(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-22
(54)【発明の名称】B型肝炎ウイルスcccDNA及びrcDNAを排除するための方法、並びにその方法で使用されるB型肝炎薬物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20250115BHJP
C07K 16/08 20060101ALI20250115BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20250115BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20250115BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20250115BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20250115BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250115BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20250115BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20250115BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20250115BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20250115BHJP
C07K 14/555 20060101ALN20250115BHJP
【FI】
A61K39/395 S
C07K16/08 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/13
C12N15/864 100Z
A61K39/395 D
A61K35/76
A61K48/00
A61K45/00
A61P31/20
A61P1/16
C12N15/113 100Z
C07K14/555
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538065
(86)(22)【出願日】2022-12-21
(85)【翻訳文提出日】2024-08-20
(86)【国際出願番号】 US2022081966
(87)【国際公開番号】W WO2023122555
(87)【国際公開日】2023-06-29
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524234651
【氏名又は名称】エイチビーヴイテック・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヨン-ユアン・ジャン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA19
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4C084NA05
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4C084ZA752
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4C087ZB33
4C087ZC75
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
HBV感染患者の肝臓細胞におけるcccDNAを3ヶ月以上低減又は排除することによって、ヒト慢性B型肝炎ウイルス感染を治療する方法が本明細書に開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト慢性B型肝炎ウイルス(HBV)感染患者の肝臓細胞におけるcccDNA(共有結合閉環状DNA)及び/又はrcDNA(弛緩型環状DNA)を3ヶ月以上低減又は排除することによって、HBV感染を治療する、方法。
【請求項2】
前記HBV感染患者の前記肝臓細胞におけるHBV cccDNAレベルが、<1コピー/細胞、<1コピー/10細胞、<1コピー/100細胞、<1コピー/1,000細胞、<1コピー/10,000細胞、又は検出不能に低減される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記感染患者の前記肝臓におけるrcDNAのレベルが、<1コピー/細胞、<1コピー/10細胞、<1コピー/100細胞、<1コピー/1,000細胞、<1コピー/10,000細胞検出不能に低減される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記HBV感染患者の前記肝臓細胞における前記HBV cccDNA及びrcDNAレベルが、血液中の高レベルの抗HBs抗体を維持するために内因的に抗HBs抗体を発現する外因性抗HBs抗体及び/又はウイルス若しくは非ウイルスベクター若しくはナノ粒子を投与することによって、持続的に低減される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記HBV感染患者の前記肝臓細胞におけるcccDNAの低減又は排除が、前記患者の血液中の高レベルのHBV中和抗体を維持することによって前記患者の血液中のHBV DNA、HBeAg、及びHBsAgのレベルを低減させるか、又は検出不能にすることによって明らかにされる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
患者の血液中の高レベルのHBV中和抗体を前記維持することが、血清HBsAg陽性及び抗HBs陰性(HBsAg+/抗HBs-)を血清HBsAg陰性及び抗HBs陽性(HBsAg-/抗HBs+)に持続的に変化させるのに十分な量の抗HBs抗体を内因的に発現するか、又は外因的に注入することによって達成される、完全で持続した抗HBsセロコンバージョンによって表される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
十分な抗HBs抗体で完全で持続した抗HBsセロコンバージョンを実現することが、血清HBsAg損失又は血清クリアランスを誘導する最も効果的な方法のうちの1つである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
完全で持続した抗HBsセロコンバージョンが、HBV治癒的治療の主な目標であり、より効果的なHBV機能的治癒をもたらすために必要とされる、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
より効果的なHBV機能的治癒をもたらすことが、持続した高レベルの抗HBs抗体を発現又は投与することによって、最初に血清HBsAgを除去することか、又は血清HBsAgを検出不能にすることを必要とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
完全で持続した抗HBsセロコンバージョンが、ヌクレオチド類似体、インターフェロン、及び/又はNAP若しくはRNAiなどのHBV薬物によって、血清HBsAgを一過性に除去したか、又は機能的治癒を達成したHBV薬物治療患者の間で、持続的なHBsAg血清クリアランス又は機能的治癒を確立するために必要とされる、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記患者の血液中の高レベルのHBV中和抗体が、1、2、3、4、5、6、7、又は8ヶ月以上維持される、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
HBV中和抗体が、ウイルス粒子が肝細胞に付着するのを防止することができ、したがって、HBVビリオンが肝細胞に入るのを効果的に遮断することができる前記抗体である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記高レベルのHBV中和抗体が、前記患者の血液中の>1、>10、>100、>200、又は>300μg/ml、又は>10、>100、>1,000、>10,000、>20,000、又は>30,000mIU/mlのレベルにある、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記HBV中和抗体が、約0.1mg/kg、0.5mg//kg、1mg/kg、3mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、20mg/kg、又は≧30mg/kg体重の用量で1、2、又は3つの外因性ヒトHBV中和抗体を注入することによって前記患者に投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記患者の血液中の>1、>10、>100、>200、若しくは>300μg/ml、又は>10、>100、>1,000、>10,000、>20,000、若しくは>30,000mIU/mlの抗体のレベルを3ヶ月以上維持するために、単回、複数回、又は繰り返しの注入を含む外因性ヒト中和抗体の注入、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
HBV中和抗体が、1、2、又は3つの内因性発現ヒト中和抗体である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
内因性ヒトHBV中和抗体が、脂質ナノ粒子(LNP)又はGalNAc粒子のようなナノ粒子を含むウイルス又は非ウイルスベクターによって発現される、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
ウイルス又は非ウイルスベクターが、前記HBV中和抗体又は抗体断片をコードするDNA又はmRNA配列を含有する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含むウイルスベクター、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記AAVベクターが、前記HBV中和抗体又はその抗体断片をコードする核酸配列を含み、したがって、AAV-抗HBVベクターになる、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記AAV-抗HBVベクターが、それぞれ、約1×10
9ゲノムコピー/kg、1×10
10ゲノムコピー/kg、1×10
11ゲノムコピー/kg、1×10
12ゲノムコピー/kg、2×10
12ゲノムコピー/kg、2.5×10
12ゲノムコピー/kg又はそれ以上の用量でHBV患者の筋肉細胞に注射される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
ウイルス又は非ウイルスベクターが、必要に応じて一度又は複数回前記患者に注射される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
