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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】セルロースカルバメートポリマ
(51)【国際特許分類】
   D01F 2/28 20060101AFI20250117BHJP
   C08B 15/06 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
D01F2/28 Z
C08B15/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024534571
(86)(22)【出願日】2023-01-05
(85)【翻訳文提出日】2024-08-07
(86)【国際出願番号】 FI2023050011
(87)【国際公開番号】W WO2023131749
(87)【国際公開日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】20225009
(32)【優先日】2022-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522360965
【氏名又は名称】インフィニティッド ファイバー カンパニー オイ
【氏名又は名称原語表記】INFINITED FIBER COMPANY OY
【住所又は居所原語表記】Tekniikantie 14 Espoo Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】マラニン,エルッキ
(72)【発明者】
【氏名】マケラ,ヤニ
(72)【発明者】
【氏名】ヌオッポネン,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】シレン,サカリ
【テーマコード(参考)】
4C090
4L035
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090AA08
4C090BA34
4C090BB53
4C090BB62
4C090BB85
4C090BB98
4C090BC30
4C090BD08
4C090BD14
4C090BD20
4C090BD36
4C090CA01
4C090CA32
4C090CA33
4C090DA03
4C090DA06
4C090DA08
4C090DA09
4C090DA28
4C090DA29
4C090DA31
4L035AA04
4L035AA06
4L035BB03
4L035BB04
4L035BB08
4L035BB16
4L035DD19
4L035EE07
4L035GG01
4L035HH01
4L035HH04
(57)【要約】
本発明は、146~368ml/gの平均固有粘度、0.01~3重量%の窒素含有量、2.0~5.0の多分散性指数を有し、0.00005~0.5重量%の、p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解もしくは部分的に未加水分解のポリエステルの含有量を有するセルロースカルバメートポリマに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
146~368ml/gの平均固有粘度と、
0.01~3重量%の窒素含有量と、
2.0~5.0の多分散性指数とを有し、
0.00005~0.5重量%の、p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解もしくは部分的に未加水分解のポリエステルの含有量を有する、セルロースカルバメートポリマ。
【請求項2】
平均固有粘度が161~368ml/g、適切には182~267ml/gである、請求項1に記載のセルロースカルバメート。
【請求項3】
多分散性指数が2.0~4.0、最も好ましくは2.0~3.5である、請求項1または2に記載のセルロースカルバメート。
【請求項4】
0.2重量%未満、好ましくは0.1重量%未満の、p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解もしくは部分的に未加水分解のポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートの含有量を示す、請求項1~3のいずれか1項に記載のセルロースカルバメート。
【請求項5】
0.3重量%未満のビウレット濃度を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のセルロースカルバメート。
【請求項6】
最大窒素含有量が2.5重量%、適切には0.5~2.0重量%の範囲、好ましくは最大1.5重量%である、請求項1~5のいずれか1項に記載のセルロースカルバメート。
【請求項7】
Mnが80,000g/mol以下、好ましくは30,000g/mol~80,000g/mol以下の範囲、適切には30,000~60,000g/molの範囲である、請求項1~6のいずれか1項に記載のセルロースカルバメートポリマ。
【請求項8】
UV光からの励起の下で400~520nmの範囲の波長で蛍光を発する、請求項1~7のいずれか1項に記載のセルロースカルバメートポリマ。
【請求項9】
粒子状セルロースカルバメートを含む組成物であって、該セルロースカルバメートは、90wt%以上のセルロースカルバメートが260μm篩メッシュを通過し、30μm未満の篩画分の割合が10wt%以上である平均粒径を有する粒子から成り、平均固有粘度が146~368ml/gであり、窒素含有量が0.01~3重量%であり、多分散性指数が2.0~5.0であり、p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解もしくは部分的に未加水分解のポリエチレンテレフタレートの含有量が0.00005~0.5重量%である、組成物。
【請求項10】
ISO16065-2:2014に従って1.0mm以下の平均繊維長を有する繊維状画分を示す、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
組成物はアルカリ性である、請求項9~10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
乾燥固体含有量から計算された、98~100wt%のセルロースカルバメート、好ましくは98重量%超のセルロースカルバメート、好ましくは99重量%超のセルロースカルバメート、適切には99.5重量%超のセルロースカルバメートを含む、請求項9~11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
組成物の総重量から計算された、少なくとも20wt%、好ましくは40~60wt%以上、最も好ましくは90~100wt%の乾燥固体含有量を有する、請求項9~12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
ISO60:1977によって測定された、300kg/m~800kg/m、好ましくは300~500kg/mの嵩密度を有する、請求項9~13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
セルロースカルバメートは、Mnが80,000g/mol以下、好ましくは30,000~80,000g/mol、適切には30,000~60,000g/molである、請求項9~14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
UV光からの励起の下で400~520nmの範囲の波長で蛍光を発する、請求項9~15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
146~368ml/gの平均固有粘度と、
最大2重量%の窒素含有量と、
2.0~5.0の多分散性指数とを有し、
0.00005~0.1重量%の、p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解もしくは部分的に未加水分解のポリエチレンテレフタレートの含有量を有する、セルロースカルバメート凝固材料。
【請求項18】
繊維またはフィルムの形態である、請求項17に記載の凝固材料。
【請求項19】
平均固有粘度が161~368ml/g、適切には182~267ml/gである、および/または2.0~4.0、多分散性指数が最も好ましくは2.0~3.5である、および/またはMnが80,000g/mol以下、好ましくは30,000~80,000g/mol、適切には30,000~60,000g/molを示す、および/またはUV光からの励起の下で400~520nmの範囲の波長で蛍光を発する、セルロースカルバメートを含む、請求項17または18に記載の凝固材料。
【請求項20】
材料は、
請求項9~16に記載の組成物を準備し、
該組成物のドープを形成し、
紡糸浴中で繊維を凝固させて繊維を形成し、
該紡糸浴から該繊維を回収し、
該繊維を延伸させ、
該繊維を洗浄する
ことによって得られる繊維の形態である、請求項17~19のいずれか1項に記載の凝固材料。
【請求項21】
紡糸浴は酸性であり、セルロースカルバメートは0.1~2重量%の窒素含有量を有する、請求項20に記載の凝固材料。
【請求項22】
