(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-22
(54)【発明の名称】スポット溶接性に優れた高強度高成形性鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20250115BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20250115BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/38
C21D9/46 J
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536514
(86)(22)【出願日】2022-12-19
(85)【翻訳文提出日】2024-06-18
(86)【国際出願番号】 KR2022020731
(87)【国際公開番号】W WO2023121187
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0183505
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】キム、 スン-キュ
(72)【発明者】
【氏名】ハン、 テ-キョ
(72)【発明者】
【氏名】パク、 ジュン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 キュン-レ
(72)【発明者】
【氏名】ハン、 サン-ホ
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA05
4K037EA11
4K037EA16
4K037EA19
4K037EA23
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4K037FL00
(57)【要約】
本発明は、自動車等に用いられる鋼板に関するものであり、高強度及び高成形性の特徴を有するだけでなく、スポット溶接性に優れた鋼板とこの製造方法に関するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.05~0.10%、Si:0.3%以下(0は除く)、Mn:2.0~2.5%、Ti:0.05%以下(0は除く)、Nb:0.1%以下(0は除く)、Cr:1.5%以下(0は除く)、P:0.1%以下、S:0.01%以下、残りはFe及び不可避不純物を含み、
鋼板厚さ(t)1/4位置の微細組織は面積分率で、65~85%の軟質相、残りは硬質相を含み、
鋼板表層部に健全層を含み、前記健全層の厚さは5~50μmである、スポット溶接性に優れた高強度高成形性鋼板。
【請求項2】
前記健全層は、結晶粒径が6~20μmのフェライト柱状である、請求項1に記載のスポット溶接性に優れた高強度高成形性鋼板。
【請求項3】
前記軟質相は面積分率で、再結晶フェライトが60%以上、未再結晶フェライトが5%以下であることを含む、請求項1に記載のスポット溶接性に優れた高強度高成形性鋼板。
【請求項4】
前記硬質相は、マルテンサイトまたはマルテンサイトと微量のベイナイトが混合された混合組織であることを含む、請求項1に記載のスポット溶接性に優れた高強度高成形性鋼板。
【請求項5】
前記硬質相のアスペクト比は、1.2以下であることを含む、請求項1に記載のスポット溶接性に優れた高強度高成形性鋼板。
【請求項6】
前記鋼板表面にめっき層をさらに含む、請求項1に記載のスポット溶接性に優れた高強度高成形性鋼板。
【請求項7】
前記鋼板は、引張強度(TS)780MPa以上であり、伸び率(El)が18%以上である、請求項1に記載のスポット溶接性に優れた高強度高成形性鋼板。
【請求項8】
重量%で、C:0.05~0.10%、Si:0.3%以下(0は除く)、Mn:2.0~2.5%、Ti:0.05%以下(0は除く)、Nb:0.1%以下(0は除く)、Cr:1.5%以下(0は除く)、P:0.1%以下、S:0.01%以下、残りはFe及び不可避不純物を含む鋼スラブを1100~1300℃の温度範囲で加熱する段階;
前記加熱された鋼スラブを熱間圧延し、仕上げ熱間圧延時に、素材の表面温度が所定時間の間Ar3以下になるように冷却しながら熱間圧延する段階;
前記熱間圧延後に巻き取りして冷却する段階;
前記冷却された熱間圧延を70~90%の圧下率で冷間圧延する段階;
前記冷間圧延後、Ac1~Ac1+30℃の温度範囲まで加熱して維持する段階;及び
前記冷延鋼板を650~700℃の温度範囲まで1~10℃/sの平均冷却速度で徐冷した後、300~580℃の温度範囲まで5~50℃/sの平均冷却速度で急冷を行う段階;
を含む、スポット溶接性に優れた高強度高成形性鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記仕上げ熱間圧延時の素材の温度は、Ar3~1000℃である、請求項8に記載のスポット溶接性に優れた高強度高成形性鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記巻き取りは400~700℃で行い、0.1℃/s以下の冷却速度で冷却する、請求項8に記載のスポット溶接性に優れた高強度高成形性鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記急冷後に200~800秒間過時効処理する段階をさらに含む、請求項8に記載のスポット溶接性に優れた高強度高成形性鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記仕上げ熱間圧延時に圧延パス(pass)間に1回以上、水を噴射する方式で表面を冷却する、請求項8に記載のスポット溶接性に優れた高強度高成形性鋼板の製造方法。
