(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】改善された炭素前駆体材料
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20250117BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20250117BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20250117BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20250117BHJP
【FI】
C01B32/05
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/133
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024534677
(86)(22)【出願日】2023-01-24
(85)【翻訳文提出日】2024-07-24
(86)【国際出願番号】 EP2023051685
(87)【国際公開番号】W WO2023139288
(87)【国際公開日】2023-07-27
(32)【優先日】2022-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523373669
【氏名又は名称】レイン カーボン ビーブイ
(71)【出願人】
【識別番号】520307687
【氏名又は名称】レイン カーボン ジャーマニー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Rain Carbon Germany GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】スパール,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】クント,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】クラーズ,ジョリス
(72)【発明者】
【氏名】デヌー,ブラム
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB01
4G146AC25A
4G146AC25B
4G146AD23
4G146AD24
4G146BA22
4G146BA24
4G146BB08
4G146BC32B
4G146BC38B
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA17
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB11
5H050EA08
5H050FA18
5H050HA01
5H050HA14
(57)【要約】
蒸留物からの蒸留残渣を含む炭素前駆体材料であって、上記蒸留物がコールタール及び/又は石油系原料、又はコールタール系及び/又は石油系ピッチの蒸留留分であり、上記蒸留残渣が70~120℃Mettlerの間の軟化点を有する炭素前駆体材料が提供される。さらに、本発明は、電気アーク炉のための黒鉛電極及びアルミニウム製造のための炭素アノードの製造におけるバインダー及び/又は含浸材料としての炭素前駆体材料の使用、及び/又は電池電極の製造のための炭素被覆粒子のコーティング材料としての炭素前駆体材料の使用を提供する。さらに、本発明は、コールタール及び/又は石油系原料、又はコールタール系及び/又は石油系ピッチを提供するステップと、上記原料又は上記ピッチに対して第1の減圧蒸留プロセスを行い、それによって原料ベースの蒸留留分又はピッチベースの蒸留留分を得るステップと、続いて前記蒸留留分に対して第2の減圧蒸留プロセスを行い、それによって前記炭素前駆体材料である蒸留残渣を得るステップとを含む、炭素前駆体材料を得る方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留物からの蒸留残渣を含む炭素前駆体材料であって、前記蒸留物が、コールタール及び/又は石油系原料、又はコールタール系及び/又は石油系ピッチの蒸留留分であり、前記蒸留残渣が、ASTM D3104に準拠して測定して70~120℃の間のMettler軟化点、及びDIN51906によって測定して8重量%未満のトルエン不溶分(TI)を有する、炭素前駆体材料。
