(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-22
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20250115BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20250115BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
C21D8/12 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538232
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-08-05
(86)【国際出願番号】 KR2022020907
(87)【国際公開番号】W WO2023121270
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0184550
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジェ‐フン
(72)【発明者】
【氏名】シン,ス‐ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ユンス
【テーマコード(参考)】
4K033
【Fターム(参考)】
4K033AA01
4K033CA01
4K033CA02
4K033CA03
4K033CA07
4K033CA09
4K033FA01
4K033FA03
4K033FA13
4K033GA00
4K033HA01
4K033HA02
4K033HA03
4K033HA04
4K033HA05
4K033HA06
4K033JA01
4K033KA00
4K033KA03
4K033QA01
4K033RA03
4K033RA09
4K033RA10
4K033SA03
(57)【要約】
【課題】無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:3.1~3.8%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.3~1.5%、Cr:0.01~0.15%、Sn:0.003~0.08%、Sb:0.003~0.06%含み、残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記式1を満足し、鋼板の表面から鋼板の内部方向に鋼板の厚さの1/10まで存在する表面部および中央部を含み、無方向性電磁鋼板を打抜する時、塑性変形部の長さが100μm以下であり、塑性変形部とは、打抜した端部から表面部の硬度が中央部の硬度の1.10倍を超える部分の長さであることを特徴とする。
〔式1〕 0.03≦([Cr]+[Sn]+[Sb])≦0.2
(式1中、[Cr]、[Sn]および[Sb]はそれぞれ、Cr、SnおよびSbの含有量(重量%)を示す。)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:3.1~3.8%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.3~1.5%、Cr:0.01~0.15%、Sn:0.003~0.08%、Sb:0.003~0.06%含み、残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記式1を満足し、
鋼板の表面から鋼板の内部方向に鋼板の厚さの1/10まで存在する表面部および中央部を含み、
無方向性電磁鋼板を打抜する時、塑性変形部の長さが100μm以下であり、前記塑性変形部とは、打抜した端部から表面部の硬度が中央部の硬度の1.10倍を超える部分の長さであることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
〔式1〕
0.03≦([Cr]+[Sn]+[Sb])≦0.2
(式1中、[Cr]、[Sn]および[Sb]はそれぞれ、Cr、SnおよびSbの含有量(重量%)を示す。)
【請求項2】
Cu:0.01~0.2重量%さらに含むことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
P:0.08重量%以下、Mo:0.03重量%以下、B:0.0050重量%以下、Ca:0.0050重量%以下、およびMg:0.0050重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
C、N、S、Ti、Nb、およびVのうちの1種以上を0.005重量%以下でさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
鋼板の表面粗さは、0.15~0.35μmであることを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項6】
前記表面部の硬度が前記中央部の硬度の1.05倍~1.10倍であることを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項7】
