(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】カリウムチャネル及びTRPV1チャネルのモジュレーター、並びにその使用
(51)【国際特許分類】
C07C 237/20 20060101AFI20250117BHJP
C07D 209/08 20060101ALI20250117BHJP
C07D 209/10 20060101ALI20250117BHJP
C07D 209/30 20060101ALI20250117BHJP
C07D 407/12 20060101ALI20250117BHJP
C07D 401/10 20060101ALI20250117BHJP
C07D 407/10 20060101ALI20250117BHJP
C07D 205/04 20060101ALI20250117BHJP
A61K 31/397 20060101ALI20250117BHJP
A61K 31/404 20060101ALI20250117BHJP
A61K 31/341 20060101ALI20250117BHJP
C07D 307/22 20060101ALI20250117BHJP
C07D 407/14 20060101ALI20250117BHJP
C07D 401/04 20060101ALI20250117BHJP
A61K 31/4439 20060101ALI20250117BHJP
A61K 31/4196 20060101ALI20250117BHJP
A61K 31/165 20060101ALI20250117BHJP
A61K 31/41 20060101ALI20250117BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20250117BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20250117BHJP
A61P 27/16 20060101ALI20250117BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C07C237/20 CSP
C07D209/08
C07D209/10
C07D209/30
C07D407/12
C07D401/10
C07D407/10
C07D205/04
A61K31/397
A61K31/404
A61K31/341
C07D307/22
C07D407/14
C07D401/04
A61K31/4439
A61K31/4196
A61K31/165
A61K31/41
A61P17/00
A61P25/04
A61P27/16
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539538
(86)(22)【出願日】2023-01-18
(85)【翻訳文提出日】2024-08-23
(86)【国際出願番号】 IL2023050058
(87)【国際公開番号】W WO2023139581
(87)【国際公開日】2023-07-27
(32)【優先日】2022-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524244409
【氏名又は名称】ビーセンス バイオ セラピューティクス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BSENSE BIO THERAPEUTICS LTD.
【住所又は居所原語表記】2 Ilan Ramon Street, 3rd Floor, P.O. Box 4044, Ness Ziona, Israel
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラヴェー アディ
(72)【発明者】
【氏名】シルバーマン アロン
(72)【発明者】
【氏名】ベリンソン ハイム
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン アラン ダニエル
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BA03
4C086BC02
4C086BC13
4C086BC17
4C086BC60
4C086BC62
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA08
4C086ZA34
4C086ZA89
4C086ZC41
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206GA09
4C206GA23
4C206GA26
4C206GA30
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA08
4C206ZA34
4C206ZA89
4C206ZC41
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB20
4H006BJ50
4H006BM30
4H006BM71
4H006BM72
4H006BN10
4H006BU46
4H006BV22
(57)【要約】
下記式I:
【化1】
(式中、A、B、W、V、Z、Ra、Rb、n及びmは本願明細書で定義した通り)、或いは本願明細書で定義した式Ia、Ib、III、IV又はVで表される化合物、並びに電位依存性カリウムチャネル及び/又はTRPV1チャネルの活性の調節、及びこれらチャネルの活性と関連する病態、例えばニューロンの渦興奮と関連する病態、の治療におけるその使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式I:
【化1】
(式中、
AとBは各々独立してアリール及びヘテロアリールから選択され、
Wは、-S-、-O-、-CR
1(OH)-、-C(=O)、及びNRxから選択され、Rxは環AのRa置換基の1つと共に窒素含有複素環を形成し、
nは1~5の整数であり、
mは0~4の整数であり、
RaとRbは各々独立してアルキル、シクロアルキル、ハロ、ハロアルキル、ハロアルコキシ、アルコキシ、エーテル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環、アリールオキシ、ヒドロキシ、アミン、アルキルアミン、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、シアノ、カルボキシレート、アミド、カルバメート、スルホニル及びスルホンアミドから選択される置換基であるか、又は、代替として、Ra置換基の少なくとも2つは一緒になって脂環又は複素環を形成し、Ra置換基の少なくとも1つは、存在する場合にRxと一緒になって窒素含有複素環を形成し、及び/又はRb置換基の少なくとも2つは一緒になって脂環又は複素環を形成し、nが1より大きい場合には、各Raは同一又は異なる置換基であり、mが1より大きい場合には、各Rbは同一又は異なる置換基であり、
R
1は、存在する場合、水素又はアルキルであり、
Vは-(CR
2R
3)k-Uであり、
kは0、1又は2であり、
R
2とR
3は各々独立して水素、アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択され、
Uはアミド(-C(=O)-NR
10-)又はそのアイソステアであり、
前記Zは下記式IIで表され、
【化2】
(式中、
uとqは各々独立して0~4の整数であり(但し、u+qは少なくとも2であり)、
Xは-O-及び-NR
9-から選択されるか、又は存在せず、
YはOR
11、SR
11、アミン(NR
12R
13)又はアミド(-NR
12-C(=O)-R
14)等の極性疎水性基であり、
R
5、R
6、R
7及びR
8は各々独立して水素、ハロ、アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、ヘテロ脂環、アリール、アルキルアミノ、アルコキシ、ハロアルコキシ、ヒドロキシ、エーテル、及びアリールオキシから選択されるか、又は、代替として、R
5、R
6、R
7、R
8及びR
9の内の2つは一緒になって脂環又はヘテロ脂環を形成し、
R
9、R
10、R
11、R
12、R
13及びR
14は各々独立して水素、アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択されるか、又は、代替として、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
11の内の2つ、或いはR
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
12及びR
13の内の2つは一緒になって脂環又はヘテロ脂環を形成する。)
で表される、化合物。
【請求項2】
下記式Ia:
【化3】
(式中、
W、V及びZは、式Iで定義した通りであり、
Ra1~Ra5は、各々独立して、前記Raと同じ定義であり、
Rb1~Rb4は、各々独立して、前記Rbと同じ定義である。)
で表される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記mは0以外であり、前記Rb置換基の少なくとも1つはハロである、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
下記式Ib:
【化4】
(式中、
W、V及びZは、式Iで定義した通りであり、
Rb1、Rb2及びRb4は、各々独立して、前記Rbと同じ定義である。)
Ra1~Ra5は、各々独立して、前記Raと同じ定義であり、
で表される、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
nは3、4又は5である、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
前記Ra置換基の少なくとも2つは、ハロ及びアルコキシから選択される、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
前記Ra置換基の少なくとも1つは、アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル及びアリールから選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
前記Ra置換基の少なくとも1つは、アルキル又はシクロアルキルである、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
前記Ra置換基の少なくとも1つは、前記Wに対してオルト位である、請求項7又は8に記載の化合物。
【請求項10】
nは3であり、
前記Ra置換基の1つは、アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、アルキルアミン、ヘテロアリール、又はヘテロ脂環であり、且つ前記Wに対してオルト位であり、
Ra置換基の他の2つはそれぞれハロであり、
mは1であり、
Rbはハロであり、且つ前記Wに対してパラ位である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項11】
前記Ra1は、アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、アルキルアミン、ヘテロアリール、又はヘテロ脂環である、請求項2又は3に記載の化合物。
【請求項12】
Ra3及びRa5は、各々独立して、ハロである、請求項2、3及び11のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項13】
Xは不存在である、請求項1~12のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項14】
R
5、R
6,、R
7及びR
8の少なくとも1つは、各々独立して、アルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、ハロアルキル、エーテル及びハロから選ばれる、及び/又はR
5、R
6、R
7及びR
8の内の少なくとも2つは一緒になって脂環又はヘテロ脂環を形成する、請求項1~13のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項15】
uは1又は2である、請求項13に記載の化合物。
【請求項16】
qは1であり、且つR
7及びR
8の少なくとも1つ又はそれぞれはアルキルである、又はR
7及びR
8の少なくとも1つ又はそれぞれは水素である、請求項15に記載の化合物。
【請求項17】
R
5、R
6、R
7及びR
8の少なくとも1つは、独立して、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、エーテル、ヘテロ脂環(例:酸素含有)又はシクロアルキルである、請求項15に記載の化合物。
【請求項18】
R
5、R
6,、R
7及びR
8の少なくとも2つは、一緒になって脂環又はヘテロ脂環、好ましくは酸素を含有する4員、5員又は6員のヘテロ脂環を形成する、請求項1~13のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項19】
Xは不存在であり、uは1又は2であり、qは1であり、且つR
5、R
6、R
7及びR
8は一緒になってシクロブタン又はフランを形成する、請求項18に記載の化合物。
【請求項20】
YはOR
11であり、R
11は水素またはアルキル、好ましくは少なくとも1のヒドロキシ、アミド及び/又はカルボキシで置換されたアルキル、又はヘテロアリール、又はヘテロ脂環である、請求項1~19のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項21】
YはNR
12R
13であり、R
12はR
5、R
6、R
7及びR
8の1以上と窒素含有ヘテロ脂環を形成する、又はYは-NR
12-C(=O)-R
14であり、R
12はR
5、R
6、R
7及びR
8の1以上と窒素含有ヘテロ脂環を形成する、請求項1~19のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項22】
RxはRa置換基の1つと共に窒素含有複素環を形成する、請求項1~21のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項23】
Rxは、Wに対してオルト位のRa置換基と共に前記窒素含有複素環を形成する、請求項22に記載の化合物。
【請求項24】
下記式III:
【化5】
(式中、
V及びZは、前記式Iで定義した通りであり、
DはN又はC-Rb3であり、
Ra2~Ra5、Rb1~Rb4、V及びZは、前記式I、Ia又はIbで定義した通りであり、
Rc1及びRc2は、各々独立して、前記Ra1~Ra5で定義した通りである。)
で表される、請求項23に記載の化合物。
【請求項25】
Rc1及びRc2は、各々独立して、水素、アルキル、ハロアルキル及びハロから選ばれる、請求項24に記載の化合物。
【請求項26】
図1に示した化合物から選ばれる、請求項23~25のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項27】
Wは-S-である、請求項1~21のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項28】
下記式IV:
【化6】
(式中、
V及びZは、前記式Iで定義した通りであり、
DはN又はC-Rb3であり、
Ra1~Ra5、Rb1~Rb4、V及びZは、前記式I、Ia又はIbで定義した通りである。)
で表される、請求項27に記載の化合物。
【請求項29】
Ra1はアルキル及びシクロアルキルから選ばれる、請求項28に記載の化合物。
【請求項30】
図2に示した化合物から選ばれる、請求項27又は28に記載の化合物。
【請求項31】
Wは-CR
1(OH)-である、請求項1~21のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項32】
下記式V:
【化7】
(式中、
V及びZは、前記式Iで定義した通りであり、
DはN又はC-Rb3であり、
Ra1~Ra5、Rb1~Rb4、V及びZは、前記式I、Ia又はIbで定義した通りである。)
で表される、請求項31に記載の化合物。
【請求項33】
Ra1はアルキル及びシクロアルキルから選ばれる、請求項32に記載の化合物。
【請求項34】
Wは-C(=O)-である、請求項1~21のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項35】
下記式VI:
【化8】
(式中、
V及びZは、前記式Iで定義した通りであり、
DはN又はC-Rb3であり、
Ra1~Ra5、Rb1~Rb4、V及びZは、前記式I、Ia又はIbで定義した通りである。)
で表される、請求項34に記載の化合物。
【請求項36】
Ra1はアルキル及びシクロアルキルから選ばれる、請求項35に記載の化合物。
【請求項37】
図3のAに示した化合物から選ばれる、請求項31~36のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項38】
下記の少なくとも1種によって特養づけられる、請求項1~37のいずれか一項に記載の化合物。
本願の記載に従って決定したLogD値が、4超、5超又は4と7の範囲内である、
本願の記載に従って決定した、リガンド脂溶性効率(LLE)が3超、又は5超である、
本願の記載に従って決定したHLM Clintが100μl/分/mg未満である、
動力学的溶解度が20マイクロモル超、又は30マイクロモル超である。
【請求項39】
請求項1~37のいずれか一項に記載の化合物と、薬学的に許容し得る担体とを含む医薬組成物。
【請求項40】
電位依存性カリウムチャネルの活性を調節するのに使用される、請求項1~37のいずれか一項に記載の化合物又は請求項39に記載の組成物。
【請求項41】
TRPV1の活性を調節するのに使用される、請求項1~37のいずれか一項に記載の化合物又は請求項39に記載の組成物。
【請求項42】
電位依存性カリウムチャネルとTRPV1の両方の活性を調節するのに使用される、請求項1~37のいずれか一項に記載の化合物又は請求項39に記載の組成物。
【請求項43】
前記電位依存性カリウムチャネルの前記活性の調節は、前記チャネルを開くことを含み、前記TRPV1の前記活性の調節は、前記TRPV1の活性を阻害することを含む、請求項42に記載の化合物又は組成物。
【請求項44】
前記カリウムチャネルはKv7.2/7.3である、請求項42又は43に記載の化合物又は組成物。
【請求項45】
電位依存性カリウムチャネル及び/又はTRPV1チャネルの活性に関連する病態を治療するのに使用される、請求項1~37及び40~44のいずれか一項に記載の化合物又は請求項39~44のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項46】
前記病態は神経障害性疼痛、そう痒症又は耳鳴りである、請求項45に記載の化合物又は組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2022年1月18日出願の米国仮特許出願第63/300,293号の優先権を主張するものであり、この特許出願の全内容を本願の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0002】
本発明は、その幾つかの実施形態では、新規のジフェニルアミン類似体に関し、より詳細には、Kv7.2/3チャネル及びTRPV1チャネルの両方のモジュレーターとしての二重活性を特徴とする、新たに設計されたジフェニルアミン類似体に関するが、これに限定されない。このジフェニルアミン類似体は、耳鳴りおよびそう痒症等のニューロンの渦興奮に関連する病状を含むが、これに限定されない、このようなチャネルに関連する様々な病状の治療に使用可能である。
【背景技術】
【0003】
電圧依存性カリウム(Kv)チャネルは、膜電圧の変化に反応して細胞膜を介してカリウムイオン(K+)を伝導し、それによって細胞の電気的活動を調節(増加又は減少)して細胞の興奮性を調節することができる。
【0004】
機能性Kvチャネルは、同一または異なるKvαサブユニットおよび/またはKvβサブユニットに関連して形成される多量体構造として存在する。αサブユニットは、6種の膜貫通ドメイン、細孔形成ループ及び電圧センサーを含み、中央の細孔の周囲に対称的に配置されている。βサブユニット、即ち補助サブユニット、はαサブユニットと相互作用し、チャネル複合体の特性を変更することができ、例えば、チャネルの電気生理学的又は生物物理学的特性、発現レベル又は発現パターンを変化させることができるが、これらに限定されない。
【0005】
9種のKvチャネルαサブユニットファミリーが特定されており、Kv1~Kv9と称されている。このように、サブファミリーの多重度、サブファミリー内のホモマー及びヘテロマーサブユニットの形成、及びβサブユニットに関連する付加的作用の結果として生じるKvチャネル機能には非常に多様性がある[M. J. Christie, Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology, 1995, 22 (12), 944-951]。
【0006】
Kv7チャネルファミリーは、次の哺乳類チャネル:Kv7.1、Kv7.2、Kv7.3、Kv7.4、Kv7.5、及び哺乳類又は非哺乳類の等価物又はそのバリアント(スプライスバリアントを含む)の1種以上を含む、少なくとも5種のメンバーで構成されている。或いは、このファミリーのメンバーは、それぞれKCNQ1、KCNQ2、KCNQ3、KCNQ4及びKCNQ5と称される[Dalby-Brown et al., Current Topics in Medicinal Chemistry, 2006, 6, 999-1023]。
【0007】
このファミリーの5つのメンバーはそれぞれの発現パターンが異なる。Kv7.1の発現は、心臓、末梢上皮(peripheral epithelial)及び平滑筋に限定され、一方、Kv7.2~Kv7.4の発現は、海馬、皮質ニューロン及び脊髄後根神経節ニューロンを含む神経系に限定される[概説に関しては、例えば、Delmas P. & Brown D., Nature, 2005, 6, 850-862を参照]。
【0008】
神経Kv7チャネルは神経興奮の制御に重要な役割を果たすことが実証されている。Kv7チャネル、特にKv7.2/Kv7.3ヘテロ二量体は、M電流、即ち多くの神経細胞型で見られる非活性化カリウム電流の根底にある。この電流には複数の興奮性刺激に反応して膜電位の安定化をもたらす特徴的な時間及び電圧依存性がある。このように、M電流は神経興奮性を制御する上での中心となる[概説に関しては、例えば、Delmas.P & Brown.D, Nature, 2005, 6, 850-862を参照]。
【0009】
カリウムチャネルは、心拍の調節、動脈の拡張、インスリンの放出、神経細胞の興奮性、腎臓電解質輸送の調節等、多くの生理学的プロセスに関連している。従って、カリウムチャネルのモジュレーターは主要な薬剤候補であり、治療剤としての新しいモジュレーターの開発に向けて研究努力が進行中である。
【0010】
従って、神経系におけるKv7チャネルの重要な生理学的役割とこのようなチャネルの多くの疾患での関与を考慮すると、Kv7チャネルのモジュレーターの開発は非常に望ましい。
【0011】
カリウムチャネルモジュレーターはチャネル開口薬とチャネル遮断薬に分かれている。多くの注目を集めているカリウムチャネル開口薬はレチガビン(N-(2-アミノ-4-(4-フルオロベンジルアミノ)-フェニル)カルバミン酸エチルエステル)である。レチガビンは、KCNQ2-5型カリウムチャネルに対して非常に選択的である。神経障害性疼痛の治療用のレチガビンの使用は、例えば、米国特許第6,117,900号明細書及び欧州特許第1223927号公報に開示された。レチガビンに関連する化合物もカリウムチャネルモジュレーターとしての使用が提案されている(例えば、米国特許第6,472,165号明細書を参照)。
【0012】
しかし、レチガビンは神経細胞では複数の作用があると報告されている。このような作用としては、ナトリウム及びカルシウムチャネル遮断活性(Rundfeldt, C, 1995, Naunyn-Schmiederberg’s Arch Pharmacol, 351 (Suppl): R160)や、ラットニューロンにおけるGABA(γ-アミノ酪酸)合成及び伝達への影響(Kapetanovic, I.M., 1995, Epilepsy Research, 22, 167-173, Rundfeldt, C, 1995, Naunyn-Schmiederberg’s Arch Pharmacol, 351 (Suppl):R160)が挙げられる。
【0013】
他のKCNQカリウムチャネルモジュレーターについては、例えば、米国特許出願第10/075,521号明細書(Kv7モジュレーターとして2,4-二置換ピリミジン-5-カルボキサミド誘導体を教示)、米国特許出願第10/160,582号明細書(電圧依存性カリウムチャネルモジュレーターとしてシンナミド誘導体を教示)、米国特許第5,565,483号及び米国特許出願第10/312,123号明細書、同第10/075,703号明細書及び同第10/075,522号明細書(電圧依存性カリウムチャネルモジュレーターとして3-置換オキシインドール誘導体を教示)、米国特許第5,384,330号明細書(カリウムチャネルモジュレーターとして1,2,4-トリアミノ-ベンゼン誘導体を教示)、及び米国特許第6,593,349号明細書(電圧依存性カリウムチャネルモジュレーターとしてビスアリールアミン誘導体を教示)に記載されている。米国特許第6,291,442号は明細書、2種又は3種の芳香環を含み、遊離カルボキシル又はカルボキシルがエステル結合を介して低級アルキルエステルに連結し、環の1種に結合した、電圧ゲートカリウムチャネルのシェーカークラスの調節用の化合物を教示する。
