(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】脂質ナノ粒子と抗真菌性ポリエンとを含む組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20250117BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20250117BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20250117BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20250117BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P31/10
A61K9/16
A61K47/34
A61K31/7048
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024539998
(86)(22)【出願日】2023-01-10
(85)【翻訳文提出日】2024-07-02
(86)【国際出願番号】 EP2023050486
(87)【国際公開番号】W WO2023135144
(87)【国際公開日】2023-07-20
(32)【優先日】2022-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2022-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンスティチュート、ナシオナル、ドゥ、ラ、サンテ、エ、ドゥ、ラ、ルシェルシュ、メディカル
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE
(71)【出願人】
【識別番号】506155266
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ポワティエ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE POITIERS
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フレデリク・テウェス
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン・ブリュネ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA31
4C076CC32
4C076EE23
4C084AA17
4C084MA05
4C084MA41
4C084NA10
4C084ZB351
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA15
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA41
4C086NA10
4C086ZB35
(57)【要約】
本発明は水性相とポリエン系抗真菌薬と水性相中に分散されている脂質ナノ粒子とを含む組成物であって、前記脂質ナノ粒子が油性内部相とエンベロープとを含み、エンベロープがヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルを含み、ポリエン系抗真菌薬が水性相中に分散されている及び/又は脂質ナノ粒子の一部である組成物に関する。本発明は更に、抗真菌性ポリエンと油性内部相とエンベロープとを含む脂質ナノ粒子であって、エンベロープがヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルを含み、ポリエン系抗真菌薬が脂質ナノ粒子の一部である脂質ナノ粒子、及びその調製法に関する。本発明はまた、真菌によって、好ましくはケカビ目の真菌によって引き起こされる感染症の予防又は処置に使用するための本発明の組成物又は脂質ナノ粒子に関連する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性相とポリエン系抗真菌薬と水性相中に分散されている脂質ナノ粒子とを含む組成物であって、前記脂質ナノ粒子が油性内部相とエンベロープとを含み、エンベロープがヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルを含み、ポリエン系抗真菌薬が水性相中に分散されている及び/又は脂質ナノ粒子の一部である、組成物。
【請求項2】
ヒドロキシ脂肪酸がC8~C24ヒドロキシ脂肪酸であり、好ましくはC12~C20ヒドロキシ脂肪酸であり、より好ましくはC14~C18ヒドロキシ脂肪酸である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
脂肪酸のポリグリコールエステルが1から100個のエチレンオキシド基を含み、好ましくは5から50個のエチレンオキシド基を含み、より好ましくは15から25個のエチレンオキシド基を含み、更により好ましくは10から20個のエチレンオキシド基を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
脂肪酸のポリグリコールエステルが、C14~C18ヒドロキシ脂肪酸、好ましくはC18ヒドロキシ脂肪酸基、例えば12-ヒドロキシステアリン酸と、10から20個のエチレンオキシド基とを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルがポリエチレングリコール-15-ヒドロキシステアレートである、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
ポリエン系抗真菌薬が、アムホテリシンB、ナイスタチン、パルトリシン、ナタマイシン又はこれらの混合物から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
1g/Lから5g/Lの間、好ましくは1g/Lから2g/Lの間のポリエン系抗真菌薬と、20g/Lから100g/Lの間、好ましくは20から80g/Lの間、より好ましくは40から60g/Lの間のヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルとを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
30mg/Lから120mg/Lの間、好ましくは50mg/Lから100mg/Lの間のポリエン系抗真菌薬と、600mg/Lから2400mg/Lの間、より好ましくは1000から2000mg/Lの間のヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルとを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
脂質ナノ粒子が、好ましくは1から250mmの間、好ましくは10から150nmの間、好ましくは50から100nmの間のサイズを有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
脂質ナノ粒子が抗真菌性ポリエンを含んでいない、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
水性相がポリエン系抗真菌薬を含んでいない、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
脂質ナノ粒子が、ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステル:ポリエン系抗真菌薬が5:1から100:1の範囲となる質量比で、ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルとポリエン系抗真菌薬とを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
トリアゾール系抗真菌薬又は真菌抵抗性、特に排出ポンプ介在性抵抗性の影響を受ける抗真菌薬を更に含み、トリアゾール系抗真菌薬又は真菌抵抗性の影響を受ける抗真菌薬が水性相中に分散している及び/又は脂質ナノ粒子の一部である、請求項1から12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
トリアゾール系抗真菌薬が、イサブコナゾール、イトラコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾール、フルコナゾール又はこれらの混合物から選択される、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
抗真菌性ポリエンと油性内部相とエンベロープとを含み、エンベロープがヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルを含み、ポリエン系抗真菌薬が脂質ナノ粒子の一部である、脂質ナノ粒子。
【請求項16】
トリアゾール系抗真菌薬又は真菌抵抗性、特に排出ポンプ介在性抵抗性の影響を受ける抗真菌薬を更に含み、トリアゾール系抗真菌薬又は真菌抵抗性の影響を受ける抗真菌薬が脂質ナノ粒子の一部であり、好ましくはナノ粒子の油性内部相中に分散している、請求項15に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の脂質ナノ粒子を調製するための方法であって:
a)少なくとも脂肪物質及び上記に定義した抗真菌性ポリエンを含む油性相を準備する工程、
b)ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルを含む水性相を準備する工程、
c)工程a)の油性相と工程b)の水性相とを混合する工程、
d)工程c)において得られた混合物を冷却して、脂質ナノ粒子を得る工程、
を含む方法。
【請求項18】
脂質ナノ粒子がトリアゾール系抗真菌薬又は真菌抵抗性の影響を受ける抗真菌薬を含む場合という条件で、工程a)において準備される油性相がトリアゾール系抗真菌薬又は真菌抵抗性の影響を受ける抗真菌薬を更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
真菌によって引き起こされる感染症の予防又は処置に使用するための、請求項1から14のいずれか一項に記載の組成物又は請求項15若しくは16に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項20】
真菌が好ましくはケカビ目のもの、アスペルギルス属のもの、又はクリプトコッカス属のものであり、好ましくはクリプトコッカス・ネオフォルマンスである、請求項19に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
導入/本発明の分野
本発明の技術領域は、真菌性疾患、特にカビ目(Mucorales)に起因する真菌性疾患の処置である。
【背景技術】
【0002】
ムコール症はケカビ目に属する種に起因する生命にかかわる侵襲性真菌性疾患である。それは免疫不全患者において処置が困難な感染症であり、大部分の抗真菌薬物に対して抵抗性である。実際の処置は可能な限り、外科手術、基本的疾患の制御、及び積極的抗真菌療法に基づいている。現在のところケカビ目に対して3種類の活性抗真菌剤:一次療法に推奨されるリポソームとして製剤化されたアムホテリシンB(L-AmB)、代替のオプションとしてポサコナゾール(PSC)及びイサブコナゾール(ISC)のみが存在する。これらの処置にもかかわらず、死亡率は依然として受け入れがたく、疾患型に応じて30から90%と大きく異なる。
【0003】
その結果として、ケカビ目の真菌に感染した患者のための新規の処置を提供することが必要とされている。
【0004】
抗真菌剤の組合せは、ケカビ目に対するその有効性を改善するためにin vitro及びin vivoで試験されている。残念ながら抗真菌剤の組合せで、患者におけるムコール症に対して抗真菌薬単独よりも有効なものは示されていない。したがって、数名の著者が抗真菌剤と非抗真菌性分子との組合せを研究している。これらの組合せの一部は動物モデルにおいてin vitro又はin vivoで抗真菌有効性が増加したが、いくつかの問題、例えばケカビ目のビルレンス又は毒性を改善することも提示した。
【0005】
AmBは高度な活性を有する抗真菌薬物であるにもかかわらず、溶解度が限定されており、細胞傷害性が高い物質である。AmBの毒性及び臓器における、例えば、肝臓、肺及び腎臓におけるその生物蓄積は、処置された患者に深刻な影響を与える望まない特性である。リポソーム製剤、その中でもリポソーム分散剤Ambisome(登録商標)の開発に伴い、リポソームのサイズが小さく、臓器での長期の循環及び分布が可能になったことに起因して、AmBの毒性は弱毒化されている。しかしこのようなリポソーム製剤でさえ、用量依存的腎毒性の問題が依然として存在したたままである。それに加えて、このようなリポソーム製剤は製造するのが困難で高価である。
【0006】
クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)は、クリプトコッカス症という名称の、生命にかかわる世界中の侵襲性感染症に関与する酵母(真菌)である。C.ネオフォルマンスは、主に免疫不全患者において髄膜脳炎の原因となり、毎年およそ20万名の死者を引き起こす。したがって、この酵母は世界中で公衆衛生上の大きな問題を提示している。
【0007】
AmBと5-フルオロシトシンとの組合せは現在のところ一次処置に推奨されている。AmBデオキシコレート(AmBd)及びリポソームAmB(L-AmB)の2種類のAmB製剤が主に使用されている。L-AmBは毒性が低い形態であり、先進国において好まれる。しかし、それははるかに高価な形態であり、その結果、発展途上国において広範囲で使用されてはいない。AmBdは、発展途上国におけるクリプトコッカス症の管理に不可欠なものに相当する。残念ながら、クリプトコッカス属(Cryptococcus)に対する処置の有効性は依然として低いままであり、資源が豊富な環境と資源が乏しい環境の両方における死亡率は35~40%である。このような背景から、より有効で同時により安価なクリプトコッカス症に関する新規の処置が差し迫って必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】EUCAST DEFINITIVE DOCUMENT E.Def 9.3.2 April 2020. EUCAST antifungal MIC method for mould
