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特表2025-501572化学塞栓用組成物とそれを使用する治療方法
<図1>
  • 特表-化学塞栓用組成物とそれを使用する治療方法 図1
  • 特表-化学塞栓用組成物とそれを使用する治療方法 図2
  • 特表-化学塞栓用組成物とそれを使用する治療方法 図3
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  • 特表-化学塞栓用組成物とそれを使用する治療方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-22
(54)【発明の名称】化学塞栓用組成物とそれを使用する治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/50 20060101AFI20250115BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 47/30 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20250115BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 31/502 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 31/55 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 31/454 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 31/5025 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 31/4184 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 31/5517 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 31/166 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20250115BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
A61K9/50
A61K45/00
A61K9/16
A61K9/10
A61K47/30
A61K47/32
A61K47/34
A61K47/36
A61K31/502
A61K31/55
A61K31/454
A61K31/5025
A61K31/4184
A61K31/496
A61K31/5517
A61K31/166
A61K45/06
A61K39/395 D
A61K39/395 U
A61K39/395 N
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537844
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-07-23
(86)【国際出願番号】 US2022053849
(87)【国際公開番号】W WO2023122292
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】63/293,179
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522368684
【氏名又は名称】ボストン サイエンティフィック メディカル デバイス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ドレハー、マシュー
(72)【発明者】
【氏名】コッポル、バーヌ
(72)【発明者】
【氏名】カンガス、スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン、リアノン
(72)【発明者】
【氏名】タン、イーチン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA16
4C076AA31
4C076AA61
4C076CC27
4C076EE01
4C076EE06
4C076EE24
4C076EE30
4C084AA17
4C084AA19
4C084AA20
4C084MA05
4C084MA22
4C084MA37
4C084MA41
4C084NA05
4C084NA06
4C084NA13
4C084ZB261
4C084ZC202
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC37
4C086BC39
4C086BC50
4C086CB03
4C086CB09
4C086CB11
4C086CB22
4C086GA07
4C086GA12
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA38
4C086NA05
4C086NA06
4C086NA13
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA07
4C206GA22
4C206KA01
4C206MA02
4C206MA05
4C206MA58
4C206NA05
4C206NA06
4C206NA13
4C206ZB26
4C206ZC20
(57)【要約】
本開示は、とりわけ、塞栓用ポリマーマイクロスフィアを使用した固形腫瘍の改良治療法に関しており、また、ポリマーとポリADPリボースポリメラーゼ酵素の阻害剤(PARP阻害剤)とを含む塞栓用ポリマーマイクロスフィアであって、前記PARP阻害剤は前記ポリマーマイクロスフィア内に保持され、水性媒体の中で前記マイクロスフィアから溶出可能である、塞栓用ポリマーマイクロスフィアに関しており、そして塞栓用ポリマーマイクロスフィアを負荷する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと、ポリADPリボースポリメラーゼ酵素の阻害剤(PARP阻害剤)とを含むポリマーマイクロスフィアであって、前記PARP阻害剤が前記ポリマーマイクロスフィア内に保持されており、水性媒体の中で前記マイクロスフィアから溶出可能である、ポリマーマイクロスフィア。
【請求項2】
前記PARP阻害剤の少なくとも一部が、前記PARP阻害剤と前記ポリマーとのイオン性相互作用によって前記マイクロスフィア内に保持されている、及び/又は前記PARP阻害剤の少なくとも一部が、前記ポリマーマイクロスフィア内に物理的に捕捉されている、請求項1に記載のポリマーマイクロスフィア。
【請求項3】
前記PARP阻害剤が、37℃でリン酸緩衝生理食塩水(0.01Mリン酸緩衝生理食塩水(0.138M NaCl;0.0027M KCl)、pH7.4)の中で、前記ポリマーマイクロスフィアから溶出可能である、先行する請求項のいずれかに記載のポリマーマイクロスフィア。
【請求項4】
前記ポリマーが以下の特徴((a)前記ポリマーがpH7.4で陰イオン性に帯電している(b)前記ポリマーが架橋されている(c)前記ポリマーがハイドロゲルの形状である(d)前記ポリマーが生分解性又は生体内分解性である)のうち一つ又は二つ以上の組み合わせを有する、先行する請求項のいずれかに記載のポリマーマイクロスフィア。
【請求項5】
前記ポリマーがポリビニルアルコール(PVA)ホモポリマー又はPVAコポリマーを含む、請求項1~4のいずれかに記載のポリマーマイクロスフィア。
【請求項6】
前記ポリマーがポリエステル、多糖又は生分解性のPVAポリマーである、請求項1~4のいずれかに記載のポリマーマイクロスフィア。
【請求項7】
前記ポリマーがポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)から成る又は含む、又は生分解性の架橋されたPVAである、請求項1~4のいずれかに記載のポリマーマイクロスフィア。
【請求項8】
前記PARP阻害剤がオラパリブ(AZD-2281)、ルカパリブ(RF-01367338)、ニラパリブ(MK-4827)、タラゾパリブ(BMN-673)、ベリパリブ(ABT-888)、CEP9722、E7016、BGB-290及び3-アミノベンザミドから選択される、先行する請求項のいずれかに記載のポリマーマイクロスフィア。
【請求項9】
前記ポリマーマイクロスフィアは、架橋されたポリビニルアルコールポリマー又はポリビニルアルコールコポリマー、及び前記PARP阻害剤を含むハイドロゲルポリマーマイクロスフィアであり、前記架橋されたポリビニルアルコールポリマーはpH7.4で負の電荷を帯びる、請求項1~4のいずれかに記載のポリマーマイクロスフィア。
