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特表2025-501461BCMAに結合する抗体およびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-22
(54)【発明の名称】BCMAに結合する抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20250115BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20250115BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20250115BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20250115BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250115BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20250115BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20250115BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250115BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20250115BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250115BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20250115BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20250115BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20250115BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20250115BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20250115BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20250115BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20250115BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20250115BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20250115BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20250115BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20250115BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C12N15/13
C12N15/63 Z
C07K16/46
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P37/06
A61P37/02
A61P9/00
A61P17/00
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P21/04
A61P7/00
A61P3/00
A61P25/00
A61P7/06
A61P13/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024533998
(86)(22)【出願日】2022-12-07
(85)【翻訳文提出日】2024-07-02
(86)【国際出願番号】 CN2022137266
(87)【国際公開番号】W WO2023104100
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】202111487287.1
(32)【優先日】2021-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519274183
【氏名又は名称】イノベント バイオロジクス(スーチョウ)カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ ホアフォン
(72)【発明者】
【氏名】シュイ タン
(72)【発明者】
【氏名】ダイアナ ビニア ダロウスキ
(72)【発明者】
【氏名】ビアンカ プリンツ
(72)【発明者】
【氏名】ナドタカーン ボーランド
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ ジョーゲガン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA01X
4B065AA26X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA83X
4B065AA87X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C085AA13
4C085BB11
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA40
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、BCMAに特異的に結合する親和性増強抗体およびそのP329G変異を含む抗体、ならびに上記抗体を含む複合体、融合物、二重特異性抗体または医薬組成物に関する。また、本発明は、上記抗体をコードする核酸および上記核酸を含む宿主細胞、ならびに上記抗体を製造する方法に関する。本発明は、BCMAに結合するこれらの抗体の治療的および診断的使用にさらに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
BCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、
(a)配列番号27に示される重鎖可変領域のアミノ酸配列における3個のCDRおよび配列番号36に示される軽鎖可変領域のアミノ酸配列における3個のCDR、または前記6個のCDR領域の各CDR領域あたり2個もしくは1個のアミノ酸変化を超えない、単一のCDRもしくは複数のCDRを有する変異体、
(b)配列番号45に示される重鎖可変領域のアミノ酸配列における3個のCDRおよび配列番号54に示される軽鎖可変領域のアミノ酸配列における3個のCDR、または前記6個のCDR領域の各CDR領域あたり2個もしくは1個のアミノ酸変化を超えない、単一のCDRもしくは複数のCDRを有する変異体、
(c)配列番号81に示される重鎖可変領域のアミノ酸配列における3個のCDRおよび配列番号90に示される軽鎖可変領域のアミノ酸配列における3個のCDR、または前記6個のCDR領域の各CDR領域あたり2個もしくは1個のアミノ酸変化を超えない、単一のCDRもしくは複数のCDRを有する変異体、あるいは
(d)配列番号99に示される重鎖可変領域のアミノ酸配列における3個のCDRおよび配列番号108に示される軽鎖可変領域のアミノ酸配列における3個のCDR、または前記6個のCDR領域の各CDR領域あたり2個もしくは1個のアミノ酸変化を超えない、単一のCDRもしくは複数のCDRを有する変異体、
を含み、
ここで、前記アミノ酸変化は、アミノ酸の付加、欠失または置換である、
前記BCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む、BCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、
(a)前記重鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、GSIVSSSYYWT(配列番号19)に示されるHCDR1、または前記HCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、SISIAGSTYYNPSLKS(配列番号20)に示されるHCDR2、または前記HCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびARDRGDTILDV(配列番号21)に示されるHCDR3、または前記HCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、前記軽鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、RASQSISRYLN(配列番号28)に示されるLCDR1、または前記LCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、AASSLQS(配列番号29)に示されるLCDR2、または前記LCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびQQKYFDIT(配列番号30)に示されるLCDR3、または前記LCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、
(b)前記重鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、GSIVSSSYYWT(配列番号37)に示されるHCDR1、または前記HCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、SISIAGSTYYNPSLKS(配列番号38)に示されるHCDR2、または前記HCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびARDRGDQILDV(配列番号39)に示されるHCDR3、または前記HCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、前記軽鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、RASQSISRYLN(配列番号46)に示されるLCDR1、または前記LCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、AASSLQS(配列番号47)に示されるLCDR2、または前記LCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびQQKYFDIT(配列番号48)に示されるLCDR3、または前記LCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、
(c)前記重鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、GTFSNDVIS(配列番号73)に示されるHCDR1、または前記HCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、VIIPIFGIANYAQKFQG(配列番号74)に示されるHCDR2、または前記HCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびARGRGYYSSWLLDI(配列番号75)に示されるHCDR3、または前記HCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、前記軽鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、QASQDITNYLN(配列番号82)に示されるLCDR1、または前記LCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、DASNLET(配列番号83)に示されるLCDR2、または前記LCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびQQAFDLIT(配列番号84)に示されるLCDR3、または前記LCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、あるいは
(d)前記重鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、GTFSNDVIS(配列番号91)に示されるHCDR1、または前記HCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、VIIPIFGIANYAQKFQG(配列番号92)に示されるHCDR2、または前記HCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびARGRGYYSSWLHDI(配列番号93)に示されるHCDR3、または前記HCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、前記軽鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、QASQDITNYLN(配列番号100)に示されるLCDR1、または前記LCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、DASNLET(配列番号101)に示されるLCDR2、または前記LCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびQQAFDLIT(配列番号102)に示されるLCDR3、または前記LCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、
ここで、前記アミノ酸変化は、アミノ酸の付加、欠失または置換である、
前記BCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む、請求項2に記載のBCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、
(a)前記重鎖可変領域は、GSIVSSSYYWT(配列番号19)に示されるHCDR1、SISIAGSTYYNPSLKS(配列番号20)に示されるHCDR2、およびARDRGDTILDV(配列番号21)に示されるHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域は、RASQSISRYLN(配列番号28)に示されるLCDR1、AASSLQS(配列番号29)に示されるLCDR2、およびQQKYFDIT(配列番号30)に示されるLCDR3を含み、
(b)前記重鎖可変領域は、GSIVSSSYYWT(配列番号37)に示されるHCDR1、SISIAGSTYYNPSLKS(配列番号38)に示されるHCDR2、およびARDRGDQILDV(配列番号39)に示されるHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域は、RASQSISRYLN(配列番号46)に示されるLCDR1、AASSLQS(配列番号47)に示されるLCDR2、およびQQKYFDIT(配列番号48)に示されるLCDR3を含み、
(c)前記重鎖可変領域は、GTFSNDVIS(配列番号73)に示されるHCDR1、VIIPIFGIANYAQKFQG(配列番号74)に示されるHCDR2、およびARGRGYYSSWLLDI(配列番号75)に示されるHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域は、QASQDITNYLN(配列番号82)に示されるLCDR1、DASNLET(配列番号83)に示されるLCDR2、およびQQAFDLIT(配列番号84)に示されるLCDR3を含み、あるいは
(d)前記重鎖可変領域は、GTFSNDVIS(配列番号91)に示されるHCDR1、VIIPIFGIANYAQKFQG(配列番号92)に示されるHCDR2、およびARGRGYYSSWLHDI(配列番号93)に示されるHCDR3を含み、前記軽鎖可変領域は、QASQDITNYLN(配列番号100)に示されるLCDR1、DASNLET(配列番号101)に示されるLCDR2、およびQQAFDLIT(配列番号102)に示されるLCDR3を含む、
前記BCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のBCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、
(a)前記重鎖可変領域は、配列番号27の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、かつ前記軽鎖可変領域は、配列番号36の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、
(b)前記重鎖可変領域は、配列番号45の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、かつ前記軽鎖可変領域は、配列番号54の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、
