IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポスコ カンパニー リミテッドの特許一覧

特表2025-501565耐久性に優れた高炭素鋼板及びその製造方法、産業用又は自動車用部品
<>
  • 特表-耐久性に優れた高炭素鋼板及びその製造方法、産業用又は自動車用部品 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-22
(54)【発明の名称】耐久性に優れた高炭素鋼板及びその製造方法、産業用又は自動車用部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250115BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20250115BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20250115BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
C22C38/00 301U
C22C38/38
C22C38/00 301Z
C21D9/46 F
C22C38/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537563
(86)(22)【出願日】2022-12-19
(85)【翻訳文提出日】2024-06-20
(86)【国際出願番号】 KR2022020723
(87)【国際公開番号】W WO2023121182
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0182581
(32)【優先日】2021-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】パク、 キョン-ス
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 チャン-ヤン
(72)【発明者】
【氏名】クォン、 ユン-クグ
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA06
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA18
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EB06
4K037EB08
4K037EB12
4K037EC04
4K037FA02
4K037FA03
4K037FC03
4K037FC04
4K037FD04
4K037FE01
4K037FE06
4K037FG01
4K037HA04
(57)【要約】
本発明の一側面によると、耐久性に優れた高炭素鋼板及びこれを用いて製造された産業用又は自動車用部品を提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.11~0.30%、Mn:0.1~3.0%、Si:0.5%以下(0%を除く)、Al:0.1%以下(0%を除く)、P:0.05%以下(0%を含む)、S:0.03%以下(0%を含む)、N:0.03%以下(0%を含む)、残りのFe及び不可避不純物を含み、
90体積%以上のマルテンサイトを微細組織として含み、
前記マルテンサイトの圧延方向の残留応力は70MPa以上である、高炭素鋼板。
【請求項2】
Ti:0.005~0.1重量%をさらに含む、請求項1に記載の高炭素鋼板。
【請求項3】
重量%で、Nb:0.05%以下、V:0.05%以下、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、及びB:0.005%以下のうちの1種以上をさらに含む、請求項2に記載の高炭素鋼板。
【請求項4】
前記マルテンサイトの圧延方向に対する45°方向の残留応力は30MPa以上である、請求項1に記載の高炭素鋼板。
【請求項5】
前記マルテンサイトのうち、圧延方向に沿って延伸したマルテンサイトの割合が50%以上である、請求項1に記載の高炭素鋼板。
【請求項6】
前記マルテンサイトの全パケットのうち、長短軸比が2:1以上のパケットの割合が50%以上である、請求項1に記載の高炭素鋼板。
【請求項7】
フェライト及び残留オーステナイトの中から選択された1種以上を10体積%以下(0%を含む)の合計分率で含み、
パーライト及びベイナイトの中から選択された1種以上を5体積%以下(0%を含む)の合計分率で含む、請求項1に記載の高炭素鋼板。
【請求項8】
前記鋼板の降伏強度は1300MPa以上であり、引張強度は1500MPa以上である、請求項1に記載の高炭素鋼板。
【請求項9】
前記鋼板の炭素(C)含有量は0.20重量%超過であり、
前記マルテンサイトの圧延方向の残留応力は190MPa以上である、請求項1に記載の高炭素鋼板。
【請求項10】
前記鋼板の降伏強度は1590MPa以上であり、引張強度は1640MPa以上である、請求項9に記載の高炭素鋼板。
【請求項11】
請求項1~10のうちいずれか一項に記載の高炭素鋼板を用いた部品であって、耐久性テストの結果が10万回以上である、産業用又は自動車用部品。
【請求項12】
重量%で、C:0.11~0.30%、Mn:0.1~3.0%、Si:0.5%以下(0%を除く)、Al:0.1%以下(0%を除く)、P:0.05%以下(0%を含む)、S:0.03%以下(0%を含む)、N:0.03%以下(0%を含む)、残りのFe及び不可避不純物を含むスラブを1100℃以上の温度範囲で加熱する段階;
前記加熱されたスラブを800~950℃の圧延終了温度で熱間圧延して熱延鋼板を提供する段階;
前記熱間圧延完了後5秒以内に50~1000℃/secの冷却速度で350℃以下の冷却終了温度まで前記熱延鋼板を急冷し巻き取る段階;及び
前記巻き取り後の熱処理を省略し、20~50%の圧下率で前記熱延鋼板を冷間圧延する段階;を含む、高炭素鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記スラブは、Ti:0.005~0.1重量%をさらに含む、請求項12に記載の高炭素鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記スラブは、重量%で、Nb:0.05%以下、V:0.05%以下、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、及びB:0.005%以下のうちの1種以上をさらに含む、請求項13に記載の高炭素鋼板の製造方法。
【請求項15】
前記スラブに含まれる炭素(C)含有量は0.20重量%超過である、請求項12に記載の高炭素鋼板の製造方法。
【請求項16】
前記急冷された熱延鋼板は90体積%以上のマルテンサイトを含む、請求項12に記載の高炭素鋼板の製造方法。
【請求項17】
前記冷間圧延後焼入れを施さない、請求項12に記載の高炭素鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炭素鋼板及びその製造方法、産業用又は自動車用部品に関するものであって、より詳細には、耐久性に優れ、各種産業の部品用として特に適した高炭素鋼板及びその製造方法、当該高炭素鋼板を用いて製造された産業用又は自動車用部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炭素鋼板は、産業分野全般にわたって広く利用され、特に繰り返しの応力若しくは変形を受ける自動車又は産業用部品の素材として主に使用される。高炭素鋼板が使用される自動車部品の例としては、クラッチ部品又はシートベルトのスプリング部品などがあり、高炭素鋼板が使用される産業用部品の例としては、産業用のスプリング部品又は工具用部品などがある。高炭素鋼板が各種の部品に広く利用されるのは、高炭素鋼板は強度を支えながらも耐久性を同時に確保できるためである。
【0003】
高炭素鋼の製造時に目的とする物性を確保するために、熱間圧延又は冷間圧延後に熱処理を施すことが一般的である。特許文献1~3は、耐久性に優れた高炭素鋼板に関する特許文献であって、特許文献1は、浸漬工程及び熱処理工程を通じてばね鋼を製造する方法、特許文献2は、冷間圧延後に高温熱処理を通じてマルテンサイト組織を確保する方法、特許文献3は、インダクション熱処理工程を通じてばね鋼を高強度化する方法を開示している。
【0004】
但し、最近、急変する気候変化と関連して、炭素中立が全産業群にわたって重要なイシューとして浮上しており、鉄鋼産業においても炭素排出量の減少が例外なく求められているため、高炭素鋼板の製造時に熱処理工程を省略しながらも目的とする物性が確保可能な方案に対する研究が急がれている実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開番号WO2011-115255A1(2011.09.22.公開)
【特許文献2】ヨーロッパ特許番号EP3814536A1(2021.05.05.公開)
【特許文献3】ヨーロッパ特許番号EP2192201A1(2010.06.02.公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一側面は、耐久性に優れた高炭素鋼板及びこれを用いて製造された産業用又は自動車用部品を提供することである。
【0007】
本発明の他の一側面は、熱間圧延及び冷間圧延工程を適切に活用して熱処理工程を短縮又は省略し、製造コスト及び炭素排出量を減少させることができる高炭素鋼板の製造方法を提供することである。