【請求項10】
前記ポリマーマイクロスフィア内に保持され、前記マイクロスフィアから溶出可能なチェックポイント阻害剤をさらに含む、先行する請求項のいずれかに記載のポリマーマイクロスフィア。
【請求項11】
前記チェックポイント阻害剤が、PD-L1へのPD-1の結合阻害剤、CD80及び/又はCD86へのCTLA-4の結合阻害剤、CD-112へのTIGITの結合阻害剤、及びMHCクラスIIへのLAG-3の結合阻害剤から選択される、請求項10に記載のポリマーマイクロスフィア。
【請求項12】
前記チェックポイント阻害剤がPD-1、PD-L1、LAG-3、TIM-3、TIGIT又はCTLA-4に結合する、抗体又はそれらの抗原結合性フラグメントから選択される、請求項10に記載のポリマーマイクロスフィア。
【請求項13】
前記チェックポイント阻害剤がペムブロリズマブ、ニボルマブ、イピリムマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、トレメリムマブ、レラトリマブ、デュルバルマブ、エチギリマブ、ドムバナリマブ、チラゴルマブ、ビボストリマブ、LY3321367、MBG453、及びTSR-022から選択される、請求項10に記載のポリマーマイクロスフィア。
【請求項14】
固形腫瘍の治療に用いるためのPARP阻害剤であって、前記PARP阻害剤は前記PARP阻害剤とポリマーとを含む複数のポリマーマイクロスフィア内に備えられており、前記PARP阻害剤は前記ポリマーマイクロスフィア内に保持されており、そして水性媒体の中で前記マイクロスフィアから溶出可能である、PARP阻害剤。
【請求項15】
固形腫瘍の治療のための治療薬の製造におけるPARP阻害剤の使用であって、前記PARP阻害剤は前記PARP阻害剤とポリマーとを含む複数のポリマーマイクロスフィア内に備えられており、前記PARP阻害剤は前記ポリマーマイクロスフィア内に保持されており、そして水性媒体の中で前記マイクロスフィアから溶出可能である、PARP阻害剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、とりわけ、塞栓用マイクロスフィアを使用した固形腫瘍の改良治療法、塞栓用マイクロスフィアを負荷する方法、及び薬剤が封入された塞栓用マイクロスフィアに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARPs)は、DNA修復に関与する。それらは、DNAの一本鎖切断及び二本鎖切断によって活性化され、塩基除去修復経路で役割を果たす。PARP阻害剤は、現在、卵巣がん用、卵管がん用、原発性腹膜がん用、及び乳がん用に認可(FDA)されているが、他の腫瘍では、その効果は期待に沿うものではない(例えば、Zhang et al、Hepatology(2012)55(6):1840-1851及びGabrielson et al、Cancer Chemother.Pharmacol.(2015)76:1073-1079を参照のこと)。PARP阻害剤は、例えば、in vitroでは肝細胞上皮癌細胞(HCC)株に対する有効性を示したものの、臨床的には効果が低いことが実証されている。
【0003】
特定の腫瘍は、塞栓化手順による治療の影響を受け得る。この塞栓化手順では、マイクロスフィア懸濁液のような塞栓用材料が、腫瘍に栄養を供給する血管の中へ導入されると、その血管内で塞栓用材料が滞留し、その結果、局所組織への血液供給を中断させる塞栓を引き起こす。このアプローチは肝動脈塞栓術、すなわちTAEとして知られている。一つのアプローチでは、薬剤が塞栓用材料の中に組み込まれることがあり、塞栓周辺の組織の中へ放出される。このアプローチは、肝動脈化学塞栓術、すなわちTACEとして知られている。塞栓用マイクロスフィアは、様々な生体適合性のある材料から調製されてきており、この材料には天然のポリマー及び合成のポリマーの両方が含まれる。
【0004】
TAEの間、組織の塞栓によって虚血及び局所的な組織壊死につながるが、このことは、いくつかの事例において、腫瘍抗原特異的T細胞の増殖に関連していることが示されている。例えば、Lakshmanaら(J. Immunol.(2017)178(3):1914-1922)は、塞栓が、末梢のα-フェトプロテイン(AFP)特異的CD4陽性T細胞の増殖に関連しており、この細胞増殖が腫瘍壊死及び改善効果の誘導と関連している、と述べた。
【0005】
T細胞に認識された腫瘍抗原は、二つの主要なグループのタンパク質に由来すると考えられている。第1に非変異タンパク質であって、これに対するT細胞寛容が不完全である又はT細胞寛容が新たに誘導されるタンパク質である。第2に腫瘍のゲノムのうち体細胞遺伝子の変異から生じる腫瘍特異的な抗原であって、これらはいわゆる新生抗原である。新生抗原は、このような体細胞遺伝子変異が、腫瘍細胞でよく見られるDNA損傷修復プロセスの機能不全によって、不適切に修正される時に生じると考えられている。いくつかの腫瘍のタイプでは、多数のそのような体細胞遺伝子変異を保因しているようである。HCCにおいて、例えば、個別に分析された腫瘍におけるそのような変異の数は、1メガ塩基当たり1未満から10超までの範囲であった(Schumacher and Schreiber、Science(2015)348、69-74を参照のこと)。それにもかかわらず、いくつかのがんでは少なくとも、CD4陽性又はCD8陽性T細胞の応答性が検出され得るような新生抗原を産生する変異は比較的少ないようである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Zhang et al、Hepatology(2012)55(6):1840-1851
【非特許文献2】Gabrielson et al、Cancer Chemother.Pharmacol.(2015)76:1073-1079
【非特許文献3】J. Immunol.(2017)178(3):1914-1922
【非特許文献4】Schumacher and Schreiber、Science(2015)348、69-74
【発明の概要】
【0007】
本願発明者らは、マイクロスフィア懸濁液の送達によって誘発されるような塞栓の発生と組み合わせた、腫瘍へのPARP阻害剤の局所領域送達は、PARP阻害剤に対する腫瘍応答の向上(例えば、限定はされないが、腫瘍サイズの減少又は全生存期間の改善)をもたらす余地があり、それによって、腫瘍又は患者の改良された治療法を提供するだろう、と考えている。
【0008】
本願発明者らは、DNA損傷の増強が、PARP阻害剤の局所的高濃度の存在と協働すると、新生抗原の産生の可能性が高くなる余地があるだろう、とさらに考えている。
本願発明者らは、腫瘍(例えば、HCCを含む、肝臓の腫瘍など)に対するT細胞の応答が、オラパリブのようなPARP阻害剤の局所的な送達によって向上し得る余地があり、そのような向上したT細胞の応答は腫瘍の改良された治療につながる、とさらに考えている。さらに、この応答は、DNA損傷につながる追加の治療、例えば放射線治療によって増強される可能性があり、及び/又はPARP阻害剤の局所的な送達と(さらなるDNA損傷促進剤とともに、あるいはそれなしに)一つ又は複数の免疫チェックポイント阻害剤とを組み合わせることによってさらに活用される可能性がある。
【0009】
様々な態様において、本開示はポリマー及びPARP阻害剤を含むポリマーマイクロスフィアに関しており、PARP阻害剤はポリマーマイクロスフィア内に保持されており、そして水性媒体の中でマイクロスフィアから溶出可能である。
【0010】
いくつかの実施形態において、PARP阻害剤の少なくとも一部分は、PARP阻害剤とポリマーのイオン相互作用によってマイクロスフィア内に保持され、及び/又は、ポリマーマイクロスフィア内に物理的に捕捉される。
【0011】
先行する態様及び実施形態と組み合わせて使用され得るようないくつかの実施形態において、PARP阻害剤は水性媒体、例えばリン酸緩衝生理食塩水又は水など、の中で、ポリマーマイクロスフィアから溶出可能である。
【0012】
先行する態様及び実施形態と組み合わせて使用され得るようないくつかの実施形態において、PARP阻害剤は、オラパリブ(AZD-2281)、ルカパリブ(PF-01367338)、ニラパリブ(MK-4827)、タラゾパリブ(BMN-673)、ベリパリブ(ABT-888)、CEP9722、E7016、BGB-290、及び3-アミノベンザミドから選択されてよい。
【0013】
先行する態様及び実施形態と組み合わせて使用され得るようないくつかの実施形態において、ポリマーは以下の特徴の一つ又は二つ以上の組み合わせを有してよい:(a)ポリマーはpH7.4で陰イオンに帯電していてよく、(b)ポリマーは架橋されていてよく、(c)ポリマーはハイドロゲルの形状であってよく、又は(d)ポリマーは生分解性又は生体内分解性であってよい。
