(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-22
(54)【発明の名称】MHC-ペプチド標的に結合する抗原認識分子のためのオフターゲット予測方法
(51)【国際特許分類】
G16B 15/00 20190101AFI20250115BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20250115BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20250115BHJP
C40B 40/10 20060101ALI20250115BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20250115BHJP
G16B 30/00 20190101ALI20250115BHJP
【FI】
G16B15/00
C12Q1/68 ZNA
C12Q1/02
C40B40/10
C07K7/06
G16B30/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536447
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-08-09
(86)【国際出願番号】 US2022082070
(87)【国際公開番号】W WO2023122621
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ダニック, アンクール
(72)【発明者】
【氏名】クンドゥー, クナル
(72)【発明者】
【氏名】リー, ウェン-イー
(72)【発明者】
【氏名】スー, デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】チェン, ガン
(72)【発明者】
【氏名】ソルズラー, ロバート
(72)【発明者】
【氏名】バブ, ロバート
【テーマコード(参考)】
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA20
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4H045AA10
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4H045BA15
4H045CA40
4H045DA86
4H045EA50
4H045EA60
(57)【要約】
主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-標的ペプチド複合体)中に提示された標的ペプチド内のアミノ酸の位置を予測するための計算システムおよび方法であって、前述のアミノ酸の位置が、前述のMHC-標的ペプチド複合体を認識する抗原認識分子との相互作用に関与する、計算システムおよび方法を本明細書中に示す。主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-標的ペプチド複合体)中に提示された標的ペプチドを認識する抗原認識分子のオフターゲットペプチドの数を推定するための計算システムおよび方法を本明細書中に示す。オフターゲット毒性を軽減するために潜在的な標的ペプチドを順位付けるための計算システムおよび方法を本明細書中に示す。かかる計算システムおよび方法は、疾患を処置するための有効で忍容性が高い抗原認識分子の開発を効率化することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計算デバイスの1またはそれを超えるプロセッサと通信するように構成された非一過性のコンピュータ可読媒体であって、前記非一過性のコンピュータ可読媒体が、前記プロセッサによって実行されたときに、前記計算デバイスに、
a)主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-標的ペプチド複合体)中に提示された標的ペプチドの計算上の表示を入力として受け取らせ;
b)前記MHC分子に対する前記標的ペプチドの結合親和性を決定させ;
c)前記標的ペプチドのそれぞれのアミノ酸の位置での変異に各々が関連する複数の変異したペプチドの配列を生成させ;
d)前記MHC分子に対する前記複数の変異したペプチドの各々の変異したペプチドの結合親和性を決定させ;
e)前記各々の変異したペプチドの結合親和性と前記標的ペプチドの結合親和性の比較に少なくとも一部基づいて、前記MHC-標的ペプチド複合体を認識する抗原認識分子との相互作用に関与する前記アミノ酸の位置を予測させ;そして
f)前記抗原認識分子との相互作用に関与する可能性が高い前記アミノ酸の位置の表示を出力として提供させる
命令を含む、非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項2】
前記命令が、前記プロセッサによって実行されたときに、前記計算デバイスに、
パーセンタイル順位値によって決定した場合に、
前記複数の位置のそれぞれの位置が、前記MHC-標的ペプチド複合体を認識する抗原認識分子との相互作用に関与することを、
a)前記標的ペプチドのパーセンタイル順位が0.5またはそれ未満である場合、前記それぞれの位置に関連する変異を有する変異したペプチドのパーセンタイル順位が1.0未満であるとき、
b)前記標的ペプチドのパーセンタイル順位が0.5と2.0との間である場合、前記それぞれの位置に関連する変異を有する変異したペプチドのパーセンタイル順位が2.0未満であるとき、または
c)前記標的ペプチドのパーセンタイル順位が2.0またはそれを超える場合、前記それぞれの位置に関連する変異を有する変異したペプチドのパーセンタイル順位が4.0未満であるとき
に予測させる、請求項1に記載の非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項3】
計算デバイスの1またはそれを超えるプロセッサと通信するように構成された非一過性のコンピュータ可読媒体であって、前記非一過性のコンピュータ可読媒体が、前記プロセッサによって実行されたときに、前記計算デバイスに、
a)主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-標的ペプチド複合体)中に提示された標的ペプチドの計算上の表示を入力として受け取らせ;
b)前記MHC-標的ペプチド複合体を認識する抗原認識分子との相互作用に関与し得る前記標的ペプチド内の全てのアミノ酸の位置を予測させ;
d)ペプチドの作業リストを生成させることであって、予測または検出された好適な長さのペプチドの全プール内に、前記作業リスト中に列挙されたペプチドが、(i)前記抗原認識分子との相互作用に関与する前記標的ペプチド内の位置に対応する位置に配置され、そして(ii)前記標的ペプチドの対応するアミノ酸と同一である少なくとも2つのアミノ酸を各々含むように、ペプチドの作業リストを生成させ;
e)前記MHC分子に対する前記作業リスト中に列挙されたペプチドの各々の結合親和性を決定させ;
f)第1のしきい値を超える前記MHC分子に対する計算された結合親和性を有するペプチドのみを含むように前記作業リストをフィルタリングし、それにより、オフターゲットペプチドの作業リストを生成させ;そして
g)前記オフターゲットペプチドの作業リストおよび/または前記作業リスト中のオフターゲットペプチドの数を出力として提供させる
命令を含む、非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項4】
前記命令が、前記プロセッサによって実行されたときに、前記計算デバイスに、
前記オフターゲットペプチドの作業リスト中の必須の正常組織中に発現されるペプチドの数を推定させ;そして
必須の正常組織中に発現されるオフターゲットペプチドの数を出力として提供させる、請求項3に記載の非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項5】
前記命令が、前記プロセッサによって実行されたときに、前記計算デバイスに、
前記ペプチドの作業リスト中の各々のペプチドについて、かかるペプチドが必須の正常組織中で発現されるかどうかを決定させ;そして
必須の正常組織中で発現されるペプチドのみを含むように前記作業リストをフィルタリングさせる、請求項3に記載の非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項6】
前記命令が、前記プロセッサによって実行されたときに、前記計算デバイスに、
前記第1のしきい値より高い前記MHC分子に対する計算された結合親和性を有し、かつ必須の正常組織中の発現が低いペプチドを含む潜在的な二次標的ペプチドのリストを生成させる、請求項5に記載の非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項7】
前記命令が、前記プロセッサによって実行されたときに、前記計算デバイスに、
前記ペプチドの作業リスト中の前記ペプチドの類似度(DoS)スコアを計算させ、前記DoSスコアが、前記標的ペプチドの対応する位置のアミノ酸に同一のアミノ酸の数に少なくとも一部基づき、前記標的ペプチドのアミノ酸が、抗原認識分子との相互作用に関与し;そして
第2のしきい値を超えるDoSスコアを有するペプチドのみを含むように前記作業リストをフィルタリングさせる、請求項3~6のいずれか1項に記載の非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項8】
前記MHC分子に結合されないと同定された前記標的ペプチドの位置のみが、前記DoSスコアの計算で考慮される、請求項7に記載の非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項9】
前記命令が、前記プロセッサによって実行されたときに、前記計算デバイスに、
前記抗原認識分子の計算上の表示を入力として提供させ、前記抗原認識分子が、前記MHC-標的ペプチド複合体に結合することができ;
前記作業リスト由来のそれぞれの可能性の高いオフターゲットペプチドおよび前記MHC分子を各々含む複数のMHC-ペプチド複合体に対する前記抗原認識分子の結合親和性を決定させ;そして
前記抗原認識分子のための結合モチーフを含む可能性の高いオフターゲットペプチドのみを含むように前記作業リストをフィルタリングさせる、請求項3~8のいずれか1項に記載の非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項10】
前記命令が、前記プロセッサによって実行されたときに、前記計算デバイスに、
特定の患者の必須の正常組織中のオフターゲットペプチド発現を入力として提供させ;そして
前記患者のオフターゲット効果の表示を出力として提供させる、請求項3~9のいずれか1項に記載の非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項11】
計算デバイスの1またはそれを超えるプロセッサと通信するように構成された非一過性のコンピュータ可読媒体であって、前記非一過性のコンピュータ可読媒体が、前記プロセッサによって実行されたときに、前記計算デバイスに、
a)主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-標的ペプチド複合体)中に提示された標的ペプチドの計算上の表示を入力として受け取らせ;
b)予測または検出された好適な長さのペプチドの全プール内の、(i)抗原認識分子との相互作用に関与する前記標的ペプチド内の位置に対応する位置に配置され、そして(ii)前記標的ペプチドの対応するアミノ酸と同一である、少なくとも2つのアミノ酸を含む類似のペプチドを同定させ;
c)前記MHC分子に対する前記同定された類似のペプチドの各々の結合親和性を決定させ;
d)第1のしきい値より強力な前記MHC分子に対する計算された結合親和性を有する類似のペプチドの同定に少なくとも一部基づいてオフターゲットペプチドを同定させ;そして
e)前記オフターゲットペプチドを出力として提供させる
命令を含む、非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項12】
計算デバイスの1またはそれを超えるプロセッサと通信するように構成された非一過性のコンピュータ可読媒体であって、前記非一過性のコンピュータ可読媒体が、前記プロセッサによって実行されたときに、前記計算デバイスに、
a)疾患関連ペプチドの間の、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子に結合すると予測される2またはそれを超える潜在的な標的ペプチドを選択させ;
b)前記潜在的な標的ペプチドの各々に関連するオフターゲットペプチドの数を推定させ;そして
c)前記潜在的な標的ペプチドの各々に関与するオフターゲットペプチドの数に少なくとも一部基づいて前記潜在的な標的ペプチドを順位付けさせる
命令を含む、非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項13】
前記命令が、前記プロセッサによって実行されたときに、前記計算デバイスに、
類似度(DoS)スコアがそれぞれのオフターゲットペプチドと前記標的ペプチドとの間の類似性を示すように、オフターゲットペプチドの各々についてのDoSスコアを計算させ;そして
前記潜在的な標的ペプチドの各々に関連するオフターゲットペプチドのDoSスコアに少なくとも一部基づいて前記潜在的な標的ペプチドを順位付けさせる、請求項12に記載の非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項14】
前記命令が、前記プロセッサによって実行されたときに、前記計算デバイスに、
前記標的ペプチドの対応する位置のアミノ酸に同一の前記オフターゲットペプチドのアミノ酸の数に少なくとも一部基づいてDoSスコアを計算させ、前記標的ペプチドのアミノ酸が、抗原認識分子との相互作用に関与する、請求項13に記載の非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項15】
前記MHC分子との相互作用に関与しないと同定された前記標的ペプチドの位置のみが、前記DoSスコアの計算で考慮される、請求項13または14に記載の非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項16】
前記命令が、前記プロセッサによって実行されたときに、前記計算デバイスに、
前記オフターゲットペプチドのDoSスコアに少なくとも一部基づいて各々の潜在的な標的ペプチドのin vivo毒性の確率を計算させる、請求項12~15のいずれか1項に記載の非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項17】
前記各々の潜在的な標的ペプチドのin vivo毒性の確率が、所定のしきい値を超えるDoSスコアを有する高毒性オフターゲットペプチドの数に少なくとも一部基づく、請求項16に記載の非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項18】
前記工程(a)における疾患関連ペプチドを、罹患組織および必須の正常組織中の前記対応するmRNAまたはタンパク質の発現レベルの比較に少なくとも一部基づいて同定する、請求項12~17のいずれか1項に記載の非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項19】
データベースを含む非一過性のコンピュータ可読媒体であって、前記データベースが、オフターゲットペプチドに各々関連し、かつそれぞれの前記オフターゲットペプチドに関連するin vivo毒性の確率に従って順位付けられた複数の疾患関連ペプチド配列を含み、前記オフターゲットペプチドが、各々、前記それぞれの疾患関連ペプチド配列によって同定されたペプチドと、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子に対する結合親和性がほぼ等しい、非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項20】
データベースを含む非一過性のコンピュータ可読媒体であって、前記データベースが、
複数の疾患関連ペプチド配列;および
それぞれの疾患関連ペプチド配列に各々関連する複数のオフターゲットペプチド配列
を含み、
ここで、前記疾患関連ペプチド配列によって同定された各々の疾患関連ペプチドが、前記MHC分子に対する前記それぞれのオフターゲットペプチド配列によって同定されたオフターゲットペプチドの結合親和性とほぼ等しい主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子に対する結合親和性を有する、非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項21】
主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-標的ペプチド複合体)中に提示された標的ペプチド内のアミノ酸の位置を予測する方法であって、前記アミノ酸の位置が、前記MHC-標的ペプチド複合体を認識する抗原認識分子との相互作用に関与し、前記方法が、
a)前記MHC分子に対する前記標的ペプチドの結合親和性を決定する工程;
b)前記標的ペプチドのそれぞれのアミノ酸の位置での変異に各々関連する複数の変異したペプチドを生成する工程;
c)前記MHC分子に対する前記複数の変異したペプチドの各々の変異したペプチドの結合親和性を決定する工程;および
d)各々の変異したペプチドの結合親和性と前記標的ペプチドの結合親和性の比較に少なくとも一部基づいて、前記抗原認識分子との相互作用に関与する前記アミノ酸の位置を予測する工程
を含む、方法。
【請求項22】
前記MHC分子に対する標的ペプチドの結合親和性を、コンピュータベースのモデルを使用して決定する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記MHC分子に対する標的ペプチドの結合親和性を、実験による測定によって決定する、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記MHC分子に対する標的ペプチドの結合親和性を、半数阻害濃度(IC
50)値またはパーセンタイル順位値を使用して決定する、請求項21~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
複数の変異したペプチドを生成する工程が、前記それぞれのアミノ酸をグリシンアミノ酸に変異させること含む、請求項21~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
複数の変異したペプチドを生成する工程が、前記それぞれのアミノ酸をアラニンアミノ酸に変異させること含む、請求項21~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記複数の位置のそれぞれの位置は、前記それぞれの位置に関連する変異を有する変異したペプチドの結合親和性が前記標的ペプチドの結合親和性とほぼ等しいとき、MHC-標的ペプチド複合体を認識する抗原認識分子との相互作用に関与すると予測する工程をさらに含む、請求項21~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記パーセンタイル順位値によって決定した場合に、
a)前記標的ペプチドのパーセンタイル順位が0.5またはそれ未満である場合、前記それぞれの位置に関連する変異を有する変異したペプチドのパーセンタイル順位が1.0未満であるとき、
b)前記標的ペプチドのパーセンタイル順位が0.5と2.0との間である場合、前記それぞれの位置に関連する変異を有する変異したペプチドのパーセンタイル順位が2.0未満であるとき、または
c)前記標的ペプチドのパーセンタイル順位が2.0またはそれを超える場合、前記それぞれの位置に関連する変異を有する変異したペプチドのパーセンタイル順位が4.0未満であるとき、前記複数の位置のそれぞれの位置が、前記MHC-標的ペプチド複合体を認識する抗原認識分子との相互作用に関与すると予測する工程を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
以下の条件の両方:
(i)前記それぞれの位置に関連する変異を有する変異したペプチドの結合親和性が、前記標的ペプチドの結合親和性とほぼ等しいこと、および
(ii)前記それぞれの位置での標的ペプチドのアミノ酸が非グリシン残基であること
を満たすとき、複数の位置のそれぞれの位置が、前記MHC-標的ペプチド複合体を認識する抗原認識分子との相互作用に関与すると予測する工程をさらに含む、請求項21~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記標的ペプチド内の複数の位置のそれぞれの位置が、前記MHC-標的ペプチド複合体の既知の構造に基づいて、前記MHC分子との相互作用に関与しないことを検証する工程をさらに含む、請求項21~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-標的ペプチド複合体)中に提示された標的ペプチドを認識する抗原認識分子についてのオフターゲットペプチドを同定する方法であって、
a)前記抗原認識分子との相互作用に関与し得る前記標的ペプチド内の全てのアミノ酸の位置を予測する工程;
b)予測または検出されたペプチドの全プール内の、(i)前記抗原認識分子との相互作用に関与する前記標的ペプチド内の位置に対応する位置に配置され、そして(ii)前記標的ペプチドの対応するアミノ酸と同一である、少なくとも2つのアミノ酸を含む好適な長さの類似のペプチドを同定する工程;
c)前記MHC分子に対する前記同定された類似のペプチドの各々の結合親和性を決定する工程;および
d)第1のしきい値より強力な前記MHC分子に対する計算された結合親和性を有する類似のペプチドの同定に少なくとも一部基づいてオフターゲットペプチドを同定する工程
を含む、方法。
【請求項32】
主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-標的ペプチド複合体)中に提示された標的ペプチドを認識する抗原認識分子についてのオフターゲットペプチドの数を推定する方法であって、
a)前記抗原認識分子との相互作用に関与し得る前記標的ペプチド内の全てのアミノ酸の位置を予測する工程;
b)予測または検出されたペプチドの全プール内の、(i)前記抗原認識分子との相互作用に関与する前記標的ペプチド内の位置に対応する位置に配置され、そして(ii)前記標的ペプチドの対応するアミノ酸と同一である、少なくとも2つのアミノ酸を含む好適な長さの類似のペプチドを同定する工程;
c)前記MHC分子に対する前記同定された類似のペプチドの各々の結合親和性を決定する工程;および
d)第1のしきい値より強力な前記MHC分子に対する計算された結合親和性を有する類似のペプチドの計数に少なくとも一部基づいてオフターゲットペプチドの数を推定する工程
を含む、方法。
【請求項33】
工程(b)が、予測または検出されたペプチドの全プール内の、(i)前記抗原認識分子との相互作用に関与する前記標的ペプチド内の位置に対応する位置に配置され、そして(ii)前記標的ペプチドの対応するアミノ酸と同一である、少なくとも3つのアミノ酸を含む好適な長さの類似のペプチドを同定する工程を含む、請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
工程(b)が、予測または検出されたペプチドの全プール内の、(i)前記抗原認識分子との相互作用に関与する前記標的ペプチド内の位置に対応する位置に配置され、そして(ii)前記標的ペプチドの対応するアミノ酸と同一である、少なくとも4つのアミノ酸を含む好適な長さの類似のペプチドを同定する工程を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
工程(b)が、予測または検出されたペプチドの全プール内の、(i)前記抗原認識分子との相互作用に関与する前記標的ペプチド内の位置に対応する位置に配置され、そして(ii)前記標的ペプチドの対応するアミノ酸と同一である、少なくとも5つのアミノ酸を含む好適な長さの類似のペプチドを同定する工程を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記工程(c)における結合親和性を、前記パーセンタイル順位値を決定することによって決定し、ここで、前記オフターゲットペプチドの数を、工程(d)において、2.0未満のパーセンタイル順位値を有する類似のペプチドの計数に少なくとも一部基づいて推定する、請求項31~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記オフターゲットペプチド中に、必須の正常組織中に発現されるペプチドのみを含める工程を含む、請求項31~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記同定されたオフターゲットペプチドの各々について、かかるペプチドが必須の正常組織中に発現されるかどうかを決定する工程をさらに含む、請求項31~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記ペプチド発現を、前記対応するmRNAまたはタンパク質の発現レベルに基づいて決定する、請求項37または請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記ペプチド発現を、質量分析データに基づいて決定する、請求項37または請求項38に記載の方法。
【請求項41】
オフターゲットペプチド中に、前記第1のしきい値より強力な前記MHC分子に対する計算された結合親和性および必須の正常組織中の検出可能な発現を有する類似のペプチドのみを含める工程をさらに含む、請求項37~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記類似のペプチドについての類似度(DoS)スコアを計算する工程をさらに含み、前記DoSスコアが、前記標的ペプチドの対応する位置のアミノ酸に同一のそれぞれ類似のペプチドのアミノ酸の数に少なくとも一部基づき、前記標的ペプチドのアミノ酸が、前記抗原認識分子との相互作用に関与する、請求項31~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記MHC分子に結合されないと同定された前記標的ペプチドの位置のみが、前記DoSスコアの計算で考慮される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記オフターゲットペプチド中に、第2のしきい値より高いDoSスコアを有する類似のペプチドのみを含める工程をさらに含む、請求項42または請求項43に記載の方法。
【請求項45】
工程(a)における前記抗原認識分子との相互作用に関与する前記標的ペプチド内のアミノ酸の位置を予測する工程は、請求項20~29のいずれか1項に記載の方法を使用して行う、請求項31~44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記工程(b)における検出されたペプチドの全プールが、質量分析データに基づく、請求項31~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記MHC分子がクラスI MHC分子であり、工程(b)における前記予測または検出されたペプチドが8~12アミノ酸長である、請求項31~46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記MHC分子がクラスI MHC分子であり、前記標的ペプチドが8~12アミノ酸長である、請求項21~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記抗原認識分子が、T細胞受容体(TCR)、キメラ抗原受容体(CAR)、抗体、またはその抗原結合断片である、請求項21~48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
オフターゲット毒性を軽減するために潜在的な標的ペプチドを順位付ける方法であって、
a)MHC分子に結合すると予測される疾患関連ペプチドの間の2またはそれを超える潜在的な標的ペプチドを選択する工程;
b)前記潜在的な標的ペプチドの各々に関連するオフターゲットペプチドの数を推定する工程;および
c)前記潜在的な標的ペプチドの各々に関連するオフターゲットペプチドの数に少なくとも一部基づいて前記潜在的な標的ペプチドを順位付ける工程
を含む、方法。
【請求項51】
前記工程(b)中のオフターゲットペプチドの数を、請求項31~48のいずれか1項に記載の方法を使用して推定する、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
関連するオフターゲットペプチドをより少数有する潜在的な標的ペプチドが、さらなる分析のために選択され、そして/あるいは抗原認識分子の生成および/または試験のために使用されるように、前記潜在的な標的ペプチドを順位付ける工程をさらに含む、請求項50または請求項51に記載の方法。
【請求項53】
類似度(DoS)スコアがそれぞれのオフターゲットペプチドと前記標的ペプチドとの間の類似性を示すように、前記オフターゲットペプチドの各々についてのDoSスコアを計算する工程;そして
前記潜在的な標的ペプチドの各々に関連するオフターゲットペプチドの前記DoSスコアに少なくとも一部基づいて前記潜在的な標的ペプチドを順位付ける工程をさらに含む、請求項50~52のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
前記DoSスコアの計算する工程が、前記標的ペプチドの対応する位置のアミノ酸に同一の前記オフターゲットペプチドのアミノ酸の数に少なくとも一部基づき、前記標的ペプチドのアミノ酸が、抗原認識分子との相互作用に関与する、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記MHC分子との相互作用に関与しないと同定された前記標的ペプチドの位置のみが、前記DoSスコアの計算で考慮される、請求項53または請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記オフターゲットペプチドのDoSスコアに少なくとも一部基づいて各々の潜在的な標的ペプチドのin vivo毒性の確率を計算する工程をさらに含む、請求項53~55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記各々の潜在的な標的ペプチドのin vivo毒性の確率が、所定のしきい値を超えるDoSスコアを有する高毒性オフターゲットペプチドの数に少なくとも一部基づく、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
