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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】セルロース系繊維製品繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 2/28 20060101AFI20250117BHJP
【FI】
D01F2/28 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024534573
(86)(22)【出願日】2023-01-05
(85)【翻訳文提出日】2024-08-07
(86)【国際出願番号】 FI2023050010
(87)【国際公開番号】W WO2023131748
(87)【国際公開日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】20225011
(32)【優先日】2022-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522360965
【氏名又は名称】インフィニティッド ファイバー カンパニー オイ
【氏名又は名称原語表記】INFINITED FIBER COMPANY OY
【住所又は居所原語表記】Tekniikantie 14 Espoo Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100075557
【弁理士】
【氏名又は名称】西教 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】マラニン,エルッキ
(72)【発明者】
【氏名】シレン,サカリ
(72)【発明者】
【氏名】ヌオッポネン,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェイヨラ,エリアス
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA04
4L035AA06
4L035BB03
4L035BB08
4L035BB16
4L035BB89
4L035BB91
4L035DD19
4L035EE20
4L035HH01
(57)【要約】
本発明の例示の態様によれば、0.8~1.8dtexの線密度と、2.0~2.9cN/dtexの引っ張り強伸度と、50~120cN/dtexの初期弾性率とを有する人工セルロース系繊維製品繊維が提供される。セルロース系繊維製品繊維は、セルロース系材料を含み、繊維製品繊維の原料の少なくとも50wt%はセルロース含有廃棄物であり、セルロース含有廃棄物の少なくとも50wt%は繊維製品廃棄物である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工セルロース系繊維製品繊維であって、
0.8~1.8dtexの線密度と、
2.0~2.9cN/dtexの引っ張り強伸度と、
50~120cN/dtexの初期弾性率とを有し、
繊維製品繊維の原料の少なくとも50wt%は、セルロース含有廃棄物であり、セルロース含有廃棄物の少なくとも50wt%は、繊維製品廃棄物である、セルロース系繊維製品繊維。
【請求項2】
前記セルロース系繊維製品繊維は、乾燥重量で、90wt%以上、特に95wt%以上のセルロースを含む、請求項1に記載のセルロース系繊維製品繊維。
【請求項3】
繊維製品繊維の原料は、100%繊維製品廃棄物である、請求項1または2に記載のセルロース系繊維製品繊維。
【請求項4】
前記セルロース系繊維製品繊維は、セルロースカルバメート繊維である、請求項1~3のいずれか1項に記載のセルロース系繊維製品繊維。
【請求項5】
前記セルロース系繊維製品繊維は、7~19%の破断伸度と、繊維の乾燥重量で、0.10~1.2wt%、好ましくは0.15~1.0wt%、特に0.2~0.9wt%の窒素含有量とを有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のセルロース系繊維製品繊維。
【請求項6】
前記セルロース系繊維製品繊維は、調整状態での湿潤破断伸度が、乾燥破断伸度の85~110%、好ましくは100%未満、たとえば85~99.9%、特に99.9%(湿潤/乾燥相対%)である、請求項1~5のいずれか1項に記載のセルロース系繊維製品繊維。
【請求項7】
少なくとも0.9cN/dtex、好ましくは1.0cN/dtex以上の湿潤引っ張り強伸度と、40~80%、好ましくは45~80%の相対湿潤引っ張り強伸度(湿潤引っ張り強伸度/乾燥引っ張り強伸度)とを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のセルロース系繊維製品繊維。
【請求項8】
前記セルロース系繊維製品繊維は、
1.1~1.5dtex、好ましくは1.2~1.4dtexの線密度と、
2.1~2.8cN/dtex、好ましくは2.2~2.7cN/dtexの引っ張り強伸度と、
60~120cN/dtex、好ましくは70~150cN/dtexの初期弾性率とを示す、請求項1~7のいずれか1項に記載のセルロース系繊維製品繊維。
【請求項9】
セルロース系繊維製品繊維を製造するための方法であって、
少なくとも50wt%のセルロース含有廃棄物であって、その少なくとも50wt%が繊維製品廃棄物である、セルロース含有廃棄物を含むセルロース系材料を前処理するステップと、
セルロースカルバメート化を行ってセルロースカルバメートを形成するステップと、
セルロースカルバメートを水性アルカリ性媒体に溶解してセルロースカルバメートドープを形成するステップと、
セルロースカルバメートドープを水性紡糸媒体中で紡糸してフィラメントまたはフィラメントトウを形成する一方、延伸浴の温度が75~100℃であるとき、フィラメントまたはフィラメントトウを少なくとも長さで70%だけ延伸するステップとを含み、
0.8~1.8dtexの線密度、2.0~2.9cN/dtexの引っ張り強伸度、および50~120cN/dtexの初期弾性率を有するセルロースカルバメート繊維を得る、方法。
【請求項10】
前処理されたセルロース系材料、セルロースカルバメート、溶解したセルロースカルバメートまたは紡糸されたセルロース系繊維製品繊維は、化学処理によって修飾される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
セルロース系材料は、所定の粒径に機械的に処理することによって前処理され、その後、機械的に処理された材料は、所望の順序で、蒸解液中で酸処理およびアルカリ処理に供され、任意だが漂白処理に供される、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
ドープの水性アルカリ性媒体は、水酸化ナトリウムおよび亜鉛を含むアルカリ溶液である、請求項9~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
水性紡糸媒体は、アルカリ紡糸浴である、請求項9~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
アルカリ性紡糸浴は、炭酸ナトリウムと、3wt%未満、好ましくは0.4~2.99wt%、特に2wt%未満の水酸化ナトリウムとを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
アルカリ性紡糸浴は、水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとを、1:9~1:30の重量比で含む、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
水性紡糸媒体は、90g/L以上、好ましくは90~120g/Lの濃度の硫酸アルミニウムを含む酸性紡糸浴である、請求項9~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
紡糸は、0.3~1.0、好ましくは0.4~0.9、特に0.5~0.8の範囲の紡糸口金ドロー比を有する、請求項9~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
フィラメントの凝固後の全延伸は、延伸ユニットにおいて、長さで90%以上、特に長さで95%以上、大略、長さで一般に70~120%、好ましくは90~120%である、請求項9~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
請求項9~18のいずれか1項に記載の方法によって得ることができるセルロース系繊維製品繊維。
【請求項20】
ヤーン、繊維製品、織物もしくは編物、繊維製品衣服または不織布における、請求項1~8または19に記載の、もしくは請求項9~18のいずれか1項に記載の方法によって得られるようなセルロース系繊維製品繊維の使用。
【請求項21】
請求項1~8または19のいずれか1項に規定されるような、もしくは請求項9~18のいずれか1項に記載の方法によって得られるようなセルロース系繊維製品繊維を含む、ヤーン、繊維製品、織物もしくは編物、繊維製品衣服または不織物品。
【請求項22】
