(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-23
(54)【発明の名称】脳の細胞外空間における分子輸送を調節する物理的方法及び装置
(51)【国際特許分類】
A61B 17/00 20060101AFI20250116BHJP
【FI】
A61B17/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024535994
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(85)【翻訳文提出日】2024-07-18
(86)【国際出願番号】 CN2021138337
(87)【国際公開番号】W WO2023108478
(87)【国際公開日】2023-06-22
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521445281
【氏名又は名称】北京大学第三医院(北京大学第三臨床医学院)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】▲韓▼ ▲鴻▼▲賓▼
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160DD31
4C160MM32
(57)【要約】
脳の細胞外空間における分子輸送を調節する物理的方法は、動物の脳組織に外部圧力を印加することを含み、外部圧力を印加するリズムは、該動物の自動性に関連付けられている。脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置は、検出機構、加圧機構及び制御機構を含む。検出機構は、動物の自動性を検出可能である。加圧機構は、該動物の脳組織に外部圧力を印加可能である。制御機構は、検出機構の検出結果に基づいて、加圧機構の外部圧力を印加するリズムが該動物の自動性に関連付けられているように、加圧機構を制御可能である。該方法及び装置は、脳の細胞外空間における分子輸送を効果的に調節することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の脳組織に外部圧力を印加することを含み、外部圧力を印加するリズムは、該動物の自動性に関連付けられている、ことを特徴とする脳の細胞外空間における分子輸送を調節する物理的方法。
【請求項2】
前記自動性は、呼吸リズム、心拍、脳拍動リズム又は血管拍動リズムである、請求項1に記載の脳の細胞外空間における分子輸送を調節する物理的方法。
【請求項3】
該動物の硬膜の外側で該動物の脳組織に外部圧力を印加する、請求項1に記載の脳の細胞外空間における分子輸送を調節する物理的方法。
【請求項4】
動物の自動性を検出可能な検出機構(10)と、
該動物の脳組織に外部圧力を印加可能な加圧機構(30)と、
前記検出機構(10)の検出結果に基づいて、前記加圧機構(30)の外部圧力を印加するリズムが該動物の自動性に関連付けられているように、前記加圧機構(30)を制御可能な制御機構(50)と、
を含む、ことを特徴とする脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置。
【請求項5】
前記自動性は、呼吸リズム、心拍、脳拍動リズム又は血管拍動リズムである、請求項4に記載の脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置。
【請求項6】
前記加圧機構(30)は、
流体が充填されることによって動物の脳組織に外部圧力を印加可能な可撓性バッグ(31)と、
流体を貯蔵する流体容器(32)と、
前記可撓性バッグ(31)及び前記流体容器(32)に接続された流体充填排出ユニット(33)と、
を含み、
前記流体充填排出ユニット(33)は、前記流体容器(32)に貯蔵された流体を前記可撓性バッグ(31)に充填可能であり、前記流体充填排出ユニット(33)はまた、前記可撓性バッグ(31)内の流体を排出可能であり、前記制御機構(50)は、前記流体充填排出ユニット(33)を制御可能である、請求項4に記載の脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置。
【請求項7】
前記検出機構(10)は、心電計であり、前記制御機構(50)は、前記検出機構(10)の検出結果からQRS波及びT波を抽出可能であり、前記制御機構(50)は、QRS波の始点で前記可撓性バッグ(31)に流体を充填するように前記流体充填排出ユニット(33)を制御可能であり、T波の終点で前記可撓性バッグ(31)から流体を排出するように前記流体充填排出ユニット(33)を制御可能である、請求項6に記載の脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置。
【請求項8】
前記流体充填排出ユニット(33)は、