より低い毒性を有する潜在的な標的ペプチドが優先されるように、前記標的ペプチドを順位付ける工程をさらに含む、請求項56または請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記工程(a)における疾患関連ペプチドを、罹患組織および必須の正常組織中の前記対応するmRNAまたはタンパク質の発現レベルの比較に少なくとも一部基づいて同定する、請求項50~58のいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
データベース中に前記潜在的な標的ペプチドの順位を提供する工程をさらに含む、請求項50~59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
データベース中の前記潜在的な標的ペプチドの各々に関連する前記オフターゲットペプチドのリストを提供する工程をさらに含む、請求項50~60のいずれか1項に記載の方法。
【請求項62】
抗原認識分子のオフターゲット効果を査定するin vitro法であって、
a)前記抗原認識分子を、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-標的ペプチド複合体)中に提示された標的ペプチドと接触させる工程;
b)前記抗原認識分子を、前記標的ペプチドに関連する1またはそれを超えるオフターゲットペプチドと接触させる工程であって、前記オフターゲットペプチドの各々が、(a)と同一のMHC分子との複合体(MHC-オフターゲットペプチド複合体)中に提示される、接触させる工程;および
c)MHC-標的ペプチド複合体および前記MHC-オフターゲットペプチド複合体の各々への前記抗原認識分子の結合レベルを決定および比較する工程
を含む、方法。
【請求項63】
抗原認識分子のオフターゲット効果を査定するin vitro法であって、
a)前記抗原認識分子を、前記抗原認識分子によって認識される標的ペプチドに関連する1またはそれを超えるオフターゲットペプチドと接触させる工程であって、前記オフターゲットペプチドの各々が、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-オフターゲットペプチド複合体)中に提示される、接触させる工程;および
b)前記MHC-オフターゲットペプチド複合体の各々への前記抗原認識分子の結合レベルを決定する工程
を含む、方法。
【請求項64】
前記抗原認識分子が少なくとも1つのMHC-オフターゲットペプチド複合体に検出可能に結合する場合、前記抗原認識分子はオフターゲット効果を有する可能性が高いと決定する工程であって、ここで、前記オフターゲットペプチドが必須の正常組織中に発現される、決定する工程をさらに含む、請求項62または63に記載の方法。
【請求項65】
抗原認識分子を選択する方法であって、
a)複数の抗原認識分子を、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-標的ペプチド複合体)中に提示された標的ペプチドと接触させる工程;
b)前記同一の複数の抗原認識分子を、前記標的ペプチドに関連する1またはそれを超えるオフターゲットペプチドと接触させる工程であって、前記オフターゲットペプチドの各々が、(a)と同一のMHC分子との複合体(MHC-オフターゲットペプチド複合体)中に提示される、接触させる工程;
c)前記抗原認識分子の各々によって検出可能に結合された前記MHC-オフターゲットペプチド複合体の数に少なくとも一部基づいて1またはそれを超える抗原認識分子を選択する工程;および
d)必要に応じて、前記1またはそれを超える選択された抗原認識分子を使用して工程(a)~(c)を繰り返す工程
を含む、方法。
【請求項66】
前記1またはそれを超える選択された抗原認識分子が、5以下のMHC-オフターゲットペプチド複合体に検出可能に結合し、ここで、前記オフターゲットペプチドが必須の正常組織中に発現される、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記1またはそれを超える選択された抗原認識分子がいかなる前記MHC-オフターゲットペプチド複合体にも検出可能に結合せず、ここで、前記オフターゲットペプチドが必須の正常組織中に発現される、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記複数の抗原認識分子がライブラリー中に存在する、請求項65~67のいずれか1項に記載の方法。
【請求項69】
前記ライブラリーがファージディスプレイライブラリーまたは酵母ライブラリーである、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記MHC-ペプチド複合体が固体支持体上に固定されている、請求項65~69のいずれか1項に記載の方法。
【請求項71】
前記MHC-ペプチド複合体が抗原提示細胞上に存在する、請求項65~70のいずれか1項に記載の方法。
【請求項72】
前記結合レベルを、前記MHC-ペプチド複合体への抗原認識分子の結合量を検出することによって決定する、請求項62~64のいずれか1項に記載の方法。
【請求項73】
前記方法をハイスループット形式で行う、請求項65~72のいずれか1項に記載の方法。
【請求項74】
前記方法を96ウェルプレートで行う、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
標的ペプチドに特異的に結合する抗原認識分子で試料を富化する方法であって、
a)前記標的ペプチドと関連する1またはそれを超えるオフターゲットペプチドの存在下で、複数の抗原認識分子を含む試料を前記標的ペプチドと接触させる工程であって、前記標的ペプチドおよび前記1またはそれを超えるオフターゲットペプチドの各々が、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-標的ペプチド複合体またはMHC-オフターゲットペプチド複合体)中に提示される、接触させる工程;
b)前記MHC-標的ペプチド複合体に結合された前記抗原認識分子を単離することによって前記試料を富化する工程;および
c)必要に応じて、前記富化された試料を使用して工程(a)~(b)を繰り返す工程
を含む、方法。
【請求項76】
前記MHC-標的ペプチド複合体が抗原提示細胞上に存在し、前記MHC-オフターゲットペプチド複合体が抗原提示細胞上に存在しない、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
前記MHC-標的ペプチド複合体が固体支持体上に固定されており、前記MHC-オフターゲットペプチド複合体が前記固体支持体上に固定されていない、請求項75に記載の方法。
【請求項78】
前記MHC-標的ペプチド複合体が標識されており、前記MHC-オフターゲットペプチド複合体が前記MHC-標的ペプチド複合体として標識も差分的標識もなされていない、請求項75に記載の方法。
【請求項79】
前記1またはそれを超えるオフターゲットペプチドを、請求項30および32~48のいずれか1項に記載の方法を使用して同定する、請求項75~79のいずれかに記載の方法。
【請求項80】
前記抗原認識分子が、T細胞受容体(TCR)、キメラ抗原受容体(CAR)、抗体、またはその抗原結合断片である、請求項75~79のいずれか1項に記載の方法。
【請求項81】
前記抗原認識分子が溶液中に存在する、請求項75~80のいずれか1項に記載の方法。
【請求項82】
前記抗原認識分子が細胞上に存在する、請求項75~80のいずれか1項に記載の方法。
【請求項83】
請求項31および33~49のいずれか1項に記載の方法を使用して同定された少なくとも2つのオフターゲットペプチドを含むライブラリー。
【請求項84】
配列番号1~7、9、および11~74、またはこれらの任意の組み合わせのアミノ酸配列から各々選択された1またはそれを超えるペプチドを含む、請求項83に記載のライブラリー。
【請求項85】
前記少なくとも2つのオフターゲットペプチドが、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体中に各々存在する、請求項83または84に記載のライブラリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2021年12月21日出願の米国仮出願第63/292,205号(その内容全体が本明細書中で参考として援用される)に基づく優先権を主張する。
【0002】
分野
本発明は、一般に、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-ペプチド複合体)中に提示された標的ペプチド内の抗原認識分子との相互作用に関与するアミノ酸の位置を予測し、MHC-ペプチド複合体中の標的ペプチドを認識する抗原認識分子についてのオフターゲットペプチドを予測するための計算システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
抗原認識分子(T細胞受容体(TCR)および抗体など)は、本明細書中で定義の宿主の免疫系によって認識される作用因子を含む抗原を同定することができる。抗原認識分子は、抗原提示細胞の表面上の主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-ペプチド複合体)中に提示された抗原ペプチドに結合することによって免疫系の抗原中和を補助することができる。
【0004】
MHC-ペプチド複合体は、抗原細胞中のMHC遺伝子がMHC分子をコードする;MHC分子がその後に抗原ペプチドに結合し、それにより、MHC-ペプチド複合体を作出する;得られたMHC-ペプチド複合体は、抗原認識分子と結合するためにペプチドの一部が提示されるように、細胞表面上に配置されるという細胞過程の結果として抗原提示細胞の表面上に提示される。各々のペプチドは、アミノ酸の短鎖で構成され、MHC-ペプチド複合体中のペプチドのいくつかのアミノ酸がMHC分子に結合される一方で、残りのアミノ酸のうちの少なくともいくつかは、抗原認識分子との結合に利用できるように提示される。
【0005】
また、この細胞過程は、身体に由来する細胞中で行われる。一般に、抗原認識分子は、ネイティブ細胞上に提示されたペプチドと抗原提示細胞上に提示されたペプチドとを区別することができ、その結果、正常細胞は免疫系によって攻撃されない。抗原認識分子は、抗原提示細胞表面上のMHC-ペプチド複合体のペプチドに結合して免疫系の抗原中和を補助することができる。
【0006】
本来は上記機序によって標的にされないと考えられる細胞を抗原認識分子が標的にするように操作することを目的とした研究が行われている。例えば、癌細胞は免疫系によって有効に抑制されないネイティブ細胞であり、研究では、癌細胞上の癌特異的MHC-ペプチド複合体を標的にするようにTCR、抗体、および他の抗原認識分子を操作することができる可能性があることが示されている。操作された抗原認識分子を用いた標的化処置は意図する標的細胞を中和するのに有効であり得るが、操作された抗原認識分子が意図する標的細胞に加えてオフターゲットのネイティブ細胞を攻撃する場合、処置の副作用が重篤になり得る。副作用は臨床試験中に同定されることが多く、それにより、患者を死亡させ、患者に他の有害作用を引き起こし、研究開発に時間と資源を使い果たす結果となり得る。したがって、標的選択工程における標的ペプチドに関与するリスクの評価および最も特異的な抗原認識分子のスクリーニングに役立つ目的の標的ペプチドに対するオフターゲットの正確で効率的な予測が可能な方法およびシステムが当該分野で必要である。
【発明の概要】
【0007】
要旨
1またはそれを超えるコンピュータのシステムを、操作によってシステムが動作するようにシステム上にソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア、またはこれらの組み合わせをインストールさせることによって特定の操作または動作を行うように構成することができる。1またはそれを超えるコンピュータプログラムを、データ処理装置によって実行されたときに、装置を動作させる命令を含めることによって特定の操作または動作を行うように構成することができる。1つの一般的な態様は、計算デバイスの1またはそれを超えるプロセッサと通信するように構成された非一過性のコンピュータ可読媒体を含む。非一過性のコンピュータ可読媒体は、様々な順序でインターリービング工程を使用して実施することができる、以下の工程を実施するための命令を含む:a)MHC-標的ペプチド複合体中に提示された標的ペプチドの計算上の表示を入力として受け取らせる工程;b)前述のMHC-標的ペプチド複合体のMHC分子に対する前述の標的ペプチドの結合親和性を決定させる工程;c)前述の標的ペプチドのそれぞれのアミノ酸の位置での変異に各々が関連する複数の変異したペプチドの配列を生成させる工程;d)前述のMHC分子に対する前述の複数の変異したペプチドの各々の変異したペプチドの結合親和性を決定させる工程;e)前述の各々の変異したペプチドの結合親和性と前述の標的ペプチドの結合親和性の比較に少なくとも一部基づいて、前述のMHC-標的ペプチド複合体を認識する抗原認識分子との相互作用に関与する前述のアミノ酸の位置を予測させる工程;およびf)前述の抗原認識分子との相互作用に関与する可能性が高い前述のアミノ酸の位置の表示を出力として提供させる工程。この態様の他の実施形態は、各々が方法の動作が行われるように構成された対応するコンピュータシステム、装置、および1またはそれを超えるコンピュータ記憶デバイス上に記録されたコンピュータプログラムを含む。
【0008】
実装は、以下の特徴のうちの1つまたは複数を含み得る。非一過性のコンピュータ可読媒体は、プロセッサによって実行されたときに、計算デバイスに、パーセンタイル順位値によって決定した場合に、複数の位置のそれぞれの位置が、MHC-標的ペプチド複合体を認識する抗原認識分子との相互作用に関与することを、a)前述の標的ペプチドのパーセンタイル順位が0.5またはそれ未満である場合、前述のそれぞれの位置に関連する変異を有する変異したペプチドのパーセンタイル順位が1.0未満であるとき、b)前述の標的ペプチドのパーセンタイル順位が0.5と0との間である場合、前述のそれぞれの位置に関連する変異を有する変異したペプチドのパーセンタイル順位が0未満であるとき、またはc)前述の標的ペプチドのパーセンタイル順位が0またはそれを超える場合、前述のそれぞれの位置に関連する変異を有する変異したペプチドのパーセンタイル順位が4.0未満であるときに予測させる命令を含み得る。記載の技術の実装は、ハードウェア、方法もしくはプロセス、またはコンピュータアクセス可能な媒体上のコンピュータソフトウェアを含み得る。
【0009】
1つの一般的な態様は、計算デバイスの1またはそれを超えるプロセッサと通信するように構成された非一過性のコンピュータ可読媒体を含む。非一過性のコンピュータ可読媒体は、様々な順序でインターリービング工程を使用して実施することができる、以下の工程を実施するための命令を含む:a)MHC-標的ペプチド複合体中に提示された標的ペプチドの計算上の表示を入力として受け取らせる工程;b)前述のMHC-標的ペプチド複合体を認識する抗原認識分子との相互作用に関与し得る前述の標的ペプチド内の全てのアミノ酸の位置を予測させる工程;d)ペプチドの作業リストを生成させる工程であって、予測または検出された好適な長さのペプチドの全プール内に、前述の作業リスト中に列挙されたペプチドが、(i)前述の抗原認識分子との相互作用に関与する前述の標的ペプチド内の位置に対応する位置に配置され、そして(ii)前述の標的ペプチドの対応するアミノ酸と同一である少なくとも2つのアミノ酸を各々含むように、ペプチドの作業リストを生成させる工程;e)前述のMHC-標的ペプチド複合体のMHC分子に対する前述の作業リスト中に列挙されたペプチドの各々の結合親和性を決定させる工程;f)第1のしきい値を超える前述のMHC分子に対する計算された結合親和性を有するペプチドのみを含むように前述の作業リストをフィルタリングし、それにより、オフターゲットペプチドの作業リストを生成させる工程;およびg)前述のオフターゲットペプチドの作業リストおよび/または前述の作業リスト中のオフターゲットペプチドの数を出力として提供させる工程。この態様の他の実施形態は、各々が方法の動作が行われるように構成された対応するコンピュータシステム、装置、および1またはそれを超えるコンピュータ記憶デバイス上に記録されたコンピュータプログラムを含む。
【0010】
実装は、以下の特徴のうちの1つまたは複数を含み得る。非一過性のコンピュータ可読媒体は、プロセッサによって実行されたときに、計算デバイスに、オフターゲットペプチドの作業リスト中の必須の正常組織中に発現されるペプチドの数を推定させ;そして必須の正常組織中に発現されるオフターゲットペプチドの数を出力として提供させる命令を含み得る。命令は、プロセッサによって実行されたときに、計算デバイスに、ペプチドの作業リスト中の各々のペプチドについて、かかるペプチドが必須の正常組織中で発現されるかどうかを決定させ;そして必須の正常組織中で発現されるペプチドのみを含むように前述の作業リストをフィルタリングさせる。命令は、プロセッサによって実行されたときに、計算デバイスに、第1のしきい値より高いMHC分子に対する計算された結合親和性を有し、かつ必須の正常組織中の発現が低いペプチドを含む潜在的な二次標的ペプチドのリストを生成させる。命令は、プロセッサによって実行されたときに、計算デバイスに、ペプチドの作業リスト中のペプチドの類似度(DoS)スコアを計算させ、前述のDoSスコアが、標的ペプチドの対応する位置のアミノ酸に同一のアミノ酸の数に少なくとも一部基づき、前述の標的ペプチドのアミノ酸が、抗原認識分子との相互作用に関与し;そして第2のしきい値を超えるDoSスコアを有するペプチドのみを含むように前述の作業リストをフィルタリングさせる。MHC分子に結合されないと同定された標的ペプチドの位置のみが、DoSスコアの計算で考慮される。命令は、プロセッサによって実行されたときに、計算デバイスに、抗原認識分子の計算上の表示を入力として提供させ、前述の抗原認識分子が、MHC-標的ペプチド複合体に結合することができ;作業リスト由来のそれぞれの可能性の高いオフターゲットペプチドおよび前述のMHC分子を各々含む複数のMHC-ペプチド複合体に対する前述の抗原認識分子の結合親和性を決定させ;そして、前述の抗原認識分子について結合モチーフを含み得る可能性の高いオフターゲットペプチドのみを含むように前述の作業リストをフィルタリングさせる。命令は、プロセッサによって実行されたときに、計算デバイスに、特定の患者の必須の正常組織中のオフターゲットペプチド発現を入力として提供させ;そして、前述の患者のオフターゲット効果の表示を出力として提供させる。記載の技術の実装は、ハードウェア、方法もしくはプロセス、またはコンピュータアクセス可能な媒体上のコンピュータソフトウェアを含み得る。
【0011】
1つの一般的な態様は、計算デバイスの1またはそれを超えるプロセッサと通信するように構成された非一過性のコンピュータ可読媒体を含む。非一過性のコンピュータ可読媒体は、様々な順序でインターリービング工程を使用して実施することができる、以下の工程を実施するための命令を含む:a)主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-標的ペプチド複合体)中に提示された標的ペプチドの計算上の表示を入力として受け取らせる工程;b)予測または検出された好適な長さのペプチドの全プール内の、(i)抗原認識分子との相互作用に関与する前述の標的ペプチド内の位置に対応する位置に配置され、そして(ii)前述の標的ペプチドの対応するアミノ酸と同一である、少なくとも2つのアミノ酸を含む類似のペプチドを同定させる工程;c)前述のMHC分子に対する前述の同定された類似のペプチドの各々の結合親和性を決定させる工程;d)第1のしきい値より強力な前述のMHC分子に対する計算された結合親和性を有する類似のペプチドの同定に少なくとも一部基づいてオフターゲットペプチドを同定させる工程;およびe)前述のオフターゲットペプチドを出力として提供させる工程。
【0012】
1つの一般的な態様は、計算デバイスの1またはそれを超えるプロセッサと通信するように構成された非一過性のコンピュータ可読媒体を含む。非一過性のコンピュータ可読媒体は、様々な順序でインターリービング工程を使用して実施することができる、以下の工程を実施するための命令を含む:a)疾患関連ペプチドの間の、MHC分子に結合すると予測される2またはそれを超える潜在的な標的ペプチドを選択させる工程;b)前述の潜在的な標的ペプチドの各々に関連するオフターゲットペプチドの数を推定させる工程、およびc)前述の潜在的な標的ペプチドの各々に関与するオフターゲットペプチドの数に少なくとも一部基づいて前述の潜在的な標的ペプチドを順位付けさせる工程。この態様の他の実施形態は、各々が方法の動作が行われるように構成された対応するコンピュータシステム、装置、および1またはそれを超えるコンピュータ記憶デバイス上に記録されたコンピュータプログラムを含む。
【0013】
実装は、以下の特徴のうちの1つまたは複数を含み得る。非一過性のコンピュータ可読媒体は、プロセッサによって実行されたときに、計算デバイスに、DoSスコアがそれぞれのオフターゲットペプチドと標的ペプチドとの間の類似性を示すように、オフターゲットペプチドの各々についてのDoSスコアを計算させ;そして潜在的な標的ペプチドの各々に関連するオフターゲットペプチドのDoSスコアに少なくとも一部基づいて前述の潜在的な標的ペプチドを順位付けさせる命令を含み得る。命令は、プロセッサによって実行されたときに、計算デバイスに、標的ペプチドの対応する位置のアミノ酸に同一のオフターゲットペプチドのアミノ酸の数に少なくとも一部基づいてDoSスコアを計算させ、前述の標的ペプチドのアミノ酸が、抗原認識分子との相互作用に関与する。MHC分子との相互作用に関与しないと同定された標的ペプチドの位置のみが、DoSスコアの計算で考慮される。命令は、プロセッサによって実行されたときに、計算デバイスに、オフターゲットペプチドのDoSスコアに少なくとも一部基づいて各々の潜在的な標的ペプチドのin vivo毒性の確率を計算させる。各々の潜在的な標的ペプチドのin vivo毒性の確率は、所定のしきい値を超えるDoSスコアを有する高毒性オフターゲットペプチドの数に少なくとも一部基づく。工程(a)における疾患関連ペプチドを、罹患組織および必須の正常組織中の対応するmRNAまたはタンパク質の発現レベルの比較に少なくとも一部基づいて同定する。記載の技術の実装は、ハードウェア、方法もしくはプロセス、またはコンピュータアクセス可能な媒体上のコンピュータソフトウェアを含み得る。
【0014】
1つの一般的な態様は、データベースを含む非一過性のコンピュータ可読媒体を含み、前述のデータベースが、オフターゲットペプチドに各々関連し、かつそれぞれの前述のオフターゲットペプチドに関連するin vivo毒性の確率に従って順位付けられた複数の疾患関連ペプチド配列を含み、オフターゲットペプチドが、各々、前述のそれぞれの疾患関連ペプチド配列によって同定されたペプチドと、MHC分子に対する結合親和性がほぼ等しい。この態様の他の実施形態は、各々が方法の動作が行われるように構成された対応するコンピュータシステム、装置、および1またはそれを超えるコンピュータ記憶デバイス上に記録されたコンピュータプログラムを含む。
【0015】
1つの一般的な態様は、データベースを含む非一過性のコンピュータ可読媒体を含み、前述のデータベースは、複数の疾患関連ペプチド配列を含み;複数のオフターゲットペプチド配列は、それぞれの疾患関連ペプチド配列と各々関連し、ここで、疾患関連ペプチド配列によって同定された各々の疾患関連ペプチドは、MHC分子に対する前述のそれぞれのオフターゲットペプチド配列によって同定されたオフターゲットペプチドの結合親和性とほぼ等しいMHC分子に対する結合親和性を有する。この態様の他の実施形態は、各々が方法の動作が行われるように構成された対応するコンピュータシステム、装置、および1またはそれを超えるコンピュータ記憶デバイス上に記録されたコンピュータプログラムを含む。
【0016】
1つの一般的な態様は、MHC-標的ペプチド複合体中に提示された標的ペプチド内のアミノ酸の位置を予測する方法に関し、前述のアミノ酸の位置が、前述のMHC-標的ペプチド複合体を認識する抗原認識分子との相互作用に関与し、前述の方法が、a)前述のMHC分子に対する前述の標的ペプチドの結合親和性を決定する工程;b)前述の標的ペプチドのそれぞれのアミノ酸の位置での変異に各々関連する複数の変異したペプチドを生成する工程;c)前述のMHC分子に対する前述の複数の変異したペプチドの各々の変異したペプチドの結合親和性を決定する工程;およびd)各々の変異したペプチドの結合親和性と前述の標的ペプチドの結合親和性の比較に一部基づいて、前述の抗原認識分子との相互作用に関与する前述のアミノ酸の位置を予測する工程を含む。
【0017】
ある特定の実施形態では、MHC分子に対する標的ペプチドの結合親和性を、コンピュータベースのモデルを使用して決定する。
【0018】
ある特定の実施形態では、MHC分子に対する標的ペプチドの結合親和性を、実験による測定によって決定する。
【0019】
ある特定の実施形態では、MHC分子に対する標的ペプチドの結合親和性を、半数阻害濃度(IC50)値またはパーセンタイル順位値を使用して決定する。
【0020】
ある特定の実施形態では、複数の変異したペプチドを生成する工程は、それぞれのアミノ酸をグリシンアミノ酸に変異させることを含む。
【0021】
ある特定の実施形態では、複数の変異したペプチドを生成する工程は、それぞれのアミノ酸をアラニンアミノ酸に変異させること含む。
【0022】
ある特定の実施形態では、方法は、複数の位置のそれぞれの位置が、前述のそれぞれの位置に関連する変異を有する変異したペプチドの結合親和性が前述の標的ペプチドの結合親和性とほぼ等しいとき、MHC-標的ペプチド複合体を認識する抗原認識分子との相互作用に関与すると予測する工程をさらに含む。
【0023】
ある特定の実施形態では、方法は、複数の位置のそれぞれの位置が、MHC-標的ペプチド複合体を認識する抗原認識分子との相互作用に関与することを、パーセンタイル順位値によって決定した場合に、a)前述の標的ペプチドのパーセンタイル順位が0.5またはそれ未満である場合、前述のそれぞれの位置に関連する変異を有する変異したペプチドのパーセンタイル順位が1.0未満であるとき、b)前述の標的ペプチドのパーセンタイル順位が0.5と2.0との間である場合、前述のそれぞれの位置に関連する変異を有する変異したペプチドのパーセンタイル順位が2.0未満であるとき、またはc)前述の標的ペプチドのパーセンタイル順位が2.0またはそれを超える場合、前述のそれぞれの位置に関連する変異を有する変異したペプチドのパーセンタイル順位が4.0未満であるときに予測する工程をさらに含む。
【0024】
ある特定の実施形態では、方法は、以下の条件の両方を満たすとき、複数の位置のそれぞれの位置が、MHC-標的ペプチド複合体を認識する抗原認識分子との相互作用に関与すると予測する工程をさらに含む:(i)前述のそれぞれの位置に関連する変異を有する変異したペプチドの結合親和性が、前述の標的ペプチドの結合親和性とほぼ等しいこと、および(ii)前述のそれぞれの位置での標的ペプチドのアミノ酸が非グリシン残基であること。
【0025】
ある特定の実施形態では、方法は、標的ペプチド内の複数の位置のそれぞれの位置が、MHC-標的ペプチド複合体の既知の構造に基づいて、前述のMHC分子との相互作用に関与しないことを検証する工程をさらに含む。
【0026】
1つの一般的な態様は、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-標的ペプチド複合体)中に提示された標的ペプチドを認識する抗原認識分子についてのオフターゲットペプチドを同定する方法に関し、前述の方法は、a)前述の抗原認識分子との相互作用に関与し得る前述の標的ペプチド内の全てのアミノ酸の位置を予測する工程;b)予測または検出されたペプチドの全プール内の、(i)前述の抗原認識分子との相互作用に関与する前述の標的ペプチド内の位置に対応する位置に配置され、そして(ii)前述の標的ペプチドの対応するアミノ酸と同一である、少なくとも2つのアミノ酸を含む好適な長さの類似のペプチドを同定する工程;c)前述のMHC分子に対する前述の同定された類似のペプチドの各々の結合親和性を決定する工程;およびd)第1のしきい値より強力な前述のMHC分子に対する計算された結合親和性を有する類似のペプチドの同定に少なくとも一部基づいてオフターゲットペプチドを同定する工程を含む。
【0027】
1つの一般的な態様は、MHC-標的ペプチド複合体中に提示された標的ペプチドを認識する抗原認識分子についてのオフターゲットペプチドの数を推定する方法に関し、前述の方法は、a)前述の抗原認識分子との相互作用に関与し得る前述の標的ペプチド内の全てのアミノ酸の位置を予測する工程;b)予測または検出されたペプチドの全プール内の、(i)前述の抗原認識分子との相互作用に関与する前述の標的ペプチド内の位置に対応する位置に配置され、そして(ii)前述の標的ペプチドの対応するアミノ酸と同一である、少なくとも2つのアミノ酸を含む好適な長さの類似のペプチドを同定する工程;c)前述のMHC分子に対する前述の同定された類似のペプチドの各々の結合親和性を決定する工程;およびd)第1のしきい値より強力な前述のMHC分子に対する計算された結合親和性を有する類似のペプチドの計数に少なくとも一部基づいてオフターゲットペプチドの数を推定する工程を含む。
【0028】
ある特定の実施形態では、工程(b)は、予測または検出されたペプチドの全プール内の、(i)前述の抗原認識分子との相互作用に関与する前述の標的ペプチド内の位置に対応する位置に配置され、そして(ii)前述の標的ペプチドの対応するアミノ酸と同一である、少なくとも3つのアミノ酸を含む好適な長さの類似のペプチドを同定する工程を含む。
【0029】
ある特定の実施形態では、工程(b)は、予測または検出されたペプチドの全プール内の、(i)前述の抗原認識分子との相互作用に関与する前述の標的ペプチド内の位置に対応する位置に配置され、そして(ii)前述の標的ペプチドの対応するアミノ酸と同一である、少なくとも4つのアミノ酸を含む好適な長さの類似のペプチドを同定する工程を含む。
