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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-22
(54)【発明の名称】がんの治療のための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20250115BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20250115BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20250115BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20250115BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 38/07 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20250115BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 38/12 20060101ALI20250115BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250115BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20250115BHJP
   C07K 2/00 20060101ALN20250115BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/50 P ZNA
G01N33/48 M
C12Q1/68
A61K45/00
A61K38/07
A61K38/08
A61K38/10
A61K38/16
A61K38/12
A61P35/00
A61P35/02
C07K2/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535774
(86)(22)【出願日】2022-09-29
(85)【翻訳文提出日】2024-06-13
(86)【国際出願番号】 US2022045154
(87)【国際公開番号】W WO2023113901
(87)【国際公開日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】63/290,834
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524224973
【氏名又は名称】ヴィジェオ セラピューティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100136249
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 貴光
(72)【発明者】
【氏名】ワトニック ジン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA26
2G045CB02
2G045DA14
2G045DA36
2G045FB02
2G045FB03
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ53
4B063QR48
4B063QR68
4B063QS10
4C084AA17
4C084BA01
4C084BA16
4C084BA17
4C084BA18
4C084BA19
4C084BA23
4C084BA24
4C084CA59
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA30
4H045DA83
4H045EA20
(57)【要約】
がん患者の標準治療は、直接的な抗腫瘍活性を示さない広く細胞傷害性の薬剤の投与を含む。そのような治療は、衰弱性の副作用を呈し、耐性を発症しやすい。したがって、直接的に抗腫瘍性及び抗転移性である、改善されたがん治療薬の必要性が存在する。本発明の技術は、改善されたがん療法のための方法及び組成物に関する。具体的には、本発明の技術は、がんにおけるCD36及びCD47のレベルを決定し、それらの活性を調節する薬剤を投与することに関し、そのがんは、上昇したCD36及びCD47レベル又は活性を示す。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tsp-1誘導剤によるがん治療に対する対象の応答性を評価するための方法であって、前記方法が、前記対象から得られた試料中のCD36及びCD47のレベルを決定することを含み、対照レベルと比較して二重に上昇した前記試料中のCD36及びCD47のレベルが、前記対象が、Tsp-1誘導剤によるがん治療に応答するか、又は応答する可能性が高いことを示す、方法。
【請求項2】
前記試料中の前記CD36及びCD47のレベルが、インビトロで決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Tsp-1誘導剤による治療のために、対照レベルと比較して二重に上昇した前記試料中のCD36及びCD47のレベルを有する前記対象を選択することを更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記がんを治療するために有効量のTsp-1誘導剤を前記対象に投与することを更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
がんを有する対象を治療するための方法であって、前記方法が、前記対象から得られた試料中のCD36及びCD47のレベルを決定することを含み、対照レベルと比較して二重に上昇した前記試料中のCD36及びCD47のレベルが、前記対象がTsp-1誘導剤によるがん治療に応答するか、又は応答する可能性が高いことを示し、対照レベルと比較して二重に上昇した前記試料中のCD36及びCD47のレベルを有する対象に、前記がんを治療するために有効量のTsp-1誘導剤を投与することを更に含む、方法。
【請求項6】
がんを有する対象を治療するための方法であって、(a)がんを有する対象を、前記対象が対照レベルと比較して二重に上昇した試料中のCD36及びCD47のレベルを有することが知られていることに基づいて、選択することと、(b)前記がんを治療するために有効量のTsp-1誘導剤を前記対象に投与することと、を含む、方法。
【請求項7】
前記対照レベルが、前記対象から得られた非がん性細胞又は組織中のCD36及びCD47レベルである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記対照レベルが、健常対象又は健常対象の集団から得られた細胞又は組織中のCD36及びCD47レベルである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記対照レベルが、所定のレベルである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記CD36及びCD47のレベルが、CD36及びCD47タンパク質レベル、CD36及びCD47mRNAレベルを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記がんが、前立腺がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、白血病、膵臓がん、多形神経膠芽腫、星状細胞腫、又は黒色腫である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記Tsp-1誘導剤が、アミノ酸配列CDWLPK(配列番号1)、DWLPK(配列番号2)、若しくはDWLP(配列番号3)、又はそのアミノ酸置換バリアントを有するPsapペプチドを含み、アミノ酸置換が、
a)トリプトファン(W)に対するチロシン(Y)、
b)ロイシン(L)に対する、バリン(V)、アラニン(A)若しくはグリシン(G)、又は類似のサイズの非標準アミノ酸、又はその誘導体から選択されるアミノ酸置換、c)リジン(K)に対するアルギニン(R)、
d)アスパラギン酸(D)のL異性体に対するアスパラギン酸(D)のD異性体、及び/又はロイシン(L)のL異性体に対するロイシン(L)のD異性体、
e)トリプトファン(W)のL異性体に対するトリプトファン(W)のD異性体、及び/又はプロリン(P)のL異性体に対するプロリン(P)のD異性体、あるいはそれらの組み合わせである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記Psapペプチドが、50アミノ酸以下の長さである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記Psapペプチドが、30アミノ酸以下の長さである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記Psapペプチドが、15アミノ酸以下の長さである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記Psapペプチドが、6アミノ酸以下の長さである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記Psapペプチドが、環状ペプチドである、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記類似のサイズの非標準アミノ酸が、メチルバリン、メチルロイシン、又はサルコシンである、請求項12~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記Tsp-1誘導剤が、環状DWLPK(配列番号2)である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
対照レベルと比較して二重に上昇した試料中のCD36及びCD47のレベルを特徴とするがんを有する対象の治療に使用するための組成物であって、Tsp-1誘導剤を含む、組成物。
【請求項21】
対照レベルと比較して二重に上昇した試料中のCD36及びCD47のレベルを特徴とするがんを有する対象を治療するための薬物の製造における組成物の使用であって、前記組成物がTsp-1誘導剤を含む、使用。
【請求項22】
前記対照レベルが、前記対象から得られた非がん性細胞又は組織中のCD36及びCD47レベルである、請求項20又は21に記載の組成物又は使用。
【請求項23】
前記対照レベルが、健常対象又は健常対象の集団から得られた細胞又は組織中のCD36及びCD47レベルである、請求項20又は21に記載の組成物又は使用。[請求項24]前記対照レベルが、所定のレベルである、請求項20又は21に記載の組成物又は使用。
【請求項24】
前記CD36及びCD47のレベルが、CD36及びCD47タンパク質レベル、CD36及びCD47mRNAレベルを含む、請求項20~23のいずれか一項に記載の組成物又は使用。
【請求項25】
前記がんが、前立腺がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、白血病、膵臓がん、多形神経膠芽腫、星状細胞腫、又は黒色腫である、請求項20~24のいずれか一項に記載の組成物又は使用。
【請求項26】
前記Tsp-1誘導剤が、アミノ酸配列CDWLPK、DWLPK、若しくはDWLP、又はそのアミノ酸置換バリアントを有するPsapペプチドを含み、アミノ酸置換が、
a)トリプトファン(W)に対するチロシン(Y)、
b)ロイシン(L)に対する、バリン(V)、アラニン(A)若しくはグリシン(G)、又は類似のサイズの非標準アミノ酸、又はその誘導体から選択されるアミノ酸置換、c)リジン(K)に対するアルギニン(R)、
d)アスパラギン酸(D)のL異性体に対するアスパラギン酸(D)のD異性体、及び/又はロイシン(L)のL異性体に対するロイシン(L)のD異性体、
e)トリプトファン(W)のL異性体に対するトリプトファン(W)のD異性体、及び/又はプロリン(P)のL異性体に対するプロリン(P)のD異性体、あるいはそれらの組み合わせである、請求項20~25のいずれか一項に記載の組成物又は使用。
【請求項27】
前記Psapペプチドが、50アミノ酸以下の長さである、請求項26に記載の組成物又は使用。
【請求項28】
前記Psapペプチドが、30アミノ酸以下の長さである、請求項27に記載の組成物又は使用。
【請求項29】
前記Psapペプチドが、15アミノ酸以下の長さである、請求項28に記載の組成物又は使用。
【請求項30】
前記Psapペプチドが、6アミノ酸以下の長さである、請求項29に記載の組成物又は使用。
【請求項31】
前記Psapペプチドが、環状ペプチドである、請求項26に記載の組成物又は使用。
【請求項32】
前記類似のサイズの非標準アミノ酸が、メチルバリン、メチルロイシン、又はサルコシンである、請求項26~31のいずれか一項に記載の組成物又は使用。
【請求項33】
前記Tsp-1誘導剤が、環状DWLPK(配列番号2)である、請求項20~26のいずれか一項に記載の組成物又は使用。
【請求項34】
前記試料が、腫瘍試料である、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法、使用又は組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年12月17日に出願された米国仮特許出願第63/290,834号に対する優先権及びその利益を主張するものであり、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明の技術は、改善されたがん療法のための方法及び組成物に関する。具体的には、本発明の技術は、がんにおけるCD36及びCD47のレベルを決定し、それらの活性を調節する薬剤を投与することに関し、がんは、上昇したCD36及びCD47レベル又は活性を示す。
