(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】プラズマ処理触媒、該触媒の製造方法および使用
(51)【国際特許分類】
B01J 23/825 20060101AFI20250117BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20250117BHJP
B01J 37/34 20060101ALI20250117BHJP
B01J 37/03 20060101ALI20250117BHJP
B01J 37/12 20060101ALI20250117BHJP
B01J 37/06 20060101ALI20250117BHJP
B01J 35/59 20240101ALI20250117BHJP
C07C 31/04 20060101ALI20250117BHJP
C07C 29/154 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
B01J23/825 M
B01J37/08
B01J37/34
B01J37/03 Z
B01J37/12
B01J37/06
B01J35/59
C07C31/04
C07C29/154
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539623
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(85)【翻訳文提出日】2024-08-26
(86)【国際出願番号】 EP2022087483
(87)【国際公開番号】W WO2023126305
(87)【国際公開日】2023-07-06
(32)【優先日】2021-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598165611
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・ヴィッセンシャフテン・エー・ファオ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100229448
【氏名又は名称】中槇 利明
(72)【発明者】
【氏名】ロルダン クエンジャ,ベアトリス
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ウェイミン
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA01A
4G169BA05A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC17A
4G169BC18A
4G169BC18B
4G169BC31A
4G169BC33A
4G169BC35A
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC66A
4G169BC72A
4G169CC27
4G169DA05
4G169EA02X
4G169EA08
4G169EB18X
4G169FA03
4G169FB08
4G169FB27
4G169FB30
4G169FB40
4G169FB57
4G169FB58
4G169FB78
4G169FB79
4G169FB80
4G169FC08
4H006AA02
4H006AC41
4H006BA05
4H006BA09
4H006BA30
4H006BA81
4H006BE20
4H006BE41
4H006FE11
(57)【要約】
本発明は、触媒活性材料、その調製、および例えばCO2のメタノールへの触媒水素化における触媒活性材料の使用に関する。触媒活性材料は、ドーピング金属でドープされた金属酸化物を含み、前記金属酸化物は、CeO2、ZnO、Ga2O3、In2O3、ZrO2、Fe2O3、およびAl2O3から選択され、前記ドーピング金属は、Cu、Pd、およびAuから選択され、触媒活性材料は、非熱プラズマ処理のステップを含む方法により得られる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーピング金属がドープされた金属酸化物を含む触媒活性材料であって、
前記金属酸化物は、CeO
2、ZnO、Ga
2O
3、In
2O
3、ZrO
2、Fe
2O
3、Al
2O
3から選択され、
前記ドーピング金属は、Cu、Pd、Auから選択され、
当該触媒活性材料は、非熱プラズマ処理ステップを含む方法により得られる、触媒活性材料。
【請求項2】
前記金属酸化物は、In
2O
3である、請求項1に記載の触媒活性材料。
【請求項3】
前記ドーピング金属は、Cuである、請求項1に記載の触媒活性材料。
【請求項4】
前記金属酸化物に対する前記ドーピング金属の含有量は、0.01wt%から5.0wt%であり、好ましくは0.01wt%から3.0wt%であり、より好ましくは0.05wt%から0.3wt%である、請求項1に記載の触媒活性材料。
【請求項5】
粒子の形態である、請求項1に記載の触媒活性材料。
【請求項6】
当該触媒活性材料は、前記金属酸化物と、前記ドーピング金属と、任意の負に帯電したカウンターイオンとで構成される、請求項5に記載の触媒活性材料。
【請求項7】
当該触媒活性材料は、透過型電子顕微鏡または走査型透過電子顕微鏡により測定した際に、5nmから50nmの平均粒径を有する、請求項5に記載の触媒活性材料。
【請求項8】
膜の形態である、請求項1に記載の触媒活性材料。
【請求項9】
H
2およびCO
2で構成される混合ガスを反応させることによるCO
2のメタノールへの触媒水素化における、請求項1に記載の触媒活性材料の使用。
【請求項10】
H
2およびCO
2を含む前記混合ガスは、前記触媒活性材料の存在下、10bar~150barの圧力で、100℃~400℃、好ましくは150℃~350℃の反応温度で反応される、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記混合ガスは、3.0以上、好ましくは3.5以上のH
2/CO
2モル比を有する、請求項9に記載の使用。
【請求項12】
請求項5乃至7のいずれか一項に記載の触媒活性材料を製造する方法であって、
(1)前記ドーピング金属および前記金属酸化物の金属成分の塩を含む水溶液にアルカリ溶液(例えば、Na
2CO
3溶液)を添加することにより、前記ドーピング金属と前記金属酸化物の前記金属成分とを、水酸化物の沈殿物として共析出させるステップと、
(2)前記沈殿物を洗浄し乾燥させるステップと、