前記繊維は、綿繊維、特に未使用綿繊維と組み合わされる、請求項21に記載のヤーン、繊維製品、織物もしくは編物、または繊維製品衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系繊維製品繊維に関する。さらに、本発明は、セルロース系繊維製品繊維の製造方法に関する。セルロース系繊維製品繊維の用途およびセルロース系繊維製品繊維を含む物品も開示する。
【背景技術】
【0002】
地球上で最も豊富な再生可能有機材料であるセルロースは、繊維用途に優れた特性を示す。ビスコースプロセスは、環境上の課題があるにもかかわらず、再生セルロース繊維およびフィルムを製造する技術として、依然として最も広く使用されている。したがって、従来の製造プロセスに比べて改善された特性を持つ、よりシンプルで持続可能な繊維を開発する必要がある。
【0003】
欧州特許出願公開第1509548号および欧州特許出願公開第1470162号は、いずれも高品質のセルロース溶液からセルロースカルバメートカルバメートを製造することを記載している。セルロースカルバメートは、人工セルロース系繊維の製造のための環境に優しい代替物として知られている。国際公開第2021/038136号にも、セルロースカルバメートから繊維を紡糸することが記載されている。しかしながら、セルロースカルバメート技術は、たとえば合格点の強度特性を有するものの、これまでのところ繊維製品品質の繊維を製造することはできなかった。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、先行技術に関連する問題の少なくともいくつかを克服し、繊維製品品質の人工セルロース系繊維を提供することである。実施形態によって、驚くべきことに、紡糸浴および繊維が延伸される条件を変更することによって、改善された特性を有する人工セルロース系繊維が得られることが見出された。
特に、本発明の方法によって、少なくとも部分的に廃棄物からセルロース系繊維を製造することができ、しかも繊維産業用として十分な強度を有する繊維を得ることができる。
【0005】
本発明は、独立請求項の特徴によって定義される。いくつかの具体的な実施形態は従属請求項に定義されている。
【0006】
本発明の第1の態様によれば、0.8~1.8dtexの線密度、2.0~2.9cN/dtexの引っ張り強伸度、および50~120cN/dtexの初期弾性率を有する人工セルロース系繊維が提供される。人工セルロース系繊維製品繊維とは、その原料の少なくとも50wt%がセルロース含有廃棄物であり、セルロース含有廃棄物の少なくとも50wt%が繊維製品廃棄物であるようなものである。
【0007】
本発明の第2の態様によれば、少なくとも50wt%のセルロース含有廃棄物を含み、そのセルロース含有廃棄物の少なくとも50wt%が繊維製品廃棄物である、セルロース系材料を前処理するステップと、セルロースカルバメート化を行ってセルロースカルバメートを形成するステップと、セルロースカルバメートを水性アルカリ性媒体に溶解してセルロースカルバメートドープを形成するステップと、セルロースカルバメートドープを水性紡糸媒体中で紡糸してフィラメントまたはフィラメントトウを形成する一方、延伸浴の温度が75~100℃であるとき、フィラメントまたはフィラメントトウを少なくとも長さで70%だけ延伸するステップとを含み、0.8~1.8dtexの線密度、2.0~2.9cN/dtexの引っ張り強伸度、および50~120cN/dtexの初期弾性率を有するセルロースカルバメート繊維を得る、セルロース系繊維製品繊維を製造する方法が提供される。
【0008】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第2の態様によって得られるセルロース系繊維が提供される。
【0009】
本発明の第4の態様によれば、本発明の上記いずれかの態様に記載のセルロース系繊維製品繊維の物品における使用が提供される。
【0010】
本発明の第5の態様によれば、本発明の上述のいずれかの態様のセルロース系繊維製品繊維を含む物品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の少なくともいくつかの実施形態に従った、参照材料および人工セルロース系繊維製品繊維の引っ張り強伸度歪み曲線を示す。
図2】本発明の少なくともいくつかの実施形態による繊維を示す光顕微鏡写真である。
図3】本発明の少なくともいくつかの実施形態による人工セルロース系繊維の断面を示す光顕微鏡写真である。
図4】参照繊維の試料の断面を示す電子顕微鏡写真である。
図5】本発明の少なくともいくつかの実施形態による繊維のサンプルの断面を示す電子顕微鏡写真である。
図6】本発明の少なくともいくつかの実施形態による繊維の均質性および輝度を参照繊維と比較する光顕微鏡写真である。
図7】本発明の少なくとも幾つかの実施形態による繊維と参照繊維との間の構造的差異を示す光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
人工セルロース繊維とは、製造プロセスで構造および特性が変化する繊維のことである。人工繊維は、絹、綿、羊毛などの天然繊維とは区別される。人工セルロース繊維は、綿、麻、亜麻、木材の構造繊維などを構成するのと同じセルロースポリマーでできている。人工セルロース繊維の場合、セルロースは、たとえば木材パルプ化操作から得られるセルロースのように、改質された状態で入手されるか、あるいは実用的なセルロース系繊維に再生するために改質される。
【0013】
繊維の単位長さ当たりの質量の尺度である線密度は、繊維製造業者によって繊度の尺度として使用される。デシテックス単位の線密度は、長さ10,000mの繊維のグラム単位の重さである。デシテックスは線密度のSI単位として認められている。dtex単位の線密度は、ISO1973:2021に従って測定される。
【0014】
引っ張り強伸度とは、繊維の強度の尺度である。通常、繊維の極限(破断)力(グラム力単位)を線密度で割ったものとして定義される。引っ張り強伸度は、極限(破断)力/荷重と試料の線密度との比として定義される。試料の引っ張り強伸度は、cN/dtex、グラム/tex、グラム/デニール、ニュートン/texなどの単位で表すことができる。繊維の引っ張り強伸度(cN/dtex)は、ISO5079:2020に従って測定される。
【0015】
繊維製品では、初期弾性率という用語が繊維製品繊維の初期伸長抵抗を表すのに使用され、ISO5079:2020を用いて測定される。言い換えれば、これは繊維の小さな初期伸長に対する抵抗の尺度である。繊維が延伸に対して高い抵抗を有すると、高い弾性率を有することになる。初期曲線と水平軸とのなす角の正接は、応力とひずみとの比に等しい。この比率は初期弾性率と呼ばれるが、繊維学では初期ヤング率と呼ばれる。繊維製品繊維の初期弾性率は、化学構造、結晶化度、繊維の配向などに依存する。初期弾性率はtanα=応力/ひずみである。
【0016】
破断伸度は、破断力によって生じる繊維の伸度である。破断伸度(%)=破断伸度×100/試験片の元の長さ。ISO5079:2020を用いて測定される。
【0017】
セルロース系繊維製品繊維中またはセルロースカルバメート中の窒素含有量とは、セルロース中にカルバメート基として結合している窒素の量を意味する。ここでは、繊維またはセルロースカルバメートの総重量に対する重量%で示され(測定時期による)、SFS5505:1988に従って測定される。
【0018】
本発明におけるセルロース系繊維とは、ステープルファイバー、ショートカットファイバー、フロック、フィラメントヤーン、フィラメントのトウの形態の繊維を指す。本発明におけるセルロース系繊維製品繊維とは、不織布用途に使用される繊維も指す。本明細書におけるフィラメントという用語は、フィラメントトウも含むものと理解されたい。
【0019】
原料は、異なるタイプのセルロースに富む繊維製品廃棄物、たとえば、消費者後廃棄物、消費者前廃棄物、工業用繊維製品廃棄物または繊維製造からの副流とすることができる。繊維製品廃棄物は回収し、選別することができる。リサイクル廃棄物材料と廃棄物材料という用語は、互換的に使用することもできる。
【0020】
本明細書において、重量%(wt%)が使用される場合、特に指示がない限り、それは関連する材料内の重量%を意味する。
【0021】
別段の定めがない限り、熱浴という用語は、摂氏75度から摂氏100度の範囲の温度を有する浴を意味するものとする。
【0022】
上述したように、本発明の実施形態は、人工セルロース系繊維製品繊維、特に湿式紡糸人工セルロース系繊維製品繊維に関する。
【0023】
実施形態において、人工セルロース系織物繊維は、0.8~1.8dtexの線密度、2.0~2.9cN/dtexの引っ張り強伸度、50~120cN/dtexの初期弾性率を有し、セルロース系材料を含む。0.8~1.3のような範囲の下端にあるdtexを有する繊維は、典型的には約1.5以下の力価を有する繊維からたとえば軽量繊維製品を提供するのに適している。綿繊維は、典型的には、この範囲の上限およびそれ以上の引っ張り強伸度を有するが、従来の湿式紡糸人工セルロース系繊維は、典型的には、この範囲の下限の引っ張り強伸度を有する。実施形態による人造セルロース系繊維製品繊維のcN/dtex値は、乾燥状態、すなわち調整状態で測定される。
50~120cN/dtexの範囲の値は、従来の人工ビスコースのものよりも高く、この人工ビスコースは、典型的には、乾燥状態で、たとえば20~40cN/dtexの範囲で測定される弾性率を有する。
【0024】