一端が前記可撓性バッグ(31)に接続された吸気管(331)と、
出口が前記吸気管(331)の他端に接続され、入口が前記流体容器(32)に接続されたガス圧縮機(332)と、
一端が前記可撓性バッグ(31)に接続された排気管(333)と、
前記排気管(333)の他端に接続された排気弁(334)と、
を含み、
前記制御機構(50)は、前記ガス圧縮機(332)及び前記排気弁(334)を制御可能である、請求項6に記載の脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置。
【請求項9】
前記流体充填排出ユニット(33)は、流量計(335)をさらに含み、前記流量計(335)は、前記吸気管(331)及び前記排気管(333)に設けられて、前記吸気管(331)及び前記排気管(333)を流れる流体の体積を検出し、前記流量計(335)は、前記制御機構(50)に接続され、前記制御機構(50)は、前記流量計(335)の検出結果に基づいて総吸気量及び/又は総排気量を積算可能であり、
前記装置は、前記制御機構(50)に接続された表示ユニット(60)をさらに含み、前記制御機構(50)は、前記検出機構(10)の検出結果、前記総吸気量及び/又は前記総排気量を表示するように前記表示ユニット(60)を制御可能である、請求項8に記載の脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置。
【請求項10】
前記加圧機構(30)は、
動作が前記制御機構(50)によって制御可能なモータと、
前記モータの出力端に接続された押さえ板と、
を含み、
前記モータは、運動して動物の脳組織に外部圧力を印加するように前記押さえ板を駆動可能である、請求項4に記載の脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置。
【請求項11】
前記加圧機構(30)に設けられるとともに、前記加圧機構(30)から前記脳組織に印加された圧力を検出する圧力センサ(70)をさらに含み、前記圧力センサ(70)は、前記制御機構(50)に接続され、前記制御機構(50)は、前記圧力センサ(70)の検出結果に基づいて、前記加圧機構(30)から動物の脳組織に印加された外部圧力の最大値が設定値を満たすように、前記加圧機構(30)を制御可能である、請求項4に記載の脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置。
【請求項12】
前記制御機構(50)に接続された入力機構(80)をさらに含み、前記入力機構(80)により、動作パラメータ及びオンオフ信号を前記制御機構(50)に入力可能であり、前記動作パラメータは、加圧機構(30)から動物の脳組織に印加された外部圧力の最大値の設定値を含む、請求項11に記載の脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の特許は、脳の細胞外空間における分子輸送を調節する物理的方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
脳の細胞外空間(Extracellular space、ECS)は、脳細胞の間及び細胞と血管との間に存在する曲路空間であり、該空間内の物質輸送には、対流と拡散との2つのモードがある。ECS経路を介した新規な投与方法は、ほとんどの薬物が脳に入るのを妨げる血液脳関門を成功して回避し、従来の経口投与及び静脈投与経路の研究開発に失敗した多くの薬物に対して新たな希望を与える。
【0003】
ECSにおける物質輸送への影響要因は複雑であり、神経の興奮と興奮後の伝達物質の放出は、いずれもECSにおける物質輸送速度の変化を引き起こす(Y.Liら、2020;Shiら、2015)。睡眠(Xieら、2013)、麻酔(Zhaoら、2020)、神経興奮(Shiら、2015)、発育(R.Wangら、2021)などの様々な要因は、いずれも脳ECSにおける脳組織間質液(Interstitial fluid、ISF)のドレナージに対して順方向又は逆方向の制御を行う場合がある。これらは、いずれもECS経路を介した脳卒中の治療の探索に重要な理論的基礎及び技術的方法を提供する。例えば、痛覚刺激(Shiら、2015)、嗅覚刺激は、ISFドレナージ速度を遅くすることができ、光の照射は、ISFドレナージを速くしてabの脳外への排出を促進することによって、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease、AD)を治療することができ(Yueら、2019)、模擬無重力状態の異なる日数(Gaoら、2021)及び異なる麻酔タイプ(Zhaoら、2020)は、ISFドレナージを順方向又は逆方向に制御することができる。
【0004】
