(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】放射性核種の生成
(51)【国際特許分類】
G21F 9/06 20060101AFI20250117BHJP
G21F 9/12 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
G21F9/06 501Z
G21F9/12 501A
G21F9/12 501J
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024528550
(86)(22)【出願日】2022-12-27
(85)【翻訳文提出日】2024-07-09
(86)【国際出願番号】 EP2022087876
(87)【国際公開番号】W WO2023126403
(87)【国際公開日】2023-07-06
(32)【優先日】2021-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518251653
【氏名又は名称】エスシーケー.シーイーエヌ
(71)【出願人】
【識別番号】510054027
【氏名又は名称】ヴィート エヌブイ
(71)【出願人】
【識別番号】518387479
【氏名又は名称】ルーヴェン・カトリック大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ジュウ,ホンシャン
(72)【発明者】
【氏名】ハイニッツ,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ミュレンズ,スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】ビンネマンス,コーエン
(72)【発明者】
【氏名】カーディナルス,トーマス
(57)【要約】
213Bi娘放射性核種を
225Ac親放射性核種から分離するための放射性核種分離システムであって、
225Ac親放射性核種を含む液体溶液をカラム(10)に充填するための入口と、時間的に異なる瞬間に
225Ac親放射性核種および/または
213Bi娘放射性核種の選択的脱着を可能にするため、
225Ac親放射性核種および
213Bi娘放射性核種と相互作用することができる吸着剤材料を含む前記カラム(10)と、
225Ac親放射性核種および
213Bi娘放射性核種の選択的脱着に基づき
213Bi娘放射性核種を選択的に得るための出口とを備え、吸着剤材料は炭素系吸着剤材料である放射性核種分離システム。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
213Bi娘放射性核種を
225Ac親放射性核種から分離するための放射性核種分離システムであって、
・前記
225Ac親放射性核種を含む液体溶液をカラム(10)に充填するための入口と、
・時間的に異なる瞬間に前記
225Ac親放射性核種および/または前記
213Bi娘放射性核種の選択的脱着を可能にするために、前記
225Ac親放射性核種および前記
213Bi娘放射性核種と相互作用することができる吸着剤材料を含む前記カラム(10)と、
・前記
225Ac親放射性核種および前記
213Bi娘放射性核種の前記選択的脱着に基づき前記
213Bi娘放射性核種を選択的に得るための出口と
を備え、
前記吸着剤材料は炭素系吸着剤材料であるシステム。
【請求項2】
前記炭素系吸着剤材料は、1つ以上の官能基を含む1種以上の化合物と共に活性材料を含む、前記請求項に記載の放射性核種分離システム。
【請求項3】
前記1つ以上の官能基は、
1つ以上の酸素含有基、例えばカルボキシル、ヒドロキシル、カルボニルまたはエポキシド、および/または
1つ以上の硫黄含有基、例えばスルホン酸、スルホキシド、スルホン、および/または
1つ以上のリン含有基、例えばリン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸またはホスフィンオキシド
から選択される、前記請求項に記載の放射性核種分離システム。
【請求項4】
前記炭素系吸着剤材料は、
熱分解されたポリマーまたは多糖、例えばセルロース、セルロース誘導体、澱粉またはフェノール系樹脂、および/または
活性炭、窒化炭素、黒鉛状窒化炭素、黒鉛およびカーボンモレキュラーシーブ
のうちの1つ以上を含む、前記請求項のいずれかに記載の放射性核種分離システム。
【請求項5】
前記炭素系吸着剤材料はビーズに成形されているか、あるいは前記炭素系吸着剤材料はビーズ、例えば球状粒子または非球状粒子のシェルあるいはハニカムまたは3D印刷モノリスとして管状構造として提供される、前記請求項のいずれかに記載の放射性核種分離システム。
【請求項6】
前記炭素系吸着剤材料は5μm~1mm、例えば10μm~500μm、例えば10μm~250μm、例えば10μm~150μm、例えば50μm~150μmのサイズを有するビーズに成形されている、前記請求項のいずれかに記載の放射性核種分離システム。
【請求項7】
前記吸着剤材料の表面積は100m
2/g未満、例えば50m
2/g未満、例えば25m
2/g未満、例えば10m
2/g未満である、前記請求項のいずれかに記載の放射性核種分離システム。
【請求項8】
前記炭素系吸着剤材料のH/Cモル比は1未満である、前記請求項のいずれかに記載の放射性核種分離システム。
【請求項9】
前記放射性核種分離システムは直接放射性核種分離システムであり、前記炭素系吸着剤材料は、前記娘放射性核種を選択的に脱着させるために前記
225Ac親放射性核種および前記娘放射性核種の両方に対して強い親和性を有する、前記請求項のいずれかに記載の放射性核種分離システム。
【請求項10】
前記放射性核種分離システムは反転放射性核種分離システムであり、前記炭素系吸着剤材料は前記
225Ac親放射性核種に対してではなく前記娘放射性核種に対してより高い親和性を有するように構成されている、請求項1~8のいずれかに記載の放射性核種分離システム。
【請求項11】
前記炭素系吸着剤材料はリン酸基、カルボニル、ヒドロキシル基またはカルボン酸のうちの1つ以上を含む、請求項10に記載の放射性核種分離システム。
【請求項12】
・
225Ac親放射性核種と
213Bi娘放射性核種との混合物を炭素系吸着剤材料を含むカラム(10)に充填する工程と、
・前記吸着剤材料が前記
225Ac親放射性核種および前記
213Bi娘放射性核種と選択的に相互作用するのを可能にする工程であって、前記吸着剤材料は、前記
225Ac親放射性核種および前記
213Bi娘放射性核種の選択的脱着を可能にするために、前記
225Ac親放射性核種および前記
213Bi娘放射性核種と相互作用するための親和性を有する工程と、
・前記
213Bi娘放射性核種を選択的に得るために、前記相互作用後に前記
225Ac親放射性核種および前記
213Bi娘放射性核種を選択的に脱着させる工程と
を含む、放射性核種を分離するための方法。
【請求項13】
前記吸着剤材料は、好ましくは前記
225Ac親放射性核種に結合するために前記吸着剤材料が前記
213Bi娘放射性核種よりも前記
225Ac親放射性核種に対して高い親和性を有するように構成されており、
前記娘放射性核種を選択的に得る前記工程は、前記
225Ac親放射性核種を前記吸着剤材料に結合させた後に、少なくとも1、好ましくは少なくとも2のpHを有する溶離液を用いて前記
213Bi娘放射性核種を前記カラム(10)から溶出させることを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記吸着剤材料は、前記吸着剤材料が好ましくは前記
213Bi娘放射性核種に結合するために前記
225Ac親放射性核種よりも前記
213Bi娘放射性核種に対して高い親和性を有するように構成されており、
前記
213Bi娘放射性核種を選択的に得る前記工程は、前記カラム(10)を洗浄すること、およびその後に前記
213Bi娘放射性核種を前記カラム(10)から除去溶液の中に除去することを含む、
請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記除去溶液を前記
213Bi娘放射性核種よりも前記
225Ac親放射性核種に対して高い親和性を有する吸着剤材料を有する第2のカラム(20)にさらに添加し、前記第2のカラムの前記吸着剤材料(20)と前記除去溶液中の残存する
225Ac親放射性核種との相互作用を可能にした後に、前記
213Bi娘放射性核種を前記第2のカラム(20)から溶出させる、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射性核種の分野に関する。より詳細には、本発明は213Bi放射性核種などの放射性核種を分離するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高純度の放射性核種の使用は、診断および医療にとって益々重要になってきてきる。特に標的α線治療は、α粒子の放出により様々な癌および他の疾患を治療するための有望な技術である。β粒子およびオージェ電子と比較して、α粒子はより低い透過範囲(50~100μm)およびより高い線エネルギー付与(50~230keV/μm)を有するより有効なイオン化剤であり、周囲の正常な組織への損傷を最小限に抑えながら悪性細胞の破壊を最大化する。
【0003】
最近になって、213Biがその高い特異的活性、実効半減期(t1/2=45.6分)、高いα崩壊率、および長寿命の中間体の不存在を理由に、特に有望なα放射体として浮上してきた。臨床的には白血病、悪性黒色腫、脳腫瘍および神経内分泌腫瘍などの様々な癌の治療を調査するために213Biが使用されてきた。先行技術では比較的長寿命の親核種225Ac(t1/2=9.92日)が、225Ac/213Biジェネレーターによるその短寿命の娘核種213Biの生成のための直接供給源として適用されてきた。
【0004】
放射性核種ジェネレーターにより、娘核種が高い放射性核種および放射化学的純度で得られるように、崩壊する親および娘放射性核種の有効な放射化学的分離を行うことができる。典型的に放射性核種ジェネレーターシステムでは、比較的長寿命の放射性核種が親放射性核種として使用され、これは、より短い半減期を有する娘放射性核種に崩壊する。1)原子炉または加速器の生成能力に依存することなく短寿命の娘放射性核種の臨床的利用能を保証し得ること、2)高い特異的活性を有し、かつ無担体形態の短寿命の娘放射性核種を低コストで提供し得ること、および3)核種製造施設から遠く離れた場所にある病院において医療用途のために短寿命の娘放射性核種を提供し得ることを含む、放射性核種ジェネレーターに関する多くの利点がある。例えば放射性核種ジェネレーターは病院に存在する場合があり、娘放射性核種の比較的純粋な試料が必要とされる場所においてそれらの生成を可能にする。
【0005】
当該技術分野で知られている2つの特定の種類の放射性核種ジェネレーターは、直接放射性核種ジェネレーターおよび反転放射性核種ジェネレーターである。
【0006】