重量%で、Si:3.1~3.8%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.3~1.5%、Cr:0.01~0.15%、Sn:0.003~0.08%、Sb:0.003~0.06%含み、残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記式1を満足するスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階と、
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階と、
前記冷延板を冷延板焼鈍する段階とを含み、
前記冷延板を焼鈍する段階は、冷延板を200℃から500℃まで昇温する第1昇温段階と、前記冷延板を500℃超過から均熱温度未満まで昇温する第2昇温段階と、均熱段階とを含み、
下記式2を満足することを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
〔式1〕
0.030≦([Cr]+[Sn]+[Sb])≦0.200
〔式2〕
{([Cr]+[Sn]+[Sb])×[板厚さ]}/{([Si]+[Al])×[板粗さ]}≦[DP]
(式1および式2中、[Si]、[Al]、[Cr]、[Sn]および[Sb]はそれぞれ、Si、Al、Cr、SnおよびSbの含有量(重量%)を示し、[板厚さ]は、前記冷延板を製造する段階後の、前記冷延板の板厚さ(μm)を示し、[板粗さ]は、前記冷延板を製造する段階後の、前記冷延板の表面粗さ(μm)を示し、[DP]は、前記第1昇温段階での露点(℃)を示す。)
【請求項8】
前記冷延板を製造する段階の後、前記冷延板の表面粗さは、0.15~0.35μmであることを特徴とする請求項7に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記第1昇温段階での露点は、0~50℃であることを特徴とする請求項7に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記第2昇温段階および均熱段階での露点は、-30~10℃であることを特徴とする請求項7に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板およびその製造方法に係りは、より詳しくは、鋼板中の合金組成および冷延板の表面粗さに応じて、冷延板焼鈍時の初期昇温段階で露点を調節して、鋼板内に適切な表面部を形成することによって、磁性を確保し、高合金系において金型の寿命を延ばすことができる無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーの節約、微細埃発生の低減および温室ガスの低減など地球環境改善のために電気エネルギーの効率的な使用が大きな課題になっている。現在電気エネルギー全体の50%以上が電動機で消費されているため、電気の効率的な使用のためには、電動機の高効率化が必至である現状がある。最近、環境にやさしい自動車(ハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気車、燃料電池車等)分野が急速に発展するにつれて高効率駆動モータへの関心が急拡大しており、これとともに、家電用高効率モータ、重電機用スーパープレミアムモータなど高効率化に対する認識および政府規制の持続により、効率的な電気エネルギー使用のための要求がどの時期より高くなっている。
【0003】
一方、電動機の高効率化のためには、素材の選択から設計、組立、制御に至るまですべての領域で最適化が非常に重要である。素材の面では、電磁鋼板の低鉄損化と高強度化に対する要求が強い。自動車の駆動モータやエアコンコンプレッサ用モータは、商用周波数領域のみならず、高周波領域でも駆動しなければならないため高周波低鉄損特性が極めて重要である。また、高速回転時の安定性確保のために高強度特性も重要である。このために、Si、Al、Mnなどの元素を多量添加して、高周波低鉄損および高強度を同時に確保する方法が知られている。
【0004】
しかし、Si、Al、Mnのような元素を多量添加する時、モータ製造工程の打抜工程で金型の寿命を短縮させる原因になるので、このような高合金系において金型の寿命を延ばすことができるように素材特性を改善する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的とするところは、無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。具体的には、鋼板中の合金組成および冷延板の表面粗さに応じて、冷延板焼鈍時の初期昇温段階で露点を調節して、鋼板内に適切な表面部を形成することによって、磁性を確保し、同時に高合金系において金型の寿命を延ばすことができる無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:3.1~3.8%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.3~1.5%、Cr:0.01~0.15%、Sn:0.003~0.08%、Sb:0.003~0.06%含み、残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記式1を満足し、