【請求項2】
前記蒸留残渣が、ASTM D4715に準拠して測定して40~60%のAlcanコーキング値を有する、請求項1に記載の炭素前駆体材料。
【請求項3】
前記蒸留残渣が、DIN 51906によって測定して8重量%未満のトルエン不溶分(TI)、及びDIN 51921に準拠して測定して2重量%未満のキノリン不溶分(QI)、及びTI-QIから計算して11重量%未満のベータ樹脂含有量を有する、請求項1のいずれかによる炭素前駆体材料。
【請求項4】
前記蒸留留分が、300~370℃の蒸留範囲の軽質アントラセン油、又は350~550℃の蒸留範囲のピレン油、又は300℃~550℃の蒸留範囲の重質芳香族油である、請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素前駆体材料。
【請求項5】
前記蒸留留分がピッチベースの蒸留留分であり、出発物質として使用される前記コールタール系ピッチが80~130℃のMettler軟化点を有し、及び/又は出発物質として使用される前記石油系ピッチが80~130℃のMettler軟化点を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素前駆体材料。
【請求項6】
130~300℃のMettler軟化点を有するコールタール系及び/又は石油系ピッチをさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の炭素前駆体材料。
【請求項7】
電池電極中に使用される炭素含有複合粒子の製造、電気アーク炉のための黒鉛電極及びアルミニウム製造のための炭素アノードの製造における、バインダー及び/又は含浸材料としての請求項1~6のいずれか一項に記載の炭素前駆体材料の使用。
【請求項8】
電池電極の製造のための炭素被覆粒子のためのコーティング材料としての請求項1~7のいずれか一項に記載の炭素前駆体材料の使用。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載の変換された炭素前駆体材料を含む電気アーク炉のための黒鉛電極又はアルミニウム製造のための炭素アノード。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか一項に記載の変換された炭素前駆体材料を含む電池電極。
【請求項11】
請求項10に記載の電極を含むリチウムイオン電池。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか一項に記載の炭素前駆体材料を得る方法であって:
- コールタール及び/又は石油系原料、又はコールタール系及び/又は石油系ピッチを提供するステップと、
- それぞれ原料ベースの蒸留留分又はピッチベースの蒸留留分を得るために適合させた第1の減圧蒸留プロセスを前記原料又は前記ピッチに対して行うステップと、
- 続いて、前記炭素前駆体材料である蒸留残渣を得るために適合させた第2の減圧蒸留プロセスを前記蒸留留分に対して行うステップと、
を含む、方法。
【請求項13】
提供される前記コールタール系ピッチが80~130℃のMettler軟化点を有し、及び/又は提供される前記石油系ピッチが80~130℃のMettler軟化点を有し、得られる前記蒸留留分がピッチベースである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記蒸留留分が原料ベースであり、300~370℃の蒸留範囲の軽質アントラセン油である蒸留留分、又は350~550℃の蒸留範囲のピレン油である、又は300℃~550℃の蒸留範囲の重質芳香族油である蒸留留分を得るために、前記第1の減圧蒸留プロセスを適合させる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
130~300℃Mettlerの軟化点を有する石油系ピッチを前記蒸留残渣に加えるステップをさらに含む、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