【0030】
ある特定の実施形態では、工程(b)は、予測または検出されたペプチドの全プール内の、(i)前述の抗原認識分子との相互作用に関与する前述の標的ペプチド内の位置に対応する位置に配置され、そして(ii)前述の標的ペプチドの対応するアミノ酸と同一である、少なくとも5つのアミノ酸を含む好適な長さの類似のペプチドを同定する工程を含む。
【0031】
ある特定の実施形態では、工程(c)における結合親和性を、パーセンタイル順位値を決定することによって決定し、ここで、前述のオフターゲットペプチドの数を、工程(d)において、2.0未満のパーセンタイル順位値を有する類似のペプチドの計数に少なくとも一部基づいて推定する。
【0032】
ある特定の実施形態では、方法は、オフターゲットペプチド中に、必須の正常組織中に発現されるペプチドのみを含める工程をさらに含む。
【0033】
ある特定の実施形態では、方法は、同定されたオフターゲットペプチドの各々について、かかるペプチドが必須の正常組織中に発現されるかどうかを決定する工程をさらに含む。
【0034】
ある特定の実施形態では、ペプチド発現を、対応するmRNAまたはタンパク質の発現レベルに基づいて決定する。
【0035】
ある特定の実施形態では、ペプチド発現を、質量分析データに基づいて決定する。
【0036】
ある特定の実施形態では、方法は、オフターゲットペプチド中に、第1のしきい値より強力なMHC分子に対する計算された結合親和性および必須の正常組織中の検出可能な発現を有する類似のペプチドのみを含める工程をさらに含む。
【0037】
ある特定の実施形態では、方法は、類似のペプチドについての類似度(DoS)スコアを計算する工程をさらに含み、前述のDoSスコアが、標的ペプチドの対応する位置のアミノ酸に同一のそれぞれ類似のペプチドのアミノ酸の数に少なくとも一部基づき、前述の標的ペプチドのアミノ酸が、抗原認識分子との相互作用に関与する。
【0038】
ある特定の実施形態では、MHC分子に結合されないと同定された標的ペプチドの位置のみが、DoSスコアの計算で考慮される。
【0039】
ある特定の実施形態では、方法は、オフターゲットペプチド中に、第2のしきい値より高いDoSスコアを有する類似のペプチドのみを含める工程をさらに含む。
【0040】
ある特定の実施形態では、工程(a)における抗原認識分子との相互作用に関与する標的ペプチド内のアミノ酸の位置を予測する工程は、上に開示のMHC-標的ペプチド複合体中に提示された標的ペプチドを認識する抗原認識分子についてのオフターゲットペプチドの数を推定する方法を使用して行う。
【0041】
ある特定の実施形態では、工程(b)における検出されたペプチドの全プールは、質量分析データに基づく。
【0042】
ある特定の実施形態では、MHC分子はクラスI MHC分子であり、工程(b)における予測または検出されたペプチドは8~12アミノ酸長である。
【0043】
ある特定の実施形態では、MHC分子はクラスI MHC分子であり、標的ペプチドは8~12アミノ酸長である。
【0044】
ある特定の実施形態では、抗原認識分子は、T細胞受容体(TCR)、キメラ抗原受容体(CAR)、抗体、またはその抗原結合断片である。
【0045】
1つの一般的な態様は、オフターゲット毒性を軽減するために潜在的な標的ペプチドを順位付ける方法に関し、前述の方法は、a)MHC分子に結合すると予測される疾患関連ペプチドの間の2またはそれを超える潜在的な標的ペプチドを選択する工程;b)前述の潜在的な標的ペプチドの各々に関連するオフターゲットペプチドの数を推定する工程;およびc)前述の潜在的な標的ペプチドの各々に関連するオフターゲットペプチドの数に少なくとも一部基づいて前述の潜在的な標的ペプチドを順位付ける工程を含む。
【0046】
ある特定の実施形態では、工程(b)中のオフターゲットペプチドの数を、本明細書中に記載の方法を使用して推定する。
【0047】
ある特定の実施形態では、方法は、関連するオフターゲットペプチドをより少数有する潜在的な標的ペプチドが、さらなる分析のために選択され、そして/あるいは抗原認識分子の生成および/または試験のために使用されるように、前述の潜在的な標的ペプチドを順位付ける工程をさらに含む。
【0048】
ある特定の実施形態では、方法は、類似度(DoS)スコアがそれぞれのオフターゲットペプチドと標的ペプチドとの間の類似性を示すように、オフターゲットペプチドの各々についてのDoSスコアを計算し;そして潜在的な標的ペプチドの各々に関連するオフターゲットペプチドのDoSスコアに少なくとも一部基づいて前述の潜在的な標的ペプチドを順位付ける工程をさらに含む。
【0049】
ある特定の実施形態では、DoSスコアの計算は、標的ペプチドの対応する位置のアミノ酸に同一のオフターゲットペプチドのアミノ酸の数に少なくとも一部基づき、前述の標的ペプチドのアミノ酸は、抗原認識分子との相互作用に関与する。
【0050】
ある特定の実施形態では、MHC分子との相互作用に関与しないと同定された標的ペプチドの位置のみが、DoSスコアの計算で考慮される。
【0051】
ある特定の実施形態では、方法は、オフターゲットペプチドのDoSスコアに少なくとも一部基づいて各々の潜在的な標的ペプチドのin vivo毒性の確率を計算する工程をさらに含む。
【0052】
ある特定の実施形態では、各々の潜在的な標的ペプチドのin vivo毒性の確率は、所定のしきい値を超えるDoSスコアを有する高毒性オフターゲットペプチドの数に少なくとも一部基づく。
【0053】
ある特定の実施形態では、方法は、より低い毒性を有する潜在的な標的ペプチドが優先されるように、標的ペプチドを順位付ける工程をさらに含む。
【0054】
ある特定の実施形態では、工程(a)における疾患関連ペプチドを、罹患組織および必須の正常組織中の対応するmRNAまたはタンパク質の発現レベルの比較に少なくとも一部基づいて同定する。
【0055】
ある特定の実施形態では、方法は、データベース中に潜在的な標的ペプチドの順位を提供する工程をさらに含む。
【0056】
ある特定の実施形態では、方法は、データベース中の潜在的な標的ペプチドの各々に関連するオフターゲットペプチドのリストを提供する工程をさらに含む。
【0057】
別の態様では、抗原認識分子のオフターゲット効果を査定するin vitro法であって、a)前述の抗原認識分子を、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-標的ペプチド複合体)中に提示された標的ペプチドと接触させる工程;b)前述の抗原認識分子を、前述の標的ペプチドに関連する1またはそれを超えるオフターゲットペプチドと接触させる工程であって、前述のオフターゲットペプチドの各々が、(a)と同一のMHC分子との複合体(MHC-オフターゲットペプチド複合体)中に提示される、接触させる工程;およびc)MHC-標的ペプチド複合体および前述のMHC-オフターゲットペプチド複合体の各々への抗原認識分子の結合レベルを決定および比較する工程を含む、方法を本明細書中に提供する。
【0058】
別の態様では、抗原認識分子のオフターゲット効果を査定するin vitro法であって、a)前述の抗原認識分子を、前述の抗原認識分子によって認識される標的ペプチドに関連する1またはそれを超えるオフターゲットペプチドと接触させる工程であって、前述のオフターゲットペプチドの各々が、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-オフターゲットペプチド複合体)中に提示される、接触させる工程;およびb)前述のMHC-オフターゲットペプチド複合体の各々への前述の抗原認識分子の結合レベルを決定する工程を含む、方法を本明細書中に提供する。
【0059】
上記のin vitro法のいくつかの実施形態では、方法は、抗原認識分子が少なくとも1つのMHC-オフターゲットペプチド複合体に検出可能に結合する場合、前述の抗原認識分子はオフターゲット効果を有する可能性が高いと決定する工程であって、ここで、前述のオフターゲットペプチドが必須の正常組織中に発現される、決定する工程をさらに含み得る。
【0060】
別の態様では、抗原認識分子を選択する方法であって、a)複数の抗原認識分子を、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-標的ペプチド複合体)中に提示された標的ペプチドと接触させる工程;b)同一の前述の複数の抗原認識分子を、前述の標的ペプチドに関連する1またはそれを超えるオフターゲットペプチドと接触させる工程であって、前述のオフターゲットペプチドの各々が、(a)と同一のMHC分子との複合体(MHC-オフターゲットペプチド複合体)中に提示される、接触させる工程;c)前述の抗原認識分子の各々によって検出可能に結合されたMHC-オフターゲットペプチド複合体の数に少なくとも一部基づいて1またはそれを超える抗原認識分子を選択する工程;およびd)必要に応じて、前述の1またはそれを超える選択された抗原認識分子を使用して工程(a)~(c)を繰り返す工程を含む、方法を本明細書中に提供する。
【0061】
いくつかの実施形態では、1またはそれを超える選択された抗原認識分子は、5以下(例えば、4以下、3以下、2以下、または1以下)のMHC-オフターゲットペプチド複合体に検出可能に結合し、ここで、前述のオフターゲットペプチドが必須の正常組織中に発現される。
【0062】
いくつかの実施形態では、1またはそれを超える選択された抗原認識分子は、いかなるMHC-オフターゲットペプチド複合体にも検出可能に結合せず、ここで、前述のオフターゲットペプチドが必須の正常組織中に発現される。
【0063】
いくつかの実施形態では、複数の抗原認識分子は、ライブラリー中に存在する。いくつかの実施形態では、ライブラリーは、ファージディスプレイライブラリーまたは酵母ライブラリーである。
【0064】
様々な実施形態では、MHC-ペプチド複合体は、固体支持体上に固定されている。様々な実施形態では、MHC-ペプチド複合体は、抗原提示細胞上に存在する。
【0065】
様々な実施形態では、結合レベルを、MHC-ペプチド複合体への抗原認識分子の結合量を検出することによって決定する。
【0066】
様々な実施形態では、方法を、ハイスループット形式(例えば、96ウェルプレート)で行う。
【0067】
別の態様では、標的ペプチドに特異的に結合する抗原認識分子で試料を富化する方法であって、a)前述の標的ペプチドと関連する1またはそれを超えるオフターゲットペプチドの存在下で、複数の抗原認識分子を含む試料を前述の標的ペプチドと接触させる工程であって、前述の標的ペプチドおよび前述の1またはそれを超えるオフターゲットペプチドの各々が、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-標的ペプチド複合体またはMHC-オフターゲットペプチド複合体)中に提示される、接触させる工程;b)前述のMHC-標的ペプチド複合体に結合された前述の抗原認識分子を単離することによって前述の試料を富化する工程;およびc)必要に応じて、前述の富化された試料を使用して工程(a)~(b)を繰り返す工程を含む、方法を本明細書中に提供する。
【0068】
上記の方法のいくつかの実施形態では、MHC-標的ペプチド複合体は抗原提示細胞上に存在し、MHC-オフターゲットペプチド複合体は抗原提示細胞上に存在しない。いくつかの実施形態では、MHC-標的ペプチド複合体は固体支持体上に固定されており、MHC-オフターゲットペプチド複合体は固体支持体に固定されていない。いくつかの実施形態では、MHC-標的ペプチド複合体は標識されており、MHC-オフターゲットペプチド複合体はMHC-標的ペプチド複合体として標識も差分的標識もなされていない。
【0069】
上記の方法の様々な実施形態では、1またはそれを超えるオフターゲットペプチドを、本明細書中に記載の方法を使用して同定する。
【0070】
上記の方法の様々な実施形態では、抗原認識分子は、T細胞受容体(TCR)、キメラ抗原受容体(CAR)、抗体、またはその抗原結合断片である。いくつかの実施形態では、抗原認識分子は溶液中に存在する。いくつかの実施形態では、抗原認識分子は細胞上に存在する。
【0071】
なおさらなる態様では、本明細書中に記載の方法を使用して同定された少なくとも2つのオフターゲットペプチドを含むライブラリーを本明細書中に提供する。いくつかの実施形態では、本開示のライブラリーは、配列番号1~7、9、および11~74、またはこれらの任意の組み合わせのアミノ酸配列から各々選択された1またはそれを超えるペプチドを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも2つのオフターゲットペプチドは、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体中に各々存在する。
【0072】
図面の簡単な説明
本発明の上記の態様およびさらなる態様を、図面を参照して理解すべきであり、図面中、異なる図面中の類似の要素に同一の番号を付している。図面は、必ずしも一定の縮尺ではなく、選択された実施形態を描写し、本発明の範囲を制限することを意図しない。詳細な説明は、本発明の原理を例示し、本発明を制限しない。この説明は、当業者が本発明を実施および使用することが可能であることが明確であり、現時点で発明を実施するための最良の形態であると考えられる事項を含む本発明のいくつかの実施形態、適合形態、変更形態、代替形態、および使用を記載する。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【
図1】
図1Aは、グルーブ類似性予測(PIGSPRED)法におけるペプチドの例示的実施形態の流れ図を示す。
【0074】
図1Bは、PIGSPRED法の一部として実施することができる主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-標的ペプチド複合体)中に提示された標的ペプチド内のアミノ酸の位置を予測する方法の例示的な実施形態の流れ図を示す。
【0075】
【
図2】
図2は、MHC-標的ペプチド複合体に関与する期待されるオフターゲット毒性を算出する方法の実施形態の流れ図を示す。
【0076】
【
図3】
図3は、オフターゲット毒性を軽減するために潜在的な標的ペプチドを順位付ける方法の実施形態の流れ図を示す。
【0077】
【
図4】
図4は、オフターゲットペプチドのリストおよび/またはオフターゲット毒性の測定規準を出力するように構成された計算システムの例示的実施形態のブロック図を示し、前述のシステムは、PIGSPREDエンジンの例示的な実施形態を含む。
【0078】
【
図5】
図5は、低リスクペプチド標的のリスト、潜在的な標的についてのオフターゲットペプチドのリスト、および/または潜在的な標的についてのオフターゲット毒性の測定規準を出力するように構成された計算システムの例示的な実施形態のブロック図を示し、前述のシステムは、標的順位付けエンジンの例示的な実施形態を含む。
【0079】
【
図6】
図6は、標的毒性データベースの例示的な実施形態のブロック図を示す。
【0080】
【
図7】
図7は、算出デバイスの実施形態のブロック図を示す。
【0081】
【
図8】
図8は、算出ネットワークの実施形態のブロック図を示す。
【0082】
【
図9】
図9は、本明細書中に提示した例示的な実施形態に関する細胞機能を示す。
【発明を実施するための形態】
【0083】
定義
別段の定義がない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、関連分野の当業者に一般に理解されている意味を有する。
【0084】
文脈上別段の明確な指示がない限り、単数形「a」、「an」、および「the」は、複数形を含む。したがって、例えば、「方法」という言及は、本明細書中に記載のタイプの1またはそれを超える方法および/または工程を含み、そして/あるいは本開示を読み取った際に当業者に明らかとなるであろう。
【0085】
用語「約」または「およそ」は、意味を持つ値の範囲内にあることを含む。用語「約」または「およそ」に包含される許容され得る変動は、研究中の特定のシステムに依存し、この変動は、当業者が容易に認識することができる。
【0086】
用語「主要組織適合性遺伝子複合体」および「MHC」は、用語「ヒト白血球抗原」または「HLA」(そのうちの後者の2つは、一般に、ヒトMHC分子のための用語である)、天然に存在するMHC分子(例えば、MHCクラスIα(重)鎖およびβ2ミクログロブリンを含むMHCクラスI分子;MHCクラスIIα鎖およびMHCクラスIIβ鎖を含むMHCクラスII分子)、MHC分子の個別の鎖(例えば、MHCクラスIα(重)鎖、MHCクラスIIα鎖、およびMHCクラスIIβ鎖)、かかるMHC分子の鎖の個別のサブユニット(例えば、MHCクラスIα鎖のα1、α2、および/またはα3サブユニット、MHCクラスIIα鎖のα1~α2サブユニット、MHCクラスIIβ鎖のβ1~β2サブユニット)、ならびにその一部(例えば、ペプチド結合部分、例えば、ペプチド収容溝)、変異体、および様々な誘導体(融合タンパク質を含む)を包含し、ここで、かかる一部、変異体、および誘導体は、T細胞受容体(TCR)、例えば、抗原特異的TCRによって認識されるために抗原ペプチドを表示する能力を保持している。MHCクラスI分子は、およそ8~10アミノ酸のペプチドを収容することができる重鎖のα1ドメインおよびα2ドメインによって形成されたペプチド収容溝を含む。両方のMHCクラスがペプチド内の約9アミノ酸(例えば、5~17アミノ酸)のコアに結合するという事実にも関わらず、MHCクラスIIペプチド収容溝(クラスII MHC βポリペプチドのβ1ドメインと会合したクラスII MHC αポリペプチドのα1ドメイン)に制約がないので、より広い範囲の長さのペプチドが許容される。MHCクラスIIに結合するペプチドは、通常、13アミノ酸長と17アミノ酸長との間で変動するが、より短い長さまたはより長い長さは珍しくない。結果として、ペプチドはMHCクラスIIペプチド収容溝内で移動し、溝内に直接常在する9量体が変化する。いくつかの実施形態では、本明細書中に記載のMHC-ペプチド複合体は、非ヒト動物由来のMHC-ペプチド複合体であり得る。他の実施形態では、本明細書中に記載のMHC-ペプチド複合体は、HLA-ペプチド複合体、すなわち、ヒト由来のMHC-ペプチド複合体を含み得る。
【0087】
用語「非ヒト動物」などは、ヒトではない任意の脊椎動物を指す。いくつかの実施形態では、非ヒト動物は、円口類、硬骨魚類、軟骨魚類(例えば、サメまたはエイ)、両生類、爬虫類、哺乳動物、および鳥類である。いくつかの実施形態では、非ヒト動物は哺乳動物である。いくつかの実施形態では、非ヒト哺乳動物は、霊長類、ヤギ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ウシ、またはげっ歯類である。いくつかの実施形態では、非ヒト動物は、ラットまたはマウスなどのげっ歯類である。
【0088】
用語「抗原」は、免疫適格性宿主に導入されたときに宿主の免疫系によって認識され、宿主による免疫応答を惹起する任意の作用因子(例えば、タンパク質、ペプチド、ポリサッカリド、糖タンパク質、糖脂質、ヌクレオチド、その一部、またはこれらの組み合わせ)を指す。T細胞受容体は、免疫シナプスの一部として主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)と関連して提示されるペプチドを認識する。ペプチド-MHC(pMHC)複合体はTCRによって認識され、ペプチド(抗原決定基)およびTCRイディオタイプが相互作用の特異性を提供する。したがって、用語「抗原」は、MHCと関連して提示されるペプチド(例えば、ペプチド-MHC複合体)を包含する。MHC上に表示されたペプチドは、「エピトープ」または「抗原決定基」とも称され得る。用語「ペプチド」、「抗原決定基」、「エピトープ」などは、抗原提示細胞(APC)によって天然に提示されるものを包含するだけでなく、例えば、免疫系の細胞に適切に提示されたときに動物の免疫細胞によって認識される限り、任意の所望のペプチドであり得る。例えば、人為的に調製されたアミノ酸配列を有するペプチドもエピトープとして使用され得る。
【0089】
用語「抗原認識分子」は、上記定義の抗原を認識することができる任意の分子を指す。抗原認識分子は、T細胞受容体(TCR)、抗体、抗体断片、またはキメラ抗原受容体(CAR)を含むことができるが、これらに限定されない。
【0090】
「MHC-ペプチド複合体」、「ペプチド-MHC複合体」、「pMHC複合体」、および「ペプチド・イン・グルーブ」などは、以下を含む:
【0091】
(i)MHC分子、例えば、ヒトおよび/または非ヒト動物のMHC分子、またはその一部(例えば、そのペプチド収容溝、例えば、その細胞外部分)、ならびに
【0092】
(ii)抗原ペプチド(pMHC複合体がT細胞受容体に特異的に結合することができるような様式で、MHC分子および抗原ペプチドが複合体形成される)。pMHC複合体は、細胞表面に発現するpMHC複合体および可溶性pMHC複合体を包含する。
【0093】
「HLA-ペプチド複合体」、「ペプチド-HLA複合体」、および「pHLA複合体」などは、MHC分子がヒト白血球抗原(HLA)分子であるMHC-ペプチド複合体を指す。
【0094】
用語「抗体(antibody)」、「抗体(antibodies)」、「免疫グロブリン、および「結合タンパク質」などは、モノクローナル抗体、多特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、単鎖Fv(scFv)、単鎖抗体、Fab断片、F(ab’)断片、ジスルフィド連結Fv(sdFv)、イントラボディ、ミニボディ、ダイアボディ、および抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、抗原特異的TCRに対する抗Id抗体を含む)、および上記のいずれかのエピトープ結合断片を指す。また、用語「抗体(antibody)」および「抗体(antibodies)」は、共有結合性ダイアボディ(米国特許出願公開第20070004909号(その全体が本明細書中で参考として援用される)に開示のものなど)およびIg-DARTS(米国特許出願公開第20090060910号(その全体が本明細書中で参考として援用される)に開示のものなど)を指す。pMHC結合タンパク質は、pMHC複合体に特異的に結合する抗原結合タンパク質、免疫グロブリンまたは、抗体などを指す。
【0095】
「個体」または「被験体」または「動物」は、ヒト、家畜(例えば、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタなど)および疾患実験動物モデル(例えば、マウス、ラット)を指す。1つの実施形態では、被験体はヒトである。
【0096】
本明細書中で使用される用語「タンパク質」は、全種類の天然に存在するタンパク質および合成タンパク質(全ての長さのタンパク質断片を含む)、融合タンパク質および修飾タンパク質(糖タンパク質を含むが、これに限定されない)、ならびに全ての他のタイプの修飾タンパク質(例えば、リン酸化、アセチル化、ミリストイル化、パルミトイル化、グリコシル化、酸化、ホルミル化、アミド化、ポリグルタミル化、ADP-リボシル化、ペグ化、ビオチン化などによって得られたタンパク質)を包含する。
【0097】
用語「核酸」および「ヌクレオチド」は、別段の指定がない限り、DNAおよびRNAの両方を包含する。
【0098】
用語「ライブラリー」は、少なくとも1つの状態が相互に異なる少なくとも2つの要素の隔離された集団を指す。例えば、「ペプチドライブラリー」は、少なくとも1つのアミノ酸が相互に異なり得る少なくとも2つのペプチドの集団である。別の例として、「pMHC複合体ライブラリー」は、ペプチド中の少なくとも1つのアミノ酸または少なくとも1つのMHCポリペプチドが相互に異なり得るpMHC複合体の集団である。ライブラリーの要素は、ライブラリーの一部ではない同様のタイプの要素から隔離されている(例えば、ペプチドライブラリーのペプチドは、ライブラリーの一部ではないペプチドから隔離されている)。ライブラリーは、in vitroまたはex vivoで存在し得る。
【0099】
用語「投与」などは、組成物(例えば、抗原認識分子)の被験体またはシステム(例えば、細胞、器官、組織、生物、またはその関連する構成要素もしくは構成要素のセット)への投与を指し、これを含む。当業者は、投与経路が、例えば、組成物を投与される被験体またはシステム、組成物の性質、投与の目的などに応じて変動し得ることを認識するであろう。例えば、ある特定の実施形態では、動物被験体への(例えば、ヒトまたはげっ歯類への)投与は、気管支(気管支点滴注入を含む)、口内、腸内、皮間、動脈内、皮内、胃内、髄内、筋肉内、鼻腔内、腹腔内、髄腔内、静脈内、脳室内、粘膜、鼻、経口、直腸、皮下、舌下、局所、気管(気管内点滴注入を含む)、経皮、膣、および/または硝子体であり得る。いくつかの実施形態では、投与は、間欠投与を必要とし得る。いくつかの実施形態では、投与は、少なくとも選択された期間にわたる持続投与(例えば、灌流)を必要とし得る。
【0100】
用語「必須の正常組織」は、疾患の処置のために投与される所与の抗原認識分子の活性が許容できない副作用をもたらし得る患者の組織を指す。必須で正常と見なされる組織のリストは、処置を受ける疾患および疾患自体に関連するリスクに応じて変動するであろう(例えば、リストは、生命を脅かさない疾患より生命を脅かす疾患で小さいであろう)。例えば、制限されないが、生命を脅かす癌を処置する場合、必須でないと見なされ得る組織型は、乳房、卵巣、および精巣を含み得る。また、必須で正常と見なされる組織のリストは、所与の抗原認識分子がかかる組織に到達する見込みに応じて変動するであろう。例えば、疾患を処置される患者の血液脳関門を透過しない抗原認識分子の場合、脳は、必須の正常組織のリストに含まれない場合がある。
【0101】
用語「構成要素」、「エンジン」、「モジュール」、「システム」、「サーバ」、「プロセサ」、および「メモリ」などは、1またはそれを超えるコンピュータ関連ユニット(ハードウェア、ファームウェア、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせ、ソフトウェア、または実行中のソフトウェアなどであるが、これらに限定されない)を含むことが意図される。例えば、構成要素は、プロセッサ上で実行するプロセス、オブジェクト、実行可能なもの、実行スレッド、プログラム、および/またはコンピュータであり得るが、これらに限定されない。実例として、算出デバイス上で実行するアプリケーションおよび算出デバイスの両方が構成要素であり得る。1またはそれを超える構成要素は、プロセスおよび/または実行スレッド内に存在することができ、構成要素は、1つのコンピュータ上にローカライズされ、そして/あるいは2またはそれを超えるコンピュータの間に分散され得る。さらに、これらの構成要素は、様々なデータ構造が記憶された様々なコンピュータ可読媒体から実行することができる。構成要素は、例えば、1またはそれを超えるデータパケット(ローカルシステムにおける、分散型システムにおける、および/または信号を経由した他のシステムとのインターネットなどのネットワークを通じた、一方の構成要素からの他方の構成要素と対話したデータなど)を有する信号に従って、ローカルプロセスおよび/またはリモートプロセスを経由して通信し得る。
【0102】
用語「接続された」は、一方の機能、特徴、構造、または特性が他方の機能、特徴、構造、または特性と直接連結または連通していることを意味する。
【0103】
用語「結合された」は、一方の機能、特徴、構造、または特性が他方の機能、特徴、構造、または特性と直接または間接的に連結または連通していることを意味する。
【0104】
用語「含む(comprising)」または「含む(containing)」または「含む(including)」は、少なくとも命名された要素、または方法工程が品目または方法中に存在するが、他のかかる要素または方法工程が命名されたものと同一の機能を有しないとしても、他の要素または方法工程の存在を排除しないことを意味する。
【0105】
本明細書中で使用される場合、別段の指定がない限り、一般的な対象を記載するための順序を示す形容詞「第1の」、「第2の」、「第3の」などの使用は、同様の対象の異なる例について言及されることのみを示し、記載の対象が、時間的、空間的、順位、または任意の他の様式のいずれかで与えられた順序でなければならないことを意味することを意図しない。
【0106】
この説明では、多数の具体的事項を記載している。しかしながら、開示のテクノロジーの実装を、これらの具体的事項を用いずに実施し得ると理解すべきである。他の例では、この説明の理解を曖昧にしないために、周知の方法、構造、および技術を、詳細に記載していない。「1つの実施形態」、「ある実施形態」、「いくつかの実施形態」、「例示的な実施形態」、「様々な実施形態」、「1つの実装」、「ある実装」、「例示的な実装」、「様々な実装」、「いくつかの実装」などの言及は、そのように記載した開示のテクノロジーの実装が特定の特徴、構造、または特性を含み得るが、あらゆる実装が必ずしも特定の特徴、構造、または特性を含まないことを示す。さらに、句「1つの実装では」を繰り返し使用しているが、これは、同一の実装を指し得るが、必ずしも指すわけではない。
【0107】
詳細な説明
本明細書中に示したいくつかの実施形態は、MHC-標的ペプチド複合体の意図する標的ペプチドに類似し、その結果、意図する標的MHC-標的ペプチド複合体のために操作された抗原認識分子がオフターゲットペプチドも標的にする可能性が高い、オフターゲットペプチドの同定に関する。いくつかの例では、オフターゲットペプチドの同定は、MHC-標的ペプチド複合体中に提示された標的ペプチド内の、抗原認識分子との相互作用に関与するために利用可能なアミノ酸の位置を予測することを含むことができる。いくつかの実施形態では、同定されたオフターゲットペプチドを使用して、標的ペプチドを標的にする処置のin vivo毒性の確率を予測することができる。いくつかの実施形態では、オフターゲットペプチドを、いくつかの潜在的な標的ペプチドについて同定することができ、標的ペプチドを、その関連するオフターゲットペプチドに少なくとも一部基づいて順位付けることができる。いくつかの実施形態では、オフターゲットペプチドの同定は、抗原認識分子に依存しなくてよく、そのため、オフターゲットペプチドの同定、in vivo毒性の予測、および/または潜在的な標的ペプチドの順位付けを使用して、オフターゲットペプチドの同定数が少なく、in vivo毒性の予測される確率が低く、そして/あるいは順位付けが好ましい標的ペプチドを標的にするように操作された抗原認識分子の開発を導くことができる。本明細書中に開示のいくつかの実施形態は、上記実施形態に関連する大部分の工程を実施するように構成された計算システム、エンジン、モジュール、デバイス、および/またはネットワークを含む。かかる計算システムなどの出力を使用して、抗原認識分子の開発、臨床試験を受ける患者のスクリーニング、個別の患者の処置、および本明細書中の教示に従った関連分野の当業者によって理解されている適用などの他の適用のための情報を提供することができる。本明細書中に示したいくつかの実施形態の1つの目的は、本来は臨床試験中に同定されると考えられる副作用を回避し、それにより、患者の死亡数を減少させ、患者の他の有害作用を減少させ、研究開発における時間と資源の消費を減少させることである。
