記載の技術は、流入シース流が質量流量コントローラ6に供給される乾燥ガスによって連続的に供給されるシース流条件を確立する。モデル3080に対する本設計の利点は、nDMA5によって選択されるイオンの集団のより良好な制御である。本開示に記載の技術では、選択されたすべてのイオンは、既知で制御される水蒸気含有量のシースガス流を通過する。したがって、本設計は、シースガスの水蒸気含有量がイオンの電気移動度に影響を及ぼすため、収集表面にランディングするように向けられるイオンのより正確な制御を提供する。また、湿潤ガスを通過するイオンには水分子が少し付着するため、湿潤ガスを通過するイオンは乾燥ガスを通過するイオンよりもわずかに大きくなる。イオン移動度分析を実施する者によって理解されるように、一定の電気移動度を有するイオンまたは粒子を選択することを考慮するに際しては、本開示に記載の技術は、nDMA5を通って誘導されるイオンに対するより正確な制御を提供すると理解されるべきである。この説明の後半では、モデル3080によって供給されない能力である、シースガス流の水蒸気含有量がオプションで調整可能なパラメータである、本開示に記載の技術の提供について説明する。
【0065】
本開示に記載の技術の一実施形態では、移動度選択分析対象イオンは、バルブ7を通ってナノDMA5を出て、図2に示すように、チューブ8を介してイオン検出器19にのみ誘導される。イオン検出器19は、図3にさらに詳細に記載されている。イオン検出器19は、粒子およびイオンフィルタとして機能する。チューブ8を通って誘導されるイオン含有ガスは、長さ50mmの5mm×内径4mmのガラスチューブ302内の、長さ20mmの細目スチールウール300のプラグを通って誘導される。ガスの流れがスチールウールを通過した後、得られた粒子非含有およびイオン非含有ガスは、ガス流ストリームラインを表す湾曲矢印304によって示されるように、ガラスチューブ302の遠位端から抜ける。スチールウールは、図2に示すように、イオン検出器310または19の壁に固定されたBNCコネクタ308を介して、Keithley社製モデル6400などのピコ電流計306に電気的に接続される。スチールウールによって濾過された後の荷電粒子およびイオンによって担持されている電荷は、スチールウールに移動し、さらにピコ電流計306によって電流として検出される。ガラスチューブの長さ10mmの入口部は、内径5mm×長さ60mmの真鍮チューブ312の内部に封入される。真鍮チューブ312は、プラスチックグロメット314によって4.5インチ×3.5インチ×2インチの金属エンクロージャ310の壁の穴に固定される。金属エンクロージャは、環境電気ノイズからの干渉なしに小電流を測定することができるように、スチールウールの周りに電気シールドを提供する目的で電気接地316に接続される。
【0066】
上述のように、nDMA5内の内側部材に、ランピング電圧や固定電圧を印加することができる。イオン検出器19は、nDMA5の内側部材に供給される電圧がランピングされている間にイオン移動度スペクトルを記録するために使用することができる。選択された移動度のイオンがイオン検出器19に誘導されている間に、イオン検出器19によってイオン電流が検出される。イオン検出器19はまた、nDMA5の内側部材に固定電圧が印加されている間に、イオン電流をモニタするために使用することもできる。固定電圧がnDMA5の内側部材に印加されている間にイオン電流を監視することは、イオンの流れが本開示に記載の技術の構成要素を遠くまで通過する前にイオン電流の大きさの基準信号を提供し、構成要素の通過中にイオンが失われる程度を判定するのに有用である。システムの構成要素の通過中に失われるイオンの割合は、nDMA5の出口で測定されたイオン電流に対する、構成要素を出るイオン電流の比を計算することによって求められる。
【0067】
3.移動度選択イオンの制御湿度への曝露
【0068】
図2を再度参照すると、本開示に記載の技術の一実施形態では、移動度選択分析対象イオンは、バルブ7を通ってナノDMA5を出て、チューブ8を介して加湿器12aに誘導される。加湿器は、イオン含有ガスの流れの温度および水蒸気含有量を制御する手段を提供する。温度制御モジュール10aは、加湿器12a内の水を加熱し、特定の温度に設定されると、イオン含有ガス中に所定レベルの湿度を生成する。湿度制御イオン含有ガスは、8によって、ニューヨーク州ホーポーグMitchell Instruments社製Easydew OnLineモニタ、モデル0422などの露点センサ13aに誘導され、次いでイオン集束チャンバ9に誘導される。第2の加湿器12bは、nDMA5から抜けるシースガスの露点を制御する手段を提供する。シースガスは、サイドポート11を介してナノDMA5から抜ける。シースガスは、加湿器12bに誘導される。加湿器12bは、加湿器12aと同様に動作する。湿度コントローラはまた、ガス流の温度を制御する。加湿器の好ましい実施形態では、湿度制御シースガスは、14から露点センサ13b内に誘導され、次いでイオン集束チャンバ9内でシース流として使用するためにイオン集束チャンバ9に誘導される。加湿器の好ましい実施形態は、以下に図4に示される。加湿器12aおよび/または加湿器12bは、加湿を供給しないように電源を切って動作することができることも理解されたい。さらに、加湿器は、ガス流の湿度を低下させる手段として、ガス流の温度を低下させるように動作することができる。別の実施形態では、加湿器は、ガス流を冷却し、加湿器を通過するイオンまたは粒子上に水蒸気を凝縮させるように動作することができる。この動作モードは、収集表面上にイオン含有液滴を堆積させる手段を提供する。別の実施形態では、加湿器は、凝縮液滴が加湿器を通過するときに凝縮液滴を凍結させるように動作することができる。この動作モードは、イオンまたは粒子を小さなアイスボール内で表面上に堆積させる手段を提供する。
【0069】
露点センサ13aおよび13bから導出される湿度制御ガスの流れは、イオン集束チャンバ9に導入され、ここにおいて、イオンは、クライオEMグリッドなどの収集表面にランディングするようにイオンおよび/または粒子を集束させる目的のために、ファンネル14の中心線に向かってイオンを集束させる目的でイオンファンネル14に入る。集束チャンバ9の設計は、イオンを湿度制御ガスに集束させる手段を提供する。本開示に記載の技術では、ファンネルを通してイオンを誘導するガスの湿度の制御が重要なパラメータである。湿度は、イオンまたは粒子が水和される程度に影響を及ぼす。湿度が高いほど、水和レベルの高いイオンが生成される。本開示に記載の技術は、特定の水和レベルを有するイオンをクライオEMグリッドなどのランディング表面上に堆積させる手段を提供する。イオン含有ガスの湿度を制御することによって、特定の水和レベルが確立される。イオンが冷却された収集表面上に堆積される間に収集表面上への水蒸気の凝縮を防止するために、低い湿度レベルを維持しながらイオンを水和させる湿度レベルを生成することが特に重要である。開示の装置の一使用では、クライオEMグリッドがコールドフィンガに取り付けられている間、クライオEMグリッドの収集表面上への凝縮を防止することが望ましい。開示の装置を用いて行われる他のタイプの研究では、霧または雲などの屋外環境で見られる反応条件を生成するために、加湿粒子における化学反応を研究することが望ましい。上側シリンダ17と下側シリンダ18とが、集束チャンバ9の本体を構成する。シリンダ17とシリンダ18とは、ロッド16の端部15からクライオEMグリッドなどの収集表面を装着または取り外す目的で、ロッド16の端部15にアクセスするために分離することができる。
【0070】
加湿器がガスの流れに水蒸気を添加するように動作する間の加湿器12aおよび12bの好ましい実施形態が、図4にさらに詳細に示される。加湿器12aと12bとは各々、金属チューブ19A内に収容されている湿式チューブ状芯材19を含む。チューブ19Aは、温度制御モジュール10aによって制御される電気抵抗チューブヒータ21によって取り囲まれる。チューブ状芯材19を通過する空気は、芯材19から蒸発した水蒸気を取り込み、したがって、空気ストリームを加湿する。チューブ状芯材19の例は、Millipore-Sigma社製のDVPPなどの濾過膜の直径1/4インチの3層厚のロールである。チューブ状芯材19は、入口22チューブおよび出口23チューブによって所定の位置に保持される。芯材19の出口端23は、水25内に位置する。芯材の湿潤を維持する目的で、キャピラリ作用により芯材19に水25が引き込まれる。芯材のこの設計は、Herring、Spielman、およびLewisによって米国特許第11,029,240号明細書に記述されている芯材と同様であり、湿式芯材の動作は、イオン含有液滴または粒子含有液滴を生成するための条件を提供する。
【0071】
4.クライオEMグリッドに当たるようにイオンを集束させる
【0072】
イオン集束チャンバ9内のイオン集束の実現は、文献に記載されている従来技術に基づいている。Bakerら、Belovら、Chaudharyら、Clowersら、Ibrahimら、Julianら、Kelleyら、Kimら、Pageら、Tangら、およびWyttenbachらは、エレクトロスプレー質量分析計の性能を改善するための手段としてのイオンファンネルの設計および動作を記述した。従来技術に記載のイオンファンネルは、一般に、エレクトロスプレーイオンのプルームをキャプチャし、それらを質量分析計の真空チャンバ内の収集表面上に効率的に誘導するために質量分析の分野で使用される。イオン移動度質量分析計でもイオンファンネルが使用されているが、これもまた、真空チャンバへのイオンの効率的な輸送を可能にする目的で使用される。本開示におけるクライオEMグリッドなどの標的上に低速イオンを集束させ、次いで堆積させるためのイオンファンネルの使用は、イオンファンネルの従来技術の説明の明らかな拡張ではない。TSI Inc社製ナノメートルエアロゾルサンプラモデル3089と呼ばれる市販のデバイスは、室内空気などの大気圧ガス中に保持されている収集表面上に荷電粒子を堆積させることを目的として開発された。それは、静電的に帯電した粒子を堆積表面上に引き付ける手段として、関心対象の粒子によって運ばれる電荷の極性とは反対の極性の電圧を使用する。このデバイスでは、荷電粒子を静電的に引き付けてナノパーティクルサンプラの内部に位置する収集表面上にランディングさせる目的で、+/-10kV未満の電圧が収集表面に印加される。ナノエアロゾルサンプラの使用は、ナノメートルエアロゾルサンプラの内部のコレクタロッドに取り付けられた収集表面に印加される高電圧のために、ソフトランディングデバイスとして説明されていない。
