(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-22
(54)【発明の名称】GM2ガングリオシドーシスの処置
(51)【国際特許分類】
C07D 211/46 20060101AFI20250115BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250115BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20250115BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20250115BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20250115BHJP
A61K 31/445 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
C07D211/46 CSP
A61P43/00 121
A61P29/00 ZNA
A61K45/00
A61P25/28
A61K31/445
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024539849
(86)(22)【出願日】2023-01-10
(85)【翻訳文提出日】2024-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2023050459
(87)【国際公開番号】W WO2023131720
(87)【国際公開日】2023-07-13
(32)【優先日】2022-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2022-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522489118
【氏名又は名称】アザファロス ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】AZAFAROS B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ロビン, ジェニファー
(72)【発明者】
【氏名】ブラッター, フリッツ
(72)【発明者】
【氏名】ヘット, ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ランズクローナー, カイル
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA52
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZB111
4C084ZC201
4C084ZC511
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC21
4C086GA15
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZB11
4C086ZC20
4C086ZC51
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病を処置することにおける使用のための、式(I)の化合物に関する。特に、本発明は、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している対象の生存時間を増加させることにおける使用のための、式(I)の化合物に関する。式(I)の化合物は抗炎症剤としても使用可能である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病に罹患している対象の生存時間を増加させることにおける使用のための、式(I)の化合物。
【化1】
【請求項2】
好ましくはGM2ガングリオシドーシスに罹患している対象における、抗炎症剤としての使用のための、式(I)の化合物。
【化2】
【請求項3】
結晶である、請求項1又は2に記載の使用のための化合物。
【請求項4】
前記結晶が遊離塩基の結晶である、請求項3に記載の使用のための化合物。
【請求項5】
前記結晶がX線粉末回折パターンにおいて17.8±0.2°での2θ値として記述される反射を示し、17.8±0.2°での前記反射が前記X線粉末回折パターンにおける4つの最も強い反射の1つである、請求項3又は4に記載の使用のための化合物。
【請求項6】
X線粉末回折パターンにおいて4.1±0.2°、8.3±0.2°、12.4±0.2°、13.6±0.2°、14.5±0.2°、14.9±0.2°、15.2±0.2°、17.2±0.2°、19.3±0.2°、21.2±0.2°、22.4±0.2°、22.9±0.2°、及び23.3±0.2°の1つ又は複数での2θ値として記述される1つ又は複数の反射をさらに示す、請求項5に記載の使用のための化合物。
【請求項7】
生存時間を増加させることで前記対象の余命が少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、又は少なくとも40%延長される、請求項1及び3~5のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項8】
前記対象に合計約0.1mg/日~合計約15mg/日の範囲の投与量で投与される、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項9】
前記対象に抗炎症剤と共に投与される、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項10】
前記対象に前記抗炎症剤と同時に又は前記抗炎症剤と連続的に投与される、請求項9に記載の使用のための化合物。
【請求項11】
前記対象に毎日投与される、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項12】
前記対象が
(a)GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病若しくはテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病の1つ若しくは複数の症状を示すか;
(b)GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病若しくはテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病のいずれの症状も示さないか;
(c)GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病若しくはテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病と診断されているか;又は
(d)GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病若しくはテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病と診断されていない、
請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項13】
前記対象が、HEXB遺伝子の少なくとも1つの変異を有し、並びに/又はβ-ヘキソサミニダーゼA及び/若しくはβ-ヘキソサミニダーゼBの活性の減少を示す、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項14】
運動機能の向上、行動の向上、不安の減少、体調の向上、バランスの向上、発作の減少、発話明瞭度の向上、歩行の向上、嚥下の向上、及び知能の向上から選択される、少なくとも1つのさらなる治療上の有益性を前記対象に提供する、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項15】
前記対象がヒトであり、好ましくは、前記対象が28日齢~30歳である、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項16】
前記対象にpH4.0~7.5を示す医薬組成物において投与される、請求項1~15のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病を処置することにおける使用のための、式(I)の化合物に関する。
【化1】
【0002】
特に、本発明は、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している対象の生存時間を増加させることにおける使用のための、式(I)の化合物に関する。
【背景技術】
【0003】
GM2ガングリオシドーシスは、脂質を分解するために必要である様々なタンパク質の欠乏により引き起こされる、脳を冒す変性疾患/炎症性疾患の一群である。GM2ガングリオシドーシスの例としてはサンドホフ病及びテイ・サックス病が挙げられる。GM2ガングリオシドーシスは、処置成功がこれまでは限定的であったことから、急速な神経学的悪化、及び典型的には4歳未満での死亡を特徴とする。GM2ガングリオシドーシスは、GM2ガングリオシド(脂質の1つ)を分解するために必要な酵素をコードする責任を負う遺伝子の欠損の遺伝の結果である。次に、この脂質は体内に蓄積されて、脳中で最高レベルに到達し、最も多量になる。これらの疾患は、重症の乳児型では約6月齢で顕性になる。これらの疾患の若年発症型及び成人発症型は、広範な神経症状を伴うものであり、神経症状の多くは消耗性であり、最終的には致死性である。
【0004】
通常、GM2ガングリオシドは、細胞のリソソーム中で、HEXA、HEXB、及びGM2Aという3つの遺伝子の産物の協調作用を通じて分解される。これらの遺伝子のいずれか1つの欠損により、GM2ガングリオシドに対するHEXAの活性の欠乏が生じることがあり、この場合、GM2ガングリオシドを分解することはできない。GM2ガングリオシドーシスの最も一般的な形態は、HEXAの変異により生じるテイ・サックス病である。β-ヘキソサミニダーゼのβサブユニットをコードするHEXBの変異によりサンドホフ病が生じる。アシュケナージ系ユダヤ人の子孫の個体約25名中1名がテイ・サックス病の保因者であるが、保因者スクリーニングによって、当該集団における発生率を減少させることに成功している。サンドホフ病の罹患率は出生384,000件中約1件であるが、特定の集団においてはこれよりも高い。
【0005】
マウスHexa及びHexb遺伝子の標的化破壊によってテイ・サックス病及びサンドホフ病のマウスモデルが作り出された。Hexb遺伝子を標的化する変異によって、痙縮、筋力低下、強直、及び最終的には16~17週齢までの死亡を引き起こす、脳及び脊髄中での広範なGM2ガングリオシドの蓄積を特徴とする、重症の神経学的表現型が生じる(Gulinello et al.,(2008),Behavioural Brain Research:193,315-319)。これらのマウスは、GM2ガングリオシドの潜在的な治療薬を試験するためのモデルとして広範に使用されている。
【0006】
GM2ガングリオシドーシスの遺伝的原因に加えて、炎症反応(ミクログリア活性化、マクロファージ浸潤、酸化損傷)も、これらのリソソーム蓄積症に関連している。特に、炎症は、脳中での過剰なGM2蓄積により生じることが知られており、逆に、脳の慢性炎症は、GM2ガングリオシドーシスにおける直接的及び間接的な疾患発病及び疾患進行に関与している(Jeyakumar et al.,(2003),Brain:126,974-987)。また、炎症性サイトカインTNFα、IL1β、及びTGFβ1の産生が、サンドホフ病マウスの脳中では上昇したが、対照マウスでは上昇しなかったことが示された。後の研究では、これらの知見が、GM2ガングリオシドーシスに罹患したヒトにおいて確認された。最後に、マクロファージの活性化、及び炎症性サイトカインであるマクロファージ炎症性タンパク質-1α(MIP-1α)のレベルの上昇が、サンドホフ病の発病に関与している。
【0007】
GM2における炎症の役割に関するさらなる証拠は、抗炎症薬アスピリンの使用により示されており、アスピリンはサンドホフ病マウスにおいて疾患の進行を有意に遅らせることが示されている(Jeyakumar et al.,(2004),Ann.Neurol.:56,642-649)。アスピリンを基質合成抑制療法(GM2ガングリオシドーシスに関与する脂質の合成を阻害する化合物による処置)と組み合わせた際に、相乗作用が生じ(11%、生存時間の向上)、最大で生存時間が73%向上することが発見された。
【0008】
近年有望であることが示されたGM2ガングリオシドーシスの別の治療薬は、薬物ピリメタミンである。ピリメタミンによるGM2ガングリオシドーシス細胞株の処置は、酵素活性の向上を示し、初期ヒト治験において一定の成功を収めている(Ashe et al.,(2011),PLOS One:6,e21758)。ピリメタミンは、マラリアを処置するための承認薬であるが、ピリメタミンがヘキソサミニダーゼの産生を強化することも示されている(Maegawa et al.,(2007),J.Biol.Chem.:282,9150-9161)。
【0009】
GM2ガングリオシドーシスを処置するために使用される治療剤の一次薬理作用が、酵素グルコシルセラミド合成酵素(GCS)を阻害すること、続いてより複雑なスフィンゴ糖脂質(GSL)の生合成を減少させることにより、グルコシルセラミド(GlcCer)の形成を阻害することである、基質合成抑制療法(SRT)が、さらなる治療原理となる。SRTはゴーシェ病1型及びニーマン・ピック病C型に関して承認されている。
【0010】
グルコシルセラミド合成酵素阻害剤として開発されたイミノ糖(D-グルコースの合成類似体)である、ミグルスタット(N-ブチルデオキシノジリマイシン)(セラミドグルコシルトランスフェラーゼ、EC 2.4.1.80、UniProtコード:Q16739とも呼ばれる)は、大量の分配を示すものであり、脳、骨、及び肺などの深部臓器に到達する能力を有する。さらに、ミグルスタットが抗炎症性を有することが示されている。しかし、臨床的には、ミグルスタットが若年性GM2ガングリオシドーシスに対して治療上有効であることは示されていない(Maegawa et al.(2009),Molecular Genetics and Metabolism:98,215-224)。
【0011】
国際公開第2015/147639号では、1つの式の化合物(本明細書では式(I)の化合物と呼ばれる)を含む広範なデオキシノジリマイシン誘導体が記載されている。
【化2】
【0012】
式(I)の化合物は、グルコシルセラミド合成酵素及び非リソソームグルコシルセラミダーゼ(GBA2、UniProtコード:Q9HCG7)の強力な二重阻害剤である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
サンドホフ病又はテイ・サックス病などのGM2ガングリオシドーシスを有する患者の生存率が非常に低く、余命が非常に短いことに鑑み、これらの疾患に罹患している患者の生存時間を増加させるであろう新規治療薬の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、式(I)の化合物をGM2ガングリオシドーシス(特にサンドホフ病)のマウスモデルにおいて試験し、この化合物が罹患マウスの生存時間を媒体(プラセボ)処置マウスに比べて延長する上で非常に有効であることを発見した。さらに、この化合物を使用する処置が処置マウスにおいて運動機能を有意に向上させることが示された。したがって、第1の態様では、本発明は、対象の運動機能、特にGM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している対象の運動機能を向上させることにおける使用のための、式(I)の化合物を提供する。
【化3】
【0015】
好ましくは、対象はサンドホフ病に罹患している。運動機能の向上によって対象の生活の質が向上する。
【0016】
さらなる態様では、本発明は、GM2ガングリオシドーシスを処置することにおける使用のための、式(I)の化合物を提供する。
【化4】
【0017】
さらなる態様では、本発明は、サンドホフ病を処置することにおける使用のための、式(I)の化合物を提供する。
【化5】
【0018】
さらなる態様では、本発明は、テイ・サックス病を処置することにおける使用のための、式(I)の化合物を提供する。
【化6】
【0019】
さらなる態様では、本発明は、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病の症状を除去、軽減、又は改善することにおける使用のための、式(I)の化合物を提供する。
【化7】
【0020】
好ましくは、式(I)の化合物はサンドホフ病の症状を除去、軽減、又は改善する。
【0021】