前記セルロース系繊維製品繊維は、繊維製品繊維の原料の少なくとも50wt%がセルロース含有廃棄物であり、セルロース含有廃棄物の少なくとも50wt%が繊維製品廃棄物であるセルロース系材料を含む。実施形態によれば、繊維製品繊維の原料は100%繊維製品廃棄物であり、すなわち繊維製品廃棄物のみが原料として使用される。
【0025】
実施形態において、繊維は、実施例において以下によって詳細に説明するように、ガスクロマトグラフィ-質量分析(GC-MS)によって決定される、0.00005~0.5wt%の、p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解ポリエステルもしくは部分的に未加水分解のポリエステル、特にポリエチレンテレフタレートの含有量を有する。その量は、たとえば0.2重量%未満、好ましくは0.1重量%未満であり得る。p-テレフタレートおよび/もしくはp-テレフタル酸、ならびに/または未加水分解ポリエステルもしくは部分的に未加水分解のポリエステルの存在は、繊維製品廃棄物がセルロースカルバメートの製造において原料として使用されたことを示す1つの指標である。
【0026】
セルロース系材料は、未使用セルロースを含んでいてもよく、および/またはジュート、麻、ケナフ、綿、バガス等の供給源からのリサイクルセルロースを含んでもよい。本発明の実施形態による人工セルロース系繊維は、摩耗に対する良好な耐性、すなわち良好な強度特性を有する。この繊維は、綿と同様の初期弾性率を有し、それによって、本明細書に記載される実施形態の繊維は、未使用セルロース、たとえば、本発明の繊維と絡み合った綿の組み合わせから作られたスレッド、ヤーンおよび布地に良好な強度特性を提供する。
【0027】
本発明のセルロース系繊維製品繊維は、繊維製品繊維の原料の少なくとも50wt%がセルロース含有廃棄物であり、セルロース含有廃棄物の少なくとも50wt%が繊維製品廃棄物であるようなものである。したがって、本発明の繊維およびその製造方法は、リサイクル材料を含む繊維製品繊維を製造することを可能にし、なおかつ製織などの繊維産業で使用できる特性を有する。
【0028】
本技術の実施形態によって、綿状人工繊維が提供される。本発明の繊維の伸度は、たとえば、延伸によって、また、繊維が一般に約5~20%、好ましくは約7~19%の範囲の伸びを示すようにカルバメート含有量を変更することによって調整することができる。したがって、綿と同様の伸長特性を有する繊維を本技術によって提供することができる。本技術の実施形態では、たとえば前述の種類の繊維が提供され、これはヤーン製造プロセスで容易に使用できるほど柔軟である。
【0029】
モダールのような特殊レーヨン繊維は、機械的湿潤特性が向上している。しかしながら、本発明のセルロース系繊維製品繊維は、上記の向上した特性を有しながら、経済的により実行可能であり、より綿に近い。
【0030】
一実施形態では、セルロース系繊維製品繊維は、乾燥重量で90wt%以上、特に95wt%以上のセルロースを含む。プラスチック、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エラステイン、および場合によってはビウレットのような窒素含有不純物のような非セルロース系成分も少量存在することがある。さらに、紡糸仕上げ剤は、たとえばカーディングおよび/またはヤーン製造における加工性を改良するために使用される。任意だが、他の添加剤をセルロース系繊維製品繊維に組み込むことができる。任意の化学薬品は、加工性を修正するために、および/または最終製品の引張強さ、弾性率または伸縮性などの物理的特性を修正するために使用することができる。オプションの化学物質はトレーサとして作用してもよい。加工助剤、界面活性剤、潤滑剤、湿潤剤、安定性、色および輝度調整剤、二酸化チタン、たとえばアナターゼ型またはルチル型二酸化チタン、染料、顔料、難燃剤、充填剤、帯電防止剤および繊維の摩擦を低減するための助剤もセルロース系繊維製品繊維中に存在することができる。
【0031】
さらなる実施形態では、セルロース系材料はリサイクル廃棄物材料を含み、適切には、前記セルロース系材料のセルロースの少なくとも25wt%、好ましくは少なくとも50wt%はリサイクル繊維製品廃棄物によって形成される。上述したように、繊維製品繊維の原料の少なくとも50wt%はセルロース含有廃棄物であり、セルロース含有廃棄物の少なくとも50wt%は繊維製品廃棄物である。また、少なくとも55、60、65、70、75、80、85、90、95または100wt%のセルロース含有廃棄物を原料として使用することも可能である。このセルロース含有廃棄物のうち、少なくとも50wt%は繊維製品廃棄物であり、繊維製品廃棄物はセルロース含有廃棄物の少なくとも55、60、65、70、75、80、85、90、95または100wt%とすることができる。後述するように、セルロース含有廃棄物は、たとえば紙または段ボール廃棄物を含むこともできる。
【0032】
本発明の方法で得られた人工繊維は、綿繊維と組み合わせることができ、綿繊維と絡み合って興味深い特性を有するスレッドまたはヤーンを提供することができる。綿繊維は、未使用綿繊維またはリサイクル綿繊維、たとえば機械的にリサイクルされた綿繊維とすることができ、あるいは未使用綿繊維および機械的にリサイクルされた綿繊維を含むブレンドを本発明の繊維と共に使用することができる。したがって、人工繊維、たとえば、任意だが、リサイクル綿から製造された人工繊維は、スレッド、ヤーンおよび繊維製品、ならびにセルロース系繊維を含む他の物品において、未使用綿の少なくとも一部を置き換えるために使用することができる。
【0033】
さらなる実施形態では、セルロース系繊維製品繊維は、セルロースカルバメート繊維である。一実施形態では、セルロース系繊維製品繊維は、破断前の繊維長の7~19%の伸度、および繊維の乾燥重量に対して0.10~1.2wt%、好ましくは0.15~1.0wt%、特に0.3~0.9wt%の窒素含有率を有する。一実施形態では、セルロース系繊維製品繊維は、少なくとも0.9cN/dtexの湿潤強度、および相対湿潤強度40~80%、好ましくは45~80%(湿潤引っ張り強伸度/乾燥引っ張り強伸度)を有する。
【0034】
特定の実施形態では、セルロース系繊維製品繊維は、1.1~1.5dtex、好ましくは1.2~1.4dtexの線密度を示す。セルロース系繊維製品繊維はまた、2.1~2.8cN/dtex、好ましくは2.4~2.7cN/dtexの引っ張り強伸度を有することができる。別の実施形態によれば、セルロース系繊維製品繊維は、60~120cN/dtex、好ましくは70~115cN/dtex、より好ましくは90~120cN/dtexの初期弾性率を有する。
【0035】
さらなる実施形態は、セルロース系繊維製品繊維の製造に関する。一実施形態では、前記方法は、セルロース系材料を前処理するステップと、セルロースカルバメートを形成するためにセルロースカルバメート化を実施するステップと、セルロースカルバメートを水性アルカリ媒体に溶解してドープを形成するステップと、セルロースカルバメートドープを水性紡糸媒体中で紡糸してフィラメントまたはフィラメントトウを形成するステップと、フィラメントまたはフィラメントトウを延伸し、任意だが切断して、0.8~1.8dtex、引っ張り強伸度2.0~2.9cN/dtex、初期弾性率50~120cN/dtexを有するセルロースカルバメート繊維を得るステップとを含む。本方法によって製造されるセルロース系繊維製品繊維は、フィラメントの形態であってもよいし、ステープルファイバーの形態であってもよい。セルロース系材料は、少なくとも50wt%のセルロース含有廃棄物を含み、セルロース含有廃棄物の少なくとも50wt%は繊維製品廃棄物である。紡糸中、フィラメントまたはフィラメントトウは、延伸浴の温度が75~100℃のとき、少なくとも長さで70%延伸される。
【0036】
人工セルロース系繊維製品繊維に関連して上記に開示した実施形態および変形は、本方法に準用される。
【0037】
実施形態は、セルロースカルバメートドープを準備し、ドープを水性紡糸浴を示す紡糸ユニットに供給し、ドープからセルロースカルバメートを水性紡糸浴に凝固させてセルロースカルバメートフィラメントを形成し、セルロースカルバメートフィラメントを1つ以上の延伸ユニットで延伸に供し、そして1つ以上の洗浄ユニットにおける任意の洗浄に供し、任意だが、フィラメントを繊維に切断することを含み、セルロースカルバメートフィラメントまたは安定な繊維が得られる。このような紡糸は当業者に知られている。
【0038】
特定の実施形態では、本方法は、セルロースカルバメート、溶解セルロースカルバメートまたは紡糸セルロース系繊維製品繊維に加えてまたはその代わりに、前処理されたセルロース系材料を化学的に修飾することを含む。化学修飾は、化学処理による修飾とも呼ばれることがある。
【0039】
セルロース系繊維製品繊維は、スピン仕上げ剤、たとえば、帯電防止剤、凝集剤および潤滑剤を用いてスピン仕上げを施すことによって改質することができる。
【0040】
上述のように、セルロース系材料は、カルバメート化前に前処理される。実施形態では、セルロース系繊維製品材料は、所定の粒径に機械的に処理することによって前処理され、機械的に処理された材料は、所望の順序で、蒸解液中で酸処理およびアルカリ処理に供され、任意だが、漂白処理に供される。実施形態では、セルロースの前処理は、セルロースと液体とを含む混合物を準備するステップと、たとえば連続機械混合装置におけるせん断混合によって、混合物を機械的に処理するステップとを含むことができる。このような前処理は、たとえば国際公開第2021/181007号に開示されている。