現在、さらに、脳の細胞外空間における分子輸送を調節するより多くの効果的な方法が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、脳の細胞外空間における分子輸送を効果的に調節できる新規な方法を提供することである。
【0006】
本発明のもう一つの目的は、脳の細胞外空間における分子輸送を効果的に調節できる装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る脳の細胞外空間における分子輸送を調節する物理的方法は、動物の脳組織に外部圧力を印加することを含み、外部圧力を印加するリズムは、該動物の自動性に関連付けられている。
【0008】
脳の細胞外空間における分子輸送を調節する該物理的方法は、脳の細胞外空間における分子輸送を効果的に調節することができる。
【0009】
脳の細胞外空間における分子輸送を調節する物理的方法の別の例示的な実施形態では、自動性は、呼吸リズム、心拍、脳拍動リズム又は血管拍動リズムである。
【0010】
脳の細胞外空間における分子輸送を調節する物理的方法のまた別の例示的な実施形態では、該動物の硬膜の外側で該動物の脳組織に外部圧力を印加する。
【0011】
本発明に係る脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置は、検出機構、加圧機構及び制御機構を含む。検出機構は、動物の自動性を検出可能である。加圧機構は、該動物の脳組織に外部圧力を印加可能である。制御機構は、検出機構の検出結果に基づいて、加圧機構の外部圧力を印加するリズムが該動物の自動性に関連付けられるように、加圧機構を制御可能である。脳の細胞外空間における分子輸送を調節する該装置は、物理的方法により脳の細胞外空間における分子輸送を効果的に調節することができる。
【0012】
脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置の別の例示的な実施形態では、自動性は、呼吸リズム、心拍、脳拍動リズム又は血管拍動リズムである。
【0013】
脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置のまた別の例示的な実施形態では、加圧機構は、可撓性バッグ、流体容器及び流体充填排出ユニットを含む。可撓性バッグは、流体が充填されることによって動物の脳組織に外部圧力を印加可能である。流体容器は、流体を貯蔵する。流体充填排出ユニットは、可撓性バッグ及び流体容器に接続され、流体容器に貯蔵された流体を可撓性バッグに充填可能であり、可撓性バッグ内の流体を排出可能である。制御機構は、該流体充填排出ユニットを制御可能である。
【0014】
脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置のさらに別の例示的な実施形態では、検出機構は、心電計であり、制御機構は、検出機構の検出結果からQRS波及びT波を抽出可能であり、制御機構は、QRS波の始点で可撓性バッグに流体を充填するように流体充填排出ユニットを制御可能であり、T波の終点で可撓性バッグから流体を排出するように流体充填排出ユニットを制御可能である。
【0015】
脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置のさらに別の例示的な実施形態では、流体充填排出ユニットは、吸気管、ガス圧縮機、排気管及び排気弁を含む。吸気管は、一端が可撓性バッグに接続され、他端がガス圧縮機の出口に接続される。ガス圧縮機の入口は、流体容器に接続される。排気管は、一端が可撓性バッグに接続され、他端が排気弁に接続される。制御機構は、ガス圧縮機及び排気弁を制御可能である。
【0016】
脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置のさらに別の例示的な実施形態では、流体充填排出ユニットは、ガス圧縮機と流体容器との間に設けられた吸気弁をさらに含む。
【0017】
脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置のさらに別の例示的な実施形態では、流体充填排出ユニットは、制御機構に接続された流量計をさらに含む。流量計は、吸気管及び排気管に設けられて、吸気管及び排気管を流れる流体の体積を検出する。制御機構は、流量計の検出結果に基づいて総吸気量及び/又は総排気量を積算可能である。装置は、制御機構に接続された表示ユニットをさらに含み、制御機構は、検出機構の検出結果、総吸気量及び/又は総排気量を表示するように表示ユニットを制御可能である。
【0018】
脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置のさらに別の例示的な実施形態では、加圧機構は、モータ及び押さえ板を含む。制御機構は、モータの動作を制御可能である。押さえ板は、モータの出力端に接続され、モータは、運動して動物の脳組織に外部圧力を印加するように押さえ板を駆動可能である。