紡糸浴はアルカリ性であり、セルロースカルバメートは0.3~3重量%の窒素含有量を有する、請求項20に記載の凝固材料。
【請求項23】
材料は、凝固浴中でセルロースカルバメートを押し出してフィルムを形成することによって得られるフィルムの形態である、請求項17~19のいずれか1項に記載の凝固材料。
【請求項24】
少なくとも一部が請求項1~8のいずれか1項にセルロースカルバメートから成る、ヤーン、フィラメントヤーン、繊維製品、織物または編物、繊維スレッドから成る布、織物、編物を含む繊維製品衣服。
【請求項25】
少なくとも一部が請求項1~8のいずれか1項に記載のセルロースカルバメートを含む、ステープルファイバー、フロック、不織布、詰め綿、ウィーブ、トウ、フィラメントヤーン、フィラメントのトウを含む物品。
【請求項26】
吸収材料、複合材料、クロマトグラフィカラム、有機顔料、接着剤または微生物学的活性安定剤への請求項1~8のいずれか1項に記載のセルロースカルバメートの使用。
【請求項27】
セルロースカルバメートポリマの製造方法であって、
ポリエステルを含む、少なくとも50wt%のセルロース含有廃棄物の、長さ25mm以下の長さの繊維を有する要素への少なくとも粉砕または細断による機械的前処理と、
機械的に処理されたセルロース系材料の酸処理と、
ポリエステルを少なくとも部分的に加水分解するための、酸処理後のアルカリ処理と、
処理されたセルロース系材料の、アルカリ性条件下でのオゾンによる脱色と、
アルカリ処理されたセルロース系材料からセルロースカルバメートを形成するためのセルロースカルバメート化ステップとを含み、
結果として生じるセルロースカルバメートの多分散性指数は、酸処理によって2.0~5.0に調整される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースカルバメートポリマに関する。さらに本発明は、粒子状セルロースカルバメートを含む組成物に関する。さらにまた、本発明は、セルロースカルバメートの凝固繊維、およびセルロースカルバメートの凝固フィルムに関する。物品中のセルロースカルバメートの繊維またはフィルムの存在を判定する方法も開示される。さらに、本発明は、成形品、特にセルロースカルバメートを含む成形された物品に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、繊維製品の約95%がリサイクル可能であるにもかかわらず、消費者使用後の繊維製品廃棄物のほとんどが焼却や埋め立てに回されている。機械的にリサイクルされるのは、消費者使用前の繊維製品のごく一部だけである。2016年初頭から、欧州連合(EU)では使用済み繊維製品の埋め立て処分が禁止されている。したがってEU諸国では、再利用もリサイクルもできない繊維製品やその原料は、一般的にエネルギー生産工場で焼却されている。
【0003】
当然、リサイクルが好ましい。衣料用繊維製品市場は、主として、綿かポリエステルのどちらに基づくものであり、どちらも環境に影響を与えている。たとえば、綿花の栽培には、農薬や人工肥料だけでなく、膨大な量の水が必要である。綿の世界的な需要は、未使用材料を生産するための地球の資源を大幅に上回っている。したがって、消費者使用後の繊維製品廃棄物をリサイクルすることが不可欠である。再利用可能な繊維を得るために繊維製品材料を処理することが知られており、たとえば国際公開第2013/124265号には、分散と沈殿とによるセルロース含有材料の再生が記載されている。
【0004】
綿ベースの繊維製品廃棄物材料のリサイクルに使用される1つのプロセスは、国際公開第2018/197756号に記載されており、このプロセスでは繊維製品材料は、アルカリ抽出で処理され、次いで、綿系繊維製品材料の少なくとも部分的な溶解を引き起こすために酸でさらに処理される。
【0005】
リサイクルに使用される他の周知の技術は、繊維の加水分解である。典型的には、それは、ボタンやジッパーなどの金属や硬いポリマ片を機械的に除去することが先行して行われる。たとえば、国際公開第2010/124944号には、セルロースの加水分解のためのプロセスが開示されている。
【0006】
リヨセルプロセスは、セルロース系出発原料を第1世代のイオン液体であるNMMOで溶解することによってセルロースを再生するプロセスである。リヨセルプロセスから発展したIoncell-Fは、最近開発されたイオン液体を溶媒として用いた出発原料の溶解を含む再生プロセスである(国際公開第2014/162062号)。次に、BioCelSol処理は、出発原料の酵素処理を利用する。しかしながら、これらの処理はいずれも木材から繊維製品を作ることに焦点を当てている。
【0007】
化学的に分離されたセルロース繊維の画分は、その後、カルバメート化または紡糸を含む様々な目的のために使用することができる。
【0008】
溶解パルプのような高品質の未使用セルロース原料からカルバメートセルロースを製造する方法は、米国特許第7662953号から知られている。米国特許第8066903号には、カルバメートセルロースの多相溶解技術が示されており、溶解に低温を適用する方法と、まず低濃度の希釈アルカリで塊を濡らし、次に高濃度で強く冷やしたアルカリで溶液を調製する方法が教示されている。
【0009】
セルロース繊維、ならびに他の繊維および非繊維要素を含む繊維製品材料からセルロース繊維を分離するための機械的および化学的プロセスの組合せを含む分離方法が、欧州特許出願公開第3511448号に記載されている。このようなプロセスでは、繊維製品材料はまず、より大きな非繊維異物を除去するために細断される。次に、残りの繊維成分を機械的に処理して非セルロース繊維からセルロース繊維を分離した後、セルロース繊維に化学処理を施してセルロース繊維上に依然として残っている非セルロース繊維を除去する。
【0010】
ポリエステルおよびセルロース組成物からセルロース系部分を分離するためのプロセスは、国際公開第2020/013755号に記載されている。この出願には、ポリエステルおよびセルロース含有組成物を含む原料組成物、分離のための工程から得ることができるセルロース系組成物、分離のための工程から得ることができるポリエステル加水分解生成物を含む混合物、パルプ、溶解パルプ、紙パルプ、再生セルロース系繊維製品、および紙製品からセルロース系部分を分離するためのプロセスが記載されている。分離プロセスでは、ポリエステル/セルロース組成物をアルカリ溶液を含む加水分解液と接触させる。
【0011】
米国特許第4345039号は、ポリエステル/綿繊維製品廃棄物からポリエステル繊維を回収する方法を開示している。本方法では、混合繊維製品を無水HClガスで処理するが、このガスはポリエステルにはダメージを与えないものの、セルロース系材料をセルロース系粉末に分解し、塩素化炭化水素を生じる。
【0012】
国際公開第2021/181007号は、セルロース系および非セルロース系繊維を含む混合繊維繊維製品材料からセルロース系繊維および非セルロース系繊維を分離する方法を記載している。繊維製品を機械的に分解して繊維製品構造を開いた後、2段階の酸/アルカリ化学処理を行う。回収されたセルロース系繊維はカルバメート化される。
【発明の概要】
【0013】
本発明の目的は、先行技術に関連する問題の少なくとも一部を克服し、改善された特性を有するセルロースカルバメートポリマを提供することであり、たとえば、セルロースカルバメートポリマが従来のセルロースカルバメートよりも低い重合度を有する紡糸ドープを提供するのに適していることである。本発明のさらなる目的は、改善した引張強さを有する繊維が紡糸可能な狭い分子量分布を有するセルロースカルバメートを提供することである。
【0014】
本発明は、独立請求項の特徴によって定義される。いくつかの具体的な実施形態は、従属請求項に定義されている。
【0015】
本発明の第1の態様によれば、平均固有粘度が146~368ml/gであり、窒素含有量が0.01~3.0重量%であり、多分散性指数が2.0~5.0であり、p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解もしくは部分的に未加水分解のポリエステルの含有量が0.00005~0.5重量%である、セルロースカルバメートポリマが提供される。
【0016】
本発明の第2の態様によれば、粒子状セルロースカルバメートを含む組成物であって、該セルロースカルバメートは、90wt%以上のセルロースカルバメートが260μmの篩メッシュを通過し、30μm未満の篩画分の割合が10wt%以上であり、繊維状画分がISO16065-2:2014に従って1.0mm以下の平均繊維長を有する平均粒径を有する粒子から成り、平均固有粘度が146~368ml/gであり、窒素含有量が0.01~3.0wt%、好ましくは0.5~2.0重量%であり、多分散性指数が2.0~5.0、好ましくは2.0~4.0、最も好ましくは2.0~3.5であり、p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解もしくは部分的に未加水分解のポリエステルの含有量が0.00005~0.5重量%である、組成物が提供される。
【0017】