【0014】
先行する態様及び実施形態と組み合わせて使用され得るようないくつかの実施形態において、ポリマーはポリエステル、多糖類、又は生分解性の、又は生体内分解性であるが非生分解性の/生体内分解性のPVAポリマーであってよい。例えば、ポリマーは生分解性又は生体内分解性の架橋されたPVAポリマー又はPVAコポリマーであってよく、又はポリマーはポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)であってよい。これら実施形態のいくつかにおいて、PLGA内における乳酸ユニットの対グリコール酸ユニット比は、50:50から10:90の間である。
【0015】
先行する態様及び実施形態と組み合わせて使用され得るようないくつかの実施形態において、ポリマーマイクロスフィアは架橋されたポリビニルアルコールポリマー及びPARP阻害剤を含むハイドロゲルポリマーマイクロスフィアであり、このマイクロスフィアでは、架橋されたポリビニルアルコールポリマーはpH7.4で負の電荷を有しており、PARP阻害剤はポリマーマイクロスフィア内に保持されており、そして水性媒体の中でそのポリマーマイクロスフィアから溶出可能である。これらの実施形態のいくつかにおいて、PARP阻害剤は、ポリマーマイクロスフィア内で微粒子の形状であってよい。
【0016】
先行する態様及び実施形態と組み合わせて使用され得るようないくつかの実施形態において、ポリマーマイクロスフィアがポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)及びPARP阻害剤を含み、このPARP阻害剤はポリマーマイクロスフィア内に保持されており、そして水性媒体の中で(例えば、少なくとも部分的には、ポリマーマイクロスフィアの生分解性又は生体内分解性に基づいて)マイクロスフィアから溶出可能である。
【0017】
様々な追加の態様において、本開示は、上記の態様又は実施形態のいずれにも従うような、複数のポリマーマイクロスフィアを含む医療用組成物に関する。
いくつかの実施形態において、この医療用組成物はポリマーマイクロスフィアを含む凍結乾燥粉末の形状である。これらの実施形態のいくつかにおいては、この凍結乾燥粉末はポリオール保護剤をさらに含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、この医療用組成物は、水性溶液をさらに含んでおり、その中でポリマーマイクロスフィアは水和ポリマーマイクロスフィアとして懸濁されている。
【0019】
いくつかの実施形態において、この医療用組成物は、水和ポリマーマイクロスフィア1mL中に0.1~50mgのPARP阻害剤を含む。
先行する態様及び実施形態と組み合わせて使用され得るようないくつかの実施形態において、この医療用組成物は注射用組成物である。
【0020】
様々なさらなる態様において、本開示は、固形腫瘍を有する患者の治療のための方法に関しており、この治療は、先行の態様及び実施形態に従う医療用組成物を固形腫瘍へ送達する工程を含んでおり、この工程ではPARP阻害剤がポリマーマイクロスフィアから溶出し腫瘍組織の中へ溶出する。
【0021】
いくつかの実施形態において、この組成物は局所注射によって腫瘍へと送達される。
いくつかの実施形態において、この組成物は、腫瘍の少なくとも一部分に栄養供給している一つ又は複数の血管を介して腫瘍に送達され、そしてそのポリマーマイクロスフィアはその血管に滞留し塞栓を生じさせる。これらの実施形態のいくつかにおいて、この組成物はマイクロカテーテルを介して腫瘍に送達される。
【0022】
先行する態様及び実施形態と組み合わせて使用され得るようないくつかの実施形態において、患者の治療は放射線療法を用いた治療をさらに含み、この治療は、医療用組成物の送達前、送達中、及び/又は送達後に実施され得る。例えば、放射線療法は外照射放射線療法(EBRT)、小線源療法、又は選択的内部放射線療法(SIRT)を特には含み得る。
【0023】
先行する態様及び実施形態と組み合わせて使用され得るようないくつかの実施形態において、患者の治療は一つ又は複数のチェックポイント阻害剤を腫瘍に送達する工程をさらに含む。一つ又は複数のチェックポイント阻害剤は、局所的に腫瘍へ又は全身に送達され得る。一つ又は複数のチェックポイント阻害剤は、医療用組成物の送達前、送達中、及び/又は送達後に送達され得る。
【0024】
いくつかの実施形態において、(a)チェックポイント阻害剤は、PD-L1へのPD-1の結合阻害剤、CD80及び/又はCD86へのCTLA-4の結合阻害剤、又はMHCクラスIIへのLAG-3の結合阻害剤、又はCD112及び/又はCD115へのTIGITの結合阻害剤から選択される、(b)チェックポイント阻害剤は、PD-1、PD-L1、LAG-3、TIGIT又はCTLA-4に結合する、抗体又はその抗原結合性フラグメントから選択される、(c)チェックポイント阻害剤はペムブロリズマブ、ニボルマブ、イピリムマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、トレメリムマブ、レラトリマブ、デュルバルマブから選択される、(d)チェックポイント阻害剤はTIM-3に結合する、抗体又はその抗原結合性フラグメントから選択される、又は(e)チェックポイント阻害剤はLY3321367、MBG453、及びTSR-022から選択される。
【0025】
様々な追加の態様において、本開示はPARP阻害剤が封入されたハイドロゲルポリマーマイクロスフィアを調製する方法に関しており、その方法は以下のステップを含んでいる:(a)第1の溶媒の中に溶解させたPARP阻害剤を含む溶媒溶液を脱水ハイドロゲルポリマーマイクロスフィアに接触させるステップ、(b)ステップ(a)で産生されたマイクロスフィアを回収するステップ、及び(c)ステップ(b)の回収されたマイクロスフィアを第2の溶媒で洗浄するステップ。この方法において、第1の溶媒は、PARP阻害剤を25℃で少なくとも10mg/mLの濃度で溶解するために適切な有機溶媒であり、第2の溶媒はPARP阻害剤が25℃で0.1mg/mL未満でしか溶解できない溶媒である。これら実施形態のいくつかにおいて、PARP阻害剤はオラパリブである。
【0026】
いくつかの実施形態では、第1の溶媒は有機溶媒である。有機溶媒の例として、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルイソソルバイド(DMI)、グリコフロール、ソルケタール、及びそれらの組み合わせが特には挙げられる。
【0027】
いくつかの実施形態において、第2の溶媒は水性溶媒であり、例えば、水、一般的な生理食塩水、又はリン酸緩衝生理食塩水である。
様々なさらなる態様において、本開示は固形腫瘍の治療で用いるためのPARP阻害剤に関しており、PARP阻害剤は、PARP阻害剤及びポリマーを含む複数のポリマーマイクロスフィアの形状で提供され、そのポリマーマイクロスフィアには、先行する態様のいずれにも従うポリマーマイクロスフィアが含まれており、及びPARP阻害剤は、ポリマーマイクロスフィア内に保持されており、そして水性媒体の中でマイクロスフィアから溶出可能である。
【0028】
様々なさらなる態様において、本開示は固形腫瘍の治療のための治療薬の製造におけるPARP阻害剤の使用に関し、PARP阻害剤は、PARP阻害剤及びポリマーを含む複数のポリマーマイクロスフィアの形をとっており、そのポリマーマイクロスフィアには、先行する態様のいずれにも従うポリマーマイクロスフィアが含まれており、及びPARP阻害剤は、ポリマーマイクロスフィア内に保持されており、そして水性媒体の中でマイクロスフィアから溶出可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本開示の態様に従う、コントロールとして非封入(bland)マイクロスフィア、及び封入マイクロスフィアのサイズ分布を示す。
図2図2は、本開示の態様に従う、一定流量の温生理食塩水(流速1.7mL/分、37℃)における、オラパリブ封入マイクロスフィアの溶出プロファイルを、時間に対する溶出オラパリブ濃度で示す。
図3図3は、本開示の態様に従う、一定流量の温生理食塩水(流速1.7mL/分、37℃)における、オラパリブ封入マイクロスフィアの溶出プロファイルを、時間に対する溶出オラパリブ総用量で示す。
図4図4は、本開示の態様に従う、オラパリブ封入マイクロスフィアの溶出プロファイルを、37℃でpseudo-sink条件下での時間に対する溶出したオラパリブの総用量で示す。