【非特許文献2】Anton, N.; Gayet, P.; Benoit, J.-P.; Saulnier, P. Nano-emulsions and nanocapsules by the PIT method: An investigation on the role of the temperature cycling on the emulsion phase inversion. Int. J. Pharm. 2007, 344, 44-52
【非特許文献3】Chauzy, A.; Buyck, J.; de Jonge, B.L.M.; Marchand, S.; Gregoire, N.; Couet, W. Pharmacodynamic Modelling of β-Lactam/β-Lactamase Inhibitor Checkerboard Data: Illustration with Aztreonam-Avibactam. Clin. Microbiol. Infect. 2019, 25, 515.e1-515.e4, doi:10.1016/j.cmi.2018.11.025
【非特許文献4】Serrano, D.R.; Hernandez, L.; Fleire, L.; Gonzalez-Alvarez, I.; Montoya, A.; Ballesteros, M.P.; Dea-Ayuela, M.A.; Miro, G.; Bolas-Fernandez, F.; Torrado, J.J. Hemolytic and Pharmacokinetic Studies of Liposomal and Particulate Amphotericin B Formulations. Int J Pharm 2013, 447, 38-46, doi:10.1016/j.ijpharm.2013.02.038
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、ポリエン系抗真菌薬、例えばAmBに基づいて最適化された製剤が当技術分野において継続して必要とされている。
【0010】
本発明者らは、ケカビ目、並びに他の真菌、例えば、クリプトコッカス属、アスペルギルス属(Aspergillus)及びカンジダ属(Candida)に対するAmBの抗真菌的有効性を高め、同時にその毒性を減少させた製剤を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の目的において、本発明は、水性相とポリエン系抗真菌薬と水性相中に分散されている脂質ナノ粒子とを含む組成物であって、前記脂質ナノ粒子が油性内部相とエンベロープとを含み、エンベロープがヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルを含み、ポリエン系抗真菌薬が水性相中に分散されている及び/又は脂質ナノ粒子の一部である組成物に関する。
【0012】
ヒドロキシ脂肪酸は好ましくはC8~C24ヒドロキシ脂肪酸であり、好ましくはC12~C20ヒドロキシ脂肪酸であり、より好ましくはC14~C18ヒドロキシ脂肪酸である。
【0013】
更に、脂肪酸のポリグリコールエステルは好ましくは1から100個のエチレンオキシド基を含み、好ましくは5から50個のエチレンオキシド基を含み、より好ましくは15から25個のエチレンオキシド基を含み、更により好ましくは10から20個のエチレンオキシド基を含む。
【0014】
脂肪酸のポリグリコールエステルは、好ましくはC14~C18ヒドロキシ脂肪酸、好ましくはC18ヒドロキシ脂肪酸基、例えば12-ヒドロキシステアリン酸と、10から20個のエチレンオキシド基とを含む。
【0015】
ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルはポリエチレングリコール-15-ヒドロキシステアレートである。
【0016】
更に、ポリエン系抗真菌薬は、好ましくはアムホテリシンB、ナイスタチン、パルトリシン、ナタマイシン又はこれらの混合物から選択してもよい。
【0017】
本発明による組成物は、1g/Lから5g/Lの間、好ましくは1g/Lから2g/Lの間のポリエン系抗真菌薬と、20g/Lから100g/Lの間、好ましくは20から80g/Lの間、より好ましくは40から60g/Lの間のヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルとを含んでいてもよい。このような組成物は、好ましくは非経口投与用のものである。
【0018】
本発明による組成物は、30mg/Lから120mg/Lの間、好ましくは50mg/Lから100mg/Lの間のポリエン系抗真菌薬と、600mg/Lから2400mg/Lの間、より好ましくは1000から2000mg/Lの間のヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルとを含んでいてもよい。このような組成物は、好ましくは呼吸器投与用のものである。
【0019】
更に、脂質ナノ粒子のサイズは、好ましくは1から250mmの間を占めており、好ましくは10から150nmの間を占めており、好ましくは50から100nmの間を占めている。
【0020】
ある実施形態において、本発明による組成物の脂質ナノ粒子は抗真菌性ポリエンを含んでいない。
【0021】
ある実施形態において、本発明による組成物の水性相はポリエン系抗真菌薬を含んでいない。
【0022】
更に、脂質ナノ粒子は、好ましくは、ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステル:ポリエン系抗真菌薬が5:1から100:1の範囲となる質量比で、ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルとポリエン系抗真菌薬とを含む。
【0023】
ある実施形態において、本発明による組成物はトリアゾール系抗真菌薬又は真菌抵抗性、特に排出ポンプ介在性抵抗性の影響を受ける抗真菌薬(antifungal subject to)を更に含み、トリアゾール系抗真菌薬又は真菌抵抗性の影響を受ける抗真菌薬は水性相中に分散している及び/又は脂質ナノ粒子の一部である。
【0024】
ある実施形態において、本発明による組成物は、トリアゾール系抗真菌薬又は真菌抵抗性、特に排出ポンプ介在性抵抗性の影響を受ける抗真菌薬を更に含み、トリアゾール系抗真菌薬又は真菌抵抗性の影響を受ける抗真菌薬は脂質ナノ粒子の一部であり、好ましくは脂質ナノ粒子の油性コア中に分散している。
【0025】
ある実施形態において、トリアゾール系抗真菌薬又は真菌抵抗性の影響を受ける抗真菌薬は脂質ナノ粒子の一部であり、好ましくはナノ粒子の油性内部相中に可溶化されている。
【0026】
ある実施形態において、本発明による組成物はトリアゾール系抗真菌薬又は真菌抵抗性、特に排出ポンプ介在性抵抗性の影響を受ける抗真菌薬を更に含み、ナノ粒子の油相中に可溶化されており、ポリエン系抗真菌薬は水性相中に可溶化されている及び/又は脂質ナノ粒子の一部である。
【0027】
ある実施形態において、トリアゾール系抗真菌薬又は真菌性抵抗性の影響を受ける抗真菌薬及びポリエン系抗真菌薬は脂質ナノ粒子の一部である。
【0028】
トリアゾール系抗真菌薬は、例えば、イサブコナゾール、イトラコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾール、フルコナゾール又はこれらの混合物から選択してもよく、好ましくはイサブコナゾールである。
【0029】
真菌抵抗性の影響を受ける、特に排出ポンプ介在性抵抗性の影響を受ける抗真菌薬は、好ましくは親油性抗真菌薬であり、より好ましくはアゾール系抗真菌薬であり、特に例えば、トリアゾール系抗真菌薬及びイミダゾール系抗真菌薬から選択され得るアゾール系抗真菌薬である。
【0030】
ある実施形態において、組成物は、トリアゾール系抗真菌薬:ポリエン系抗真菌薬が10から200、好ましくは10から150、より好ましくは10から100の範囲となる質量比でトリアゾール系抗真菌薬とポリエン系抗真菌薬とを含む。
【0031】
第2の目的において、本発明はまた、抗真菌性ポリエンと油性内部相とエンベロープとを含み、エンベロープがヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルを含み、ポリエン系抗真菌薬が脂質ナノ粒子の一部である脂質ナノ粒子に関する。
【0032】
ある実施形態において、脂質ナノ粒子は、脂質ナノ粒子の油性内部相中に分散しているトリアゾール系抗真菌薬又は真菌抵抗性、特に排出ポンプ介在性抵抗性の影響を受ける抗真菌薬を更に含む。
【0033】
第3の目的において、本発明は、本発明の第2の目的の脂質ナノ粒子を調製する方法であって:
a)少なくとも脂肪物質及び上記に定義した抗真菌性ポリエンを含む油性相を準備する工程、
b)ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルを含む水性相を準備する工程
c)工程a)の油性相と工程b)の水性相とを混合する工程、
d)工程c)において得られた混合物を冷却して、脂質ナノ粒子を得る工程
を含む方法に関する。
【0034】
脂質ナノ粒子がトリアゾール系抗真菌薬又は真菌抵抗性の影響を受ける抗真菌薬を含む実施形態において、工程a)において準備される油性相はトリアゾール系抗真菌薬を更に含む。
【0035】
第4の目的において、本発明は、真菌によって、好ましくはケカビ目の真菌によって引き起こされる感染症の予防又は処置において使用するための本発明の第1の目的による組成物又は本発明の第2の目的による脂質ナノ粒子に関する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
組成物
本発明の第1の目的は、水性相とポリエン系抗真菌薬と水性相中に分散されている脂質ナノ粒子とを含む組成物であって、前記脂質ナノ粒子が油性内部相とエンベロープとを含み、エンベロープがヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルを含み、ポリエン系抗真菌薬が水性相中に分散されている及び/又は脂質ナノ粒子の一部である組成物に関する。
【0037】
本発明者らは、驚くことに、脂質ナノ粒子の形態の下での抗真菌性ポリエンとヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルとの組合せによって、ポリエン系抗真菌薬が水性相中に分散しているか及び/又は脂質ナノ粒子の一部であるかどうかにかかわらず、毒性が非常に低く、同時に抗真菌性ポリエンの有効性を、特にケカビ目に対する有効性を維持するか又は強化さえする組成物を得ることが可能になることを発見した。本発明者らは、この相乗作用はケカビ目だけではなく、アスペルギルス属及びクリプトコッカス属においても観察することができることを更に示している。興味深いことに、本発明者らは、脂質ナノ粒子の形態の下での抗真菌性ポリエンとトリアゾール系抗真菌薬とヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルとの組合せは抗真菌性ポリエンの効果を著しく増強することを更に示している。
【0038】
ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステル
「ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステル」という用語は、本発明において使用する場合、ヒドロキシ脂肪酸のエトキシル化によって得られた少なくともヒドロキシ脂肪酸のエステルを含む混合物を指す。「ポリグリコール」及び「ポリ(エチレングリコール)」、「ポリエチレングリコール」(PEG)又は「ポリエチレンオキシド(PEO)」又は「マクロゴール」又は「カルボバックス」又は「ポリオキシエチレン」(POE)という用語は交換可能である。前記混合物は、混合物の質量に対して、約60wt%から約75wt%のエステル、好ましくはヒドロキシ脂肪酸のモノエステル及びジエステルと、約25wt%から40wt%の遊離ポリエチレングリコールとを含んでいてもよい。
【0039】
「~と~との間」という句は、本発明において使用する場合、挙げられた範囲の末端を含むと理解するべきである。
【0040】
有利には、ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルのGriffinの方法によって判定された親水性-親油性バランス(HLB)は14から16の間を占める。
【0041】
「ヒドロキシル化脂肪酸」という用語は、本発明において使用する場合、脂肪酸のアルキル鎖に結合している少なくとも1つのヒドロキシル基を有する脂肪酸を指す。好ましくは、脂肪酸は、脂肪酸のアルキル鎖に結合している特有のヒドロキシル基を有する。有利には、ヒドロキシ脂肪酸はC8~C24ヒドロキシ脂肪酸であり、好ましくはC12~C20ヒドロキシ脂肪酸であり、より好ましくはC14~C18ヒドロキシ脂肪酸である。より好ましくは、ヒドロキシ脂肪酸はヒドロキシステアリン酸である。より有利には、ヒドロキシ脂肪酸は12-ヒドロキシステアリン酸である。
【0042】
有利には、脂肪酸のポリグリコールエステルは1から100個のエチレンオキシド基を含み、好ましくは5から50個のエチレンオキシド基を含み、より好ましくは15から25個のエチレンオキシド基を含み、更により好ましくは10から20個のエチレンオキシド基を含む。より有利には、脂肪酸のポリグリコールエステルは15個のエチレンオキシド基を含む。
【0043】
ある実施形態において、脂肪酸のポリグリコールエステルは、C14~C18ヒドロキシ脂肪酸、好ましくはC18ヒドロキシ脂肪酸基、例えば12-ヒドロキシステアリン酸と、10から20個のエチレンオキシド基とを含む。
【0044】
ある実施形態において、ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルはポリエチレングリコール-15-ヒドロキシステアレートである。
【0045】
本発明において、「ポリエチレングリコール-15-ヒドロキシステアレート」という用語は、12-ヒドロキシステアリン酸のエトキシル化によって得られた少なくとも12-ヒドロキシステアリン酸のエステルを含む混合物を指す。好ましくは、ポリエチレングリコール-15-ヒドロキシステアレートは少なくとも式:
【0046】
【0047】
のエステル化合物を含む(式中、n=15である)。ポリエチレングリコール-15-ヒドロキシステアレートは、α-ヒドロ-ω-ヒドロキシポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)を有する12-ヒドロキシオクタデカン酸ポリマー;12-ヒドロキシステアリン酸ポリエチレングリコールコポリマー;マクロゴール15ヒドロキシステアレート;及びポリエチレングリコール660 12-ヒドロキシステアレートとしても知られている。いくつかの実施形態において、ポリエチレングリコール-15-ヒドロキシステアレートはSolutol(登録商標)HS 15(CAS番号70142-34-6)であり、Kolliphor(登録商標)HS 15(BASF AG、Germany)の商品名でも市販されている。ある実施形態において、ポリエチレングリコール-15-ヒドロキシステアレートは、混合物の質量に対して、約60wt%から約75wt%の12-ヒドロキシステアリン酸のポリグリコールエステルと約60wt%から約75wt%の遊離ポリエチレングリコールとを含む混合物である。