【背景技術】
【0003】
がん患者の標準治療は、直接的な抗腫瘍活性を示さない広く細胞傷害性の薬剤の投与を含む。そのような治療は、衰弱性の副作用を呈し、耐性を発症しやすい。したがって、直接的に抗腫瘍性及び抗転移性である、改善されたがん治療薬の必要性が存在する。
【0004】
がんの効果的な治療に対する主な障壁の1つは、骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)、M2マクロファージ、及び調節性T細胞(Treg)によって媒介される、腫瘍微小環境(TME)の免疫抑制性である。高レベルの細胞表面受容体CD36及びCD47は、膵臓がん及び膠芽腫を含む多くの種類のがんの不良な予後転帰と関連している(Enciu et al.,2018;Huang et al.,2020)。しかしながら、両方の分子を同時に標的とする治療薬が現在知られている。
【0005】
トロンボドスポンジン-1(TSP-1)がCD36及びCD47に結合して腫瘍及び内皮細胞でアポトーシスを誘導し、M1:M2マクロファージ比を増加させ、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を活性化することは、以前に示されている(Dawson et al 1996,Martin-Manso et al 2008,Russell et al.2015)。したがって、TSP-1を誘導する治療薬は、二重に上昇したCD36及びCD47のレベルに関連するがんの治療に有用であろう。
【発明の概要】
【0006】
一態様において、本開示は、Tsp-1誘導剤によるがん治療に対する対象の応答性を評価するための方法であって、上記方法が、対象から得られた試料中のCD36及びCD47のレベルを決定することを含み、対照レベルと比較して二重に上昇した試料中のCD36及びCD47のレベルが、対象が、Tsp-1誘導剤によるがん治療に応答するか、又は応答する可能性が高いことを示す、方法を提供する。
【0007】
いくつかの実施形態において、試料中のCD36及びCD47のレベルは、インビトロで決定される。いくつかの実施形態において、方法は、Tsp-1誘導剤による治療のために、対照レベルと比較して二重に上昇した試料中のCD36及びCD47のレベルを有する対象を選択することを更に含む。いくつかの実施形態において、方法は、がんを治療するために有効量のTsp-1誘導剤を対象に投与することを更に含む。
【0008】
一態様において、本開示は、がんを有する対象を治療するための方法であって、上記方法が、対象から得られた試料中のCD36及びCD47のレベルを決定することを含み、対照レベルと比較して二重に上昇した試料中のCD36及びCD47のレベルが、対象がTsp-1誘導剤によるがん治療に応答するか、又は応答する可能性が高いことを示し、対照レベルと比較して二重に上昇した試料中のCD36及びCD47のレベルを有する対象に、がんを治療するために有効量のTsp-1誘導剤を投与することを更に含む、方法を提供する。
【0009】
一態様において、本開示は、がんを有する対象を治療するための方法であって、(a)対象が対照レベルと比較して二重に上昇した試料中のCD36及びCD47のレベルを有することが知られていることに基づいて、がんを有する対象を選択することと、(b)がんを治療するために有効量のTsp-1誘導剤を対象に投与することと、を含む、方法を提供する。
【0010】
いくつかの実施形態において、対照レベルは、対象から得られた非がん性細胞又は組織中のCD36及びCD47レベルである。いくつかの実施形態において、対照レベルは、健常対象又は健常対象の集団から得られた細胞又は組織中のCD36及びCD47レベルである。いくつかの実施形態において、対照レベルは、所定のレベルである。いくつかの実施形態において、CD36及びCD47のレベルは、CD36及びCD47タンパク質レベル、CD36及びCD47mRNAレベルを含む。いくつかの実施形態において、がんは、前立腺がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、白血病、膵臓がん、多形神経膠芽腫、星状細胞腫、又は黒色腫である。
【0011】
いくつかの実施形態において、Tsp-1誘導剤は、アミノ酸配列CDWLPK(配列番号1)、DWLPK(配列番号2)、若しくはDWLP(配列番号3)、又はそのアミノ酸置換バリアントを有するPsapペプチドを含み、アミノ酸置換は、
a)トリプトファン(W)に対するチロシン(Y)、
b)ロイシン(L)に対する、バリン(V)、アラニン(A)若しくはグリシン(G)、又は類似のサイズの非標準アミノ酸、又はその誘導体から選択されるアミノ酸置換、c)リジン(K)に対するアルギニン(R)、
d)アスパラギン酸(D)のL異性体に対するアスパラギン酸(D)のD異性体、及び/又はロイシン(L)のL異性体に対するロイシン(L)のD異性体、
e)トリプトファン(W)のL異性体に対するトリプトファン(W)のD異性体、及び/又はプロリン(P)のL異性体に対するプロリン(P)のD異性体、あるいはそれらの組み合わせである。
【0012】
いくつかの実施形態において、Psapペプチドは、50アミノ酸以下の長さである。いくつかの実施形態において、Psapペプチドは、30アミノ酸以下の長さである。いくつかの実施形態において、Psapペプチドは、15アミノ酸以下の長さである。いくつかの実施形態において、Psapペプチドは、6アミノ酸以下の長さである。いくつかの実施形態において、Psapペプチドは、環状ペプチドである。いくつかの実施形態において、類似のサイズの非標準アミノ酸は、メチルバリン、メチルロイシン、又はサルコシンである。いくつかの実施形態において、Tsp-1誘導剤は、環状DWLPK(配列番号2)である。
【0013】
一態様において、本開示は、対照レベルと比較して二重に上昇した試料中のCD36及びCD47のレベルを特徴とするがんを有する対象の治療に使用するための組成物であって、Tsp-1誘導剤を含む、組成物を提供する。
【0014】
一態様において、本開示は、対照レベルと比較して二重に上昇した試料中のCD36及びCD47のレベルを特徴とするがんを有する対象を治療するための薬物の製造における組成物の使用であって、組成物がTsp-1誘導剤を含む、使用を提供する。
【0015】
いくつかの実施形態において、対照レベルは、対象から得られた非がん性細胞又は組織中のCD36及びCD47レベルである。いくつかの実施形態において、対照レベルは、健常対象又は健常対象の集団から得られた細胞又は組織中のCD36及びCD47レベルである。いくつかの実施形態において、対照レベルは、所定のレベルである。いくつかの実施形態において、CD36及びCD47のレベルは、CD36及びCD47タンパク質レベル、CD36及びCD47mRNAレベルを含む。いくつかの実施形態において、がんは、前立腺がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、白血病、膵臓がん、多形神経膠芽腫、星状細胞腫、又は黒色腫である。
【0016】
いくつかの実施形態において、Tsp-1誘導剤は、アミノ酸配列CDWLPK、DWLPK、若しくはDWLP、又はそのアミノ酸置換バリアントを有するPsapペプチドを含み、アミノ酸置換は、
a)トリプトファン(W)に対するチロシン(Y)、
b)ロイシン(L)に対する、バリン(V)、アラニン(A)若しくはグリシン(G)、又は類似のサイズの非標準アミノ酸、又はその誘導体から選択されるアミノ酸置換、c)リジン(K)に対するアルギニン(R)、
d)アスパラギン酸(D)のL異性体に対するアスパラギン酸(D)のD異性体、及び/又はロイシン(L)のL異性体に対するロイシン(L)のD異性体、
e)トリプトファン(W)のL異性体に対するトリプトファン(W)のD異性体、及び/又はプロリン(P)のL異性体に対するプロリン(P)のD異性体、あるいはそれらの組み合わせである。
【0017】
いくつかの実施形態において、Psapペプチドは、50アミノ酸以下の長さである。いくつかの実施形態において、Psapペプチドは、30アミノ酸以下の長さである。いくつかの実施形態において、Psapペプチドは、15アミノ酸以下の長さである。いくつかの実施形態において、Psapペプチドは、6アミノ酸以下の長さである。いくつかの実施形態において、Psapペプチドは、環状ペプチドである。いくつかの実施形態において、類似のサイズの非標準アミノ酸は、メチルバリン、メチルロイシン、又はサルコシンである。いくつかの実施形態において、Tsp-1誘導剤は、環状DWLPK(配列番号2)である。いくつかの実施形態において、試料は腫瘍試料である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】CD36及びCD47を介したVT1021による腫瘍微小環境(TME)の調節を示すチャートである。VT1021は、骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)上でその受容体に結合し、トロンボスポンジン-1(Tsp-1)の発現の増加に至るシグナル伝達経路を活性化する。Tsp-1は、次いで、その2つの主要な細胞表面受容体であるCD36及びCD47への結合を介して無数の抗腫瘍活性を実行する。
図2】0時点での初回投与後の、神経膠芽腫(赤色)、膵臓がん(緑色)、卵巣がん(青色)、その他(紫色)又は未報告(赤色)のヒト患者の血漿中のVT1021濃度の薬物動態プロファイルを経時的に示す図である。「その他」及び「未報告」は、GBM、膵臓がん、及び卵巣がん以外の固形腫瘍適応症を有する臨床試験に登録された対象を指す。
図3】高度、中程度、及び低度の染色強度の特徴を示すCD36及びCD47の代表的な免疫組織化学染色の画像を示す。
図4】免疫組織化学染色によって測定された患者腫瘍組織におけるCD36及びCD47の発現と、各患者が治験を継続した時間の長さとの相関を示す棒グラフである。
図5A】VT1021が膵臓がんにおいてTMEを調節することを示す図である。VT1021による治療前(プレ)及び治療中の患者腫瘍組織における、MDSC中のビメンチン、ケラチン、二本鎖(ds)DNA、トロンボスポンジン-1、CD11b、及びケラチン染色に基づく全体的な組織構造、CD14、CD11b及びケラチンに基づく単球性MDSCのレベル、CD3及びCD8に基づく細胞傷害性T細胞(CTL)のレベル、並びにCD3及びFoxP3に基づく調節性T細胞(Treg)のレベルの金属イオン免疫染色を示す。
図5B】VT1021が膵臓がんにおいてTMEを調節することを示す図である。VT1021による治療前(プレ)及びVT1021による治療中(オン)に得られた患者腫瘍組織試料中で、細胞表面マーカーiNOS及びCD68を使用してM1マクロファージを、また細胞表面マーカーCD163及びCD68を使用してM2マクロファージを同定及び定量するための金属イオン免疫染色(左パネル)と、金属イオン免疫染色によって測定された、VT1021による治療前及び治療中のTsp-1タンパク質レベル、CTL対Treg比、M1:M2マクロファージ比、並びにマクロファージサブタイプの倍率変化のグラフによる描写(右パネル)を示す。
図6】膵臓がんを有する患者の組織からなる腫瘍組織マイクロアレイにおいて、CD36及びCD47タンパク質発現の免疫組織化学染色を示す図である。
図7】0時点での初回投与後の、男性(実線)及び女性(点線)の神経膠芽腫患者における血漿中のVT1021濃度の薬物動態プロファイルを経時的に示す図である。
図8】VT1021で治療された神経膠芽腫患者の試験日数を示すスイマープロットであり、バーの色は、VT1021による治療の開始前に採取された腫瘍組織の免疫組織化学分析によって決定された患者のCD36及びCD47の発現レベルを示している。紫色のバーは、両方のタンパク質の高発現を示し、水色のバーは、CD36、CD47のいずれかが高発現であったか、又はそのどちらも高発現ではなかったことを示し、灰色のバーは、発現レベルを決定することができなかったことを示す。
図9】VT1021がrGBM対象において完全奏効を誘導することを示す図ある。(A)治療中の経時的な病変サイズの減少を示す、VT1021で治療された患者における神経膠芽腫病変のMRI画像、(B)VT1021による治療中にMRIイメージングを使用して経時的に測定された病変の面積の変化のグラフ描写、(C)各タンパク質の高レベルの発現を示す、この患者におけるCD36及びCD47レベルの免疫組織化学染色。
図10】VT1021が循環及びTMEにおいてTSP-1を誘導することを示す図である。(A)VT1021による完全奏効若しくは部分奏効、病勢安定、又は疾患進行を経験した患者から、VT1021による治療の前(ベースライン)及び後(誘導)に採取された循環MDSCにおいてELISAによって測定されたTsp-1タンパク質レベルの棒グラフ、(B)VT1021による治療の開始前(プレ)又は治療中の患者腫瘍組織のH&E及び免疫組織化学分析、(C)高レベルのCD36及びCD47の代表的な画像を示す免疫組織化学分析。
図11A】循環及びTMEにおけるVT1021による免疫系の調節を示す図である。以下における倍率変化の箱ひげ図を示す:VT1021による治療後に完全奏効若しくは部分奏効(CR/PR)、病勢安定(SD)、又は疾患進行(PD)を経験した患者における、(右上)増殖性(Ki67+)細胞傷害性Tリンパ球、(左上)増殖性(Ki67+)ヘルパー(CD4+)Tリンパ球、(右下)単球性(CD11b/CD14+)MDSC、及び(左下)活性化MDSC。
