(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-22
(54)【発明の名称】湾曲エレクトロクロミックデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/15 20190101AFI20250115BHJP
G02F 1/155 20060101ALI20250115BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20250115BHJP
B05D 3/06 20060101ALI20250115BHJP
B05D 5/12 20060101ALI20250115BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20250115BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20250115BHJP
B05D 1/02 20060101ALI20250115BHJP
B05D 3/04 20060101ALI20250115BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20250115BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20250115BHJP
B32B 1/00 20240101ALI20250115BHJP
G02F 1/1524 20190101ALI20250115BHJP
G02F 1/161 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
G02F1/15 505
G02F1/155
B05D3/02 E
B05D3/06 102Z
B05D5/12 B
B05D7/00 H
B05D7/24 302A
B05D1/02 Z
B05D3/04 B
B32B7/025
B32B9/00 A
B32B1/00 Z
G02F1/15 502
G02F1/1524
G02F1/161
G02F1/15 507
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534190
(86)(22)【出願日】2022-12-06
(85)【翻訳文提出日】2024-08-02
(86)【国際出願番号】 CA2022000068
(87)【国際公開番号】W WO2023102643
(87)【国際公開日】2023-06-15
(32)【優先日】2021-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524214871
【氏名又は名称】ミル・スマート・テクノロジーズ・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】MIRU SMART TECHNOLOGIES CORP.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】バーリンゲット,カーティス ポール
(72)【発明者】
【氏名】チャウ,パク ルン
(72)【発明者】
【氏名】カーキー,アーロン マシュー ローン
(72)【発明者】
【氏名】レーナー,メリッサ ラン
【テーマコード(参考)】
2K101
4D075
4F100
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
溶液ベースの材料を曲面に直接成膜することにより、湾曲エレクトロクロミックデバイスを製造する方法が開示される。湾曲エレクトロクロミックデバイスは、1つまたは複数の(カソード)無機または有機金属前駆体の溶液で第1の湾曲導電性基材をスプレーコーティングし、次いで被覆基材を近赤外線、紫外線またはオゾンに曝露して、1つまたは複数の(カソード)無機または有機金属前駆体を(カソード)エレクトロクロミック層に変換することによって製造される。第2の相補的導電性湾曲基材は、第2の(アノード)エレクトロクロミック層で被覆される。上記第1のエレクトロクロミック層と上記第2のエレクトロクロミック層との間に電解質層が組み込まれ、基材が互いにシールされ、湾曲エレクトロクロミックデバイスを形成する。この方法は、曲げ強化ガラスまたは熱強化ガラスを用いた湾曲エレクトロクロミックデバイスに特に有用である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湾曲エレクトロクロミックデバイスを製造する方法であって、以下のステップ:
一の表面上に第1の透明導電性コーティングを有する第1の湾曲基材を提供すること;
前記第1の導電性コーティングをカソードエレクトロクロミック金属酸化物層でコーティングすること、ここで前記カソードエレクトロクロミック金属酸化物層の材料は、以下のステップ:
i)1つまたは複数の無機または有機金属カソード前駆体を含む溶液で、第1の湾曲基材上の第1の透明導電性コーティングをスプレーコーティングして前駆体層を形成すること;および
ii)前記前駆体層を近赤外線、紫外線またはオゾンに曝露して、1つまたは複数の無機前駆体をカソードエレクトロクロミック金属酸化物層に変換し、第1の被覆湾曲基材を形成すること;
を含むプロセスによって形成される;
一の表面上に第2の透明導電性コーティングを有する第2の湾曲基材を提供すること、ここで前記第2の湾曲基材は、前記第1の湾曲基材と相補的な曲率を有する;
前記第2の導電性コーティングをアノードエレクトロクロミック金属酸化物層でコーティングすること、ここで前記アノードエレクトロクロミック金属酸化物層の材料は、以下のステップ:
iii)1つまたは複数の無機または有機金属アノード前駆体を含む溶液で、前記第2の湾曲基材上の前記第2の透明導電性コーティングをスプレーコーティングし、前駆体層を形成すること;および
iv)前記前駆体層を近赤外線、紫外線またはオゾンに曝露して、前記前駆体層をアノードエレクトロクロミック金属酸化物層に変換し、第2の被覆湾曲基材を形成すること;
を含むプロセスによって形成される;
前記第1の被覆湾曲基材上の前記カソードエレクトロクロミック金属酸化物層と前記第2の被覆湾曲基材上の前記アノードエレクトロクロミック金属酸化物層との間に電解質層を組み込むこと;ならびに
デバイスをシーリングし湾曲エレクトロクロミックデバイスを形成すること、ここで前記シーリングのステップは、前記電解質の組み込みの前または後に行われ得る、
を含む、方法。
【請求項2】
ステップ(i)および(ii)ならびに/またはステップ(iii)および(iv)を、活性層を形成するために金属酸化物層の所望の厚みが達成されるまで繰り返す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(ii)の前に、ステップ(i)が1回超繰り返される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記スプレーコーティングのステップが、1つまたは複数の無機または有機金属前駆体の均一なコーティングを提供するために、基材上を移動するスプレーコーターノズルを用いて行われる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記スプレーコーターノズルが、毎分20フィート~50フィート移動する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記スプレーコーティングのステップが、1つまたは複数の無機前駆体の均一なコーティングを提供するためにスプレーコーターノズルを用いて行われ、ここで前記スプレーコーターノズルは静止し、基材が静止ノズルの下で移動する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記エレクトロクロミック金属酸化物層が、ステップ(ii)および/またはステップ(iv)の後にアニールされる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
アニーリングステップが約30℃から約600℃の温度で行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
アニーリングステップが約50℃の温度で行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
アニーリングステップが約100℃の温度で行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
アニーリングステップが約200℃の温度で行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
アニーリングステップが約300℃の温度で行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
