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特表2025-502008マイクロ波処理され、超急速で急冷されたリチウムリッチリチウムマンガンニッケル酸化物およびその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-24
(54)【発明の名称】マイクロ波処理され、超急速で急冷されたリチウムリッチリチウムマンガンニッケル酸化物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20250117BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20250117BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20250117BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20250117BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20250117BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M10/052
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024540607
(86)(22)【出願日】2023-01-03
(85)【翻訳文提出日】2024-07-31
(86)【国際出願番号】 US2023010064
(87)【国際公開番号】W WO2023133106
(87)【国際公開日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】63/296,243
(32)【優先日】2022-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/296,244
(32)【優先日】2022-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/810,722
(32)【優先日】2022-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524009864
【氏名又は名称】ストラタス・マテリアルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Stratus Materials Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】ウィットエイカー,ジェイ エフ
(72)【発明者】
【氏名】バーク,スベン
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ウェイ
【テーマコード(参考)】
4G048
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029EJ04
5H029HJ02
5H029HJ13
5H029HJ14
5H029HJ19
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050EA08
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA02
5H050HA13
5H050HA14
5H050HA19
5H050HA20
(57)【要約】
方法は、リチウムリッチ金属酸化物(LRMO)材料を焼結温度で焼結して、焼結LRMO材料を形成することと、前記焼結LRMO材料を前記焼結温度から室温に500ミリ秒未満で急冷して、化学式Li(MnNi1-y2-x(式中、xは1.05より大きく1.25未満であり、yは0.95~0.1の範囲にある)で表される急冷LRMO材料を形成することとを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムリッチ金属酸化物(LRMO)材料を焼結温度で焼結して、焼結LRMO材料を形成することと
前記焼結LRMO材料を前記焼結温度から室温に500ミリ秒未満で急冷して、化学式:
Li(MnNi1-y2-x
(式中、xは1.05より大きく1.25未満であり、yは0.95~0.1の範囲にある)
で表される急冷LRMO材料を形成することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記焼結温度が少なくとも800℃であり、および
前記焼結LRMO材料を前記焼結温度から前記室温に前記急冷することが、前記焼結LRMO材料を前記焼結温度から前記室温に200ミリ秒以下で急冷することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記焼結温度が900℃~950であり、および
前記焼結LRMO材料を前記焼結温度から前記室温に前記急冷することが、前記焼結LRMO材料を前記焼結温度から前記室温に100~200ミリ秒で急冷することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記焼結が、前記LRMO材料を加熱炉内で焼結することを含み、および
前記焼結LRMO材料を前記急冷することが、前記LRMO材料を急冷バス内で急冷することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記焼結LRMO材料を前記加熱炉から除去してから前記焼結LRMO材料を前記急冷バス内で25℃の前記室温に急冷するまでの時間が、200ミリ秒以下であり、および
前記急冷バスが、水を含有するバスを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記急冷バスが、酸、炭水化物、アルコールまたはそれらの組合せを含む添加剤を含有する、オイルバス、アルコールバスまたはウォーターバスを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
水と、リチウム、ニッケルおよびマンガンの有機金属前駆体との混合物を形成することと、
前記混合物を加熱して、ゲルを形成することと、
マイクロ波放射を用いて前記ゲルを熱分解して、前記LRMO材料を形成することと
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ゲルが、0.01~0.20モル分率過剰のリチウムの有機金属前駆体を含み、および
前記LRMO材料が、リチウム、ニッケル、マンガンおよび酸素を含む無機LRMO材料を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記急冷LRMO材料を乾燥させて、LRMO活物質を形成することと、アノード電極および電解質を含有するリチウムイオンバッテリのカソード電極に、前記LRMO活物質を提供することとを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記LRMO活物質が、以下:
前記LRMO活物質の結晶性粒子が、HAADF EDSで画像分析したときにNiリッチまたはMnリッチである領域が存在しないように、前記結晶性粒子に亘ってMnおよびNi原子の均一な分布を示すこと;
同一組成を有する急冷していないLRMO材料と比較したときに、(006)+(102):(101)X線回折ピークの比における少なくとも6%の増加;
2より大きい、(104)に対する(003)X線回折ピークの比;
前記リチウムイオンバッテリの最初の放電において少なくとも165mAh/g比容量をもたらすこと;
前記リチウムイオンバッテリのC/20レートでの200回充電/放電サイクル後の平均放電電圧における10%未満の損失;または
前記リチウムイオンバッテリの200回超C/5充電/放電サイクルでの10%未満の容量フェード
の少なくとも1つを示す、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
マイクロ波放射を用いて前駆体材料を熱分解して、熱分解リチウムリッチ金属酸化物(LRMO)材料を形成することと;
前記熱分解LRMO材料を焼結して、焼結LRMO材料を形成することと;
前記焼結LRMO材料を急冷して、化学式:
Li(MnNi1-y2-x
(式中、xは1.05より大きく1.25未満であり、yは0.95~0.1の範囲にある)
で表される急冷LRMO材料を形成することと
を含む、方法。
【請求項12】
前記前駆体材料が、Li、MnおよびNiのアセテート、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩または水酸化物の少なくとも1つから選択されるLi、MnおよびNiの有機金属前駆体を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
水と、リチウム、ニッケルおよびマンガンの前記有機金属前駆体との混合物を形成することと;
前記混合物を加熱して、ゲルを形成することと
を更に含み、前記前駆体材料を熱分解する前記工程が、前記マイクロ波放射を用いて前記ゲルを加熱することを含み、前記ゲルが、0.01~0.20モル分率過剰のリチウムの有機金属前駆体を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記前駆体材料が、リチウム炭酸塩と混合された、MnおよびNiの共沈水酸化物である前駆体を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記急冷が、前記焼結LRMO材料を焼結温度から室温に500ミリ秒未満で急冷して、急冷LRMO材料を形成することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記急冷LRMO材料を乾燥させて、LRMO活物質を形成することと、前記LRMO活物質を、アノード電極および電解質を含有するリチウムイオンバッテリのカソード電極に提供することと、を更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
カソード電極活物質であって、化学式:
Li(MnNi1-y2-x
(式中、xは1.05より大きく1.25未満であり、yは0.95~0.1の範囲にある)
で表され、
前記活物質が、層状六方晶系相および単斜晶系相を含み、および
前記活物質が、以下:
0.32を超える、(006)+(102):(101)X線回折ピーク強度比;
リチウムイオンバッテリに含まれたときに、C/20レートでの最初の放電にて少なくとも165mAh/g比容量をもたらすこと;
リチウムイオンバッテリに含まれたときに、C/20レートでの100回充電/放電サイクル後の平均放電電圧における10%未満の損失;または
リチウムイオンバッテリに含まれたときに、100回超のC/5充電/放電サイクルでの10%未満の容量フェード
の少なくとも1つを示す、活物質。
【請求項18】
前記活物質の粒子が、カーボンコーティングまたは酸修飾表面を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記活物質が、0.32を超える、(006)+(102):(101)X線回折ピーク強度比を示す、請求項17に記載の活物質。
【請求項20】
前記活物質が、2より大きい、(104)に対する(003)X線回折ピークの比を示す、請求項19に記載の活物質。
【請求項21】
前記活物質の結晶性粒子が、HAADF EDSで画像分析したときにNiリッチまたはMnリッチである領域が存在しないように、前記結晶性粒子に亘ってMnおよびNi原子の均一な分布を示す、請求項17に記載の活物質。
【請求項22】
請求項17に記載の活物質を含むカソード電極と;
アノード電極と;
電解質と
を含む、リチウムイオンバッテリ。
【請求項23】
前記活物質が、前記リチウムイオンバッテリのC/20レートでの最初の放電にて少なくとも165mAh/g比容量をもたらす、請求項22に記載のバッテリ。
【請求項24】
前記リチウムイオンバッテリが、C/20レートでの100回充電/放電サイクル後の平均放電電圧において10%未満の損失を有する、請求項22に記載のバッテリ。
【請求項25】
前記活物質が、100回超のC/5充電/放電サイクルでの10%未満の容量フェードを示す、請求項22に記載のバッテリ。
【請求項26】
前記リチウムイオンバッテリの平均放電電圧が、50回超のC/20(充電)-C/2(放電)充電/放電サイクルにて5%より大きく低下しない;または
前記リチウムイオンバッテリの放電容量が、800回以上のC/20-C/2充電/放電サイクルの後にその元の容量の80%より大きい、請求項22に記載のバッテリ。
【請求項27】
請求項22に記載のリチウムイオンバッテリの操作方法であって、複数の充電/放電サイクルを実施することを含み、
前記活物質が、前記リチウムイオンバッテリのC/20レートでの最初の放電において前記165mAh/g比容量をもたらし、
前記リチウムイオンバッテリが、C/20レートでの100回充電/放電サイクル後の平均放電電圧において前記10%未満の損失を有し、