(c)前記重鎖可変領域は、配列番号81の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、かつ前記軽鎖可変領域は、配列番号90の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、あるいは
(d)前記重鎖可変領域は、配列番号99の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、かつ前記軽鎖可変領域は、配列番号108の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含む、
前記BCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む、請求項4に記載のBCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、
前記抗体またはその抗原結合断片は、
(a)配列番号27に示される重鎖可変領域および配列番号36に示される軽鎖可変領域、
(b)配列番号45に示される重鎖可変領域および配列番号54に示される軽鎖可変領域、
(c)配列番号81に示される重鎖可変領域および配列番号90に示される軽鎖可変領域、あるいは
(d)配列番号99に示される重鎖可変領域および配列番号108に示される軽鎖可変領域、を含む、
前記BCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
IgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4抗体であり、任意に、IgG1もしくはIgG4抗体であり、任意に、IgG1抗体である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のBCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
前記抗原結合断片は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、単鎖Fv、単鎖Fabまたはダイアボディー(diabody)である、
請求項1~6のいずれか一項に記載のBCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項8】
変異Fcドメインをさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のBCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、
ここで、EU番号付けによるP329位置のアミノ酸がグリシン(G)に変異され、および非変異親抗体FcドメインのFcγ受容体結合と比較して、変異FcドメインのFcγ受容体結合が減少し;例えば、前記変異FcドメインはIgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4抗体の変異Fcドメインであり;好ましくは、前記変異FcドメインはIgG1もしくはIgG4抗体の変異Fcドメインであり;より好ましくは、前記変異FcドメインはIgG1抗体の変異Fcドメインであり;
例えば、前記抗体またはその抗原結合断片は、配列番号111に示される重鎖定常領域配列、またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性及びGで変異されたEU番号付けによるP329位置のアミノ酸を有する配列を含み;
例えば、前記抗体またはその抗原結合断片は、配列番号111に示される重鎖定常領域配列、またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性及びGで変異されたEU番号付けによるP329位置のアミノ酸を有する配列を含み;ならびに配列番号112に示される軽鎖定常領域配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み;
例えば、前記抗体またはその抗原結合断片は、配列番号111に示される重鎖定常領域配列および配列番号112に示される軽鎖定常領域配列を含む;
前記BCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のBCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、
以下の特性:
(1)高い親和性でヒトBCMA、カニクイザルBCMAおよびマウスBCMAなどのBCMAに結合する特性であって、例えば、ForteBio動力学結合測定法により測定すると、前記抗BCMA抗体またはその抗原結合断片とBCMAとの間の結合Kは約10-9M~約10-12Mである、前記結合する特性、
(2)細胞表面で発現するBCMAに特異的に結合する特性、
(3)BCMAを発現する細胞に対してADCC細胞傷害殺傷効果を有する特性、
(4)BCMAを発現する細胞に対してADCP殺傷効果を有する特性、
(5)ヒトBCMAを発現する細胞(特に多発性骨髄腫細胞)の成長を阻害および抑制し、かつ/または前記細胞を死滅させる特性、ならびに
(6)BCMAを発現する腫瘍に対してインビボ抗腫瘍効果を有するとともに、明らかな毒性・副作用がない特性、
を1つまたは複数有する、
前記BCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の抗BCMA抗体またはその抗原結合断片をコードする、
単離された核酸。
【請求項11】
請求項10に記載の核酸を含むベクターであって、好ましくは、発現ベクターである、
前記ベクター。
【請求項12】
請求項10に記載の核酸または請求項11に記載のベクターを含む宿主細胞であって、好ましくは、前記宿主細胞は原核細胞または真核細胞であり、より好ましくは大腸菌細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞、あるいは前記抗体またはその抗原結合断片の調製に適した他の細胞から選択され、最も好ましくは、HEK293細胞またはCHO細胞である、
前記宿主細胞。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか一項に記載の抗BCMA抗体またはその抗原結合断片を調製する方法であって、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗BCMA抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸の発現に適した条件において、請求項12に記載の宿主細胞を培養することを含み、任意に、前記抗BCMA抗体またはその抗原結合断片を単離することを含み、および任意に、前記宿主細胞から前記抗BCMA抗体またはその抗原結合断片を回収することをさらに含む、
前記方法。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか一項に記載の抗BCMA抗体またはその抗原結合断片を含む、
複合体、融合物または二重特異性抗体。
【請求項15】
医薬組成物であって、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗BCMA抗体もしくはその抗原結合断片、または請求項14に記載の複合体、融合物もしくは二重特異性抗体を含み、および任意に、薬学的に許容可能な担体を含む、
前記医薬組成物。
【請求項16】
対象におけるB細胞関連疾患を予防もしくは治療するための医薬を調製するための、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗BCMA抗体もしくはその抗原結合断片、請求項14に記載の複合体、融合物もしくは二重特異性抗体、または請求項15に記載の医薬組成物の使用であって、例えば、前記B細胞関連疾患は、B細胞悪性腫瘍、形質細胞悪性腫瘍、および自己免疫疾患からなる群から選択され、好ましくは、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、未定悪性度のB細胞増殖、リンパ腫様肉芽腫症、移植後リンパ増殖疾患、免疫調節疾患、関節リウマチ、重症筋無力、特発性血小板減少性紫斑病、抗リン脂質症候群、シャーガス病、グレーブス病、ウェゲナー肉芽腫、結節性多発性動脈炎、シェーグレン症候群、尋常性天疱瘡、強皮症、多発性硬化症、ANCA関連血管炎、グッドパスチャー症候群、川崎病、自己免疫性溶血性貧血、および急速進行性糸球体腎炎、重鎖病、原発性もしくは免疫細胞関連アミロイドーシス、もしくは意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症からなる群から選択され、好ましくは、前記B細胞関連疾患はB細胞悪性腫瘍であり、より好ましくは、多発性骨髄腫(MM)もしくは非ホジキンリンパ腫(NHL)である、
前記使用。
【請求項17】
試料中のBCMAを検出するためのキットであって、前記キットは、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗BCMA抗体またはその抗原結合断片を含み、以下のステップ:
(a)試料と、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗BCMA抗体またはその抗原結合断片とを接触させるステップ;および
(b)前記抗BCMA抗体またはその抗原結合断片とBCMAとの間の複合体の形成を検出するステップ、
を実施するために使用され、
任意に、前記抗BCMA抗体またはその抗原結合断片は、検出可能に標識される、
前記キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体薬物分野に関する。具体的には、本発明は、B細胞成熟抗原(BCMA)に特異的に結合する親和性増強抗体およびそのP329G変異を含む抗体ならびに上記抗体を含む組成物に関する。また、本発明は、上記抗体をコードする核酸および上記核酸を含む宿主細胞、ならびに上記抗体を調製する方法に関する。本発明は、BCMAに結合するこれらの抗体の治療的および診断的使用にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
B細胞成熟抗原(BCMA、すなわちCD269、TNFRSF17)は、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー(TNFRSF)である。BCMAは、III型膜貫通タンパク質であり、細胞外ドメイン(ECD)においてTNFRファミリーメンバーの特徴的なシステインリッチドメイン(CRD)を持ち、当該ドメインはリガンド結合モチーフを形成する。BCMAのリガンドには、B細胞活性化因子(BAFF)およびB細胞増殖誘導リガンド(APRIL)が含まれ、ここで、B細胞増殖誘導リガンド(APRIL)は、より高い親和性でBCMAに結合し、腫瘍細胞の増殖を促進する。
【0003】
BCMAは主に成熟B細胞、すなわち形質細胞の表面で発現され、正常な造血幹細胞および非血液由来組織では発現されず、BCMAシグナルは、長時間作用型骨髄形質細胞の生存に不可欠であるが、B細胞全体の安定性に必要ではない。膜表面BCMAは、γセクレターゼによって切断されて脱落する可能性があり、産生された可溶性BCMA(sBCMA)は、BAFF/APRILリガンド結合をブロックすることにより膜表面BCMAのシグナル伝達を減少させる可能性がある。BCMAが多発性骨髄腫(Multiple Myeloma、MM)細胞で過剰発現され、古典的および非古典的NF-κBシグナルをアップレギュレーションし、MM細胞の成長、生存、接着を促進し、破骨細胞の活性化、血管新生、転移および免疫抑制などを誘導し、BCMA発現がMMを診断する重要なマーカーとなっていることは、前臨床モデルおよびヒト腫瘍において見出されている。さらに、MM患者血清中のsBCMAレベルの上昇は、骨髄内のMM細胞の数に正に比例し、かつその濃度の変化はMM予後および治療応答と密接に関連する。
【0004】
多発性骨髄腫は、形質細胞腫またはケーラー病とも呼ばれ、形質細胞の異常増殖を特徴とする難治性B細胞株の悪性腫瘍である。BCMAが形質細胞でのみ発現され、天然および記憶B細胞では発現されないという特性を鑑み、BCMAは、B細胞悪性腫瘍、特に多発性骨髄腫を治療するホット標的となっている。当該分野では、新たなBCMA特異的結合分子が依然として必要である。本発明は、高い標的特異性および高い親和性でBCMAに結合し、特に腫瘍細胞表面で発現されるBCMAに結合する抗体を提供することにより、このような必要性を満たす。
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、研究により、高い親和性でBCMAに結合する新規の抗BCMA抗体のセットを開発した。本発明にかかるBCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、以下の特性:
(1)高い親和性でヒトBCMA、カニクイザルBCMAおよびマウスBCMAなどのBCMAに結合する特性であって、例えば、ForteBio動力学結合測定法により測定すると、上記抗BCMA抗体またはその抗原結合断片とBCMAとの間の結合Kは約10-9M~約10-12Mである、上記結合する特性、
(2)細胞表面で発現するBCMAに特異的に結合する特性、
(3)BCMAを発現する細胞に対してADCC細胞傷害殺傷効果を有する特性、
(4)BCMAを発現する細胞に対してADCP殺傷効果を有する特性、
(5)ヒトBCMAを発現する細胞(特に多発性骨髄腫細胞)の成長を阻害および抑制し、かつ/または上記細胞を死滅させる特性、ならびに
(6)BCMAを発現する腫瘍に対してインビボ抗腫瘍効果を有するとともに、明らかな毒性・副作用がない特性、
を1つまたは複数有する。
【0006】
第1の態様において、本発明は、BCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、
(a)配列番号27に示される重鎖可変領域のアミノ酸配列における3個のCDRおよび配列番号36に示される軽鎖可変領域のアミノ酸配列における3個のCDR、または上記6個のCDR領域の各CDR領域あたり2個もしくは1個のアミノ酸変化を超えない、単一のCDRもしくは複数のCDRを有する変異体、
(b)配列番号45に示される重鎖可変領域のアミノ酸配列における3個のCDRおよび配列番号54に示される軽鎖可変領域のアミノ酸配列における3個のCDR、または上記6個のCDR領域の各CDR領域あたり2個もしくは1個のアミノ酸変化を超えない、単一のCDRもしくは複数のCDRを有する変異体、
(c)配列番号81に示される重鎖可変領域のアミノ酸配列における3個のCDRおよび配列番号90に示される軽鎖可変領域のアミノ酸配列における3個のCDR、または上記6個のCDR領域の各CDR領域あたり2個もしくは1個のアミノ酸変化を超えない、単一のCDRもしくは複数のCDRを有する変異体、あるいは
(d)配列番号99に示される重鎖可変領域のアミノ酸配列における3個のCDRおよび配列番号108に示される軽鎖可変領域のアミノ酸配列における3個のCDR、または上記6個のCDR領域の各CDR領域あたり2個もしくは1個のアミノ酸変化を超えない、単一のCDRもしくは複数のCDRを有する変異体、
を含み、
ここで、上記アミノ酸変化は、アミノ酸の付加、欠失または置換である、抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0007】
いくつかの実施形態では、本発明にかかるBCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、ここで、
(a)上記重鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、GSIVSSSYYWT(配列番号19)に示されるHCDR1、または上記HCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、SISIAGSTYYNPSLKS(配列番号20)に示されるHCDR2、または上記HCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびARDRGDTILDV(配列番号21)に示されるHCDR3、または上記HCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、上記軽鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、RASQSISRYLN(配列番号28)に示されるLCDR1、または上記LCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、AASSLQS(配列番号29)に示されるLCDR2、または上記LCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびQQKYFDIT(配列番号30)に示されるLCDR3、または上記LCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、