【請求項13】
めっき層を形成する段階をさらに含む、請求項8に記載のスポット溶接性に優れた高強度高成形性鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に用いられる鋼板に関するものであり、高強度及び高成形性の特徴を有するだけでなく、スポット溶接性に優れた鋼板とこの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃費及び耐久性の向上は、自動車会社が解決しなければならない重要な問題である。このために、薄い高強度鋼(steel)を用いると、環境、燃費、耐衝突性、及び耐久性の様々な問題を同時に改善することが可能である。一例として、米国の高速道路安全保険協会は、搭乗者保護のための衝突安定性規制を徐々に強化してきており、2013年からは25%のスモールオーバーラップ(small overlap)などの厳しい衝突成分を要求している。このような解決策としては、自動車の軽量化があり、軽量化のためには鋼材の高強度化が必要で、高い成形性も同時に要求される。
【0003】
しかしながら、鋼の強度が高くなると衝撃エネルギー吸収に有利な特徴を有するが、一般的に強度が高くなると伸び率が減少して、成形加工性が低下するという問題点がある。それだけでなく、降伏強度が過度に高い場合には、成形時に金型への素材の流入が減少して、成形性が劣るという問題がある。そこで、自動車産業界では強度と成形性に優れた、すなわち強度と伸び率のバランス(TS*El)に優れた鋼材開発を鉄鋼業界に求めている実情である。
【0004】
鉄鋼会社はこのような要求に応えるために、様々な製品を開発している。一例として、二相組織鋼(Dual Phase Steel、DP鋼)、変態誘起塑性鋼(Transformation Induced Plasticity Steel、TRIP鋼)、複合組織鋼(Complex Phase Steel、CP鋼)、フェライト-ベイナイト鋼(Ferrite-Bainite Steel、FB鋼)などがあり、製線、製鋼、連鋳、熱延及び冷間圧延と焼鈍工程により製品が製造される。
【0005】
このような強度と成形性を確保するための鋼材は、合金元素の添加量を高める場合が多く、この場合、自動車部品を作るためのスポット溶接(spot welding)中に欠陥が発生することがある。上記スポット溶接は、自動車部品の製造時に接合する最も一般的な工程として費用が少なく、生産性に優れて、最も広く用いられる方法である。
【0006】
鋼材の耐食性を確保するためには、めっきを行う場合が多い。特に亜鉛めっき鋼板は、耐食性及び成形性に優れるが、液化金属脆化(Liquid Metal Embrittlement、LME)が発生する場合がある。上記液化金属脆化は、延性の素材が液状金属と接触するときに脆性が発生する現象であり、引張応力の存在下で液状金属が母材の粒界に沿って急速に浸透して脆性を起こす現象である。
【0007】
通常的に、自動車部品を結合する方法として、スポット溶接などの溶接が広く用いられる。しかし、溶接時に素材の熱影響部の温度が上昇してめっき層溶融が起こり、電極加圧による引張応力が発生するため、液化金属脆化による割れが発生する可能性がある。特に、亜鉛めっき鋼板をスポット溶接すると融点が低くて、溶融した亜鉛が溶接部の液化金属脆化の割れを発生させる問題を引き起こす。
【0008】
したがって、優れた強度と成形性を確保すると同時に、スポット溶接性を改善して液化金属脆化(LME)による欠陥問題を解決することができる技術が求められている実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一側面は、優れた強度と成形性を確保すると同時に、優れたスポット溶接性を有する鋼板とこれを製造する方法を提供することである。
【0010】
本発明の課題は、上述した事項に限定されない。本発明のさらなる課題は、明細書全体の内容に記載されており、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の明細書に記載された内容から本発明のさらなる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、重量%で、C:0.05~0.10%、Si:0.3%以下(0は除く)、Mn:2.0~2.5%、Ti:0.05%以下(0は除く)、Nb:0.1%以下(0は除く)、Cr:1.5%以下(0は除く)、P:0.1%以下、S:0.01%以下、残りはFe及び不可避不純物を含み、
鋼板厚さ(t)1/4位置の微細組織は、面積分率で、65~85%の軟質相、残りは硬質相を含み、
鋼板表層部に健全層を含み、上記健全層の厚さは5~50μmであるスポット溶接性に優れた高強度高成形性鋼板に関するものである。
【0012】
本発明の他の一態様は、重量%で、C:0.05~0.10%、Si:0.3%以下(0は除く)、Mn:2.0~2.5%、Ti:0.05%以下(0は除く)、Nb:0.1%以下(0は除く)、Cr:1.5%以下(0は除く)、P:0.1%以下、S:0.01%以下、残りはFe及び不可避不純物を含む鋼スラブを1100~1300℃の温度範囲で加熱する段階;
上記加熱された鋼スラブを熱間圧延し、仕上げ熱間圧延時に、素材の表面温度が所定時間の間Ar3以下になるように冷却しながら熱間圧延する段階;