前記活物質が、100回超のC/5充電/放電サイクルでの10%未満の容量フェードを示す、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2022年7月5日に出願された米国特許出願第17/810,722号の一部継続出願であり、2022年1月4日に出願された米国特許仮出願第63/296,243号および2022年1月4日に出願された米国特許仮出願第63/296,244号に基づく優先権の利益を主張し、これらの全体が参照することによって本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明の要旨は、リチウムイオンバッテリのカソード材料に関し、より詳細には、リチウムリッチリチウムニッケルマンガン酸化物カソード活物質およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオンバッテリにおけるコバルト含有カソード材料は、現代のバッテリセルのコストの実質的部分を占め、コバルトは、コストに対して重大な影響を及ぼす。コバルトは、複雑なサプライチェーンを有し、それゆえ価格変動し安い鉱物となっている。よって、信頼できるコバルトフリーのリチウムイオンバッテリカソード材料に対する要請が存在する。
【発明の概要】
【0004】
さまざまな態様によれば、方法は、リチウムリッチ金属酸化物(lithium-rich metal oxide:LRMO)材料を焼結温度で焼結して、焼結LRMO材料を形成することと、前記焼結LRMO材料を前記焼結温度から室温に500ミリ秒未満で急冷して、化学式Li(MnNi1-y2-x(式中、xは1.05より大きく1.25未満であり、yは0.95~0.1の範囲にある)で表される急冷LRMO材料を形成することとを含む。
【0005】
さまざまな態様によれば、方法は、マイクロ波放射を用いて前駆体材料を熱分解して、熱分解リチウムリッチ金属酸化物(LRMO)材料を形成することと、前記熱分岐LRMO材料を焼結して、焼結LRMO材料を形成することと、前記焼結LRMO材料を急冷して、化学式:Li(MnNi1-y2-x(式中、xは1.05より大きく1.25未満であり、yは0.95~0.1の範囲にある)で表される急冷LRMO材料を形成することとを含む。
【0006】
さまざまな態様によれば、カソード電極活物質(または活性材料)が、化学式:Li(MnNi1-y2-x(式中、xは1.05より大きく1.25未満であり、yは0.95~0.1の範囲にある)で表される。前記活物質は、層状六方晶系相および単斜晶系相を含む。前記活物質は、以下:
0.32を超える、(006)+(102):(101)X線回折ピーク強度比;
リチウムイオンバッテリに含まれたときに、C/20レートでの最初の放電にて少なくとも165mAh/g比容量をもたらすこと;
リチウムイオンバッテリに含まれたときに、C/20レートでの100回充電/放電サイクル後の平均放電電圧における10%未満の損失;および/または
リチウムイオンバッテリに含まれたときに、100回超のC/5充電/放電サイクルでの10%未満の容量フェード
の少なくとも1つを示す。
【0007】
本明細書に組み込まれて本明細書の一部を構成する添付の図面は、本発明の例示的な態様を示し、上記の概要および下記の詳細な説明と共に、本発明の特徴を説明するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示のさまざまな態様による急速急冷システムの写真である。
図2図2は、本開示のさまざまな態様による急速急冷プロセスを示す、1秒あたり30フレームで撮影した4つの連続した経時ビデオキャプチャ画像を含む。
図3図3は、本開示のさまざまな態様による、急速急冷の前のLi(MnNi1-y2-x(式中、x=1.2およびy=0.75)材料についてのX線回折(XRD)パターンのグラフである。
図4図4は、本開示のさまざまな態様による、急速急冷の後のLi(MnNi1-y2-x(式中、x=1.2およびy=0.75)材料についてのX線回折(XRD)パターンを示すグラフである。
図5図5は、本開示のさまざまな態様による、ゾル-ゲル前駆体材料の5分間のマイクロ波加熱のみを用いて処理したLi(MnNi1-y2-x(式中、x=1.16およびy=0.7)材料についてのX線回折パターンを示すグラフである。
図6図6は、本開示のさまざまな態様による、マイクロ波加熱および超急速急冷を用いて処理したLi(MnNi1-y2-x(式中、x=1.16およびy=0.7)材料についてのX線回折パターンを示すグラフである。
図7A図7Aは、材料の電気化学的サイクルに先立って、急速急冷に付さなかった従来技術のLRMO材料のトンネリング電子顕微鏡(TEM)原子マップ顕微鏡写真である。
図7B図7Bは、本開示のさまざまな態様による、材料の電気化学的サイクルに先立って、急速急冷に付した生成LRMO材料のTEM HAADF原子マップ顕微鏡写真である。
図8A図8Aは、マイクロ波処理または急速急冷をしなかった(このケースでは、金属板上に比較的ゆっくりと冷却した)LRMO材料(Li(MnNi1-y2-x(式中、x=1.16およびy=0.7))の比較例についての、セル電位対比容量のグラフである。
図8B図8Bは、マイクロ波処理または急速急冷をしなかった(このケースでは、金属板上に比較的ゆっくりと冷却した)LRMO材料(Li(MnNi1-y2-x(式中、x=1.16およびy=0.7))の比較例についての、比容量対サイクルのグラフである。
図9A図9Aは、慣らしサイクルの間のセル電位対比容量を示すグラフである。
図9B図9Bは、経時的なセル電位対比容量を示すグラフである。
図9C図9Cは、C/20レートでの比容量対サイクルを示すグラフである。
図9D図9Dは、本開示のいくつかの態様によるLRMO活物質を含む例示的なセルについての、C/20リファレンスサイクルを有するC/5レートでの放電比容量を示すグラフである。
図10A図10Aは、マイクロ波処理または急速急冷されていないLi(MnNi1-y2-x(式中、x=1.16およびy=0.7)活物質を含む比較例のセルについてのセル電位対比容量を示すグラフである。
図10B図10Bは、図10Aのセルについての比容量対サイクルを示すグラフである。
図10C図10Cは、超急速急冷されていない、水急冷されたLi(MnNi1-y2-x(式中、x=1.16およびy=0.7)活物質を含む実施例のセルについてのセル電位対比容量を示すグラフである。
図10D図10Dは、図10Cのセルについての比容量対サイクル数を示すグラフである。
図11A図11Aは、本開示のさまざまな態様による、マイクロ波分解され急速急冷されたLi(MnNi1-y2-x(式中、x=1.16およびy=0.7)活物質を含む実施例のセルのセル電位対比容量を示すグラフである。
図11B図11Bは、図11Aの実施例のセルのC/20およびC/2レートでの比放電容量対サイクルを示すグラフである。
図12A図12Aは、一連のサイクリングに亘って、式Li[NiLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O(式中、ニッケル含量x=0.25)を有するリチウムリッチニッケルマンガン酸化物材料サンプルの比放電容量を示すグラフである。
図12B図12Bは、25Hqサンプルを含むコインセルのフル充電および放電曲線を示す。
図12C図12Cは、25Lqサンプルを含むコインセルのフル充電および放電曲線を示す。
図12D図12Dは、25Mqサンプルを含むコインセルのフル充電および放電曲線を示す。
図13A図13Aは、一連のサイクリングに亘ってx=0.17サンプルの比放電容量を示すグラフである。
図13B図13Bは、17Hqサンプルを含むコインセルのフル充電および放電曲線を示す。
図13C図13Cは、17Lqサンプルを含むコインセルのフル充電および放電曲線を示す。
図13D図13Dは、17Mqサンプルを含むコインセルのフル充電および放電曲線を示す。
図14A図14Aは、一連のサイクリングに亘ってx=0.10サンプルの比放電容量を示すグラフである。
図14B図14Bは、10Hqサンプルを含むコインセルのフル充電および放電曲線を示す。
図14C図14Cは、10Lqサンプルを含むコインセルのフル充電および放電曲線を示す。
図14D図14Dは、10Mqサンプルを含むコインセルのフル充電および放電曲線を示す。
図15A図15Aは、25Hqサンプルについての、サイクリング前および後のLLRNMO粉末の正規化およびオフセットXRDパターンを示すグラフである。
図15B図15Bは、25Lqサンプルについての、サイクリング前および後のLLRNMO粉末の正規化およびオフセットXRDパターンを示すグラフである。
図15C図15Cは、25Mqサンプルについての、サイクリング前および後のLLRNMO粉末の正規化およびオフセットXRDパターンを示すグラフである。
図15D図15Dは、17Hqサンプルについての、サイクリング前および後のLLRNMO粉末の正規化およびオフセットXRDパターンを示すグラフである。
図15E図15Eは、17Lqサンプルについての、サイクリング前および後のLLRNMO粉末の正規化およびオフセットXRDパターンを示すグラフである。
図15F図15Fは、17Mqサンプルについての、サイクリング前および後のLLRNMO粉末の正規化およびオフセットXRDパターンを示すグラフである。
図15G図15Gは、10Hqサンプルについての、サイクリング前および後のLLRNMO粉末の正規化およびオフセットXRDパターンを示すグラフである。
図15H図15Hは、10Lqサンプルについての、サイクリング前および後のLLRNMO粉末の正規化およびオフセットXRDパターンを示すグラフである。
図15I図15Iは、10Mqサンプルについての、サイクリング前および後のLLRNMO粉末の正規化およびオフセットXRDパターンを示すグラフである。
図16図16は、サイクリング前および後での、25Hq、25Lqおよび25Mqサンプルでスプレーコーティングしたカソードの5万倍のSEM顕微鏡写真を含む。
図17図17は、サイクリング前および後での、17Hq、17Lqおよび17Mqサンプルでスプレーコーティングしたカソードの5万倍のSEM顕微鏡写真を含む。
図18図18は、サイクリング前および後での、10Hq、10Lqおよび10Mqでスプレーコーティングしたカソードの5万倍のSEM顕微鏡写真を含む。
図19A図19Aは、x=0.25サンプルの最初の充電サイクルについての、dQ/dV対Vの平滑化スプラインフィッティングを示すグラフである。
図19B図19Bは、x=0.17サンプルの最初の充電サイクルについての、dQ/dV対Vの平滑化スプラインフィッティングを示すグラフである。
図19C図19Cは、x=0.10サンプルの最初の充電サイクルについての、dQ/dV対Vの平滑化スプラインフィッティングを示すグラフである。
図20A図20Aは、x=0.25サンプルの2回目の充電サイクルについての、dQ/dV対Vの平滑化スプラインフィッティングを示すグラフである。
図20B図20Bは、x=0.17サンプルの2回目の充電サイクルについての、dQ/dV対Vの平滑化スプラインフィッティングを示すグラフである。
図20C図20Cは、x=0.10サンプルの2回目の充電サイクルについての、dQ/dV対Vの平滑化スプラインフィッティングを示すグラフである。
図21A図21Aは、25Hqサンプルの最初のC/2放電および最後のC/2放電を示すグラフである。
図21B図21Bは、25Lqサンプルの最初のC/2放電および最後のC/2放電を示すグラフである。
図21C図21Cは、25Mqサンプルの最初のC/2放電および最後のC/2放電を示すグラフである。
図21D図21Dは、25Hq、25Lqおよび25Mqサンプルについての一連のサイクリングに亘ってのサイクル当たりの平均放電電圧を示すグラフである。
図22A図22Aは、17Hqサンプルの最初のC/2放電および最後のC/2放電を示すグラフである。
図22B図22Bは、17Lqサンプルの最初のC/2放電および最後のC/2放電を示すグラフである。
図22C図22Cは、17Mqサンプルの最初のC/2放電および最後のC/2放電を示すグラフである。
図22D図22Dは、17Hq、17Lqおよび17Mqサンプルについての一連のサイクリングに亘ってのサイクル当たりの平均放電電圧を示すグラフである。
図23A図23Aは、10Hqサンプルの最初のC/2放電および最後のC/2放電を示すグラフである。
図23B図23Bは、10Lqサンプルの最初のC/2放電および最後のC/2放電を示すグラフである。
図23C図23Cは、10Mqサンプルの最初のC/2放電および最後のC/2放電を示すグラフである。
図23D図23Dは、10Hq、10Lqおよび10Mqサンプルについての一連のサイクリングに亘ってのサイクル当たりの平均放電電圧を示すグラフである。
図24】R-3m構造および格子パラメータa’>aを有する25Mqサンプルにおける相不純物の含有が、25Mqの(104)ピークの左側にみられるような2次ピークをいかにしてもたらすかを示す概略模式図である。
図25A図25Aは、凝集体のSEM顕微鏡写真である。
図25B図25Bは、凝集体のSEM顕微鏡写真である。
図25C図25Cは、凝集体における微結晶(例えば微結晶グレイン)のより高倍率のSEM顕微鏡写真である。
図25D図25Dは、凝集体における微結晶(例えば微結晶グレイン)のより高倍率のSEM顕微鏡写真である。
図26A図26Aは、強度(任意単位)対角度2θ(度)のグラフであって、原初(pristine)の層状リチウムリッチニッケルマンガン酸化物(layered lithium rich nickel manganese oxide:LLRNMO)粉末の、インデックス付きの正規化およびオフセットXRDパターンを示す。