さらなる態様では、本発明は、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病に罹患している対象の寿命又は余命を延長することにおける使用のための、式(I)の化合物を提供する。
【化8】
【0022】
さらなる態様では、本発明は、GM2ガングリオシドーシスに罹患している対象の生存時間を増加させることにおける使用のための、式(I)の化合物を提供する。
【化9】
【0023】
さらなる態様では、本発明は、サンドホフ病に罹患している対象の生存時間を増加させることにおける使用のための、式(I)の化合物を提供する。
【化10】
【0024】
さらなる態様では、本発明は、テイ・サックス病に罹患している対象の生存時間を増加させることにおける使用のための、式(I)の化合物を提供する。
【化11】
【0025】
本発明の医学的使用は任意の好適な形態で表現されうる。したがって、さらなる態様では、本発明は、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病を処置する方法であって、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している対象に、式(I)の化合物を、前記対象の生存時間を増加させるために有効な量で投与するステップを含む、方法を提供する。
【化12】
【0026】
好ましくは、本方法はサンドホフ病を処置するものである。したがって、本発明は、サンドホフ病を処置する方法であって、サンドホフ病に罹患している対象に、式(I)の化合物を、前記対象の生存時間を増加させるために有効な量で投与するステップを含む、方法を提供する。
【0027】
さらなる態様では、本発明は、テイ・サックス病を処置する方法であって、テイ・サックス病に罹患している対象に、式(I)の化合物を、前記対象の生存時間を増加させるために有効な量で投与するステップを含む、方法を提供する。
【化13】
【0028】
さらなる態様では、本発明は、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している対象の生存時間を増加させる方法であって、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している対象に、式(I)の化合物を、前記対象の生存時間を増加させるために有効な量で投与するステップを含む、方法を提供する。
【化14】
【0029】
好ましくは、対象はサンドホフ病に罹患している。したがって、本発明は、サンドホフ病に罹患している対象の生存時間を増加させる方法であって、サンドホフ病に罹患している対象に、式(I)の化合物を、前記対象の生存時間を増加させるために有効な量で投与するステップを含む、方法を提供する。
【化15】
【0030】
さらなる態様では、本発明は、テイ・サックス病に罹患している対象の生存時間を増加させる方法であって、テイ・サックス病に罹患している対象に、式(I)の化合物を、前記対象の生存時間を増加させるために有効な量で投与するステップを含む、方法を提供する。
【化16】
【0031】
さらなる態様では、本発明は、サンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している対象を処置し、対象の生存時間を増加させる方法であって、サンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している対象に、式(I)の化合物を、前記対象の生存時間を増加させるために有効な量で投与するステップを含む、方法を提供する。
【化17】
【0032】
さらなる態様では、本発明は、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している対象を処置するための、式(I)の化合物の使用を提供する。
【化18】
【0033】
好ましくは、対象はサンドホフ病に罹患している。
【0034】
さらなる態様では、本発明は、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している対象の生存時間を増加させるための、式(I)の化合物の使用を提供する。
【化19】
【0035】
好ましくは、対象はサンドホフ病に罹患している。
【0036】
さらなる態様では、本発明は、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している対象の生存時間を増加させるための医薬を製造するための、式(I)の化合物の使用を提供する。
【化20】
【0037】
好ましくは、対象はサンドホフ病に罹患している。
【0038】
さらなる態様では、本発明は、好ましくはGM2ガングリオシドーシスに罹患している対象における、抗炎症剤としての使用のための、式(I)の化合物を提供する。
【化21】
【0039】
化合物は、ITGAX、TREM2、及びCXCL10などの炎症性遺伝子の下方制御によって抗炎症効果を発揮しうる。
【0040】
本発明はまた、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病に罹患している対象の生存時間を増加させるための医薬の製造における、式(I)の化合物の使用を提供する。
【化22】
【0041】
本発明はまた、抗炎症薬の製造における、式(I)の化合物の使用を提供する。
【化23】
本明細書に記載のいずれかの態様では、疾患は全般的にはGM2ガングリオシドーシスであるが、疾患は典型的にはサンドホフ病又はテイ・サックス病である。すべての態様によれば、対象は好ましくはサンドホフ病に罹患している。
【0042】
上記のいずれかの態様では、式(I)の化合物は、好ましくは結晶である。好ましくは、結晶は、X線粉末回折パターンにおいて17.8±0.2°での2θ値として記述される反射を示すものであって、17.8±0.2°での前記反射が前記X線粉末回折パターンにおける4つの最も強い反射の1つである、「形態3」の結晶である。
【0043】
好ましくは、上記のいずれかの態様では、化合物は対象に医薬組成物として投与される。医薬組成物は、化合物を、少なくとも1種の薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤と共に含みうる。
【0044】
本発明に係る使用のための化合物の他の好ましい実施形態は、本明細書全体を通じて、特に実施例において現れる。
【0045】
上記で説明したように、本発明者らは、驚くべきことに、式(I)の化合物が、GM2ガングリオシドーシスに罹患している対象(サンドホフ病マウスモデルに基づく)の生存時間(すなわち余命)を増加させることを発見した。さらに、本出願の発明者らは、式(I)の化合物が、対象、特にGM2ガングリオシドーシス(例えばサンドホフ病)に罹患している対象の運動技能を有意に向上させること、及び/又は対象の行動評価に肯定的な影響を与えることを発見した。
【0046】
明らかに反する指示がない限り、本明細書に規定される各態様又は実施形態を任意の他の(1つ若しくは複数の)態様又は(1つ若しくは複数の)実施形態と組み合わせることができる。特に、好ましいか又は有利であることが示される任意の特徴を、好ましいか又は有利であることが示される任意の他の1つ又は複数の特徴と組み合わせることができる。
【0047】
以下、添付図面を参照しながら本発明のこれらの及び他の態様を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】式(I)の化合物の結晶(AZ-3102)の作用様式の概要を示す。
【
図2A】アセトニトリルによる平衡化により得られた、式(I)の化合物の「形態3」の結晶のX線粉末回折パターンを示す。
【
図2B】それぞれTBME、水、イソプロパノール、酢酸エチル、アセトニトリル、又はアニソールによる平衡化により得られた、式(I)の化合物の「形態3」の結晶のX線粉末回折パターンのオーバーレイを示す。
【
図3】アセトニトリルによる平衡化により得られた、式(I)の化合物の2つの結晶のX線粉末回折パターンのオーバーレイを示す: 1)「形態3」、及び 2)「形態2」。
【
図4】サンドホフ病マウスモデルにおける試験プロトコルの模式的説明を示す。
【
図5】AZ-3102(化合物(I))及びプラセボ(媒体)で処置されたサンドホフ病マウスモデルにおける生存時間試験の結果を示す。
【
図6】AZ-3102(化合物(I))及びプラセボ(媒体)で処置されたサンドホフ病マウスモデルにおけるオープンフィールド試験(OFT)評価の結果を示す。
【
図7】AZ-3102(化合物(I))及びプラセボ(媒体)で処置されたサンドホフ病マウスモデルにおけるロータロッド試験の結果を示す。
【
図8】16週間の1日1回の投与後のAZ-3102の血漿中濃度及び脳中濃度対時間プロファイルを示す。
【
図9】定常投与の2時間後、4時間後、及び24時間後の小脳中での平均脳対血漿比を示す。
【
図10】小脳中でのGlcCer C16:0及びC18:0の濃度対時間プロファイルを示す。
【
図11】比較的低用量のAZ-3102でのHexb(-/-)マウスの生存時間を示す。
【
図12】中脳部でのRNA配列からの遺伝子発現のデータを示す。データは媒体処置Hetマウスに対する発現倍率として示される。
【
図13】グリア線維酸性タンパク質(GFAP)の産生に対するAZ-3102の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本明細書に別途定義がない限り、本発明において使用される科学用語及び技術用語は、当業者に共通して理解される意味を有するものとする。これらの用語の意味及び範囲は明快であるべきであるが、潜在的に曖昧である場合には、本明細書に示される定義が任意の辞書的又は外的定義に優先する。
【0050】
「a」、「an」、及び「the」などの単数形の前置詞が多くの場合で便宜的に使用されるが、明示的又は文脈的に別途指示がない限り、単数形のすべての例が複数形を包含するように意図されているということを理解すべきである。「含む(comprising)」、「含む(including)」、及び「有する(having)」という用語は、包括的であるように意図されており、列挙されている要素以外のさらなる要素が存在しうることを意味する。さらに、本開示において言及される雑誌論文、書籍、特許、技術文献などを含むすべての参考文献が、全体としてあらゆる目的で参照により本明細書に組み込まれるということを理解すべきである。
【0051】
数値データに関して本明細書において使用される「約」という用語は、基礎パラメータに対して10%の範囲内(すなわちプラス又はマイナス10%)の値を指しており、一連の値の冒頭での「約」という用語の使用は、それぞれの値を修飾するものである(すなわち、「約1、2、及び3」とは約1、約2、及び約3を意味する)。例えば、温度「約85℃」は温度75℃~95℃を含みうる。
【0052】
「融点」という用語は当技術分野において周知である。本明細書において使用される「相対的に高い融点」という用語は、医薬組成物として製剤化されうるほど安定な結晶を包含するように意図されている。
【0053】
本明細書において使用される「組成物」という用語は、指定の成分を指定の量で含む生成物、及び、指定の成分を指定の量で組み合わせることにより直接的又は間接的に得られる任意の生成物を包含するように意図されている。医薬組成物に関するこの用語は、式(I)の化合物、及び/又は式(I)の化合物の結晶と、任意選択で担体を構成するさらなる成分とを含む、生成物、並びに、任意の2つ以上の前記成分の組み合わせ、複合体化、若しくは凝集、又は1つ若しくは複数の前記成分の解離、又は1つ若しくは複数の前記成分の他の種類の反応若しくは相互作用により直接的又は間接的に得られる、任意の生成物を包含するように意図されている。したがって、本発明の医薬組成物は、本発明の化合物及び/又は結晶と、任意選択で薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤とを含む、任意の組成物を包含する。「薬学的に許容される」とは、担体、希釈剤、又は賦形剤(存在する場合)が、製剤の他の成分に適合していなければならず、製剤のレシピエントに有害であってはならないということを意味する。
【0054】
「治療有効量」、及び効果を実現するために「有効な量」という用語は、疾患を処置するために患者に投与される際に、疾患に対してこの処置を実行するために十分な、化合物、結晶、又は医薬組成物の量を包含するように意図されている。「治療有効量」、及び効果を実現するために「有効な量」という用語は、治療効果を実現する(例えば生存時間を増加させる)ために患者に投与される際に、この治療効果を実現するために十分な、化合物、結晶、又は医薬組成物の量を包含するように意図されている。治療有効量は、疾患及びその重症度、並びに/又は患者の年齢及び体重に応じて変動する。「対象」(又は「患者」)という用語は、例えば哺乳動物などの動物を含むがそれに限定されない。好ましくは、対象はヒトである。
【0055】
本発明は、対象の運動機能を向上させることにおける使用のための、式(I)の化合物を提供する。
【化24】
【0056】
対象は、グルコシルセラミドのレベルの異常及び/又はスフィンゴ糖脂質のレベルの上昇を包含する疾患に罹患している可能性がある。好ましくは、対象はGM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している。さらに好ましくは、対象はサンドホフ病に罹患している。
【0057】
対象の運動機能を向上させる方法であって、前記対象に、式(I)の化合物を、前記対象の運動機能を向上させるために有効な量で投与するステップを含む、方法も提供される。好ましくは、対象はGM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している。さらに好ましくは、対象はサンドホフ病に罹患している。
【0058】
本発明はまた、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病を処置することにおける使用のための、式(I)の化合物を提供する。好ましくは、式(I)の化合物はサンドホフ病を処置するために使用される。
【化25】
【0059】
本発明は、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病の症状を除去、軽減、又は改善することにおける使用のための、式(I)の化合物を提供する。
【化26】
【0060】
好ましくは、式(I)の化合物はサンドホフ病の症状を除去、軽減、又は改善するために使用される。
【0061】
実施例に示すように、サンドホフ病に罹患している対象を式(I)の化合物で処置することで、サンドホフ病の特定の症状が除去、軽減、又は改善された。例えば、対象の運動機能が向上した。
【0062】
サンドホフ病の処置によって、サンドホフ病の1つ又は複数の症状の除去、軽減、又は改善が生じうるものの、患者が処置前に経験したサンドホフ病のすべての症状が必ずしも除去、軽減、又は改善されない可能性があるということが認識されよう。
【0063】
サンドホフ病及びテイ・サックス病の臨床症状が相対的に区別不能であり、また、両疾患の生化学的原因が類似している(テイ・サックス病がβ-ヘキソサミニダーゼA欠乏症により生じる一方で、サンドホフ病がβ-ヘキソサミニダーゼA及び/又はβ-ヘキソサミニダーゼB欠乏症に関連している)ことから、テイ・サックス病に罹患している対象も、式(I)の化合物(又はその結晶)の投与時に、テイ・サックス病に関連する特定の症状の除去、軽減、又は改善を経験すると予想される。
【0064】
症状の「除去」とは、対象が本質的にもはや当該の症状を経験しないことを意味する。症状の「軽減」とは、対象が症状の顕著な好転を経験することを意味する。軽減は、好ましくは重症から軽症への軽減である。症状の「改善」とは、対象が症状の中程度の好転を経験することを意味する。
【0065】
したがって、特定の実施形態では、本明細書において提供される処置、使用などによって、サンドホフ病又はテイ・サックス病の1つ又は複数の症状の除去、軽減、又は改善が生じうる。例えば、1つ又は複数の症状が軽減される可能性があり、1つ又は複数の異なる症状が改善される可能性がある。
【0066】
サンドホフ病の症状は筋力低下、動きの減少、運動技能の損失、騒音に対する反応の増加、発作、視力損失、聴力損失、知的障害、眼の異常、臓器腫大、骨の異常、発話障害、認知機能の損失、筋協調性の損失、及び/又は精神医学的問題の少なくとも1つを含む。式(I)の化合物を、サンドホフ病に罹患している対象においてサンドホフ病の少なくとも1つの症状を軽減、除去、及び/又は改善するために使用することができる。好ましくは、式(I)の化合物はサンドホフ病の少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つの症状を軽減、除去、及び/又は改善する。例えば、式(I)の化合物は対象において運動機能及び筋協調性を向上させることができる。
【0067】