HBV中和抗体の細胞内HBV複製阻害剤との組み合わせを介してrcDNAを枯渇させることが、著しい、ほぼ完全な、又は完全なcccDNA損失をもたらす、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
細胞内HBV阻害剤が、RT阻害剤、カプシド阻害剤、RNAi薬物、核酸ポリマー(NAP)、インターフェロン、先天性免疫アゴニスト、及び侵入阻害剤を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
HBV中和抗体を発現する前記AAV抗HBVベクターが、HBV治療未経験である慢性HBV感染者において、cccDNAを低減及び排除するためにcccDNA補充を遮断するため、HBsAg血清クリアランスを誘導するため、完全な抗HBsセロコンバージョンを実現するため、かつより効果的なHBV治癒のために使用される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
HBV中和抗体を発現する前記AAV抗HBVベクターが、HBV治療を受けているが、抗ウイルス薬物を安全に離脱することができない慢性HBV感染者において、cccDNAを低減及び排除するためにcccDNA補充を遮断するため、HBsAg血清クリアランスを誘導するため、完全な抗HBsセロコンバージョンを実現するため、かつより効果的なHBV治癒のために使用される、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
HBV中和抗体を発現する前記AAV抗HBVベクターが、それらの感染状態/段階、又はそれらの治療状態(未経験又は治療された)にかかわらず、HBV感染フリーになることを望む慢性HBV感染者において、cccDNAを低減及び排除するためにcccDNA補充を遮断するため、HBsAg血清クリアランスを誘導するため、完全な抗HBsセロコンバージョンを実現するため、かつより効果的なHBV治癒のために使用される、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
HBV中和抗体を発現する前記AAV抗HBVベクターが、HBV感染妊婦又は肝臓移植を有する患者において、cccDNAを低減及び排除するためにcccDNA補充を遮断するため、HBsAg血清クリアランスを誘導するため、完全な抗HBsセロコンバージョンを実現するため、かつより効果的なHBV治癒のために使用される、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
HBV中和抗体を発現する前記AAV抗HBVベクターが、HBV感染が臨床的に解消されているが、HBV再発又は再活性化のリスクが高い人々において、cccDNAを低減及び排除するためにcccDNA補充を遮断するため、HBsAg血清クリアランスを誘導するため、完全な抗HBsセロコンバージョンを実現するため、かつより効果的なHBV治癒のために使用される、請求項24に記載の方法。
【請求項30】
HBVビリオン及び/又はHBsAgサブウイルス粒子に特異的に結合する単離結合分子又はその抗原結合断片であって、抗体VHであって、前記VHが、配列番号2のアミノ酸配列を含む、抗体VH、及び抗体VLであって、前記VLが、配列番号4のアミノ酸配列を含む、抗体VL、又は少なくとも95%の配列相同性を有するそれらのバリアントを含む、単離結合分子又はその抗原結合断片。
【請求項31】
請求項29に記載の単離結合分子又は抗原結合断片をコードする、核酸分子。
【請求項32】
請求項30に記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項33】
HBVビリオン及び/又はHBsAgサブウイルス粒子に特異的に結合する単離結合分子又はその抗原結合断片であって、抗体VHであって、前記VHが、配列番号6のアミノ酸配列を含む、抗体VH、及び抗体VLであって、前記VLが、配列番号8のアミノ酸配列を含む、抗体VL、又は少なくとも95%の配列相同性を有するそれらのバリアントを含む、単離結合分子又はその抗原結合断片。
【請求項34】
請求項32に記載の単離結合分子又は抗原結合断片をコードする、核酸分子。
【請求項35】
請求項33に記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項36】
HBVビリオン及び/又はHBsAgサブウイルス粒子に特異的に結合する単離結合分子又はその抗原結合断片であって、抗体VHであって、前記VHが、配列番号10のアミノ酸配列を含む、抗体VH、及び抗体VLであって、前記VLが、配列番号12のアミノ酸配列を含む、抗体VL、又は少なくとも95%の配列相同性を有するそれらのバリアントを含む、単離結合分子又はその抗原結合断片。
【請求項37】
請求項35に記載の単離結合分子又は抗原結合断片をコードする、核酸分子。
【請求項38】
請求項36に記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項39】
HBVビリオン及び/又はHBsAgサブウイルス粒子に特異的に結合する単離結合分子又はその抗原結合断片であって、抗体VHであって、前記VHが、配列番号14のアミノ酸配列を含む、抗体VH、及び抗体VLであって、前記VLが、配列番号16のアミノ酸配列を含む、抗体VL、又は少なくとも95%の配列相同性を有するそれらのバリアントを含む、単離結合分子又はその抗原結合断片。
【請求項40】
請求項38に記載の単離結合分子又は抗原結合断片をコードする、核酸分子。
【請求項41】
請求項39に記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項42】
HBVビリオン及び/又はHBsAgサブウイルス粒子に特異的に結合する単離結合分子又はその抗原結合断片であって、抗体VHであって、前記VHが、配列番号18のアミノ酸配列を含む、抗体VH、及び抗体VLであって、前記VLが、配列番号20のアミノ酸配列を含む、抗体VL、又は少なくとも95%の配列相同性を有するそれらのバリアントを含む、単離結合分子又はその抗原結合断片。
【請求項43】
請求項41に記載の単離結合分子又は抗原結合断片をコードする、核酸分子。
【請求項44】
請求項42に記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項45】
HBVビリオン及び/又はHBsAgサブウイルス粒子に特異的に結合する単離結合分子又はその抗原結合断片であって、抗体VHであって、前記VHが、配列番号22のアミノ酸配列を含む、抗体VH、及び抗体VLであって、前記VLが、配列番号24のアミノ酸配列を含む、抗体VL、又は少なくとも95%の配列相同性を有するそれらのバリアントを含む、単離結合分子又はその抗原結合断片。
【請求項46】
請求項44に記載の単離結合分子又は抗原結合断片をコードする、核酸分子。
【請求項47】
請求項45に記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項48】
HBVビリオン及び/又はHBsAgサブウイルス粒子に特異的に結合する単離結合分子又はその抗原結合断片であって、抗体VHであって、前記VHが、配列番号26のアミノ酸配列を含む、抗体VH、及び抗体VLであって、前記VLが、配列番号28のアミノ酸配列を含む、抗体VL、又は少なくとも95%の配列相同性を有するそれらのバリアントを含む、単離結合分子又はその抗原結合断片。
【請求項49】
請求項47に記載の単離結合分子又は抗原結合断片をコードする、核酸分子。
【請求項50】
請求項48に記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項51】
HBVビリオン及び/又はHBsAgサブウイルス粒子に特異的に結合する単離結合分子又はその抗原結合断片であって、抗体VHであって、前記VHが、配列番号30のアミノ酸配列を含む、抗体VH、及び抗体VLであって、前記VLが、配列番号32のアミノ酸配列を含む、抗体VL、又は少なくとも95%の配列相同性を有するそれらのバリアントを含む、単離結合分子又はその抗原結合断片。
【請求項52】
請求項50に記載の単離結合分子又は抗原結合断片をコードする、核酸分子。
【請求項53】
HBVビリオン及び/又はHBsAgサブウイルス粒子に特異的に結合する単離結合分子又はその抗原結合断片であって、抗体VHであって、前記VHが、配列番号34のアミノ酸配列を含む、抗体VH、及び抗体VLであって、前記VLが、配列番号36のアミノ酸配列を含む、抗体VL、又は少なくとも95%の配列相同性を有するそれらのバリアントを含む、単離結合分子又はその抗原結合断片。
【請求項54】
請求項52に記載の単離結合分子又は抗原結合断片をコードする、核酸分子。
【請求項55】
請求項53に記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項56】
請求項29、32、35、38、41、44、47、50、及び52のいずれか一項に記載の単離結合分子又は抗原結合断片を含む、組成物。
【請求項57】
請求項55に記載の抗体と、薬学的に許容される担体と、を含む、薬学的組成物。
【請求項58】
ヒト患者において、慢性HBV感染を治療し、新たなHBV感染ラウンドに対する保護を提供する方法であって、前記HBV感染ヒト患者に、十分な量のHBV中和抗体又は抗体断片を投与することを含み、前記量のHBV中和抗体が、rcDNA及びcccDNAの両方を補充することを遮断するレベルにあり、rcDNAを<1コピー/細胞に低減及び枯渇させることを可能にし、cccDNAを<1コピー/細胞に低減及び排除することを促進し、HBsAg血清クリアランスを誘導し、完全な抗HBsセロコンバージョンを実現し、より効果的なHBV治癒をもたらす、方法。
【請求項59】
慢性HBV感染の前記治療が、HBVに感染した新生児/小児を治療することを含む、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
慢性HBV感染の前記治療が、HBVに感染した成人を治療することを含む、請求項57に記載の方法。
【請求項61】
HBV感染ヒト患者が、6ヶ月を超える間HBsAg陽性であり、正常又は上昇したアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベルを有する慢性HBV感染個体である、請求項57に記載の方法。
【請求項62】
HBV感染ヒト患者が、HBV陽性の妊婦、又はHBsAg陽性若しくはHBsAg陰性/抗B型肝炎コア抗体(抗HBc)陽性であり、移植後にHBV感染が再発しやすい臓器移植レシピエントである、請求項57に記載の方法。
【請求項63】
前記HBV中和抗体又は抗体断片が、HBV治療用ベクターによって産生される、請求項57に記載の方法。
【請求項64】
前記HBV治療用ベクターが、ベクターの混合集団であって、その各々が、HBVエンベロープタンパク質の1つ以上のエピトープに結合する1つの特異的抗HBs抗体若しくは抗体断片をコードする、ベクターの集合集団、又はHBVエンベロープタンパク質の1つ以上のエピトープに結合する1つのHBV中和抗体若しくは抗体断片をコードする単一のベクターを含む、請求項62に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
【背景技術】
【0002】