(b)上記重鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、GSIVSSSYYWT(配列番号37)に示されるHCDR1、または上記HCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、SISIAGSTYYNPSLKS(配列番号38)に示されるHCDR2、または上記HCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびARDRGDQILDV(配列番号39)に示されるHCDR3、または上記HCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、上記軽鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、RASQSISRYLN(配列番号46)に示されるLCDR1、または上記LCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、AASSLQS(配列番号47)に示されるLCDR2、または上記LCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびQQKYFDIT(配列番号48)に示されるLCDR3、または上記LCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、
(c)上記重鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、GTFSNDVIS(配列番号73)に示されるHCDR1、または上記HCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、VIIPIFGIANYAQKFQG(配列番号74)に示されるHCDR2、または上記HCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびARGRGYYSSWLLDI(配列番号75)に示されるHCDR3、または上記HCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、上記軽鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、QASQDITNYLN(配列番号82)に示されるLCDR1、または上記LCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、DASNLET(配列番号83)に示されるLCDR2、または上記LCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびQQAFDLIT(配列番号84)に示されるLCDR3、または上記LCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、あるいは
(d)上記重鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、GTFSNDVIS(配列番号91)に示されるHCDR1、または上記HCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、VIIPIFGIANYAQKFQG(配列番号92)に示されるHCDR2、または上記HCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびARGRGYYSSWLHDI(配列番号93)に示されるHCDR3、または上記HCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、上記軽鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、QASQDITNYLN(配列番号100)に示されるLCDR1、または上記LCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、DASNLET(配列番号101)に示されるLCDR2、または上記LCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびQQAFDLIT(配列番号102)に示されるLCDR3、または上記LCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、
ここで、上記アミノ酸変化は、アミノ酸の付加、欠失または置換である。
【0008】
いくつかの実施形態では、本発明にかかるBCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、ここで
(a)上記重鎖可変領域は、GSIVSSSYYWT(配列番号19)に示されるHCDR1、SISIAGSTYYNPSLKS(配列番号20)に示されるHCDR2、およびARDRGDTILDV(配列番号21)に示されるHCDR3を含み、上記軽鎖可変領域は、RASQSISRYLN(配列番号28)に示されるLCDR1、AASSLQS(配列番号29)に示されるLCDR2、およびQQKYFDIT(配列番号30)に示されるLCDR3を含み、
(b)上記重鎖可変領域は、GSIVSSSYYWT(配列番号37)に示されるHCDR1、SISIAGSTYYNPSLKS(配列番号38)に示されるHCDR2、およびARDRGDQILDV(配列番号39)に示されるHCDR3を含み、上記軽鎖可変領域は、RASQSISRYLN(配列番号46)に示されるLCDR1、AASSLQS(配列番号47)に示されるLCDR2、およびQQKYFDIT(配列番号48)に示されるLCDR3を含み、
(c)上記重鎖可変領域は、GTFSNDVIS(配列番号73)に示されるHCDR1、VIIPIFGIANYAQKFQG(配列番号74)に示されるHCDR2、およびARGRGYYSSWLLDI(配列番号75)に示されるHCDR3を含み、上記軽鎖可変領域は、QASQDITNYLN(配列番号82)に示されるLCDR1、DASNLET(配列番号83)に示されるLCDR2、およびQQAFDLIT(配列番号84)に示されるLCDR3を含み、あるいは
(d)上記重鎖可変領域は、GTFSNDVIS(配列番号91)に示されるHCDR1、VIIPIFGIANYAQKFQG(配列番号92)に示されるHCDR2、およびARGRGYYSSWLHDI(配列番号93)に示されるHCDR3を含み、上記軽鎖可変領域は、QASQDITNYLN(配列番号100)に示されるLCDR1、DASNLET(配列番号101)に示されるLCDR2、およびQQAFDLIT(配列番号102)に示されるLCDR3を含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、本発明にかかるBCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、ここで
(a)上記重鎖可変領域は、配列番号27の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、かつ上記軽鎖可変領域は、配列番号36の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、
(b)上記重鎖可変領域は、配列番号45の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、かつ上記軽鎖可変領域は、配列番号54の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、
(c)上記重鎖可変領域は、配列番号81の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、かつ上記軽鎖可変領域は、配列番号90の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、あるいは
(d)上記重鎖可変領域は、配列番号99の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、かつ上記軽鎖可変領域は、配列番号108の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、本発明にかかるBCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、ここで、上記抗体またはその抗原結合断片は、
(a)配列番号27に示される重鎖可変領域および配列番号36に示される軽鎖可変領域、
(b)配列番号45に示される重鎖可変領域および配列番号54に示される軽鎖可変領域、
(c)配列番号81に示される重鎖可変領域および配列番号90に示される軽鎖可変領域、あるいは
(d)配列番号99に示される重鎖可変領域および配列番号108に示される軽鎖可変領域、
を含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、本発明にかかるBCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、IgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4抗体であり、任意に、IgG1もしくはIgG4抗体であり、任意に、IgG1抗体である。いくつかの実施形態では、上記抗原結合断片は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、単鎖Fv、単鎖Fabまたはダイアボディー(diabody)である。
【0012】
いくつかの実施形態では、本発明にかかるBCMAに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は、変異Fcドメインをさらに含み、ここで、EU番号付けによるP329位置のアミノ酸がグリシン(G)に変異され、および非変異親抗体FcドメインのFcγ受容体結合と比較して、変異FcドメインのFcγ受容体結合が減少し;例えば、上記変異FcドメインはIgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4抗体の変異Fcドメインであり;好ましくは、上記変異FcドメインはIgG1もしくはIgG4抗体の変異Fcドメインであり;より好ましくは、上記変異FcドメインはIgG1抗体の変異Fcドメインであり;
【0013】
例えば、上記抗体またはその抗原結合断片は、配列番号111に示される重鎖定常領域配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性及びGで変異されたEU番号付けによるP329位置のアミノ酸を有する配列を含み;
【0014】
例えば、上記抗体またはその抗原結合断片は、配列番号111に示される重鎖定常領域配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性及びGで変異されたEU番号付けによるP329位置のアミノ酸を有する配列を含み;ならびに配列番号112に示される軽鎖定常領域配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み;
【0015】
例えば、上記抗体またはその抗原結合断片は、配列番号111に示される重鎖定常領域配列および配列番号112に示される軽鎖定常領域配列を含む。
【0016】
第2の態様において、本発明は、本発明第1の態様の抗体をコードする核酸、上記抗体をコードする核酸を含むベクター、上記核酸分子またはベクターを含む宿主細胞、および上記抗体を調製する方法を提供する。上記方法は、本発明の第1の態様に記載のBCMA分子に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸の発現に適した条件において、第1の態様に記載のBCMA分子に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸の発現ベクターが導入された宿主細胞を培養することと、上記BCMA分子に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を単離することと、を含み、任意に、上記方法は、上記宿主細胞から上記BCMA分子に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を回収することをさらに含む。好ましくは、上記宿主細胞は原核細胞または真核細胞であり、より好ましくは大腸菌細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞あるいは抗体またはその抗原結合断片の調製に適した他の細胞から選択され、最も好ましくは、上記宿主細胞はHEK293細胞またはCHO細胞である。
【0017】
第3の態様において、本発明は、本発明の第1の態様の抗BCMA抗体またはその抗原結合断片を含む複合体、融合物または二重特異性抗体に関する。
【0018】
第4の態様において、本発明は、本発明の第1の態様の抗BCMA抗体もしくはその抗原結合断片、または本発明の第3の態様の複合体、融合物もしくは二重特異性抗体を含み、および任意に、薬学的に許容可能な担体を含む、医薬組成物に関する。
【0019】
第5の態様において、本発明は、対象におけるB細胞関連疾患を予防もしくは治療するための医薬を調製するための、本発明の第1の態様の抗BCMA抗体もしくはその抗原結合断片、本発明の第3の態様の複合体、融合物もしくは二重特異性抗体、または本発明の第4の態様の医薬組成物の使用であって、例えば、上記B細胞関連疾患は、B細胞悪性腫瘍、形質細胞悪性腫瘍、および自己免疫疾患からなる群から選択され、好ましくは、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、未定悪性度のB細胞増殖、リンパ腫様肉芽腫症、移植後リンパ増殖疾患、免疫調節疾患、関節リウマチ、重症筋無力、特発性血小板減少性紫斑病、抗リン脂質症候群、シャーガス病、グレーブス病、ウェゲナー肉芽腫、結節性多発性動脈炎、シェーグレン症候群、尋常性天疱瘡、強皮症、多発性硬化症、ANCA関連血管炎、グッドパスチャー症候群、川崎病、自己免疫性溶血性貧血、および急速進行性糸球体腎炎、重鎖病、原発性もしくは免疫細胞関連アミロイドーシス、もしくは意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症からなる群から選択され、好ましくは、上記B細胞関連疾患はB細胞悪性腫瘍であり、より好ましくは、多発性骨髄腫(MM)もしくは非ホジキンリンパ腫(NHL)である、使用に関する。
【0020】
第6の態様において、本発明は、試料中のBCMAを検出するキットを提供し、上記キットは、本発明の第1の態様の抗BCMA抗体またはその抗原結合断片を含み、以下のステップ:
(a)試料と本発明の第1の態様の抗BCMA抗体またはその抗原結合断片とを接触させるステップ;および
(b)上記抗BCMA抗体またはその抗原結合断片とBCMAとの間の複合体の形成を検出するステップ、を実施するために使用され、任意に、上記抗BCMA抗体またはその抗原結合断片は、検出可能に標識される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
以下の図面と合わせて読めば、次に詳細に記載される本発明の好ましい実施形態がより良く理解される。本発明を説明するために、図面には現在の好ましい実施形態が示されている。しかしながら、本発明は、図面に示される実施形態の精確な配置と手段に限定されないと理解すべきである。
図1】ADI-38497抗体がBCMA抗原を発現するH929細胞にのみ結合するが、BCMA遺伝子がノックアウトされたBCMA-KO-H929細胞に結合しないことを示す。
図2A】表面プラズモン共鳴法(SPR)を用いて抗体親和性を測定する方法の模式図を示す。
図2B】SPRを用いて組換えヒト、カニクイザル、マウス、ラットおよびウサギのBCMAタンパク質に対するADI-38497PG抗体の代表的親和性を測定するスペクトルを示す。
図2C】P329G BCMA抗体の、ヒト、カニクイザルおよびマウスのBCMAを安定的に発現するCHO-GS細胞への結合能力を示す。
図2D】P329G BCMA抗体の、BCMAを発現する陽性多発性骨髄腫細胞株MM.1s、RPMI8226、U266、H929、L363およびAMO1への結合活性を示す。
図3A】ADI-38497WT抗体およびADI-38497PG抗体の、ADCC殺傷を媒介する能力を示す。
図3B】ADI-38497WT抗体およびADI-38497PG抗体の、ADCP殺傷を媒介する能力を示す。
図3C】ADI-38497PG抗体の、標的細胞の溶解を媒介する能力を示す。
図4A】マウスにおけるADI-38497PG抗体の薬物動態実験結果を示す。
図4B】マウスにおけるADI-38497PG抗体の薬物動態実験結果を示す。
図5A】ヒトH929高発現BCMA腫瘍細胞を皮下接種した免疫不全腫瘍担持マウスにおけるADI-38497PG抗体の治療効果を示す。
図5B】ヒトH929高発現BCMA腫瘍細胞を皮下接種した免疫不全腫瘍担持マウスにおいてADI-38497PG抗体を用いて治療したマウスの体重変化を示す。
図6A】ヒトH929-luc腫瘍細胞を尾静脈接種した免疫不全腫瘍担持マウスにおける異なる用量のADI-38497PG抗体の抗腫瘍薬効を示す。
図6B】ヒトH929-luc腫瘍細胞を尾静脈接種した免疫不全腫瘍担持マウスにおいてADI-38497PG抗体を用いて治療したマウスの体重変化を示す。
