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  • 特表-セルロース系繊維製品繊維 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】セルロース系繊維製品繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 2/28 20060101AFI20250117BHJP
【FI】
D01F2/28 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024534572
(86)(22)【出願日】2023-01-05
(85)【翻訳文提出日】2024-08-07
(86)【国際出願番号】 FI2023050009
(87)【国際公開番号】W WO2023131747
(87)【国際公開日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】20225011
(32)【優先日】2022-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522360965
【氏名又は名称】インフィニティッド ファイバー カンパニー オイ
【氏名又は名称原語表記】INFINITED FIBER COMPANY OY
【住所又は居所原語表記】Tekniikantie 14 Espoo Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】シレン,サカリ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェイヨラ,エリアス
(72)【発明者】
【氏名】ヌオッポネン,マルクス
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035AA06
4L035BB03
4L035BB08
4L035BB16
4L035BB89
4L035DD19
4L035EE20
4L035HH01
4L035HH04
(57)【要約】
本発明は、セルロースカルバメート繊維製品繊維を製造するための方法に関し、セルロースカルバメートを水性水酸化ナトリウム媒体に溶解して、亜鉛を含むセルロースカルバメートドープを形成するステップと、セルロースカルバメートドープを紡糸ユニットで、アルカリ性水性紡糸浴中に紡糸し、フィラメントまたはフィラメントトウを形成するステップと、フィラメントまたはフィラメントトウを延伸して、セルロースカルバメート繊維を得るステップとを含む。紡糸浴において、紡糸浴の一部を引き出しリサイクルすることによって、水酸化ナトリウム含有量および炭酸ナトリウム含有量が所定の範囲に維持される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースカルバメート繊維製品繊維を製造するための方法であって、
最大窒素含有量2.5wt%のセルロースカルバメートを水性水酸化ナトリウム媒体に溶解して、亜鉛を含有するセルロースカルバメートドープを形成するステップと、
セルロースカルバメートドープを紡糸ユニットで、アルカリ性水性紡糸浴中に紡糸し、フィラメントまたはフィラメントトウを形成するステップであって、アルカリ性水性紡糸浴の温度が35~60℃の範囲である、ステップと、
フィラメントまたはフィラメントトウを延伸して、セルロースカルバメート繊維を得るステップとを含み、
紡糸浴の水酸化ナトリウム含有量が1.0~1.99wt%の範囲内に維持され、紡糸浴の炭酸ナトリウム含有量が最大でも30wt%に維持され、リサイクルのために紡糸ユニットからアルカリ性紡糸浴の一部を引き出す、方法。
【請求項2】
セルロースカルバメートは、好ましくは、セルロースカルバメートの少なくとも25wt%、より好ましくは、セルロースカルバメートの少なくとも50wt%の量で、セルロース含有廃棄物材料から得られるセルロースカルバメートを含み、廃棄物材料は、好ましくは、繊維製品廃棄物、紙廃棄物、段ボール廃棄物、農業廃棄物およびそれらの混合物から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
セルロースカルバメートは、セルロースカルバメートの少なくとも50wt%、好ましくはセルロースカルバメートの少なくとも90wt%の量で、繊維製品廃棄物から得られるセルロースカルバメートを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
セルロースカルバメートの窒素含有量は、0.5~2.0wt%、好ましくは0.8~1.5wt%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
セルロースカルバメートは、ゲル浸透クロマトグラフィ/サイズ排除クロマトグラフィ装置によって測定された多分散性が、2.0~5.0、好ましくは2.0~4.0、より好ましくは2.0~3.5の範囲にあり、ISO5351:2010に従うCED粘度測定によって測定された平均固有粘度が、147~225ml/g、好ましくは161~197ml/gである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
セルロースカルバメートは、セルロース系材料を前処理し、前処理されたセルロース系材料にセルロースカルバメート化を行うことによって調製される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前処理は、所定の粒径のセルロース系材料を得るための機械的処理と、それに続く蒸解液中での酸処理およびアルカリ処理と、任意だか、漂白および/または脱色処理とを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
セルロースカルバメートドープは、8~11wt%、好ましくは8.5~10wt%のセルロースカルバメートと、5~8wt%の水酸化ナトリウムと、0.08~1.2wt%の亜鉛とを含み、ドープはASTM D1343-93:2019によって測定されたような、15Pas以下(摂氏20度で測定)、適切には4~15Pasの範囲の粘度を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
紡糸浴の水酸化ナトリウム含有量は、1.0~1.99wt%、好ましくは1.5~1.9wt%の範囲内に維持される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
アルカリ性紡糸浴は、1:11~1:20の重量比で、水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
紡糸浴の炭酸ナトリウム含有量は、22~30wt%、好ましくは23~29wt%、特に24~28wt%の範囲内に維持される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
アルカリ性紡糸浴の温度は、40~55℃、好ましくは45~50℃の範囲である、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
紡糸は、0.75~1.4、好ましくは0.8~1.2の範囲の紡糸口金ドロー比を有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
フィラメントまたはフィラメントトウの凝固後の全延伸は、延伸ユニットにおいて、特に熱浴中で、長さで少なくとも70%、好ましくは長さで90%以上、特に長さで95%以上、または長さで70~120%である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
フィラメントから酸化亜鉛残留物を除去するための酸処理と、フィラメントの窒素含有量を0.05~0.4wt%の範囲に低減するための後加水分解処理とから選択される少なくとも1つの後処理ステップをさらに含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
凝固後のセルロースカルバメートフィラメントの窒素含有量は、0.40~1.9wt%の範囲である、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の方法によって得られるセルロースカルバメート繊維製品繊維。
【請求項18】
ガスクロマトグラフィ-質量分析によって決定される、p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解もしくは部分的に未加水分解のポリエステルの含有量が、0.00005~0.5wt%である、請求項17に記載のセルロースカルバメート繊維製品繊維。
【請求項19】
0.8~1.8dtexの線密度、2.0~2.9cN/dtexの引っ張り強伸度および50~120cN/dtexの初期弾性率、好ましくは1.1~1.5dtexの線密度、2.1~2.8cN/dtexの引っ張り強伸度および70~120cN/dtexの初期弾性率を有する、セルロースカルバメート繊維製品繊維。
【請求項20】
ヤーン、繊維製品、織物もしくは編物、繊維製品衣服または不織布における、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法によって得られるセルロースカルバメート繊維製品繊維の使用。
【請求項21】
請求項1~16のいずれか1項に記載の方法によって得られるセルロースカルバメート繊維製品繊維を含む、ヤーン、繊維製品、織物もしくは編物、繊維製品衣服または不織物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースカルバメート繊維製品繊維の製造方法、この方法によって得られるセルロースカルバメート繊維製品繊維、その使用、およびセルロースカルバメート繊維製品繊維を用いて製造された物品に関する。
【背景技術】
【0002】
地球上で最も豊富な再生可能有機材料であるセルロースは、繊維用途に優れた特性を示す。ビスコースプロセスは、環境上の課題があるにもかかわらず、再生セルロース繊維およびフィルムを製造する技術として現在も最も広く使用されている。したがって、従来の製造工程に比べて改善された特性を持つ、よりシンプルで持続可能な繊維を開発する必要がある。
【0003】
欧州特許出願公開第1470162号には、高品質のセルロース溶液からのセルロースカルバメートの製造が記載されている。セルロースカルバメートは、人工セルロース繊維の製造のための環境に優しい代替物として知られている。
【0004】
欧州特許出願公開第1509548号には、水酸化ナトリウム溶液に直接溶解し、その溶液を酸性紡糸浴に紡糸することによる、セルロースカルバメートからの繊維、フィルムおよび他の成形体の製造が記載されている。国際公開第2021/038136号は、セルロースカルバメートの形成に使用するセルロースを前処理する方法を提供した。カルバメート化プロセスから得られたセルロースカルバメートは、湿式紡糸プロセスによるセルロースカルバメート繊維の製造のために溶解された。セルロースカルバメートドープの湿式紡糸は、たとえば硫酸ナトリウムおよび遊離硫酸を含む、セルロースカルバメートプロセスに最適化された酸性紡糸浴を用いて行われた。