鋼板の表面から鋼板の内部方向に鋼板の厚さの1/10まで存在する表面部および中央部を含み、無方向性電磁鋼板を打抜する時、塑性変形部の長さが100μm以下であり、塑性変形部とは、打抜した端部から表面部の硬度が中央部の硬度の1.10倍を超える部分の長さであることを特徴とする。
〔式1〕
0.03≦([Cr]+[Sn]+[Sb])≦0.2
(式1中、[Cr]、[Sn]および[Sb]はそれぞれ、Cr、SnおよびSbの含有量(重量%)を示す。)
【0007】
本発明の鋼板は、Cu:0.01~0.2重量%さらに含むことができる。
上記鋼板は、P:0.08重量%以下、Mo:0.03重量%以下、B:0.0050重量%以下、Ca:0.0050重量%以下、およびMg:0.0050重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことができる。
【0008】
上記鋼板は、C、N、S、Ti、Nb、およびVのうちの1種以上を0.005重量%以下でさらに含むことができる。
鋼板の表面粗さは、0.15~0.35μmであることがよい。
表面部の硬度が中央部の硬度の1.05倍~1.10倍であることが好ましい。
【0009】
本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:3.1~3.8%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.3~1.5%、Cr:0.01~0.15%、Sn:0.003~0.08%、Sb:0.003~0.06%含み、残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記式1を満足するスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階と、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階と、冷延板を冷延板焼鈍する段階と、
冷延板を焼鈍する段階は、冷延板を200℃から500℃まで昇温する第1昇温段階と、冷延板を500℃超過から均熱温度未満まで昇温する第2昇温段階と、均熱段階とを含み、下記式2を満足することを特徴とする。
【0010】
〔式1〕
0.030≦([Cr]+[Sn]+[Sb])≦0.200
〔式2〕
{([Cr]+[Sn]+[Sb])×[板厚さ]}/{([Si]+[Al])×[板粗さ]}≦[DP]
(式1および式2中、[Si]、[Al]、[Cr]、[Sn]および[Sb]はそれぞれ、Si、Al、Cr、SnおよびSbの含有量(重量%)を示し、[板厚さ]は、前記冷延板を製造する段階の後の、前記冷延板の板厚さ(μm)を示し、[板粗さ]は、前記冷延板を製造する段階の後の、前記冷延板の表面粗さ(μm)を示し、[DP]は、前記第1昇温段階での露点(℃)を示す。)
【0011】
冷延板を製造する段階の後、冷延板の表面粗さは、0.15~0.35μmであることがよい。
第1昇温段階での露点は、0~50℃であることができる。
第2昇温段階および均熱段階での露点は、-30~10℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、本発明の無方向性電磁鋼板は、磁性を確保し、同時に高合金系において金型の寿命を延ばすことができる。
本発明の無方向性電磁鋼板は、モータに製造する時、高速回転時にも少ない電流でモータの駆動が可能でモータ効率に優れているため、窮極的に、本発明の無方向性電磁鋼板は、環境にやさしい自動車用モータ、高効率家電用モータ、スーパープレミアム級電動機の製造に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板の側断面の概略図である。
【
図2】無方向性電磁鋼板の打抜時の塑性変形部を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1、第2および第3などの用語は、多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使われるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使われる。したがって、以下に述べる第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと読み替えられてもよい。
ここで使われる専門用語は単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使われる単数形態は、文言がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数形態も含む。明細書で使われる「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるわけではない。
【0015】