【0019】
脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置のさらに別の例示的な実施形態では、装置は、圧力センサをさらに含む。圧力センサは、加圧機構に設けられるとともに、加圧機構から脳組織に印加された圧力を検出する。圧力センサは、制御機構に接続され、制御機構は、圧力センサの検出結果に基づいて、加圧機構から動物の脳組織に印加された外部圧力の最大値が設定値を満たすように、加圧機構を制御可能である。
【0020】
脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置のさらに別の例示的な実施形態では、装置は、入力機構をさらに含む。入力機構は、制御機構に接続され、入力機構により、動作パラメータ及びオンオフ信号を制御機構に入力可能である。動作パラメータは、加圧機構から動物の脳組織に印加された外部圧力の最大値の設定値を含む。
【0021】
以下の図面は、本発明を例示的に説明し解釈するものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置の例示的な実施形態を説明する概略構成図である。
【
図2】脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置の例示的な実施形態を説明する概略構成図である。
【
図3】
図1に示す脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置の加圧機構の概略構成図である。
【
図4A】効果実験における核磁気共鳴スキャン画像である。
【
図4B】効果実験における核磁気共鳴スキャン画像である。
【
図4C】効果実験における核磁気共鳴スキャン画像である。
【
図4D】効果実験における核磁気共鳴スキャン画像である。
【
図5】効果実験における脳ECS構造の特徴値のヒストグラムである。
【
図6】効果実験における脳ECS構造の特徴値のヒストグラムである。
【
図7】効果実験における脳ECS構造の特徴値のヒストグラムである。
【
図8】効果実験における脳ECS構造の特徴値のヒストグラムである。
【
図9A】脳ECSにおける分子拡散係数を反映する二次元図である。
【
図9B】脳ECSにおける分子拡散係数を反映する二次元図である。
【
図9C】脳ECSにおける分子拡散係数を反映する二次元図である。
【
図9D】脳ECSにおける分子拡散係数を反映する二次元図である。
【
図10A】脳ECSにおける分子拡散係数を反映する三次元図である。
【
図10B】脳ECSにおける分子拡散係数を反映する三次元図である。
【
図10C】脳ECSにおける分子拡散係数を反映する三次元図である。
【
図10D】脳ECSにおける分子拡散係数を反映する三次元図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の技術的特徴、目的及び効果をより明確に理解するために、図面を参照しながら本発明の具体的な実施形態を説明し、各図では、同じ符号は、構造が同じであるか類似するが機能が同じである部材を示す。
【0024】
本明細書では、「例示的」とは、「実例、例又は説明とする」ことを意味し、本明細書では「例示的」として説明されたいかなる図示、実施形態は、より好ましい又はより有利な技術的解決手段として解釈されるべきではない。
【0025】
図面の簡潔化のために、各図には、本発明に関する部分のみが例示的に示されるが、製品の実際の構造であることを表すものではない。
【0026】
図1は、脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置の例示的な実施形態を説明する概略構成図である。
図1に示すように、脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置は、検出機構10、加圧機構30及び制御機構50を含む。
【0027】
検出機構10は、動物の自動性を検出することができる。自動性(自動能(automaticity)と略称する)について、一般的に、特定のシステムが外部刺激なしに活動する場合、このシステムは、自動性を有し、生理学では、自動性とは、一般的に、生体の一部又は器官が別の刺激なしに興奮な活動を続けることができることを指す。動物の自動性は、例えば、呼吸リズム、心拍、脳拍動リズム又は血管拍動リズムなどである。自動性が心拍である場合、検出機構10は、例えば、心電計である。
【0028】
加圧機構30は、動物の脳組織に外部圧力を印加することができる。該外部圧力とは、脳組織以外の構造から脳組織に印加される力を指す。
図3は、加圧機構の具体的な構造の概略図である。具体的には、
図3に示すように、本例示的な実施形態では、加圧機構30は、可撓性バッグ31、流体を貯蔵する流体容器32、及び流体充填排出ユニット33を含む。可撓性バッグ31は、流体が充填されることによって動物の脳組織に外部圧力を印加することができる。