図26B図26Bは、単一相リートベルト(Rietveld)フィッティングにより得られた、格子パラメータ「a」とサンプルのニッケル含量との間の傾向を示す上方の図と、格子パラメータ「c」とサンプルのニッケル含量との間の傾向を示す下方の図とを含む。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書にて言及されるように、本開示のさまざまな要旨が、例示的な態様および/または本発明の例示的な態様が示される添付の図面を参照して説明される。しかしながら、本発明は、多くの異なる形式で実施されてよく、図面に示されるまたは本明細書に記載される例示的な態様に限定されるものとして解釈されるべきでない。開示されるさまざまな態様は、特定の態様に関連して記載される特定の特徴、要素または工程を伴い得ることが理解されるであろう。また、特定の特徴、要素または工程が、ある特定の態様に関連して説明されていても、図示されていないさまざまな組合せまたは順列における別の態様と交換または組み合わされ得ることが理解されるであろう。
【0010】
さまざまな態様が、添付の図面を参照して詳細に説明される。でき得る限り、同じまたは同様の部分(または部材)を言うために、図面に亘って同じ参照番号が使用される。特定の例および実施についてなされる言及は、例示の目的でなされ、本発明の範囲または特許請求の範囲を限定することを意図したものでない。
【0011】
本明細書にて、範囲が、ある特定の「約」数値から、および/または別の特定の「約」数値までとして表現され得る。かかる範囲が表現される場合、例は、そのある特定の数値から、および/または別の特定の数値までを含む。同様に、数値が、先行詞「約」または「実質的に」を用いておおよそのものとして表現される場合、特定の数値が別の要旨を形成することが理解される。いくつかの例では、「約X」の数値は、±1%Xの値を含み得る。範囲の各端点は、もう1つの端点との関係で、およびもう1つの端点とは無関係に、いずれにおいても重要であることが更に理解される。
【0012】
さまざまな態様によれば、結晶学的に安定で、高耐久性で、コバルトフリーな(またはコバルトを含まない)、リチウムリッチ金属酸化物(lithium-rich metal oxide:LRMO)材料を迅速かつ安価に形成する方法が提供される。いくつかの態様では、LRMO材料は、以下の一般式1で表されるリチウムリッチ(またはリチウムに富む)リチウムマンガンニッケル酸化物材料であり得る。
Li(MnNi1-y2-x (式1)
(式中、xは1.0より大きく1.25未満であり、yは0.95~0.1、例えば約0.8~0.5の範囲にある)
【0013】
いくつかの態様では、LRMO材料は、以下の式2で表されるリチウムリッチリチウムマンガンニッケル酸化物材料であり得る。
Li[Li(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)Ni]O (式2)
(式中、xは0.1~0.4の範囲にある)
【0014】
原初(pristine)状態にある(例えば、初めて帯電する前の)LRMO材料は、異なる六方晶系(例えば菱面体晶系)相および単斜晶系相を有し得る。よって、LRMO材料は、式:(1-x)[LiMnO]*x[LiMnNi(1-a)](式中、この式の第1の部分は単斜晶系相の相対モル量(1-x)を意味し、この式の第2の部分は菱面体晶系相の相対モル量(x)を意味する)で表され得る。菱面体晶系相のモル分率「x」は、一般的に0.8~0.95の間の範囲にあり、「a」は0.6~0.9の範囲にある。いくつかの態様では、これら2つの相は、層状構造で配置され得る。
【0015】
さまざまな態様が、コバルトフリーカソードの活物質として使用されたときに高い比容量(例えば>240mAh/g)および高い機能電位窓(例えば2.0~4.8V)を示すLRMO材料を提供する。
【0016】
さまざまな態様によれば、LRMO材料を形成する方法は、急速熱処理および急速(例えば10秒未満)または超急速(例えば500ミリ秒未満)の急冷を含み、これにより、所望の原子規則性/不規則性を有する優れた結晶構造を有するLRMO材料が得られる。これら特徴により、カソード活物質として使用されたときに、予期されなかった頑丈で長期間の安定性および性能が提供され得る。
【0017】
従来のLRMO材料は、一般的に、低レート性能および乏しい容量保持のために、カソード活物質として使用するのに不適切であり、これらは、酸素欠乏、使用中の遷移金属イオンマイグレーション、起こり得るマンガン溶解(dissolution)に起因する構造的不安定性によるものと考えられる。2つの最も一般的なエージング機構は、材料が支配的スピネル構造へとゆっくりと再組織化するにつれて平均放電電圧におけるフェードとして現れ、および材料の機械的および/または化学的分解によるサイクリングでの容量における損失として現れる。
【0018】
熱分解および処理
LRMO材料は、さまざまな方法により、前駆体材料から合成され得る。以下の表1は、LRMOを合成するのに使用されうる特定の方法を含み、前駆体合成、前駆体材料、急冷方法、性能メトリクス、およびLRMO材料カソードの放電容量(DC)を含む。
【0019】
【表1】
【0020】
表1に示すように、LRMO材料のための3つの主要な合成ルートには、析出(precipitation:または沈殿)後燃焼、熱水合成、およびゾル-ゲル溶液生成後迅速な温度分解および高温熱処理(例えば焼成、アニール、焼結)が含まれる。
【0021】
表1から理解されるように、ニッケル組成物のLRMOカソード性能への影響を調査する研究の数は、時が経つにつれて減少し、カソードにおける複合ニッケル組成物または式Li[NiLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]Oを有するx=0.2未満のニッケル組成物を調査する研究はわずかしかない。また、表1は、研究に亘って用いられた合成ルートにおいて顕著な矛盾が存在することも示している。加えて、LRMOカソードの性能に対する合成手法の影響に関する詳細な比較評価をする研究はほとんどない。LRMO材料において、遷移金属の規則性および不規則性は重要であり得、組成および合成技術の双方が、構造的規則性および不規則性の程度に影響するメカニズムを提供し得る。電気化学的挙動にこれら構造的および合成上の変更が影響し得、例えば欠陥濃度が異なると、LRMOカソードの性能に明白な影響がもたらされ得る。
【0022】
特定の理論に拘束されることを望むものではないが、サンプルが液体窒素で急冷されると、粒子は窒素ガスの絶縁性エンベロープで直ちにシールドされ(ライデンフロスト効果と同様に)、これは熱伝導率を著しく低下させると考えられる。従来技術では、リチウムイオンバッテリのためのリチウム含有カソード材料は、水分と接触しないと考えられている。なぜなら、水が、かかるカソード材料から滲出し、該材料をコーティングするリチウム水酸化物を形成するからである。更に、水は、例えばリチウムイオンフォスフェートカソード材料を含有するリチウムイオンバッテリなどの、リチウムイオンバッテリに故障をもたらすことが知られている。
【0023】
特定の理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、比較的遅い従来の急冷および冷却プロセスにより、金属酸化物の凝集がもたらされ、これによって、偏析したニッケル酸化物相とリチウムマンガン酸化物相とが形成されると考えている。特に、ニッケル酸化物相は、LRMO材料粒子(例えば微結晶)の表面に濃縮され得る。この表面ニッケル酸化物凝集が、従来のLRMO活物質の化学的不安定性に対して少なくとも部分的に原因となっていると考えられる。
【0024】
これに対して、本発明者らは、予期せぬことに、水急冷がLRMOカソードにネガティブに影響せず、かかるLRMOカソードからのリチウムの浸出をもたらさないことを見つけ出した。水急冷により、気泡核形成および消散の形態の気化がもたらされ、これは実際に熱伝導率を増大させる。よって、水急冷は、液体窒素急冷よりもおおむね2桁の程度で大きいものであり得る熱伝導率を有すると考えられる。更に、水およびこれに溶媒和した添加剤(すなわち、水に溶解し得る他の材料)はいずれも、急冷の際に高温LRMOと反応し得、リチウムイオンバッテリに使用される場合の電気化学的安定性および耐久性を増強する有利な表面終端および/またはコーティングを形成し得る。
【0025】
加えて、上述した従来技術の多くの急冷ルートでは、急冷は、より大きい本体(センチメートルのオーダーの幅を有する)としての手つかずの(intact)材料の加圧焼結されたまたは部分的に焼結されたペレットに対してなされる。これに対して、本開示の態様では、急冷は、平均直径が20μm未満、例えば平均直径が0.1~20μm、例えば0.1~1μmまたは1~20μmの凝集体の形態の粒子のルースなおよび/または粉砕された粉末に対して実施され、これにより、粒子が急冷液体(例えば水)と接触したときに、材料の全部が急速かつほぼ同じ速度で冷却される。各凝集体は、平均寸法が約25nm~約500nm、例えば50nm~200nmの範囲にある微結晶(crystallites:または結晶子)から構成される。各微結晶は、LRMO材料の単結晶を含み得る。微結晶は、凝集体中で部分的に溶融して一体化していても、凝集体中で完全に溶融して一体化していてもよい。微結晶が凝集体(すなわち、粉末粒子)中で完全に溶融しているならば、各微結晶は、粉末粒子の単結晶グレインを含み、これは、同じ粉末粒子中で他の単結晶グレインから粒界によって隔てられている。粉末粒子の平均結晶グレイン寸法は、約25nm~約500nm、例えば50nm~200nmの範囲にあり得る。凝集体は、比較的多孔性であってよく、これにより、水が、凝集体の内部にある微結晶に到達し得る。
【0026】
急速なおよび超急速な急冷
さまざまな態様によれば、LRMOカソード活物質は、LRMO材料粉末を熱処理(例えば、焼結、焼成(calcinating)および/またはアニール)および急冷することによって形成され得る。特に、熱処理は、LRMO材料が約800℃~約1000℃、例えば約850℃~950℃または900℃の範囲にある処理温度に加熱され得る高温プロセスを含み得る。熱処理は、任意の適切な熱処理装置、例えば加熱炉(furnace)、例えばチューブ式加熱炉、マッフルボックス加熱炉などにて実施され得る。いくつかの態様では、熱処理は、オプションとして、1つ以上の低温前駆体分解(例えば焼成(firing))プロセスを含んでいてよく、該プロセスにてLRMO材料が室温より高く800℃未満の温度に加熱される。例えば、焼成(firing)は、高温プロセスに先立って、LRMO材料を約450℃~約550℃の範囲、例えば約500℃にある温度に加熱することを含み得る。
【0027】
さまざまな態様によれば、急冷プロセスは、加熱されたLRMO材料を急冷バス(または浴)に移送することを含み得る。例えば、LRMO材料は、熱処理装置から急冷バスに直接的に落としてよい。
【0028】
従来の方法では、LRMO材料は、加熱炉からの移送の間にゆっくり冷却され得る。例えば、移送プロセスは、約10秒間かかり得、この間にLRMO材料の温度がゆっくりと下がり得る。本発明者らは、急冷バスに入れるまでの遅い(またはゆっくりした)冷却により、焼結LRMO材料の結晶構造に望ましくない変化がもたらされることを見出した。換言すれば、急冷バスに入れるときの焼結LRMO材料の温度が、所望の結晶構造を提供するのに重要であり得る。例えば、遅い冷却により、望ましさの劣った結晶構造がもたらされ得る。
【0029】
さまざまな態様によれば、移送プロセスは、少なくとも800℃の温度、例えば800℃~950℃または約850℃~約925℃の範囲または約900℃にある温度での焼結プロセスの後に、焼結材料が急冷バスに入るように構成され得る。例えば、熱処理装置から急冷バスへの移送時間は、10秒以下、例えば1秒以下であり、例えば0.5秒未満または0.2秒以下に限定され得る。よって、焼結LRMO材料は、熱処理温度(例えば少なくとも800℃の焼結温度、例えば800℃~950℃または約850℃~約925℃の範囲または約900℃にある温度)から室温(例えば25℃)に10秒以下、例えば0.5秒未満で、0.2秒以下を含んで、冷却される。本明細書において「超急速(な)急冷プロセス」は、0.5秒未満、例えば0.2秒未満、例えば0.1~0.2秒の冷却時間を有し得、および「急速(な)急冷プロセス」は、10秒以下、例えば0.5秒~10秒の冷却時間を有し得る。
【0030】
焼結LRMO粉末粒子は、急冷バスにて、少なくとも50℃/秒、例えば50℃/秒~10000℃/秒の平均速度で急冷され得る。例えば、焼結LRMO粉末粒子は、87.5℃/秒~8750℃/秒の速度で、例えば少なくとも1750℃/秒、例えば1750℃/秒~8750℃/秒で、4375℃/秒~8750℃/秒を含んで、冷却され得る。よって、焼結LRMO材料は、少なくとも800℃の熱処理温度(例えば焼結温度)から冷却バスの温度(例えば25℃にある室温ウォーターバス)に、10秒以下、例えば500ミリ秒未満で、400ミリ秒以下、300ミリ秒以下、または200ミリ秒以下を含んで、冷却され得る。例えば、急冷は、100ミリ秒~400ミリ秒または100ミリ秒~200ミリ秒で起こり得る。
【0031】
急冷バスは、約200℃未満の蒸発温度を有する高熱容量液体溶媒を含み得る。例えば、急冷バスは、例えば水、オイル(または油)、および/またはアルコールなどの溶媒を含み得る。いくつかの態様では、急冷バスは、LRMO材料の長期間の化学的安定性を向上させるために、LRMO材料の表面を急冷の間に修飾するように構成された添加剤を含み得る。添加剤は、酸、アルコールおよび/または溶解した炭素種、例えば水に溶解した酸、アルコールまたは炭素種を含み得る。
【0032】