ある部分が他の部分の「上」にあると言及した場合、これは直に他の部分の上にあるか、その間に他の部分が介在してもよい。対照的に、ある部分が他の部分の「真上」にあると言及した場合、その間に他の部分が介在しない。
他に定義しないが、ここに使われる技術用語および科学用語を含むすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味で解釈されない。
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
【0016】
本発明の一実施例において追加元素をさらに含むとの意味は、追加元素の追加量だけ残部の鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
以下、本発明の実施例について、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳しく説明する。しかし、本発明は種々の異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施例に限定されない。
【0017】
本発明の一実施例では、鋼板中の合金組成および冷延板の表面粗さに応じて、冷延板焼鈍時の初期昇温段階で露点を調節して、鋼板内に適切な表面部を形成することによって、磁性を確保し、同時に高合金系において金型の寿命を延ばす。
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:3.1~3.8%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.3~1.5%、Cr:0.01~0.15%、Sn:0.003~0.08%、Sb:0.003~0.06%含み、残部はFeおよび不可避不純物からなる。
まず、無方向性電磁鋼板の成分限定の理由から説明する。
【0018】
Si:3.10~3.80重量%
ケイ素(Si)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を少なくし、強度を高める役割を果たす。Siが過度に少なく添加された場合、高周波鉄損および強度改善効果が不十分であり、一方、過度に多く添加された場合、材料の硬度が上昇して生産性および打抜性が低下するため好ましくない。具体的には、Siは、3.20~3.60重量%含むことがよい。
【0019】
Al:0.50~1.50重量%
アルミニウム(Al)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を少なくし、強度を向上させる役割を果たす。Alが過度に少なく添加されると、高周波鉄損の低減および強度の向上に効果が不十分であり、窒化物が微細に形成されて磁性を低下させる虞がある。逆に、過度に多く添加されると、製鋼と連続鋳造などのすべての工程上に問題を生じて生産性を大きく低下させる虞がある。したがって、前述した範囲でAlを添加することがよい。具体的には、Alを0.50~1.30重量%含むことがよい。
【0020】
Mn:0.3~1.5重量%
マンガン(Mn)は、材料の比抵抗を高めて鉄損を改善し、硫化物を形成させる役割を果たす。Mnが過度に少なく添加されると、MnSが微細に析出して磁性を低下させる虞がある。逆に、過度に多く添加されると、磁性に不利な{111}集合組織の形成を助長して磁束密度が減少する虞がある。したがって、前述した範囲でMnを添加することがよい。具体的には、Mnを0.5~1.4重量%含むことがよい。さらに具体的には、Mnを1.0~1.3重量%含むことが好ましい。
【0021】
比抵抗45μΩ・cm以上
比抵抗は、13.25+11.3×([Si]+[Al]+[Mn]/2)から計算された値である。この時、[Si]、[Al]、[Mn]はそれぞれ、Si、Al、Mnの含有量(重量%)を示す。比抵抗が高いほど鉄損を少なくすることができる。比抵抗が過度に低ければ、鉄損が悪化して高効率モータとしての使用は困難である。具体的には、比抵抗は、50~80μΩ・cmであることがよい。さらに具体的には、比抵抗は、60~75μΩ・cmであることが好ましい。
【0022】
Cr:0.010~0.150重量%、Sn:0.003~0.080重量%、Sb:0.003~0.060重量%
クロム(Cr)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)は、焼鈍条件を適切に調節する時、表面に偏析する。前述した範囲でCr、Sn、Sbを含むとき、偏析が適切に起こる。前述した範囲より少なければ、表面偏析効果がなく、過度に多ければ、材料の脆性が強化されて問題が発生する虞がある。具体的には、それぞれ、Cr:0.010~0.100重量%、Sn:0.005~0.050重量%、Sb:0.005~0.030重量%含むことがよい。
【0023】
本発明の一実施例において、無方向性電磁鋼板は、式1を満足することが好ましい。
〔式1〕
0.030≦([Cr]+[Sn]+[Sb])≦0.200
(式1中、[Cr]、[Sn]および[Sb]はそれぞれ、Cr、SnおよびSbの含有量(重量%)を示す。)