【0073】
図5を参照すると、イオン集束ファンネル14は、分析対象イオンをイオンファンネルの長手方向中心線に向かって移動させ、そこでそれらがファンネルの中心線の近くに集中する、すなわち集束されるようにする、ガスの流れおよび分析対象イオンを取り囲む電場を付与する。集束されたイオンは、ファンネルを通って流れるガスによってロッド16の端部15に近づくように向けられる。ロッド16は、チャンバ18の底部の摺動シールに嵌合するように設計される。Oリングシールなどの摺動シールにより、ロッドをチャンバ18の内外に移動させることが可能になる。イオンまたは粒子をロッド16の端部15に近づくように向かわせるガスの流れは、イオンまたは粒子をロッド16の端部15の近くに押し寄せ、したがって、イオンの一部を拡散によってロッド16の端部15に堆積させることが可能である。本開示に記載の装置の一実施形態では、クライオEMグリッドがロッド16の端部15に取り付けられ、拡散がイオンをクライオEMグリッド上に堆積させるように働く。本開示に記載の技術の別の実施形態では、ロッドはコールドフィンガである。冷凍分野の当業者は、コールドフィンガが、収集表面上に堆積されたタンパク質などの物質を保存する手段として、ロッド16の端部およびそれに取り付けられた収集表面を冷却する手段を提供することを理解するであろう。イオン集束チャンバの別の実施形態では、ロッド16は電圧源に接続され、正イオンを収集する効率を改善するための負電圧の印加など、イオンをロッドに向かって移動するように引き付ける電圧が給電される。収集は正イオンに限定されず、イオンの極性および収集表面が反転した後に負イオンまたは粒子を収集することができることを理解されたい。
【0074】
引き続き図5を参照すると、イオン集束チャンバ9およびイオン集束ファンネル14の設計および動作のさらなる詳細は、イオンをチューブ8の延長部を通してイオン集束ファンネル14の入口に誘導する手段を示す。チューブ11の延長部を通って誘導される湿度制御ガスは、ディフューザ26を通過する。ディフューザ26は、湿度制御ガスの流れに抵抗を与え、ガス拡散27によって示されるように、湿度制御ガスをディフューザ26の入口にわたって広がるようにする。したがって、ディフューザ26は、チューブ状カラム17の直径にわたって均一なガスの流れを供給する。得られる均一に拡散されたシースガスの流れは、チューブ8によって導入されるイオン含有ガスの流れを取り囲む。チューブ8からのイオン含有流を取り囲む均一な流れは、イオン集束ファンネル14内のシース流であることが理解される。これらのガスがイオン集束ファンネル14を通って流れるとき、シース流はイオン含有ガスの流れを取り囲み続ける。本開示に記載の技術の好ましい実施形態は、2.0Lpmのイオン含有ガスおよび20Lpmのシースガスをイオン集束ファンネル14に導入する。
【0075】
引き続き図5を参照すると、5つの円形ワイヤリングが、集束ファンネル14の静電集束素子を構成する。この設計は、ワイヤリングに限定されず、中心に穴が設けられた円形プレートの積層体を使用して作られた電極を含むことができる。リング28は例示的なリングである。イオンは、最も広い直径のリングを通ってファンネルに入り、最も小さい直径のリングを通ってファンネル14から出る。図5は、バンドと、4つのリブで支持されている5つのリングとで組み立てられた例示的なファンネルを示す。29は、例示的なリング支持ポストである。イオン集束ファンネル14の好ましい実施形態は、1つの円形バンドと5つの円形集束リングとの積層体である。バンドは直径58mmであり、リングは、厚さ(直径)1mmのステンレス鋼ワイヤで製造された直径50、41、32、24および15mmのワイヤの円環である。5つのリングは、6つのリブによって支持される。リブアセンブリを、ABSプラスチックを使用して3D印刷した。リングアセンブリの全長は70mmである。電圧源31と電気グランド32との間に直列に接続された5つの電気抵抗器30が、各リングに電圧を供給するために使用される分圧器を構成する。本開示に記載の技術の好ましい実施形態では、リングと分圧器30内の抵抗器との間の電気的接続部によって、最小のリングに1kVの例示的な電圧が供給され、直径が次第に大きくなるリングのそれぞれに0.8、0.6、0.4、0.2および0kVがそれぞれ供給される。集束ファンネル14の動作は、1、0.8、0.6、0.4、0.2および0ボルトに限定されず、RF電圧で供電されてもよい。
【0076】
イオン集束ファンネル14のさらなる例示が図6に示される。入口部602、出口部604、および中間部606を有するシリンダ(600)が、3D印刷部品の構成要素から構成される。ステンレス鋼などの板金(厚さ0.015インチ)のバンドが中間部606の全幅および周囲に巻き付けられ、巻き付けられた板金の端部がシリンダを形成するように互いに固定される。この金属シリンダは、上記のように、バンドと呼ばれる。6つのリブ608は、600の内径から600の長手方向軸の中心に向かって延びる。リブ608は、中間部606の内面に取り付けられ、600の長手方向中心線に向かって角度が付けられる。角度610によって示される600の長手方向中心線に対するリブの角度。リブは、断面の長い方の寸法が図8Aの806の半径に整列した断面を有する。直径1mmの5つの穴が、リブの長さに沿って均等に配置される。リブの穴612は、1mm厚さの銅線のリングに支持を提供する。
【0077】
イオン集束ファンネル14への入口の端面図を図7に700で示す。6つのリブは、入口部600の円周の周りに均等に分布し、600の内径から600の長手方向中心線に向かって延びている。7022は、構成要素700が、出口アセンブリ704と連通する集束ファンネル14を保持する機構の等角投影図によって示される、より大きなアセンブリの特徴であることを示している。6つのリブが704の内径から704の中心に向かって延びており、リブは中心の1/4インチのシリンダ706に取り付けられている。シリンダ706は、ファンネルの出口の中央にイオン収集台座を固定するための固定具である。
【0078】
イオン集束ファンネル14の一実施形態のさらなる図が図8Aに示されており、図800はイオン集束ファンネル14への入口の端面図を示している。800の半径に沿って描かれている線は、ワイヤを保持するリブ608である。800では、ワイヤ802は円で表されている。図804は、集束ファンネル14のリブへのワイヤ802の取り付けを示す。ワイヤへの言及はワイヤリングと同義であることが理解され得る。
【0079】
ファンネル14のさらなる図を図8Bに示す。806は、金属バンド808およびリブ810を保持する3D印刷部品の側面図である。図700および図704は、ファンネル14の端面図を示す。
【0080】
端面図700は、ファンネルの入口に投影された図であり、入口リング808からファンネル14の小さい方の端部に向かって延びるファンネル14のリブ608を示す。部品の中心線に対するリブの傾斜は、角度610で表される。好ましい実施形態では、角度610は42度である。端面図704は、ホイール内のスポークのように見える構成を示している。端面図700においてリブと混同されるべきではないスポークは、604の外周からそれらが出会う部分の中心に向かって延びて、中心位置に円形支持体を通して挿入されている間に、図示されていない台座を維持するための円形支持体を提供する。図8Bの中央のパネルは、集束ファンネル14の等角図を提供し、リブおよびスポークの位置を示している。
【0081】
図9は、収集表面をロッド16の端部15またはチューブ41の端部上に保持するための固定具900を示す。ロッド16の端部15に取り付けられた短いチューブ状部38は、ロッド16の端部15に対してクライオEMグリッド39を固定する。好ましい実施形態では、ロッドおよびチューブ状部は0.25インチの外径を有する。チューブ状部の高さは0.031インチであり、チューブ状部の内径は0.25インチであり、クライオEMグリッドの直径は0.118インチである(3mmグリッド)。外側チューブ41および内側チューブ40は、クライオEMグリッドを固定するためのデバイスと共に、総称して台座900と呼ばれる。固定具902は、クライオEMグリッドをイオン収集台座の端部に固定するための別の手段をさらに示す。902の最も広い直径は1/4インチであり、接着剤または長さ1/4インチの4個~40個の止めねじなどのねじ付きロッドの一部によって、ロッドまたはチューブ、すなわち台座の端部に取り付けられる。固定具902は、クライオEMグリッドの固定に適合する上部と、より大きな直径のロッドへの取り付けに適合するテーパ状の移行部とを有する。上部特徴は、クライオEMグリッドを保持するように設計されたザグリ加工のチャンバである。スロットにより、チャンバ内に設置された収集表面へのピンセットによるアクセスが提供される。固定具902の直径0.25インチから直径0.15インチへのテーパは、固定具の断面を小さくし、断面がイオン含有空気の流れストリームと最小限に相互作用するようにするのに役立ち、したがって堆積効率を低下させるイオン含有ガスの流れに乱流を導入することなくイオンがクライオEMグリッドに当たるようにするためのガイドを提供する。ガス動力学の実践および設計ならびにオブジェクトの周りのガスの流れに詳しい当業者であれば、拡散ストリームラインがイオンをクライオEMグリッドから遠ざけるようにガイドするので、拡散ストリームラインは収集表面上にイオンをガイドするのに有益ではないという点で、台座の断面を最小化することにより、ガス流ストリームラインの方向転換が最小化されることが分かる。
【0082】
別の実施形態では、ロッド16またはチューブ41は、白色のデルリンなどの電気絶縁性の外径1/4インチのチューブから製造される。デルリンチューブは、デルリンチューブの端部に取り付けられた固定具902などの収集表面を電気的に絶縁する手段を提供する。この構成では、シールドケーブルがデルリンチューブのボアを通過し、シールドケーブルの導電性内側部材は固定具902に取り付けられる。ケーブルは、イオンが固定具9092上または固定具902に取り付けられたクライオEM上にランディングするように誘導される間のイオン電流を測定する目的で、Keithley社製モデル6400ピコ電流計などのピコ電流計に固定具902を電気的に接続する手段を提供する。イオンがクライオEMグリッドにランディングするように誘導される間のイオン電流を測定することは、所与の収集時間間隔中に堆積されるイオンの総数を計算するのに有用な情報を提供する。