黒鉛電極又は炭素電極の製造方法であって:
- コーティングされる多数の粒子を提供することと、
- 請求項1~6のいずれか一項に記載の炭素前駆体材料を用いて前記粒子のコーティング及び/又は結合を行うことと、
- さらに、黒鉛電極又は炭素電極を形成するための成形及び黒鉛化若しくは炭素化を行うこととを含む、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、一般に、炭素前駆体材料に関する。
【0002】
さらに、本発明は、そのような炭素前駆体材料の製造方法に関する。
【0003】
特に、本発明は、一般に、炭素被覆粒子のためのコーティング材料として、又は電気アーク炉のための黒鉛電極、及びアルミニウム製造のための炭素アノードの製造におけるバインダー及び/又は含浸材料としての、このような炭素前駆体材料の使用に関する。
【0004】
さらに、本発明は、このような炭素前駆体材料でできた粒子コーティングを有する電極材料を含む電極、特に電池電極に関する。
【背景技術】
【0005】
背景
リチウムイオン電池中に使用される市販の負極材料は、従来、黒鉛をベースとしているが、酸化ケイ素、金属ケイ素、ケイ素合金、及び炭素若しくは黒鉛とケイ素、スズなどをベースとする材料との複合材料をベースとするものも増えている。
【0006】
これらの負極材料の多くは、前駆体としてコールタール系ピッチ及び石油系ピッチを使用して炭素で被覆される。適切なコーティングを得るための多数の方法が知られている。典型的には、電極材料の粒子表面へのコーティングの塗布は、ピッチを有機溶媒中に溶解させること、又は粉砕した微細ピッチ粉末を水中に分散させることと、この溶液又は懸濁液を上記粒子と混合することと、混合物を乾燥させた後、それを不活性ガス雰囲気中600℃~1300℃の高温で熱処理することとによる、いずれかの湿式プロセスで行われる。また、微粉砕したピッチを電極材料粒子と混合する、乾式コーティングプロセスが用いられる。次に、混合物を、不活性ガス雰囲気中で加熱して、ピッチを溶融させて、最終的に高温で炭化され必要に応じて黒鉛化される表面層を形成する。
【0007】
当技術分野において周知の第1の問題は、従来の炭素コーティングは、必ずしも電極粒子の表面上に均一に分布するとは限らず、そのため、BET表面積を減少させ、電池電解質でぬれる電気化学的に活性な表面積を減少させ、電解質に対する電極材料の反応性を低下させるために必要な粒子表面の完全な被覆のために、比較的多量の、すなわち部分的に比較的厚い炭素の膜が必要となることである。低表面積の炭素コーティングにより、充電損失が減少し、セルの安全性が改善され、及び充電/放電サイクリング安定性が改善されることによって、電極粒子の電気化学的パラメーターが改善される。しかしながら、粒子表面に形成される炭素は、粒子コアよりも電極材料の可逆容量に対する寄与が少なく、炭素層の厚さは、リチウムイオンのバルク中への挿入速度にも影響を与えるので、より薄いコーティングが好ましい。なんらかの理論に言及するものではないが、粒子表面の良好なぬれ及び含浸を示すコーティング材料を使用する場合に、薄く均一なコーティングが期待される。
【0008】
第2の問題は、コールタール及び石油化学的供給源から誘導される典型的なピッチは、炭素の小さな粒子を含有するが、形成されるコーティング層の品質に有害となる金属不純物も含有することである。これらの粒子不純物は、通常はキノリン不溶性物質(QI含有量)として測定され、これはピッチ品質の指標になる。良好な炭素膜品質を得るために、QI含有量は少なくなるべきである。さらに、鉄、銅、及び亜鉛のような一部の金属粒子不純物によって、リチウムイオンセルにおける安全性の問題が生じる。QI及びTI値によって反映される不溶性成分は、特に、ピッチをTHF、トルエン、キシレン、又はヘキサンのような有機溶媒中に溶解させ次にその溶液を被覆される粒子状基材と混合する湿式コーティングプロセスの場合に不都合となる。
【0009】
典型的な石油系供給源は、コールタールよりも粒子不純物が少なく、通常は微量金属含有量も少ないことが知られている。同時に、典型的なコールタール系製品は、コークス値、熱安定性、及び引火点がより高く、すなわち、不活性ガス雰囲気下での熱処理による前駆体の炭化後の炭素収率がより高く、高温において前駆体を処理する場合の安全性も改善される。これは、石油系供給源の場合、加熱中に芳香族コア構造から開裂しうる高度のアルキル残基を有する成分の分子構造と関連していることが多い。