典型的な直接放射性核種ジェネレーターでは、吸着剤材料、すなわちその上に親同位体が吸着され、かつそこから異なる溶離液を用いて規則的な時間間隔で娘同位体を溶出させることができる吸着剤がカラムに充填されている。吸着剤材料は好ましくは親同位体との高い親和性を有しており、ジェネレーター溶離液は親同位体を含んでいないものでなければならない。さらに放射性核種ジェネレーターにおける吸着剤材料は、臨床研究において増加しつつあるα放射体の必要性を満たすために、娘放射性核種の高く、かつ信頼できる(すなわち再現可能な)収率および高い純度を促進するものでなければならない。
【0007】
反転放射性核種ジェネレーターシステムでは、吸着剤材料の性能に対する放射線分解損傷の影響を低減させるように、親放射性核種を溶液(典型的には親放射性核種と前記親放射性核種の崩壊によって形成される娘放射性核種とを含む混合物)に貯蔵している。MCALISTER,D.R.およびHORWITZ,E.P.「医療用放射性核種のための自動化された2種類のカラムジェネレーターシステム(Automated two column generator systems for medical radionuclides)」.Applied Radiation and Isotopes,2009,67(11),1985-1991に記載されているように、反転放射性核種ジェネレーターシステムでは、溶液すなわち娘および親放射性核種を含む混合物を典型的に、所望の娘放射性核種に特異的なクロマトグラフィカラム(一次分離カラム、PSC)に通して溶出させる。娘核種はPSC上に保持されるが、親核種は保持されずに通過する。次いで、少量の洗浄液をPSCに通して、溶離液中の親核種のほぼ完全な回収を保証する。次いで親核種を含む溶離液を、所望の娘核種のさらなる内方成長および今後の処理のために貯蔵する。娘核種をPSCから除去し、この除去溶液を親核種に特異的な第2のカラム(ガードカラム)に通す。それにより、ガードカラムは娘生成物からの親放射性核種のさらなる除染を提供し、親放射性核種からの娘放射性核種の分離をさらに向上させ、このようにより高純度の娘生成物を得ることができる。
【0008】
上に記載されている直接および/または反転放射性核種ジェネレーターシステムで使用することができるいくつかの吸着剤材料(当該技術分野では「樹脂」としても知られている)が当該技術分野で知られている。但し、これらの吸着剤材料は典型的にいくつかの欠点を抱えている。例えば有機樹脂(市販のAG MP-50およびUTEVAなど)の分離特性は放射線分解損傷による影響を受け、カラム上での寿命が短くなる(100mCiの225Acが充填されたAG MP-50カラムの寿命は1日以下であると結論づけられた)(VASILIEV,A.N.ら,「医療用225Ac/213Biジェネレーターにおける吸着剤の放射線安定性(Radiation stability of sorbents in medical 225Ac/213Bi generators).Solvent Extraction and Ion Exchange,2021,39(4),353-372)。吸着剤に対する(局所的)放射線分解損傷を克服するために、いくつかの手法が提案されてきた。米国特許出願公開第2005/0008558A1号は、カラムの特定の部分での放射性核種の濃縮を回避する錯化剤を添加することにより、充填された樹脂の体積において放射性核種をより均一に分散させるための方法について記載している。しかしこの手法は高濃度の酸の使用に基づいており、これは樹脂の特性にも影響を与え得る。
【0009】
吸着剤の別の例は、含浸もしくはグラフト化官能基を含むシリカ系材料である。しかしシリカは低いpH(典型的にはpH<2)で浸出し、故に不安定になり得る(YANTASEE,W.,ら,「機能性ナノポーラス吸着剤を用いた放射性核種(U、Pu、Th、AmおよびCo)の選択的捕捉(Selective capture of radionuclides(U,Pu,Th,Am and Co) using functional nanoporous sorbents)」,Journal of hazardous materials,2019,366,677-683;ABBASI,W.A.およびSTREAT,M.「TBP含浸活性炭を用いた硝酸溶液からのウランの吸着(Sorption of uranium from nitric acid solution using TBP-impregnated activated carbons),Solvent extraction and Ion exchange,1998,16(5),1303-1320)。さらに、シリカ系樹脂構造は官能基を含む樹脂よりも放射線によって僅かに影響を受けることが分かった(VASILIEV,A.N.ら,「医療用225Ac/213Biジェネレーターにおける吸着剤の放射線安定性(Radiation stability of sorbents in medical 225Ac/213Bi generators)」,Solvent Extraction and Ion Exchange,2021,39(4),353-372)。最後に、Isolute SCX-2およびIsolute SCXでは213Bi収率は比較的低い(67~72%)(MOORE,M.A.ら,「225Acのその親溶液からの213Biの分離における2種類のシリカ系イオン交換樹脂の性能(The Performance of two silica based ion exchange resins in the separation of 213Bi from its parent solution of 225Ac),Applied Radiation and Isotopes,2018,141,68-72)。
【0010】
さらなる例として、吸着剤材料はジルコニア系材料を含んでもよい。欠点は、強酸溶液における材料の成分、例えばT-39(96%ZrO2および4%Y2O3)の浸出を含む(VASILIEV,A.N.ら,「無機吸着剤に基づく225Ac/213Biジェネレーター(225Ac/213Bi generator based on inorganic sorbents),Radiochimica Acta,2019,107(12),1203-1211)。さらに当該溶液における吸着剤溶解生成物の蓄積により、213Biの収率が減少する場合があり、25回の溶出後に213Bi溶出収率は50%まで低下した。そのような低下はジェネレーター用途では容認され得ない。さらに洗浄液により、1回の溶出当たり0.5~1%の225Acが失われることが分かった。
【0011】
最後の例として、PNNL(パシフィックノースウェスト国立研究所)は、有機アニオン交換樹脂を用いるBiジェネレーターを開示している(VASILIEV,A.N.ら「医療用225Ac/213Biジェネレーターにおける吸着剤の放射線安定性(Radiation stability of sorbents in medical 225Ac/213Bi generators)」,Solvent Extraction and Ion Exchange,2021,39(4),353-372;米国特許第005749042A号)。しかし生成された213Bi試料、すなわち213Bi溶離液は、その初期活性の約0.1%の225Acの不純物を含有しているように思われる。さらに洗浄液によるミルキングごとに225Acの2~3%が失われる。最後に、吸着剤は放射線分解損傷を受ける。
【0012】
従って、上記問題の少なくともいくつかに対処する装置および方法が当該技術分野においてなお必要とされている。
【発明の概要】
【0013】
本発明の目的は、放射性核種を分離するのに適した材料、装置または方法を提供することにある。
【0014】
上記目的は、本発明に係る方法および装置によって達成される。
【0015】
本発明の実施形態の利点は、吸着剤材料が機械的、化学的および放射線分解的に安定であり得る点にある。本発明の実施形態の利点は、吸着剤材料が浸出問題を抱え得ないという点にある。本発明の実施形態の利点は、吸着剤材料が長寿命を有し得るという点にある。本発明の実施形態の利点は、吸着剤材料を使用して高活性225Ac/213Biを分離し得るという点にある。本発明の実施形態の利点は、吸着剤材料を使用して高い213Bi収率が得られ得るという点にある。
【0016】
第1の態様では、本発明は、娘放射性核種を親放射性核種から分離するための放射性核種分離システムに関する。本放射性核種分離システムは、親放射性核種を含む液体溶液をカラムに充填するための入口を備える。本放射性核種分離システムは、時間的に異なる瞬間に親放射性核種および/または娘放射性核種の選択的脱着を可能にするために、親放射性核種および娘放射性核種と相互作用することができる吸着剤材料を含むカラムをさらに備える。ここでは吸着剤材料は炭素系吸着剤材料である。本放射性核種分離システムは、親放射性核種および娘放射性核種の前記選択的脱着に基づき前記娘放射性核種を選択的に得るための出口をさらに備える。本発明の実施形態の利点は、吸着剤材料に良好な安定性を与えることができる不活性炭素材料から炭素系吸着剤材料を形成し得るという点にある。例えば炭素構造は、無機金属酸化物と比較して強酸溶液(pH<2)に対して高い耐性を有し得る。さらに多環式芳香族環を有する炭素構造は、有機樹脂と比較してより高い放射線安定性を有し得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、当該炭素構造は他の有機吸着剤と比較して良好な放射線安定性を有し得、すなわち当該炭素構造は大部分の有機吸着剤よりも高い半値線量を有し得る。半値線量は、所与の吸着剤の交換容量の50%の喪失が生じる放射線量として定義することができる。半値線量の完全な定義は、1977年11月1日に公表されたGangwer TEら(ブルックヘブン国立研究所)によるBNL-50781の中の技術報告書「イオン交換材料に対する放射線の影響(Radiation effects on ion exchange materials)」に記載されている。いくつかの実施形態では、当該炭素構造は少なくとも10MGyの半値線量を有し得る。
【0018】
不活性炭素材料は、例えば放射性核種および溶媒に関して不活性であればよい。本発明の実施形態の利点は、分離プロセスで使用されるカラムが放射線分解損傷を受けないか既存のカラムと比較して放射線分解損傷をあまり受けない放射性核種の分離技術が得られるという点にある。本発明の実施形態の利点は、炭素系吸着剤材料を使用して高活性225Ac/213Bi(例えば、少なくとも100mCiの225Ac)を分離して、その高い放射線安定性または向上した分離方法により医療用途における要求を満たし得るという点にある。
【0019】
炭素系材料に言及する実施形態において、例えば無機炭素系材料に言及し得る場合、例えば1未満、例えば0.9未満のH/C比(モル比)を有する例えば無修飾(初期)炭素構造を高温、例えば300℃超、例えば400℃超でのポリマーまたは多糖の熱分解によって生成する。
【0020】
当該カラムは、吸着剤材料を含むのに適した任意のカラムであればよい。典型的に吸着剤材料は、入口と出口との間の流体経路に含められる。いくつかの実施形態では、当該カラムは当該技術分野でよく知られているクロマトグラフィカラムであってもよい。吸着剤材料の体積は任意の好適な体積であればよく、考えられる用途に適したものとして選択してもよい。いくつかの実施形態では、炭素系吸着剤材料の体積は例えば0.1~10mLであってもよい。好ましくは、当該カラムに充填される吸着剤材料の量は可能な限り少ない。典型的には、当該カラムのベッド体積が小さくなるほど、得ることができる同位体、すなわち娘放射性核種の濃度は高くなる。