【0041】
セルロースの前処理中、固形分を有する混合物を準備することを含み、前記混合物はセルロース、および液体を含み、前記混合物は、好ましくは混合物の少なくとも50重量%の初期固形分を有し、好ましくは、初期固形分は混合物の50重量%以上であり、たとえば、混合物の50重量%超であり、たとえば混合物の51重量%、混合物の52重量%またはたとえば混合物の55重量%であり、適切には混合物の少なくとも65重量%、特に混合物の75重量%まで、最も好ましくは混合物の71重量%または72重量%または73重量%または74重量%までである。低濃度パルプと比較して、これらのような超高濃度パルプを機械的に加工すると、繊維細胞壁のラメラの転位が改善され、混合物またはパルプ中の分子レベルでの尿素のような化学物質の吸収が改善される。混合物の初期固形分が少なくとも50wt%であれば、セルロースの効率的な取り扱いが保証される。すなわち、セルロース壁に十分なせん断力が作用して、セルロース壁が効果的に破壊され、セルロース繊維の溶剤や化学薬品への接触性が向上する。初期固形分が50重量%未満、たとえば約45重量%未満では、セルロースの取り扱い効率が悪くなる。したがって、尿素を添加する場合は、固形分が50~75wt%であることが有利である。
【0042】
実施形態では、固形分が混合物の90重量%を超えない、好ましくは固形分が混合物の75重量%を超えないことが好ましい。固形分が混合物の90重量%を超えない、好ましくは混合物の75重量%を超えない高濃度パルプを維持することによって、遊離ヒドロキシル基を失うことによる失活に起因する角化または再結晶化が起こらないことが保証され、したがって、細胞壁構造は化学物質を吸収するために閉鎖されない。
【0043】
剪断力がセルロース表面からフィブリルを引き裂くことなくセルロースに作用し、繊維細胞壁上のフィブリルが溶剤や化学薬品にアクセスしやすくなるように、上記の限界の間に十分な空間があり、これが最適である。このような固形分含量では6層フィブリル構造がずぶぬれにならないので、上述した限界の固形分含量を有する混合物は、たとえば綿に最適である。綿がずぶぬれになると、フィブリル構造がロックされ、フィブリル構造を壊してセルロース繊維のアクセス性を高めることがさらに困難になる。
【0044】
セルロースは、様々な供給源から、様々なパルプの形態で得ることができる。一実施形態では、セルロースは、化学パルプ、機械パルプ、熱機械パルプ、化学熱機械パルプ、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0045】
さらなる実施形態において、化学パルプは、有機ソルブパルプ、ソーダパルプ、溶解パルプ、クラフトパルプ、亜硫酸パルプ、熱水抽出パルプ、およびこれらの混合物からなる群から選択される。実施形態では、製紙用パルプが使用される。さらなる実施形態では、溶解グレードパルプが使用される。脱墨パルプなどのリサイクルパルプも実施形態において有用である。特定の実施形態では、セルロースは乾燥溶解パルプである。
【0046】
原料の起源は、化学パルプまたは溶解パルプの未使用形態、または化学パルプまたは溶解型パルプを含む再生紙および/または段ボールのようなリサイクル原料のいずれかである。
【0047】
天然植物繊維そのまま、または化学パルプもしくは溶解パルプの形態も、原料として有用である。天然植物繊維の起源は、未使用形態か、天然植物繊維含有繊維製品またはリサイクル天然繊維含有繊維製品のいずれかであってもよい。天然植物繊維には、綿、カポックなどの種子繊維、麻、ジュート、ケナフ、ラミー、アバカ、リネン(亜麻)などの靭皮繊維、マニラ麻、サイザル麻、パイナップルおよびバナナなどの葉繊維、コイアなどの果実繊維が含まれる。
【0048】
一実施形態では、セルロースは、紙、段ボール、綿、綿リンター、麦わら、稲わら、トウモロコシ茎葉、麻、ケナフ、バガス、竹、亜麻、ジュートおよびそれらの混合物からなる群から選択されるリサイクルセルロースから得られる。本方法の実施形態は、綿、綿リンター、麻、フレックス、リネン、その他の茎や種子の繊維など、複数のフィブリル層を有するこのような要求の厳しいパルプの前処理に特に有効である。セルロースはポリコットンブレンドから得ることもでき、この場合、セルロースの前処理を行う前にセルロース系成分を非セルロース系成分から分離する。
【0049】
同様に、セルロースの未使用供給源も同様に適している。したがって、一実施形態では、セルロースは、未使用綿、未使用綿リンター、未使用麦わら、未使用稲わら、未使用トウモロコシ茎葉、未使用麻、未使用ケナフ、未使用バガス、未使用竹、未使用亜麻、未使用ジュートおよびそれらの混合物から得られる。
【0050】
セルロースカルバメートを提供するための前処理およびカルバメート化の後、カルバメートは、一実施形態では、ドープのアルカリ性水性媒体中に溶解され、セルロースカルバメートドープを提供する。一実施形態では、セルロースカルバメートは、水酸化ナトリウムと亜鉛、たとえば酸化亜鉛および/または水酸化亜鉛とを含むアルカリ水溶液に溶解される。亜鉛の添加は、セルロースカルバメートの溶解性を改善し、セルロースカルバメート溶液の安定性を改善することが示されている。アルカリ溶液は水酸化ナトリウムと亜鉛とから作られ、それによって亜鉛酸塩が形成される。したがって、実施形態では、アルカリ溶液は亜鉛酸ナトリウムを含む。
【0051】
一実施形態によれば、セルロースカルバメートフィラメントまたは繊維を製造する方法であって、水性水酸化ナトリウムに溶解したセルロースカルバメートを含むセルロースカルバメートドープを準備するステップであって、前記ドープは溶解した亜鉛化合物をさらに示す、ステップと、ドープを凝固ユニットに供給するステップとを含む方法が提供される。
【0052】
具体的な一実施形態によれば、セルロースカルバメートドープは、
6~10wt%、好ましくは8~10wt%のセルロースカルバメート(CCA)、
5~10wt%、好ましくは5~7wt%の水酸化ナトリウム(NaOH)、
0.1~2wt%、好ましくは0.1~1.5wt%の酸化亜鉛(ZnO)、および
任意だが、加工助剤および/またはその他の添加剤、を含み、
重量百分率(wt%)は、セルロースカルバメートドープの総重量から計算される。上述のように、亜鉛は酸化亜鉛とは別の形態で使用することができ、亜鉛の量は0.08~1.6wt%である。
【0053】
したがって、各実施形態は、セルロースカルバメート繊維に関し、ここで、セルロースカルバメートは、180~500、好ましくは200~500、特に230~350の平均重合度(DP)を有する。この重合度は、ISO5351:2010に従ったCED粘度測定(規格に従ってセルロースカルバメートを溶解し、セルロースの極限粘度を測定し、重合度を算出することによる)に基づく、それぞれ、146~368ml/g、161~368ml/gおよび182~267ml/gの固有粘度に相当する。DPは以下の式で計算される:DP0.905=0.75[η]、ここで、0.905および0.75はセルロース-溶媒系に特徴的な定数であり、[η]は固有粘度(ml/g)である。繊維の湿式紡糸に適したセルロースカルバメートを得るためには、セルロースカルバメートの重合度を従来の値からここに記載した値の範囲まで低下させることが好ましい。実施形態によるセルロースカルバメートは、上述のSFS5505:1988に従って測定したセルロースカルバメートの窒素含有量が、0.3~3.0重量%である。
【0054】
カルバメート基は、弱アルカリ性条件下、中性条件下および酸性条件下(たとえば、酸性紡糸および延伸条件下)で安定である。カルバメート基は、濃アルカリ条件下で加水分解する(たとえば、溶解したセルロースカルバメートは、ドープに対して少なくともたとえば6.5重量%のNaOH含有量を有するアルカリ水溶液中で加水分解する)。セルロースカルバメートは、ドープを製造するためのアルカリ性条件下で溶解した後瞬時に加水分解を開始する。ドープの温度が高いほど、また溶解から凝固までの時間が長いほど、加水分解の速度が速くなり、セルロース中に結合しているカルバメート基の量、すなわちセルロース中に結合している窒素含有量が少なくなる。加水分解の速度は、セルロースカルバメートの置換度を決定する。異なる紡糸浴、たとえば湿式紡糸プロセス、次に続く延伸プロセス、さらなる洗浄、異なる仕上げおよびさらなる後処理ステップにおけるアルカリ性紡糸浴と酸性紡糸浴とは、好ましいまたはより適切な特性を有する繊維を製造するために使用可能である。当業者であれば、本明細書および以下の実施例に基づいて、適切な条件を容易に決定することができる。
【0055】
後処理プロセスは、任意だが、以下のプロセスステップの1つ以上を含んでもよい。つまりa)高温アルカリ液によるカルバメート基の後加水分解(たとえば、アルカリ凝固浴で凝固させ、窒素含有量が0.8wt%の繊維を、NaCOとNaOHを含む後加水分解液で摂氏95度で3分間処理することによる後処理で後加水分解に供し、回収された繊維の窒素含有量は0.17wt%であった)、b)酸性および/または中性および/またはアルカリ性漂白ステップ、および/またはc)スピン仕上げ。カルバメート基は酸性系では安定であり、アルカリ浴では加水分解する。したがって、繊維特性は、凝固、延伸、さらなる洗浄、さらなる後処理再生中に、各ステップにおけるアルカリ性、温度、滞留時間に応じて操作することができる。特に、セルロースカルバメートの加水分解速度を調整するために、このような後処理条件を選択し、条件付き延伸を使用する。セルロース系フィラメントのトウは、繊維の最終的な初期弾性率と引っ張り強伸度を向上させるために、最初の紡糸浴中または最初の紡糸浴の直後に延伸される。繊維の形状は、紡糸および延伸条件に入るセルロースカルバメートの置換度を調整することによって制御することができ、たとえば丸みを帯びた楕円形、豆形または葉状の繊維を、制御された窒素含有セルロースカルバメートの紡糸および延伸の結果として得ることができ、滑らかな表面を形成することができる。