B型肝炎ウイルス(HBV)は、世界中で慢性的に3億200万人に感染しており、毎年約100万人がHBV関連疾患で死亡している。現在のHBV薬物は、HBV治癒は言うまでもなく、何年もの投薬後に持続的な有効性をもたらすことはめったにない。
HBV共有結合閉環状DNA(cccDNA)は、感染時に感染細胞の核内に形成され、転写鋳型として機能する(Nassal M,Gut 64,1972-1984(2015)、Tuttleman et al.,Cell 47,451-460(1986))。cccDNAの存在は、持続的なHBV感染の根本原因とみなされる。現在のHBV治癒戦略は、cccDNAを直接的に排除又は永久的にサイレンシングすることを目的とする(Alter et al.,Hepatology 67,1127-1131(2018))。cccDNAを直接排除又は永久的にサイレンシングすることができる薬物は、依然として見落としがちである。
【0003】
臨床的証拠は、慢性HBV感染において、頻繁な血清ウイルス集団転換、例えば、プレC、コア、プレS、S、又は薬物耐性変異体が頻繁に野生型(WT)ウイルスに置き換わることを示し(Brunetto et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 88,4186-4190(1991)、Carman et al.,Lancet 2,588-591(1989).、Lok et al., Proc Natl Acad Sci U S A 91,4077-4081 (1994).、Okamoto et al.,J Virol 68,8102-8110 (1994).、Zoulim and Locarnini,Proc Natl Acad Sci USA 91,4077-4081 (1994))、肝臓における頻繁なcccDNA損失及び置換(転換)を示唆し、更に以下:1.初期ウイルス集団は頻繁に除去されること、及び2.感染した肝臓における初期ウイルス集団を除去すると、新たな感染ラウンドがあることを示唆する。
【0004】
慢性HBV感染を治療するための効果的な方法が必要である。本発明の先行発明(米国特許第11136378B2号)において、慢性HBV感染は、HBV感染ヒト患者に、HBV中和抗体又はそのようなHBV中和抗体を発現するHBV治療用ベクターを、HBV感染ヒト患者における血清HBV粒子のレベルよりも高いレベルで投与することによって治療することができ、その結果、HBV中和抗体のレベルは、血清中の検出不能なHBV粒子のレベル、又はHBsAg陽性から抗HBs抗体陽性への完全なHBsAgセロコンバージョンをもたらすことが開示された。更なる研究が行われ、新しい発見が本出願に記載されている。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、慢性B型肝炎感染を効果的に治癒する方法、及び治癒的治療を簡素化し、かつ治療過程を短縮する方法を開示する。本発明が構築される発見のいくつかは、以下の要素:
1.HBV分野における現在のコンセンサスとは対照的に、HBV感染を除去することは、HBV cccDNAを直接標的化又は永久的にサイレンシングする必要はないこと、
2.更に、HBV分野におけるコンセンサスとは対照的に、HBV感染を除去することは、特定のHBV細胞免疫も必要としないこと、
3.HBV rcDNAプールを補充することを遮断することにより、HBV感染患者の感染した肝臓からcccDNAを低減及び排除すること、
4.持続した高レベルの抗HBs抗体で新たな感染ラウンドを遮断することによって、rcDNA補充を遮断すること、
5.宿主の適応免疫とは無関係である筋肉細胞への注射後に持続した高レベルの抗HBs抗体を内因性に発現するAAVベクターベースのHBV薬物を提供すること、
6.ほとんどの慢性HBV感染患者は、AAVベクターベースのHBV薬物の単回注射によって治療することができること、
7.HBsAg陽性及び抗HBs抗体陰性(HBsAg+/抗HBs-)からHBsAg陰性及び抗HBs陽性(HBsAg-/抗HBs+)への変化である、完全に持続した抗HBs抗体セロコンバージョンは、より効果的なHBV治癒を達成するために必要であること、
8.血清HBsAgを検出不可能なレベル(HBsAg血清クリアランス)に低減させる最も効果的な方法は、完全で持続した抗HBsセロコンバージョンを達成することであること、
9.現在の生涯にわたる毎日の投薬ベースのHBV治療は、それが、持続した高レベルの抗HBs抗体を発現するAAV-抗HBsベクターに添加されるか、又はそれと組み合わせられるとき、有限の期間に短縮され得ること、並びに
10.HBsAg血清クリアランス又はHBV機能的治癒を媒介する現在の療法、又は/及びそれを誘導する自然除去は、しばしば逆効果である、すなわち、非持続的であることを含む。しかしながら、これは、AAV-抗HBsベクターを添加するか、又は外因性抗HBs抗体を与えることによって持続的にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
本明細書に援用され、本明細書の一部をなす添付の図面は、本発明の実施形態を例証し、説明とともに本発明の特徴、利点、及び原理を説明する役割を果たす。図面において、
【
図1】マラリア群(A、n=5)及び抗HBs群(B、n=15)における動態血清抗体レベルを示す。マラリア抗体又は抗HBs抗体のいずれかを発現するAAVベクターを、感染後(pi)49日目に10
11ゲノムコピーの用量で筋肉内注射し、ELISAによって決定された動態血清抗体レベルをpi49日目から183日目まで示す。抗HBs群の2匹の試験動物No.970及び909に、対照としてマウス抗HBsを腹腔内に注射したことに留意されたい(1回の注射につき250mg、9回)。49日目には抗体が検出されず、対数尺度で曲線をプロットするために0.1mg/mlが割り当てられた。
【
図2】ウイルス血症及び血清HBsAgレベルが、抗HBs治療群で著しく低下したことを示す。
図2Aは、マラリア抗体と3つの抗HBs群との間の異なるウイルス血症動態を示す。抗HBs-合計は、抗HBs抗体で治療した全15匹のマウスを含む。15匹のマウスを更に、以下の2つのサブグループに分けた。抗HBs-A群は9匹のマウスで構成され、それらの感染は183日目前にピークに達し、抗HBs-B群は6匹の動物で構成され、それらの感染は著しく遅延し、ピークに達していない。抗HBs-B群におけるウイルス血症レベルは、マラリア群と比較して、いくつかの時点で>100倍低下した。
図2Bは、183日目の平均ウイルス血症(黒色のバー)が、抗HBs-合計群と抗HBs-B群の両方で著しく低下したことを示す。平均血清HBsAgレベル(灰色の曲線)は、183日目にマラリア群と比較して、3つの抗HBs群全てで著しく低下した。
【
図3】動物970におけるHBV機能的治癒を示す。
図3Aは、抗HBs治療を開始した後、ウイルス血症及び血清HBsAgの両方が検出できなくなったことを示している。血清HBV DNAの検出の下限は、血清HBsAg及び抗HBs抗体についてそれぞれ100コピー/ml及び1ng/mlである。動物973からの970の治療前レベルと同等のウイルス血症もまた、
図3Bの肝内HBV DNAの治療前レベルの参照としてプロットされる。
図3Bは、970における2ラウンドの20回の肝臓サンプリングからの平均肝内rcDNAレベル(コピー/細胞)が、500~1,800倍(p=1.33E-9及び1.29E-9)まで著しく低下し、平均cccDNAレベルが、rcDNA及びcccDNAレベルが治療前レベル対照として機能する動物973よりも100~675倍低下した(p=5.27E-7及び4.69E-7)ことを示す。
図3Cは、第1ラウンドの20回の肝臓サンプリングのうちの7回及び第2ラウンドの20回のサンプリングのうちの20回でrcDNA≦1コピー/細胞が検出されたことを示す(
図3C2)。第1ラウンドの20回のサンプリングのうち3回、第2ラウンドの20回のサンプリングのうち7回でcccDNAは検出されなかった。ほとんどのcccDNAサンプリングで非常に低いcccDNAレベルが検出され、40回のサンプリングのいずれにおいてもcccDNA増幅が検出されなかった(
図3C1及びC2)。
【
図4】キメラマウスのHBV感染ヒト肝臓における感染細胞の一部における多様なcccDNAレベル及びcccDNA損失を示す。異なるサンプリング間でのcccDNAレベルの最大60倍の差が、907肝臓の対応する肝臓サンプリング間で同等のrcDNAレベルにもかかわらず検出された(
図4A)。動物909肝臓の対応する肝臓サンプリング間で同等のrcDNAレベルにもかかわらず、異なる試料間で30倍超のcccDNAレベルの差が検出された(
図4B)。≦1コピー/細胞のcccDNAレベルは、動物907の20回のサンプリングのうちの5回(
図4A)及び動物909の20回のサンプリングのうちの17回(
図4B)で検出され、全566回のcccDNAサンプリングのうちの260回(46%)で検出された(
図4C)。平均cccDNAレベルが≦1コピー/細胞の肝臓サンプリングの数は、マラリア抗体群よりも抗HBs群の方が著しく多かった(X
2=25.2及びp<0.001)(
図4D)。
【
図5】マラリア抗体で治療された動物907と比較して、抗HBs抗体で治療された9つの肝臓試料全てにおいて、平均肝内rcDNAレベルが4,000~10,000コピー/細胞低下したことを示す。平均rcDNAレベルを、各肝臓試料の20回のサンプリングから計算した。rcDNAレベルを低下させる効率は、主にウイルス血症レベルに依存する(
図5A)。P値は、E-9~E-16の範囲であった(
図5B)。
【
図6】抗HBs療法による肝内rcDNAレベルの低下に関与する3つの成分を例解する。
図6Aは、感染細胞からrcDNAを排出するが、既存のcccDNAがrcDNAを補充するビリオン分泌を示す。
図6Bは、cccDNA自然損失を例解する。ビリオン分泌のcccDNA損失との組み合わせは、感染細胞からHBVを除去することができるが、抗HBsの非存在下では持続的ではない。
図6Cは、抗HBsによる新たな感染ラウンドの遮断が、持続的なHBV除去を確立することを例解する。
【
図7】主な動物実験手順、タイミング、及び期間を示す。Nは、3つの時点における動物の数である。
【
図8】動物907と973との間のHBV感染レベルの差を示す。動物907をマラリア抗体を発現するAAVベクターで治療し、動物973を抗HBs抗体を発現するAAVベクターで治療した。
図8Aは、ウイルス血症の差が遅い時点で>100倍であることを示す。
図8Bは、2匹の動物間で検出されたrcDNA及びcccDNAレベルの有意差を示す。
【
図9】9週間のエンテカビルで治療し、続いてAAV-抗HBsベクターを添加した、HBV感染uPA/SCIDキメラマウスの主な実験手順及びタイムラインを示す。
【
図10】9週間のETV治療にAAV-抗HBsベクターを添加することで、HBV再発を予防し、上昇した抗HBs抗体がHBsAg損失/完全な抗HBsセロコンバージョン及びHBV機能的治癒にレベルアップしたことを示す。
図10Aは、未治療(青色)及びETV単剤療法(オレンジ色)群における動態ウイルス血症曲線を示す。
図10Bは、未治療及びETVのみの群における動態血清HBsAg曲線を示す。
図10C及び
図10Dは、アドオンを用いてETV治療した10匹の動物における動態ウイルス血症及び血清HBsAg曲線を示す。
図10Eは、HBV再発がなく、かつHBsAgが検出不能な動物の数を示している。
図10Fは、HBV機能的治癒を有する動物の数を示す。