【0008】
本発明の課題は上述した内容に限定されない。通常の技術者であれば、本明細書の内容全般から本発明の更なる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面による高炭素鋼板は、重量%で、C:0.11~0.30%、Mn:0.1~3.0%、Si:0.5%以下(0%を除く)、Al:0.1%以下(0%を除く)、P:0.05%以下(0%を含む)、S:0.03%以下(0%を含む)、N:0.03%以下(0%を含む)、残りのFe及び不可避不純物を含み、90体積%以上のマルテンサイトを微細組織として含み、上記マルテンサイトの圧延方向の残留応力は70MPa以上であることができる。
【0010】
上記高炭素鋼板は、Ti:0.005~0.1重量%をさらに含むことができる。
【0011】
上記高炭素鋼板は、重量%で、Nb:0.05%以下、V:0.05%以下、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、及びB:0.005%以下のうちの1種以上をさらに含むことができる。
【0012】
上記マルテンサイトの圧延方向に対する45°方向の残留応力は30MPa以上であることができる。
【0013】
上記マルテンサイトのうち、圧延方向に沿って延伸したマルテンサイトの割合が50%以上であることができる。
【0014】
上記マルテンサイトの全パケットのうち、長短軸比が2:1以上のパケットの割合が50%以上であることができる。
【0015】
上記高炭素鋼板は、フェライト及び残留オーステナイトの中から選択された1種以上を10体積%以下(0%を含む)の合計分率で含み、パーライト及びベイナイトの中から選択された1種以上を5体積%以下(0%を含む)の合計分率で含むことができる。
【0016】
上記鋼板の降伏強度は1300MPa以上であり、引張強度は1500MPa以上であることができる。
【0017】
上記鋼板の炭素(C)含有量は0.20重量%超過であり、上記マルテンサイトの圧延方向の残留応力は190MPa以上であることができる。
【0018】
上記鋼板の降伏強度は1590MPa以上であり、引張強度は1640MPa以上であることができる。
【0019】
上記高炭素鋼板を用いて製造された産業用又は自動車用部品は、耐久性テストの結果が10万回以上であることができる。
【0020】
本発明の一側面による高炭素鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.11~0.30%、Mn:0.1~3.0%、Si:0.5%以下(0%を除く)、Al:0.1%以下(0%を除く)、P:0.05%以下(0%を含む)、S:0.03%以下(0%を含む)、N:0.03%以下(0%を含む)、残りのFe及び不可避不純物を含むスラブを1100℃以上の温度範囲で加熱する段階;上記加熱されたスラブを800~950℃の圧延終了温度で熱間圧延して熱延鋼板を提供する段階;上記熱間圧延完了後5秒以内に50~1000℃/secの冷却速度で350℃以下の冷却終了温度まで上記熱延鋼板を急冷し巻き取る段階;及び上記巻き取り後の熱処理を省略し、20~50%の圧下率で上記熱延鋼板を冷間圧延する段階;を含むことができる。
【0021】
上記スラブは、Ti:0.005~0.1重量%をさらに含むことができる。
【0022】
上記スラブは、重量%で、Nb:0.05%以下、V:0.05%以下、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、及びB:0.005%以下のうちの1種以上をさらに含むことができる。
【0023】
上記スラブに含まれる炭素(C)含有量は0.20重量%超過であることができる。
【0024】
上記急冷された熱延鋼板は90体積%以上のマルテンサイトを含むことができる。
【0025】
上記高炭素鋼板の製造方法は、上記冷間圧延後焼入れを施さなくてよい。
【0026】
上記課題の解決手段は本発明の特徴を全て列挙したものではなく、本発明の様々な特徴とそれに伴う利点及び効果は、以下の具体的な実現例及び実施例を参照してより詳細に理解されることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一側面によると、熱処理工程を短縮又は省略しながらも耐久性に優れた高炭素鋼板を製造することができるため、高炭素鋼板の製造に所要するエネルギー及び製造コストを効果的に節減できるだけでなく、高温の熱処理工程で排出される炭素量を低減して親環境性を確保することができる。
【0028】
本発明の一側面によると、優れた耐久性を有する高炭素鋼板を提供するため、これを用いて製造されたスプリング部材の寿命を効果的に向上させることができる。
【0029】
本発明の効果は上述した事項に限定されるものではなく、通常の技術者が本明細書に記載されている事項から合理的に類推可能な事項を含むものとして解釈されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】走査電子顕微鏡(SEM)を用いて試験片1の微細組織を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、耐久性に優れた高炭素鋼板及びその製造方法、スプリング部材に関するものであって、以下では本発明の好適な実現例を説明する。本発明の実現例は様々な形態に変形されることができ、本発明の範囲は以下に説明する実現例に限定されるものとして解釈されてはならない。本実現例は、当該発明の属する技術分野において通常の知識を有する者に本発明をさらに詳細にするために提供されるものである。
【0032】
以下、本発明の一側面による高炭素鋼板についてより詳細に説明する。
【0033】
本発明の一側面による高炭素鋼板は、重量%で、C:0.11~0.30%、Mn:0.1~3.0%、Si:0.5%以下(0%を除く)、Al:0.1%以下(0%を除く)、P:0.05%以下(0%を含む)、S:0.03%以下(0%を含む)、N:0.03%以下(0%を含む)、残りのFe及び不可避不純物を含み、90体積%以上のマルテンサイトを微細組織として含み、上記マルテンサイトの圧延方向の残留応力が70MPa以上であることができる。
【0034】
以下、本発明の高炭素鋼板に含まれる鋼組成についてより詳細に説明する。以下、特に断りのない限り、各元素の含有量を表す%は重量を基準とする。
【0035】
炭素(C):0.11~0.30%
【0036】
炭素(C)は、鋼の強度向上に効果的に寄与する元素であるため、本発明は鋼板の強度確保のために一定水準以上の炭素(C)を含むことができる。また、炭素含有量(C)が一定水準に達しない場合、熱間圧延後の冷却時にパーライト及びベイナイト等の低温組織が多量に形成され、本発明が目的とする微細組織を確保できない可能性があるため、本発明は炭素(C)含有量の下限を0.11%に制限することができる。炭素(C)含有量は0.15%以上であることができ、0.20%以上であることができる。好ましい炭素(C)含有量は0.20%超過であることができる。一方、炭素(C)が過多に添加される場合、鋼の強度は向上するのに対し、耐久性が低下する可能性があるため、本発明は炭素(C)含有量を0.3%以下に制限することができる。好ましい炭素含有量の上限は0.295%であることができる。
【0037】
マンガン(Mn):0.1~3.0%
【0038】
マンガン(Mn)は、鋼の強度及び硬化能向上に効果的に寄与する元素である。また、マンガン(Mn)は、鋼の製造工程中に不可避に取り込まれる硫黄(S)と結合してMnSを形成するため、硫黄(S)によるクラック発生を効果的に防止可能な元素でもある。本発明は、このような効果を達成するために0.1%以上のマンガン(Mn)を含むことができる。好ましいマンガン(Mn)含有量は0.3%以上であることができ、より好ましいマンガン(Mn)含有量は0.5%以上であることができる。一方、マンガン(Mn)が過多に添加される場合、残留オーステナイトによる引張強度の低下が懸念されるだけでなく、耐久性及び経済性の側面から好ましくない。従って、本発明はマンガン(Mn)含有量を3.0%以下に制限することができる。好ましいマンガン(Mn)含有量の上限は2.9%であることができ、より好ましいマンガン(Mn)含有量の上限は2.8%であることができる。
【0039】
シリコン(Si):0.5%以下(0%を除く)
【0040】
シリコン(Si)は、酸素との親和性が強い元素であるため、多量添加される場合、表面スケールによる表面品質の低下を誘発する可能性があり、溶接性の側面からも好ましくない。従って、本発明はシリコン(Si)含有量を0.5%に制限することができる。好ましいシリコン(Si)含有量の上限は0.45%であることができる。一方、シリコン(Si)は脱酸剤として作用するだけでなく、鋼の強度向上に寄与する元素でもあるため、本発明はシリコン(Si)の添加を全面的には排除せず、その含有量の下限において0%を除外することができる。
【0041】
アルミニウム(Al):0.1%以下(0%を除く)
【0042】
アルミニウム(Al)は、鋼中の酸素と結合して脱酸作用をする元素である。本発明は、このような効果のためにアルミニウム(Al)を添加することができ、その含有量の下限において0%を除外することができる。一方、アルミニウム(Al)が過多に添加される場合、介在物が増加するだけでなく、鋼板の加工性を低下させ得るため、本発明はアルミニウム(Al)含有量を0.1%以下に制限することができる。好ましいアルミニウム(Al)含有量の上限は0.08%であることができる。
【0043】
