(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】恒常発現用新規プロモーター変異体およびその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/63 20060101AFI20250117BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20250117BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20250117BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20250117BHJP
C12P 19/02 20060101ALI20250117BHJP
C12N 9/90 20060101ALN20250117BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12P19/02
C12N9/90
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538419
(86)(22)【出願日】2023-04-07
(85)【翻訳文提出日】2024-06-24
(86)【国際出願番号】 KR2023004707
(87)【国際公開番号】W WO2024135948
(87)【国際公開日】2024-06-27
(31)【優先権主張番号】10-2022-0179126
(32)【優先日】2022-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516298272
【氏名又は名称】テサン・コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】DAESANG CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ウンソク
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジハ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AF02
4B064CA19
4B064CC24
4B064CD09
4B064CE03
4B064DA20
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA26X
4B065AA26Y
4B065AA57X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BD36
4B065CA20
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、大腸菌(Escherichia coli)のtatA(twin arginine translocase A)遺伝子プロモーターから一部のヌクレオチドが挿入、欠失または置換された新規プロモーター変異体を提供する。本発明による新規プロモーター変異体は、目的タンパク質、特に酵素を大腸菌において恒常的に高発現させることができる。したがって、本発明による新規プロモーター変異体を含む発現ベクターで形質転換させた組換え菌株を用いると、目的タンパク質、特に、酵素を経済的に大量生産することができる。一例として、本発明による新規プロモーター変異体を含む発現ベクターで形質転換させた組換え菌株を用いると、アルロースエピマー化酵素を経済的に大量生産したり、果糖からアルロースを経済的に大量生産したりすることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号9の塩基配列または配列番号10の塩基配列から構成されたプロモーター変異体。
【請求項2】
請求項1に記載のプロモーター変異体を含む、組換えベクター。
【請求項3】
目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドおよびこれと作動可能に連結された請求項1に記載のプロモーター変異体を含む、発現ベクター。
【請求項4】
前記目的タンパク質は、酵素であることを特徴とする、請求項3に記載の発現ベクター。
【請求項5】
前記酵素は、アルロースエピマー化酵素であることを特徴とする、請求項4に記載の発現ベクター。
【請求項6】
前記アルロースエピマー化酵素は、配列番号3のアミノ酸配列、配列番号5のアミノ酸配列または配列番号7のアミノ酸配列から構成されることを特徴とする、請求項5に記載の発現ベクター。
【請求項7】
前記アルロースエピマー化酵素をコードするポリヌクレオチドは、配列番号4の塩基配列、配列番号6の塩基配列または配列番号8の塩基配列から構成されることを特徴とする、請求項5に記載の発現ベクター。
【請求項8】
請求項5に記載の発現ベクターで形質転換された組換え菌株。
【請求項9】
果糖含有溶液に請求項8に記載の組換え菌株を添加し、反応させる段階を含む果糖からアルロースを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規プロモーター変異体などに関するものであって、より詳しくは、目的タンパク質を恒常的に高発現させることができる新規プロモーター変異体およびその多様な用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分子生物学の発展に伴い、遺伝子発現を調節する様々なメカニズムが明らかになってきた。遺伝子発現とは、細胞内で起こる転写(transcription)および翻訳(translation)を介して遺伝子に入力されているコードに従ってタンパク質を合成する一連の過程を指す。特に、転写過程は、遺伝子発現の初期段階であって、RNAポリメラーゼが数々の補因子の助けを借りて、遺伝子の上位に存在するプロモーター(promoter)配列に結合することによって開始され、転写因子(TF、transcription factor)は、そのような補因子のうちの一つであって、プロモーター配列に直接結合することが知られている。特に原核生物における遺伝子発現の調節は、主に転写の段階で起こるため、継続して新規な転写因子及びプロモーターが本研究者らによって明らかになっている。
【0003】
産業的に酵素などのような外来タンパク質を生産するために、主に外来タンパク質遺伝子を含むpETタイプの発現ベクターで大腸菌などの原核生物を形質転換させて作製した形質転換体が発現システムとして使用する。pETタイプの発現ベクターで形質転換された原核生物発現システムでは、一般にIPTG(isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)などの高価な発現誘導体(inducer)が必要であり、誘導体濃度や設備、発現誘導時間などを細密に調節しなければならない短所がある。
【0004】