【0108】
MHC分子は、一般に、以下の2つのカテゴリーに分類される:クラスIおよびクラスII MHC分子。MHCクラスI分子は、本明細書中でα鎖とも称され、かつ3つの細胞外ドメイン(すなわち、α1、α2、およびα3)を有する糖タンパク質重鎖および2つの細胞内ドメイン(すなわち、膜貫通ドメイン(TM)および細胞質ドメイン(CYT))を含む膜内在性タンパク質である。重鎖は、β2ミクログロブリン(β2mまたはβ2M)と呼ばれる可溶性サブユニットと非共有結合性に会合している。MHCクラスII分子またはMHCクラスIIタンパク質は、非共有結合性に会合した1つのα鎖および1つのβ鎖を含むヘテロ二量体の膜内在性タンパク質である。α鎖は、2つの細胞外ドメイン(α1およびα2)、および2つの細胞内ドメイン(TMドメインおよびCYTドメイン)を有する。β鎖は、2つの細胞外ドメイン(β1およびβ2)、および2つの細胞内ドメイン(TMドメインおよびCYTドメイン)を含む。
【0109】
クラスIおよびクラスII MHC分子のドメイン組織化により、抗原決定基結合部位(例えば、MHC分子のペプチド結合部分またはペプチド収容溝)が形成される。ペプチド収容溝は、ペプチド(例えば、抗原決定基)が結合することができる空洞を形成するMHCタンパク質の部分を指す。ペプチド収容溝の立体配置は、ペプチドとの結合の際にペプチド-MHC(pMHC)複合体へのTCRの結合に重要なアミノ酸残基を適切にアラインメントすることができるように変化することができる。
【0110】
いくつかの実施形態では、MHC分子は、ペプチド収容溝を形成するのに十分なMHC鎖の断片を含む。例えば、クラスIタンパク質のペプチド収容溝は、2つのβ-プリーツシートおよび2つのαヘリックスを形成することができる重鎖のα1およびα2ドメインの部分を含むことができる。β2ミクログロブリン鎖の部分を含めることでMHCクラスI分子が安定化する。MHCクラスII分子のほとんどのバージョンで、ペプチドの非存在下でα鎖とβ鎖の相互作用が生じ得る一方で、MHCクラスIIの二本鎖分子は、収容溝がペプチドで満たされるまで不安定である。クラスIIタンパク質のペプチド収容溝は、2つのβ-プリーツシートおよび2つのαヘリックスを形成することができるα1ドメインおよびβ1ドメインの部分を含むことができる。α1ドメインの第1の部分は第1のβ-プリーツシートを形成し、α1ドメインの第2の部分は第1のヘリックスを形成する。β1ドメインの第1の部分は第2のβ-プリーツシートを形成し、β1ドメインの第2の部分は第2のヘリックスを形成する。タンパク質の収容溝中にペプチドが係合したクラスIIタンパク質のX線結晶学的構造は、係合したペプチドの一方または両方の末端がMHCタンパク質を超えて突出することができることを示す(Brown et al.,pp.33-39,1993,Nature,Vol.364;その全体が本明細書中で参考として援用される)。したがって、クラスIIのα1およびβ1のαヘリックスの末端は、収容溝に結合したペプチドの末端が空洞中に埋没しないような開いた空洞を形成する。さらに、クラスIIタンパク質のX線結晶学的構造は、X線結晶学によればβ鎖の最初の4つのアミノ酸残基を割り当てることができないので、MHC β鎖のN末端が構造化しない様式でMHCタンパク質の側面から明らかに突出していることを示す。多数のヒトおよび他の哺乳動物のMHCが当該分野で周知である。
【0111】
いくつかの実施形態では、MHC分子は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、およびHLA-Gからなる群から選択されるヒトHLA分子であり得る。一般的に使用されているHLA対立遺伝子のリストは、Shankarkumar et al.((2004)The Human Leukocyte Antigen(HLA)System,Int.J.Hum.Genet.4(2):91-103)(その全体が本明細書中で参考として援用される)に記載されている。Shankarkumarらは、当該分野で使用されているHLA命名法の簡単な説明も示している。HLA命名法および様々なHLA対立遺伝子に関するさらなる情報を、Holdsworth et al.(2009)The HLA dictionary 2008:a summary of HLA-A,-B,-C,-DRB1/3/4/5,and DQB1 alleles and their association with serologically defined HLA-A,-B,-C,-DR,and-DQ antigens,Tissue Antigens 73:95-170およびMarsh et al.(2010)Nomenclature for factors of the HLA system,2010,Tissue Antigens 75:291-455による最近のアップデート(これらの刊行物の各々は、その全体が本明細書中で参考として援用される)に見出すことができる。いくつかの実施形態では、MHC IポリペプチドまたはMHC IIポリペプチドは、任意の機能的なヒトHLA-A、B、C、DR、またはDQ分子に由来し得る。1つの実施形態では、HLA分子は、HLA-A2(HLA-A*02:01対立遺伝子など)によってコードされる。別の実施形態では、HLA分子は、HLA-A1(HLA-A*01:01対立遺伝子など)によってコードされる。
【0112】
例えば抗体ベースのまたは細胞ベースの治療アプローチを介した癌細胞などの細胞上に特異的に発現されたペプチド-MHC(pMHC)複合体を標的にすることは、かかる細胞の有効な破壊方法であり得る。しかしながら、これらのpMHC複合体に関連する潜在的なオフターゲットは、しばしばオフターゲット毒性に至り得る。本開示は、とりわけ、かかるオフターゲットの予測に有用なPIGSPRED(グルーブ類似性予測におけるペプチド)と命名された方法を提供する。
【0113】
図1Aは、グルーブ類似性予測におけるペプチド(PIGSPRED)法100の例示的な実施形態の流れ図を示す。
【0114】
工程102で、MHC-標的ペプチド複合体は、PIGSPRED法への入力として提供される。MHC-標的ペプチド複合体は、標的ペプチドおよびMHC分子を含む。
【0115】
工程104で、抗原認識分子結合に重要なペプチドの位置(アミノ酸)が同定される。標的ペプチドは、MHC分子に結合されるいくつかのアミノ酸および抗原認識分子への結合に利用可能ないくつかのアミノ酸を含む。あるペプチドの標的ペプチドに対する類似性/相同性を評価するとき、類似性を、抗原認識分子との結合に利用可能なペプチドの位置(すなわち、ペプチド内のアミノ酸の位置)のみを評価することができる。これらの利用可能な位置を、特異的抗原認識分子を用いてMHC-標的ペプチド複合体の実験的構造を分析することによって確認することができ、ここで、かかる実験的構造は、典型的には、結晶学またはcryoEM技術を使用して誘導される。したがって、抗原認識分子結合に重要なペプチドの位置を、実験的構造の分析によって同定することができる;しかしながら、特異的抗原認識分子が既知でなければならず、かかる実験的構造を得ることが困難であり得る。標的療法を開発するとき、最初の標的選択段階で、標的に関連する潜在的なリスクが評価されると、標的に対する特異的抗原認識分子は利用できない。免疫エピトープデータベース(IEDB)は、ヒト、非ヒト霊長類、および他の動物種において感染症、アレルギー、自己免疫、および移植に関して研究された抗体およびT細胞エピトープに関する実験データを分類している無料で利用可能な情報源である。また、IEDBは、エピトープの予測および分析を支援するツールをホストする。かかるデータベース中のエピトープを特徴づけるための類似のデータベースおよび方法論を使用して、MHCペプチド複合体の実験的構造を得ることができる。
【0116】
図1Bは、工程104で実施することができるPIGSPRED法100の工程を示す。
図1Bに示した工程は、MHC-標的ペプチド複合体中に提示された標的ペプチド内のアミノ酸の位置を予測するための方法104の例示的な実施形態を示す。方法104を、抗原認識分子の構造に依存することなく実施することができ、したがって、特異的抗原認識分子が未知であるときの特異的抗原認識分子を用いたMHC-標的ペプチド複合体の実験的構造の分析の代替法を提供する。工程104でコンピュータによって同定された位置を、質量分析法データなどの実験データまたは別の方法でIEDBに類似のデータベースで利用可能な実験データによって検証することができる。
【0117】
工程110で、MHC分子の標的ペプチドに対する結合親和性を予測する。いくつかの実施形態では、結合親和性を、コンピュータベースのモデルを使用して計算することができる。非限定的な例として、機械学習モデルを使用するNetMHCpanと呼ばれる市販のツールは、結合親和性のコンピュータによる計算に好適であり得るコンピュータベースの結合親和性モデルを利用する。NetMHCpanの任意のバージョンを使用してよい(例えば、NetMHCpan4.0またはNetMHCpan4.1)。他の非限定的な例は、MHCflurry(例えば、O’Donnell et al.,Cell Syst.2018 Jul 25;7(1):129-132.e4(その全体が本明細書中で参考として援用される)を参照のこと)およびMixMHCPred(例えば、Boehm et al.,BMC Bioinformatics volume 20,Article number:7(2019)(その全体が本明細書中で参考として援用される)を参照のこと)を含む。
【0118】
結合親和性を予測することで、ペプチドがどの程度強固に特異的なMHC分子に結合するかを推定する。これを、ナノモル(nM)範囲での予測IC50値またはパーセンタイル順位の予測値のいずれかとして測定する。予測IC50値は、MHC分子へのペプチドの結合の50%を置換するのに必要な競合ペプチドの濃度を測定する実験IC50値の近似値を求めようとしている。いくつかの実施形態では、予測された結合親和性が500nM以下である場合、ペプチドはバインダーと見なされる。50nM以下である場合、強力なバインダーと見なされる。パーセンタイル順位値(例えば、NetMHCpanにおける%Rank_BA)は、異なるMHC分子の間のIC50値を正規化する。順位を、一連の(約105個の)天然に存在するランダムペプチドペプチドの予測IC50値に対してペプチドの予測IC50値を比較することによって算出する(例えば、Jurtz V et al.,J Immunol.2017(その全体が本明細書中で参考として援用される)を参照のこと)。いくつかの実施形態では、予測されたパーセンタイル順位が2以下である場合、ペプチドはバインダーと見なされる。0.5以下である場合、強力なバインダーと見なされる。
【0119】
工程112および114で計算上の変異誘発を行うことができ、工程112では、標的ペプチドが単一のアミノ酸の位置で変異され、その結果、各々が標的ペプチド由来の単一のアミノ酸変異を有するいくつかの変異したペプチドが得られる。変異したペプチドは、それぞれのペプチドの位置(すなわち、変異の位置)で各々会合している。好ましくは、標的ペプチドは、あらゆるアミノ酸の位置で変異し、その結果、標的ペプチド中のアミノ酸数に等しい数の変異したペプチドが得られる。いくつかの実施形態では、変異したペプチドは、グリシンまたはアラニンアミノ酸への単一のアミノ酸変異を含むことができる。いくつかの実施形態では、標的ペプチドは、単一のアミノ酸の位置で、前述のアミノ酸がグリシンに置換されるという変異を受け、グリシンを有する標的ペプチドの位置はスキップされ、その結果、非グリシン位置での標的ペプチドの変異に対応したいくつかの変異したペプチドが得られる。
【0120】
工程114で、MHC分子に対する各々の変異したペプチドの結合親和性を予測する。いくつかの実施形態では、結合親和性を、工程110で利用したコンピュータベースのモデルと同一であるか類似するコンピュータベースのモデルを使用して計算することができる。
【0121】
工程116で、MHC分子に対する標的ペプチドの結合親和性を、MHC分子に対する変異したペプチドの各々の結合親和性と比較する。(MHC分子に対する標的ペプチドの結合親和性と比較して)MHC分子に対する結合親和性を喪失しない変異したペプチドに関連するペプチド位置にフラグを立てる。これらのフラグを立てられたペプチドの位置は、MHC分子への結合に関与しないと同定され、したがって、抗原認識分子と自由に相互作用する。
【0122】
いくつかの実施形態では、前述のそれぞれの位置に関連する変異を有する変異したペプチドの結合親和性がMHC分子に対する標的ペプチドの結合親和性とほぼ等しいとき、変異したペプチドに関連するそれぞれの位置は、MHC-標的ペプチド複合体を認識する抗原認識分子との相互作用に関与すると予測されるか、そうでなければ、自由な位置としてフラグが立てられる。NetMHCpan(例えば、NetMHCpan4.0またはNetMHCpan4.1)由来のパーセンタイル順位値を使用し得る。変異したペプチドのパーセンタイル順位が特定の閾値未満である場合、変異した位置はMHC分子に対する結合親和性を喪失した位置と判断され、ここで、パーセンタイル順位が低いほど結合親和性は高い。結合親和性を定量するための予測されたパーセンタイル順位を利用して、いくつかの実施形態では、標的ペプチドの順位が0.5以下である場合、閾値は1.0である。標的ペプチドの順位が0.5超かつ2.0以下である場合、閾値は2.0である。標的ペプチドの順位が2.0超である場合、閾値は4.0である。他の実施形態では、変異したペプチドと標的ペプチドとの間の結合親和性(例えば、パーセンタイル順位)の相違を使用して、MHC分子への結合に関与するか、抗原認識分子と自由に相互作用する位置を同定し得る。変異によって結合親和性の喪失が大きくなる(例えば、閾値よりも大きな喪失)位置をMHC分子への結合に関与すると決定する場合があり、変異による結合親和性の喪失が大きくない位置を抗原認識分子と自由に相互作用すると決定する場合がある。例えば、標的ペプチドの順位が0.5以下である場合、順位(喪失)閾値の相違は1.0であり得る。標的ペプチドの順位が0.5超かつ2.0以下である場合、順位閾値の相違は1.5であり得る。標的ペプチドの順位が2.0超である場合、順位閾値の相違は2.0であり得る。
【0123】
工程118で、これらのフラグを立てられた自由な位置のうちで、非グリシンアミノ酸を含む位置を、抗原認識分子結合に重要な位置と同定する。いくつかの実施形態では、ある位置が変異してもMHC分子結合の喪失が大きくなく、かつ前述の位置のアミノ酸が非グリシンアミノ酸である場合、前述の位置は抗原認識分子結合に重要と見なされる。工程112において、標的ペプチドが、単一のアミノ酸の位置で、アミノ酸がグリシンに置換されるという変異を受け、グリシンを有する標的ペプチドの位置がスキップされる実施形態では、工程112に起因する変異したペプチドの全てが、当然のこととして非グリシンアミノ酸を含む位置に対応するので、工程118を省略することができる。
【0124】
いくつかの実施形態では、抗原認識分子に結合したMHC-標的ペプチド複合体の構造が知られているとき、抗原認識分子との相互作用に関与するペプチド配列中の結合モチーフを比較として使用して、抗原認識分子結合に重要な位置が正確に同定されることを検証することができる。イムノペプチドミクスデータを使用して、質量分析実験でも認められている予測されるオフターゲットペプチドは、予測されるオフターゲットが本物のオフターゲットであり得ることをさらに示すことができる。
【0125】
工程106で、類似のペプチドを同定する。類似のペプチドを、生物(例えば、ヒト)における存在、および抗原認識分子結合に重要な位置での標的ペプチドに対する類似性に基づいて同定することができる。類似のペプチドを、これらの全てが標的ペプチドと同一の長さであるように選択し得る。類似のペプチドは、標的ペプチドとタンパク質の供給源が異なるが、標的ペプチドと同一であり得る。しかしながら、いくつかの例では、標的ペプチドは、固有でない候補標的ペプチド(プロテオーム中の他所のペプチドと同一の配列を共有する候補標的ペプチド)が標的として選択されないように既にスクリーニングされているかもしれない。
【0126】
ペプチド配列の作業リストを、生物(例えば、ヒト)中のペプチド配列を含むように収集することができる。いくつかの実施形態では、作業リストを、医学研究データベース(非限定的な例として、UniprotKBなど)中の標準的なヒトタンパク質配列に基づいて収集することができる。ペプチド配列の作業リストを、データベース中のペプチド配列を工程104中で同定された標的ペプチドの重要な位置と比較し、重要な位置の閾値で標的ペプチドと同一のアミノ酸を有するペプチド配列のみを保持することによってフィルタリングすることができる。位置数の閾値は、2つの位置、3つの位置、4つの位置、または5つの位置であり得る。特異的抗原認識分子が知られていない(すなわち、PIGSPRED法100が抗原認識分子構造に依存しない)実施形態では、3つの位置が好ましい。2つの位置のみで結合する抗原認識分子が存在し得るが、かかる抗原認識分子は、非実用的に多数のオフターゲットペプチドを有する可能性が高いであろう。位置数の閾値が増加すると、オフターゲットが過小評価され得る。
【0127】
ペプチドの作業リストを、必須の正常組織または必須の細胞型に存在するペプチドのみが保持されるようにさらにフィルタリングすることができる。必須の正常組織または必須の細胞型の細胞機能の破壊は、オフターゲット効果をさらに重篤にする可能性がより高く、したがって、非必須組織の細胞機能の破壊と比較してより大きなリスクをもたらす。いくつかの実施形態では、健常ドナーにおける遺伝子発現を含む医学研究データベースを利用することができる。遺伝子組織発現データベースまたはGTExは、好適なデータベースの非限定的な例である(gtexportal.org.を参照のこと)。例えば、GTExバージョン6(v6)は、ゲノムビルドGRCh38に基づいており、549人の健常ドナー由来の51の組織型にわたる遺伝子発現データを含む。GTExバージョン8(v8)は、ゲノムビルドGRCh38に基づいており、948人の健常ドナー由来の54の組織型にわたる遺伝子発現データを含む;より新しいリリースではさらなるドナーおよび組織の試料が配列決定されていると理解される。いくつかの実施形態では、GTExデータベースの代替データベース、および/またはGTExデータベースの異なるバージョンを利用して、工程106において潜在的なハイリスクオフターゲットペプチドを決定することができ、それにより、当業者に理解されるように、本明細書中に開示の具体例と比較して、追加のまたはより少ない潜在的なハイリスクペプチドを同定し得る。
【0128】
いくつかの実施形態では、必須と見なされる組織型のみにおける遺伝子発現値を問い合わせる。非必須と見なされ得る組織型は、乳房、卵巣、精巣などの患者の生命を助けるために犠牲にされ得るものであり得る。いくつかの実施形態では、95パーセンタイルの発現値が、組織型における全ての遺伝子発現の測定値の95%がその値またはその値未満にあることを意味する場合、各々の遺伝子について、各々の必須組織型において95パーセンタイルの発現値が計算される。次いで、全ての必須組織型にわたる95パーセント発現値の最大値を計算する。遺伝子の95パーセント発現値の最大値が0.5トランスクリプツ・パー・ミリコン(TPM)(転写ノイズに基づいて調整し得る)を超える場合、前述の遺伝子に由来する任意の類似のペプチドが潜在的なハイリスクオフターゲットペプチドであろうと仮定することができる。高TPMは高発現を意味し、その逆もまた同様である。TPMを計算するために、遺伝子のリードカウントをキロベース単位の各々の遺伝子の長さで除し、それにより、リード・パー・キロベース(RPK)を得る;次に、試料中の全RPK値を計数し、1,000,000で除し、それにより、「100万分の1」倍率を得る;最後に、各々のRPK値を「100万分の1」倍率で除し、その結果、各々の遺伝子についてのTPMを得る。例えば、Li et al.(2010)Bioinformatics,26(4):493-500;Varabyou et al.(2021)Genome Res.31(2):301-308を参照のこと。ペプチド配列の作業リストをフィルタリングして、潜在的にハイリスクと同定されないペプチドを除去することができる。いくつかの実施形態では、GTExデータベースの代替データベース、および/またはGTExデータベースの異なるバージョンを利用して、工程106において潜在的なハイリスクオフターゲットペプチドを決定することができ、それにより、当業者に理解されるように、本明細書中に開示の具体例と比較して、追加のまたはより少ない潜在的なハイリスクペプチドを同定し得る。
【0129】
いくつかの実施形態では、工程106でペプチド配列の作業リストからフィルタリングされたペプチドを、潜在的な二次標的ペプチドのリストとして個別に追跡し得る。二次標的ペプチドは、標的ペプチドの標的遺伝子と異なる二次標的遺伝子に由来する場合があり、二次標的ペプチドとの交差反応性は治療的に有利であり得る。潜在的な二次ペプチドが標的ペプチドと同一であるか類似性が高い場合、標的ペプチドを標的にする抗原認識分子と交差反応する可能性が高い。さらなる試験(例えば、抗原認識分子スクリーニング)を必要に応じて潜在的な二次標的ペプチドのうちの1つまたは複数に対して行って、潜在的な二次標的ペプチドとの交差反応が有利な治療効果を提供することができるかどうかを査定し得る。癌特異的抗原または腫瘍特異的抗原として同定されているか、癌特異的抗原または腫瘍特異的抗原として同定されているタンパク質に由来する疾患関連遺伝子または疾患関連抗原由来の類似のペプチド(癌特異的遺伝子またはペプチドなど)は有利な交差反応性を示す場合があり、したがって、二次標的ペプチドであり得る。実施例1に例示するように、例えば、正常な必須の組織で発現されない癌/精巣(CT)抗原を、標的ペプチドに類似する場合、特に標的ペプチドがCT抗原でもある場合に追跡し得る。治療的に標的にするための複数の好適な抗原と配列同一性を共有する標的ペプチド(例えば、同一のペプチドまたは高度に類似するペプチド)が好ましい場合がある。
【0130】
工程108で、ペプチド配列の作業リストをさらにフィルタリングして、MHC分子に結合しないペプチドを除去することができ、作業リスト中に残存するペプチドの類似度(DoS)スコアを計算することができる。ペプチド配列リスト中のペプチドの結合親和性を、コンピュータベースの結合親和性モデルを利用することによって決定することができる。MHC分子に結合することが予測されないペプチドは、ペプチド配列の作業リストから除去される。いくつかの実施形態では、パーセンタイル順位値が2.0以下のペプチドをバインダーと見なす。必要に応じて、潜在的な二次標的ペプチドのリストを、追跡する場合、工程108における類似のペプチドの作業リストに関して記載の様式と同一の様式で同様にフィルタリングして、MHC分子に結合しないペプチドを除去し得る。また、必要に応じて、潜在的な二次標的ペプチドの類似度(DoS)スコアを計算することができる。
【0131】
DoSスコアは、工程104で抗原認識分子への結合に重要であると同定された標的ペプチドの対応する位置のアミノ酸と同一である作業リスト中のそれぞれのペプチドのアミノ酸の数に少なくとも一部基づくことができる。いくつかの実施形態では、DoSスコアは、工程104で抗原認識分子への結合に重要であると同定された位置のみを考慮する。あるいは、DoSは、工程104で抗原認識分子への結合に重要であると同定されなかった少なくともいくつかの位置を考慮し得る。例えば、いくつかの実施形態では、DoSスコアは、(工程116で)MHC分子への結合に関与しないと同定されたアミノ酸の数に基づくことができるか、DoSスコアは、それぞれのペプチドのあらゆるアミノ酸の位置で同一のアミノ酸の数に基づくことができる。
【0132】
図2は、MHC-標的ペプチド複合体に関連する期待されるオフターゲット毒性を算出するための方法200の実施形態の流れ図を示す。方法200は、計算システム、エンジン、モジュール、デバイス、および/またはネットワークによって実行されることが好ましい。方法200は、非一過性のコンピュータ可読媒体上に命令を記憶することが好ましい。
【0133】
工程202で、MHC-標的ペプチド複合体は入力として提供される。
【0134】
工程204で、抗原認識分子結合に重要なペプチドの位置(アミノ酸)を同定する。好ましい実施形態では、
図1Bに示した方法104に従ってペプチドの位置を同定する。いくつかの実施形態では、ペプチドの位置を、特異的抗原認識分子を用いてMHC-標的ペプチド複合体の実験的構造を分析することによって同定する。
【0135】
工程206で、類似のペプチドを同定することができる。類似のペプチドを、生物(例えば、ヒト)における存在、抗原認識分子結合に重要な位置での標的ペプチドに対する類似性、およびMHC-標的ペプチド複合体中のMHC分子に結合する能力に基づいて同定することができる。類似のペプチドを、これらの全てが標的ペプチドと同一の長さであるように選択し得る。類似のペプチドは、標的ペプチドとタンパク質の供給源が異なるが、標的ペプチドと同一であり得る。しかしながら、いくつかの例では、標的ペプチドは、固有でない候補標的ペプチド(プロテオーム中の他所のペプチドと同一の配列を共有する候補ペプチド)が標的として選択されないように既にスクリーニングされているかもしれない。
【0136】
ペプチド配列の作業リストを、生物(例えば、ヒト)中のペプチド配列を含むように収集することができる。作業リストを、適切なデータ構造(リスト、行列、および/または当業者に理解されている他の適切なデータ構造など)によって表すことができる。いくつかの実施形態では、作業リストを、医学研究データベース(非限定的な例として、UniprotKBなど)中の標準的なヒトタンパク質配列に基づいて収集することができる。いくつかの実施形態では、工程206は、生物(例えば、ヒト)のペプチド配列を入力として受け取ることおよびペプチド配列を利用してペプチド配列の作業リストを生成することを含むことができる。
【0137】
ペプチド配列の作業リストを、データベース中のペプチド配列を工程204で同定された標的ペプチドの重要な位置と比較し、重要な位置数の閾値であるかそれを超える標的ペプチドの同一のアミノ酸を有するペプチド配列のみを保持することによってフィルタリングすることができる。位置数の閾値は、2つの位置、3つの位置、4つの位置、または5つの位置であり得る。特異的抗原認識分子が知られていない(すなわち、PIGSPRED法100が抗原認識分子構造に依存しない)実施形態では、3つまたは4つの位置が好ましく、3つの位置が最も好ましい。位置数の閾値は、好ましくは、臨床背景で実用的な抗原認識分子についての結合の位置の数に基づいて決定される。2つの位置のみで結合する抗原認識分子が存在し得るが、かかる抗原認識分子は、非実用的に多数のオフターゲットペプチドを有する可能性が高く、その結果、臨床背景において有害な副作用を生じる場合があり、したがって、かかる抗原認識分子は臨床背景において実用的ではない。位置数の閾値が増加すると、位置数の閾値より少ない位置に結合する抗原認識分子についてのオフターゲットが過小評価され得る;従って、工程210で算出された期待されるオフターゲット毒性の結果は、位置数の閾値より少ない位置に結合する抗原認識分子では正確でない場合がある。
【0138】
工程208で、非標的細胞中の類似のペプチドの発現を分析する。工程206で同定された類似のペプチドのそれぞれのペプチドに対する抗原認識分子結合に関連するリスクは、前述のそれぞれのペプチドが必須の正常組織または必須の細胞型中に存在する場合、より高い。必須の正常組織または必須の細胞型の細胞機能の破壊は、オフターゲット効果をさらに重篤にする可能性がより高く、したがって、非必須組織の細胞機能の破壊と比較してより大きなリスクをもたらす。ペプチドの作業リストを、必須の正常組織または必須の細胞型に存在するペプチドのみが保持されるようにさらにフィルタリングすることができる。
【0139】
いくつかの実施形態では、健常ドナーにおける遺伝子発現を含む医学研究データベースを利用することができる。遺伝子組織発現データベースまたはGTExは、好適なデータベースの非限定的な例である(gtexportal.org.を参照のこと)。例えば、GTExバージョン6(v6)は、ゲノムビルドGRCh38に基づいており、549人の健常ドナー由来の51の組織型にわたる遺伝子発現データを含む。GTExバージョン8(v8)は、ゲノムビルドGRCh38に基づいており、948人の健常ドナー由来の54の組織型にわたる遺伝子発現データを含む;より新しいリリースではさらなるドナーおよび組織の試料が配列決定されていると理解される。いくつかの実施形態では、必須と見なされる組織型のみにおける遺伝子発現値を問い合わせる。非必須と見なされ得る組織型は、乳房、卵巣、精巣などの患者の生命を助けるために犠牲にされ得るものであり得る。いくつかの実施形態では、各々の遺伝子について、各々の必須組織型における95パーセンタイルの発現値を計算し、次いで、全ての必須組織型にわたる前述の値の最大値を計算する。遺伝子の最大発現値が0.5TPM(転写ノイズに基づいて調整し得る)を超える場合、前述の遺伝子に由来する任意の類似のペプチドが潜在的なハイリスクオフターゲットペプチドであろうと仮定することができる。ペプチド配列の作業リストをフィルタリングして、潜在的にハイリスクと同定されないペプチドを除去することができる。しかしながら、いくつかの実施形態では、潜在的に高リスクと同定されなかったペプチドを、破棄する必要はない場合がある。上記で考察されるように、かかるペプチドは、「二次標的ペプチド」を形成し得る。したがって、潜在的な二次標的ペプチドを含む別の作業リストを準備してよく、さらなる試験(例えば、抗原認識分子スクリーニング)を1またはそれを超える潜在的な二次標的ペプチドに対して必要に応じて実施して、前述のペプチドとの交差反応性が有利な治療効果を提供することができるかどうかを査定し得る。いくつかの実施形態では、GTExデータベースの代替データベース、および/またはGTExデータベースの異なるバージョンを利用して、工程208において潜在的なハイリスクオフターゲットペプチドを決定することができ、それにより、当業者に理解されるように、本明細書中に開示の具体例と比較して、追加のまたはより少ない潜在的なハイリスクペプチドを同定し得る。