本発明の第3の態様によれば、平均固有粘度が146~368ml/gであり、窒素含有量が最大2.0重量%、好ましくは最大1.5重量%、最も好ましくは最大1.0重量%であり、多分散線指数が2.0~5.0、好ましくは2.0~4.0、最も好ましくは2.0~3.5であり、p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解もしくは部分的に未加水分解のポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートの含有量が0.00005~0.1重量%である、セルロースカルバメート凝固材料が提供される。
【0018】
本発明の第4の態様によれば、セルロース溶液平均固有粘度が146~368ml/gであり、窒素含有量が最大2重量%であり、多分散性指数が2.0~5.0、好ましくは2.0~4.0、最も好ましくは2.0~3.5であり、p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解もしくは部分的に未加水分解のポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートの含有量が0.00005~0.1重量%である、セルロースカルバメートの凝固フィルムが提供される。
【0019】
本発明の第5の態様によれば、少なくとも一部がセルロースカルバメートから成る、ヤーン、繊維製品、織物または編物、繊維スレッドから成る布、織物または編物を含む繊維製品衣服が提供される。
【0020】
本発明の第5の態様によれば、少なくとも一部がセルロースカルバメートから成る、ステープルファイバー、ショートカットファイバー、フロック、不織布、詰め綿、ウィーブ、トウ、フロック、フィラメントヤーン、フィラメントのトウを含む物品が提供される。
【0021】
本発明の第7の態様によれば、平均固有粘度が146~368ml/gであり、窒素含有量が0.01~3重量%であり、多分散性指数が2.0~5.0、好ましくは2.0~4.0、最も好ましくは2.0~3.5であり、p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解もしくは部分的に未加水分解のポリエステルの含有量が0.00005~0.5重量%である、セルロースカルバメートポリマを含む物品が提供される。
【0022】
本発明の第8の態様によれば、粒子状セルロースカルバメートを含む物品であって、該セルロースカルバメートは、90wt%以上のセルロースカルバメートが260μmの篩メッシュを通過し、30μm未満の篩画分の割合が10%以上であり、繊維状画分がISO16065-2:2014に従って1.0mm以下の平均繊維長を有する平均粒径を有する粒子から成り、平均固有粘度が146~368ml/gであり、窒素含有量が0.01~3.0重量%、好ましくは0.5~2.0重量%であり、多分散性指数が2.0~5.0、好ましくは2.0~4.0、最も好ましくは2.0~3.5である、物品が提供される。
【0023】
本発明の第9の態様によれば、セルロースカルバメートをUV光にさらし、該セルロースカルバメートによって引き起こされる400~520nmの範囲の波長の蛍光を検出することによってセルロースカルバメートの存在を判定する方法が提供される。さらに、セルロースカルバメート、セルロースカルバメート繊維またはフィルムを含有する物品におけるセルロースカルバメート、セルロースカルバメート繊維またはフィルムの存在を判定する方法であって、該物品をUV光にさらし、該セルロースカルバメート、繊維またはフィルムによって引き起こされる400~520nmの範囲の波長の蛍光を検出する、方法が提供される。
【0024】
本発明の第10の態様によれば、吸収材料、複合材料、クロマトグラフィカラム、有機顔料、接着剤または微生物学的活性安定剤へのセルロースカルバメートの使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】カルバメート化中のCED粘度の減少を時間の関数として示すグラフである。
図2】UV光下でのセルロースカルバメート繊維、テンセル繊維およびビスコース繊維(上から下まで)を示す写真である。
図3】365nm(LP420フィルタ)のUV光で励起されたセルロースカルバメート編物試料を示す光学顕微鏡写真である。
図4】励起されたセルロースカルバメート編物試料を示す光学顕微鏡写真である。
図5】365nm(LP420フィルタ)のUV光で励起されたセルロースカルバメート編物試料の横断面を示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
セルロースカルバメートは、水に不溶でアルカリに可溶なセルロースのカルバミン酸エステル誘導体である。誘導体は、セルロースとともに尿素を加熱することによって得られる。多分散性(PD)は、Mw/Mnであり、ここでMwは重量平均分子量であり、Mnは数平均分子量であり、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)/サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)装置によって決定される。
【0027】
百分率が使用される場合、別段の指示がない限り、総重量の重量%(重量百分率またはwt%)を指す。
【0028】
凝固繊維およびフィルムなどは、(本出願における)プロセスの完全に完成した最終製品を指す。
【0029】
セルロースカルバメート中の窒素含有量は、セルロースに化学的に結合したカルバメート窒素(カルバメート基)の量を指す。窒素含有量(wt%)は、SFS5505:1988に従って測定される。平均固有粘度ml/gは、ISO5351:2010によって決定され、平均は算術平均である。p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解もしくは部分的に未加水分解のポリエステル(wt%)の含有量は、実験セクション(実施例4および5)でより詳細に説明するように、ガスクロマトグラフィ-質量分析(GC-MS)によって決定される。
【0030】
上述のように、本発明の目的は、改善した特性を有するセルロースカルバメートポリマを提供することである。本発明によって、驚くべきことに、従来のセルロースカルバメートよりも低い重合度または固有粘度および狭い多分散性指数を有するセルロースカルバメートポリマが提供され、該セルロースカルバメートポリマは、特に繊維を湿式紡糸するための、および/またはフィルムを押出すためのドープの提供、ならびに他の成形品の形成に適している。
【0031】
本発明の例示の態様によれば、平均固有粘度が146~368ml/g、好ましくは161~368ml/g、適切には182~267ml/gであり、多分散性指数が2.0~5.0、好ましくは2.0~4.0、最も好ましくは2.0~3.5であり、窒素含有量が0.01~3重量%であるセルロースカルバメートポリマが提供される。セルロースカルバメートポリマは、ポリマの総重量に対して、p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解もしくは部分的に未加水分解のポリエステルの含有量が0.00005~0.5重量%である。p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解もしくは部分的に未加水分解のポリエステルは、原料中のポリエステルを含む繊維製品廃棄物の存在によって、得られたセルロースカルバメートポリマ中の残留物として存在している。これにより、セルロースカルバメートが少なくとも部分的に繊維製品廃棄物に由来する材料であると特定することができる。したがって、本材料は、両方とも廃棄物材料を含み、繊維産業での使用に適した特性を有する。これは通常当てはまらず、むしろカルバメート化によって得られたリサイクルセルロースベースの繊維製品廃棄物から成る繊維は、従来の繊維産業で単独でも他の材料と混合しても使用できるほど十分に優れた特性(たとえば強度および十分に低い線密度)を有していなかった。
【0032】
任意だが、セルロースカルバメートポリマは蛍光を発し、好ましくは400~520nmの範囲の波長で、典型的には、UV光で励起された場合に、好ましくは365nmの波長を有するUV光で励起された場合に、蛍光を発する。
【0033】
したがって、実施形態は、180~500、好ましくは200~500、特に230~350の平均重合度(DP)を有するセルロースカルバメートポリマに関する。重合度は、ISO5351:2010に従うCED粘性測定に基づいて、146~368ml/g、161~368ml/gおよび182~267ml/gの固有粘度に対応する。繊維の湿式紡糸および/またはフィルムの押出しに適している、ならびに他の成形品の形成に適しているセルロースカルバメートを有するために、セルロースカルバメートの重合度は、好ましくは従来の値から本明細書に記載された値の範囲にまで低減される。
【0034】
実施形態に従うセルロースカルバメートは、0.01~3重量%の窒素含有量(上述のように変更されたSFS5505:1988に従って測定)、好ましくは2.5重量%の最大窒素含有量、適切にはセルロースカルバメートの0.5~2.0重量%の範囲、より好ましくは1.5重量%を有する。セルロースカルバメートは、実施形態によれば、GPC/SECに従って測定されたとき、2.0~5.0、好ましくは、2.0~4.0、最も好ましくは2.0~3.5の多分散性指数を有し、蛍光を発する。多分散性指数は、たとえば、酸処理ステップにおいて温度、滞留時間および酸濃度を調整することによって、オゾン漂白および/または脱色ステップにおいてpHおよびオゾンチャージを調整することによって、過酸化水素漂白および/または脱色ステップにおいて過酸化水素チャージ、pH、および滞留時間を調整することによって、および/またはカルバメート化ステップにおいてpHおよびアルカリ度、滞留時間、尿素チャージ、カルバメート化温度ならびにカルバメート化圧力を調整することによって、変更されてもよい。着色セルロース系廃棄物の脱色におけるオゾンが、酸化によって、そしてセルロース系材料そのものよりもむしろ、主に着色剤および着色顔料の分解を達成することによって、着色剤および着色顔料、ならびに他の着色成分に作用すると考えられる。したがって、漂白よりも脱色が好ましい。
