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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-22
(54)【発明の名称】生ウィルスの安定化液体ワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/12 20060101AFI20250115BHJP
   A61K 39/155 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 39/215 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 39/175 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20250115BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20250115BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
A61K39/12
A61K39/155
A61K39/215
A61K39/175
A61K9/08
A61K47/22
A61K47/26
A61K47/20
A61P31/14
A61P37/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537395
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-08-14
(86)【国際出願番号】 EP2022087464
(87)【国際公開番号】W WO2023118426
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】21217481.7
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510000976
【氏名又は名称】インターベット インターナショナル ベー. フェー.
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100216839
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 敏幸
(74)【代理人】
【識別番号】100228980
【弁理士】
【氏名又は名称】副島 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ケッツ,エドウィン
(72)【発明者】
【氏名】ピースト,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】フェルメイ,パウル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA13
4C076BB11
4C076CC06
4C076DD38
4C076DD55Q
4C076DD60
4C076DD60Q
4C076FF12
4C076FF36
4C076FF63
4C085AA03
4C085BA51
4C085BA57
4C085BA60
4C085BA71
4C085CC08
4C085DD14
4C085DD15
4C085EE01
4C085GG01
(57)【要約】
本発明は、生ウィルス及び天然深共晶溶媒(NADES)を担体として含む液体ワクチン組成物に関するものである。その担体はさらにメチオニン及び(ヒドロキシ)エクトインから選択される添加剤を含む。当該添加剤は、最大50重量%の水を含むNADESベース液体ワクチン組成物中での保管時に、経時的なウィルス力価の損失を低減することができる。そのような組成物は、担体の製造、及び液体ワクチンの製剤及び使用に好ましい比較的低粘度である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生ウィルス及び薬学的に許容される担体を含む液体ワクチン組成物であって、
当該担体は天然深共晶溶媒(NADES)であり、そして、前記ワクチンは、最大0.8の水分活性を有するものであり、
前記液体ワクチン組成物は、最大50重量%の水分量を有し、そして、前記ワクチンが、メチオニン、エクトイン、及びヒドロキシエクトインから選択される添加剤をも含むことを特徴とする、液体ワクチン組成物。
【請求項2】
前記NADESが、プロリン、ソルビトール及び水から形成されることを特徴とする、請求項1に記載の液体ワクチン組成物。
【請求項3】
前記プロリン、ソルビトール及び水が、プロリン:ソルビトール:水のモル比1:1:1~1:1:10で前記NADES中に存在することを特徴とする、請求項2に記載の液体ワクチン組成物。
【請求項4】
前記添加剤が0.05~0.5重量%で含まれていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の液体ワクチン組成物。
【請求項5】
前記生ウィルスが生エンベロープウィルスであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の液体ワクチン組成物。
【請求項6】
前記生エンベロープウィルスがパラミクソウィルス及びコロナウィルスから選択されることを特徴とする、請求項5に記載の液体ワクチン組成物。
【請求項7】
前記パラミクソウィルスがイヌパラインフルエンザウィルス(CPI)及びイヌジステンバーウィルス(CDV)から選択されることを特徴とする、請求項6に記載の液体ワクチン組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の液体ワクチン組成物の製造方法であって、該方法は、
-請求項1~4のいずれか1項で定義のNADESを調製する段階、
-前記NADESを請求項1~4のいずれか1項で定義の添加剤と混合する段階、及び
-前記NADES及び添加剤を、前記生ウィルスを含む組成物と混合する段階
を含む、方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項で定義の液体ワクチン組成物中で生ウィルスを安定化するための、メチオニン、エクトイン、及びヒドロキシエクトインから選択される添加剤の使用。
【請求項10】
前記液体ワクチン組成物に含まれる前記ウィルスの病原性型の前記ウィルスによって引き起こされる感染及び/又は疾患に対してヒト又は動物標的を保護する方法で使用するための、請求項1~7のいずれか1項に記載の液体ワクチン組成物。
【請求項11】
ヒト又は動物標的のワクチン化方法であって、該方法は、請求項1~7のいずれか1項に記載の液体ワクチン組成物を前記標的に投与することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワクチン学の分野に関するものであり、特に生ウィルスのワクチンに関する。特に、本発明は、生ウィルス及び担体としての天然深共晶溶媒(NADES)を含む液体ワクチン組成物に関する。さらに、本発明は、その液体ワクチン組成物の製造方法、そのような液体組成物中の生ウィルスを安定化する方法、及びそのような液体ワクチン組成物の医学的使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
深共晶溶媒(DES)は、多くの注目すべき特性を併せ持った液体組成物であり、それらの特性は、その組成物がイオン性であるが自由水がほとんどないという事実に由来するものである。本質的にこれらは2以上の塩の混合物であり、それにより、混合物の融点は個々の成分の融点に比べて大幅に低下している。その結果、このような混合物は、主に塩で構成されていても、環境温度やゼロ℃以下であっても液体である。
【0003】
DESは、例えばAbbott et al, 2003, Chem. Commun., vol. 1, p.70-71)やWO2009/120839によって報告されている。Smithら(Smith et al, 2014, Chem. Rev., vol.114, p.11060-11082)は、DESを四つのクラスに分類することを提案している。DESの特性と微細構造に関する最近の総説は、Kaur et al, (2020)(J. of Phys. Chem. B, vol.124, p.10601-10616)である。
【0004】
DESはイオン液体であるため、さまざまな化学プロセスや工業プロセスの溶媒として非常に効果的である。例としては、ガス、鉱物及び工業用バルク製品の抽出から、金属や医薬品の溶媒まで多岐にわたる。DESは、酵素やRNAなどの生体分子の抽出にも使用されており、それぞれUS8,247,198及びWO2011/155829を参照する。
【0005】
DESの特殊な形態は、その成分が天然物質であるものである。このようないわゆる「天然DES」又はNADESは、Choi et al, 2011(Plant Physiol., vol.156、 p.1701-1705)及びDai et al, 2013(Anal. Chim. Acta、 vol.766、p.61-68)に記載されている。NADESは現在、セルロースやバニリンなどの各種の生体化合物の「グリーン」溶媒として使用されている。
【0006】
この分野では公知のように、生ウィルスワクチンの免疫学的有効性を決定する重要な特徴は、使用されるウィルスの量及び特性である。したがって、特定のワクチン株の場合、登録された貯蔵期間の期限まで、最小有効生ウィルス力価(つまり、効力)を維持することが最も重要である。生ウィルスを保存する旧来の方法は凍結乾燥であるが、これは手間がかかり、エネルギーを大量に消費し、費用のかかるプロセスである。
【0007】
WO2019/122329では、凍結乾燥の必要性を克服し、高温であっても優れた安定性を備えた感受性の生エンベロープウィルスの液体ワクチンの開発を可能にする液体ワクチン組成物が開示された。これは、存在する少量の水でさえ化学プロセス又は生体プロセスに容易に利用できないため、ワクチン担体及びウィルスの添加剤としてNADESを使用することで達成された。’329特許出願では、NADESは好ましくは有機塩及び多価アルコールで構成され、ワクチンは代表的には20重量%未満の水を含む。
【0008】
いくつかの刊行物、例えばWO2011/121306、WO2014/029702、WO2014/140239、WO2015/121463、及びUS2014/0271710は、液体ワクチン組成物中のウィルスの安定化について記載しており、一見すると’329に記載されているものと類似する化合物を使用している。しかしながら、これらの液体ワクチンはNADESに基づくものではなく、通常の水性組成物に基づくものである。このような水性組成物は、その物理的特性及び感受性ウィルスを安定化する能力において、NADESに基づく組成物とは本質的に異なる。以下の実施例1では、これらの公開された水性組成物のいくつかについて、その塩の濃度、水の量、及び水分活性に関して分析する。これにより、これらの組成物は水性組成物であり、水を薬学的に許容される担体として使用しているが、NADESに基づくものではないことが直ちに明らかになる。
【0009】
WO2020/201048は、モリクテス菌のNADESベースの液体ワクチンについて説明している。
【0010】
DESは分子間相互作用の水素結合ネットワークからなり、その組成物中に存在する水はその中で強固に結合している。これにより、DESネットワークが含むことができる水の最大量も決まる。当技術分野で一致している点は、DESのネットワーク構造が完全に乱れる前に、DESに最大約50重量%の水量を含めることができ、その時点で組成物がDESから水性組成物に変化するというものである。例えば、Dai et al., 2015 (Food Chem., vol.187, p.14-19);Hammond et al., 2017 (Angew. Chem., Int. Ed., vol.56, p.9782-9785);及びLiu et al., 2018 (J. of Nat. Prod., vol.81, p.679-690)を参照する。
【0011】
WO2019/122329のNADESベースの液体ワクチンは、注射で投与できるが、その組成物の中には粘度が非常に高いものもあり得る。これは、大規模な製造及び処理、及びそのようなワクチンの特定の投与方法にとって不利となる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2009/120839
【特許文献2】US8,247,198
【特許文献3】WO2011/155829
【特許文献4】WO2019/122329
【特許文献5】WO2011/121306
【特許文献6】WO2014/029702
【特許文献7】WO2014/140239
【特許文献8】WO2015/121463
【特許文献9】US2014/0271710
【特許文献10】WO2020/201048
【特許文献11】WO2019/122329
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Abbott et al, 2003, Chem. Commun., vol. 1, p.70-71.
【非特許文献2】Smith et al, 2014, Chem. Rev., vol.114, p.11060-11082.
【非特許文献3】Kaur et al, (2020)(J. of Phys. Chem. B, vol.124, p.10601-10616).
【非特許文献4】Choi et al, 2011(Plant Physiol., vol.156, p.1701-1705).
【非特許文献5】Dai et al, 2013(Anal. Chim. Acta、 vol.766、p.61-68)
【非特許文献6】Dai et al., 2015 (Food Chem., vol.187, p.14-19).