【0005】
英国特許第2164942号は、炭酸ナトリウムを含む沈殿剤溶液を用いて、セルロースカルバメートを溶解し、アルカリ溶液から沈殿させるプロセスを提示している。紡糸および沈殿の溶液はまた、水酸化ナトリウムを含む。国際公開第2018/169479号は、水性アルカリ性紡糸ドープから紡糸された再生セルロース繊維を提示している。この方法は、セルロース系繊維の強度を高めるためにナノフィラー添加剤を導入する。国際公開第2020/171767号はまた、7.0よりも大きいpHを有するアルカリ凝固浴中でセルロース紡糸ドープを紡糸することを記載している。
【0006】
カルバメート加水分解は、酸性紡糸浴中で凝固が起こると停止する。アルカリ性凝固浴中で紡糸すると、凝固およびトウの延伸の間にセルロースの再生が徐々に起こる。しかしながら、アルカリ性紡糸技術は、成形体の形成には成功しているものの、たとえば、十分な強度特性や繊維製品品質の繊維を製造することは今のところできていない。
【0007】
このように、この分野における最近の多くの研究開発プロジェクトにもかかわらず、繊維製品廃棄物材料のより良い利用を可能にするさらなる製造方法を提供する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、先行技術に関連する問題の少なくともいくつかを克服し、繊維製品品質の人工セルロースカルバメート繊維を提供することである。実施形態によって、驚くべきことに、紡糸浴および繊維が延伸される条件を変更することにより、改善された特性を有する人工セルロースカルバメート繊維が得られることが見出された。特に、本発明の方法により、少なくとも部分的に廃棄物材料からセルロースカルバメート繊維製品繊維を製造することができ、しかも繊維産業に十分な強度を有する繊維を得ることができる。
【0009】
本発明は、独立請求項の特徴によって定義される。いくつかの具体的な実施形態は従属請求項に定義されている。
【0010】
一態様に従えば、本発明は、セルロースカルバメート繊維製品繊維を製造するための方法であって、
最大窒素含有量2.5wt%のセルロースカルバメートを水性水酸化ナトリウム媒体に溶解して、亜鉛を含有するセルロースカルバメートドープを形成するステップと、
セルロースカルバメートドープを紡糸ユニットでアルカリ性水性紡糸浴中に紡糸し、フィラメントまたはフィラメントトウを形成するステップであって、アルカリ性水性紡糸浴の温度が35~60℃の範囲である、ステップと、
フィラメントまたはフィラメントトウを延伸して、セルロースカルバメート繊維を得るステップとを含み、
紡糸浴の水酸化ナトリウム含有量が1.0~1.99wt%の範囲内に維持され、紡糸浴の炭酸ナトリウム含有量が最大でも30wt%に維持され、リサイクルのために紡糸ユニットからアルカリ性紡糸浴の一部を引き出す、方法に関する。
【0011】
さらなる態様に従えば、本発明は、この方法によって得ることができるセルロースカルバメート繊維製品繊維に関し、さらにまた、ヤーン、繊維製品、織物もしくは編物、繊維製品衣服または不織布における、この方法によって得ることができるセルロースカルバメート繊維製品繊維の使用に関する。さらに、本発明は、この方法によって得られるセルロースカルバメート繊維製品繊維を含む、ヤーン、繊維製品、織物もしくは編み物、繊維製品衣服または不織布に関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に従った方法を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
人工セルロース繊維とは、製造過程でその構造や性質が変化する繊維のことである。人工繊維は、絹、綿、羊毛などの天然繊維とは区別される。人工セルロース繊維は、綿、麻、亜麻、木材の構造繊維などを構成するセルロースポリマと同じものからできている。人工セルロース繊維の場合、セルロースはたとえば木材パルプ化工程から得られるセルロースのように、改質された状態で入手されるか、あるいは実用的なセルロース系繊維に再生するために改質される。
【0014】
本発明におけるセルロースカルバメート繊維製品繊維とは、ステープルファイバー、ショートカットファイバー、フロック、フィラメントヤーン、フィラメントのトウの形態の繊維を指す。本発明におけるセルロースカルバメート繊維製品繊維とは、不織布用途に使用される繊維も指す。本明細書におけるフィラメントという用語は、フィラメントトウも含むものと理解されたい。
【0015】
繊維の単位長さ当たりの質量の尺度である線密度は、繊維製造業者によって繊度の尺度として使用される。デシテックス(dtex)単位の線密度は、10,000mの長さの繊維のグラム単位の重さである。デシテックス(dtex)は、線密度のSI単位として承認されている。線密度(dtex)はISO1973:2021に従って測定される。
【0016】
引っ張り強伸度は繊維の強さの尺度である。通常、繊維の極限(破断)力(グラム力単位)を線密度で割ったものとして定義される。引っ張り強伸度は、極限(破断)力/荷重と試験片の線密度との比として定義される。試料の引っ張り強伸度は、cN/dtex、グラム/tex、グラム/デニール、ニュートン/texなどの単位で表すことができる。繊維の引っ張り強伸度(cN/dtex)はISO5079:2020に従って測定される。
【0017】
繊維製品では、初期弾性率という用語は繊維材料の伸長に対する初期抵抗を表すために使用され、ISO5079:2020を用いて測定される。言い換えれば、これは繊維の小さな初期伸長に対する抵抗の尺度である。繊維の延伸に対する抵抗が大きければ、弾性率も高くなる。初期曲線と水平軸とのなす角の正接は、応力とひずみとの比に等しい。この比率は初期弾性率と呼ばれるが、繊維学では初期ヤング率と呼ばれる。繊維材料の初期弾性率は化学構造、結晶化度、繊維の配向などに依存する。初期弾性率は、tanα=応力/ひずみである。
【0018】
破断伸度とは、破断力によって生じる繊維の伸度のことである。破断伸度(%)=破断伸度×100/試験片の元の長さ。ISO5079:2020を用いて測定される。
【0019】
セルロースカルバメート繊維製品繊維中またはセルロースカルバメート中の窒素含有量は、セルロース中のカルバメート基として化学的に結合した窒素の量を意味する。窒素含有量(全重量に対するwt%)は、SFS 5505:1988に従って測定される。
【0020】
ml/gの平均固有粘度は、ISO5351:2010(CED粘度測定)により決定され、平均は算術平均である。p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸ならびに/または未加水分解ポリエステルもしくは部分的に未加水分解のポリエステルの含有量(wt%)は、実験のセクション(実施例4および6)でより詳細に説明するように、ガスクロマトグラフィ-質量分析(GC-MS)によって決定される。
【0021】
本明細書において、重量%(wt%)が使用される場合、特に断りのない限り、それは関連材料内の重量%を意味する。
【0022】
原料は、セルロースを豊富に含む様々なタイプの繊維製品廃棄物、たとえば、消費者使用後の廃棄物、消費者使用前の廃棄物、工業用繊維製品廃棄物、または繊維製品製造からの副流とすることができる。繊維製品廃棄物を回収し、選別することができる。リサイクル廃棄物材料および廃棄物材料という用語は、互換的に使用することもできる。
【0023】
別段の定めがない限り、熱浴という用語は、摂氏75度から摂氏100度の範囲の温度を有する液体を含む浴を意味するものとする。
【0024】
第1の態様に従えば、本発明は、セルロースカルバメート繊維製品繊維の製造方法であって、
最大窒素含有量2.5wt%のセルロースカルバメートを水性水酸化ナトリウム媒体に溶解して、亜鉛を含有するセルロースカルバメートドープを形成するステップと、
セルロースカルバメートドープを紡糸ユニットでアルカリ性水性紡糸浴中に紡糸し、フィラメントまたはフィラメントトウを形成するステップであって、アルカリ性水性紡糸浴の温度が3560℃の範囲である、ステップと、
フィラメントまたはフィラメントトウを延伸して、セルロースカルバメート繊維を得るステップとを含み、
紡糸浴の水酸化ナトリウム含有量が1.0~1.99wt%の範囲内に維持され、紡糸浴の炭酸ナトリウム含有量が最大でも30wt%に維持され、リサイクルのために紡糸ユニットからアルカリ性紡糸浴の一部を引き出す、方法に関する。
【0025】
「セルロースカルバメートドープを紡糸ユニットでアルカリ性水性紡糸浴中に紡糸して、フィラメントまたはフィラメントトウを形成する」とは、セルロースカルバメートが凝固し、紡糸口金を通して押し出される間にフィラメントに成形されることを意味する。
【0026】
本発明の方法は、セルロースカルバメートの前処理、NaOHへの溶解、およびアルカリ性紡糸浴を用いた繊維製品繊維用湿式紡糸に関する研究に基づいている。カルバメート繊維の紡糸は、紡糸浴の組成を変えることにより向上し、それにより改善された特性を有するセルロースカルバメート製品が得られることが観察された。アルカリ性紡糸浴での凝固が遅いと、所定の繊維製品繊維特性、すなわち0.8~1.8dtexの線密度、2.0~2.9cN/dtexの引っ張り強伸度、および任意だが50~120cN/dtexの初期弾性率を有する繊維、フィラメントまたはフィラメントトウが達成されない。したがって、凝固が最適な速度で起こることが重要である。
【0027】
繊維の凝固を促進するためには、水酸化ナトリウムの量をある低レベルにする必要がある。紡糸ユニットから引き出されたアルカリ性紡糸浴の一部(その時点、その場所での紡糸浴の組成を有する)は、炭酸ナトリウムと2wt%未満の水酸化ナトリウム、好ましくは1.5~1.99wt%、特に1.6~1.9wt%の水酸化ナトリウムとを含む。紡糸浴の炭酸ナトリウム含有量は最大でも30wt%に維持される。
【0028】
国際公開第2020/171767号のような先行技術の溶液では、凝固浴は水酸化ナトリウムを含み、与えられた数値範囲は水酸化ナトリウムの好ましい3~10wt%のみである。与えられた水酸化ナトリウム含量の例は、5.3および5.6wt%であり、すなわち本発明よりもかなり高い。この文献で得られたカルバメート繊維の引っ張り強伸度は16.9および18.9cN/tex(表1)、すなわち1.69および1.89cN/dtexであった。本発明の方法で得られた引っ張り強伸度値は、少なくとも2.0cN/dtex、さらには少なくとも2.3cN/dtexの引っ張り強伸度を有するカルバメート繊維を導くことができる。引っ張り強伸度は繊維の強度の尺度であり、したがって、高い強度を有する本発明のセルロースカルバメート繊維は、ヤーンおよび繊維製品製造において一般的な他の繊維とともに使用することができ、少なくとも2.0cN/dtexは繊維製品繊維として許容可能な強度と考えられる。国際公開第2020/171767号の実施例では、この限界には達していない。さらに、国際公開第2020/171767号では、NaOH濃度が洗浄液中で約2wt%に近づくと、通常、亜鉛が(水酸化亜鉛の形で)沈殿し始めることが教示されており、したがって、当業者には、水酸化ナトリウムの量が2wt%まで下がってはならないことが示されている。
