(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】ジルコニウム合金被覆管の製造方法
(51)【国際特許分類】
G21C 3/06 20060101AFI20250117BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20250117BHJP
C23C 14/16 20060101ALI20250117BHJP
C23C 14/32 20060101ALI20250117BHJP
G21C 3/07 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
G21C3/06 210
C23C14/14 D
C23C14/16 Z
C23C14/32 Z
G21C3/06 310
G21C3/07 100
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024512090
(86)(22)【出願日】2023-12-05
(85)【翻訳文提出日】2024-02-22
(86)【国際出願番号】 KR2023019839
(87)【国際公開番号】W WO2024128664
(87)【国際公開日】2024-06-20
(31)【優先権主張番号】10-2022-0172911
(32)【優先日】2022-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597060645
【氏名又は名称】コリア アトミック エナジー リサーチ インスティテュート
【氏名又は名称原語表記】KOREA ATOMIC ENERGY RESEARCH INSTITUTE
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョン・ギル
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン・ウン
(72)【発明者】
【氏名】キム,デ・ホ
(72)【発明者】
【氏名】ホン,ジョンデ
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA27
4K029BA07
4K029BA21
4K029BC01
4K029CA03
4K029CA13
4K029DA08
4K029DB03
4K029DB04
4K029DD06
4K029FA05
4K029FA06
(57)【要約】
一実施例は、アークイオンプレーティング(AIP)を用いた金属コーティング膜蒸着工程中に発生する工程熱によってジルコニウム合金母材の微細組織の変化を抑制して、コーティング層と母材との間の接着力を向上させ、緻密なコーティング層の積層が可能でかつ、母材の性能変化がないジルコニウム合金被覆管を製造する方法を提供する。一実施例によるジルコニウム合金被覆管の製造方法は、ジルコニウム合金材質の被覆管を準備する被覆管準備段階と、ターゲット準備段階と、真空加熱段階と、エッチング段階と、コーティング段階とを含み、ターゲット条件と予熱条件、電流条件、そして電圧条件を調節して、被覆管の表面でジルコニウム合金の再結晶の発生を防止するように微細組織の変化を調節する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム合金材質の被覆管を準備する被覆管準備段階と、
前記被覆管の表面にコーティングされるコーティング物質を含み、予め設定されたターゲット条件でターゲットを準備するターゲット準備段階と、
チャンバ内に前記被覆管とターゲットを配置後、初期真空のために予め設定された予熱条件で真空加熱する真空加熱段階と、
前記ターゲットの表面に予め設定された電流とバイアス電圧を供給して、アークを発生させてコーティング物質の粒子を蒸発させて表面の異物を除去するエッチング段階と、
前記ターゲットの表面に予め設定された電流条件で電流を供給して、アークを発生させてコーティング物質の粒子を蒸発させる粒子蒸発段階と、
予め設定された電圧条件でバイアス電圧を供給して、イオン化されたコーティング物質を前記被覆管の表面に均質にコーティングするコーティング段階と
を含み、
前記ターゲット条件と前記予熱条件、前記電流条件、そして前記電圧条件を調節して、前記被覆管の表面でジルコニウム合金の再結晶の発生を防止するように微細組織の変化を調節するジルコニウム合金被覆管の製造方法。
【請求項2】
前記コーティング物質は、耐酸化物質を含む、請求項1に記載のジルコニウム合金被覆管の製造方法。