【0083】
一実施形態では、固定具902、ロッド16は、図9に示すように、内側チューブ40と外側チューブ41とからなるチューブアセンブリに置き換えられる。冷却された不凍液または液体窒素ブローオフガスなどの冷却流体は、クライオEMグリッド39を冷却する目的でクライオEMグリッド39の下の表面に接触する低温ガスまたは液体を供給するように内側チューブ40内に誘導される。次いで、冷却流体は、チューブ間の環状空間42を通過し、そして廃棄されるか、または冷却流体源に戻される。クライオEMグリッド39の下の表面に配置された温度センサ43は、クライオEMグリッド39の温度を制御するのに有用な信号を提供する。さらに詳細には、903に示すように、チューブ状部38にはスロット44が設けられているので、ピンセットなどのデバイスをスロット44に挿入してクライオEMグリッドをピックアップまたはドロップオフすることができる。
【0084】
図10Aおよび図10Bには、台座900を通って寒剤を流す手段を示す。内側チューブ40および外側チューブ41を使用して寒剤1000を送達することにより、クライオEMグリッドを取り付けることができる台座900の端部に冷却を提供する。温度センサ1002は、台座900の端部の内部側に取り付けられている。温度検知素子は、サーミスタ、白金測温抵抗体、熱電対のうちのいずれであってもよい。温度検出素子は、内側チューブ40と外側チューブ41との間の環状空間を通過するワイヤ1004によって温度読み出しデバイスに接続される。温度読み出しデバイスは、寒剤の流れを制御するために使用することができる補助信号を提供する目的で温度信号を増幅するための対策を含むデジタル温度ディスプレイとすることができる。寒剤の流れを制御することは、クライオEMグリッドを冷却するための一定の温度を確立する手段を提供する。より高い流率の寒剤はより低い温度を提供し、より低い流率の寒剤はより高い温度を提供することが理解され得る。台座の端部の温度を制御する手段の一例は、例えばコネチカット州ノーウォークのOmega Engineering社から入手可能な温度コントローラである。温度コントローラは、熱電対によって生成されるmV信号などの温度信号を受信し、寒剤の流れを制御するのに有用な電気スイッチを開閉する。台座の端部で確立される最終温度は、寒剤の流れ、台座の端部の熱質量、および台座の端部を通過するイオン含有ガスの流れの関数である。
【0085】
一実施形態では、寒剤1000の流れは、内側チューブ40によって台座900に送達される。外側チューブ41の内側に位置する内側チューブ40の端部を出た後、寒剤1000は、内側チューブ40と外側チューブ41との間の環状空間を通って流れ、そして1006によって示されるように、外側チューブ41の開放端部から抜ける。寒剤は、デュワー瓶1010に接続された絶縁チューブ1008によって台座900に送達される。一実施形態では、デュワー瓶は液体窒素1012を保持し、内側チューブは、内側チューブ40の端部が、液体窒素ブローオフガスが内側チューブ40に入ることを可能にするようにデュワー瓶1010内に延びるように、デュワー瓶1010に密封される。液体窒素は内側チューブ40内に入らない。デュワー瓶1010内の液体窒素はゆっくり沸騰し、冷たい窒素ブローオフガスを生成することが理解され得る。本開示に記載の装置の特徴は、液体窒素が沸騰する率を制御することである。沸騰率を制御することにより、ブローオフガスの流れが制御される。液体窒素の沸騰率を制御するための手段を図10A図10Cに示す。加熱素子1014は液体窒素1012に浸漬され、加熱素子1014に供給される電流により液体窒素が沸騰する。液体窒素に供給される熱の量は、温度制御モジュール1016によって制御される。液体窒素に熱を供給するための電気回路の一例を図10Cに示す。回路図の電池はリチウムイオン電池(例えば、1650型電池)であり、抵抗器は示されている値の+/-1%の抵抗値を有する金属膜抵抗器であることが理解され得る。回路図内のDVMは、温度-抵抗変換式を使用して示される抵抗を温度に変換することによって温度を表示するのに有用であることが理解され得る。一実施形態では、電気回路内のスイッチ(SW1)は、温度コントローラ(例えば、Omega Engineering社製)上のスイッチクロージャ接続と置き換えることができる。図10Bの加熱素子は、逆バイアスダイオードである1N4148とラベル付けされた回路部品であることも理解され得る。なお、液体窒素の沸騰率の制御は、図10Cに示すヒータおよびヒータ回路の使用に限定されない。100Kオーム抵抗器などの電気抵抗器と調整可能な低電圧電源との単純な組合せは、液体窒素に浸漬された100Kオーム抵抗器に電流を流すことによって液体窒素に熱を加える別の手段を提供する。電源によって供給される電圧を上げると、沸騰率が増加し、電圧を下げると、沸騰速度が低下する。図10Cに示す回路を用いることは、固定具902の温度の自動制御を提供する。
【0086】
図11は、イオン集束チャンバ9および構成要素702(図7)の別の特徴を示す。イオンが台座900の端部に取り付けられたクライオEMグリッド上に堆積される前および後に、イオン集束チャンバ18から台座900を挿入および取り外す手段が必要である。台座900が704の開口部706を通って摺動し、当該開口部706が、台座900の長手方向中心線を集束ファンネル9の長手方向中心線に整列させるための手段を提供することが理解され得る。また、台座900の端部を、集束ファンネル14内の最小リングの下流の所定の距離に配置することも必要である。止めカラー1100は、702に挿入することができる台座900の長さを制御するために台座900に取り付けられる。止めカラーは、安全機構としても機能し、台座900が過度に挿入されることを防止し、台座900が集束ファンネル14の最小リングに接触した場合に放電を発生させる。
【0087】
図12を参照すると、円筒形チャンバ17および18は、クライオEMグリッド上に堆積された後のイオンを、室内空気への曝露から保護する手段を提供する。チャンバ17および18は、試料基材をトランスファーケースから、もしくはトランスファーケース内へ、または試料を保存するための補助チャンバに装填、取り出し、および転送することに関する作業を実行するのに十分な容積をオペレータに与えるのに十分な直径を有する。これらのチャンバのそれぞれの適切なサイズは、直径6インチおよび高さ10インチである。クライオEM分析の当業者は、試料、特にタンパク質分子を低温で保存する必要性を理解するであろう。イオンがクライオEMグリッド上に堆積された後、イオンを液体窒素中に貯蔵することによってイオンを保存する必要がある。そうするために、装填されたクライオEMグリッドは、ロッド16の端部15から取り外され、チャンバ18の内部に保持されている液体窒素のバイアルに押し込まれる。チャンバ17は、2つのチャンバを容易に組み立てまたは分解することを可能にするようにチャンバ18と嵌合するように設計される。チャンバ17は、チャンバ18と直径が等しく、チャンバ17の端部とチャンバ18の端部とを整列させて単一のシリンダを形成することを可能にする。Oリング45をチャンバ18の端壁のOリング溝の所定位置に固定することは、2つのシリンダを互いにシールする手段を提供する。2つのチャンバが一体に取り付けられると、ガス源46によって供給される乾燥空気または液体窒素ブローオフガスの流れは、チャンバ18を通過し、チャンバ17のポート19を通って出る。チャンバ17とチャンバ18が分解されると、46からのガスの流れは、47によって示されるように、チャンバ18の上部から出る。ロッド16の端部15をチャンバ18の内部に引き込むことにより、ロッド16の端部15は、46によって供給される液体窒素ブローオフガスに浸漬され、ロッド16またはコールドフィンガ41を湿った室内空気にさらすことなくチャンバ17とチャンバ18を分解できるようになる。ロッド16の端部15に取り付けられたクライオEMグリッドを46によって供給される乾燥ガス中に浸漬することにより、クライオEMグリッドがコールドフィンガ41の端部に取り付けられているときに水蒸気がクライオEMグリッドに凝縮するのを防止する。次いで、41の端部に取り付けられたクライオEMグリッドをピンセットでピックアップし、チャンバ18の内側に位置するバイアル48に移すことができる。本開示に記載の技術の一実施形態では、バイアル48は、EMグリッドホルダ(単数または複数)49を保持し、液体窒素を収容する。
【0088】
集束ファンネル14の設計の理論的検証は、集束ファンネルを通過する際にイオンがたどる軌道のSIMIONシミュレーションを用いて提供することができる。SIMIONソフトウェアは、ニュージャージー州リンゴースのScientific Instrument Services(SIS)社から購入することができる。本開示に記載の装置におけるイオン軌道をシミュレートするために、同様にSISから入手可能なSDSユーザプログラムを、集束ファンネルを通してイオンを運ぶと予測される範囲のガス速度の実施をサポートするように修正した。周囲のチャンバ内に突出したポートから出て来るガスをシミュレートするための計算流体力学モデルの使用に精通している者は、出て来る流れが分岐することを認識するであろう。流れが分岐する程度は、ガス圧力、ガス流率、ポートの直径、チャンバの物理的サイズ、およびチャンバからガスが排出される率などのガス条件に依存する。流体流のシミュレーションをより正確にするために、ガスの分子量、チャンバ全体における圧力差、ガス温度、および流れが層流であるか乱流であるかなどの追加のパラメータを流体流のシミュレーションに導入することができる。
【0089】
