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特表2025-501746ウイルス感染症の治療における使用のための酵母から産生されたアルファ-1アンチトリプシン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-23
(54)【発明の名称】ウイルス感染症の治療における使用のための酵母から産生されたアルファ-1アンチトリプシン
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/81 20060101AFI20250116BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20250116BHJP
   A61K 38/57 20060101ALI20250116BHJP
   C12N 1/19 20060101ALN20250116BHJP
【FI】
C07K14/81 ZNA
A61P11/00
A61P31/12
A61P31/14
A61P31/16
A61K38/57
C12N1/19
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537865
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-08-08
(86)【国際出願番号】 EP2022087461
(87)【国際公開番号】W WO2023118424
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】21216836.3
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】22166483.2
(32)【優先日】2022-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.BRIJ
(71)【出願人】
【識別番号】523165318
【氏名又は名称】アーテック メディカル ジーエムビーエイチ
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(74)【代理人】
【識別番号】100231647
【弁理士】
【氏名又は名称】千種 美也子
(72)【発明者】
【氏名】シュタングル,マンフレッド
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA77X
4B065AA79X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA27
4B065CA44
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA44
4C084CA05
4C084CA53
4C084DC34
4C084MA13
4C084MA43
4C084MA56
4C084NA14
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZB331
4C084ZB332
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA56
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA21
(57)【要約】
本発明は、ウイルス感染症及び/又は肺炎症の治療における使用のための遺伝子改変酵母において発現される組換えアルファ1-アンチトリシン(AAT)タンパク質又はその断片に関する。一実施形態において、ウイルス感染症は、ウイルス呼吸器感染症であり、好ましくはSARSCoV感染症等のコロナウイルス感染症であり、より好ましくはSARS-CoV-2である。本発明は更に、遺伝子改変酵母から組換えAATタンパク質又はその断片(複数の場合もある)を産生する方法に関する。実施形態において、この方法は、プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに動作可能に連結されたAATコード領域を有する外因性核酸分子を含む遺伝子改変酵母を培養する工程と、培養酵母において組換えAATを発現させる工程と、培養物から組換えAATを単離する工程とを含む。実施形態において、酵母から産生された組換えAATは、溶液等の医薬組成物中で調製され、好ましくは、噴霧及びその後の対象による吸入に適している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス性呼吸器感染症の治療における使用のための、遺伝子改変酵母において発現される組換えアルファ1-アンチトリシン(AAT)タンパク質又はその断片。
【請求項2】
前記ウイルス性呼吸器感染症がSARSコロナウイルス感染症である、請求項1に記載の使用のための組換えAATタンパク質又はその断片。
【請求項3】
前記ウイルス性呼吸器感染症がSARS-CoV-2である、請求項2に記載の使用のための組換えAATタンパク質又はその断片。
【請求項4】
前記ウイルス性呼吸器感染症がインフルエンザ又は呼吸器合胞体ウイルス(RSV)である、請求項1に記載の用法のための組換えAATタンパク質又はその断片。
【請求項5】
前記AATタンパク質又はその断片が、配列番号3若しくは配列番号5による配列を含むか、又は配列番号1、配列番号2若しくは配列番号4によってコードされる、請求項1~4のいずれか一項に記載の組換えAATタンパク質又はその断片。
【請求項6】
前記組換えAAT又はその断片が、ヒト血漿から精製されたAAT以上の血清半減期及び/又は活性を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のための組換えAATタンパク質又はその断片。
【請求項7】
前記組換えAATタンパク質又はその断片が、サッカロミケス科の酵母、好ましくはサッカロミセタセエ・ピキアにおいて発現される、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のための組換えAATタンパク質又はその断片。
【請求項8】
前記組換えAATタンパク質又はその断片が、ピキア・パストリスにおいて発現される、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のための組換えAATタンパク質又はその断片。
【請求項9】
前記組換えAATタンパク質又はその断片の翻訳後修飾を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための組換えAATタンパク質又はその断片。
【請求項10】
前記翻訳後修飾が、O-グリコシル化、N-グリコシル化、N-末端メチオニン除去、N-アセチル化及び/又はリン酸化、又はこれらの任意の組み合わせであり、好ましくは、酵母における発現からの1つ以上の特異的修飾、例えばMan3GlcNAc2を含む、請求項9に記載の使用のための組換えAATタンパク質又はその断片。
【請求項11】
前記AATタンパク質又はその断片が、吸入により、好ましくは吸入に適した溶液、吸入に適した可溶性粉末又は吸入に適した乾燥粉末として投与される、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のための組換えAATタンパク質又はその断片。
【請求項12】
前記AATタンパク質又はその断片が、噴霧溶液の吸入によって投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のための組換えAATタンパク質又はその断片。
【請求項13】
前記ウイルス感染症が、SARS-CoV-2であり、前記AATタンパク質又はその断片が、噴霧溶液の吸入によって投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のための組換えAATタンパク質又はその断片。
【請求項14】
前記ウイルス感染症が、SARS-CoV-2、インフルエンザ又はRSVであり、前記AATタンパク質又はその断片が、ピキア・パストリスから発現され、前記AATタンパク質又はその断片が、噴霧溶液の吸入によって投与される、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のための組換えAATタンパク質又はその断片。
【請求項15】
前記ウイルス感染症が、SARS-CoV-2であり、前記AATタンパク質又はその断片が、ピキア・パストリスから発現され、イオン交換クロマトグラフィー又は疎水性相互作用クロマトグラフィー等のクロマトグラフィーを用いて単離され、前記AATタンパク質又はその断片が、噴霧溶液の吸入によって投与される、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用のための組換えAATタンパク質又はその断片。
【請求項16】
前記AATタンパク質又はその断片が、
a.プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに動作可能に連結されたAATコード領域を有する外因性核酸分子を含む遺伝子改変酵母を培養する工程であって、前記酵母が、好ましくはサッカロミケス科の酵母、好ましくはサッカロミセタセエ・ピキア、より好ましくはピキア・パストリスである、工程と、
b.前記培養酵母において組換えAAT又はその断片を発現させる工程であって、前記プロモーターが、好ましくは、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAP)又はアルコールオキシダーゼI(AOX1)である、工程と、
c.組換えAAT又はその断片を前記培養物から単離する工程と、
を含む方法において、遺伝子改変酵母から産生される、請求項1~15のいずれか一項に記載の使用のためのAATタンパク質又はその断片。
【請求項17】
前記AATタンパク質又はその断片が、前記酵母から、液体培地1リットル当たり少なくとも1 mgのタンパク質(mg/L)の濃度、好ましくは5 mg/L~100mg/Lの濃度まで培養培地中に分泌される、請求項1~16のいずれか一項に記載の使用のためのAATタンパク質又はその断片。
【請求項18】
ウイルス性呼吸器感染症の治療における使用のための、請求項1~17のいずれか一項に記載の組換えAATタンパク質又はその断片と薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【請求項19】
前記組成物が、吸入に適した溶液、吸入に適した可溶性粉末、又は吸入に適した乾燥粉末である、請求項18に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えタンパク質産生の分野、並びにウイルス感染症及び/又は肺の炎症に関連する病状の該組換えタンパク質による治療に関する。
【0002】
本発明の一態様は、ウイルス性呼吸器感染症の治療における使用のための、遺伝子改変酵母において発現される組換えアルファ1-アンチトリシン(AAT)タンパク質又はその断片に関する。実施形態において、ウイルス感染症は、SARSCoV感染症等のコロナウイルス感染症であり、より好ましくはSARS-CoV-2ある。
【0003】
本発明の更なる態様は、組換え体の上記AATタンパク質又はその断片と薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物に関する。実施形態において、医薬組成物は、対象による吸入に適している。実施形態において、組成物は、吸入に適した溶液、吸入に適した可溶性粉末、又は吸入に適した乾燥粉末である。
【0004】
本発明の更なる態様は、遺伝子改変酵母から組換えAATタンパク質又はその断片(複数の場合もある)を産生する方法に関する。実施形態において、方法は、プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに動作可能に連結されたAATコード領域を有する外因性核酸分子を含む遺伝子改変酵母を培養する工程と、培養酵母において組換えAATを発現させる工程と、培養物から組換えAATを単離する工程とを含む。実施形態において、組換えAATタンパク質又はその断片は、サッカロミケス科の酵母、好ましくはサッカロミセタセエ・ピキア(SaccharomycetaceaePichia)、より好ましくはピキア・パストリス(Pichiapastoris)において発現される。
【0005】
本発明の更なる態様は、遺伝子改変酵母から組換えAAT又はその断片(複数の場合もある)を産生する工程と、組換えAATタンパク質又はその断片(複数の場合もある)に1つ以上の薬学的に許容可能な担体を添加する工程とを含む、医薬組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0006】
重症急性呼吸器症候群(SARS)は、2002年に初めて観察されたコロナウイルス(CoV)を介した呼吸器疾患である。科学的な報告に基づいて、全てのヒトCoVは人獣共通感染症に由来する可能性があると想定されている。ヒトに感染すると、ウイルスは飛沫感染及びヒト同士の密接な接触によって急速に広がり、流行のシナリオ、更にはパンデミックにつながる可能性がある。一例として、「コロナウイルス病2019」(COVID-19)は、病原性コロナウイルスSARS-CoV-2によって引き起こされる。2019年12月以降、ウイルスは数週間で世界中に広がり、国際的な健康上の緊急事態を引き起こした。世界的なパンデミックは、保健制度に大きな課題をもたらし、更には社会生活の制限及び世界の市場経済の弱体化につながる。現在までに有効であることが証明されている治療法は確立されておらず、この疾患は高い罹患率及び死亡率と関連しているため、病気の人に対する治療的介入、及び発生を封じ込めるための予防的措置が大いに必要とされている。
【0007】
アルファ-1アンチトリプシン(A1AT、AAT、PI、SERPINA1としても知られている)は、約52 kDaの糖タンパク質であり、最も豊富な内因性セリンプロテアーゼ阻害剤(SERPINスーパーファミリー)の1つである。AATは急性期タンパク質であると考えられており、急性炎症時にAAT濃度が何倍にも増加し得る。
【0008】
AATは、主に抗プロテアーゼ活性及び抗炎症活性について知られているが、過去10年間に実施された研究では、AATが免疫調節因子であり、細胞保護分子でもあることが累積的に実証されている。そのため、AATで強化された微小環境では、IL-1、IL-6、及びTNF-α等の炎症促進性サイトカインのレベルの低下、IL-1受容体拮抗薬及びIL-10等の抗炎症メディエーターのレベルの上昇を含むことが示された。この現象は、ヒトPBMCin vitro研究だけでなく、吸入AATを受けた嚢胞性線維症患者から得られた試料でも示された。同時に、AATは、IL-8、及び細胞外HSP70及びgp96等の危険関連分子パターン分子(DAMP:danger-associatedmolecular pattern molecules)に直接結合することが実証されており、これらはそうでなければ関連する免疫応答のアジュバントとして作用する(非特許文献1)。
【0009】
驚くべきことに、それでもAATの抗炎症特性によって、自然免疫細胞が本物の脅威に応答することができ、マクロファージは容易に細菌を貪食し、好中球は感染部位を除染し、抗原負荷樹状細胞は流入領域リンパ節へと遊走する。一方、Tリンパ球は、自然免疫細胞からの刺激を待って、AATが豊富な環境に間接的に応答する。例えば、AATは、防御制御性T細胞の拡大に有利な半成熟抗原提示細胞を誘導することが示されている。自然免疫系と適応免疫系の両方に属するBリンパ球は、AATの存在下で、アイソタイプスイッチの減少という形で修正された応答を発揮するようであり、その結果、防御性IgM産生が高められる。例えば、AATによる治療中のCF患者に示されるように、細菌負荷の減少は、抗病原体免疫応答の強化に関連しており、同時に、局所組織は、局所DAMPのレベルを上昇させることにより、有害な適応応答を促進する可能性がある不適切な過度の損傷から免れる可能性があることが示唆されている(非特許文献1)。
【0010】
報告ではCOVID-19においてAATの産生が増加することが示されているが、この抗炎症反応は重病では圧倒される(非特許文献2)。SARS-CoV-2の感染細胞への侵入は、ウイルスのスパイクタンパク質がその受容体結合ドメイン(RBD)を介してヒトアンジオテンシン変換酵素-2(ACE2)標的受容体に結合することによって媒介される。例えば、ヒト抗体によってこの相互作用を遮断すると、患者においてウイルスが中和され、感染症が治癒する。更なる研究は、SARS-CoV-2の侵入は内因性及び外因性のプロテアーゼによって促進されることも示している。これらのプロテアーゼは、SARS-CoV-2のスパイク糖タンパク質をタンパク質分解的に活性化し、ウイルス指向性の重要な調節因子である。AATは、SARS-CoV-2のプロテアーゼを介した侵入を強力に制限する豊富な血清プロテアーゼ阻害剤として同定されている。invitroでのプロテアーゼを介したSARS-CoV-2侵入のAAT阻害は、血清及び気管支肺胞組織に存在する濃度を下回る濃度で起こり、AAT効果が生理学的に適切であることを示唆する(非特許文献3)。
【0011】
しかしながら、今日まで、AATの取得は依然としてヒト血漿からの精製に大きく依存している。例えば、利用可能な方法は、硫酸アンモニウムの添加によるタンパク質沈殿に本質的に限定されている。AAT精製における論理的な進化は、硫酸アンモニウム分画とAATの物理化学的特性を利用できる他の手順の組み合わせであった。大きなタンパク質のプール(典型的には、硫酸アンモニウムの沈殿の結果)を幾つかの小さなプール(そのうちの1つ(又はそれ以上)がAATで濃縮された)に分離しやすくするために、研究者らによって検討された最初のパラメータはタンパク質の電荷であった。最近では、イオン交換クロマトグラフィー及びアフィニティークロマトグラフィー分野における幅広い高度な材料の出現により、精製レベルの向上が観察された。例えば、Moriharaらは、ヒト血漿を硫酸アンモニウム(80%)で飽和させた後、ペレットをpH8.0のリン酸緩衝液に溶解し、透析し、Affi-GEL Blueカラムにロードした。Zn-キレートカラムでのその後の2工程と、それに続くDE-イオン交換クロマトグラフィーにより、均質なAATを産生した。
【0012】
Kwonらは、グリコシル化型として培地中に分泌された酵母からの組換えAATの精製の先駆者であった。彼らは、硫酸アンモニウム(60%~75%飽和)でタンパク質を沈殿させ、続いて陰イオン交換クロマトグラフィー(DEAEカラム及びmonoQカラム)とアフィニティークロマトグラフィー(A-Gel Blueカラム)からなる一連の後続のクロマトグラフィー工程を含む手順を開発した。酵母が産生したAATはプロテアーゼ阻害剤として(血漿型と比較して)完全に機能していたが、このタンパク質の分子質量は(血漿AATとは異なり)エンドグリコシダーゼHで処理されると、大腸菌(Escherichiacoli)で産生される組換えAATの分子質量まで減少した。このことは、この形態のN-結合型グリコシル化が高マンノース型であることを示した。また、著者らは、グリコシル化により、酵母が産生するAATが熱不活化に対する速度論的安定性を高めることも観察した。しかしながら、サッカロミセス・ディアスタティカス(Saccharomycesdiastaticus)は、組換えタンパク質の分泌産生には理想的ではない(非特許文献4)。
【0013】
非特許文献5は、メチロトローフ酵母ピキア・パストリスにおける組換えヒトAATの発現及び精製を開示する。ヒトAATは、誘導性アルコールオキシダーゼ1(AOX1)プロモーターの制御下で、分泌性に発現された。培地中のAATタンパク質の量は、メタノールで誘導してから72時間後に60mg/Lと測定された。
【0014】
非特許文献6は、組換えAATの効率的な産生及び分泌のための宿主としてのP.パストリス(P. pastoris)の使用を開示する。その知見は、P.パストリスに対するAAT遺伝子のコドン使用頻度を最適化することが、誘導性アルコールオキシダーゼ1(AOX1)及び構成的グリセロールアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ(GAP)のプロモーターの制御下で、AATの分泌レベルにプラスの効果があることが明らかにした。
【0015】
特許文献1は、吸入に適した剤形の組換えヒトAATを含む医薬組成物を用いてCOVID-19を治療する方法を開示する。例えば、ヒト血漿中のアルブミンの存在量が課題であり、ヒト血漿からのAATの収量が限られているため、分泌された組換えタンパク質を産生するための最適化された方法が必要であるといった、ヒト血漿からのAATの単離に関して対処すべき多くの欠点が今なお存在する。さらに、酵母におけるAATの組換え産生は、これまで比較的低い収量によって制限されており、臨床応用が不足している。
【0016】
ヒト血漿からのAATの精製における進歩、及びAATの組換え産生における進歩にもかかわらず、本発明者らの知る限り、従来技術の不利な点に対処するための説得力のある解決策は今日まで存在しなかった。ヒト血漿からのAATの単離に関連する問題を軽減又は回避する方法及び手段が必要であり、組換えAATの新規な手段及び使用が必要である。この分野の研究は、治療用途に適したAATの所望の量及び純度レベルを得るための新しい手段を模索している。対処する必要があるもう1つの客観的な問題は、ウイルス性呼吸器疾患及び/又は肺の炎症に関連する病状の新規な治療法を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2021191900号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Lior et al., Expert Opinion on TherapeuticPatents, 2016
【非特許文献2】McElvaney et al, Am J Respir Crit Care Med.2020 Sep 15; 202(6):812-821
【非特許文献3】Oguntuyo et al, bioRxiv. Aug 15; 2020
【非特許文献4】Purification and characterization of alpha1-antitrypsinsecreted by recombinant yeast Saccharomyces diastaticus.J.Biotechnol. 1995, 42, 191-195.