上記熱間圧延後に巻き取りして冷却する段階;
上記冷却された熱間圧延を70~90%の圧下率で冷間圧延する段階;
上記冷間圧延後、Ac1~Ac1+30℃の温度範囲まで加熱して維持する段階;及び
上記冷延鋼板を650~700℃の温度範囲まで1~10℃/sの平均冷却速度で徐冷した後、300~580℃の温度範囲まで5~50℃/sの平均冷却速度で急冷を行う段階;
を含むスポット溶接性に優れた高強度高成形性鋼板の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、高い強度と成形性、特に強度と延性のバランス(TS*El)に優れた鋼板を提供することができることにより、プレス成形時のクラックまたはシワなどの加工欠陥を防止することができるため、複雑な形状への加工が要求される構造用などの部品に好適に適用することができる。また、スポット溶接性を改善して液化金属脆化(LME)の発生を低減することにより、製品品質を向上させることができる。
【0014】
本発明の多様でありながらも有意義な利点及び効果は、上述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】合金化溶融亜鉛めっき鋼板のスポット溶接時に発生する割れを示した図面である。
【
図2】本発明の実施例のうち、発明例1において鋼板の表層部を観察した写真である。
【
図3】本発明の実施例のうち、比較例1において鋼板の表層部を観察した写真である。
【
図4】硬質相のアスペクト比を測定する方法の一例を模式化した模式図である。
【
図5】本発明において仕上げ熱間圧延時に水冷を適用した場合と適用していない場合の素材温度変化を示したグラフである。
【
図6】連続焼鈍工程の熱処理段階をグラフで示したものである。
【
図7】本発明の実施例のうち、比較例1のスポット溶接完了後にLMEによる割れを観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で用いられる用語は、本発明を説明するためのものであり、本発明を限定する意図ではない。また、本明細書において用いられる単数の形態は、関連定義がこれと明らかに反対される意味を表しない限り、複数の形態も含む。
【0017】
明細書で用いられる「含む」の意味は、構成を具体化し、他の構成の存在や付加を除外するものではない。
【0018】
異なって定義しない限り、本明細書において用いられる技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同様の意味を有する。辞書で定義されている用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有するように解釈される。
【0019】
強度と成形性を確保するために、自動車素材として用いられる高強度鋼は代表的に、二相組織鋼(Dual Phase Steel、DP鋼)、変態誘起塑性鋼(Transformation Induced Plasticity Steel、TRIP鋼)、複合組織鋼(Complex Phase Steel、CP鋼)、フェライト-ベイナイト鋼(Ferrite-Bainite Steel、FB鋼)などがある。これらの高強度鋼は、一般的に高合金を有しており、このような高合金亜鉛めっき高強度鋼は、スポット溶接時に液状金属脆化(LME)による割れを引き起こす可能性がある。
【0020】
上記LMEが発生する原因としては、臨界以上の荷重、溶融金属、オーステナイトの出現などがある。スポット溶接をすると電流が印加されるにつれて抵抗熱により鋼の温度が上昇し、まず融点の低い亜鉛が溶け始める。以後、鋼はオーステナイトに変態するようになるが、オーステナイト形成温度が低いほど溶融亜鉛と鋼のオーステナイト組織が表層部で接触する時間が長くなる。このとき、熱応力、外部応力が加わると、応力が集中する部分のオーステナイト粒界が滑りながら(gliding)変形するようになる。このとき、鋼と溶融亜鉛の界面エネルギーがオーステナイト粒界エネルギーよりも低いと、オーステナイト粒界に溶融亜鉛が浸透し、粒界割れが発生するようになる。これは結局、スポット溶接性の劣化を示すようになる。
図1は、市販の1200MPa級合金化亜鉛めっき高強度鋼を溶接したときに現れる割れを示す。
【0021】
上記LMEによる溶接割れを除去するために、オーステナイト抑制、溶融金属制限、外部応力を制限する方案が議論されている。
【0022】
しかし、溶接温度が融点まで上がるため、鋼でオーステナイト出現を防ぐことは容易ではない。却って、C、Mnなどの合金元素が多いほどA3温度が減少する。したがって、高強度鋼はより低い温度でオーステナイトが出現する可能性があるため、LMEによる割れがより容易に発生する。
【0023】
一方、亜鉛めっきの場合に亜鉛の溶融温度を上げたり、溶融亜鉛量を減らすためにめっき厚さを減らす方法が考えられるが、耐食性及び鋼板加工性の低下、めっき費用の上昇等を考慮しなければならない。
【0024】
外部応力を減らす場合には、溶接部の接合強度と品質が関与するため、容易ではない。
【0025】
上記の方法では、LMEによる微細割れを十分に抑制することができない。そこで、本発明者らは上記LMEによる割れを研究した結果、幸いにも、スポット溶接中のLMEは、鋼板の表層部で発生する現象であることを見出し、鋼板表層部の材質を変化させて、LMEを低減させてスポット溶接性を向上させ、優れた強度と成形性を確保することができることを認識し、本発明に至った。