(3)前記乾燥した沈殿物をO
2の存在下でか焼するステップと、
(4)前記か焼された沈殿物を非熱プラズマ処理して、前記触媒活性材料の粒子を得るステップと、
を有する、方法。
【請求項13】
前記非熱プラズマ処理は、40mbar以下の圧力で実施される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項8に記載の触媒活性材料を製造する方法であって、
(1)好ましくは共成膜法により、前記金属酸化物の金属および前記ドーピング金属を含む膜を提供するステップと、
(2)酸素の存在下で前記膜をアニールするステップと、
(3)非熱的プラズマ処理を実施するステップと、
を有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、触媒活性材料、その調製、およびその触媒活性材料の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料資源の減少および気候変動の脅威の点から、メタノールの持続可能で環境に優しい生産は重要である。メタノールは、H2(ウォータースプリットを介した電気分解によりグリーンH2を生成することができる)と温室効果ガスのCO2から生成することができる。今日のメタノールの合成は、Cu/ZnO/Al2O3触媒上でのH2、CO、およびCO2の混合物から実施されている(M.Bukhtiyarovaら、Catal.Letters 147,416(2017))。この方法では、出発混合ガス中のCO2濃度は、最大約10%に制限される。CO2の濃度が高くなると、メタノール選択性が低下することが認められている(J.Zhongら,Chem.Soc.Rev.49,1385(2020))。このため、高い反応速度および高いメタノール選択性で、CO2を水素化しメタノールにすることができる触媒が求められている。
【0003】
また、逆水ガスシフト反応(CO2+H2→CO+H2O;Y.Daza,J.N.Kuhn,RSC Advances 6,49675(2016)参照)、または従来のCu/ZnO触媒が使用される、CO2供給、もしくはCO、H2およびCO2を含む合成ガスの脱硫、を触媒化する活性材料が引き続き必要とされている(M.Breysseら、Catalysis Today 84,129(2003);J.W.Baeら、Int.J.Hydrogen Energy 34,8733(2009年))。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、CO2のメタノールまでの水素化、および/または他の工業的に関連する方法、例えば逆水ガスシフト反応または合成ガスもしくはCO2供給の脱硫、を触媒化するために有効に使用され得る、触媒活性材料を提供することである。別の目的は、メタノールまでのCO2の水素化に適した触媒活性材料、および/または他の工業的に関連する方法であって、対応する反応において高い活性、高い選択性および/または安定性を示す方法を提供することである。ある別の態様では、本発明の他の目的は、本方法において好適に使用され得る、そのような触媒的に活性な材料を調製するための簡便で効果的な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者らは、以下の実施形態(以下、「事項」という)により、上記課題が解決されることを見出した。
[事項1]
ドーピング金属でドープされた金属酸化物を含む触媒活性材料であって、
前記金属酸化物は、CeO2、ZnO、Ga2O3、In2O3、ZrO2、Fe2O3、Al2O3から選択され、
前記ドーピング金属は、Cu、Pd、Auから選択され、
当該触媒活性材料は、非熱プラズマ処理ステップを含む方法により得られる、触媒活性材料。
[事項2]
前記金属酸化物は、In2O3である、事項1に記載の触媒活性材料。
[事項3]
前記ドーピング金属は、Cuである、事項1または2に記載の触媒活性材料。
[事項4]
前記金属酸化物に対する前記ドーピング金属の含有量は、0.01wt%から5.0wt%であり、好ましくは0.01wt%から3.0wt%であり、より好ましくは0.05wt%から0.3wt%である、事項1乃至3のいずれか一項に記載の触媒活性材料。
[事項5]
粒子の形態である、事項1乃至4のいずれか一項に記載の触媒活性材料。
[事項6]
当該触媒活性材料は、前記金属酸化物と、前記ドーピング金属と、任意の負に帯電したカウンターイオンとで構成される、事項5に記載の触媒活性材料。
[事項7]
当該触媒活性材料は、透過型電子顕微鏡(TEM)または走査型透過電子顕微鏡(STEM)により測定した際に、5nmから50nmの平均粒径を有する、事項5または6に記載の触媒活性材料。
[事項8]
膜の形態である、事項1乃至4のいずれか一項に記載の触媒活性材料。
[事項9]
H2およびCO2で構成される混合ガスを反応させることによるCO2のメタノールへの触媒水素化における、事項1乃至8のいずれか一項に記載の触媒活性材料の使用。
[事項10]
H2およびCO2を含む前記混合ガスは、前記触媒活性材料の存在下、10bar~150barの圧力で、100℃~400℃、好ましくは150℃~350℃の反応温度で反応される、事項9に記載の使用。
[事項11]
前記混合ガスは、3.0以上、好ましくは3.5以上のH2/CO2モル比を有する、事項9または10に記載の使用。
[事項12]
事項5乃至7のいずれか一項に記載の触媒活性材料を製造する方法であって、
(1)前記ドーピング金属および前記金属酸化物の前記金属成分の塩を含む水溶液にアルカリ溶液(例えば、Na2CO3溶液)を添加することにより、前記ドーピング金属と前記金属酸化物の前記金属成分とを、水酸化物として共析出させるステップと、
(2)前記沈殿物を洗浄し乾燥させるステップと、
(3)前記乾燥した沈殿物をO2の存在下でか焼するステップと、
(4)前記か焼された沈殿物を非熱プラズマ処理して、前記触媒活性材料の粒子を得るステップと、
を有する、方法。
[事項13]
前記非熱プラズマ処理は、40mbar以下の圧力で実施される、事項12に記載の方法。
[事項14]
事項8に記載の触媒活性材料を製造する方法であって、
(1)好ましくは共成膜法により、前記金属酸化物の前記金属および前記ドーピング金属を含む膜を提供するステップと、
(2)酸素の存在下で前記膜をアニールするステップと、
(3)非熱的プラズマ処理を実施するステップと、
を有する、方法。
【0006】
本明細書が好適実施形態/特徴に言及する場合、それらの好適のレベルには無関係に、これらの好適な実施形態/特徴の組合せは、この好適実施形態/特徴の組合せに技術的に意味がある限り、開示されているものとみなされる。
