(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】圧力補償体、特に液圧式の単段および多段ホットプレス機およびコールドプレス機に装備するためのプレスパッド
(51)【国際特許分類】
B30B 15/02 20060101AFI20250117BHJP
B29C 43/32 20060101ALI20250117BHJP
B32B 25/10 20060101ALN20250117BHJP
【FI】
B30B15/02 E
B29C43/32
B32B25/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024532856
(86)(22)【出願日】2022-11-22
(85)【翻訳文提出日】2024-06-26
(86)【国際出願番号】 EP2022082844
(87)【国際公開番号】W WO2023099288
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】202021003665.2
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514013967
【氏名又は名称】ヒュック ライニッシェ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】HUECK Rheinische GmbH
【住所又は居所原語表記】Helmholtzstrasse 9, D-41747 Viersen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ロルフ エスペ
【テーマコード(参考)】
4E088
4F100
4F204
【Fターム(参考)】
4E088DA08
4E088DA15
4E088EA03
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4F100AG00C
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4F100AK19E
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4F100AK54D
4F100AK54E
4F100AL01D
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4F100DG03C
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4F204FN11
4F204FN15
4F204FQ08
4F204FQ17
(57)【要約】
プリント基板、高圧ラミネートまたは類似の板状体を製作するための液圧式の単段または多段ホットプレス機およびコールドプレス機に使用するためのプレスパッドであって、このプレスパッドの互いに反対側の面に配置されていて、それぞれ極めて低い摩擦係数を有する耐熱性の、好ましくは熱可塑性のポリマー製のシートから成る2つの外側層と、これらの外側層同士の間に配置されていて、繊維製のテキスタイル面状構造物から成る中間層と、それぞれこの中間層と各々の外側層との間に配置されていて、フッ素エラストマー、好ましくはフッ素ゴムから成る2つの結合層とを備える、プレスパッドでは、プレスサイクルの回数を増加させると共にプレス工程中の摩耗を阻止するために、中間層のテキスタイル面状構造物の繊維の少なくとも大部分、好ましくは全ての繊維は、負の熱線膨張係数を有する材料から成っていることが提案される。さらに、プレスパッドを製作するための方法が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリント基板、高圧ラミネートまたは類似の板状体を製作するための液圧式の単段または多段ホットプレス機およびコールドプレス機に使用するためのプレスパッドであって、
- 前記プレスパッドの互いに反対側の面に配置されていて、それぞれ極めて低い摩擦係数を有する耐熱性の、好ましくは熱可塑性のポリマー製のシートから成る2つの外側層と、
- 前記外側層同士の間に配置されていて、繊維製のテキスタイル面状構造物から成る中間層と、
- それぞれ前記中間層と各々の前記外側層との間に配置されていて、フッ素化されたゴム、好ましくはフッ素ゴムから成る2つの結合層と
を備える、プレスパッドにおいて、
