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特表2025-501605ナノ多孔質ケイ素アノードを含む固体リチウムイオンバッテリー
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-22
(54)【発明の名称】ナノ多孔質ケイ素アノードを含む固体リチウムイオンバッテリー
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20250115BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20250115BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250115BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20250115BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20250115BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250115BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20250115BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20250115BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20250115BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20250115BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20250115BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20250115BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/66 A
H01M4/62 Z
H01M4/131
H01M10/0565
H01M4/36 C
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/1395
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538205
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-08-20
(86)【国際出願番号】 NL2022050754
(87)【国際公開番号】W WO2023121462
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】2030271
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522044490
【氏名又は名称】ライデンジャー・テクノロジーズ・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジャオロン・リ
(72)【発明者】
【氏名】マルニクス・ヴァーヘマケル
(72)【発明者】
【氏名】アリエン・ディデン
(72)【発明者】
【氏名】ヨーリス・マース
(72)【発明者】
【氏名】ロハン・シヴァラジ
(72)【発明者】
【氏名】アンキット・ゴヤル
(72)【発明者】
【氏名】ベルネッテ・オーステルラーケン
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017EE01
5H017EE04
5H017EE05
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL11
5H029AM12
5H029AM16
5H029CJ02
5H029CJ03
5H029CJ22
5H029CJ24
5H029CJ28
5H029DJ16
5H029DJ18
5H029EJ03
5H029EJ05
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ04
5H029HJ14
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB11
5H050DA08
5H050DA10
5H050DA13
5H050EA08
5H050EA10
5H050EA12
5H050FA13
5H050FA17
5H050FA18
5H050FA20
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA05
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA24
5H050GA27
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
本開示は、集電体上に堆積された本質的に純粋な非晶質多孔質ケイ素フィルムを含み且つ複数の柱状構造を含む、ケイ素アノードと、1種又は複数の固体成分を含む電解質層と、カソード層とを含む、リチウムイオンバッテリーに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体上に堆積された本質的に純粋な非晶質多孔質ケイ素フィルムを含み且つ複数の柱状構造を含む、ケイ素アノードと、
1種又は複数の固体成分を含む、電解質層と、
カソード層と、
を含む、リチウムイオンバッテリー。
【請求項2】
電解質層が、アルジロダイト硫化物系電解質を含む、請求項1に記載のバッテリー。
【請求項3】
ケイ素アノード材料が、ケイ素フィルムと、銅、ニッケル又はチタン集電体とを含む、請求項1又は2に記載のバッテリー。
【請求項4】
カソード層が、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、リチウムマンガンスピネル、リチウム遷移金属酸化物、リチウム鉄リン酸塩、又はこれらの組合せから選択されるカソード活性材料と、伝導性炭素材料とを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のバッテリー。
【請求項5】
ケイ素アノード材料が、ケイ素のみから本質的に構成され、ナノ結晶質領域を含む非晶質構造を示す、請求項1から4のいずれか一項に記載のバッテリー。
【請求項6】
ケイ素アノード材料が、複数の柱及びナノサイズの一次粒子をケイ素の柱に持つ、多孔質ケイ素構造を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のバッテリー。
【請求項7】
ケイ素層が、PECVD堆積条件により決定された、5%から80%の範囲の多孔度を有する、請求項6に記載のバッテリー。
【請求項8】
ケイ素フィルムが、集電体上に、好ましくはプラズマ強化化学気相成長(PECVD)法によって、直接堆積されている、請求項1から7のいずれか一項に記載のバッテリー。
【請求項9】
ケイ素フィルムが、物理気相成長(PVD)法によって、例えばプラズマ強化化学気相成長(PECVD)法、化学気相成長(CVD)法、パルス化レーザ堆積(PLD)法、スパッタリング、及び/又は電気化学噴霧法によって堆積されている、請求項8に記載のバッテリー。
【請求項10】
ケイ素フィルムを、集電体の片面又は両面に堆積することができる、請求項1から9のいずれか一項に記載のバッテリー。
【請求項11】
ケイ素フィルムが、1μmから30μmまでの厚さを有する、請求項1から10のいずれか一項に記載のバッテリー。
【請求項12】
ケイ素フィルムが、好ましくは約5μmから20μまでの厚さ、及び/又は0.1から4.0mg/cmまでの質量負荷を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載のバッテリー。
【請求項13】
電解質層が、硫化物系電解質、好ましくはアルジロダイト、Li10GeP12(LGPS)、Li11(LPS)、剥き出しの及びドープされたLiLaZr12(LLZO)ガーネット構造酸化物、ハロゲン化物電解質、NASICON型リン酸ガラスセラミック、好ましくは(LAGP)、酸窒化物、好ましくはリチウムリン酸窒化物、又はLIPON、及びポリマー、好ましくはPEO又はPVA、又はこれらの任意の組合せから選択される電解質を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載のバッテリー。
【請求項14】
カソード層が、カソード活性材料、固体電解質粉末、炭素伝導性材料、及びアルミニウム集電体を含む、請求項1から13のいずれか一項に記載のバッテリー。
【請求項15】