【0035】
実際、テレフタル酸のナトリウム塩は可溶であるので、脱色がアルカリ性条件下で行われるとき、加水分解テレフタル酸は可溶のままであると考えられる。これは、酸オゾン処理と比較して、製品の洗浄性に良い影響を与える。酸オゾン処理において、アルカリ処理後に混合物中に残留する(すなわち洗い流されなかった)加水分解テレフタル酸は、酸オゾン処理/従来の漂白中に、繊維内に沈殿する場合がある。脱色がアルカリ性条件下で行われ、以下のステップもアルカリ性条件下で行われる場合、テレフタル酸は複数の洗浄段階中に繊維から効率的に洗い流される。これは、低い(0.5wt%未満)テレフタル酸含有量の最終繊維、すなわち従来の繊維よりも不純物が少なく、したがってより良好な品質の繊維である繊維をもたらす。アルカリ性条件下でのみ脱色を行うことのさらなる利点は、セルロースが少なくとも有意な程度まで(酸性漂白または脱色に反して)もはや加水分解しないことである。したがって、前の段階で得られた狭いモル質量分布は、セルロースの不必要な加水分解のために再び広がらない。
【0036】
実施形態によれば、セルロースカルバメートポリマは、
ポリエステルを含む繊維製品廃棄物である少なくとも50wt%のセルロース含有廃棄物を含むセルロース系材料の、25mm以下の長さの繊維を有する要素への少なくとも粉砕または細断による機械的前処理と、
機械的に処理されたセルロース系材料の酸処理と、
少なくとも部分的にポリエステルを加水分解させるための、酸処理後のアルカリ処理と、
アルカリ処理下での処理されたセルロース系材料のオゾンでの脱色と、
アルカリ処理されたセルロース系材料からセルロースカルバメートを形成するためのセルロースカルバメート化ステップとを含む方法を用いて製造され、
結果として生じるセルロースカルバメートの多分散性指数は、酸処理によって2.0~5.0に調整される。
【0037】
本方法は、実際、本明細書に従うセルロースカルバメートポリマの製造を可能にし、原料としてポリエステルを含む繊維製品廃棄物を用いながら、とりわけ繊維産業に適している特性を有している。本方法は、酸処理において多分散性指数を調整することを可能にする。その後、重合度は、pH、アルカリ度、滞留時間、尿素チャージ、カルバメート化温度およびカルバメート化圧力の少なくとも1つを調整することによって、カルバメート化ステップにおいて調整可能である。
【0038】
本方法における要素とは、断片、繊維、単一ステープルファイバーなどを意味し、すなわち、粉砕または細断(両方とも使用可能)を使用して、繊維製品廃棄物を繊維のレベルまで分解することもできる。
【0039】
一実施形態では、多分散性(PD)は、たとえば鉱酸もしくは有機酸、または酸の組み合わせなどの、酸で調製される。硫酸をPDを調整するための酸として使用することができる。原料の最適な分子量分布のためには、酸処理ステップによるPD調整がセルロース原料の調製に含まれるか、原料がカルバメート化においてセルロースを尿素と混合する前に、好ましくはポリエステルの少なくとも部分的な加水分解のためのアルカリ処理の前に、酸で処理されることが有益である。多分散性指数の、従来のセルロースカルバメートの従来の値から2.0~5.0、好ましくは2.0~4.0、最も好ましくは2.0~3.5の範囲の値への減少は、セルロースカルバメートを提供し、次に改善した引張強さを有する繊維を提供する。典型的には2.0~2.9cN/dtexの範囲の改善した降伏引っ張り強伸度を有する紡糸繊維は、より高い平均固有粘度、すなわち本明細書に開示された特性を有するより広い分子量分布を含む材料と比較して、より低い平均固有粘度と結合された狭い分子量分布(より低い多分散性指数)を有するセルロースカルバメートポリマを用いて得ることができる。最適な多分散性と結合された最適な平均重合度を有するセルロースカルバメートの溶解は、セルロースカルバメートドープがより均質であることの結果として、改善される。セルロースカルバメートの窒素含有量は、たとえば、カルバメート化ステップにおけるpHおよびアルカリ度、滞留時間、尿素チャージ、カルバメート化温度および/またはカルバメート化圧力を調整することによって、変更可能である。
【0040】
蛍光は、光または他の電磁放射線を吸収した物質による発光である。実施形態に従うセルロースカルバメートは、蛍光を発する。典型的には、蛍光材料によって発する光は、吸収した放射線よりも長い波長を有する。実施形態に従うセルロースカルバメートは、たとえば450~490nmの範囲の波長の青色/ターコイズ色の光を発し、これはセルロースカルバメートがUV光、特に365nmの波長のUV光に曝露される場合に視覚的に観察可能である。蛍光発光波長は、励起波長に依存する。実施形態に従うセルロースカルバメートは、特に365nmのUV光で励起された場合、400~520nm(青色)の範囲の波長で蛍光を発し、546nmで励起される場合、600~750nm(赤色)の範囲の波長で蛍光を発する。
【0041】
セルロースカルバメートは、0.00005~0.5重量%、特に0.2重量%未満、好ましくは、0.1重量%未満のp-テレフタレート含有量を有する。一実施形態では、p-テレフタレートは、酸(p-テレフタル酸)の形態、ならびに/またはアニオン(p-テレフタレート)および/もしくはポリエチレンテレフタレート(PET)などの未加水分解もしくは部分的に未加水分解のポリエステルの形態で存在する。ここで、部分的に未加水分解のポリエステルとは、アルコシキ基の最大50%が加水分解していないことを意味する。加水分解ポリエステルはテレフタル酸に完全に分解しており、中間体は部分的に加水分解(すなわち部分的に未加水分解)されている。ポリエステル分子内の結合の50%が破壊されると、材料はオリゴマの形態にある。セルロースカルバメート内に存在するp-テレフタレートおよび/または未加水分解PESの量は、セルロースカルバメートの調製に使用されるセルロースの純度に関係する。たとえば、原料がポリコットンブレンドに由来する場合、p-テレフタレートはポリエステルの加水分解によって生じる不純物である。ポリコットンがセルロースカルバメートポリマの原料として少なくとも部分的に使用される場合、PESまたはその加水分解生成物の残留物がセルロースカルバメート内に見出されることができる。ポリコットン原料は、アルカリ処理ステップに供されてもよく、その場合、ポリエステルは少なくとも部分的に加水分解されてもよい。
【0042】
PESおよびその加水分解生成物の残留物は、クロマトグラフィによって、たとえば質量分析計と結合されたガスクロマトグラフィによって分離され測定されてもよい。
【0043】
セルロースカルバメートは、原料の供給源に応じて他の不純物を含むことがある。ポリコットンに由来するセルロースカルバメートは、たとえば、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維、エラステイン繊維、アクリル繊維、モダクリル繊維、クロロ繊維などの微量のポリエステル以外の合成繊維、ならびに天然ゴムおよび合成ポリイソプレンなどの微量の非繊維ポリマを含むことがあり、尿素およびビウレットなどの様々な窒素含有不純物を含むことがある。粒子状のセルロースカルバメートは、窒素系水溶性物質を含む水溶性物質が少なくとも部分的に含まなくなるまで洗浄され、乾燥セルロースカルバメート中の不水溶性物質の含有量は、(洗浄され脱水/乾燥された)粒子状セルロースカルバメートの98重量%超、適切には、(洗浄され脱水/乾燥された)粒子状セルロースカルバメートの99.5重量%超である。一実施形態では、セルロースカルバメートは、乾燥セルロースカルバメートの0.3重量%未満のビウレット濃度を有する。水溶性物質の全量を制御することによって、ビウレット濃度は、(洗浄され脱水/乾燥された)粒子状セルロースカルバメートの0.3重量%未満のレベルに維持可能であることがわかった。0.3%未満のビウレット濃度を有するセルロースカルバメートは、特に、セルロースカルバメートドープの調製における使用に適していることがさらにわかった。セルロースカルバメートドープは、たとえば繊維の湿式紡糸のために、および/またはフィルムの押出しのために、ならびにスポンジおよび/または発泡体の作製などの他の成形品の形成のために使用されてもよい。
【0044】
窒素は、カルバメートアニオンの成分としてセルロースカルバメート内に存在する。上述のように、セルロースカルバメート内に存在する窒素の量を限定することによって、すなわち、カルバメート化プロセスを適応させることによって、セルロースカルバメートは、特定の使用に調製可能であり、たとえば、一実施形態では、セルロースカルバメートは、セルロースカルバメートの2.0重量%の最大窒素含有量を有し、これは特にアルカリ湿式紡糸プロセスに適している。さらなる実施形態では、セルロースカルバメートは、セルロースカルバメートの1.5重量%の最大窒素含有量を有し、これは酸湿式紡糸プロセスに対して好ましい。セルロースカルバメートの窒素含有量は、好ましくは0.5~2.0重量%である。