前記中間層の前記テキスタイル面状構造物の繊維の少なくとも大部分、好ましくは全ての繊維は、負の熱線膨張係数を有する材料から成っていることを特徴とする、プレスパッド。
【請求項2】
前記中間層の前記テキスタイル面状構造物の繊維は、パラ系アラミドおよび/またはメタ系アラミドおよび/またはカーボン(炭素)および/またはガラスから成っており、好ましくは、前記繊維は、前述した材料のうちの1つの材料から専ら成っているかまたは前述した材料のうちの複数の材料から成る繊維混合物から成っていることを特徴とする、請求項1記載のプレスパッド。
【請求項3】
前記中間層は、織物および/または経編地および/または緯編地および/または不織布材料および/またはフェルト材料、好ましくはニードルパンチフェルトを有することを特徴とする、請求項1または2記載のプレスパッド。
【請求項4】
前記中間層の前記テキスタイル面状構造物は、好ましくは互いに反対側の両方の面に、好ましくは前記テキスタイル面状構造物と同じ材料または前記テキスタイル面状構造物の前記繊維と異なる材料から成る、ニードルパンチにより交絡させられた短繊維を表面にわたって備えることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載のプレスパッド。
【請求項5】
前記外側層の前記シートは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、パーフルオロアルコキシポリマー(PFA)、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレンコポリマー(FEP)またはポリクロロトリフルオロトリエチレン(PCTFE)から成っていることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載のプレスパッド。
【請求項6】
前記外側層の前記シートの、前記結合層に面した表面が、好ましくは全面にわたって付着強化準備されていて、特に化学的にエッチングされているかまたは好ましくは低圧プラズマによるイオン化処理に供されていることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載のプレスパッド。
【請求項7】
(部分架橋された)フッ素ゴム重合体が、
- フッ化ビニリデン(VDF)およびヘキサフルオロプロピレン(HFP)のコポリマーまたは
- フッ化ビニリデン(VDF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)およびテトラフルオロエチレン(TFE)のターポリマーまたは
- フッ化ビニリデン(VDF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)およびパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)から成る重合体または
- フッ化ビニリデン(VDF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)およびエテンから成る重合体
から成っていることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載のプレスパッド。
【請求項8】
(部分架橋された)フッ素ゴム重合体の成分が、過酸化物またはジアミンまたはビスフェノールで架橋されていることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載のプレスパッド。
【請求項9】
プリント基板、高圧ラミネートまたは類似の板状体を製作するための液圧式の単段または多段ホットプレス機およびコールドプレス機に使用するためのプレスパッドを製作するための方法であって、前記プレスパッドは、
- 前記プレスパッドの互いに反対側の面に配置されていて、それぞれ極めて低い摩擦係数を有する耐熱性の、好ましくは熱可塑性のポリマー製のシートから成る2つの外側層と、
- 前記外側層同士の間に配置されていて、繊維製のテキスタイル面状構造物から成る中間層と、
- それぞれ前記中間層と各々の前記外側層との間に配置されていて、フッ素化されたゴム、好ましくはフッ素ゴムから成る2つの結合層と
を備え、
- 前記中間層の前記テキスタイル面状構造物の繊維の少なくとも大部分、好ましくは全ての繊維は、負の熱線膨張係数を有する材料から成っている、
方法において、