図5図5は、本開示の態様に従う、pH7.4のPBS/tween20の中、37℃での、オラパリブ封入PLGAマイクロスフィアの溶出プロファイルを、時間に対する薬剤の総放出量で示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
第1の態様において、本開示はポリADPリボースポリメラーゼ酵素(PARP)の阻害剤を含むポリマーマイクロスフィアを提示しており、PARP阻害剤は、ポリマーマイクロスフィア内に保持されており、そして水性媒体の中でマイクロスフィアから溶出可能である。
【0031】
都合のよいことに、PARP阻害剤はマイクロスフィアのポリマーに通常は共有結合されず、水性媒体の中で、特に、血漿、一般的な生理食塩水、又は一般的なリン酸緩衝生理食塩水(0.01Mリン酸緩衝生理食塩水(0.138M NaCl;0.0027M KCl)、pH7.4)のようなイオン性の水性媒体の中で、マイクロスフィアから自由に溶出可能である。
【0032】
PARP阻害剤は、ポリマー及び/又はマイクロスフィア内の物理的な引っかかりとの、一つ又は複数の非共有結合性相互作用(例えば、ファンデルワールス力、疎水性相互作用、及び/又はイオン相互作用(電荷―電荷相互作用又は静電相互作用とも称される)を含む静電相互作用、電荷―双極子相互作用、及び水素結合を含む双極子―双極子相互作用)によって、マイクロスフィア内に保持され得る。様々な実施形態において、薬剤はマイクロスフィアマトリックスのいたるところに分布しているが、調製する間の洗浄プロセスによって、表面付近では他の箇所よりも少量で存在し得る。薬剤は、例えば、ポリマーマイクロスフィア内に捕捉されてよく(例えば、粉末として及び/又は結晶形状あるいはアモルファス形状として)、又はポリマーとの(一つ又は複数の)非共有結合性相互作用によって、例えば、特にポリマー及び薬剤が帯電した成分を含んでいる場合は、イオン相互作用によって、マイクロスフィア内に保持されてもよい。
【0033】
薬剤は、いくつもの方法で、ポリマーマイクロスフィアと結びつけられてよく、例えば、マイクロスフィアの製造中に薬剤がポリマーと混合される時(例えば、ポリマーが、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)マトリックスのような、モノリシックな生分解性又は生体内分解性のポリマーマトリックスの形状である時)には、物理的な補足によって、結びつけられてよい。あるいは、薬剤の封入プロセス中に(例えば、架橋されたPVAのようなハイドロゲルポリマーの中に、薬剤が封入される時に(例えば、WO2007/090897A1及びWO2007/085615Alを参照のこと))、あらかじめ形成されたマイクロスフィアのポリマーマトリックス内で、薬剤が沈殿及び/又は結晶化されてよい。
【0034】
イオン相互作用によって、ポリマーマイクロスフィア内に薬剤を保持することは、例えば薬剤を適切に酸性又は塩基性の溶液に暴露して、塩を形成するように誘導することによって、薬剤が電荷を帯びる、又は有するように誘導され得る場合に特に有用である。そのような封入メカニズムは、ポリマーマイクロスフィアが、生体pH(pH7.4)で電荷を帯びる場合に有用である。沈殿及び/又は結晶化による薬剤封入は、薬剤の水中での安定性が低い場合に有用である。
【0035】
使用時に、いったんマイクロスフィアが送達されると、例えばマイクロスフィアを形成しているポリマーの生体内分解(bioerosion)又は生分解によって、又はマイクロスフィアのポリマーマトリックスからの薬剤の拡散によって、あるいはこの両方の組み合わせによって、薬剤はマイクロスフィアから周辺媒体(組織又は血液)中に放出されるだろう。疑義を避けるために明記すると、本明細書において、「溶出」という用語は、これら放出のメカニズムのそれぞれ又は両方を包含するとみなされる。薬剤の放出は、生体pH(7.4)で、及び/又はイオン性媒体の中で実証され得る。通常は、一般的なリン酸緩衝生理食塩水の中で実証され得る。
【0036】
マイクロスフィアを形成している(一つ又は複数の)ポリマーは、天然ポリマー、合成ポリマー、又は天然ポリマーと合成ポリマーの混成物であってよい。水性媒体(例えば、一般的なリン酸緩衝生理食塩水など)の中で薬剤がマイクロスフィアから溶出可能であるような方法でポリマーマイクロスフィア内に薬剤を保持するのに適しているような、いずれのポリマーも使用され得る。
【0037】
適切な天然ポリマーはタンパク質類(ゼラチンなど)、多糖類(スターチ類、キトサン類、グリコーゲン類、セルロース類(メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はヒドロキシエチルセルロースなど))、アルギン酸、及び多糖ガム類(例えば、カラギーナン、グアーガム、キサンタンガム、ゲランガム、ローカストビーンガム、及びアラビアガム)を含む。
【0038】
適切な合成ポリマーはアクリラート、アクリルアミド、アクリル、アセタール、アリル、合成多糖類、メタクリラート、ポリアミド、ポリカルボナート、ポリエステル、ポリエーテル、ポリイミド、ポリオレフィン、ポリホスファート、ポリウレタン、シリコン、スチレン、及びビニル、又はそれらの組み合わせ及び/又はそれらのコポリマーを含む。いくつかの実施形態では、ポリマーは、ビニルアルコール、エチレングリコール(エチレンオキシド)、プロピレングリコール(プロピレンオキシド)、アクリラート、メタクリラート、アクリルアミド、又はメタクリルアミドから選択された一つ又は複数のモノマーを含むホモポリマー又はコポリマーである。
【0039】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、向上した生体適合性のために、天然の親水性ポリマー及び/又は合成の親水性ポリマーであってよい。適切な親水性ポリマーには、ポリビニルアルコール、アクリラート及びメタクリラート、及びそれらの塩類(例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、及びポリメチルメタクリラート)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール(PEG)、PEG-メタクリラート、PEG-メチルメタクリラート、ポリアクリルアミド(例えば、N、N-メチレン-ビス-アクリルアミド又はトリス(ヒドロキシメチル)メタクリルアミド)、又は天然ポリマー(例えばタンパク質又は多糖であって、例えば、本明細書又は他の場所で記述されているもの、又は前述の少なくとも一つを含んでいる混合物又はコポリマーなど)、を含む。
【0040】
いくつかの実施形態において、親水性ポリマーはポリヒドロキシ化ポリマー、つまり、一つ又は複数のペンダントヒドロキシ基を有する繰り返し単位を含むポリマー、を含む又はそのようなポリマーである。好ましいポリヒドロキシ化ポリマーとして、アクリラート及びメタクリラートのポリオールエステルを含んでいるポリマー、例としてポリ(ヒドロキシアルキルアクリラート)及びポリ(ヒドロキシアルキルメタクリラート)が含まれ、例えば、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリラート)など;ポリ(ヒドロキシアルキルアクリルアミド)及びポリ(ヒドロキシアルキルメタクリルアミド)、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)メタクリルアミドなど;ポリ(PEGアクリラート)及びポリ(PEGメタクリラート);ビニルアルコールを含むポリマー、例えば、ポリ(ビニルアルコール)ポリマー又は(エチレンビニルアルコール)コポリマーなど;及び多糖類、が挙げられる。
【0041】
さらなる実施形態において、親水性ポリマーはポリカルボン酸ポリマー、つまり一つ又は複数のペンダントカルボキシ基を有する繰り返し単位を含むポリマーであってよい。これらポリマーは、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、及びそれらのコポリマー及びその塩類(第1族金属塩又は第2族金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩又はマグネシウム塩、など)を含む。
【0042】
一つの実施形態において、親水性ポリマーはハイドロゲルの形状であり、そのポリマーは共有結合的又は非共有結合的のいずれかで架橋されている。これらポリマーは、水で膨潤可能であるが水に難溶である。このポリマーは、重量の50%より多く、例えば重量の99%までの水を含み得る。そのようなポリマーは、例えば重量の60%~98%の水を含んでよい。
【0043】
いくつかの実施形態において、ポリマーは生分解性又は生体内分解性ポリマーであり得る。生分解性又は生体内分解性ポリマーは、限定はされないが、ポリエステルや多糖類(例えば、本明細書の他の場所で言及されたようなものなど)を含む。