【0140】
工程210で、MHC-標的ペプチド複合体に関連する期待されるオフターゲット毒性を算出する。潜在的なハイリスクオフターゲットペプチドが同定された時点で、ハイリスクオフターゲットペプチドの各々の類似度(DoS)スコアを計算する。DoSスコアは、ハイリスクオフターゲットペプチドと標的ペプチドとの間の相同性を定量する。DoSは、ペプチド間の同一の位置またはハミング距離での同一アミノ酸数を表す。イムノペプチドミクスデータを使用して、質量分析実験で認められているオフターゲットペプチドは、潜在的なオフターゲットについてのさらなる証拠を提供し得る。
【0141】
ペプチド配列の作業リストをフィルタリングして、所与の閾値未満のDoSスコアを有するペプチドを除去することができる。作業リスト中に残存しているペプチド配列の数を、
図2に示した方法200の工程202で入力であったMHC-標的ペプチド複合体のオフターゲット毒性を示す測定規準として使用することができる。
【0142】
図3は、オフターゲット毒性を軽減するために潜在的な標的ペプチドを順位付ける方法300の実施形態の流れ図を示す。
【0143】
工程302で、2またはそれを超える潜在的なペプチドを、MHC分子に結合すると予測される疾患関連ペプチドの間で選択する。疾患特異的MHC-標的ペプチド複合体を、罹患組織中に特異的に発現される遺伝子の確認によって同定することができる。いくつかの実施形態では、疾患特異的MHC-標的ペプチド複合体を、ヒト遺伝子配列を含む医療データベース(癌ゲノムアトラス(TCGA)およびゲノム組織発現データベース(GTEx)など)に基づいて同定することができる。いくつかの実施形態では、2を超える75パーセンタイルTPM値の癌タイプで発現され、GTEx中の全ての必須の正常組織または必須の細胞型中の発現が無視できる遺伝子を、癌特異的遺伝子と見なす。癌特異的遺伝子に対応する標準的なタンパク質配列は、UniProtKBデータベースなどの標準的なヒトタンパク質配列を含む医学研究データベースから導くことができる。
【0144】
導かれたタンパク質配列を使用して、目的のMHCに結合すると予測される潜在的な8~25量体のペプチド配列を予測することができる。MHC分子がクラスI MHC分子であるとき、工程302中の予測または検出されたペプチドは、8~12アミノ酸長であり得る。MHC分子がクラスII MHC分子であるとき、工程302中の予測または検出されたペプチドは、13~17アミノ酸長であり得る。NetMHCpanツールなどの結合親和性計算ツールを使用して予測することができる。いくつかの実施形態では、予測された結合親和性が500nM以下である場合、ペプチドはバインダーと見なされる。50nM以下である場合、強力なバインダーと見なされる。いくつかの実施形態では、予測されたパーセンタイル順位が2以下である場合、ペプチドはバインダーと見なされる。0.5以下である場合、強力なバインダーと見なされる。
【0145】
工程304で、潜在的な標的ペプチドの各々に関連するオフターゲットペプチドの数を推定することができる。いくつかの実施形態では、オフターゲットペプチドの数を、
図1Aおよび/または
図2中の方法100、200の工程を利用して推定することができる。
【0146】
工程306で、潜在的な標的ペプチドを、潜在的な標的ペプチドの各々に関連するオフターゲットペプチドの数に少なくとも一部基づいて順位付ける。いくつかの実施形態では、工程304で推定された潜在的なオフターゲットの数は、MHC-標的ペプチド複合体に関連し得るオフターゲット毒性の見込みの代表であり、したがって、この数を使用して、潜在的な標的ペプチドのリストを順位付け、治療薬の開発のために前述のペプチドを優先することができる。
【0147】
標的の選択および標的に結合する治療分子の生成後、PIGSPREDによって予測されるオフターゲットは、オフターゲットに結合しない分子についての治療分子の実験的スクリーニングで重要な役割を果たす。ほとんどの特異的な治療分子を、さらなる開発のために選択することができる。
【0148】
いくつかの実施形態では、
図3に示した方法300を、
図2中の方法200を繰り返し、工程202で入力として異なる標的MHC-標的ペプチド複合体を提供し、工程210で入力MHC-標的ペプチド複合体の各々のためのオフターゲット毒性の測定規準を得ることによって実行することができる。オフターゲット毒性の測定規準を比較してMHC-標的ペプチド複合体を順位付けることができる。より低いオフターゲット毒性に順位付けられたMHC-標的ペプチド複合体を、さらなる分析のために選択することができ、抗原認識分子の生成のために使用することができ、そして/あるいは抗原認識分子を試験するために使用することができる。
【0149】
図4は、オフターゲットペプチドのリストおよび/またはオフターゲット毒性の測定規準を出力するように構成された計算システム400の例示的な実施形態のブロック図を示す。システム400は、PIGSPREDエンジン410の例示的な実施形態を含む。PIGSPREDエンジン410は、MHC-標的ペプチド複合体402中に提示された標的ペプチドの計算上の表示を入力として受け取るように構成されている。例示した実施形態では、PIGSPREDエンジン410は、オフターゲットペプチドのリスト426および/またはオフターゲット毒性の測定規準428を出力として提供する。
【0150】
PIGSPREDエンジン410の例示した実施形態は、ペプチドの位置の同定モジュール412、作業ペプチドリストビルダー414、結合親和性フィルター416、リスク重症度査定モジュール418、リスク重症度フィルター420、リスク見込み査定モジュール422、およびリスク見込みフィルター424を含む。PIGSPREDエンジン410は、1またはそれを超えるプロセッサおよび命令を有する非一過性のコンピュータ可読媒体を含み、前述の1またはそれを超えるプロセッサによって実行されたときに、PIGSPREDエンジン410に、上記特徴412、414、416、418、420、422、424の各々に関連する機能を果たさせる。いくつかの実施形態では、PIGSPREDエンジンを、PIGSPREDエンジン410の特徴412、414、416、418、420、422、424によって決定された中間値を出力として提供するように構成することができる。特徴412、414、416、418、420、422、424を、例示のために特定の順序で個別に示す。関連分野の当業者に理解されるように、特徴412、414、416、418、420、422、424を、PIGSPREDエンジン410の例示した実施形態に関して開示の機能性を達成するために、組み合わせるか、並べ替えるか、そうでなければ多数の構成で実装することができる。
【0151】
例示したシステム400は、PIGSPREDエンジン410と通信した結合親和性計算エンジン404、標準的なタンパク質配列データベース406、および組織発現データベース408をさらに含む。好ましい実施形態では、結合親和性計算エンジン404、標準的なタンパク質配列データベース406、および組織発現データベース408は、PIGSPREDエンジン410と分離されており、PIGSPREDエンジン410は各々と通信している。あるいは、関連分野の当業者に理解されるように、付属特徴404、406、408、410のうちの1つまたは複数を、PIGSPREDエンジン400に統合することができる。結合親和性計算エンジン404は、MHC分子に対するペプチドの結合親和性を計算するためのコンピュータベースのモデルを含む。いくつかの実施形態では、結合親和性計算エンジンは、NetMHCpanまたは類似の製品などの市販のツールを含む。標準的なタンパク質配列データベース406は、健常な組織タンパク質配列に由来し得る情報を含む。いくつかの実施形態では、標準的なタンパク質配列データベース406は、UniProtKBデータベースまたは類似の医療データベースを含む。非限定的な例として、組織発現データベース408は、およそ549人の健常ドナー由来のおよそ30の組織型にわたる遺伝子発現データを含むことができる;別の非限定的な例では、組織発現データベース408は、およそ948人の健常ドナー由来のおよそ54の組織型にわたる遺伝子発現データを含むことができる。いくつかの実施形態では、組織発現データベース408は、遺伝子組織発現データベース、GTEx、または類似の医療データベースを含む。
【0152】
PIGSPREDエンジン410のペプチドの位置の同定モジュール412は、入力としてMHC-標的ペプチド複合体402の計算上の表示を受け取り、抗原認識分子への結合に重要な位置を同定することができる。
【0153】
好ましい実施形態では、ペプチドの位置の同定モジュール412は、以下の工程を実施するように構成されている:(a)MHC-標的ペプチド複合体中の標的ペプチドの計算上の表示を入力として受け取る工程;(b)前述のMHC分子に対する前述の標的ペプチドの結合親和性を決定する工程;(c)前述の標的ペプチドのそれぞれのアミノ酸の位置での変異に各々関連する複数の変異したペプチドの配列を生成する工程;(d)前述のMHC分子の複数の変異したペプチドの各々の変異したペプチドの結合親和性を決定する工程;(e)前述の各々の変異したペプチドの結合親和性と前述の標的ペプチドの結合親和性の比較に一部基づいて、前述のMHC-標的ペプチド複合体を認識する抗原認識分子との相互作用に関与する前述のアミノ酸の位置を予測する工程;および(f)前述の抗原認識分子との相互作用に関与する可能性が高い前述のアミノ酸の位置の表示を出力として提供する工程。
【0154】
工程(b)および(d)は、結合親和性計算エンジン404を利用することによって実行される。いくつかの実施形態では、工程(e)で、変異したペプチドについての結合親和性のしきい値を使用して、変異に関連するアミノ酸の位置が抗原認識分子との相互作用に関与するかどうかを決定することができる。いくつかの実施形態では、予測されたパーセンタイル順位を利用して結合親和性を定量し、その結果、標的ペプチドの順位が0.5以下である場合、変異したペプチドについての結合親和性のしきい値は1.0である;標的ペプチドの順位が0.5超かつ2.0以下である場合、変異したペプチドについての結合親和性のしきい値は2.0である;標的ペプチドの順位が2.0超である場合、変異したペプチドについての結合親和性のしきい値は4.0である。変異した位置は、MHC分子に対する結合親和性を喪失した位置と決定される。パーセンタイル順位は結合親和性に反比例し、したがって、変異したペプチドについての結合親和性のしきい値がパーセンタイル順位に基づくとき、しきい値未満のパーセンタイル順位は、変異に関連するアミノ酸の位置が抗原認識分子との相互作用に関与することを示す。
【0155】
作業リストビルダー414は、予測または検出された好適な長さのペプチドの全プール内に、作業リスト中に列挙されたペプチドが、(i)抗原認識分子との相互作用に関与する標的ペプチド内の位置に対応する位置に配置され、そして(ii)前述の標的ペプチドの対応するアミノ酸と同一である少なくとも2つのアミノ酸を各々含むように、ペプチドの作業リストを生成するように構成されている。いくつかの実施形態では、作業ペプチドリストビルダー414は、標準的なタンパク質配列データベース406から予測または検出された好適な長さのペプチドの全プールを導くことができる。MHC分子がクラスI MHC分子であるとき、好適な長さのペプチドは、8~12アミノ酸長であり得る。好適な長さのペプチドは、標的ペプチドと同一の長さであり得る。MHC分子がクラスII MHC分子であるとき、好適な長さのペプチドは、13~17アミノ酸長であり得る。好適な長さのペプチドは、標的ペプチドと同一の長さであり得る。
【0156】
結合親和性フィルター414は、作業リスト中に列挙されたペプチドの各々の、MHC分子に対する結合親和性を判断し、しきい値と比較してより高い結合見込みを示すMHC分子に対する計算された結合親和性を有するペプチドのみを含むように作業リストをフィルタリングするように構成されている。結合親和性フィルター416は、結合親和性計算エンジン404を利用して、作業リスト中のペプチドの各々のMHC分子に対する結合親和性を決定することができる。いくつかの実施形態では、パーセンタイル順位値が2.0以下のペプチドは、結合親和性フィルター414によってバインダーと見なされ、パーセンタイル順位値をしきい値として使用する。結合親和性フィルター414によって使用されるしきい値は、位置同定モジュール412によって使用されるしきい値と等しい必要はない。
【0157】
リスク重症度査定モジュール418は、前述のオフターゲットペプチドの作業リスト中の必須の正常組織または必須の細胞型中に発現されるペプチドの数を推定させるように構成されている。必須の正常組織または必須の細胞型の細胞機能の破壊は、オフターゲット効果をさらに重篤にする可能性がより高く、したがって、非必須組織の細胞機能の破壊と比較してより大きなリスクをもたらす。リスク重症度査定モジュール418は、組織発現データベース408を利用して、作業リスト中のどのペプチドが必須の正常組織または必須の細胞型中に発現されるかを判断することができる。いくつかの実施形態では、必須と見なされる組織型のみにおける遺伝子発現値を問い合わせる。非必須と見なされ得る組織型は、乳房、卵巣、精巣などの患者の生命を助けるために犠牲にされ得るものであり得る。いくつかの実施形態では、各々の遺伝子について、各々の必須組織型における95パーセンタイルの発現値を計算し、次いで、全ての必須組織型にわたる前述の値の最大値を計算する。遺伝子の最大発現値が0.5TPM(転写ノイズに基づいて調整し得る)を超える場合、前述の遺伝子に由来する任意の類似のペプチドが潜在的なハイリスクオフターゲットペプチドであろうと仮定することができる。類似のペプチドは、標的ペプチドとタンパク質の供給源が異なるが、標的ペプチドと同一であり得る。しかしながら、いくつかの例では、標的ペプチドは、固有でない候補標的ペプチド(プロテオーム中の他所のペプチドと同一の配列を共有する候補標的ペプチド)が標的として選択されないように既にスクリーニングされているかもしれない。
【0158】
リスク重症度フィルター420は、作業リストをフィルタリングして、リスク見込み査定モジュール418によって潜在的高リスクと同定されなかったペプチドを除去する。
【0159】
リスク見込み査定モジュール422は、ペプチドの作業リスト中のペプチドについての類似度(DoS)スコアを計算する。DoSスコアは、標的ペプチドの対応する位置のアミノ酸に同一のアミノ酸の数に少なくとも一部基づき、前述の標的ペプチドのアミノ酸は、抗原認識分子との相互作用に関与する。いくつかの実施形態では、DoSスコアは、ペプチドの位置の同定モジュール412によって、抗原認識分子への結合に重要であると同定された位置のみを考慮する。あるいは、DoSは、抗原認識分子への結合に重要であると同定されなかった少なくともいくつかの位置を考慮し得る。例えば、いくつかの実施形態では、DoSスコアは、MHC分子への結合に関与しないアミノ酸の数に基づくことができるか、DoSスコアは、それぞれのペプチドのあらゆるアミノ酸の位置で同一のアミノ酸の数に基づくことができる。より大きなDoSスコアを、MHC-標的ペプチド複合体に結合する抗原認識分子がペプチドの作業リスト中のペプチドとも結合するであろうという見込みの予測因子として利用する。したがって、抗原認識分子へのオフターゲットペプチド結合の見込みがより大きいほどより大きなリスク見込みを反映する。いくつかの実施形態では、イムノペプチドミクスデータが利用可能なオフターゲットペプチドについて、質量分析実験で認められているオフターゲットペプチドは、潜在的なオフターゲットの類似性についてのさらなる証拠を提供することができる。例えば、イムノペプチドーム(質量分析法による)で認められた類似のペプチドを、本来はイムノペプチドームで認められなかったときに類似のペプチドをオフターゲットペプチドとして同定するために使用されると考えられるDoS閾値より低い場合があるDoS閾値を満たすDoSスコアを有することに基づいてオフターゲットペプチドと同定し得る(例えば、いくつかの実装では、5またはそれを超えるDoSスコアは、イムノペプチドームで認められた場合に類似のペプチドをオフターゲットペプチドとして認定し得るのに対して、6またはそれを超えるDoSスコアは、イムノペプチドームで認められなかった類似のペプチドをオフターゲットペプチドとして認定し得る)。
【0160】
リスク見込みフィルター424は、しきい値を超えるDoSスコアを有するペプチドのみを含むように作業リストをフィルタリングする。
【0161】
例示した実施形態では、得られた作業リストは、入力MHC-標的ペプチド複合体402に関連するオフターゲットペプチドのリストを表す。例示した実施形態では、PIGSPREDエンジン410は、得られた作業リストであるオフターゲットペプチドのリストを出力として提供する。
【0162】
例示した実施形態では、オフターゲットペプチドのリスト426中のオフターゲットペプチドの総数をオフターゲット毒性の測定規準428として利用し、これは、PIGSPREDエンジン410に第2の出力として提供することができる。いくつかの実施形態では、オフターゲット毒性の測定規準428は、オフターゲットペプチドのDoSスコア(例えば、全てのオフターゲットペプチドの平均DoSスコア)、オフターゲットペプチドに関連する組織および/または細胞型の「必須」の程度の数値定量化、タンパク質アミノ酸配列のアラインメント、および/またはオフターゲット見込みに関する確率スコアなどの他の要因に少なくとも一部基づくことができる。したがって、本明細書中の教示によって情報を得た関連分野の当業者によって理解されるように、毒性規準428は、オフターゲットペプチドに関する1またはそれを超える要因およびオフターゲットペプチドに関連する潜在的リスクの数学的関数であり得る。
【0163】
例示した実施形態では、PIGSPREDエンジンは、イムノペプチドミクスデータが利用可能であり、標的ペプチドに対するオフターゲットペプチドの類似性を検証するために使用されているペプチドを含む検証されたオフターゲットペプチドのリスト430をさらに提供する。
【0164】
いくつかの実施形態では、PIGSPREDエンジンを、中間工程の結果(様々なフィルタリング段階での結合親和性、DoSスコア、作業リストを含むが、これらに限定されない)を出力するように構成することができる。
【0165】
図5は、低リスクペプチド標的のリスト558、潜在的な標的についてのオフターゲットペプチドのリスト526、および/または潜在的な標的についてのオフターゲット毒性の測定規準528を出力するように構成された計算システム500の例示的な実施形態のブロック図を示す。システム500は、標的順位付けエンジン550の例示的な実施形態を含む。
【0166】
例示した標的順位付けエンジン550は、潜在的な標的選択モジュール552、PIGSPREDモジュール510、および標的順位付けモジュール554を含む。標的順位付けエンジン550は、1またはそれを超えるプロセッサおよび命令を有する非一過性のコンピュータ可読媒体を含み、前述の1またはそれを超えるプロセッサによって実行されたときに、標的順位付けエンジン550に、上記特徴552、510、554の各々に関連する機能を果たさせる。いくつかの実施形態では、標的順位付けエンジン550を、標的順位付けエンジン550の特徴552、510、554によって決定された中間値を出力として提供するように構成することができる。特徴552、510、554を、例示のために特定の順序で個別に示す。関連分野の当業者に理解されるように、特徴552、510、554を、標的順位付けエンジン550の例示した実施形態に関して開示の機能性を達成するために、組み合わせるか、並べ替えるか、そうでなければ多数の構成で実装することができる。
【0167】
例示したシステム500は、結合親和性計算エンジン504、疾患発現データベース556、標準的なタンパク質配列データベース506、および組織発現データベース508をさらに含む。結合親和性計算エンジン504、標準的なタンパク質配列データベース506、および組織発現データベース508を、
図4中の対応する特徴404、406、408と同様に構成することができる。疾患発現のデータベースは、疾患特異的MHC-標的ペプチド複合体を同定するための情報を含むことができる。いくつかの例では、疾患発現のデータベース556は、癌に関連するヒト遺伝子配列を含むTCGAデータベースを含むことができる。好ましい実施形態では、結合親和性計算エンジン504、疾患発現データベース556、標準的なタンパク質配列データベース506、および組織発現データベース508は、標的順位付けエンジン550と分離されており、標的順位付けエンジン550は各々と通信している。あるいは、関連分野の当業者に理解されるように、付属特徴504、556、506、508のうちの1つまたは複数を、標的順位付けエンジン550に統合することができる。
【0168】
潜在的な標的選択モジュール552は、疾患発現のデータベース556と通信するように構成されている。潜在的な標的選択モジュール552は、複数の潜在的な標的ペプチドおよび前述の潜在的な標的ペプチドの各々についての関連するMHC-標的ペプチド複合体を決定するように構成されている。潜在的な標的選択モジュール552は、疾患発現のデータベース556を利用して、調査中の疾患のタイプ、潜在的な標的ペプチドの有病率などに基づいて潜在的な標的ペプチドを同定することができる。潜在的な標的選択モジュール552は、1またはそれを超えるMHC分子に対する潜在的な標的ペプチドの結合親和性を判断することができる。得られたMHC-標的ペプチド複合体を、入力としてPIGSPREDモジュール510に提供することができる。
【0169】
例示した実施形態では、PIGSPREDモジュール510は、
図4中のPIGSPREDエンジン410と同様に機能し、ここで、潜在的な標的選択モジュール552によって提供されたMHC-標的ペプチド複合体は、入力MHC-標的ペプチド複合体402として
図4中のシステム400に各々提供され、得られたオフターゲットペプチドのリスト426、オフターゲット毒性の測定規準428、および検証されたオフターゲットペプチドリスト430は、各々のMHC-標的ペプチド複合体のための出力としてそれぞれ提供される。例示した実施形態では、潜在的な標的についてのオフターゲットペプチドのリスト526、潜在的な標的についてのオフターゲット毒性の測定規準528、および検証されたオフターゲットペプチドのリスト530は、出力として標的順位付けエンジン550に提供される。
【0170】
標的順位付けモジュール554は、リスクに従ってMHC-標的ペプチド複合体を順位付けるように構成されている。いくつかの例では、標的順位付けモジュール554は、低リスク標的のリスト558を出力として標的順位付けエンジン550に提供することができる。
【0171】
図6は、MHC-標的ペプチド複合体、前述の複合体のそれぞれ関連するオフターゲットペプチドのリスト、および関連するリスクの測定規準を含む標的毒性データベース600の例示的な実施形態のブロック図を示す。好ましい実施形態では、オフターゲットリストおよびリスクの測定規準を、
図4に示したシステム400を使用して各々のMHC-標的ペプチド複合体について決定することができる。好ましい実施形態では、MHC-標的ペプチド複合体を、
図5に示したシステムを使用して順位付けることができる。
【0172】
図7は、算出デバイス700の実施形態のブロック図を示す。示すように、算出デバイス700は、1またはそれを超えるプロセッサ710、I/Oデバイス720、オペレーティングシステム(「OS」)740、データベース750、およびプログラム760を含むメモリ730を含み得る。好ましい実施形態では、
図4に示したPIGSPREDエンジン410は、算出デバイス700によって実現される。別の好ましい実施形態では、標的順位付けエンジン550を、算出デバイス700によって実現することができる。これらの好ましい実施形態では、命令は、メモリ730内に記憶されており、前述の命令は、それぞれのエンジン410、510のそれぞれの特徴412、414、416、418、420、422、424、552、510、554の機能を果たすようにプロセッサ710によって実行可能である。これらの好ましい実施形態では、I/Oデバイス720は、
図4および5に示したそれぞれのシステム400、500のそれぞれの付属特徴404、406、408、504、556、506、508と通信するように構成されている。
【0173】
いくつかの実施形態では、算出デバイス700は、
図4に示したPIGSPREDエンジン410および/または
図5に示した標的順位付けエンジン550の特徴のうちのいくつかまたは全てならびにメモリ730内の命令として実現することができるさらなる特徴を含むことができる。1つの例示的な実施形態では、命令は、プロセッサ710によって実行されたときに、計算デバイス700に、抗原認識分子の計算上の表示を入力として提供させ、前述の抗原認識分子が、MHC-標的ペプチド複合体に結合することができ;作業リスト由来のそれぞれの可能性の高いオフターゲットペプチドおよび前述のMHC分子を各々含む複数のMHC-ペプチド複合体に対する前述の抗原認識分子の結合親和性を決定させ;そして、それぞれのMHC-ペプチド複合体が抗原認識分子に対する結合親和性を有する可能性の高いオフターゲットペプチドのみを含むように前述の作業リストをフィルタリングさせる。例示的な実施形態を利用して、特異的な治療抗原認識分子をスクリーニングし得る。抗原認識分子の使用に依存しないオフターゲットのリストが存在すると仮定すると、この例示的な実施形態は、抗原認識分子に結合しない非依存性リストからオフターゲットを除去することによって特異的抗原認識分子についてのオフターゲットを見出す。
【0174】
別の例示的な実施形態では、命令は、プロセッサ710によって実行されたときに、計算デバイス700に、特定の患者の必須の正常組織または必須の細胞型中のオフターゲットペプチド発現を入力として提供させ;前述の患者のオフターゲット効果の表示を出力として提供させる。例示的な実施形態を利用して、臨床試験または他の処置のための患者をスクリーニングし得る。
【0175】
算出デバイス700は、単一サーバであり得るか、開示の実施形態に関連するプロセスおよび機能のうちの1つまたは複数を実施するために相互運用する複数のサーバまたはコンピュータを含む分散型コンピュータシステムとして構成され得る。いくつかの実施形態では、算出デバイス700は、プロセッサ710と通信する周辺インターフェース、トランシーバ、モバイルネットワーク・インターフェース、算出デバイス700の様々な構成要素間の通信を容易にするように構成されたバス、および算出デバイス700の1またはそれを超える構成要素に電力を供給するように構成された電源をさらに含み得る。周辺インターフェースは、様々な周辺デバイス、例えば、メディアドライブ(例えば、磁気ディスク、半導体、または光ディスクドライブ)、他の処理デバイス、または本発明の技術と接続して使用される任意の他の入力源と通信することが可能なハードウェア、ファームウェア、および/またはソフトウェアを含み得る。いくつかの実施形態では、周辺インターフェースは、シリアルポート、パラレルポート、汎用入出力(GPIO)ポート、ゲームポート、ユニバーサル・シルアル・バス(USB)、マイクロUSBポート、高精細マルチメディア(HDMI(登録商標))ポート、ビデオポート、オーディオポート、Bluetooth(登録商標)ポート、NFCポート、別の同様の通信インターフェース、またはこれらの任意の組み合わせを含み得る。
【0176】
いくつかの実施形態では、トランシーバを、互換性のあるデバイスおよびIDタグが所定の範囲内にあるときにこれらと通信するように構成し得る。トランシーバは、以下のうちの1つまたは複数と互換性があり得る:RFID、NFC、Bluetooth(登録商標)、低エネルギーBluetooth(登録商標)(BLE)、WiFi(商標)、ZigBee(登録商標)、ABCプロトコール、または類似のテクノロジー。
【0177】
モバイルネットワーク・インターフェースは、セルラーネットワーク、インターネット、または別の広域ネットワークにアクセスし得る。いくつかの実施形態では、モバイルネットワーク・インターフェースは、プロセッサ710が、当該分野で公知のローカルエリアまたは広域、私的または公的な有線または無線のネットワークを経由して、他のデバイスとの通信を可能にするハードウェア、ファームウェア、および/またはソフトウェアを含み得る。電源は、構成要素に交流(AC)または直流(DC)を適切に供給するように構成され得る。
【0178】
プロセッサ710は、記憶された命令を実行し、データ記憶時に操作することが可能なマイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサ、もしくはコプロセッサなど、またはこれらの組み合わせのうちの1つまたは複数を含み得る。メモリ730としては、いくつかの実装では、ファイルをソートするための1またはそれを超える好適なタイプのメモリ(例えば、揮発性または不揮発性のメモリ、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、消去可能なプログラマブルリードオンリーメモリ(EPROM)、電気的に消去可能なプログラマブルリードオンリーメモリ(EEPROM)、磁気ディスク、光ディスク、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、着脱式カートリッジ、フラッシュメモリ、およびリダンダント・アレイ・オブ・インエクスペンシブ・ディスクズ(RAID)など)を挙げることができ、前述のメモリは、オペレーティングシステム、アプリケーションプログラム(例えば、必要に応じて、ウェブブラウザアプリケーション、ウィジェットまたはガジェットのエンジン、または他のアプリケーションを含む)、実行可能命令、およびデータを含む。1つの実施形態では、本明細書中に記載の処理技術を、メモリ730内に実行可能命令とデータの組み合わせとして実装する。
【0179】