フッ素エラストマー、好ましくはフッ素ゴム材料を予備架橋状態で両方の前記外側層のうちの一方の外側層と前記中間層との間にそれぞれ供給し、そこで均一に全面にわたって分配し、こうして形成された多層複合体において、全面にわたる圧力および高められた温度下で、前記フッ素化されたゴム、好ましくは前記フッ素ゴム材料を最終架橋状態に移行させ、これによって、前記多層複合体を持続的に接着して、前記プレスパッドを形成することを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント基板、高圧ラミネートまたは類似の板状体を製作するための液圧式の単段または多段ホットプレス機およびコールドプレス機に使用するためのプレスパッドであって、
- プレスパッドの互いに反対側の面に配置されていて、それぞれ極めて低い摩擦係数を有する耐熱性の、好ましくは熱可塑性のポリマー製のシートから成る2つの外側層と、
- 外側層同士の間に配置されていて、繊維製のテキスタイル面状構造物から成る中間層と、
- それぞれ中間層と各々の外側層との間に配置されていて、フッ素エラストマー、好ましくはフッ素ゴムから成る2つの結合層と
を備える、プレスパッドに関する。
【0002】
さらに、本発明は、プリント基板、高圧ラミネートまたは類似の板状体を製作するための液圧式の単段または多段ホットプレス機およびコールドプレス機に使用するためのプレスパッドを製作するための方法であって、プレスパッドは、
- プレスパッドの互いに反対側の面に配置されていて、それぞれ極めて低い摩擦係数を有する耐熱性の、好ましくは熱可塑性のポリマー製のシートから成る2つの外側層と、
- 外側層同士の間に配置されていて、繊維製のテキスタイル面状構造物から成る中間層と、
- それぞれ中間層と各々の外側層との間に配置されていて、フッ素エラストマー、好ましくはフッ素ゴムから成る2つの結合層と
を備え、
中間層のテキスタイル面状構造物の繊維の少なくとも大部分、好ましくは全ての繊維は、負の熱線膨張係数を有する材料から成っている、
方法に関する。
【0003】
フッ素エラストマー(または本明細書では同義的に「フッ素化されたエラストマー」)とは、本発明の範囲内では、フッ素ゴムのほかに、別の群のフッ素化されたエラストマー、例えばパーフルオロゴム(FFKM)、テトラフルオロエチレン/プロピレンゴム(FEPM)またはフッ素化されたシリコーンゴム(FVMQ)を意味している。なお、後者は、本発明に係るプレスパッドを用いた試験にあまり適さない傾向にあると判明している。
【0004】
背景技術
冒頭に記載した形態のプレスパッドは、種々異なる液圧式の単段および多段ホットプレス機およびコールドプレス機に使用され、電子回路を製作するためのプリント基板、メラミンおよびフェノール樹脂を含浸させた紙製の複数の層から成る高圧ラミネート(HPL=High Pressure Laminate)または類似の板状体である製作すべき製品にプレス圧を均一に全面にわたって可能な限り均一に分配し、製作すべき製品に全面にわたって伝達する役割を有している。圧力補償体とも呼ばれるこのようなプレスパッドに課すべき要求は、1つには、加熱および冷却工程時のプロセス時間を短く保つための、面にわたって均一な可能な限り高い熱伝導率であり、もう1つには、可能な限り多くの回数のプレスサイクルにわたるプレスサイクルの終了時のプレス圧の解消後、可能な限り出発状態に再び復元するための高い弾性もしくは高い復元能である。後者の要求は、僅かな、いわゆる「圧縮変形残分」と見なすこともできる。さらに、このようなプレスパッドには、可能な限り低い静摩擦および動摩擦、つまり、特に、特にプレス機内の金属製の熱盤に対して低い静摩擦係数および動摩擦係数を有するような役割が課される。特にプリント基板製作時には、使用されるプレスパッドに課される要求が特に高い。なぜならば、このような製品は、極めて高いプレス圧、長いプレス時間および高いプレス温度下で製作されるからである。1つには、プリント基板が極めて少ない厚さ誤差を有していることが求められ、もう1つには、製作プロセスの際にプリント基板にパーティクル状の不純物が発生もしくは付着してはならない。なぜならば、これによって、プリント基板の後続処理時に、このプリント基板から後々製作されるプリント電子回路における欠陥のリスクが著しく高められてしまう恐れがあるからである。これに関連して、低い静摩擦係数および動摩擦係数が重要となる。なぜならば、プレスパッドとプレスプレートもしくはプレス盤とが付着し合っている場合に、プレスパッドにおける温度変化に起因した膨張および収縮プロセスに際して、プレスパッドの表面に摩耗現象が大幅に発生してしまう恐れがあるからである。