【0021】
いくつかの実施形態では、炭素系吸着剤材料は、1つ以上の官能基を含む1種以上の化合物と共に活性材料(例えば活性炭)を含むか、例えば実質的にそれらからなる。いくつかの実施形態では、1つ以上の官能基をグラフト化または含浸してもよい。好ましくは当該官能基をグラフト化し、これにより炭素系吸着剤材料において官能基の良好な安定性を得ることができる。これらの実施形態の利点は、吸着親和性を親放射性核種および/または娘放射性核種のために特異的に最適化させ得るという点にある。同時に、これらの実施形態は高い放射線分解安定性も得し得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、1つ以上の官能基は1つ以上の酸素含有基、例えばカルボキシル、ヒドロキシル、カルボニルまたはエポキシドおよび/または1つ以上の硫黄含有基、例えばスルホン酸、スルホキシドまたはスルホンおよび/または1つ以上のリン含有基、例えばリン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸またはホスフィンオキシドから選択される。いくつかの実施形態では、当該官能基は-COOH、-C-OH、-C=O、-PO4Hおよび-SO3Hから選択されてもよい。これらの実施形態の利点は、吸着剤材料と放射性核種との相互作用を調整し、かつこのように本放射性核種分離システムを調整するために1つ以上の官能基を使用できるという点にある。すなわち、1つ以上の官能基を使用して、直接放射性核種分離システムまたは反転放射性核種分離システムに使用するために吸着剤材料を最適化してもよい。異なる官能基(例えば、-COOH、-C-OH、-C=O、-PO4Hおよび-SO3H)の導入を使用して例えば213Biおよび/または225Ac金属イオンとの相互作用機構を調整して、直接放射性核種分離システムおよび/または反転放射性核種分離システムのために適した特性を有する吸着剤材料を得てもよい。
【0023】
例えば官能基を使用して、炭素系吸着剤材料と核種との静電相互作用および/またはイオン交換を調整してもよい。静電相互作用および/またはイオン交換は、溶液のpH、イオン強度および/または塩濃度に対する高い感度、および従って場合により可調整性を有し得る。静電相互作用および/またはイオン交換機構は225Acのための支配的な吸着機構であってもよく、213Biもそのような官能基(例えば-COOH、-C-OH、-C=O、-PO4Hおよび-SO3H)と相互作用することができる。これらの機構に関して、以下の官能基:スルホン酸基、カルボン酸基およびリン酸ビス(2-エチルヘキシル)がいくつかの特に良好な特性を有していることが分かった。
【0024】
別の例では、当該官能基を使用して放射性核種(例えば、親核種および/または娘核種)とリン酸基(-PO4H)、カルボニル(-C=O)、ヒドロキシル基(-C-OH)およびカルボン酸(-COOH)との内圏錯体形成を達成してもよい。例えば、主に213Biがこれらの官能基と相互作用する(すなわち錯体を形成する)ため、213Biは225Acと比較してこの点に関してより強い親和性を有し得る。
【0025】
いくつかの実施形態では、炭素系吸着剤材料は、熱分解されたポリマーまたは多糖、例えばセルロース、セルロース誘導体、澱粉またはフェノール系樹脂、活性炭、黒鉛状窒化炭素、黒鉛炭素(すなわち、実質的に炭素からなる)およびカーボンモレキュラーシーブのうちの1つ以上を含む。いくつかの実施形態では、炭素系吸着剤材料は実質的に、これらの材料のうちの1つおよび場合により当該官能基からなる。いくつかの実施形態では、炭素系吸着剤材料は活性炭またはカーボンモレキュラーシーブである。特に多環式芳香族構造は、シリカおよび有機樹脂などの支持体として使用される他の材料よりも高い放射線安定性を有する。いくつかの実施形態では、吸着剤材料は好ましくはグラフト化官能基を有する多環式芳香族炭素構造である。これらの実施形態の利点は、吸着剤材料が高い放射線分解安定性を有し得るという点にある。これは本放射性核種分離システムに使用するのに特に有利であり得る。
【0026】
炭素系吸着剤材料の官能化誘導体の例は、スルホン化炭素材料、酸化炭素材料、および含浸抽出剤またはカチオン交換材料を含む炭素材料、例えばリン酸ビス(2-エチルヘキシル)含浸活性炭である。ここでは炭素材料は不活性支持体として適用される。
【0027】
吸着剤材料の形状は、粉末であってもよい吸着剤材料の構造的特性、および場合により当該表面における官能基の存在にも影響を与え得る。いくつかの実施形態では、吸着剤材料はビーズに成形されているか、あるいは炭素系吸着剤材料は、例えば球状粒子のビーズのシェルとして提供される。好ましくは吸着剤材料は、例えば当該カラムにおける均一な流動パターンおよび当該カラムにおけるより低い圧力降下を保証するために球状ビーズに成形されている。いくつかの実施形態では、炭素系吸着剤材料は5μm~1mm、例えば10μm~500μm、例えば10μm~250μm、例えば10μm~150μm、例えば50μm~150μmのサイズを有するビーズに成形されている。これらの実施形態の利点は、当該カラムに急速で充填し得るという点および急速精製を達成し得るという点にある。例えば、限定されるものではないが押出ハニカム、3D印刷モノリス、管状構造および非球状顆粒などのビーズ以外の他の形状も使用できることにも留意されたい。
【0028】
いくつかの実施形態では、吸着剤材料は0%~70%の多孔率を有していてもよい。いくつかの実施形態では、細孔径は0~100nmであってもよい。いくつかの実施形態では、吸着剤材料の表面積は100m2/g未満、例えば50m2/g未満、例えば25m2/g未満、例えば10m2/g未満である。これらの実施形態の利点は、限られた表面積により急速精製を達成し得るという点にある。吸着剤構造内部への同位体の捕捉を回避するために小さい表面積が望ましく、これは溶出経路を減少させることにより溶出効率を高める。
【0029】
炭素系吸着剤材料を形成するために、さらなる官能化のために炭素材料を選択してもよい。特にグラフト化による官能化は、いくつかの炭素材料にとって他の材料よりも容易な場合がある。好ましくは、炭素材料はその炭素構造に多くの欠陥を有していたり、本発明の実施形態に従って当該官能基に変換することができる特定の官能基をその表面に既に有していたりしてもよい(例えば活性炭)。さらにグラフト化による官能化は、炭素材料に対して含浸とは異なる要件を課す。次に、ジェネレーターの種類(すなわち、反転放射性核種分離システムまたは直接放射性核種分離システム)に応じて、放射性核種の生成のために使用される材料およびプロセスを選択してもよい。特にイオン強度および/またはpHによって吸着性能を調整してもよい。
【0030】
本明細書において本発明は、主に親放射性核種としての225Acおよび娘放射性核種としての213Biに関して説明されているが、本発明は決してこれらの実施形態に限定されるものとして解釈されるべきではない。いくつかの実施形態では、本放射性核種分離システムは、225Acから213Bi、113Snから113mIn、87Yから87mSr、232Uから228Thおよび/または224Raおよび/または220Rnおよび/または216Poおよび/または212Pb、ならびに227Acから211Pb、または場合により191Osから191mIrへの崩壊に基づいている。ここでは当業者によって理解されるように、この崩壊は親化合物の娘化合物への崩壊である。好ましくは、本放射性核種分離システムは、213Bi放射性核種を分離するための225Acから213Biへの崩壊に基づいている。本発明の実施形態の利点は、本技術を複数の放射性核種の生成のために適用できるという点にある。本発明の実施形態の利点は、例えば213Bi放射性核種の溶出が、最先端技術に係る吸着剤材料、例えばシリカ系材料を含むカラムを用いる例えば213Bi放射性核種の溶出と比較して多くなり得るという点にある。本発明の実施形態の利点は、炭素系吸着剤材料を使用して高活性225Ac/213Bi、例えば少なくとも100mCiの225Acを分離し得るという点にある。
【0031】
親放射性核種および娘放射性核種のための吸着剤材料の親和性は、吸着剤と接触している溶媒、例えば混合物または溶離液のpHおよび/またはイオン強度によって左右され得る。いくつかの実施形態では、吸着剤材料が時間的に異なる瞬間に親放射性核種および/または娘放射性核種の選択的脱着を可能にするために、親放射性核種および娘放射性核種と相互作用することができることは、吸着剤材料が本発明の実施形態に係る炭素系吸着剤材料の場合と同様に、特定のpH範囲および特定のイオン強度および/または塩濃度範囲内で少なくとも異なる親和性を有することを含む。
【0032】
いくつかの実施形態では、本放射性核種分離システムは直接放射性核種分離システムであり、炭素系吸着剤材料は娘放射性核種を選択的に脱着させるために、親放射性核種および娘放射性核種の両方に対して強い親和性を有する。いくつかの実施形態では、当該混合物は、好ましくは低い塩濃度、例えば1.0M未満の塩濃度、例えば0.5M未満の塩濃度で親核種および娘核種を含む。好ましくは当該混合物のpHは、少なくとも当該官能基のpKaを超え、例えば当該pHはリン酸ビス(2-エチルヘキシル)含浸活性炭では1.47を超え、例えば当該pHはリン酸ビス(2-エチルヘキシル)含浸活性炭では2をより大きく上回るため、親核種は静電引力および/またはイオン交換により吸着される。
【0033】
ここでは、娘放射性核種がより好ましくは吸着剤材料よりも溶出イオンと相互作用することにより、娘放射性核種を第1の溶離液を用いて選択的に脱着させてもよく、その後に親放射性核種を再利用のために酸溶液によって溶出させ、かつ吸着剤に対する放射線分解損傷を減少させてもよい。
【0034】
娘放射性核種のための溶離液は、好ましくは少なくとも0.1M、少なくとも0.2M、好ましくは少なくとも0.4MなどのNaI、NaCl、HI、HClまたはそれらの組み合わせを含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、溶離液のpH値は少なくとも主要な活性部位のpKaであるかそれを超えていてもよい。例えば溶離液はリン酸ビス(2-エチルヘキシル)含浸活性炭では、少なくとも2のpHにおいて少なくとも0.45MのNaIを含有していてもよい。
【0035】
親放射性核種は、酸性溶液(例えば、HNO3溶液またはHCl溶液)を用いてジェネレーターカラムから脱着させてもよい。前記溶液中のHNO3の濃度は0.1~0.5M、好ましくは0.2M~0.3Mなどの少なくとも0.1M、好ましくは少なくとも0.2Mであってもよい。本発明の実施形態の利点は、225Acと炭素系吸着剤材料との接触時間の減少および当該カラムにおける225Acの均一な分散を達成し得、これにより当該カラムの寿命を延ばし得るという点にある。本発明の実施形態の利点は、次回に再利用するために親同位体225Acを比較的弱酸の溶液によって当該カラムから溶出できるという点にある。
【0036】