【0014】
国際公開第2004/035037号及び米国特許出願公開第20050250833号明細書は、カリウムチャネル開口薬、特にKv7.2、Kv7.3及びKCv7.2/7.3チャネル等の電圧依存性カリウムチャネルの開口薬として、N-フェニルアントラニル酸の誘導体及び2-ベンズイミダゾロンの誘導体を、ニューロン活性モジュレーターと共に教示する。
【0015】
国際公開第2009/037707号は、カリウムチャネル及び/又はTRPV1モジュレーターとして、N-フェニルアントラニルの更なる誘導体を教示する。国際公開第2009/037707号に開示の例示的なモジュレーターはNH29と称される。
【0016】
【0017】
国際公開第2009/071947号及び国際公開第2010/010380号は、カリウムチャネルモジュレーターとして、ジフェニルアミンの誘導体を教示する。これら特許出願に開示の例示的なモジュレーターは、NH34及びNH43と称される。
【0018】
【0019】
一過性受容体電位バニロイド1型(TRPV1)受容体は、熱(通常43℃超)、低pH(<6)及び内因性脂質分子(例えば、アナンダミド、N-アラキドノイル-ドーパミン、N-アシル-ドーパミン、及びエンドバニロイドと称されるリポキシゲナーゼの生成物(例えば、12-及び15-(S)-HPETE))によって活性化されるリガンド依存性非選択的カチオンチャネルである。末梢一次求心性ニューロンや後根神経節とは別に、TRPV1受容体は脳全体で発現する。最近の証拠から、エンドカンナビノイド又はカプサイシンによるTRPV1受容体刺激が鎮痛につながり、この効果が吻側延髄腹内側部(RVM)でのグルタミン酸の増加とOFF細胞集団の活性化に関連することが分かっている。
【0020】
TRPV1は、体温の調節、不安、及び海馬における長期抑圧(LTD)の仲介にも関与していることが分かっている。TRPV1チャネルは膀胱を刺激する感覚求心路にも存在する。TRPV1の阻害は尿失禁の症状を改善することが示されている。
【0021】
TRPV1モジュレーターは、例えば、国際公開第2007/054480号に記載されており、ここには、TRPV1関連疾患の治療における2-(ベンズイミダゾール-1-イル)-アセトアミド誘導体の効果が教示されている。国際公開第2008/079683号には、TRPV1受容体を阻害するためのシクロヘキシル及びフェニルの共役二環式である化合物が教示されている。欧州特許第01939173号公報には、TRPV1受容体拮抗薬としてのO-置換-ジベンジル尿素又はチオ尿素誘導体が教示されている。国際公開第2008/076752号には、ベンゾイミダゾール化合物が強力なTRPV1モジュレーターとして教示されており、欧州特許第01908753号公報には、ヘテロシクリデンアセトアミド誘導体がTRPV1モジュレーターであることが教示されている。
【0022】
カリウムチャネルKv7.2/3とカチオン非選択的チャネルTRPV1は、間隔シグナルを伝達し、反対の機能を有し、求心性末梢感覚ニューロン(DRG感覚ニューロン)で独自に共発現される。TRPV1チャネルは疼痛シグナルを引き起こすが、Kv7.2/3チャネルはそれを阻害する。Kv7.2の活性化薬(例:開口薬)とTRPV1の阻害薬(例;遮断薬)として同時に機能する化合物は、耳鳴りやそう痒症といった病状に関連するニューロンの渦興奮を阻害できる。
【0023】
国際公開第2019/073471号は、電位依存性カリウムチャネルとTRPV1の両方に対する二重修飾を発揮することが見いだされた、国際公開第2009/071947号および国際公開第2010/010380号で教示される構造に対して実施された種々の修飾を開示する。国際公開第2019/073471号に開示される2種の潜在的な候補を本願ではNH91およびNH101と称する。
【0024】
【発明の概要】
【0025】
本発明の幾つかの実施形態の様相によれば、下記式I:
【化4】
(式中、
AとBは各々独立してアリール及びヘテロアリールから選択され、
Wは、-S-、-O-、-CR
1(OH)-、-C(=O)、及びNRxから選択され、Rxは環AのRa置換基の1つと共に窒素含有複素環を形成し、
nは1~5の整数であり、
mは0~4の整数であり、
RaとRbは各々独立してアルキル、シクロアルキル、ハロ、ハロアルキル、ハロアルコキシ、アルコキシ、エーテル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環、アリールオキシ、ヒドロキシ、アミン、アルキルアミン、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、シアノ、カルボキシレート、アミド、カルバメート、スルホニル及びスルホンアミドから選択される置換基であるか、又は、代替として、Ra置換基の少なくとも2つは一緒になって脂環又は複素環を形成し、Ra置換基の少なくとも1つは、存在する場合にRxと一緒になって窒素含有複素環を形成し、及び/又はRb置換基の少なくとも2つは一緒になって脂環又は複素環を形成し、nが1より大きい場合には、各Raは同一又は異なる置換基であり、mが1より大きい場合には、各Rbは同一又は異なる置換基であり、
R
1は、存在する場合、水素又はアルキルであり、
Vは-(CR
2R
3)k-Uであり、
kは0、1又は2であり、
R
2とR
3は各々独立して水素、アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択され、
Uはアミド(-C(=O)-NR
10-)又はそのアイソステアであり、
前記Zは下記式IIで表され、
【化5】
(式中、
uとqは各々独立して0~4の整数であり(但し、u+qは少なくとも2であり)、
Xは-O-及び-NR
9-から選択されるか、又は存在せず、
YはOR
11、SR
11、アミン(NR
12R
13)又はアミド(-NR
12-C(=O)-R
14)等の極性疎水性基であり、
R
5、R
6、R
7及びR
8は各々独立して水素、ハロ、アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、ヘテロ脂環、アリール、アルキルアミノ、アルコキシ、ハロアルコキシ、ヒドロキシ、エーテル、及びアリールオキシから選択されるか、又は、代替として、R
5、R
6、R
7、R
8及びR
9の内の2つは一緒になって脂環又はヘテロ脂環を形成し、
R
9、R
10、R
11、R
12、R
13及びR
14は各々独立して水素、アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択されるか、又は、代替として、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
11の内の2つ、或いはR
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
12及びR
13の内の2つは一緒になって脂環又はヘテロ脂環を形成する。)
で表される、化合物。
【0026】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、A及びBはそれぞれアリールである、例えば、A及びBはそれぞれフェニルである。
【0027】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、化合物は下記式Iaであらわされる。
【化6】
(式中、
W、V及びZは、式Iで定義した通りであり、
Ra1~Ra5は、各々独立して、前記Raと同じ定義であり、
Rb1~Rb4は、各々独立して、前記Rbと同じ定義である。)
【0028】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、mは0以外であり、Rb置換基の少なくとも1つはハロである。
【0029】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、mは1である。
【0030】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、ハロはWに対してパラ位である。
【0031】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Rb2はハロである、例えば、フルオロである。
【0032】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Bはヘテロアリールである、例えば、ピリジン、ピラゾール、ピロール、イミダゾール等の窒素含有ヘテロアリールである。いくつかの実施形態において、Bはピリジンである。
【0033】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Aはアリール、例えば、フェニルである。
【0034】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、化合物は下記式Ibで表される。
【化7】
(式中、
W、V及びZは、式Iで定義した通りであり、
Ra1~Ra5は、各々独立して、本願におけるRaと同じ定義であり、
Rb1、Rb2及びRb4は、各々独立して、本願におけるRbと同じ定義である。)
【0035】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、nは3、4又は5であり、いくつかの実施形態においてnは3である。
【0036】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Ra置換基の少なくとも2つは、ハロ及びアルコキシから選択される。
【0037】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Ra置換基の少なくとも2つは、それぞれ独立してハロである、例えば、クロロである。
【0038】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Ra置換基の少なくとも1つは、アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、アルキルアミン、ヘテロアリール及びヘテロ脂環から選択される、又は、代替として、2つのRa置換基が環構造を形成する。
【0039】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Ra置換基の少なくとも1つは、アルキル又はシクロアルキルである。
【0040】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Ra置換基の少なくとも1つは、Wに対してオルト位である。
【0041】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Ra置換基の少なくとも1つは、アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、アルキルアミン、ヘテロアリール又はヘテロ脂環であり、且つWに対してオルト位である。
【0042】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、nは3であり、Ra置換基の1つは、アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、アルキルアミン、ヘテロアリール又はヘテロ脂環であり、Wに対してオルト位であり、且つRa置換基の他の2つはそれぞれハロである。
【0043】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、nは3であり、
Ra置換基の1つは、アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、アルキルアミン、ヘテロアリール、又はヘテロ脂環であり、且つWに対してオルト位であり、Ra置換基の他の2つはそれぞれハロであり、mは1であり、Rbはハロであり、且つWに対してパラ位である。
【0044】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Ra1は、アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、アルキルアミン、ヘテロアリール、又はヘテロ脂環である。
【0045】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Ra3及びRa5は、各々独立して、ハロ(例:クロロ)である。
【0046】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Xは不存在である。
【0047】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、R5、R6、R7及びR8の少なくとも1つは、各々独立して、アルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、ハロアルキル、エーテル及びハロから選ばれる、及び/又はR5、R6、R7及びR8の内の少なくとも2つが一緒になって脂環又はヘテロ脂環を形成す。
【0048】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、R5、R6、R7及びR8の少なくとも2つは、各々独立して、アルキル、ハロアルキル及びハロから選ばれる。
【0049】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、R5、R6、R7及びR8の少なくとも2つは、各々独立して、アルキルである。
【0050】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、uは1又は2である。
【0051】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、R5及びR6はそれぞれ水素である。
【0052】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、qは1であり、且つR7及びR8の少なくとも1つ又はそれぞれはアルキルである。
【0053】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、qは1であり、且つR7及びR8の少なくとも1つ又はそれぞれは水素である。
【0054】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、R5、R6、R7及びR8の少なくとも1つは、独立して、ヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、エーテル、ヘテロ脂環(例:酸素含有)又はシクロアルキルである。
【0055】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、シクロアルキルは少なくとも1つの水素で置換されている。
【0056】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、R5、R6、R7及びR8の少なくとも2つは、一緒になって脂環を形成する。
【0057】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Xは不存在であり、uは1又は2であり、qは1であり、且つR5、R6、R7及びR8は一緒になってシクロブタンを形成する。
【0058】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、R5、R6、R7及びR8の少なくとも2つは、一緒になってヘテロ脂環、好ましくは酸素を含有する4員、5員又は6員のヘテロ脂環を形成する。
【0059】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Xは不存在であり、uは1又は2であり、qは1であり、且つR5、R6、R7及びR8は一緒になってフランを形成する。
【0060】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、YはOR11であり、R11は水素である。
【0061】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、YはOR11であり、R11はアルキル、好ましくは少なくとも1のヒドロキシ、アミド及び/又はカルボキシで置換されたアルキルである。
【0062】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、YはOR11であり、R11はヘテロアリール、又はヘテロアリサイクリックである。
【0063】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、YはNR12R13であり、R12はR5、R6、R7及びR8の1以上と窒素含有ヘテロ脂環を形成する。
【0064】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、R13は水素、ヒドロキシ、アルキル、ヒドロキシアルキル又はアルコキシである。
【0065】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Yは-NR12-C(=O)-R14であり、R12はR5、R6、R7及びR8の1以上と窒素含有ヘテロ脂環を形成する。
【0066】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、RxがRa置換基の1つと共に窒素含有複素環を形成する。
【0067】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Rxは、Wに対してオルト位のRa置換基と共に窒素含有複素環を形成する。
【0068】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、化合物は下記式IIIで表される。
【化8】
(式中、
V及びZは、前記式Iで定義した通りであり、
DはN又はC-Rb3であり、
Ra2~Ra5、Rb1~Rb4、V及びZは、本願において式I、Ia又はIbで定義した通りであり、
Rc1及びRc2は、各々独立して、本願においてRa1~Ra5で定義した通りである。)
【0069】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Rc1及びRc2が、各々独立して、水素、アルキル、ハロアルキル及びハロから選ばれる。
【0070】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Wは-S-である。
【0071】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、化合物は下記式IVで表される。
【化9】
(式中、
V及びZは、式Iで定義した通りであり、
DはN又はC-Rb3であり、
Ra1~Ra5、Rb1~Rb4、V及びZは、本願において式I、Ia又はIbで定義した通りである。)
【0072】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Ra1はアルキル及びシクロアルキルから選ばれる。
【0073】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Wは-CR1(OH)である。
【0074】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、化合物は下記式Vで表される。
【化10】
(式中、
V及びZは、本願において式Iで定義した通りであり、
DはN又はC-Rb3であり、
Ra1~Ra5、Rb1~Rb4、V及びZは、本願において式I、Ia又はIbで定義した通りである。)
【0075】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Ra1はアルキル及びシクロアルキルから選ばれる。
【0076】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Wは-C(=O)-である。
【0077】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、化合物は下記式VIで表される。
【化11】
(式中、
V及びZは、本願において式Iで定義した通りであり、
DはN又はC-Rb3であり、
Ra1~Ra5、Rb1~Rb4、V及びZは、本願において式I、Ia又はIbで定義した通りである。)
【0078】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Ra1はアルキル及びシクロアルキルから選ばれる。
【0079】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、化合物は下記の少なくとも1種によって特養づけられる。
本願の記載に従って決定したLogD値が、4超、5超又は4と7の範囲内である、
本願の記載に従って決定した、リガンド脂溶性効率(LLE)が3超、又は5超である、
本願の記載に従って決定したHLM Clintが100μl/分/mg未満である、
動力学的溶解度が20マイクロモル超、又は30マイクロモル超である。
【0080】
本発明のいくつかの実施形態の一様相においては、本願のそれぞれの実施形態およびそれらの任意の組み合わせに記載の化合物と、薬学的に許容し得る担体とを含む医薬組成物が提供される。
【0081】
本発明のいくつかの実施形態の一様相においては、電位依存性カリウムチャネルの活性を調節するのに使用される、本願のそれぞれの実施形態およびそれらの任意の組み合わせに記載の化合物、又は本願のそれぞれの実施形態およびそれらの任意の組み合わせに記載の化合物を含む医薬組成物が提供される。
【0082】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、カリウムチャネルはKv7.2/7.3である。
【0083】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、調節はチャネルを開くことを含む。
【0084】
本発明のいくつかの実施形態の一様相においては、TRPV1の活性を調節するのに使用される、本願のそれぞれの実施形態およびそれらの任意の組み合わせに記載の化合物、又は本願のそれぞれの実施形態およびそれらの任意の組み合わせに記載の化合物を含む医薬組成物が提供される。
【0085】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、調節はTRPV1の活性を阻害することを含む。
【0086】
本発明のいくつかの実施形態の一様相においては、電位依存性カリウムチャネルとTRPV1の両方の活性を調節するのに使用される、本願のそれぞれの実施形態およびそれらの任意の組み合わせに記載の化合物、又は本願のそれぞれの実施形態およびそれらの任意の組み合わせに記載の化合物を含む医薬組成物が提供される。
【0087】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、電位依存性カリウムチャネルの活性の調節は当該チャネルを開くことを含み、TRPV1チャネルの活性の調節は当該チャネルの活性を阻害することを含む。
【0088】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、カリウムチャネルはKv7.2/7.3である。
【0089】
本発明のいくつかの実施形態の一様相においては、電位依存性カリウムチャネル及び/又はTRPV1チャネルの活性に関連する病態を治療するのに使用される、本願のそれぞれの実施形態およびそれらの任意の組み合わせに記載の化合物、又は本願のそれぞれの実施形態およびそれらの任意の組み合わせに記載の化合物を含む医薬組成物が提供される。
【0090】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、病態は神経障害性疼痛、そう痒症又は耳鳴りである。
【0091】
特に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術および/または科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様のまたは等価な方法および材料を、本発明の実施形態の実践または試験に使用することができるが、例示的な方法および/または材料を下記に記載する。矛盾する場合、定義を含む特許明細書が優先する。加えて、材料、方法、および実施例は単なる例示であり、必ずしも限定を意図するものではない。
【0092】
本発明のいくつかの実施形態について、その例示のみを目的として添付の図面を参照して本明細書に記載する。以下、特に図面を詳細に参照して示す細部は、例示を目的とし、また本発明の実施形態の詳細な説明を目的とすることを強調する。同様に、図面と共に説明を見ることで、本発明の実施形態をどのように実践し得るかが当業者には明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【