【0005】
プリント基板の製作時には、基板材料として、典型的には、特にプラスの物理的かつ化学的な特性に基づき、エポキシド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレートが使用される。プリント基板製作において最も頻繁に使用される基板は、相変わらず、銅箔が片面または両面に接着されたガラス繊維強化された(繊維ガラス)エポキシ樹脂である。固形の構造と耐久性とによって、繊維ガラスにより強化されたこのようなエポキシ樹脂複合構造体は、際だった機械的な強度を提供する。その他の点では、エポキシ樹脂の含浸によって、優れた電気的な絶縁体と難燃性の材料とが得られる。後者の特性は、プリント電子回路に規定の電子コンポーネントを使用すると、温度が上昇する傾向にあるので、ますます重要になっている。
【0006】
プリント基板は、典型的には、発生源から所望の目標位置にエネルギー、信号およびデータ伝送を行う電子コンポーネントおよび回路の最重要アイテムである。プリント基板の2つの主要機能は、1つには、電子部品の安定した固定であり、もう1つには、プリント基板における種々異なるコンポーネントの間の導電接続である。この場合、同一のプリント基板に設けられた個々の電子部品の間の通電は、導体路、トラックまたは信号路によって可能となる。これらは、非導電性の基板(繊維ガラスエポキシ樹脂)から成る中間層に表面層を形成する銅薄板からエッチングにより形成される。プリント基板はその寿命の間、伝送遅延または不正確なデータ伝送を回避するために、高い性能を維持していなければならない。
【0007】
このようなプリント基板の既知の単純な構成は、銅箔被覆体から形成された導体路を一方の面にのみ有する、いわゆる片面スタンドプリント基板である。複雑さが増す場合には、プリント基板が両面で銅被覆されている。これでも十分でない場合には、いわゆる多層の多層プリント基板に対する可能性が存在している。この場合、被覆されたプリント基板を全て具備した複数の肉薄のエポキシ樹脂プレートが、プリプレグに適切に結合される。極めて複雑な回路の場合には、このような多層プリント基板は、エポキシ樹脂プレートと銅箔とが交互に積層されている最大50層から成っていてよい。
【0008】
製作プロセスの範囲内では、このようなプリント基板もしくはその「中間製品」が複数のプレスパッケージに纏められ、大部分において、平滑な表面を備えた特殊鋼から成るプレス盤同士の間へとホットプレス機およびコールドプレス機内に進入させられる。プレス設備内での厚さ誤差を補償するために、プレス機のプレス盤と熱盤との間に、冒頭に記載したプレスパッドが挿入される。プレス機の個々の段は、典型的には、それぞれサーモオイルによる通流によって加熱および冷却のために使用することができる熱盤を具備している。高い圧力および温度下で、まず、プレス対象に使用された樹脂が溶融し、その際、導体路を、例えばエポキシ樹脂中間層に結合し、次いで、硬化して、完成したプリント基板が形成される。次いで、必要となる凝縮および重合時間に応じて、最初に実施された加熱プロセスが、圧力を維持しながら、冷却によって中断される。
【0009】
前述した高圧ラミネートを製作するためのプレス設備用の先行技術におけるプレスパッドは、今日でもなお、紙材料、例えばウールフェルト紙またはソーダクラフト紙から成るプレスパッドによって極めて数多く形成される。さらに、織物、経編地、緯編地または不織布の形態の組み込まれたテキスタイル面状構造物なしに、合成繊維またはプレート状もしくは層状のプラスチック材料から成るテキスタイル面状構造物の形態のプラスチックパッドが使用されることも多い。
【0010】
米国特許第4,461,800号明細書に基づき、成形プレス機用のプレスパッドが公知である。この公知のプレスパッドは、ラミネートされたコアを有している。このコアは少なくとも1つの硬質のクッション層を備えている。このクッション層は2つの剛性的なプレートの間に配置されている。これらのプレートは高い熱伝導率を有している。さらに、公知のプレスパッドは、多孔質の弾性的な層を含む2つの軟質のクッション層を有している。これらの軟質のクッション層は、ラミネートされたコアの表面の各々に接着されている。さらに、前述した硬質のクッション層は、バインダーを含浸させた少なくとも1つの多孔質の弾性的なシートを備えている。前述したプレスパッドの構造は複雑であり、寿命が比較的短い。