【
図11】異なる時点で抗HBs抗体レベルを上昇させることによって達成された完全で持続した抗HBsセロコンバージョン時又はその後にHBV機能的治癒が生じたことを示す。
図11A~Eは、抗HBsセロコンバージョン時又はその後に確立されたHBV機能的治癒マーカーを示す。
図11Fは、血清HBV DNAが、HBsAg-/HBV DNA+/抗HBs+又は治癒前段階で特徴付けられた実験終了時に検出可能なままであったことを示す。
【
図12】HBV再発が新たな感染ラウンドによって引き起こされることを示す。
図12Aは、cccDNAが感染細胞に持続する場合、HBV再発を抗HBs治療によって防止することができないことを示す。
図12B。HBV再発は、cccDNA自然損失及びETV離脱後の新たな感染ラウンドが存在するため、抗HBs治療で予防された。
図12Cは、主にHBsAgレベルの低減によって駆動されるほとんどの自然に治癒した症例において、完全な抗HBsセロコンバージョンに到達するまでに数年/数十年かかることを示す。
図12Dは、十分な抗HBs抗体療法が、完全な抗HBsAgセロコンバージョンを迅速に実現することができ、HBV機能的治癒に必要な期間を短縮することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書で特定される実施形態は、例示的なものであり、限定的なものではないことが意図される。表1及び2は、本発明のいくつかの主な発明の特徴を概説し、それらは以下の説明で更に詳述される。
【表1】
本発明は、表2に概説されるように、血清抗HBs抗体レベルを介在的に上昇させることによってHBV感染状態を変化させる方法を更に説明する。
【表2】
【0008】
一実施形態では、消耗した特異的細胞免疫が慢性HBV感染の原因であるというHBV分野での確立されたコンセンサスとは対照的に、本発明は、B型肝炎を治癒するためには、HBsAgに対する高レベルの特異的体液性免疫が必要であることを強調する。
【0009】
一実施形態では、本発明は、cccDNA排除のための特異的HBV細胞免疫を通じて、HBV cccDNA合成を直接阻害するか、又はHBV感染細胞を死滅させることを目的とする現在の究極の治療標的とは区別する。本発明は、cccDNA合成を直接阻害するか、又は感染細胞を死滅させることなく、HBV cccDNAを低減及び排除するための方法を考案する。
【0010】
展開する一実施形態では、本発明は、cccDNA排除法を考案する際の2つの原理:1.HBV感染細胞からのcccDNA自然損失を含むHBV自然除去を利用すること、及び2.cccDNA補充を遮断することを含む
【0011】
一実施形態では、本発明は、cccDNA補充を遮断することは、HBV rcDNAを枯渇させることによって媒介されるべきであることを強調する。
【0012】
一実施形態では、本発明は、HBV rcDNAを枯渇させることは、rcDNA補充を遮断することを含むことを強調する。
【0013】
一実施形態では、本発明は、rcDNA補充を遮断することは、主に、新たな感染ラウンドを遮断することを必要とすることを強調する。
【0014】
承認されているか、又は開発中のHBV薬物に対する現在のHBV治療方法は、細胞内HBV複製の阻害に焦点を当てており、本発明に開示されているHBV中和抗体レベルを直接増加させることを目的としていない。
【0015】
いくつかのバイオ医薬品企業は、外因性のHBV中和抗体を開発している。しかしながら、彼らは、ヒトIgGのFc部分に変異を導入することなく、通常の抗HBs抗体がuPA/SCIDキメラマウスにおいて同等の治療有効性をもたらすことができるにもかかわらず、観察された有効性を、直接中和の機能ではなく、Fc受容体媒介細胞機能に帰する(Lampp,Hepatology 74,513A(2021)、Zhang et al.,Gut 65,658-671(2016).)。更に、これらの外因性抗体は、治療レベルを維持するために繰り返しの注入が必要であるため、持続的な治療効果をもたらすことができない。
【0016】
一実施形態では、本発明は、ウイルス粒子がヒト肝臓内の肝細胞に付着するのを防止する完全及びサブウイルス粒子の付着部位に直接結合するHBV中和抗体による直接中和の機能を強調する。ウイルス粒子による肝細胞への付着がなくなると、新たな感染ラウンドを開始するためのウイルス侵入がなくなる。したがって、ウイルス粒子の付着部位に対するHBV抗体は、HBV感染性の最も効果的な中和を提供する。そのような抗体結合特異性は、rcDNA及びcccDNA補充を遮断するために重要である。
【0017】
一実施形態では、本発明は、HBV中和抗体を発現する内因性能力の増加が、持続的なcccDNA損失及び排除並びにHBV治癒をもたらすことにおいて最も効果的であることを強調する。
【0018】
いくつかの既存のHBV治療用ワクチンは、臨床試験において失望的な結果を示す。治療用ワクチンの機能は、抗原処理及び提示からの宿主の免疫細胞に依存して、T細胞及びB細胞の活性化のためのシグナル伝達を行い、抗ウイルス機能を発揮する。更に、特異的T細胞又はB細胞の数は限られており、HBV感染患者において持続的に高レベルのサブウイルス粒子(HBsAg)を遮断するための高レベルのHBV中和抗体を産生するのに十分な能力を有さない場合がある。
【0019】
しかしながら、本発明では、HBV中和抗体の内因性発現は、宿主の適応免疫系とは無関係であるべきであり、非伝統的な抗体発現細胞は、HBV中和抗体を発現する内因性能力を拡大するために必要であることが見出される。
【0020】
一実施形態では、本出願は、単回注射後に筋肉細胞を抗HBs抗体産生細胞に変換するHBV薬物としてのAAV-抗HBsベクターを発明する。この薬物は、持続した高レベルの抗HBs抗体の内因性発現をもたらすため、治療有効性は持続的である。
【0021】
治療離脱はしばしばHBV感染の再発、及び致命的な結果をもたらす可能性のある肝障害の再発につながるため、現在の主流のHBV治療には生涯にわたる毎日の投薬が必要な著しい非効率性がある。連続した実施形態では、本発明は、現在の無限のB型肝炎治療期間を、主に単回注射を必要とする限定された治療過程に短縮する。
【0022】
一実施形態では、本発明は、現在のHBV治療が、HBV感染の再発及び肝障害の再発なしに安全に離脱することを可能にする。
【0023】
残念ながら、既存の抗ウイルス治療方法では、HBV感染から除去された細胞はウイルス粒子の付着から保護されておらず、したがって頻繁に新たな感染ラウンドにさらされるため、達成されたウイルス粒子の除去は逆効果である場合が多い。
【0024】
一実施形態では、本発明は、持続した高レベルのHBV中和抗体で、再発するHBV感染から、HBV感染を除去した細胞を保護する。これにより、達成された除去は、持続的となり、完全なHBV治癒が確立されるまで徐々に拡大する。
【0025】
一実施形態では、本発明は、HBV治療を、現在の細胞内HBV複製の阻害から、新たな感染ラウンドの遮断に移行させる。新たなHBV感染ラウンドを遮断するためには、持続した高レベルの抗HBs抗体が必要である。抗HBsレベルを上昇させるために探求することができるアプローチはいくつかある。1つ目は治療用ワクチンである。しかしながら、治療用ワクチンの性能は、臨床試験において失望的である(Fontaine et al.,Gut 64,139-147(2015).、Godon et al.,Molecular therapy:the journal of the American Society of Gene Therapy 22,675-684(2014)、Michel et al.,Journal of hepatology 54,1286-1296(2011)、Zoulim et al.,Human vaccines&immunotherapeutics,(2019)).2つ目は、外因性抗HBs抗体を繰り返し注入することであり、これは持続的ではない(Galun et al.,Hepatology 35,673-679(2002)、Sneha V.Gupta et al EASL 2021 International Liver Congress.(2021),pp.PO_43_ILC2021)、又はMyrcludex Bなどの侵入阻害剤の毎日の注射(Bogomolov et al.,Journal of hepatology 65,490-498(2016))であるが、これは、ウイルス粒子と反応せず、HBV粒子が肝細胞に付着するのを防止することができず、HBV感染したuPA/SCIDキメラマウス及び慢性感染したヒトの両方における確立されたHBV感染における新たな感染ラウンドを遮断する有効性が低い。本発明の発明者は、工学的な体液性免疫学的アプローチを利用して、慢性HBV感染患者における抗HBs欠乏症を持続的に治療することができる新しいHBV治癒薬物を開発することを選択する。具体的には、最適化されたAAVベクターを使用して、ヒト抗HBs遺伝子を担持し、得られた薬物は、AAV-抗HBsベクターと呼ばれ、主要な候補のうちの1つは、本出願に記載されているようなHBVZ10である。HBVZ10は、骨格筋細胞への単回注射後に、持続的に高レベルの抗HBs抗体を内因性に発現することができる。この工学的な体液性免疫学的アプローチは、慢性HBV感染におけるHBV特異的T(Gehring and Protzer,Gastroenterology 156,325-337 (2019))及びB細胞(Burton et al.,The Journal of Clinical Investigation,(2018))の両方において顕著な欠失を回避する適応免疫に依存しない。
【0026】
表3は、現在のHBV治療及び薬物に対する本発明の主な利点を要約する。
【表3】
【0027】
上記の発見に基づいて、本出願の発明者は、慢性B型肝炎感染を効果的に治療するためのいくつかの方法を開発した。
【0028】
一実施形態では、本発明は、ヒト慢性B型肝炎ウイルス(HBV)感染患者の肝臓細胞におけるcccDNA(共有結合閉環状DNA)及び/又はrcDNA(弛緩型環状DNA)を3ヶ月以上低減又は排除することによって、HBV感染を治療する方法を対象とする。
【0029】
一実施形態では、HBV感染患者の肝臓細胞におけるHBV cccDNAレベルが、≦1コピー/細胞、≦1コピー/10細胞、≦1コピー/100細胞、≦1コピー/1,000細胞、又は≦1コピー/10,000細胞に低減される。
【0030】
別の実施形態では、感染患者の肝臓におけるrcDNAのレベルが、≦1コピー/細胞、≦1コピー/10細胞、≦1コピー/100細胞、≦1コピー/1,000細胞、又は≦1コピー/10,000細胞に低減される。
【0031】
別の実施形態では、HBV感染患者の肝臓細胞におけるHBV cccDNA及びrcDNAレベルが、血液中の高レベルの抗HBs抗体を維持するために内因的に抗HBs抗体を発現する外因性抗HBs抗体及び/又はウイルス若しくは非ウイルスベクター若しくはナノ粒子を投与することによって、持続的に低減される。
【0032】
別の実施形態では、HBV感染患者の肝臓細胞におけるcccDNAの低減又は排除が、患者の血液中の高レベルのHBV中和抗体を維持することによって、患者の血液中のHBV DNA、HBeAg、及びHBsAgのレベルを低減させるか、又は検出不能にすることによって明らかにされる。
【0033】