【0044】
生分解性及び/又は生体内分解性ポリマーは、限定はされないが、ポリ乳酸(PLA)のようなポリ乳酸類、ポリグリコール酸(PLG)のようなポリグリコール酸類、ポリヒドロキシブチラートのようなポリヒドロキシアルカノアート類、又はポリヒドロキシバレラート、ポリε―カプロラクトン、及び上述のコポリマー、例えばポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)又はポリ(3-ヒドロキシブチラート-コ-3-ヒドロキシバレラート)など、を特には含む。一つの好ましい実施形態において、生分解性ポリマーはPLGAである。
【0045】
生分解性又は生体内分解性ポリマーのさらなる例は、ジスルフィド結合を含む架橋剤で架橋されたポリビニルアルコール(PVA)ポリマー(例えば、参照により本明細書に援用する、WO2012/101455に記載のもの)、及びそのPVA主鎖がC-Cの二価酸(例えばαケトグルタル酸など)によって、PVA主鎖のヒドロキシ基とのエステル結合を通して架橋されているPVAポリマー(例えば、参照により本願明細書に援用する、WO2020/003152に記載のもの)である。
【0046】
いくつかの実施形態において、ポリマーはpH7.4で帯電している官能基を含んでよい。そのような官能基は、正の実効電荷又は負の実効電荷を有し得るため、生体pH(pH7.4)で反対の実効電荷を有する化合物同士を可逆的に結びつけることができる。様々な帯電した官能基が使用でき、その官能基にはスルホナート基、ホスファート基、アンモニウム基、ホスホニウム基、及びカルボキシラート基が含まれる;なお、いくつかの実施形態では、カルボキシラート基及びスルホナート基が好ましい。pH7.4で陰イオン性に帯電したポリマーが好ましい。pH7.4で帯電したポリマーは、例えば、天然ポリマー及び/又は合成ポリマー、親水性ポリマー及び/又は疎水性ポリマー、生体内安定ポリマー及び/又は生分解性ポリマー(上述のポリマーを含む)の範囲から選択され得る。
【0047】
いくつかの実施形態において、ポリマーマイクロスフィアのポリマーは架橋され得る。架橋結合は共有結合性の架橋結合、非共有結合性の架橋結合、又は両方の組み合わせに基づいてよい。非共有結合性の架橋結合には、例えばポリマー鎖の絡み合いによる、又は結晶領域の存在による、物理的な架橋結合が含まれる。非共有結合性の架橋は、さらにイオン架橋を含む。イオン架橋は、ポリマー上の帯電した官能基が反対の電荷を帯びる官能基によって架橋された場合に生じ得る。いくつかの場合では、この現象は二価の金属イオン又はよりイオン価の高い(三価など)金属イオン(例えば、特には、カルシウム、マグネシウム、又はバリウムなど)で完成し得る。
【0048】
共有結合性の架橋結合は、異なる鎖上の官能基を、一緒に共有結合的に結合するためにふさわしい任意の方法によって、達成され得る。もし、架橋結合が重合段階の間に達成されるとしたら、この達成は重合する間の二官能性モノマーの組み込みによる可能性がある。あるいは、又は加えて、架橋結合は例えば好ましいポリマー上の官能基(例えば、特には、ヒドロキシ基又はカルボキシ基など)と反応できる二官能性分子種と反応することによって、重合後に達成され得る。
【0049】
架橋剤は、分解性領域(例えば、WO2001/68720を参照のこと)を、架橋剤内部又は架橋剤の末端(例えば、エステル結合(例えば、WO2020/003152に記載)など)のいずれかに導入することもできる。
【0050】
一つの実施形態において、ポリマーはポリビニルアルコール(PVA)を含む、例えば、PVAのホモポリマー及びコポリマーであり、特に、そのようなポリマーは、PVA部分で架橋されておりさらにpH7.4においてPVA部分で帯電している。
【0051】
PVAポリマーの一つのタイプは、ポリビニルアルコールマクロマーであり、このポリビニルアルコールマクロマーは、一分子あたり一つ以上のエチレン性不飽和ペンダント基を有しており、このエチレン性不飽和ペンダント基は、PVAとエチレン性不飽和モノマーとの反応によって形成される。PVAマクロマーは、例えば、ペンダントエチレン性不飽和基、例えば、ペンダントビニル基又はペンダントアクリル基、をもつPVAポリマーを供給することによって形成され得る。ペンダントアクリル基は、例えば、アクリル酸又はメタクリル酸とPVAとを反応させて、そのヒドロキシ基の一部を通じてエステル結合を形成することによって、付与され得る。ポリビニルアルコールと結合され得る、エチレン性不飽和官能基を有する化合物は、例えばUS4,978,713、US5,508,317及びUS5,583,163に記載されている。好ましい実施形態において、マクロマーはポリビニルアルコールの主鎖を含み、そこへ(アルク)アクリルアミノアルキル((alk)acrylaminoalkyl)部分が結合される。そのようなポリマーの一つの例は、Nelficon-B又はアクリルアミド-PVAとして知られている、PVA-N-アクリロイルアミノアセトアルデヒドジメチルアセタール(NAAADA)マクロマーを含む。
【0052】
一つの好ましい実施形態において、ポリマーを架橋するために、このマクロマーは、正の電荷又は負の電荷を任意選択で帯びるエチレン性不飽和モノマー、例えば2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)など、と反応し得る。
【0053】
そのようなポリマー及びそれらをつくる方法はWO0168720及びWO04071495に記載されている。そのようなポリマーのマイクロスフィアは、DC Bead(登録商標)、LC Bead(登録商標)、Bead Block(登録商標)又はそれらの放射線不透過性バージョンのDC Bead(登録商標)LUMI又はLC Bead(登録商標)LUMI(Biocompatibles、UK、Ltd)として市販されている。
【0054】
マイクロスフィアは、任意の所望のサイズ範囲で調製され得るが、しかしながら、約10μm(ミクロン)~2000μmの範囲のサイズが通常は好ましい。小さなサイズのものは毛細血管系を通過して、塞栓箇所を超えて他の場所に滞留し得る。ほとんどの応用例においては、送達中の凝集を抑制し予測どおりの塞栓形成をもたらすために、マイクロスフィアのサイズ範囲は小さいことが望ましいだろう。マイクロスフィアは、封入前又は封入後にサイズ計測され得る。例えば、万一、封入プロセスによって非封入のマイクロスフィア(native又はblandとしても参照する)のサイズが変化するとすれば、マイクロスフィアはより正確なサイズ範囲を提示するために、封入後にサイズ計測される。通常、マイクロスフィアは10~2000μm、より典型的には20~1500μm、及びさらにより典型的には40~900μmの平均直径サイズ範囲を有する。マイクロスフィアの調製では、計画的治療に合うようなサイズ範囲、例えば、100~300ミクロン、300~500ミクロン、500~700ミクロン又は700~900ミクロン、のマイクロスフィアを通常生じる。より小さなマイクロスフィアほど、血管床の中へより深く届く傾向にあるため、とある処置用には、40~75ミクロン、40~90ミクロン又は70~150ミクロンのサイズ範囲にあるマイクロスフィアがとりわけ有用である。
【0055】
ハイドロゲルマイクロスフィアは、乾燥した形状で提供され得る。マイクロスフィアが乾燥した形状で提供される場合、薬理学的に許容な水溶性ポリオールを、乾燥工程前にポリマーに組み込むことには利点がある。このことは、ハイドロゲルにとってとりわけ利点があるが、なぜなら、水溶性ポリオールは水がない状況においてハイドロゲルマトリックスを保護するからである。有用なポリオールは、自由水溶性の糖類(例えば、単糖類又は二糖類など)及び糖アルコール類であり、例としてグルコース、スクロース、トレハロース、マンニトール及びソルビトールが挙げられる。
【0056】
マイクロスフィアは任意の適切なプロセスによって乾燥され得るが、しかしながら、例えばフリーズドライ(凍結乾燥)のような真空下での乾燥には利点がある、というのも、マイクロスフィアが乾燥状態かつ減圧状態で保存できるようになるからである。好ましくは、そのようなマイクロスフィアは1%wt/wt未満の水分含量、より好ましくは、0.1%wt/wt未満の水分含量を有する。WO2007/147902(参照により本願明細書に援用する)に記述されているように、真空下で保存することは再水和性の改善につながる。通常、乾燥マイクロスフィアが保存される圧力条件は、(ゲージ圧力で)1mBar未満である。
【0057】