【0007】
本明細書において、「有する」または「含む」という用語の使用は、
技術的に意味がある限り、より限定された実施形態としての「からなる」という用語も開示するものとして理解される必要がある。
【0008】
好適な上限および下限が特定の特徴に対して示される場合、これは、上限および下限の任意の組合せを開示するものと理解される必要がある。
【0009】
以下、文脈に応じて、「触媒活性材料」という用語は、「触媒」と置換可能であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】膜(a)およびナノ粒子粉末(b)の形態における触媒活性材料のプラズマ処理に使用される実験装置の概略的な図である。
【
図2】比較例1乃至4、参考例1および実施例1乃至3による、未処理のおよびプラズマ処理したCu-In
2O
3触媒と、Cuを含まないIn
2O
3触媒上で1時間後(a)および24時間後(b)に測定された、メタノール生成速度を示した図である(CO
2:H
2:He=1:4:1、60bar、48mL/分、280℃)。
【
図3】実施例1、4および5による、0.1wt%Cuを含有するCu-In
2O
3触媒で測定された反応速度である(CO
2:H
2:He=1:4:1、60bar、48mL/分、280℃)。
【
図4】実施例1(「プラズマ処理」)および比較例1(「か焼」)による、Cu-In
2O
3触媒のフーリエ変換されたCuK端拡張X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルである。スペクトルは、いかなる処理もしない(調製したままの)触媒、および280℃、CO
2+H
2+He(1:4:1)の混合ガス中、60barの全圧でのCO
2水素化反応後(反応後)の触媒の、各触媒について記録された。使用された触媒にフィッティングされた非線形最小二乗EXAFSデータから得られた、Cu-Cu結合の部分的寄与が破線で示されている。スペクトルは、明瞭化のため垂直方向にシフトされている。
【
図5】In
2O
3膜触媒(参考例2)およびプラズマ処理したIn
2O
3膜触媒(参考例3)の走査型トンネル顕微鏡像、ならびに対応する像(a、b)に示された線に沿ったトポグラフィープロファイル(c、d)である。
【
図6】参考例2(In
2O
3未処理)、参考例3(In
2O
3プラズマ)、比較例5(Cu-In
2O
3未処理)、および実施例6(Cu-In
2O
3プラズマ)による触媒について測定されたX線光電子スペクトルのO1s領域である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
I.触媒活性材料
本発明の触媒活性材料は、ドーピング金属でドープされた金属酸化物を含む。金属酸化物は、CeO2、ZnO、Ga2O3、In2O3、ZrO2、Fe2O3、およびAl2O3から選択される。ドーピング金属は、Cu、Pd、およびAuから選択される。触媒活性材料は、非熱プラズマ処理ステップを含む方法により得られる。この方法は、例えば、金属酸化物とドーピング金属とを共析させ前駆体を取得し、この前駆体をか焼するステップを有する。
【0012】
「原子的に分散した」とは、触媒活性材料中、および必要な場合、触媒活性材料の表面にも、単一のドーピング金属原子(「ドーパント」とも呼ばれる)が存在することを意味し、これは、拡張X線吸収微細構造(EXAFS)、赤外分光法(IR)、またはSTEMのような、通常の分析技術によって検出することができる。疑義を避けるため、また別段の記載がない限り、明細書および特許請求の範囲における「原子」という用語の使用は、中性(酸化状態=0)および電荷のある(イオン性、例えば酸化)ドーピング金属原子の両方を網羅する。
【0013】
触媒活性物質の形態は、特に限定されない。例えば、これは、粒子(例えば粉末)または膜の形態であってもよい。
【0014】
工業プロセスにおけるその有用性を最適化するため、触媒活性材料は、不活性支持材料に適用(担持)されてもよい。触媒活性材料が膜として存在する場合、それは、好適な平面支持体材料によって担持されてもよい。
【0015】
本発明は、非熱プラズマ処理のステップを含む方法により、触媒活性材料が得られることを特徴とする。本発明では、ドーパントの金属原子が、触媒活性材料の金属酸化物(「金属酸化物マトリクス」とも呼ばれる)の内部に組み込まれている材料から開始することが好ましい。とくに、プラズマ処理の効果は、ドーピング金属原子がほぼホスト金属酸化物マトリクス内に残っている状態で、ドープ金属酸化物材料の初期の「調製されたままの」状態を安定化させることであると考えられる。理論に束縛されることを望まないが、ドーピング金属原子が反応条件下で金属酸化物マトリックスの内部からその表面に移動する場合、ドーピング金属原子は、そのより大きなプラズマ強化粗さのため、金属酸化物表面ではより低い移動度を有すると考えられる。一方、プラズマ処理をせずに調製された参照触媒では、反応条件下でより多くのドーピング原子が表面に至り(マトリクスを離れる)、その後焼結が起こる。In2O3(または他のクレーム化された金属酸化物)中に分散されたドーピング金属原子を有する場合、または極めて小さなクラスタを形成する場合とは対照的に、これは、比較的大きな粒子の形成に対応する、例えば金属Cu-Cu信号に対するX線吸収スペクトル(XAS)を生じさせる。
【0016】
一実施形態において、本発明の触媒活性材料は、O原子の付加的状態を示し、これは、X線光電子分光法(XPS)により観測されるように、O1s内殻準位の結合エネルギーが、金属酸化物の主信号の結合エネルギーに比べて1.4eVから2.5eV、好ましくは1.6eVから2.2eV高いことで特徴付けられる。
図6も参照。XPS分析は、実施例に記載の方法に従って実施できる。この追加のXPS信号は、主信号のショルダーとして観測され得る。理論に縛られるものではないが、追加のXPS信号は、欠陥サイトからの酸素に起因し、好ましくは、非熱プラズマ処理中に金属酸化物の表面に形成される。例えば、In
2O
3の場合、In
2O
3のO1s XPS信号は、530.2eVに現れ、欠陥サイトからの酸素の信号は、532.0eVに現れる。
【0017】
この実施形態では、追加信号の強度は、メインピークの強度の少なくとも30%であることが好ましく、少なくとも40%であることがより好ましい。
【0018】