式1は、表面偏析が最も効率的に行われる範囲である。式1の下限より値が小さければ、効率的に偏析させるために、露点をより低く持っていかなければならないという問題があり、生産性が低下する虞がある。一方、式1の上限より大きければ、圧延が不可能になる虞がある。具体的には、式1の値は、0.030~0.100であることが好ましい。
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、Cu:0.01~0.2重量%さらに含むことができる。
【0024】
Cu:0.01~0.20重量%
銅(Cu)は、Mnと共に硫化物を形成させる役割を果たす。Cuがさらに添加された場合、過度に少なく添加されると、CuMnSが微細に析出して磁性を低下させる虞がある。一方、Cuが過度に多く添加されると、高温脆性が発生して、連鋳や熱延時にクラックを形成する虞がある。具体的には、Cuを0.01~0.10重量%含むことが好ましい。
【0025】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、P:0.08重量%以下、Mo:0.03重量%以下、B:0.0050重量%以下、V:0.0050重量%以下、Ca:0.0050重量%以下、Nb:0.0050重量%以下、およびMg:0.0050重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことができる。
【0026】
P:0.08重量%以下
リン(P)は、表面に集積して、内部酸化層の分率を制御する役割を果たす。Pの添加量が過度に少なければ、均一な内部酸化層の形成が難しくなる虞がある。一方、Pの添加量が過度に多ければ、Si系酸化物の融点が変動して、内部酸化層が急激に形成される虞がある。したがって、前述した範囲でPの含有量を制御することがよい。具体的には、Pを0.005~0.07重量%含むことがよい。
【0027】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、Mo:0.03重量%以下、B:0.0050重量%以下、Ca:0.0050重量%以下、およびMg:0.0050重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことができる。
これらは、不可避に含まれるC、S、Nなどと反応して微細な炭化物、窒化物または硫化物を形成して磁性に悪影響を及ぼす虞があるので、前述したとおり上限を限定することが好ましい。
【0028】
その他の不純物
前述した元素以外にも、炭素(C)、硫黄(S)、窒素(N)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)などの不可避に混入する不純物が含まれてもよい。
C、N、Tiは、炭窒化物を形成して磁区移動を妨げる役割を果たすので制限することがよく、Sは、硫化物を形成して結晶粒成長性を劣化させる虞があるので、その上限を制限することが好ましい。これらの元素はそれぞれ、0.0040重量%以下で含むことがよい。
【0029】
Nは、Ti、Nb、Vと結合して窒化物を形成し、結晶粒成長性を低下させる役割を果たす。
Cは、N、Ti、Nb、Vなどと反応して微細な炭化物を作って、結晶粒成長性および磁区移動を妨げる役割を果たす。
Sは、硫化物を形成して結晶粒成長性を劣化させる。
このように不純物元素をさらに含む場合、C、S、N、Ti、NbおよびVのうちの1種以上をそれぞれ0.005重量%以下で含むことができる。
【0030】
図1には、本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板の側断面の概略図を示した。
図1の無方向性電磁鋼板は単に本発明を例示するためのものであり、本発明がこれに限定されるものではない。したがって、無方向性電磁鋼板の構造を多様に変形することができる。
図1に示したとおり、本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板100は、鋼板の表面から鋼板の内部方向に鋼板の厚さの1/10まで存在する表面部20および中央部10を含む。
鋼板の表面粗さは、0.15~0.35μmであることがよい。板粗さが高くなると、板表面に残留酸素が多くなって露点制御が難しく、板粗さを過度に下げると、圧延生産性が低下する虞がある。
【0031】
表面部20の硬度が中央部10の硬度の1.05倍~1.10倍であることがよい。本発明の一実施例において、Si、Al、Mnなどの合金成分が多量添加され、製造過程でこの合金成分が表面部20に濃化して、表面部20の硬度が中央部10に比べて増加する。本発明の一実施例では、表面部20の析出特性および酸化特性を調節して、硬度を適切に調節することによって、高合金系であるにもかかわらず、金型の寿命を延ばすことができる。この時、硬度は、ビッカース硬度であり、マイクロビッカース硬度計を用いて荷重10gで測定できる。さらに具体的には、表面部20の硬度が中央部10の硬度の1.06倍~1.09倍であることがよい。
表面部20の硬度は230~285、中央部10の硬度は200~265であることがよい。具体的には、表面部20の硬度は245~275、中央部10の硬度は220~255であることがよい。
