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特表2025-501621溶解性標的タンパク質発現が増加した株を特定するためのFolA選択アッセイ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-22
(54)【発明の名称】溶解性標的タンパク質発現が増加した株を特定するためのFolA選択アッセイ
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20250115BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250115BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20250115BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20250115BHJP
   C40B 40/02 20060101ALN20250115BHJP
   C12N 1/15 20060101ALN20250115BHJP
   C12N 1/19 20060101ALN20250115BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20250115BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20250115BHJP
   C12P 21/00 20060101ALN20250115BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20250115BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12N15/63 100Z
G01N33/48 M
G01N33/483 C
C40B40/02 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/00 C
C12N15/53
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538372
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-07-11
(86)【国際出願番号】 US2022081988
(87)【国際公開番号】W WO2023122567
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】63/292,329
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522282793
【氏名又は名称】アブサイ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】チア リウ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045CB01
2G045FA16
2G045FA19
2G045FB07
2G045FB12
4B063QA01
4B063QA20
4B063QQ05
4B063QQ06
4B063QQ22
4B063QR90
4B063QX01
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4B064CC24
4B064DA01
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4B065AA72X
4B065AA88X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA60
(57)【要約】
本開示は、可溶性タンパク質を産生する細胞又は株を特定するための組成物及び方法を提供する。本開示は、可溶性がより高いタンパク質を産生する混合集団(ライブラリー)におけるE.coli株を特定するための成長あり/成長なし選択戦略を更に提供する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的の可溶性タンパク質を産生することができる宿主細胞を特定する方法であって、
(a)宿主細胞の集団を調製するステップであって、前記集団の各宿主細胞が、(i)目的のタンパク質及び(ii)選択タンパク質を含む融合タンパク質を発現することができる発現構築物を含む、調製するステップと、
(b)(a)の前記宿主細胞を、前記融合タンパク質の発現を可能にする条件下でインキュベートするステップであって、前記条件が、少なくとも2つの相乗的選択剤を含む成長物質を含む、インキュベートするステップと、
(c)成長することができる宿主細胞を可視化するステップと、を含み、
それによって、目的の可溶性タンパク質を産生する能力を特定する、方法。
【請求項2】
宿主細胞の集団のなかで最も多い量の目的の可溶性タンパク質を産生する宿主細胞を特定する方法であって、
(a)宿主細胞の集団を調製するステップであって、前記集団の各宿主細胞が、(i)目的のタンパク質及び(ii)選択タンパク質を含む融合タンパク質を発現することができる発現構築物を含む、調製するステップと、
(b)(a)の前記宿主細胞を、前記融合タンパク質の発現を可能にする条件下でインキュベートするステップであって、前記条件が、少なくとも2つの相乗的選択剤を含む成長物質を含む、インキュベートするステップと、
(c)成長することができる宿主細胞を可視化するステップと、を含み、
それによって、宿主細胞の集団のなかで最も多い量の目的の可溶性タンパク質を産生する宿主細胞を特定する、方法。
【請求項3】
前記宿主細胞を、産生される可溶性タンパク質の量に基づいてビニングするステップを更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記選択タンパク質が、抗生物質又は抗生物質耐性タンパク質の標的である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記選択タンパク質がFolAである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記FolAが、E.coli由来である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記FolAが、配列番号1に示される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
2種の相乗的選択剤が使用されることを含み、前記相乗的選択剤が、抗生物質、糖、化学剤、酵素基質類似体、酵素阻害剤、生体分子を隔離する薬剤、キレート剤、及び細胞壁又は細胞膜を損なう薬剤からなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記2種の相乗的選択剤が、トリメトプリム及びスルファメトキサゾールである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記目的のタンパク質が異種タンパク質である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記異種タンパク質が、抗体、Fab、scFv、ナノボディ、T細胞受容体、及びキメラ抗原受容体、成長因子、サイトカイン、ホルモン、酵素、又はそれらの機能的断片からなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記宿主細胞の集団が、宿主細胞のライブラリーを含み、前記ライブラリーが、固有の遺伝子型を有する及び/又は固有に遺伝子操作された細胞で構成される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ライブラリーが、およそ1,000~およそ10億個の宿主細胞を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記宿主細胞が、真核細胞、原核細胞、細菌細胞、哺乳動物細胞、及び昆虫細胞からなる群から選択される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記細菌細胞が、E.coli細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記E.coli細胞が、(a)少なくとも1つの誘導性プロモーターの誘導物質のためのトランスポータータンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の改変、(b)少なくとも1つの誘導性プロモーターの誘導物質を代謝するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の低減したレベル、(c)少なくとも1つの誘導性プロモーターの誘導物質の生合成に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の低減したレベル、(d)宿主細胞の細胞質の還元/酸化環境に影響を及ぼす遺伝子の改変された遺伝子機能、(e)レダクターゼをコードする遺伝子の遺伝子機能の低減したレベル、(f)少なくとも1つのジスルフィド結合イソメラーゼタンパク質をコードする少なくとも1つの発現構築物、(g)シグナルペプチドを欠くDsbCの形態をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、及び/又は(h)Ervlpをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記発現構築物が、ポリヌクレオチド、プラスミド、及び人工染色体からなる群から選択される染色体外構築物である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記発現構築物が、誘導性プロモーターを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記発現構築物が、2つ以上の誘導性プロモーターを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1つの誘導性プロモーターが、プロピオネート誘導性プロモーターであり、少なくとも1つの他の誘導性プロモーターが、L-アラビノース誘導性プロモーターである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記成長基質が、選択的培地からなる群から選択される、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記成長基質が、2つ以上の相乗的選択剤のマトリックスを含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記2つの相乗的選択剤が、トリメトプリム及びスルファメトキサゾールであり、前記薬剤が、それぞれ、1ug/ml~1000ug/ml及び1ug/ml~1000ug/mlの濃度範囲で成長培地中に存在する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記融合タンパク質の発現を可能にする前記条件が、前記融合タンパク質の発現の1つ以上の誘導物質の存在を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記宿主細胞が、目視検査、化学発光、X線撮影、蛍光、及び比色分析からなる群から選択される技法を使用して特定される、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
ステップ(c)の前記宿主細胞を可視化することが、寒天プレート上の成長を検出することを含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
(a)前記宿主細胞を成長基質上にプレーティングし、前記宿主細胞を、前記成長基質上の宿主細胞成長を可能にする条件下でインキュベートするステップと、
(b)任意選択で、少なくとも1つの複製プレートを調製し、前記複製プレートを、宿主細胞成長及び前記目的のタンパク質の産生を可能にする条件下でインキュベートするステップと、
(c)宿主細胞を、前記成長基質又は前記(b)の少なくとも1つの複製プレートから膜に移動させるステップと、
(d)(c)で前記膜に移動させた前記宿主細胞をプロービングのために調製するステップであって、(i)任意選択で、前記宿主細胞を、細胞構成要素の固定化を可能にする条件下で固定すること、(ii)前記宿主細胞を遮断すること、及び(iii)任意選択で、前記宿主細胞を、前記宿主細胞の透過化を可能にする条件下で溶解させること、を含む、調製するステップと、
(e)前記透過化した宿主細胞を、前記少なくとも1つのプローブを含むプローブ溶液と、前記少なくとも1つのプローブと前記目的のタンパク質との結合を可能にする条件下で接触させ、それによって、プローブ-目的のタンパク質の複合体を形成するステップと、
(f)前記宿主細胞を、前記目的のタンパク質を産生する前記宿主細胞を特定することを可能にする条件下で撮像するステップと、を更に含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
電子提出された資料の参照による組み込み
本開示の一部である配列表は、テキストファイルとして本明細書と同時に提出される。配列表を含むテキストファイルの名称は「57387_Seqlisting.txt」であり、作成日2022年11月15日、サイズ1,893バイトである。配列表の主題は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
抗生物質耐性遺伝子は、選択アッセイのための融合パートナーとして一般に使用される。一般に使用される選択可能な融合パートナーは、抗生物質耐性遺伝子である。しかしながら、これらの方法は、わずかな量の抗生物質耐性遺伝子の発現により、抗生物質のほぼ最大限の現実的に達成可能な濃度が付与される、限定的な線形応答範囲に悩まされる。この制限を克服することを目的とするプロトコルには、翻訳カップリングなどの間接的な選択スキームが用いられる。今日まで、抗生物質耐性遺伝子の発現と可溶性タンパク質の発現との間の直接的な相関を可能にするアッセイは提供されていない。本開示は、この満たされていないニーズに対処する。
【発明の概要】
【0003】
一実施形態では、本開示は、目的の可溶性タンパク質を産生することができる宿主細胞を特定する方法を提供し、該方法には、(a)宿主細胞の集団を調製するステップであって、集団の各宿主細胞が、(i)目的のタンパク質及び(ii)選択タンパク質を含む融合タンパク質を発現することができる発現構築物を含む、調製するステップと、(b)(a)の宿主細胞を、融合タンパク質の発現を可能にする条件下でインキュベートするステップであって、該条件が、少なくとも2つの相乗的選択剤を含む成長物質を含む、インキュベートするステップと、(c)成長することができる宿主細胞を可視化するステップと、が含まれ、それによって、目的の可溶性タンパク質を産生することができる宿主細胞を特定する。
【0004】
別の実施形態では、宿主細胞の集団のなかで最も多い量の目的の可溶性タンパク質を産生する宿主細胞を特定する方法が提供され、該方法には、目的の可溶性タンパク質を産生することができる宿主細胞を特定する方法を提供し、本方法には、(a)宿主細胞の集団を調製するステップであって、集団の各宿主細胞が、(i)目的のタンパク質及び(ii)選択タンパク質を含む融合タンパク質を発現することができる発現構築物を含む、調製するステップと、(b)(a)の宿主細胞を、融合タンパク質の発現を可能にする条件下でインキュベートするステップであって、該条件が、少なくとも2つの相乗的選択剤を含む成長物質を含む、インキュベートするステップと、(c)成長することができる宿主細胞を可視化するステップと、が含まれ、それによって、宿主細胞の集団のなかで最も多い量の目的の可溶性タンパク質を産生する宿主細胞を特定する。
【0005】
いくつかの実施形態では、宿主細胞を、産生される可溶性タンパク質の量に基づいてビニングするステップを更に含む、前述の方法が提供される。いくつかの実施形態では、選択タンパク質は、抗生物質又は抗生物質耐性タンパク質の標的である。一実施形態では、選択タンパク質はFolAである。別の実施形態では、FolAはE.coli由来である。更に別の実施形態では、FolAは、配列番号1に示される。
【0006】
更に他の実施形態では、2種の相乗的選択剤が使用されることを含む、前述の方法が提供され、相乗的選択剤は、抗生物質、糖、化学剤、酵素基質類似体、酵素阻害剤、生体分子を隔離する薬剤、キレート剤、及び細胞壁又は細胞膜を損なう薬剤からなる群から選択される。一実施形態では、2種の相乗的選択剤は、トリメトプリム及びスルファメトキサゾールである。いくつかの実施形態では、目的のタンパク質が異種タンパク質である、前述の方法が提供される。別の実施形態では、異種タンパク質は、抗体、Fab、scFv、ナノボディ、T細胞受容体、及びキメラ抗原受容体、成長因子、サイトカイン、ホルモン、酵素、又はそれらの機能的断片からなる群から選択される。