【0048】
抗真菌性ポリエン
「抗真菌性ポリエン」という用語は、本発明において使用する場合、一連の共役二重結合とともに8個以上の原子を通常含むほぼ平坦なマクロラクトン環(通常ポリエンマクロライドと呼ばれる)によって特徴付けられる抗真菌薬を指す。共役二重結合の数に応じて、このようなポリエンは、トリエン、テトラエン、ペンタエン、ヘキサエン、ヘプタエン等に分類することができる。抗真菌性ポリエンは通常、マイコサミン基を有する親水性「頭部」を含む。このような抗真菌性ポリエンは通常「抗真菌性マクロライド」とも呼ばれる。
【0049】
有利には、抗真菌性ポリエンは、アムホテリシンB(AmB)、ナイスタチン、ナタマイシン(ピマリシンとしても知られる)、パルトリシン、又はこれらの混合物から選択してもよい。好ましくは、抗真菌薬はアムホテリシンBである。
【0050】
本発明による組成物は、細胞傷害性を伴うことなく高濃度の抗真菌性ポリエンを含む場合がある。これによって、本発明による組成物は、非経口投与だけではなく呼吸器投与にも、特に以下で詳述する肺内呼吸器投与にも特に好適になる。
【0051】
有利には、本発明による組成物は、1g/Lから5g/Lの間、好ましくは1g/Lから2g/Lの間のポリエン系抗真菌薬と、20g/Lから100g/Lの間、好ましくは20から80g/Lの間、より好ましくは40から60g/Lの間のヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルとを含む。このような組成物は好ましくは非経口投与用のものであり、より好ましくは以下で詳述する静脈内投与用のものである。
【0052】
有利には、本発明による組成物は、30mg/Lから120mg/Lの間、好ましくは50mg/Lから100mg/Lの間のポリエン系抗真菌薬と、600mg/Lから2400mg/Lの間、より好ましくは1000から2000mg/Lの間のヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルとを含む。このような組成物は好ましくは呼吸器投与用のものであり、より好ましくは以下で詳述する呼吸器肺投与用のものである。
【0053】
有利には、本発明による組成物は、ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステル:ポリエン系抗真菌薬が5:1から100:1の範囲の質量比で、好ましくは10:1から100:1の質量比で、好ましくは10:1から90:1の質量比で、好ましくは10:1から50:1の質量比で、好ましくは10:1から40:1の質量比で、好ましくは10:1から30:1の質量比で、好ましくは10:1から25:1の質量比で、ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルとポリエン系抗真菌薬とを含む。好ましくは、ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステル:ポリエン系抗真菌薬の質量比は15:1から25の:1の範囲である。
【0054】
以下で詳述するように、本発明による組成物は、水性相中に分散している及び/又は脂質ナノ粒子の一部としての抗真菌性ポリエンを含んでいてもよい。
【0055】
抗真菌性トリアゾール
ある実施形態において、本発明による組成物はトリアゾール系抗真菌薬を更に含む。
【0056】
「抗真菌性トリアゾール」という用語は、本発明において使用する場合、トリアゾールフラクション、すなわち2個の炭素原子と3個の窒素原子との5員環、及びこれらの誘導体を含むことを特徴とする抗真菌薬を指す。
【0057】
トリアゾール系抗真菌薬は、例えば、イサブコナゾール、イトラコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾール、フルコナゾール又はこれらの混合物から選択してもよい。好ましくは、トリアゾール系抗真菌薬はイサブコナゾールである。
【0058】
ある実施形態において、組成物は、トリアゾール系抗真菌薬:ポリエン系抗真菌薬が10から200、好ましくは10から150、より好ましくは10から100の範囲となる質量比でトリアゾール系抗真菌薬とポリエン系抗真菌薬とを含む。
【0059】
ある実施形態において、本発明による組成物はトリアゾール系抗真菌薬を更に含み、トリアゾール系抗真菌薬は水性相中に分散している及び/又は脂質ナノ粒子の一部である。
【0060】
本発明において、「分散した」は好ましくは「可溶化された」を意味する場合がある。
【0061】
ある実施形態において、トリアゾール系抗真菌薬は脂質ナノ粒子の一部であり、好ましくはナノ粒子の油性内部相中に分散している。
【0062】
ある実施形態において、本発明による組成物は、ナノ粒子の油性内部相中に分散しているトリアゾール系抗真菌薬と、水性相中に分散している及び/又は脂質ナノ粒子の一部であるポリエン系抗真菌薬とを含む。
【0063】
ある実施形態において、トリアゾール系抗真菌薬及びポリエン系抗真菌薬は水性相中に分散している。
【0064】
ある実施形態において、トリアゾール系抗真菌薬及びポリエン系抗真菌薬は脂質ナノ粒子の一部であり、トリアゾール系抗真菌薬は好ましくは脂質ナノ粒子の油性内部相中に分散されており、ポリエン系抗真菌薬は好ましくは脂質ナノ粒子の油性コア中に分散されている及び/又はエンベロープの構成成分である。
【0065】
以下の実験部分において記載するように、本発明者らは、イサブコナゾールは、ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルと組み合わせた場合、アムホテリシンBの活性を大きく増加させることを示している。
【0066】
本発明者らは、ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルベースのナノ粒子、すなわちPEG H15Sベースのナノ粒子中での、ポリエン系抗真菌薬、すなわちAmBとトリアゾール系抗真菌薬、すなわちイサブコナゾール(ISA)との組合せが、AmBの溶液、AmBとISAとの溶液、及びAmBを含むPEG H15S-ナノ粒子と比較して非常に高い抗真菌有効性を有することを示している。
【0067】
本発明者らは、本発明のナノ粒子中に組み込めば、現在のところ霧化によって投与することができないか又は非常に有効性が低いトリアゾール系抗真菌薬が、霧化経路によって使用可能になるであろうと考える。いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、トリアゾールは非常に親油性であるため、エアロゾルとして肺内投与された場合に血流に非常に素早く吸収され、したがって肺において真菌に作用する時間はないと考える。本発明者らは、対照的に、トリアゾールが本発明によるエアロゾル化ナノ粒子として投与された場合、肺からのトリアゾールの吸収は遅くなるはずであり、それによってその肺での滞留時間が増加し、したがって肺において抗真菌作用を発揮するための時間がより長くなるであろうと考える。
【0068】
したがって発明者らによれば、本発明によるナノ粒子中にポリエン系抗真菌薬、例えばAmBとトリアゾール系抗真菌薬、例えばイサブコナゾールとの組合せを組み込むという関心は、驚くべき様式で前記抗真菌薬のMICを低下させること、それと同時に霧化によってトリアゾールを投与することを可能にし、肺滞留時間を非常に長くさせることという2つの点であろう。
【0069】
ある実施形態において、本発明の組成物は、ポリエン系抗真菌薬とトリアゾール系抗真菌薬とを含み、ポリエン系抗真菌薬は好ましくはAmBであり、トリアゾール系抗真菌薬は好ましくはイサブコナゾールである。
【0070】
抵抗性の影響を受ける抗真菌薬
本発明者らは、ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルベースのナノ粒子、すなわちPEG H15Sベースのナノ粒子中でのポリエン系抗真菌薬 、すなわちAmBの組合せは、Ambがロードされていないナノ粒子よりもはるかに有効にクリプトコッカス属細胞に浸透することを更に示している。実際に、本出願の実験部分で示すように、ポリエン系抗真菌薬としてAmBを含む本発明による脂質ナノ粒子は、ポリエン系抗真菌薬を含んでいないPEG H15Sベースのナノ粒子よりも16倍効果的にクリプトコッカス属細胞に浸透した。
【0071】
理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、これらのデータは、本発明による脂質ナノ粒子が、ポリエン系抗真菌薬と真菌抵抗性の影響を受ける抗真菌薬、例えばイサブコナゾールとを組み合わせて含む場合、真菌細胞内での真菌抵抗性の影響を受ける抗真菌薬の細胞内濃度の強化において助けとなる場合があることを示唆すると考える。実際に、一部の抗真菌薬、例えばアゾール系(イサブコナゾールを含む)は真菌膜排出ポンプの基質であり、それによってその細胞内濃度が低下することによりその有効性が低下し、抗真菌薬抵抗性、例えばアゾール系抵抗性が生じる場合がある。本発明による脂質ナノ粒子の使用によって、これらのポンプの効果を回避し、真菌抵抗性の影響を受ける抗真菌薬の細胞内濃度が増加することが可能になり得る。したがって、本発明による脂質ナノ粒子は、真菌抵抗性、特に排出ポンプ介在性真菌抵抗性の克服における使用のものであってもよい。
【0072】
ある実施形態において、本発明による脂質ナノ粒子は、真菌抵抗性の影響を受ける、特に排出ポンプ介在性抵抗性の影響を受ける抗真菌薬を含む。
【0073】
「排出ポンプ介在性抵抗性の影響を受ける抗真菌薬」又は「EPMRを得た抗真菌薬」という表現は、本発明において使用する場合、排出ポンプとして作用する真菌膜関連トランスポーターの活性に起因して毒性レベルまで一部の真菌細胞において細胞内に蓄積することが困難又は不可能となる場合があり、抗真菌薬処置の効果が低下したか又は無効になった抗真菌薬を指す。実際に、一部の真菌膜関連トランスポーター、例えばATP結合カセット(ABC)タンパク質のスーパーファミリーに関連する一次活性トランスポーター、又はメジャーファシリテータースーパーファミリー(MFS)に属する二次活性トランスポーターは、基質として一部の抗真菌薬を認識し、真菌細胞から抗真菌薬を排出させることができることは知られている。一部の耐性真菌株において、真菌排出ポンプは、抗真菌薬を致死レベルまで蓄積しないことを確実にする。
【0074】
ある実施形態において、本発明による脂質ナノ粒子は抗真菌性ポリエン、好ましくはAmBと、抵抗性の影響を受ける、特にEPMRの影響を受ける抗真菌薬、好ましくはアゾール系抗真菌薬とを含む。ポリエン系抗真菌薬は好ましくは脂質ナノ粒子の油性コア中に分散しており及び/又はエンベロープの構成成分であり、好ましくは少なくともポリエン系抗真菌薬の一部はエンベロープの一部である。真菌抵抗性の影響を受ける抗真菌薬は、好ましくは脂質ナノ粒子の油性コア中に分散している親油性抗真菌薬である。
【0075】
ある実施形態において、真菌抵抗性の影響を受ける、特にEPMRを得た抗真菌薬は、親油性抗真菌薬であり、好ましくはアゾール系抗真菌薬である。
【0076】
「アゾール系抗真菌薬」という用語は、本発明において使用する場合、他の非炭素原子、例えば硫黄又は酸素を含む5員窒素含有複素環式環系及びその誘導体を含むことを特徴とする抗真菌薬を指す。抗真菌薬物のアゾール系基は通常2つのサブグループ:上記で定義されたトリアゾール系抗真菌薬及びイミダゾール抗真菌薬に分けられる。イミダゾール抗真菌薬の例は、クロトリマゾール、エコナゾール、ミコナゾール、ケトコナゾールである。
【0077】
ある実施形態において、本発明による脂質ナノ粒子は、抗真菌性ポリエン、好ましくはAmBとアゾール系抗真菌薬とを含む。アゾール系抗真菌薬は、トリアゾール系抗真菌薬、好ましくはイサブコナゾールであっても、イミダゾール抗真菌薬であってもよい。
【0078】
脂質ナノ粒子(LNP)
「脂質ナノ粒子」という用語は、本発明において使用する場合、油性内部相(又は油性コア)とヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルを含むエンベロープ(又は殻)とを含む小胞のタイプのナノメートルサイズの脂質粒子に関する。
【0079】
脂質ナノ粒子のサイズは好ましくは1から250mmの間であり、好ましくは10から150nmの間であり、好ましくは50から100nmの間である。
【0080】
本発明による脂質ナノ粒子の多分散指数(PDI)は好ましくは0.4未満であり、より好ましくは0.2未満である。
【0081】
上記の所与のサイズは、Z平均、すなわちMalvern Instrument(Malvern Panalytical)社製のZetasizer Nano ZS装置を使用し25℃で動的光散乱によって判定された脂質ナノ粒子の強度-加重サイズ分布の平均値に対応する。
【0082】
本明細書において使用する場合、PDIは相関データに対する2パラメーターのフィットから計算された数値である(キュムラント分析)。この指数は無次元であり、0.05より小さい値が高度な単分散標準で主に認められるようにスケーリングされる。0.7より大きいPDI値は、サンプルが非常に広範な粒径分布を有し、動的光散乱(DLS)技術による分析におそらく好適ではないことを示す。異なるサイズ分布アルゴリズムは、PDIのその2つの末端の値(すなわち、0.05~0.7)の間に入るデータと連動する。本発明において、サイズ及びPDIパラメーターは、ISO標準パラメーター13321:1996E及びISO22412:2008において定義されたように判定される。
【0083】
室温で液体又は半液体である油性コアは、好ましくは植物油、例えば大豆油、コーン油、オリーブ油、ベニバナ油、トリグリセリド;トコフェロール、例えば、アルファ-トコフェロール、ベータ-トコフェロール、ガンマ-トコフェロール、デルタ-トコフェロール、アルファ-トコトリエノール、ベータ-トコトリエノール、ガンマ-トコトリエノール、デルタ-トコトリエノール;魚油:ステロール;ビタミンD、例えば、コレカルシフェロール及びエルゴカルシフェロール;又はこれらの混合物から選択される水混和性の低い生体適合性生分解性親油性化合物を含む。
【0084】
「生体適合性生分解性」という用語は、本発明において使用する場合、身体に吸収及び排泄される場合があり、好ましくは組織における蓄積が少ない化合物を指す。