リン(P):0.05%以下(0%を含む)
【0044】
リン(P)は、結晶粒界に偏析して鋼の靭性低下を誘発する主な元素であるため、なるべくリン(P)含有量を低く制御することが好ましい。従って、リン(P)の含有量を0%に抑制することが理論上最も有利である。但し、リン(P)は製鋼工程中に不可避に取り込まれる不純物であって、その含有量を0%に制御するには過度な工程負荷が誘発される可能性がある。本発明は、このような点を考慮して、リン(P)含有量の上限を0.05%に制限することができる。好ましいリン(P)含有量の上限は0.03%であることができる。
【0045】
硫黄(S):0.03%以下(0%を含む)
【0046】
硫黄(S)は、MnSを形成して析出物の量を増加させ、鋼を脆化させる元素であるため、なるべく硫黄(S)含有量を低く制御することが好ましい。従って、硫黄(S)の含有量を0%に制限することが理論上最も有利である。但し、硫黄(S)も製鋼工程中に不可避に取り込まれる不純物であって、その含有量を0%に制御するには過度な工程負荷が誘発される可能性がある。本発明は、このような点を考慮して、硫黄(S)含有量の上限を0.03%に制限することができる。好ましい硫黄(S)含有量の上限は0.01%であることができる。
【0047】
窒素(N):0.03%以下(0%を含む)
【0048】
窒素(N)は、連続鋳造中に窒化物を生成してスラブの亀裂を引き起こす元素であるため、なるべくその含有量を低く制御することが好ましい。従って、窒素(N)の含有量を0%に制限することが理論上最も有利である。但し、窒素(N)も製鋼工程中に不可避に取り込まれる不純物であって、その含有量を0%に制御するには過度な工程負荷が誘発される可能性がある。本発明は、このような点を考慮して、窒素(N)含有量の上限を0.03%以下に制限することができる。好ましい窒素(N)含有量の上限は0.01%であることができる。
【0049】
本発明の一側面による高炭素鋼板は、前述した合金成分の他に、チタン(Ti):0.005~0.1%をさらに含むことができ、ニオブ(Nb):0.05%以下、バナジウム(V):0.05%以下、クロム(Cr):1.0%以下、モリブデン(Mo):1.0%以下、及びボロン(B):0.005%以下のうちの1種以上をさらに含むことができる。
【0050】
チタン(Ti):0.005~0.1%
【0051】
一般的に、チタン(Ti)は、炭素(C)及び窒素(N)と結合して炭化物及び窒化物を形成するものとして知られている元素である。本発明は硬化能確保のために鋼中にボロン(B)を添加するが、鋼中に含まれた窒素(N)とボロン(B)が結合する場合、本発明が目的とするボロン(B)の添加効果を達成できなくなる。鋼中にチタン(Ti)が添加される場合、ボロン(B)と結合する前の窒素(N)がチタン(Ti)と結合して窒化物を形成するため、ボロン(B)の添加効果をより効果的に向上させることができる。従って、本発明は、このような効果を達成するために0.005%以上のチタン(Ti)を添加することができる。好ましいチタン(Ti)含有量の下限は0.010%であることができ、より好ましいチタン(Ti)含有量の下限は0.015%であることができる。一方、チタン(Ti)が過度に添加される場合、スラブの製造段階で連鋳性が低下する可能性があるため、本発明はチタン(Ti)含有量の上限を0.1%に制限することができる。好ましいチタン(Ti)含有量の上限は0.09%であることができ、より好ましいチタン(Ti)含有量の上限は0.08%であることができる。
【0052】
ニオブ(Nb):0.05%以下、バナジウム(V):0.05%以下、モリブデン(Mo):1.0%以下
【0053】
一般的に、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)及びモリブデン(Mo)は、炭素(C)及び窒素(N)と結合して炭化物及び窒化物を形成するものとして知られている元素である。従って、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)及びモリブデン(Mo)が添加される場合、炭化物及び窒化物によって強度が上昇する効果がある。本発明は、このような効果を達成するためにニオブ(Nb)、バナジウム(V)及びモリブデン(Mo)のうちの1種以上を添加することができる。但し、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)及びモリブデン(Mo)が過度に添加される場合、圧延負荷が過度に大きくなり、製造コストが過度に上昇する可能性があるため、本発明はニオブ(Nb)、バナジウム(V)及びモリブデン(Mo)含有量の上限をそれぞれ0.05%、0.05%及び1.0%に制限することができる。
【0054】
クロム(Cr):1.0%以下
【0055】
クロム(Cr)は、鋼の硬化能向上に寄与する元素であるため、本発明は、このような効果を達成するためにクロム(Cr)を含むことができる。好ましいクロム(Cr)含有量の下限は0.005%であることができる。一方、高価な元素であるクロム(Cr)の過多添加は経済的な側面から好ましくなく、クロム(Cr)が過多に添加される場合、溶接性を低下させる可能性があるため、本発明はクロム(Cr)含有量の上限を1.0%に制限することができる。好ましいクロム(Cr)含有量の上限は0.5%であることができる。
【0056】
ボロン(B):0.005%以下
【0057】
ボロン(B)は、鋼の硬化能向上に効果的に寄与する元素であるため、少量の添加によっても熱間圧延後の冷却時にフェライト及びパーライトなどの低温組織への変態を効果的に抑制可能な元素である。本発明は、このような効果を達成するために0.0005%以上のボロン(B)を添加することができる。好ましいボロン(B)含有量の下限は0.001%であることができる。一方、ボロン(B)が過多に添加される場合、ボロン(B)が鉄(Fe)と反応して粒界脆性を誘発する可能性があるため、本発明はボロン(B)含有量の上限を0.005%に制限することができる。好ましいボロン(B)含有量の上限は0.0045%であることができる。
【0058】
本発明の一側面による高炭素鋼板は、前述した成分以外に残りのFe及びその他の不可避不純物を含むことができる。但し、通常の製造過程では原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入し得るため、これを全面的に排除することはできない。このような不純物は、本技術分野において通常の知識を有する者であれば誰でも分かるものであるため、その全ての内容について本明細書では特に言及しない。併せて、前述した成分以外に有効な成分の更なる添加が全面的に排除されるものではない。
【0059】
以下、本発明の一側面による高炭素鋼板に含まれる微細組織についてより詳細に説明する。
【0060】
本発明の一側面による高炭素鋼板は、基地組織としてマルテンサイトを含む。マルテンサイトの分率は、鋼板全体の体積に対して90体積%以上であることができ、好ましいマルテンサイトの分率は95体積%以上であることができる。本発明の一側面による高炭素鋼板は、硬質組織であるマルテンサイトを基地組織として含むため、高い強度及び降伏比を同時に確保することができる。
【0061】
本発明の一側面による高炭素鋼板に含まれるマルテンサイトは、熱間圧延後の急冷により形成され、その後の冷間圧延により延伸されるため、鋼板に含まれる全マルテンサイトのうち延伸したマルテンサイトの割合が50%以上であることができる。延伸したマルテンサイトは、パケットの長軸方向が圧延方向から45°以内の方向に配列されたマルテンサイトを意味することができる。また、本発明の一側面による高炭素鋼板は、全マルテンサイトパケットのうち、長短軸比が2:1以上のパケットの割合が50%以上であることができる。
【0062】
本発明の一側面による高炭素鋼板に含まれるマルテンサイトは、熱間圧延後の冷却により形成され、その後の冷間圧延により延伸されるため、通常生成されるマルテンサイトと異なり、圧延方向の残留応力が70MPa以上の水準を満たし、圧延方向に対する45°方向の残留応力が30MPa以上の水準を満たすことができる。好ましいマルテンサイトの圧延方向の残留応力は190MPa以上であることができる。マルテンサイトの残留応力はX線分析によって測定することができ、本発明が属する技術分野の通常の技術者は特別な技術的困難なくマルテンサイトの残留応力を測定することができる。
【0063】
本発明の一側面による高炭素鋼板は、硬質組織であるマルテンサイトを基地組織として含むだけでなく、鋼板に含まれるマルテンサイトが冷間圧延により延伸して一定水準以上の残留応力を有するか、又は延伸した形態を有するように制御するため、鋼板及びこれを用いて製造された部品の耐久性をより効果的に向上させることができる。
【0064】
本発明の一側面による高炭素鋼板は、マルテンサイト以外の組織が含まれることを全面的に排除するものではない。但し、フェライト、パーライト、ベイナイト及び残留オーステナイト等は強度及び耐久性確保に好ましくないため、これらの分率を一定範囲内に制御する必要がある。フェライト及び/又は残留オーステナイトの合計分率は10体積%以下であることが好ましく、パーライト及び/又はベイナイトの合計分率は5体積%以下であることが好ましい。本発明は、フェライト、残留オーステナイト、パーライト及びベイナイトの合計分率が0%である場合を含むことができる。
【0065】
一方、本発明の一側面による高炭素鋼板は、前述した微細組織の他に、セメンタイト及び析出物等を残部組織としてさらに含むことができる。