アニーリングステップが約350℃の温度で行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
アニーリングステップが約400℃の温度で行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
前記アニーリングステップが約15分~約1時間行われる、請求項7から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記湾曲エレクトロクロミックデバイスが、約300mm~約4000mmの曲率半径を有する少なくとも1つの領域を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記曲率半径が約300mm~約1000mmである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記曲率半径が約750mm~約3000mmである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記曲率半径が約1000mm~約2000mmである、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記湾曲エレクトロクロミックデバイスが、単一湾曲エレクトロクロミックデバイスである、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記湾曲エレクトロクロミックデバイスが、複合湾曲(二重湾曲)エレクトロクロミックデバイスである、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記湾曲エレクトロクロミックデバイスが、複雑湾曲エレクトロクロミックデバイスである、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記第1のエレクトロクロミック層および/または前記第2のエレクトロクロミック層に付加層を提供するステップをさらに含む、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記付加層が、酸化ニオブ、酸化リチウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、またはそれらの混合物を含むバリア層である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記付加層が、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化リチウムまたはそれらの組み合わせを含むバリア層である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記第1および第2のエレクトロクロミック金属酸化物層が、NiOx、WOx、MoOx、TiOx、TaOx、VOx、NbOx、CoOx、IrOx、MnOx、FeOx、LiNiOx、WNbOx、TiWOx、LiWOx、NiNbOx、NiNbLiOx、NiAlLiOx、またはそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される金属酸化物を含む、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記第1のエレクトロクロミック金属酸化物層が、WOx、WNbOx、TiWOx、LiWOx、MoOx、TiOx、TaOx、NbOx、またはそれらのいずれかの組み合わせを含むカソードエレクトロクロミック層である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記第2のエレクトロクロミック金属酸化物層が、NiOx、LiNiOx、NiNbOx、NiNbLiOx、NiAlLiOx、CoOx、IrOx、MnOx、FeOx、VOx、またはそれらのいずれかの組み合わせを含むアノードエレクトロクロミック層である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記第1および/または第2のエレクトロクロミック金属酸化物層が、ドープされた金属酸化物であり、ドーパント原子が、ニオブ、セリウム、アルミニウム、リチウム、タンタル、モリブデン、コバルト、ケイ素およびチタンから選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記カソードエレクトロクロミック金属酸化物層の大部分が酸化タングステンからなる、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記アノードエレクトロクロミック金属酸化物層の大部分が酸化ニッケルからなる、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記エレクトロクロミック層がそれぞれ約10nm~約2000nmの平均厚みを有する、請求項26から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記エレクトロクロミック層がそれぞれ約100nm~約800nmの平均厚みを有する、請求項26から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記エレクトロクロミック層がそれぞれ約200nm~約700nmの平均厚みを有する、請求項26から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記電解質層が電解液である、請求項1から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記電解液がプロピレンカーボネート中のリチウム塩溶液である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記電解質層が、以下:
ポリマーレジン;
リチウム塩;
1つまたは複数の溶媒を含む溶剤分;
任意選択的に、可塑剤成分;および
任意選択的に、架橋剤、
を含むポリマーゲルである、請求項1から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記電解質層が、以下:
二官能オリゴマー;
単官能モノマー;
リチウム塩;
任意選択的に、可塑剤成分;および
任意選択的に、光重合開始剤、
を含むポリマーゲルである、請求項1から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記電解質層が、少なくとも1つのイオン伝導性金属酸化物を含む固体層である、請求項1から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記電解質層が、フィラー、紫外線安定剤、熱安定剤、接着性向上剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、水分捕捉剤、架橋剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、IR吸収剤、IRブロッカー、界面活性剤、キレート剤(cheating agent)、衝撃改質剤、またはそれらのいずれかの組み合わせから選択される添加剤を含む、請求項35から39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記1つまたは複数の無機または有機金属前駆体の溶液が、無機塩化物、無機硝酸塩、無機酢酸塩、無機シュウ酸塩、有機金属2-エチルヘキサノエート、有機金属ブトキシド、有機金属エトキシド、有機金属メトキシド、有機金属イソプロポキシド、有機金属アセチルアセトナート、有機金属シラノレート、有機金属シュウ酸塩、またはそれらの混合物を1つまたは複数含む、請求項1から40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記第1および第2の湾曲基材が、独立して、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、アクリル、透明アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、メチルメタクリレートアクリロニトリルブタジエンスチレン(MABS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、非晶性コポリエステル(PETG)、汎用ポリスチレン、スチレンアクリロニトリル樹脂(SAN)、スチレンメチルメタクリレート(SMMA)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)、透明ポリプロピレン、アイオノマー樹脂、ポリエチレン(PE)、環状オレフィンコポリマー、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