図1及び
図2に示すように、使用時に、可撓性バッグ31は、例えば動物の頭蓋骨91と脳硬膜92との間に配置されるが、これに限定されず、他の使用の場合に、可撓性バッグ31は、例えば動物の脳硬膜92の頭蓋骨91から離れる側に配置されてもよい。可撓性バッグ31は、例えば、高分子ポリウレタン材料で製造され、柔軟性が良好であり、頭蓋骨91と脳硬膜92との間に配置されるように寸法が設定され、できるだけ薄くなるように設定される。
図1は、可撓性バッグ31から流体が排出された後の状態を示し、
図2は、可撓性バッグ31に流体が充填されて脳組織に圧力が印加された状態を示す。流体は、例えば気体であり、気体は、例えばヘリウムガスである。他の例示的な実施形態では、流体は、液体であってもよい。流体充填排出ユニット33は、可撓性バッグ31及び流体容器32に接続される。流体充填排出ユニット33は、流体容器32に貯蔵された流体を可撓性バッグ31に充填することができる。流体充填排出ユニット33はまた、可撓性バッグ31内の流体を排出することができる。例示的な実施形態では、流体容器32は、例えば高圧ガス貯蔵タンクである。
【0029】
具体的には、
図3に示すように、本例示的な実施形態では、流体充填排出ユニット33は、例えば、吸気管331、ガス圧縮機332、排気管333及び排気弁334を含む。吸気管331は、一端が可撓性バッグ31に接続される。ガス圧縮機332は、出口が吸気管331の他端に接続され、入口が流体容器32に接続される。排気管333は、一端が可撓性バッグ31に接続される。排気弁334は、排気管333の他端に接続され、排気弁334は、例えば電磁弁である。
【0030】
制御機構50は、検出機構10の検出結果に基づいて、加圧機構30の外部圧力を印加するリズムが該動物の自動性に関連付けられているように、加圧機構30を制御することができる。具体的には、本例示的な実施形態では、制御機構50は、流体充填排出ユニット33を制御することができ、さらに、制御機構50は、ガス圧縮機332及び排気弁334を制御することができる。
【0031】
脳の細胞外空間における分子輸送を調節する該装置は、動物の脳組織に外部圧力を印加することができ、外部圧力を印加するリズムが該動物の自動性に関連付けられている。
【0032】
例示的な実施形態では、流体充填排出ユニット33は、ガス圧縮機332と流体容器32との間に設けられた吸気弁336をさらに含む。
【0033】
本例示的な実施形態では、検出機構10は、例えば心電計であり、制御機構50は、例えば検出機構10の検出結果からQRS波及びT波を抽出することができる。制御機構50は、QRS波の始点で可撓性バッグ31に流体を充填するように流体充填排出ユニット33を制御することができ、T波の終点で可撓性バッグ31から流体を排出するように流体充填排出ユニット33を制御することができる。これにより、正確な制御に有利となる。具体的には、本例示的な実施形態では、制御機構50は、例えば、プリアンプ51、ハイパスフィルタ52、パルス振幅・周波数抽出回路53及びマイクロコントローラ54を含む。心電計によって測定された心電信号は、プリアンプ51及びハイパスフィルタ52によってベースラインが除去された後、パルス振幅・周波数抽出回路53に入り、パルス振幅・周波数抽出回路53においてデジタルパルスに整形され、マイクロコントローラ54に伝送され、マイクロコントローラ54は、排気弁334及び吸気弁336を制御することができる。
【0034】
図3に示すように、例示的な実施形態では、流体充填排出ユニット33は、流量計335をさらに含む。流量計335は、吸気管331及び排気管333に設けられて、吸気管331及び排気管333を流れる流体の体積を検出する。流量計335は、制御機構50に接続される。制御機構50は、流量計335の検出結果に基づいて総吸気量及び/又は総排気量を積算することができる。これにより、使用者は、装置の動作状況を監視しやすくなる。
【0035】
図1に示すように、例示的な実施形態では、脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置は、制御機構50に接続された表示ユニット60をさらに含む。制御機構50は、使用者が装置の動作状況を監視しやすくするために、検出機構10の検出結果、総吸気量及び総排気量などを表示するように表示ユニット60を制御することができる。
【0036】
図1に示すように、例示的な実施形態では、脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置は、加圧機構30に設けられるとともに、加圧機構30から脳組織に印加された圧力を検出する圧力センサ70をさらに含む。圧力センサ70は、制御機構50に接続される。制御機構50は、圧力センサ70の検出結果に基づいて、加圧機構30から動物の脳組織に印加された外部圧力の最大値が設定値を満たすように、加圧機構30を制御することができる。これにより、印加された圧力の大きさを制御しやすくなる。