一方、果糖をアルロース(またはサイコース)に変換する活性を有するサイコースエピマー化酵素(またはアルロースエピマー化酵素)を大量生産するため、GRAS(Generally Recognized As Safe)菌株であるコリネバクテリウム属菌株を宿主細胞として使用する発現システムが提示されている。コリネバクテリウム属菌株基盤のサイコースエピマー化酵素(またはアルロースエピマー化酵素)発現システムに関連し、大韓民国登録特許第10-1656063号には、サイコースエピマー化酵素を暗号化するヌクレオチド配列、およびその上流(upstream)に作動可能に連結されており、コリネバクテリウム属菌株において、前記サイコースエピマー化酵素の発現を調節する調節配列を含む遺伝子発現カセットが開示されており、前記調節配列は、転写プロモーター、第1リボソーム結合領域(ribosome binding region、RBS)配列および第1スペース配列、リンカー配列、および第2RBS配列などから構成されている。また、大韓民国登録特許第10-1695830号には、サイコースエピマー化酵素を暗号化する核酸配列と、その上流(upstream)に作動可能なように連結され、コリネバクテリウム属菌株において、前記サイコースエピマー化酵素の発現を調節する調節配列を含む遺伝子発現カセットが開示されており、前記調節配列は、大腸菌(E.coli)由来の転写プロモーター(transcription promoter)を含む。しかし、コリネバクテリウム基盤のサイコースエピマー化酵素(またはアルロースエピマー化酵素)発現システムは、使用することができるプロモーターの発現レベルが低く、選択の幅が小さくて酵素の大量発現システムには適していない。
【0005】
したがって、サイコースエピマー化酵素(またはアルロースエピマー化酵素)の大量生産またはサイコースエピマー化酵素(またはアルロースエピマー化酵素)を用いた果糖からアルロースの大量生産のために、コリネバクテリウムを宿主細胞として用いる場合に限らず、大腸菌宿主細胞の一般的な培養条件において、成長阻害なしに外来タンパク質を安定的で、高いレベルで発現することが可能な恒常発現プロモーターおよびこれを含む恒常発現システムの開発が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の技術的背景の下、導き出されたものであって、本発明の目的は、目的タンパク質を恒常的に高発現させることができる新規プロモーター変異体を提供することにある。また、本発明の目的は、前記新規プロモーター変異体の多様な用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、大腸菌(Escherichia coli)のtatA(twin arginine translocase A)遺伝子を発現するためのプロモーターであるtatA遺伝子プロモーターを、アルロースエピマー化酵素をコードするポリヌクレオチドと作動可能に連結し、組換え発現ベクターを作製し、これを大腸菌に導入して形質転換させた。このとき、tatAプロモーターまたはアルロースエピマー化酵素遺伝子配列にランダムに変異が起こり、本発明の発明者らは、多様な組換え発現ベクターで形質転換された組換え大腸菌を確保した。前記ランダムな変異により確保した組換え発現ベクターのうち、アルロースエピマー化酵素遺伝子配列には変異が起こらず、tatA遺伝子プロモーターのみに変異が起こった組換え発現ベクターで形質転換された組換え大腸菌のアルロースエピマー化酵素発現活性を比較した結果、tatA遺伝子プロモーターの塩基配列中、160番目のヌクレオチドであるチミン(T)の後にサイトシン(C)が付加されたプロモーター変異体またはtatA遺伝子プロモーターの塩基配列中、146番目のヌクレオチドであるサイトシン(C)がグアニン(G)に置換され、148番目のヌクレオチドであるサイトシン(C)がアデニン(A)に置換され、149番目のヌクレオチドであるアデニン(A)がグアニン(G)に置換され、159番目のヌクレオチドおよび160番目のヌクレオチドであるグアニン(G)およびチミン(T)が欠失したプロモーター変異体がアルロースエピマー化酵素を恒常的に高発現させることができる点を確認し、本発明を完成した。
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の一例は、配列番号9の塩基配列または配列番号10の塩基配列から構成されたプロモーター変異体を提供する。また、本発明の一例は、配列番号9の塩基配列または配列番号10の塩基配列から構成されたプロモーター変異体を含む組換えベクターを提供する。また、本発明の一例は、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドおよびこれと作動可能に連結され、配列番号9の塩基配列または配列番号10の塩基配列から構成されたプロモーター変異体を含む発現ベクターを提供する。また、本発明の一例は、前記発現ベクターで形質転換された組換え菌株を提供する。また、本発明の一例は、前記組換え菌株を用いて、目的タンパク質を生産する方法を提供する。また、本発明の好ましい一例は、基質含有溶液に前記組換え菌株を添加し、酵素変換反応を進行させる段階を含む、基質から酵素変換反応生成物を製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明による新規プロモーター変異体は、目的タンパク質、特に、酵素を大腸菌において恒常的に高発現させることができる。したがって、本発明による新規プロモーター変異体を含む発現ベクターで形質転換させた組換え菌株を用いると目的タンパク質、特に、酵素を経済的に大量生産することができる。一例として、本発明による新規プロモーター変異体を含む発現ベクターで形質転換させた組換え菌株を用いると、アルロースエピマー化酵素を経済的に大量生産したり、果糖からアルロースを経済的に大量生産したりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例にて製造した組換え発現ベクターpPtatAm1:FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)のベクターマップである。
【0011】
【
図2】発明の実施例にて製造した組換え発現ベクターpPtatAm2:FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)のベクターマップである。
【0012】
【
図3】本発明の実施例にて製造した組換え発現ベクターpPblma:FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)のベクターマップである。
【0013】
【
図4】本発明の実施例にて作製した組換え大腸菌を用いて、果糖のアルロースへの転換反応を進めるとき、反応時間による転換率を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0015】
本発明にて使用される用語「プロモーター」とは、転写対象である目的ヌクレオチド配列に作動可能に連結され、前記目的ヌクレオチド配列の転写を調節する最小核酸配列を意味する。また、前記プロモーターには、細胞種特異的または外部の信号または製剤によって誘導される調節可能なプロモーター依存性遺伝子を発現するのに十分なプロモーター構成が含まれ得、このような構成は、遺伝子の5’または3’領域に位置することができる。前記プロモーターには、保存的プロモーターおよび誘導性プロモーターの両方が含まれる。プロモーター配列は、原核生物、真核生物、またはウィルスに由来することができる。原核生物におけるプロモーターは、大概RNAポリメラーゼが結合する転写開始点(Transcription Start Site)すぐ近傍の結合部位として定義される。
【0016】
本発明にて使用される用語「プロモーター変異体」とは、基本プロモーターの核酸配列中、一部のヌクレオチドが欠失、付加、または置換され、基本プロモーターと異なるまたは向上した目的タンパク質発現活性を有するプロモーターとして定義される。
【0017】