【0032】
無方向性電磁鋼板100において、鋼板の全面に対して硬度が一定であることができる。ただし、打抜する時、打抜によって打抜端部の硬度が増加する。特に、中央部10に比べて表面部20の硬度が大幅に増加するが、これは金型の寿命を短縮させる原因になる。本発明の一実施例では、表面部20の析出特性および酸化特性を調節して、打抜時に表面部20の硬度が上昇する領域を抑制することにより、打抜による鉄損の劣化を最小化することができる。具体的には、無方向性電磁鋼板を打抜する時、塑性変形部の長さが100μm以下にすることがよい。この時、塑性変形部とは、打抜した端部から表面部20の硬度が中央部10の硬度の1.10倍を超える部分の長さである。
【0033】
図2には、塑性変形部の長さを測定する方法を示した。鋼板を打抜する時、
図2の右側端部のように打抜端部が発生する。打抜端部は、傾き、剪断面、破断面およびバリが形成される。この打抜端部から反対の端部方向に硬度を測定していきながら、表面部20の硬度が中央部10の硬度の1.10倍を超える部分の長さを測定する。これを塑性変形部の長さという。さらに具体的には、塑性変形部の長さが90μm以下であることがよい。下限は特に制限されないが、50μm以上であってもよい。打抜時、クリアランスは厚さの8%に設定して、塑性変形部の長さを測定できる。
【0034】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板は、磁性特性にも優れている。具体的には、打抜後、無方向性電磁鋼板の鉄損(W10/400)が13.5W/kg以下であることがよい。鉄損(W10/400)は、400HZの周波数で1.0Tの磁束密度を誘起した時の鉄損である。さらに具体的には、無方向性電磁鋼板の鉄損(W10/400)が10.0~12.5W/kgであることがよい。
【0035】
本発明の一実施例による無方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:3.1~3.8%、Al:0.5~1.5%、Mn:0.3~1.5%、Cr:0.01~0.15%、Sn:0.003~0.08%、Sb:0.003~0.06%含み、残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記式1を満足するるスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階と、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階と、冷延板を冷延板焼鈍する段階とを含む。
〔式1〕
0.030≦([Cr]+[Sn]+[Sb])≦0.200
以下、各段階別に具体的に説明する。
【0036】
まず、スラブを製造する。スラブ中の各組成の添加比率を限定した理由は、前述した無方向性電磁鋼板の組成限定の理由と同一であるので、繰り返しの説明は省略する。後述する熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延、冷延板焼鈍などの製造過程において、スラブの組成は実質的に変動しないので、スラブの組成と無方向性電磁鋼板の組成とは実質的に同一である。
熱延板を製造する段階の前に、スラブを加熱することができる。具体的には、スラブを加熱炉に装入して、1100~1250℃に加熱する。1250℃超過の温度で加熱時、析出物が再溶解して、熱間圧延後に微細に析出することがある。
加熱されたスラブは、2~2.3mmに熱間圧延して熱延板に製造される。熱延板を製造する段階で、仕上げ圧延温度は、800~1000℃であることがよい。
【0037】
熱延板を製造する段階の後、熱延板を熱延板焼鈍する段階をさらに含むことができる。この時、熱延板焼鈍温度は、850~1150℃であることがよい。熱延板焼鈍温度が850℃未満であれば、組織が成長しなかったり微細に成長して磁束密度の上昇効果が少なくなり、一方、焼鈍温度が1150℃超過であれば、磁気特性がむしろ低下し、板形状の変形によって圧延時の作業性が悪くなる虞がある。具体的には、温度範囲は、950~1125℃であることがよい。さらに具体的には、熱延板の焼鈍温度は、900~1100℃であることが好ましい。熱延板焼鈍は、必要に応じて、磁性に有利な方位を増加させるために行われるものであり、省略することも可能である。
【0038】
次に、熱延板を酸洗し、所定の板厚さとなるように冷間圧延する。熱延板の厚さに応じて異なる適用も可能であるが、70~95%の圧下率を適用して、最終厚さが0.2~0.65mmとなるように冷間圧延することができる。圧下率を合わせるために、1回の冷間圧延または中間焼鈍を挟んだ2回以上の冷間圧延を行うことが好ましい。
冷延板を製造する段階の後、冷延板の表面粗さは、0.15~0.35μmであることがよい。板粗さが粗くなると、板表面に残留酸素が多くなって露点制御が難しく、板粗さを過度に下げると、圧延生産性が低下する虞がある。
【0039】
冷間圧延された冷延板は、冷延板焼鈍を実施する。
冷延板を焼鈍する段階は、冷延板を200℃から500℃まで昇温する第1昇温段階と、冷延板を500℃超過から均熱温度未満まで昇温する第2昇温段階と、均熱段階とを含み、下記式2を満足する。