一実施形態では、非熱プラズマ処理により、触媒活性材料の表面に金属酸化物ナノクラスタの形成が生じる。金属酸化物ナノクラスタの平均直径は、走査型トンネル顕微鏡(STM)により測定した際に、4.0nm以下、好ましくは2.5nm以下であってもよい。以下のさらなる記載を参照。STM測定は、実施例に記載されているように実施できる。
【0019】
本発明の触媒活性材料は、上記実施形態に記載された1つ以上の特性を示すことが好ましい。
【0020】
本発明では、触媒活性材料は、ドーピング金属でドープされた金属酸化物を含み、金属酸化物は、CeO2、ZnO、Ga2O3、In2O3、ZrO2、Fe2O3、およびAl2O3から選択される。金属酸化物は、好ましくはZnO、ZrO2、Ga2O3、In2O3、およびAl2O3から選択され、より好ましくはZnO、ZrO2、およびIn2O3から選択され、最も好ましくはIn2O3である。金属酸化物は、1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0021】
本発明において、金属酸化物をドーピングするために使用されるドーピング金属は、Cu、Pd、Auから選択される。金属は、Cuであることが好ましい
ある好適実施形態では、「ドーピング」金属原子は、ホスト材料(金属酸化物マトリクス)中に原子的に分散される。
【0022】
好ましくは、ドーピング金属は、対応する金属酸化物マトリクス(例えば、In2O3内のCu)に組み込まれた単一原子(イオン)として、(調製されたままの)触媒活性材料中に存在する。ドーピング金属は、調製されたままの触媒活性材料内に正の酸化状態(X)で、すなわち酸化形態で存在することが好ましい。一実施形態では、Xは、CuおよびPdの場合、2+であり、Auの場合、3+である。酸化状態は、各種要因に依存し得ることが留意される。Cu-In2O3の場合、Cuは、In 3+を置換するが、例えば2+状態であってもよい。正味の電荷をバランスさせるため、この過程は、O空孔を形成し、あるいは近傍にカウンターイオンを配置することにより実施されてもよい。
【0023】
金属酸化物にドーピング金属がドープされているため、本発明の触媒活性材料は、メタノールおよび/またはCO(逆水ガスシフト)へのCO2水素化反応および/またはCO2もしくは合成ガス(CO+CO2+H2)の脱硫において、優れた触媒活性を示すことができる。理論に拘束されるものではないが、金属酸化物の電子構造は、金属ドーパントの存在下で改質され、反応物を活性化する上で優れた能力をもたらすと推定される。さらに、金属ドーパントの存在は、金属酸化物の結晶構造を改変し、金属酸化物の高い表面エネルギーが誘導され、これも反応物の活性化を助長すると推定される。
【0024】
金属酸化物とドーピング金属との組み合わせは、特に限定されない。ある好適な実施形態では、金属酸化物は、CeO2、ZnO、Ga2O3、In2O3、およびAl2O3から選択され、ドーピング金属は、Cu、Pd、またはAuから選択される。In2O3とCuの組み合わせがより好ましい。
【0025】
金属酸化物に対するドーピング金属の量は、特に限定されないが、好ましくは0.01wt%、から5.0wt%、より好ましくは0.01wt%から3.0wt%、さらに好ましくは0.01wt%から1.0wt%である。金属酸化物に対するドーピング金属の量は、触媒活性材料のCO2水素化活性をより高めることができるため、0.05wt%から0.3wt%が特に好ましい。
【0026】
非熱プラズマ処理を行う雰囲気は、特に限定されないが、N2、O2、およびArから選ばれる1種以上であり、好ましくはO2である。好ましくは、非熱プラズマ処理は、少なくともO2の存在下で実施される。
【0027】
本発明の第1の実施形態では、触媒活性材料は、粒子の形態で存在し、例えば粉末が形成されてもよい。粒子の形状は、特に限定されず、例えば、楕円体状、立方体状、球形状等から選択されてもよい。
【0028】
本発明の第1の実施形態では、触媒活性材料の平均粒径は、特に限定されないが、好ましくは5nmから1μm、より好ましくは5nmから500nm、さらに好ましくは5nmから100nm、特に好ましくは5nmから50nmである。金属酸化物基材の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)または走査型透過電子顕微鏡(STEM)により、任意に選択した20個の粒子の粒径を測定し、その平均を算出することにより求めることができる。「直径」として、粒子の最長の可視軸が採用される。さらに測定精度を高めたい場合、任意に選択した100個の粒子について測定を実施できる。詳細な方法は、実施例の章で説明される。複数の粒子が相互に凝集している場合、測定として、1次粒子の粒径が採用される。
【0029】
本発明の第1の実施形態では、触媒活性材料は、前記金属酸化物と前記ドーピング金属とで構成されることが好ましい。ドーピング金属が金属イオンの形態で存在する場合、正味の電荷をバランスさせるため、(負に帯電した)カウンターイオンも存在し得る。これらのカウンターイオンは、例えば、触媒活性材料の調製に使用されるドーピング金属の塩に由来してもよい。
【0030】
本発明の第2の実施形態では、前記触媒活性材料は、膜の形態である。
【0031】
また、基材(基板)上に、膜として触媒活性材料を設けてもよい。一実施形態では、基材は、平坦な基板を提供し、例えば、金属酸化物前駆体および金属前駆体の成膜、ならびにその後の酸化ステップにより、基材に触媒活性材料膜を設置できる。基材は、触媒活性材料に悪影響を及ぼさない限り、特に限定されない。例えば、金属、合金、セラミックで構成された基材が使用されてもよい。基材として用いられる金属は、単結晶であってもよく、例えば、Ru(0001)単結晶を含んでもよい。基材として使用できる合金の例には、これに限られるものではないが、鋼、黄銅等が含まれる。基材として使用できるセラミックスには、これに限られるものではないが、シリカ、炭化ケイ素等が含まれる。当業者は、触媒活性材料(被覆層)が曝される反応条件に適した基材を選択することができる。
【0032】
本発明の第2の実施形態では、触媒活性材料膜の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは5nmから50nm、より好ましくは5nmから20nmである。触媒活性材料膜の膜厚は、例えば、XPSにより、触媒活性材料膜が設けられた基材のXPS信号の減衰を測定することにより求めることができる。例えば、Ru基材上に触媒活性材料膜を設けた場合、XPSスペクトルにおけるRu3d信号の減衰を測定して、触媒活性材料膜の厚さを決定することができる。同様に、シリカ系材料が使用される場合、XPSスペクトルにおけるSi2p信号の減衰を使用することができる。当業者は、基材中の元素から生じる信号を適切に選択し、その減衰を測定し、触媒活性材料膜の厚さを決定することができる。