本発明にて使用される用語「相同性」とは、野生型(wild type)または同一活性を有する変異体の核酸配列との同一性を示すものであり、相同性の比較は肉眼で、または購入が容易な比較プログラムを用いて、2つ以上の配列間の相同性を百分率(%)で計算することができる。
【0018】
本発明にて使用される用語「目的タンパク質」とは、外来タンパク質であって、前記タンパク質を発現する形質転換された菌株(または宿主細胞)では、正常に存在することができないタンパク質を意味する。
【0019】
本発明にて使用される用語「ポリヌクレオチド」とは、非変性(non-modified)または変性された(modified)全部のポリリボヌクレオチド(RNA)またはポリデオキシリボヌクレオチド(DNA)を意味する。前記ポリヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖DNA、一本鎖および二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖および二本鎖RNA、一本鎖および二本鎖領域の混合物であるRNAまたはこれらのハイブリッド分子を含むが、これらに制限されるものではない。
【0020】
本発明にて使用される用語「作動可能に連結された(operably linked)」とは、プロモーター配列と目的とするタンパク質をコードするヌクレオチド配列が機能的に連結され、プロモーターが目的タンパク質の発現を調節することができる状態として定義される。例えば、プロモーターがコード配列の発現を制御することができる場合(すなわち、コード配列がプロモーターの転写調節下にある場合)、プロモーターは、コード配列と連結されて作動したり、リボソーム結合部位が翻訳を促進させることが可能なように位置していれば、リボソーム結合部位は、コード配列に連結され作動するものである。コード配列は、センス方向またはアンチセンス方向で、調節配列に連結され、作動可能である。
【0021】
本発明にて使用される用語「組換えベクター」とは、プロモーター変異体または目的遺伝子を制限酵素を用いて切り出し、これをベクターに挿入して作製した組換えDNAとして定義される。
【0022】
本発明にて使用される用語「クローニングベクター」とは、宿主細胞内にDNA断片を運び、これを再生産することができる物質として定義される。前記クローニングベクターは、ポリアデニル化シグナル(polyadenylation signal)、転写終結配列(transcription termination sequence)およびマルチクローニングサイト(multiple cloning site)を含むことができる。前記マルチクローニングサイト(multiple cloning site)は、少なくとも一つのエンドヌクレアーゼ(endonuclease)制限酵素切断部位(restriction site)を含む。また、クローニングベクターは、プロモーターをさらに含むことができる。また、クローニングベクター内で目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、ポリアデニル化シグナル(polyadenylation signal)および転写終結配列(transcription termination sequence)の上流(upstream)に位置することができる。
【0023】
本発明にて使用される用語「発現ベクター」とは、適切な宿主内でクローニングされたDNAの転写と翻訳に必要なDNA配列として定義され、具体的には、個体の細胞内に存在する場合、挿入物が発現されるように挿入物に作動可能に連結された必須の調節エレメントを含む遺伝子作製物を意味する。発現ベクターは、標準的な組換えDNA技術を利用して、製造および精製することができる。前記発現ベクターの種類は、原核細胞および真核細胞の各種宿主細胞において、所望の遺伝子を発現し、所望のタンパク質を生産する機能をする限り、特に限定されない。発現ベクターは、少なくとも、プロモーター、開始コドン、所望のタンパク質をコードする遺伝子および終止コドンターミネータを含む。また、発現ベクターは、それ以外にシグナルペプチドをコードするDNA、さらなる発現調節配列、所望する遺伝子の5’側および3’側の非翻訳領域、選択マーカー領域、または複製可能単位などを適切に含むこともできる。前記選択マーカー領域は、目的とするベクターを選別するための抗生物質の選択マーカー遺伝子であることができる。
【0024】
本発明にて使用される用語「組換え菌株」とは、一つ以上の目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドまたはこれを有する発現ベクターが宿主細胞に導入され、形質転換された細胞を意味する。前記発現ベクターを宿主細胞に導入し、形質転換体を製造するための方法としては、一過性トランスフェクション(transient transfection)、マイクロインジェクション、形質導入(transduction)、細胞融合、リン酸カルシウム沈殿法、リポソーム媒介性トランスフェクション(liposome mmediated transfection)、DEAEデキストラン-媒介性トランスフェクション(DEAE Dextran-mediated transfection)、ポリブレン-媒介性トランスフェクション(polybrene-mediated transfection)、電気穿孔法(electroporation)、電子注入法(electroinjection)、PEGなどの化学的処理方法,遺伝子銃(gene gun)などを用いる方法、熱ショック(heat shock)方法などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
本発明にて使用される用語「基質」とは、酵素の作用によって別の化合物に変換されるまたは変換されるようになっている任意の物質または化合物を指す。前記用語は、単一の化合物だけでなく、溶剤、混合物、および最低一つの基質を含む他の材料などの化合物の組み合わせ、並びにこれらの誘導体を包括する。
【0026】
本発明の一側面は、目的タンパク質を恒常的に高発現させることができる新規プロモーター変異体に関するものである。本発明の一例による新規プロモーター変異体は、配列番号9または配列番号10の塩基配列から構成される。本発明の発明者は、配列番号9の塩基配列から構成されたプロモーター変異体を「tatAm1」と命名し、配列番号10の塩基配列から構成されたプロモーター変異体を「tatAm2」と命名する。本発明の一例による新規プロモーター変異体tatAm1は、配列番号1の塩基配列から構成された大腸菌(Escherichia coli)由来のtatA(twin arginine translocase A)遺伝子プロモーターが変異されたものであって、具体的には、配列番号1の塩基配列中、160番目のヌクレオチドであるチミン(T)の後にサイトシン(C)が付加されたものである。また、本発明の一例による新規プロモーター変異体tatAm2は、配列番号1の塩基配列中、146番目のヌクレオチドであるサイトシン(C)がグアニン(G)に置換され、148番目のヌクレオチドであるサイトシン(C)がアデニン(A)に置換され、149番目のヌクレオチドであるアデニン(A)がグアニン(G)に置換され、159番目のヌクレオチドおよび160番目のヌクレオチドであるグアニン(G)およびチミン(T)が欠失したものである。