本開示に記載の装置におけるガスの流れをシミュレートするために、集束ファンネル内のガスの流れは層状であり、室温に保持されたポートおよびチャンバ内の大気圧で発生したと仮定した。さらに、図13に示すように、集束ファンネル14の中心線に沿って配置されたポート8から出て来るガスの流れが、集束ファンネル14を通って流れるにつれて広がると仮定した。図13は、ポート8から出て来るガス流ストリームラインと、ガスが集束ファンネル14を通過するにつれての流れの半径方向の広がりとを示す。ポート8によって集束ファンネル14内に誘導されるイオン含有ガスの流れに加えて、導体11によって提供されるシース流がイオン含有流と合流する。以下のシミュレーションは、ポート8から出て来るガスの広がりをモデル化するために単純な数式を使用した。イオン含有ガスの流れは、集束ファンネルの中心線の周りに広がることが理解され得る。式y-速度=2e-6(x位置-5.1)/イオン配列番号^2を使用して、流動ガスの広がりをシミュレートするための数学的条件を確立した。CFDの実践の当業者は、これが単純化された式であり、より正確な式が科学文献で利用可能であることを理解するであろう。この単純化された式は、集束ファンネルを通って流れるガスの広がりを適切にシミュレートし、イオン集束ファンネル内でのイオン集束を達成するために必要な電圧の大きさの初期推定値を提供する。
【0090】
図14図23は、イオン含有ガスの流れが集束ファンネル9を通って誘導されるときのイオン軌道のSIMIONシミュレーションを示す。ガスの流れはファンネルを通ってイオンを運ぶが、一方で、ファンネル9内の電極に印加される電圧によってイオンがファンネル9の中心線に向かって誘導される。図14図23では、図の見出しはイオン集束条件を示す。「集束ファンネルに印加される電圧」または関連する語句の使用は、集束時に最小リングに印加される電圧を指すことを理解されたい。再び図5を参照すると、分圧器30は、一方の端部に電圧が供給され、もう一方の端部に電気接地への接続が設けられている。「集束ファンネルに印加される電圧」は、同様にファンネル14内の最小リングに提供される分配器に印加される電圧を指す。分圧器30は、ファンネル14内の各リングに電圧を分配する。
【0091】
図14図23では、左側パネルは、見出しに示される電圧が集束ファンネルを構成する電極リングに印加されるときのイオン軌道シミュレーションを示す。これらの図の右側パネルは、電圧が集束ファンネル内の電極リングに印加されていないときのイオン軌道シミュレーションを比較の目的で示す。右側パネルは、図14図23で再現されている。これらの図における小さな正方形は、集束ワイヤの位置を表し、正方形は、集束ファンネルの中心線に沿って切断されたx-y平面の断面図を示すことが理解され得る。さらに明確にするために、リング電極は、太い縦線で図8に示されている。図14図23の左側パネルは、電圧がファンネル14に印加されている間のシミュレートされたイオン軌道を示す。イオン軌道は黒い実線で表されている。軌跡上に重ねられたドットはタイミングマークを表す。イオンは、図14図23に記載の装置において左から右に流れ、これらの図におけるドットの左から右の配列は、後続の10ミリ秒間隔毎のイオンの位置を示す。各パネルの右側付近の5×5の小さな正方形のクラスタは、イオンが堆積される台座を表す。クライオEMグリッドを台座の端部に取り付けることができる。各パネルの左側付近の5×5の小さな正方形のクラスタは、イオンがファンネル14に入るポートを表す。
【0092】
ファンネル14に印加される電圧の大きさに対するイオン集束ファンネル14の性能およびイオン集束の実現化を図14図23に示す。イオン含有ガスは、図14に示すように、イオン集束ファンネル14に誘導され、ファンネル14を通って移動するにつれて広がる。8の出口端から出るイオン含有ガスの流れは、流れストリームライン34によって示される。ガス流ストリームラインに精通している者は、ストリームラインが、流れているガス中に浮遊する粒子がたどる軌道であることを認識するであろう。また、チューブ8から出る流れは、ファンネル内に遠くまで流れ込むにつれて直径が広がることも認識するであろう。イオン軌道34は、イオンがガス流によって引きずられ、ガス流が広がるにつれて広がるため、分岐する。ここで図14の左側パネルを参照すると、イオン軌道は広がり続け、次いでファンネル14の内側の電場の集束特性によりロッド16の端部15に収束し始める。イオン含有ガスがファンネル内に遠くまで貫通するにつれて、ガスは広がり続けるが、イオン軌道は領域35内ではもはや広がらない。ファンネルの内側の電場は、イオンをファンネルの長手方向中心線に向かって移動させる。イオン含有ガスがファンネル内にさらに遠くまで貫通して領域36に達すると、ロッド16の端部15に向かって集束されるイオン軌道によって示されるように、電場も増加し、より強いイオン集束効果を提供する。領域36内のイオンに対する集束効果は、より強い集束効果を領域36内のイオンに与える集束リングの直径の減少に起因する。
【0093】
イオン集束ファンネル14の有効性は、導体8によって送達されるイオンの流束を、図14図23に示すロッド16の端部15またはクライオEM固定具の端部に堆積されるイオンの流束と比較することによって理解することができる。ロッド16の端部15で終わるイオン軌道は、端部14に当たるイオンの流束を示し、比較的多数の軌道がロッド16の端部15で終わる場合、流束がより多いことが理解され得る。ファンネル14の出口リングに0ボルトが印加されると、イオン集束は生じない。それにもかかわらず、導体8によって送達されるイオンの一部は、ファンネル14を真っ直ぐに通過し、ロッド16の端部15に取り付けられたクライオEMグリッドに当たる。ファンネル14の出口リングへの電圧の印加は、ロッド16の端部15で終端する軌道の数を増加させる。イオン集束ファンネルの動作に精通している者は、ファンネル14の出口リングにより高い電圧を印加すると、より多くのイオンがロッド16の端部15に当たるように誘導されることを知っているであろう。
【0094】
図14の右側パネルの説明から始めると、イオン軌道はポート8で始まり、台座に向かって進行する。集束ファンネルの中心線に近いイオンの一部は、それらの軌道によって示されるように、集束ファンネルを直接通過して台座に当たるが、すべてのイオン軌道が台座で終端するわけではない。台座で終端する軌道の割合は、集束ファンネルの集束効率の尺度である。ファンネル14に電圧が印加されていないときの電圧条件と比較して、図14図23の左側パネルは、ファンネル14に電圧を印加した結果を示す。
【0095】
図14図23は、異なる集束電圧、異なる分子量を有するイオン、および異なる電荷量を有するイオンを使用した一連のSIMIONシミュレーションを示す。トシリズマブは、150kDa近くの分子量を有する抗体であり、ソフトランディング装置を試験するための例示的な物質と考えることができる。
【0096】
図14図23の例示的な見出し。
【0097】
(a)300kDa M+:イオン質量および電荷。800、1600、2400、3200、4000:リング電極に印加される電圧。それぞれ最も大きなリングに印加される電圧からはじめ、より小さなリングに印加される電圧の順で列挙される。
【0098】
(b)Vx=0.5m/s:ファンネル内の平均ガス速度。
【0099】
図14は、以下を用いたイオン集束のシミュレーションを示す。
【0100】
(a)a M+:イオン質量および電荷。
【0101】
(b)800、1600、2400、3200、4000:最も大きなリングからはじめ、最も小さいリングまでに直列に印加されるそれぞれの電圧。
【0102】
(c)Vx=0.5m/s:ファンネル内の平均x方向ガス速度。ガスが最大リングによって囲まれた領域から最小リングによって囲まれた領域に向かって流れることに留意されたい。
【0103】
図15は、以下を用いたイオン集束のシミュレーションを示す。
【0104】
(a)a M+:イオン質量および電荷。
【0105】
(b)800、1600、2400、3200、4000:最も大きなリングからはじめ、最も小さいリングまでに直列に印加されるそれぞれの電圧。
【0106】
(c)Vx=0.5m/s:ファンネル内の平均x方向(左から右)ガス速度。
【0107】
図16は、以下を用いてイオンがファンネル14に入るのを阻止する条件を示す。
【0108】
(a)300kDa M+:イオン質量および電荷。
【0109】
(b)800、1600、2400、3200、4000:最も大きなリングからはじめ、最も小さいリングまでに直列に印加されるそれぞれの電圧。
【0110】
(c)Vx=0.5m/s:ファンネル14内の平均x方向(左から右)ガス速度。
【0111】
図17は、以下を用いてイオンがファンネル14に入るのを阻止する条件を示す。
【0112】
(a)300kDa M+:イオン質量および電荷。
【0113】
(b)800、1600、2400、3200、4000:最も大きなリングからはじめ、最も小さいリングまでに直列に印加されるそれぞれの電圧。
【0114】
(c)Vx=0.5m/s:ファンネル14内の平均x方向(左から右)ガス速度。
【0115】
図18は、以下を用いたイオン集束のシミュレーションを示す。
【0116】
(a)300kDa M+:イオン質量および電荷。
【0117】
(b)800、1600、2400、3200、4000:最も大きなリングからはじめ、最も小さいリングまでに直列に印加されるそれぞれの電圧。
【0118】
(c)Vx=0.5m/s:ファンネル14内の平均x方向(左から右)ガス速度。
【0119】
図19は、以下を用いたイオン集束のシミュレーションを示す。
【0120】
(a)300kDa M+:イオン質量および電荷。
【0121】
(b)800、1600、2400、3200、4000:最も大きなリングからはじめ、最も小さいリングまでに直列に印加されるそれぞれの電圧。
【0122】
(c)Vx=0.5m/s:ファンネル内の平均x方向(左から右)ガス速度。
【0123】
図20は、以下を用いたイオン集束のシミュレーションを示す。
【0124】
(a)300kDa M+:イオン質量および電荷。
【0125】
(b)800、1600、2400、3200、4000:最も大きなリングからはじめ、最も小さいリングまでに直列に印加されるそれぞれの電圧。
【0126】
(c)Vx=0.5m/s:ファンネル14内の平均x方向(左から右)ガス速度。
【0127】
図21は、以下を用いたイオン集束のシミュレーションを示す。
【0128】
(a)300kDa M+:イオン質量および電荷。
【0129】
(b)800、1600、2400、3200、4000:最も大きなリングからはじめ、最も小さいリングまでに直列に印加されるそれぞれの電圧。
【0130】
(c)Vx=0.5m/s:ファンネル14内の平均x方向(左から右)ガス速度。