【0033】
本発明の第2の実施形態では、触媒活性材料膜は、金属酸化物クラスタを膜表面に存在させることができ、このクラスタは、同じ金属酸化物を有してもよい。クラスタの平均直径は、4.0nm以下、好ましくは2.5nm以下であり、これは、走査型トンネル顕微鏡(STM)により、例えば10nmの長さに対応する直線に沿ってトポグラフィープロファイルをプロットし、2つの隣接する極小間の距離を測定し、測定値に補正係数0.5を乗じ、得られた値を直径として記録し、金属酸化物クラスタによる被覆を示す任意に選択された20の表面積について測定を繰り返し、平均値を計算することにより決定されてもよい。詳細な方法は、実施例の章に記載されている。
【0034】
膜表面に担持され、金属酸化物基板の単位面積当たりに規格化されたクラスタの数(表面クラスタ密度)は、特に限定されない。表面クラスタ密度は、好ましくは少なくとも0.03クラスタ/nm2、より好ましくは少なくとも0.05クラスタ/nm2、さらに好ましくは少なくとも0.08クラスタ/nm2、最も好ましくは少なくとも0.10クラスタ/nm2である。表面クラスタ密度は、任意に選択された領域内に存在する金属酸化物クラスタの数を数えることにより、STMによって決定することができる。詳細な方法は、実施例の章に記載されている。
【0035】
本発明の触媒活性材料は、CO2の水素化触媒に特に適している。
【0036】
本発明の触媒活性材料は、CO2の水素化において優れた安定性および活性を示す。少なくとも部分的には、これらの特性は、ある程度まで、金属酸化物の表面構造および/または電子状態を改変するプラズマ処理に関連し、触媒反応の間、大きな金属クラスタの形成(例えば、凝集または焼結による)が抑制され、ドーピング金属の高い分散が安定化または増強されると推定される。
【0037】
本発明の触媒活性材料は、以下の方法により調製することができる。
【0038】
II.触媒活性材料を製造する方法
本発明の第1の実施形態による触媒活性材料を製造する方法は、
(1)ドーピング金属と金属酸化物の金属成分との塩を含む水溶液にアルカリ溶液(例えば、Na2CO3溶液)を添加することにより、ドーピング金属と金属酸化物の金属成分とを水酸化物として共析出するステップと、
(2)析出物を洗浄し乾燥させるステップと、
(3)乾燥された析出物をO2の存在下でか焼するステップと、
(4)か焼された析出物を非熱プラズマ処理して、触媒活性材料の粒子を得るステップと、
を有してもよい。
【0039】
ステップ(1)では、ドーピング金属の塩は、特に限定されない。一例としては、これに限られるものではないが、硝酸塩、塩化物塩、硫酸塩、酢酸塩、アセチルアセトナート塩、テトラアミン塩(例えば、硫酸テトラアミン銅(II)、塩化テトラアミンパラジウム(II)など)、テトラクロロ金(III)酸塩などが挙げられる。
【0040】
ステップ(1)において、金属酸化物の金属元素の塩は、特に限定されない。一例としては、これに限られるものではないが、硝酸塩、塩化物塩、硫酸塩、酢酸塩、アセチルアセトネート塩、テトラアミン塩などが挙げられる。
【0041】
ステップ(1)において、アルカリ溶液は、添加することによりドーピング金属の塩と金属酸化物の金属成分とを含む水溶液のpHが上昇するものであれば、特に限定されない。一例としては、これに限られるものではないが、例えば、Na2CO3、K2CO3、NaOH、KOH、Mg(OH)2、Ca(OH)2、CaCO3のようなアルカリ性水溶液が挙げられる。
【0042】
本明細書で使用される場合、「か焼する」または「か焼」という表現は、乾燥状態のO2の存在下において、高温で固体を熱処理することを表す。ここで使用される「乾燥」という表現は、か焼が行われる雰囲気に追加の水が導入されないことを意味する。例えば、大気中でのか焼は、乾燥条件下で行われるものと理解される。
【0043】
触媒活性材料の前駆体のか焼は、200℃から700℃の温度で実施されることが好ましく、200℃から600℃の温度で実施されることがより好ましく、250℃から500℃の温度で実施されることがさらに好ましい。か焼は、5vol%以上のO2濃度で行うことが好ましく、10vol%以上で行うことがより好ましい。例えば、空気をO2源として使用することができる。
【0044】
非熱プラズマ処理は、か焼された触媒活性材料に対して実施される。プラズマの点火前に、圧力は、好ましくは40mbar以下、より好ましくは20mbar以下に低減される。非熱プラズマ処理中の圧力は、40mbar以下が好ましく、20mbar以下がより好ましい。非熱プラズマ処理を行う雰囲気は、特に限定されないが、N2、O2、Arから選択された1種以上であり、好ましくはO2である。好ましくは、非熱プラズマ処理は、少なくともO2の存在下で行われる。
【0045】
非熱プラズマ処理は、静止雰囲気下で実施されても、ガス流下で実施されてもよい。後者が好ましい。非熱プラズマ処理がガス流下で実施される場合、か焼された触媒活性材料用前駆体は、非熱プラズマ処理中に、ガス流によって吹き上げられる(浮上される)ことが好ましい。
【0046】
非熱プラズマのソース源は、限定されず、例えば、誘導性結合プラズマ、容量性結合プラズマ、DCグロー放電、マイクロ波プラズマ、高周波プラズマ、コールドプラズマジェット、および誘電体バリア放電プラズマが含まれる。非熱プラズマのソース源は、マイクロ波プラズマまたは高周波プラズマであることが好ましい。
【0047】
非熱プラズマのソース源がマイクロ波プラズマである場合、プラズマ源のアノード電圧は、0.2kVから2kVであることが好ましく、放出電流は、0.1μAから1μAであることが好ましい。
【0048】
非熱プラズマのソース源が高周波プラズマである場合、高周波プラズマ発生装置の電力は、20Wから300Wであることが好ましい。
【0049】
非熱プラズマ処理の時間は、所望により適宜調整することができ、通常は1分から300分、好ましくは5分から180分、より好ましくは10分から120分、さらに好ましくは30分から90分である。
【0050】
本発明の第2の実施形態による触媒活性材料を製造する方法は、
(1)好ましくは共成膜法により、金属酸化物の金属成分とドーピング金属とを含む膜を提供するステップと、
(2)酸素の存在下で前記膜をアニールするステップと、
(3)非熱プラズマ処理を実施するステップと、
を有する。
【0051】