前記配列番号9の塩基配列から構成されたプロモーター変異体は、リボソーム結合部位(Ribosome-Binding Site、RBS)スペーサ(spacer)変異によって発生したものであり、前記配列番号10の塩基配列から構成されたプロモーター変異体は、リボソーム結合部位(Ribosome-Binding Site、RBS)周囲の配列変異によって発生したものである。本発明の一例による新規プロモーター変異体を含む発現システムは、大腸菌において目的タンパク質を恒常的に高発現させることができる。したがって、本発明の一例による新規プロモーター変異体は、恒常発現用プロモーターとして使用され得る。本発明の一例による新規プロモーター変異体は、配列番号9の塩基配列または配列番号10の塩基配列から構成されるが、本発明の一例による新規プロモーター変異体の均等範囲が必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、本発明の一例による新規プロモーター変異体の均等範囲は、目的タンパク質を恒常的に高発現させる機能が維持される範囲内で配列番号9の塩基配列中、一部のヌクレオチドが置換、挿入および/または欠失したプロモーターを含む。また、本発明の一例による新規プロモーター変異体の均等範囲は、配列番号9の塩基配列に対して、実質的な同一性を有する配列を含む。前記の実質的な同一性とは、配列番号9の塩基配列または配列番号10の塩基配列と任意の他の配列を最大限対応するようにアライメントし、その配列を解析し、前記任意の他の配列が配列番号9の塩基配列または配列番号10の塩基配列と70%以上、90%以上、または98%以上の配列相同性を有することを意味する。当該分野における通常の知識を有する技術者は、当該分野に公知された遺伝子組換え技術などを用いて、前記新規プロモーター変異体の塩基配列中、一つまたはそれ以上の塩基を置換、付加または欠失させることによって実質的な相同性を有する範囲において、同一または類似する活性を有するポリヌクレオチドを製造することができることを容易に理解されるであろう。このような相同性の比較は、市販のコンピュータプログラムを用いて、2つ以上の配列間の相同性を百分率(%)で計算して行うことができる。したがって、本発明の一例による新規プロモーター変異体の均等範囲は、目的タンパク質を恒常的に高発現させる機能が維持される範囲内で配列番号9の塩基配列または配列番号10の塩基配列と70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、または99%以上の相同性を有する塩基配列を含むことができる。
【0027】
本発明の他の側面は、本発明の一例による新規プロモーター変異体の多様な用途に関するものである。本発明の一例による新規プロモーター変異体の用途としては、組換えベクター、発現ベクター、組換え菌株、目的タンパク質の生産方法、組換え菌株を用いて目的タンパク質の機能を発揮する方法などがあり、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0028】
本発明の一例による組換えベクターは、配列番号9の塩基配列または配列番号10の塩基配列から構成されたプロモーター変異体を含む。
【0029】
前記組換えベクターは、クローニングベクターであってもよい。前記クローニングベクターは、複製起点、目的タンパク質遺伝子をクローニングするためのマルチクローニングサイト(Multi cloning site、MCS)、転写終結配列(transcription termination sequence)および選択マーカー(selection marker)を含むことができる。前記選択マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選別するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性または表面タンパク質の発現のような選択可能表現型を付与するマーカーが使用され得る。選択剤(selective agent)が処理された環境にて選択マーカーを発現する細胞のみ生存するため、形質転換された細胞を選別することが可能である。例えば、前記選択マーカーは、カナマイシン(Kanamycin)抗生物質耐性遺伝子またはアンピシリン(Ampicillin)抗生物質耐性遺伝子のような薬物耐性遺伝子であってもよい。
【0030】
また、前記組換えベクターは、発現ベクターであってもよい。前記発現ベクターは、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドおよびこれと作動可能に連結され、配列番号9の塩基配列から構成されたプロモーター変異体を含む。前記プロモーター変異体は、好ましくは、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの上流(upstream)に位置する。本発明の一例による発現ベクターを通じて発現される目的タンパク質は、その種類が大きく制限されず、例えば、炭水化物の生合成または代謝に関与するタンパク質、脂質および脂肪酸の生合成または代謝に関与するタンパク質、タンパク質およびペプチドの生合成または代謝に関与するタンパク質などから選択することができる。また、前記目的タンパク質は、プロモーター変異体の発現調節の活性を考慮したとき、酵素であることが好ましい。前記酵素の種類は、大きく制限されず、D-アルロース3-エピマー化酵素(D-allulose 3-epimerase)、D-タガトース3-エピマー化酵素(D-tagatose 3-epimerase)、(1→4)-α-D-グルカン1-α-D-グルコシルムターゼ[(1→4)-alpha-D-glucan 1-alpha-D-glucosylmutase]、4-α-D-{(1→4)-α-D-グルカノ}トレハローストレハロヒドロラーゼ[4-alpha-D-{(1→4)-alpha-D-glucano}trehalose trehalohydrolase]、L-ラムノースイソメラーゼ(L-rhamnose isomerase)、果糖-6-リン酸-3-エピマー化酵素(fructose-6-phosphate-3-epimerase)などから選択されることができ、D-アルロース3-エピマー化酵素(D-allulose 3-epimerase)、(1→4)-α-D-グルカン1-α-D-グルコシルムターゼ[(1→4)-alpha-D-glucan 1-alpha-D-glucosylmutase]、4-α-D-{(1→4)-α-D-グルカノ}トレハローストレハロヒドロラーゼ[4-alpha-D-{(1→4)-alpha-D-glucano}trehalose trehalohydrolase]から選択されることが好ましい。本発明の実施例では、具体的に記載していないが、本発明の新規プロモーター変異体は、配列番号1の塩基配列から構成された大腸菌(Escherichia coli)由来のtatA(twin arginine translocase A)遺伝子プロモーターと比較したとき、(1→4)-α-D-グルカン1-α-D-グルコシルムターゼ[(1→4)-alpha-D-glucan 1-alpha-D-glucosylmutase]、4-α-D-{(1→4)-α-D-グルカノ}トレハローストレハロヒドロラーゼ[4-alpha-D-{(1→4)-alpha-D-glucano}trehalose trehalohydrolase]などをより高いレベルで発現させた。前記アルロースエピマー化酵素は、果糖をアルロースへ転換する活性を有する酵素であれば、その種類が大きく制限されず、例えば、配列番号3のアミノ酸配列、配列番号5のアミノ酸配列または配列番号7のアミノ酸配列から構成されることができる。また、前記アルロースエピマー化酵素をコードするポリヌクレオチドは、配列番号4の塩基配列、配列番号6の塩基配列または配列番号8の塩基配列から構成されることができる。また、本発明は、アルロースエピマー化酵素およびこれをコードするポリヌクレオチドと関連し、大韓民国登録特許公報第10-1919713号、大韓民国登録特許公報第10-2187354号、大韓民国登録特許公報第10-1656063号、大韓民国登録特許公報第10-1695830号、大韓民国登録特許公報第10-2189458号、大韓民国登録特許公報第10-1539097号、大韓民国登録特許公報第10-1539096号、大韓民国登録特許公報第10-1455759号、大韓民国登録特許公報第10-1318422号などに開示された内容を含む。本発明の好ましい一例による発現ベクターは、