別の実施形態では、患者の血液中の高レベルのHBV中和抗体を維持することが、血清HBsAg陽性及び抗HBs陰性(HBsAg+/抗HBs-)を血清HBsAg陰性及び抗HBs陽性(HBsAg-/抗HBs+)に持続的に変化させるのに十分な量の抗HBs抗体を内因的に又は外因的に注入することによって達成される、完全で持続した抗HBsセロコンバージョンによって表される。
【0034】
別の実施形態では、十分な抗HBs抗体で完全で持続した抗HBsセロコンバージョンを実現することが、血清HBsAg損失又は血清クリアランスを誘導する最も効果的な方法のうちの1つである。
【0035】
別の実施形態では、完全で持続した抗HBsセロコンバージョンが、HBV治癒的治療の主な目標であり、より効果的なHBV機能的治癒をもたらすために必要とされる。
【0036】
別の実施形態では、より効果的なHBV機能的治癒をもたらすことが、持続した高レベルの抗HBs抗体を発現又は投与することによって、最初に血清HBsAgを除去することか、又は血清HBsAgを検出不能にすることを必要とする。
【0037】
別の実施形態では、完全で持続した抗HBsセロコンバージョンが、ヌクレオチド類似体、インターフェロン、及び/又はNAP若しくはRNAiなどのHBV薬物によって、血清HBsAgを一過性に除去したか、又は機能的治癒を達成したHBV薬物治療患者の間で、持続的なHBsAg血清クリアランス又は機能的治癒を確立するために必要とされる。
【0038】
別の実施形態では、患者の血液中の高レベルのHBV中和抗体が、1、2、3、4、5、6、7、又は8ヶ月以上維持される。
【0039】
別の実施形態では、HBV中和抗体は、ウイルス粒子が肝細胞に付着するのを防止することができ、したがって、HBVビリオンが肝細胞に入るのを効果的に遮断することができる抗体である。
【0040】
別の実施形態では、高レベルのHBV中和抗体が、患者の血液中の>1、>10、>100、>200、又は>300μg/ml、又は>10、>100、>1,000、>10,000、>20,000、又は>30,000mIU/mlのレベルにある。
【0041】
別の実施形態では、HBV中和抗体が、約0.1mg/kg、0.5mg//kg、1mg/kg、3mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、20mg/kg、又は≧30mg/kg体重の用量で1、2、又は3つの外因性ヒトHBV中和抗体を注入することによって患者に投与される。
【0042】
別の実施形態では、患者の血液中の>1、>10、>100、>200、若しくは>300μg/ml、又は>10、>100、>1,000、>10,000、>20,000、若しくは>30,000mIU/mlの抗体のレベルを3ヶ月以上維持するために、単回、複数回、又は繰り返しの注入を含む外因性ヒト中和抗体の注入。
【0043】
別の実施形態では、HBV中和抗体が、1、2、又は3つの内因性発現ヒト中和抗体である。
【0044】
別の実施形態では、内因性ヒトHBV中和抗体が、脂質ナノ粒子(LNP)又はGalNAc粒子のようなナノ粒子を含むウイルス又は非ウイルスベクターによって発現される。
【0045】
別の実施形態では、ウイルス又は非ウイルスベクターは、HBV中和抗体又は抗体断片をコードするDNA又はmRNA配列を含有する。一実施形態では、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであるか、又はアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む。一実施形態では、AAVベクターは、HBV中和抗体又はその抗体断片をコードする核酸配列を含み、したがって、AAV-抗HBVベクターになる。
【0046】
一実施形態では、AAV-抗HBVベクターが、それぞれ、約1×109ゲノムコピー/kg、1×1010ゲノムコピー/kg、1×1011ゲノムコピー/kg、1×1012ゲノムコピー/kg、2×1012ゲノムコピー/kg、2.5×1012ゲノムコピー/kg又はそれ以上の用量でHBV患者の筋肉細胞に注射される。
【0047】
一実施形態では、ウイルス又は非ウイルスベクターが、必要に応じて一度又は複数回患者に注射される。
【0048】
一実施形態では、HBV中和抗体の細胞内HBV複製阻害剤との組み合わせを介してrcDNAを枯渇させることが、著しい、ほぼ完全な、又は完全なcccDNA損失をもたらす。
【0049】
一実施形態では、細胞内HBV阻害剤が、RT阻害剤、カプシド阻害剤、RNAi薬物、核酸ポリマー(NAP)、インターフェロン、先天性免疫アゴニスト、及び侵入阻害剤を含む。
【0050】
一実施形態では、HBV中和抗体を発現するAAV抗HBVベクターが、HBV治療未経験である慢性HBV感染者において、cccDNAを低減及び排除するためにcccDNA補充を遮断するため、HBsAg血清クリアランスを誘導するため、完全な抗HBsセロコンバージョンを実現するため、かつより効果的なHBV治癒のために使用される。
【0051】
一実施形態では、HBV中和抗体を発現するAAV抗HBVベクターが、HBV治療を受けているが抗ウイルス薬物を安全に離脱することができない慢性HBV感染者において、cccDNAを遮断するため、HBsAg血清クリアランスを誘導するため、完全な抗HBsセロコンバージョンを実現するため、かつcccDNAを低減及び排除するためのより効果的なHBV治癒補充のため、HBsAg血清クリアランスを誘導するため、完全な抗HBsセロコンバージョンを実現するため、かつより効果的なHBV治癒のために使用される。
【0052】
一実施形態では、HBV中和抗体を発現するAAV抗HBVベクターが、それらの感染状態/段階、又はそれらの治療状態(未経験又は治療された)にかかわらず、HBV感染フリーになることを望む慢性HBV感染者において、cccDNAを低減及び排除するためにcccDNA補充を遮断するため、HBsAg血清クリアランスを誘導するため、完全な抗HBsセロコンバージョンを実現するため、かつより効果的なHBV治癒のために使用される。
【0053】
一実施形態では、HBV中和抗体を発現するAAV抗HBVベクターが、HBV感染妊婦又は肝臓移植を有する患者において、cccDNAを低減及び排除するためにcccDNA補充を遮断するため、HBsAg血清クリアランスを誘導するため、完全な抗HBsセロコンバージョンを実現するため、かつより効果的なHBV治癒のために使用される。
【0054】
一実施形態では、HBV中和抗体を発現するAAV抗HBVベクターが、HBV感染が臨床的に解消されているが、HBV再発のリスクが高い人々において、cccDNAを低減及び排除するためにcccDNA補充の遮断、HBsAg血清クリアランスの誘導、完全な抗HBsセロコンバージョンの実現、かつより効果的なHBV治癒のために使用される。
【0055】
一実施形態では、本発明は、ヒト患者において、慢性HBV感染を治療し、かつ/又はHBV感染の再発に対する保護を提供する方法であって、HBV感染ヒト患者に、十分な量のHBV中和抗体又は抗体断片を投与することを含み、当該量のHBV中和抗体が、rcDNA及びcccDNAの両方を補充することを遮断するレベルにあり、rcDNAを<1コピー/細胞に低減及び枯渇させることを可能にし、cccDNAを<1コピー/細胞に低減及び排除することを促進する、方法を対象とする。
【0056】
一実施形態では、慢性HBV感染の治療が、HBVに感染した新生児/小児の治療を含む。別の実施形態では、慢性HBV感染の治療が、HBVに感染した成人を治療することを含む。
【0057】
一実施形態では、HBV感染ヒト患者が、6ヶ月を超える間HBsAg陽性であり、正常又は上昇したアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベルを有する慢性HBV感染個体である。別の実施形態では、HBV感染ヒト患者が、HBV陽性の妊婦、又はHBsAg陽性若しくはHBsAg陰性/抗B型肝炎コア抗体(抗HBc)陽性であり、移植後にHBV感染が再発しやすい臓器移植レシピエントである。
【0058】
一実施形態では、HBV中和抗体又は抗体断片が、HBV治療用ベクターによって産生される。
【0059】
一実施形態では、HBV治療用ベクターが、ベクターの混合集団であって、その各々が、HBVエンベロープタンパク質の1つ以上のエピトープに結合する1つの特異的抗HBs抗体若しくは抗体断片をコードする、ベクターの集合集団、又はHBVエンベロープタンパク質の1つ以上のエピトープに結合する1つのHBV中和抗体若しくは抗体断片をコードする単一のベクターを含む。一実施形態では、HBV中和抗体又は抗体断片が、以下に記載される抗体のうちの1つである。
【0060】
本発明で使用される抗B型肝炎薬物
cccDNA及び/又はrcDNAを排除又は枯渇させることができる任意の既存の又は新たに開発された抗B型肝炎薬物を、上記の治療方法において使用することができる。そのような薬物としては、外因性又は内因性に発現する抗体薬物、小分子薬物、ペプチド薬物、及びベクター薬物が挙げられるが、これらに限定されない。単回注射後に抗HBs抗体を内因的に発現する以下のAAV-抗HBsベクターベースのHBV薬物を本発明で設計及び試験し、上記の治療方法で使用した場合に慢性肝炎感染に対して有効であることが見出された。合計9つのAAV-抗HBsベクターは、以下の配列を含む。
【0061】
核酸配列番号1は、配列番号2のアミノ酸配列をコードする。配列番号2は、4つの血清型のHBsAgに対するHBVZ10ヒト抗HBsモノクローナルIgG1抗体の重鎖の可変領域である。
【0062】
核酸配列番号3は、配列番号4のアミノ酸配列をコードする。配列番号4は、4つの血清型のHBsAgに対するHBVZ10ヒト抗HBsモノクローナルIgG1抗体の軽鎖の可変領域である。
【0063】
核酸配列番号5は、配列番号6のアミノ酸配列をコードする。配列番号6は、4つの血清型のHBsAgに対するHBVZ20ヒト抗HBsモノクローナルIgG1抗体の重鎖の可変領域である。
【0064】
核酸配列番号7は、配列番号8のアミノ酸配列をコードする。配列番号8は、4つの血清型のHBsAgに対するHBVZ20ヒト抗HBsモノクローナルIgG1抗体の軽鎖の可変領域である。
【0065】
核酸配列番号9は、配列番号10のアミノ酸配列をコードする。配列番号10は、4つの血清型のHBsAgに対するHBVZ30ヒト抗HBsモノクローナルIgG1抗体の重鎖の可変領域である。
【0066】
核酸配列番号11は、配列番号12のアミノ酸配列をコードする。
配列番号12は、4つの血清型のHBsAgに対するHBVZ30ヒト抗HBsモノクローナルIgG1抗体の軽鎖の可変領域である。
【0067】
核酸配列番号13は、配列番号14のアミノ酸配列をコードする。
配列番号14は、4つの血清型のHBsAgに対するHBVZ40ヒト抗HBsモノクローナルIgG1抗体の重鎖の可変領域である。
【0068】
核酸配列番号15は、配列番号16のアミノ酸配列をコードする。
配列番号16は、4つの血清型のHBsAgに対するHBVZ40ヒト抗HBsモノクローナルIgG1抗体の軽鎖の可変領域である。
【0069】
核酸配列番号17は、配列番号18のアミノ酸配列をコードする。
配列番号18は、4つの血清型のHBsAgに対するHBVZ50ヒト抗HBsモノクローナルIgG1抗体の重鎖の可変領域である。
【0070】
核酸配列番号19は、配列番号20のアミノ酸配列をコードする。