【0045】
さらなる実施形態では、セルロースカルバメートポリマは、80,000g/mol以下、好ましくは30,000~80,000g/mol以下の範囲、適切には30,000~60,000g/molの数平均分子量(Mn)を有する。このような数平均分子量を有するセルロースカルバメートポリマは、フィルム、ならびに、織物製品および不織布製品における使用に適した繊維およびフィラメントの提供に適しており、織物製品および不織布製品には、たとえば、布地、または、衣服もしくは室内装飾品があり、室内装飾品とは、たとえばカーテン、ドレープ、テーブルクロス、タオル、バスルームアクセサリ、カーペット、ラグおよび椅子張り地などである。80,000g/mol以下の数平均分子量(Mn)を有するセルロースカルバメートポリマ、フィルム、繊維、およびフィラメント、ならびに、それらからなる物品およびこのようなフィルム、繊維およびフィラメントを含む物品は、励起に供された場合400~520nmの波長で蛍光を発する。セルロースカルバメートの蛍光は、製品の実施形態における窒素の存在に起因し得るが、これは単なる1つの可能性であり、本発明の範囲がこの説明に限定されるものではない。
【0046】
さらなる実施形態は、粒子状セルロースカルバメートを含む組成物に関する。一実施形態では、組成物のセルロースカルバメートは、90wt%以上のセルロースカルバメートが260μmの篩メッシュを通過し、30μm未満の篩画分の割合が10wt%以上であり、繊維状画分がISO16065-2:2014に従って1.0mm以下の平均繊維長を有する平均粒径を有する粒子から成り、平均固有粘度が146~368ml/g、好ましくは161~368ml/g、適切には182~267ml/gであり、窒素含有量が0.01~3.0重量%、好ましくは0.5~2.0重量%であり、多分散性指数が2.0~5.0、好ましくは2.0~4.0、最も好ましくは2.0~3.5である。組成物は、任意だが、蛍光を発し、好ましくは400~520nmの範囲の波長で、典型的には、UV光で励起される場合に、好ましくは365nmの波長を有するUV光で励起される場合に発する。
【0047】
さらなる実施形態では、組成物のセルロースカルバメートは、80,000g/mol以下の、好ましくは30,000~80,000g/mol以下の範囲の、適切には30,000~60,000g/molの範囲の数平均分子量(Mn)を有する。数平均分子量は、多分散性指数に直接関係し、したがって、両方ともカルバメート化中、またはカルバメート化前の前処理に関係するプロセスステップ中に調整されて所望の特性を有するカルバメートを提供することができる。セルロースカルバメート組成物の粒径分布を、粒子分析器によっても判定した。つまり、90wt%の粒子は、206μm未満の粒径を有し、98wt%は500μm未満の粒径を有し、D50値は73μmであった。さらに、セルロースカルバメート組成物におけるセルロースカルバメート繊維の繊維長を、繊維画像分析器によっても測定した。ISO16065-2:2014に従う繊維長重量(パルプ-自動光学分析による繊維長の決定)は、1.0mm以下、典型的には、0.1~0.9mmの範囲、適切には0.2~0.8mm、好ましくは0.5~0.7mmである。
【0048】
セルロースカルバメートは、0.00005~0.5重量%、特に0.0001~0.1重量%の、p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解もしくは部分的に未加水分解のポリエチレンテレフタレートの含有量を示す。上述のように、p-テレフタレートの量は、セルロースカルバメートの調製に使用されるセルロースの純度の指標を提供する。また、p-テレフタレートの存在は、カルバメート化のためのセルロースがポリコットンブレンドに由来することを示す。
【0049】
実施形態では、組成物は、少なくとも20重量%、好ましくは40~60重量%以上、最も好ましくは90~100重量%の乾燥固体の組成物を含む。典型的には、セルロースカルバメート(統合された溶解/紡糸プロセスのための中間体として)は遊離水を含んでもよい。つまり、たとえばプレス機によって脱水されたセルロースカルバメートは、好ましくは40~60%以上のセルロースカルバメート(および60%未満の水)を含み、乾燥されたセルロースカルバメートは、好ましくは90%を超えるセルロースカルバメートと10%未満の水とを含む。百分率は全て重量によるものである。
【0050】
実施形態では、組成物は、水不溶固形乾燥物から計算された、98~100wt%のセルロースカルバメートを含み、好ましくは、組成物は、98重量%超のセルロースカルバメート、好ましくは99重量%超のセルロースカルバメート、適切には99.5重量%超のセルロースカルバメートを含む。
【0051】
好ましい実施形態では、組成物は、綿、たとえばポリコットンなどの混合セルロース系繊維製品廃棄物を少なくとも部分的に含む原料から得られたセルロース系材料のカルバメート化によって製造される。本文脈において、「ポリコットン」は綿繊維とポリエステル繊維とのブレンドを表す。綿繊維とポリエステル繊維との間の比は、広い範囲で変化することができ、典型的には、30~99重量%、特に80~98重量%の繊維が綿であり、残りの部分がポリエステル繊維であるが、ポリエステルブレンドは、エラステインを含む、合成繊維などの、少量(典型的には約5重量%未満)の他の繊維および/または非繊維状粒子を含んでもよい。本方法の実施形態は、加えて、木材繊維または非木材繊維から調製された未使用または在来の化学パルプまたは溶解パルプ、あるいは化学パルプまたは溶解型パルプの中でまたはそのような形態で天然植物繊維それ自体から誘導されたセルロースカルバメート、あるいは段ボールまたは紙のような他のリサイクルセルロース系材料を含む混合物から製造されたセルロースカルバメートを使用して実施することができる。
【0052】
化学パルプまたは溶解パルプは、マツ、トウヒ、カバノキ、ブナノキ、アスペン、カエデ、カラマツ、アカシア、ユーカリ、アメリカツガ、チュペロ、および/またはオークなどの木材種、もしくは茎繊維(麦わら、稲わら、大麦わら、竹、バガス、および/またはアシ)などの非木材から調製された。原料の起源は、未使用形態の化学パルプもしくは溶解パルプか、または、化学パルプもしくは溶解型パルプを含む、再生紙および/または段ボールのようなリサイクル原料かのいずれかであってもよい。
【0053】
天然植物繊維そのまま、または、化学パルプもしくは溶解パルプの形態の天然植物繊維も、原料供給源として有用である。天然植物繊維の起源は、その未使用形態か、天然植物繊維含有繊維製品か、リサイクル天然繊維含有繊維製品のいずれかであってもよい。天然植物繊維は、綿およびカポックなどの種子繊維、麻、ジュート、ケナフ、ラミー、アバカおよびリネン(亜麻)などの靭皮繊維、マニラ麻、サイザル麻、パイナップルおよびバナナなどの葉繊維、コイアなどの果実繊維を含む。
【0054】
したがって、一実施形態では、リサイクル繊維状原料は、セルロースカルバメートを製造するための原料として使用される。
【0055】
粒径は、様々な用途に対する組成物の適合性に影響を及ぼす。一実施形態では、組成物は、90wt%以上のセルロースカルバメートが260μm篩メッシュを通過し、30μm未満の篩画分の割合が10wt%以上であり、繊維状画分がISO16065-2:2014に従って1.0mm以下、典型的には0.1~0.9mm、適切には0.2~0.8mm、好ましくは0.5~0.7mmの範囲の平均繊維長を有する平均粒径を有する粒子から成る。セルロースカルバメートは、本質的に繊維状材料である。したがって、粒子状セルロースカルバメートが粉砕されたセルロースカルバメートの繊維は、典型的には、リサイクルポリコットン原料の繊維長の10分の1程度の繊維長を有する。一実施形態では、化学処理ステップおよびカルバメート化の前の機械的ステップは、25mm以下、好ましくは10mm以下、適切には1~7mm、最も適切には5~7mmの繊維長を有する繊維を有する断片を含むまで、リサイクルポリコットン原料が粉砕および/または細断されることを含む。セルロースカルバメートプロセスの粉砕ステップは、カルバメート化ステップおよび洗浄ステップ前後のカルバメート化セルロースの粉砕前に高濃度のセルロースおよび尿素の混合中に高せん断力混合を使用することを含む。機械的処理に適した装置は、たとえばナイフミル、ハンマミル、ボールミル、ディスク型ミル、ピンミル、二重反転装置、篩プレス装置および押出し機である。一実施形態では、セルロースおよび尿素の高せん断力混合に適した装置は、ペレットプレスであり、機械的処理は、1または複数のペレットプレスを直列に使用することによって行われてもよい。一実施形態では、セルロースカルバメートは、1mm以下、典型的には、0.1~0.9mm、適切には0.2~0.8mm、好ましくは0.5~0.7mmの範囲の繊維長を有する。
【0056】