図1のベクターマップまたは
図2のベクターマップを有する。
図1のベクターマップを有する発現ベクターは、pUC由来の複製起点(replication origin、ori)、配列番号9の塩基配列からなるプロモーター変異体(PtatAm1)、配列番号8の塩基配列からなるアルロースエピマー化酵素をコードするポリヌクレオチド[FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)]、カナマイシン耐性遺伝子マーカー(KanR)などが順次連結された構造を有する。また、
図2のベクターマップを有する発現ベクターは、pUC由来の複製起点(replication origin、ori)、配列番号10の塩基配列からなるプロモーター変異体(PtatAm2)、配列番号8の塩基配列からなるアルロースエピマー化酵素をコードするポリヌクレオチド[FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)]、カナマイシン耐性遺伝子マーカー(KanR)などが順次連結された構造を有する。
【0031】
本発明の一例による組換え菌株は、目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドおよびこれと作動可能に連結され、配列番号9の塩基配列または配列番号10の塩基配列から構成されたプロモーター変異体からなる発現カセットまたは前記発現カセットを含む発現ベクターの導入によって宿主細胞が形質転換されたものである。本発明において、発現ベクターで形質転換され得る宿主細胞としては、本発明の一例による新規プロモーター変異体が円滑に作動することができるものであれば、その種類が大きく制限されず、原核生物であることが好ましく、新規プロモーター変異体の発現調節の活性、DNAの導入効率、導入されたDNAの発現効率などを考慮したとき、大腸菌であることがより好ましい。前記大腸菌として、BL21、JM109、K-12、LE392、RR1、DH5α、またはW3110などが挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0032】
本発明の一例による目的タンパク質の製造方法は、前述した組換え菌株を培養し、目的タンパク質を発現させる段階と、組換え菌株の培養液または組換え菌株の菌体から目的タンパク質を分離する段階と、を含む。前記目的タンパク質は、その種類によって発現後、組換え菌株の菌体内に存在するか、組換え菌株の菌体外に分泌されることができる。例えば、目的タンパク質がアルロースエピマー化酵素である場合、組換え菌株によって生産されたアルロースエピマー化酵素は、組換え菌株の菌体内に存在するようになる。本発明の好ましい一例によるアルロースエピマー化酵素の製造方法は、アルロースエピマー化酵素をコードするポリヌクレオチドおよびこれと作動可能に連結され、配列番号9の塩基配列から構成されたプロモーター変異体からなる発現カセットまたは前記発現カセットを含む発現ベクターの導入によって形質転換された組換え菌株を培養し、アルロースエピマー化酵素を発現させる段階と、前記アルロースエピマー化酵素が発現された組換え菌株の破砕物からアルロースエピマー化酵素を分離する段階と、を含む。本発明の一例による新規プロモーター変異体は、恒常発現ベクターであるため、タンパク質発現誘導因子であるIPTG(isopropyl-1-thio-β-D-galactopyranoside)などを用いずに発現を誘導することができる。本発明におけるアルロースエピマー化酵素は、組換え菌株の破砕物から回収することができる。タンパク質発現に用いられた細胞は、凍結-解凍の反復、超音波処理、機械的破壊または細胞分解剤のような多様な物質的または化学的手段によって破壊されることができ、通常の生化学的分離技術によって分離または精製が可能である(Sambrook et al.,Molecular Cloning:A laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989;Deuscher,M.,Guide to Protein Purification Methods Enzymology、Vol.182.Academic Press.Inc.,San Diego,CA,1990)。例えば、宿主細胞によって発現されたタンパク質の分離または精製方法としては、電気泳動、遠心分離,ゲル濾過、沈殿、透析、クロマトグラフィー(イオン交換クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー、免疫吸着親和性クロマトグラフィー、逆相HPLC、ゲル浸透HPLC)、等電点電気泳動およびその多様な変化または複合方法が含まれるが、これらに局限されるものではない。一方、本発明において、組換え菌株の破砕物からアルロースエピマー化酵素を分離する段階は、好ましくは、ペプチドタグを用いた親和性クロマトグラフィー(affinity chromatography)によって行われることができる。前記ペプチドタグとしては、HAタグ、FLAGタグ、Hisタグ、BCCP(biotin carboxyl carrier protein)、c-mycタグ、V5タグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)またはMBP(maltose binding protein)などのように公知の多様なタグを用いることができ、このうち、Hisタグであることが好ましい。His-タグをつけたタンパク質は、Ni-NTA(ニッケル-ニトリロ三酢酸)樹脂のカラム上に特異的にトラッピングされ、EDTAまたはイミダゾールによって溶出されることができる。
【0033】
本発明の一例による組換え菌株は、目的タンパク質を製造するために用いられること以外に、目的タンパク質の機能を間接的に発揮させるのに用いられることができる。例えば、前記目的タンパク質が酵素である場合、本発明の一例による組換え菌株は、基質から酵素変換反応による生成物を製造するのに用いられることができる。具体的には目的タンパク質がアルロースエピマー化酵素である場合、本発明は、果糖含有溶液に組換え菌株を添加し、反応させる段階を含む果糖からアルロースを製造する方法を提供する。前記組換え菌株は、アルロースエピマー化酵素をコードするポリヌクレオチドおよびこれと作動可能に連結され、配列番号9の塩基配列または配列番号10の塩基配列から構成されたプロモーター変異体からなる発現カセット、または前記発現カセットを含む発現ベクターの導入によって形質転換された宿主細胞であり、好ましくは、組換え大腸菌(Escherichia coli)である。また、前記果糖含有溶液は、アルロースエピマー化酵素の活性を促進させるために、Ca2+、Mn2+のような金属イオンをさらに含むことができる。また、前記果糖からアルロースを製造する方法において、反応温度は50~70℃、好ましくは55~65℃、組換え菌株の円滑な酵素発現、酵素の安定性および最大活性を考慮したとき、より好ましくは55~60℃の範囲であり、反応pHは6.5~8、好ましくは6.5~7.5、より好ましくは6.5~7の範囲である。また、前記果糖からアルロースを製造する方法において、果糖の濃度は、特に制限されないが、生産性ないし経済性を考慮したとき、全反応物を基準として1~75%(w/w)であることが好ましく、35~45%(w/w)であることがより好ましい。