【非特許文献7】Hammond et al., 2017 (Angew. Chem., Int. Ed., vol.56, p.9782-9785).
【非特許文献8】Liu et al., 2018 (J. of Nat. Prod., vol.81, p.679-690.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明の目的は、従来技術の欠点を克服し、薬学的に許容される担体としてNADESに基づく生ウィルスの液体ワクチンを提供することにより、当該分野のニーズに応えることであり、そのワクチンは、粘度が低く、比較的多量の水を収容することができながら、ウィルス力価の損失を低減するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
驚くべきことに、メチオニン、エクトイン、又はヒドロキシエクトインをさらに含むNADESベースの生ウィルス液体ワクチンを提供することにより、この目的を達成でき、その結果、従来技術の1以上の欠点を克服できることが認められた。
【0016】
この発見により、例えばWO2019/122329に記載されている組成物と比較して粘度が低く、最大50重量%の量の水を含有でき、それでも生ウィルスの良好な安定化を提供するNADESベースの液体ワクチン組成物の開発が可能になる。これらの液体ワクチンは、特に大規模に製造及び製剤するのがより容易になり、異なる経路による取り扱い及び投与がより容易になる。また、比較的大量の水により、ウィルスその他の抗原を含める際の柔軟性が向上する。例えば、これにより、より低濃度の水性製剤から生ウィルスを含めたり、及び/又はいくつかの他の抗原を追加で含めたりして、多抗原混合ワクチンを構成することができる。
【0017】
重要な点として、0℃以上の温度でも生ウィルスを非常に安定させるという点で、NADESベースの液体ワクチンの利点を依然として提供することから、製造において凍結乾燥する必要がなく、対象に投与する前に再生させる必要もなく、凍結することなく0℃以下の温度で簡便に保管できる。
【0018】
より粘性の低いNADESベースのワクチンを製造する試みにおいて、本発明者らは、水の量を増やすだけでは部分的な解決にしかならず、粘度は確かに低くなったが、残念ながら安定化能力も低下することを学んだ。水の量が5重量%を超えて増加した時点ですでに、安定性アッセイでウィルス力価の低下が明らかに認められた。20~40重量%の水を含めると、生ウィルス力価における中程度ないし重度の損失がそれぞれ増加し、40重量%を超えると生ウィルス力価の非常に急速な損失が観察された。水が50重量%を超えて含まれると、組成物は、示差走査熱量測定(DSC)プロファイルが、本明細書に記載のように、水溶液に特徴的なガラス転移プロファイルから氷結晶化プロファイルに変化することによって示されるように、NADES特性を失った。
【0019】
次に、発明者らは、粘度を下げたこれらのNADESベースのワクチンでウィルスの生存期間を延ばす方法を見つけなければならなかった。検討された一つの選択肢は、さらなる成分を追加することであった。しかし、多くの異なる化合物の試験を行ったが、そのほとんどはウィルス力価の損失を十分に低減しなかった。実際、最大50重量%の水を含む本発明によるNADESベースの液体ワクチン組成物中で生ウィルスを保存した場合、経時的にウィルス力価の損失を実際に低減できたのは、メチオニン及び(ヒドロキシ)エクトインというごく少数の化合物だけであった。
【0020】
これは予想外のことであり、通常の水性組成物中の化合物のウィルス安定化特性が、自由水レベルが非常に低いNADESベースの組成物のような物理的に非常に異なる条件でも発生する可能性は低いことを明確に示したものである。結果的に、水性組成物で使用される化合物による安定化効果に関する以前の刊行物を使用しては、そのような効果がNADESベースの組成物の文脈でも発生すると予測、一般化、又は推定することはできない。
【0021】
メチオニンと(ヒドロキシ)エクトインが、最大50重量%の水分を含むNADESベースの液体ワクチン組成物中の生ウィルスの生存能力を延長できる方法や理由は正確にはわかっていない。NADESを形成するのに使用される化合物のいくつかは、それ自体が安定化効果及び/又は抗酸化効果を持つと考えられており、それらの化合物は添加されたメチオニン又は(ヒドロキシ)エクトインに比べて大過剰に存在するため、これは特に驚くべきことであった。
【0022】
発明者らは、これらの発見を説明する可能性のあるいかなる理論やモデルにも縛られるつもりはないが、メチオニン、エクトイン、ヒドロキシエクトインが、何らかの方法で、存在する水が経時的に生ウィルスの力価に与える悪影響を回避できるため、この好ましい効果を発揮するのではないかと推測している。
【0023】
したがって、1態様において本発明は、生ウィルス及び薬学的に許容される担体を含む液体ワクチン組成物であって、前記担体が天然深共晶溶媒(NADES)であり、そして、前記ワクチンが最大0.8の水分活性を有するものであり、前記液体ワクチン組成物の水分量が最大50重量%であり、そして、前記ワクチンがメチオニン、エクトイン及びヒドロキシエクトインから選択される添加剤をも含むことを特徴とする、液体ワクチン組成物に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】文献からの図であって、ここに転載したものである。オリジナルはWO2020/201048の図1であり、完全なNADESの示差走査熱量測定(DSC)ガラス転移プロファイルを示している。具体的には、これは、プロリン、ソルビトール、水のモル比が1:1:2.5のNADESのDSCプロファイルである。
図2】文献からの図であって、ここに転載したものである。オリジナルは、Qiao et al., (2018, Appl. Microbiol. Biotechnol., vol. 102, p. 5695-5705)の図4であり、水性組成物となった過剰希釈NADESの融解エンタルピーと結晶化エンタルピーを示すDSCプロファイルを示している。
図3】異なる添加剤を含む組成物中のCPIのインキュベーションの結果である。インキュベーションは、20℃で行った。詳細は実施例2に記載されている。
図4A】異なる添加剤を含む組成物中のBCVのインキュベーションの結果である。インキュベーションは28℃(図4A)又は4℃(図4B)で行った。詳細は実施例2に記載されている。
図4B】異なる添加剤を含む組成物中のBCVのインキュベーションの結果である。インキュベーションは28℃(図4A)又は4℃(図4B)で行った。詳細は実施例2に記載されている。
図5】添加剤としてメチオニンを含むNADESベース組成物中のIBVのインキュベーションの結果である。インキュベーションは、4℃で行った。詳細は実施例3に記載されている。
図6A】異なる量の水を含むNADESベース液体組成物中のCDVのインキュベーションの結果である。安定性試験を、27重量%の水を含む組成物で20℃(図6A)又は4℃(図6B)で行い;或いは、インキュベーションを、40重量%の水を含む組成物で4℃(図6C)で行った。詳細は実施例3に記載されている。
図6B】異なる量の水を含むNADESベース液体組成物中のCDVのインキュベーションの結果である。安定性試験を、27重量%の水を含む組成物で20℃(図6A)又は4℃(図6B)で行い;或いは、インキュベーションを、40重量%の水を含む組成物で4℃(図6C)で行った。詳細は実施例3に記載されている。
図6C】異なる量の水を含むNADESベース液体組成物中のCDVのインキュベーションの結果である。安定性試験を、27重量%の水を含む組成物で20℃(図6A)又は4℃(図6B)で行い;或いは、インキュベーションを、40重量%の水を含む組成物で4℃(図6C)で行った。詳細は実施例3に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0025】
「液体」という用語は、それの一般的な意味で使用され、特定の温度及び特定の期間内に流れることができる組成物を指す。液体特性を決定するために、傾斜試験を行い、特定の温度(例えば、環境温度)の組成物が入った容器を傾斜させ、特定の時間(例えば、30分間)後に組成物の形態の変化が検出されると、その組成物は液体であると分類される。
【0026】
「ワクチン」は、医療効果を有する組成物であることはよく知られている。ワクチンは、免疫学的に活性な成分及び薬学的に許容される担体を含む。この場合、「免疫学的に活性な成分」は、生ウィルスを含む。ワクチンの投与後、免疫原は標的の人間又は動物の免疫系によって認識され、それが防御免疫反応を引き起こす。この反応は、標的の自然免疫系及び/又は獲得免疫系から発生し得るものであり、細胞性及び/又は体液性タイプのものであることができる。
【0027】
ワクチンは一般的に、病原体の数を減らしたり、宿主内での病原体の複製期間を短縮したりすることによって、感染の重度を低下させる上で効果的である。
【0028】
また、或いはおそらくその結果として、ワクチンは一般に、病原体のそのような感染又は複製、或いはその感染又は複製に対する標的の反応によって引き起こされ得る疾患の(臨床)症状を軽減又は改善するのに効果的である。
【0029】
本明細書で使用される「含む(comprising)」(及び「含む(comprise)」、「含む(comprises」、及び「含む(comprised)」などの変形形態)という用語は、要素又は組み合わせが明示的に記載されていない場合であってもその用語が用いられている文面、段落、請求項などによって網羅される又はそれに含まれる、全ての要素、及び本発明において考えられるあらゆる可能な組み合わせを指すものであり、そのような要素又は組み合わせのいずれかを除外するものではない。
【0030】
従って、そのような文面、段落、請求項などは、「含む(copmprising)」(又はその変形)という用語が「からなる(consist of)」、「からなる(consisting of)」、又は「本質的にからなる(consist essentially of)」などの用語に置き換えられる1以上の実施形態に関するものであることもできる。
【0031】