図11B】循環及びTMEにおけるVT1021による免疫系の調節を示す図である。患者腫瘍組織における、M1マクロファージを同定するためのiNOS、CD68、及びDNAの金属イオン免疫染色、並びにM2マクロファージを同定するためのCD163、CD68、及びDNAの金属イオン免疫染色を示す。
図11C】循環及びTMEにおけるVT1021による免疫系の調節を示す図である。金属イオン免疫染色によって決定される、患者腫瘍組織中のM1及びM2マクロファージのパーセンテージの変化の棒グラフである。
図11D】循環及びTMEにおけるVT1021による免疫系の調節を示す図である。ビメンチン、CD56、及び二本鎖(ds)DNAに基づく全体的な組織構造、CD3、CD8、及びCD56に基づく細胞傷害性T細胞(CTL)のレベル、CD11b及びCD56に基づくMDSCの総レベル、並びにCD11b、CD14、及びCD56に基づく単球性MDSCのレベルを調べるための、患者腫瘍組織の金属イオン免疫染色を示す。
図11E】循環及びTMEにおけるVT1021による免疫系の調節を示す図である。金属イオン免疫染色によって決定された、VT1021による治療の開始前(治療前)及びVT1021による治療中(治験中)の、患者における細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の倍率変化を示す棒グラフである。
図11F】循環及びTMEにおけるVT1021による免疫系の調節を示す図である。金属イオン免疫染色によって決定された、VT1021による治療の開始前(治療前)及びVT1021による治療中(治験中)の患者における全単球性骨髄由来サプレッサー細胞及び単球性骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)の倍率変化を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書に提供されるのは、がんの再発及び/又は転移を予防するために、抗がん活性及びがん微小環境を標的とする能力の両方を有する新規がん治療戦略である。本明細書に記載の抗がん戦略は、強力な抗血管新生及び抗腫瘍性タンパク質であるトロンボスポンジン1(Tsp-1)の活性を刺激することに依存する。「Tsp-1」は、ジスルフィド結合ホモ三量体タンパク質のサブユニットである。Tsp-1は、細胞間相互作用及び細胞とマトリックスの相互作用を媒介する接着性糖タンパク質である。Tsp-1は、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、V型コラーゲン、及びインテグリンアルファ-V/β-1に結合し、血小板凝集、血管新生、及び腫瘍発生において役割を果たすことが示されている。本開示の目的のために、Tsp-1は、強力な抗腫瘍性及び抗血管新生因子であり、その活性化は、腫瘍の増殖及び転移を抑制し、腫瘍微小環境における血管新生を阻止する。
【0020】
本明細書に記載されるように、Psapペプチドに応答性であるいくつかの異なる種類のがん由来の腫瘍細胞は、二重に上昇したCD36及びCD47のレベルを呈することが見出されている。
【0021】
プロサポシン又はプロサポシン由来ペプチドは、以前に、Tsp-1の活性を刺激することが可能であり、複数の種類のがんの治療に有効であることが示された(例えば、PCT刊行物WO2009002931、WO/2011/084685及びWO/2013/096868、WO2015148801、並びに米国特許出願第12/640,788号及び同第13/516,511号を参照されたく、これらの全ては、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0022】
がんの転移期への進行は、その致死性の主な要因である。腫瘍が致死的な転移を形成するためには、血管系又はリンパ系へのアクセスを獲得し(血管内侵入)、移行中に生存し、血管又はリンパ管を出て(血管外遊走)、転移部位で増殖しなければならない[1]。このプロセスでは、腫瘍とその微小環境との間のヘテロタイプのシグナル伝達が、腫瘍の増殖、血管新生、及び免疫応答を媒介する因子の産生及び分泌を調節することによって、腫瘍の増殖に影響を及ぼし得る。プロサポシン及びPRSS2の2つのタンパク質は、微小環境でTsp-1を調節する分泌タンパク質を同定するように設計された機能的プロテオミクスのスクリーニングを通して同定された[2]。プロサポシンは、弱転移性腫瘍によって優先的に発現され、腫瘍微小環境においてTsp-1を刺激する。逆に、PRSS2は、高転移性細胞によって優先的に発現され、腫瘍微小環境においてTsp-1発現を阻害する。Tsp-1は、マルチモーダル活性を介して、具体的には、(1)広く作用する抗血管新生因子であること、(2)CD36を発現する腫瘍に対して直接的な抗腫瘍活性を有すること、並びに(3)CD47への結合を介してマクロファージの貪食及びT細胞の活性化を促進することによって、腫瘍の増殖及び進行を阻害する[3-5]。プロサポシンのTsp-1刺激活性及びPRSS2のTsp-1抑制活性の両方が、LRP1への結合を介して媒介されることが決定されている。本明細書に提供されるのは、プロサポシンのTsp-1刺激活性を模倣し、PRSS2のTsp-1抑制活性を遮断する抗体である。
【0023】
プロサポシンは、腫瘍転移の新規抑制因子として最初に同定され、そのような阻害は、腫瘍微小環境においてp53、続いてTsp-1を刺激することにより達成されることが実証された[2]。強力な抗腫瘍及び抗転移活性を有するプロサポシン由来の5-アミノ酸環状ペプチドがその後同定されており、本明細書においてVT1021と称される。このペプチドは、腫瘍微小環境の骨髄由来細胞でTsp-1を刺激することによって転移を阻害することが示されている[6]。そのため、微小環境が腫瘍量の大部分を構成するがんである転移性膵臓がんの治療にpsapが有効性を有するであろうという仮説が試験された[7]。したがって、ホタルルシフェラーゼを発現する1×106のAsPc1ヒト膵臓がん細胞をSCIDマウスの膵臓に注射した。腫瘍を25日間増殖させ、その時点で、ルシフェラーゼ強度は、全ての腫瘍で1×108を超えていた。次いで、20mg/kg及び40mg/kgQDの用量のpsapペプチドで治療を開始した。治療の21日後、対照(ビヒクル)で治療したマウスが瀕死になったときに全てのマウスを屠殺した。
【0024】
図1は、CD36及びCD47を介したVT1021による腫瘍微小環境(TME)の調節を示す。VT1021は、TMEを免疫抑制性のものから免疫増強されたものに再プログラムする。免疫抑制性の腫瘍免疫微小環境は、高レベルのTreg、M2腫瘍関連マクロファージ(M2 TAM)、及びMDSCを特徴とする。VT1021は、MDSC上の受容体に結合し、Tsp-1の発現を誘導する。受容体の1つであるCD36に結合するTsp-1は、血管新生を阻害し、腫瘍細胞、内皮細胞及びTregでアポトーシスを誘導し、M1マクロファージの接着、生存、及びM1/M2比を増加させる。他の主要な受容体であるCD47に結合するTsp-1は、「私を食べないで(do not eat me)」シグナルを遮断して、腫瘍細胞のマクロファージによる貪食を可能にし、CTL浸潤及び活性を増加させて腫瘍細胞死をもたらす。したがって、VT1021は、がんの治療のためのCD36及びCD47の同時調節に有効な薬剤である。
【0025】
本開示は、CD36及びCD47の二重に高いレベルから、CDWLPK(配列番号1)、DWLPK(配列番号2)、及びDWLP(配列番号3)、そのアミノ酸置換バリアント、及びその環化バージョンを含むPsapペプチドを使用するがん治療に対する対象の応答性が予測されるという知見に基づいている。したがって、本開示の態様は、腫瘍試料等の試料中のCD36及びCD47のレベルを決定することによって、Psapペプチドによる治療に対する対象の応答性を評価するための方法に関する。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される方法は、腫瘍試料等の試料中のCD36及びCD47のレベルに基づいて、Psapペプチドによる治療のための対象の同定又は選択に関する。本開示の他の態様は、上昇したCD36及びCD47のレベルを特徴とするがんを有する対象の治療のための組成物及び方法に関する(例えば、がんが、対照レベルと比較して上昇した試料中のCD36及びCD47のレベルを有することに基づいて選択又は同定される)。
【0026】
Tsp-1活性を調節する薬剤を投与することによるがんの治療のための方法及び組成物が本明細書に提供される。いくつかの実施形態において、方法は、がんを有する対象におけるCD36及びCD47のレベルを決定することと、Tsp-1誘導剤を投与することと、を含み、対象は、対照と比較して上昇したCD36及びCD47レベル又は活性を有するがんを示す。
【0027】
本開示の態様は、試料中のCD36及びCD47のレベルを決定するためのアッセイの実施に関する。当該技術分野で既知の任意のアッセイを使用して、CD36及びCD47レベルを測定することができる(例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,J.Sambrook,et al.,eds.,Third Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,2001、Current Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubel,et al.,eds.,John Wiley&Sons,Inc.,New Yorkを参照のこと。マイクロアレイ技術は、Microarray Methods and Protocols,R.Matson,CRC Press,2009、又はCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubel,et al.,eds.,John Wiley&Sons,Inc.,New Yorkに記載されている)。CD36及びCD47のレベルは、mRNAレベル及び/又はタンパク質レベルであり得る。いくつかの実施形態において、レベルはタンパク質レベルである。mRNAを検出するためのアッセイは、限定されないが、ノーザンブロット分析、RT-PCR、配列決定技術、RNAインサイチュハイブリダイゼーション(例えば、DNA又はRNAプローブを使用して、試料中に存在するRNA分子にハイブリダイズする)、インサイチュRT-PCR(例えば、G J,et al.Am J Surg Pathol.1993,17:683-90;Komminoth P,et al.Pathol Res Pract.1994,190:1017-25に記載される)、及びオリゴヌクレオチドマイクロアレイ(例えば、試料に由来するポリヌクレオチド配列の、Affymetrixマイクロアレイ(Affymetrix.RTM.、Santa Clara,Calif.)等のアドレス可能な場所を含む個体表面(例えば、ガラスウエハ)に付着させたオリゴヌクレオチドへのハイブリダイゼーションによる)を含む。プローブ等の核酸結合パートナーを設計するための方法は、当該技術分野で周知である。いくつかの実施形態において、核酸結合パートナーは、CD36又はCD47の核酸配列の一部又は全体に結合し、その配列は、当該技術分野で公知のCD36又はCD47により識別可能である。
【0028】
CD36及びCD47タンパク質レベルを検出するためのアッセイは、限定されないが、免疫アッセイ(本明細書において、免疫ベース又はイムノベースアッセイとも称される、例えば、ウエスタンブロット、免疫組織化学及びELISAアッセイ)、質量分析、及び多重ビーズベースのアッセイを含む。タンパク質レベル検出のためのそのようなアッセイは、当該技術分野で周知である。タンパク質検出のための結合パートナーは、当該技術分野で既知であり、本明細書に記載される方法を用いて設計することができる。いくつかの実施形態において、CD36及びCD47タンパク質結合パートナー、例えば、抗CD36及びCD47抗体は、CD36及びCD47タンパク質のアミノ酸配列の一部又は全体に結合する。タンパク質の検出及び定量方法の他の例としては、例えば、米国特許第6,939,720号及び同第8,148,171号、並びに公開された米国特許出願第2008/0255766号に記載されているような多重イムノアッセイ、また例えば、公開された米国特許出願第2009/0088329号に記載されているようなタンパク質マイクロアレイが挙げられる。
【0029】
いくつかの実施形態において、対象から得られた試料は、腫瘍生検であり、CD36及びCD47タンパク質レベルを検出するためのアッセイは、腫瘍生検に対して行われるイムノベースアッセイである。
【0030】
いくつかの実施形態において、CD36及びCD47は、がん細胞又は腫瘍において測定される。いくつかの実施形態において、CD36及びCD47は、腫瘍微小環境中で測定され、いくつかの実施形態において、CD36及びCD47は、循環中で測定される。
【0031】