【0085】
トリグリセリドは、1つ又は複数のトリグリセリドを含んでいても、特に少なくとも1つの脂肪酸、好ましくはC6~C12脂肪酸、より好ましくはC6~C10脂肪酸の1つ又は複数のトリグリセリドを含んでいてもよい。
【0086】
使用してもよい市販されているトリグリセリド組成物は、Gattefosse Corporation社から入手可能なLabrafac lipophileWL 1349である。
【0087】
非イオン性界面活性剤に加えて、エンベロープは、殻を安定化させるために、特に両性界面活性剤、例えばリン脂質又はアニオン性界面活性剤、例えば脂肪酸から選択される他の賦形剤を含んでいてもよい。
【0088】
有利には、両性界面活性剤は、リン脂質ファミリーから、特にホスファチジルコリン又はレシチンから選択される両親媒性脂質である。本発明において使用する両親媒性脂質は、好ましくは室温で固体であり、これらは液体又は半液体コア周囲に半固体界面の形成を促進する。
【0089】
両親媒性脂質は好ましくはレシチン、より好ましくは35℃を超える遷移温度を示すレシチン、例えばジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジベヘニルホスファチジルコリン(DBPC)、パルミトイル-ステアロイルホスファチジルコリン(PSPC)、パルミトイル-ベヘニルホスファチジルコリン(PSPC)、ステアロイル-ベヘニルホスファチジルコリン(SBPC)の群から選択される。
【0090】
脂質ナノ粒子は好ましくは水素化されているレシチンを含む。更に詳細には、本発明に従って使用する水素化レシチンは、飽和ホスファチジルコリンのパーセンテージが高い。「パーセンテージが高い」という用語は、レシチンの総質量に対して85%を超える水素化(又は飽和)ホスファチジルコリンの量を意味すると理解される。使用してもよい市販されているレシチン組成物はPhospholipon(登録商標)90Hであり、その水素化ホスファチジルコリン含有量は90%を超え、その遷移温度はおよそ54℃である。
【0091】
有利には、脂質ナノ粒子は、両親媒性脂質:ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルが10:2から25:1の間の範囲となる質量比で両親媒性脂質化合物とヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルとを含む。
【0092】
有利には、脂質ナノ粒子、特に本発明による脂質ナノ粒子のエンベロープはステロールを更に含む。
【0093】
ステロールは、動物ステロール、例えばコレステロール、植物ステロール、例えばカンペステロール、ステロール誘導体、例えばビタミンD、又はこれらの混合物から選択してもよい。
【0094】
有利には、脂質ナノ粒子は、本発明による組成物の総質量に対して、0質量%から15質量%の間、好ましくは5質量%から10質量%の間の量でステロールを含む。
【0095】
本発明による組成物において、ポリエン系抗真菌薬は水性相中に分散している及び/又は脂質ナノ粒子の一部である。
【0096】
抗真菌性ポリエンに言及する「脂質ナノ粒子の一部」という表現は、抗真菌性ポリエンが脂質ナノ粒子の油性コア中に分散している及び/又はエンベロープの構成成分であることを意味する。ある実施形態において、抗真菌性ポリエンはエンベロープ中に埋め込まれている及び/又はエンベロープの外表面上に吸着している。
【0097】
抗真菌性トリアゾールに言及する「脂質ナノ粒子の一部」という表現は、抗真菌性ポリエンが脂質ナノ粒子の油性コア(すなわち油性内部相)中に分散している及び/又はエンベロープの構成成分であることを意味する。好ましい実施形態において、抗真菌性トリアゾールは脂質ナノ粒子の油性内部相中に分散している。別の実施形態において、抗真菌性トリアゾールはエンベロープ中に埋め込まれている及び/又はエンベロープの外表面上に吸着している。
【0098】
上述のように、「分散している」という用語は、好ましくは「可溶化された」を意味する。
【0099】
特定の実施形態において、本発明による組成物は、組成物の水性相中に分散している抗真菌性ポリエンを含む。
【0100】
この実施形態において、脂質ナノ粒子は好ましくは抗真菌性ポリエンを含んでいない。この実施形態の利点は、抗真菌性ポリエンを含む脂質ナノ粒子を有する組成物よりも安価であり、調製が複雑ではなく、潜在的に安定なことである。
【0101】
本発明者らは、驚くことに、水性相中に分散しているAmBの毒性が、溶液中にAmBとPEG15HSの両方を含む組成物と比較すると、脂質ナノ粒子中に組み込まれたPEG15HSの存在下で著しく低下したことを示している。
【0102】
別の実施形態において、抗真菌性ポリエンは脂質ナノ粒子の一部である。この実施形態において、水性相は抗真菌性ポリエンを含んでいない。好ましくは、抗真菌性ポリエンはAmBである。
【0103】
この実施形態の利点は、ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステル:ポリエン系抗真菌薬の質量比が、ポリエン系抗真菌薬の作用側まで維持されることを確実にすることである。特定の理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、抗真菌性ポリエンが水性相に存在する場合、ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステル及びポリエン系抗真菌薬が最適な比率で作用部位に到達しないというリスクが存在すると考える。
【0104】
ある実施形態において、脂質ナノ粒子は、ポリエン系抗真菌薬とトリアゾール系抗真菌薬とを含み、ポリエン系抗真菌薬は好ましくはAmBであり、トリアゾール系抗真菌薬は好ましくはイサブコナゾールである。
【0105】
この実施形態の利点は、以下の実験部分で示すように、ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルベースのナノ粒子、例えばPEG H15Sベースのナノ粒子中の、ポリエン系抗真菌薬、例えばAmBとトリアゾール系抗真菌薬、例えばイサブコナゾール(ISA)との組合せは、AmBの溶液、AmBとISAとの溶液、及びAmBを含むPEG H15S-ナノ粒子と比較して非常に高い抗真菌有効性を有することである。したがって、その実施形態の利点は、本発明による脂質ナノ粒子中のポリエン系抗真菌薬とトリアゾール系抗真菌薬との組合せは、ポリエン系抗真菌薬とトリアゾール系抗真菌薬の両方のMICを低下させることである。
【0106】
この実施形態のナノ粒子の更なる利点は、トリアゾール系抗真菌薬を本発明による脂質ナノ粒子中に組み込むことによって、肺によるトリアゾール系抗真菌薬の吸収が遅延され、したがってその滞留時間が増加し、したがってそのin vivo抗真菌有効性が高まることになる点である。これはとりわけ、霧化によってこのような脂質ナノ粒子を投与することを興味深いものにするであろう。
【0107】
ある実施形態において、脂質ナノ粒子はポリエン系抗真菌薬と真菌抵抗性の影響を受ける抗真菌薬とを含み、ポリエン系抗真菌薬は好ましくはAmBであり、真菌抵抗性の影響を受ける抗真菌薬は好ましくはアゾール系抗真菌薬、例えば、トリアゾール系抗真菌薬又はイミダゾール抗真菌薬である。
【0108】
この実施形態の利点は、このような脂質ナノ粒子が、上述のように真菌性EPMRを克服する助けとなる場合があることである。
【0109】
第2の目的において、本発明は、脂質ナノ粒子が脂質ナノ粒子の一部として抗真菌薬を含む本発明による第1の目的において定義される脂質ナノ粒子に関する。
【0110】
有利には、これらの脂質ナノ粒子は、ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステル:ポリエン系抗真菌薬が400:1から50:1、好ましくは300:1から50:1、より好ましくは200:1から50:1、更により好ましくは125:1から75:1の範囲となる質量比で、ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルとポリエン系抗真菌薬とを含む。
【0111】
有利には、これらの脂質ナノ粒子は、脂質ナノ粒子の総質量に対して、5質量%から60質量%の間、好ましくは5質量%から50質量%の間、より好ましくは30質量%から40質量%の間のヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルを含む。
【0112】
有利には、これらの脂質ナノ粒子は、脂質ナノ粒子の総質量に対して、0.01質量%から10質量%の間、好ましくは0.1質量%から5質量%の間、より好ましくは0.5から2質量%の間のポリエン系抗真菌薬を含む。
【0113】
本発明による脂質ナノ粒子を調製するための方法
第3の目的において、方法は、本発明の第2の目的による脂質ナノ粒子を調製するための方法であって、以下の工程を含む方法に関する:
a)少なくとも脂肪物質及び上記に定義した抗真菌性ポリエンを含む油性相を準備する工程、
b)ヒドロキシ脂肪酸のポリグリコールエステルを含む水性相を準備する工程、
c)工程a)の油性相と工程b)の水性相とを混合する工程、
d)工程c)において得られた混合物を冷却して、脂質ナノ粒子を得る工程。
【0114】
脂質ナノ粒子がトリアゾール系抗真菌薬を含む場合、工程a)において準備される油性相はトリアゾール系抗真菌薬を更に含む。
【0115】
好ましくは、工程c)は4℃/分の工程を伴う90℃~60℃の間の温度サイクルを適用して行う。好ましくは、2、3、4又は5回の温度サイクルを行う。
【0116】
好ましくは、工程c)において得られた混合物を冷却する工程d)は、混合物を60℃未満を含む温度に、好ましくは55℃を上回り60℃を下回る温度に、更により好ましくは58℃の温度に冷却することによって行って、脂質ナノ粒子を得る。
【0117】
混合工程c)は当業者に既知の技術を介して、例えば、高圧ホモジネート、高速撹拌、超音波処理、相反転温度(PIT)、又は溶媒注入によって行ってもよい。
【0118】
ある実施形態において、本発明の脂質ナノ粒子は懸濁液の形態であるか又は乾燥粉末の形態である。
【0119】
後者において、乾燥粉末の形態下での本発明の脂質ナノ粒子は、脂質ナノ粒子の水性分散体をスプレードライ又はフリーズドライすることによって得てもよく、前記水性分散体は好ましくは安定化剤を含む。このような安定化剤は、好ましくは糖、例えば、ラクトース、トレハロース、及びラフィノース;シクロデキストリン;バイオポリマー、例えば、デンプン及びデキストリン;5000g/molを超えるが25000g/mol未満の分子量を有する合成ポリマー、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、及び直鎖状又は分岐状ポリエチレングリコール、又はこれらの混合物から選択される。
【0120】
処置する方法
第4の目的において、本発明は、真菌によって引き起こされる感染症を予防又は処置するための第1の目的の発明による組成物又は第2の目的の発明による脂質ナノ粒子に関する。
【0121】
一実施形態によれば、感染症は、ケカビ目の少なくとも1つの真菌によって、好ましくはこれらに限定されないが、クモノスカビ属(Rhizopus)(例えば、R.アルヒズス(R.arrhizus)種、R.ミクロスポルス(R.microsporus)種)、リヒテイミア属(Lichtheimia)(例えば、L.ラモサ(L.ramosa)種、L.コリンビフェラ(L.corymbifera)種)、リゾムコール属(Rhizomucor)(例えば、R.プシルス(R.pusillus)種)、ケカビ属(Mucor)(例えば、M.サーキネロイデス(M.circinelloides)種)、カニングハメラ属(Cunninghamella)(例えば、C.バーソレティアエ(C.bertholletiae))、サクセナエア属(Saksenaea)(例えば、S.バシフォルミス(S.vasiformis))及びアポフィソミセス属(Apophysomyces)(例えば、A.エレガンス(A.elegans))を含む群から選択される属の少なくとも1つの真菌によって引き起こされる感染症である。
【0122】
別の実施形態によれば、感染症は、これらに限定されないが、アスペルギルス属(例えば、A.クラバタス(A.clavatus)、A.フラバス(A.flavus)、A.フミガトゥス(A.fumigatus)、A.フェリス(A.felis)、A.ニデュランス(A.nidulans)、A.ニゲル(A.niger)、A.テレウス(A.terreus)、A.レンチュルス(A.lentulus)又はA.ベルシコロール(A.versicolor))、フザリウム属(Fusarium)(例えば、F.オキシスポルム(F.oxysporum)、F.ソラニ(F.solani)、F.ベルティシリオイデス(F.verticillioides)、F.クラミドスポルム(F.chlamydosporum)、F.ディメルム(F.dimerum)、F.フジクロイ(F.fujikuroi)、又はF.インカルナータム(F.incarnatum))、セドスポリウム属(Scedosporium)(例えば、S.アピオスペルム(S.apiospermum)、S.オーラティカム(S.auraticum)、S.ボイディー(S.boydii)又はS.プロリフィカンス(S.prolificans))、ロメントスポラ属(Lomentospora)(例えば、ロメントスポラ・プロリフィカンス(Lomentospora prolificans))、ブラストミセス属(Blastomyces)(例えば、B.カピタータス(B.capitatus)、B.デルマチティディス(B.dermatitidis)及びB.ブラジリエンシス(B.brasiliensis))、コクシジオイデス属(Coccidioides)(例えば、C.インミティス(C.immitis)、C.ポサダシイ(C.posadasii))、ヒストプラスマ属(Histoplasma)(例えば、ヒストプラスマ・カプスラーツム(Histoplasma capsulatum))、カンジダ属(例えばC.アルビカンス(C.albicans)、C.パラプシローシス(C.parapsilosis)、C.トロピカリス(C.tropicalis)、C.クルーゼイ(C.krusei)、C.ダブリニエンシス(C.dubliniensis)、C.ファマタ(C.famata)、C.グラブラータ(C.glabrata)、C.オーリス(C.auris))及びクリプトコッカス属(例えば、C.ガッティー(C.gattii)、C.アルビドゥス(C.albidus)、C.ローレンティー(C.laurentii)又はC.ネオフォルマンス)を含む群から選択される属の少なくとも1つの真菌によって引き起こされる感染症である。
【0123】