【0131】
図22は、以下を用いたイオン集束のシミュレーションを示す。
【0132】
(a)300kDa M+:イオン質量および電荷。
【0133】
(b)800、1600、2400、3200、4000:最も大きなリングからはじめ、最も小さいリングまでに直列に印加されるそれぞれの電圧。
【0134】
(c)Vx=0.5m/s:ファンネル14内の平均x方向(左から右)ガス速度。
【0135】
図23は、以下を用いたイオン集束のシミュレーションを示す。
【0136】
(a)300kDa M+:イオン質量および電荷。
【0137】
(b)800、1600、2400、3200、4000:最も大きなリングからはじめ、最も小さいリングまでに直列に印加されるそれぞれの電圧。
【0138】
(c)Vx=0.5m/s:ファンネル14内の平均x方向(左から右)ガス速度。
【0139】
図14図23に示すSIMIONシミュレーションの概要は、本開示に記載の装置の実施形態が、イオン集束がない場合と比較して、収集表面上へのイオンの堆積を向上させることを示している。SIMIONシミュレーションを使用して調査される条件の範囲は、図示されている図と共に、本開示に記載の技術をシミュレートされた条件のみの実装形態に制約または限定するものではないことを理解されたい。イオン集束およびクライオEMグリッドなどの収集表面へのイオンの堆積の増強を提供する、ガス速度および印加電圧のシミュレートされた条件の範囲以外の別の条件がある。
図14図28に示すイオン軌道を含むシミュレートされた条件は、集束ファンネル14に電圧が印加されない条件と比較して、収集表面上に堆積されるイオンの割合を高める条件の実証を提供するだけでなく、堆積されるイオンの運動エネルギーを定量化するための測定基準も提供する。本開示において複数回述べられているように、本開示に記載の装置の目的は、イオンおよび荷電粒子を収集表面上にソフトランディングさせる手段を提供することである。SIMIONソフトウェアを使用するシミュレーションは、収集表面に衝突するときのイオンのエネルギーを明らかにする。表1は、図14図28に示す集束条件について、イオンが表面に衝突したときのイオンエネルギーを示す。より詳細には、表1は、SIMIONソフトウェアによってシミュレートされた条件をまとめたものである。イオン分子量は、シミュレーションに入るイオンの質量を指す。zは、イオンが持つ電荷の数を表す。Vxは、集束ファンネル14内の背景ガス速度を指す。ファンネル電圧は、集束ファンネル14内のリングに割り当てられた電圧を指す。列挙される最も高い電圧は最も小さいリングに割り当てられる。KE(運動エネルギー)は、イオンが収集表面に当たるときのイオンエネルギーを指す。イオンおよび荷電粒子を表面に堆積させる実施に精通している者は、1eV未満の堆積が、非常に低いエネルギーの影響であると考えられることを認識するであろう。表1に列挙される低衝突エネルギーは、ソフトランディングとして知られる堆積条件を提供する。
【0140】
集束ファンネル14に印加される電圧による集束効果の実験的検証が、図24図28に示されている。図24図28は、y軸がロッド16の端部15に取り付けられた収集表面上に堆積されたイオン電流を表すイオン移動度スペクトルであると理解することができる。図24は、ファンネル14の出口リングにゼロ電圧が印加されたときにロッド16の端部15上にイオンの流束を堆積させることによって生成された0.04ピコアンペアに相当する約0.02の信号(破線)を示す。ロッド16の端部15に当たるイオンの流束は、ピコ電流計をロッド16に取り付け、イオン電流を測定することによって測定した。ロッド16の端部15に当たるイオンの流束は、1000ボルトがファンネル14に印加されると増加する。図24の実線は、nDMA5の内側部材に印加する電圧を0ボルトから1000ボルトまでランピングさせた状態で、集束ファンネルに1000Vを印加して得られたイオン移動度スペクトルを表す。この移動度スペクトルのピークは、nDMA5の内側部材に印加された電圧の結果としての異なる移動度のnDMA5透過イオンとして異なるタイプのイオンの流束に割り当てられる。トシリズマブの三重荷電モノマー(M+++、Mは、トシリズマブの三重荷電単量体イオンを表す)などの比較的高い移動度のイオンは、175ボルトなどの低電圧がnDMA5の内側部材に印加されたときに台座に当たり、したがって高移動度のイオンがnDMA5を通過することを可能にする。nDMA5の内側部材に印加されるより高いランピング電圧は、ますます低い移動度のイオンがnDMA5を通過することを可能にする。二重荷電モノマー(M++)イオンの後に、順次、単一荷電モノマー(M)、単一荷電ダイマー(2M)および単一荷電トリマー(3M)がnDMA5を通過し、ファンネル14によって集束された後、nDMA5の内側部材に印加された電圧が低い値から高い値に上昇するにつれてロッド16の端部15に当たることが観察され得る。図24のピークは、それらが表すイオンの種類に従って標識されており、全体としてイオン移動度スペクトルを表すと理解することができる。
【0141】
図25は、nDMA5の内側部材に印加された電圧を上昇させながら、集束ファンネルに2kVを印加した効果を示す。図24の移動度スペクトルを図25の移動度スペクトルと比較すると、2kVがファンネル14に印加されたときにM+++およびM++イオンに割り当てられたより小さいピークを示すが、M、2Mおよび3Mピークの高さの増加を示す。集束ファンネル14に印加される電圧を1kVから2kVに増加させると、M+++およびM++イオンをファンネル14の中心線から離れるように跳ね返したが、M、2Mおよび3Mイオンをより効率的に集束したことが理解され得る。図26は、ファンネル14に印加される電圧を3kVまでさらに増加させると、2Mおよび3Mイオンを表すピークの高さがさらに増加し、さらにM+++およびM++イオンの拡散を含むMイオンの拡散が始まることを示す。図27は、4kVがファンネル14に印加されたときに同様の傾向が生じることを示す。この傾向は、図28に示すように、ファンネル14に5kVが印加されたときにも続く。
【0142】
図24図28に示した結果をまとめて図29に示す。図29の3つの曲線は、M、M++および2Mイオンに関連するイオン電流に対応するイオン移動度スペクトルのイオンピークの高さを表し、Mイオンについては最適な集束電圧が2kVであり、3~4kVの値が2Mイオンを最適に集束し、M++イオンについては1kVが最適に集束することを示す。
【0143】
本開示に記載の装置は、本開示に記載の技術の好ましい実施形態の描写または図29に示すイオン信号によって限定されないことを理解されたい。例えば、イオン源の代替設計は、カリフォルニア州モンテレーのIonDX社から入手可能な可変電荷還元源とすることができる。加湿器12aおよび12bは、Teesing(www.teesing.com)社製の多孔質金属スパージャなどのサーモスタット式ウォーターバブラーまたはエアスパージャで置き換えることができる。さらに、加湿器12aおよび12bは、液滴または凍結した小さなアイスボールを生成するための冷却器として動作することができる。
【0144】
本明細書の記載から、本開示は、以下を含むがこれらに限定されない本技術の複数の実装形態を包含することが理解されよう。
【0145】
クライオEMによる検査のための試料を調製するための装置であって、エレクトロスプレーイオン源と、(a)エレクトロスプレー液滴およびイオン上の電荷を還元させる手段、(b)イオンの混合物から特定の立体配座を有するイオンを選択するように構成された移動度フィルタ、(c)イオン含有空気の露点および温度を制御するように構成された加湿器、(d)イオン集束ファンネル、(e)クライオEMグリッド用ホルダ、(f)堆積したイオンの立体配座を保存するように構成された冷却台座、(g)堆積したイオンを保護するためのチャンバ、(i)堆積したイオンまたは粒子を液体窒素中に移動させるための手段のうちの1つまたは複数とを含む、装置。
【0146】
エレクトロスプレー液滴およびイオン上の電荷を還元させる手段をさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載のクライオEMによる検査のための試料を調製するための装置。
【0147】
イオンの混合物から特定の立体配座を有するイオンを選択するように構成された移動度フィルタをさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載のクライオEMによる検査のための試料を調製するための装置。
【0148】
イオン含有空気の露点および温度を制御するように構成された加湿器をさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載のクライオEMによる検査のための試料を調製するための装置。
【0149】
イオン集束ファンネルをさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載のクライオEMによる検査のための試料を調製するための装置。
【0150】
クライオEMグリッド用ホルダをさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載のクライオEMによる検査のための試料を調製するための装置。
【0151】
堆積したイオンの立体配座を保存するように構成された冷却台座をさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載のクライオEMによる検査のための試料を調製するための装置。
【0152】
堆積したイオンを保護するためのチャンバをさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載のクライオEMによる検査のための試料を調製するための装置。
【0153】
堆積したイオンまたは粒子を液体窒素中に移動させるための手段をさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載のクライオEMによる検査のための試料を調製するための装置。
【0154】
エレクトロスプレー液滴およびイオン上の電荷を還元させる当該手段が、210ポロニウム源を備え、アルファ粒子が210ポロニウムからエレクトロスプレー液滴およびイオンに放出される、前述実装形態のいずれかに記載のクライオEMによる検査のための試料を調製するための装置。