【請求項3】
前記耐酸化物質は、Cr、Cr合金のうちの1種以上を含む、請求項2に記載のジルコニウム合金被覆管の製造方法。
【請求項4】
前記予熱温度は350度以下に設定される、請求項1に記載のジルコニウム合金被覆管の製造方法。
【請求項5】
前記エッチング段階で、前記ターゲットに供給される電流は80A以下であり、バイアス電圧は200V~600Vであり、時間は20分以内に設定される、請求項1に記載のジルコニウム合金被覆管の製造方法。
【請求項6】
前記粒子蒸発段階で、前記ターゲットに供給される電流は80A以下に設定される、請求項1に記載のジルコニウム合金被覆管の製造方法。
【請求項7】
前記コーティング段階で、前記ターゲットに供給されるバイアス電圧は100V未満に設定される、請求項1に記載のジルコニウム合金被覆管の製造方法。
【請求項8】
前記ターゲットの大きさは3インチ以上10インチ以下に設定される、請求項1に記載のジルコニウム合金被覆管の製造方法。
【請求項9】
前記粒子蒸発段階で前記ターゲットに供給される電流が80A超過、または前記コーティング段階でバイアス電圧100V以上の場合、前記ターゲットが回転し、前記ターゲットの大きさは4インチ以上10インチ以下に設定される、請求項1に記載のジルコニウム合金被覆管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ジルコニウム合金被覆管の製造方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
事故耐性核燃料(ATF:Accident Tolerant Fuel)の被覆管は、原子力発電所事故の発生時、高温水蒸気環境下での水素生成量を低減させて水素の爆発を防止させる目的で研究開発されてきた。ATF被覆管は、既存の被覆管が有する耐腐食性、クリープ抵抗性、照射変形下での安定性、保存処分に関する事項など極限環境下での多様な性能条件を満たし、特に、事故時の耐酸化性の向上に重点をおいて開発されなければならない。ところが、経済性および早い商用化を考慮して、世界的に既存のジルコニウム(Zr)合金被覆管の表面に耐酸化物質をコーティングする方法を用いて事故耐性被覆管の開発が行われている。
【0003】
このために、韓国原子力研究院では、既存のZr合金被覆管の表面に3Dプリンティング工程を適用して表面処理する方法と、アークイオンプレーティング(AIP:Arc Ion Plating)技術を適用してコーティングする方法とが研究されている。特に、AIP方法は、商用ジルコニウム合金被覆管の母材に損傷を与えずにCrまたはCrAl合金をコーティングして耐酸化性を向上させる方法として選択されて商用化技術の開発が進められている。
【0004】
しかし、ジルコニウム合金被覆管にコーティング層を積層するAIP工程は、母材の変化が伴わないというメリットとは異なり、工程熱によってジルコニウム合金被覆管の微細組織が変化する問題点が導出された。工程熱によってジルコニウム合金被覆管の微細組織が変化すると、機械的強度のような物性が低下して核燃料被覆管として構造的機能への問題になる。
【0005】
関連先行文献として韓国登録特許第2,161,584号公報は、「高温耐酸化性および耐腐食性に優れた金属コーティング膜およびその製造方法」を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国登録特許第2,161,584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一実施例は、アークイオンプレーティング(AIP)を用いた金属コーティング膜蒸着工程中に発生する工程熱によって、ジルコニウム合金母材の微細組織の変化を抑制して、コーティング層と母材との間の接着力を向上させ、緻密なコーティング層の積層が可能でかつ、母材の性能変化がないジルコニウム合金被覆管を製造する方法を提供する。
【0008】
前記の課題以外にも、具体的に言及されていない他の課題を達成するのに本発明による実施例が使用可能である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施例によるジルコニウム合金被覆管の製造方法は、ジルコニウム合金材質の被覆管を準備する被覆管準備段階と、被覆管の表面にコーティングされるコーティング物質を含み、予め設定されたターゲット条件でターゲットを準備するターゲット準備段階と、チャンバ内に被覆管とターゲットを配置後、初期真空のために予め設定された予熱条件で真空加熱する真空加熱段階と、ターゲットの表面に予め設定された電流条件で電流を供給して、アークを発生させてコーティング物質の粒子を蒸発させる粒子蒸発段階と、予め設定された電圧条件でバイアス電圧を供給して、イオン化されたコーティング物質を被覆管の表面に均質にコーティングするコーティング段階とを含み、ターゲット条件と予熱条件、電流条件、そして電圧条件を調節して、被覆管の表面でジルコニウム合金の再結晶の発生を防止するように微細組織の変化を調節する。