【0066】
本発明の一側面による高炭素鋼板の降伏強度(YS)は1300MPa以上であり、引張強度(TS)は1500MPa以上であることができる。好ましい降伏強度(YS)は1590MPa以上であることができ、好ましい引張強度(TS)は1640MPa以上であることができる。
【0067】
本発明の一側面による高炭素鋼板を用いてコイル形態のスプリング部材を作製した後、巻かれている状態のスプリングを一定の長さに引っ張った後、再び元の状態に巻く方式の耐久性テストを実施する場合、耐久性テストの結果が10万回以上と優れた耐久性を有することが分かる。
【0068】
以下、本発明の一側面による高炭素鋼板の製造方法についてより詳細に説明する。
【0069】
本発明の一側面による高炭素鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.11~0.30%、Mn:0.1~3.0%、Si:0.5%以下(0%を除く)、Al:0.1%以下(0%を除く)、P:0.05%以下(0%を含む)、S:0.03%以下(0%を含む)、N:0.03%以下(0%を含む)、残りのFe及び不可避不純物を含むスラブを1100℃以上の温度範囲で加熱する段階;上記加熱されたスラブを800~950℃の圧延終了温度で熱間圧延して熱延鋼板を提供する段階;上記熱間圧延完了後5秒以内に50~1000℃/secの冷却速度で350℃以下の冷却終了温度まで上記熱延鋼板を急冷する段階;350℃以下の温度範囲で上記急冷された熱延鋼板を巻き取る段階;及び上記巻き取り後の熱処理を省略し、20~50%の圧下率で上記熱延鋼板を冷間圧延する段階;を含むことができる。
【0070】
スラブ加熱及び熱間圧延
【0071】
本発明のスラブの鋼組成は、前述した鋼板の鋼組成と対応するため、本発明のスラブの鋼組成に関する説明は前述した鋼板の鋼組成に関する説明で代替する。スラブの製造条件は特に制限されるものではなく、通常の高炭素鋼板の製造に用いられるスラブの製造条件が適用され得る。
【0072】
用意したスラブを一定の温度範囲に加熱する。十分な均質化処理のために、1100℃以上の温度範囲でスラブを加熱することができる。但し、スラブの加熱温度が過度に高い場合、経済性の側面から好ましくないだけでなく、最終製品の表面品質に悪影響を及ぼす可能性があるため、スラブの加熱温度の上限は1350℃に制限することができる。
【0073】
加熱されたスラブは、通常の熱間圧延の条件により熱間圧延されることができるが、圧延荷重制御及び表面スケール低減のために仕上げ圧延温度を800~950℃の範囲に制限することができる。
【0074】
冷却及び巻き取り
【0075】
熱間圧延直後の熱延鋼板に対して急冷条件の冷却が施されることができる。
【0076】
本発明は、鋼板の微細組織を厳しく制御しようとするものであるため、本発明の冷却は熱間圧延終了直後5秒以内に開始されることが好ましい。熱間圧延後から冷却開始時点までの時間が5秒を超える場合、大気中での空冷により、本発明が意図しないフェライト、パーライト及びベイナイトが形成され得るためである。熱間圧延終了直後から冷却開始時点までの好ましい時間は3秒以内であることができる。
【0077】
熱間圧延直後の熱延鋼板は、50~1000℃/sの冷却速度で350℃以下の冷却終了温度まで冷却されることができる。冷却終了温度が一定範囲を超える場合、フェライト、パーライト及びベイナイトへの変態が不可避であるため、本発明が目的とする微細組織を確保するために、冷却終了温度の上限を350℃に制限することができる。一方、冷却終了温度の下限は特に規定しないが、好ましい冷却終了温度の下限は150℃であることができる。冷却速度が一定水準未満である場合、冷却中にフェライト、パーライト及びベイナイトへの変態が起こるため、本発明が目的とする微細組織を確保するために、冷却速度の下限を50℃/sに制限することができる。一方、冷却速度の上限は特に限定しないが、設備限界及び経済性を考慮して、冷却速度の上限を1000℃/sに制限することができる。
【0078】
本発明は、熱間圧延直後の熱延鋼板に対して急冷条件の冷却を施すため、冷間圧延適用前の熱延鋼板の状態で90体積%以上のマルテンサイトを確保することができる。通常の高炭素鋼板の製造方法は、熱間圧延直後に熱処理を施し、熱処理された熱延鋼板を冷間圧延した後、焼入れ熱処理を施してマルテンサイト組織を形成するのに対し、本発明は、鋼成分系を厳しく制御して熱間圧延直後の熱処理を省略できるだけでなく、冷間圧延後の焼入れを省略できるため、炭素排出量を効果的に下げることができる。
【0079】
冷却終了後の冷延鋼板は熱延コイルに巻き取られることができる。
【0080】
冷間圧延
【0081】
熱延コイルをアンコイリングした後、20~50%の圧下量で冷間圧延を行うことができる。圧下量が少ない場合、マルテンサイトの十分な延伸が行われず、それにより目的とする高強度特性及び耐久性を確保できなくなる。従って、本発明は、冷間圧延の圧下量を20%以上の水準に制限することができる。好ましい冷間圧延圧下量の下限は25%であることができる。一方、冷間圧延の圧下量が過度な場合、圧延荷重による設備の破損が懸念されるだけでなく、強度が上昇し過ぎて耐久性が低下するという問題が生じる可能性があるため、本発明は、冷間圧延圧下量の上限を50%に制限することができる。
【0082】
前述の製造方法により製造された高炭素鋼板は、90体積%以上のマルテンサイトを微細組織として含み、マルテンサイトの圧延方向の残留応力は70MPa以上であり、降伏強度(YS)は1300MPa以上であり、引張強度(TS)は1500MPa以上であることができる。
【0083】
また、前述した製造方法により製造された高炭素鋼板を用いてスプリング部材を作製する場合、当該スプリング部材の耐久性テストの結果は10万回以上を満たすことができる。
【0084】
以下、具体的な実施例を通じて本発明の高炭素鋼板及びその製造方法、部品についてより詳細に説明する。以下の実施例は本発明を理解するためのものであり、本発明の権利範囲を特定するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載されている事項とそれから合理的に類推される事項によって決定される。
【実施例
【0085】
下記表1の組成を有するスラブを製造した後、下記表2の工程条件を適用して鋼板の試験片を製造した。それぞれのスラブは通常の製造方法により製造されており、1050~1350℃の温度範囲で加熱し均質化処理された。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
この後、各試験片の微細組織を測定し、その結果を表3に記載した。各試験片を圧延方向と平行な方向に切断した後、板厚1/4地点の切断面から微細組織観察用の試験片を採取した。このように採取したサンプルを研磨し、ナイタール溶液で腐食した後、光学顕微鏡及び走査電子顕微鏡(SEM)を用いて各試験片の微細組織を観察した。微細組織の分率はイメージ分析を通じて測定した。
【0089】
延伸したマルテンサイトの割合は、走査電子顕微鏡(SEM)のイメージにおいて、全マルテンサイトの面積に対してパケットの長軸が圧延方向から45°以内に配列されるマルテンサイトの面積より測定した。マルテンサイトパケットの長短軸比も、走査電子顕微鏡(SEM)のイメージにおいて、全マルテンサイトパケットの面積に対して長軸と短軸のパケットの割合が2:1以上であるものの面積より測定した。
【0090】
表3において、Mはマルテンサイト、Fはフェライト、R-γは残留オーステナイト、Pはパーライト、Bはベイナイトを意味する。
【0091】
【表3】
【0092】
各試験片に対する機械的物性を測定し、その結果を表4に記載した。引張強度及び降伏強度はJIS規格による引張試験を実施して評価し、残留応力はX-ray diffraction方式であるStresstech Groupで製造したXSTRESS 3000モデルの装備を用い、測定パラメータとしてExp.Time:40s、Radiation:CrKa、Detector distance:50sの条件で表面の残留応力を測定した。また、各試験片を用いてコイル形態のスプリング部材を作製し、巻かれている状態のスプリングを1.5mの長さに引っ張った後、再び元の状態に巻く方式の繰り返しテストを通じて耐久性を評価し、その結果を表4にともに記載した。
【0093】
【表4】
【0094】
表1~表4に示すように、本発明の合金組成及び製造条件をいずれも満たす試験片1~試験片12は、マルテンサイトの分率が90体積%以上であり、圧延方向に延伸したマルテンサイトの割合が50%以上であり、長短軸比が2:1以上のマルテンサイトパケットの割合が50%以上であることを確認することができる。また、試験片1~試験片12は、圧延方向の残留応力が70MPa以上であり、圧延方向に対する45°方向の残留応力が30MPa以上であり、1500MPa以上の引張強度及び1300MPa以上の降伏強度、10万回以上の耐久性試験の結果をいずれも満たすことを確認することができる。
【0095】
これに対し、本発明の合金組成及び製造条件のいずれか一つ以上を満たしていない試験片13~20は、本願発明が制限するマルテンサイトの分率、圧延方向に延伸したマルテンサイトの割合、及び長短軸比が2:1以上であるマルテンサイトパケットの割合のいずれか一つ以上を満たしていないことを確認することができる。
【0096】
試験片13は、圧延終了後5秒が経過して冷却が開始された試験片であって、フェライト分率が高く、目的とする強度及び耐久性を確保できないことを確認することができる。
【0097】