【0007】
いくつかの実施形態では、宿主細胞の集団が、宿主細胞のライブラリーを含み、該ライブラリーが、固有の遺伝子型を有する及び/又は固有に遺伝子操作された細胞で構成される、前述の方法が提供される。一実施形態では、ライブラリーは、およそ1,000~およそ10億個の宿主細胞を含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、宿主細胞が、真核細胞、原核細胞、細菌細胞、哺乳動物細胞、及び昆虫細胞からなる群から選択される、前述の方法が提供される。別の実施形態では、細菌細胞はE.coli細胞である。更に別の実施形態では、E.coli細胞は、(a)少なくとも1つの誘導性プロモーターの誘導物質のためのトランスポータータンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の改変、(b)少なくとも1つの誘導性プロモーターの誘導物質を代謝するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の低減したレベル、(c)少なくとも1つの誘導性プロモーターの誘導物質の生合成に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の低減したレベル、(d)宿主細胞の細胞質の還元/酸化環境に影響を及ぼす遺伝子の改変された遺伝子機能、(e)レダクターゼをコードする遺伝子の遺伝子機能の低減したレベル、(f)少なくとも1つのジスルフィド結合イソメラーゼタンパク質をコードする少なくとも1つの発現構築物、(g)シグナルペプチドを欠くDsbCの形態をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、及び/又は(h)Ervlpをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、を含む。
【0009】
更に他の実施形態では、発現構築物が、ポリヌクレオチド、プラスミド、及び人工染色体からなる群から選択される染色体外構築物である、前述の方法が提供される。一実施形態では、発現構築物は、誘導性プロモーターを含む。別の実施形態では、発現構築物は、2つ以上の誘導性プロモーターを含む。更に別の実施形態では、少なくとも1つの誘導性プロモーターは、プロピオネート誘導性プロモーターであり、少なくとも1つの他の誘導性プロモーターは、L-アラビノース誘導性プロモーターである。
【0010】
更に他の実施形態では、成長基質が、選択的培地からなる群から選択される、前述の方法が提供される。いくつかの実施形態では、成長基質が2つ以上の相乗的選択剤のマトリックスを含む、前述の方法が提供される。一実施形態では、2つの相乗的選択剤は、トリメトプリム及びスルファメトキサゾールであり、これらの薬剤は、それぞれ、1ug/ml~1000ug/ml及び1ug/ml~1000ug/mlの濃度範囲で成長培地中に存在する。
【0011】
いくつかの実施形態では、融合タンパク質の発現を可能にする条件が、融合タンパク質の発現の1つ以上の誘導物質の存在を含む、前述の方法が提供される。いくつかの実施形態では、宿主細胞が、目視検査、化学発光、X線撮影、蛍光、及び比色分析からなる群から選択される技法を使用して特定される、前述の方法が提供される。更に別の実施形態では、ステップ(c)の宿主細胞を可視化することが、寒天プレート上での成長を検出することを含む、前述の方法が提供される。
【0012】
いくつかの実施形態では、本開示は、可溶性タンパク質発現を検出するための固相アッセイを更に含む、前述の方法を提供する。例えば、一実施形態では、(a)宿主細胞を成長基質上にプレーティングし、宿主細胞を、成長基質上の宿主細胞成長を可能にする条件下でインキュベートするステップと、(b)任意選択で、少なくとも1つの複製プレートを調製し、該複製プレートを、宿主細胞成長及び目的のタンパク質の産生を可能にする条件下でインキュベートするステップと、(c)宿主細胞を、成長基質又は(b)の少なくとも1つの複製プレートから膜に移動させるステップと、(d)(c)で膜に移動させた宿主細胞をプロービングのために調製するステップであって、(i)任意選択で、宿主細胞を、細胞構成要素の固定化を可能にする条件下で固定すること、(ii)宿主細胞を遮断すること、及び(iii)任意選択で、宿主細胞を、宿主細胞の透過化を可能にする条件下で溶解させること、を含む、調製するステップと、(e)透過化した宿主細胞を、少なくとも1つのプローブを含むプローブ溶液と、少なくとも1つのプローブと目的のタンパク質との結合を可能にする条件下で接触させ、それによって、プローブ-目的のタンパク質の複合体を形成するステップと、(f)宿主細胞を、目的のタンパク質を産生する宿主細胞を特定することを可能にする条件下で撮像するステップと、を更に含む、前述の方法が提供される。
【0013】
目的のタンパク質が目的の遺伝子産物によってコードされる、追加の実施形態が以下に提供される。一実施形態では、本開示は、目的の遺伝子産物を産生する宿主細胞を特定する方法を提供し、該方法には、(a)1つ以上の遺伝子産物をコードする発現構築物を含む宿主細胞の集団を成長基質上にプレーティングし、宿主細胞を、成長基質上の宿主細胞成長を可能にする条件下でインキュベートするステップと、(b)少なくとも1つの複製プレートを調製し、該複製プレートを、宿主細胞成長及び遺伝子産物の産生を可能にする条件下でインキュベートするステップと、(c)宿主細胞を、(b)の少なくとも1つの複製プレートから膜に移動させるステップと、(d)(c)で膜に移動させた宿主細胞をプロービングのために調製するステップであって、(i)任意選択で、宿主細胞を、細胞構成要素の固定化を可能にする条件下で固定すること、(ii)宿主細胞を遮断すること、及び(iii)任意選択で、宿主細胞を、宿主細胞の透過化を可能にする条件下で溶解させること、を含む、調製するステップと、(e)透過化した宿主細胞を、少なくとも1つのプローブを含むプローブ溶液と、少なくとも1つのプローブと目的の遺伝子産物との結合を可能にする条件下で接触させ、それによって、プローブ-遺伝子産物複合体を形成するステップと、(f)宿主細胞を、目的の遺伝子産物を産生する宿主細胞を特定することを可能にする条件下で撮像するステップと、が更に含まれる。別の実施形態では、ステップ(c)には、少なくとも1つの複製プレート及び膜をマーキングして、少なくとも1つの複製プレート及び膜の空間的整列を可能にすることが更に含まれる。
【0014】
いくつかの実施形態では、宿主細胞が、真核細胞、原核細胞、細菌細胞、哺乳動物細胞、及び昆虫細胞からなる群から選択される、前述の方法が提供される。更に他の実施形態では、目的の遺伝子産物が、治療用タンパク質、抗体、Fab、scFv、ナノボディ、T細胞受容体、及びキメラ抗原受容体、又はそれらの断片からなる群から選択される、前述の方法が提供される。一実施形態では、目的の遺伝子産物は、細胞内タンパク質である。
【0015】
なお他の実施形態では、宿主細胞の集団が、およそ1,000~およそ10億個の宿主細胞を含む、前述の方法が提供される。他の実施形態では、宿主細胞の集団は、遺伝子産物を発現構築物から産生するように修飾されている。一実施形態では、発現構築物は、2つ以上の誘導性プロモーターを含む。更に別の実施形態では、少なくとも1つの誘導性プロモーターは、プロピオネート誘導性プロモーターであり、少なくとも1つの他の誘導性プロモーターは、L-アラビノース誘導性プロモーターである。
【0016】
本開示はまた、いくつかの実施形態では、宿主細胞が、(a)少なくとも1つの誘導性プロモーターの誘導物質のためのトランスポータータンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の改変、(b)少なくとも1つの誘導性プロモーターの誘導物質を代謝するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の低減したレベル、(c)少なくとも1つの誘導性プロモーターの誘導物質の生合成に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の低減したレベル、(d)宿主細胞の細胞質の還元/酸化環境に影響を及ぼす遺伝子の改変された遺伝子機能、(e)レダクターゼをコードする遺伝子の遺伝子機能の低減したレベル、(f)少なくとも1つのジスルフィド結合イソメラーゼタンパク質をコードする少なくとも1つの発現構築物、(g)シグナルペプチドを欠くDsbCの形態をコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、及び/又は(h)Ervlpをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチド、のうちの1つ以上を含むように遺伝子修飾されている、前述の方法も提供する。
【0017】
更に他の実施形態では、2、3、4、5つ以上の複製プレートが調製される、前述の方法が提供される。一実施形態では、複製プレートは、抗生物質と、目的の遺伝子産物の発現の少なくとも1つの誘導物質とを含む。なお他の実施形態では、膜は、ニトロセルロース膜及びPVDF(ポリフッ化ビニリデン)膜からなる群から選択される。他の実施形態では、ステップ(c)の複製プレート及び膜を、着色された物質と接触させる。一実施形態では、着色された物質は、アクリル塗料及び染料からなる群から選択される。別の実施形態では、着色された物質を、針及びペンからなる群から選択される器具でプレート及び膜と接触させる。
【0018】
他の実施形態では、細胞成分の固定化を可能にする条件が、膜をグルタルアルデヒド及びパラホルムアルデヒドのうちの1つ以上を含む組成物と接触させることを含む、前述の方法が提供される。他の実施形態では、宿主細胞の透過化を可能にする条件は、膜をリゾチーム及びEDTAのうちの1つ以上を含む組成物と接触させることを含む。
【0019】
更に他の実施形態では、少なくとも1つのプローブが、抗体又はその機能的断片、核酸結合タンパク質又はその機能的断片、受容体又はその機能的断片、リガンド又はその機能的断片、及び抗原又はその機能的断片、並びに目的の遺伝子産物によって結合することができるペプチド又はポリペプチドからなる群から選択される、前述の方法が提供される。一実施形態では、プローブは、ビオチン、ヒスチジンタグ、Fcタグ、spyタグ、Strpタグ、及びAviタグからなる群から選択されるレポーター部分を含む。
【0020】
本開示はまた、いくつかの実施形態では、2、3、4、5つ以上の複製プレートを調製したときに、複製プレートから調製した各膜を、異なる濃度のプローブ溶液と接触させる、前述の方法も提供する。更に他の実施形態では、撮像が、膜を、レポーター部分の活性化因子を含む組成物と接触させることを含む、前述の方法が提供される。別の実施形態では、膜を、レポーター部分の活性化因子を含む組成物と接触させることは、1回、2回、又は3回以上繰り返される。更に別の実施形態では、活性化因子は、アルカリホスファターゼ、ストレプトアビジンアルカリホスファターゼ、及びストレプトアビジンアルカリホスファターゼデキストランポリマーからなる群から選択される。
【0021】
更に他の実施形態では、撮像に、化学発光、X線撮影、蛍光、及び比色分析からなる群から選択される方法が含まれる、前述の方法が提供される。更に他の実施形態では、目的の遺伝子産物を産生することができると特定された1つ以上の宿主細胞を再度プレーティングするステップを更に含む、前述のものが提供される。別の実施形態では、再度プレーティングされた宿主細胞は、宿主細胞が目的の遺伝子産物を産生する能力、及び/又は目的の遺伝子産物を産生することができると特定された他の宿主細胞株から宿主細胞株を単離する能力を確認するために、請求項1に記載の方法に供される。いくつかの実施形態では、本方法は、プローブ-遺伝子産物複合体の親和性を決定することを更に含んでもよい。
【0022】
本開示は、一実施形態では、宿主細胞を、目的の遺伝子産物を産生する宿主細胞の集団からスクリーニングする方法も提供し、該方法には、(a)1つ以上の遺伝子産物をコードする発現構築物を含む宿主細胞の集団を成長基質上にプレーティングし、宿主細胞を、成長基質上の宿主細胞成長を可能にする条件下でインキュベートするステップと、(b)少なくとも1つの複製プレートを調製し、該複製プレートを、宿主細胞成長及び遺伝子産物の産生を可能にする条件下でインキュベートするステップと、(c)宿主細胞を、(b)の少なくとも1つの複製プレートから膜に移動させるステップと、(d)(c)で膜に移動させた宿主細胞をプロービングのために調製するステップであって、(i)宿主細胞を、細胞構成要素の固定化を可能にする条件下で固定すること、(ii)宿主細胞を遮断すること、及び(iii)任意選択で、宿主細胞を、宿主細胞の透過化を可能にする条件下で溶解させること、を含む、調製するステップと、(e)透過化した宿主細胞を、少なくとも1つのプローブを含むプローブ溶液と、少なくとも1つのプローブと目的の遺伝子産物との結合を可能にする条件下で接触させ、それによって、プローブ-遺伝子産物複合体を形成するステップと、(f)宿主細胞を、目的の遺伝子産物を産生する宿主細胞を特定することを可能にする条件下で撮像するステップと、が含まれる。
【0023】
なお別の実施形態では、本開示は、プローブ-目的の遺伝子産物の相対的親和性を決定する方法を提供し、該方法には、(a)1つ以上の遺伝子産物をコードする発現構築物を含む宿主細胞の集団を成長基質上にプレーティングし、宿主細胞を、成長基質上の宿主細胞成長を可能にする条件下でインキュベートするステップと、(b)少なくとも3つの複製プレートを調製し、該複製プレートを、宿主細胞成長及び遺伝子産物の産生を可能にする条件下でインキュベートするステップと、(c)宿主細胞を、(b)の少なくとも3つの複製プレートから別個の膜に移動させるステップと、(d)(c)で膜に移動させた宿主細胞をプロービングのために調製するステップであって、(i)宿主細胞を、細胞構成要素の固定化を可能にする条件下で固定すること、(ii)宿主細胞を遮断すること、及び(iii)任意選択で、宿主細胞を、宿主細胞の透過化を可能にする条件下で溶解させること、を含む、調製するステップと、(e)少なくとも3つの複製膜上の透過化した宿主細胞を、少なくとも1つのプローブを含むプローブ溶液と、少なくとも1つのプローブと目的の遺伝子産物との結合を可能にする条件下で接触させ、それによって、プローブ-遺伝子産物複合体を形成するステップであって、プローブ溶液が異なるプローブ濃度を含む、形成するステップと、(f)宿主細胞を、プローブ-目的の遺伝子産物の相対的親和性を決定することを可能にする条件下で撮像するステップと、が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】mCherry-FolA融合物を保有する細胞が、トリメトプリムに対して高度に耐性であることを示す。
図2】スルファメトキサゾールとの相乗作用により、トリメトプリムダイナミックレンジが改善されることを示す。
図3】トリメトプリム-スルファメトキサゾールのマトリックスを示す。
図4】例示的なプラスミド構築物を示す。
図5】1週間のインキュベーション後のコロニーを有するプレートを示す。
図6】固相アッセイのラウンド1の結果からの画像を示す。
図7】ラウンド2の結果を示す。
図8】処理した膜の画像を示す。
図9】例示的なプラスミド構築物を示す。
図10】固相アッセイの追加の結果を示す。
図11】寒天プレートと比較した液体パフォーマーの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示の実施形態は、多量の目的の可溶性タンパク質を産生することができる細胞又は株のライブラリーから細胞又は株を特定するための組成物及び方法を提供する。いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は、抗生物質耐性遺伝子、又は抗生物質の標的であるタンパク質など、選択タンパク質に遺伝子融合される。本明細書に記載されるように、いくつかの実施形態では、選択プロセスには、アッセイのダイナミックレンジを改善するために相乗的に作用する2つ(又はそれ以上)の選択剤を使用することが含まれる。
【0026】
選択を可能にする融合パートナー(すなわち、選択タンパク質)の考慮事項には、(1)成長あり/成長なし選択を可能にすること、(2)選択条件を修正することによって、低いものから非常に高いものまで、発現株の等級付けの特定を可能にすること、及び(3)クリーンであること(バックグラウンドノイズが低いこと)が含まれるが、これらに限定されない。選択可能なアッセイは、単一の10cm寒天プレート上の数十億個のバリアントへの大規模な多様性ライブラリーの試験を可能にするものであるべきである。