図7A】ヒトH929腫瘍細胞を皮下接種した免疫不全腫瘍担持マウスにおけるADI-38497PG抗体の治療効果を示す。
図7B】ヒトH929腫瘍細胞を皮下接種した免疫不全腫瘍担持マウスにおいてADI-38497PG抗体を用いて治療したマウスの体重変化を示す。
図7C】ヒトH929腫瘍細胞を皮下接種した免疫不全腫瘍担持マウスにおいてADI-38497PG抗体を使用して治療したマウスの血液学的および血液生化学的検出結果を示す。
図7D】ヒトH929腫瘍細胞を皮下接種した免疫不全腫瘍担持マウスにおいてADI-38497PG抗体を使用して治療したマウスの血液学的および血液生化学的検出結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
特に限定のない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者に一般的に理解された意味を有する。本明細書に言及される全ての刊行物、特許出願、特許または他の参照文献は、引用により全体として組み込まれている。また、本明細書に記載の材料、方法および例は、単に説明するためであり、制限するものではない。本発明の他の特徴、目的および利点は、本明細書と図面から、かつ添付された特許請求の範囲から明らかになる。
【0023】
I.定義
【0024】
本明細書を解釈するために次の定義が使用され、また、適切であるならば、単数形で使用される用語には複数形が含まれてもよく、その逆も同様である。本明細書で使用される用語は、具体的な実施形態を説明するためのものに過ぎず、限定するためのものではないと理解しなければならない。
【0025】
「約」という用語は、数字または数値とともに使用される場合、下限として指定された数字または数値より5%小さく、上限として指定された数字または数値より5%大きい範囲内の数字または数値をカバーすることを意味する。
【0026】
本明細書で使用されるように、「および/または」という用語は、選択可能なオプションのうちのいずれか1つ、または選択可能なオプションの2つもしくは複数を指す。
【0027】
本明細書において、「包含する」または「含む」という用語を使用する場合、特記しない限り、言及される要素、整数またはステップからなる場合も含まれる。例えば、ある具体的な配列を「含む」抗体可変領域が言及される場合、この具体的な配列からなる抗体可変領域を包含することも意図する。
【0028】
「BCMA」と「B細胞成熟抗原」という用語が互換的に使用することができ、ヒトBCMAの変異体、アイソタイプ、生物種ホモログおよびBCMA(例えばヒトBCMA)と少なくとも1つの同じエピトープを有する類似物を含む。BCMAタンパク質は、細胞外ドメインおよび細胞外ドメインの断片などのBCMAの断片を含むこともでき、例えば、本発明の任意の抗体と結合する能力を保持する断片である。
【0029】
本明細書で使用される「BCMA抗体」、「BCMAに対する抗体」、「BCMAに特異的に結合する抗体」、「BCMAを特異的に標的とする抗体」、「BCMAを特異的に認識する抗体」という用語が互換的に使用することができ、B細胞成熟抗原(BCMA)に特異的に結合することができる抗体を意味する。
【0030】
「抗体」という用語は、本願において最も広い意味で使用されており、抗原結合部位を含むタンパク質を意味し、さまざまな構造の天然抗体および人工抗体を含み、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、単鎖抗体、完全な抗体および抗体断片を含むが、これらに限定されない。好ましくは、本発明の抗体は、単一ドメイン抗体または重鎖抗体である。
【0031】
「抗体断片」または「抗原結合断片」が本明細書では互換的に使用することができ、完全な抗体の一部を含み、かつ完全な抗体が結合する抗原に結合する、完全な抗体とは異なる分子を指す。抗体断片の例は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、単鎖Fv、単鎖Fabまたはダイアボディー(diabody)を含むが、これらに限定されない。
【0032】
参照抗体と同様もしくは類似の結合親和性および/または特異性を示す抗体は、参照抗体の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%もしくは95%以上の結合親和性および/または特異性があり得る抗体を指す。これは、当該分野での既知の結合親和性および/または特異性の任意の測定方法により測定することができる。
【0033】
「相補性決定領域」、「CDR領域」または「CDR」は、抗体可変ドメインにおいて、配列において超可変であるとともに構造上に決定されたループ(「超可変ループ」)を形成し、かつ/または抗原接触残基(「抗原接触点」)を含む領域である。CDRは、主に抗原エピトープに結合する役割を果たす。重鎖のCDRは通常、CDR1、CDR2およびCDR3と呼ばれ、N末端から順に番号付けられる。1つの所定の重鎖可変領域のアミノ酸配列において、各CDRの精確なアミノ酸配列の境界は、多くの公知の抗体CDR割り当てシステムのいずれか1つまたはその組み合わせにより決定することができ、上記割り当てシステムは、例えば、抗体の3次元構造とCDRループのトポロジーに基づくChothia(Chothia et al.,(1989)Nature 342:877-883,Al-Lazikani et al.,「Standard conformations for the canonical structures of immunoglobulins」,Journal of Molecular Biology,273,927-948(1997))、抗体配列の可変性に基づくKabat(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,4th edition,U.S.Department of Health and Human Services,National Institutes of Health(1987))、AbM(University of Bath)、Contact(University College London)、国際ImMunoGeneTics database(IMGT)(http://imgt.cines.fr/)、および大量の結晶構造が利用されるアフィニティ伝播クラスタリング(affinity propagation clustering)に基づくNorth CDR定義を含む。
【0034】
特に断りのない限り、本発明において、「CDR」または「CDR配列」という用語は、上記いずれか1つの方法で決定されるCDR配列をカバーする。
【0035】
CDRは、参照CDR配列(例えば、本発明の例示的なCDRのいずれか1つ)と同じKabat番号付け位置を有することで決定されてもよい。本発明において、抗体可変領域および具体的なCDR配列(重鎖可変領域残基を含む)に言及する場合、Kabat番号付けシステムによる番号付け位置を指す。
【0036】
CDRが抗体間で異なるにもかかわらず、CDRにおいては、抗原との結合に直接関与するアミノ酸位置の数が限られている。Kabat、Chothia、AbMおよびContact方法のうちの少なくとも2つを使用することにより、最小の重複領域を決定することができ、それによって抗原と結合するための「最小結合単位」を提供する。最小結合単位は、CDRの1つのサブ部分であってもよい。当業者に知られているように、抗体の構造とタンパク質の折り畳みによって、CDR配列の残り部分の残基を決定することができる。従って、本発明は、本明細書で提供されるいずれのCDRの変異体についても考慮する。例えば、1つのCDRの変異体において、最小結合単位のアミノ酸残基はそのままにしてもよいが、Kabat、ChothiaまたはAbMに基づいて定義された残りのCDR残基は、保存的なアミノ酸残基で置換されてもよい。
【0037】
「ヒト化」抗体とは、非ヒトCDR由来のアミノ酸残基とヒトFR由来のアミノ酸残基を含むキメラ抗体を指す。いくつかの実施形態では、ヒト化抗体におけるCDR(例えば、CDR)の全てまたは基本的に全てが非ヒト抗体のものに対応し、かつFRの全てまたは基本的に全てがヒト抗体のものに対応する。ヒト化抗体は、任意に、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部を含んでもよい。抗体(例えば、非ヒト抗体)の「ヒト化形態」は、ヒト化が行われた抗体を指す。
【0038】
「ヒト抗体」は、ヒトもしくはヒト細胞より産生されるかまたは非ヒト由来で、ヒト抗体ライブラリーまたは他のヒト抗体コード配列を利用する抗体のアミノ酸配列に対応する、アミノ酸配列を有する抗体を指す。ヒト抗体についての当該定義には、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体が明確に除外されている。
【0039】
「Fc領域」という用語は、本明細書において、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するためであり、上記領域は少なくとも一部の定常領域を含む。当該用語は、天然配列Fc領域および変異体Fc領域を含む。一部の実施形態において、ヒトIgG重鎖のFc領域は、Cys226またはPro230から重鎖のカルボニル基末端に延長している。しかし、Fc領域のC末端リジン(Lys447)は存在してもよく、または存在しなくてもよい。特に断りのない限り、Fc領域または定常領域におけるアミノ酸残基の番号は、EUインデックスとも呼ばれるEU番号付けシステムによるもので、例えば、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991に記載された通りである。
【0040】
いくつかの実施形態では、免疫グロブリンのFc領域は、2つの定常ドメイン、すなわちCH2およびCH3を含み、別のいくつかの実施形態では、免疫グロブリンのFc領域は、3つの定常ドメイン、すなわちCH2、CH3およびCH4を含む。
【0041】
IgGのFcγ受容体またはC1qへの結合は、ヒンジ領域およびCH2ドメインに位置する残基に依存する。CH2ドメインの2つの領域は、FcγRと補体C1qの結合に対して極めて重要であり、かつIgG2とIgG4において唯一の配列を有する。ヒトIgG1およびIgG2における233位~236位の残基の置換、ならびにヒトIgG4における327位、330位、および331位の残基の置換は、ADCCおよびCDC活性を大幅に低減させることがすでに示された(Armourら、Eur.J.Immunol.29(8)、1999、2613-2624;Shieldsら、J.Biol.Chem.276(9)、2001、6591-6604)。
【0042】
「機能性Fc領域」および「機能的Fc領域」などの類似の用語は、互換的に使用されてもよく、野生型Fc領域のエフェクター機能を有するFc領域を指す。
【0043】
「変異Fc領域」、「Fc突然変異体」、「変異を有するFc領域」、「突然変異Fc領域」、「Fc領域変異体」、「Fc変異体」、「変異体Fc領域」および「突然変異のFc領域」などの類似の用語は、互換的に使用されてもよく、天然配列Fc領域/野生型Fc領域と区別する少なくとも1つのアミノ酸修飾を含むFc領域を指す。
【0044】
いくつかの実施形態では、変異Fc領域は、天然配列Fc領域のアミノ酸配列と、1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失、または付加が異なるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、変異Fc領域は、野生型IgGのFc領域と比較して、少なくとも1つのアミノ酸置換を有し、上記少なくとも1つのアミノ酸置換は、EU番号付けによるP329位置のアミノ酸のグリシン(G)への置換である。
【0045】
「Fc受容体」または「FcR」とは、抗体Fc領域に結合する分子を指す。いくつかの実施形態では、FcRは天然のヒトFcRである。いくつかの実施形態では、FcRは、IgG抗体に結合する受容体、すなわちFcγRであり、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、およびFcγRIII(CD16)の3つの受容体を含み、ならびにこれらの受容体の対立遺伝子変異体および可変スプライシング形式を含む。FcγRII受容体はFcγRIIAおよびFcγRIIBを含み、FcγRIII受容体はFcγRIIIAおよびFcγRIIIBを含む。
【0046】
用語「エフェクター機能」は、免疫グロブリンアイソタイプによって変化する免疫グロブリンFc領域に直結するそれらの生物学的活性を指す。免疫グロブリンのエフェクター機能の例は、Fc受容体結合作用、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食作用(ADCP)、サイトカイン分泌、免疫複合体介在性抗原提示細胞による抗原の取り込み、C1q結合および補体依存性細胞傷害(CDC)、細胞表面受容体(B細胞受容体など)のダウンレギュレーションならびにB細胞の活性化を含む。
【0047】
「抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)」という用語は、特定の細胞傷害性エフェクター細胞(ナチュラルキラー(NK)細胞など)が標的細胞および外来宿主細胞の殺傷を媒介する主要なメカニズムの1つである。いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、Tリンパ球の抗体依存性細胞傷害作用を提供し、NK細胞の抗体依存性細胞傷害作用を増強する。
【0048】
「抗体依存性細胞貪食作用(ADCP)」という用語は、標的細胞に結合する抗体がマクロファージ表面のFcγRIIIaに結合することによってマクロファージの活性化が誘導され、これにより標的細胞が内在化し、ファゴソームによって酸性化分解される、細胞応答を指す。ADCPは、FcγRIIaおよびFcγRIによっても媒介され得るが、その割合は比較的小さい。
【0049】
「補体依存性細胞傷害作用(CDC)」という用語は、補体の存在下での標的細胞の溶解を指す。補体系は、一連のタンパク質からなる先天性免疫系の一部である。補体系のタンパク質は「補体」と呼ばれ、略語記号C1、C2、C3などで表され、ヒトや脊椎動物の血清、組織液中に存在する、熱に弱くて活性化された後に酵素活性を有するタンパク質のグループである。C1qは補体依存性細胞傷害(CDC)経路の第1の成分であり、6つの抗体に結合できるが、補体カスケードを活性化するには2つのIgGに結合するだけで十分である。古典的な補体経路の活性化は、補体系の第1の成分(C1q)が、関連する抗原に結合する抗体(適切なサブクラス)に結合することによって開始され、一連の補体カスケード反応が活性化され、標的細胞膜に孔が形成され、これにより標的細胞死をもたらす。補体活性化を評価するために、例えばGazzano-Santoroら、J.Immunol.Methods 202:163(1996)に記載の方法により、CDC測定法を実施することができる。
【0050】
「可変領域」または「可変ドメイン」という用語は、抗体と抗原の結合に関与する抗体重鎖または軽鎖のドメインを指す。天然抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメインは一般に類似の構造を有し、ここで、各ドメインは、4つの保存的なフレームワーク領域(FR)および3つの相補性決定領域(CDR)を含む。(例えば、Kindt et al.,Kuby Immunology,6thed.,W.H.Freeman and Co.p91(2007)参照)。単一のVHドメインまたはVLドメインは、抗原結合特異性を付与するのに十分であり得る。
【0051】
本明細書に用いられるように、「結合」または「特異的に結合」という用語は、結合作用が抗原に対して選択的であり、かつ不要または非特異的な相互作用と区別できることを意味する。特定の抗原に対する抗体の結合能力は、酵素結合免疫吸着測定(ELISA)、SPR、バイオレイヤー干渉法または当該分野で知られている他の通常の結合測定法により測定することができる。
【0052】
「複合体」は、1つまたは複数の他の物質(細胞傷害剤または標識を含むが、これらに限定されない)と結合した抗体である。
【0053】
「抑制」または「阻害」という用語は、所定の分子の特定のパラメータ(例えば、活性)を低下させることを指す。例えば、この用語は、所定の分子(例えばBCMA)の少なくとも5%、10%、20%、30%、40%もしくはそれ以上の活性を阻害する物質を含む。したがって、阻害効果は必ずしも100%とは限らない。
【0054】
「個体」または「対象」という用語は、互換的に使用可能であり、哺乳動物を含む。哺乳動物は、家畜(例えば、ウシ、ヤギ、ネコ、イヌおよびウマ)、霊長類(例えば、ヒトおよびサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)を含むが、これらに限定されない。特に、個体または対象はヒトである。
【0055】
「腫瘍」および「癌」という用語は、本明細書において互換的に使用され、固形腫瘍と液性腫瘍を含む。
【0056】
「がん」および「がん性」という用語は、哺乳動物における、細胞の成長が調節されない生理障害を指す。
【0057】