例えば、急冷バスは、酸添加剤、例えば硫酸、塩酸、硝酸、シュウ酸、クエン酸、酢酸、リン酸、オルトリン酸およびそれらの混合物などを、約0.01~約1.0モル/Lで、例えば約0.1~1.0モル/Lまたは約0.5~1.0モル/Lで含む水性急冷溶液であり得る。酸は、酸を含む水中で急冷されるLRMO粉末粒子のダングリングボンドおよび/またはOH末端基と反応するおよび/またはパッシベートすることによって、LRMO粒子の表面を安定化するように構成され得る。
【0033】
いくつかの態様では、酸急冷により、急冷LRMO粉末粒子表面にスピネル構造(例えば表面層)が形成され得る。スピネル構造は、粒子を安定化するフレームワーク(または骨格)を形成し得、リチウム拡散のための3次元通路を提供し得る。特に、酸により、粒子のLiイオンと酸のHイオンの交換が起こって、粒子の表面での構造変換が起こり、これにより、スピネル表面層が形成される。
【0034】
もう1つの態様では、急冷溶液は、酸添加剤に加えてまたは換えて、アルコールおよび/または炭化水素添加剤を含み得る、例えば、アルコールは、イソプロピルアルコールまたは他のアルコールを含み得、炭化水素は、糖、果糖、ガラクトース、ブドウ糖、乳糖、麦芽糖、ショ糖およびそれらの組合せなどを含み得る。いくつかの態様では、急冷溶液は、炭化水素添加剤を約0.01~約1.0モル/Lで、例えば約0.1~1.0モル/Lまたは約0.5~1.0モル/Lで含み得る。炭化水素は、炭化水素を含む水での急冷プロセスの間に、LRMO粉末粒子の表面に密着した(intimate)アモルファス炭素コーティングを形成し得る。炭素コーティングは、Liイオンに対して透過性であり得るが、Liイオンバッテリの電解質に対しては非透過性であり得る。また、炭素コーティングは、LRMO微結晶における体積変化を許容して、バッテリの充電および放電の間に体積変化し得る。
【0035】
急速または超急速な急冷プロセスは、予期されない頑丈さ(robustness)および電気特性を提供する結晶構造を有する急冷LRMO材料を生成し得る。特に、急冷プロセスによって生成される急冷LRMO材料(例えばリチウムリッチリチウムマンガンニッケル酸化物)における結晶規則性の程度は、コバルト含有・高ニッケル含量活物質と似たエネルギー密度および充電貯蔵安定性特性を提供するリチウムイオンバッテリのカソード活物質として使用するのに適した性能特性を提供し得る。
【0036】
急冷プロセスは、所望の結晶構造および粒子寸法を有する急冷LRMO材料を生成し得る。例えば、急冷される焼結LRMO材料は、約1μm以下の平均粒子寸法、例えば約0.02μm~約1μmまたは約0.05μm~約0.5μmの範囲にある平均粒子寸法を有するルースな(またはばらばらの)粉末であり得る。急冷LRMO材料は、いくつかの態様では、約25nm~約500nm、例えば約50nm~約300nmの範囲にある平均結晶寸法を有する結晶相および/または微結晶(または結晶子)を含み得る。各粉末粒子は、1つの微結晶または1つより多い微結晶を含み得る。ルースな焼結および急冷粉末粒子は、Liイオンバッテリのカソード電極を形成するためにバインダー(例えばカーボンバインダー)中に取り込まれ得る。
【0037】
急冷LRMO材料は乾燥させて、LRMO活物質(例えば、熱処理され、急冷されたルースな粉末粒子)を形成し、六方晶系主要相および単斜晶系二次相を有し得る。よって、単斜晶系相含量に対する六方晶系相含量の比は、1より大きく、例えば少なくとも2、例えば2~20である。例えば、焼結および急冷LRMO材料(例えば乾燥した活物質)は、単斜晶系二次相の挿入層で離間した六方晶系主要相層を含む超格子構造を有し得る。あるいは、焼結および急冷LRMO材料は、単斜晶系相ナノ領域(すなわち、ミクロンより小さい幅を有する領域)を含む六方晶系相マトリクスを含み得る。MnおよびNiは、LRMO材料の結晶構造内で均質に分散され得る(例えば、過剰Mn、NiおよびLiは、遷移金属結晶格子サイトに均質かつ均一に分散される)。例えば、焼結および急冷LRMO材料の結晶粒子は、高角環状暗視野(high-angle annular dark-field:HAADF)エネルギー分散X線分光分析(energy dispersive X-ray spectrometry:EDS)で(すなわち、HAADFトンネル電子顕微鏡像のEDS元素マップにおいて)画像分析した場合にNiリッチまたはMnリッチな領域がないように、結晶粒子に亘ってMnおよびNiの均一な分布を示す。いくつかの態様では、結晶粒子において用語「NiリッチまたはMnリッチな領域がない」とは、結晶全体におけるNiおよびMn原子の平均比率に比較したNiおよびMnの比率の差が3%を超える結晶体積が、結晶粒子において3×3×3nmを超える体積で存在しないことを意味する。
【0038】
形成された状態の活性LRMO材料の結晶構造は、電気化学サイクリングによって変化し得る。例えば、活性LRMO材料が電気化学セル中に活物質として含まれる場合、最初の充電/放電サイクルの後、単斜晶系相はもはや検出可能なレベルでは存在し得ない。単斜晶系相は、Liイオンの挿入および/または脱離(extraction)の間に消費され得たものと考えられる。
【0039】
急速な前駆体分解
LRMO材料は、さまざまな前駆体材料から形成され得る。例えば、前駆体材料は、例えばLi、Mnおよび/またはNiなどの金属を含む有機金属化合物、および、例えば有機リガンドなどの可溶化剤であり得る。例えば、前駆体材料は、金属アセテート、金属炭酸塩、金属硝酸塩、金属硫酸塩および/または金属水酸化物を含み得る。
【0040】
さまざまな態様では、LRMO材料は、前駆体材料を熱分解し、その後、得られた熱分解LRMO材料を焼結および急冷することによって形成され得る。前駆体材料は、ゾル-ゲルプロセスを経て形成されたゲルを含み得る。本発明者らは、前駆体材料ゲルを急速に分解すると、LRMO材料の均質性が向上し得ることを見出した。例えば、ゾル-ゲルプロセスのゾル段階において、化学量論量のLi、MnおよびNi含有前駆体を水と混合して水性混合物を形成し得る。例えば、化学量論量のLi(CHCOO)*2HO、Mn(CHCOO)*4HOおよびNi(NO*6HOを混合して水性混合物を形成し得る。例えば、いくつかの態様では、すべてアセテートの前駆体または全て硝酸塩の前駆体(すなわち、リチウム、マンガンおよびニッケルの硝酸塩)を使用し得る。いくつかの態様では、混合物は、処理の間のリチウム損失を補償するために、0.01~0.20モル分率過剰のリチウムアセテートを含み得る。
【0041】
そして、混合物を加熱して、前駆体ゲルを形成し得る。例えば、混合物は、約90℃~約150℃の範囲、例えば約100℃にある温度にて、ゲル化が生じるのに十分な時間で加熱され得る。
【0042】
そして、ゲルは熱分解される。例えば、ゲルは、例えばゲルの有機リガンドなどの可溶化剤および/または溶媒を抽出(例えば蒸発および/または分解)して熱分解LRMO材料を形成するのに十分な温度および時間で加熱され得る。
【0043】
熱分解は、従来の加熱炉、例えばマッフルボックス加熱炉および/またはチューブ式加熱炉などを用いて実施され得る。しかしながら、かかるデバイスは、一般的に、1~10℃/分のオーダーの遅い加熱および冷却速度を有し、直接放射熱エネルギーインプットのいかなるタイプをも利用するものでない。よって、従来の加熱炉は、熱分解LRMO材料を形成するために、少なくとも8時間の処理時間および著しい量のエネルギーを要し得る。
【0044】
さまざまな態様によれば、急速な(例えば高速度の)加熱方法が、熱分解LRMO材料を形成するために使用される。例えば、ある態様は、LRMO前駆体材料を熱処理するために(すなわち、例えばゾル-ゲルプロセスを経て形成されたゲル前駆体であり得る、LRMO前駆体を急速に分解するために)、マイクロ波放射を利用し得る。
【0045】
マイクロ波は、1mm~1mの波長を有する電磁放射であると定義される。幅広く適用された家庭用マイクロ波オーブンは、約2.45GHzの周波数を有するマイクロ波放射を使用している。家庭用および工業用の用途に使用され得るマイクロ波の周波数は規則により制限されている。マイクロ波加熱のメカニズムは、2つのカテゴリーに大別される:1)マイクロ波放射により生成される外部電界下での電流の流れが、オーム効果(ohmic effect)により熱を発生すること、および2)セラミック中に存在する双極子が、電界の変化下にて再配向し、摩擦により熱を発生すること。
【0046】
マイクロ波加熱は、熱処理(例えば前駆体熱分解)温度を低下させ得る。また、マイクロ波加熱は、従来の加熱炉加熱プロセスに比べて、非常に急速な局所加熱のため、加熱時間をより短くし得る。また、前駆体材料のしっかりした(intimate)混合により、従来の加熱炉加熱プロセスよりもより効率的な体積加熱が可能になり得る。
【0047】
いくつかの態様では、マイクロ波加熱は、前駆体材料を加熱および分解して、熱分解LRMO材料を形成するために使用され得る。例えば、前駆体材料は、マイクロ波放射に高度に影響を受け易いリガンドおよび/または金属を含み得る。よって、さまざまな態様は、前駆体および/または前駆体ゲルを非常に高い温度に非常に短い時間で加熱するためにマイクロ波放射を利用する。また、マイクロ波加熱は、非常に均質な熱分散(heat dispersion)を提供することも判明した。よって、マイクロ波放射を利用することにより、加熱速度ならびに得られる熱分解LRMO材料の組織および/または構造を劇的に変化させることができる。例えば、前駆体ゲルのマイクロ波加熱により、高度に均質な熱分解LRMO材料が得られ得る。熱分解LRMO材料は、有機成分に欠く無機アッシュ(または灰)の形態であり得る(例えば、炭素を含まない、または不可避の量の炭素を含む)。よって、マイクロ波加熱により、熱分解LRMO材料は、別の加熱炉焼成を行う必要なしに、これを省略し得て、形成され得る。
【0048】
例えば、前駆体ゲルは、マイクロ波加熱炉へ提供され得、そこでは、ゲルを分解して熱分解LRMO材料を形成するためにマイクロ波放射が使用される。例えば、マイクロ波放射は、ゲルを少なくとも350℃の温度、例えば約350℃~約500℃の温度に、ゲルのリガンドおよび/または溶媒を蒸発させて熱分解LRMO材料(例えばLRMO無機アッシュ)を形成するのに十分な時間で加熱するために使用され得る。さまざまな態様では、熱分解LRMO材料は、約30分間以内、例えば約15~30分間で、マイクロ波が放射される材料単位kgあたり20000W以下の出力レベルを有する連続またはパルス化マイクロ波を用いて、形成され得る。従って、マイクロ波に基づく加熱プロセスは、例えば均質なカチオンおよび/または金属酸化物分布などの改善された構造的特徴を有する熱分解LRMO材料を形成するために、前駆体種から有機成分を急速に除去する(例えば蒸発および/または燃焼させる)ように構成され得る。
【0049】
ゾル-ゲルプロセスによって形成された前駆体ゲルのマイクロ波熱分解について上述したが、他の態様では、マイクロ波によって熱分解される前駆体は他の方法によって形成されたものであってよい。例えば、別の前駆体調製方法には、機械的ミリング/混合方法、凍結乾燥回転蒸発、または共沈方法が含まれ得る。ある態様の共沈方法では、MnおよびNiの水酸化物を含む前駆体をリチウム炭酸塩と混合して共沈させ得る。また例えば、LiCOまたはLiOH、ニッケル酸化物およびマンガン酸化物を含む固体状態の前駆体材料も使用され得る。かかる固体状態の前駆体は、処理の間のリチウム含量の損失に打ち勝つために、0.01~0.20モル分率過剰の過剰量のリチウム含有前駆体を有し得る。これらの方法のいずれかによって調製された前駆体も、熱分解LRMO材料(すなわちLRMO無機アッシュ)を形成するために、マイクロ波熱分解に付され得る。
【0050】
熱分解LRMO材料(すなわちLRMO無機アッシュ)は、その後、混合および粉砕(例えばミリング)されて、前駆体LRMO粉末を形成する。前駆体LEMO粉末は、その後、任意の適切な熱処理装置にて、例えば加熱炉にて、例えばチューブ式加熱炉またはマッフルボックスなどにて、熱処理(例えば焼結)されて、焼結LRMO材料を形成する。例えば、前駆体LRMO粉末材料は、熱処理温度(例えば少なくとも800℃、例えば約900℃)にて約12~約24時間の範囲にある時間で加熱(例えば焼結)され得、その後、焼結LRMO材料は、上述した急速なまたは超急速な急冷に付されて、急冷LRMO材料を形成する。急冷LRMO材料は、その後、乾燥され、オプションとして再び粉砕(ミリング)されて、LRMO活物質(例えばカソード活物質粉末)となり得る。このLRMOカソード活物質粉末は、その後、バインダーまたは他の不活性カソード材料と混合されて、Liイオンバッテリのカソードを形成する。
【0051】
さまざまな態様によれば、LRMO材料を形成する方法には、予期されない高い性能を有するLRMO材料を生成するために、急速なまたは超急速な急冷と組み合わされる、熱処理の少なくとも一部についての急速加熱(例えばマイクロ波加熱)の組合せが含まれる。特に、このプロセスは、粒子(微結晶)の表面にニッケルまたはニッケル酸化物の偏析がない、または実質的にない(これは透過電子顕微鏡法を用いて観察され得る)と共に、高い程度の原子/カチオンの不規則性/均質性(これはX線回折を用いて定量化され得る)を有するLRMO材料を生成し得る。これら材料の組合せは、100回~1000回の充電/放電サイクルでの容量フェード(fade)が少ないか存在せず、サイクリング中の平均放電電圧における損失が実質的に低減されまたは排除され、および商業的使用に適したレート性能(rate capabilities)を示す、カソード活物質を生成するのに寄与し得る。
【0052】