【0027】
本明細書に記載されるように、各10cmプレートは、最大100億個の細胞(例えば、薬剤の殺傷的組み合わせについては100億個、薬剤の静的組み合わせについては10億個)を含んでもよい。
【0028】
目的の可溶性タンパク質を産生することができる宿主細胞の特定
本開示の一実施形態では、より高い可溶性タンパク質発現を生む混合集団(ライブラリー)においてE.coli株を特定するために(すなわち、ライブラリー内の他の株に対して)、成長あり/成長なし選択戦略が提供される。本明細書に記載されるように、選択剤の相乗効果により、アッセイのダイナミックレンジが増加する。一例として、目的のタンパク質を遺伝子操作し、抗生物質(トリメトプリム)の標的であるレポーター遺伝子(folA)に融合させる。この例示的な実施形態では、レポーター遺伝子(folA)/抗生物質(トリメトプリム)対の選択により、第2の抗生物質剤との相乗作用が可能になり、一番目の抗生物質(トリメトプリム)の効力が改善する。このため、成長あり/成長なし選択戦略が成功することの利益により、いくつかの高複雑度(>10)ライブラリーの並行試験が可能になる。
【0029】
本明細書に記載される融合タンパク質は、アッセイの有用なダイナミックレンジを増加させるために第2の相乗剤が使用され得る限り、いずれの抗生物質標的又は抗生物質耐性遺伝子にも対することができる。
【0030】
融合タンパク質
目的のタンパク質
本明細書に記載されるように、目的のタンパク質(及び本明細書に記載されるいくつかの実施形態では、目的のタンパク質をコードする目的の遺伝子)は、本明細書に提供される方法とともに使用することができる。本明細書で使用される場合、「可溶性タンパク質」又は「目的の可溶性タンパク質」は、一実施形態では、溶液中で安定なままであり、経時的に沈殿しないか、又は遠心力(16,000×g)が10分間以上適用されるときに溶液中に留まるタンパク質を指す。タンパク質溶解性は、いくつかの実施形態では、所与のセットの条件下で、結晶性又は非結晶性のいずれかの固相と平衡状態にある飽和溶液中のタンパク質の濃度として定義される熱力学的パラメータである。溶解性は、pH、イオン強度、温度、及び様々な溶媒添加剤の存在を含む、多くの外因性及び内因性因子によって影響され得る(Kramer,R.M.,et al.,Biphys J.,2012,102(8):1907-1915)。一実施形態では、可溶性タンパク質は、70%超の溶解性を有するものであり、30%未満の溶解性で不溶性である(Chan,P.,et al.,Scientific Reports,2013,3,3333)。
【0031】
タンパク質は、生物学的に活性な誘導体又はバリアント又は断片を含んでもよい。本明細書で使用される場合、「生物学的に活性な誘導体」又は「生物学的に活性なバリアント」は、結合特性などの該分子の実質的に同じ機能的及び/若しくは生物学的特性、並びに/又はペプチド骨格若しくは塩基性ポリマー単位などの同じ構造的基盤を有する分子の任意の誘導体又はバリアントを含む。
【0032】
「バリアント」又は「誘導体」などの「類似体」は、構造が実質的に類似しており、天然に存在する分子と、ある特定の例では異なる程度ではあるが、同じ生物学的活性を有する化合物である。例えば、ポリペプチドバリアントは、実質的に類似した構造を共有し、参照ポリペプチドと同じ生物学的活性を有するポリペプチドを指す。バリアント又は類似体は、(i)ポリペプチドの1つ以上の末端及び/若しくは天然に存在するポリペプチド配列の1つ以上の内部領域(例えば、断片)における1つ以上のアミノ酸残基の欠失、(ii)ポリペプチドの1つ以上の末端(典型的には、「付加」又は「融合」)及び/若しくは天然に存在するポリペプチド配列の1つ以上の内部領域(典型的には、「挿入」)における1つ以上のアミノ酸の挿入若しくは付加、又は(iii)天然に存在するポリペプチド配列中の他のアミノ酸の1つ以上のアミノ酸の置換、を含む、1つ以上の変異に基づいて、類似体が由来する天然に存在するポリペプチドと比較して、それらのアミノ酸配列の組成物において異なる。一例として、「誘導体」は、類似体の一種であり、例えば、化学的に修飾された参照ポリペプチドと同じ又は実質的に類似した構造を共有するポリペプチドを指す。
【0033】
バリアントポリペプチドは、類似体ポリペプチドの一種であり、挿入バリアントを含み、1つ以上のアミノ酸残基が本開示の生体分子アミノ酸配列に付加される。挿入は、タンパク質のいずれかの末端に位置しても両方の末端に位置してもよく、かつ/又は治療用タンパク質アミノ酸配列の内部領域内に位置付けられてもよい。いずれか又は両方の末端に追加の残基を有する挿入バリアントには、例えば、アミノ酸タグ又は他のアミノ酸標識を含む融合タンパク質及びタンパク質が含まれる。一態様では、生体分子は、特に分子がE.coliなどの細菌細胞中で組換え発現されるときに、N末端Metを任意選択で含む。別の態様では、生体分子は、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を含む。
【0034】
欠失バリアントでは、本明細書に記載される生体分子ポリペプチド中の1つ以上のアミノ酸残基が除去される。欠失は、タンパク質ポリペプチドの一方又は両方の末端において、及び/又は治療用タンパク質アミノ酸配列内の1つ以上の残基の除去によって生じ得る。したがって、欠失バリアントは、タンパク質ポリペプチド配列の断片を含む。
【0035】
置換バリアントでは、生体分子の1つ以上のアミノ酸残基が除去され、代替残基で置き換えられる。一態様では、これらの置換は本質的に保存的であり、このタイプの保存的置換は当該技術分野で周知である。代替的に、本開示は、非保存的でもある置換を包含する。例示的な保存的置換は、Lehninger,[Biochemistry,2nd Edition;Worth Publishers,Inc.,New York(1975),pp.71-77]に記載されており、直下に示される。
【0036】
本明細書で企図されるタンパク質は、全長タンパク質、全長タンパク質の前駆体、全長タンパク質の生物学的に活性なサブユニット又は断片、並びにこれらの形態の治療用タンパク質のうちのいずれかの生物学的に活性な誘導体及びバリアントを含む。このため、タンパク質には、(1)参照核酸又は本明細書に記載のアミノ酸配列によってコードされるポリペプチドと、少なくとも約25個、約50個、約100個、約200個、約300個、約400個、又はそれ以上のアミノ酸の領域にわたって、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、若しくは約99%超、又はそれ以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有するものが含まれる。本開示によれば、「組換えタンパク質」という用語には、組換えDNA技術を介して得られたいずれのタンパク質も含まれる。ある特定の実施形態では、本用語は、本明細書に記載されるタンパク質を包含する。
【0037】
いくつかの実施形態では、タンパク質は、治療用タンパク質、例えば、モノクローナル抗体若しくはポリクローナル抗体、又は他の糖タンパク質、バイオシミラー、Fc融合物、酵素、ワクチン、ホルモン、サイトカイン、若しくは成長因子である。更に他の実施形態では、遺伝子産物は、抗凝固剤、血液因子、骨形態形成タンパク質、インターロイキン、インターフェロン、血栓溶解剤、又は組換え手段によって産生される任意のタンパク質である。他の実施形態では、本方法は、本方法が、本明細書に記載される細胞によって産生され、結合ステップに使用できるプローブを有する、小分子を含む任意の生体分子又は化学実体とともに使用できることを提供する。
【0038】
本明細書で使用される「抗体」という用語は、標的抗原上のエピトープと(例えば、結合、立体障害、安定化/不安定化、空間分布によって)相互作用する全抗体を指す。天然に存在する「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続した少なくとも2つの重鎖(H)鎖と2つの軽鎖(L)鎖とを含む糖タンパク質である。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略す)及び重鎖定常領域で構成される。重鎖定常領域は、CH1、CH2、及びCH3の3つのドメインで構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略す)及び軽鎖定常領域で構成される。軽鎖定常領域は、CLの1つのドメインで構成される。VH領域及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が点在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域に更に細分することができる。各VH及びVLは、以下の順序でアミノ末端からカルボキシ末端に配列された3つのCDR及び4つのFRで構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)及び古典的補体系の第1成分(Clq)を含む宿主組織又は因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。「抗体」という用語には、例えば、モノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、ラクダ化抗体、キメラ抗体、一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、Fab断片、F(ab’)断片、及び抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本発明の抗体に対する抗Id抗体を含む)、並びに上記のうちのいずれかのエピトープ結合断片が含まれる。抗体は、任意のアイソタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、及びIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2)、又はサブクラスであり得る。抗体又はエピトープ結合断片は、二重特異性抗体を含む多重特異性分子であっても、その構成要素であってもよい。
【0039】
軽鎖と重鎖との両方は、構造的及び機能的相同性の領域に分割される。「定常」及び「可変」という用語は、機能上使用される。これに関して、軽(VL)鎖部分と重(VH)鎖部分との両方の可変ドメインにより、抗原認識及び特異性が決定されることが理解されよう。逆に、軽鎖(CL)及び重鎖(CH1、CH2、又はCH3)の定常ドメインにより、分泌、経胎盤移動、Fc受容体結合、補体結合などの重要な生物学的特性が付与される。慣例により、定常領域ドメインの番号は、抗体の抗原結合部位又はアミノ末端からより遠位になるにつれて大きくなる。N末端は可変領域であり、定常領域はC末端にある。CH3ドメイン及びCLドメインは、それぞれ、実際には重鎖及び軽鎖のカルボキシ末端を含む。
【0040】
「抗体断片」という語句は、本明細書で使用される場合、標的エピトープと(例えば、結合、立体障害、安定化/不安定化、空間分布によって)特異的に相互作用する能力を保持する抗体の1つ以上の部分を指す。結合断片の例としては、限定されないが、VL、VH、CL、及びCH1からなる一価断片であるFab断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結した2つのFab断片を含む二価断片であるF(ab)2、VHドメイン及びCH1ドメインからなるFd断片、抗体の単一アームのVLドメイン及びVHドメインからなるFv断片、VHドメインからなるdAb断片(Ward et al.,(1989)Nature 341:544-546)、並びに単離された相補性決定領域(CDR)、が挙げられる。更に、Fv断片の2つのドメインであるVL及びVHは、別個の遺伝子によってコードされるが、これらを、組換え方法を使用して、VL領域及びVH領域が対合して一価分子を形成する単一のタンパク質鎖にすることを可能にする合成リンカーによって接合することができる(一本鎖Fv(scFv)として知られ、例えば、Bird et al.,(1988)Science 242:423-426、及びHuston et al.,(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.85:5879-5883を参照されたい)。こうした一本鎖抗体はまた、「抗体断片」という用語内にも包含されることが意図される。これらの抗体断片は、当業者に既知の従来の技法を使用して得られ、断片は、インタクト抗体と同じ様式で有用性についてスクリーニングされる。
【0041】
他の実施形態では、目的のタンパク質は、治療用タンパク質、T細胞受容体、及びキメラ抗原受容体、成長因子、サイトカイン、ホルモン、酵素、又はその機能的断片である。一実施形態では、タンパク質はインスリンである。
【0042】
本開示は、いくつかの実施形態では、任意選択のリンカー、例えば、可動性リンカー配列を2つのタンパク質成分の間に含む融合タンパク質も提供する。いくつかの実施形態では、リンカーは、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも35、少なくとも40、少なくとも45、又は少なくとも50のアミノ酸長である。他の実施形態では、リンカーは、5未満、10未満、15未満、20未満、25未満、30未満、35未満、40未満、45未満、又は50未満のアミノ酸長である。一実施形態では、リンカーは、23のアミノ酸長である。リンカーは、様々な実施形態では、可動性、剛性、又は切断可能(例えば、ジスルフィド、プロテアーゼ感受性配列)であってもよい(Chen,X.,et al.,Advanced Drug Delivery Reviews,65(1):1357-1369(2013))。リンカーは、天然由来のマルチドメインタンパク質に由来しても、経験的であってもよい(長さ、疎水性、アミノ酸残基、及び二次構造など、天然リンカーのいくつかの特性を独立して比較している、Argos,P.,J.Mol.Biol.,211:943-958(1990)、及びHeringa,G.R.,Protein Eng.,15:871-879(2002)を参照されたい)。トレオニン(Thr)、セリン(Ser)、プロリン(Pro)、グリシン(Gly)、アスパラギン酸(Asp)、リジン(Lys)、グルタミン(Gln)、アスパラギン(Asn)、及びアラニン(Ala)が、いくつかの実施形態では、アルギニン(Arg)、フェニルアラニン(Phe)、及びグルタミン酸(Glu)と同様に、好ましいリンカー成分である。概して、好ましいアミノ酸は、極性非荷電残基又は荷電残基である。天然リンカーは、それらの機能を発揮するために、らせん状、β鎖、コイル/屈曲、及び回旋などの様々な二次構造をとる。
【0043】
選択タンパク質及び選択剤
本明細書に提供される選択タンパク質は、いくつかの実施形態では、タンパク質、ポリペプチド、又は類似体、例えば、上記のバリアント又は誘導体である。いずれの選択剤も、薬剤がダイナミックレンジを改善するために相乗的に作用する限り、本開示によって提供される方法で使用することができる。「相乗的選択剤」は、薬剤の組み合わせの効果が個々の薬剤単独での合計よりも大きい、2つ以上の薬剤の任意の組み合わせを指す。相乗的選択剤としては、抗生物質、糖、化学剤、酵素基質及び類似体、酵素阻害剤、生体分子を隔離する薬剤、キレート剤、並びに細胞壁又は細胞膜を損なう薬剤が挙げられるが、これらに限定されない。選択剤は、成長基質を構成する組成物の一部であることも、別々に提供されることもできる。
【0044】
一例では、選択タンパク質はジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)であり、相乗的選択剤はトリメトプリム及びスルファメトキサゾールである。ある特定の実施形態では、dhfrは、細菌源由来である。典型的には、細菌dhfrは、FolAと称される。好ましい実施形態では、FolAは、E.coliに由来する。一実施形態では、内因性FolAは、本明細書に記載の方法に従って使用される細胞又は株中でノックアウトされるか、又は別様には不活性にされる。一実施形態では、FolAは、以下のようにE.coliに由来する(www.uniprot.org/uniprot/P0ABQ4.fasta):
【表1】
【0045】
他の実施形態では、選択タンパク質及び相乗的選択剤には、限定されないが、トリメトプリム/スルファメトキサゾール、b-ラクタム/b-ラクタマーゼ阻害剤、細胞壁活性剤/アミノグリコシド、及びホスホマイシン/b-ラクタムの相乗的組み合わせが含まれる。
【0046】
細胞