【0010】
さらに、温室効果ガスの放出を軽減するために溶鉱炉から離れていく鉄鋼生産の変化によって、コールタールピッチの原料としてのコールタールの有用性は、将来大幅に低下するであろうし、結果として高品質のコールタールの有用性も低下するであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上を考慮して、本発明の目的は、新規炭素前駆体材料を提供することである。
【0012】
さらに、本発明の目的は、電池電極を製造するための黒鉛粒子のコーティングのための新規コーティング材料を提供することである。
【0013】
特に、本発明の目的は、薄いコーティング層が典型的には数十ナノメートルの厚さとなるための適切な特性を有するコーティング材料を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、電池電極を製造するための黒鉛粒子の表面において形成される炭素コーティング層の品質を向上させるコーティング材料を提供することである。
【0015】
別の目的は、水ベースの電極製造プロセスにおける使用に適したピッチベースの炭素コーティングを提供することである。
【0016】
さらなる目的は、リチウムイオンセルにおける安定性の問題を軽減し、特定の充電損失を減少させ、充電/放電サイクリング安定性を高めることである。
【0017】
さらに、本発明の一般的な目的は、供給の安全保障を高めることができ、電池電極、特にLiイオン電池の製造における炭化水素コーティング材料としての使用に必要な要求を満たす、コールタールピッチベースのコーティングの代替物を提供することである。
【0018】
本発明の別の一般的な目的は、同様のコークス値及び軟化点、並びに電池電極、特にLiイオン電池の同様の加工及び性能が得られる、代替のピッチベースのコーティングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
概要
本発明による第1の態様では、蒸留物からの蒸留残渣を含む炭素前駆体材料であって、上記蒸留物が、コールタール及び/又は石油系原料の蒸留留分、又はコールタール系若しくは石油系ピッチの蒸留留分であり、上記蒸留残渣が、70~120℃Mettlerの間の軟化点と、12%未満、好ましくは8%未満、より好ましくは5%未満のトルエン不溶分とを有する、炭素前駆体材料が提供される。
【0020】
第2の態様では、本発明は、電気アーク炉のための黒鉛電極、及びアルミニウム製造のための炭素アノードの製造におけるバインダー及び/又は含浸材料として使用される上記炭素前駆体材料の使用を提供する。
【0021】
第3の態様では、本発明は、電池電極の製造のための炭素被覆粒子のコーティング材料及び/又は結合剤としての上記炭素前駆体材料の使用を提供する。
【0022】
本発明による第4の態様では、変換された炭素前駆体材料を含む電気アーク炉のための黒鉛電極、又はアルミニウム製造のための炭素アノードが提供される。
【0023】
第5の態様では、変換された炭素前駆体材料を含む電池電極、及びそのような電極を含むリチウムイオン電池が提供される。
【0024】
本発明による第6の態様では、炭素前駆体材料を得る方法であって:
- コールタール及び/又は石油系原料、又はコールタール系及び/又は石油系ピッチを提供するステップと、
- 上記原料又は上記ピッチに対して第1の減圧蒸留プロセスを行い、それによって原料ベースの蒸留留分又はピッチベースの蒸留留分を得るステップと、
- 続いて、上記蒸留留分に対して第2の減圧蒸留プロセスを行い、それによって上記炭素前駆体材料である蒸留残渣を得るステップと、
を含む方法。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
本発明による第1の態様では、蒸留物からの蒸留残渣を含む炭素前駆体材料であって、上記蒸留物が、コールタール及び/又は石油系原料の蒸留留分、又はコールタール系及び/又は石油系ピッチの蒸留留分であり、上記蒸留残渣が、70~120℃Mettlerの間、好ましくは80~100℃Mettlerの間の軟化点と、12%未満、好ましくは8%未満、より好ましくは5%未満のトルエン不溶分とを有する、炭素前駆体材料が提供される。