【非特許文献5】Arjmand et al. 2011 (Avicenna J MedBiotechnol.2011, 3(3):127-134)
【非特許文献6】Arjmand et al. 2013 (Electronic Journal ofBiotechnology,2013, vol. 16, no. 1, 1-14)
【発明の概要】
【0019】
従来技術に照らして、本発明の根底にある技術的課題は、ウイルス感染症及び/又は肺の炎症に関連する病状の治療及び/又は予防のための代替の及び/又は改善された手段を提供することである。本発明の根底にある別の課題は、治療的使用のための十分な量及び質のAATを生産する改良された又は代替的な手段の提供である。本発明の根底にある別の課題は、コロナウイルス感染症、又は該感染症に関連する病状を治療するための新規な手段の提供であった。
【0020】
これらの課題は、独立項の特徴によって解決される。本発明の好ましい実施形態は、従属項によって提供される。
【0021】
一態様において、本発明は、ウイルス感染症及び/又は肺炎症の治療に使用するための遺伝子改変酵母において発現される組換えアルファ1-アンチトリシン(AAT)タンパク質又はその断片に関する。
【0022】
一実施形態において、本発明は、ウイルス性呼吸器感染症の治療に使用するための遺伝子改変酵母において発現される組換えアルファ1-アンチトリシン(AAT)タンパク質又はその断片に関する。
【0023】
実施形態において、ウイルス感染症又はウイルス性呼吸器感染症は、SARS CoV感染症等のコロナウイルス感染症であり、より好ましくはSARS-CoV-2である。
【0024】
以下の実施例で実証されているように、本発明者らは、驚くべきことに、遺伝子改変酵母において発現される組換えAATが、ウイルス性呼吸器感染症、特にSARS-CoV-2等のSARSCoVの治療に非常に適していることを見出した。
【0025】
酵母におけるAAT産生は以前に記載されているが、本発明者らの知る限り、ウイルス性呼吸器疾患の治療における酵母由来の組換えAATの有効性は、以前に評定されていなかった。驚くべきことに、以下の実施例に提示される実験的研究は、酵母由来の組換えAATがinvitroでモデル細胞へのウイルスの侵入を阻止できるだけでなく、ヒト血漿から精製したAATの既存の治療製剤に対する改善が観察されていることを実証する。例えば、酵母から単離された組換えAATは、プロラスチンAAT調製物と比較して、Caco2標的細胞へのウイルス偽粒子の侵入を阻止する上で比較的優れた特性を示す。
【0026】
したがって、本発明は、酵母を発現系として用いる新規で驚くほど効果的な組換えAAT調製物となる。これに対応して、単離された組換えAATタンパク質自体、組換えAATを産生するために使用される遺伝子改変酵母、並びに酵母において産生されたAATを調製及び使用する方法は、実施形態において、ウイルス性呼吸器疾患の治療における有効性の発明的知見によって定義され得る。
【0027】
医学的使用及び医学的適応症に関する実施形態:
一態様において、本発明は、ウイルス性呼吸器感染症の治療における使用のための遺伝子改変酵母において発現される組換えアルファ1-アンチトリシン(AAT)タンパク質又はその断片に関する。
【0028】
実施形態において、本発明は、ウイルス性呼吸器感染症に関連する病状の治療における使用のための遺伝子改変酵母において発現される組換えアルファ1-アンチトリシン(AAT)タンパク質又はその断片に関する。
【0029】
一実施形態において、ウイルス性呼吸器感染症は、コロナウイルス感染症であり、好ましくはSARSコロナウイルス感染症であり、より好ましくはSARS-CoV-2である。
【0030】
実施形態において、本発明は、ウイルス性呼吸器感染症の治療における使用のための遺伝子改変ピキア・パストリス酵母菌株において発現される組換えアルファ1-アンチトリシン(AAT)タンパク質又はその断片に関する。
【0031】
AATは肺疾患の治療に有効であることが知られているにもかかわらず、酵母において発現されるAATの使用は、肺又は呼吸器系のウイルス感染症を治療するための予想外に有用で効果的な手段となっている。第一に、肺疾患自体は病理学的原因に関して大きく異なり、ウイルス性肺疾患は他の肺疾患とはメカニズム的及び生物学的に異なる。本発明におけるような肺のウイルス性疾患を治療することの有効性は、他の肺疾患、例えば、非ウイルス性炎症又は慢性状態、例えば免疫疾患又は慢性閉塞性肺疾患(COPD)に基づくものに対するAAT治療に関する以前の開示からは、それ自体では予期できなかった。
【0032】
本発明の文脈において、遺伝子改変酵母において発現される組換えアルファ1-アンチトリシン(AAT)タンパク質又はその断片の使用は、SARS-CoV-2等のSARS-CoV感染症の治療に限定されない。治療されるウイルス感染症は、実施形態において、ヒトコロナウイルスNL63、229E、HKU1及び/又はOC43、又はそれらに由来するコロナウイルス等、他のヒトコロナウイルス感染症も指し得る。
【0033】
実施形態において、治療される状態は、COVID-19の形態であり、これは、無症候性、軽度、中等度又は重度であり得る。
【0034】
実施形態において、本明細書に記載される組換えAATは、LongCOVID又はLong COVIDに関連する病状の予防及び/又は治療に使用するためのものである。
【0035】
実施形態において、患者は、COVID-19に対する標準的治療に追加的に供される。例えば、標準的治療は、酸素供給、非侵襲的換気、高流量酸素、人工呼吸器、及び体外式膜型人工肺を含む。
【0036】
実施形態において、患者は、COVID-19及び/又はインフルエンザ及びRSV等の他のウイルス感染に対する標準的治療に追加的に供される。例えば、1つ以上の鎮痛剤、解熱剤及び/又は抗炎症剤をAAT治療と組み合わせて投与してもよい。
【0037】
実施形態において、治療される患者は、任意の期間又は強度で存在し得るCOVID-19症状を有し、例えば、患者は、急性、遅延性及び/又は進行中のCOVID症状を呈し得る。
【0038】
本発明の実施形態において、組換えAATを数日間連続して投与する。実施形態において、患者は、1日以内に複数回、1週間以内に複数回、又は更には数週間にわたって継続的に、吸入による治療を受け得る。
【0039】
本発明の実施形態において、組換えAATは、予防的治療として、例えば、ウイルスへの曝露又は潜在的な曝露の直前にAATの投与による気道におけるウイルス感染症の短期的な予防を達成するために投与される。
【0040】
本発明の実施形態において、治療は、ウイルスクリアランスの増強、入院の減少、酸素依存の減少、集中治療若しくは機械的換気の必要性の減少、医療の利用若しくは負担の減少、学校若しくは職場における欠席の減少、抗生物質の必要性の減少、ステロイドの必要性の減少、再発頻度の減少、及び/又は罹患率若しくは罹患のリスクの減少のうちの少なくとも1つの転帰をもたらす。
【0041】
実施形態において、インフルエンザ又はCOVID等のウイルス性呼吸器疾患の症状を対象が呈する期間は、本発明の治療を用いて短縮される。病状の症状は、AATが投与されていない場合よりも大幅に軽減される可能性がある。したがって、症状は、ウイルス性呼吸器疾患の症状が2週間未満、10日未満、7日未満、又は6日、5日、4日、3日、2日若しくは1日未満に軽減される可能性がある。
【0042】
実施形態において、AATによる治療は、少なくとも1つの他の治療剤を追加的に含む。かかる作用物質は、限定されるものではないが、抗ウイルス剤、例えば、プロテアーゼ阻害剤、ヘリカーゼ阻害剤、ウイルス複製阻害剤、及びウイルス細胞侵入阻害剤からなる群から選択される抗ウイルス剤であってもよい。
【0043】
実施形態において、患者は、限定されるものではないが、タミフル(オセルタミビル)、アルピバブ(ペラミビル)、リレンザ(ザナミビル)若しくはザナミビル(静脈内製剤)等のノイラミニダーゼ阻害剤(NAI)、又はアマンタジン若しくはリマンタジン等の1つ以上のM2阻害剤(アダマンタン)から選択される抗ウイルス治療に追加的に供される。
【0044】
実施形態において、本発明は、気道の任意の所与のウイルス感染症の治療又は予防における使用のための遺伝子改変酵母において発現される組換えアルファ1-アンチトリシン(AAT)タンパク質又はその断片に関する。
【0045】
例として、呼吸器系ウイルス疾患は、アデノウイルス、コロナウイルス(感冒ウイルス)、インフルエンザ(influenza(flu))ウイルス、パラインフルエンザウイルス、パルボウイルスB19(第5病)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、又はライノウイルス(感冒)による任意の感染から発生する可能性がある。更なるウイルス性呼吸器疾患又はウイルスは、HBoV、ヒトボカウイルス;HCoV、ヒトコロナウイルス;HMPV、ヒトメタニューモウイルス;HPIV、ヒトパラインフルエンザウイルス;HRSV、ヒト呼吸器合胞体ウイルス;HRV、ヒトライノウイルス;PCF、咽頭結膜熱;SARS、重症急性呼吸器症候群;SARS-CoV、SARS関連コロナウイルス;URI、上気道感染症に関連している可能性がある。
【0046】
実施形態において、本発明はまた、インフルエンザ感染症の治療又は予防における使用のための遺伝子改変酵母において発現される組換えアルファ1-アンチトリシン(AAT)タンパク質又はその断片に関する。
【0047】
実施形態において、本発明はまた、ウイルス性呼吸器疾患の治療又は予防における使用のための遺伝子改変酵母において発現される組換えアルファ1-アンチトリシン(AAT)タンパク質又はその断片、好ましくは、以下の実施例に示されるように、AATによって達成されるようなプロテアーゼ阻害に感受性を有するものに関する。
【0048】
一実施形態において、組換えAATタンパク質は、ウイルス感染症であるSARS-CoV-2、インフルエンザ又はRSVを治療するために投与され、AATタンパク質又はその断片は、ピキア・パストリスから発現され、AATタンパク質又はその断片は、噴霧溶液の吸入によって投与される。
【0049】
一実施形態において、組換えAATタンパク質は、ウイルス感染症であるSARS-CoV-2を治療するために投与され、AATタンパク質又はその断片は、ピキア・パストリスから発現され、イオン交換又は疎水性相互作用クロマトグラフィー等のクロマトグラフィーを用いて単離され、AATタンパク質又はその断片は、噴霧溶液の吸入によって投与される。
【0050】
AAT配列に関する実施形態:
一実施形態において、AATタンパク質又はその断片は、配列番号3若しくは配列番号5による配列を含むか、又は配列番号1、配列番号2若しくは配列番号4によってコードされる。
【0051】
本発明の文脈において、配列番号1、配列番号3及び配列番号5は、AATタンパク質をコードする例示的なヌクレオチド配列である。本発明によるAATをコードするヌクレオチド配列は、配列番号1、配列番号3及び配列番号5に限定されるものではなく、実施形態において、発現のために最適化されてもよく、例えばAATタンパク質をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列であり得る。
【0052】
実施形態において、AATタンパク質又はその断片は、配列番号3若しくは配列番号5による配列を含むか、又は配列番号3若しくは配列番号5による配列からなる。これらの配列は例示的な配列であり、本発明にとっては非限定的である。
【0053】
例えば、置換及び/又は欠失によるアミノ酸配列変化及び/又は長さの変化を含む配列バリエーションは、以下により詳細に開示される。
【0054】
酵母において産生されるAATに関する実施形態:
本明細書においてより詳細に記載されるように、本発明の組換えAATは、酵母から発現される。単離されたヒトAAT(血漿由来)の治療的有用性は当業者には知られていたにもかかわらず、ウイルス性呼吸器疾患の治療という特定の状況での酵母AATタンパク質の活性は期待できなかった。本明細書に記載されるような組換えAATの酵母起源は、酵母における組換え発現系により、より多くの量のAATの産生を可能にするだけでなく、酵母発現AATは、ウイルス感染症の治療の状況において予期しない治療効果も達成する。以下の実施例に示すように、酵母由来の組換えAATは、血漿から単離されたAATと比較して、invitroで標的細胞へのウイルス侵入を阻止する効果が高いようである。
【0055】
好ましい例及び非限定的な例に拘束されないが、本明細書に記載される酵母菌株及び発現手段は、実施形態において、本明細書に記載される組換え酵母の有益な特性を得る上で役割を果たし得る。組換えAATの供給源は、酵母菌株、発現ベクター、特定のプロモーターの使用又は培養条件に関して、治療用組換えAATタンパク質自体に固有の物理的及び/又は機能的特性を提供し得る。したがって、酵母由来の組換えAATの発現又は製造に関連する特徴は、実施形態において、本発明の組換えAATタンパク質を定義するために使用され得る。
【0056】
一実施形態において、組換えAATタンパク質又はその断片は、サッカロミケス科の酵母、好ましくはサッカロミセタセエ・ピキア、より好ましくはピキア・パストリスにおいて発現される。
【0057】
一実施形態において、組換えAAT又はその断片は、ヒト血漿から精製されたAAT以上の血清半減期及び/又は活性を有する。
【0058】
一実施形態において、AAT又はその断片は、組換えAATタンパク質又はその断片の翻訳後修飾を含む。
【0059】
一実施形態において、翻訳後修飾は、O-グリコシル化、N-グリコシル化、N-末端メチオニン除去、N-アセチル化及び/又はリン酸化、又はこれらの任意の組み合わせであり、好ましくは、酵母における発現からの1つ以上の特異的修飾、例えばMan3GlcNAc2を含む。
【0060】
一実施形態において、組換えAATタンパク質又はその断片は、1つ以上のヒト様グリコフォームパターンを含む。
【0061】
一実施形態において、AATタンパク質又はその断片は、
a.プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに動作可能に連結されたAATコード領域を有する外因性核酸分子を含む遺伝子改変酵母を培養する工程と、
b.培養酵母において組換えAATを発現させる工程と、
c.組換えAATを培養物から単離する工程と、
を含む方法において、遺伝子改変酵母から産生される。
【0062】
一実施形態において、AATタンパク質又はその断片は、
a.プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに動作可能に連結されたAATコード領域を有する外因性核酸分子を含む遺伝子改変酵母を培養する工程であって、上記酵母が、好ましくはサッカロミケス科の酵母、好ましくはサッカロミセタセエ・ピキア、より好ましくはピキア・パストリスである、工程と、
b.培養酵母において組換えAAT又はその断片を発現させる工程であって、プロモーターが、好ましくは、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAP)又はアルコールオキシダーゼI(AOX1)である、工程と、
c.組換えAAT又はその断片を培養物から単離する工程と、
を含む方法において、遺伝子改変酵母から産生される。
【0063】
酵母からAATを産生する方法に関する実施形態:
別の態様において、本発明は、遺伝子改変酵母から組換えアルファ1-アンチトリシン(AAT)タンパク質又はその断片(複数の場合もある)を産生する方法に関し、以下:
a.プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに動作可能に連結されたAATコード領域を有する外因性核酸分子を含む遺伝子改変酵母を培養する工程と、
b.培養酵母において組換えAATを発現させる工程と、
c.組換えAATを培養物から単離する工程と、
を含む。
【0064】
本明細書に記載されるように、AATを産生する方法によって得られる組換えAATは、好ましくは、ウイルス感染症、好ましくはウイルス性呼吸器感染症を治療する医療用として構成される。
【0065】
実施形態において、本明細書において使用される酵母は、組換えタンパク質を発現するのに適した任意の酵母種であり得る。
【0066】
実施形態において、酵母は、サッカロミセス(Saccharomyces)種、ピキア(Pichia)種、ハンセヌラ(Hansenula)種、ヤロウィア(Yarrowia)種、アルクスラ(Arxula)種、クルイベロミセス(Kluyveromyces)種、又はシゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)種のうちの1以上であり、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomycescerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowialipolytica)、アルクスラ・アデニニボランス(Arxula adeninivorans)、クルイベロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)又はシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomycespombe)である。
【0067】
実施形態において、酵母は、サッカロミケス科、好ましくはサッカロミセタセエ・ピキアである。
【0068】
実施形態において、酵母は、ピキア・パストリスである。
【0069】
実施形態において、酵母は、サッカロミセス・セレビシエである。
【0070】
実施形態において、酵母は、シゾサッカロミセス・ポンベである。
【0071】
理論に拘束されるものではないが、酵母宿主を使用して組換えAAT(好ましくはrhAAT)を発現させることで、ヒト血漿等のヒト供給源から単離されたAATとは異なる構造、機能及び/又は活性をAATに付与する。したがって、酵母から組換え的に発現するAATの定義は、AATタンパク質自体の構造的及び/又は機能的特徴を表す。
【0072】
実施形態において、酵母における発現を介して誘導されるAATタンパク質の翻訳後修飾は、発現及び培養上清への分泌を介して、優れたAAT活性及び通常にはない高い収率の組み合わせを可能にする。
【0073】
実施形態において、酵母における発現は、濃縮及び/又は単離されたヒトAAT調製物に対する酵母AATの安定性の増加、純度の増加、活性の増加及び/又は投与後の分解に対する耐性の増加のうちの1つ以上を可能にする。
【0074】
実施形態において、酵母で産生されたAATは、驚くべきことに、ヒト対象における投与後に望ましくない副作用をほとんど示さない。本発明者らは、酵母から発現されたAATは、ヒト対象において良好な忍容性プロファイルを示し、AAT調製物に対する望ましくない免疫反応のリスクが低いことを想定している。
【0075】
実施形態において、組換えAAT産生に採用される特定の酵母菌株は、他の酵母菌株から産生されたAAT及び/又はヒト血漿等のヒト供給源から単離されたAATとは異なる構造、機能及び/又は活性をAATに与える。例えば、本明細書に提供される例は、ピキア・パストリスからの組換えAATの予想外に良好な発現、分泌、及び単離を示す。実施形態において、ピキア・パストリスから発現されるAATは、他の酵母宿主におけるAAT及び/又は単離されたヒトAATの発現に対して、構造、機能、活性、発現、分泌、及び/又は単離に関して1つ以上の利点を示す。
【0076】
一実施形態において、本明細書において使用される方法は、アルコールオキシダーゼI(AOX1)等の酵母におけるAATの発現を調節するように構成された誘導性プロモーターの使用を含む。
【0077】
実施形態において、AATタンパク質又はその断片(複数の場合もある)は、哺乳類、魚類、真菌及び植物からなる群から選択される起源のものであり、好ましくは、AATタンパク質は、ヒトAATタンパク質又はその断片である。
【0078】
実施形態において、AATタンパク質又は断片(複数の場合もある)は、酵母から培地中に分泌され、液体培地1リットル当たり少なくとも1 mgのタンパク質(mg/L)の濃度、好ましくは2 mg/L~100 mg/Lの濃度、より好ましくは5 mg/L~100 mg/L、又は10 mg/L~100mg/Lの濃度まで分泌される。
【0079】
実施形態において、酵母から培地に分泌されるAATタンパク質又はその断片(複数の場合もある)は、1 mg/L、2 mg/L、3 mg/L、4 mg/L、5 mg/L、6 mg/L、7 mg/L、8 mg/L、9 mg/L、10 mg/L、11 mg/L、12mg/L、13 mg/L、14 mg/L、15 mg/L、20 mg/L、25mg/L、30 mg/L、35 mg/L、40 mg/L、45 mg/L、50mg/L、55 mg/L、60 mg/L、65 mg/L、70 mg/L、75mg/L、80 mg/L、85 mg/L、90 mg/L、95 mg/L、100mg/Lの濃度になる。収率は、上記に提供された値のうちの何れか1つ以上から導出される範囲でもあり得る。実施形態において、酵母から培地に分泌されるAATタンパク質又はその断片(複数の場合もある)は、本明細書に提示される値を超える濃度になる。
【0080】
一実施形態において、遺伝子改変酵母は、サッカロミケス科のもの、好ましくはサッカロミセタセエ・サッカロミセス、より好ましくはサッカロミセス・セレビシエであり、上記酵母はキサントフモールも産生する。実施形態において、遺伝子改変酵母は、ピキア菌株であり、キサントフモールも産生する。
【0081】
組換えAATを発現するために用いられる遺伝子改変酵母は、好ましくは、有効なAAT発現のために構成された酵母発現ベクターを含む。酵母系のための複製及び発現の構成要素を含む好適なベクターは、当業者に知られている。限定されるものではないが、好適なベクターは、pGAPz、pPICz及び/又はpEX-A258等、本明細書に記載のものである。
【0082】
本明細書に記載されるように、AATコード領域を有する外因性核酸分子、例えば酵母発現ベクターが採用され、ここで該AATコード領域は、プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに動作可能に連結される。好適なプロモーターは、当業者によって選択され得る。
【0083】
実施形態において、プロモーターは、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAP)である。
【0084】
他の実施形態において、プロモーターは誘導性であり、好ましくはアルコールオキシダーゼI(AOX1)である。
【0085】
実施形態において、遺伝子改変酵母からのAATの発現は、典型的には、酵母培養物の上清における可溶性AATの分泌をもたらす。組換えAATは、典型的には、更に使用する前に単離又は精製が必要である。臨床グレードのAATを、必要なプロトコルを使用して生成することもできる。
【0086】
実施形態において、本発明の組換えAATは、イオン交換及び/又はアフィニティ及び/又は疎水性相互作用クロマトグラフィー及び/又はサイズ排除クロマトグラフィーを用いて単離される。実施形態において、酵母培養上清は、タンパク質を沈殿させるために硫酸アンモニウムで処理されてもよい。続いて、沈殿したペレットを、pH8.0のリン酸緩衝液等の適切な緩衝液に溶解し、任意に、透析し、精製のために適切なカラムにロードする。例えば、イオン交換クロマトグラフィーでは、高純度の組換えAATを産生することができる。
【0087】
実施形態において、酵母において産生された組換えAATの上清の精製は、陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)を含む。
【0088】
実施形態において、酵母において産生された組換えAATの上清の精製は、陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)を含む。
【0089】
実施形態において、酵母において産生された組換えAATの上清の精製は、サイズ排除クロマトグラフィーを含む。
【0090】
実施形態において、酵母において産生された組換えAATの上清の精製は、疎水性相互作用クロマトグラフィーを含む。
【0091】
実施形態において、酵母において産生された組換えAATの上清の精製は、アフィニティークロマトグラフィーを含む。
【0092】
実施形態において、AATは、ヒスチジンタグ(Hisタグ)等の好適な精製タグとの融合タンパク質として酵母において発現されてもよく、これは後の精製工程を容易にする。
【0093】
実施形態において、酵母からAATを調製する方法は、酵母から単離した後、in vitroで組換えAATタンパク質を修飾することを含み得る。実施形態において、修飾は、組換えAATタンパク質の生体適合性ポリマーへの共有結合を含む。
【0094】
組成物及び投与形態に関する実施形態:
本発明の更なる態様は、酵母において産生される上記組換えAATタンパク質又はその断片と薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物に関する。
【0095】
実施形態において、医薬組成物は、対象による吸入に適している。実施形態において、組成物は、吸入に適した溶液、吸入に適した可溶性粉末、又は吸入に適した乾燥粉末である。
【0096】
実施形態において、吸入による投与は、吸入に適した溶液、吸入に適した可溶性粉末又は吸入に適した乾燥粉末を介して、酵母において産生される組換えAAT又はその断片の1回
以上の吸引を包含し得る。
【0097】
一実施形態において、AATタンパク質又はその断片は、噴霧溶液の吸入によって投与される。
【0098】
実施形態において、医薬組成物は、吸入用のネブライザー、例えばPari Boy Pro、又は同様の装置によって調製することができる。
【0099】
一実施形態において、ウイルス感染症は、SARS CoV、好ましくはSARS-CoV-2等のコロナウイルス感染症であり、AATタンパク質又はその断片は、噴霧溶液の吸入によって投与される。
【0100】
関連する態様において、本発明は、ウイルス性呼吸器感染症の治療における使用のための遺伝子改変酵母において発現される組換えアルファ1-アンチトリシン(AAT)タンパク質又はその断片を含む医薬組成物に関する。
【0101】
一実施形態において、ウイルス感染症はSARS-CoV-2であり、AATタンパク質又はその断片はピキア・パストリスにおいて発現され、AATは噴霧溶液の吸入によって投与される。
【0102】
実施形態において、本発明の組成物は、非経口投与、例えば、血管内(静脈内又は動脈内)、腹腔内又は筋肉内投与のために製剤化される。
【0103】
実施形態において、使用のための医薬組成物は、ウイルス感染症又は肺炎症に関連する病状を治療するのに有用な1つ以上の他の活性物質の同時又は逐次投与を伴い得る。
【0104】
一実施形態において、1つ以上の他の活性物質は、キサントフモールであり得る。
【0105】
理論に拘束されるものではないが、サッカロミケス科の酵母、好ましくはサッカロミセタセエ・サッカロミセス、より好ましくはサッカロミセス・セレビシエを用いた発酵プロセス中に、ホップがプロセスに添加されると、キサントフモールが副生成物として生成され、コロナウイルス、例えばSARS-CoV-2のプロテアーゼを標的とすることによって、様々なコロナウイルスに対する強力な汎阻害剤として機能する。
【0106】
Wang et al., 2021は、キサントフモールが酵素アッセイでプロテアーゼ活性を阻害したのに対し、キサントフモールによる前処理はVero-E6細胞におけるSARS-CoV-2及びPEDVの複製を制限したことを示している。キサントフモールは、コロナウイルスの強力な汎阻害剤であり、更なる薬物開発のための優れたリード化合物である(Wang et al., 2021, Xanthohumol Is a Potent Pan-Inhibitor ofCoronaviruses Targeting Main Protease, international journal of molecularsciences)。
【0107】
したがって、実施形態において、サッカロミケス科、好ましくはサッカロミセタセエ・サッカロミセス、より好ましくはサッカロミセス・セレビシエ由来の遺伝子改変酵母は、組換えAATタンパク質を産生するだけでなく、コロナウイルス等のウイルス感染症を治療するための相乗効果をもたらし得る補助物質キサントフモールも産生する。
【0108】
実施形態において、本発明は、ウイルス性呼吸器感染症の予防、リスクの低減及び/又は治療の方法に関し、この方法は、治療量の組換えAATタンパク質を、それを必要とする対象に投与することを含み、該組換えAATタンパク質又はその断片は、本明細書に記載される遺伝子改変酵母において発現され、該投与は、好ましくは、例えば噴霧した液滴のAATタンパク質の吸入、及び/又は対象へのAATタンパク質の注射を含む。
【0109】
本発明の更なる態様:
本発明の別の態様は、本発明の任意の実施形態に記載されるような方法から得ることができる組換えAATタンパク質又はその断片に関する。
【0110】
本発明の更なる態様は、遺伝子改変酵母に関し、該酵母は、組換えAAT及びその断片(複数の場合もある)を発現するように遺伝子改変され、プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに動作可能に連結されたAATコード領域を有する外因性核酸分子を含む。
【0111】
本発明の更なる態様は、酵母における発現によって産生される組換えAATタンパク質又はその断片に関する。
【0112】
本発明の更なる態様は、
a.グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAP)、アルコールオキシダーゼI(AOX1)等のプロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに動作可能に連結されたAATコード領域を有する外因性核酸分子を含む遺伝子改変酵母を培養することと、
b.培養酵母において組換えAATを発現させることと、
c.組換えAATを培養物から単離することと、
を含む工程から産生された、組換えAATタンパク質又はその断片に関する。
【0113】
本発明の更なる態様は、
a.本明細書に記載の方法に従って、遺伝子改変酵母から組換えAAT又はその断片(複数の場合もある)を産生する工程と、
b.組換えAATタンパク質又はその断片(複数の場合もある)に1つ以上の薬学的に許容可能な担体を添加する工程と、
を含む医薬組成物を製造する方法に関する。
【0114】
本発明の更なる例示的な態様及び実施形態は、例えば、以下に関する:
【0115】
実施形態1.遺伝子改変酵母から組換えアルファ1-アンチトリシン(AAT)タンパク質又はその断片(複数の場合もある)を産生する方法であって、
a.プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに動作可能に連結されたAATコード領域を有する外因性核酸分子を含む遺伝子改変酵母を培養する工程と、
b.前記培養酵母において組換えAATを発現させる工程と、
c.組換えAATを前記培養物から単離する工程と、
を含む、方法。
【0116】
実施形態2.前記プロモーターが、アルコールオキシダーゼI(AOX1)等の酵母におけるAATの発現を調節するように構成された誘導性プロモーターである、上記の実施形態に記載の方法。
【0117】
実施形態3.前記酵母が、サッカロミケス科の酵母、好ましくはサッカロミセタセエ・ピキア、より好ましくはピキア・パストリスである、上記の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0118】
実施形態4.前記AATタンパク質又はその断片(複数の場合もある)が、哺乳類、魚類、真菌及び植物からなる群から選択される起源のものであり、好ましくは、前記AATタンパク質が、ヒトAATタンパク質である、上記の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0119】
実施形態5.前記外因性核酸分子が、配列番号1又は配列番号2に記載の配列を含む、上記の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0120】
実施形態6.前記組換えAATが、ヒト血漿から精製されたAAT以上の血清半減期及び/又は活性を有する、上記の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0121】
実施形態7.前記AATタンパク質又はその断片(複数の場合もある)が、前記酵母から、液体培地1リットル当たり少なくとも1 mgのタンパク質(mg/L)の濃度、好ましくは5 mg/L~100 mg/Lの濃度まで前記培地に分泌される、上記の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0122】
実施形態8.前記組換えAATタンパク質の翻訳後修飾を含む、上記の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0123】
実施形態9.前記翻訳後修飾が、O-グリコシル化、N-グリコシル化、N-末端メチオニン除去、N-アセチル化及び/又はリン酸化、又はこれらの任意の組み合わせである、上記の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0124】
実施形態10.前記組換えAATタンパク質が、1つ以上のヒト様グリコフォームパターンを有する、上記の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0125】
実施形態11.前記酵母からの単離後に前記組換えAATタンパク質をin vitroで修飾することを含む、上記の実施形態のいずれか1つに記載の方法。
【0126】
実施形態12.前記修飾が、生体適合性ポリマーへの組換えAATタンパク質の共有結合である、上記の実施形態に記載の方法。
【0127】
実施形態13.上記の実施形態のいずれか1つに記載の方法から得ることができる組換えAATタンパク質又はその断片。
【0128】
実施形態14.酵母における発現からの1つ以上の特異的修飾、例えばMan3GlcNAc2を含む、上記の実施形態に記載の組換えAATタンパク質又はその断片。
【0129】
実施形態15.遺伝子改変酵母であって、該酵母は、組換えAAT及びその断片(複数の場合もある)を発現するように遺伝子改変され、プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに動作可能に連結されたAATコード領域を有する外因性核酸分子を含む、遺伝子改変酵母。
【0130】
実施形態16.前記外因性核酸分子が、配列番号1又は配列番号2に記載の配列を含む、上記の実施形態のいずれかに記載の遺伝子改変酵母。
【0131】
実施形態17.前記プロモーターが、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAP)である、実施形態15及び16のいずれか1つに記載の遺伝子改変酵母。
【0132】
実施形態18.前記プロモーターが、誘導性である、好ましくはアルコールオキシダーゼI(AOX1)である、実施形態15~17のいずれか1つに記載の遺伝子改変酵母。
【0133】
実施形態19.前記酵母が、サッカロミケス科の酵母、好ましくはサッカロミセタセエ・ピキア、より好ましくはピキア・パストリスである、実施形態15~18のいずれか1つに記載の遺伝子改変酵母。
【0134】
実施形態20.
