(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-22
(54)【発明の名称】R-T-B磁石およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/057 20060101AFI20250115BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20250115BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20250115BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
H01F1/057 170
H01F41/02 G
C22C38/00 303D
C21D6/00 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534123
(86)(22)【出願日】2023-03-17
(85)【翻訳文提出日】2024-06-06
(86)【国際出願番号】 CN2023082340
(87)【国際公開番号】W WO2023174430
(87)【国際公開日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】202210271193.9
(32)【優先日】2022-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515173183
【氏名又は名称】北京中科三環高技術股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】BEIJING ZHONG KE SAN HUAN HI-TECH CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】27/F,Building A,No.66 East Road,Zhong Guan Cun,Haidian District,Beijing 100190,China
(71)【出願人】
【識別番号】521341488
【氏名又は名称】寧波科寧達工業有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】魏方允
(72)【発明者】
【氏名】王登興
(72)【発明者】
【氏名】朱偉
(72)【発明者】
【氏名】杜飛
(72)【発明者】
【氏名】胡蝶
【テーマコード(参考)】
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
5E040AA04
5E040AA19
5E040BD01
5E040CA01
5E040HB03
5E040NN01
5E040NN18
5E062CD04
5E062CF01
5E062CG02
5E062CG03
(57)【要約】
本開示は、R-T-B磁石およびその製造方法に関し、前記R-T-B磁石の元素組成は、R1
xR2
yT
100-x-y-z-u-a-b-cB
zTi
uCu
aGa
bA
cであり、R1は軽希土類元素であり、前記軽希土類元素はPrおよびNdのうち少なくとも一種を含み、R2は重希土類元素であり、前記重希土類元素はDyおよびTbのうち少なくとも一種を含み、TはFeおよびCoを含み、Aは、Al、Nb、Zr、Sn、Mnのうちの少なくとも1種を含み、x、y、z、u、a、b、cは質量百分率であり、かつ、28%≦x+y≦30.5%、0.88%≦z≦0.92%、0.12%≦u≦0.15%、0≦a≦0.15%、0.15%≦b≦0.25%、0≦c≦2%を満たす。本開示は、Ti、B、Gaなどの元素を相乗的に添加することによって、R
2T
17相の割合が高いという問題を解決し、磁石は高残留磁束と高保磁力を備えるようになった。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-T-B磁石であって、
前記R-T-B磁石の元素組成は、R1
xR2
yT
100-x-y-z-u-a-b-cB
zTi
uCu
aGa
bA
cで表わされ、R1は軽希土類元素であり、前記軽希土類元素はPrおよびNdのうち少なくとも一種を含み、R2は重希土類元素であり、前記重希土類元素はDyおよびTbのうち少なくとも一種を含み、TはFeおよびCoを含み、AはAl、Nb、Zr、Sn、Mnのうち少なくとも一種を含むR-T-B磁石であり、x、y、z、u、a、b、cは質量百分率であり、かつ、28%≦x+y≦30.5%、0.88%≦z≦0.92%、0.12%≦u≦0.15%、0≦a≦0.15%、0.15%≦b≦0.25%、0≦c≦2%を満たすことを特徴とする、R-T-B磁石。