実施形態では、組成物は、250kg/m~800kg/m、好ましくは300~500kg/の範囲の嵩密度を有する。嵩密度は、製品の取り扱い、処理、貯蔵および輸送を考慮する場合に重要な組成物の特性である。最終組成物は、ふわふわしたり緩んだりしてはならず、より高い嵩密度が好ましい。組成物の嵩密度は、重合度または粘度と、セルロースカルバメートの多分散性指数とを調整することによって調整される。嵩密度は、カルバメート化プロセス中の粉砕ステップによって影響を受ける可能性がある。最終製品は、成形品の溶解または調製に直接使用されない場合、包装中に圧縮可能である。重合度または粘度と多分散性指数とは、上述のように調整される。重合度を減少させ、多分散性指数を狭くすることによって、組成物の嵩密度が増加する。
【0057】
実施形態はセルロースカルバメートの凝固繊維に関する。一実施例では、セルロースカルバメートの凝固繊維は、固有粘度が146~368ml/g、好ましくは161~368ml/g、適切には182~267ml/gであり、窒素含有量がセルロースカルバメートの最大3重量%であり、多分散性指数が2.0~5.0、好ましくは2.0~4.0.最も好ましくは2.0~3.5であるセルロースカルバメートを含み、p-テレフタレート、および/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解もしくは部分的に未加水分解のポリエチレンテレフタレート(PES)の含有量は0.00005~0.1重量であり、任意だが、蛍光を発し、好ましくは400~520nmの範囲の波長で、典型的には365nmの波長を有するUV光で励起された場合に、蛍光を発する。
【0058】
特定の実施形態では、繊維は、80,000g/mol以下、好ましくは30,000~80,000g/mol以下の範囲、適切には、30,000~60,000g/molの範囲の数平均分子量(Mn)を示すセルロースカルバメートを含む。
【0059】
適切な実施形態では、繊維は、セルロースカルバメートの0.1~2重量%、好ましくは0.2~1.0重量%の窒素含有量を有するセルロースカルバメートを酸性紡糸浴中で紡糸して繊維を形成し、その繊維を回収することによって得られる。
【0060】
他の実施形態では、繊維は、0.3~3重量%、好ましくは0.5~2.2重量%、特に0.7~1.8重量%の窒素含有量を有するセルロースカルバメートをアルカリ性紡糸浴中で紡糸して繊維を形成し、その繊維を回収することによって得られる。
【0061】
さらなる実施形態では、繊維は、組成物の上述の実施形態のいずれかに従う組成物を準備し、その組成物のドープを形成し、酸性紡糸浴中での湿式紡糸プロセスによって繊維を凝固させて繊維を形成し、その繊維を紡糸浴から回収し、その繊維を酸性条件下で延伸させることによって得られる。
【0062】
さらに他の実施形態では、繊維は、組成物の上述の実施形態のいずれかに従う組成物を準備し、その組成物のドープを形成し、アルカリ性紡糸浴中での湿式紡糸プロセスのよって繊維を凝固させて繊維を形成し、その繊維を紡糸浴から回収し、その繊維をアルカリ性条件下で延伸させることによって得られる。
【0063】
ドープは、セルロースカルバメートが押出されるドープが空隙を越えて水中に引き込まれるドライジェット湿式紡糸によって凝固または再生されるプロセスのためにイオン液体中に溶解したセルロースカルバメートであってもよい。イオン液体は、セルロースの直接の溶解のために開発された有機化合物であってもよい。好ましくは、イオン液体は、4-メチルモリホリン4-オキシド(NMMO)であってもよい。さらなる実施形態では、セルロースカルバメートは、ドライジェット湿式紡糸のために、セルロースカルバメートの3.0重量%の最大窒素含有量を有する。
【0064】
他の実施形態では、セルロースカルバメートドープは、ビスコースドープ(ビスコース法によって調製されたセルロース溶液)と混合されてもよく、混合物を湿式紡糸に供してセルロースカルバメートの凝固繊維を得る。
【0065】
カルバメート基は、弱アルカリ性条件下で安定しており、たとえば繊維状粉末形態の風乾セルロースカルバメート、すなわち粒子形態が安定している。粒子状セルロースカルバメートを含む組成物は、pHが10以下、好ましくは9.0以下のアルカリ性である。pHは、10gの乾燥セルロースカルバメートを90gの水に懸濁し、摂氏20度で30分間放置後、デカントした水溶液のpHを測定することによって決定される。
【0066】
カルバメート基は、中性条件下またはアルカリ性条件下(たとえば酸性紡糸および延伸条件の下)でも安定している。カルバメート基は、濃アルカリ性条件下で加水分解する(たとえば溶解したセルロースカルバメートは、ドープの少なくとも、たとえば6.5重量%のNaOH含有量を有するアルカリ水溶液で加水分解する)。セルロースカルバメートは、ドープを製造するためのアルカリ性条件下で溶解した後瞬時に加水分解を開始する。ドープの温度が高いほど、溶解から凝固までの時間が長いほど、加水分解の速度が高くなり、セルロースに結合するカルバメート基の量、すなわちセルロースに結合する窒素含有量が少なくなる。加水分解の速度は、セルロースカルバメートの置換度を決定する。異なる紡糸浴、たとえば湿式紡糸プロセス、次に続く延伸ステップ、さらなる洗浄プロセスおよびさらなる後処理プロセスにおけるアルカリ性紡糸浴と酸性紡糸浴とは、好ましいまたはより適切な特性を有する繊維を製造するために使用可能である。
【0067】
任意だが、フィラメントは、繊維に切断され、これによってセルロースカルバメートのステープルフィラメントまたはファイバーが得られ、特にステープルファイバーまたはショートカットに切断される。
【0068】
後処理プロセスは、任意だが、以下のプロセスステップの1または複数を含んでもよい。つまり
a)高温アルカリ液によるカルバメート基の後加水分解(たとえばアルカリ性凝固浴で凝固しアルカリ性延伸で延伸する、0.8%の窒素勧誘量を有するセルロースカルバメート繊維は、後処理において、繊維をNaCOおよびNaOHを含む後加水分解液で摂氏95度で3分間処理することによって後加水分解に供され、回収された繊維の窒素含有量は0.17wt%であった)、b)酸性漂白ステップおよび/または中性漂白ステップおよび/またはアルカリ性漂白ステップ、およびc)スピン仕上げ。したがって、繊維特性は、各ステップにおけるアルカリ度、温度および滞留時間に応じて、凝固、延伸、さらなる洗浄および/またはさらなる後処理中に操作することができ、特にセルロースカルバメートの加水分解速度を調整するためにこのような後処理を選択することができる。
【0069】
繊維の形状は、紡糸および延伸に入るセルロースカルバメートの置換度を調整することによって変更することができ、たとえば丸みを帯びた楕円形、豆形または葉状の繊維が、制御された窒素含有セルロースカルバメートの紡糸および延伸の結果として得ることができ、滑らかな表面を形成することができる。
【0070】
一実施形態によれば、セルロースカルバメートフィラメントまたは繊維を生産する方法であって、水酸化ナトリウム水溶液に溶解したセルロースカルバメートを含むセルロースカルバメートドープであって、溶解亜鉛化合物を示すセルロースカルバメートドープを準備するステップと、該ドープを凝固ユニット内に供給するステップとを含む方法が提供される。
【0071】
具体的な一実施形態によれば、水性アルカリセルロースカルバメートドープは、
6~10wt%、好ましくは8~10wt%のセルロースカルバメート(CCA)と、
5~10wt%、好ましくは5~7wt%の水酸化ナトリウム(NaOH)と、
0.08~1.6wt%、好ましくは0.08~1.2wt%の亜鉛とを含み、
重量百分率(wt%)は、セルロースカルバメートドープの総重量から計算される。酸化亜鉛(ZnO)が使用される場合、量は0.1~2wt%、好ましくは0.1~1.5wt%である。亜鉛酸ナトリウムなどの他の亜鉛化合物を使用することもできる。実際、セルロースカルバメートは、水酸化ナトリウムおよび酸化亜鉛から成るアルカリ水溶液、または水酸化ナトリウム溶液の水酸化亜鉛に溶解可能である。亜鉛の添加は、セルロースカルバメートの溶解度を改善することを示し、セルロースカルバメート溶液の安定性を改善する。この場合、アルカリ溶液は、水酸化ナトリウム、ならびに酸化亜鉛および/または水酸化亜鉛から成り、これによって亜鉛酸塩が形成される。したがって、実施形態では、アルカリ溶液は、亜鉛酸ナトリウムを含む。
【0072】
セルロースカルバメートは、水酸化ナトリウムに、典型的には、セルロースカルバメートドープの5~10重量%の濃度で直接溶解可能である。セルロースカルバメートドープ中のカルバメートの濃度は、プロセスのコストに有意な影響を与える。低DPかつ多分散性が狭い場合、水酸化ナトリウムの量が減少し、溶液中のCCAの濃度が増加する可能性がある。セルロースカルバメートが溶解する(カルバメート)と、加水分解が始まり、いくつかのカルバメート基が、溶解およびセルロースカルバメートドープの濾過および脱気を含むさらなるプロセス中に加水分解する。セルロースカルバメートの窒素含有量は、時間、温度、および/または水酸化ナトリウム濃度などの溶解条件を変更することによって調整可能である。低温では加水分解が遅くなり、これによって溶解したCCAを保存できる時間が長くなる。セルロースカルバメートの湿式紡糸または凝固のための最適な窒素含有量は、凝固プロセスおよび対象用途に依存する。凝固が酸性凝固浴で発生すると、カルバメートの加水分解は停止する。アルカリ性凝固浴の場合、セルロースカルバメートの加水分解は、凝固およびさらなるアルカリ性延伸段階中でも生じる。酸性およびアルカリ性紡糸の両方の場合、凝固され延伸した繊維は、さらなるアルカリ性後処理ステップに供することができ、アルカリ性加水分解は、制御された条件の下で継続可能である。最終製品の窒素含有量は、洗浄および後処理段階で調整可能であり、ここで残余のカルバメート基は、アルカリ処理ステップによって主に除去可能である。