他の実施形態では、本放射性核種分離システムは反転放射性核種分離システムであってもよく、炭素系吸着剤材料は親放射性核種よりも娘放射性核種に対して高い親和性を有するように構成されている。いくつかの実施形態では、炭素系吸着剤材料は、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、カルボニル、ヒドロキシル基またはカルボン酸基のうちの1つ以上を含む。これらの官能基により、親放射性核種よりも娘放射性核種に対して高い親和性を有する吸着剤材料を得てもよい。本放射性核種分離システムが反転放射性核種分離システムである実施形態では、本放射性核種分離システムは、娘放射性核種よりも親放射性核種に対して高い親和性を有する吸着剤材料(例えばAG MP-50またはAc樹脂)ならびに入口および出口を有する第2のカラムを備えていてもよい。いくつかの実施形態では、当該カラムの出口は、当該カラムから放出される娘放射性核種を含む除去溶液が当該カラムから流出される際に第2のカラムの入口に流体接続されるように構成されていてもよい。娘溶液(大部分の放射線分解損傷を引き起こし得る)が第2のカラムにおいて比較的短い保持時間を有するため、第2のカラムの吸着剤材料は炭素系吸着剤材料を必要としなくてもよい。但し、第2のカラムの吸着剤材料も炭素系吸着剤材料を含んでもよく、この特徴については当該カラムの炭素系吸着剤材料に対応させながら独立して説明されている場合がある。第2のカラムを備えた実施形態の利点は、より高純度の(すなわち実質的に全く親放射性核種を含んでいない)娘放射性核種溶離液が得られ得る点にある。
【0037】
第1の態様の任意の実施形態の任意の特徴については、本発明の第2の態様の任意の実施形態に対応させながら独立して説明されている場合がある。
【0038】
第2の態様では、本発明は親放射性核種と娘放射性核種との混合物を炭素系吸着剤材料を含むカラムに充填する工程と、親放射性核種および娘放射性核種の選択的脱着を可能にするために、親放射性核種および娘放射性核種と相互作用するための親和性を有する吸着剤材料を親放射性核種および娘放射性核種と選択的に相互作用させることを可能にする工程と、娘放射性核種を選択的に得るために、前記相互作用後に親放射性核種および娘放射性核種を選択的に脱着させる工程とを含む、放射性核種を分離するための方法に関する。いくつかの実施形態では、本方法は本発明の第1の態様に関して説明されている放射性核種分離システムを用いて行ってもよい。
【0039】
いくつかの実施形態では、当該混合物は、水に溶解させた親放射性核種および娘放射性核種を含んでいてもよい。水の利点は、そのpHを容易に調整し得る点およびさらにイオンを効率的かつ高濃度で溶解し得る点にある。
【0040】
いくつかの実施形態では、時間的に異なる瞬間は、親放射性核種および/または娘放射性核種の選択的脱着を時間的に続いて行い得るということを含んでもよい。
【0041】
これらの実施形態は、例えば直接放射性核種分離システムを用いる直接放射性核種ジェネレーターに関するものであってもよい。吸着剤材料は娘放射性核種を選択的に脱着させるために、吸着剤材料が親放射性核種および娘放射性核種の両方に対して強い親和性を有するように構成されており、ここでは娘放射性核種を選択的に得る前記工程は、親放射性核種が吸着剤材料に結合された後に少なくとも吸着剤上の官能基のpKaよりも高いpHを有する溶離液を用いて娘放射性核種を当該カラムから溶出させることを含む。最後に、親放射性核種(例えば225Ac)は、0.1~0.5Mの濃度のHNO3を含む溶液などのHNO3を含む溶液によって溶出させることができる。次いで親放射性核種を含む溶液を貯蔵し、かつ/またはその後のサイクルで混合物として使用してもよい。この工程により、同位体と吸着剤との接触時間を減らすことによって吸着剤への放射線分解損傷を減少させてもよく、親放射性核種(例えば225Ac)を再循環および再利用することが容易になる。
【0042】
これらの実施形態は、例えば反転放射性核種分離システムを用いた反転放射性核種生成に関するものであってもよい。いくつかの実施形態では、吸着剤材料は、好ましくは娘放射性核種に結合するために、吸着剤材料が親放射性核種よりも娘放射性核種に対して高い親和性を有するように構成されており、ここでは前記娘放射性核種を選択的に得る工程は、当該カラムを洗浄すること、およびその後に娘放射性核種を当該カラムから除去溶液の中に除去することを含む。
【0043】
いくつかの実施形態では、当該混合物はNaNO3およびHNO3、好ましくは少なくとも2M、好ましくは少なくとも3Mなどの除去溶液のイオン濃度よりも高い総濃度のNaNO3およびHNO3を含んでいてもよい。当該混合物は2未満、好ましくは1未満のpHを有していてもよい。
【0044】
洗浄は例えばNaNO3およびHNO3、好ましくは少なくとも2M、好ましくは少なくとも3Mの総濃度のNaNO3を含む溶離液を用いて行ってもよい。洗浄のための溶離液は2未満、好ましくは1未満のpHを有していてもよい。洗浄液のpHは前の工程における混合物溶液のpHよりも低くてもよい。好ましくは、洗浄液のpHは前の工程における混合物溶液のpHと同じであってもよい。これにより親放射性核種(例えば225Ac)ではなく娘放射性核種(例えば213Bi)の良好な吸着を得てもよい。
【0045】
いくつかの実施形態では、除去溶液は、例えば0.1~3.0Mの濃度のNaI、NaCl、HI、HClまたはHNO3あるいはそれらの組み合わせを含んでいてもよい。好ましくは、除去溶液は最大で2のpHを有する。いくつかの実施形態では、除去溶液は最大で2のpHにおいて0.1~3.0MのNaI、または最大で2のpHにおいて0.1~3.0MのNaCl、または0.1~3.0MのHClを含んでいてもよい。ここではHNO3を使用して当該溶液のpH値を調整してもよい。
【0046】
いくつかの実施形態では、時として除去溶液を親放射性核種に対してより高い親和性、すなわち娘放射性核種に対してよりも高い親和性を有する吸着剤材料を有する第2のカラムにさらに添加し、第2のカラムの吸着剤材料と除去溶液中の残存する親放射性核種との相互作用が可能になった後に、娘生成物すなわち娘放射性核種を第2のカラムから溶出させる。
【0047】
第2の態様の任意の実施形態の任意の特徴は、本発明の第1の態様の任意の実施形態に対応させながら独立して説明されている場合がある。
【0048】
本発明の特定の好ましい態様は、添付の独立および従属請求項に記載されている。従属請求項からの特徴は、特許請求の範囲に明示的に記載されているとおりにだけではなく、独立請求項の特徴および他の従属請求項の特徴と必要に応じて組み合わせてもよい。
【0049】
この分野では絶えず装置の改良、変更および進化がなされてきたが、本概念は従来の慣行からの逸脱を含む実質的に新しく、かつ新規な改良を表し、この種のより効率的かつ安定な信頼できる装置が得られるものと考えられる。
【0050】
本発明の上記および他の特性、特徴および利点は、例として本発明の原理を示す添付の図面と共に以下の詳細な説明から明らかになるであろう。この説明は単に例のために与えられており、本発明の範囲を限定するものではない。以下で引用されている参照図は添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】
図1Aは、本発明の実施形態に係る、溶媒とスルホン化Norit CA1(80℃の温度でスルホン化)との間でのLa
3+およびBi
3+についての様々なpH値におけるK
dの図である。
図1Bは、本発明の実施形態に係る、溶媒とスルホン化Norit CA1(150℃の温度でスルホン化)との間でのLa
3+およびBi
3+についての様々なpH値におけるK
dの図である。
図1Cおよび
図1Dは、本発明の実施形態に係る、それぞれ2および1のpHにおいてスルホン化Norit CA1(150℃の温度でスルホン化)に適用された親放射性核種および娘放射性核種の混合物のイオン強度の関数としてのK
dのプロットである。
図1Eは、スルホン化Norit CA1(150℃のスルホン化温度でスルホン化)からのLa
3+およびBi
3+の脱着率D(%)の図である。
図1Fおよび
図1Gは、
60Coから線量を受けた後の溶媒とスルホン化Norit CA1(150℃の温度でスルホン化)との間でのLa
3+およびBi
3+についてのそれぞれpH2および1におけるK
dの図である。
【
図2】
図2Aおよび
図2Bは、黒鉛化カーボンブラック(Carbopack X)およびスルホン化黒鉛化カーボンブラックのそれぞれに関する、Bi
3+およびLa
3+についての様々なpH値におけるK
dの図である。
【
図3】
図3Aおよび
図3Bはそれぞれ、Carboxen 572およびスルホン化Carboxen 572に関する、Bi
3+およびLa
3+の様々なpH値におけるK
dの図である。
【
図4】
図4Aは、様々な温度および2のpHで炭化させたスルホン化炭化メチルセルロースに関するLa
3+およびBi
3+のK
dの図である。
図4Bは、様々な温度および2のpHで炭化させたスルホン化炭化メチルセルロースに関するLa
3+またはBi
3+のR(%)の図である。
図4Cは、様々な温度および1のpHで炭化させたスルホン化炭化メチルセルロースに関するLa
3+またはBi
3+のK
dの図である。
図4Dは、様々な温度および1のpHで炭化させたスルホン化炭化メチルセルロースに関するLa
3+またはBi
3+のR(%)の図である。
【
図5】
図5Aは、本発明の実施形態に係る、吸着剤材料である活性炭Norit CA1に関するBi
3+およびLa
3+についての様々なpH値におけるR(%)の図である。
図5Bは、Norit CA1の高解像度XPSの酸素1sスペクトルの図である。
【
図6】
図6Aおよび
図6Bはそれぞれ、本発明の実施形態に係る、吸着剤材料であるHDEHP-ACに関するBi
3+およびLa
3+についての様々なpH値におけるR(%)およびpH2における異なる濃度のNaIのD(%)の図である。
【
図7】
図7Aは、本発明の実施形態に係る、反転
225Ac/
213Bi分離システムのための概念設計およびプロセスフローの概略図である。
図7Bは、ガードカラムを備えた反転
225Ac/
213Bi分離システムのための概念設計およびプロセスフローの概略図である。
【
図8】
図8Aは、Sがミリグラムでの吸着剤材料の量であってLがミリリットルでの当該混合物の量である様々なS/L比に対する、HDEHP-ACに関するBi
3+およびLa
3+のK
dの図である。
図8Bは、様々な濃度のHNO
3に対する、HDEHP-ACに関するBi
3+およびLa
3+のD(%)の図である。
図8Cは、様々な濃度のNaNO
3に対する、HDEHP-ACに関するBi
3+およびLa
3+のR(%)の図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る、直接
225Ac/
213Bi分離システムについての概念設計およびプロセスフローの概略図である。
【
図10】
図10Aは、セルロースビーズ、炭化ルロースビーズおよびスルホン化炭化ルロースビーズのSEM画像の図である。
図10Bは、スルホン化炭化ルロースビーズに関するBi
3+およびLa
3+の様々なpH値におけるK
dの図である。
【
図11】本発明の実施形態に係る、放射性核種を分離するための2種類のシステムを示す。