マイクロスフィアは、処置中又は処置後の可視化を補助するように画像化できてもよい。画像化能は、限定はされないが、以下のものを含む技術であることが望ましい:超音波、X線、磁気共鳴イメージング、超常磁気共鳴イメージング、陽電子放出断層撮影(PETなど)、又はSPECT(単一光子放射断層撮影)。様々な実施形態において、適切な造影剤をマイクロスフィアの中又はマイクロスフィアを取り囲む任意の媒体の中に含むことによって、画像化能が向上し得る。
【0058】
好ましい実施形態において、マイクロスフィアはX線によって画像化できる。これは、放射線不透過性成分を造影剤として、共有結合的に又は非共有結合的に、のいずれかでマイクロスフィアの中へ組み込むことによって強化され得る。非共有結合的に組み込まれる放射線不透過性成分の例として、例えば、バリウム塩(硫酸塩など)のような粒状材料(例えば、Thanoo et al J.Appl.Biomater.(1991)2:67-72を参照のこと)又はタンタルのような金属、又はLipiodol(登録商標)(例えば、EP1810698A1)のようなヨード化油が挙げられる。マイクロスフィアは、ヨウ素又は臭素(例えば、WO2015/033093)又はビスマス(例えば、WO2018/093566)のような、共有結合された放射線不透過性成分を含んでよい。一つの実施形態において、マイクロスフィアは、放射線不透過性薬剤を、共有結合したヨウ素原子の形で含む。一つの実施形態において、そのようなマイクロスフィアは、本願明細書の他の場所で説明されたようにPVAを含み、放射線不透過性薬剤はそのPVA主鎖に共有結合されている。共有結合されたヨウ素原子を有する市販の放射線不透過性マイクロスフィアとして、DC Bead Lumi(登録商標)(Biocompatibles、UK、Ltd、Camberley、UK)が挙げられる。
【0059】
ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)は、DNA修復、ゲノム安定性、及びプログラム細胞死を含む多くの細胞プロセスに関与するタンパク質のファミリーである。このファミリーは、PARP-1、PARP-2及びその他いくつかの酵素を含む。この酵素の阻害剤はよく知られており、さらにいくつかはFDA認可を受け市販で入手可能である。本開示のマイクロスフィアに使用するための成分は、一つ又は複数のPARPファミリーの酵素を好ましくは阻害し、PARP-1及びPARP-2のいずれか一方又は両方を好ましくは阻害する。既知のPARP阻害剤として、例えば、オラパリブ(AZD-2281)、カンシル酸塩として市販で入手可能なルカパリブ(PF-01367338)、ニラパリブ(MK-4827)、タラゾパリブ(BMN-673)、ベリパリブ(ABT-888)、CEP9722、E7016(GPI-21016)、BGB-290、2X-121、ABT-767、AZ-0108、JPI-547(NOV1402)、NMS-P118、NMS-P293、NT-125が挙げられる。他のものは開発パイプライン中にあると考えられる。いくつかの実施形態においては、オラパリブが好ましい。
【0060】
PARP阻害剤はいくつもの方法で、マイクロスフィアの中に封入され得る。薬剤は、製造している間にポリマーと混ぜ合わせることによって、そのポリマーの中に捕捉され得る。あるいは、薬剤はポリマーマトリックス内で沈殿及び/又は結晶化されてよい。このアプローチは、PARP阻害剤の水溶性が低い場合、例えば25℃で水に<0.1mg/mLしか溶解しない場合に、有用である。マイクロスフィアに溶媒を吸収させるために、マイクロスフィアをPARP阻害剤の溶解に適した有機溶媒に接触させることによって、封入が達成され得る。この封入は、その溶媒中でマイクロスフィアを数回洗浄して任意の水性懸濁媒体を交換することによって、又は凍結乾燥させたマイクロスフィアをその溶媒中で膨潤させることによって、のいずれかで達成され得る。溶媒で膨潤させたマイクロスフィアは、それから、PARP阻害剤の溶媒溶液と接触する(なお、通常は同一の溶媒の中で接触する)。PARP阻害剤のためのこの溶媒は、PARP阻害剤を通常は25℃で少なくとも10mg/mLの量で、好ましくは25℃で少なくとも20、30、又は40mg/mLの量で溶解することができる。薬剤は25℃で70mg/mLより多く溶解される実施形態が好ましいとされている。マイクロスフィアは、それから、適切な平衡化時間後(例えば、15分~1時間)に回収され、薬剤が0.1mg/mL未満しか溶解できない媒体の中でわずかな間洗浄される(例えば、0.5分~1分)。水性溶媒は、この目的のために通常使用され、例えば一般的な生理食塩水又は水であってよい。マイクロスフィアはそれから凍結乾燥される。この封入プロセスは、ハイドロゲルマイクロスフィアに特に有用であり、マイクロスフィアがイオン性に帯電しているか否かにかかわらず使用できる。上述の封入プロセスは、例えばオラパリブに適している。
【0061】
PARP阻害剤が実効電荷を有している場合、マイクロスフィアが薬剤を吸収するまで薬剤の水性溶液とマイクロスフィアの懸濁液とを接触させることによって、反対の実効電荷を有するマイクロスフィアの中へ薬剤を封入できる。なお、通常、このプロセスには5分~1時間かかる。このマイクロスフィアはそれから回収され、必要であれば凍結乾燥され得る。
【0062】
マイクロスフィアの中へ封入された薬剤の量は、例えば、封入溶液中の薬剤の量又は薬剤の濃度を変更することによって、及び/又はマイクロスフィア上の利用可能な帯電した官能基の数を、使用される封入方法及び溶解性及び/又は使用される特定のPARP阻害剤上の電荷に応じて、変更することによって制御され得る。マイクロスフィア中の薬剤濃度は、(一般的な生理食塩水中で完全に膨潤されている状態の)マイクロスフィア1mL中に0.1~100mgの範囲で、好ましくはマイクロスフィア1mL中に1~50mg/mLであることが望ましい。
【0063】
PARP阻害剤は、上で説明したように、乾燥したマイクロスフィアの形状で提供されてよく、使用前に(例えば、注入用の水、又は一般的な生理食塩水を使用して)水性組成物へと組み立てられ得る、又は、水性組成物(例えば、注入用の水、又は一般的な生理食塩水など)の中でマイクロスフィアの形状であってもよい。投与の間の可視化を強化するために、注入前に造影剤が添加され得る。そのような組成物は、本開示のさらなる態様を提示する。
【0064】
送達の間に組成物を可視化するために、及び/又は組成物の密度を調整するために、その組成物は造影剤をさらに含んでよく、その造影剤は、限定はされないが、X線、超音波、PET、SPET、磁気共鳴イメージング、超常磁気共鳴イメージング、核医学技術、を含むイメージングモダリティでの使用に適している。これは、例えばヨウ素を含む造影剤であってよく、それはイオン性でも非イオン性でもよいが、好ましくは非イオン性である。
【0065】
さらなる態様において、本開示は固形腫瘍を有する患者の治療法を提示しており、その治療法は、PARP阻害剤を含む複数のポリマーマイクロスフィア、例えば親水性ポリマーマイクロスフィアを含む組成物を固形腫瘍へ送達することを含んでおり、PARP阻害剤は、ポリマーマイクロスフィア内に保持されており、そして水性媒体の中でそのマイクロスフィアから溶出可能であり、そのPARP阻害剤はマイクロスフィアから腫瘍組織の中へ溶出される。投与量は、1mg/日以下~50mg/日以上の範囲であり、いくつかの実施形態においては、2.5mg/日~25mg/日の範囲であり、いくつかの場合には、例えば5mg/日~10mg/日の範囲である。
【0066】
本開示で提示される治療は、固形腫瘍で広く適用性を有する。マイクロスフィアを含む組成物はTACEにおける経動脈経路によって送達されてよく、その組成物は、腫瘍の少なくとも一部分に栄養を供給している一つ又は複数の血管を介して腫瘍に送達されており、マイクロスフィアは血管中で滞留し塞栓をもたらす。あるいは、又は加えて、マイクロスフィアは、例えば、腫瘍内に薬剤の貯蔵所を形成するために、腫瘍の中への直接注入によって送達されてよい。
【0067】
本法は、腫瘍に特有の使用法を有しており、この使用法では、腫瘍(いわゆる「多血性腫瘍」など)に血液供給している血管の中へ選択的にマイクロスフィアを送達するために、適切なマイクロカテーテルが配置され得る。この目的に有用なカテーテルには、外直径(OD)に、通常0.8~0.9mm(2.4~2.8Fr)の範囲がある。具体的な腫瘍として、肝細胞癌(HCC)のような肝臓腫瘍と、肝臓腫瘍及び前立腺腫瘍における神経内分泌腫瘍(NETs)及び結腸直腸がん(mCRC)に由来する転移とが挙げられる。他の腫瘍としては、腎臓腫瘍、副腎腫瘍、グリオーマのような脳の腫瘍、肺腫瘍、すい臓腫瘍、頭頚部腫瘍、卵巣腫瘍、乳腺腫瘍、及び精巣腫瘍が挙げられる。
【0068】