配列番号20は、4つの血清型のHBsAgに対するHBVZ50ヒト抗HBsモノクローナルIgG1抗体の軽鎖の可変領域である。
【0071】
核酸配列番号21は、配列番号22のアミノ酸配列をコードする。
配列番号22は、4つの血清型のHBsAgに対するHBVZ60ヒト抗HBsモノクローナルIgG1抗体の重鎖の可変領域である。
【0072】
核酸配列番号23は、配列番号24のアミノ酸配列をコードする。配列番号24は、4つの血清型のHBsAgに対するHBVZ60ヒト抗HBsモノクローナルIgG1抗体の軽鎖の可変領域である。
【0073】
核酸配列番号25は、配列番号26のアミノ酸配列をコードする。
配列番号26は、4つの血清型のHBsAgに対するHBVZ70ヒト抗HBsモノクローナルIgG1抗体の重鎖の可変領域である。
【0074】
核酸配列番号27は、配列番号28のアミノ酸配列をコードする。
配列番号28は、4つの血清型のHBsAgに対するHBVZ70ヒト抗HBsモノクローナルIgG1抗体の軽鎖の可変領域である。
【0075】
核酸配列番号29は、配列番号30のアミノ酸配列をコードする。
配列番号30は、4つの血清型のHBsAgに対するHBVZ80ヒト抗HBsモノクローナルIgG1抗体の重鎖の可変領域である。
【0076】
核酸配列番号31は、配列番号32のアミノ酸配列をコードする。配列番号32は、4つの血清型のHBsAgに対するHBVZ80ヒト抗HBsモノクローナルIgG1抗体の軽鎖の可変領域である。
【0077】
核酸配列番号33は、配列番号34のアミノ酸配列をコードする。
配列番号34は、4つの血清型のHBsAgに対するHBVZ90ヒト抗HBsモノクローナルIgG1抗体の重鎖の可変領域である。
【0078】
核酸配列番号35は、配列番号36のアミノ酸配列をコードする。配列番号36は、4つの血清型のHBsAgに対するHBVZ90ヒト抗HBsモノクローナルIgG1抗体の軽鎖の可変領域である。
【0079】
核酸配列番号37は、2つのITR(AAVからの逆方向末端反復)、チキンベータアクチンプロモーター、ヒトIgG1重鎖及び軽鎖の定常領域、WPRE(ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント)、及びSV40ポリアデニル化シグナルを含む3758bpからなるAAVベクターの核酸配列である。このAAVベクター(配列番号37)は、重鎖及び軽鎖の両方の2つの可変領域をクローニングして、完全なヒトIgG1モノクローナル抗HBs抗体を発現させることを可能にする。一実施形態では、本発明は、HBVビリオン及び/又はHBsAgサブウイルス粒子に特異的に結合する単離結合分子又はその抗原結合断片であって、抗体VHであって、VHが、配列番号2のアミノ酸配列を含む、抗体VH、及び抗体VLであって、VLが、配列番号4のアミノ酸配列を含む、抗体VL、又は少なくとも95%の配列相同性を有するそれらのバリアントを含む、単離結合分子又はその抗原結合断片を対象とする。一実施形態では、本発明は、上記単離結合分子又は抗原結合断片をコードする核酸分子を対象とする。一実施形態では、本発明は、上記の核酸分子を含むベクターを対象とする。
【0080】
一実施形態では、本発明は、HBVビリオン及び/又はHBsAgサブウイルス粒子に特異的に結合する単離結合分子又はその抗原結合断片であって、抗体VHであって、VHが、配列番号6のアミノ酸配列を含む、抗体VH、及び抗体VLであって、VLが、配列番号8のアミノ酸配列を含む、抗体VL、又は少なくとも95%の配列相同性を有するそれらのバリアントを含む、単離結合分子又はその抗原結合断片を対象とする。一実施形態では、本発明は、上記単離結合分子又は抗原結合断片をコードする核酸分子を対象とする。一実施形態では、本発明は、上記の核酸分子を含むベクターを対象とする。
【0081】
一実施形態では、本発明は、HBVビリオン及び/又はHBsAgサブウイルス粒子に特異的に結合する単離結合分子又はその抗原結合断片であって、抗体VHであって、VHが、配列番号10のアミノ酸配列を含む、抗体VH、及び抗体VLであって、VLが、配列番号12のアミノ酸配列を含む、抗体VL、又は少なくとも95%の配列相同性を有するそれらのバリアントを含む、単離結合分子又はその抗原結合断片を対象とする。一実施形態では、本発明は、上記単離結合分子又は抗原結合断片をコードする核酸分子を対象とする。一実施形態では、本発明は、上記の核酸分子を含むベクターを対象とする。
【0082】
一実施形態では、本発明は、HBVビリオン及び/又はHBsAgサブウイルス粒子に特異的に結合する単離結合分子又はその抗原結合断片であって、抗体VHであって、VHが、配列番号14のアミノ酸配列を含む、抗体VH、及び抗体VLであって、VLが、配列番号16のアミノ酸配列を含む、抗体VL、又は少なくとも95%の配列相同性を有するそれらのバリアントを含む、単離結合分子又はその抗原結合断片を対象とする。一実施形態では、本発明は、上記単離結合分子又は抗原結合断片をコードする核酸分子を対象とする。一実施形態では、本発明は、上記の核酸分子を含むベクターを対象とする。
【0083】
一実施形態では、本発明は、HBVビリオン及び/又はHBsAgサブウイルス粒子に特異的に結合する単離結合分子又はその抗原結合断片であって、抗体VHであって、VHが、配列番号18のアミノ酸配列を含む、抗体VH、及び抗体VLであって、VLが、配列番号20のアミノ酸配列を含む、抗体VL、又は少なくとも95%の配列相同性を有するそれらのバリアントを含む、単離結合分子又はその抗原結合断片を対象とする。一実施形態では、本発明は、上記単離結合分子又は抗原結合断片をコードする核酸分子を対象とする。一実施形態では、本発明は、上記の核酸分子を含むベクターを対象とする。
【0084】
一実施形態では、本発明は、HBVビリオン及び/又はHBsAgサブウイルス粒子に特異的に結合する単離結合分子又はその抗原結合断片であって、抗体VHであって、VHが、配列番号22のアミノ酸配列を含む、抗体VH、及び抗体VLであって、VLが、配列番号24のアミノ酸配列を含む、抗体VL、又は少なくとも95%の配列相同性を有するそれらのバリアントを含む、単離結合分子又はその抗原結合断片を対象とする。一実施形態では、本発明は、上記単離結合分子又は抗原結合断片をコードする核酸分子を対象とする。一実施形態では、本発明は、上記の核酸分子を含むベクターを対象とする。
【0085】
一実施形態では、本発明は、HBVビリオン及び/又はHBsAgサブウイルス粒子に特異的に結合する単離結合分子又はその抗原結合断片であって、抗体VHであって、VHが、配列番号26のアミノ酸配列を含む、抗体VH、及び抗体VLであって、VLが、配列番号28のアミノ酸配列を含む、抗体VL、又は少なくとも95%の配列相同性を有するそれらのバリアントを含む、単離結合分子又はその抗原結合断片を対象とする。一実施形態では、本発明は、上記単離結合分子又は抗原結合断片をコードする核酸分子を対象とする。一実施形態では、本発明は、上記の核酸分子を含むベクターを対象とする。
【0086】
一実施形態では、本発明は、HBVビリオン及び/又はHBsAgサブウイルス粒子に特異的に結合する単離結合分子又はその抗原結合断片であって、抗体VHであって、VHが、配列番号30のアミノ酸配列を含む、抗体VH、及び抗体VLであって、VLが、配列番号32のアミノ酸配列を含む、抗体VL、又は少なくとも95%の配列相同性を有するそれらのバリアントを含む、単離結合分子又はその抗原結合断片を対象とする。一実施形態では、本発明は、上記単離結合分子又は抗原結合断片をコードする核酸分子を対象とする。一実施形態では、本発明は、上記の核酸分子を含むベクターを対象とする。
【0087】
一実施形態では、本発明は、HBVビリオン及び/又はHBsAgサブウイルス粒子に特異的に結合する単離結合分子又はその抗原結合断片であって、抗体VHであって、VHが、配列番号34のアミノ酸配列を含む、抗体VH、及び抗体VLであって、VLが、配列番号36のアミノ酸配列を含む、抗体VL、又は少なくとも95%の配列相同性を有するそれらのバリアントを含む、単離結合分子又はその抗原結合断片を対象とする。一実施形態では、本発明は、上記単離結合分子又は抗原結合断片をコードする核酸分子を対象とする。一実施形態では、本発明は、上記の核酸分子を含むベクターを対象とする。
【0088】
一実施形態では、本発明は、上記の単離結合分子又は抗原結合断片のうちの1つ以上を含む組成物を対象とする。
【0089】
一実施形態では、本発明は、上記の抗体のうちの1つ以上と、薬学的に許容される担体と、を含む、薬学的組成物に関する。
【0090】
一実施形態では、完全で持続した抗HBsセロコンバージョンは、血清HBsAg損失を誘導する最も効果的な方法である。
【0091】
RNAi薬物(siRNA又はアンチセンスRNA)及び核酸ポリマー(NAP)を含むいくつかの薬物候補があり、これらは、HBsAgの合成を直接抑制するか、又は/及び感染細胞からのHBsAg分泌を遮断し、数ヶ月かかる血清HBsAgの低減につながる。RNAi薬物による平均血清HBsAg低減は、約1.5logである。利用可能なデータは、>10,000IU/mlの高HBsAgレベルを有する患者が、RNAi薬物にあまり反応しないことを示す。NAP誘発性血清HBsAgの低減は、通常、安全性の懸念を引き起こす肝損傷を伴う。
【0092】
本発明は、血清HBsAgを、検出不可能なレベルに低減させる最も効果的な方法、すなわち、発現又は注入されるか、又はその両方の組み合わせのいずれかの十分な量の抗HBs抗体を提供することによって、完全で持続した抗HBsセロコンバージョンを誘導することを意味する。
図7に示すように、完全な抗HBsセロコンバージョンは、ベースラインレベルに応じて血清HBsAgレベルを3~5logから低減させ、RNAi薬物による平均1.5logよりもはるかに効果的であった。>血清HBsAgレベルである十分な抗HBs抗体が提供される場合、血清HBsAgレベルが検出できなくなるまで数日しかかからない。抗HBsレベル>血清HBsAgレベルを維持すると、HBsAg損失が持続的になる。
【0093】
一実施形態では、AAV-抗HBsベクター又は抗HBs抗体を添加又は組み合わせると、現在の生涯にわたる毎日の投薬は、9週間という短い有限期間に短縮することができる。
【0094】
生涯にわたる投薬を必要とする主な理由は、現在のヌクレオチドアナログによる療法が、慢性HBV感染で発生する新たな感染ラウンドに対処しておらず、抗HBsレベルが不十分であることを改善しておらず、療法を停止した場合に反発するウイルス複製を抑制する生涯にわたる治療を必要とすることである。
図7に実証されるように、9週間のエンテカビル治療へのAAV-抗HBsベクター及び外因性抗HBs抗体の遅延添加は、完全な抗HBsセロコンバージョンを有する8匹中5匹のマウスにおいてHBV機能的治癒を達成し、現在の生涯にわたるHBV治療が9週間という短い有限期間に短縮され得るという概念実証を確立した。したがって、HBV治療を短縮するための重要な方法は、現在の療法に十分なAAV-抗HBsベクター及び/又は外因性抗HBs抗体を追加することであり、抗HBs抗体レベルは血清HBsAgレベルよりも常に高くなければならない。
【0095】
一実施形態では、現在の療法によって、又はHBV自然除去によって媒介される非持続的な血清HBsAg損失又は機能的治癒は、予防され、持続的なHBsAg損失及び機能的治癒に変換され得る。