図1-1】
図1は、本発明の幾つかの実施形態に係るケモタイプ1に含まれる例示的な化合物の化学構造を示す。
【
図2-1】
図2は、本発明の幾つかの実施形態に係るケモタイプ2に含まれる例示的な化合物の化学構造を示す。
【
図3】
図3のAおよびBは、本発明の幾つかの実施形態に係るケモタイプ3および4に含まれる例示的な化合物の化学構造(
図3のA)およびそれらの間の潜在的な酵素触媒化変換を示す。
【
図4】
図4のA~Bは、バニロイドポケットに参照(既報の)化合物がドッキングしたヒトTRPV1のホモロジーモデル:参照化合物NH91(000091、明るい黄色)と、000228(例えば、国際公開第2004/035037号に記載の化合物、緑色)と、参照分子として機能する、確立されたTRPV1アゴニストであるレシニフェラトキシン(RTX)(
図4のA)、及びVSD内に既報の000091(NH91)がドッキングしたヒトKv7.2/7.3のホモロジーモデル(
図4のB)。疎水性ガスケット及び親水性チャネルは両タンパク質に共通する構造的モチーフであり、二重Kv7.2/7.3及びTRPV1モジュレーターの設計を可能にするものである。
【
図5】
図5のA~Bは、TRPV1 qSARモデリングの代表的例示を示す。
図5のAは、本発明のいくつかの実施形態における例示的な有効なTRPV1阻害剤の重ね合わせを示す。
図5のBは、本発明のいくつかの実施形態における例示的な化合物の、実験的IC50結果(X軸)と、予測qSAR IC50値とを相関させる直線プロットである。
【
図6-1】
図6のA~Cは、種々の濃度のAMG9810(TRPV1特異的アンタゴニスト)、化合物273(TRPV1阻害を欠いたKvアクチベーター)、及び例示的な化合物421-6(例示的なKv及びTRPV1二重標的化化合物)、及び421-6と類似したEC50を有する例示的なKv7.2/3標的化化合物としてレチガビン(RET)の投与有又は無しの、電流注入(
図6のA)、カプサイシン(
図6のB)又は両方(
図6のC)による活性化に対する応答であるラットDRGニューロン発火について得られたデータを示す。
【
図6-4】
図6のD~Eは、種々の濃度における、化合物421-6及びレチガビンによる阻害(それぞれ
図6のD及び
図6のE)によるカプサイシン誘導性及び電流誘導性の両方による神経興奮を示す、用量応答曲線を表す。
【
図7】
図7のA~Cは、100nMの化合物552に対して生じた、電流注入及びカプサイシン発火に対する応答であるラットDRGニューロン発火について得られた例示的なデータ(
図7のA)と、それぞれ100nMの、化合物421-6、541、552及び533(ラセミ体)の間の比較ラットDRG発火応答を示す棒グラフと、100nMの化合物533(ラセミ体混合物)の存在下における、電流注入及びカプサイシン発火応答に対するラットDRGニューロン発火から得られた、例示的なデータを示す。
【
図8-1】
図8のA(背景技術)は、本願に記載のZhang et al., 2005, EMBO J 24(24):4211-23に従った実験的セットアップを示す。
【
図8-2】
図8のBは、NGF 100ng/mlで4~5日前処理したニューロンのアッセイで得られた代表的なデータを示す。NGF未処理ラットDRGを2μM(上部パネル)又は100nM(中央パネル)の421-6の有り又は無しで、カプサイシン投与の繰り返し投与によって刺激した。NGF前処理に続き、発火の強縮性バーストが観察され、100nMの421-6による可逆的阻害を示した。
【
図8-3】
図8のC~Dは、
図8のB(下部パネル)に示したデータの拡大図(
図8のC)、及び化合物421-6(100nM)と2μMの化合物533(
図8D)の存在下でNGF前処理に続き得られたデータを示す。
【
図9】
図9のA~Bは、ヒト由来知覚神経内のニューロン性自発活性に対する化合物415(5μM、1.5分、
図9のA)、並びに既報の化合物291(2μM)及び化合物414(5μM)(
図9のB)の阻害能を表し、化合物の洗浄除去に続いて復活した発火を伴う、化合物の高効能と共にその可逆性の両方を提示する。
【
図10-1】
図10のA~Dは、ラセミ体混合物としての化合物533(533R)及びその分離エナンチオマーである533p1及び533p2の効果を示すデータを提供する。
図10のAは、高含量蛍光アッセイを用いて測定したhKv7.2/3の活性化を示す比較プロットであって、533ラセミ体混合物(533R)によるhKv7.2/3活性化をその分離エナンチオマーである533p1及び533p2と比較し、それぞれのより低い及びより高い活性化能を提供する。
図10のBは、533分離エナンチオマーのそれぞれがhTRPV1を異なる様式で調節し、一方(533p1)はhTRPV1を阻害するが、他方(533p2)はhTRPV1を活性化し、533ラセミ体混合物(533R)は平均的な応答を示すことを提供する。hTRPV1のアンタゴニストであるAMG9810は、陽性対照として機能した。
図10のCは、化合物533の分離したエナンチオマーのそれぞれのhKv7.2/3標的及びhTRPV1標的に対するEC/IC50値(単位μM)を表す(矢印はTRPV1の活性化を示す)。
図10のDは、533p2 TRPV1活性化性質(上部パネル)と合致するように、533p2投与(100nM)が電流誘発性ラットDRGスパイキングを阻害し、カプサイシン誘発性ラットDRGスパイキングは促進され、一方、533ラセミ体混合物(533R)が投与されると、電流誘発性スパイキングは減少するものの、カプサイシン誘導性スパイキング阻害が獲得されることを示すデータを表す。
【
図11-1】
図11のA~Eは、hTRPV1安定発現細胞(
図11のA)及びhKv7.2/3とhTRPV1を発現する細胞(
図11のB)における、化合物627及び陽性対照としてのAMG9810の、蛍光アッセイを用いて測定したhTRPV1活性のカスパイン(caspain)誘導性阻害を示す比較プロットであり、hTRPV1安定発現細胞(
図11のA)及びhKv7.2/3とhTRPV1を発現する細胞(
図11のB)における、化合物627及び陽性対照としてのAMG9810の、蛍光アッセイを用いて測定したhTRPV1活性のカスパイン(caspain)誘導性阻害を示す比較プロット、及び化合物627をレチガビン陽性対照と比較した、蛍光アッセイを用いて測定したhKv7.2/3活性の活性化(
図11のC)、非常に低濃度(ピコモル濃度)の化合物627による、蛍光アッセイを用いて測定したhKv7.2/3活性の活性化(
図11のD)、及びCHO細胞の発現したhKv7.2/3の全細胞電流を測定し、膜電位を(-90mVの保持電位から)-40mV(1.5秒)にクランプする(N=4)ことで測定した、化合物627による電気生理学におけるhKv7.2/3活性の活性化(
図11のE)を示す比較プロットを表す。
【
図12-1】
図12のA~Cは、hTRPV1発現CHO細胞(上部パネル)及び活性化によってhKv7.2/3とhTRPV1を共発現するCHO細胞(下部パネル)における全細胞電流電気生理学測定(
図12のA)、hTRPV1を発現するCHO細胞(右)、及びhKv7.2/3をさらに共発現し、活性化されたCHO細胞(左)によるhTRPV1阻害能を提示する用量応答曲線(
図12のB)、hTRPV1とhKv7.2/3を共発現するが、hKv7.2/3の活性化の無いCHO細胞における、化合物627の存在下での、例示的なカプサイシン誘導性電流(
図12のC)を表す。
【
図13】
図13のA~Bは、公知のTRPV1阻害剤であるAMG9810の存在下における、hTRPV1とhKv7.2/3を共発現するCHO細胞の例示的なカプサイシン誘導性電流(
図13のA)、及び1μMの化合物627、AMG9810、及びAMG9810とレチガビン(RET)の存在下における、hTRPV1発現CHO細胞、並びにhTRPV1とhKv7.2/3を共発現し、活性化された細胞におけるhTRPV1阻害能を提示する、用量応答比較プロット(
図13のB)を表す。
【
図14】
図14は、1nM(上部パネル)及び0.1nM(下部パネル)の化合物627の存在下におけるカプサイシン投与に対する活動電位で馴化することを示すラットDRG膜電位記録を表す。
【発明を実施するための形態】
【0094】
本発明は、その幾つかの実施形態では、新規のジフェニルアミン類似体に関し、より詳細には、カリウムイオンチャネルとTRPV1チャネルの両方のモジュレーターとしての二重活性を特徴とする、新たに設計されたジフェニルアミン誘導体類似体に関するが、これに限定されない。このジフェニルアミン誘導体類似体は、このようなチャネルに関連する様々な病態(例えば、神経障害性疼痛等であるが、これに限定されない)の治療に使用可能である。
【0095】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、必ずしもその用途が、以下の記載に示す、および/または図面および/または実施例で例示する、構成の詳細および要素の配置および/または方法に限定されるものではないことを理解するべきである。本発明は、他の実施形態が可能であり、また、さまざまな手段で実施または実行することが可能である。
【0096】
後述する実施例の項に記載したように、本発明者らは、公知のジフェニルアミン誘導体と比べて、毒性、バイオアベイラビリティ、溶解性、並びに他の薬学的パラメーター及び/又は性質において改善された薬学的プロファイルを示すとともに、カリウムイオンチャネル(特にKv7.2/3チャネル)及びTRPV1チャネルの両方の二重モジュレーターとして改善された治療効率を発揮するジフェニルアミン誘導体の類似体を見出すことを目的として鋭意研究を行った。
【0097】
これら鋭意研究の過程において、本発明者らは、国際公開第2009/071947号及び国際公開第2019/073471号によって教示される構造に対するある種の構造的修飾が改善されたパフォーマンスを示す化合物をもたらすことを見出した。
【0098】
カリウムチャネル及びTRPV1の活性の二重修飾が望ましい病状の治療に使用可能な小分子を設計し、実施した。これら小分子は、神経障害性疼痛の治療に特に利用可能であるが、しかしながら、これら小分子は、カリウムイオンチャネル(特にKv7.2/3チャネル)及びTRPV1チャネルの一方または両方の活性を、本願に記載のように、調節することが有益な他の病状の治療にも利用可能である。
【0099】
これら化合物は、大きな薬効と安全性を達成するために、単一化合物を用いて複数の過興奮性関連メカニズムを標的とする手法に基づき設計された。この手法は、2つのカチオンチャネルであるリガンド開口型カルシウムチャネル及び電位開口型カリウムチャネル、それぞれTRPV1及びKv7.2/3、のターゲティングに基づき、これらチャネルは感覚神経細胞上に共局在し、神経性興奮の傑出調節因子として認識されている。
【0100】
実施例1に記載したように、既に見出されている小分子に対する、複数の位置における種々の修飾の効果を試験する際に、小分子は設計された。in-vivo試験用の、強力で、安全で、代謝的に安定な化合物を同定するために、古典的及び計算的な医薬品化学と、オンターゲット及びオフターゲットのスクリーニング方法とを使用した。加えて、適切な動物モデルの発見を補助するために、種淘汰研究を行った。
【0101】
典的及び計算的な医薬品化学を使用し、合理的な構造活性相関(SAR)研究で500近い化合物の設計と計画が得られ、その内の326の化合物について二重標的化特性についてスクリーニングした。これら研究の結果は、SAR相関に関する実質的な理解を提供した。主たる目標は、架橋するアニリン部分を置換することであったが、これは、有意な毒性危険の恐れがあることが見出されたためである。その結果、力価が低いμMの範囲内であり、イオンチャネルを発現するCHO細胞の異種系においてはさらに低い、4種の新しいケモタイプの同定をもたらされた。
【0102】
見出した化合物の安全性プロファイルが十分なものであることを予測するために、オフターゲット活性と細胞毒性についてアッセイした。両方の標的に対する強力な化合物を、Kv7.3/5、Kv7.4及びhERGに対する潜在的リスク、潜在的肝臓毒性、TRPV1ポリモダリティ分離、及びTRPA1に対する特異性について試験した。見出した化合物は改善された忍容性プロファイルを発揮し、これは主に、化合物の最大溶解度でも生じるhERG阻害の完全な喪失による。加えて、見いだされた化合物のいくつかは、TRPV1のカプサイシン誘導性活性の阻害を示しながらも、TRPV1のpH誘導性又は熱誘導性の活性化には影響しなかった。他のTRPV1活性化モダリティに対する追加の阻害因子とは分離された、カプサイシン開口型TRPV1電流の選択的阻害は、異常高熱のリスクが無いことを支持し得る。このTRPV1ポリモダリティ分離は、前臨床現場及び臨床現場における熱調節不全の不在に対する良好な予測因子であることが示された。
【0103】
同定された化合物を、それらの潜在的創薬可能性について評価するために、in vitroのDMPK研究に進めた。LogDとヒト肝臓ミクロソーム(HLM)を評価した。通常、化合物の示すLogD値が低いほど(即ち、より極性化合物であるほど)、低いHLM値が期待される。実際、LogD<4である大部分の化合物について、HLM値<100(μL/分/mg)を得ることができた。他の化合物は好ましい代謝安定性を示した。許容可能なHLMとラット肝臓ミクロソーム(RLM)の間に良好な相関が観察され、これは両方の種で類似した代謝経路が関与していることを示唆している。
【0104】
種特異的コンストラクトおよび種特異的細胞の使用は、ヒト、ラット、又はブタのいずれを起源とした場合も、試験化合物の阻害能を比較した際に有意差を同定することはできないことを示した。TRPV1に対する阻害能に種間差が無いことは、見出した化合物の有効性を予測するために齧歯動物モデルが使用可能であることを示唆した。
【0105】
同定したリード化合物の神経興奮性に対する阻害能を生理学的関連性の高い実験系で研究するために、正常な組成のニューロン及びグリアを含む、一次新生仔ラットDRGニューロンを使用した。見出した化合物の阻害能を、電流誘導性又はカプサイシン誘導性のニューロン活性の両方に対して試験した。
【0106】
現在のシミュレーションでは、試験化合物の阻害能は、Kv7.2/3標的などの電位活性化エフェクターに対するそれらの効果を介し、そして同定されることが示された。一方、カプサイシン誘発性応答は、カプサイシン開口型TRPV1標的の貢献である、活性化の際の膜の脱分極と、その結果である、下流の電位開口型Kv7.2/3標的の活性化の両方を同定した。
【0107】
神経興奮は、とりわけ、痛みの増幅に対する、生理学的予測的リードアウトであり、疼痛関連システムにおけるTRPV1及びKv7.2/3の両方の二重標的化の追加効果を検討することができる。例えば、2μMでTRPV1及びKv7.2/3の二重標的化特性(Kv7.2/3のEC50=2.1μM、TRPV1のIC50=1.8μM)を示す、代表的な化合物である421-6は、電流による活性化及びカプサイシンによる活性化の両方に対するAP応答を劇的に減少させえることが分かった。化合物421-6はカプサイシン誘導性ニューロン発火に対して100nM未満の阻害を提示した。各標的単独が貢献する阻害の合計よりも有意に高い、この高い阻害能は、例示的化合物421-6の相乗効果を示している。相乗効果は、対応する化合物の高い阻害能と、より高い活性から発生する高度な特異性とを発揮させ、これは両方の標的が共発現され、それらのシグナル伝達が交差するときにのみ生じるが、後者は痛覚の知覚神経に固有のものである。
【0108】
ヒトの適切な系における追加の生理学的根拠を提供するために、ヒト知覚神経に分化させたヒト神経前駆細胞(hNPC)を使用した。突然及び誘導性の電流付加方法を使用して、ラットのDRGに見られる有意な効果と同様に、試験化合物がヒト知覚神経の興奮性に対して強い阻害能を有することが示された。神経障害性疼痛の治療に臨床で用いられている標準治療薬であるガパペンチンと比べて、新たに設計した化合物の効能が優れていることも示された。
【0109】
よって、本発明の実施形態は、カリウムチャネル(例:Kv7.2/3)を開き且つTRPV1活性を阻害する二重活性を発揮し、過去に開示されたジフェニルアミン誘導体と比べて改善された薬理学的プロファイルを示す、ジフェニルアミン誘導体から誘導された化合物の新規ファミリー、及びこれらチャネルに関連する病状、特に神経障害性疼痛等の疼痛、の治療におけるその使用に関連する。
【0110】
化合物:
本実施形態に係る新規設計化合物は、集合的に下記式Iで表すことができる。
【化12】
(式中、
A及びBは各々独立してアリール及びヘテロアリールから選択され、
Wは、-S-、-O-、-CR
1(OH)-、-C(=O)、及びNRxから選択され、Rxは環AのRa置換基の1つと共に窒素含有複素環を形成し、
nは1~5の整数であり、
mは0~4の整数であり、
RaとRbは各々独立してアルキル、シクロアルキル、ハロ、ハロアルキル、ハロアルコキシ、アルコキシ、エーテル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ脂環、アリールオキシ、ヒドロキシ、アミン、アルキルアミン、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、シアノ、カルボキシレート、アミド、カルバメート、スルホニル及びスルホンアミドから選択される置換基であるか、又は、代替として、Ra置換基の少なくとも2つは一緒になって脂環又は複素環を形成し、Ra置換基の少なくとも1つは、存在する場合にRxと一緒になって窒素含有複素環を形成し、及び/又はRb置換基の少なくとも2つは一緒になって脂環又は複素環を形成し、nが1より大きい場合には、各Raは同一又は異なる置換基であり、mが1より大きい場合には、各Rbは同一又は異なる置換基であり、
R1は、存在する場合、水素又はアルキルであり、
Vは-(CR2R3)k-Uであり、
kは0、1又は2であり、
R
2とR
3は各々独立して水素、アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択され、
Uはアミド(-C(=O)-NR
10-)又はそのアイソステアであり、
前記Zは下記式IIで表され、
【化13】
(式中、
uとqは、各々独立して、0~4の整数であり(但し、u+qは少なくとも2であり)、
Xは-O-及び-NR
9-から選択されるか、又は存在せず、
YはOR
11、SR
11、アミン(NR
12R
13)又はアミド(-NR
12-C(=O)-R
14)等の極性疎水性基であり、
R
5、R
6、R
7及びR
8は各々独立して水素、ハロ、アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、ヘテロ脂環、アリール、アルキルアミノ、アルコキシ、ハロアルコキシ、ヒドロキシ、エーテル、及びアリールオキシから選択されるか、又は、代替として、R
5、R
6、R
7、R
8及びR
9の内の2つは一緒になって脂環又はヘテロ脂環を形成し、
R
9、R
10、R
11、R
12、R
13及びR
14は各々独立して水素、アルキル、シクロアルキル及びアリールから選択されるか、又は、代替として、R
5、R
6、R
7、R
8、R
9及びR
11の内の2つ、或いはR
5、R
6、R
7、R
8、R
9、R
12及びR
13の内の2つは一緒になって脂環又はヘテロ脂環を形成する。)
【0111】
後述する実施例の項で説明するように、改善された薬理学的プロファイルを有する化合物を探索するに当たり、本発明者らは既報の化合物に対する種々の操作について検討した。このような操作は、既報の化合物の骨格の種々の部分、すなわち、式Iに示す環A及び環B、式Iで-V-Zと表した側鎖、特にZ、及び式IでWとした環Aと環Bの間の架橋、に対して行われた。本発明者らは、最も性能の高い化合物は、既報の化合物のアミン架橋部分を、本願において式I中のWとして定義した他の部分で置換した化合物であることを見出した。
【0112】
本願に記載の式Iの化合物の種々の実施形態における環Aと環B、-V-Z側鎖、及びW架橋について、以下で説明する。
【0113】
環Aと環B:
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、A及びBはそれぞれ、本願で定義するアリールであり
、これら実施形態のいくつかにおいては、A及びBはそれぞれフェニルであり、このような化合物は集合的に式Iaで表される。
【0114】
【化14】
(式中、
W、V及びZは、式Iで定義した通りであり、
Ra1~Ra5は、各々独立して、前記Raと同じ定義であり、環Aの置換基を表し、
Rb1~Rb4は、各々独立して、前記Rbと同じ定義であり、環Bの置換基を表す。)
【0115】
本願に記載の任意の実施形態のいくつか(例:式I、Ia又は他の関連する式)においては、mは0以外であり、1、2、3または4であり、Rb置換基の少なくとも1つはハロである。他の置換基が存在するとき(例:mが2、3又は4のとき)には、本願で定義したRbと同様である。
【0116】
本願に記載の任意の実施形態のいくつか(例:式I、Ia又は他の関連する式)においては、mは1である。これら実施形態のいくつかにおいては、Rb置換基はハロである。
【0117】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、mは1であり、Rb置換基はWに対してパラ位である、すなわち、式Ia中のRb2は置換基であり、他のRb置換基、例えば、Rb1、Rb3及びRb4はそれぞれ水素である。これら実施形態のいくつかにおいては、式I中のRb又は式Ia中のRb2はハロである。
【0118】
本願に載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Rb又はRb2がハロであるとき、ハロはフルオロである。
【0119】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、式Iについて、Bはヘテロアリールである。Aはアリール又はヘテロアリールであり得、好ましくはアリール、例えば、フェニルである。
【0120】
これら実施形態のいくつかにおいては、Bは本願に記載の窒素含有ヘテロアリールであり、例えば、環内に1、2又は3の窒素原子を有してもよく、いくつかの実施形態においては、Bはピリジンである。
【0121】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、式Iにおいて、Bはヘテロアリールであり、例えば、環内に1、2又は3の窒素原子を有してもよく、Aはアリール、例えば、フェニルである。
【0122】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、式Iにおいて、Bはピリジンで、Aはアリール、例えば、フェニルである。
【0123】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、式Iにおいて、Bはピリジンで、Aはフェニルであり、このような化合物は集合的に式Ibで表される。
【0124】
【化15】
(式中、
W、V及びZは、式Iで定義した通りであり、
Ra1~Ra5は、各々独立して、本願におけるRaと同じ定義であり、
Rb1、Rb2及びRb4は、各々独立して、本願におけるRbと同じ定義である。)
【0125】
本願に記載の式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいて、nは少なくとも3であり、3、4又は5であり得、よって、環Aの少なくとも3カ所が(水素以外のRa置換基によって)置換されている、又は式Ia又はIb中のRa1~Ra5の内の少なくとも3つが水素以外である。
【0126】
本願に記載の式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいて、nは3であり、よって、環Aの3カ所が(水素以外のRa置換基によって)置換されている、又は式Ia又はIb中のRa1~Ra5の内の3つが水素以外である。
【0127】
本願に記載の式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいて、Ra置換基の2つ以上(例:式Ia又はIb中のRa1~Ra5の内の少なくとも2つ)はハロ及びアルコキシから選ばれる。
【0128】
これら実施形態のいくつかにおいては、Ra置換基の2つ(例:式Ia又はIb中のRa1~Ra5の内の2つ)は、各々独立して、(同一又は異なってもよい)アルコキシであり、Ra置換基の内の2つ(例:式Ia又はIb中のRa1~Ra5の内の2つ)は、各々独立して、(同一又は異なってもよい)ハロである、又はRa置換基の1つ(例:式Ia又はIb中のRa1~Ra5の内の1つ)はアルコキシであり、且つRa置換基の1つ(例:式Ia又はIb中のRa1~Ra5の内の1つ)はハロである。
【0129】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Ra置換基の1以上(例:式Ia又はIb中のRa1~Ra5の内の1つ)がアルコキシであるとき、それは長さが1~4炭素原子の低級アルコキシ、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、アミロキシ、ブトキシ及び/又はイソブトキシであり、好ましくはメトキシである。
【0130】
これら実施形態のいくつかにおいては、Ra置換基の2つ(例:式Ia又はIb中のRa1~Ra5の内の2つ)は、各々独立して、ハロ、例えば、クロロである。
【0131】