【発明の効果】
【0010】
一実施例によれば、ジルコニウム合金のアークイオンプレーティング技術を適用したコーティング技術を適用して、ジルコニウム合金被覆管を製造する時、コーティング層と母材との間の接着力を向上させ、緻密な高品質のコーティング層の積層が可能でかつ、耐酸化性を向上させて、工程熱によってジルコニウム合金被覆管の微細組織が変化するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施例によるターゲット設定条件を用いてジルコニウム合金被覆管を製造する過程を概略的に示す図である。
【
図2】比較例によるターゲット設定条件を用いてジルコニウム合金被覆管を製造する過程を概略的に示す図である。
【
図3】一実施例によるターゲット設定条件を用いてジルコニウム合金被覆管を製造する過程を概略的に示す図である。
【
図4】第1実験例によるターゲット設定条件を用いて製造された被覆管の微細組織の変化を比較した図である。
【
図5】第2実験例によるターゲット設定条件を用いて製造された被覆管の微細組織の変化を比較した図である。
【
図6】第3実験例によるターゲット設定条件を用いて製造された被覆管の微細組織の変化を示す図である。
【
図7】第4実験例によるターゲット設定条件を用いて製造された被覆管の微細組織の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
添付した図面を参照して、本発明の実施例について、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳細に説明する。本発明は種々の異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施例に限定されない。図面において、本発明を明確に説明するために説明上不必要な部分は省略し、明細書全体にわたって同一または類似の構成要素については同一の図面符号が使用された。また、広く知られている公知技術の場合、その具体的な説明は省略する。
【0013】
明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」とする時、これは特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに包含できることを意味する。
【0014】
以下、図面を参照して、ジルコニウム合金被覆管の製造方法を詳細に説明する。
【0015】
図1は、一実施例によるターゲット設定条件を用いてジルコニウム合金被覆管を製造する過程を概略的に示す図であり、
図2は、比較例によるターゲット設定条件を用いてジルコニウム合金被覆管を製造する過程を概略的に示す図である。
図1~
図2を参照して、一実施例によるジルコニウム合金被覆管の製造方法を説明する。一実施例によるジルコニウム合金被覆管の製造方法は、被覆管準備段階と、ターゲット準備段階と、真空加熱段階と、エッチング(洗浄)段階と、粒子蒸発段階と、コーティング段階とを含み、予め設定されたターゲット条件と予熱条件、電流条件、そして電圧条件を調節して、被覆管20の表面でジルコニウム合金の再結晶の発生を防止するように微細組織の変化を容易に調節することができる。
【0016】
被覆管準備段階は、ジルコニウム合金材質の被覆管20を準備する段階である。ここで、被覆管20は、ジルコニウム合金被覆管または事故耐性核燃料被覆管として併用して表記される。
【0017】
ターゲット準備段階は、被覆管20の表面にコーティングされるコーティング物質を含み、予め設定されたターゲット条件でターゲット10を準備する段階である。ここで、コーティング物質は、耐酸化物質を含むことができる。そして、耐酸化物質は、Cr、Cr合金のうちの1種以上を含むことができる。ターゲット10の大きさは3インチに設定可能である。
【0018】
真空加熱段階は、チャンバ100内に被覆管20とターゲット10を配置後、初期真空のために予め設定された予熱条件で真空加熱する段階である。ここで、予め設定された予熱条件で予熱される温度は350度以下に設定可能である。