【請求項2】
前記R-T-B磁石において、Cu元素の質量百分率が0.12~0.15%であり、Co元素の質量百分率が0.5~2.5%であり、好ましくは、重金属元素R2の質量百分率が2%未満であることを特徴とする、請求項1に記載のR-T-B磁石。
【請求項3】
前記R-T-B磁石は、主相と粒界相とを含み、前記粒界相は、デルタ相を有するR-T-M-Ti相を含み、前記R-T-M-Ti相は、前記粒界相の20~30%であり、R/T=0.2~0.46のデルタ相は、前記R-T-M-Ti相の40~50%であることを特徴とする、請求項1に記載のR-T-B磁石。
【請求項4】
前記R-T-M-Ti相の元素組成は、R3
mR4
nT
100-m-n-v-eM
vTi
eで表わされ、R3がPrおよび/またはNdから選択され、R4がDyおよび/またはTbから選択され、Mには、Gaおよび/または他の金属元素が含まれ、前記他の金属元素はCuおよび/またはAであり、AはAl、Nb、Zr、Sn、Mnのうち少なくとも一種を含み、TはFeおよびCoを含み、m、n、v、eは、原子百分率であり、且つ14%≦m+n≦60%、0.1%≦v≦11%、0.01%≦e≦9%を満たすことを特徴とする、請求項3に記載のR-T-B磁石。
【請求項5】
前記デルタ相におけるR3+R4の含有量が18~29at%であり、Tの含有量が59~74at%であり、Mの含有量が0.01~5at%であり、Tiの含有量が1at%を超えることを特徴とする、請求項4に記載のR-T-B磁石。
【請求項6】
前記R-T-M-Ti相において、Ga/Mが70%を超える粒界相が、R-T-M-Ti相の60~65%であることを特徴とする、請求項4に記載のR-T-B磁石。
【請求項7】
前記元素組成を満たす合金原料を真空誘導炉で溶解鋳造し、合金シートを得るステップS1と、
前記合金シートを水素吸蔵破砕処理した後、微粉砕処理を行い、合金微粉末を得るステップS2と、
前記合金微粉末を磁場中に配置して配向成形した後、真空環境下で焼結処理と時効処理を行うステップS3と、
を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のR-T-B磁石の製造方法。
【請求項8】
ステップS1において、前記真空誘導炉の真空度は10
-2~10
-1Paであり、溶解温度は1300~1500℃であり、溶解時間は30~60minであり、鋳造温度は1400℃~1500℃であり、鋳造時間は10~15minであり、
ステップS2において、前記合金微粉末の粒径は3.2~4.2μmであり、前記水素吸蔵破砕処理の条件については、水素吸蔵圧力が0.3~0.4MPa、脱水素温度が560℃~600℃であり、前記微粉砕処理におけるジェットミル粉砕室の圧力は0.5~0.7MPaであり、
ステップS3において、前記焼結処理の条件については、焼結温度が1000℃~1100℃であり、焼結時間が5h~8.5hであり、時効処理の条件については、時効温度が400℃~500℃、時効時間が7.5h~8.5hであることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記R-T-B磁石におけるC含有量が600~800ppmであることを特徴とする請求項7または8に記載の方法で製造された、R-T-B磁石。
【請求項10】
前記R-T-B磁石におけるO含有量が600~1200ppmであり、N含有量が100~300ppmであることを特徴とする、請求項9に記載のR-T-B磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は希土類永久磁石材料の分野に関し、特にR-T-B磁石およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、NdFeB磁石は省エネや性能向上に必要な機能性材料として注目されており、その応用範囲や生産量は年々拡大している。多くの場合が高温で使用されるため、磁石に対する要求はますます厳しくなり、高残留磁束だけでなく、高保磁力も求められている。一方、NdFeB磁石の保磁力は温度の上昇とともに著しく低下するため、使用温度での保磁力を維持するには、室温での保磁力を向上させる必要がある。