、および液状シリコーンゴム(LSR)からなる群から選択される、請求項1から41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記第1および第2の湾曲基材が、独立して、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、アクリル、およびポリ塩化ビニル(PVC)からなる群から選択される、請求項1から41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記第1および第2の湾曲基材がともにガラスである、請求項1から41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記ガラスが強化ガラスまたは熱強化ガラスである、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記第1および第2の湾曲基材がともにポリカーボネートである、請求項1から41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記第1および第2の湾曲基材が、独立して、ガラス、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートである、請求項1から41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記透明導電性コーティングが、フッ素スズ酸化物(FTO)、インジウムスズ酸化物(ITO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、銀メッシュ、銀ナノワイヤ、銀ナノ粒子、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェン、導電性ポリマーまたはそれらの2つ以上の混合物を含む、請求項1から47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記透明導電性コーティングが、フッ素スズ酸化物(FTO)またはインジウムスズ酸化物(ITO)を含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記デバイスが、エレクトロクロミックサンルーフ用である、請求項1から49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記デバイスが、エレクトロクロミック窓用である、請求項1から49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記シーリングのステップが、第1の被覆湾曲基材と被覆湾曲基材との間にホットメルト材料を適用することを含み、前記ホットメルト材料は、前記電解質が硬化するにつれて溶融してシールする、請求項1から51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記シーリングのステップが、第1の被覆湾曲基材と第2の被覆湾曲基材との間に両面テープを適用することを含む、請求項1から51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記シーリングのステップが、前記第1の被覆湾曲基材と被覆湾曲基材との間で硬化時に硬化する材料を適用することを含む、請求項1から51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
1つまたは複数の電気リードを前記第1の導電性コーティングおよび前記第2の導電性コーティングに結合することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項56】
前記第1の導電性コーティングと前記第2の導電性コーティングとの間に電圧を印加して、前記デバイスを通る光の透過率または反射率に変化を生じさせることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項57】
請求項1から56のいずれか一項に記載の方法を用いて製造された、湾曲エレクトロクロミックデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミックデバイスの分野、および特にその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「スマート窓(smart window)」または「スマートガラス」とは、電子的なスイッチングによってデバイスの色または光の透過量もしくは反射量を変えることができるデバイスを指す。バイアスが電気的なものである(例えば、電圧が印加される)場合、当該デバイスはエレクトロクロミック(EC)デバイスと呼ばれる。これらの装置は、反射率を制御するため、建築物および交通機関(自動車、飛行機、旅客列車、フェリーなど)で使用される可変透過窓(variable transmission window)、ディスプレイならびに自動車用ミラーに使用され得る。透過窓(transmission window)を調整することで、窓を透過する太陽エネルギーも変化する。
【0003】
新築プロジェクトにおける窓の需要はますます高まっているが、窓は建築物外壁のうち最も効率の低い部材のひとつであると広くみなされている。建築物内の暖房、換気および空調(HVAC)ならびに照明は、世界中の一次エネルギー消費の30%超を占めており、このエネルギーの半分以下が窓から失われ得る。このエネルギーロスは、温室効果ガス(GHG)の排出量およびビル所有者のエネルギーコストの増加につながる。住宅および商業建築物にスマート窓を使用することで、建築物のエネルギー効率の改善につながる。エレクトロクロミック窓は、建築物の暖房、冷房および照明のニーズを20%下げることができる。さらに、これらの窓は日陰を提供し、まぶしさを軽減し、究極的には労働者の生産性向上につながり得る。
【0004】
自動車産業におけるエレクトロクロミックガラス(エレクトロクロミックグレージング(electrochromic glazing)としても知られる)は、現在、小面積のバックミラーおよびサイドミラーに使用されている。自動車業界は、この製品をサンルーフおよびサイドウィンドウに拡大し、乗客体験を向上させることに関心を持っている(特に、ライドシェアによって後部座席に乗る乗客が増えるため)。空調システムは車内を冷やし、暖め、換気する。これらの空調システムは電動式であり、その使用は、空調システムの大きさ、気候、および走行サイクルにもよるが、特に電気自動車(EV)の航続距離を30~40%減少させ得る。スマートガラス窓は車内の環境(interior climate of vehicles)管理に役立ち、かくして空調の使用を減らし、EVの航続距離を伸ばすことができる。したがって、この窓を輸送に使用すれば、エネルギー効率が向上した自動車を実現できる。
【0005】
車両用グレージング(サンルーフやムーンルーフなど)の場合、空気力学的および美的特性を維持するために、一般的に曲面が好まれる、又は要求される。湾曲エレクトロクロミックデバイスが利用される他の例としては、建築用窓(architectural windows)、スキーゴーグル、眼鏡、バックミラー、自動車の窓、天窓などがある。場合によっては、これらのアプリケーションは二重曲面(複合曲面)又は複雑な曲面を必要とする。
【0006】
例えば米国特許第5953150号明細書は、レンズ用の湾曲エレクトロクロミックデバイスを製造する方法を開示している。ここでは、エレクトロクロミック層を別々のITO被覆プラスチック基材上に成膜し、イオン伝導性ポリマーを用いて2枚の基材を積層している。上記特許では、機能性コーティングを適用するために真空蒸着法を用いている。真空蒸着プロセスであるスパッタリングは、薄膜、層およびコーティングを成膜するために一般的に使用される工業プロセスである。しかしながら、スパッタリングで曲面を均一に被覆するのは難しい。さらに、湾曲基材の領域はスパッタリングターゲットに近くなるため、より高い熱量を受けることになる。基材の種類によっては、これは問題になり得る(例えば、熱可塑性基材は変形し得る)。さらに、スパッタされた材料の分布は、ターゲットの浸食に伴って時間と共に変化し得る、高価なプロセスであり、この方法ではピンホールが発生することが知られている。
【0007】
曲面へのスパッタリングの課題を克服するために、湾曲エレクトロクロミックデバイスを製造するための代替製造方法が開発された。この方法では、エレクトロクロミックスタックを成膜した後に平坦な基材を被覆し、曲面に成形する。
【0008】
米国特許第7808692号明細書は、永久湾曲エレクトロクロミックデバイスの製造方法を開示しており、エレクトロクロミックデバイスは、最初に熱可塑性基材をコーティングすることによって形成され、その後、基材を永久湾曲に熱成形することによって湾曲させることができる。
【0009】