CD36又はCD47の任意の好適な結合パートナーが、CD36又はCD47レベルの検出のために企図される。いくつかの実施形態において、結合パートナーは、CD36又はCD47タンパク質に特異的に結合する任意の分子である。本明細書に記載される場合、「CD36又はCD47タンパク質に特異的に結合する」とは、分子が、非CD36又は非CD47タンパク質の一部又は全体ではなく、CD36又はCD47タンパク質の一部又は全体に結合する可能性がより高いことを意味する。いくつかの実施形態において、結合パートナーは、抗体又はその抗原結合断片であり、例えば、Fab、F(ab)2、Fv、一本鎖抗体、Fab及びsFab断片、F(ab’)2、Fd断片、scFv、又はdAb断片である。抗体及びその抗原結合断片を産生するための方法は、当該技術分野で周知である(例えば、Sambrook et al,“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”(2nd Ed.),Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);Lewin,“Genes IV”,Oxford University Press,New York,(1990)、及びRoitt et al.,“Immunology”(2nd Ed.),Gower Medical Publishing,London,New York(1989)、WO2006/040153、WO2006/122786、及びWO2003/002609を参照のこと)。結合パートナーは、CD36又はCD47に特異的に結合する他のペプチド分子及びアプタマーも含む。ペプチド分子及びアプタマーを産生するための方法は、当該技術分野で周知である(例えば、公開された米国特許出願第2009/0075834号、米国特許第7,435,542号、同第7,807,351号、及び同第7,239,742号を参照されたい)。
【0032】
いくつかの実施形態において、結合パートナーはCD36又はCD47 mRNAに特異的に結合する任意の分子である。本明細書に記載される場合、「CD36又はCD47 mRNAに特異的に結合する」とは、分子が、非CD36又は非CD47 mRNA核酸の一部又は全体ではなく、mRNAの一部又は全体に(例えば、相補的な塩基対形成によって)結合する可能性がより高いことを意味する。いくつかの実施形態において、CD36又はCD47 mRNAに特異的に結合する結合パートナーは、核酸、例えば、プローブである。結合パートナーは、本明細書に提供されるCD36又はCD47のヌクレオチド及びアミノ酸配列を使用して設計することができる。いくつかの実施形態において、CD36又はCD47結合パートナーは、検出可能な標識、例えば、酵素活性基、蛍光分子、発色団、発光分子、特異的に結合可能なリガンド、又は放射性同位体等を含み得る。いくつかの実施形態において、CD36又はCD47結合パートナーに特異的な第2の結合パートナー、例えば二次抗体も企図される。
【0033】
本開示の態様は、対象から得られた試料中のCD36又はCD47のレベルを決定することに関する。いくつかの実施形態において、対象から得られた試料は腫瘍試料である。本明細書で使用される場合、腫瘍試料は、例えば、腫瘍細胞、腫瘍細胞の集団、腫瘍の断片(例えば、生検)、又は腫瘍全体を含み得る。いくつかの実施形態において、腫瘍試料は、腫瘍生検である。いくつかの実施形態において、腫瘍試料は、循環する腫瘍細胞を含む。いくつかの実施形態において、腫瘍試料は、腹水を含む。いくつかの実施形態において、腫瘍試料は、胸水を含む。腫瘍試料は、非腫瘍細胞又は非腫瘍組織(例えば、腫瘍断片を取り囲む正常組織を含む生検)を含み得る。いくつかの実施形態において、試料は、対象から得られた組織又は流体試料であってもよい。液体試料の例は、血液、血漿、血清、及び尿である。
【0034】
本明細書で使用される「刺激する」は、生体分子(例えば、タンパク質)のレベル又は活性を活性化又は増加させることを意味する。例えば、本開示の薬剤が「Tsp-1を刺激する」とは、その薬剤の存在下で、Tsp1の発現レベル又は活性レベルが、薬剤なしの場合と比較して少なくとも30%(例えば、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、又はそれ以上)増加することを意味する。
【0035】
本明細書で使用される「阻害する」は、発現を防止すること、タンパク質(例えば、CD36又はCD47)のレベルを低下させること、又は生体分子(例えば、タンパク質)の活性を低下させることを意味する。例えば、CD36又はCD47の発現を阻害する薬剤は、CD36又はCD47の発現を防止し得るか、又はCD36又はCD47のレベルを、薬剤の非存在下と比較して少なくとも30%(例えば、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、又はそれ以上)低下させ得る。
【0036】
いくつかの実施形態において、Tsp-1誘導剤はPsapペプチドである。いくつかの実施形態において、Psapペプチドは、配列CDWLPK(配列番号1)、DWLPK(配列番号2)、又はDWLP(配列番号3)、又はそのアミノ酸置換バリアントを含むPsapペプチドであり、アミノ酸置換は、
a)トリプトファン(W)に対するチロシン(Y)、
b)ロイシン(L)に対する、バリン(V)、アラニン(A)若しくはグリシン(G)、又は類似のサイズの非標準アミノ酸、又はその誘導体から選択されるアミノ酸置換、
c)リジン(K)に対するアルギニン(R)、
d)アスパラギン酸(D)のL異性体に対するアスパラギン酸(D)のD異性体、及び/又はロイシン(L)のL異性体に対するロイシン(L)のD異性体、
e)トリプトファン(W)のL異性体に対するトリプトファン(W)のD異性体、及び/又はプロリン(P)のL異性体に対するプロリン(P)のD異性体、あるいはそれらの組み合わせである。いくつかの実施形態において、Psapペプチドは、50アミノ酸以下の長さである。いくつかの実施形態において、Psapペプチドは、30アミノ酸以下の長さである。いくつかの実施形態において、Psapペプチドは、15アミノ酸以下の長さである。いくつかの実施形態において、Psapペプチドは、6アミノ酸以下の長さである。いくつかの実施形態において、Psapペプチドは、環状ペプチドである。いくつかの実施形態において、類似のサイズの非標準アミノ酸は、メチルバリン、メチルロイシン、又はサルコシンである。いくつかの実施形態において、ペプチドは環状DWLPK(配列番号2)である。本明細書で使用される場合、「VT1021」は、環状DWLPK(配列番号2)を指す。
【0037】
いくつかの実施形態において、Psapペプチドは、例えば、オリゴマー化又は重合(例えば、二量体、三量体、多量体等)、アミノ酸残基又はペプチド骨格の修飾、架橋、環化、コンジュゲーション、ペグ化、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、追加の異種アミノ酸配列(例えば、抗体若しくは抗体Fcドメイン、血清トランスフェリン若しくはその一部、アルブミン、又はトランスサイレチン)への融合、又は治療活性を実質的に保持又は増強する一方で、ペプチドの安定性、溶解性、又は他の特性を実質的に変化させる他の修飾によって修飾され得る。コンジュゲーションは、例えば、ポリマーに対するものであり得る。好適なポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアミノ酸、ジビニルエーテル無水マレイン酸、N-(2-ヒドロキシプロピル)-メタクリルアミド、デキストラン、硫酸デキストランを含むデキストラン誘導体、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチル化ポリオール、ヘパリン、ヘパリン断片、多糖、セルロース及びセルロース誘導体(メチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースを含む)、デンプン及びデンプン誘導体、ポリアルキレングリコール及びその誘導体、ポリアルキレングリコール及びその誘導体のコポリマー、ポリビニルエチルエーテル、及びアルファ、ベータ-ポリ[(2-ヒドロキシエチル)-DL-アスパルトアミド等、又はそれらの混合物が挙げられる。コンジュゲーションは、リンカー、例えば、ペプチド又は化学リンカーを介してもよい。ペプチドを修飾する方法は、当該技術分野で周知である(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,180,816号、同第5,596,078号、同第5,990,273号、同第5,766,897号、同第5,856,456号、同第6,423,685号、同第6,884,780号、同第7,610,156号、同第7,256,258号、同第7,589,170号、及び同第7,022,673号、並びにPCT刊行物WO2010/014616を参照されたい)。
【0038】
いくつかの実施形態において、TSP-1誘導剤は、本明細書に開示されるTSP-1誘導剤の混合物を含む。本明細書で使用される場合、「Tsp-1誘導剤」は、Tsp-1レベル又は活性の増加を促進する薬剤を指す。いくつかの実施形態において、Tsp-1活性を促進することは、Tsp-1発現、又はTsp-1タンパク質の半減期を増加させることを含む。いくつかの実施形態において、Tsp-1活性を促進することは、野生型レベルのTsp-1レベル又は活性を回復することを含む。いくつかの実施形態において、Tsp-1活性を促進することは、野生型レベルを超えるまでTsp-1レベル又は活性を増加させることを含む。いくつかの実施形態において、Tsp-1レベル又は活性を促進することは、野生型よりも低いままであるが、対照と比較して増加するTsp-1レベル又は活性を増加させることを含む。
【0039】
「結合」という用語は、2つの物質(例えば、2つのタンパク質)の会合を指す。2つの物質(例えば、2つのタンパク質)は、それらの間の親和性(KD)が、<10-4M、<10-5M、<10-6M、<10-7M、<10-8M、<10-9M、<10-10M、<10-11M、又は<10-12Mであるとき、互いに結合するとみなされる。当業者は、2つの物質(例えば、2つのタンパク質)の親和性を評価する方法に精通している。
【0040】
「タンパク質」、「ペプチド」、及び「ポリペプチド」という用語は、本明細書において互換的に使用され、ペプチド(アミド)結合によって互いに連結されたアミノ酸残基のポリマーを指す。これらの用語は、任意のサイズ、構造、又は機能のタンパク質、ペプチド、又はポリペプチドを指す。典型的には、タンパク質、ペプチド、又はポリペプチドは、少なくとも3つのアミノ酸長である。タンパク質、ペプチド、又はポリペプチドは、個々のタンパク質又はタンパク質の集合を指し得る。タンパク質、ペプチド、又はポリペプチド中のアミノ酸のうちの1つ以上は、例えば、炭水化物基、ヒドロキシル基、リン酸基、ファルネシル基、イソファルネシル基、脂肪酸基、コンジュゲーション、官能化、又は他の修飾のためのリンカー等の化学物質の付加によって修飾され得る。タンパク質、ペプチド、又はポリペプチドはまた、単一分子であってもよく、又は多分子複合体であってもよい。タンパク質、ペプチド、又はポリペプチドは、天然に存在するタンパク質又はペプチドの単なる断片であってもよい。タンパク質、ペプチド、又はポリペプチドは、天然に存在するもの、組換え、若しくは合成、又はそれらの任意の組み合わせであり得る。
【0041】
タンパク質に「由来する」ペプチドは、ペプチドがタンパク質から得られ、それが対応するタンパク質の断片と相同性を共有するアミノ酸配列を有することを意味する。ペプチドのアミノ酸配列は、それが対応するタンパク質の断片のアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、又は100%同一であり得る。タンパク質に由来するペプチドはまた、化学修飾、アミノ酸置換、及び/又は非天然アミノ酸を含み得る。
【0042】
「抗体」又は「免疫グロブリン(Ig)」は、外因性物質(例えば、細菌及びウイルス等の病原体)を中和するために免疫系によって使用される形質細胞によって主に産生される大きなY字形タンパク質である。抗体は、IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMとして分類される。「抗体」及び「抗原結合断片」は、全抗体及び任意の抗原結合断片(すなわち、「抗原結合部分」)又はその一本鎖を含む。「抗体」とは、ジスルフィド結合によって相互接続された少なくとも2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖、又はそれらの抗原結合部分を含む糖タンパク質を指す。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書でVHと略される)及び重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域は、CH1、CH2及びCH3の3つのドメインで構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書でVLと略される)及び軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメイン、CLからなる。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称されるより保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域に更に細分類され得る。各VH及びVLは、3つのCDRと4つのFRで構成され、アミノ末端からカルボキシ末端に向かってFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)及び古典的補体系の第1の成分(C1q)を含む、宿主組織又は因子に対する免疫グロブリンの結合を媒介し得る。抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体であり得る。
【0043】