a.グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAP)、アルコールオキシダーゼI(AOX1)等のプロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに動作可能に連結されたAATコード領域を有する外因性核酸分子を含む遺伝子改変酵母を培養することと、
b.培養酵母において組換えAATを発現させることと、
c.組換えAATを培養物から単離することと、
を含む工程から産生された、組換えAATタンパク質又はその断片であって、前記酵母が、サッカロミセタセエ科の酵母、好ましくはサッカロミセタセエ・ピキア、より好ましくはピキア・パストリスである、組換えAATタンパク質又はその断片。
【0135】
実施形態21.前記外因性核酸分子が、配列番号1若しくは配列番号2に記載の配列を含み、及び/又は、前記AATアミノ酸配列が、配列番号3若しくは配列番号5に記載の配列を含む、上記の実施形態に記載の組換えAATタンパク質又はその断片。
【0136】
実施形態22.翻訳後修飾、例えば、O-グリコシル化、N-グリコシル化、N-末端メチオニン除去、N-アセチル化及び/又はリン酸化、並びにこれらの任意の組み合わせを含む、実施形態20~21に記載の組換えAATタンパク質又はその断片。
【0137】
実施形態23.1つ以上のヒト様グリコフォームパターンを含む、実施形態20~22に記載の組換えAATタンパク質又はその断片。
【0138】
実施形態24.
a.実施形態1~12のいずれか1つに記載の方法に従って遺伝子改変酵母から組換えAAT又はその断片(複数の場合もある)を産生する工程と、
b.組換えAATタンパク質又はその断片(複数の場合もある)に1つ以上の薬学的に許容可能な担体を添加する工程と、
を含む医薬組成物を製造する方法。
【0139】
実施形態25.組換えAATタンパク質又はその断片と薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物であって、前記組換えAATタンパク質又はその断片が、実施形態15~19のいずれか1つに記載の遺伝子改変酵母において発現される、医薬組成物。
【0140】
実施形態26.前記組成物が、吸入に適した溶液又は吸入に適した可溶性粉末又は直接吸入用の乾燥粉末である、上記の実施形態に記載の医薬組成物。
【0141】
実施形態27.前記組成物を、吸入用のネブライザーにより調製することができる、上記の実施形態に記載の医薬組成物。
【0142】
実施形態28.ウイルス感染症の予防及び/又は治療における使用のための、実施形態25に記載の医薬組成物。
【0143】
実施形態29.前記ウイルス感染症が、コロナウイルス、好ましくはSARS-CoV-2によって引き起こされる、上記の実施形態に記載の使用のための医薬組成物。
【0144】
実施形態30.肺の炎症に関連する病状の予防及び/又は治療における使用のための、実施形態25に記載の医薬組成物。
【0145】
実施形態31.ウイルス感染症又は肺の炎症に関連する病状を治療するのに有用な1つ以上の他の活性物質の同時又は逐次投与を更に含む、実施形態28~30に記載の使用のための医薬組成物。
【0146】
本発明の様々な態様及び実施形態は、遺伝子操作された酵母から産生される組換えAATタンパク質が、ウイルス感染症及び/又は肺の炎症に関連する病状の治療に効果的に適用され得るという共通の驚くべき知見によって統一され、その恩恵を受け、これに基づき、及び/又はこれによって関連付けられる。本発明の1つ以上の態様又は実施形態を説明する任意の所与の特徴は、本発明の任意の他の態様又は実施形態を説明するために使用することができ、その文脈において開示されているとみなされる。例えば、AAT産生の方法に関する本発明の実施形態は、本発明の他の態様、例えばAATタンパク質自体及び/又はその医療用途に関連するものと見なされ、その文脈で開示され得る。
【0147】
明細書に開示される配列の概要:
【表1】
【0148】
発明の詳細な説明
特許文献及び非特許文献の全ての引用された文書は、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0149】
アルファ-1アンチトリプシン(AAT):
アルファ-1アンチトリプシン(A1AT、AAT、PI、SERPINA1としても知られる)は、約52 kDaの糖タンパク質であり、最も豊富な内因性セリンプロテアーゼ阻害剤(SERPINスーパーファミリー)の1つである。AATは急性期タンパク質であると考えられており、急性炎症時にAAT濃度が何倍にも増加する可能性がある。
【0150】
AATコード領域は、好ましくは、ヒトAATと比較して活性が低下している、同一、類似している若しくは増加している、又はヒトAATと機能的に類似している、AAT機能を示す天然に存在する又は合成AATタンパク質配列をコードする任意の核酸である。AATのアミノ酸配列は、NCBIデータベースからアクセッション番号1313184Bで入手可能である。AATをコードする対応する核酸配列は、分子生物学又は遺伝学の当業者によって提供され得る。AATの未修飾ヒト形態と機能的類似性(analogy or similarity)を示すAATの配列変異体の使用は、本発明に包含される。
【0151】
1つのAATコード配列(CDS)は、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NM_000295.4で公開されており、好ましい実施形態の1つである。この配列は、全配列の262~1518塩基を含む。配列番号1は、1つの例示的なAATコード配列を表す。
【0152】
本発明の幾つかの実施形態において、CDSは、タンパク質産生を増加させるように最適化されたコドンである。コドン最適化後のコード配列は、配列番号2のように読み取ることが好ましい。
【0153】
配列番号1及び/又は配列番号2によるヌクレオチド配列は、配列番号3によるアミノ酸配列のヒトAATタンパク質をコードする。
【0154】
実施形態において、ヒトAATタンパク質は、当該技術分野において知られているヒトAAT配列に対応する配列番号5に従って採用される。
【0155】
したがって、本発明は、本明細書に記載されるような組換えAATを発現する遺伝子改変酵母、好ましくはピキア・パストリスの使用を包含し、酵母は、以下からなる群から選択される核酸分子を含む:
a)好ましくは配列番号1又は2によるヌクレオチド配列によって、配列番号3又は配列番号5等による、AATタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子、
b)a)によるヌクレオチド配列と相補的である核酸分子;
c)a)又はb)によるヌクレオチド配列と機能的に類似/同等であるのに十分な配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む核酸分子であって、好ましくは、a)又はb)によるヌクレオチド配列に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、好ましくは90%、より好ましくは95%の配列同一性を含む、核酸分子;
d)遺伝暗号の結果として、a)からc)によるヌクレオチド配列に縮重される核酸分子;及び/又は、
e)a)からd)のヌクレオチド配列による核酸分子であって、欠失、付加、置換、転座、逆位及び/又は挿入によって修飾され、a)からd)によるヌクレオチド配列と機能的に類似/同等である、核酸分子。
【0156】
したがって、本発明は、配列番号3若しくは配列番号5によるAATタンパク質若しくはその変異体、又は配列番号3若しくは配列番号5によるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む、本明細書に記載の遺伝子改変酵母、好ましくはピキア・パストリスの使用を包含する。
【0157】
本発明は、配列番号3の更なる配列変異体、特に配列番号3又は配列番号5に対して少なくとも70%の配列同一性を有するもの、好ましくは配列番号3又は配列番号5に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、又は少なくとも95%の配列同一性のものを包含する。かかる配列変異体は、好ましくは、本明細書に開示されるヒトAATと機能的に類似又は同等である。タンパク質の長さの変動もまた、配列番号3又は配列番号5のヒトAATの機能的同等性が維持される場合に本発明に包含される。例えば、最大50アミノ酸、40アミノ酸、30アミノ酸、20アミノ酸、又は10アミノ酸のタンパク質の長さの切断又は伸長は、AAT活性を維持する場合があり、したがって本発明に包含される。
【0158】
機能的に類似する配列とは、機能的なAAT遺伝子産物をコードし、ヒトAATと同一又は類似の機能的効果を可能にする能力を指す。AATの機能は、in vitroでトリプシン等の種々のプロテアーゼを阻害する能力、又は好中球エラスターゼを阻害する能力(以下に記載される)によって決定され得る。プロテアーゼ活性を決定するため、又は好中球エラスターゼ活性を決定するための適切なアッセイは、当業者に知られている。
【0159】
アミノ酸配列及びそのような分子をコードする核酸配列における置換によって生じ得るAATタンパク質のタンパク質修飾も本発明の範囲内に含まれる。本明細書で定義される置換は、タンパク質のアミノ酸配列になされる修飾であり、それにより1つ以上のアミノ酸が、同数の(種々の)アミノ酸と置き換えられて、本来のタンパク質とは異なるアミノ酸配列を含むタンパク質が生成される。幾つかの実施形態においては、この修正は、タンパク質の機能を大きく変更しないであろう。付加と同様に、置換は、天然のものであっても人工的なものであってもよい。当該技術分野においては、アミノ酸置換が、タンパク質の機能を大きく変更することなく行われ得ることは、よく知られている。これは、特に、該修飾が、或るアミノ酸の類似の特性の別のアミノ酸への置換である「保存的」アミノ酸置換に関連する場合に当てはまる。そのような「保存された」アミノ酸は、サイズ、電荷、極性及びコンフォメーションのため、タンパク質の構造及び機能に大きな影響を及ぼすことなく置換することができる天然アミノ酸又は合成アミノ酸であってもよい。しばしば、多くのアミノ酸は、タンパク質の機能に有害な影響を及ぼすことなく保存的アミノ酸によって置換され得る。一般的に、非極性アミノ酸のGly、Ala、Val、Ile及びLeu、非極性芳香族アミノ酸のPhe、Trp及びTyr、中性極性アミノ酸のSer、Thr、Cys、Gln、Asn及びMet、正に荷電したアミノ酸のLys、Arg及びHis、負に荷電したアミノ酸のAsp及びGluは、保存的アミノ酸の群を表す。この一覧は、網羅的なものではない。例えば、Ala、Gly、Ser及び時としてCysは、それらが異なる群に属しているが、互いに置換することができることはよく知られている。
【0160】
「保存的アミノ酸置換」という用語は、当該技術分野においてよく知られており、これは、類似の特性(例えば、類似の電荷又は疎水性、類似の嵩高性)を有するものによる特定のアミノ酸の置換に関する。例としては、グルタミン酸に対するアスパラギン酸、又はロイシンに対するイソロイシンが挙げられる。保存的置換変異体は、1)親配列に対して保存的アミノ酸置換のみを有し、2)親配列に関して少なくとも90%の配列同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、96%の同一性、97%の同一性、98%の同一性又は99%以上の同一性を有し、かつ3)神経保護活性又は神経修復活性を保持する。この点に関して、上述したポリペプチド配列の任意の保存的置換変異体が、本発明に従って企図される。かかる変異体は「AATタンパク質」と見なされる。
【0161】
本明細書において使用される場合、参照ポリペプチド又は核酸配列に関する「パーセント(%)配列同一性」は、配列をアライメントし、必要に応じて配列同一性の最大パーセントを達成するためにギャップを導入した後、参照ポリペプチド又は核酸配列中のアミノ酸残基又はヌクレオチドと同一である候補配列中のアミノ酸残基又はヌクレオチドの割合として定義され、配列同一性の一部として保存的置換を考慮しない。パーセントアミノ酸配列同一性又はパーセント核酸配列同一性を決定する目的でのアライメントは、例えば、公に入手可能なコンピュータソフトウェアプログラムを使用して、当業者の範囲内にある様々な方法で達成することができる。BLAST又はClustal等のソフトウェアにより、かかる配列のアライメント及び同一性のパーセント計算が可能になる。本明細書において使用される場合、2つの配列間のパーセント相同性は、配列間のパーセント同一性と等しい。配列間の同一性又は相同性のパーセントの決定は、例えば、GAPプログラム(Genetics Computer Group、ソフトウェア;現在はhttp://www.accelrys.com上でAccelrysを介して入手可能)を用いて行うことができ、アライメントは、例えば、ClustalWアルゴリズム(VNTIソフトウェア、InforMax Inc.)を用いて行うことができる。配列データベースを、目的の核酸配列を用いて検索することができる。データベース検索のアルゴリズムは、典型的には、BLASTソフトウェアに基づく(Altschul et al., 1990)。幾つかの実施形態において、パーセント相同性又は同一性は、核酸の全長に沿って決定され得る。
【0162】
実施形態において、AATは、関連する配列のN末端及び/又はC末端における0個~10個のアミノ酸付加又は欠失を含んでもよい。これは、ポリペプチドが、a)0個、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個若しくは10個の追加のアミノ酸をそのN末端に有し得て、0個、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個若しくは10個のアミノ酸をそのC末端で欠失させ得るか、又はb)0個、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個若しくは10個の追加のアミノ酸をそのC末端に有し得て、0個、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個若しくは10個のヌクレオチドをそのN末端で欠失させ得るか、c)0個、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個若しくは10個の追加のアミノ酸をそのN末端に有し得て、0個、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個若しくは10個の追加のアミノ酸をそのN末端に有し得るか、又はd)0個、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個若しくは10個のアミノ酸をN末端で欠失させ得て、0個、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個若しくは10個のアミノ酸をそのC末端で欠失させ得ることを意味する。
【0163】
さらに、本明細書に記載のポリペプチドに加えて、ペプチド模倣物も企図される。ペプチド類似体は、鋳型ペプチドに類似した特性を持つ非ペプチド医薬品として製薬業界で一般的に使用されている。これらのタイプの非ペプチド化合物は、「ペプチド模倣物(peptide mimetics)」又は「ペプチド模倣物(peptidomimetics)」と呼ばれ(Fauchere (1986) Adv.Drug Res.15:29、Veber andFreidinger (1985) TINS p. 392、及びEvans et al.(1987) J.Med.Chem.30:1229)、通常、コンピュータ化された分子モデリングの助けを借りて開発される。治療的に有用なペプチドと構造的に類似しているペプチド模倣物は、同等の治療効果又は予防効果を生じさせるために使用され得る。幾つかの実施形態において、対象に投与する場合、ポリペプチドの安定性を延長するためにペプチド模倣物を使用することが好ましい場合がある。この目的のために、ポリペプチドのペプチド模倣物は、ヒトプロテアソームによって切断されないものが好まれる場合がある。
【0164】
本発明のAATをコードする核酸分子は、目的の標的DNAを含有する細胞内での発現について当該技術分野における標準的方法に従ってコドン最適化され得る。例えば、意図された標的核酸が酵母細胞内にある場合、AATをコードする酵母コドン最適化ポリヌクレオチドが、本明細書に記載のコンストラクトにおける使用のために企図される。
【0165】
他の実施形態において、アルファ-1アンチトリプシン(AAT)タンパク質は、他のセリンプロテアーゼ阻害剤によって置き換えられてもよい。したがって、本明細書に開示されるようなAATに関するいかなる特徴も、他のセリンプロテアーゼ阻害剤に関連し得る。一実施形態において、セリンプロテアーゼ阻害剤は、トリプシン様セリンプロテアーゼ阻害剤である。
【0166】
トリプシン様セリンプロテアーゼ阻害剤は、トリプシン様活性を有するセリンプロテアーゼを阻害する。セリンは、セリンプロテアーゼ酵素の酵素活性部位で求核性アミノ酸として機能する。多数のトリプシン様セリンプロテアーゼは、阻害の治療標的として積極的に追求されている。エンドサイトーシスによるウイルスの侵入は、セリンプロテアーゼ等の標的細胞プロテアーゼに依存する。
【0167】
ウイルス感染症は、ウイルスがウイルスの侵入と増殖のために標的細胞のセリンプロテアーゼを必要とする場合、標的細胞のセリンプロテアーゼ依存性である。
【0168】
標的細胞のセリンプロテアーゼは、ウイルスと標的細胞膜の融合、及び標的細胞の細胞質へのウイルスゲノムの放出に必要なウイルススパイクタンパク質を活性化する。宿主細胞セリンプロテアーゼを標的化することは、エンドサイトーシス依存性ウイルスのウイルス増殖を防止することができ、それによって標的細胞セリンプロテアーゼを阻害することは、エンドサイトーシス依存性ウイルスに感染した対象を治療するための有効な方法である。セリンプロテアーゼ阻害剤、好ましくは、トリプシン様セリンプロテアーゼ阻害剤は、ウイルス感染及びウイルス増殖を阻害する。非限定的な例として、トリプシン様セリンプロテアーゼ阻害剤としては、カモスタット、アプロチニン、ベンズアミジン、ガベキサート、ロイペプチン、ナファモスタット、ペプスタチンA、リバビリン、セピモスタット、ウリナスタチン、及びパタモスタットが挙げられる。
【0169】
分子:
本明細書において使用される場合、「核酸」又は「核酸分子」は、例えば、DNA分子(例えば、cDNA又はゲノムDNA)等の単量体ヌクレオチドの鎖で構成される分子を指すことを意味する。核酸は、例えば、プロモーター、AAT遺伝子若しくはその一部、又は調節要素をコードし得る。核酸分子は、一本鎖又は二本鎖であり得る。
【0170】
「AAT核酸」は、AAT遺伝子若しくはその一部、又はAAT遺伝子若しくはその一部の機能的変異体を含む核酸を指す。遺伝子の機能的変異体としては、例えば、サイレント変異、一塩基多型、ミスセンス変異、及び遺伝子機能を有意に変化させない他の変異又は欠失等の軽微な変異を有する遺伝子の変異体が挙げられる。
【0171】
本明細書において使用される場合、「核酸コンストラクト」という用語は、天然に存在する遺伝子から単離されるか、又は自然界には存在しない方法で核酸のセグメントを含むように修飾されたか、又は合成された、一本鎖又は二本鎖のいずれかの核酸分子を指す。核酸コンストラクトという用語は、核酸コンストラクトが本開示のコード配列の発現に必要な制御配列を含む場合、「発現カセット」という用語と同義である。
【0172】
特定のAATタンパク質(その断片及びその一部を含む)を「コードする」DNA配列は、特定のRNA及び/又はタンパク質に転写される核酸配列である。DNAポリヌクレオチドは、タンパク質に翻訳されるRNA(mRNA)をコードしてもよく、又はDNAポリヌクレオチドは、タンパク質に翻訳されないRNA(例えば、tRNA、rRNA、又はDNA標的RNA;「非コード」RNA又は「ncRNA」とも呼ばれる)をコードしてもよい。
【0173】
本明細書において使用される場合、「遺伝子」又は「コード配列」という用語は、タンパク質をコードするDNA領域(転写領域)を広く指すことを意味する。コード配列は、プロモーター等の適切な調節領域の制御下に置かれると、ポリペプチドへと転写(DNA)及び翻訳(RNA)される。遺伝子は、ポリアデニル化部位を含む、プロモーター、5'-リーダー配列、コード配列、及び3'-非翻訳配列等、幾つかの動作可能に連結された断片を含み得る。「遺伝子の発現」という語句は、遺伝子がRNAに転写される、及び/又は活性タンパク質に翻訳されるプロセスを指す。
【0174】
本明細書において使用される場合、「タンパク質」又は「ポリペプチド」は、ペプチド及びタンパク質の両方を意味するものとする。本発明では、ポリペプチドは自然発生又は組換え(すなわち、組換えDNA技術によって作製された)であってもよく、突然変異(例えば、点突然変異、挿入突然変異及び欠失突然変異)、及び他の共有結合修飾(例えば、グリコシル化及び標識(ビオチン、ストレプトアビジン、フルオレセイン及び放射性同位体による))、又は付加的な構成要素に対する他の分子結合を含有していてもよい。例えば、PEG化タンパク質が本発明の範囲に包含される。PEG化は、治療用タンパク質の生物医学的有効性及び物理化学的特性を改善するための作製後の修飾法として広く用いられている。この技術の適用性及び安全性は、長年にわたり様々なPEG化医薬品を用いて証明されている(Jevsevar et al,Biotechnol J. 2010 Jan;5(1):113-28を参照されたい)。幾つかの実施形態において、本明細書に記載のポリペプチドは、非修飾ポリペプチドと比較してより長いin vivo半減期を示し、分解に抵抗するように修飾される。環化ポリペプチド、ビタミンB12に融合したポリペプチド、ステープルペプチド(stapled peptides)、タンパク質脂質化(lipidization)、及びD-アミノ酸による天然L-アミノ酸の置換等のかかる修飾は当業者に既知である(Bruno et al, Ther Deliv. 2013 Nov; 4(11): 1443-1467を参照されたい)。