細胞の集団からの細胞又は細胞のライブラリーの一部である細胞を含む細胞が、本開示によって企図される。本明細書で使用される場合、細胞に関する「ライブラリー」は、意図的に操作されるか天然に存在するかのいずれかである、細胞の遺伝的に異なっているバリアントの任意のコレクションを指す。例えば、固有の遺伝子型を有する及び/又は固有に遺伝子操作された細胞が企図される。細胞が目的の組換え異種タンパク質を発現及び産生することを可能にする修飾を含む、例示的な遺伝子修飾が本明細書に記載される。固有の表現型又は固有に操作された細胞は、いくつかの実施形態では、遺伝面、例えば、変異、プラスミド、プラスミド内の遺伝子などの存在において互いに異なる細胞集団を指す。
【0047】
本明細書に記載の発現構築物のうちの1つ以上を含む細胞が、本開示の様々な実施形態で企図される。本開示の細胞は、外膜(例えば、タンパク質及び脂質で構成される)を含み、この外膜内で、本明細書に記載の融合タンパク質が、発現されると、相互作用し得るか又は別様に存在し得る。
【0048】
原核生物宿主細胞。本開示のいくつかの実施形態では、本明細書に記載される融合タンパク質を含む遺伝子産物の発現のために設計された発現構築物は、原核生物宿主細胞などの宿主細胞において提供される。原核生物宿主細胞には、古細菌(例えばハロフェラックス・ボルカニ(Haloferax volcanii)、スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus))、グラム陽性細菌(例えば枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニホルミス(Bacillus licheniformis)、ブレビバチルス・チョウシネンシス(Brevibacillus choshinensis)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・ブチネリ(Lactobacillus buchneri)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、及びストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans))、又はアルファプロテオバクテリア(アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)、カウロバクター・クレセンタス(Caulobacter crescentus)、ロドバクター・スフェロイデス(Rhodobacter sphaeroides)、及びシノリゾビウム・メリロティ(Sinorhiz-bium meliloti))、ベータプロテオバクテリア(アルカリゲネス・ユートロフス(Alcaligenes eutrophus))、及びガンマプロテオバクテリア(アシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)、アゾトバクター・ビネランジー(Azotobacter vinelandii)、大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudo-monas aeruginosa)、及びプチダ菌(Pseudomonas putida))を含むグラム陰性細菌、が含まれ得る。好ましい宿主細胞は、腸内細菌科ファミリーのガンマプロテオバクテリア、例えばエンテロバクター(Enterobacter)、エルウィニア(Erwinia)、大腸菌類(E.coliを含む)、クレブシエラ(Klebsiella)、プロテウス(Proteus)、サルモネラ(Salmonella)(サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)を含む)、セラチア(Serratia)(セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescans)を含む)、及び赤痢菌(Shigella)などが含まれる。
【0049】
真核生物宿主細胞。多くの追加の種類の宿主細胞を本開示の発現系に使用することができ、これらには、真核細胞、例えば酵母(カンジダ・シェハタエ(Candida shehatae)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クリベロマイセス・フラギリス(Kluyveromyces fragilis)、他のクリベロマイセス属(Kluyveromyces)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・カールスベルゲンシス(Saccharo-myces carlsbergensis)としても公知であるサッカロマイセス パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、デッケラ/ブレタノマイセス(Dekkera/Brettanomyces)属、及びヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)など;他の真菌類(アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa)、ペニシリウム(Penicillium)、トリポクラジウム(Tolypocladium)、トリコデルマ・レシア(Trichoderma reesia));昆虫細胞株(キイロショウジョウバエSchneider2細胞及びスポドプテラ・フルギペルダSf9細胞);並びに哺乳動物細胞株、不死化細胞株(チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、サル腎細胞(COS)、ヒト胚腎臓(HEK,293、又はHEK-293)細胞、及びヒト肝細胞がん細胞(Hep G2))が含まれる。上記の宿主細胞は、American Type Culture Collectionから入手可能である。
【0050】
参照により全体が本明細書に組み込まれるWO/2017/106583に記載されているように、商業的規模及び可溶性形態で治療用タンパク質などの遺伝子産物を産生させることは、発酵培養において高い細胞密度で成長することができ、高度に制御された誘導性遺伝子発現をとおして酸化宿主細胞細胞質中で可溶性遺伝子産物を産生することができる好適な宿主細胞を提供することによって対処される。これら品質を伴う本開示の宿主細胞は、以下の特徴のうちの一部又は全てを組み合わせることにより産生される。(1)宿主細胞は、細胞質中の酸化ポリペプチドの発現若しくは機能を増加させることをとおして、及び/又は細胞質中の還元ポリペプチドの発現若しくは機能を減少させることにより、酸化細胞質を有するように遺伝子修飾される。こうした遺伝子改変の具体的な例が本明細書に提供される。任意選択で、宿主細胞はまた、所望の遺伝子産物の産生を補助するシャペロン及び/若しくは補因子を発現するように、並びに/又はポリペプチド遺伝子産物をグリコシル化するように、遺伝子修飾することができる。(2)宿主細胞は、1つ以上の目的の遺伝子産物の発現のために設計された1つ以上の発現構築物を含み、ある特定の実施形態では、少なくとも1つの発現構築物は、誘導性プロモーターと、誘導性プロモーターから発現される遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドとを含む。(3)宿主細胞は、発現構築物からの遺伝子産物発現のある特定の態様を改善するように設計された追加の遺伝子修飾を含む。特定の実施形態では、宿主細胞は、(A)少なくとも1つの誘導性プロモーターの誘導物質についてのトランスポータータンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の改変を有し、別の例として、トランスポータータンパク質をコードする遺伝子が、araE、araE、araG、araH、rhaT、xylF、xylG、及びxylHからなる群から選択され、若しくは特にaraEであり、又はより具体的には、遺伝子機能の改変が、構成的プロモーターからのaraEの発現であり、並びに/あるいは(B)少なくとも1つの該誘導性プロモーターの誘導物質を代謝するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の低下レベルを有し、かつ更なる例として、少なくとも1つの誘導性プロモーターの誘導物質を代謝するタンパク質をコードする遺伝子が、araA、araB、araD、prpB、prpD、rhaA、rhaB、rhaD、xylA、及びxylBからなる群から選択され、並びに/あるいは(C)少なくとも1つの誘導性プロモーターの誘導物質の生合成において含まれるタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の遺伝子機能の低下レベルを有し、該遺伝子は、更なる実施形態では、scpA/sbm、argK/ygfD、scpB/ygfG、scpC/ygfH、rmlA、rmlB、rmlC、及びrmlDからなる群から選択される。
【0051】
酸化細胞質を有する宿主細胞。本開示の発現系は、遺伝子産物を発現するように設計され、本開示のある特定の実施形態では、遺伝子産物は、宿主細胞中で発現される。多量体産物の構成要素を含む遺伝子産物の効率的かつ費用効果の高い発現を可能にする宿主細胞の例が提供される。宿主細胞は、培養中の単離細胞に加えて、多細胞生物の一部である細胞、又は異なる生物若しくは生物系内で成長した細胞を含み得る。本開示のある特定の実施形態では、宿主細胞は、微生物細胞、例えば、酵母(サッカロマイセス(Saccharomyces)、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)など)など、若しくは細菌細胞であるか、又はグラム陽性細菌若しくはグラム陰性細菌であるか、又はE.coliであるか、又はE.coli B株であるか、又はE.coli(B株)EB0001細胞(E.coli ASE(DGH)細胞とも呼ばれる)であるか、又はE.coli(B株)EB0002細胞である。酸化細胞質を有するE.coli宿主細胞、特にE.coli B株のSHuffle(登録商標)Express(NEBカタログ番号C3028H)及びSHuffle(登録商標)T7 Express(NEBカタログ番号C3029H)、及びE.coli K株のSHuffle(登録商標)T7(NEBカタログ番号C3026H)を用いた成長実験では、酸化細胞質を有するこれらのE.coli B株は、最も密接に対応するE.coli K株(WO/2017/106583)よりもはるかに高い細胞密度まで成長することができる。
【0052】
宿主細胞遺伝子機能に対する改変。誘導性発現構築物を含む宿主細胞の遺伝子機能にある特定の改変を行い、誘導物質による宿主細胞集団の効率的かつ均一な誘導を促進することができる。好ましくは、発現構築物、宿主細胞遺伝子型、及び誘導条件の組み合わせにより、WO/2017/106583の実施例9に記載されるKhlebnikov et al.の方法によって測定して、誘導されたプロモーター各々に由来する遺伝子産物を発現する培養中の細胞の少なくとも75%(より好ましくは少なくとも85%、最も好ましくは少なくとも95%)が得られる。E.coli以外の宿主細胞については、これらの改変には、E.coli遺伝子と構造的に類似した遺伝子の機能、又はE.coli遺伝子の機能に類似した宿主細胞内での機能を実行する遺伝子が伴い得る。宿主細胞遺伝子機能に対する改変には、遺伝子タンパク質をコードする配列全体を欠失させること、又は遺伝子の十分に大きい部分を欠失させること、遺伝子内に配列を挿入すること、又は別様に、遺伝子配列を、低減されたレベルの機能性遺伝子産物がその遺伝子から作製されるように改変することによって、遺伝子機能を排除する又は低減させることが含まれる。また、宿主細胞遺伝子機能に対する改変には、例えば、天然プロモーターを改変して、遺伝子の転写レベルを上昇させるより強いプロモーターを創出すること、又はより活性の高い遺伝子産物をもたらすタンパク質コード配列にミスセンス変異を導入することによって、遺伝子機能を増加させることを含む。宿主細胞遺伝子機能に対する改変には、例えば、天然誘導性プロモーターを改変して、構成的に活性化されるプロモーターを創出することを含む、任意の方法で遺伝子機能を改変することが含まれる。誘導性プロモーター、及び/又はシャペロンタンパク質の発現の改変に関して本明細書に記載されるように、誘導物質の輸送及び代謝のための遺伝子機能の改変に加えて、宿主細胞の還元酸化環境を改変することも可能である。
【0053】
宿主細胞還元酸化環境。E.coliなどの細菌細胞では、ジスルフィド結合を必要とするタンパク質は、典型的には、DsbABCD及びDsbGを含むDsb系によってジスルフィド結合形成及び異性化が触媒される、ペリプラズムに輸送される。システインオキシダーゼDsbA、ジスルフィドイソメラーゼDsbC、又はDsbタンパク質の組み合わせは、通常それらの全てがペリプラズム中に輸送されるが、それらの発現を増加させることは、ジスルフィド結合を要する異種タンパク質の発現に利用されてきた(Makino et al.,Microb Cell Fact 2011 May 14;10:32)。細胞質型DsbA及び/又はDsbC(「cDsbA」又は「cDsbC」)などであるこれらDsbタンパク質の細胞質形態を発現することも可能であり、これらはシグナルペプチドを欠くため、ペリプラズム中に輸送されない。cDsbA及び/又はcDsbCなどの細胞質Dsbタンパク質は、宿主細胞の細胞質をより酸化させるのに有用であり、よって、細胞質中で産生される異種タンパク質におけるジスルフィド結合の形成により貢献する。宿主細胞の細胞質はまた、チオレドキシン酵素系及びグルタレドキシン/グルタチオン酵素系を直接的に改変することにより、還元性を下げ、よって、酸化性を上げることができる。グルタチオンレダクターゼ(gor)又はグルタチオンシンテターゼ(gshB)に欠損がある変異株が、チオレドキシンレダクターゼ(trxB)と一緒になって、細胞質を酸化性にする。これらの株はリボヌクレオチドを低減させることができないため、ジチオスレイトール(DTT)などの外因性還元剤が存在しないと成長することができない。ペルオキシレドキシンAhpCをコードする遺伝子ahpCにおけるサプレッサー変異(ahpC*及びahpCAなど、Lobstein et al.,Microb Cell Fact 2012 May 8;11:56;doi:10.1186/1475-2859-11-56)は、それを、還元型グルタチオンを生成するジスルフィドレダクターゼに変換して、酵素リボヌクレオチドレダクターゼ上への電子のチャネリングを可能にし、gor及びtrxBに欠損がある細胞、又はgshB及びtrxBに欠損がある細胞が、DTTの非存在下で成長することを可能にする。異なるクラスの変異型のAhpCは、ガンマ-グルタミルシステインシンテターゼ(gshA)の活性に欠損があり、trxBに欠損がある株が、DTTの非存在下で成長することを可能にすることができる。これらには、AhpC V164G、AhpC S71F、AhpC E173/S71F、AhpC E171Ter、及びAhpC dup162~169が含まれる(Faulkner et al.,Proc Natl Acad Sci USA 2008 May 6;105(18):6735-6740,Epub 2008 May 2)。酸化性細胞質を有するこうした株では、曝露されたタンパク質システインは、チオレドキシンによって触媒されるプロセスで、その生理学的機能の逆転において、容易に酸化され、ジスルフィド結合の形成をもたらす。酸化性細胞質の宿主細胞における酸化ストレス効果を低減するのに役立ち得る他のタンパク質は、E.coli katGによってコードされるHPI(ヒドロペルオキシダーゼI)カタラーゼペルオキシダーゼ、及びE.coli katEによってコードされるHPII(ヒドロペルオキシダーゼII)カタラーゼペルオキシダーゼであり、これらは、過酸化物を水及び02に不均化させる(Farr and Kogoma,Microbiol Rev.1991 Dec;55(4):561-585;Review)。誘導された共発現をとおして又は構成的発現のレベルの上昇をとおして宿主細胞中のKatG及び/又はKatEタンパク質のレベルを増加させることは、本開示のいくつかの実施形態の一態様である。
【0054】
宿主細胞に対して行うことができる別の改変は、宿主細胞細胞質中の酵母ミトコンドリアの内膜空間からスルフヒドリルオキシダーゼErvlpを発現させることであり、これは、gor又はtrxBにおける変異が存在しなくても、E.coliの細胞質における真核生物起源の様々な複合体ジスルフィド結合タンパク質の産生を増加させることが示されている(Nguyen et al,Microb Cell Fact 2011 Jan 7;10:1)。
【0055】