【0029】
セルロースカルバメートだけでなく、再生セルロース繊維一般に関する国際公開第2018/169479号に開示された先行技術の溶液では、好ましい紡糸浴は希釈水酸化ナトリウムであり(水酸化ナトリウムの濃度は、6~9%として与えられる紡糸ドープ中の水酸化ナトリウム濃度より実質的に低い)、紡糸浴は好ましくは約10~40℃の温度に保たれる。本明細書において紡糸ドープの調製に使用されるセルロースの例としては、パルプ、綿、綿リンターのような天然セルロース、および、ビスコースまたはリヨセルのようなセルロース溶液から得られる再生セルロースが挙げられる。セルロースは誘導体化されていてもよく、たとえばカルバメート化されていてもよい。この文献には実施例がなく、紡糸浴の水酸化ナトリウム濃度の具体的な値も示されていない。湿潤引張強さだけが示されているが、その値をどのように求めることができるかの例はない。
【0030】
英国特許第2164942号は、NaOHの最大含有量を3wt%と言及する一方、紡糸浴中で5~6wt%と高い値にも言及し、その実施例で3wt%を使用し、特許権者によれば十分に満足できる特性を有するカルバメート繊維を製造している。特性は特定されていない。このように先行技術では、紡糸浴中の水酸化ナトリウムの量が著しく多い。
【0031】
先行技術とは対照的に、本発明の方法では、最適な繊維特性、最も重要なことに結果として得られる繊維の最大強度を得るために、紡糸をセルロースカルバメートに最適化する。したがって、亜鉛の一部は紡糸浴に溶解してリサイクルされ、亜鉛の一部は繊維またはフィラメントと一緒に紡糸浴から除去され、後に洗浄されて別々にリサイクルされることを目的としている。したがって、紡糸浴中に析出する亜鉛の量は最小限に抑えられる。さらに、紡糸浴の温度、すなわち35~60℃は、紡糸浴の水酸化ナトリウム含有量が低くても、亜鉛の溶解度を高めながら繊維の形成を早めるように最適化されている。このように、選択された水酸化ナトリウムの含有量と紡糸浴の温度との組み合わせは、改善された結果をもたらすことが確認されている。
【0032】
好ましい(1.5~1.99wt%)、あるいはさらに好ましい(1.6~1.9wt%)範囲の水酸化ナトリウムでは、紡糸浴中の亜鉛の沈殿も最小限に抑えられる。紡糸浴に好ましい範囲の水酸化ナトリウムを使用するさらなる利点は、そのような範囲であっても紡糸浴をリサイクルすることが経済的に合理的であることである。紡糸浴の水酸化ナトリウム含有量が最低1.0wt%に維持されない場合、リサイクル、すなわち、その中の水酸化ナトリウムの量を低下させるために処理される必要のある紡糸浴の量は、商業的使用には大きすぎるであろう。実際、紡糸浴のリサイクルには、様々な沈殿ステップや蒸発ステップがあり、設備への初期投資が必要となるだけでなく、運転コストやエネルギー需要も増大する。したがって、紡糸浴中に亜鉛が残留しないようにすることも重要である。
【0033】
したがって、紡糸浴がリサイクルされ、このリサイクルによって紡糸浴の水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウム含有量が指示された範囲に維持されることが本発明の本質的な特徴である。実際、セルロースカルバメートドープはアルカリ性であるため、ナトリウム、特に水酸化ナトリウムもセルロースカルバメートドープと共に紡糸浴に入り、それにより紡糸浴の水酸化ナトリウム含有量が増加する。したがって、紡糸浴に戻されるリサイクル紡糸浴(すなわち、水酸化ナトリウム含有量が低下した紡糸浴)中の水酸化ナトリウムの量は、紡糸浴中の所望の水酸化ナトリウムの量よりも低くする必要がある。亜鉛も回収され、セルロースカルバメートドープにリサイクルされる。
【0034】
水酸化ナトリウムはドープ中で紡糸バスに添加されるため、紡糸バス中の水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムの量は、プロセスの使用中、紡糸バスのある場所から別の場所まで変化する。上記で定義した量は、紡糸浴内の量の算術平均である。
【0035】
紡糸浴の一部は、紡糸浴の底部の1つまたは複数の点から、または紡糸浴のオーバーフローとしてなど、任意の適切な位置で、またはいくつかの異なる位置で紡糸浴から除去することができる。また、紡糸浴の一部を紡糸浴(すなわち、紡糸に使用される容器)から、またはリサイクル導管(複数可)から除去することも可能である。
【0036】
さらに、セルロースカルバメートドープは、好ましくは、適切な粘度のような一定の品質を有する。実際には、ドープの粘度が15Pas(摂氏20度で)を超えると、ドープの取り扱い(ポンピング、濾過、空気の除去など)が非常に困難になる。また、最適な紡糸のためには、紡糸ドープ中のセルロースカルバメート濃度を十分に高くする必要があり、好ましくは少なくとも8.0wt%である。セルロースカルバメートドープの粘度は、ドープ中の不純物、不均一な原料、セルロース鎖の高分子量によって増加する。したがって、実施形態に従えば、セルロースカルバメートは、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)/サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)装置によって測定されたその多分散性指数値(多分散性ともいう)が、2.0~5.0、好ましくは2.0~4.0、より好ましくは2.0~3.5の範囲にあり、ISO5351:2010に従うCED粘度測定によって測定された平均固有粘度が、147~225ml/g、好ましくは161~197ml/gである。これらの特性は、好ましい実施形態のように廃棄物原料を使用する場合に特に重要であり、セルロースカルバメートの特性を調整することにより高品質のドープを得ることができるからである。したがって、セルロースカルバメート繊維で最適な特性を得るためには、紡糸ドープの粘度は最大でも15Pas(摂氏20度の場合)であるべきであり、そのためには、セルロースカルバメートが上記の多分散性と固有粘度とを有すること、すなわち、均質で十分に狭い分子量分布と十分に小さい粒径とを有することが必要である。
【0037】
多分散性指数は、たとえば、酸処理ステップにおいて温度、滞留時間および酸濃度を調整することによって、オゾン漂白および/または脱色ステップにおいてpHおよびオゾン電荷を調整することによって、過酸化水素漂白ステップにおいて過酸化水素電荷、pHおよび滞留時間を調整することによって、および/またはカルバメート化ステップにおいてpHおよびアルカリ度、滞留時間、尿素電荷、カルバメート化温度および圧力を調整することによって、変更することができる。
【0038】
実施形態に従えば、セルロースカルバメートは、好ましくは、セルロースカルバメートの少なくとも25wt%、より好ましくは、セルロースカルバメートの少なくとも50wt%の量で、セルロース含有廃棄物材料から得られるセルロースカルバメートを含み、廃棄物材料は、好ましくは、繊維製品廃棄物、紙廃棄物、段ボール廃棄物、農業廃棄物およびそれらの混合物からなる群から選択される。廃棄物材料とは、リサイクルのために回収された材料、たとえば使用済みの繊維製品、紙、段ボールなどを意味する。農業廃棄物とは、作物残渣、雑草、腐葉土、おがくず、森林廃棄物など、人間や動物の食料として使用できない様々な植物由来の材料を意味する。さらに、わらも原料として使用できる。
【0039】
特定の実施形態に従えば、セルロースカルバメートは、セルロースカルバメートの少なくとも50wt%、好ましくはセルロースカルバメートの少なくとも90wt%の量で、繊維製品廃棄物から得られるセルロースカルバメートを含む。実施形態に従えば、繊維製品繊維の原料は100%繊維製品廃棄物であり、すなわち繊維製品廃棄物のみが原料として使用される。したがって、本発明の繊維およびその製造方法は、リサイクル材料を含む繊維製品繊維を製造することを可能にし、なおかつ、製織のような繊維産業での使用を可能にする特性を有する。
【0040】
セルロース系材料は、未使用セルロースを含んでもよく、および/またはジュート、麻、ケナフ、綿、バガス等の供給源からのリサイクルセルロースを含んでもよい。実施形態に従った人工セルロースカルバメート繊維は、摩耗に対する良好な耐性、すなわち良好な強度特性を有する。この繊維は、綿と同様の初期弾性率を有し、これにより、本明細書に記載の実施形態の繊維は、良好な強度特性を、未使用セルロース、たとえば、綿と、本発明の繊維と絡み合わせた組み合わせから作られたスレッド、ヤーンおよび布地に、提供する。
【0041】
一実施形態では、セルロースカルバメート繊維製品繊維は、乾燥重量で90wt%以上、特に95wt%以上のセルロースを含む。プラスチック、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エラステインおよび場合によってはビウレットのような窒素含有不純物のような非セルロース系成分も少量存在することがある。さらに、紡糸仕上げ剤は、たとえばカーディングおよび/またはヤーン製造における加工性を改良するために使用される。任意だが、他の添加剤をセルロースカルバメート繊維製品繊維に組み込むことができる。任意の化学物質は、加工性の修正に、および/または最終製品の引張強さ、弾性率または伸縮性などの物理的特性の修正に使用することができる。任意の化学薬品はトレーサーとして作用してもよい。加工助剤、界面活性剤、潤滑剤、湿潤剤、安定性、色および輝度の調整剤、二酸化チタン、たとえばアナターゼまたはルチル型二酸化チタン、染料、顔料、難燃剤、充填剤、帯電防止剤および繊維の摩擦を減少させるための補助剤などの脱渋剤も、セルロースカルバメート繊維製品繊維中に存在することができる。
【0042】
さらなる実施形態では、セルロース系材料はリサイクル廃棄物材料を含み、好適には、前記セルロース系材料のセルロースの少なくとも50wt%、好ましくは少なくとも75wt%がリサイクル繊維製品廃棄物によって形成される。人工繊維は、未使用綿繊維や機械的にリサイクルされた綿繊維と組み合わせることができ、それらが絡み合って興味深い特性を有するスレッドまたはヤーンを提供することができる。したがって、たとえば任意に化学的にリサイクルされた綿から製造された人工繊維は、セルロースカルバメート繊維を含むスレッド、ヤーン、繊維製品、その他の物品において、未使用綿の少なくとも一部を置き換えるために使用することができる。
【0043】
実際、実施形態に従えば、繊維製品繊維の原料の少なくとも50wt%はセルロース含有廃棄物であり、セルロース含有廃棄物の少なくとも50wt%は繊維製品廃棄物である。また、少なくとも55、60、65、70、75、80、85、90、95または100wt%のセルロース含有廃棄物を原料として使用することも可能である。このセルロース含有廃棄物のうち、少なくとも50wt%は繊維廃棄物であり、繊維廃棄物はセルロース含有廃棄物の少なくとも55、60、65、70、75、80、85、90、95または100wt%とすることができる。後述するように、セルロース含有廃棄物は、たとえば紙や段ボールの廃棄物やポリコットンブレンドも含むこともできる。
【0044】