さまざまな態様によれば、マイクロ波加熱および/または急速/超急速な急冷工程を含む態様の方法は、従来のLRMO材料の化学的不安定性を被らないLRMO活物質を形成するために使用され得る。特に、急速/超急速な急冷工程は、焼結後にゆっくり冷却される従来のLRMO材料と比べて、Niの表面偏析が低減され、および構造的均質性が向上したLRMO活物質を形成するために使用され得る。さまざまな態様では、上記マイクロ波加熱プロセスは、LRMO活物質を形成するために、急速/超急速な急冷と結合させて使用され得る。例えば、マイクロ波分解を使用して形成される熱分解LRMO材料は、焼結され得、その後、急速または超急速な急冷プロセスに付され得る。
【0053】
1つの態様では、カソード電極(すなわち正極)は、バインダー中に包埋された粉末を含むLRMO活物質を含む。粉末は、約0.1μm~約10μmの範囲にある平均粒子/凝集体寸法および約25nm~約500nmの範囲にある平均結晶(すなわち微結晶)寸法を有する。1つの態様では、LRMO活物質粉末の粒子は、スピネル表面層、炭素コーティング(例えば急冷バスにおける炭化水素添加物に由来する)および/または表面におけるパッシベートされた酸素結合(例えば急冷バスにおける酸添加剤に由来する)のうちの少なくとも1つを有し得る。カソード電極は、例えばリチウムイオンバッテリなどのバッテリに含まれ得、バッテリは、アノード電極(すなわち負極)、電解質およびセパレータをも含む。
【0054】
1つの態様では、カソード電極活物質は、化学式Li(MnNi1-y2-x(式中、xは1.05より大きく1.25未満であり、yは0.95~0.1の範囲にある)で表され得る。活物質は、カソード電極を含むバッテリを最初に電気化学的サイクリングに付す、少なくともその前に、層状の六方晶系(菱面体晶系)相および単斜晶系相を含み得る。活物質は、次の少なくとも1つを示し得る:(i)(006)+(102):(101)X線回折ピークの強度比が、0.32より大きい、例えば0.33~0.346であること、および/または(ii)(104)に対する(003)X線回折ピークの比が、2より大きい、例えば2.01~2.575であること、および/または(iii)カソード電極がリチウムイオンバッテリに含まれる場合に、最初の放電(例えばC/2レート)での比容量として、少なくとも200mAh/g、例えば200~230mAh/gがもたらされること、および/または(iv)カソード電極がリチウムイオンバッテリに含まれる場合に、リチウムイオンバッテリが、C/20レートにて100回充電/放電サイクル後に平均放電電圧における10%未満の損失を示すこと、および/または(v)リチウムイオンバッテリの正極に含まれる場合に、少なくとも100回の充電/放電サイクル、例えば200回超のC/5充電/放電サイクルでの容量フェードが10%未満、例えば5%未満(例えば、0~4%容量フェードまたは容量増加)であること。1つの態様では、リチウムイオンバッテリは、アノード電極としてリチウムまたはグラファイトを含み得る。
【0055】
1つの態様では、バッテリ(例えばリチウムイオンバッテリ)の平均放電電圧は、50回C/20(充電)-C/2(放電)充電/放電サイクルで、5%を超えて減少せず(例えば0~4%)であり、および/または、バッテリの放電容量は、800回C/20-C/2充電/放電サイクル後に、その最初の容量の80%より大きい。
【実施例
【0056】
式Li(MnNi1-y2-x(式中、x=1.16、y=0.7)を有するLRMO粉末を以下の方法を用いて生成した。特に、前駆体材料ゲルを、ゾル-ゲル固体状態合成方法を用いて生成した。ゾルの合成は、化学量論量のLi(CHCOO)*2HO、Mn(CHCOO)*4HOおよびNi(NO*6HOを含む水性混合物を形成することを含んでいた。混合物を100℃にて、ゲルが形成されるまで加熱した。ゲルをアルミナ坩堝に注いで、400℃にて90分間焼成し、有機物を欠くアッシュを得た。得られたアッシュを該坩堝中で粉砕し、500℃にて3時間再焼成し、その後、自然冷却して再粉砕し、その後、粉末を900℃にて24時間焼結して、急冷した。全ての焼結をボックス加熱炉にて周囲ドラフト条件にて行った。全ての急冷は、900℃で12~24時間の加熱の後に行った。
【0057】
図1は、本開示のさまざまな態様による急速急冷システム100の写真である。図2は、本開示のさまざまな態様による急速急冷プロセスを示す、1秒あたり30フレームで撮影した4つの連続した経時ビデオキャプチャ画像を含む。
【0058】
図1~2を参照して、LRMO材料をチューブ式加熱炉110に供給し、そこで材料を900℃に加熱した。加熱LRMO材料をチューブ式加熱炉から取り出し、急冷バス120で室温まで急冷した。チューブ式加熱炉110は、その内容物が瞬時に急冷バス110に放出されるように、作動の間に回転する。LRMO材料が加熱炉110を900℃にて出る時間と、これが室温まで急冷される時間との間の時間間隔は、500ミリ秒未満、例えば200ミリ秒未満を要して、LRMO活物質を形成する。急冷後、LRMO材料を急冷バス120の水からろ過し、真空オーブンで乾燥させた。
【0059】
第1の比較例では、LRMO材料を、900℃での焼結後に加熱炉110にてゆっくり冷却させた。第2の比較例では、LRMO材料を、焼結後に金属板上へと放出することによって冷却した。第3の比較例では、LRMO材料を、まず室温までゆっくりと冷却し、その後、超急速急冷工程のためにチューブ式加熱炉110に挿入し、900℃で30~120分間保持した後に超急速急冷工程に付した。
【0060】
別の例では、LRMO粉末を、急速な前駆体分解プロセスを用いて形成した。特に、上述のゾル-ゲル前駆体材料を、マイクロ波放射を用いて分解して、成分分布が改善されたLRMO粉末を形成した。特に、マイクロ波放射の適用により、有機成分がマイクロ波エネルギーを吸収することで、前駆体材料の有機成分が急速に蒸発した。よって、LRMO成分は、マイクロ波放射により生じた熱エネルギーにより、分子レベルで均質に混合された。得られたLRMO粉末を、次いで、900℃にて12~24時間焼結し、その後、上述のように超急速急冷した。
【0061】
カソード材料の複数のより大きいバッチ(1kgまで)を、マイクロ波放射分解および超急速急冷ありおよびなしの双方で生成した。
【0062】
材料特性
図3~4は、本開示のさまざまな態様によるLi(MnNi1-y2-x(式中、x=1.2およびy=0.75)材料についてのX線回折(XRD)パターンのグラフである。図3のXRDパターンは、水への浸漬による急速急冷をしなかった層状LRMO活物質から得られ、図4のXRDパターンは、水への浸漬による急速急冷をした層状LRMO活物質から得られた。
【0063】
XRDパターンの評価は、LRMO材料が、予期された六方晶系(例えば菱面体晶系)相LiNiOに関連した空間群(R-3m)および単斜晶系相LiNiOに関連した空間群(C2/c)を有することを示す。
【0064】
図5は、本開示のさまざまな態様による、高温焼成工程に先立って、ゾル-ゲル前駆体材料の5分間のマイクロ波加熱を用いて処理したLi(MnNi1-y2-x(式中、x=1.16およびy=0.7)材料についてのX線回折結果を示すグラフである。図5を参照して、重要な興味は、マイクロ波分解材料が、菱面体晶系相LiNiOに関連した空間群(R-3m)および単斜晶系相LiNiOに関連した空間群(C2/c)を含む、高結晶化および最適化材料であることに適合する得られたX線回折パターンを有するという事実にある。よって、この材料は、900℃アニールおよび上述のような急速および/超急速な急冷を用いてLRMO材料を形成するのに適する。
【0065】
図6は、本開示のさまざまな態様による、マイクロ波加熱および超急速急冷を用いて処理したLi(MnNi1-y2-x(式中、x=1.16およびy=0.7)材料についてのX線回折結果を示すグラフである。図6を参照して、全ての予期されたピークが存在し、十分に規定されている。
【0066】
図7Aは、材料の電気化学的サイクルに先立って、急速急冷に付さなかった代表的なLRMO材料のトンネリング電子顕微鏡(tunneling electron microscopy:TEM)高角度環状暗視野像(high-angle annular dark-field imaging:HAADF)原子マップ顕微鏡写真であって、文献(H. Zhengら、"Recent developments and challenges of Li-rich Mn-based cathode materials for high-energy lithium-ion batteries"、Materials Energy Today、Volume 18、2020年12月、100518頁)からの従来技術の例である。これらの顕微鏡写真から理解されるように、初期LRMO材料は、粒子中に著しいニッケルおよびマンガン偏析を有する。
【0067】
図7Bは、本開示のさまざまな態様による、材料の電気化学的サイクルに先立って、急速急冷に付した生成LRMO材料のTEM HAADF原子マップ顕微鏡写真である。これらの顕微鏡写真から理解されるように、LRMO材料は、粒子中に著しいニッケル/マンガン偏析を有しない。よって、急速または超急速急冷が、粒子表面へのニッケル偏析を低減または排除し、ニッケルおよびマンガンが、バルクのLRMO材料中で均質に混合される。
【0068】
結晶均質性、カチオン不規則性および表面パッシベーション
材料における金属カチオンの不規則性(disorder:または無秩序性)の程度を評価するための1つの方法は、X線回折パターンにおけるピーク強度の比を用いることである。特に、(104)ピークに対する(003)ピークの強度の比が、この支配的層状結晶構造での混合カチオン材料における電気化学的活性のおおよその計測として一般的に知られており、他方、(101)ピークの強度に対する(006)および(102)ピークの強度の合計の比は、カチオン不規則性の指標である。これに基づいて、分解段階の間のマイクロ波処理およびその後の超急速急冷の双方を経た材料は、ゆっくり冷却した材料よりも、著しく高い電気化学活性を示し、より低い程度のカチオン規則性(よって、より高い程度のカチオン不規則性)を示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2は、焼成後に遅い急冷に付した比較例のLRMO材料(行1)についての、および焼成後に超急速急冷に付した実施例のLRMO材料(行2)についての、XRDピーク強度比を示す。いずれの材料も式Li(MnNi1-y2-x(式中、x=1.2およびy=0.75)を有する。重要なことに、実施例の超急速急冷した材料は、比較例の材料よりも、著しくより高い電気化学活性およびより高いカチオン不規則性/金属酸化物均質性を有する、材料中での原子不規則性における増加を示すXRD特性を示す。特に、実施例の材料は、(101)ピークの強度に対する(006)および(102)ピークの強度の合計の比における増加を示し、このケースでは約9%である。カチオン不規則性におけるこの著しい増加は、NiおよびMn原子が材料中でより完全に混合されている(よって、グループ(または群)化されていない)状況を表している。このため、かかる実施例の材料は、「カチオン不規則性(cation-disordered)リチウムリッチリチウムマンガンニッケル酸化物」と称され得、これらのデータは、使用される処理条件、特に、使用される冷却速度に基づいて、異なる物質状態が形成され得ることを示している。
【0071】
電気化学テスト
合成したカソード材料を、Super-Pカーボンブラックおよびポリビニリデンフルオライド(PVDF)と8:1.2:0.8の比で混合して、全質量の80%の活物質を作製した。得られたブレンドを、次いで、最小量の約15mLのN-メチル-2-ピロリドンに混合して、1時間後に10分間の超音波処理工程に付し、その後、得られたスラリーを100℃のホットプレート上で最小限の30分間混合して、100℃より高い温度に加熱した10×10cmで10μm厚さのアルミニウム箔上にスプレーコーティングした。70℃の空気中オーブンで一晩乾燥させ、生検パンチでパンチ抜きした。これらのパンチを、次いで、2032コインセルを作製するために使用し、このコインセルは、アノードとしてリチウム箔、電解質として1.0M LiPF6 50/50エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート溶液、Celgardバッテリセパレータ、0.5mmステンレス鋼スペーサ、およびセル内での機械的接触を確保するためにカソード側に波形バネを含み、各コインセルは、乾燥した低酸素アルゴン雰囲気にてコインセルプレスを用いて組み立ておよび封止した。
【0072】
上述したプロセスで作製したコインセルについて、電気化学性能調査は、一定電流での電位制限定電流試験を行うために、低電流Newareまたはbio-logicバッテリテスターを用いた。セルを、C/20~C/2の範囲にあるレートで4.8~2Vで、一定電流充電/放電条件でサイクルさせた。
【0073】
図8Aは、マイクロ波処理または急速急冷をしなかった(このケースでは、金属板上に比較的ゆっくりと冷却した)LRMO材料(Li(MnNi1-y2-x(式中、x=1.16およびy=0.7))の比較例についての、セル電位対比容量のグラフであり、図8Bは、上記比較例についての、比容量対サイクルのグラフである。
【0074】
図8Aおよび8Bを参照して、ゆっくり冷却した材料は、乏しい容量および容量保持を有することが理解され得る。50回のフル充電/放電(C/2レート)サイクルの後、この材料は、C/20レートにて120mAh/gの比容量を得、これは、この材料の理論性能をはるかに下回る。更に、平均放電電位は30サイクル後に3Vより低く、材料において実質的な電圧フェードが存在した。