米国特許第10663831号明細書は、まず平坦なエレクトロクロミックフィルムを形成し、次に第1と第2のエレクトロクロミック材料の間にUV硬化層を配置し、次に成形装置を用いてフィルムを曲げ、フィルムがアーチ状の位置にある間にUV光源を用いてUV硬化層を硬化させることにより、湾曲エレクトロクロミックフィルムを製造する方法を開示している。
【0010】
しかしながら、平坦なエレクトロクロミックフィルム又は層を曲げる際に問題が生じ得。要求される曲率によっては、曲げの応力が大きすぎて、エレクトロクロミックスタック内の層間剥離、クラッキング、その他の分離を引き起こし得る。
【0011】
カーテンコーティングやスロットダイコーティングのような他のコーティング方法には、曲面へのコーティングに関する独自の課題がある。場合によっては、曲率又はサイズが異なる基材ごとにコーティングのセットアップをやり直す必要がある。さらに、これらの湿式塗布法は、重力、表面張力、毛細管力により、湾曲基材上に塗膜が溜まったり、筋が入ったりするため、層が不均一になり得る。
【0012】
米国特許第10871695号明細書は、位置の関数として変化する導電層を含むエレクトロクロミック多層デバイスを開示している。そこには、エレクトロクロミック建築用窓は通常、平坦な表面を有する基材を採用するが、多層デバイスは単一または二重の曲面を有し得ることが想定されると記載されている。しかしながら、湾曲デバイスの製造方法は開示されていない。
【0013】
米国特許公開第2019/0196289号明細書は、エレクトロクロミック化合物がドーム(曲面)上の電解質膜または透明導電性酸化物層に適用され得る、湾曲エレクトロクロミックデバイスを開示している。上記出願には、好ましくは、エレクトロクロミック化合物は膜が完全に硬化する前に電解質膜に適用されると記載されている。上記開示は、エレクトロクロミック金属酸化物と比較すると耐久性に問題があり、サイズが限定される傾向があることが知られている、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などの有機エレクトロクロミック化合物に関する。
【0014】
基材、特にガラスの曲げプロセス(bending process)は、材料の不具合の重大な原因又は欠陥の導入につながり得る。したがって、湾曲エレクトロクロミックデバイスを製造する場合、高価であり得るエレクトロクロミック層の適用の前に、基材の曲げを完了させることが有利である。
【0015】
したがって、すでに湾曲した基材に適用される均一な厚みのエレクトロクロミックコーティングを確実に製造する、湾曲、二重湾曲、または複雑湾曲エレクトロクロミックデバイスの簡便な製造方法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、湾曲エレクトロクロミックデバイスの製造方法を提供することである。本発明の一態様においては、以下の工程を含む湾曲エレクトロクロミックデバイスの製造方法が提供される:一の表面上に第1の透明導電性コーティングを有する第1の湾曲基材を提供すること;前記第1の導電性コーティングをカソードエレクトロクロミック金属酸化物層でコーティングすること、ここでカソードエレクトロクロミック金属酸化物層材料は、以下のステップを含むプロセスによって形成される:i)1つまたは複数の無機または有機金属カソード前駆体を含む溶液で、第1の湾曲基材上の第1の透明導電性コーティングをスプレーコーティングして前駆体層を形成すること;およびii)前駆体層を近赤外線、紫外線、またはオゾンに曝露して、1つまたは複数の無機前駆体を第1のカソードエレクトロクロミック金属酸化物層に変換し、第1の被覆湾曲基材を形成すること;一の表面上に第2の透明導電性コーティングを有する第2の湾曲基材を提供すること、ここで前記第2の湾曲基材は、第1の湾曲基材と相補的な曲率を有する;前記第2の導電性コーティングをアノードエレクトロクロミック金属酸化物層でコーティングすること、ここでアノードエレクトロクロミック金属酸化物層材料は、以下のステップを含むプロセスによって形成される:iii)1つまたは複数の無機または有機金属アノード前駆体を含む溶液で、第2の湾曲基材上の第2の透明導電性コーティングをスプレーコーティングして前駆体層を形成すること;およびiv)前駆体層を近赤外線、紫外線またはオゾンに曝露して、前駆体層をアノードエレクトロクロミック金属酸化物層に変換し、第2の被覆湾曲基材を形成すること;第1の被覆湾曲基材上の前記カソードエレクトロクロミック金属酸化物層と第2の被覆湾曲基材上の前記アノードエレクトロクロミック金属酸化物層との間に電解質層を組み込むステップ;ならびにデバイスをシーリングし湾曲エレクトロクロミックデバイスを形成すること、ここで前記シーリングのステップは、前記電解質の組み込みの前または後に行われ得る。
【0017】
本発明の別の態様に従って、本発明の方法を用いて製造された湾曲エレクトロクロミックデバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図に示した特定の配置は、限定的なものとみなされるべきではない。形状、大きさ及び縮尺を含む図示された要素は、互いに実際の比率で描かれているわけではないことを理解されたい。
【0019】
本開示のさらなる特徴および利点は、添付図面と組み合わせてなされる以下の詳細な説明から明らかになるであろう:
【0020】
【
図1】
図1は、一の実施形態における、本発明の方法を用いて作製され得る湾曲エレクトロクロミックデバイスおよびその構成要素の概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に従って作製される湾曲エレクトロクロミックデバイスについて、30サイクルにわたる漂白状態および有色状態のCIE Y透過率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細説明
本発明の方法は、湾曲エレクトロクロミックデバイスの改良された製造方法を提供する。さらに、本発明は、エレクトロクロミックデバイス用の、剛性湾曲基材を均一かつ効率的にコーティングする方法を提供する。
【0022】
本開示は、一般に、エレクトロクロミック層を剛性湾曲基材表面に直接適用することによって調製される湾曲エレクトロクロミックデバイスの製造方法に関する。
【0023】
湾曲剛性エレクトロクロミックデバイスの製造方法は、一の表面に第1の透明導電性コーティングを有する第1の湾曲基材;および第1の湾曲基材と相補的な曲率を有し、一の表面に第2の透明導電性コーティングを有する第2の湾曲基材を提供することを含む。第1の(カソード)エレクトロクロミック金属酸化物層は:i)第1の透明導電性コーティングで被覆湾曲基材に、1つまたは複数の無機または有機金属前駆体の溶液をコーティングして前駆体層を形成するステップ、およびii)前駆体層を近赤外線、紫外線、またはオゾンに曝露して、1つまたは複数の無機または有機金属前駆体を(カソード)金属酸化物層に変換するステップを含むプロセスによって、第1の基材上の導電性コーティングに適用される。第2の(アノード)エレクトロクロミック層は、第1の湾曲基材について説明したものと同じプロセスによって第2の湾曲基材に適用されるが、無機または有機金属前駆体の溶液を使用してアノード金属酸化物層を形成する。第1および第2の湾曲基材がそれぞれのエレクトロクロミック金属酸化物層に形成されると、電解質層が上記第1および第2のエレクトロクロミック金属酸化物層の間に組み込まれる。こうしてできた層状構造はシールされ、湾曲エレクトロクロミックデバイスが形成される。
【0024】
本発明の方法は、湾曲エレクトロクロミックデバイスを製造するためのスケーラブルな溶液ベースのプロセスを提供する。
【0025】
文脈上要求される場合を除き、本明細書および特許請求の範囲を通じて、含む("comprise", "comprising")などの語は、開放的で包括的な意味で解釈される。"a"、 "an"などの語は、「少なくとも1つ」を意味するものとみなされ、1つに限定されるものではない。
【0026】
特段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0027】
本明細書では、「単一湾曲(singly curved)」という用語は、1つの平面内に半径を有する曲面を指す。
【0028】
本明細書では、「二重湾曲(doubly curved)」という用語は、2つの平面内に半径を有する(表面が同時に2つの方向に曲がる)表面を指す。このような面の例としては、球面が挙げられる。「複合湾曲(compound curved)」という用語は、本明細書では二重湾曲と互換的に使用される別の用語である。
【0029】
本明細書では、「複雑婉曲(complexly curved)」という用語は、2つ以上の半径を有する曲面、または表面全体に複数の異なる曲率を有する曲面を指す。
【0030】