【0155】
エレクトロスプレー液滴およびイオン上の電荷を還元させる当該手段が、約20eV未満のエネルギーを持つ電子源を備え、当該電子がエレクトロスプレー液滴およびイオン内に放出される、前述実装形態のいずれかに記載のクライオEMによる検査のための試料を調製するための装置。
【0156】
堆積したイオンまたは粒子を液体窒素中に移動させるための手段が、ピンセットを備える、前述実装形態のいずれかに記載のクライオEMによる検査のための試料を調製するための装置。
【0157】
後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置であって、エレクトロスプレーイオン源と、以下の、(a)エレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子上の電荷を還元させる手段、(b)イオンおよび粒子の混合物から特定の立体配座またはサイズを有するイオンおよび荷電粒子を選択するように構成された移動度フィルタ、(c)イオン含有または粒子含有ガスの露点および温度を制御する手段、(d)イオンおよび荷電粒子の水和を制御する手段、(e)イオンおよび荷電粒子集束デバイス、(f)イオンおよび荷電粒子の運動エネルギーを制御する手段、(g)イオンまたは荷電粒子が堆積される基材用のホルダ、(h)基材上にイオンおよび荷電粒子を堆積させる手段、(i)収集表面の温度を制御する手段、(j)堆積したイオンまたは荷電粒子を保護するように構成されたチャンバ、(k)堆積したイオンまたは荷電粒子を補助分析デバイスに移動させるための手段、(l)堆積したイオンまたは荷電粒子を凍結保護剤で保存する手段のうちの1つまたは複数とを含む、装置。
【0158】
エレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子上の電荷を還元させる手段をさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0159】
イオンおよび粒子の混合物から特定の立体配座またはサイズを有するイオンおよび荷電粒子を選択するように構成された移動度フィルタをさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0160】
イオン含有または粒子含有ガスの露点および温度を制御する手段をさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0161】
イオンおよび荷電粒子の水和を制御する手段をさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0162】
イオンおよび荷電粒子集束デバイスをさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0163】
イオンおよび荷電粒子の運動エネルギーを制御する手段をさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0164】
イオンまたは荷電粒子が堆積される基材用のホルダをさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0165】
基材上にイオンおよび荷電粒子を堆積させる手段をさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0166】
収集表面の温度を制御する手段をさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0167】
堆積したイオンまたは荷電粒子を保護するように構成されたチャンバをさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0168】
堆積したイオンまたは荷電粒子を補助分析デバイスに移動させるための手段をさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0169】
堆積したイオンまたは荷電粒子を凍結保護剤で保存する手段をさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0170】
エレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子上の電荷を還元させる当該手段が、210ポロニウム源を備え、アルファ粒子が210ポロニウムからエレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子に放出される、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0171】
エレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子上の電荷を還元させる当該手段が、約20eV未満のエネルギーを有する電子源を備え、当該電子がエレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子に放出される、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0172】
イオン含有または粒子含有ガスの露点を制御する当該手段が、水蒸気の供給源の加熱または冷却に基づいて水蒸気を添加または除去するように構成された露点コントローラを備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0173】
イオン含有または粒子含有ガスの温度を制御する当該手段が、ガス流の温度を検知するように構成された温度コントローラを備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0174】
イオンおよび荷電粒子の水和を制御する当該手段が、水蒸気をイオンおよび荷電粒子上に凝縮させることに基づいてイオンおよび粒子を水和させるように構成された加湿器を備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0175】
イオンおよび荷電粒子の運動エネルギーを制御する当該手段が、質量流量コントローラまたは圧力コントローラまたは電場発生器、またはそれらの任意の組合せを備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0176】
運動エネルギーを制御する当該手段が、低い運動エネルギーを有するイオンおよび荷電粒子を生成するために物理的距離、ガス密度、およびガス速度を使用し、電気駆動電極間の分離がイオンエネルギーに影響を及ぼし、より高いガス密度がイオン速度、したがってイオンエネルギーを低下させ、イオン含有および粒子含有ガスの速度がイオン運動エネルギーに直接影響を及ぼす、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0177】
基材上にイオンおよび荷電粒子を堆積させる当該手段が、イオンファンネルを備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0178】
収集表面の温度を制御する当該手段が、温度コントローラを備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0179】
堆積したイオンまたは荷電粒子を補助分析デバイスに移動させるための当該手段が、ピンセットを備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0180】
堆積したイオンまたは荷電粒子を凍結保護剤で保存する当該手段が、冷凍源を備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0181】
当該移動度フィルタが、ナノ微分型移動度分析器を備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるための装置。
【0182】
後続の分析のために試料を表面上に堆積させるためのシステムであって、エレクトロスプレー源と、(a)210ポロニウム源であって、アルファ粒子が210ポロニウムからエレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子に放出される、ポロニウム源、または約20eV未満のエネルギーを有する電子源であって、当該電子がエレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子に放出される、電子源と、(b)ナノ微分型移動度分析器を備える移動度フィルタ、(c)イオンおよび粒子の流れストリームの温度および露点を制御するように構成された温度コントローラおよび露点コントローラであって、温度制御がガス流温度の検知に基づき、露点制御が水蒸気の供給源の加熱または冷却に基づいて水蒸気を添加または除去することによって提供される、温度コントローラおよび露点コントローラ、(d)水蒸気をイオンおよび荷電粒子に凝縮させることに基づいてイオンまたは粒子を水和させるように構成された加湿器、(e)所定数のイオンまたは粒子を堆積させるのに必要な時間を最小にするようにイオンおよび荷電粒子の流束を増加させるように構成されたイオンファンネル、(f)低い運動エネルギーを有するイオンおよび荷電粒子を生成するために、物理的距離、ガス密度、およびガス速度を使用して運動エネルギーを制御するように構成された質量流量コントローラまたは圧力コントローラまたは電場発生器、またはそれらの任意の組合せであって、電動電極間の分離がイオンエネルギーに影響を及ぼし、より高いガス密度がイオン速度を低下させ、したがってイオンエネルギーを低下させ、イオンおよび粒子含有ガスの速度がイオン運動エネルギーに直接影響を及ぼす、質量流量コントローラまたは圧力コントローラまたは電場発生器、またはそれらの任意の組合せ、(g)収集表面を支持するように構成されたホルダ、(h)イオンおよび荷電粒子を収集表面に当たるように誘導するために電場、ガス密度およびガス速度を使用および制御するように構成されたイオン堆積デバイス、(i)収集表面ならびに収集されるイオンおよび粒子が収集されている間にそれらの温度を制御するように構成されたオプションの温度コントローラ、(j)収集されるイオンおよび粒子が収集された後にそれらの温度を制御するように構成されたオプションの温度コントローラ、(k)収集された粒子をホルダから貯蔵容器の補助分析器具内に移動させるための移送ステージまたは器具、(l)収集された粒子が代替の分析デバイスに移送される際に、収集されたイオンおよび粒子の温度を制御するように構成されたオプションの温度コントローラ、(m)回収された粒子を液体窒素デュワー瓶などの長期貯蔵容器に移送するための移送ステージまたは器具、のうちの1つまたは複数とを含む、装置。それらが収集される間、それらが収集される間。