【0052】
異なる図において、同じ参照符号は同じまたは類似した要素を指す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明を特定の実施形態に関して特定の図面を参照しながら説明するが、本発明ははそれらに限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。記載されている図面は概略的なものに過ぎず、非限定的なものである。図面では、当該要素のいくつかのサイズは例示のために誇張されている場合があり、縮尺どおりに描かれていない。寸法および相対的寸法は本発明の実際の実施化に対応していない。
【0054】
さらに、本明細書および特許請求の範囲における「第1の」、「第2の」および「第3の」などの用語は、同様の要素を識別するために使用されており、それは必ずしも時間的、空間的または順位付けあるいはあらゆる他の方法における順序を記述するためのものではない。そのように使用される用語は適当な状況下で互換的であり、本明細書に記載されている本発明の実施形態は、本明細書に記載または図示されているもの以外の順序で実施可能であることを理解されたい。
【0055】
さらに、本明細書および特許請求の範囲における「上」、「下」、「~の上」および「~の下」などの用語は便宜上使用されており、必ずしも相対的位置を記述するためのものではない。そのように使用される用語は適当な状況下で互換的であり、本明細書に記載されている本発明の実施形態は、本明細書に記載または図示されている向き以外の向きで実施可能であることを理解されたい。
【0056】
特許請求の範囲で使用されている「~を備える(含む)(comprising)」という用語は、その後に列挙されている手段に限定されるものとして解釈されるべきではなく、それは他の要素または工程を排除しないことに留意されたい。従ってそれは言及されているとおりに、記載されている特徴、整数、工程または構成要素の存在を明記しているものとして解釈されるべきであるが、1つ以上の他の特徴、整数、工程または構成要素あるいはそれらのグループの存在または追加を排除しない。従って「~を備える(含む)」という用語は、記載されている特徴のみが存在する状況およびこれらの特徴および1つ以上の他の特徴が存在する状況を包含する。従って本発明に係る「~を備える(含む)(comprising)」という言葉は、さらなる構成要素が存在しない一実施形態も含む。従って「手段AおよびBを備える装置」という表現の範囲は、構成要素AおよびBのみからなる装置に限定されるものとして解釈されるべきではない。それは本発明に関して、当該装置の唯一の関連する構成要素がAおよびBであることを意味する。
【0057】
同様に「結合された」という用語は、直接接続のみに限定されるものとして解釈されるべきではない。それらの派生語と共に「結合された」および「接続された」という用語が使用される場合がある。これらの用語は互いの同義語として意図されているわけではないことを理解すべきである。従って「装置Bに結合された装置A」という表現の範囲は、装置Aの出力が装置Bの入力に直接接続されている装置またはシステムに限定されるべきではない。それは、Aの出力とBの入力との間に他の装置または手段を含む経路であり得る経路が存在することを意味する。「結合された」は、2つ以上の要素が直接的な物理的もしくは電気的接触状態のいずれかにあること、あるいは2つ以上の要素が互いに直接的な接触状態にないがそれでもなお互いに協働または相互作用することを意味してもよい。
【0058】
本明細書全体を通して「一実施形態」という場合、実施形態に関連して記載されている特定の特徴、構造または特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。従って、本明細書全体を通した様々な場所での「一実施形態では」という語句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態を指しているわけではないが、そういう場合もある。さらに特定の特徴、構造または特性を、1つ以上の実施形態において本開示から当業者には明らかになる任意の好適な方法で組み合わせてもよい。
【0059】
同様に、本発明の例示的な実施形態の説明では、本発明の様々な特徴は、本開示を簡素化し、かつ様々な発明の態様の1つ以上の理解を助けるために単一の実施形態、その図または説明において互いにまとめられている場合があることを理解すべきである。但し本開示の方法は、特許請求されている発明が各請求項に明示的に記載されている特徴よりも多くの特徴を必要とするという意図を反映しているものとして解釈されるべきではない。それどころか、以下の特許請求の範囲が反映しているように、発明の態様は、単一の上に開示されている実施形態の全ての特徴よりも少ない状態にある。従って、この詳細な説明に従う特許請求の範囲は、この詳細な説明の中に明示的に組み込まれており、各請求項は本発明の別個の実施形態として独立している。
【0060】
さらに、本明細書に記載されているいくつかの実施形態は他の実施形態に含まれているいくつかの特徴を含むが他の特徴を含まず、異なる実施形態の特徴の組み合わせは本発明の範囲内であることが意図されており、当業者によって理解されるように異なる実施形態を形成する。例えば以下の特許請求の範囲では、特許請求されている実施形態のうちのいずれかを任意の組み合わせで使用することができる。
【0061】
さらに実施形態のいくつかは、コンピュータシステムのプロセッサまたは当該機能を実行する他の手段によって実行することができる方法または方法の要素の組み合わせとして本明細書に記載されている。従って、そのような方法または方法の要素を実行するために必要な命令を有するプロセッサは、本方法または方法の要素を実行するための手段を形成する。さらに装置の実施形態の本明細書に記載されている要素は、本発明を実施するための要素によって実行される機能を実施するための手段の一例である。
【0062】
本明細書に提供されている説明では、数多くの具体的な詳細が記載されている。但し当然ながら、本発明の実施形態はこれらの具体的な詳細なしに実施することができる。他の例では、本説明の理解を曖昧にしないために周知の方法、構造および技術は詳細に示されてはいない。
【0063】
以下の用語は、本発明の理解を助けるためにのみ提供されている。
【0064】
本発明の文脈において使用されている「官能基のグラフト化」は、化学種が固体の表面、例えば吸着剤材料の表面に共有結合的に結合されていることを意味する。本発明の文脈において使用されている「官能基の含浸」は、化学種が多孔性材料の内面において物理的に分散されていることを意味する。
【0065】
本発明の文脈において使用されている「CMS」はカーボンモレキュラーシーブの略語であり、CNTはカーボンナノチューブの略語である。
【0066】
第1の態様では、本発明は、娘放射性核種を親放射性核種から分離するための放射性核種分離システムに関する。本放射性核種分離システムは、親放射性核種を含む液体溶液をカラムに充填するための入口を備える。本放射性核種分離システムは、時間的に異なる瞬間に親放射性核種および/または娘放射性核種の選択的脱着を可能にするために、親放射性核種および娘放射性核種と相互作用することができる吸着剤材料を含むカラムをさらに備える。ここでは吸着剤材料は炭素系吸着剤材料である。本放射性核種分離システムは、親放射性核種および娘放射性核種の前記選択的脱着に基づき前記娘放射性核種を選択的に得るための出口をさらに備える。
【0067】
第2の態様では、本発明は、親放射性核種と娘放射性核種との混合物を炭素系吸着剤材料を含むカラムに充填する工程と、親放射性核種および/または娘放射性核種の選択的脱着を可能にするために、親放射性核種および娘放射性核種と相互作用するための親和性を有する吸着剤材料を親放射性核種および娘放射性核種と選択的に相互作用させることを可能にする工程と、娘放射性核種を選択的に得るために、前記相互作用後に親放射性核種および娘放射性核種を選択的に脱着させる工程とを含む、放射性核種を分離するための方法に関する。
【0068】
例示として、直接および反転放射性核種分離システムの概要図が
図11に示されているが、実施形態はそれらに限定されない。
【0069】
本発明の実施形態に係る反転放射性核種分離システムおよび直接放射性核種分離システムの両方に使用するためのいくつかの炭素系吸着剤材料を、以下に記載されているように準備および試験した。ここでは、La3+(親放射性核種の代わりとして)およびBi3+(娘放射性核種として)が溶媒として水を含む例示的な混合物に使用されているが、特に他の親および/または娘放射性核種も使用できることを理解されたい。特にLa3+は、以下に記載されている得られた結果を大きく変えることなくAc3+で置換可能なものであると考えられ得る。
【0070】
以下の実施例では、除去率であるR(%)に言及する。さらに脱着率であるD(%)に言及する。最後に、平衡状態にある2つの媒体間(例えば、炭素系吸着剤材料と親放射性核種+娘放射性核種の混合物との間)の化学物質の濃度比として定められている分布係数であるK
d(mg/L)に言及する。除去率R(%)、分布係数K
d(mL/g)および脱着率D(%)は以下:
【数1】
のように計算してもよい。式中、m(g)は吸着剤(すなわち吸着剤材料)の質量である。V(mL)は吸着プロセスにおける液相の体積であり、C
0(mol/L)およびC
e(mol/L)はそれぞれ、吸着プロセスにおけるLa
3+またはBi
3+の初期濃度および平衡濃度を表す。n
s1(mol)およびn
s2(mol)はそれぞれ、吸着プロセスおよび脱着プロセス後の吸着剤へのLa
3+またはBi
3+の吸着量を表す。
【0071】
以下では、反転放射性核種分離システムに使用するための炭素系吸着剤材料の実施例が提供されている。反転放射性核種分離システムでは、炭素系吸着剤材料上への親放射性核種(以下の実施例では親放射性核種の代わり、すなわちLa3+)を凌ぐ娘放射性核種(以下の実施例ではBi3+)の最初の選択的吸着が生じる。次に、炭素系吸着剤材料から娘放射性核種の脱着を行う。
【実施例】
【0072】
実施例1
この実施例では吸着剤材料は、H2SO4またはHNO3処理によるさらなるグラフト化を有する活性炭Norit CA1である。ここでは、グラフト化により酸素含有量の増加(H2SO4およびHNO3処理の両方の場合)、すなわちカルボキシル(および他の)基の形成および硫黄含有量の増加(H2SO4処理の場合)、すなわちスルホン酸基の形成が生じる。例えば、濃H2SO4を用いてスルホン化Norit CA1(150℃)を作製した。簡単に言うと、500mLの丸底フラスコ中で15gのNorit CA1を150mLの濃硫酸(95.0~98.0%)と混合し、室温で10分間撹拌した。次いで、懸濁液を連続的に撹拌しながら150℃まで加熱し、その温度で3時間維持した。懸濁液を室温で冷却した後、得られた黒色生成物を濾過し、塩化バリウム(5滴の1.0MのBaCl2の1mLの濾液への添加)により硫酸イオンがもはや検出されなくなるまで脱イオン水で集中的に洗浄した。最後に当該試料を70℃の乾燥器で乾燥した。調製した生成物をスルホン化Norit CA1(150℃)と命名した。
【0073】