【0034】
以下、本発明を実施例を通じてより具体的に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明の技術的特徴を明確に例示するためのものに過ぎず、本発明の保護範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0035】
実施例1:酵素遺伝子発現のためのプロモーターの確保
1.1.tatA(twin arginine translocase A)遺伝子プロモーターの確保
tatA(twin arginine translocase A)遺伝子プロモーターは、大腸菌(Escherichia coli)のtatA(twin arginine translocase A)遺伝子を発現するためのプロモーターであって、配列番号1の塩基配列から構成され、大腸菌内で恒常発現を誘導するプロモーターとして知られている。
【0036】
大腸菌からtatA(twin arginine translocase A)遺伝子のプロモーター部位に該当するポリヌクレオチド断片を確保するために、大腸菌MG1655のゲノムDNA(genomic DNA)を鋳型とし、次の表1に記載されたプライマーセットを用いてPCRを行った。得られた増幅産物をpGEM-Teasy vector(Promega Co.、USA)を用いてクローニングし、塩基配列を解析した結果、160bpの長さを有し、配列番号1の塩基配列から構成されたポリヌクレオチド断片であることを確認した。
【0037】
【0038】
1.2.BLMA遺伝子プロモーターの確保
BLMA遺伝子プロモーターは、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)のマルトジェニックアミラーゼ(maltogenic amylase)遺伝子を発現するためのプロモーターであって、配列番号2の塩基配列から構成され、大腸菌内で外来遺伝子の安定的な高発現を誘導するプロモーターとして知られている[TAE-JIP KIM et al(1999)Modes of Action of Acarbose Hydrolysis and Transglycosylation Catalyzed by a Thermostable Maltogenic Amylase、the Gene for Which Was Cloned from a Thermus Strain参照]。
【0039】
バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)からマルトジェニックアミラーゼ(maltogenic amylase)遺伝子のプロモーター部位に該当するポリヌクレオチド断片を確保するために、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)ATCC14580のゲノムDNA(genomic DNA)を鋳型とし、下記の表2に記載されたプライマーセットを用いてPCRを行った。得られた増幅産物をpGEM-Teasy vector(Promega Co.、USA)を用いてクローニングし、塩基配列を解析した結果、115bpの長さを有し、配列番号2の塩基配列から構成されたポリヌクレオチド断片であることを確認した。
【0040】
【0041】
実施例2:アルロースエピマー化酵素変異体クローニングベクターの確保
本発明の出願人は、大韓民国登録特許公報第10-14739180号を通じてフラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)に由来の野生型D-アルロースエピマー化酵素およびこれをコードするポリヌクレオチドを開示した。前記野生型D-アルロースエピマー化酵素は、配列番号3のアミノ酸配列から構成され、これをコードするポリヌクレオチドは、配列番号4の塩基配列から構成される。
【0042】
また、本発明の出願人は、大韓民国公開特許公報第10-2021-0132405号を通じて果糖のアルロースへの転換率および熱安定性向上したD-アルロースエピマー化酵素変異体W29K/G216S/M234Iおよびこれをコードするポリヌクレオチドを開示した。前記D-アルロースエピマー化酵素変異体W29K/G216S/M234Iは、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)由来の野生型D-アルロースエピマー化酵素のアミノ酸配列中、29番目の位置に存在するトリプトファン(Trp)がリシン(Lys)に置換され、216番目の位置に存在するグリシン(Gly)がセリン(Ser)に置換され、同時に234番目の位置に存在するメチオニン(Met)がイソロイシン(Ile)に置換されたものであって、配列番号5のアミノ酸配列から構成され、これをコードするポリヌクレオチドは、配列番号6の塩基配列から構成される。
【0043】
また、本発明の出願人は、高温条件で熱安定性に非常に優れたD-アルロースエピマー化酵素変異体W29K/A77S/G216S/M234Iを想到し、2021年12月14日付で出願した(大韓民国特許出願第10-2021-0178690号、未公開の状態)。前記D-アルロースエピマー化酵素変異体W29K/A77S/G216S/M234Iは、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)由来の野生型D-アルロースエピマー化酵素のアミノ酸配列中、29番目の位置に存在するトリプトファン(Trp)がリシン(Lys)に置換され、77番目の位置に存在するアラニン(Als)がセリン(Ser)に置換され、216番目の位置に存在するグリシン(Gly)がセリン(Ser)に置換され、同時に234番目の位置に存在するメチオニン(Met)がイソロイシン(Ile)に置換されたものであって、配列番号7のアミノ酸配列から構成され、これをコードするポリヌクレオチドは、配列番号8の塩基配列から構成される。
【0044】