【0075】
図9Aは、超急速急冷材料の慣らし(break-in)サイクルの間のセル電位対比容量を示すグラフであり、図9Bは、超急速急冷材料の経時的なセル電位対比容量を示すグラフであり、および図9Cは、本開示のいくつかの態様によるLRMO活物質を含む実施例のセルについての、複数のサイクルでの、C/20レートでの比容量対サイクルを示すグラフである。図9Dは、上記実施例のLRMO材料の長期間サイクリングであり、これは、150回を超えるC/5サイクルで、全ての3つのC/20リファレンスサイクルについて材料が10%未満の容量フェードを示す(これは、56、107、158サイクルで起こる)ことを示す。
【0076】
図8A~8Bに示す比較例の材料に比べて、図9A~9Cに示すように、超急速急冷を用いて作製した実施例のLRMOカソード材料は優れた性能を示した。図9Aおよび9Bに示す電気化学性能データは、次の双方を示した:(a)高機能材料が意義のある規模で生産できること、および(b)これらの材料は、はるかに小さいバッチで生産したものと同等またはより優れた性能特性を有すること。注目すべきことに、電圧プロファイルは、より遅い冷却方法を用いて作製した材料と比較して、おおむね100mAh/gの放電容量の後に、望ましい(exaugurated and desirable)変曲を有する。この変曲点よりわずかに上の電圧は、サイクリングの間に「下げ(sag)」または損失を実質的に示さず、より遅い移送技術を用いて作製された材料に比べて改善されている。このことは、加熱炉から急冷環境へ200ミリ秒未満にて重力駆動で移送される超急速冷却アプローチが、マイクロ波照射を経て急速に分解される前駆体と組み合わされるときに望ましいものであることを示唆している。
【0077】
図10Aは、マイクロ波処理または急速急冷されていないLRMO活物質(Li(MnNi1-y2-x(式中、x=1.16およびy=0.7))を含む比較例のセルのセル電位対比容量を示すグラフであり、図10Bは、図10Aのセルについての比容量対サイクル数を示すグラフであり、図10Cは、超急速急冷されていない、水急冷されたLRMO活物質(Li(MnNi1-y2-x(式中、x=1.16およびy=0.7))(材料は、加熱炉環境から取り除かれて、数秒間で急冷されていない)を含む実施例のセルについての、初回および50回のC/2放電サイクルでの、セル電位対比容量を示すグラフであり、および図10Dは、図10Cのセルについての比容量対サイクル数を示すグラフである。いずれの活物質もマイクロ波処理しなかった。
【0078】
比較例および実施例のセルの双方を、カソード物質をコンディショニングするために約C/20のレートで充電および放電電流の双方にて2回サイクルした。これに続けて、C/20の充電レートおよびC/2の放電レートで25サイクルを実施した。27サイクルのセットを、1ラウンドのサイクリングと称し、全てのセルをこの体制に2回付した。図10A~10Dから理解され得るように、急速急冷した実施例の材料は、比較例の材料に比べて、容量および容量保持が改善されている。50回のフル充電/放電サイクルの後、実施例の材料は、C/2レートにてほぼ230mAh/gの比容量を得、これは、はるかにより低い容量およびより低い平均放電電圧を示す比較例よりもはるかに優れている。従って、実施例の材料は、(a)50回超のサイクルで容量において著しい増加を示した、(b)一般的に報告されている過剰な電圧フェード(セルの平均放電電圧は、酷使により著しく低下する)は示さなかった、および(c)C/20放電レートで25サイクル後に250mAh/gを超え、50サイクル(C/2レートで)後に230mAh/gを超え、放電の間の平均電圧における損失は10%未満である。比容量は、50回のフルC/20-C/2充電/放電サイクルを超えて、20~25%増加する。これに対して、比較例の材料は、100mAh/g未満の比容量値を含む、はるかにより低い性能を有した。
【0079】
図11Aは、本開示のさまざまな態様による、マイクロ波分解され急速急冷されたLi(MnNi1-y2-x(式中、x=1.16およびy=0.7)活物質を含む実施例のセルのセル電位対比容量を示すグラフであり、および図11Bは、図11Aの実施例のセルのC/20およびC/2レートでの比放電容量対サイクルを示すグラフである。
【0080】
よって、図11A~11Bに示すように、マイクロ波分解プロセスを急速熱急冷と組み合わせることにより、はるかに電気化学的に安定な材料がもたらされる。マイクロ波処理および急速急冷法の組合せは、比較例のセルの材料に比べて、電圧の下げが大きく低減され、約200サイクル(ここで、コインセルテストでよく使用されるものは故障する)を超えて、安定な放電容量がもたらされる。
【0081】
合成LRMO活物質(すなわち、焼結および急冷されたルース粉末)をSuper-Pカーボンブラックおよびポリビニリデンフルオライド(PVDF)を8:1.2:0.8の比で混合して、全質量の80%の活性LRMOを作製した。得られたブレンドを、次いで、約15mLのN-メチル-2-ピロリドンに最小限の1時間混合した。次いで、2つの10分間超音波処理工程を実施し、その後、得られたスラリーを100℃のホットプレート上で最小限の30分間混合し、その後、100℃超に加熱された10×10cmで10μm厚さのアルミニウム箔上にスプレーコーティングした。箔を70℃の空気中オーブンで一晩乾燥させ、その後、丸い電極ディスクへとサンプル採取した。得られたパンチを、次いで、2032型コインセルを作製するために使用し、このコインセルは、リチウム箔アノード、電解質として1.0M LiPF6 50/50エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート溶液、Celgardバッテリセパレータ、0.5mmステンレス鋼スペーサ、およびセル内での機械的接触を確保するためにカソード側に波形バネを含んでいた。各コインセルは、乾燥した低酸素アルゴン雰囲気にてコインセルプレスを用いて組み立ておよび封止した。
【0082】
LANDバッテリテスターを使用して、上述したプロセスで作製したコインセルを一定電流での電位制限定電流試験に付した。バリエーション毎に最小3つのセルを、周囲温度にて、2.0Vおよび4.8Vの間でサイクルさせた。カソード材料をコンディショニングするために、おおむねC/20のレートで充電および放電電流の双方で2回サイクルさせた。次いで、セルをC/20の充電レートおよびC/2の放電レートにて25回サイクルで充電および放電した。これら27回のサイクルは、1ラウンドのサイクリングと称してよく、全てのセルを2ラウンドのサイクリングに付した。
【0083】
図12Aは、一連のサイクリングに亘ってx=0.25サンプル(すなわち、Li[NiLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O(式中、x=0.25)サンプル)の比放電容量を示すグラフであり、図12B~12Dは、25Hq、25Lqおよび25Mqサンプルをそれぞれ含むコインセルのフル充電および放電曲線を示す。図13Aは、一連のサイクリングに亘ってx=0.17サンプルの比放電容量を示すグラフであり、図13B~13Dは、17Hq、17Lqおよび17Mqサンプルをそれぞれ含むコインセルのフル充電および放電曲線を示す。図14Aは、一連のサイクリングに亘ってx=0.10サンプルの比放電容量を示すグラフであり、図14B~14Dは、10Hq、10Lqおよび10Mqサンプルをそれぞれ含むコインセルのフル充電および放電曲線を示す。
【0084】
以下の表3は、一連のサイクリングに亘っての放電容量(discharge capacity:DC)を、DC28/DC27のC/20:C/2比と共に示す。レート能力を、C/20放電容量およびC/2放電容量(27回目と28回目のサイクルの放電容量)の比を取ることによって評価した。放電サイクル1、2、28回目はC/20レートであり、放電サイクル3、27、54回目はC/2レートであったことに留意されたい。
【0085】
【表3】
【0086】
図12A~12Cを参照して、異なる冷却方法で合成したx=25サンプルは、最初の充電4.5Vプラトーにおいて、異なる相対充電容量を示した。特に、25Hqのプラトーは、初期充電容量の60.7%を占め、25Lqのものは44.4%を占め、および25Mqのものは34.5%しか占めなかった。
【0087】
25Hqの初期容量は、x=0.25サンプルで最も高い初期容量を186mAhg-1で有し、および25Mqは、127mAhg-1で最も低いものを有した。表3から理解されるように、25Mqを除く全てのx=0.25サンプルが、一連のサイクリングに亘って改善された容量を示した。25Hqは、全ての3つのサンプルのうちで最も大きい容量を示した。また、25Mqサンプルは、一連のサイクリングに亘って、電圧が3V未満に降下するシビアな電圧減衰を示した。また、25Hqおよび25Mqサンプルも、それらの放電曲線上の2.8Vにて変曲点を有したが、それらのものは、そのようにシビアな電圧フェードを示さなかった。電圧減衰は、25Hqおよび25LqサンプルのC/20放電においてみられなかったが、25MqサンプルのC/20放電は電圧減衰を経験した。0.25サンプルの平均放電電圧は、これらの電圧フェードを反映し、25Mqが一連のサイクリングに亘って最も低い平均電圧を有し、25Lqが25Hqよりもわずかに高い平均放電電圧を有した。
【0088】
レート能力に関しては、表3から理解されるように、25Hq、25Lqおよび25MqについてのC/20:C/2比は、それぞれ、1.19、1.25および1.39であった。
【0089】
図13A~13Dを参照して、x=0.17サンプルの充電プロファイルは、最初の充電にて、よりクラシカルな単一の平坦な4.5Vプラトーを有し、これは初期充電容量のおよそ56.8%を占め、他方、17Lqおよび17Mqサンプルは、明確さの劣る(less defined)4.5Vのプラトーを示し、これは、双方のケースで初期充電容量のおおよそ20%を占めた。
【0090】
全てのx=0.17サンプルの容量が、最初の2回のC/20放電の間におおよそ10mAhg-1で増加した。表3から理解されるように、2回目のC/20放電は、17Hq、17Lqおよび17Mqについてそれぞれ31%、71%および91%の容量増加を見せた。全ての3つのサンプルで、ほぼ均一な電圧減衰挙動があり、平均プラトー電圧は、一連のサイクリングに亘っておおむね0.4V低下した。しかしながら、電圧減衰は、これらのサンプルのC/20放電曲線では見られなかった。x=0.17サンプルも、同様の経時平均放電電圧を有する。主な相違点は、1回目のサイクリングで17Mqの平均電圧がいかに増加し、しかし、2回目のサイクリングで、これは17Hqおよび17Lqの電圧フェード傾向とマッチすることである。
【0091】
図14A~14Dを参照して、x=0.10サンプルの充電プロファイルについて、10Hq充電プロファイルは、10Lqおよび10Mqサンプルと異なり、10Lqおよび10Mqサンプルは同様のプロファイルを有する。全ての3つのサンプルが4.5Vで持続的な(persistent)変曲点を有するが、10Hqサンプルのみが、明確な4.5Vプラトーを有し、10Hqの変曲点は消滅し、10Lqおよび10Mqサンプルの変曲点は54回目のサイクルまで存続する。10Mqサンプルの変曲点は最も顕著であった。
【0092】
表3から理解されるように、x=0.10サンプルの全てが、最初のC/20サイクルの間に5mAhg-1のオーダーの初期容量増加を経験し、その後、2回目のC/20放電で10Hq、10Lqおよび10Mqサンプルについてそれぞれ300%、60%および67%の容量改善が見られた。1回目のC/2放電の最後までに、全てのx=0.10サンプルの容量が、最初のC/20容量を超え、または追い着いた。一連の2回目のC/2放電までに亘って、それぞれ1回目および2回目で、10Hqは197%および50%容量増加を見せ、10Lqは25%および16%容量増加を見せ、および10Mqは36%および20%増加を見せた。10Lqおよび10Mqの放電プラトーは、約3.0Vにて開始し、10Hqサンプルのプラトーは、3.2にて開始し、10Hqの一連のサイクリングでの電圧挙動は、10Lqおよび10Mqと異なっていた。全てのx=0.10サンプルの電圧挙動は、レートに依存し、全ての3つのサンプルのC/20放電の平均放電電圧は、一連のサイクリングに亘って増加した。しかしながら、10Lqおよび10MqサンプルのC/2放電は、電圧減衰の兆候を示したが、10Hqは示さなかった。
【0093】
加えて、10Lqおよび10Mqサンプルは、2.2Vにて変曲点を有し、これは、C/20放電曲線において唯一のものであった。x=0.10サンプルのこれら電圧挙動は、10Lqおよび10Mqの平均放電電圧が10Hqのものよりも高いが、電圧フェードの程度もより大きいことを示した。
【0094】
レート能力については、表3に示されるように、10Hq、10Lqおよび10MqサンプルのC/20:C/2比は、それぞれ1.27、1.60および1.67であった。各サイクルでの効果的な充電および放電は、サイクリングと共に顕著に進化し、これは、10HqについてのDC28/DC27比を効果的にC/10:C/1比とするものであることに着目される。
【0095】
一連のテストに亘ってのさまざまな相変化が、サイクリングの間に観察される電圧プロファイルにおいて明らかにされる。x=0.25サンプルにおいて見られる予期される電圧プラトーは、予期されるクラシカルな相変化が起こったことを示唆する。
【0096】