腫瘍のサイズ及び/又は血管分布に依存して、少なくとも約0.1mL、好ましくは少なくとも約0.5mLの、マイクロスフィアを含む組成物が腫瘍に送達される。その最大量は通常依存的であり、TACE治療の場合では、腫瘍のサイズ、その血管分布及び塞栓に利用できる血管の体積に依存する。通常、送達されるマイクロスフィア組成物の体積は、約0.1mLと約5mLの間であり、より典型的には約0.2mLと約3mLの間である。いったん第1の血管床が塞栓化されると、マイクロスフィア組成物は腫瘍などに血液供給する第2の血管へ送達され得る。提示した図面は、腫瘍へ送達されるマイクロスフィア組成物の総体積に関する。
【0069】
本願の治療は、放射線療法による治療をさらに含み、外照射放射線療法(EBRT)又は選択的内部放射線療法(SIRT)又は小線源療法として適用される。使用される放射線のレベルは、損傷に対する感受性に依存するだろうが、通常は10~120Gyの範囲であろう。放射線療法は、マイクロスフィアの送達前、送達中及び/又は送達後に実施される。
【0070】
本願の方法は、一つ又は複数の免疫チェックポイント阻害剤を用いて患者を治療することをさらに含み得る。これらの阻害剤は、マイクロスフィアの送達前、送達中及び/又は送達後に送達され得る。さらに、それらは局所的に(つまり、腫瘍内に)又は全身に送達され得る。一つの実施形態において、ポリマーはチェックポイント阻害剤をさらに含んでおり、このチェックポイント阻害剤は、ポリマーマイクロスフィア内に保持されており、そして水性媒体中でマイクロスフィアから溶出可能である。一つ又は複数のチェックポイント阻害剤を用いる治療は放射線療法と組み合わせて実施されてよい。
【0071】
チェックポイント阻害剤はよく知られており、いくつかは現在使用が認可され、その他は開発段階にある。チェックポイント阻害剤は、以下に記載するものの一つ又は複数から選択されてよい:PD-L1へのPD-1の結合阻害剤、CD-80及び/又はCD86へのCTLA-4の結合阻害剤、MHC-クラス2分子へのLAG-3の結合阻害剤及びCD-112へのTIGITの結合阻害剤。通常、阻害剤はPD-1、PDL-1、LAG-3、TIGIT又はCTLA-4に結合するような、抗体(特にヒト化抗体又は完全なヒト化モノクロナール抗体)又はそれらの抗原結合性フラグメントから選択されるだろう。これらは、とりわけ、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、イピリムマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、トレメリムマブ、レラトリマブとデュルバルマブとの併用、エチギリマブ、ドムバナリマブ、チラゴルマブ、ビボストリマブ、EOS-448、ASP837414、BMS-986207を含む。チェックポイント阻害剤は、TIM-3に結合する抗体又はその抗原結合性フラグメント、例えばLY3321367、MBG453及びTSR-022などからも選択され得る。
【0072】
チェックポイント阻害剤は、指針としてではあるが、製造元の推奨(通常は0.5~25mg/kgの範囲である)に従って通常は送達される。
例えば、
ペムブロリズマブは、1~3mg/kg、好ましくは2±0.5mg/kg
ニボルマブは、0.5~5mg/kg、好ましくは1~4mg/kg
イピリムマブは、0.1~20mg/kgIV、好ましくは1~10mg/kg
アテゾリズマブは、0.5~2mg/kg、好ましくは1.5±0.5mg/kg
アベルマブは、10±5mg/kg
トレメリムマブは、0.5~5mg/kg、好ましくは1±0.5mg/kg
デュルバリムマブは、5~30mg/kg、好ましくは20±5mg/kg
本開示のさらなる態様において、PARP阻害剤が固形腫瘍の治療における使用のために提示されており、PARP阻害剤は、複数の親水性ポリマーマイクロスフィア内に保持されており、そして水性媒体の中でマイクロスフィアから溶出可能である。
【0073】
本開示のさらなる態様において、固形腫瘍の治療用の治療薬の製造におけるPARP阻害剤の使用が提示されており、PARP阻害剤は、複数の親水性ポリマーマイクロスフィア内に保持されており、そして水性媒体の中でマイクロスフィアから溶出可能である。
【0074】
例1:オラパリブをPVAハイドロゲルマイクロスフィアの中へ封入する工程
以下の例は、様々なサイズ範囲のDC Bead LUMI(登録商標)(Biocompatibles、UK、Ltd)のサンプルを使用している。このハイドロゲルマイクロスフィアは、負の電荷を帯びる架橋されたPVAを含む。マイクロスフィアは、PVA主鎖に共有結合しているヨードフェニル基の特性によって、放射線不透過性になっている。
【0075】
1mLの水和マイクロスフィア(DC Bead LUMI(登録商標)、サイズ範囲70~150μm)は、その水和媒体を置換するために、DMSOで洗浄される(5mL、3回)。マイクロスフィアの体積は、DMSO洗浄によって増大したが、3回目の洗浄後には安定した。2mLのDMSO溶解オラパリブ溶液(120mg/mL)はマイクロスフィアと混合され、1時間平衡化された。オラパリブ溶液はそれから除去され、そのマイクロスフィアは生理食塩水で洗浄後(15mL、5回)、薬剤微粒子を取り除くために、40μmの細胞濾過器で篩過された。最後に、洗浄済みのマイクロスフィアは一晩中凍結乾燥に供され、流動性マイクロスフィアを取得した。表1はDMSO抽出とオラパリブ標準品に対するHPLC分析の後に計算された封入用量を示す。
【0076】
【表1】
【0077】
例2:オラパリブを、凍結乾燥されたPVAハイドロゲルマイクロスフィアの中へ封入する工程。
5mLの水和マイクロスフィア(DC Microsphere LUMI(登録商標)、サイズ範囲70~150μm、Biocompatible、UK、Ltd)は、水分を除去するために凍結乾燥された。そのマイクロスフィアは、5mLのDMSO溶解オラパリブ溶液(80mg/mL)と混合され、1時間ローラー混合された。薬剤溶液を除去した後、マイクロスフィアは生理食塩水で洗浄され(50mL、3回)、その後4つのバイアルの中へ分注された(各バイアル1.5mL)。そのマイクロスフィアはそれから24時間凍結乾燥され、流動性マイクロスフィアが産生された。封入収率は、例1に従って決定した。溶液中の残留薬剤が測定され、封入収率は、マイクロスフィア中に封入された薬剤量と、薬剤の初期総添加量との比として計算された。結果は表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
例3:PVAハイドロゲルマイクロスフィアの中へのオラパリブのバルク封入工程
40mLの湿性DC Bead LUMI(登録商標)(40~75μM)は、Duran(登録商標)瓶へと移され、過剰な封入溶液は取り除かれた。そのマイクロスフィアはそれから150mLのDMSO中で、プレートシェーカー上において400rpmで5分間攪拌することによって、二回洗浄された。40mLの80mg/mL濃度のオラパリブDMSO溶解液が、それからそのマイクロスフィアスラリーに添加されたが、この添加では理論上の最大封入用量であるマイクロスフィア1mL中に80mgを目標とした。封入溶液/マイクロスフィアの混合物は、プレートシェーカー上において400rpmで1時間攪拌された。いったん攪拌が完了すると、過剰な封入溶液は取り除かれた。封入マイクロスフィアはそれから、300mLの0.9%生理食塩水の中で洗浄され、400rpmで5分間攪拌された後、生理食塩水は取り除かれた。このステップは2回目の生理食塩水洗浄でも繰り返した。封入マイクロスフィアは、バイアルの中に分注され(各バイアル1.5mL)、凍結乾燥された。凍結乾燥されたマイクロスフィアはそれから、25kGyの吸収線量でガンマ線滅菌された。
【0080】
マイクロスフィアの封入効率は、DMSO/生理食塩水抽出と、HPLCによる分析とを用いることによって評価された。結果は表3に示す。凍結乾燥後のバイアル中のマイクロスフィアの平均体積は、0.79mLであることが判明した。
【0081】
【表3】
【0082】
水中で再構成すると、通常の見た目の滑らかな球状のマイクロスフィアになった。コントロールである非封入(bland)マイクロスフィアと封入マイクロスフィアのサイズ分布は、顕微鏡を使って判断された。結果は図1に描写しており、それぞれのサイズヒストグラムを比較している。オラパリブ封入後、マイクロスフィアのサイズ分布は顕著には変化しなかった。
【0083】
例4:封入マイクロスフィアからのオラパリブの溶出
フロースルー法:例3の再構成されたオラパリブ封入マイクロスフィアは、フロースルーシステムに導入され、薬剤放出量はSwaine et al.、E.J.Pharm.Sci.(2016)93、351-359に従って、一定流量(流速1.7mL/分、37℃)の温生理食塩水中で決定された。カラム溶出液中のオラパリブ濃度は、紫外-可視分光計を通過することによって、フローセル中、波長279nm、in situで決定された。
【0084】