カソード活性材料が、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、リチウムマンガンスピネル、リチウム鉄リン酸塩、又はこれらの組合せを含む、請求項13又は14に記載のバッテリー。
【請求項16】
カソード層中の炭素伝導性材料が、導電性材料、カーボンブラック伝導性材料、カーボンナノ繊維伝導性材料、カーボンナノチューブ材料、ガラス炭素伝導性材料、又はグラフェン伝導性材料、又はこれらの組合せを含む、請求項14又は15に記載のバッテリー。
【請求項17】
カソード材料が、リチウムニオブ酸化物(LiNbO)で被覆されたリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、好ましくは粒状LiNbOで被覆されたLiNi0.8Mn0.1Co0.1(NMC811)材料であって、LiPSCl粒状材料とブレンドされたもの、より好ましくはNMC811:LiPSClが90:10から60:40の範囲にある、より好ましくは80:20から65:35質量%の範囲にある質量比で混合されたものを含む、請求項13から16のいずれか一項に記載のバッテリー。
【請求項18】
カソードLiNbO被覆LiNi0.8Mn0.1Co0.1(NMC811)材料が、LiOHと粉砕しながら更にブレンドされ、次いで混合物が、空気の存在下でアニールされる、請求項17に記載のバッテリー。
【請求項19】
LiOH:LiNbO被覆NMC811の割合が、1:99から10:90質量%の範囲にあり、好ましくは3:97から7:93質量%の範囲にある、請求項18に記載のバッテリー。
【請求項20】
ブレンドされたカソード材料が、700℃から800℃の範囲、例えば725℃から775℃の範囲の温度で、1から20時間、例えば8から12時間の範囲にわたり、空気の存在下でアニールされる、請求項18又は19に記載のバッテリー。
【請求項21】
アルジロダイト硫化物系LiPSClが固体電解質層を表し、LiNbO被覆LiNi0.8Mn0.1Co0.1(NMC811)材料が、LiPSClと、約70:30質量%の質量比でブレンドされ、カソード材料として使用される、請求項18から20のいずれか一項に記載のバッテリー。
【請求項22】
ケイ素アノード系固体バッテリーを組み立てるための方法であって、
(i)ケイ素アノード材料を形成するため、片面又は両面ケイ素フィルムを集電体上に堆積する工程と、
(ii)電解質層を、ケイ素フィルムに接触させて設ける工程と、
(iii)カソード層を、電解質層に接触させて設ける工程と、
を含む、方法。
【請求項23】
工程(ii)が、電解質粉末をケイ素アノードフィルム上に圧縮し、それによって固体電解質層を形成することによって行われ、又は工程(ii)が、スラリーコーティング、物理気相成長(PVD)、化学気相成長(CVD)、パルス化レーザ堆積(PLD)、スパッタリング、及び/又は電気化学噴霧を含むフィルム形成法によって行われる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
集電体上に堆積された本質的に純粋な非晶質多孔質ケイ素フィルムを含み且つ複数の柱状構造を含むケイ素アノードの、固体バッテリーにおける使用。
【請求項25】
バッテリー、好ましくは固体バッテリーで使用されるアノード材料であって、(i)集電体上に堆積された本質的に純粋な非晶質多孔質ケイ素フィルムを含み且つ複数の柱状構造を含む、ケイ素アノードを含み、複数の柱状構造が、基底面での閉鎖固着点から収束し且つそこから上向きに拡がる、60°から85°、例えば70°から80°の範囲の平均円錐角αを有する円錐台形状の構造である、アノード材料。
【請求項26】
本質的に平面状の集電体のいずれかの面に、物理気相成長(PVD)、化学気相成長(CVD)、パルス化レーザ堆積(PLD)、スパッタリング、及び/又は電気化学噴霧によって堆積された、両面ケイ素アノード材料を含む、請求項25に記載のアノード材料。
【請求項27】
円錐台形状の構造が、基底面に本質的に垂直な柱状構造を形成する、本質的に円筒状の部分へと拡がる、請求項25又は26に記載のアノード材料。
【請求項28】
円錐台形状の構造が、所与の半径Rを有する本質的に凸型のドーム形状の端部へと拡がり、したがって基底面から離れた方向を向いた「アイスクリーム」前端を形成する、請求項25から27のいずれか一項に記載のアノード材料。
【請求項29】
基底面の縦軸に沿って構造が基底面に接触する固着点から、基底面の遠位点までの平均距離が、SEM画像に示される断面から推定されるように、3μmから15μmの範囲、例えば4μmから10μmの範囲にある、請求項25から28のいずれか一項に記載のアノード。
【請求項30】
円錐の、又は柱状部分であってそこで柱状部分の半径に該当する柱状部分の平均距離が、円錐の最も広い部分に基づき、SEM顕微鏡法により決定された、10μm毎の円錐の測定値を平均して、0.5μmから15μm、例えば1.0μmから10μmの範囲にある、請求項25から29のいずれか一項に記載のアノード。
【請求項31】
請求項25から30のいずれか一項に記載のアノード材料を含む、再充電可能なリチウムイオンバッテリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオンバッテリーに関し、より詳細には、ケイ素アノードを含む固体リチウムイオンバッテリーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ、ビデオカメラ、及び携帯電話等の通信デバイスが普及し続けるにつれ、現在では高密度再充電可能リチウムイオンバッテリーが、あらゆる種類の電子デバイスにおいて一般的である。それらの広範な用途にも関わらず、科学者等は、伝統的なLiイオン液体電解質バッテリー技術が既にその全体的な潜在能力に近付いており且つ新しいタイプのバッテリーが必要であると考えている。更になお、現在市販されているリチウムイオンバッテリーは、典型的には、燃焼性、可燃性、及びしばしば有毒である溶媒を含有する有機電解質溶液を用いる。したがって、リチウムイオンバッテリーの使用に関して安全性及び動作温度の懸念がある。
【0003】
より最近では、固体又は半固体である電解質層が電解質溶液の代わりに使用され且つ可燃性有機溶媒を含有しない、固体リチウムイオンバッテリーに、著しい関心が持たれている。固体バッテリーは、リチウムイオン液体電解質バッテリーの場合に非常に類似しているが、その主な相違は、液体電解質の代わりとして固体又は半固体の電解質を使用することである。
【0004】
今日まで公知の固体電解質には、有機及び無機材料、例えば酸化物、硫化物、リン酸塩、ポリエーテル、ポリエステル、ニトリル系、ポリシロキサン、ポリウレタンが含まれ、例えばガラス、セラミック等の材料をこの目的で使用することができる。バッテリーの性能は、使用される電解質のタイプに依存し、例えばセラミックは、その高い弾性率に起因して硬質バッテリーシステムに更に適しており、一方、ポリマーの低い弾性率は、柔軟なデバイスに適合させる。より最近では、硫化物系固体電解質材料が、例えばUS2020/0087155A1及びUS2021/0143413A1に記載されている。また、様々な形態を持つケイ素アノードも開示されており、例えばケイ素ナノワイヤがEP3876311に示されている。
【0005】
しかしながら、リチウム系バッテリー性能の改善を制限する主な障害の1つは電極/電解質界面であり、これは電子及びLiイオンが結合し、次いでインターカレーション、合金化を介して又は単にLi金属として電極で保存されるようになる場所であるので、バッテリー性能の鍵となるものである。公知の固体電解質及び電極材料の組合せは、新しい固体電解質界面が自発的に形成されるので、サイクル動作中にリチウムイオンを失い易い。更に公知のアノード材料は、バッテリー動作中に膨潤し易く、その結果、最終的には構造的完全性が失われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US2020/0087155A1
【特許文献2】US2021/0143413A1
【特許文献3】EP3876311
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Barrett, E. P.; Joyner, L.G.; Halenda, P. P. (1951)、「The Determination of Pore Volume and Area Distributions in Porous Substances. I. Computations from Nitrogen Isotherms」、Journal of the American Chemical Society、73(1): 373~380
【非特許文献2】Brunauer, S.; Emmett, P. H.; Teller, E. (1938)、「Adsorption of Gases in Multimolecular Layers」、Journal of the American Chemical Society、60(2): 309~319