セルロースは、様々な供給源から、様々なパルプの形態であってよい。一実施形態では、セルロースは、化学パルプ、機械パルプ、熱機械パルプ、化学熱機械パルプ、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
さらなる実施形態において、化学パルプは、有機ソルブパルプ、ソーダパルプ、溶解パルプ、クラフトパルプ、亜硫酸パルプ、熱水抽出パルプ、およびそれらの混合物からなる群から選択される。実施形態では、製紙用パルプが使用される。さらなる実施形態では、溶解グレードパルプが使用される。脱墨パルプなどのリサイクルパルプも実施形態において有用である。特定の実施形態では、セルロースは乾燥溶解パルプである。
【0045】
原料の起源は、化学パルプもしくは溶解パルプの未使用形態か、または、化学パルプもしくは溶解パルプを含む再生紙および/もしくは段ボールなどのリサイクル原料のいずれかである。
【0046】
天然植物繊維は、化学パルプまたは溶解パルプの形態で、原料として有用である。天然植物繊維の起源は、未使用形態か、天然植物繊維含有繊維製品またはリサイクル天然繊維含有繊維製品のいずれかであってもよい。天然植物繊維には、綿、カポックなどの種子繊維、麻、ジュート、ケナフ、ラミー、アバカ、リネン(亜麻)などの靭皮繊維、マニラ麻、サイザル麻、パイナップル、バナナなどの葉繊維、コイアなどの果実繊維が含まれる。
【0047】
一実施形態では、セルロースは、紙、段ボール、綿、綿リンター、麦わら、稲わら、トウモロコシ茎葉、麻、ケナフ、バガス、竹、亜麻、ジュートおよびそれらの混合物からなる群から選択されるリサイクルセルロースから得られる。本方法の実施形態は、綿、綿リンター、麻、フレックス、リネン、その他の茎や種子の繊維など、複数のフィブリル層を有するこのような要求の厳しいパルプの前処理に特に有効である。
【0048】
同様に、セルロースの未使用供給源も同様に好適である。したがって、実施形態では、セルロースは、未使用綿、未使用綿リンター、未使用麦わら、未使用稲わら、未使用トウモロコシ茎葉、未使用麻、未使用ケナフ、未使用バガス、未使用竹、未使用亜麻、未使用ジュートおよびそれらの混合物から得られる。
【0049】
実施形態は、セルロースカルバメート織物繊維の製造に関する。一実施形態では、前記方法は、セルロース系材料を前処理するステップと、セルロースカルバメートを形成するためにセルロースカルバメート化を行うステップと、セルロースカルバメートを水性アルカリ性媒体に溶解してドープを形成することによってセルロースカルバメートドープを提供するステップと、ドープを水性紡糸浴を示す紡糸ユニットに供給することによってセルロースカルバメートドープを紡糸するステップと、ドープから水性アルカリ性紡糸浴にセルロースカルバメートを凝固させてセルロースカルバメートフィラメントまたはフィラメントトウを形成し、1つまたは複数の延伸ユニットでフィラメントまたはフィラメントトウを延伸し、任意で1つまたは複数の洗浄ユニットで洗浄し、任意で切断してセルロースカルバメート繊維を得るステップとを含む。本方法により製造されるセルロースカルバメート繊維製品繊維は、フィラメントの形態であっても、ステープルファイバーの形態であってもよい。
【0050】
セルロースカルバメートは、セルロース系材料を前処理し、前処理したセルロース系材料にセルロースカルバメート化を行うことにより調製することができる。実施形態では、セルロース系繊維製品材料は、所定の粒径に機械的に処理することによって前処理され、機械的に処理された材料は、所望の順序で、蒸解液中で酸処理およびアルカリ処理に供され、任意に漂白または他の脱色処理に供される。実施形態では、セルロースの前処理は、セルロースと液体とを含む混合物を準備するステップと、たとえば連続機械混合装置におけるせん断混合によって、混合物を機械的に処理するステップとを含むことができる。このような前処理は、たとえば国際公開第2021/181007号に開示されている。
【0051】
セルロースの処理中、固形分を有する混合物を準備することを含み、前記混合物は、セルロースおよび液体を含み、混合物は好ましくは混合物の少なくとも50重量%の初期固形分を有し、好適には初期固形分は混合物の50重量%超である、たとえば、混合物の51重量%、混合物の52重量%またはたとえば混合物の55重量%のような混合物の50重量%超、好適には混合物の少なくとも65重量%、特に混合物の75重量%まで、最も好適には混合物の71重量%または72重量%または73重量%または74重量%までである。低濃度パルプと比較して、これらのような超高濃度パルプを機械的に加工すると、繊維細胞壁のラメラの転位が改善され、混合物またはパルプ中の分子レベルでの尿素のような化学物質の吸収が改善される。混合物の初期固形分が少なくとも50wt%であれば、セルロースの効率的な取り扱いが保証される。すなわち、セルロース壁に十分なせん断力が作用し、細胞壁が効果的に破壊され、セルロース繊維が溶剤や化学薬品に接触しやすくなる。初期固形分含量が50wt%未満、たとえば約45重量%未満では、セルロースの処理効率が低下する。したがって、尿素を添加する場合、固形分が50~75wt%であることが有利である。実施形態では、固形分が混合物の90重量%を超えないことが好ましく、好ましくは固形分が混合物の75重量%を超えない。固形分が混合物の90重量%を超えない、好ましくは混合物の75重量%を超えない高濃度パルプを維持することにより、遊離ヒドロキシル基を失うことによる失活による角化または再結晶化が起こらないので、細胞壁構造が化学物質を吸収するために閉鎖されないことが保証される。
【0052】
上述の限界の間では、せん断力がセルロース表面からフィブリルを引き裂くことなくセルロースに作用し、繊維細胞壁上のフィブリルの溶剤や化学薬品へのアクセス性が増大するように、空間が十分であり、これが最適である。このような固形分含量では6層フィブリル構造がずぶぬれにならないので、上述した限界の固形分含量を有する混合物は、たとえば綿に最適である。綿がずぶぬれになると、フィブリル構造がロックされ、フィブリル構造を破壊してセルロースカルバメート繊維のアクセス性を高めることがさらに困難になる。
【0053】
カルバメート化は、たとえば、フィンランド国特許第112869号、フィンランド特許第112795号、およびフィンランド国特許出願公開第20195717号に開示されているように実施することができる。
【0054】
カルバメート基は、弱アルカリ性条件下、中性条件下および酸性条件下(たとえば、アルカリ性紡糸および延伸条件下)で安定である。カルバメート基は、濃アルカリ条件下で加水分解する(たとえば、溶解したセルロースカルバメートは、ドープに対して少なくともたとえば6.5重量%のNaOH含有量を有するアルカリ水溶液中で加水分解する)。セルロースカルバメートは、ドープを製造するためのアルカリ性条件下で溶解後、瞬時に加水分解を開始し、一部のカルバメート基はドープの溶解脱気中に加水分解する。ドープの温度が高く、溶解から凝固までの時間が長いほど、加水分解の速度は速くなり、セルロース中に結合しているカルバメート基の量、すなわちセルロース中に結合している窒素含有量は少なくなる。加水分解の速度は、セルロースカルバメートの置換度を決定する。実施形態では、セルロースカルバメートの窒素含有量は、時間、温度および/または水酸化ナトリウム濃度などの溶解条件を変えることによって調整することができる。セルロースカルバメートの湿式紡糸のための窒素含有量は、繊維製品品質の繊維を製造するために調整される。
【0055】
いくつかの実施形態では、セルロースカルバメートは、ISO5351:2010によるCED粘度測定に基づいて、147~225ml/g、好ましくは161~197ml/gの固有粘度を有する。これらの固有粘度は、セルロースカルバメートの平均重合度(DP)が181~290、それぞれ200~250であることに相当する。繊維の湿式紡糸に適したセルロースカルバメートを得るためには、セルロースカルバメートの重合度を従来の値からここに記載した値の範囲まで低下させることが好ましい。
【0056】
別の実施形態に従えば、セルロースカルバメートの窒素含有量は、SFS5505:1988に従って測定して、セルロースカルバメートの総重量に対して0.52.0wt%、好ましくは0.81.5wt%である。
【0057】
一実施形態では、セルロースカルバメートの多分散性(PD)は、鉱酸もしくは有機酸、または酸の組み合わせなどの酸を用いて調整される。PDを調整するための酸として硫酸を採用することができる。セルロース原料の調製に酸処理ステップを含めるか、またはセルロースと尿素をカルバメート化する前に、好ましくはポリエステルの少なくとも部分的な加水分解のためのアルカリ処理の前に、原料を酸で処理することが、原料の最適な分子量分布のために有益である。多分散性指数を、従来のセルロースカルバメート(通常、多分散性指数は8~11である)の従来の値から、2.0~5.0、好ましくは2.0~4.0、最も好ましくは2.0~3.5の範囲の値に低下させることにより、セルロースカルバメートが得られ、その結果、改善された引張強度を有する繊維が得られる。より高い平均固有粘度を有するより広い分子量分布を含む材料と比較して、より低い平均固有粘度と相俟って、より狭い分子量分布(より低い多分散性指数)を有するセルロースカルバメートポリマを使用することにより、改善された降伏引っ張り強伸度を有する紡糸繊維を得ることができる。最適な平均重合度と最適な多分散性とを併せ持つセルロースカルバメートの溶解は、セルロースカルバメートドープの結果として改善される。セルロースカルバメートの窒素含有量は、たとえば、pHおよびアルカリ度、滞留時間、尿素チャージ、カルバメート化ステップにおけるカルバメート化温度および/またはカルバメート化圧力を調整することによって変更可能である。
【0058】
セルロースカルバメートを提供するための前処理およびカルバメート化の後、実施形態では、カルバメートは、水性アルカリ性媒体に溶解され、セルロースカルバメートドープを提供する。一実施形態では、セルロースカルバメートは、水酸化ナトリウムと、亜鉛塩、好ましくは酸化亜鉛および/または水酸化亜鉛とを含むアルカリ性水溶液に溶解される。亜鉛の添加は、セルロースカルバメートの溶解性を改善し、セルロースカルバメート溶液の安定性を改善することが示されている。アルカリ溶液は、水酸化ナトリウム、および酸化亜鉛、および/または水酸化亜鉛から作られ、それにより亜鉛酸塩が形成される。したがって、実施形態では、アルカリ溶液は亜鉛酸ナトリウムを含む。
【0059】
具体的な一実施形態に従えば、セルロースカルバメートドープは、8~11wt%、好ましくは8.510wt%のセルロースカルバメートと、5~8wt%の水酸化ナトリウムと、0.08~1.6wt%、好ましくは0.08~1.2wt%の亜鉛とを含む。ドープはまた、加工助剤および/または他の添加剤を含んでもよい。重量百分率(wt%)は、セルロースカルバメートドープの総重量から計算される。酸化亜鉛(ZnO)を使用する場合、その量は0.1~2wt%、好ましくは0.1~1.5wt%である。亜鉛酸ナトリウムの調製に、水酸化亜鉛、または酸化亜鉛と水酸化物との混合物など、他の亜鉛化合物を使用することも可能である。実際、セルロースカルバメートは、水酸化ナトリウムと酸化亜鉛とを含むアルカリ性水溶液に溶解してもよい。