【0175】
酵母における組換えAATの産生
本発明は、遺伝子改変酵母から組換えAAT又はその断片(複数の場合もある)を産生する方法に関し、プロモーター又はプロモーター/エンハンサーの組み合わせに動作可能に連結されたAATコード領域を有する外因性核酸分子を含む遺伝子改変酵母を培養する工程と、培養酵母において組換えAATを発現させる工程と、組換えAATを培養物から単離する工程とを含む。
【0176】
本発明の文脈において用いることができる酵母発現プラットフォームは、研究用途又は工業的用途のために、大量のタンパク質、ここではAATを産生するために使用される酵母の菌株を含む。酵母は、例えば細菌よりも維持するためにより多量の資源を消費することが多いが、特定の生成物は酵母のような真核細胞によってのみ産生できるため、酵母発現プラットフォームを使用する必要がある。酵母は、生産性、並びにタンパク質を分泌、処理及び修飾する能力において異なる。そのため、異なる種類の酵母(すなわち、異なる発現プラットフォーム)は、異なる研究及び産業用途により適している。重要なことに、酵母は大きな容器の中で急速に増殖し、効率的な方法でタンパク質を産生し、安全であり、化粧品組成物との関連でヒトが消費する準備ができているようにタンパク質生成物を産生及び修飾することができるため、酵母におけるタンパク質の発現及び産生は有利である。
【0177】
組換え治療剤の製造は、治療用医薬品の中でも急速に発展している分野である。酵母は、異種タンパク質産生のための確立された真核生物の宿主であり、医薬品組換え体の合成において特有の利点を提供する。酵母は安価な培地上での活発な増殖に長けており、遺伝子操作が容易で、真核生物の翻訳後変化を加えることができる。サッカロミセス・セレビシエ、ピキア・パストリス、ハンセヌラ・ポリモルファ、ヤロウィア・リポリティカ、アルクスラ・アデニニボランス、クルイベロミセス・ラクティス、及びシゾサッカロミセス・ポンベを含む多数の酵母は、組換えタンパク質産生のための例示的な酵母宿主であり、それに応じて採用され得る。
【0178】
酵母は、組換えDNAからタンパク質を産生するための一般的な宿主である。酵母は、比較的容易な遺伝子操作、及び安価な培地で高い細胞密度への急速な増殖を提供する。真核生物として、酵母は、真核細胞では一般的であるが、細菌では比較的まれなグリコシル化といったタンパク質修飾を行うことができる。このため、酵母は、哺乳類、特にヒトの天然産物と同一又は非常に類似した複雑なタンパク質を産生することができる。最も一般的に使用される酵母発現プラットフォームは、パン酵母であるサッカロミセス・セレビシエに基づく。しかしながら、サッカロミセタセエ・ピキア、特にピキア・パストリス等の更なる酵母発現プラットフォームが研究されており、それらの異なる特性及び能力に基づいて様々な用途に広く使用されている。例えば、それらの幾つかは幅広い炭素源で増殖し、パン酵母の場合のようにブドウ糖に限定されない。それらの幾つかは、遺伝子工学及び外来タンパク質の産生にも適用され、本発明の文脈において使用することができる。
【0179】
実施形態において、本発明に関連する酵母は、サッカロミケス科のものであり、好ましくはサッカロミセタセエ・ピキア、より好ましくはピキア・パストリスである。
【0180】
ピキア・パストリスは、工業用酵素及びバイオ医薬品を含む異種タンパク質の産生のための優れた発現宿主である。これまでのところ、このメチロトローフ発現系は、ヒトエリスロポエチン、ホスホリパーゼC、フィターゼ、ヒトスーパーオキシドジスムターゼ、トリプシン、ヒト血清アルブミン、コラーゲン、及びヒトモノクローナル抗体3H6 Fab断片を含む多数の組換えタンパク質の生成において利用され、成功している。他の酵母種と比較して、P.パストリスは、組換えタンパク質の分泌産生においてより効率的である。この宿主の産業上の関心は、強力なメタノール制御アルコールオキシダーゼプロモーター(AOX1)、高効率の分泌メカニズム、翻訳後修飾能力、及び規定培地上での高細胞密度の増殖にも起因している。P.パストリスを用いて種々の組換えタンパク質が発現されている。P.パストリスにおける治療用タンパク質の産生には幾つかの成功例がある。以前の研究(2016)では、P.パストリスにおけるクロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)神経毒E型(BoNT/E)に対するナノボディ(VHH)の産生が実証されている。16 mg/lの生成物収量が達成され、大腸菌による産生レベルを上回った。さらに、Xiaらは、この酵母において30 mg/lの組換えアンジオゲニンの産生を示した。さらに、P.パストリスでは、ヒトアディポネクチンで111 mg/l、組換えキシラナーゼで8.1 g/l、及び抗HIV抗体で260 mg/lの生産性が報告されている。
【0181】
血漿中のAATの平均濃度は1.3 mg/mlであり、半減期は3日~5日である。タンパク質サイズ、グリコシル化パターン、AATの準安定阻害性、及び製造コストは、組換えAAT産生における課題を表している。メチロトローフ酵母P.パストリスは、ヒトAAT産生の魅力的な宿主である。P.パストリスは、分泌経路における移動によって得られるグリコシル化及びタンパク質分解プロセシング等の翻訳後修飾の多くを導入する能力を持つ。AAT等の糖タンパク質の場合、これらの修飾は適切な機能及び/又は構造にとって非常に重要である。
【0182】
実施形態において、AATは、精製工程を容易にするヒスチジンタグ(Hisタグ)への融合タンパク質としてP.パストリスにおいて発現される。サッカロミセス・セレビシエからのシグナル配列であるα因子分泌シグナルを、タンパク質の分泌を細胞外培地に方向づけるために含めた。この強力な発現系は、誘導性の高いアルコールオキシダーゼ1(AOX1)プロモーターを利用して、グリコシル化タンパク質を大量に発現させた。P.パストリスはAAT活性をもたらし、エラスターゼ阻害アッセイを用いてその特徴をそれぞれ評価した。
【0183】
実施形態において、遺伝子改変酵母は、サッカロミケス科のもの、好ましくはサッカロミセタセエ・サッカロミセス、より好ましくはサッカロミセス・セレビシエである。実施形態において、S.セレビシエは、細菌よりも好ましい宿主であり得る。サッカロミセス・セレビシエの発現系は、最も一般的に使用されている真核生物の1つであり、様々な生物学的現象を研究するため、及び治療用タンパク質の組換え産生のモデルとして利用されてきた。サッカロミセス・セレビシエを用いたタンパク質のグリコシル化における潜在的な問題が対処され、S.セレビシエは治療用タンパク質産生のための実行可能な酵母となっている。例えば、グリコシル化修飾経路に関連するMnn2p及びMnn11p遺伝子の破壊は、組換えセルラーゼの産生を改善することが示されている。さらに、α-1,6-マンノシルトランスフェラーゼOch1pの除去により、活性型のヒト組織型プラスミノーゲン活性化因子の産生が増強された。これらの研究は、N-グリコシル化修飾がタンパク質分泌の増加にもつながることを示した。組換えタンパク質を、細胞内で発現させるか、又は分泌シグナルペプチドを用いて分泌装置に誘導することができる。全ての酵母発現系で機能する頻繁に使用されるシグナル配列は、接合因子α1(MFα1)のプレプロ配列である。
【0184】
サッカロミセス・セレビシエは、安全の観点からも幾つかの重要な利点を有し、この特性は、様々な産業プロセスでのこの系の使用を奨励する。S.セレビシエは非病原性であり、歴史的に様々な栄養産業及びバイオ医薬品の製造に使用されてきたため、一般的に安全(GRAS:generally regarded as safe)と見なされている。一方、酵母の遺伝学、生理学、及び発酵に関する現在の知識は、有用な生成物の産生におけるこの生物の使用を容易にする。B型肝炎表面抗原、ヒルジン、インスリン、グルカゴン、尿酸オキシダーゼ、マクロファージコロニー刺激因子、及び血小板由来成長因子は、市場に出回っているS.セレビシエ由来の生成物の例である。メチロトローフ酵母のピキア・パストリス及びハンセヌラ・ポリモルファ、並びに非メチロトローフ酵母のヤロウィア・リポリティカ、クルイベロミセス・ラクティス、及びアルクスラ・アデニニボランスを含む代替発現系も実行可能な代替物である。
【0185】
翻訳後修飾
一実施形態において、本明細書において使用される方法は、組換えAATタンパク質の翻訳後修飾を含む。
【0186】
実施形態において、翻訳後修飾は、O-グリコシル化、N-グリコシル化、N-末端メチオニン除去、N-アセチル化及び/又はリン酸化、又はこれらの任意の組み合わせである。
【0187】
実施形態において、組換えAATタンパク質は、1つ以上のヒト様グリコフォームパターンを有する。
【0188】
実施形態において、本明細書において使用される方法は、酵母から単離した後、in vitroで組換えAATタンパク質を修飾することを含む。
【0189】
幾つかの実施形態において、修飾は、生体適合性ポリマーへの組換えAATタンパク質の共有結合である。
【0190】
「翻訳後修飾」という用語は、翻訳後又は翻訳中に生じるAATの翻訳ポリペプチド鎖のあらゆる変化を指す。これは、ポリペプチドのアミノ酸側鎖の修飾、又は末端アミノ基若しくはカルボキシル基の修飾を含む。翻訳後修飾とは、酢酸部分、リン酸部分、炭水化物部分、脂質等の生化学的基をアミノ酸側鎖に結合させ、翻訳後のタンパク質の生化学的及び物理的特性を変化させることを指す。多くのタンパク質は、翻訳後まもなく翻訳後修飾を受け、幾つかはタンパク質の折り畳み後に、幾つかは局在化後に行われる。最も一般的なタンパク質の翻訳後修飾は、リン酸化、グリコシル化、メチル化、ユビキチン化、S-ニトロシル化、N-アセチル化である。
【0191】
かかる修飾は、タンパク質生合成に続く発現系によって酵素的に行われる共有結合修飾であり得る。翻訳後修飾は、ペプチド結合の酵素的切断及び翻訳タンパク質のプロセシング、特定の化学基、ポリマー、脂質、炭水化物、又は更にはタンパク質全体のアミノ酸側鎖への共有結合付加を更に含む。生合成後のポリペプチド鎖のこれらの化学修飾は、アミノ酸の構造及び特性の幅を広げ、その結果、タンパク質の構造及び機能を多様化させる。好ましい実施形態において、組換えAATタンパク質は、リン酸化、グリコシル化、ユビキチン化、ニトロシル化、メチル化、アセチル化、脂質化及びタンパク質分解等の翻訳後修飾を受ける。
【0192】
本発明の一態様において、分泌又は放出されたAATタンパク質は、タンパク質への糖部分付加の多様な選択を包含するグリコシル化を受け、これは、核転写因子の単純な単糖修飾から酵母発現系における細胞表面受容体の高度に複雑な分岐多糖類変化、好ましくはO-グリコシル化及び/又はN-グリコシル化にまで及ぶ。N-グリコシル化は、炭水化物がポリペプチドのアスパラギンに結合することである。O-グリコシル化は、炭水化物がセリン/スレオニンに結合することである。
【0193】
実施形態において、組換えAATタンパク質の修飾は、ポリエチレングリコール(PEG)等の生体適合性ポリマーへの組換えAATの共有結合である。本明細書において使用される場合、「PEG化」という用語は、ポリエチレングリコールポリマー鎖の分子及びマクロ構造、例えば薬物、又は生理活性タンパク質若しくは小胞への共有結合及び非共有結合の両方のプロセスを指す。PEG化は、PEGの反応性誘導体を標的分子とインキュベーションすることによって日常的に行われる。タンパク質へのPEGの共有結合は、宿主の免疫系から作用物質を「マスク」し(免疫原性及び抗原性を低下させる)、その流体力学的サイズ(溶液中のサイズ)を増加させ、腎クリアランスを低下させることによって循環時間を延長する。一態様において、PEG化は、組換えAATタンパク質のN末端で起こり得る。
【0194】
本明細書において使用される場合、「生体適合性ポリマー」という用語は、身体及び体液曝露に適性を有するポリマーを指す。生体適合性ポリマーは、合成ポリマーと天然ポリマーの両方があり、生体系のすぐ近くで補助し、又は生細胞と親密に作用する。これらは、身体の任意の組織、器官、又は機能を計測、治療、強化、又は置換するために使用される。生体適合性ポリマーは、正常な機能を変えることなく、またアレルギー又はその他の副作用を引き起こすことなく、身体機能を改善する。これは、組織培養、組織足場、移植、人工移植片、創傷形成(wound fabrication)、制御薬物送達、骨充填材料等における進歩を包含する。生体適合性ポリマーは、例えば、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリウレタン(PU)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等である。
【0195】
本明細書において使用される場合、「ポリエチレングリコール」は、工業製造から医療まで、多くの用途を有するポリエーテル化合物である。PEGは、その分子量に応じて、ポリエチレンオキシド又はポリオキシエチレンとしても知られている。
【0196】
或る特定の態様において、組換えAATタンパク質は、水溶性ポリマーにコンジュゲートされる。これは、当該技術分野において知られている様々な化学的方法のいずれかによって生じ得る。例えば、一実施形態において、組換えAATタンパク質は、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステルを用いてタンパク質の遊離アミノ基へのPEGのコンジュゲーションによって修飾される。別の実施形態において、水溶性ポリマー、例えばPEGは、マレイミド化学を用いて、又は事前酸化後にPEGヒドラジド若しくはPEGアミンの組換えAATタンパク質の炭水化物部分へのカップリングを用いて、遊離SH基にカップリングされる。
【0197】
本発明の一実施形態によれば、20 kDa以上のPEGを用いてPEG化が行われる。PEGはAATにコンジュゲートされ、タンパク質のまわりを包む効果を提供し、スカベンジャー受容体に結合した後の損失又はプロテアーゼの不活性化による分解に対する防御をもたらす。
【0198】
PEGは直鎖状又は分岐状の鎖の形態のポリマーであり、小さい分子量を有するPEGはタンパク質を完全に包むことができないため、タンパク質を完全に保護することはできない。したがって、分子量は、保護するタンパク質を十分に包むために、臨界レベルと同じかそれ以上でなければならない。本発明の組換えAATタンパク質のPEG化は、PEG化位のアミノ酸をシステインで置換した後、システインに特異的なアクリロイル基、スルホン基又はマレイミド基を一末端に含むPEGにコンジュゲートさせることにより行うことができる。
【0199】
酵母から産生されるグリコシル化AAT
実施形態において、翻訳後修飾は、O-グリコシル化、N-グリコシル化、N-末端メチオニン除去、N-アセチル化及び/又はリン酸化、又はこれらの任意の組み合わせである。実施形態において、組換えAATタンパク質は、1つ以上のヒト様グリコフォームパターンを有する。
【0200】
本明細書において使用される場合、AATを産生するための酵母は、AATをヒト様構造に修飾することを可能にする。「ヒト様」構造又は「ヒト様」グリコフォームパターンという用語は、グリコシル化パターンに関連しており、これは、例えば、組換えAATの血清半減期及び/又はヒト血漿由来AATに匹敵する安定性を延長する。「ヒト様」グリコフォームパターンは、ヒトグリコシル化パターンとは異なるが類似していることが好ましく、非修飾AATタンパク質と比較して組換えAATの血清半減期を延長する程度までである。「ヒト様」グリコフォームパターンは、例として、マンノース、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース、N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N-グリコリルノイラミン酸及びキシロースからなる群から選択される1つ以上のグリカンを含んでもよい。
【0201】
酵母による組換えAATのグリコシル化パターン及び酵母による他の翻訳後修飾は、新しいタイプの組換えAATを生み出す。これは、当業者によりSDS-page分析によって検証され得る。血漿由来のAATのバンドと比較して、ピキア・パストリス等の酵母から産生された組換えAATによるバンドの上下のシフトは、新しいタイプの組換えAATの明らかな例であり得る。
【0202】
組換えAATの単離/精製:
本発明によれば、AATは、例えば酵母培養物から得られる培養上清又は他の調製物から、当業者に知られている手段を用いて精製又は単離されることが好ましい。ピキア・パストリスの発酵によって得られた材料の回収は、上清からの生成物を処理するために、標準的な実験機器を使用して可能である。例えば、適切なプロセスは、遠心分離工程及び/又は深層濾過、続いて任意に(滅菌)膜濾過を含む。また、酵母細胞をペレットで沈め、クリアで透明な上清を残すのに十分な低速遠心分離も利用可能であり、これも細菌汚染がないことの証拠となる可能性がある。かかる手順により、クロマトグラフィー等の後続の精製工程の準備が整った上清が得られる。
【0203】
例えば、目的のタンパク質を分離するのに適した液体クロマトグラフィーを含む種々の方法は、当業者によって過度の努力なしに選択され得る。例えば、クロマトグラフィー媒体又は樹脂として知られるクロマトグラフィーに使用される固相は、典型的には、分離される分子との相互作用を決定する様々な化学基で官能基化された操作された多孔質不活性支持体である。本明細書に記載のrAATに適用可能な一般的に使用される分離モードは、限定されるものではないが、特異的結合相互作用(アフィニティークロマトグラフィー)、電荷(イオン交換クロマトグラフィー)、サイズ(サイズ排除クロマトグラフィー/ゲル濾過クロマトグラフィー)、疎水性表面積(疎水性相互作用クロマトグラフィー及び逆相クロマトグラフィー)、及び/又は複数の特性(マルチモーダル又はミックスモードクロマトグラフィー)に基づく。
【0204】
医学的適応症:
本発明の一態様において、対象におけるウイルス感染症及び/又はウイルス感染症に関連する病状の治療及び/又は予防における使用のための、本明細書に記載されるような医薬組成物又は組み合わせが提供される。治療される好ましいウイルス感染症又は関連疾患は、本明細書に記載されるものである。
【0205】
本明細書において使用される場合、「ウイルス感染症」は、生物の身体に病原性ウイルスが侵入したときに起こる。ウイルスの種類は、好ましくは、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、エプスタイン-バーウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、単純ヘルペスウイルス1型、単純ヘルペスウイルス2型、サイトメガロウイルス、ヒトヘルペスウイルス8型、HIV、RSV、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、おたふくかぜウイルス、ヒトパピローマウイルス、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、風疹ウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、SARS-CoV-2ウイルスからなる群から選択される。
【0206】
一実施形態において、ウイルスの科は、好ましくは、アデノウイルス科、ピコルナウイルス科、ヘルペスウイルス科、ピコルナウイルス科、ヘパドナウイルス科、フラビウイルス科、ヘルペスウイルス科、レトロウイルス科、オルトミクソウイルス科、パラミクソウイルス科、パピローマウイルス科、ピコルナウイルス科、ラボウイルス科、トガウイルス科、ヘルペスウイルス科及びコロナウイルス科の群から選択される。
【0207】
例として、呼吸器系ウイルス疾患は、アデノウイルス、コロナウイルス(感冒ウイルス)、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、パルボウイルスB19(第5病)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、又はライノウイルス(感冒)による感染によって発生する可能性がある。更なるウイルス性呼吸器疾患又はウイルスは、HBoV、ヒトボカウイルス;HCoV、ヒトコロナウイルス;HMPV、ヒトメタニューモウイルス;HPIV、ヒトパラインフルエンザウイルス;HRSV、ヒト呼吸器合胞体ウイルス;HRV、ヒトライノウイルス;PCF、咽頭結膜熱;SARS、重症急性呼吸器症候群;SARS-CoV、SARS関連コロナウイルス;URI、上気道感染症に関連している可能性がある。
【0208】
上述したウイルスのうちのいずれか1つ以上は、本明細書に記載の発明の治療に感受性を有する可能性があり、各ウイルスの治療自体は、本発明の実施形態を表す。
【0209】
実施形態において、本発明はまた、上記のウイルス感染症のうちの1つ以上の治療又は予防における使用のための遺伝子改変酵母において発現される組換えアルファ1-アンチトリシン(AAT)タンパク質又はその断片に関する。