図15A~15Iは、それぞれ25Hq、25Lq、25Mq、17Hq、17Lq、17Mq、10Hq、10Lqおよび10Mqサンプルについての、サイクリング前および後のLRMO粉末の正規化およびオフセットXRDパターンを示すグラフである。
【0097】
図15A~15Iを参照して、全てのx=0.25サンプルのサイクリング後のXRDパターンは、2θ=22°超格子ピークが失われ、このことは、構造を平衡化するように遷移金属の偏析が起こっているであろうことを示す。しかしながら、全ての他のR-3mインデックスを付したピークは残っており、このことは、全体的な構造が保持されていることを示唆している。同様の結果が、x=0.17および10Hqサンプルにおいても見受けられる。遷移金属規則性のこの喪失は、酸素およびリチウムの喪失(または欠損)およびよって容量低下と関連しており、他方、図12A~14Cにおいて見られる容量における増加は、これらサンプルについては当て嵌まらないことを示している。よって、これらのデータは、遷移金属の偏析が必ずしも容量のロスをもたらさないことを示唆している。
【0098】
10Mqおよび10Lqサンプルは依然として22°に視認可能ないくつかのピークを有するが、10Mqサンプルは、サイクルテスト後に実質的に異なる結晶構造を有し、このことは、図14A~14Cにみられる電気化学的相変化が、図12A~13Cのサイクリングデータにおいて見られる電気化学的相変化と同じでないことを更に示唆している。図10Lqおよび10MQに見られるもう1つの相変化は、ニッケル含量0.17>x>0.10のどこかに存在するLRMOについての合成限界が存在することを示唆している。
【0099】
図16は、サイクリング前および後での、25Hq、25Lqおよび25Mqサンプルでスプレーコーティングしたカソードの5万倍(50k×)のSEM顕微鏡写真を含む。図17は、サイクリング前および後での、17Hq、17Lqおよび17Mqサンプルでスプレーコーティングしたカソードの5万倍のSEM顕微鏡写真を含む。図18は、サイクリング前および後での、10Hq、10Lqおよび10Mqでスプレーコーティングしたカソードの5万倍のSEM顕微鏡写真を含む。
【0100】
図16~18を参照して、作製された状態およびサイクリング後のカソードのモルフォロジー(または形態)は、図16および17に見られるように、x=0.25およびx=0.17サンプルで均一であった。x=0.10サンプルのモルフォロジーは、図18に見られるように、一致していなかった。10Hqはより高いニッケル含量サンプルと一致し、他方、10Lqおよび10Mqは互いに一致していた。全てのサンプルが、サイクリングの前後で一致したモルフォロジーを有し、電気化学的サイクリングの結果により表面構造または粒子モルフォロジーが変化したことを示す証拠はなかった。
【0101】
ニッケル含量および急冷方法の双方が、LRMOカソードの構造および電気化学的挙動に影響を与える。一般的に、材料は、より高いニッケル含量および/またはより急速な急冷速度で合成された場合、結果は微妙な違いであり得るが、より高い容量およびよりクラシカルな電圧挙動を有する。
【0102】
LRMO粉末のXRDパターンは、ニッケル含量および急冷方法の双方への構造の依存性を示す。さまざまなニッケル含量のサンプルで結晶学的なわずかなバリエーションが予期され、x=0.25およびx=0.17および10Hqサンプルで観察された。10Lqおよび10MqのXRDパターンは、多数の2次ピークを有し、他方、10Hqのパターンは有しなかった。10Lqおよび10Mqのパターンに見られる2次ピークは、25qおよび17MqサンプルのXRDパターンに見られる2次ピークに一致している。これらの例は、急冷速度が、構造、層含量および層純度を決定するうえで重要であることを示唆している。
【0103】
多くのサンプルで見られる2次層状相(secondary layered phase)は、局所的な比較的ニッケルリッチな不均質性と、これに対応するより大きな格子パラメータとの結果であり得る。(110)ピークの分裂が、25Hqおよび25Lqを除く全てのサンプルのXRDパターンに存在し、このことは、より遅い急冷により、ニッケル不均質性がもたらされることを示している。25Mqおよび17MqサンプルのXRDパターンは、10Lqおよび10Mqサンプルに見られる(101)、(104)、(107)に追加の2次ピークを有する。25Mqおよび10Lqについての(104)二次ピークは、不純物(または汚染物質もしくはコンタミネーション)に起因したものであろうことに留意されるべきである。これら追加のピークは、さまざまであるが、全ての金属急冷サンプルで発生し、このことは、構造がいかにニッケル含量および急冷の双方に依存しているかを示す。これらのデータは、より遅い急冷方法が、偏析したニッケルリッチ相領域ならびに材料中の不純物の形成をもたらし、よって、Ni含量に関わらず、サンプル中のニッケルの局所的な規則性を決定するという概念を支持している。図24は、2次層状相についての構造案の概要を示す。
【0104】
Ni2+イオンは、Mnイオンより大きいイオン半径を有するので、Niの存在が少ないほど、局所的な格子膨張が起こることがより少なくなると考えられる。サンプルのニッケル含量が高いほど、ニッケルイオンを分散させる広範囲規則性(long-range ordering)の程度がより高くない、より好ましい規則性により、より小さい格子パラメータがもたらされる。これらサンプルを急速に急冷することは、広範囲規則性およびより小さい格子パラメータを保持し、他方、より遅い急冷は、不純物の核形成およびニッケル不均質性をもたらし、これらの双方が平均格子パラメータをゆがませる。格子パラメータ「a」についての図26B中に認められる交点は、x=0.11にあり、これは、0.17>x>0.11に合成限界があることを更に示唆している。
【0105】
サンプルの電気化学的挙動は、ニッケル含量および急冷方法の双方によって影響を受けた。材料の最初の充電挙動は、純度および容量の指標であり、性能のより高い材料が、ニッケル触媒作用による酸素およびリチウム損失を経た相転移と一致する単一の強いプラトーを示すことが知られている。
【0106】
図19A~19Cは、x=0.25、x=0.17およびx=0.10サンプルの最初の充電サイクルについての、dQ/dV対Vの平滑化スプラインフィッティングを示すグラフである。
【0107】
図19A~19Xを参照して、dQ/dVプロットに見られる4.5Vのピークは、全てのサンプルがある程度の初期4.5Vプラトーを有することを示す。しかしながら、図12A~14Cは、いくつかのサンプルしか、後の充電で4.5Vにて変曲点を有しないことを示す。このことは、全てのサンプルが同様の相変形を最初に経るが、いくつかのサンプルにおける変曲点の持続性は、最初の充電の間に反応が必ずしも完了可能でないことを示唆している。パターンに2次ピークを有するサンプルは、より後のサイクルで変曲点を有するものと同様であり、よって関連し得る。このことは更に、より高いニッケル含量が、主要ピークの左側に存在する2次層状相ピークをいかにしてもたらすかによって支持されている。25Mqや10Lqなどのいくつかのサンプルは、岩塩不純物の兆候を示すが、この不純物は、いくつかの他の相転移の可能性を排除するものでない。それにもかかわらず、これらの変化は、より大きいサイクル数に亘って起こり、次第にフェードし、最終的に、サンプルが、まだ完全にかつ不可逆的に変化することを示唆している。
【0108】
非水急冷サンプルにおける変曲点の存在は、10Hqについては置いておいて、これら変曲点が相均質的に関連していることの更なる証拠を提供するものである。10Hqサンプルは、これら変曲点から開始し、54回目のサイクルまでにその充電プロファイルは、最初に似ていたx=0.10サンプルよりも、x=0.17サンプルにより似る。よって、これらのデータは、4.5V相転移を長引かせるニッケル均質的の進展と一致する。
【0109】
図20A~20Cは、x=0.25、x=0.17およびx=0.10サンプルの2回目の充電サイクルについての、dQ/dV対Vの平滑化スプラインフィッティングを示すグラフである。図21A~21Cは、25Hq、25Lqおよび25Mqサンプルの最初のC/2放電および最後のC/2放電を示すグラフであり、および図21Dは、25Hq、25Lqおよび25Mqサンプルについての一連のサイクリングに亘ってのサイクル当たりの平均放電電圧を示すグラフである。図22A~22Cは、17Hq、17Lqおよび17Mqサンプルの最初のC/2放電および最後のC/2放電を示すグラフであり、および図22Dは、17Hq、17Lqおよび17Mqサンプルについての一連のサイクリングに亘ってのサイクル当たりの平均放電電圧を示すグラフである。図23A~23Cは、10Hq、10Lqおよび10Mqサンプルの最初のC/2放電および最後のC/2放電を示すグラフであり、および図23Dは、10Hq、10Lqおよび10Mqサンプルについての一連のサイクリングに亘ってのサイクル当たりの平均放電電圧を示すグラフである。
【0110】
また、サンプルの放電プロファイルも、経時的なサイクリング挙動がニッケル組成物および急冷方法によって影響を受けることを示す。図20A~20Cを参照して、水急冷サンプルのピークは、液体窒素および金属急冷サンプルよりも、最初は平均して低い電圧であり、このことは、ニッケル不均質性が電圧に影響することを示唆している。水急冷サンプルの平均放電電圧は、25Mqを除いて、同じ組成の他のサンプルよりも低い平衡にある。17Lqおよび17MqのdQ/dVパターン、および図21A~23Dは、放電プロファイルが、異なる挙動へと経時的にどのように変化するかを示す。x=0.17サンプルの電圧は、電圧挙動が最も均質であるが、最も大きい電圧減衰の程度を示す。この例外は、25Mqサンプルであり、一連のサイクリングに亘って電圧減衰が認められ、x=0.10サンプルは、C20放電について電圧増加を示し、C/2放電について電圧フェードを示す。また、ほとんどのサンプルが経験する図示された平均電圧フェードは、サンプルの劣化(degradation)とは対照的に、これらの電圧でより大きい容量へと変化することに起因することに留意するのが重要である。サンプルに見られる放電挙動における明らかな違いは、急冷速度における違いが、異なる電気化学反応において現れることを示唆している。
【0111】
25Hqおよび25Lqにおける電圧減衰は、x=0.17サンプルの電圧減衰に比べればわずかであり、これらに関連する電圧プラトーも異なる電圧にある。より小さい25Hqおよび25Lq電圧減衰は、3Vプラトーに関連した、一連のサイクリングに亘ってスピネル様の相への相変化とほぼ一致する。x=0.17サンプルのより厳しい電圧減衰も、スピネル様の相への相変化とほぼ一致する。双方の場合において、しかし特にx=0.17サンプルの場合において、電圧プラトーは、マンガンリッチ環境におけるNi2+/3+/4+レドックス(または還元酸化)の平均電圧に近く、このことは、これらプラトーが、ニッケルレドックス、よってニッケル分布によってもたらされることを示唆している。この電圧損失およびニッケル再分布は、スピネル様の相への変化(evolution)とほぼ一致し、主な不整合は、容量における増加であり、スピネル様の相への変化は、容量ゲインおよびロスの双方と関連し、これは、著しい構造的劣化と全般的に関連していると考えられる。よって、構造的に頑丈な25Hq、25Lqおよびx=0.17サンプルの電圧減衰は、スピネル様の相への変化に完全に起因するわけではない。
【0112】
また、スピネル様の相への変化は、特にx=0.10サンプルでの、放電レート間での異なる挙動を説明するものではない。x=0.10サンプルのC/20放電は、減衰したサンプルに似た電圧にて始まり、サイクリングを経て電圧が増加し、x=0.10サンプルのC/2放電は、いくらかの程度の電圧フェードを経験する。サンプルのより低い電位はより大きいマンガン濃度およびその後のより低いニッケルレドックス電位に起因し得るが、整合しない電圧挙動は、特に容量における急速な増加を考慮した場合に、スピネル様の相の形成によるものとして完全に説明されるものでない。25Mqのより低いマンガン濃度と対照的に、容量損失およびより早い電圧減衰は、スピネル様の相の形成を示している。これらの因子(実際的にどのようにして放電電圧プラトーが3Vにて始まるのか)は、スピネル様の相への変化の電圧減衰メカニズムと一致している。遅い急冷の間に進化する相不純物が、25Mqをスピネル様の相への変化に対してより敏感にするであろう。25Mqの電圧プラトーは、Mn3+/4+レドックス結合の範囲内で低下し、これはおそらくマンガンおよびニッケルがハイブリッドレドックス結合を形成することによるものであり、このことはまた電圧減衰の理由となる。10Lqおよび10Mqの放電プラトーは、3Vにて始まる25Mqと同様であり、このことは、これらサンプルが、いくらかの程度のスピネル様の相への変形を経験しているであろうことを示唆している。10Mq以外の全てのサンプルのXRDは、R-3m層状構造を示すピークを有し、更に、スピネル様の相への変化は、電圧フェードまたは容量における変化に対する完全な理由とはならないことを示唆している。
【0113】
図24は、R-3m構造および格子パラメータa’>aを有する25Mqサンプルにおける相不純物の含有が、25Mq(104)ピークの左側に見られるような2次ピークをいかにしてもたらすかを示す概略図である。図24に示されるように、これらプラトーをもたらすニッケルのレドックスが、ニッケル含量が経時的に均質であることを示唆している。
【0114】