【0026】
この炭素前駆体材料は、特に、炭素の薄層を有する電極材料のコーティングに適しており、その理由は、これは、コールタールピッチ又は石油ピッチの蒸留から誘導される蒸留留分の残渣を含み、したがって固体微粒子を実質的に含まず、結果としてキノリン不溶分が2%未満、好ましくは1%未満となるからである。さらに、このような残渣は、典型的には微量金属含有量が少ない。低軟化点及び適合させた溶融粘度と、アスファルテン及び樹脂含有量によって特徴づけられる芳香族成分が多いこととの組み合わせによって、粒子表面のぬれ及び含浸を改善することができ、熱処理中に平滑で均一な炭素コーティングを得ることができる。
【0027】
高いコーキング値によって、炭素層を高い収率で形成することができ、炭化プロセスで形成される揮発性物質の量が限定され、高い炭素収率が実現される。揮発性物質の量が限定されることで、コーティングの多孔度が低下し、次にこれによってBET比表面積(BET SSA)の減少が制限される。
【0028】
炭素前駆体の高い芳香族含有量によって、最終コーティング層の炭素の形態及び密度が改善される。このようにして、少ない量の炭素及び炭素前駆体を用いて、薄い層厚さにおいて均一なコーティング及び完全な表面被覆が実現される。これによって、黒鉛化条件下で容易に黒鉛化する炭素の形態が得られる。
【0029】
溶融状態において高引火点及び低粘度であるため、炭素前駆体材料は、液体状態での粒子の直接コーティング又は直接結合及びコーティングにも適切となる。この場合、強力ミキサー又は流動床によって粒子を流動化させながら、新しく製造した炭素前駆体材料を、粒子中に直接吹き付けて、コーティング、又は凝集及びコーティングを行うことができる。或いは、例えば強力混合ユニットによって、溶融した炭素前駆体材料と粒子とを激しく混合することによって、炭素前駆体材料を分散させることができる。
【0030】
本発明の一実施形態では、蒸留残渣は、12%未満、好ましくは8%未満、より好ましくは5%未満のトルエン不溶分、及び/又は2%未満、好ましくは1%未満のキノリン不溶分、及び/又は12%未満のベータ樹脂含有量、及び/又は10~30%の窒素下でのTGA(窒素N2中1000℃における残渣、単位%)を有する。好ましくは、蒸留残渣は、8%未満のトルエン不溶分、及び2%未満のキノリン不溶分、及び12%未満のベータ樹脂含有量を有する。さらにより好ましくは、炭素前駆体は、5%未満のトルエン不溶分、1%未満のキノリン不溶分、及び5%未満のベータ樹脂含有量を有することができ、これによって、トルエン不溶分が少ないと溶解性が改善されるので、溶媒ベースのコーティングプロセスにおける黒鉛粒子のコーティング材料としてのその適用性が向上しうる。
【0031】
本発明の一実施形態では、蒸留留分は、DIN51757に準拠して測定して1.00~1.3g/cm3の間の密度、DIN53019に準拠して測定して50~7000mPasの間の80℃における粘度、及びDIN51920に準拠して測定して40~70℃の間の軟化点を有することができる。
【0032】
本発明による特定の一実施形態では、蒸留留分は、アントラセン油及び/又はピレン油及び/又は重質芳香族油であり、好ましくは300~370℃の蒸留範囲の軽質アントラセン油蒸留留分、又は350~550℃の蒸留範囲のピレン油、又は300℃~550℃の蒸留範囲の重質芳香族油である。このような高沸点蒸留物を用いて、蒸留前の反応ステップにおけるさらなる処理によって、第2の蒸留中の残渣の収率をさらに増加させることができた。
【0033】
別の特定の一実施形態では、蒸留留分はピッチベースの蒸留留分であり、ここで、出発物質として使用されるコールタール系ピッチは80~130℃Mettlerの軟化点を有し、及び/又は出発物質として使用される石油系ピッチは80~130℃Mettlerの軟化点を有する。
【0034】