【0003】
NdFeB磁石の保磁力を向上させる方法として、主相であるNd2Fe14B化合物中のNdの一部をDyまたはTbで置換することができる。しかし、DyとTbは資源埋蔵量が少なく、価格が高くて不安定であり、変動リスクが大きい。そのために、DyとTbの含有量をできるだけ低減しながら、高保磁力、高残留磁束を有するR-Fe-B磁石について新たなプロセスと新たな組成の開発が求められている。
【0004】
中国特許第106024235号明細書(CN106024235B)には、Ga含有量が0.3~0.8質量%であり、B含有量が0.8~0.92質量%であり、Al含有量が0.05~0.5質量%であり、Ti含有量が0.15~0.29質量%であり、C含有量が0.10~0.30質量%である組成を有するR-T-B系焼結磁石が開示されている。当該組成は、従来のR-T-B系焼結磁石よりBの含有量が少なく、Ga等を添加してR2T17相の生成を抑制することでR-T-Ga相を生成し、高いHcJを有する焼結磁石が得られた。しかし、当該文献には、Ti含有量が0.15質量%未満の場合、B含有量の変化によるHcJの変動を抑えられず、Ga含有量が0.3質量%未満の場合、R-T-Ga相の生成量が少なすぎてR2T17相が消失せず、高いHcJが得られない問題も開示されている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、磁石保磁力の変動を抑制しつつ、高残留磁束と高保磁力を有する磁石を提供することを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するために、本開示の態様1は、元素組成がR1xR2yT100-x-y-z-u-a-b-cBzTiuCuaGabAcで表わされるR-T-B磁石を提供し、R1は軽希土類元素であり、上記軽希土類元素はPrおよびNdのうち少なくとも一種を含み、R2は重希土類元素であり、上記重希土類元素はDyおよびTbのうち少なくとも一種を含み、TはFeおよびCoを含み、AはAl、Nb、Zr、Sn、Mnのうち少なくとも一種を含み、x、y、z、u、a、b、cは質量百分率であり、かつ、28%≦x+y≦30.5%、0.88%≦z≦0.92%、0.12%≦u≦0.15%、0≦a≦0.15%、0.15%≦b≦0.25%、0≦c≦2%を満たす。
【0007】
態様1において、上記R-T-B磁石では、Cu元素の質量百分率が0.12~0.15%であり、Co元素の質量百分率が0.5~2.5%であり、重金属元素R2の質量百分率が2%未満であることが好ましい。
【0008】
態様1において、上記R-T-B磁石は主相と粒界相を含むことができ、ここで、上記粒界相はデルタ相を有するR-T-M-Ti相を含み、上記R-T-M-Ti相は上記粒界相の20~30%であり、R/T=0.2~0.46のデルタ相は上記R-T-M-Ti相の40~50%である。
【0009】
態様1において、上記R-T-M-Ti相の元素組成は、R3mR4nT100-m-n-v-eMvTieで表わすことができ、R3がPrおよび/またはNdから選択され、R4がDyおよび/またはTbから選択され、Mには、Gaおよび/または他の金属元素が含まれ、上記他の金属元素はCuおよび/またはAであり、AはAl、Nb、Zr、Sn、Mnのうち少なくとも一種を含み、TはFeおよびCoのうち少なくとも一種を含み、m、n、v、eは、原子百分率であり、且つ14%≦m+n≦60%、0.1%≦v≦11%、0.01%≦e≦9%を満たす。
【0010】
態様1において、上記デルタ相におけるR3+R4の含有量が18~29at%であり、Tの含有量が59~74at%であり、Mの含有量が0.01~5at%であり、Tiの含有量が1at%を超えることができる。
【0011】
態様1において、上記R-T-M-Ti相では、Ga/Mが70%を超える粒界相がR-T-M-Ti相の60~65%であってもよい。
【0012】
本願発明の態様2は、
上記元素組成を満たす合金原料を真空誘導炉で溶解鋳造し、合金シートを得るステップS1と、
上記合金シートを水素吸蔵破砕処理した後、微粉砕処理を行い、合金微粉末を得るステップS2と、
上記合金微粉末を磁場中に配置して配向成形した後、真空環境下で焼結処理と時効処理を行うステップS3と、を含むR-T-B磁石を製造する方法を提供する。
【0013】
態様2において、上記合金微粉末の粒径は3.2~4.2μmである。
【0014】