基本的な4本鎖抗体単位は、2つの同一のL鎖と2つのH鎖からなるヘテロ四量体糖タンパク質である(IgM抗体は、J鎖と称される追加のポリペプチドとともに5つの基本的なヘテロ四量体単位からなり、したがって10の抗原結合部位を含み、一方で、分泌されたIgA抗体は、重合して、J鎖とともに2つ~5つの基本的な4本鎖単位を含む多価集合体を形成することができる)。IgGの場合、4本鎖単位は一般的に約150,000ダルトンである。各L鎖は、1つの共有結合ジスルフィド結合によってH鎖に連結される一方で、2つのH鎖は、H鎖アイソタイプに応じて1つ以上のジスルフィド結合によって互いに連結される。各H鎖及びL鎖はまた、規則的に間隔を置いた鎖内ジスルフィド架橋を有する。各H鎖は、N末端に、可変ドメイン(VH)、それに続いて、α及びγ鎖の各々に対する3つの定常ドメイン(CH)、並びにμ及びεアイソタイプに対する4つのCHドメインを有する。各L鎖は、N末端に可変ドメイン(VL)を有し、それに続いてその他端に定常ドメイン(CL)を有する。VLはVHと整列し、CLは重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)と整列する。特定のアミノ酸残基は、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインとの間の界面を形成すると予測される。VHとVLとが対を形成して、一緒に単一抗原結合部位を形成する。異なるクラスの抗体の構造及び特性については、(例えば、Basic and Clinical Immunology,8th edition,Daniel P.Stites,Abba I.Terr and Tristram G.Parslow(eds.),Appleton&Lange,Norwalk,Conn.,1994,page 71 and Chapter 6(参照により本明細書に組み込まれる))。
【0044】
任意の脊椎動物種のL鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ及びラムダと称される2つの明確に異なる種類のうちの1つに割り当てることができる。免疫グロブリンは、その重鎖(CH)の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、異なるクラス又はアイソタイプに割り当てることができる。免疫グロブリンには、IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMの5つのクラスがあり、それぞれ、α、δ、ε、γ、及びμと示される重鎖を有する。γ及びαクラスは、CHの配列及び機能における比較的わずかな違いに基づいて、サブクラスに更に分類され、例えば、ヒトは、以下のサブクラスを発現する:IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2。
【0045】
Vドメインは、抗原結合を媒介し、特定の抗体の、その特定の抗原に対する特異性を定義する。しかしながら、可変性は、可変ドメインの110アミノ酸長にわたって均一に分布してはいない。むしろ、V領域は、それぞれが9~12アミノ酸長である「超可変領域」と称される極端に可変性のより短い領域によって隔てられた、15~30アミノ酸のフレームワーク領域(FR)と称される比較的不変の区間からなる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、3つの超可変領域(βシート構造を接続し、また場合によってはその一部を形成するループを形成する)によって接続された、主にβシート構造を取る4つのFRをそれぞれ含む。各鎖の超可変領域は、FRによって近接して一緒に保持され、他方の鎖の超可変領域とともに、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(例えば、参照により本明細書に組み込まれるKabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991)を参照されたい)。定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接関与しないが、抗体依存性細胞傷害(ADCC)における抗体の関与等の様々なエフェクター機能を示す。
【0046】
本開示による使用のための「抗原結合断片」は、抗体の抗原結合部分を含む。抗体の抗原結合部分は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の断片を指す。抗体の抗原結合機能は、全長抗体の断片によって発揮され得ることが示されている。抗体の「抗原結合部分」という用語に包含される結合断片の例としては、(i)VL、VH、CL、及びCH1ドメインからなる一価の断片である、Fab断片、(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価の断片である、F(ab’)2断片、(iii)VH及びCH1ドメインからなるFd断片、(iv)抗体の単一アームのVL及びVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなる(例えば、参照により本明細書に組み込まれるWard et al.,(1989)Nature 341:544-546に記載されているような)dAb断片、並びに(vi)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。更に、Fv断片の2つのドメイン、VL及びVHは、別々の遺伝子によってコードされるが、それらは、組換え法を用いて、VL領域とVH領域とが対を形成して一価の分子を形成する単一のタンパク質鎖として作製されることを可能にする合成リンカーによって連結され得る(一本鎖Fv(scFv)として知られる。例えば、Bird et al.(1988)Science 242:423-426;及びHuston et al.(1988) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883を参照されたい)。かかる一本鎖抗体は、抗体の「抗原結合部分」という用語の範囲内に包含されるようにも意図されている。これらの抗原結合断片は、当業者に既知の従来の技術を用いて得られ、断片は、全長抗体と同じ様式で有用性についてスクリーニングされる。
【0047】
いくつかの実施形態において、抗原結合断片は、Fc断片、Fv断片、又は一本鎖 Fv断片であり得る。Fc断片は、ジスルフィドによって一緒に保持される両方のH鎖のカルボキシ末端部分を含む。抗体のエフェクター機能は、Fc領域内の配列によって決定され、その領域はまた、特定の種類の細胞に見られるFc受容体(FcR)によって認識される部分でもある。
【0048】
Fv断片は、完全な抗原認識及び結合部位を含む最小抗原結合断片である。この断片は、緊密に非共有結合した、1つの重鎖可変領域ドメイン及び1つの軽鎖可変領域ドメインの二量体からなる。これらの2つのドメインの折り畳みから、抗原結合のためのアミノ酸残基に寄与し、抗体に抗原結合特異性を付与する、6つの超可変ループ(H及びL鎖からそれぞれ3つのループ)が生じる。しかしながら、単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvの半分)でさえ、結合部位全体よりも低い親和性であるものの、抗原を認識して結合する能力を有する。
【0049】
「sFv」又は「scFv」とも略される一本鎖Fvは、単一のポリペプチド鎖に接続されたVH及びVL抗体ドメインを含む抗原結合断片である。好ましくは、sFvポリペプチドは、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーを更に含み、これにより、sFvは、抗原結合のための所望の構造を形成することができる(例えば、参照により本明細書に組み込まれるThe Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,Springer-Verlag,New York,pp.269-315(1994);Borrebaeck 1995に記載されている)。
【0050】
抗体は単離され得る。単離された抗体は、その天然環境の成分から同定されて、分離及び/又は回収された抗体である。その天然環境の汚染成分は、抗体の診断又は治療用途を妨げる材料であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質性又は非タンパク質性溶質を含み得る。いくつかの実施形態において、本抗体は、(1)ローリー法によって決定された場合に抗体の95重量%超、及び最も好ましくは99重量%超まで、(2)スピニングカップシーケネーターを使用してN末端若しくは内部アミノ酸配列の少なくとも15の残基を得るのに十分な程度まで、又は(3)クーマシーブルー染色、又は好ましくは銀染色を用いた還元又は非還元条件下でのSDS-PAGEによる均質性まで、精製される。抗体の天然環境の少なくとも1つの成分が存在しないため、単離された抗体は、組換え細胞内のインサイチュの抗体を含む。しかしながら、通常、単離された抗体は、少なくとも1つの精製ステップによって調製される。
【0051】
いくつかの実施形態において、本開示の抗体はモノクローナル抗体である。「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体であり、すなわち、集団を含む個々の抗体は、少量で存在し得る天然に存在する変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原部位に対して指向される。更に、異なる決定基(エピトープ)に対して指向される異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して指向される。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体は、それらが他の抗体によって汚染されずに合成され得る点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするものとして解釈されるべきではない。例えば、本発明の技術において有用なモノクローナル抗体は、Kohler et al.,Nature,256:495(1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ方法論によって調製され得るか、又は、細菌、真核動物若しくは植物細胞において組換えDNA法を使用して作製され得る(例えば、米国特許第4,816,567号を参照されたい)。モノクローナル抗体はまた、例えば、参照により本明細書に組み込まれるClackson et al.,Nature,352:624-628(1991)及びMarks et al.,J.Mol.Biol.,222:581-597(1991)に記載される技術を用いて、ファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。
【0052】
本明細書におけるモノクローナル抗体は、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種に由来するか、又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一又は相同である一方で、鎖(複数可)の残りの部分が、別の種に由来するか、又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一又は相同である「キメラ」抗体、並びにそのような抗体の断片を含むが、但し、それらが所望の生物学的活性を示すものとする(米国特許第4,816,567号、及びMorrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851-6855(1984)を参照のこと)。本明細書における目的のキメラ抗体は、非ヒト霊長類(例えば、旧世界ザル、類人猿等)に由来する可変ドメイン抗原結合配列、及びヒト定常領域配列を含む「霊長類化」抗体を含む。
【0053】
いくつかの実施形態において、本発明の技術の抗体はポリクローナル抗体である。「ポリクローナル抗体」とは、抗原の1つより多くの免疫原性決定基と反応する異なる抗体分子の混合物をいう。ポリクローナル抗体は、哺乳動物の血液、分泌物、若しくは他の液体、又は卵から単離又は精製され得る。ポリクローナル抗体はまた、組換えであってもよい。組換えポリクローナル抗体は、組換え技術の使用によって生成されたポリクローナル抗体である。組換えにより生成されたポリクローナル抗体は、通常、高濃度の異なる抗体分子を含み、その全て又は大部分(例えば、80%超、85%超、90%超、95%超、99%超、又はそれ以上)が、1つより多くのエピトープからなる抗原に対して所望の結合活性を示す。
【0054】
抗体(例えば、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体)を産生する方法は、当該技術分野で既知である。例えば、ポリクローナル抗体は、選択したアレルゲンで動物、好ましくは哺乳動物を免疫し、続いて血液、骨髄、リンパ節、又は脾臓から抗体産生Bリンパ球を単離することによって調製されてもよい。代替的に、抗体産生細胞は、動物から単離され、抗体が産生されるアレルゲンにインビトロで曝露され得る。次いで、抗体産生細胞を培養して、任意選択的に、骨髄腫等の不死化細胞株との融合後に、抗体産生細胞の集団を得ることができる。いくつかの実施形態において、完全なヒトポリクローナル抗体を生成するために、Bリンパ球は、出発物質として、アレルギー患者の組織から単離されてもよい。抗体は、完全なヒトポリクローナル抗体を生成するための出発物質として、マウス、ラット、ブタ(ブタ)、ヒツジ、ウシ材料、又はヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックな他の動物において産生され得る。いくつかの実施形態において、ヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックなマウス又は他の動物(例えば、米国特許第5,939,598号に開示される)では、Bリンパ球の抽出又はポリクローナル血清の精製によって動物からポリクローナル抗体を調製する前に、動物を免疫して特定の抗体及び抗体産生細胞のインビボ生成を刺激してもよい。