スルホン化Norit CA1(150℃)の官能基をXPSで調べた。2つの主要な酸素環境を、ヒドロキシル、カルボニルおよびカルボン酸官能基の潜在的混合物を表すO=C(531.3eV)およびO-C(533.1eV)に割り当てることができた。さらに、このより低い結合エネルギー成分はより鋭く、かつより強烈になり、次いでこれを重複している硫酸/スルホン酸およびカルボニル環境に割り当てることができる。スルホン化Norit CA1(150℃)の硫黄の2pスペクトルは2つの重複している硫黄環境の混合物を示し、仮にこれを、スルホン酸または硫酸(168.5eVでS 2p3/2)と亜硫酸またはスルフィン酸(167.5eV)などのより低い酸化状態の化学種の混合物に割り当てた。
【0074】
当該混合物、例えば溶媒(水)とスルホン化Norit CA1(80℃の温度でスルホン化)との間でのLa
3+およびBi
3+についての様々なpH値におけるK
dの図である
図1Aを参照する。それにより
図1Aは、スルホン化Norit CA1(80℃の温度でスルホン化)の分配係数に対するpHの影響を示している。ここでは、親放射性核種および娘放射性核種の混合物は1.02μmol/LのLa
3+および0.57μmol/LのBi
3+を含んでいた。吸着剤材料の量は20mgであり、当該混合物の量は10mLであった。接触時間は室温で24時間であった。La
3+およびBi
3+についてのスルホン化Norit CA1(150℃の温度でスルホン化)の分配係数に対するpHの影響を示す
図1Bをさらに参照する。ここでは、親放射性核種および娘放射性核種の混合物は10μmol/LのLa
3+および10μmol/LのBi
3+を含んでいた。吸着剤材料の量は10mgであり、当該混合物の量は10mLであった。接触時間は室温で24時間であった。スルホン化Norit CA1(150℃の温度でスルホン化)に関して、前記混合物のK
dに対するLa
3+またはBi
3+を含む混合物のイオン強度(例えばNaNO
3)の影響を示す
図1Cおよび
図1Dをさらに参照する。ここでは、親放射性核種および娘放射性核種の混合物は10μmol/LのLa
3+および10μmol/LのBi
3+を含んでいた。吸着剤材料の量は10mgであり、当該混合物の量は10mLであった。ここでは、
図1Cの実験は2のpHで行い、
図1Dの実験は1のpHで行った。イオン強度を上昇させ、かつpHを低下させることにより、La
3+/Bi
3+の吸着におけるより高い選択性を達成できることが観察され得る。この観察の説明は、スルホン化により酸素含有基の形成が生じ、これがLa
3+およびBi
3+の両方の吸着に関与するというものである。pHが上昇するにつれて、カルボキシルおよび他の基の両方が益々脱プロトン化されるようになり、吸着部位がより多くなる(K
d¸BiおよびK
d,Laの増加が生じる)。さらに、H
3O
+(より高い濃度およびより低いpHで存在する)との競合が増加する。さらにイオン強度を上昇させることにより、カルボキシル/スルホン酸基とLa
3+との相互作用をさらに減少させてもよい。
【0075】
図1Eは、スルホン化Norit CA1(150℃)からのLa
3+およびBi
3+の脱着率を示す。pHの低下およびCl
-濃度の増加に伴って、La
3+およびBi
3+の脱着効率は最初に急速に、次いで僅かに高まり、3mol/LのHCl溶離液により100%に達した。脱着機構は主に、酸環境下でのプロトン(H
+)とLa
3+/Bi
3+とのイオン交換選択性反転およびBi
3+およびCl
-の錯体形成に起因している。ここでは開始溶液の混合物は、10mLの溶液中に10μmol/LのLa
3+および10μmol/LのBi
3+を含んでいた。吸着剤の量は20mgであった。次いで、0.1~3.0mol/LのHCl濃度範囲を達成するために、異なる体積(0.084~3.333mL)の12.0mol/LのHClストック溶液をその中に添加した。
【0076】
吸着剤を放射線に曝露し、かつ吸着性能に対する影響を調べることによりスルホン化Norit CA1(150℃)の放射線安定性も調べた。簡単に言うと、200mgのスルホン化Norit CA1(150℃)と2mLの1MのHCl溶液とを4mLのガラス製バイアルの中へ混合し、
60Coを照射した。照射した線量は0.5~11MGyであった。放射線処理を行わずに1MのHClの2mL溶液中の参照試料も調べた。最後に当該試料を洗浄し、乾燥器で乾燥し、次いでこれを使用して吸着特性を調べた。ここでは溶液の混合物は、10μmol/LのLa
3+および10μmol/LのBi
3+を含んでいた。吸着剤材料の量は10mgであり、当該混合物の量は10mLであった。ここでは
図3Hの実験は2のpHで行い、
図3Iの実験は1のpHで行った。吸着性能を著しく低下させる変化を認めることができず、これは吸着部位の数について明らかな変化が存在しないことを示していることが観察され得る。
【0077】
実施例2
この実施例では、吸着剤材料は黒鉛化カーボンブラック(Carbopack X)およびスルホン化黒鉛化カーボンブラックを含んでいた。ここではスルホン化の反応条件は、50mLの97%H2SO4中に5gのCarbopack X、80℃および180分間であり、それによりスルホン化黒鉛化カーボンブラック(すなわちスルホン化Carbopack X)を形成する。
【0078】
溶媒と黒鉛化カーボンブラック(Carbopack X)またはスルホン化黒鉛化カーボンブラックとの間でのBi
3+およびLa
3+についての様々なpH値におけるK
dの図である
図2を参照する。従って
図2Aは、Carbopack Xに関するLa
3+およびBi
3+の分配係数に対するpHの影響を示している。溶媒とスルホン化Carbopack Xとの間でのBi
3+およびLa
3+についての様々なpH値におけるK
dの図である
図2Bをさらに参照する。従って
図2Aは、スルホン化Carbopack Xに関するLa
3+およびBi
3+の分配係数に対するpHの影響を示している。どちらの場合にも、当該混合物は1.01μmol/LのLa
3+および0.57μmol/LのBi
3+を含んでいた。吸着剤材料の量は20mgであり、当該混合物の量は10mLであった。接触時間は室温で24時間であった。La
3+の吸着はほぼ存在せず、不十分な官能基によりBi
3+に対する能力は低いが(活性炭と比較)、La
3+よりもBi
3+に対して選択性が存在するということが観察され得る。スルホン化後にBi
3+に対する吸着能力は上昇した。スルホン化後に硫黄および酸素の含有量が徐々に増加することが観察された。これらの観察について上記実施例1に関するものと同様の説明が考えられ得る。
【0079】
実施例3
この実施例では、吸着剤材料はカーボンモレキュラーシーブ[Carboxen 572]である。ここでは、25mLの97%H2SO4中に2.5gのCarboxen 572を用いて、スルホン化Carboxen 572を150℃で240分間合成した。
【0080】
Carboxen 572に関するLa
3+およびBi
3+の分配係数に対するpHの影響を示す、溶媒とCarboxen 572との間でのBi
3+およびLa
3+の様々なpH値におけるK
dの図である
図3Aを参照する。溶媒とスルホン化Carboxen 572との間でのBi
3+およびLa
3+の様々なpH値におけるK
dの図であり、それによりスルホン化Carboxen 572に関するLa
3+およびBi
3+の分配係数に対するpHの影響を示す
図3Bをさらに参照する。どちらの場合にも、1.0μmol/Lの濃度のLa
3+および1.0μmol/Lの濃度のBi
3+を含む親放射性核種と娘放射性核種との混合物を使用した。吸着剤材料の量は25mgであり、当該混合物の量は10mLであった。接触時間は室温で24時間であった。
【0081】
Carboxen 572ではLa3+の吸着が存在しないことが観察され得る。さらに、不十分な官能基によりBi3+およびLa3+に対する低い能力が認められるが、La3+よりもBi3+に対して選択性が認められる。スルホン化後に、スルホン化Carboxen 572の表面における硫黄および酸素含有量の増加と共にBi3+に対する吸着能力が高まった。これらの観察について上記実施例2に関するものと同様の説明が考えられ得る。実施例1の結果でも観察されたように、NaNO3溶液を用いてスルホン化Carboxen 572へのLa3+吸着を回避することができた。
【0082】
実施例4
この実施例では、吸着剤材料はスルホン化炭化メチルセルロース(SCMC)である。ここでは、様々な温度におけるメチルセルロースの炭化により炭化メチルセルロースを形成する。以下および図においてSCMC-[T]が使用されており、ここでは[T]はメチルセルロースを炭化させた温度を示す。ここではスルホン化は97%のH2SO4中、150℃で600分間行った。
【0083】
様々な温度ならびにそれぞれ2および1のpHで炭化させたスルホン化炭化メチルセルロースに関するLa
3+およびBi
3+のK
dの図である
図4Aおよび
図4Cを参照する。これらの図は、スルホン化炭化メチルセルロースに関してLa
3+またはBi
3+の吸着係数に対する炭化温度およびpHの影響を示す。様々な温度ならびにそれぞれ2および1のpHで炭化させたスルホン化炭化メチルセルロースに関するLa
3+およびBi
3+のR(%)の図である
図4Bおよび
図4Dをさらに参照する。これらの図は、スルホン化炭化メチルセルロースに関してLa
3+またはBi
3+の除去率に対する炭化温度の影響を示している。これらの実験では、親放射性核種および娘放射性核種の混合物は10μmol/LのLa
3+または10μmol/LのBi
3+を含んでいた。吸着剤材料の量は10mgであり、当該混合物の量は10mLであった。接触時間は室温で24時間であった。当該材料のいくつかがBi
3+またはLa
3+のために高い吸着能力を示したことが観察され得る。SCMC-400およびSCMC-450の性能は、市販されているもの(例えば、スルホン化Norit CA1)と確実に同程度に良好であった。軟らかい構造を有するスルホン化炭素材料の吸着性能は、硬い構造を有するものよりも良好であった。
【0084】
実施例5
この実施例では、吸着剤材料は活性炭Norit CA1(例えば、グラフト化によるさらなる官能化を有しない)であった。吸着剤材料である活性炭Norit CA1に関するBi
3+およびLa
3+についての様々なpH値におけるR(%)の図である
図5Aを参照する。それにより
図5Aは、La
3+およびBi
3+に対するNorit CA1の吸着率に対するpHの影響を示している。
図5Aに示されている結果のために行った実験では、親放射性核種および娘放射性核種の混合物は10μmol/LのLa
3+および10μmol/LのBi
3+を含んでいた。吸着剤材料の量は10mgであり、当該混合物の量は10mLであり、接触時間は室温で24時間であった。
【0085】
pH≦1.0ではLa
3+/Bi
3+の吸着において高い選択性(すなわち、La
3+に対して吸着能力は認められず、Bi
3+に対して高い除去率)を達成し得ることが観察され得る。この観察に関する説明は、この種の活性炭がその表面に異なる種類の官能基を有し、La
3+およびBi
3+との異なる相互作用機構を可能にするという点に見出し得る。Norit CA1のXPS酸素1sのスペクトルが