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。まず、本発明の鋼板の一実施例について詳細に説明する。
【0027】
本発明の鋼板の合金組成は、重量%で、C:0.05~0.10%、Si:0.3%以下(0は除く)、Mn:2.0~2.5%、Ti:0.05%以下(0は除く)、Nb:0.1%以下(0は除く)、Cr:1.5%以下(0は除く)、P:0.1%以下、S:0.01%以下、残りはFe及び不可避不純物を含む。上記合金組成について詳細に説明すると、以下の通りである。本発明で特に断りのない限り、各元素の含有量は重量%を基準とする。
【0028】
炭素(C):0.05~0.10%
上記Cは、固溶強化のために添加される重要な元素であり、このようなCは析出元素と結合して微細析出物を形成することで鋼の強度向上に寄与する。上記Cの含有量が0.10%を超過するようになると硬化能が増加して、鋼製造時、冷却中にマルテンサイトが形成されるにつれて強度が過度に上昇する一方、伸び率の減少をもたらすことがある。また、溶接性が劣化して部品として加工時に溶接欠陥が発生するおそれがある。上記C含有量が0.05%未満であると、目標レベルの強度確保が困難になることがある。より有利には0.06~0.08%であることが好ましい。
【0029】
シリコン(Si):0.3%以下(0は除く)
上記Siは、フェライト安定化元素であり、フェライト変態を促進することで目標レベルのフェライト分率確保が有利である。また、固溶強化能に優れ、フェライトの強度を高めるのに効果的であり、鋼の延性を低下させることなく、強度を確保するのに有用な元素である。上記Si含有量が0.3%超過するようになると固溶強化の効果が過度となって、却って延性が低下し、表面スケール欠陥を誘発してめっき表面品質に悪影響を及ぼすようになり、化成処理性を阻害することがある。より有利には0.1%以下であることが好ましい。
【0030】
マンガン(Mn):2.0~2.5%
上記Mnは、鋼中の硫黄(S)をMnSで析出させてFeSの生成による熱間脆性を防止し、鋼を固溶強化させるのに有利な元素である。上記Mnの含有量が2.0%未満であると、上記の効果が得られないだけでなく、目標レベルの強度を確保するのに困難がある。一方、その含有量が2.5%超過するようになると溶接性、熱間圧延性などの問題が発生する可能性が高く、同時に硬化能の増加によりマルテンサイトがより容易に形成されるにつれて延性が低下するおそれがある。また、組織内のMn酸化物の帯(Mn-band)が過度に形成されて加工クラックなどの欠陥発生のおそれが高くなるという問題がある。そして、焼鈍時にMn酸化物が表面に溶出してめっき性を大きく阻害するという問題がある。より有利には2.2~2.4%であることが好ましい。
【0031】
チタン(Ti):0.05%以下(0は除く)
上記Tiは、微細炭化物を形成する元素として降伏強度及び引張強度の確保に寄与する。また、Tiは鋼中のNをTiNで析出させて、鋼中に不可避に存在するAlにAlNの形成を抑制する効果があり、連続鋳造時にクラックの発生可能性を低減させる効果がある。上記Ti含有量が0.05%を超過するようになると粗大な炭化物が析出し、鋼中の炭素量の低減によって強度及び伸び率の減少のおそれがある。また、連続鋳造時にノズル目詰まりを誘発するおそれがあり、製造原価が上昇するという問題点がある。したがって、上記Tiは、0.05%以下であることが好ましく、0%超過であることが好ましい。
【0032】
ニオブ(Nb):0.1%以下(0は除く)
上記Nbは、オーステナイト粒界に偏析して焼鈍熱処理時のオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制し、微細な炭化物を形成して強度向上に寄与する元素である。上記Nbの含有量が0.1%を超過するようになると粗大な炭化物が析出し、鋼中の炭化物の低減により強度及び伸び率が劣化することがあり、製造原価が上昇するという問題がある。上記Nbは0.1%以下であることが好ましく、0%超過であることが好ましい。
【0033】
クロム(Cr):1.5%以下(0は除く)
上記Crは、ベイナイト形成を容易にする元素であり、焼鈍熱処理時のマルテンサイトの形成を抑制し、微細な炭化物を形成して強度向上に寄与する元素である。上記Crの含有量が1.5%を超過するようになると、ベイナイトが過度に形成されて伸び率が減少し、粒界に炭化物が形成される場合、強度及び伸び率が劣ることがあり、製造原価が上昇するという問題がある。したがって、上記Crは1.5%以下含むことが好ましく、0%超過であることが好ましい。
【0034】
リン(P):0.1%以下
上記Pは、固溶強化効果が最も大きい置換型元素であり、面内異方性を改善し、成形性を大きく低下させることなく、強度確保に有利な元素である。しかし、上記Pを過度に添加する場合、脆性破壊発生の可能性が大きく増加して、熱間圧延中にスラブの板破断の発生可能性が増加し、めっき表面特性を阻害するという問題がある。したがって、上記Pの含有量は0.1%以下であることが好ましく、不可避に含まれるレベルを考慮して0%は除外することができる。
【0035】
硫黄(S):0.01%以下
上記Sは、鋼中の不純物元素として不可避に添加される元素であり、延性を阻害するため、その含有量をできるだけ低く管理することが好ましい。特にSは、赤熱脆性を発生させる可能性を高めるという問題があるため、その含有量を0.01%以下に管理することが好ましい。ただし、不可避に含まれるレベルを考慮して0%は除外することができる。
【0036】