【0037】
図1に示すように、例示的な実施形態では、脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置は、制御機構50に接続された入力機構80をさらに含む。入力機構80により、動作パラメータ及びオンオフ信号を制御機構50に入力することができ、動作パラメータは、加圧機構30から動物の脳組織に印加された外部圧力の最大値の設定値を含む。入力機構80は、例えばキーである。しかしながら、これに限定されず、他の例示的な実施形態では、入力機構80は、例えば、ノブ又はタッチ機構(例えばタッチキーボード)であってもよい。これにより、使用者は、該装置を制御しやすくなる。
【0038】
例示的な実施形態では、脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置は、動作に必要な電気エネルギーを提供するために、電池をさらに含む。
【0039】
他の例示的な実施形態では、加圧機構は、例えば、モータ及び押さえ板をさらに含んでもよい。制御機構は、モータの動作を制御することができる。押さえ板は、モータの出力端に接続され、モータは、運動して動物の脳組織に外部圧力を印加するように押さえ板を駆動することができる。しかしながら、これに限定されず、加圧機構は、動物の脳組織に外部圧力を印加することができる他の構造であってもよい。
【0040】
以下、動物の脳組織に外部圧力を印加し、外部圧力を印加するリズムが該動物の自動性に関連付けられていることによる脳の細胞外空間における分子輸送への影響を、実験により検証する。
【0041】
効果実験
本実験では、ラット自身の動脈の拍動を用いて、外部圧力を印加するリズムが動脈の血管拍動リズムと同じであるように、ラットの脳組織に外部圧力を印加した。
【0042】
実験要件に従って、ラットをランダムに4群に分けた。
対照群(A群):動脈貼付を行わなかった。
動脈貼付術群(B群):動脈貼付を行い、かつ同側造影剤を注入した。
動脈貼付術対側群(C群):動脈貼付を行い、かつ対側造影剤を注入した。
動脈貼付後ゼラチンスポンジパッド群(D群):動脈貼付を行い、同側造影剤を注入し、ゼラチンスポンジ貼付を行った。
【0043】
1、実験動物の処理
動脈貼付:ラット自身の動脈を右脳硬膜外に貼付する。
同側造影剤:造影剤はラットの右尾状核に存在する。
対側造影剤:造影剤はラットの左尾状核に存在する。
ゼラチンスポンジ貼付:動脈の拍動による影響を抑制するために、ゼラチンスポンジを動脈貼付の動脈下に敷く。
【0044】
2、核磁気共鳴スキャン及びデータ後処理
ラットを伏臥位にして核磁気共鳴スキャンを行い、造影剤の拡散が完了するまで画像を収集し、収集した画像を
図4A、
図4B、
図4C及び
図4Dに示し、順にA群、B群、C群及びD群に対応する。図では、Cor:ラット脳のコロナル画像、Axi:ラット脳のアキシャル画像、Sag:サジタル画像、Pre:造影剤なしの画像、15~240min:画像収集の時点である。
【0045】
NanoDetect分析ソフトウェアを用いて核磁気共鳴スキャンの結果に対して後処理を行って、造影剤半減期(T1/2)、脳ECSにおける分子拡散係数(D*)、脳ECSの屈曲度(λ)、脳ECSが脳を占める体積分率(α)というパラメータを取得し、それらの結果を順に
図5、
図6、
図7及び
図8に示す。
【0046】
3、結果分析
図4A~
図4Dに示すように、造影剤は、尾状核領域において同側の表皮質に拡散する。
図4A~
図4D中の明るい白色の造影剤スポットは、基本的に同じ速度で消失し、その原因が核磁気画像の解像度が不十分であると考えられる。
【0047】
図5~
図8から分かるように、動脈貼付術群(B群)は、他の群に比べて、1日目、3日目、7日目及び15日目に、いずれも造影剤半減期(T1/2)がより短く、脳ECSにおける分子拡散係数(D*)がより高く、脳ECSの屈曲度(λ)がより小さく、脳ECSが脳を占める体積分率(α)がより高い。これから分かるように、動脈貼付により、ラットの脳組織におけるISFドレナージを速くし、ミクロ分子の拡散を高め、曲路率を低下させ、脳ECS空間の占有率を拡大することができる。しかしながら、動脈貼付術対側群(C群)及び動脈貼付術後ゼラチンスポンジパッド群(D群)は、対照群(A群)の上記パラメータに比べて統計学的差異が見られなかった。
【0048】
動脈貼付が脳ECSにおける分子拡散係数を高めることができるという結論は、脳ECSにおける分子拡散係数のD-mapping可視化グラフからも明らかである。
図9A、
図9B、
図9C、
図9Dは、脳ECSにおける分子拡散係数を反映する二次元図であり、順にA群、B群、C群及びD群に対応する。
図10A、
図10B、
図10C、