「腫瘍」という用語は、悪性か良性かを問わず、全ての腫瘍性(neoplastic)の細胞の成長と増殖、および全ての前癌性(pre-cancerous)と癌性の細胞や組織を指す。「癌」、「癌性」および「腫瘍」という用語は、本明細書で言及される場合、互いに排他的ではない。
【0058】
本明細書で使用される「標識」という用語は、試薬(例えば、抗体)に直接的または間接的に結合または融合され、かつ、その結合または融合の対象試薬による検出を促進する化合物または組成物を指す。標識は、それ自体が検出可能(例えば、放射性同位体標識または蛍光標識)であるか、または、酵素触媒によって標識される場合に、検出可能な基質化合物または組成物の化学的改変に触媒作用を及ぼすことができる。当該用語は、検出可能な物質をプローブまたは抗体にカップリング(すなわち、物理的連結)させることによってプローブもしくは抗体を直接標識すること、および直接標識されている別の試薬との反応によりプローブもしくは抗体を間接的に標識することを含む。間接的な標識の例は、蛍光標識されている二次抗体による一次抗体の検出、および、蛍光標識されているストレプトアビジンタンパク質で検出可能な、ビオチンを有するDNAプローブの末端標識の使用を含む。
【0059】
「単離された」抗体は、その天然環境の成分から分離されているものを指す。いくつかの実施形態では、抗体は、純度が95%または99%を超えるように精製され、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)またはクロマトグラフィー(例えば、イオン交換もしくは逆相HPLC)によって決定される。抗体純度を評価するための方法についての概要は、例えば、Flatman et al.,J.Chromatogr.B848:79ー87(2007)が参照される。
【0060】
「単離された」核酸は、その自然環境の成分と分離されている核酸分子を指す。単離された核酸は、一般に当該核酸分子を含む細胞内に含まれる核酸分子を含むが、当該核酸分子は染色体外またはその天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する。「BCMA抗体をコードする単離された核酸」は、BCMA抗体の鎖またはその断片をコードする1つまたは複数の核酸分子を指し、単一のベクターまたは別々のベクター内におけるそのような核酸分子、および、宿主細胞内の1つまたは複数の位置に存在するそのような核酸分子を含む。
【0061】
以下のように、配列間の配列同一性を算出する。
【0062】
2つのアミノ酸配列または2つの核酸配列の同一性パーセンテージを決定するために、前記配列を最適比較のためにアラインメントを行う(例えば、最適アラインメントのために第1と第2のアミノ酸配列または核酸配列の一方もしくは両方にギャップを導入してもよく、あるいは比較のために、非相同配列を捨ててもよい)。一好ましい実施形態では、比較のために、アラインメントされる参照配列の長さは、参照配列の長さの少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、60%、さらに好ましくは少なくとも70%、80%、90%、100%である。次に、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置におけるアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第1の配列における位置が、第2の配列における対応の位置での同一のアミノ酸残基またはヌクレオチドによって占有されている場合、上記分子はこの位置において同一である。
【0063】
数学アルゴリズムにより、2つの配列間の配列比較および同一性パーセンテージの計算を実現することができる。一好ましい実施形態において、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセンテージは、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムに統合されたNeedlemaおよびWunsch((1970)J.Mol.Biol.48:444-453)アルゴリズム(http://www.gcg.comにて取得可能)により、Blossum 62行列もしくはPAM250行列、およびギャップ重み16、14、12、10、8、6もしくは4と長さ重み1、2、3、4、5もしくは6を用いて決定される。別の好ましい実施形態において、GCGソフトウェアパッケージにおけるGAPプログラム(http://www.gcg.comにて取得可能)により、NWSgapdna.CMP行列、およびギャップ重み40、50、60、70もしくは80と長さ重み1、2、3、4、5もしくは6を用いて、2つのヌクレオチド配列間の同一性パーセンテージを決定する。特に好ましいパラメータセット(および特に断りのない限り使用すべき1つのパラメータセット)は、ギャップペナルティ12、ギャップ伸長ペナルティ4、およびフレームシフトギャップペナルティ5のBlossum 62スコアリング行列を採用する。
【0064】
また、PAM120加重余り表、ギャップ長ペナルティ12、ギャップペナルティ4を利用して、ALIGNプログラム(2.0版)に統合されたE.MeyersとW.Millerアルゴリズム((1989)CABIOS、4:11-17)により、2つのアミノ酸配列またはヌクレオチド配列間の同一性パーセンテージを決定してもよい。
【0065】
追加的にまたは選択的に、本明細書に記載の核酸配列とタンパク質配列を「問い合わせ配列」として利用してパブリックデータベースに対して検索を実行することにより、例えば、他のファミリーメンバーの配列または関連配列を同定することができる。
【0066】
「アミノ酸変化」および「アミノ酸修飾」という用語が互換的に使用することができ、アミノ酸の付加、欠失、置換および他の修飾を指す。アミノ酸の付加、欠失、置換および他の修飾の任意の組み合わせが、最終的なポリペプチド配列が所望の特性を有することを条件として、行うことができる。いくつかの実施形態では、抗体のアミノ酸置換は、抗体のFc受容体への結合の低下をもたらす。例えばFc領域の結合特性を改変する目的で、非保存的アミノ酸置換、すなわち、異なる構造および/または化学的特性を有する別のアミノ酸による1つのアミノ酸の置換が特に好ましい。アミノ酸置換は、非天然アミノ酸または20種の標準アミノ酸の天然アミノ酸誘導体(例えば、4-ヒドロキシプロリン、3-メチルヒスチジン、オルニチン、ホモセリン、5-ヒドロキシリジン)による置換を含む。当該分野で公知の遺伝的または化学的方法を用いてアミノ酸変化を生じることができる。遺伝的方法は、部位特異的変異誘発、PCR、遺伝子合成などを含むことができる。遺伝子工学以外の方法(例えば化学修飾)によりアミノ酸側鎖基を改変する方法は有用であり得る。本明細書では、同じアミノ酸変化を表すために、様々な名称を使用することができる。例えば、Fcドメインの329位のプロリンからグリシンへの置換は、329G、G329、G329、P329G Pro329Glyと表すことができ、あるいは「PG」と略称される。
【0067】
「保存的配列修飾」、「保存的配列変化」という用語は、アミノ酸配列を含む抗体または抗体断片の結合特性に顕著に影響を与えないか、またはそれを変化させないアミノ酸修飾または変化を指す。そのような保存的修飾は、アミノ酸の置換、付加および欠失を含む。部位特異的変異誘発およびPCR媒介性変異誘発などの当該分野で公知の標準技術によって、本発明の抗体または抗体断片に修飾を導入することができる。保存的置換は、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換されたアミノ酸置換である。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該分野において定義されている。これらのファミリーは、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β-側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸を含む。
【0068】
「医薬組成物」という用語は、それに含まれる活性成分の生物学的活性を有効にする形態で存在するとともに、上記組成物が投与された対象に許容されない毒性がある別の成分を含まない組成物を指す。
【0069】
「薬学的に許容可能な担体(carrier)」という用語は、活性物質とともに投与される希釈剤、アジュバント(例えば、フロイントアジュバント(完全もしくは不完全))、賦形剤、緩衝剤または安定化剤などを指す。
【0070】
「BCMAに関連する疾患」という用語は、BCMAの発現または活性の増加によって引き起こされ、悪化し、あるいは他の方式で関連する任意の疾患を指す。
【0071】
本明細書で使用される場合、「治療」とは、存在している症状、病症、病徴または疾患の進行もしくは重症度を軽減、中断、遅延、寛解、停止、低減、または逆転することを指す。所望の治療効果は、疾患の発生または再発の防止、症状の軽減、疾患のいかなる直接的または間接的な病理学的結果の減少、転移の防止、疾患の進行速度の低減、疾患状態の改善または緩和、および予後の緩和または改善を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、本発明の抗体分子は、疾患の発症を遅延させるため、または疾患の進行を低下させるためのものである。
【0072】
本明細書で使用される場合、「予防」は、疾患、病症、または特定の疾患もしくは病症にかかる症状の発生または進行に対する阻害を含む。いくつかの実施形態では、癌の家族歴がある対象は、予防プログラムの候補である。一般的に、癌の背景では、「予防」という用語は、癌にかかる病徴または症状が生じる前に、特に、癌に罹患するリスクのある対象に癌が生じる前の薬物投与を指す。
【0073】
「有効量」という用語は、1回分もしくは複数回分の用量で患者に投与された後、治療または予防が必要な患者に所望の効果が得られるという本発明の抗体または組成物の量または用量を指す。有効量は、当業者である主治医が、例えば、哺乳動物の生物種、体重、年齢および一般的健康状態、かかる具体的な疾患、疾患の程度もしくは重症度、個々の患者の応答、投与される具体的な抗体、投与形態、投与製剤の生物学的利用能の特徴、選ばれる投与計画、および任意の併用療法の適用などの様々な要因を考慮して容易に決定することができる。
【0074】
「治療有効量」とは、必要な期間にわたって必要な用量で所望の治療結果を効果的に実現するための量を指す。抗体もしくは抗体断片またはその組成物の治療有効量は、例えば、疾患の状態、個体の年齢、性別と重量、および抗体もしくは抗体部分が個体に所望の反応を起こす能力などの様々な要因によって変更することができる。治療有効量は、抗体もしくは抗体断片またはその組成物の任意の毒性または有害作用が有益な治療効果に及ばないという量であってもよい。治療を受けていない対象に対して、「治療有効量」は、計測可能なパラメータ(例えば、腫瘍増殖率、腫瘍体積など)の少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約40%、さらに好ましくは少なくとも約50%、60%もしくは70%、さらに好ましくは少なくとも約80%もしくは90%が抑制されることが好ましい。ヒト腫瘍における効能を示す動物モデルシステムにおいて、計測可能なパラメータ(例えば、がん)に対する化合物の抑制能力を評価することができる。
【0075】
「予防有効量」とは、必要な期間にわたって必要な用量で所望の予防結果を効果的に実現するための量を指す。一般的に、予防目的の用量が対象における疾患の初期段階より前にまたは疾患の初期段階に適用されるため、予防有効量は治療有効量を下回る。
【0076】
本明細書において核酸に言及する場合に使用される用語「ベクター(vector)」は、それに連結された別の核酸を増殖させることができる核酸分子を指す。当該用語は、自己複製の核酸構造であるベクター、およびそれが導入された宿主細胞のゲノムに結合されたベクターを含む。いくつかのベクターは、それに効果的に連結された核酸の発現をガイドすることができる。かかるベクターは本明細書において、「発現ベクター」と呼ばれる。
【0077】
「宿主細胞」という用語は、既に外因性ポリヌクレオチドが導入された細胞を指し、かかる細胞の子孫を含む。宿主細胞は、「形質転換体」および「形質転換された細胞」を含み、初代より形質転換された細胞およびそれより誘導された子孫を含むが、継代数を考慮しない。子孫は、核酸の内容において親細胞とは全く同じではない可能性があり、変異を含んでもよい。本明細書では、初代形質転換細胞からスクリーニングまたは選択された同じ機能または生物学的活性を有する変異体子孫を含む。宿主細胞は、本発明の抗体分子の産生に使用可能な任意のタイプの細胞系であってもよく、哺乳動物細胞、昆虫細胞、酵母細胞などの真核細胞と、大腸菌細胞などの原核細胞とを含む。宿主細胞は、培養された細胞を含み、遺伝子組換え動物、遺伝子組換え植物または培養された植物組織もしくは動物組織の内部の細胞を含む。
【0078】
「対象/患者試料」は、患者または対象から得た細胞、組織または体液の集まりを指す。組織または細胞試料の由来としては、新鮮な、冷凍されたおよび/または保存された器官や組織試料や生検試料や穿刺試料などの固形組織、血液もしくは任意の血液成分、脳脊髄液、羊膜液(羊水)、腹膜液(腹水)や間質液などの体液、対象における妊娠もしくは発育の任意段階に由来する細胞であってもよい。組織試料は、自然界において天然に組織と混ぜ合わせない化合物、例えば、防腐剤、抗凝固剤、緩衝剤、固定剤、栄養素、抗生物質などを含んでもよい。本明細書に言及される腫瘍試料の非限定的な例は、腫瘍生検試料、吸引物、気管支肺胞洗浄液、胸膜腔内液(胸水)、痰、尿、手術標本、遊走する腫瘍細胞、血清、血漿、遊走する血漿タンパク質、腹水、腫瘍から誘導されたかもしくは腫瘍様の特性を示す初代細胞培養物または細胞株、あるいはホルマリンで固定されたかもしくはパラフィンで包埋された腫瘍試料もしくは冷凍された腫瘍試料などの保存された腫瘍試料を含む。
【0079】
II.本発明にかかるBCMA分子に特異的に結合する抗体および変異Fcドメインを含むその抗体
【0080】
本発明は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む、高い標的特異性および高い親和性でBCMAに結合する抗体を提供し、ここで、
【0081】
(a)上記重鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、GSIVSSSYYWT(配列番号19)に示されるHCDR1、または上記HCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、SISIAGSTYYNPSLKS(配列番号20)に示されるHCDR2、または上記HCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびARDRGDTILDV(配列番号21)に示されるHCDR3、または上記HCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、上記軽鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、RASQSISRYLN(配列番号28)に示されるLCDR1、または上記LCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、AASSLQS(配列番号29)に示されるLCDR2、または上記LCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびQQKYFDIT(配列番号30)に示されるLCDR3、または上記LCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、
【0082】
(b)上記重鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、GSIVSSSYYWT(配列番号37)に示されるHCDR1、または上記HCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、SISIAGSTYYNPSLKS(配列番号38)に示されるHCDR2、または上記HCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびARDRGDQILDV(配列番号39)に示されるHCDR3、または上記HCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、上記軽鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、RASQSISRYLN(配列番号46)に示されるLCDR1、または上記LCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、AASSLQS(配列番号47)に示されるLCDR2、または上記LCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびQQKYFDIT(配列番号48)に示されるLCDR3、または上記LCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、
【0083】