【0056】
一実施形態では、セルロースカルバメートドープは、硫酸および溶解アルミニウム化合物を含む水性紡糸浴を示す紡糸ユニットに供給される。好ましくは、セルロースカルバメートドープは、1つ以上の紡糸口金を通して紡糸ユニットに供給される。ドープは適切な流量で紡糸ユニットに供給される。一実施形態によれば、セルロースカルバメートドープが紡糸ユニットに供給されると、硫酸は水酸化ナトリウムに溶解した水酸化ナトリウムおよび亜鉛と反応し、硫酸ナトリウム、硫酸亜鉛および水を形成し、これによって紡糸浴は硫酸、硫酸亜鉛、硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウムおよび水を含む。セルロースカルバメートは凝固し、紡糸口金を通して押し出される間にフィラメント状になる。
【0057】
紡糸浴において、セルロースカルバメートは、好ましくは1つ以上の紡糸口金を通してセルロースカルバメートフィラメントに凝固される。このようなフィラメントは、紡糸浴から回収され、延伸、任意の繊維への切断、およびフィラメントまたは繊維が洗浄、漂白および/またはスピン仕上げされる任意の後処理に供され得る。
【0058】
一実施形態によれば、延伸浴は熱延伸浴であり、フィラメントまたはフィラメントのトウは延伸浴溶液に浸漬される。延伸浴の温度は、典型的には75~100℃、好ましくは85~95℃、より好ましくは約90℃の範囲である。延伸浴は紡糸浴と同じ浴であってもよい。
【0059】
本方法は、延伸ステップの後に切断ステップを含むこともでき、これによって延伸フィラメントまたはフィラメントトウが切断される。
【0060】
延伸し、任意選択で切断した後、フィラメントまたは繊維は、後処理装置における後処理に供されてもよい。好ましい実施形態によれば、後処理は、洗浄、任意選択の後加水分解、漂白、スピン仕上げまたはそれらの任意の組合せを含む。一実施形態において、洗浄は、水または先行するもしくは後続のプロセスステップの流出物を使用する向流洗浄として実施される。好ましい実施形態では、後処理装置は向流原理で運転される。
【0061】
最後に、得られたフィラメントまたは繊維を、公知の乾燥方法によって乾燥する。
上述のように、溶解したセルロースカルバメートは水性媒体中で紡糸に供される。酸性浴中での紡糸に加えて、別の代替実施形態では、溶解したセルロースカルバメートは、アルカリ性紡糸浴中での紡糸に供される、すなわち、水性紡糸媒体はアルカリ性紡糸浴である。一実施形態では、紡糸浴は炭酸ナトリウムと3wt%未満、好ましくは0.4~2.99wt%、特に2wt%未満の、たとえば1.0~1.99wt%の水酸化ナトリウムを含む。
【0062】
さらなる実施形態において、溶解したセルロースカルバメートは、水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとを重量比1:9~1:30(すなわち、wt%として計算)で含むアルカリ性紡糸浴中、好ましくは7.0を超えるpH、特に少なくとも10のpHを有する紡糸浴(凝固浴)中で紡糸に供される。
【0063】
改善された特性を有する繊維を製造するために、様々な紡糸浴および様々な仕上げプロセスを使用することができる。カルバメート基は酸性系では安定であり、アルカリ浴では加水分解する。したがって、一実施形態では、カルバメートセルロースの再生は凝固、延伸および/または後処理中に行われるので、特に条件付きの延伸および/または条件付きの後処理を使用して、再生中に繊維特性を操作することができる。
【0064】
溶解したセルロースカルバメートを湿式紡糸に供する一方、フィラメントまたはフィラメントトウを延伸ユニットで延伸に供する。延伸浴は、温度75~100℃の熱浴である。好適な実施形態において、フィラメントまたはフィラメントトウは、延伸ユニットにおいて、少なくとも長さで70%、好ましくは長さで90%以上、特に長さで95%以上、または、大略長さで70~120%、好ましくは長さで90~120%だけ延伸される。したがって、実施形態によれば、フィラメントの凝固後の全延伸は、延伸ユニットにおいて、長さで90%以上、特に、長さで95%以上、または大略長さで70~120%、好ましくは90~120%である。長さによる延伸とは、周速の異なる回転ローラ間でフィラメントまたはフィラメントのトウの延伸応力を調整することによる全ゴデット延伸を意味し、たとえば、最初のローラの周速は25m/分であり、最後のローラの周速は50m/分であり、したがって得られるゴデット延伸は長さで100%である。このような高いレベルの延伸は、延伸浴の温度が75~100℃の場合に、高い初期弾性率の製品を提供することに寄与する。
【0065】
セルロースカルバメートを溶解すると、カルバメートの加水分解が始まり、ドープの溶解、濾過および脱気の間に一部のカルバメート基が加水分解する。一実施形態では、セルロースカルバメートの窒素含有量は、時間、温度および/または水酸化ナトリウム濃度などの溶解条件を変えることによって調整することができる。セルロースカルバメートの湿式紡糸のための窒素含有量は、織物品質の繊維を製造するために調整される。酸性紡糸浴中で凝固させると、カルバメートの加水分解は停止する。アルカリ性凝固浴で紡糸する場合、セルロースの再生は凝固とトウの延伸中に徐々に行われる。一実施形態では、窒素除去はフィラメント形成段階で続けることができる。紡糸パラメータおよび延伸は、繊維の配向、結晶化度および繊維の最終形状に影響を与え、したがって繊維の機械的特性に影響を与える。さらなる実施形態では、最終製品の窒素含有量は、特にアルカリ洗浄段階において、残存するカルバメート基の大部分が除去(加水分解)され得る洗浄段階および後処理段階において調整され得る。好ましい実施形態では、最終製品の窒素含有量は、繊維の乾燥重量で0.10~1.2wt%、好ましくは0.15~1.0wt%、特に0.2~0.9wt%の範囲である。これはセルロースカルバメートの置換度(DS)0.012-0.144の範囲に相当する。
【0066】
低い湿潤伸度および高い湿潤引っ張り強伸度のような改善された湿潤特性が求められる場合、最終製品中の低い窒素含有量は有益である。一実施形態では、最終製品中の窒素含有量は0.10~0.75wt%の範囲であり、0.012~0.09のセルロースの置換度に相当する。
【0067】
セルロース繊維は生分解性である。また、セルロースカルバメートはたとえ置換されていても生分解性である。
【0068】
セルロースカルバメート繊維の染料取り込みは非常に高く、染料取り込みは最終的な窒素含有量にも影響される。
【0069】
酸性紡糸浴では、繊維の形状は、制御された延伸に加えて、紡糸浴中のアルミニウム(硫酸塩)の量によって制御することができる。アルミニウムの量は、制御された方法で規則的な繊維を形成することを可能にする。一実施形態では、酸性紡糸浴中の硫酸アルミニウム濃度は90g/L以上、好ましくは90~120g/Lである。アルミニウムは、製造される繊維の品質を向上させるので重要である。特に繊維の形状は、制御された延伸に加えて、紡糸浴中のアルミニウム(硫酸塩)の量によって制御される。特に、アルミニウムは繊維断面の形状に影響を与える。さらに、アルミニウムは凝固プロセスにおけるセルロースの結晶化を抑制する。両性アルミニウム化合物は、凝固プロセス中の酸塩基の中和反応に影響を与える。同時に、回収された繊維の引っ張り強伸度収率が向上する。
【0070】
実施形態の目的のために、
・ドロー比は、巻き取りローラと押出速度との比であり、そして
・ドロー比は、Dr=v、巻き取り/v、押出しであり、ここでvは速度、すなわち紡糸口金に入る速度および紡糸口金から出る速度である。
紡糸口金ドロー比(Dr)=π・a・b・ρ・α・φ/(DTEX・1・(1+Ω/100)・4・10
a=1.1150(1+繊維水分%/(100+繊維水分%)、繊維水分%=13.0%と予想される。
b=1.1350(1+繊維収縮率%/100)、繊維収縮率%=13.5%と予想される。
ρ=供給温度における紡糸ドープの密度(kg/m
α=紡糸ドープのセルロースカルバメート含有量(wt%)。
φ=紡糸口金孔径(μm)
DTEX=フィラメントの線密度(dtex)
Ω=最初のゴデットと最後のゴデットとの間で測定した全ゴデット延伸(%)。
【0071】
フィラメントの延伸の主な目的は、軸方向に沿ってポリマ分子の十分な配向を誘導することによって、所望の強度を有するフィラメントを製造することである。セルロース分子の高度な配向は、繊維の弾性率と引っ張り強伸度とを増加させる傾向がある。驚くべきことに、酸性紡糸浴で紡糸する場合、紡糸は好ましくは0.3~1.0、好ましくは0.4~0.9、特に0.5~0.8の範囲の紡糸口金ドロー比で行うことが見出された。本発明の繊維をアルカリ性紡糸浴中で紡糸する場合、紡糸口金ドロー比(Dr)の最適領域はわずかに異なり、すなわち1に近く、たとえば0.5~1.4、好ましくは0.8~1.2である。
【0072】