本明細書では、「アノードエレクトロクロミック層」という用語は、イオンが抽出されると有色状態に遷移する固体無機エレクトロクロミック材料を含む層を指す。本出願において、それはエレクトロクロミックデバイス内の導電層とイオン伝導層の間に平行に配置される。
【0031】
本明細書では、「カソードエレクトロクロミック層」という用語は、イオンが挿入されると有色状態に遷移する固体無機エレクトロクロミック材料を含む層を指す。本出願において、それはエレクトロクロミックデバイス内の導電層とイオン伝導層の間に平行に配置される。
【0032】
本明細書では、「サイクルされた(cycled)」という用語は、バッテリー、ポテンショスタットなどの外部電源によってデバイス全体にバイアス電圧を印加し、所定時間後に極性を反転させることを指す。逆極性は、元のバイアス電圧とは異なる電圧をであってもよい。バイアス極性は再び反転し、「サイクル」が完了する。
【0033】
本明細書では、「エレクトロクロミックデバイス」という用語は、基材、アノード電極、カソード電極、イオン伝導層、および電荷平衡イオンを含む電気化学デバイスを指し、このデバイスは、印加される電気バイアスの使用によって、有色状態(すなわち、窓を通る光の透過率が低い)から透明状態(すなわち、窓を通る光の透過率が高い)へ、および/または透明状態から有色状態へ遷移できる。「透明」状態は「漂白」状態とも呼ばれ得る。
【0034】
本明細書では、「イオン伝導性」という用語は、異なるサイト間でイオンを移動(shuttle)させる材料の能力を指す。一例として、本明細書においてイオン伝導性材料は、外部電気バイアスの導入により、アノードとカソードの間でリチウムイオンを移動(shuttling)できる。
【0035】
本明細書では、「配位子」という用語は、金属またはメタロイドに配位、化学結合またはイオン結合したいずれかの化学基を指す。代表的な配位子の例としては、塩化物、臭化物、硝酸塩、2-エチルヘキサノエート、エトキシド、ブトキシド、イソプロポキシド、酢酸塩、シュウ酸塩、アセチルアセトナートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
本明細書では、「光析出(photodeposition)」という用語は、基材または電極上に溶液堆積された(chemical deposited)化学前駆体が、UVもしくはNIR電磁放射線、またはそれらの組み合わせに(オゾンの存在下または非存在下で)曝露され、無機酸化物層への光化学変換が生じるプロセスを指す。
【0037】
本明細書では、「基材(substrate)」という用語は、その上に追加の機能層が組み立てられる、機械的支持材料を指す。
【0038】
図1は、本発明の方法を用いて作製できるエレクトロクロミックデバイスの多層構造を模式的に示す。この場合において、
図1は外部電源に接続された装置を表している。エレクトロクロミックデバイスは、第1の湾曲基材(1)、第1の透明導電層(2)、アノードエレクトロクロミック層またはイオン蓄積層(3)、イオン伝導性電解質層(4)、カソードエレクトロクロミック層(5)、第2の透明導電層(6)、および第2の湾曲基材(7)を含む。基材(1、7)は、アクティブデバイス材料のベース構造および内部層の保護をもたらす。(透明)導電層(2、6)は、外部電源からエレクトロクロミック層(3、5)に電荷を伝導する手段、ならびに/またはエレクトロニクスおよびソフトウェアを制御する手段を提供する。導電性電解質層(4)は、アノード(3)およびカソード(5)エレクトロクロミック層間にイオンを輸送する手段を提供する。層の順序が基材に対して逆であっても、本発明の範囲内である。すなわち、第1基材、第1透明導電層、カソードエレクトロクロミック層、電解質層、アノードエレクトロクロミック層またはイオン蓄積層、第2透明導電層、第2基材の順であり得る。また、追加の保護層および機能層を任意選択的に適用することも本発明の範囲内であり得る。本デバイスの層の厚み、層の形状、サイズ、および縮尺は、縮尺通りに描かれているわけでも、実際の比率で描かれているわけでもないが、明確性のために表現される。
【0039】
電極間に電圧が印加されると、絶縁性エレクトロクロミック材料内に電界が発生し、エレクトロクロミック材料への、またはエレクトロクロミック材料からのイオンの移動が起こり、エレクトロクロミック材料に色の変化が生じ得る(例えば、あるエレクトロクロミック状態から別のエレクトロクロミック状態に切り替わったときに、無色から有色の状態に変化する)。印加バイアスを反転させることで、エレクトロクロミック材料は、例えば有色状態から無色状態(または漂白状態)に戻り得る。また、エレクトロクロミック材料は、最初は有色であり、電圧を印加することで無色状態に切り替わり、印加するバイアスを反転させることで有色状態に戻ることもあり得る(例えば、酸化タングステンベースの材料はイオン挿入で発色し、酸化ニッケルベースの材料はイオン抽出で発色する)。
【0040】
エレクトロクロミックデバイスを製造する際、製造工程で遭遇する可能性のある潜在的な故障箇所が数多くある。材料に欠陥が検出された場合、製造プロセスのできるだけ早い段階で装置の製造を中止するのが理想的である。基材を湾曲させるプロセスが、故障の重大な原因または材料欠陥の導入となる可能性があることを考慮すると、基材材料に高価な機能層を適用する前に湾曲操作を行うのが有利である。
【0041】
湾曲透明基材(1、7)には、ガラス、プラスチック、および/またはポリマーが含まれるが、これらに限定されるものではない。透明基材は、所望のアプリケーションに適した光学的、電気的、熱的および機械的特性を有するべきである。一実施形態において、湾曲透明基材は、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、アクリル、透明アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、メチルメタクリレートアクリロニトリルブタジエンスチレン(MABS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、非晶性コポリエステル(PETG)、汎用ポリスチレン、スチレンアクリロニトリル樹脂(SAN)、スチレンメチルメタクリレート(SMMA)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)、透明ポリプロピレン、アイオノマー樹脂、ポリエチレン(PE)、環状オレフィンコポリマー、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、および液状シリコーンゴム(LSR)からなる群から選択される。好ましい実施形態において、湾曲透明基材は、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、アクリル、およびポリ塩化ビニル(PVC)からなる群から選択される。
【0042】
基材がガラス製の場合、ナトリウムバリア層をさらに含んでもよい。第1の透明基材と第2の透明基材とが、同じ材料であっても異なる材料であっても本発明の範囲内である。一実施形態では、湾曲透明基材はいずれもガラスである。別の実施形態では、湾曲透明基材はいずれも強化ガラスまたは熱強化ガラスである。別の実施形態では、湾曲透明基材はいずれもポリカーボネートである。別の実施形態では、湾曲透明基材は独立してガラス、ポリカーボネート又はポリエチレンテレフタレートである。
【0043】
本発明の方法の利点は、湾曲強化ガラス基材および熱強化基材の使用が可能なことである。
【0044】
強化ガラスは、制御された熱処理又は化学処理によって強化された通常のガラスである。焼き戻しプロセスはガラスにストレスを与えるため、ガラスが割れたときに、鋸歯状の大きな破片ではなく、小さな破片に粉砕される。従って強化ガラスは、その安全性からさまざまなアプリケーションに使用されている。しかしながら、高温にさらされると、強化ガラスの焼き戻し(temper)が弱まり、使用当所の強度および安全上の利点が消失する。有利なことに、本明細書に記載の方法は、エレクトロクロミック材料のコーティングを(湾曲)強化ガラスに直接適用することを可能にする。さらに、焼き戻し工程では、ローラーウェーブ(roller waves)およびエッジキンク(edge kink)による大きな反り(平面からの逸脱)を有するガラスがしばしば生じる。本発明の方法は、凹凸または欠陥を有する表面のある従来の強化ガラスに高品質のエレクトロクロミックデバイスを製造する能力を提供する。
【0045】
一実施形態では、湾曲透明基材は単一湾曲しており、その結果、単一湾曲エレクトロクロミックデバイスとなる。別の実施形態では、湾曲透明基材は二重湾曲(または複合湾曲)しており、その結果、二重湾曲(複合湾曲)エレクトロクロミックデバイスとなる。さらに別の実施形態では、湾曲透明基材は複雑湾曲しており、その結果、複雑湾曲エレクトロクロミックデバイスとなる。
【0046】