態様2において、ステップS1では、上記真空誘導炉の真空度が10-2~10-1Paであり、溶解温度が1300~1500℃であり、溶解時間が30~60minであり、鋳造温度が1400℃~1500℃であり、鋳造時間が10~15minであり、ステップS2において、上記水素吸蔵破砕処理の条件については、水素吸蔵圧力が0.3~0.4MPaであり、脱水素温度が560℃~600℃であり、上記微粉砕処理において、ジェットミル粉砕室の圧力が0.5~0.7MPaであり、ステップS3において、上記焼結処理の条件については、焼結温度が1000℃~1100℃であり、焼結時間が5h~8.5hであり、上記時効処理の条件については、時効温度が400℃~500℃であり、時効時間が7.5h~8.5hである。
【0015】
本開示の態様3は、上記方法で製造されたR-T-B磁石を提供し、上記R-T-B磁石におけるC含有量は600~800ppmである。
【0016】
態様3では、上記R-T-B磁石におけるO含有量が600~1200ppmであり、N含有量が100~300ppmである。
【0017】
上述の実施形態により、本開示に係る発明では、Ti、B、Gaなどの元素を相乗的に添加して粒界相にデルタ相を生成させることにより、R2T17相の割合が高いという問題を解決し、磁石が高残留磁束と高保磁力を備えるようになった。
【0018】
本開示の他の特徴および優れた点は、以下の具体的な実施形態において詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図面は、本開示のさらなる理解を提供するために使用され、明細書の一部を構成するものであり、以下の具体的な実施形態とともに本開示を説明するために使用されるが、本開示を限定するものではない。
【
図1】実施例1の磁石SEM図(点1~4)である。
【
図2】実施例1の磁石SEM図(点5~8)である。
【
図3】実施例1の磁石SEM図(点9~10)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示の具体的な実施形態を以下に詳しく説明する。本明細書に記載の具体的な実施形態は、本開示を解釈および説明するために使用され、本開示を限定することを意図するものではないことを理解されたい。なお、本開示におけるat%とは、atom%の略称であり、即ち原子含有量で算出した割合である。
【0021】
本開示の実施形態1は、元素組成がR1xR2yT100-x-y-z-u-a-bBzTiuCuaGabAcで表わされるR-T-B磁石を提供し、R1は軽希土類元素であり、上記軽希土類元素はPrおよびNdのうち少なくとも一種を含み、R2は重希土類元素であり、上記重希土類元素はDyおよびTbのうち少なくとも一種を含み、TはFeおよびCoを含み、AはAl、Nb、Zr、Sn、Mnのうち少なくとも一種を含み、x、y、z、u、a、b、cは質量百分率であり、かつ、28%≦x+y≦30.5%、0.88%≦z≦0.92%、0.12%≦u≦0.15%、0≦a≦0.15%、0.15%≦b≦0.25%、0≦c≦2%を満たす。
【0022】
多くの実験を重ねた結果、本開示の発明者らは、従来技術ではTiの含有量が高いため、TiとBが結合して、結晶粒界に高強度、高硬度のTiB2またはTiB化合物が多数形成され、TiB2またはTiBの硬度が高いため、切断加工時の切断効率が低下することを発見した。そのため、バッチ処理時の切断効率を向上させるためには、磁石中のTiB2またはTiBの含有量を低減する必要がある。B含有量のわずかな変動によるHcJの大きな変動の問題は、磁石に形成されるR-T-Ga相が粒界相における割合で変化することに起因している。R-T-Ga相の形成は熱処理温度に敏感であり、不均一な熱処理温度はR-T-Ga相の形成割合に影響を与える。本開示は、R-T-B磁石の元素組成を調整して、Ti、B、Gaなどの元素を相乗的に添加することにより、R2T17相の割合が高いという問題を解決し、磁石が高残留磁束と高保磁力を備えるようになった。
【0023】
本開示の好ましい実施形態として、R-T-B磁石において、Cu元素の質量百分率は0.12~0.15%であり、Co元素の質量百分率は0.5~2.5%である。さらに、Dyおよび/またはTbの含有量が2%未満であることが好ましく、この場合、Br>13.8kGs、HcJ>19.5kOeの優れた総合性能を有する磁石を作製することができる。
【0024】