ステップ(1)において、ドーピング金属によりドープされた金属酸化物を含む膜を提供する方法は、特に限定されず、従来より知られた任意の方法が用いられてもよい。一例には、これに限られるものではないが、共成膜、ゾル-ゲル法、スピンコーティング等が含まれる、共成膜法が好ましい。
【0052】
ステップ(2)において、アニール処理は、200℃から400℃の温度で実施されることが好ましく、250℃から350℃であることがより好ましく、280℃から320℃であることがさらに好ましい。アニール処理は、10-4mbar以上の圧力でO2中で実施されることが好ましい。
【0053】
ステップ(3)では、非熱プラズマ処理は、本発明の第1の実施形態による触媒活性材料を製造する方法で説明したように実施されてもよい。
【0054】
III.触媒反応
本発明の触媒活性材料は、以下の反応の少なくとも1つに使用することができる:(i)CO2のメタノールへの水素化(「触媒水素化」とも称される)、(ii)逆水ガスシフト反応(CO2+H2→CO+H2O)、または(iii)合成ガス(CO+CO2+H2)またはCO2供給物の脱硫。CO2の供給物は、例えば、製鉄所、ゴミ焼却工場、セメント工場のような産業発生源から生じてもよい。
【0055】
好適実施形態では、本発明の触媒活性材料は、CO2のメタノールへの触媒水素化において好適に使用される。CO2のメタノールへの触媒水素化において、H2とCO2とを含む反応ガス混合物が触媒活性材料の存在下で反応され、メタノールが生成される。反応ガス混合物の圧力は、特に限定されないが、例えば、10barから300bar、好ましくは20barから100bar、より好ましくは30barから80barである。
【0056】
触媒水素化の反応温度は、特に限定されないが、100℃から400℃であってもよく、好ましくは150℃から350℃である。
【0057】
反応ガス混合物の組成は、CO2およびH2を含むものであれば、特に限定されない。反応ガス混合物のH2/CO2モル比は、例えば3.0以上であり、好ましくは3.5以上、より好ましくは4.0以上である。反応ガス混合物中のCO2の含有量は、特に限定されないが、例えば、3体積%から25体積%、好ましくは5体積%から22体積%、より好ましくは10体積%から20体積%である。
【0058】
反応ガス混合物は、さらに、不活性ガスを含んでもよく、その例としては、N2、He、Arなどが挙げられる。
【0059】
(実施例)
以下、実施例を参照しながら本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
(分析方法)
走査型透過電子顕微鏡(STEM)
粉末触媒の走査透過電子顕微鏡(STEM)画像を200kVのJEOL JEM ARM200Fプローブ/画像補正TEM(JEOL社)で記録した。
【0061】
触媒活性材料の平均粒径は、任意に選択した100個の粒子の粒径を測定し、その平均を算出することにより求めた。選択された粒子について、STEM画像が非球形を示した場合、最長軸を直径とみなした。
【0062】
(X線光電子分光法(XPS))
XPSスペクトルは、AlKαX線源(hν=1486.6eV)を用いて、Phoibos150解析装置(SPECS GmbH)で測定した。スペクトル分析(バックグラウンド減算およびデコンボリューション)は、市販のCasaXPSソフトウェア(Casa Software
Ltd;バージョン2.3.18)を用いて実施し、シャーリーバックグラウンドを用いて、測定スペクトルをバックグラウンド減算に供した。20eVの透過エネルギーで、O1sの内殻準位スペクトルを記録した。当業者は、技術常識を利用して、結合エネルギーを化学種に帰属させることができる。例えば、NIST X線光電子分光データベースのような結合エネルギーの表リストは、当業者の技術常識に属する。
【0063】
(X線吸収分光法(XAS))
4チャネルSiドリフト検出器を用いて、スペインのALBAビームラインシンクロトロン放射施設において、全蛍光収率モードでCuのK端(8979eV)X線吸収スペクトル(XAS)を測定した。測定は、「調製したまま」の状態における触媒活性材料の場合、室温、大気中で実施し、CO2の水素化反応後の触媒活性材料の場合、以下に記載するように、280℃、CO2+H2+He(1:4:1)中、60bar(合計)で実施した。拡張X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルを、FEFFITコードを用いてフィッティングし、参照材料(すなわちCu、CuO)のFEFF8コードを介して計算された理論的後方散乱振幅および位相を用いて、それぞれ、Cu-CuおよびCu-O結合から誘導される寄与をモデル化した。
【0064】
(走査型トンネル顕微鏡(STM))
Ru(111)上に成長させたIn2O3(0001)膜のSTM測定を、1.8Vのサンプルバイアスおよび0.2 nAのトンネル電流で実施した。
【0065】
プラズマ処理により表面に形成された金属酸化物クラスタの平均直径を決定するため、トポグラフィープロフィルを約10 nmの長さの線に沿ってプロットした。トポグラフィープロファイルにおいて、2つの隣接する極小点間の距離を測定し、測定値に、実験的に導出した補正係数0.5を乗じて、チップ/クラスタ畳み込み効果を補正した。任意に選択した少なくとも20個の金属酸化物クラスタについて測定し、その平均補正値を算出して「クラスタ直径」として使用した。
【0066】
金属酸化物クラスタの表面密度、すなわち膜基板の単位面積当たりに正規化された金属酸化物クラスタの数を決定するため、記録されたSTM像において、任意に選択した100nm×100nmの領域内の金属酸化物クラスタの数をカウントした。これらの測定は、5つの異なるサンプルスポットで実施した。この平均値を「金属酸化物クラスタの密度」とした。
【0067】
(触媒活性材料上のCO2水素化反応)
CO2水素化反応における触媒活性材料の反応性を、管状充填床反応器で測定した。100mgの触媒活性材料と100mgのTiO2(Alfa Aesar)を物理的に混合し、得られた混合物を反応器に充填した。TiO2は、この反応において不活性であり、希釈のために使用した。この触媒活性材料を60barのHe(20 mL/min)中、280℃で1時間加熱した。次に、加熱された触媒活性材料は、Heガス流中で室温まで冷却され、その後ガス流は、CO2、H2およびHeからなる反応混合物(CO2:H2:He=1:4:1、48 mL/min、空間流速GHSV=28800 mL/gcatalyst/h)に切り替えられた。圧力を60barに増加させ、還元された触媒活性材料を280℃に加熱した。反応器の出口でガス混合物をガスクロマトグラフィー(Agilent Technologies 7890B)により分析した。