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、固体バッテリー性能の障害の1つ又は複数を軽減するバッテリー組成物を有することが望ましいと考えられる。更になお、増大したサイクル寿命及び/又はサイクル性能を持つ、改善された電極材料を含む固体バッテリーが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって本開示は、
(i)集電体上に堆積された本質的に純粋な非晶質多孔質ケイ素フィルムを含み且つ複数の柱状構造を含む、ケイ素アノードと、
(ii) 1種又は複数の固体成分を含む、電解質層と、
(iii)カソード活性材料を含む、カソード層と、
を含む、リチウムイオンバッテリーに関する。
【0010】
第2の態様では、本開示は更に、ケイ素アノードの使用に基づく固体又は半固体バッテリーを組み立てるための方法であって、(i)アルジロダイト硫化物系固体電解質粉末を、ケイ素アノード層上に均質に分布させ、圧力下で圧縮させ、(ii)カソード混合粉末が、先の工程で形成された層の上部に均質に分布された後、(iii)アルミニウム集電体を、カソード混合粉末の上部に配置し、(iv)圧力を加えて全てのバッテリー材料を圧縮することにより、固体バッテリーを形成することを、含む方法に関する。
【0011】
本開示は、多重積層固体バッテリーを組み立てるための方法であって、(i)アルジロダイト硫化物系電解質粉末を、ケイ素アノード層上に均質に分布させる工程と、(ii)カソード混合粉末を、硫化物系電解質粉末上に均質に分布させる工程と、(iii)アルミニウム集電体を、カソード混合粉末上に配置する工程と、(iv)アルジロダイト硫化物系固体電解質粉末をカソード混合粉末上に均質に分布させた後、カソード混合粉末を、アルミニウム集電体の他方の面上に均質に分布させる工程と、(v)両面堆積ケイ素アノードを、アルジロダイト硫化物系固体電解質粉末上に付着させる工程と、(vi)工程(ii)~(v)、(iv)を繰り返すことにより、最後に、圧力を加えて、電解質粉末及びケイ素アノード層を含む上記構成要素を圧縮して、多重積層固体バッテリーを形成する工程とを含む、方法にも関する。
【0012】
更に他の目的は、電解質、カソード、セパレータ、及び本発明による複合体材料又は本発明による方法に従い得ることが可能な複合体材料を含むバッテリーを、提供することである。
【0013】
他の態様では、本発明は、バッテリーにおける又はバッテリーを製造するための、本発明による複合体材料又は本発明による方法に従い得ることが可能な複合体材料の、使用を提供する。
【0014】
他の態様では、本発明は、バッテリーで、好ましくは固体バッテリーで使用されるアノード材料であって、(i)集電体上に堆積された、本質的に純粋な非晶質多孔質ケイ素フィルムを含み且つ複数の柱状構造を含む、ケイ素アノードを含み、複数の柱状構造が、65°から85°、好ましくは70°から80°の範囲の平均円錐角αを有し、基底面の閉鎖固着(closed anchoring)点から収束し且つそこから上向きに拡がる円錐台形状の構造である、アノード材料に関する。
【0015】
本開示は、以下の図を参照することにより、本発明に関して理解され得る。例示的な図は、限定すると考えるべきではなく、代わりに説明及び理解の目的のためと考えるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】全固体バッテリーにおける片面ケイ素アノードの実施例の断面を示す図である。図Aにおいて、単位体(item)1はアノード集電体としての銅箔を表し、単位体2はケイ素フィルムを表し、単位体3は固体電解質層を表し、単位体4はカソード混合物層を表し、及び単位体5は、典型的にはアルミ箔であってもよいカソード集電体を表す。単位体1及び2は、本発明におけるユニットと考えるべきである。
図1B】全固体バッテリーにおける両面ケイ素アノードの実施例の断面を示す図である。単位体1から5は、図1Aにおけるものと同じである。
図2A】片面堆積ケイ素アノードの上部の実施例を示す図である。
図2B】片面堆積ケイ素アノードの断面SEM画像の実施例を示す図である。
図2C】両面堆積ケイ素アノードの断面SEM画像の実施例を示す図である。全ての図で注目すべきは、本質的に平行な柱状構造を含み得るが基底面と柱状中心軸との間に角度が形成されるように配置構成されていてもよい、柱状構造である。そのような形状は、典型的には積層コーン、アイスクリームコーン、又は積層コーン構造とも呼ばれる。そのように積層されたコーン及び/又はアイスクリームコーンの直径は、1から10μmに及ぶことができる。これらの構造のばらつきにも関わらず、多くのタイプのシリコーンアノード材料が、本発明の組成物での使用に適している。
図3A】固体半電池における種々の質量負荷による、片面ケイ素アノードの電気化学速度性能の3つの実施例を示すグラフである。アルジロダイト硫化物系LiPSClが固体電解質層として使用され、リチウム及びインジウム金属箔が対極として使用される。これらの図3A図3B図3C、及び図3Dでは、速度性能は、種々の質量負荷によるSiアノードに関して示され、1CレートはSi質量に対して3000mAh/gと定義される。
図3B】固体半電池における種々の質量負荷による、片面ケイ素アノードの電気化学速度性能の3つの実施例を示すグラフである。アルジロダイト硫化物系LiPSClが固体電解質層として使用され、リチウム及びインジウム金属箔が対極として使用される。これらの図3A図3B図3C、及び図3Dでは、速度性能は、種々の質量負荷によるSiアノードに関して示され、1CレートはSi質量に対して3000mAh/gと定義される。
図3C】固体半電池における種々の質量負荷による、片面ケイ素アノードの電気化学速度性能の3つの実施例を示すグラフである。アルジロダイト硫化物系LiPSClが固体電解質層として使用され、リチウム及びインジウム金属箔が対極として使用される。これらの図3A図3B図3C、及び図3Dでは、速度性能は、種々の質量負荷によるSiアノードに関して示され、1CレートはSi質量に対して3000mAh/gと定義される。
図3D】固体半電池における種々の質量負荷による、片面ケイ素アノードの電気化学速度性能の3つの実施例を示すグラフである。アルジロダイト硫化物系LiPSClが固体電解質層として使用され、リチウム及びインジウム金属箔が対極として使用される。これらの図3A図3B図3C、及び図3Dでは、速度性能は、種々の質量負荷によるSiアノードに関して示され、1CレートはSi質量に対して3000mAh/gと定義される。 インジウム金属は、リチウム金属と固体電解質LiPSClとの間の寄生反応を回避するのに使用される。全固体半電池は、全固体バッテリーにおけるアノードとしてのケイ素フィルムの実現可能性を検証するために試験される。実に明らかに、実施例の結果は、本発明のケイ素アノードが、固体バッテリーにおいて優れたリチウムイオンホスト能力を発揮することを示す。
図4】全固体半電池における片面ケイ素アノードの電気化学サイクル性能の実施例を示すグラフである。アルジロダイト硫化物系LiPSClが固体電解質層として使用され、リチウム及びインジウム金属箔が対極として使用される。
図5A】全ての全固体バッテリーにおける本発明による片面ケイ素アノードの電気化学速度性能の2つの実施例を示すグラフである。アルジロダイト硫化物系LiPSClが固体電解質層として使用され、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物混合物(LiNi0.6Mn0.2Co0.2、NMC622カソード活性粉末であってLiPSClと混合されたもの、及び伝導性炭素粉末)が、カソードとして使用される。
図5B】全ての全固体バッテリーにおける本発明による片面ケイ素アノードの電気化学速度性能の2つの実施例を示すグラフである。アルジロダイト硫化物系LiPSClが固体電解質層として使用され、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物混合物(LiNi0.6Mn0.2Co0.2、NMC622カソード活性粉末であってLiPSClと混合されたもの、及び伝導性炭素粉末)が、カソードとして使用される。
図6】全ての全固体バッテリーにおける、本発明による片面ケイ素アノードの電気化学サイクル性能の実施例を示すグラフである。アルジロダイト硫化物系LiPSClが固体電解質層として使用され、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物混合物(LiNi0.6Mn0.2Co0.2、NMC622カソード活性粉末であってLiPSClと混合されたもの、及び伝導性炭素粉末)がカソードとして使用される。
図7A】全固体バッテリーにおける本発明による片面ケイ素アノードの、電気化学サイクル性能の実施例を示すグラフである。アルジロダイト硫化物系LiPSClが固体電解質層として使用され、リチウムニオブ酸化物(LiNbO)でコーティングされたリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LiNbOでコーティングされたLiNi0.8Mn0.1Co0.1、NMC811カソード活性粉末)であってLiPSCl粉末と混合されたものが、カソードとして使用される(実施例におけるNMC811:LiPSClの質量割合は70:30質量%である)。