(c)上記重鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、GTFSNDVIS(配列番号73)に示されるHCDR1、または上記HCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、VIIPIFGIANYAQKFQG(配列番号74)に示されるHCDR2、または上記HCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびARGRGYYSSWLLDI(配列番号75)に示されるHCDR3、または上記HCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、上記軽鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、QASQDITNYLN(配列番号82)に示されるLCDR1、または上記LCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、DASNLET(配列番号83)に示されるLCDR2、または上記LCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびQQAFDLIT(配列番号84)に示されるLCDR3、または上記LCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、あるいは
【0084】
(d)上記重鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、GTFSNDVIS(配列番号91)に示されるHCDR1、または上記HCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、VIIPIFGIANYAQKFQG(配列番号92)に示されるHCDR2、または上記HCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびARGRGYYSSWLHDI(配列番号93)に示されるHCDR3、または上記HCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、上記軽鎖可変領域は、Kabat番号付けによる、QASQDITNYLN(配列番号100)に示されるLCDR1、または上記LCDR1の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、DASNLET(配列番号101)に示されるLCDR2、または上記LCDR2の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体、およびQQAFDLIT(配列番号102)に示されるLCDR3、または上記LCDR3の2個以下のアミノ酸変化もしくは1個以下のアミノ酸変化の変異体を含み、
【0085】
ここで、上記アミノ酸変化は、アミノ酸の付加、欠失または置換である。
【0086】
いくつかの実施形態では、本発明にかかるBCMA分子に結合する抗体は、ヒト、カニクイザル、マウス、ラットおよびウサギのBCMAなどの哺乳動物BCMAに結合する。
【0087】
いくつかの実施形態では、本発明にかかるBCMA分子に結合する抗体は、BCMAに特異的に結合する重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、ここで、
【0088】
(a)上記重鎖可変領域は、配列番号27の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、かつ上記軽鎖可変領域は、配列番号36の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、
【0089】
(b)上記重鎖可変領域は、配列番号45の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、かつ上記軽鎖可変領域は、配列番号54の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、
【0090】
(c)上記重鎖可変領域は、配列番号81の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、かつ上記軽鎖可変領域は、配列番号90の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、あるいは
【0091】
(d)上記重鎖可変領域は、配列番号99の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、かつ上記軽鎖可変領域は、配列番号108の配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列を含み、
【0092】
ここで、上記少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有する配列におけるアミノ酸変化は、好ましくはアミノ酸置換、より好ましくはアミノ酸保存的置換であり、好ましくは、上記アミノ酸変化はCDR領域に生じない。
【0093】
いくつかの実施形態では、本発明にかかるBCMA分子に結合する抗体は、IgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4抗体であり、好ましくは、IgG1もしくはIgG4抗体であり、より好ましくは、ヒトIgG1抗体などのIgG1抗体である。
【0094】
いくつかの実施形態では、本明細書により提供されるBCMA分子に結合する抗体は、変異Fcドメインを含み、ここで、EU番号付けによるP329位置のアミノ酸はグリシン(G)に変異し、非変異親抗体FcドメインのFcγ受容体結合と比較して、変異FcドメインのFcγ受容体結合が減少し、例えば、上記変異FcドメインはIgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4抗体の変異Fcドメインであり、好ましくは、上記変異FcドメインはIgG1もしくはIgG4抗体の変異Fcドメインであり、より好ましくは、上記変異FcドメインはIgG1抗体の変異Fcドメインであり、例えば、上記変異FcドメインはヒトIgG1抗体の変異Fcドメインである。
【0095】
BCMA分子に結合した、P329G変異Fcドメインを含む抗体は、Fcγ受容体に結合することで抗体依存性細胞傷害性を発揮することができず、抗体依存性細胞貪食作用(ADCP)を発揮することもできない。
【0096】
いくつかの実施形態では、本発明にかかるBCMA分子に結合する抗体は、以下の特性:
(1)高い親和性でヒトBCMA、カニクイザルBCMAおよびマウスBCMAなどのBCMAに結合する特性であって、例えば、ForteBio動力学結合測定法により測定すると、上記抗BCMA抗体またはその抗原結合断片とBCMAとの間の結合Kは約10-9M~約10-12Mである、上記結合する特性、
【0097】
(2)細胞表面で発現するBCMAに特異的に結合する特性、
(3)BCMAを発現する細胞に対してADCC細胞傷害殺傷効果を有する特性、
(4)BCMAを発現する細胞に対してADCP殺傷効果を有する特性、
(5)ヒトBCMAを発現する細胞(特に多発性骨髄腫細胞)の成長を阻害および抑制し、かつ/または上記細胞を死滅させる特性、ならびに
【0098】
(6)BCMAを発現する腫瘍に対してインビボ抗腫瘍効果を有するとともに、明らかな毒性・副作用がない特性、
【0099】
を1つまたは複数有する。
いくつかの実施形態では、本発明は、BCMA分子に結合する上記抗体またはその断片のいずれかまたはその鎖のいずれかをコードする核酸を提供する。一実施形態において、上記核酸を含むベクターを提供する。一実施形態において、ベクターは発現ベクターである。一実施形態において、上記核酸または上記ベクターを含む宿主細胞を提供する。一実施形態において、宿主細胞は真核のものである。別の実施形態において、宿主細胞は、酵母細胞、哺乳動物細胞(例えば、CHO細胞もしくはHEK293細胞)あるいは抗体またはその抗原結合断片の調製に適した他の細胞から選択される。別の実施形態において、宿主細胞は原核のものである。
【0100】
例えば、本発明の核酸は、本発明にかかるBCMA分子に結合する抗体をコードする核酸を含む。いくつかの実施形態において、上記核酸を含む1つまたは複数のベクターを提供する。一実施形態において、ベクターは発現ベクター、例えば、真核発現ベクターである。ベクターは、ウイルス、プラスミド、コスミド、λファージまたは酵母人工染色体(YAC)を含むが、これらに限定されない。一実施形態において、ベクターはpcDNA3.4発現ベクターである。
【0101】
発現のための発現ベクターまたはDNA配列が調製されると、発現ベクターを適切な宿主細胞にトランスフェクションまたは導入することができる。この目的を達成するために、例えば、プロトプラスト融合、リン酸カルシウム共沈殿、エレクトロポレーション、レトロウイルス形質導入、ウイルストランスフェクション、パーティクルガン、脂質ベースのトランスフェクションまたは他の通常技術のような様々な技術を利用することができる。プロトプラスト融合の場合、細胞を培地において培養して適切な活性をスクリーニングする。産生されたトランスフェクション細胞の培養と産生された抗体分子の回収のための方法と条件は、当業者に知られているもので、かつ本明細書および従来技術で既知の方法により、使用される特定の発現ベクターと哺乳動物宿主細胞によって変更または最適化することができる。
【0102】
また、トランスフェクションされた宿主細胞を選択可能な1つまたは複数のマーカーを導入することにより、その染色体にDNAが安定的に導入された細胞を選択することができる。マーカーは、栄養要求性宿主に原栄養性、殺生物剤(例えば、抗生物質)耐性または重金属(例えば、銅)耐性などを付与することができる。選択可能な標識遺伝子は、発現すべきDNA配列と直接連結されるか、または同時形質転換により同じ細胞に導入することができる。mRNA合成の最適化のために、追加の要素を必要とする可能性がある。これらの要素は、スプライシングシグナル、転写プロモーター、エンハンサー、および終結シグナルを含んでもよい。
【0103】
一実施形態において、本発明のポリヌクレオチドを含む宿主細胞を提供する。いくつかの実施形態において、本発明の発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。いくつかの実施形態において、宿主細胞は、酵母細胞、哺乳動物細胞または抗体の調製に適した他の細胞から選択される。好適な宿主細胞は、大腸菌などの原核微生物を含む。宿主細胞は、糸状真菌もしくは酵母などの真核微生物、または昆虫細胞などのさまざまな真核細胞であってもよい。脊椎動物の細胞を宿主として用いてもよい。例えば、懸濁成長に適するように改変された哺乳動物細胞株を使用することができる。使用可能な哺乳動物宿主細胞株の例としては、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7)、ヒト胎児腎臓株(HEK293または293F細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、サル腎臓細胞(CV1)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76)、ヒト子宮頸がん細胞(HELA)、イヌ腎臓細胞(MDCK)、バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A)、ヒト肺細胞(W138)、ヒト肝臓細胞(HepG2)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、CHO-S細胞、NSO細胞、YO、NS0、P3X63およびSp2/0などの骨髄腫細胞株が含まれる。タンパク質の産生に適した哺乳動物宿主細胞株についての概説は、例えば、Yazaki&Wu,Methods in Molecular Biology,第248巻(edited by B.K.C.Lo,Humana Press,Totowa,NJ),p255~268(2003)が参照される。一好ましい実施形態では、上記宿主細胞は、CHO細胞またはHEK293細胞である。
【0104】
一実施形態において、本発明は、BCMA分子に結合する抗体(P329G変異抗体を含む)を調製する方法を提供し、上記方法は、上記BCMA分子に結合する抗体(P329G変異抗体を含む)をコードする核酸の発現に適した条件において、上記BCMA分子に結合する抗体(P329G変異抗体を含む)をコードする核酸または上記核酸を含む発現ベクターを含む宿主細胞を培養することを含み、および任意に、上記BCMA分子に結合する抗体(P329G変異抗体を含む)を単離することを含む。ある実施形態において、上記方法は、上記宿主細胞(または宿主細胞培地)からBCMA分子に結合する抗体(P329G変異抗体を含む)を回収することをさらに含む。
【0105】
本明細書に記載されるように調製された本発明にかかるBCMA分子に結合する抗体(P329G変異抗体を含む)は、高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーなどの既知の従来技術により精製することができる。特定のタンパク質を精製するための実際の条件は、正味電荷、疎水性、親水性などの要因にも依存し、かつこれらは当業者にとって自明である。サイズ排除クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、高速液体クロマトグラフィーなどを含む、さまざまな既知の分析方法のいずれか1つによって、本発明にかかるBCMA分子に結合する抗体(P329G変異抗体を含む)の純度を決定することができる。
【0106】
当該分野で既知のさまざまな測定法によって、本明細書により提供されるBCMA分子に結合する抗体(P329G変異抗体を含む)に対して、同定、スクリーニングまたはその物理的/化学的特徴および/または生物学的活性の特徴付けを行うことができる。一態様では、例えば、FACS、ELISAまたはWesternブロッティングなどの既知の方法によって、本発明にかかるBCMA分子に結合する抗体(P329G変異抗体を含む)に対してその抗原結合活性を試験する。当該分野で既知の方法によって、BCMAへの結合を測定することができ、本明細書には例示的な方法が開示されている。いくつかの実施形態では、FACSを用いて、本発明にかかるBCMA分子に結合する抗体(P329G変異抗体を含む)の、細胞表面BCMA(例えばヒトBCMA)への結合を測定する。
【0107】
本発明は、BCMA分子に結合した、生物学的活性を有する抗体(P329G変異抗体を含む)を同定するための測定法をさらに提供する。生物学的活性は、例えばADCC作用、CDC作用などを含んでもよい。
【0108】
いずれの上記インビトロ測定法に使用される細胞も、BCMAを天然に発現するか、または改変によりBCMAを発現する細胞株を含む。改変によりBCMAを発現する上記細胞株は、正常な場合にBCMAを発現しないが、BCMAをコードするDNAが細胞にトランスフェクションされた後にBCMAを発現する細胞株である。
【0109】
III.融合物および複合体
【0110】
本発明は、本発明にかかる抗体を含む融合物または複合体を提供する。本発明の抗体を異種分子に融合または結合することによって融合物または複合体を生成することができる。
【0111】
いくつかの実施形態では、本発明にかかる抗体のポリペプチドは、1つまたは複数の異種分子と融合または結合することができ、ここで、上記異種分子は、タンパク質/ポリペプチド/ペプチド、マーカー、薬物および細胞傷害剤を含むが、これらに限定されない。タンパク質、ポリペプチドもしくはペプチドまたは化学分子が抗体と融合または結合する方法は、本分野において既知である。例えば、US5,336,603、US5,622,929およびEP367,166を参照する。
【0112】
一実施形態において、本発明にかかる抗体は、異種タンパク質またはポリペプチドもしくはペプチドと組換えて融合することで融合タンパクを形成する。もう1つの実施形態において、本発明にかかる抗体は、タンパク質分子または非タンパク質分子と結合することで複合体を生成する。
【0113】
いくつかの実施形態において、本発明にかかる抗体は、全長抗体または抗体断片の形式で異種分子と融合または結合することができる。
【0114】
リンカーは本発明にかかる融合物および/または複合体における異なる実体を共有結合して連結するために用いられる。リンカーは、化学リンカーまたは単鎖ペプチドリンカーを含む。いくつかの実施形態において、本発明にかかる抗体は、ペプチドリンカーによってその他のペプチド断片またはタンパク質に融合される。いくつかの実施形態において、本発明にかかる抗体は、化学リンカーによってその他の分子、例えば、マーカーまたは薬物分子に結合される。
【0115】
本発明のペプチドリンカーは、アミノ酸残基からなるペプチドを含む。このようなリンカーペプチドは、通常、フレキシブルであり、それに連結される抗原結合部分が独立して移動できる。リンカーペプチドの長さは、当業者が実際の状況によって容易に決定するものであり、例えば、長さが少なくとも4個~15個のアミノ酸であり、またはより長く、例えば、約20個~25個のアミノ酸である。
【0116】
IV.診断および検出のための方法および組成物
【0117】