LRMOカソードの電気化学サイクリングデータは、25Mqを除き、キャパシティにおける整合した増加を示した。x=0.25サンプルは容量においてわずかなゲインを示したが、x=0.17サンプルはより顕著な増加を示し、およびx=0.10サンプルは更に顕著な増加を示した。サイクリングでの比容量の増加(%)は、急冷方法と無関係に、ニッケル含量と逆相関を示した。容量における最も大きい増加は、10Hqサンプル、そしてならびに10Mqおよび10Lqサンプルにて認められた。不純物がニッケル不均質性と関連しているので、この関係は、一連のサイクリングに亘っての「電気化学的アニーリング」プロセスを経るニッケル含量の均質化によって少なくとも部分的にもたらされる。
【0115】
元のカソード材料に対するサイクリング後のカソード材料の比較XRDは、10Lqおよび10Mqを除く全てのサンプルで非常に似た挙動を示し、サイクリングの後、遷移金属超格子ピークが消失する。10Lqは、サイクリング後に保持された超格子ピークを有し、10Mqサンプルは、いくつかの新しいピークの出現が見られ、2つのサンプルで顕著な違いがある。この違いは、更に、より遅い急冷条件にてLRMO(式中、0.17>x>0.10)の合成下限があるように、急冷速度の重要性を示している。しかしながら、10Hqサンプルの挙動は異なり、サンプルのより急速な急冷により、より高いNi含量サンプルと関連した安定性および長期間の性能をもたらすことを示す。
【0116】
これら材料の電気化学的テストは、早い急冷材料が、優れた容量および優れた保持(retention)を有し、サイクリングの間に容量の増加を示す唯一の変数である。50回フル充電/放電サイクル後、この材料は、C/2レートでほぼ230mAh/gの比容量を得、これは他の方法で冷却された材料よりもはるかに優れている。
【0117】
このクラスの材料の合成の間の水中浸漬を用いる急激な急速冷却により、優れた、かつ区別され得る結晶構造ならびにこれまで報告されていない電気化学的挙動を有する材料が得られる。特に、我々は、この水急冷材料が、(a)50サイクル以上で容量における著しい増加を示すこと、(b)一般的に報告されていた電圧フェード(セルの平均放電電圧が使用により顕著に減少する)を示さないこと、(c)C/2レートでおよびC/2レートで4サイクル後、250mAh/gを超える比容量を有すること、および(d)C/2レートで50サイクル後、230mAh/gを超える(例えば231~240mAh/gの)比容量を、放電の間の平均電圧における10%未満のロスと共に有することを見出した。
【0118】
図26Aは、式Li[NiLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O(式中、ニッケル含量x=0.25)を有する原初の(pristine)LRMO活物質粉末のインデックス付きの正規化およびオフセットXRDパターンを示す。この式は、Li(MnNi1-y2-z(式中、z=1.16およびy=0.7)とも記載され、Hq、LqおよびMq(すなわち、それぞれ水、液体窒素および金属急冷)を用いて形成された。図26Bは、単一相リートベルト(Rietveld)フィッティングにより得られた、格子パラメータ「a」とサンプルのニッケル含量との間の傾向を示す上方の図と、格子パラメータ「c」とサンプルのニッケル含量との間の傾向を示す下方の図とを含む。
【0119】
図26Aに示されるように、材料のX線回折評価は、材料が、空間群(R-3m)を有するLiNiO関連の六方晶系(例えば菱面体晶系)相と、空間群(C2/c)を有するLiNiO関連の単斜晶系相を有することを示す。このことは、全てのサンプルが、予測された層状構造を有することを示唆している。Hq方法によって生産されたサンプルにおいて単斜晶系相の回折ピークがもっともよく規定され、このことは、この方法がより一層よく規定された結晶構造を生成することを示唆している。
【0120】
22°付近にも、このファミリーの化合物を示す超格子ピークが存在した。10Lqおよび10MqサンプルのXRDパターンも、(101)、(104)、(015)、(107)および(108)ピークの左側に著しいピークを有し、このことは、同様の構造およびバルク相より大きい格子パラメータを有する相不純物の存在を示唆した。他のピークがないことは、この場合、全ての不純物が材料のバルク相と同形であることを示唆している。10HqサンプルのXRDパターンは、小さい追加の(107)、(108)および(110)ピークしか示さなかった。XRDパターンでは視認可能でないが、17Mqおよび25Mqサンプルも、相不純物の存在を示し、それぞれそれぞれ(104)および(107)ピークの左側に小さい2次ピークが存在する。加えて、25Mqサンプルの(108)ピークはその左側にショルダーを有していた。(104)マキシマのより詳しい調査は、25Hqおよび10Mqサンプルの2次ピークによるピークの2次セットの間の相違が、同形の不純物がおそらくニッケルリッチ層状構造であることを示唆し、10Lqおよび25Mqサンプルについてのピークが、同形の不純物がおそらく規則的な岩塩であることを示唆していることを示す。これらのデータは、これらピークセットに対して2つの源があることを示し、1つは追加の層状相であり、もう1つは不純物の岩塩である。本明細書において、「2次層状相」は、構造的な変異を有し、かつ構造的なひずみ(distortion)に一致する局所的領域、特に、より高いニッケル含量およびよってより大きい格子パラメータを有する領域を言い、「不純物」は、岩塩相を言う。
【0121】
図26Aにおける粉末の格子パラメータは、単一相に基づくリートベルト精密化(refinement)を用いて得られ、全てのサンプルは6未満のR値で重み付けされ、既知の組成物の格子パラメータは、文献(stacks.iop.org/JES/167/160518/mmediaにてオンラインで入手可能なS1参照、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる)に見られる結合に該当する。精密化は、単一相に制限した。図26Bは、格子パラメータ「a」が、急冷方法と無関係にサンプル中のニッケル含量と共に減少することを示す。これと同じ傾向が、格子パラメータ「c」について広範に示唆されているが、液体窒素冷却したx=0.10、0.17および0.25サンプルはこの傾向からそれた。x≧0.10での急冷方法は、より遅い急冷方法により、より大きい格子パラメータ「a」がもたらされ得ることを示し、10Lqおよび17Lqサンプルの例外を除いて、格子パラメータ「c」についても同じ一般的傾向を示す。
【0122】
1つの態様において、リチウムイオンバッテリの正極用の活物質を形成する方法が、該活物質を水中で急冷することを含む。1つの態様において、該方法は、急冷に先立って、活物質粉末を焼成することを更に含む。活物質は、少なくとも800℃の温度で焼成され得る。水は、急冷に先立って室温であり得、活物質の粉末は少なくとも1750℃/秒の速度で急冷され得る。
【0123】
1つの態様において、活物質は、層状リチウムリッチマンガンニッケル酸化物を含む。過剰のLi、NiおよびMn原子は、遷移金属結晶格子サイトに亘って均質かつ均一に分布し得、よって、バルク材料のNi、MnおよびLi原子の平均比率に比べてNi、MnおよびLiの比率の差が3%超である結晶体積が3×3×3nmを超えるものが存在しない。活物質の粉末の粒子は、平均寸法が約0.1μm~約20μmの範囲にある凝集体の形態であってよく、活物質の粉末の凝集体は、約25nm~約500nmの範囲にある平均寸法を有する微結晶から成る。活物質の粉末は、急冷後に六方晶系または単斜晶系の相の複合体を含み得、およびLiMO R-3m相およびLiMnO C2/m相(式中、MはNiまたはMnの少なくとも一方)の組合せである。活物質の粉末は、C2/m対称性を支配的または完全に有する結晶構造との固溶体を含み得る。活物質の粉末は、R-3m対称性を支配的または完全に有する結晶構造との固溶体を含み得る。
【0124】
1つの態様において、活物質は、式Li[NiLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O(式中、0<x<0.5)によって表される。1つの態様において、活物質は、コバルトを実質的に含まず、および活物質は式Li[NiLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O(式中、0.19<x<0.26)によって、または式Li[MLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O(式中、0.19<x<0.26、MはNiおよびTi、Fe、AlまたはCrの少なくとも1つを含む)によって表される。
【0125】
1つの態様において、水は、水中に溶媒和した添加剤を含む。水は、0.01モル/L~1.0モル/Lの添加剤を含み得る。1つの態様において、添加剤は酸を含み、酸は、硫酸、クエン酸、酢酸、リン酸、塩酸、リン酸アンモニウム、またはそれらの組合せから選択され得る、もう1つの態様において、添加剤は、果糖、ガラクトースグルコース、乳糖、麦芽糖、ショ糖およびそれらの組合せであり得る、炭水化物を含む。
【0126】
1つの態様において、活物質は、リチウムイオンバッテリセルの陽極に配置され、リチウムイオンバッテリセルは、負極および電解質を更に含む。活物質は、バッテリの電気化学的サイクリングに先立って、六方晶系および単斜晶系相を含み、および活物質粉末は、電気化学的サイクリングの後に単斜晶系相を含まない。
【0127】
1つの態様において、バッテリセルの比放電容量は、室温において2V~4.8Vの電圧範囲で、C/20の充電レートおよびC/2の放電レートにて50回の電気化学的サイクルにて少なくとも10%増加し;およびバッテリセルは、C/2の放電レートにて50回の電気化学的サイクルの後に少なくとも230mAh/gの比容量を有する。
【0128】
1つの態様において、リチウムイオンバッテリセルは、負電極と;電解質と;層状リチウムリッチニッケルマンガン酸化物活物質を含む正電極とを含み、バッテリセルの比放電容量は、C/20の充電レートおよびC/2の放電レートにて50回の電気化学的サイクルにて少なくとも10%増加し、およびバッテリセルは、C/2の放電レートにて50回の電気化学的サイクルの後に少なくとも230mAh/gの比容量を有する。
【0129】
1つの態様において、バッテリセルの比放電容量は、室温において2V~4.8Vの電圧範囲で、C/20の充電レートおよびC/20の放電レートにて2回の電気化学的サイクル、その後C/20の充電レートおよびC/2の放電レートにて25回の電気化学的サイクル、その後C/20の充電レートおよびC/20の放電レートにて追加の2回の電気化学的サイクル、およびその後C/20の充電レートおよびC/2の放電レートにて25回の電気化学的サイクルにて、少なくとも10%増加する。1つの態様において、バッテリセルの平均放電電圧は、C/2の放電レートで50回の電気化学的サイクルで10%を超えて減少しない。
【0130】
1つの態様において、活物質は、式Li[MLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O(式中、0<x<0.5、MはNiまたはNiとNi、Al、FeまたはCrの少なくとも1つとを含む)によって表される。1つの態様において、活物質は、コバルトを実質的に含まず、および活物質は、式Li[MLi(1/3-2x/3)Mn(2/3-x/3)]O(式中、0.19<x<0.26、MはNiを含む)によって表される。1つの態様において、活物質は、式y(LiMO)・(1-y)LiMnO(式中、yは0.8~1の範囲にあり、Mは少なくともNiおよびMnを含む)によって表される。
【0131】
1つの態様において、活物質の粉末の粒子は、約0.1μm~約10μmの範囲にある平均寸法を有する凝集体の形態であり、活物質の粉末の凝集体は、約25nm~約500nmの範囲にある平均結晶寸法を有する微結晶からなり、活物質粉末の粒子は、スピネル表面層、炭素コーティング層またはパッシベートされた表面の酸素結合の少なくとも1つを有する。
【0132】
1つの態様において、過剰のLi、NiおよびMn原子は、遷移金属結晶格子サイトに亘って均質かつ均一に分布し、よって、バルク材料のNi、MnおよびLi原子の平均比率に比べてNi、MnおよびLi原子の比率の差が3%超である結晶体積が3×3×3nmを超えるものが材料中に存在しない。
【0133】
開示される要旨の上記の記載は、本願発明を当業者が実施または使用できるようにするために提供される。これらの要旨に対するさまざまな改変は当業者に容易に明らかであり、本明細書に規定される包括的な原理は、本発明の範囲を逸脱することなく他の要旨に適用され得る。よって、本発明は、本明細書に示される要旨に限定されることを意図したものでなく、本明細書に開示される原理および新規な特徴と整合する最も幅広い範囲に一致するものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図10C
図10D
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図12D
図13A
図13B
図13C
図13D
図14A
図14B
図14C
図14D
図15A
図15B
図15C
図15D
図15E
図15F
図15G
図15H
図15I
図16
図17
図18
図19A
図19B
図19C
図20A
図20B
図20C
図21A
図21B
図21C
図21D
図22A
図22B
図22C
図22D
図23A
図23B
図23C
図23D
図24
図25A
図25B
図25C
図25D
図26A
図26B
【国際調査報告】