【0060】
実施形態に従えば、ドープは、ASTM D1343-93:2019によって測定される粘度15Pas(摂氏20度で)以下、好適には4~15Pas、好ましくは4~10Pasの範囲の粘度を有する。これらの条件は、紡糸浴とともに、繊維またはフィラメントが適切な速度で形成されることを確実にし、次いで、十分な程度まで延伸され得ることを確実にするので、良質で強力な織物繊維の形成に最も最適であると考えられる。したがって、このような繊維またはフィラメントは、適切なドロー比で引き出すことができる。実際、ドープ中のセルロースカルバメートの量は、有利には8~11wt%の範囲内であることが観察されている。なぜなら、その結果、乾物含量が繊維の速い凝固にとって十分高いからである。
【0061】
実施形態に従えば、紡糸浴の水酸化ナトリウム含有量は、1.0~1.99wt%、好ましくは1.5~1.9wt%の範囲内に維持される。別の実施形態に従えば、アルカリ性紡糸浴は、1:11~1:20の重量比の水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムを含む。さらに別の実施形態に従えば、紡糸浴の炭酸ナトリウム含有量は、22~30wt%、好ましくは23~29wt%、特に24~28wt%の範囲内に維持される。好ましい実施形態に従えば、紡糸浴の水酸化ナトリウム含有量は1.0~1.99wt%の範囲内に維持され、一方、紡糸浴の炭酸ナトリウム含有量は22~30wt%の範囲内に維持される。別の好ましい実施形態に従えば、紡糸浴の水酸化ナトリウム含有量は1.5~1.9wt%の範囲内に維持され、紡糸浴の炭酸ナトリウム含有量は23~29wt%、または24~28wt%の範囲内に維持される。したがって、紡糸ユニットから引き出されたアルカリ性紡糸浴の部分は、少なくとも22wt%の炭酸ナトリウム、好ましくは少なくとも23wt%、特に少なくとも24wt%の炭酸ナトリウムを有する。したがって、アルカリ性紡糸浴は、22~30wt%、好ましくは23~29wt%、特に24~28wt%の範囲の炭酸ナトリウムを含有する。
【0062】
さらなる実施形態に従えば、凝固を促進するために、アルカリ性紡糸浴の温度は40~55℃、好ましくは45~50℃である。紡糸浴のこれらの好ましい温度は、たとえ紡糸浴の水酸化ナトリウム含有量が低くても、亜鉛の溶解度を増加させながら、繊維の形成をさらに速めることが観察されている。
【0063】
本方法では、紡糸浴の組成が、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムならびに温度について所定の値内で維持されることが極めて重要である。さらに、好ましくは、沈殿した亜鉛粒子は、たとえば濾過によって紡糸浴から除去される。同様に、炭酸ナトリウムが結晶化している場合は、結晶を除去する。さらに、凝固浴の組成を一定に保つために、プロセス中に二酸化炭素を凝固浴に流すことがある。二酸化炭素は遊離の水酸化ナトリウムと反応して炭酸ナトリウムを形成する。
【0064】
紡糸浴の取さ出れた部分の水酸化ナトリウム含有量を低下させるためのリサイクルは、結晶および/または沈殿物および/または不純物の除去を含んでいてもよいし、これは別の段階として実行されてもよい。
紡糸浴の取り出された部分の水酸化ナトリウム含有量は、まず水と結晶化炭酸ナトリウムとを部分的に除去し、たとえば蒸発と、温度を下げることとを組み合わせた真空結晶化を行い、その後亜鉛を含む濃縮水酸化ナトリウムをプロセスに再導入するために所望の程度まで希釈することによって低下させる。
【0065】
リサイクル処理後、リサイクルされたアルカリ性紡糸浴の少なくとも一部は、好ましくは紡糸ユニットに戻される。戻された部分の水酸化ナトリウム含有量は、好ましくは0.2~1.9wt%、すなわち紡糸浴の最大含有量よりも低い。好ましくは、水酸化ナトリウムは主に(セルロースカルバメート)紡糸ドープ中に紡糸浴に入るので、より低い水酸化ナトリウム含有量を使用することが好ましい。同様に、戻された部分の炭酸ナトリウム含有量は、好ましくは30wt%より低い。紡糸浴から回収されたリサイクルアルカリは、セルロースカルバメートドープの形成にも使用することができ、あるいはリサイクルアルカリ紡糸浴から亜鉛を別途除去することもできる。
【0066】
回収された水酸化ナトリウムの一部(好ましくは、溶解した形で残っている少量の亜鉛を含む)も、セルロースカルバメート溶解にリサイクルすることができる。このように、リサイクルは、水酸化ナトリウムから炭酸ナトリウムを分離することを含むこともできる。紡糸浴の異なる成分は、すべて互いに分離し、溶解ユニットまたは紡糸ユニットのいずれかのプロセスで再利用することもできる。
【0067】
実施形態に従えば、凝固後、セルロースカルバメートフィラメントの窒素含有量は0.40~1.0wt%の範囲である。このように、セルロースカルバメートは紡糸前に少なくとも部分的に加水分解されるので、繊維またはフィラメント中のカルバメートは適正なレベルにあり、および/または後処理として繊維またはフィラメントの窒素含有量を低減する必要性は少ない。
【0068】
実施形態に従えば、紡糸は、0.75~1.4、好ましくは0.8~1.2の範囲の紡糸口金ドロー比を有する。さらに、フィラメントまたはフィラメントトウの凝固後の全延伸は、延伸ユニットにおいて、長さで少なくとも70%、好ましくは長さで90%以上、特に、長さで95%以上、または長さで70~120%であってもよい。延伸ユニットは、好ましくは、高温液体または液含有浴である。延伸ユニット内のpH値が7を超えるアルカリ性液含有浴は、たとえば、紡糸浴中の量の約2/3のレベルに保たれる量の水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムを含んでもよい。
【0069】
紡糸浴において、セルロースカルバメートは、好ましくは複数の孔を有する1つ以上の紡糸口金を通して、セルロースカルバメートフィラメントに凝固される。このようなフィラメントは、紡糸浴から回収され、延伸に供され、繊維に任意に切断され、フィラメントまたは繊維が洗浄され、漂白され、および/または脱色され、および/または紡糸仕上げされる任意の後処理に供され得る。紡糸口金は45~60μm、好ましくは50~55μmの孔径を有することができる。アルカリセルロースカルバメート紡糸における紡糸口金ドロー比(Dr)は、ドープ組成および紡糸条件によって調整され、セルロースの再生が十分に速くなるようにする。紡糸は、0.75~1.5、好ましくは0.8~1.2の範囲の紡糸口金ドロー比で行われる。
【0070】
実施形態の目的のために、
ドロー比は、巻き取りローラと押出速度との比であり、
ドロー比は、Dr=v、巻き取り/v、押出しであり、ここでvは速度、すなわち紡糸口金に入る速度および紡糸口金から出る速度である。
紡糸口径比(Dr)=π・a・b・ρ・α・φ/(DTEX・1・(1+Ω/100)・4・10
ここで
a=1.1150(1+繊維水分%/(100+繊維水分%),繊維水分%=13.0%と予想される。
b=1.1350(1+繊維収縮率%/100)、繊維収縮率%=13.5%と予想される。
ρ=供給温度における紡糸ドープの密度(kg/m
α=紡糸ドープのセルロースカルバメート含有量(wt%)
φ=紡糸口金孔径(m)
DTEX=フィラメントの線密度(dtex)
Ω= 最初のゴデットと最後のゴデットの間で測定した全ゴデット延伸(%)。
【0071】
フィラメントの延伸の主な目的は、軸方向に沿ってポリマ分子の十分な配向を誘導することにより、所望の強度を有するフィラメントを製造することである。セルロース分子の高度な配向は、繊維の弾性率と引っ張り強伸度とを増加させる傾向がある。このように、繊維がアルカリ性紡糸浴中で紡糸される際、繊維の特性(繊維の形態、分子の配向、繊維の強度など)は、各工程におけるアルカリ度、温度および滞留時間に応じて、凝固および延伸中に操作することができる。洗浄やさらなる後処理再生などのさらなる加水分解後の処理は、完成した繊維の窒素含有量に影響を与える可能性がある。セルロースカルバメートフィラメントのトウは、繊維の最終的な初期弾性率と引っ張り強伸度とを向上させるために、最初の紡糸浴で、または最初の紡糸浴の直後に延伸される。繊維の形状は、紡糸および延伸条件に加わっているセルロースカルバメートの置換度を調整することによって制御することができ、たとえば、制御された窒素含有セルロースカルバメートの制御された紡糸および延伸の結果として、丸みを帯びた楕円形、豆形または葉状の繊維が得られ、滑らかな表面が形成される。
【0072】
一実施形態では、溶解セルロースは、フィラメントまたはフィラメントトウを延伸ユニット中で延伸に供している間に湿式紡糸に供される。特定の実施形態において、延伸浴は、75~100℃、好ましくは85~95℃、より好ましくは約90℃の温度を有する熱浴である。延伸浴は、紡糸浴と同じ浴であり得るが、典型的には、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムの濃度がより低い。たとえば、2つの浴が共通である場合、各部は好ましくは部分的に分割され、向流原理で操作されてもよい。したがって、紡糸浴と延伸浴とは共に容器であり、典型的には上部が開いているが、延伸浴は典型的には蓋で覆われ、所定の温度(または狭い温度範囲)の高温液体を含み、繊維またはフィラメントは浴を通過し、液体に浸漬され、典型的には延伸下にある。
【0073】
延伸ユニットは、1つ以上の延伸浴を含んでもよく、この延伸浴は、典型的には、紡糸浴中の量の約2/3の量の水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムを含む。したがって、延伸ユニット中の水酸化ナトリウムの量は約0.66~1.32wt%であり、炭酸ナトリウムの量は20wt%未満、たとえば14.5~19.9wt%である。最適な塩濃度は、延伸浴中で維持され、延伸下でのフィラメントまたはフィラメントトウの形成を促進する。(水平)延伸浴中の水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムの量は変化する。より濃縮された紡糸浴組成物の一部は、繊維またはフィラメントと共に延伸浴中に漂う。したがって、延伸浴のバランスは、水および/または循環塩組成物によって維持される。延伸浴に戻される水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムの量は、延伸浴循環中の水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムの所望の量よりも少なくする必要がある。上記の規定量は、延伸浴内の量の算術平均である。
【0074】
好適な実施形態において、フィラメントまたはフィラメントのトウは、延伸ユニットにおいて、長さで少なくとも70%、好ましくは、長さで90%以上、特に、長さで95%以上、または大略、長さで70~120%、好ましくは、長さで90~120%だけ、特に熱浴中で延伸される。長さによる延伸とは、フィラメントまたはフィラメントのトウの延伸応力を、周速の異なる回転ローラ間で調整することによるゴデットの全延伸を意味し、たとえば、最初のローラの周速は25m/分であり、最後のローラの周速は50m/分であり、したがって得られるゴデットの延伸は長さで100%である。このような高いレベルの延伸は、延伸浴の温度が75~100℃の場合、高初期弾性率の製品の提供に寄与する。