図5Bに示されている。2つの主要な酸素環境を、ヒドロキシル、カルボニルおよびカルボキシレート官能基の潜在的混合物を表すO=C(531.3eV)およびO-C(533.1eV)に割り当てることができた。
【0086】
実施例6
この実施例では、吸着剤材料はHDEHP-AC(すなわち、リン酸ビス(2-エチルヘキシル)で修飾された活性炭)を含んでいた。リン酸ビス(2-エチルヘキシル)は、以下の化学構造:
【化1】
を有する。
【0087】
吸着剤材料であるHDEHP-ACに関するBi
3+およびLa
3+についての様々なpH値におけるR(%)の図である
図6Aを参照する。それにより
図6Aは、La
3+およびBi
3+に対するHDEHP-ACの吸着(すなわち除去)率に対するpHの影響を示している。結果から、La
3+に対する吸着能力は2~1の短い範囲のpHに対してより一層敏感であると共に、Bi
3+はこのpH範囲の間で比較的低い依存性を示すことが分かった。La
3+の除去率は、pH2における約80%からpH1における約0まで急速に低下した。pH2では、大量のLa
3+イオンが静電引力によりHDEHP-ACに吸着され、これはHDEHPからの脱プロトン化PO
4H基に起因していた(pK
a:約1.47)。pH1では、H
+イオンの干渉およびHDEHP-ACとLa
3+イオンとの静電引力の欠如が原因で、La
3+に対する吸着能力はほぼ認めれなかった。pH<pK
aの場合の酸性溶液中のH
+とのイオン交換により、La
3+は非常により容易に脱着されることも分かった。La
3+と比較して、pH1におけるBi
3+の除去率は、Bi
3+とP=OおよびP-OH基との錯体形成またはHDEHP-ACの表面でのBi
3+の加水分解により、なお90%を超えていた。しかしpH1~pH0.5では、Bi
3+の除去率は約93%から37%に急速に低下し、これはBi
3+とプロトン化官能基との静電反発力および過剰なH
+イオンの競合的吸着に起因している。pHの影響に基づき、低いpH(例えばpH1)においてHDEHP-ACがLa
3+/Bi
3+混合物溶液からBi
3+を選択的に取り込むことができるという1つの結論に達し得る。まとめると、pHが最大1.0である場合、La
3+/Bi
3+の吸着における高い選択性(すなわち、La
3+についてはほぼ吸着能力は認められず、Biについては高い除去率)を達成し得る。
【0088】
吸着剤材料であるHDEHP-ACに関する異なる濃度のNaIのD(%)を示す図である
図6Bをさらに参照する。結果から、Bi
3+についての脱着率はpH2における高濃度のNaI溶液において比較的より高いことが分かった。pHの影響と合わせて、本発明者らは、NaI溶液を使用して
213Biを溶出させることができると結論づけ得る。さらに、溶離液のpHの低下に伴って
213Biが増加し得る。好ましくは、溶離液のpHは最大で2である。
【0089】
それにより
図6Bは、La
3+およびBi
3+の脱着率に対する溶出濃度の影響を示している。両方の実施例のために、10μmol/Lの濃度のLa
3+および10μmol/Lの濃度のBi
3+を含む親放射性核種と娘放射性核種との混合物を使用した。
図6Aでは、吸着剤材料の量は60mgであり、当該混合物の量は30mLであり、接触時間(すなわち、吸着剤材料と当該混合物との接触)は室温すなわち25℃で24時間であった。
図6Bでは、吸着剤材料の量は400mgであり、当該混合物の量は約30mLであり、当該混合物のpHは2であり、接触時間は室温で24時間であった。
【0090】
実施例7:反転ジェネレーターの一般的な原理
本発明の実施形態に係るより一般的な原理を示す、反転
225Ac/
213Bi分離システムのための概念設計およびプロセスフローの概略図である
図7Aを参照する。この実施例は具体的には
213Biを
225Acから分離するためのものであるが、他の娘放射性核種の他の親放射性核種からの分離を本発明の実施形態に係る同じもしくは同様のシステムで行ってもよい。それぞれの番号と共に流体(例えば、混合物/溶離液/除去溶液/…)の流れの方向を示す矢印は、本発明の実施形態に係る以下の方法工程を指す。
【0091】
工程0(調製段階、図示されていない):225Acおよび213Biの活性部位の密度に基づき、最適なイオン強度およびpH範囲を選択してもよい。カラム10は典型的に、当該カラムの入口を通して導入し得るHNO3(例えば0.1M)でコンディショニングする。
【0092】
工程1:次いで、225Ac(親放射性核種)および213Bi(娘放射性核種)を含む親放射性核種および娘放射性核種の混合物をカラム10に通し、これは例えば入口を介してカラム10に導入することを含む。当該混合物は例えば、イオン強度を増加させることができるNaNO3およびpHを低下させるためのHNO3をさらに含んでいてもよい。これによりカラム10において、本発明の実施形態に係る炭素系吸着剤材料である吸着剤材料への213Biの選択的吸着を生じさせてもよい。225Ac、HNO3およびNaNO3を含む溶離液をカラム10の出口を通して除去してもよい。
【0093】
工程2:その後に、HNO3およびNaNO3を含有する少量の溶液を例えば入口を通して適用して、213Biを吸着されたままにしながら残留225Acをカラム10から洗い流す。工程1および2の溶離液は、場合により工程2の溶離液の溶媒の蒸発後に、その後のサイクルの工程1において混合物に使用するために再生してもよく、それにより当該プロセスの廃棄物を減少させる。
【0094】
工程3:入口を通して吸着プロセス1のために使用されるものよりも低いイオン強度を有するNaCl、NaClまたはHClを含む溶離液(すなわち除去溶液)を導入することにより、213Biを溶出させてもよい。実際に、高イオン強度溶液から小さい質量の225Acまでもカラム10に吸着させた場合、213Biを溶出する場合にこの225Acを溶出させることも難しくなる。213Biを含む溶離液をカラム10の出口を通して回収してもよく、それにより娘放射性核種213Biを親放射性核種225Acから分離させた。
【0095】
工程4:カラム10を再利用するために、例えばH2Oまたは0.1MのNH3・H2Oでカラム10を洗浄することによって、当該カラム上のあらゆるCl-またはI-イオンを溶出させてもよい(すなわち除去してもよい)。
【0096】
高純度のBiの溶出(好ましくは溶離液中にAcが存在し得ないという理由)をさらに保証するために、娘核種よりも親放射性核種に対して高い親和性を有する吸着剤材料(例えばAG MP-50またはAc樹脂)を含む第2のカラム20(ガードカラム)を導入してもよい。第2のカラム20の存在により
213Biの分離時間を増加させなくてもよい。第2のカラム20を備えた反転
225Ac/
213Bi分離システムの例が
図7Bに示されている。矢印および番号は、
図7Aに関して上に説明されているものと同じ方法工程を指す。ここでは、工程3において
213Biを含む溶離液(すなわち除去溶液)を、カラム10の出口から第2のカラム20の入口まで送ってもよい。例えばカラム10の出口は第2のカラム20の入口に流体接続されていてもよい。その後に、第2のカラムの吸着剤材料と除去溶液中の残存する親放射性核種との相互作用を可能にした後に、例えば第2のカラム20の出口を介して第2のカラム20から娘放射性核種を溶出させてもよい。
【0097】
上記実施例1~7の炭素系吸着剤材料のいくつかについて、元素分析を用いて吸着剤材料の特性を分析して、それぞれの材料中の炭素、硫黄および酸素含有量を決定した。それらの結果が以下の表Aにまとめられている。
【表1】
【0098】
上記実施例1~7では、混合物と組み合わせた様々な吸着剤材料を使用した。本発明は当然ながらこれらの実施例に限定されない。実際に、本明細書のどこかに記載されているように、様々な任意の技術的特徴を使用して炭素系吸着剤材料に良好な特性を与えてもよい。
【0099】
以下では、直接放射性核種分離システムにおいて今後使用するための炭素系吸着剤材料の実施例が提供されている。直接放射性核種分離システムでは、炭素系吸着剤材料への親(以下の実施例では親放射性核種の代わり、すなわちLa3+)および娘放射性核種(以下の実施例ではBi3+)の最初の共吸着が存在する。次に、炭素系吸着剤材料からの娘放射性核種(以下の実施例ではBi3+)の選択的脱着を行う。
【0100】
実施例8
この実施例では、吸着剤材料はHDEHP-ACを含んでいた。
【0101】
Sがミリグラムでの吸着剤材料の量であってLがミリリットルでの当該混合物の量である様々なS/L比に対するHDEHP-ACに関するBi
3+およびLa
3+のK
dの図である
図8Aを参照する。ここでは、HDEHPで修飾された活性炭に関するLa
3+およびBi
3+の分配係数に対する当該混合物(L)(すなわち、親放射性核種と娘放射性核種との混合物)の量(単位:mL)を超える吸着剤材料(S)の量(単位:mg)の影響が示されている。ここでは、当該混合物は10μmol/LのLa
3+および10μmol/LのBi
3+を含んでいた。この実験はpH2、24時間の接触時間および室温で行った。吸着剤材料の量は30~400mgであり、当該混合物の量は10mLであった。この実験はpH2、24時間の接触時間および室温で行った。実施例6における様々な濃度のNaIに対するHDEHP-ACに関するBi
3+およびLa
3+のD(%)の図である
図6Bをさらに参照する。それによりこの図は、HDEHPで修飾された活性炭からのLa
3+およびBi
3+の脱着率に対するNaIの濃度、当該混合物の濃度の影響を示している。HDEHP-ACに関するLa
3+の脱着率の図である
図8Bを参照し、Bi
3+を吸着剤の表面から脱着した後に、様々な体積の濃硝酸を管に添加してLa
3+を洗浄して、La
3+(
225Ac)を再利用し、かつ吸着剤の放射線分解損傷を減少させた。脱着プロセス中の硝酸の濃度は0.1~0.3mol/Lの範囲である。HDEHP-ACに関するBi
3+およびLa
3+の吸着率の図である
図8Cを参照する。ここでは、親放射性核種および娘放射性核種の混合物は10μmol/LのLa
3+および10μmol/LのBi
3+を含んでいた。当該混合物のためのNaNO
3の濃度は0.1~0.5mol/Lの範囲である。
【0102】
図6Aと組み合わせると、pH>pK
a(1.47)では、La
3+に対する吸着能力がpHの増加と共に高まるということが観察され得る。La
3+の吸着に影響を与えることなくpH2のNaI溶液を用いてBi
3+を容易に溶出させ得る。実際に、I
-とBi
3+との強い錯体形成を生じさせ、それにより脱着を生じさせてもよい。La
3+が炭素系吸着剤材料に吸着されたままであるように、I
-とLa
3+との錯体形成は存在しないように見える。
【0103】
図8Bと組み合わせると、その後に酸溶液(例えば0.2~0.3mol/LのHNO
3)を使用して
225Acを溶出させて、当該カラムへの放射線分解損傷を減少させる。次いでpHを上昇させた後に、得られた
225Acを再度使用することができる。塩の濃度は、イオン強度の影響に従って吸着プロセスに高い影響を与えるものであってはならない。これに対応して、アルカリ性溶液を添加して
225Ac溶液のpHを上昇させて吸着剤の吸着能力を高め、これによりイオン強度の上昇をもたらすことができる。ここではNaNO