【0055】
モノクローナル抗体は、典型的には、骨髄腫細胞と、所望の抗原で免疫したマウス脾臓細胞とを融合させることを伴う細胞培養によって作製される(すなわち、ヒルビドーマ技術)。細胞の混合物を希釈し、マイクロタイターウェル上で単一の親細胞からクローンを増殖させる。次いで、異なるクローンによって分泌された抗体が、抗原に結合するそれらの能力(ELISA又は抗原マイクロアレイアッセイ等の試験で)又はイムノドットブロットでアッセイされる。次いで、最も生産的で安定なクローンが、将来的な使用のために選択される。
【0056】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の抗体は、ヒトにおける使用のために(例えば、治療薬として)「ヒト化」される。非ヒト(例えば、げっ歯類)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト抗体に由来する最小の配列を含むキメラ抗体である。ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域の残基が、所望の抗体特異性、親和性、及び能力を有するマウス、ラット、ウサギ、又は非ヒト霊長類等の非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域の残基で置き換えられたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの場合において、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置き換えられる。更に、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体に見られない残基を含み得る。これらの修飾は、抗体性能を更に向上させるために行われる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、超可変ループの全て又は実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FRの全て又は実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体はまた、任意選択的に、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分を含むであろう。詳細については、Jones et al.,Nature 321:522-525(1986);Riechmann et al.,Nature 332:323-329(1988)、及びPresta,Curr.Op.Struct.Biol.2:593-596(1992)を参照されたい。
【0057】
本明細書で使用される「小分子」は、生物学的プロセスを調節する際に機能し得る低分子量(例えば、<900ダルトン)の有機又は無機化合物の分子を指す。小分子の非限定的な例としては、脂質、単糖、二次メッセンジャー、他の天然産物及び代謝産物、並びに薬物及び他の生体異物が挙げられる。
【0058】
「脂質」は、脂肪、ワックス、ステロール、脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、及びK)、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、リン脂質等を含む天然に存在する分子の群を指す。「単糖」は、より単純な糖を得るために加水分解することができない糖(例えば、グルコース)のクラスを指す。単糖の非限定的な例としては、グルコース(デキストロース)、フルクトース(レブロース)、及びガラクトースが挙げられる。「二次メッセンジャー」は、細胞表面上の受容体で(例えば、タンパク質ホルモン、成長因子等から)受け取ったシグナルを細胞質及び/又は核内の標的分子に中継する分子である。二次メッセンジャー分子の非限定的な例としては、環状AMP、環状GMP、イノシトール三リン酸、ジアシルグリセロール、及びカルシウムが挙げられる。「代謝産物」は、代謝の中間産物として形成される分子である。代謝産物の非限定的な例としては、エタノール、グルタミン酸、アスパラギン酸、5’グアニル酸、イソアスコルビン酸、酢酸、乳酸、グリセロール、及びビタミンB2が挙げられる。「生体異物」は、通常、生物によって天然では産生されない、又は生物内に存在するとは予想されない、生物内に見られる外来化学物質である。生体異物の非限定的な例としては、薬物、抗生物質、発がん物質、環境汚染物質、食品添加物、炭化水素、及び農薬が挙げられる。
【0059】
本明細書に記載の治療薬は、医薬組成物に製剤化することができる。いくつかの実施形態において、医薬組成物は薬学的に許容可能な担体を更に含む。本明細書で使用される「薬学的に許容可能な担体」という用語は、対象、例えば、ヒトへの投与に好適な1つ以上の適合性の固体若しくは液体充填剤、希釈剤、又はカプセル化物質を意味する。薬学的に許容可能な担体は、製剤の他の成分と適合性であり、患者の組織に有害ではない(例えば、生理学的に適合性、無菌、生理学的pH等)という意味で「許容可能」である。「担体」という用語は、天然又は合成の有機又は無機成分を意味し、活性成分は、適用を容易にするために組み合わされる。医薬組成物の成分はまた、所望の薬学的有効性を実質的に損なう相互作用がないような様式で、本開示の分子と、及び互いに混合され得る。薬学的に許容可能な担体として機能し得る材料のいくつかの例としては、(1)糖、例えばラクトース、グルコース及びスクロース、(2)デンプン、例えばトウモロコシデンプン及びジャガイモデンプン、(3)セルロース、及びその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、微結晶セルロース及び酢酸セルロース、(4)粉末トラガカント、(5)麦芽、(6)ゼラチン、(7)潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム及びタルク、(8)賦形剤、例えばカカオバター及び坐剤ワックス、(9)油、例えばラッカセイ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油及びダイズ油、(10)グリコール、例えばプロピレングリコール、(11)ポリオール、例えば、グリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコール(PEG)、(12)エステル、例えば、オレイン酸エチル及びラウリン酸エチル、(13)寒天、(14)緩衝剤、例えば、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム、(15)アルギン酸、(16)パイロジェンフリー水、(17)等張食塩水、(18)リンガー液、(19)エチルアルコール、(20)pH緩衝液、(21)ポリエステル、ポリカーボネート及び/又はポリ無水物、(22)増量剤、例えば、ポリペプチド及びアミノ酸(23)血清成分、例えば、血清アルブミン、HDL及びLDL、(22)C2-C12アルコール、例えば、エタノール、並びに(23)医薬製剤に用いられる他の非毒性適合性物質が挙げられる。湿潤剤、着色剤、剥離剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤、芳香剤、防腐剤、及び抗酸化剤も、製剤中に存在し得る。
【0060】
医薬組成物は、単位剤形で好都合に提示され得、薬学の分野で周知の方法のいずれかによって調製され得る。「単位用量」という用語は、本開示の医薬組成物に関して使用される場合、対象のための単位投与量として好適な物理的に分離された単位を指し、各単位は、必要な希釈剤(すなわち、担体又はビヒクル)と関連して所望の治療効果がもたらされるように計算された所定の量の活性物質を含む。
【0061】
医薬組成物の製剤は、投与経路に依存し得る。非経口投与、又は腫瘍内、腫瘍周囲、病巣内、若しくは病変周囲投与に好適な注射用調製物としては、例えば、滅菌注射用の水性又は油性懸濁液が挙げられ、好適な分散剤又は湿潤剤及び懸濁剤を使用して、既知の技術に従って製剤化され得る。滅菌注射用調製物はまた、例えば、1,3プロパンジオール又は1,3ブタンジオール中の溶液として、非毒性の非経口的に許容可能な希釈剤又は溶媒中の滅菌注射用の溶液、懸濁液又はエマルションであってもよい。用いられ得る許容可能なビヒクル及び溶媒は、水、リンゲル液、U.S.P.及び等張塩化ナトリウム溶液である。加えて、滅菌不揮発性油が、溶媒又は懸濁媒体として従来用いられている。この目的のために、合成モノグリセリド又はジグリセリドを含む、任意の無刺激の不揮発性油が用いられ得る。加えて、オレイン酸等の脂肪酸が、注射剤の調製に有用である。注射用製剤は、例えば、細菌保持フィルターを介した濾過によって、又は使用前に滅菌水若しくは他の滅菌注射用媒体に溶解若しくは分散することができる滅菌固体組成物の形態の滅菌剤を組み込むことによって、滅菌することができる。
【0062】
局所投与のために、医薬組成物は、当該技術分野で一般的に知られているように、軟膏、膏薬、ゲル、又はクリームに製剤化され得る。局所投与は、当該技術分野で周知の経皮送達系を利用することができる。一例は、皮膚パッチである。
【0063】
経口投与に好適な組成物は、各々が所定量の抗炎症剤を含むカプセル、錠剤、トローチ剤等の別個の単位として提示されてもよい。他の組成物は、水性液体中の懸濁液、又はシロップ、エリキシル剤若しくはエマルション等の非水性液体中の懸濁液を含む。
【0064】
他の送達系は、持続放出、遅延放出又は徐放送達系を含むことができる。そのような系は、抗炎症剤の反復投与を回避して、対象及び医師の利便性を高めることができる。多くの種類の放出送達系が利用可能であり、当業者に既知である。それらには、ポリ(ラクチド-グリコリド)、コポリオキサレート、ポリカプロラクトン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酪酸、及びポリ酸無水物等のポリマーベースの系が含まれる。薬物を含む前述のポリマーのマイクロカプセルは、例えば、米国特許第5,075,109号に記載されている。送達系はまた、非ポリマー系、すなわち、コレステロール、コレステロールエステル等のステロール、並びに脂肪酸又は中性脂肪、例えば、モノ、ジ、及びトリグリセリドを含む脂質;ヒドロゲル放出系;シラスティック系、ペプチドベースの系;ワックスコーティング;従来の結合剤及び賦形剤を使用する圧縮錠剤;部分的に融合したインプラント等も含む。具体的な例としては、限定されないが、(a)米国特許第4,452,775号、同第4,667,014号、同第4,748,034号、及び同第5,239,660号に記載されているような、抗炎症剤がある形態でマトリックス内に含まれる侵食系、並びに(b)米国特許第3,832,253号、及び同第3,854,480号に記載されているような、活性成分が制御された速度でポリマーから浸透する拡散系が挙げられる。加えて、ポンプベースのハードウェア送達系を使用することができ、そのうちのいくつかは、移植に適合している。
【0065】
長期徐放性インプラントの使用は、慢性疾患の治療に特に好適であり得る。本明細書で使用される長期放出は、インプラントが、少なくとも30日間、好ましくは60日間、治療レベルの活性成分を送達するように構築及び配置されることを意味する。長期徐放性インプラントは、当業者に周知であり、上述の放出系のいくつかを含む。
【0066】
いくつかの実施形態において、治療的投与に使用される医薬組成物は無菌でなければならない。滅菌は、滅菌濾過膜(例えば、0.2ミクロン膜)を介した濾過によって容易に達成される。代替的に、防腐剤を使用して、微生物の増殖又は作用を防止することができる。様々な防腐剤が周知であり、例えば、フェノール及びアスコルビン酸が挙げられる。環状Psapペプチド及び/又は医薬組成物は、熱変性及び酸化変性に対して非常に安定である場合、通常、凍結乾燥形態で、又は水溶液として保存される。調製物のpHは、典型的には約6~8であるが、特定の場合には、より高い又はより低いpH値も適切であり得る。
【0067】
本開示の他の態様は、本明細書に記載の薬剤及び医薬組成物を使用して、がんを治療する方法を提供する。いくつかの実施形態において、方法は、有効量のTsp-1を刺激する薬剤を、それを必要とする対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、方法は、Tsp-1を誘導するため、又はCD36若しくはCD47を抑制するための1つ以上の追加の薬剤を、それを必要とする対象に投与することを含む。1つより多くの薬剤が投与される場合、それらは、同時に又は連続して投与され得る。当業者(例えば、医師)は、投与様式を決定することができる。
【0068】
がんを「治療する」又はがんの「治療」は、限定されないが、がんの発症の予防、軽減、若しくは停止、がんの症状の軽減若しくは排除、がんの増殖の抑制若しくは阻害、既存のがんの転移及び/若しくは浸潤の予防若しくは軽減、がんの退縮の促進若しくは誘導、がん細胞の増殖の阻害若しくは抑制、血管新生の減少、並びに/又はアポトーシスがん細胞の量の増加を含む。
【0069】
「有効量」は、がんの治療等の医学的に望ましい結果をもたらすのに十分な薬剤の投与量である。有効量は、治療される特定の疾患又は障害、治療される対象の年齢及び身体状態、状態の重症度、治療の期間、任意の併用療法の性質、特定の投与経路、並びに医療従事者の知識及び専門知識内の同様の要因によって変化する。ヒト等の対象への投与には、約0.001、0.01、0.1、又は1mg/kg~50、100、150、又は500mg/kg以上の投与量が、典型的に用いられ得る。
【0070】