厳密に言えば、ウィルスを「生(live)」であると呼ぶことは生物学的に不正確であるが、これは不活性化されていないウィルスを言う一般的な方法であり、従って、本発明について、用語「生(live)」であるは適切な条件下、例えば適切な宿主細胞において複製することができる(すなわち、「複製性」)ウィルスを言う。
【0032】
実際には、本発明による液体ワクチン組成物に含まれる生ウィルスは、ヒト又は動物標的へのワクチン接種に適したウィルスである。代表的には、これは、ワクチンウィルスがその標的に対して病原性が低いことを意味する。この表現型は、例えば特定の標的種で使用した場合に病原性が低くなるなど、ウィルス自体の自然特性から生じる可能性がある。或いは、そのウィルスは、弱毒化されたウィルスであることができ、そのようなウィルスは「改変生(ウィルス)」とも呼ばれる。
【0033】
本発明における「弱毒化(された)」とは、そのようなウィルスの未変性、非弱毒化、又は「野生型)」形態と比較して、より低いレベルの疾患症状を引き起こすこととして、例えば感染もしくは複製の速度が低下していることで定義される。ウィルスの弱毒化は様々な方法で、例えば、実験動物を通した継代及び選択によって、又は細胞培養において、又は例えば化学物質、放射線を介した、又は組換えDNA技術を介した無作為若しくは標的変異によって得ることができ、これらの技術は全て当業界で公知である。
【0034】
ウィルスはよく知られた微生物であり、その多くの種類は人間や動物に対して病原性がある。Fields Virology(第4版 2001, Lippincott Williams & Wilkins, ISBN-10:0781718325)などのハンドブックに、非常に多様なウィルスの種類とファミリーが記載されている。
【0035】
本発明において、生ウィルスを含む組成物の「力価」とは、その組成物中の感染性ウィルスの量を指す。その力価の低下は、ウィルスが宿主細胞に感染する能力を失うこと、及び/又は宿主細胞内で一度複製する能力を失うことによって生じる。これは、例えばウィルスエンベロープ、構造タンパク質、及び/又は核酸の損傷によって引き起こされ得る。結果的に、生ウィルスの安定性は、それの力価への影響の観点から効果的に示すことができる。これはイン・ビボで決定することができるが、より簡便には、例えば受精卵又は好適な宿主細胞の細胞培養を使用して、イン・ビトロで決定することができる。ウィルス力価は、その後、例えば保存前と保存後とで比較することができ、例えば組織培養感染量(TCID50)、細胞感染量(CID)、プラーク形成単位(pfu)、又は卵感染量(EID)で表すことができる。
【0036】
本発明について、「薬学的に許容される担体」は高グレードの純度の液体であり、医学的目的に適している。この場合、担体はNADESである。担体は、さらなる賦形剤を含むことができる。
【0037】
「深共晶溶媒(deep-eutectic solvent)」(DES)は共晶混合物を形成するモル比で少なくとも2つの化合物の混合物を含むイオン性液体として当技術分野で周知であり、それによって、得られる混合物の共晶点は、個々の化合物の融点よりも有意に低い。混合物の融点のこの低下は化合物の分子相互作用によって引き起こされ、一方はプロトン供与体として作用し、他方はプロトン受容体として作用する。これにより、結晶化せずに安定な水素結合の発生が可能となり、混合物をその構成成分と比較して、はるかに低い温度で液体形態にすることを可能にする。一般に、「共晶」は、容易な溶融を意味する。
【0038】
本発明では本発明のためのDESを形成するために使用される個々の化合物が約80℃を超える融点を有し、DESは約40℃未満の融点を有する。例えば、プロリン及びソルビトールの融点はそれぞれ228℃及び112℃であり、一方、プロリン、ソルビトール及び水1:1:2.5のモル比で形成されたNADESは、環境温度で透明な液体を形成し、-20℃であっても流体のままであった。
【0039】
したがって、DESは主に液化した塩からなり、任意に少量の水を含む。したがって、DESは、主に水とそれに含まれる一定量の塩からなる水性組成物とは本質的に異なる。これらの2種類の液体の間の違いは、水分活性(a)及び水の量(重量%)などのパラメータを比較することでも明らかであり、DSCプロファイルの違いにも反映される。水性組成物のDSCプロファイルは、氷結晶の形成と融解を示すが、NADESはガラス転移プロファイルを有する。詳細については、本明細書で説明する。
【0040】
「約(about)」は、その値の周りで±10%の間で変化し得ることを示し、好ましくは、約はその値の周りの±9%を意味し、より好ましくは、約はその値の周りの±8、7、6、5、4、3、2%を意味するか、又はさらには約はその値の周りの±1%を意味し、その順序で好ましい。
【0041】
「天然深共晶溶媒」及び「NADES」という用語において、「天然」という特徴は、この種のDESを形成するのに使用される化合物が、微量より十分に高い量で植物又は動物などの生物源からの材料中に存在する有機化合物であることを示すのに役立つものである。典型的には、そのような天然化合物は、植物若しくは動物起源の特定の材料中に存在する一次代謝物であるか、それに由来する。当業者が理解するように、天然という用語は、本明細書では、化合物の最初の起源を特徴付けるためにのみ使用され、本発明におけるNADESで使用される化合物が実際に供給される形態を特徴付けるものではない。従って、本発明における天然化合物は、(半)合成製造から得ることができる。
【0042】
NADESを形成するのに使用することができる天然化合物の例は、有機酸、アミン、糖、糖アルコール、及びアミノ酸である。
【0043】
本発明による液体ワクチン組成物のさらなる有利な特徴は、ワクチン中に存在する水がNADESの構造に強固に結合していることである。この結果、例えば生ウィルスの安定性に影響を与える化学プロセス又は生物学的プロセスに利用可能な水の量が非常に限られることになる。この特徴は、通常、記号:aで示される「水分活性」の値によって表現される。水分活性は、純水の場合の上限1.0から下限0までの間で変動し得る。水分活性は、通常、(同じ温度で)試験組成物の蒸気圧を、純水及び既知の水分活性を有する多くの飽和塩溶液と比較することによって測定される。これは、例えば、FAO agricultural service bulletin no.149(Canovas et al, FAO, Rome, 2003, ISBN 92-5-104861-4)の果物及び野菜の保存に関するものなど、さまざまなハンドブック、総覧及びマニュアルに記載されており、総覧は′Fundamentals of water activity′, Decagon Devices Inc., Washington, 2015(http://pdf.directindustry.com/pdf/decagon-devices-inc/fundamentals-water-activity/64142-634433.html)に掲載されている。
【0044】
水分活性が0.8以下であれば、ほとんどの細菌の増殖が止まり、水分活性が0.7を超えると、ほとんどの酵母とカビの増殖が止まり、そして、水分活性が0.4以下であれば、ほとんどの酵素の活性が効果的に止まる。
【0045】
水分活性を測定するための機器と手順は公知であり、例えばヘッドスペース圧力分析を使用することによって利用可能である。
【0046】
本発明では、示された水分活性は、例えば商業生産者によって提供され、標的に投与する前に長期間保存できる形態であるなど、最終製品の形態の本発明による液体ワクチン組成物の水分活性を指す。したがって、示された水分活性は、例えば、標的に投与する直前に、例えば別のワクチンとの混和時に、又は例えば別のワクチンと混合する際、又は例えばスプレーにより若しくは飲料水を介して投与するために希釈を行う際に行われる本発明による液体ワクチン組成物の希釈に関するものではない。
【0047】
本発明による液体ワクチンは、NADES以外の成分を含み、これらの他成分は、例えば生ウィルスの原液水溶液のように水を含むことができる。したがって、NADES担体の水分活性は、典型的には、最終的な液体ワクチン組成物の水分活性よりも低くなることで、そのような他成分の添加が可能となり、本発明の液体ワクチンの最大水分活性を超えないようにすることができる。
【0048】
本発明において、「水分量」とは、本発明による液体ワクチンの組成物中に存在する水分量を指す。これは、液体ワクチン中の水分の総重量をそのワクチンの総重量で割ることによって算出され、パーセンテージで表される。
【0049】
水分量は、当業界でよく知られているカールフィッシャー滴定など、各種の異なる手順を使用して測定できる。
【0050】
本発明に至る実験では、生ウィルスを含むNADESベースのワクチンのサンプルを調製し、特定の温度、例えば-20、4、20又は37℃で期間を延ばしながら保管した。続いて、保管後の残存ウィルス力価を測定した。以降の実施例で詳細に開示するように、水の量を増やすために、本発明について記載されている添加剤は、その添加剤を含まない類似の組成物と比較した場合、経時的なウィルス力価の損失を減らすことができると考えられる。したがって、本発明で定義される添加剤は、最大50重量%の水を含むNADESベースの組成物に含まれ、保管される生ウィルスの力価の損失を減らすことができる。
【0051】
明らかに、組成物が希釈されすぎてNADES特性が失われ水性組成物になった場合、すなわち、水の量が約50重量%から増えた場合に、本発明による液体ワクチンの利点が失われる。当業者であれば理解できるように、NADES完全性が失われる正確な境界は、検討する組成物の詳細によって決まる。したがって、本発明の液体ワクチンの水の量は、高い方で50重量%までの水の量に制限される。
【0052】
水分活性と同様に、本発明による液体ワクチンの水分量は、例えば標的への投与直前など、希釈が行われる前の最終製品の形態の液体ワクチンに関するものである。
【0053】
水の量を50重量%以下に制限することにより、本発明による液体ワクチン組成物にNADESを担体としての使用により、DESに代表的な完全な水素結合ネットワークをワクチンに提供できる。これは、示差走査熱量測定(DSC)を使用したワクチンの相転移プロファイルの熱分析によって簡単に確認できる。その結果、本発明による液体ワクチンは、ガラス転移温度を示すDSCプロファイルを有しており、氷結晶化プロファイルは持たない。