図7B】全固体バッテリーにおける本発明による片面ケイ素アノードの、電気化学サイクル性能の実施例を示すグラフである。アルジロダイト硫化物系LiPSClが固体電解質層として使用され、リチウムニオブ酸化物(LiNbO)でコーティングされたリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LiNbOでコーティングされたLiNi0.8Mn0.1Co0.1、NMC811カソード活性粉末)であってLiPSCl粉末と混合されたものが、カソードとして使用される(実施例におけるNMC811:LiPSClの質量割合は70:30質量%である)。 全固体バッテリーのこの実施例では、アルジロダイト硫化物系LiPSClを固体電解質層として使用し、LiOH処理したLiNbOコーティングNMC811であってLiPSClと70:30質量%の質量割合で混合されたものを、カソードとして使用した。
図8A】全固体バッテリーにおける、本発明による片面ケイ素アノードの電気化学サイクル性能の実施例を示すグラフである。ここで、カソード活性材料LiNbOコーティングNMC811は、更にLiOHを使用することにより、単にLiOH粉末及びNMC811粉末をある特定の質量割合で粉砕し混合することによって処理されるので、次いで混合物は更に、空気中、ある特定の温度でアニールされる。この実施例では、NMC811をコーティングするLiOH:LiNbOの質量割合は5:95質量%であり、その後、混合物は、空気に接触させた状態で10時間、750℃でアニールした。
図8B】全固体バッテリーにおける、本発明による片面ケイ素アノードの電気化学サイクル性能の実施例を示すグラフである。ここで、カソード活性材料LiNbOコーティングNMC811は、更にLiOHを使用することにより、単にLiOH粉末及びNMC811粉末をある特定の質量割合で粉砕し混合することによって処理されるので、次いで混合物は更に、空気中、ある特定の温度でアニールされる。この実施例では、NMC811をコーティングするLiOH:LiNbOの質量割合は5:95質量%であり、その後、混合物は、空気に接触させた状態で10時間、750℃でアニールした。
図9】[図9A]リチウムバッテリーで使用される、本発明によるケイ素アノード材料を概略的に示す図である。ここでアノード構造は、リチウム化の前に見られるものである。 [図9B]リチウムバッテリーで使用される、本発明によるケイ素アノード材料を概略的に示す図である。ここでアノード構造は、リチウム化の後に見られるものである。 [図9C]実際に試験をした材料に対するこの影響を示す、SEM画像を示す図である。集電体(1)上には、ノジュールが付加される(2)。本発明者等の場合、これは銅ノジュールを持つ銅箔であるが、この考えは、異なる基材に適用可能とすることができる。 [図9D]実際に試験をした材料に対するこの影響を示す、SEM画像を示す図である。集電体(1)上には、ノジュールが付加される(2)。本発明者等の場合、これは銅ノジュールを持つ銅箔であるが、この考えは、異なる基材に適用可能とすることができる。 [図9E]ノジュール間の平均隙間(a)を画定する、構造の距離及びサイズを示す図である。初期成長の角度は基底面に垂直であり、したがってbに関する開始平均値(外側円錐角βを表す);柱状構造の上端の角度γ;構造の平均高さsは、好ましくは0.25μmから3μmの範囲にある。これにより、ピラーの高さは質量負荷に依存することに留意されたく、好ましくは約1.5mg/cm=10μmである。 この最も幅の広い点での柱状構造又はノジュールの平均半径は、好ましくは0.125μmから1μmの範囲にある。柱状構造のドーム形状上部の好ましい平均半径は、好ましくは0.1μmから5μmの範囲にある。
【発明を実施するための形態】
【0017】
他に定義されない限り、本明細書における全ての技術及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書における本発明の記述で使用される用語は、単に実施形態について記述することを目的とし、本発明を限定するものではない。
【0018】
本明細書で使用される「全固体バッテリー」という用語は、ケイ素アノード、混合カソード、及びそれらの間のアルジロダイト固体電解質層を指す。
【0019】
「半固体バッテリー」という用語は、ケイ素アノード、混合カソード、及びそれらの間の半固体電解質層を指し、この電解質は、例えばゲル又は濡れた砂の構成にある固体成分を含む。
【0020】
本明細書で使用される「ケイ素アノード」という用語は、銅集電体の片面又は両面に直接堆積されるケイ素フィルムを指す。
【0021】
本明細書で使用される「ケイ素フィルム」という用語は、ケイ素から本質的になる非晶質多孔質ケイ素構造であって、複数の柱及びケイ素の柱の中のナノサイズの一次粒子がプラズマ強化化学気相成長(PECVD)法により生成されたものを指す。
【0022】
本明細書の「ケイ素フィルム」という用語は、ケイ素、水素化ケイ素、又はドープ型ケイ素であって、非晶質若しくは結晶質のいずれかであるもの、又は非晶質及び結晶質の混合物からなる層を指す。
【0023】
アノード材料は、好ましくは、
i)集電体材料層と、
ii)集電体材料層上に堆積された少なくとも第1のケイ素層と、
を含む、複合体電極材料である。
【0024】
ケイ素フィルム又は層は、いくつかの異なる層を含んでいてもよく、好ましくは5から50μmの厚さを、0.1~4mg/cmの質量負荷で有する。本明細書に記述されるケイ素フィルムの厚さ及び質量負荷は、限定するものではなく、より薄く且つより軽く、又はより厚く且つより重くできることに留意されたい。
【0025】
本明細書の「非晶質ケイ素」という用語は、ある割合のナノ結晶質ケイ素を含む非晶質ケイ素と定義することができる、プロクリスタリン(procrystalline)ケイ素を含むことを指す。この割合は、ナノ構造化ケイ素層の約30%までであってもよい。
【0026】
任意の第1のケイ素のセミコレクター(semicollector)材料層及び1つの層の表面領域は、その他の層の表面領域に直接接触している。
【0027】
本発明による任意の第1のケイ素層は、好ましくは低い多孔度を有し、それによって、ケイ素活性材料と集電体材料層との取着を増大させることが可能になり、それと共に、第2のケイ素層の取着増大のための基材としても働く。したがって任意の第1のケイ素層の高い多孔度は、増大した取着を低減させ得る。好ましくは、本発明による任意の第1のケイ素層は、30、20、又は15%未満の、より好ましくは10、9、8、7、又は6%未満の、最も好ましくは5、4、3、2、又は1%未満の多孔度を有する。
【0028】
ケイ素層の多孔度は、一般に、ISO 15901-2:2006に準じてBarrett-Joyner-Halenda(BJH)法によって決定される。ISO 15901-2:2006は、以下に更に詳細に説明される、気体吸着による多孔度及び孔径分布を評価するための方法について、記述する。しかしながら本発明によるケイ素層は、多孔度が異なる多数の層を含んでいてもよい。
【0029】
第2のケイ素層の生成は、その形成及び特定の構造に関する基材として、任意の第1のケイ素層を必要とし得る。複合体電極材料の生成後、多数のケイ素層は、層を損傷又は破損させることなく確実に分離することができず、それによってその多孔度が変化する。したがってBJH法(ISO 15901-2:2006に準じる)は、複数のケイ素層が存在するとき、複合体電極材料の個々のケイ素層のそれぞれの正確な多孔度を決定するのにそれほど適していない。
【0030】
生成された複合体電極材料の断面電子顕微鏡法画像の分析は、本発明による複合体材料の個々のケイ素層の多孔度を決定するのに好ましい。分析は、画像の目視検査によって、又は例えば適切な閾値を使用した画素強度の差を介してケイ素材料をケイ素層内の空隙空間と区別するように構成される画像分析アルゴリズムを使用することにより自動的に、行うことができる。したがって本発明によれば、ケイ素層、好ましくは任意の第1の層、第2の又は追加の層、より好ましくは任意の第1又は追加の層の多孔度は、好ましくは電子顕微鏡法によって決定される。
【0031】
或いは、本発明による複合体電極材料の断面電子顕微鏡法画像の分析は、多数のケイ素層、例えば本発明による第1のケイ素層及び第2のケイ素層の多孔度を決定するため、ISO 15901-2:2006に準じるBJH法と有利に組み合わせることができる。
【0032】