試験片14は、圧延終了温度が低い場合であり、試験片16は、冷却速度が遅い場合であって、これらの試験片はパーライト及びベイナイトの分率が高く、本発明が目的とするマルテンサイト分率を確保できず、目的とする強度及び耐久性を確保できないことを確認することができる。
【0098】
試験片15は、冷却終了温度及び巻取温度が高い場合であって、ベイナイトの分率が高く、目的とする耐久性を確保できないことを確認することができる。
【0099】
試験片17は、冷間圧下率が低い場合であって、長短軸比が2:1以上であるマルテンサイトパケットの割合が低く、マルテンサイトの残留応力が低いことから、目的とする耐久性を確保できないことを確認することができる。
【0100】
試験片18は、炭素(C)の含有量が低い場合であり、試験片19は、チタン(Ti)及びボロン(B)の含有量が低い場合であって、マルテンサイトの分率が著しく低く、目的とする水準の強度及び耐久性を確保できないことを確認することができる。
【0101】
試験片20は、マンガン(Mn)の含有量が高い場合であって、マルテンサイトへの変態が十分に起こらず残留オーステナイトが多量形成されており、引張強度及び降伏強度は優れているのに対し、耐久性に劣ることを確認することができる。
【0102】
以上、実施例を通じて本発明を詳細に説明したが、これと異なる形態の実施例も可能である。従って、以下に記載される請求項の技術的思想と範囲は実施例に限定されない。
図1
【手続補正書】
【提出日】2024-06-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炭素鋼板及びその製造方法、産業用又は自動車用部品に関するものであって、より詳細には、耐久性に優れ、各種産業の部品用として特に適した高炭素鋼板及びその製造方法、当該高炭素鋼板を用いて製造された産業用又は自動車用部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炭素鋼板は、産業分野全般にわたって広く利用され、特に繰り返しの応力若しくは変形を受ける自動車又は産業用部品の素材として主に使用される。高炭素鋼板が使用される自動車部品の例としては、クラッチ部品又はシートベルトのスプリング部品などがあり、高炭素鋼板が使用される産業用部品の例としては、産業用のスプリング部品又は工具用部品などがある。高炭素鋼板が各種の部品に広く利用されるのは、高炭素鋼板は強度を支えながらも耐久性を同時に確保できるためである。
【0003】
高炭素鋼の製造時に目的とする物性を確保するために、熱間圧延又は冷間圧延後に熱処理を施すことが一般的である。特許文献1~3は、耐久性に優れた高炭素鋼板に関する特許文献であって、特許文献1は、浸漬工程及び熱処理工程を通じてばね鋼を製造する方法、特許文献2は、冷間圧延後に高温熱処理を通じてマルテンサイト組織を確保する方法、特許文献3は、インダクション熱処理工程を通じてばね鋼を高強度化する方法を開示している。
【0004】
但し、最近、急変する気候変化と関連して、炭素中立が全産業群にわたって重要なイシューとして浮上しており、鉄鋼産業においても炭素排出量の減少が例外なく求められているため、高炭素鋼板の製造時に熱処理工程を省略しながらも目的とする物性が確保可能な方案に対する研究が急がれている実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開番号WO2011-115255A1(2011.09.22.公開)
【特許文献2】ヨーロッパ特許番号EP3814536A1(2021.05.05.公開)
【特許文献3】ヨーロッパ特許番号EP2192201A1(2010.06.02.公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一側面は、耐久性に優れた高炭素鋼板及びこれを用いて製造された産業用又は自動車用部品を提供することである。
【0007】
本発明の他の一側面は、熱間圧延及び冷間圧延工程を適切に活用して熱処理工程を短縮又は省略し、製造コスト及び炭素排出量を減少させることができる高炭素鋼板の製造方法を提供することである。
【0008】
本発明の課題は上述した内容に限定されない。通常の技術者であれば、本明細書の内容全般から本発明の更なる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面による高炭素鋼板は、重量%で、C:0.11~0.30%、Mn:0.1~3.0%、Si:0.5%以下(0%を除く)、Al:0.1%以下(0%を除く)、P:0.05%以下(0%を含む)、S:0.03%以下(0%を含む)、N:0.03%以下(0%を含む)、残りのFe及び不可避不純物を含み、90面積%以上のマルテンサイトを微細組織として含み、上記マルテンサイトの圧延方向の残留応力は70MPa以上であることができる。
【0010】
上記高炭素鋼板は、Ti:0.005~0.1重量%をさらに含むことができる。
【0011】
上記高炭素鋼板は、重量%で、Nb:0.05%以下、V:0.05%以下、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、及びB:0.005%以下のうちの1種以上をさらに含むことができる。
【0012】
上記マルテンサイトの圧延方向に対する45°方向の残留応力は30MPa以上であることができる。
【0013】
上記マルテンサイトのうち、圧延方向に沿って延伸したマルテンサイトの割合が50%以上であることができる。
【0014】
上記マルテンサイトの全パケットのうち、長短軸比が2:1以上のパケットの割合が50%以上であることができる。
【0015】
上記高炭素鋼板は、フェライト及び残留オーステナイトの中から選択された1種以上を10面積%以下(0%を含む)の合計分率で含み、パーライト及びベイナイトの中から選択された1種以上を5面積%以下(0%を含む)の合計分率で含むことができる。
【0016】
上記鋼板の降伏強度は1300MPa以上であり、引張強度は1500MPa以上であることができる。
【0017】
上記鋼板の炭素(C)含有量は0.20重量%超過であり、上記マルテンサイトの圧延方向の残留応力は190MPa以上であることができる。
【0018】
上記鋼板の降伏強度は1590MPa以上であり、引張強度は1640MPa以上であることができる。
【0019】
上記高炭素鋼板を用いて製造された産業用又は自動車用部品は、耐久性テストの結果が10万回以上であることができる。
【0020】
本発明の一側面による高炭素鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.11~0.30%、Mn:0.1~3.0%、Si:0.5%以下(0%を除く)、Al:0.1%以下(0%を除く)、P:0.05%以下(0%を含む)、S:0.03%以下(0%を含む)、N:0.03%以下(0%を含む)、残りのFe及び不可避不純物を含むスラブを1100℃以上の温度範囲で加熱する段階;上記加熱されたスラブを800~950℃の圧延終了温度で熱間圧延して熱延鋼板を提供する段階;上記熱間圧延完了後5秒以内に50~1000℃/secの冷却速度で350℃以下の冷却終了温度まで上記熱延鋼板を急冷し巻き取る段階;及び上記巻き取り後の熱処理を省略し、20~50%の圧下率で上記熱延鋼板を冷間圧延する段階;を含むことができる。
【0021】
上記スラブは、Ti:0.005~0.1重量%をさらに含むことができる。
【0022】
上記スラブは、重量%で、Nb:0.05%以下、V:0.05%以下、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、及びB:0.005%以下のうちの1種以上をさらに含むことができる。
【0023】
上記スラブに含まれる炭素(C)含有量は0.20重量%超過であることができる。
【0024】
上記急冷された熱延鋼板は90面積%以上のマルテンサイトを含むことができる。
【0025】
上記高炭素鋼板の製造方法は、上記冷間圧延後焼入れを施さなくてよい。
【0026】
上記課題の解決手段は本発明の特徴を全て列挙したものではなく、本発明の様々な特徴とそれに伴う利点及び効果は、以下の具体的な実現例及び実施例を参照してより詳細に理解されることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一側面によると、熱処理工程を短縮又は省略しながらも耐久性に優れた高炭素鋼板を製造することができるため、高炭素鋼板の製造に所要するエネルギー及び製造コストを効果的に節減できるだけでなく、高温の熱処理工程で排出される炭素量を低減して親環境性を確保することができる。
【0028】
本発明の一側面によると、優れた耐久性を有する高炭素鋼板を提供するため、これを用いて製造されたスプリング部材の寿命を効果的に向上させることができる。
【0029】
本発明の効果は上述した事項に限定されるものではなく、通常の技術者が本明細書に記載されている事項から合理的に類推可能な事項を含むものとして解釈されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】走査電子顕微鏡(SEM)を用いて試験片1の微細組織を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、耐久性に優れた高炭素鋼板及びその製造方法、スプリング部材に関するものであって、以下では本発明の好適な実現例を説明する。本発明の実現例は様々な形態に変形されることができ、本発明の範囲は以下に説明する実現例に限定されるものとして解釈されてはならない。本実現例は、当該発明の属する技術分野において通常の知識を有する者に本発明をさらに詳細にするために提供されるものである。