本発明による別の一実施形態では、炭素前駆体材料は、130~300℃Mettlerの軟化点を有するコールタール系及び/又は石油系ピッチをさらに含むことができる。この場合、炭素前駆体材料は、蒸留残渣と、130~300℃Mettlerの軟化点を有するコールタール系及び/又は石油系ピッチとの混合物であってよい。粒子コーティング用途を考慮すると、軟化点が120℃よりも高い場合、炭素前駆体を乾燥させて、乾式粒子コーティングプロセスに使用される微粒子まで粉砕することができる。
【0035】
好ましくは、炭素前駆体材料は、140℃において5000mPa.s未満の溶融粘度を有することができる。このように低い溶融粘度によって、粒子表面のぬれ及び含浸が向上し、これによって粒子表面において均一に分布する炭素の薄膜が実現される。表面のぬれ及び含浸の向上によって、幾何学的粒子表面の良好な被覆率だけでなく、マイクロポア及びメソポアの良好な被覆率も得られ、典型的には粒子表面において見ることができる粗さも得られる。
【0036】
本発明の一実施形態では、SARA法(ASTM D2007に準拠した粘土ゲル吸収クロマトグラフィー法Clay-Gel Absorption Chromatographic Method)によって測定して少なくとも75%、好ましくは85重量%を超えるアスファルテンの少なくともの濃度を有する炭素前駆体材料を使用することができ、それによってそれぞれのコークス値を増加させることができる。上記ピッチによって、電極材料表面の緻密(低多孔度)で均一な炭素コーティングが保証され、電解質に対する表面反応性も低下し、電池電解質に直接接触する電極材料の表面積が減少し、さらに、電池セル電極中の電極材料の良好な電気伝導性及び粒子接触も得られる。
【0037】
本発明による別の一実施形態では、炭素前駆体材料は、B[a]P含有量が9000ppm未満、及び/又は米国環境保護庁(US Environmental Protection Agency)(EPA)に準拠した16 EPA-PAH sum(多環式芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbon))が9%未満となりうる。十分小さいB[a]P含有量及び/又は16 EPA-PAH umは、純コールタール由来のピッチと比較して環境への優しさが改善されることは明らかである。
【0038】
さらなる一実施形態では、炭素前駆体材料は、少なくとも40%ALCAN、又はより好ましくは少なくとも50%ALCANのコークス収率を有することができる。炭化プロセス中に炭素前駆体材料は炭素に変換されるので、十分高いコークス収率であれば、炭化プロセス中に形成される揮発分がより少ないために、得られる黒鉛粒子の多孔度が高くなることを回避できる。電極粒子表面における固体電解質中間相の形成に有利な形態で緻密な炭素層を形成することができる。さらに、粒子表面において形成される炭素膜の性質及び品質は、電気化学的に活性な電極表面積が電池セルの電解質に直接接触することに加えて、充電損失にも影響を与える。
【0039】
一実施形態では、炭素前駆体材料は、ALCAN方法(DIN 51905)に準拠して40~60%のコークス収率、及び窒素下で10~30%の間のTGA残渣を有することができ、それによって粒子表面のぬれ及び含浸を改善することができる。高い炭素収率及び組成によって、電極粒子表面において有効な固体電解質中間相の形成に有利な形態で緻密な炭素層を形成することができる。さらに、炭素前駆体は、高融点石油ピッチと混合して、有利な炭素形態に影響を与える補足的成分を加えるのに適切となりうる。
【0040】
さらなる一実施形態では、炭素前駆体材料は、少なくとも240℃、好ましくは少なくとも260℃の引火点を有することができ、高温混合プロセスに必要となりうるので、安全要求に準拠してピッチを加工することができる。
【0041】
特定の一実施形態では、炭素前駆体材料は、本明細書全体にわたって記載されるように蒸留残渣のみを含むことができる。
【0042】
本発明の別の特定の一実施形態では、炭素前駆体材料は120℃Mettlerを超える軟化点を有することができる。粒子コーティング用途を考慮すると、120℃を超える軟化点であれば、乾式粒子コーティングプロセスに使用される微粒子まで炭素前駆体を粉砕することができる。この場合、炭素前駆体材料は、蒸留残渣と、130~300℃Mettlerの軟化点を有するコールタール系及び/又は石油系ピッチとの混合物であってよい。蒸留残渣対ピッチの比率は、3:1~1:4、好ましくは2:1~1:2、さらにより好ましくは1:1~1:2であってよい。