残りは、鉄(Fe)を含み、通常の製造過程では原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は製造過程で通常の技術者であれば誰でも分かることであるため、そのすべての内容を特に本明細書では言及しない。
【0037】
通常、鋼板の微細組織は厚さ方向1/4t(鋼板厚さ(t)の1/4位置)地点で観察されるものをいい、これを基準として強度、成形性などの物理的特性を説明する際に活用される。本発明では、鋼板の表面微細組織によって発生するLME特性と、強度などの物性を決定する内部微細組織を説明し、表層部の微細組織と内部の微細組織を区別して説明する。ここで、内部の微細組織とは1/4tでの微細組織をいい、特に記載がない限り微細組織といえば、内部の微細組織をいう。鉄鋼の微細組織は、圧延を進行する温度がオーステナイト相であるか、フェライト相であるかによって圧延直後の相が決定され、この後、冷却条件に応じて変態が発生しながら、最終微細組織が形成される。熱間圧延工程は、圧延中に再結晶が進行される動的再結晶が発生する段階で、圧延直後の微細組織は、圧延温度が高い場合は、再結晶されたオーステナイト単相組織、圧延温度が低い場合には、再結晶されたオーステナイト/フェライト混合相、そして温度が非常に低い場合には、フェライト単相が得られる。
【0038】
したがって、鋼板の厚さ方向に圧延温度が異なると、厚さ方向に互いに異なる微細組織が得られ、圧延中に水を噴射するなどの特別な処理を行う場合に、表層部のみを温度調節することが可能であり、表層部の微細組織を異ならせることができる。これにより、本発明の一実現思想は、内部微細組織を制御して強度と成形性を確保し、表層部の微細組織を制御してLMEを改善する技術に関するものである。
【0039】
以下、上記鋼板は、表層部に健全層を含む。上記健全層は、面積分率で95%以上のフェライトからなるフェライト主組織であり、上記フェライトの結晶粒は6~20μmの大きさを有することが効果的である。
【0040】
一方、上記健全層の厚さは5~50μmであることが効果的である。上記表層部の健全層が5μm未満の場合にはLME改善が困難であり、50μmを超過する場合には鋼板の強度などの物理的特性を十分に達成することが困難である。
図2及び3は、それぞれ後述する実施例において発明例1と比較例1の表層部を観察したものであり、
図2では表層部で粗大な結晶粒を有する健全層が確認されたが、
図3ではこのようなことを観察するものができない。
【0041】
上記鋼板の微細組織(鋼板厚さ(t)の1/4位置)は、硬質相と軟質相で構成され、特に最適化された焼鈍工程によりフェライト再結晶を最大化することにより、最終的に再結晶フェライト基地に硬質相であるベイナイトとマルテンサイト相が均一に分布した組織を含むことが好ましい。上記微細組織において硬質相は、主にマルテンサイトであり、一部微量のベイナイトが含まれて混在している相を意味し、軟質相はフェライト相を意味する。軟質相と硬質相からなる組織での変形特性は、軟質相が成形性を決定し、硬質相は強度を決定する。
【0042】
上記硬質相は面積分率で15~35%を含むことが好ましい。上記硬質相の分率が高すぎると、強度は高いが、伸び率が低くなり、軟質相の分率が高いと逆に伸び率は高くなるが、強度は低くなるという問題がある。本発明で提供する780MPa以上の強度を確保するためには、硬質相が面積分率で15%以上含むことが好ましく、成形性を確保するために35%を超えないことが好ましい。
【0043】
適正な強度を確保すると同時に成形性を確保するために、上記軟質相は面積分率で65~85%であることが好ましい。上記軟質相のフェライトは、再結晶フェライトと未再結晶フェライトに区分されることができる。再結晶フェライトと未再結晶フェライトとの差は、
図4に示したとおり、圧延方向に対する結晶粒度のアスペクト比(aspect ratio)で区分が可能である。未再結晶フェライトは、
図4の(b)のように、アスペクト比が大きく、詳細に分析した場合、フェライト粒内の線状の変形組織が観察される。一方、再結晶フェライトが成形性確保に有利であるため、軟質相のうち再結晶フェライトが60%以上であることが好ましく、未再結晶フェライトは軟質相であるが、分率が高い場合には成形性を減少させるため、5%以下であることが好ましい。
【0044】
一方、上記硬質相のアスペクト比(aspect ratio)は、1.2以下であることが好ましい。アスペクト比は、
図4の(a)及び(b)に示したように、圧延方向に対する結晶粒度の長軸(b)と短軸(a)の比(b/a)を意味し、硬質相のアスペクト比は、上記硬質相が圧延方向に延伸して形成された組織のアスペクト比である。上記硬質相のアスペクト比が増加すると、厚さ方向の変形抵抗性に重要なベンディング性(bending)に悪影響を与える。また、上記硬質相のアスペクト比が増加すると、穴拡げ性を低下させるようになる。したがって、上記硬質相のアスペクト比はできるだけ低く管理することが重要であるため、1.2を超えないことが好ましい。
【0045】
本発明の鋼板は、引張強度(TS)780MPa以上の高強度を有し、伸び率が18%以上であるため、優れた強度と成形性を確保することができる。
【0046】
一方、本発明の鋼板は、耐食性を向上するためのめっき層、一例として亜鉛系めっき層をさらに含むことができる。自動車用鋼板は、主に溶融めっきと電気めっき層を素地鋼板上に形成することができ、本発明では、溶融めっきによって形成されためっき層と電気めっきによって形成されためっき層を全て含むことができる技術に関するものである。上記めっき層の厚さは必要に応じて異ならせることができるが、一例として10μm以下であることができる。