【0032】
以下、本発明の一側面による高炭素鋼板についてより詳細に説明する。
【0033】
本発明の一側面による高炭素鋼板は、重量%で、C:0.11~0.30%、Mn:0.1~3.0%、Si:0.5%以下(0%を除く)、Al:0.1%以下(0%を除く)、P:0.05%以下(0%を含む)、S:0.03%以下(0%を含む)、N:0.03%以下(0%を含む)、残りのFe及び不可避不純物を含み、90面積%以上のマルテンサイトを微細組織として含み、上記マルテンサイトの圧延方向の残留応力が70MPa以上であることができる。
【0034】
以下、本発明の高炭素鋼板に含まれる鋼組成についてより詳細に説明する。以下、特に断りのない限り、各元素の含有量を表す%は重量を基準とする。
【0035】
炭素(C):0.11~0.30%
【0036】
炭素(C)は、鋼の強度向上に効果的に寄与する元素であるため、本発明は鋼板の強度確保のために一定水準以上の炭素(C)を含むことができる。また、炭素含有量(C)が一定水準に達しない場合、熱間圧延後の冷却時にパーライト及びベイナイト等の低温組織が多量に形成され、本発明が目的とする微細組織を確保できない可能性があるため、本発明は炭素(C)含有量の下限を0.11%に制限することができる。炭素(C)含有量は0.15%以上であることができ、0.20%以上であることができる。好ましい炭素(C)含有量は0.20%超過であることができる。一方、炭素(C)が過多に添加される場合、鋼の強度は向上するのに対し、耐久性が低下する可能性があるため、本発明は炭素(C)含有量を0.3%以下に制限することができる。好ましい炭素含有量の上限は0.295%であることができる。
【0037】
マンガン(Mn):0.1~3.0%
【0038】
マンガン(Mn)は、鋼の強度及び硬化能向上に効果的に寄与する元素である。また、マンガン(Mn)は、鋼の製造工程中に不可避に取り込まれる硫黄(S)と結合してMnSを形成するため、硫黄(S)によるクラック発生を効果的に防止可能な元素でもある。本発明は、このような効果を達成するために0.1%以上のマンガン(Mn)を含むことができる。好ましいマンガン(Mn)含有量は0.3%以上であることができ、より好ましいマンガン(Mn)含有量は0.5%以上であることができる。一方、マンガン(Mn)が過多に添加される場合、残留オーステナイトによる引張強度の低下が懸念されるだけでなく、耐久性及び経済性の側面から好ましくない。従って、本発明はマンガン(Mn)含有量を3.0%以下に制限することができる。好ましいマンガン(Mn)含有量の上限は2.9%であることができ、より好ましいマンガン(Mn)含有量の上限は2.8%であることができる。
【0039】
シリコン(Si):0.5%以下(0%を除く)
【0040】
シリコン(Si)は、酸素との親和性が強い元素であるため、多量添加される場合、表面スケールによる表面品質の低下を誘発する可能性があり、溶接性の側面からも好ましくない。従って、本発明はシリコン(Si)含有量を0.5%に制限することができる。好ましいシリコン(Si)含有量の上限は0.45%であることができる。一方、シリコン(Si)は脱酸剤として作用するだけでなく、鋼の強度向上に寄与する元素でもあるため、本発明はシリコン(Si)の添加を全面的には排除せず、その含有量の下限において0%を除外することができる。
【0041】
アルミニウム(Al):0.1%以下(0%を除く)
【0042】
アルミニウム(Al)は、鋼中の酸素と結合して脱酸作用をする元素である。本発明は、このような効果のためにアルミニウム(Al)を添加することができ、その含有量の下限において0%を除外することができる。一方、アルミニウム(Al)が過多に添加される場合、介在物が増加するだけでなく、鋼板の加工性を低下させ得るため、本発明はアルミニウム(Al)含有量を0.1%以下に制限することができる。好ましいアルミニウム(Al)含有量の上限は0.08%であることができる。
【0043】
リン(P):0.05%以下(0%を含む)
【0044】
リン(P)は、結晶粒界に偏析して鋼の靭性低下を誘発する主な元素であるため、なるべくリン(P)含有量を低く制御することが好ましい。従って、リン(P)の含有量を0%に抑制することが理論上最も有利である。但し、リン(P)は製鋼工程中に不可避に取り込まれる不純物であって、その含有量を0%に制御するには過度な工程負荷が誘発される可能性がある。本発明は、このような点を考慮して、リン(P)含有量の上限を0.05%に制限することができる。好ましいリン(P)含有量の上限は0.03%であることができる。
【0045】
硫黄(S):0.03%以下(0%を含む)
【0046】
硫黄(S)は、MnSを形成して析出物の量を増加させ、鋼を脆化させる元素であるため、なるべく硫黄(S)含有量を低く制御することが好ましい。従って、硫黄(S)の含有量を0%に制限することが理論上最も有利である。但し、硫黄(S)も製鋼工程中に不可避に取り込まれる不純物であって、その含有量を0%に制御するには過度な工程負荷が誘発される可能性がある。本発明は、このような点を考慮して、硫黄(S)含有量の上限を0.03%に制限することができる。好ましい硫黄(S)含有量の上限は0.01%であることができる。
【0047】
窒素(N):0.03%以下(0%を含む)
【0048】
窒素(N)は、連続鋳造中に窒化物を生成してスラブの亀裂を引き起こす元素であるため、なるべくその含有量を低く制御することが好ましい。従って、窒素(N)の含有量を0%に制限することが理論上最も有利である。但し、窒素(N)も製鋼工程中に不可避に取り込まれる不純物であって、その含有量を0%に制御するには過度な工程負荷が誘発される可能性がある。本発明は、このような点を考慮して、窒素(N)含有量の上限を0.03%以下に制限することができる。好ましい窒素(N)含有量の上限は0.01%であることができる。
【0049】
本発明の一側面による高炭素鋼板は、前述した合金成分の他に、チタン(Ti):0.005~0.1%をさらに含むことができ、ニオブ(Nb):0.05%以下、バナジウム(V):0.05%以下、クロム(Cr):1.0%以下、モリブデン(Mo):1.0%以下、及びボロン(B):0.005%以下のうちの1種以上をさらに含むことができる。
【0050】
チタン(Ti):0.005~0.1%
【0051】
一般的に、チタン(Ti)は、炭素(C)及び窒素(N)と結合して炭化物及び窒化物を形成するものとして知られている元素である。本発明は硬化能確保のために鋼中にボロン(B)を添加するが、鋼中に含まれた窒素(N)とボロン(B)が結合する場合、本発明が目的とするボロン(B)の添加効果を達成できなくなる。鋼中にチタン(Ti)が添加される場合、ボロン(B)と結合する前の窒素(N)がチタン(Ti)と結合して窒化物を形成するため、ボロン(B)の添加効果をより効果的に向上させることができる。従って、本発明は、このような効果を達成するために0.005%以上のチタン(Ti)を添加することができる。好ましいチタン(Ti)含有量の下限は0.010%であることができ、より好ましいチタン(Ti)含有量の下限は0.015%であることができる。一方、チタン(Ti)が過度に添加される場合、スラブの製造段階で連鋳性が低下する可能性があるため、本発明はチタン(Ti)含有量の上限を0.1%に制限することができる。好ましいチタン(Ti)含有量の上限は0.09%であることができ、より好ましいチタン(Ti)含有量の上限は0.08%であることができる。
【0052】
ニオブ(Nb):0.05%以下、バナジウム(V):0.05%以下、モリブデン(Mo):1.0%以下
【0053】
一般的に、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)及びモリブデン(Mo)は、炭素(C)及び窒素(N)と結合して炭化物及び窒化物を形成するものとして知られている元素である。従って、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)及びモリブデン(Mo)が添加される場合、炭化物及び窒化物によって強度が上昇する効果がある。本発明は、このような効果を達成するためにニオブ(Nb)、バナジウム(V)及びモリブデン(Mo)のうちの1種以上を添加することができる。但し、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)及びモリブデン(Mo)が過度に添加される場合、圧延負荷が過度に大きくなり、製造コストが過度に上昇する可能性があるため、本発明はニオブ(Nb)、バナジウム(V)及びモリブデン(Mo)含有量の上限をそれぞれ0.05%、0.05%及び1.0%に制限することができる。
【0054】
クロム(Cr):1.0%以下
【0055】
クロム(Cr)は、鋼の硬化能向上に寄与する元素であるため、本発明は、このような効果を達成するためにクロム(Cr)を含むことができる。好ましいクロム(Cr)含有量の下限は0.005%であることができる。一方、高価な元素であるクロム(Cr)の過多添加は経済的な側面から好ましくなく、クロム(Cr)が過多に添加される場合、溶接性を低下させる可能性があるため、本発明はクロム(Cr)含有量の上限を1.0%に制限することができる。好ましいクロム(Cr)含有量の上限は0.5%であることができる。
【0056】
ボロン(B):0.005%以下
【0057】