【0054】
DSCプロファイルの決定はよく知られており、標準的な装置を使用して行うことができる。完全なNADESのガラス転移プロファイルの例は、WO2020/201048の図1に示されており、本明細書では図1として表されている。具体的には、これはプロリン、ソルビトール、及び水のモル比が1:1:2.5であるNADESのDSCプロファイルである。
【0055】
NADESの過剰希釈によって生じた水性組成物の融解エンタルピー及び結晶化エンタルピーを示すDSCプロファイルの例は、Qiaoら(2018, Appl. Microbiol. Biotechnol., vol.102, p.5695-5705)の図4に示されており、本明細書では図2として示されている。
【0056】
「添加剤」という用語は、本発明においては、この用語の一般的な意味で使用され、添加された化合物、例えば賦形剤を指す。本発明における添加剤は、例えば保存時に、本発明による液体ワクチン組成物において生ウィルスの感染力の損失を低減することができる。
【0057】
実施例セクションの結果は、本発明の組成物において、若干の力価の損失が依然として起こり得ることを示している。しかしながら、当業者であれば理解できるように、対照と比較して力価の損失率の減少でさえ、ウィルス安定化における貴重な効果を意味するものである。主に、それは、凍結乾燥の必要性を克服できるためである。さらに、それは、例えば、本発明なしでは不可能であろうと考えられる、液体ワクチン製品に2年間の保存期間を割り当てることを可能にし得るものである。したがって、明らかに望ましいことではあるが、有利な効果の基準は、力価の損失がゼロであることではなく、本発明の添加剤を含まない、又はNADESベースではない類似の組成物と比較した場合の力価損失の率又は総レベルが有意に低下することである。
【0058】
「メチオニン」は公知のアミノ酸であり、「エクトイン」とその誘導体である「ヒドロキシエクトイン」は細菌起源の公知の化合物である。
【0059】
本発明の実施形態及びさらなる態様の詳細について、以下で説明する。
【0060】
本発明において、本発明による液体ワクチン組成物に添加物が存在することの好ましい効果は、対照インキュベーション後に残存する力価と比較して、ウィルス力価の損失が減少することによって現れる。対照インキュベーションは、好ましくは、同様の組成物を用いて行われ、それは好ましくは温度及び期間などの同様の保管条件下で維持される。好ましくは、添加物の存在によってもたらされる力価損失の減少は、一定期間中のインキュベーション後に少なくとも5%である。これは、添加物を含む組成物中のウィルス力価が、好ましくは、インキュベーション期間後に対照インキュベーション組成物中より少なくとも5%高いことを意味する。
【0061】
インキュベーション(保存)期間は、好ましくは、20℃で少なくとも1週間、又は4℃で少なくとも1ヶ月である。さらに好ましくは、4℃で少なくとも2、3、4、6、12、18、又は24ヶ月である。
【0062】
好ましくは、添加剤の存在によってもたらされるウィルス力価損失の減少は、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、又は少なくとも75%であり、この順で好ましくなる。
【0063】
本発明による液体ワクチン組成物の1実施形態において、NADESは、有機塩、ポリオール、及び水から形成される。有機塩は、好ましくは、ベタイン、プロリン、カルニチン、及びコリンの塩から選択される1以上である。ポリオールは、好ましくは、糖又は糖アルコールであり、糖は、好ましくは、フルクトース、マルトース、スクロース、グルコース、及びトレハロースから選択される1以上であり、糖アルコールは、好ましくは、グリセロール、キシリトール、マンニトール、及びソルビトールから選択される1以上である。
【0064】
本発明による液体ワクチン組成物の好ましい実施形態では、NADESは、プロリン、ソルビトール及び水から形成される。
【0065】
「プロリン」は公知のアミノ酸であり、「ソルビトール」は公知の糖アルコールである。
【0066】
好ましい実施形態において、プロリンはCAS番号609-36-9である。
【0067】
好ましい実施形態において、ソルビトールはD-ソルビトールであり、より好ましくはD-ソルビトールはCAS番号50-70-4である。
【0068】
好ましい実施形態において、プロリン、ソルビトール及び水は、プロリン:ソルビトール:水のモル比が1:1:1~1:1:16でNADES中に存在する。
【0069】
プロリン、ソルビトール及び水のモル比が1:1:16であるNADESの場合、水の量は49.2重量%であり、水濃度は32.3Mである。しかしながら、ワクチン中の水の量を50重量%未満に抑えながら水性ウィルス調製物を含める余地はほとんどないため、NADES中のプロリン:ソルビトール:水のモル比は、好ましくは1:1:1~1:1:15、より好ましくは1:1:1~1:1:12、又は1:1:1~1:1:10である。
【0070】
特に感受性が高く、そのため液体製剤にする際に適切な安定化が必要となるのは、比較的大きく、RNAゲノムを持ち、及び/又はウィルスエンベロープを持つ(すなわちエンベロープで覆われている)生きたウィルスである。最も感受性が高いのは、大きく、RNAゲノムを持ち、ウィルスエンベロープを持つ生ウィルスである。これは、これらのウィルスが感染力と複製能力に対する物理的及び化学的影響の両方に対して感受性であるためである。
【0071】
したがって、本発明による液体ワクチン組成物の1実施形態において、生ウィルスは大きく、すなわち、直径が50ナノメートルより大きい。より好ましくは、本発明の大きいウィルスは、好ましい順に、直径が75、100、150、又は200ナノメートルより大きい。
【0072】
本発明による液体ワクチン組成物の1実施形態において、生ウィルスはRNAゲノムを有する。
【0073】
RNAゲノムは、正又は負の翻訳方向、つまりそれぞれプラス鎖又はマイナス鎖、或いはセンス又はアンチセンスとも呼ばれる方向をとることができる。よく知られているように、正、プラス、又はセンスの方向により直接翻訳が可能になる。RNAゲノムは、一本鎖又は二本鎖であることができる。RNAゲノムは、セグメント化又は非セグメント化することができ、これらはすべて当業者によく知られている。
【0074】
本発明による液体ワクチン組成物の1実施形態において、生ウィルスは生エンベロープウィルスである。
【0075】
「エンベロープウィルス」は、リン脂質外被膜を有する公知の種類のウィルスである。例としては、アスファ-(Asfar-)、バキュロ-(Baculo)、ヘパドナ-(Hepadna-)、ヘルペス-(Herpes-)、及びポックス(Pox)ウィルスファミリー;コロナ-(Corona-)、フラビ-(Flavi-)及びトガ(Toga)ウィルスファミリー;アレナ-(Arena-)、ブニア-(Bunya-)、フィロ-(Filo-)、オルトミクソ-(Orthomyxo-)、パラミクソ-(Paramyxo-)、ニューモ-(Pneumo-)、及びラブド(Rhabdo)ウィルスファミリー;並びにレオ-(Reo-)及びレトロ(Retro)ウィルスファミリーなどのウィルスである。
【0076】
ウィルスエンベロープは、そのようなウィルスを囲む脂質二重層であり、真核宿主細胞から出芽するウィルスによって得られる。そのエンベロープは、リン脂質及びタンパク質を含み、損傷に対して非常に感受性であり、そして、エンベロープウィルスがさらに宿主細胞に感染する能力にとって重要である。長期間の保管及び/又は高温での保管などによりウィルスエンベロープが損傷又は劣化すると、エンベロープウィルスの感染能力、すなわちそれの感染力価が大幅に低下する。他の種類のウィルスに関しては、生エンベロープウィルスの安定性は、それの感染力価、すなわち感染性ウィルスの量への効果に関して効果的に示され得る。
【0077】
本発明による液体ワクチン組成物の好ましい実施形態において、生ウィルスは、大きく、RNAゲノムを有し、そして、エンベロープで囲まれている。
【0078】
本発明による液体ワクチン組成物の1実施形態において、大きい生エンベロープRNAウィルスは、パラミクソウィルス及びコロナウィルスから選択される。
【0079】
これらのウィルスファミリーには、エンベロープとRNAゲノムを持つ比較的大きいウィルスである構成員を有することから、それらは、特に液体環境下にある場合、保管中に生物学的分解や力価低下に特に感受性である。
【0080】
本発明において、本明細書で示されるウィルスファミリーとは、形態学的、ゲノム的及び生化学的特性、並びに生理的、免疫的若しくは病理的挙動などの生物的特性など、分類上の群構成員の特徴的特徴を有するウィルスを指す。ウィルス属又は個々のウィルス種の名称への言及についても同様である。
【0081】
当該分野で知られているように、微生物を特定の分類群に分類することは、このような特徴の組み合わせに基づいて行われる。したがって、本発明は、指定されたファミリー又は指定された種名からのウィルス種も含み、これらのウィルス種は、亜種、株、分離株、遺伝子型、変異体、サブタイプ、又はサブグループなど、何らかの方法でそこからさらに分類される。
【0082】
さらに、本発明のウィルスの特定のファミリー、サブファミリー、属又は種が現在そのグループに割り当てられ得るが、それは分類学上の分類であり、新たな知見により新しい分類群又は異なる分類群に再分類される可能性があるため、時間の経過とともに変化する可能性があることは、本発明の分野の当業者には明らかである。しかしながら、これによりウィルス自体又はその抗原レパートリーが変更されるわけではなく、それの学名又は分類のみが変更になることから、このような再分類されたウィルスは本発明の範囲内にとどまる。
【0083】
好ましい実施形態において、パラミクソウィルスは、イヌパラインフルエンザウィルス(CPI)及びイヌジステンパーウィルス(CDV)から選択される。
【0084】
好ましい実施形態において、コロナウィルスはウシコロナウィルス(BCV)であるか、感染性気管支炎ウィルス(IBV)である。
【0085】
これらの全てのウィルスCPI、CDV、BCV及びIBVは公知であり、それぞれについて弱毒化ワクチン株が一般に入手可能である。或いは、一般的な手順を使用して弱毒化ウィルスを開発することができる。