【0183】
210ポロニウム源であって、アルファ粒子が210ポロニウムからエレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子に放出される、ポロニウム源、または約20eV未満のエネルギーを有する電子源であって、当該電子がエレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子に放出される、電子源とをさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるためのシステム。
【0184】
ナノ微分型移動度分析器を備える移動度フィルタをさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるためのシステム。
【0185】
イオンおよび粒子の流れストリームの温度および露点を制御するように構成された温度コントローラおよび露点コントローラであって、温度制御がガス流温度の検知に基づき、露点制御が水蒸気の供給源の加熱または冷却に基づいて水蒸気を添加または除去することによって提供される、温度コントローラおよび露点コントローラをさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるためのシステム。
【0186】
水蒸気をイオンおよび荷電粒子に凝縮させることに基づいてイオンまたは粒子を水和させるように構成された加湿器をさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるためのシステム。
【0187】
所定数のイオンまたは粒子を堆積させるのに必要な時間を最小にするようにイオンおよび荷電粒子の流束を増加させるように構成されたイオンファンネルをさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるためのシステム。
【0188】
低い運動エネルギーを有するイオンおよび荷電粒子を生成するために、物理的距離、ガス密度、およびガス速度を使用して運動エネルギーを制御するように構成された質量流量コントローラまたは圧力コントローラまたは電場発生器、またはそれらの任意の組合せであって、電動電極間の分離がイオンエネルギーに影響を及ぼし、より高いガス密度がイオン速度を低下させ、したがってイオンエネルギーを低下させ、イオンおよび粒子含有ガスの速度がイオン運動エネルギーに直接影響を及ぼす、質量流量コントローラまたは圧力コントローラまたは電場発生器、またはそれらの任意の組合せをさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるためのシステム。
【0189】
収集表面を支持するように構成されたホルダをさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるためのシステム。
【0190】
イオンおよび荷電粒子を収集表面に当たるように誘導するために電場、ガス密度およびガス速度を使用および制御するように構成されたイオン堆積デバイスをさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるためのシステム。
【0191】
収集表面ならびに収集されるイオンおよび粒子が収集されている間にそれらの温度を制御するように構成されたオプションの温度コントローラをさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるためのシステム。
【0192】
収集されるイオンおよび粒子が収集された後にそれらの温度を制御するように構成されたオプションの温度コントローラをさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるためのシステム。
【0193】
収集された粒子をホルダから貯蔵容器の補助分析器具内に移動させるための移送ステージまたは器具をさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるためのシステム。
【0194】
収集された粒子が代替の分析デバイスに移送される際に、収集されたイオンおよび粒子の温度を制御するように構成されたオプションの温度コントローラをさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるためのシステム。
【0195】
回収された粒子を液体窒素デュワー瓶などの長期貯蔵容器に移送するための移送ステージまたは器具をさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるためのシステム。それらが収集される間、それらが収集される間。
【0196】
前述の実装形態のいずれかに記載の装置またはシステムを使用してクライオEMによる検査のための試料を調製することを含む方法。
【0197】
本明細書で使用される場合、「実装形態(implementation)」という用語は、本明細書に記載の技術を実践する実施形態、例、または他の形態を含むが、これらに限定されないことを意図している。
【0198】
本明細書で使用される場合、単数形の用語「a、」、「an、」、および「the」は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数の指示対象を含み得る。単数形でのオブジェクトへの言及は、明示的に述べられていない限り、「1つかつたった1つ(one and only one)」を意味するものではなく、むしろ「1つまたは複数(one or more)」を意味するものである。
【0199】
本開示内の「A、Bおよび/またはC(A,B and/or C)」などの表現構造は、A、B、もしくはCのいずれかが存在し得るか、アイテムA、B、およびCの任意の組合せが存在し得ることを説明している。要素のグループを列挙する表現構造に続く「のうちの少なくとも1つ」は、これらのグループ要素のうちの少なくとも1つが存在することを示し、これは、該当する場合、列挙されている要素の任意の可能な組合せを含む。
【0200】
本開示における「一実施形態(an embodiment)」、「少なくとも1つの実施形態(at least one embodiment)」または同様の実施形態に関する文言への言及は、記載の実施形態に関連して記載されている特定の特徴、構造、または特性が本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれていることを示す。したがって、これらの様々な実施形態の語句は、必ずしもすべてが同じ実施形態、または記載されている他のすべての実施形態とは異なる特定の実施形態を指すとは限らない。実施形態の表現は、所与の実施形態の特定の特徴、構造、または特性が、開示の装置、システム、または方法の1つまたは複数の実施形態において任意の適切な方法で組み合わされ得ることを意味すると解釈されるべきである。
【0201】
本明細書で使用される場合、「セット(set)」という用語は、1つまたは複数のオブジェクトの集合を指す。したがって、例えば、オブジェクトのセットは、単一のオブジェクトまたは複数のオブジェクトを含むことができる。
【0202】
第1および第2、上および下、上側および下側、左および右などの関係用語は、必ずしもエンティティまたは動作間の実際の関係または順序がそうであることを必要とする、または暗示するものではなく、1つのエンティティまたは動作を別のエンティティまたは動作から区別するためにのみ使用され得る。
【0203】
「備える(comprises)」、「備える(comprising)」、「有する(has)」、「有する(having)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「含有する(contains)」、「含有する(containing)」という用語、またはそれらの任意の他の変形は、非排他的包含を網羅することを意図しており、その結果、要素のリストを備える、有する、含む、含有するプロセス、方法、物品、または装置は、それらの要素のみを含まず、明示的に列挙されていない、またはそのようなプロセス、方法、物品、もしくは装置に固有の他の要素を含んでもよい。「a(1つ)」の要素に続く「を備える(comprises...a)」、「を有する(has...a)」、「を含む(includes...a)」、「を含有する(contains...a)」は、さらなる制約なしに、その要素を含む、有する、含む、含むプロセス、方法、物品、または装置における追加の同一の要素の存在を排除するものではない。
【0204】
本明細書で使用される場合、「およそ(approximately)」、「近似(approximate)」、「実質的に(substantially)」、「本質的に(essentially)」、および「約(about)」という用語、またはそれらの任意の他のバージョンは、小さな変動を表現し説明するために使用される。事象または状況と併せて使用される場合、これらの用語は、その事象または状況が正確に発生する場合、ならびにその事象または状況が近似的に発生する場合を指すことができる。数値と組み合わせて使用される場合、これらの用語は、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、または±0.05%以下など、その数値の±10%以下の変動の範囲を指すことができる。例えば、「実質的に(substantially)」に整列するは、±5°以下、±4°以下、±3°以下、±2°以下、±1°以下、±0.5°以下、±0.1°以下、または±0.05°以下など、±10°以下の角度変動の範囲を指すことができる。
【0205】