いくつかの実施形態において、方法は、対照レベルと比較して、試料中のCD36及びCD47のレベルが上昇した対象を、Psapペプチドによる治療に応答する、又は応答する可能性が高いと同定することを更に含む。いくつかの実施形態において、方法は、Psapペプチドによる治療に応答する、又は応答する可能性が高いと同定された対象に、がんを治療するために有効量の本明細書に記載のPsapペプチドを投与することを更に含む。いくつかの実施形態において、がんを有する対象から得られた試料は腫瘍試料である。
【0071】
いくつかの実施形態において、対照レベルと比較して上昇した試料中のCD36及びCD47のレベルは、がんがPsapペプチドによる治療に応答して退縮するか、又は退縮する可能性が高いことを示す。いくつかの実施形態において、方法は、対照レベルと比較して、試料中のCD36及びCD47のレベルが上昇した対象を、Psapペプチドによる治療に応答して退縮するか、又は退縮する可能性が高いがんを有すると同定することを更に含む。いくつかの実施形態において、方法は、Psapペプチドによる治療に応答して退縮するか、又は退縮する可能性が高いがんを有すると同定された対象に、有効量の本明細書に記載のPsapペプチドを投与して、がんの退縮を引き起こすことを更に含む。
【0072】
本明細書で使用される場合、「上昇したCD36及びCD47のレベル」は、CD36D47のレベルが、予め決定された閾値若しくはレベル、同じ対象由来の非がん性試料で測定されたレベル、又は健常対象若しくは対象の集団からの試料で測定されたレベル等の対照レベルを上回っていることを意味する。
【0073】
対照レベルについては、本明細書に詳細に記載されている。上昇したCD36及びCD47のレベルには、例えば、1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、300%、400%、500%又はそれ以上、対照レベルを上回るレベルが含まれる。上昇したCD36及びCD47のレベルはまた、現象をゼロ状態(例えば、対照における発現がない又は検出不能)から非ゼロ状態(例えば、試料におけるいくつらの発現又は検出可能な発現)に増加させることを含む。
【0074】
本明細書で使用される場合、「Psapペプチドによる治療」は、対象にPsapペプチドを投与することを含むことを意味する。Psapペプチドが本明細書に記載される。Psapペプチドによる治療は、Psapペプチドのみによる治療を含み得るか、又は複数の薬剤若しくは療法による治療、例えば、Psapペプチド並びに別の化学療法剤及び/又は手術、放射線療法、若しくは化学療法等の別の形態の療法を含み得ることを理解されたい。
【0075】
本明細書で使用される場合、「Psapペプチドによる治療に応答する」は、限定されないが、がんの発症の予防若しくは軽減、がんの症状の軽減、がんの増殖の抑制若しくは阻害、既存のがんの転移及び/若しくは浸潤の予防、がんの退縮の促進若しくは誘導、がん性細胞の増殖の阻害若しくは抑制、血管新生の減少、並びに/又はPsapペプチドによる治療に応答したアポトーシスがん細胞の量の増加を含む。
【0076】
本明細書で使用される場合、「Psapペプチドによる治療に応答しない」は、限定されないが、がんの発症の予防若しくは軽減の欠如、がんの症状の軽減の欠如、がんの増殖の抑制若しくは阻害の欠如、既存のがんの転移及び/若しくは浸潤の予防の欠如、がんの退縮の促進若しくは誘導の欠如、がん性細胞の増殖の阻害若しくは抑制の欠如、血管新生の減少の欠如、並びに/又はPsapペプチドによる治療に応答したアポトーシスがん細胞の量の減少を含む。
【0077】
いくつかの実施形態において、有効量は、対象に毒性を引き起こさない薬剤の投与量である。いくつかの実施形態において、有効量は、対象に低減された毒性をもたらす薬剤の投与量である。毒性を測定するための方法は、当該技術分野で周知である(例えば、肝臓、脾臓、及び/又は腎臓の生検/組織学、肝毒性についてのアラニントランスフェラーゼ、アルカリホスファターゼ及びビリルビンアッセイ、並びに腎毒性についてのクレアチニンレベル)。
【0078】
本明細書に記載の薬剤及び医薬組成物は、全身投与、局所投与、又は局部投与を含む様々な投与様式のために製剤化することができる。様々な投与経路が利用可能である。選択される特定の様式は、治療されるがんの種類及び治療有効性に必要な投与量に依存する。一般的に言えば、本開示の方法は、医学的に許容可能な任意の投与様式、すなわち、臨床的に許容可能ではない有害作用を引き起こすことなく有効レベルの活性化合物を産生する任意の様式を用いて実施され得るそのような投与様式は、限定されないが、経口、直腸、局所、経鼻、皮内、又は非経口経路を含む。「非経口」という用語は、皮下、静脈内、筋肉内、又は輸注を含む。本明細書に記載の医薬組成物は、腫瘍内、腫瘍周囲、病巣内、気管内、脳室内、腹腔内、又は病変周囲経路によっても好適に投与され、局所的及び全身的な効果を発揮する。
【0079】
技術及び製剤は、一般に、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,Pharmaceutical Press;22nd edition及び他の同様の参考文献に見出すことができる。投与される場合、Psapペプチドは、薬学的に許容可能な量及び薬学的に許容可能な組成物で適用され得る。医薬組成物及び薬学的に許容可能な担体もまた、本明細書に記載される。そのような調製物は、日常的に、塩、緩衝剤、防腐剤、適合性のある担体、及び任意選択的に他の治療薬を含んでもよい。医薬に使用される場合、塩は薬学的に許容可能であるべきであるが、薬学的に許容可能ではない塩は、その薬学的に許容可能な塩を調製するために便利に使用されてもよく、本開示の範囲から除外されない。そのような薬理学的及び薬学的に許容可能な塩は、限定されないが、以下の酸から調製されるものを含む:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸等。また、薬学的に許容可能な塩は、ナトリウム、カリウム又はカルシウム塩等のアルカリ金属塩又はアルカリ土類塩として調製することができる。
【0080】
いくつかの実施形態において、記載される薬剤又は医薬組成物によるがんの治療は、化学療法剤、放射線、細胞分裂阻害剤、抗VEGF剤、抗血管新生因子、p53再活性化剤及び/又は手術等の別の療法と組み合わせてもよい。
【0081】
対象は、げっ歯類、例えば、ラット又はマウス、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、シチメンチョウ、ニワトリ、及び霊長類、例えば、サルを含むこれらに限定されない、ヒト又は脊椎動物又は哺乳動物を意味する。本開示の方法は、それを必要とする対象の治療に有用である。それを必要とする対象は、がんを発症するリスクを有する対象(すなわち、遺伝子検査を介して)又はがんを有する対象であり得る。
【0082】
がんを有する対象は、当該技術分野で既知の任意の方法(例えば、血液検査、組織学、CTスキャン、X線、MRI、身体検査、細胞遺伝学的分析、尿検査、又は遺伝子検査)を用いて同定され得る。がんを有することが疑われる対象は、疾患の1つ以上の症状を示す場合がある。がんの徴候及び症状は、当業者に周知である。いくつかの例示的な実験室試験としては、限定されないが、乳がんのがん抗原(CA)15-3、がん胎児抗原(CEA)及びHER-2、子宮頸がんのヒトパピローマウイルス(HPV)E6及びE7腫瘍性タンパク質、肝細胞がんのαフェトプロテイン(AFP)、AFP画分L3、P4/5、及び+IIバンド、並びに超音波検査、前立腺がんの前立腺特異抗原(PSA)、そして卵巣及びHCCの血清CA-125等のがんバイオマーカーについての試験が挙げられる。
【0083】
がんは、良性で又は悪性であり得、転移しているか又はしていない場合がある。白血病、リンパ腫、骨髄腫、がん腫、転移性がん腫、肉腫、腺腫、神経系がん及び泌尿生殖器がんを含むがこれらに限定されない、任意の種類のがんが本明細書において企図される。例示的ながんの種類としては、限定されないが、成人及び小児急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、副腎皮質がん、AIDS関連がん、肛門がん、虫垂がん、星状細胞腫、基底細胞がん、胆管がん、膀胱がん、骨がん、胆道がん、骨肉腫、線維性組織球腫、脳がん、脳幹神経膠腫、小脳星状細胞腫、悪性神経膠腫、神経膠芽腫、上衣腫、髄芽腫、テント上原始神経外胚葉性腫瘍、視床下部神経膠腫、乳がん、男性乳がん、気管支腺腫、バーキットリンパ腫、カルチノイド腫瘍、原因不明のがん、中枢神経系リンパ腫、小脳星状細胞腫、悪性神経膠腫、子宮頸がん、小児がん、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性及び骨髄性白血病、慢性骨髄増殖性疾患、結腸直腸がん、皮膚T細胞リンパ腫、子宮内膜がん、上衣腫、食道がん、ユーイング家系腫瘍、頭蓋外生殖細胞腫瘍、性腺外生殖細胞腫瘍、肝外胆管がん、眼球内黒色腫、網膜芽腫、胆嚢がん、胃がん、消化管間質腫瘍、頭蓋外生殖細胞腫瘍、性腺外生殖細胞腫瘍、卵巣生殖細胞腫瘍、妊娠性絨毛性腫瘍、神経膠腫、有毛細胞白血病、頭頸部がん、肝細胞がん、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、下咽頭がん、視床下部及び視覚路神経膠腫、眼球内黒色腫、膵島腫瘍、カポジ肉腫、腎臓がん、腎細胞がん、喉頭がん、口唇口腔がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、原発性中枢神経系リンパ腫、ワルデンストレーム高ガンマグロブリン血症、悪性線維性組織球腫、髄芽腫、黒色腫、メルケル細胞がん、悪性中皮腫、扁平上皮性頸部がん、多発性内分泌腫瘍症候群、多発性骨髄腫、菌状息肉腫、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性疾患、慢性骨髄増殖性疾患、鼻腔及び副鼻腔がん、鼻咽頭がん、神経芽細胞腫、口腔咽頭がん、卵巣がん、膵臓がん、副甲状腺がん、陰茎がん、咽頭がん、褐色細胞腫、松果体芽腫及びテント上原始神経外胚葉性腫瘍、下垂体がん、形質細胞腫瘍、胸膜肺芽腫、前立腺がん、直腸がん、横紋筋肉腫、唾液腺がん、軟部組織肉腫、子宮肉腫、セザリー症候群、非黒色腫皮膚がん、小腸がん、扁平上皮がん、扁平上皮性頸部がん、テント上原始神経外胚葉性腫瘍、睾丸がん、喉のがん、胸腺腫及び胸腺がん、甲状腺がん、移行上皮がん、絨毛性腫瘍、尿道がん、子宮がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、絨毛がん、血液腫瘍、成人T細胞白血病、リンパ腫、リンパ球性リンパ腫、間質腫瘍及び生殖細胞腫瘍、又はウィルムス腫瘍が挙げられる。いくつかの実施形態において、がんは黒色腫又は卵巣がんである。
【実施例
【0084】
実施例1:二重に上昇したCD36及びCD47のレベルは、膵臓がんを有する対象におけるVT1021治療に対する応答性と相関する。
本実施例は、二重に上昇したCD36及びCD47のレベルが、膵臓がんにおけるVT2021治療に対する応答性と相関することを実証する。
【0085】
VT1021の前臨床試験は、卵巣がん、膵臓がん、及び乳がんの複数の動物モデルにおいて堅牢な抗腫瘍活性を示した。VT1021を、膵臓がんを含む進行性、難治性、固形腫瘍において、最近完了した第I/II相非盲検、多施設、用量漸増(パート1)及び拡大(パート2)臨床試験(NCT03364400)で評価した。膵臓がんを有する7人の対象がパート1で投与され、32人がパート2で投与され、そのうち17人は、1サイクル以上のVT1021治療を完了し、サイクル2の間に腫瘍イメージングを完了していたため、評価可能であるとみなされた。VT1021には重大な有害事象(AE)はなく、予測可能な薬物動態プロファイルを有していた。
【0086】
VT1021-01試験の「拡大段階」には、再発性GBM、膵臓がん、卵巣がん及び他の固形腫瘍と診断された対象が登録された。彼らは、IV注入によって週に2回、11.8mg/kgのVT1021で治療された。血液試料を、治療前、治療後0、2、4、6時間に臨床試験から採取して、VT1021のレベルを測定した(図2)。治療前及び治療中の腫瘍生検試料を臨床試験から採取して、免疫組織化学アッセイにより、CD36及びCD47を含むバイオマーカー、並びにTMEにおける免疫細胞集団の細胞表面マーカーの発現レベルを測定した(図3図4図5)。CD36及びCD47の発現プロファイルに対する試験日数及び腫瘍収縮の相関性を分析した(図4)。CD36及びCD47の一般的な発現プロファイルを、膵臓がん患者から採取した生検試料を含む腫瘍組織マイクロアレイ(TMA)上でIHCによって評価した。TMAは、VT1021-01臨床試験とは関連のない商業的供給源から購入した。
【0087】
膵臓がんを有する漸増対象(パート1)における共通の有害事象(AE)を表1に示す。示されるAEは、毒性にかかわらず、2人以上の対象、全てのサイクル、最大グレードで発生した。
【0088】
登録及び投与された39人の膵臓がん対象のうち、7人の対象がパート1の漸増コホートに登録された。7人の対象全員が、(因果関係にかかわらず)少なくとも1つのAEを報告した。4人の対象は、治験薬とおそらく関連がある又は関連があるかもしれない、少なくとも1つのAEを示した。用量制限毒性はなかった。5人の対象が、(因果関係にかかわらず)少なくとも1つの重篤な有害事象(SAE)を報告した。2人の対象が、治験薬と明らかに関連がある又は関連があるかもしれないSAEである、輸注関連反応(グレード3)、精神状態の変化(グレード2)を示した。
【0089】
32人の対象が、パート2の漸増コホートに登録された。30人の対象が、(因果関係にかかわらず)少なくとも1つのAEを報告した。18人の対象が、治験薬と明らかに関連がある、おそらく関連がある、又は関連があるかもしれない、少なくとも1つのAEを示した。20人の対象が、(因果関係にかかわらず)少なくとも1つのSAEを報告した。2人の対象が、治験薬と関連があるかもしれないSAEである血栓症(グレード3)、発熱(グレード1)を示した