本発明は、診断および検出における、本発明にかかる抗BCMA抗体、融合物または複合体の使用を提供する。本明細書に提供される抗BCMA抗体、融合物または複合体はいずれも、生体試料におけるヒトBCMAの存在を検出するために用いられる。
【0118】
本明細書に用いられる「検出」という用語は、定量的または定性的な検出を含む。例示的な検出方法は、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー(例えば、FACS)、抗体分子による複合の磁気ビーズ、ELISA測定法、PCR-技術(例えば、RT-PCR)を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、生体試料は、体液、細胞または組織を含む。いくつかの実施形態において、生体試料は、血、血清または生物に由来する他の液体試料である。
【0119】
一実施形態において、抗BCMA抗体、融合物または複合体の診断または検出のための方法を提供する。更なる態様において、生体試料におけるBCMAの存在を検出する方法を提供する。一部の実施形態において、当該方法は、抗BCMA抗体、融合物または複合体がBCMAとの結合を許容する条件下で、生体試料を本出願に記載の抗BCMA抗体、融合物または複合体と接触させるとともに、抗BCMA抗体、融合物または複合体とBCMAとの間に複合物が形成されたか否かを検出することを含む。このような方法は、インビトロでもインビボ方法でもよい。
【0120】
一実施形態において、抗BCMA抗体、融合物または複合体を、例えば、BCMAが患者の選択した生物的マーカーに用いられる場合、抗BCMA抗体治療に適切な対象を選択するために用いる。本発明の抗体、融合物または複合体を使用して診断できる例示的な病症は、B細胞関連疾患、例えば、多発性骨髄腫を含む。いくつかの実施形態において、本発明の抗体、融合物または複合体で多発性骨髄腫(MM)患者を分類する方法を提供し、上記方法は、上記患者のB細胞、好ましくは悪性B細胞が上記B細胞の表面にBCMAタンパク質を発現するか否かを決定することを含み、ここで、上記B細胞がその表面にBCMAタンパクを発現する場合、上記患者がそれに応じてBCMAを標的部位としての治療剤(例えば、抗BCMA抗体)を用いて治療する可能性がある。いくつかの実施形態において、抗BCMA抗体は、診断剤または検出可能な試薬と結合することができる。いくつかの実施形態において、本発明は、本発明のいかなる抗BCMA抗体、融合物または複合体を含む、診断または検出のための試薬キットを提供する。
【0121】
V.治療のための方法および組成物
【0122】
本発明は、B細胞関連疾患を治療する方法であって、上記対象に有效量の本発明にかかる抗体もしくはその抗原結合断片、あるいは本発明の融合物もしくは複合体を投与することを含む、方法を提供する。
【0123】
B細胞関連疾患は、異常なB細胞の活性に関連する病症であり、B細胞悪性腫瘍、形質細胞悪性腫瘍、自己免疫疾患を含むが、これらに限定されない。BCMA抗体を使用して治療できる例示的な病症は、例えば、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、未定悪性度のB細胞増殖、リンパ腫様肉芽腫症、移植後リンパ増殖疾患、免疫調節疾患、関節リウマチ、重症筋無力症、特発性血小板減少性紫斑病、抗リン脂質症候群、シャーガス病、グレーブス病、ウェゲナー肉芽腫、結節性多発動脈炎、シェーグレン症候群、尋常性天疱瘡、強皮症、多発性硬化症、ANCA関連血管炎、グッドパスチャー症候群、川崎病、自己免疫性溶血性貧血、および急速進行性糸球体腎炎、重鎖病、原発性もしくは免疫細胞関連アミロイドーシス、もしくは意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症、全身性エリテマトーデス、リューマチ性関節炎を含む。
【0124】
いくつかの実施形態において、本発明にかかる抗体、融合物および複合体は、ヒトB細胞関連疾患、例えば、B細胞悪性腫瘍、好ましくは、多発性骨髄腫(MM)または非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療のために用いられる。いくつかの実施形態において、本発明にかかる抗BCMA抗体、融合物および複合体の抗腫瘍作用は、例えば、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞数の減少、腫瘍細胞増殖の減少または腫瘍細胞生存の減少を含むが、これらに限定されない。
【0125】
本発明のBCMA抗体、融合物および複合体をその他の治療形式と組み合せて投与して、上記疾病、例えば、腫瘍の治療のために用いることができることが理解すべきである。上記その他の治療形式は、治療剤、放射線療法、化学療法、移植、免疫療法などを含む。いくつかの実施形態において、本発明にかかる抗体分子、融合物および複合体とその他の治療剤とを組み合わせて用いる。例示的な治療剤は、サイトカイン、成長因子、ステロイド、NSAID、DMARD、抗炎剤、化学療法剤、放射線治療剤、治療性抗体またはその他の活性剤と補助剤、例えば、抗腫瘍薬物を含む。
【0126】
本発明の理解を補助するために、以下の実施例を説明する。いかなる方法によって、実施例を、本発明の請求範囲を制限するものと解釈する意図もなく、そうすべきでもない。
【実施例
【0127】
実施例1 BCMA親和性が改善された抗体の生成および発現
国際出願番号PCT/CN2019/074419(BCMA抗体関連特許)からBCMA親抗体ADI-34861の重鎖可変領域配列および軽鎖可変領域配列(それぞれ配列番号9に示されるVH、配列番号18に示されるVL配列)ならびにBCMA親抗体ADI-34857の重鎖可変領域配列および軽鎖可変領域配列(それぞれ配列番号63に示されるVH、配列番号72に示されるVL配列)を得た。
【0128】
BCMAに対する親和性が改善された抗体を得るために、本実施例は、BCMA親抗体ADI-34861およびADI-34857に対して、親和性変異体設計および機能測定を行った。
【0129】
標準方法(Silacciら、(2005)、Proteomics5、2340-50)を使用し、ファージディスプレイ法により親抗体ADI-34861およびADI-34857に由来する親和性成熟Fabの生成を実施した。親抗体ADI-34861の数回のパニング後、親和性成熟抗体ADI-38491(配列番号27に示されるVH、配列番号36に示されるVL配列を有する)および抗体ADI-38497(配列番号45に示されるVH、配列番号54に示されるVL配列を有する)を最初に得、親抗体ADI-34857の数回のパニング後、親和性成熟抗体ADI-38481(配列番号81に示されるVH、配列番号90に示されるVL配列を有する)および抗体ADI-38484(配列番号99に示されるVH、配列番号108に示されるVL配列を有する)を最初に得た。
【0130】
抗体ADI-38491の重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列(配列番号26)および軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列(配列番号35)、抗体ADI-38497の重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列(配列番号44)および軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列(配列番号53)、抗体ADI-38481の重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列(配列番号80)および軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列(配列番号89)、抗体ADI-38484の重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列(配列番号98)および軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列(配列番号107)を、軽鎖および重鎖定常領域断片を含む改変された真核発現ベクタープラスミドpcDNA3.3(Invitrogen)にそれぞれ構築し、製造業者の指示に従って、ExpiCHO一過性発現システム(Thermo Fisher、A29133)を使用してCHO-K細胞において抗体の全長重鎖および軽鎖を共発現した後、タンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーにより精製し、抗体ADI-38491、抗体ADI-38497、抗体ADI-38481および抗体ADI-38484を得た。
【0131】
実施例2 Fortebioによる抗体親和性の検出
【0132】
Fortebio社のOctet QKe system機器を使用し、抗ヒト抗体Fcセグメントの捕捉抗体(AHC)バイオプローブによる抗体Fcセグメントの捕捉方法により抗体親和性を測定した。具体的な操作は、以下の通りである。
【0133】
抗体ADI-34861、抗体ADI-38491、抗体ADI-38497、抗体ADI-34857、抗体ADI-38481および抗体ADI-38484をPBS緩衝液でそれぞれ4μg/mLに希釈し、AHCプローブ(Cat:18-0015、PALL)の表面を120s流した。ヒト、カニクイザル、マウスBCMA(60nM)を流動相として使用し、結合時間は180s、解離時間は180sであった。実験終了後、ブランク対照(PBS緩衝液)応答値を除き、ソフトウェアを用いて1:1のLangmuir結合モードのフィッティングを行い、抗原抗体結合の速度定数を計算した。速度定数を下記の表1に示した。
【0134】
結果は、対応する親抗体ADI-34861と比較して、変異後の抗体ADI-38491、抗体ADI-38497の親和性が顕著に向上し、対応する親抗体ADI-34857と比較して、変異後の抗体ADI-38481、抗体ADI-38484の親和性が顕著に向上することを示した。
【表1】
【0135】
実施例3 細胞に基づく抗体機能の測定
細胞表面で発現されるBCMAに対する抗体の結合親和性を試験するために、3種の細胞(NCI-H929細胞、BCMA-KO-H929細胞およびヒトBCMA CHO-S細胞)を用いて測定した。NCI-H929細胞(明細書でH929細胞とも略称)(南京科佰生物科技有限公司から購入)は、BCMA分子を細胞表面で天然に発現するヒト多発性骨髄腫細胞株であり、BCMA-KO-H929細胞は、H929細胞に基づいて、CRISPR-Cas9技術により、BCMA遺伝子を特異的に標的としてフレームシフト変異を引き起こさせて、さらにBCMA分子を正常に発現することができない細胞株(南京金斯瑞生物科技有限公司に構築を委託)であり、ヒトBCMA CHO-S細胞は、外因性ヒトBCMAをCHO-S細胞に導入して調製された。ヒトBCMA CHO-S細胞の調製方法:ヒトBCMA(NP_001183.2、配列番号109)をコードする配列をpcDNA3.3(Invitrogen)ベクターのポリクローナルサイトにクローニングし、ヒトBCMAを発現する発現ベクターを得て、次にヒトBCMAを発現する当該発現ベクターをCHO-S細胞(ATCC)に導入して真核発現を行い、細胞表面でヒトBCMAを発現するCHO-S細胞を得た。
【0136】
ヒトBCMA CHO-S細胞またはH929細胞を、1.0×10細胞/ウェルで96ウェルプレートに接種し、希釈した10nMの各抗体(抗体ADI-34861、抗体ADI-38491、抗体ADI-38497、抗体ADI-34857、抗体ADI-38481および抗体ADI-38484)を添加した。4℃で30分間インキュベートした後、細胞を洗浄し、APCで標識されたヤギ抗ヒトIgG二次抗体(Jackson ImmunoResearch Inc、カタログ番号:109-136-097、アロフィコシアニンで標識された、F(ab’)断片に特異的に結合するヤギ抗ヒトIgG二次抗体F(ab’)断片(Allophycocyanin(APC)AffiniPure F(ab’) Fragment Goat Anti-Human IgG、F(ab’) fragment specific))100μLを添加し、4℃で30分間インキュベートした。次に、細胞を洗浄し、フローサイトメトリー(Beckman Coulter)により各抗体の、細胞表面で発現されるBCMA分子への結合を検出した。CHO-S細胞を陰性対照として使用した。
【表2】
【0137】
表2から分かるように、抗体ADI-34861、抗体ADI-38491、抗体ADI-38497はいずれも、細胞表面で発現されるBCMAに結合し、かつ細胞表面で発現されるBCMAに対する抗体ADI-38497の結合親和性が顕著に向上した。抗体ADI-34857、抗体ADI-38481、抗体ADI-38484はいずれも、細胞表面で発現されるBCMAに結合し、かつ細胞表面で発現されるBCMAに対する抗体ADI-38481、ADI-38484の結合親和性が顕著に向上した。
【0138】
さらに、H929細胞およびBCMA-KO-H929細胞を3.0×10細胞/ウェルで96ウェルプレートに接種し、希釈したADI-38497抗体(1μg/ウェル)を添加し、陰性対照ウェルに抗体を添加しないとした。4℃で30分間インキュベートした後、細胞を洗浄し、APCで標識されたヤギ抗ヒトIgG二次抗体(Jackson ImmunoResearch Inc、カタログ番号:109-136-097)100μLを全ての細胞ウェルに添加し、4℃で30分間インキュベートした。次に、細胞を洗浄し、フローサイトメトリーにより、抗体ADI-38497抗体の、各細胞表面で発現されるBCMA分子への結合を検出した。
【0139】
図1から分かるように、ADI-38497抗体は、BCMA抗原を発現するH929細胞にのみ結合するが、BCMA遺伝子がノックアウトされたBCMA-KO-H929細胞に結合しないため、ADI-38497抗体は、BCMA抗原に特異的に結合することができる。
【0140】
実施例4 ADI-38497WT抗体、ADI-38497PG抗体、ADI-38484WT抗体およびADI-38484 PG抗体の調製および抗原結合活性の検出
【0141】
4.1 ADI-38497WT抗体、ADI-38497PG抗体、ADI-38484WT抗体およびADI-38484PG抗体の調製
【0142】
US9273141B2特許から、GSK社のBCMA抗体クローンJ6M0の軽鎖可変領域配列および重鎖可変領域配列を対照抗体(GSK IgG)として得た。
【0143】
GSK IgG、ADI-38497、ADI-38484抗体の軽鎖可変領域配列および重鎖可変領域配列を使用し、WTを含むヒト由来IgG1重鎖定常領域(配列番号110)またはP329G点変異を含むヒト由来IgG1重鎖定常領域(配列番号111)およびκ軽鎖定常領域(配列番号112)のpcDNA3.4発現ベクター(上海伯英から購入)にロードした。軽鎖および重鎖の発現ベクターを2:3のモル比でPEIによりHEK293細胞に同時トランスフェクトし、5日間~7日間培養した後に培地上清を収集した。抗体を含む上清培地をProtein Aカラムによりさらに精製した後、PBSで透析した。NanoDrop機器で280nmの吸光度値を読み取って濃度を検出し、SDS-PAGEおよびSEC-HPLC方法を用いて試料の純度を検出した。GSK WT抗体、GSK PG抗体、ADI-38497WT抗体、ADI-38497PG抗体、ADI-38484WT抗体、ADI-38484PG抗体を得た。
【0144】
4.2 ADI-38497PG抗体の親和性検出
【0145】
Biacore T200により、異なる種のBCMAに対するADI-38497PG抗体の親和性を測定し、図2Aは、表面プラズモン共鳴法(SPR)を用いて抗体親和性を測定する方法の模式図を示した。
【0146】
具体的な方法は以下の通りである:抗ヒトFc IgG(Ab97221、Abcam)をCM5チップ(29149603、Cytiva)表面にカップリングした後、ADI-38497PG抗体をチップ表面に捕捉し、チップ表面の抗体と流動相中のBCMA抗原との間の結合および解離を検出することで、親和性および速度定数を得た。測定プロセスでは、10倍希釈した10×HBS-EP+(BR-1006-69、Cytiva)を実験緩衝液として使用した。親和性検出における各サイクルは、ADI-38497PG抗体の捕捉、1つの濃度の抗原への結合およびチップ再生を含む。勾配希釈後の抗原(抗原は1.25nM~40nMの濃度勾配で、2倍希釈)を、30μL/分間の流速で低濃度から高濃度の順にチップ表面を流し、結合時間を180sとし、適切な解離時間(900s、600sもしくは60s)を設定した。最後に、10mMのグリシン-HCl、pH1.5(BR-1003-54、Cytiva)でチップを再生した。
【0147】
データ結果は、Biacore T200分析ソフトウェア(バージョン3.1)を使用し、1:1結合モデルを使用して分析された。
【0148】
図2Bは、組換えヒト、カニクイザル、マウス、ラットおよびウサギBCMAタンパク質に対するADI-38497PG抗体の代表的な親和性のSPR測定スペクトルを示した。結果は、ADI-38497PG抗体が上記異なる種に由来するBCMAタンパク質のいずれにも結合することができ、ここで結合活性の高低順がヒトBCMA>サルBCMA>マウスBCMA>ラットBCMA>ウサギBCMAであることを示した。
【表3】
【0149】