【0210】
実施形態において、本発明はまた、インフルエンザ感染症の治療又は予防における使用のための遺伝子改変酵母において発現される組換えアルファ1-アンチトリシン(AAT)タンパク質又はその断片に関する。
【0211】
本発明の一態様において、SARSコロナウイルス等のコロナウイルスに関連する病状の治療における使用のための、本明細書に記載されるような本発明による医薬組成物又は組み合わせが提供され、SARSコロナウイルスに関連する病状は、好ましくは、COVID-19又はSARSコロナウイルス関連呼吸器疾患である。
【0212】
本明細書において使用される場合、「患者」又は「対象」は脊椎動物であり得る。本発明の文脈において、「対象」という用語は、ヒト及び動物の両方、特に哺乳類、及び他の生物を含む。
【0213】
本明細書において使用される場合、「それを必要とする対象」とは、疾患、特にコロナウイルス疾患に罹患している、又は発症するリスクのある対象を指す。それを必要とする対象は、コロナウイルス疾患の症状で入院している対象、コロナウイルス疾患の症状があり、外来環境若しくは自宅にいる対象、又は無症候性のコロナウイルス疾患を有し、外来環境若しくは自宅にいる対象であり得る。
【0214】
本発明では、「治療」又は「治療法」は、一般に、所望の薬理学的効果及び/又は生理学的効果を得ることを意味する。効果は、例えば、疾患若しくは症状を有する対象のリスクを低減することによって、疾患及び/又は症状を完全に若しくは部分的に予防することを考慮して予防的であり得るか、又は疾患/又は疾患の有害作用を部分的若しくは完全に治癒することを考慮して治療的であり得る。
【0215】
本発明において、「治療法」は、哺乳動物、特にヒトにおける疾患又は状態の任意の治療、例えば、以下の治療(a)~(c)を含む:(a)患者における疾患、状態又は症状の発症の予防;(b)状態の症状の阻止、すなわち症状の進行の予防;(c)状態の症状の改善、すなわち、疾患又は症状の退行の誘発。
【0216】
一実施形態において、本明細書に記載の治療は、標的細胞へのウイルスの侵入を防止することによって、コロナウイルス感染症又はその症状を減少又は阻害することのいずれかに関する。本明細書に記載の予防的治療は、本明細書に記載の作用物質による治療後のACE2タンパク質との相互作用を介した細胞のコロナウイルス感染の可能性の低下による、コロナウイルス感染症の予防又はリスクの低減を包含することを意図している。
【0217】
本明細書において使用される場合、「感染性疾患の症状を有する患者」とは、限定されるものではないが、発熱、下痢、疲労、筋肉痛、咳、動物に噛まれた場合、呼吸困難、発熱を伴う激しい頭痛、発疹又は腫れ、原因不明又は長期の発熱又は視力障害のうちの1つ以上を呈する対象である。その他の症状は、発熱及び悪寒、極度の低体温、尿量の減少(乏尿)、速脈、呼吸促迫、吐き気及び嘔吐があり得る。好ましい実施形態において、感染性疾患の症状は、発熱、下痢、疲労、筋肉痛、速脈、呼吸促迫、吐き気及び嘔吐及び/又は咳である。
【0218】
本明細書において使用される場合、「気道のウイルス感染症の症状」を有する患者とは、限定されるものではないが、発熱、咳、鼻水、くしゃみ、喉の痛み、呼吸困難、頭痛、筋肉痛、疲労、速脈、呼吸促迫、吐き気及び嘔吐、味覚及び/又は嗅覚の欠如、及び/又は倦怠感(気分不良)等の、風邪様症状又はインフルエンザ様疾患のうちの1つ以上を呈する対象である。
【0219】
幾つかの実施形態において、SARS-ウイルスによる感染の症状は、発熱、喉の痛み、咳、筋肉痛又は疲労であり、幾つかの実施形態においては、更に、喀痰生成、頭痛、喀血及び/又は下痢である。幾つかの実施形態において、SARS-コロナウイルス、例えばSARS-CoV-2による感染症の症状は、発熱、喉の痛み、咳、味覚及び/又は嗅覚の欠如、息切れ及び/又は疲労である。
【0220】
本明細書において使用される場合、「重症急性呼吸器症候群(SARS)を発症するリスクのある患者」という用語は、好ましくは一般集団内の任意の所与の人物とは別の、SARSを発症するリスクが増大している(例えば、平均以上である)対象に関する。幾つかの実施形態において、患者は、SARSの症状又はSARSコロナウイルス感染症の症状を有する。幾つかの実施形態において、患者は、SARSの症状又はSARSコロナウイルス感染症の症状を有していない。幾つかの実施形態において、対象は、SARSコロナウイルス感染症又は症状を有する人々と接触したことがある。幾つかの実施形態において、SARSを発症するリスクのある人は、SARSコロナウイルス感染症の存在について検査したことがある。幾つかの実施形態において、SARSを発症するリスクのある人は、SARSコロナウイルス感染症、好ましくはコロナウイルス感染症の存在について検査で陽性であった。
【0221】
実施形態において、SARSを発症するリスクのある患者は、SARSの特異的症状を(まだ)示さない無症候性患者である。無症候性患者は、その患者がSARSコロナウイルスに感染した人と接触しているため、SARSを発症するリスクがある可能性がある。例えば、無症候性の患者は、スマートフォン又は対応する(携帯)デバイスにインストールされ、それぞれのモバイルデバイス/スマートフォンで対応するアプリを使用する感染患者との物理的な近接性又は短い物理的距離を示すソフトウェアアプリケーション(アプリ)によって、SARSを発症するリスクがあると特定されている可能性がある。感染者への接触/物理的近接性を判断する他の方法は、当業者に知られており、本発明の方法に等しく適用される。
【0222】
幾つかの実施形態において、重症急性呼吸器症候群(SARS)を患う、又は発症するリスクのある患者は、コロナウイルス感染症を患う。
【0223】
コロナウイルスは、哺乳類及び鳥類に疾患を引き起こす関連ウイルスのグループである。コロナウイルスの学名は、オルトコロナウイルス亜科又はコロナウイルス亜科である。コロナウイルスは、コロナウイルス科に属する。この科は、コロナウイルス亜科とトロウイルス亜科に分けられ、更に、アルファコロナウイルス、ベータコロナウイルス、ガンマコロナウイルス、デルタコロナウイルス、トロウイルス、及びバフィニウイルスの6属に分けられる。アルファコロナウイルス属とベータコロナウイルス属のウイルスは主に哺乳類に感染するが、ガンマコロナウイルスは鳥類に感染し、デルタコロナウイルス属のメンバーは哺乳類と鳥類の両方の宿主で見られる。
【0224】
ヒトでは、コロナウイルスは、感冒の場合等の軽度であり得る気道感染症、並びにSARS、MERS、及びCOVID-19等の致命的となり得る気道感染症を引き起こす。コロナウイルスは、ポジティブセンス一本鎖RNAゲノムとらせん対称性のヌクレオカプシドを持つエンベロープウイルスである。コロナウイルスのゲノムサイズは、およそ27キロベースから34キロベースの範囲であり、既知のRNAウイルスの中で最大である。
【0225】
ヒトコロナウイルスには、限定されるものではないが、β-CoV属のヒトコロナウイルスOC43(HCoV-OC43)、β-CoV属のヒトコロナウイルスHKU1(HCoV-HKU1)、ヒトコロナウイルス229E(HCoV-229E)、α-CoV、ヒトコロナウイルスNL63(HCoV-NL63)、α-CoV、中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS-CoV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)等の様々な種が知られている。
【0226】
コロナウイルスは、危険因子が大きく異なる。感染者の30%超を死滅させることができるもの(MERS-CoV等)もあれば、感冒のように比較的無害なものもある。コロナウイルスは、発熱等の主要な症状を伴う風邪、及び例えば咽頭扁桃の腫れによる喉の痛みを引き起こし、これらは主に冬から早春にかけて起こる。コロナウイルスは、肺炎(直接ウイルス性肺炎又は続発性細菌性肺炎のいずれか)及び気管支炎(直接ウイルス性気管支炎又は続発性細菌性気管支炎のいずれか)を引き起こす可能性がある。コロナウイルスはまた、SARSを引き起こす場合もある。
【0227】
核酸シーケンシング技術(一般に次世代シーケンシング、NGSと呼ばれる)の進歩は、様々な生物学的試料から得られた大量の配列データを提供しており、既知及び新規のウイルス株の両方の特性評価を可能としている。したがって、コロナウイルス感染症を判断するための確立された方法が利用可能である。
【0228】
本明細書において使用される場合、「Long COVID」は、COVID-19後症候群、COVID-19後急性後遺症(PASC)、又は慢性COVID症候群(CCS)としても知られ、COVID-19の典型的な回復期間の後に出現又は持続する長期後遺症を特徴とする状態を意味するものとする。Long COVIDは、呼吸器系障害、神経系及び神経認知障害、メンタルヘルス障害、代謝障害、心血管障害、胃腸障害、倦怠感、疲労、筋骨格系疼痛、及び貧血を含む後遺症を伴うほぼ全ての臓器系に影響を与える可能性がある。疲労、頭痛、息切れ、無嗅覚症(嗅覚喪失)、異嗅症(嗅覚の歪み)、筋力低下、微熱、及び認知機能障害を含む様々な症状が共通して報告されている。
【0229】
Long COVIDに関連するその他の症状又は病状としては、限定されるものではないが、極度の疲労、長引く咳、筋力低下、微熱、集中力の欠如(ブレインフォグ)、記憶喪失、気分変調、時には鬱病及び他のメンタルヘルスの問題を伴う睡眠障害、頭痛、関節痛、腕及び脚の針で刺されるような痛み(needle pains)、下痢及び嘔吐の発作、味覚及び嗅覚の喪失、喉の痛み及び嚥下困難、糖尿病及び高血圧の新たな発症、胸やけ(胃食道逆流症)、皮膚の発疹、息切れ、胸痛、動悸、腎臓の問題(急性腎障害、及び慢性腎疾患)、口腔内の健康の変化(歯、唾液、歯肉)、無嗅覚症(嗅覚の欠如)、異嗅症(嗅覚の変化)、耳鳴り、血液凝固(深部静脈血栓症及び肺塞栓症)が挙げられる。
【0230】
一実施形態において、急性COVID-19の開始から4週間以上経過した新たな又は進行中の症状に対するlong COVIDは、発症後4週間~12週間の影響について進行中の症候性COVID-19、及び発症後12週間以上持続する影響についてCOVID-19後症候群の他の2つに分けられる。
【0231】
他の実施形態において、「数週間にわたって完全に回復しない」個人のLong COVID症状は、SARS-CoV-2感染後の急性後遺症(PASC)と総称される。Long COVIDの症状としては、疲労、息切れ、「ブレインフォグ」、睡眠障害、断続的な発熱、胃腸症状、不安、及び鬱病が挙げられる。症状は数ヶ月続くことがあり、軽度から日常生活が送れない(incapacitating)ものまであり、感染時からかなり後に新たな症状が現れる。CDCのCovid罹患後症状(Post-Covid Conditions)という用語では、最初の感染から4週間以上経過した症状としてLong Covidを認定している。
【0232】
組成及び投与:
本明細書に記載のAATタンパク質又はそのタンパク質を含む化合物は、固体、液体又はエアロゾル形態で投与されるかに応じて、また注射液のような投与経路において滅菌する必要があるかに応じて様々な種類の担体を含むことができる。
【0233】
活性物質AATを、静脈内、皮内、動脈内、腹腔内、病巣内、頭蓋内、関節内、前立腺内、胸膜内、気管内、鼻腔内、硝子体内、腟内、直腸内、局所、腫瘍内、筋肉内、腹腔内、皮下、結膜下、小胞体内、粘膜内、心膜内、臍下、眼球内、経口、局所、局所的、吸入(例えば、エアロゾル吸入)、注射、注入、連続注入、直接、カテーテルを介して、洗浄を介して、クリームにおいて、脂質組成物(例えばリポソーム)において、スポンジによる局所的な塗布、又は当業者にとって既知である他の方法若しくは上記の任意の組み合わせによって投与することができる(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company,1990(引用することにより本明細書の一部をなす)を参照のこと)。
【0234】
本発明は、対象又は対象の血流に治療に有効なポリペプチド数を導入することによる患者の治療を包含する。本明細書において使用される場合、対象の血流にポリペプチドを「導入する」とは、上記のポリペプチドを、注射を介して対象の静脈又は動脈の一方に導入することを含むものとするが、それらに限定されない。このような投与は、例えば1回、複数回及び/又は1回若しくは複数回の長期間にわたり行うこともできる。単回の注射が好ましいが、幾つかの例において、経時的に複数回の注射(例えば、年4回、年2回又は年1回)が必要であってもよい。このような投与はまた、ポリペプチドと薬学的に許容可能な担体との混合物を用いて行われることが好ましい。薬学的に許容可能な担体は当業者にとって既知であり、0.01 M~0.1 M、好ましくは0.05Mのリン酸緩衝液又は0.8 %の生理食塩水を含むが、それらに限定されない。
【0235】
本明細書において使用される場合、「治療有効量」という用語は、「治療有効用量」又は「十分な/有効な量又は用量」のいずれかと交換可能であり、必要な治療効果を生じさせる用量を指す。具体的には、有効用量とは、一般に、免疫を誘導し、コロナウイルス感染症を予防及び/又は改善するのに、又はコロナウイルス感染症に関連する少なくとも1つの症状を軽減し、及び/又は別の治療用組成物の有効性を高めるのに十分な、本明細書に開示される組成物の量を指す。有効用量は、感染症の発症を遅らせるか又は最小限に抑えるのに十分な組成物の量を指し得る。有効用量は、ウイルスによる感染症を予防する、又はウイルスによる感染症のリスクを低減するのに十分な組成物の量を指し得る。有効用量はまた、感染症の治療又は管理において治療上の利益を提供する組成物の量を指し得る。加えて、有効用量は、ウイルス感染症の治療又は管理において治療上の利益をもたらす組成物単独の又は他の治療法との併用に関する量であり得る。有効用量は、その後のコロナウイルスへの曝露に対する対象(特にヒト)自身の免疫応答を増強するのに十分な量であり得る。正確な有効線量は、治療の目的に依存し、既知の技術を用いて当業者によって確認可能である。
【0236】
本明細書において使用される場合、「薬学的に許容可能な担体」は、任意の全ての溶媒、分散媒、コーティング剤、抗細菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤(absorption delaying agents)等を含む。医薬活性物質へのかかる媒体及び作用物質の使用は、当該技術分野において既知である。任意の従来の媒体又は作用物質が有効成分と適合しない場合を除き、治療用組成物におけるその使用が企図される。補助有効成分が組成物に組み込まれてもよい。
【0237】
付加的に、かかる薬学的に許容可能な担体は、水性又は非水性の溶液、懸濁液及びエマルション、最も好ましくは水溶液であり得る。水性担体としては、生理食塩水及び緩衝媒体を含む、水、アルコール溶液/水溶液、エマルション及び懸濁液が挙げられる。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース(Ringer's dextrose)、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液及び不揮発性油が挙げられる。静脈内ビヒクルとしては、流体及び栄養補充薬(nutrient replenishers)、リンゲルデキストロース、リンゲルデキストロースをベースとしたもの等の電解質補充薬等が挙げられる。静脈内投与に一般に用いられる流体は、例えばRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Ed., p. 808,Lippincott Williams S-Wilkins (2000)に見られる。防腐剤及び他の添加物、例えば抗微生物剤、酸化防止剤、キレート剤、不活性ガス等が存在していてもよい。
【0238】
「薬学的に許容可能な」という表現は、ヒトに投与した場合にアレルギー反応又は同様の有害反応を生じない分子実体及び組成物を指す。タンパク質を有効成分として含有する水性組成物の調製は、当該技術分野において十分に理解されている。通例、かかる組成物は、液体の溶液又は懸濁液のいずれかである注射剤として調製される。注射前の液体中の溶液又は懸濁液に適切な固体形態も調製することができる。調製物を乳化することもできる。
【0239】
非経口剤形の例としては、活性物質の水溶液、等張生理食塩水、5%グルコース、又は液体アルコール、グリコール、エステル、及びアミド等の他のよく知られた薬学的に許容可能な液体担体を含む。本発明による非経口剤形は、グラヌリンを含む組成物の用量を含む再構成可能な凍結乾燥物の形態とすることができる。本実施形態の一態様において、当該技術分野において知られている多数の持続放出剤形又は徐放性剤形のいずれかを投与することができ、例えば、米国特許第4,713,249号、米国特許第5,266,333号及び米国特許第5,417,982号に記載の生分解性炭水化物マトリックス等であり、その開示は引用することにより本明細書の一部をなす。
【0240】
例示の実施形態において、非経口投与のためにAATと共に一般使用するための医薬製剤は、以下を含む:a)薬学的に活性な量のグラヌリン;b)約pH4.5~約pH9の範囲のpHを提供する薬学的に許容可能なpH緩衝剤;c)約0ミリモル~約250ミリモルの濃度範囲のイオン強度改質剤;及びd)記載される製剤の総重量の約0.5%~約7%の濃度範囲の水溶性粘度調整剤、又はa)、b)、c)及びd)の任意の組み合わせ。
【0241】
種々の例示の実施形態において、本明細書に記載の組成物及び方法において使用されるpH緩衝剤は、当業者に知られている作用物質であり、例えば、酢酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、及びリン酸塩の緩衝液、並びに塩酸、水酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、リン酸一カリウム、炭酸水素塩、アンモニア、炭酸、塩酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸、酢酸、リン酸水素二ナトリウム、ホウ砂、ホウ酸、水酸化ナトリウム、ジエチルバルビツール酸、及びタンパク質、並びに様々な生物学的緩衝液、例えば、TAPS、Bicine、Tris、Tricine、HEPES、TES、MOPS、PIPES、カコジル酸塩、MESが挙げられる。
【0242】
別の例示の実施形態において、イオン強度調節剤としては、当該技術分野において知られている作用物質、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、マンニトール、グルコース、デキストロース、ソルビトール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び他の電解質が挙げられる。
【0243】
本発明の組成物は、非経口投与、例えば、血管内(静脈内又は動脈内)、腹腔内又は筋肉内投与のために製剤化されることが好ましい。「非経口投与」という用語は、消化管内以外の注射又は注入等による投与様式を指し、さらに、皮下注射、筋肉内注射、又は静脈内注射、腹腔内注射も指し、これらは本明細書で企図される。筋肉内投与は、静脈内投与又は動脈内投与を含む。液体医薬組成物は、それらが溶液、懸濁液又は他の同様の形態であるかどうかにかかわらず、以下の適切な賦形剤のうちの1つ以上を含んでもよい:注射用水等の滅菌希釈剤、生理食塩水溶液、好ましくは生理学的食塩水、リンゲル溶液、等張性塩化ナトリウム、溶媒又は懸濁媒体として機能し得る合成モノ又はジグリセリド等の不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又はその他の溶剤;ベンジルアルコール又はメチルパラベン等の抗細菌剤;アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウム等の酸化防止剤;エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩等の緩衝液、及び塩化ナトリウム又はデキストロース等の張度調整のための作用物質。非経口製剤は、アンプル、使い捨て注射器、又はガラス若しくはプラスチック製の複数回投与バイアルに封入することができる。注射用医薬組成物は、無菌であることが好ましい。さらに、投与される医薬組成物は、所望により、湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤、安定剤、溶解促進剤及び他のそのような作用物質、例えば、酢酸ナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、オレイン酸トリエタノールアミン及びシクロデキストリン等の少量の無毒な補助物質を含有してもよい。
【0244】
AATタンパク質を含む組成物の単一1日投与量は、患者の状態、治療される病態、AATの投与経路及び組織分布、並びに他の治療的処置の併用の可能性に応じて大きく変化し得る。患者に投与されるAATの有効量は、体表面積、患者の体重、患者の状態に関する医師の評定等に基づく。
【0245】
例示の一実施形態において、AATの有効用量は、患者体重1kg当たり約1 mg~患者体重1 kg当たり約500 mg、より好ましくは患者体重1 kg当たり約10 mg~患者体重1 kg当たり約300mg、更に好ましくは患者体重1 kg当たり約50 mg~患者体重1 kg当たり約200 mgの範囲、例えば、約100 mg/kg又は約180 mg/kg体重であり得る。