【0011】
欧州特許出願公開第1084821号明細書に記載されているプレスパッドでは、互いに反対側に位置する第1および第2の表面を備えたフェルト状のパッド材料から成る層と、パッド材料の第1の表面に形成されたコア部分とが存在している。このコア部分は、パッド材料の第1の表面に接触する第1の表面と、反対側の第2の表面とを有している。さらに、フェルト状のパッド材料から成る層は、糸材料から製織されたマトリックス織物と、ニードルパンチにより組み込まれた不織布繊維層とを備えている。さらに、コア部分は、閉鎖された独立気泡の形態で分配された中空室を含む弾性的な材料、海綿状のゴム材料または熱可塑性のエラストマーから成っている。
【0012】
さらに、欧州特許出願公開第1978528号明細書には、プリント基板を製作するためのプレスパッドが開示されている。このプレスパッドは、それぞれ層として、フッ素エラストマーから成る少なくとも1つの別の層に組み合わされた織物、紙、フィルムまたはシート状の構造体を有していてよい。好ましくは、フッ素エラストマーは、ポリオール加硫系のフッ素ゴム成分、加硫剤、加硫促進剤および酸受容体を有している。
【0013】
さらに、欧州特許出願公開第0842764号明細書に基づき、テキスタイル糸から成るプレスパッドが公知である。この公知のプレスパッドは、高い機械的な負荷下で、延長された使用期間を示す。テキスタイル糸は難燃性のメラミン樹脂繊維から成っている。
【0014】
さらに、欧州特許第0493630号明細書から、石綿不含の材料から成っていて、高圧ラミネートを製作するための高圧単段プレス機に使用するために設けられたプレスパッドが明らかである。
【0015】
さらに、独国特許出願公開第10337403号明細書に基づき、少なくとも部分的に耐熱性のポリマー材料から成る糸を含む織物を有するプレスパッドが公知である。この場合、特殊性は、ポリマー材料を有する糸が、少なくとも1%の割合のガスを含んでいることにある。
【0016】
さらに、欧州特許第1386723号明細書から、糸軸線に対して横方向でそれぞれ異なる弾性を有する糸種をそれぞれ交互に有する経糸および/または緯糸を備えた織物を有するプレスパッドが明らかである。
【0017】
欧州特許出願公開第0488071号明細書から、高圧用途用の別のプレスパッドが明らかである。このプレスパッドは、400N/cm2~1200N/cm2のプレス圧および160℃~200℃の温度に適している。
【0018】
最後に、独国実用新案第20011432号明細書には、さらに、それぞれ高圧ラミネートを製作するための高圧多段プレス機または高圧単段ショートサイクルプレス機用の、石綿不含の材料から成るプレスパッドが開示されている。この公知のプレスパッドは、芳香族ポリアミドから成る糸と金属糸とを含むテキスタイル織物を有している。特に、この織物は、少なくとも片側の表面にのみ、耐熱性かつ耐圧性のポリマー材料から成るコーティングを備えている。このコーティングは、連続した層の形態で織物を全面にわたって覆っている。
【0019】
前述した全てのプレスパッドは、高圧ラミネートを製作するための高圧プレス設備に使用する際に課す必要があるような高い要求、つまり、長い使用期間、極めて良好な復元特性、均一な圧力補償ならびに極めて低い摩擦係数を不十分にしか満たすことができない。
【0020】
課題
本発明の根底にある課題は、高圧ラミネートの製作時の前述したような要求をより良好に満たす、単段または多段ホットプレス機およびコールドプレス機に使用するためのプレスパッドを提案することである。
【0021】
解決手段
冒頭に記載した形態のプレスパッドから出発して、前述した課題は、本発明によれば、中間層のテキスタイル面状構造物の繊維の少なくとも大部分、好ましくは全ての繊維が、負の熱線膨張係数(線熱膨張係数)を有する材料から成っていることによって解決される。この場合、線膨張係数は、繊維長手方向における膨張に関するものである。
【0022】