【0075】
カルバメート基はアルカリ浴中で加水分解する。したがって、実施形態では、カルバメートセルロースの再生は凝固、延伸および/または後処理の間に行われるので、特に条件付き延伸および/または条件付き後処理を使用して、再生中に繊維特性を操作することができる。アルカリ性凝固浴に紡糸する場合、セルロースの再生はトウの凝固および延伸中に徐々に行われるが、その目的は、十分な延伸を可能にするために、セルロースが紡糸の初期にすでに十分な程度まで再生することである。
【0076】
一実施形態では、窒素除去はフィラメント形成段階でも継続することができる。紡糸パラメータおよび延伸は、繊維の配向、結晶化度および繊維の最終形状に影響を及ぼし、したがって、繊維の機械的特性に影響を及ぼす。さらなる実施形態において、最終製品の窒素含有量は、特にアルカリ洗浄ステップにおいて、残存するカルバメート基の大部分が除去(加水分解)され得る洗浄段階および後処理段階において調整され得る。好ましい実施形態では、最終製品の窒素含有量は、繊維の乾燥重量で0.10~1.2wt%、好ましくは0.15~1.0wt%、特に0.2~0.9wt%の範囲である。これはセルロースの置換度(DS)が0.012~0.144の範囲に相当する。
【0077】
低い湿潤伸度および高い湿潤引っ張り強伸度のような改善された湿潤特性が所望される場合、最終製品中の低い窒素含有量は有益である。実施形態では、最終製品中の窒素含有量は0.10~0.75wt%の範囲であり、0.012~0.09のセルロースの置換度に相当する。
【0078】
制御されたプロセス条件下での延伸は、セルロースカルバメート繊維の特性を調整することを可能にする。繊維の断面の形状は、制御されたプロセス条件下での延伸によって変更することができ、たとえば、丸みを帯びた/楕円形の、豆形、または葉状の繊維の断面は、制御された延伸の結果として得ることができ、綿のような手触りと感触を持つ滑らかな表面とを作り出すことができる。
【0079】
一例として、不規則な鋸歯状の表面を持つビスコース繊維に比べ、繊維は表面も内部構造、すなわち断面もより均質で滑らかである。楕円形、豆形、または葉状の繊維の丸みを帯びた構造は、高い初期弾性率を提供する。
【0080】
本発明の繊維の相対的湿潤強度、すなわち破断引っ張り強伸度は、破断引っ張り強伸度が低いビスコースと比較して改善されている。特に、本発明のセルロースカルバメート繊維の相対湿潤伸度は非常に良好である。実施形態では、本発明のセルロースカルバメート繊維製品繊維は、調整状態での破断時湿潤伸度が破断時乾燥伸度の85~110%、好ましくは100%未満、たとえば85~99.9%、特に90~99.9%(湿潤/乾燥相対%)であり、湿潤強度が少なくとも0.9cN/dtex、好ましくは1.0cN/dtex以上であり、相対湿潤強度が40~80%(湿潤引っ張り強伸度/乾燥引っ張り強伸度)、好ましくは45~80%である。(相対的とは、ビスコースの破断時の典型的な湿潤/乾燥伸度が約120%と比較した、破断時の湿潤伸度/乾燥伸度における湿潤伸度を意味する)。
【0081】
繊維またはフィラメントは、フィラメントまたはフィラメントトウの総塩含有量を低減するために、切断前に(少なくとも部分的に)洗浄されてもよい。洗浄ユニットは、1つまたは複数の洗浄浴を含んでもよく、この洗浄浴は、典型的には、紡糸浴中の量の約1/3であり、延伸ユニット中の量の半分である量の水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムを含む。したがって、洗浄ユニット中の水酸化ナトリウムの量は約0.33~0.66wt%であり、炭酸ナトリウムの量は10wt%未満、たとえば7.3~9.9wt%である。
【0082】
水酸化ナトリウムおよび/または炭酸ナトリウム、ならびに亜鉛は、好ましくは、延伸ユニットおよび洗浄ユニットの溶液からも回収され、プロセスにリサイクルされる。したがって、プロセスは、好ましくは、種々の浴のpHおよび成分量を監視するための手段、ならびに溶液を引き出してユニットに戻すための手段を含む。
【0083】
本方法は、任意に、以下の工程ステップの1つ以上を含むことができる:a)亜鉛塩沈殿残留物を除去するための酸性洗浄b)水洗浄c)任意に、熱アルカリ液によるカルバメート基の後加水分解d)酸性および/または中性および/またはアルカリ漂白工程および/またはe)紡糸仕上げ。a)とc)の工程はどちらの順序でもよく、好ましくはその間に水洗工程がある。カルバメート基は酸性系では安定であり、アルカリ浴では加水分解する。このような任意の後処理の1つの目的は、フィラメントの窒素含有量を0.05~0.4wt%の範囲に低減することであろう。
【0084】
後加水分解の一例は、0.8wt%の窒素含量を有する、アルカリ性紡糸浴中で凝固し、アルカリ性延伸中で延伸されたセルロースカルバメート繊維を、NaCOおよびNaOHを含有する後加水分解液で95℃で3分間処理することにより、後処理において後加水分解に付し、回収された繊維の窒素含量は0.17wt%であった。
【0085】
一実施形態では、洗浄は、水または先行または後続の処理工程の流出物を使用する向流洗浄として実行される。好ましい実施形態では、後処理装置は向流原理で運転される。
【0086】
亜鉛とその化合物とは、ドープから紡糸浴に移行し、さらに後処理中に繊維から最終的に溶出することができる。炭酸亜鉛は紡糸浴と洗浄液とにわずかに溶解するので、紡糸浴中で部分的に沈殿することがあり、大部分はフィラメントと共に延伸浴と洗浄液とに移行し、そこでも部分的に沈殿する。亜鉛の一部は、任意の後処理ステップまでフィラメント中に残ることもある。洗浄後も亜鉛の一部が繊維またはフィラメント中に残っている場合は、たとえば、適切な酸性液に溶解することにより安定した繊維から亜鉛を除去するために酸洗浄を使用することができる。
【0087】
最後に、得られたフィラメントまたは繊維を、公知の乾燥方法により乾燥させる。
【0088】
また、驚くべきことに、本明細書において上述したセルロースカルバメート繊維の存在は、蛍光検出によって判定することができることが見出された。したがって、実施形態は、セルロースカルバメート繊維またはそのような繊維を含む物品の存在を判定する方法を提供する。
【0089】
実施形態において、本方法は、物品をUV光、好ましくは365nmのUV光にさらし、前記セルロースカルバメート繊維によって引き起こされる400~520nmの範囲の波長の蛍光を検出することを含む。一実施形態では、物品は、ヤーン、フィラメントのトウ、ステープルファイバー、ショートカットファイバーまたはフロックである。さらなる実施形態では、物品は、漂白および/または着色された物品のような、そのような繊維を含む繊維製品衣服である。上述に従い、実施形態では、セルロースカルバメートが繊維、フィラメント、ヤーンまたは布地中のビスコース、リヨセルまたはモダールと混合されている場合、他の再生繊維は蛍光を発しないので、人工セルロースカルバメート繊維混合物中のセルロースカルバメートの存在は蛍光によって検出することができる。
【0090】
蛍光は、光または他の電磁放射線を吸収した物質による発光である。実施形態に従ったセルロースカルバメート繊維製品繊維は蛍光を発する。典型的に、蛍光物質による発光は波長が長い。実施形態に従ったセルロースカルバメート繊維製品繊維は、たとえば450~490nmの範囲の波長で青色/ターコイズ色の光を放出し、これは、前記繊維がUV光、特に365nmの波長のUV光に曝露されたときに視覚的に観察され得る。蛍光発光波長は、励起波長に依存する。実施形態に従った繊維は、UV光、特に365nmで励起されると、420~520nmの範囲の波長(青色)で蛍光を発し、546nmで励起されると、600~750nmの範囲の波長(赤色)で蛍光を発する。
【0091】
さらなる実施形態は、本方法の実施形態によって得られるセルロースカルバメート繊維製品繊維、本方法の実施形態によって得られる繊維の使用、およびセルロースカルバメート繊維製品繊維の使用に関する。したがって、一実施形態は、本明細書に上述した方法の実施形態によって得られるセルロースカルバメート繊維製品繊維を提供する。実施形態では、繊維は、実施例において以下により詳細に説明されるように、ガスクロマトグラフィ質量分析によって決定される、そのp-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解もしくは部分的に未加水分解のポリエステル、特に、ポリエチレンテレフタレートの含有量が、0.00005~0.5wt%である。その量は、たとえば0.2重量%未満、好ましくは0.1重量%未満であり得る。p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解ポリエステルもしくは部分的に未加水分解のポリエステルの存在は、繊維製品廃棄物材料がセルロースカルバメートの製造において原料として使用されたことを示す。
【0092】
さらに別の実施形態に従えば、繊維は、0.8~1.8dtexの線密度、2.0~2.9cN/dtexの引っ張り強伸度、および50~120cN/dtexの初期弾性率を有する。好ましい実施形態では、線密度は1.1~1.5dtex、引っ張り強伸度は2.1~2.8cN/dtex、初期弾性率は70~120cN/dtexである。測定方法は前述の通りである。0.8~1.3のような範囲の下端にあるdtexを有する繊維は、典型的には約1.5以下の力価を有する繊維からたとえば軽量繊維製品を提供するのに適している。綿繊維は、典型的には、この範囲の上限およびそれ以上の引っ張り強伸度を有し、一方、従来の湿式紡績人工セルロースカルバメート繊維は、典型的には、この範囲の下限の引っ張り強伸度を有する。実施形態に従った人工セルロースカルバメート繊維製品繊維のcN/dtex値は、乾燥状態、すなわち調整状態で測定される。初期弾性率の値が50~120cN/dtexの範囲であることは、従来の人工ビスコースよりも高く、この人工ビスコースは、典型的には、たとえば20~40cN/dtexの範囲の乾燥状態で測定された弾性率を有する。
【0093】
さらなる実施形態では、上述した実施形態のいずれかのセルロースカルバメート繊維製品繊維は、織物トウ、フロック、フィラメントヤーンまたはフィラメントのトウのような、ヤーン、繊維製品、織物、編物、繊維製品衣服または不織物品に使用される。
【0094】
さらなる実施形態は、本明細書で上述したセルロースカルバメート繊維製品繊維を含む物品に関する。一実施形態では、ヤーンは、上記のようなセルロースカルバメート繊維製品繊維を含む。さらなる実施形態では、繊維製品衣服は、上記のようなセルロースカルバメート繊維製品繊維を含む。特定の実施形態では、織物または編物は、上記のようなセルロースカルバメート繊維製品繊維を含む。好適な実施形態では、不織物品は、上記のようなセルロースカルバメート繊維製品繊維を含む。さらなる実施形態では、ヤーン、繊維製品または織物中のセルロースカルバメート繊維は、綿繊維、特に未使用綿繊維と組み合わされる。したがって、実施形態により、綿繊維、特に未使用綿繊維の少なくとも一部を人工セルロースカルバメート繊維で置き換えることが可能であり、これにより、たとえば繊維産業が環境に与える影響を低減することができる。本発明の実施形態の人工セルロースカルバメート繊維は、綿繊維と同様の初期弾性率を有し、これにより、綿を前記人工繊維に置き換えることができる。