【0019】
エッチング(洗浄)段階は、ターゲット10の表面に予め設定された電流とバイアス電圧を供給して、アークを発生させてコーティング物質の粒子を蒸発させて表面の異物を除去する。エッチング段階で、ターゲット10に供給される電流は80A以下であり、バイアス電圧は200V~600Vであり、時間は20分以内に設定可能であり、これによってターゲット10の微細組織の変化を最小化できる。
【0020】
粒子蒸発段階は、ターゲット10の表面に予め設定された電流条件で電流を供給して、アークを発生させてコーティング物質の粒子を蒸発させる段階である。粒子蒸発段階では、コーティング物質粒子が蒸発して被覆管の表面に異物を除去する洗浄機能も行うことができる。ここで、予め設定された電流条件でターゲット10に供給される電流は80A以下、バイアス電圧は200~600Vの範囲に設定可能であり、時間は20分以内に設定可能である。粒子蒸発段階で、バイアス電圧が高くても、20分以内ではジルコニウム合金材質の被覆管20に微細組織の変化(再結晶)が発生しない。
【0021】
コーティング段階は、蒸発された粒子の蒸着速度増加のために予め設定された電圧条件でバイアス電圧を供給することによって、イオン化されたコーティング物質を被覆管20の表面に均質にコーティングする段階である。ここで、予め設定された電圧条件でターゲット10に供給される電流は80A以下であり、バイアス電圧は100V未満に設定可能であり、バイアス電圧が大きくなれば、エッチングが発生して蒸着効率が減少することがある。また、予熱温度350度以下の真空加熱を行う場合、バイアス電圧が100V未満で発生しうる高温耐酸化性の低下とCr-Al薄膜の界面からの剥離が防止できる。コーティング段階で、10ミクロンの厚さのCrまたはCr合金コーティング層を得るためには、コーティング時間を3時間以上行うことができる。例えば、ジルコニウム合金に10ミクロン以上のCrまたはCr合金を均質にコーティングするために、コーティング時間が約10時間程度かかり、このような長時間のコーティングはジルコニウム合金母材の再結晶をもたらして、ターゲットの微細組織の変化を減少させることができる。
【0022】
図1と
図2を参照すれば、アークイオンプレーティング(AIP)工程の影響によるジルコニウム合金被覆管の微細組織の変化の例を確認できる。例えば、
図1と
図2で、3インチターゲットに供給される電流とバイアス電圧の差による被覆管20の再結晶現象を比較することができる。
図1の実施例のように、3インチターゲット10、電流は80Aであり、バイアス電圧は100V未満で供給される場合、被覆管20の表面で微細組織の変化現象は発生しない。参照番号12は、3インチの大きさのターゲット10において蒸発部を示す。
【0023】
これとは異なり、
図2の比較例のように、3インチターゲット10、電流は90Aであり、バイアス電圧は120V以上で供給される場合、被覆管20の表面で微細組織の変化現象が発生する。
【0024】
図2の比較例のように、3インチターゲット10を適用し、電流は90A、バイアス電圧は120V以上で供給する場合、被覆管20の表面で微細組織の変化が発生する。したがって、ターゲット10の大きさを調節し、磁場による電流形成領域を調整して、被覆管20の表面で微細組織の変化による再結晶現象を確認する必要がある。参照番号20aは、被覆管20の表面で発生した微細組織変化領域を示す。
【0025】
図3は、一実施例によるターゲット設定条件を用いてジルコニウム合金被覆管を製造する過程を概略的に示す図である。
図3を参照すれば、ターゲット10に供給される電流とバイアス電圧がそれぞれ90Aと120Vに設定されると、ターゲット10の大きさが大きくなる。例えば、ターゲットの大きさは5インチに設定可能であり、このような5インチターゲットは回転できる。参照番号10aは、5インチの大きさのターゲットを示す。そして、参照番号12aは、5インチの大きさのターゲット10aにおいて複数の蒸発部を示す。
図3を参照すれば、ターゲットの回転により、アークが1つのポイント形態ではなくドーナッツ形態で現れる。
【0026】
例えば、ターゲット10に供給される電流とバイアス電圧をそれぞれ90Aと120Vで行う場合、ターゲット10の大きさを3インチから5インチに変更し、アークが一箇所に集中せずに回転するように磁場で電流を制御することができる。ここで、ターゲットを回転させる装置が備えられる。
【0027】