図10Dは、脳ECSにおける分子拡散係数を反映する三次元図であり、順にA群、B群、C群及びD群に対応する。
図9A~
図9Dの色分布及び
図10A~
図10Dの三次元カラムの高さは両方とも、脳ECSにおける分子拡散係数の大きさを反映している。図に示すように、動脈貼付術群(B群)は、他の3群に比べて、脳ECSにおける分子拡散係数が最も高く、すなわち、脳ECSにおける分子拡散能力が最も強い。
【0049】
4、実験結論
上記実験結果によれば、対照群(A群)に比べて、動脈貼付術群(B群)のラットの脳ISFドレナージが速くなり、このような変化は、術後1日目に検出され、15日目まで持続した。しかしながら、動脈貼付術対側群(C群)には明らかな差異が見られず、これは、動脈貼付術が同側脳の深部から脳表層へのISFドレナージを効果的に長時間改善することができ、対側脳のISFドレナージには明らかな改善が見られなかったことを示す。領域別制御の効果を有することを示す。
【0050】
上記実験結果によれば、動脈貼付後ゼラチンスポンジパッド群(D群)の脳ISFドレナージは、対照群(A群)に比べて明らかな差異が見られず、すなわち、動脈の拍動による影響を抑制した後に脳ISFドレナージは正常な状態に回復した。
図5~
図10の結果から分かるように、動脈貼付術により、脳ISFドレナージ速度を速くすることができるとともに、脳ECS空間占有率を増加させ、曲路率を低下させ、分子拡散能力を高める。
【0051】
これは、脳硬膜外での動脈貼付により、脳ECSにおける分子拡散を促進できるとともに、脳ECS構造が変化することを示す。
【0052】
上記効果実験では、ラット自身の動脈の拍動を用いてラットの脳組織に外部圧力を印加するが、動脈の拍動の代わりに、
図1に示す脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置を用いてラットの脳組織に外部圧力を印加し、外部圧力を印加するリズムを当該動物の動脈の血管拍動リズムと同じにして、上記効果実験の動脈貼付術群(B群)と同じ効果を達成し、すなわち、脳ISFドレナージ速度を速くし、脳ECS空間占有率を増加させ、曲路率を低下させ、分子拡散能力を高めることを理解されたい。脳の細胞外空間における分子輸送を調節する該装置は、脳の細胞外空間における分子輸送を効果的に調節することができる。
【0053】
本発明に係る脳の細胞外空間における分子輸送を調節する物理的方法は、動物の脳組織に外部圧力を印加することを含み、外部圧力を印加するリズムが該動物の自動性に関連付けられている。自動性は、例えば、呼吸リズム、心拍、脳拍動リズム又は血管拍動リズムなどである。外部圧力を印加する部位について、例えば、該動物の硬膜の外側で、該動物の脳組織に外部圧力を印加する。外部圧力を印加する方式は、例えば、上記効果実験に用いられた動脈貼付方法であり、
図1に示す脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置を用いて外部圧力を印加してもよい。
【0054】
上記効果実験から分かるように、脳の細胞外空間における分子輸送を調節する該物理的方法は、脳の細胞外空間における分子輸送を効果的に調節することができる。
【0055】
以上に列挙された一連の詳細な説明は、本発明の実現可能な実施例に対する具体的な説明に過ぎず、本発明の保護範囲を限定するものではなく、本発明の技術的思想から逸脱せずに行われる同等の実施形態又は変更、例えば、特徴の組み合わせ、分割又は重複は、いずれも本発明の保護範囲に含まれるべきである。
【符号の説明】
【0056】
10 検出機構
30 加圧機構
31 可撓性バッグ
32 流体容器
33 流体充填排出ユニット
331 吸気管
332 ガス圧縮機
333 排気管
334 排気弁
335 流量計
336 吸気弁
50 制御機構
51 プリアンプ
52 ハイパスフィルタ
53 パルス振幅・周波数抽出回路
54 マイクロコントローラ
60 表示ユニット
70 圧力センサ
80 入力機構
91 頭蓋骨
92 硬膜
93 軟膜
【手続補正書】
【提出日】2024-07-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の自動性を検出可能な検出機構(10)と、
該動物の脳組織に外部圧力を印加可能な加圧機構(30)と、
前記検出機構(10)の検出結果に基づいて、前記加圧機構(30)の外部圧力を印加するリズムが該動物の自動性に関連付けられているように、前記加圧機構(30)を制御可能な制御機構(50)と、
を含む、ことを特徴とする脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置。
【請求項2】
前記自動性は、呼吸リズム、心拍、脳拍動リズム又は血管拍動リズムである、請求項
1に記載の脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置。