発現構築物を含む宿主細胞は、好ましくは、cDsbA及び/又はcDsbC及び/又はErvlpも発現し、trxB遺伝子機能が欠損しており、gor、gshB、又はgshAのいずれかの遺伝子機能も欠損しており、任意選択で、増加したレベルのkatG及び/又はkatE遺伝子機能のレベルが増加しており、宿主細胞がDTTの非存在下で成長できるように、AhpCの適切な変異体形態を発現する。
【0056】
シャペロン。いくつかの実施形態では、所望の遺伝子産物は、所望の遺伝子産物の産生に有益である、他の遺伝子産物、例えば、シャペロンと共発現される。シャペロンは、他の遺伝子産物のフォールディング若しくはアンフォールディング及び/又はアセンブリ若しくは分解を支援するが、結果として生じる単量体又は多量体遺伝子産物構造中に、その構造がそれらの通常の生物学的機能(フォールディング及び/又はアセンブリのプロセスを完了している)を行っているときには生じないタンパク質である。シャペロンは、発現構築物内の誘導性プロモーター若しくは構成的プロモーターから発現させることができる、又は宿主細胞染色体から発現させることができ、好ましくは、宿主細胞中のシャペロンタンパク質の発現は、所望の産物へと適当にフォールディングされる及び/又は組み立てられる、共発現された遺伝子産物を産生するのに十分に高いレベルにある。E.coli宿主細胞中に存在するシャペロンの例は、フォールディング因子DnaK/DnaJ/GrpE、DsbC/DsbG、GroEL/GroES、IbpA/IbpB、Skp、Tig(トリガー因子)、及びFkpAがあり、これらは、細胞質タンパク質又はペリプラズムタンパク質のタンパク質凝集を防止するために使用されてきた。DnaK/DnaJ/GrpE、GroEL/GroES、及びClpBは、タンパク質フォールディングを支援する際に相乗的に機能することができるため、組み合わせにおけるこれらのシャペロンの発現は、タンパク質発現のために有益であることが示されている(Makino et al.,Microb Cell Fact 2011 May 14;10:32)。原核生物宿主細胞中で真核生物タンパク質を発現させる場合、同じ若しくは関連する真核生物種からのタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)などの真核生物シャペロンタンパク質は、ある特定の実施形態では、所望の遺伝子産物とともに発現されるか、又は誘導により共発現される。
【0057】
宿主細胞中で発現させることができる1つのシャペロンは、土壌線菌綱(軟腐真菌)であるフミコラ・インソレンス(Humicola insolens)由来のタンパク質ジスルフィドイソメラーゼである。フミコラ・インソレンスPDIのアミノ酸配列は、WO/2017/106583の配列番号1として示され、天然タンパク質のシグナルペプチドを欠くことで、宿主細胞質に残る。PDIをコードするヌクレオチド配列は、E.coli中での発現のために最適化され、PDIの発現構築物は、WO/2017/106583の配列番号2として示される。配列番号2は、その5’末端にGCTAGC Nhel制限部位、ヌクレオチド7~12にAGGAGGリボソーム結合部位、ヌクレオチド21~1478にPDIコード配列、及びその3’末端にGTCGAC Sail制限部位を含む。配列番号2のヌクレオチド配列は、誘導性プロモーターなどのプロモーターのすぐ下流に挿入されるように設計した。配列番号2のNhel及びSail制限部位を使用して、これを、ベクター多重クローニング部位、例えば、全体が参照により本明細書に組み込まれる公開された米国特許出願2015/353940(A1)号に記載されるpSOL発現ベクター(WO/2017/106583の配列番号3)のものに挿入することができる。他のPDIポリペプチドも宿主細胞中で発現されることができ、これらには、様々な種(Saccharomyces cerevisiae(UniProtKB PI 7967)、Homo sapiens(UniProtKB P07237)、Mus musculus(UniProtKB P09103)、Caenorhabditis elegans(UniProtKB Q 17770及びQ 17967)、Arabdopsis thaliana(UniProtKB 048773、Q9XI01、Q9S G3、Q9LJU2、Q9MAU6、Q94F09、及びQ9T042)、Aspergillus niger(UniProtKB Q12730)由来のPDIポリペプチド及びこうしたPDIポリペプチドの修飾形態が含まれる。本開示のある特定の実施形態では、本開示の宿主細胞中で発現されるPDIポリペプチドは、WO/2017/106583の配列番号1の長さの少なくとも50%(又は少なくとも60%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%)にわたって、少なくとも70%、又は80%、又は90%、又は95%のアミノ酸配列同一性を共有し、アミノ酸配列同一性は、WO/2017/106583の実施例10に従って決定される。
【0058】
補因子の細胞輸送。本開示の発現系を使用して、機能のために補因子を必要とする酵素を産生させる場合、利用可能な前駆体から補因子を合成すること又はそれを環境から取り込むことができる宿主細胞を使用することが有用である。一般的な補因子には、ATP、コエンザイムA、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、NAD+/NADH、及びヘムが含まれる。補因子輸送ポリペプチド及び/又は補因子合成ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを宿主細胞に導入することができ、こうしたポリペプチドは、構成的に発現させることも、本開示の方法によって産生される遺伝子産物とともに誘導的に共発現させることもできる。
【0059】
ポリペプチド遺伝子産物のグリコシル化。宿主細胞は、それらがポリペプチドをグリコシル化する能力に改変を有し得る。例えば、真核宿主細胞は、グリコシルトランスフェラーゼ及び/又はオリゴ-サッカリルトランスフェラーゼ遺伝子における遺伝子機能が排除されるか又は低減してもよく、それにより、糖タンパク質を形成するためのポリペプチドの正常な真核性グリコシル化を損なう。通常はポリペプチドをグリコシル化しないE.coliなどの原核生物宿主細胞を改変して、グリコシル化機能を提供する真核細胞遺伝子と原核細胞遺伝子とのセットを発現させることができる(DeLisa et al.,WO2009089154A2,2009 Jul 16)。
【0060】
遺伝子機能が改変された利用可能な宿主細胞株。本開示の発現系及び方法で使用される宿主細胞の好ましい株を創出するために、所望の遺伝子改変を既に含む株から開始することが有用である(表A、WO/2017/106583)。
【表2】
【0061】
発現構築物
本開示のいくつかの実施形態では、誘導性プロモーターは、発現構築物とともに使用することが企図される。例示的なプロモーターは、本明細書に記載され、全体が参照により本明細書に組み込まれるWO/2016/205570にも記載されている。本明細書に記載されるように、1つ以上の発現構築物を含む細胞は、任意選択で、目的の遺伝子産物を発現するために1つ以上の誘導性プロモーターを含んでもよい。一実施形態では、遺伝子産物は、本明細書に記載される融合タンパク質である。他の実施形態では、遺伝子産物は、タンパク質、例えば、治療用タンパク質である。
【0062】
発現構築物。発現構築物は、1つ以上の目的の遺伝子産物の発現のために設計されたポリヌクレオチドであるため、天然に存在する分子ではない。発現構築物は、宿主細胞染色体中に組み込むこと、又は宿主細胞染色体から独立して複製するポリヌクレオチド分子、例えば、プラスミド若しくは人工染色体として宿主細胞内に維持することができる。発現構築物の例は、宿主細胞染色体中への1つ以上のポリヌクレオチド配列の挿入から得られるポリヌクレオチドであり、挿入されたポリヌクレオチド配列は、染色体コード配列の発現を改変する。発現ベクターは、1つ以上の遺伝子産物の発現のために特に使用されるプラスミド発現構築物である。1つ以上の発現構築物は、宿主細胞染色体中に組み込むこと、又は染色体外ポリヌクレオチド、例えば、プラスミド若しくは人工染色体上に維持することができる。以下は、本明細書に記載される融合タンパク質を含む遺伝子産物の発現又は共発現のための発現構築物で使用され得る特定のタイプのポリヌクレオチド配列の説明である。
【0063】
複製起点。発現構築物は、独立して複製するポリヌクレオチドとして宿主細胞内に維持されるために、レプリコンとも呼ばれる複製起点を含む必要がある。同じ複製機序を使用する異なるレプリコンは、繰り返しの細胞分裂をとおして単一の宿主細胞において一緒に維持することはできない。その結果、プラスミドは、WO/2016/205570の表2に示されるように、それらが含む複製起点に応じて、不適合性群に分類することができる。複製起点は、他の基準のなかでも特に、不適合性群、コピー数、及び/又は宿主範囲に基づいて、発現構築物における使用のために選択され得る。上記のように、2つ以上の異なる発現構築物が、複数の遺伝子産物の共発現のために同じ宿主細胞で使用される場合、異なる発現構築物は、例えば、ある発現構築物中のpMBlレプリコン及び別の発現構築物中のpl5Aレプリコンという異なる不適合性群からの複製起点を含むことが最良である。宿主染色体分子の数に対する細胞中の発現構築物の平均コピー数は、その発現構築物中に含まれる複製起点によって決定される。コピー数は、細胞当たりいくつかのコピーから数百まで様々であり得る(WO/2016/205570の表2)。本開示の一実施形態では、同じ誘導物質によって活性化される誘導性プロモーターを含むが、異なる複製起点を有する、異なる発現構築物が使用される。異なる発現構築物の各々を細胞においてある特定のおよそのコピー数で維持する複製起点を選択することによって、ある発現構築物から発現される遺伝子産物の全体的な産生のレベルを、異なる発現構築物から発現される別の遺伝子産物に対して調整することが可能である。一例として、多量体タンパク質のサブユニットA及びBを共発現させるために、colElレプリコン、amプロモーター、及びamプロモーターから発現されるサブユニットAのコード配列を含む発現構築物「colEl-Para-A」を創出する。
【0064】
pl 5Aレプリコン、amプロモーター、及びサブユニットBのコード配列を含む別の発現構築物「pl5A-Para-B」を創出する。これらの2つの発現構築物は、同じ宿主細胞中で一緒に維持することができ、サブユニットAとサブユニットBとの両方の発現は、1つの誘導物質であるアラビノースを成長培地に加えることによって誘導される。サブユニットAの発現レベルをサブユニットBの発現レベルに対して有意に増加させる必要がある場合、2つのサブユニットの発現量の化学量論比を所望の比に近づけるために、例えば、pUC9プラスミド(「pUC9ori」)の複製起点に見られるように修飾されたpMB 1を有する、サブユニットAのための新しい発現構築物pUC9ori-Para-Aを創出し得る。pUC9ori-Para-Aなどの高コピー数発現構築物からサブユニットAを発現させることで、産生されるサブユニットAの量が、pl5A-Para-BからのサブユニットBの発現に対して増加するはずである。同様にして、pSOOl(WO/2016/205570)などのより低いコピー数で発現構築物を維持する複製起点を使用することで、その構築物から発現される遺伝子産物の全体的なレベルが低減し得る。複製起点の選択により、どの宿主細胞がそのレプリコンを含む発現構築物を維持できるかが決定され得る。例えば、colEl複製起点を含む発現構築物は、Enterobacteriaceae科内の種である利用可能な宿主の範囲が比較的狭いが、RK2レプリコンを含む発現構築物は、E.coli、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas putida、Azotobacter vinelandii、及びAlcaligenes eutrophus中に維持することができ、発現構築物がRK2レプリコン及びRK2プラスミド由来のいくつかの調節因子遺伝子を含む場合、これは、Sinorhizobium meliloti、Agrobacterium tumefaciens、Caulobacter crescentus、Acinetobacter calcoaceticus、及びRhodobacter sphaeroidesほど多様な宿主中に維持することができる(Kiies and Stahl,Microbiol Rev 1989 Dec;53(4):491-516)。
【0065】
真核細胞における誘導性発現又は共発現のための発現構築物を創出するために、類似の考慮事項を用いることができる。例えば、Saccharomyces cerevisiaeの2ミクロンの環状プラスミドは、pSRl(ATCC寄託番号48233及び66069、Araki et al.,J Mol Biol 1985 Mar 20;182(2):191-203)及びpKDl(ATCC寄託番号37519、Chen et al,Nucleic Acids Res 1986 Jun 11;14(11):4471-4481)などの他の酵母株由来のプラスミドと適合性がある。
【0066】
選択可能なマーカー。発現構築物は、選択培養培地中の宿主細胞の生存又は成長に必要なタンパク質をコードする、選択可能なマーカーとも称される選択遺伝子を通常含む。選択遺伝子を含む発現構築物を含まない宿主細胞は、培養培地中で生存しない。典型的な選択遺伝子は、抗生物質若しくは他の毒素に対する耐性を付与するか、又は宿主細胞の栄養要求性欠損を補完するタンパク質をコードする。選択スキームの一例は、抗生物質などの薬物を利用して、宿主細胞の成長を停止させる。選択可能なマーカーを含む発現構築物を含む細胞は、薬物耐性を付与するタンパク質を産生し、選択レジメンを生き延びる。選択可能なマーカーの選択に一般的に使用される抗生物質のいくつかの例(及び抗生物質耐性表現型を提供する遺伝子を示す略語)は、アンピシリン(AmpR)、クロラムフェニコール(CmlR又はCmR)、カナマイシン(KanR)、スペクチノマイシン(SpcR)、ストレプトマイシン(StrR)、及びテトラサイクリン(TetR)である。WO/2016/205570の表2にあるプラスミドの多くは、pBR322(AmpR、TetR)、pMOB45(CmR、TetR)、pACYClW(AmpR、KanR)、及びpGBMl(SpcR、StrR)などの選択可能なマーカーを含む。選択遺伝子の天然プロモーター領域が、通常、その遺伝子産物のコード配列とともに、発現構築物の選択可能なマーカー部分の一部として含まれる。あるいは、選択遺伝子のコード配列は、構成的プロモーターから発現され得る。
【0067】
様々な態様において、好適な選択可能なマーカーには、限定されないが、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(npt II)、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(hpt)、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)、ゼオシン、フレオマイシンブレオマイシン耐性遺伝子(ble)、ゲンタマイシンアセチルトランスフェラーゼ、ストレプトマイシンホスホトランスフェラーゼ、アセト乳酸合成酵素(als)の変異型、ブロモキシニルニトリラーゼ、ホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼ(bar)、エノールピルビルシキメート-3-ホスフェート(EPSP)シンターゼ(aro A)、筋特異的チロシンキナーゼ受容体分子(MuSK-R)、銅亜鉛スーパーオキシドジスムターゼ(sod1)、メタロチオネイン(cup1、MT1)、ベータ-ラクタマーゼ(BLA)、ピューロマイシンN-アセチル-トランスフェラーゼ(pac)、ブラストサイジンアセチルトランスフェラーゼ(bls)、ブラストサイジンデアミナーゼ(bsr)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(HDH)、N-スクシニル-5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミドリボチド(SAICAR)シンターゼ(ade1)、アルギニノコハク酸分解酵素(arg4)、ベータ-イソプロピルマレイン酸デヒドロゲナーゼ(leu2)、インベルターゼ(suc2)、オロチジン-5’-ホスファターゼ(OMP)、デカルボキシラーゼ(ura3)、及び前述のうちのいずれかのオルソログが含まれる。
【0068】