〔式2〕
{([Cr]+[Sn]+[Sb])×[板厚さ]}/{([Si]+[Al])×[板粗さ]}≦[DP]
(式2中、[Si]、[Al]、[Cr]、[Sn]および[Sb]はそれぞれ、Si、Al、Cr、SnおよびSbの含有量(重量%)を示し、[板厚さ]は、前記冷延板を製造する段階の後の、前記冷延板の板厚さ(μm)を示し、[板粗さ]は、前記冷延板を製造する段階の後の、前記冷延板の表面粗さ(μm)を示し、[DP]は、前記第1昇温段階での露点(℃)を示す。)
【0040】
第1昇温段階での露点が式2を満足していなければ、つまり、露点が十分に高くなければ、表面部10の酸化量が偏析量より大きくなって表面部10の硬度を適切に調節することが難しくなる。具体的には、第1昇温段階での露点は、0~30℃であることがよい。
第2昇温段階は、冷延板を500℃超過から均熱温度未満まで昇温する。第2昇温段階での露点は、-30~10℃であることがよい。第2昇温段階では、酸化防止のために第1昇温段階での露点より低く調節することが可能である。具体的には、第2昇温段階での露点は、-30~0℃であることがよい。具体的には、第2昇温段階での露点は、-30~-10℃であることがよい。さらに具体的には、第2昇温段階は、第1昇温段階に比べて露点が10~60℃さらに低いことが好ましい。
【0041】
均熱段階は、均熱温度到達後、温度の変動なしに均一に維持される段階である。均熱温度は、800~1070℃で均熱することができる。均熱温度が過度に低ければ、再結晶が十分に行われず、一方、均熱温度が過度に高ければ、結晶粒径が過度に大きくなって高周波鉄損が劣化する虞がある。均熱段階は、第2昇温段階での露点と同一に調節可能である。均熱時間は、10秒~5分であることができる。
以後、絶縁層を形成する段階をさらに含む。絶縁層の形成方法については、無方向性電磁鋼板技術分野で広く知られているので、詳細な説明は省略する。
【0042】
以下、本発明の好ましい実施例および比較例について記載する。しかし、下記の実施例は本発明の好ましい一実施例に過ぎず、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
実施例1
下記表1のような組成のスラブを製造した。表1に記載した成分以外のC、S、N、Ti、Nb、Vなどはすべて0.003重量%以下に制御し、残部はFeである。スラブを1150℃に加熱し、850℃で熱間仕上げ圧延して板厚さ2.0mmの熱延板を作製した。熱間圧延された熱延板は1100℃で4分間焼鈍した後、酸洗した。その後、冷間圧延して板厚さおよび表面粗さを表2に記載したとおり製造した後、冷延板焼鈍を実施した。
【0043】
第1昇温段階で露点を下記表2に記載したとおり調節し、第2昇温段階および均熱段階の露点は約-10℃に調節した。均熱段階での均熱温度は970℃にし、3分間維持した。
表面部の硬度は、鋼板の全体厚さの1/20部分まで#1000以上の滑らかな紙やすりを用いて表面を研いだ後、微細研磨(fine Polishig)および電解研磨により、研磨によって表面に応力が誘起されるのを防止して測定した。
中央部の硬度は、鋼板の全体厚さの1/2部分まで#1000以上の滑らかな紙やすりを用いて表面を研いだ後、微細研磨(fine Polishig)および電解研磨により、研磨によって表面に応力が誘起されるのを防止して測定した。
【0044】
鉄損は、それぞれの試験片に対して幅60mm×長さ60mm×枚数5枚の試験片を切断して、単板磁気試験機(Single sheet tester)で圧延方向と圧延垂直方向を測定し、その平均値を示した。
塑性変形部は上記のように切断し、公差は厚さの8%にした。打抜端部から5μmずつ移動し、表面部の硬度および中央部の硬度の比が1.10を超える長さを測定した。
硬度、鉄損(W10/400)、塑性変形部の長さを表3にまとめた。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
表1~表3に示したとおり、合金成分および製造工程条件を満足する実施例は、表面部の析出特性および酸化特性が適切に調節され、鉄損が向上し、塑性変形部の長さが短いことを確認できる。
試験片番号2および9は、式2を満足しておらず、塑性変形部の長さが長くて鉄損が劣位であることを確認できる。
試験片番号3および4は、Si、Al、Mnなどの合金成分が少なく添加されて、鉄損が劣位であることを確認できる。
試験片番号7、10、11、12は、Cr、Sn、Sbの添加が少なくて塑性変形部の長さが長くなり、鉄損が劣位であることを確認できる。
試験片番号8は、Cr、Sn、Sbがあまりにも過剰添加されて、塑性変形部の長さが長くなり、鉄損が劣位であることを確認できる。
【0049】
本発明は上記の実施例に限定されるわけではなく、互いに異なる多様な形態に製造可能であり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。そのため、以上に述べた実施例はすべての面で例示的であり、限定的ではないと理解しなければならない。
【符号の説明】
【0050】
100:無方向性電磁鋼板、10:中央部、20:表面部
【国際調査報告】