【請求項3】
前記加圧機構(30)は、
流体が充填されることによって動物の脳組織に外部圧力を印加可能な可撓性バッグ(31)と、
流体を貯蔵する流体容器(32)と、
前記可撓性バッグ(31)及び前記流体容器(32)に接続された流体充填排出ユニット(33)と、
を含み、
前記流体充填排出ユニット(33)は、前記流体容器(32)に貯蔵された流体を前記可撓性バッグ(31)に充填可能であり、前記流体充填排出ユニット(33)はまた、前記可撓性バッグ(31)内の流体を排出可能であり、前記制御機構(50)は、前記流体充填排出ユニット(33)を制御可能である、請求項
1に記載の脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置。
【請求項4】
前記検出機構(10)は、心電計であり、前記制御機構(50)は、前記検出機構(10)の検出結果からQRS波及びT波を抽出可能であり、前記制御機構(50)は、QRS波の始点で前記可撓性バッグ(31)に流体を充填するように前記流体充填排出ユニット(33)を制御可能であり、T波の終点で前記可撓性バッグ(31)から流体を排出するように前記流体充填排出ユニット(33)を制御可能である、請求項
3に記載の脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置。
【請求項5】
前記流体充填排出ユニット(33)は、
一端が前記可撓性バッグ(31)に接続された吸気管(331)と、
出口が前記吸気管(331)の他端に接続され、入口が前記流体容器(32)に接続されたガス圧縮機(332)と、
一端が前記可撓性バッグ(31)に接続された排気管(333)と、
前記排気管(333)の他端に接続された排気弁(334)と、
を含み、
前記制御機構(50)は、前記ガス圧縮機(332)及び前記排気弁(334)を制御可能である、請求項
3に記載の脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置。
【請求項6】
前記流体充填排出ユニット(33)は、流量計(335)をさらに含み、前記流量計(335)は、前記吸気管(331)及び前記排気管(333)に設けられて、前記吸気管(331)及び前記排気管(333)を流れる流体の体積を検出し、前記流量計(335)は、前記制御機構(50)に接続され、前記制御機構(50)は、前記流量計(335)の検出結果に基づいて総吸気量及び/又は総排気量を積算可能であり、
前記装置は、前記制御機構(50)に接続された表示ユニット(60)をさらに含み、前記制御機構(50)は、前記検出機構(10)の検出結果、前記総吸気量及び/又は前記総排気量を表示するように前記表示ユニット(60)を制御可能である、請求項
5に記載の脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置。
【請求項7】
前記加圧機構(30)は、
動作が前記制御機構(50)によって制御可能なモータと、
前記モータの出力端に接続された押さえ板と、
を含み、
前記モータは、運動して動物の脳組織に外部圧力を印加するように前記押さえ板を駆動可能である、請求項
1に記載の脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置。
【請求項8】
前記加圧機構(30)に設けられるとともに、前記加圧機構(30)から前記脳組織に印加された圧力を検出する圧力センサ(70)をさらに含み、前記圧力センサ(70)は、前記制御機構(50)に接続され、前記制御機構(50)は、前記圧力センサ(70)の検出結果に基づいて、前記加圧機構(30)から動物の脳組織に印加された外部圧力の最大値が設定値を満たすように、前記加圧機構(30)を制御可能である、請求項
1に記載の脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置。
【請求項9】
前記制御機構(50)に接続された入力機構(80)をさらに含み、前記入力機構(80)により、動作パラメータ及びオンオフ信号を前記制御機構(50)に入力可能であり、前記動作パラメータは、加圧機構(30)から動物の脳組織に印加された外部圧力の最大値の設定値を含む、請求項
8に記載の脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の脳の細胞外空間における分子輸送を調節する装置の使用方法であって、
前記検出機構(10)を配置して動物の自動性を検出するステップと、
前記加圧機構(30)を配置して該動物の脳組織に外部圧力を印加するステップと、
前記検出機構(10)、前記加圧機構(30)及び前記制御機構(50)を起動し、前記制御機構(50)に前記検出機構(10)の検出結果に基づいて前記加圧機構(30)を制御させるステップと、
を含む、ことを特徴とする使用方法。
【国際調査報告】