中間層のテキスタイル面状構造物を形成する繊維は、全体または少なくとも大部分において、負の熱線膨張係数を有する材料から成っているので、本明細書で言及している構造形態の公知のプレスパッドにおける特性と異なり、プレス工程中、つまり、プレス設備の内部での昇温時に膨張が生じるのではなく、逆に、繊維の短縮が生じる。本発明に係るプレスパッドの外側層の耐熱性の材料および/または結合層の1種以上の材料、つまり、フッ素エラストマー、好ましくはフッ素ゴムが正の熱線膨張係数を有している場合でも、中間層のテキスタイル面状構造物への負の熱線膨張係数を有する材料の使用は、それにもかかわらず、驚くべきことに極めてプラスに作用する。なぜならば、プレスパッドの総膨張が、先行技術に比べて著しく減じられるからである。中間層のテキスタイル面状構造物の繊維は、典型的には、中間層を取り囲む結合層のフッ素エラストマー、好ましくはフッ素ゴム材料よりも著しく大きな弾性率を有しているので、長さに関して短縮する中間層が、いわばゴム弾性的な特性を有する両方の結合層を強制的に収縮させて、より大きな圧縮応力を結合層に形成する。なお、このことは、結合層の材料が、収縮する中間層と協働することなしに、温度上昇時に長さに関する膨張を仮に被ったとしても生じる。幾分弱化させられているとしても、同じことが、耐熱性のポリマーから成る両方の外側層についても云える。なぜならば、これらの外側層は、フッ素エラストマーから成る結合層、好ましくはフッ素ゴム結合層の優れた接着作用に基づき、同じく本来付与されている膨張作用に完全には追従することができないからである。
【0023】
したがって、本発明により中間層内にテキスタイル面状構造物の形態で処理された負の熱線膨張係数を有する繊維に基づき、プレスパッドの膨張を全体的に、つまり、その外側層の領域でも予測できないほど減じることができる。したがって、このことは、実際のところ、公知のプレスパッドの特に大きな線膨張が、すでに先行技術において意識的に極めて小さく選択された外側層の材料の摩擦係数にもかかわらず、外側層と、この外側層に接触するプレス盤もしくは熱盤との間の望ましくない相対運動ひいてはパッド材料、つまり、外側層の材料の摩耗に繋がり、こうして、プレス設備もしくはプレス設備により製作されるプリント回路の内部に極めて不都合な不純物を生じさせる恐れがあるため、極めて重要である。すでに上述したように、プリント基板を引き続き処理してプリント回路を形成する範囲内でのプリント基板における汚染物は、プリント回路における誤機能に繋がってしまう。
【0024】
本発明に係るプレスパッドでは、プレス工程中の温度上昇の結果、中間層の繊維の負の熱線膨張係数にもかかわらず、最終的に外面に(僅かな)膨張が生じる場合でさえ、この膨張は、外側層への極めて低い摩擦係数を有する材料の使用によって可能な限り良好に緩和される。なぜならば、この低い摩擦係数に基づき、プレス盤または熱盤への外側層材料の接着の意味での典型的な付着が回避されるからである。このような接着の際に、続いて強引な剥離を行うと、プレスパッドに引裂き片または剥離片の形態で損傷が生じやすくなり、この損傷がやはり、前述した汚染現象ひいては製作されるプリント基板における前記品質損失を結果的にもたらしてしまう。
【0025】
外側層のポリマー材料の極めて低い摩擦係数とは、この出願の範囲内では、0.06未満、好ましくは0.05未満、さらに好ましくは0.04未満の摩擦係数を意味している。
【0026】
本明細書に開示した本発明の範囲内の繊維は、フィラメント、つまり、モノフィラメントまたはマルチフィラメントであってよく、例えば(加撚された)マルチフィラメントであってもよい。このフィラメントは、その後、古典的な繊維技術的な処理方法(製織、緯編み、経編み、不織物製作)によって処理されて、テキスタイル面状構造物を形成する。本願による繊維は、ステープルファイバまたはエンドレスファイバ、例えば紡糸繊維であってよい。こういったファイバは処理されて、不織布材料を形成し、その後、中間層のテキスタイル面状構造物を形成する。
【0027】
本願の範囲内の外側層の「耐熱性のポリマー」という用語は、耐熱性が、少なくとも240℃までの耐熱性、好ましくは少なくとも260℃までの耐熱性、さらにより好ましくは300℃までの耐熱性を意味するように解すべきものである。
【0028】
好ましくは、中間層のテキスタイル面状構造物の繊維が、パラ系アラミドおよび/またはメタ系アラミドおよび/またはカーボンおよび/またはガラスを有する。この場合、好適には、繊維は、前述した材料のうちの1つの材料から専ら成っているかまたは前述した材料のうちの複数の材料から成る繊維混合物から成っている。負の熱線膨張係数のほかに、前述した繊維は、中間層の所要の安定化機能を保証するために必要となる高い引張強さも有している。
【0029】