一実施形態では、湾曲透明基材の曲率半径は約300mm~約4000mmである。別の実施形態では、湾曲した透明基材の曲率半径は約750mm~約3000mmである。さらに別の実施形態では、湾曲した透明基材の曲率半径は約1000mm~約2000mmである。
【0047】
一実施形態では、湾曲透明基材はいずれもガラスである。別の実施形態では、湾曲透明基材はいずれも強化ガラスまたは熱強化ガラスである。別の実施形態では、湾曲透明基材はいずれもポリカーボネートである。別の実施形態では、湾曲透明基材は独立してガラス、ポリカーボネートまたはポリエチレンテレフタレートである。
【0048】
本発明はまた、剛性湾曲基材を第1の湾曲基材とするエレクトロクロミックデバイスを、フレキシブルな基材を第2の湾曲基材として組み合わせることを可能にする。別として、第1の湾曲基材をフレキシブル基材とし、第2の湾曲基材を剛性湾曲基材とするように、基材の構成を逆にしてもよい。
【0049】
本発明の方法に従って、各湾曲基材(1、7)は、それぞれ透明導電層(2、6)を備え、透明導電性コーティング(2、6)は、典型的には、透明導電性酸化物(TCO)を含むコーティングである。導電性コーティングは、エレクトロクロミックデバイスに十分なコンダクタンスを提供し、光の透過を著しく妨げないものであるべきである。各基材上の透明導電性コーティングは、同じ材料であっても異なる材料であってもよい。一実施形態において、透明導電性コーティングは、フッ素スズ酸化物(FTO);インジウムスズ酸化物(ITO);アルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、銀メッシュ、銀ナノワイヤ、銀ナノ粒子、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェン、導電性ポリマー、またはそれらの2つ以上の組み合わせを含む。好ましい実施形態において、透明導電性コーティングはFTOまたはITOを含む。
【0050】
ITO被覆ガラスの最高使用温度は350℃未満が好ましいが、FTO被覆ガラスは600℃まで使用できる。従って、エレクトロクロミック基材の製造方法の先行技術である高温プロセス、例えばゾル-ゲル法は、ITO被覆基材には使用できない。対照的に、本方法の低温スプレーコーティングおよび光析出工程は、ITOまたはFTOの被覆基材上でプロセスを実施することを可能にする。
【0051】
エレクトロクロミック層
効率的なエレクトロクロミック層(3、5)は、有色状態と漂白状態の間で高いカラーコントラストを示し、有色状態と漂白状態の間の変換が速く、低い印加電圧でスイッチングが可能で、状態間で優れたサイクル可逆性を示す。
【0052】
有機染料および表面拘束エレクトロクロミック層を含むエレクトロクロミックデバイスに使用され得るエレクトロクロミック材料には、金属酸化物などさまざまな種類がある。現在市場に流通している建築用エレクトロクロミック窓の大部分は、金属酸化物を採用している。金属酸化物はそれに対応する有機物よりも耐久性が高く、一般により面積の広い窓に使用すると、より均一にスイッチングするためである。好ましい実施形態において、本発明のエレクトロクロミックデバイスは、金属酸化物ベースのエレクトロクロミックコーティングを採用する。
【0053】
活性(エレクトロクロミック)金属酸化物層または混合金属酸化物層を生成することは、酸化物ベースのエレクトロクロミックセルの製造において重要なステップである。歴史的に、エレクトロクロミック業界では、真空中での物理的気相成長法(直流マグネトロン、電子ビームおよび高周波を含む)であるスパッタリングが、薄膜(層)およびコーティングの成膜方法として最も広く使われてきた。スパッタリングは非常に汎用性が高いが、操作のためには真空チャンバーおよび高いエネルギーを要求し、曲面への均一なコーティング形成に関する課題に直面している。
【0054】
スロットダイコーティング、カーテンコーティング等のスパッタリングの代替技術は、曲面、特にコーティングされる材料の曲率半径が変化する場合のコーティングには容易には対応できない。スロットダイでは、コーティングされる表面が平らで、スロットダイのメニスカスの厚みに対して曲率およびうねりの制限が要求される。カーテンコーティングは、重力によって溶液が曲面の斜面を流れ落ち、コーティングが不均一になり得るため、曲面では実用的でない。曲面にコーティングを適用するこれらの先行技術の方法とは対照的に、本発明の方法は、様々な曲率の剛性湾曲基材に均一なコーティングを適用することを可能にする。
【0055】
本発明の好ましい実施形態によれば、エレクトロクロミックコーティングはスプレーコーターを用いて適用される。本発明の一実施形態において、湾曲基材は、静止したスプレーコーターノズルの下に移動され、そこから1つまたは複数の無機または有機金属前駆体の溶液が排出される。別の実施形態では、基材は静止したままで、スプレーコーターノズルが湾曲基材上を移動して基材全域をコーティングする。さらに別の実施形態では、基材とスプレーコーターノズルの両方を互いに相対的に移動させる。
【0056】
本発明の方法を用いれば、得られるエレクトロクロミックコーティングは、要求に応じて所望の厚みに調整され得る。一実施形態において、厚みは、スプレーコーターノズルおよび/または基材の移動速度を制御することによって調整される。一実施形態において、スプレーコーターノズルは、毎分20~50フィートの速度で湾曲基材の表面に対して相対的に移動する。
【0057】
一実施形態では、基材またはノズルの移動速度を減速することで、シングルパスにより良好な結果が得られる。別の実施形態では、所望の厚みが達成されるまで、基材領域はマルチパスでスプレーコーティング溶液に曝露される。
【0058】
本発明の方法によれば、コーティング溶液は、1つまたは複数の無機または有機金属前駆体の溶液である。この溶液は、金属前駆体(a metal precursor or precursors)を相溶性溶媒(compatible solvent)に溶解させることで調製し、それを基材表面に適用する。乾燥すると、所望の前駆体の層(a layer of the desired precursor or precursors)が基材上に形成される。相溶性溶媒の例としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、ヘキサン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、酢酸エチル、アセトニトリル、エチレングリコール、テトラヒドロフラン(THF)、トルエンおよびN-メチルピロリドンなどが挙げられるが、これらに限定されない。当該前駆体を溶解できる溶媒であればいずれも、本方法に使用するのに適切であり得る。
【0059】
代表的なエレクトロクロミックデバイスでは、湾曲透明導電性基材の一方がカソードエレクトロクロミック層を含み、湾曲透明導電性基材の他方がアノードエレクトロクロミック層を含む。
【0060】
酸化タングステン(WOx)は、エレクトロクロミックデバイスにおいて、淡黄色(または透明)の完全酸化状態と、濃い青色の部分還元状態との間をサイクルする、公知のカソードエレクトロクロミック材料である。透明材料は、リチウムイオンの存在下で電気化学的に還元され、有色還元状態(LiWOx)を形成し、可逆的に再酸化されて透明状態になり得る。本発明のデバイスに使用するのに適した他のエレクトロクロミックカソード材料の例としては、酸化モリブデン(MoOx)、酸化チタン(TiOx)、酸化タンタル(TaOx)および酸化ニオブ(NbOx)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
酸化ニッケル(NiOx)は、エレクトロクロミックセル内でより良い有色暗色状態を作り出すための、酸化タングステンと補色関係にあるアノードエレクトロクロミック材料として公知である。NiOx層の成膜は通常スパッタリングで行われる。本発明のデバイスに使用するのに適したアノードエレクトロクロミック材料の他の例は、酸化イリジウムである。酸化コバルト(CoOx)、酸化マンガン(MnOx)、酸化鉄(FeOx)などの材料もエレクトロクロミック挙動を示すことが示されているが、完全には漂白されないため理想的ではない。酸化バナジウム(VOx)もまた、公知のアノードエレクトロクロミック材料である。
【0062】
一実施形態において、エレクトロクロミック層は、NiOx、WOx、MoOx、TiOx、TaOx、VOx、NbOx、CoOx、IrOx、MnOx、FeOx、LiNiOx、WNbOx、TiWOx、LiWOx、NiNbOx、NiNbLiOx、NiAlLiOx、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される金属酸化物を含む。好ましい実施形態において、カソードエレクトロクロミック層は、WOx、WNbOx、TiWOx、LiWOx、またはそれらの組み合わせである。好ましい実施形態において、アノードエレクトロクロミック層は、NiOx、LiNiOx、NiNbOx、NiNbLiOx、NiAlLiOx、VOx、またはそれらの組み合わせを含む。一実施形態において、エレクトロクロミック金属酸化物層は主に酸化タングステンからなる。一実施形態において、エレクトロクロミック金属酸化物層は主に酸化ニッケルからなる。