制御されたプロセス条件下での延伸は、セルロース系繊維の特性を調整することを可能にする。繊維の断面の形状は、制御されたプロセス条件下での延伸によって変更することができる。たとえば、丸みを帯びた/楕円形の、豆形、または葉状の繊維の断面は、制御された延伸の結果として得ることができ、綿のような手触りを持つ滑らかな表面を作り出すことができる。
【0073】
一例として、不規則な鋸歯状の表面を持つビスコース繊維に比べ、繊維は表面も内部構造、すなわち断面もより均質で滑らかである(たとえば図7参照)。楕円形、豆形または葉状の繊維の丸みを帯びた構造は、高い初期弾性率を提供する。
さらに、相対的湿潤強度、すなわち破断引っ張り強伸度は、破断引っ張り強伸度が低いビスコースと比較して改善されている。特に、本発明のセルロース系繊維の相対湿潤伸度は非常に良好である。一実施形態では、セルロース系繊維製品繊維は、調整状態での湿潤破断伸度が乾燥破断伸度の85~110%、好ましくは100%未満、たとえば85~99.9%、特に90~99.9%(湿潤/乾燥相対%)であり、湿潤強度が少なくとも0.9cN/dtex、好ましくは1.0cN/dtex以上であり、相対湿潤強度が40~80%(湿潤引っ張り強伸度/乾燥引っ張り強伸度)、好ましくは45~80%である。(相対的とは湿潤破断伸度/乾燥破断伸度を意味し、ビスコースの典型的な、湿潤破断伸度/乾燥破断伸度は、約120%である)。
【0074】
実施形態によるセルロース系織物繊維では、特にアルカリ性紡糸浴が使用される場合、残留硫黄は存在しないか、または本質的に存在しない。
【0075】
さらなる実施形態は、本方法の実施形態によって得られるセルロース系繊維製品繊維、本方法の実施形態によって得られる繊維の用途、およびセルロース系繊維製品繊維の用途に関する。したがって、一実施形態は、本明細書に上述した方法の実施形態によって得られるセルロース系繊維製品繊維を提供する。
【0076】
さらなる実施形態では、上述した実施形態のいずれかのセルロース系繊維製品繊維は、ウイーブトウ、フロック、フィラメントヤーンまたはフィラメントのトウのような、ヤーン、繊維製品、織物、編物、繊維製品衣服または不織物品に使用される。
【0077】
さらなる実施形態は、本明細書で上述したセルロース系繊維製品繊維を含む物品に関する。一実施形態では、ヤーンは、上記のようなセルロース系繊維を含む。さらなる実施形態では、繊維製品は、上述のセルロース系繊維製品繊維を含む。特定の実施形態では、織物または編物は、上述のセルロース系繊維製品繊維を含む。適切な実施形態では、不織物品は、上記のようなセルロース系繊維製品繊維を含む。さらなる実施形態では、ヤーン、繊維製品または織物中のセルロース系繊維は、綿繊維、特に未使用綿繊維と組み合わされる。したがって、実施形態によって、綿繊維、特に未使用綿繊維の少なくとも一部を人工セルロース系繊維で置き換えることが可能であり、それによって、たとえば繊維産業が環境に与える影響を低減することができる。上述した実施形態の人工セルロース系繊維は、綿繊維と同様の初期弾性率を有しており、このことは綿を本発明の人工繊維に置き換えることを可能にする。
【0078】
さらに、驚くべきことに、本明細書において上述したセルロース系繊維製品繊維の存在は、蛍光検出によって判定することができることが見出された。したがって、実施形態は、セルロースカルバメート繊維またはそのような繊維を含む物品の存在を判定する方法を提供する。
【0079】
一実施形態では、本方法は、物品をUV光、好ましくは365nmのUV光にさらし、前記セルロースカルバメート繊維に起因する400~520nmの範囲の波長の蛍光を検出することを含む。一実施形態では、物品は、ヤーン、フィラメントのトウ、ステープルファイバー、ショートカットファイバーまたはフロックである。さらなる実施形態では、物品は、漂白および/または着色された物品のような、そのような繊維を含む繊維製品衣服である。前述の実施形態に従い、セルロースカルバメートが繊維、フィラメント、ヤーンまたは布地中のビスコース、リヨセルまたはモダールと混合されている場合、他の再生繊維は蛍光を示さないので、人工セルロース系繊維混合物中のセルロースカルバメートの存在は蛍光によって検出することができる。
【0080】
蛍光とは、光または他の電磁放射線を吸収した物質による発光のことである。実施形態によるセルロース系繊維製品繊維は蛍光を発する。典型的には、蛍光物質による発光は長い波長を有する。実施形態によるセルロース系繊維製品繊維は、たとえば450~490nmの範囲の波長で青色/ターコイズ色の光を発し、これは、前記繊維がUV光、特に365nmの波長のUV光に曝されたときに視覚的に観察され得る。蛍光発光波長は、励起波長に依存する。実施形態による繊維は、UV光、特に365nmで励起されると、420~520nmの範囲の波長(青色)で蛍光を発し、546nmで励起されると、600~750nmの範囲の波長(赤色)で蛍光を発する。
【0081】
次に、いくつかの実施形態を以下の実施例によって説明する。
【0082】
実施例
実施例1.化学的前処理およびカルバメート化
4.0±2.8wt%の非セルロース系繊維(主にポリエステルだが、微量のナイロン、イソプレン含有材料(弾性バンド)、ポリエチレン/ポリプロピレン)を含む、CED粘度(ISO5351:2010)が800±200ml/gのリサイクル混合色選別綿繊維製品廃棄物を機械的に細断して布地構造を崩壊させて繊維長6mmの繊維を有する断片を形成した。細断された材料は、2段階の、蒸解手順および漂白を用いて化学的に前処理された。第1の酸段階では、材料を硫酸で処理した。第2のアルカリ段階では、洗浄した酸処理材料を水酸化ナトリウムで化学的に前処理し、ポリエステルの大部分を加水分解した。アルカリ段階での平均収率は、炉乾燥材料で92%の固形分であった。オゾン漂白段階とアルカリ性過酸化水素漂白段階との両方を含む漂白段階では、セルロースの重合度と多分散性とをさらに調整した。漂白プロセスから得られた材料は、その後のカルバメート化プロセスのために適切に脱水された。カルバメート化プロセスは、フィンランド国特許第112869号、フィインランド国特許第112795号、およびフィンランド国特許出願公開第20195717号に記載されているように実施された。カルバメート化段階では、セルロースの重合度と置換度(カルバメート化レベル)とを調整した。化学的に前処理されたセルロースカルバメート材料の粘度は、ISO5351:2010に従うCED粘度測定に基づき、195~230ml/gであった。対応する重合度値は248および297であった。これらの実施例のために使用されるセルロースカルバメートは、SFS5505:1988を用いて測定された、セルロースカルバメートの1.6~1.9重量%の窒素含有量を有する。
【0083】
実施例2.酸性紡糸浴中でのセルロースカルバメートドープの湿式紡糸
カルバメート化プロセスで得られたセルロースカルバメートをさらに溶解し、湿式紡糸プロセスによってセルロースカルバメート繊維を製造した。つまり、粉砕した風乾セルロースカルバメート粉末をスラリー化し、亜鉛酸ナトリウム(オキサン亜鉛)溶液(亜鉛量は0.96wt%)に溶解し、目標とするセルロースカルバメート含有量6.5wt%(試料1および4)または7.0wt%(試料2および3)および水酸化ナトリウム含有量6.5wt%とした。溶解プロセスから得られたセルロースカルバメートドープは、その後、第2の濾過段階で20μmの濾材を用いた2段バックフラッシュ濾過プロセスを用いて濾過した。濾過され脱気されたセルロースカルバメートドープの湿式紡糸は、たとえば硫酸ナトリウム、遊離硫酸および硫酸アルミニウム80g/Lまたは92g/Lを含む、セルロースカルバメートプロセスに最適化された酸性紡糸浴を用いて行った。
セルロースドープを紡糸浴で凝固させ、熱浴で延伸した。使用したドロー比は試料1が0.58、試料2および3が0.72、試料4が0.96であった。比較例として、ドロー比1.07での紡糸を試験した。繊維は、目標とする繊維特性を達成するために必要な延伸に耐えるだけの強度がなく、線密度は2.0dtex未満であることがわかった。
紡糸して得られたフィラメントトウを、フィラメントとして用いた試料4を除き、カット長40mmのステープルファイバーに切断した。繊維の線密度(dtex)はISO1973:2021に従って測定し、繊維の引っ張り強伸度(cN/dtex)、伸度(%)および初期弾性率(cN/dtex)はISO5079:2020に従って測定した。乾燥繊維を相対湿度65±2%、温度20±2℃で少なくとも24時間調整した。試験速度は20mm/分、ゲージ長は20mmとし、20回の測定(Favigraph、Textechno社)の平均値を算出した。紡糸浴中の硫酸アルミニウム濃度が80g/Lの場合、試料は条件付き延伸に十分安定せず、凝固が速すぎて繊維の要求強度を満たさない鋸歯状繊維が形成された(図4参照)。成功した試料1~4では、より多量の硫酸アルミニウム(92g/L)を使用した。繊維特性は表1の試料1~4に示す。代表的なビスコース、テンセル、モダール、綿の試料を参考として測定した。
【0084】
実施例3.アルカリ性紡糸浴中でのセルロースカルバメートドープの湿式紡糸
カルバメート化プロセスから得られたセルロースカルバメートをさらに溶解し、湿式紡糸プロセスによってセルロースカルバメート繊維を製造した。つまり、粉砕した風乾セルロースカルバメート粉末をスラリー化し、亜鉛酸ナトリウム(オキサン亜鉛)溶液(亜鉛量は0.96wt%)に溶解し、目標とするセルロースカルバメート含有量6.5wt%(試料5、7、8)または8.4wt%(試料6、9)、水酸化ナトリウム含有量6.5wt%とした。溶解プロセスから得られたセルロースカルバメートドープは、その後、第2の濾過段階で20μmの濾材を用いた2段バックフラッシュ濾過プロセスを用いて濾過した。