本発明によれば、さらに、中間層が、織物および/または経編地および/または緯編地および/または不織布材料および/またはフェルト材料、好ましくはニードルパンチフェルトを有することが特定されている。
【0030】
本願によるプレスパッドの特に好適な実施形態によれば、中間層のテキスタイル面状構造物が、好ましくは互いに反対側の両方の面に、好ましくはテキスタイル面状構造物と同じ材料またはテキスタイル面状構造物の繊維と異なる材料から成る、ニードルパンチにより交絡させられた短繊維を表面にわたって備える。一方の表面もしくは互いに反対側の表面に対して垂直な方向に大部分延在する、ニードルパンチにより交絡させられた短繊維は、引張応力安定化のほかに、短繊維の垂直な配向に基づく付加的なパッド効果もさらに達成する。
【0031】
本発明の更なる構成では、外側層のシートが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、パーフルオロアルコキシポリマー(PFA)、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレンコポリマー(FEP)またはポリクロロトリフルオロトリエチレン(PCTFE)から成っていることが特定されている。前述した材料は、全て高い耐熱性および低い摩擦係数の点で優れている。
【0032】
結合層への外側層の強力かつ持続的な結合を達成するために、外側層のシートの、結合層に面した表面が、好ましくは全面にわたって付着強化準備されていてよく、つまり、液状のアンモニアでエッチングされていてよいかまたはナトリウムナフタレン溶液での処理もしくはプラズマ処理に供されていてよく、特に化学的にエッチングされていてよいかまたは好ましくは低圧プラズマによるイオン化処理に供されていてよい。
【0033】
(最初に部分架橋されて提供された)フッ素エラストマー、好ましくはフッ素ゴム重合体は、本発明によれば、
- フッ化ビニリデン(VDF)およびヘキサフルオロプロピレン(HFP)のコポリマーまたは
- フッ化ビニリデン(VDF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)およびテトラフルオロエチレン(TFE)のターポリマーまたは
- フッ化ビニリデン(VDF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)およびパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)から成る重合体または
- フッ化ビニリデン(VDF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)およびエテンから成る重合体
であってよい。(最初に部分架橋された)フッ素エラストマー、好ましくはフッ素ゴム重合体の成分の架橋に関して、基本的には、過酸化物、ジアミンまたはビスフェノールでの架橋が考慮される。これら3つの架橋メカニズムのうち、ジアミンでの架橋は最古の架橋である。この場合、架橋剤として、ブロック化されたジアミンが使用され、特に、エラストマーと、例えば金属との間の良好な付着が達成される。第2の架橋形態は、ジヒドロキシメカニズムとも呼ばれるビスフェノールメカニズムである。ビスフェノールでの架橋は、加水分解およびより高い温度に対するより良好な耐性と、いわゆる圧縮変形残分に関する改善とを示す。さらに、フッ素ゴムは、フリーラジカルによって過酸化物でも(トリアシン法)架橋することができる。(フッ素ゴムに対する代替物としての)シリコーンエラストマーを用いた試験から、著しく短縮された使用期間が判っており、安定性および寸法安定性はそれほど良好ではなかった。
【0034】
冒頭に記載した、液圧式の単段または多段ホットプレス機およびコールドプレス機に使用するためのプレスパッドを製作するための方法に関して、根底にある課題は、フッ素ゴム材料を予備架橋状態で両方の外側層のうちの一方の外側層と中間層との間にそれぞれ供給し、そこで均一に全面にわたって分配し、こうして形成された多層複合体において、全面にわたる圧力および高められた温度下で、フッ素ゴム材料を最終架橋状態に移行させ、これによって、多層複合体を持続的にプレスパッドに接着することによって解決される。
【0035】