【0096】
血清HBsAg損失又はHBV機能的治癒は、自然に又は現在の療法を通じて達成することができるが、そのような治癒又はHBsAg損失はまれであり、非持続的である場合がある。非持続的なHBsAg損失又は機能的治癒の主な理由は、慢性HBV感染患者における十分な抗HBs抗体の欠如である。
図7に実証されるように、十分に高レベルの抗HBs抗体が提供され、維持された場合、血清HBsAg損失又はHBV機能的治癒は持続的になった。したがって、持続的な血清HBsAg損失及び/又は持続的なHBV機能的治癒を達成するための重要な方法は、血清HBsAgレベルよりも常に高くあるべき抗HBsレベルを提供し、維持することである。
【0097】
一実施形態では、本発明は、ヒト患者において、慢性HBV感染を治療し、再発新たなHBV感染ラウンドに対する保護を提供する方法であって、HBV感染ヒト患者に、十分な量のHBV中和抗体又は抗体断片を投与することを含み、当該量のHBV中和抗体が、rcDNA及びcccDNAの両方を補充することを遮断するレベルにあり、rcDNAを<1コピー/細胞に低減及び枯渇させることを可能にし、cccDNAを<1コピー/細胞に低減及び排除することを促進し、HBsAg血清クリアランスを誘導し、完全な抗HBsセロコンバージョンを実現し、より効果的なHBV治癒をもたらす、方法を対象とする。
【0098】
一実施形態では、慢性HBV感染の治療が、HBVに感染した新生児/小児の治療を含む。
【0099】
一実施形態では、慢性HBV感染の治療が、HBVに感染した成人を治療することを含む。
【0100】
一実施形態では、HBV感染ヒト患者が、6ヶ月を超える間HBsAg陽性であり、正常又は上昇したアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベルを有する慢性HBV感染個体である。
【0101】
一実施形態では、HBV感染ヒト患者が、HBV陽性の妊婦、又はHBsAg陽性若しくはHBsAg陰性/抗B型肝炎コア抗体(抗HBc)陽性であり、陽性であり、移植後にHBV感染が再発しやすい臓器移植レシピエントである。
【0102】
一実施形態では、HBV中和抗体又は抗体断片が、HBV治療用ベクターによって産生される。
【0103】
一実施形態では、HBV治療用ベクターが、ベクターの混合集団であって、その各々が、HBVエンベロープタンパク質の1つ以上のエピトープに結合する1つの特異的抗HBs抗体若しくは抗体断片をコードする、ベクターの集合集団、又はHBVエンベロープタンパク質の1つ以上のエピトープに結合する1つのHBV中和抗体若しくは抗体断片をコードする単一のベクターを含む。
【実施例】
【0104】
実施例1.HBV感染及び治療のためのuPA/SCIDキメラマウスを使用する実験手順。
合計32匹の雄uPA/SCIDキメラマウスを、1日目に5×10
8個のHBV DNAコピーの接種物で感染させた。マラリア抗体(抗体特異性対照)又は抗HBs抗体を発現するAAVベクターを、感染後(pi)7週間の1×10
11ゲノムコピーの用量で右大腿筋細胞に筋肉内注射し、次いで追加の30週間モニタリングした(
図7)。183日目までに20匹の動物が残っており、253日目(終了日)には10匹の動物が残っていた。
【0105】
統計分析のための十分な数の動物を有する理由から、血清学的データを183日目まで報告した。18個の肝臓からの肝内HBV DNAデータであって、そのうちの8個は、204日目前後に収集され、残りの10個は、253日目に収集された。各肝臓は、各サンプリングについて20~30mgの組織を切断することによって、少なくとも20回無作為にサンプリングされ、また分析された。各サンプリングにおけるHBVレベルを個別に定量的に決定し、各肝臓の20回のサンプリングから平均HBVレベルを計算した。
【0106】
実施例2.2つの群における動態血清抗体レベル
図1Aに示すように、5匹のマウスに、pi49日目に、発現対照としてマラリア抗体を発現するAAVベクターを注射し、発現した抗体レベルを、観察期間(約200日、183日後の時点は示さない)を通して100mg/mlを超えて維持したことから、この最適化されたAAVベクターは、単回注射後に、持続した高レベルの抗体を発現することができることが示唆される。
【0107】
抗HBs治療を行った15匹の動物(
図1B)のうち、13匹に、抗HBs抗体を発現するAAV-抗HBsベクターを注射し、残りの2匹の動物(No.970及びNo.909)に、対照として、pi74日目に開始した1注射当たり250mgの用量で、外因性マウス抗HBs抗体を3週間毎に注射した。ほとんどのマウスにおける動態抗HBsレベルは、マラリア抗体レベルに匹敵する約100mg/mlであったが、いくつかの動物においても約10mg/ml以下を検出した。
【0108】
実施例3.HBV感染レベルは、抗HBs抗体で治療された動物で著しく低かった
全ての動物の平均ウイルス血症は、pi49日目に1E
8~1E
9HBV DNAコピー/mlの範囲であり、ヘパドナウイルスが感受性細胞内でインビボ又はインビトロ感染を確立するのに<24時間しかかからないため、それらの肝臓が35日間(pi14日目~49日目、
図2A)、>1×10
7HBV DNAコピー/mlのウイルス血症に曝露されていたため、全ての感染性細胞が感染したはずであることを示唆している。抗HBs抗体(抗HBs-合計)で治療した15匹のマウスにおける平均ウイルス血症は、49日目のAAV注射前のマラリア抗体群における平均ウイルス血症よりも低かった。抗HBs-合計群のウイルス血症は、AAVベクター又は抗HBs注射後に減少し、マラリア抗体群よりも低下し、抗HBs治療に対する応答を実証した。その後、両群のウイルス血症は急増し、ピークに達した。抗HBs-合計群における低減したウイルス血症は、ピーク後に再び検出可能になったが、マラリア群におけるウイルス血症は安定したままであった(
図2A)。
【0109】
抗HBs群の15匹のマウスを、HBV感染が典型的なピークウイルス血症に達したかどうかに基づいて、抗HBs-A(n=9)及び抗HBs-B群(n=6)に更に分けた。抗HBs-A群のウイルス血症は、典型的なピーク(血清HBV DNAレベル>1E10コピー/ml)に達した後、ウイルス血症の低減が続き、抗HBs-B群のHBV感染は、遅延したが、まだピークに達していなかった。マラリア抗体と抗HBs-B群との間のウイルス血症の差は、いくつかの時点で>100倍であった。
【0110】
183日目の平均ウイルス血症は、マラリア群と比較して、抗HBs-合計群及び抗HBs-B群の両方で著しく低かった(p=0.029及びp=0.012、
図2Bを参照)。3つの抗HBs群全てにおける183日目の平均血清HBsAgレベルは、マラリア群と比較して著しく低かった(
図2B。抗HBs-合計についてはp=0.0009、抗HBs-Aについてはp=0.0128、抗HBs-Bについてはp=0.0008)。
【0111】
ウイルス血症及びHBsAgデータの両方が、全ての感染性細胞が感染した後に新たな感染ラウンドを遮断することが、HBV感染レベルを著しく低下させることができることを示唆している。言い換えれば、HBV感染レベルは、新たな感染ラウンドのレベルによって決定される。
【0112】
実施例4.試験動物No.970におけるHBV機能的治癒
試験動物No.970におけるベースラインウイルス血症は、CHB患者における高ウイルス血症に類似して、抗HBs治療前に4.6×10
8HBV DNAコピー/mlに達した。抗HBs治療により、ウイルス血症を1×10
8から1×10
4に4log低減させ、それを一時的に治療前レベルまで急増させ、その後、終了まで4週間検出不能になった(
図3A)。
【0113】
動物No.970の血清HBsAgは、抗HBs治療後、連続して6ヶ月間検出不能になったが、抗HBsレベルは、pi77日目に60mg/mlに達し、観察期間のほとんどの時点で>100mg/mlで持続し(
図3A)、これは、完全で持続した抗HBsセロコンバージョンを表した。
【0114】
図3Bにおける肝内rcDNA及びcccDNAの前処理レベルへの参照を提供するために、
図3Aにプロットされた参照として、試験動物番号970の前処理レベルと同等のベースラインウイルス血症を有した試験動物番号973を使用した。
【0115】
血清学的データは、HBV感染の機能的治癒が試験動物No.970において達成されたことを示唆する。このHBV治癒過程は、約6ヶ月かかった(第1の抗HBs注射を用いた74日目から、検出不可能なHBV DNAを用いた239日目まで)。
【0116】
知る限りでは、試験動物番号970は、堅牢なHBV感染を支持するHBV感染キメラマウスモデルにおける試験された介入を伴うHBV機能的治癒の成功の最初の事例を表す。
【0117】
試験動物No.970の第1及び第2ラウンドの20回の肝臓サンプリングにおける平均細胞内rcDNAレベルは、0.66及び0.18コピー/細胞であり、これは、肝臓が治療前レベル対照として機能する動物973(p=1.33x10
-9及び1.29x10
-9)よりも500及び1800倍低かった。平均cccDNAレベルは、動物970における2ラウンドの20回のサンプリングにおいて、それぞれ、200細胞当たり1コピー(0.005コピー/細胞)及び1250細胞当たり1コピー(0.0008/細胞)であり、すなわち、cccDNAは、試験動物No.973と比較して100~675倍低かった(p=5.27x10
-7及び4.69x10
-7、
図3B)。結果は、rcDNA及びcccDNAの両方が、試験動物No.970において著しい損失を受けたことを示す。
【0118】
第1ラウンドの20回のサンプリングのうちの7回及び第2ラウンドの20回のサンプリングのうちの20回の平均rcDNAレベルは、≦1コピー/細胞であり、第1ラウンド及び第2ラウンドの20回のサンプリングのうちの3回及び8回のcccDNAサンプリングでは、それぞれ、cccDNAが検出されなかったが、ほとんどのサンプリングで検出されたcccDNAレベルは、77細胞当たり1コピーから11,100細胞まで非常に低く(
図3C1及びC2)、これは、感染細胞の圧倒的多数が253日目にこの肝臓でcccDNAを失ったことを示唆している。
【0119】
抗HBs抗体は主に細胞外で機能し、cccDNA排除は、cccDNA自然損失の結果であった。試験動物No.970からのcccDNAデータはまた、抗HBs単独療法が、持続した高レベルの抗HBs抗体によるrcDNA補充を遮断することによって、完全なcccDNA除去をもたらす可能性があることを示唆する。
【0120】
実施例5.動的cccDNA状態及びcccDNA自然損失
多様なcccDNAレベルが、同じ肝臓の異なるサンプリングで観察され、例えば、最低のcccDNAレベルは0.5コピー/細胞(サンプリング17)であり、最高のcccDNAレベルは31コピー/細胞(サンプリング18)であり、差は、マラリア抗体で治療された動物907のサンプリング間で60倍であった(
図4A)。抗HBs抗体で治療した試験動物No.909では、最高レベルは6.6コピー/細胞であり、最低レベルは0.18コピー/細胞であり(