ジルコニウム合金は、合金の組成に応じて異なるが、応力弛緩または部分再結晶熱処理を導入して使用している。このような熱処理は、炉内で機械的強度と腐食抵抗性のような特性を確保するためである。大部分のジルコニウム合金の再結晶は450度以上の温度で開始されるが、再結晶温度以上で長期間維持すれば必然的に再結晶が伴い、再結晶されると機械的強度が減少し、析出物の大きさ増加によって耐食性も変化する。また、再結晶が部分的に発生すると、弱い部分に局部的な機械的変形とクリープおよび照射成長変形量の差によって被覆管20が損傷する恐れもある。したがって、被覆管20に所望しない再結晶が発生すると、目的とする被覆管20の性能を逸脱する。
【0028】
アークイオンプレーティングを用いた耐酸化物質のコーティングは、既存のジルコニウム合金被覆管の表面に耐酸化物質を50ミクロン以下にコーティングして、原子炉の正常条件および事故環境で酸化を抑制して水素の爆発を防止する事故耐性核燃料製造技術として開発されている。アークイオンプレーティングのメリットは、母材の損傷または変化なしに高融点の素材をコーティングする技術として知られており、適用されてきた。しかし、ジルコニウム核燃料被覆管に耐酸化(CrまたはCr-Al合金)物質をコーティングする場合、工程変数により工程熱がジルコニウム合金に到達して再結晶が発生することがある。
【0029】
一実施例は、被覆管20の長手方向で部分的な再結晶現象が発生するのを防止することができる。一般的な工程では、電流(Current)とバイアス電圧(Bias Voltage)の適用およびコーティングターゲットの消耗中に発生する幾何学的形状の変化でターゲットの表面溶融時に発生する輻射熱がジルコニウム合金に伝達されて過度の温度が蓄積される。
【0030】
一実施例は、初期真空のための予熱条件、コーティング中の印加電流およびバイアス電圧条件、そして、ターゲットの大きさおよび消耗領域の制御による輻射熱の制御条件を限定して、ジルコニウム合金の再結晶による微細組織の変化問題を解決することができる。
【0031】
一実施例は、被覆管20にアークイオンプレーティング工程で耐酸化物質(CrまたはCr合金、ここで、Cr合金は、Cr-Alを含むCr系合金を含む)をコーティングする時に発生する工程熱による微細組織の変化を抑制することができる。
【0032】
アークイオンプレーティング真空蒸着工程で熱が発生して、コーティング対象体の被覆管20に伝達できる内容と再結晶される条件を説明する。
【0033】
1)真空加熱段階でのチャンバ100真空時の予熱条件:チャンバ100内の高真空状態を実現するためにヒータを用いて加熱することによって、内部に付着したガス分子を活性化して真空ポンプへの排出を容易にできる。ここで、ヒータの最大温度は350度以下に設定できる。ヒータの最大温度を350度以下に設定すれば、ジルコニウム合金の再結晶温度450度よりは低いが、後続工程のターゲット10に電流の印加とバイアス電圧の印加による追加的な熱の流入でジルコニウム合金の実際の温度が増加して再結晶をもたらすことがある。このような予熱工程は、後に行われる蒸着工程とは異なるもので、蒸着工程での温度は約200度未満である。また、予熱工程は、約20分~30分程度行われる。
【0034】
2)粒子蒸発段階でのターゲット10に供給される電流条件:ターゲット10の表面にアークを発生してターゲット物質を蒸発させることができる。アーク熱は、CrおよびCr合金を十分にイオン化するために1,900度を上回る。この時発生するアークの輻射熱がジルコニウム合金の再結晶をもたらすことがある。したがって、アーク発生のための電流は、ターゲット10を溶かす最小限の条件である80A以下で供給されるように設定できる。
【0035】
3)コーティング段階でのターゲット10と被覆管20との間のバイアス電圧条件:アークでターゲット10の表面がイオン化された状態で蒸発し、蒸発した粒子はターゲット10から外部へ飛んでいく。この時、バイアス電圧を印加すれば粒子の速度が速くなり、蒸発する粒子の大きさも増加する。粒子の速い速度と大きさの増加は、粒子が有する熱がコーティング対象物の被覆管20に伝達されて再結晶の可能性が高まる。したがって、蒸着速度増加のためのバイアス電圧の最大値は100V未満に設定できる。
【0036】
追加的に、ターゲット10が消耗しながら表面が凹レンズ型に変化する。ターゲット10の表面が特定形状の曲率に変化すれば、アーク電流による輻射熱が被覆管20の特定領域に集中して再結晶現象が発生する可能性が高まる。したがって、ターゲット10の表面損失時に生成される凹レンズ型形態を調節すれば、輻射熱が対象物の特定領域に集中して再結晶が発生するのを防止することができる。