本開示の好ましい実施形態として、上記R-T-B磁石は主相と粒界相を含み、ここで、粒界相はデルタ相を有するR-T-M-Ti相を含み、上記R-T-M-Ti相は上記粒界相の20~30%であり、R/T=0.2~0.46のデルタ相は上記R-T-M-Ti相の40~50%である。
【0025】
本開示の発明者らは、さらに、TiおよびC含有量を低減すると、磁石の切断効率がある程度向上することを見出した。また、Tiは主相中のFe原子と置換可能である。Ti含有量が高いと、生成するR2T17相が増加し、磁石のHcJが低下する可能性がある。したがって、Tiの含有量を低減させることでR2T17相の析出を減少させることができ、これによってHcJが増加し、HcJの変動が低減する。Ga含有量が減少すると、HcJを増加させることができる。その理由は、R-T-Ga相の生成量は減少するものの、磁石の粒界相にR-T-Gaの組成に近いR-T-M-Ti相が形成されたためであり、Ti含有量が1at%を超えるR-T-M-Ti相は、R-T-Ga相よりR含有量が低く、また、R-T-M-Ti相にはデルタ相も含まれている。発明者らは、Hcjが改善される理由は、TiがRの一部を置換し、その結果、結晶粒界にRリッチな相薄層が形成され、結晶粒間の間隔が大きくなり、それによってHcJが改善されるためと考えている。そこで、本開示は、Ti、B、Ga等の元素を相乗的に添加して、粒界相にR-T-M-Ti相とデルタ相を特定の割合で生成させることにより、R2T17相の割合が高いという問題を解決し、磁石が高残留磁束と高保磁力を備えるようになった。
【0026】
本開示のある具体的な実施形態において、R-T-M-Ti相の元素組成はR3mR4nT100-m-n-v-eMvTieで表わされ、R3がPrおよび/またはNdから選択され、R4がDyおよび/またはTbから選択され、Mには、Gaおよび/または他の金属元素が含まれ、他の金属元素はCuおよび/またはAであり、AはAl、Nb、Zr、Sn、Mnのうち少なくとも一種を含み、TはFeおよびCoを含み、ここで、m、n、v、eは、原子百分率であり、且つ14%≦m+n≦60%、0.1%≦v≦11%、0.01%≦e≦9%を満たす。
【0027】
本開示の好ましい実施形態において、本開示のデルタ相におけるR3+R4の含有量が18~29at%の範囲内であり、Tの含有量が59~74at%の範囲内であり、Mの含有量が0.01~5at%の範囲内であり、Tiの含有量が1at%を超える。
【0028】
本開示の好ましい実施形態では、R-T-M-Ti相において、Ga/Mが70%を超える粒界相がR-T-M-Ti相の60~65%である。
【0029】
本開示の実施形態2は、R-T-B磁石を製造する方法を提供し、当該方法は、
上記元素組成を満たす合金原料を真空誘導炉で溶解鋳造し、合金シートを得るステップS1と、
上記合金シートを水素吸蔵破砕処理した後、微粉砕処理を行い、合金微粉末を得るステップS2と、
上記合金微粉末を磁場中に配置して配向成形した後、真空環境下で焼結処理と時効処理を行うステップS3と、を含む方法である。
【0030】
本開示によれば、上記合金微粉末の粒径は3.2~4.2μmであってもよい。
【0031】
本開示によれば、ステップS1において、上記真空誘導炉の真空度は10-2~10-1Paであり、溶解温度は1300~1500℃であり、溶解時間は30~60minであり、鋳造温度は1400℃~1500℃であり、鋳造時間は10~15minであってもよい。ステップS2において、上記水素吸蔵破砕処理の条件については、水素吸蔵圧力が0.3~0.4MPa、脱水素温度が560℃~600℃であってよく、上記微粉砕処理におけるジェットミル粉砕室の圧力は0.5~0.7MPaであってもよい。ステップS3において、上記焼結処理の条件については、焼結温度が1000℃~1100℃、焼結時間が5h~8.5hであってよい。上記時効処理の条件については、時効温度が400℃~500℃、時効時間が7.5h~8.5hであってよい。
【0032】
本開示の実施形態3は、上記方法で製造されるR-T-B磁石を提供することである。上記R-T-B磁石におけるC含有量は通常、600~800ppmである。
【0033】
上記R-T-B磁石におけるO含有量は通常、600~1200ppmであり、N含有量は通常100~300ppmであってもよい。
【0034】
本開示を実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はそれらに限定されるものではない。実施例で使用された原材料は、商業ルートを通じて入手可能である。