【0095】
図面の詳細な説明
図1は、実施形態に従った方法を概略的に示している。セルロースカルバメート1は溶解ユニット2に供給される。この実施形態では、セルロースカルバメートの量は8~11wt%、水酸化ナトリウム5~7wt%および亜鉛0.16~1.2wt%であり、残りは水である。溶解ユニットからセルロースカルバメート紡糸ドープの形態で溶解したセルロースカルバメートは、紡糸口金(複数可)を介して押し出すことにより紡糸浴3に導かれる。紡糸浴中では、水酸化ナトリウムの量は1.0~1.99wt%の範囲内に、炭酸ナトリウム(NaCO)の量は22~30wt%の範囲内に維持される。紡糸されたフィラメントまたは繊維は、次に1つまたは複数の延伸ユニット4に渡される。延伸ユニットでは、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムの量は、紡糸浴中の量の約2/3のレベルに維持される。延伸ユニットは、1つのユニットまたは複数のユニットを含むことができ、複数のユニットの場合、それらは完全に分離しているか、または一部が互いに連結していてもよい。
【0096】
ここで、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウムの量は、紡糸浴中の量の約1/3のレベルに保たれる。洗浄後、繊維またはフィラメントは切断ユニット6で切断され、任意に1つ以上の後処理ユニット7、8、9および10で後処理される。第1の任意の後処理ユニット7はアルカリ洗浄ユニットであり、そこで窒素が加水分解される。第2の後処理ユニット8は、切断された繊維またはフィラメントを水で洗浄する洗浄ユニットである。第3の任意の後処理ユニット9は酸洗浄ユニットであり、硫酸を用いて亜鉛を溶解することを目的とする。アルカリ洗浄ユニットは、NaCOとNaOHとを含んでもよい。第4の任意の後処理ユニット10は、過酸化水素を使用するアルカリ漂白ステップである。第5の後処理ユニット11は、紡糸仕上げユニットである。典型的には、後処理ユニット8および11は常に使用され、後処理ユニット7、9および10はより任意であり、たとえば、上流プロセスの条件および/または材料の使用目的によって異なる。乾燥ユニット12での乾燥後、セルロースカルバメート繊維13が回収される。
【0097】
図にはさらに、プロセスのいくつかのリサイクル経路が示されている。実際、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウム(両方とも参照符号17で示される)は、紡糸浴3から分離ユニット(複数可)14に導かれ、必要に応じて紡糸浴に戻される。同様に、水酸化ナトリウムおよび炭酸ナトリウム(両方とも参照符号18で示される)は、伸長ユニット(複数可)4から引き出され、分離ユニット(複数可)14に導かれる。これらの化合物は、必要に応じて、延伸ユニットの下流の他のユニットからも引き出すことができるが、その必要性は著しく低いと考えられる。
【0098】
分離ユニットはまた、流入する流れから亜鉛16を分離し、溶解ユニット2に再循環させることができる。さらに、水酸化ナトリウムおよび/または炭酸ナトリウムは、必要に応じて、前処理ユニット15、またはカルバメート化に導くことができる。
【0099】
実施例
実施例1.化学的前処理およびカルバメート化
4.0wt%の非繊維(主にポリエステルであるが、微量のナイロン、イソプレン含有材料(弾性バンド)、ポリエチレン/ポリプロピレン)を含む、CED粘度800ml/g(ISO5351:2010)のリサイクル混合色選別綿繊維製品廃棄物、ポリコットン原料を機械的に細断し、平均繊維長6mmの繊維を有する断片を形成するように布地構造を崩壊させた。細断された材料は、2段階の蒸解手順と漂白/脱色とを用いて化学的に前処理された。つまり最初の酸段階では材料は硫酸で処理された。第2のアルカリ段階では、洗浄した酸処理物を水酸化ナトリウムで化学処理し、ポリエステルの大部分を加水分解した。
【0100】
最初の酸段階において、細断された材料は摂氏95度の硫酸で60分間処理された。繊維製品廃棄物の濃度は10wt%であり、初期酸チャージは5.0g/Lであった。中濃度パルプを連続プラグフロー反応器で処理した。最終洗浄液のpH値は、乾燥酸処理物1kgあたり0.6gの遊離硫酸に相当する洗浄濾液で測定して3.2であった。酸処理物の粘度は294ml/gであった(ISO5351:2010によるCED粘度測定に基づく)。
【0101】
第2のアルカリ段階において、洗浄された酸処理された材料は、中濃度ポンプを備えた圧力反応器中で、水酸化ナトリウムを用いて110℃で120分間化学処理された。繊維製品廃棄物濃度は8.3wt%であり、初期アルカリチャージは72g/Lであった。最終洗浄液のpH値は10.0であった。化学的に前処理された材料の粘度は290ml/gであった(ISO5351:2010によるCED粘度測定に基づく)。アルカリ段階での平均収率は、炉乾燥材料に対して92wt%の固形分であった。
【0102】
オゾン処理およびアルカリ性過酸化水素処理の両段階を含む脱色段階で、重合度をさらに調整した。アルカリ性領域でのオゾン処理は、材料のCED粘度を著しく低下させない。特に、粘度の損失は、酸性条件下でのオゾンで得られる粘度よりも小さい。したがって、先行するプロセス段階で得られた狭い多分散性指数は、アルカリ脱色段階でも維持される。脱色プロセスで得られた原料は、その後のカルバメート化プロセスのために、プレス機および空気流で適切に脱水された。
【0103】
オゾン脱色は、中濃度ループおよび圧力反応器を用いて行った。ループをまず温軟水で満たし、細断された繊維(300kg、絶乾)をシステムに移した。次に、原料および水スラリを圧力反応器に供給した。NaOH、20kg/BDT(原料の完全乾燥メートルトン)が反応器に供給され、pH11.8、8.5wt%の繊維製品廃棄物濃度が得られた。前処理した繊維製品水スラリを70℃に加熱した。反応に供給したオゾン濃度は16wt%と推定され、供給時間は150分であった。総オゾンチャージは4.0kg/BDTであった。オゾン段階後、スラリは4.0mの水を加えて冷却された。冷却し希釈したスラリーをスクリュープレスで脱水した。濾液のpHは10.0であった。オゾン脱色後の粘度は279ml/gであった(ISO5351:2010)。
【0104】
次に、オゾン脱色した繊維製品材料に対して過酸化物段階を実施した。オゾン処理された材料は反応器にポンプで送られ、圧力反応器中のスラリの濃度は8.0wt%であった。反応混合物を反応温度80℃に加熱し、pHをNaOHで11.6に調整した。過酸化物段階での反応時間は60分であり、過酸化水素チャージは5kg/BDTであった。脱色された原料はスクリュープレスで完全に洗浄された。スクリュープレスのフィードの濃度は2.2wt%であり、増粘係数は最初の洗浄シーケンスで21であった。2回目の洗浄では増粘倍率は25倍であった。得られた脱色パルプの粘度は265ml/gであった(ISO5351:2010)。
【0105】
カルバメート化プロセスは、フィンランド国特許第112869号、フィンランド国特許第112795号、および国際公開第2021/038136号に記載されているように実施した。カルバメート化段階では、セルロースの重合度および最終製品の多分散性は、化学物質、時間、粉砕および時間によって最適化された。脱色試料(上述)のカルバメート化後、得られたセルロースカルバメートの粘度は210ml/g(ISO5351:2010)であり、DPは268、PDは3.28であった。
【0106】
実施例2.アルカリ性紡糸浴中でのセルロースカルバメートドープの湿式紡糸
実施例1で得られたセルロースカルバメート(試料1~5および比較試料1、2)をさらに溶解し、湿式紡糸プロセスによりセルロースカルバメート繊維を製造した。つまり粉砕した風乾セルロースカルバメート粉末をスラリ化し、6.5wt%水酸化ナトリウムおよび1.2wt%亜鉛酸ナトリウム(オキサン亜鉛)水溶液に溶解した。ドープ中の目標セルロースカルバメート含量は7.3~8.5wt%であった。試料6は、同様の製造プロセスで得られたセルロースカルバメートから調製した。試料6に使用したセルロースカルバメートの粘度は195ml/g(ISO5351:2010)であり、重合度(DP)は247、多分散度(PD)は3.41であった。溶解プロセスから得られたセルロースカルバメートドープは、その後、2段目の濾過段階で20μmの濾材を用いた2段階バックフラッシュ濾過プロセスを用いて濾過した。
【0107】
濾過および脱気したセルロースカルバメートドープの湿式紡糸は、22.1~27.6wt%の炭酸ナトリウムおよび1.2~2.8wt%の水酸化ナトリウムを含む、セルロースカルバメートプロセスに最適化されたアルカリ性紡糸浴を用いて行った。このセルロースドープを紡糸バス(温度45℃)で凝固させ、熱浴(温度90℃)下で全ゴデット延伸応力を60~115%印加した。紡糸して得られたフィラメントトウを、カット長40mmのステープルファイバーに切断した。繊維の線密度(dtex)、繊維の引っ張り強伸度(cN/dtex)、伸度(%)および初期弾性率(cN/dtex)は、ISO1973:2021およびISO5079:2020に従って測定した。乾燥した繊維を相対湿度65±2%、温度20±2℃で少なくとも24時間調整した。試験速度は20mm/分、ゲージ長は20mmで、20回の測定の平均値である(Favigraph、Textechno社製)。ドープ特性、紡糸条件、延伸条件および測定された安定繊維特性を表1にまとめた。ここでNRは結果なしを表す。
【0108】
【表1】
【0109】
実施例3.アルカリ性紡糸浴のリサイクル
紡糸ユニットから912L/hの平衡状態の紡糸浴が引き出され、1.69wt%の水酸化ナトリウム、22.1wt%の炭酸ナトリウムおよび0.13wt%の亜鉛を含んでいた。8.5wt%のセルロースカルバメート、6.5wt%の水酸化ナトリウム、0.62wt%の亜鉛を含む40L/hの紡糸ドープを紡糸浴に連続的に押し出し、繊維フィラメントを形成し回収した。上記の量の水酸化ナトリウム炭酸ナトリウムおよび亜鉛を含む使用済み紡糸浴の大部分、762L/hは、回収も操作もせずに紡糸ユニットに循環して戻された。残りの溶液は、紡糸浴中の水酸化ナトリウム含有量を低下させるために紡糸ユニットからリサイクル用に引き出されました。リサイクルされた紡糸浴の138L/hが紡糸ユニットに戻された。リサイクルされたアルカリ性紡糸浴の戻された部分には、0.43wt%の水酸化ナトリウムおよび28.1wt%の炭酸ナトリウムが含まれていた。リサイクルされた水酸化ナトリウムの大部分は、リサイクルされた可溶性亜鉛化合物とともに、紡糸ドープを形成するためにセルロースカルバメート溶解段階に戻された。
【0110】
実施例4.テレフタル酸含有量の決定