【0068】
(粉末触媒)
(比較例1~3:未処理のままのCu-In2O3触媒の調製)
未処理のままのCu-In2O3触媒は、以下に示すプロセスに従って調製した。
【0069】
1)In(NO3)3・xH2O(Sigma Aldrich)とCu(NO3)2・2.5H2O(Alfa Aesar)を丸底フラスコ(250ml)において脱イオン水(50 ml)に溶解し、前駆体溶液を得た。In(NO3)3・xH2Oの使用量は、2.167 gであり、Cu(NO3)2・2.5H2Oの量は、以下の表1に示すように変化させた。
2)Na2CO3(10.0 g)を脱イオン水(100 ml)に溶解し、室温で撹拌しながら、得られたNa2CO3溶液を前駆体溶液に滴下した。pHが9.2に達するまで、Na2CO3溶液を添加した。その後、前駆体溶液は、In(OH)3およびCu(OH)2の形成により、混濁液となった。スラリーを1時間放置した後、50mlの脱イオン水を加えた。
3)スラリーを5分間遠心分離して沈殿物を分離し、沈殿物を脱イオン水(50ml)に再分散させて洗浄した後、5分間遠心分離した。この手順を5回繰り返し、残りのナトリウム塩を除去した。
4)沈殿物を空気中(70℃、一晩)で乾燥し、300℃で3時間か焼した。
【0070】
調製方法で使用したCu(NO3)2・2.5H2Oの量および触媒のCu含有量を表1に示す。STEMにより定められた触媒における平均粒子径は、15±2 nmであった。
【0071】
【表1】
(比較例4:未処理のIn
2O
3触媒の調製)
Cu(NO
3)
2・2.5H
2Oを用いなかったこと以外は比較例1と同様の方法で、未処理のIn
2O
3触媒を得た。STEMで測定した平均粒径は、8±1 nmであった。
【0072】
(実施例1乃至5:プラズマ処理Cu-In2O3触媒の調製)
比較例1乃至3と同様の方法により、未処理のCu-In2O3触媒を得た。
【0073】
次に以下に示す方法に従って、各Cu-In2O3触媒に対してO2存在下でプラズマ処理を行い、プラズマ処理されたCu-In2O3触媒を得た。
【0074】
プラズマ処理は、フリットを有するガラス管、漏斗状ガラス器具、機械ポンプ、高周波プラズマ発生器、および高電圧電源からなる装置で実施した。ガラス管は、Cuメッシュで被覆し、高圧電源に接続した。フリットは、ガス(ここではO
2を使用した)を底部から吹き付けることを可能にした状態で、か焼粉末を保持できた。管の上部に接続された漏斗形ガラス器具と、漏斗形ガラス器具の他の3つの出口は、圧力計、機械式ポンプ、および接地用のタングステン棒に接続された。タングステン棒は、ガラス管の底部まで延在し、均一に分配されたプラズマが達成される。プラズマ処理用の構成の概略図を
図1bに示す。
【0075】
プラズマは、20から60kHzの高電圧電源(PVM500)で発生させた。ピーク電圧は、高電圧プローブを備えるオシロスコープで測定され、プラズマのパワーは、平均二乗(RMS)電圧の平方根とRMS電流の積であり、これらはマルチメータで測定した。粉末供給の電力および周波数出力は、所望の電力を有するプラズマが形成されるまで調整した。
【0076】
プラズマ処理の条件は、以下の通りである。
1)未処理のCu-In2O3粉末触媒(100から300mgの量)をガラス管に導入し、管を20mPa以下に排気した。
2)マスフローコントローラー(MFC)により設定された流量20mL/分のO2を用いて、管の底部から酸素を流通させた。
3)乱流中において粉末サンプルの浮上が開始された。
4)プラズマが点火された。電源の出力および周波数は、表2に示す目標電力が達成されるように調整された。
5)プラズマ処理時間は、1時間であった。
【0077】
プラズマ処理に使用した未処理のCu-In2O3触媒、プラズマ処理の目標出力、および触媒のCu含有量を表2に示す。STEMで測定される触媒の平均粒径は、16±2nmであった。
【0078】
【表2】
(参考例1:プラズマ処理In
2O
3触媒の調製)
比較例4の未処理In
2O
3触媒を、実施例1から3と同様の方法でプラズマ処理して、プラズマ処理されたIn
2O
3触媒を調製した。STEMにより測定される平均粒径は、10nmであった。
【0079】
(結果の評価)
本願で使用される「未処理の」触媒は、「か焼」触媒とも称される。
【0080】
調製されたCu-In2O3触媒は、STEMで測定される平均直径が16±2nmであった。触媒の一般形態は、用いた条件下ではプラズマ処理による影響を受けなかった。
【0081】
調製した触媒活性材料のCO
2水素化活性は、上記のように測定した。
図2aには、比較例1~4、参考例1、および実施例1~3における(Cu-)In
2O
3触媒の反応温度280℃に到達してから1時間後に測定されたメタノール生成速度を示す。これから分かるように、比較例1~4の未処理(Cu-)In
2O
3触媒については、高いCu充填において、より高いメタノール生成速度が観測された。参考例1のプラズマ処理されたCuを含まないIn
2O
3触媒は、比較例4の未処理In
2O
3触媒よりも低いメタノール生成速度を示した。これに対して、実施例1~3のプラズマ処理されたCu-In
2O
3触媒は、同じCu充填において、比較例1~3の未処理Cu-In
2O
3触媒よりも高いメタノール生成速度を示した。O
2-プラズマ処理によるメタノール生成速度の増大は、特に、0.1
wt%の低Cu充填で顕著であった。
【0082】
図2bには、比較例1~4、参考例1および実施例1~3の(Cu-)In
2O
3触媒における、280℃の反応温度に到達してから24時間後に測定されたメタノール生成速度を示す。これからわかるように、比較例1から3の未処理Cu-In
2O
3触媒は、比較例4の未処理In
2O
3触媒よりも高いメタノール生成速度を示した。比較例1から4の未処理(Cu-)In
2O
3触媒の中で、最も高いメタノール生成速度は、0.5 wt%のCu充填で観測された。参考例1のプラズマ処理されたIn
2O
3触媒は、比較例4の元のIn
2O
3触媒よりも低いメタノール生成速度を示した。これに対して、実施例1~3のプラズマ処理されたCu-In
2O
3触媒は、同じCu充填において、比較例1~3の未処理Cu-In
2O
3触媒よりも高いメタノール生成速度を示した。O
2-プラズマ処理によるメタノール生成速度の増大は、0.1 wt%のCu充填で特に顕著であった。
【0083】
図3には、プラズマ処理の目標電力を100Wから200Wまで変化させた、実施例1、4および5による0.1 wt%Cuを含有するCu-In
2O