【0037】
事故耐性核燃料被覆管20コーティングのためのアークイオンプレーティングは、チャンバ100内にターゲット10と試験片を配置後、ヒーティングで高真空状態の雰囲気を形成する。そして、瞬間的に蒸着しようとする物質(ターゲット)の表面に電流を印加して、アークを発生させて粒子を蒸発させる。次に、蒸発した粒子の蒸着速度増加のためにバイアス電圧を印加して、イオン化されたターゲット物質が試験片に均質にコーティングできる。
【0038】
しかし、被覆管20に耐酸化物質(Cr、Cr合金)をコーティングする過程で意図せずに被覆管20の全体または一部分が再結晶される現象が発生することがある。
【0039】
一実施例は、ジルコニウム合金の再結晶問題を解消するために、アークイオンプレーティング工程変数のうちチャンバ100内の真空加熱条件、ターゲット10に供給される電流とバイアス電圧に対する条件を最適化することができる。また、ターゲット10の消耗時の凹レンズ形成による輻射熱の集積現象を防止するために、ターゲット10の大きさを大きく変更しながら、磁場でアーク電流が一領域に集中する現象を除去することができる。
【0040】
例えば、工程中に、チャンバ100真空時の加熱温度は350度以下に維持されるように設定できる。ターゲット10に供給される電流は80A以下に維持されるように設定できる。そして、バイアス電圧は100V未満に維持されるように設定できる。ここで、加熱温度、ターゲット電流およびバイアス電圧の設定条件の1つ以上が設定制限値を超えると、ジルコニウム合金の再結晶問題が発生することがある。
【0041】
一実施例によるアークイオンプレーティング方法は、物理的蒸着法の一種と見なすことができ、ターゲット10に電流とバイアス電圧を供給することによって、原子単位の蒸着を行うための蒸着条件の最適化が必要である。
【0042】
ここで、ターゲット10に供給される電流は80A以下、好ましくは70A以上80A以下であり、バイアス電圧は100V未満、好ましくは70V以上100V未満に設定可能である。ターゲット10に供給される電流値が70Aより小さい場合には、蒸着速度が低下することがある。そして、ターゲット10に供給される電流値が80Aより大きい場合には、コーティング薄膜に発生する液滴(droplet)の大きさと数が増加することがある。
【0043】
一方、ターゲット10に供給されるバイアス電圧が70Vより小さい場合には、高温耐酸化性が低下し、コーティング薄膜が界面から剥離されることがある。そして、ターゲット10に供給されるバイアス電圧が100Vより大きい場合には、蒸着速度が顕著に低下することがある。
【0044】
蒸着時に蒸発物質の大きさが大きいほど加速される速度が遅いため、気体分子との衝突によってターゲット標的に到達しないことがある。このような理由から、蒸着時の作動圧力を増加させることによって、ターゲット10で生成されたイオンおよび液滴が気体分子と衝突する確率を低下させることができる。蒸着時の作動圧力は5mTorr~30mTorrに設定できる。蒸着時の作動圧力が5mTorr未満の場合、表面粗さおよび液滴が増加することがある。
【0045】
図4は、第1実験例によるターゲット設定条件を用いて製造された被覆管20の微細組織の変化を比較した図である。
図4は、3インチターゲットである。
図4を参照すれば、ターゲット10に供給される電流は80A以下を維持し、ターゲット10に供給されるバイアス電圧は70Vに設定して被覆管20の微細組織の変化を比較したものである。
図4の左図に示されているように、ターゲット10に供給される電流は70Aを維持し、ターゲット10に供給されるバイアス電圧は70Vに設定した場合、被覆管20の微細組織の変化はない。これとは異なり、
図4の右図に示されているように、ターゲット10に供給される電流は90Aを維持し、ターゲット10に供給されるバイアス電圧は70Vに設定した場合、被覆管20の微細組織の変化で再結晶が発生する。
【0046】
図5は、第2実験例によるターゲット設定条件を用いて製造された被覆管20の微細組織の変化を比較した図である。
図5は、3インチターゲットである。
図5を参照すれば、ターゲット10に供給されるバイアス電圧は100V未満と100V以上に設定し、ターゲット10に供給される電流は70Aに設定して被覆管20の微細組織の変化を比較したものである。