ある実施形態によれば、感染症は、アスペルギルス属の1つの真菌によって、特にアスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)によって引き起こされる。
【0124】
ある実施形態によれば、感染症は、クリプトコッカス属の1つの真菌によって引き起こされ、特にクリプトコッカス・ガッティー(Cryptococcus gattii)又はクリプトコッカス・ネオフォルマンスによって引き起こされ、好ましくはクリプトコッカス・ネオフォルマンスによって引き起こされる。
【0125】
ある実施形態によれば、感染症は、抗真菌薬抵抗性を示す真菌によって、好ましくは排出ポンプ介在性抵抗性を示す真菌によって、より好ましくはアゾール系抵抗性を示す真菌によって引き起こされ、真菌は、具体的には、ケカビ目のもの、又はこれらに限定されないが、クモノスカビ属(例えば、R.アルヒズス種、R.ミクロスポルス種)、リヒテイミア属(例えば、L.ラモサ種、L.コリンビフェラ種)、リゾムコール属(例えばR.プシルス種)、ケカビ属(例えばM.サーキネロイデス種)、カニングハメラ属(例えば、C.バーソレティアエ)、サクセナエア属(例えば、S.バシフォルミス)及びアポフィソミセス属(例えば、A.エレガンス)、アスペルギルス属(例えば、A.クラバタス、A.フラバス、A.フミガトゥス、A.フェリス、A.ニデュランス、A.ニゲル、A.テレウス、A.レンチュルス又はA.ベルシコロール)、フザリウム属(例えば、F.オキシスポルム、F.ソラニ、F.ベルティシリオイデス、F.クラミドスポルム、F.ディメルム、F.フジクロイ、又はF.インカルナータム)、セドスポリウム属(例えば、S.アピオスペルム、S.オーラティカム、S.ボイディー又はS.プロリフィカンス)、ロメントスポラ属(例えば、ロメントスポラ・プロリフィカンス)、ブラストミセス属(例えば、B.カピタータス、B.デルマチティディス及びB.ブラジリエンシス)、コクシジオイデス属(例えば、C.インミティス、C.ポサダシイ)、ヒストプラスマ属(例えば、ヒストプラスマ・カプスラーツム)、カンジダ属(例えば、C.アルビカンス、C.パラプシローシス、C.トロピカリス、C.クルーゼイ、C.ダブリニエンシス、C.ファマタ、C.グラブラータ)及びクリプトコッカス属(例えば、C.ガッティー、C.アルビドゥス、C.ローレンティー又はC.ネオフォルマンス)を含む群から選択される属のものであってもよい。
【0126】
ある実施形態によれば、感染症は、抗真菌薬抵抗性を示す真菌によって、好ましくは排出ポンプ介在性抵抗性を示す真菌によって、より好ましくはアゾール系抵抗性を示す真菌によって引き起こされ、真菌は、アスペルギルス属、カンジダ属、又はクリプトコッカス属のものである。
【0127】
本発明は、更に別の態様によれば、真菌種によって引き起こされる疾患及び障害を予防又は処置するための方法であって、前記組成物又は脂質ナノ粒子を、それを必要とする対象に投与することを含む方法を提供する。
【0128】
いくつかの実施形態によれば、前記組成物又は脂質ナノ粒子は、真菌感染症、好ましくはケカビ目の真菌による感染症の進行段階で投与される。
【0129】
本発明はまた、真菌種によって引き起こされる疾患及び障害を予防又は処置するための医薬を製造するための本明細書において記載する前記組成物又は脂質ナノ粒子の使用に関する。
【0130】
ムコール症
本明細書において使用する場合、「ムコール症」という用語は、ケカビ目の真菌によって引き起こされる感染症を指す。
【0131】
いくつかの実施形態によれば、前記組成物又は脂質ナノ粒子は、ケカビ目の真菌によって、有利には鼻脳(副鼻腔及び脳)ムコール症、肺(pulmonary)(肺(lung))ムコール症、消化管ムコール症、皮膚(cutaneous)(皮膚(skin))ムコール症及び播種性ムコール症からなる群から選択される真菌によって引き起こされる疾患の処置に有用である。現在好ましい実施形態によれば、本発明の方法は、肺ムコール症及び播種性ムコール症の処置に有用である。
【0132】
ある実施形態において、ムコール症は抗真菌薬抵抗性を示すケカビ目の真菌によって、好ましくは排出ポンプ介在性抵抗性を示すケカビ目の真菌によって、より好ましくはアゾール系抵抗性を示すケカビ目の真菌によって引き起こされる。
【0133】
アスペルギルス症
本明細書において使用する場合、「アスペルギルス症」という用語は、アスペルギルス属の真菌によって引き起こされる感染症を指す。
【0134】
ある実施形態によれば、前記組成物又は脂質ナノ粒子は、有利には侵襲性アスペルギルス症、慢性肺アスペルギルス症、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、アスペルギルス気管支炎からなる群から選択されるアスペルギルス属の真菌によって引き起こされる疾患の処置に有用である。
【0135】
ある実施形態において、アスペルギルス症は、抗真菌薬抵抗性を示すアスペルギルス属の真菌によって、好ましくは排出ポンプ介在性抵抗性を示すアスペルギルス属の真菌によって、より好ましくはアゾール系抵抗性を示すアスペルギルス属の真菌によって引き起こされる。
【0136】
クリプトコッカス症
本明細書において使用する場合、「クリプトコッカス症」という用語は、クリプトコッカス属の真菌によって引き起こされる感染症を指し、クリプトコッカス・ネオフォルマンスによって引き起こされることが最も多い。
【0137】
いくつかの実施形態によれば、前記組成物又は脂質ナノ粒子は、クリプトコッカス属の真菌によって引き起こされる疾患の処置に有用であり、有利にはクリプトコッカル髄膜脳炎、肺クリプトコッカス症、皮膚クリプトコッカス症から選択される。ある実施形態において、前記組成物又は脂質ナノ粒子はクリプトコッカス・ネオフォルマンス髄膜脳炎の処置に有用である。
【0138】
ある実施形態において、クリプトコッカス症は、抗真菌薬抵抗性を示すクリプトコッカス属の真菌によって、好ましくは排出ポンプ介在性抵抗性を示すクリプトコッカス属によって、より好ましくはアゾール系抵抗性を示すクリプトコッカス属によって引き起こされる。
【0139】
投与様式
本発明の組成物又は脂質ナノ粒子は、いずれの好都合な投与経路によっても投与してもよい。特に規定されない限り、投与経路は2017年11月14日付の標準FDAC-DRG-00301において詳述されているとおりに定義される。
【0140】
ある実施形態において、本発明の組成物又は脂質ナノ粒子は、経腸投与(すなわち腸内への直接投与)、経口投与(すなわち口腔による又はそれを経由した投与)、舌下投与(すなわち舌の下への投与)、頬側投与(すなわち一般的に口腔内から頬に向けての投与)、又は直腸投与(すなわち直腸への投与)のためのものである。
【0141】
ある実施形態において、本発明の組成物又は脂質ナノ粒子は、非経口投与(すなわち注射、注入、又は埋込による投与)のためのものである。本明細書において使用する場合、非経口投与としては、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与がある。
【0142】
非経口投与のための本発明の組成物又は脂質ナノ粒子は、好ましくは、特に静脈内投与のための注射可能な懸濁液の形態である。
【0143】
非経口投与、好ましくは静脈内投与のための本発明の組成物又は脂質ナノ粒子は、好ましくは、血漿において達成される抗真菌性ポリエンの最大濃度が1から15mg/Lの間、好ましくは1から10mg/Lの間、好ましくは1から5mg/Lの間を占めることになるのを可能にする注射可能な懸濁液の形態で投与される。
【0144】
ある実施形態において、組成物又は脂質粒子は、呼吸器投与(すなわち例えば、経口で吸入することによる気道内への投与、本明細書において吸入投与とも呼ばれる)のためのものであり、好ましくは肺内呼吸器投与のためのものである。
【0145】
本明細書において使用する場合、「肺内呼吸器投与」とは、組成物又は脂質ナノ粒子を肺又はその気管支に送達し、肺胞上皮に集中させる呼吸器投与を指す。肺投与は非経口(好ましくは静脈内)投与に補完をもたらす。
【0146】
呼吸器投与、好ましくは呼吸器肺投与のための本発明の組成物又は脂質ナノ粒子は、本発明の組成物又は脂質ナノ粒子をベースにした粉末の、水溶液の又は水性懸濁液のエアロゾルとして投与してもよい。
【0147】
呼吸器投与、好ましくは呼吸器肺投与のための本発明の組成物又は脂質ナノ粒子は、好ましくは、気管支肺胞洗浄によって測定される肺上皮内膜液において達成される抗真菌性ポリエンの最大濃度が15mg/Lから60mg/Lの間、好ましくは15から60mg/Lの間、最も好ましくは30から60mg/Lの間を占めることになるのを可能にするエアロゾルの形態で投与される。
【0148】
「エアロゾル」という用語は、本発明において使用する場合、下気道、好ましくは肺を標的とするのに適したガス中の固体粒子又は液滴の分散体を指す。呼吸器投与のための本発明の組成物又は脂質ナノ粒子は、好ましくは、連続ガス相中に分散している本発明の脂質ナノ粒子の又は本発明の組成物の液滴の不連続相を含む。
【0149】
呼吸器投与、好ましくは呼吸器肺内投与のための本発明の組成物又は脂質ナノ粒子は、ネブライザー又は乾燥粉末吸入器を使用して投与してもよい。
【0150】
ネブライザーは、吸入可能な液滴の形態で液体材料(溶液又は分散体)をエアロゾル化することができるデバイスとして定義される。ネブライザーは、対象の口及び/又は鼻に配置されたマスク又はチップを用いて前記組成物の投与を可能にする。本発明の特定の実施形態において、本発明の脂質ナノ粒子の水性懸濁液はネブライザーを用いて投与され、それは例えば、ジェットネブライザー又はメッシュネブライザーであってもよい。
【0151】
本発明の組成物又は脂質ナノ粒子は、真菌感染症、特にケカビ目、アスペルギルス属又はクリプトコッカス属の真菌によって引き起こされる感染症を処置するために有用であり、活性成分はその意図する目的を達成するための量で含まれる。この範囲では、前記組成物又はナノ粒子は有効量で投与するべきである。
【0152】
「有効量」という用語は、所望の治療結果を生成するのに十分な化合物の量を指す。特に、本発明の脂質ナノ粒子の前記組成物は、所望の効果を示すのに十分な量で投与される。
【0153】
投与されることになる本発明の前記組成物又は脂質ナノ粒子の最適な投薬量は、当業者によって容易に判定することができ、使用される組成物又は脂質ナノ粒子、調製物の強度、投与様式、及び処置されることになる感染症の重症度に伴って変化することになる。更に、患者の年齢、体重、食事及び投与時間を含む処置される特定の患者に関連する因子によって、投薬量及び間隔を調整することが必要になるであろう。同時投与又は個別投与に関連する頻度及び/又は用量は、当業者によって、患者の機能、病状、投与形態等に応じて変更してもよい。
【0154】
本発明は、例示的で非限定的な以下の例を用いてより明らかに理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【
図1】RPMI中の溶液中のAmB及びRPMI中に分散しているブランク脂質ナノ粒子(BLNP)の形態下でのPEG15HSの存在下で測定された、リヒトハイミア・ラモサ(Lichtheimia ramosa)に対するアムホテリシンB(AmB)のMICを示す図である。曲線は同じアッセイの重複に対応する。
【
図2】BLNPにロードされたPEGHS15(0、10、20、50、100、200、400、800、1600、3200mg/L)と混合されたPBS中に可溶化されているAmB(1、5、15mg/L)の、PBS中に分散されたヒト赤血球に対する溶血活性を示す図である。
【
図3】BLNPにロードされたPEGHS15(0、10、20、50、100、200、400、800、1600、3200、6400mg/L)と混合されたRPMI中に可溶化されているAmB(15、30、45、60mg/L)の、RPMI中に分散されたヒト赤血球に対する溶血活性を示す図である。A15:15mg/LのAmB;A30:30mg/LのAmB;A45:45mg/LのAmB;A60:60mg/LのAmB。
【
図4】PBS中の、PEG15HS及び15mg/L AmB(LNP)を含むLNP、又はPEG15HS、コレステロール及び15mg/L AmB(LNP+CH)を含むLNPの製剤の関数としての溶血のパーセンテージを示す図である。AMB:PBS中に分散している15mg/L AmBを使用した対照アッセイ。
【
図5】AmB及びPEG15HS(LNP-009及びLNP-014)を含むLNP、AmB及びBrij(登録商標)S20(LNP-015)を含むLNP、及びAmB Brij(登録商標)O20(LNP-016)を含むLNP中のAmB濃度の比較を示す図である。
【
図6】AmB及びPEG15HS(LNP-014)を含むLNP、AmB及びBrij(登録商標)S20又はBrij(登録商標)O20を含むLNP(それぞれLNP-015又はLNP-016)の溶血活性のパーセンテージの比較を示す図である。AMB:溶液中の15mg/LのAmBの溶血活性。赤血球及びLNP又はAmBはPBS、pH=7.4中に存在しており、37℃で1時間インキュベートした。
【
図7】A)n=15のSolutol(登録商標)HS15;B)n=20のBrij(登録商標)O20;C)n=10のBrij(登録商標)S10、又はn=20の場合はBrij(登録商標)S20;D)n=10のBrij(登録商標)C10の特徴を示す化合物の構造を示す図である。
【
図8】12個のケカビ目株に関する、PEG15HS濃度(mg/L)に対するAmBのMIC(mg/L)を示す図である。AmB及びPEG15HSは水性相中に分散している。円は、1回のチェッカーボード実験中に判定されたAmBのMICを表し、実線は、3回のチェッカーボード実験に基づいてEmaxモデルによって予測された個々のAmBのMICを表す。
【
図9】溶液としての異なる濃度の界面活性剤に関して測定されたリヒトハイミア・ラモサに対するAmBのMICを示す図である。AmB及び異なる界面活性剤は水性相中に可溶化されている。円は、1回のチェッカーボード実験中に判定されたAmBのMICを表し、実線は、3回のチェッカーボード実験に基づいてEmaxモデルによって予測された個々のAmBのMICを表す。
【
図10】AmB、界面活性剤及びAMB-界面活性剤の組合せの溶血活性を示す図である。Solutol(登録商標)HS15、Brij(登録商標)020及びBrij(登録商標)C10(0、10、20、50及び100mg/L)、AmB(5mg/L)及びAmB(5mg/L)とSolutol(登録商標)HS15、Brij(登録商標)020又はBrij(登録商標)C10(0、10、20、50及び100mg/L)との組合せの溶血活性を、37℃で1時間インキュベートした後にRPMI中(a)又はPBS中(b)に分散されたヒト赤血球で測定した。溶血は、プレートリーダーを使用して540nmで測定した。実験は2回繰り返して行った。AmB5:5mg/LのAmB。