3触媒についての測定された反応速度を示す。プラズマのパワーが100から200Wに増加すると、反応速度は徐々に増大した。
【0084】
図4には、実施例1(プラズマ処理)および比較例1(か焼)により調製されたCu-In
2O
3触媒についてのフーリエ変換されたCuK-端EXAFSスペクトルを示す。測定は、「調製されたままの」触媒、および前述の(「後反応」)に記載のような、280℃、CO
2+H
2+He(1:4:1)中、60bar(合計)におけるCO
2水素化反応を実施した後の触媒の各々に対して実施した。O
2-プラズマ予備処理の前の「調製したままの」Cu-In
2O
3触媒、および処理後のCu-In
2O
3触媒の測定されたスペクトルは、同様の構造を示し、これは、第1配位殻におけるCu-O距離によって支配される。調製したままのサンプルのCuK端EXAFSスペクトルに対する別の寄与は、約3.5Åで観測され、その位置は、In
2O
3におけるIn-In寄与に対応する位置と同様である。従って、この特徴の存在は、In
2O
3格子中のIn原子のCu置換に割り当てられる。反応後、か焼Cu-In
2O
3触媒は、かなりの数のCu-Cu結合を示し、Cu原子の凝集が示唆された。一方、プラズマ処理したCu-In
2O
3サンプルには、Cu-O結合が保持されていた。実験的なCuK-edge
EXAFSデータのフィッティングから得られたCu-OおよびCu-Cu配位数を、以下の表3に示す。最後の桁の不確実性は、括弧内に示されている。Cu-OおよびCu-Cu結合の結合長および無秩序因子が全てのスペクトルにおいて同じであるという制約の下、全てのサンプルのスペクトルを同時にフィッティングさせた。得られたCu-O結合の長さは、1.944±0.006Åであり、得られたCu-Cu結合の長さは、2.542±0.006Åであり、対応する無秩序因子は、それぞれ、0.005±0.006Å
2および0.007±0.002Å
2であった。フィッティングで得られた光電子基準エネルギー(ΔE
0)の補正、ならびにフィッティングのR因子の値も表3に示す。
【0085】
【表3】
この結果は、同一条件での反応後のプラズマ処理Cu-In
2O
3サンプルとか焼Cu-In
2O
3サンプルの間の差を表し、プラズマ処理により、触媒作動中にドープされた金属酸化物の表面に偏析し得るCu原子の凝集を抑制できることが確認された。
【0086】
(膜触媒)
(参考例2:In2O3膜触媒の調製)
低エネルギー電子回折装置(LEED)、X線光電子分光器(XPS)、および走査型トンネル顕微鏡(STM)を備えた超高真空(UHV)チャンバ内で実験を実施した。これらは、全てSPECS GmbHから入手できる。以下の方法により、Ru(0001)単結晶上に、規則化されたIn2O3(111)膜を成長させた。Wフィラメントからの電子線を用いて、裏面からサンプルを加熱するための直径9mmφの穴を有するステンレス鋼のサンプルホルダーに、Ru(0001)単結晶(MaTeck GmbH、9mmφ、1.5 mm厚)を取り付けた。K型の熱電対を結晶の端部にスポット溶接した。1000K、10-6mbarのO2中でRu(0001)表面を酸化し、酸素下で室温まで冷却した。電子ビームアシスト蒸発器(Focus EMT3)を用いて、In2O3(111)の4から5単分子層(ML)を形成するのに等価な量における、90K、10-6mbarのO2において、In(99.9%、Sigma Aldrich)が充填されたMoるつぼから、酸化されたRu(0001)表面上にインジウムを蒸着した。その後、Ru(0001)の温度を1K/sの速度で上昇させ、さらなるIn2O3層の成膜の間、673Kに維持した。
次に、1000Kでサンプルを10-6mbarのO2中で酸化して膜の結晶性を改善した。In2O3(111)膜の厚さは、約5nmであった。調製されたサンプルを「In2O3(111)」で表す。
【0087】
(比較例5:未処理のCu-In2O3膜触媒の調製)
2つの電子ビームアシスト蒸発器(Omicron EMT3)を用いて、それぞれ、CuおよびInが充填されたMoるつぼから、In2O3(111)膜上にCuおよびInを共成膜した。約0.1MLのCuと0.9MLのInをIn2O3(111)表面に成膜した。本願で使用される1.0MLは、In2O3(111)表面単位セル当たり1原子、すなわち5.6×1013原子/cm2に対応する。CuおよびInのフラックスは、それぞれ、0.02ML/minおよび0.1ML/minであった。次に、サンプルを10-5mbarのO2中、573Kで酸化した。得られたサンプルを「未処理Cu-In2O3」で表す。
【0088】
(実施例6:プラズマ処理Cu-In2O3膜触媒の調製)
比較例6と同様の方法により、未処理のCu-In2O3膜触媒を調製した。次に、以下に示すような方法で、未処理Cu-In2O3膜触媒に対してO2存在下で非熱的プラズマ処理を実施し、これにより、プラズマCu-In2O3で表される、プラズマ処理されたCu-In2O3膜触媒を得た。
【0089】
1kVのアノード電圧および0.5μAの放出電流で、7×10
-6mbarのO
2中で作動される市販のプラズマ源(OSPrey、Oxford Scientific社、
図1a)を備えるマイクロ波プラズマ発生器を用いて、未処理Cu-In
2O
3膜触媒の酸素プラズマ処理を実施した。プラズマ処理の時間は、1時間であった。
【0090】
(参考例3:プラズマ処理In2O3膜触媒の調製)
実施例6と同様の方法により、参考例2のIn2O3膜触媒の酸素プラズマ処理を実施した。
【0091】
(結果の評価)
STMを用いて参考例2および3のIn
2O
3膜触媒の表面形態を評価した。参考例3によるプラズマ処理In
2O
3膜触媒のSTM像(
図5b)では、プラズマ処理In
2O
3膜触媒の表面にランダムに分配された、直径が1~4nmの間の範囲の広いサイズ分布を有するIn
2O
3クラスタの形成が明らかになった。STM像の単位面積当たりに規格化されたIn
2O
3クラスタの数は、0.08クラスタ/nm
2であった。そのようなIn
2O
3クラスタは、参考例2のプラズマ処理されていないIn
2O
3(111)膜触媒では観測されなかった(
図5a参照)。
【0092】
(Cu-)In
2O
3触媒のXPS O1sスペクトルでは、プラズマ処理後にショルダーが現れることを明らかとなった(
図6)。このショルダーは、欠陥サイト(「O
defect」で表される)における酸素原子に割り当てられる。この結果は、プラズマ処理によってより多くのクラスタが生成され、O1sスペクトルに強いショルダーを提供するSTM像と一致した。
【国際調査報告】