【0047】
次に、本発明の鋼板の製造方法に対する一態様を詳細に説明する。本発明の鋼板は、まず鋼スラブを準備して、これを加熱し、熱間圧延を行った後、巻き取り及び冷却し、冷間圧延して焼鈍を経て製造することができる。一方、必要に応じてめっき層を形成する過程をさらに含むことができる。本発明は、特に、表層部に健全層を形成するために、熱間圧延を調節し、冷間圧延で変形した後、焼鈍工程で適切な組織を形成するようにする。以下、各段階について詳細に説明する。
【0048】
鋼スラブ加熱
上述した合金組成、すなわち重量%で、C:0.05~0.10%、Si:0.3%以下(0は除く)、Mn:2.0~2.5%、Ti:0.05%以下(0は除く)、Nb:0.1%以下(0は除く)、Cr:1.5%以下(0は除く)、P:0.1%以下、S:0.01%以下、残りはFe及び不可避不純物を含む鋼スラブを準備した後、これを加熱する。これは後続の熱間圧延工程を円滑に行い、目標とする鋼板の物性を確保するためのものであり、加熱工程の条件を特に限定せず、本発明が属する技術分野で通常行われる方法、条件であれば構わない。一例として、1100~1300℃の温度範囲で加熱することが好ましい。
【0049】
熱間圧延
上記加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する。本発明では、適切な表層部を得るための方案として、熱間圧延時の鋼スラブの表面と厚さ1/4位置の温度を差別化する方案を提示する。
【0050】
このために、中心部(厚さ1/4位置)の温度、すなわち素材自体の温度はAr3~1000℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延を行い、素材の表面温度は、仕上げ熱間圧延中の所定時間の間Ar3以下の温度になるように行うことが好ましい。上記仕上げ熱間圧延時に素材自体の出口側温度がAr3未満であると、素材の強度が増加して圧延中の熱間変形抵抗が急激に増加し、1000℃を超過する場合には、相対的に圧延荷重が減少して生産性には有利であるが、厚い酸化スケール(scale)が発生して表層部における欠陥を形成する可能性がある。より好ましくは760~940℃の温度範囲で行うことができる。
【0051】
一方、上記素材表面温度は、表層部で健全層を形成するために重要な過程であり、上記表層温度がAr3以下になるようにして、フェライトが熱間圧延中の再結晶により容易に形成されるようにし、厚さ1/4位置は過度の圧延荷重が発生しないようにする。すなわち、表面の温度が所定時間の間Ar3以下になるように、同時に圧延を行い、表層部でフェライトが再結晶して、粗大なフェライトの健全層を形成することができる。上記表面の温度をAr3以下にするための方法で特に制限しないが、一例として圧延パス(pass)中または間に水を噴射して、所定時間の間に、表面温度がAr3以下になるようにする方式を適用することができる。
【0052】
図5は、熱間圧延時の本発明のように表面温度をAr3以下になるように水冷を適用したものと、そうでないものの時間-温度グラフを示したものである。
図5では、水冷を適用していない場合には、中心部と表面の全てがAr3以上の温度で圧延されるが、水冷を適用した場合には、所定時間の間に表面温度がAr3以下に下がることが確認できる。
【0053】
巻き取り及び冷却
上記熱間圧延で製造された熱延鋼板をコイル(coil)状に巻き取ることができる。上記巻き取りは400~700℃の温度範囲で行うことができる。上記巻き取り温度が400℃未満であると、過度のマルテンサイトまたはベイナイトの形成により熱延鋼板の過度な強度上昇をもたらして、この後の冷間圧延時の負荷による形状不良などの問題が生じることがある。一方、巻き取り温度が700℃を超過する場合には、表面スケールが増加して酸洗性が劣化することがある。
【0054】
一方、上記巻き取られた熱延鋼板を常温まで0.1℃/s以下(0を除く)の平均冷却速度で冷却することが好ましい。上記巻き取られた熱延鋼板は、移送、積置等の過程を経た後に冷却が行われることができ、冷却前の工程がこれに限定されるものではない。上記巻き取られた熱延鋼板を一定速度で冷却することにより、オーステナイト核生成サイト(site)となる炭化物を微細に分散させた熱延鋼板を得ることができる。
【0055】
この後、後続の冷間圧延を行う前に熱延鋼板の表面を酸洗して表面スケールを除去する工程がさらに行われることができる。上記酸洗方式は特に限定されず、本発明の属する技術分野で通常行われる方式で行えば十分である。
【0056】
冷間圧延
上記のように巻き取られた熱延鋼板を常温で一定の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板で製造することができる。
【0057】
上記冷間圧延時に、70~90%の圧下率で冷間圧延を行うことが好ましい。上記冷間圧延の圧下率が70%未満であると再結晶駆動力が減少してフェライトが粗大に形成され、オーステナイト形成も減少して焼鈍炉均熱帯温度を高くしてこそ、オーステナイト分率が十分に確保される。一方、冷間圧下率が90%を超過するようになると鋼板エッジ(edge)部でクラックが発生する可能性が高く、圧延前の初期厚さが過度に厚くなければならず、圧延パスが増加して生産性が低くなるという問題がある。
【0058】