【
図11】AmB、Solutol(登録商標)HS15及びAMB-Solutol(登録商標)HS15の組合せの溶血活性を示す図である。溶液中の、AmB(0、1、5、15、30、45、60mg/L)、PEG15HS(0、10、20、50、100、200及び400mg/L)及びAmB(0、1、5、15、30、45、60mg/L)とPEG15HS(0、10、20、50、100、200及び400mg/L)との組合せの溶血活性を、37℃で1時間インキュベートした後にRPMI中(
図11a)及びPBS中(
図11b)に分散されたヒト赤血球で測定した。溶血は、プレートリーダーを使用して540nmで測定した。実験は、2つの実験で2回繰り返して行った。ns:有意差なし;*p<0.05。
【
図12】インキュベートしてから18時間後のクリプトコッカス属細胞マーカー(CellTracker Green CMFDA)と脂質ナノ粒子マーカー(DiL)との間の蛍光強度比を示す図である。
【実施例】
【0156】
以下の実施例において、特に記載がない限り、製剤の特性は以下の方法で測定した:
【0157】
最小発育阻止濃度(MIC)
各真菌に関するMICは、EUCASTブロス微量希釈法抗真菌薬感受性試験法論(EUCAST DEFINITIVE DOCUMENT E.Def 9.3.2 April 2020. EUCAST antifungal MIC method for mould)によって記載されているように、異なる濃度のAmB(LNP懸濁液中に可溶化されているか又はLNPにロードされている)の存在下で測定した。
【0158】
溶血活性
異なる健常ボランティアからのヒト血液試料をEDTA管中に収集し、3000×gで5分間遠心分離した。血漿を除去し、赤血球を2mlの0.9%NaClで、3000×g、5分間の遠心分離によって4回洗浄した。
【0159】
赤血球をPBS、pH7.4中に懸濁し、その濃度を5.10^8細胞/mLに調整した。次いで赤血球を、LNP中の溶液として可溶化されたか又はLNP中にロードされたAmBと、振とう下、37℃で1時間インキュベートし、次いで3000×gで5分間遠心分離した。次いで、100μLの上澄みを平底透明96ウェルプレート中に移し、吸光度を540nmで測定した。PBS中に分散した未処置の赤血球を陰性対照として使用し、1%(v/v)のTritonX-100によって処置した赤血球を陽性対照として使用した。溶血のパーセンテージを次の式を使用して計算した:100*(Asample--Acontrol)/(aTritonX-100-Anegative)(式中、Asampleは、各実験条件に関して測定された吸光度であり、Anegative及びaTritonX-100はそれぞれ陰性及び陽性対照の吸光度である)。
【0160】
脂質ナノ粒子の調製
AmBを含む脂質ナノ粒子(LNP)又は含んでいない脂質ナノ粒子(BLNP)を、Antonら(Anton, N.; Gayet, P.; Benoit, J.-P.; Saulnier, P. Nano-emulsions and nanocapsules by the PIT method: An investigation on the role of the temperature cycling on the emulsion phase inversion. Int. J. Pharm. 2007, 344, 44-52)によって記載されている手順に従って調製した。
【0161】
簡潔には、トリグリセリド(Labrafac(登録商標))から作製された脂質ナノ粒子の油相を、NaCl及び2種類の界面活性剤(Solutol HS15(登録商標)及びPhospholipon(登録商標))の存在下、磁気撹拌下で水と混合した。この水中油型エマルションを、相反転温度(PIT)を超える温度(90℃)に加熱して、油中水型エマルションを得た。次いでそれを、PITを下回る温度(60℃)に冷却し、水中油型エマルションの形成物に戻した。これらの温度サイクルを3回行い、次いで系を12~10mLの冷却水を添加することによってクエンチした(4℃)。
【0162】
(実施例1)
水性相中に分散しているAmBとAmBを含んでいないPEG15HSベースの脂質ナノ粒子(BLNP)を含む組成物の材料及び方法
溶質の形態のAmBと脂質ナノ粒子(LNP)中に組み込まれ、濃度が増加されたPEG15HSとを含む製剤を調製し、アッセイを行った。LNPはAmBを含んでおらず、以下では「ブランク脂質ナノ粒子」(BLNP)と称する。
【0163】
1.1.1.PEG15HSを含む脂質ナノ粒子の調製
濃度が増加されたPEG15HSを含むBLNPを上述のように調製した。
【0164】
成分をTable 1(表1)に詳述する。
【0165】
【0166】
1.1.2.溶液中のAmBとBLNPとを含む製剤の調製。
次いでBLNPを、溶質として1、5、15、30、45、又は60mg/mLのAmBを含む溶液と混合する。
【0167】
AmB-BLNP混合物を、1.1.1において調製したある容積のBLNPと、同じ容積で2倍の濃度のRPMI又はDPBS中のAmB溶液とを混合することによって調製した。
【0168】
液体製剤中に分散している、溶解形態のAmBとLNP中に組み込まれたPEG15HSとを含む液体製剤が得られる。
【0169】
1.1.3.株
リヒトハイミア・ラモサの臨床分離株を使用した。単離菌を、15mLのSabouraudデキストロース寒天(Sigma-Aldrich社、St.Quentin Fallavier、France)を含む75cm3のフラスコで37℃で3日間、凍結ストック(-80℃)から二次培養した。胞子を、フラスコを10mLの滅菌水に浸すことによって収集した。懸濁液を11μmの孔径のナイロンフィルター(Millipore社、Carrigtwohill、Ireland)でろ過して、菌糸の要素を除去した。次いで胞子懸濁液の濃度を滅菌水中で調整して2×105胞子/mLの接種材料を得た。
【0170】
1.1.3.培地
2%(w/v)デキストロースが添加され、0.165mol/L MOPS(Sigma-Aldrich社)を用いてpH7に緩衝されたRPMI1640(L-グルタミン、pH指示薬含有、重炭酸塩不含)(Sigma-Aldrich社)を使用して、MIC及び溶血活性測定を行った。この培地を、0.22μm孔サイズのフィルターを使用して滅菌した。無菌ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DDPBS、Dominique Dutscher、Bernolsheim、France)、pH7も培地として使用してAmBの溶血活性を測定した。
【0171】
1.2.結果
2.2.1.ケカビ目に対する有効性
リヒトハイミア・ラモサに関する製剤のMICをアッセイした。
【0172】
【0173】
結果によって、LNP中に組み込まれた15~30mg/LのPEG15HSの存在下、AmBのMICは0.5mg/Lから0.01mg/Lに減少することが示される。
【0174】
【0175】
PBSでは、5から15mg/LのAmBが溶血を誘導する。LNP中にロードされたPEG15HSは、100mg/Lまでの濃度でAmBのこの溶血性効果を減少させる。
【0176】
RPMIでは、高濃度のAmB(15、30mg/L)が溶血を誘導する。LNP中にロードされたPEGHS15は、800mg/Lの濃度でAmBのこの溶血性効果を予防する。
【0177】
(実施例2)
AmBとPEG15HS(LNP)とを含む脂質ナノ粒子を含む組成物。
2.1.材料及び方法
脂質ナノ粒子(LNP)中に組み込まれたAmBとPEG15HSとを含む製剤を調製し、アッセイを行った。
【0178】
濃度が増加されたPEG15HSを含むLNPを上述のように調製した。
【0179】
成分をTable 2(表2)に詳述する。
【0180】
【0181】
2.2.結果
2.2.1.LNP中のAmB含有量
LNP中のAmB含有量を判定するために、50μLのLNP懸濁液を950μLのDMSO中に可溶化した。これらの溶液の吸光度を、Infinite M200 Proマイクロプレートリーダー(Tecan(登録商標)、France)を使用して407nmの波長で測定した。これらの溶液中のAmBの濃度を、DMSO中の遊離AmBの標準曲線に従って(10から0.25mg/L)の濃度範囲で推測した。8、2及び0.4mg/Lの品質管理溶液を使用してアッセイを検証した。50μLの新たに調製されたLNP懸濁液と950μLのDMSOとを混合することによって得られた溶液のAmB濃度(μg/ml又はmg/L)を以下のTable 3(表3)に報告する。
【0182】
2.2.2.サイズ分布及びPDI
LNPのサイズ分布を、Malvern NanoZS(Malvern社、Orsay、France)を使用した動的光散乱測定によって判定した。LNP懸濁液をMilliQ水で希釈し(1:60v/v)、25℃で3回繰り返して分析した。LNPを強度-加重サイズ分布の中央値によって、及びサイズ分布の広さの尺度である多分散指数(PDI)によって特徴付けた。PDIは、相関データに対する2パラメーターのフィット(キュムラント分析)から計算された数値である。この指数は無次元であり、0.05より小さい値が高度な単分散標準で主に認められるようにスケーリングされる。0.7より大きいPDI値は、サンプルが非常に広範な粒径分布を有し、動的光散乱(DLS)技術による分析におそらく好適ではないことを示す。異なるサイズ分布アルゴリズムは、PDIのその2つの末端の値(すなわち、0.05~0.7)の間に入るデータと連動する。サイズ及びPDIパラメーターを判定するために使用される計算は、ISO標準文書13321:1996E及びISO22412:2008において定義されている。
【0183】
結果を以下のTable 3(表3)に示す。
【0184】
【0185】
2.2.2.溶血活性
異なる健常ボランティアからのヒト血液試料をEDTA管中に収集し、3000×gで5分間遠心分離した。血漿を除去し、赤血球を2mlの0.9%NaClで、3000×g、5分間の遠心分離によって4回洗浄した。
【0186】
赤血球をPBS、pH7.4中に懸濁し、その濃度を5.108細胞/mLに調整した。次いで赤血球を、PEG15HSから作製された(LNP-008、LNP-009、LNP014)又は他の界面活性剤から作製された(LNP-015及びLNP-016)LNP中の溶液として可溶化されたか又はLNP中にロードされた15mg/LのAmBと振とう下、37℃で1時間インキュベートし、次いで3000×gで5分間遠心分離した。次いで、100μLの上澄みを平底透明96ウェルプレート(SARSTEDT社、France)中に移し、吸光度をプレートリーダー(Infinite M200 PRO、Tecan(登録商標)、France)を使用して540nmで測定した。PBS中に分散した未処置の赤血球を陰性対照として使用し、1%(v/v)のTritonX-100によって処置した赤血球を陽性対照として使用した。溶血のパーセンテージを次の式を使用して計算した:100*(Asample--Acontrol)/(aTritonX-100-Anegative)(式中、Asampleは、各実験条件に関して測定された吸光度であり、Anegative及びaTritonX-100はそれぞれ陰性及び陽性対照の吸光度である)。
【0187】
【0188】
比較例3:AmBとPEG15HS以外の他の界面活性剤とを含む脂質ナノ粒子を含む組成物
3.1.材料及び方法
PEG15HSをBrij(登録商標)S20及びBrij(登録商標)O20に置き換えた実施例2によるLNP-009に対応するLNPを以下のTable 5(表4)に詳述する成分を用いて調製する。
【0189】
【0190】
3.2.結果
図5に示される結果によって、AmBとPEG15HS(LNP-009及びLNP-014)とを含むLNP中のAmB濃度は、AmBとBrij(登録商標)S20又はBrij(登録商標)O20とを含むLNP(それぞれLNP-015又はLNP-016)のものよりも高いか又はそれに等しいことが示される。
【0191】
図6に示される結果によって、AmBとPEG15HS(LNP-014)とを含むLNPの溶血活性は、AmB及びBrij(登録商標)S20又はBrij(登録商標)O20を含むLNP(それぞれLNP-015又はLNP-016)のものよりも高いか又はそれと同等であることが示される。
【0192】
比較例4:水性相中に分散しているAmBとさまざまな界面活性剤とを含む製剤(本発明によるものではない)
4.1.材料及び方法
4.1.1.株
ARNrシークエンシングによって同定されたケカビ目の12個の臨床分離株を使用した:ライゾプス・アルヒズス(Rhizopus arrhizus)(5)、ライゾプス・ミクロスポルス(Rhizopus microsporus)(1)、リヒトヘイミア・コリンビフェラ(Lichtheimia corymbifera)(3)、リヒトハイミア・ラモサ(1)、ムコール・サーキネロイデス(Mucor circinelloides)(1)、ライゾムコール・プシルス(Rhizomucor pusillus)(1)。単離菌を、15mLのSabouraudデキストロース寒天(Sigma-Aldrich社、St.Quentin Fallavier、France)を含む75cm3のフラスコで37℃で3日間、凍結ストック(-80℃)から二次培養した。胞子を、フラスコを10mLの滅菌水に浸すことによって収集した。懸濁液を11μmの孔径のナイロンフィルター(Millipore社、Carrigtwohill、Ireland)でろ過して、菌糸の要素を除去した。次いで胞子懸濁液の濃度を滅菌水中で調整して2×105胞子/mLの接種材料を得た。
【0193】
4.1.2.培地
RPMI1640(L-グルタミン及びpH指示薬を含有するが重炭酸塩は含有していない)(Sigma-Aldrich社)にデキストロースを添加して、最終濃度を2%(w/v)とし、0.165mol/LのMOPS(Sigma-Aldrich社)を用いてpH7に緩衝した。この培地を、0.22μm孔サイズのフィルターを使用して滅菌した。
【0194】
pH7.4を有する0.05mol/Lのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)も培地として使用して、AmBの溶血活性を測定し、UVスペクトルを記録した。
【0195】
4.1.3.溶液の調製