プロセッサ710は、1またはそれを超える公知の処理デバイス(Intel(商標)製のPentium(登録商標)ファミリーまたはAMD(商標)製のTurion(商標)ファミリーのマイクロプロセッサなど)であり得る。プロセッサ710は、シングルコアプロセッサまたは並行プロセスを同時に実行するマルチコアプロセッサから構成され得る。例えば、プロセッサ710は、バーチャルプロセシングテクノロジーを用いて設定されたシングルコアプロセッサであり得る。ある特定の実施形態では、プロセッサ710は、複数のプロセスを同時に実行および制御するための論理プロセッサを使用し得る。プロセッサ710は、仮想マシンテクノロジー、または複数のソフトウェアプロセス、アプリケーション、プログラムなどを、例えば、実行、制御、作動、操作、記憶する能力を提供するための他の類似の公知のテクノロジーを実装し得る。関連分野の当業者に理解されるように、本明細書中に開示の能力を提供する他のプロセッサの配置型を実装することができる。
【0180】
算出デバイス700は、開示の実施形態に関連するある特定の機能を実施するためにプロセッサ710(または他の構成要素)によって使用される情報を記憶するように構成された1またはそれを超える記憶デバイスを含み得る。1つの例では、算出デバイス700は、プロセッサ710が、1またはそれを超えるアプリケーション、例えば、サーバアプリケーション、ネットワーク通信プロセス、およびコンピュータシステムで利用可能であることが公知の任意の他のタイプのアプリケーションまたはソフトウェアを実行可能にするための命令を含むメモリ730を含み得る。あるいは、命令、アプリケーションプログラムなどは、外部記憶装置に記憶され得るか、ネットワークを通じてメモリから利用可能であり得る。1またはそれを超える記憶デバイスは、揮発性もしくは不揮発性、磁性、半導体、テープ、光学、着脱式、非着脱式、または他のタイプの記憶デバイスまたは有形のコンピュータ可読媒体であり得る。
【0181】
1つの実施形態では、算出デバイス700は、プロセッサ710によって実行されたときに、本明細書中に開示の機能性と一致する1またはそれを超えるプロセスを実施する命令を含むメモリ730を含み得る。開示の実施形態と一致する方法、システム、および製品は、専用のタスクを実施するように構成された個別のプログラムまたはコンピュータに制限されない。例えば、算出デバイス700は、開示の実施形態の1またはそれを超える機能を実施するための1またはそれを超えるプログラム760を含み得るメモリ730を含み得る。さらに、プロセッサ710は、算出デバイス700から離れて配置された1またはそれを超えるプログラム760を実行し得る。例えば、算出デバイス700は、実行されたときに開示の実施形態に関連する機能を実施する1またはそれを超える遠隔プログラム760にアクセスし得る。
【0182】
メモリ730は、開示の実施形態の1またはそれを超える特徴を実施するために使用されるデータおよび命令を記憶する1またはそれを超えるメモリデバイスを含み得る。また、メモリ730は、メモリコントローラーデバイス(例えば、サーバなど)またはソフトウェアによって制御される1またはそれを超えるデータベース、例えば、文書管理システム、Microsoft(商標)SQLデータベース、SharePoint(商標)データベース、Oracle(商標)データベース、Sybase(商標)データベース、または他の関連するデータベースの任意の組み合わせを含み得る。メモリ730は、プロセッサ710によって実行されたときに、開示の実施形態と一致する1またはそれを超えるプロセスを実施させるソフトウェアコンポーネントを含み得る。いくつかの実施形態では、メモリ730は、算出デバイス700が開示の実施形態に関連するプロセスおよび機能性のうちの1つまたは複数を実施することができるように関連データを記憶するためのデータベース750を含み得る。
【0183】
また、算出デバイス700は、1またはそれを超えるメモリデバイス(例えば、データベース(示さず))にローカルまたはネットワークを通じて通信可能に接続され得る。遠隔メモリデバイスは、情報を記憶するように構成され、算出デバイス700によってアクセスおよび/または管理され得る。例として、遠隔メモリデバイスは、文書管理システム、Microsoft(商標)SQLデータベース、SharePoint(商標)データベース、Oracle(商標)データベース、Sybase(商標)データベース、または他の関連するデータベースであり得る。しかしながら、開示の実施形態と一致するシステムおよび方法は、個別のデータベースに制限されず、データベースの使用にさえ制限されない。
【0184】
また、算出デバイス700は、デバイスから信号または入力を受け取り、1またはそれを超えるデバイスに信号または出力を提供し、それにより、算出デバイス700によってデータを受信および/または送信可能な1またはそれを超えるインターフェースを含み得る1またはそれを超えるI/Oデバイス720を含み得る。例えば、算出デバイス700は、算出デバイス700が(例えば、ユーザーデバイス130を介して)1またはそれを超えるユーザーからデータを受け取ることを可能にする、1またはそれを超える入力デバイス(1またはそれを超えるキーボード、マウスデバイス、タッチスクリーン、トラックパッド、トラックボール、スクロールホイール、デジタルカメラ、マイク、およびセンサーなど)にインターフェースを提供し得るインターフェースコンポーネントを含み得る。
【0185】
開示のテクノロジーの例示的な実施形態では、算出デバイス700は、操作のうちのいずれかを容易にするために実行される任意の数のハードウェアおよび/またはソフトウェアアプリケーションを含み得る。1またはそれを超えるI/Oインターフェースを利用して、多種多様の入力デバイスからデータおよび/またはユーザー命令を受け取るか収集し得る。受け取ったデータは、要望通りに開示のテクノロジーの様々な実装中の1またはそれを超えるコンピュータプロセッサによって処理され、そして/あるいは1またはそれを超えるメモリデバイスに記憶され得る。
【0186】
算出デバイス700を本明細書中に記載の技術を実装するための1つの形態として記載しているが、関連分野の当業者に理解されるように、他の機能的に等価な技術を使用し得る。例えば、当該分野で公知のように、実行可能命令を介して実装される機能性のいくつかまたは全てはまた、ファームウェアおよび/またはハードウェアデバイス(特定用途向け集積回路(ASICs)、プログラマブル・ロジック・アレイ、状態機械など)を使用して実装され得る。さらに、他の実装は、示したものより多数または少数の構成要素を含み得る。
【0187】
図8は、算出デバイス810、サーバ820、メモリ・ストレージ840、および各々の通信を容易にするネットワーク830を含む算出ネットワーク800の実施形態のブロック図を示す。好ましい実施形態では、算出デバイス810は、
図7に示すように構成され、
図4中のPIGSPREDエンジン410および/または
図5中の標的順位付けエンジン550を含む算出デバイスを含む。いくつかの実施形態では、算出デバイス810は、ネットワーク830を介して付属特徴404、406、408、504、556、506、508のうちのいくつかまたは全てと通信し、ここで、前述の付属特徴は、サーバ820上にホストされ、メモリ・ストレージ840からアクセス可能である。
【0188】
ネットワーク830は、セルラーネットワークまたはWiFi(商標)ネットワークなどのインターネットを介した個別の接続を含む任意の好適なタイプのネットワークであり得る。いくつかの実施形態では、ネットワーク830は、無線自動識別(RFID)、近距離無線通信(NFC)、Bluetooth(登録商標)、低エネルギーBluetooth(登録商標)(BLE)、WiFi(商標)、ZigBee(登録商標)、アンビエント・バックスキャッター・コミュニケーション(ABC)プロトコール、USB、WAN、またはLANなどの直接的な接続を使用して、端末、サービス、およびモバイル機器に接続し得る。伝送される情報は個人的または部外秘である場合があるので、安全上の懸念により、これらのタイプの接続のうちの1つまたは複数が暗号化されるか、そうでなければ保護されるように指示され得る。しかしながら、いくつかの実施形態では、伝送される情報があまり個人的ではない場合があり、それ故に、安全性よりも便利さを優先してネットワーク接続が選択され得る。
【0189】
図9は、本明細書中に提示した例示的な実施形態に関する細胞機能を示す。細胞910は、細胞910の表面912上に存在するMHC-ペプチド複合体920、930を含む。細胞910は、クラスI MHC-ペプチド複合体920およびクラスII MHC-ペプチド複合体930を含む。各々のMHC-ペプチド複合体920、930は、それぞれのMHC分子922、932およびそれぞれのペプチド 924、934を含む。各々のペプチド924、934は、それぞれのMHC分子922、932に結合したアミノ酸(影をつけた物体として示す)およびそれぞれのMHC分子922、932に非結合のアミノ酸(白色の物体として示す)を含む。抗原認識分子940は、MHC分子に非結合のMHC-標的ペプチド複合体中のペプチドのアミノ酸に結合することができる受容体942を含む。また、抗原認識分子940は、MHC-ペプチド複合体中のそれぞれのMHC分子に非結合の、(MHC-標的ペプチド複合体と比較して)類似のアミノ酸構成を有するオフターゲットペプチドに結合し得る。
【0190】
本明細書中に記載の多様な方法は、標的ペプチドの同定(例えば、順位付け/選択)および/または所与の標的ペプチドのオフターゲットペプチドの同定(例えば、順位付け/選択)に関し得る。これらの方法のうちのいずれかは、同定された標的ペプチドおよび/または1またはそれを超えるオフターゲットペプチドを合成する工程をさらに含み得る。ペプチドの合成方法は、当該分野で公知であり、本明細書中に記載の方法を含む。これらの方法のうちのいずれかは、本明細書中の他所に記載のように、標的ペプチドおよび/または1またはそれを超えるオフターゲットペプチドをMHC分子またはその任意の好適な構成要素に負荷して、pMHC複合体を形成する、負荷する工程をさらに含み得る。これらの方法のうちのいずれかは、標的ペプチド-MHC複合体および/または1またはそれを超えるオフターゲットペプチド-MHC複合体を抗原認識分子(例えば、抗体、TCR、またはCAR)に結合する工程をさらに含み得る。例えば、これらの方法のうちのいずれかは、標的ペプチド-MHC複合体および/または1またはそれを超えるオフターゲットペプチドMHC複合体を、抗原認識分子への結合についてスクリーニングする工程をさらに含み得る。これらの方法のうちのいずれかは、標的ペプチドおよび/または1またはそれを超えるオフターゲットペプチドを、1またはそれを超える細胞とインキュベートする工程(例えば、本明細書中の他所に記載のように、細胞をペプチドでパルスする工程)を含み得る。
【0191】
さらなる態様では、本明細書中に記載の方法を使用して同定されたオフターゲットペプチドを本明細書中に提供する。したがって、本開示はまた、本明細書中に記載の方法を使用して同定されたオフターゲットペプチドのうちの1つまたは複数を含むライブラリーを提供する。いくつかの実施形態では、本開示のライブラリーは、オフターゲットペプチドに関連する標的ペプチドも含み得る。いくつかの実施形態では、本開示のライブラリーは、抗原認識分子との複合体中のpHLAの実験的構造を分析することによって同定されたオフターゲットペプチドを含み得る。
【0192】
本開示の例示的なペプチドライブラリーは、本明細書中に記載のMAGEA4230~239標的GVYDGREHTV(配列番号1)について同定された1またはそれを超えるオフターゲットペプチドを含み得る。いくつかの実施形態では、MAGEA4230~239標的GVYDGREHTV(配列番号1)に関連するオフターゲットペプチドは、本明細書中の表1B、2B、および3Bに列挙したものを含む。いくつかの実施形態では、MAGEA4230~239標的GVYDGREHTV(配列番号1)に関連するオフターゲットペプチドは、配列番号2~7、9、11~28、および73~74のうちのいずれかのアミノ酸配列、またはその薬学的に許容され得る塩、もしくはその断片もしくは誘導体を含む。いくつかの実施形態では、MAGEA4230~239標的GVYDGREHTV(配列番号1)に関連するオフターゲットペプチドは、配列番号2~7、9、11~28、および73~74のうちのいずれかのアミノ酸配列から本質的になる。いくつかの実施形態では、MAGEA4230~239標的GVYDGREHTV(配列番号1)に関連するオフターゲットペプチドは、配列番号2~7、9、11~28、および73~74のうちのいずれか1つのアミノ酸配列からなる。
【0193】
本開示の別の例示的なペプチドライブラリーは、本明細書中に記載のMAGEA4286~294標的KVLEHVVRV(配列番号48)について同定された1またはそれを超えるオフターゲットペプチドを含み得る。いくつかの実施形態では、MAGEA4286~294標的KVLEHVVRV(配列番号48)に関連するオフターゲットペプチドは、本明細書中の表4Bに列挙したものを含む。いくつかの実施形態では、MAGEA4286~294標的KVLEHVVRV(配列番号48)に関連するオフターゲットペプチドは、配列番号49~72のうちのいずれかのアミノ酸配列、またはその薬学的に許容され得る塩、もしくはその断片もしくは誘導体を含む。いくつかの実施形態では、MAGEA4286~294標的KVLEHVVRV(配列番号48)に関連するオフターゲットペプチドは、配列番号49~72のうちのいずれかのアミノ酸配列から本質的になる。いくつかの実施形態では、MAGEA4286~294標的KVLEHVVRV(配列番号48)に関連するオフターゲットペプチドは、配列番号49~72のうちのいずれか1つのアミノ酸配列からなる。
【0194】
本開示の別の例示的なペプチドライブラリーは、本明細書中に記載のMAGEA3168~176標的EVDPIGHLY(配列番号29)について同定された1またはそれを超えるオフターゲットペプチドを含み得る。いくつかの実施形態では、MAGEA3168~176標的EVDPIGHLY(配列番号29)に関連するオフターゲットペプチドは、本明細書中の表5Bに列挙したものを含む。いくつかの実施形態では、MAGEA3168~176標的EVDPIGHLY(配列番号29)に関連するオフターゲットペプチドは、配列番号30~47のうちのいずれかのアミノ酸配列、またはその薬学的に許容され得る塩、もしくはその断片もしくは誘導体を含む。いくつかの実施形態では、MAGEA3168~176標的EVDPIGHLY(配列番号29)に関連するオフターゲットペプチドは、配列番号30~47のうちのいずれかのアミノ酸配列から本質的になる。いくつかの実施形態では、MAGEA3168~176標的EVDPIGHLY(配列番号29)に関連するオフターゲットペプチドは、配列番号30~47のうちのいずれか1つのアミノ酸配列からなる。
【0195】
本開示のなおさらなる例示的なペプチドライブラリーは、以下から選択される1またはそれを超えるペプチドを含み得る:MAGEA4230~239標的GVYDGREHTV(配列番号1)、配列番号2~7、9、11~28、および73~74;MAGEA4286~294標的KVLEHVVRV(配列番号48)、配列番号49~72;MAGEA3168~176標的EVDPIGHLY(配列番号29)、および配列番号30~47、またはこれらの任意の組み合わせ。
【0196】
本開示のペプチドライブラリーは、要望通りに複数のペプチドのうちの任意の数を含み得る。例えば、本開示のペプチドライブラリーは、少なくとも2個のペプチド、少なくとも3個のペプチド、少なくとも4個のペプチド、少なくとも5個のペプチド、少なくとも6個のペプチド、少なくとも7個のペプチド、少なくとも8個のペプチド、少なくとも9個のペプチド、少なくとも10個のペプチド、少なくとも20個のペプチド、少なくとも30個のペプチド、少なくとも40個のペプチド、少なくとも50個のペプチド、または約2~5個のペプチド、約2~10個のペプチド、約5~15個のペプチド、約10~20個のペプチド、約10~30個のペプチド、約12~25個のペプチド、約20~30個のペプチド、約25~50個のペプチド、約40~80個のペプチド、約50~100個のペプチドなどを含み得る。
【0197】
さらなる態様では、本明細書中に記載の方法を使用して同定されたオフターゲットペプチドの計算上の表示を含むデータベースを本明細書中に提供する。データベースは、上に開示した例示的なライブラリーのうちのいずれか1つに表したオフターゲットペプチドの各々に関する情報を含むことができる。したがって、データベースは、オフターゲットペプチドに関連する標的ペプチドの計算上の表示も含み得る。データベース中のペプチドのコンピュータ可読表示は、ペプチド配列またはペプチドのコンピュータモデルを含むことができる。例えば、データベースは、
図6に示したデータベース600の特徴(オフターゲットペプチドの1またはそれを超えるリストを含む)を含むことができる。データベース600は、関連するMHC-標的ペプチド複合体を含んでも含まなくてもよく、関連するリスクの測定規準を含んでも含まなくてもよい。
【0198】
本開示のペプチドを、合成によって産生するか、加水分解によって産生し得る。合成によって産生されたペプチドは、無作為に生成されたペプチド、具体的にデザインされたペプチド、およびアミノ酸の位置のうちの少なくともいくつかがいくつかのペプチドの間で保存されており、かつ残りの位置が無作為であるペプチドを含むことができる。あるいは、本開示のペプチドを、異種宿主細胞中での発現によって産生し得る。
【0199】
いくつかの実施形態では、本開示のペプチドを、例えば、固相合成によって合成することができる。そのようなものとして、ペプチドを、例えば、ビーズなどの固体支持体に固定し得る。本開示のペプチドを、固相ペプチド合成のFmoc-ポリアミド法によって合成し得る。9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基によってN-アミノ基を一過性に保護する。この高度に塩基に不安定な保護基の反復切断を、N,N-ジメチルホルムアミド中の20%ピペリジンを使用して行う。側鎖官能基を、前述の官能基のブチルエーテル(セリン トレオニン、およびチロシンの場合)、ブチルエステル(グルタミン酸およびアスパラギン酸の場合)、ブチルオキシカルボニル誘導体(リジンおよびヒスチジンの場合)、トリチル誘導体(システインの場合)、および4-メトキシ-2,3,6-トリメチルベンゼンスルホニル誘導体(アルギニンの場合)として保護し得る。グルタミンまたはアスパラギンがC末端残基である場合、側鎖アミド官能基の保護のために4,4’-ジメトキシベンズヒドリル基を使用する。固相担体は、3つの単量体ジメチルアクリルアミド(バックボーン単量体)、ビスアクリロイルエチレンジアミン(架橋剤)、およびアクリロイルサルコシンメチルエステル(官能化剤)から構成されるポリジメチル-アクリルアミドポリマーに基づく。使用されるペプチド-樹脂間を切断可能に連結する薬剤は、酸不安定性4-ヒドロキシメチル-フェノキシ酢酸誘導体である。逆のN,N-ジシクロヘキシル-カルボジイミド/1-ヒドロキシベンゾトリアゾール媒介カップリング手技を用いて付加されるアスパラギンおよびグルタミン以外の全てのアミノ酸誘導体は、予め形成された対称的な無水誘導体として付加される。全てのカップリング反応および脱保護反応を、ニンヒドリン、トリニトロベンゼンスルホン酸、またはイソチン試験手技を使用してモニタリングする。合成完了時に、ペプチドを、樹脂支持体から切断するのと同時に、50%捕捉剤混合物を含む95%トリフルオロ酢酸での処理によって側鎖保護基を除去する。一般的に使用される捕捉剤は、エタンジチオール、フェノール、アニソール、および水を含み、合成されるペプチドのアミノ酸成分に応じて正確に選択される。また、ペプチドを合成するために固相と液相を組み合わせる方法が可能である。
【0200】
真空中での蒸発によってトリフルオロ酢酸を除去し、その後にジエチルエーテルでのトリチュレーションによって粗ペプチドを得る。水相の凍結乾燥によって捕捉剤を含まない粗ペプチドを得るという簡潔な抽出手順によって、存在する任意の捕捉剤を除去する。
【0201】
再結晶、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、および逆相高速液体クロマトグラフィー(例えば、アセトニトリル/水勾配分離を使用する)、またはこれらの組み合わせなどの技術によって精製し得る。
【0202】
ペプチドを、薄層クロマトグラフィー、電気泳動、特にキャピラリー電気泳動、固相抽出(CSPE)、逆相高速液体クロマトグラフィー、酸加水分解後のアミノ酸分析、および高速電子衝撃(FAB)質量分析、ならびにMALDIおよびESI-Q-TOF質量分析を使用して分析し得る。
【0203】
あるいは、ペプチドを、異種宿主細胞中での組換え発現によって産生し得る。かかる方法は、典型的には、in vivoで(例えば、細菌、酵母、昆虫、または哺乳動物の細胞中で)発現すべきペプチド、発現すべきポリペプチドをコードする核酸配列を含むベクターの使用を含む。
【0204】
さらなる実施形態では、in vitro無細胞系を使用し得る。ペプチドを単離し、そして/あるいは実質的に純粋な形態で提供し得る。例えば、前述のペプチドを、他のペプチドまたはタンパク質を実質的に含まない形態で提供し得る。
【0205】
いくつかの実施形態では、本開示のペプチドは、約8~25アミノ酸長であり得る。いくつかの実施形態では、本開示のペプチドは、約8~12アミノ酸長であり得る。例えば、本明細書中に開示のペプチドは、8アミノ酸長、9アミノ酸長、10アミノ酸長、11アミノ酸長、または12アミノ酸長であり得る。いくつかの実施形態では、本開示のペプチドは、約13~17アミノ酸長であり得る。例えば、本明細書中に開示のペプチドは、13アミノ酸長、14アミノ酸長、15アミノ酸長、16アミノ酸長、または17アミノ酸長であり得る。
【0206】
本開示のペプチドは、1またはそれを超える化学修飾を含み得る。化学修飾の非限定的な例は、例えば、リン酸化、アセチル化、脱アミド アシル化、アミジン化、リジンのピリドキシル化、還元的アルキル化、2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)でのアミノ基のトリニトロベンジル化、カルボキシル基のアミド修飾およびシステインのシステイン酸への過ギ酸酸化によるスルフヒドリル修飾、水銀誘導体の形成、他のチオール化合物とのジスルフィド混合物の形成、マレイミドとの反応、ヨード酢酸またはヨードアセトアミドでのカルボキシメチル化、ならびにアルカリpHでのシアナートでのカルバモイル化を含む。化学修飾は、in vivoで存在し得るものに対応しないかもしれない。
【0207】
例えば、例えばタンパク質中のアルギニル残基の修飾は、付加物を形成するためのビシナルジカルボニル化合物(フェニルグリオキサール、2,3-ブタンジオン、および1,2-シクロヘキサンジオンなど)の反応に基づき得る。別の例は、メチルグリオキサールのアルギニン残基との反応である。システインを、リジンおよびヒスチジンなどの他の求核性部位の付随的修飾を用いずに修飾することができる。タンパク質中のジスルフィド結合を選択的に還元することもできる。ジスルフィド結合を形成し、生物医薬品の熱処理中に酸化させることができる。ウッドワード試薬Kを使用して、特定のグルタミン酸残基を修飾し得る。N-(3-(ジメチルアミノ)プロピル)-N’-エチルカルボジイミドを使用して、リジン残基とグルタミン酸残基との間に分子内架橋を形成することができる。例えば、ジエチルピロカルボナートおよび4-ヒドロキシ-2-ノネナールを使用して、タンパク質中のヒスチジル残基を修飾することができる。リジン残基および他のα-アミノ基の反応は、例えば、表面へのペプチドの結合またはタンパク質/ペプチドの架橋で有用である。リジンは、ポリ(エチレン)グリコールの付着部位およびタンパク質のグリコシル化における主な修飾部位である。タンパク質中のメチオニン残基を、例えば、ヨードアセトアミド、ブロモエチルアミン、およびクロラミンTで修飾することができる。テトラニトロメタンおよびN-アセチルイミダゾールを、チロシル残基の修飾のために使用することができる。ジチロシンの形成を介した架橋を、過酸化水素/銅イオンを用いて行うことができる。N-ブロモスクシンイミド、2-ヒドロキシ-5-ニトロ臭化ベンジル、または3-ブロモ-3-メチル-2-(2-ニトロフェニルメルカプト)-3H-インドール(BPNS-スカトール)は、最近の研究においてトリプトファンの修飾のために使用されている。
【0208】
本明細書中に記載のペプチドは、1またはそれを超える(例えば、1、2、3、または4つの)アミノ酸置換および/または挿入および/または欠失を含み得る。アミノ酸置換は、アミノ酸残基を同一の位置で置換アミノ酸残基に置換することを意味する。挿入されるアミノ酸残基を、任意の位置に挿入してよく、挿入されるアミノ酸残基のうちのいくつかまたは全てが相互に直接隣接するように挿入し得るか、挿入されるアミノ酸残基が別の挿入アミノ酸残基と直接隣接しないように挿入し得る。1またはそれを超える(例えば、1、2、3、または4つの)アミノ酸は、配列番号1~7、9、および11~74のうちのいずれか1つの配列を置換および/または挿入および/または欠失し得る。各々の置換および/または挿入および/または欠失は、配列番号1~7、9、および11~74のうちのいずれか1つの任意の位置に生じ得る。
【0209】
いくつかの実施形態では、本開示のペプチドは、任意の1つの配列番号1~7、9、および11~74の配列のC末端および/またはN末端にさらなるアミノ酸(例えば、1、2、3、または4つ)を含み得る。本開示のペプチドは、1またはそれを超える(例えば、1、2、3、または4つの)アミノ酸の置換、挿入、または欠失を除き、配列番号1~7、9、および11~74のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を含み得る。
【0210】
アミノ酸置換は、保存的であってよく、これは、置換されるアミノ酸が元のアミノ酸と類似の化学的性質を有することを意味する。例えば、以下のアミノ酸のグループは、サイズ、電荷、および極性などの類似の化学的性質を共有する:グループ1-Ala、Ser、Thr、Pro、Gly;グループ2-Asp、Asn、Glu、Gln;グループ3-His、Arg、Lys;グループ4-Met、Leu、Ile、Val、Cys;グループ5-Phe、Thy、Trp。
【0211】
別の態様では、本開示は、本開示のペプチドとMHC分子の複合体(pMHC複合体)を提供する。好ましくは、ペプチドは、MHC分子のペプチド収容溝に結合される。いくつかの実施形態では、ペプチドおよびMHC分子は、非共有結合性複合体を形成する。他の実施形態では、ペプチドおよびMHC分子は、例えば、リンカーを介して共有結合性に連結し得る。したがって、本開示はまた、本明細書中に記載のpMHC複合体のうちの1つまたは複数を含むライブラリーを提供する。
【0212】
本開示の例示的なpMHC複合体ライブラリーは、本明細書中に記載のMAGEA4230~239標的GVYDGREHTV(配列番号1)に関連するオフターゲットペプチドを含む1またはそれを超えるpMHC複合体を含み得る。いくつかの実施形態では、pMHC複合体中に存在するMAGEA4230~239標的GVYDGREHTV(配列番号1)に関連するオフターゲットペプチドは、本明細書中の表1B、2B、および3Bに列挙したものを含む。いくつかの実施形態では、pMHC複合体中に存在するMAGEA4230~239標的GVYDGREHTV(配列番号1)に関連するオフターゲットペプチドは、配列番号2~7、9、11~28、および73~74のうちのいずれかのアミノ酸配列、またはその薬学的に許容され得る塩、もしくはその断片もしくは誘導体を含む。いくつかの実施形態では、pMHC複合体中に存在するMAGEA4230~239標的GVYDGREHTV(配列番号1)に関連するオフターゲットペプチドは、配列番号2~7、9、11~28、および73~74のうちのいずれかのアミノ酸配列から本質的になる。いくつかの実施形態では、pMHC複合体中に存在するMAGEA4230~239標的GVYDGREHTV(配列番号1)に関連するオフターゲットペプチドは、配列番号2~7、9、11~28、および73~74のうちのいずれか1つのアミノ酸配列からなる。
【0213】
本開示の別の例示的なpMHC複合体ライブラリーは、本明細書中に記載のMAGEA4286~294標的KVLEHVVRV(配列番号48)に関連するオフターゲットペプチドを含む1またはそれを超えるpMHC複合体を含み得る。いくつかの実施形態では、pMHC複合体中に存在するMAGEA4286~294標的KVLEHVVRV(配列番号48)に関連するオフターゲットペプチドは、本明細書中の表4Bに列挙したものを含む。いくつかの実施形態では、pMHC複合体中に存在するMAGEA4286~294標的KVLEHVVRV(配列番号48)に関連するオフターゲットペプチドは、配列番号49~72のうちのいずれかのアミノ酸配列、またはその薬学的に許容され得る塩、もしくはその断片もしくは誘導体を含む。いくつかの実施形態では、pMHC複合体中に存在するMAGEA4286~294標的KVLEHVVRV(配列番号48)に関連するオフターゲットペプチドは、配列番号49~72のうちのいずれかのアミノ酸配列から本質的になる。いくつかの実施形態では、pMHC複合体中に存在するMAGEA4286~294標的KVLEHVVRV(配列番号48)に関連するオフターゲットペプチドは、配列番号49~72のうちのいずれか1つのアミノ酸配列からなる。
【0214】
本開示の別の例示的なpMHC複合体ライブラリーは、本明細書中に記載のMAGEA3168~176標的EVDPIGHLY(配列番号29)に関連するオフターゲットペプチドを含む1またはそれを超えるpMHC複合体を含み得る。いくつかの実施形態では、MAGEA3168~176標的EVDPIGHLY(配列番号29)に関連するオフターゲットペプチドは、本明細書中の表5Bに列挙したものを含む。いくつかの実施形態では、pMHC複合体中に存在するMAGEA3168~176標的EVDPIGHLY(配列番号29)に関連するオフターゲットペプチドは、配列番号30~47のうちのいずれかのアミノ酸配列、またはその薬学的に許容され得る塩、もしくはその断片もしくは誘導体を含む。いくつかの実施形態では、pMHC複合体中に存在するMAGEA3168~176標的EVDPIGHLY(配列番号29)に関連するオフターゲットペプチドは、配列番号30~47のうちのいずれかのアミノ酸配列から本質的になる。いくつかの実施形態では、pMHC複合体中に存在するMAGEA3168~176標的EVDPIGHLY(配列番号29)に関連するオフターゲットペプチドは、配列番号30~47のうちのいずれか1つのアミノ酸配列からなる。