本願に記載の式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式に係る本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいて、Ra置換基の少なくとも1つ(例:式Ia又はIb中のRa1~Ra5の内の1つ)は、アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、アルキルアミン、ヘテロアリール又はヘテロ脂環ある、又は、代替として、2つのRa置換基(例:式Ia又はIb中のRa1~Ra5の内の2つ)は一緒になって感を形成する。
【0132】
本願に記載の式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式に係る本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Ra置換基の少なくとも1つ(例:式Ia又はIb中のRa1~Ra5の内の1つ)は、アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル及び/又はアリールである。
【0133】
本願に記載の式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式に係る本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Ra置換基の少なくとも1つ(例:式Ia又はIb中のRa1~Ra5の内の1つ)は、アルキル又はシクロアルキルである。
【0134】
本願に記載の式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式に係る本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Ra置換基はWに対してオルト位である、すなわち、式Ia又はIbにおけるRa1は水素以外である。
【0135】
これら実施形態のいくつかにおいては、Ra置換基はWに対してオルト位である、すなわち、式Ia又はIbにおけるRa1は、本願において対応する実施形態に記載した、アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、アルキルアミン、ヘテロアリール又はヘテロ脂環であり、好ましくはアルキル又はシクロアルキルである。
【0136】
本願に記載の式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式に係る本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Ra置換基の1以上(例:式Ia又はIb中のRa1~R
a5の内の1つ)が、本願において対応する実施形態に記載した、アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、アルキルアミン、ヘテロアリール又はヘテロ脂環であるとき、このようなRa置換基の少なくとも1つは、式I中のWに対してオルト位である。
【0137】
本願に記載の式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式に係る本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、nは3であり、Ra置換基の1つはアルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、アルキルアミン、ヘテロアリール又はヘテロ脂環であり、且つW(すなわち、式Ia又はIb中のRa1)に対してオルト位であり、他の2つのRa置換基はそれぞれハロである。
【0138】
本願に記載の式Ia、Ib及び任意の他の関連する式に係る本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、nは3であり、Ra1はアルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、アルキルアミン、ヘテロアリール又はヘテロ脂環、好ましくはアルキル又はシクロアルキルであり、且つ他の2つのRa置換基(Ra2、Ra3、Ra4及びRa5)はそれぞれハロ、好ましくはクロロである。これら実施形態のいくつかにおいては、Ra3及びRa5はそれぞれハロ、好ましくはそれぞれクロロである。
【0139】
式Iに係る本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、nは3であり、Ra置換基の1つはアルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、アルキルアミン、ヘテロアリール又はヘテロ脂環、好ましくはアルキル又はシクロアルキルであり、且つWに対してオルト位であり、他の2つのRa置換基はそれぞれハロ、好ましくはクロロであり、mは1であり、Rbはハロ、好ましくはクロロであり、且つWに対してパラ位である。
【0140】
式Ia又はIbに係る本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Ra1はアルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、アリール、アルコキシ、アルキルアミン、ヘテロアリール又はヘテロ脂環である。
【0141】
式Ia又はIbに係る本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Ra3及びRa5は、各々独立して、ハロ(例:クロロ)である。
【0142】
-V-Z側鎖:
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Vは-(CR2R3)k-Uであり、kは0、1又は2であり、R2及びR3は、各々独立して、水素、アルキル、シクロアルキル及びアリールであり、Uはアミド(-C(=O)-NR10-)又はその異性体である。
【0143】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、kは1である。
【0144】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、kは1であり、R2及びR3はそれぞれ水素である。
【0145】
例示的な実施形態において、Uはアミド(-C(=O)-NR10-)であり、これら実施形態のいくつかにおいては、R10は水素である。
【0146】
代替的な実施形態において、Uはアミドのアイソステアである。
【0147】
「アイソステア」とは、対応する親部分(ここではアミド)と類似した形状及び/又は電子特性及び/又は生物活性を有し、故に親部分と同様に体に認識されることが期待される部分を意味する。薬理化学の文脈においては、アイソステアはバイオアイソステアとも称される。
【0148】
アミドのアイソステアの例としては、スルホンアミド、ホスホンアミデート、チオアミド、エステル、尿素、フルオロアルケン、アルケン、テトラゾール、オキサジアゾール、チアゾール、トリアゾール、イミダゾール、ピラゾール、インドール、ピリジン、ピラジン、カルバメート、アミジン、トリフルオロエチルアミン、ヒドロキシエチル、アルファ-ジフルオロケトン及びオキセタニルアミンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0149】
例示的なアイソステアは
図1に示され、オキセタニルアミンの化合物526、及びトリアゾールの化合物527である。
【0150】
式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、kは1であり、R2及びR3はそれぞれ水素であり、Uはアミド(-C(=O)-NR10-)又は本願に記載のそのアイソステアであり、及びZは式IIで表される。
【0151】
部分Zは、好ましくは、1以上の酸素原子を、例えば、側鎖の骨格の一部として(例:XがOのとき、又はYがOR11であり、R11が水素以外のとき)、側鎖の末端基の一部として(例:YがOR11であり、R11が水素のとき)、及び/又は側鎖主鎖の置換基として(例:R5、R6、R7及びR8の1以上が酸素含有ヘテロ脂環(例:フラン又はオキセタン)であるとき、又はR5、R6、R7及びR8の2以上が一緒に酸素含有ヘテロ脂環を形成するとき、及び/又はR5、R6、R7及びR8の1以上がヒドロキシ又はアルコキシ又は本願に記載の酸素含有ヘテロ脂環、又はヒドロキシ置換シクロアルキルであるとき)含むべきである。前述の任意の組み合わせが想定される。
【0152】
式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Xは存在しない。
【0153】
式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、R5、R6、R7及びR8の少なくとも1つは、独立してアルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、ハロアルキル、エーテル、及びハロから選ばれる、及び/又はR5、R6、R7及びR8の少なくとも2つが一緒に脂環又はヘテロ脂環を形成する。
【0154】
式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、R5、R6、R7及びR8の内の2以上をアルキル、ハロアルキル及びハロからそれぞれ独立に選択し、いくつかの実施形態においては、R5、R6、R7及びR8の内の2以上はアルキルである。
【0155】
式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、uは1又は2である。uが1を越え、且つ2以上の(CR5R6)部分で構成されるとき、R5及びR6はそれぞれ同じ又は異なる部分であり得ることに着目されたい。
【0156】
式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、R5及びR6はそれぞれ水素である。
【0157】
式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、uは1又は2であり、R5及びR6はそれぞれ水素である。
【0158】
式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、 q は1又は2である。qが1を越え、且つ2以上の(CR7R8)部分で構成されるとき、R7及びR8はそれぞれ同じ又は異なる部分であり得ることに着目されたい。
【0159】
式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、qは1であり、R7及びR8の少なくとも1つまたはそれぞれがアルキルである。
【0160】
式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、uは1又は2であり、R
5及びR
6はそれぞれ水素であり、qは1であり、R
7及びR
8の少なくとも1つまたはそれぞれがアルキルである。例示的なこのような化合物としては、
図1、2及び3のAに示した化合物417、417-4、532、270、519、421-6、526、527が挙げられる。
【0161】
式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、qは1であり、及びR7及びR8の少なくとも1つまたはそれぞれが水素である。
【0162】
式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、uは1又は2であり、R
5及びR
6はそれぞれ水素であり、qは1であり、R
7及びR
8の少なくとも1つまたはそれぞれが水素である。例示的なこのような化合物としては、
図1に示した化合物552及び627が挙げられる。
【0163】
本願に記載の式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式に係る本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、R
5、R
6、R
7及びR
8の内の1以上がそれぞれ独立してヒドロキシ、ヒドロキシアルキル、エーテル、ヘテロ脂環(例:本願に記載の酸素含有)又はシクロアルキル(例:3、4又は5原子)である。これら実施形態のいくつかにおいては、シクロアルキルは1以上のヒドロキシ基で置換される。これら実施形態のいくつかにおいては、uは1又は2である。これら実施形態のいくつかにおいては、qは1である。これら実施形態のいくつかにおいては、uは1又は2であり、且つqは1である。例示的なこのような化合物としては、
図1、2及び3のAに示した化合物486、490、533、536、569、573、482、513、514、414、415、482が挙げられる。
【0164】
本願に記載の式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式に係る本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、R
5、R
6、R
7及びR
8の内の2以上が一緒に脂環、例えば、シクロブタンを形成する。これら実施形態のいくつかにおいては、uは1又は2である。これら実施形態のいくつかにおいては、qは1である。これら実施形態のいくつかにおいては、uは1又は2であり、且つqは1である。例示的なこのような化合物としては、
図1、2及び3のAに示した化合物498、499、500、501、502、512、480、481、483、484、485、489、488、534、535が挙げられる。
【0165】
本願に記載の式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式に係る本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、R
5、R
6、R
7及びR
8の内の2以上が一緒にヘテロ脂環、好ましくは酸素含有4員、5員又は6員ヘテロ脂環を形成する。例示的な実施形態においては、酸素含有ヘテロ脂環はフランである。これら実施形態のいくつかにおいては、uは1又は2である。これら実施形態のいくつかにおいては、qは1である。これら実施形態のいくつかにおいては、uは1又は2であり、且つqは1である。任意のこれら実施形態のいくつかにおいては、Xは不存在である。例示的なこのような化合物としては、
図1及び
図3のAに示した化合物503、504、505、506、507、537が挙げられる。
【0166】
式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、式IIに付いて本願に記載した任意の実施形態との組み合わせにおいて、YはOR11であり、且つR11は水素である。
【0167】
式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、式IIに付いて本願に記載した任意の実施形態との組み合わせにおいて、YはOR
11であり、且つR
11はアルキル、好ましくは少なくとも1つのヒドロキシ、アミド及び/又はカルボキシで置換されたものである。例示的なこのような化合物としては
図1及び
図2に示した化合物486、483及び488が挙げられる。
【0168】
式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、式IIに付いて本願に記載した任意の実施形態との組み合わせにおいて、YはOR
11であり、且つR
11は本願で定義したヘテロアリール又はヘテロ脂環である。例示的なこのような化合物は、化合物481である(
図2参照)。
【0169】
式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、式IIに付いて本願に記載した任意の実施形態との組み合わせにおいて、YはNR12R13である。
【0170】
式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、式IIに付いて本願に記載した任意の実施形態との組み合わせにおいて、YはNR
12R
13であり、且つR
12はR
5、R
6、R
7及びR
8の内の1以上と一緒に窒素含有ヘテロ脂環(例:アゼチジン)を形成する。これら実施形態のいくつかにおいては、R
13は水素、ヒドロキシ、アルキル、ヒドロキシアルキル、アルキレングリコール又はアルコキシである。例示的なこのような化合物としては、
図2に示した化合物487及び491が挙げられる。
【0171】
式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、式IIに付いて本願に記載した任意の実施形態との組み合わせにおいて、Yは-NR12-C(=O)-R14である。
【0172】
式I、Ia、Ib及び任意の他の関連する式について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、式IIに付いて本願に記載した任意の実施形態との組み合わせにおいて、Yは-NR
12-C(=O)-R
14であり、且つR
12はR
5、R
6、R
7及びR
8の内の1以上と一緒に窒素含有ヘテロ脂環(例:アゼチジン)を形成する。例示的なこのような化合物としては、
図2に示した化合物 492が挙げられる。
【0173】
W架橋:
式I、Ia、Ib及びII、並びにこれらの任意の組み合わせに係る、本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Wは-NRx-であり、且つRxはRa置換基の1つと一緒に窒素含有ヘテロ環を形成する。窒素含有ヘテロ環は4員、5員、6員、7員、又は8員の環であり得、好ましくは4員、5員又は6員の環である。ヘテロ環は、環Aに融合したヘテロアリール又はヘテロ脂環であり得る。
【0174】
これら実施形態のいくつかにおいては、Rxは、本願に記載の、Wに対してオルト位であるRa置換基(例:式Ia又はIbのRa1)とヘテロ環を形成する。このような化合物を、本願においてケモタイプI化合物とも称する。
【0175】
式Iの対応する実施形態のいくつかにおいては、Aはアリール(例:フェニル)であい、且つBはアリール(例:フェニル)又はヘテロアリールである。いくつかの実施形態においては、Bがヘテロアリールのとき、ヘテロアリールは窒素含有ヘテロアリールであり、1、2又は3窒素原子を環内に含み得る。いくつかの実施形態においては、Bがヘテロアリールであり、ヘテロアリールはピリジンである。
【0176】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、ケモタイプIの化合物について、化合物は集合的に式IIIで表される。
【0177】
【化16】
(式中、
-V-Z(側鎖部分)は、任意の対応する実施形態またはそれらの任意の組み合わせについて本願に記載した通りであり、
DはN又はC-Rb3であり、
Ra2~Ra5、Rb1~Rb4、V及びZは、任意の対応する実施形態またはそれらの任意の組み合わせについて、本願において式I、Ia又はIbで定義し、記載した通りであり、
Rc1及びRc2は、各々独立して、任意の対応する実施形態またはそれらの任意の組み合わせについて、本願においてRa1~Ra5で定義した置換基である。)
【0178】
これら実施形態においては、Rx及びRa1は一緒に、環Aに融合した窒素含有ヘテロアリールを形成する。
【0179】
式IIIについて本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Rc1及びRc2は、各々独立して、水素、又はa置換基(アルキル、ハロアルキル、及び/又はハロ)であり得る。例示的な実施形態において、Rc1は水素であり、且つRc2はアルキル、好ましくは長さが炭素原子数1~4の低級アルキル、例えば、メチル、又はハロアルキル、例えば、トリハロアルキル(CF3等)、又はハロ、例えば、フルオロ又はクロロである。
【0180】
式III、ケモタイプI、の例示的な化合物を
図1に示した。
【0181】
式I、Ia、Ib及びII、並びにこれらの任意の組み合わせに係る、本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Wは-S-である。このような化合物は、本願において、ケモタイプII化合物とも称する。
【0182】
式Iの対応する実施形態のいくつかにおいては、Aはアリール(例:フェニル)であり、且つBはアリール(例:フェニル)又はヘテロアリール、例えば、本願に記載の窒素含有ヘテロアリール(例:ピリジン)である。
【0183】
ケモタイプIIの化合物について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、化合物は集合的に式IVで表される。
【0184】
【化17】
(式中、
-V-Z(側鎖部分)は、任意の対応する実施形態またはそれらの任意の組み合わせについて本願に記載した通りであり、
DはN又はC-Rb3であり、
Ra1~Ra5、Rb1~Rb4、V及びZは、対応する実施形態又はそれらの組み合わせにいずれかにおいて、式I、Ia又はIbで定義した通りである。)
【0185】
例示的な実施形態において、Ra1は、式I、Ia又はIbについて本願に記載したアルキル又はシクロアルキルである。
【0186】
式IV、ケモタイプIIの例示的な化合物を
図2に示した。
【0187】
式I、Ia、Ib及びII、並びにこれらの任意の組み合わせに係る、本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Wは-CR1(OH)-であり、且つR1は本願で定義した通りである。このような化合物を本願においてケモタイプIII化合物とも称する。
【0188】
式Iの対応する実施形態のいくつかにおいては、Aはアリール(例:フェニル)であり、且つBはアリール(例:フェニル)又はヘテロアリール、例えば、本願に記載の窒素含有ヘテロアリール(例:ピリジン)である。
【0189】
ケモタイプIIIの化合物について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、化合物は集合的に式Vで表される。
【0190】
【化18】
(式中、
-V-Z(側鎖部分)は、任意の対応する実施形態またはそれらの任意の組み合わせについて本願に記載した通りであり、
DはN又はC-Rb3であり、
Ra1~Ra5、Rb1~Rb4、V及びZは、対応する実施形態又はそれらの組み合わせにいずれかにおいて、式I、Ia又はIbで定義した通りである。)
【0191】
例示的な実施形態において、Ra1は、式I、Ia又はIb.について本願で定義した、アルキル又はシクロアルキルである。
【0192】
式I、Ia、Ib及びII、並びにこれらの任意の組み合わせに係る、本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、Wは-C(=O)-である。このような化合物を、本願においてケモタイプIV化合物とも称する。
【0193】
式Iの対応する実施形態のいくつかにおいては、Aはアリール(例:フェニル)であり、且つBはアリール(例:フェニル)又はヘテロアリール(例:ピリジン)である。
【0194】
ケモタイプIVの化合物について本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、化合物は集合的に式VIで表される。
【0195】
【化19】
(式中、
-V-Z(側鎖部分)は、任意の対応する実施形態またはそれらの任意の組み合わせについて本願に記載した通りであり、
DはN又はC-Rb3であり、
Ra1~Ra5、Rb1~Rb4、V及びZは、本願において式I、Ia又はIbで定義した通りである。)
【0196】
例示的な実施形態において、Ra1は、式I、Ia又はIbについて記載したとおり、アルキル又はシクロアルキルである。
【0197】
式V及びVI、ケモタイプIII及びIVの例示的な化合物を
図3のAに示した。後述する実施例の項で説明し、
図3のBに示すように、ケモタイプIII化合物を酵素的にケモタイプIV化合物に変換すること、及びその逆も可能である。
【0198】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、新たに設計した化合物は、以下の特徴の1以上、又は2以上、又は3以上、そして好ましくは全てを発揮するものである。
本願の記載に従って決定したLogD値が、4超、5超又は4と7の範囲内である、
本願の記載に従って決定した、リガンド脂溶性効率(LLE)が3超、又は5超である、
本願の記載に従って決定したHLM Clintが100μl/分/mg未満である、
動力学的溶解度が20マイクロモル超、又は30マイクロモル超である。
【0199】
本明細書に記載の実施形態のいずれか及びその任意の組み合わせに関して、化合物は塩、例えば、薬学的に許容し得る塩の形態とすることができる。
【0200】
本明細書で使用する「薬学的に許容し得る塩」という語句は、親化合物の荷電種とその対イオンを意味し、これは通常、親化合物の溶解特性の調整、及び/又は親化合物による生物へのいずれかの大きな刺激を低減するために使用されるが、投与化合物の生物学的活性や特性を無効にはしない。本明細書に記載の化合物の薬学的に許容し得る塩は、例えば、反応混合物からの化合物の単離又は化合物の再結晶化の過程等、化合物の合成中に形成することもできる。
【0201】
本実施形態の幾つかの状況では、本明細書に記載の化合物の薬学的に許容し得る塩は、必要に応じて、正に荷電した状態の(例えば、塩基性基がプロトン化している)化合物の少なくとも1種の塩基性基(例えば、複素環基中のアミン及び/又はアミド及び/又は窒素原子)と、薬学的に許容し得る塩を形成する、選択された酸由来の少なくとも1種の対イオンとの組み合わせを含む、酸付加塩とすることができる。