テイ・サックス病に罹患している対象も上記症状を呈する。したがって、サンドホフ病に関して記載の任意の実施形態は、テイ・サックス病、又は実際にはGM2ガングリオシドーシス全般にも適用されうる。
【0068】
したがって、別の見方をすれば、必要とする対象に治療有効量の式(I)の化合物を投与することで1つ又は複数の上記症状を除去、軽減、及び/又は改善する方法が提供される。対象はGM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している可能性がある。
【0069】
さらに、本発明は、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している対象の寿命を延長することにおける使用のための、式(I)の化合物を提供する。
【化27】
【0070】
好ましくは、式(I)の化合物(又はその結晶)は、サンドホフ病に罹患している対象の寿命を延長するために使用される。
【0071】
GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している対象の寿命を延長する方法であって、前記対象に、式(I)の化合物を、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している対象の寿命を延長するために有効な量で投与するステップを含む、方法も提供される。
【0072】
GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している対象の余命は、特に、この疾患の乳児型においては非常に短い。本出願の発明者らは、驚くべきことに、式(I)の化合物(又はその結晶)がマウスモデルにおいて余命を少なくとも22%増加させる(処置サンプルと未処置サンプルとの比較)ことを発見した。したがって、式(I)の化合物(又はその結晶、好ましくは「形態3」)を、対象の寿命(又は対象の余命)を、対象が式(I)の化合物による処置がない場合に示すであろう寿命(又は余命)に比べて少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、又は少なくとも60%延長するために使用することができる。言い換えれば、式(I)の化合物(又はその結晶、好ましくは「形態3」)を、対象の寿命(又は対象の余命)を、対象が式(I)の化合物(又はその結晶、好ましくは「形態3」)による処置がない場合に示すであろう寿命(又は余命)に比べて少なくとも1カ月、少なくとも3カ月、少なくとも6カ月、少なくとも9カ月、少なくとも1年、少なくとも2年、少なくとも3年、少なくとも4年、少なくとも5年、少なくとも6年、少なくとも7年、少なくとも8年、少なくとも9年、少なくとも10年、少なくとも11年、少なくとも12年、少なくとも13年、少なくとも14年、少なくとも15年、少なくとも16年、少なくとも17年、少なくとも18年、少なくとも19年、少なくとも20年、少なくとも25年、少なくとも30年、少なくとも35年、少なくとも40年、少なくとも45年、又は少なくとも50年延長するために使用することができる。
【0073】
本発明は、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病に罹患している対象の生存時間を増加させることにおける使用のための、式(I)の化合物を提供する。
【化28】
【0074】
好ましくは、式(I)の化合物は結晶(好ましくは「形態3」の結晶)である。
【0075】
式(I)の化合物(又はその結晶)は、脳中でのクリアランスが血漿中に比べて少なくなりうる。このため、式(I)の化合物(又はその結晶)は、GM2ガングリオシドーシスを処置することにおける使用に特に好適である。例えば、脳中の式(I)の化合物(又はその結晶)の濃度を少なくとも12時間、少なくとも24時間、又は少なくとも48時間維持することができる。すなわち、脳中の式(I)の化合物(又はその結晶)の濃度は、投与後(式(I)の化合物又はその結晶の脳中濃度が定常状態、又は投与される用量に基づく最大値に到達すると)、少なくとも12時間、少なくとも24時間、又は少なくとも48時間(実質的に)変化しない。
【0076】
サンドホフ病に罹患している対象の致死率は、特に、この疾患の乳児型においては非常に高い。本発明者らは、予想外にも、サンドホフ病(HEXB変異)に罹患している対象に式(I)の化合物(又はその結晶、好ましくは「形態3」)を投与することで、投与される化合物の用量が非常に少ない場合であっても、対象の生存時間が増加することを発見した。「生存時間を増加させる」とは、化合物が投与されなかった状況に比べて生存時間が向上することを意味する。対象は未処置の場合に比べて有意に長く生存する。したがって、式(I)の化合物(又はその結晶、好ましくは「形態3」)を、対象の生存時間(又は対象の余命)を、対象が式(I)の化合物による処置がない場合に示すであろう生存時間に比べて少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、又は少なくとも60%増加させるために使用することができる。言い換えれば、式(I)の化合物(又はその結晶、好ましくは「形態3」)を、対象の生存時間を、対象が式(I)の化合物(又はその結晶)による処置がない場合に示すであろう生存時間に比べて少なくとも1カ月、少なくとも3カ月、少なくとも6カ月、少なくとも9カ月、少なくとも1年、少なくとも2年、少なくとも3年、少なくとも4年、少なくとも5年、少なくとも6年、少なくとも7年、少なくとも8年、少なくとも9年、少なくとも10年、少なくとも11年、少なくとも12年、少なくとも13年、少なくとも14年、少なくとも15年、少なくとも16年、少なくとも17年、少なくとも18年、少なくとも19年、少なくとも20年、少なくとも25年、少なくとも30年、少なくとも35年、少なくとも40年、少なくとも45年、又は少なくとも50年増加させるために使用することができる。
【0077】
GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している対象の生存時間を増加させる方法であって、前記対象に、式(I)の化合物(又はその結晶、好ましくは「形態3」)を、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している対象の生存時間を増加させるために有効な量で投与するステップを含む、方法も提供される。
【0078】
GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している対象を処置し、対象の生存時間を増加させる方法であって、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している対象に、式(I)の化合物(又はその結晶、好ましくは「形態3」)を、前記対象の生存時間を増加させるために有効な量で投与するステップを含む、方法も提供される。
【0079】
GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病に罹患している対象の生存時間を増加させるための、式(I)の化合物(又はその結晶、好ましくは「形態3」)の使用も提供される。
【0080】
本発明は、好ましくはGM2ガングリオシドーシスに罹患している対象における、抗炎症剤としての使用のための、式(I)の化合物を提供する。
【化29】
【0081】
誤解を避けるために言えば、本明細書に規定されるすべての実施形態は、処置を規定するための1つの特定の文言に限定されるものではなく、本発明の態様の医学的使用又は処置方法にも準用される。
【0082】
サンドホフ病に関して本明細書に記載の方法及び使用は、GM2ガングリオシドーシス全般、特にテイ・サックス病にも適用されうる。
【0083】
本明細書に記載の本発明のすべての態様によれば、好ましくは、式(I)の化合物は結晶である。式(I)の化合物の結晶は任意の結晶状態でありうる。式(I)の化合物の結晶は塩の結晶又は遊離塩基の結晶(非イオン化形態)でありうる。好ましくは、式(I)の化合物の結晶は遊離塩基の結晶である。さらに、式(I)の化合物は共結晶を形成しうる。
【0084】
式(I)の化合物の結晶が塩の結晶である場合、この場合の式(I)の化合物の分子構造はプロトン化窒素原子を含む。
【0085】
本明細書に記載の本発明のすべての態様は式(I)の化合物の1つの結晶に限定されない。固体物質は2つ以上の結晶として存在しうる。これらの別の結晶は多形と呼ばれる。各多形は結晶格子中で分子の異なった配向及び/又は配座を示す。各結晶状態、又は「多形」は、結晶構造の差による独自の物理化学特性の組み合わせを示す。
【0086】
多形は、化合物の技術的特性に影響する様々な機械特性、例えば流動性及び圧縮性を示しうる。化合物の貯蔵安定性及び貯蔵期間も多形に依存しうる。
【0087】
多形は様々な方法で互いに区別可能である。多形は分光学的特性を明らかに示し、分光学的特性は例えば赤外分光法、ラマン分光法、及び13C-NMR分光法を使用して確定可能である。各結晶が様々な方法でX線を屈折させるという事実に鑑み、X線粉末回折(XPD)も、多形を特徴づけるために使用することができる。さらに、示差走査熱量測定(DSC)などの熱的方法は、特定の多形に関する独自の情報を提供しうる。
【0088】
粉末X線回折の分野において周知のように、様々な結晶を記述するために粉末X線回折スペクトルの相対ピーク高さを使用することができる。したがって、「形態3」の態様では、式(I)の化合物の結晶はX線粉末回折パターンにおいて17.8±0.2°での2θ値として記述される反射を示し、17.8±0.2°での前記反射は前記X線粉末回折パターンにおける4つの最も強い反射の1つである。好ましくは、17.8±0.2°での前記反射は前記X線粉末回折パターンにおける3つの最も強い反射の1つであり、或いは、17.8±0.2°での前記反射は前記X線粉末回折パターンにおける2つの最も強い反射の1つである。より好ましくは、17.8±0.2°での前記反射は前記X線粉末回折パターンにおける最も強い反射である。さらに好ましくは、「形態3」の態様では、式(I)の化合物の結晶はX線粉末回折パターンにおいて17.8±0.1°での2θ値として記述される反射を示し、17.8±0.1°での前記反射は前記X線粉末回折パターンにおける4つの最も強い反射の1つである。好ましくは、17.8±0.1°での前記反射は前記X線粉末回折パターンにおける3つの最も強い反射の1つであり、或いは、17.8±0.1°での前記反射は前記X線粉末回折パターンにおける2つの最も強い反射の1つである。より好ましくは、17.8±0.1°での前記反射は前記X線粉末回折パターンにおける最も強い反射である。
【0089】
「最も強い反射」という用語は、X線粉末回折パターンにおける最高ピークを記述するものである。粉末X線回折パターンのピークの高さはX線強度に基づいて確定される(カウント数又はカウント数/秒の単位で)。したがって、最も強い反射は、X線粉末回折パターンにおいて最高のX線強度を示す反射である。例えば、
図2Aに示されるX線粉末回折パターンの最も強い反射は、17.8±0.2°での2θ値として記述される反射である。
【0090】
明らかに反する記載がない限り、すべてのX線粉末回折パターンは約25℃で銅K-α線を使用して確定される。
【0091】
好ましくは、「形態3」の態様では、式(I)の化合物の結晶はX線粉末回折パターンにおいて4.1±0.2°、8.3±0.2°、12.4±0.2°、13.6±0.2°、14.5±0.2°、14.9±0.2°、15.2±0.2°、17.2±0.2°、19.3±0.2°、21.2±0.2°、22.4±0.2°、22.9±0.2°、及び23.3±0.2°の1つ又は複数での2θ値として記述される1つ又は複数の反射をさらに示す。さらに好ましくは、「形態3」の態様では、式(I)の化合物の結晶はX線粉末回折パターンにおいて4.1±0.1°、8.3±0.1°、12.4±0.1°、13.6±0.1°、14.5±0.1°、14.9±0.1°、15.2±0.1°、17.2±0.1°、19.3±0.1°、21.2±0.1°、22.4±0.1°、22.9±0.1°、及び23.3±0.1°の1つ又は複数での2θ値として記述される1つ又は複数の反射をさらに示す。
【0092】
粉末X線回折スペクトルのピークの位置は実験の詳細に相対的に影響されにくい。したがって、本発明の結晶性化合物を、特定のピーク位置を示す粉末X線回折パターンによって特徴づけることができる。したがって、「形態3」の態様では、式(I)の化合物の結晶は、好ましくは、X線粉末回折パターンにおける17.2±0.2°、17.8±0.2°、21.2±0.2°、及び22.4±0.2°での2θ値として記述される反射を特徴とする。より好ましくは、「形態3」の態様では、式(I)の化合物の結晶はX線粉末回折パターンにおける4.1±0.2°、8.3±0.2°、12.4±0.2°、13.6±0.2°、14.5±0.2°、14.9±0.1°、15.2±0.2°、17.2±0.2°、17.8±0.2°、19.3±0.2°、21.2±0.2°、22.4±0.2°、22.9±0.2°、及び23.3±0.2°での2θ値として記述される反射を特徴とする。さらに好ましくは、「形態3」の態様では、式(I)の化合物の結晶はX線粉末回折パターンにおける17.2±0.1°、17.8±0.1°、21.2±0.1°、及び22.4±0.1°での2θ値として記述される反射を特徴とする。最も好ましくは、「形態3」の態様では、式(I)の化合物の結晶はX線粉末回折パターンにおける4.1±0.1°、8.3±0.1°、12.4±0.1°、13.6±0.1°、14.5±0.1°、14.9±0.1°、15.2±0.1°、17.2±0.1°、17.8±0.1°、19.3±0.1°、21.2±0.1°、22.4±0.1°、22.9±0.1°、及び23.3±0.1°での2θ値として記述される反射を特徴とする。
【0093】
化合物の結晶を示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムによって特徴づけることができる。したがって、「形態3」の態様では、式(I)の化合物の結晶は、好ましくは、約87℃での吸熱熱流の開始及び/又は約92.4℃の融点を示すDSCサーモグラフを特徴とする。したがって、好ましくは、「形態3」の態様では、式(I)の化合物の結晶は、DSCにより確定される融点89℃~96℃を示す。好ましくは、「形態3」の態様では、結晶は、DSCにより確定される融点90℃~95℃を示す。さらに好ましくは、「形態3」の態様では、式(I)の化合物の結晶は、DSCにより確定される融点91℃~94℃を示す。最も好ましくは、「形態3」の態様では、式(I)の化合物の結晶は、DSCにより確定される融点92℃~93℃を示す。
【0094】
治療用化合物の融点が相対的に高いこと(通常は約80℃超)により、分解に対する耐性が高まり、それにより、治療用化合物の貯蔵性が促進されて貯蔵寿命が長くなる。このことはあらゆる治療剤に関して望ましい。
【0095】
化合物の結晶を吸湿性によって特徴づけることができる。生成物の吸湿性は、特定の温度での相対湿度の関数としての含水量の増加又は減少を表すものである。実質的に非吸湿性の生成物は、相対湿度の変動の結果としての含水量の変化を示さないか、又は示してもごくわずかである。強力に吸湿性の生成物では、含水量は大きく変動しうる。したがって、好ましくは、式(I)の化合物の結晶は実質的に非吸湿性である。そのような錠剤中での使用のために医薬組成物及び医薬製剤を調製する場合、低レベルの吸湿性及び/又は低レベルの潮解性を示し、そのため所望の形状又はサイズに圧縮されうる、治療用化合物の結晶を用意することが非常に望ましい。
【0096】
実質的に非吸湿性の物質は、相対湿度約95%、測定時の温度約25℃で約2%未満の吸水率を示す。好ましくは、吸水率は、相対湿度約95%、測定時の温度約25℃で約1%未満である。吸水率の値は、相対湿度約95%及び温度約25℃での試験結晶の初期質量に対する質量増加を測定することで得られる。
【0097】
したがって、式(I)の化合物の結晶は、好ましくは、相対湿度約95%、温度約25℃で0%~2%の水を吸収する。さらに好ましくは、式(I)の化合物の結晶は、相対湿度約95%、温度約25℃で0%~1.5%の水を吸収する。最も好ましくは、式(I)の化合物の結晶は、相対湿度約95%、温度約25℃で0%~1%の水を吸収する。
【0098】
「形態2」の態様では、式(I)の化合物の結晶はX線粉末回折パターンにおいて16.9±0.2°での2θ値として記述される反射を示し、16.9±0.2°での前記反射は前記X線粉末回折パターンにおける4つの最も強い反射の1つである。好ましくは、16.9±0.2°での前記反射は前記X線粉末回折パターンにおける3つの最も強い反射の1つであり、或いは、16.9±0.2°での前記反射は前記X線粉末回折パターンにおける2つの最も強い反射の1つである。より好ましくは、16.9±0.2°での前記反射は前記X線粉末回折パターンにおける最も強い反射である。さらに好ましくは、「形態2」の態様では、結晶はX線粉末回折パターンにおいて16.9±0.1°での2θ値として記述される反射を示し、16.9±0.1°での前記反射は前記X線粉末回折パターンにおける4つの最も強い反射の1つである。好ましくは、16.9±0.1°での前記反射は前記X線粉末回折パターンにおける3つの最も強い反射の1つであり、或いは、16.9±0.1°での前記反射は前記X線粉末回折パターンにおける2つの最も強い反射の1つである。より好ましくは、16.9±0.1°での前記反射は前記X線粉末回折パターンにおける最も強い反射である。
