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特表2025-501775SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に対して特異的な抗体及びその使用
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  • 特表-SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に対して特異的な抗体及びその使用 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-23
(54)【発明の名称】SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に対して特異的な抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/08 20060101AFI20250116BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20250116BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20250116BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250116BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20250116BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250116BHJP
   C12N 15/50 20060101ALI20250116BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20250116BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20250116BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20250116BHJP
   A61K 39/215 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20250116BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20250116BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250116BHJP
   C12N 1/15 20060101ALN20250116BHJP
【FI】
C07K16/08
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N15/50
C12N15/13
C12N15/09 Z
C07K19/00
A61K39/215
A61P31/14
A61K39/395 S
A61P43/00 121
C12N1/15 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539010
(86)(22)【出願日】2022-12-27
(85)【翻訳文提出日】2024-08-23
(86)【国際出願番号】 US2022082428
(87)【国際公開番号】W WO2023129928
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】63/266,008
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】596118493
【氏名又は名称】アカデミア シニカ
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Sec 2,Academia Road,Nankang,Taipei 11529 TW
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リン,クオ-イー
(72)【発明者】
【氏名】ウォン,チー-ヒューイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ズー-ウェン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,イー-シュアン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA43
4B065CA44
4C085AA03
4C085AA14
4C085BA71
4C085BB11
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA10
4H045DA76
4H045DA86
4H045EA29
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本開示は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に対して特異的である抗体又はその抗原結合断片に関する。本開示は、コロナウイルスによって引き起こされる疾患及び/又は障害を治療及び/又は予防することを必要とする対象においてコロナウイルスによって引き起こされる疾患及び/又は障害を治療及び/又は予防するための医薬組成物、並びに試料中のコロナウイルスを検出するための方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CoVのスパイクタンパク質中に位置するエピトープに対して特異的である抗体又はその抗原結合断片であって、前記スパイクタンパク質は、完全にグリコシル化されている、抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
CoVが、アルファ-CoV、ベータ-CoV、ガンマ-CoV、デルタ-CoV2又はオミクロン-CoVである、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
CoVが、SARS-CoV、MERS-CoV又はSARS-CoV-2である、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
CoVのスパイクタンパク質中のエピトープに対して特異的である抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)及び軽鎖可変領域のCDRを含み、
前記重鎖可変領域の前記CDRは、配列番号1若しくは6のアミノ酸配列又はそれらの実質的に類似する配列のCDRH1、配列番号2若しくは7のアミノ酸配列又はそれらの実質的に類似する配列のCDRH2、及び配列番号3若しくは8のアミノ酸配列又はそれらの実質的に類似する配列のCDRH3を含み、並びに
前記軽鎖可変領域の前記CDRは、配列番号4若しくは9のアミノ酸配列又はそれらの実質的に類似する配列のCDRL1、AAS若しくはAATのアミノ酸配列又はそれらの実質的に類似する配列のCDRL2、及び配列番号5若しくは10のアミノ酸配列又はそれらの実質的に類似する配列のCDRL3を含む、
抗体又はその抗原結合断片。
【請求項5】
CDRH1のアミノ酸配列が、配列番号1若しくはその実質的に類似する配列であり;CDRH2のアミノ酸配列が、配列番号2若しくはその実質的に類似する配列であり;CDRH3のアミノ酸配列が、配列番号3若しくはその実質的に類似する配列であり;及び
CDRL1のアミノ酸配列が、配列番号4若しくはその実質的に類似する配列であり;CDRL2のアミノ酸配列が、AAS若しくはその実質的に類似する配列であり;CDRL3のアミノ酸配列が、配列番号5若しくはその実質的に類似する配列である;
又は
CDRH1の前記アミノ酸配列が、配列番号6若しくはその実質的に類似する配列であり;CDRH2の前記アミノ酸配列が、配列番号7若しくはその実質的に類似する配列であり;CDRH3の前記アミノ酸配列が、配列番号8若しくはその実質的に類似する配列であり;及び
CDRL1の前記アミノ酸配列が、配列番号9若しくはその実質的に類似する配列であり;CDRL2の前記アミノ酸配列が、AAT若しくはその実質的に類似する配列であり;CDRL3の前記アミノ酸配列が、配列番号10若しくはその実質的に類似する配列である、請求項4に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項6】
抗体又はその抗原結合断片が、Fab断片、F(ab’)断片、ScFv断片、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ナノボディ、ヒト化抗体又はヒト抗体である、請求項4に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項7】
抗体又はその抗原結合断片が多重特異性である、請求項4に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項8】
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質又はその断片に結合された、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片を含む複合体。
【請求項9】
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質又はその断片に結合された、請求項4に記載の抗体又はその抗原結合断片を含む複合体。
【請求項10】
請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片をコードするベクター。
【請求項11】
請求項4に記載の抗体又はその抗原結合断片をコードするベクター。
【請求項12】
請求項1若しくは4に記載の抗体若しくはその抗原結合断片を発現するか、又は請求項10若しくは11に記載のベクターを含有する、遺伝子操作された細胞。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片を製造するための方法であって、(a)前記抗体又は抗原結合断片をコードする1つ以上のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入することと;(b)前記1つ以上のポリヌクレオチドの発現に有利な条件下で前記宿主細胞を培養することと;(c)任意に、前記宿主細胞及び/又は前記宿主細胞が増殖されている培地から前記抗体又は抗原結合断片を単離することとを含む、方法。
【請求項14】
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合断片又は請求項8若しくは9に記載の複合体と、医薬として許容される担体と、任意にさらなる治療剤とを含む、医薬組成物。
【請求項15】
治療剤が、抗ウイルス剤、抗炎症剤又はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質に対して特異的である抗体若しくはその抗原結合断片である、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
コロナウイルスによる感染を治療若しくは予防すること及び/又はコロナウイルスを中和することを必要とする対象においてコロナウイルスによる感染を治療若しくは予防し、及び/又はコロナウイルスを中和するのに使用するための医薬組成物であって、治療有効量の請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合断片又は請求項8若しくは9に記載の複合体と、医薬として許容される担体と、任意にさらなる治療剤とを含む、医薬組成物。