【0202】
従って、本明細書に記載の化合物の酸付加塩は、化合物の1種以上の塩基性基と1当量以上の酸との間で形成される複合体とすることができる。
【0203】
化合物中の荷電基と塩中の対イオンとの間の化学量論比に応じて、酸付加塩は、単付加塩又は重付加塩とすることができる。
【0204】
本明細書で使用される「単付加塩」という語句は、対イオンと荷電状態の化合物との化学量論比が1:1である塩を意味し、付加塩は、化合物の1モル当量当たり1モル当量の対イオンを含む。
【0205】
本明細書で使用される「重付加塩」という語句は、対イオンと荷電状態の化合物との化学量論比が1:1より大きく、例えば2:1、3:1、4:1やそれ以上である塩を意味し、付加塩は、化合物の1モル当量当たり2モル当量以上の対イオンを含む。
【0206】
薬学的に許容し得る塩の例として、アンモニウムカチオン又はグアニジニウムカチオンとその酸付加塩が挙げられるが、これに限定されない。
【0207】
酸付加塩は様々な有機酸や無機酸を含むことができ、例えば、塩酸付加塩をもたらす塩酸、臭化水素酸付加塩をもたらす臭化水素酸、酢酸付加塩をもたらす酢酸、アスコルビン酸付加塩をもたらすアスコルビン酸、ベシル酸塩付加塩をもたらすベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸付加塩をもたらすカンファースルホン酸、クエン酸付加塩をもたらすクエン酸、マレイン酸付加塩をもたらすマレイン酸、リンゴ酸付加塩をもたらすリンゴ酸、メタンスルホン酸(メシレート)付加塩をもたらすメタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸付加塩をもたらすナフタレンスルホン酸、シュウ酸付加塩をもたらすシュウ酸、リン酸付加塩をもたらすリン酸、p-トルエンスルホン酸付加塩をもたらすトルエンスルホン酸、コハク酸付加塩をもたらすコハク酸、硫酸付加塩をもたらす硫酸、酒石酸付加塩をもたらす酒石酸、及びトリフルオロ酢酸付加塩をもたらすトリフルオロ酢酸が挙げられるが、これらに限定されない。これらの酸付加塩の各々は、これらの用語が本明細書で定義されている通り、単付加塩又は重付加塩とすることができる。
【0208】
本実施形態は更に、本明細書に記載の化合物の任意の鏡像異性体、ジアステレオマー、プロドラッグ、溶媒和物、水和物及び/又は薬学的に許容し得る塩を包含する。
【0209】
本明細書で使用される「鏡像異性体」という用語は、互いの完全な反転/反射(鏡像)によってのみ、その対応物に重ねることができる化合物の立体異性体を意味する。鏡像異性体には「利き手」があると言われており、右利きと左利きのように互いに言及される。鏡像異性体は、全ての生物系等、それ自体が利き手を有する環境に存在する場合を除いて、同一の化学的及び物理的特性を有する。本実施形態の状況では、化合物が1種以上のキラル中心を示し、その各々がR配置又はS配置及び任意の組み合わせを示すことがあり、本発明の幾つかの実施形態に係る化合物は、R配置又はS配置を示す任意のキラル中心を有することがある。
【0210】
本明細書で使用される「ジアステレオマー」という用語は、互いにエナンチオマーではない立体異性体を意味する。ジアステレオマーが生じるのは、化合物の2種以上の立体異性体が等価な(関連する)立体中心の1種以上(全てではない)で異なる配置を持っているが、互いに鏡像ではない場合である。2種のジアステレオマーが1種の立体中心のみで互いに異なっている場合、それらはエピマーである。各立体中心(キラル中心)によって2種の異なる立体配置が生じるため、2種の異なる立体異性体が生じる。本発明の状況では、本発明の実施形態は、任意の立体配置の組み合わせで生じる複数のキラル中心を有する化合物、即ち、任意のジアステレオマーを包含する。
【0211】
「プロドラッグ」という用語は、インビボで活性化合物(活性親薬物)に変換する薬剤を意味する。プロドラッグは通常、親薬物の投与を容易にするのに有用である。プロドラッグは、例えば、経口投与により生体利用可能となるが、親薬物はそうではない。プロドラッグは、医薬組成物中の親薬物と比較して溶解性が改善されていることもある。プロドラッグを使用してインビボでの活性化合物の持続放出を得ることも多い。本願の実施形態のいくつかによる化合物の例示的なプロドラッグには、(例:側鎖の)ヒドロキシ基のエステルが含まれ、カルボン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられる。
【0212】
「溶媒和物」という用語は、溶質(本発明の化合物)と溶媒によって形成されており、これによって溶媒が溶質の生物活性を妨げることのない、可変化学量論(例えば、ジ、トリ、テトラ、ペンタ、ヘキサ等)の複合体を意味する。適切な溶媒としては、例えば、エタノール、酢酸等が挙げられる。
【0213】
「水和物」という用語は、溶媒が水である、上で定義されたような溶媒和物を意味する。
【0214】
医薬組成物:
本願に記載の任意の方法又は使用において、本実施形態の化合物は、そのままで、あるいは適切な担体または賦形剤と混合した医薬組成物として、利用され得る。
【0215】
本発明の幾つかの実施形態の様相によれば、本明細書に記載の化合物と薬学的に許容し得る担体を含む医薬組成物が提供される。
【0216】
本願において、「医薬組成物」とは、本願に記載の1種または複数種の有効成分の、生理学的に適した担体および賦形剤等のその他の化学成分との製剤を指す。医薬組成物の目的は、生物への化合物の投与を容易にすることである。
【0217】
「有効成分」という用語は、生物学的作用を担う化合物を意味する。
【0218】
以下、互換的に使用される「生理学的に許容される担体」と「薬学的に許容される担体」という成句は、生物に対して重大な刺激を引き起こさず、投与された化合物の生物学的活性および特性を抑制しない担体または希釈剤を意味する。このような成句にはアジュバントが含まれている。
【0219】
本願において用語「賦形剤」とは、有効成分の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加する不活性物質を指す。賦形剤の非限定的な例として、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖およびデンプンの種類、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが挙げられる。
【0220】
本発明のいくつかの実施形態の医薬組成物は、当技術分野で周知のプロセスによって、例えば、従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠作製、すりつぶし、乳化、カプセル化、封入または凍結乾燥プロセスによって製造され得る。
【0221】
したがって、本発明のいくつかの実施形態に従って使用するための医薬組成物は、賦形剤および補助剤を含む1種または複数の生理学的に許容される担体を使用して従来方法で製剤化することができる。当該担体は、有効成分の薬学的に許容される製剤への加工を容易にする。適切な製剤は、選択された投与経路に応じて変わる。
【0222】
薬物の製剤化および投与の技術は、参照により本願に組み込まれる、“Remington's Pharmaceutical Sciences,” Mack Publishing Co., Easton, PA、最新版に見い出すことができる。
【0223】
適した投与経路として、例えば、経口、直腸、経粘膜、特に経鼻、腸管または筋肉内、皮下および髄様内注射を含む非経口送達、ならびにくも膜下腔内、直接脳室内、心臓内(例えば、右または左心室腔へ、総頸動脈へ)、静脈内、腹腔内、鼻腔内または眼球内注射を挙げることができる。
【0224】
あるいは、全身よりも局所で、例えば、患者の組織領域への医薬組成物の注射によって、医薬組成物を投与してもよい。
【0225】
「組織」という用語は、一又は複数の機能を実施するように設計された細胞からなる、生物の部分を意味する。例としては、脳組織、網膜、皮膚組織、肝臓組織、膵臓組織、骨、軟骨、結合組織、血液組織、筋肉組織、心臓組織、脳組織、血管組織、腎組織、肺組織、生殖腺組織、造血組織が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0226】
本発明のいくつかの実施形態によると、本願に記載の化合物又は医薬組成物は局所的に投与される。
【0227】
局所投与用には、本願に詳細に記載するように、適切な担体を選択し、任意で他の材料を組成物に含めることができる。よって、組成物は、例えば、クリーム剤、軟膏剤、ペースト剤、ゲル剤、ローション剤および/または洗浄剤の形状であり得る。
【0228】
軟膏剤は、典型的には、植物油(例:シアバターおよび/またはカカオバター)またはワセリンまたはワセリン誘導体を主体とする半固体調製物である。他の担体またはベヒクルと同様に、軟膏基剤は、不活性で、安定で、非刺激性で、かつ非感作性である必要がある。
【0229】
ローション剤は、摩擦を与えずに皮膚表面に適用される調製物である。ローション剤は、典型的には、水基剤またはアルコール基剤の液体または半液体の調製物、例えば、水中油型エマルションである。ローション剤は、より流動性の高い組成物の適用が容易であることから(例:多くの場合、日焼け止め組成物において望ましいように)身体の広い領域を処置する場合に一般に好ましい。
【0230】
クリーム剤は、水中油型または油中水型のいずれかである、粘稠な液体または半固体のエマルションである。クリーム基剤は典型的には油相と、乳化剤と、水相とを含有する。油相は、「親油」相とも呼ばれ、任意でワセリンおよび/またはセチルアルコールもしくはステアリルアルコールなどの脂肪族アルコールを含む。水相は任意で湿潤剤を含む。クリーム処方中の乳化剤は、任意で非イオン性、アニオン性、カチオン性、または両性の界面有効成分である。
【0231】
本願において、「エマルション」という用語は、2以上の異なる相(例:親水相と親油相)に液体を含む組成物を意味する。非液状物質(例:分散した固体および/または気泡)が任意で存在してもよい。
【0232】
本願および当業界で使用するように、「油中水型エマルション」とは、親油相中に分散した水相によって特徴づけられるエマルションである。
【0233】
本願および当業界で使用するように、「水中油型エマルション」とは、水相中に分散した親油相によって特徴づけられるエマルションである。
【0234】
ペースト剤は半固体の剤形であって、その基剤の性質によって、脂肪性ペースト剤と単相水性ゲルから作製されたペースト剤とに分けられる。脂肪性ペースト剤の基剤は、一般に、ワセリン、親水性ワセリン等である。単相水性ゲルから作製されたペースト剤は一般に、カルボキシメチルセルロース等を基剤として組み込んでいる。
【0235】
ゲル処方は、半固体の、懸濁液型の系である。単相ゲル剤は、典型的には水性である担体液全体にわたり実質的に均質に分布した有機巨大分子を含有するが、好ましくは、非水性溶媒と、所望により油とをさらに含有する。好ましい有機巨大分子、すなわちゲル化剤には、カルボマーポリマーのファミリー、例えば、Carbopol(登録商標)の商標で市販されているものとして得られる、カルボキシポリアルキレンなどの架橋アクリル酸ポリマーが含まれる。当該態様における他の種類の好ましいポリマーは、ポリエチレンオキシド、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー、およびポリビニルアルコールなどの親水性ポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、およびメチルセルロースなどのセルロース系ポリマー、トラガントおよびキサンタンガムなどのガム、アルギン酸ナトリウム、ならびにゼラチンである。均質なゲルを調製するため、アルコールまたはグリセリンなどの分散剤を添加してもよく、ゲル化剤を、粉砕、機械的混合もしくは撹拌、またはこれらの組合せによって分散してもよい。
【0236】
局所投与用に処方された組成物は、任意で、パッチ、スワッブ、綿球および/またはパッドに含まれてもよい。
【0237】
皮膚パッチなどは以下の成分の全てまたは一部を含んでもよい。投与される(例:本明細書に記載の)組成物、任意で使用前に取り除かれる、保存時にパッチを保護するライナー、種々の成分をまとめるおよび/またはパッチを皮膚に張り付けるための粘着剤、外部環境からパッチを保護するための裏剤、および/または皮膚への薬剤の放出を制御するメンブラン。
【0238】
本発明のいくつかの実施形態によると、本願に記載の化合物又は医薬組成物は、中枢及び/又は末梢神経系に化合物を送達するように投与される。
【0239】
中枢神経系(CNS)への薬物送達のための従来アプローチとして、神経外科的戦略(例えば、大脳内注射または脳室内注入)、BBBの内因性輸送経路の1種を利用する薬剤の構築を目的とした分子操作(例えば、内皮細胞表面分子に対して親和性を有する輸送ペプチドと、自身ではBBBを通過できない薬剤との組み合わせを含む、キメラ融合タンパク質の製造)、薬剤の脂溶性を増大するように設計する薬理学的戦略(例えば、脂質担体またはコレステロール担体への水溶性薬剤の結合)、および高浸透圧性の破壊によるBBBの完全性の一過性の破壊(頚動脈へのマンニトール溶液の注入、またはアンジオテンシンペプチドなどの生物学的に活性な薬剤の使用によるもの)が挙げられる。しかし、これらの戦略の各々には、侵襲的外科的手順に関連する固有のリスク、内因性輸送系に固有の制限によって課せられるサイズの限界、CNSの外では活性であり得る担体モチーフを含むキメラ分子の全身投与と関連する潜在的に望ましくない生物学的副作用、およびBBBが破壊された脳の領域内で生じうる脳損傷のリスクといった限界が存在し、これら限界故に、準最適な送達法となる。
【0240】
神経周囲への注射、あるいは点眼薬又は点耳薬による局所投与も、有効成分を中枢神経系へと送達するために想定されている。
【0241】
注射のために、医薬組成物の有効成分は、水溶液中で、好ましくは、ハンクス溶液、リンゲル液または生理学的塩バッファーなどの生理学的に適合するバッファー中で製剤化され得る。経粘膜投与のために、透過されるべきバリアに適切な浸透剤が製剤化において使用される。このような浸透剤は、一般に、当技術分野で公知である。
【0242】
経口投与のために、医薬組成物は、活性化合物を、当技術分野で周知の薬学的に許容される担体と組み合わせることによって容易に製剤化され得る。このような担体は、患者による経口摂取のために、医薬組成物が、錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル剤、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液等として製剤化することを可能にする。経口使用のための薬理学的製剤は、錠剤または糖衣錠コアを得るために、必要に応じて適した補助剤を添加した後に、固体賦形剤を使用して、任意選択で、得られた混合物を粉砕し、混合物を顆粒に加工して作製され得る。適した賦形剤として、特に、ラクトース、スクロース、マンニトールまたはソルビトールを含む糖類、例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、イネデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース等のセルロース製剤および/またはポリビニルピロリドン(PVP)等の生理学的に許容されるポリマー等の増量剤がある。必要に応じて、架橋ポリビニルピロリドン、寒天またはアルギン酸またはアルギン酸ナトリウムなどのその塩などの崩壊剤が添加され得る。
【0243】
糖衣錠コアは適したコーティングと共に提供される。この目的のために、任意選択で、アラビアガム、タルク、ポリビニルピロリドン、カーボポールゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液および適した有機溶媒または溶媒混合物を含有し得る濃縮糖溶液が使用され得る。同定のため、または活性化合物用量の異なる組合せを特徴付けるために、錠剤または糖衣錠コーティングに色素または顔料が添加され得る。
【0244】
経口的に使用され得る医薬組成物として、ゼラチンから製造されたプッシュフィットカプセル剤ならびにゼラチンおよびグリセロールまたはソルビトール等の可塑剤から製造されたソフト密閉カプセル剤が挙げられる。プッシュフィットカプセル剤は、ラクトースなどの増量剤、デンプンなどの結合剤、タルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤および任意選択で、安定化剤との混合物中に有効成分を含有し得る。ソフトカプセル剤中で、有効成分は、脂肪オイル、流動パラフィンまたは液体ポリエチレングリコールなどの適した液体中に溶解または懸濁され得る。さらに、安定化剤が添加され得る。経口投与用のすべての製剤は、選択された投与経路に適した投与量とすべきである。
【0245】
頬側投与のために、組成物は、従来法で製剤化された錠剤またはトローチ剤の形態をとり得る。
【0246】
鼻腔吸入による投与のために、本発明のいくつかの実施形態に従って使用するための有効成分は、適した噴射剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタンまたは二酸化炭素を用いて加圧パックまたは噴霧器からエアゾールスプレー製剤の形態で送達されることが好都合である。加圧エアロゾルの場合には、投与量単位は、計量された量を送達するためのバルブを提供することによって決定され得る。ディスペンサーにおいて使用するための、化合物およびラクトースまたはデンプンなどの適した粉末基剤の粉末混合物を含有する、例えばゼラチンのカプセル剤およびカートリッジ剤が製剤化され得る。
【0247】
本願に記載の医薬組成物は、例えば、ボーラス注射または連続注入による非経口投与のために製剤化され得る。注射用製剤は、単位投与形で、例えば、アンプルまたは複数用量容器で、任意選択で、防腐剤の添加と共に提供され得る。組成物は、油性または水性媒体中の懸濁液、溶液またはエマルションであり得、懸濁剤、安定化剤および/または分散剤等の製剤用薬剤を含有し得る。
【0248】
非経口投与のための医薬組成物は、水溶性形態の活性製剤の水溶液を含む。さらに、有効成分の懸濁液は、適当な油性または水性ベースの注射懸濁液として調製され得る。適した親油性溶媒または媒体として、ゴマ油などの脂肪オイルまたはオレイン酸エチル、トリグリセリドまたはリポソームなどの合成脂肪酸エステルが挙げられる。水性注射用懸濁液は、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトールまたはデキストランなどの懸濁液の粘度を増大する作用物質を含有し得る。任意選択で、懸濁液はまた、適した安定化剤または高度に濃縮された溶液の製剤を可能にするために有効成分の溶解度を増大する薬剤を含有し得る。
【0249】
あるいは、有効成分は、使用前に、適した媒体、例えば、滅菌パイロジェンフリー水ベースの溶液を用いて構成するための粉末形態であり得る。
【0250】
本発明のいくつかの実施形態の医薬組成物はまた、例えば、ココアバターまたはその他のグリセリドなどの従来の坐剤基剤を使用して坐剤または保留浣腸などの直腸組成物に製剤化され得る。
【0251】
本発明のいくつかの実施形態に関連して使用するのに適した医薬組成物として、有効成分が、意図される目的を達成するのに有効な量で含有される組成物が挙げられる。より具体的には、治療上有効な量とは、治療されている対象の、本願に記載の病態に伴う症状を防ぐ、軽減するもしくは寛解させる、またはその生存を延長するのに有効な有効成分(本願に記載の化合物)の量を意味する。
【0252】
治療上有効な量の決定は、特に、本願において提供される詳細な開示内容を考慮して、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0253】
本発明の方法において使用される任意の製剤について、治療上有効な量または用量は、in vitroおよび細胞培養アッセイから最初に推定され得る。例えば、用量は、所望の濃度または力価を達成するように動物モデルにおいて製剤化され得る。このような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために使用され得る。
【0254】
本願に記載の有効成分の毒性および治療効力は、in vitroで、細胞培養物で、または実験動物で、標準医薬手順によって決定され得る。これらのin vitroおよび細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトにおいて使用するための投与量の範囲を決定するために使用され得る。投与量は、使用される投与形態および利用される投与経路に応じて変わり得る。正確な処方、投与経路および投与量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選択され得る(例えば、“The Pharmacological Basis of Therapeutics“, Ch. 1 p.1内のFingl et al. (1975)を参照)。
【0255】
投与量および投与間隔は、生物学的効果を誘導または抑制するのに十分な有効成分の組織(例:血漿)レベル(最小有効濃度、MEC)を提供するように、個別に調整することができる。MECは、各製剤によって変化するが、in vitroデータに基づいて推定することができる。MECを達成するのに必要な投与量は、個々の特徴および投与経路に応じて変化する。該当組織(例:血漿及び/又は脳)内の濃度を調べるために、検出アッセイが使用され得る。
【0256】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、化合物の有効量は100μM未満である。いくつかの実施形態においては、有効量は10μM未満である。いくつかの実施形態においては、有効量は5μM未満である。いくつかの実施形態においては、有効量は1μM未満である。いくつかの実施形態においては、有効量は0.5μM未満である。いくつかの実施形態においては、有効量は0.1μM未満である。
【0257】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、化合物の有効量は、1pM~1mM、又は1pM~100μM、又は100pM~100μM、又は100pM~10μM、又は100pM~1μM、又は100pM~500nM、又は100pM~100nMの範囲内であり、これらの中間値および副範囲も含まれる。
【0258】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、有効量は、TRPV1及び/又はKv7.2/3に対する化合物のIC50の少なくとも100%である。いくつかの実施形態においては、有効量は、TRPV1及び/又はKv7.2/3に対する化合物のIC50の少なくとも200%である。いくつかの実施形態においては、有効量は、TRPV1及び/又はKv7.2/3に対する化合物のIC50の少なくとも300%である。いくつかの実施形態においては、有効量は、TRPV1及び/又はKv7.2/3に対する化合物のIC50の少なくとも500%である。いくつかの実施形態においては、有効量は、TRPV1及び/又はKv7.2/3に対する化合物のIC50の少なくとも1000%である。
【0259】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、本願に記載の化合物の有効量はnM範囲(例:0.001~1,000nM、又は0.001nM~100nM)である。
【0260】
本願に記載の任意の実施形態のいくつかにおいては、本願に記載の化合物の有効量は、hERG阻害を生じる量と比べて少なくとも10%低い、あるいは少なくとも20、30、40、50、60、70、80、90、100%低い、あるいは更に低い。
【0261】
本発明の幾つかの実施形態では、治療効果を得るために必要な投与する組成物の量(例えば、本願に記載の化合物の投与量又は治療有効量)は、同様の治療効果を示すことが知られている前述の化合物の量よりも少なくとも20%、又は少なくとも30%少ない。
【0262】
治療されるべき状態の重症度および応答性に応じて、投与量は、数日から数週間持続する治療の過程で、または治癒が達成されるもしくは疾患状態の消失が達成されるまでに、単回または複数回投与のものであり得る。
【0263】
投与する組成物の量は、当然ながら、治療される対象、苦痛の重症度、投与方式、担当医師の判断などに依存するものである。
【0264】
本発明のいくつかの実施形態の組成物は、必要に応じて、FDA(米国食品医薬品局)により承認されたキット等のパックまたはディスペンサーデバイスに入れて提供してもよく、このようなパックまたはデバイスは、有効成分を含有する1つまたは複数の単位剤形を含有してもよい。パックは、例えば、金属箔またはプラスチック箔を含むブリスターパックなどでもよい。パックまたはディスペンサーデバイスは、投与のための説明書が添付されていてもよい。パックまたはディスペンサーはまた、医薬品の製造、使用または販売を規制する政府機関により規定された形態で容器に付随する通知が添付されていてもよく、この通知は、組成物の形態がヒトまたは動物への投与用として当該機関により承認されていることを反映するものである。このような通知は、例えば、処方薬に関して米国食品医薬品局により承認されたラベルの形態であってもよいし、または承認された製品の差し込み物の形態であってもよい。また、本発明の製剤を含み、適合可能な医薬用担体中に製剤化された組成物を調製し、適切な容器中に入れて、上記で詳述したように、表示した病態の治療または診断用であることを標識してもよい。