誘導性プロモーター。本明細書に記載するように、本開示の誘導性共発現系の一部として発現構築物中に含めることができる異なる誘導性プロモーターはいくつかある。好ましい誘導性プロモーターは、E.coli K-12亜株MG1655ゲノム配列を参照してWO/2016/205570の表1に定義されるように、プロモーターポリヌクレオチド配列の少なくとも30(より好ましくは少なくとも40、最も好ましくは少なくとも50)個の連続塩基に対して、少なくとも80%のポリヌクレオチド配列同一性(より好ましくは少なくとも90%の同一性、最も好ましくは少なくとも95%の同一性)を共有し、ここで、ポリヌクレオチド配列同一性の率は、WO/2016/205570の実施例11の方法を使用して決定される。「標準的な」誘導条件(WO/2016/205570の実施例5参照)下で、好ましい誘導性プロモーターは、De Mey et al.(WO/2016/205570の実施例6)の定量的PCR法を使用して決定して、E.coli K-12亜株MG1655の対応する「野生型」誘導性プロモーターの少なくとも75%(より好ましくは少なくとも100%、最も好ましくは少なくとも110%)の強度を有する。発現構築物内で、誘導性プロモーターは、誘導により発現される遺伝子産物のためのコード配列に対して5’(又は「その上流」)に配置され、その結果、誘導性プロモーターの存在により、遺伝子産物コード配列の転写が、遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドのコード鎖に対して5’から3’方向に方向付けられることとなる。
【0069】
リボソーム結合部位。ポリペプチド遺伝子産物について、誘導により発現させようとする遺伝子産物のコード配列の転写開始部位と開始コドンとの間の領域のヌクレオチド配列は、ポリペプチド遺伝子産物のmRNAの5’非翻訳領域(「UTR」)に相当する。好ましくは、5’UTに対応する発現構築物の領域は、宿主細胞の種に見られるコンセンサスリボソーム結合部位(RBS、Shine-Dalgarno配列とも呼ばれる)と類似したヌクレオチド配列を含む。原核生物(古細菌及び細菌)では、RBSコンセンサス配列はGGAGG又はGGAGGUであり、E.coliなどの細菌では、RBSコンセンサス配列はAGGAGG又はAGGAGGUである。RBSは、典型的には、開始コドンから5~10個の介在ヌクレオチドだけ分離している。発現構築物では、RBS配列は、AGGAGGUコンセンサス配列と、好ましくは少なくとも55%同一、より好ましくは少なくとも70%同一、最も好ましくは少なくとも85%同一であり、開始コドンから、5~10個の介在ヌクレオチド、より好ましくは6~9個の介在ヌクレオチド、最も好ましくは6又は7個の介在ヌクレオチドだけ分離している。所与のRBSが所望の翻訳開始速度を生む能力は、RBS Calculatorを使用してウェブサイトsalis.psu.edu/software/RBSLibraryCalculatorSearchModeで計算することができ、同じツールを使用して、合成RBSを、100,000倍以上の範囲にわたって翻訳速度について最適化することができる(Salis,Methods Enzymol 2011;498:19-42)。
【0070】
複数のクローニング部位。ポリリンカーとも呼ばれる複数のクローニング部位(MCS)は、互いに近接又は重複して複数の制限部位を含むポリヌクレオチドである。MCSの制限部位は、典型的には、MCS配列内で一回発生し、好ましくは、プラスミド又は他のポリヌクレオチド構築物の残りの部分内では発生せず、それにより、制限酵素がMCS内でのみプラスミド又は他のポリヌクレオチド構築物を切断できるようにする。MCS配列の例は、pBAD18、pBAD18-Cm、pBAD18-Kan、pBAD24、pBAD28、pBAD30、及びpBAD33を含む、発現ベクターのpBADシリーズ中のもの(Guzman et al.,J Bacteriol 1995 Jul;177(14):4121-4130)、又はpPR018、pPR018-Cm、pPR018-Kan、pPR024、pPRO30、及びpPR033などのpBADベクターに由来する発現ベクターのpPROシリーズ中のもの(米国特許第8178338 B2号;2012年5月15日;Keasling,Jay)である。複数のクローニング部位を発現構築物の創出に使用することができる。複数のクローニング部位をプロモーター配列の3’(又は下流)に配置することにより、MCSを使用して、発現又は共発現させる遺伝子産物のコード配列を、構築物中に、コード配列の転写が生じるようにプロモーターに対して適当な場所で挿入することができる。MCS内で切断するためにどの制限酵素が使用されるかに応じて、コード配列又は他のポリヌクレオチド配列が発現構築物中に挿入された後で、発現構築物内にMCS配列の一部が残ることがある。いずれの残りのMCS配列も、挿入された配列の上流にあることも、下流にあることも、両側にあることもできる。リボソーム結合部位は、MCSの上流に配置することができ、好ましくは、MCSにすぐ隣接するか、又はMCSから数ヌクレオチドのみ分離していることができ、その場合、RBSは、MCSに挿入される任意のコード配列の上流にある。別の代替は、MCS内にリボソーム結合部位を含めることであり、この場合、MCS内で切断するために使用される制限酵素の選択により、RBSが保持されているかどうか、及び挿入された配列に対してどのような関係であるかが決定される。更なる代替は、MCSで発現構築物に挿入されるポリヌクレオチド配列内に、好ましくは転写メッセンジャーRNAからの翻訳の開始を刺激するためのいずれかのコード配列と適当な関係で、RBSを含めることである。
【0071】
構成的プロモーターからの発現。本開示の発現構築物は、構成的プロモーターから発現されるコード配列も含むことができる。誘導性プロモーターとは異なり、構成的プロモーターは、ほとんどの成長条件下で連続的な遺伝子産物の産生を開始する。構成的プロモーターの一例は、ベータ-ラクタマーゼをコードし、pBR322(ATCC 31344)、pACYClW(ATCC 37031)、及びpBAD24(ATCC 87399)を含む多くのプラスミドによって宿主細胞に付与されるアンピシリン耐性(AmpR)表現型に関与するTn3 bla遺伝子の構成的プロモーターである。発現構築物で使用され得る別の構成的プロモーターは、E.coli K-12亜株MG1655の1755731~1755406位(プラス鎖)に位置するE.coliリポタンパク質遺伝子Ippのプロモーターである(Inouye and Inouye,Nucleic Acids Res 1985 May 10;13(9):3101-3110)。E.coliにおける異種遺伝子発現に使用されている構成的プロモーターの更なる例は、E.coli K-12亜株MG1655の1321169~1321133位(マイナス鎖)に位置するtrpLEDCBAプロモーターである(Windass et al.,Nucleic Acids Res 1982 Nov 11;10(21):6639-6657)。構成的プロモーターは、本明細書に記載される選択可能なマーカーの発現、及び所望の産物の共発現に有用な他の遺伝子産物の構成的発現のために、発現構築物で使用することができる。例えば、AraC、PrpR、RhaR、及びXylRなどの誘導性プロモーターの転写調節因子は、双方向性誘導性プロモーターから発現されない場合、代替的に、それらが調節する誘導性プロモーターと同じ発現構築物、又は異なる発現構築物のいずれかにおいて、構成的プロモーターから発現され得る。同様に、PrpEC、AraE、若しくはRhaなどの誘導物質の産生又は輸送に有用な遺伝子産物、又は細胞の還元酸化環境を修正するタンパク質は、数例として、発現構築物内の構成的プロモーターから発現され得る。共発現された遺伝子産物、及び結果として得られる所望の産物の産生に有用な遺伝子産物には、シャペロンタンパク質、補因子トランスポーターなども含まれる。
【0072】
シグナルペプチド。本開示の方法によって発現又は共発現されるポリペプチド遺伝子産物は、こうした遺伝子産物が、宿主細胞細胞質からペリプラズム内に輸出されることが望ましいか、細胞質内に保持されることが望ましいかに応じて、それぞれ、シグナルペプチドを含むことも、それらを欠くこともできる。シグナルペプチド(シグナル配列、リーダー配列、又はリーダーペプチドとも称される)は、単一のアルファヘリックスを形成する傾向を有する、およそ5~20アミノ酸長、多くの場合、約10~15アミノ酸長の疎水性アミノ酸の伸長を構造的な特徴とする。この疎水性伸長では、正荷電アミノ酸(特にリジン)に富むより短い伸長が直前に先行することが多い。成熟ポリペプチドから切断されるシグナルペプチドは、典型的には、シグナルペプチダーゼにより認識されて切断されるアミノ酸の伸長で終わる。シグナルペプチドは、ポリペプチドを、翻訳と同時に又は翻訳後のいずれかで、原核生物の細胞膜(又はE.coliなどのグラム陰性細菌の内膜)をとおして又は真核細胞の小胞体中に輸送することを指揮する能力を機能的な特徴とする。シグナルペプチドが、E.coliのような宿主細胞のペリプラズム空間中にポリペプチドを輸送することを可能にする程度は、例えば、WO/2016/205570の実施例12に記載されている方法などの方法を使用して、ペリプラズムタンパク質を、細胞質中に保持されるタンパク質から分離させることにより決定することができる。
【0073】
以下は、遺伝子産物の発現又は共発現のための発現構築物で使用することができる誘導性プロモーター、並びにこうした発現構築物を含む宿主細胞に行うことができる遺伝子修飾のうちのいくつかの説明である。これらの誘導性プロモーター及び関連遺伝子の例は、別途指定のない限り、Escherichia coli(E.coli)株MG1655(American Type Culture Collection寄託番号ATCC 700926)に由来するものであり、これは、E.coli K-12(American Type Culture Collection寄託番号ATCC 10798)の亜株である。WO/2016/205570の表1は、誘導性プロモーター及び関連遺伝子のこれらの例のヌクレオチド配列の、E.coli MG1655におけるゲノム位置を列挙する。ヌクレオチド及び他の遺伝子配列は、WO/2016/205570の表1中のゲノム位置により参照され、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。本明細書に記載されるE.coliプロモーター、遺伝子、及び株に関する追加情報は、ecoliwiki.netのオンラインEcoliWikiリソースを含む、多くの公開リソースにおいて見出すことができる。
【0074】
アラビノースプロモーター。(本明細書中で使用される場合、「アラビノース」はL-アラビノースを意味する。)アラビノース利用に関与するいくつかのE.coliオペロンは、アラビノース(araBAD、araC、araE、及びaraFGH)により誘導可能であるが、典型的には、「アラビノースプロモーター」及び「araプロモーター」という用語が、araBADプロモーターを指定するために使用される。Para、ParaB、ParaBAD、及びPBADなどのいくつかの追加の用語が、E.coli araBADプロモーターを示すために使用されている。「araプロモーター」又は上記の代替用語のうちのいずれかの使用は、E.coli araBADプロモーターを意味する。別の用語である「araC-araBADプロモーター」の使用から分かるように、araBADプロモーターは双方向性プロモーターの一部とみなされ、araBADプロモーターは、一方の方向にaraBADオペロンの発現を制御するものであり、araBADプロモーターに近接しaraBADプロモーターと反対の鎖上にあるaraCプロモーターは、他方の方向にaraCコード配列の発現を制御するものである。AraCタンパク質は、araBADプロモーターの正と負との両方の転写調節因子である。アラビノースの非存在下で、AraCタンパク質はPBADからの転写を抑制するが、アラビノースの存在下では、アラビノース結合時にその立体構造を改変するAraCタンパク質は、PBADからの転写を可能にする正の調節要素となる。araBADオペロンは、L-アラビノースを、それを中間体L-リブロース及びL-リブロース-ホスフェートをとおしてD-キシルロース-5-ホスフェートに変換することにより代謝するタンパク質をコードする。アラビノース誘導性プロモーターからの発現の誘導を最大化する目的で、L-リブロースへのL-アラビノースの変換を触媒するAraAの機能を除去する又は低減させること、並びに任意選択で、AraB及びAraDのうちの少なくとも一方の機能も除去する又は低減させることが有用である。細胞中のアラビノースの有効濃度を減少させる宿主細胞の能力を除去する又は低減させることで、アラビノースを他の糖に変換する細胞の能力を除去する又は低減させることにより、より多くのアラビノースをアラビノース誘導性プロモーターの誘導のために利用可能にすることができるようになる。宿主細胞中にアラビノースを移動させるトランスポーターをコードする遺伝子は、低親和性L-アラビノースプロトンシンポーターをコードするaraE、及びABCスーパーファミリー高親和性L-アラビノーストランスポーターのサブユニットをコードするaraFGHオペロンである。L-アラビノースを細胞中に輸送することができる他のタンパク質は、LacYラクトースパーミアーゼのある特定の変異体:それぞれ位置177でアラニンの代わりにシステイン又はバリンアミノ酸を有するLacY(AlWC)及びLacY(AlWV)タンパク質である(Morgan-Kiss et al.,Proc Natl Acad Sci USA 2002 May 28;99(11):7373-7377)。アラビノース誘導性プロモーターの均一な誘導を達成するために、細胞中へのアラビノースの輸送をアラビノースによる調節とは独立したものにすることが有用である。これは、AraFGHトランスポータータンパク質の活性を除去するか又は低減させ、araEの発現を、それが構成的プロモーターからのみ転写されるように改変することにより達成することができる。araEの構成的発現は、天然araE遺伝子の機能を除去するか又は低減させ、構成的プロモーターから発現されたAraEタンパク質のコード配列を含む発現構築物を細胞中に導入することにより達成することができる。あるいは、AraFGH機能を欠く細胞中では、宿主細胞の染色体araE遺伝子の発現を制御するプロモーターを、アラビノース誘導性プロモーターから構成的プロモーターに変化させることができる。類似の様式で、アラビノース誘導性プロモーターの均一な誘導のための更なる代替として、AraE機能を欠く宿主細胞は、構成的プロモーターから発現された細胞中に存在する任意の機能的AraFGHコード配列を有することができる。別の代替として、天然araE及びaraFGHプロモーターを、宿主染色体中の構成的プロモーターで置換することにより、構成的プロモーターからaraE遺伝子及びaraFGHオペロンの両方を発現させることが可能である。また、AraE及びAraFGHアラビノーストランスポーターの両方の活性を除去するか又は低減させ、その状況において、このタンパク質がアラビノースを輸送することを可能にするLacYラクトースパーミアーゼ中の変異を使用することも可能である。lacY遺伝子の発現は、通常、アラビノースにより調節されないため、LacY(A177C)又はLacY(A177V)などのLacY変異体を使用しても、アラビノース誘導性プロモーターがアラビノースの存在により誘導される場合、「全か無か」の誘導現象は生じない。LacY(A177C)タンパク質は、アラビノースを細胞中に輸送する際により効果的であるように見えるため、LacY(A177C)タンパク質をコードするポリヌクレオチドの使用は、LacY(A177V)タンパク質をコードするポリヌクレオチドの使用よりも好ましい。
【0075】
プロピオネートプロモーター。「プロピオネートプロモーター」又は「prpプロモーター」は、E.coli prpBCDEオペロンのプロモーターであり、ΡΡΦΒaraとも呼ばれる。araプロモーターと同様に、prpプロモーターは双方向性プロモーターの一部であり、一方の方向でprpBCDEオペロンの発現を制御し、prpRプロモーターが他方の方向でprpRコード配列の発現を制御する。PrpRタンパク質は、prpプロモーターの転写調節因子であって、PrpRタンパク質が2-メチルシトレート(「2-MC」)に結合するとき、prpプロモーターからの転写を活性化する。プロピオネート(プロパノエートとも呼ばれる)は、プロピオン酸(又は「プロパン酸」)のイオンCH3CH2COO-であり、このクラスの分子のある特定の特性を共有する一般式
【化1】