【0035】
実施例1
本実施例のR-T-B磁石は、R-T-B磁石原料を順次に溶解、連続鋳造、水素粉砕、微粉砕、成形、焼結時効を経て得られたものであり、具体的な原料の割合を表1に示す。
【0036】
本実施例の具体的な作製プロセスは以下の通りである。
(1)溶解:真空度7×10-2の高周波真空誘導溶解炉で溶解を行った。溶解温度は1400℃である。
(2)連続鋳造:急冷凝固プロセスを採用して、厚さ0.28mmの合金シートが得られた。鋳造温度は1450℃である。
(3)水素粉砕:水素圧力が0.3MPaで水素吸蔵を行い、その後、脱水素、冷却処理を行った。脱水素は、真空条件で徐々に温度を上げながら行い、脱水素温度は500℃である。
(4)微粉砕:ジェットミルにより、真空雰囲気下で微粉砕を行い、粒径3.5μmの微粉末を得た。ジェットミル粉砕室の圧力は0.68MPaであり、粉砕後、潤滑剤であるステアリン酸亜鉛を、粉末重量の0.12%の割合で添加した。
(5)成形:一定の磁界強度と窒素雰囲気下で成形を行い、成形体を得た。
(6)焼結:成形体を真空条件下、1050℃で8時間焼結し、ゆっくり空冷した。
(7)時効:成形体を真空条件下、500℃で8.5h時効処理を行った後、室温まで冷却した。
実施例1で作製した磁石について、磁気特性試験および微細構造試験を行った。
【0037】
実施例2
本実施例のR-T-B磁石の作製方法は、実施例1と同様であり、具体的な原材料の割合を表1に示す。
【0038】
実施例3
本実施例のR-T-B磁石原料は主合金と補助合金に分かれ、主合金と補助合金をそれぞれ溶解、連続鋳造、水素粉砕、微粉砕を行った後、主合金:補助合金を4:1の割合で混合し、成形、焼結時効プロセスを経て、本実施例のR-T-B磁石を得た。主合金の組成をR129Fe67.99B0.92Ti0.14Cu0.13Ga0.2Co1.62とし、補助合金の組成をR119Dy10Fe68.64B0.92Ti0.14Cu0.1Ga0.2Co(R1はPrとNd)とした。
【0039】
比較例1
本比較例1のR-T-B磁石の作製方法は、実施例1と同様であり、具体的な原材料の割合を表1に示す。ここで、Ti含有量は0.16wt%である。
【0040】
比較例2
本比較例2のR-T-B磁石の作製方法は、実施例2と同様であり、具体的な原材料の割合を表1に示す。ここで、Ga含有量は0.4wt%である。
【0041】
【0042】
試験例1
実施例と比較例で作製したR-T-B磁石の微細構造について試験を行い、具体的な微細構造試験方法としては、磁石の異なる断面を走査型電子顕微鏡で分析し、点ごとの定量分析によって磁石の粒界相における各元素の含有量を確認し(
図1~
図3は実施例1における磁石のSEM図である)、元素分析することによって粒界三角形領域の相を特定し、さらに相の面積比を算出した。実施例1の点1~10における各元素の含有量を、表2に示す。
【0043】
【0044】
SEM図中の全ての粒界相における各元素の含有量と面積値をカウントし、さらに計算を行った結果、実施例1の焼結磁石の粒界相において、R-T-M-Ti相は、粒界相の22.5%である。実施例2の焼結磁石の粒界相において、R-T-M-Ti相は粒界相の26.1%であり、さらに、粒界相にはデルタ相が存在している。デルタ相において、R/T=0.2~0.46の粒界相はR-T-M-Ti相の47.5%である。R-T-M-Ti相において、Ga/Mが70%を超える粒界相は、R-T-M-Ti相の65%である。これに対して、比較例1の焼結磁石の粒界相において、R-T-M-Ti相は、粒界相の16.7%であり、デルタ相におけるR/T=0.2~0.46の粒界相は、R-T-M-Ti相の13.2%のみである。
【0045】
試験例2
実施例1~3で作製したR-T-B磁石について、C含有量試験および磁気特性試験を行った。具体的な磁気特性試験方法としては、室温20℃の条件でパルス型BH減磁曲線試験装置を用いて試験した。磁石の残留磁束(Br)および保磁力(HcJ)のデータを取得し、試験結果を表3に示す。
【0046】
【0047】