【0099】
好ましくは、「形態2」の態様では、式(I)の化合物の結晶はX線粉末回折パターンにおいて15.2±0.2°、16.1±0.2°、16.5±0.2°、18.9±0.2°、23.1±0.2°、25.5±0.2°、27.7±0.2°、及び28.5±0.2°の1つ又は複数での2θ値として記述される1つ又は複数の反射を示す。さらに好ましくは、「形態2」の態様では、式(I)の化合物の結晶は15.2±0.1°、16.1±0.1°、16.5±0.1°、18.9±0.1°、23.1±0.1°、25.5±0.1°、27.7±0.1°、及び28.5±0.1°の1つ又は複数での2θ値として記述される1つ又は複数の反射を示す。
【0100】
「形態2」の態様では、式(I)の化合物のこの結晶は、X線粉末回折パターンにおける16.1±0.2°、16.5±0.2°、16.9±0.2°、18.9±0.2°、及び23.1±0.2°での2θ値として記述される反射を特徴とすることもある。好ましくは、「形態2」の態様では、式(I)の化合物の結晶は、X線粉末回折パターンにおける16.1±0.1°、16.5±0.1°、16.9±0.1°、18.9±0.1°、及び23.1±0.1°での2θ値として記述される反射を特徴とすることもある。
【0101】
「形態2」の態様では、式(I)の化合物の結晶は、約58℃での吸熱熱流の開始及び約70℃の融点を示すDSCサーモグラフを特徴としうる。したがって、「形態2」の態様では、式(I)の化合物の結晶は融点67℃~74℃を示す。好ましくは、「形態2」の態様では、式(I)の化合物の結晶は融点68℃~73℃を示す。さらに好ましくは、「形態2」の態様では、式(I)の化合物の結晶は融点69℃~72℃を示す。最も好ましくは、「形態2」の態様では、式(I)の化合物の結晶は融点69℃~71℃を示す。
【0102】
好ましくは、「形態2」の態様では、式(I)の化合物の結晶は特に水溶性である。したがって、好ましくは、「形態2」の態様では、式(I)の化合物の結晶は、約25℃での測定で約75mg/mL~約85mg/mLの水溶性を示す。より好ましくは、「形態2」の態様では、結晶は、約25℃での測定で約78mg/mL~約82mg/mLの水溶性を示す。最も好ましくは、「形態2」の態様では、式(I)の化合物の結晶は、約25℃での測定で約80mg/mLの水溶性を示す。
【0103】
溶解性を測定するための方法、例えばフラスコ振盪法、超音波処理、カラム溶離法、及び紫外又は可視分光法は当技術分野において公知である。明らかに反する記載がない限り、水溶性はフラスコ振盪法及び/又は超音波処理を使用して確定される。
【0104】
対象の生存時間を増加させることで、対象の寿命又は余命が、対象が式(I)の化合物による処置がない場合に示すであろう寿命(又は余命)に比べて少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、又は少なくとも60%延長される。言い換えれば、式(I)の化合物の投与によって、サンドホフ病(又は他のGM2ガングリオシドーシス)に罹患している対象の寿命が、対象に式(I)の化合物が投与されなかった場合に対象が示すであろう寿命に比べて延長される。式(I)の化合物の投与によって、少なくとも1カ月、少なくとも3カ月、少なくとも6カ月、少なくとも9カ月、少なくとも1年、少なくとも2年、少なくとも3年、少なくとも4年、少なくとも5年、少なくとも6年、少なくとも7年、少なくとも8年、少なくとも9年、少なくとも10年、少なくとも11年、少なくとも12年、少なくとも13年、少なくとも14年、少なくとも15年、少なくとも16年、少なくとも17年、少なくとも18年、少なくとも19年、少なくとも20年、少なくとも25年、少なくとも30年、少なくとも35年、少なくとも40年、少なくとも45年、又は少なくとも50年、サンドホフ病に罹患している対象の寿命を延長する(したがって死亡を遅延させる)ことができる。式(I)の化合物の投与によって、サンドホフ病(又は他のGM2ガングリオシドーシス)に罹患している対象の、この疾患による死亡を予防することができる。例えば、式(I)の化合物で処置された対象は、式(I)の化合物による処置を受けていない場合の寿命に比べて少なくとも5年長く生きると予想されうる。
【0105】
いくつかの実施形態では、式(I)の化合物(又はその結晶)の治療有効量(すなわち、所望の効果を実現するために有効な量)は、1日当たり合計約0.0001ミリグラム~合計約50ミリグラムの範囲の式(I)の化合物(又はその結晶)(合計mg/日)でありうる。特定の実施形態では、治療有効量は合計少なくとも約0.001mg/日、合計少なくとも約0.05mg/日、合計少なくとも約0.1mg/日、合計少なくとも約0.25mg/日、合計少なくとも約0.5mg/日、合計少なくとも約1mg/日、合計少なくとも約3mg/日、合計少なくとも約5mg/日、又は合計少なくとも約8mg/日でありうる。さらなる実施形態では、治療有効量は合計約0.01~20mg/日、合計0.05~15mg/日、又は合計0.1~12mg/日の範囲でありうる。
【0106】
したがって、式(I)の化合物(又はその結晶、好ましくは「形態3」)は、対象に合計約0.0001mg/日~合計約50mg/日の範囲の投与量で投与されうる。好ましくは、式(I)の化合物(又はその結晶、好ましくは「形態3」)は、対象に合計約0.1mg/日~合計約15mg/日の範囲の投与量で投与される。
【0107】
対象の処置期間全体を通じての式(I)の化合物(又はその結晶、好ましくは「形態3」)の用量は、同じままでもよく、増加又は減少してもよい。本発明のすべての態様によれば、正確な維持量は、特定の対象の体調、サンドホフ病又は他のGM2ガングリオシドーシスの症状の重症度、及び投与される化合物に対する忍容性に基づいて、当業者が日常的に決定することができる。一般的に言えば、正確な維持量は、サンドホフ病(又は他のGM2ガングリオシドーシス)の症状の好転と、正確な量に対する特定の対象の生理的忍容性(例えば望ましくない副作用の観察/可能性)との間の折衷である。正確な維持量は個々の各対象に固有のものであり、当業者(例えば医師)にとっては、上述の要因に基づいて特定の対象について正確な維持量を決定することは日常的なことである。
【0108】
特定の実施形態では、式(I)の化合物(又はその結晶)は1日1回、1つの用量として投与されうる。式(I)の化合物(又はその結晶)は1日を通じて2つ、3つ、又はそれ以上の別々の用量として投与されうる。すなわち、1日当たりの治療有効量が2つ、3つ、又はそれ以上の用量に分割されて、1日を通じて別々に対象に投与される。1日当たりの複数用量は必ずしも同じ量であるわけではない。
【0109】
処置(定期的な、例えば毎日の式(I)の化合物の投与)は、好適な期間、例えば少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、又は10週間、数カ月間、又は数年間行われうる。例えば、式(I)の化合物(又はその結晶)は対象に少なくとも1カ月間、少なくとも3カ月間、少なくとも6カ月間、少なくとも9カ月間、少なくとも1年間、少なくとも2年間、少なくとも3年間投与されうる。処置は、十分に認容される場合、無期限に行うことができる。或いは、式(I)の化合物(又はその結晶)は対象に1回投与されうる。
【0110】
投与は錠剤(例えば分散性錠剤)、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤などによる経口投与によって、又は注射剤、例えば関節内、静脈、及び筋肉内注射剤、坐薬、眼科用液剤、眼軟膏剤、若しくは外用剤、例えば経皮液体製剤、軟膏剤、経皮パッチ剤、経粘膜液体製剤、経粘膜パッチ剤、吸入器などによる非経口投与によって達成されうる。
【0111】
式(I)の化合物(又はその結晶)は対象に抗炎症剤と共に投与されうる。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物(又はその結晶)及び前記抗炎症剤は同時に投与されうる。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物(又はその結晶)及び前記抗炎症剤は別々に、例えば連続的に投与されうる。いくつかの実施形態では、式(I)の化合物(又はその結晶)及び前記抗炎症剤は1つの医薬組成物として同時製剤化される。或いは、式(I)の化合物(又はその結晶)及び前記抗炎症剤は別々の医薬組成物として製剤化されうる。いずれの場合でも、医薬組成物は1種又は複数の薬学的に許容される添加剤/溶媒をさらに含みうる。
【0112】
前記抗炎症剤は非ステロイド性抗炎症剤でありうる。前記抗炎症剤はアスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナク、セレコキシブ、メフェナム酸、エトリコキシブ、及びインドメタシンから選択されうる。
【0113】
したがって、本発明はまた、式(I)の化合物(又はその結晶)及び抗炎症剤を含む、治療用組み合わせを提供する。
【0114】
或いは、又はさらには、式(I)の化合物(又はその結晶)はそれ自体で抗炎症効果を実現しうる。好ましくは、式(I)の化合物(又はその結晶)は抗炎症剤である。好ましくは、式(I)の化合物(又はその結晶)は脳中で抗炎症遺伝子の発現を増加させる。好ましくは、式(I)の化合物(又はその結晶)は脳中で炎症性遺伝子の発現を減少させる。例えば、式(I)の化合物(又はその結晶)は脳中でITGAX遺伝子の発現を減少させうる。例えば、式(I)の化合物(又はその結晶)は脳中でTREM2遺伝子の発現を減少させうる。例えば、式(I)の化合物(又はその結晶)は脳中でCXCL10遺伝子の発現を減少させうる。好ましくは、式(I)の化合物(又はその結晶)は脳の中間部において炎症性遺伝子の発現を減少させる。好ましくは、式(I)の化合物(又はその結晶)は脳の中間部において抗炎症遺伝子の発現を増加させる。
【0115】
インテグリンα-X/β-2(ITGAX遺伝子により発現される)はフィブリノーゲンの受容体である。インテグリンα-X/β-2はフィブリノーゲン中で配列G-P-Rを認識する。インテグリンα-X/β-2は炎症反応中に細胞-細胞相互作用を媒介する。インテグリンα-X/β-2は単球の接着及び走化性において特に重要である。
【0116】
骨髄細胞上で発現されるトリガー受容体2(TREM2遺伝子により発現される)は、慢性炎症におそらく関与する炎症性膜タンパク質であり、アミロイドβ-42、リポタンパク質粒子の受容体として作用し、リン脂質、例えばスフィンゴミエリンに結合し、ミクログリアの活性化及び走化性を制御する。
【0117】
C-X-Cモチーフケモカインリガンド10(CXCL10遺伝子により発現される)は、末梢免疫細胞の走化性、分化、及び活性化、細胞増殖、アポトーシス、及び血管新生の制御に関与する、炎症性分子である。
【0118】
式(I)の化合物(又はその結晶)は脳中で他の遺伝子の発現を減少させうる。例えば、式(I)の化合物(又はその結晶)はCYBB遺伝子、CD68遺伝子、HPGDS遺伝子、C1QB遺伝子、C1QA遺伝子、及び/又はPLCB2遺伝子の発現を減少させうる。
【0119】
式(I)の化合物(又はその結晶)は脳中で他の遺伝子の発現を増加させうる。例えば、式(I)の化合物(又はその結晶)はSLC18A3遺伝子、TH遺伝子、DDC遺伝子、及び/又はRET遺伝子の発現を増加させうる。
【0120】
式(I)の化合物(又はその結晶)によって処置されるか又は処置されるべきである対象は、サンドホフ病又は他のGM2ガングリオシドーシスの1つ又は複数の症状を示しうる。或いは、対象は、彼又は彼女がサンドホフ病又は他のGM2ガングリオシドーシスの症状を示していないとしても、処置されうる。対象は無症状でありうる。式(I)の化合物(又はその結晶)によって処置される対象は、サンドホフ病又は他のGM2ガングリオシドーシスと診断されていることがある。サンドホフ病又は他のGM2ガングリオシドーシスの診断は遺伝子スクリーニング(例えばHEXB遺伝子変異を確定するための)に基づいて行われうる。或いは、式(I)の化合物(又はその結晶)によって処置されるか又は処置されるべきである対象は、サンドホフ病又は他のGM2ガングリオシドーシスと診断されていないことがある。
【0121】
サンドホフ病の1つ又は複数の症状は筋力低下、動きの減少、運動技能の損失、騒音に対する反応の増加、発作、視力損失、聴力損失、知的障害、眼の異常、臓器腫大、骨の異常、発話障害、認知機能の損失、筋協調性の損失、及び/又は精神医学的問題を含みうる。
【0122】
これらの症状は他のGM2ガングリオシドーシス(例えばテイ・サックス病)を有する対象にも存在する。
【0123】
式(I)の化合物(又はその結晶)による処置によって、サンドホフ病又は他のGM2ガングリオシドーシス(例えばテイ・サックス病)に罹患している対象の生存時間を増加させることができる。この文脈での「生存時間を増加させる」という表現は、サンドホフ病又は他のGM2ガングリオシドーシス(例えばテイ・サックス病)に罹患していて、処置を受けている対象の余命を、サンドホフ病又は他のGM2ガングリオシドーシス(例えばテイ・サックス病)に罹患していて、処置を受けていない対象に比べて延長することを意味する。「生存時間を増加させる」とは、化合物が投与されなかった状況に比べて生存時間が向上することを意味する。対象は未処置の場合に比べて有意に長く生存する。したがって、式(I)の化合物を、対象の生存時間(又は対象の余命)を、対象が式(I)の化合物による処置がない場合に示すであろう生存時間に比べて少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、又は少なくとも60%増加させるために使用することができる。言い換えれば、式(I)の化合物を、対象の生存時間を、対象が式(I)の化合物による処置がない場合に示すであろう生存時間に比べて少なくとも1カ月、少なくとも3カ月、少なくとも6カ月、少なくとも9カ月、少なくとも1年、少なくとも2年、少なくとも3年、少なくとも4年、少なくとも5年、少なくとも6年、少なくとも7年、少なくとも8年、少なくとも9年、少なくとも10年、少なくとも11年、少なくとも12年、少なくとも13年、少なくとも14年、少なくとも15年、少なくとも16年、少なくとも17年、少なくとも18年、少なくとも19年、少なくとも20年、少なくとも25年、少なくとも30年、少なくとも35年、少なくとも40年、少なくとも45年、又は少なくとも50年増加させるために使用することができる。
【0124】
式(I)の化合物(又はその結晶)によって処置されるか又は処置されるべきである対象は、HEXB遺伝子の少なくとも1つの変異を有しうる。HEXB遺伝子の少なくとも1つの変異によって好ましくはβ-ヘキソサミニダーゼA及び/又はβ-ヘキソサミニダーゼB酵素の活性の異常又は減少が生じる。
【0125】
式(I)の化合物(又はその結晶)によって処置されるか又は処置されるべきである対象は、HEXA遺伝子の少なくとも1つの変異を示しうる。HEXA遺伝子の少なくとも1つの変異によって好ましくはβ-ヘキソサミニダーゼA酵素の活性の異常又は減少が生じる。
【0126】
式(I)の化合物(又はその結晶)によって処置されるか又は処置されるべきである対象は、健康な対象(すなわちサンドホフ病又は他のGM2ガングリオシドーシス(例えばテイ・サックス病)に罹患していない対象)に比べて異常なβ-ヘキソサミニダーゼA及び/又はβ-ヘキソサミニダーゼBの活性を示しうる。対象は、健康な対象(すなわちサンドホフ病又は他のGM2ガングリオシドーシス(例えばテイ・サックス病)に罹患していない対象)に比べて減少したβ-ヘキソサミニダーゼA及び/又はβ-ヘキソサミニダーゼBの活性を示しうる。β-ヘキソサミニダーゼA及び/又はβ-ヘキソサミニダーゼ酵素のレベルは、対象からの試料中で、標準的な生化学アプローチを使用して測定可能である。
【0127】
式(I)の化合物(又はその結晶)は、対象の生存時間を増加させること(又は対象の余命を延長すること)に加えて、少なくとも1つのさらなる治療上の有益性を対象に提供しうる。例えば、少なくとも1つのさらなる治療上の有益性は運動機能の向上、行動の向上、不安の減少、体調の向上、バランスの向上、発作の減少、発話明瞭度の向上、歩行の向上、嚥下の向上、及び知能の向上から選択されうる。
【0128】