【0085】
濾過され脱気されたセルロースカルバメートドープの湿式紡糸は、24~27wt%の炭酸ナトリウムと1.4wt%の水酸化ナトリウムを含む、セルロースカルバメートプロセスに最適化されたアルカリ性紡糸浴を用いて行った。セルロースドープを紡糸浴中で凝固させ、印加されたゴデット延伸応力は熱浴下で101%~113%±7%であった。トウのフィラメントの高いストレッチ性によって、ヤーンを広範囲に操作することが可能となった。使用したドロー比は試料5で、0.72、試料6および8で、0.54、試料7および9で、0.70であった。比較例として、ドロー比1.01での紡糸を試験した(セルロースカルバメート含有量6.9wt%、延伸率72%、力価1,11)。このような条件では、繊維は目標繊維特性を達成するために必要な延伸に耐えるだけの強度がないことがわかった。紡糸から得られたフィラメントトウを、カット長40mmのステープルファイバーに切断した。
【0086】
繊維の線密度、繊維の引っ張り強伸度、伸度およびステープルファイバーの初期弾性率を、実施例2に記載したように、ISO1973:2021およびISO5079:2020に従って測定した。繊維特性は表1の試料5~9に示す。試料8および9ならびにビスコース試料は、新しい繊維の湿潤特性を調べるために湿潤段階でも測定した(湿潤時間120秒)。湿潤試料8および9の破断伸度(%)は、乾燥状態での破断伸度(%)よりも低く、相対湿潤伸度はそれぞれ99%および88%であった。
【0087】
実施例4.アルカリ性紡糸浴中でのセルロースカルバメートドープの湿式紡糸
カルバメート化プロセスから得られた固有粘度225ml/g未満のセルロースカルバメートを溶解し、湿式紡糸プロセスによってセルロースカルバメート繊維を製造した。つまり、粉砕した風乾セルロースカルバメート粉末はスラリー化され、亜鉛酸ナトリウム(オキサン亜鉛)溶液(亜鉛量は0.96wt%)に溶解され、目標とするセルロースカルバメート含有量8.0wt%以上、水酸化ナトリウム含有量6.5wt%以上とした。溶解プロセスから得られたセルロースカルバメートドープは、その後、第2の濾過段階で20μmの濾材を用いた2段バックフラッシュ濾過プロセスを用いて濾過した。
【0088】
濾過され脱気されたセルロースカルバメートドープの湿式紡糸は、25wt%の炭酸ナトリウムと1.5wt%の水酸化ナトリウムを含む、セルロースカルバメートプロセスに最適化された摂氏45度のアルカリ性紡糸浴を用いて行った。セルロースドープを紡糸浴中に押し出し(紡糸口径50μm)、紡糸浴中で凝固させ、印加されたゴデット延伸応力は、摂氏90度の熱浴下で81%~115%であった。フィラメントトウの高ストレッチ性によって、ヤーンを広範囲に操作することが可能となった。
【0089】
試料10~13は、以下のプロセス詳細を用いて調製した。
【0090】
試料10、セルロースカルバメート、固有粘度187ml/g、ドープ中のセルロースカルバメート含有量8.50wt%。延伸応力は81%、ドロー比は1.12であった。
【0091】
試料11、セルロースカルバメート、固有粘度224ml/g、ドープ中のセルロースカルバメート含有量8.03wt%。延伸応力は98%、ドロー比は1.02であった。
【0092】
試料12、セルロースカルバメート、固有粘度200ml/g、ドープ中のセルロースカルバメート含有量9.39wt%。延伸応力115%、ドロー比1.00であった。
【0093】
試料13、セルロースカルバメート、固有粘度209ml/g、ドープ中のセルロースカルバメート含有量8.55wt%。延伸応力は106%、ドロー比は0.93であった。
【0094】
繊維の線密度、繊維の引っ張り強伸度、伸度、およびステープルファイバーの初期弾性率を、実施例2に記載したように、ISO1973:2021およびISO5079:2020に従って測定した。繊維特性を、表1、試料10~13に示す。
【0095】
実施例5.不織物品の製造
試料1と酸化チタンを含む標準ビスコース(図6および図7においてAで示す)を重量比50:50で用いて不織布試料を調製した。複合材料中の繊維を分析するために、光学顕微鏡(Zeiss Imager)を使用した。セルロースカルバメート繊維(CCA、図6および図7においてBで示す)は、表面から見て明るく、より均一で、縦方向から見て筋が少なかった(図6参照)。セルロースカルバメート繊維は、鋸歯状のビスコース繊維に比べ、滑らかな葉状/豆形繊維であった(図7参照)。
【0096】
実施例6.テレフタル酸含有量の決定
実施例2に記載のようにして製造したセルロースカルバメート繊維、試料2(カット長40mm)中のテレフタル酸の含有量をGC/MS(ガスクロマトグラフィ-質量分析)システムで測定した。試料を塩酸で酸性化し、pH<3とし、炉内で一晩乾燥させた。ピリジン/メタノール溶媒で試料から遊離テレフタル酸を抽出し、5mlに濃縮した。抽出したテレフタル酸をメチル化し、GC/MSで分析した。試料中の遊離テレフタル酸含有量は、外部校正標準物質に対して計算された。テレフタル酸の量は、(セルロースカルバメート繊維の)5mg/kgであった。
【0097】
実施例7.テレフタル酸含有量の決定
実施例2に記載のようにして製造したセルロースカルバメート繊維、試料2(カット長40mm)中のテレフタル酸の含有量をGC/MS(ガスクロマトグラフィ-質量分析)システムによって測定した。まず試料を水酸化ナトリウム(10wt%)で4時間還流し、試料中のポリエチレンテレフタレートを加水分解した。試料からテレフタル酸を抽出し、ピリジン/メタノール溶媒に溶解し、5mlに濃縮した。抽出したテレフタル酸をメチル化し、GC/MSで分析した。テレフタル酸含量は、外部校正標準物質に対して計算された。テレフタル酸の量は、(セルロースカルバメート繊維の)309mg/kgであった。
【0098】
表1は、試料1~4については酸性浴中で紡糸し、試料5~13についてはアルカリ浴中で紡糸した人工セルロースカルバメート繊維製品繊維の種々の強度特性を、他の人工セルロース系繊維材料の参考値と共に示している。
【0099】
【表1】
表1に示したサンプルの一部を顕微鏡で分析した。その結果は添付の図に示されている。
【0100】
図1は、本発明の少なくともいくつかの実施形態に従った、参照材料および人工セルロース系繊維製品繊維の引っ張り強伸度歪み曲線を示す。上から下へ、6%伸度で読み取った場合:テンセル、綿、モダール、試料5、試料3、ビスコース、試料7(湿潤)、ビスコース(湿潤)。引っ張り強伸度cN/dtexをy軸に、百分率の伸度をx軸に示す。
【0101】
図2は、本発明の少なくともいくつかの実施形態に従う繊維を示す光顕微鏡写真である。図に示される繊維は、実施例2、試料2に記載されるように調製されたものである。
【0102】
図3は、本発明の少なくともいくつかの実施形態に従う人工セルロース系繊維の断面を示す光顕微鏡写真である。葉状/豆形の断面を有する繊維は、実施例2、試料2に記載されるように調製されたものである。
【0103】
図4は、繊維の試料の鋸歯状断面を示す電子顕微鏡写真である。
【0104】
図5は、本発明の少なくともいくつかの実施形態に従う繊維の断面を示す電子顕微鏡写真である。楕円形の断面を有する繊維は、実施例3、試料5に記載されるように調製される。
【0105】
図6は、実施例3、試料1に記載されるように調製された、本発明の少なくともいくつかの実施形態に従うセルロースカルバメート繊維が、参照ビスコース繊維よりも良好な均質性および輝度を有することを示す光顕微鏡写真である。
【0106】
図7は、参照ビスコース繊維と比較した、実施例2、サンプル1に記載のように調製された本発明の少なくともいくつかの実施形態に従うセルロースカルバメート繊維の断面の構造上の違いを示す光顕微鏡写真である。実施形態に従うセルロースカルバメート繊維は平滑であり、葉状/豆形を有するが、参照ビスコース繊維は鋸歯状またはギザギザ形状を有する。
【0107】
開示された本発明の実施形態は、本明細書に開示された特定の構造、プロセスステップ、または材料に限定されるものではなく、関連する技術分野における通常の当業者によって認識されるであろうそれらの均等物に拡張されることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的のみに使用され、限定を意図するものではないことを理解されたい。
【0108】
本明細書全体を通して、一実施形態または実施形態への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通じて様々な場所で「一実施形態では」または「実施形態では」という表現が現れるが、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すわけではない。たとえば、約、実質的になどの用語を用いて数値に言及する場合、正確な数値も開示されている。
【0109】
本明細書で使用する場合、複数の項目、構造要素、構成要素、および/または材料は、便宜上、共通のリストで示されることがある。しかしながら、これらのリストは、リストの各部材が別個の固有の部材として個々に識別されているかのように解釈されるべきである。したがって、このようなリストの個々の部材は、反対の指示なしに、共通のグループにおけるそれらの提示にのみ基づいて、同じリストの他のメンバーの事実上の同等物として解釈されるべきではない。さらに、本発明の様々な実施形態および実施例が、その様々な構成要素の代替案とともに本明細書で言及される場合がある。このような実施形態、実施例、および代替案は、互いの事実上の均等物とは解釈されず、本発明の別個の自律的な表現と見なされると解釈される。