本開示のR-T-B磁石の作製方法により、高いレベルの残留磁束と保磁力を有し、かつ総合性能に優れた磁石を作製することができる。実施例と比較例から、各元素含有量が本開示の範囲内である実施例1で作製した磁石は、比較例1より高い残留磁束と保磁力を示すことがわかる。また、微細構造分析を行った結果、実施例1の粒界相にはR-T-M-Ti相が生成し、その割合は粒界相の20%を超えていることが明らかである。実施例1と実施例2との対比から分かるように、実施例2の磁石では、粒界相にデルタ相が生成し、R/T=0.2~0.46の粒界相が特定の面積比を形成することにより、磁気エネルギー積と保磁力の合計が実施例1よりも高く、より優れた総合的な性能を有する磁石が得られる。したがって、上記実施例および比較例から、本開示により作製した磁石は、磁石の粒界三角形領域に特定の面積比のデルタ相が形成されていることが明らかである。この相の存在は、Ti、B、Gaの相乗的な添加と、対応する製造プロセスの組み合わせの結果である。この相は、特定量のBでのTiの低減に起因するHcJ不安定性の問題を抑制することができ、また、Ga含有量が低減する場合には、R2T17相の生成を抑制することができ、焼結磁石のHcJが大幅に向上する。
【0048】
また、実施例と比較例で作製した磁石のC含有量から、実施例1~3のC含有量は600~800ppmであるのに対し、比較例1~2で作製した磁石のC含有量は900ppmを超えていることが分かる。実施例1と比較例1で作製した磁石のそれぞれに、機械加工を行った。実施例1で作製した磁石の最大ワイヤ切断速度は0.5mm/minであったのに対して、比較例1で作製した磁石の最大ワイヤ切断速度はわずか0.25mm/minであり、比較例1の切断効率は、実施例1よりも低いことが分かる。実施例1で作製した磁石は磁気特性が優れているだけでなく、切断効率もある程度改善されている。
【0049】
以上、本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想の範囲内において様々な簡単な変更を加えることができ、これらも本開示について保護される範囲内にある。
【0050】
なお、上記具体的な実施形態で説明された特定の技術的特徴はそれぞれ、矛盾することなく、任意の適切な方法で組み合わせることができ、不必要な繰り返しを避けるために、本開示では、種々の可能な組み合わせを別個に記載しないことに留意されたい。
【0051】
また、本開示の異なる実施形態はそれぞれ、任意に組み合わせてもよく、本開示の思想に反しない限り、それらも本開示に開示された内容とみなすべきである。
【手続補正書】
【提出日】2024-06-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-T-B磁石であって、
前記R-T-B磁石の元素組成は、R1
xR2
yT
100-x-y-z-u-a-b-cB
zTi
uCu
aGa
bA
cで表わされ、R1は軽希土類元素であり、前記軽希土類元素はPrおよびNdのうち少なくとも一種を含み、R2は重希土類元素であり、前記重希土類元素はDyおよびTbのうち少なくとも一種を含み、TはFeおよびCoを含み、AはAl、Nb、Zr、Sn、Mnのうち少なくとも一種を含むR-T-B磁石であり、x、y、z、u、a、b、cは質量百分率であり、かつ、28%≦x+y≦30.5%、0.88%≦z≦0.92%、0.12%≦u≦0.15%、0≦a≦0.15%、0.15%≦b≦0.25%、0≦c≦2%を満たすことを特徴とする、R-T-B磁石。
【請求項2】
前記R-T-B磁石において、Cu元素の質量百分率が0.12~0.15%であり、Co元素の質量百分率が0.5~2.5%であり、
前記重希土類元素R2の質量百分率が2%未満であることを特徴とする、請求項1に記載のR-T-B磁石。
【請求項3】
前記R-T-B磁石におけるC含有量が600~800ppmであることを特徴とする請求項1に記載のR-T-B磁石。
【請求項4】
前記R-T-B磁石におけるO含有量が600~1200ppmであり、N含有量が100~300ppmであることを特徴とする、請求項3に記載のR-T-B磁石。
【請求項5】
前記R-T-B磁石は、主相と粒界相とを含み、前記粒界相は
、R-T-M-Ti相を含み、前記R-T-M-Ti相は、前記粒界相の20~30%であり
、
前記R-T-M-Ti相の元素組成は、R3
m
R4
n
T
100-m-n-v-e
M
v
Ti
e
で表わされ、R3がPrおよび/またはNdから選択され、R4がDyおよび/またはTbから選択され、Mには、Gaおよび/または他の金属元素が含まれ、前記他の金属元素はCuおよび/またはAであり、AはAl、Nb、Zr、Sn、Mnのうち少なくとも一種を含み、TはFeおよびCoを含み、m、n、v、eは、原子百分率であり、且つ14%≦m+n≦60%、0.1%≦v≦11%、0.01%≦e≦9%を満たすことを特徴とする、請求項1に記載のR-T-B磁石。