【0246】
本発明によれば、組成物の投与は、好ましくは、対象の気道の粘膜表面への吸入を介して起こり得る。「吸入投与」とは、口腔吸入と経鼻吸入の両方を指す。「口腔吸入」とは、薬物が口腔からの吸入によって投与されることに関し、薬物が気管(windpipe (trachea))を通過して肺に入るように、経鼻経路で投与される薬物よりも小さな液滴に霧化する必要がある。それらが肺にどれだけ深く入るかは、液滴のサイズに依存する。小さな液滴はより深く入り、吸収される薬物の量が増える。肺の内部では、それらは血流に吸収される。
【0247】
この経路によって投与される薬物は、乾燥粉末の形態で定量噴霧式容器(吸入器)によって送達され得る。
【0248】
また、薬物は、吸入用のPari Boy Pro等のネブライザーによって、上記薬物を含む溶液からミスト状に又は好適なサイズの液滴に又はエアロゾル状に噴霧することができる。
【0249】
吸入薬は素早く吸収され、局所的にも全身的にも作用する。吸入器は正しい用量を達成することができる。一般に、粉末状の粒子で与えられた肺送達用量の20%~50%のみが、口腔吸入時に肺に沈着する。50%~70%の沈着していないエアロゾル化粒子の残りは、呼気で肺からすぐに取り除かれる。実施形態において、8 μm超である吸入粉末状粒子は、慣性による衝突によって中心及び誘導気道に沈着する構造的素因となる。実施形態において、直径3 μm~8 μmの吸入粉末粒子は、沈降によって肺の移行域に大部分が沈着する傾向がある。実施形態において、直径が3 μm未満である吸入粉末状粒子は、構造的には、主に拡散を介して末梢肺の呼吸領域に沈着しやすい。
【0250】
「鼻吸入」という用語は、該当する場合は送達装置を含み、その意図された沈着部位が気道又は鼻又は咽頭領域である医薬品又は調製物を指す。鼻吸入は、主に鼻腔に沈着する局所点鼻薬及び洗浄を含まない。また、薬物は、吸入用のPari Boy Pro等のネブライザーによって、上記薬物を含む溶液からミスト状に又は好適なサイズの液滴に又はエアロゾル状に噴霧することができる。
【0251】
異なる投与経路による医薬組成物の同時投与及び/又は逐次投与も、本発明との関連において企図される。実施形態において、組成物の投与経路は、吸入投与を含む。好ましい実施形態において、本発明による医薬組成物又はヒト血漿由来のAATタンパク質を含む医薬組成物の非経口投与は、同時に又は逐次行われる。別の好ましい実施形態において、本発明による医薬組成物又はヒト血漿由来のAATタンパク質を含む医薬組成物の経鼻及び/又は経口投与は、同時に又は逐次行われる。
【0252】
本明細書において使用される場合、「気道」は、一般に、鼻、咽頭、喉頭、気管、及び肺をその種々の区画と共に含むと考えられる。気道は哺乳類における呼吸過程に関与しており、呼吸器系の一部であり、気道粘膜又は呼吸上皮で裏打ちされている。
【0253】
本明細書において使用される場合、「粘膜表面」は、覆っている粘液、例えば、唾液、涙液、鼻粘液、胃粘液、子宮頸部粘液及び気管支粘液の存在を特徴とし、その機能は、成長因子、抗菌タンパク質及び免疫グロブリンを含む一連の免疫調節種及び治癒促進種を供給及び送達することを含む。
【0254】
本明細書において使用される場合、「薬学的賦形剤」は、本質的に、組成物中の医薬有効成分以外の何物でもよい。
【0255】
医薬組成物の製剤において、賦形剤は、一般に、1)製剤の安定性を保護、支持又は強化する;2)正確な剤形の製剤化を支援するために、強力な薬剤の場合には、製剤をかさ上げする;3)患者の受け入れを改善する;4)有効薬物のバイオアベイラビリティの向上に役立つ;5)保管及び使用中の製剤の全体的な安全性及び有効性を高めるために、医薬有効成分と共に添加される。
【0256】
医薬組成物の製剤に使用される賦形剤は、それらが結果として得られる製剤において果たすことを意図した役割に応じて、様々な機能分類に細分される。幾つかの賦形剤は、異なる製剤タイプにおいて異なる機能的役割を有することができ、さらに、個々の賦形剤は、それらの異なる機能的役割に応じて、異なるグレード、タイプ、及び供給源を有することができる。医薬品懸濁液の製剤に一般的に使用される可能性のある賦形剤の種類としては、溶剤/ビヒクル、共溶媒、緩衝剤、防腐剤、酸化防止剤、湿潤剤/界面活性剤、消泡剤、凝集調整剤、懸濁剤/粘度調整剤、香料、甘味料、着色剤、保湿剤、及びキレート剤が挙げられる。
【0257】
本明細書において使用される場合、「凍結保存」とは、細胞小器官、細胞、組織、細胞外マトリックス、器官、又は調節されていない化学的動態によって引き起こされる損傷を受けやすい任意の他の生物学的構築物が、凍結によって非常に低い温度(典型的には固体二酸化炭素を用いて-20℃~-80℃、又は場合によっては液体窒素を用いて-196℃)に冷却することによって保存されるプロセスである。十分な低温では、問題の生体材料に損傷を引き起こす可能性がある任意の酵素活性又は化学的活性は、効果的に停止される。凍結保存法は、凍結中の氷結晶の形成によって引き起こされる更なる損傷を引き起こすことなく、低温に到達することを求める。
【0258】
本明細書において使用される場合、「エアロゾル」とは、例えば、小容量ネブライザー(SVN)、加圧定量吸入器(pMDI)、又は乾燥粉末吸入器(DPI)等のエアロゾル発生器によって生成される液体及び固体粒子の懸濁液である。エアロゾル沈着は、エアロゾル粒子が吸収表面に沈着するプロセスである。
【0259】
臨床で使用されるエアロゾル装置は、ヘテロ分散(多分散とも呼ばれる)粒子サイズをもたらし、エアロゾル中に様々なサイズが存在することを意味する。具体的なサイズ及び/又はサイズ範囲は、上記の発明の概要に提示される。単一の粒子サイズからなる単分散エアロゾルはまれである。多分散エアロゾルは、質量中央値径(MMD)で定義され得る。この尺度は、その値の上と下に粒子の質量の50%が含まれる粒子サイズ(μm単位)を定めるものである。これは、粒度分布における薬物の質量又は量を均等に分割する粒子サイズである。これは通常、サイズの測定方法により、質量の空気力学的直径の中央値又はMMADとして与えられる。MMADが高いほど、粒子サイズの直径が大きくなる。
【0260】
乾燥粉末製剤は、液体製剤よりも安定性が高く、防腐剤が不要な可能性があるといった利点を与えることができる。粉末は、溶解して取り除かれる前に、鼻粘膜の湿った表面に付着しやすい。繊毛作用を遅らせる生体接着性賦形剤又は作用物質を使用すると、クリアランス率が低下し、吸収が改善する可能性がある。感湿性、溶解性、粒子サイズ、粒子形状、及び流動特性のような多くの要因が、沈着及び吸収に影響を与える。
【0261】
幾つかの実施形態によれば、吸入を介して投与される医薬組成物は、少なくとも2日間で1日1回投与される。幾つかの実施形態によれば、吸入を介して投与される医薬組成物は、少なくとも3日間で1日1回投与される。幾つかの実施形態によれば、吸入を介して投与される医薬組成物は、少なくとも4日間で1日1回投与される。幾つかの実施形態によれば、吸入を介して投与される医薬組成物は、少なくとも5日間で1日1回投与される。幾つかの実施形態によれば、吸入を介して投与される医薬組成物は、少なくとも6日間で1日1回投与される。幾つかの実施形態によれば、吸入を介して投与される医薬組成物は、少なくとも1週間で1日1回投与される。幾つかの実施形態によれば、吸入を介して投与される医薬組成物は、少なくとも8日間で1日1回投与される。幾つかの実施形態によれば、吸入を介して投与される医薬組成物は、少なくとも9日間で1日1回投与される。幾つかの実施形態によれば、吸入を介して投与される医薬組成物は、少なくとも10日間で1日1回投与される。幾つかの実施形態によれば、吸入を介して投与される医薬組成物は、10日間で1日1回投与される。
【0262】
乾燥粉末点鼻薬の例:
SBNL Pharma(www.snbl.com)は最近、in vitro研究で以前に記載された、吸収促進のためのゾルミトリプタン粉末シクロデキストリン製剤(μcoTMシステム)を使用した第1相試験のデータを報告した。ゾルミトリプタンの吸収は急速であり、相対的なバイオアベイラビリティは市販の錠剤及び点鼻薬よりも高かった。同社は、本発明による粉末製剤の投与に適したカプセルベースの単回用量粉末装置(Fit-lizer)を有する。チャンバーに挿入すると、カプセルの上部と下部が鋭利なブレードで切断される。プラスチックチャンバーを手で圧縮し、作動中に圧縮空気が一方向バルブとカプセルを通過し、粉末が放出される。
【0263】
Unidose-DPTMの原理であるBespak(www.bespak.com)は、Fit-lizer装置に似ている。空気で満たされた区画は、ピンが膜を破裂させて圧力を解放し、粉末のプルームを放出するまで圧縮される。モデル抗体(ヒトIgG)の粉末製剤の送達は、ヒトMRI画像に基づく鼻キャストモデルで試験されている。用量のおよそ95%が鼻腔に送達されたが、その大部分は鼻前庭より遠くに沈着せず、約30%のみが鼻腔のより深い区画に沈着した。
【0264】
乾燥粉末吸入器の例:
Astra Zenecaは、鼻吸入用に改造されたTurbuhaler複数回用量型吸入器(Rhinocort Turbuhaler(商標)、www.az.com)により送達されるブデソニド粉末を販売している。アレルギー性鼻炎及び鼻ポリープのために、液体スプレーの代替品として一部の市場で販売されている。
【0265】
Aptarグループ(www.aptar.com)は、単純なブリスターベースの粉末吸入器を提供する。使用前にブリスターに穴を開け、装置のノーズピースを片方の鼻孔に入れる。対象はもう一方の鼻孔を指で閉じ、粉末を鼻に吸い込む。Pfeiffer/Aptar製のこのブリスターベースの粉末吸入器(BiDose(商標)/Prohaler(商標))を使用したパーキンソン病用アポモルヒネの粉末製剤は、StadaPharmaceutical(www.stada.de)が最近買収した英国の企業であるBritanniaによって臨床開発中であった。かかる投与装置は、本明細書に記載されるような組成物を投与するために企図される。
【0266】
液体製剤の吸入器の例:
吸入溶液及び懸濁剤は、典型的には、治療有効成分を含有し、追加の賦形剤を含有することもできる水性製剤である。水性経口吸入液及び懸濁液は、無菌でなければならない。吸入溶液及び懸濁液は、局所的及び/又は全身的効果のために経口吸入によって肺に送達することを目的としており、重度の慢性呼吸器疾患の治療のために柔軟で可変の液滴スペクトルを生成できる指定されたネブライザー、例えばPari Boy Proと共に使用される。これらの医薬品には、使用中の微生物汚染を防ぐために、単位用量の提示が推奨される。これらの医薬品の容器閉鎖システムは、容器と閉鎖体からなり、ホイルオーバーラップ等の保護包装を備えることができる。
【0267】
例えば、アミカシンリポソーム吸入懸濁液(ALIS;Arikayce(商標))は、アミノグリコシド抗菌薬アミカシンのリポソーム製剤である。ALIS製剤は、噴霧後に吸入により投与され、全身曝露を最小限に抑えながら、肺への標的化した局所的な薬物送達を促進するように設計されている。かかる投与装置は、本明細書に記載されるような組成物を投与するために企図される。
【0268】
液体製剤を用いる点鼻薬の例:
点鼻薬ディスペンサーは、典型的には、有効成分の定量用量を含むスプレーを送達する非加圧ディスペンサーである。用量はスプレーポンプで計量することもでき、又は製造中に事前に計量することもできる。点鼻薬ユニットは、単位投与用に設計することもでき、又は原薬を含む製剤を最大数百滴の定量スプレーまで吐出することもできる。点鼻薬は、局所的及び/又は全身的な効果のために鼻腔に適用される。
【0269】
液体の鼻腔製剤は主に水溶液であるが、懸濁液及びエマルションも送達することができる。液体製剤は、特に加湿が慢性鼻疾患に伴うことが多い乾燥及び痂皮に対抗する局所適応症に便利であると考えられている。
【0270】
例えば、例えばNemera(フランス国ラ・ヴェルピリエール)又はAptar Pharma(米国イリノイ州)から入手可能なディスペンサーが好ましい。例えば、Nemeraは、用量の一貫性及びプライム保持力に優れ、目詰まり防止アクチュエーターを備え、製剤に金属が接触しない、衛生的な作動防止スナップオンオーバーキャップを備えた高性能ポンプであるAdvancia(商標)点鼻薬ディスペンサーを提供する。更なる例として、AptarPharmaの鼻ポンプ技術により、製薬会社は点鼻薬製剤に防腐剤を添加する必要がなくなる。高度な防腐剤不使用(APF:Advanced Preservative Free)システムは、チップシール及びフィルター技術を使用して、製剤の汚染を防ぐ。バネ仕掛けのチップシール機構は、換気チャネルのフィルターメンブレンで採用されている。
【0271】
計量及びスプレー生成(例えば、オリフィス、ノズル、ジェット)ポンプの機構及び構成要素は、薬物製剤の再現性のある送達に使用され、これらは、寸法及び組成の点で正確に制御された種々の設計の多くの部品で構成され得る。スプレーとして製剤を分散させるにはエネルギーが必要である。これは典型的には、鼻腔アクチュエーターとそのオリフィスを通して製剤を強制的に通すことによって達成される。製剤及び容器閉鎖システム(容器、閉鎖装置、ポンプ、及び任意の保護包装)は、集合的に医薬品を構成する。容器閉鎖システムの設計は、医薬品の投与性能に影響を与える。
【0272】
幾つかの実施形態において、多用途ディスペンサーは、細菌又はウイルスがリザーバー又はポンプ装置に侵入するのを防ぐ膜(好ましくはシリコーン)を採用する。幾つかの実施形態において、多用途ディスペンサーは、金属フリーの流体経路を採用し、それによって製剤の酸化を防止する。幾つかの実施形態において、多用途ディスペンサーは、バネ仕掛けのチップシール機構を採用し、それによって、微生物がスプレー事象の間に装置に侵入するのを防止する。
【0273】
一実施形態において、ディスペンサーは、5 μL~1000μL、好ましくは5 μL~500 μL、より好ましくは10 μL~300 μL、更に好ましくは20μL~200 μLの複数の個別噴霧事象のために構成される。
【0274】
一実施形態において、ディスペンサーは、0.1 mL~500mL、好ましくは1 mL~100 mL、より好ましくは2 mL~50 mL、例えば約5 mL、10 mL又は15 mL等の総容量の組成物を含む。
【0275】
液体製剤用の喉スプレーの例:
Bona(中国深セン)は、医療用パッケージ及びコンプリメント(complements)の供給業者である。同社は、喉スプレー及び喉に標準を合わせることを必要とするその他の治療用に設計された、優れた分注及び投薬を提供するロングネックスプレーのラインを提供する。消費者が使いやすいように、ディスペンサーのアームは360度スイングする。噴霧器は、喉の薬用治療だけでなく、例えばウイルス感染からの喉を保護といった、局所治療の他の治療にも適している。ディスペンサーは、医薬品グレードのPP及びPEから調製されることが好ましく、ディスペンサーは任意のボトルサイズと組み合わせることができる。現在、噴霧器には様々な一般的なサイズ(18/410、18/415、20/410、24/410)があり、220マイクロリットルから50マイクロリットルまで分注するように設定することができる。
【0276】
同時投与及び逐次投与
1つ以上の活性物質の同時投与とは、1つ以上の作用物質を同じ時に投与することを意味するものとする。例えば、一実施形態において、AATは、ウイルス感染症又は肺炎症に関連する病状を治療するのに有用な他の活性物質を一緒に投与することができる。他の実施形態において、AATは、経口投与、経鼻投与、血管内投与、腹腔内投与、又は筋肉内投与を含む非経口投与を含む他の投与経路と共に、吸入することにより投与することができる。幾つかの実施形態において、本発明による組換えAATとなる少なくとも1つの投与経路が必要であり、好ましくは吸入投与である。他の投与経路は、代替的には、ヒト血漿由来のAAT又は任意の他の組換え産生されたAATを含む組成物であり得る。実施形態において、同時に適用される投与経路は、逐次的な方法であってもよい。
【0277】
1つ以上の活性物質の逐次投与は、治療剤を逐次的に投与することを意味するものとする。一実施形態において、各治療剤は、異なる時間に投与される。他の実施形態において、2つ以上の治療剤の投与によって、少なくとも2つの治療剤が、実質的には同時である逐次的に投与される。実質的に同時の投与は、例えば、各治療剤の固定比率を有する単回用量を対象に投与することによって、又は治療剤の各々について複数の単回用量で投与することによって達成され得る。本明細書に記載される1つ以上の治療剤は、少なくとも本発明による組換えAATタンパク質を含む医薬組成物を含む。実施形態において、治療剤は、ヒト血漿由来のAAT及び/又は他の組換え産生されたAATタンパク質を含む更なる医薬組成物を含む。好ましい実施形態において、治療剤は、キサントフモールを含む更なる医薬組成物を含む。
【0278】
本明細書において使用される場合、「同時に」という用語は、1つ以上の作用物質を同じ時に投与することを指す。例えば、或る特定の実施形態において、ウイルス感染症又は肺炎症に関連する病状を治療するのに有用な他の活性物質と組み合わせたAATの投与が同時に投与される。同時は、同時期の投与、すなわち、同じ期間の投与を含む。或る特定の実施形態において、1つ以上の作用物質は、同じ時間に同時に、又は同じ日に同時に投与される。各治療剤の逐次的又は実質的に同時の投与は、限定されるものではないが、経口経路、静脈内経路、皮下経路、筋肉内経路、粘膜組織(例えば、鼻、口、膣、及び直腸)を介した直接吸収、及び眼経路(例えば、硝子体内、眼内等)を含む任意の適切な経路によって実施することができる。治療剤を、同じ経路又は異なる経路で投与することができる。例えば、特定の組み合わせの1つの成分を吸入によって投与し、組み合わせの他の成分(複数の場合もある)を静脈内投与してもよい。成分は、任意の治療的に有効な順番で投与され得る。
【0279】
同時投与及び逐次投与の決定は、疾患の重症度に応じて行うことができる。例えば、AATの吸入を受けているCovid-19の重篤な症状を有する患者に対して、AATタンパク質の同時及び/又は逐次静脈内投与を決定することができる。例えば、Covid-19患者の場合、AATの吸入を受け、該AAT液滴はキサントフモールを含む。例えば、AATの吸入を受けているCovid-19患者に対して、キサントフモールの別回用量を同時に又は逐次に投与することができる。
【0280】
図面
以下の図面は、範囲を限定することなく、本発明の特定の実施形態を説明するために提示される。
【図面の簡単な説明】
【0281】
図1】ピキア・パストリスの組換えタンパク質の表現のためのベクターマップである。
図2】ピキア・パストリスにおいて産生された組換えAATを含む上清の陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)による精製の図である。
図3】陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)から得られた組換えAAT画分のウェスタンブロット分析の図である。上部と下部のパネルは同じ画像である。
図4】抗SARS-CoV-2活性のための組換えAATの試験の図である。
【発明を実施するための形態】
【0282】
図面の詳細な説明:
図1:ピキア・パストリスにおける組換えタンパク質の表現のためのベクターマップ。最初に示したベクターは、構成的グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAP)プロモーターを含むpGAPZαである。第2のベクターは、誘導性アルコールオキシダーゼI(AOX1)プロモーターを含むpPICZαである。
【0283】
図2:ピキア・パストリスにおいて産生された組換えAATを含む上清の陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)による精製。ヒト血漿由来のα1AT製剤であるプロラスチンもSECに適用した。未改変WT株及びAAT発現ベクターを含む株の両方からの700 mlのP.パストリス上清をカラムに適用した。画分を30秒間隔で取得した。
【0284】
図3:陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)から得られた組換えAAT画分のウェスタンブロット分析。上部と下部のパネルは同じ画像であり、下部のパネルはプロラスチンの強いシグナルを避けるために切り取られている。下部パネルの画像のコントラスを上げた。AEXから得られた画分ごとに1レーン当たり10 μgのタンパク質をロードし、2.5 μgのプロラスチンタンパク質を対照ウェルにロードした。
【0285】
図4:抗SARS-CoV-2活性のための組換えAATの試験。(A)実験は、組換えAAT画分52及び画分53(円及び正方形を伴う曲線)、ヒト血清由来のAATプロラスチン(菱形を伴う曲線)及びDMSO(三角形を伴う曲線)を用いてそれぞれ実施された。Caco2(SARS-CoV-2に感受性のある大腸癌細胞)を播種し、1日目に培地を除去し、無血清培地を細胞に添加した。組換えα1AT試料をH2O中の10%DMSOに可溶化し、全ての化合物及び対照を滴定した。化合物を細胞に添加し、37℃で1時間インキュベートした。細胞にレンチウイルスSARS-CoV-2偽粒子を形質導入した。48時間後、細胞溶解物中のルシフェラーゼシグナルを測定した。提供された読み出しは、細胞に投与されたタンパク質の濃度(log;x軸)の増加に対する偽粒子細胞の侵入(y軸)を表す。(B)(A)に提示される実験からのデータを示し、細胞に投与されたタンパク質の濃度(線形;x軸)の増加に対して偽粒子細胞の侵入(y軸)をプロットする。画分52(三角形)及び画分53(円)は、プロラスチン(ダイヤモンド形)と比較して示される。