【0043】
本発明の特定の一実施形態では、炭素前駆体材料は、黒鉛、ケイ素、酸化ケイ素、又はそれらの炭素質複合材料のような電極材料の粒子に炭素表面層のコーティング及び/又は結合を形成するために使用することができ、それによって炭素質粉末材料又は粉末を得ることができる。
【0044】
上記の炭素前駆体材料を使用することで、少ない前駆体量で、電池電極中、特にリチウムイオン電池の負極中に使用される電極材料粒子の表面に、薄く均一な炭素のコーティング層が形成される。
【0045】
本発明による一態様では、粒子の炭素コーティングとして使用される変換された炭素前駆体材料を含む電池電極が提供される。このような炭素コーティングによって、電極中の電極材料として使用される6m2/gのBET SSA及び15ミクロンの平均粒度を有する球状の天然黒鉛に対して、7重量%のピッチ量でBET比表面積を少なくとも40%減少させることができる。被覆された天然黒鉛(BET 3m2/g)を含む電極のクーロン効率は、90%を超えるまで増加させることができる。
【0046】
さらに、本発明は、電池電極中に使用される凝集炭素含有複合粒子の製造、電気アーク炉のための黒鉛電極、及びアルミニウム製造のための炭素アノードの製造におけるバインダー及び/又は含浸材料としての、本明細書全体にわたって記載される炭素前駆体材料の使用を提供する。
【0047】
本発明によると、本明細書全体にわたって記載される炭素前駆体材料を得る方法であって:
- コールタール及び/又は石油系原料、又はコールタール系の及び/又は石油系ピッチを提供するステップと、
- それぞれ原料ベースの蒸留留分又はピッチベースの蒸留留分を得るために適合させた第1の減圧蒸留プロセスを上記原料又は上記ピッチに対して行うステップと、
- 続いて、上記炭素前駆体材料である蒸留残渣を得るために適合させた第2の減圧蒸留プロセスを前記蒸留留分に対して行うステップと、
を含む方法が提供される。
【0048】
第1の減圧蒸留プロセスは、200~380℃の間の温度において0.05~250mbarの間の圧力で行うことができる。
【0049】
蒸留物から蒸留残渣を得るために適合させた第2の減圧蒸留プロセスは、250~330℃の間の温度において0.1~20mbarの間の圧力で行うことができる。
【0050】
本発明の一実施形態では、DIN 51906によって測定して12重量%未満のトルエン不溶分、及び/又はDIN 51921に準拠して測定して2重量%未満のキノリン不溶分を有する蒸留残渣を得るために、第1及び第2の減圧蒸留プロセスを適合させる。
【0051】
本発明の別の一実施形態では、ASTM D3104に準拠して測定して70~120℃の間のMettler軟化点、及びASTM D4715に準拠して測定して40~60%のAlcanコーキング値を有する蒸留残渣を得るために、第1の及び第2の減圧蒸留プロセスを適合させる。
【0052】
本発明の一実施形態では、蒸留留分は、DIN51757に準拠して測定して1.00~1.3g/cm3の間の密度、DIN53019に準拠して測定して50~7000mPasの間の80℃における粘度、及びDIN51920に準拠して測定して40~70℃の間の軟化点を有することができる。
【0053】
本発明の特定の一実施形態では、蒸留留分はピッチベースの蒸留留分であり、ここで、出発物質として使用されるコールタール系ピッチは80~130℃Mettlerの軟化点を有し、及び/又は出発物質として使用される石油系ピッチは80~130℃Mettlerの軟化点を有し、これによって、第2の減圧蒸留ステップ後に80~120℃Mettlerの軟化点を有する蒸留残渣が得られる。この場合、第1の減圧蒸留プロセスは、280~380℃の間の温度において、0.05~30mbarの圧力で行うことができる。
【0054】
本発明による方法の好ましい一実施形態では、コールタールの減圧蒸留によって80~130℃のMettler軟化点を有するコールタール系ピッチが得られる。
【0055】
好ましくは、例えば熱分解燃料油、芳香族分解残油(aromatic cracker bottom oil)、又は流動接触分解デカント油(fluid catalytic cracker decant oil)、ガス油、又はその他の重質芳香族石油系ストリームのような石油系材料の減圧蒸留によって、80~130℃の軟化点を有する石油系ピッチが得られる。