3濃度の影響を調べて、HDEHP-ACの吸着性能に対するイオン強度の影響を調査した。
図8Cは、0.05~0.5mol/LのNaNO
3の濃度の増加に伴ってLa
3+のK
d値が徐々に減少することを示している。これは、La
3+とHDEHP-ACとの間の静電引力がイオン強度の上昇に伴って弱くなっていくことが理由である。興味深いことに、La
3+の除去率は、0.5mol/LのNaNO
3溶液中でなお90%を超えており、これはHDEHP-ACが比較的高いイオン強度溶液において、La
3+に対して比較的良好な親和性をなお有していることを示している。Bi
3+に関して平衡濃度はICP-MSのより低い検出限界を下回り、従ってBi
3+のK
d値は全範囲においてなお非常に高く、これはAC-PがBi
3+に対して極度の親和性を有していることを示している。これは、HDEHP-AC上での内圏錯体(Bi-OH/Bi=O)の形成に起因していた。
【0104】
実施例9:直接ジェネレーターの一般的な原理
本発明の実施形態に係る直接
225Ac/
213Bi分離システムのための概念設計およびプロセスフローの概略図である
図9を参照する。この実施例は具体的には
213Biを
225Acから分離するためのものであるが、他の親放射性核種からの他の娘放射性核種の分離を本発明の実施形態に係る同様のシステムにおいて行ってもよい。それぞれの番号を有する流体(例えば、混合物/溶離液/除去溶液/…)の流れの方向を示す矢印は、本発明の実施形態に係る以下の方法工程を指す。
【0105】
工程0(調製段階):HNO3(例えば、少なくとも0.01Mの濃度)を用いて炭素系吸着剤材料をコンディショニングしてもよい。225Acおよび213Biを含有するHNO3(例えば>0.01M)を用いて当該混合物(すなわち、親放射性核種と娘放射性核種との混合物)を調製してもよい。
【0106】
工程1:当該混合物を例えば入口を通してカラム10に導入してもよい。225Acおよび213Biの両方をカラム10の吸着剤材料に吸着させてもよい。
【0107】
工程2:213Biを溶出させるために、NaI(例えば、少なくとも0.45M)およびHNO3(例えば0.01M)を含む溶離液をカラム10に導入してもよい。すなわち、大きいイオン強度を有する溶離液によって吸着剤材料の選択性を高めてもよい。
【0108】
工程3:カラム10の寿命を延ばすために、HNO3(例えば、0.1~0.5Mの濃度のHNO3を含む溶液)によって225Acを溶出させることができる。225Acを除去することにより、225Acと炭素系吸着剤材料との接触時間を短くしてもよい。
【0109】
工程4:工程3において得られた225Ac溶液のpHは好ましくは少なくとも2である。この得られた225Ac溶液を、当該混合物を形成するための次のサイクルの工程0で再利用してもよい。
【0110】
当然のことながら、本発明に係る装置について好ましい実施形態、具体的な構築および構成ならびに材料が本明細書において考察されているが、本発明の範囲から逸脱することなく形態および詳細における様々な変形または修正を行ってもよい。例えば、上に与えられている任意の手段は単に使用し得る手順を表している。本発明の範囲内で記載されている方法に/から工程を追加/削除してもよい。
【0111】
実施例10
例示として、どのように球状炭素材料を合成することができるかについての実施例が与えられているが、実施形態はそれらに限定されない。この実施例では、セルロースビーズを400℃で熱分解し、次いでスルホン化プロセスを介して球状スルホン化炭素材料を作製した。スルホン化温度およびスルホン化時間はそれぞれ150℃および180分であった。合成プロセスの図である
図10Aを参照する。
図10AのSEM画像は、球状炭化セルロースビーズの合成に成功したことを示している。この実施例は、球状炭素材料および球状スルホン化炭素材料を合成するための方法を示している。
【0112】
150℃の温度でスルホン化させた吸着剤材料であるスルホン化炭化セルロースビーズに関する、Bi
3+およびLa
3+についての様々なpH値におけるK
d値の図である
図10Bを参照する。それにより
図10Bは、La
3+およびBi
3+に対するスルホン化炭化セルロースビーズの吸着率に対するpHの影響を示している。
図10Bに示されている結果のために行った実験では、親放射性核種および娘放射性核種の混合物は10μmol/LのLa
3+および10μmol/LのBi
3+を含んでいた。吸着剤材料の量は30mgであり、当該混合物の量は10mLであり、接触時間は室温で24時間であった。
【0113】
さらなる例示として、本発明はそれに限定されるものではないが、実験的分離の実施例が以下に記載されている。100mgのSCMC-500を用いて225Ac/213Biカラムを準備した。調製した5mLの開始溶液は、200kBqの225Ac、0.055mol/LのHNO3および3.0mol/LのNaNO3からなっていた。当該カラムをH2O(10mL)、次いで0.01mol/LのHNO3溶液(2mL)で洗浄した。その後に、ファルコンチューブ中で調製した225Ac溶液(5mL)を、1.4±0.1mL/分の吸着流速で当該カラムに通した。その後に、0.02mol/LのHNO3+3mol/LのNaNO3の溶液1mLを使用してファルコンチューブを洗浄し、次いで0.02mol/LのHNO3+3mol/LのNaNO3の溶液2.5mLを利用してカラム-100を洗浄した。最後に、1mol/LのHClの溶液1mLを用いて、1.4±0.1mL/分の溶出流速で213Biを溶出した。溶離液中の225Ac不純物は0.03±0.01%(分離終了時の225Ac:213Biの活性比)であった。総分離時間は6.5±0.3分であった。213Bi収率は94±3%であった。
【手続補正書】
【提出日】2024-08-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
213Bi娘放射性核種を
225Ac親放射性核種から分離するための放射性核種分離システムであって、
・前記
225Ac親放射性核種を含む液体溶液をカラム(10)に充填するための入口と、
・時間的に異なる瞬間に前記
225Ac親放射性核種および/または前記
213Bi娘放射性核種の選択的脱着を可能にするために、前記
225Ac親放射性核種および前記
213Bi娘放射性核種と相互作用することができる吸着剤材料を含む前記カラム(10)と、
・前記
225Ac親放射性核種および前記
213Bi娘放射性核種の前記選択的脱着に基づき前記
213Bi娘放射性核種を選択的に得るための出口と
を備え、
前記吸着剤材料は炭素系吸着剤材料である
、放射性核種分離システム。
【請求項2】
前記炭素系吸着剤材料は、1つ以上の官能基を含む1種以上の化合物と共に活性材料を含む、請求項
1に記載の放射性核種分離システム。
【請求項3】
前記1つ以上の官能基は、
1つ以上の酸素含有基
、および/または
1つ以上の硫黄含有
基、および/または
1つ以上のリン含有
基
から選択される、請求項
1または2に記載の放射性核種分離システム。
【請求項4】
前記炭素系吸着剤材料は、
熱分解されたポリマーまたは多
糖、および/または
活性炭、窒化炭素、黒鉛状窒化炭素、黒鉛およびカーボンモレキュラーシーブ
のうちの1つ以上を含む、請求項
1~3のいずれ
か一項に記載の放射性核種分離システム。
【請求項5】
前記炭素系吸着剤材料はビーズに成形されているか、あるいは前記炭素系吸着剤材料は、ビーズ
、管状構造、ハニカム
、または3D印刷モノリスとし
て提供される
、請求項
1~4のいずれか
一項に記載の放射性核種分離システム。
【請求項6】
前記炭素系吸着剤材料は5μm~1m
mのサイズを有するビーズに成形されている、請求項
1~5のいずれか
一項に記載の放射性核種分離システム。
【請求項7】
前記吸着剤材料の表面積は100m
2/g未
満である、請求項
1~6のいずれか
一項に記載の放射性核種分離システム。
【請求項8】
前記炭素系吸着剤材料のH/Cモル比は1未満である
、請求項
1~7のいずれか
一項に記載の放射性核種分離システム。
【請求項9】
前記放射性核種分離システムは直接放射性核種分離システムであり、前記炭素系吸着剤材料は、前記娘放射性核種を選択的に脱着させるために前記
225Ac親放射性核種および前記娘放射性核種の両方に対して強い親和性を有す
る、請求項
1~8のいずれか
一項に記載の放射性核種分離システム。
【請求項10】
前記放射性核種分離システムは反転放射性核種分離システムであり、前記炭素系吸着剤材料は前記
225Ac親放射性核種に対してではなく前記娘放射性核種に対してより高い親和性を有するように構成されている、請求項1~8のいずれか
一項に記載の放射性核種分離システム。
【請求項11】
前記炭素系吸着剤材料はリン酸基、カルボニル、ヒドロキシル基またはカルボン酸のうちの1つ以上を含む、請求項10に記載の放射性核種分離システム。
【請求項12】
・
225Ac親放射性核種と
213Bi娘放射性核種との混合物を炭素系吸着剤材料を含むカラム(10)に充填する工程と、
・前記吸着剤材料が前記
225Ac親放射性核種および前記
213Bi娘放射性核種と選択的に相互作用するのを可能にする工程であって、前記吸着剤材料は、前記
225Ac親放射性核種および前記
213Bi娘放射性核種の選択的脱着を可能にするために、前記
225Ac親放射性核種および前記
213Bi娘放射性核種と相互作用するための親和性を有する工程と、
・前記
213Bi娘放射性核種を選択的に得るために、前記相互作用後に前記
225Ac親放射性核種および前記
213Bi娘放射性核種を選択的に脱着させる工程と
を含む、放射性核種を分離するための方法。
【請求項13】
前記吸着剤材料は
、前記
225Ac親放射性核種に結合するために前記吸着剤材料が前記
213Bi娘放射性核種よりも前記
225Ac親放射性核種に対して高い親和性を有するように構成されており、
前記娘放射性核種を選択的に得る前記工程は、前記
225Ac親放射性核種を前記吸着剤材料に結合させた後に、少なくとも
1のpHを有する溶離液を用いて前記
213Bi娘放射性核種を前記カラム(10)から溶出させることを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記吸着剤材料は、前記吸着剤材料
が前記
213Bi娘放射性核種に結合するために前記
225Ac親放射性核種よりも前記
213Bi娘放射性核種に対して高い親和性を有するように構成されており、
前記
213Bi娘放射性核種を選択的に得る前記工程は、前記カラム(10)を洗浄すること、およびその後に前記
213Bi娘放射性核種を前記カラム(10)から除去溶液の中に除去することを含む、
請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記除去溶液を前記
213Bi娘放射性核種よりも前記
225Ac親放射性核種に対して高い親和性を有する吸着剤材料を有する第2のカラム(20)にさらに添加し、前記第2のカラムの前記吸着剤材料(20)と前記除去溶液中の残存する
225Ac親放射性核種との相互作用を可能にした後に、前記
213Bi娘放射性核種を前記第2のカラム(20)から溶出させる、請求項14に記載の方法。
【国際調査報告】