ボロン(B)は、鋼の硬化能向上に効果的に寄与する元素であるため、少量の添加によっても熱間圧延後の冷却時にフェライト及びパーライトなどの低温組織への変態を効果的に抑制可能な元素である。本発明は、このような効果を達成するために0.0005%以上のボロン(B)を添加することができる。好ましいボロン(B)含有量の下限は0.001%であることができる。一方、ボロン(B)が過多に添加される場合、ボロン(B)が鉄(Fe)と反応して粒界脆性を誘発する可能性があるため、本発明はボロン(B)含有量の上限を0.005%に制限することができる。好ましいボロン(B)含有量の上限は0.0045%であることができる。
【0058】
本発明の一側面による高炭素鋼板は、前述した成分以外に残りのFe及びその他の不可避不純物を含むことができる。但し、通常の製造過程では原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入し得るため、これを全面的に排除することはできない。このような不純物は、本技術分野において通常の知識を有する者であれば誰でも分かるものであるため、その全ての内容について本明細書では特に言及しない。併せて、前述した成分以外に有効な成分の更なる添加が全面的に排除されるものではない。
【0059】
以下、本発明の一側面による高炭素鋼板に含まれる微細組織についてより詳細に説明する。
【0060】
本発明の一側面による高炭素鋼板は、基地組織としてマルテンサイトを含む。マルテンサイトの分率は、板厚1/4地点の切断面の全体面積に対して90面積%以上であることができ、好ましいマルテンサイトの分率は95面積%以上であることができる。本発明の一側面による高炭素鋼板は、硬質組織であるマルテンサイトを基地組織として含むため、高い強度及び降伏比を同時に確保することができる。
【0061】
本発明の一側面による高炭素鋼板に含まれるマルテンサイトは、熱間圧延後の急冷により形成され、その後の冷間圧延により延伸されるため、鋼板に含まれる全マルテンサイトのうち延伸したマルテンサイトの割合が50%以上であることができる。延伸したマルテンサイトは、パケットの長軸方向が圧延方向から45°以内の方向に配列されたマルテンサイトを意味することができる。また、本発明の一側面による高炭素鋼板は、全マルテンサイトパケットのうち、長短軸比が2:1以上のパケットの割合が50%以上であることができる。
【0062】
本発明の一側面による高炭素鋼板に含まれるマルテンサイトは、熱間圧延後の冷却により形成され、その後の冷間圧延により延伸されるため、通常生成されるマルテンサイトと異なり、圧延方向の残留応力が70MPa以上の水準を満たし、圧延方向に対する45°方向の残留応力が30MPa以上の水準を満たすことができる。好ましいマルテンサイトの圧延方向の残留応力は190MPa以上であることができる。マルテンサイトの残留応力はX線分析によって測定することができ、本発明が属する技術分野の通常の技術者は特別な技術的困難なくマルテンサイトの残留応力を測定することができる。
【0063】
本発明の一側面による高炭素鋼板は、硬質組織であるマルテンサイトを基地組織として含むだけでなく、鋼板に含まれるマルテンサイトが冷間圧延により延伸して一定水準以上の残留応力を有するか、又は延伸した形態を有するように制御するため、鋼板及びこれを用いて製造された部品の耐久性をより効果的に向上させることができる。
【0064】
本発明の一側面による高炭素鋼板は、マルテンサイト以外の組織が含まれることを全面的に排除するものではない。但し、フェライト、パーライト、ベイナイト及び残留オーステナイト等は強度及び耐久性確保に好ましくないため、これらの分率を一定範囲内に制御する必要がある。フェライト及び/又は残留オーステナイトの合計分率は10面積%以下であることが好ましく、パーライト及び/又はベイナイトの合計分率は5面積%以下であることが好ましい。本発明は、フェライト、残留オーステナイト、パーライト及びベイナイトの合計分率が0%である場合を含むことができる。
【0065】
一方、本発明の一側面による高炭素鋼板は、前述した微細組織の他に、セメンタイト及び析出物等を残部組織としてさらに含むことができる。
【0066】
本発明の一側面による高炭素鋼板の降伏強度(YS)は1300MPa以上であり、引張強度(TS)は1500MPa以上であることができる。好ましい降伏強度(YS)は1590MPa以上であることができ、好ましい引張強度(TS)は1640MPa以上であることができる。
【0067】
本発明の一側面による高炭素鋼板を用いてコイル形態のスプリング部材を作製した後、巻かれている状態のスプリングを一定の長さに引っ張った後、再び元の状態に巻く方式の耐久性テストを実施する場合、耐久性テストの結果が10万回以上と優れた耐久性を有することが分かる。
【0068】
以下、本発明の一側面による高炭素鋼板の製造方法についてより詳細に説明する。
【0069】
本発明の一側面による高炭素鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.11~0.30%、Mn:0.1~3.0%、Si:0.5%以下(0%を除く)、Al:0.1%以下(0%を除く)、P:0.05%以下(0%を含む)、S:0.03%以下(0%を含む)、N:0.03%以下(0%を含む)、残りのFe及び不可避不純物を含むスラブを1100℃以上の温度範囲で加熱する段階;上記加熱されたスラブを800~950℃の圧延終了温度で熱間圧延して熱延鋼板を提供する段階;上記熱間圧延完了後5秒以内に50~1000℃/secの冷却速度で350℃以下の冷却終了温度まで上記熱延鋼板を急冷する段階;350℃以下の温度範囲で上記急冷された熱延鋼板を巻き取る段階;及び上記巻き取り後の熱処理を省略し、20~50%の圧下率で上記熱延鋼板を冷間圧延する段階;を含むことができる。
【0070】
スラブ加熱及び熱間圧延
【0071】
本発明のスラブの鋼組成は、前述した鋼板の鋼組成と対応するため、本発明のスラブの鋼組成に関する説明は前述した鋼板の鋼組成に関する説明で代替する。スラブの製造条件は特に制限されるものではなく、通常の高炭素鋼板の製造に用いられるスラブの製造条件が適用され得る。
【0072】
用意したスラブを一定の温度範囲に加熱する。十分な均質化処理のために、1100℃以上の温度範囲でスラブを加熱することができる。但し、スラブの加熱温度が過度に高い場合、経済性の側面から好ましくないだけでなく、最終製品の表面品質に悪影響を及ぼす可能性があるため、スラブの加熱温度の上限は1350℃に制限することができる。
【0073】
加熱されたスラブは、通常の熱間圧延の条件により熱間圧延されることができるが、圧延荷重制御及び表面スケール低減のために仕上げ圧延温度を800~950℃の範囲に制限することができる。
【0074】
冷却及び巻き取り
【0075】
熱間圧延直後の熱延鋼板に対して急冷条件の冷却が施されることができる。
【0076】
本発明は、鋼板の微細組織を厳しく制御しようとするものであるため、本発明の冷却は熱間圧延終了直後5秒以内に開始されることが好ましい。熱間圧延後から冷却開始時点までの時間が5秒を超える場合、大気中での空冷により、本発明が意図しないフェライト、パーライト及びベイナイトが形成され得るためである。熱間圧延終了直後から冷却開始時点までの好ましい時間は3秒以内であることができる。
【0077】
熱間圧延直後の熱延鋼板は、50~1000℃/sの冷却速度で350℃以下の冷却終了温度まで冷却されることができる。冷却終了温度が一定範囲を超える場合、フェライト、パーライト及びベイナイトへの変態が不可避であるため、本発明が目的とする微細組織を確保するために、冷却終了温度の上限を350℃に制限することができる。一方、冷却終了温度の下限は特に規定しないが、好ましい冷却終了温度の下限は150℃であることができる。冷却速度が一定水準未満である場合、冷却中にフェライト、パーライト及びベイナイトへの変態が起こるため、本発明が目的とする微細組織を確保するために、冷却速度の下限を50℃/sに制限することができる。一方、冷却速度の上限は特に限定しないが、設備限界及び経済性を考慮して、冷却速度の上限を1000℃/sに制限することができる。
【0078】
本発明は、熱間圧延直後の熱延鋼板に対して急冷条件の冷却を施すため、冷間圧延適用前の熱延鋼板の状態で90面積%以上のマルテンサイトを確保することができる。通常の高炭素鋼板の製造方法は、熱間圧延直後に熱処理を施し、熱処理された熱延鋼板を冷間圧延した後、焼入れ熱処理を施してマルテンサイト組織を形成するのに対し、本発明は、鋼成分系を厳しく制御して熱間圧延直後の熱処理を省略できるだけでなく、冷間圧延後の焼入れを省略できるため、炭素排出量を効果的に下げることができる。
【0079】
冷却終了後の冷延鋼板は熱延コイルに巻き取られることができる。
【0080】
冷間圧延
【0081】
熱延コイルをアンコイリングした後、20~50%の圧下量で冷間圧延を行うことができる。圧下量が少ない場合、マルテンサイトの十分な延伸が行われず、それにより目的とする高強度特性及び耐久性を確保できなくなる。従って、本発明は、冷間圧延の圧下量を20%以上の水準に制限することができる。好ましい冷間圧延圧下量の下限は25%であることができる。一方、冷間圧延の圧下量が過度な場合、圧延荷重による設備の破損が懸念されるだけでなく、強度が上昇し過ぎて耐久性が低下するという問題が生じる可能性があるため、本発明は、冷間圧延圧下量の上限を50%に制限することができる。
【0082】
前述の製造方法により製造された高炭素鋼板は、90面積%以上のマルテンサイトを微細組織として含み、マルテンサイトの圧延方向の残留応力は70MPa以上であり、降伏強度(YS)は1300MPa以上であり、引張強度(TS)は1500MPa以上であることができる。