BJH法の結果のデータは、画像分析アルゴリズムと組み合わせることができる。例えばBJH法は、多数のケイ素層を含む本発明による複合体電極の多孔度を測定するのに最初に使用される。次にアルゴリズムは、多数のケイ素層を含む本発明による複合体電極の断面電子顕微鏡法画像を分析することにより、ケイ素層の多孔度を決定することができ、その後、決定された多孔度を、BJH法の履歴データと比較し、これは単一ケイ素層の比多孔度を決定するのに使用されたものである。次いでアルゴリズムは、単一層の履歴BJHデータを使用して、多数のケイ素層の多孔度を、最新のBJHデータも使用しつつ決定することができる。
【0033】
本発明による少なくとも第2のケイ素層は、任意の第1のケイ素層又は集電体材料層のいずれかに存在し又は位置決めされ、1つの層の表面領域は、他の層の表面領域に直接接触する。
【0034】
本発明による少なくとも第2のケイ素層は、任意の第1の層よりも高い多孔度を有する。第1の層が存在しないとき、第2の層は任意の多孔度を有することができるが、80%未満である。高い多孔度は、ケイ素活性材料のより大きい体積膨張を可能にし、その結果、リチウム化及び脱リチウム化サイクル中の応力が少なくなり且つ破損のリスクが少なくなる。更に、電解質相でのリチウムイオン輸送は、ケイ素層の高度に多孔質の構造によって増大する。
【0035】
好ましくは、本発明による第2のケイ素層は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10%よりも高い、より好ましくは5、6、7、又は8%よりも高い多孔度を有する。十分な量のケイ素活性材料は、エネルギー貯蔵のために存在する必要がある。したがって本発明によれば、第2のケイ素層は、好ましくは5、10、又は15から20、25、30、35、40、45、50、55、60、70、又は80%、より好ましくは6、7、8、9、又は10から18、20、25、又は30%、最も好ましくは6又は8から18%の多孔度を有する。
【0036】
本発明による第2のケイ素層は、好ましくは、任意の第1のケイ素層の多孔度よりも高い多孔度から、80、70、60、55、50、45、40、35、又は30%未満、より好ましくは30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、又は19%未満、最も好ましくは20又は19%未満の多孔度に及ぶ、多孔度を有する。
【0037】
本発明による第2のケイ素層の多孔度は、電子顕微鏡法によって、又はISO 15901-2:2006に準じてBJH法により、決定することができる。ISO 15901-2:2006に準じるBJH法には、電子顕微鏡法よりも速く且つ面倒の少ない分析方法であるという利点がある。本発明による第2の層又は追加の層の比多孔度パーセンテージは、ISO 15901-2:2006に準ずるBJH法によって決定することができる。したがって、本発明による第2の又は追加のケイ素層の多孔度は、以下に更に詳細に説明するISO 15901-2:2006に準じるBJH法によって、決定することができる。
【0038】
本発明による材料の多孔度及び(平均)孔径は、好ましくは、ISO(国際標準化機構)規格: ISO 15901-2:2006「水銀ポロシメトリー及び気体吸着による固体材料の孔度分布及び多孔度-パート2:気体吸着によるメソ細孔及びマクロ細孔の分析」により指定された方法により、窒素ガスを使用して、決定される。本発明による材料の比表面積は、好ましくは、ISO規格: ISO 9277:2010「気体吸着による固形分の比表面積の決定-BET法」により指定された方法に従い、窒素ガスを使用して、決定される。簡単に言うと、両方のISO法に関し、N吸着-等温線は、約-196℃(液体窒素温度)で測定される。
【0039】
Barrett-Joyner-Halendaの計算方法(Barrett, E. P.; Joyner, L.G.; Halenda, P. P. (1951)、「The Determination of Pore Volume and Area Distributions in Porous Substances. I. Computations from Nitrogen Isotherms」、Journal of the American Chemical Society、73(1): 373~380)によれば、孔径及び細孔容積を決定することができる。比表面積は、Brunauer-Emmett-Tellerの計算方法(Brunauer, S.; Emmett, P. H.; Teller, E. (1938)、「Adsorption of Gases in Multimolecular Layers」、Journal of the American Chemical Society、60(2): 309~319)により、同じ等温線から決定することができる。両方の計算方法は、当技術分野で周知である。等温線を決定する簡単な実験試験法は、以下の通り記述することができる:試験試料を、高温で且つ不活性雰囲気下で乾燥する。次いで試料を測定装置に入れる。次に試料を真空下にし、液体窒素を使用して冷却する。試料を、等温線の記録中に液体窒素温度で保持する。
【0040】
本明細書における「空隙空間」又は「空隙構造」という用語は、複合体電極の成分を含有しないケイ素層領域を意味することが理解される。空隙空間又は構造は、空であり、又は雰囲気(液体又は気状)流体で満たされる。空隙空間又は構造は、複合体電極材料の使用中にケイ素が膨張する領域を提供する。更に電解質、又はリチウム(イオン)を含む電解質は、バッテリー内の複合体電極材料の使用中、空隙空間又は構造に存在することができる。空隙空間又は構造の寸法の決定は、好ましくは電子顕微鏡法による層又は材料の断面画像の分析によって行われ、この断面は、集電体材料の表面に垂直なものである。空隙空間又は構造の寸法は、好ましくは空隙空間又は構造の連続領域上で、層又は材料の断面画像の分析によって決定される。
【0041】
本発明による少なくとも第2のケイ素層は、好ましくは、1から10nmの平均幅を有する複数の空隙構造を含む。本発明による追加のケイ素層は、1から10nmの平均幅を有する複数の空隙構造を含むことができる。追加のケイ素層の空隙構造の存在は、追加のケイ素層の多孔度に依存する。好ましくは、空隙構造は、細長い管状構造、チャネル、及び/又は複数の相互連結された細孔を含む。空隙構造はほとんどが、集電体材料の表面に垂直な断面電子顕微鏡画像から決定できるように、集電体材料の表面に対する垂直角に対して実質的に斜めの配向を有する。好ましくは、本発明による空隙構造は、1、2、3、4、又は5から6、7、8、9、又は10nmの平均幅を有する。本発明による空隙構造は、ケイ素層の厚さまでの長さを有することができる。それらの幅は、それらの長さに沿って様々にすることができる。典型的な空隙構造を、図2及び図3に具体化する。
【0042】
好ましくは、本発明によるアノード材料は、第2のケイ素層の上部に存在する又は位置決めされる追加のケイ素層を含み、必要に応じて1つ又は複数の追加のケイ素層がそれぞれ順に、それぞれ直接下に在る追加のケイ素層上に存在し又は位置決めされ、追加の各ケイ素層は、第2のケイ素層及び/又は直接下に在る追加のケイ素層の多孔度とは異なる多孔度を有する。本発明によれば、ケイ素層、好ましくは任意の第1の層、第2、又は追加の層、より好ましくは任意の第1の層又は追加の層の多孔度は、好ましくは電子顕微鏡法によって決定される。
【0043】
本発明による少なくとも第2のケイ素層は、勾配層とすることができ、この勾配層は、第1の表面及びこの第1の表面に対向する第2の表面と、第1の表面から第2の層における第1の表面に平行な平面までと画定された距離と共に様々になる多孔度を有し、最大距離は、第1及び第2の表面間で画定された勾配層の厚さである。本発明による追加のケイ素層は、勾配層とすることができ、この勾配層は、第1の表面及びこの第1の表面に対向する第2の表面と、第1の表面から追加の層における第1の表面に平行な平面までと画定された距離と共に様々になる多孔度を有し、最大距離は、第1及び第2の表面間に画定された勾配層の厚さである。好ましくは、第1の表面又は第2の表面のいずれかは、第1のケイ素層に面しており接触している。好ましくは多孔度は、第1及び第2の表面の1つにおける最低多孔度から、第1及び第2の表面の他方における最高多孔度まで、様々になる。好ましくは多孔度は、第1及び第2の表面の一方から、第1の表面と第2の表面との間の点での値まで低下し、その値から、第1及び第2の表面の他方まで増大する。
【0044】
好ましくは多孔度は、第1及び第2の表面の一方から、第1の表面と第2の表面との間の点の値まで増大し、その値から、第1及び第2の表面の他方まで低下する。好ましくは点は、第1の表面又は第2の表面に平行な平面である。好ましくは点は、最大距離の5から95%の距離にあり、最大距離は、第1及び第2の表面間に画定された勾配層の厚さである。より好ましくは、点は、最大距離の20から80%の距離にあり、より好ましくは30又は40から60又は70%の距離にある。好ましくは、点は、最大距離の約10、20、30、40、又は50%の距離にある。
【0045】