図4B)、差は>30倍であった。試験動物No.909及び試験動物No.907の両方における多様なcccDNAレベルは、動的cccDNA状態を示し、すなわち、cccDNAは、いくつかの細胞において増幅され、一方、他の細胞において消失した。試験動物No.907及び試験動物No.909の20回のサンプリング中の平均rcDNAレベルは、それぞれ、10,467(6,992~14,610コピー/細胞の範囲)及び3,583コピー/細胞(2,304~11,145コピー/細胞の範囲)であり、サンプリングのうちほとんどの細胞がHBV感染細胞であったことを示唆していることに留意されたい。
【0121】
この実験では、cccDNA分子が感染細胞の一部において既に消失していたことも観察された。
【0122】
≦1コピー/細胞の平均cccDNAレベルを、マラリア抗体で治療した試験動物No.907における20回のサンプリングのうちの5回で検出し、抗HBs抗体で治療した試験動物No.909における20回のサンプリングのうちの17回で検出した(
図4A及びB)。合計566個のcccDNA試料を分析し、そのうちの260個(46%)でcccDNAレベル≦1コピー/細胞を検出した(
図4C)。平均cccDNAレベルが≦1コピー/細胞である場合、いくつかの細胞におけるcccDNAは、他の細胞には存在しないが>1コピーであり、cccDNAは、キメラマウスにおけるHBV感染ヒト肝細胞における感染細胞の一部において既に消失していたことを示唆する。肝臓を採取したpi253日目までに、全てのHBV感染細胞がヒト肝臓細胞に感染していなければならないことに留意されたい。
【0123】
平均cccDNAレベルが≦1コピー/細胞の肝臓サンプリングの割合は、マラリア抗体群よりも抗HBs群で著しく高く(p<0.001、
図4D)、これは、新たな感染ラウンドを遮断することが、cccDNAを自然に消失した細胞における新規感染媒介cccDNA補充を遮断し、cccDNAが≦1コピー/細胞の細胞の数を拡大する可能性が高く、すなわち、新たな感染ラウンドを遮断することが、十分な抗HBs抗体がない場合に補充され得る正味cccDNA損失を確立し、拡大することを示唆している。
【0124】
感染細胞の一部分で観察されたcccDNA自然損失は、cccDNA生物学を理解するためだけでなく、HBV治癒治療のためにも重要な知見であり、cccDNAが、感染細胞から自然に排除されることができるという証拠を提供する。これは、HBV治癒を確立するための基礎を形成する。
【0125】
実施例6.新たな感染ラウンドを遮断することによって著しく低下したrcDNAレベル
HBV感染uPA/SCIDキメラマウスからの肝内rcDNAレベルを、2組の肝臓試料において分析した。第1の組の試料は、8つの肝臓を含み、それらのうちの3つは、治療対照としてAAVベクター発現マラリア抗体で治療され、残りの5つの肝臓は、抗HBs抗体で治療され、抗HBs抗体を発現するAAVベクターを有する4つ及びマウス抗HBs抗体を注射された1つを含む。8つの肝臓のうちの7つをpi204日前後に収集し、1つ(動物番号969)を183日目に収集した。発現又は注射された抗HBs抗体による治療は、ウイルス血症を2倍から100倍に低下させた(
図5A)。マラリア抗体治療を受けた3つの肝臓の各々の20個の試料からの平均rcDNAレベルは、ほぼ2,000~2,700コピー/細胞の範囲であり、抗HBs抗体で治療された5個の肝臓では、平均219~454コピー/細胞が検出され、すなわち、rcDNAレベルは、130日間の抗HBs治療中に少なくとも1500コピー/細胞著しく低下した(
図5Bを参照)。P値は、E
-23~E
-25の範囲であった。
【0126】
第2の組の肝臓は、253日目に収集され、10個の肝臓を含む。1つの肝臓は、AAVベクター発現マラリア抗体で治療され、他の9つの肝臓は、抗HBs抗体で治療された(7つは、AAV-抗HBsベクターによって発現された抗HBs抗体で、動物番号970及び909の他の2つの肝臓は、注射されたマウス抗HBs抗体で治療された)。マラリア抗体で治療した動物No.907における20個の試料からの平均rcDNAレベルは、10,467コピー/細胞であり、平均rcDNAレベルは、抗HBs抗体で治療した9つの肝臓全てにわたって著しく低かった(
図5Cを参照)。rcDNAレベルを低下させる効率は、異なる動物間で同等のビリオン分泌速度を想定すると、主にピークウイルス血症レベルに依存していた。例えば、1×10
8~1×10
9HBV DNAコピー/mlのウイルス血症を有する動物970におけるrcDNAレベルは、0.66コピー/細胞であり、1×10
9~1×10
10HBV DNAコピー/mlのウイルス血症を有する動物959におけるrcDNAレベルは、661コピー/細胞であり、動物907と比較してほぼ10,000コピー/細胞の低減であった。平均rcDNAレベルは、1×10
10~1×10
11のウイルス血症を有する残りの7つの肝臓において4,000~8,000コピー/細胞低下したか、又は>1×10
9HBV DNAコピー/mlで遅れてピークに達した。P値は、E
-9~E
-16の範囲であった(
図5Dを参照)。
【0127】
実施例7.9週間のエンテカビル(ETV)治療へのAAV-抗HBsベクターのアドオン
別のラウンドの実験では、HBVに感染したuPA/SCIDキメラマウスを、3つの群:i)未治療。ii)ETV単独療法、及びiii)AAV-抗HBsベクターのアドオンを有するETVに分けた。ETV治療は、pi(感染後)6週目に開始され、0.3mg/kgの用量で9週間にわたって週に3回、腹腔内注射した。アドオン群では、ヒトモノクローナル抗HBs抗体を発現するAAV-抗HBsベクターを、ETV治療の6週目又はpi11週目に1E11ゲノムコピーの用量で筋肉内注射によって投与した。ETVは、pi14週目に離脱され、HBV感染は30週までモニタリングされた。
【0128】
未治療のマウスにおけるHBV感染
HBV感染は、pi81日目頃にピークレベルに達し、3E9~2E10 HBV DNAコピー/mlの範囲のウイルス血症によって、及び5,000~10,000IU/mlの範囲の血清HBsAgによって実証された。その後、血清HBV DNA及びHBsAgを、安定したレベルで維持した(
図6A及びBを参照)。
【0129】
ETV単剤療法群でETV中止後にHBV感染が再発した
35日目(治療開始)のベースラインのウイルス血症は、この群では8E7~1E9の範囲であった。予想通り、ETV治療はウイルス血症を2~3log低減させたが、血清HBsAgレベルへの影響は検出されなかった。ETV離脱後、HBV DNAレベルは徐々に回復し、最終的には未治療の動物に匹敵するレベルに達したが、血清HBsAgレベルは安定したままであった(
図6A及びB)。
【0130】
ETV及びAAV-抗HBsベクターのアドオンで治療された動物において、HBV再発が予防された。
【0131】
35日目のベースラインのウイルス血症は、この群では3E7~1E9の範囲であった。血清HBV DNAレベルは、ETV治療中に2~3log低減して1E6以下であった。血清HBV DNA及びHBsAgレベルの両方におけるHBV再発は、ETV離脱後の観察期間を通してアドオン療法を用いた10匹の全ての動物において観察されなかった(
図6C及びD)。抗HBs抗体単独療法によるHBV再発の予防に成功したことは、HBV再発が主に新たな感染ラウンドによって引き起こされることを確認した。
【0132】
HBV再発の成功した予防は、ETV離脱後のHBV感染の拡大の欠如を反映している。また、HBVの著しい低減も示さず、すなわち、HBV感染は、二重HBsAg及び抗HBs陽性を特徴とする平衡状態に維持された。そのような共存血清学的プロファイルは、全ての血清HBsAg物品に完全に結合することができなかったか、又は新たな感染ラウンドが完全に遮断されなかった比較的不十分な抗HBsレベルを示した。
【0133】
HBV機能的治癒には完全な抗HBs抗体セロコンバージョンが必要である
抗HBsレベルを上昇させることが治療転帰を変えるかどうかを試験するために、10匹のマウスのうちの8匹が、異なる時点で開始される250mgの外因性マウス抗HBs抗体の3週間の注射を受けた(それらのうちの6匹が
図7A~Fに示される)。抗HBsレベルを上昇させた結果、血清HBsAg損失及び完全な抗HBsセロコンバージョンが全8匹のマウスで確立された(
図6C)。更に、HBV機能的治癒は、実験の終了までに8匹のマウスのうちの5匹で達成された(
図7A~E)。
【0134】
この実験は、異なる抗HBsレベルが、異なる転帰を決定することを示している:1.抗HBsの不在は、HBsAg陽性のみで特徴付けられたHBV再発を引き起こした。2.準最適な抗HBsレベル、すなわち、HBsAg及び抗HBsの二重陽性を特徴とした抗HBsレベル≦血清HBsAgレベルは、重大なHBV再発を抑制し得るが、新たな感染ラウンドを完全に遮断することはできず、安定した感染レベルをもたらす。3.十分な抗HBsレベル、すなわち、HBsAg損失及び完全な抗HBsセロコンバージョンをもたらした抗HBsレベル>血清HBsAgレベルは、新たな感染ラウンドを完全に遮断し、HBsAg-/抗HBs+を特徴とするその後の機能的治癒につながる可能性がある。6匹のマウスにおける全てのHBV機能的治癒は、完全な抗HBsセロコンバージョン時又はその後に生じた(
図3及び
図7A~7E)。HBV機能的治癒は、観察期間が不十分であるため、抗HBsセロコンバージョン後の残りの3匹のマウスではまだ発生しておらず、2匹は、抗HBsセロコンバージョンの1週間又は3週間後に死亡し、最後の1匹971は、高ベースラインウイルス血症1E9コピー/mL及び血清HBsAgレベル11,000IU/mLの両方を有し、165日目に抗HBsセロコンバージョンを達成したが、終了するまでHBV DNAは陽性のままであった(218日目、
図7F)。
【0135】
実施例8.完全な抗HBsセロコンバージョンは、通常数年又は数十年かかる自然除去又は現在の療法を媒介とするHBV治療の希少性と比較して、数ヶ月で達成されるより高いHBV治癒率を特徴とするより効果的なHBV機能的治癒をもたらす。
図7に示すように、HBV機能的治癒は、16週間の観察の間に完全な抗HBsセロコンバージョンを有する5匹のHBV感染キメラマウスのうちの4匹で達成された。HBV治癒は、ベースラインHBsAg及びHBV DNAレベルが最も高く、162日目に完全な抗HBsセロコンバージョンを達成した最後の動物ではまだ発生していなかった。しかしながら、この動物は、56日間のみ追跡され、実験は218日目に終了した。
【0136】
そのような結果は、抗HBs抗体セロコンバージョンが急性HBV感染の解消を示すという観察と一致する21。実際、完全な抗HBsセロコンバージョンは、抗HBsレベルが既に血清HBsAgレベルを上回っており、それが新たな感染ラウンドを完全に遮断し、漸進的なHBV除去を確立することにつながることを示す。したがって、HBV治癒治療の主な目標は、可能な限り早期に、十分な抗HBs抗体を有する完全な抗HBsセロコンバージョンを確立することでなければならない。
【0137】
HBV自然治癒は、慢性HBV感染で起こり、主に、HBsAgレベルが徐々に低減することによって引き起こされるが、抗HBsセロコンバージョンを即座に完全に達成することができず、新たな感染ラウンドが継続したままである。これが、HBV機能的自然治癒を達成するのに数年/数十年かかる理由である(
図8C)。しかしながら、完全な抗HBsセロコンバージョンは、持続的した、かつ高レベルの抗HBs抗体を発現することで迅速に実現することができ、これは、HBV自然治癒経過と比較して、HBV治癒期間を著しく短縮する(
図8D)。
【配列表】
【国際調査報告】