4.3 P329G BCMA抗体の異なる種に由来するBCMA抗原への結合活性の検出
【0150】
まず、異なる種に由来するBCMA抗原を発現するCHO GS細胞を調製した。具体的には、ヒト、マウス、カニクイザル由来のBCMA遺伝子を合成し、レンチウイルスベクターにクローニングし、次いで、異なる種に由来するBCMA遺伝子を含むレンチウイルスをパッケージングし、このレンチウイルスをCHO GS細胞に感染させ、続いてフローサイトメトリーによって選別し、異なる種に由来するBCMA抗原を発現するCHO GS細胞株、すなわちhBCMA-CHO GS、mBCMA-CHO GSおよびcynoBCMA-CHO GS細胞を得た。
【0151】
次に、FACS緩衝液でADI-38497PG抗体およびGSK由来のBCMA抗体(すなわち、GSK PG IgGをBenchmarkとして使用した)を、10倍勾配希釈した異なる濃度の抗体溶液に調製し、調製された異なる種に由来するBCMA抗原を発現する1E5個のCHO GS細胞とともに4℃でそれぞれ30分間インキュベートし、FACS緩衝液で洗浄した後、さらにFcγ断片に特異的なAPC-ヤギ抗ヒトIgG(Jackson ImmunoResearch、109-136-098)とともに4℃で30分間インキュベートした。フローサイトメトリーにより、細胞に結合したP329G抗体を検出し、APCチャネルMFIを分析し、抗体濃度をX軸に、APCチャネルMFIをY軸にプロットし、結合のEC50を計算した。
【0152】
図2Cは、異なる濃度のP329G BCMA抗体の、ヒト、カニクイザルおよびマウスのBCMAを安定的に発現するCHO-GS細胞への結合能力を示した。図2Cから分かるように、ADI-38497PG IgG抗体は、細胞表面で発現する異なる種のBCMAに結合することができるが、GSK由来のBCMA抗体(Benchmark)は、比較的高い種BCMA特異性を有し、マウスBCMAを認識せず、当該結果はSPR検出結果と一致した。
【表4】
【0153】
4.4 P329G BCMA抗体の腫瘍細胞表面BCMA抗原への結合活性の検出
【0154】
対数成長期の腫瘍細胞を適量取り、FACS緩衝液で2回洗浄し、ADI-38497PG抗体、ADI-38484PG抗体およびBenchmarkとして使用するGSK PG IgGを加え、染色対照とした細胞にアイソタイプhIgG1抗体を加え、4℃で30分間染色し、2回洗浄し、APC-F(ab’)断片のヤギ抗ヒトIgG抗体を加え、4℃で30分間染色し、細胞を2回洗浄した後にFACS緩衝液で再懸濁させ、フローサイトメーターを用いて検出した。
【0155】
図2Dは、異なる濃度のP329G BCMA抗体の、BCMAを発現する陽性多発性骨髄腫細胞株MM.1s、RPMI8226、U266、H929、L363およびAMO1(MM.1s(CBP60239)は南京科佰生物科技有限公司から購入し、RPMI8226(CBP60244)は南京科佰生物科技有限公司から購入し、U266(CL-0510)は武漢普諾賽生命科技有限公司から購入し、H929(CBP60243)は南京科佰生物科技有限公司から購入し、L363(CBP6024)は南京科佰生物科技有限公司から購入し、AMO1(CBP60242)は南京科佰生物科技有限公司から購入した)への結合活性を示し、ADI-38497PG抗体、ADI-38484PG抗体は、BCMAを発現する陽性腫瘍細胞に結合するとともに濃度依存性を示した。上記BCMAを発現する陽性腫瘍細胞では、MM.1s細胞は、最も高いレベルでBCMAを発現し、RPMI8226、U266およびH929細胞は中等度レベルでBCMAを発現し、L363、AMO1細胞は低いレベルでBCMAを発現した。
【表5】
【0156】
実施例5 ADI-38497WT抗体およびADI-38497PG抗体の生物学的機能の検出
【0157】
5.1 ADCC効果機能の検出
【0158】
ドナー3のPBMC細胞(Peripheral Blood Mononuclear Cells、末梢血単核細胞)を蘇生し、10%のウシ胎児血清を含有するRPMI1640培地で再懸濁させ、37℃で1時間~2時間安定化させた。効力標的比25:1でPBMCと標的細胞とを混合し、異なる濃度のBCMA抗体と混合し、37℃でそれぞれ4時間および24時間培養し続け、LDH検出キット(Promega、G1780)を用いて標的細胞に対する抗体媒介性PBMCの殺傷効果を検出し、抗体濃度をX軸に、細胞溶解比率をY軸にプロットし、分析した。細胞を同時に収集し、FACS緩衝液で2回洗浄し、CD3、CD56、CD16およびCD107a抗体を加え、ここでCD107a抗体を事前に加え、細胞とともに37℃で1時間共インキュベートする必要がある。上記細胞抗体混合液を4℃で30分間染色し、2回洗浄し、FACS緩衝液で再懸濁させ、フローサイトメーターを用いて検出した。
【0159】
図3Aは、ADI-38497WT抗体およびADI-38497PG抗体の、ADCC殺傷を媒介する能力を示し、結果は、異なるインキュベーション時間(4時間、24時間)を試験し、異なる検出指標(標的細胞に対する細胞傷害性、CD3、CD56、CD16およびCD107a発現に及ぼす影響)を用いる場合にいずれも、WT抗体のみがBCMAを発現する陽性H929腫瘍細胞に対するADCC細胞傷害殺傷効果を媒介するが、P329G変異抗体がADCC効果を誘導する能力を欠くことを示した。
【0160】
5.2 ADCP効果機能の検出
【0161】
対数成長期のADCPレポーター細胞株(Promega、G9871)およびH929細胞を取り、効力標的比2:1、5:1でADCPレポーター細胞とH929標的細胞とを混合し、異なる濃度のBCMA抗体と混合し、37℃で20時間培養し続け、ルシフェラーゼ検出キット(Promega、E2620)を用いて抗体媒介性標的細胞依存性レポーター細胞の活性化効果を検出し、抗体濃度をX軸に、蛍光読取値の変化をY軸にプロットし、分析した。
【0162】
図3Bは、ADI-38497WT抗体およびADI-38497PG抗体の、ADCP殺傷を媒介する能力を示した。結果は、異なる効力標的比(2:1または5:1)を試験する場合にいずれも、ADI-38497WT抗体のみがBCMA発現陽性H929腫瘍細胞に対するADCP殺傷効果を媒介するが、P329G変異抗体がADCP殺傷効果を誘導する能力を欠くことを示した。
【0163】
5.3 P329G変異抗体の抗増殖機能の検出
【0164】
対数成長期のH929細胞およびL363細胞を取り、一定の数に従ってウェルプレートに播種し、対数成長期のH929細胞およびL363細胞の一部を標的細胞としてマイトマイシンCにより処理し、陽性対照として使用した。続いて異なる濃度のADI-38497PG抗体を加えて混合し、37℃でそれぞれ48時間、72時間および120時間培養し続け、CellTiter-Glo(Promega、G9242)を用いて活細胞比率を検出し、共インキュベーション時間をX軸に、蛍光読取値をY軸にプロットし、分析した。
【0165】
図3Cは、ADI-38497PG抗体が腫瘍細胞増殖を阻害する能力を有するかどうかを示し、結果は、異なるインキュベーション時間(48時間、72時間および120時間)ならびに異なるADI-38497PG抗体濃度(5μg/mL、50μg/mL)を試験する場合にいずれも、ADI-38497PG抗体自体が腫瘍細胞増殖に対する阻害能力を欠くことを示した。
【0166】
実施例6 ADI-38497PG抗体のインビボ薬物動態研究
【0167】
6.1 抗体の注射およびサンプリング
【0168】
BALB/cマウス(4週齢~6週齢、体重15g~17g、雌)を、各群に9匹のマウスで、ADI-38497PG抗体1mg/kgの抗体群、ADI-38497PG抗体10mg/kgの抗体群およびADI-38497PG抗体200mg/kgの抗体群の3群に分け、各マウスの投与体積が10mL/kgとなるように、1×PBSで抗体をそれぞれ0.1mg/mL、1mg/mLおよび20mg/mLに希釈し、すなわち抗体の投与量はそれぞれ1mg/kg、10mg/mLおよび200mg/mLであり、投与方式は静脈内注射、投与頻度は単回であった。抗体投与後5分間、30分間、2h、6h、24h、48h、96h、168h、336hおよび504hに、マウス眼窩後静脈叢から血液試料を100μL採取し、3000gで遠心分離し、上清液を吸い取って血中薬物濃度の測定のために用いた。
【0169】
6.2 ADI-38497PG抗体の検出
前日に96ウェルマイクロプレートをコーティングした。コーティング液(1パックの炭酸塩(Thermo、28382)粉末を取り、400mLの超純水に溶解し、500mLに定容し、均一に混合してコーティング液とした)でBCMA抗原を1μg/mLに希釈し、100μL/ウェルとし、封止フィルムで封止し、室温で一晩放置した。コーティング溶液を捨て、吸水紙上で軽くたたいて乾燥させた後、各ウェルに300μLの洗浄液を加え、10秒間振とうして均一に混合し、洗浄液を軽くたたいて乾燥させた後、洗浄を3回繰り返した。ピペットで200μL/ウェルでブロッキング液を加え、封止フィルムで封止し、室温で2hインキュベートした。その後、プレートを1回洗浄した。希釈した標準曲線(濃度が既知のBCMA抗体で勾配希釈し、標準曲線を作成した(例えば、濃度が既知のADI-38497PG抗体で標準曲線を作成した))、品質管理試料および測定待ちの試料を100μL/ウェルで、室温で2hインキュベートした。プレコーティング溶液を捨て、吸水紙上で軽くたたいて乾燥させた後、各ウェルに300μLの洗浄液を加え、10秒間振とうして均一に混合し、洗浄液を軽くたたいて乾燥させた後、洗浄を3回繰り返した。1回繰り返した。ヤギ抗ヒトIgG-Fc-HRP抗体(BETHYL)を1:100000で希釈し、各ウェルに100μLを加え、室温で暗所で1hインキュベートした。その後、プレートを1回洗浄した。TMB基質を100μL/ウェルで96ウェルマイクロプレートに加え、室温で暗所で5分間発色させた。各ウェルに50μLのELISA停止液を加え、10秒間振とうし、30分間以内にOD450nmおよびOD620nm値を読み取った。
【0170】
図4Aおよび4Bは、マウスにおけるADI-38497PG抗体(以下のマウスインビボ実験においてPG Abとも略称)の薬物動態実験結果を示した。1mg/kg、10mg/kg、200mg/kgのADI-38497PG抗体をマウスに静脈内注射した後、血清中ADI-38497PG抗体の曝露量(CmaxおよびAUClast)は用量依存効果を示し、その他の薬物動態パラメータに有意差がなく、表6に示すように、ADI-38497PG抗体1mg/kg:AUC0-inf、Cmax、CL、T1/2がそれぞれ2480μg×h/mL、30μg/mL、0.40mL/kg/h、145hであり、ADI-38497PG抗体10mg/kg:AUC0-inf、Cmax、CL、T1/2がそれぞれ24720μg×h/mL、187μg/mL、0.32mL/kg/h、219hであり、ADI-38497PG抗体200mg/kg:AUC0-inf、Cmax、CL、T1/2がそれぞれ397734μg×h/mL、3895μg/mL、0.43mL/kg/h、197hであり、ADI-38497PG抗体1mg/kgの半減期がADI-38497PG抗体10mg/kgおよび200mg/kgよりわずかに短い。
【表6】
【0171】
実施例7 ADI-38497PG抗体のインビボ抗腫瘍効果
【0172】
マウス腫瘍の接種および処理を行った。具体的には、1×PBSでH929細胞を再懸濁させ、5×10個/mLの細胞濃度の細胞懸濁液を調製した。NOGマウス(4週齢~6週齢、体重15g~17g、雌)の右背部を剃毛し、注射体積0.2mL/匹、すなわち接種量1×10細胞/マウスでH929細胞懸濁液を皮下注射した。腫瘍細胞接種後の7日、マウス腫瘍体積が50.82mm~104.36mmのマウスを、各群に7匹のマウスで、それぞれPBSキャリア群、ADI-38497PG抗体群(明細書では、「PG Ab群」とも呼ばれる)に群分けした。群分け完了後、7日目に抗体を、投与体積を10mL/kgとし、投与頻度を週に1回とし、投与方法を腹腔内注射とすように、各マウスに投与した。マウスの体重、腫瘍組織の最大長軸(L)および最大広軸(W)を週に2回モニタリングした。
【0173】
図5Aは、ヒトBCMA発現陽性H929腫瘍細胞を皮下接種した免疫不全腫瘍担持マウスにおけるADI-38497PG抗体の治療効果を示した。結果は、BCMAを高発現するH929腫瘍モデルにおけるPG抗体の投与が顕著な抗腫瘍効果を産生することを示した。
【0174】
図5Bは、当該実験におけるマウスの体重変化を示した。結果は、BCMAを高発現するH929腫瘍モデルにおいてPG抗体を投与した後、マウスの体重に顕著な変化がないことを示した。
【0175】
従って、ADI-38497PG抗体は、顕著な抗BCMA高発現腫瘍効果を有するとともに、明らかな毒性・副作用がない。
【0176】
実施例8 ADI-38497PG抗体のインビボ抗全身性腫瘍効果の研究
【0177】
まず、H929-luc細胞を調製した。具体的には、H929細胞(南京科佰生物科技有限公司から購入)を用いて、GFP-ルシフェラーゼ遺伝子を含むレンチウイルスをパッケージングし、得られたレンチウイルスをH929細胞に感染させ、続いてフローサイトメトリーによって選別し、GFPおよびルシフェラーゼ二重発現のH929-luc細胞株を得た。
【0178】
次に、1×PBSでH929-luc細胞を再懸濁させ、25×10個/mLの細胞濃度の細胞懸濁液を調製した。H929-luc細胞懸濁液を、注射体積0.2mL/匹でNOGマウス(4週齢~6週齢、体重15g~17g、雌)に尾静脈注射した。腫瘍細胞接種後の14日、基質D-Luciferin(15mg/mL)を、注射体積10mL/kg/マウスで腹腔内注射し、基質注射の10分間後にIVIS spectrumイメージング分析を行った。蛍光シグナルが1.17×10photons/sec~1.43×10photons/secのマウスを、各群に6匹~7匹のマウスで、それぞれキャリア群、PG Ab、0.3mg/kg群、PG Ab、3mg/kg群に群分けした。0.03mg/mLの濃度および0.3mg/mLの濃度の抗体をそれぞれ調製し、群分け完了後の14日目から、投与体積を10mL/kgとし、投与頻度を週に1回とし、投与方法を腹腔内注射とするように、各マウスに抗体を投与し始めた。
【0179】
図6Aは、ヒトH929-luc腫瘍細胞を尾静脈接種した免疫不全腫瘍担持マウスにおける異なる用量のPG抗体の抗腫瘍薬効を示した。結果は、全身性腫瘍モデルにおいて、PG抗体が投与後の1週間程度から抗腫瘍薬効を産生し始め、かつ用量依存性を示し、薬効が2週間維持された後に徐々に減少することを示した。
【0180】
図6Bは、上記実験におけるマウスの体重変化を示した。結果は、治療中に各処理群のマウス体重が穏やかに増加することを示し、PG抗体による処理が明らかな毒性を誘導しなかったことを示唆した。
【0181】
実施例9 ADI-38497PG抗体のインビボ毒物学的研究
【0182】
マウス腫瘍の接種および処理を行った。具体的には、1×PBSでH929細胞を再懸濁させ、5×10個/mLの細胞濃度の細胞懸濁液を調製した。NOGマウス(4週齢~6週齢、体重15g~17g、雌)の右背部を剃毛し、5×10個/mLのH929細胞懸濁液を注射体積0.2mL/匹で皮下注射した。腫瘍細胞接種後の6日、マウス腫瘍体積が38.49mm~104.77mmのマウスを、表7に示すように各群に24匹のマウスで、それぞれ腫瘍担持がないキャリア群、腫瘍担持のキャリア群、PG Ab群に群分けした。1mg/mLの濃度の抗体を調製し、群分け完了後、投与体積を10mL/kgとし、投与頻度を週に1回とし、投与回数を3回とし、投与方法を腹腔内注射とするように、抗体を各マウスに投与した。マウスの体重、腫瘍組織の最大長軸(L)および最大広軸(W)を週に2回モニタリングした。血液学的および血液生化学的検出のために、1回目の抗体投与前、3回目の抗体投与前および実験終了時に各群に4匹のマウスで末梢血を採取した。
【表7】
図7Aは、ヒトH929腫瘍細胞を皮下接種した免疫不全腫瘍担持マウスにおけるPG抗体の治療効果を示した。結果は、PG抗体が抗腫瘍効果を有することを示した。
【0183】
図7Bは、本実験におけるマウスの体重変化を示した。結果は、PG抗体の治療中に体重が対照マウスと比較して明らかに変化せず、PG抗体が明らかな毒性反応を誘導しなかったことを示唆した。
【0184】
図7Cおよび図7Dは、上記実験におけるマウスの血液学的および血液生化学的検出結果を示した。結果は、PG抗体の治療中にマウスの血液学的および血液生化学的指標が対照マウスと比較して明らかに変化しないことを示し、PG抗体の治療に毒性反応がないことを示唆した。
【0185】
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、当業者は、これらの開示が単に例示的なものであり、本発明の範囲内で種々の他の置換、適用および修正を行うことができると理解すべきである。したがって、本発明は、本明細書に挙げられた具体的な実施形態に限定されない。
【0186】
【表8-1】
【表8-2】
【表8-3】
【表8-4】
【表8-5】
【表8-6】
【表8-7】
【表8-8】
【表8-9】
【表8-10】
【表8-11】
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C-1】
図7C-2】
図7D
【配列表】
2025501461000001.xml
【国際調査報告】