を有する「脂肪」酸のうちで最も小さく、水から塩析されたときに油性層を生み出し、石鹸状のカリウム塩を有する。市販のプロピオネートは、概して、プロピオン酸の一価カチオン塩、例えば、プロピオン酸ナトリウム(CH3CH2COONa)として、又は二価カチオン塩、例えば、プロピオン酸カルシウム(Ca(CH3CH2COO)2)として販売される。プロピオネートは膜透過性であり、PrpE(プロピオニル-CoAシンテターゼ)によるプロピオニル-CoAへのプロピオネートの変換、及びその後のPrpC(2-メチルシトレートシンターゼ)による2-MCへのプロピオニル-CoAの変換により、2-MCに代謝される。prpBCDEオペロンによりコードされる他のタンパク質であるPrpD(2-メチルシトレートデヒドラターゼ)及びPrpB(2-メチルイソシトレートリアーゼ)は、ピルベート及びサクシネートなどのより小さな産物への2-MCの更なる異化に関与する。したがって、細胞成長培地に加えられたプロピオネートによるプロピオネート誘導性プロモーターの誘導を最大化するために、プロピオネートを2-MCに変換するために、PrpC及びPrpE活性を伴うが、2-MCが代謝されることを防ぐために、除去された又は低減したPrpD活性、及び任意選択で除去された又は低減したPrpB活性も有する宿主細胞を有することが望ましい。2-MC生合成に関与するタンパク質をコードする別のオペロンは、scpA-argK-scpBCオペロンであり、これは、sbm-yg/DGHオペロンとも呼ばれる。これらの遺伝子は、プロピオニル-CoAへのサクシネートの変換のために必要とされるタンパク質をコードし、これが次に、PrpCにより2-MCに変換され得る。これらのタンパク質の機能の除去又は低減によって、2-MC誘導物質の産生のための平行経路が除去され、したがって、プロピオネート誘導性プロモーターの発現のバックグラウンドレベルが低減し、外因的に供給されたプロピオネートに対するプロピオネート誘導性プロモーターの感受性が増加し得る。JSB株を創出するためにE.coli BL21(DE3)に導入されたsbm-ygfD-ygfG-ygfH-ygflの欠失(Lee and Keasling,「A propionate-inducible expression system for enteric bacteria」,Appl Environ Microbiol 2005 Nov;71(11):6856-6862)が、外因的に供給された誘導物質の非存在下でバックグラウンド発現を低減させることに有用であったが、この欠失によって、JSB株におけるprpプロモーターからの全体的な発現も低減したことが見出された。しかしながら、欠失sbm-ygfD-ygfG-ygfH-ygflはまた、機能が分かっていない推定LysRファミリー転写調節因子をコードするygflに影響を及ぼすように見受けられることに留意されたい。遺伝子sbm-yg/DGHは1つのオペロンとして転写され、ygflは反対の鎖から転写される。ygfti及びygflコード配列の3’末端は、少数の塩基対だけ重複するため、sbm-yg/DGHオペロンの全てを取り除く欠失によって、ygflコード機能も取り除かれるようである。ygflの発現に影響しないようにygfli(又はscpC)遺伝子の3’末端を十分に残しながら、sbm-ygfDGH遺伝子産物のサブセット、例えば、YgfG(ScpB、メチルマロニル-CoAデカルボキシラーゼとも呼ばれる)の機能を除去する若しくは低減させる、又はsbm-yg/DGH(又はscpA-argK-scpBC)オペロンの大部分を欠失させることは、誘導された発現の最大レベルを低減させることなく、プロピオネート誘導性プロモーターからのバックグラウンド発現を十分に低減させるのに十分であり得る。
【0076】
ラムノースプロモーター。(本明細書中で使用される場合、「ラムノース」はL-ラムノースを意味する。)「ラムノースプロモーター」又は「rhaプロモーター」又はPrhaSRは、E.coli rhaSRオペロンのプロモーターである。ara及びprpプロモーターと同様に、rhaプロモーターは、双方向性プロモーターの一部であり、一方の方向でrhaSRオペロンの発現を制御し、rhaBADプロモーターが他方の方向でrhaBADオペロンの発現を制御する。しかしながら、rhaプロモーターは、発現の調節に関与する2つの転写調節因子 RhaR及びRhaSを有する。RhaRタンパク質は、ラムノースの存在下でrhaSRオペロンの発現を活性化させる一方、RhaSタンパク質は、L-ラムノースの異化オペロン及び輸送オペロンであるrhaBAD及びrhaTの発現をそれぞれ活性化する(Wickstrum et al,J Bacteriol 2010 Jan;192(1):225-232)。RhaSタンパク質は、rhaSRオペロンの発現を活性化することもできるが、実際には、RhaSは、環状AMP受容体タンパク質(CRP)がRhaRとともに発現をはるかに高いレベルに共活性化する能力を妨害することによって、この発現を負に自己調節する。rhaBADオペロンは、L-ラムノースをL-ラムヌロースに変換するラムノース異化タンパク質RhaA(L-ラムノースイソメラーゼ)、L-ラムヌロースをリン酸化してL-ラムヌロース-1-Pを形成するRhaB(ラムヌロキナーゼ)、並びにL-ラムヌロース-1-PをL-ラクトアルデヒド及びDHAP(ジヒドロキシアセトンホスフェート)に変換するRhaD(ラムヌロース-1-ホスフェートアルドラーゼ)をコードする。ラムノース誘導性プロモーターからの発現の誘導に利用可能な細胞中のラムノースの量を最大化するために、RhaA、又は任意選択でRhaA並びにRhaB及びRhaDの少なくとも一方の機能を排除する又は低減させることにより、触媒により分解されるラムノースの量を低減させることが望ましい。E.coli細胞はまた、rmlBDACX(又はrfbBDACX)オペロンによりコードされるタンパク質RmlA、RmlB、RmlC、及びRmlD(それぞれ、RfbA、RfbB、RfbC、及びRfbDとも呼ばれる)の活性をとおして、アルファ-D-グルコース-1-PからL-ラムノースを合成することができる。ラムノース誘導性プロモーターからのバックグラウンド発現を低減させ、外因性に供給されるラムノースによるラムノース誘導性プロモーターの誘導の感受性を増強するために、RmlA、RmlB、RmlC、及び
【0077】
RmlDタンパク質のうちの1つ以上の機能を排除する又は低減させることが有用であり得る。L-ラムノースは、RhaT、ラムノース透過酵素、又はL-ラムノース:プロトンシンポーターにより、細胞中に輸送される。上記のように、RhaTの発現は、転写調節因子RhaSによって活性化される。RhaTの発現を、ラムノースによる誘導(RhaSの発現を誘導する)から独立させるために、宿主細胞を、細胞中の全ての機能的RhaTコード配列が構成的プロモーターから発現されるように改変することができる。加えて、機能的RhaSが産生されなくなるように、RhaSのコード配列を欠失させるか又は不活化することができる。細胞中のRhaSの機能を排除する又は低減させることにより、rhaSRプロモーターからの発現のレベルが、RhaSによる負の自己調節の欠如に起因して増加し、ラムノース触媒オペロンrhaBADの発現のレベルが減少し、rhaプロモーターから発現を誘導するラムノースの能力が更に増加する。
【0078】
キシロースプロモーター。(本明細書中で使用される場合、「キシロース」はD-キシロースを意味する。)キシロースプロモーター、又は「xylプロモーター」、又はPxylAは、E.coli xylABオペロンのためのプロモーターを意味する。キシロースプロモーター領域は、xylABオペロン及びxylFGHRオペロンの両方が、隣接するキシロース誘導性プロモーターから、E.coli上の反対方向に発現されるという点で、組織化において他の誘導性プロモーターと類似している(Song and Park,J Bacteriol.1997 Nov;179(22):7025-7032)。PxylA及びPxylFプロモーターの両方の転写レギュレーターは、キシロースの存在下でこれらのプロモーターの発現を活性化するXylRである。xylR遺伝子は、xylFGHRオペロンの一部として、又はxylHタンパク質コード配列とxylRタンパク質コード配列との間に位置するキシロースにより誘導されない、それ自体の弱いプロモーターから、発現される。D-キシロースは、XylA(D-キシロースイソメラーゼ)により異化され、これがD-キシロースをD-キシルロースに変換し、これが次にXylB(キシルロキナーゼ)によってリン酸化されてD-キシルロース-5-Pを形成する。キシロース誘導性プロモーターからの発現の誘導に利用可能な細胞中のキシロースの量を最大化するために、少なくともXylAの、又は任意選択でXylAとXylBとの両方の機能を除去する又は低減させることにより、触媒により分解されるキシロースの量を低減させることが望ましい。xylFGHRオペロンは、ABCスーパーファミリー高親和性D-キシローストランスポーターのサブユニットであるXylF、XylG、及びXylHをコードする。E.coli低親和性キシロース-プロトンシンポーターをコードするxylE遺伝子は、別個のオペロンを表し、その発現も、キシロースによって誘導可能である。キシローストランスポーターの発現を、キシロースによる誘導と独立したものにするために、全ての機能性キシローストランスポーターが構成的プロモーターから発現されるように、宿主細胞を改変することができる。例えば、xylFGHコード配列を欠失させて、XylRを、キシロース誘導性PxylFプロモーターから発現される唯一の活性タンパク質とし、xylEコード配列を、その天然プロモーターではなく構成的プロモーターから発現させるように、xylFGHRオペロンを改変し得る。別の例として、xylRコード配列を、発現構築物中のPxylA又はプロモーターから発現させ、一方でxylFGHRオペロンを欠失させ、xylEを構成的に発現させるか、あるいは代替的に、xylFGHオペロン(xylRコード配列を欠き、これは、それが発現構築物中に存在するからである)を構成的プロモーターから発現させ、xylEコード配列を欠失させるか又は改変して、活性タンパク質を産生しないようにする。
【0079】
ラクトースプロモーター。「ラクトースプロモーター」という用語は、lacZYAオペロンについてのラクトース誘導性プロモーターを指し、これはlacZp1とも呼ばれるプロモーターである。このラクトースプロモーターは、E.coli K-12亜株MG1655のゲノム配列(NCBI参照配列NC 000913.2、l l-JAN-2012)中のおよそ365603~365568に位置する(マイナス鎖、NAポリメラーゼ結合(「-35」)部位がおよそ365603~365598にあり、Pribnowボックス(「-10」)が365579~365573にあり、転写開始部位が365567にある)。いくつかの実施形態では、本開示の誘導性発現系は、lacZYAプロモーターなどのラクトース誘導性プロモーターを含み得る。他の実施形態では、本開示の誘導性発現系は、ラクトース誘導性プロモーターではない、1つ以上の誘導性プロモーターを含む。
【0080】
アルカリホスファターゼプロモーター。「アルカリホスファターゼプロモーター」及び「phoAプロモーター」という用語は、phoApsiFオペロンのプロモーターを指し、これは、ホスファターゼ飢餓条件下で誘導されるプロモーターである。phoAプロモーター領域は、E.coli K-12亜株MG1655のゲノム配列(NCBI参照配列NC 000913.3、16-DEC-2014)中のおよそ401647~401746(プラス鎖、Pribnowボックス(「-10」)が401695~401701にある(Kikuchi et al.,Nucleic Acids Res 1981 Nov 11;9(21):5671-5678))に位置する。phoAプロモーターの転写活性化因子は、PhoBであり、これは、センサータンパク質PhoRとともに、E.coliにおいて二成分シグナル伝達系を形成する転写調節物質である。PhoB及びPhoRは、E.coli K-12亜株MG1655のゲノム配列(NCBI参照配列NC 000913.3、16-DEC-2014)中のおよそ417050~419300(プラス鎖、PhoBコード配列が417,142~417,831にあり、PhoRコード配列が417,889~419,184にある)に位置するphoBRオペロンから転写される。phoAプロモーターは、誘導物質を加えることではなく、物質(細胞内ホスフェート)の欠如により誘導されるという点で、上記の誘導性プロモーターとは異なる。この理由から、phoAプロモーターは、概して、宿主細胞がホスフェートについて枯渇する段階、例えば、発酵の後期段階で産生される遺伝子産物の転写を指揮するために使用される。いくつかの実施形態では、本開示の誘導性共発現系は、phoAプロモーターを含み得る。他の実施形態では、本開示の誘導性共発現系は、phoAプロモーターではない、1つ以上の誘導性プロモーターを含む。
【0081】
本明細書に記載されるように、例えば、発現構築物を保有する細胞株が商業目的で使用される又は使用されることになる場合、本明細書に記載の発現構築物を(例えば、誘導性又は構成的「硬化」機序によって)除去することが有利又は望ましい場合がある。このため、いくつかの実施形態では、発現構築物は、「殺傷スイッチ」を含んでもよい。例えば、実施形態では、発現構築物は、温度感受性の複製起点を含む。追加の硬化方法は、当該技術分野で既知であり、界面活性剤及び挿入剤、薬物、並びに抗生物質の使用を含む(Buckner,M.M.C.,et al.,FEMS Microbiology Reviews,fuy031,42,2018,781-804)。
【0082】
本開示を更に説明する前に、本開示が説明される特定の実施形態に限定されず、よって、当然のことながら変化し得ることが理解される。本開示の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、限定することを意図するものではないことも理解される。
【0083】
値の範囲が提供される場合、その範囲の上限と下限との間の、文脈により別途明確に示されない限り下限の単位の10分の1までの各介在値、及びその記載された範囲内の任意の他の記載値又は介在値が、本開示内に包含されることが理解される。これらのより小さな範囲の上限及び下限は、独立して、より小さな範囲に含まれてもよく、また記載の範囲内の任意の具体的に除外された限界次第で、本開示内に包含される。記載の範囲が限界の一方又は両方を含む場合、それらの含まれる限界の一方又は両方を除外する範囲も本開示に含まれる。
【0084】
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似又は同等のいずれの方法及び材料も、本開示の実施又は試験に使用することができるが、好ましい方法及び材料をここで説明する。本明細書で言及される全ての刊行物は、それらの刊行物が引用される関連する方法及び/又は材料を開示及び説明するために、参照により本明細書に組み込まれる。
【0085】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「and」、及び「the」は、文脈により別途明確に示されない限り、複数の指示対象を含むことに留意すること。このため、例えば、「立体構造スイッチングプローブ」への言及には、複数のそのような立体構造スイッチングプローブが含まれ、「マイクロ流体デバイス」への言及には、当業者に既知の1つ以上のマイクロ流体デバイス及びその均等物への言及が含まれる(以降同様)。更に、特許請求の範囲は、いずれかの要素、例えば、いずれかの任意選択の要素を除外するように起草され得ることに留意されたい。このため、本記述は、特許請求要素の列挙に関連して「単に(solely)」、「のみ(only)」などといった排他的用語の使用、又は「否定的な」制限の使用についての先行詞としての役割を果たすことを意図している。
【0086】
本開示を読むことで当業者には明らかとなるように、本明細書に説明及び図示される個々の実施形態の各々は、本開示の範囲又は趣旨から逸脱することなく、他のいくつかの実施形態のうちのいずれかの特徴から容易に分離させるか、又はそれらと組み合わせることができる、別個の構成要素及び特徴を有する。いずれの列挙された方法も、列挙された事象の順序で、又は論理的に可能な任意の他の順序で実施され得る。これは、こうした全ての組み合わせに対する支持を提供することが意図されている。
【実施例
【0087】
実施例1
高発現E.coli株の成長あり/成長なし選択アッセイ
本実施例は、混合集団(ライブラリー)における可溶性タンパク質高発現E.coli株を特定するための単純な成長あり/成長なし選択戦略を説明し、実施する。
【0088】
本明細書では、アラビノースプロモーター駆動型mCherry-FolA融合タンパク質の発現をコードするプラスミドを保有するE.coli株を使用して、(1)トリメトプリム自体が非常に限定的な選択可能なダイナミックレンジを有すること、及び(2)スルファメトキサゾールを加えることで、mCherry-FolA株をトリメトプリムに対して増感させることを示す。
【0089】
株:株#1。pBADプロモーターの制御下で抗生物質標的遺伝子(folA)融合物をコードするプラスミドを保有するE.coli。株#2。異なる抗生物質標的遺伝子(murA)をコードするプラスミドを保有する対照E.coli。