【請求項17】
さらなる治療剤が、抗ウイルス剤、抗炎症剤又はSARS-CoV-2のスパイクタンパク質に対して特異的である抗体若しくはその抗原結合断片である、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
対象がワクチン接種される、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項19】
医薬組成物が、注射に適した形態である、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項20】
試料中のコロナウイルスを検出するための方法であって、前記試料を請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片と接触させる工程を含む、方法。
【請求項21】
試料中のコロナウイルスを検出するためのキットであって、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権情報
本出願は、2021年12月27日に出願された米国仮特許出願第63/266,008号の優先権及び利益を主張し、その開示はその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、.xml形式で電子的に提出され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる配列表を含む。2022年12月26日に作成された.xmlコピーは、「A1000-01000PCT_SeqListing_20221226.xml」という名前で、サイズが12キロバイトである。
【0003】
本開示は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に対して特異的である抗体又はその抗原結合断片及びそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0004】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされるCOVID-19の感染爆発が、世界中に広まっている。この感染症は、感染した対象において直接的な細胞変性作用及び過剰な炎症反応という症候を引き起こす。有効な治療の欠如が、高い罹患率及び死亡率を引き起こす。これらの新たに同定されたウイルスの出現は、新規な抗ウイルス戦略の開発の必要性を浮き彫りにする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、COVID-19のための効果的な治療の開発が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、新規な中和治療用又は検出用抗コロナウイルススパイクタンパク質(抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質など)抗体、及びウイルス感染を治療又は予防又は検出するためのそれらの使用を提供する。
【0007】
したがって、本開示は、コロナウイルス(CoV)、特にSARS-CoV-2のスパイクタンパク質中のエピトープに対して特異的である抗体又はその抗原結合断片を提供し、特にスパイクタンパク質は完全にグリコシル化されている。したがって、本開示による抗体は、CoV、特にSARS-CoV-2によって引き起こされる又はCoV、特にSARS-CoV-2に関連する疾患及び/又は障害を治療及び/又は予防又は検出することに有用である。本開示の抗体は、CoV(特に、SARS-CoV-2)を検出することにも有用である。
【0008】
一実施形態では、本開示は、CoVのスパイクタンパク質中に位置するエピトープに対して特異的である抗体又はその抗原結合断片であって、前記スパイクタンパク質は、完全にグリコシル化されている、抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0009】
本開示のいくつかの実施形態では、本明細書に記載されているCoVは、アルファ-CoV、ベータ-CoV、ガンマ-CoV、デルタ-CoV2又はオミクロン-CoVである。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されているCoVは、SARS-CoV、MERS-CoV又はSARS-CoV-2を含むが、これらに限定されない。
【0010】
一実施形態では、本開示は、CoVのスパイクタンパク質中のエピトープに対して特異的である抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)及び軽鎖可変領域のCDRを含み、
前記重鎖可変領域のCDRは、
GYTFTDYN(配列番号1)若しくはGYTFTEYT(配列番号6)のアミノ酸配列又はそれらの実質的に類似する配列のCDRH1、VNPNNGGT(配列番号2)若しくはINPNNGGT(配列番号7)のアミノ酸配列又はそれらの実質的に類似する配列のCDRH2、及びARGKGDY(配列番号3)若しくはSRNYGYSYVYYFDN(配列番号8)のアミノ酸配列又はそれらの実質的に類似する配列のCDRH3を含み、並びに
前記軽鎖可変領域のCDRは、
ESVEYSGTSL(配列番号4)若しくはENIYSN(配列番号9)又はそれらの実質的に類似する配列のCDRL1、AAS若しくはAATのアミノ酸配列又はそれらの実質的に類似する配列のCDRL2、及びLQSRKVPYT(配列番号5)若しくはQHFWGTPT(配列番号10)のアミノ酸配列又はそれらの実質的に類似する配列のCDRL3を含む、抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0011】
いくつかの実施形態では、CDRH1のアミノ酸配列は、配列番号1又はその実質的に類似する配列であり;CDRH2のアミノ酸配列は、配列番号2又はその実質的に類似する配列であり;CDRH3のアミノ酸配列は、配列番号3又はその実質的に類似する配列であり;及び
CDRL1のアミノ酸配列は、配列番号4又はその実質的に類似する配列であり;CDRL2のアミノ酸配列は、AAS又はその実質的に類似する配列であり;CDRL3のアミノ酸配列は、配列番号5又はその実質的に類似する配列である。
【0012】
いくつかの実施形態では、CDRH1のアミノ酸配列は、配列番号6又はその実質的に類似する配列であり;CDRH2のアミノ酸配列は、配列番号7又はその実質的に類似する配列であり;CDRH3のアミノ酸配列は、配列番号8又はその実質的に類似する配列であり;及び
CDRL1のアミノ酸配列は、配列番号9又はその実質的に類似する配列であり;CDRL2のアミノ酸配列は、AAT又はその実質的に類似する配列であり;CDRL3のアミノ酸配列は、配列番号10又はその実質的に類似する配列である。
【0013】
本開示のいくつかの実施形態では、スパイクタンパク質は完全にグリコシル化されている。一実施形態では、スパイクタンパク質はモノグリコシル化されている。
【0014】
本開示のいくつかの実施形態では、エピトープは、スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)、S1領域及び/又はS2領域中に位置する。本開示のいくつかの実施形態では、配列番号1~5を含む抗体は、スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン中に位置するエピトープに対して特異的である。本開示のいくつかの実施形態では、配列番号6~10を含む抗体は、スパイクタンパク質のS2領域中に位置するエピトープに対して特異的である。
【0015】
本開示のいくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、Fab断片、F(ab’)断片、ScFv断片、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ナノボディ、ヒト化抗体又はヒト抗体である。
【0016】
本開示のいくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は多重特異性である。
【0017】
本開示のいくつかの実施形態では、抗体若しくはその抗原結合断片はFc領域を含むか、又は抗原結合断片はFc領域に融合されており、及び抗体若しくはその抗原結合断片はFc領域上にN-グリカンを有する。
【0018】
本開示はまた、CoVのスパイクタンパク質若しくはその断片に結合した本明細書に開示される抗体又はその抗原結合断片を含む複合体を提供する。
【0019】
本開示は、本明細書に開示される抗体又はその抗原結合断片をコードするベクターを提供する。
【0020】
本開示は、本明細書に開示される抗体若しくはその抗原結合断片を発現するか、又は本明細書に開示されるベクターを含有する遺伝子操作された細胞を提供する。
【0021】
本開示は、本明細書に開示されている抗体又はその抗原結合断片を製造するための方法であって、(a)前記抗体又は抗原結合断片をコードする1つ以上のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入する工程と;(b)前記1つ以上のポリヌクレオチドの発現に有利な条件下で前記宿主細胞を培養する工程と;(c)任意に、前記宿主細胞及び/又は前記宿主細胞がその中で増殖されている培地から前記抗体又は抗原結合断片を単離する工程とを含む、方法も提供する。
【0022】
本開示は、本明細書に開示されている抗体若しくはその抗原結合断片又は複合体と、医薬として許容される担体と、及び任意にさらなる治療剤とを含む医薬組成物を提供する。本開示のいくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号1~5を含む。
【0023】
本開示は、本明細書に開示されている抗体若しくはその抗原結合断片又は複合体を含む容器又は注射装置を提供する。本開示のいくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号1~5を含む。
【0024】
本開示は、コロナウイルスによる感染を治療又は予防することを必要とする対象においてコロナウイルスによる感染を治療又は予防するための方法であって、治療有効量の本明細書に開示されている抗体若しくはその抗原結合断片又は複合体を投与する工程を含む、方法を提供する。あるいは、本開示は、コロナウイルスによる感染を治療又は予防することを必要とする対象においてコロナウイルスによる感染を治療又は予防するのに使用するための医薬組成物であって、治療有効量の本明細書で使用される抗体若しくはその抗原結合断片又は複合体と、医薬として許容される担体と、任意にさらなる治療剤とを含む、医薬組成物を提供する。本開示のいくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号1~5を含む。
【0025】
本開示は、コロナウイルスを中和することを必要とする対象においてコロナウイルスを中和するための方法であって、本明細書に開示されている抗体若しくはその抗原結合断片又は複合体を対象に投与する工程を含む、方法を提供する。あるいは、本開示は、コロナウイルスを中和することを必要とする対象においてコロナウイルスを中和するのに使用するための医薬組成物であって、治療有効量の本明細書で使用される抗体若しくはその抗原結合断片又は複合体と、医薬として許容される担体と、任意にさらなる治療剤とを含む、医薬組成物を提供する。本開示のいくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号1~5を含む。