【実施例
【0286】
以下の実施例は、本発明の特定の、かつ潜在的に好ましい実施形態を説明するために提示され、範囲を限定することなく、実用化の実現性を示す。
【0287】
実施例1:組換えAATの調製のための例示的な概要:
組換えAATの発現及び調製に関する以下の一般的な概要を提供する。
【0288】
1.発酵
ヒトAATを組換え発現するように改変された酵母培養物の発酵は、典型的にはバイオリアクター内で行われる。酵母培養物は、温度、酸素濃度、基質濃度等の点で最適な条件下でアルファ-1-アンチトリプシンを産生するように刺激される。実施形態において、このプロセスは、酵母培養物の合成速度が低下する時点で終了する。実施形態において、これは約36時間~144時間、好ましくは48時間~120時間、より好ましくは72時間~96時間持続する。
【0289】
2.精製
続いて、リアクターの内容物を回収することができ、好ましくは培養上清が得られ、続いて処理される。 回収された発酵物は、水、酵母培養物、種々の基質の残留物、及びプロセスを安定させる補助物質からなる。純粋なアルファ-1-アンチトリプシンを、この混合物から分離する必要がある。この精製は、酵母培養上清の分離、及びその後のクロマトグラフィーカラムによる分離を含む種々の工程で行われる。このプロセスの最後に、アルファ-1-アンチトリプシンが純粋な形で入手可能である。
【0290】
3.保存
AATは、他の全てのタンパク質と同様に、それ以上の処理を行わなければ生物学的崩壊プロセスに供される可能性がある。これは、-80℃で冷却することによって停止することができる。しかしながら、この手順は、幾つかの条件下では最適ではない。このため、物質を、任意にフリーズドライ(凍結乾燥)してもよく、こうすることで安定性を損なうことなく保存及び輸送することができる。活性物質は、例えば毎回使用の直前に、水を添加することによりその液体状態に戻す。このプロセスは技術水準であり、ほとんど全てのタンパク質調製に使用されている。
【0291】
4.包装
「充填及び仕上げ」は、所望の個別用量(例えば100mg)への分割及び滅菌包装を含む。最終製品に応じて、種々の包装形態を検討することができる。
【0292】
実施例2~実施例5:
実施例2~実施例5は、ピキア・パストリスにおけるヒト組換えAATの生成に関する詳細なワークフローを示す。このワークフローは、AAT発現プラスミドを用いたピキア・パストリス宿主細胞株の形質転換、マイクロスケールの培養、マイクロスケールの再培養、及びリードクローンの選択で構成されている。ヒトアルファ-アンチトリプシン(rhAAT)の組換え産生のためのピキア・パストリス発現株が開発された。
【0293】
実施例2:合成AAT遺伝子の設計及び受領、並びにベクター構築:
AATをコードする遺伝子配列は、P.パストリスにおける発現のために設計された。
【0294】
AATタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号4(挿入された標的遺伝子のヌクレオチド配列、クローニング目的に用いられる隣接領域を含まず、終止コドンを有する)によるものである:
GAGGACCCTCAAGGTGACGCCGCTCAAAAGACTGATACCTCGCACCACGACCAAGACCACCCAACTTTTAACAAGATTACTCCTAATCTAGCTGAGTTCGCATTCTCTCTCTACAGACAACTCGCTCATCAGTCTAACTCTACGAACATTTTCTTCTCCCCAGTGTCCATTGCAACTGCTTTCGCCATGCTTTCTTTGGGTACTAAGGCTGACACACACGACGAGATTTTAGAAGGATTGAACTTTAATCTTACCGAAATTCCTGAGGCCCAAATTCACGAAGGTTTTCAGGAGCTGCTTAGAACTCTTAACCAGCCAGATAGCCAGCTACAACTTACTACTGGAAATGGACTATTCTTGAGTGAAGGTCTGAAGCTAGTTGACAAATTCCTCGAAGATGTGAAAAAGTTGTACCATTCTGAGGCTTTCACCGTCAACTTCGGTGACACAGAGGAGGCTAAAAAGCAGATCAACGACTACGTTGAAAAGGGTACGCAAGGTAAAATCGTTGACCTCGTTAAAGAGCTTGATAGAGACACCGTATTTGCTCTTGTCAATTACATCTTCTTTAAAGGAAAGTGGGAGAGACCTTTCGAGGTCAAGGACACCGAGGAGGAAGATTTTCATGTAGATCAAGTCACCACTGTTAAGGTTCCAATGATGAAGCGTCTCGGTATGTTTAACATCCAACACTGTAAAAAGCTATCTTCTTGGGTCCTTCTGATGAAGTACCTGGGTAACGCTACTGCAATCTTCTTCCTACCAGATGAAGGTAAGCTCCAGCACCTAGAGAACGAACTTACCCACGACATCATTACTAAGTTCCTGGAAAACGAAGACCGTAGATCCGCTTCCCTGCACCTCCCAAAACTGTCTATCACTGGTACCTATGACCTCAAGTCTGTTCTGGGTCAACTAGGTATAACCAAAGTGTTTTCAAACGGCGCTGACCTCTCCGGTGTGACTGAAGAGGCACCTCTCAAGCTGTCCAAGGCCGTTCACAAGGCAGTCCTTACCATTGATGAAAAGGGAACTGAAGCTGCCGGCGCTATGTTCCTAGAGGCCATCCCAATGTCAATTCCTCCCGAGGTTAAGTTCAACAAGCCATTCGTCTTCCTAATGATTGAACAAAACACAAAGTCTCCTCTGTTCATGGGAAAGGTTGTTAACCCAACCCAAAAGTAATAG
【0295】
AATのタンパク質配列は、配列番号5によるものである:
EDPQGDAAQKTDTSHHDQDHPTFNKITPNLAEFAFSLYRQLAHQSNSTNIFFSPVSIATAFAMLSLGTKADTHDEILEGLNFNLTEIPEAQIHEGFQELLRTLNQPDSQLQLTTGNGLFLSEGLKLVDKFLEDVKKLYHSEAFTVNFGDTEEAKKQINDYVEKGTQGKIVDLVKELDRDTVFALVNYIFFKGKWERPFEVKDTEEEDFHVDQVTTVKVPMMKRLGMFNIQHCKKLSSWVLLMKYLGNATAIFFLPDEGKLQHLENELTHDIITKFLENEDRRSASLHLPKLSITGTYDLKSVLGQLGITKVFSNGADLSGVTEEAPLKLSKAVHKAVLTIDEKGTEAAGAMFLEAIPMSIPPEVKFNKPFVFLMIEQNTKSPLFMGKVVNPTQK
【0296】
最適化された合成遺伝子配列を受け取ったら、制限酵素部位、例えば、XhoI/XbaIを介して標的遺伝子を適切な発現プラスミド(ここではpPICZαを採用した)にクローニングした。
【0297】
供給業者のプラスミド中の合成遺伝子を受け取った後、乾燥したプラスミドを可溶化し、大腸菌(E. coli)TOP10F'細胞(NEB-5アルファコンピテントE. coli、C2987I、NEB)に形質転換した。大腸菌クローンは、合成遺伝子を持つ供給業者のプラスミドを保有する。形質転換体を寒天プレート上に再ストリークし、標準的なプラスミド調製手順でプラスミドを単離した。
【0298】
供給業者のプラスミドの骨格からの合成遺伝子は、プラスミドを二重制限酵素で消化することによって得られた。消化したプラスミドをアガロースゲルにロードし、ゲル電気泳動で分離した。合成遺伝子のバンドをアガロースゲルから切り出し、精製して溶出し、ライゲーションの準備を整えた。
【0299】
二重消化合成遺伝子を、二重消化酵母発現プラスミドにライゲートする。形質転換体を寒天プレート上に再ストリークし、標準的なプラスミド調製手順でプラスミドを単離した。合成遺伝子を、制限酵素を用いた二重消化により、酵母発現プラスミドの骨格から分離した。消化したプラスミドのバンドサイズをアガロースゲル電気泳動で確認した。選択されたプラスミドも、適当なプライマーを用いて配列決定した。
【0300】
次いで、より大きなプラスミド調製(ピキアへの形質転換用)のため、陽性クローンを寒天プレート上に再ストリークした。次いで、調製したプラスミドをメンブレン(MCEメンブレン、0.025 μM、MilliporeVSWP01300)で脱塩し、分光光度測定によりDNA濃度を求め、およそ1 μg/μLに調整した。
【0301】
実施例3:ピキア・パストリスにおけるワークフロー:
増殖期、形質転換期、再生期(形質転換中)、及び酵母コロニーの保存中のP.パストリスを用いた実験で使用される全ての培地成分は、直接含有量、直接接触、又は汚染の可能性に関して動物性フリーであることが証明されていた。以下の培地を採用した:
YPhyD液体培地(1%酵母抽出物、2%フィトン、2%デキストロース)、YPhyD固体培地(上記と、2% w/v寒天、必要に応じて抗生物質の補充)、BMD液体(1.34%YNB、2%デキストロース、0.2Mリン酸ナトリウム緩衝液pH 6.0、4×10-5%ビオチン)。
【0302】
全ての形質転換のためのエレクトロポレーションを、ピキア・パストリスX33のコンピテント発現細胞株を用いて、エレクトロポレーションのための標準的な手順及び標準的な機器を適用して実施した。
【0303】
実施例4:96ディープウェルプレートにおけるマイクロスケール培養
スクリーニングでは、単一のコロニーを形質転換プレートから選び、最適化された培養培地で満たされた96ディープウェルプレートの単一のウェルに入れた。幾つかのプレートの隅のウェルにモック菌株を接種し、分析用のマトリックスとしての役割を果たした。
【0304】
バイオマス(BMD固体)を生成するための初期増殖期の後、規定濃度のメタノールを含む最適化された液体混合物を添加することにより、AOX1プロモーターからの発現を誘導した。規定の時点で、メタノールによる更なる誘導を行った。
【0305】
最初のメタノール導入から合計72時間後、全てのディープウェルプレートを遠心分離し、全てのウェルの上清を、その後の分析のためストックマイクロタイタープレートに回収した。スクリーニング結果から特定の菌株を選択した後、これらの菌株を、菌株ごとに単一の単離されたコロニーをもたらすように、非選択的寒天プレート上に再ストリークした。再スクリーニングで培養した菌株ごとに、これらの個々のコロニーのうち6つを、最適化された培養培地で満たされた96ディープウェルプレートの単一ウェルに接種し、上記のように処理した。
【0306】
実施例5:標的タンパク質発現の分析
上清を、SDS-PAGEゲルとウェスタンブロットで実施した試料の分子量比較に基づいて、標的タンパク質の発現を評定した。事前に調製したAAT試料を対照として使用した。
【0307】
SDS-PAGEでは、希釈又は未希釈の試料を4×LDS試料バッファー及び10×Novex還元剤(いずれもThermo Scientific)と混合し、70℃で10分間インキュベートした。次いで、試料をBolt Bis-Tris 4%~12%ゲルにロードし、MESバッファーと共に泳動した。SeeBlue Plus2 Pre-StainedStandardを分子量マーカーとして含めた(いずれもThermo Scientific)。
【0308】
ウェスタンブロットでは、プレラン(pre-run)ゲルからのタンパク質転写は、専用のNovex PVDF転写スタックを備えたiBlot 2 Gel TransferDeviceを使用したドライブロッティングによって行った。その後、メンブレンをPBS、0.1%Tween-20、5%BSAで、穏やかに振盪しながら室温で30分間飽和させた。
【0309】
AAT特異的検出のため、PBS、0.1%Tween-20、3%BSAで1:750に希釈した一次AAT抗体(SIGMA、SAB4200196-200μL)を使用して、室温で穏やかに振盪しながらメンブレンを30分間インキュベートした。3回の洗浄工程(5秒、5分及び10分、PBS-0.1%Tween20、約200 rpmで激しく撹拌しながら)の後、PBS、0.1%Tween-20、1%BSAで1:2000に希釈した二次抗マウス抗体(SIGMA Anti-Mouse IgG-Peroxidase A2554-1mL)を20分間添加した。次いで、メンブレンを再度洗浄し、TMB ultra基質(Thermo Scientific)を添加して発色させた。
【0310】
SDS-PAGEゲル及びウェスタンブロット分析により、標準調製物と同等の分子量でAATが発現することが明らかになった。
【0311】
さらに、上清を、マイクロ流体キャピラリー電気泳動分離に基づいて標的タンパク質の発現について評定した。
【0312】
マイクロ流体キャピラリー電気泳動分離(GXII、CaliperLS、現Perkin Elmer)、続いてそのサイズに基づく標的タンパク質の同定を伴う方法が確立された。簡潔には、全ての培養上清のうち数μLを蛍光標識し、マイクロ流体工学に基づく電気泳動システムを使用して、タンパク質サイズに応じて分析する。内部標準試料(供給業者から供給された溶液に含まれる)により、kDa単位のサイズへのおおよその割り当て、及び検出されたシグナルのおおよその濃度が可能になる。ウシ血清アルブミン(BSA)を、モック菌株マトリックス中で既知の濃度に希釈した後の見かけの分子量及び濃度のキャリブレーターとして使用した。
【0313】
手順:5 μLの試料(脱グリコシル化から、下記参照)を、適量の還元剤(この時pH7.37)を含む8 μLの試料バッファー(Perkin Elmer、LDS含有、pH7.58)と混合し、95℃で5分間加熱した。続いて、32μLのddH2Oを添加し、4000 rpmで3分間遠心分離した後、試料をmCEに適用する(潜在的な凝集体をペレット化するため)。
【0314】
上清中のrhAATの推定濃度を、特定のピーク面積と既知の濃度で存在するBSAのピーク面積との比較により計算して求めた。様々な酵母クローンを試験し、推定rhAAT量が2 mg/mL~11 mg/mLであることを示した。
【0315】
実施例6:ピキア・パストリスにおいて産生される組換えAATの抗プロテアーゼ活性の試験
化合物:
プロラスチン:ヒト血清由来AAT
カモスタットメシル酸塩:トリプシン様セリンプロテアーゼ阻害剤
rhAAT:ピキア・パストリスにおいて産生される組換えAAT
【0316】
材料及び方法
それぞれのプロテアーゼ(TMPRSS2又は好中球エラスターゼ)をrhAATの段階希釈液と混合し、メシル酸カモスタット又はプロラスチンは、試験化合物とプロテアーゼの間に複合体の形成をもたらす。続いて、蛍光レポーターペプチド基質を添加する。プロテアーゼによるレポーターペプチド基質の切断時に、蛍光色素が遊離する。したがって、蛍光強度は残りのプロテアーゼ活性のシグナルとして作用する。
【0317】
TMPRSS2活性アッセイ:
組換えヒトTMPRSS2の活性を評定するために、25 μLの段階希釈プロラスチン、カモスタットメシル酸塩、又はrhAATを、25 μlの2 μg/ml組換えTMPRSS2酵素(LSBio #LS-G57269)とアッセイバッファー(50 mM Tris-HCL、0.154 mM NaCl pH8.0)中で37℃にて15分間インキュベートする。次に、50 μlの20 μM BOC-Gln-Ala-Arg-AMCプロテアーゼ基質(Bachem #4017019)を添加し、37℃で2時間インキュベートする。蛍光強度を、励起波長380 nm及び発光波長460 nmで2時間後にSynergy(商標)H1マイクロプレートリーダー(BioTek)においてGen5 3.04ソフトウェアにより測定する。アッセイを、平底の96ウェルプレートで行う。
【0318】
好中球エラスターゼ活性アッセイ:
好中球エラスターゼ活性は、25 μLの段階希釈プロラスチン、カモスタットメシル酸塩、又はrhAATと25 μLの2 ng/μl組換え好中球エラスターゼ(Merck Millipore #324681)をアッセイバッファー(50 mMTris、1 M NaCl、0.05%(w/v)Brij-35、pH7.5)で37℃にて15分間混合することによって測定される。次に、200 μMのMEOSUC-Ala-Ala-Pro-Val-AMC基質(Bachem #4005227)を50 μl添加し、37℃でインキュベートする。蛍光強度を、励起波長380 nm及び発光波長460 nmで5分後にSynergy(商標)H1マイクロプレートリーダー(BioTek)においてGen5 3.04ソフトウェアにより測定した。アッセイを、平底の96ウェルプレートで行う。
【0319】
結果:
3つの試験化合物は全て、TMPRSS2及び好中球エラスターゼの活性を阻害する。rhAAT、プロラスチン、及びカモスタットメシル酸塩のIC50分析を行う。rhAATは約350 nMのIC50で用量依存的にTMPRSS2タンパク質分解活性を阻害する。
【0320】
実施例7:偽型ウイルスアッセイによる抗SARS-CoV-2活性の試験
序論:
ウイルスによる標的細胞の感染は、ウイルス表面の糖タンパク質によって支配されている。ウイルス偽粒子は、外来ウイルスの糖タンパク質(gp)を表面に運ぶ操作されたウイルスである。例えば、この研究で使用された偽粒子は、SARS-CoV-2のスパイクgp又は水疱性口内炎ウイルス(VSV-G)のgpで覆われたHIV-1ビリオンに基づいている。したがって、それぞれSARS-CoV-2又はVSV-Gと同じメカニズムで細胞に侵入する。しかしながら、偽ウイルスは複製に重要な遺伝情報を欠いており、代わりに感染した細胞にレポーター遺伝子を送達する。したがって、偽粒子は、高病原性ウイルスを安全かつハイスループットに調査することを可能にする。
【0321】
材料及び方法:
SARS-CoV-2の偽粒子に対するrhAATの活性を試験するために、細胞をrhAAT、プロラスチン、及びカモスタットメシル酸塩の段階希釈液で処理し、rhAATとTMPRSS2の複合体形成を可能にする。次に、SARS-CoV-2スパイクgp又はVSV-Gを担持した偽粒子を細胞に接種し、レポーター遺伝子活性を測定することにより、2日後にウイルスの侵入を定量する。
【0322】
レンチウイルス偽粒子の生成:
レンチウイルスSARS-CoV-2(LV(Luc)-CoV-2)偽粒子の生成には、900000個のHEK293T細胞を、6ウェルプレートにおいて、10%ウシ胎児血清、2 mM L-グルタミン、100 U/mlペニシリン、及び100 μg/mlストレプトマイシンを補充したDMEM培地に播種する。翌日、細胞に0.49 μgのpCMVdR8_91(複製欠損レンチウイルスをコードする)、0.49 μgのpSEW-Luc2(ルシフェラーゼレポーター遺伝子をコードする、いずれもドイツ国のパウル・エールリッヒ研究所のChristian Buchholz教授から厚意により提供された)、及び0.02 μgのpCG1-SARS-2-SΔ18(WT)、pcDNA3_1 SARS-CoV-2-Sd19B.1.617.2_4377(B.1.617.2、Delta)又はpCG1_SARS-2-SΔ18(BA.4及びBA.5、オミクロン)のいずれかを用いて、無血清培地中でプラスミドDNAとPEIを1:3の比率で混合することによりトランスフェクトした。
【0323】
室温で20分間のインキュベーションの後、トランスフェクションミックスを細胞に滴下する。トランスフェクションの8時間後に細胞を洗浄し、2.5%FCSを含む増殖培地を添加した。トランスフェクションの48時間後、上清を含む偽粒子を回収し、450gで5分間遠心分離して清澄化する。ウイルスストックを分注し、使用まで-80℃で保存する。
【0324】
偽粒子阻害アッセイ:
形質導入の1日前に、96ウェル平底プレートにおいて、10000個のCaco2細胞を10%ウシ胎児血清、2 mM L-グルタミン、100 U/lペニシリン、100 mg/mlストレプトマイシン、1×非必須アミノ酸、及び1 mMピルビン酸ナトリウムを補充したDMEM中に播種した。翌日、培地を60 μlの無血清増殖培地と交換し、細胞を段階希釈したrhAAT、プロラスチン、及びカモスタットメシル酸塩で37℃にて1時間処理し、続いて20 μlのそれぞれのレンチウイルス偽粒子を細胞に形質導入する。VSV-Gスパイクレンチウイルス偽粒子は、陰性対照としての役割を果たす。
【0325】
形質導入速度を、市販のキット(Luciferase Assay System、Promega)を用いて、simplicity 4.2ソフトウェアによりOrion IIマイクロプレートリーダーにおいて、形質導入の48時間後における細胞溶解物中のルシフェラーゼ活性を測定することによって評定する。未処理の対照の値を、100%形質導入に設定する。
【0326】
結果:
rhAATは、プロラスチン及びカモスタットメシル酸塩と同様にSARS-CoV-2の侵入を阻害する。VSV-G偽粒子は試験化合物による影響を受けず、細胞に侵入することができた。rhAATは、試験濃度でCaco-2細胞に対して無毒である。この実験は、rhAAT、プロラスチン及びカモスタットメシル酸塩でそれぞれ処理されたCaco2細胞における偽粒子の侵入の比較分析を示す。20 mg/mlの濃度でrhAATにより処理された細胞は、偽粒子の侵入をほとんど示さない。
【0327】