AmB粉末(Sigma-Aldrich社)をジメチルスルホキシド中に溶解して8192mg/Lの原液を得、-80℃で6ヶ月間貯蔵した。使用当日、AmB及び新たに作製した界面活性剤溶液(RPMI又はPBS中)を同培地(RPMI又はPBS)で希釈して所望の濃度を得た。使用した界面活性剤(ポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレート(Solutol(登録商標)HS15又はKolliphor(登録商標)HS15、又はマクロゴール15ヒドロキシステアレートとも呼ばれる);ポリオキシエチレン(10)ステアリルエーテル(Brij(登録商標)S10);ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル(Brij(登録商標)S20);ポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル(Brij(登録商標)020);及びポリオキシエチレン(10)セチルエーテル(Brij(登録商標)C10))は
図7に示す化学構造を有しており、Sigma-Aldrich社から購入した。
【0196】
4.1.4.チェッカーボードアッセイ
ケカビ目の各株のAmB最小発育阻止濃度(MIC)を、チェッカーボード手順に変更を加えて、EUCASTブロス微量希釈抗真菌薬感受性試験法論によって記載されているように異なる濃度の界面活性剤の存在下、RPMI中で測定した。96ウェルプレート中に2倍希釈のAmB(0.008から4mg/L)及び界面活性剤溶液(0.04から2752mg/L)100μLを添加することによってチェッカーボードを行った。100マイクロリットルの105胞子/mLの濃度の胞子懸濁液をウェルに添加し、プレートを37℃で24時間インキュベートした。MICを、真菌株の成長を完全に阻害したAmBの最も低い濃度として24時間後に目視で読み取った。各株に関して3回の実験を行った。
【0197】
細菌に対する抗生物質の有効性に対する非抗生物質分子の促進効果を評価するためにChauzyら(Chauzy, A.; Buyck, J.; de Jonge, B.L.M.; Marchand, S.; Gregoire, N.; Couet, W. Pharmacodynamic Modelling of β-Lactam/β-Lactamase Inhibitor Checkerboard Data: Illustration with Aztreonam-Avibactam. Clin. Microbiol. Infect. 2019, 25, 515.e1-515.e4, doi:10.1016/j.cmi.2018.11.025)によって開発された阻害Emaxモデル(式1)を本発明において使用して、界面活性剤濃度(Csurf)との関連でさまざまなケカビ目株に対するAmBのMIC値
【0198】
【0199】
における平均減少を記載した。
【0200】
【0201】
式1において、MIC0は、界面活性剤なしで測定されたAmBのMICを指し、MIC∞は界面活性剤の存在下で測定された最も低いAmBのMICである。AmBのMICの減少における最大比は最大有効性(Emax)として定義され、MIC0/MIC∞の比として計算した。EC50はEmaxの50%を生成する界面活性剤の濃度であり、界面活性剤の効力を特徴付ける。これらのパラメーターを、Chauzyらによって記載されているようにWinNonlinソフトウェア(バージョン6.2、Certara社、NJ、USA)を使用して評価した。
【0202】
4.1.5.溶血活性
界面活性剤の存在下でのAmBの溶血活性を、Serranoら(Serrano, D.R.; Hernandez, L.; Fleire, L.; Gonzalez-Alvarez, I.; Montoya, A.; Ballesteros, M.P.; Dea-Ayuela, M.A.; Miro, G.; Bolas-Fernandez, F.; Torrado, J.J. Hemolytic and Pharmacokinetic Studies of Liposomal and Particulate Amphotericin B Formulations. Int J Pharm 2013, 447, 38-46, doi:10.1016/j.ijpharm.2013.02.038)において記載されているプロトコールに従って測定した。
【0203】
異なる健常ボランティアからのヒト血液試料をEDTA管中に収集し、3000×gで5分間遠心分離した。血漿を除去し、赤血球を2mlの0.9%NaClで、3000×g、5分間の遠心分離によって4回洗浄した。
【0204】
赤血球をRPMI又はPBS中に懸濁し、その濃度を5.108細胞/mLに調整した。次いで赤血球をAmB(0.5mg/L)及び界面活性剤(0、5、10、20、50、100mg/L)の異なる組合せと、振とう下、37℃で1時間インキュベートし、次いで3000×gで5分間遠心分離した。次いで、100μLの上澄みを平底透明96ウェルプレート(SARSTEDT社、France)中に移し、吸光度をプレートリーダー(Infinite M200 PRO、Tecan(登録商標)、France)を使用して540nmで測定した。RPMI又はPBS中に分散させた未処置の赤血球を陰性対照として使用し、1%(v/v)のTritonX-100によって処置した赤血球を陽性対照として使用した。溶血のパーセンテージを次の式を使用して計算し:100*(Asample--Acontrol)/(ATritonX-100-Anegative)(式中、Asampleは、各実験条件に関して測定された吸光度であり、Anegative及びATritonX-100はそれぞれ陰性及び陽性対照の吸光度である)。実験を2回繰り返して行った。これらの予備実験後、実験を、PBS中のAmB(0、1、5、15mg/L)とSolutol(登録商標)HS15(0、5、10、20、50、100、200、400mg/L)との組合せ、及びRPMI中のAmB(0、15、30、45及び60mg/L)とSolutol(登録商標)HS15(0、5、10、20、50、100、200、400mg/L)との組合せで繰り返した。実験を、RPMIに関しては4つの実験で2回繰り返して行い、PBSに関しては2つの実験で2回繰り返して行った。
【0205】
4.2.結果
4.2.1.溶液中のケカビ目に対するAmBの有効性を改善するためのPEG15HS及び他の界面活性剤の有効性
ムコール症に関与するケカビ目のいくつかの属及び株に対するAmBの有効性を改善するためのPEG15HSの有効性をアッセイした。
【0206】
AmBに関する全ての単離菌のMICは1mg/L未満であり、同時にSolutol(登録商標)HS15単独に関しては1024mg/Lを超えるMIC値が得られた。この条件下では、抗菌剤の組合せの有効性を評価するために従来使用されてきた分画阻害濃度(FIC)指数分析を、Solutol(登録商標)HS15のAmBに対する有効性に及ぼす影響を評価するために使用することは困難な場合がある。
【0207】
更に、Solutol(登録商標)HS15濃度の関数としてのAmBのMICにおける低下は、指数関数的な崩壊プロファイルを示した(
図8)。
【0208】
図8の曲線を、阻害Emaxモデルを用いて更に分析し、異なる株に対するAmBのMICを低下させるためのSolutol(登録商標)HS15の最大有効性(E
max)及び効力(EC
50)を比較変数として使用した。結果をTable 4(表5)に示す。
【0209】
【0210】
AmBの抗真菌作用を改善するためのSolutol(登録商標)HS15のEmaxは、単離菌に応じて2.5から63.8まで変化した(Table 1(表1))。最も高い値がリヒトハイミア・ラモサ種に関して得られた。Emax値は、1つの株(リヒトヘイミア・コリンビフェラ2)を除いて、リヒトヘイミア・コリンビフェラ種に対しても比較的高かったが、0.06mg/Lのその低いMIC0値によって示されるように、この株に対するAmB単独の有効性はすでに高かった。したがって、この株に対するすでに低いAmBのMICを更に低下させることは困難であると思われる。ライゾムコール・プシルス及びムコール・サーキネロイデスの被検株に対して、AmB-Solutol(登録商標)HS15の組合せはまたそれぞれ20及び16.5のEmaxで有効であった。しかし、被検クモノスカビ属の2つの種(1つはミクロスポルス属、及び5つの株はアルヒズス属(以前はオリザエ属))に関しては、組合せは効果が低いと思われ、Emax値が6.4であるアルヒズス属の1つの株を除外して、Emax値は4を下回っていた。
【0211】
Emax値が4を上回った場合、Solutol(登録商標)HS15は一般的に非常に強力であり、EC50値は0.5mg/Lを下回り、Solutol(登録商標)HS15が低濃度でAmBの有効性を改善したことを示した。Emaxが4未満であった場合、大部分のクモノスカビ属株に関しては、EC50値は主に1mg/Lを上回り、53.45mg/Lまで上昇する場合があった。
【0212】
Solutol(登録商標)HS15で得られた結果によって、この界面活性剤は、低濃度でケカビ目のいくつかの株に対してAmBの有効性を4倍を超えて改善することができたことが示された。
【0213】
この効果がSolutol(登録商標)HS15に特異的であったか又は他の非イオン性ポリエトキシル化界面活性剤でも得ることができるかどうかを評価するために、さまざまなBrij(登録商標)と関連するAmBの抗真菌有効性を、AmB-Solutol(登録商標)の組合せに最も応答したケカビ目の株であるL.ラモサに対しても試験を行った。被検Brij(登録商標)界面活性剤は疎水性(アシル基)及び親水性(ポリエチレンオキシド)部分に関して鎖長が異なっていた(
図7)。
【0214】
図9に示される結果によって、Brij(登録商標)S10、Brij(登録商標)S20、Brij(登録商標)020及びBrij(登録商標)C10もLラモサに対するAmBの有効性を高めることができたことが示される。4種類の被検非イオン性界面活性剤は高い効力を示し、EC
50値は0.1mg/Lを上回った(Table 1(表1))。しかし、Brij(登録商標)020及びBrij(登録商標)C10はSolutol(登録商標)HS15のものに近い有効性(それぞれ23.27及び20.4)を示したが、Brij(登録商標)S10及びBrij(登録商標)S20は有効性が低く、有効性はそれぞれ4.1及び9.2であった(Table 4(表5))。
【0215】
4.2.2.溶血活性
上記で示された結果によって、ある特定の非イオン性ポリエトキシル化界面活性剤、主にSolutol(登録商標)HS15、Brij(登録商標)020及びBrij(登録商標)C10は、ケカビ目のさまざまな単離菌に対するAmBの抗真菌薬活性を増強することができることが示されている。しかし、これらの結果は、AmBの潜在的なヒト細胞毒性が増加するだけではなく、組合せが良好な利点/リスク比を有する場合にのみ興味深いものである。実際にAmBによる哺乳動物細胞膜の透過性は潜在的な有害効果であり、これらの非イオン性界面活性剤によっても強化される場合がある。
【0216】
この潜在的な有害効果を評価するために、5mg/LのAmB単独の又はさまざまな濃度のSolutol(登録商標)HS15、Brij(登録商標)020及びBrij(登録商標)C10(0、10、20、50及び100mg/L)の存在下での溶血活性を、RPMI中(
図10a)又はPBS(
図10b)中に分散させたヒト赤血球で測定した。結果を
図10に示す。
【0217】
興味深いことに、Solutol(登録商標)HS15単独では、両方の培地で試験された濃度範囲において溶血は認められず、同時にBrij(登録商標)020及びBrij(登録商標)C10単独では、両方の培地において最も低い被検濃度(10mg/L)から両方とも高い溶血(90%を超える溶血)が認められた。
【0218】
5mg/Lでは、AmB単独ではRPMIにおいて溶血は認められず(
図10a)、一方、PBS中に分散された場合は赤血球の7.7±0.7%が溶血した(
図10b)。
【0219】
RPMI及びPBSにおいて、100mg/Lまでの濃度のSolutol(登録商標)HS15は、AmBの溶血活性を増強しなかった(
図4)。
【0220】
更なる溶血性実験を、溶液中の、異なる濃度のAmB(1、5、15、30、45及び60mg/L)及びSolutol(登録商標)HS15(0、10、20、50、100、200及び400mg/L)で行った。
【0221】
【0222】
100mg/Lまでの濃度に関しては、Solutol(登録商標)HS15は、培地及びAmB濃度にかかわらず、AmBの溶血活性を高めなかった。しかし、200及び400mg/Lの濃度のSolutol(登録商標)HS15に関しては、AmBの溶血活性は両方の培地において増加した。溶血活性におけるこの増加は、PBSよりもRPMIにおいてより顕著であった。例えば、15mg/LのAmBに関しては、溶血は100mg/LのSolutol(登録商標)HS15に関してはRPMIにおいて0.6±0.6%であり、400mg/LのSolutol(登録商標)HS15に関しては20.5±4.7%に増加した。PBSにおいて、溶血は100mg/LのSolutol(登録商標)HS15に関してはRPMIにおいて52.0±6.7%であり、400mg/LのSolutol(登録商標)HS15に関しては66.4±6.3%に増加した。再び、PBSにおけるAmBの溶血活性はRPMIにおけるものよりもはるかに高かった。例えば、15mg/Lの純粋なAmBに関しては、49.0±2.1%の溶血がPBSにおいて観察され、同時にこのAmB濃度ではRPMIにおいて0.1%未満が得られた。
【0223】
(実施例5)
AmB PEG15HSとイサブコナゾール(ISA)とを含む脂質ナノ粒子(LNP)を含む組成物。
5.1.材料及び方法
LNP製剤の前に、溶液中のAmB、ISA及びPEG15HSの組合せを評価した。
【0224】
ケカビ目の各株のAmBの最小発育阻止濃度(MIC)を、チェッカーボード手順に変更を加えて、EUCASTブロス微量希釈抗真菌薬感受性試験法論によって記載されているように異なる濃度のISA又はPEG15HSの存在下、RPMI中で測定した。96ウェルプレート中に2倍希釈のAmB(0.008から4mg/L)及びISA(0.008から4mg/L)又はPEG15HS(0.04から2752mg/L)100μLを添加することによってチェッカーボードを行った。100マイクロリットルの105胞子/mLの濃度の胞子懸濁液をウェルに添加し、プレートを37℃で24時間インキュベートした。MICを、真菌株の成長を完全に阻害したAmBの最も低い濃度として24時間後に目視で読み取った。各株に関して3回の実験を行った。
【0225】