【0026】
さらなる治療剤の例は、抗ウイルス剤を含むが、これに限定されない。本開示のいくつかの実施形態では、さらなる治療剤は、抗炎症剤又はCoVのスパイクタンパク質に対して特異的である抗体若しくはその抗原結合断片である。
【0027】
本開示のいくつかの実施形態では、対象はワクチン接種される。
【0028】
本開示のいくつかの実施形態では、対象は、1つ以上のさらなる治療剤が投与される。
【0029】
本開示のいくつかの実施形態では、医薬組成物は注射に適した形態である。あるいは、本開示は、本明細書に開示されている抗体又はその抗原結合断片を対象の体内に投与するための方法であって、抗体又は抗原結合断片を対象の体内に注射する工程を含む、方法を提供する。本開示のいくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号1~5を含む。
【0030】
本開示のいくつかの実施形態では、注射は、皮下、静脈内又は筋肉内である。あるいは、抗体又は抗原結合断片は、対象の体内に皮下、静脈内又は筋肉内に注射される。
【0031】
本開示は、試料中のコロナウイルスを検出するための方法であって、試料を本明細書に開示されている抗体又はその抗原結合断片と接触させる工程を含む、方法を提供する。本開示のいくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号6~10を含む。
【0032】
本開示は、試料中のコロナウイルスを検出するためのキットであって、キットは本明細書に開示されている抗体又はその抗原結合断片を含む、キットを提供する。本開示のいくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号6~10を含む。
【0033】
本開示は、以下のセクションで詳細に説明される。本開示の他の特徴、目的及び利点は、詳細な説明及び特許請求の範囲に見出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1A図1Aは、m37A12がELISAアッセイにおいてスパイクタンパク質又はRBDに結合することができることを示す。
図1B図1Bは、バイオレイヤー干渉法によって測定された、全長スパイクタンパク質に対する全長m37A12 IgG1の結合アビディティーを示す。
図2A図2Aは、P36H3がスパイクタンパク質又はS2に結合することができることを示す。
図2B図2Bは、バイオレイヤー干渉法によって測定された、全長スパイクタンパク質への全長P36H3 IgG1の結合アビディティーを示す。
図3A図3Aは、WT及びデルタ変異型のスパイクタンパク質を発現する293T細胞へのm37A12結合能のFACS分析を示す。
図3B図3Bは、WT又は示された変異型のSARS-CoV-2シュードウイルスを中和するm37A12の能力を示す。
図4図4は、WT及びデルタ変異型のスパイクタンパク質を発現する293T細胞へのP36H3結合能のFACS分析を示す。
図5図5は、オミクロンBA.1 Sタンパク質を発現する293T細胞へのm37A12及びp36H3結合能のFACS分析を示す。
図6図6は、オミクロンBA.1 Sタンパク質シュードウイルスに対するm37A12の中和能を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、本明細書に記載されている特定の材料及び方法に限定されないことが理解される。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することを目的としており、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されたい。
【0036】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、内容が明らかに反対を指示しない限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。
【0037】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、特定の抗原(SARS-CoV-2-スパイクタンパク質)に対して特異的であるか又は特定の抗原(SARS-CoV-2-スパイクタンパク質)と相互作用する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む任意の抗原結合分子又は分子複合体を指す。「抗体」という用語は、4つのポリペプチド鎖、すなわち、ジスルフィド結合によって相互接続された2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子並びにその多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVと略される)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2及びCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVR又はVと略される)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。V及びV領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域にさらに細分することができる。各V及びVは、アミノ末端からカルボキシ末端へ以下の順序で配置された3つのCDR及び4つのFRで構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。本開示の異なる実施形態では、抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体(又はその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であり得るか、又は天然若しくは人工的に改変され得る。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの対照比較分析に基づいて定義され得る。
【0038】
本明細書で使用される場合、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などの用語は、抗原を特異的に結合して複合体を形成する任意の天然に存在する、酵素的に取得可能な、合成の、若しくは遺伝子操作されたポリペプチド又は糖タンパク質を含む。
【0039】
本明細書で使用される場合、「に特異的である」又は「に特異的に結合する」という用語は、抗体が他のエピトープと有意な程度で交差反応しないことを意味する。
【0040】
本明細書で使用される場合、「エピトープ」という用語は、抗体が結合する抗原上の部位を指す。
【0041】
本明細書で使用される場合、「相補性決定領域」(CDR)という用語は、重鎖ポリペプチド及び軽鎖ポリペプチドの両方の可変領域内に見出される不連続な抗原結合部を指す。CDRは、Kabat et al.,J.Biol.Chem.252:6609-6616(1977);Kabat et al.,U.S.Dept.of Health and Human Services,“Sequences of proteins of immunological interest”(1991);by Chothia et al.,J.Mol.Biol.196:901-917(1987);及びMacCallum et al.,J.Mol.Biol.262:732-745(1996)によって記載されており、これらの定義は、互いに対して比較された場合のアミノ酸残基の重複又はサブセットを含む。
【0042】
ポリペプチドに適用される場合、「実質的な類似性」又は「実質的に類似」という用語は、2つのペプチド配列が、デフォルトのギャップ重み付けを使用してプログラムGAP又はBESTFITなどによって最適に並置された場合に、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、同一でない残基位置は、保存的アミノ酸置換によって異なる。「保存的アミノ酸置換」は、あるアミノ酸残基が、類似の化学的特性(例えば、電荷又は疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換されているアミノ酸置換である。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させない。2つ以上のアミノ酸配列が保存的置換によって互いに異なる場合には、パーセント配列同一性又は類似性の程度は、置換の保存的性質を補正するために上方に調整され得る。この調整を行うための手段は、当業者に周知である。類似の化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸の群の例としては、(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン;(2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリン及びトレオニン;(3)アミド含有側鎖:アスパラギン及びグルタミン;(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファン;(5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン及びヒスチジン;(6)酸性側鎖:アスパラギン酸及びグルタミン酸並びに(7)硫黄含有側鎖はシステイン及びメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸置換群は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸及びアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的置き換えは、参照により本明細書に組み込まれるGonnet et al.(1992)Science 256:1443-1445に開示されているPAM250対数尤度行列において正の値を有する任意の変化である。「中程度に保存的な」置き換えは、PAM250対数尤度行列において負でない値を有する任意の変化である。
【0043】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、ハイブリドーマ技術を通じて産生される抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、任意の真核生物クローン、原核生物クローン又はファージクローンを含む単一のクローンに由来し、いずれによっても、当技術分野で利用可能又は公知なものを指す。
【0044】
本明細書で使用される「キメラ」抗体という用語は、非ヒト免疫グロブリンに由来する可変配列と、典型的にはヒト免疫グロブリン鋳型から選択されるヒト免疫グロブリン定常領域とを有する抗体を指す。
【0045】
本明細書で使用される場合、「ナノボディ」という用語は、小さな単一可変ドメイン(ラクダ科動物及びヒトコブラクダから得られた抗体のVHHを含む抗体を指す。ラマ種(ラマ・パッコス(Lama paccos)、ラマ・グラマ(Lama glama)及び(ラマ・ビクーニャ(Lama vicugna))などの新世界のメンバーを含むラクダ及びヒトコブラクダ(カメルス・バクルリアヌス(Camelus baclrianus)及びカレルス・ドロマデリウス(Calelus dromaderius))科のメンバーから得られた抗体タンパク質は、サイズ、構造の複雑さ及びヒト対象に対する抗原性に関して特徴付けられている。自然界で見出される哺乳動物のこの科からのある種のIgG抗体は軽鎖を欠いており、したがって、他の動物からの抗体における2つの重鎖及び2つの軽鎖を有する典型的な4鎖4次構造とは構造的に異なる。