上記冷間圧延を行う方式について、本発明では特に制限せず、本発明が属する技術分野で行われる方式であれば、いずれも適用可能である。例えば、TCM(Tandum Cold rolling Mill)方式、ZRM(Sendzimir rolling mill)方式などがある。これらについて概略的に説明すると、TCMは可逆式圧延で、製造原価が低く、大量生産が可能であるため、生産性に優れるという利点があるが、圧下力を加える場合に多少制約があるという欠点がある。ZRMは可逆バッチ式で、生産性が低いという欠点があるが、圧下力を加える場合に多少容易であるという利点がある。
【0059】
上記冷間圧延の圧下率は、鉄鋼の相変態を改善して様々な物性を向上させる重要な操業因子であるため、圧下率を制御することは品質確保において特に重要である。本発明では、製品材質、大きさ、操業環境などを考慮して適正な方式を採用することが好ましい。
【0060】
連続焼鈍
上記製造された冷延鋼板を連続焼鈍することが好ましい。連続焼鈍処理は、一例として連続焼鈍炉(CAL)で行われることができる。連続焼鈍工程の熱処理段階に対する一例を
図6にグラフで示した。
図6に示されたように、焼鈍炉内の加熱帯(Heating Section:HS)、均熱帯(Soaking Section:SS)、徐冷帯(Slow Cooling Section:SCS)、急冷度(Rapid Cooling Section:RCS)、過時効帯(Over Aging Section:OAS)の熱処理段階で構成されることができる。一般的に、各区間(section)の温度は、各区間(section)の終了地点に付着した温度を測定するため、温度は、各区間(section)の終了位置の温度を意味する。例えば、急冷帯(RCS)温度は、急冷帯が終わる区間の温度であり、
図6の場合、4と表す。
【0061】
上記加熱帯(HS)において鋼板は、一定昇温速度で加熱され、鋼板が温度が増加しながら電位の回復、セメンタイトの析出、フェライトの再結晶及び二相域の逆変態が起こる。鋼板の厚さと幅によって通板速度が異なるようになり、熱延初期組織及び冷間圧下率によって上記温度区間別の微細組織の変化は変わり得る。
【0062】
均熱帯(SS)区間に進入すると一定温度で一定時間維持され、このとき、焼鈍温度によって二相域オーステナイトまたは単相域オーステナイト逆変態が観察される。上記均熱帯(SS)区間は、焼鈍炉でエネルギーを最も多く消費する区間の一つとして知られている。徐冷帯(SCS)区間では通常低い冷却速度で冷却され、SCS区間の後に、急冷帯(RCS)では高い冷却速度で連続冷却され、RCS設定温度及び硬化能程度によって冷却中にベイナイトが生成されることがある。
【0063】
上記均熱帯(SS)の温度は、相変態と密接した関連がある。相変態、物質の状態変化に影響を及ぼす因子は、温度、圧力、組成などがあり、組成が決まる場合には、温度と圧力を介して調整が可能である。特に、温度と圧力が高いほど焼鈍炉加熱中の相変態は速く進行されることができるが、温度を高めるほどかかるエネルギー費用が増加し、燃焼後に二酸化炭素などの炭素排出が増加するようになるため、環境にやさしくない。鉄鋼製造工程で圧力と比較される変数は、冷間圧下率で、同じ温度で冷間圧下率を高めると速く相変態が進み、反対の概念で冷間圧下率を高めると低い温度でも相変態を作ることができる。このような原理を用いて本発明では、上記冷間圧下率を従来の方式よりも高い70~90%で行う。
【0064】
通常的な焼鈍工程における均熱帯温度は、Ac1+30℃~Ac3-30℃の範囲であることが一般的である。しかし、本発明は上述したように、冷間圧下率を高くして低い温度で熱処理してもフェライト再結晶及びオーステナイト形成が可能であるため、本発明の焼鈍工程はAc1~Ac1+30℃の温度範囲まで加熱し、維持することが好ましい。本発明は、上記温度範囲においても、再結晶と相変態現象を介して硬度を低下させて、加工性を改善することができる。
【0065】
上記温度範囲で熱処理された冷延鋼板を冷却することにより、目標とする組織を形成することができ、このとき、段階的(stepwise)に冷却を行うことが好ましい。本発明において、上記段階的冷却は、徐冷帯(SCS)と急冷帯(RCS)で行われることができ、一例として、650~700℃の温度範囲まで1~10℃/sの平均冷却速度で徐冷した後、300~580℃の温度範囲まで5~50℃/sの平均冷却速度で急冷を行うことが好ましい。徐冷時の冷却速度を遅く行うことで、この後、急冷時の急激な温度低下による板状不良を抑制することができる。
【0066】
上記徐冷の終了温度が650℃未満であると、低すぎる温度により炭素の拡散活動度が低くてフェライト内の炭素濃度が高くなる一方、オーステナイト内の炭素濃度が低くなるにつれて硬質相の分率が過度になり、降伏比が増加し、それにより加工時のクラック発生の傾向が高くなる。また、均熱帯との温度差が大きくなりすぎて板状が不均一になるという問題が発生する可能性がある。上記終了温度が700℃を超過するようになると、後続冷却(急冷)時に過度に高い冷却速度が要求されるという欠点がある。また、上記徐冷時の平均冷却速度が10℃/sを超過すると炭素拡散が十分に起こり得ず、生産性を考慮して1℃/s以上の平均冷却速度で冷却することが好ましい。
【0067】
上記徐冷を完了した後、急冷を行う。上記急冷冷却終了温度が300℃未満では鋼板の幅方向及び長さ方向に冷却偏差が発生して、板形状が劣化するおそれがあり、580℃を超過するようになると硬質相を十分に確保することができなくなって強度が低くなることがある。一方、上記急冷時の平均冷却速度が5℃/s未満であると硬質相の分率が過度になるおそれがあり、50℃/sを超過するようになると却って硬質相が不十分となるおそれがある。
【0068】