実施例1に記載の方法で製造したセルロースカルバメート繊維中のテレフタル酸の含有量をGC/MS(ガスクロマトグラフィ-質量分析)システムで測定した。試料を塩酸で酸性化し、pH<3とし、炉内で一晩乾燥させた。ピリジン/メタノール溶媒で試料から遊離テレフタル酸を抽出し、5mlに濃縮した。抽出したテレフタル酸をメチル化し、GC/MSで分析した。試料中の遊離テレフタル酸含有量は、外部校正標準物質に対して計算した。テレフタル酸の量は10mg/kg(乾燥セルロースカルバメート繊維)であった。
【0111】
実施例5.テレフタル酸含有量の決定
実施例2に記載したように製造したセルロースカルバメート繊維(カット長40mm)中のテレフタル酸の含有量をGC/MS(ガスクロマトグラフィ-質量分析)システムにより測定した。まず試料を水酸化ナトリウム(10wt%)中で4時間還流し、試料中のポリエチレンテレフタレートを加水分解した。試料からテレフタル酸を抽出し、ピリジン/メタノール溶媒に溶解し、5mlに濃縮した。抽出したテレフタル酸をメチル化し、GC/MSで分析した。テレフタル酸含有量は外部校正標準物質に対して計算した。テレフタル酸の量は85mg/kg(乾燥セルロースカルバメート繊維)であった。
【0112】
開示された本発明の実施形態は、本明細書に開示された特定の構造、プロセスステップ、または材料に限定されるものではなく、関連する技術分野における通常の当業者によって認識されるであろうそれらの等価物に拡張されることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的のみに使用され、限定を意図するものではないことを理解されたい。
【0113】
本明細書全体を通して、一実施形態または実施形態への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通じて様々な場所で「一実施形態において」または「実施形態において」という表現が現れるが、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すわけではない。たとえば、約、実質的になどの用語を用いて数値に言及する場合、正確な数値も開示する。
【0114】
本明細書で使用する場合、複数の項目、構造要素、構成要素、および/または材料は、便宜上、共通のリストで示されることがある。しかしながら、これらのリストは、リストの各メンバーが別個の固有のメンバーとして個々に識別されているかのように解釈されるべきである。したがって、このようなリストの個々のメンバーは、反対の指示なしに、共通のグループにおけるそれらの提示にのみ基づいて、同じリストの他のメンバーの事実上の均等物として解釈されるべきではない。さらに、本発明の様々な実施形態および実施例が、その様々な構成要素の代替案とともに本明細書で言及される場合がある。このような実施形態、実施例、および代替案は、互いの事実上の均等物とは解釈されず、本発明の別個の自律的な表現と見なされることが理解される。
【0115】
さらに、説明した特徴、構造、または特性は、1つまたは複数の実施形態において任意の適切な方法で組み合わせることができる。以下の説明では、本発明の実施形態の十分な理解を提供するために、長さ、幅、形状などの例のような多数の具体的な詳細が提供される。しかしながら、関連技術分野の当業者であれば、本発明は、具体的な詳細の1つ以上がなくても、または他の方法、構成要素、材料などを用いても実施できることを認識するであろう。他の例では、本発明の態様を不明瞭にすることを避けるために、周知の構造、材料、または操作は詳細に示されず、または説明されない。
【0116】
上述の実施例は、1つまたは複数の特定の用途における本発明の原理を例示するものであるが、形態、使用法および実施の細部における多数の変更が、発明能力を行使することなく、本発明の原理および概念から逸脱することなくなされ得ることは、当業者には明らかであろう。したがって、以下に記載する特許請求の範囲による以外は、本発明を限定することを意図していない。
【0117】
本明細書では、「含む(comprise)」および「含む(include)」という動詞は、引用されていない特徴の存在を除外することも要求することもない、開放型限定として使用される。従属請求項に記載された特徴は、特に明示しない限り、相互に自由に組み合わせることができる。さらに、本書を通じて「a」または「an」、すなわち単数形の使用は、複数形を排除するものではないことを理解されたい。
図1
【手続補正書】
【提出日】2024-08-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースカルバメート繊維製品繊維を製造するための方法であって、
SFS5505:1988に従って測定された、最大窒素含有量2.5wt%のセルロースカルバメートを水性水酸化ナトリウム媒体に溶解して、亜鉛を含有するセルロースカルバメートドープを形成するステップと、
セルロースカルバメートドープを紡糸ユニットで、アルカリ性水性紡糸浴中に紡糸し、フィラメントまたはフィラメントトウを形成するステップであって、アルカリ性水性紡糸浴の温度が35~60℃の範囲である、ステップと、
フィラメントまたはフィラメントトウを延伸して、セルロースカルバメート繊維を得るステップとを含み、
紡糸浴の水酸化ナトリウム含有量が1.0~1.99wt%の範囲内に維持され、紡糸浴の炭酸ナトリウム含有量が最大でも30wt%に維持され、リサイクルのために紡糸ユニットからアルカリ性紡糸浴の一部を引き出す、方法。
【請求項2】
セルロースカルバメートは、好ましくは、セルロースカルバメートの少なくとも25wt%、より好ましくは、セルロースカルバメートの少なくとも50wt%の量で、セルロース含有廃棄物材料から得られるセルロースカルバメートを含み、廃棄物材料は、好ましくは、繊維製品廃棄物、紙廃棄物、段ボール廃棄物、農業廃棄物およびそれらの混合物から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
セルロースカルバメートは、セルロースカルバメートの少なくとも50wt%、好ましくはセルロースカルバメートの少なくとも90wt%の量で、繊維製品廃棄物から得られるセルロースカルバメートを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
セルロースカルバメートの窒素含有量は、0.5~2.0wt%、好ましくは0.8~1.5wt%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
セルロースカルバメートは、ゲル浸透クロマトグラフィ/サイズ排除クロマトグラフィ装置によって測定された多分散性が、2.0~5.0、好ましくは2.0~4.0、より好ましくは2.0~3.5の範囲にあり、ISO5351:2010に従うCED粘度測定によって測定された平均固有粘度が、147~225ml/g、好ましくは161~197ml/gである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
セルロースカルバメートは、セルロース系材料を前処理し、前処理されたセルロース系材料にセルロースカルバメート化を行うことによって調製される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前処理は、所定の粒径のセルロース系材料を得るための機械的処理と、それに続く蒸解液中での酸処理およびアルカリ処理と、任意だか、漂白および/または脱色処理とを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
セルロースカルバメートドープは、8~11wt%、好ましくは8.5~10wt%のセルロースカルバメートと、5~8wt%の水酸化ナトリウムと、0.08~1.2wt%の亜鉛とを含み、ドープはASTM D1343-93:2019によって測定されたような、15Pas以下(摂氏20度で測定)、適切には4~15Pasの範囲の粘度を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
紡糸浴の水酸化ナトリウム含有量は、1.0~1.99wt%、好ましくは1.5~1.9wt%の範囲内に維持される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
アルカリ性紡糸浴は、1:11~1:20の重量比で、水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
紡糸浴の炭酸ナトリウム含有量は、22~30wt%、好ましくは23~29wt%、特に24~28wt%の範囲内に維持される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
アルカリ性紡糸浴の温度は、40~55℃、好ましくは45~50℃の範囲である、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
紡糸は、0.75~1.4、好ましくは0.8~1.2の範囲の紡糸口金ドロー比を有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
フィラメントまたはフィラメントトウの凝固後の全延伸は、延伸ユニットにおいて、特に熱浴中で、長さで少なくとも70%、好ましくは長さで90%以上、特に長さで95%以上、または長さで70~120%である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
フィラメントから酸化亜鉛残留物を除去するための酸処理と、フィラメントの窒素含有量を0.05~0.4wt%の範囲に低減するための後加水分解処理とから選択される少なくとも1つの後処理ステップをさらに含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
凝固後のセルロースカルバメートフィラメントの窒素含有量は、0.40~1.9wt%の範囲である、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
0.8~1.8dtexの線密度および2.0~2.9cN/dtexの引っ張り強伸度を有するセルロースカルバメート繊維製品繊維。
【請求項18】
ガスクロマトグラフィ-質量分析によって決定される、p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解もしくは部分的に未加水分解のポリエステルの含有量が、0.00005~0.5wt%である、請求項17に記載のセルロースカルバメート繊維製品繊維。
【請求項19】
0~120cN/dtexの初期弾性率を有し、好ましくは1.1~1.5dtexの線密度、2.1~2.8cN/dtexの引っ張り強伸度、および70~120cN/dtexの初期弾性率を有する、請求項17または18に記載のセルロースカルバメート繊維製品繊維。
【請求項20】
ヤーン、繊維製品、織物もしくは編物、繊維製品衣服または不織布における、0.8~1.8dtexの線密度および2.0~2.9cN/dtexの引っ張り強伸度を有するセルロースカルバメート繊維製品繊維の使用。
【請求項21】
0.8~1.8dtexの線密度および2.0~2.9cN/dtexの引っ張り強伸度を有するセルロースカルバメート繊維製品繊維を含む、ヤーン、繊維製品、織物もしくは編物、繊維製品衣服または不織物品。
【国際調査報告】