【0046】
非ヒト抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小の配列を含有するキメラ免疫グロブリンである。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、可変ドメインにおいては、CDR領域の全て又は実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、FR領域の全て又は実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のFR領域である。
【0047】
本開示で使用される場合、「完全にグリコシル化された」という用語は、CoVスパイクタンパク質(特に、SARS-CoV-2-スパイクタンパク質)内の全てのN-グリカン部位が少なくとも1つの糖部分でグリコシル化されているCoVスパイクタンパク質(特に、SARS-CoV-2-スパイクタンパク質)上のグリコシル化の状態を指す。
【0048】
本開示のいくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は糖抗体である。本明細書で使用される「糖抗体」という用語は、Fc領域上に単一の一様なグリコフォームを有するモノクローナル抗体の均一な集団を指す。均一な集団中の個々の糖抗体は同一であり、同じエピトープに結合し、詳細に明らかにされたグリカン構造及び配列を有する同じFcグリカンを含有する。
【0049】
Fc領域のグリコシル化プロファイルの文脈における「均一な」という用語は互換的に使用され、1つの所望のN-グリカン種によって表され、微量の前駆体N-グリカンをほとんど又は全く含まない単一のグリコシル化パターンを意味することが意図される。ある実施形態では、微量の前駆体N-グリカンは、約2%未満である。
【0050】
本明細書で使用される場合、「グリカン」という用語は、多糖、オリゴ糖又は単糖を指す。グリカンは、糖残基のモノマー又はポリマーであり得、直鎖又は分枝鎖であり得る。グリカンは、天然の糖残基(例えば、グルコース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルノイラミン酸、ガラクトース、マンノース、フコース、ヘキソース、アラビノース、リボース、キシロースなど)及び/又は修飾された糖(例えば、2’-フルオロリボース、2’-デオキシリボース、ホスホマンノース、6’スルホN-アセチルグルコサミンなど)を含み得る。グリカンはまた、糖タンパク質、糖脂質、糖ペプチド、糖プロテオーム、ペプチドグリカン、リポ多糖又はプロテオグリカンなどの複合糖質の炭水化物部分を指すために本明細書で使用される。グリカンは、通常、単糖間のO-グリコシド結合のみからなる。例えば、セルロースは、β-1,4結合D-グルコースから構成されるグリカン(又はより具体的にはグルカン)であり、キチンは、β-1,4結合N-アセチル-D-グルコサミンから構成されるグリカンである。グリカンは、単糖残基のホモ又はヘテロポリマーであり得、直鎖又は分枝鎖であり得る。グリカンは、糖タンパク質及びプロテオグリカンにおけるようにタンパク質に付着した状態で見出され得る。グリカンは、一般に細胞の外面に見られる。O-及びN-結合型グリカンは、真核生物においては極めて一般的であるが、それより一般的ではないが、原核生物においても見出され得る。N結合型グリカンは、シークオン中のアスパラギンのR基窒素(N)に付着した状態で見出される。シークオンはAsn-X-Ser又はAsn-X-Thr配列であり、Xはプラリン(praline)を除く任意のアミノ酸である。
【0051】
本明細書で使用される場合、「N-グリカン」という用語は、Fc含有ポリペプチド中のアスパラギン残基のアミド窒素に結合されたN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)によって付着されたN結合型オリゴ糖を指す。
【0052】
本開示の1つの好ましい実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、グリコール操作されたN-グリカンを有する。抗体はFc領域を含むか、又は抗原結合断片はFc領域に融合され、抗体又はその抗原結合断片はFc領域上にN-グリカンを有する。
【0053】
本開示で使用される場合、「治療剤」という用語は、哺乳動物、例えばヒトへの投与に適している、治療効果又は薬理効果を有する任意の化合物、物質、薬物、薬物成分又は活性成分を指す。
【0054】
本明細書で使用される場合、「イムノコンジュゲート」という用語は、放射性作用物質、サイトカイン、インターフェロン、標的若しくはレポーター部分、酵素、ペプチド若しくはタンパク質又は治療剤に化学的に又は生物学的に連結された抗原結合タンパク質、例えば抗体又は抗原結合断片を指す。抗原結合タンパク質は、その標的(CoV-S)を結合することができる限り、分子に沿った任意の位置で放射性作用物質、サイトカイン、インターフェロン、標的又はレポーター部分、酵素、ペプチド又は治療剤に連結され得る。イムノコンジュゲートの例は、抗体-薬物コンジュゲート及び抗体-毒素融合タンパク質を含む。本発明の一実施形態では、作用物質は、CoV-Sに特異的に結合する第2の異なる抗体であり得る。抗CoV-S抗原結合タンパク質(例えば、抗体又は断片)にコンジュゲートされ得る治療部分の種類は、治療されるべき症状及び達成されるべき所望の治療効果を考慮に入れるであろう。
【0055】
本明細書で使用される場合、「ベクター」という用語は、その核酸分子が連結されている別の核酸を輸送することができる核酸分子を指すことが意図される。
【0056】
細胞の「遺伝子操作された」又は「遺伝子工学」という用語は、細胞における遺伝子コピー及び/又は遺伝子発現レベルの変化のために、遺伝物質を使用して遺伝子を操作することを指す。遺伝物質は、DNA又はRNAの形態であり得る。ウイルス形質導入及び非ウイルス形質移入を含む様々な手段によって、遺伝物質を細胞内に移入させることができる。遺伝子操作された後、永久的に又は一時的に、細胞中のある遺伝子の発現レベルを変化させることができる。
【0057】
「コロナウイルス」又は「CoV」という用語は、SARS-CoV-2、MERS-CoV及びSARS-CoVを含むがこれらに限定されない、コロナウイルス科の任意のウイルスを指す。SARS-CoV-2は、地球の他の地域に急速に広がっている新たに出現したコロナウイルスを指す。SARS-CoV-2は、ウイルスのスパイクタンパク質を介してヒト宿主細胞受容体アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)に結合する。スパイクタンパク質はまた、ウイルスの膜融合のためにスパイクタンパク質を活性化するTMPRSS2に結合し、TMPRSS2によって切断される。
【0058】
「S」又は「Sタンパク質」とも呼ばれる「CoV-S」という用語は、コロナウイルスのスパイクタンパク質を指し、SARS-CoV-2-S、MERS-CoV S及びSARS-CoV Sなどの特定のSタンパク質を指すことができる。
【0059】
本明細書で使用される「コロナウイルス感染」又は「CoV感染」という用語は、SARS-CoV-2、MERS-CoV又はSARS-CoVなどのコロナウイルスによる感染を指す。この用語は、しばしば下気道におけるコロナウイルス呼吸器感染症を含む。症候には、高熱、乾性咳、息切れ、肺炎、下痢などの胃腸症候、臓器不全(腎不全及び腎機能障害)、敗血症性ショック及び重篤な症例における死亡が含まれ得る。
【0060】
本発明で使用される場合、「医薬組成物」という用語は、哺乳動物が罹患する特定の疾患又は病的状態を予防し、治療し、又は排除するために哺乳動物、例えばヒトに投与される治療剤を含有する混合物を指す。
【0061】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」又は「有効量」という用語は、疾患を治療するために哺乳動物又はその他の対象に投与された場合に、疾患に対するそのような治療に影響を及ぼすのに十分である抗体の量を指す。
【0062】
本明細書で使用される場合、「治療」、「治療する」などの用語は、哺乳動物における、特にヒトにおける疾患の任意の治療を包含し、(a)疾患への素因を有し得るが、疾患を有すると未だ診断されていない対象において疾患が発生することを予防すること;(b)疾患を阻害すること、すなわち、その進展を停止させること;並びに(c)疾患を軽減すること、すなわち、疾患の退縮を引き起こすことを含む。
【0063】
「予防する」又は「予防」という用語は当技術分野で広く認められており、症状に関連して使用される場合、この用語は、作用物質を与えられていない対象と比較して、対象における医学的症状の症候の頻度若しくはその重症度を低減させるための作用物質又は対象における医学的症状の症候の開始を遅延させるための作用物質を、症状の開始より前に投与することを含む。
【0064】
本明細書で互換的に使用されるように、「個体」、「対象」、「宿主」及び「患者/患畜」という用語は、マウス(ラット、マウス)、非ヒト霊長類、ヒト、イヌ、ネコ、有蹄動物(例えば、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ)などを含むが、これらに限定されない哺乳動物を指す。特に、対象は、ワクチン接種される。
【0065】
本明細書で使用される場合、「治療を必要とする」という用語は、介護者(例えば、ヒトの場合には、医師、看護師、診療看護師又は個人;非ヒト哺乳動物を含む動物の場合には獣医)によって行われる、対象が治療を必要とする又は治療から利益を得るであろうという判断を指す。この判断は、介護者の専門知識の領域に属するが、本開示の化合物によって治療可能な症状の結果として対象が病気である、又は病気になるという知識を含む様々な要因に基づいて行われる。
【0066】
本明細書で使用される場合、「試料」という用語は、個体、対象又は患者/患畜から得られた様々な試料タイプを包含し、診断アッセイ又はモニタリングアッセイにおいて使用され得る。この定義は、生物学的起源の血液及びその他の液体試料、生検標本若しくは組織培養物又はそれらに由来する細胞及びその子孫などの固体組織試料を包含する。
【0067】
「中和」は、分子(例えば、抗体)がコロナウイルスの活性を任意の検出可能な程度まで阻害する、例えば、受容体に結合するコロナウイルスの能力、プロテアーゼによって切断されるコロナウイルスの能力、又は宿主細胞へのウイルスの侵入若しくは宿主細胞におけるウイルスの複製を媒介するコロナウイルスの能力を阻害する過程を指す。
【0068】
コロナウイルス(CoV)は、ヒト及び動物に感染し、呼吸器、腸、腎臓及び神経疾患を含む様々な疾患を引き起こす。CoVは、中和抗体の主な標的であるそのスパイク糖タンパク質(S)を使用して、その受容体を結合し、膜融合及びウイルス侵入を媒介する。コロナウイルスのスパイクタンパク質は、全てのヒトコロナウイルス(CoV)の間で高度に保存されており、受容体認識、ウイルス付着及び宿主細胞への侵入に関与している。同様に、SARS-CoV-2 Sタンパク質もCoVのSタンパク質とともに高度に保存されている。Sタンパク質が受容体に結合すると、宿主細胞膜上に位置する2型TMセリンプロテアーゼであるTMプロテアーゼセリン2(TMPRSS2)が、Sタンパク質を活性化することによって細胞へのウイルス侵入を促進する。ウイルスが細胞に入ると、ウイルスのRNAが放出され、ポリタンパク質がRNAゲノムから翻訳され、ウイルスのRNAゲノムの複製及び転写が、複製酵素-転写酵素複合体のタンパク質切断及び集合を介して起こる。ウイルスのRNAが複製され、宿主細胞中で構造タンパク質が合成され、組み立てられ、パッケージングされ、その後、ウイルス粒子が放出される(Fehr AR,Perlman S.Coronaviruses:an overview of their replication and pathogenesis.Methods Mol Biol.2015;1282:1-23)。