【0086】
これらのウィルスのサンプルは、例えば、ヒトからの野外単離株、野生又は農場の動物、或いは各種の研究所、(保管)機関、(獣医)大学など、さまざまな入手源から入手できる。
【0087】
獣医学におけるこれらウィルスの関連性は、「メルク獣医マニュアル」(第11版、2016、ISBN-10:9780911910612)などの良く知られたハンドブックに記載されている。
【0088】
本発明による液体ワクチン組成物の好ましい実施形態において、メチオニンはL-メチオニンであり、より好ましくは、L-メチオニンはCAS番号63-68-3である。
【0089】
本発明による液体ワクチン組成物の好ましい実施形態において、エクトインはCAS番号96702-03-3である。
【0090】
本発明による液体ワクチン組成物の好ましい実施形態において、ヒドロキシエクトインは5-ヒドロキシエクトインであり、より好ましくは5-ヒドロキシエクトインはCAS番号165542-15-4である。
【0091】
本発明の組成物の添加剤は、実質的かつ有効な量に達するように慎重に添加される。したがって、本発明の液体ワクチンに含まれる、例えばウィルスの培養又は別の抗原の産生から生じる痕跡量で存在する化合物ではない。例えば、RPMI1640又はDMEMなどの哺乳動物細胞の代表的な培地は、15~30mg/Lのメチオニン、すなわち0.0015~0.003重量%を含む。培養、回収及びワクチンへの製剤後、そのメチオニンのごくわずかな痕跡量のみが最終ワクチン製品に持ち越されるため、本発明における添加剤の存在とはみなされない。
【0092】
したがって、本発明の液体ワクチン組成物の1実施形態において、添加剤は0.05~1重量%で含まれる。好ましくは、添加剤は0.05~0.5重量%、又は0.1重量%で含まれる。
【0093】
本発明において、添加剤の量は、好ましくは、NADES担体の重量に対して表される。また、範囲の表示には、記載される終点が含まれる。
【0094】
本発明による液体ワクチン組成物の好ましい実施形態において、添加剤はメチオニンである。
【0095】
本発明におけるNADESで使用するための化合物は、様々な商業的供給者から異なる純度及び品質で容易に入手可能である。好ましくは、当該化合物は、医薬級品質で使用される。そのような賦形剤は、例えば、欧州薬局方、米国9 CFRなどの政府規制、及びThe Handbook of Pharmaceutical Excipients (R. Rowe et al., Pharmaceutical press 2012, ISBN 0857110276);Remington:the science and practice of pharmacy (2000, Lippincott, USA, ISBN: 683306472)、及び″Veterinary vaccinology″ (P. Pastoret et al. ed., 1997, Elsevier, Amsterdam, ISBN 0444819681)などのハンドブックに記載されている。
【0096】
同様に、本発明による液体ワクチン組成物に使用される水は、好ましくは、純度の高い水であり、医薬品質級のものであり、非経口注射に適している。そのような水の性質は代表的には無菌であり、本質的に発熱物質を含まない。例えば(多重)蒸留水、逆浸透水、又は注射用水(WFI)である。
【0097】
本発明による液体ワクチン組成物をさらに最適化することは、当業者であれば実現可能なことである。一般に、それには、ワクチンの効力を微調整して、それが提供する免疫保護をさらに改善することが関与する。これは、ワクチンの用量、容量、又は抗原含有量を調整することによって、又は異なる経路、方法若しくは投与法を介して適用することによって行うことができる。これらは全て、本発明の範囲内に含まれる。
【0098】
本発明による液体ワクチン組成物の1実施形態において、液体ワクチン組成物の水分量は50重量%以下であり、より好ましくは、水分量は49、48、47、46、45、44、43、42、41、40、35、30、25、20又は15重量%以下であり、この順で好ましい。
【0099】
本発明による液体ワクチン組成物中の添加剤は、このような組成物に含まれる生ウィルスの力価を維持するのに好ましい効果を有する。この効果は、約5重量%の水の量からすでに明らかである。したがって、1実施形態において、本発明による液体ワクチン組成物は、最小水量が5重量%であり、好ましくは、最小水量が7、10、12、15、20、30重量%であり、この順で好ましい。
【0100】
したがって、本発明による液体ワクチン組成物は、好ましくは、示された好ましい上限と下限との組み合わせである範囲、例えば、5~50、7~45、10~40重量%などの水分量を有する。好ましい実施形態において、本発明によるワクチン組成物は、20~50重量%、より好ましくは30~50重量%、又は場合によっては35~50重量%の範囲の水分量を有する。
【0101】
説明したように、本発明による液体ワクチン組成物は、添加剤を含まないNADESベースの組成物と比較して、より多くの水を含むことができ、それでも生ウィルス力価は維持される。その結果、粘度が低下するため、投与及び調製にいくつかの利点がある。
【0102】
本発明による液体ワクチン組成物の1実施形態において、組成物の粘度は1000mPa・s以下、より好ましくは750、500、400、300、250、200、150以下、又は100mPa・s以下である。粘度は、通常の方法によって、そして本明細書に記載されているような標準的な装置を使用することで測定することができる。
【0103】
本発明による液体ワクチン組成物は、免疫学的に有効である量の生ウィルスを含む。
【0104】
本発明の分野の当業者は例えば、ワクチン接種後の免疫学的応答をモニタリングすることによって、又は攻撃感染(a challenge infection)後の(動物標的の場合)、例えば、疾患の標的の徴候、臨床スコアをモニタリングすることによって、又は病原体の再単離によって、これらの結果を偽ワクチン接種動物に見られるワクチン接種-攻撃応答と比較することによって、本発明による液体ワクチン組成物中の生ウィルスのこのような免疫学的に有効な量を決定及び最適化する以上のことができる。
【0105】
ワクチン用量中の生ウィルスの量を決定する方法は当該分野で周知であり、そして代表的には、ウィルスタイトレーションの技術、例えば、プラークアッセイ、卵、動物若しくはマイクロタイトレーションプレートでのタイトレーションを使用する。従って、このようなウィルス感染力価は例えば、TCID50、EID50、CID50又はプラーク形成単位(pfu)において表され得る。
【0106】
本発明による液体ワクチン組成物は、追加の抗原又は微生物、サイトカイン、又は非メチル化CpGを含む免疫刺激性核酸などの他の化合物をさらに含んでもよい。或いは、本発明による液体ワクチン組成物は、それ自体がワクチンに添加され得る。
【0107】
本発明による液体ワクチン組成物は有利には例えば、意図されるヒト又は動物標的に対して病原性の微生物に由来する、1以上のさらなる抗原と組み合わせることができる。このようなさらなる抗原は、それ自体が感染性微生物であってもよく、又は不活性化されていてもよく、又はサブユニットであってもよい。さらなる抗原は生体分子又は合成分子(例えば、タンパク質、炭水化物、リポ多糖類、脂質、又は核酸分子)であることができる。
【0108】
本発明による液体ワクチン組成物の1実施形態において、ワクチンは追加の抗原を含む。
【0109】
好ましい実施形態において、追加の抗原は細菌抗原であり、より好ましくは、細菌抗原は、レプトスピラ属、ボルデテラ属、ボレリア属、エールリヒア属、マイコプラズマ属、ポルフィロモナス属及びバクテロイデス属から選択される1以上である。
【0110】
好ましい実施形態において、追加の抗原は、リーシュマニア又はミクロスポルムからの抗原である。
【0111】
獣医学におけるこれら病原体の関連性は公知であり、例えば「メルクマニュアル」(上記)に記載されている。これらの細菌の適切な株は、さまざまな入手源から容易に入手できる。細菌抗原は、生弱毒細菌として、不活性化細菌(バクテリン)として、又はそれらのそれらの一部(溶解物、ホモジネート、抽出物、画分など)として含まれていることができる。
【0112】
好ましい実施形態において、レプトスピラ細菌は以下のものから選択される1以上である。
【0113】
-L.インターロガンス(L.interrogans)血清群カニコラ(Canicola)、より好ましくは血清型ポートランド-ベレ(Portland-vere)又は血清型カニコラ(Canicola)。
-L.インターロガンス(L.interrogans)血清型イクテロヘモラギアエ(Icterohaemorrhagiae)、より好ましくは血清型コペンハゲニ(Copenhageni)又は血清型イクテロヘモラギアエ(Icterohaemorrhagiae)、
-L.インターロガンス(L.interrogans)血清群ポモナ(Pomona)、より好ましくは血清型ポモナ(Pomona)、
-L.インターロガンス(L.interrogans)血清群アウストラリス(Australis)、より好ましくは血清型ブラチスラバ(Bratislava)又は血清型アウストラリス(Australis)、及び
-L.キルシュネリ(L.kirschneri)血清群グリッポチホサ(Grippotyphosa)、より好ましくは血清型ダダス(Dadas)、血清型グリッポチホサ(Grippotyphosa)、又は血清型バナナル(Bananal)/リアングアング(Lianguang)。
【0114】
好ましい実施形態では、ボルデテラ菌はB.ブロンキセプチカ(B.bronchiseptica)である。
【0115】
追加の抗原を含む本発明による液体ワクチン組成物の好ましい実施形態において、追加の抗原はさらなるウィルスである。
【0116】
より好ましい実施形態では、前記さらなるウィルスは、狂犬病ウィルス、イヌアデノウィルス1型(CAV-1)、イヌアデノウィルス2型(CAV-2)、イヌパルボウィルス(CPV)、イヌコロナウィルス(CCV)、イヌジステンパーウィルス(CDV)、及びイヌヘルペスウィルスから選択される1以上である。
【0117】