本発明による好ましい勾配層は、例えば電子顕微鏡法を介して評価したときに多孔度に関してその層に明らかな境界を持たないことが理解される。多孔度の差が、勾配層を有するケイ素層と比較したときに、本発明による種々のケイ素層の種々のより低い又はより高い多孔度に関して言及されるとき、これは勾配層を有するケイ素層の平均多孔度と比較されるものであることが理解される。
【0046】
本発明による複合体材料の好ましい多層構成は、それぞれ隣接するケイ素層とは異なる多孔度をそれぞれが有するケイ素層の積層体を予見する。そのような構成では、第2のケイ素層の第1の、好ましくは底部の表面領域は、集電体材料層に直接接触する表面領域に好ましくは対向する任意の第1のケイ素層の表面領域に直接接触し、第2のケイ素層の第2の、好ましくは対向する表面領域は、追加のケイ素層の第1の、好ましくは底部の表面領域に直接接触する。或いは第2のケイ素層の第1の、好ましくは底部の表面領域は、集電体の表面領域に直接接触し、第2のケイ素層の第2の、好ましくは対抗する表面領域は、追加のケイ素層の第1の、好ましくは底部の表面領域に直接接触する。
【0047】
更に、任意の1つ又は複数の追加のケイ素層のそれぞれの第1の、好ましくは底部の表面領域は、それぞれ直接下に在る追加のケイ素層の第2の、好ましくは対向する表面領域に直接接触する。多層構成の例を、図1に例示する。本発明による複合体材料は、好ましくは、より低い多孔度を有する層及びより高い多孔度を有する層が互いに交互に積層されるように形成された多数のケイ素層を含む。本発明による複合体材料は、好ましくは、1つ又は複数のケイ素層、好ましくは任意の第1の層、第2の及び/又は追加のケイ素層を、集電体材料の片面のみに又は集電体材料の両面のそれぞれに含む。
【0048】
有利には、本発明による複合体材料は、好ましくは1から30又は50μm、好ましくは5又は10から15又は20μmの合わせた厚さ、或いは0.1から4mg/cm、好ましくは0.5、0.8、1.0、2.0から2.5、3.5、又は4.0mg/cmの質量負荷を有するケイ素層を含む。合わせた厚さ又は質量負荷は、集電体材料層の片面に存在するケイ素層に関する。
【0049】
本明細書の「アルジロダイト固体電解質層」という用語は、アルジロダイト硫化物系電解質であって、PS43-、S2-、並びにハロゲン化物アニオン及びリチウムカチオンから構成されるもの(例えば、Li7P3S11、Li6PS5Cl、Li6PS5Br等)を指し、層は、圧力下で形成される。
【0050】
本明細書の「混合カソード」という用語は、カソード活性材料、アルジロダイト硫化物系粉末、及び伝導性炭素材料を、ある特定の質量比で含むものを指す。カソード活性材料は、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物又はリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物又はリチウムマンガンスピネル又はリチウム鉄リン酸塩の1つ又は組合せとすることができる。
【0051】
アルジロダイト硫化物系は、PS43-、S2、及びハロゲン化物アニオン、及びリチウムカチオンから構成される(例えば、Li7P3S11、Li6PS5Cl、Li6PS5Br等)。伝導性炭素材料は、カーボンブラック、カーボンナノ繊維、又はガラス状炭素材料の1つ又はいくつかの組合せからなる。
【0052】
本発明によるアノード材料、及び/又はアノード及びカソード材料の両方は、固体又は半固体電解質バッテリーで首尾良く用いることができる。対象のバッテリー、特にアノード材料は、アノード活性材料層に物理的に接触しているアノード保護層を使用し且つ室温で測定したときに1%から1000%の完全に回復可能な引張り弾性歪み及び10-8S/cmから5×10-2S/cmのリチウムイオン伝導度を有するポリマー材料で構成される、カソードとアノードとの間に配置された多孔質セパレータのない半固体電解質を用いたときにも有用であることが証明された。
【0053】
本発明によるケイ素フィルムは、好ましくは、半固体又は固体バッテリー用のアノードとして使用されるように設計される。
【0054】
固体バッテリーの場合、好ましくは、(i)非晶質構造の100%ケイ素層複合を含み、(ii)多孔質ケイ素層は、複数の柱及びナノサイズの一次粒子をケイ素柱に含み、(iii)表面にケイ素フィルムが直接堆積される銅集電体、(iv)アルジロダイト硫化物系電解質層又はパレット、及び(v)リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物又はリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物又はリチウムマンガンスピネル又はリチウムイオンリン酸塩のカソード活性材料、アルジロダイト硫化物系粉末、伝導性炭素材料の1種又は組合せを含むカソード混合物を、含む。
【0055】
ケイ素層は、ナノ結晶質領域が存在し得る非晶質構造を、有利に含み得る。更に、本発明によれば、非晶質構造の空乏は、ナノサイズの一次粒子で10~40nmの孔径の細孔の形成を、構造においてもたらす。複数の柱を含む構造は、好ましくは、大きい多孔度、好ましくは電子顕微鏡法により決定される、10%から80%未満の多孔度の範囲も示す。
【0056】
この独自の構造化ケイ素アノードの利点は、ケイ素アノードの膨潤挙動を、電気化学的リチウム化中に制限することができることである。
【0057】
リチウムイオンバッテリーのアノードとして使用されるときのケイ素アノードは、好ましくは、金属又は金属合金、好ましくは銅、ニッケル、又はチタン集電体を含む。更にケイ素層は、好ましくは1μmから30μmの範囲の厚さを有していてもよい。更にケイ素層は、好ましくは0.25から4.0mg/cmまでの質量負荷を有していてもよい。
【0058】
その結果、ケイ素アノードの比容量は、最大0.75mAh/cmから12mAh/cmまで到達することができる。
【0059】
本発明による固体バッテリーのケイ素アノードの使用に関する特定の利益は、固体電解質界面(SEI)が、ケイ素層と固体アルジロダイト硫化物系電解質との間にのみ形成され易くなることである。
【0060】
特定の理論に拘泥するものではないが、このように形成されたSEIは、リチウムイオン伝導体及び電子ブロッカーとして作用し得ると考えられる。従来の液体電解質と比較すると、リチウムイオンの輸送及び電子経路は、ケイ素アノード系固体バッテリーにおいて三次元(3D)から二次元(2D)に変化することが観察された。それによってケイ素の柱は、電子及びリチウムイオンを輸送するトンネルとして作用し得る。更にSEIは、電解質との直接接触がないので、ケイ素層の深さで形成されることが予測されない。このように新しいSEIの自発的形成におけるリチウムイオン損失は、サイクル動作中、固体バッテリーのケイ素アノードに関して省略される。
【0061】
好ましくは、固体電解質層(ii)は、アルジロダイト硫化物系固体電解質を含む。好ましくは、ケイ素複合体アノード材料は、ケイ素フィルムと、銅、ニッケル又はチタン集電体とを含む。
【0062】
好ましくは、カソード層は、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、リチウムマンガンスピネル、リチウム鉄リン酸塩から選択されるカソード活性材料、及び伝導性炭素材料を含む。
【0063】
好ましくは、ケイ素複合体材料は、本質的にケイ素のみからなり、ナノ結晶質領域を含む非晶質構造を示す。
【0064】
好ましくは、ケイ素層は、複数の柱、及びナノサイズの一次粒子がケイ素の柱にある、多孔質ケイ素構造を有する。
【0065】
ケイ素柱状構造は、典型的には中心軸を有する、種々の形で配置構成されてもよい。しかしながらこれらの柱状構造は、基底面と中心軸との間に角度が形成されるように配置構成されてもよい。いかなる特定の理論にも拘泥するものではないが、これはより多くのケイ素の堆積後の核化及びその後のバリスティック成長の結果であり得ると考えられる。集電体材料の表面の粗さに応じて、これらの構造の中心軸は、基底面に対して、厳密に垂直な位置から逸れる可能性がある。そのような成長が行われると、積層コーンの形状、アイスクリームコーン形状、又は反転積層コーン構造が形成され得る。構造の直径は、都合良く10μmから200μmに、好ましくは80μmから120μmに及んでもよく、例えば100μmである。これらの構造のばらつきにも関わらず、ケイ素アノード材料は一般に、本発明の組成物での使用に適している。
【0066】