【0069】
SARS-CoV-2-スパイクタンパク質は、エンベロープに包まれたコロナウイルス粒子の表面上でスパイク又はペプロマー(peplomer)を構成する三量体に集合する1273アミノ酸のI型膜糖タンパク質である。このタンパク質は、宿主受容体結合及び膜融合という2つの不可欠な機能を有しており、これらの機能は、Sタンパク質のN末端(S1)及びC末端(S2)の半分によって担われる。CoV-Sは、S1サブユニット中に存在する受容体結合ドメイン(RBD)を介してその同族受容体に結合する。全長SARS-CoV-2スパイクタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号11のアミノ酸配列によって例示される。S1ドメインが受容体を結合すると、ウイルスエンベロープとその標的細胞の細胞膜の間での融合を促進するS2ドメインの立体構造の変化をもたらす。SARS-CoV-2スパイクタンパク質の変異型の例には、D614G:D614G;B.1.1.7:69~70欠失、144欠失、N501Y、A570D、D614G、P681H、T716I、S982A及びD1118H;B.1.351:L18F、D80A、D215G、242-244欠失、R246I、K417N、E484K、N501Y、D614G及びA701Vが含まれるが、これらに限定されない。「CoV-S」という用語は、異なるCoV分離株から単離されたCoVスパイクタンパク質のタンパク質変異型の他、組換えCoVスパイクタンパク質又はその断片を含む。この用語は、例えばヒスチジンタグ、マウス若しくはヒトFc、又はROR1などのシグナル配列に結合されたCoVスパイクタンパク質又はその断片も包含する。
【0070】
本開示は、CoVスパイクタンパク質(特に、SARS-CoV-2-スパイクタンパク質)中のエピトープに対して特異的である抗体又はその抗原結合断片を開発する。
【0071】
特に、CoVのスパイクタンパク質中のエピトープに対して特異的である抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域のCDR及び軽鎖可変領域のCDRを含み、重鎖可変領域のCDRは、CDRH1、CDRH2及びCDRH3領域を含み、軽鎖可変領域のCDRは、CDRL1、CDRL2及びCDRL3領域を含み、
CDRH1領域は、配列番号1のアミノ酸配列又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似する配列を含み;CDRH2領域は、配列番号2のアミノ酸配列又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似する配列を含み;CDRH3領域は、配列番号3のアミノ酸配列又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似する配列を含み;及びCDRL1領域は、配列番号4のアミノ酸配列又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似する配列を含む;CDRL2領域は、AASのアミノ酸配列を含み;CDRL3領域は、配列番号5のアミノ酸配列又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似する配列を含む。
【0072】
本開示のいくつかの実施形態では、配列番号1~5を含む抗体又はその抗原結合断片は、様々なSARS-CoV-2変異型に対して高い親和性及び保護効率を有するm31A12である。m37A12は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質のRBDドメインを認識するキメラmAbである。m37A12は、細胞ベースの結合アッセイにおいてピコモル濃度範囲のEC50値で、SARS-CoV-2武漢株(WH01)及びSARS-CoV-2のデルタ(B.1.617.2)変異型のスパイクタンパク質を認識する。シュードウイルスベースの中和アッセイにおいて、m37A12は、ピコモル濃度範囲のIC50値で、SARS-CoV-2武漢(WH01)、D614G、アルファ(B1.1.7)及びデルタ(B.1.617.2)シュードウイルスを中和する活性を有する。
【0073】
特に、CoVのスパイクタンパク質中のエピトープに対して特異的である抗体又はその抗原結合断片であって、
CDRH1領域は、配列番号6のアミノ酸配列又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似する配列を含み;CDRH2領域は、配列番号7のアミノ酸配列又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似する配列を含み;CDRH3領域は、配列番号8のアミノ酸配列又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似する配列を含み;及びCDRL1領域は、配列番号9のアミノ酸配列又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似する配列を含む;CDRL2領域は、AATのアミノ酸配列を含み;CDRL3領域は、配列番号10のアミノ酸配列又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似する配列を含む。
【0074】
本開示のいくつかの実施形態では、配列番号6~10を含む抗体又はその抗原結合断片は、P36H3である。
【0075】
本開示による抗体又はその抗原結合断片は、全長(例えば、IgG1又はIgG4抗体)であることができ、又は抗原結合部分(例えば、Fab、F(ab’)又はscFv断片)のみを含み得、必要に応じて機能性に影響を及ぼすように修飾され得る。
【0076】
本開示のいくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、別の部分、例えば、トキソイド又はコロナウイルス感染を治療するための抗ウイルス剤などの治療部分「イムノコンジュゲート」にコンジュゲートされた抗CoV-S抗原結合タンパク質、例えば抗体又は抗原結合断片とコンジュゲートされる。本発明の一実施形態では、抗CoV-S抗体又は断片は、本明細書に記載されているさらなる治療剤のいずれにもコンジュゲートされる。本開示はまた、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質又はその断片に結合された本明細書に開示される抗体又はその抗原結合断片を含む複合体を提供する。
【0077】
抗体がポリペプチド又はタンパク質内の「1つ以上のアミノ酸に特異的に結合する」か否かを決定するために、当業者に公知の様々な技術を使用することができる。例示的な技術には、例えば、Antibodies,Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harb.,N.Y.)に記載されているものなどの日常的なクロスブロッキングアッセイ、アラニンスキャニング変異分析、ペプチドブロット分析(Reineke,2004,Methods Mol Biol 248:443-463)及びペプチド切断分析が含まれる。さらに、エピトープ切除、エピトープ抽出及び抗原の化学修飾などの方法を使用することができる(Tomer,2000,Protein Science 9:487-496)。抗体が特異的に結合する、ポリペプチド内のアミノ酸を同定するために使用することができる別の方法は、質量分析によって検出される水素/重水素交換である。一般的に言えば、水素/重水素交換法は、目的のタンパク質を重水素標識し、続いて抗体を重水素標識されたタンパク質に結合させることを含む。次に、タンパク質/抗体複合体を水に移して、抗体によって保護された残基(重水素標識されたままである)を除く全ての残基で水素-重水素交換を生じさせる。抗体の解離後、標的タンパク質をプロテアーゼ切断及び質量分析に供し、それにより、抗体が相互作用する特定のアミノ酸に対応する重水素標識された残基を明らかにする。例えば、Ehring(1999)Analytical Biochemistry 267(2):252-259;Engen and Smith(2001)Anal.Chem.73:256A-265Aを参照されたい。
【0078】
当技術分野で公知の日常的な方法を使用することによって、抗体が参照抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体と同じエピトープに特異的に結合するか、又は参照抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体と結合について競合するか否かを容易に決定することができる。例えば、試験抗体が本開示の参照抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体と同じエピトープに結合するか否かを決定するために、参照抗体をSARS-CoV-2-スパイクタンパク質に結合させる。次に、試験抗体がSARS-CoV-2-スパイクタンパク質分子に結合する能力を評価する。試験抗体が、参照抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体による飽和結合後にSARS-CoV-2-スパイクタンパク質に結合することができれば、試験抗体は、参照抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体とは異なるエピトープに結合すると結論付けることができる。他方、試験抗体が、参照抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体による飽和結合後にSARS-CoV-2-スパイクタンパク質分子に結合することができなければ、試験抗体は、本開示の参照抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体によって結合されるエピトープと同じエピトープに結合し得る。試験抗体の結合の観察された欠如が実際に参照抗体と同じエピトープへの結合によるものであるか否か、又は立体的な封鎖(又は別の現象)が観察された結合の欠如の原因であるか否かを確認するために、次いで、さらなる日常的な実験(例えば、ペプチド変異及び結合分析)を行うことができる。この種の実験は、ELISA、RIA、Biacore、フローサイトメトリー又は当技術分野で利用可能な任意の他の定量的若しくは定性的抗体結合アッセイを使用して行うことができる。本開示のある実施形態によれば、例えば、競合結合アッセイで測定された場合に、1倍、5倍、10倍、20倍又は100倍過剰の一方の抗体が、他方の抗体の結合を少なくとも50%、但し、好ましくは75%、90%又はさらには99%阻害すれば、2つの抗体は同じ(又は重複する)エピトープに結合する。あるいは、一方の抗体の結合を低減又は排除する、抗原中の本質的に全てのアミノ酸変異が他方の抗体の結合を低減又は排除すれば、2つの抗体は、同じエピトープに結合すると考えられる。一方の抗体の結合を低減又は排除するアミノ酸変異の一部のみが他方の抗体の結合を低減又は排除すれば、2つの抗体は「重複するエピトープ」を有すると考えられる。
【0079】