この製作形態では、多層複合体が、まず、単に予備架橋されているにすぎないため最終架橋されていないフッ素ゴム材料を使用して製作される。このフッ素ゴム材料は、すでに、後続のハンドリングのために十分な纏まりを有している。個々の層の間に持続的かつ極めて緊密な結合を有する高圧プレスパッドとして使用可能な多層複合体を得るためには、前駆体を成す多層複合体が、その後、高められた圧力および高められた温度下で最終架橋される。
【0036】
この最終架橋工程の場合、温度は、典型的には130℃~160℃であり、圧力は、典型的には0.5N/mm2~1.0N/mm2である(Dr. Espe氏、ここではティピカル値を補ってください)。最初予備架橋されたフッ素化されたゴム、好ましくはフッ素ゴムにより纏められたにすぎない多層複合体からプレスパッドを製作するためには、種々異なる既知のタイプの設備が使用されてよい。例えば、プレス工程中にプレスパッドが静止している単純なプレス設備が使用されてよい。一変化形態は、最終架橋工程中にプレスパッドが通走する冷却装置を備えたエンドレスベルト設備である。この設備では、プレス時間がベルト速度を介して制御される。別の可能性は、「Aumaラミネート設備」とも呼ばれるロール被覆設備の使用である。この設備では、循環するスチールベルトが、部分加熱可能なドラムを介して案内され、プレス圧が、ドラムへのスチールベルトの押付け力を介して調整される。
【0037】
以下に、本発明を図示のプレスパッドの実施例に基づき詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図2】
図1に示したプレスパッドの中間層の部分拡大図である。
【0039】
実施例
プレスパッド1は、中間平面2に対して対称な構造を有していて、中間層3と、この中間層の両方の面に配置された結合層4と、プレスパッド1の外側の表面を形成する2つの外側層5とを備えている。
【0040】
中間層はテキスタイル面状構造物6を備えている。このテキスタイル面状構造物6は、単層または多層の織物7と、この織物7の両面にニードルパンチにより交絡させられたパラ系アラミドの短繊維8とから成っている。この短繊維の繊維長手方向は、織物7の表面に対して垂直に延びている。全体として、織物7と、ニードルパンチにより交絡させられた短繊維8とから成る複合体は、いわゆるニードルパンチフェルトを形成している。
【0041】
両方の外側層5は、それぞれ約200μmの厚さを有するPTFE製のシートである。PTFEは、高い耐摩耗性と極めて低い摩擦係数とを有する耐熱性の材料である。それぞれ外側層5の中間層3側の表面は、エッチャント、具体的にはアンモニアによって化学的にエッチングされている。
【0042】
個々の層が互いに極めて緊密に付着もしくは結合された多層複合体を形成することは、例えばモノマーであるフッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンから成る、最初に単に部分架橋もしくは予備架橋されたフッ素ゴムの使用下で行われる。このフッ素ゴムから形成された結合層4は、約800μmの厚さを有している。部分架橋されたフッ素ゴムはカップリング剤によって改質され、特に良好な接着特性を有するようになった。したがって、フッ素ゴムは、一方では、外側層5のエッチングされた表面に接触していて、他方では、中間層3のテキスタイル面状構造物6のニードルパンチにより交絡させられた短繊維8に接触している。予備架橋されたフッ素ゴムの最初比較的低い粘稠度に基づき、このフッ素ゴムは、テキスタイル面状構造物6の短繊維8同士の間の領域に深く押し込まれる。したがって、複合体が特に緊密になると同時に耐久性を帯びる。
【0043】
図示の事例では、前述したような多層複合体は、フッ素ゴムの最終架橋を目的として、ロールカレンダ設備内にて圧力(0.5N/mm2)および温度(150℃)下で最終架橋された。
【0044】
前述したようなプレスパッド1を用いた試験時には、優れた特性を確認することができた。多層の多層プリント基板を製作するためのプレス設備でプレスパッド1を使用した場合、公知のプレスパッドに比べて著しく高い回数の可能なプレスサイクルが示された。試験の終了後、プレスパッド1の寸法安定性がほぼ完全に与えられていた。極めて長い使用期間後でさえ、プレス圧の除去後にまだ十分に高い残留復元を確認することができた。PTFEシートから成る外側層5の表面は、摩耗または損傷に関して変化を示さなかった。
【符号の説明】
【0045】
1 プレスパッド
2 中間平面
3 中間層
4 結合層
5 外側層
6 テキスタイル面状構造物
7 織物
8 短繊維
【国際調査報告】