さらなるウィルスは、生弱毒化ウィルス又は不活化ウィルスとして含まれ得る。獣医学におけるこれらのさらなるウィルスの関連性は公知であり、例えば「メルクマニュアル」(上記)に記載されている。
【0118】
本発明による液体ワクチン組成物の1実施形態において、以下のものからなる群から選択される1以上の条件が適用される。
【0119】
-NADESは、有機塩、ポリオール、及び水から形成され;有機塩は、好ましくはベタイン、プロリン、カルニチン、及びコリンの塩から選択される1以上であり;ポリオールは、好ましくは糖又は糖アルコールから選択される1以上であり;糖は、好ましくはフルクトース、マルトース、スクロース、グルコース、及びトレハロースから選択される1以上であり:糖アルコールは、好ましくはグリセロール、キシリトール、マンニトール、及びソルビトールから選択される1以上である;
-NADESは、プロリン、ソルビトール、水から形成される;
-プロリンは、好ましくはCAS番号609-36-9である;
-ソルビトールはD-ソルビトールであり、好ましくはD-ソルビトールはCAS番号50-70-4である;
-プロリン、ソルビトール及び水は、プロリン:ソルビトール:水のモル比1:1:1~1:1:16、好ましくは1:1:1~1:1:15、さらに好ましくは1:1:1~1:1:12、又は1:1:1~1:1:10であるようにNADES中に存在する;
-生ウィルスは大きく、すなわち直径が50ナノメートルを超える;
-生ウィルスはRNAゲノムを有する;
-生ウィルスは生エンベロープウィルスである;
-生ウィルスはRNAゲノムを有し、エンベロープでも覆われている;
-生エンベロープRNAウィルスは、パラミクソウィルス及びコロナウィルスから選択される;
-パラミクソウィルスは、イヌパラインフルエンザウィルス(CPI)及びイヌジステンパーウィルス(CDV)から選択される;
-コロナウィルスはウシコロナウィルス(BCV)であるか、又は感染性気管支炎ウィルス(IBV)である;
-エクトインは、好ましくはCAS番号96702-03-3である;
-ヒドロキシエクトインは5-ヒドロキシエクトインであり、好ましくは5-ヒドロキシエクトインはCAS番号165542-15-4である;
-添加剤は0.05~1重量%で含まれ、好ましくは添加剤は0.05~0.5重量%、さらには0.1重量%で含まれる;
-添加物はメチオニンである;
-メチオニンはL-メチオニンであり、好ましくはL-メチオニンはCAS番号63-68-3である;
-液体ワクチン組成物は、50重量%以下の水分量を有し、より好ましくは、その水分量は、好ましい順に、49、48、47、46、45、44、43、42、41、40、35、30、25、20又は15重量%以下である;
-液体ワクチン組成物は、最小水分量が5重量%であり、好ましくは、好ましい順に最小水分量が7、10、12、15、20重量%である;
-液体ワクチン組成物は、1000mPa・s未満、より好ましくは750、500、400、300、250、200、150、又は100mPa・s以下の粘度を有する;
-液体ワクチン組成物は追加の抗原を含み、好ましくは追加の抗原は細菌抗原であり、より好ましくは、細菌抗原はレプトスピラ(Leptospira)細菌及びボルデテラ(Bordetella)細菌から選択される1以上である:
-レプトスピラ(Leptospira)細菌は、以下から選択される1以上である。
○L.インターロガンス(L.interrogans)血清群カニコラ(Canicola)、より好ましくは血清型ポートランド-ベレ(Portland-vere)又は血清型カニコラ(Canicola);
○L.インターロガンス(L.interrogans)血清群イクテロヘモラギアエ(Icterohaemorrhagiae)、より好ましくは血清型コペンハゲニ(Copenhageni);
○L.インターロガンス(L.interrogans)血清群ポモナ(Pomona)、より好ましくは血清型ポモナ(Pomona);
○L.インターロガンス(L.interrogans)血清群アウストラリス(Australis)、より好ましくは血清型ブラチスラバ(Bratislava);及び
○L.キルシュネリ(L.kirschneri)血清群グリッポチホサ(Grippotyphosa)、より好ましくは血清型ダダス(Dadas)、血清型グリッポチホサ(Grippotyphosa)、又は血清型バナナル(Bananal)/リアングアング(Lianguang);
-ボルデテラ菌は、B.ブロンキセプチカ(B.bronchiseptica)である;
-追加の抗原を含む液体ワクチン組成物において、追加の抗原はさらなるウィルスである;
-前記さらなるウィルスは、狂犬病ウィルス、イヌアデノウィルス(CAV)、イヌパルボウィルス(CPV)、及びイヌコロナウィルス(CCV)から選択される1以上である。
【0120】
本発明による液体ワクチン組成物の1実施形態において、NADESはプロリン、ソルビトール及び水から形成され、これらはNADES中に1:1:1~1:1:10のプロリン:ソルビトール:水のモル比で存在し、添加剤は0.1重量%で含まれ、添加剤はメチオニンであり、生ウィルスはCPI及びCDVから選択される一方又は両方であり、液体ワクチン組成物は、レプトスピラ菌及びボルデテラ菌から選択される1以上の細菌抗原である追加の抗原を含み、液体ワクチン組成物は、イヌアデノウィルス(CAV)、イヌパルボウィルス(CPV)、及びイヌコロナウィルス(CCV)から選択される1以上のさらなるウィルスであるさらなる追加の抗原を含む。
【0121】
本発明による液体ワクチン組成物は、一般的な技術及び材料を使用して製造することができる。本発明による液体ワクチン組成物を製造するための方法、使用、又はプロセスの詳細及び例は、本明細書に記載されており、そのような手順は、通常の材料及び方法を使用して、当業者によって容易に適用可能である。
【0122】
例えば、本発明のNADESは工業規模で生産することができ、粘度が低いため、製造のこの部分がより簡便になる。次に、本発明で定義される添加剤が追加される。これは、例えばNADESの形成時に、形成後のNADESに、NADESと混合される前の生ウィルス調製物に、又はNADES+ウィルスの混合物に、異なる段階で加えることができる。
【0123】
次に、混合物を適切なサイズの容器に充填する。製造プロセスのさまざまな段階は十分な試験によってモニタリングされ、例えば、ウィルスの品質と量を確認するための免疫学的試験により;無菌性や異物がないことを確認するための微生物学的試験により;そして最終的には有効性と安全性を確認するための動物でのワクチン接種研究などによる。品質、量、無菌性の試験が完了すると、ワクチン製品は販売できるようになる。
【0124】
これらはすべて当業者にはよく知られており、医薬品製造に関する公知の基準下でのワクチンの製造に適用される一般的な技術及び考慮事項は、例えば政府の指令及び規制(薬局方、9CFR、上記)及び公知のハンドブック(Pastoret, Remington、上記)に記載されている。
【0125】
したがって、さらなる態様において、本発明は、本発明による液体ワクチン組成物の製造方法であって、該方法は、
-本発明において定義されたNADESを準備する段階、
-前記NADESを本発明において定義された添加剤と混合する段階、及び
-前記NADES及び前記添加剤を生ウィルスを含む組成物と混合する段階
を含む方法に関するものである。
【0126】
簡便には、本発明の方法のこれらの段階は、保管、輸送、又はさらなる段階を介在させて、時間的及び/又は場所的に分離して実行することができる。これにより、操作の計画及び手配に柔軟性がもたらされる。
【0127】
本発明による方法で使用されるNADESの製造は、通常の手段及び方法を使用して行うことができる。一つの簡便な方法は、混合した化合物を、それらが混合して溶解しやすく、かつ損傷を与えない温度、例えば約80℃まで加熱することである。その加熱は、例えば、撹拌又は超音波処理と組み合わせて行うことができる。
【0128】
さらに、NADESの成分の一つを、最初に多少濃縮された形で水に溶解させることができ、その後、さらなる成分と混和させて、余分な水を蒸発させることによって本発明のNADESを形成することができる。
【0129】
本発明において定義された添加剤は、NADESが形成された後にそれと混合することも、NADESが形成される前にその化合物に添加することもできる。添加剤は乾燥塩として添加することができ、これにより、本発明による液体ワクチン中の水の総量を制御することができる。或いは、添加剤は水性原液から加えることもできる。明らかに、本発明による液体ワクチン組成物を製造する際には、このようにして組成物に添加される水の量を考慮に入れる必要がある。
【0130】
本発明による方法で使用される生ウィルスを含む組成物は、簡便に、様々な方法で、有利には、好適な細胞系でのウィルスのイン・ビトロ培養由来とすることができる。ウィルス細胞培養は、自動化された制御及びモニタリング技術を適用する大規模な工業用サイズの発酵槽で、最大数千リットルまでの任意の所望のサイズ又は容量で行うことができる。
【0131】
次に、ウィルスは、適切な方法で培養物から、例えば上清、細胞ペレット、又は培養物全体などとして回収される。これは、ウィルスの特性及び使用される培養システムに合わせて微調整することができる。本発明による方法で使用されるウィルス調製物は、必要に応じて、例えば限外濾過による濃縮などのさらなる処理段階を使用してさらに処理できる。次に、ウィルス組成物を、品質及び量について確認する。これはすべて、当業者には公知である。
【0132】
本発明の方法においてNADES成分、添加剤、及びウィルスの混合は、好ましくは無菌技術を使用して行われる。
【0133】
混合の順序と方法は重要ではなく、NADESをウィルス組成物に追加することも、その逆も可能で、添加剤はこのプロセスのどの段階でも加えることができる。好ましくは、使用する機械的混合は、生ウィルスに優しいように、低速かつ低衝撃で行う。さらに、混合及び/又は充填は、酸素への曝露を減らすために、例えば窒素又はアルゴンガスを用いて、保護雰囲気で行うことができる。
【0134】
液体ワクチン組成物を混合及び充填するための便利な装置は、プロセス-装置の各種供給者から入手可能である。
【0135】