抗体は、完全な抗体分子の抗原結合断片も含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、タンパク質分解消化又は抗体可変ドメイン及び任意に定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を伴う組換え遺伝子工学技術などの任意の適切な標準的技術を使用して、完全な抗体分子から誘導され得る。このようなDNAは公知であり、及び/又は例えば商業的供給源、DNAライブラリー(例えばファージー抗体ライブラリーを含む)から容易に入手可能であるか、又は合成することができる。例えば、1つ以上の可変ドメイン及び/又は定常ドメインを適切な構成に配置するために、又はコドンを導入し、システイン残基を作製し、アミノ酸を修飾、付加若しくは欠失させるなどのために、化学的に又は分子生物学技術を使用することによって、DNAを配列決定し、操作し得る。
【0080】
抗原結合断片の非限定的な例には、(i)Fab断片;(ii)F(ab’)断片;(iii)Fd断片;(iv)Fv断片;(v)一本鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAb断片;及び(vii)抗体の超可変領域(例えば、CDR3ペプチドなどの単離された相補性決定領域(CDR))又は拘束されたFR3-CDR3-FR4ペプチドを模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位が含まれる。ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDRをグラフトした抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小型モジュラー免疫医薬品(SMIP)及びサメ可変IgNARドメインなどのその他の操作された分子も、本明細書で使用される「抗原結合断片」という表現によって包含される。
【0081】
抗体の抗原結合断片は、典型的には、少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインは、任意のサイズ又はアミノ酸組成のものであり得、一般に、1つ以上のフレームワーク配列に隣接するか又は1つ以上のフレームワーク配列とインフレームである少なくとも1つのCDRを含む。Vドメインと会合したVドメインを有する抗原結合断片では、Vドメイン及びVドメインは、任意の適切な配置で互いに対して位置し得る。例えば、可変領域は二量体であり得、V-V、V-V又はV-V二量体を含有し得る。あるいは、抗体の抗原結合断片は、単量体のV又はVドメインを含有し得る。
【0082】
ある実施形態では、抗体の抗原結合断片は、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合された少なくとも1つの可変ドメインを含有し得る。本開示の抗体の抗原結合断片内に見出され得る可変ドメイン及び定常ドメインの非限定的な例示的構成には、(i)V-CH1;(ii)V-CH2;(iii)V-CH3;(iv)V-CH1-CH2;(v)V-CH1-CH2-CH3、(vi)V-CH2-CH3;(vii)V-C;(viii)V-CH1;(ix)V-CH2;(x)V-CH3;(xi)V-CH1-CH2;(xii)V-CH1-CH2-CH3;(xiii)V-CH2-CH3;及び(xiv)V-Cが含まれる。本明細書に列挙されている例示的な構成のいずれかを含む、可変ドメイン及び定常ドメインの任意の構成において、可変ドメイン及び定常ドメインは、互いに直接連結され得、又は完全な若しくは部分的なヒンジ若しくはリンカー領域によって連結され得る。ヒンジ領域は、単一のポリペプチド分子内の隣接する可変ドメイン及び/又は定常ドメイン間に柔軟な又は半柔軟な連結をもたらす少なくとも2つ(例えば、5、10、15、20、40、60又はそれより多く)のアミノ酸からなり得る。さらに、本開示の抗体の抗原結合断片は、(例えば、ジスルフィド結合によって)互いと及び/又は1つ以上の単量体のV若しくはVドメインと非共有結合で会合した、上に列挙されている可変ドメイン及び定常ドメイン構成のいずれかのホモ二量体又はヘテロ二量体(又は他の多量体)を含み得る。
【0083】
本明細書に開示される抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体は、抗体が由来する対応する生殖系列配列と比較して、重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインのフレームワーク及び/又はCDR領域に1つ以上のアミノ酸置換、挿入及び/又は欠失を含み得る。このような変異は、本明細書に開示されているアミノ酸配列を、例えば公開されている抗体配列データベースから入手可能な生殖系列配列と比較することによって容易に確認することができる。本開示は、本明細書に開示されているアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体及びその抗原結合断片であって、1つ以上のフレームワーク及び/又はCDR領域内の1つ以上のアミノ酸が、その抗体が由来する生殖系列配列の対応する残基に、又は別の哺乳動物の生殖系列配列の対応する残基に、又は対応する生殖系列残基の保存的アミノ酸置換に変異されている(このような配列変化は、本明細書において、「生殖系列変異」と総称される。)、抗体及びその抗原結合断片を含む。当業者は、本明細書に開示されている重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列から出発して、1つ以上の個々の生殖系列変異又はそれらの組み合わせを含む多数の抗体及び抗原結合断片を容易に生産することができる。ある実施形態では、V及び/又はVドメイン内のフレームワーク及び/又はCDR残基の全てが、その抗体が由来した元の生殖系列配列中に見い出される残基に戻るように変異される。他の実施形態では、ある残基のみ、例えばFR1の最初の8アミノ酸内若しくはFR4の最後の8アミノ酸内に見い出される変異した残基のみ、又はCDR1、CDR2若しくはCDR3内に見い出される変異した残基のみが元の生殖系列配列に戻るように変異される。他の実施形態では、フレームワーク及び/又はCDR残基の1つ以上が、異なる生殖系列配列(すなわち、その抗体が元々由来した生殖系列配列とは異なる生殖系列配列)の対応する残基に変異されている。さらに、本開示の抗体は、フレームワーク及び/又はCDR領域内に2つ以上の生殖系列変異の任意の組み合わせを含有し得、例えば、ある個々の残基は、特定の生殖系列配列の対応する残基に変異されているのに対して、元の生殖系列配列とは異なるある他の残基は、維持されているか、又は異なる生殖系列配列の対応する残基に変異されている。一旦得られると、1つ以上の生殖系列変異を含有する抗体及び抗原結合断片は、1つ以上の所望の特性、例えば、改善された結合特異性、増加した結合親和性、(場合に応じて)改善された又は増強された拮抗性又は作動性生物学的特性、低下した免疫原性などについて容易に試験され得る。この一般的な様式で得られる抗体及び抗原結合断片は、本開示によって包含される。
【0084】
本開示は、1つ以上の保存的置換を有する本明細書に開示されているV、V及び/又はCDRアミノ酸配列のいずれかの変異型を含む抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体も含む。例えば、本開示は、本明細書に開示されているV、V及び/又はCDRアミノ酸配列のいずれかと比較して、例えば10個以下、8個以下、6個以下、4個以下などの保存的アミノ酸置換を有するV、V及び/又はCDRアミノ酸配列を有する抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体を含む。
【0085】
本開示のいくつかの実施形態では、本開示による抗体又はその抗原結合断片はヒト化抗体である。本開示によるヒト化抗体の結合親和性を改善するために、ヒトフレームワーク領域中のいくつかのアミノ酸残基が、CDRの種、例えば、げっ歯類中の対応するアミノ酸残基によって置き換えられる。
【0086】
本開示の抗体又はその抗原結合断片は、単一特異性、二重特異性又は多重特異性であり得る。多重特異性抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに対して特異的であり得るか、又は1つより多くの標的ポリペプチドに対して特異的な抗原結合ドメインを含有し得る。本開示の抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体は、別の機能性分子、例えば別のペプチド又はタンパク質に連結され得るか、又はそれと同時発現され得る。例えば、抗体又はその断片は、別の抗体又は抗体断片などの1つ以上の他の分子実体に(例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合的会合又はその他によって)機能的に連結されて、第2の結合特異性を有する二重特異性又は多重特異性抗体を生成することができる。例えば、本開示は、免疫グロブリンの一方のアームがSARS-CoV-2-スパイクタンパク質又はその断片に対して特異的であり、免疫グロブリンの他方のアームが第2の治療標的に対して特異的であるか、又は治療部分にコンジュゲートされている二重特異性抗体を含む。
【0087】
別の態様では、本開示は、抗体若しくはその抗原結合断片を発現するか、又はベクターを含有する遺伝子操作された細胞を提供する。遺伝子操作された細胞は、免疫細胞であり得る。
【0088】
本開示の1つの好ましい実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、原核生物及び真核生物の発現系を含む任意の数の発現系を使用して生産され得る。いくつかの態様では、発現系は、ハイブリドーマなどの哺乳動物細胞発現、又はCHO細胞発現系である。多くのこのような系が、商業的供給業者から広く入手可能である。抗体がV及びV領域の両方を含む実施形態では、V及びV領域は、単一のベクターを使用して、例えば2シストロン性発現単位で、又は異なるプロモーターの制御下で発現され得る。他の実施形態では、V及びV領域は、別個のベクターを使用して発現され得る。本明細書に記載されているV又はV領域は、任意に、N末端にメチオニンを含み得る。
【0089】
目的の抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子は、細胞からクローニングすることができ、例えば、モノクローナル抗体をコードする遺伝子は、ハイブリドーマからクローニングされ、組換えモノクローナル抗体を生産するために使用され得る。モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子ライブラリーは、ハイブリドーマ又は形質細胞から作製することもできる。重鎖及び軽鎖遺伝子産物のランダムな組み合わせは、異なる抗原特異性を有する抗体の大きなプールを生成する(例えば、Kuby,Immunology(3rd ed.1997)を参照のこと。)。
【0090】
抗体又は抗原結合断片を製造するための方法の例は、(a)前記抗体又は抗原結合断片をコードする1つ以上のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入する工程と;(b)前記1つ以上のポリヌクレオチドの発現に有利な条件下で前記宿主細胞を培養する工程と;(c)任意に、前記宿主細胞及び/又は前記宿主細胞がその中で増殖されている培地から前記抗体又は抗原結合断片を単離する工程とを含む。
【0091】