本発明のすべての態様によれば、対象は哺乳動物、好ましくはヒトである。特定の実施形態では、対象は28日齢~30歳である。対象は乳児(すなわち28日齢~12月齢)でありうる。対象は幼児(すなわち12月齢~24月齢)でありうる。対象は小児(すなわち24月齢~12歳)でありうる。対象は青年(すなわち12歳~17歳)でありうる。対象は若年成人(すなわち17歳~30歳)でありうる。しかし、いくつかの実施形態では、本発明は30歳超の成人にも適用される。
【0129】
式(I)の化合物(又はその結晶)は医薬組成物として対象に投与されうる。医薬組成物はpH値2.0~8.0、3.0~7.0、4.0~7.5、4.0~6.0、又は4.5~5.5を示しうる。好ましくは、医薬組成物はpH値4.5~5.5を示す。医薬組成物は酸及び/又は塩基をさらに含みうる。例えば、医薬組成物は、pHを所望のpH値に低下させるための酸を含みうる。塩基はpHを所望のpH値に増加させるために使用されうる。当業者は、医薬組成物のpH値を操作するために好適な酸及び塩基を容易に確定することができるであろう。例えば、酸はクエン酸、酢酸、又は塩酸でありうる。例えば、塩基は水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムでありうる。
【0130】
通常、本発明の医薬組成物は薬学的に許容される担体及び1種又は複数の任意選択の成分によって調製される。次に、必要又は所望であれば、得られた均一ブレンド混合物を従来の手順及び機器を使用して錠剤(例えば分散性錠剤)、カプセル剤、丸剤、キャニスター、カートリッジ、ディスペンサーなどに形状化又は充填してもよい。
【0131】
固体剤形(すなわちカプセル剤、錠剤(例えば分散性錠剤)、丸剤など)としての経口投与が意図される場合、通常、本発明の医薬組成物は、有効成分としての式(I)の化合物(又はその結晶)を含む。本発明の医薬組成物は、式(I)の化合物(又はその結晶)を含んでいて、他の成分を含まないことがある。本発明の医薬組成物はカプセルに収容されうる。本発明の医薬組成物は他の成分なしでカプセルに収容されうる。カプセルはゼラチンカプセル又はヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)カプセルでありうる。或いは、本発明の医薬組成物は、有効成分としての式(I)の化合物(又はその結晶)及び1種又は複数の薬学的に許容される担体を含みうる。好適な薬学的に許容される担体、例えば、脂肪、水、生理食塩水、アルコール(例えばエタノール)、グリセロール、ポリオール、グルコース水溶液、増量剤、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、湿潤剤、安定剤、乳化剤、分散化剤、保存剤、甘味料、着色剤、調味料又は芳香剤、濃縮剤、希釈剤、緩衝物質、溶媒又は可溶化剤、貯蔵効果を実現するための化学物質、浸透圧を改変するための塩、コーティング剤又は抗酸化剤、糖、例えばラクトース又はグルコース;トウモロコシ、コムギ、又はコメのデンプン;脂肪酸、例えばステアリン酸;無機塩、例えばメタケイ酸アルミン酸マグネシウム又は無水リン酸カルシウム;合成ポリマー、例えばポリビニルピロリドン又はポリアルキレングリコール;アルコール、例えばステアリルアルコール又はベンジルアルコール;合成セルロース誘導体、例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、又はヒドロキシプロピルメチルセルロース、組成物のpHを調整する薬剤、例えば塩基及び/又は酸;並びに他の従来使用されている添加剤、例えばゼラチン、タルク、植物油、及びアラビアゴムは、当業者に公知であろう。
【0132】
さらに、経口剤形は、好適な形態のゼラチン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)からできていて、式(I)の化合物(又はその結晶)を投与直後以外の時点で放出する、硬質又は軟質の可溶性容器内に、式(I)の化合物(又はその結晶)が封入されているものであって、腸溶コーティング品が遅延放出剤形となる、遅延放出カプセル剤でありうる。式(I)の化合物(又はその結晶)が硬質又は軟質の容器又は「シェル」に封入されている、遅延放出カプセル剤のペレットも有用である。これらの場合では、式(I)の化合物(又はその結晶)自体は顆粒の形態であり、顆粒に腸溶コーティングが塗布されており、これにより、薬剤が腸に流入するまで薬剤の放出が遅延される。長期放出カプセル剤及びフィルムコーティング長期放出カプセル剤も有用である。
【0133】
さらに、カプセル剤は、従来型の剤形として提示されるカプセル剤に比べて投与頻度を少なくとも減少させるように式(I)の化合物(又はその結晶)を放出する所定のフィルムコーティングで覆われていてもよい。例としてはゼラチンコーティングカプセル剤(好適な形態のゼラチン又はHPMCからできている硬質又は軟質の可溶性容器内に式(I)の化合物(又はその結晶)が封入されている、固体剤形;バンディングプロセスを通じて、カプセル剤は完全なシールを形成するように追加のゼラチン層又はHPMC層でコーティングされる)、及び液体充填カプセル剤(ソルビトール又はグリセリンなどのポリオールの添加により可塑化され、したがって硬シェルカプセル剤よりもいくらか粘稠度が高い、可溶性のゼラチンシェル内に、式(I)の化合物(又はその結晶)が封入されている、固体剤形)が挙げられる。
【0134】
いくつかの実施形態では、式(I)の化合物(又はその結晶)は、液体媒体に溶解又は懸濁していてもよく、顆粒剤(小さな粒子若しくは細粒子)、ペレット剤(式(I)の高精製化合物(若しくはその結晶)からなり、賦形剤を含むか若しくは含まず、顆粒の形成によって、若しくは圧縮及び成形によって作製される、小さな滅菌固体塊)、又は長期放出コーティングペレット剤(式(I)の化合物(若しくはその結晶)自体が顆粒の形態であり、顆粒に様々な量のコーティングが塗布されている、固体剤形であって、従来型の剤形として提示される剤形に比べて投与頻度を減少させるように式(I)の化合物(若しくはその結晶)を放出する、固体剤形)として製剤化されていてもよい。
【0135】
他の形態としては丸剤(経口投与が意図される、式(I)の化合物(又はその結晶)を含む小さな丸い固体剤形)、散剤(内用又は外用が意図されうる、式(I)の乾燥微粉化化合物(又はその結晶)と1種又は複数の薬学的に許容される添加剤との混和物)、エリキシル剤(式(I)の溶解化合物(又はその結晶)を含む、透明で風味が心地良い加糖水性アルコール液体;経口使用が意図される)、チューインガム(咀嚼される際に式(I)の化合物(又はその結晶)を口腔内に放出する、様々な形状の加糖・風味付き不溶性プラスチック材料)、シロップ剤(式(I)の化合物(又はその結晶)及び高濃度のショ糖又は他の糖を含む経口溶液;この用語は、経口懸濁液を含む、甘くて粘質の媒体中で調製される任意の他の液体剤形も含むように使用されている)、錠剤(好適な希釈剤を含むか又は含まない、式(I)の化合物(又はその結晶)を含む固体剤形)、咀嚼錠剤(咀嚼されるように意図されていて、口腔内で心地良い残り味を生じさせ、嚥下が容易であり、苦い又は不快な後味を残さないものである、好適な希釈剤を含むか又は含まない、式(I)の化合物(又はその結晶)を含む固体剤形)、含まれる式(I)の化合物(又はその結晶)が摂取後長期間にわたって利用可能になるように製剤化されている、コーティング錠剤若しくは遅延放出錠剤、分散性錠剤、発泡錠剤、長期放出錠剤、フィルムコーティング錠剤、又は長期放出フィルムコーティング錠剤が挙げられる。例えば、式(I)の化合物(又はその結晶)は対象に分散性錠剤の形態で投与されうる。
【0136】
他の形態では、従来型の剤形として提示される錠剤に比べて投与頻度を少なくとも減少させるように製剤化された、溶解用錠剤、懸濁用錠剤、多層錠剤、長期放出多層錠剤が実現されうる。経口崩壊錠剤、遅延放出経口崩壊錠剤、可溶性錠剤、糖衣錠剤、浸透圧性錠剤なども好適である。
【0137】
本明細書において使用される注射剤形及び注入剤形としては、リポソーム(式(I)の化合物(若しくはその結晶)を封入するために使用される、リン脂質で通常は構成される脂質二重層ベシクル)からなるか又はリポソームを形成する、リポソーム注射剤;非経口的使用が意図されている滅菌製剤を含む、注射剤;非経口投与されるように意図されている滅菌パイロジェンフリー製剤からなる乳剤を含む、乳濁性注射剤;或いは脂質複合体注射剤が挙げられるがそれに限定されない。
【0138】
他の形態としては非経口用溶液剤を形成するように再構成されることが意図されている滅菌製剤である、溶液性注射剤用散剤;非経口用懸濁剤を形成するように再構成されることが意図されている滅菌製剤である、懸濁性注射剤用散剤;再構成時にリポソーム(脂質二重層内若しくは水性空間中に式(I)の化合物(若しくはその結晶)を封入するために使用される、リン脂質で通常は構成される脂質二重層ベシクル)が形成されるように製剤化された、非経口用に再構成されることが意図されている滅菌凍結乾燥製剤である、懸濁性リポソーム注射剤用凍結乾燥散剤;又は溶液性注射剤用凍結乾燥散剤(ここで、凍結乾燥は、凍結状態の生成物から非常に低い圧力で水を除去することを包含するプロセスである)が挙げられる。
【0139】
本明細書において使用される「溶液性注射剤」とは、注射に好適である、好適な溶媒又は相互に混和性の溶媒の混合物に溶解した式(I)の化合物(又はその結晶)を含む、液体製剤を意味する。「濃縮溶液性注射剤」とは、好適な溶媒の添加時に、すべての点で注射剤の要件に合致する溶液剤を生じさせる、非経口用滅菌製剤を意味する。
【0140】
懸濁性注射剤は、水相全体を通じて分散した油相、又は油相全体を通じて分散した水相からなってもよい、粒子が不溶性である液相全体を通じて分散した固体粒子からなる、注射に好適な液体製剤を含む。懸濁性リポソーム注射剤は、リポソーム(脂質二重層内又は水性空間中に式(I)の化合物(又はその結晶)を封入するために使用される、リン脂質で通常は構成される脂質二重層ベシクル)が形成されるように水相全体を通じて分散した油相からなる、注射に好適な液体製剤を含む。懸濁性超音波処理注射剤は、粒子が不溶性である水相全体を通じて分散した固体粒子からなる、注射に好適な液体製剤を含む。さらに、この懸濁剤にガスが吹き込まれている間に、この製剤は超音波処理され、これにより固体粒子によるマイクロスフェアが形成される。
【0141】
非経口担体系は1種又は複数の薬学的に好適な賦形剤、例えば溶媒及び共溶媒、可溶化剤、湿潤剤、懸濁化剤、増粘剤、乳化剤、キレート剤、緩衝剤、pH調整剤、抗酸化剤、還元剤、抗菌性保存剤、増量剤、保護剤、浸透圧調整剤、及び特殊な添加剤を含む。非経口投与に好適な製剤は、好都合には、レシピエントの血液と等張性であることが好ましい式(I)の化合物(又はその結晶)の滅菌油性又は水性製剤を含むが、このことは必須ではない。
【0142】
本明細書において使用される吸入剤形としては、エアロゾル剤(加圧包装されていて、また、皮膚への局所適用、及び鼻内(経鼻エアロゾル剤)、口内(経舌及び舌下エアロゾル剤)、又は肺内(吸入エアロゾル剤)への局所適用が意図されている適切なバルブシステムの駆動時に放出される、式(I)の化合物(又はその結晶)を含む、製剤)が挙げられるがそれに限定されない。気泡エアロゾル剤は、式(I)の化合物(又はその結晶)、界面活性剤、水性又は非水性液体、及び噴射剤を含むものであって、噴射剤が内相(不連続相)に存在する(すなわち水中油型である)場合には、安定な気泡が排出され、噴射剤が外相(連続相)に存在する(すなわち油中水型である)場合には、スプレー又は速やかに壊れる気泡が排出される、剤形である。定量エアロゾル剤は、毎回の駆動時に均一量のスプレーの送達を可能にする定量バルブからなる加圧剤形である。粉末エアロゾル剤は、加圧包装されていて、また、適切なバルブシステムの駆動時に放出される粉末形態の式(I)の化合物(又はその結晶)を含む、製剤である。エアロゾルスプレー剤は、製剤を湿式スプレーとして放出するために必要で式(I)の化合物(又はその結晶)の水性溶媒中溶液に適用されうる力を生じさせるための噴射剤として圧縮ガスを利用する、エアロゾル製剤である。
【0143】
また、上記で簡単に説明したように、化合物(I)の結晶を含む医薬組成物は、公知の送達系及び賦形剤を使用して経皮又は経粘膜投与されうる。例えば、医薬組成物はプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノラウレート、アザシクロアルカン-2-オンなどの浸透促進剤と混合されてパッチ又は同様の送達系に組み込まれうる。ゲル化剤、乳化剤、及び緩衝剤を含むさらなる賦形剤も使用されうる。本明細書において使用される経皮剤形としては、パッチ剤(身体の外側部位に通常は適用される接着裏層をしばしば含むものであって、成分(式(I)の化合物(又はその結晶)を含む)がパッチの一部分から受動的に拡散するか又は能動的に輸送され、また、パッチに応じて、成分(式(I)の化合物(又はその結晶)を含む)が身体の外面に又は身体の内側に送達される、薬物送達系)が挙げられるがそれに限定されない。様々な種類の経皮パッチ剤、例えばマトリックス、リザーバなどは当技術分野において公知である。
【0144】
本明細書において使用される局所剤形としては、当技術分野において公知の様々な剤形、例えば、ローション剤(一般に皮膚への外用塗布向けである乳濁液体剤形)、増強ローション剤(式(I)の化合物(又はその結晶)の送達を強化するものであって、強化が剤形中での式(I)の化合物(又はその結晶)の強度を指すものではない、ローション剤形)、ゲル剤(剛性を溶液又はコロイド分散液に与えるためのゲル化剤を含むものであって、ゲルが懸濁粒子を含みうる、半固体剤形)、並びに軟膏剤(20%未満の水及び揮発物並びに50%超の媒体としての炭化水素、ワックス、又はポリオールを通常は含むものであって、一般に皮膚又は粘膜への外用塗布向けである、半固体剤形)が挙げられる。さらなる実施形態としては、増強軟膏剤(化合物の送達を強化するものであって、強化が剤形中での式(I)の化合物(又はその結晶)の強度を指すものではない、軟膏剤形)、クリーム剤(20%超の水及び揮発物並びに/又は50%未満の媒体としても使用されうる炭化水素、ワックス、又はポリオールを通常は含むものであって、一般に皮膚又は粘膜への外用塗布向けである、乳濁半固体剤形)、並びに増強クリーム剤(化合物の送達を強化するものであって、強化が剤形中での式(I)の化合物(又はその結晶)の強度を指すものではない、クリーム剤形)が挙げられる。本明細書において使用される「乳剤」とは、少なくとも2つの不混和性液体で構成され、そのうち一方が液滴の内相又は分散相として他方の液体の外相又は連続相内に分散している、二相系からなり、一般に1種又は複数の乳化剤で安定化されているものであって、より具体的な用語(例えばクリーム剤、ローション剤、軟膏剤)が適用可能でない限りは「乳剤」が剤形の用語として使用される、剤形を意味する。さらなる実施形態としては懸濁剤(液体媒体に分散した固体粒子を含む液体剤形)、長期放出懸濁剤、ペースト剤(脂肪媒体に微分散した20~50%という大きな割合の固体を含むものであって、一般に皮膚又は粘膜への外用塗布向けである、半固体剤形)、溶液剤(溶媒又は相互に混和性の溶媒の混合物に溶解した1種又は複数の化学物質を含む透明で均質な液体剤形)、並びに散剤が挙げられる。
【0145】
局所剤形組成物は、式(I)の化合物(又はその結晶)、並びに1種又は複数の不活性医薬成分、例えば賦形剤、着色料、色素、添加剤、充填剤、皮膚軟化剤、界面活性剤(例えばアニオン性、カチオン性、両性、及び非イオン性)、浸透促進剤(例えばアルコール、脂肪アルコール、脂肪酸、脂肪酸エステル、及びポリオール)などを含む。FDAが承認した様々な局所不活性成分がFDAの「不活性成分データベース」に見られ、そこには製造業者が具体的にそのようなものとして意図する不活性成分が収載されている。
【0146】
好ましくは、医薬組成物は、1種又は複数のさらなる薬学的に有効な薬剤(例えばアスピリンなどの抗炎症剤)を含む。この併用療法は、一緒に製剤化された(例えば1つの製剤中に一緒に包装された)か又は別々に製剤化された(例えば別々の単位剤形として包装された)、化合物(I)の結晶と1種又は複数のさらなる薬学的に有効な薬剤との組み合わせを使用することを包含する。
【0147】
本明細書に記載の方法及び使用はインビトロでの方法(若しくは使用)又はインビボでの方法(若しくは使用)でありうる。
【0148】
上記の方法及び使用をGM2ガングリオシドーシス(例えばサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病)の診断方法と組み合わせることができ、最初にGM2ガングリオシドーシス(例えばサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病)を対象において診断した後、GM2ガングリオシドーシス(例えばサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病)に罹患している対象に、所望の治療効果(例えば生存時間の増加)を実現するために式の化合物(I)(又はその結晶)を投与する。診断方法は、少なくとも1つの変異の存在を確定するためのHEXA及び/又はHEXB遺伝子の遺伝子スクリーニングを含みうる。診断方法は、対象においてβ-ヘキソサミニダーゼA及び/又はβ-ヘキソサミニダーゼBのレベルを確定することを含みうる。HEXA遺伝子の少なくとも1つの変異はテイ・サックス病を示すものでありうる。HEXB遺伝子の少なくとも1つの変異はサンドホフ病を示すものでありうる。