ケカビ目の各株のAmBのMICを、チェッカーボード手順に変更を加えて、EUCASTブロス微量希釈抗真菌薬感受性試験法論によって記載されているように異なる濃度のISA及び一定濃度のPEG15HS(AmBの100倍濃度)の存在下、RPMI中で測定した。96ウェルプレート中に2倍希釈のAmB(0.008から4mg/L)+PEG15HS(0.8から400mg/L)及びISA(0.008から4mg/L)100μLを添加することによってチェッカーボードを行った。100マイクロリットルの105胞子/mLの濃度の胞子懸濁液をウェルに添加し、プレートを37℃で24時間インキュベートした。MICを、真菌株の成長を完全に阻害したAmBの最も低い濃度として24時間後に目視で読み取った。各株に関して3回の実験を行った。
【0226】
LNPの調製
AmB+PEG15HSがロードされた脂質ナノ粒子(LNP)とAmB+PEG15HS+ISAがロードされたLNPとを含む製剤を以下のように調製した:
【0227】
簡潔には、トリグリセリドからなるある質量(80~120mg)の油相(Labrafac(登録商標)、又は異なる質量比のトリブチリン、すなわち100%Labrafac(登録商標)対100%トリブチリン)に、AmB(0,025から0.2mg)及びISA(0.25から5mg)を添加し、次いで80から120mgのPEG15HS(Solutol HS15(登録商標))及び500から800μlの水と混合して、水中油型エマルションを形成した。次いでこのエマルションを85℃に加熱して、油中水型エマルションを得、次いで40℃に冷却した。このような温度サイクルを3回行い、次いで系を4℃に急速に冷却した。次いで製剤化されたナノ粒子に、サイズ分布及び平均ゼータ電位測定によって特性評価を行った。AmB及びAmB-ISAがロードされたLNP製剤の例をTable 5(表6)に詳述する:
【0228】
【0229】
使用した株
ライゾプス・アルヒズス1、リヒトヘイミア・コリンビフェラ及びリヒトハイミア・ラモサ株を使用した。これらはヒトムコール症における最も頻繁に遭遇する種に対応する。これらの3種の株を肺ムコール症に罹患した患者から単離した。
【0230】
アスペルギルス・フミガタスの2種の参照株(ATCC16424及びATCC204305)及び臨床用アゾール耐性株(AfR2)を使用した。
【0231】
5.2.結果
5.2.1ケカビ目及びアスペルギルス・フミガタスに対するLNPの有効性
溶液中のAMBとISAとの組合せを、溶液中のAMB ISAとPEG15HSとの組合せと比較した。結果を以下のTable 6(表7)に示す:
【0232】
【0233】
結果によって、溶液中のISA及びAMBの組合せは、AmBのMICを1/4から1/8低下させたことが示される。溶液中のAmB及びPEG15HSの組合せは、AmBのMICを1/16から1/32低下させた。溶液中のAmB、ISA及びPEG15HSの組合せは、AmBのMICを1/125低下させた。溶液中のAmB、ISA及びPEG15HSの組合せは、ISAのMICを1/8から1/32低下させた。
【0234】
5.2.2.サイズ分布及びPDI
LNPのサイズ分布を、Malvern NanoZS(Malvern社、Orsay、France)を使用した動的光散乱測定によって判定した。LNP懸濁液をMilliQ水で希釈し(1:60v/v)、25℃で3回繰り返して分析した。LNPを、強度-加重サイズ分布の中央値によって、及びサイズ分布の広さの尺度である多分散指数(PDI)によって特徴付けた。PDIは、相関データに対する2パラメーターのフィットから計算された数値である(キュムラント分析)。この指数は無次元であり、0.05より小さい値が高度な単分散標準で主に認められるようにスケーリングされる。0.7より大きいPDI値は、サンプルは非常に広範な粒径分布を有し、動的光散乱(DLS)技術による分析におそらく好適ではないことを示す。異なるサイズ分布アルゴリズムは、PDIのその2つの末端の値(すなわち、0.05~0.7)の間に入るデータと連動する。サイズ及びPDIパラメーターを判定するために使用される計算は、ISO標準文書13321:1996E及びISO22412:2008において定義されている。結果を以下のTable 7(表8)に示す:
【0235】
【0236】
5.2.3 ケカビ目及びアスペルギルス・フミガタスに対するLNPの有効性
溶液中のAmB、溶液中のISA、AmBがロードされたLNP、及びAmB-ISAがロードされたLNPのMICを、European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing(EUCAST)ガイドラインに従って評価した。簡潔には、MICを、96ウェルプレート中に2倍希釈(0.008から4mg/L)の、溶液中のAmB、溶液中のISA、AmB-LNP又はAmB-ISA-LNP 100μLを添加することによって判定した。100マイクロリットルの105胞子/mLの濃度の胞子懸濁液をウェルに添加し、プレートを37℃で24時間(ケカビ目)又は48時間(A.フミガトゥス)インキュベートした。MICを、真菌株の成長を完全に阻害したAmBの最も低い濃度として24時間後に目視で読み取った。各株に関して3回の実験を行った。結果をTable 8(表9)及びTable 9(表10)に示す:
【0237】
【0238】
【0239】
結果によって、SOLUTOL H15S(登録商標)を含むナノ粒子中にAmBを製剤化すると、肺感染症の原因となるケカビ目の主要株に対するAmBの効果が、溶液中で観察されたものと比較して33倍改善されることが示される(Table 8(表9))。これらの結果は、肺感染症の原因となるアゾール系抗真菌薬に対して感受性であり耐性であるアスペルギルス・フミガタス株に対しても認められる(Table 9(表10))。上記のTable 8(表9)及びTable 9(表10)において、「比率(AmB)」は、AmB単独のMIC対ナノ粒子中のAmBのMICの比率を指し、「比率(ISA)」は、ISA単独のMIC対ナノ粒子中のISAのMICの比率を指す。
【0240】
ISAの存在によって、有効性におけるこの利点が、溶液中のAmBのものと比較して125から500倍強力に強化される。
【0241】
(実施例6)
C.ネオフォルマンスに対する、AmB PEG15HSを含む脂質ナノ粒子(LNP)を含む組成物の有効性。
クリプトコッカス・ネオフォルマンスは、クリプトコッカス症という名称の、世界中の生命にかかわる侵襲性感染症に関与する酵母(真菌)である。C.ネオフォルマンスは、主に免疫不全患者において髄膜脳炎の原因となり、毎年およそ20万名の死者を引き起こす。したがって、この酵母は世界中で公衆衛生上の大きな問題を提示している。
【0242】
AmBと5-フルオロシトシンとの組合せは現在のところ一次処置に推奨されている。AmBデオキシコレート(AmBd)及びリポソームAmB(L-AmB)の2種類のAmB製剤が主に使用されている。L-AmBは毒性が低い形態であり、先進国において好まれる。しかし、それははるかにより高価な形態であり、その結果発展途上国において広範囲で使用されてはいない。AmBdは、発展途上国におけるクリプトコッカス症の管理に不可欠なものに相当する。残念ながら、クリプトコッカス属に対する処置の有効性は依然として低いままであり、資源が豊富な環境と資源が乏しい環境の両方において死亡率は35~40%である。このような背景から、新規の処置が差し迫って必要とされている。
【0243】
現存する薬物を再利用し、現存する抗真菌剤の有効性を改善することは、調査の優先的な方法である。上記の実施例において実証されたように、非イオン性界面活性剤であるポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレート(PEG15HS)は、ケカビ目及びアスペルギルス・フミガタスに対するAmBの有効性を改善することができる。この組合せによって、AmBのMICはケカビ目に対して最大1/60低下する。PEH15HSは非経口使用のためのFDAによって認可された界面活性剤であるため、AmBとPEG15HSとの組合せは、侵襲性真菌感染症に対して使用することができる。
【0244】
脂質ナノ粒子(LNP)は、複数の分子の組合せを可能にする水分散性脂質系である。LNP中のAmBとPEG15HSとを製剤化することによって、両化合物の均質な分布、及び潜在的な細胞内作用を可能にすることができる。AmBはクリプトコッカス症の一次処置であるため、AmBとPEG15HSとの組合せはクリプトコッカス症に有用であり得る。更に、理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、産業規模でLNP中のAmBとPEG15HSを調製することは、L-AmBを調製することよりもはるかに単純であろうと考える。
【0245】
6.1.材料及び方法
以下のTable 10(表11)で示すように、クリプトコッカス・ネオフォルマンスの8つの臨床株を使用した:
【0246】
【0247】
単離菌を、Sabouraudデキストロース寒天(Sigma-Aldrich社、St.Quentin Fallavier、France)で37℃で48時間にわたり凍結ストック(-80℃)から二次培養してから使用した。
【0248】
2%(w/v)デキストロースが添加され、0.165mol/L MOPS(Sigma-Aldrich社)を用いてpH7に緩衝されたRPMI1640(L-グルタミン、pH指示薬含有、重炭酸塩不含)(Sigma-Aldrich社、Saint-Quentin-Fallavier、France)を使用して、最小発育阻止濃度(MIC)の測定を行った。この培地を0.22μmの孔サイズのフィルターを使用して滅菌した。
【0249】
AmB粉末(Sigma-Aldrich社)をジメチルスルホキシド中に溶解して1000mg/Lの原液を得、-80℃で6ヶ月間保存した。
【0250】
使用当日、AmB及び新たに作製したAmBがロードされたLNPをRPMI培地で希釈して所望の濃度を得た。AmBがロードされたLNPを、実施例5において記載したように調製した。
【0251】
AmB単独及びLNP中に製剤化されたAmBのMICをEuropean Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing(EUCAST)ガイドラインに従って評価した。簡潔には、MICを、96ウェルプレート中に2倍希釈のAmB(0.008から4mg/L)及びLNP-AmB(0.04から1024mg/L)100μLを添加することによって判定した。最終濃度が105CFU/mLの、100マイクロリットルの真菌懸濁液をウェルに添加し、プレートを30℃で48時間インキュベートした。MICを、真菌株の成長の90%を阻害するAmBの最も低い濃度として定義し、24時間のインキュベート後にInfinite M200 Proマイクロプレートリーダー(Tecan(登録商標)、France)を用いて530nmでの吸光度を測定することによって読み取った。各株に関して3回の実験を行った。
【0252】
6.2.結果/考察
AmBに関する全ての単離菌のMICは0.25~1mg/Lの範囲であり、同時に1024mg/Lを超えるMIC値がブランク-LNPに関して得られた。AmBがロードされたLNPのMICは0.03から0.125mg/Lまで変化した。AmB-LNPで得られたMICの低下は単離菌に応じて8から32の範囲であった(Table 11(表12))。更に、それらのMICを下回る濃度に関しては、AmBがロードされたLNPによって、被検クリプトコッカス(cryptococci)の成長速度が遅くなり、同時にそのMICを下回る濃度のAmB単独では被検クリプトコッカル株の成長プロファイルに影響を与えなかった。
【0253】
【0254】
(実施例7)
AmBがロードされた脂質ナノ粒子は、Ambがロードされていないナノ粒子よりも効果的にクリプトコッカス属細胞に浸透する。
7.1.材料及び方法
クリプトコッカス・ネオフォルマンス染色
ナノ粒子を処置する前に、クリプトコッカス・ネオフォルマンスを、生存細胞に関して安定な非毒性の蛍光プローブである5μg/mlのCellTracker Green CMFDAで45分間染色した。
【0255】
次いで真菌を、Olympus FluoView FV-3000共焦点レーザー走査顕微鏡を使用した高解像度の蛍光観察に好適な8ウェルチャンバースライド(ibidi、France)中に播種した。
【0256】
ナノ粒子の処置
次いで真菌を、DILで標識された空のLNP(AmB-ブランクLNP)又はDILで標識されたAmBがロードされたLNP(AmBがロードされたLNP)と18時間インキュベートした。未処置の真菌を参照として使用した。
【0257】
共焦点レーザー走査顕微鏡によるクリプトコッカス・ネオフォルマンスの画像化
プランクトン様クリプトコッカス・ネオフォルマンスを、100倍油浸対物レンズを使用して観察し、488及び555nmで連続的に励起してCellTracker Green(励起488nm-発光範囲:500~540nm)及びDiL(励起555nm-発光範囲:570~670nm)染料で可視化した。0.5μmのz-工程を伴う20から30枚のスタック(1024×1024ピクセル、127×127μmに対応する)の水平面画像を各処置条件に関して取得した。
【0258】
クリプトコッカス・ネオフォルマンスの3次元投影をIMARISソフトウェア(Bitplane社)のEasy 3D機能を使用して構築した。表面を作成している間に、同じセグメンテーションパラメーター(粒径、絶対強度及びセグメンテーション後のフィルターの欠如)を全ての3D構築物に処置に関係なく適用した。
【0259】
インキュベートから18時間後の共焦点レーザー走査顕微鏡画像によって撮影された画像を分析して、クリプトコッカス属細胞マーカー(CellTracker Green CMFDA)と脂質ナノ粒子マーカー(DiL)との間の蛍光強度比を判定した。
【0260】
【0261】
共焦点レーザー走査顕微鏡画像の分析によって、全く予想外に、AmBがロードされたLNPは、AmB-ブランクLNPよりも16倍効率的にクリプトコッカス属細胞に浸透したことが示された(
図12)。
【0262】
これらのデータは、AmBがロードされたLNPが他の抗真薬(特に親油性のもの、特にアゾール、例えばイサブコナゾール)が真菌細胞に侵入するのを増強する場合があることを示唆する。実際に、抗真菌薬、例えばアゾール(イサブコナゾールを含む)は、膜排出ポンプの基質であり、それによってその細胞内濃度が低下することによりその有効性が低下する。AmBがロードされたLNPの使用によってこれらのポンプの効果を回避し、イサブコナゾールの細胞内濃度をより高濃度にすることが可能になり得る。排出タンパク質は、アゾールの排泄及び耐性において、すなわちアゾールに対する真菌抵抗性において役割を果たすことは知られている。したがって、AmBがロードされたLNPは、真菌細胞へのその送達を改善することによって抗真菌性アゾールの抵抗性を克服し、それによってこのような抗真菌薬の有効性を改善することにおいて有用であり得る。
【国際調査報告】