D-アルロースエピマー化酵素変異体W29K/G216S/M234Iのポリヌクレオチド(配列番号6)に基づいてオーバーラップ伸長ポリメラーゼ連鎖反応(overlap extension polymerase chain reaction)法を用いて、D-アルロースエピマー化酵素変異体W29K/A77S/G216S/M234Iのアミノ酸配列を暗号化するポリヌクレオチド断片を作製した。具体的には、100μMのデオキシヌクレオチド三リン酸(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)が添加された反応液に下記表3のオリゴヌクレオチドプライマー(A77S順方向プライマー、A77S逆方向プライマー)1pM、テンプレート(鋳型)として用いられるD-アルロースエピマー化酵素変異体W29K/G216S/M234Iのポリヌクレオチド(配列番号6)100ngを混合し、Thermocycler(TP600、TAKARA BIO Inc.,JAPAN)を用いて、pfu-X DNAポリメラーゼ混合物(Bioneer)1ユニットの存在下に25~30サイクルでPCR反応を行った。プライマーの組み合わせにより変異体断片を増幅させた後、増幅された断片を鋳型とし、下記表3のNdeIとXhoI制限酵素認識部位の配列が導入されたオリゴヌクレオチドプライマー(NdeI順方向プライマー、XhoI逆方向プライマー)を用いて、オーバーラップ伸長(overlap extentention)PCRにより、最終的にD-アルロースエピマー化酵素変異体W29K/A77S/G216S/M234Iのアミノ酸配列を暗号化するポリヌクレオチド断片(配列番号8)を作製した。それから、作製されたポリヌクレオチド断片を制限酵素NdeIとXhoIを用いて、pET28a vector(Novagen)の同一の制限酵素部位に挿入し、クローニングベクターを確保した。
【0045】
【0046】
実施例3:プロモーターとアルロースエピマー化酵素変異体遺伝子の連結断片の製造
3.1.tatAプロモーターとアルロースエピマー化酵素変異体遺伝子が連結されたDNA断片の製造
tatAプロモーターを増幅させるため、実施例1にて確保したtatAプロモーターがクローニングされたpGEM-Teasy vectorを鋳型とし、下記表4のプライマーセット(XhoI-PtatA、PtatA-FpDPE_R)を用いてPCRを行った。
【0047】
また、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)由来のD-アルロースエピマー化酵素変異体であるW29K/A77S/G216S/M234Iの遺伝子を増幅させるため、実施例2にて確保したD-アルロースエピマー化酵素変異体W29K/A77S/G216S/M234Iの遺伝子がクローニングされたpET28a vector(Novagen)を鋳型とし、下記表4のプライマーセット(PtatA-FpDPE_F、PstI-FpDPE)を用いてPCRを行った。
【0048】
【0049】
このように増幅されたtatAプロモーター断片とD-アルロースエピマー化酵素変異体遺伝子断片は、増幅時、使用したプライマーの相補的配列により一つの断片で連結されることができる。二つの断片を鋳型とし、前記表4のXhoIとPstI制限酵素認識部位の配列が導入されたプライマー(XhoI-PtatA、PstI-FpDPE)を用いて、オーバーラップ伸長(overlap extension)PCRを行い、一つの増幅された断片を得た。確保したtatAプロモーターとアルロースエピマー化酵素変異体W29K/A77S/G216S/M234Iの遺伝子が連結されたDNA断片を「PtatA-FpDPE」と命名した。
【0050】
3.2.BLMAプロモーターとアルロースエピマー化酵素遺伝子が連結されたDNA断片の製造
BLMAプロモーターを増幅させるため、実施例1にて確保したBLMAプロモーターがクローニングされたpGEM-Teasy vectorを鋳型とし、下記表5のプライマーセット(XhoI-PblmA、Pblma-FpDPE_R)を用いてPCRを行った。
【0051】
また、フラボニフラクター・プラウティ(Flavonifractor plautii)由来のD-アルロースエピマー化酵素変異体であるW29K/A77S/G216S/M234Iの遺伝子を増幅させるため、実施例2にて確保したD-アルロースエピマー化酵素変異体W29K/A77S/G216S/M234Iの遺伝子がクローニングされたpET28a vector(Novagen)を鋳型とし、下記表5のプライマーセット(Pblma-FpDPE_F、PstI-FpDPE)を用いてPCRを行った。
【表5】
このように増幅されたBLMAプロモーター断片とD-アルロースエピマー化酵素変異体遺伝子断片は、増幅時、使用したプライマーの相補的配列によって一つの断片で連結されることができる。二つの断片を鋳型とし、前記表5のXhoIとPstI制限酵素認識部位の配列が導入されたプライマー(XhoI-PblmA、PstI-FpDPE)を用いて、オーバーラップ伸長(overlap extension)PCRを行い、一つの増幅された断片を得た。確保したBLMAプロモーターとアルロースエピマー化酵素変異体W29K/A77S/G216S/M234Iの遺伝子が連結されたDNA断片を「Pblma-FpDPE」と命名した。
【0052】
実施例4:D-アルロースエピマー化酵素変異体発現ベクターの製造
4.1.tatAプロモーターを有するD-アルロースエピマー化酵素変異体発現ベクターの製造
pTrc99A vector(PharmaciA、US)から遺伝子組み換えによって大腸菌において複製可能なpUC由来の複製起点(replication origin)、制限酵素XhoI部位とPstI部位のようなマルチクローニングサイト(Multi cloning site、MCS)、転写ターミネーター(transcription terminator)およびカナマイシン(Kanamycin)抗生剤耐性遺伝子を含む組換えプラスミドベクターを作製した。それから、実施例3にて作製したポリヌクレオチド断片PtatA-FpDPEを制限酵素XhoIとPstIで切断した後、これを同一の制限酵素位置を有する前記組換えプラスミドベクターとライゲーション(ligation)し、D-アルロースエピマー化酵素変異体発現ベクターpPtatA:FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)を製造した。それから、D-アルロースエピマー化酵素変異体発現ベクターを熱ショック(heat shock)方法(Sambrook and Russell:Molecular Cloning参照)により大腸菌DH5αに形質転換し、カナマイシン耐性を有するコロニーを確保し、5個のコロニーを選択し、組換え発現ベクターpPtatA:FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)5種を回収した後、塩基配列を解析した。pPtatA:FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)組換え発現ベクター5種の配列解析の結果、導入されたtatAプロモーターまたはアルロースエピマー化酵素変異体W29K/A77S/G216S/M234I遺伝子配列にそれぞれランダムに変異が確認され、ランダムに変異内容を下記表6に示した。
【0053】
【0054】
前記表6に示すように、コロニー2、3および5にて回収した組換え発現ベクターの場合、アルロースエピマー化酵素変異体遺伝子配列に変異が起きて、目的アルロースエピマー化酵素変異体を作るための翻訳(translation)がされ得ないものと判断される。その反面、コロニー1にて回収した組換え発現ベクターの場合、tatAプロモーターのリボソーム結合部位(Ribosome-Binding Site、RBS)と翻訳開始コドン間に位置するスペーサ(spacer)配列に変異が起きており、コロニー4にて回収した組換え発現ベクターの場合、tatAプロモーターのリボソーム結合部位(Ribosome-Binding Site、RBS)周囲の配列に変異が起き、酵素遺伝子配列は一致することから、目的とする酵素発現の可能性があると判断した。コロニー1にて回収した組換え発現ベクター内の変異プロモーターを「tatAm1」と命名し、コロニー4にて回収した組換え発現ベクター内の変異プロモーターを「tatAm2」と命名した。tatAm1プロモーターは、配列番号9の塩基配列から構成され、tatAm2プロモーターは、配列番号10の塩基配列から構成される。また、コロニー1にて回収した組換え発現ベクターを「pPtatapAm1:FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)」と再命名し、コロニー4にて回収した組換え発現ベクターを「pPtatAm2:FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)」と再命名した。