【0056】
本発明の別の特定の一実施形態では、蒸留留分は原料ベースであり、300~370℃の蒸留範囲の軽質アントラセン油である蒸留留分、又は350~550℃の蒸留範囲のピレン油、若しくは300℃~550℃の蒸留範囲の重質芳香族油である蒸留留分が得られるように、第1の減圧蒸留プロセスを適合させる。この場合、第1の減圧蒸留プロセスは、200~380℃の間の温度において、50~250mbarの間の圧力で行うことができる。
【0057】
本発明による一実施形態では、約120℃を超える軟化点に到達させるために、蒸留残渣は溶融状態で石油系又はコールタール系ピッチと混合することができ、それによって乾式粒子コーティングプロセスに使用される微粒子までの粉砕が可能となる。特に、蒸留残渣は、130~300℃Mettlerの軟化点を有する石油系ピッチと混合することができる。
【0058】
蒸留残渣の収率を増加させることを目的とする本発明によるさらなる一実施形態では、第2の減圧蒸留プロセスを行う前に、蒸留留分は、250℃を超え、好ましくは300℃を超え、好ましくは350℃を超える温度において空気中で熱処理することができる。熱反応によって、重合及び縮合反応が開始し、これは、有機化酸化物、酸素、三塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素、アルミニウム塩、酸性ゼオライト、又は超酸のような触媒の存在下でさらに加速させることができる。
【0059】
本明細書全体にわたって記載される方法は、電池電極の製造の一部であってよいし、又は電気アーク炉のための黒鉛電極、若しくはアルミニウム製造のための炭素アノードの製造の一部であってよい。上記方法は、コーティングされる多数の粒子を提供することと、炭素前駆体材料を用いて粒子のコーティング及び/又は結合を行うことと、さらに、黒鉛電極又は炭素電極を形成するための成形及び黒鉛化若しくは炭素化を行うこととを含むことができる。
【0060】
本発明による方法の利点は、SARAによって測定される炭素コーティング前駆体のアスファルテン量を、周知のコールタール系電池電極コーティング前駆体と同様のレベルに維持できることである。さらに、別のピッチの性質は、周知のコールタールコーティング前駆体と比較して低下しない場合がある。同時に、上記生成物のレオロジー、ぬれ、及び含浸特性のために、炭素の薄層による粒子のコーティングのための炭素前駆体として、又は電気アーク炉中の鉄鋼生産のための電極本体の製造のための含浸前駆体としての使用に理想的となる。
【0061】
さらなる利点は、このような方法によって、炭素前駆体材料のコークス値を、高いレベルで維持することができ、例えば、70~120℃Mettlerの軟化点において少なくとも40%ALCAN、又は100℃Mettlerを超える軟化点において少なくとも50%に維持することができることである。
【0062】
本発明の一実施形態では、第1及び/又は第2の減圧蒸留プロセスステップは、0.1~400mbarの間、好ましくは0.1~250mbarの間の真空レベル、及び200~400℃の間、好ましくは280~370℃の間の温度で行われる。
【0063】
本発明による方法によって、12%未満のトルエン不溶分、2%未満のキノリン不溶分、及び12%未満のベータ樹脂含有量、又はさらには5%未満のトルエン不溶分、1%未満のキノリン不溶分、及び5%未満のベータ樹脂含有量を有する蒸留残渣を得ることができる。
【0064】
本発明による方法によって、蒸留残渣中の少ない二次キノリン不溶分量によって、粒子表面に薄く均一なコーティングを形成するための潜在的な中間相形成の厳格な制御及び防止が可能となる。
【0065】
以下の表は、本発明の一実施形態による炭素前駆体材料配合物の2つの例、すなわち、(i)本明細書全体にわたって記載される蒸留物残渣のみを含む炭素前駆体材料、及び(ii)45.5%の蒸留物残渣と54.5%の石油系ピッチとを含む炭素前駆体材料を示している。
【0066】
【0067】
【0068】
以下の表は、本明細書において使用される生成物パラメーターの分析手順の概要を示している。
【0069】
【国際調査報告】