実施例6及び実施例7は、Azouz et al. 2021 (Pathog Immun. 2021 Apr 26; 6(1):55-74)を参照する実験設定に一部基づいている。
【0328】
実施例8:プロラスチン及びピキア・パストリスにおいて産生された精製組換えAATによるSARS-CoV2に感染したヒト気道上皮細胞のin vitro処理
この実施例は、ピキア・パストリスにおいて産生される組換えAATが、ヒト初代気道上皮細胞におけるSARS-CoV2複製をプロラスチンよりも効果的に阻害するかどうかを検証するために設計されている。実験の設定は、Wettstein et al. 2021 (Nat Commun 12, 1726)を参照する。
【0329】
小気道上皮細胞(SAEC)を、SARS-CoV-2に感染した後、プロラスチン及び組換えAATで別々に処理する。直ちに接種物を除去し、感染後数日で上清を回収し、SARS-CoV-2に特異的なRT-qPCRに供した。
【0330】
ヒト気道上皮細胞(HAEC)を、プロラスチン及び組換えAATに別々に曝露し、次いでSARS-CoV-2を接種する。細胞は感染後1日目、2日目、及び3日目に固定し、DAPI、SARS-CoV-2特異的スパイク抗体及びαチューブリン特異的抗体で染色した。
【0331】
ヒト小気道上皮細胞:
ヒト小気道上皮細胞(Lonza、CC-2547、バッチ:18TL082942、ドナー:68歳、女性)を、SAGM(商標)小気道上皮細胞増殖培地(Lonza、CC-3118)で培養する。あるいは、ヒト気道上皮細胞(HAEC)の分化気液界面培養物は、気道上皮から単離された初代ヒト基底細胞から生成される。
【0332】
細胞を、気道上皮細胞増殖培地SupplementPackを補充した気道上皮細胞基礎培地(いずれもPromocell)中、T75フラスコ(Sarstedt)内で拡大する。増殖培地を2日ごとに交換する。90%のコンフルエンスに達したら、DetachKIT(Promocell)を用いてHAECを剥離し、6.5 mmのTranswellフィルター(Corning Costar)に播種する。フィルターをコラーゲン溶液(StemCellTechnologies)で一晩プレコートし、コラーゲンの架橋及び滅菌のため、細胞播種前にUV光を30分間照射する。200 μlの増殖培地中の3.5×104個の細胞を各フィルターの頂端側に添加し、更に600 μlの増殖培地を基底側から添加する。頂端培地を48時間後に交換する。72時間~96時間後、細胞がコンフルエンスに達したら、頂端培地を除去し、基底外側培地を分化培地に切り替える。分化培地は、Airway Epithelial Cell Growth Medium SupplementPackを補充したDMEM-HとLHC Basal(ThermoFisher)の1:1混合物からなり、これを2日毎に交換する。エアリフティング(頂端培地の除去)を、気液界面(ALI)培養の0日目と定め、25日目~28日目に実験を行うまで、ALI条件で細胞を増殖させた。頂端側への粘液の蓄積を避けるために、HAEC培養物を、14日目以降、3日ごとに30分間PBSにより頂端で洗浄する。
【0333】
HAECのSARS-CoV-2感染:
感染の直前に、Transwellフィルターで増殖したHAECの頂端表面を200 μlのPBSで3回洗浄し、蓄積した粘液を除去する。次いで、10 μMのα1AT又は5 μMのレムデシビルを基礎培地と頂端表面に添加する。細胞に9.25×102のプラーク形成単位(PFU)のSARS-CoV-2(BetaCoV/France/IDF0372/2020)を感染させた。37℃で2時間インキュベートした後、ウイルス接種物を除去し、細胞を200 μlのPBSで3回洗浄し、再び気液界面で培養する。感染後1日目、2日目及び3日目に、細胞をPBS中の4%パラホルムアルデヒドで30分間固定し、PBS中の0.2%サポニン及び10%FCSで10分間透過処理し、PBSで2回洗浄し、それぞれPBS、0.2%サポニン及び10%FCSで1:300~1:500に希釈した抗SARS-CoV-2スパイク(ab252690、Abcam)及び抗α-チューブリン(MA1-8007、Thermo Scientific)で4℃にて一晩染色する。
【0334】
続いて、細胞をPBSで2回洗浄し、それぞれ、AlexaFluor 488標識抗ウサギ抗体及びAlexaFluor 647標識抗ラット二次抗体(全て1:500;Thermo Scientific)及びDAPI+ファロイジンAF 405(1:5000;Thermo Scientific)を含むPBS、0.2%サポニン及び10%FCS中で室温にて1時間インキュベートする。画像を、倒立共焦点顕微鏡(Leica TCS SP5、Leica Microsystems、Leica application suiteversion 2.7.3.9723)で、40倍レンズ(LeicaHC PL APO CS2 40×1.25 OIL)を使用して撮影する。青色(DAPI)、緑色(AlexaFluor 488)及び遠赤(AlexaFluor 647)チャネルの画像を、全ての取り込みで一定に保たれた適切な励起及び発光設定を使用して、シーケンシャルモードで撮影する。定量化のため、各フィルターでランダムに選んだ場所を選択し、zスタックを取得した。最大z投影を行い、面積当たり(0.15 mm2)の抗SARS-CoV-2陽性細胞を視覚的に識別してカウントした。
【0335】
結果:
組換えAATは、プロラスチンよりも効果的に初代ヒト気道細胞におけるSARS-CoV-2複製を阻害する。感染中に存在する組換えAATは、プロラスチンよりもウイルス力価を低下させる。感染した組換えAAT処理HAECでは、SARS-CoV-2スパイク発現はプロラスチン処理HAECよりも検出されにくい。
【0336】
実施例9:AAT吸入を使用した治癒試験:
個々の自己研究との関連では、患者はプロトコルを知らされた後、AAT(プロラスチン、Grifols、スペイン国)を用いた吸入によって治療された。Pari Boy Pro(Pari、ドイツ国シュタルンベルク)をネブライザーとして使用した。これにより、100mgのAATを8 mlの生理食塩水に溶解し、ネブライザーの容器に添加した。
【0337】
患者1、男性、52歳、喫煙の危険因子あり、ワクチン未接種
治療の過程において、
1日目、患者1はPCT検査でCovid-19に陽性であり、インフルエンザ様感染症と同様の軽度の症状を有していた。
2日目、患者1は迅速検査でCovid-19に陰性であり、症状はなかった。患者は、100 mgのプロラスチンを吸入した。
3日目から5日目にかけて、患者1は迅速検査でCovid-19に陰性であり、症状はなかった。
【0338】
患者2、女性、25歳、喫煙の危険因子あり
患者2はComirnatyのワクチンを2回接種していた。2回目のワクチン接種を、Covid-19に感染する3か月前に受けていた。
1日目、患者2は迅速検査でCovid-19陽性を2回示し、発熱、喉の痛み、倦怠感、及び味覚の低下を有した。患者2は、100 mgのAATを4時間間隔で3回吸入した。
2日目、症状は大きく改善した。患者2は2日目に100 mgのAATを吸入した。
3日目、患者2は症状がなく、100 mgのAATを吸入した。患者2は、PCR検査でCovid-19に陰性であった。
【0339】
実施例10:ピキア・パストリスからの組換えAAT産生:
実施例2~実施例5の代替として、ピキア・パストリスにおいて産生された組換えAATについて、以下の実験的検証を行った。
【0340】
P.パストリスにおける発現のためのコドン最適化AAT遺伝子を、pEX-A258ベクターにおいて提供されたEurofins製のGENEiusを用いて設計した。
【0341】
AATタンパク質をコードするコドン最適化遺伝子は、配列番号2によるものである。
GAAGATCCACAAGGTGATGCTGCTCAGAAAACAGACACCTCACACCATGATCAAGATCATCCGACATTTAACAAGATCACACCTAACCTTGCAGAGTTCGCCTTTTCCTTGTATCGTCAGCTTGCTCATCAAAGCAACTCGACGAACATTTTCTTTTCCCCAGTAAGTATTGCAACTGCATTTGCTATGCTATCGTTGGGTACCAAAGCTGACACTCATGACGAAATATTGGAGGGTCTAAACTTTAACTTGACAGAAATCCCCGAAGCCCAAATTCATGAGGGATTTCAAGAGTTGTTGAGAACTCTAAACCAACCTGACTCTCAACTGCAGTTAACTACCGGTAATGGACTGTTCTTAAGCGAAGGTTTAAAATTGGTCGATAAGTTCCTTGAGGACGTTAAGAAGTTGTATCACTCTGAGGCTTTTACGGTCAATTTCGGAGATACTGAGGAAGCCAAGAAACAAATCAATGACTACGTGGAAAAGGGAACTCAAGGCAAGATCGTTGACTTGGTGAAAGAACTGGATAGAGATACCGTATTTGCTTTAGTGAACTACATCTTCTTTAAAGGGAAATGGGAAAGACCATTCGAGGTCAAGGATACTGAGGAGGAAGATTTTCACGTCGACCAGGTAACCACTGTTAAGGTTCCGATGATGAAACGATTGGGAATGTTCAACATTCAGCACTGTAAGAAGTTGTCAAGTTGGGTTCTGCTTATGAAGTACTTAGGGAATGCAACTGCCATTTTCTTCTTGCCTGATGAAGGTAAACTGCAACATTTGGAAAATGAACTTACACACGATATTATCACCAAATTTCTAGAGAACGAAGATAGGAGATCAGCCTCTTTGCATTTGCCAAAGCTGTCAATAACAGGTACTTATGACTTGAAATCCGTTCTTGGCCAATTGGGCATAACTAAGGTGTTTTCTAATGGTGCTGATTTGAGTGGTGTTACAGAGGAAGCTCCCTTAAAGCTATCTAAGGCTGTTCACAAAGCAGTTCTTACCATTGACGAGAAAGGTACTGAAGCTGCAGGAGCTATGTTTCTGGAAGCCATTCCTATGTCCATTCCACCTGAAGTTAAATTCAATAAGCCTTTTGTCTTTCTTATGATTGAGCAGAATACGAAATCTCCATTATTCATGGGAAAGGTAGTGAATCCAACCCAGAAA
【0342】
AATのタンパク質配列は、配列番号3によるものである。
EDPQGDAAQKTDTSHHDQDHPTFNKITPNLAEFAFSLYRQLAHQSNSTNIFFSPVSIATAFAMLSLGTKADTHDEILEGLNFNLTEIPEAQIHEGFQELLRTLNQPDSQLQLTTGNGLFLSEGLKLVDKFLEDVKKLYHSEAFTVNFGDTEEAKKQINDYVEKGTQGKIVDLVKELDRDTVFALVNYIFFKGKWERPFEVKDATEEEDFHVDQVTTVKVPMMKRLGMFNIQHCKKLSSWVLLMKYLGNATAIFFLPDEGKLQHLENELTHDIITKFLENEDRRSASLHLPKLSITGTYDLKSVLGQLGITKVFSNGADLSGVTEEAPLKLSKAVHKAVLTIDEKGTEAAGAMFLEAIPMSIPPEVKFNKPFVFLMIEQNTKSPLFMGKVVNPTQK
【0343】
制限酵素処理及びその後のクローニングを経て、AAT遺伝子をピキア・パストリスにおける発現を目的とした発現ベクターに挿入した。2つの適切な発現ベクターを図1に示す。最初に示したベクターは、構成的グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAP)プロモーターを含むpGAPZαである。第2のベクターは、誘導性アルコールオキシダーゼI(AOX1)プロモーターを含むpPICZαである。
【0344】
コンストラクトを、Gibsonアセンブリを使用して、それぞれのベクターpGAPzα及びpPICZαにクローニングした。続いて、33 bpリンカー及びHisタグを欠失させ、タグなしAATを産生するために、Phusion部位特異的突然変異誘発キット(ThermoFischer)を用いて指向性突然変異誘発を行い、HisタグAAT融合タンパク質とタグなしAATコンストラクトの両方を生成した。
【0345】
その後、ピキア・パストリスX33をAAT発現ベクターで形質転換し、標準条件下で培養した。
【0346】
ミネラル塩培地FM22(Stratton et al1998, high cell-density fermentation, Methods Mol Biol.)を用いたバイオリアクターでの発酵を行い、培地は、主炭素源として種々の塩及び40 g/Lグリセロールを含んでいてもよい。バイオリアクターで定義されている環境パラメータは次のとおりである:30℃、pH6、1 vvmガス、溶存酸素濃度30%。全てのパラメータは、バイオリアクター内で適宜調整される。
【0347】
細胞濃度を高めるため、グリセロールの供給は、最初のバッチ増殖が完了するとすぐに(およそ24時間後)開始される。その場合、細胞濃度の増加は、AAT産生の増加につながる。pGAPzを使用する場合、AATは増殖中に既に産生されているため(構成的)、回収のみが必要である(3日後)。pPICzを使用する場合、グリセロール供給の後に別のメタノール供給が続き、プロモーターを誘導して、AAT合成を開始する。このプロセスには、相応に時間がかかる(4日)。一実施形態において、pGAPz及びグリセロール供給による発酵は、42 g/L(乾燥重量)の細胞濃度、115 mg/Lの総タンパク質含量及び15 mg/LのAAT濃度を有した。
【0348】
発酵プロセスが完了した後、まず細胞を遠心分離することによって上清が得られる。任意に、透明な上清を限外濾過(10kDa又は30 kDaのカットオフ)で濃縮し、AATと他のタンパク質を濃縮液に残す。濾液を廃棄することができる。濃縮液は、任意の適切な方法、例えば、金属アフィニティークロマトグラフィー、Hisタグ精製(Hisタグコンストラクトが採用されている場合)、又は陰イオン交換クロマトグラフィーを用いて精製することができる。
【0349】
実施例11:形質転換ピキア・パストリスX33の上清からのAATの精製:
上述したように、ピキア・パストリスX33を、α1ATを培養上清(SN)に組換え的に発現するように操作した。α1AT(組換えα1AT)を発現するP.パストリスのSN及び未改変のP.パストリスのSNを陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)で精製した。
【0350】
α1ATの溶出プロファイルに関する経験を積み、SECがα1ATの活性に影響を与えるかどうかを確認するために、ヒト血漿由来のα1AT製剤であるプロラスチンもSECに適用した。700 mlのP.パストリス上清をカラムに適用し、30秒間隔で画分を得たため、1分につき2つの画分が得られた。
【0351】
結果:
プロラスチン及び組換えα1ATからのSNの溶出ピークは異なるが、違いの理由は不明である。ヒトAATと酵母AATのグリコシル化パターンの違いは、異なる溶出プロファイルに関与している可能性がある。WT P.パストリスのSNは、AEXにおいて広いピークをもたらす。組換えα1ATによるSNは、WT SNには存在しない追加のピークを示し、組換えタンパク質発現の存在が示唆される。溶出プロファイルを図2に示す。追加のピーク(~画分52及び画分53)には組換えα1ATが含まれていると想定され、更なるアッセイに使用した。
【0352】
実施例12:組換えAAT画分のウェスタンブロット分析
組換えAATをウェスタンブロットで分析した。試料についてBCAアッセイを実施した。試料を70℃で10分間煮沸し、4%~12%SDSゲル上、120 Vで90分間泳動した。試料をPVDFメンブレン(セミドライ)にブロットし、一次抗体(16382-1-AP、ウサギ、1:1000希釈)で4℃にて一晩染色した。メンブレンを洗浄した後、二次抗体を添加し、室温で30分間インキュベートした。洗浄後、メンブレンを撮像した。
【0353】
結果:
図3に示すように、組換えAATは、画分52~画分57においてウェスタンブロット分析を介して見ることができる。注目すべきは、rhAATが明確に定まったバンドを提供するのに対し、プロラスチンは複数の副生成物/不純物によるスメアを示し、rhAAT産生がAATの調製において改善を示すことが示唆される。
【0354】
実施例13:抗SARS-CoV-2活性に関する組換えAATの試験
化合物の可溶化:
プロラスチン(CEXで精製されていない)をH2Oに可溶化した。組換えα1ATを含むと推定される画分を10%DMSOで可溶化した。
【0355】
形質導入のプロトコル:
0日目に、10000個のCaco2(SARS-CoV-2に感受性のある大腸癌細胞)を播種した。1日目に培地を除去し、無血清培地を細胞に添加した。組換えα1AT試料をH2O中の10%DMSOに可溶化し、全ての化合物及び対照を滴定した。化合物を細胞に添加し、37℃で1時間インキュベートした。細胞にレンチウイルスSARS-CoV-2偽粒子を形質導入した。48時間後、細胞溶解物中のルシフェラーゼシグナルを測定した。
【0356】
試験には、Wuhan Hu-1分離株のSARS-CoV-2スパイクタンパク質を持つレンチウイルス偽粒子を使用した。偽粒子は、別のウイルスの糖タンパク質を示す複製欠損ウイルス粒子である。それらはウイルスの侵入を研究するために使用され、多くの場合、ウイルスが細胞に侵入したときに発現するレポーター遺伝子(ここではルシフェラーゼ)を保有する。
【0357】
表.AAT又は対照の投与後のCaco2細胞への偽粒子侵入の阻害のIC50値:
【表2】
【0358】
結果:
組換えα1AT画分52及び画分53は、プロラスチンと同様にSARS-CoV-2の侵入を阻害し、組換えα1ATがこれらの画分に存在し、活性であることが示唆される。図4に示すように、比較分析は、組換えAAT画分52及び画分53(円及び正方形を伴う曲線)、ヒト血清由来のAATプロラスチン(菱形を伴う曲線)及びDMSO(三角形を伴う曲線)でそれぞれ処理したCaco2細胞における偽粒子侵入を示す。20 mg/mlの濃度では、組換えAATで処理した細胞は偽粒子の侵入を完全に阻害するが、プロラスチンで処理した細胞では約10%の偽粒子の侵入が起こる。図4A及び図4Bは、10 mg/mL及び20 mg/mLのタンパク質濃度において、プロラスチンと比較して、画分52及び画分53による偽粒子侵入の阻害が大きいことを示す。
【0359】
注目すべきは、プロラスチンとrhAATの阻害曲線が異なる形状であることである。プロラスチンでは、低濃度で非特異的阻害が始まり、高用量で完全な阻害に達しない曲線形状から導かれるように、明らかにより非特異的な阻害が観察される。rhAATでは、屈曲点が明瞭な、より急峻な曲線形状が見られ、rhAATによるより特異的な阻害が示唆される。プロラスチンは特異性が低いか、又は更なる不純物を含む可能性があり、非特異的な阻害効果につながる。
【0360】
上記の予備的なIC50値から導き出すことができるように、P.パストリスから単離されたAATを有する画分53は、プロラスチンと比較して、採用された偽粒子アッセイにおいてより大きな活性を示す。様々なP.パストリス発現系からのAATを使用し、制御されたAAT濃度及び様々な精製技術を使用し、プロラスチンと比較した試験が進行中である。
【0361】
プロラスチンと比較したrhAATの追加評価が進行中であり、IC90値(ウイルス阻害アッセイにも高い関連性)がrhAAT活性の評定において役割を果たす可能性がある。初期評定から、IC90値は、図4から導出された場合、プロラスチンとrhAATで異なるようである。このアッセイから導き出された最初の所見では、プロラスチンで20 mg/mL、rhAATで8mg/mLと推定されるIC90が明らかになり、ここでもプロラスチンに対するrhAATの改善が示唆された。
【0362】
図面訳
図1
α-factor α因子
myc epitope mycエピトープ
Stop 停止
Zeocin ゼオシン
c-mycepitope c-mycエピトープ

図2
rec.α1AT supernatant 組換えα1AT上清
mock supernatant モック上清
Prolastin プロラスチン

図3
regular image 通常の画像
Prolastin プロラスチン
increased contrast(cut prolastin (high signal)) コントラスト増加(プロラスチン(高シグナル)をカット)

図4
A
Pseudoparticle entry (%) 偽粒子の侵入(%)
Compound (mg/ml) 化合物(mg/ml)
rec.α1AT Fraction 53 組み換えα1AT画分53
rec.α1AT Fraction 52 組み換えα1AT画分52
Prolastin プロラスチン
DMSO ctrl DMSO対照

B
Pseudoparticle entry (%) 偽粒子の侵入(%)
Concentration(mg/ml) 濃度(mg/mL)
Recombinant AATsample 52 組換えAAT試料52
Recombinant AATsample 53 組換えAAT試料53
Prolastin プロラスチン
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2025501746000001.xml
【国際調査報告】