【0149】
上記の詳細な説明は、説明及び例示として提供されているものであり、添付の特許請求の範囲を限定するようには意図されていない。本明細書に例示される本発明の好ましい実施形態の多くの変形は、当業者には明らかであろうし、添付の特許請求の範囲及びその均等物の範囲内にとどまる。
【0150】
本発明を以下の節においてさらに開示する。
【0151】
1.対象の運動機能を向上させることにおける使用のための、式(I)の化合物。
【化30】
【0152】
2.対象が、グルコシルセラミドのレベルの異常及び/又はスフィンゴ糖脂質のレベルの上昇を包含する疾患に罹患している、節1に記載の使用のための化合物。
【0153】
3.対象がGM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病に罹患している、節1又は2に記載の使用のための化合物。
【0154】
4.GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病を処置することにおける使用のための、式(I)の化合物。
【化31】
【0155】
5.GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病の症状を軽減することにおける使用のための、式(I)の化合物。
【化32】
【0156】
6.GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病に罹患している対象の寿命を延長することにおける使用のための、式(I)の化合物。
【化33】
【0157】
7.GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病に罹患している対象の生存時間を増加させることにおける使用のための、式(I)の化合物。
【化34】
【0158】
8.結晶である、節1~7のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0159】
9.結晶が遊離塩基の結晶である、節8に記載の使用のための化合物。
【0160】
10.結晶がX線粉末回折パターンにおいて17.8±0.2°での2θ値として記述される反射を示し、17.8±0.2°での前記反射が前記X線粉末回折パターンにおける4つの最も強い反射の1つである、節8又は9に記載の使用のための化合物。
【0161】
11.結晶がX線粉末回折パターンにおいて4.1±0.2°、8.3±0.2°、12.4±0.2°、13.6±0.2°、14.5±0.2°、14.9±0.2°、15.2±0.2°、17.2±0.2°、19.3±0.2°、21.2±0.2°、22.4±0.2°、22.9±0.2°、及び23.3±0.2°の1つ又は複数での2θ値として記述される1つ又は複数の反射をさらに示す、節10に記載の使用のための化合物。
【0162】
12.結晶がX線粉末回折パターンにおいて17.2±0.2°、17.8±0.2°、21.2±0.2°、及び22.4±0.2°での2θ値として記述される反射を示す、節8又は9に記載の使用のための化合物。
【0163】
13.結晶が融点89℃~96℃を示す、節8~12のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0164】
14.結晶が融点91℃~94℃を示す、節8~13のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0165】
15.結晶が融点92℃~93℃を示す、節8~14のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0166】
16.結晶が実質的に非吸湿性である、節8~15のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0167】
17.結晶がX線粉末回折パターンにおいて16.9±0.2°での2θ値として記述される反射を示し、16.9±0.2°での前記反射が前記X線粉末回折パターンにおける4つの最も強い反射の1つである、節8又は9に記載の使用のための化合物。
【0168】
18.結晶がX線粉末回折パターンにおいて15.2±0.2°、16.1±0.2°、16.5±0.2°、18.9±0.2°、23.1±0.2°、25.5±0.2°、27.7±0.2°、及び28.5±0.2°の1つ又は複数での2θ値として記述される1つ又は複数の反射をさらに示す、節17に記載の使用のための化合物。
【0169】
19.生存時間を増加させることで対象の余命が少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、又は少なくとも40%延長される、節7~18のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0170】
20.生存時間を増加させることで、化合物が投与された対象の余命が、化合物が投与されていない対象に比べて延長される、節7~19のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0171】
21.対象に合計約0.0001mg/日~合計約50mg/日の範囲の投与量で投与される、節1~20のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0172】
22.対象に合計約0.1mg/日~合計約15mg/日の範囲の投与量で投与される、節1~21のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0173】
23.対象に抗炎症剤と共に投与される、節1~22のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0174】
24.対象に前記抗炎症剤と同時に又は前記抗炎症剤と連続的に投与される、節23に記載の使用のための化合物。
【0175】
25.前記抗炎症剤がアスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナク、セレコキシブ、メフェナム酸、エトリコキシブ、又はインドメタシンである、節23又は24に記載の使用のための化合物。
【0176】
26.対象に毎日投与される、節1~25のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0177】
27.対象に1日少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回投与される、節1~26のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0178】
28.対象がGM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病の1つ又は複数の症状を示す、節1~27のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0179】
29.GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病の1つ又は複数の症状が筋力低下、動きの減少、運動技能の損失、騒音に対する反応の増加、発作、視力損失、聴力損失、知的障害、眼の異常、臓器腫大、骨の異常、発話障害、認知機能の損失、筋協調性の損失、及び/又は精神医学的問題を含む、節28に記載の使用のための化合物。
【0180】
30.対象が無症状である、節1~27のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0181】
31. 対象がGM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病のいずれの症状も示さない、節1~27のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0182】
32.対象がGM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病と診断されている、節1~31のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0183】
33.化合物がGM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病に罹患している対象の生存時間を増加させるものであり、生存時間を増加させることで、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病に罹患している対象の余命が、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病に罹患していない対象に比べて延長される、節28~32のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0184】
34.対象がGM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病と診断されていない、節1~31のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0185】
35.対象がHEXB遺伝子の少なくとも1つの変異を有する、節1~34のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0186】
36.化合物がGM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病に罹患している対象の生存時間を増加させるものであり、生存時間を増加させることで、HEXB遺伝子の少なくとも1つの変異を有す対象の余命が、HEXB遺伝子の変異を有さない対象に比べて延長される、節35に記載の使用のための化合物。
【0187】
37.対象がβ-ヘキソサミニダーゼA及び/又はβ-ヘキソサミニダーゼBの活性の異常を示す、節1~36のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0188】
38.対象が、健康な対象に比べてβ-ヘキソサミニダーゼA及び/又はβ-ヘキソサミニダーゼBの活性の減少を示す、節1~37のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0189】
39.化合物がGM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病に罹患している対象の生存時間を増加させるものであり、生存時間を増加させることで、β-ヘキソサミニダーゼA及び/又はβ-ヘキソサミニダーゼBの活性の異常又は減少を示す対象の余命が、β-ヘキソサミニダーゼA及び/又はβ-ヘキソサミニダーゼBの活性の正常性を示す対象に比べて延長される、節37又は38に記載の使用のための化合物。
【0190】
40.運動機能の向上、行動の向上、不安の減少、体調の向上、バランスの向上、発作の減少、発話明瞭度の向上、歩行の向上、嚥下の向上、及び知能の向上から選択される、少なくとも1つのさらなる治療上の有益性を対象に提供する、節1~39のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0191】
41.対象がヒトである、節1~40のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0192】
42.対象が28日齢~30歳である、節41に記載の使用のための化合物。
【0193】
43.対象にpH4.0~7.5を示す医薬組成物として投与される、節1~42のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0194】
44.医薬組成物がpH4.5~5.5を示す、節43に記載の使用のための化合物。
【0195】
45.医薬組成物が酸及び/又は塩基をさらに含む、節43又は44に記載の使用のための化合物。
【0196】
46.医薬組成物が対象にカプセル剤又は錠剤、例えば分散性錠剤として投与される、節43~45のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0197】
47.対象に少なくとも1カ月間、少なくとも3カ月間、少なくとも6カ月間、少なくとも9カ月間、少なくとも1年間、少なくとも2年間、少なくとも3年間投与される、節1~46のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0198】
48.対象に1回投与される、節1~46のいずれか1つに記載の使用のための化合物。
【0199】
49.GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病に罹患している対象の生存時間を増加させる方法であって、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病に罹患している対象に、式(I)の化合物を、前記対象の生存時間を増加させるために有効な量で投与するステップを含む、方法。
【化35】
【0200】
50.GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病に罹患している対象を処置し、対象の生存時間を増加させる方法であって、GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病に罹患している対象に、式(I)の化合物を、前記対象の生存時間を増加させるために有効な量で投与するステップを含む、方法。
【化36】
【0201】
51.GM2ガングリオシドーシス、特にサンドホフ病又はテイ・サックス病、好ましくはサンドホフ病に罹患している対象の生存時間を増加させるための、式(I)の化合物の使用。
【化37】
【実施例】
【0202】
実施例1-化合物(I)の結晶の生成
様々な各溶媒、例えばアセトニトリル、酢酸エチル、イソプロパノール、アニソール、水、又はTBME中、室温(約25℃)での式(I)の化合物の懸濁液平衡化実験により、式(I)の化合物の安定な結晶を得た。
【0203】
特に、以下の実験方法によって式(I)の化合物の形態3の結晶を得た。
1)式(I)の化合物約74mgをアセトニトリル2.0mlに加え、懸濁液を室温(約25℃)で3日間撹拌した後、濾過し;
2)式(I)の化合物約74mgをアニソール2.0mlに加え、懸濁液を室温(約25℃)で3日間撹拌した後、濾過し;
3)式(I)の化合物約82mgを酢酸エチル1.0mlに加え、懸濁液を室温(約25℃)で3日間撹拌した後、濾過し;
4)式(I)の化合物約82mgをイソプロパノール1.0mlに加え、懸濁液を室温(約25℃)で3日間撹拌した後、濾過し;
5)式(I)の化合物約45mgを水1.0mlに加え、懸濁液を室温(約25℃)で3日間撹拌した後、濾過し;
6)式(I)の化合物約100mgをTBME 3.0mlに加え、懸濁液を室温(約25℃)で3日間撹拌した後、濾過した。
【0204】
式(I)の化合物をシリカゲルカラムを使用して精製した後、溶媒を加えてホウ酸エステルを除去した。
【0205】
得られた、式(I)の化合物の結晶を粉末X線回折、DSC、及びDVSにより特徴づけた。
【0206】
アセトニトリルによる懸濁液平衡化実験により得られた式(I)の化合物の形態3の結晶のPXRDパターンを
図2Aに示す。他の溶媒による懸濁液平衡化実験により得られた式(I)の化合物の形態3の結晶のPXRDパターンのオーバーレイを
図2Bに示す。式(I)の化合物のこの結晶は17.2±0.2°、17.8±0.2°、21.2±0.2°、及び22.4±0.2°の2θ値において最も強い反射を示す。これは、式(I)の化合物の結晶を得るために使用される溶媒が異なっているにもかかわらず、一致している。
【0207】
比較として、
図3は、式(I)の化合物の別の結晶(形態2)及び形態3のPXRDパターンのオーバーレイを示す。これら2つの結晶は異なるPXRDパターンを示す。形態2は、アセトニトリル中での式(I)の精製化合物(式(I)の化合物はホウ酸エステルを除去するためのシリカゲルカラムを使用して精製された)の短時間(約1~5分)の平衡化によって得られた。式(I)の化合物のこの形態2の結晶は16.1±0.2°、16.5±0.2°、16.9±0.2°、18.9±0.2°、及び23.1±0.2°の2θ値において最も強い反射を示す。
【0208】