本発明による積層コーンは一般に、基底面の閉鎖固着点から収束してそこから上向きに拡がる、円錐角αが65°から85°である、好ましくは70°から80°である円錐台状本体を本質的に含む。このテーパー部分からの拡がりは、本質的に円筒部分であってもよく、したがって基底面に本質的に垂直な柱状構造、又は凸形、ドーム形状の端部であって、所与の半径Rを有するものが形成され、したがって、基底面から離れた方向を向いた「アイスクリーム」前端、又は樹状構造が形成される。基底部分の縦軸に沿って構造が基底面に接触する固着点から、基底面の最も遠位にある点までの平均距離は、3μmから15μmの範囲にある。好ましくは、この平均長さは、SEM画像に示される断面から推定されるように、4μmから10μmの範囲にある。ケイ素柱状構造の巨視的構造は、有利には、SEM撮像を介して分析される。上図(図2A)では、非常にコンパクトな柱状形態が見られ、いくつかの柱の先端は、他よりも嵩高く見える。好ましくは、本発明によるアノード材料は、両面物理気相成長(PVD)、化学気相成長(CVD)、パルス化レーザ堆積(PLD)、スパッタリング、及び/又は電気化学スプレー堆積ケイ素アノードを、本質的に平面の集電体のいずれかの面上に含む。円錐台形状の構造は、本質的に円筒状の部分へと拡がって、基底面に本質的に垂直な柱状構造;又は凸状の、ドーム形状の端部であって所与の半径Rを有するものを形成してもよく、したがって、基底面から離れた方向を向いた「アイスクリーム」前端を形成する。
【0067】
好ましくは、基底部分の縦軸に沿った、構造が基底面に接触する固着点から、基底面の遠位点までの平均距離は、SEM画像に示される断面から推定されるように、3μmから15μmの範囲、好ましくは4μmから10μmの範囲にある。
【0068】
任意の柱状部分を表面に含む円錐の平均直径は、円錐の最も広い点に基づき、SEM顕微鏡法により決定された、10μm毎の円錐の測定値を平均して、0.5μmから15μm、好ましくは1.0μmから10μmの範囲にある。
【0069】
本明細書の「平均長さ」及び「平均円錐角」は、SEM顕微鏡画像から決定された、10μm当たりでカウントされた及び測定されたケイ素構造の平均を指す。円錐台形状の構造間で、通常はより小さい反転円錐形状構造が形成され、この円錐は、基底面から離れた方向に狭くなっている。いかなる特定の理論にも拘泥するものではないが、このことは、これらの構造が、隣接する部分をより速く成長させることによる成長に限定されるという結果であり得ると考えられる。
【0070】
いかなる特定の理論にも拘泥するものではないが、そのような構造の存在は、特にリチウム化中の体積変化を受けるときにアノード材料の安定性を改善するようであり、それによって、例えば稠密充填された平行柱状構造と比較して、構造間で構築される摩擦圧力が制限された状態で構造間の利用可能な空間が膨張及び収縮可能になるので、更に安定な固体電解質界面を提供し且つ経時的な及びサイクル動作の下での電極破砕を最小限に抑えることに、留意されたい。したがって本発明による本発明の材料は、少なくとも平均して1の反転円錐又はより小さい円錐を、より大きい円錐当たりで含み、より好ましくは少なくとも2から5の反転円錐又はより小さい円錐を、より大きい円錐構造当たりで含む。
【0071】
好ましくは、多孔質ケイ素層は、電子顕微鏡法により決定された、5%から80%の範囲の多孔度を有する。
【0072】
好ましくはケイ素フィルムは、好ましくはプラズマ強化化学気相成長(PECVD)法により、集電体上に直接堆積されている。
【0073】
好ましくはケイ素フィルムは、集電体の片面又は両面上に堆積することができる。
【0074】
好ましくは、ケイ素フィルムは、1μmから30μmまで、好ましくは約5μmから20μmまでの厚さを有する。好ましくはケイ素フィルムは、0.1から最大4.0mg/cmまでの範囲の質量負荷を有する。
【0075】
集電体の表面粗さは、本明細書ではある役割を演じるようであり、より粗い表面及び/又はより多くの人工物を含む表面は、少ない均一成長を促進させるようであり、それと共に、本質的に基底面に対して垂直ではない方向への成長を促進させるようであり;それに対して、それほど粗くない表面又は少ない人工物を含む表面は、平行柱状ケイ素構造のより均質な形成をもたらすようである。これは例えば、銅箔の2つの異なる表面及びその結果として2つの僅かに異なるケイ素柱状構造形態を示す図2Bに示されるように、本発明による材料によって具体化される。
【0076】
図9A及び図9Bは、固体電解質用のものを含む、リチウムバッテリーに使用される本発明によるケイ素アノード材料を概略的に示す。ここでアノード構造は、リチウム化の前(A)及び後(B)の状態が見られる。図9C及び図9Dは、実際に試験をした材料に対するこの影響を示す、SEM画像を示す。集電体基底面(1)上には、ノジュール又は凝集体が付加されており(2)、例えば銅ノジュール又は凝集体を持つ銅箔である。
【0077】
次いでノジュール又は凝集体は、特にPECVD技法を使用してそれらを成長させるときは、ケイ素柱状構造又はピラー(3)の成長のための開始点である。しかしながら、純粋なケイ素に加え、その他の化学含量、例えばケイ素合金が含まれていてもよく、本発明の範囲内に包含されるその他の堆積技法が適用されてもよい。
【0078】
凝集体又はノジュールの使用、より一般的には、典型的には互いから特定距離にある表面粗さの使用は、本質的に非垂直ピラー成長をもたらす。ピラーサイズは、球の一部が最上部にある倒置円錐形状、例えばアイスクリームコーン又は樹状形状によって記述することができる。ここで基底面の界面でのピラー距離は、ピラーの上部でのピラー距離と比較して、大きい。
【0079】
リチウムバッテリー適用におけるリチウム化中、ケイ素アノードが膨潤する。図9は、(4)で、膨潤によって引き起こされた追加の体積のアノードを示す。この膨潤は、機械的応力を引き起こす。機械的応力に対するピラーの最も脆弱な部分は、界面近くの部分である。界面付近の機械的応力は、ピラーの層剥離を引き起こして完全なピラーを不活性化する可能性がある。この層剥離は、リチウムバッテリーの寿命を低減させる。
【0080】
本開示におけるピラー間の距離は界面で大きいので、リチウム化中の界面での機械的応力は制限され、リチウムバッテリーの寿命が改善する。
【0081】
図9Eは、構造の距離及びサイズを示す。ここでノジュール又は柱状構造の中心から第2のノジュール又は柱状構造までの距離は、断面上で決定される。ここで平均全範囲は、0.25μmから1.25μm、好ましくは0.75μmから1.2μmの範囲にある。ノジュール間の平均隙間(a)は、0.1μmから1.5μmの範囲にある。
【0082】
初期成長角度は基底面に垂直であり、したがってb(外側円錐角を表す)に関する開始平均値は困難である。ノジュールが基底面上の人工物から成長を開始する場合、即ち構造の面上のある点で開始する場合、構造を形成する成長の軌道は、本質的に垂直ではない。これらの点で、平均円錐角は45°に等しく又はそれよりも大きく、その面に向かって成長するが、最終的には、より垂直な方向へとテーパーが変化することになる。したがって平均円錐角βは、60°から85°の範囲、例えば65°から80°の範囲にある。
【0083】
好ましくは、ノジュール又は構造のピークにある上端での角度γは、10°から90°の範囲にある。構造の平均高さは、好ましくは0.25μmから3μmの範囲にある。これにより、ピラーの高さは質量負荷に依存し、好ましくは約1.5mg/cmであり、これは高さ10μmに通常は対応するものであることに、留意されたい。
【0084】
その最も広い点での柱状構造又はノジュールの平均半径は、好ましくは0.125μmから1μmの範囲にある。好ましくはドーム形状である柱状構造の最上部の平均半径は、好ましくは0.1μmから5μmの範囲にある。
【0085】
好ましくは固体電解質層は、硫化物系固体電解質、好ましくはアルジロダイト、Li10GeP12(LGPS)、Li11(LPS);剥き出しの及びドープされたLiLaZr12(LLZO)ガーネット構造の酸化物;ハロゲン化固体電解質、NASICON型リン酸ガラスセラミック、好ましくは(LAGP)、酸窒化物、好ましくはリチウムリン酸窒化物又はLIPON;及びポリマー、好ましくはPEO又はPVA、又はこれらの任意の組合せから選択される電解質を含む。
【0086】
好ましくはカソード層は、カソード活性材料、固体電解質、炭素伝導性材料、及びアルミニウム集電体を含む。
【0087】
好ましくはカソード活性材料は、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物、又はリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物、又はリチウムマンガンスピネル、又はリチウム鉄リン酸塩を含む。このクレームにおけるカソード活性材料は、1種の材料又はこれらの任意の組合せとすることができる。
【0088】
好ましくは、カソード層における炭素伝導性材料は、導電性材料、カーボンブラック伝導性材料、カーボンナノ繊維伝導性材料、カーボンナノチューブ材料、ガラス炭素伝導性材料、又はグラフェン伝導性材料、又はこれらの組合せを含む。
【0089】
本開示は、ケイ素アノード系固体バッテリーを組み立てるための方法であって、(i)ケイ素アノード材料を形成するように、片面又は両面ケイ素フィルムを集電体上に堆積する工程と、(ii)固体電解質層を、ケイ素フィルムに接触させて設ける工程と、(iii)カソード層を、固体電解質層に接触させて設ける工程とを含む、方法にも関する。
【0090】