図1は、本発明の実施例にて製造した組換え発現ベクターpPtatAm1:FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)のベクターマップである。
図2は、発明の実施例にて製造した組換え発現ベクターpPtatAm2:FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)のベクターマップである。
【0055】
4.2.BLMAプロモーターを有するD-アルロースエピマー化酵素変異体発現ベクターの製造
pTrc99A vector(Pharmacia、US)から遺伝子組み換えを通じて大腸菌において複製可能なpUC由来の複製起点(replication origin)、制限酵素XhoI部位とPstI部位のようなマルチクローニングサイト(Multi cloning site、MCS)、転写ターミネーター(transcription terminator)およびカナマイシン(Kanamycin)抗生剤耐性遺伝子を含む組換えプラスミドベクターを作製した。それから、実施例3にて作製したポリヌクレオチド断片Pblma-FpDPEを制限酵素XhoIとPstIで切断した後、これを同一の制限酵素位置を有する前記組換えプラスミドベクターとライゲーション(ligation)し、D-アルロースエピマー化酵素変異体発現ベクターをpPblma:FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)を製造した。その後、D-アルロースエピマー化酵素変異体発現ベクターを熱ショック(heat shock)方法(Sambrook and Russell:Molecular Cloning参照)により大腸菌DH5αに形質転換し、カナマイシン耐性を有するコロニーを確保し、6個のコロニーを選択し、組換え発現ベクターpPblma:FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)の6種を回収した後、塩基配列を解析した。組換え発現ベクターpPblma:FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)の6種の配列解析の結果、全部意図したとおりのBLMAプロモーターおよびアルロースエピマー化酵素変異体遺伝子配列が存在することが確認された。
図3は、本発明の実施例にて製造した組換え発現ベクターpPblma:FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)のベクターマップである。
【0056】
実施例5:D-アルロースエピマー化酵素変異体発現ベクターによる形質転換体の製造
実施例4にて製造した組換え発現ベクターpPtatAm1:FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)、pPtatAm2:FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)およびpPblma:FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)のそれぞれを大腸菌(E.coli)W3110に熱ショック(heat shock)方法により導入した。その後、カナマイシン抗生剤耐性有無を確認し、前記組換え発現ベクターで形質転換された組換え菌株を選別した。作製された組換え大腸菌にグリセリン溶液を最終濃度が20%(v/v)になるように添加し、酵素発現のための培養を実施する前に-70℃で冷凍保管した。
【0057】
実施例6:組換え菌株による果糖のアルロースへの転換率の測定およびプロモーターの酵素発現強度の比較
D-アルロースエピマー化酵素は、果糖をアルロースで転換させることができるため、組換え菌株の酵素発現量に比例する果糖のアルロースへの転換率 の測定を通じて組換え菌株内の各プロモーターの酵素発現誘導の強さを比較した。
【0058】
組換え発現ベクターで形質転換された組換え大腸菌を培養するために、1L用量のフラスコにカナマイシンを最終濃度50μg/mlで含むLB培地100mlを収容し、ここに実施例5にて作製した組換え大腸菌1mlを接種した。それから、フラスコを振とう培養器に移し、30℃の温度条件および140rpmの振とう条件を維持しながら、14時間(hr)の間、組換え大腸菌を培養し、培養液を遠心分離して菌体を回収した。その後、30%(w/w)の果糖および1mMの硫酸マンガン(MnSO
4)の金属イオンが含まれた50mMのPIPES緩衝溶液(pH7.0)に回収した菌体を1mg/mlの濃度で添加し、62℃で所定の時間の間、反応を進めさせた後に反応生成液の温度を4℃まで下げ、反応を停止させ、16,600×gおよび4℃の条件で遠心分離し、上澄み液を回収した。その後、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、上澄み液中のアルロースの濃度および果糖の濃度を測定し、測定された結果から果糖のアルロースへの転換率を計算した後、転換率を酵素活性の指標として用いた。
図4は、本発明の実施例にて作製した組換え大腸菌を用いて、果糖のアルロースへの転換反応を進めるとき、反応時間による転換率を示すものである。
図4にて「PtatAm1」は、組換え発現ベクターpPtatAm1:FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)で形質転換された組換え大腸菌を示し、「PtatAm2」は、組換え発現ベクターpPtatAm2:FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)で形質転換された大腸菌を示し、「Pblma」は、組換え発現ベクターpPblma:FpDPE(W29K/A77S/G216S/M234I)で形質転換された大腸菌を示す。
図4に示すように、tatAm1プロモーターが導入された組換え大腸菌およびtatAm2プロモーターが導入された組換え大腸菌は、BLMAプロモーターが導入された組換え大腸菌に比べて非常に高い果糖のアルロースへの転換率を示し、このような結果からtatAm1プロモーターおよびtatAm2プロモーターの酵素発現誘導効果がBLMAプロモーターに比べて非常に強いことが分かる。また、その一方、恒常発現プロモーターによる目的遺伝子の発現強度が強すぎると、組換え菌株に負荷を与え得るため、tatAm1プロモーターによる発現強度がtatAm2プロモーターによる発現強度に比べて多少低くても、商業的な観点でtatAm1プロモーターがより有利であるものと判断される。
【0059】
上述のように、本発明を前記の実施例を通じて説明したが、本発明が必ずしもこれに限定されるものではなく、本発明の範囲と思想を逸脱しない範囲内で多様な変形実施が可能である。したがって、本発明の保護範囲は、本発明に添付された特許請求の範囲に属する全ての実施形態を含むものと解釈されるべきである。
【配列表】
【国際調査報告】