【0073】
実施形態によれば、セルロースカルバメートの凝固フィルムもまた提供される。一実施形態では、セルロースカルバメートの凝固フィルムは、セルロース溶液平均固有粘度が146~368ml/g、好ましくは161~368ml/g、適切には182~267ml/gであり、窒素含有量が最大2重量%であり、多分散性指数が2.0~5.0、好ましくは2.0~4.0、最も好ましくは2.0~3.5であり、0.00005~0.1重量%の、p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解もしくは部分的に未加水分解のポリエチレンテレフタレート(PES)の含有量を有して提供される。任意だが、フィルムは蛍光を発し、好ましくは400~520nmの範囲の波長で、典型的にはUV光で、好ましくは365nmの波長を有するUV光で、励起された場合に蛍光を発する。
【0074】
さらなる実施形態では、フィルムは、80,000g/mol以下、好ましくは30,000~80,000g/mol、適切には30,000~60,000g/molのMnを有するセルロースカルバメートを含む。
【0075】
特定の実施形態では、フィルムはセルロースカルバメートドープを凝固浴中で押出してフィルムを形成することによって得られる。
【0076】
さらなる実施形態は、物品に関する。一実施形態では、少なくとも一部が上述の実施形態のいずれかに従うセルロースカルバメート繊維から成る、繊維スレッドから作られた布、織物または編物を含む繊維製品衣服が提供される。適切な実施形態では、少なくとも一部が上述の実施形態に従うセルロースカルバメートから成る、不織布シート、詰め綿および/またはウィーブを含む物品が提供される。
【0077】
さらなる実施形態では、物品は、スポンジまたは発泡体などの成形品である。実施形態では、成形品は、成形された物品、たとえば複合材であってもよい。このような実施形態の成形品は、粒子状セルロースカルバメートおよび/またはセルロースカルバメート繊維を含む。
【0078】
驚くべきことに、セルロースカルバメート繊維またはフィルム、もしくは粒子、特にセルロースカルバメート繊維またはフィルム、あるいは上述の粒子の存在は、蛍光検出によって判定可能である。
したがって、実施形態は、セルロースカルバメート繊維またはフィルムを含む物品のこのような繊維またはフィルムの存在を判定する方法を提供する。
【0079】
実施形態では、本方法は、物品を、UV光、好ましくは365nmのUV光にさらし、セルロースカルバメート繊維によって生じる400~520nmの範囲の波長の蛍光を検出することを含む。一実施形態では、物品は、ヤーン、フィラメントのトウ、ステープルファイバー、ショートカットファイバー、フロックまたはフィルムである。さらなる実施形態では、物品は、漂白されたおよび/または着色された物品などの、このような繊維を含む繊維製品衣服である。上記に従い、実施形態では、セルロースカルバメートが繊維、フィラメント、ヤーンまたは生地中のビスコース、リヨセルまたはモダ―ルと混合された場合、人工セルロース系混合物中のセルロースカルバメートの存在は、蛍光の検出によって検出可能である。なぜなら他の再生繊維は蛍光を発しないからである。
【0080】
いくつかの実施形態が、以下の実施例によって説明される。
【0081】
実施例1:化学的前処理、カルバメート化および湿式紡糸
4.0wt%の非セルロース系繊維(主にポリエステルであるが、微量のナイロン、イソプレン含有材料(弾性バンド)、ポリエチレン/ポリプロピレン)を含む、800ml/gのCED粘度(ISO5351:2010)を有するポリコットン原料であるリサイクル混合色選別綿繊維製品廃棄物を機械的に細断して生地構造を崩壊させて平均長さ6mmの繊維を有する断片を形成した。細断された材料は、2段階の蒸解手順と漂白/脱色とを使用して化学的に前処理された。第1の酸性段階では、材料を硫酸で処理した。第2のアルカリ段階では、洗浄された酸処理材料を水酸化ナトリウムで化学的に処理してポリエステルの大部分を加水分解した。
【0082】
第1の酸性段階では、細断された材料を硫酸で摂氏95度で60分間処理した。繊維製品廃棄物の濃度は10wt%であり、初期酸チャージは5.0g/Lであった。中濃度パルプを連続栓流反応器内で処理した。最終洗浄液のpH値は、乾燥酸処理材料1kg当たり0.6gの遊離硫酸に相当する洗浄ろ液で測定して3.2であった。酸処理材料の粘度は、294ml/g(ISO5351:2010に従うCED粘性測定に基づく)であった。
【0083】
第2のアルカリ段階では、洗浄された酸処理材料を中濃度ポンプを備える圧力反応器内で水酸化ナトリウムで110℃で120分間処理した。繊維製品廃棄物の濃度は8.3wt%であり、初期アルカリチャージは72g/Lであった。最終洗浄液のpHは、10.0であった。化学的に前処理された材料の粘度は、290ml/g(ISO5351:2010に従うCED粘性測定に基づく)であった。アルカリ段階での平均収率は、炉乾燥材料で92wt%の固形分であった。
【0084】
オゾン処理段階およびアルカリ過酸化水素処理段階の両方を含む、脱色段階では、重合度をさらに調整した。アルカリ範囲でのオゾン処理は、材料のCED粘度を有意に減少させるものではなく、特に、粘度の損失は酸性条件下でのオゾンで得られたものよりも小さい。したがって、先行するプロセス段階で得られた狭い多分散性指数は、アルカリ脱色段階において維持される。脱色プロセスから得られた材料は、次に続くカルバメート化プロセスのために、プレス機で空気流によって適切に脱水された。
【0085】
オゾン脱色は、中濃度ループ・圧力反応器を用いて行われた。ループをまず温軟水で満たし、細断された繊維製品(300g、絶乾)をシステムに移した。次に、原料と水スラリとを圧力反応器に供給した。NaOH、20kg/BDT(原料の絶乾メートルトン)を反応器に供給し、pH11.8を有する、8.5wt%の繊維製品廃棄物濃度を得た。前処理された繊維製品廃棄物スラリを70℃まで加熱した。反応に供給される推定オゾン濃度は16wt%であり、供給のための時間は150分であった。総オゾンチャージは、4.0kg/BDTであった。オゾン段階後、4.0mの水を添加することによってスラリを冷却した。冷却され希釈されたスラリをスクリュープレス内で脱水した。ろ液のpHは、10.0であった。オゾン脱色材料の粘度は、279ml/g(ISO5351:2010)であった。
【0086】
次に、過酸化物段階が、オゾン脱色された繊維製品廃棄物に行われた。オゾン処理材料を反応器に汲み上げ、圧力リアクタ内のスラリの濃度は8.0wt%であった。反応混合物を80℃の反応温度まで加熱し、phをNaOHで11.6に調整した。過酸化物段階の反応時間は60分であり、過酸化水素チャージは5kg/BDTであった。脱色材料をスクリュープレスを通して洗浄した。スクリュープレス供給の濃度は2.2wt%であり、増粘係数は、第1の洗浄シーケンスでは21であった。第2の洗浄シーケンスでは、増粘係数は25であった。得られた脱色パルプの粘度は、265ml/g(ISO5351:2010)であった。
【0087】
カルバメート化プロセスは、フィンランド特許第112869号、フィンランド特許第112795号、国際特許出願公開第2021/038136号に記載されたように実施された。カルバメート化段階では、セルロースの重合度および最終製品の多分散性は、化学物質、時間、粉砕および温度によって最適化された。図1は、時間に関する最適化の結果を示し、CED粘度(ml/g、y軸)が反応時間(分、x軸)でどのように変化したのかを示している。最終組成物の嵩密度を粉砕によって調整した。脱色した試料(上述)のカルバメート化後、得られたセルロースカルバメートの粘度は、268のDPおよび3.28のPDに相当する210ml/g(ISO351:2010)であった。表1を参照。
【0088】
カルバメート化プロセスから得られたセルロースカルバメートをさらに溶解し、湿式紡糸プロセスによるセルロースカルバメートを製造した。つまり、粉砕された風乾セルロースカルバメート粉末を、溶解酸化亜鉛を含む水酸化ナトリウム水溶液中でスラリにして溶解し、1.2wt%の酸化亜鉛含有量、6.5wt%の水酸化ナトリウム含有量および8.5wt%のセルロースカルバメート含有量を有し、残余が水であるセルロースカルバメートドープを形成した。その後、溶解プロセスから得られたセルロースカルバメートドープを、第2の濾過段階で20μmの濾材を用いた2段階バックフラッシュ濾過プロセスを用いて濾過した。濾過され脱気されたセルロースカルバメートドープの湿式紡糸は、硫酸ナトリウム、遊離硫酸および硫酸アルミニウムを含む、セルロースカルバメートプロセスに最適な酸性の紡糸浴であって、0.75のpH値、1.63の硫酸ナトリウム対硫酸アルミニウム比、1.300kg/Lの密度および20℃の温度を有する紡糸浴を用いて実施される。
【0089】