【0265】
本願において使用する「対象」という用語は、哺乳動物、好ましくは任意の年齢または性別のヒトを含む。特定の実施形態によると、「対象」という用語は、病理を発症するリスクのある個体を含む。
【0266】
本願に記載の化合物または医薬組成物は単独で、または当業界で病状(例:神経因性疼痛)の改善、及び/又は本願に記載のカリウムチャネルの活性化、及び/又はTRPV1活性の阻害が当業界において広く知られる他の有効成分と組み合わせて提供され得る。
【0267】
いくつかの実施形態において、本願に記載の化合物または医薬組成物は、本願に記載のカリウムチャネル(例:Kv7.2/3)の活性化剤と、共製剤として、又は別個の製剤として、一緒に投与してもよい。
【0268】
医薬組成物は、更なる医薬活性剤又は不活性剤(例えば、抗菌剤、抗酸化剤、緩衝剤、増量剤、界面活性剤、抗炎症剤、抗ウイルス剤、化学療法剤及び抗ヒスタミン剤が挙げられるが、これらに限定されない)及び/又は本明細書に記載の病態、疾患又は障害の治療に使用可能な更なる剤を更に含むことができる。
【0269】
使用:
本発明の幾つかの実施形態の様相によれば、電圧依存性カリウムチャネルの活性を調節するのに使用される、本明細書に記載の化合物又は本明細書に記載の医薬組成物が提供される。
【0270】
本発明の幾つかの実施形態の様相によれば、電圧依存性カリウムチャネルの活性を調節する方法であって、カリウムチャネルを本明細書に記載の化合物又は医薬組成物と接触させることを含む方法が提供される。この接触は、インビトロでは、例えば、チャネルを発現する細胞、組織又は器官を化合物又は組成物と接触させて行うことができ、インビボでは、治療有効量の化合物又は組成物を、それを必要とする対象に投与して行うことができる。
【0271】
幾つかの実施形態では、カリウムチャネルはKv7.2/7.3(本願において代替的にKv7.2/3とも称する)である。
【0272】
幾つかの実施形態では、調節はカリウムチャネルを開くことを含む。
【0273】
本発明の幾つかの実施形態の様相によれば、TRPV1チャネルの活性を調節するのに使用される、本明細書に記載の化合物又は本明細書に記載の医薬組成物が提供される。
【0274】
本発明の幾つかの実施形態の態様によれば、TRPV1チャネルの活性を調節する方法であって、TRPV1チャネルを本明細書に記載の化合物又は医薬組成物と接触させることを含む方法が提供される。この接触は、インビトロでは、例えば、チャネルを発現する細胞、組織又は器官を化合物又は組成物と接触させて行うことができ、インビボでは、治療有効量の化合物又は組成物を、それを必要とする対象に投与して行うことができる。
【0275】
幾つかの実施形態では、調節は、TRPV1チャネルの活性を阻害する(チャネルを遮断する)ことを含む。
【0276】
本発明の幾つかの実施形態の様相によれば、本明細書で各実施形態のいずれかに記載の電圧依存性カリウムチャネル及びTRPV1チャネルの両方の活性の調節に使用するための、本明細書に記載の化合物又は本明細書に記載の医薬組成物が提供される。
【0277】
本発明の幾つかの実施形態の様相によれば、電圧依存性カリウムチャネル及びTRPV1チャネルの活性を調節する方法であって、これらのチャネルを本明細書に記載の化合物又は医薬組成物と接触させることを含む方法が提供される。この接触は、インビトロでは、例えば、これらのチャネルを発現する細胞、組織又は器官を化合物又は組成物と接触させて行うことができ、インビボでは、治療有効量の化合物又は組成物を、それを必要とする対象に投与して行うことができる。
【0278】
本発明の幾つかの実施形態の様相によれば、電圧依存性カリウムチャネル及び/又はTRPV1チャネルの活性に関連する病態の治療に使用するための、本明細書に記載の化合物又は本明細書に記載の医薬組成物が提供される。
【0279】
本発明の幾つかの実施形態の様相によれば、電圧依存性カリウムチャネルとTRPV1チャネルの活性に関連する病態の治療に使用するための、本明細書に記載の化合物又は本明細書に記載の医薬組成物が提供される。
【0280】
本発明の幾つかの実施形態の様相によれば、電圧依存性カリウムチャネル及び/又はTRPV1チャネルの活性に関連する病態の治療を必要とする対象について、その病態を治療するための方法であって、本明細書で各実施形態のいずれか及びその任意の組み合わせに記載の化合物又は医薬組成物の治療有効量を対象に投与することを含む方法が提供される。
【0281】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、病態は、本明細書に記載のように、電圧依存性カリウムチャネル及びTRPV1チャネルの一方、好ましくはその両方の活性を調節することが有益となるようなものである。
【0282】
本明細書に記載の実施形態の幾つかによれば、病態は、本願に記載のように、電圧依存性カリウムチャネルを開き、TRPV1チャネルの活性を阻害(例:遮断)することが有益となるようなものである。
【0283】
病態の一例は神経障害性疼痛である。
【0284】
本明細書に記載のTRPV1チャネル機能及び/又は電圧依存性カリウムチャネルに関連する他の任意の病態(病状、状態、疾患及び/又は障害)が企図される。
【0285】
本願に記載のTRPV1阻害剤(例:遮断薬)(一般式Iを有する化合物)によって有益に治療可能な病態の例としては、てんかん、神経原性疼痛等の疼痛関連病態、神経障害性疼痛、異痛症、炎症に関連する疼痛、及び膵炎に関連する疼痛、双極性障害、気分障害、精神病性障害、統合失調症、不安、耳鳴り及び運動ニューロン疾患、膀胱過活動、尿失禁、持続性内臓過敏症、例えば、過敏性腸症候群(IBD)、慢性咳嗽、及び癌(例えば、扁平上皮癌、前立腺癌、膵臓癌)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0286】
カリウムチャネル機能の欠陥に関連する多くの病状、病態及び障害が存在する。他のカリウムチャネル開口化合物と同様に、本明細書に記載の化合物は、カリウムチャネル機能の欠陥に関連する病状、病態、疾患及び障害の治療の枠組み内で使用して、人間を含む動物の病態と病状の作用を処理、改善、予防、阻害又は制限するためのものである。
【0287】
本明細書に記載のカリウムチャネル開口薬によって有益に治療可能な病態の例としては、中枢又は末梢神経系障害、例えば、虚血性脳卒中、片頭痛、運動失調、パーキンソン病、双極性障害、三叉神経痛、痙攣、気分障害、脳腫瘍、精神病性障害、統合失調症、そう痒症、ミオキミア、神経原性疼痛、神経障害性疼痛、発作、てんかん、耳鳴り、聴覚及び視力喪失、不安及び運動ニューロン疾患が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載の化合物は、神経保護剤として(例えば、脳卒中等を防止するのに)更に有益に使用することができる。本明細書に記載の化合物は、胃食道逆流障害や胃腸運動機能障害等の疾患状態の治療にも有用である。
【0288】
本明細書に開示の化合物は、皮質及び/又は末梢ニューロン活性の抑制が有益である様々な病態、例えば、てんかん、虚血性脳卒中、片頭痛、運動失調、ミオキミア、神経原性疼痛、神経障害性疼痛、パーキンソン病、双極性障害、三叉神経痛、痙攣、気分障害、精神病性障害、統合失調症、脳腫瘍、聴覚及び視力喪失、不安、耳鳴り及び運動ニューロン疾患を治療するための強力な候補として使用することもできる。
【0289】
本発明の幾つかの実施形態の様相によれば、本明細書に記載の化合物又は組成物は、皮質及び/又は末梢ニューロン活性を抑制するのに使用する、及び/又は、本明細書に記載のように、対象において皮質及び/又は末梢ニューロン活性の抑制が有益である病態を治療するのに使用するものである。
【0290】
本願に開示する化合物は、ニューロンの過興奮に関連する病状の治療に特に有用である。
【0291】
本発明のいくつかの実施形態の一様相においては、本願に記載の化合物又は組成物は、治療を必要とする対象における、過興奮に関連する病状の治療用である。
【0292】
本発明のいくつかの実施形態の一様相においては、本願に記載の化合物又は組成物は、治療を必要とする対象における、過興奮に関連する病状の治療のための医薬の生製造用である。
【0293】
本発明のいくつかの実施形態の一様相においては、治療を必要とする対象における、過興奮に関連する病状の治療方法が提供され、治療は、本願の対応する実施形態に記載の化合物又は組成物を、任意の組み合わせで、有効量を対象に投与することで実施される。
【0294】
ニューロンの過興奮に関連する病状としては、てんかん、神経変性疾患、神経発達障害、脳卒中、網膜変性疾患、耳鳴り、脊髄損傷、外傷性脳損傷、(雑音過剰曝露や耳毒性による)聴力損失、神経因性疼痛、注意欠陥/多動性障害、自閉症、中枢性疼痛症候群、神経変性疾患、多発性硬化症、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、前頭側頭型認知症、統合失調症、ラスムッセン脳炎、ハンチントン病、アルコール依存症またはアルコール離脱症、ベンゾジアゼピン離脱過速、新生児痙攣、発作性運動失調症、筋痙攣、脳虚血、脳性麻痺、窒息、無酸素症、心臓手術の長期化、低血糖症、エイズ関連認知症、及び不安障害が挙げられるが、これらに限定されない。
【0295】
本明細書で使用する「約」は、±10%または±5%を指す。
【0296】
用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(having)」およびその活用形は、「限定されるものではないが、含む(including but not limited to)」を意味する。
【0297】
「からなる」という用語は、「含み、限定される」ことを意味する。
【0298】
「から実質的になる」という用語は、組成物、方法または構造が追加の成分、工程および/または部分を含み得ることを意味する。但しこれは、追加の成分、工程および/または部分が、請求項に記載の組成物、方法または構造の基本的かつ新規な特性を実質的に変更しない場合に限られる。
【0299】
本明細書において、単数形を表す「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに他を示さない限り、複数をも対象とする。例えば、「化合物(a compound)」または「少なくとも1種の化合物」には、複数の化合物が含まれ、それらの混合物をも含み得る。
【0300】
本願全体を通して、本発明のさまざまな実施形態は、範囲形式にて示され得る。範囲形式での記載は、単に利便性および簡潔さのためであり、本発明の範囲の柔軟性を欠く制限ではないことを理解されたい。したがって、範囲の記載は、可能な下位の範囲の全部、およびその範囲内の個々の数値を特異的に開示していると考えるべきである。例えば、1~6といった範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等の部分範囲のみならず、その範囲内の個々の数値、例えば1、2、3、4、5および6も具体的に開示するものとする。これは、範囲の大きさに関わらず適用される。
【0301】
本明細書において数値範囲を示す場合、それは常に示す範囲内の任意の引用数(分数または整数)を含むことを意図する。第1の指示数と第2の指示数「との間の範囲」という表現と、第1の指示数「から」第2の指示数「までの範囲」という表現は、本明細書で代替可能に使用され、第1の指示数および第2の指示数と、それらの間の分数および整数の全部を含むことを意図する。
【0302】
本明細書で使用する「方法」という用語は、所定の課題を達成するための様式、手段、技術および手順を意味し、化学、薬理学、生物学、生化学および医療の各分野の従事者に既知のもの、または既知の様式、手段、技術および手順から従事者が容易に開発できるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0303】
異常な活性、疾病または病態と関連して本明細書で使用する「治療する」という用語は、病態の進行の抑止、実質的な阻害、遅延または逆転、病態の臨床的または審美的な症状の実質的な寛解、あるいは病態の臨床的または審美的な症状の悪化の実質的な予防を含む。
【0304】
本明細書で使用される「アルキル」という用語は、直鎖基及び分岐鎖基を含む飽和脂肪族炭化水素を意味する。アルキル基は1~20個の炭素原子を有することが好ましい。本明細書に記載の数値範囲が、例えば「1~20」の場合、これは基(この場合はアルキル基)が1個の炭素原子、2個の炭素原子、3個の炭素原子等、最大20個の炭素原子を含むことを意味する。1~10個の炭素原子を有する中程度のアルキルであることがより好ましい。1~4個の炭素原子を有する低級アルキルであることが最も好ましい。アルキル基は置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。置換されている場合、置換基は、例えば、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロアリサイクリック、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、シアノ、ハロ、カルボニル、チオカルボニル、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、ニトロ、スルホンアミド、トリハロメタンスルホンアミド、シリル、グアニル、グアニジノ、ウレイド、アミノ又はNR’R’’(R’及びR’’は各々独立して水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、カルボニル、スルホニル、トリハロメチルスルホニル及び複合5員又は6員ヘテロ脂環)とすることができる。
【0305】
「ハロアルキル」基とは、本明細書で定義のアルキルが、本明細書で定義の1個以上のハロ置換基で置換されたものを表す。幾つかの実施形態では、ハロアルキルは、2個以上又は3個以上のハロ置換基で置換されたアルキルである。幾つかの実施形態では、ハロ置換基の各々はフルオロである。幾つかの実施形態では、ハロアルキルは-CF3又は-CF2Hである。
【0306】
「シクロアルキル」基とは、環の1個以上が完全共役π電子系(脂環)を有しない、全炭素単環式又は縮合環(即ち、隣接する炭素原子の対を共有する環)基を意味する。シクロアルキル基の例としては、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、シクロヘキサジエン、シクロヘプタン、シクロヘプタトリエン及びアダマンタンが挙げられるが、これらに限定されない。シクロアルキル基は置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。置換されている場合、置換基は、例えば、アルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロアリサイクリック、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、シアノ、ハロ、カルボニル、チオカルボニル、C-カルボキシ、O-カルボキシ、O-カルバミル、N-カルバミル、C-アミド、N-アミド、ニトロ、アミノ及び本願に記載のNR’R’’とすることができる。
【0307】
「アルケニル」基とは、少なくとも2個の炭素原子と少なくとも1個の炭素-炭素二重結合で構成されるアルキル基を意味する。
【0308】
「アルキニル」基とは、少なくとも2個の炭素原子と少なくとも1個の炭素-炭素三重結合で構成されるアルキル基を意味する。
【0309】
幾つかの実施形態では、アルキル置換基が示される場合、それは本明細書で定義のアルキニル又はアルキニルで置換することができる。
【0310】
「アリール」基とは、完全共役π電子系を有する全炭素単環式又は縮合環多環式(即ち、隣接する炭素原子の対を共有する環)基を意味する。アリール基の例としては、フェニル、ナフタレニル及びアントラセニルが挙げられるが、これらに限定されない。アリール基は置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。置換されている場合、置換基は、例えば、ハロ、トリハロメチル、アルキル、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオカルボニル、C-カルボキシ、O-カルボキシ、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、スルフィニル、スルホニル、アミノ及び本願で定義したNR’R’’とすることができる。
【0311】
「ヘテロアリール」基とは、例えば、窒素、酸素及び硫黄等の1個以上の原子を環内に有し、更に完全共役π電子系を有する単環式又は縮合環(即ち、隣接する原子の対を共有する環)基を意味する。ヘテロアリール基の例として、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、ピリジン、ピリミジン、キノリン、イソキノリン及びプリンが挙げられるが、これらに限定されない。ヘテロアリール基は置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。置換されている場合、置換基は、例えば、アルキル、シクロアルキル、ハロ、トリハロメチル、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオカルボニル、スルホンアミド、C-カルボキシ、O-カルボキシ、スルフィニル、スルホニル、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、C-アミド、N-アミド、アミノ又は本願で定義したNR’R’’とすることができる。
【0312】
本願全体を通じて、例えば、式II、III、IV及びVにおいて、ピリジンがヘテロアリールB環として記載されるとき、他の窒素含有ヘテロアリールも想定されることに着目されたい。
【0313】
「ヘテロアリサイクリック」基とは、窒素、酸素及び硫黄等の1個以上の原子を環内に有する単環式又は縮合環基を意味する。環は1個以上の二重結合を有することもできる。しかし、環は完全共役π電子系を有していない。ヘテロアリサイクリック基は置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。置換されている場合、置換基は、例えば、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、ハロ、トリハロメチル、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、シアノ、ニトロ、カルボニル、チオカルボニル、C-カルボキシ、O-カルボキシ、O-カルバミル、N-カルバミル、O-チオカルバミル、N-チオカルバミル、スルフィニル、スルホニル、C-アミド、N-アミド、アミノ及び本願で定義したNR’R’’とすることができる。
【0314】
本明細書で使用される「環状基」とは、アリサイクリック基(シクロアルキル)、アリール、ヘテロアリール又はヘテロアリサイクリックを表す。
【0315】
「ヒドロキシ」基とは-OH基を意味する。
【0316】
「アジド」基とは-N=N基を意味する。
【0317】
「アルコキシ」基とは、本明細書で定義の-O-アルキル基と-O-シクロアルキル基の両方を意味する。
【0318】
「ハロアルコキシ」基は、アルキルが本明細書に記載のハロアルキルであるO-アルキル基を表す。
【0319】
「アリールオキシ」基とは、本明細書で定義の-O-アリール基と-O-ヘテロアリール基の両方を意味する。
【0320】
「チオヒドロキシ」又は「チオール」基とは-SH基を意味する。
【0321】
「チオアルコキシ」基とは、本明細書で定義の-S-アルキル基と-S-シクロアルキル基の両方を意味する。
【0322】
「チオアリールオキシ」基とは、本明細書で定義の-S-アリール基と-S-ヘテロアリール基の両方を意味する。
【0323】
「カルボニル」基とは、R’が水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール(環炭素によって結合)又は本明細書に定義のヘテロアリサイクリック(環炭素によって結合)である-C(=O)-R’基を意味する。
【0324】
「アルデヒド」基とは、R’が水素であるカルボニル基を意味する。
【0325】
「チオカルボニル」基とは、R’が本明細書で定義の通りである-C(=S)-R’基を意味する。
【0326】
「カルボキシレート」という用語は、C-カルボキシレートとO-カルボキシレートを包含する。
【0327】
「C-カルボキシ」基とは、R’が本明細書で定義の通りである-C(=O)-O-R’基を意味する。
【0328】
「O-カルボキシ」基とは、R’が本明細書で定義の通りであるR’C(=O)-O-基を意味する。
【0329】
「カルボン酸」基とは、R’が水素であるC-カルボキシル基を意味する。
【0330】
「ハロ」基とは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素を意味する。
【0331】
「トリハロメチル」基とは、Xが本明細書で定義のハロ基である-CX3基を意味する。
【0332】
「トリハロメタンスルホニル」基とは、Xが本明細書で定義のハロ基であるX3CS(=O)2-基を意味する。
【0333】
「スルフィニル」基とは、R’が本明細書で定義の通りである-S(=O)-R’基を意味する。
【0334】
「スルホニル」基とは、R’が本明細書で定義の通りである-S(=O)2-R’基を意味する。
【0335】
「スルホニルアミド」という用語は、S-スルホニルアミドとN-スルホニルアミドを包含する。
【0336】
「S-スルホンアミド」基とは、R’が本明細書で定義の通りであり、R’’がR’について定義された通りである-S(=O)2-NR’R’’基を意味する。
【0337】
「N-スルホンアミド」基とは、R’とR’’が本明細書で定義の通りであるR’S(=O)2-NR’’基を意味する。
【0338】
「トリハロメタンスルホンアミド」基とは、R’とXが本明細書で定義の通りであるX3CS(=O)2NR’-基を意味する。
【0339】
「カルバメート」という用語は、O-カルバミルとN-カルバミルを包含する。
【0340】
「O-カルバミル」基とは、R’とR’’が本明細書で定義の通りである-OC(=O)-NR’R’’基を意味する。
【0341】
「N-カルバミル」基とは、R’とR’’が本明細書で定義の通りであるR’OC(=O)-NR’’-基を意味する。
【0342】
「チオカルバメート」という用語は、O-チオカルバミルとN-チオカルバミルを包含する。
【0343】
「O-チオカルバミル」基とは、R’とR’’が本明細書で定義の通りである-OC(=S)-NR’R’’基を意味する。
【0344】
「N-チオカルバミル」基とは、R’とR’’が本明細書で定義の通りであるR’’OC(=S)NR’-基を意味する。
【0345】
「アミノ」基とは、R’とR’’が本明細書で定義の通りである-NR’R’’基を意味する。
【0346】
「アルキルアミノ」基とは、R’とR’’の一方がアルキル(モノアルキルアミン)又はR’とR’’の両方が各々独立してアルキル(ジアルキルアミン)であるアミン基を意味する。
【0347】
「アミド」という用語はC-アミドとN-アミドを包含する。
【0348】
「C-アミド」基とは、R’とR’’が本明細書で定義の通りである-C(=O)-NR’R’’基を意味する。
【0349】
「N-アミド」基とは、R’とR’’が本明細書で定義の通りであるR’C(=O)-NR’’基を意味する。
【0350】
「四級アンモニウム」基とは、R’とR’’が独立してアルキル、シクロアルキル、アリール又はヘテロアリールである-NHR’R’’+基を意味する。
【0351】
「ウレイド」基とは、R’とR’’が本明細書で定義の通りであり、R’’’がR’又はR’’として定義された通りである-NR’C(=O)-NR’’R’’’基を意味する。
【0352】
「グアニジノ」基とは、R’、R’’及びR’’’が本明細書で定義の通りである-R’NC(=N)-NR’’R’’’基を意味する。
【0353】
「グアニル」基とは、R’とR’’が本明細書で定義の通りであるR’R’’NC(=N)-基を意味する。
【0354】
「ニトロ」基とは-NO2基を意味する。
【0355】
「シアノ」基とは-C≡N基を意味する。
【0356】
「シリル」基とは、R’、R’’及びR’’’が本明細書で定義の通りである-SiR’R’’R’’’を意味する。
【0357】
本願で使用するように、「アルキレングリコール」という用語は、-O-[(CR’R’’)z-O]y-R’’’末端基又は-O-[(CR’R’’)z-O]y-連結基を表し、R’、R’’及びR’’’は本願の定義の通りであり、zは1~10、好ましくは2~6、より好ましくは2又は3の整数であり、yは1以上の整数である。好ましくはR’及びR’’は共に水素である。zが2であり、yが1であるとき、この基はエチレングリコールである。zが3であり、yが1であるとき、この基はプロピレングリコールである。yが2~4であるとき、本願においてアルキレングリコールをオリゴ(アルキレングリコール)と称する。
【0358】
本明細書及び当技術分野で使用される「脱離基」は、化学反応中に有機分子から容易に脱離する不安定な原子、基又は化学部分を表すが、脱離は通常、脱離原子、基又はその部分の相対的安定性によって促進される。通常、強酸の共役塩基である任意の基が脱離基として作用することができる。本実施形態の幾つかに係る適切な脱離基の代表的な例としては、トリクロロアセトイミデート、アセテート、トシレート、トリフレート、スルホネート、アジド、ハライド(ハロ、好ましくはブロモ又はヨード)、ヒドロキシ、チオヒドロキシ、アルコキシ、シアネート、チオシアネート、ニトロ及びシアノが挙げられるが、これらに限定されない。