【0110】
さらに、記載された特徴、構造、または特性は、1または複数の実施形態において任意の適切な方法で組み合わせることができる。以下の説明では、本発明の実施形態の完全な理解を提供するために、長さ、幅、形状などの例のような多数の具体的な詳細が提供される。
しかしながら、関連技術の当業者であれば、本発明は、具体的な詳細の1つ以上がなくても、または他の方法、構成要素、材料などを用いても実施できることを認識するであろう。他の例では、本発明の態様を不明瞭にすることを避けるために、周知の構造、材料、または操作を詳細に図示または説明しない。
【0111】
上述の実施例は、1つまたは複数の特定の用途における本発明の原理を例示するものであるが、形態、使用法および実施の細部における多数の変更が、発明能力を行使することなく、本発明の原理および概念から逸脱することなくなされ得ることは、当業者には明らかであろう。したがって、以下に記載する特許請求の範囲による以外は、本発明を限定することを意図していない。
【0112】
本明細書では、「含む(comprise)」および「含む(include)」という動詞は、引用されていない特徴の存在を排除することも要求することもない開放型限定として使用されている。従属請求項に記載された特徴は、特に明示しない限り、相互に自由に組み合わせることができる。さらに、本明細書全体を通して「a」または「an」、すなわち単数形の使用は、複数形を排除するものではないことを理解されたい。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の少なくともいくつかの実施形態は、繊維産業用の人工繊維の製造において産業上の応用が見出される。綿と同様の伸長特性を有する繊維は、本技術によって提供され得る。本技術の実施形態では、ヤーン製造プロセスで容易に使用できるほど柔軟な繊維が提供される。セルロース系繊維製品繊維は、任意だが、未使用綿繊維などの綿繊維と組み合わせて、一般にヤーン、繊維製品、織物または編物、繊維製品衣服および不織布に使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2024-08-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工セルロース系繊維製品繊維であって、
ISO1973:2021に従って測定された、0.8~1.8dtexの線密度と、
ISO5079:2020に従って測定された、2.0~2.9cN/dtexの引っ張り強伸度と、
ISO5079:2020に従って測定された、50~120cN/dtexの初期弾性率とを有し、
繊維製品繊維の原料の少なくとも50wt%は、セルロース含有廃棄物であり、セルロース含有廃棄物の少なくとも50wt%は、繊維製品廃棄物である、セルロース系繊維製品繊維。
【請求項2】
前記セルロース系繊維製品繊維は、乾燥重量で、90wt%以上、特に95wt%以上のセルロースを含む、請求項1に記載のセルロース系繊維製品繊維。
【請求項3】
繊維製品繊維の原料は、100%繊維製品廃棄物である、請求項1または2に記載のセルロース系繊維製品繊維。
【請求項4】
前記セルロース系繊維製品繊維は、セルロースカルバメート繊維である、請求項1~3のいずれか1項に記載のセルロース系繊維製品繊維。
【請求項5】
前記セルロース系繊維製品繊維は、7~19%の破断伸度と、繊維の乾燥重量で、0.10~1.2wt%、好ましくは0.15~1.0wt%、特に0.2~0.9wt%の窒素含有量とを有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のセルロース系繊維製品繊維。
【請求項6】
前記セルロース系繊維製品繊維は、調整状態での湿潤破断伸度が、乾燥破断伸度の85~110%、好ましくは100%未満、たとえば85~99.9%、特に99.9%(湿潤/乾燥相対%)である、請求項1~5のいずれか1項に記載のセルロース系繊維製品繊維。
【請求項7】
少なくとも0.9cN/dtex、好ましくは1.0cN/dtex以上の湿潤引っ張り強伸度と、40~80%、好ましくは45~80%の相対湿潤引っ張り強伸度(湿潤引っ張り強伸度/乾燥引っ張り強伸度)とを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のセルロース系繊維製品繊維。
【請求項8】
前記セルロース系繊維製品繊維は、
1.1~1.5dtex、好ましくは1.2~1.4dtexの線密度と、
2.1~2.8cN/dtex、好ましくは2.2~2.7cN/dtexの引っ張り強伸度と、
60~120cN/dtex、好ましくは70~150cN/dtexの初期弾性率とを示す、請求項1~7のいずれか1項に記載のセルロース系繊維製品繊維。
【請求項9】
セルロース系繊維製品繊維を製造するための方法であって、
少なくとも50wt%のセルロース含有廃棄物であって、その少なくとも50wt%が繊維製品廃棄物である、セルロース含有廃棄物を含むセルロース系材料を前処理するステップと、
セルロースカルバメート化を行ってセルロースカルバメートを形成するステップと、
セルロースカルバメートを水性アルカリ性媒体に溶解してセルロースカルバメートドープを形成するステップと、
セルロースカルバメートドープを水性紡糸媒体中で紡糸してフィラメントまたはフィラメントトウを形成する一方、延伸浴の温度が75~100℃であるとき、フィラメントまたはフィラメントトウを少なくとも長さで70%だけ延伸するステップとを含み、
ISO1973:2021に従って測定された、0.8~1.8dtexの線密度、ISO5079:2020に従って測定された、2.0~2.9cN/dtexの引っ張り強伸度、およびISO5079:2020に従って測定された、50~120cN/dtexの初期弾性率を有するセルロースカルバメート繊維を得る、方法。
【請求項10】
前処理されたセルロース系材料、セルロースカルバメート、溶解したセルロースカルバメートまたは紡糸されたセルロース系繊維製品繊維は、化学処理によって修飾される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
セルロース系材料は、所定の粒径に機械的に処理することによって前処理され、その後、機械的に処理された材料は、所望の順序で、蒸解液中で酸処理およびアルカリ処理に供され、任意だが漂白処理に供される、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
ドープの水性アルカリ性媒体は、水酸化ナトリウムおよび亜鉛を含むアルカリ溶液である、請求項9~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
水性紡糸媒体は、アルカリ紡糸浴である、請求項9~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
アルカリ性紡糸浴は、炭酸ナトリウムと、3wt%未満、好ましくは0.4~2.99wt%、特に2wt%未満の水酸化ナトリウムとを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
アルカリ性紡糸浴は、水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとを、1:9~1:30の重量比で含む、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
水性紡糸媒体は、90g/L以上、好ましくは90~120g/Lの濃度の硫酸アルミニウムを含む酸性紡糸浴である、請求項9~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
紡糸は、0.3~1.0、好ましくは0.4~0.9、特に0.5~0.8の範囲の紡糸口金ドロー比を有する、請求項9~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
フィラメントの凝固後の全延伸は、延伸ユニットにおいて、長さで90%以上、特に長さで95%以上、大略、長さで一般に70~120%、好ましくは90~120%である、請求項9~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
請求項9~18のいずれか1項に記載の方法によって得ることができるセルロース系繊維製品繊維。
【請求項20】
ヤーン、繊維製品、織物もしくは編物、繊維製品衣服または不織布における、請求項1~8または19に記載の、もしくは請求項9~18のいずれか1項に記載の方法によって得られるようなセルロース系繊維製品繊維の使用。
【請求項21】
請求項1~8または19のいずれか1項に規定されるような、もしくは請求項9~18のいずれか1項に記載の方法によって得られるようなセルロース系繊維製品繊維を含む、ヤーン、繊維製品、織物もしくは編物、繊維製品衣服または不織物品。
【請求項22】
前記繊維は、綿繊維、特に未使用綿繊維と組み合わされる、請求項21に記載のヤーン、繊維製品、織物もしくは編物、または繊維製品衣服。
【国際調査報告】