図5の左図に示されているように、ターゲット10に供給される電流は70Aを維持し、ターゲット10に供給されるバイアス電圧を90Vに設定した場合、被覆管20の微細組織の変化はなかった。これとは異なり、
図5の右図に示されているように、ターゲット10に供給される電流は70Aを維持し、ターゲット10に供給されるバイアス電圧は120Vに設定した場合、被覆管20の微細組織の変化で再結晶が発生した。
【0047】
図6は、第3実験例によるターゲット設定条件を用いて製造された被覆管20の微細組織の変化を示す図である。
図6を参照すれば、ターゲット10に供給される電流とバイアス電圧がそれぞれ90Aと120Vに設定され、ターゲット10の大きさを3インチに設定できる。ターゲット10に供給される電流とバイアス電圧をそれぞれ90Aと120Vで行う場合、ターゲット10でアークが一箇所に集中して被覆管20の微細組織の変化で再結晶が発生した。
【0048】
図7は、第4実験例によるターゲット設定条件を用いて製造された被覆管20の微細組織の変化を示す図である。
図7を参照すれば、ターゲット10aに供給される電流とバイアス電圧がそれぞれ90Aと120Vに設定され、ターゲット10aの大きさを3インチより大きい5インチに変更することができる。そして、5インチの大きさのターゲット10aに供給される電流とバイアス電圧をそれぞれ90Aと120Vで行う場合、被覆管20の微細組織の変化はなかった。これは5インチの大きさのターゲット10aでアークが一箇所に集中せずに回転するように磁場で電流を制御するからである。
【0049】
ターゲットに供給される電流とバイアス電圧が低くてこそ、再結晶が発生しない。ターゲットは大きいほど工程効率が良いが、電流およびバイアス電圧が大きい場合、回転制御が難しいことがある。ターゲットに供給される電流が80A以下、バイアス電圧が100V未満の場合、ターゲットの大きさが3インチ以上であれば、微細組織の変化がない。しかし、ターゲットの大きさが3インチ未満、例えば、2インチの場合、微細組織の変化が発生し、工程効率性が低い。ターゲットの大きさは10インチ以下であってもよい。ターゲットの大きさが10インチより大きい場合、製造が難しく、ターゲットの歩留まりが減少することがある。例えば、ターゲットは3インチ~5インチの大きさを有することができる。5インチターゲットの効率は、3インチターゲットの効率より高い。ターゲットに供給される電流が80A超過、またはバイアス電圧が100V以上の場合、ターゲットの大きさが5インチ以上でかつ、アーク回転するように磁場で電流を制御する場合、微細組織の変化がない。さらに、電流が80A超過、またはバイアス電圧が100V以上で、ターゲットの大きさが4インチでかつ、アーク回転磁場を有する場合、微細組織の変化がない。これによって、電流が80A超過、またはバイアス電圧が100V以上で、ターゲットの大きさが4インチ以上でかつ、アーク回転磁場を有する場合、微細組織の変化がない。この場合も、ターゲットの大きさは、製造性およびターゲットの歩留まりを考慮する時、10インチ以下であることが好ましい。
【0050】
アークイオンプレーティング工法を活用した事故耐性核燃料に適用される被覆管20の耐酸化物質蒸着工程において、被覆管20の微細組織が変化すると、機械的物性と腐食特性に影響を与えるので、事故耐性核燃料に使用される被覆管20の性能目標を達成しにくい。一実施例は、ジルコニウム合金のアークイオンプレーティング技術を適用したコーティング技術において、コーティング層と母材との間の接着力を向上させ、緻密な高品質のコーティング層の積層が可能でかつ、母材の性能変化がないコ-ティング技術を実現することができる。事故耐性核燃料は、現在、EUタクソノミーの2025年以降の稼働原子力発電所には事故耐性核燃料を適用しなければならないという基準により、今後すべての稼働原子力発電所に適用することが必要である。したがって、稼働原子力発電所に事故耐性核燃料被覆管の適用は避けられず、一実施例は、事故耐性核燃料被覆管の製造に関連する核心技術で、稼働原子力発電所の安全性の向上だけでなく、技術保有による経済的効果が大きいと期待される。
【0051】
以上、本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明の権利範囲はこれに限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲で定義している本発明の基本概念を利用した当業者の様々な変形および改良形態も本発明の権利範囲に属する。
【国際調査報告】