【請求項6】
前記R-T-M-Ti相において、Ga/Mが70%を超える粒界相が、R-T-M-Ti相の60~65%であることを特徴とする、請求項
5に記載のR-T-B磁石。
【請求項7】
前記元素組成を満たす合金原料を真空誘導炉で溶解鋳造し、合金シートを得るステップS1と、
前記合金シートを水素吸蔵破砕処理した後、微粉砕処理を行い、合金微粉末を得るステップS2と、
前記合金微粉末を磁場中に配置して配向成形した後、真空環境下で焼結処理と時効処理を行うステップS3と、
を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のR-T-B磁石の製造方法。
【請求項8】
ステップS1において、前記真空誘導炉の真空度は10
-2~10
-1Paであり、溶解温度は1300~1500℃であり、溶解時間は30~60minであり、鋳造温度は1400℃~1500℃であり、鋳造時間は10~15minであり、
ステップS2において、前記合金微粉末の粒径は3.2~4.2μmであり、前記水素吸蔵破砕処理の条件については、水素吸蔵圧力が0.3~0.4MPa、脱水素温度が560℃~600℃であり、前記微粉砕処理におけるジェットミル粉砕室の圧力は0.5~0.7MPaであり、
ステップS3において、前記焼結処理の条件については、焼結温度が1000℃~1100℃であり、焼結時間が5h~8.5hであり、時効処理の条件については、時効温度が400℃~500℃、時効時間が7.5h~8.5hであることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0036
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0036】
本実施例の具体的な作製プロセスは以下の通りである。
(1)溶解:真空度7×10-2
Paの高周波真空誘導溶解炉で溶解を行った。溶解温度は1400℃である。
(2)連続鋳造:急冷凝固プロセスを採用して、厚さ0.28mmの合金シートが得られた。鋳造温度は1450℃である。
(3)水素粉砕:水素圧力が0.3MPaで水素吸蔵を行い、その後、脱水素、冷却処理を行った。脱水素は、真空条件で徐々に温度を上げながら行い、脱水素温度は500℃である。
(4)微粉砕:ジェットミルにより、真空雰囲気下で微粉砕を行い、粒径3.5μmの微粉末を得た。ジェットミル粉砕室の圧力は0.68MPaであり、粉砕後、潤滑剤であるステアリン酸亜鉛を、粉末重量の0.12%の割合で添加した。
(5)成形:一定の磁界強度と窒素雰囲気下で成形を行い、成形体を得た。
(6)焼結:成形体を真空条件下、1050℃で8時間焼結し、ゆっくり空冷した。
(7)時効:成形体を真空条件下、500℃で8.5h時効処理を行った後、室温まで冷却した。
実施例1で作製した磁石について、磁気特性試験および微細構造試験を行った。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0047
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0047】
本開示のR-T-B磁石の作製方法により、高いレベルの残留磁束と保磁力を有し、かつ総合性能に優れた磁石を作製することができる。実施例と比較例から、各元素含有量が本開示の範囲内である実施例1で作製した磁石は、比較例1より高い残留磁束と保磁力を示すことがわかる。また、微細構造分析を行った結果、実施例1の粒界相にはR-T-M-Ti相が生成し、その割合は粒界相の20%を超えていることが明らかである。実施例1と実施例2との対比から分かるように、実施例2の磁石では、粒界相にデルタ相が生成し、R/T=0.2~0.46の粒界相が特定の面積比を形成することにより、保磁力が実施例1よりも高く、より優れた総合的な性能を有する磁石が得られる。したがって、上記実施例および比較例から、本開示により作製した磁石は、磁石の粒界三角形領域に特定の面積比のデルタ相が形成されていることが明らかである。この相の存在は、Ti、B、Gaの相乗的な添加と、対応する製造プロセスの組み合わせの結果である。この相は、特定量のBでのTiの低減に起因するHcJ不安定性の問題を抑制することができ、また、Ga含有量が低減する場合には、R2T17相の生成を抑制することができ、焼結磁石のHcJが大幅に向上する。
【国際調査報告】