化学的に前処理された材料の粘度を測定し、対応する多分散性(PD)値を表1に示す。多分散性を最適化するために前処理なしで溶解パルプから生産されたセルロースカルバメートの結果も、比較例である、カルバメート比較として測定した。DPを決定するためのCED粘度測定は、ISO5351:2010に従った。繊維の線密度(dtex)およびステープルファイバーの繊維引っ張り強伸度(cN/dtex)は、それぞれISO1973:2021およびISO5079:2020に従って測定された。乾燥繊維を相対湿度65±2%、温度20±2℃で少なくとも24時間調整した。試験速度は20mm/分、ゲージ長は20mmとし、20回の測定(Favigraph、Textechno社)の平均値が得られる。測定された安定した繊維特性を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
Mw(g/mol)およびMn(g/mol)を、GPC/SEC(ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)/サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)装置)、Agilent社PL-GPC220システムによって、化学的に前処理されたセルロースカルバメート繊維から測定した。試料をLiCl/DMAc(DMAcはジメチルアセトアミドを表す)に溶解した。本方法は相対的なものであり、プルラン多糖類の標準品とPolymer Lab社の20μm混合Aカラムとを使用した。
【0092】
セルロースカルバメート組成物の平均粒径は、篩分析によって測定された。異なるメッシュサイズの篩が積み重ねられ、最も大きいメッシュサイズを最上部にした。篩の配列は、上から下に1400μm、800μm、261μm、160μm、100μm、71μm、45μm、および30μmであった。試料を7分間振動させた。各篩上に保持される凝集体の重量を測定し、通過率として表した。平均して、93wt%の粒子が261μm篩メッシュを通過し、26wt%の粒子が30μm未満を通過した。
【0093】
粒子の粒径分布も、Malvern社のMastersizer 2000によって決定された。つまり、90wt%の粒子が206μm未満であり、98wt%が500μm未満であり、D50値は73μmであった。値は篩分析に対応した。
【0094】
セルロースカルバメートの重合度(DP)および多分散性が繊維特性に及ぼす影響を調査した。カルバメート化プロセスから得られたセルロースカルバメートをさらに溶解し、湿式紡糸プロセスによるセルロースカルバメート繊維を製造した。紡糸から得られたフィラメントトウは、カット長40mmのステープルファイバーに切断された。ステープルファイバーから測定された、繊維の線密度および破断繊維引っ張り強伸度は、上記表1に記載される。
【0095】
なお、狭い多分散性が有益である。十分な繊維製品繊維品質、すなわち2.0dtex超を有する繊維を引き出すために、5.0未満のPDを必要とした。DPが300未満であり、PDが4.0未満であり、Mnが60000g/mol未満であるときに、最良の繊維の結果を達成した。
【0096】
ステープルファイバーの重合度(DP)も、ISO5351:2010に従って測定した。DPは湿式紡糸プロセスの間変化せず、DPは対応するセルロースカルバメートのものと同じレベルであった。
【0097】
実施例2
セルロースカルバメートTencel(商標)およびビスコース繊維をUV光源、アナリティクイエナ社、365nmで照射した。結果を図2に示す。たとえ繊維混合物中のセルロースカルバメート含有量がたった20%であったとしても、セルロースカルバメート繊維が青色の蛍光を発するので、明確な区別が検出された。
【0098】
実施例3
100%のセルロースカルバメートから成るセルロースカルバメート編物を、光学顕微鏡Zeiss Imager、Z2mおよび蛍光顕微鏡HVP R 120W/45C VIS 320~500nmで調査した。試料は、LP420フィルタを用いて365nmで励起した場合、400~520nm(青色)の範囲の波長で蛍光を発した。図3を参照。試料は、LP590フィルタを用いて546nmで励起した場合、600~750nm(赤色)の範囲の波長で蛍光を発した。図4を参照。編物の横断面試料も準備し、LP420フィルタを用いて365nmで励起した。図5を参照。横断面も青色の蛍光を発した。
【0099】
実施例4
実施例1に記載されたように生産されたセルロースカルバメート繊維中のテレフタル酸の含有量を、GC/MS(ガスクロマトグラフィ-質量分析)システムで測定した。試料を、塩酸で酸性化し、pH<3とし、炉内で一晩乾燥させた。ピリジン/メタノール溶媒で試料から遊離テレフタル酸を抽出し、5mlに濃縮した。抽出したテレフタル酸をメチル化し、GC/MSで分析した。試料の遊離テレフタル酸含有量は、外部較正標準物質に対して計算された。テレフタル酸の量は、(セルロースカルバメート繊維の)5mg/kgであった。
【0100】
実施例5
実施例1に記載されたように生産されたセルロースカルバメートポリマ中のテレフタル酸の含有量を、GC/MS(ガスクロマトグラフィ-質量分析)システムで測定した。試料を、まず4時間水酸化ナトリウム(10wt%)中で還流させて試料内のポリエチレンテレフタレートを加水分解させた。テレフタル酸を試料から抽出し、ピリジン/メタノール溶媒で溶解させ、5mlに濃縮した。抽出したテレフタル酸をメチル化し、GC/MSで分析した。テレフタル酸含有量は、外部較正標準物質に対して計算された。テレフタル酸の量は、(セルロースカルバメートポリマの)1078mg/kgであった。
【0101】
開示された本発明の実施形態は、特定の構造、プロセスステップ、または本明細書に開示された材料に限定されないが、関連技術分野の当業者によって認識されるであろうようなその均等物にまで拡張されることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を記載する目的のみのために使用されており、限定することを意図していないことを理解されたい。
【0102】
一実施形態または実施形態への本明細書全体を通しての参照は、実施形態に関連して記載された特定の特徴、構造または特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書中の各所における「一実施形態では」または「実施形態では」との語句の出現は、必ずしも全てが同一の実施形態を参照しているわけではない。用語「など」、「たとえば」、「約」または「ほぼ」を用いた数値に言及する、正確な数値も開示される。
【0103】
本明細書で使用する場合、複数の項目、構造要素、組成要素、および/または材料は、便宜上、共通のリストで示されることがある。しかしながら、これらのリストは、あたかもそのリストの各メンバーが別個かつ特有のメンバーとして個別に識別されているかのように解釈されるべきである。したがって、このようなリストの個々のメンバーは、反対の表示がない限り、共通のグループにおける表示にのみ基づいて、同一のリストの他のいずれかのメンバーの事実上の均等物として解釈されるべきではない。また、本発明の様々な実施形態および実施例は、その様々な構成要素の代替案とともに本明細書で言及される場合がある。このような実施形態、実施例および代替案は、互いに事実上の均等物として解釈されないが、本発明の別個かつ自律的な表現とみなされることを理解されたい。
【0104】
さらに、記載された特徴、構成または特性は、1または複数の実施形態において任意の適切な方法で組合わされてもよい。以下の記載において、本発明の実施形態の十分な理解を提供するために、長さ、幅、形状などの例などの多数の特定の詳細が提供される。しかしながら、当業者は、1または複数の具体的な詳細なしに、または他の方法、構成要素、材料などとともに、本発明を実施することができると認識する。他の例では、本発明の態様を不明瞭にすることを避けるために、周知の構造、材料または操作は詳細には図示されておらず、記載されていない。
【0105】
前述の実施例は、1または負クスの特定の用途における本発明の原理を例示するものであるけれども、発明力を発揮することなく、また本発明の原理および概念から逸脱することなく、実施の形態、使用および詳細における多数の変形を行うことができることは当業者には明らかである。したがって、以下に記載の特許請求の範囲による場合を除き、本発明を限定することを意図していない。
【0106】
本明細書では、「含む(comprise)」および「含む(include)」という動詞は、引用されていない特徴の存在を排除することも要求することもない開放型限定として本明細書において使用されている。従属請求項に記載の特徴は、明確に反対のことが述べられていない限り、相互に自由に組み合わせ可能である。さらに、本明細書全体を通して「a」または「an」、すなわち単数形の使用は、複数形を排除するものではないことを理解されたい。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、少なくとも繊維産業における産業上の応用が見出される。セルロースカルバメートは、リサイクル可能なセルロース系材料とともに未使用原料から高品質な繊維製品繊維を形成するために使用可能である。高品質な繊維製品繊維を提供することに加えて、セルロースカルバメートには、押出しフィルムにおける、複合材料、スポンジ、発泡体、顔料、接着剤、安定剤における、および、たとえば、様々な分析方法で使用するためのクロマトグラフィカラムの固定相における使用などの多様な用途がある。
【0108】
略語
DP 重合度
PD 多分散性
CCA セルロースカルバメート
PET ポリ(エチレンテレフタレート)
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】