【0359】
明確さのために別個の実施形態に関連して記載した本発明の所定の特徴はまた、1つの実施形態において、これら特徴を組み合わせて提供され得ることを理解されたい。逆に、簡潔さのために1つの実施形態に関連して記載した本発明の複数の特徴はまた、別々に、または任意の好適な部分的な組み合わせ、または適当な他の記載された実施形態に対しても提供され得る。さまざまな実施形態に関連して記載される所定の特徴は、その要素なしでは特定の実施形態が動作不能でない限り、その実施形態の必須要件であると捉えてはならない。
【0360】
上述したように、本明細書に記載され、特許請求の範囲に請求される本発明のさまざまな実施形態および態様は、以下の実施例によって実験的に支持されるものである。
【実施例】
【0361】
ここで、上記の記載と共に本発明を限定することなく説明する以下の実施例に参照する。
【0362】
材料及び実験方法
溶解性試験:
正確な用量反応及び再現性を確保するために、各in vitroアッセイの前に溶解性の測定を実施した。まとめると、各化合物を60mMのDMSOに溶解し、吸光度スペクトルとλmaxの決定を用いて1.5~200μMの範囲の検量線を作成した。検量線は後述する全てのアッセイにおいて、検量線はリードアウトとして機能した。In vitro関連アッセイの適当なバッファー(即ち、HHBSバッファー)内の、0.2%のDMSOによる標的濃度120μMを調製するために60mMのストック溶液を使用した。可溶化化合物を10分間ボルテックスにかけ、次に5000RPMで15分間の遠心分離に付し、200~400nmのスペクトル解析のために上清を回収した。
【0363】
オン・ターゲット・アッセイ:
ハイコンテントスクリーニング(HCS)の手法でhKv7.2/3のリードアウト及びhTRPV1のリードアウトを可能にする2種のキットを使用した。イオンチャネル電流の調節を直接記録する選択された化合物のリードアウトを検証するため、我々の化合物の神経興奮に対する阻害能を研究するため、及びTRPV1のpHゲーテイングの調整を研究するために、電気生理学を使用した。
【0364】
Kv7.2/7.3:
細胞培養: ヒトKv7.2/3チャネルを恒常的に発現するチャイニーズ・ハムスター卵巣(CHO)細胞系細胞(スイス国、B’SYS GmbH)を、10%の胎仔ウシ血清(Biological Industries)及び1%のペニシリン-ストレプトマイシン(Biological Industries)を添加したF-12栄養混合物(Biological Industries)中、加湿下の5% CO2インキュベータ内、37℃で培養した。ヒトKv7.2/7.3発現の安定性を維持するために、抗生物質選択を加えた(プロマイシン 5μg/ml)。
【0365】
FLIPRカリウムアッセイキットを用いたハイコンテントスクリーニング(HCS): hKv7.2/7.3イオンチャネル標的に対する分子をスクリーニングするために、FLIPRカリウムアッセイキット(R8222 FLIPR Potassium Assay Explorer Kits、Molecular Devices)をCHO/hKv7.2/3細胞系と共に使用した。このアッセイは、カリウム(K+)チャネルに対するタリウムイオン(Tl+)の透過性を利用する。このアッセイにおいては、カリウムチャネルを介して実施されたTl+への結合の際に鮮やかな蛍光シグナルを発生させるために、Tl+指示染料を使用する。Tl+シグナルの強度は、開口状態のカリウムチャネルの数と比例する。よって、カリウムチャネル活性の機能的な表示を提供する。電位依存性カリウムチャネルを活性化させるために、細胞をK+及びTl+の混合物で刺激して細胞膜を脱分極化した。アッセイにおける蛍光の増加は、カリウムチャネルを特異的に介したTl+の流入を表し、チャネルの活性化に用いた注入器と組み合わされた蛍光プレートリーダーを用いて、hKv7.2/3活性の機能的なリードアウトを提供する。
【0366】
均一で一貫したスクリーニング条件を達成するための最適化プロセスに従い、以下のプロトコルを確立した。アッセイ実施の24時間前に、細胞を、384ウェルで、黒壁、透明底のGreiner #781091に、ウェル当たり5000細胞の密度で植え付け、正常成長培地中で一晩培養した。実験日には、培地をHBSS、HEPES、及び試験化合物/ベヒクル(0.2%のDMSO)で置換した。染料溶液(製造業者に従って調製したもの)をプレートに加え、室温で1.5時間、光を遮った条件でインキュベートした。チャネルの活性化及びデータ補正のために、Tecan Sparkリーダープレート注入器をTl+(1mMのTl2SO4)又はTl+とK+(1mMのTl2SO4、5mMのK2SO4)で準備した。化合物の効果を、ベヒクル対照及びNH91又はレチガビン陽性対照と比較した。EC50値を計算するために、Prism GraphPadを用いて、データをシグモイド回帰にフィッテイングした。フィッテイングは、最小値を1、他の最大応答が明確に同定されない限り、最大応答を約3.6に制限した。
【0367】
Kv7.2/7.3の電気生理学:
細胞外(浴)溶液: 溶液は以下で構成されていた(単位はmM):NaCl 140、KCl 4、CaCl2 1.8、MgCl2 1.2、グルコース 11、HEPES 5.5。pHはNaOHで7.3に調節した。浸透圧はショ糖で310mOsmに調節した。
【0368】
細胞内(ピペット)溶液:抵抗値が3~7MΩのホウケイ酸ガラス(米国、Warner Instrument Corp)からピペットを引き、以下で構成された(単位はmM)内部溶液で満たした:KCl 130、MgCl2 1、K ATP 5、EGTA 5、HEPES 10。pHはKOHで7.3に調節した。浸透圧はショ糖で290mOsmに調節した。
【0369】
記録されている細胞の近傍への、2~3ml/分の一定流速による化合物の局所投与には、プログラム可能な、弁連結加圧潅流システムを使用した。pCLAMP11ソフトウエアを備えたMultiClamp 700B増幅器(米国、Molecular Devices)を用いて、直列抵抗を補正し、データを5kHzでサンプリングし、2.4kHzでローパスフィルタ化した。
【0370】
-40mVの膜電位(活動電位開始の閾値)における試験化合物のhKv7.2/3電流に対する効果を評価するために、-40mVのパルス・トレイン・プロトコルを実施した。膜電位を-90mVに維持し、次に-40mVで1.5秒間クランプし、続いて膜を-60mVでクランプしてテール電流を0.75秒間得、-90mVの保持電位に戻した。-90mVの保持電位での30秒間隔を掃引と掃引との間に維持した。
【0371】
安定なベースライン電流が達成されたら、結果である3つの類似した応答の記録によって確認される、-40mVにおける最大及び安定なチャネル変調が達成されるまで、加圧潅流システムを用いて試験化合物を局所的に投与する。その後は、同様に、細胞をそれぞれの対照浴溶液に還流して、化合物の効果の可逆性を評価した。
【0372】
薬物/対照応答を評価するため、試験化合物を注入したときに-40mVの膜電位で得られた電流を、試験化合物の投与前及びその洗浄に続いて記録した-40mVにおける電流の平均で除した。
【0373】
TRPV1:
細胞培養: ヒトhTRPV1チャネルを恒常的に発現するチャイニーズ・ハムスター卵巣(CHO)細胞系細胞(スイス国、B’SYS GmbH)を、10%の胎仔ウシ血清(Biological Industries)及び1%のペニシリン-ストレプトマイシン(Biological Industries)を添加したF-12栄養混合物(Biological Industries)中、加湿下の5% CO2インキュベータ内、37℃で培養した。hTRPV1発現の安定性を維持するために、抗生物質選択を加えた(G418、500μg/ml)。
【0374】
種の選択ラット、ブタ、とヒトのDNA構築物及びDNAトランスフェクション:hTRPV1細胞をDNA構築物(Genscript)でトランスフェクトした。ヒト(NM_080704.4)、ラット(NM_031982.1)、及びブタ(XM_013981216.2)のTRPV1のコード領域をHindIII及びBamHI制限部位の間のpcDNA3.1(+)の多重クローニング部位に同様に挿入した。CHOのトランスフェクションのために、1x106細胞を、各トランスフェクション用のDNAを5μg含む、キュベット内の反応混合物(Amaxa(商標) 4D-Nucleofector(商標)-LONZA)に懸濁した。細胞を形質転換し(p-3キットによるCHOトランスフェクションのためのDT-133プログラム、Amaxa)、フード内、室温で10分間回収し、温めた培地(Ab無し)の入った6つのウェル中の2つのウェルにLonzaピペットで滴下によりゆっくりと移して落ち着かせた。トランスフェクションに続き、実験の前日に、hTRPV1細胞を黒色、平底の384ウェルプレート(Greiner#781091)に播種した。rTRPV1対hTRPV1対pTRPV1イオンチャネルで一過性にトランスフェクションされたCHO細胞に対する分子のスクリーニングをFluo-8 No Wash Calciumアッセイキット(ab112129、Abcam)で実施した。
【0375】
Fluo-8 No Wash Calcium fluxアッセイキットを用いたハイコンテントスクリーニング(HCS): hTRPV1イオンチャネルの標的に対して化合物をスクリーニングするために、Fluo-8 No Wash Calciumアッセイキット(ab112129、Abcam)を、TRPV1を安定に又は一過性に発現するCHOと共に使用した。膜透過性であるFluo-8AMを細胞にプレロードした。その後、Fluo-8AMのAM基は細胞内エステラーゼで切断され、Fluo8が細胞内に捕捉される。活性化TRPV1チャネルを介したカルシウムの流入は、Fluo-8の蛍光を有意に増加させる。バックグラウンドを除いた後に相対蛍光シグナルを計算し、各時点における蛍光を、終了時にイオノマイシンを投与した後に測定した最大値と比較する。
【0376】
均一で一貫したスクリーニング条件を達成するための最適化プロセスに従い、以下のプロトコルを確立した。アッセイ実施の24時間前に、細胞を、黒壁、透明底の384ウェルに、ウェル当たり5000細胞の密度で植え付け、正常成長培地中で一晩培養した。実験日には、培地をHBSS、HEPES、及び試験化合物/ベヒクル(0.2%のDMSO)で置換した。染料溶液(製造業者に従って調製したもの)をウェルに加え、室温で1.5時間、光を遮った条件でインキュベートした。Tecan Sparkリーダープレート注入器を、チャネルの活性化のためにカプサイシンで、データ補正のためにイオノマイシンで前処理した。化合物の効果を、ベヒクル対照及びAMG9810及びNH91陽性対照と比較した。IC50値を計算するために、Prism GraphPadを用いて、データをシグモイド回帰にフィッテイングした。フィッテイングは、最小値を0、他の最大応答が明確に同定されない限り、最大応答を約1に制限した。
【0377】
TRPV1の電気生理学:
細胞外(浴)溶液: 溶液は以下で構成されていた(単位はmM):NaCl 140、KCl 4、CaCl2 1.8、MgCl2 1.2、グルコース 11、HEPES 5.5。pHはNaOHで7.3に調節した。浸透圧はショ糖で310mOsmに調節した。
【0378】
細胞内(ピペット)溶液:抵抗値が3~7MΩのホウケイ酸ガラス(米国、Warner Instrument Corp)からピペットを引き、以下で構成された(単位はmM)内部溶液で満たした:KCl 130、MgCl2 1、K ATP 5、EGTA 5、HEPES 10。pHはKOHで7.3に調節した。浸透圧はショ糖で290mOsmに調節した。記録されている細胞の近傍への、2~3ml/分の一定流速による化合物の局所投与には、プログラム可能な、弁連結加圧潅流システムを使用した。pCLAMP11ソフトウエアを備えたMultiClamp 700B増幅器(米国、Molecular Devices)を用いて、直列抵抗を補正し、データを5kHzでサンプリングし、2.4kHzでローパスフィルタ化した。
【0379】
膜電位を-60mVに維持した。我々の試験化合物のhTRPV1活性に対する阻害効果を測定するために、化合物の共投与(3分以上)有又は無しの、hTRPV1活性剤であるカプサイシン(100nM、6秒)の速く短期の投与によって、hTRPV1のゲーテイングを達成した。洗浄及び細胞の回復を可能にするために、連続的なカプサイシン注入は3分の間隔を挟んで実施した。全ての化合物を、加圧潅流システムを用いて細胞の近傍に注入した。
【0380】
薬物/対照応答を評価するため、試験化合物との3分超のプレインキュベーションに続くカプサイシン注入(試験化合物と共投与)の際の薬物電流応答を、化合物とのインキュベーション前及びその洗浄に続いて実施したカプサイシン単独の注入で得た平均対照電流で除した。TRPV1のpH活性化を研究するために、pH5.5のMESをベースとする以下の細胞外活性化溶液を使用した。
【0381】
細胞外(浴)pH5.5活性化溶液: 溶液は以下で構成されていた(単位はmM):NaCl 140、KCl 4、CaCl2 1.8、MgCl2 1.2、グルコース 11、MES 5.5。pHは5.5に調節した。浸透圧はショ糖で310mOsmに調節した。
【0382】
ヒトNPC:
細胞培養及び分化: ヒトPSC由来神経前駆細胞(幹細胞カタログ番号70901及び70902)を、1%の非必須アミノ酸を添加したNeurobasal培地に対してグルタマックスを1%、B27を2%、FGF2を20ng/ml添加した神経前駆細胞培地を使用し、マトリゲル被覆6ウェルプレート上で培養し、増殖させた。次にhNPCを、6ウェル内に約50,000細胞/ウェルの密度でPDL及びマトリゲルを被覆した12mmのカバーガラスに植え付け、0~5日はDMEM/F12、10%のKSR、1%のP/S及びA83-01(2μM)の存在下で培養した。0~9日までは、培地はさらにCHIR99021(6μM)も含んでいた。3日目~9日目の培地はRO4929097(2μM)及びSU5402(3μM)を含んでいた。9日目からは、培地交換(Neurobasal培地はNT-3、BDNF、NGF、GDNF含有)は、CO2飽和後に培地の50%のみを1日置きに交換した。12日目には、グリア細胞増殖を防止するために、細胞をマイトマイシンC化学療法薬(2.5μg/ml、2時間、37℃)と共にインキュベートした。
【0383】
電気生理学: ニューロンの物性を電気生理学的記録によって特徴づけるために、小さく丸いニューロン(直径20~40μm)を31日目以降に選択した。細胞の極性化負膜電位、及び神経興奮に対する試験化合物の効果を試験する前に電気的成熟を達成した印として、繰り返される正電流注入に対して一定なスパイク列応答を誘発する能力についてモニタリングした。膜興奮性は、電流クランプを用いてモニタリングした。化合物の投与前及び投与後にスパイク列を誘導するために、種々の振幅の正電流工程を注入(400ms)した。
【0384】
ラットのDRG:
rDRGの単離及び一次細胞培養: まとめると、脊髄の全レベルからラットのDRGを注意深く外して氷上のHBSSに回収し、神経節を取り囲む神経上膜の結合組織を除去し、コラーゲナーゼ-II及びトリプシン解離溶液を用いて細胞を解離させた。DRGをさらに解離させ、ガラス製のパスツールピペットを通して単一細胞を得た。次に、解離溶液を5%のFBSを含むDRGニューロン培養培地に交換し、ECLを被覆した12mmのカバーガラスに植え付けた。
【0385】
製造社に従って植え付け、培養した、Lonza一次新生仔ラット(Sprague Dawley新生仔;P2、3)DRGニューロン(R-DRG-505、Lonza)を用いて、追加のrDRG実験を実施した。
【0386】
これら凍結保存したDRG細胞は、単離及び解離したばかりの脊髄後根神経節から調製し、ニューロン及びグリア細胞(シュワン細胞)の正常な分布を有していた。
【0387】
電気生理学: rDRG単離から48時間以内に細胞を電気生理学的記録に使用した。In vivoの痛覚を増幅し、Kv7.2/3標的及びTRPV1標的の両方を発現する小さな痛覚のニューロンを選択するために、小さな丸いニューロン(直径20~40μm)を電気生理学的記録用に選択した。電流クランプを用いて膜興奮性をモニタリングした。化合物の投与前及び投与後にスパイク列を誘導するために、種々の振幅の正電流工程を注入(400ms)した。
【0388】
オフ・ターゲット・アッセイ:
Kv7.3/5、Kv7.4アッセイ:
細胞培養: チャイニーズ・ハムスター卵巣(CHO)細胞系細胞を、10%の胎仔ウシ血清及び1%のペニシリン-ストレプトマイシン(Biological Industries)を添加したF-12栄養混合物(Biological Industries)中、加湿下の5% CO2インキュベータ内、37℃で培養した。適切な遺伝子であるKv7.3/5、Kv7.4又はTRPA1を発現させるために、p-3キットと共にAmaxa製のDT-133プログラムを用いて5μgのプラスミドをトランスフェクトした。
【0389】
FLIPRカリウムアッセイキット: FLIPRカリウムアッセイキット(R8222 FLIPRカリウムアッセイエクスプローラーキット、Molecular Devices)を、トランスフェクトされたCHO細胞と共に使用した。
【0390】
均一で一貫したスクリーニング条件を達成するための最適化プロセスに従い、以下のプロトコルを確立した。トランスフェクションから2日後で、アッセイ実施の24時間前に、細胞を、黒壁、透明底の384ウェルに、ウェル当たり5000細胞の密度で植え付け、正常成長培地中で一晩培養した。実験日には、培地をHBSS、HEPES、及び試験化合物/ベヒクル(0.2%のDMSO)で置換した。染料溶液(製造業者に従って調製したもの)をウェルに加え、プレートを室温で1.5時間、光を遮った条件でインキュベートした。チャネルの活性化及びデータ補正のために、Tecan Sparkリーダープレート注入器をTl+(1mMのTl2SO4)又はTl+とK+(1mMのTl2SO4、5mMのK2SO4)で準備した。化合物の効果を、ベヒクル対照及びNH91又はレチガビン陽性対照(公知のIC50=1.5-5μM)と比較した。IC50値を計算するために、Prism GraphPadを用いて、データをシグモイド回帰にフィッテイングした。
【0391】
TRPA1アッセイ:
細胞培養: チャイニーズ・ハムスター卵巣(CHO)細胞系細胞を、10%の胎仔ウシ血清(Biological Industries)及び1%のペニシリン-ストレプトマイシン(Biological Industries)を添加したF-12栄養混合物(Biological Industries)中、加湿下の5% CO2インキュベータ内、37℃で培養した。適切なTRPA1を発現させるために、p-3キットと共にAmaxa製のDT-133プログラムを用いて5μgのプラスミドをトランスフェクトした。
【0392】
Fluo-8 No Wash Calcium fluxアッセイキットを用いたハイコンテントスクリーニング(HCS): hTRPA1イオンチャネルの標的に対して化合物をスクリーニングするために、Fluo-8 No Wash Calciumアッセイキット(ab112129、Abcam)を、TRPA1を一過性にトランスフェクトしたCHOと共に使用した。膜透過性であるFluo-8AMを細胞にプレロードした。その後、Fluo-8AMのAM基は細胞内エステラーゼで切断され、Fluo8が細胞内に捕捉される。活性化TRPA1チャネルを介したカルシウムの流入は、Fluo-8の蛍光を有意に増加させる。バックグラウンドを除いた後に相対蛍光シグナルを計算し、各時点における蛍光を、終了時にイオノマイシンを投与した後に測定した最大値と比較する。
【0393】
均一で一貫したスクリーニング条件を達成するための最適化プロセスに従い、以下のプロトコルを確立した。トランスフェクションから2日後で、アッセイ実施の24時間前に、細胞を、黒壁、透明底の384ウェルに、ウェル当たり5000細胞の密度で植え付け、正常成長培地中で一晩培養した。実験日には、培地をHBSS、HEPES、及び試験化合物/ベヒクル(0.2%のDMSO)で置換した。染料溶液(製造業者に従って調製したもの)をウェルに加え、室温で1.5時間、光を遮った条件でインキュベートした。Tecan Sparkリーダープレート注入器を、チャネルの活性化のためにAITCで、データ補正のためにイオノマイシンで前処理した。化合物の効果を、ベヒクル対照及びTRPA1の公知阻害剤であるA967079と比較した。IC50値を計算するために、Prism GraphPadを用いて、データをシグモイド回帰にフィッテイングした。フィッテイングは、最小値を0、他の最大応答が明確に同定されない限り、最大応答を約1に制限した。
【0394】
hERGアッセイ:
細胞培養: ヒトhERGチャネルを恒常的に発現するチャイニーズ・ハムスター卵巣(CHO)細胞系細胞(スイス国、B’SYS GmbH)を、10%の胎仔ウシ血清(Biological Industries)及び1%のペニシリン-ストレプトマイシン(Biological Industries)を添加したF-12栄養混合物(Biological Industries)中、加湿下の5% CO2インキュベータ内、37℃で培養した。CHO細胞系のhERG発現の安定性を維持するために、抗生物質選択(G418 200μg/ml及びハイグロマイシン 500)を適応した。
【0395】
FLIPRカリウムアッセイキット: 本願で上述した、 hERGイオンチャネルオフターゲットに対する化合物をスクリーニングするために、FLIPRカリウムアッセイキット(R8222 FLIPRカリウムアッセイエクスプローラーキット、Molecular Devices)を、CHO/hERG細胞系と共に使用した。
【0396】
均一で一貫したスクリーニング条件を達成するための最適化プロセスに従い、以下のプロトコルを確立した。アッセイ実施の24時間前に、細胞を、黒壁、透明底の384ウェルに、ウェル当たり7500細胞の密度で植え付け、正常成長培地中で一晩培養した。実験日には、培地をHBSS、HEPES、及び試験化合物/ベヒクル(0.2%のDMSO)で置換した。染料溶液(製造業者に従って調製したもの)をウェルに加え、プレートを室温で1.5時間、光を遮った条件でインキュベートした。チャネルの活性化及びデータ補正のために、Tecan Spark リーダープレート注入器をTl+(1mMのTl2SO4)又はTl+とK+(1mMのTl2SO4、5mMのK2SO4)で準備した。化合物の効果を、ベヒクル対照及びテルフェナジン陽性対照(公知のIC50=200nM)と比較した。IC50値を計算するためには、Prism GraphPadを用いてデータをシグモイド回帰にフィッティングした。
【0397】
HepG2アッセイ:
細胞培養: HepG2細胞系細胞を、10%の胎仔ウシ血清(Biological Industries)を添加したEMEM(ATCC 30-2033)培地中、加湿下の5% CO2インキュベータ内、37℃で培養した。
【0398】
ATPlite(商標) 1 ステップキット: HepG2細胞を用いて、潜在的な肝臓毒性を評価するために384ウェルの形式でATPlite(商標) 1 ステップキット(PerkinElmer)を使用した。これは、細胞の増殖及び細胞毒性を定量的に評価するための、ホタルルシフェラーゼの発光に基づくATP検出システムである。ATPは、全ての代謝活性細胞に存在し、且つ細胞が壊死又はアポトーシスするとその濃度は急激に減少するため、細胞生存率のマーカーである。
【0399】
均一で一貫したスクリーニング条件を達成するための最適化プロセスに従い、以下のプロトコルを確立した。アッセイ実施の48時間前に、細胞を、黒壁、透明底の384ウェルに、ウェル当たり4000細胞の密度で植え付け、正常成長培地中で一晩培養した。2日目(生存率測定の48時間前)に、プレートの設計に基づき、試験化合物及び陽性対照をウェルに加えた。化合物をフェノール無しの成長培地に溶解し、0.1%のDMSO濃度とし、本願に記載の溶解性アッセイを用いてそれらの濃度を同定した。48時間後に、再構成した凍結乾燥基質溶液を各ウェルに加え、封をした384ウェルマイクロプレートを回転マイクロプレートによって、1100rpmで2分間混合し、プレートを暗条件の室温で10分間インキュベートした。その直後に、発光をTecanプレートリーダーで測定した。LD50値及びLD25値を概算するために、Prism GraphPadを用いて、データをシグモイド回帰にフィッテイングした。
【0400】
創薬可能性:
代謝安定性及びヒト肝臓ミクロソーム(HLM)値のSAR駆動最適化:
代謝安定性とは、バイオトランスフォーメーションに対する化合物の感受性を意味する。In vitroの半減期(t1/2)及び固有クリアランス(CLint)の両方が、代謝安定性を表すために典型的に用いられている。CLintは、肝臓の血流や血液マトリックス内の薬物結合といった他の生理学的パラメーターを考慮しない、肝臓ミクロソームタンパク質/幹細胞の化合物に対する最大活性を表す。経口投与薬の第一の通過代謝は肝臓によるものであるため、CLintは重要な因子である。
【0401】