図2及び図3は、それぞれ、オラパリブ濃度及びオラパリブ用量に関する溶出プロファイルを示している。オラパリブの溶出は、5~6時間のうちに本質的には完了した。
Pseudo sink, jar method(USP2method):オラパリブ封入マイクロスフィア(75~150μM)は、400mLのPBSの中に入れられ、37℃で磁気攪拌された。1時間後、5mLの溶液が新しいPBSと交換され、そのサンプル中のオラパリブ濃度はHPLCによって測定された。以降の1時間ごとのサンプル量は200mLだった。取得したデータは図4に示している。
【0085】
例5:懸濁とカテーテル送達
例3で得られたオラパリブ封入マイクロスフィアの一つのバイアルは、1mLの水とその後の9mLのOmnipaque(登録商標)350によって再構成された。このマイクロスフィアは、24G(1.7Fr、0.7mm×19mm)のマイクロカテーテルを通って、マイクロカテーテルの中で上手く妨害されることなく、送達された。
【0086】
例6:PLGA/オラパリブマイクロスフィアの調製(60~150μm)
0.4gのPLGA(Evonik50/50 4A、Evonik Industries AG、Essen、Germany)及び40mgのオラパリブ(MedChemExpress、Monmouth Junction、NJ、USA)は、ガラスバイアルの中で1.89gのジクロロメタン(DCM)に溶解された。5mLのガラスバイアル中のDI水溶解2%固体(w/w)PVA溶液(Aldrich、146k~186kMW、Sigma-Aldrich、Saint Louis、MO、USA)はマグネティックスターラーを用いて200rpmで攪拌された。DCM溶解PLGA-オラパリブ溶液は、攪拌下のPVA溶液へ滴加された。それによってできたマイクロスフィア分散系は5分間攪拌されてよく、その時間経過後、150mLのDI水の攪拌溶液へ移された。このマイクロスフィアは、室温で4時間300rpm(強め)で攪拌されてよい。それによってできたマイクロスフィア分散系はそれから、150μmのメッシュフィルターを通して濾過され、そのフィルターはDI水で3回すすがれた。このマイクロスフィア分散系はそれから、60μmのメッシュフィルターを通して注がれた。フィルター上に収集されたマイクロスフィアはそれから、室温で真空オーブンの中で一晩乾燥された。
【0087】
例7:封入PGAマイクロスフィアのオラパリブ含有量の測定
1mgのマイクロスフィアは10mLのアセトニトリル(ACN)に溶解され、それでできた溶液は紫外-可視分光計を用いてスキャンされた。276nmの波長でオラパリブの吸着性が測定された。マイクロスフィア中のオラパリブ濃度は、一連のオラパリブ標準品との比較によって決定された。PLGAマイクロスフィア中のオラパリブ含有量は6.9%(w/w)であると判明した。
【0088】
例8:PLGAマイクロスフィアからのオラパリブ放出量の測定
4mgのマイクロスフィアは15mL遠沈管中で10mLのpH7.4のPBS/tween20(10mM リン酸緩衝液、140mM NaCl、2.7mM KCl、0.05% tween20、Calbiochem、San Diego、CA、USA)に添加された。その遠沈管は37℃で120rpmに設定されたインキュベーターシェカーの中に水平に静置された。この遠沈管は、様々なタイムポイントで取り出され、遠心分離にかけられた(4000rpm、10秒間)。PBS媒体がその遠沈管から取り除かれ、波長276nmで紫外-可視分光分析によるオラパリブの含有量分析に供された。10mLの新しいPBSがその遠沈管に添加され、その遠沈管は次のタイムポイントまでインキュベーターの中に戻された。図5で見られるように、オラパリブは14日の期間を超えてもPLGAマイクロスフィアからの持続的な放出が認められた。
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2024-07-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと、ポリADPリボースポリメラーゼ酵素の阻害剤(PARP阻害剤)とを含むポリマーマイクロスフィアであって、前記PARP阻害剤が前記ポリマーマイクロスフィア内に保持されており、水性媒体の中で前記ポリマーマイクロスフィアから溶出可能である、ポリマーマイクロスフィア。
【請求項2】
前記PARP阻害剤の少なくとも一部が、前記PARP阻害剤と前記ポリマーとのイオン性相互作用によって前記ポリマーマイクロスフィア内に保持されている、及び/又は前記PARP阻害剤の少なくとも一部が、前記ポリマーマイクロスフィア内に物理的に捕捉されている、請求項1に記載の前記ポリマーマイクロスフィア。
【請求項3】
前記PARP阻害剤が、37℃でリン酸緩衝生理食塩水(0.01Mリン酸緩衝生理食塩水(0.138M NaCl;0.0027M KCl)、pH7.4)の中で、前記ポリマーマイクロスフィアから溶出可能である、請求項1又は2に記載の前記ポリマーマイクロスフィア。
【請求項4】
前記ポリマーが以下の特徴((a)前記ポリマーがpH7.4で陰イオン性に帯電している(b)前記ポリマーが架橋されている(c)前記ポリマーがハイドロゲルの形状である(d)前記ポリマーが生分解性又は生体内分解性である)のうち一つ又は二つ以上の組み合わせを有する、請求項1又は2に記載の前記ポリマーマイクロスフィア。
【請求項5】
前記ポリマーがポリビニルアルコール(PVA)ホモポリマー又はPVAコポリマーを含む、請求項1又は2に記載の前記ポリマーマイクロスフィア。
【請求項6】
前記ポリマーがポリエステル、多糖又は生分解性のPVAポリマーである、請求項1又は2に記載の前記ポリマーマイクロスフィア。
【請求項7】
前記ポリマーがポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)から成る又は含む、又は生分解性の架橋されたPVAである、請求項1又は2に記載の前記ポリマーマイクロスフィア。
【請求項8】
前記PARP阻害剤がオラパリブ(AZD-2281)、ルカパリブ(RF-01367338)、ニラパリブ(MK-4827)、タラゾパリブ(BMN-673)、ベリパリブ(ABT-888)、CEP9722、E7016、BGB-290及び3-アミノベンザミドから選択される、請求項1又は2に記載の前記ポリマーマイクロスフィア。
【請求項9】
前記ポリマーマイクロスフィアは、架橋されたポリビニルアルコールポリマー又はポリビニルアルコールコポリマー、及び前記PARP阻害剤を含むハイドロゲルポリマーマイクロスフィアであり、前記架橋されたポリビニルアルコールポリマーはpH7.4で負の電荷を帯びる、請求項1又は2に記載の前記ポリマーマイクロスフィア。
【請求項10】
前記ポリマーマイクロスフィア内に保持され、前記ポリマーマイクロスフィアから溶出可能なチェックポイント阻害剤をさらに含む、請求項1又は2に記載の前記ポリマーマイクロスフィア。
【請求項11】
前記チェックポイント阻害剤が、PD-L1へのPD-1の結合阻害剤、CD80及び/又はCD86へのCTLA-4の結合阻害剤、CD-112へのTIGITの結合阻害剤、及びMHCクラスIIへのLAG-3の結合阻害剤から選択される、請求項10に記載の前記ポリマーマイクロスフィア。
【請求項12】
前記チェックポイント阻害剤がPD-1、PD-L1、LAG-3、TIM-3、TIGIT又はCTLA-4に結合する、抗体又はそれらの抗原結合性フラグメントから選択される、請求項10に記載の前記ポリマーマイクロスフィア。
【請求項13】
前記チェックポイント阻害剤がペムブロリズマブ、ニボルマブ、イピリムマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、トレメリムマブ、レラトリマブ、デュルバルマブ、エチギリマブ、ドムバナリマブ、チラゴルマブ、ビボストリマブ、LY3321367、MBG453、及びTSR-022から選択される、請求項10に記載の前記ポリマーマイクロスフィア。
【請求項14】
固形腫瘍の治療に用いるためのPARP阻害剤であって、前記PARP阻害剤は前記PARP阻害剤とポリマーとを含む複数のポリマーマイクロスフィア内に備えられており、前記PARP阻害剤は前記ポリマーマイクロスフィア内に保持されており、そして水性媒体の中で前記ポリマーマイクロスフィアから溶出可能である、PARP阻害剤。
【請求項15】
固形腫瘍の治療のための治療薬の製造におけるPARP阻害剤の使用であって、前記PARP阻害剤は前記PARP阻害剤とポリマーとを含む複数のポリマーマイクロスフィア内に備えられており、前記PARP阻害剤は前記ポリマーマイクロスフィア内に保持されており、そして水性媒体の中で前記ポリマーマイクロスフィアから溶出可能である、PARP阻害剤の使用。
【国際調査報告】