一方、上記焼鈍工程では、冷却が完了した後、必要に応じて過時効処理(OAS)を行うことができる。上記過時効処理は、上記急冷終了温度後に一定時間維持する工程である。上記過時効処理は、別途の処理を行わないものであり、一種の空冷処理と同様に見ることができる。上記過時効を行うことで、コイルの幅方向、長さ方向にコイルの均質化が行われることで形状品質を向上させる効果がある。このために、上記過時効処理は200~800秒間行うことができる。
【0069】
めっき
上記焼鈍後のめっき工程を介しためっき層を形成することができる。上記めっきは、焼鈍中にめっき浴を設けて溶融めっき液に鋼板を浸漬(dipping)する溶融めっき法と焼鈍が終わった後、電解液で電気めっきする方法がある。スポット溶接中に発生するLMEは、溶融亜鉛がある場合に発生することがあるため、めっき鋼板の製造方法とは関係がない。上記めっき時の条件は、一般的に、本発明が属する技術分野において公知のものであれば特に制限されない。
【実施例】
【0070】
以下、本発明の実施例について説明する。下記実施例は、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、本発明の範囲から逸脱しない範囲内で様々な変形が可能であることはもちろんである。下記実施例は、本発明の理解のためのものであり、本発明の権利範囲は、下記実施例に限定されてはならず、後述する特許請求の範囲だけでなく、これと均等なものによって定められる必要がある。
【0071】
(実施例)
下記表1に示した合金組成(単位は重量%であり、表1に示されていない残りはFeと不可避不純物である)を有する鋼スラブを製作した後、各鋼スラブを1200℃で1時間加熱した後、仕上げ圧延温度を下記表2の条件で素材中心部温度は800~920℃となるようにし、表層には仕上げ圧延中に水を噴射する工程を適用した。
【0072】
製造された熱延鋼板を0.1℃/sの冷却速度で冷却して、650℃で巻き取った。この後、巻き取られた熱延鋼板を40%、80%の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造した。
【0073】
製造された冷延鋼板に対して焼鈍温度を730~860℃の温度範囲で加熱し、表2の焼鈍温度条件で熱処理を行った。焼鈍熱処理は、
図1の加熱帯(HS)、均熱帯(SS)、徐冷帯(SCS)、急冷帯(RCS)、過時効処理帯(OAS)で各段階の温度を表2に示した。一方、徐冷(表2においてSCS区間)は3℃/sの平均冷却速度で、急冷(表2においてRCS区間)は20℃/sの平均冷却速度で行った。
【0074】
一方、上記LME特性を評価するために、鋼板表面に電気めっきを行い、厚さ5~7μmの亜鉛めっき層を形成した。
【0075】
【0076】
【0077】
上記方法で製造された各鋼板の微細組織を観察し、機械的特性及びめっき特性を評価して、その結果を下記表3に示した。
【0078】
このとき、各試験片に対する引張試験は、圧延方向の垂直方向にJIS5号サイズの引張試験片を採取した後、変形率(strain rate)0.01/sで引張試験を行った。
【0079】
上記製造された鋼板の組織を観察するために、ナイタルエッチング後のSEMとイメージ分析器(Image analyzer)を用いて各分率を測定した。一方、上記製造された鋼板の表層層の健全部の深さは、光学顕微鏡で測定を行った。LMEは同一条件でスポット溶接をした後、スポット溶接部を切断して断面を光学顕微鏡で観察し、LMEによる表層のクラック発生の有無を確認した。
【0080】
【0081】
上記表3において、YSは降伏強度、TSは引張強度を意味し、LME有無はスポット溶接中にめっきされた亜鉛が溶融して、母材粒界に浸透し、形成されたクラックを観察したものである。
【0082】
上記表1~3に示したように、本発明で提案するところを全て満たす発明例1~3は、優れた物性を確保しながらも、スポット溶接時のLMEによる割れを防止して優れたスポット溶接性を確保することができることが分かる。
図2は、上記発明例1の表層部を観察したものであり、健全層が形成されていることを確認することができる。
【0083】
比較例1、2、4~6は、熱間圧延中に水冷をしない従来の工程で製造して、表層部に健全層が形成されず、スポット溶接中のLMEに敏感であって欠陥を形成した。また、材質側面で冷間圧下率が低くて焼鈍温度を低くすると、フェライト再結晶が不足し、オーステナイトが形成されて強度は確保されるが、伸び率が低いという問題がある。特に、
図3は、上記比較例1の表層部を観察した微細組織を観察した写真であり、表層部において健全層が形成されていないことが分かる。
【0084】
比較例3及び7は、熱間圧延中に水を噴射して表面に健全なフェライト層を形成してLMEクラックが観察されないが、圧下率が低くて、加熱区間で再結晶が遅くなり、硬質相の分率が過度に大きくなって、伸び率が低いという問題があった。
【0085】
比較例8は、熱間圧延中に水を噴射して表面に健全なフェライト層(健全層)を形成して、LMEクラックが観察されなかった。高い圧下率で冷間圧延を行い、連続焼鈍温度をAc1+30℃を超過する高い温度で焼鈍して内部の硬質相分率が高くて伸び率が劣化することを確認することができた。
【0086】
比較例9~11は、熱間圧延中に水冷をしない従来の工程で製造して、表層部に健全層が形成されず、スポット溶接中にLMEに敏感であって欠陥を形成した。また、高い圧下率で冷間圧延を行ったが、連続焼鈍温度がAc1+30℃を超過して内部の硬質相分率が高くて伸び率が劣化した。
【国際調査報告】