【表1】
【0090】
図2は、神経膠芽腫、膵臓がん、卵巣がんを有する対象におけるVT1021の薬物動態を示す図である。
【0091】
図3は、膵臓がんを有する対象におけるCD36及びCD47の発現強度を示す。評価可能な対象におけるCD36及びCD47の両方の二重高発現をパートAに示す。評価可能な対象におけるCD36及びCD47の非二重高発現をパートBに示す。評価不可能な対象におけるCD36及びCD47の非二重高発現をパートCに示す。
【0092】
図4は、CD36及びCD47の二重高発現が、より長い試験日数及び腫瘍負荷の減少と相関することを示した。ウォーターフォールプロットは、測定可能な疾患を有する、パート2の14人の膵臓がんを有する対象について腫瘍負荷の変化を示す。病勢安定の3人の対象のうち3人(100%)は、二重に高いCD36及びCD47レベルを示した。測定可能な疾患を有する14人の対象のうち、腫瘍負荷が減少した5人の対象全員が、二重に高いレベルを示し、平均105日間治験を継続した。
【0093】
図5A及び図5Bは、VT1021が膵臓がんにおいてTMEを調節することを示す図である。膵臓がんを有する対象由来の対生検におけるVT1021によるTMEの調節を、多重イオンビーム画像解析によって評価した。治療前(プレ)及び治験中(オン)に得られた対象由来の腫瘍生検の3つの関心領域のうちの1つからの代表的な画像。図5Bは、TSP-1+の平均強度、CTL対Treg比、M1対M2マクロファージ比、及び全マクロファージと比較したM1マクロファージの割合の倍率変化を、パート1及び2からの8対の生検について定量した。TSP-1+は、治療前と比較して治験中の生検で2倍超増加し、CTL/Treg比及びM1/M2マクロファージ比の両方が増加し、VT1021で治療した後のTMEでは、M1マクロファージの割合が3倍超増加した。
【0094】
図6は、CD36及びCD47の二重高発現が、膵臓がんの予測バイオマーカーであることを示す。二重に高いCD36及びCD47の高いパーセンテージが、膵臓がんにおいて観察される。図は、二重に高いCD36及びCD47について染色及びスコアリングした、市販の膵臓腫瘍組織マイクロアレイの代表的な画像を示す。以下の表2は、二重に高いCD36及びCD47を有するパート2の対象が、VT1021を用いた第1相試験において評価可能であるとみなされる可能性がより高かったことを示す。
【表2】
【0095】
これらのデータは、二重に高いCD36及びCD47レベルを呈する膵臓がん対象が、二重に高いCD36及びCD47レベルを呈しない対象よりも減少した腫瘍負荷を有し、臨床試験をより長く継続する可能性がより高ことを示している。VT1021を投与した対象のTMEにおいてTSP-1発現の増加が観察され、VT1021は、CTL/Tregの増加及びM1マクロファージ蓄積を介してTMEがより免疫感受性になるよう再構築する。したがって、二重に高いCD36及びCD47レベルは、VT1021による治療に対する膵臓がん対象の応答性の予測バイオマーカーである。
【0096】
これらの結果は、二重に上昇したCD36及びCD47のレベルが、膵臓がんの応答性を含む、VT1021による治療に対するがんの応答性の堅牢なバイオマーカーであることを示している。結果は更に、VT1021を含む本発明の技術のペプチドが、膵臓がんを含む、対照レベルと比較して二重に上昇したCD36及びCD47のレベルを呈するがんの治療に有用であることを示す。
【0097】
実施例2:二重に上昇したCD36及びCD47のレベルは、神経膠芽腫を有する対象におけるVT1021治療に対する応答性と相関する。
本実施例は、二重に上昇したCD36及びCD47のレベルが、神経膠芽腫におけるVT2021治療に対する応答性と相関することを実証する。
【0098】
VT1021の前臨床試験は、卵巣がん、膵臓がん、及び乳がんの複数の動物モデルにおいて堅牢な抗腫瘍活性を示した。VT1021を、再発性GBM(rGBM)を含む進行性、難治性、固形腫瘍において、最近完了した第I/II相非盲検、多施設、用量漸増(パート1)及び拡大(パート2)臨床試験(NCT03364400)で評価した。rGBMを有する32人の対象がパート2で投与され、そのうち22人は、1サイクル以上のVT1021治療を完了し、サイクル2の間に腫瘍イメージングを完了していたため、評価可能であるとみなされた。VT1021には重大な有害事象(AE)はなく、予測可能な薬物動態プロファイルを有していた。以下の表3は、対象の人口動態を示す。表4は、有害作用の発生率を示す。
【0099】
IV注入によって週に2回、11.8mg/kgのVT1021で治療した拡大期のGBM対象から血液試料を採取した。VT1021レベルを測定し、男性及び女性の対象間で分析した(図7)。同じ対象群から試験日数を収集した(図8)。1人の対象は、MRIスキャン及びVT1021による治療過程にわたる病変サイズの測定によって示される「完全奏効」を達成した(図9)。GBM対象の治療前腫瘍生検試料において、免疫組織化学アッセイによってCD36及びCD47レベルを測定した(図9図10)。Tsp-1のレベルは、採取された血液試料中の循環Tsp-1レベルについてはELISAによって測定し、腫瘍生検試料中に蓄積されたTsp-1のレベルについては免疫組織化学によって測定した(図10)。免疫及び炎症細胞、具体的には、MDSC、T細胞及びマクロファージの浸潤を、対象の腫瘍生検試料中の細胞表面マーカーのレベルの免疫組織化学分析によって決定した(図11)。
【表3】
【表4】
【0100】
図7は神経膠芽腫を有する対象におけるVT1021の薬物動態を示す図である。
【0101】
図8は、CD36及びCD47の二重高発現が、臨床的奏効及び治療期間と相関することを示す。22人の評価可能なrGBM対象のうち、3人が完全奏効(CR)、1人が部分奏効(PR)、7人が病勢安定(SD)を示し、平均試験期間は203日以上であった。全体的な疾患管理率(DCR)は50%であった。利用可能な生検試料を有する20人の評価可能な対象のうちの9人(45%)が、CD36及びCD47の両方の高発現レベルを示した。9人の二重に高い対象のうち、3人がCRを達成して33.3%の全体的奏効率を示し、別の3人の対象が67%のDCRでSDを達成した。11件のCR/PR/SDのうち、6件が二重に高かった(55%)。
【0102】
図9は、VT1021がrGBM対象において完全奏効を誘導することを示す。CRを達成した3人の対象のうちの1人の完全奏効スキャン画像及び病変縮小。パートAは、476日間治験に参加し、依然として治験を継続中である1人のCR対象の病変測定値及びスキャン画像を示す。パートBは、9サイクルの治療後に、もはや測定できなくなるまで病変が着実に減少したことを示す。パートCは、治療前生検のIHC分析によるCD36及びCD47の二重高発現を示す。
【0103】
図10は、VT1021が循環及びTMEにおいてTSP-1を誘導することを示している。パートAは、rGBMを有する全ての評価可能な対象において、末梢血単核細胞(PBMC)から測定されたTSP-1タンパク質がVT1021によって誘導されたことを示す。パートBは、CRを達成したrGBMを有する対象由来の治験中の(オン)生検におけるTSP-1誘導を示す。治験中の生検の病理学的検査では、腫瘍細胞は検出されなかった。パートCは、パートBの同じ対象由来の治療前(プレ)生検におけるCD36及びCD47の二重高発現の強度を示す。
【0104】
図11A図11B図11C図11D図11E、及び図11Fは、循環中及びTME中のVT1021による免疫系の調節を示す図である。図11Aは、サイクル1の1日目に、VT1021による治療の6時間前及び後に採取された全血から単離された免疫細胞をフローサイトメトリーによって分析したことを示す。増殖性CTLは、臨床的奏効にかかわらず1.5倍以上増加し、増殖性ヘルパーT細胞は、CR/PR及びPD対象において1.5倍以上増加した一方で、単球性MDSC(mMDSC)及び活性化MDSCは、全ての評価可能な対象において0.5倍以下の減少を示した。図11Bは、CRを達成したrGBMを有する対象から治療前(プレ)及び治験中(オン)に得た腫瘍生検におけるM1及びM2マクロファージのIHCを示す。図11Cは、図11Bの生検対について定量したM1及びM2マクロファージの倍率変化を示す。治療後、M1の割合は1.9倍増加したのに対し、M2は0.6倍減少した。図11Dは、多重イオンビーム画像化によって評価した、図11Bの対象から治療前及び治験中に得た腫瘍生検における代表を示す。図11Eは、CTLの倍率変化を示す。図11Fは、図11Dの生検対について定量した全及びmMDSCを示す。治験中の生検では、CTLは治療前と比較して4倍超増加し、全及びmMDSCは15倍超増加した。
【0105】
これらのデータは、VT1021が、特にCD36及びCD47の高発現レベルを有する対象において、rGBMにおける単剤臨床活性として有効であることを示す。二重に高いCD36及びCD47レベルを呈するrGBMを有する対象は、二重に高いCD36及びCD47レベルを呈しない対象よりも減少した腫瘍負荷を有し、臨床試験をより長く継続する可能性がより高かった。循環PBMC及びTMEにおいてTSP-1発現の増加が観察され、VT1021は、M1マクロファージ及びCTLの増加を介して、免疫がより増強されるようにTMEを再構築した。したがって、CD36及びCD47の二重高発現は、VT1021による治療に対するGBM対象の応答性の予測バイオマーカーである。
【0106】
これらの結果は、二重に上昇したCD36及びCD47のレベルが、神経膠芽腫の応答性を含む、VT1021による治療に対するがんの応答性の堅牢なバイオマーカーであることを示している。結果は更に、VT1021を含む本発明の技術のペプチドが、神経膠芽腫を含む、対照レベルと比較して二重に上昇したCD36及びCD47のレベルを呈するがんの治療に有用であることを示す。
【0107】
実施例3:VT1021を使用した、二重に上昇したCD36及びCD47のレベルを有する膵臓がんの治療。
本実施例は、二重に上昇したCD36及びCD47のレベルを呈する膵臓がんの治療のためのVT1021の有効性を実証する。
【0108】
膵臓がんを有する対象を、標準的な臨床プロトコルを用いて同定する。試料を得て、当該技術分野で既知の方法を用いてCD36及びCD47のレベルを測定する。好適な対照と比較して二重に上昇したCD36及びCD47レベルを呈する対象を、VT1021を用いた投与のために選択する。
【0109】
治療段階に進んだ対象にVT1021を投与する。頻度及び投与量は、疾患の病期及び重症度に応じて、当該技術分野で標準的な方法に従って決定される。腫瘍負荷及び他の疾患指標は、当該技術分野で既知の方法を用いて測定され、データがまとめられる。
【0110】
結果は、対照対象と比較して、VT1021を投与された対象における腫瘍負荷の減少を示すことが期待される。
【0111】
結果は、二重に上昇したCD36及びCD47のレベルが、膵臓がんの応答性を含む、VT1021による治療に対するがんの応答性の堅牢なバイオマーカーであることを示すであろう。結果は更に、VT1021を含む本発明の技術のペプチドが、膵臓がんを含む、対照レベルと比較して二重に上昇したCD36及びCD47のレベルを呈するがんの治療に有用であることを示すであろう。
【0112】
実施例4:VT1021を使用した、二重に上昇したCD36及びCD47のレベルを有するGBMの治療。
本実施例は、二重に上昇したCD36及びCD47のレベルを呈するGBMの治療のためのVT1021の有効性を実証する。
【0113】
GBMを有する対象を、標準的な臨床プロトコルを用いて同定する。試料を得て、当該技術分野で既知の方法を用いてCD36及びCD47のレベルを測定する。好適な対照と比較して二重に上昇したCD36及びCD47レベルを呈する対象を、VT1021を用いた投与のために選択する。
【0114】
治療段階に進んだ対象にVT1021を投与する。頻度及び投与量は、疾患の病期及び重症度に応じて、当該技術分野で標準的な方法に従って決定される。腫瘍負荷及び他の疾患指標は、当該技術分野で既知の方法を用いて測定され、データがまとめられる。
【0115】
結果は、対照対象と比較して、VT1021を投与された対象における腫瘍負荷の減少を示すことが期待される。
【0116】
結果は、二重に上昇したCD36及びCD47のレベルが、GBMの応答性を含む、VT1021による治療に対するがんの応答性の堅牢なバイオマーカーであることを示すであろう。結果は更に、VT1021を含む本発明の技術のペプチドが、GBMを含む、対照レベルと比較して二重に上昇したCD36及びCD47のレベルを呈するがんの治療に有用であることを示すであろう。
参考文献
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7.Feig,C.,et al.,The pancreas cancer microenvironment.Clin Cancer Res,2012.18(16):p.4266-76.
【0117】
更に詳述することなく、当業者は、上記の記載に基づいて、本開示を最大限に利用することができる。本明細書に開示される実施形態は、決して限定的ではなく、単なる例示として解釈されるべきである。本明細書で引用される全ての刊行物は、本明細書で参照される目的又は主題のために、参照により組み込まれる。
【0118】
本明細書で使用される場合、本明細書及び特許請求の範囲で使用される不定冠詞「a」及び「an」は、そうでないという明確な指示がない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
【配列表】
2025501501000001.xml
【国際調査報告】