【0215】
本開示のなおさらなる例示的なpMHC複合体ライブラリーは、以下から選択されるペプチドを含む1またはそれを超えるpMHC複合体を含み得る:MAGEA4230~239標的GVYDGREHTV(配列番号1)、配列番号2~7、9、11~28、および73~74;MAGEA4286~294標的KVLEHVVRV(配列番号48)、配列番号49~72;MAGEA3168~176標的EVDPIGHLY(配列番号29)、および配列番号30~47、またはこれらの任意の組み合わせ。
【0216】
本開示のpMHC複合体ライブラリーは、要望通りに複数のpMHC複合体のうちの任意の数を含み得る。例えば、本開示のpMHC複合体ライブラリーは、少なくとも2個のpMHC複合体、少なくとも3個のpMHC複合体、少なくとも4個のpMHC複合体、少なくとも5個のpMHC複合体、少なくとも6個のpMHC複合体、少なくとも7個のpMHC複合体、少なくとも8個のpMHC複合体、少なくとも9個のpMHC複合体、少なくとも10個のpMHC複合体、少なくとも20個のpMHC複合体、少なくとも30個のpMHC複合体、少なくとも40個のpMHC複合体、少なくとも50個のpMHC複合体、または約2~5個のpMHC複合体、約2~10個のpMHC複合体、約5~15個のpMHC複合体、約10~20個のpMHC複合体、約10~30個のpMHC複合体、約12~25個のpMHC複合体、約20~30個のpMHC複合体、約25~50個のpMHC複合体、約40~80個のpMHC複合体、約50~100個のpMHC複合体などを含み得る。
【0217】
本明細書中に記載のpMHC複合体で使用されるMHC分子は、天然に存在する全長MHC分子、ならびにMHC分子の個別の鎖(例えば、MHCクラスIα(重)鎖、β2-ミクログロブリン、MHCクラスIIα鎖、およびMHCクラスIIβ鎖)、MHCのかかる鎖の個別のサブユニット(例えば、MHCクラスIα鎖のα1、α2、および/またはα3サブユニット、MHCクラスIIα鎖のα1および/またはα2サブユニット、MHCクラスIIβ鎖のβ1および/またはβ2サブユニット)、ならびにこれらの断片、変異体、および様々な誘導体(融合タンパク質、例えば、ウイルスエンベロープタンパク質またはフソゲンとの融合物を含む)を含み、ここで、かかる断片、変異体、および誘導体は、抗原認識分子による認識のために抗原決定基を表示する能力を保持する。
【0218】
天然に存在するMHC分子は、ヒト第6染色体またはマウス第17染色体上の遺伝子群によってコードされる。また、MHCは、マウスにおいてはH-2と称され、ヒトにおいてはヒト白血球抗原(HLA)と称される。MHCクラスI分子は、細胞傷害性Tリンパ球(CD8+T細胞)上に発現されるCD8分子に特異的に結合するのに対して、MHCクラスII分子は、ヘルパーTリンパ球(CD4+T細胞)上に発現されるCD4分子に特異的に結合する。MHCは、A(例えば、A1~A74)、B(例えば、B1~B77)、C(例えば、C1~C11)、D(例えば、D1~D26)、E、G、DR(例えば、DR1~DR8)、DQ(例えば、DQ1~DQ9)、およびDP(例えば、DP1~DP6)などのHLA特異性を含むが、これらに限定されない。より好ましくは、HLA特異性は、A1、A2、A3、A11、A23、A24、A28、A30、A33、B7、B8、B35、B44、B53、B60、B62、DR1、DR2、DR3、DR4、DR7、DR8、およびDR-11を含む。
【0219】
いくつかの実施形態では、本開示のpMHC複合体中のMHC分子は、ヒト白血球抗原(HLA)分子である。MHC分子は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、およびHLA-Gからなる群から選択されるヒトHLA分子であり得る。いくつかの実施形態では、MHCクラスIまたはMHC IIポリペプチドは、任意の機能的なヒトHLA-A、B、C、DR、またはDQ分子に由来し得る。HLA-A対立遺伝子の非限定的な例は、A*01:01、A*02:01、A*02:02、A*03:01、A*11:01、A*23:01、A*24:02、A*25:01、A*26:01、A*29:01、A*29:02、A*31:01、A*32:01、A*33:01、A*34:01、A*36:01、A*43:01、A*66:01、A*68:01、A*69:01、A*74:01、およびA*80:01を含むが、これらに限定されない。HLA-B対立遺伝子の非限定的な例は、B*07:02.B*08:01、B*13:01、B*14:01、B*14:02、B*15:01、B*18:01、B*18:02、B*27:01、B*27:02、B*35:01、B*35:02、B*37:01、B*38:01、B*39:01、B*40:01、B*41:01、B*42:01、B*44:02、B*45:01、B*46:01、B*47:01、B*48:01、B*49:01、B*50:01、B*51:01、B*52:01、B*53:01、B*54:01、B*55:01、B*55:02、B*56:01、B*57:01、B*58:01、B*59:01、B*67:01、B*73:01、B*15:17、B*81:01、B*82:01、およびB*83:01を含むが、これらに限定されない。HLA-C対立遺伝子の非限定的な例は、Cw*01:01、Cw*02:02、Cw*03:03、Cw*04:01、Cw*05:01、Cw*06:02、Cw*07:01、Cw*07:02、Cw*08:02、Cw*12:03、Cw*14:01、Cw*15:02、Cw*16:01、Cw*17:01.およびCw*18:01を含むが、これらに限定されない。HLA-DR対立遺伝子の非限定的な例は、DRB1*01:01、DRB1*01:03、DRB1*15:01、DRB1*15:02、DRB1*16:01、DRB1*16:02、DRB1*03:01、DRB1*04:01、DRB1*04:04、DRB1*11:01、DRB1*12:01、DRB1*13:01、DRB1*13:02、DRB1*14:01、DRB1*14:02、DRB1*07:01、DRB1*08:01、DRB1*08:02、DRB1*08:03、DRB1*09:01、およびDRB1*10:01を含むが、これらに限定されない。
【0220】
いくつかの実施形態では、MHCクラスI分子は、HLA-A*02、HLA-A*01、HLA-A*03、HLA-A*11、HLA-A*23、HLA-A*24、HLA-B*07、HLA-B*08、HLA-B*40、HLA-B*44、HLA-B*15、HLA-C*04、HLA*C*03、およびHLA-C*07から選択され得る。上記HLA型の対立遺伝子バリアントも存在し、これらの全てが本開示に含まれる。
【0221】
いくつかの実施形態では、MHC分子は、HLA-A*02:01またはHLA-A*01:01であり得る。
【0222】
天然に存在するMHCクラスI分子は、β2-ミクログロブリンに会合したα(重)鎖からなる。重鎖は、サブユニットα1~α3からなる。重鎖のβ2-ミクログロブリンタンパク質およびα3サブユニットは会合している。ある特定の実施形態では、β2-ミクログロブリンおよびα3サブユニットは、共有結合している。ある特定の実施形態では、β2-ミクログロブリンおよびα3サブユニットは、非共有結合している。重鎖のα1およびα2サブユニットが折りたたまれて、TCRによって表示および認識されるペプチドのための溝を形成する。
【0223】
いくつかの実施形態では、本開示のpMHC複合体中に含まれるMHCは、(i)クラスI MHCポリペプチド、またはその断片、変異体、もしくは誘導体、および、必要に応じて、(ii)β2ミクログロブリンポリペプチド、またはその断片、変異体、もしくは誘導体を含む。1つの特異的な実施形態では、クラスI MHCポリペプチドは、ペプチドリンカーによってβ2ミクログロブリンポリペプチドに連結している。
【0224】
本開示のpMHC複合体は、単離形態および/または実質的に純粋な形態であり得る。例えば、前述の複合体は、他のペプチドまたはタンパク質を実質的に含まない形態で提供され得る。本明細書中に開示のMHC分子は、ペプチド結合が保持されることを条件として、組換えMHC分子、天然に存在しないMHC分子、およびMHCの機能的に等価な断片(その誘導体またはバリアントを含む)を含むことができる。例えば、MHC分子を、固体支持体に付着させること、可溶性形態であること、タグに付着させること、ビオチン化形態および/または多量体形態であることが可能である。本明細書中に開示のペプチドを、MHCに共有結合性に付着させ得る。
【0225】
本明細書中に開示のペプチドが複合体を形成することができる可溶性組換えMHC分子を産生する方法は、大腸菌細胞または昆虫細胞からの発現および精製を含むが、これらに限定されない。あるいは、MHC分子を、合成によるか、無細胞系を使用して産生し得る。
【0226】
本明細書中に開示のペプチドを、細胞表面上のMHCとの複合体中に提示し得る。したがって、また、本開示は、細胞であって、その表面上に本明細書中に開示のpMHC複合体を提示する細胞を提供する。かかる細胞は、哺乳動物細胞、好ましくは免疫系の細胞、および専門の抗原提示細胞(APC)(樹状細胞またはB細胞など)であり得る。他の好ましい細胞は、T2細胞を含む。本開示のペプチドまたはpMHC複合体を提示する細胞を、好ましくは均一な集団の形態で単離し得るか、実質的に純粋な形態で提供し得る。かかる細胞は、本開示のpMHC複合体が天然に提示しないかもしれないか、あるいは、前述の細胞は、天然で考えられるよりも高いレベルでpMHC複合体を提示し得る。かかる細胞を、前述の細胞を1またはそれを超える本開示のペプチド(例えば、2~10、2~20、2~30、5~25、5~20、または10~15個のペプチド)でパルスするか、1またはそれを超える本開示のペプチド(例えば、2~10、2~20、2~30、5~25、5~20、または10~15個のペプチド)を発現するように前述の細胞を(DNAまたはRNAの移入によって)遺伝子改変することによって得てよい。パルシングは、典型的には10-5から10-12Mまでの範囲のペプチド濃度を使用して、細胞をペプチドと数時間インキュベートする工程を含む。かかる細胞をHLA分子(HLA-A*02など)でさらに形質導入して、ペプチドの提示をさらに誘導し得る。細胞を、組換えによって産生し得る。本開示のペプチドを提示する細胞を使用して、細胞に結合することができる抗原結合分子(例えば、抗体、T細胞、TCR、およびCAR)を単離し得る。
【0227】
本明細書中に開示のペプチドまたはpMHC複合体を、1またはそれを超える異種分子に融合または抱合し得る。また、本明細書中に開示のペプチドまたはpMHC複合体は、多量体の形態であり得る。したがって、本開示はまた、本開示のペプチドまたはpMHC複合体を含む融合タンパク質、抱合体、およびオリゴマー複合体を提供する。
【0228】
いくつかの実施形態では、ペプチドは、MHC分子(またはその断片)を含むことができる1またはそれを超える異種分子に融合または抱合されている。
【0229】
本開示のペプチドまたはpMHC複合体との遺伝的融合および/または化学的抱合に好適な異種分子は、ペプチド、ポリペプチド、小分子、ポリマー、核酸、脂質、糖などを含むが、これらに限定されない。異種分子を、pMHC複合体中のペプチドおよび/または別のポリペプチド鎖のN末端および/またはC末端に融合し得る。
【0230】
異種のペプチドおよびポリペプチドは、融合タンパク質の検出および/または単離を可能にするためのエピトープ(例えば、FLAG)またはtag配列(例えば、His6など);膜貫通受容体タンパク質またはその一部(細胞外ドメインまたは膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインなど);膜貫通受容体タンパク質に結合するリガンドまたはその一部;触媒として活性な酵素またはその一部;オリゴマー化を促進するポリペプチドまたはペプチド(ロイシンジッパードメインなど);安定性を増大させるポリペプチドまたはペプチド(免疫グロブリン定常領域(例えば、Fcドメイン)など);融合タンパク質のための優位に親水性であるか、優位に疎水性の融合パートナーを形成するようにデザインされた2またはそれを超える(例えば、2、5、10、15、20、25など)天然に存在するまたは天然に存在しない荷電および/または非荷電アミノ酸(例えば、Ser、Gly、Glu、またはAsp)の組み合わせを含む半減期延長配列;機能的または非機能的な抗体(例えば、樹状細胞に特異的な抗体)、またはその重鎖もしくは軽鎖;および本開示の融合タンパク質と異なる活性を有するポリペプチドを含むが、これらに限定されない。
【0231】
いくつかの実施形態では、本開示の融合タンパク質は、例えば、別の分子の親和性精製またはカップリングを可能にするための1またはそれを超える親和性タグを含み得る。親和性タグの例は、His6タグ、Avi-タグ、ビオチン、血球凝集素(HA)タグ、FLAGタグ、Mycタグ、GSTタグ、MBPタグ、キチン結合タンパク質タグ、カルモジュリンタグ、V5タグ、ストレプトアビジン結合タグ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、YFP、RFP、CFP、mCherry、tdTomato、SUMOタグ、およびユビキチンタグを含むが、これらに限定されない。
【0232】
本開示のペプチドまたはpMHC複合体を、可溶性形態で提供し得るか、好適な固体支持体への付着によって固定し得る。固体支持体の例は、ビーズ、膜、セファロース、磁性ビーズ、プレート、チューブ、カラムを含むが、これらに限定されない。pMHC複合体を、ELISAプレート、磁性ビーズ、または表面プラズモン共鳴バイオセンサーチップに付着させ得る。固体支持体にペプチドまたはpMHC複合体を付着させる方法は、当業者に公知であり、例えば、親和性結合対(例えば、ビオチンおよびストレプトアビジン、または抗体および抗原)の使用を含む。いくつかの実施形態では、ペプチドまたはpMHC複合体は、ビオチンで標識され、ストレプトアビジンをコーティングした表面に付着されている。
【0233】
別の態様では、本開示は、1またはそれを超える本開示のペプチドおよび/またはペプチドベースの分子(記載のペプチドを含む複合体(例えば、pMHC複合体)、融合タンパク質、または抱合体など)をコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドを提供する。ポリヌクレオチドは、例えば、DNA、cDNA、PNA、RNA、もしくはこれらの組み合わせ(一本鎖および/または二本鎖のいずれか)、または未変性または安定化形態のポリヌクレオチド(例えば、ホスホロチオアートバックボーンを有するポリヌクレオチドなど)であってよく、ペプチドをコードする限り、イントロンを含んでも含まなくてもよい。
【0234】
いくつかの実施形態では、本明細書中に記載のポリヌクレオチドは、配列番号1~7、9、および11~74、またはその断片もしくは誘導体のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を含むペプチドをコードする。いくつかの実施形態では、本明細書中に記載のポリヌクレオチドは、配列番号1~7、9、および11~74、またはその断片もしくは誘導体のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を含むペプチドをコードする。
【0235】
さらなる態様では、本開示は、本開示の核酸配列を含むベクターを提供する。ベクターは、本開示のペプチドのみをコードする核酸配列に加えて、1またはそれを超える、1またはそれを超えるさらなるペプチドをコードするさらなる核酸配列を含み得る。かかるさらなるペプチドは、発現された時点で、本開示のペプチドのN末端またはC末端に融合され得る。かかるさらなるペプチドの例は、上記の節に詳述されている。1つの実施形態では、ベクターは、ペプチドまたはタンパク質のタグ(例えば、ビオチン化部位、FLAG-タグ、MYC-タグ、HA-タグ、GST-タグ、Strep-タグ、またはポリ-ヒスチジンタグなど)をコードする核酸配列を含む。
【0236】
本明細書中で同定されたオフターゲットペプチドは、オフターゲット効果が最小の分子について治療分子を評価および/またはスクリーニングするために使用され得る。かかる治療分子は、抗原認識分子(T細胞受容体(TCR)、キメラ抗原受容体(CAR)、抗体、またはその抗原結合断片など)を含むことができる。本開示の様々な実施形態では、抗原認識分子は、溶液中に存在する。本開示の様々な実施形態では、抗原認識分子は、細胞(例えば、T細胞、B細胞、またはハイブリドーマ)上に存在する。
【0237】
1つの態様では、本開示は、抗原認識分子のオフターゲット効果を査定するin vitro法を提供し、前述の方法は、(a)前述の抗原認識分子を、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-標的ペプチド複合体)中に提示された標的ペプチドと接触させる工程;(b)前述の抗原認識分子を、前述の標的ペプチドに関連する1またはそれを超えるオフターゲットペプチドと接触させる工程であって、前述のオフターゲットペプチドの各々が、(a)と同一のMHC分子との複合体(MHC-オフターゲットペプチド複合体)中に提示される、接触させる工程;および(c)MHC-標的ペプチド複合体および前述のMHC-オフターゲットペプチド複合体の各々への抗原認識分子の結合レベルを決定および比較する工程を含む。
【0238】
1つの態様では、本開示は、抗原認識分子のオフターゲット効果を査定するin vitro法であって、a)前述の抗原認識分子を、前述の抗原認識分子によって認識される標的ペプチドに関連する1またはそれを超えるオフターゲットペプチドと接触させる工程であって、前述のオフターゲットペプチドの各々が、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-オフターゲットペプチド複合体)中に提示される、接触させる工程;およびb)前述のMHC-オフターゲットペプチド複合体の各々への前述の抗原認識分子の結合レベルを決定する工程を含む、方法を提供する。
【0239】
上記のin vitro法のいくつかの実施形態では、結合レベルを、MHC-ペプチド複合体への抗原認識分子の結合量を検出することによって決定する。例えば、MHCペプチド複合体への抗原認識分子の結合に相関する信号のS:N比(実施例2の表7に示したものなど)が少なくとも約2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、または5.0である場合、抗原認識分子は、MHCペプチド複合体への検出可能な結合を示すと判断され得る。抗原認識分子が1またはそれを超えるMHC-オフターゲットペプチド複合体に特異的に結合する場合、抗原認識分子はオフターゲット効果を示し得る。いくつかの特定の実施形態では、少なくとも約3のS:N比は、検出可能な結合を示す。いくつかの実施形態では、結合親和性を決定し得る。結合親和性を、結合反応の平衡解離定数(KD)の測定によって決定し得る。あるいは、結合親和性を、他の方法を使用して特徴づけ得る。
【0240】
いくつかの実施形態では、in vitro法は、抗原認識分子が少なくとも1つのMHC-オフターゲットペプチド複合体に検出可能に結合する場合、前述の抗原認識分子はオフターゲット効果を有する可能性が高いと決定する工程であって、ここで、前述のオフターゲットペプチドが必須の正常組織中に発現される、決定する工程を含む。
【0241】
別の態様では、本開示は、最小のオフターゲット効果で標的pMHC複合体に結合する抗原認識分子を選択する方法を提供する。かかる方法は、(a)複数の抗原認識分子を、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-標的ペプチド複合体)中に提示された標的ペプチドと接触させる工程;(b)前述の同一の複数の抗原認識分子を、前述の標的ペプチドに関連する1またはそれを超えるオフターゲットペプチドと接触させる工程であって、前述のオフターゲットペプチドの各々が、(a)と同一のMHC分子との複合体(MHC-オフターゲットペプチド複合体)中に提示される、接触させる工程;c)前述の抗原認識分子の各々によって検出可能に結合されたMHC-オフターゲットペプチド複合体の数に少なくとも一部基づいて1またはそれを超える抗原認識分子を選択する工程;およびd)必要に応じて、選択した抗原認識分子を使用して工程(a)~(c)を繰り返す工程を含むことができる。
【0242】
いくつかの実施形態では、方法は、最少のMHC-オフターゲットペプチド複合体に結合する抗原認識分子を選択する工程を含む。いくつかの実施形態では、選択された抗原認識分子は、5以下(例えば、4以下、3以下、2以下、または1以下)のMHC-オフターゲットペプチド複合体に検出可能に結合し、ここで、前述のオフターゲットペプチドが必須の正常組織中に発現される。
【0243】
いくつかの実施形態では、選択された抗原認識分子は、いかなるMHC-オフターゲットペプチド複合体にも検出可能に結合せず、ここで、前述のオフターゲットペプチドが必須の正常組織中に発現される。
【0244】
いくつかの実施形態では、いくつかの選択された抗原認識分子が少なくとも1つのMHC-オフターゲットペプチド複合体に結合する場合、方法は、抗原認識分子の、MHC-標的ペプチド複合体への結合レベルとMHC-オフターゲットペプチド複合体への結合レベルとを比較する工程も含み得る。抗原認識分子は、MHC-オフターゲットペプチド複合体よりも強力にMHC-標的ペプチド複合体に結合する可能性が高いかもしれない。例えば、抗原認識分子は、MHC-標的ペプチド複合体に、MHC-オフターゲットペプチド複合体より約1000倍、約500倍、約200倍、約100倍、約90倍、約80倍、約70倍、約60倍、約50倍、約40倍、約30倍、約20倍、または約10倍強力に結合し得る。方法は、1またはそれを超えるオフターゲットペプチドについてのMHC-標的ペプチド複合体/MHC-オフターゲットペプチド複合体結合比に少なくとも一部基づいて抗原認識分子を選択する工程をさらに含んでよく、ここで、より高いMHC-標的ペプチド複合体/MHC-オフターゲットペプチド複合体結合比がより望ましい。
【0245】
いくつかの実施形態では、抗原認識分子の選択は、MHC-標的ペプチド複合体への複数の抗原認識分子の結合レベルを考慮する場合があり、ここで、MHC-標的ペプチド複合体への結合が強力であればあるほど望ましい。したがって、方法は、MHC-標的ペプチド複合体への結合レベルに少なくとも一部基づいて抗原認識分子を選択する工程を含み得る。
【0246】
いくつかの実施形態では、選択された抗原認識分子は、MHC-標的ペプチド複合体に加えて、少なくとも1つの潜在的な二次標的ペプチドに結合する。
【0247】
pMHC複合体への結合を決定する方法は、例えば、表面プラズモン共鳴(例えば、BIACORE(商標))、または任意の他のバイオセンサー技術、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ELISpot、発光アッセイ、フローサイトメトリー、クロマトグラフィー、または顕微鏡法を含む。あるいは、またはさらに、生物学的応答(例えば、サイトカイン放出または細胞アポトーシス)が結合の際に検出される機能アッセイによって結合を決定し得る。
【0248】
例えば、抗体およびTCRを、本開示のpMHC複合体を使用してライブラリーをパニングするディスプレイライブラリーから得てもよい。TCRを、ファージ粒子および酵母粒子の表面上にディスプレイすることができ、例えば、かかるライブラリーは、T細胞クローン由来のTCRの高親和性バリアントの単離のために使用されている。TCRファージライブラリーを使用して、新規の抗原特異性を有するTCRを単離することができる。かかるライブラリーを、天然のレパートリーで見出されるα-鎖およびβ-鎖の配列に対応するα-鎖およびβ-鎖の配列を使用して構築することができる。しかしながら、ライブラリー作出中に生じるこれらのα-鎖およびβ-鎖の配列の無作為な組み合わせは、天然に存在しないかもしれないTCRのレパートリーを産生し得る。
【0249】
いくつかの実施形態では、本開示のpMHC複合体を使用して、ファージ粒子の表面上にディスプレイされた多様なTCRのライブラリーをスクリーニングし得る。前述のライブラリーによってディスプレイされたTCRは、天然のレパートリー中に含まれるものに対応しなくてよく、例えば、TCRは、in vivoで存在しないと考えられるα-鎖およびβ-鎖対合を含んでよく、そして/あるいはTCRは、非天然の変異を含んでよく、そして/あるいはTCRは、可溶性形態であってよい。スクリーニングは、本開示のpMHC複合体でのファージライブラリーのパニングおよびその後の結合したファージ粒子の単離を含み得る。この目的のために、pMHC複合体は、固体支持体(磁性ビーズ、またはカラムマトリックスなど)に付着させ、単離されたファージ結合pMHC複合体を、磁石を用いるか、クロマトグラフィーによってそれぞれ単離し得る。パニング工程を数回繰り返し得る。単離されたファージを、大腸菌細胞中でさらに拡大し得る。単離されたファージ粒子を、本開示のpMHC複合体への特異的結合について試験し得る。結合を、本明細書中に記載の技術(ELISA、または例えばBIACORE(商標)装置を使用したSPRなどであるが、これらに限定されない)を使用して検出することができる。pMHC結合ファージによってディスプレイされたT細胞受容体のDNA配列を、PCR法によってさらに同定することができる。
【0250】
あるいは、抗原結合T細胞およびTCRを、患者または健常ドナーから得た新鮮血から単離することができる。かかる方法は、自己樹状細胞(DC)、その後に自己B細胞を使用してT細胞を刺激し、次いで、本明細書中に開示の標的/オフターゲットペプチドを使用してパルスする工程を含む。数ラウンド(例えば、3または4ラウンド)の刺激を行ってよい。次いで、活性化されたT細胞を、(例えば、IFNγELISpotアッセイを使用して)本開示の標的/オフターゲットペプチドでパルスしたT2細胞の存在下でサイトカイン放出を測定することによって標的/オフターゲットペプチドの認識について試験し得る。次いで、活性化された細胞を、標識された抗体を使用した蛍光標示式細胞分取(FACS)によって選別して、細胞内サイトカイン産生(例えば、IFNγ)または細胞表面マーカー(CD137など)の発現を検出し得る。選別された細胞を拡大し、例えば、標的細胞に対するELISpotアッセイおよび/もしくは細胞傷害性ならびに/またはペプチド-MHC四量体による染色によってさらに確証し得る。次いで、確証されたクローン由来のTCR鎖を、迅速なcDNA末端増幅(RACE)によって増幅し、配列決定し得る。標的抗原に特異的なTCRの例示的な単離および確証方法は、Moore et al.,Sci.Immunol.6,eabj4026(2021)(その全体が本明細書中で参考として援用される)に記載されている。
【0251】
また、TCRスクリーニングを、TCR活性化アッセイを使用して行うことができる。例えば、JRT3-T3.5細胞(ATCC TIB-153)(内因性TCR表面発現を欠くJurkat亜系統)を、Moore et al.,Sci.Immunol.6,eabj4026(2021)(その全体が本明細書中で参考として援用される)に記載のように利用し得る。目的のT細胞受容体アルファ(TCRA)配列およびT細胞受容体ベータ(TCRB)配列を、レンチウイルス形質導入によって細胞中に導入することができ、表面TCR+細胞を選別することができる。標的ペプチドまたはオフターゲットペプチドでパルスした抗原提示細胞(例えば、293T細胞)を、TCR形質導入細胞または親JRT3細胞とインキュベートすることができる。次いで、リードアウト(例えば、ルシフェラーゼ活性)を、TCR媒介活性化の表示として測定する。
【0252】
いくつかの実施形態では、モノクローナル抗体スクリーニングを、ハイブリドーマおよびB細胞選別(BST)プラットフォームを使用して至適力価を有するマウスから採取した脾臓およびリンパ系組織から単離した細胞を用いて行うことができる。1またはそれを超えるオフターゲットペプチドを用いたカウンタースクリーニングアプローチは、標的化複合体に類似するpHLA複合体を形成するペプチドと交差反応性を示すB細胞およびハイブリドーマを同定および排除するのに役立ち得る。例えば、オフターゲットペプチドに対する交差反応性を有する抗原陽性(Ag+)クローンを、細胞結合アッセイを使用して標的ペプチドまたはオフターゲットペプチドでパルスした細胞(例えば、T2細胞)への抗体結合について細胞上清を試験することによって同定することができる。別の例として、Ag+B細胞を、高濃度の1またはそれを超える非標識のHLA-オフターゲットペプチド複合体の存在下でビオチン標識したHLA-標的ペプチド複合体を使用して捕捉して、HLA-標的ペプチド複合体に特異的な抗体を富化することができる。Ag+B細胞の抗体可変ドメインを、その後に全長mAbとしてクローン化し、さらなるスクリーニングのために(例えば、CHO細胞中で)発現させることができる。
【0253】
標的/オフターゲットペプチドに結合する抗体を、ELISAを使用して決定することができる。例えば、MHC-標的ペプチド複合体またはMHC-オフターゲットペプチド複合体を、プレート(例えば、96-ウェルマイクロタイタープレート)上にコーティングすることができる。試験抗体を含む試料をプレートに添加することができ、反応物を、結合する条件下でインキュベートすることができる。次いで、プレートを洗浄し、次いで、二次抗体をプレートに添加して、MHC-ペプチド複合体に結合した抗体を検出することができる。典型的には、二次抗体は、MHC-ペプチド複合体への抗体の結合量を示すシグナルを産生することができる。
【0254】
本明細書中に記載の方法の様々な実施形態では、pMHC複合体を可溶性形態で提供し得るか、好適な固体支持体への付着によって固定し得る。固体支持体の例は、ビーズ、膜、セファロース、磁性ビーズ、プレート、チューブ、カラムを含むが、これらに限定されない。pMHC複合体を、ELISAプレート、磁性ビーズ、または表面プラズモン共鳴バイオセンサーチップに付着させ得る。固体支持体にpMHC複合体を付着させる方法は、当業者に公知であり、例えば、親和性結合対(例えば、ビオチンおよびストレプトアビジン、または抗体および抗原)の使用を含む。いくつかの実施形態では、pMHC複合体をビオチンで標識し、ストレプトアビジンをコーティングした表面に付着させる。