本発明による液体ワクチン組成物の製造方法の1実施形態において、NADESを調製する段階と添加剤を加える段階とを組み合わせることで、NADES成分と添加剤を合わせ、その後に、記載のようにNADESが形成される。例えば、プロリン、ソルビトール、及びメチオニンを乾燥塩として組み合わせ、少量の水を加え、任意に超音波処理しながら加熱時に、NADES+添加剤が形成される。
【0136】
さらなる態様において、本発明は、本発明による液体ワクチン組成物中の生ウィルスを安定化するための、本発明で定義される添加剤の使用に関する。
【0137】
本発明による添加剤の使用の1実施形態において、添加剤は液体ワクチン組成物中に0.05~1重量%で含まれる。好ましくは、添加剤は0.05~0.5重量%、又は0.1重量%で含まれる。
【0138】
本発明において、「安定化」とは、上記で定義したように、経時的なウィルス力価の損失の減少を指す。
【0139】
さらなる態様において、本発明は、本発明による液体ワクチン組成物中の生ウィルスを安定化させる方法であって、本発明において定義される添加剤を前記液体ワクチン組成物中に含ませる段階を含む方法に関する。
【0140】
本発明による安定化方法の1実施形態において、添加剤は液体ワクチン組成物中に0.05~1重量%で含まれる。好ましくは、添加剤は0.05~0.5重量%、又は0.1重量%で含まれる。
【0141】
上述のように、本発明は、粘度が低いが良好なウィルス安定性を保持する生ウィルスの液体ワクチン組成物を可能にする。したがって、この組成物は、各種の標的及び疾患に対するワクチンとして有利に使用することができる。
【0142】
したがって、さらなる態様において、本発明は、当該液体ワクチン組成物中に含まれるウィルスの病原性形態によって引き起こされる感染及び/又は疾患からヒト又は動物の標的を保護する方法に使用するための本発明による液体ワクチン組成物に関する。
【0143】
「保護方法」は、本発明による液体ワクチン組成物を、そのような保護を必要とする対象者に投与する段階を含む。説明したように、この投与は、特にNADESベースのワクチンの粘度が低下しているため、多様な方法で行うことができる。
【0144】
したがって、1実施形態において、本発明による保護方法における使用は、粘膜経路による投与を含み、好ましくは、その粘膜経路には、眼、鼻及び経口経路から選択される経路が関与する。粘膜経路は、例えば、眼-鼻、又は鼻-経口などの組み合わせであることもできる。
【0145】
明らかに、本発明による保護方法は、非経口経路、すなわち皮膚を介した、例えば筋肉、腹腔内、皮内、粘膜下、又は皮下経路による投与によっても行うことができる。本発明による液体ワクチン組成物の非経口投与の好ましい経路は、筋肉又は皮下注射によるものである。
【0146】
さらに、本発明による保護方法は、本発明による液体ワクチン組成物を経腸経路で投与することが関与し得る。
【0147】
或いは、液体ワクチンは、飲料水、粗いスプレー、霧化、給餌などによる大量投与の方法によって投与することができる。
【0148】
本発明による保護方法は、予防的処置又は治療的処置のいずれか、或いはその両方として適用することができる。
【0149】
本発明による液体ワクチン組成物は、効果的なプライミングワクチンとして機能し得るものであり、それはその後、同じワクチン又は異なるワクチンによるブースターワクチン接種によって続き、増幅させることができる。
【0150】
本発明による使用のための液体ワクチン組成物の標的は、ワクチンに含まれる生ウィルスの病原性形態によって引き起こされる感染症及び/又は疾患に対するワクチン接種を必要とするヒト又は動物である。ワクチン接種される標的の年齢、体重、性別、免疫状態、及びその他のパラメータは重要ではないが、健康で感染していない標的にワクチン接種し、フィールド感染を防ぐためにできるだけ早くワクチン接種することが好ましい。
【0151】
本発明による保護方法の1実施形態において、標的は哺乳動物又は鳥類であり、好ましくは哺乳動物はウシ又はイヌである。
【0152】
本発明による使用のための液体ワクチン組成物の実施形態において、液体ワクチン及び生ウィルスの特徴はすべて、本発明について本明細書に開示されている通りである。
【0153】
さらなる態様において、本発明は、ヒト又は動物の標的をワクチン接種する方法であって、本発明による液体ワクチン組成物を前記標的に投与することを含む方法に関する。
【0154】
本発明によるワクチン接種方法の実施形態において、投与及び液体ワクチンの特徴はすべて、本発明について本明細書に開示されている通りである。
【0155】
本明細書においては、各種態様及び実施形態で本発明について説明する。理解すべき点として、これらの任意の組み合わせは本発明の範囲内であるとみなされる。ただし、簡潔にするため、本明細書ではすべての可能な組み合わせを完全に説明しているわけではない。
【0156】
以下、本発明を、下記の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【実施例
【0157】
実施例1:異なる組成物の特性の比較
生ウィルスワクチンの分野では、記載されているほとんどの組成物は凍結乾燥ケーキである。いくつかの刊行物が液体製剤について記載しているが、これは代表的には水性組成物、すなわち担体として水をベースとしたものであり、NADESではない。これらの生ウィルスの水性組成物は、主にDSCプロファイル、及び存在する水の量、濃度及び利用可能性においてNADESベースの液体ワクチンと異なる。それらの水性組成物の一部は、本発明の組成物と表面的に似ている可能性があるため、ここではそれらをより詳細に分析及び比較し、それによって、それらが実際には本質的に異なることを明確に示す。
【0158】
文献からの水性組成物
WO2014/029702及び関連刊行物、例えばWO2014/140239、WO2015/121463、US2014/0271710には、糖アルコール及び1以上のアミノ酸を含む組成物中の、多くの多様なウィルスの液体安定調製物が記載されている。′702から引用した一つの例示的な組成物は、水中の30重量%ソルビトール及び0.6Mアルギニンを含む。この組成物をより詳細に分析すると、次のことがわかる。組成物の(推定)密度を1.1g/mLとすると、1リットルあたり1100グラムが存在することになる。ソルビトールは300g/gなので330g/Lとなり、Mwは182g/モルなので、ソルビトールは1.8Mとなる。同様に、アルギニンは0.6Mで、Mwは174.2g/モルなので、これは105g/Lのアルギニンに相当する。この場合、水は1100-330-105=665グラム/リットルとなり、18g/モルなので、これは37Mの水となる。これは、60.5重量%の水の量に相当する。また、この組成物の水分活性を測定したところ、Aw=0.89であった。
【0159】
結論として、WO2014/029702及び関連刊行物に記載されている液体組成物は、水分含有量が60%、水分濃度が37M、水分活性が0.89である。これらはすべて、本発明のNADESベースの組成物の限界値及び好ましい値を大幅に上回っている。
【0160】
NADES特性
上記の水性組成物を本発明のNADESベースの組成物を比較すると、それらは本質的に異なる組成及び特性を有することが直ちに明らかになる。例えば、
プロリン:ソルビトール:水のモル比が1:1:2.5のNADESは、水分活性がAw=0.39で、水分量はわずか13.2重量%である。
【0161】
プロリン:ソルビトール:水のモル比が1:1:10で、さらに水分を含むNADESでも、Aw=0.76で、水分量は37.7重量%以下である。
【0162】
詳細については、表1を参照する。この表には、示されている二つの極端なNADESのガラス転移温度(Tg)と、より多くの水を使用してNADESを調製した場合に得られる粘度の低下も概説されている。
【0163】
サンプルのTgは、TA InstrumentsのQ2000 DSC装置で熱分析ソフトウェアを使用して示差走査熱量測定(DSC)によって測定した。完全なDSCプロファイルでは、サンプルを最初に40℃で平衡化し、次に5℃/分で-90℃まで冷却し、続いて-90℃で5分間平衡化し、その後サンプルを5℃で再び40℃まで加熱した。この冷却と加熱のサイクルは、位相ヒステリシスを調べるために同じサンプルでもう一度繰り返した。サンプルのTgは、ガラス転移時の移動度の増加からの熱伝導率の変化を示す、ベースラインの段階的シフトの中間点における加熱曲線に基づいてソフトウェアによって測定した。
【0164】
粘度は標準条件:Brookfield(商標名) DV-I+粘度計、スピンドル型No.62、標準計量カップ(80mL容量)中60rpmで30秒間を使用して20℃で測定した。
【0165】
表1:水量の増加に伴うNADESの特性
【表1】
【0166】
本発明によるNADESベースの組成物
本発明による液体ワクチン組成物の製造では、NADESの数容量部を、生ウィルスの水性調製物の1容量部と混合する。代表的には、NADES 9容量部をウィルス懸濁液1容量部と混合するが、本発明の精神では、NADESの相対量をより少なくすることもでき、その逆も可能であり、ウィルス懸濁液(及び他の抗原)の相対量をより多く添加して、NADESをさらに希釈することもできる。これにより粘度は低下するが、ウィルスの安定性にも影響する可能性があり、そしてこれは、本発明で定義される添加剤を添加することで大幅に防止できる。
【0167】
抗原懸濁液を混合すると、最終的な液体ワクチン組成物中の水分量がわずかに増加するが、これは線形効果ではない。NADES中の初期水分量が高いほど、ウィルスサンプルによるそのような希釈による水分量の相対的増加は、開始時の水分量が低い場合より少ない。これは、例えば、モル比1:1:2.5でプロリン:ソルビトール:水(P:S:W)からなるNADES 9部に純水1部を加えることで分析した。これにより、水分量はNADESの13.2重量%からNADESベース組成物の25.8重量%に増加した。水と9+1で混合したその他のP:S:W NADESの場合、水分量の増加は次のようであった。1:1:5では23.3重量%から37.0重量%となり、1:1:10は37.7重量%から50重量%になった。この最後のケースでは、Awは0.76から0.80に増加した。
【0168】
実施例2:試験した異なる添加剤化合物