肝細胞の小胞体から誘導された細胞内粒子である肝臓ミクロソームを試験化合物の評価に使用した。これら粒子は、シトクロームp-450ファミリーを含む薬物代謝酵素に富む。肝臓ミクロソームは、種々のin vitro薬物代謝及び薬理動力学(DMPK)研究に推奨されている試験系である。100μl/分/mg未満のCLint値は、薬物開発に適していると考えられる。
【0402】
LogD測定:
LLEを正確に計算し、改善された生理化学的性質を発揮する化合物を見出すために、化学物質の脂質相と水相との間の分離係数のLog値であるLogDをpH7.4(LogPと等しい)で測定した。
【0403】
LLE測定:
リガンド脂溶性効率(LLE)は、調査化合物の性質、結合能(linking potency)及び親油性を評価するために使用されるパラメーターである。
【0404】
LLE値を追跡するためには以下の式を使用した。
LLE=-Log(IC50)-cLogP
【0405】
適切なLLE値は、典型的には3超又5超である。
【0406】
実施例1
構造活性相関(SAR)研究
上記で説明したように、国際公開第2019/073471号に開示された中で最も強力な化合物の1つNH91と称されるものである。
【0407】
NH91は以下の生物学的及び生理化学的パラメーターを有する。
TRPV1 IC50: 8μM
Kv7.2/7.3 EC50: 0.7μM
CLogP: 5.3
LLE TRPV1: -0.35
LLE Kv7.2/7.3: 0.8
溶解性: 20μM
【0408】
NH91の医薬品としての性能を向上させる目的で、4のファーマコフォア部位に修飾可能な部位として着目した:環A、架橋アミン、環B及び側鎖(アミン架橋に対してメタ位)、下記スキーム1に示す。
【0409】
【0410】
数重の化合物の予備ライブラリーを合成し、生物学的測定及び計算(TRPV1 IC50、Kv7.2/7.3 EC50、LLE、動力学的溶解度等)を本願に記載のように実施した。
【0411】
予備ライブラリーは以下の修飾を含んでいた。
環Aの修飾: イソプロピル基の他の基(tert-ブチル、シクロペンタン、ピリジン等)による置換、又はクロロ置換基の1つの、例えば、他のハロ置換基、電子吸引性置換基による置換。
架橋修飾: アミン架橋のスルホンアミド又はエーテル部分(-O-)による置換。
環Bの修飾: フェニルをピリジンで置換。
側鎖の修飾: 直鎖状ヒドロキシアルキルのヒドロキシ置換シクロアルキル又はヘテロ脂環、或いは分岐ヒドロキシアルキルによる置換。
【0412】
この予備ライブラリーの化合物について得られたデータ(記載なし)は下記を示した。
(i) 環Aにtert-ブチル及びシクロアルキル等の嵩高い疎水性置換基を導入すると、両方のチャネルの活性を向上させたが、LLEの改善は見られなかった、
(ii) 環Aに嵩高い親水性置換基を導入すると、LLEが改善されたが、活性低下につながった、
(iii) アミン架橋のスルホンアミドによる置換は、カリウムチャネルの開口の実施的な低下をもたらした、
(iv) アミン架橋のエーテル部分による置換は、パラメーターを改善したが、溶解性を低下させた、
(v) 環Bのピリジンによる置換は許容可能なパラメーターをもたらした、
(vi) 試験した構造の中で、35は側鎖の修飾であり、これは過去の研究が、TRPV1及びKv7.2/7.3の両方が分子のこの部分の人工的修飾の感受性であることを示したためである。得られたデータは、これら修飾のLLE値、並びに活性保持及びより低いcLogP値に対する所望の効果を支持していた。
【0413】
化合物の予備ライブラリーについて得られたデータに基づき、スキーム1に示した薬理作用部位の1つ又は2つの追加の修飾を含む追加のライブラリーを設計し、合成し、試験した。追加の設計には、環A及び/又は環Bのフェニルのピリジン、イミダゾール又はヘテロ脂環等のヘテロアリールによる置換、アミド架橋の-S-、-S(=O)-、-P(OH)-、-CH(OH)-、又は-C(=O)-による置換、環状A-NH-アニリン部分のインドール等の剛直なヘテロ芳香族部分による置換、及び側鎖部位のさらなる置換が含まれた。
【0414】
追加のライブラリーから得られたデータ(記載なし)に基づき、3種の主なケモタイプがTRPV1及びカリウムチャネルに対する二重活性、溶解性、LLE及び安定性の観点から、所望の性質を発揮することが示された。
【0415】
これケモタイプには以下の架橋に対する修飾が含まれた。
ケモタイプ1: 環A-NH-アニリン部分を剛直なインドール部分で置換したもの、代表的な構造は
図1を参照。
ケモタイプ2: アミン架橋を-S-又は-O-で置換、代表的な構造は
図2を参照。
ケモタイプ3: アミン架橋を-CH(OH)-で置換、代表的な構造は
図3のA~Bを参照。
ケモタイプ4: アミン架橋を-C(=O)-で置換、代表的な構造は
図3のA~Bを参照。
【0416】
加えて、側鎖部内のアミド部分を置換するものとしてアミドのアイソステアも検討した。例示的なこのようなアイソステアには、オキセタン構造(例えば、
図1、化合物000526を参照)及びトリアゾール構造(例えば、
図1、化合物000527を参照)が挙げられる。
【0417】
更に加えて、ヘテロアリール(例:ピリジン)を環Bとして用いる化合物も検討した。ケモタイプ1の例示的なこのような化合物としては、化合物000661、000662、000663及び000649が挙げられる(
図1参照)。
【0418】
各ケモタイプの代表的な化合物の生物学的及び生理化学的性質を下記表1に示した。
【0419】
図3のBに示したように、ジヒドロキシケモタイプ3は肝臓酵素であるアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)によって対応するケトン構造に酸化され得るため、ケモタイプ3化合物(ジヒドロキシ構造を有する)及び対応するケモタイプ4化合物(ケトン架橋を有する)は、概念的に興味深いものであることに着目されたい。酵素反応は可逆的であるため、2つの構造は体の必要に応じて生成される可能性もある。このシナリオの元では、ジヒドロキシケモタイプ3は主としてKv7.2/7.3に対して活性であると期待され(EC50=5.6μM)、一方、その関連するin-situ酸化ケトン構造であるケモタイプ4は主としてTRPV1に対して活性である(IC50=8μM)ことが期待される。
【0420】
【0421】
実施例2
コンピューターによるモデリング
分子ドッキング及び定量的構造活性相関モデリング(qSAR)は、計算化学に用いられる主たる計算ツールを表す。分子ドッキングは、選択したバーチャルな結合ポケット内の好ましい活性立体構造から種々の分子を特定するために標的タンパク質の3D構造を適応する(即ち、構造に基づくドラッグデザイン)。qSARは、選択した一群の分子に対して種々の生理化学的のみならず、2D及び3Dの構造因子を適応することで、化合物の測定されたパラメーターを予測する(Sharma, S., Recent trends in QSAR in modelling of drug-protein and protein-protein interactions. Comb. Chem. High Throughput Screen. 2020を参照)。
【0422】
分子ドッキング:
ドッキング実験を実施するために、ヒトTRPV1のホモロジーモデルを作製した。この目的のために以下の工程を実施した。
1.複数のホモロジーモデルの構築: 5IRX(Prati, F. Stem Cell Translational medicine, 2017;6:369-381)、リガンド結合構造、及び3J5P(SA CAI, et al. Stem Cell Translational medicine, 2017;6:369-381)、アポ構造(「閉鎖立体配座」)を使用する1つ。
2.両方にあるポケットを解析し、変異データと比較する。
3.両方のホモロジーモデルについてリード化合物をドッキングで同定する。
【0423】
出版済みの3J5Pモデル(上述のSA CAI et al. 2017)に基づくホモロジーモデルを作製した(記載なし)。このモデルは更に妥当な結合モードを示し、547残基のラット/ヒトの差と一致していた。
【0424】
ヒトKv7.2/7.3のホモロジーモデルは、開口状態のKv7.1に基づいていた(Peretz et al., Proceedings of the National Academy of Sciences Aug 2010, 107 (35) 15637-15642)。
【0425】
図4のAは、NH91(000091、明るい黄色)、公知TRPV1阻害剤であるレシニフェラトキシン(RTX)、及び化合物228(例えば、国際公開第2004/035037号に記載の化合物)の、対応するホモロジーモデルにおけるバニロイドポケット内へのドッキングを示す。
図4のBは、NH91の、Kv7.2/7.3のホモロジーモデルにおけるバニロイドポケット内へのドッキングを示す。
【0426】
図から明らかなように、疎水性ガスケット及び親水性チャネルは両タンパク質に共通する構造的モチーフであり、二重Kv7.2/7.3及びTRPV1モジュレーターの設計を可能にするものである。
【0427】
ヒトTRPV1の三次元構造及び試験化合物について見いだされた好ましい結合形態(binding poses)(
図6のA)に基づき、以下が演繹された。
= 新規設計化合物は、TRPV1のバニロイドポケット(即ち、カプサイシン結合ポケット)に結合し、相互作用する確率が高く、
= ‘A’環及び‘B’環は、疎水性表面積(即ち、疎水性ガスケット)と相互作用することが好ましく、
= 極性側鎖は、親水性チャネル内に位置することが好ましい。
【0428】
ヒトKv7.2/7.3の三次元構造及び試験化合物について見いだされた好ましい結合形態(
図4のB)に基づき、以下が演繹された。
= 末端ヒドロキシル(-OH)のみならず疎水性A環は、それぞれ親水性チャネル及び疎水性ガスケットと相互作用することが好ましく、
= アニリン架橋は非最適化剛直構造をもたらし、この薬理作用部位における修飾がKv7.2/7.3に対する活性の向上を約束する道筋であることを指示した。
【0429】
定量的構造活性相関モデリング(qSAR):
このようなモデルの創造のために、
図5のAに示すように、本願に記載したヒット化合物のいくつかを、計算した3D安定立体配座において互いに重ね合わせ、ファーマコフォア表現を作製した。TRPV1について
図5のBに示したように、ファーマコフォア表現に基づき、全てのIC50値/EC50値(それぞれTRPV1又はKv7.2/7.3に対して作製したもの)をその構造要素と相関させることを可能にする、種々の学習モデルを作製した。
【0430】
TRPV1 qSARモデリングの結果の例示的なデータを表2に示す。
【0431】
【0432】
代表的なTRPV1 qSARモデルが実験的IC50値とqSAR予測とを高度に相関させ得ることが明確に示されている。
【0433】
よって、ホモロジーモデル及びドッキング能の両方のみならず、qSAR学習モデルからなるコンピュータインフラストラクチャーを構築した。
【0434】
実施例3
有効性の研究
ラットDRGニューロンに対する効果:
新規設計化合物の阻害能について、生理学的意義の高い実験系である早期新生仔DRGニューロン(Sprague Dawley新生仔;P2、3;R-DRG-505、Lonza)における神経興奮によって研究した。凍結保存DRG細胞は、単離及び解離したばかりの脊髄後根神経節から調製し、ニューロン及びグリア(シュワン細胞)を正常な分布で含んでいた。
【0435】
阻害能を電流誘導性及びカプサイシン誘導性の神経活動の両方で試験した。得られたデータを
図6のA~Eに示した。
【0436】
図6のAに見られるように、電流による刺激では、試験化合物の阻害能は、Kv7.2/3標的等の電位活性化エフェクターに対するそれらの効果を通じて仲介され、同定された。
図6のBに見られるように、カプサイシン誘発応答によって、活性化の際の膜の脱分極と、その次の下流の電位開口型Kv7.2/3標的の活性化の両方のカプサイシン開口型TRPV1標的の貢献を同定した。従って、両方の標的が活性化されたことによって、TRPV1及びKv7.2/3の二重標的化による追加の効果は、Kv7.2/3に対して421-6と同様のEC50を有するレチガビン等の単一なKv7.2/3標的化合物とのみ比較することができる。
【0437】
より具体的には、電流誘発性及びカプサイシン誘発性の神経活動の両方について、AMG9810の阻害能を初めに試験した。AMG9810(50nM)の投与によってカプサイシン誘発性発火が約50%減少した。一方、そして予想道りに、AMG9810は活動電位による発火について公知の電位依存性成分を標的としないことから、電流誘発性の応答に変化はなかった。
【0438】
次に、Kvのみに対して標的化(Kv7.2/3 EC50=1.3μM)を示す化合物273を試験し(2μM)、電流誘発性神経活動の部分的低下が見られた。両方の標的の組み合わせをリードアウトするカプサイシン誘発性神経活動もAP応答に対して同様の減少を示し、活動メカニズム(電流誘発性又はカプサイシン誘発性)に依拠しない活動電位発火における一般的な減少メカニズムとしてのKv活動の効果を支持している。
【0439】
次に、TRPV1及びKv7.2/3の二重標的化を示す化合物421-6を試験した(Kv7.2/3 EC50=2.1μM、TRPV1 IC50=1.8μM)。421-6をそのKv7.2/3のEC50及びTRPV1のIC50の両方の近傍である2μMで投与したところ、電流及びカプサイシンの両方による活動対するAP応答を劇的に減少し、それぞれ77.7±5.6%(N=3)及び97.9±2.1%(N=2)の阻害を示した。神経電位依存性AP活動の顕著な阻害は、異種系において発現されるこれらチャネルに対するKの流入の測定によって見られるKv7.2/3活性の50%阻害よりも高かった。これは、これら2つのリードアウトの異なる性質を表す側面から発生する変化を反映しているかもしれない。一方は開口型イオンチャネル標的を通過したイオンが徐々に蓄積されたものを測定し、他方は、標的によっても制御される全か無かの現象の閾値である、生理学的に該当する結果を読み取る。内在性対異種系における可能な異なる標的の相互作用及び組成物(例:異なるKvサブユニットの化学量論及び相対的発現)は、これら知見を説明するものでもよい。
【0440】
神経興奮は頓痛増幅の生理学的に予測可能なリードアウトであるため、ニューロン発火の減少に関する化合物421-6の明らかに高い能力に鑑みて、そのDRGニューロンにおける発火応答を阻害するIC50値を試験した。これまで、化合物421-6の活性を種々のnM濃度で試験してきた。
【0441】
得られたデータを、レチガビン(RET)について得られた比較データと共に
図6のA~Eに示した。421-6の希釈は、電流誘導性AP応答に対するその阻害を有意に減少させ、そのIC50は約500nM(51.2±8.4%、N=3)に達し、カプサイシン誘導性AP応答に対して優位に高い阻害を維持し、これは両方の標的に対する二重動作の効果を反映していた(86.5±8.4%、N=4)。更に、100nMまで希釈した421-6は電流誘導性AP活動をたった10.1±3.4%、N=2、しか阻害しないものの、カプサイシン誘導性AP応答に対しては高い阻害能(63.4±17.8%、N=3)を維持し、この二重標的化化合物の高い効能と相乗効果を強調した。
【0442】
二重標的化化合物である化合物421-6は、カプサイシン誘導性ニューロン発火の100nM未満の阻害を提示する。各標的単独によって貢献される阻害の合計より有意に高いこの高い阻害能は、421-6の相乗効果を示している。この相乗性は、(1)このような化合物に対する高い阻害能、(2)痛覚の知覚神経に固有の、両方の標的が共発現され、且つそれらのシグナル経路が交差する場合にのみ生じる高活性から発生する優れた特異性を発揮させる。このような相乗性は、1つの標的の第2メッセンジャーが他方のモジュレーターであるときに起こることがある。例えば、本実施形態の化合物によるTRPV1阻害は、このチャネルを介したCa2+流入を阻害し、その結果、Kv7.2/3チャネルのカルシウム仲介阻害を緩和し、同じ化合物によって直接Kv7.2/3活性化と共にM電流の相乗的に活性化することもある。
【0443】
図7のA~Cは、化合物552と541(
図1参照)及び533(
図3のB参照)と称する、本実施形態による代表的な化合物に関するこれらアッセイのデータを示す
【0444】
ラットDRGにおける神経障害モデル:
NGFで処理したDRGはCAP投与に反応して強縮性活動電位のバーストを示し、神経障害様応答を模倣した。従来技術、
図8のAを参照。TrkAで安定的にトランスフェクトされ、hTRPV1で一過性にトランスフェクトされた単一HEK293細胞より得た、時間関数としての最大蛍光(Fmax)に対するカルシウム依存性蛍光(F)を用いて、NGFはTRPV1機能を促進する。カプサイシンのパルス(100nM、上で示したように投与)は、[Ca]iの準最大増加を誘導した。NGFへの暴露(100ng/ml、上を参照)はカプサイシン誘導性カルシウム増加を促進した。矢印は増感率の計算に用いた応答を示す。
【0445】
図8のB~Dに示すように、化合物421-6はカプサイシン誘導性強縮性活動電位バーストをEC50未満のレベルに緩和し、二重Kv/TRPV1調節の利点を支持している。
図8のBに示すように、記録チャンバー内で421-6が安定期の濃度に達するにつれ、第二の強縮性バーストは調節される。洗浄によって濃度が低下したため、カプサイシンの3回目の投与に続いて効果は維持され、解離速度動態が遅いことを示唆した。4回目のカプサイシン投与後に見られるように、この効果は可逆的である。
【0446】
ヒトNPCに対する効果:
ヒト病理生理学を模した実験系において例示的なリード化合物の神経興奮に対する阻害能を研究するために、ヒト神経前駆細胞(hNPC)をヒト知覚神経細胞に分化させ、電気成熟に続き、その興奮性を試験候補の有り無しで検証した。
【0447】
分化ヒト知覚神経細胞は電気成熟を経て、成熟に連れてより陰性となる極性化安静時膜電位を示した。これはそのKチャネルの集団数が増えた成熟神経細胞から予想されたとおりであり、安静時膜電位をカリウム逆転電位の方向にシフトさせた。
【0448】
本願に記載した新規設計化合物の阻害能を、自発的神経活動をそれらが低下させる能力に基づき評価した。
図9のAに示されるように、分化ヒト知覚神経細胞は、ケモタイプ2化合物415(5μM)の投与に続いて可逆的に減少される自発的活動を示す。化合物415はヒト知覚神経細胞において強い阻害能を提示して、自発的発火を阻害し、さらに起こり得る副反応を伴わない有効濃度として予測された、遥かに低いnM濃度で標的にアプローチしなければならない必要性を提示した。
【0449】
図9のBは、アニリン架橋を有する化合物219と比較した、ケモタイプ2化合物414から得られたデータを示す。
【化21】
【0450】
これらのデータは、本願に記載の新規設計化合物のラット及びヒト知覚神経細胞の興奮性に対する強力な阻害能を示す。
【0451】
実施例4
動作メカニズムに対する更なる知見
ラセミ体混合物及び分離エナンチオマーの効果:
単一キラル炭素を用いる分子の異なるエナンチオマーが異なる活性を示すか否かを試験するために、代表例として化合物533を選択した(*はキラル中心を示す)。
【0452】
【0453】
ラセミ体混合物と、SFC法で分離した533p1及び533p2と称する2種のエナンチオマーとについて、上記実施例3に記載した効能試験で試験した。
【0454】
図10のA~Cは、試験化合物及び参照化合物の電流誘導性及びカプサイシン誘導性の神経活動に対する阻害能を提示し、533P1はKv7.2/3の一次活性化とTRPV1の阻害を示すものの、533P2はTRPV1を活性化しながらも、より強力なKv7.2/3の活性化を示すことから、533化合物には立体特異的な修飾を見ることができることを表す。これは、
図10のDにおいてラットDRGにおける電流及びカプサイシン誘導性APによって例示され、533P2は電流誘導性APを阻害し、カプサイシン誘導性APを高めるが、一方、2種のエナンチオマーの効果を合算したラセミ体混合物は、低下した電流誘導性AP阻害を示しながら、カプサイシン誘導性AP阻害を高度に高めた。
【0455】
二重クロストークの修飾:
動作メカニズムに関する更なる知見を得るために、化合物627(
図1及び表1参照)を選択した。
【0456】
hTRPV1を発現するか、hTRPV1とhKv7.2/3を共発現するCHO細胞を、化合物627(
図1参照)、陽性対照として用いる公知のTRPV1阻害剤であるAMG9810、又はレチガビンで処理した。得られたデータを
図11のA~Eに示した。
【0457】
図11のA~Bは、化合物627によるTRPV1阻害のレチガビンとの比較を表す比較プロットを提示する。hKv7.2/3が共発現され、化学的脱分極によって活性化されると、化合物627の効能が有意に増加し、用量応答曲線を左側にシフトさせ、AMG9810の阻害能よりも有意に強力になることが見られる。
【0458】
図11のC~Dは、hKv7.2/3を共発現する細胞の阻害を示すプロットを提示し、低濃度の化合物627が、ピコモル濃度であっても有意なhKv7.2/3活性化を示すことを提示する(
図11のD)。
【0459】
これらデータは、hKv7.2/3又はhTRPV1を単独で発現するCHO細胞系に投与し、蛍光HCSで測定したときに、化合物627は1.9μMのTRPV1 IC50と、0.5μMのKv7.2/3 EC50を提示し、10nM範囲の低い濃度で既に約30%のKv7.2/3活動を提示することを示す。
【0460】
図11のEに見られるように、化合物627によるhKv7.2/3活動の活性化は、CHO細胞の発現したhKv7.2/3の全細胞電流を測定し、膜電位を(-90mVの保持電位から)-40mV(1.5秒)にクランプする(N=4)、エレクトロフィジオロジーによって確認された。100nMの化合物627は、24.4±10.4%のKv7.2/3電流活性化を示した。
【0461】
Kv7.2/3とTRPV1の機能的カップリングを例示するために、Kv7.2/3を安定に発現する細胞にヒトTRPV1をトランスフェクトし、それらの-40mV(Kv活性化)への電流立ち上げ及びカプサイシン(TRPV1活性化)に対する応答をエレクトロフィジオロジーによって試験した。得られたデータを
図12のA~Cに示す。
【0462】
図12のAの上部パネルは、強力な627 hTRPV1阻害を獲得する際のhKv7.2/3共発現の影響を示す。hTRPV1発現細胞は1.3μMの化合物627によって部分的なTRPV1阻害を示すものの、hKv7.2/3が共発現され、活性化されると(下部パネル)、化合物627はサブナノモルのhTRPV1阻害能を獲得する。
【0463】
図12のBは、hKv7.2/3が共発現され、活性化されたときに化合物627の存在下で獲得されるhTRPV1阻害能(左側へのシフト)を示す、比較用量応答曲線を提示する。
【0464】
図12のCは、hTRPV1及びhKv7.2/3を共発現するが、hKv7.2/3活性化無しのCHO細胞におけるカプサイシンに対する例示的な電流応答を提示し、100nMの濃度においても、hTRPV1阻害能の獲得に欠けることを提示していることを示す。
【0465】
図12のA~Cに示したデータは、TRPV1阻害能に対する増強作用は4桁も増加し(2μMから0.26nM)、Kv7.2/3を必要とすることを示す。加えて、TRPV1阻害能に対するこの増強作用は、-40mVへの電流立ち上げ(Kv活性化)の前提条件無しでは、100nMでもTRPV1を阻害することができなかったことから、Kv7.2/3活性化を前提条件とする。
【0466】
図13のAは、公知のTRPV1阻害剤であるAMG9810の存在下では、例え公知のKv7.2/3開口役であるレチガビンと一緒に投与しても、hKv7.2/3とhTRPV1とを共に発現する細胞において、TRPV1阻害能の獲得の失敗が観察されることを示す。
【0467】
図13のBは、AMG9810と、AMG9810及びレチガビンの組み合わせ処置とが類似したhTRPV1阻害能を示す用量応答プロットを提示し、これらの間に相乗効果は無いことを示す。これに反して、化合物627は、hKv7.2/3が共発現され、活性化されたとき、又はhTRPV1が単独で発現されたときに、異なるhTRPV1阻害能を発揮する。これらのデータは、TRPV1阻害が、Kv7.2/3が共発現され、活性化されたときに、同じ化合物によって独自の影響を受けることを示す。
【0468】
図14は、化合物627の存在下におけるカプサイシン投与に対する活動電位で馴化することを示す例示的なラットDRG膜電位記録を表す。図に示されるように、濃度1nMの化合物627の投与は、カプサイシン誘発性発火を完全にブロックし(上部パネル)、化合物627を濃度0.1nM(0.04ng/ml)で投与したときには、活動電位発火の約50%の阻害が観察された。
【0469】
本発明をその特定の実施形態との関連で説明したが、多数の代替、修正および変種が当業者には明らかであろう。したがって、そのような代替、修正および変種の全ては、添付の特許請求の範囲の趣旨および広い範囲内に含まれることを意図するものである。
【0470】
本明細書で参照した全ての刊行物、特許および特許出願は、本明細書に援用すると述べたとき、個々の刊行物、特許および特許出願のそれぞれについて具体的且つ個別に参照したかの如く援用することが出願人の意図である。加えて、本願におけるいかなる参考文献の引用または特定は、このような参考文献が本発明の先行技術として使用できることの容認として解釈されるべきではない。また、各節の表題が使用される範囲において、必ずしも限定として解釈されるべきではない。加えて、本出願の優先権書類の全てが、本参照により本願に援用される。
【国際調査報告】