粉末X線回折は、Cu-Kα1線で動作するMythen1K検出器を備えたStoe Stadi P回折計によって行った。この機器での測定は管電圧40kV及び管電流40mAでの送電下で行った。湾曲GeモノクロメーターによってCu-Kα1線での試験が可能になる。以下のパラメータを設定した:ステップサイズ0.02°2θ、ステップ時間12秒、スキャン範囲1.5~50.5°2θ、検出ステップ(ステップスキャンでの検出モード)1°2θ。典型的な試料調製では、試料約10mgを2枚のアセテート箔の間に配置し、Stoe透過試料ホルダー内に装着した。測定中に試料を回転させた。すべての試料の調製及び測定は周囲雰囲気(約25℃)下で行った。
【0209】
形態3について行ったDSC測定は、約103J/gのエンタルピーを伴う約92℃での鋭い吸熱融解ピークを示す。形態2について行ったDSC測定は、ピーク温度約70℃の最初の強い吸熱及び約54J/gのエンタルピー、続いて81℃でのより弱い信号及び約3J/gのエンタルピーを示す。
【0210】
示差走査熱量測定(DSC)をTA Instruments Q2000機器(閉鎖型アルミニウム試料パン、又は蓋にピンホールを備えたアルミニウム試料パン、加熱速度20K/分)によって行った。融点は最大ピークとして理解される。
【0211】
さらに、酢酸エチルによる平衡化により得られた式(I)の化合物の形態3の結晶の試料の挙動を様々な水蒸気圧下で調査した(DVS測定)。最高相対湿度95%で、試料は約1.2%の水を吸収し、この水は相対湿度が50% RHに戻ったときに放出された。吸収された水の量は少なく、水収着は不可逆的である。したがって、式(I)の化合物のこの形態3の結晶は非吸湿性又は実質的に非吸湿性である。形態2では、高い相対湿度において、試料は約18%の水を吸収したが、吸収された水の大部分は相対湿度が50% RHに戻ったときに放出された。
動的蒸気収着(DVS)測定をProUmid(旧称「Projekt Messtechnik」)、August-Nagel-Str.23、89079 Ulm(ドイツ)製のSPS11-100n「Sorptions Prufsystem」によって行った。試料約5mg~20mgをアルミニウム試料パンに入れた。1時間当たり5%という湿度変化率を使用した。適用される測定プログラムは以下のように記述することができる:
試料を微量天秤の上のアルミニウム又は白金ホルダーに載せ、相対湿度(RH)50%で平衡化した後、既定の湿度プログラムを開始した:
(1)50% RHで2時間
(2)50→0% RH(5%/時);0% RHで5時間
(3)0→95% RH(5%/時);95% RHで5時間
(4)95→0% RH(5%/時);0% RHで5時間
(5)0→95% RH(5%/時);95% RHで5時間
(6)95→50% RH(5%/時);50% RHで2時間
【0212】
実施例2-サンドホフ病(Hexb無発現変異)に罹患しているマウスに対する式(I)の化合物の結晶の投与の効果
本実施例では、AZ-3102は形態3の式(I)の化合物の名称である。
【0213】
1.序論
プロジェクトの背景及び概観:
GM2ガングリオシドーシスは、サンドホフ病を含む、脳を冒す変性疾患/炎症性疾患の一群である。これらの疾患は、処置成功がこれまでは限定的であったことから、急速な神経学的悪化、及び典型的には4歳未満での死亡を特徴とする。GM2ガングリオシドーシスは、GM2ガングリオシド(脂質の1つ)を分解するために必要な酵素をコードする責任を負う遺伝子の欠損の遺伝の結果である。次に、この脂質は体内に蓄積されて、脳中で最高レベルに到達し、最も多量になる。これらの疾患は、重症の乳児型では約6月齢で顕性になる。この疾患の若年発症型及び成人発症型は、広範な神経症状を伴うものであり、神経症状の多くは消耗性であり、最終的には致死性である。
【0214】
通常、GM2ガングリオシドは、細胞のリソソーム中で、HEXA、HEXB、及びGM2Aという3つの遺伝子の産物の協調作用を通じて分解される。これらの遺伝子のいずれか1つの欠損により、GM2ガングリオシドに対するHEXAの活性の欠乏が生じることがあり、この場合、GM2ガングリオシドを分解することはできない。β-ヘキソサミニダーゼのβサブユニットをコードするHEXBの変異によりサンドホフ病が生じる。サンドホフ病の発生率は出生384,000件中約1件であるが、特定の集団においてはこれよりも高い。
【0215】
マウスHexb遺伝子の標的化破壊によってサンドホフ病のマウスモデルが作り出された。Hexb遺伝子を標的化する変異によって、痙縮、筋力低下、強直、及び最終的には16~17週齢までの死亡を引き起こす、脳及び脊髄中での広範なGM2ガングリオシドの蓄積を特徴とする、重症の神経学的表現型が生じる。これらのマウスは、GM2ガングリオシドーシスの潜在的な治療法を試験するためのモデルとして広範に使用されている。
【0216】
GM2ガングリオシドーシスの遺伝的原因に加えて、炎症反応(ミクログリア活性化、マクロファージ浸潤、酸化損傷)も、これらのリソソーム蓄積症に関連している。特に、炎症は、脳中での過剰なGM2蓄積により生じることが知られており、逆に、脳の慢性炎症は、GM2ガングリオシドーシスにおける直接的及び間接的な疾患発病及び疾患進行に関与している。また、この群は、炎症性サイトカインTNFα、IL1β、及びTGFβ1の産生が、サンドホフ病マウスの脳中では上昇したが、対照マウスでは上昇しなかったことを示した。後の研究では、これらの知見が、GM2ガングリオシドーシスに罹患したヒトにおいて確認された。最後に、マクロファージの活性化、及び炎症性サイトカインであるマクロファージ炎症性タンパク質-1α(MIP-1α)のレベルの上昇が、サンドホフ病の発病に関与している。
【0217】
GM2における炎症の役割に関するさらなる証拠は、抗炎症薬アスピリンの使用により示されており、アスピリンはサンドホフ病マウスにおいて疾患の進行を有意に遅らせることが示されている。アスピリンを基質合成抑制療法(GM2ガングリオシドーシスに関与する脂質の合成を阻害する化合物による処置)と組み合わせた際に、相乗作用が生じ(11%、生存時間の向上)、最大で生存時間が73%向上することが発見された。
【0218】
近年有望であることが示されたGM2ガングリオシドーシスの別の治療薬は、薬物ピリメタミンである。近年、ピリメタミンによるGM2ガングリオシドーシス細胞株の処置は、酵素活性の向上を示し、初期ヒト治験において一定のさらなる成功を収めている。ピリメタミンは、マラリアを処置するための承認薬であるが、ヘキソサミニダーゼの産生を強化することが示されている。
【0219】
一次薬理作用が、酵素グルコシルセラミド合成酵素(GCS)を阻害すること、続いてより複雑なGSLの生合成を減少させることにより、グルコシルセラミド(GlcCer)の形成を阻害することである、基質合成抑制療法(SRT)が、さらなる治療原理となる。SRTはゴーシェ病1型及びニーマン・ピック病に関して承認されている。
【0220】
ミグルスタット(N-ブチルデオキシノジリマイシン)は、GbA2(非リソソームグルコシルセラミダーゼ)を主に阻害するイミノ糖、すなわちD-グルコースの合成類似体であるが、GCS酵素に対する効力が相対的に低いことから、高用量であればGCSを阻害することもある。臨床的には、ミグルスタットは、ゴーシェ病1型に関して承認されており、米国以外の数ヶ国ではニーマン・ピック病C型に関して承認されている。
【0221】
2.目的
生存試験及び行動試験は、成人において進行性運動機能障害を遅延及び/又は減少させること、並びにホモ変異体において生存時間を延長することにおける有効性を確定するための、生後30日目に開始するAZ-3102及び媒体(対照)の1日4回以上の投与(対照)による用量設定試験であった。
【0222】
3.材料及び方法
3.1.動物対象:
Hexb-/-マウスをJackson Laboratoriesから得た(系統:B6;129S4-Hexbtm1Rlp/J)。特定の病原体なしの条件下でホモ-/-雄とヘテロ雌とを交雑させる(50% -/-及び50% +/-で同腹仔を生じさせる)ことでマウス株を維持した。すべてのマウスを個別換気ケージ(IVC)に12時間明暗サイクルで食物及び水は自由摂取させて収容した。同じ遺伝的C57BL/6背景の若年成体マウスをJackson Laboratoriesから得た。Hexb変異体の繁殖は最初に「長期」コホート、続いて「16週間」バイオマーカー試験での必要性をターゲットとする。
【0223】
3.2.繁殖:
同調繁殖による性別及び齢をマッチさせた同腹仔(1匹の雄-/-と1匹の雌+/-)を使用した。当技術分野において表現型野生型動物(変異が常染色体劣性である)と見なされるホモ変異Hexb -/-マウス及び+/-同腹仔を並列的に調査した。Hexb遺伝子型を、プライマー5’-ATT TTA AAA TTC AGG CCT CGA-3’(共通)、5’ CAT AGC GTT GGC TAC CCG TGA-3’(変異体)、及び5’-CAT TCT GCA GCG GTG CAC GGC-3’(野生型)を使用する、離乳時に得た耳クリッピングから単離したDNAのPCRにより確定した。予想繁殖時間は約19週間であった。
【0224】
3.3.動物の同定:
離乳時に耳クリッピングを取得して、同じケージ内の各動物を明確に同定した。このようにして得た試料を遺伝子型同定に使用した(セクション3.2を参照)。
【0225】
3.4.処置:
各コホートにおいて、媒体対照を含むいくつかの処置群にマウスをランダムに割り当てた。各コホートを順次実行した。各コホートは、長期コホートでは同比率の雄及び雌の動物を有し、16週コホートでは8匹の雄及び7匹の雌を有する。
【0226】
すべてのコホートについて、薬物及び/又は媒体(対照)を胃管栄養により1日1回、午前8.00~12.00に、30日齢から安楽死まで投与した。任意のコホート内で、非可動性、振戦又は発作、体調悪化、正向反射を行えないこと、15%の体重減少、及び瀕死の発生による苦痛を減少させるために、動物を予防的に安楽死させた(身体スコアリングチャートについては補遺Aを参照)。
【0227】
【0228】
マウスからの定期的放血を投与前(生後4週)に、また投与の4週間後(生後8週)に再度、0.5時間及び1時間の時点で行った(セクション3.10参照)。
【0229】
評価は、ロータロッド及びオープンフィールドを含む生きた動物の評価(延命効果及び神経筋強度に関する)を含んだ。
3.5.製剤の調製:
【0230】
【0231】
1.媒体対照の導入及び調製。
【0232】
1.1.実験室での作業を進める前に方法を読む。
【0233】
1.2.試験計画を読む。
【0234】
1.3.作業場が清潔であることを確実にし、正確な機器、清潔なガラス器具などを試験のために選択する。
【0235】
1.4.昇順の濃度で製剤化する。
【0236】
1.5.対照群で開始する-精製水の所要体積を測定し、磁気的に撹拌する。磁気的に撹拌している間、1Mクエン酸を使用してpHを3.5~2.5に調整する。体積を生データで記録する。
【0237】
1.6.最低30分間撹拌する。撹拌時間を生データで記録する。
【0238】
1.7.0.1M NaOHを使用してpHを4.5~5.5に調整する。体積を生データで記録する。
【0239】
1.8.マグネチックスターラ-を使用して最低20分間撹拌する。撹拌時間を生データで記録する。
【0240】
1.9.必要であればこの時点で試料採取する。
【0241】
2.試験品製剤
2.1.所要量の試験品を秤量する:例えば、600mLの目標濃度が0.9mg/mLである場合には、540mgを秤量する。
【0242】
2.2.試験品に最終体積の70%、例えば420mLの精製水を加えて薄い懸濁液(これらの低濃度では確認が困難なことがある)を得る。
【0243】
2.3.3モル当量以下のクエン酸、例えば1Mクエン酸水溶液3.74mLを加え、pHを記録する。pHは3.5~2.5であるはずである。
【0244】
注:懸濁液は試験品の溶解の指標として清澄化すべきである。
【0245】
2.4.製剤を30分間又は物質が溶解するまで一定に撹拌する。撹拌時間を生データで記録する。
【0246】
2.5.水酸化ナトリウム(NaOH 0.1M)を加えてpHを4.5~5.5に調整する。注:この量、例えばNaOH 59.8mLによってクエン酸からの過剰のプロトンが60%中和されて、溶液が酸性条件下に維持される。
【0247】
2.6.最終体積まで例えば116mLの精製水を補う。
【0248】
2.7.最終pHを点検及び記録する。pHが4.5~5.5の範囲内にない場合は試験責任者に連絡する。追加のNaOHを加えてもよいが、総体積の2.5%を超えることはできない。必要であれば体積を生データで記録する。
【0249】
2.8.マグネチックスターラ-を使用して最低20分間撹拌する。開始時間及び終了時間を生データで記録する。引き続き磁気的に撹拌する。
【0250】
2.9.磁気的に撹拌しながら、必要であればこの時点で試料採取する。
【0251】
2.10.磁気的に撹拌し、窒素でフラッシュしながら、シリンジによって最終容器に溶液を移す。
【0252】
3.6.コホート:
コホート1:Hexb+/-動物及びHexb-/-動物の両方を使用する合計6つの投与群及び2つの媒体群が存在した。AZ-3102を用量0.5、1.5、3.0、及び6.0mg/kg/日で調査した。動物をプロトコルに従って早期に安楽死させない限り、投与を30日目~170日目に毎日行った。
【0253】
コホート2(16週バイオマーカー試験):Hexb+/-動物及びHexb-/-動物の両方を使用する8つの群が存在し、これらの動物には生後30日目から媒体対照又は様々な用量のAZ-3102を投与した。
【0254】
3.7 モニタリング-薬力学:
マウスを毎日調査した。全身健康及び体重(BW)に関する主観的及び客観的尺度を含む行動評価及び神経学的評価スコア試験(BNA)を、生後56日目(=ホモ接合体における症状発生の最も早い時点)から毎日、週2回行った。
【0255】
マウスにおける既定の方法、すなわち、感覚運動協調性に関する加速ロータロッド運動能力試験(ROT)、及び自発空間運動調査に関するオープンフィールド自発運動試験(OFT)を使用して、コホート2において運動機能を評価した。
【0256】
行動試験を別の試験室において毎日の胃管栄養後に行った。馴化させるために、動物を試験手順の30~60分前に試験室に入れた。
【0257】
ROT/OFTを8週齢で開始し、12週齢で再度開始した後、人道的エンドポイントに到達するまで2週毎に開始した。各マウスをROT及びOFTにおいて最低4回試験した。各マウスが経験する試験の正確な回数は、特定の時点において生存したマウスの数に依存した。
【0258】
ROTにおいては、すべての動物は、最初の試験の前日に、毎分4~40回転(rpm)の連続回転速度を使用して装置に5分間馴化した。後続の実験では、事前の馴化は行わなかった。実際の試験手順では、試験を加速回転4~40rpmで5分間にわたって行った。時間は動物がロッドから転落するまでを測定した。最大5匹の動物を同時に試験することができた。
【0259】
OFTは静寂な室内及び一定の照明条件下で40x40cmサイズの装置を使用して行った。試験期間は5分とした。すべての試験を録画した後、追跡ソフトウェア、スマート(Smart)(登録商標)バージョン3.0.05を使用して分析した。尺度は平均自発運動速度、歩行距離、並びにフィールドの外側区域及び内側区域において過ごした時間を含んだ。
【0260】
3.8.マウスの屠殺:
所定の処置期間の終わりに、マウスをCO2窒息後のリンゲル液による経心腔灌流によって人道的に安楽死させた。血液試料を灌流前に採取した。還流前に、血液試料を心穿刺によってK2EDTA管中に採取し、湿った氷の上で貯蔵した。全血を採取から30分以内に遠心分離(3000g、5℃で10分間)によって血漿にプロセスし、-75℃で貯蔵した。
【0261】
脳試料を採取し、食塩水でリンスし、乾燥ブロット(blotted dry)した。試料を免疫組織学的解析のために4% PFAに固定し;遺伝子発現解析及び分子生物学的解析のために凍結させ、保持し;LC-MS/MS分析のために凍結状態で使用した。
【0262】
3.9.血液試料採取:
所定の時点で、腹部下行大静脈を通じて動物から末梢血を採取した(ベースラインを含む)。
【0263】
定期的試料採取:すべてのマウスは、初回投与の0.5時間前及び1時間前に、また、投与の4週間後(生後8週)に再度、伏在静脈出血による定期的試料採取を経た。血漿を採取し、ベースライン測定値、AZ-3102、及びPDバイオマーカーについてアッセイした。
【0264】
【0265】
4.結果
サンドホフ病マウスモデル(Hexb(-/-)):サンドホフ病のマウスモデルは、痙縮、筋力低下、強直、及び最終的には16~17週齢までの死亡を引き起こす、脳及び脊髄中での広範なGM2ガングリオシドの蓄積を特徴とする、重症の神経学的表現型を生じさせる、Hexb遺伝子の変異をターゲットとする(Sango,Yamanaka et al 1995,Phaneuf,Wakamatsu et al 1996,Gulinello,Chen et al 2008)。これらのマウスは、GM2ガングリオシドーシスの潜在的な治療法を試験するためのモデルとして広範に使用されている。