さらに、量、比、および他の数値は、本明細書では範囲形式で提示されることがある。そのような範囲形式は、便宜上および簡潔さのために使用され、範囲の限界として明示的に指定された数値を含むが、各数値および、部分範囲が明示的に指定されているかのように、その範囲内に包含されるすべての個々の数値または部分範囲も含むように柔軟に理解されるべきであることを理解されたい。例えば、約1~約200の範囲の比は、約1および約200の明示的に列挙された限界を含むが、約2、約3、および約4などの個々の比、ならびに約10~約50、約20~約100などの部分範囲も含むと理解されるべきである。
【0206】
本明細書で使用される場合、「結合される(coupled)」という用語は、接続されていると定義されるが、必ずしも直接的接続である必要はなく、必ずしも機械的接続である必要はない。特定の方法で「構成済み(configured)」されるデバイスまたは構造は、少なくともそのように構成されるが、列挙されていない方法で構成されてもよい。
【0207】
利益、利点、問題に対する解決策、および任意の利益、利点、または解決策を発生させるか、またはより顕著にする可能性がある任意の要素(単数または複数)は、本明細書に記載の技術または任意のもしくはすべての特許請求の範囲の重要な、必要な、または本質的な特徴または要素として解釈されるべきではない。
【0208】
さらに、前述の開示では、本開示を合理化する目的で、様々な実施形態において様々な特徴を一体にグループ化することができる。この開示の方法は、特許請求される実施形態が各請求項に明示的に記載されているよりも多くの特徴を必要とするという意図を反映すると解釈されるべきではない。本発明の主題は、単一の開示された実施形態のすべての特徴よりも少ない特徴にあり得る。
【0209】
本開示の要約は、読者が技術的開示の性質を迅速に確認することを可能にするために提供される。それは、特許請求の範囲または意味を解釈または限定するために使用されないことを理解して提出されるものである。
【0210】
いくつかの管轄区域の慣行では、出願が提出された後に本開示の1つまたは複数の部分の削除を必要とし得ることが理解されよう。したがって、読者は、本開示の元の内容について提出された出願を参照すべきである。本開示の内容のいかなる削除も、出願当初の出願のいかなる主題の放棄、喪失または公衆への貢献として解釈されるべきではない。
【0211】
以下の特許請求の範囲は、本明細書によって本開示に組み込まれ、各特許請求の範囲は、別個に特許請求される主題として独立している。
【0212】
本明細書の記載は多くの詳細を含むが、これらは本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではなく、単に現在好ましい実施形態のいくつかの例示を提供するものとして解釈されるべきである。したがって、本開示の範囲は、当業者に明らかになり得る他の実施形態を完全に包含することが理解されよう。
【0213】
当業者に知られている開示された実施形態の要素に対するすべての構造的および機能的等価物は、参照により本明細書に明示的に組み込まれ、本特許請求の範囲に包含されることが意図される。さらに、本開示の要素、構成要素、または方法ステップは、要素、構成要素、または方法ステップが特許請求の範囲に明示的に記載されているかどうかにかかわらず、公衆への貢献であることを意図していない。本明細書の特許請求の範囲の要素は、その要素が「ための手段(means for)」という語句を使用して明示的に列挙されていない限り、「ミーンズプラスファンクション」要素として解釈されるべきではない。本明細書の特許請求の範囲の要素は、その要素が「ためのステップ(step for)」という語句を使用して明示的に列挙されていない限り、「ステッププラスファンクション」要素として解釈されるべきではない。
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
【手続補正書】
【提出日】2024-08-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0182
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0182】
後続の分析のために試料を表面上に堆積させるためのシステムであって、エレクトロスプレー源と、(a)210ポロニウム源であって、アルファ粒子が210ポロニウムからエレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子に放出される、ポロニウム源、または約20eV未満のエネルギーを有する電子源であって、当該電子がエレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子に放出される、電子源と、(b)ナノ微分型移動度分析器を備える移動度フィルタ、(c)イオンおよび粒子の流れストリームの温度および露点を制御するように構成された温度コントローラおよび露点コントローラであって、温度制御がガス流温度の検知に基づき、露点制御が水蒸気の供給源の加熱または冷却に基づいて水蒸気を添加または除去することによって提供される、温度コントローラおよび露点コントローラ、(d)水蒸気をイオンおよび荷電粒子に凝縮させることに基づいてイオンまたは粒子を水和させるように構成された加湿器、(e)所定数のイオンまたは粒子を堆積させるのに必要な時間を最小にするようにイオンおよび荷電粒子の流束を増加させるように構成されたイオンファンネル、(f)低い運動エネルギーを有するイオンおよび荷電粒子を生成するために、物理的距離、ガス密度、およびガス速度を使用して運動エネルギーを制御するように構成された質量流量コントローラまたは圧力コントローラまたは電場発生器、またはそれらの任意の組合せであって、電動電極間の分離がイオンエネルギーに影響を及ぼし、より高いガス密度がイオン速度を低下させ、したがってイオンエネルギーを低下させ、イオンおよび粒子含有ガスの速度がイオン運動エネルギーに直接影響を及ぼす、質量流量コントローラまたは圧力コントローラまたは電場発生器、またはそれらの任意の組合せ、(g)収集表面を支持するように構成されたホルダ、(h)イオンおよび荷電粒子を収集表面に当たるように誘導するために電場、ガス密度およびガス速度を使用および制御するように構成されたイオン堆積デバイス、(i)収集表面ならびに収集されるイオンおよび粒子が収集されている間にそれらの温度を制御するように構成されたオプションの温度コントローラ、(j)収集されるイオンおよび粒子が収集された後にそれらの温度を制御するように構成されたオプションの温度コントローラ、(k)収集された粒子をホルダから貯蔵容器の補助分析器具内に移動させるための移送ステージまたは器具、(l)収集された粒子が代替の分析デバイスに移送される際に、収集されたイオンおよび粒子の温度を制御するように構成されたオプションの温度コントローラ、(m)回収された粒子を液体窒素デュワー瓶などの長期貯蔵容器に移送するための移送ステージまたは器具、のうちの1つまたは複数とを含む、装置
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0195
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0195】
回収された粒子を液体窒素デュワー瓶などの長期貯蔵容器に移送するための移送ステージまたは器具をさらに備える、前述実装形態のいずれかに記載の後続の分析のために試料を表面上に堆積させるためのシステム
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項18
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項18】
後続の分析のために試料を表面上に堆積させるためのシステムであって、
(a)エレクトロスプレー源と、
(b)210ポロニウム源であって、アルファ粒子が210ポロニウムからエレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子に放出される、ポロニウム源、または約20eV未満のエネルギーを有する電子源であって、当該電子がエレクトロスプレー液滴、イオンおよび粒子に放出される、電子源と、
(c)ナノ微分型移動度分析器を備える移動度フィルタ、
(d)イオンおよび粒子の流れストリームの温度および露点を制御するように構成された温度コントローラおよび露点コントローラであって、温度制御がガス流温度の検知に基づき、露点制御が水蒸気の供給源の加熱または冷却に基づいて水蒸気を添加または除去することによって提供される、温度コントローラおよび露点コントローラと、
(e)水蒸気をイオンおよび荷電粒子に凝縮させることに基づいてイオンまたは粒子を水和させるように構成された加湿器と、
(f)所定数のイオンまたは粒子を堆積させるのに必要な時間を最小にするようにイオンおよび荷電粒子の流束を増加させるように構成されたイオンファンネルと、
(g)低い運動エネルギーを有するイオンおよび荷電粒子を生成するために、物理的距離、ガス密度、およびガス速度を使用して運動エネルギーを制御するように構成された質量流量コントローラまたは圧力コントローラまたは電場発生器、またはそれらの任意の組合せであって、電動電極間の分離がイオンエネルギーに影響を及ぼし、より高いガス密度がイオン速度を低下させ、したがってイオンエネルギーを低下させ、イオンおよび粒子含有ガスの速度がイオン運動エネルギーに直接影響を及ぼす、質量流量コントローラまたは圧力コントローラまたは電場発生器、またはそれらの任意の組合せと、
(h)収集表面を支持するように構成されたホルダと、
(i)イオンおよび荷電粒子を収集表面に当たるように誘導するために電場、ガス密度およびガス速度を使用および制御するように構成されたイオン堆積デバイスと、
(j)収集表面ならびに収集されるイオンおよび粒子が収集されている間にそれらの温度を制御するように構成されたオプションの温度コントローラと、
(k)収集されるイオンおよび粒子が収集された後にそれらの温度を制御するように構成されたオプションの温度コントローラと、
(l)収集された粒子をホルダから貯蔵容器の補助分析器具内に移動させるための移送ステージまたは器具と、
(m)収集された粒子が代替の分析デバイスに移送される際に、収集されたイオンおよび粒子の温度を制御するように構成されたオプションの温度コントローラと、
(o)回収された粒子を液体窒素デュワー瓶などの長期貯蔵容器に移送するための移送ステージまたは器具と、
を備える装置
【国際調査報告】