【0063】
一実施形態において、エレクトロクロミック金属酸化物層は、ドープされた金属酸化物であり、ドーパント原子はニオブ、アルミニウム、セリウム、リチウム、タンタル、モリブデン、コバルト、ケイ素、およびチタンから選択される。
【0064】
本発明の様々なプロセスで使用するのに適した前駆体は、光析出への曝露により対応する酸化物に変換され得る無機または有機金属化合物のいずれも含む。適切な前駆体としては、無機塩化物、無機硝酸塩、無機酢酸塩、有機金属2-エチルヘキサノエート、有機金属ブトキシド、有機金属エトキシド、有機金属メトキシド、有機金属イソプロポキシド、有機金属アセチルアセトナート、有機金属シラノレート、有機金属シュウ酸塩、またはそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。前駆体の例示的な実施形態には、塩化タングステン(VI)、タングステン(VI)イソプロポキシド、塩化バナジウム(III)、タンタル(V)エトキシド、ニオブ(IV)2-エチルヘキサノエート、ニオブ(V)エトキシド、ニッケル(II)酢酸四水和物、ニッケル(II)2-エチルヘキサノエート、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウム2-エチルヘキサノエート、リチウムトリメチルシラノレート、およびモリブデン(IV)2-エチルヘキサノエートが含まれる。
【0065】
一実施形態において、本発明は、基材上に前駆体層を形成するために、湾曲剛性基材に前駆体溶液をスプレーコーティングするステップと、それに続いて層を光析出に供し基材上の被覆前駆体層を所望の金属酸化物または混合金属酸化物に変換するステップと、を部分的に含む、湾曲エレクトロクロミックデバイスを調製する方法を提供する。
【0066】
光析出ステップは、前駆体層を近赤外線、紫外線、およびオゾンのうちの1つまたは複数に曝露することによって実施され得る。
【0067】
近赤外光析出は、赤外光を用いて前駆体を分解し、対応する無機固体イオン伝導層を生成する。米国特許第10173210号明細書には、金属酸化物および混合金属酸化物を調製するための近赤外(NIR)駆動分解法が記載されており、その開示全体は、援用が認められる法域内において参照により本明細書に援用される。
【0068】
UV光析出は常温または高温で行われ、紫外線、または紫外線とオゾンとの組み合わせによって、前駆体を対応する無機固体イオン伝導層に変換する。米国特許第9803287号明細書には、電極触媒を製造するための金属酸化物および混合金属酸化物を生成するためのUV光析出技術が記載されており、その開示全体は、援用が認められる法域内において参照により本明細書に援用される。
【0069】
米国特許出願公開第2020/165161号明細書には、エレクトロクロミック層およびデバイスを製造するための金属酸化物および混合金属酸化物を生成するための光析出技術が記載されており、その開示全体は、援用が認められる法域内において参照により本明細書に援用される。
【0070】
基材上のエレクトロクロミック層の製造の一実施形態では、前駆体溶液を、上記のように調製して適切な表面上にコーティングし、得られた前駆体薄層は、分析法を用いて配位子の損失をモニターすることにより分解が確認されるまで光析出プロセスに供される。前駆体が有機配位子を含む本発明の実施形態において、所望の金属酸化物の形成は、赤外(IR)またはフーリエ変換赤外(FTIR)分光法によってモニターされ得る。前駆体から配位子が失われると、赤外スペクトルにおいて配位子シグナルの消失が生じるためである。金属塩化物塩を含むがこれに限定されない、赤外分光法で追跡できない前駆体については、蛍光X線(XRF)分光法を用いて金属酸化物への変換がモニターされ得る。
【0071】
いくつかの実施形態において、エレクトロクロミック前駆体層は、複数の層からなり、各層間で光析出を受ける。別の実施形態において、エレクトロクロミック前駆体層は、複数の層からなり、前駆体の全層が適用された後にのみ光析出プロセスに供される。別の実施形態において、エレクトロクロミック前駆体層は、複数の層からなり、前駆体層の2層目、3層目、または4層目が適用されるごとに、光析出プロセスに供される。別の実施形態において、エレクトロクロミック前駆体層は、複数の層からなり、前駆体の5層目、6層目、または7層目が適用されるごとに、光析出に供される。
【0072】
一実施形態において、得られたエレクトロクロミック金属酸化物層は、例えば約30℃~約600℃でアニールステップを受けてもよい。特定の実施形態において、エレクトロクロミック金属酸化物層は、大気中のオーブン中で、約30℃~約600℃の温度範囲で、約15分~約1時間、アニールステップを受ける。一実施形態では、当該層は約50℃で約15分~約1時間、アニールステップを受ける。一実施形態では、当該層は約100℃で約15分~約1時間、アニールステップを受ける。別の実施形態では、当該層は約200℃で約15分~約1時間、アニールステップを受ける。さらに別の実施形態では、当該層は約300℃で約15分~約1時間、アニールステップを受ける。別の実施形態では、当該層は約350℃で約15分~約1時間、アニールステップを受ける。別の実施形態では、当該層は約400℃で約15分~約1時間、アニールステップを受ける。さらに別の実施形態では、当該層は約450℃で約15分~約1時間、アニールステップを受ける。
【0073】
一実施形態では、エレクトロクロミック層の平均厚みは約10nm~約2000nmである。別の実施形態では、エレクトロクロミック層の平均厚みは約100nm~約800nmである。好ましい実施形態では、エレクトロクロミック層の平均厚みは約200nm~約700nmである。
【0074】
特定の実施形態では、湾曲透明基材のいずれか一方または両方のエレクトロクロミック層に付加層が加えられる。一実施形態では、この付加層はバリア層である。特定の実施形態では、この付加バリア層は、酸化ニオブ、酸化リチウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、またはそれらの混合物を含む。別の実施形態では、バリア層は酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化リチウム、またはそれらの混合物を含む。
【0075】
本発明のエレクトロクロミックデバイスにおいて、アノードエレクトロクロミック層とカソードエレクトロクロミック層とは、イオン伝導性電解質層(4)によって分離される。エレクトロクロミックセルにおける電解質層(4)の役割は、イオンおよび電流がアノード材料とカソード材料の間を移動できるようにすることである。この層は液状、ゲル状または固体状であり得る。一実施形態では、電解質層はプロピレンカーボネートに溶解したリチウム塩を含む電解液である。一実施形態では、電解質層は、樹脂;リチウム塩;溶媒成分;任意選択の可塑剤成分;および任意選択の架橋剤を含むポリマーゲルである。別の実施形態では、電解質層は、二官能オリゴマー;単官能モノマー;リチウム塩;可塑剤;および光重合開始剤を含むポリマーゲルである。さらに別の実施形態では、電解質層は、少なくとも1つのイオン伝導性金属酸化物材料を含む固体層である。
【0076】
電解質層の性能または耐久性を高めるために、電解質層に添加剤が配合されてもよい。かかる添加剤としては、当業者に公知の他の添加剤に加えて、フィラー、紫外線安定剤、熱安定剤、接着性向上剤(adhesion improvers)、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、水分捕捉剤、架橋剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、IR吸収剤、IRブロッカー、界面活性剤、キレート剤(cheating agent)、および衝撃改質剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
電解質層は、アノードエレクトロクロミック層とカソードエレクトロクロミック層の間に封入され、電解質の界面を外部雰囲気から隔離する。一実施形態では、シーリングステップは、電解質が硬化する際に溶けてシールするホットメルト材料を用いる。一実施形態では、シーリングステップは両面テープを用いる。一実施形態では、シーリングステップは、硬化を開始する硬化工程に続いて適用される材料を用いる。
【0078】
本発明の一実施形態では、酸化タングステンは、タングステン前駆体層を光析出に供することにより湾曲透明導電性酸化物コーティング上に形成され、その後、湾曲エレクトロクロミックセル(印加電気バイアスの使用により、不透明から透明、または透明から不透明に透明性へと遷移させることができるセル)に組み込まれる。