【0083】
また、前述した製造方法により製造された高炭素鋼板を用いてスプリング部材を作製する場合、当該スプリング部材の耐久性テストの結果は10万回以上を満たすことができる。
【0084】
以下、具体的な実施例を通じて本発明の高炭素鋼板及びその製造方法、部品についてより詳細に説明する。以下の実施例は本発明を理解するためのものであり、本発明の権利範囲を特定するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載されている事項とそれから合理的に類推される事項によって決定される。
【実施例
【0085】
下記表1の組成を有するスラブを製造した後、下記表2の工程条件を適用して鋼板の試験片を製造した。それぞれのスラブは通常の製造方法により製造されており、1050~1350℃の温度範囲で加熱し均質化処理された。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
この後、各試験片の微細組織を測定し、その結果を表3に記載した。各試験片を圧延方向と平行な方向に切断した後、板厚1/4地点の切断面から微細組織観察用の試験片を採取した。このように採取したサンプルを研磨し、ナイタール溶液で腐食した後、光学顕微鏡及び走査電子顕微鏡(SEM)を用いて各試験片の微細組織を観察した。微細組織の分率はイメージ分析を通じて測定した。
【0089】
延伸したマルテンサイトの割合は、走査電子顕微鏡(SEM)のイメージにおいて、全マルテンサイトの面積に対してパケットの長軸が圧延方向から45°以内に配列されるマルテンサイトの面積より測定した。マルテンサイトパケットの長短軸比も、走査電子顕微鏡(SEM)のイメージにおいて、全マルテンサイトパケットの面積に対して長軸と短軸のパケットの割合が2:1以上であるものの面積より測定した。
【0090】
表3において、Mはマルテンサイト、Fはフェライト、R-γは残留オーステナイト、Pはパーライト、Bはベイナイトを意味する。
【0091】
【表3】
【0092】
各試験片に対する機械的物性を測定し、その結果を表4に記載した。引張強度及び降伏強度はJIS規格による引張試験を実施して評価し、残留応力はX-ray diffraction方式であるStresstech Groupで製造したXSTRESS 3000モデルの装備を用い、測定パラメータとしてExp.Time:40s、Radiation:CrKa、Detector distance:50sの条件で表面の残留応力を測定した。また、各試験片を用いてコイル形態のスプリング部材を作製し、巻かれている状態のスプリングを1.5mの長さに引っ張った後、再び元の状態に巻く方式の繰り返しテストを通じて耐久性を評価し、その結果を表4にともに記載した。
【0093】
【表4】
【0094】
表1~表4に示すように、本発明の合金組成及び製造条件をいずれも満たす試験片1~試験片12は、マルテンサイトの分率が90面積%以上であり、圧延方向に延伸したマルテンサイトの割合が50%以上であり、長短軸比が2:1以上のマルテンサイトパケットの割合が50%以上であることを確認することができる。また、試験片1~試験片12は、圧延方向の残留応力が70MPa以上であり、圧延方向に対する45°方向の残留応力が30MPa以上であり、1500MPa以上の引張強度及び1300MPa以上の降伏強度、10万回以上の耐久性試験の結果をいずれも満たすことを確認することができる。
【0095】
これに対し、本発明の合金組成及び製造条件のいずれか一つ以上を満たしていない試験片13~20は、本願発明が制限するマルテンサイトの分率、圧延方向に延伸したマルテンサイトの割合、及び長短軸比が2:1以上であるマルテンサイトパケットの割合のいずれか一つ以上を満たしていないことを確認することができる。
【0096】
試験片13は、圧延終了後5秒が経過して冷却が開始された試験片であって、フェライト分率が高く、目的とする強度及び耐久性を確保できないことを確認することができる。
【0097】
試験片14は、圧延終了温度が低い場合であり、試験片16は、冷却速度が遅い場合であって、これらの試験片はパーライト及びベイナイトの分率が高く、本発明が目的とするマルテンサイト分率を確保できず、目的とする強度及び耐久性を確保できないことを確認することができる。
【0098】
試験片15は、冷却終了温度及び巻取温度が高い場合であって、ベイナイトの分率が高く、目的とする耐久性を確保できないことを確認することができる。
【0099】
試験片17は、冷間圧下率が低い場合であって、長短軸比が2:1以上であるマルテンサイトパケットの割合が低く、マルテンサイトの残留応力が低いことから、目的とする耐久性を確保できないことを確認することができる。
【0100】
試験片18は、炭素(C)の含有量が低い場合であり、試験片19は、チタン(Ti)及びボロン(B)の含有量が低い場合であって、マルテンサイトの分率が著しく低く、目的とする水準の強度及び耐久性を確保できないことを確認することができる。
【0101】
試験片20は、マンガン(Mn)の含有量が高い場合であって、マルテンサイトへの変態が十分に起こらず残留オーステナイトが多量形成されており、引張強度及び降伏強度は優れているのに対し、耐久性に劣ることを確認することができる。
【0102】
以上、実施例を通じて本発明を詳細に説明したが、これと異なる形態の実施例も可能である。従って、以下に記載される請求項の技術的思想と範囲は実施例に限定されない。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.11~0.30%、Mn:0.1~3.0%、Si:0.5%以下(0%を除く)、Al:0.1%以下(0%を除く)、P:0.05%以下(0%を含む)、S:0.03%以下(0%を含む)、N:0.03%以下(0%を含む)、残りのFe及び不可避不純物を含み、
90面積%以上のマルテンサイトを微細組織として含み、
前記マルテンサイトの圧延方向の残留応力は70MPa以上である、高炭素鋼板。
【請求項2】
Ti:0.005~0.1重量%をさらに含む、請求項1に記載の高炭素鋼板。
【請求項3】
重量%で、Nb:0.05%以下、V:0.05%以下、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、及びB:0.005%以下のうちの1種以上をさらに含む、請求項2に記載の高炭素鋼板。
【請求項4】
前記マルテンサイトの圧延方向に対する45°方向の残留応力は30MPa以上である、請求項1に記載の高炭素鋼板。
【請求項5】
前記マルテンサイトのうち、圧延方向に沿って延伸したマルテンサイトの割合が50%以上である、請求項1に記載の高炭素鋼板。
【請求項6】
前記マルテンサイトの全パケットのうち、長短軸比が2:1以上のパケットの割合が50%以上である、請求項1に記載の高炭素鋼板。
【請求項7】
フェライト及び残留オーステナイトの中から選択された1種以上を10面積%以下(0%を含む)の合計分率で含み、
パーライト及びベイナイトの中から選択された1種以上を5面積%以下(0%を含む)の合計分率で含む、請求項1に記載の高炭素鋼板。
【請求項8】
前記鋼板の降伏強度は1300MPa以上であり、引張強度は1500MPa以上である、請求項1に記載の高炭素鋼板。
【請求項9】
前記鋼板の炭素(C)含有量は0.20重量%超過であり、
前記マルテンサイトの圧延方向の残留応力は190MPa以上である、請求項1に記載の高炭素鋼板。
【請求項10】
前記鋼板の降伏強度は1590MPa以上であり、引張強度は1640MPa以上である、請求項9に記載の高炭素鋼板。
【請求項11】
請求項1~10のうちいずれか一項に記載の高炭素鋼板を用いた部品であって、耐久性テストの結果が10万回以上である、産業用又は自動車用部品。
【請求項12】
重量%で、C:0.11~0.30%、Mn:0.1~3.0%、Si:0.5%以下(0%を除く)、Al:0.1%以下(0%を除く)、P:0.05%以下(0%を含む)、S:0.03%以下(0%を含む)、N:0.03%以下(0%を含む)、残りのFe及び不可避不純物を含むスラブを1100℃以上の温度範囲で加熱する段階;
前記加熱されたスラブを800~950℃の圧延終了温度で熱間圧延して熱延鋼板を提供する段階;
前記熱間圧延完了後5秒以内に50~1000℃/secの冷却速度で350℃以下の冷却終了温度まで前記熱延鋼板を急冷し巻き取る段階;及び
前記巻き取り後の熱処理を省略し、20~50%の圧下率で前記熱延鋼板を冷間圧延する段階;を含む、高炭素鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記スラブは、Ti:0.005~0.1重量%をさらに含む、請求項12に記載の高炭素鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記スラブは、重量%で、Nb:0.05%以下、V:0.05%以下、Cr:1.0%以下、Mo:1.0%以下、及びB:0.005%以下のうちの1種以上をさらに含む、請求項13に記載の高炭素鋼板の製造方法。
【請求項15】
前記スラブに含まれる炭素(C)含有量は0.20重量%超過である、請求項12に記載の高炭素鋼板の製造方法。
【請求項16】
前記急冷された熱延鋼板は90面積%以上のマルテンサイトを含む、請求項12に記載の高炭素鋼板の製造方法。
【請求項17】
前記冷間圧延後焼入れを施さない、請求項12に記載の高炭素鋼板の製造方法。
【国際調査報告】