本発明による液体ワクチン組成物中の水量の増加によるウィルス安定性への悪影響を補う可能性について、多数の化合物を試験した。NADESベースのウィルス組成物の文脈での添加剤効果の最も広い効果を得るために、異なるウィルスタイプと異なるインキュベーション温度を使用した。
【0169】
2.1 イヌパラインフルエンザウィルス
CPIはパラミクソウィルスであり、それを水及び各種添加物を含むNADES担体中に混合し、時間を増やしながらさまざまな温度で培養した。要約すると、
使用したNADESは、モル比1:1:10のプロリン:ソルビトール:水(P:S:W)であった。NADESの成分と、0.1重量%の異なる添加剤の一つを混合し、加熱した水浴で超音波処理して溶解させた。同じNADESであるが、添加剤なしのものを対照として使用した。
【0170】
冷却後、NADES+添加剤又は対照NADES 0.9mLを、多くの3mLのガラスバイアルに充填した。安定性実験の開始時に、10^9 TCID50/mLのCPI溶液0.1mLを各バイアルに加え、バイアルを閉じて十分に混和した。水の量は、添加剤及びウィルスの混合前は38重量%であり、混合後は50重量%であった。
【0171】
t=0のバイアルはベロ細胞で直ちに力価測定した。標準96ウェルプレートは前日に標準培地100μLに1x10^5細胞/mLのベロ細胞を入れて準備させておいたものであり、これらを5%CO下に37℃で一晩インキュベートした。
【0172】
試験を行う各時点で、ウィルス+NADES組成物のバイアルを培地1mLに溶解し、0.2mLを取って1.8mLの培地に加えることで段階的な1:10希釈物をさらに7サイクル連続して調製した。次に、各希釈物100μLをベロ細胞が入った96ウェルプレートの各ウェルに加え、7日間インキュベートした。次に、cpeを読み取り、力価をLog10/mLで表されるTCID50として求めた。
【0173】
t=0サンプルを除き、他のサンプルは室温(すなわち20℃)で少なくとも24週間保管した。実験開始後適切な時点:4、8及び24週で、バイアルを取り出し、その内容物を記載の方法に従って力価測定した。
【0174】
ここで試験した各種添加剤は、クエン酸・1水和物、エクトイン、EDTA、メチオニン及びレシチンで、そのいずれもNADESの重量に対して0.1重量%で使用した。さらなる対照シリーズも含めており、CPIをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に入れ、同じ方法で処理及び保管した。
【0175】
異なる組成物中のCPIウィルスのインキュベーションの結果を、図3のグラフに示している。全く明らかなように、CPIはかなり安定なウィルスであり、室温で8週間培養した後であってもPBS組成物中で検出可能であった。しかしながら、PBSサンプルは、24週間では生CPI陰性であった。対照NADES組成物では、24週でもまだ5.9のCPI力価が検出可能であった。次に、各種添加剤の効果を比較した。クエン酸、EDTA、及びレシチンは、24週間後に対照NADESによる安定化への明確な改善をもたらさなかった。しかしながら、エクトイン又はメチオニンを含むサンプルでは、時間が経っても力価がはるかに良好に維持された。
【0176】
t=0ですべてのサンプルが10^8の力価を記録したわけではないという事実は、部分的には試験の変動性によるものであるが、ウィルスとNADESの初期の混合の影響でもあり、これにより、NADES自体の力価がわずかに低下することがあり得る。
【0177】
本発明によるNADESベースの液体組成物でさえ、高温で長時間CPIをそれの初期レベルに安定化することはできないことは明らかである。しかしながら、CPIウィルスは液体状態で少なくとも半年間室温で保存でき、力価の損失はわずか約1.5Log10/mLしかなかったことは印象的であった。これは、凍結乾燥の必要がなく、相当量の水を含むNADESベースの組成物でも生きたウィルスを効果的に安定化できることを示している。
【0178】
2.2 ウシコロナウィルス
各種の添加剤を用いる同様の一連の実験にBCVを用いた。BCVは、4℃でも力価の大幅な低下を示したことから、液体状態での長期保存に対してCPIよりも感受性が高いことがわかった。
【0179】
実験の設定はCPIについて説明したものと同じであり、各バイアルでBCVを6.5Log10 TCID50の力価で使用した。NADESとの組み合わせは1+9体積比であり、対照NADESはP:S:W 1:1:10の組成であり、インキュベーションは28℃で最長2週間、又は4℃で最長13か月とした。BCVを、マイクロタイトレーションプレートでMadin Darbyウシ腎臓細胞で力価測定した。感染(生ウィルス複製)をIFTで検出した。添加剤は0.1重量%で使用し、NADESの調製時に混合した。
【0180】
BCVインキュベーションの結果を図4に示しており、パネルAとBでそれぞれ28℃と4℃でのインキュベーションを示している。
【0181】
28℃でのインキュベーションが、簡易の安定性試験として機能した。これらの条件では、対照NADESは適切なレベルでBCVを安定化できなかった。1週間後、ウィルス力価の2.5Log10が失われ、2週間後にはBCVは全く検出されなくなった。これは、クエン酸又はビタミンCを添加剤として使用しても改善されず、逆にこれらは、力価損失の増加を示した。しかしながら、驚くべきことに、ヒドロキシエクトイン及びメチオニンは、液体条件で28℃で2週間インキュベーションした後、BCV力価を約3Log10に維持することができた。これは、どのような基準でもめざましい性能である。
【0182】
実用的な条件により重点を置いたのは、4℃でのインキュベーションであり、これは非常に長期間にわたって行った。試験された組成物の中で、さらに対照は純水中での保管であった。これは、2か月の時点でBCV力価の完全な喪失を示した。対照NADESは、最初の1か月後に力価を徐々に失ない、13か月後までには、生BCVはもはや検出されなかった。クエン酸又は鉄-クエン酸を添加剤として使用した結果はわずかに少なかったが、ビタミンCははるかに悪かった。
【0183】
しかしながら、やはり、ヒドロキシエクトインとメチオニンは、4℃で13か月間液体状態で保存した後であっても、NADES対照の安定化能力を目立って向上させることができた。
【0184】
実施例3:さらなる試験ウィルス
これらの好ましい結果を拡大するために、より多くのウィルスの試験を行った。
【0185】
3.1 感染性気管支炎ウィルス
IBVは鳥類コロナウィルスであり、4℃で最長36週間インキュベーションすることで、さまざまなNADES組成物を用いる試験で使用された。
【0186】
実験のセットアップは、基本的に上記のとおりであった。IBV株MA5を、0.1重量%メチオニン含有のP:S:W 1:1:5比であるNADESと1+9体積比で混和した。対照としてIBVをPBSに混合した。IBVサンプルを受精卵について力価測定し、3日間インキュベートした後、尿膜腔液を採取し、これを抗原質量ELISAで使用してIBVを定量した。
【0187】
IBVのインキュベーションの結果を図5に示している。
【0188】
明らかに、PBSではIBV力価が急速に失われ、4℃で36週間後には生ウィルスは検出されなかった。しかし、驚くべきことに、メチオニンを含む1:1:5NADES組成物は、液体状態で4℃で36週間インキュベーションした後でも、生IBウィルスのほとんどを保持することができた。
【0189】
3.2 イヌジステンパーウィルス
CDVはさらなるパラミクソウィルスであり、それを用いて、室温では最長2か月、4℃で最長8か月、さらには最長23か月の安定性試験を行った。CDV株オンデルステポールトを、6.1 Log10 TCID50初期力価で使用した。そのCDVウィルスは増殖させたものであり、ベロ細胞について力価測定した。使用したNADESは、0.1重量%メチオニンを含む又は含まないP:S:W 1:1:5であった。第1のサンプルシリーズ(以下のセクション3.2.1)では、CDVを1+9体積比でNADESに取り込み、水分含有量が23.3から26.2重量%に増加した。並行したサンプルシリーズ(以下のセクション3.2.2)では、さらなるウィルス:イヌアデノウィルス、イヌパルボウィルス及びイヌパラインフルエンザウィルスを含むCDVウィルスサンプルを使用した。このより大きなウィルスサンプルにより、P:S:W 1:1:5のNADESの水分含有量が初期の23.3から最終40.1重量%に増加した。
【0190】
さらなる対照として、CDVサンプルを、水性リン酸緩衝液にNZアミン及びソルビトールを含む「IDK」と呼ばれる従来の液体安定剤組成物に取った。IDK安定剤は代表的な水性組成物であり、水分含有量は87.4重量%である。
【0191】
CDVインキュベーションの結果を図6に示しており、パネルA及びBそれぞれにおいては20℃及び4℃で27重量%の水を含む組成物でのインキュベーションであり、パネル6Cにおいては40重量%の水を含む組成物でのインキュベーションの結果である。
【0192】
3.2.1:26重量%水を含むNADESベースの組成物におけるCDV安定性
20℃では、対照NADESはウィルス力価の低下をいくらか遅らせたが、効果的ではなかった。従来の水性安定剤IDKはさらに悪く、2ヶ月の時点では生CDVはもはや全く検出されなかった。しかしながら、NADES+メチオニンは、対照NADESで見られた安定性を向上させることができた。
【0193】
4℃でも同じ傾向が見られたが、効果はより顕著であった。IDK安定剤は、液体条件で4℃で最大8か月間インキュベーションしてもCDV力価をある程度維持することができた。しかし、メチオニンを含むNADESは優れた安定化をもたらし、これも対照NADESよりもはるかに優れていた。
【0194】
3.2.2:40重量%の水を含むNADESベースの組成物におけるCDVの安定性
図6Cでは、水性安定剤は上記と同じIDKであった。
【0195】
40重量%の水分を含むサンプルを4℃でインキュベートした。NADES対照中のCDVは徐々にその力価を失い、液体状態で4℃で23ヶ月間インキュベートした後、生CDVは全く検出できなくなった。しかしながら、0.1重量%のメチオニンを添加すると、この力価の低下をほぼさらに1年遅らせることができた。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
【国際調査報告】