【0079】
本発明の別の実施形態では、酸化ニッケルは、ニッケル前駆体層を光析出または熱分解に供することにより、湾曲透明導電性酸化物コーティング上に形成され、その後、湾曲エレクトロクロミックセル(印加電気バイアスの使用により、不透明から透明、または透明から不透明に透明性へと遷移させることができるセル)に組み込まれる。
【0080】
本発明の実施形態に従って調製される関連エレクトロクロミックデバイスには、エレクトロクロミック窓およびエレクトロクロミックサンルーフが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0081】
本発明は、1つの基材に剛性曲面を有するエレクトロクロミックデバイスを、フレキシブル基材と組み合わせることを可能にする。このような実施形態では、エレクトロクロミックデバイスは、フレキシブルな第1の基材と、剛直な第2の基材とを含む。別の実施形態では、エレクトロクロミックデバイスは、剛直な第1の基材と、フレキシブルな第2の基材とを含む。
【0082】
次に、具体的な実施例を参照して本発明を説明する。以下の実施例は、本発明の実施形態を説明するためのものであり、本発明を何ら限定するものではないことが理解されるだろう。開示されたプロセスの特定の態様は、多種多様な異なる構成に配置され、組み合わされ得ることが理解されるだろう。
【0083】
実施例
実施例1 -曲面上のエレクトロクロミックWOxの調製
12インチ×12インチのフッ素ドープ酸化スズ(FTO)コートガラス基材(TEC 10;10Ω/sq)(Pilkington、米国オハイオ州トレド)を曲げ、組立て済みエレクトロクロミックデバイス(Coastal Curved Glass、カナダ、BC州ピットメドウズ)の中央で測定した曲率半径を2メートルにした。湾曲基材は、以下の溶液中で15分間ずつ連続的に超音波洗浄した:Extran(登録商標)300洗剤(VWR、カナダ、オンタリオ州ミシサガ);脱イオンH2O;アセトン(VWRカナダ、オンタリオ州ミシサガ);および2-プロパノール(VWR、カナダ、オンタリオ州ミシサガ)。基材を乾燥させ、凹面を大気圧プラズマで5~8分間ラスター処理した。洗浄した基材の凹面の4辺をすべてマスクし、基材をスプレーコートした。前駆体溶液については、2-プロパノール(VWR、カナダ、オンタリオ州ミシサガ)を塩化タングステン(VI)(WCl6、Sigma Aldrich、カナダ、オンタリオ州オークビル)に加えて0.05M溶液とした。この溶液を濾過し、湾曲FTO被覆ガラス基材上にスプレーコートし(アームスピード=10cm/s)、基材上に青色層を得た。このスプレープロセスをさらに2回繰り返した。続いて、被覆基材をUVリアクター(二波長(λ=185、254nm)UVランプ(05-0332-R GPH436T5VH/HO/4PSE、4ピンオゾン、Atlantic Ultraviolet、Hauppauge、ニューヨーク州、米国)に5分間静置した。前駆体を変換してWOxを形成する。キャスト薄膜は青色から無色に変化し、金属酸化物、この場合はWOx製の薄膜に変化した。スプレーおよびUVプロセスを6回繰り返した。マスクを除去した。前駆体の変換(conversion)は蛍光X線(XRF)分光法で追跡し、前駆体の塩化物配位子に対応するカウントが消失するか、またはベースラインレベルに達した時点で変換が完了したとみなした。
【0084】
実施例2 -曲面基材上のエレクトロクロミックNiOxの調製
12インチ×12インチのフッ素ドープ酸化スズ(FTO)コートガラス基材(TEC10;10Ω/sq)(Pilkington、米国オハイオ州トレド)を曲げ、組立て済みエレクトロクロミックデバイス(Coastal Curved Glass、カナダ、BC州ピットメドウズ)の中央で測定した曲率半径を2メートルにした。湾曲基材は、以下の溶液中で15分間ずつ連続的に超音波洗浄した:Extran(登録商標)300洗剤(VWR、カナダ、オンタリオ州ミシサガ);脱イオンH2O;アセトン(VWRカナダ、オンタリオ州ミシサガ);および2-プロパノール(VWR、カナダ、オンタリオ州ミシサガ)。基材を乾燥させ、凸面を大気圧プラズマで5~8分間ラスター処理した。洗浄した基材の凸面の4辺をすべてマスキングし、基材にスプレーコーティングを施した。前駆体溶液については、2-プロパノール(VWR社(カナダ、オンタリオ州ミシサガ)をニッケル(II)2-エチルヘキサノエート(2-エチルヘキサン酸中、78%)((Ni(eh)2)、Strem、米国マサチューセッツ州ニューベリーポート)に加えて0.18M溶液とした。この溶液をろ過し、湾曲FTOコートガラス基材上にスプレーコートし(アームスピード=10cm/s)、基材上に無色の層を得た。このスプレープロセスを5回繰り返した。マスクを除去した。その後、基材をオーブン(Memmert UF 160 PLUS)に入れ、前駆体をNiOxに変換するために加熱した。キャスト薄層は無色から薄茶色に変化し、金属酸化物、この場合はNiOx製の薄層に変化した。その後、被覆基材を再びマスクし、ニッケル前駆体の0.20M溶液をスプレーした(3回)。マスクを除去し、被覆基材をオーブンに入れて酸化物に変換した(オーブン条件は上記と同じ)。このスプレー/オーブンプロセスを0.20M溶液を用いてさらに1回繰り返した。前駆体の変換は、フーリエ変換赤外蛍光(Fourier transform infrared fluorescence)(FTIR)分光法で追跡し、対応する前駆体配位子に対応する伸縮(stretches)が消失するか、またはベースラインレベルに達した時点で変換が完了したとみなした。
【0085】
実施例3 -湾曲エレクトロクロミックデバイス
この実施例では、実施例1に記載したように調製したエレクトロクロミックWOx層および実施例2に記載したNiOx層を、PC/FTO/ガラス中のガラス/FTO/WOx/LiClO4の構造を有する液体エレクトロクロミックデバイスに組み込んだ。
【0086】
銅テープ(マクマスター・カー、米国ニュージャージー州ロビンズビル)バスバーを、WOx基材の被覆面上の接続された2辺に沿ってむき出しのFTOに取り付け、銀塗料(Ted Pella、米国カリフォルニア州レディング)を、FTOと接触している銅テープの辺に沿って適用した。
【0087】
銅テープ(マクマスター・カー、米国ニュージャージー州ロビンズビル)バスバーを、NiOx基材の被覆面上の接続された2辺に沿ってむき出しのFTOに取り付けた(そのため、デバイス全体が銅テープで覆われているように見える)。
【0088】
両面3M(商標)VHB(商標)テープ(4910、3/4インチ、40ミル)を片方の被覆電極の外周に貼り、2つの電極を互いに挟み込んで被覆面を互いに対向させ、曲率を補完した。VHB(商標)テープは、電解液がバスバーに接触するのを防ぐため、バスバーを覆うのに十分な幅があった。エッジをプレスして密閉性を高めた。
【0089】
無水プロピレンカーボネート(PC、Sigma Aldrich、カナダ、オンタリオ州オークビル)中のバッテリーグレードの過塩素酸リチウム(LiClO4、Sigma Aldrich、カナダ、オンタリオ州オークビル)の1M溶液を、シリンジ及びブラントニードル(blunt needle)を使ってセルに注入した。これは、デバイス内に気泡が入らないように慎重に行った。2本目のブラントニードルを反対側に挿入し、電解質を注入する際のベントとした。充填後、ニードルを取り外した。
【0090】
記載されたエレクトロクロミックデバイスのエレクトロクロミック性能は、UV-Vis分光法と電気化学とを組み合わせたセットアップによって試験した。作用電極のポテンショスタットのリードは、被覆WOx電極上のFTOと接触する銅テープのバスバーに接続された。対極および参照電極は、被覆NiOx電極上のFTOと接触する銅テープのバスバーに接続された。デバイスに連続した-1.7Vおよび+1.7Vの電圧を300秒間隔で交互に印加し、デバイスのスイッチング時間(漂白から有色、有色から漂白)を測定した。時間の関数として、エレクトロクロミックデバイスのCIE Yスケールでの透過率の変化を記録した。
図2は、デバイスにおける30回のスイッチングサイクルのサンプルを示す。
【0091】
本明細書中で言及されるすべての米国特許、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、および非特許文献は、援用が認められる法域内において参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0092】
本発明の特定の要素、実施形態および用途が示し、説明したが、特に前述の教示に照らして、本開示の精神および範囲から逸脱することなく当業者によって改変(modifications)がなされ得るため、本発明が前述の教示に限定されないことはもちろん理解されるであろう。かかる改変は、添付の特許請求の範囲に含まれるものとみなされる。
【国際調査報告】