好ましくは工程(ii)は、固体電解質粉末をケイ素アノードフィルム上に圧縮し、それによって固体電解質層を形成することによって行われ、又は工程(ii)は、スラリーコーティング、物理気相成長(PVD)、化学気相成長(CVD)、パルス化レーザ堆積(PLD)、スパッタリング、及び/又は電気化学噴霧を含むフィルム形成法によって、行われる。
【0091】
本発明は、集電体上に堆積された本質的に純粋な非晶質ケイ素フィルムを含み且つ複数の柱状構造を含むケイ素アノードの、固体バッテリーにおける使用にも関する。
【0092】
本発明は更に、集電体上に堆積された本質的に純粋な非晶質多孔質ケイ素フィルムを含み且つ複数の柱状構造を含むケイ素アノードの、固体バッテリーにおける使用に関する。
【0093】
下記の非限定的な実施例は、本発明を例示する。
【実施例
【0094】
固体バッテリーを、本明細書で以下に述べるように生成し、負極及び正極混合物を調製し、バッテリー特性の評価を実施した。
【0095】
ケイ素アノード:
ケイ素層を、PECVDにより銅箔の片面に堆積し、それによってアノードケイ素電極材料を作成した。複合体電極材料は、下記の通り製造した:銅箔集電体材料のロールを、巻き戻しチャンバ、2つの堆積チャンバ、及び巻き直しチャンバを含む堆積デバイス内に供給した。これらのチャンバを全て接続し、真空(0.05~0.2mbar)の下、正常動作させる。箔を、引張りロールと、箔の温度を制御することになる2個の加熱ドラムとのシステムによって移送した。第1及び少なくとも第2のケイ素層を、プラズマ強化化学気相成長によって、100~300℃の基材温度で基材上に堆積した。このプロセスでは、周波数2.45GHzのマグネトロン放射線を使用して、ケイ素前駆体気体及び支持気体を含有する気体混合物を励起した。シラン(SiH)はケイ素の供給源であり、それに対してアルゴン(Ar)及び水素(H)はプラズマを安定化し、材料構造に影響を及ぼし、及び堆積速度を改善するよう添加した。気体は、気体を均等に分布させる「気体シャワー」を介して注入した。マグネトロン放射線を、アンテナを用いて真空チャンバ内に導入した。プラズマを均質にするため、アンテナの両面をマグネトロン放射線源に接続する。したがってマグネトロンヘッドは両面に位置付けられる。これらのマグネトロンヘッドはアンテナに接続される。気体は、マグネトロンヘッド間の気体シャワーを介して注入される。アンテナは、石英管により、反応性環境から保護される。プラズマは、永久磁石のアレイによって発生する磁場によって閉じ込められる。ケイ素の生成速度は、プロセス条件、供給源当たりの電力入力によって、及び動作中にマイクロ波供給源の数によって決定した。気体流は、800~6000W/mである、MW電力入力に対応した。10個のアンテナ又は電力入力の供給源を使用した。図2A及び図2Bは、この手法で調製された片面堆積ケイ素アノードの最上部及び断面SEM画像の例を示す。図2Cは、両面堆積ケイ素アノードの断面SEM画像の例を示す。全ての図で注目すべきは、本質的に平行な柱状構造を含み得るが基底面と柱状中心軸との間に角度が形成されるように配置構成されてもよい、柱状構造である。そのような形状は、典型的には積層円錐、アイスクリームコーン、又は積層円錐構造とも呼ばれる。積層されたままの円錐及び/又はアイスクリームコーンの直径は、1から10μmに及ぶことができる。
【0096】
カソード材料
正極混合物粉末は、活性材料粉末、固体電解質粉末、及び伝導支持材粉末をボールミルで混合することによって調製した。
【0097】
(実施例2)
固体バッテリーの形成
ケイ素アノード材料の上部に、固体電解質層として固体電解質アルジロダイト硫化物系LiPSClの2μmの厚さの層を、堆積した。カソードの形成のため、球状粒子のペースト及び適切な結合剤を形成し、固体電解質の上部にペースト処理した。インジウム箔をカソードの上部に配置して、セルを包封した。上記実施例は、図1に例示されるバッテリー構造を形成した。
【0098】
(実施例3)
固体バッテリーの性能
セルの性能を試験し、図3A図3B図3C、及び図3Dは、固体半電池において異なる質量負荷を持つ片面ケイ素アノードの、電気化学レート性能の3つの実施例を示し、アルジロダイト硫化物系LiPSClは固体電解質層として使用され、リチウム及びインジウム金属箔は対極として使用される。これらの図3A図3B図3C、及び図3Dでは、レート性能は、異なる質量負荷を持つSiアノードのものが示され、1Cレートは、Si質量に対して3000mAh/gと定義される。インジウム金属は、リチウム金属と固体電解質LiPSClとの間の寄生反応を回避し又は低減させるのに使用した。固体半電池を、この固体バッテリーにおけるアノードとしてのケイ素構造の実現可能性を検証するため試験した。図示される固体バッテリーの実施例では、アルジロダイト硫化物系LiPSClを固体電解質層として使用した。
【0099】
結果は、本発明によるケイ素アノードを使用するバッテリーが極めてうまく機能したことを示し、固体バッテリーにおいて優れたリチウムイオンホスト能力を示す。
【0100】
図4は、固体半電池における片面ケイ素アノードの電気化学サイクル性能の実施例を示し、アルジロダイト硫化物系LiPSClは固体電解質層として使用され、リチウム及びインジウム金属箔は対電極として使用される。
【0101】
図5A及び図5Bは、固体バッテリーにおける片面ケイ素アノードの電気化学レート性能の2つの実施例を示し、アルジロダイト硫化物系LiPSClは固体電解質層として使用され、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物混合物(LiNi0.6Mn0.2Co0.2、NMC622カソード活性粉末であってLiPSClと混合したもの、及び伝導性炭素粉末)が、カソードとして使用される。
【0102】
図6は、固体バッテリーにおける本発明による片面ケイ素アノードの電気化学サイクル性能の実施例を示し、アルジロダイト硫化物系LiPSClが固体電解質層として使用され、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物混合物(LiNi0.6Mn0.2Co0.2、NMC622)カソード活性粒状材料はLiPSClと混合され、伝導性炭素粉末はカソード材料として使用された。
【0103】
図7は、固体バッテリーにおける本発明による片面ケイ素アノードの電気化学サイクル性能の実施例を示し、アルジロダイト硫化物系LiPSClは固体電解質層として使用され、リチウムニオブ酸化物(LiNbO)で被覆されたリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LiNbOで被覆されたLiNi0.8Mn0.1Co0.1、NMC811カソード活性粉末)を、LiPSCl粉末と混合してこれをカソードとして使用し、LiOHで処理されたLiNbO被覆NMC811であってLiPSClと70:30質量%の質量割合で混合されたものを、カソードとして使用した。
【0104】
図8は、固体バッテリーにおける本発明による片面ケイ素アノードの電気化学サイクル性能の実施例を示す。ここでカソード活性材料LiNbO被覆NMC811材料は、LiOHを使用することにより、単に粉砕することにより、及びLiOH粉末とNMC811粉末とをある特定質量割合で混合することによって更に処理されたので、混合物は更に、空気中である特定の温度でアニールされる。この実施例では、LiOH:LiNbO被覆NMC811の質量割合は5:95質量%であり、その後、混合物を空気に接触させた状態で10時間、750℃でアニールした。
【0105】
上述のように、本発明の例示的な実施形態によれば、無機ナノ固体電解質を含有する固体バッテリーは、実質的に改善されたバッテリー性能並びに優れた安全性を有し、中型及び大型リチウムイオン再充電可能バッテリーが使用される電気自動車又は同様のもの等の産業の開発に広く使用され且つ関与し得る。
【0106】
本発明について、例示的な実施形態及び添付図面を参照しながら記述してきたが、本発明はそれに限定されず、下記の特許請求の範囲に記載されている本発明の範囲から逸脱することなく、本発明が関係する当業者が様々に修正及び変化させてもよい。様々な態様の更なる修正例及び代替の実施形態は、この記述に鑑み当業者に明らかにされよう。したがってこの記述は、単なる例示として解釈されるものとする。図示され及び本明細書に記述される形態は、実施形態の例と解釈されることを理解されたい。要素及び材料は、図示され本明細書に記述されるものと置換されてもよく、部分及びプロセスは逆にしてもよく、ある特定の特徴は独立して利用されてもよく、全ては本記述の利益を有する後に当業者に明らかにされ得るものである。変更は、下記の請求項に記述される精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記述される要素で行われてもよい。
【符号の説明】
【0107】
1 銅箔、集電体
2 ケイ素フィルム、ノジュール
3 固体電解質層、ケイ素柱状構造
4 カソード混合物層、追加体積アノード
5 カソード集電体
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
【国際調査報告】