本発明の抗体又は抗原結合断片をコードするポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するために、ベクターを使用することができる。一実施形態では、ベクターの1つの種類は「プラスミド」であり、その中に追加のDNAセグメントが連結され得る環状二本鎖DNAループを指す。ベクターの別の種類は、追加のDNAセグメントがウイルスゲノム中に連結され得るウイルスベクターである。ある種のベクターは、その中にベクターが導入される宿主細胞において自律複製することができる(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクター及びエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞中に導入されると宿主細胞のゲノムに組み込まれることができ、それによって宿主ゲノムとともに複製される。さらに、ある種のベクターは、ベクターが作動可能に連結されている遺伝子の発現を指示することができる。このようなベクターは、本明細書では「組換え発現ベクター」(又は単に「発現ベクター」)と呼ばれる。一般に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターは、しばしば、プラスミドの形態である。プラスミドがベクターの最も一般的に使用される形態であるので、本明細書では、「プラスミド」及び「ベクター」は、交換可能に使用され得る。しかしながら、本発明は、同等の機能を果たす、ウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス)などの他の形態の発現ベクターを含むことを意図している。
【0092】
本開示は、抗体若しくはその抗原結合断片又は複合体を含む医薬組成物を提供する。本開示の医薬組成物は、適切な希釈剤、担体、賦形剤及び改善された移入、送達、耐容性などを提供する他の因子とともに製剤化される。組成物は、獣医学的使用又はヒトにおける医薬的使用などの特定の使用のために製剤化され得る。組成物の形態並びに使用される賦形剤、希釈剤及び/又は担体は、抗体の意図される用途及び、治療用途の場合には投与の様式に依存する。多数の適切な製剤は、全ての製薬化学者に知られている処方集:Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,Paに見出すことができる。これらの製剤には、例えば、散剤、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、脂質、脂質(カチオン性又はアニオン性)含有小胞(LIPOFECTIN(商標)、Life Technologies、Carlsbad、Calif.など)、DNAコンジュゲート、無水吸収ペースト、水中油型及び油中水型エマルジョン、エマルジョンカルボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル及びカルボワックスを含有する半固体混合物が含まれる。Powell et al.“Compendium of excipients for parenteral formulations” PDA(1998)J Pharm Sci Technol 52:238-311も参照されたい。
【0093】
本開示のいくつかの実施形態では、医薬組成物は、抗ウイルス剤などのさらなる治療剤を含む。抗ウイルス剤は、SARS-CoV-2のSタンパク質に対する抗体;抗炎症剤;SARS-CoV-2のSタンパク質のNTD領域に対する抗体;SARS-CoV-2のSタンパク質のHR1領域に対する抗体;SARS-CoV-2のSタンパク質のRBD領域に対する抗体;SARS-CoVモノクローナル抗体;MERS-CoVモノクローナル抗体;SARS-CoV-2モノクローナル抗体;ペプチド;プロテアーゼ阻害剤;PIKfyve阻害剤;TMPRSS2阻害剤;及びカテプシン阻害剤;フューリン阻害剤;抗ウイルスペプチド;抗ウイルスタンパク質;抗ウイルス化学化合物であり得る。例えば、抗ウイルス剤は、1A9;201;311mab-31B5;311mab-32D4;47D11;4A8;4C2;80R;アピリモド;B38;メシル酸カモスタット;カシリビマブ;CR3014;CR3022;D12;E-64D;EK1;EK1C4;H4;HR2P;IBP02;イムデビマブ;m336;MERS-27;MERS-4;MI-701;n3088;n3130;P2B-2F6;P2C-1F11;PI8;S230;S309;SARS-CoV-2 S HR2P断片(aal 168~1203);テトランドリン;ビラセプト(メシル酸ネルフィナビル);YM201636;a-1-PDX;ファビピラビル;IFN-a;IFN-alb;IFN-a2a;ロピナビル-リトナビル;Q-グリフィシン(Q-GRFT);及びグリフィシン;オセルタミビル;ザナミビル;アバカビル;ジドブジン;ザルシタビン;ジダノシン;スタブジン;エファビレンツ;インジナビル;リトナビル;ネルフィナビル;アンプレナビル;リバビリン;レムデシビル;クロロキン;ヒドロキシクロロキン;rIFN-α-2a;rIFN-β-lb;rIFN-γ;nIFN-α;nIFN-β;nlFN-γ;IL-2;PD-L1;抗PD-L1;チェックポイント阻害剤;インターフェロン;インターフェロン混合物;組換え又は天然のインターフェロン;アルフェロン;α-インターフェロン種;組換え又は天然のインターフェロンα;組換え又は天然のインターフェロンα2a;組換え又は天然のインターフェロンβ;組換え又は天然のインターフェロンβlb;及び組換え又は天然のインターフェロンγからなる群から選択される少なくとも1つであり得る。アルファ-インターフェロン種は、ヒト白血球によって産生されるα-インターフェロンの少なくとも7つの種の混合物であり得、7つの種は、インターフェロンα2;インターフェロンα4;インターフェロンα7;インターフェロンα8;インターフェロンα10;インターフェロンα16;及びインターフェロンα17である。
【0094】
患者/患畜に投与される抗体の用量は、患者/患畜の年齢及びサイズ、標的疾患、症状、投与経路などに応じて変化し得る。好ましい用量は、典型的には、体重又は体表面積に従って計算される。成人患者/成体患畜におけるSARS-CoV-2に関連する症状又は疾患を治療するために本開示の抗体が使用される場合、本開示の抗体を静脈内投与することが有利であり得る。症状の重症度に応じて、治療の頻度及び期間を調整することができる。抗体を投与するための効果的な投与量及びスケジュールは、経験的に決定され得、例えば、定期的な評価によって患者/患畜の進行を監視し、それに応じて用量を調整することができる。さらに、当技術分野で周知の方法を使用して、投与量の種間増加減少を行うことができる(例えば、Mordenti et al.,1991,Pharmaceut.Res.8:1351)。
【0095】
例えば、リポソーム中への封入、微粒子、マイクロカプセル、変異体ウイルスを発現することができる組換え細胞、受容体媒介性エンドサイトーシスなど、様々な送達系が公知であり、本開示の医薬組成物を投与するために使用することができる(例えば、Wu et al.,1987,J.Biol.Chem.262:4429-4432を参照)。導入の方法には、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外及び経口経路が含まれるが、これらに限定されない。組成物は、任意の都合のよい経路によって、例えば注入又はボーラス注射によって、上皮又は皮膚粘膜内層(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸粘膜など)を介した吸収によって投与され得、他の生物学的に活性な因子と一緒に投与され得る。投与は、全身的又は局所的であり得る。
【0096】
本開示の医薬組成物は、標準的な針及び注射器などの容器又は注射装置を用いて皮下又は静脈内に送達することができる。さらに、皮下送達に関して、ペン送達装置は、本開示の医薬組成物を送達する上での用途を容易に有する。このようなペン送達装置は、再使用可能又は使い捨て可能であり得る。再使用可能なペン送達装置は、一般に、医薬組成物を含有する交換可能なカートリッジを利用する。カートリッジ内の医薬組成物の全てが投与され、カートリッジが空になったら、直ちに空のカートリッジを廃棄し、医薬組成物を含有する新しいカートリッジと交換することができる。次いで、ペン送達装置を再使用することができる。使い捨て可能なペン送達装置では、交換可能なカートリッジは存在しない。むしろ、使い捨て可能なペン送達装置は、装置内のリザーバ中に保持された医薬組成物が予め充填された状態で供給される。リザーバに医薬組成物がなくなったら、装置全体が廃棄される。
【0097】
特定の状況では、医薬組成物は、徐放系で送達され得る。一実施形態では、ポンプが使用され得る(Langer、前出;Sefton,1987,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201を参照)。別の実施形態では、ポリマー材料を使用することができる。Medical Applications of Controlled Release,Langer and Wise(eds.),1974,CRC Pres.Boca Raton,Flaを参照されたい。さらに別の実施形態では、徐放系を組成物の標的の近くに配置することができ、これにより、全身用量のごく一部のみが必要となる(例えば、Goodson,1984,in Medical Applications of Controlled Release,上記,vol.2,pp.115-138を参照)。他の徐放系は、Langer,1990,Science 249:1527-1533による総説で論述されている。
【0098】
注射用調製物としては、静脈内、皮下、皮内及び筋肉内注射、点滴注入などのための剤形が挙げられ得る。これらの注射用調製物は、公知の方法により調製され得る。例えば、注射可能な調製物は、例えば、本明細書中に記載されている抗体又はその塩を、注射のために通常使用される無菌の水性媒体又は油性媒体中に溶解し、懸濁し、又は乳化することによって調製され得る。注射用水性媒体としては、例えば、生理食塩水、アルコール(例えば、エタノール)、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(硬化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加物)]などの適切な可溶化剤と組み合わせて使用され得る、グルコース及びその他の助剤などを含有する等張溶液が存在する。油性媒体としては、例えば、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどの可溶化剤と組み合わせて使用され得るゴマ油、大豆油などが使用されている。このようにして調製された注射剤は、好ましくは、適切なアンプルに充填される。
【0099】
有利には、上記の経口又は非経口使用のための医薬組成物は、活性成分の用量に合うように適合された単位用量の剤形に調製される。単位用量のこのような剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤などが挙げられる。
【0100】
本開示は、コロナウイルスによる感染を治療又は予防することを必要とする対象においてコロナウイルスによる感染を治療又は予防するための方法であって、治療有効量の本明細書に開示されている抗体若しくはその抗原結合断片又は複合体を投与する工程を含む、方法を提供する。あるいは、本開示は、コロナウイルスによる感染を治療又は予防することを必要とする対象においてコロナウイルスによる感染を治療又は予防するのに使用するための医薬組成物であって、治療有効量の本明細書で使用される抗体若しくはその抗原結合断片又は複合体と、医薬として許容される担体と、任意にさらなる治療剤とを含む、医薬組成物を提供する。
【0101】