【0255】
本明細書中に記載の方法の様々な実施形態では、pMHC複合体は、細胞上に存在し得る。かかる細胞は、哺乳動物細胞、好ましくは免疫系の細胞、および専門の抗原提示細胞(APC)(樹状細胞またはB細胞など)であり得る。他の好ましい細胞は、T2細胞を含む。本開示のペプチドまたはpMHC複合体を提示する細胞を、好ましくは均一な集団の形態で単離し得るか、実質的に純粋な形態で提供し得る。かかる細胞を、前述の細胞を1またはそれを超える本開示のペプチド(例えば、2~10、2~20、2~30、5~25、5~20、または10~15個のペプチド)でパルスするか、1またはそれを超える本開示のペプチド(例えば、2~10、2~20、2~30、5~25、5~20、または10~15個のペプチド)を発現するように前述の細胞を(DNAまたはRNAの移入によって)遺伝子改変することによって得てよい。パルシングは、典型的には10-5から10-12Mまでの範囲のペプチド濃度を使用して、細胞をペプチドと数時間インキュベートする工程を含む。かかる細胞をHLA分子(HLA-A*02など)でさらに形質導入して、ペプチドの提示をさらに誘導し得る。細胞を、組換えによって産生し得る。
【0256】
本明細書中に記載の方法の様々な実施形態では、方法を、ハイスループット形式(例えば、96ウェルプレート)で行う。
【0257】
さらに別の態様では、標的ペプチドに特異的に結合する抗原認識分子で試料を富化する方法であって、(a)前述の標的ペプチドと関連する1またはそれを超えるオフターゲットペプチドの存在下で、複数の抗原認識分子を含む試料を前述の標的ペプチドと接触させる工程であって、前述の標的ペプチドおよび前述の1またはそれを超えるオフターゲットペプチドの各々が、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子との複合体(MHC-標的ペプチド複合体またはMHC-オフターゲットペプチド複合体)中に提示される、接触させる工程;および(b)前述のMHC-標的ペプチド複合体に結合された前述の抗原認識分子を単離することによって前述の試料を富化する工程を含む、方法を本明細書中に提供する。方法は、工程(a)~(b)を繰り返して試料をさらに富化する工程をさらに含み得る。
【0258】
MHC-標的ペプチド複合体に結合した抗原認識分子を単離することができる様々な方法が存在する。例えば、MHC-標的ペプチド複合体が抗原提示細胞上に存在し得る一方で、MHC-オフターゲットペプチド複合体は抗原提示細胞上に存在しない(例えば、可溶形態)。あるいは、MHC-標的ペプチド複合体が固体支持体上に固定され得る一方で、MHC-オフターゲットペプチド複合体は可溶性であり得るか、異なる固体支持体に固定され得る。また、MHC-標的ペプチド複合体およびMHC-オフターゲットペプチド複合体は、MHC-標的ペプチド複合体および前述の複合体に結合した抗原認識分子を特異的に検出および単離することができるように、差分的に標識され得る。抗原認識分子は、単離後にMHC-標的ペプチド複合体から溶離され得る。
【0259】
開示のテクノロジーのある特定の実施形態および実装を、開示のテクノロジーの例示的な実施形態または実装に従ったシステムおよび方法および/またはコンピュータプログラム製品のブロック図および流れ図を参照して上に記載している。ブロック図および流れ図の1またはそれを超えるブロック、ならびにブロック図および流れ図中のブロックの組み合わせを、それぞれ、コンピュータ実行可能プログラムの命令によって実装することができると理解されるであろう。同様に、ブロック図および流れ図のいくつかのブロックは、必ずしも示した順序で実施する必要はないかもしれないか、反復してよいか、開示のテクノロジーのいくつかの実施形態または実装に従って必ずしも実施する必要は全く無いかもしれない。
【0260】
コンピュータ、プロセッサ、または他のプログラマブルデータ処理装置上で実行する命令が流れ図のブロック中に指定された1またはそれを超える機能の実装手段を作出するように、これらのコンピュータ実行可能プログラムの命令を、特定のマシンを製造するために汎用コンピュータ、専用コンピュータ、プロセッサ、または他のプログラマブルデータ処理装置上にロードし得る。また、コンピュータ可読メモリ中に記憶された命令が流れ図のブロック中に指定された1またはそれを超える機能を実装する命令手段を含む製品を製造するように、これらのコンピュータプログラムの命令を、コンピュータまたは他のプログラマブルデータ処理装置に特定の様式で機能するように指示することができるコンピュータ可読メモリ中に記憶し得る。
【0261】
例として、開示のテクノロジーの実施形態または実装は、具現化されるコンピュータ可読プログラムコードまたはプログラム命令を有するコンピュータ使用可能媒体を含むコンピュータプログラム製品であって、前述のコンピュータ可読プログラムコードは、流れ図のブロックで指定された1またはそれを超える機能の実装が実行されるように適合されている、コンピュータプログラム製品を提供し得る。同様に、コンピュータまたは他のプログラマブル装置上で実行する指示が流れ図のブロック中に指定された機能を実装するための要素または工程を提供するように、コンピュータプログラム命令を、一連の操作要素または工程がコンピュータまたは他のプログラマブル装置上で実行されるようにコンピュータまたは他のプログラマブルデータ処理装置にロードして、コンピュータでプロセスを実行し得る。
【0262】
したがって、ブロック図および流れ図のブロックは、指定の機能の実施のための手段の組み合わせ、指定の機能の実施のための要素または工程の組み合わせ、および指定の機能の実施のためのプログラム命令手段を支持している。ブロック図および流れ図の各々のブロック、ならびにブロック図および流れ図中のブロックの組み合わせを、指定の機能、要素、もしくは工程を実施する特殊目的のハードウェアベースのコンピュータシステム、または特殊目的のハードウェアとコンピュータ命令の組み合わせによって実装することができるとも理解されるであろう。
【0263】
開示のテクノロジーのある特定の実装を、携帯型算出デバイスを含み得るカスタマーデバイスを参照して上に記載している。当業者は、携帯型デバイスにはいくつかのカテゴリーが存在し、このデバイスはポータブル算出デバイスとして一般に知られており、バッテリーで駆動することができるが、通常はラップトップに分類されないことを認識するであろう。例えば、携帯型デバイスは、ポータブルコンピュータ、タブレットPC、インターネットタブレット、PDA、ウルトラモバイルPC(UMPC)、ウェアラブルデバイス、およびスマートフォンを含むことができるが、これらに限定されない。さらに、開示のテクノロジーの実装を、インターネット・オブ・シングズ(IoT)デバイス、スマートテレビおよびメディアデバイス、家電、自動車、玩具、ならびに音声コマンドデバイスを使用して、これらのデバイスと連動する周辺機器と共に利用することができる。
【0264】
本開示のある特定の実施形態を現時点で最も実用的で様々な実施形態と見なされる事項と合わせて記載しているが、本開示が開示の実施形態に制限されず、それどころか、添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれる様々な修正形態および等価な配置を対象にすることが意図されると理解すべきである。本明細書中で特定の用語を使用しているが、これらの用語は、一般的および説明的な意味で使用されており、本発明を制限する目的はない。
【0265】
本明細書は、テクノロジーのある特定の実施形態を開示し、また、当業者がこのテクノロジーのある特定の実施形態を実施する(任意の装置またはシステムの作製および使用ならびに任意の組み入れられた方法の実施を含む)ことができるようにするために例を使用する。テクノロジーのある特定の実施形態の特許性のある範囲を、特許請求の範囲に定義し、この範囲は、当業者が想起する他の例を含み得る。かかる他の例は、特許請求の範囲の文言と異ならない構造要素を有する場合、または特許請求の範囲の文言と実質的に異ならない等価な構造要素を含む場合、特許請求の範囲の範囲内にあることが意図される。
【実施例】
【0266】
実施例
以下の実施例を、本明細書中に開示の実施形態のうちのいくつかをさらに説明するために提供する。実施例は、開示の実施形態を制限するのではなく、例示することを意図する。
実施例1.標的ペプチド-HLA(PHLA)複合体に関連するオフターゲットを予測するためのグルーブ類似性予測におけるペプチド(PIGSPRED)の開発
【0267】
癌細胞上に特異的に発現されるペプチド-HLA(pHLA)複合体は、抗体ベースまたは細胞ベースの治療アプローチを使用して癌細胞を破壊するための固有の標的セットを提示する。しかしながら、オフターゲット毒性を回避するためにこれらのpHLA複合体に関連する潜在的なオフターゲットを考慮することが重要である。これらの標的の発現は癌細胞に特異的なはずであるが、以下の別のオフターゲットセットが存在することが明らかとなりつつある:標的pHLAに高度に類似するpHLA複合体(Cameron BJ et al.,Sci Transl Med.2013;Linette GP et al.,Blood.2013)。pHLAとその同族治療分子との間の相互作用の三次元特性が、pHLA複合体の類似性の解明を困難にしている。しかしながら、報告されているほとんどのオフターゲット毒性は、標的pHLAと同一のHLAを共有し、かつ標的pHLA中のペプチド配列に類似の/相同なペプチドも含むオフターゲットに起因していた。本実施例は、かかるオフターゲットの予測で有用なPIGSPRED(グルーブ類似性予測におけるペプチド)と呼ばれる方法の開発を記載する。目的の標的pHLAを同定した後に、PIGSPREDは、標的に関連するオフターゲットを予測し、この方法は、標的選択工程での標的に関連するリスクの評価、および高度に特異的なT細胞受容体(TCR)または抗体(Ab)のスクリーンングで役立った。標的pHLAの入力後、PIGSPRED法を、以下の多工程様式で操作した。
1.TCR(T細胞受容体)または抗体の結合に重要なペプチドの位置の同定
【0268】
標的ペプチドに対するペプチドの類似性/相同性を評価するとき、TCR/抗体との結合相互作用に関与し得るペプチドの位置での類似性を評価することが必要である。これらの重要な位置を、典型的には結晶学または低温電子顕微鏡法(cryoEM)技術を使用して導かれたTCR/抗体との複合体中のpHLAの実験的構造を分析することによって確認することができる。かかる構造を得るのが困難なだけでなく、最初の標的選択段階で、標的に関連する潜在的なリスクを評価する場合、標的に対するTCR/抗体が利用できない。この課題に取り組むために、機械学習モデル(Jurtz V et al.,J Immunol.2017)を使用してHLAに対するペプチドの結合親和性を予測することができるNetMHCpanと呼ばれる市販のツールを使用したコンピュータによる変異誘発アルゴリズムを実装した。最初に、HLAに対するペプチドの結合親和性を予測した。次いで、ペプチド中の各々の位置のアミノ酸をグリシンアミノ酸に繰り返し変異し、その後に変異したペプチドの親和性を予測した。HLAに対する結合親和性が喪失しなかった位置は、HLA結合に関与する可能性が低く、それ故に、TCR/抗体と自由に相互作用したので、この位置にさらに考慮するためのフラグを立てた。これらの自由な位置のうちで、非グリシンアミノ酸を含むものを、TCR/抗体結合に重要な位置と同定した。上記のように、TCR/抗体との複合体中のpHLAの構造を利用できる場合、TCR/抗体相互作用に関与するペプチド配列中の結合モチーフを得ることができた。
2.類似のペプチドの同定
【0269】
標準的なヒトタンパク質配列を、UniprotKBから入手し、標的ペプチドと同一の長さであり、3またはそれを超える重要なアミノ酸の位置が標的ペプチドと同一である類似のペプチドを同定した。類似のペプチドを、標的ペプチド配列中の実験由来の結合モチーフに基づいてさらに同定した。これらの類似のペプチドが潜在的なオフターゲットである場合、前述のペプチドは、標的pHLA中のHLAに結合することができなければならないであろう。したがって、NetMHCpanを使用して、HLAに対する各々の類似のペプチドの結合親和性を予測し、結合することが予測されなかったペプチドをデータベースから破棄した。類似のペプチドは、標的ペプチドとタンパク質の供給源が異なるが、標的ペプチドと同一であり得る。
3.発現の分析
【0270】
類似のペプチドを同定した時点で、所与の標的に関連するリスクの過大評価を回避するために、前述のペプチドが潜在的にオフターゲット効果を生じ得ることを確立する必要があった。したがって、必須の正常組織または必須の細胞型中のペプチドの発現を確認した。この目的のために、遺伝子組織発現データベースまたはGTEx(gtexportal.org/home/)に問い合わせた。GTExデータベースバージョン6は、ゲノムビルドGRCh38に基づいており、549人の健常ドナー由来の51の組織型にわたる遺伝子発現データを含む。必須と見なされる組織型(換言すれば、非必須組織(例えば、乳房、卵巣、精巣など)と異なり、患者の生命を助けるために犠牲にすることができない組織)のみにおける遺伝子発現値を問い合わせた。各々の遺伝子について、各々の必須組織型における95パーセンタイルの発現値を計算し、その後に全て必須組織型にわたる前述の値の最大値を計算した。遺伝子の最大発現値が0.5トランスクリプツ・パー・ミリコン(TPM)を超えた場合、前述の遺伝子に由来する任意の類似のペプチドが潜在的なオフターゲットであると仮定した。
4.最後の出力
【0271】
全ての潜在的なオフターゲットが同定された時点で、各々のオフターゲットペプチドについての類似度(DoS)スコアを計算して、オフターゲットと標的ペプチドとの間の相同性を定量した。DoSは、ペプチド間の同一の位置またはハミング距離での同一アミノ酸数を表す。DoSスコアが決定された時点で、異なるしきい値でのオフターゲット数を算出して異なる標的に関連するオフターゲット毒性の見込みを比較した。本実施例で生成したイムノペプチドミクスデータを使用して、質量分析実験で認められたオフターゲットペプチドに注釈をつけ、それにより、潜在的なオフターゲットについてのさらなる証拠が提供された。
HLA-A2ペプチドに関連する潜在的なオフターゲットの同定
以下の第1のMAGEA4標的ペプチドに関連する潜在的なオフターゲットの同定:GVYDGREHTV(配列番号1)
【0272】
表1A~3Cは、工程102でMAGEA4230~239標的GVYDGREHTV(配列番号1)-HLA-A*02:01を入力するPIGSPRED法の適用結果を示す。
【0273】
表1Aは、異なるDoSしきい値でMAGEA4
230~239標的GVYDGREHTV(配列番号1)-HLA-A
*02:01に関連する潜在的なハイリスクオフターゲットペプチドの数を含む。コンピュータによって同定された潜在的なハイリスクオフターゲットペプチドの数を提供する。重要な位置は、工程104でコンピュータによって4位および6~9位であると予測された。また、表は、イムノペプチドミクス質量分析データにおいても同定されたコンピュータによって予測された潜在的なハイリスクオフターゲットペプチドの数を提供する。
表1A:
【表1A】
【0274】
表1Bは、6またはそれを超えるDoSでのMAGEA4
230~239標的GVYDGREHTV(配列番号1)-HLA-A
*02:01に関連する潜在的なオフターゲットを含む。各々のオフターゲットの予測された結合親和性を、半数阻害濃度(IC
50)値および結合親和性パーセンタイル順位値(NetMHCpanにおける%Rank_BA)によって示す。各々のオフターゲット遺伝子について最高に発現した正常組織中のmRNAレベル(GTEx由来のTMP)を提供し、上位3つの高発現正常組織も提供する。マウスで見出されたペプチドは、マウスにおける抗原認識分子結合研究(例えば、スクリーニング)の実施に有用であり得る。潜在的なオフターゲット(1)GLADGRTHTV(配列番号2)が質量分析実験で検出された一方で、表中の他の潜在的なオフターゲットは検出されなかった。MAGEA8遺伝子由来の潜在的なオフターゲットペプチドGLYDGREHSV(配列番号73、DoS=8)(TPM=0.4、マウスで発現されなかった)およびMAGEA10遺伝子由来の潜在的なオフターゲットペプチドGLYDGMEHLI(配列番号74、DoS=6)(TPM=0.1、マウスで発現されなかった)を、必須正常組織中での発現レベルが低かったので、表1B中の潜在的なオフターゲットペプチドのリストからフィルタリングした。しかしながら、MAGEA8およびMAGEA10の両方が、癌免疫療法への適用における標的化に有用であり得る癌/精巣(CT)抗原であるので、かかる潜在的な二次標的を含む別の作業リストを調製し得、さらなる試験(例えば、抗原認識分子スクリーニング)を必要に応じて1またはそれを超えるかかる潜在的な二次標的に対して実施して、前述のペプチドとの交差反応性が有益な治療効果を提供することができるかどうかを査定し得る。
表1B:
【表1B-1】
【表1B-2】
【0275】
表2Aは、異なるDoSしきい値でMAGEA4
230~239標的GVYDGREHTV(配列番号1)-HLA-A
*02:01に関連する潜在的なオフターゲットの数を含む。実験によって導かれた結合モチーフXXXDXREXXX(配列番号8)を使用した(ここで、Xは任意のアミノ酸を表す)。
表2A:
【表2A】
【0276】
表2Bは、DoS>=3でのMAGEA4
230~239標的GVYDGREHTV(配列番号1)-HLA-A
*02:01に関連する潜在的なオフターゲットを含む。実験によって導かれた結合モチーフXXXDXREXXX(配列番号8)を使用した(ここで、Xは任意のアミノ酸を表す)。潜在的なオフターゲット(9)ALVDQRELYL(配列番号9)が質量分析実験で検出された一方で、表中の他の潜在的なオフターゲットは検出されなかった。
表2B:
【表2B】
【0277】
表3Aは、異なるDoSしきい値でMAGEA4
230~239標的GVYDGREHTV(配列番号1)-HLA-A
*02:01に関連する潜在的なオフターゲットの数を含む。実験によって導かれた結合モチーフ、XX[YFWM][DENQ][GA][R][DENQ]XXX(配列番号10)を使用した(ここで、Xは任意のアミノ酸を表す)。
表3A:
【表3A】
【0278】
表3Bは、DoS>=2でのMAGEA4
230~239標的GVYDGREHTV(配列番号1)-HLA-A
*02:01に関連する潜在的なオフターゲットを含む。実験によって導かれた結合モチーフ、XX[YFWM][DENQ][GA][R][DENQ]XXX(配列番号10)を使用した(ここで、Xは任意のアミノ酸を表す)。潜在的なオフターゲット(5)ALVDQRELYL(配列番号9)が質量分析実験で検出された一方で、表中の他の潜在的なオフターゲットは検出されなかった。
表3B
【表3B-1】
【表3B-2】
以下の第2のMAGEA4標的ペプチドに関連する潜在的なオフターゲットの同定:KVLEHVVRV(配列番号48)
【0279】
表4A~4Bは、工程102で別のMAGEA4ペプチド由来pMHC標的であるMAGEA4286~294標的KVLEHVVRV(配列番号48)-HLA-A*02:01を入力したときのPIGSPRED法の適用結果を示す。
【0280】
表4Aは、異なるDoSしきい値でMAGEA4
286~294標的KVLEHVVRV(配列番号48)-HLA-A
*02:01に関連する潜在的なハイリスクオフターゲットペプチドの数を含む。コンピュータによって同定された潜在的なハイリスクオフターゲットペプチドの数を提供する。重要な位置を、工程104でコンピュータによって予測した。また、表は、イムノペプチドミクス質量分析データにおいても同定されたコンピュータによって予測された潜在的なハイリスクオフターゲットペプチドの数を提供する。
表4A:
【表4A】
【0281】
表4Bは、6またはそれを超えるDoSで標的に関連する潜在的なオフターゲットを含む。11の異なる潜在的なオフターゲットが質量分析実験で検出された一方で、表中の他の潜在的なオフターゲットは検出されなかった。MAGEA4
286~294標的ペプチドと同一であるMAGEA8遺伝子由来のオフターゲットペプチドKVLEHVVRV(配列番号49、DoS=9)(TPM=0.4、マウスで発現されなかった)を、必須正常組織中での発現レベルが低かったので、表4B中の潜在的なオフターゲットペプチドのリストからフィルタリングした。
表4B:
【表4B-1】
【表4B-2】
【0282】
MAGE-A4230~239およびMAGE-A4286~294の両方は、HLA-A02に比較的高い親和性で結合することがコンピュータによって予測された(それぞれ、IC50=560.08nMおよび8.52nM)。表1Bおよび4Bに示したPIGSPRED法の適用により、それぞれMAGE-A4230~239およびMAGE-A4286~294について正常な必須組織で発現されるDoSが6を超える6個および23個のペプチドが同定され、前者を標的にするとオフターゲット毒性を生じる可能性がより低いかもしれないことを示唆していた。とりわけ、MAGE-A4230~239およびMAGE-A4286~294の両方は、MAGE-A8由来のペプチド(必須正常組織中で無視できるほどの発現を示す別のCT抗原)に対して高いDoSを共有する(それぞれ、DoS9および8)。上記のように、表1Bに関して、かかるオフターゲットを個別に表にし、必要に応じて、標的抗原認識分子の結合について試験し得る。
HLA-A1ペプチドに関連する潜在的なオフターゲットの同定
【0283】
上に詳述したin-silico計算ストラテジーを使用して、工程102でHLA-A*01:01に関連する標的ペプチドであるMAGEA3168~176標的EVDPIGHLY(配列番号29)-HLA-A*01:01に関連する潜在的なオフターゲットを同定した。
【0284】
表5Aは、異なるDoSしきい値でMAGEA3
168~176標的EVDPIGHLY(配列番号29)-HLA-A
*01:01に関連する潜在的なオフターゲットの数を示す。重要な位置を、工程104でコンピュータによって予測した。
表5A:
【表5A】
【0285】
表5Bは、DoS>=5でMAGEA3
168~176標的EVDPIGHLY(配列番号29)-HLA-A
*01:01に関連する潜在的なオフターゲットの代表的なリストを示す。DoS>=5またはそれ未満のさらなるオフターゲットは示していない(「...」で示す)。潜在的なオフターゲット(1)(2)、(3)、(10)、(12)、(14)~(16)、および(18)が質量分析実験で検出された一方で、表中の他の潜在的なオフターゲットは検出されなかった。
表5B:
【表5B-1】
【表5B-2】
【表5B-3】
【0286】
注目すべきは、筋肉タンパク質タイチン由来のペプチドESDPIVAQY(配列番号47)は、MAGEA3168~176標的について順位の高い潜在的なオフターゲットペプチドの1つであるので、同定された(表5B中の18番目のペプチドを参照のこと)。また、このペプチドの発現は、心臓組織でも認められる。興味深いことに、このペプチドは、Cameron BJ et al.,Sci Transl Med.2013において、操作されたMAGE A3指向性T細胞についての交差反応性標的として報告されており、操作されたMAGE A3指向性T細胞を評価する臨床試験で認められたin vivo心毒性の原因である可能性が最も高い。この結果は、本明細書中に記載の予測方法がpHLA複合体についての潜在的なオフターゲットを正確に同定することができ、将来の臨床調査におけるオフターゲット毒性のリスクを軽減するために適用され得ることを実証している。
実施例2.MAGEA4230~239および関連オフターゲットペプチドでパルスしたT2細胞への抗HLA-A2:MAGEA4230~239抗体の結合
【0287】
Ab AおよびAb Bは、ヒト白血球抗原(HLA)クラスI対立遺伝子HLA-A*02:01と複合体を形成したときにMAGEA4のアミノ酸230~239を認識するヒト断片結晶化可能(Fc)領域を有するモノクローナル抗体(mAb)である。
【0288】
HLA-A
*02:01陽性T2(174 CEM.T2)細胞への抗HLA-A2:MAGEA4
230~239抗体の細胞表面結合を、フローサイトメトリーベースのペプチドパルシングアッセイで査定した。パルシングのために、1×10
6個のT2細胞を、10μg/mlのヒト(h)B2M(EMD Millipore カタログ番号475828)および100μg/mlのMAGEA4
230~239ペプチドと、1mlのAIM V培地(Gibco.カタログ番号31035025)中にて37℃で16時間インキュベートした。細胞を、染色緩衝液(カルシウムおよびマグネシウムを含まないPBS(Corning、参照番号21-031-CV)+2%FBS(Seradigm、ロット番号238B15))で洗浄し、細胞解離緩衝液(Millipore、カタログ番号S-004-C)を使用して採取し、染色緩衝液に再懸濁した。パルスした細胞(200,000個)を、96ウェルV底プレート(Axygen、カタログ番号 P-96-450V-C-S)にプレートし、Ab A、Ab B、非結合アイソタイプコントロール抗体、またはHLA-A2抗体(表6中にデータを示さず)の3倍系列希釈物(1.7pM~100nM)にて4℃で30分間染色した。次いで、細胞を染色緩衝液で1回洗浄し、5μg/mlのFab’2抗マウスFc特異的二次抗体に抱合したアレクサフルオル647(Jackson ImmunoResearch、カタログ番号115-606-071)と4℃で30分間インキュベートした。最後に、細胞を、緑色蛍光生存度色素(Molecular Probes カタログ番号L-34970、50μl DMSOで再構成)にて1:1000の濃度で染色した。次いで、細胞を洗浄し、PBSで希釈したBD Cytofix(BD、カタログ番号554655)の50%溶液を使用して固定した。試料に対してintellicyt iQueフローサイトメーター(Intellicyt)を運転し、結果を、Forecyte解析ソフトウェア(Intellicyte)を使用して解析して、生細胞のゲーティング後の平均蛍光強度(MFI)を計算した。MFI値を、4パラメーターロジスティック方程式を使用したGraphpad Prismに12ポイント反応曲線にわたってプロットしてEC
50値を計算した。また、各々の用量-応答曲線についての二次抗体のみ(すなわち、一次抗体なし)を、3倍系列希釈の継続として解析に含め、最低用量として表す。信号対雑音(S/N)を、用量反応曲線上の最高のMFIの二次抗体のみのウェル中のMFIに対する比を取ることによって決定した。EC
50値(M)および最大S/Nを、表6に示す。Ab Aは4.7nMのEC
50および365.9の最大S/Nで結合し、Ab Bは1.3nMのEC
50および511.7の最大S/Nで結合した。アイソタイプコントロール抗体の結合は最少で、S/Nは13.4であった。
表6:フローサイトメトリーによるMAGEA4
230~239でパルスしたT2細胞への抗HLA-A2:MAGEA4
230~239抗体の結合
【表6】
ND=試験した抗体の濃度範囲内で結合が飽和に到達しなかったので、EC
50値を正確に決定できなかった。
【0289】
上の実施例1に記載のin-silico計算ストラテジーは、HLA-A
*02:01と複合体を形成すると予測されるいくつかのMAGEA4関連ペプチドを同定した。同定されたペプチドを、表1Bにまとめている。これらの関連するペプチドに対する2つのHLA-A2:MAGEA4
230~239抗体(Ab AおよびAb B)、非結合アイソタイプコントロール抗体、およびHLA-A2抗体の結合を、上記のT2パルシングアッセイで査定した。S/Nを、パルスしていない(ペプチドなし)細胞に対するパルスした細胞の比として表示する。HLA-A2結合の信号対雑音比が1を超える場合、ペプチドを負荷していると決定した。表7にまとめたように、Ab AおよびAb Bの両方は、MAGEA4ペプチドに、Ab Aについては512.9およびAb Bについては747.2のS/N値で結合した。Ab AがMAGEA4
230~239ペプチドに高度に特異的であった一方で、Ab BはオフターゲットペプチドLPIN2にS/N値27.5で強力に結合した。残りのペプチドへの検出可能な結合は認められず、コントロール抗体結合は、全ての試験したペプチドについて4.3未満であった。
表7:フローサイトメトリーを介した関連するペプチドでパルスしたT2細胞への抗HLA-A2:MAGEA4
230~239抗体の結合
【表7】
実施例3.標的の発見および優先順位付けのためのPIGSPREDの適用
【0290】
癌特異的pHLA複合体を、癌組織中で特異的に発現される遺伝子の確認によって同定することができる。この目的のために、例えば、癌ゲノムアトラス(TCGA)およびゲノム組織発現データベース(GTEx)を含む公的データベースを使用した。GTExに従って75パーセンタイルトランスクリプツ・パー・ミリコン(TPM)値が2を超える癌型で発現され、かつ全ての必須の正常組織または必須の細胞型で無視できるほどしか発現しなかった遺伝子を、癌特異的遺伝子として分類した。癌特異的遺伝子に対応する標準的なタンパク質配列をUniProtKBデータベースから導き、これを使用して、目的のHLAに結合すると予測される潜在的な8~12量体のペプチド配列を予測した。NetMHCpanツールを使用して予測した。癌特異的pHLAが同定された時点で、PIGSPREDを使用して、各々の癌特異的pHLAに関連する潜在的なオフターゲットの数を計算した。潜在的なオフターゲット数は、標的に関連するオフターゲット毒性の見込みの代表であり、それ故に、この数を使用して、pHLA標的のリストを順位付けし、治療薬の開発のための標的に優先順位を付けた。標的の選択および標的に結合する治療分子の生成後、PIGSPREDによって予測されたオフターゲットは、オフターゲットに結合しない治療分子の実験によるスクリーニングで重要な役割を果たす。したがって、最も特異的な治療分子がさらなる開発のために選択される。
参考文献
【化1】
【化2】
【0291】
本発明は、本明細書中に記載の特定の実施形態によってその範囲を制限されないものとする。実際に、本明細書中に記載の実施形態に加えて、本発明の多様な修正形態が、前述の説明から当業者に明らかとなるであろう。かかる修正形態は、添付の特許請求の範囲の範囲内にあることが意図される。
【0292】
本明細書中に引用した全ての特許、出願、刊行物、試験方法、論文、および他の資料は、あたかも本明細書中に物理的に示されているかのように、その全体が本明細書中で参考として援用される。
【国際調査報告】