【0266】
Hexb(-/-)マウスをJackson Laboratoriesから得た(系統:B6;129S4-Hexbtm1Rlp/J)。特定の病原体なしの条件下でホモ(-/-)雄とヘテロ雌(50%(-/-)及び50%(+/-)で同腹仔を生じさせる)とを交雑させることでマウス株を維持した。すべてのマウスを個別換気ケージ(IVC)に12時間明暗サイクルで食物及び水は自由摂取させて収容した。同じ遺伝的C57BL/6背景の若年成体マウスをJackson Laboratoriesから得た。
【0267】
各コホートにおいて、媒体対照を含むいくつかの処置群にマウスをランダムに割り当てた(表3)。各コホートは同比率の雄及び雌の動物を有した(N=マウス16~18匹)。製剤を作製する責任を負う技術者を除いては、主任研究員及びスポンサーを含むすべての他のスタッフは処置に対して盲検とした。
【0268】
【0269】
すべてのコホートについて、薬物及び/又は媒体を胃管栄養により1日1回、午前8.00~12.00に、30日齢から安楽死まで投与した。任意のコホート内で、非可動性、振戦又は発作、体調悪化、正向反射を行えないこと、15%の体重減少、及び瀕死の発生による苦痛を減少させるために、動物を予防的に安楽死させた。
【0270】
サンドホフ病マウスHexb(-/-)を、媒体又はAZ-3102によって、0(媒体、酸性化水性製剤)、0.5、1.5、3、及び6mg/kg/日の用量レベルでの毎日の経口栄養で処置した。さらに、Hexb遺伝子に関してヘテロ接合性の動物(+/-)を媒体又は3mg/kg/日で処置した。動物が人道的エンドポイントに到達するまで投与を続けた。人道的エンドポイントは、動物ケアスタッフによって盲検的に確定されるものであり、主として10秒後に腹臥位になれないことからなり、このエンドポイントに到達したとき、上級検査技師によってさらに確認され、その後に動物の安楽死を開始した。媒体処置動物の生存時間中央値(n=群当たり16~18匹)は115日であった。AZ-3102処置動物では用量反応がなかったが、生存時間中央値の平均は26日と有意に増加し、これは生存時間の22%の増加であった(p<0.0001、ログランク、Mantle-Cox検定)(
図5)。
【0271】
オープンフィールド試験(OFT、ActiMot、TSE systems)及びロータロッド(RR、IITC Life Sciences)を含む行動評価も行った。OFTでは、高い壁を伴う正方形の箱にマウスを5分間入れて移動距離(センチメートル)及び区域内静止時間(秒)を含むいくつかのパラメータを記録することで、運動技能を評価した。マウスの運動協調性を以前に公開されたプロトコルに従ってRR装置を使用して評価した(Osmon,Vyas et al.2018)。簡潔に言えば、1分当たり4回転(rpm)から40回転に5分間かけて加速する可動シリンダーにマウスを置いた。各マウスについてRR上で3回の試験を行い、各評価の合間に最低10分の休息時間を置いた。以下の各パラメータについて達成された最高数を記録した:転落までの潜時、1分当たりの最終回転数、及び移動距離。
【0272】
図6は、各コホートに関するOFT評価における経時的な運動能力を示す。総移動距離及び区域内静止時間はいずれも、実験の過程にわたって、動物が疾患の病態に屈するまでは向上する。特に、16週の時点で、AZ-3102処置Hexb(-/-)群の運動能力はHexb(-/-)媒体処置群とは異なっており、また、すべての用量で有意であるわけではないが、おそらくは両測定において用量反応を示す(
図6)。同様に、RR評価では、16週の時点で、AZ-3102処置の効果は、媒体処置Hexb(-/-)マウスとの比較で、すべての用量レベルにおいて有意である(
図7)。
【0273】
5.考察
マウスHexb遺伝子の標的化破壊によってサンドホフ病のマウスモデルが作り出された。Hexb遺伝子を標的化する変異によって、痙縮、筋力低下、強直、及び最終的には16~17週齢までの死亡を引き起こす、脳及び脊髄中での広範なGM2ガングリオシドの蓄積を特徴とする、重症の神経学的表現型が生じる。これらのマウスは、GM2ガングリオシドーシスの潜在的な治療法を試験するためのモデルとして広範に使用されている。
【0274】
本試験において、本発明者らは、GCS酵素及びGbA2酵素の両方に対して低nM阻害活性を示す経口小分子であるAZ-3102を、サンドホフ病のマウスモデル[Hexb(-/-)]において評価した。サンドホフ病マウスHexb(-/-)を、媒体又はAZ-3102によって、0(媒体、酸性化水性製剤)、0.5、1.5、3、及び6mg/kg/日の用量レベルでの毎日の経口栄養で処置した。さらに、Hexb遺伝子に関してヘテロ接合性の動物(+/-)を媒体又は3mg/kg/日で処置した。動物が人道的エンドポイントに到達することが確定されるまで投与を続けた。媒体処置動物の生存時間中央値(n=群当たり16~18匹)は115日であった。AZ-3102処置動物では用量反応がなかったが、生存時間中央値の平均は26日と有意に増加し、これは生存時間の22%の増加であった(p<0.0001、ログランク、Mantle-Cox検定)。さらに、OFT及びRRの両方の行動評価において、AZ-3102処置動物は媒体処置Hexb(-/-)動物に比べて有意に向上していた。
【0275】
これらのデータは、処置がなければ神経病態の重症化及び運動反射の悪化を伴う寿命の有意な減少を生じさせるであろう、疾患の動物モデルにおいて、AZ-3102が生存時間の有意な増加及び行動評価の向上をもたらすことを示している。さらに、Hexb(+/-)マウスに3mg/kg/日で投与されたAZ-3102は、媒体処置Hexb(+/-)動物との比較で寿命に対する効果を示さなかった。これは、健康な動物におけるこの薬物の効果が相対的に良性であることを示している。
【0276】
生存時間エンドポイントにおいて用量反応関係は観察されなかったが、0.5mg/kg/日の投与であっても生存時間の増加が既に存在することは注目に値する。さらに、比較的低い用量を調査することは可能だが、行動評価は、16週でのOFT結果が潜在的な用量反応関係を示す効力の下限に、0.5mg/kg/日が近づいている可能性があることを示すようである。
【0277】
短期コホートによるさらなる分析では、Hexb(-/-)及びHexb(+/-)マウスにおいて、AZ-3102の薬物動態、AZ-3102処置の存在下又は非存在下でのスフィンゴ糖脂質調節(例えばGlcCer、GM2)、神経病態、及び遺伝子調節を調査する。
【0278】
補遺A:Hexb震えマウス身体スコアリングチャート:
未処置Hexbマウスの時系列:WT及びHexb +/-は震えがなく、正常な寿命を示す。KOマウスは約10~12週齢で身体症状を示し始め、約14~16週齢で重症の硬直及び/又は震えが起こり、その時点でKOマウスを安楽死させることになろう。大部分の未処置KOマウスは試験対照マウス又はブリーダーとして使用した。
【0279】
動物を安楽死させるべきか否かを決定するために使用されるスコアリングシステムを表4に示す。
【0280】
【0281】
実施例3-薬物動態(PK)及び薬力学(PD)
別途記載がない限り、方法論及び試料採取を実施例2と同様に行った。
【0282】
AZ-3102-00(AZ-3102の遊離塩基。別途記載がない限り、本文献全体を通じてこれをAZ-3102と呼ぶ)の16週間の投与後に定常状態条件に従って血漿及び脳中PKを確定した。最終投与の24時間後、動物を様々な時点で安楽死させ、AZ-3102をLC-MS/MSによって測定した。0.5~6mg/kg/日の用量範囲にわたって、血漿中濃度プロファイルは良好な分離及び用量反応を示した。平均AUC
0~24の濃度(N=3/時点)は417~3607ng・h/mLの範囲であり、12倍の予想曝露量比に対してわずかに過小比例的(9倍)であった(
図8及び表5)。C
maxもやはり過小比例的であって、100~674ng/mLの範囲であり、最低用量と最高用量との間に約7倍の差があった。しかし、曝露量(AUC
0~24)の比例性は用量間で十分に保存された:6対3(1.8倍);3及び1.5(2.0倍);並びに1.5及び0.5(2.4倍)。血漿中濃度は経時的に減少したが、脳中濃度プロファイルは大部分の用量群において24時間にわたってほとんど減少なく維持された。また、脳中でのクリアランスが血漿中でのそれに比べて減少したことが、ラット及びイヌによる以前の試験において観察された(内部データ)。重要なことに、すべての用量レベルにおいて、24時間にわたる脳及び血漿中の濃度は両酵素標的に関してAZ-3102のIC
50を大きく上回っていた。すべての用量での血漿中濃度は24時間後に約1ng/mLであり、脳中濃度は20ng/g組織を超えていた。IC
50に基づくインビトロ効力はGCSでは1.1ng/mL、GbA2では0.3ng/mLであり、したがって、濃度はすべての用量にわたって、これらの酵素を有意に阻害するために十分であった。
【0283】
【0284】
血漿中濃度は通常は経時的に減少したが、脳中濃度プロファイルはNPCヘテロ接合性動物(NPC -/+)を例外とする大部分の用量群において24時間にわたってほとんど減少なく相対的に維持された。このことは、平均脳対血漿比が2時間、4時間、及び24時間の時点でプロットされた
図9において強調される。一般に、2時間及び4時間の時点で、サンドホフ病動物におけるAZ-3102の比はヘテロ接合性動物に比べて大きい。さらに、早期の時点では、比は一定であるようだが、24時間の時点では、用量の増加に従って比が増加する。
【0285】
AZ-3102はGCS及びGbA2の両方の強力な阻害剤である。この作用と一致する形で、GbA2の阻害は、GbA2が重要な役割を果たす脳内でGlcCer種の増加を生じさせるはずである。標的エンゲージメントの測定として、GlcCer C16:0及びC18:0を小脳中で測定したところ、予想通り、GlcCer C16:0及びC18:0は、AZ-3102で処置されたマウスにおいて、未処置マウス(ヘテロ接合性マウス)又はHexb(-/-)未処置マウスに比べて約10倍増加している(
図10)。
【0286】
実施例4-さらなる生存時間試験
引き続き、比較的低い用量を調査するための試験も行い(実施例2と同様にして)、この試験では用量0.02、0.06、0.2、及び0.5mg/kg/日を使用した。2つの最高用量は生存時間に関して互いに有意な差はなかったが、いずれも用量0.02mg/kg/日とは有意な差があった。0.02、0.06、0.2、及び0.5mg/kg/日でのHexb(-/-)マウスの生存時間中央値は120日、116日、133日、及び138日であった。製剤が点検され、正確な投与が確認された(内部データ)ことから、0.06mg/kg/日でなぜ生存時間が少なくなったかは不明である。それにもかかわらず、データは、0.5mg/kg/日でのモデルの再現性を確認するものであり、0.02mg/kg/日未満での用量反応又はおそらくは閾値効果を示すものである(
図11、併せて
図5からのデータ;実施例2)。
【0287】
この投与レジメンでは、用量0.2mg/kg/日が生存時間に関する最小有効量であるようである。しかし、0.5mg/kg/日であっても生存時間の増加が既に存在することは注目に値する。さらに、比較的低い用量は生存時間に対する効果を識別することに役立つが、用量0.5mg/kg/日は、16週でのOFT結果が潜在的な用量反応関係を示す効力の下限に近づいているようである。
【0288】
まとめると、これらのデータは、処置がなければ神経病態の重症化及び運動反射の悪化を伴う寿命の有意な減少を生じさせるであろう、疾患の動物モデルにおいて、AZ-3102が生存時間の有意な増加及び行動評価の向上をもたらすことを示している。さらに、Hexb(+/-)マウスに3mg/kg/日で投与されたAZ-3102は、媒体処置Hexb(+/-)マウスとの比較で寿命に対する効果を示さなかった。これは、健康な動物におけるこの薬物の効果が良性であることを示している。
【0289】
実施例5-遺伝子発現
別途記載がない限り、方法論及び試料採取を実施例2と同様に行った。
【0290】
脳中間部領域内の上位10個の上方制御及び下方制御遺伝子のヒートマップを
図12に示す。データは現在、さらなる見識を得るために調査中であるが、最も一貫した観察結果は、炎症性遺伝子発現に対するAZ-3102の効果である。網羅的ではなく、例示としてではあるが、中間部における3つの関心対象の遺伝子が強調される:Itgax(遺伝子ID:16411、インテグリンα-X、CD11c表面タンパク質をコードする)は、ミクログリアの活性化に関連しており、樹状細胞のマーカーであり、アルツハイマー病を含む神経病態に関連している(Haage,V.,Semtner,M.,Vidal,R.O.et al.(2019)Comprehensive gene expression meta-analysis identifies signature genes that distinguish microglia from peripheral monocytes/macrophages in health and glioma.Acta Neuropathol Commun 7,20.)。Trem2(遺伝子ID:83433、慢性炎症におそらく関与する炎症性膜タンパク質(Dhandapani,R.,Neri,M.,Bernhard,M.et al.(2022)Sustained Trem2 stabilization accelerates microglia heterogeneity and Aβ pathology in a mouse model of Alzheimer’s disease.Cell Rep 39,110883.))、Cxcl10(遺伝子ID:15945、ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド10、潜在的な化学誘引物質)は、ケモカイン及びヘパリン結合活性を示す。マウス脳中での正常な遺伝子の発現は、他の組織に比べて相対的に低い(Yue,F.,Cheng,Y.,Breschi,A.et al.(2014)A comparative encyclopedia of DNA elements in the mouse genome.Nature 515,355-364.)が、そのことは、ミクログリア活性化を通じて多発性硬化症において役割を果たすようであり(Tanuma,N.,Sakuma,H.,Sasaki,A.and Matsumoto,Y.(2006)Chemokine expression by astrocytes plays a role in microglia/macrophage activation and subsequent neurodegeneration in secondary progressive multiple sclerosis.Acta Neuropathol 112,195-204)、GM2ガングリオシドーシスにおける神経病態に関与している(Demir,S.A.,Timur,Z.K.,Ates,N.,Martinez,L.A.and Seyrantepe,V.(2020)GM2 ganglioside accumulation causes neuroinflammation and behavioral alterations in a mouse model of early onset Tay-Sachs disease.J Neuroinflammation 17,277)。
【0291】
実施例6-免疫組織化学的検査
別途記載がない限り、方法論及び試料採取を実施例2と同様に行った。
【0292】
クラス-III中間径フィラメントタンパク質である、GFAP(グリア線維酸性タンパク質)は、中枢神経系の発生中にアストロサイトを他のグリア細胞と区別する細胞特異的マーカーである。中間径フィラメントは、細胞に支持及び強度を与える網目構造を形成する。グリア線維酸性タンパク質のいくつかの分子は一緒に結合して、アストログリア細胞に見られる中間径フィラメントの種類を形成する。アストログリア細胞は脳及び脊髄中で細胞を支持し、育成する。脳細胞又は脊髄細胞が外傷又は疾患を通じて損傷する場合、アストログリア細胞はさらに多くのグリア線維酸性タンパク質を速やかに産生することで反応する。表6及び表7は、特に脳の中間部においての、媒体で処置されたHexb +/-(Het)動物及びAZ-3102で処置されたHexb -/-動物の両方との比較での、Hexb -/-(KO)動物における、群間の免疫蛍光の概要を示し、GFAP染色の著しい増加を強調する。図面によれば、中間部におけるAZ-3102で処置されたHexb -/-マウスと媒体で処置されたHexb -/-マウスとの間の差はいっそう明らかであり(
図13)、雌が統計的な減少を示す一方で、雄動物は染色が減少する傾向を示す。
【0293】
【0294】
【配列表】
【国際調査報告】