本開示は、コロナウイルスを中和することを必要とする対象においてコロナウイルスを中和するための方法であって、本明細書に開示されている抗体若しくはその抗原結合断片又は複合体を対象に投与する工程を含む、方法を提供する。あるいは、本開示は、コロナウイルスを中和することを必要とする対象においてコロナウイルスを中和するのに使用するための医薬組成物であって、治療有効量の本明細書で使用される抗体若しくはその抗原結合断片又は複合体と、医薬として許容される担体と、任意にさらなる治療剤とを含む、医薬組成物を提供する。
【0102】
本開示は、試料中のコロナウイルスを検出するためのキットであって、キットは抗体又はその抗原結合断片を含む、キットを提供する。
【0103】
本開示の抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体はまた、例えば診断目的のために、試料中のコロナウイルス又はSARS-CoV-2-スパイクタンパク質発現細胞を検出及び/又は測定するために使用され得る。例えば、抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体又はその断片は、コロナウイルス感染を特徴とする症状又は疾患を診断するために使用され得る。コロナウイルスのための例示的な診断アッセイは、例えば、患者/患畜から得られた試料を本開示の抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体と接触させることを含み得、抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体は、検出可能な標識又はレポーター分子で標識されている。あるいは、標識されていない抗SARS-CoV-2-スパイクタンパク質抗体を、それ自体が検出可能に標識されている二次抗体と組み合わせて診断用途において使用することができる。検出可能な標識又はレポーター分子は、H、14C、32P、35S又は125Iなどの放射性同位体;フルオレセインイソチオシアネート若しくはローダミンなどの蛍光又は化学発光部分;又はアルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ若しくはルシフェラーゼなどの酵素であり得る。試料中のコロナウイルスを検出又は測定するために使用され得る具体的な例示的アッセイとしては、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)及び蛍光活性化細胞選別(FACS)が挙げられる。
【0104】
以下の実施例は、当業者が本開示を実施するのを補助するために提供される。
【実施例
【0105】
材料及び方法
スパイク特異的B細胞のFACS分析及び選別。Smg免疫化マウスから単離された脾細胞を2μg/mlのSタンパク質とともに4℃で1時間インキュベートした後、洗浄し、CD19(クローン:6D5、PE-Cy7コンジュゲート、BIOLEGEND(商標))、CD3(クローン:17A2、PEコンジュゲート、BIOLEGEND(商標))及びHis(クローン:J095G46、APCコンジュゲート、BIOLEGEND(商標))に対する抗体カクテルとともに4℃で15分間インキュベートした。ヨウ化プロピジウム(BIOLEGENDTM)を使用して死細胞を除外した。BD FACSAria IIによって、10μl/ウェルのキャッチ緩衝液(10mM Tris-HCl、pH8、amd 5U/μlのRNasin(PROMEGA(商標))を含有する96ウェルPCRプレート(APPLIED BIOSYSTEMS(商標))中に生きた単一のスパイク特異的B細胞(CD3CD19)を選別した。レパートリー分析のために、Smg又はSfg免疫化マウス由来の5つの脾臓をプールし、選別前に染色した。
【0106】
単一B細胞スクリーニング。以前の刊行物に基づいて、プライマーを設計した。次いで、50℃で30分間、95℃で15分間、続いて94℃で30秒間、50℃で30秒間、72℃で1分間の40サイクル及び72℃で10分間の最終インキュベーションで反応を行った。1μlの未精製の第1ラウンドPCR産物とともにKOD One PCRマスターミックス(TOYOBO(商標))を使用して、98℃で2分間、続いて98℃で10秒間、55℃で10秒間、68℃で10秒間の45サイクル及び68℃で1分間の最終インキュベーションで、半ネステッド第2ラウンドPCRを行った。次いで、PCR産物を1.5%アガロースゲルで分析し、配列決定した。IMGTウェブサイト(http://imgt.org/IMGT_vquest/input)で検索することによって、IgV及びL遺伝子を同定した。次いで、ヒトIgH又はIgL発現骨格を含有するベクターにクローニングするための制限部位を含有する単一遺伝子特異的なV及びL遺伝子プライマーを用いて、第2ラウンドのPCR産物から遺伝子を増幅した。抗体産生のために、キメラIgH及びIgL発現構築物をExpi293に同時形質移入した。
【0107】
Sタンパク質を発現する293T表面との抗体の結合。293T細胞をpcDNA6/スパイク-P2A-eGFPで形質移入した。10μg/mlのブラストサイジン下で2~3週間、形質移入された細胞を選択した。次いで、選択された細胞をFACSAria IIによって選別して、eGFP発現細胞を得た。10% FBS及び10μg/mlのブラストサイジンを含有するDMEM中でこれらの細胞を維持した。段階希釈された抗体とともに、2~3×10個の細胞をFACS緩衝液中、氷上で1時間インキュベートした。次いで、FACS緩衝液で細胞を3回洗浄した後、氷上で20分間、BV421マウス抗ヒトIgG(BD BIOSCIENCES(商標)、562581、1:100)で染色し、FACS緩衝液で2回洗浄した。FACS Canto IIを用いて陽性細胞のパーセンテージを定量し、FlowJoでデータを分析した。ここで使用されたSタンパク質変異型は、WH01スパイク:元のSタンパク質;D614G:D614G;B.1.1.7:69~70欠失、144欠失、N501Y、A570D、D614G、P681H、T716I、S982A及びD1118H;B.1.351:L18F、D80A、D215G、242~244欠失、R246I、K417N、E484K、N501Y、D614G、A701V及びオミクロンBA.1である。
【0108】
Octet(バイオレイヤー干渉法)を用いた親和性及びアビディティーの決定。製造者の説明書に従ってPierce Fab Micro Preparation Kit(THERMOFISHER SCIENTIFIC(商標))を使用することによって、Fab断片を調製した。簡潔には、固定化されたパパイン樹脂とともに37℃で8時間インキュベートすることによって、m31A7 IgG(250μg)を消化した。次いで、FabをプロテインAカラムによって精製した。10又は6.7μg/mlの速度論緩衝液(PBS中0.01%エンドトキシン非含有BSA、0.002% Tween-20、0.005% NaN)で、それぞれProtein G又はFAB2Gバイオセンサー(Molecular Devices、FORTEBIO(商標))上に、精製したm31A7 IgG又はFab断片をロードした。IgG又はFabの両方によるSタンパク質(SARS-CoV-2 WH01)の会合及び解離を、それぞれ5分間及び15分間、指示された濃度で、速度論緩衝液中で行った。1:1グローバルフィットモデル(OCTET(商標))を使用して、K値を計算した。
【0109】
モノ-GlcNAc-IgGの調製。293S細胞において生成された1mgのIgG(例えば、m37A12又はP36H3)を、リン酸ナトリウム緩衝液(20 mM、pH7.4、0.5mL)中で、Endo H(5000単位)とともに室温で16時間インキュベートした。SDS-PAGEによって、重鎖上のN-グリカンの完全な切断を確認した。プロテインAアフィニティーカラムで、モノ-GlcNAc-IgGを精製した。モノ-GlcNAc-IgGを含有する画分を合わせ、遠心濾過(Amicon Ultra遠心分離フィルタ、MILLIPORE(商標))によって濃縮した。
【0110】
グリカンオキサゾリンによるモノ-GlcNAc IgGの糖転移。以前に記載されたように(Lo,H.J.et al.J Am Chem Soc 141,6484-6488)、20mMトリス緩衝液(pH7.4)中の100pgのEndoS D233Q及び1mgのモノ-GlcNAc IgGの混合物を、1mgのFSCT-オキサゾリンに添加した。溶液を37℃で60分間インキュベートした。次いで、反応混合物をプロテインAアフィニティーカラムで精製した。
【0111】
結果:
本発明者らは、本実施例において、SARS-CoV-2のモノグリコシル化された状態(Smg)で免疫化されたマウスからスパイク特異的モノクローナル抗体を単離した。Smg免疫化マウスからのSタンパク質特異的B細胞の選別は、IGHV1-18増幅クローンからの2つのモノクローナル抗体(mAb)m37A12及びP36H3の同定をもたらした。このm37A12 mAbは、野生型(WT)全長Sタンパク質、S1及びRBDと相互作用する(図1A)。Sタンパク質のEC50(M)は5.084×10-11であり、RBDのEC50(M)は8.000×10-11である。本発明者らのバイオレイヤー干渉法(BLI)分析は、全長WT スパイクタンパク質に対するm31A7のKDが4.2×10-10Mであるようであることを示した(図1B)。P36H3は、WTスパイクタンパク質のS2ドメインに結合する(図2A)。Sタンパク質のEC50(M)は1.622×10-10であり、S2のEC50(M)は2.316×10-11である。BLI分析は、全長WTスパイクタンパク質に対するP36H3のKDが7.02×10-12Mであることを示した(図2B)。さらに、FACS分析は、m37A12が、10-11MレベルのEC50で、WH01(WT)及びデルタスパイクタンパク質を発現するHEK293T細胞の両方に結合することを示す(図3A)。WH01のEC50(M)は2.469×10-10であり、デルタのEC50(M)は2.042×10-11である。重要なことに、m37A12は、様々なシュードウイルス変異型、(WT、D614G及びデルタ)をサブピコモル濃度レベルのIC50で中和することが示された(図3B)。WH01のIC50(M)は8.788×10-11であり;アルファのIC50(M)は6.764×10-11であり;ベータのIC50(M)は2.557×10-9であり;ガンマのIC50(M)は2.424×10-9であり;デルタのIC50(M)は1.504×10-10である。他方で、FACS分析は、P36H3が、10-10MレベルのEC50で、WH01(WT)及びデルタスパイクタンパク質を発現するHEK293T細胞の両方に結合することを示した(図4)。WH01のEC50(M)は2.227×10-10であり、デルタのEC50(M)は3.737×10-10である。FACS分析は、m37A12及びp36H3が、7.734×10-9M(m37A12)又は5.213×10-9M(p36H3)のEC50で、オミクロンBA.1スパイクタンパク質を発現するHEK293T細胞に結合することを示す(図5)。さらに、m37A12は、5.993×10-8のIC50で、シュードウイルスオミクロンBA.1変異型を中和することが示された(図6)。
【0112】
本開示を記載された特定の実施形態と併せて説明してきたが、それに対する多くの代替及び改変及びその変形が当業者には明らかであろう。そのような代替、改変及び変形は全て、本開示の範囲内に属するものとみなされる。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
【配列表】
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【国際調査報告】