【0090】
実験:アラビノースを含むトリメトプリム抗生物質勾配プレートを調製する。抗生物質勾配は、プレートにわたって同一にする。しかしながら、第2の抗生物質(スルファメトキサゾール)の濃度は、各プレートでは均一であるが、プレート間では異なる。抗生物質勾配にわたって株を接種する。成長の長さは、相対的抗生物質耐性の尺度である。folA遺伝子を有するpBADプラスミドを保有する株については、成長の長さはスルファメトキサゾール濃度と反比例し得る。最も高いスルファメトキサゾール濃度を含むプレートは、成長の長さが最も短いはずである。
【0091】
図1に示すように、mCherry-FolA融合物を保有する細胞は、トリメトプリムに対して高度に耐性である。図1は、100ug/mlのトリメトプリム(mCherry-FolA)に対する耐性が、アラビノース及びmCherry-FolA融合物に依存することを示す。最大16ug/mlのスルファメトキサゾールは、成長を阻害しなかった。
【0092】
図2に示すように、スルファメトキサゾールとの相乗作用により、トリメトプリムダイナミックレンジが改善される。図2は、トリメトプリムがスルファメトキサゾールとの強い相乗効果を有することを示し、トリメトプリムに対する感受性は、2ug/ml超のスルファメトキサゾールで回復する。
【0093】
実施例2
可溶性タンパク質選択アッセイ-インスリン-FolA融合物
本実施例は、2つのインスリン-FolA融合構築物(インスリンバリアント)を使用して、及び2つのE.coliシャペロンライブラリーを使用して、実施例1からのアッセイを説明し実施する。
【0094】
本明細書並びに実施例1及び図1~2に記載する組み合わせで、2つの薬剤トリメトプリム及びスルファメトキサゾールのマトリックスを覆う寒天プレートを調製した。ライブラリー内の最も性能の高い株によって忍容された抗生物質の実際の濃度が分からないため、組み合わせマトリックスが必要である。空の(シャペロンを含まない)プラスミドを担持する2つの対照株とシャペロンプラスミドを有する実験株とを、各々、図3に示すように、組み合わせマトリックス(例えば、トリメトプリム-スルファメトキサゾールのマトリックス)によって覆われたプレートのセット全体に個々にプレーティングした。6つの株の各々からプレート当たりおよそ3億個の細胞を、16個のプレート全てに、個々にプレーティングした。プレートを5日間インキュベートした後、最終分析を行った。
【0095】
5日間のインキュベーション後、寒天プレートのいくつかにおいて、対照株と実験株との間に差異が観察された。これらの差異は、実験プレートが対照よりも大きなコロニーを示す場合、わずかなものであり、又は対照ではなく実験プレートでのみ成長が観察された場合、顕著なものである。2つのインスリン-FolA融合物/シャペロンプラスミド対の各々について、可溶性インスリンHiPrBindアッセイを使用して(例えば、WO/2021/163349を参照されたい)、更なる特性評価のために、7つの陽性ヒットをランダムにピックアップした。2つのインスリン-FolA融合物の各々についてピックアップした7つの株のうち、2つの株は、対照株と比較して増加した量の可溶性インスリンを示した。
【0096】
結論として、FolA選択アッセイにより、より大量の目的の可溶性タンパク質-FolA融合物を産生した株の成長あり/成長なし選択が可能になる。加えて、低から非常に高への発現株の等級付けは、相乗的抗生物質の濃度を増加させる選択条件を修正することによって得ることができる。最後に、数十億個の細胞を含む大規模なライブラリーを並行して試験して、最も性能の高い株のサブセットを特定することができる。
【0097】
実施例3
可溶性タンパク質選択アッセイ-アルファフェトプロテイン
本実施例は、細胞の集団を更に分析するための固相アッセイを組み込む、上述のアッセイを説明し、実施する。固相アッセイは、本明細書、及び例えばPCT/US22/53107に記載されている。
【0098】
上記実施例で説明したアッセイを2つの異なる標的タンパク質(インスリン及びアルファフェトプロテイン)に適用することで、本アッセイにより、選択的プレート上での選択後に数百の成長コロニー(候補)が生じたことが示された。理想的な目標は、全ての候補を試験して、それらが真の優良物であるのか、逃避機序を獲得した変異体であるのかを判定することである。ここで、固相アッセイを用いて、成長集団全体を試験し、実際にバックグラウンド対照よりも融合タンパク質をより多く産生した優良物を特定した。
【0099】
Protein Simple Jess自動計器を使用したキャピラリーイムノブロットによる可溶性アルファフェトプロテインの相対発現の決定
100μLの培養物からの湿潤細胞ペーストを、溶解緩衝液(50mMのトリス-HCl、200mMの塩化ナトリウム、10.0g/Lのオクチルグルコシド、2400U/mLのリゾチーム、2U/mLのベンゾナーゼ、pH7.2)に再懸濁させ、氷上で1時間溶解させた。溶解後、試料を0.1倍の試料緩衝液(Protein Simple)で0.008のOD600に希釈し、3300×gで30分間、4℃で遠心分離した。遠心分離後、試料を、100mMのヨードアセトアミドを含む蛍光マスターミックス(Protein Simple)と、0.0064のOD600まで混合し、ボルテックスし、95℃まで5分間加熱した。調製した試料を、ウサギモノクローナル抗アルファ1フェトプロテイン一次抗体(abcam品目番号ab169552)及び化学発光イムノアッセイを実施するために必要な試薬に加えて、12~230kDaのSeparation Moduleプレート(Protein Simple)にロードした。Separation Moduleプレートを、25キャピラリーカートリッジとともにJessにロードし、既定の化学発光検出方法を使用して実行した。Simple Westernアッセイの結果を、Simple Westernソフトウェア用のProtein Simple Compassを使用して分析した。
【0100】
事例研究:アルファフェトプロテイン
プラスミドライブラリーを、以下の特徴で構築した。(図4)アラビノースプロモーターは、C末端においてfolAにインフレームで遺伝子融合させた標的タンパク質(アルファフェトプロテイン)を制御する。加えて、プラスミドを、約1200個の固有のシャペロン遺伝子のプールからランダムに選択される、プロピオネートプロモーターによって駆動される2つのシャペロンを保持するように設計した。理論的多様性は、144万個の固有の組み合わせ(1200×1200)である。
【0101】
以下の表Bに従って、10μg/mlのカナマイシンと、125mMのアラビノースと、1mMのプロピオネートと、トリメトプリム/スルファメトキサゾールの64個の異なる組み合わせのうちの1つとを含む寒天プレートのセットを調製した。
【表3】
【0102】
このライブラリーのおよそ3億個の細胞を、64枚のプレートの各々にプレーティングした。プラスミドがシャペロン遺伝子を含まないことを除いてライブラリーと正確なプラスミドを保有する対照株も、64枚のプレートの各々にプレーティングした。プレートのコレクション全体を30℃で1週間インキュベートした。プレートを調べると、プレートのサブセットのみ(表Cの太枠内)が目に見えるコロニーを含む。他のものは、0日目と比較して成長に変化がなかったか、又は堅牢なコロニーが存在しない細菌の広がりであった。
【表4】
【0103】
1週間のインキュベーション後のコロニーを有するプレートの例を図5に示す。
【0104】
9枚のプレートのうち8枚を固相アッセイにより分析した。
【0105】
ラウンド1 固相アッセイ
【0106】
ニトロセルロース膜(Cytiva Protran BA 83カタログ番号10401316)を、寒天の表面上に重ねる。処理後にニトロセルロース膜から得られた画像との寒天プレートの位置アライメントに使用するために、縫い針を使用して、寒天にラテックス塗料を適用した。これは、針を明るい色のラテックス塗料に浸漬し、次いで、塗料で覆われた針先端を使用して、寒天をとおして膜を穿孔し、寒天に塗料の一部及び膜上に穿刺マークを残すことによって行った。次いで、膜を寒天表面から優しく持ち上げ、結合した細胞を含む側を上向きにしてWhatman紙(Cytivaカタログ番号1001-090)に置いた。後続の全てのステップで、膜は、常に細胞側を上向きにして置く。Whatman紙を使用して、ニトロセルロース膜から過剰な塗料を除去した。次いで、ニトロセルロースを清潔な皿に移した。固定溶液の2mlの溶液[2.6%(w/v)パラホルムアルデヒド、0.04%(w/v)グルタルアルデヒド、32.25mMのNaPO、pH7.4]を膜に塗布し、室温で3分間インキュベートさせた。その後、膜を1倍PBS[135mMのNaCl、2.7mMのKCl、11mMのリン酸緩衝液、pH7.4]で3回洗浄した。次いで、膜をブロッキング溶液[0.1MのNaHCO3 pH8.6、1mMのEDTA、5mg/mlのウシ血清アルブミン(画分V)、1μMのビオチン]中で一晩インキュベートした。翌日、膜を新鮮な皿に移し、5mlのリゾチーム溶液[Millipore Sigmaカタログ番号71110-4、1倍Immunoassay緩衝液(PerkinElmerカタログ番号AL000F)で10,000倍希釈]で10分間処理した。続いて、膜を新鮮な皿に移し、アルファフェトプロテインのための検出試薬[0.25nMの抗アルファフェトプロテイン(abcamカタログ番号ab130748)、0.25nMの抗ウサギ抗体-アルカリホスファターゼ(Millipore Sigmaカタログ番号A2556)]とともに一晩インキュベートした。翌日、膜を6~8回洗浄し、毎回過剰な液体を流し、膜を、20~50mlの1倍洗浄緩衝液(Azure Biosystemsカタログ番号AC2113)を含む新鮮な皿に移した。最後の洗浄後、膜を2mlのアルカリホスファターゼ基質(SeraCare KPL PhosphaGLO、カタログ番号5430-0055)で約3分間処理した。膜を流し、Whatman紙(Cytivaカタログ番号1001-090)に置いた。膜上の穿刺マークを、黒色のペンを使用して手でハイライトする。次いで、膜を、Azure 600撮像装置( Azure Biosystems)の撮像チャンバ内に定置し、(1)蛍光(励起732/発光832)及び(2)化学発光について撮像した。蛍光画像は、ペンマーキングを捕捉し、Azure Biosystems画像捕捉ソフトウェアを使用して化学発光画像と合体させた。蛍光画像は、化学発光画像を寒天プレートと整列させるためのマーキングを含む。合体させた画像を、レーザープリンタを使用してクリアな透明フィルム上に印刷した。
【0107】
得られた画像の例を図6に示す。
【0108】
分析した8つの膜(以下の表Dのマトリックス中の太字の文字)を検査すると、8つの膜のうち3つのみが陽性ヒットを含んでいたことが示された。陽性ヒットを含んでいた3つの膜は、以下のマトリックスの青色のボックスからのトリメトプリム/スルファメトキサゾールの組み合わせを含んでいた寒天プレートに由来する。この結果は、トリメトプリム/スルファメトキサゾールの最も高い忍容濃度で現れるコロニーのみが、この選択戦略の真の優良物を含むことを示唆している。
【表5】
【0109】
ヒットの回収及び特性評価
得られた画像を使用して、50個のヒットを対応するプレートからピックアップして、ヒット回収を導いた。合体させた画像(蛍光+化学発光画像)は、ヒットの位置及びソース寒天プレートからライブヒットを回収するためのアライメント情報の両方を含む。寒天内の塗料マーク及び透明フィルム上の蛍光撮像によって捕捉したドットを使用して、寒天を、印刷された透明フィルムと整列させる。滅菌ループの鈍端を使用して、寒天の表面にループで優しく触れ、その後、8つのセクターにグリッド化した新鮮な誘導プレート[LB/Kan(10μg/ml)/アラビノース(125μM)/プロピオネート(1mM)]の表面に触れることによって、推定ヒットを回収する。各推定ヒットに1つのセクターを与える。各セクターでは、次いで、滅菌ループを使用して、初期接種物をストリークアウトし、回収したE.coliを広げることによって単一コロニーについて分離させる。誘導プレートを30℃で2日間インキュベートする。次いで、プレートを、ラウンド1の固相ヒット特定について記載したのと同じ手順を使用して処理する。
【0110】
ラウンド2 結果
対照プレートと比較した試験プレートの例示的な画像
8つのピックアップしたヒットからのアルファフェトプロテインシグナルが、ナイーブライブラリー、シャペロンなし対照株、又は陽性対照株のいずれかから得られたアルファフェトプロテインシグナルよりも大きい、図7のラウンド2の画像。
【0111】
株純度及び安定な遺伝子型を確保するために、シングルをラウンド2の画像からの暗いセクター各々からピックアップし、単一のコロニーをストリークアウトすることによりLBカナマイシン(50μg/ml)寒天プレート上で継代した。目的は、いずれの選択的な圧力(すなわち、培地中のトリメトプリム/スルファメトキサゾールの存在)もなしにアルファフェトプロテイン発現を改善させる安定な株を特定することである。一晩成長させた後、LBカナマイシン(50μg/ml)寒天に対する繰り返しのストリークを新鮮なプレート上で行った。ストリーク精製の第2ラウンド後の十分に単離された単一コロニーを、新鮮なセクターに分けた誘導プレート上にパッチし、各セクターを単一コロニーで占有した。プレートを2日間インキュベートし、上記のように固相によって処理した。セクターのうちの22個がアルファフェトプロテイン発現について依然として陽性であり、多くのセクターからのシグナルが陽性対照株を超える、図8に示す処理した膜の画像。
【0112】
22個の陽性株からのプラスミドを回収し、分析した。12個の固有のプラスミドを特定した。folA遺伝子をこれらの12個のプラスミドから切り離し、再循環させて、folAを欠くが、元のシャペロンを依然として保有する新しい発現プラスミドを創出した。(図9
【0113】
新しいプラスミドを新鮮な宿主E.coli株に戻して形質転換し、新たに創出した株を新鮮なセクターに分けた誘導プレート上にストリークし、固相アッセイによるアルファフェトプロテイン発現の分析のために30℃で24時間インキュベートした。
【0114】
固相アッセイにより、新たに創出された株のうちの2つ(#4及び#5)が、寒天プレート上で陰性対照(N、シャペロンなし)よりも多くのアルファフェトプロテインを明らかに発現することが示された。(図10)これらの株が液体培養中で優れているかどうかを決定するために、同じ12個の株を、50μg/mlのカナマイシン、125μMのアラビノース、1mMのプロピオネートを含む液体誘導培地中で培養した。30℃で24時間成長させた後、細胞をペレット化することによって培養物を収集し、可溶性の単量体アルファフェトプロテインを自動キャピラリーWestern分析によって定量した。アルファフェトプロテインの相対存在量を、陰性対照株(シャペロンなし)に存在するものに対して正規化した。
【0115】
液体培養では、6つの株(#1、2、8、9、11)は、陰性対照株(シャペロンなし)よりも多くのアルファフェトプロテインを明らかに発現した。液体培養における優良物は、寒天プレート上で特定された2つの株(#5及び6)と同じではない。この発見は珍しいことではない。(図11
【0116】
これらのデータにより、folA融合アッセイが、特に固相アッセイと直列に結合されたときに、プールされたライブラリー内のより高性能な株を特定することが示された。
【0117】
上記の様々な実施形態を組み合わせて、更なる実施形態を提供することができる。本明細書において言及される、及び/又はApplication Data Sheetに列挙される全ての米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、及び非特許刊行物は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。実施形態の態様は、様々な特許、出願、及び刊行物の概念を用いて、なお更なる実施形態を提供するために、必要に応じて修正することができる。
【0118】
これら及びその他の変更は、上で詳述した説明を考慮して、実施形態に対して行うことができる。概して、以下の特許請求の範囲において、使用される用語は、特許請求の範囲を本明細書及び特許請求の範囲に開示される特定の実施形態に限定すると解釈されるべきではなく、こうした特許請求の範囲が権利を有する均等物の全範囲とともに、全ての可能な実施形態を含むと解釈されるべきである。したがって、特許請求の範囲は本開示によって限定されない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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【国際調査報告】